キリコ「俺は……死なない!」 箒「キリコーッ!」【後半】
- 2014年03月09日 10:10
- SS、インフィニット・ストラトス
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キリコ「俺は……死なない!」 箒「キリコーッ!」【後半】
鈴「イェーイ! 臨海学校だー!」
セシリア「はーい!」
鈴「海だー!」
セシリア「海ですわー!」
鈴「山だー!」
セシリア「山ですわー!」
鈴「おいしい料理だー!」
セシリア「ですわー!」
鈴「そう考えていた時期があたしにもありました……」
セシリア「ですわねー……」
箒「……」
鈴「あぁもう! なんで雨なんて降るのよ!」
セシリア「日頃の行いが悪かったからじゃありませんのー……ふふっ……」
箒「ぞっとしないな」
鈴「はぁーあー……こっちにつくなりゲリラ豪雨だもんなぁ……しかもその癖中々上がらないんだもん……」
セシリア「そうですわねー……」
鈴「せめてキリコ達が早く帰ってくればなぁ……ラウラの眼帯伸ばして遊べるのに……」
セシリア「ほんっとうに碌でもない……」
鈴「キリコさぁ……結局耐圧服できそうじゃない?」
セシリア「……まぁ……服は個人の自由ですから」
鈴「にしたって限度があるでしょう。何が好きで高校生活の中で軍の服着てくる馬鹿がいるのよ」
セシリア「まぁ……そういうものに興味が無いのかもしれませんわね」
鈴「まぁねぇ……おじいちゃんかっての……」
箒「アイツは無欲だからな……基本的に」
セシリア「そうですわね。まぁ、それも良い所の一つなのですけど」
鈴「まぁね。まぁこうやって愚痴るのもなんだし、トランプでもやってましょっか」
箒「そうだな」
セシリア「そうですわね」
鈴「はい、じゃあセシリア配るのよろしく」
セシリア「……」
鈴「ルールどうするー?」
箒「私は何でも良いぞ。まぁ三人だし、大富豪かババ抜きくらいだろう」
鈴「そうね。じゃあ大富豪でいっか。はーいセシリラさん手ぇ動かしてぇ」
セシリア「……全く、何で私がこんな……」チャッチャッ
箒(文句は言うがやるんだな……)
鈴「それにしても、箒ちゃんもあれねぇ」
箒「な、何だ」
鈴「そのネックレス早速身につけちゃって……よほど気に入ったみたいね」
箒「ま、まぁな……それに、キリコがいつ帰って来ても良いように、つけておかないとな」
鈴「日々は短し、恋せよ乙女、ねぇ……」
箒「だ、誰が乙女だ!」
鈴「アンタ以外だれがいんのよここに!」
セシリア「鈴さーん、私もいますのよー」
鈴「口動かす前にさっさと配んなさいよ、殴って痛くするわよ」
セシリア「……このっ……」
箒(諦めろセシリア、端から見ても鈴の方が上だ……)
セシリア(というか自分も数に含んでいないのは自覚があるからでしょうか……)サッサッ
鈴「今何か変な事考えたでしょ」
セシリア「な、何でもありません。さ、お好きな束を選んで下さい」
鈴「んじゃあたしこれー」
箒「まぁ、目の前ので良いよな」
セシリア「では私はこれで……げっ」
鈴「セシリアは革命でも狙う事ねぇー……よし、ジャンケンやるわよ」
セシリア「ま、まだ負けた訳じゃありません……」
箒(そうやって自分の強さを吐露した時点で、敗戦は濃厚だと思うが……)
鈴「はいジャーンケーン、ぽんっ……はいあたしの勝ちー。じゃあはい、10のスリーカードー」
箒「おいっ」
セシリア「ぐぬっ」
鈴「誰も出せないわねー? よーし、Kのスリーカードー。4の四枚で革命ー」
箒「はぁ?」
鈴「そんで8のスリーカードでで八切りでしょー。3の二枚出しー、で6の二枚出しで勝ちー」
セシリア「……ろ、ローカルルールは無しですわ!」
箒「……いや、もういい」
鈴「テレビでも見よー」ポチッ
セシリア「……やめますか」
箒「そうだな……」
鈴「え、やめんの。決着つくまでやればいいのに」
箒「バ、ババ抜きにしよう! なっ? それならアッサリ終わらないだろ?」
鈴「んー、まぁあたしはどっちでもいいわよ」
セシリア「……どうせまた私が切るのでしょう……」チャッチャッ
鈴「わかってるじゃない」
セシリア「……はぁ……」
鈴「……」ポチッ ポチッ
セシリア「……」チャッチャッ
ガラガラッ
山田「どなかか呼びましたか?」
鈴「呼んでないです」
山田「あ、あれー? 確かに呼ばれたような……」
鈴「織斑先生じゃないですかね」
山田「う、うーん……そ、そうですか……」
ガラガラッ
鈴「……」
箒「……雨だなぁ……」
セシリア「ですわねぇ……」サッサッ
箒「……キリコ、遅いな」
鈴「あっちでシャルロット達とキャッキャウフフでもしてんじゃないのー……」
箒「そ、そんなはずあるか! アイツには私がっ……」
鈴「シャルロットを舐めない方が良いわよー……フランス人なんだから」
箒「だ、だが……シャルロットは、ちゃんと応援してくれると……」
鈴「ふっ、それ男って偽ってた時じゃない。それに、ラウラもいるのよ」
箒「あ、あいつが? あいつは、キリコを憎んでたろ?」
鈴「それがどういう風の吹き廻しか、ベッタリよ。私の嫁だとかいう飛び道具的な言い回し使ってね」
箒「よ、嫁……」
鈴「噂じゃ通い妻みたいな真似してるとか……」
箒「かっ……通い……」
セシリア「はい、配り終わりましたわよ」
鈴「はい、あんがと」
箒「通い、妻……だと……?」
鈴「そうよー……えっと……あれ、これのペアあったような……」
箒「……」
セシリア「えっと……これを捨てて……」
鈴「うげぇ……ババじゃん……」
セシリア「ふふっ、今度は負けませんわよ?」
鈴「よーし……見てなさいよ……因果律捻じ曲げてあんたの所にババ行くようにしてやるから」
箒「お、お前達は……」
鈴「何? ババ欲しいの?」
箒「わ、私の事を、お、応援とかは……」
鈴「あ゛ぁ?」
箒「ひっ」
セシリア「鈴さん、今のは女性がやってはは良い声と顔じゃありませんよ」
鈴「いや、ちょっとあまりにもふざけた事抜かされたから……え、今箒なんて言ったの?」
箒「え、お、お前らも、まだキリコを狙うと言うのか?」
鈴「当たり前じゃんなに言ってんの? 引きこもってIQ下がった?」
セシリア「当たり前ですわ」
箒「んなっ……」
鈴「あの時アンタを説教したのは、ただ明らかに落ち込んでるキリコを見てて、居た堪れないからやっただけよ。
なんで、敵の応援するのよ」
セシリア「そんな都合の良い話が何処にあるのか聞きたいくらいですわ」
箒「……」
鈴「わかったら、前みたいにもっとがっついてきなさいよ。私と付き合ってもらう! みたいにさ」
箒「い、言うなっ!」
セシリア「な、何ですの!? それは!」
鈴「え、アンタ知らなかったっけ、箒さ、タッグトーナメン……むぐっ」
箒「い、言うんじゃない! わ、私が悪かったから!」
鈴「わ、わかったわよ……」バッ
箒「はぁ、はぁ……」
鈴「ったく、この暴走乙女が……ほら、引きなさいよ」
箒「……そ、外の空気を吸ってくる!」ガラガラッ
鈴「あっ、え、ちょっと! えぇ……」
セシリア「……たくましいんだか、ウブなんだか、よくわかりませんわね……」
鈴「……ちょっとだけ札を……」
セシリア「鈴さん」
鈴「はい」
セシリア「いけません」
鈴「はい」
セシリア「まぁ、箒さんが帰ってくるまで、明日の予定でも再構築していましょうか。
あの様子だと、時間がかかるようですし」
鈴「そうねー……タケノコ掘りは?」
セシリア「どれだけ早起きがしたいんですの……」
……
箒「はぁはぁ……」
箒(に、逃げるように出て来てしまった……)
箒(ど、どいつもこいつも、お、乙女などと……)
ザァーッ
箒(雨、かぁ……)
箒(……どうせ、もうやる事と言ったら風呂に入るくらいだし、この雨にうたれるのも……良いかもしれんな)
パチャッパチャッ
箒(ふぅ……頭が冴えるな、この冷たさは……)
箒(全く、鈴のヤツ……いつまであれを引っ張るつもりなんだ……)
箒(はぁ……)
箒(結局、ライバルは減らず、か……)
箒(まぁ、当然だよなぁ……)
箒(キリコのヤツ、人当たりが少し柔らかくなったらしいし、ISの操縦技術は、まぁ最低でもこの学年では最強だろうし)
箒(顔も、まぁ、悪くは無い……いや、どうだ? 世間一般でいう女受けする顔ではないだろうが……)
箒(まぁ、なんだかんだで、今つるんでるヤツらは、キリコに心底惹かれてしまっているからな……)
箒(……ウカウカしてられんな……)
箒(……)
箒(ん、あの岬に行ってみるか……)
ザザァーンッ……
箒(雲で覆われてはいるが……やはり、広いという印象は変わらないな……自然というのは)
箒(……この海の向こうに、キリコがいるのか……)
箒(海外の研究機関にお呼ばれ、か……)
箒(……私は、もう置いていかれているな)
箒(キリコは、こちらを見て、待っていてくれてるのかもしれない)
箒(だが、早く追いつかなければ、いつ先に行ってしまうやら……)
箒(……)
箒(私にも……専用機があれば……)
箒(他の皆は、全員専用機持ちだ……無論、腕が立つのは言うまでもない)
箒(そして、まぁなんだ……)
箒(セシリアは自信家だし、育ちも良い。スタイルだって、そうだ……)
箒(鈴は、相手をグイグイと引っ張っていける力を持っているし、退屈はしないだろう。ある意味、猫のようだから、男性はほっとかないと、思う)
箒(シャルロットは、気配りもできるし、とても物腰が柔らかい……実に、女性らしい)
箒(ラウラは……話した事もあまり無いし、キリコを好きになったという事実がよくわからんが……。
まぁ、男性からすれば、とてもかわいいという部類だろう)
箒(……全員、顔も良いしなぁ……)
箒(何なんだ一体……顔が良くないと専用機持ちにはなれんのか……)
箒(わ、私は……無理か、十把一絡げの部類だろう……他人から、あまり評価とか聞かないしな……基準が無い)
箒(はぁ……)
箒(……いや、いや。いかんぞ箒。またネガティブになったらダメだ。陰気な女に見られてしまう)
箒(別に、今からでも遅くは無いのだ。努力して、成績を上げて、勝ち取れば良い。専用機を)
箒(そうすれば、キリコも喜んで迎えてくれるはずだ)
箒(……ようし、やってやるぞ)
箒(この大海のように、デカイ存在になるのだ。キリコの目に、ずっと留まれるような!)
箒(こうと決まればこうしちゃおれん! 早速――)クルッ
箒「……」
ザァーッ
束「……」
箒「……えっ」
束「やぁやぁ、箒ちゃん……久しぶりだねぇ」
箒「姉、さん……」
束「こんな所にいたら、風邪ひいちゃうんだぞー。あーでもでもー、それを看病するのは、束さん的にはおいしいかもー」
箒「な……なんで、ここに……」
束「うーん? 知りたいー?」
箒「……」
束「それはねー、箒ちゃんを迎えに来たのさー!」
箒「……迎え?」
束「うん! そうだよー。これからキリコちゃんに会いに行くから、箒ちゃん達もいないといけないでしょ?」
箒「キ、キリコ? な、何だ……キリコが行った研究機関って言うのは、姉さんが噛んでる所だったのか……。
も、もしかして、ちゃんとした研究機関に勤め始めたのか?」
束「そんな訳ないじゃーん」
箒「……え?」
束「これから、箒ちゃんとちーちゃん、それとキリコちゃんが、ずーっと一緒にいられる場所に行くのさ」
箒「……いや……言ってる意味が……」
束「もっちろん、この束博士も一緒だよ!」
箒「姉さん? どういう意味だ?」
束「……来れば、わかるよ」
ガシンッ ガシンッ
『……』
箒「……おい……それ、まさか……」
束「職人束さん入魂のハンドメイド作、無人ISベルゼルガ・レヴレンスちゃんだよー!」
箒「……キリコ達を、襲った機体じゃないか……」
束「うーん、酷い使い方するよねー。しかもなんかゴーレムとか言う変な名前つけてくるしー。
あぁ、でもあの時はパイルバンカー積んだらキリコちゃん死んじゃうかなーって思って積まなかったから、
それが原因で変な名前付けられちゃったのかなー」
箒「や、やはり……」
束「あの時は酷い事しちゃったからねー……早くキリコちゃんに会って謝らないと」
箒「……ね、姉さんが……」
束「……さて、と……」
箒「……」
束「じゃあ、一緒に行こっか……箒ちゃん――」
箒「……」
――
第十二話
「別離」
――
メルキア
国家最高戦略ビル
ウォッカム「我々が体験した事の無い世紀が、今、着実に訪れようとしています。
長過ぎた戦争、この百年戦争がついに終結するのです」
ウォッカム「我がギルガメス、そしてバララント、両陣営の外交方の粘り強い秘密交渉によって、期日も決定しました。
この情報は、今、この場にご出席なされている方々にだけ知られている事実であります」
ザワザワ……
ウォッカム「このまま待てば、我々は平穏裏に終戦を迎える事になります。
バララントとの終戦を予想し、作成された戦略構想ZO-5。
兵員の消耗を限りなく減らし、来るべき平和を迎える為に作られた最良のシナリオです」
ウォッカム「しかし、これで良いものでしょうか? 情報省は、政府及び国防総省、そして本会議に御列席の全ての省庁各位に、
新たな戦略構想を動議致します!」
ザワザワ
ウォッカム「歴史は教えています。意味の薄い、一戦の勝利よりも、一つの意味ある地政学的勝利を選べと。
……問題は、ZO-5のシナリオには、戦後が織り込まれていない事です」
ウォッカム「来るべき平和の為にすべき事は何か!」
ウォッカム「――地球です」
「何だと?」
「不可侵宙域である、あの惑星を?」
ウォッカム「ギルガメス盟主たる我々メルキアの未来。豊かな発展を、終戦は保障してくれません。
どのように戦いを終えるかで戦後が決まります」
ウォッカム「太陽系第三惑星地球の掌握は、我々に課せられた、歴史的使命なのです!」
ウォッカム「地球の戦略的重要性、それはこの惑星のみが所有している兵器、インフィニット・ストラトス。
通称、ISと呼ばれる兵器にあります。
この兵器の異常性を、この私如きが説明するのは僭越というものです」
ウォッカム「バララント、ギルガメス両陣営は、この技術の戦争導入を恐れ、戦争使用禁止という条約を締結しました。
しかし、兵器という名のついた、戦争で禁じられた物体を所有する星。これを、ただ見過ごす訳にはいきません」
「ウォッカム次官、質問があります」
ウォッカム「どうぞ」
「ZO-5の策定には、情報省も多大な関与があるはずです。何故、この終戦直前になって今更軍事行動を起こすのか。
真意が、わかりかねます」
ウォッカム「情勢の変化です」
「動議書によれば、我が軍は1億2千万の兵員導入をするとありますが、この数字は、常軌を逸してはいませんか」
ウォッカム「地球を確実に制圧するには、ささやか、と申しあげましょう」
「これまで記録に見られる最高の兵員導入は、2200万。これのおよそ五倍以上の兵員、ギルガメスの持てる力全てを、
終戦直前に浪費する? 情報省は、これによる損失がいか程になるのか、予想が無い訳ではないでしょう」
ウォッカム「その点については、企画書をご覧下さい」
「更に、その企画書とやらには、地球にあるISを確保するとあります。だが、あのような兵器をどうやって拿捕する気なのですか!」
ウォッカム「確かに、我々の所有する兵器では、惑星そのものは破壊できても、あの小さな兵器を拿捕する事は、難儀でしょう。
その前に、あの兵器一体だけで、AT隊二個師団が成す術も無く壊滅してしまいます」
「では!」
ウォッカム「目には目を、歯には歯を……そして、ISには、ISを……」
ブゥーンッ……
ウォッカム「この映像をご覧下さい。これは、我々情報省が所有するIS部隊、通称ISSです。
IS開発者篠ノ野束博士の協力の下、我々情報社は秘密裏にISを作成していました」
「なっ……」
「何だと!?」
ウォッカム「この殆どが、無人機です。確実に任務をこなし、常人では反応しきれない攻撃にも反応し、迎撃する。
この大隊の隊長となるのは人間ですが、その者はこの無人機の反応を遥かに上回る能力を持っています。
その者が駆るISは、まさに一騎当千の鬼神と呼ぶに相応しい。並の操縦者では一たまりも無く敗れ去ります」
「……」
ウォッカム「我らがISSは、必ず地球を陥落させ、そして生きて帰ってくる。
そう、運命付けられた部隊なのです」
ウォッカム「まず、我がISSが地球に降着。量産型のISを破壊し、戦力を削減。
そして、専用機と呼ばれるカスタマイズされた機体をAT隊と共同で消耗させ、拿捕するのです」
「し、しかし! いくら対抗できる戦力があると言っても、何故この状況なのですか!
期日の96時間前までの軍事行動の許容はあります、しかし地球は不可侵宙域です!
このような場所を攻撃しては……」
ウォッカム「不可侵宙域、確かにそうです。ですが、逆にこうは考えられませんか?
地球は、戦火に晒される事なく、ISという技術を蓄え、将来我々にも牙を剥く可能性があると……」
「……」
ウォッカム「地球は小さな惑星です。しかし、軍事力は我々メルキアに勝るとも劣らない。
そう、このISという小さな兵器の為に」
ウォッカム「例えるなら、小さな獣です。小さい頃は、まだかわいらしく、人間からも守られる立場にあるでしょう。
ですが、成長し、自らが戦えると自覚した瞬間、獣はどうなります?
獣と我々は相容れないのです。故に、被害を小さく抑えられる内に、叩かねばならないのです」
「……」
ウォッカム「終戦が決定している現在、確かに常軌を逸した作戦かも知れません。
未曾有の兵力投入は、バララントとの合意の全面的破棄に繋がりかねず、戦争を後百年続ける事もあり得ます。
しかし、私はこれだけは申し上げたい……」
ウォッカム「目の前にある不安、そして、それを除けば、強大な力を我々の物とする事ができるかも知れないという状況で、
動かないとするならば、以降、我がギルガメスの歴史における最大の損失、そして、恥となる事でしょう」
ウォッカム「安穏と平和を受け入れ、失った物を忘れ去るような屈辱的な終戦よりも、茨の道を選ぶべきだと!」
ウォッカム「情報省は、この会議の厳粛なる意思に従うものであります。そして、皆様の、賢明なる判断を、私は心より期待しております。
御清聴、感謝致します」
……
ルスケ「閣下、素晴らしい戦略動議でした」
ウォッカム「ふっ、軍部も反対はできまい……我々のISSの映像を見た時の、奴らの顔と言ったら……」
「ウォッカム君」
ウォッカム「……これはこれは、ペールゼン閣下」
ペールゼン「見事な動議だった。君が、あそこまで強かな人間だとは、私も思っていなかった」
ウォッカム「そのような会話をしに来た訳では、無いはずですが」
ペールゼン「……キリコは、君の部隊から除外しろ」
ウォッカム「いえ、彼は我がISSの隊長となって貰わねばなりません。
彼の異能という赫奕たる能力が、あの部隊を纏めるのにふさわしい」
ペールゼン「それならば、ボーデヴィッヒでも良いだろう。彼女の方が、軍での経験、階級、そのどちらもがキリコより上だ」
ウォッカム「彼女でも良いのなら、キリコでも構わないはずですが?」
ペールゼン「……彼女らは、近似値に過ぎん」
ルスケ「近似値?」
ペールゼン「所詮、人間の手によって作られた模造品だ。彼女らは、異能生存体などでは無い。
限りなくそれに近いが、死なない個体などでは無い」
ウォッカム「何故否定するのです。御自身の画期的な発見を」
ペールゼン「間違いだからだ。そして、それを知る者によっては、有害になるからだ」
ウォッカム「サンサにあった異能生存体の研究施設、そこにあった製法を貴方は見つけた。
そして、キリコ以外の異能生存体を二人作り出す事に成功した。
それが、今私が持っている貴方のファイルに記してあった事実です」
ペールゼン「……」
ウォッカム「謹んで、このファイルをお返ししましょう」
ペールゼン「私とした事が、こうも簡単に隠匿した事実を知られるとは、情けない」
ウォッカム「貴方のファイルに記された二人、その二人は確かに常人ならざる能力を持ち、
そして、過酷な環境を生き延びた。
彼女達も、異能生存体なのです」
ペールゼン「……まだ、わからんようだな」
ウォッカム「……」
ペールゼン「繰り返すが、彼女達は異能生存体では無い。異能生存体は、キリコだけだ。
そして、キリコをそのような作戦に参加させる事は、非常に危険だ」
ウォッカム「……ふふっ」
ペールゼン「何だね」
ウォッカム「近似値でも、構わないのですよ。それで、十分なのです。
彼女らの機能と、結果としての効用があれば、十分なのですよ」
ペールゼン「……」
ウォッカム「そして、キリコは、私に従うしかない」
ペールゼン「……どういう意味だ」
ウォッカム「人質をとらせて頂きました。キリコが、貴方の部隊に焼かれた地で、キリコと共にいた少女を」
ペールゼン「そんな者が、生きていたとはな。てっきり、焼き殺したものだとばかり思っていた」
ウォッカム「支配を拒否するならば、そうできないようにするまでです」
ペールゼン「……中々に、君も私と同類のようだな」
ウォッカム「私は、貴方のような完璧主義者では、ありませんがね……」
ペールゼン「……身を、滅ぼすぞ」
ウォッカム「御忠告、感謝致します。作戦には、閣下の部隊にもお力添えを願うと思いますが、その折に、また……」
ペールゼン「……」
カツカツッ
ペールゼン(……キリコ……)
ペールゼン(私はやはり……触れてはならぬ者を、呼び起こしてしまった……)
――
「……」
「嫁よ」
「……」
「起きるんだ、キリコ」
「……ん……」
「早く起きろ、緊急事態だ」
「ラウ、ラ……」
ラウラ「……起きたか」
キリコ「……」
ラウラ「どうやら、我々は拉致されたらしい」
キリコ「……拉致?」
ラウラ「あぁ……それに、シャルロットの姿も見当たらん」
キリコ「シャルロットが?」
ラウラ「……」
キリコ「……まず、ここがどこだかわかるか」
ラウラ「わからん。しかし、地球では無い事はまず間違いないだろう。若干重力が違う」
キリコ「……そうか」
ラウラ「あれから、何日が経ったか……とりあえず、ベッドから出ろ。代えの耐圧服もそこにある。
今の内に着替えておけ。私はもう着替えた。中にはISスーツも着こんだしな」
キリコ「……あぁ(アーマーマグナムが無い、か)」
サッ シュッ
キリコ「……」
ラウラ「どうやら、ここは監視者の本拠地らしいな」
キリコ「あぁ」
ラウラ「私の推測だが……ここはギルガメス領だろう」
キリコ「あの研究機関とやらは、ダミーか何かだったらしいな」
ラウラ「あぁ……しかし、わからんな……何故よりによって私とシャルロットまでお前と一緒に拉致されたか。
お前以外は、用済みだと思うのだが……」
キリコ「……」
ラウラ「……すまん。まだシャルロットの安否がわからない状態だったな」
キリコ「アイツも、ただじゃ死なない。きっと無事だろう」
ラウラ「……あぁ」
プシューッ
キリコ「っ!」
ラウラ「誰だ!」ジリッ
「キリコ・キュービィー、ラウラ・ボーデヴィッヒ。こちらに来い」
ラウラ「貴様……何者だ、名を名乗れ」
ルスケ「私は、コッタ・ルスケだ。いきなりお前達を拉致した事は詫びよう。しかし、今は時間が無い。
モタモタせずに、ついてくるのだ。ついた先で、詳細を話す」
キリコ「……」
ラウラ「……どうする、キリコ」
キリコ「……行くしか、無いだろう」
ルスケ「呑み込みが早くて助かる。では、こちらに来たまえ」
キリコ「……」
ラウラ「……」
プシューッ
カツカツッ
ルスケ「……失礼します、閣下」
プシューッ
ルスケ「キリコ・キュービィー、ラウラ・ボーデヴィッヒをお連れしました」
「……来たか」
キリコ「……」
ラウラ「……誰だ」
ルスケ「口を慎め」
「構わん、ルスケ。私は、この二人に会えて感動しているのだ」
ルスケ「……はっ」
「名乗るのが遅れたな。私は、メルキア情報省次官、フェドク・ウォッカムだ」
ラウラ(メルキア情報省……しかも高官か)
キリコ「……」
ウォッカム「ルスケ、彼らに説明を」
ルスケ「はっ……お前達は、IS学園より除籍及び地球の所属からも除隊、新たに情報省直轄IS部隊ISSに所属する事になった」
ラウラ「何だと?」
キリコ「……」
ルスケ「仕事は、まぁお前達も元軍人だ。そことやる事はさして変わらん。
だが、報酬等は雲泥の差だ。何か質問は」
ラウラ「ま、待ってくれ。除隊だと? シュヴァルツェ・ハーゼから?」
ルスケ「そうだ。貴様は、これよりメルキア情報省の精鋭となった」
ラウラ「ば、馬鹿な……不可侵宙域に何故それ程の影響力が!」
ウォッカム「君は、まだ子どもだからわからんかも知れんが、不可侵宙域と言っても、両陣営に保護されているに過ぎん。
影響力など、裏から回せばいくらでも作れる」
ラウラ「っ……」
ルスケ「他に質問は」
キリコ「……あります」
ウォッカム「デュノアの事なら、安心しろ。彼女は別室にいる。が、今は会える状態では無い。
彼女は今、少々調整をしている最中でな」
ラウラ「調整……そうか……シャルロットの脳に細工を施したのは!」
ウォッカム「そうだ、我々だ。が、この技術を見つけたのは別の者だ。恨むなら、その者を恨め」
ラウラ「……」
キリコ「……俺の質問は」
ルスケ「うん?」
キリコ「もし、命令に従わなかった場合どうなるのかと、聞きたかったのですが」
ルスケ「……」
ウォッカム「ふっ、さすがはペールゼンが泣き事を漏らすだけの事はある。
安心しろ、その場合の対処もしてある」
キリコ(ペールゼン……こいつの後ろに、ヤツがいるのか?)
ウォッカム「さて、この映像を見ろ」
ブゥーンッ……
キリコ「……っ!?」
ラウラ「こ、コイツは……」
ウォッカム「そうだ。まぁ、単純な話、彼女は人質だ。御理解頂けたかな?」
キリコ「……箒……」
ラウラ「っ……アンタは、人間の屑だなっ!」
ルスケ「貴様っ!」
ウォッカム「私としても、お前達を扱うにあたって保険が必要でな……こういう事はしたくなかったのだが、
仕方が無い事だったのだ」
ラウラ「……」
キリコ「……」
ウォッカム「お前達を、あのIS学園に集めたのは私だ。お前達に共通するある能力を試す為にな」
キリコ「あの、襲撃事件の二件や、ラウラのISに仕掛けられたシステム、そしてあの飛行機も、それですか」
ウォッカム「そうだ。まぁバララントの襲撃は、私の直接的な指揮では無いがな」
ラウラ(共通する……能力? 何だ……ISの操縦技量か? いや、そんなはずは……)
ウォッカム「その辺りは、作戦終了後に詳しく説明してやる……ルスケ、続けろ」
キリコ(作戦?)
ルスケ「は、はっ……お前達は三日間、これより休暇をとって貰う。そしてその後、我々ギルガメスは全力を挙げた作戦を決行する。
お前達は、最も重要な任を負うISSの隊長、副官について貰う」
キリコ「……俺が?」
ウォッカム「そうだ。キリコ、お前が隊長だ。他の二名は、副官として回す」
ラウラ「……」
キリコ「……攻め込む、場所は」
ルスケ「地球だ」
キリコ「!」
ラウラ「そ、そんなっ……」
ルスケ「今回のお前達の任務、それは地球に存在するIS全ての回収及び破壊だ」
キリコ「っ……」
ルスケ「地球は中立、不可侵宙域にありながら、壊滅的なまでの兵器ISを所持している。
軍は、これ以上、この自体を容認する事ができなくなった。故に、ISを吸収し、更に軍備を強化する事となった」
ラウラ「馬鹿な……」
ウォッカム「嫌とは、言わせん……」
キリコ「……」
ウォッカム「どうする。承諾してくれるかね? 私としても、双方の同意があった方が、後腐れなくできるというものなのだが」
キリコ「……」
ラウラ「……キリコ」
キリコ「何だ」
ラウラ「……私は……」
キリコ「……」
ラウラ「私は、お前の決定に従う」
キリコ「……ラウラ」
ラウラ「お前は、私の嫁だ。命を懸けて良い存在だ……」
キリコ「……」
ラウラ「だから、お前の、意思に従う」
キリコ「……」
ラウラ「あそこに映っていた彼女が、大切だと言うならば……お前がどうしても助けたいと言うのなら……。
私は、喜んでこの作戦に参加する。地球を、敵にとる……」
ウォッカム「……うむ、素晴らしい自己犠牲の精神だ……それで、キリコ……決まったか。
仲間に背中を後押しされているのだぞ?」
キリコ「……俺は……」
地球のISを破壊し、回収すると言う事。
キリコ「……」
それはとどのつまりは。
キリコ「俺は……」
――友殺し。
キリコ「……やり、ます」
ウォッカム「……そう言ってくれると思っていた。ルスケ」
ルスケ「はっ。話は以上だ。お前達は、この館の一階部を自由に使え。プール、食堂、そう言った設備もある。
この三日間にそれらを利用し、十分に体を休める事。わかったな」
キリコ「……了解」
ラウラ「……了解」
ウォッカム「デュノアもすぐに向かわせる。安心したまえ」
キリコ「……」
ラウラ「……」
ルスケ「では、こちらに来い」
キリコ「……はっ」
ラウラ「……」
プシューッ
ウォッカム「……」
ウォッカム(……同じだ)
ウォッカム(キリコも、あの娘も、何ら変わりない。三人全てが、異能生存体なのだ)
プルルルルッ
『閣下、メルキアから連絡が入りました。最高戦略会議は、全員一致で可決です。軍は、我々の作戦を全面的に支持すると』
ウォッカム「……そうか、御苦労。我々の部隊を見ては、何もできまい」
『では、失礼いたします』
ガチャッ
ウォッカム「何もかもが、順調だ……」
――
ルスケ「ここが、お前達の部屋だ。この先に食堂がある。わかったな」
キリコ「はい」
ラウラ「……はい」
ルスケ「よし、では私はこれで失礼する。しっかりと体を休めるように、良いな?」
キリコ「はっ」
ラウラ「……はっ」
プシューッ
キリコ「……」
ラウラ「……」
ボフッ
キリコ「……俺は……」
ラウラ「……」
キリコ「俺は……」
ラウラ「……あれが、正しい選択だったんだ。あの時、拒んでいたら、我々は全員死んでいた」
キリコ「……そんなはずはない」
ラウラ「……何?」
キリコ「絶対に、俺は――」
プシューッ
シャル「あっ、キリコ! ラウラ!」タタタッ
ラウラ「シャルロット……うわっ!」ギュウッ
キリコ「……シャルロット」
シャル「良かった……二人共、無事でっ……」
ラウラ「お、おい……あんまりそう強くされては、痛いぞ。キリコと私を病院送りにする気か?」
シャル「も、もうっ……そんなんじゃないよ……」
ラウラ「あぁ、気にするな。冗談だ」
シャル「ら、ラウラも冗談言うんだ」
ラウラ「ふっ、友人にくらい、それくらい言うさ。なぁ、キリコよ」
キリコ「……あぁ」
シャル「そ、そっか……でも、本当に、良かった……」
ラウラ「……で、だ。シャルロット」
シャル「な、何?」
ラウラ「何か、奴らにされたか」
シャル「え、えぇ? 何かって?」
ラウラ「奴らに頭を弄られたり、催眠術の類なんかをかけられたりはしていないか」
シャル「な、何の事……あ、あれか……」
ラウラ「ど、どうなんだ! やはり、何か……」
シャル「ううん……わからない。起きたら、手術室みたいな場所にいたから……」
ラウラ「……そうか(まず、何かされたと見て、間違いないな)」
キリコ「……ラウラ」
ラウラ「……あぁ。お前は、私達のこれからの話を、聞いたか?」
シャル「……これから、地球を攻撃するんだよね」
ラウラ「そうか……知っていたか」
シャル(……あれ、そんな話聞いた事……あれ? 何で知ってるんだろ?)
キリコ「……すまない……俺が、請け負ったせいで……」
ラウラ「仕方が無かったんだ、キリコ。彼女を、人質にとられたんだからな」
シャル「えっ……だ、誰?」
キリコ「……箒だ」
シャル「ほ、箒……が、人質? え、な、何で?」
ラウラ「我々に言う事を聞かせる為だ。下劣な……連中だ……」
キリコ「……」
シャル「っ……」
プシューッ
「キー、リーコ、ちゃーんっ!」ズダダッ
キリコ「!?」ガッ
「おー! この不意打ちにもちゃんと対応できるなんて、さすがキリコちゃんだー。
でもでも、この手をどけて、束さんのあつぅーい抱擁を受け取ってくれると嬉しいかなー!」
キリコ「アンタは……束さんか」
束「おぉー! やっぱり記憶戻ってくれてたんだねー! 良かったー!
記憶が無くなってるとかいう報告受けてたから心配したよー」
キリコ「……相変わらず、落ちつきが無いな」
束「ぶぅーっ、落ちつきが無いんじゃなくて、あり余り過ぎるキリコちゃんへの愛が私を突き動かしてるだけだよー!」バタバタ
キリコ「……その、テンションもな……」
ラウラ「お、おい……嫁よ」
シャル「その人……誰?」
キリコ「おい……自己紹介くらい、しろ」
束「えぇー、めんどくさいぃーん」
キリコ「……この人は、篠ノ之束だ。箒の姉だ」
ラウラ「篠ノ之、束……」
シャル「あっ……も、もしかして……ISの、開発者……」
束「さぁ、キリコちゃん、ちゅーでもなんでもしようじゃないかー」バタバタ
シャル「……」
ラウラ「……」
シャル・ラウラ((何だか、思っていたのと、違う……))
キリコ「ラウラ、こいつを剥がすのを手伝ってくれ」
ラウラ「了解した」グイッ
束「むむっ、束さんとキリコちゃんの久しぶりの感動たる再会を邪魔する気だなー?
負けるかー!」バタバタ
ラウラ「ぐっ……何という力だ……シャ、シャルロット!」
シャル「えぇ? 僕? しょ、しょうがないな……」
束「ぐぬぬっ、束さんのラブパワーは、必ず……」
シャル「よいしょっ」グイッ
束「あぁーんっ、剥がされたーっ!」
シャル「げ、元気な人だね……」
キリコ「……そうだな」
束「放してーっ! 出ないと、この束さんは武力行為によってこの非人道的な行為をー!」
キリコ「束さん」
束「ん、なぁに?」
シャル(キリコがさん付けするの聞くと、なんかゾッとする……)
ラウラ(あぁ……)
キリコ「箒は、どこにいる」
束「ん、箒ちゃん? 箒ちゃんはキリコちゃん達が三日後に乗る予定の艦に運ばれちゃったんだー……。
せっかく箒ちゃん連れて来てあげたのに、酷いよねー、もっと触れ合いさせてくれても良いよねー」
キリコ「……そうか(この人を、ダシに使ったか)」
束「ちーちゃんも一緒に連れてくる予定だったんだけどさー。さすがに抵抗されちゃったよ。
ちーちゃん奪還作戦しっぱーい……」
キリコ「……姉さんを?」
束「うんうん。そもそも、この計画に協力する条件に提示したのは、キリコちゃんと箒ちゃん、そしてちーちゃんの身柄なんだよねー」
キリコ「……どういう、事だ」
束「元々地球と戦争おっ始めるのは計画の内だったらしいけど、ISに敵う兵器なんて持ってる訳ないしー。
ってことでそこに束さん登場。それで、戦争始めても良いけど、この三人はこっちにちょうだーいって言ったの」
キリコ「……」
束「まぁ、ちーちゃんは今度の作戦で、無力化して回収って事で! それはキリコちゃんの任務だから、よろしく!」
キリコ「……最初から……」
束「ん?」
キリコ「最初から……戦争をする気だったのか」
束「うん、そうだよー? それが?」
キリコ「サンサの……あの日を、体験したのにか」
束「え? まぁうん、確かにふざけるなーって感じだったけど、別に三人ともこうして生きてたわけだし、今はどうでも良いかなって」
キリコ「っ……」
束「まぁ、それに。ISはその内完全な兵器利用されるってのは、わかってた事だし、良い機会かなってね。
三人が出来るだけ被害被らないようにしたかったんだけど、キリコちゃんがIS動かせるってなって計画変わっちゃってさぁ。
もう束さんビックリしたよー、まぁでも、キリコちゃんならそんな不可能も可能にしちゃうか」
キリコ「……」
束「あっ! そうそう、キリコちゃんとその他オマケの機体も私が弄って凄い性能にしておいたからね!
三日後に見えるはずだから、期待しておいてね!」
キリコ「……あぁ」
束「いやぁ、でも今思うとちーちゃんに機体渡してから来て貰おうだなんて言わなきゃよかったなぁ……」
キリコ「機体を、渡したのか」
束「うん。ついでに戦争始める事も教えちゃったから、今頃地球はてんやわんやしてるだろうね」
キリコ「……そうか」
束「ちーちゃんの機体は完全にちーちゃん仕様だからねぇ、きっと連れてくるには手こずると思うよー」
キリコ「……」
束「あ、ゴメン。キリコちゃんの機体最終チェックもっかいやらないと。念には念を入れてね!
じゃあ、そういう事で、バイバーイ!」
プシューッ
ラウラ「……」
シャル「……風のような人だった……けど、あの人が、戦争の発端を……」
ラウラ「何て事だ……IS開発者が、ギルガメス側に回っただと? そんな、馬鹿な……」
キリコ「……」
ラウラ「……」
シャル「……少し、疲れちゃったね……もう、寝よっか……」
ラウラ「……あぁ」
キリコ「……」
そして、俺達は休暇として与えられた三日を過ごした。
食事も味がわからない、寝ることもままならないような状況で、むしろ疲労が嵩んだのは言うまでも無い。
箒を人質に取られ、何もできない自分が憎かった。
自分の預かり知らない、異能と呼ばれる能力でさえ、その状況をどうにかできるものでは無かった。
寝ても覚めても、考える事は箒の事、そして地球に残した仲間の事だけだ。
これから、奴らを相手にしなければならない。試合ではなく、本当の命のやり取りを。
ラウラも、シャルロットも、それは同じ気持ちなのだろう。
彼女達からも、沈んだ空気が感じられた。
そして……。
――
箒が誘拐され、織斑先生の誘拐未遂が起きた翌日。
臨海学校は中断され、あたし達は本国へ返された。
メルキアからの、宣戦布告を得て。
『緊急ニュース速報です。ただいま、ギルガメスから、この地球全土に宣戦布告が通達されました!』
ニュースがけたたましく、このどうしようもない事実を、繰り返し、繰り返し発表していた。
キリコも、シャルロットも、ラウラも、行方知れずのまま。
セシリアとも、学校の皆とも別れ、私は本国に帰り、専用機持ちとして前線に送られる事となった。
自分の家庭を壊した戦争に、自分が出る。滑稽だった。
あたしは、兵士じゃない。だけど、抗える力を持っていた。
拒否権は無い。これは義務だった。
不安だった。
これは試合なんかじゃない。ルールに守られたものなんかじゃない。
本当の、命のやり取りなんだ。
足が、震えた。
こんな時に、キリコが、皆が傍にいてくれたら。
これが夢だったら。
突然この夢が覚めて、気付いたらまた皆と笑ってる状況に戻ってくれたら。
そう、思考が固まった。
あたしは、兵士なんかじゃ、ない。
まだ、死ねない。
あたしは……。
……
本国に戻り、私は軍に導入されました。
IS専用機持ち。当然の義務でした。
家の者に、どこか戦火の及ばないような場所に逃げなさいと暇を与え、それだけを済まして、私は軍と合流しました。
震える魂が、小さく囁いていました。
何故自分が? 何故こんな時に?
何故、好きな人ができたのに、こんな……と。
答えなど、出るはずも無いのに。
そして、一番心配なのは、離れ離れになった友人達でした。
帰ってこないキリコさん、シャルロットさん、ラウラさん。
自分の国へ戻った鈴さん。
忽然と姿を消した箒さん。
一番、傍にいて欲しい人達が、次々と離れていき、私は一人で銃を握っていました。
いえ、握っていたのではない。
すがっていたのでしょう。
気付けば、キリコさんのあの目を見た時と、似たような感覚を覚え始めていました。
死ぬ。もしかしたら自分が。もしかしたら友人が。最愛の人が。
まだ、自分の気持ちも伝える事が、できていないのに。
まだ……。
……
突如姿を現した束を渡された機体で振り切り、私は軍司令部にいた。
メルキアという超大国から、この不可侵宙域であるはずのちっぽけな惑星への、当然の宣戦布告。
準備は急を要した。平和ボケした人々、足りない物資、どれも予想できたはずなのに、我々は慢心していた。
あの時、私は束から聞いた。
戦争の目的、彼女が来た理由、そして……キリコ達の今後。
意味がわからなかった。
戦争を起こす。異能。IS拿捕。
裏切り。人質。
炎。家族。
瓦礫。血。
肉が焼ける。骨が飛び出る。
叫び。悲痛な。
……フラッシュバックした。あの地獄が。
何とか、一人で逃げだせた。あの時は。
だが、今は違う。
抗える力を持っている。
あの恨みを、晴らす時が来る。
誰かを守る。この手で。
絶対に。
それが、我が宿命なら。
もう、逃げられない。
逃げられない、のだ。
私は……。
――
『この戦いが、我々の未来を決定するのだ! 諸君! 地球の制圧は、我がギルガメスの歴史的な日なのである!
失敗は許されない! 作戦の成否は、アストラギウス銀河の未来をも決定する!』
「ん、おい」
「何だ」
「あそこに映ってるの、キリコじゃねぇか?」
「うん? ……本当だ、キリコだな!」
「アイツ……やっぱり生きてやがったか!」
「曹長、なんでアイツはあそこにいるんだ」
「さぁな。まっ、殺しても死なない男だ。お偉いさんの目にでも止まったんだろうぜ」
「けっ、レッドショルダーを抜けたと思ったら、出世しやがって。俺達も連れてけってんだ」
「また最前線送りだもんな」
「まっ、これも運ってヤツさ」
「ま、そういう事だな」
「アッチであいつにあったら挨拶代わりに一発撃ち込んでやるか」
「死なないからって、そりゃマズイだろさすがに」
「へっ、冗談だよ」
「ようし、気合い入ってきたな! ふんっ」パンッ
「おら先行くぜ」
「勝手に行ってろ」
「けっ、つまんねぇヤツ」
……
千冬「おい! そっちの小隊は配置についたのか!」
「はい! 完了しました!」
千冬「よし! お前達はそこを死守しろ! いいな!」
「了解!」
千冬(ギルガメスからの攻撃は、もう始まってしまう……)
千冬(そうすれば……)
千冬(もしかしたら、ヤツらとも……)
千冬(……)
……
キリコ「……」
束「やぁやぁキリコちゃん! 機体の調子はどうだい!?」
キリコ「……さぁな」
束「このセイバードッグ・ターボカスタムISS仕様は、移動能力に重点を置きまくったんだよ!
イグニッション・ブーストで使うエネルギーを、別のとこからもってこれるようにして、
回避機構の利きも、キリコちゃんだから使えるレベルにしちゃったから!
他にも、シールドの増強、ミッションディスクの追加なんてのも――」
キリコ「……束さん」
束「ん、なぁに?」
キリコ「……箒は、どこですか」
束「あぁ、ここの上の階層にいるよ」
キリコ「……」
束「会いたい?」
キリコ「……会わせて、貰えますか?」
束「うーん、どうだろう。まぁ束さんの権限使えば、部屋に入る事くらいはできると思うよ」
キリコ「……お願い、します」
束「んー、わかった。じゃあ、IS戻しちゃってー」
キリコ「……」
キュウウンッ
キリコ「……」
束「よし、じゃあこっちについて来て」
キリコ「……はい」
戦いの直前。俺はやっと、彼女に会える事になった。
キリコ「……早く、して下さい」
束「もう、そんなに焦んなくても大丈夫だよ」
キリコ「……」
彼女に会って、最初に何を言うか。
懺悔、歓喜、泣言……思考が回り、鼓動が早鐘を打っていた。
プシューッ
束「さぁさぁ、ここが箒ちゃんの部屋だよ」
キリコ「……箒っ!」
そこには、棺のような物に閉じ込められ、眠らされている箒がいた。
キリコ「箒……」
動かず、息をしているのすら感じ取れない、深い眠りに入った彼女を見て。
俺は、胸が沸き立った。彼女が生きているという事実が、俺を、歓喜させた。
キリコ「……」
そして、彼女の首元には。
キリコ「……あれは……」
あの、ネックレスが、光っていた。
キリコ「……」
束「どう? 寝かされちゃってるから、感動の再会とはいかなかったけど、安心した?」
キリコ「……あぁ」
束「……そっか」
「ここにいたか」
キリコ「……」
ウォッカム「早く支度をしろ、キリコ。隊長のお前が遅れては、洒落にならん」
キリコ「……はい」
ウォッカム「安心したまえ。このように、篠ノ之箒は生きている。まぁ、眠らせてはいるがな。
この艦は指令を主にする艦だ。前線にはいかんから、撃墜の心配も無い」
キリコ「……」
ウォッカム「では、行くぞ」
キリコ「……はっ」
束「それじゃあ、キリコちゃん! 頑張ってきてね! ちーちゃんを絶対連れてくるんだよ!」
キリコ「……あぁ」
学園という白昼夢は、このISという不発弾により、崩れたのだ。
そして、俺達は策謀という抗えぬ流れに流され、ここまで来た。
俺は、やらねばならない。
かつての友を敵にしても、家族を敵にしても、全世界を敵にしても。
俺は、やらなければならない。
卑怯者と罵られ、吸血鬼と揶揄された。
全てが真実では無いが、全てが嘘でも無い。
今の俺が、そうであるように。
だが、俺は躊躇わない。
俺の、命よりも大事な人を、守る為に。
俺の宿命を、守る為に。
全てを犠牲にしても、構わない。
友も、過去も、俺でさえ。
箒の、為に。
ラウラ「……」
シャル「……」
キリコ「……」
ウォッカム『我が精鋭部隊ISSよ。お前達はこの作戦、ひいてはメルキアの未来をも左右するのだ。
それを、十二分に刻んでおけ』
キリコ「……」
シャル「……」
ラウラ「……」
武器をしっかり持って、戦いなさい。勝って、貴方はやはり違うのだと、私達に思い知らせて下さい。
ウォッカム『我々は、歴史に名を刻むこの作戦で!』
……あたしと、あんたの……仲じゃない……あんたを、守るのなんて、当然よ……。
ウォッカム『我々は、偉業を成し遂げるのだ!』
……ありがとう、キリコ。君は、僕の生き方を変えてくれた、大切な人だよ。
ウォッカム『敵と同じ兵器を駆り!』
お前は、私の嫁だ。命を懸けて良い存在だ……。
ウォッカム『そして! 全てを手に入れる!』
お前は……義理なんて抜きにして、私の大切な弟だった……だが同時に……許したくない、相手でもあるんだ。
ウォッカム『全てを!』
よ、良かった……本当に……無事に、戻ってくれて……。
ウォッカム『全てだ!』
だったら……私は、お前に近づかない方が良いのかもしれない……。
私は、お前が……キリコが過去を思い出さなくても、生きていてくれるなら、それで良いから……。
ウォッカム『行け! 全ては、お前達の手にかかっている!』
……放さないで、キリコ……。
わかってる。
俺は、お前を……。
ウォッカム『出撃っ!』
ガシンッ
キュィイイッ
俺は、ただ進む。地獄に向かって。
友を道連れに、爛れた宙を、進む。
吹き飛ばせ、この地獄を。
キリコ「……箒……」
キュィイイイッ……
――
鉄の臓が猛り、鉛の肺が跋扈する。眼はレンズの奥に消え、飢えたる如く肩を振る。
流れる血は誰のもの。見つめるその目は誰のもの。お前のものは何処にある!
抉れ、奪え、啜れ、喰らえ! 己の異能を示す為、過去と故郷を喰らってきた。貪れるものは何処にある。俺の糧はどこにある!
俺は、死なない! 死なない! 全てを、喰らい尽くすまで――。
次回、「喰」
お前達は、ヤツの食い物に過ぎない。
――
キュィイイッ
キリコ「……」
ラウラ「……」
シャル「……」
束『やっほー! キリコちゃん聞こえるー? 束さん特別チャンネルで御呼び出し中だよー!』
キリコ「……あまり、耳元で甲高い声を出すな」
束『むぅーっ、キリコちゃんいけずー。まぁそれは置いといてー、作戦の確認するねー。キリコちゃんの最重要任務は、
専用機の奪取と、量産機の破壊。そしてなによりちーちゃんの確保! 最後がいっちばん重要だかんね!
これやってくれないと、束さんがこの作戦に参加した意味無くなっちゃうから』
キリコ「……」
束『ちーちゃんには束さんが手塩にかけて作った最新機を渡してあって、かなり手ごわいと思うけど、なんとか説得するか無力化してね?
あ、あとあと、専用機持ちは生け捕りにするんだよ? そっちの金髪の子みたいにちょちょいと脳に細工しちゃうから』
キリコ「……」
束『それとー、反逆なんて考えないでね? さすがのキリコちゃん達でも、前回より性能段チのゴーレム200機と戦艦を相手にするのは、
やめてほしいかなーって思うから』
キリコ「……」
束『キリコちゃんの能力は、知ってる。とても凄い事だとは思うけど、怪我はする。精神だって、普通なんだ。
だから、無理はしないでね?』
キリコ「……」
束『キリコちゃん、箒ちゃん、ちーちゃん……その、誰一人でも、欠けて欲しくないからさ……。
絶対、今言った事は守ってね?』
キリコ「……」
束『オッケー?』
キリコ「……あぁ」
束『オッケー。じゃあ敵ISの反応が近づいて来てるから、ベルゼルガ・レヴレンスちゃん辺りでかるーく蹴散らしちゃって』
キリコ「……了解」
シュンシュンシュンッ
ズガガガッ
ラウラ「来たぞっ!」
シュンッシュンッ
ラウラ(量産機か……)
キリコ「ゴーレム二機、ヤツらを倒せ。残りは俺に続け」
シャル「了解!」
ラウラ「……了解!」
――
第十三話
「喰」
――
ウォッカム「キリコ達はどうだ」
ルスケ「敵IS隊と、交戦が始まったようです」
ウォッカム「そうか……まずは、EU侵攻だったな」
ルスケ「はい……しかし……」
ウォッカム「何だ」
ルスケ「彼らと級友だったオルコットが、イギリスにいるようですが……大丈夫なのでしょうか」
ウォッカム「奴らに、決定権は無いさ……その為の人質だ」
ルスケ「はい……我々の部隊が、量産機の防衛線を突破してから、AT隊が突入します。
専用機の捕獲は、あの三人がかりで……」
ウォッカム「……そうか」
ルスケ「我らが保有するISは、200機……しかし、有人機はたったの3機……」
ウォッカム「……」
……
『……』ズガガガッ
「くっ……なんて火力っ……」
『……』ジャキンッ ズドンッ
「きゃあっ!」
『……』ヒュンッ
キリコ(ゴーレムは前回戦った時よりも、動きが上がっているな……)
シャル「あっ、ラウラ!」
ヒュンッ
キリコ「っ! ラウラッ! 待て! 突っ込むな!」
ラウラ「退けぇーっ!」キュウウンッ
「くっ、アイツは!」
「この……裏切り者がぁーっ!」ズガガガッ
ラウラ「退けぇっ! 退かなければ死ぬぞぉっ!」キュウウンッ
キリコ「ラウラッ! あまり前に出るなっ! 戻れ!」
「こいつっ!」バシュウウッ
ラウラ「っ!」ヒュンッ
「死ねっ! 裏切り者っ!」ジャキンッ
ラウラ(くっ、前からの銃撃でAICが……)
シャル「はああああっ!」ズガガガガッ
「ぐっ……こっちにもいたか……し、シールドがっ」
ラウラ「シャ、シャルロット!」
シャル「止まったなっ!」ジャキンッ
ズドンッ
「がふっ……」
グチャッ
シャキンッ……
シャル「……」
ラウラ「シャ、シャルロットっ! お前!」
シャル「らしくないよ、ラウラ……敵を殺そうともしないなんて」
ラウラ「っ……しかし……アイツらは……」
シャル「もう敵なんだよ! 地球は! 地球の人は!」
ラウラ「……」
シャル「向こうも、そう思ってるんだ……」
ラウラ「だがっ……」
シャル「軍人なんでしょ! ラウラは! それくらいわかりなよ! 敵は敵! 味方は味方!
それ以上もそれ以下も無い、その二つしかないんだよ!」
ラウラ「……」
シャル「僕達は、もう戦うしかないんだ……僕は、悪いけど敵を殺すのに何の躊躇いもない。頭を弄られたせいか、ね」
ラウラ「お前……」
シャル「それ以前に、躊躇ってたら僕らが死ぬ。そしたら、人質に取られた箒はどうなるの?」
ラウラ「……」
シャル「それにね、箒は……キリコだけが大切に思ってる人じゃない。箒は、僕の大切な友達なんだ。
その為にも……戦うしかないんだ、僕らは」
ラウラ「……」
シャル「ラウラは、キリコの為に戦ってるのはわかってる……キリコを助けたい一心なのは、わかってるよ。
だったら、躊躇わないで撃ちなよ。無意味な情けなんてかけてたら、作戦の邪魔になるだけだ!」
ラウラ「……」
シャル「それに、まだ希望が無い訳じゃない……専用機の子は、殺さないで無力化すれば良い……せめて、それだけは絶対に遂行しよう。
そうすれば、鈴やセシリアは助けられる」
ラウラ「……」
シャル「せめて……そうすれば、良い……」
ラウラ「……」
シャル「……わかった?」
ラウラ「……あぁっ……」
シャル「……ゴメンね、ラウラ……」
ラウラ「お前が、謝る事じゃない……私が、甘いせいだ……」
キュィイイッ
キリコ「……」ズガガガガッ
「な、なんだあのISは……」
「は、速い……目で追えないわ!」
キリコ(バルカンセレクター……)カチッ
キリコ「その隙が、命取りだ……」
ズガガンッ
「くはっ……」
「つっ……」
キリコ「……防衛線突破。AT隊揚陸準備をする。それまで俺らは防御に回る」
シャル「了解!」
ラウラ「りょ、了解!」
キリコ『こちら、キリコ・キュービィー。AT隊揚陸受け入れ態勢が整いました』
ルスケ「了解した。お前達はそこで待機。揚陸が完了するまで援護だ。それが終了したら、今度はEU北側に向かって貰う。
それからはお前達三人は別行動だ。各自、専用機を奪取しろ。良いな?」
キリコ『了解』
ピッ
ルスケ「作戦は、順調のようです。予定よりもかなり早い」
ウォッカム「さすがだな。篠ノ之博士が作成したゴーレムも、予想以上の働きをしている。あれだけの数を作成したのにも関わらずな」
ルスケ「はい。このままいけば、数日以内に地球及びISを手中に……」
ウォッカム「……あぁ」
シュウウウッ……
ガシンッ
『ISS隊長、聞こえるか』
キリコ「……あぁ」
『AT隊の揚陸が完了した。後はこちらでやれる。そちらの任務に戻りたまえ』
キリコ「了解した……行くぞ」
ラウラ「北、か……」
シャル「……」
キリコ「……」
シャル「大丈夫? ラウラ……」
ラウラ「……あぁ……私の部隊と、例え戦う事になったとしても……覚悟はできている」
キリコ「……」
ラウラ「私は……構わない」
シャル「……」
ラウラ「だが、お前はいいのか……シャルロット……自分の国と、戦う事になっても」
シャル「……言ったよ。敵は、敵だって……」
ラウラ「……そうか」
キリコ「……行くぞ。時間に余裕はあるが、あまりもたついていると支障が出る」
シャル「了解」
ラウラ「……了解」
キリコ「……」
――
セシリア「くっ……」ヒュンッ
『……』ズガガガガッ
セシリア(このIS……キリコさんを襲撃した型と同じでしょうが……動きが明らかに鋭敏ですわね)
セシリア(火力も、量産機等とは比べ物にならない……専用機にも劣らない性能ですわ……)
セシリア(まさか、地球以外の惑星が、これ程までのISを所持しているだなんて……)
『……』ジャキンッ
セシリア(近づいてくるっ……ですが、この間合いなら!)
セシリア「甘いですわ!」ドシュッ
ドガァアンッ
『……』ジジジッ……
セシリア「はぁ、はぁ……」
セシリア(もう弾薬が無い……シールドエネルギーも……)
『こちら司令部。セシリア・オルコット、生きているか』
セシリア「……はい。只今、敵ISを一機撃破したところです」
『そうか、よくやった。では一旦、補給をする為に前線基地へ戻れ。つい先ほど、防衛線が突破され、敵の本隊が侵入した。早々に補給を済ませてくれ。いいな?』
セシリア「……わかりました」
ピッ
セシリア(防衛線が突破された……AT隊がやってくる訳ですか……)
セシリア(ATで都市部への大規模な攻撃が行われる……敵のISにばかり気を取られていると……)
セシリア(……急ぎましょう)ヒュンッ
ギュンッ
セシリア「……」
セシリア(前線基地に戻ってきましたが……)
「早くしろ! そいつはエネルギーを溜めればなんとかまた使える! 代えのパイロットは!」
「あ、足が! 足がぁっ……」
「……もうコイツはダメだ。切断するしかない」
「急げ! 怪我人は腐る程いる! 早く運んでこい!」
「……うぅ……」
「誰か……誰かぁっ……」
「補給部隊はE-10へ急行せよ! 繰り返す!」
「走れ!」
セシリア「……」
セシリア(舞い上がる砂埃、そこに響く怒号と呻き……)
セシリア(火薬と血肉の臭いが鼻を突く……)
セシリア(私と、さして歳の変わらない方も、私同様ISに乗せられ、駆り出される……)
セシリア(そして……まるで石ころのように、どこかが欠けた人間が打ち捨てられている……)
セシリア(丘の向こうで立ち上る爆煙と火花が、ここでの安寧を許さぬと、怪我人達に叫ぶ)
セシリア(無事な人でさえ、何かに駆られ、逃げるように、足を止めずに駆ける)
セシリア(これが……戦場……)
セシリア(本当に……ただの、地獄ではありませんかっ……)
「オルコット、帰還したか」
セシリア「は、はい」
「補給所はそこだ。早くしろ。」
セシリア「はい!」
「都市防衛の部隊が、この有様だ……もっとISを回せれば……ATなぞに……」
セシリア「……」
「補給が終わったら、お前はロンドン防衛に向かって貰う。幸い、あちらではまだ優勢だ」
セシリア「はい」
「……頼むぞ」
セシリア「……失礼します」
セシリア(地球への宣戦布告がされた時、正直私達は甘く見ていました)
セシリア(もしかしたら戦争が起こるかもしれないとは、一応予測できていたのもあります)
セシリア(しかし、我々にはISがあり、敵にはそれが無い、というのが最大の理由でした)
セシリア(この戦力の差は、圧倒的である、と……)
セシリア(しかし、そんな甘い考えは脆くも崩れ落ちたのです)
セシリア(確認されただけでも、少なくとも100機を超すISを、敵は所有していた)
セシリア(性能も、かなりの高性能……第三世代機に匹敵する……)
セシリア(その大半は、恐らくは無人機。しかし、中には……有人機も混ざっている、と)
セシリア(それが誰なのかは、まだ判明していない。敵が養成したパイロットなのか、はたまた裏切り者なのか)
セシリア(……)
セシリア(こんな時に、キリコさんがいてくれたら、と痛い程に思う)
セシリア(腕、精神力の強さ、皆を引寄せるあの空気……あのカリスマが、今ここに無い事がどれだけの損失か)
セシリア(……私の、傍にいてくれたら……)
セシリア(戦う事すら、怖くないのに……)
セシリア(……なぜ、消えてしまったのですか……)
セシリア(なぜ、ここにいてくれないのですか……)
「補給が完了しました。お気をつけて」
セシリア「……はい」
セシリア(……行かなければならない)
セシリア(人々を守る為)
セシリア(遠くで戦っているはずの、友の為)
セシリア(そして、自分の為……)
セシリア(……生き残り、そして行かなければならない)
セシリア(私の想い人を……キリコさんを探す為に……)
セシリア(……キリコさん……)
ギュンッ
セシリア「……」ゴォオオッ
セシリア(……あれは……AT隊……)
ガインッガインッ
キュィイイイッ
セシリア(集落が……襲撃を受けている……)
セシリア(酷い……基地でも、武装した人でも無いのに……)
セシリア「っ! ま、まさか……」
セシリア(……あの、肩は……)
眼下に広がる光景。
小さな村落が、鉄の騎兵の攻撃を受けていた。
血濡れた肩が、火を垂らし、惑う人が、爆ぜてゆく。
火のせいで明るいはずなのに、私にはそこだけ落ち窪んだかのように、暗く、深く、沈んで見えた。
あの目がフラッシュバックする。想い人のあの目が。
私は乗り越えたはずなのに、まだあの目が脳裏にちらつく。
あの赤い肩が、私に強烈に語りかける。お前は、まだ恐れているのだと。
お前の想いは、その程度なのだと。
セシリア「……くっ……」
セシリア(私は……私は、立ち向かったはず……)
セシリア(あんなものは……何も、感じないはず……)
セシリア(っ……)
ギュンッ
『おらおら!』ポヒューッ
『へっ、IS以外はてんで歯ごたえの無い星だな』
『あぁ。こっちのIS隊がヤツらを引きとめてるからな。数だけでも押し切れるさ』
『はっ、違えねぇ――』
セシリア「はぁああっ!」ズギュウンッ
『うわああ!』ドガァアンッ
『な、何だ!』
『チックショウ! ISだ!』
『撃ちまくれ!』ズガガガガッ
セシリア「そんなもの! 当たりませんわ! このブルー・ティアーズで――」
『セシリア・オルコット! 聞こえるか!』
セシリア「っ……は、はい! こちらオルコット!」
『何をしている! 動きが止まったぞ! 早くロンドンへ向かえ!』
セシリア「で、ですがっ……襲撃を受けている集落を……」
『そんなものはどうでもいい! 無駄に弾を消費していないで、早く向かわんか!』
セシリア「っ……くぅっ……」
『応答しろ! オルコット!』
セシリア「……了解、ですわ……」
ギュンッ
『お、おい。あのIS逃げてくぜ』
『けっ、ざまぁ見ろってんだ!』
セシリア「……」
セシリア(許して下さい……私が、無力なばかりに……)
ゴォオオッ
今見たばかりの光景が、鮮烈に刻まれる。
それを必死で振り払い、機体を駆る。
今は、急ぐしかない。
逃げる人々を、見過ごすしかない。
今は。
……
シュンッ
セシリア「……着きましたわね」
セシリア(どうやら、専用機持ちで一番乗りのようですね……)
セシリア(……しかし……)
ポヒューッ
ガインッ ガインッ
セシリア(……酷い……)
セシリア(あの美しかった街が……こんなにも……)
セシリア「……なんて、惨い……」
セシリア(川には死体が流れ、どの建物からも煙が立ち上って……)
セシリア(……)
キュィイイッ
ズガガガッ
セシリア「……敵のAT隊が、こんなに蔓延って……」
セシリア「……許せませんわ……」ギリッ
セシリア「……駆逐します!」
ズガガガガッ
セシリア「っ! くっ……」ヒュンッ
セシリア(今の攻撃は……)
『……』ズガガガッ
セシリア「また、あなた達ですか……良いでしょう。
複数で挑んでも、このブルー・ティアーズに利を作る事ができないと言う事を、お見せいたします!」
『……』ギュンッ
セシリア(敵は二機……一対二は、キリコさんとシャルロットさんとの訓練で、嫌という程鍛錬を積みましたわ!)
セシリア「ブルー・ティアーズ!」
シュンシュンッ
セシリア「さぁ、踊りなさいっ!」バシュバシュッ
『……』ヒュンヒュン
セシリア(よし、何とか動きを抑制できますわね……)
セシリア(これだけ集中力がついたのも、キリコさんのおかげ……)
セシリア(私が強くなれたのも、あの目のおかげ……)
セシリア(だから……)
セシリア(キリコさんの為にも、私は負けられないのです!)
セシリア「さぁ……来なさい……」
セシリア「性能だけではどうやっても覆せないものがあることを……思い知らせてあげますわ……」
セシリア「……はぁっ!」ズギュウンッ
『……』ドガンッ
セシリア(見た目通りの装甲の厚さ。やはりこの程度ではビクともしませんか……)
セシリア(私以外の部隊が来るまで、なんとか時間稼ぎをしなければ……)
『……』ギュンッ
セシリア「……」
セシリア(……基本ルーチンは、一体が囮になり、もう一体が攻撃を仕掛けてくる……という感じですか)
セシリア(崩れた建物の陰から攻撃してくるのは、厄介ですわね……)
セシリア(しかし……それもあの時と同じ!)
セシリア「……」
『……』ヒュンッ
セシリア(あのISの主武装は近接戦闘傾倒……絶対に、近寄ってくるはず……)
セシリア(そこを……)
『……』
セシリア「……」
『……』ギュンッ
セシリア「そこっ!」
ドシュウウッ
『……』
セシリア(このミサイルをこの距離で避けるなんて不可能ですわ!)
ドガァアンッ
『……』ジジジッ
ヒュンッ
セシリア「ふっ……」
セシリア(爆風に紛れ、一気に距離を詰める……この体勢なら反撃は不可能!)
セシリア「てやっ!」
ザシュッ
セシリア「はぁあっ!」ザスザスッ
『……』ジジジジッ……
ドカァアンッ
セシリア「一機撃破!」
セシリア(キリコさんは射撃だけでなく、近接戦闘にも抜け目と抜け目がありませんでした)
セシリア(私も、それに遅れは取りませんわよ!)
『……』ズガガガッ
セシリア(攻撃役が出てきましたか……)
セシリア「しかし、このブルー・ティアーズを、その図体で避け切れると思って?」
シュンシュンッ
バシュバシュッ
『……』バキンガコンッ
セシリア「フィナーレですわ」ジャキンッ
ズギュウウンッ
ドガァアンッ
セシリア「ふぅ……お粗末な花火ですこと」
ヒュンッ
セシリア(……新手ですか……)
『……』ズガガガガッ
セシリア「良いでしょう……スクラップになりたい方から、かかってらっしゃい!」
セシリア「はぁああっ!」
「……」
「……専用機を発見、これより捕獲します……」
――
ウォッカム『……篠ノ之博士』
束「なんですかー」
ウォッカム『いつまでそこにいるつもりだ。お前には、キリコ達のサポートという重要な任務があるはずだが』
束「いいじゃないですかー。もうちょっとここで、箒ちゃんを眺めてたいんですー」
ウォッカム『……重要な作戦中だ。余計な事は考えない事だ』
束「えぇー」
ウォッカム『私は、紳士では無い。作戦に参加しないと言うのなら、お前との約定も破棄させて貰う』
束「……」
ウォッカム『安心しろ。キリコ達が作戦を完了させれば、お前達の安全は保障する。それまでの辛抱だ。
対価としては……安い、ものだろう?』
束「……」
ウォッカム『では、すぐに戻れ。私も、お前だけを気にかける訳にもいかないのでな』
プツンッ
束「……」
束「なーにが紳士だ。そんなの最初からわかってますよーだ」
束「……」
束「箒ちゃん、ゴメンね……あんな事しちゃって……」
束「……でもね、こうするしか無かったんだ……」
束「私がISを普及させて……最初は軍事利用には使えないなんて決められちゃったけど、こんな性能の物が、利用されない訳ないんだ」
束「だから、先手を打った。この技術を、どこかの軍に渡してしまおうと」
束「それが、皆をバラバラにした、あの戦争を無くすのに一番手っ取り早い方法だったんだ」
束「百年戦争の陣営、そのどちらかにこの技術を独占させ、箒ちゃん達の安全を確約させながら、圧倒的な戦力で終結させる」
束「そして、訪れるのは……争いの無い世界。争いすら、しようとも思わない世界」
束「私と、箒ちゃんと、キリコちゃんとちーちゃん……この全員で静かに暮らせる所に行こうって……」
束「……キリコちゃんの能力的に、こうでもしないと静かに暮らせないと思ったからさ……」
束「……」
束「もうすぐの辛抱だからね……今キリコちゃんが、ちーちゃんを向かえに行ってる。そして、戦争を終わらせる足がかりを作ってる」
束「起きたら、ちゃんと謝るから……」
束「……だから、待っててね……箒ちゃん」
――
セシリア「はぁ……はぁ……」
『……』ピピピッ
セシリア(おかしいですわ……敵は先程と同じ戦法で来ているはずなのに……)
『……』ヒュンッ
セシリア「くっ」ズギュウンッ
『……』スカッ
セシリア(私の攻撃が、見切られている……)
セシリア(情報では、敵は大半が無人機と聞いていましたが……)
セシリア(もしや、私の戦い方がデータ化され、他の機体にも共有されているのでは……)
セシリア(……もしそうだとしたら、厄介ですわね……)
『……』ズガガガッ
セシリア「はぁっ!」シュンシュンッ
バシュバシュッ
『……』ヒュンッ
セシリア(マズイですわ……どうやら、私の予感が的中していますわね……)
セシリア(私が気付かない癖まで見切っているのでしょう……)
セシリア(でなければ、ここまで避けられる事などありえませんわ……)
『……』ズガガガッ
セシリア「ふっ!」ヒュッ
セシリア(マシンガンからの牽制……そして、距離を詰めての近接攻撃……)
セシリア(それさえ怠らなければっ……)
セシリア「……」ヒュンッ
セシリア「……」ヒュンッ
『……』ジャキッ
バシュッ
セシリア(グレネードランチャー? ふん、そんな弾速の遅い弾に……)
ビカッ
セシリア「!?」
セシリア(し、しまった……閃光音響弾……)
セシリア「くぅっ……」
『……』ズガガガッ
セシリア(う、迂闊でしたわ……何とか直視は避けられましたが、視界が……)カキンカキンッ
セシリア(こうなったらセンサーで反応しつつ、回避するしか……)
セシリア(……)
セシリア(……もう一機は何処に!)
セシリア(今の閃光で見失ってしまいましたか……が、瓦礫の影に? )
セシリア(い、いない……では、一体……)
ザパァッ
セシリア「っ!?」
セシリア(しまった! 川の中にっ……)
『……』ジャキンッ
セシリア(も、もう懐にっ!)
『……』グワッ
セシリア「くっ……」
セシリア(この体勢では……畳み掛けられてしまう……)
セシリア(こ、ここまでですか……)
「はぁああっ!」
ズガガガッ
『……』カキンカキンッ
「そこをどけーっ!」
セシリア(よ、良かった! 援軍ですか!)
「はぁあっ!」ズガガンッ
セシリア「……あ、貴女は!?」
『……』ピピピッ
シュンシュンッ
「そうだ! さっさと逃げろ!」ズガガガッ
セシリア「……まさか……」
「……ふぅ、良かった……間にあって……」
セシリア「……こんな所で……」
「……セシリア」
セシリア「シャ、シャルロット、さん……」
シャル「セシリア……君も無事だったんだね」
セシリア「え、えぇ……貴女も、ご無事で何よりですわ……」グスッ
シャル「あ、あぁほら、泣かないで。まだ油断しちゃダメだ。退かせられたけど、まだ来るかもしれないし」
セシリア「そ、そうですわね……失礼しました」
シャル「いやー、それにしても、ここで合流できて良かったよ」
セシリア「えぇ、本当に……ところで、今まで一体何処にいらっしゃったのですか?」
シャル「あぁ……学校でセシリア達と別れた後、敵の罠にあってね……飛行機が墜落しちゃって、ATにも襲われて……」
セシリア「まぁ……大変だったのですね」
シャル「ようやく他の二人とISを奪還して、戻ってきたと思ったら……」
セシリア「で、では……」
シャル「うん、キリコ達も無事だよ」
セシリア「ほ、本当ですかっ!?」
シャル「うん」
セシリア「ほ、本当の本当にですか!」ズイッ
シャル「そ、そうだよ。キリコもラウラも、無事」
セシリア「……」
シャル「……セ、セシリア?」
セシリア「……」
シャル「あ、あんまり近寄られると……」
ドクンッ ドクンッ
シャル(……発作が……)
セシリア「……」
シャル「……」カタカタ
シャル(マズイな……指が……引き金に……)
セシリア「……よかっ、た……」グスッ
シャル「……」
セシリア「ほんとうにっ……ほんとうにっ、よかった……」
シャル「……泣く、には……早いよ……」ドクンッ
セシリア「ごめんなさい……でも、ほんとうに……うれしくて……」
シャル「っ……」
セシリア「ほんとうに……ごぶじでっ……」
シャル(くっ……おさまれ……)ハァハァ
セシリア「……キリコさんっ……」
シャル「はぁ、はぁ……」
セシリア「……ほんとうにっ……」
シャル(ぐっ……だ、ダメだ……)カタカタ
セシリア「……みなさん……ごぶじでっ……」
シャル「っ……」
ズギウウュンッ
バキンッ
セシリア「!?」
シャル「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
『……』ジジジジッ
ドガァアンッ
セシリア「う、後ろにっ……まだいましたの!」ジャキッ
ズギュウンッ
『……』バキンッ
ドカアアンッ
セシリア「ふぅ……何とかあの二機を倒せましたわね」
シャル「う、うん……そう、だね……」
シャル(い、今撃ったので……何とか発作は軽くなったか……)
セシリア「シャ、シャルロットさん? 息が荒いですが、大丈夫ですか?」
シャル「だ、大丈夫……ちょっと、まだ疲れが抜けてないみたいでさ……」
セシリア「まぁ……では、私と共に前線基地に行きましょう。そうすれば……」
シャル「いや!」
セシリア「……」
シャル「……いや、いい。僕達は途中から来たから、味方として登録されてないはずだ。
だから、先にキリコ達と合流して、一緒についていくよ」
セシリア「そ、それもそうですわね……」
シャル「じゃあ、今からキリコ達と合流するけど……ついてくる?」
セシリア「よ、よろしいのですか?」
シャル「うん。きっとキリコ達も、セシリアの顔を見たいと思うから」
セシリア「……」
シャル「ね?」
セシリア「……わかりましたわ」
シャル「よし、じゃあ……あっ、でも、セシリアには任務があるか……」
セシリア「いえ。キリコさん程の戦力を連れ戻せば、きっと戦いにも貢献できますわ」
シャル「そ、そっか……じゃあ、ついて来て。あっ、セシリア。シールドエネルギーは大丈夫?」
セシリア「ん……あまり、思わしくありません……」
シャル「そっか……でも、そこまで遠くないから少し我慢してね(これは、好都合かな……)」
セシリア「は、はい」
シャル「よし、じゃあ行くよ」
セシリア「了解」
ギュンッ
シャル「……」キィイインッ
セシリア「……」ヒュンッ
ピーピーッ
シャル(……こんな時に通信か……)
シャル「そうだ、セシリア」
セシリア「はい?」
シャル「基地に今のうちに連絡してみてよ。こういう理由で離れます、って感じで」
セシリア「わ、わかりました」
シャル「ゴーレムも二機倒したし、多分通るんじゃないかな」
セシリア「そうですわね」
シャル「じゃあお願いね。僕も通信来ちゃったから」
セシリア「わかりました」
シャル「……」
シャル「……こちら、シャルロット」ボソ
ルスケ『デュノア。何故ゴーレムを攻撃した』
シャル「……専用機持ち……セシリア・オルコットを、無傷で確保したいからです」
ルスケ『ふむ、専用機か……だが、ゴーレムと共に攻撃する方が早くはないのか』
シャル「油断させ、このまま回収ポイントまで同行します。無傷の方が、何かと後で良いでしょう。
ゴーレムを、これ以上付近に近寄らせないで下さい。」
ルスケ『うむ……それなら良い。しかし、これ以上味方を攻撃するなら、それなりの処置をとる事になる』
シャル「……わかってます」
ルスケ『それと、友人だからと言って余計な情はかけるな。人質の事を忘れるな、良いな?』
シャル「……そういう感情が、行動中は塗りつぶされてるの、わかってるでしょう」
ルスケ『ふっ、そうか。では、上手くやれよ』
シャル「……ちゃんと連れていったら、専用機持ちの子は、命だけは助けてくれるんですよね」
ルスケ『当然だ。専用機に乗せるのは、それに即した人間だからな』
シャル「……」
ルスケ『お前は余計な事は考えなくて良い。任務を遂行しろ』
シャル「……了解」
ピピッ シュンッ
シャル「……」
セシリア「シャルロットさん」
シャル「……」
セシリア「シャルロットさん!」
シャル「……ん、な、何?」
セシリア「何とか許可を得られました。あの無人機の反応も消え、私以外のIS隊が到着したようなので」
シャル「う、うん。そっか(ゴーレムごと退却させたのか? まぁ、いいか……)」
セシリア「……ところで……」
シャル「うん? 何?」
セシリア「あれは、やはり情報通り無人機なのでしょうか。私も、そう思って戦っていますが……」
シャル「うん。その情報通りだよ」
セシリア「……して、あの機体の名前は、ゴーレムと言うのですか?」
シャル「……」
シャル「……」
セシリア「シャルロットさん」
シャル「……」
セシリア「シャルロットさん!」
シャル「……ん、な、何?」
セシリア「何とか許可を得られました。あの無人機の反応も消え、私以外のIS隊が到着したようなので」
シャル「う、うん。そっか(ゴーレムごと退却させたのか? まぁ、いいか……)」
セシリア「……ところで……」
シャル「うん? 何?」
セシリア「あれは、やはり情報通り無人機なのでしょうか。私も、そう思って戦っていますが……」
シャル「うん。その情報通りだよ」
セシリア「……して、あの機体の名前は、ゴーレムと言うのですか?」
シャル「……」
セシリア「……何故、あれの名前を知っているのですか?」
シャル「……え?」
セシリア「いえ、そんな情報は何処からも聞かなかったので……」
シャル「あ……あぁ、そういう事か。てっきり知ってるものだと……」
セシリア「……」
シャル「え、AT隊を退けた後、あの機体に出くわしてね……それで、操作してる相手が、こっちにペラペラと情報を言ってくれたから……」
セシリア「……」
シャル「きっと、こっちがもう戦えないと思ってたから油断したんだと思う。作戦の事も喋ってくれたから、こうしてISも奪還してここに来れたんだ」
セシリア「なる、ほど……」
シャル「……」
シャル(マズイ……バレたか?)
セシリア「……」
シャル「……あぁー、セシリア?」
セシリア「……大変、でしたのね……」
シャル「へ?」
セシリア「危険を冒してまで……本当に、よくぞ生きて帰って下さいました……」
シャル「は、ははっ……ま、まぁ、キリコとラウラも一緒だったし、当然だよ。あの二人の活躍を、見せたかったくらい(よ、良かったバレてない……)」
セシリア「私も一緒に行けていれば……あの時の戦いでもっと善戦出来ていれば、同行出来たかもしれませんのに……」
シャル「セシリア……」
セシリア「……」
シャル「セ、セシリアが気にする事じゃないよ。結果的に僕らは生きてるし、こうしてまた会えたんだから」
セシリア「……」
シャル「ね?」
セシリア「……そう、ですか」
シャル「そうだよ」
セシリア「なら、良いのですが……」
シャル「ほ、ほら。今は暗い話は後にしてさ。キリコもすぐ先にいるから」
セシリア「……そうですわね」
シャル「うん。じゃあ、もっと速度上げるよ」
セシリア「はいっ」
ギュンッ
シャル「……」
セシリア「……」
シャル(……ゴメンね……セシリア)
――
バキンッ
ドゴンッ
「ぐはっ……」
キリコ「……」
「ば、馬鹿な……」
キリコ「……」
「……」
ドサッ
キリコ「……すまない」
キリコ「……こちら、キリコ・キュービィー」
ルスケ『どうした』
キリコ「専用機持ちを一人、確保しました」
ルスケ『うむ。では揚陸艇に運べ。後はこちらでやる』
キリコ「……了解」
キリコ「……」
ポツ
キリコ「……」
ポツポツ
キリコ「ん……」
ザァーッ
キリコ(雨、か……)
キリコ「……」
キリコ(……コイツを、運ぶか)
穢れを落とす驟雨が、戦場に注ぐ。
立ち上る煙を叩き、打ちひしがれた者達を、汚泥の中に埋没させてゆく。
雨音以外には、ただ一つの足音のみ。
戦場と言うよりは、ここは墓場だった。
キリコ「……」
シャルロット、ラウラ達と離れ、俺は専用機狩りを行っていた。
確かに、専用機持ちは強い。しかし、本当の戦場を知らない少女ばかりだ。
訓練は受けていても、俺のような、地獄の淵を何度も見せられた者にとって、残酷にも、獲物と捉えるにさして変わりは無い。
俺は、ゴーレム達と同じように、機械的に彼女達を捕縛していた。
キリコ「……」
俺は、また何も感じなくなっていた。
あの学園で思い出したはずのものを。
それなのに俺は、愛した人の為に戦っていた。
得たはずの全てを、犠牲にして。
俺には過ぎた夢を、犠牲にして。
キリコ「……」
ピーピーッ
キリコ(シャルロットから通信……)
キリコ「……どうした、シャルロット」
シャル『キリコ。そっちはどう』
キリコ「……順調だ」
シャル『……気を落とさないで……こっちは、セシリアと合流したから』
キリコ「……本当か」
シャル『うん。ゴーレムを退かせたから、何とか怪我も無いみたい』
キリコ「……そうか」
シャル『……』
キリコ「……そのまま、こっちに向かえ」
シャル『……もう、着くよ』
キリコ「……そうか」
シャル『……それじゃあ、また』
キリコ「……あぁ」
キリコ「……」
思えば、俺がこのISという兵器を動かした時から、こうなる事はわかりきっていたのかも知れない。
あの作戦も、仕組まれたものだったのか。
あそこで、箒と出会ったのも、仕組まれたものだったのか。
俺には、わからない。
初めてあの学園に行った時を思い出す。
姉さんと、そして箒と再会した。運命の再会だった。
それなのに俺は……箒をつけ放してしまった。自分の痛みを、和らげる為に。
あの時、しっかりと彼女と向き合っていれば……彼女を、守れたのかも知れない。
そうすれば、俺は……あの五人と、まだ笑えていたのかも知れない。
あの学園の生徒達と変わらず、普通の生活を遅れていたのかも、知れない。
キリコ「……」
この兵器と、俺……。
どちらも、忌避されるべきだったのだ。
この兵器を軸にして、戦争は始まった。
この俺を軸にして、戦争を終わらせようとする物もいる。
キリコ「……コイツだ」
「よくぞ捕縛してくれた。後はこちらでやる。貴官は戦線に戻りたまえ」
キリコ「……了解」
俺は、呪われているのか。
俺と関わる者は、安寧すら与えられないのか。
俺自身には、孤独も、安らぎも与えられないのか。
キリコ「……」
雨を裂き、俺はまた狩りに出ていた。
己の目的を、噛み締めながら。
キリコ「……」
己の首にぶら下げたものの重みを、握り締めながら。
――
「クソッ……なんて強さだ……」
「きゃあっ!」
「大丈夫か!」
「……うぅ……」
「……」
(我等がシュヴァルツェ・ハーゼが……無人機如きにここまで押されるとは……)
(隊長が行方不明の時に……戦争が勃発するなど……)
(……隊長……一体、何処へ行ってしまわれたのですかっ!)
『……』ガシンッ
「!?」
(くっ……この角度はマズイ!)
『……』ズガガガッ
「ぐはっ!」
『……』シュンッ
(くっ、もう一機来る……)
(防御も、間に合わんか……)
(……ここまでかっ……)
ヒュンッ
「……」
キュウウンッ
『……』
「……」
(な、何だ……衝撃が来ない……)
「……!?」
「こ、これは……」
「AIC……まさかっ!」
ラウラ「……」キュウウンッ
「……隊長……」
「……隊長だ……」
ラウラ「……」カランカランッ
「た、隊長!」
「御無事だったんですね!」
ラウラ「……」
「隊長……よくぞ……よくぞ、ご無事で……」
「あぁ……私達はまだ見捨てられていなかった……」
ラウラ「……」
「我等が隊長の御戻りだ! 反撃に移るぞ!」
「了解!」
ラウラ「……お前達」
「隊長! 我々はまだまだ戦えます!」
「さぁ! ご指示を!」
ラウラ「……すまないっ」
「謝る事なんてありませんよ!」
「こうして戻って来てくれただけでも!」
ラウラ「……違う」
「隊列を組め! あの機体の数自体は少ない!」
「押し切りましょう!」
ラウラ「……違うんだ……」
「隊長!」
「隊長!」
ラウラ「……お前達……」
「はい!」
「御命令を!」
ジャキンッ
「……」
「た、たい、ちょう? 何故……こちらに……」
ラウラ「……すまない……」
ラウラ「私の、為に……死ね……」
――
シャル(……ラウラも、交戦を始めたみたいだ)
ザァーッ
シャル「……雨、降って来たね」
セシリア「そうですわね……」
シャル「……」
シャル(にわか雨……か……)
セシリア「……どこを飛んでいても、AT隊が見えますわね……」
シャル「……うん……噂じゃ、うん千万以上の兵員が導入されてるって……」
セシリア「……酷い……」
シャル「……地球のISを奪って……そして、地球の歴史を、終わらせる気なんだ……きっと」
セシリア「……」
シャル「……」
セシリア「シャルロットさん……やはり、AT隊を駆除しながら……」
シャル「……今のシールドエネルギーじゃ……下手したらAT相手にでも負けるよ」
セシリア「……」
シャル「今は急ごう……そうしないと、救える命も……救えなくなる」
セシリア「……」
シャル「……本当に……手遅れになるよ」
セシリア「……わかりました」
シャル「……ゴメンね」
セシリア「シャルロットさんが謝る事ではありません。私が、まだ感情に流されているのが、悪いだけですから……」
シャル「……ゴメン」
セシリア「……さぁ、もう少しスピードを上げましょうか」
シャル「……」
セシリア「……シャルロットさん」
シャル「何?」
セシリア「箒さんの行方は……知らないですわよね……」
シャル「……箒も、行方不明になったんだ……」
セシリア「はい……私達が臨海学校に行った時に……突然、姿が見えなくなって……」
シャル「……」
セシリア「それから、織斑先生がISの襲撃を受けたと……それから、戦争が起こると織斑先生が……」
シャル「そう……なんだ……」
セシリア「……それから、皆……バラバラになってしまいました……」
シャル「……」
セシリア「こんな……戦争のせいで……」
シャル「……」
セシリア「……」
シャル「ねぇ、セシリア」
セシリア「……何でしょうか」
シャル「鈴は……無事かな」
セシリア「鈴さん……ですか……」
シャル「うん……鈴も、きっと自分の国で戦ってるよね……」
セシリア「……そうですわね」
シャル「……」
セシリア「まぁでも、鈴さんがそう簡単に死ぬはずはありませんわよ。あんな図太い方が、アッサリ死ぬなんてあり得ませんわ」
シャル「……ふふっ……そうだね……」
セシリア「……鈴さんとも、すっかり悪友のようになってしまいましたわね……」
シャル「うん……仲良いもんね、二人」
セシリア「……えぇ。一緒にいると、暇を感じませんもの。まぁ、品の無い会話が主となって、私としては付き合ってあげている、
という状況ですけどね」
シャル「ふっ、そうだね……」
セシリア「ですが……それも、大変楽しい、ですけどね……」
シャル「……」
セシリア「……」
シャル「……絶対に」
セシリア「はい?」
シャル「絶対に、皆に……あの頃の皆に戻ろう」
セシリア「……シャルロットさん……」
シャル「ラウラだって、もっと皆と仲良くなりたいはずだ。鈴だってもっと冗談を言って、僕達を笑わせたいはずだ。
僕だって……」
セシリア「……」
シャル「……箒を取り戻して、キリコも……」
セシリア「……」
シャル「……」
セシリア「……私も」
シャル「……」
セシリア「私も、その意見に、賛成ですわ」
シャル「……セシリア」
セシリア「……」
シャル「……そう、だよね」
セシリア「……えぇ」
シャル「……」
セシリア「……」
シャル(その為にも……)
ギュウンッ
シャル「……! いたよっ!」
セシリア「キリコさん!?」
シャル「キリコーッ!」
セシリア「ほ、本当に……」
シャル「おーいっ!」
キリコ「……シャルロット……」
シャル「キリコッ!」シュンッ
セシリア「キリコさんっ!」
ガシッ
キリコ「うおっ」
セシリア「キリコさん! キリコさんっ!」
キリコ「……」
セシリア「キリコさんっ……」
キリコ「……セシリア、無事だったか」
セシリア「はいっ……キリコさんも、よくぞ、ご無事でっ……」グスッ
キリコ「……泣くな、セシリア」
セシリア「ですがっ……うれしくて……うれしくてっ……」
キリコ「……」
シャル「っ……」
セシリア「ん……失礼。通信が……」
キリコ「……出て良いぞ」
セシリア「申し訳ございません……では……はい、こちらオルコット」
『オルコットか! よく聞け! 裏切り者の名前が判明した!』
セシリア「っ! ほ、本当ですか!?」
『今すぐ、動向している奴から離れるんだ!』
セシリア「えっ……どういう……」
『裏切り者は……キリコ・キュービィー、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒだ!』
……。
……。
……はい?
『今すぐにそいつ等から離れろ!』
……意味が、わかりませんわ……。
……裏切り者が……。
キリコ「……」
シャル「……」
『そいつ等は敵だ! 早く逃げるんだ!』
キリコ……さん……。
キリコ「……どうした、セシリア」
シャル「あ、やっぱりあそこから離れちゃダメって言われた?」
……。
『早くせんか! 既にそこのエリアにいた専用機持ちの反応が無い! 貴様も狙われているんだ!』
……嘘……。
『オルコット! 聞いているか!』
嘘……。
嘘、嘘、嘘っ……。
『おい!』
ピッ
「はぁっ、はぁっ……」
聞きたくない……。
これは、何かの間違い……。
戦争の混乱で、情報が乱れているだけ……。
そんなはずは無い……。
キリコさんが、そんな事する訳ない……。
キリコ「……どうした、セシリア」
こんな、優しい方が……そんな事……。
シャル「……」
シャル(……バレた、か……)
ジャキッ
キリコ「!?」
「シャルロット……さん?」
シャル「……セシリア。何も言わず、僕達について来て貰うよ」
キリコ「……」
「何を……仰っていますの……」
シャル「今の通信……僕達が裏切り者だって、内容だよね」
「っ……」
キリコ「……セシリア」
「……」
シャル「……そうでしょ?」
「――ですわよね」
シャル「……何?」
「嘘、ですわよね?」
シャル「……」
キリコ「……」
「だって……私達は、友人で……シャルロットさんも、また元の皆に戻ろうと仰って……」
シャル「……」
「それなのに……裏切っただなんて……嘘、ですわよね?」
キリコ「……」
「……キリコさん……」
キリコ「……」
「何か……仰って下さい……」
キリコ「……」
「これは……何かの間違いだと……言って下さいっ……」
キリコ「……」
「……」
キリコ「……話を、聞いてくれないか」
「っ……」
今、理解した。
この話は――。
シャル「……」
キリコ「……セシリア――」
「聞きたくありませんっ!」
キリコ「……」
「聞きたく……」
シャル「……セシリア、お願い」
「聞きたく、ありません……」ジャキッ
キリコ「……」
シャル「……」
「ききたく……ない……」
キリコ「セシリア……」
「……なんで……」
キリコ「……」
「なんでですのっ……なんでっ……」
キリコ「……セシリア、話を、聞いてくれ……」
「なんでっ……ちゃんと、否定してくれないんですかっ……」
キリコ「……」
「せっかく……また会えたのに……」
シャル「……」
「こんなのっ……こんなの、酷過ぎますわっ!」
キリコ「……」
「仲間だと……友人だと、思っていたのにっ……」
キリコ「……」
「お慕いして……いましたのに……」
キリコ「……」
「キリコ……さんっ……」
シャル「……セシリア、銃を下ろすんだ」
「……嫌です」
シャル「頼むよ……でなきゃ……僕が君を撃たなきゃいけなくなる……」
「っ……」
キリコ「……」
「……くぅっ……」
シャル「降ろしてよ……」
「嫌、です……」
シャル「降ろして」
「嫌です」
シャル「降ろすんだ!」
「嫌ぁっ!」
シャル「セシリアの為なんだ! セシリアを傷つけたくないから!」
「何がっ……私の為ですか……」
シャル「……これしか……」
「……」
シャル「これしか……また、皆と一緒にいられる方法なんて無いんだ!」
「……私にも……地球を裏切れと?」
シャル「違う……違うよ……そういう意味じゃない!」
「……私は……」
シャル「セシリア……僕らは、ただ……」
「私は……信じていましたのに……」
シャル「……」
キリコ「……」
「……」
キリコ「……」
「その、目ですわ……」
キリコ「……」
「その目が……やはり全てだった……」
キリコ「……」
「……人殺し……裏切り、者っ……」
キリコ「……」
「……そんなの……初めてその目を見た時から、わかるはずの事だったのに……」
キリコ「……」
「……それなのに……なんでっ、こんな……」
キリコ「……」
「……」
シャル「……セシリア、まずは落ちつこう。僕らの話を聞いてくれれば、きっと……」
「黙りなさい!」ジャキッ
シャル「……」
「裏切り者の話など……聞きたく、ありません……」
シャル「……」
「……」
シャル「……わかった。ISも解く。キリコも、ほら」
キリコ「……」
「それが、なんだと言うんですか」
シャル「……これで、話を聞いて貰えるかな」
「……」
シャル「……セシリア、僕らはただ……」
「黙りなさいっ!」
シャル「……」
「こちらに……来てはなりません……」
シャル「……」
「地球を、こんな地獄に変えて……今更何だと言うのですか……」
シャル「僕らだって、好きでそうした訳じゃっ」
「意思など関係ありません! 結果が全てです!」
シャル「……」
「私は、信じていたのに……」
シャル「……」
「キリコさん達が生きていると聞いて……どれ程嬉しかったか……」
シャル「セシリア……」
「なのに……なのに! どうしてっ、こんな……」
シャル「……」
「裏切り者っ! 人殺しっ! 最低のっ、卑怯物っ……」
シャル「……」
「……ISを解いたのが、災いしましたわね……この場で、殺して差し上げます……」
シャル「セシリア! 話を聞いてよ!」
「何度も何度も話、話! 私を惑わせようとしているだけじゃありませんの!? 今更、情にでも訴える気ですか!」
シャル「違う……」
「私だって、こんなの嫌です……友人や……好きな人が……自分達を殺そうとしているだなんて……。
自分が、今こうして銃を突き付けている状況だって……」
シャル「……」
「私は、兵士なんかじゃありません! こんな……こんな風に、人を殺す為に……銃を握ってきた訳じゃありません!
味方も、敵も……そんなの……知りませんわよ……私の、大事な人達が生きていてくれれば良いのに……」
シャル「……」
「私は……」
シャル「それは、僕らだって!」
「それ以上近づけば撃ちます!」
シャル「くっ……セシリア……」
「……絶対に……撃ちます……」
シャル「……」
「ぜったい、に……ひぐっ……うち、ます……」
シャル「……」
「うっ……ぐっ……ぜったい……」
キリコ「……」
「……」
キリコ「……例え……」ザッ
シャル「キリコっ」
「っ……」
また……。
キリコ「例え、お前が俺達の話を聞かないとしても……関係無い……」
「……こ、こないで……」
この……獲物を見定めた目が……。
キリコ「……俺達に、選択肢は、無い……」ザッザッ
「う、うちますわよ!」ジャキッ
私を……。
キリコ「……俺に、選択肢は無い……」
「……やめて……」
掴んで……。
キリコ「俺は……」
「やめてぇっ……」
来ないで……。
キリコ「お前を……」
「やめてっ!」
キリコ「捕えなければ、ならない」
う、あっ……。
「……あぁああああああっ!」
ヒュンッ
シャル「っ! セシリア! 何処へ!」
キリコ「待て! セシリアッ!」
逃げる。何処に。
あの目の届かない所に。そんな場所は無い。
何処に逃げても、ここは地獄なのに。
「はぁはぁはぁはぁっ」
捕まったら、駄目。
駄目? 何故? 相手はキリコさんですのに。
……いや、違う。あれは違う。キリコさんじゃ、無い。
あれは……私が初めて見た……死神……。
キリコ「追うんだ!」
シャル「う、うん!」
ギュンッ
シャル「くっ……待って! セシリア!」
キリコ(こいつのイグニッション・ブーストなら……どうにか……)
「っ……ブルー・ティアーズッ!」
シュンシュンッ
キリコ「ちっ……」ヒュッ
シャル「うわっ、と……き、軌道が無茶苦茶、だ……ビット自体で攻撃してくるなんて……」
キリコ「……」
「はぁっ、はぁっ」
キリコ「セシリア! 待つんだ!」
「このっ……人殺しぃいいいっ!」ジャキッ
キリコ「セシリアッ!」
そう叫んだ時、俺は、視界の端に何かを捉えていた。
黒く残像を残す巨躯。それが、彼女を覆うように、現れた。
一瞬の出来事。
伸ばしたが、視界の中の彼女を捉える暇も無い。
一瞬の……。
ヒュンッ
ドスッ
「がっ……」
キリコ「なっ……」
何か鋭い物が、彼女の腹部を、貫こうとしていた。
何度も、何度も、叩いていた。
何度も……何度も……。
ドスンッ ドスンッ
「ぐっ……」
そして。
グチャッ
『……』
「……や……やぁっ……あ……」
紅い華は、咲いた。
シャル「あ……あぁっ……!」
キリコ「……」
キリコ「……セシリア……」
「……キ、リ――」
キリコ「セシリアァーッ!」
キュィイイッ
キリコ「くっ!」
バキンッ
『……』ジジジッ
キリコ「どけっ!」ズドンッ
『……』ガガーピー
キリコ「どかないかっ!」ズドンッ
『……』シュンッ
キリコ「はぁ、はぁっ……」
キリコ「……セシリアッ!」
「……あ……」
キリコ「しっかりしろ!」
シャル「う……嘘だっ……」
キリコ「おいっ!」
「……キリ……コ……さん」
キリコ「……セシリア……」
シャル「あ、あぁ……な、なんで……なんでっ……」
「はぁ……はぁ……」
キリコ「おい……目を閉じるな……」
「……わたくし、は……」
キリコ「喋るんじゃない! 今衛生兵を呼ぶ! シャルロット!」
シャル「……なんでぇっ? なんで……いや、いみが……ちがう……これは……」
キリコ「シャルロットッ!」
シャル「ぼくは、ぼくはセシリアに、訳を言おうとしたんだ……言おうと……」
キリコ「シャルロットッ! 早くしろ!」
シャル「……あっ……うっ……ちがう……僕のせいじゃない……」
キリコ「聞こえないのか!」
シャル「僕のせいじゃないっ!」
キリコ「……クソッ!」
シャル「あぁああああああっ! 違うっ! 違う違う! ちがぁああうっ! 僕じゃない! 僕じゃないんだぁああああっ!」
キリコ「っ……」
「……キリ、コ……さん……」
キリコ「……セシリア……」
「……あな、たを……」
キリコ「……やめろ……」
「おし……たい……」
キリコ「もういい……」
「して……」
キリコ「……もう……いいっ……」
「……ぐっ……はぁ、はぁ……」
キリコ「……」
「……て、を……」
キリコ「……何だ」
「……て……」
キリコ「……握れば、いいのか」
「……い……」
キリコ「これで、いいのか……」
「……」
キリコ「……」
「……」
キリコ「……」
「……」
キリコ「……おい」
「……」
キリコ「おい……セシリア……」
「……」
キリコ「おい、起きろ……起きるんだ」
シャル「……セシリア……?」
キリコ「セシリア……起きろ……」
キリコ「……」
シャル「……あぁっ……」
キリコ「……そうか」
キリコ「……」
キリコ「……すまないっ……」
雨が降っていた。
その中で出来た小さな水の流れに、赤い色が混ざっていた。
小さな、赤だった。
キリコ「……」
誰も気付かない程、小さい、全てだった。
俺が抱きしめていた少女の、全てだった。
キリコ「……」
シャル「……死んだ……セシリアが……」
キリコ「……」
シャル「……僕の……僕のせいでっ……死んだっ……」
キリコ「……」
シャル「……僕が、こんな所に連れて来たせいでっ……」
キリコ「……」
シャル「……ゴメンッ……」
キリコ「……謝るな」
シャル「……ごめんっ……セシリア……」
キリコ「……」
シャル「……ごめんなさいっ……」
『おい! またゴーレムを攻撃したのか!』
シャル「……」
『聞こえているのか! 応答しろ!』
シャル「……黙っててよ」
『何?』
シャル「セシリアを確保しようとしたら……ゴーレムが横から入ってきた……勝手に、殺したよ……セシリアを……」
『……』
シャル「攻撃するなとか言うんだったら! 専用機かそうじゃないか認識できるくらいの性能にしてよっ!」
『……そうか』
シャル「……もう、二度と僕達のやり方に口出ししないで」
『……それは、こちらが決める事だ』
シャル「……もう、何でも良い……通信終了」
『お、おい待て――』
ブツッ
シャル「……」
キリコ「……シャルロット」
シャル「……何」
キリコ「……遺体を、焼くぞ」
シャル「……何で……」
キリコ「……万一……ヤツらの手に渡る事が、無いようにだ」
シャル「……」
キリコ「……」
シャル「……了解」
キリコ「……」
シャル「……」
ガガーッ
『……こちら、ラウラ・ボーデヴィッヒ。応答、せよ……』
キリコ「……ラウラか」
ラウラ『……こちらは、作戦を……無事、終了した』
キリコ「……そうか」
ラウラ『……そちらは、どうだ』
キリコ「……セシリアが、死んだ」
ラウラ『……』
キリコ「……それだけだ」
ラウラ『……そうか』
キリコ「……」
ラウラ『……キリコ……』
キリコ「……切るぞ」
ラウラ『っ……あぁ。私は……まだ戻るのに、時間がかかりそうだ』
キリコ「……そうか」
ピッ
キリコ「……」
シャル「……キリコ」
キリコ「……やる……」
シャル「……うん……」
雨が、降っていた。
空と雲との境界がうつろになる程の分厚い雲が、空を覆っていた。
俺は、友の亡骸を抱えながら、そんな曖昧な空を見上げていた。
雨が、俺の頬を伝う。
腕に感じる温度が、その雨粒よりも冷たくなった頃、俺はようやく、彼女を放した。
土気色に塗りつぶされた顔を手で拭い、そっと、地面に寝かした。
泥一つ残さないように、何度も、拭った。
手を組ませ、目を閉ざし、安らかに眠らせるように、彼女を施す。
そして、彼女を焼いた。
雨が降っているにも関わらず、炎は激しく燃えた。
まるで、その身に残されていたはずの時間を、見せつけるかのように。
それから、数時間もしない事だった。
地球側が、国に依らない全軍導入で、反撃を仕掛けようとしていると連絡があったのは。
俺達は、流されるように迎撃の部隊に組み込まれた。
未練など感じる暇すら、俺達には与えられない。未練など、感じては、ならない。
俺達は、兵士だ。
俺達は……兵士だ。
――
地獄の序章が幕を開けた。
神からも見放された男が積み上げた、バベルの塔が崩壊する。
骨を折り、肉を削ぎ、己の血潮で固めたあの塔が。
その瓦礫を必死で掻き出そうとも、失った者を取り戻す事など出来るはずもない。
心臓に刺さった四本の矢を脈動させ、男は、仁王立つ剣士を捉えながら、ただ前を向くしか無いのだ。
次回、「決闘」
血が違えた、愛ならば。
――
ピーピーッ
ピーピーッ
キリコ「……こちら、キリコ・キュービィー」
束『やっほー、キリコちゃん元気ー?』
キリコ「……」
束『……あっ、ゴメン……友達、死んじゃったんだっけ』
キリコ「……何の、用だ」
束『えっと……うん、機体の調子どう? セイバードッグ君はちゃんと動けてるかな?
束さんが丹精籠めて作った機体だから、そう不具合なんて起きないと思うけど』
キリコ「……さぁな」
束『えぅ……その……あ、あんまり気を落とさないで、ね? ま、まだ友達はいるんでしょ?』
キリコ「……」
束『……キリコちゃん』
キリコ「……切るぞ」
束『あっ、ちょっとま――』
プツッ
キリコ「……」
ついに本格化した、地球とメルキアの全面戦争。
地球全軍による、徹底抗争が始まった。
地球の保有するIS数、残りおよそ150機……。
俺は、輸送艇に揺られながら、その地に運ばれていた。
そして、眼下に広がる、かつて青かったはずの景色をただ、眺めていた。
いつの間にか、俺は銃を抱えていた。
俺の装備ではない。
長物の、レーザーライフル。
拾った覚えは、無かった。
しかし俺は、この銃を抱きしめ、そして縋っていた。
使える訳でも、ないのに。
救ってくれる訳でも……ないのに……。
――
第十四話
「決闘」
――
ルスケ「……うむ、了解した。護送班はそのまま向かえ」
ウォッカム「残りの戦力を一点に集め、反撃を試みる……か……」
ルスケ「はい……我がISSの残存数はおよそ120機……軍のAT隊は、三、四割程度しか被害を被っていないとの事ですが……」
ウォッカム「当然の数値だな。まぁ、ゴーレムを80機程失ったのは想定よりも上だが……問題は無い。
まだ、彼らがいる……」
ルスケ「……少々、彼らの精神に異常が見られますが……」
ウォッカム「心配いらん。キリコは、今や強靭な精神を持つに至った。だから隊長にしたのだ。
そして残りの二人は、キリコの為に戦っているようなものだ。キリコが崩れなければ、その二人も崩れはしない」
ルスケ「はぁ……」
ウォッカム「愛の力、というヤツか……きな臭い言葉で、あまり信用はしていなかったが、こういう時に役立つとはな……」
ルスケ「……」
ウォッカム「彼らは、何処に行く事もできん。逃げれば、篠ノ之箒は死ぬ……そして……」
ウォッカム「戦死、自殺……そのどちらでも、戦場から逃れる事はできない……。
自らの能力によって、な……」
ルスケ「彼らに……逃げ場は無い……」
ウォッカム「……最も残酷な境遇にある、最も有能な兵士……しかし、彼らの能力は、そのような臨界に挑むような状況でなければ活かされない。
そして……彼らはそのような状況においても……」
ルスケ「……彼らは……」
ウォッカム「必ず……生きて帰って来る……」
――
キリコ「……」
シャル「……キリコ」
キリコ「……何だ」
シャル「もう、着くよ」
キリコ「……そうか」
シャル「……」
キリコ「……」
シャル「……それ」
キリコ「……」
シャル「置いて、行こうよ」
キリコ「……」
シャル「……」
キリコ「……わかって、いる」
シャル「……」
キリコ「……少し、一人にさせてくれないか」
シャル「……わかった」
キリコ「……すまない」
シャル「……じゃあ、僕は補給のし忘れないかチェックしてるから……」
キリコ「あぁ……」
シャル「……ゴメン……」
キリコ「……あぁ」
シャル「……ぐっ……じゃあっ……僕はっ、行くね」
キリコ「……あぁ」
シャル「……」
キリコ「シャルロット」
シャル「……何」
キリコ「……泣きたいなら、今のうちに済ませておけ」
シャル「……泣かないよ……泣く資格なんて、無いんだ」
キリコ「……そうか」
シャル「……じゃあ、行くね」
プシューッ
キリコ「……」
鉄の温もりが、頬を通して入って来る。
あのサンサより、俺が包まれていた感触が甦る。
懐かしい、この臭い……この痛み……。
……俺は……次に、何を失えば良いのか。
俺は……。
ピーピーッ
キリコ「……俺だ」
ラウラ『キリコ……すまない、そちらに合流するまでかなり時間がかかりそうだ……。
まだ、残存兵力があったらしい。ゲリラのような者達から攻撃を受けている』
キリコ「……そうか」
ラウラ『……シャルロットの様子はどうだ』
キリコ「あぁ……アイツは……」
ラウラ『……』
キリコ「……大丈夫だ」
ラウラ『……』
キリコ「……」
ラウラ『……わかった。お前も、無理はしてくれるなよ』
キリコ「……あぁ」
ラウラ『では、通信を終了する。すぐに片付けて、そちらに向かいたいが……』
キリコ「……帰って、来るんだぞ」
ラウラ『あぁ、わかっている。じゃあな』
プツッ
キリコ「……」
ビービーッ
ビービーッ
『これより、降下ポイントに到着。隊長、準備をお願いします』
キリコ「……」
咲いては消え、咲いては、消える。
地表を覆う炎の花。
それを見下ろしながら俺は腰を上げる。
最期まで、他人を想い続けた少女に、背を向けて。
キリコ「……さよならだ」
キリコ「……セシリア」
ゴトッ
キリコ「……」
プシューッ
――
「……諸君っ!」
「この場、この日をもって、ついに我々は結集した」
「国家、人種、思想、信念。そんな枠組みを超え、我々は終結したのだ」
「戦い、抗い、己の尊厳を突き立てる為に!」
「鉄の巨人共の心臓に、心火の一撃を放たんが為に!」
「我ら戦士は! 集まったのだ!」
鈴「……」
「修羅となれ……炎を浴び、鉄に打たれ、己を鋭とす刀の如く!」
「血を啜り、肉を浴びる、厖大なる餓鬼畜生が、吸血鬼共が、我らの前に立ち塞がっていたとしても!」
「我らを止める事はできぬ! 我らは、正に真剣なり! 我らは! 正に力の権化なり!」
「死んでいった者達の為に……愛した者達の為に!」
「……立ち上れっ!」
千冬「我らは……誉れ高き戦士なりっ!」
鈴「……」
あたしは……兵士なんかじゃない……。
戦うのは、ただの義務……。
その、はずだった。
地球全ISが集められたこの大隊。
それまでの戦いを何とか切り抜けたあたしも、当然召集された。
地球の命運を賭けた最後の戦い。その先兵となった。
あたしはそんな事よりもまず先に、友人を想った。
当然、セシリアや……もしかしたら行方不明のキリコ達が、この基地にいるかもしれないという、淡い想いを抱いて。
そして、あたしはここに来た。
そして、セシリアの戦死と、キリコ達の裏切りという情報を、知った。
視界が、周囲からゆっくりと、暗くなっていくのを感じた。
膝に、力が入らなかった。
朦朧とした意識の中、セシリアを殺したのは恐らくキリコ達だという事を、聞いた。
その後の事は、覚えていない。
気付いたら、ここに整列していた。
千冬「我々は! 地球の最後の希望なりっ!」
あたしは、兵士じゃない。
ここにいるのは、真実を知る為。
本当に、キリコ達が裏切ったのか。
セシリアを……その手で殺したのか。
それを知る為に、あたしはここにいる。
鈴「……」
そして……もし、本当にセシリアを殺したというのなら……。
千冬「……覚悟せよっ!」
……あたしは……。
千冬「我らが行くは、地獄なりっ!」
……皆、殺してっ……。
千冬「全軍っ!」
……あたしもっ……。
千冬「出陣っ!」
また戦争が、あたしから何かを奪おうとしている。
戦争なんか、嫌いだ。
戦争なんて……。
――
『目的地到達まで、約5分。降下準備完了されたし。繰り返す――』
シャル「……」
キリコ「……」
シャル「……あの、ライフル」
キリコ「……」
シャル「……ちゃんと、置いて来たんだね」
キリコ「……あぁ」
シャル「……そっか」
キリコ「……」
シャル「……辛かった、よね……」
キリコ「……」
シャル「……」
シャル「……」
キリコ「……」
シャル「ねぇ、キリコ」
キリコ「……」
シャル「……がんば、ろうね」
キリコ「……」
シャル「今度こそ……絶対に……」
キリコ「……」
シャル「きっと、鈴と織斑先生は、まだ生きてるはずだから、さ……今度こそは……」
キリコ「……」
シャル「鈴は……絶対に、死なせは、しないっ……」
キリコ「……」
シャル「織斑先生も……難しいけど、確保、できれば……」
キリコ「……」
シャル「それだけは、絶対に――」
キリコ「シャルロット」
シャル「な、何?」
キリコ「……痩せ我慢は、よせ……度が過ぎると、見ていて、辛い……」
シャル「っ……」
キリコ「……」
シャル「……」
キリコ「……どうしても、泣けないと言うのなら……あまり、無理に喋らなくて良い」
シャル「……」
キリコ「……例え、能力を増長されていたとしても……お前は、兵士じゃないんだ。
ただの、子どもなんだ」
シャル「……うん……」
キリコ「……」
シャル「……」
『目的地到着。キリコ隊長、降下を』
キリコ「……行くぞ、シャルロット」
シャル「……了解」
『ゲート、オープン』
ウィーンッ
キリコ「……」
シャル「……」
『降下、開始』
キリコ「……出る」
キュィイイイッ
ギュンッ
キリコ「……」
シャル「……」
馴染みだした地球の風を、肩で切る。
しかし、俺が愛した風は、もう吹いていない。
体を突き抜ける衝撃が体を強張らせる。
噎せ返るような爆煙が息を上がらせ、閃光と熱が視界を奪う。
硝煙の臭いは嗅覚を鈍らせ、病を運ぶ死神が、紅い血に群がって行く。
これが、戦場だ。
俺が、慣れ親しんだ光景だ。
血と鉄の沼の中を、後ろを振り返りもせずに進む。
これが、俺の慣れ親しんだ場所なのだ。
ここが……俺がかつて愛した、場所なのだ。
キリコ「……シャルロット、お前は東から回り、ゴーレム隊と合流。敵の横を突け」
シャル「……了解」
キリコ「俺は、残りの小数と連携して、敵をこちら側に陽動する。ISは俺達が一手に引き受け、敵基地にはAT隊が突入する」
シャル「……わかった」
キリコ「……やるぞ」
シャル「……気をつけて」
キリコ「……あぁ」
キュィイイイッ
戦火は、全てを平等に巻き込む。
眼下に群がる鉄の騎兵。空を横切る黒の鬼。
そして、俺の前に立ち塞がる……ただの、人間も。
キリコ「こちら、ISS。これより陽動作戦を決行する」
『了解。道が開け次第、我々も基地へ攻撃を仕掛ける』
キリコ「……通信、終了」
キュィイイッ
キリコ「……」
キリコ(……いたか)
「来たぞっ! 迎え撃てっ!」
「第一射撃隊! 斉射用意!」
キリコ「……」キュィイイッ
「撃てぇーっ!」
ズギュウンズギュウンッ
キリコ「……」
……ヒュンヒュンッ
キリコ「……」
『……』
バギンッドゴンッ
キリコ(戦力の薄さ故か……一斉射撃にも、穴が目立つ)シュッ
キリコ(ゴーレム隊、被害軽微……)
キリコ「……突っ込む」
「第二射撃隊!」
キリコ(イグニッション・ブースト……)
ヒュッ
「撃て――」
バキンッ
「っ……がっ……」
ズドンッ
「つっ……」
「なっ……」
「い、いつの間に……」
キリコ「……」ズガガガッ
「か、各自防御――」
キリコ「無駄だ」チャキンッ
(じゅ、十二連装ミサイルに……ヘビィマシンガン二丁……)
ズババババッ
ズガガガッ
「きゃあっ!」
「うわぁっ!」
キリコ「ゴーレム隊、一斉攻撃……」
『……』ゴォオオッ
「ふ、懐に……」
「あっ……あぁっ……」
ズドンッ ズドンッ ズドンッ
キリコ(ゴーレムの数の方が上か……これだけ乱せば、後は総崩れだな)
キリコ(……)
キリコ「……お前達は量産機の相手をしろ……専用機が来たら、知らせるんだ」
キリコ「……」
キリコ「……こちら、ISS。敵IS防衛線を看破した」
『了解した。こちらも出動する』
キリコ「……通信、終了」
キリコ「……」
黒い傀儡が、人間達を蹂躙する。
鎧が千切れ、四肢が飛び、呻きが惑い、飛沫が舞う。
絶対防御と呼ばれたこの兵器は、もうただの一兵器に過ぎないのだ。
戦場で己の命を守る物は、機体では無い。
自らの腕と、運を、信じる他は無い。
彼女達を守るものは……何も、無い。
キリコ「……俺も、基地へ向かう。ゴーレム隊、続け」
キュィイイイッ
ギュンッ
キリコ「……」
だからこそ……俺は……。
……
ピーピーッ
キリコ『……位置についたか』
シャル「うん……そっちの防衛線が崩れたせいか、少し相手に動揺が見えるよ」
キリコ『そうか。AT隊が今基地に向かったところだ。俺は、その援護をする』
シャル「了解。こっちもかなり押してるから何とかなりそうだよ」
キリコ『……わかった』
シャル「……鈴を見つけたら、すぐに連絡する」
キリコ『……頼む』
シャル「うん……今度こそ、保護しよう……」
キリコ『……あぁ』
ヒュンヒュンッ
シャル「ん……敵が来たみたいだ。切るよ」
キリコ『……無茶はしないでくれ』
シャル「……わかってる。じゃあ、また後で」
ピッ
シャル「……はぁ……」
シャル「……」
シャル(ゴーレム隊を抑えつつ、鈴を救出する……か……)
シャル(……こいつらは、破壊プログラムしか、搭載されてないんだ)
「はぁああっ!」
「てやぁああっ!」
シャル(早速……来たんだ……)
ズガガガガッ
シャル(……見えるよ、これくらい)ヒュッ
ズキュンズキュンッ
「くっ……」バキンッ
「うおっ……」ドカッ
シャル「……」ヒュンッ
ジャキンッ
ズドンッ ズドンッ
「がふっ……」
「あっ……よくも……よくもっ!」
シャル「……」ジャキッ
ズガガガッ
「くっ、あっ、がっ……」
シャル「……」
ズキュウウンッ
「っ……」
ヒュウウウッ……
シャル「……」
シャル(この、僕みたいに……)
シャル(キリコに向けられていたあの殺意が、今度は地球の皆に対して、設定されてる……)
シャル(……意思とは関係なく、体が勝手に反応してどういう風に動けば良いのか、咄嗟にわかる)
シャル(どう動けば、相手を殺せるのか……)
シャル(……僕は、敵を殺す機械と、差は無い)
シャル(このゴーレムと同じ……)
シャル(セシリアを殺した……コイツらと……同じなんだ……)
シャル「……」
シャル「……ゴーレム隊、敵ISを各個撃破。それが終わったら地上の戦力も削れ」
シャル「……僕は、専用機確保に専念する」
シャル「専用機と僕が戦っている間は、絶対に手出しはするな」
『……』ピピピッ
シャル「……」
シャル(……これで、何とか割り込んでくる心配はなさそうだ)
シャル(後は……僕自身の破壊衝動をどれだけ抑えられるか……)
シャル(……本当に、抑えられないのなら……)
シャル(……)
ビービーッ
ビービーッ
シャル(本艦から通信?)
シャル「……はい、こちらシャルロット」
ルスケ『デュノア、緊急の案件だ』
シャル「なんでしょうか」
ルスケ『お前の北方、約2000の距離でゴーレム4機が破壊された』
シャル「……」
ルスケ『相手は、どうやら1機のようだ』
シャル「成程……尋常じゃない」
ルスケ『あぁ、よほど性能の良い機体なのだろう。今すぐに向かい、そして必ず持ち帰れ。いいな?』
シャル「……了解」
ピッ
シャル(……ゴーレム4機を1機で……)
シャル(……まさか……)
シャル「……」
ギュンッ
シャル「……」
シャル「……ん?」
「いやぁああっ!」ヒュンッ
「ま、待て! 逃げたら的にされるぞ!」
シャル(……まだ、防衛隊が残ってたか……)
シャル(的、ね……その通りだよ)
ヒュンッ
シャル「……」ジャキッ
「ひっ……」
「なっ、は、早く構えろ!」
シャル(……)
「あ、あぁ……」
「な、何を止まってるんだ!」
シャル「……」
ドクンドクンッ
シャル(体は、勝手に動く……)
シャル(この動悸のままに……引き金を引くしかない……)
シャル(……勝手に、動くんだよ……)
シャル(止められないんだよ……自分じゃ……)
シャル(どうしようも、無いじゃないかっ……)
シャル(……)
「……こ、殺さないでっ……」
シャル「……」
「殺さ……ないでっ……」
シャル「……悪いけど……」
「……」
シャル「死んで、もら――」
このっ……人殺しぃいいいっ!
シャル「……セシ――」
バキュンッ
ドガンッ
シャル「ぐっ……」
「アンタ達! 早く逃げなさい!」
「……」
「ほ、ほら! 私に掴まれ!」
「う、うん」
シャル「……」
「……久しぶりじゃない……アンタ」
シャル「……」
「元気してたぁー? 元気にさぁー……」
シャル「……」
「だんまり決めてないでさぁ……あたしに、まずなんか言う事あんじゃないの?」
シャル「……鈴」
鈴「……シャルロット……」
シャル「……」
鈴「人に対して、殺すつもりで銃口を向けて……しかもそれについて何も感じないような顔してたけど……。
アンタ……本当にシャルロット?」
シャル「……そうだよ……僕は、シャルロットだ」
鈴「……ふーん……じゃあ本当に裏切ったんだ、アンタ達」
シャル「……」
鈴「……別人で、あって欲しかったけどねぇ……」
シャル「鈴、話したい事があるんだ」
鈴「あたしもあるわよー……」
シャル「な、何……」
鈴「……セシリア殺したのって……アンタ?」
シャル「っ……」
鈴「……図星、か」
シャル「……」
鈴「当たってんでしょ?」
シャル「……違うっ……」
鈴「違う? 何が違うの? こっちの情報網じゃ、そういう事になってるけど」
シャル「ぼ、僕達は……セシリアを保護しようとしたんだ」
鈴「保護?」
シャル「うん……専用機持ちは、生け捕りにする。それが、僕達の任務だ」
鈴「……いや、死んでんじゃんセシリア」
シャル「っ……そう、だね……けど、僕達は本当に、セシリアを保護しようとしていたんだ……でも……」
鈴「……」
シャル「あと一歩ってところで……僕達の、その……素性を知られて……」
鈴「成程……」
シャル「……あぁするしかなかった……僕達の素性を話せば、必ず、パニックになる。話すつもりはなかった。
でも……セシリアは、僕達の素性を知って、パニックを起こした」
鈴「……」
シャル「……それでセシリアは、逃げて……そして、ゴーレムに……殺されたっ」
鈴「……」
シャル「止められなかった……止められなかったんだよっ……目の前で死んでいくのを……」
鈴「……そっ……それが、事の顛末ね……」
シャル「……そうだよ……」
鈴「……」
シャル「……だから……鈴だけでも……」
鈴「……アンタ、殺すわ」
シャル「っ!?」
鈴「……まぁ、その前にさ。裏切った理由教えてくんない? そうじゃないと後味悪いから」
シャル「ちょ、ちょっと待ってよ鈴」
鈴「早く教えろって言ってんのよ」
シャル「鈴!」
鈴「気安く名前呼ぶな。いいからさっさと教えなさいよ、この下種」
シャル「……箒が、人質に取られてる」
鈴「……」
シャル「箒が行方不明なのは、そっちだって知ってるでしょ……それに……僕達だって誘拐された。
そして、アイツらの本拠地で、箒が人質になってるところを見せられて……従えって……」
鈴「……」
シャル「……こうするしか、なかったんだよ……だって、どうしようも無いじゃないか……。
僕達だって、いつ殺されるかわからなかった。箒だって、そうだ……」
鈴「……」
シャル「……キリコが、箒の事、本当に好きなの……わかってるでしょ……」
鈴「……まぁね」
シャル「……僕達に、選択肢は無かった。だから、せめてセシリアと鈴だけは……生きて、捕まえればって……」
鈴「……」
シャル「……」
鈴「……何よ、それ……」
シャル「……」
鈴「……箒が、人質?」
シャル「う、うん……だから……」
鈴「だったら……真っ先に取り返そうと思わないのっ!?」
シャル「……」
鈴「おかしいでしょ……こんな……人が、数えきれない程死ぬ戦争……止めようと思わないの?
箒を助けに行けば、戦争だって止められたかもしれないし、アンタ達だって裏切る事無かったかもしれないんだよ?」
シャル「ほ、箒は別の場所に隔離されてたんだ。助けるなんて、無理に決まってるじゃないか……」
鈴「何よ……死ぬのが怖いって訳? 友達の為に?」
シャル「……仕方が、無いじゃないか……もしヘマをしたら、箒が殺されるかもしれない……。
キリコも、ラウラも……僕だって……」
鈴「……はぁ……情けない」
シャル「じゃあ……鈴はどうなのさ……」
鈴「……何がよ」
シャル「……友達が、人質に取られて……そんな、行動がとれると思ってるの?」
鈴「……いや、とるわよ」
シャル「自分が、死ぬかも知れないのに?」
鈴「アタシは、もう一回命張ってるわよ。あの黒い機体から、キリコの盾になったりね。死ぬかと思った」
シャル「……」
鈴「……もう、アンタ何言っても無駄よ。アンタは、セシリアを殺した……理由はどうあれ、それが事実……」
シャル「……」
鈴「アンタが、どれだけ努力したって……もう、あの頃には戻れない……」
シャル「……」
鈴「戦争ってのはね……直接関わんなくたって、十分に人の人生狂わせるものなのよ……。
まして、直接関われば、尋常じゃいられなくなる」
シャル「……」
鈴「……家庭まで壊して、今度はアタシの友人まで奪って……」
シャル「……」
鈴「キリコの笑顔を奪って、アンタとラウラまで、裏切り者にした……」
シャル「……」
鈴「良い事なんかっ……ひとっつも無い……」
シャル「……」
鈴「戦争なんかっ……」
シャル「……」
鈴「……戦争なんかっ……大っ嫌いよっ!」
シャル「……」
鈴「返しなさいよ……」
シャル「……」
鈴「キリコを返しなさいよ! セシリアを、返しなさいよっ! ついこの間までの……皆を、返してよっ……」
シャル「……鈴」
鈴「……アンタ達を……殺して……セシリアの仇を討ってっ……アタシが、箒を救いに行く……。
こんな戦争……ブッ飛ばしてやるっ! こんな腐った世界、ブッ飛ばしてやるっ!」
シャル「……無茶だ。たった一人でなんて……」
鈴「無茶でも、やるわよ……このまま何も成さずにいるよりは……前のめりに倒れた方がマシ……。
アンタみたいになるより、数百倍マシよ」
シャル「……」
鈴「……」
シャル「……もう……戻れないん、だね……」
鈴「……えぇ……」
シャル「はぁ……そっか……」
鈴「……」
シャル「……そっか……」
鈴「……」
シャル「なんで、こんな事になっちゃったんだろ……」
鈴「……知らない……」
シャル「……だよね」
鈴「……」
シャル「……」ピッ
ツーツー
ピピーッ
キリコ『……どうした』
シャル「……これから、鈴と交戦する」
キリコ『何?』
シャル「……生け捕りは、ほぼ不可能。僕か鈴。どっちかが、確実に死ぬ」
キリコ『っ……』
シャル「……ゴメン、キリコ……結局、こうなっちゃった」
キリコ『……そうか』
シャル「……今まで、ありがとうね。キリコ」
キリコ『……よせ』
シャル「今のうちに言っとかないと、後悔するから……本当に、ありがとう……。
今まで、楽しかった」
キリコ『……冗談は、やめろ』
シャル「冗談じゃ、ないよ……」
キリコ「シャルロット、お前……」
シャル「……通信、終了」
キリコ『お、おい――』
プツッ
シャル「……」
鈴「……遺言、終わった?」
シャル「うん終わったよ。そっちは」
鈴「……さぁ……アタシもう、身内いないし」
シャル「……そっか」
鈴「……来なさい」
シャル「……うん」
ジャキッ
シャキンッ
シャル「……」
鈴「……」
シャル「僕にも……箒を見殺しにしないっていう、目的がある。だから、簡単には、死なないよ」
鈴「……でしょうね……そうじゃなきゃ、困るし」
シャル「……本当にっ……何でっ……」
鈴「……その辺に、しときなさい」
シャル「……」
鈴「よしみで、殺す時は一瞬でやってあげるから」
シャル「……優しい、鈴は……」
鈴「……まぁね」
シャル「……」
鈴「……」
シャル「……」
鈴「……」
シャル・鈴「っ!」
ギュンッ
――
キリコ「おい! シャルロット、応答しろ! ……クソッ」
ピーピーッ
キリコ「……」
キリコ(マズイ……俺も、行かなければ……)
ギュンッ
キリコ「っ!」
キリコ(ざ、斬撃……か、かわせ……)
バキンッ
キリコ「ふおっ!」
「……」
キリコ「くっ……」
キュィイイッ
キリコ「はぁ、はぁ……」
「油断していたな、小僧……」
キリコ「……アンタは……」
千冬「よう……この、裏切り者……」
キリコ「……」
千冬「……感動の再会だな。レッドショルダー」
キリコ「……姉さん」
ヒュンッ
キリコ「っ!」ヒュッ
千冬「……ほう、避けるか。今のを」
キリコ(……凄まじい軌道力だ……イグニッションブーストか……)
千冬「……」
キリコ「……アンタは、司令官をやっていると聞いたが」
千冬「司令官でも、前線には出る。力が、あればな」
キリコ「……その機体……」
千冬「これか……コイツは、束から貰った物だ。忌々しいが、性能は良いんでな……この、白式は」
キリコ「……」
千冬「ここに来るまで、少々試し斬りをして来てな……あっという間に、斬れたよ。あの黒い機体が紙きれのようだった」
キリコ「……」
千冬「……貴様の、その脆弱な装甲は……どれくらい気持ちよく斬れるんだろうな」
キリコ「……」
千冬「……」
キリコ「……訳は、聞いて貰えなさそうだな」
千冬「訳も何も、私は全て知っているさ。束から聞いている」
キリコ「……そうか」
千冬「……牙を向かんのか、奴等に」
キリコ「……」
千冬「自分の命が、惜しいか」
キリコ「違う」
千冬「……所詮、元レッドショルダーだ。口では何とでも言える。なぁ、昔は、共食いだなんて訓練をやってたそうじゃないか。
どうだ? どれだけ仲間を殺した。死神にでもなった気分だったろうなぁ、その時は」
キリコ「……」
千冬「……この戦場にも、相当数のレッドショルダーが来ているそうじゃないか……」
キリコ「……らしいな」
千冬「では、まず手始めにお前から殺そう。そして、後のATに乗ってる雑魚共も一緒に地獄へ送ってやる。
地獄で一緒に共食い出来るようにな」
キリコ「……」
千冬「私は……もう、あの時の私では無い。逃げ惑うばかりの、子どもでは無い」
キリコ「……」
千冬「……抗う力を手に入れたのだ。お前も、私も」
キリコ「……」
千冬「……」
キリコ「……」ジャキッ
千冬「ふっ……そうだな……そうやって、銃を構えてるのが、お似合いだよお前は」
キリコ「……」
千冬「……学園に来た時に、戻ったな。お前は」
キリコ「……」
千冬「……少し、年相応のかわいさを取り戻したと思ったら……また、戦争屋に戻ったよ。
あの忌まわしい部隊に……私の……仇に……」
キリコ「……」
千冬「……前者の方が、好きだったんだがな……私は……」
キリコ「……そんな事を言いに、わざわざ前線まで来たのか」
千冬「……」
キリコ「俺は、アンタを保護しなきゃならない」
千冬「……保護、か」
キリコ「……あぁ」
千冬「それで、どうする。私を箒と同じようにしようと言うのか?」
キリコ「……」
千冬「それとも……オルコットのように、殺すか……」
キリコ「……さぁな」
千冬「……」
ピーピーッ
ピーピーッ
束『キリコちゃんキリコちゃん!』
キリコ「……今、忙しんだ」
束『目の前に白式の反応キャッチ! ちーちゃんと遭遇したね!』
キリコ「……」
束『ほら! 説得してよ、キリコちゃん!』
キリコ「……説得なんて、無意味だ。やるなら、自分でやるんだな」
束『ちょ、ちょっと!』
キリコ「……」
束『……もう! キリコちゃん! スピーカーモードにするね!』
キリコ「……好きにしろ」
束『ちーちゃん!』
千冬「……」
束『もう、白式にも直通回線付けてるのに、出ないなんて酷いよ!』
千冬「……」
束『さぁ! キリコちゃんと一緒に、こっちに来てよ!』
千冬「……キリコ、それを切れ」
束『ちーちゃん! 聞いてよ!』
千冬「切るんだ」
束『ちーちゃんってば! 訳を聞いてってば!』
千冬「……貴様が、この戦争を起こしたのは聞いた……それ以外に、何を聞く事がある!」
束『戦争を起こした理由は、聞いてくれなかったでしょ!』
千冬「黙れっ! 一個人が、戦争を起こす理由を持つなど、あってはならん事だ!」
束『……あるんだよ』
千冬「……」
束『この戦争は、ちーちゃん達の為に起こしたものなんだ!』
千冬「……」
束『私達は、あの戦争で離れ離れになった。ちーちゃん達はきっと戦争を恨んでる。
だから、もうそんな事が起きなくて良いように、私はこの戦争を起こしたんだよ』
千冬「……戦争が、私達の為になる、とでも言いたげだな」
束『これは必要な事なんだよ!』
千冬「何が……必要だ……」
束『戦争は、もう無くなるんだ』
千冬「……」
束『また、四人で楽しくお喋りしたり、遊んだりできるんだよ! この戦争が終われば、戦争は無くなる!
ISという絶対的な強さが、戦争を無くすんだ!』
千冬「……」
束『最初は、ちーちゃんと箒ちゃんのいる地球でISを作ってた。そうすれば地球は戦火に晒される事は無いと思ったから。
現に、そうなった。地球は不可侵宙域になって、戦争から庇護された』
千冬「……」
束『この事が示すみたいに、ISは、戦争を止める抑止力になるんだ。力による絶対支配。圧倒的な力。
その力を、片方だけに集約させる。そうすれば、戦争なんて起きる事も無い……これこそが、戦争を無くす道なんだよ』
千冬「……」
束『……もう、戦争は無くなる。これが最後なんだ。だから、ちーちゃんも、こっちに来て? ね?』
千冬「……」
束『……だから……』
千冬「……話は終わったらしいぞ。もう無線は切っておけ、キリコ」
束『ちょっ、ちょっと!』
キリコ「……悪いが、俺も、いくら話を続けても無駄だと思うぞ」
束『キリコちゃん……』
キリコ「……もう、切るぞ。俺は、戦わなきゃならない」
束『……』
キリコ「……正直、俺もアンタの考えには賛成しかねるがな」
束『……』
キリコ「……じゃあな」
束『……待って』
キリコ「……何だ」
束『……ミッションディスク、最後のファイル……それを、開いて』
キリコ「……ミッション、ディスクだと?」
束『……ちーちゃんの戦闘データが、それに入ってる』
キリコ「……何?」
束『何の為に、この天才束さんが万人量産機向けのミッションディスクを、ISであるセイバードッグに搭載したと思ってるの?』
キリコ「……端から、こうなる事がわかっていたからか」
束『うん……えへへ……一応、ちーちゃんのこれまでの戦闘は全てチェックしてるからね……。
それを元にして、作ったんだ』
キリコ「……」
束『……正直言うと、キリコちゃんの腕じゃ、ちーちゃんと戦って勝つのは……厳しい。
ちーちゃんの方が、圧倒的に歴も長いし、センスだってある』
キリコ「……らしいな」
束『そう思ったから、この機能を付けたんだ。セイバードッグは、万が一の為に、ちーちゃんに対処できるように……作った機体だから』
キリコ「……」
束『……データ、読み込んで』
キリコ「……あぁ」
ピピッ
束『……よし、完了』
キリコ「……そうか」
束『……でも、これだけは忘れないで。データは所詮データ。
ちーちゃんへの反応速度は上がるけど、ちーちゃんには、それを凌駕する腕があるって事を』
キリコ「……あぁ」
束『……絶対に、ちーちゃんを生きて連れて来て……』
キリコ「……」
束『……絶対にっ……』
キリコ「……保証は、できない」
束『ダメッ……絶対に、生きて……』
キリコ「……」
束『……でないと……私が、あの時から生きてきた、意味が……無くなる……』
キリコ「……」
束『……お願い……』
キリコ「……善処は、する」
束『……うん』
キリコ「……」
束『……』
ピッ
キリコ「……」
千冬「……話は、済んだようだな」
キリコ「……あぁ」
千冬「……私の、家族の仇……とらせて貰うぞ」
キリコ「……」
千冬「父と、母と……弟のっ、仇だ……」
キリコ「……」
千冬「……」
ギュンッ
千冬「はぁっ!」
キリコ(速い……)
キリコ「……」ズガガガッ
千冬「そんなものは効かん!」チャキッ
ヒュンヒュンッ
カキンカキンッ
キリコ(!? 剣で弾いた!?)
千冬「遅いぞっ!」
キリコ「ちっ……」ヒュッ
千冬「……中々、良い反応だ」
キリコ「……そっちもな」
千冬「……こいつの性能と、私の腕を舐めない方が良い。まぁ、貴様と同じく、若干ピーキーな性能だがな」
キリコ「どうやら、そのようだな」
千冬「まぁ、敵から送られた機体というのが癪だがな……」
キリコ「……」
千冬「……さて……」
キリコ「……」ジャキッ
千冬「……私も、貴様相手では余裕は無い……全力で、いかせて貰う!」
キリコ(……来るか)
千冬「……はぁあああっ!」
ゴォオオオオッ
キリコ「っ!?(な、何だ……全身が、光り出した?)」
キリコ(……あれが、あの機体の単一能力……)
千冬「……行くぞ」
キリコ(速い……やはり、俺と速度は劣らないらしいな……)
千冬「ぜやっ!」ビュッ
キリコ「ふっ」ヒュッ
千冬「避けきれるものか!」
ビュビュッ
キリコ(ミッションディスクで何とか反応できる、鋭い太刀筋だな……)キュイイイッ
キリコ(一旦、体勢を……立て直す)
千冬(……隙は、逃さん!)
千冬「はぁっ!」
キリコ「……」ヒュッ
千冬「貰った!」
キリコ「ちっ……(この体勢では回避は……こ、ここは銃でガードするしか……)」
千冬「だぁっ!」ビュッ
バキンッ
キリコ「なっ……(斬り上げで、ガードが押し負けたっ……)」
千冬「……」ビュッ
キリコ「つっ……」キュィイイッ
ザンッ
キリコ「……」ヒュッ
千冬(ちっ、入らなかったか……)
キリコ「ぐっ……はぁ、はぁ……」
キリコ(凄まじい、剣圧だ……喰らってもいないのに、斬られたと錯覚した……)
千冬「……ふん……相変わらずの回避性能だ。転身だけで避けるとはな……」
キリコ「……」
千冬「コイツの武器は、これ一本……だが、これこそ、私にとって最強の武器……」
キリコ「……」
千冬「コイツを、一太刀でも浴びてみろ。その時、貴様は終わりだ」
キリコ「……」
千冬「……」
キリコ(あのオーラ……やはり尋常ではない。データによれば、エネルギーを攻撃用に転換しているらしいからな……)
キリコ(……あれを喰らえば、終わりというのは誇張ではない……シールドエネルギーが全て消える……)
千冬(雪片弐型……これを当てれば終わりなのは、言うまでもない。ヤツのシールドは改良したとは言え薄いはず……)
千冬(が、大人しくこれに当たる程、ヤツはトロくはない。私の腕でも、捉えられるか……)
千冬(……エネルギー消費も、バカにならんしな……連発はできん)
千冬(……もう一つの手の方にも、エネルギーは残しておきたいしな……)
千冬「ほうらどうした……今ので怖気づいたか」
キリコ(デタラメな攻撃では通るまい……俺のライフルでも、そう当たらないだろう)
キリコ(……ここは、防御しきれない武器を選ぶべきだ)
キリコ「……」ジャキッ
千冬(ほう……あれは、ショットガンか……やっとISらしい武器を使うようになったな……)
千冬「……そうだ、来い」
キリコ「……」キュィイイイッ
千冬(散弾……確かに、先程私がライフルの銃弾を捌いたのを見てからの判断なら一見正しい)
千冬(要は、捌ききれない程の弾を撃てば良い)
千冬(遠くから私を狙い撃つという手もあるが、コイツの速度と私の腕で判断するなら、それは無意味だからな)
キリコ「……」ズバンッ
千冬「ふっ」カキンッ
千冬(だがな……ショットガンの威力を確実に活かすには、インファイトを強いられる)
千冬(……コイツの性能を持ってすれば、ショットガンの有効射程距離と、雪片の間合いは、同じ……)
千冬(……それがわからんヤツでは、無いのは確かだ……)
千冬(だが……例えわかっていたとしても、対処できん攻撃をすれば、問題は無いっ……)
キリコ(やはり、牽制にも使えないか……)
キリコ(あまり近づけば、ヤツの間合いになる……)
キリコ(が、引きつければ、この脇につけた二連ミサイルを当てられる……)
キリコ(……一か八かだ)
キュィイイイッ
キリコ「……」
千冬(仕掛けてくるか……)
キリコ「……」ジャキッ
ズバンッ
千冬「ふっ」ヒュッ
キリコ「……」ズバンッ
千冬「甘いっ!」
キリコ(来るかっ!)
千冬(あぁ、同じ間合いに入ってやるとも!)
キリコ「……」ジャキッ
千冬「……」ヒュッ
キリコ「……」ズバンッ
千冬(懐に、入るっ!)ヒュンッ
キリコ(イグニッションブースト……来たなっ!)
ガチッ
キリコ(捉えた!)
ドシュドシュッ
千冬「……」
キリコ(よし、これで――)
千冬(……甘い)
ヒュンッ
キリコ(……消え――)
千冬「何処を見ている……」
キリコ「っ!?」
ザシュッ
キリコ「……」
千冬「……」
キリコ「……ば、馬鹿、なっ……」
千冬「……」ブンッ
キィイイインッ……
ズサァアッ
千冬「……」
キリコ「ぐっ……はぁ、はぁ……」
千冬「……シールドエネルギー、貰ったぞ。キリコ」
――
鈴「てやぁっ!」ブンッ
シャル「当たんないよっ! そんなデカイ剣!」ヒュッ
鈴「ふん……じゃあ、これでどうかしら……はぁっ!」ジャキンッ
シャル(二刀か……)
鈴「死ねぇっ!」ブンブンッ
シャル「ふっ!」ヒュッ
シャル(デカイ割りに、振りは速い……)
シャル(なら、わざわざ相手の間合いで戦うのは愚かだ……)
シャル「……」ヒュンッ
鈴「ちっ……(後退した……)」
シャル「はぁっ!」ズガガガガッ
鈴「この剣は、盾にもなんのよっ!」カキンカキンッ
シャル「……ちっ」
鈴「……」
シャル(鈴の活動出来る間合い、それは近・中距離だ。迂闊に近づいたら勿論やられる)
シャル(しかし、遠距離からの攻撃は……)
シャル(あのデカさだ。あの剣を盾にして、弾かれるはず……)
シャル(そして、未だに使おうとしない、あの龍砲……)
シャル(……怒りに任せて来ると思ったけど……むしろ、驚く程に落ちついている……)
シャル(……どうする、か……)
鈴(さすがに、こっちの間合いじゃ戦ってくれないか……)
鈴(まぁでも、遠距離からじゃある程度できる攻撃は限られてくるし、避けれなくはない……)
鈴(いくらアイツが間合いの管理が上手いからと言っても、安易に下がられたところで勝機は渡らないはず…)
鈴(痺れを切らして、コッチの間合いに入るのを、待つ……)
シャル「……」
鈴「……」
鈴(……なぁんて……あたしの性分じゃないわね……)
鈴「……コッチから、行かせてもらうわっ!」ギュンッ
シャル(来るっ!)ジャキッ
鈴「撃つなら撃って来なさいよ!」
シャル「……」ズガガガガッ
鈴「はぁああああっ!」カキンカキンッ
シャル(ちっ……やっぱりあの剣を盾にして、強引に突っ込んでくるか……)
鈴「だぁああっ!」ブンッ
シャル「はっ!」ヒュッ
鈴(切り上げっ!)
シャル「ふっ」ヒュッ
鈴(袈裟!)
シャル「おっと……」ヒュンッ
鈴(突きっ!)
シャル「ぐっ……」ガキンッ
鈴「はぁあああっ!」ジリジリ
シャル(な、何とか止めたけど……お、重い……)
鈴「ま、だっ!」チャキッ
シャル(くっ……もう一本が来るか!)
鈴「ぜやっ!(もういっちょ、切り上げ!)」ブンッ
シャル「ちっ……」
バキンッ
鈴「なっ……(ま、また足の裏で止められた……)」
シャル「はぁあああっ!」ズガガガガッ
鈴「ちっ……」カキンカキンッ
ヒュンッ
鈴(……後退されたか……)
シャル「はぁ、はぁ……」
シャル(あの巨剣をあそこまで速く振るか……やっぱり、迂闊に接近戦を挑むのは、自殺行為だね……)
鈴(ちょこまかと……けど、やっぱり強いわね……あれに反応できるなんて……)
鈴(……同じ手で、二度も止められるとは思ってなかったけど)
鈴(……手段、選んじゃいられないわね)
鈴「……」
シャル(……そろそろ、か)
シャル(相手がどんな武器を使うかわからない時、常にこちらに大砲が向けられていると思うように……)
鈴「……」
シャル(そろそろ来るか……龍砲……)
シャル(データによれば、発射動作が見づらいのけど、その反面少し発射に時間がかかるらしいけど……)
シャル(……避ける自信は、ある)
シャル(この戦場に来てから……反応速度は、確実に上がってる……)
シャル(それを、活かせれば……)
ギュンッ
シャル「……」キィイイインッ
鈴(突っ込んでくる……上等っ!)
鈴「お見舞いしてやるわよっ!」キュウンッ
シャル(龍砲の射程範囲、ギリギリをっ!)
鈴「……」
シャル「……」
鈴(入った!)
鈴「はぁああっ!」バギュンッ
シャル(今だっ!)
キィイイインッ
シャル「くっ……」バウンッ
シャル(キリコの真似だけど、イグニッションブーストを利用した転身で……)
ドガンッ
シャル「ぐあっ!」
シャル(な、何!? 何で当たったの!?)
鈴「まだまだぁっ!」
シャル(つっ……ガードを――)
バギュンッ
シャル(あ、あれはっ……)
バキンバキンッ
シャル「うわぁっ!」
シャル(た、弾が……拡散した?)
鈴「叩き斬るっ!」ギュンッ
シャル「うっ……」
鈴「はあぁああっ!」ブンッ
シャル「くっ」
ガキンッ
シャル「……つうっ……」
鈴「そんな、ガード……振り切れる、わよっ!」ギリギリ
バキンッ
シャル「ぐはっ……」
ヒュウウウッ……
ドゴンッ
シャル「……ぐっ……はぁ、はぁ……」
鈴「はぁ……単発だと、思ってたでしょ……そりゃ、ちょっとはカスタマイズくらいするわよ」
シャル「か、拡散式……」
鈴「そっ。射程距離に入って来て、紙一重でかわせるようなもんじゃないわよ。
まぁ、威力上げたせいで、弾見えるようになっちゃったけどね」
シャル「……」
鈴「……立ちなさいよ。まだやれんでしょ」
シャル「……」
鈴「もっと、痛い目見て貰わないと……困るのよ」
シャル「……ぐっ……」ググッ
鈴「……そうよ……武器でもなんでも使って、這いあがって立ちなさい……」
シャル「……」
鈴「立ちあがって……もっと、殴らせなさいっ……」
シャル「……」
鈴「ぜやぁあああっ!」ギュンッ
シャル「くっ」
ヒュンッ
ドガァアアンッ
鈴「……」
パラパラッ……
鈴(……いない……ちっ、どこに行った?)
シャル「はあぁああっ!」ズガガガガッ
鈴「そこかぁっ!」バギュンッ
シャル「つっ……」カキンカキンッ
シャル(あれは厄介だ……この距離じゃ避け切れる気がしない……)
鈴「はぁああっ!」
シャル(ここは、一旦スモークを張って、体勢を立て直す……)
バシュウ……
鈴「ん?(これは……)」
鈴(ちっ……赤燐か……センサー類でも見えないわね……)
鈴「……こんなもん使って……出てきなさいよ! この臆病者!」
鈴(……どこから来る……上から? 背後から?)
鈴「……」
ギュンッ
鈴(空を切る音……来る!)
シャル「はぁあああっ!」
鈴(後ろっ!)
ガキンッ
鈴「ぐっ……」ギリギリ
シャル「ぐ、ぬ……」
鈴(片方だけで、なんとか突進を止められたけど……)
シャル(……この武器なら、あれを、弾ける!)
シャル「はあっ!」ジャキンッ
鈴(シ、シールドピアース!)
シャル「貫けっ!」
ズドンッ
ガキンッ
鈴「なっ!(し、しまった! 青龍刀が弾き飛ばされた!)」
シャル(今だっ!)シャキンッ
鈴「ちっ、そんなブレードぐらい……」
シャル「せやっ!」
ヒュッ
パシッ
シャル(ぐっ、空いた手で掴まれたか)
鈴「はぁっ!」ブンッ
シャル「ちっ(もう一本の青龍刀……か、片手でガードする!)」
ガキンッ
シャル「ぐっ……」
鈴「アンタの、そんなブレードみたいに……片手で捌けるようなもんじゃないわよ……」
シャル「ぐ、あっ……(お、重い……)」
鈴「まだ、まだっ!」ブンブンッ
シャル「ぐっ」ガキンガキンッ
シャル(ま、マズイ……シールドエネルギーが削られていく……)
シャル(ブ、ブレードは捨てて、スモークに紛れて一旦……)パッ
鈴「逃げようったって、まだコレがあるわよ!」キュウウンッ
シャル「くっ……(逃げ切れっ……)」ヒュンッ
バギュンッ
ズバババッ
シャル「ぐあぁっ!」
ズサァアアッ
鈴「……スモーク焚いて見えなくしたって、適当に撃っても当たっちゃうのよこれが……」
シャル「……い、いたっ……」
鈴「あたしに、そもそも接近戦で勝てる訳ないじゃない……」ジャキンッ
シャル「ぐっ……」
シャル(い、今の一発で、エネルギーが危険領域近くまで……)
鈴「……」
シャル「はぁ、はぁ……」
鈴「……所詮、そんなもんなのよ。アンタの、覚悟なんて」
シャル「……」
鈴「そんなんじゃ、箒も救えない。ラウラも、キリコも……」
シャル「……」
鈴「結局、アンタは自分がかわいいから、そっちについたんじゃないの」
シャル「……な、何を……」
鈴「箒の為、ねぇ……ホントはキリコに媚びでも売りたいんじゃないの……」
シャル「な、何を……」
鈴「……それとも、箒を助けるだのキリコの為だのも口上だけで、本当は強い方につきたかっただけじゃないの」
シャル「ち、違うっ!」
鈴「……だったら、スモークだなんて姑息な手使わないで真正面から来なさいよ。自信が無いんでしょ。
迷ってる自分が勝てるのか。自分が、本当は何の為に戦ってるのか」
シャル「……」
鈴「自信が無いから、そんな手を使う」
シャル「……」
鈴「……アンタは、そうなのよ」
シャル「……」
鈴「……殺る気、無いんじゃないの。本当は」
シャル「……」
鈴「まださ、あたしが大人しく捕まるとでも思ってんでしょ」
シャル「……」
鈴「……それだったら、大間違いよ。もし万が一、アンタに負けるような事があったら、その時は、あたしは自殺してやるから」
シャル「なっ……」
鈴「……あたしは、もう帰る所が無いんだ。アンタと違って、もう、本当に頼れる人なんて、いないんだ……」
シャル「……」
鈴「まぁ、行く所って言ったら……向こうかもね。セシリア、待ってるかも知れないし」
シャル「そ、そんな事……」
鈴「……命捨てられる人間ってのはね……もう、何も失うものが無いから、捨身で挑めるのよ。
アンタは、そういうのを知らず、まだ自分にはそういう人がいるからと思って、余裕こいてられんの」
シャル「……」
鈴「……まだ、あるんだったら……それを守る為に死ぬ気で来なさいよ……。
死ぬ気で来ないんだったら、アンタは、絶対にあたしに勝てない」
シャル「……」
鈴「……命、捨てる気で……それで、相手を殺す気で、来なさい」
シャル「……」
鈴「そんな覚悟くらい……できんでしょ……本当に、友達の為に戦ってんだったら……」
シャル「……」
鈴「……そんな、覚悟もできないの」
シャル「……」
鈴「ラウラを止める為に戦ってたアンタは何処よ。キリコ達を守ろうとして戦ってたアンタは別人?」
シャル「……いや」
鈴「……だったら、もう一度立って、かかって来なさい」
シャル「……」
シャル(……覚悟……)
シャル(……僕は、二度死んだようなもんじゃないか……)
シャル(アリーナ、砂漠……あの事件で、死んだようなもんだったんだ)
シャル(砂漠では、もう命を捨てたようなものだった……それを、忘れてたんじゃないか……)
シャル(今更……死ぬ覚悟くらい……)
シャル(……敵を、殺す覚悟くらい……)
シャル「……ぐっ……」ザッ
鈴「……そうよ」
シャル「はぁ……はぁ……」
ジャキッ
シャル「……」
鈴(重機関銃、ね……)
鈴「殺る気に、なったか」
シャル「……」
鈴「……なら、来なさいよ!」
シャル「……はぁああああっ!」
ギュウウンッ
鈴(……真正面から、来るか!)
シャル(相手を倒す為なら、多少の痛みくらい!)
鈴「上等っ!」
シャル(仕掛けられるのは、この一回だけ……)
シャル(あの龍砲の射程距離は、さっき掴んだ!)
シャル「はぁあああっ!」ギュンッ
鈴「……」
鈴(間合いに、入った!)
鈴「喰らえっ!」ギュウンッ
シャル「……」
シャル(通用するのは、一度だけ……)
シャル(これが、最後の勝機!)
バギュウンッ
シャル「……」
ヒュンッ
シャル(今だっ!)
シャル「イグニッションブースト!」
ギギイッ
鈴「なっ……(し、進行方向と逆のイグニッションブーストで、ブレーキをかけた!)」
シャル(ぐっ……すごい、Gだ……耐圧服を着てなかったら、車に轢かれるくらいの衝撃はあるかも……)
シャル(けど……)
シャル「はぁっ!」ギュンッ
鈴(マ、マズイ……あの速度じゃ二発目が間に合わない!)
シャル(龍砲での攻撃は現時点ではできない!)
シャル「でやぁああっ!」ガガガガガッ
鈴「つっ……」カキンカキンッ
シャル(重機関銃をガードしても……)パッ
シャル「まだこれがある!」ズバンッ
鈴「ぐっ!(ショ、ショットガン……双天牙月が……)」カキンッ
シャル「この距離なら!」ズバンッ
鈴(ガ、ガードが浮いちゃう……このままじゃ……)
シャル「はぁああっ!」ジャキッ
鈴「こんのっ!(やられる前に、また袈裟で、叩き斬る!)」ブンッ
シャル「はぁっ!」
バキンッ
鈴「は、はじっ……(け、蹴りで、手を叩かれた……)」
シャル「はぁっ!」
鈴「ぐっ……」ドゴォッ
シャル(ショットガンをっ!)ジャキッ
鈴「ま、まだっ!」キュウウンッ
ズバンッズバンッ
鈴「きゃああっ!(りゅ、龍砲が破壊された!)」バゴンッ
シャル「もう龍砲はこれで使えない!」ジャキッ
ズバンッズバンッ
鈴「ぐはっ!」
シャル「だぁあああああっ!」ズバンズバンッ
鈴「ぎっ……」
ヒュウウッ……
ドサァアアッ
シャル「トドメだっ!」
鈴「ぐぅっ……」
シャル(シールド……ピアース!)ジャキッ
ズドンッ
バゴンッ
鈴「があっ!」
ヒュゥウウウッ……
ドザァアアアッ
鈴「うっ……」
シュウウンッ……
シャル「……IS展開不可能……もう、君の負けだ。鈴……」
鈴「はぁ、はぁ……」
シャル「……」
鈴「ま、だ……」チャキッ
シャル「……そんなハンドガンで、どうしようってのさ……」
鈴「……つっ……」
パンッ
シャル「……」カキンッ
鈴「……」パンパンッ
シャル「……無駄だよ」カキンッ
鈴「……はぁ、はぁ……」
ドサッ
鈴「……ちっ……足、動かない、か……さっきので、かな……」
シャル「……」
鈴「くっ……」
シャル「……もう、良いんだよ鈴……」
鈴「良く、ないわよ……」
シャル「……」
鈴「あたしは……ここで戦ってた味方の……友達の、セシリアの無念を背負ってんのよ……ここで、負ける訳、ないじゃない……」
シャル「……」
鈴「あたしが、負けたら……皆が、セシリアが、浮かばれないじゃないっ……」
シャル「……」
鈴「あたしがっ……」
シャル「……僕の、勝ちなんだよ……」
鈴「っ……」
シャル「ISはもう展開できない……あるのは、そのハンドガンだけ……それで、どうやって戦うのさ……」
鈴「……」
シャル「……絶対に、勝てない」
鈴「……」
シャル「もう、僕は、鈴と戦いたくないよ……」
鈴「……」
シャル「……」
鈴「……それでっ……あたしと戦わないで、どうする、気よ……」
シャル「……」
鈴「あたしを、連れてく気?」
シャル「……」
鈴「……っ……どう、なのよ……」
シャル「……わからない」
鈴「……わからない?」
シャル「……結局……連れて行っても……僕みたいに、頭を弄られて、いいようにされるだけだ」
鈴「……」
シャル「今もさ、君にこうして銃口を向けてるけど……引き金を引かないように抑えるのが、精一杯なんだよ。
体が、敵を殺せ、殺せって、うるさいんだ……」
鈴「……洗脳、か」
シャル「……そんな、とこだね」
鈴「……」
シャル「それを、今までした事に対する、言い訳にするつもりは、無い……セシリアを、救う事が出来なかったのは、確かだから」
鈴「……そっ」
シャル「……でも……どうすれば、良いのさ……」
鈴「……」
シャル「結局、連れて行ったって、僕みたいにされる……尊厳を踏みにじらせて、言う事を聞かされる。
躊躇なく人に銃口を向けられるように、されるんだ……」
鈴「……」
シャル「でも、それしか、生き残らせる方法は無い……」
鈴「……」
シャル「……そんな、手しか……」
鈴「……」
シャル「……」
鈴「あたしは、嫌よ……」
シャル「……」
鈴「アンタと、同じになるなんて……」
シャル「……」
鈴「……絶対に、お断り……」
シャル「……でも……」
鈴「……さっさと、殺しなさいよ」
シャル「っ……」
鈴「友達の仇もとれず……捕まるくらいだったら、死んだ方がマシよ」
シャル「……」
鈴「……ほら、さっさと、しなさいよ……」
シャル「……」
鈴「……何を、躊躇ってんのよ……早く……」
シャル「……」
鈴「早く撃ちなさいよぉっ!」
シャル「声が……震えてるよ、鈴……」
鈴「っ……」
シャル「……」
鈴「……」
シャル「……鈴、逃げるんだ」
鈴「……え?」
シャル「死に急ぐ必要なんて無い。どこでも良い。誰にも見つからない場所に……」
鈴「……」
シャル「鈴が死ぬ意味なんて、無いんだよ!」
鈴「……馬鹿ね」
シャル「え?」
鈴「……アンタが、あたしをここで逃がしたなんて知られたら、それこそ、箒の身に何が起こるかわかったもんじゃない……」
シャル「……そ、そう、だけど……」
鈴「それに、逃げるってどこに? 周りには黒いIS、AT、その他諸々うじゃうじゃいる……どうせ、逃げ切れっこ無い」
シャル「そ、そんなの、わからないじゃないか……鈴なら、そう簡単に、死なないよ……」
鈴「……人ってのはね、簡単に死ぬのよ。自分が、親しい人すら、ね」
シャル「っ……」
鈴「……」
シャル「……ダメだ」
鈴「……」
シャル「……僕が、勝ったんだ……勝った人の、言う事を聞くのが、戦争なんでしょ……だから、僕の言う事、聞いてよっ……」
鈴「……」
シャル「僕の言う事を、聞く義務があるんだ……そうだ、だから……」
鈴「……言ったじゃん……身内も、もういない。あたしは、もう命捨てる覚悟なんて、できてるって。だから、一思いにさ……」
シャル「そんな覚悟、糞喰らえだっ!」
鈴「……」
シャル「なんで……なんでまた、友達を殺さなきゃいけないんだ! 意味がわかんないんだよっ!
僕は、逃げてって言ってるでしょ!? 逃げなよ! さぁっ!」
鈴「……」
シャル「逃げてよっ! 早くっ! 逃げて、万機を期して、またセシリアの仇でもとりに来れば良いじゃないかっ!」
鈴「……」
シャル「そんな簡単に……死ぬなんて、言わないでよ……」
鈴「……どっちかが死ぬって、アンタ、最初に言ったじゃない」
シャル「言ったよ……でも、そうしないで良いかも知れないのに、どうして、殺さないといけないのさ!」
鈴「……」
シャル「やだよ……こんなの……」
鈴「……」
シャル「……鈴……」
鈴「……もう、どうしようもないじゃない。あたしは、もうどの道何も出来ないんだ……。
あたしは、負けた。もう、起き上がれない……戦えないのよ……」
シャル「そ、そんなことない! いつもの、いつもの自信過剰なくらいの鈴なら、それでも逃げるくらい……」
鈴「……惨めに生きたり、他の奴等に殺されるくらいなら……アンタに、今ここで殺られた方が、良い」
シャル「……」
鈴「……あたしを、真正面から倒した、アンタが、良い」
シャル「……やめてよ」
鈴「……友達だった、アンタが、良い」
シャル「……やめてっ」
鈴「……早く」
シャル「……」
鈴「箒を救うって覚悟が、本物なら……あたしを、友達だったって言ってくれるなら……これが、一番の道なの……」
シャル「……」
鈴「わかってよ……」
シャル「……わかんないよっ……」
鈴「……」
シャル「こんなのっ……なんで、目の前で、二度も友達が死ぬところを、見なきゃいけないのさっ……」
鈴「……」
シャル「……」
鈴「……アンタが、やらないなら……自分で、やるわよ」チャキッ
シャル「……ちょっと……何してるのさ」
鈴「こめかみ、撃てば、良いんだっけ……」
シャル「……待ってよ」
鈴「……待たないわよ」
シャル「……」
鈴「……こうしないと……アンタ達が、危なくなるのよ」
シャル「……」
鈴「……こうしないとっ……アンタ達までっ……」
シャル「……」
鈴「……アタシはっ……それだったら……」
シャル「……待って!」
鈴「……」
シャル「……やる……」
鈴「……」
シャル「……僕が、やる」
鈴「……」
シャル「僕がやるっ!」
鈴「……そう」
シャル「それが……鈴の願いなら、やる……」
鈴「……」
シャル「それで……少しでも、鈴の気が済むなら……やるよ……」
鈴「……うん……お願い」
シャル「……」
鈴「この銃、使って……」
シャル「……わかった」
鈴「……」
シャル「……」
鈴「……絶対に、アンタらは、生き残りなさいよ」
シャル「……うん」
鈴「箒は、どんな方法を使っても良い……だから、絶対に、助け出しなさい」
シャル「……うん」
鈴「……キリコを、一人にしちゃ、ダメよ……アイツは、あぁ見えて、案外さびしがり屋なんだから……」
シャル「……うんっ……」
鈴「……」
シャル「……くぅっ……」
鈴「ゴメンね……アンタに、こんな事させて……」
シャル「……」
鈴「……もう、いいよ。撃っても」
鈴(キリコ……)
シャル「……」
鈴(嫌だよ……何で、傍にいないの……)
シャル「……ごめん……鈴……」
鈴「……早く、やっちゃってよ……セシリアが、クソマズイ料理抱えて、待ってんだから……」
鈴(死にたくないよ……)
シャル「うっ……うぅっ……」
鈴「泣かないでよ……こう、しないと……箒、助けられないのよ……」
鈴(何で、アタシが……)
シャル「ごめん……ごめんっ……」
鈴(……嫌……)
カチャッ
シャル「……はぁっ、はぁっ……」
鈴「そう……それで、良い」
シャル「……」
鈴「……さよなら、シャルロット」
鈴(死にたくない……)
シャル「……」
鈴(まだ……死にたくない……)
シャル「……」
鈴(キリコに、ちゃんと言ってないのに……)
シャル「……あぁっ……」
鈴(まだ……)
シャル「……あぁああああああっ!」
鈴「……死にたく――」
パァンッ……
――
キリコ「……ぐっ……」
千冬「……」
キリコ(……今の、はっ……一体……)
千冬「ふっ……貴様でも、捉える事は難しいだろう」
キリコ「……はぁ、はぁ……」
千冬「……さすがの貴様でも、今のには動揺を隠せんか」
キリコ「……イグニッションブーストでは、無いな」
千冬「まぁな……それの一つ上、ダブルイグニッションとでも言うところか」
キリコ「……ダブル……イグニッション……」
キリコ(そんな能力は……ミッションディスク内で想定されていない……)
キリコ(……未知の能力、とでも言うのか……)
千冬「貴様が回避特化なら、私は攻撃特化だ。移動機構は、全てそれ自体が威力として発揮できるようになっている」
千冬(……まぁ、エネルギー消費は、著しいがな……)
キリコ「……」
千冬「……貴様のシールドエネルギー……もはや無に等しいだろう」
キリコ「……」
キリコ(さっきの、あの攻撃……雪片弐型、零落白夜……いくらコイツのシールドが弱いと言っても、ここまでの性能とは……)
千冬「コイツはな、シールドを切り裂き、エネルギー自体に直接ダメージを与えられるのさ」
キリコ「……知っている」
千冬「これで、お前は丸裸ってとこだな……」
キリコ「……らしいな」
千冬(ヤツにも、反応し難い程の、この能力……)
千冬(私が、コイツから引き出した、お前に勝つ為の能力だ……)
千冬「……次で、終わりにしてくれる」チャキッ
キリコ「……」
キリコ(……まずい……次に、あの太刀を喰らったら終わりだ……)
キリコ(しかし、あの速度にはこのミッションディスクをもってしても、反応できるかどうか……)
キリコ(……どうするか)
千冬「はぁっ!」ギュンッ
キリコ(来るか!)
千冬「はっ!」ビュッ
キリコ「……」ヒュッ
千冬「ぜやっ!」ビュッ
キリコ「ちっ……」
キュィイイイッ
キリコ(ここは、ガードするしか……)
キンッ
キリコ「ぐっ……」
キリコ(ん? 押し切られずガードできた、だと?)
千冬「はぁっ!」ビュッ
キリコ「……」キュィイイイッ
千冬「待てっ!」
キリコ(……あの能力を使っていたなら、ガードは不可能なはずでは……)
キリコ(……いや、あの能力はヤツのシールドエネルギーも消費する諸刃の剣……そこまでヤツも持続はできん)
キリコ(それ以外の斬撃は、ガードしても多少は大丈夫という訳か……)
キリコ(……となると……)
千冬「ちっ、ちょこまかと……」
キリコ「……」
千冬(あと一撃……あと一撃当てさえすれば、ヤツを……)
千冬(……畳み掛ける!)
キリコ(ヤツは、必ず畳み掛けてくる)
キリコ(……傾向は、掴めるはずだ)
千冬「だぁっ!」ギュンッ
キリコ「……」
千冬(ダブルイグニッション、零落白夜……この二つが、ヤツを倒す切り札……)
千冬(しかし、こればかり使ってはいられない……下手に使えば、私が先にエネルギーを切らしてしまう)
千冬(それに、先程の様にダブルイグニッションを真正面から使っても、通じるかどうか)
千冬(……この二つは、確実に当たる場面でしか使えん)
千冬(ヤツの隙を引きだし、絶対に避けられない様にせねばなるまい)
千冬(……使用限度は、後数回……)
千冬「はっ!」ビュッ
キリコ「……」ヒュッ
千冬「避け切れるか!」ビュッ
キリコ「ちっ……」ガキンッ
キリコ(凄まじい応酬だ……が、まだ見える)
千冬(撹乱程度、見切られて当然……)
千冬(仕掛けるのは……)
ビュッ
ヒュッ
千冬(ヤツが、この攻撃を受け止めた時……)
千冬(そこが……)
ビュッ
ガキンッ
千冬(勝機!)
千冬(ダブル、イグニッション!)
キリコ「……」
ギュンッ
千冬(ヤツが剣を止めた反動、その力の向きに……加速する)
千冬(身を翻し、反転し……叩き斬れば良い……)
千冬(コイツの……背中をっ……)
千冬(斬るっ!)
ビュンッ
キリコ(やはり、ここか……)
バキンッ
キリコ「つっ……」
千冬「ちっ……捉えきれなかったか……」
千冬(装甲の一部を斬っただけ……あの速度に反応し、避けた?)
千冬(……いや、読まれていた、と見るべきか)
キリコ(装甲の一部を持っていかれたが……やはりあのタイミングで仕掛けてきたか)
キリコ「……」
ピピピピッ
キリコ(ヤツの戦闘パターンを読む……このミッションディスクがあれば、ある程度予測にも確実性が出てくる)
キリコ(……見切るんだ……ヤツの動きを)
千冬「……」
千冬(既に……私の動きを読み始めている……だと……)
千冬(……束の入れ知恵か、何かか……)
千冬(……もしくは……)
千冬「……」
千冬(……なら……)
千冬「完全に慣れてしまう前に、トドメを刺す!」ゴォオオッ
キリコ(また、来るっ……)
千冬「だぁっ!」
キリコ「……」
ヒュンッヒュンッ
千冬「ちっ……」
キリコ「……」
千冬(……何故だ。何故避けれる……)
千冬(不意打ちでなければ、キリコに私の攻撃は通じないとでも?)
千冬(コイツの何倍もの時間、ISに己を投じた、私の攻撃が?)
千冬「……」
千冬(ふざけるなよっ……)
千冬「……キリコォッ!」ギュンッ
キリコ「来るかっ!」
千冬「ぜやぁああっ!」
キリコ「……」
千冬「ふんっ!」
キリコ(ちっ、連撃……先程より荒いが、剣速が凄まじく速い……)
バキンバキンッ
キリコ「ぐっ」
キリコ(しかし、装甲はやられているが……致命傷は避けていける。良いぞ、これなら……)
千冬(この剣撃を、自身の身から紙一重でかわす……)
千冬(……何故だ)
千冬「何故、貴様は、そこまで強い!」ビュッ
キリコ「ちっ……」バゴンッ
千冬「意思も無く、大局に流されるだけの貴様が!」ブンッ
キリコ「……」ヒュッ
千冬「私が望んだ力を、どうしてそうも早く手に入れられる!」
キリコ「……」キュィイイイッ
千冬「逃がすかっ!」
キリコ「……」
千冬(ダブル、イグニッション!)
キィイイインッ
千冬「ぜやぁああっ!」ビュッ
キリコ「くっ」ヒュッ
千冬(この速度でかわせると思うなっ!)
バキンッ
キリコ「ふおっ!」
千冬「まだまだっ!」
ビービーッ
千冬「ん……(ちっ、使い過ぎたか……エネルギーが……)」
ズガガガガッ
キリコ「……」ズガガガガッ
千冬「つっ……やはり浅かったか……」
キリコ「バルカンセレクター」カチッ
千冬「まだまだ!」
キリコ「……」バンッ
千冬「ちっ」カキンッ
キリコ「……」ジャキッ
ドムンッ
千冬(オプションのグレネードランチャー……そんなトロい弾など余裕で避けれる!)
ヒュンッ
千冬「はぁああっ!」
キリコ「……」
バンッ
千冬「(大きく外した……)どこを狙っている! 私は――」
ドガァアアンッ
千冬「ぐっ!」
千冬(グ、グレネードを銃で起動させたかっ!)
キリコ「……」キュィイイイイッ
千冬(ちっ……も、もう間合いに……)
千冬「……この間合いで、貴様に負けるはずがあるかっ!」
キリコ「……」ブンッ
千冬「はぁっ!」ビュッ
バキンッ
キリコ「くっ……」
千冬(ふっ……拳で剣を止めたか……そこまではさすがだ……)
千冬(だが、剣と拳の鍔迫り合い……押し切れるぞ!)
千冬「はっ!」
キリコ(まだだっ!)
ズドンッ
千冬「なっ!(弾いた……ちっ、アームパンチか!)」
キリコ「……」ブンッ
千冬「くっ、舐めるな!」ビュッ
ガキンッ
キリコ「……」ギリギリ
キリコ(体勢復帰が早い……)
千冬「……」ギリギリ
ズドンッ
キリコ「ふっ」ブンッ
千冬「何度やっても同じだ!」
ガキンッ
ズドンッ
ガキンッ
ズドンッ
キリコ「……」ギリギリ
千冬「ふっ、手の装甲がどんどん消耗していくぞ……」ギリギリ
キリコ「……」
千冬「貴様のような……貴様のようなヤツが、私には勝てん……」
キリコ「……」
千冬「レッドショルダーに入っていたような、人間の屑には!」
キリコ(つっ……押されている……)
千冬「今度はお前が、全てを失うんだ……あの時の私のように……」
キリコ「……」
千冬「お前らが……レッドショルダーが私から、全てを奪ったように……」
キリコ「……」
千冬「お前は、何も救えない……友も、愛した女も、家族も、何もかもだ! あの虚無感を、また味わうんだ……。
そしてお前は、また失うんだ……レッドショルダーなんかに入ったばかりになぁ!」
キリコ「……そうか」
千冬「そうだ……お前達にも、味あわせてやる……人間の、地獄というヤツを!」
キリコ「……」
千冬「レッドショルダー……戦争の、吸血鬼にっ! 貴様にっ!」
キリコ「……それが……」
千冬「ん?」
キリコ「……それが、どうした」
千冬「……何?」
キリコ「それがどうした!」
ガキンッ
千冬「ちっ」
キリコ「……」ブンッ
千冬「はぁっ!」ビュッ
キリコ「……」バキンッ
千冬「お前は……」
キリコ「……そうだ……確かに俺はレッドショルダーだった……だからどうだと言うのだ!」
千冬「っ……貴様ぁああっ!」
キリコ「確かにそうだった。だが、今は違う!」
千冬「今の貴様は! ただの裏切り者だっ! 女を人質に取られたと言い訳し、仲間を殺した!
とどのつまり、貴様は結局最低の下種野郎だっ!」
キリコ「何とでも言え……例え、また何かを失おうとも……俺の命を、失うとしても……。
俺は……箒の為に、戦う!」
千冬「黙れぇっ!」ビュッ
キリコ「はっ!」
ガキンッ
千冬「なっ!(手元で弾かれた!? これでは、第二撃が……)」
キリコ「……」ジャキッ
バキンッ
千冬「つっ……」
キュィイイッ
ガキン バキンッ
千冬「ぐはっ!」
キリコ「はぁ、はぁ……」
千冬「……何故だっ」
キリコ「……」
千冬「お前は……抗える力があるはずだ……目も眩む様な、赫奕たる力が!」
キリコ「……」
千冬「……私など、到底及ばない、力がっ……」
キリコ「……」
千冬「ISに触れて間も無い貴様が、私とこうして同等以上に戦っている……不思議とは思わんのか……」
キリコ「……俺の、能力だけじゃない」
千冬「……いや、お前の能力だ」
キリコ「……何?」
千冬「気付いているはずだ、知っているはずだ、自覚しているはずだ!」
キリコ「……」
千冬「お前が認めず、こんな卑しい道を選んだのは恐怖からだ! あまりの異常さに、また孤独になる事を恐れているからだ!」
キリコ「……俺は、そんな大層な者じゃない。俺は、普通の人間だ」
千冬「……何故だっ、キリコ……何故だ……何故抗わない! お前はっ……」
キリコ「……」
千冬「……何故……」
キリコ「……俺は、こうするより、他に無い……箒を、救う為には……」
千冬「っ……私は……」
キリコ「……」
千冬「お前の、生き方をっ……」
キリコ「……」
千冬「認めんっ!」
ガキンッ
キリコ「っ……」
千冬「ちぃっ……」
キリコ「……」
千冬「……」
キリコ「……アンタは、知っているんだな……俺が、妙な能力を持っているらしいと、いう事を……」
千冬「……あぁ、知っているさ……」
キリコ「……」
千冬「……最初は、信じていなかった……」
キリコ「……」
千冬「だが、お前と学園で再会した時……私は確信した。お前は、父さん達が研究していた通りの、人間なのだと……」
キリコ「……」
千冬「……私は、お前が羨ましかった……」
キリコ「……俺が?」
千冬「あぁ……何者にも、抗えうる力……私が望んだ力を、お前が持っているのだと」
キリコ「……」
千冬「……サンサだ……私は、サンサで、それを見た」
……
「ヤツらが来る!」
「ダメだ! この研究成果を……こんな所でヤツらに!」
「燃やせ! ヤツらの手に渡らないように!」
「うわぁっ!」
「せめて……せめてキリコだけは逃がすんだ! あの子だけは!」
「あの子をヤツらにとられては、絶対にいかん!」
「父さん! 母さん!」
「千冬は! 千冬はどこへ!」
「早くっ! こっちに来なさい!」
千冬「父さん! 母さん! 私は……」
「お前は、キリコ達と一緒に逃げるんだ」
千冬「で、でも……」
「父さん達は、まだここでやらなきゃいけない事があるんだ……」
「……大丈夫。キリコと一緒に逃げれば、きっと助かる」
千冬「……それって……」
「……姉さん?」
千冬「……」
「さっ、早くするんだ。束博士も時間を稼いでくれている。今しか無いんだ」
千冬「で、でも……」
「……行こう、姉さん」
千冬「……キリコ……」
「……俺は、箒を助けるように、言われてる。早く、行こう」
「キリコ……」
千冬「……」
「……早く、逃げよう」
千冬「……」
「俺は……コイツを、助けなきゃいけない」
千冬「……お前……」
「……」
千冬「……」
「……」
千冬「……箒」
「は、はい」
千冬「……キリコの手を、絶対に放すなよ。良いな」
「……はいっ」
千冬「……よし」
「……」
千冬「……行って、きます……」
「あぁ」
「気をつけてね……絶対に……生きてっ……」
千冬「……母さんっ」
「……母さん達も、終わったらすぐに追いかけるから……ほら、早く行ってっ」
千冬「……はいっ」
それから、私達は逃げた。
炎を掻い潜り、呻きを浴び、あの叫喚たる地獄を必死で逃げた。
しかし、炎は私達を、そう易々と通してはくれなかった。
途中、建物の崩落に巻き込まれ、私とお前達は分断されたしまった。
そして、奴等は来た。瓦礫で分断されてしまった、お前達の方に。
とにかく、今は逃げろと私は叫んだ。
私は、お前達に合流しようと、瓦礫の間を縫い、何とかお前達がいた側に抜けた。
逃げたお前達を追い、そして、お前達を遠巻きにだが、ようやく見つけた。
だが、私がそこで見たものは……。
千冬「はぁ、はぁ、はぁ……」
千冬「……いた! あそこにっ……」
「うわぁああああっ!」
千冬「っ……あぁっ……」
レッドショルダーに体を焼かれる、お前の姿だった。
……
千冬「それから私は、逃げた……まだはぐれたままの箒を探すという考えも、捨ててな」
キリコ「……」
千冬「悔しかったよ……何も出来ず、人を救えず、自分の命一つを守るので精一杯だった自分が……」
キリコ「……」
千冬「私は、どうにか離脱船に乗り込み。そして地球についた」
キリコ「……」
千冬「……それから、私はISに固執したよ。あの時の……奴等を遥かに凌ぐ強さが欲しかったが為に……」
キリコ「……」
千冬「そして、私は頂点に立った。私は……ようやく力を手に入れたんだ」
キリコ「……」
千冬「それからは、どうしようかと悩んだがな……」
キリコ「……」
千冬「私は、この力を……弱者に教える事にした。最低限、生きて行ける力を、教えられるように、と……」
キリコ「……だから、アンタはあそこにいたのか」
千冬「あぁ……まぁ、少々緩い校風と言えばそうだが……腐っても兵器を扱う場所だ。それくらいの事を、教える事はできる」
キリコ「……」
千冬「……少しでも、私のような者が減らせるようにと、教えて来たはずだったんだがな……」
キリコ「……」
千冬「……ふっ、皆……死んだ……残ったのは、恐らく、もう私くらいだろうな」
キリコ「……そうか」
千冬「……」
キリコ「……」
千冬「互いに、絶対防御すら満足に機能していないようだな……」
キリコ「……らしいな」
千冬「……」
キリコ「……」
千冬「……」チャキッ
キリコ「……」ジャキンッ
千冬「……最後の一撃、か……」
キリコ「……あぁ」
千冬「……」
キリコ「……」
キリコ(……剣を腰に……しまう動作か?)
キリコ(……しかし、構えたままか……)
キリコ(力を溜めて、斬り抜くつもり、か……)
キリコ(……もはや、銃の類は効かない……)
キリコ(……が……)
千冬(……銃をしまわず、か……あれは、ショットガンか)
千冬(……確かに、この局面で、ショットガンは有効だろう。インファイトにも使える……)
千冬(……が、今の私なら、銃撃など予測で避けれる……)
千冬(その上、コイツの攻撃じゃ……残りのシールドなど貫通して、お前自体に当たるというのに……わざわざ近づくなど……)
千冬(……ふっ、マヌケが……)
千冬(本当に、お前は……)
キリコ「……」
千冬「……」
キリコ「……」
千冬「……」
キリコ「!」
ギュンッ
キリコ「……」
千冬(銃を下ろしてイグニッション・ブーストで、一気に詰める?)
千冬(やはり、何か仕掛けてくるか……だが……)
千冬(……刀の間合いを見誤ったな……最後の、ダブルイグニッションだ!)
ギュンッ
キリコ「……」
千冬(……もう、お前は間合いの中……)
千冬(……これで終わりだ)
千冬(……これで、私は……)
チャキッ……
キリコ「……」
千冬「……」
チャキッ……
キリコ「……」
千冬「……」
ガキンッ
キュイイイイイッ
千冬(今更ターンピックで止まれるものかっ!)
キリコ(タイミングを、見誤るな……)
千冬「……」
ヒュッ……
キリコ(見える……)
キリコ(ヤツの動きが、完璧に見える……)
キリコ(あの、剣の軌跡が、見える……)
千冬「……」
キリコ「……」
キリコ(今だっ!)
ジャキッ
千冬(その銃ごと、叩き……)
千冬(……)
千冬(何故、コイツは銃を構えず突っ込んできた……)
千冬(下に構えた……反動の大きなショットガン……)
千冬(……っ! コイツッ!)
ズバンッ
キリコ「っ……」
千冬(反動で、ヤツの身体が反れる……)
千冬(しかし、浮く事は、ない……)
千冬(あのターンピックがっ……)
ヒュンッ……
キリコ「……」
千冬(間一髪で、剣がヤツの上を……)
キリコ「……終わりだ」
バキンッ
千冬「ぐっ」
ズドンッ
キリコ「……」
千冬「……」
キリコ「……」
千冬「……がはっ」
ドバッ
キリコ「……」
千冬「はぁっ……はぁっ……」
キリコ「……」
シュウウンッ……
千冬「はぁ、はぁ……」
キリコ「……アンタのISは、もう動かないみたいだな」
千冬「あぁ……私も、もう動けないさ……もう、な……」
キリコ「……」
千冬「だが、私は……敵の手にかかってなど……死なん!」グッ
ブゥンッ
キリコ「雪片……」
千冬「ふっ……」
キリコ「っ! よ、よせっ!」
千冬「……はぁ……ふっ!」
ドスッ
キリコ「……」
ブシャーッ
千冬「がぁ……っ……」
キリコ「姉さん! い、一体何を!」
千冬「その名で、呼ぶな……阿呆……」
キリコ「……アンタは……」
千冬「ふっ……せ、っぷく……という、ヤツさ……自分の、落とし、前を……つける為の……」
キリコ「よせ、喋るな」
千冬「うっ……」
キリコ「し、しっかりしろ!」ガシッ
千冬「……はぁ、はぁ……」
キリコ「……どうして……」
千冬「……話は、聞いている……ヤツらが、どんな、手を……使おうと、しているのかも……」
キリコ「……そうか」
千冬「……そう、なるくらい、なら……こう、するさ……」
キリコ「……」
千冬「……なぁ……キリコ」
キリコ「……何だ」
千冬「……あの子を、たす、けに……行かない、のか……」
キリコ「……」
千冬「任務を、全うした、ところで……ヤツらが素直、に……解放するとでも、思って、いるのか……」
キリコ「……」
千冬「……今、すぐに……救いに、行くんだ……」
キリコ「……無理だ」
千冬「無理では、無い……」
キリコ「……俺が死んでは、元も子も、無いんだ……アイツを、これ以上悲しませたく、無い」
千冬「ふっ……既に、相当の、事を……していると、思うがな……」
キリコ「……」
千冬「それに……お前は……」
キリコ「……」
千冬「お前は……死なない……」
キリコ「……何を、馬鹿な……」
千冬「お前の、能力が……お前を、生か、せる……」
キリコ「……だが……」
千冬「お前はっ! 死なないんだっ!」
キリコ「……」
千冬「お前、は……絶対に、死なない……」
キリコ「……」
千冬「……お前も、わかってる、はずだ……普通の人間ではないと……」
キリコ「……普通の、人間では……無い……」
千冬「……父さん、と……母、さんが……お前を、引き取ったのも……お前が、異能と呼ばれた生命だったからだ……」
キリコ「……」
千冬「……ミッションディスクを、見てみろ」
キリコ「……!? これは……」
千冬「完璧に、回路が焼き切れているでは無いか……」
キリコ「……では、俺は……」
千冬「あぁ……お前は、実力だけで私を、倒したんだ。ISに遥かに熟練していたはずの、私に勝てたのは……。
お前の、その能力が、あったから、だ……」
キリコ「……ミッションディスクが焼き切れるまで耐えた……この俺に……」
千冬「ふっ……私が、お前を殺す脅威と、みなされたのか……私を、超える、能力を……遺伝子、が……」
キリコ「……」
千冬「……お前は……自分の能力を、わかって、いて……何故、アイツを、助けに行かん……」
キリコ「……」
千冬「お前の……命より、大事な、ヤツじゃ……ないのかっ……」
キリコ「……」
千冬「命を、賭しても良い、存在じゃないのかっ……」
キリコ「……姉、さん」
千冬「貴様は……死なんっ……」
キリコ「……」
千冬「死なない命など、価値は無い……価値の無い、物まで……賭ける事が、できん貴様は……一体、何だ……」
キリコ「……」
千冬「私を……姉と、呼ぶのなら……それ、くらいの、度胸を……見せて、みろ……」
キリコ「……」
千冬「おまえ、は……わ……たしの……おとうとじゃ、ないのかっ……」
キリコ「……」
千冬「おまえは……さいごまで……うらぎり、もので……いたいのかっ……」
キリコ「……」
千冬「おまえはっ……あいつのために、死ぬ覚悟も、できんのかっ!」
キリコ「……」
千冬「ぐっ……がはっ」ドバッ
キリコ「ね、姉さん!」
千冬「はぁ、はぁ……あら、がえ……」
キリコ「……」
千冬「抗、うんだっ……何を、恐れる事が、ある……」
キリコ「……」
千冬「あの、地獄を生き延びたお前だ……お前なら……できるはずだ……」
キリコ「……」
千冬「あの時見せた……あの目は、一体何処に行った……アイツを、助けようと、必死だった……あの時の目はっ……」
キリコ「……」
千冬「お前は……私の、弟だろう……」
キリコ「……」
千冬「私の……命一つで、お前を、正気に戻せる、なら……」
キリコ「……」
千冬「……私、は……」
キリコ「っ……姉さん! しっかりしろ!」
千冬「……行、け……この、裏切り者……」
キリコ「……」
千冬「敵に、看取られて……死ぬなど……恥だ……」
キリコ「……」
千冬「お前の……成すべき事を、成せ……キリコ……」
キリコ「……」
千冬「お前、は……万能では、無い……」
キリコ「……」
千冬「だがな……無能でも、無いんだ……その、力は……」
キリコ「……」
千冬「あの子にあったら、伝えてくれ……何も、できないで、済まなかったと……」
キリコ「……あぁ」
千冬「……最後に、聞く……」
キリコ「……」
千冬「お前が、レッドショルダーに入った……入れられた、理由は、何だ……」
キリコ「……俺が……」
千冬「……」
キリコ「異能……生存体だったから、だ……」
千冬「……ふっ……そうだ……それで、いい」
キリコ「……」
千冬「お前は……私の、目指した……」
キリコ「……」
千冬「さぁ……い、け……」
キリコ「……」
千冬「……」
キリコ「……」
千冬「……」
キリコ「……姉さん?」
「……」
キリコ「……」
「……」
キリコ「……そうか……」
「……」
キリコ「っ……わかった……」
……俺は、普通の人間では、無いらしい。
俺は……異能生存体。
死なない、生命。
俺は、死なない。
何が、あろうとも。
……俺は……。
この力で……。
キリコ「……」
涙は、出ない。
この人の為に泣く事など、俺には許されない。
俺ができるのは、一つだけだ。
箒を、この手で救う事。
それ、ただ一つだけなのだ。
「……キリコ」
キリコ「……シャルロット……無事、だったか」
シャル「……」
キリコ「……鈴は、どうした」
シャル「……」ガサゴソ
カランカランッ
キリコ「……その、腕輪は……」
シャル「鈴の、形見……」
キリコ「……そうか」
シャル「……そっちも、か」
キリコ「……あぁ」
シャル「……おり、むら……せんせいもっ……」
キリコ「……」
シャル「……皆っ……死んだんだっ……」
キリコ「……あぁ」
シャル「結局、皆っ……」
キリコ「……」
シャル「……」
キリコ「……シャルロット、俺は……」
チャキッ
キリコ「っ……何をしている、シャルロット」
シャル「……これ、さ……鈴を殺した、銃なんだ……」
キリコ「……」
シャル「……もう、疲れたよ」
キリコ「何を、言っている……」
シャル「無理だ……もう……戦えないよ……」
キリコ「……何を、頭に銃なんか、突き付けている……」
シャル「ねぇ、キリコ……」
キリコ「おい……その銃を、降ろせ……」
シャル「僕さ……もう、限界だよ……ははっ……何て言うのかな……」
キリコ「……」
シャル「なんか、今もさ、突然、二人の声が聞こえるんだよね……鈴が、またセシリアを煽って……セシリアがツッコミを入れて……。
楽しい、会話が……頭で、グルングルン、グルングルン、回るんだ……」
キリコ「……」
シャル「でもさ……そんなのを無視して体がさ、勝手に動くんだよ。どうすれば殺せるか、どうすれば倒せるか……」
キリコ「……」
シャル「こうやって……後悔する癖に……殺すのに最善の方法を、スッと選んでるんだ……」
キリコ「……」
シャル「頑張れば、友達を助けられるとか言って……結局、真っ先に殺して……」
キリコ「……やめろ」
シャル「セシリアも鈴も死んだ! 織斑先生もだ!」
キリコ「やめろ」
シャル「誰が殺したの!? 僕達だよ! 友達だった、家族だった僕達が殺したんだ!」
キリコ「やめろっ!」
シャル「その癖、まだ僕達は友達の為とか言って戦ってるんだ! おかしいと思わないの!?
おかしいと……思うでしょっ……」
キリコ「……」
シャル「キリコは、箒が命と同じか、それ以上に大切なのはわかってる……僕はその話も聞いた。
だから、キリコは強い精神力を持ってられる……」
キリコ「……」
シャル「でも、僕は……そんなんじゃない……元々、兵士でもなければ何でもない……ただの子どもなんだよ……」
キリコ「……」
シャル「確かに、箒は大切な友達だよ。でも、その為に……その為に、こんなに、人を殺した……。
箒と同じくらい大切な友達を……二人も殺してるんだ」
キリコ「……」
シャル「命を、捨てる気で行ったって……こんな、こんなの……虚しい、だけじゃないかっ……」
キリコ「……」
シャル「……耐えられないよ……耐えられるはずが無いよ! こんなっ……こんな事……」
キリコ「……シャルロット」
シャル「……ねぇ、キリコ」
キリコ「……何だ」
シャル「僕に……何か特別な名前、つけてよ」
キリコ「……どういう意味だ」
シャル「こんな僕でもさ……スパイなんてして、友達を裏切って、挙句の果てには、殺した……。
こんな僕でもっ……誰かに、必要とされてたんだって……実感したいからさ」
キリコ「……」
シャル「……ねぇ」
キリコ「……やめろ」
シャル「ねぇったら」
キリコ「やめるんだシャルロット!」
シャル「早くしてよ! 僕はっ……僕は、もう死ぬんだ! これ以上、誰かを傷つけて、誰かを犠牲にして、生きていたくなんかないっ!」
キリコ「よせっ!」
シャル「限界なんだ……限界なんだよっ! 僕はっ!」
キリコ「やめろっ! それを降ろせ!」
シャル「はぁ、はぁ……」
キリコ「……やめろ……」
シャル「……ふふっ……ゴメン、もう無理だ……」
キリコ「……シャルロット……」
シャル「……ゴメンね……キリコ……」
キリコ「やめろっ……」
シャル「一足先に、自由になって……ゴメン、ね……」カチッ
キリコ「やめ――」
ズキュウウンッ
キリコ「っ……」
バキンッ
シャル「痛っ……」
キリコ「!?」
「ふざけるなよっ……シャルロット……」
キリコ「ラ、ラウラ……」
シャル「ラウラ……な、何で止めたのっ!?」
ガシッ
シャル「ぐっ」
ラウラ「やっと戻ってこれたと思ったら……今貴様は! 何をしようとしていた!」
シャル「ラ、ラウラっ……く、苦しい……」
ラウラ「死のうとしていた人間が苦しいとは、片腹痛い……そうは思わんか! あぁっ!?」
シャル「は、放して……僕は……僕は、死ななきゃいけないんだ……死んで、償わないといけないんだ……」
ラウラ「償いだと? いいや、違うな。貴様は、逃げようとしていたんだ。そうだろう」
シャル「っ……」
ラウラ「自らが犯した罪の責苦に耐えきれないなら、いっそ死んでしまおう、とな……」
シャル「……」
ラウラ「……辛いのはな、キリコも同じだ……私だって同じだ! それでも……戦うしかないんだ……」
シャル「そんなの……わかってるよ……」
ラウラ「だったら、何故自殺なんて考えた。そうすれば、あの二人が許してくれると思ったか!? えぇ!? どうなんだ!」
シャル「……あぁ、そうだよ! そうだよ……裏切り者が一人減れば、地獄に落ちるのが一人増えれば!
きっと……恨みは晴れるだろうって!」
ラウラ「黙れっ! この、臆病者がっ……そんなもの、貴様が逃げたいが為に捻りだした言い訳に過ぎん!」
シャル「僕はラウラ達みたく強くないんだ! ただの……ただの世間知らずなガキなんだよ!
それに、ラウラはまだ直接、友達を殺してないじゃないか! それなのに、わかったみたいに言わないでよ!」
ラウラ「……これを見ろ」ジャラッ
シャル「……何、それ……」
ラウラ「……私の、部下達だ」
シャル「……」
ラウラ「回収できたのは、これだけだ……この、認識票だけ……たったの、この一束だけだ」
シャル「……」
ラウラ「私がやった……私がやったんだ!」
シャル「……ラウラも、僕らと同じか」
ラウラ「あぁ、そうだ! 私の姿を見た時の、彼女達の表情がわかるかっ!?
生きていてくれたと安堵し、そして、裏切ったと知った時の……あの、絶望の顔がっ……」
シャル「……わかるよ」
ラウラ「それで……彼女達はどうしたと思う? 無抵抗だった……無抵抗だったんだ!
私の、為と抜かして……私は敵なのに……軍人として、失格だ……アイツらは……」
シャル「……」
ラウラ「だから……せめて、奴らの手に渡らないようにと、全員、この手で跡形も無く消した……そして、残ったのが、これだけだ……」
シャル「……」
ラウラ「私も、お前と同じように、信じてくれた人間を……殺したんだ。最悪の形でな」
シャル「……」
ラウラ「だがな……」
シャル「……」
ラウラ「……それでも、私はまだ戦う……」
シャル「……何で」
ラウラ「それが……私の意志だからだ。キリコの、為だからだ」
シャル「……ふっ、何がキリコの為だから、さ……」
ラウラ「……」
シャル「キリコの事最初は殺そうとして、それで手の平返したみたいに好きになって……正直、虫がよすぎるよ」
ラウラ「……あぁ、そう言われてもしょうがないだろうな……だが、それが私の意志だ」
シャル「……何で……何でそんなに強いのさ……」
ラウラ「……」
シャル「……キリコだって、もう箒の事しか見てないんだよ? 他の人が入る隙間なんて、無いくらいにさ」
ラウラ「……そうか」
シャル「なのに、キリコの為、キリコの為……おかしいと思わないの? 自分の方を振りむいてくれる訳でもないのに……」
ラウラ「……」
シャル「そんなの……無駄な努力なんだよ!」
ラウラ「……」
シャル「その無駄な努力の為に、部下を殺したんだ! ラウラは!」
ラウラ「あぁ、そうだ」
シャル「なのに……何で? 何で、まだ戦うなんて言えるのさ……」
ラウラ「……」
シャル「何でまだ戦えるのさっ!」
ラウラ「……それは……」
シャル「……」
ラウラ「キリコが、好きだからだ」
シャル「……」
ラウラ「それだけじゃ、駄目なのか」
シャル「……答えに……なって、ないよ……」
ラウラ「……キリコが、あの彼女の事しか見えていないとしても、私は構わない」
シャル「……」
ラウラ「だが私は、キリコの為に戦う。理由なんて無い。理屈でも、何でもない。問いに見合う答えなど、元より求めていない。
見返りなど……いらない……キリコの、為になるなら……」
シャル「……」
ラウラ「私は、自分の全てを賭しても良い人の為に、戦う」
シャル「……」
ラウラ「……お前は、違うのか」
シャル「……」
ラウラ「友の為もあるだろう。だが、お前だって……キリコが好きなはずだ」
シャル「……」
ラウラ「脳を弄られても、それは変わらないはずだ」
シャル「……」
ラウラ「だから、キリコの為にも……」
シャル「……」
ラウラ「お前は、生きてくれ……」
シャル「……」
ラウラ「頼む……もう、友が死ぬのは見たくない……それは、お前が一番わかってるはずだ……。
お前は、キリコの……友じゃないのか? お前は、私の……友じゃないのか?」
シャル「っ……」
ラウラ「……だから……」
シャル「……」
ラウラ「私から……友を、奪わないでくれよ……シャルロット……」
シャル「……ラウラ……」
ラウラ「……」
キリコ「……」
シャル「……ゴメン、ラウラ」
ラウラ「……あぁ」
シャル「……ごめんね……僕が、間違ってたんだ……」
ラウラ「そうだ……この馬鹿者がっ……」
シャル「ごめんっ……」
ラウラ「……馬鹿……」
シャル「……ごめんなさいっ……」
ラウラ「……泣きたいなら、泣け……胸ぐらい、貸してやる」
シャル「……うんっ……うん……」
ラウラ「我慢、するな……」
シャル「うんっ……」
ラウラ「……」
シャル「……ごめんなさいっ……ごめんなさいっごめんなさい!」
ラウラ「……」
シャル「鈴……セシリア……皆……ごめんなさいっ……」
ラウラ「……」
シャル「……みんなを……しなせて、ごめんなさいっ!」
ラウラ「……」
シャル「わぁあああっ……あぁあああっ……」
ラウラ「……シャルロット……」
キリコ「……」
まるで、自分の魂を放つようなその叫びが、戦場に響いた。
体を引き裂くような悲痛な叫び。これは、罪を乞う懺悔では無い。これは、祈りだ。
聴く者全ての魂を揺さぶる、祈りなのだ。
俺達裏切り者の、せめてものララバイなのだ。
シャル「うっ……ぐすっ……」
ラウラ「落ちついたか?」
シャル「……うん……」
キリコ「……」
ラウラ「……キリコ……今お前が抱えている、のは……」
キリコ「あぁ……死んでいる」
ラウラ「……お前が、トドメを刺したのか」
キリコ「いや……姉さんは……この人は、自分の信念に死んだ。裏切り者の手によってじゃ、無い」
ラウラ「……そうか……教官らしい、気高い最期だったんだな」
キリコ「……あぁ」
ラウラ「……それを聞いて、安心した」
キリコ「……」
ラウラ「きっと……いや、何でもない。裏切り者の我々がとやかく語るのは、教官に対する侮辱だ」
キリコ「……いいのか」
ラウラ「……」
キリコ「……お前は、この人を慕っていたはずだ」
ラウラ「……その頃の私は、ラウラ・ボーデヴィッヒはもういない。今は、ただの駒だ。そんな人間が、こんな気高い人に、
言う言葉なんてあっても、言うべきではない」
キリコ「……そうか」
ラウラ「……さて……もう、お前はどうするか、決心はついているようだが……」
キリコ「……あぁ」
ラウラ「……」
シャル「……キリコ……どうするの?」
キリコ「……箒を、取り戻す」
シャル「……」
ラウラ「……敵のISの数は多少は減っただろう。しかし、我々三人だけでどうする。
敵の戦艦、兵力、全てが規格外だ」
キリコ「……」
シャル「……」
ラウラ「……お前の決心を、こう言うのも何かも知れないが……やるとしても、今度こそ死ぬぞ。
我々が死んだら、彼女はどうなる?」
キリコ「……」
ラウラ「……このまま、作戦通りに進めた方が、良いんじゃないのか。そうすれば……彼女はきっと……」
シャル「……キリコ」
キリコ「……俺達は……」
ラウラ「?」
キリコ「俺達は、死なない……」
シャル「……?」
ラウラ「……どういう意味だ」
キリコ「……俺が、レッドショルダーに入った理由は……俺の、異様な能力のせいだった」
ラウラ「……能力? ATの操縦技術ではなく?」
キリコ「……レッドショルダーの総司令、ヨラン・ペールゼンは、死なない兵士を探していた」
シャル「死なない……」
ラウラ「兵士?」
キリコ「250億分の1の確率で発生する特異遺伝子。それを持つ、絶対に殺す事のできない個体。ヤツはそれを……異能生存体と呼んでいた」
ラウラ「ペールゼン……レッドショルダーの創始者が、そんなものを……」
キリコ「あぁ。ペールゼンは、異能生存体のような兵士を作り、また探す為にあの部隊を作ったらしい」
ラウラ「……」
シャル「……もしかして、キリコが……」
キリコ「……ヤツ曰く、俺は、その異能生存体という生命体らしい」
ラウラ「……ありえない。殺す事のできない生命体だと? 夢物語も良い所だ」
キリコ「……俺は、ヤツに心臓を撃たれた」
ラウラ「!?」
シャル「なっ……え、じゃあなんで今ここに……」
キリコ「……その、遺伝子とやらのせいで、俺はこうして生きている」
ラウラ「……」
シャル「……」
キリコ「こっちに来てからもそうだ。俺を殺そうとしたヤツの銃が、突如弾切れになったり、弾道が物理法則を無視して曲がったり……。
この前の砂漠での雨も、恐らく……」
ラウラ「……成程……それは、腕と運とやらで片付けられるものじゃないな……」
シャル「じゃあ、キリコは……本当に、死なないって事?」
キリコ「……らしいな。姉さんも、そう言っていた」
ラウラ「……」
シャル「……」
ラウラ「だ、だが……」
キリコ「二人共、覚えは無いか」
シャル「え?」
キリコ「シャルロット、アリーナで襲撃を受けた時、お前はどうやって逃げた」
シャル「えっ……そ、それは……偶々なんだけど……」
キリコ「話してくれないか」
シャル「え、えっと……キリコと別れた後捕まって……投げられて、それで運良くダストシュートに落ちて、それで……」
キリコ「奴らはプロだ。そんなヘマを、普通すると思うか?」
シャル「……ううん。暗視ゴーグルもしてたし……運が良かったとしか……」
キリコ「……ラウラ。お前は、あの砂漠での襲撃時、瓦礫で俺と分断された時があったな」
ラウラ「あ、あぁ……それが、どうした」
キリコ「あの時、お前はどうやって攻撃を避けた」
ラウラ「どうやってって……走って、避けたくらいだが……」
キリコ「あの装備と距離でか。分断された時、お前とあのATの距離は、ほとんど無いようなものだった」
ラウラ「……」
キリコ「弾が、物理法則を無視して、曲がったんじゃないのか。だから、お前は無事だったんじゃないのか」
ラウラ「……」
シャル「……そ、それって、つまり……」
キリコ「あぁ……シャルロット、ラウラ……お前達も、異能生存体なんだ」
シャル「……」
ラウラ「……」
キリコ「ウォッカムが意図的に、俺達をあの学園に集めたと言っていた。そして、経緯はどうあれ、俺達は奴に試されていたんだ。
どうやって、生き残るかを」
ラウラ「……そんな、馬鹿な……」
キリコ「普通なら、あの砂漠で死んでいたはずだ。俺よりも早く、砂漠で倒れたりという形で。
だが、俺達は一緒に生き残った。異能生存体の定義に……生きてさえいれば良いというものに、当てはまる」
シャル「つまり……僕達も……」
ラウラ「異能……生存体……」
キリコ「……そうだ」
シャル「……」
ラウラ「……」
キリコ「……ウォッカム……ヤツの実験は成功した。だから、俺達はこうしてここにいる。
俺達が異能生存体だから、こうして、俺達はこの作戦に参加している」
シャル「……」
ラウラ「……」
キリコ「250億分の1、或いはそれ以下の確立でしか異能生存体は発生しない……しかし……」
ラウラ「……」
キリコ「……この広い宇宙に、俺だけでは無いと……信じている」
シャル「……」
ラウラ「……その、遺伝子は……」
キリコ「……」
ラウラ「その遺伝子は、自然発生するものに……限るんじゃないのか」
キリコ「……どういう意味だ」
ラウラ「……私は……遺伝子改良の為に生み出された……試験管ベビーだ……。
作られた、人間なんだ」
キリコ「……」
シャル「ラウラ……」
ラウラ「私が持つ特異な遺伝子とは、それは……多分、お前達と違うものだ。ただ単に、身体能力等が上がるだけのものだ。
そんな、死なない遺伝子など、意図的に増やせる訳が無い」
キリコ「……ペールゼンが言っていた。異能生存体すらも、今の科学力でなら複製可能だと」
ラウラ「……」
キリコ「お前は……もしかしたら、その実験体なのかも知れない」
ラウラ「私が……」
キリコ「ヤツは、俺の出生の秘密すら知っていたようだ。そんな昔から異能生存体の存在を知っていた。
その頃から考えれば、お前のような存在がいても、不思議ではない」
ラウラ「……」
キリコ「お前も、異能生存体なんだ」
ラウラ「……」
キリコ「……だから……」
シャル「僕達は……」
ラウラ「死なない……」
キリコ「……」
シャル「……」
ラウラ「……」
シャル「……ふふっ……」
キリコ「どうした」
シャル「そういう事、早く言ってよ。僕がさっき自殺しようとしてたの、意味が無いって事じゃない。
キリコも必死で止めてたけど、結局こうなるようになってたんだ」
キリコ「……」
ラウラ「シャルロットの遺伝子が、あの時私に自殺を止めさせた、というところか……成程、そうか……」
シャル「……でもさ……死なないんだったら、どんなのを敵に回しても、戦えるって事だよね」
ラウラ「まぁ……そうだな。単純には、そういう事になるな」
キリコ「……」
シャル「……だったら、箒を取り戻しに行こう」
ラウラ「……」
シャル「死なないんだったら……償いの方法なんて、それしかないじゃないか。
箒を取り戻して、ウォッカムを倒す。それが、僕達のとるべき道なんだよ。きっと」
キリコ「……」
シャル「二人共、そう思わない?」
ラウラ「……あぁ……そうだな、その通りだ」
シャル「そうだよ! 僕達は、死なない……絶対に、負けない兵士なんだ!」
ラウラ「あぁ……私達は、死なない……」
キリコ「……」
ラウラ「死なない……部隊……」
シャル「……行こう、キリコ。箒を、取り戻しに」
ラウラ「……嫁よ。どうやら、決断の時だ」
キリコ「……すまない、二人共」
シャル「遠慮なんていらないよ。僕達は、同類じゃないか。この、広い宇宙で、たった三人だけの」
ラウラ「あぁ。遠い親戚みたいなものだ、気にするな」
シャル「……それ逆に気遣わない?」
キリコ「……ラウラ、シャル……」
ラウラ「……」
シャル「あれ……今のって……」
キリコ「……お前の名前は前々から、こう短縮して呼ぼうかと思っていた。ダメか?」
シャル「う、ううん! いいよ、全然良い! これからはそう呼んでよ!」
キリコ「……そうか」
シャル「えへへ……」
ラウラ「……お前も、人の事を言えないではないか」
シャル「うぐっ……そ、それとこれとは……また別というか……と、友達として……」
キリコ「……ふっ」
シャル「ふふっ……なんか、面白いね……生きてるって、感じがする」
ラウラ「ふっ、そうだな……さぁ、キリコ」
キリコ「あぁ……」
ラウラ「……」
シャル「……」
キリコ「……箒を、取り返しに行くぞ」
ラウラ「お前の為に」
シャル「僕の、大切な友達を……今度こそ、救う為に……」
キリコ「……奴の手から、必ず……」
ラウラ「あぁ……私達は、抗える体なんだ!」
シャル「へへっ、遺伝子のお墨付きだ!」
ラウラ「ここに来るまで、あまりダメージを喰らっていない……私の機体からシールドエネルギーを補給しろ」
シャル「わかった」
キリコ「……あぁ」
ラウラ「補給が終わったら、行くぞ……」
キリコ「……あの、艦に」
シャル「僕らの、大切な友達がいる……場所に……」
ラウラ「……そうだ」
ピーッピーッ
ラウラ「……完了した」
シャル「よし……これで、動ける」
キリコ「……なら……」
キュィイイイッ
キリコ「行くぞっ!」
シャル「了解!」
ラウラ「了解した!」
ヒュンッ ギュンッ
キュィイイッ
『……』
キリコ「ゴーレムがいるぞ」
ラウラ「どうする」
シャル「僕が沈めちゃうよ! 宣戦布告だ!」ジャキンッ
『……』
シャル「はぁああっ!」
ズドンッ
バキンッ
『……』ジジジジッ
ドカァアンッ
シャル「へへっ、反逆の始まりだ!」
……
ウォッカム「……もう、地球での抵抗勢力は無いに等しい、か……」
ルスケ「はい。地球での合同攻撃も、完璧に鎮圧したようです」
ウォッカム「後は、キリコ達の帰りを待つばかり、か……」
ルスケ「えぇ。ISの回収作業も、只今から行わせま――」
ピピーッ ピピーッ
ルスケ「ん、失礼します……どうした……何っ!?」
ウォッカム「……どうした、ルスケ」
ルスケ「……キリコ達が……ゴーレム機を攻撃していると……」
ウォッカム「なぁにぃっ!?」
ルスケ「……既に、五機破壊されました……」
ウォッカム「……馬鹿な……」
ルスケ「こちらに向かって、進行中との、事です……」
ウォッカム「ぬぅ……何故だ……何故今更になって……」
……
『……』ズガガガッ
シャル「おっと! 反撃してきたよ!」ヒュンッ
ラウラ「無駄だ! このAICの前には、火力など無意味!」キュウウンッ
『……』ズガガガッ
ラウラ「やれ! シャルロット!」
シャル「はぁあっ!」ズガガガッ
『……』カキンカキンッ
シャル「貰った!」ズドンッ
ドガァアンッ
シャル「ナイス援護! ラウラ!」
ラウラ「お前もな!」
キリコ「道が開いた。このまま突っ切るぞ」
ラウラ「了解!」
シャル「了解っ!」
キュィイイッ
シャル「そらそら! 不死身の部隊のお通りだよ!」ズガガガッ
ラウラ「無人機などでは相手にならんぞ!」ズキュウンッ
キリコ「……」キュィイイッ
……
ペールゼン「……」
プシューッ
「閣下、こんな所におられたのですか」
ペールゼン「……」
「閣下、もう少しで、地球の侵攻は終わる見込みですが……早々に、部隊を撤収させますか?」
ペールゼン「……この艦を、少し下がらせろ」
「は、はい。了解しました」
ペールゼン「……真実は……」
「な、なんでしょうか……」
ペールゼン「真実は、常に残酷だ……そうは、思わんかね……」
「……」
ペールゼン「……」
……
「うぉおおおおっ!」
「はぁああああっ!」
ズガガガガッ
シャル「つっ……凄い数だ……」
ラウラ「構うな! 突っ切るんだ!」
シャル「うん! わかってるよ!」
ヒュンヒュンッ
シャル「はあああっ!」ズガガガッ
ラウラ「うぉおおっ!」ズキュウンッ
シャル「殺せるものなら、殺してみろっ! 僕達は、絶対に死なないんだっ!」
ラウラ「貴様らに、我らの行軍を止める事などできんっ!」
シャル「僕達は……」
ラウラ「死なないっ……」
シャル「僕達は死ななぁーいっ!」ズガガガッ
ラウラ「私達は死なないんだぁーっ!」ズキュウウンッ
キリコ「……」
裏切りの戦士達が、座標を定めて走り出した。
償いの為、己の信念の為、そして、放してはいけない存在の為に。
生命にあるまじき力と共に、俺達は突き進む。
俺達は死なない。
そんな、冷笑的な叫びと共に。
――
裏切り者のララバイが、機銃のドラムと共に宙を駆ける。
これまで築いたあの日々が、飢えにも似た感情を喉の根に張り付かせる。
あの日々が、輝かしく、失いがたくあればある程、この飢えは切なさを増す。
例えその飢えが、真実によって満たされるとしても、
真実は、真実で有り続けるという事しか、彼らは知り得ないのだ。
次回、「瞑目」
彼はまた、生きてあり。
箒「キリコ……お前は、私の……」
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キリコ「俺は……死なない!」 箒「キリコーッ!」
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