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翔太郎「魔戒騎士?」フィリップ「ゾクゾクするねぇ」

1: ◆NrFF2h.q26:2013/12/21(土) 21:18:36.39 ID:gIrlqgImO

翔太郎「刃さ~ん、大丈夫っすか~?」

刃野「おーう、ひっく、大丈夫らぞぉ~」フラフラ

翔太郎「あーもう刃さん、そこ危ないってば。ただでさえ夜道で足元見えてねーっつうのに」

刃野「何言ってんだ翔太郎~!今の俺が放つ酔拳を喰らっても、お前まだそんなことが言えるのか……?」キリッ

刃野「なーんちゃってだははははは!!」



翔太郎(……全くやれやれだぜ。風麺のマスターに夜遅く急に呼び出されたと思ったら、酔い潰れてる刃さんの送り迎えしてくれとはね……)

翔太郎(今は忘年会シーズンだしな。年なんだから程々にしといた方がいいと思うけど)

翔太郎(ていうか、こんな時になんでマッキーは電話に出ねぇんだよ。寝てるとしたら早過ぎだろ。俺は便利屋か!?)





コツン

翔太郎「あ?」

翔太郎(……帽子に何かが……)

コツッコツッ

翔太郎「うわ、冷たっ」

翔太郎「何だ……なんか降ってきた」

翔太郎「……しかも急に寒くなってきてる気が」ブルブル

コツッコツッコツッ

翔太郎「もしかして……今降ってきてるのって、雹(ひょう)じゃないか!?」

翔太郎(まだ12月だぞ?つうか雪はまだしも雹なんて今まで風都に降ったことないのに……)

コツッ!コツッ!コツッ!

翔太郎「あたっ!」チクリ

翔太郎「……雹が大きくなってきてる……?」

翔太郎「と、とにかく屋根のある所へ行こう」

刃野「おーい翔太郎~なんかチクチク痛ぇぞぉ~だははは」ヒック




2: ◆NrFF2h.q26:2013/12/21(土) 21:40:14.98 ID:gIrlqgImO

ザァァァアアア

翔太郎「くそ~近道しようと思って路地裏なんか通るんじゃなかったぜ!」

翔太郎「どこか雹を凌げるところ……!」

刃野「さ、寒い……ションベンしたくなってきた……漏れそう……」ブルブル

翔太郎「頼むから我慢してくれ刃さん!」

ザシュッ!

翔太郎「!?」

翔太郎「……帽子のふちが切れた」

翔太郎「うわっ、よく見たらコートもところどころ切れてる!」

翔太郎(突然こんな雹が降るなんて、いくらなんでもおかしい)

翔太郎(まさかドーパントか!?それとも……)

ガッ

刃野「ほぁ!?」

バターン!

ゴチンッ

刃野「」チーン

翔太郎「ちょ、刃さん!?電柱にもろ頭ぶつけてるし……あーもう気絶キャラはマッキーだけにしてくれよ!」

翔太郎「でも好都合か……一先ず刃さんは雹が避けられそうなあの木の下に運んで」ズルズル

翔太郎「俺はとっとと変身だぜ」チャッ

翔太郎「おいフィリップ!」

フィリップ『なんだい翔太郎、こんな夜中に』

翔太郎「取り敢えず変身してくれ。ドーパントか、もしかしたら例の《アレ》かもしんねぇ!」

翔太郎「一先ずヒートメタルで行くぞ」

フィリップ『《アレ》か……了解した』

ヒート!

メタル!

翔太郎・フィリップ「『変身!』」



5: ◆NrFF2h.q26:2013/12/21(土) 22:14:13.93 ID:gIrlqgImO

ザァァァアアア

HM(フィリップ)『なるほど、これは異常事態だ』

HM(翔太郎)『しかもさっきからどんどん雹が大きくなってんだよ』

HM(翔太郎)『このままだと、この超合金化したボディでも確実にダメージを喰らうレベルの雹が降ってくるかもな』

HM(フィリップ)『……この雹は空から降っているものじゃないね。降ってくる速度、角度……どこか近くから放出されているもののハズだ』

HM(翔太郎)『マジかよ!?……でもだとしたら確実に人間業じゃねぇな。納得だぜ。でも一体どこからだ?』

HM(フィリップ)『恐らくアソコだ』スッ

HM(翔太郎)『廃工場の辺りだな……りょーかい!』



7: ◆NrFF2h.q26:2013/12/21(土) 23:01:50.59 ID:gIrlqgImO

~廃工場の屋根~

???『……』

ザァァァアアア

HM(翔太郎)『くっそ~ヤツを見つけて近付けたのはいいものの、凄ぇ吹雪だ。屋根の上じゃあ簡単に吹っ飛ばされそうだぜ』

HM(翔太郎)『つーか、な、なんだアレ。雪女!?』

HM(フィリップ)『たった一体の力で、ここまでの雹を降らせるとはね……これじゃあ迂闊に近付けそうにない』

HM(翔太郎)『一体何が目的なんだ?こんな闇雲に辺りに雹を降らせて、何を企んでやがる』

HM(フィリップ)『……もしかしたら、目的なんてないのかも』

HM(翔太郎)『え?』

HM(フィリップ)『単なる愉快犯か、もしくは僕らが最近出くわす《アレ》ならばね……』

HM(翔太郎)『なるほど。でも取り敢えずこの雹を止めねぇとな』

HM(翔太郎)『うし、行くぜフィリップ!』

HM(フィリップ)『やれやれ、迂闊に近づけないと言ったばかりなのに……』

???『……!』ギロッ

ブワァァアアッ

HM(翔太郎)『うぉっと……はん、何言ってんだよ相棒。こんくらいの冷気なんて、今まで散々くらって屁でもねぇだろ!』ダッ

HM(翔太郎)『おりゃぁあ!』

ガンッ!!

???『……!!』ゴロゴロッ

ドスンッ

???『……』タッ

HM(フィリップ)『言ってるそばから殴った左手が凍結してるんだけど』

HM(翔太郎)『~~っ、うっせ!とにかく下に降りて追うぞ!』



8: ◆NrFF2h.q26:2013/12/21(土) 23:28:08.79 ID:gIrlqgImO

~廃工場奥~

???『……』ボロボロ

HM(翔太郎)『ラクショーって感じだな。見た目が女だからちと気が引けちまうんだけど』

HM(フィリップ)『何を言ってるんだい。ここまできて言葉らしい言葉を発してない時点で、コイツはドーパントでなく《アレ》の方である可能性が高い』

HM(フィリップ)『もちろん、動物にガイアメモリを使用しているドーパントの線もあり得るけど、ここまで人間らしい見た目ではね』

HM(翔太郎)『……しかしだとすると』

HM(フィリップ)『そう、《アレ》の場合マキシマムドライブを放っても、恐らく倒せない。なんせドーパントではないからね』

HM(翔太郎)『でも取り敢えず追っ払うことは出来るだろ?』

HM(フィリップ)『根本的解決にはならないが、今の所は致し方ないということか……』

ーーー『おい』



カツン、カツン、カツン



鋼牙『そこを退いてもらおうか』チャキッ

HM(フィリップ)『……誰だ君は?』

HM(翔太郎)『あ、なんかまた俺よりハードボイルドな奴が現れた予感が……』

HM(フィリップ)『随分ピンポイントな予感だね』



9: ◆NrFF2h.q26:2013/12/21(土) 23:47:15.37 ID:gIrlqgImO

鋼牙「《アレ》は俺じゃないと倒せない」

HM(翔太郎)『あぁ?どういう意味なんだよ』

鋼牙「《アレ》は《ホラー》だ」

鋼牙「そしてそのホラーを倒せるのは、魔戒騎士である俺だけだ」

HM(翔太郎)『……』

HM(翔太郎)『いや説明そんだけか!?』

HM(フィリップ)『魔戒騎士という単語は今まで聞いたことがないな。それにホラーも……実に興味深い。さぁ今すぐ検索を始めよう!』スゥッ

HM(翔太郎)『え、ちょ、今戦闘中だぞ!?おいフィリップ!うぉおい!』

鋼牙「……」スッ

クルリッ

牙狼『……』キッ



10: ◆NrFF2h.q26:2013/12/22(日) 00:13:33.52 ID:U3R1xDmLO

冴島鋼牙という男が俺たちの前に現れたのは、冬も深まる12月、すっかり冷えた風が風都の街中を吹き抜けるようになった頃のことだった。
白いコートを棚引かせ悠然と廃工場の中に姿を見せたソイツは、ただ者ではなかった。


腰に提げていた赤い鞘の一振りの剣。
それを慣れた手付きでスラリと引き抜くと、頭上に真っ直ぐに翳し、切っ先で円を描く。
するとまるで空間を切り裂いたかのようにそこに穴が現れ、そしてその穴から黄金に輝く鎧が現れ、男の身体を覆った。
いつの間にか握っていた剣も一回り大きくなっていた。


狼を象った黄金の鎧の騎士は、燦然と輝きながらホラーに近付いた。
ホラーが怯えたように凄まじい冷気を放ってくるが、その歩みは全く止まらない。


騎士は終始何も言わなかった。
ただその持っている剣を構え、ホラーが逃げようとする間もなく、微塵の無駄もない一太刀でその身体を真っ二つに斬った。
ホラーは断末魔をあげ、俺たちの前で消えていったのだった。



11: ◆NrFF2h.q26:2013/12/22(日) 01:05:35.83 ID:U3R1xDmLO

~鳴海探偵事務所~

翔太郎「刃さんを送るだけのつもりが、こんなコトになるとはな……」

翔太郎「あ、取り敢えずそこのソファに座ってくれよ」

フィリップ「やっと来たね。待ち兼ねたよ」

翔太郎「亜樹子はもう帰ったか?」

フィリップ「あぁ」

翔太郎「そっか。えーっと、取り敢えずコーヒーでも飲むか?」

鋼牙「結構。俺は話をしに来ただけだ」



鋼牙は座るコトもせず、事務所の中をぐるりと見回し、そして俺とフィリップを見た。



鋼牙「……さっきのホラーはフルーレティという。あの雹で人間の身体を切り裂きいたぶった上で、魂を喰らう。そういうホラーだ」

翔太郎「え、えげつねぇ……」

翔太郎「でもさ、俺たちが最近出会ってたホラーってヤツ、いつも見た目が同じだったよな。まさにこう悪魔って感じの」

翔太郎「今日みたいな人間っぽい姿は初めて見たぞ?なぁフィリップ」

フィリップ「それはホラーが人間に憑依しているかどうかの違いだね。今まで僕たちが出会っていたのは、人間に憑依していない素体ホラーだ」

フィリップ「素体ホラーである状態では、見た目はどのホラーも一緒だし、さっきのフルーレティのような大した能力は持ち合わせない」

翔太郎「……お前は戦闘中にも関わらずちゃっかりしっかり検索しやがってよ」

フィリップ「そんなことはどうでもいいんだよ。いいかい翔太郎。ホラーは人間に憑依することで力を増す。憑依した人間が持っていた怨念や、ホラー自身の能力に合わせて独自の力を持つようになるんだ」

鋼牙「……お前何者だ?」



14: ◆NrFF2h.q26:2013/12/22(日) 01:45:57.74 ID:U3R1xDmLO

鋼牙「見たところ、魔戒の名を持たない普通の人間であるお前が、何故そこまでホラーの生態を知っている?」

翔太郎「あーその、コイツもちょっと特殊なヤツで……頭の中に地球上のこと全てを検索できるパソコンがあると思ってくれ」

フィリップ「僕は検索するためのキーワードがあればなんだって分かるよ。君が一般の魔戒騎士が所属する番犬所の上位機関である元老院直属の魔戒騎士であることも、魔戒騎士の中でも最高位の称号である牙狼の称号を持つことも」

鋼牙「……」

翔太郎「え、そうなのか!?コイツそんな凄ぇ奴だったんだな」

鋼牙「……話をしに来たのは正解だったか」

フィリップ「というと?」

鋼牙「俺は元老院から命令を受けこの街に来た」

鋼牙「ここ最近立て続けにホラーが発生しているハズなのに、それに見合った行方不明者や死亡者の数の増加が、通常と比べ明らかに少ないものだったからだ」

翔太郎「あぁ、それで俺らみたいな部外者が何かしら関与してるのかどうか、調査しに来たってことか」

鋼牙「ホラーを何らかの手段で捕獲している可能性もある……いずれ悪用するために」スラリ

翔太郎「……あのー何で剣を抜いていらっしゃるんでしょう?」

鋼牙「……」ビッ

翔太郎「ちょ、ちょっと剣が首に当たってるぞ!?」

フィリップ「僕たちがホラーを悪用する人間に思えるのかい?さっきだって戦ってるのを君は見ただろう?」



16: ◆NrFF2h.q26:2013/12/22(日) 02:28:23.73 ID:U3R1xDmLO

鋼牙「確かにそうだな」

鋼牙「だが、信じ難いことにお前は地球上の全ての知識を知ることが出来る。そしてその知識を検索するために必要なキーワードというのも、今は把握しているワケだ」

鋼牙「お前のその力を信じるなら、その気になれば一般人でもホラーを操り、悪用する方法を見つけられるかもしれないな」

翔太郎「はぁ~!?お前が勝手にホラーだの魔戒だの、キーワードを教えたんだろうがよ!」

鋼牙「……」チャキッ

翔太郎「……っ」

鋼牙「それにその力は、もう一つの俺の目的のための力になるかもしれん」

フィリップ「もう一つの目的?」

鋼牙「そうだ。もう大体の知識を把握しているというなら、そもそもここ最近、ホラーが頻繁に現れていることが異常であるのも分かるハズだ」

鋼牙「その異常事態の原因解明も元老院から下った命令なんだ」

フィリップ「なるほどね。君の事情は把握した」

フィリップ「だが僕に助力を乞いたいと言うのなら、僕の相棒に向けたその剣を下げてもらえるかな」

鋼牙「……」

鋼牙「……」スッ

翔太郎「ふぅ~、マジで冷や冷やしたぜ」

鋼牙「言っておくが、お前たちの力はそこまでアテにはしていない」

鋼牙「だがこの異常事態の解明まで、暫く行動は監視させてもらう」

鋼牙「じゃあな」スッ





翔太郎「あーあ、行っちまった」

フィリップ「なかなかストイックな人間だねぇ」

翔太郎「無愛想なだけだろ?つーか何も悪いことしてねーのに監視って……ヤな気分だぜ」

フィリップ「魔戒騎士の彼からしたら、魔戒の力を持たないながらもホラーにある程度対抗し得る力を持つ僕らは、かなり想定外の存在なんだよ」

フィリップ「それにしても、ホラーの異常発生か……」



21: ◆NrFF2h.q26:2013/12/22(日) 12:00:36.93 ID:U3R1xDmLO

鋼牙「……」

鋼牙「ザルバ」

ザルバ『何だ鋼牙』パチパチ

鋼牙「あいつらをどう思う」

ザルバ『どうって言われてもなぁ。魔戒騎士ではないな』

鋼牙「そんなコトは分かっている」

鋼牙「あの左翔太郎という男の姿が妙なモノに変わってから、一人の中に二人分の気配が感じられた。現に明らかに二人分の人格があった」

ザルバ『確かに一人でやたら騒々しかったぜ』

鋼牙「そして案内された事務所の少年……あのフィリップが先程の戦闘で現れたもう一つの人格のようだ。あの気配は間違いない」

ザルバ『ふうむ、魔導輪の俺が言うのもなんだが、お前の気配察知能力とその度胸は相変わらず人間離れしてるな』

ザルバ『俺はあの男が《アレ》になった時、まさにひたすら驚くばかりってヤツだったぜ』

鋼牙「グレスから元々情報は貰っていただろ。この街にはホラーではない怪異が存在すると」

鋼牙「恐らくは《アレ》がそうだ」

ザルバ『あぁ、言ってたな。しかしアイツらは悪い人間じゃあなさそうだ』

ザルバ『ただ変な匂いがするぞ。ホラーとは違う。あんな匂いは初めてだぜ』

鋼牙「……やはりこの街特有の怪異というワケか」



22: ◆NrFF2h.q26:2013/12/22(日) 13:03:49.29 ID:U3R1xDmLO

ザルバ『しかしこの街に入ってから早々ホラーに会うとは。事態はなかなか切迫してるってワケだ』

ザルバ『鋼牙、これからどうする?』

鋼牙「夜が開けてから、この街を管轄しているアイツに会いに行く」

鋼牙「いろいろと情報が必要だ。ホラーについても、この街の怪異というのも」

ザルバ『そうだな。ホラーを完全に消滅出来なくても、あれだけ渡り合える力を持つなら注意しといた方がいい』

鋼牙「なら、道を急ぐぞ」

ザルバ『今回の指令が、カオルが海外から帰ってくるまでに終わるといいな~』

鋼牙「……」



23: ◆NrFF2h.q26:2013/12/22(日) 14:59:12.59 ID:U3R1xDmLO

~翌日~

亜樹子「おはよー!」

翔太郎「おう、おはよ」

フィリップ「おはよう、亜樹ちゃん」

亜樹子「ねぇねぇ、二人とも聞いた?」

フィリップ「?聞いた、とは?」

亜樹子「昨日マッキーがさ、事件の容疑者を追ってる途中で事故にあったんだって!幸い命に別状は無いらしいけど」

翔太郎「マッキーが!?そうか、だから昨日は電話に出れなかったのか……」

亜樹子「アタシもさ、さっき二日酔いの刃さんに会ったから知ったんだけど」

亜樹子「んでさー、マッキーが翔太郎くんとフィリップくんに会いたがっているらしいよ」

フィリップ「真倉刑事が僕らに……?一体どういう事情なんだろう?」

亜樹子「アタシが留守番しとくから、行ったげなよ。あ、これマッキーのお見舞いに渡したげて」

翔太郎「果物か。気が利くな」

亜樹子「うん。でも言っとくけど、何かガイアメモリに関する事件の臭いがあったら、絶対に依頼にしてもらいなよ!」

フィリップ「なるほど、こんな時にも営業活動とはさすが僕らの所長だ」



24: ◆NrFF2h.q26:2013/12/22(日) 15:41:06.27 ID:U3R1xDmLO

フィリップ「ところで、亜樹ちゃんには昨日のコト話さないの?」

翔太郎「うーん、アイツに話すと喜んで首を突っ込みそうだかんなー」

翔太郎「でも俺たちはその場しのぎでホラーを追い払うことは出来ても、完全に倒すコトは出来ない」

翔太郎「魔戒騎士はホラーの専門家だろ?だったら素人は下手に手出しはせず任せるしかねぇよ」

フィリップ「ふむ、つまり亜樹ちゃんが危険な目に遭わないよう、打開策が見えない今はあえて言わないでおくということだね」

翔太郎「ま、まぁ、そうとも言える……」

フィリップ「とは言え、君も妙に間が悪いからね……手出しせずにいられるかどうか」

翔太郎「あ?どういう意味だよ」

フィリップ「一般人であるハズの君がここまで立て続けにホラーに出くわしてる時点で、お察しってヤツじゃないかな」

翔太郎「……」

翔太郎「いや、逆に考えようぜフィリップ。まだホラーに対抗出来る俺がホラーと出くわすことで、他の人たちが救われてるんだ……!」

フィリップ「確かに現にそうなっているようだしね。僕も身体を取り戻してから、随分と前向きに考えたがっているようだ」

フィリップ「今は取り敢えず真倉刑事の元へお見舞い、もとい営業活動へ行こう」



26: ◆NrFF2h.q26:2013/12/22(日) 17:41:48.99 ID:U3R1xDmLO

~とある屋敷~

鋼牙「……」

翼「久しぶりだな、鋼牙。ギャノンとの戦い以来か」

ザルバ『アンタはあの戦いの後、修練場で騎士の指導をしていたと思っていたが、まさか管轄を持つとはな』

ゴルバ『翼が自ら管轄を持つことを志願したのじゃよ。今まで間岱で魔戒法師の森を守り、修練場で騎士の卵を鍛えていたが、今度は魔戒騎士の原点に立ち戻り、外の世界で己を試そうというワケじゃな』

翼「よもや初の管轄でこんな異常事態に出くわすとは思わなかったが」

鋼牙「昼に行うエレメントの浄化は問題なく行えているんだな?」

翼「あぁ。ホラーを呼ぶゲートになりそうな陰我はすぐに浄化しているし、その数自体は特に増加していない」

ゴルバ『翼は昼間の見回りに多くの時間を費やしておるのじゃが、それでも自然的に発生する分には数に異常がないのじゃ』

鋼牙「それでも夜になると何故かホラーが出現している……」

ザルバ『だとすれば、ホラーを出現させるほど成長したゲートを、瞬時に作れる術を持つ何者かがいる』

翼「というのが俺とゴルバの見解だ」

鋼牙「しかしゲートを量産するようなホラーを元老院の書架で調べてみたが、デスホール以外には該当するようなホラーはいなかった」

ザルバ『しかも唯一のソイツは俺たちが前に倒したホラーだ。人間にゲートとなるマンホールの蓋を作らせていた、面倒見の良いアイツだな』

翼「伝承にも残っていないホラーの仕業か、魔戒騎士や魔戒法師の中の裏切り者の仕業か……」

翼「どちらにせよ厄介だな」

鋼牙「あと三日もすれば、元老院からレオもやってくる。レオが到着してから、俺たちは本格的な調査を始める」

ゴルバ『魔戒法師の方がホラーの探索は秀でておるからの』

ザルバ『それまでは夜間の見回り重視ってワケか』

翼「それしかないだろうな。よろしく頼むぞ、鋼牙」

鋼牙「あぁ」



27: ◆NrFF2h.q26:2013/12/23(月) 02:41:46.83 ID:QWnrU7JgO

~病院~

真倉「よぉ、探偵」

翔太郎「お、お前……完璧ミイラになってんじゃねーか!」

フィリップ「あまりに包帯まみれで、治療の意味を為しているのかむしろ疑わしいね。興味深い」

真倉「怪我自体は打撲なんだけど、擦り傷切り傷が多くって……ツイてないよ」

翔太郎「ホラ、見舞いの品な」

真倉「お、気が利くじゃないか珍しく。でも俺、今の状態じゃ果物ナイフなんて握れないんだけど」

フィリップ「もちろん、皮剥きのオプション付きだよ。我が鳴海探偵事務所が誇る探偵のね」

翔太郎「は?俺そんなん聞いてねーぞ」

フィリップ「ねぇ、翔太郎。僕は翔太郎が作る林檎のウサギの美しさを、もっと世の中に知らしめたいと常日頃から思っているよ」

翔太郎「……へーへー大人しくやりゃいいんだろー、お前には包丁は危なっかしいしな」

真倉「何が悲しくて野郎に剥かれた林檎のウサギを食べなきゃならないんだろ……彼女作ろう……」





翔太郎「なーマッキー。単刀直入に聞くけどさー、なんで俺らを呼んだんだー?」シャリシャリ

フィリップ「真倉刑事の方から何かしらの思惑を含んで僕らに会おうとするのは、トライセラトップス・ドーパントであった九条刑事の事件の時以来かな」

翔太郎「まーた上司に内緒でお手柄を立てようってか?」

真倉「……」

真倉「……だ、だって、俺のミスで犯人を取り逃がしちまったんだぞ……」

真倉「依頼料は奮発してやる。経理に泣きついてなんとか落としてやるよ。だから頼む!この通り!」



28: ◆NrFF2h.q26:2013/12/23(月) 14:45:21.04 ID:QWnrU7JgO

真倉「俺が追ってたのは強盗犯なんだよ。百貨店とか大きな店の売り上げは警備保障会社が店から売り上げを回収していくんだけど、その現金輸送車の一台が乗っ取られたんだ」

真倉「それで近くをパトカーで巡回してた俺が急行して、高速までその車を追い掛けていったんだけど……」

翔太郎「そこで事故っちまったんだろ?」

真倉「そうなんだけど……」

フィリップ「釈然としない言い方だね」

真倉「いや事故で気絶しちゃったから、アレが本当だったのか俺の幻覚や夢だったのかちょっと自信がないんだけどさ」

真倉「……道路が動いたんだよ」

フィリップ「道路が動いた?」

真倉「そう。確か高速の風花ジャンクションの辺りだ。そこを走ってたら、道路の地面が突然壁みたいにぐわ~って盛り上がって」

真倉「あれ!?って思ってるうちにその道路の壁にぶつかっちゃった……というのが俺の記憶なんだよ」

翔太郎「それ本当か?いくらなんでも道路が動くって……夢なんじゃねーの?」

真倉「俺だって自分でも信じられないし、夢なんじゃないかって思ったけど……でも同乗してた同僚もそれを見たって言ってる」

真倉「だから、きっとおそらくたぶん、間違いない!ドーパントの仕業なんだ!」ドンッ

フィリップ「本当ならば確かに間違いなく人間業ではないね」

真倉「頼むよ~強盗犯は逃すわドーパントにも無様にやられるわ……課長は今は別件を追ってて暫くいないし……」

翔太郎「挙句に刃さんは二日酔いだしなー。しゃーねぇ、一肌脱ぐか」

フィリップ「その代わり、
報酬はちゃんと弾んでくれたまえよ」

真倉「……フィリップくん、留学から帰ってきて以来なんだか一段と逞しくなってない?」



29: ◆NrFF2h.q26:2013/12/23(月) 15:18:27.02 ID:QWnrU7JgO

翔太郎「道路が動くねぇ~いくらドーパントでもそんなコト出来るのか?」

フィリップ「可能性の排除は出来ない。どんなメモリなんだろう……真倉刑事に幻覚を見せたのか?それとも空間を歪ませたのか?本当に道路を動かしたのか?」

翔太郎「取り敢えず、まずは似たようなコトが以前に起こってないかどうか、調べてみるか」

フィリップ「そうだね……僕も聞き込んでみるよ」

翔太録「お前もすっかり足で動く方になったよな~」

フィリップ「まぁね、捜査にはナマの情報を得るに越したコトはない」

フィリップ「と、二時間サスペンスで言っていた」

翔太郎「サスペンスかよ。くれぐれも道端で検索にのめり込まないようになー」



30: ◆NrFF2h.q26:2013/12/23(月) 15:47:48.86 ID:QWnrU7JgO

~高架線下~

ゴルバ『翼、ゲートになりかけている陰我じゃ』

翼「あの捨てられたタイヤの陰か」

鋼牙「……」

翼「どうだ?何か感じるか?」

ザルバ『俺には普通の陰我と変わりなく感じられるな……自然的に発生したモノに違いない』

鋼牙「……俺もそう思う。このタイヤも、時間を掛けゲートと化しつつある単なるオブジェに過ぎない」

翼「やはり昼間の見回りには問題が無いということか」

翼「……」

翼「やはりレオを待つしかないな」

鋼牙「そのようだな」



31: ◆NrFF2h.q26:2013/12/23(月) 16:27:13.88 ID:QWnrU7JgO

~商店街~

ウォッチャマン「道路が動く?その都市伝説、最近よく聞くよーまさに巷で話題って感じ」

フィリップ「本当かい?」

ウォッチャマン「ホントホント。バイクが趣味の連中じゃあ知らない人はいないと思うね」

ウォッチャマン「なんでも風花ジャンクションの辺りでツーリングをしてると、道路が生き物みたいに動いて事故に遭っちゃうって話だよ」

フィリップ「真倉刑事の話そのままじゃないか」

ウォッチャマン「もっと詳しい話が聞きたいなら、ここから先に個人でやってるバイク屋サンがあるから、そこに行きなよ」

ウォッチャマン「バイクマニアの溜まり場だから、何かしら情報を得られると思うよ」

フィリップ「ありがとう。情報提供を感謝するよ」

ウォッチャマン「いやいや~まさかフィリップくんに聞き込みされるなんて、なんだか感慨深いねぇ」

フィリップ「僕はもう安楽椅子探偵をする必要はなくなったから」

フィリップ「また事件の時は左探偵だけでなく、僕をよろしく頼むよ」



32: ◆NrFF2h.q26:2013/12/23(月) 17:25:20.91 ID:QWnrU7JgO

~バイクショップ~

フィリップ「すみません」

バイク屋「いらっしゃーい。ん?子どもがこんなバイク屋になんか用か?」

フィリップ「すみません、あの、僕はお話を伺いに来たんです。道路が動くという都市伝説について」

バイク屋「あぁ、さっきも聞かれたな……一体あの都市伝説がどうしたんだ?」

フィリップ「さっきも?」

バイク屋「あぁ、探偵風の男が来てな。都市伝説について聞きに来たよ」

フィリップ(翔太郎か……どうやら先を越されてるみたいだね)

フィリップ「すまないが、僕にもその話を聞かせていただけないだろうか」

バイク屋「あぁ、いいぜ。風花ジャンクション辺りの道路が動くって都市伝説が流れ始めたのは、今から三ヶ月くらい前だな」

バイク屋「実際、その三ヶ月であそこはかなり事故ってる。壊れたバイクを直せないか、此処に泣きながら頼み込んで来た連中が少なくとも二十人はいるよ」

バイク屋「けっこう凝った改造してたり、高いヤツに乗ってる奴もいてな。大規模な修理も出来るバイク屋はこの店くらいしかないから。まーこっちとしちゃ商売繁盛だけど」

フィリップ「そうなんですか……」

バイク屋「それでもあそこでツーリングするヤツは後を立たない。走るのに絶好の道路だからね」カタカタッ

フィリップ「……あの、そのノートパソコンで何を見てるんです?」

バイク屋「ん?あぁ、バイクが趣味の連中が集まる交流サイトだよ。俺が運営してんの。店やってるから分かると思うんだけど、俺も趣味だからね」

フィリップ「へぇ……」

バイク屋「ツーリングのために人を呼び掛けたり、道路で走った感想とかを掲示板に書いたり、個人ブログのリンクも貼ってある。ここらを走るバイク乗りは必見のサイトなんじゃない?」フフン

フィリップ「そうですか……」

フィリップ「そのサイトのURL教えてもらえますか?」



33: ◆NrFF2h.q26:2013/12/23(月) 18:14:17.60 ID:QWnrU7JgO

~サーキット~

翔太郎「あのバイクのサイトに、三ヶ月前ミュージアムの残党が書き込みをしていた……?」

サンタ「僕もねぇ、あそこの常連だったからさ。ソレを知った時はびっくりしたもんよ」

翔太郎「え?サンタちゃん、バイクなんか乗るのかよ」

サンタ「僕はこう見えて多趣味なの。それで話を戻すけど……」

サンタ「その残党も趣味でちょくちょくあのサイトを覗いてたらしくて、逮捕前日にも書き込んでたらしいよ。それで管理人のあのバイク屋さんにも聴取が行ったって」

サンタ「もうその残党が書き込んだ掲示板のログは、騒ぎになるからって消されちゃったけどね~」

サンタ「実際ネットでちょっと話題になって、掲示板も荒れて、あの頃の管理人さんはいろいろと大変そうだったなぁ……」

翔太郎「……いろいろ、というと?」

サンタ「あぁ、それはね……」



34: ◆NrFF2h.q26:2013/12/23(月) 21:30:22.22 ID:QWnrU7JgO

~鳴海探偵事務所~

フィリップ(風花ジャンクション付近で起こったバイク事故の日付)

フィリップ(そしてバイクの交流サイトで呼びかけられたツーリングや、掲示板に書き込まれた個人の走行予定の日付)

フィリップ(見事に一致している。犯人は間違いなくこのサイトを見ているハズだ)

フィリップ(さらに掲示板のログを見ていると、三ヶ月前にミュージアムの残党が書き込み、その翌日に逮捕された件で、交流サイト内は暫く盛り上がっていたようだね)

フィリップ(その逮捕された残党について星の本棚で検索したところ、ソイツに下された判決は懲役三ヶ月……覚醒剤所持程度の判決だ。恐らく組織の下っ端だったのだろう。今は晴れて自由の身だ)

フィリップ(さて、この事実がどう結び付くのか……これ以上は僕の聴き込みでは分かりようがないな)

フィリップ(今まではバイク事故ばかりだったのに、今回は強盗だなんてものものしい事件に関わっているのは気になるけど)

フィリップ(それよりガイアメモリの方だ)

フィリップ(事故が起こるのは風花ジャンクションだけ……なぜソコなんだ?)

フィリップ(その場所が好都合なのか、もしくはその場所でなければいけない理由があるのか)




翔太郎「ただいまー。おお、帰ってたのかフィリップ」



35: ◆NrFF2h.q26:2013/12/24(火) 00:04:48.19 ID:E0aBmEetO

フィリップ「やぁ翔太郎、おかえり。成果はあった?」

翔太郎「んー、まぁ、先ずはお前が分かってるコト聞いていいか?」

フィリップ「あぁ、いいけど……」



ーーーーーーーーーー



フィリップ「……なるほど。あのバイク屋は三ヶ月前は閉店寸前の経済状態だったのか」

フィリップ「これでなんとなく事件の概要は見えてきたよ」

翔太郎「あぁ。残る問題はどんなメモリかってところだけど……これはなんとかなるか」

フィリップ「エクストリームは地球のデータベースと直結しているからね。戦いながらでも対処は十分出来るハズだ」

フィリップ「それに僕の推測では、恐らくこのドーパントの能力は本当に道路を生き物みたいに動かせる力だろう。単に幻覚を見せる能力なら、場所を限定して犯行を行う必要がない」

翔太郎「確かに。とにかく、とっととマッキーの仇を取ってやんねーとな」

フィリップ「早速あのサイトに書き込むよ。今夜、風花ジャンクションをツーリングする予定だってね」



36: ◆NrFF2h.q26:2013/12/24(火) 02:32:38.28 ID:E0aBmEetO

~夜~

鋼牙「……」

ザルバ『昨日にホラーと出くわしたばっかだぜ?いくらホラーの出現頻度が増えてるとは言え、今夜は現れるのか?』

鋼牙「あのホラーは人間に憑依していた。出現してからある程度の時間が経っているハズだ」

ザルバ『確かに……』

ザルバ『……そう言えば、翼からこの街の怪異について聞きそびれてたな』

鋼牙「あの左翔太郎とかいう男がなっていたヤツだな」

ザルバ『監視するなんて言ってたが、結局何にもしなくていいのか?』

鋼牙「……きっとまたすぐ出くわすことになる」

ザルバ『ふぅん。何故そう思う?』

鋼牙「アイツの態度、ホラーと既に何回か遭遇している様子だった」

鋼牙「探偵という職業からしても、ホラーの存在に関係しやすいだろう。元々この街の怪異にあんな風に首を突っ込んでいる人間だ」

ザルバ『ふむ……まぁ、一瞬出会った印象だが、あの翔太郎という男は特に、大事に巻き込まれやすそうな面白そうな奴だな』

鋼牙「……お前の人の好みはよく分からん」



39: ◆NrFF2h.q26:2013/12/24(火) 13:27:43.81 ID:E0aBmEetO

ザルバ『!鋼牙、さっそくホラーの気配がするぞ』

鋼牙「……やはりな」チャキッ

ザルバ『あっちだ!』

鋼牙「……」ダッ

ザルバ『ヤツの姿が見えた!素体ホラーだな。生まれてまだ間もない』

鋼牙「……」ダッ

ホラー『……!』バッ

鋼牙「はぁ!」ザシュッ!

ホラー『~~!!』バッ

ザルバ『直前で気付かれたな』

ザルバ『素体ホラーにしてはすばしっこいヤツだぜ。人間に憑依されたらもっと俊敏になるだろうな』

鋼牙「だが、ダメージは喰らってる。アレなら俺の足でも追える」

ザルバ『おい、鋼牙。ヤツは高速道路の入口の方へ逃げ込もうとしてるぞ』

鋼牙「高速か……この時間帯なら車は少ないと思うが」

ザルバ『そうであることを願うぜ』



42: ◆NrFF2h.q26:2013/12/24(火) 15:53:07.12 ID:E0aBmEetO

~風花ジャンクション付近~

翔太郎「高速でさ、車やバイク乗らずに歩くってこれ、一応法律違反だよな?」

翔太郎「まぁ、ここらは交通量が普段から少ないから歩いても問題ないだろうけどな、特に夜中なんて」

翔太郎「そんなワケでツーリングには最適なんだけど」

フィリップ「君の言う通り、確かに高速道路を歩くコトは違法だ」

フィリップ「しかし高速道路を走行中、何かしらのトラブルで車両が停止し、降車して路上を出歩く場合もある。そういう場合は考慮されるんじゃないかな?」

フィリップ「例えば……路上でドーパントに出くわした、なんて時とか」





バイク屋「……」

翔太郎「ま、ドーパントになる予定ってとこだけど……」

翔太郎「なんでこんなトコでバイクを降りて、突っ立ってるのかな?」



43: ◆NrFF2h.q26:2013/12/24(火) 17:02:27.44 ID:E0aBmEetO

翔太郎「ドーパントになる前に会えて良かったぜ」

バイク屋「……あの書き込みはアンタらか、くそ」

フィリップ「随分と血気盛んですね。強盗事件で警官を二名負傷させたばかりだというのに……」

フィリップ「どうやらアナタの精神汚染はかなり進行しているようだ」

翔太郎「だからこそ、出所したミュージアムの残党が起こした強盗事件に加担しようなんて、そんな考えを起こしたのかもな……」

バイク屋「……」




翔太郎「三ヶ月前、アンタの運営しているホームページにミュージアムの残党が書き込んだ。その書き込みの内容を見ていた人物を探したぜ。まぁ、常連御用達のサイトだからすぐ見つかったけど」

翔太郎「残党の書き込みはツーリングの誘いだった。そしてその誘いに応じる書き込みをしたのは、アンタだったそうだ」

フィリップ「残党は自分がもうすぐ逮捕されることを知っていたんだろう。そして刑を軽くするため、自分が所持していたガイアメモリを誰かに渡してしまいたかった。だからツーリングの相手を募った」

翔太郎「そういうワケでソイツからガイアメモリを手に入れたアンタは、バイク事故を起こしまくった。その事故はどれも軽い転倒で済んでいて死亡者は出ていない」

翔太郎「死んじまったら、バイクを修理に出してくれねぇもんな?」

フィリップ「あのサイトの常連なら、バイク修理は確実にアナタに依頼するだろうしね。それで廃業寸前だった店は一転、売上は右肩上がりになった」

フィリップ「そして三ヶ月後、無事に軽い刑期で出所した残党は、アナタに会い、ガイアメモリの能力を活かした強盗計画を持ちかけたワケだ」

翔太郎「……黙って聞いてくれてたけど、異論はナシってことでいいか?」



45: ◆NrFF2h.q26:2013/12/24(火) 18:08:10.87 ID:E0aBmEetO

バイク屋「……」

翔太郎「言っとくけど、タダの推測だって言い張るなら、今すぐここに警察を呼んでもいいぜ?」

フィリップ「僕たちは現在進行形で法律違反中だからね。きっと彼らは飛んで来てくれるよ」

翔太郎「そうすりゃ、アンタが所持してるガイアメモリは見つかっちまうな」





バイク屋「……強盗犯」

翔太郎「あ?」

バイク屋「強盗犯、今頃どこにいると思う?」

フィリップ「……アナタにメモリを渡した残党のことだね?その質問はどういう意味かな?」

バイク屋「まぁ、分からないか。正解はね……この下だよ」

翔太郎「この下って……下は一般道だぞ?」

フィリップ「……いや違うね」

フィリップ「この道路の中……アナタが言いたいのはそういう意味かな?」

翔太郎「は?道路の中って……!?」

フィリップ「道路を自由に動かせるのなら、可能かもしれない」

翔太郎「で、でも……それじゃあ残党は」

バイク屋「この道路を液体状にしてね、残党を中でぎゅぎゅう詰めの生き埋めにしたんだ。たぶん窒息死してる。ちなみに盗んだ金もちょっと離れた所に埋めてる。輸送車もバラバラにして埋め込んだ。いい隠し場所だろ?」

翔太郎「お、お前……なんつー……とんでもねぇことを……」

翔太郎「つ、つうか、それなら金は十分にあるんだろ!?なんで俺たちの書き込みに釣られて、こんな所へ……」

フィリップ「……もう彼には、まともな理性は残されていないということだよ」

バイク屋「俺がなんでこんなコトを教えてあげたか分かるか?」

バイク屋「つまりアンタらも残党のヤツと同じように隠せば俺には問題ない……そう教えてあげたかったからだよ!!」



46: ◆NrFF2h.q26:2013/12/24(火) 19:39:30.36 ID:E0aBmEetO

バイク屋「……」スッ

『ハイウェイ!!』





翔太郎「おい聴いたか、相棒?」

フィリップ「あぁ、確かにハイウェイって言ったね」

翔太郎「ホント、ドーパントになる前に会えて良かったってモンだ」

フィリップ「メモリの精神汚染を警戒して、極力使用時間を減らしたかったのかな。もはや意味を為していないけど……」

フィリップ「すぐにエクストリームにするよ。能力を閲覧する」

翔太郎「りょーかい!」



『サイクロン!』

『ジョーカー!』

翔太郎・フィリップ「「変身!!」」



CJ(フィリップ)『さてと、早速エクストリームメモリも来てくれたね』

CJ(翔太郎)『前々から思うけど、俺も俺のピンチに駆け付けてくれるよーなメモリが欲しいぜ』

CJ(フィリップ)『なに言ってるんだい……そんなモノ持たないに超したことないよ』

CJ(フィリップ)『それより、行くよ翔太郎?』

CJ(翔太郎)『あぁ』

『エクストリーム!』





CJX(フィリップ)『……ハイウェイ・ドーパントの全ての情報を閲覧した』

CJX(翔太郎)『ガイアウィスパーを俺たちに聞かせたのはお前のミスだな、バイク屋』

CJX『さぁ、お前の罪を数えろ!!』



47: ◆NrFF2h.q26:2013/12/24(火) 19:44:16.09 ID:E0aBmEetO


ハイウェイメモリはガイアメモリのコンプリートコレクションから採用してます。
あと序盤のホラー、フルーレティはキリスト教あたりの悪魔名です。
容姿については特に考えていないので、自由に想像していただければと思います。



51: ◆NrFF2h.q26:2013/12/24(火) 22:20:36.65 ID:E0aBmEetO

ーーーーーーーーーー



鋼牙「ふんっ!」ザシュッ

ホラー『!!』ゴロゴロ

鋼牙「いい加減にカタを付けてやる」

ホラー『……!』ダッ

ザルバ『まったく、アイツどこまでも逃げる気だな。見上げた根性だぜ』

鋼牙「……」タッ



ーーーーーーーーーーー



鋼牙「……」

ザルバ『お、おい……鋼牙、これは……』

鋼牙「……俺たちは幻を見ているのか?」

ザルバ『まさか……コレが、この街の怪異ってワケか……!?』

鋼牙「道路が、波打っている……かと思えば、急に鋭い刃のように盛り上がる……一体何が起こっているんだ……」





CJX(フィリップ)『ハイウェイ・ドーパントは自身を道路と融合しその道路を自在に操る。しかし道路を動かすなんて強大な力の反動か、或いは制御装置か、このメモリには三つの大きな制限がある』サッ

ドゴンッ!

CJX(フィリップ)『……それは最初にメモリの力を発現した道路でなければ能力が発動しないこと、能力の適応範囲が約3kmであること……』サッ

ボガッ!

CJX(フィリップ)『そして三つ目は、自身を道路と融合せねばならないこと』

CJX(翔太郎)『つまりヤツが能力を使ってる間は、道路と融合されてて攻撃できないってのか!?』

CJX(フィリップ)『そうだ。しかし逆に言えば、能力を無効化すれば、否が応でもヤツは道路との融合を解かれ、丸裸だ』

CJX(翔太郎)『能力の無効化……ならビッカーチャージブレイクを使えば!』

CJX(フィリップ)『ご名答。3kmの範囲なら、今の僕らのフルパワーで挑めばなんとか届くだろう。メモリの能力を無効化できるあの技でヤツの融合を解く』

CJX(翔太郎)『なるほどな。早速プリズムビッカーの出番だぜ』バッ



『ルナ・マキシマムドライブ!』

『ジョーカー・マキシマムドライブ!』

『ヒート・マキシマムドライブ!』

『サイクロン・マキシマムドライブ!』



CJX『ビッカーチャージブレイク!!』



52: ◆NrFF2h.q26:2013/12/24(火) 22:46:46.65 ID:E0aBmEetO

ハイウェイ『ぐぁぁぁああああ!!』ゴロゴロ

ハイウェイ『な、何故だ……何故、無敵の融合が解かれた!?』

CJX(翔太郎)『はんっ。無敵な能力も、完全犯罪も、そんなモンはねぇんだよ』

CJX(フィリップ)『バイクを愛していたハズのアナタが、故意に事故を起こさせ、金儲けのために壊していたなんて……』

CJX(フィリップ)『修理に訪れた人たちのバイクを愛する気持ちを、アナタは誰よりも理解していたハズなのにね』

CJX(翔太郎)『……やれやれ、言いたいコト全部お前に言われちまったぜ。とっとと決めるぞ、フィリップ』

CJX(フィリップ)『あぁ』



『プリズム・マキシマムドライブ!』



CJX『プリズムブレイク!!』

ハイウェイ『ぐわぁぁぁああああああ……!!』



パリンッ



バイク屋「ぐ、ぐぅぅ、ぅうう……」バタンッ





鋼牙「……」スタスタスタ

翔太郎「あ、お前」

フィリップ「おや、君は」

鋼牙「……今コイツから飛び出て壊れたメモリは、お前たちが使っているものと一緒なのか」

フィリップ「なかなか凄い観察眼だね。そうだよ。僕らはガイアメモリって呼んでる」

フィリップ「ガイアメモリを使用した人間はドーパントと呼ばれる怪人になる。そしてさっきのように超常的な力を使う」

翔太郎「だが、ガイアメモリをこういうドライバー無しで使うと、メモリの精神汚染作用でまともな理性を失っていくんだ」

鋼牙「……ガイアメモリが、この街に起こる怪異の原因か」



54: ◆NrFF2h.q26:2013/12/24(火) 23:24:58.93 ID:E0aBmEetO

翔太郎「お前こそなんで高速道路なんか歩いてんだよ。法律違反だぞ?」

フィリップ「他人のコト言えないけどね」

鋼牙「手負いの素体ホラーを追ってここまで来た。だが道路が動いていたあのどさくさの中で見失ってしまった」

翔太郎「マジか。それは申し訳ないな」

鋼牙「……俺の失態だ」

フィリップ「う~ん、やっぱり君はストイックだねぇ」




ザルバ『鋼牙、ホラーの気配は消えてないぜ』




翔太郎「?何だ今の声?」キョロキョロ

鋼牙「なんだと……本当か、ザルバ」

ザルバ『あぁ。しかもさっきより強力な気配だ……ヤツは人間に憑依したようだぞ!近くにいる!』




フィリップ「指輪が喋った……。もしかしてこれが、ホラーを封じた本物の魔導具!」

翔太郎「え?えぇ!?ホラーって倒さなきゃいけない敵じゃねぇの?そんなん指輪にして身につけていいのか?」

フィリップ「人間に協力的なホラーもいる。そういうホラーは魔導具として、魔戒騎士を助太刀しているんだよ」

翔太郎「へー……まぁ俺たちのドライバーも元はミュージアムの道具だしな」




鋼牙「この道路は見渡しはいいが、人影は見えない。あそこで気絶している男も無事だ。ホラーに憑依された人間など近くには……」

フィリップ「いや、確かに近くにいるかもしれないよ、冴島鋼牙」

鋼牙「何だと?」

翔太郎「……ああ!!ま、まさか……」

翔太郎「この、地面の、中の……?」

フィリップ「そう、地面の中にはハイウェイ・ドーパントによって生き埋めにされた、ミュージアムの残党がいる」

フィリップ「もし詰め込まれた体勢がうまくいって、僅かな酸素の確保に奇跡的に成功し、未だ窒息死せず道路の中で運良く仮死状態にでもなっているとしたら……」

鋼牙「ソイツに憑依したというのか!?」



ドゴォォオオ!!



56: ◆NrFF2h.q26:2013/12/25(水) 00:14:42.11 ID:xteEutDZO

???『……』

翔太郎「うわ!?な、なんだアレ……!」

ザルバ『アイツはセーレ。瞬きをする間にあらゆるコトを為してしまう、という伝承のあるホラーだ』

ザルバ『要はかなりすばしっこいヤツってワケだな』

セーレ『魔戒騎士め……よくも私を傷付けたな!』

フィリップ「あのセーレというホラー、何か言っているようだけど」

ザルバ『やっこさん曰く、鋼牙にかなりご立腹だそうだ』

セーレ『先ずはお前を倒してから、残りの人間どもを喰ってやる!!』

鋼牙「……お前たちは下がれ」

鋼牙「ここからは俺の仕事だ」

セーレ『ガァァアア!』

鋼牙「……ハァァアア!」



キィン!キィン!キィン!



翔太郎「あのホラー、ホントに速いな!鋼牙も生身でよく戦えるぜ」

翔太郎「……でもアイツ、ミュージアムの残党が憑依されたヤツなんだよな……」

翔太郎「ホラーを倒したら、どうなるんだ?」

フィリップ「僕らもフルーレティの最期を見ただろう。ホラーに憑依された人間が元に戻る術は無いよ、翔太郎」

フィリップ「そして身体を奪われホラーに囚われた魂は、憑依されている限りずっと激しい苦しみに苛まれる」

翔太郎「ま、マジかよ……ホラーになっちまったら、完全に救いがねぇのか」

フィリップ「あぁ。……あるとしたら、その命を絶ち、ホラーに囚われている苦しみから解放させるしかない」

翔太郎「魔戒騎士は人知れずそんなヤツらと戦っているのか……」

フィリップ「僕たちのいる世界とは違う世界だね……しかし確かに現実にあるんだ」



57: ◆NrFF2h.q26:2013/12/25(水) 01:51:55.96 ID:xteEutDZO

鋼牙「……」スッ

鋼牙「……」クルリッ

牙狼『……』

セーレ『な、なに!?黄金騎士か!まさか……くそっ!』ダッ

牙狼『逃がすか!』

ザルバ『鋼牙、烈火炎装だ!!』

ボォオッ

牙狼『うぉぉぉおおお!!』

ザシュッ!!

セーレ『ぐわぁぁぁあああああ!!』





翔太郎「つ、つぇー……アイツ俺と同じ人間なのか?」

フィリップ「魔戒騎士の鎧は99.9秒の時間制限があるんだよ。だから鎧を召喚してからの勝負の決着は早いんだろうね」



58: ◆NrFF2h.q26:2013/12/25(水) 02:18:03.75 ID:xteEutDZO

鋼牙「……こちらのコトばかり全て知られているのは気に入らないな」

翔太郎「へ?」

鋼牙「この街の怪異……あれほどのことを起こせるとは思わなかった」

鋼牙「アレと戦うお前たちは一体何者なんだ」

フィリップ「僕たちは《仮面ライダー》と呼ばれている」

ザルバ『仮面ライダー?随分と変わった名前だなぁ』

翔太郎「この街の人たちが俺らのことをそう名付けてくれたんだよ。変な名前とか言うなっつーの」

鋼牙「仮面ライダーはガイアメモリの力で戦う戦士……そのガイアメモリはどうやって作られる?」

翔太郎「ミュージアムって組織が作ってたんだ。ソイツらがメモリを街にばら撒いてた」

翔太郎「でももうその組織はなくなって、ガイアメモリを新しく作れる連中はいないんだけどな」

フィリップ「それでもまだ、残っているメモリがこんな風に出回っているんだよ」

ザルバ『なるほどな』

フィリップ「ガイアメモリを挿入しドーパントになった人間を元に戻すためには、メモリを体内から排出させなければならない」

フィリップ「それでもまだメモリの使用者は、さっき言ったガイアメモリの精神汚染、つまり中毒症状から逃れられない。そのためにはメモリを完全に破壊しなければならないんだ」

翔太郎「それがさっきのメモリブレイクな。そうすりゃ、正気に戻るってワケ」



65: ◆NrFF2h.q26:2013/12/25(水) 13:52:05.65 ID:JbKqp9FaO

鋼牙「これでこの街の怪異も大体分かったな」

鋼牙「……」スッ

鋼牙「……」サラサラ

翔太郎「ん?何メモに書いてんだ?お前」

鋼牙「……今俺がいる屋敷と繋がる番号だ」

翔太郎「あ、どうも、ご丁寧に」

鋼牙「俺の仲間の屋敷だが、俺の名を出せば話を通してくれるハズだ」

鋼牙「ホラーに出くわしたら連絡をくれ。俺もドーパント遭遇することがあれば連絡する」

フィリップ「僕たちの力はアテにしてないんじゃなかったっけ?」

鋼牙「気が変わった」

翔太郎「ど、堂々としてんな~」

鋼牙「……じゃあな」スッ





翔太郎「俺たちのこと、見直してくれたってトコか?」

フィリップ「ぼくの見解では、君と冴島鋼牙の性格ではいがみ合うと思ってたけど、意外にスンナリいくもんだね」

翔太郎「……お互い似たようなヤツが仲間にいるんじゃねーの?」

フィリップ「あぁ、なるほど……翔太郎みたいに気障なヤツが、あんなストイックな彼の知人にいるのは考えにくいけどねぇ」

フィリップ「でもいたとしても、君のハーフボイルドはオンリーワンだから、安心しなよ翔太郎」シミジミ

翔太郎「なぁ、お前ケンカ売ってんのか?」

フィリップ「全然?」キョトン

翔太郎「……」



66: ◆NrFF2h.q26:2013/12/25(水) 14:03:54.50 ID:JbKqp9FaO

ザルバ『どういう風の吹き回しなんだ鋼牙?連絡先なんか教えて』

鋼牙「アイツらは俺の任務に使えるヤツらだと判断した」

ザルバ『というか、信頼したんだろう?』

鋼牙「……」

ザルバ『そうじゃなきゃ、連絡先なんて渡すヤツじゃないだろ、お前は』

ザルバ『実際、アイツらが持つ力は相当なモンだぜ。戦闘技術自体は師事を受けていない我流だが、何より肝が据わってる』

ザルバ『いろんな戦いを経験したんだろう。ホラーと渡り合えているワケだ』

鋼牙「……」

鋼牙「以前の俺なら、間違いなく相手にしなかったろうがな」

ザルバ『以前のお前?今でさえ誰彼構わずツンツンしてるじゃないか』

鋼牙「……」

鋼牙「それこそ以前のお前なら、俺の言葉に一も二もなく同意したぞ」

ザルバ『ん?何だって?聞こえなかったぞ鋼牙』

鋼牙「何でもない」



67: ◆NrFF2h.q26:2013/12/25(水) 16:57:39.37 ID:JbKqp9FaO

~翌日、病院~

翔太郎「よーマッキー」

フィリップ「お加減の方は?」

真倉「もうすぐ退院。医者の人も治りが早いって驚いてたよ」

翔太郎「んじゃ、退院の前祝いに」

フィリップ「依頼された事件は解決したよ。犯人はもう送検されてるだろうね」

真倉「えぇ、もう!?」

翔太郎「依頼料をマケてやるために頑張って速攻で解決してやったんだよ。感謝しろよ?」

フィリップ「これ、亜樹ちゃんから請求書ね」

真倉「……でも三割増しは変わらないんだ……」

翔太郎「キッチリ頼むぜ。なんならまたなんか剥いてやろうか?」

真倉「結構です!もう自分で剥けるし。なんなら剥いてやる勢いだぞ!ちょっと待ってろ~」シャリシャリ

翔太郎「いや、野郎の剥いたのはちょっと……つかその林檎も元々こっちの差し入れだし」

真倉「オラ、どーだ!俺の剥いた林檎のウサギ!」ドンッ

フィリップ「……随分と歪だねぇ。ウサギというか、ハムスターかな?」

フィリップ「やっぱり翔太郎のが上手だね。風邪をひいたついでにせがんで作ってもらった時は感激したよ」

翔太郎「事務所でまともに料理出来るのは俺しかいないからな……」

フィリップ「僕は君の肉じゃがが一番美味しいと思うよ」

翔太郎「はぁ……自分のしてるコトなのに俺のハードボイルド像が崩れていく……」

真倉「退院したら依頼料を払いに行くから、所長さんによろしくな~」ムシャムシャ



70: ◆NrFF2h.q26:2013/12/25(水) 23:31:42.45 ID:JbKqp9FaO

ーーーーーーーーーー
ーーーーー
ーー




今日はレオがこの街に到着する日だ。
約束の時間の正午まであと30分ほど。
俺は応接間のソファに座りながら、一枚の手紙を見ていた。
カオルからだ。
彼女は今海外で長期間の個展を開いている。
規模自体は小さいらしいが、ついでに現地で絵の武者修行をするのだと、出発前に瞳を輝かせながら言っていた。
手紙には一枚の画用紙が折り畳まれて封入されており、開いてみると赤い金魚が色鉛筆で鮮やかに描かれていた。





この頃カオルのことをよく考える。
彼女はとても奔放で、明るくて、気高くて、優しさを持つ人間だと思う。
夜の闇に生きる俺には、それを何と形容していいのか分からない。



俺は彼女といたいと思う。
彼女と家族を持てたら、どんなに幸せだろうかとも思う。
だがしかし、俺と家族になるということ、それは魔戒の戒律の中で生きねばならないということだ。
子どもが女なら魔戒法師に、男なら魔戒騎士に育てることになるだろう。
牙狼という名を持つ以上、家族を持てば子には魔戒の道を歩んでもらわなければならない。



どんなに心を許した親友であっても、どんなに愛した想い人であっても、ホラーに憑依されれば手をかけねばならない。
そうでなくても、魔戒の者は人の醜い闇にどっぷりと漬かる運命。
俺がカオルと家族になるということは、彼女の子をそんな辛く厳しい運命へ歩ませることになるのだ。



俺は今でも、この血を絶やしてもいいと思っている。
俺と家族になることで、彼女が悲しむ運命を歩まなければならないのならば、今のままでいい。



画用紙から顔を上げると、ちょうど正午の鐘がなった。
遠くから扉の開く音が聞こえてくる。
俺はソファから立ち上がり、玄関へレオを迎えに行くことした。




ーーーーーーーーーー



71: ◆NrFF2h.q26:2013/12/25(水) 23:47:32.82 ID:JbKqp9FaO

~正午、鳴海探偵事務所~

亜樹子「翔太郎くんさ~」ムシャムシャ

翔太郎「あー?」モグモグ

亜樹子「わりとお洒落なパスタとか、ビーフシチューとか、ラザニアとか、凝ったモン作ったりするじゃん?」ムシャムシャ

フィリップ「確かにそうだね」パクパク

亜樹子「でもさ~サバの味噌煮とか、ブリ大根とか、何より肉じゃがとか、そういう純和風のお袋の味!って感じの家庭料理の方が美味しいんだよね~」ムシャムシャ

フィリップ「亜樹ちゃん、同感だよ。翔太郎の家庭料理の味付けは非常に優しく、素材の味を生かしている。まさに古き良き日本の味と言うに相応しい!」

翔太郎「……」ズーン

亜樹子「なんでしょげてんのよ、私に対する嫌味かっちゅーの」

翔太郎「料理が嫌いじゃねーだけに複雑な気分……」

亜樹子「いいじゃん。料理出来る男の人ってモテるんじゃないのー?」

翔太郎「……」ズーン

フィリップ「モテてないもんねぇ」

翔太郎「~~くっそぉぉぉおおおお!」ガツガツ



72: ◆NrFF2h.q26:2013/12/26(木) 00:04:42.44 ID:BrdfdoGYO

~食後~

翔太郎「ふぅ、後片付け終了!」

フィリップ「お疲れ翔太郎」

翔太郎「……なんで俺は家事をここまでスムーズにこなせてしまっているのか……」ズーン

フィリップ「生活能力が皆無な僕と二人きりだった、あの一年間での君の家事スキルの成長っぷりは目覚しいものがあったねぇ」

翔太郎「……俺だって……俺だってモテてーよ!」

翔太郎「彼女の手料理とか食べてーよ!」

亜樹子「モテない男の妄執は恐ろしいわね~」プークスクス

亜樹子(ま、元は悪くないんだけどね~。でもソレ言ったら調子乗るところが、ダメダメなのよね)





ガチャリ





???「あの……ごめんあそぼせ」

亜樹子「あ、はい!鳴海探偵事務所へようこそ!」

亜樹子(うわ~見るからにお嬢様だわ!服も高そう……年は私よりちょい下かな?)

お嬢様「……あぁ!やっと見付けたわ!わたくし自らこの街を探し回った甲斐があったというもの!」ズカズカズカッ

フィリップ「あの、見付けたとは一体」



ズカズカズカズカ

ピタッ



翔太郎「……え?」

お嬢様「探しましたわ左翔太郎様!!」ガシッ

翔太郎「え?あの、手、え?」アタフタ

お嬢様「私の殿方となって下さい、左翔太郎様!!」





亜樹子・フィリップ・翔太郎「「「…………」」」



亜樹子「えええぇぇぇぇえ!?」

翔太郎「はぁぁぁああああ!?」

フィリップ「まさかの展開だよ……興味深いなんてもんじゃない……ゾクゾクするねぇ!!」



73: ◆NrFF2h.q26:2013/12/26(木) 01:45:58.40 ID:BrdfdoGYO

亜樹子「つ、つまりお嬢様は普段はイギリスに住んでらっしゃってて、一年前、たまたま風都にある別荘に訪れていた時、テレビでフーティックアイドルを観た」

フィリップ「そしてそこで仮面シンガーとして登場した翔太郎に、一目惚れした」

お嬢様「そうなんですの。でもその後すぐイギリスに戻らなくてはならなくて……」

お嬢様「ですのでまたこの風都に戻ることがあれば、必ずや翔太郎様を探し出し、結婚を申し込もうと心に決めておりました!」

翔太録「ブッ!?」

フィリップ「出た、翔太郎名物コーヒー噴き」

亜樹子「やな名物ね~……」

翔太郎「ゲホッ、コホッ……つか、け、結婚!?まともに顔を合わせてさえいないっていうのに、話が飛躍し過ぎなんじゃないか?」

お嬢様「何を言っていますの?わたくしがお付き合いすると決めた方は、それ即ちわたくしの生涯の伴侶ということですわ」

お嬢様「それにセバスチャンに命じて貴方のコトを調べさせていただいたので、性格・趣向は概ね理解しております」

お嬢様「その上でわたくしは結婚を申し込んでいるのです!」ズイッ

翔太郎「いやーあのですね、アナタは俺を知っていても、俺はアナタを知らないワケでして……」タジタジ





亜樹子「翔太郎くん見事に押されてるわね~」コソコソ

フィリップ「う~む、翔太郎の理想の女性は須藤雪絵さんのような、ミステリアスで大人の魅力のある女性だからねぇ」コソコソ

亜樹子「彼女は雪絵さんとは正反対の可愛い系だもんね~ちょっとツボとは違いそう」コソコソ

フィリップ「見ている分には面白いけど、今日のところはなんとかお引き取り願ってもらうのが……」コソコソ

亜樹子「そうよねぇ~いい加減に本人も困ってるし」コソコソ



74: ◆NrFF2h.q26:2013/12/26(木) 03:50:32.21 ID:BrdfdoGYO

※注
唐突ですが、寝る前に無駄な補足を。
セーレの名前はソロモン72柱からです。
あと以降出てくるガイアメモリはコンプリートコレクションから拝借します。
もちろん能力はメモリ名から適当に考えたオリジナルですが……。
時間軸の設定としては、鋼牙サイドは蒼哭の魔龍以降、ダブルはVシネ以降です。
みんな成長してるのであんまりいがみ合わないです、たぶん。



77: ◆NrFF2h.q26:2013/12/26(木) 11:48:25.96 ID:BrdfdoGYO

お嬢様「……確かにそうですわね。貴方はわたくしとは初対面ですもの」

翔太郎「そ、そうそう、そうだろ?分かってくれれば」

お嬢様「ですから今晩デートしましょう!実はもう屋敷で貴方とのディナーの用意をさせていますの!」

翔太郎「」





フィリップ「とうとう翔太郎が固まってしまった」

亜樹子「なっさけないわね~もう!」ヤレヤレ

亜樹子「え、えーっとですねお嬢様?翔太郎くんはぁ、この事務所の探偵で働いてもらってるんですよ~」

お嬢様「?存じていますが」

亜樹子「だからその~彼にお仕事で稼いでもらわないとぉ、私たちも生活がかかってるんでぇ」

亜樹子「お誘いは嬉しいんですけど、今夜はちょっと急過ぎるっていうか、依頼がきちゃうかもしれなくもないので~」

お嬢様「あぁ、そうですわね。それは失礼いたしました」

亜樹子「分かってくれました!?」

お嬢様「では依頼しますわ。今晩のディナー、わたくしとご一緒して下さい」ニッコリ

お嬢様「こんな事態に備え、依頼料を持って参りましたの」ドサッ

亜樹子「」

フィリップ「……さようなら……僕の相棒……」

翔太郎「ふざけんな!お、お前ら、金で俺を売る気か!そうなんだな!」

亜樹子「いや依頼料もらったしこれ立派な仕事だからホント」

翔太郎「おい亜樹子ぉぉおお!!」



80: ◆NrFF2h.q26:2013/12/26(木) 14:46:11.60 ID:BrdfdoGYO

~翼の屋敷~

レオ「お久しぶりです、鋼牙さん、翼さんも」

鋼牙「あぁ」

翼「すまない、わざわざ遠方から」

レオ「いえ、こちらこそ準備で遅れて申し訳ないです。いろいろ持っていく道具があったので」

レオ「取り敢えず、まだ通常通りに昼の見回りと夜の活動を行ってもらえますか?」

レオ「昼の見回りで見つけたゲートになりかけの陰我は、僕の持ってきた魔導具で改めて検査してみます」

鋼牙「そして夜に現れたホラーも、生け捕りにしておくんだな」

レオ「はい。そちらも何か異常があれば僕が改めて調べてみます」

翼「それでどちらも異常がなかったら、どうする?」

レオ「僕は僕で今から街に大規模な結界を張ります。結界と言っても、ホラー探索のレーダーみたいな感じですね」

レオ「ホラーが発生すればリアルタイムで分かります。つまり翼さんたちが睨んでいる通りならば、昼間に何もなかった所で突然ホラーが発生するハズです」

鋼牙「そうすれば故意に発生させられたホラーを見付けて、調べるコトが出来る」

翼「では昼に見付けたゲートになりかけの陰我は、きちんと把握しなければならないな」

レオ「ええ、そうですね」

レオ「ただこの結界ですが、街全体にかけるワケですから準備は三日ほどかかります」

レオ「よければ翼さんのお力も借りたいんですが……」

翼「あぁ、俺も元は魔戒法師の修行をした身。法術の心得はある。手伝いなら出来るだろう」

鋼牙「では見回りは俺がやっておく」

レオ「よろしくお願いします」



81: ◆NrFF2h.q26:2013/12/26(木) 15:47:03.95 ID:BrdfdoGYO

レオ「あ、忘れてた。鋼牙さん」

鋼牙「……」クルリッ

レオ「グレス様から、これ」スッ

鋼牙「指令書……」

鋼牙「……」カチッ

ボオッ

鋼牙「陰我を生みし魔のダイヤ、この地に在り。ただちに回収されたし」

レオ「なんでも度々ゲートを生み出すオブジェになったダイヤのネックレスが、この街にいる金持ちに買い取られたそうなんですよ」

鋼牙「……何故そんなものが今まで放置されていたんだ?」

レオ「どういうワケか、魔戒騎士や法師が見付けたって時に限って入れ違いで他人の元へ流れ、相も変わらずゲートを生み出しながら、あれよあれよという間にこの街へ辿り着いたようですね」

鋼牙「運の良いダイヤだな」

レオ「う、運が良い……ですか?」

鋼牙「だがそれもここまでだな」

鋼牙「その捜索も並行して行おう」



82: ◆NrFF2h.q26:2013/12/26(木) 16:42:55.32 ID:BrdfdoGYO

~豪邸、食堂~

翔太郎「……」

翔太郎(園咲の屋敷並みだぞ……これで別荘だって?)

翔太郎(何でも上には上がいるもんだなぁ)ハァ

給仕「シェフのびっくり玉手箱です」カチャッ

翔太郎「へ?うわ、何だコレ!?蓋の中が煙で見えない……」

給仕「皿の底にドライアイスを入れてあるのです。どうぞ、蓋を開けてお召し上がり下さい」

翔太郎(……家の中で食べる料理に、こんな仕掛けするモンか?普通……)

翔太郎(あ、中は普通に魚介類の刺身だ……よくわかんないソースがかけてあるし、飾り付けも凄いコトになってるけど)

お嬢様「この料理、翔太郎様のタメにシェフに無理をいってお願いしたんですの。何かサプライズが欲しくて」

翔太郎「そ、そーなんだー……」

翔太郎「コホン……あのさ」

お嬢様「はい?」

翔太郎「ホントに、俺とその、キミは結婚したいの?」

お嬢様「はい、勿論ですわ」

翔太郎「でもキミ、まだ20になってもないだろ?そんな年で結婚なんて、随分マセてるというか……」

お嬢様「そんなコトありませんわ。当たり前のコトですもの。殿方になりたいと仰ってくる方は幼い頃から沢山おりますから、嫌でも結婚について考えますわ」

翔太郎「な、なるほど……そりゃ考えるよねーうん」



83: ◆NrFF2h.q26:2013/12/26(木) 17:04:28.42 ID:BrdfdoGYO

翔太郎「ま、まぁ、気持ちは分かったよ。でも結婚ってのはこうして一度会ったダケではいそうですか、にはならないだろ?」

お嬢様「仰る通りです。翔太郎様も私の殿方になるのでしたら、お仕事の引継ぎをする時間も必要でしょうし」

翔太郎「……ん?引継ぎ?」

お嬢様「あら、言ってませんでしたか?私の殿方となっていただくからには、探偵稼業はお辞めになっていただかなければなりませんでしょう?」

翔太郎「」



84: ◆NrFF2h.q26:2013/12/26(木) 17:49:18.47 ID:BrdfdoGYO

翔太郎「た、探偵を辞めろだって……!?」

お嬢様「はい」

翔太録「……だったら悪ぃけどこの話はナシだ」カチャーンッ

お嬢様「翔太郎様!」ガタッ

翔太郎「もっといい人見付けてくれよ、お嬢さん。言うだろ?世の中には星の数ほどのーー……」

SP「……」ズイッ

翔太郎「おい、ちょっと。今カッコイイ台詞いって颯爽と去るところなんだけど」

SP「……」ドッシリ

翔太郎「ちょ、くそっ、図体でけーなクソ」グイグイ

SP「……」グイグイ

お嬢様「翔太郎様……今日はお泊まりですって」カツカツ

お嬢様「お部屋にご案内して差し上げて?」

SP「畏まりました」

ヒョイッ

翔太郎「うお!?」

SP「それではご案内いたします」テクテク

翔太郎「ちょ、おろ、降ろせー!監禁だぞこんなの!ていうか担がれるくらいなら自分で歩くから、頼むから降ろしてくれー!!」ユッサユッサ



85: ◆NrFF2h.q26:2013/12/26(木) 23:44:39.67 ID:BrdfdoGYO

~客室~

SP「……」ドサッ

翔太郎「うわっ」バフンッ

翔太郎(な、なんだこのフカフカなベッド……まるで高級ホテルのスイートルームだな)

SP「この客室をお使い下さい。シャワールームも完備しております。寝具はまたお持ちしますので」スッ

バタンッ

翔太郎「……はぁぁあああ……」

翔太郎「……」ピッポッパッ

フィリップ『翔太郎、待ちくたびれたよ。ディナーどうだった?』

翔太郎「あー悪い、今日は事務所に帰らんねぇわ」

フィリップ『あのお嬢様に監禁でもされた?』

翔太郎「ご明察……ま、今日は大人しく泊まってやるよ。明日も監禁されたら意地でも抜け出す」

フィリップ『あのお嬢様、物分りがいいんだか悪いんだか。君の幸運を祈るよ』

翔太郎「そうそう。お前、戸締まりとかちゃんと気を付けろよ。あとよく水が出しっ放しになってっから、注意しとけ」

フィリップ『僕はもう自由の身なのにな……了解した』



86: ◆NrFF2h.q26:2013/12/27(金) 00:47:03.91 ID:B4nzMRSUO

コンコン

お嬢様「失礼いたします」

翔太郎「……どーも」

お嬢様「何か不足なモノはございませんか?」

翔太郎「いいえ?全く以て100%快適ですよ?」

お嬢様「それは良かったですわ」ニッコリ

翔太郎「……」ハァー

お嬢様「そうだ、テレビでもご覧になります?」

翔太郎「けっこーです」

お嬢様「でしたら音楽は?」

翔太郎「けっこーです」

お嬢様「そうですか……でしたらこれは?」スッ

翔太郎「……マンガ?」

お嬢様「わたくし大好きなんですの!」

翔太郎「わりと一昔前の絵柄だな……」

翔太郎「バナナフィッシュ……僕の地球を守って……輝夜姫……」

翔太郎「まぁ、少女漫画は分かるけど……ダイの大冒険とかAKIRAってまた……」

お嬢様「いつも日本から取り寄せておりました……わたくし、SFやファンタジーが大好きなんですの!こんな非日常に出くわせたらって……」

翔太郎(俺からしたらこんな暮らしのが非日常だけどな)



87: ◆NrFF2h.q26:2013/12/27(金) 01:33:51.64 ID:B4nzMRSUO

翔太郎「なぁお嬢様」

お嬢様「はい?」

翔太郎「お嬢様がさ、この大好きなマンガが読めなくなったら悲しい?」

お嬢様「それはもう生き地獄ですわ」キリッ

翔太郎「そ、そうか……」

翔太郎「俺にとってもさ、探偵ってそういう仕事なんだよ。俺が探偵を出来なくなったら、俺にとってはまさに生き地獄なの」

お嬢様「マンガとそのようなお仕事は、同じ括りで説明出来るものではありませんわ」

翔太郎(んーまぁ確かに)

お嬢様「第一仕事が好きな人間なんていません。そんなことを言う人がいたとしても、その人が好きなものは、所詮仕事で得る権力や金や名声なのです」

お嬢様「わたくし、翔太郎様はそんな方ではないと思っています」

お嬢様「……失礼いたしますわ」

バタンッ

翔太郎「……」

翔太郎「あ、マンガ置いてってる」

翔太郎「……せっかくだから読もうかな。『ダイの大冒険』……これでいっか」

翔太郎(にしてもヤリガイって言葉を知らないのかね、あのお嬢さんは。つくづく金持ちの家庭はどこもかしこも大変だなー)パラパラ

翔太郎(明日には事務所に帰れるといいけど……)

翔太郎(……)

翔太郎(……このマンガけっこう面白いな)



88: ◆NrFF2h.q26:2013/12/27(金) 13:02:28.96 ID:B4nzMRSUO

~風都の外れ~

翼「この札を設置し、さらにこの札を守る結界を張っていく……確かに時間はかかりそうだ」

レオ「えぇ。仕組みとしては、魔戒法師がホラーの探索に使う魔針盤や僕の魔導机を、僕なりに応用して効果を強化したモノなんですよ」

レオ「普通の魔針盤や魔導机では、街全体のような広範囲には対応が出来ませんからね」

翼「魔導具の開発に優れていると聞いていたが、噂に違わぬ天才のようだな」

レオ「いえいえ、とんでもないです」

レオ「翼さんも法術がお得意なんですよね。僕は法術より、こういった魔導具を作る方が性に合うみたいで……戦いも好きじゃないし」

翼「人には適材適所があるだろう」

翼「……だが、魔戒の者は戦いを避けられぬ運命。戦いは好き嫌いではない」

レオ「も、もちろん分かってます。すみません」

翼「分かっているならいい」



89: ◆NrFF2h.q26:2013/12/27(金) 15:21:43.85 ID:B4nzMRSUO

~翌朝、豪邸の客室~

翔太郎(結局徹夜でダイの大冒険を読んでしまった)

翔太郎(でもポップ……お前すげぇよ……)グスッ

ガチャリッ

SP「……」ドーン

翔太郎(うわ、アイツ昨日俺を担いだSPだ)

SP「翔太郎様、至急食堂にお集まり下さい」

翔太郎「あーそろそろ朝ごはんの時間か」

SP「いえ、そうではありません」

SP「事件でございます。お嬢様に脅迫文が送られました」

翔太郎「え?」

SP「着替えましたら、至急食堂にお願いします」

バタンッ

翔太郎「……」

翔太郎「どうやら今日も帰れなさそうだな……」



90: ◆NrFF2h.q26:2013/12/27(金) 16:09:04.90 ID:B4nzMRSUO

~食堂~

着替え終わり、呼び出された食堂の中に入ってみる。
既に俺以外の人物は揃っていたようで、途端に場はざわめき出していた。


そんなことより俺はまず、部屋にいる人物を確認。
メイドは二人、妙齢の女性と若い女性のペア。
シェフは二人。こちらも妙齢の男性と若い男性のペア。
昨日料理を出してくれた男の給仕。
俺を担ぎやがったSP。
執事の燕尾服の似合う高齢の男性、おそらく俺を調べさせたとかいうセバスチャンか?
そしてお嬢様と、その隣にはラフな格好の見知らぬ若い男。



屋敷には俺以外には全部でこの9人しかいないようだ。
別荘だというし、普段はまた別の人間がこの豪邸を管理しているのだろう。
そして今は今で、お嬢様の世話をするのに必要最低限のメンバーしかいない。
保護者にあたる人物がいないということは、あのお嬢様がかなりワガママを言ってこの別荘に来たのかもしれない。



92: ◆NrFF2h.q26:2013/12/27(金) 16:57:05.89 ID:B4nzMRSUO

SP「お集まりしていただいたのは、実はお嬢様宛にまた脅迫状が届いた件です」



SPが角ばった手で卓上に髪をだす。
まっさらな紙に、ミミズがのたうちまわった字が踊っている。



『明日、必ずお嬢様を誘拐する』



たったそれだけしか書かれていない手紙だ。
紙を触ってみたが、上質な紙であることくらいしか分からない。
文字はインクで書かれている。
さて、どんな反応をするものかと一同を見渡したが、思いの外、全員の反応は淡白なモノだった。



メイド長「またコレですか……」

新人メイド「この風都の別荘に移って一ヶ月……もう五回目ですよ?」

コック長「ほぼ一週間に一度のペースで送られたらねぇ」

新人コック「いい加減こうしてわざわざ呼び出すことないんじゃないですか?」

給仕「しかし何かあってからでは困りますし」

若い男「俺もそう思いますよ、警護のプロであるSPさんの言うことを聞きましょう」

SP「一応、皆様の部屋を調べさせてもらってかまいませんでしょうか」

セバスチャン「よろしくお願いいたします」

SP「皆様、ここで待機してください。あとーー家庭教師さんも手伝ってもらえますか?」

若い男「俺ですか?はい、分かりました」



お上座「……」ムッスー



97: ◆NrFF2h.q26:2013/12/27(金) 20:21:32.79 ID:B4nzMRSUO

お嬢様「……また警察に連絡するのかしら?」



今まで一言も言わずむくれていたお嬢様が、やっと声を出す。
セバスチャンが長い背を折り、彼女の方へ顔を寄せた。



セバスチャン「それがもちろんベストではありますが、四度目の脅迫文の件で通報した際には、警察も暇ではないと苦情を申し上げられましたからね……」

お嬢様「お父様やお母様も親戚の方々も、お兄様がもうすぐ正式に会社を継ぐ件で忙しくて、誰もわたくしの相手はして下さらないわ」

セバスチャン「だからこそ、お嬢様のご希望通りこの街での長期滞在が叶えられたワケでございますね」

お嬢様「こんな悪戯じみた脅迫事件のせいで、お兄様の就任の件に支障をきたせば……私はただ叱られるだけで済むでしょうけど、貴方の首は確実に飛びますわね」

セバスチャン「……」



うわーえげつねぇ。
俺は思わず目を逸らした。
盲目的だし手段を選ばない子だけど、一途に結婚を申し込むトコロは可愛らしい女の子だなーなんて、ちょっぴりと思ってたりもしたのに。
つくづく甘いねぇ、と笑うフィリップの顔が目に浮かぶ。



お嬢様「……そうだ!」



パンッと手を叩く音。
思わず目を向けると、いつの間にか目の前にキラキラと目を輝かせたお嬢様がいた。



お嬢様「翔太郎様、依頼しますわ!」

翔太郎「……マジすか」

お嬢様「大マジです!この脅迫文の悪戯をする犯人を見付けて下さい!」



98: ◆NrFF2h.q26:2013/12/27(金) 23:17:48.59 ID:B4nzMRSUO

~翼の屋敷~

鋼牙「昨夜はホラーは現れなかったな」

翼「昼間、ゲートになりかけの陰我は見付けたが、異常なしだった」

レオ「結界を張るコトが出来れば話は早いんですけどね」

翼「あのペースではやはりあと二日かかる。時間が惜しいな……」

鋼牙「事を急いて仕損じれば、本末転倒だ」

レオ「えぇ、慎重且つ迅速に張っていきます」

レオ「あ、それと鋼牙さん、オブジェのダイヤの件はどうです」

鋼牙「そちらもまだだ」

鋼牙「しかし、数多の人の手に渡るほどの魅惑的なダイヤのネックレス……相当に高価な品のハズ」

鋼牙「だとすれば、買えるような人間は金持ちの中でも限られてくる」

鋼牙「今は目ぼしい金持ちの家の中を、魔戒竜の稚魚に虱潰しに探してもらっているところだ」

レオ「ソレってあの金魚みたいなヤツですよね?」

翼「……そんなものいつから飼っていたんだ」

鋼牙「使徒ホラー討伐の最中に譲ってもらったんだ」



99: ◆NrFF2h.q26:2013/12/27(金) 23:33:53.83 ID:B4nzMRSUO

~豪邸~

フィリップ『翔太郎……君ってつくづく僕の期待を裏切らないねぇ』

翔太郎「期待とはなんだ、期待とは」

フィリップ『で、今は豪邸内で調査中なんでしょ』

翔太郎「おう。お嬢様が直々に俺に依頼してさ」

フィリップ『事務所にも連絡が来たよ。亜樹ちゃんは依頼料を聞いてさっきから高笑いが止まらないみたい』

翔太郎「なんか雑音が聞こえてくるのはアイツの笑い声か……」

フィリップ『まぁ頑張りたまえ。僕が事務所で留守番しておくから』

翔太郎「はんっ。俺を売った金でせいぜいイイもん食べとくんだな!」

フィリップ『ひどいな~。まぁ確かに昨日は回らないお寿司を食べたけど』

翔太郎「ま、マジかよ……でも言っとくけど俺はもっといいモン食べてっからな!じゃーな!」



100: ◆NrFF2h.q26:2013/12/28(土) 00:18:22.00 ID:0gbq1tumO

フィリップとの電話を切った俺は、手元の手帳のメモ書きに目を通した。



あの脅迫状が発見されたのは朝の8時頃。
セバスチャンが郵便受けに入れられているのを発見したらしい。
封筒にも入れられず、あの紙のまま投函されていたそうだ。



お嬢様が風都に滞在してから一ヶ月、同じような方法で同じような脅迫状が、大体一週間に一度のペースで朝に投函されている。
最初は警察に通報し金持ち特権で警護してもらったが、三回目で悪質な悪戯と判断され、四回目に至っては特に警護も為されず処理された。
お嬢様の両親や親戚は彼女の兄の社長就任の準備で忙しく、最初の一回目は親に報告したが、二回目以降は連絡さえしていないという。



この別荘の豪邸は風都郊外の山中にある入り組んだ道路の先にあり、一番近いふもとにある民家でも歩いて50分はかかる。
ご近所などないこの環境下では、外部の人間はもちろん、内部の人間がかなり怪しい。
豪邸の中には防犯カメラのような防犯機器は設置されておらず、セキュリティはずさんだ。



金持ちなんだからもっと対策しろよとは思うが、脅迫文を送り付けた犯人は、このずさんなセキュリティを知っているからこそ、今も捕まらずにこうして送り付けることが出来ている。
ソレを犯人は見越していたのか?
それともただの幸運か?
そもそもここは普段は滅多に使われていない別荘だ。
それなのにどうしてお嬢様がいることを知ったのか?
そう考えれば豪邸内部の人間が怪しいだろう。
あとは別荘が使われていない時の管理人とか、お嬢様の滞在を知ることの出来る他の人間。




翔太郎「……取り敢えずもっと聴き込んでみるか」



101: ◆NrFF2h.q26:2013/12/28(土) 01:28:13.18 ID:0gbq1tumO

~給仕の男~

給仕「お嬢様に恨み、ですか」

給仕「……正直にお話ししますとそりゃもう、みんなです。セバスチャンと話されていた所を見てお分かりかと思いますが……」

給仕「お嬢様はいつも突拍子なワガママを通される方で、しかも頭が良いからか、巧妙に人の弱い所を掴んでくるというか……お蔭でみんな振り回されるばかり」

翔太郎「そりゃ大変ですね」

給仕「まぁ、僕らは使用人ですから。でも左さんこそ、使用人でもないのに大変ですね」

翔太郎「俺もよく人に振り回される方なんで、こんなの慣れっこですよ」

給仕「そんな感じですよねー、なんか慣れてる感じは受けてましたよ、あははは」

翔太郎「あ、あははは……」

翔太郎(えらいフランクなヤツだなこいつ)





~セバスチャン~

セバスチャン「確かに皆、お嬢様に反抗心を覚えるのは同じでしょう」

セバスチャン「しかし我々はそれぞれが仕事のプロ。たとえ主人に多少の問題があれど、私情は仕事には挟みませんし、またプライベートに悪影響を及ぼさないよう、職務によるストレスの処理をこなせるハズです」

翔太郎「は、はぁ……まぁ、そうですね……」

翔太郎(さすがに長年仕えてるダケあって口はお固いな……あんなえげつない脅しされといて)

翔太郎(まぁ、この人はあんま期待してなかったからいいや)



102: ◆NrFF2h.q26:2013/12/28(土) 03:06:54.49 ID:0gbq1tumO

~コック長と新人コック~

コック長「お嬢様は勝手に客人を及びになるんです。しかもディナーの二時間前なんて無茶な時もザラでした」

新人コック「料理ってのは仕込みにかなり時間がかかるんですよー。食材は毎日拘りのモノを必要最低限しか仕入れないので、そらもうてんやわんやですー」

翔太郎「あ……もしかして、昨日のあの、ドライアイスの料理も大変だったんスか?」

コック長「まぁそうですね」

新人コック「アレはまだ前日から分かってましたから、そこまで大変ではなかったんですけどー」

新人コック「この厨房の機器もねねー、求められる料理のレベルに合わないんですよー。ワガママ言う前になんとかして欲しいですよー」

翔太郎(ふーむ、プロとして働いてるったって、人間だもんなぁ。そりゃ文句はボロボロ出てくるって)





~家庭教師の男~

若い男「どうも。俺、お嬢様の家庭教師です」

家庭教師「悪戯なのに大変ですねぇ、探偵ってのも」

翔太郎「いえいえ。あの、家庭教師って何を教えてるんです?」

家庭教師「マンガです」

翔太郎「……へ?」

家庭教師「あのー俺、マンガ家を目指して週刊誌の新人賞に応募して、審査員賞になったんです。で、今って新人賞の作品は週刊誌のHPで公開されるんですよ」

家庭教師「お嬢様はマンガ好きの方でしょう?それで俺の作品に目を留めて、マンガを教える家庭教師になって欲しいと雇われたんです」

家庭教師「今じゃ彼女専属の付き人ですけどね。マンガは久しく描いてないんです」

翔太郎「な、なかなかユニークな経歴ですね」

翔太郎(お嬢様に好意的かは分からないが、悪口は言わないっと……)



104: ◆NrFF2h.q26:2013/12/28(土) 15:16:15.72 ID:m4gVbEY3O

~SP~

SP「この脅迫文が屋敷の内部の者からである可能性は、私も常々考えております」ズーン

翔太郎「プロの目から見てもそう考えてるワケですか」

翔太郎(威圧感ハンパねぇ……おぶられてから軽くトラウマになってる……)

SP「脅迫文には金の要求がありません。誘拐が成功してから要求するつもりなのかもしれませんが、実行されないままこれで五度目にもなりますと、単なる嫌がらせとしか」

翔太郎「ですよねぇ」

SP「何分にも大事には出来ませんので、内々で対処するしかありません」

翔太郎「一応聞きたいんですけど、お嬢様の滞在を知ってるのって、外部の人間にどれだけいますか?」

SP「お嬢様のご家族と、イギリスの屋敷の使用人たち、あとはこの別荘の管理を任せているサービス会社などでしょうか。お兄様の社長就任の件で内密の長期滞在ですから」

SP「しかしここまでの嫌がらせをするほどお嬢様と関わりがある人間は、この屋敷にいる者しか考えられません。お嬢様の身の回りの世話はいつも我々8人で行っておりますから」

翔太郎「なるほどなるほど」

翔太郎(こんな別荘持ってるお嬢様の世話係が8人……多いのか?少ないのか?金持ちのコトなんて分かんねーなぁ)

翔太郎(でもあのお嬢様、家族にも放ったらかしにされてるって感じはあるな)



105: ◆NrFF2h.q26:2013/12/28(土) 15:44:25.54 ID:m4gVbEY3O

~メイド長と新人メイド~

新人メイド「風都に来てからツイてないですよぉ」

メイド長「この風都での滞在は、お嬢様がかなりワガママを言って、旦那様や奥様が根負けしたんです」

新人メイド「まさかお嬢様がそこまで探偵さんに一目惚れしていたなんて……」

メイド長「私達てっきり……ねぇ」

新人メイド「えぇ」

翔太郎「てっきり?」

新人メイド「いえ、あの……でもみんなそう思ってましたよね?」

メイド長「大丈夫よ、言っちゃいなさい」

新人メイド「え、えっとですね、じゃあ言っちゃいますけど、私たちみんな、お嬢様が家庭教師さんのこと好きだと思ってたんですよ」

メイド長「いつも傍にいさせて、使用人みたいになんでもさせてましたし」

新人メイド「フーティックアイドルで探偵さんを見た時も、確かにカッコイイとは仰ってましたけど」

メイド長「まさか結婚を申し込むほどゾッコンだなんて、微塵も思ってなかったんですよ」

新人メイド「てっきりイギリスの屋敷から逃げ出す方便かと思ってました」

翔太郎(……正直メイドさんたちには一番期待してたけど……)

翔太郎(これはいいこと聞いたな)



106: ◆NrFF2h.q26:2013/12/28(土) 16:10:52.52 ID:m4gVbEY3O

~お嬢様~

お嬢様「まぁ、マンガをお読みになって下さったんですね!」

お嬢様「わたくし、ダイの大冒険ではヒュンケルが一番のお気に入りなんですの!」

お嬢様「マァムへの愛を持ちながらもそれゆえに身を引く……素晴らしい殿方ですわ!」

翔太郎「あのね、俺はそういうことを聞いてんじゃなくて、脅迫状をもらう心当たりを聞いてるんであって……」

翔太郎「つーか俺はポップ派なんだけど」

お嬢様「いいんですのよ、捜査なんて別にしていただかなくたって」

翔太郎「は?いや、依頼したのはキミだろ」

お嬢様「お分かりいただいてないのですわね、翔太郎様が屋敷にいていただくためのただの方便ですわ」ニッコリ

翔太郎「そうだろうとは思ってましたよ」

翔太郎(ついさっきまでは)

お嬢様「あんなのただの悪戯ですわ。誘拐なんて起こりませんわよ」

お嬢様「誘拐なんて……」



107: ◆NrFF2h.q26:2013/12/29(日) 02:25:27.98 ID:AIDnDnq5O

~夜~



一通りの聞き込みや、屋敷の内部の探索を済ませる頃にはすっかり夜遅くになっていた。
俺はあてがわれた客室で、聞き込みの結果を書き込んだメモを眺めていた。



お嬢様はかなりワガママで、みんな振り回されてばかり。
彼女の家族は現在忙しく、お嬢様に目をかける暇がなくて放任中。
一目惚れした俺に会いたいと言い出して、このセキュリティのずさんな風都の屋敷に滞在することに。
しかしメイドたちは、お嬢様は俺でなく家庭教師を好きだと思っていた。
悪戯の脅迫文は何回も送られたせいで、今は警察も屋敷の人間も本気にしていない。
以上の事実を踏まえて考えるにーー……。






フィリップ『つまりお嬢様の本命は家庭教師で、君はセキュリティのずさんな風都の別荘に滞在するための理由に過ぎないと?』

翔太郎「メイドさんたちの話を聞いてたらさ……なんかピーンと閃いてな」フフン

フィリップ『誘拐の脅迫文はお嬢様の自作自演……今までのは警察に悪戯と判断させるためのダミー』

翔太郎「なぁ?屋敷の連中は俺に鞍替えしたのも、いつもの突拍子のないワガママと同じように思って、なーんも疑問に思ってねぇよ」

翔太郎「みんな、お嬢様が外に出て行こうとしてるなんて思ってねぇんだな。ワガママお嬢様じゃ、周りに使用人がいない状態で一時間も我慢が出来るやらって感じなんだよ」

フィリップ『しかし……なぜ脅迫文を出しているんだろ?黙って屋敷を出るのが一番安全だと思うんだけど』

翔太郎「た、確かに……」

翔太郎「単純にやってみたかった、とか?」

フィリップ『なんだいソレ』

翔太郎「だってあのお嬢様、マンガ大好きだし、非日常ってやつに憧れてたしなー。どうせ屋敷を出るなら、コソコソ出るんじゃなくて、なんかしらやってやりたい気持ちなんじゃねーの?」

フィリップ『そんな理由かなぁ……』



109: ◆NrFF2h.q26:2013/12/29(日) 09:04:11.96 ID:AIDnDnq5O

翔太郎「とりあえず俺の見解では、お嬢様は家庭教師と駆け落ちすると見たぜ」

フィリップ『そうだろうね。彼女の身の回りの世話をしてくれる人は必要だろうし、単身で飛び出すのは考えにくい』

フィリップ『で、君はどうするの?お嬢様と家庭教師の駆け落ちは阻止するつもり?』

翔太郎「そこなんだよなぁ……」

翔太郎「そりゃ使用人の人たちが困るのは分かるんだけどさ。あのお嬢様、自分の住む世界に嫌気がさしてるようだ」

翔太郎「家庭教師はお嬢様の悪口は全く言わなかったし、悪いヤツじゃないと思う。二人の仲を裂くのは気が引けるぜ……」

フィリップ『君ならそう言うと思ったよ』

翔太郎「もちろん駆け落ちじゃない可能性もあるから屋敷で見張っとくし、駆け落ちだとしても手助けはするつもりはないけど」

翔太郎「まぁ、見逃すくらいは……」

フィリップ『では僕も、今の君の意見は聞き逃したことにしよう』

翔太郎「そーしてくれ」

フィリップ『くれぐれも気を付けたまえ。じゃあお休み』

翔太郎「おう。お休みー」





フィリップ(とは言え、やはりあの不用意な脅迫状は気になるな……)

フィリップ(たとえば本当の決行日が明日ではない……明日中に誘拐が行われず、屋敷の人間の気が緩み隙が生まれるその後日を狙っている、とか)

フィリップ(しかしだとすると、そもそも相手にされていない時点で、隙を新たに生み出せていないワケだし)

フィリップ(僕も僕なりに少し調べてみるべきかな……)



110: ◆NrFF2h.q26:2013/12/29(日) 09:58:05.19 ID:AIDnDnq5O

さてさて、明日はどうなるかね……。
通話を終えスタッグフォンを閉じた俺は、時間潰しに豪邸の中を歩いてみた。
こんな所を歩いていると、園咲邸をいやでも思い出す。
昔の思い出に耽りながらぼうっとしていた俺の目の前に、ふっと赤い何かがよぎった。
金魚だ。
赤い金魚が水中を泳ぐように、俺の前を通っていったのだ。



翔太郎「……」ゴシゴシ

翔太郎「な、なんだ俺、疲れてるのかな。でも確かに見えてるぞ……」



それによくよく目を凝らすと、金魚なのにその顔の先端に象の鼻のような長い突起がある。
俺は恐る恐るその後を尾けていった。
赤い金魚のような生物は、ある部屋の扉の前を暫くぐるぐると泳ぐと、扉を通り抜けて入ってしまった。



翔太郎「この部屋って……」

お嬢様「わたくしの部屋に何か?」



はっと声のする方を振り向くと、お嬢様が怪訝そうな顔で傍にいた。
金魚に目がいって、お嬢様の存在に気付かなかったようだ。
ていうかこの状況、俺がお嬢様の部屋に忍び込もうとしているようにしか見えないだろう。



翔太郎「い、いや、その……」アタフタ

お嬢様「もしかして、金魚が見えていたりしましたか?」

翔太郎「そう!それ!よかった、俺の見間違いじゃなかったのか」

お嬢様「やはりわたくしの部屋に入っていましたよね?すぐお開けしますわ!」



そう言って駆け寄って来た彼女は、すぐ部屋の鍵を開けてくれた。
部屋の中は俺の客室より当然ながら豪華だ。
絨毯はかなり凝った刺繍がなされているし、ベッドを囲う天蓋も見惚れるような意匠だ。
俺たちが見た赤い金魚は、ベッドの傍にあるサイドテーブルの一番大きな引き出しの前でぷかぷか浮いていた。
お嬢様はその引き出しを開けると、中には小箱がある。
彼女は首に下げていたペンダントのトップの装飾部を、小箱の穴に差し込んだ。
どうやらこの箱の鍵らしい。



111: ◆NrFF2h.q26:2013/12/29(日) 11:14:41.32 ID:AIDnDnq5O

小箱の中には、沢山の宝飾品がしまわれていた。
指輪やイヤリング、ネックレス、ブローチ。
どれもこれも、付けられている宝石がかなり大きいし、真珠や純金の細工が散りばめられている。
俺があまりの眩さに目を瞬かせていると、赤い金魚はあるネックレスの傍に寄った。
淡いブルーを湛える宝石を全体にあしらった、美しいネックレスだ。



お嬢様「このペンダントが欲しいのでしょうか……」

翔太郎「だとしたら贅沢なヤツだぜ」

お嬢様「いえいえ、このネックレスを欲しがるなんて、見た目によらず怖い金魚さんですわ」

翔太郎「え?」

お嬢様「これ、亡くなった叔父様から譲っていただいたんですの。叔父様とわたくしは宝石をコレクションする趣味を持つ仲間同士でしたから、叔父様の遺言で特別に譲渡されたのです」

お嬢様「なんでもあのホープダイヤモンドの失われた一部だとか……」

翔太郎「ホープダイヤモンド、っつーと?」

お嬢様「数百年も前からある、呪われたブルーダイヤですわ。持ち主には数々の災厄がもたらされたそうです。もっとも、今はアメリカの博物館に寄贈されていますけど」

翔太郎「じゃあコレはパチモン?……じゃなくて、偽物なのか?」

お嬢様「偽物かは分かりません……ですが、当初は270カラットもあったホープダイヤモンドが、現在は44カラットほどになって博物館に寄贈されているんです」

翔太郎「じゃあ残りの235カラット分はどうなったんだよ」

お嬢様「それは分かっていないんです……叔父様はコレを失われたホープダイヤモンドの一部だと、あるツテから買い取ったらしいのですが……ちなみにコレは合わせて80カラットあります」

翔太郎「い、一体いくらするんだこれ」

お嬢様「さぁ……非正規のルートから得たものでしょうから。恐らく億の範囲でしょうね」

翔太郎「億!?そ、そんなモン、こんなセキュリティのずさんな屋敷に置いとくなよ!!」

お嬢様「わたくしが肌身離さず持ち歩くことは、叔父様たっての希望なんですの。変わった方でしたから」

翔太郎「アンタも十分変わり者だと思うけど」ボソッ

お嬢様「あら?あの金魚、どこに行ったのかしら……」

翔太郎「あれ、ホントだ……何だったんだろう、アレ」



112: ◆NrFF2h.q26:2013/12/29(日) 13:35:45.31 ID:AIDnDnq5O

~翌日朝、食堂~

お嬢様「おはようございます翔太郎様」

SP「……」ズーン

翔太郎(いつにも増して威圧感が凄い)

新人メイド「SPさんも大変ですね」コソコソ

給仕「ホントですねー」コソコソ

メイド長「あんたたち静かにしなさい」コソコソ

翔太郎(しかしSP以外には危機感ナシ、と)

翔太郎(あーやってSPが傍にいるなら、俺は豪邸の中をふらついておくか)



~調理場~

新人コック「あ、おはようございますー」

コック長「おはようございます」

翔太郎「のんびりしてますね」

新人コック「またすぐ作りますけどねー」

コック長「今日のディナーは天麩羅のコースですので」

翔太郎「へーそういうのも作るんですか」



~応接間~

家庭教師「うーん」

セバスチャン「……」

翔太郎「何してるんすか」

家庭教師「セバスチャンさんと将棋を指してるんですけど……もう手も足も出なくて。ホントお強いんです」

セバスチャン「ただの趣味です」

翔太郎(緊張感なさすぎるだろ……つかお嬢様がいねーとわりかしダラダラしてるもんだな)

翔太郎(……あれ?今窓から……)

翔太郎(やっぱしだ。豪邸の門に人影がいる……あの白いコート……もしや)



113: ◆NrFF2h.q26:2013/12/29(日) 14:37:46.03 ID:AIDnDnq5O

~豪邸の外~

翔太郎「なるほど。昨日の晩に見たあの金魚、お前のヤツだったのか」

鋼牙「そのネックレスは何度もゲートのオブジェになっている代物でな。探していたワケだ」

鋼牙「そっちこそ大事に巻き込まれたようだな」

翔太郎「ホント、いきなり結婚とか唐突過ぎだと思ったらさ……はーぁ、ついてないぜ」

翔太郎「……つか冷静に考えると、俺そろそろ結婚しないとやばい年齢に近付きつつあるんじゃないか?」ガーン

鋼牙「……」

翔太郎「?鋼牙?」

鋼牙「何でもない」

翔太郎「……」ジーッ

鋼牙「……何だ」

翔太郎「いやー、鋼牙とよく似たよーなヤツが身近にいるからさ、リアクションでなんとなく分かっちまうんだよなぁ」

鋼牙「……」

翔太郎「さてはお前も俺と同じように、結婚についてなにかしらあせってるところがあるとみたぜ!」ドーン

鋼牙「……ふざけてるのか」

翔太郎「ふざけてないぞ」

鋼牙「……」

翔太郎「今日はダメだけど、俺でよかったら今度話くらい聞くぜー。あ、ネックレスの回収もちょっと待っててくれよ。あれ相当高いモンだし、今一部がバタバタしてるから」

翔太郎「もしホラーが出たら俺が対処しとくからさ。んじゃな!」





ザルバ『なんだアイツは。鋼牙にあんなコトを言えるヤツがいるとはなぁ』パチパチ

鋼牙「……」



115: ◆NrFF2h.q26:2013/12/29(日) 20:29:55.49 ID:AIDnDnq5O

~夜、応接間~

翔太郎「マジで何も無いまま夜に……」

給仕「あ!探偵さんお疲れ様ですー新人コックさんが余ったからって、コレ」

家庭教師「美味しいですよ」

翔太郎「パイナップルですか。ありがとうございます」

給仕「やっぱりなんもないですね~」ムシャムシャ

翔太郎(ホントにフランクだなこの人)

家庭教師「やっぱり良いモノは甘みが違うというか」ムシャムシャ

給仕「ていうかそろそろ俺戻らなきゃ、セバスチャンさんに怒られる」

家庭教師「そうですか。頑張って下さい」

給仕「どもです。んじゃ!」

バタンッ

翔太郎「……」

翔太郎「……あの」

家庭教師「?はい?」

翔太郎「……いや、やっぱ何もないっす」

翔太郎「俺もちょっと戻ります」

家庭教師「見回りですか?頑張って下さい」

翔太郎(駆け落ちするつもりかこっそり聞くチャンスだったけど……まぁいいか)

翔太郎(まだ日付けが変わるまでけっこうあるし、決行が今日とも限らないしな)

翔太郎(あ、でも最後にパイナップルをもう一つ)

チクリッ

翔太郎「いてっ」

家庭教師「?どうかしました?」

翔太郎「あ、いや、大丈夫です」

翔太郎(指になんか刺さったような……パイナップルの皮かな?わりとゴツゴツしてるし……)



116: ◆NrFF2h.q26:2013/12/29(日) 21:30:00.77 ID:AIDnDnq5O

~大浴場前~

SP「……」ズーン

翔太郎「あれ?なんでSPさん廊下に?」

SP「この扉の先の大浴場で、お嬢様が入浴なされております」

翔太郎「あ、そうなんだ」

SP「あなたこそ何をしに。……まさか……」ギロリ

翔太郎「いやいや!絶対に違いますから!」

SP「……」ジー

翔太郎「……」ムスー





SP「!!お嬢様!?」バッ

翔太郎「へ?」ビクッ

SP「今悲鳴が聞こえたでしょう!お嬢様!お嬢様どうされました!?」

ガラッ

シーン……

SP「い、いない!」

翔太郎「脱衣室には服ねぇぞ」

SP「他の部屋を見て参ります!」

ドスッドスッドスッ

翔太郎「……」キョロキョロ

翔太郎「脱衣室には争いがあった形跡はない」

翔太郎「風呂場はっと……床が全然濡れてねぇ」

翔太郎「出てったのは風呂場のあの窓からか……余裕で人が出ていけるな」

翔太郎「しかし悲鳴なんて俺には全然聞こえなかったけど……」

翔太郎「さて……」チラッ


ーーキャァァァアアア!!



翔太郎「!!」

翔太郎「向こうからだ……!」ダッ



118: ◆NrFF2h.q26:2013/12/29(日) 23:39:26.53 ID:AIDnDnq5O

~応接間~

翔太郎「ここら辺からだったと思ったんだけどなー。誰もいない」

翔太郎「依然として荒らされた形跡なし」

翔太郎「……もしお嬢様が犯人ならここに誘導されたってことになるな……」

翔太郎「……この机の皿って、さっきのパイナップルの皿か」

キラッ

翔太郎「?何だこれ……うわ、わりとデカいし太い針だな!つか棘?こんなもんが何で入ってんだよ、危ないだろ」

翔太郎「でもこの棘……どっかで似たようなの見たなぁ~思い出せねー」

翔太郎「……」チラリ

セバスチャン「翔太郎様、こちらでしたか。SPの方が一先ず食堂にお集まりいただきたいと」

翔太郎「!分かりました」





~食堂~

SP「どうやら家庭教師さんまでいらっしゃらないようです」

翔太郎(……でしょうね)チラリ

新人メイド「え!?ど、どういうことですか!?」

コック長「まさか、あの二人……駆け落ち?」

メイド長「駆け落ちですってぇ!?だって、お嬢様は探偵さんに会いにわざわざこの街に行きたいと……」

SP「たとえば家庭教師の方が屋敷に侵入した誘拐犯と出くわし、一緒にさらわれたという可能性も考えられます」

新人コック「ていうかそれだと思いますよー俺は家庭教師さんの悲鳴が聞こえましたー」

翔太郎「え?」

給仕「俺もです。それがお嬢様の部屋の辺りだったので二人で行ってみたら、部屋の前の床に血が……」

翔太郎「!」

新人メイド「や、やだ、家庭教師さんホントにさらわれたの!?」

SP「取り敢えず警察へ連絡を……」

セバスチャン「し、しかしそれは私の首が」

新人コック「……なんか責任取らされたりするのかなぁー」

SP「首なんて言ってる場合ですか。すぐに連絡を」



プルルルルルルル



コック長「しっ!……なんか聞こえますなぁ」

セバスチャン「アレは応接間にある電話のベルやもしれません」

メイド長「は、早く出ないと!」



119: ◆NrFF2h.q26:2013/12/30(月) 01:53:51.69 ID:hUC78gL4O

~応接間~

SP「スピーカーにして電話に出ます。皆さんお静かに願います」ピッ

SP「もしもし」

???『お嬢様は預かった。早速声を聞かせてやる』

翔太郎(ボイスチェンジャーを使ってるな)

お嬢様『私は無事ですわ!』

SP「お嬢様!」

お嬢様『でも家庭教師さんが……家庭教師さんが酷い怪我を!!』

???『取引に関してはまた30分後連絡する。警察には連絡するな……こちらとしては穏便に済ませたい』



ガチャッ ツー ツー



SP「一方的に切られましたね」

コック長「け、警察はどうします?」

セバスチャン「……穏便に済ませてもらえるなら、それにこしたコトはないです」

メイド長「でも誘拐犯がなにするかなんて分からないですよ!」

給仕「警察を呼んだのがバレたら、それこそヤバいんじゃないですか?」

セバスチャン「とりあえず30分後の指示を待ちましょう。話はそれからです」



翔太郎「……」チラリ

翔太郎「あのー」

新人コック「どしたんですかー?」

翔太郎「家庭教師の人が襲われた所を見に行こうかなと思って」

給仕「あ、じゃあ俺も行きますよ」

SP「お願いいたします。私はここで犯人からの連絡に備えます」



120: ◆NrFF2h.q26:2013/12/30(月) 02:34:17.03 ID:hUC78gL4O

~お嬢様の部屋の前~

翔太郎「うわ、けっこうな量の血ですね……」

新人コック「でしょー?家庭教師さん大丈夫かなー」アワアワ

給仕「今頃、出血死とかなってないですかね」アタフタ

翔太郎「まだ乾いてない……」ツー

翔太郎「……あれ?」クンクン

新人コック「どうしたんですかー?」

翔太郎「これ……血じゃない」

給仕「え!?」

翔太郎「よく出来てるけど、これ血糊ですよ。臭いしないし」クンクン

新人コック「えーじゃあどーゆーこと?さっきの電話のお嬢様も、家庭教師さんが怪我してるってー……」

給仕「も、もしかして……ウソ?」

翔太郎「急いでSPさんのトコ戻りますか」

翔太郎(まったくあせったぜ~一瞬本気で誘拐かと思った)





~30分後~

プルルルルルルル

SP『もしもし』

???『さっき言った取引の内容だg』

セバスチャン「お嬢様!!」カッ

???『っ!』

セバスチャン「お嬢様……家庭教師様は怪我をなされていないのでは」

???『……』

SP『血糊をお使いになられたコトは分かっています……そうすると先ほどのお嬢様の言葉に矛盾が……』

???『……』

家庭教師『あのー、お嬢様。もうバレちゃいましたよ……』

お嬢様『別にいいですわ。良い暇潰しになりましたもの』

お嬢様『家庭教師様、わたくしの代わりにご説明して差し上げて下さる?』

家庭教師『はい……』



翔太郎(結局そういうオチなワケか……)

翔太郎(今回はちょっと冴えてたな俺)フフン



122: ◆NrFF2h.q26:2013/12/30(月) 14:02:01.89 ID:hUC78gL4O

家庭教師が言うには、今回はお嬢様にとって最後の大きなワガママだったと言う。
兄が社長に就任した後、残るお嬢様への親の監視は今後厳しくなる。
それを見越して、数ある別荘の中で一番セキュリティの甘い風都の豪邸に滞在。
騒ぎを起こして豪邸を抜け出し、外へ行ってやろうと思ったのだそうだ。



しかしもちろん兄の社長就任に悪影響をきたしてはならない。
それにお嬢様としても、数時間ほど使用人たちに囲まれず外でのびのびと出来ればよかった。

ーーわたくし、自分が無一文で自立出来るとはまったく思ってませんわ。

とは、お嬢様の弁である。



だから悪戯の脅迫文を何度も送り付けて警察が相手にしないようにしたし、騒ぎを大きくすれば使用人たちの首が飛ぶなんて脅しもかけ、内々で事態を収める方向に向きやすいよう仕向けた。
ただし、脅迫文はお嬢様にとって楽しい悪戯の役割が大きかったのだが。



家庭教師『お嬢様はとにかく一度外へ出られれば良かったんです。血糊なんて使ったのも、バレてもよかったからなんです』

家庭教師『お嬢様はですね、その……二人きりのデートというものをどうしても一度したかったらしいので……』



お嬢様とは少し離れて電話をしているらしい。
家庭教師は随分と声を潜めてそう言った。



家庭教師『以前からこの計画はお嬢様から聞いてましたけど、ただの空想だと思っていたので、まさか実行するとは』

家庭教師『最初に脅迫文がきた時は本気だったのかとびっくりしましたよ。しかしお嬢様が単身で飛びだされるよりは、俺と一緒のデートならまだ安全かと思って……』

家庭教師『それに今後は旦那様たちに結婚相手を決められ自由にできないことを考えると、計画をやめさせるのもしのびなく……だって二人きりのデートがしたいなんて、随分と可愛らしい夢じゃないですか』

家庭教師『それでその、こうしてお手伝いをしていたワケなんです……すみません、みなさん』



123: ◆NrFF2h.q26:2013/12/30(月) 14:24:20.25 ID:hUC78gL4O

SP「二人きりのデートがしたいからと言って、タチが悪過ぎですよ… 」

家庭教師『ホントすみません!ていうかお嬢様も、デートがしたかったのは内緒にしたかったと思うんですけど……あまりにも早くバレたので、俺の独断でこうして告白してます』

セバスチャン「……つまり事情を打ち明けたのは、もう少しデートする時間をあげたい、というコトですか?」

家庭教師『はい……俺、絶対目を離しません!今もずーっと車の中のお嬢様から目を離してません!あ、お嬢様もうちょっと待ってて下さいね』

家庭教師『ホントにお願いします!』

セバスチャン「……まぁ、下手にお嬢様の機嫌を損ねて一人で飛び出されるよりは、お嬢様の希望を叶えてあげた方が……」

SP「……そうですね……屋敷を抜け出された今となっては要求に従う外ありませんし」

SP「二時間までなら……」

家庭教師『……あの、お嬢様は四時間と申しております』

SP「四時間は長過ぎです!」

SP「……三時間ではダメですか?」

家庭教師『……三時間でいいそうです!』

翔太郎(このお嬢様、交渉術を心得てらっしゃるとみた)

家庭教師『あの、ホントのホントにすみません。絶対に目を離さないので!』

SP「くれぐれも頼みますよ……」



124: ◆NrFF2h.q26:2013/12/30(月) 15:07:13.82 ID:hUC78gL4O

~鳴海探偵事務所~

クイーン「お邪魔しまーすフィリップくーん晩ご飯買ってきたよー」

エリザベス「買ってきたよー」

フィリップ「あれ?なんで二人が?」

エリザベス「ここの所長さん直々に頼まれたのよー」

クイーン「今日久しぶりに旦那サンが張り込みから帰ってくるから、フィリップくんの夕食頼むってさ」

エリザベス「晩ご飯代でけっこうもらっちゃったから、いろいろ買ってて遅くなっちゃったーごめんね」

フィリップ「そうだったのかい。というか、もうこんな時間だったのか」

エリザベス「ねぇねぇ、何パソコンでみてるの?」

フィリップ「少年週刊誌のHPで掲載されているマンガをずっと読んでたんだ。なかなか面白くて読み漁ってしまっていた……マンガとはかくも奥深いものなんだね!」キラキラ

クイーン「へー、フィリップくんもマンガなんて読むんだ」

フィリップ「翔太郎が新人賞を受賞した作者と会って、その人をちょっと調べるだけのつもりだったんだけどね……家庭教師って人なんだけど」

クイーン「あ、その人知ってる」

フィリップ「え?そうなのかい?」

エリザベス「うん。だって現役女子高生が有名な週刊誌のマンガ賞獲ったって、うちらの間じゃ話題だったよねー!」

フィリップ「……女子高生?その人、女性なのかい?どう見ても男の名前だけど」

クイーン「女の人でもペンネームが男の名前なのはよくあるんだよー。今は本名に戻して絵柄も変えて、少女漫画を描いてるらしいけどね」

エリザベス「本名に戻してるってのはあたしたちの情報網じゃないと知らない超レア情報だよん!」どやぁ

フィリップ「……」

フィリップ「ねぇ、そのマンガ家の人と今すぐ連絡を取りたいんだけど」

クイーン「?よく分からないけど、そんなことなら任せなさい」





~客室~

翔太郎(考えてみたら結局俺はカップルのデートの踏み台かー)

翔太郎(いや別に今彼女欲しいなんて思ってないし、全然あせってないし)

翔太郎(最悪40までには……)

プルルルルルルル

翔太郎(?電話だ。知らない番号だな)

翔太郎「はいもしもし左です」

鋼牙『今いいか』

翔太郎「鋼牙か?今は別にいいけど」

鋼牙『魔戒竜の稚魚が戻ってきた。どうやら例のダイヤのネックレスがその豪邸から持ち出されているぞ。今稚魚を追跡しているところだ』

翔太郎「……何だって?」



125: ◆NrFF2h.q26:2013/12/30(月) 16:01:51.54 ID:hUC78gL4O

翔太郎(どういうことだ?お嬢様が持ち出したってコトか?)

翔太郎(いや……お嬢様は数時間で戻るつもりだったんだ。だとしたらわざわざ持っていくか?)

翔太郎(第一、お嬢様は風呂場から逃げ出したんだぞ。風呂行く前に数億のネックレス付けてたら、お嬢様はよくてもSPが放っておかないよなぁ……取り敢えずお嬢様の部屋へ行かねぇと)

新人メイド「どうしたんですか探偵さん」

翔太郎「あの、お嬢様の部屋に入りたいんです、ちょっと気になることがあって」

メイド長「あぁ、じゃあアナタ鍵持ってきて。私がご案内するから」

新人メイド「はい、分かりました」

メイド長「まったく大変でしたね。でも探偵さんは終始冷静でいらっしゃいました」

翔太郎「まぁ探偵ですから……それに」チラリ

メイド長「でもそう言えば、あの騒動で不思議なことがあるんですけど……」

翔太郎「不思議なこと?」

メイド長「さっき使用人たちで集まって話してたんですけど、みんな殆ど同時に、別々の所で悲鳴を聞いてるんですよ」

翔太郎「え?そうなんですか」

メイド長「えぇ。まずSPさんはお嬢様がお風呂に入られてから15分後に悲鳴を聞いたんですって」

メイド長「それから給仕と新人コックは家庭教師さんの悲鳴をお嬢様の部屋の前で聞いて、私と新人メイドは客室あたりから聞こえました」

メイド長「セバスチャンとコック長は食堂からで、そこで部屋を回ってたSPさんと合流してるんです」

翔太郎(俺は確か応接間に行ったっけ。玄関付近には誰も行ってない……お嬢様は風呂場から脱出してるんだから、残ってるのは家庭教師だよな。自分が脱出しやすいように悲鳴を聞かせ、人を誘導したってトコロか?)

メイド長「アレってどんな仕掛けを使ったのかしら?」

翔太郎(確かに……俺も仕掛けかと思ってスピーカーを探してみたけど、見当たらなかった)

翔太郎(それにSPさんがお嬢様の悲鳴を聞いたとき、俺には聞こえなかった……アレはたまたまだったのか?)

翔太郎「……あれ、メイド長さん。その手の絆創膏は?」

メイド長「これですか?棘がささったものですから。血は出てないんですけど、なにしろその棘が大きかったので」

翔太郎「……それって、コレですか?」

メイド長「あら!それです。探偵さんも似たようなものが刺さってたなんて」





新人メイド「鍵持ってきました!じゃあ開けますね」ガチャリ

翔太郎(部屋は荒らされてない)

翔太郎(確か宝石箱はあのサイドテーブルの引き出しに……)ガラッ

翔太郎「……ない」

メイド長「な、ななな、無いですって!?」

新人メイド「えぇ!?でも、でも大浴場へ行く途中で見かけた時には、お持ちでないようでしたけど」

メイド長「お嬢様は宝石箱だけは絶対に他人に触らせませんでしたわ。暇さえあればいつも見るほど大事にされて、家庭教師さんでも触らせていませんでした」

翔太郎(つうか、お嬢様が持ってるあのペンダントの鍵じゃないと開かないんだ……)

翔太郎「あの、コレを開けるペンダントはどこに?」

新人メイド「あれはいつも身につけておられます。お風呂場へ行くのを見かけた時も付けてました」

翔太郎「……」



126: ◆NrFF2h.q26:2013/12/30(月) 20:31:00.12 ID:hUC78gL4O

翔太郎(一体どうなってんだ……つかこの棘がなんでメイド長さんにも……)

翔太郎(ーーあ!思い出した……この棘、小さいけどあの時と同じヤツだ!!)



プルルルルルルル



翔太郎「!フィリップか」

フィリップ『翔太郎、重要な事実が判明した。君が会っている家庭教師は偽者だ』

翔太郎「……マジかよ……」

フィリップ『本者はお嬢様から家庭教師の打診を受けた時、マンガの連載が決まっていて、代わりに知人に代役を頼んでる。かなりのお金持ちから熱心に頼まれたので、断りにくかったらしい』

フィリップ『それで最悪なお知らせだよ。その偽者はガイアメモリを持っている……珍しいモノを手に入れたと、彼女の前でドーパントになってみせたことがあるそうなんだ』

フィリップ『随分前の話で、偽者は危ないモノだから捨てたなんて言ったらしいけど……ソレは嘘だろうね』

フィリップ『ガイアウィスパーは覚えてなかったから、メモリの能力は確認出来てないよ』

翔太郎「そうか……でも、たぶんキーワードは分かってるぜ」

フィリップ『ホントかい?』

翔太郎「このガイアメモリのキーワードは『棘』そして『幻聴』だ」

フィリップ『……出た!《イヤー》のメモリ……ドーパントが吐き出した棘に刺されると、刺された人間には棘に念じられた幻聴が聴こえるようになる』

翔太郎「やっぱりこれドーパントの棘か。この棘、小さいけどライアーの棘に似てたんだよ」

フィリップ『能力もライアーの劣化版って感じだね。でもその分、幻聴の発現時間の指定や、棘に込められた幻聴の長期保持が出来る。戦闘向きじゃないけど、かなり便利だね』

翔太郎「つまり俺が誘導された悲鳴は、予め聴かせたい幻聴を封じた棘を用意して、俺に刺してただけなのか……」

翔太郎「うし、今から家庭教師の所へ行く!」ダッ

フィリップ『行くって……やっぱりお嬢様は誘拐されてるんだね?行き先は分かってるのかい?』

翔太郎「まぁな。つか最初っからどこにいるか分かってたんだけど……こんなことなら引き止めときゃよかったぜ!」

フィリップ『どういうこと?知ってたなら何で引きとめなかったの?』

翔太郎「い、いや、その……駆け落ちするつもりなら、風都出る前にちゃんと覚悟が出来てんのか改めて聞こうと思って……」アタフタ

翔太郎「家庭教師の方にスパイダーショックのマーカー付けてたんだよ……駆け落ちじゃなくマジモンの誘拐だったら、全くのムダな行動だったけど……」チラリ

フィリップ『君ね……家庭教師が外にいるって知ってて放っておいたのかい!?』

翔太郎「だってガイアメモリ持ってるなんて知らなかったんだよ!どこにいるかずっと確認はしてたけど!」チラリ

フィリップ『ファインプレーというのか、詰めが甘いというのか……とにかく早く追跡してくれ』

翔太郎「わかってる!偽者のヤロー、お嬢様様の計画に協力してるフリして、宝石箱が目当てだったんだ。あの宝石を売りゃ一生遊んで暮らせる」

翔太郎「くっそ~、何がデートだっつーの!」



128: ◆NrFF2h.q26:2013/12/30(月) 23:27:45.46 ID:hUC78gL4O

~郊外の森、車内~

家庭教師「コレ売ったらいくらになるんだろーなー」ジャラジャラ

お嬢様「見損ないましたわ……わたくしは最後にただ、貴方と二人きりでいたかっただけなのに!」グスッ

家庭教師「ふふ……俺のコト好きだって言ってくれたね。でもさ、アンタが俺に対して何かしてくれたコトある?」パタンッ

お嬢様「……」グスグス

家庭教師「そこらへんの使用人たちと同じようにこき使いやがって、めんどくせーワガママ言って」

お嬢様「そ、それは……わたくしは貴方に傍にいて欲しくてつい」グスグス

家庭教師「それで雑用を押し付けてきたのかよ?アンタさ……好きな人間のタメに頑張るってコトも出来ないんだ」

お嬢様「……」グスグス

家庭教師「金に目の眩んだ男ばかりお見合いに来るんだって嘆いて、慰めてたら惚れてたけど……でもソレって結局は、金以外にアンタに魅力が無いってコトだよなー」

お嬢様「…………」グスグス

家庭教師「はーあ、スッキリした!言いたいコト言えたし!じゃーな!あ、車の中で漏らすなよー!あははは!!」バタンッ

お嬢様「……」グスグス





ザシュッ!

家庭教師「へ?」

パカッ

ジャラジャラジャラジャラッ

鋼牙「……」ジャラリ



129: ◆NrFF2h.q26:2013/12/30(月) 23:28:57.57 ID:hUC78gL4O

家庭教師「ちょ、お前何すんだよ!箱が……つかそのネックレス返せ!いくらすると思ってんだよ!!」バッ

鋼牙「……」ガッ

家庭教師「いっでぇぇえええ!?」ゴロゴロ

家庭教師「おま……殴ったな!泥棒になんで殴られなきゃなんねぇんだよ!」

鋼牙「……今お前が降りた車に乗ってるあの女、理由は知らんが縛ったまま放ったらかしにするつもりだろう」

家庭教師「!」ギクリ

鋼牙「殴る理由には不足か?」

家庭教師「……くっそー!」バッ

『イヤー!』

イヤー『これでも喰らえ!』バシュッバシュッバシュッ

鋼牙「……」キィンキィンキィン!

イヤー『な……棘を全部弾きやがった!?……あーもう覚えてろ!』バッ





CJ(翔太郎)『どこへ逃げる気だ、オラ!』ガッ

イヤー『ぐわぁ!』ゴロゴロ

CJ(フィリップ)『あれ?冴島鋼牙が何故ここに?』

CJ(翔太郎)『話は後だぜ。とっととキメるぞ』スッ

『ジョーカー・マキシマムドライブ!』

CJ『ジョーカーエクストリーム!!』

イヤー『がぁぁぁぁああるああの!!』

パリンッ



鋼牙「……」

鋼牙「割れた……?」

ザルバ『全くどうなってんだアイツら』



130: ◆NrFF2h.q26:2013/12/31(火) 01:21:17.13 ID:+Xd/VrmnO

ーーーーーーーーーー

お嬢様「……どなたか存じ上げませんが、ありがとうございます……」ショボーン

鋼牙「……」

鋼牙「……突然だが、このネックレスを譲っていただきたい」

翔太郎「お、お前いきなりその話かよ!?」

鋼牙「コレは一刻も早く回収せねばならない。また盗み出されては困るんだ。何より、所有者の彼女が一番危ない」

お嬢様「……いいですわ。恩人の頼みです。それに、もうこんな不幸は懲り懲りです……」ズーン

鋼牙「すまない、恩に着る」

鋼牙「……あの男は俺が警察に突き出しておこう。じゃあな」バタンッ





翔太郎「……」

翔太郎「……お嬢様どうします?」

お嬢様「……どうとは……?」ズーン

翔太郎「まだ屋敷の人には何にも連絡してないんだ」

翔太郎「俺でよかったら、デートの続きをお引き受けしますよ」

お嬢様「……」

お嬢様「……そうね……」

お嬢様「……海に行きたいですわ」

翔太郎「畏まりました。それではこちらに」

お嬢様「変わったバイクですね」

翔太郎「あ、ちゃんと上着羽織らないと寒いぞ」

お嬢様「夜の海岸沿いでバイクに二人乗り……マンガで見たコトありますわ……」

翔太郎「浮かれてないでしっかり捕まってくれよ?」

お嬢様「……モチロンです」






ーーーーーーーーーー

ザルバ『鋼牙、お前あの状態ならすんなりネックレスを譲ると踏んだな?』

鋼牙「別にそうじゃない。また目を離して盗まれたら困るだろ。だいたい俺が女の慰めなど出来るワケがない」

ザルバ『全くとことん堅物なヤツだぜ』

鋼牙「……俺はアイツに任せたんだ」

ザルバ『押し付けたの間違いじゃないのか?』

鋼牙「違う。信用してるんだ」

ザルバ『ホントかね……?』

鋼牙「いい加減に煩いぞ」ペチン

ザルバ『いて!デコピンはひどいんじゃないか!?』ギャーギャー



131: ◆NrFF2h.q26:2013/12/31(火) 01:25:48.53 ID:+Xd/VrmnO

~海岸~

ザパーン

お嬢様「ばかやろぉぉぉぉおおおお!!」

翔太郎「ベッタベタだなホントに」

お嬢様「ふぅ……」

お嬢様「……おかしいですわね……」

お嬢様「こうすれば……悲しみなんて無くなると思ってました……」

翔太郎「……」

お嬢様「マンガで読んだ通りにはなりませんわね……」グスグス

お嬢様「添い遂げられなくても、あの方が運命の君と思っておりました……それは本当なんです」グスグス

翔太郎「……お嬢様」

お嬢様「……」

翔太郎「……今はどう頑張っても辛いよ」

翔太郎「大事な人がいなくなって……どうしたらいいのか分からなくて不安で……悲しみや心の苦しさに押し潰れそうで……」

翔太郎「……でも、いつかきっと、悲しみや苦しみは終わる」

翔太郎「考えられないと思うけど、いつかきっと、また同じくらい大事なモノに出会える」

翔太郎「そして過去になった苦しみを分かち合える時が来る」

翔太郎「今は辛くても、そんな未来が君にはある」

お嬢様「……ソレは何かの引用ですか?」

翔太郎「いや、俺の実体験。だから断言出来るぜ」

お嬢様「……」

翔太郎「今は泣いていい。でも泣き終わったら、辛くても前を向かなきゃいけないぜ。そうでしか時間は進まない。進まなきゃ……未来にはいけない」

お嬢様「……」

お嬢様「……驚きました」

翔太郎「ん?」

お嬢様「翔太郎様がかっこいいコトを言うなんて、思いませんでした」

翔太郎「まぁ……俺もそー思う」

お嬢様「……」

お嬢様「まだ……貴方にはお礼を言ってませんでしたわ」

お嬢様「ありがとうございます」

お嬢様「そしてごめんなさい」

翔太郎「?」

お嬢様「探偵をやめろなんて言って……ごめんなさい」

お嬢様「わたくし知りませんでしたの、探偵がこんなに凄いお仕事なんだって。マンガ家以外にもそんな凄いお仕事がこの世にあるんだって」

翔太郎(マンガ家は尊敬してるんだ)

お嬢様「……わたくし、本当に何も知らなかったのですね……」

ザパーン



134: ◆NrFF2h.q26:2013/12/31(火) 15:46:57.40 ID:+Xd/VrmnO

~翌日、豪邸前~

SP「どうも今回はありがとうございました」ペコリ

翔太郎「いえいえ」

セバスチャン「我々も今日中にイギリスへ戻る予定です」

メイド長「もうちょっといる予定だったんですけど、こんなコトがあったものですから」

新人メイド「もしイギリスに来るコトがあったら遊びに来て下さいね」

給仕「向こうの料理はたいていマズイですけど、うちの屋敷の料理は大丈夫ですから!」

翔太郎「あははは……」

新人コック「来る時は出来れば前日までに教えて下さいねー」

コック長「腕によりをかけて作らせていただきます」

翔太郎「ありがとうございます。それじゃあ」



135: ◆NrFF2h.q26:2013/12/31(火) 15:47:44.27 ID:+Xd/VrmnO

お嬢様「あの、翔太郎様!」

翔太郎「あれ?姿が見えないと思ったら……そんなとこに隠れてたのか?」

お嬢様「……」

翔太郎「?」

お嬢様「わたくし、たくさん勉強してまいりますわ」

お嬢様「そして……立派なお仕事をしたいと思います。バリバリの働きマンになってみせますわ!」

翔太郎「あったなそんなマンガ」

お嬢様「探偵と並んでも恥じないお仕事をこなせるようになったら……またこの街に来ます」

翔太郎「おう、その時はちゃんと案内してやるよ」

お嬢様「では、またデートして下さるんですね?」

翔太郎「え?まぁ……二人きりは難しいだろうけどな」

お嬢様「フフフ、使用人を排して二人きりにさせる力を持ってみせますわ!」

翔太郎(マジでなりそうだな……)

お嬢様「翔太郎様、どうかお元気で。デートの約束、お忘れになってはダメですわよ!」

タッタッタッ……

翔太郎「……」





鋼牙「随分と昨夜とは様子が違うじゃないか、あの女」ガサッ

翔太郎「」

翔太郎「うわびっくりした!!何で気配消してんだよ!!」

鋼牙「改めてあのネックレスの件の了承を得ようと思って来ただけだ。昨日は夜だったから、一刻も早く回収しなければならなかった」

鋼牙「あのネックレスを買い取るだけの金は用意してある。それを伝えに来たんだが」

ザルバ『どうやらいい雰囲気だったんじゃないか?』

翔太郎「まさか!あのお嬢様は昨日失恋したばっかなんだぞ?空元気なんだよ、きっと。賢いお嬢様だから」

翔太郎「んじゃ、俺は帰ろっかな……。あ、そーだ」

鋼牙「?」

翔太郎「お互い、結婚出来るといいな」

鋼牙「……」ジロリ

翔太郎「じゃーな!」






鋼牙「……」

ザルバ『どうやらやり返されたようだな』

鋼牙「……とっとと行くぞ」ムスー



136: ◆NrFF2h.q26:2013/12/31(火) 21:21:00.74 ID:+Xd/VrmnO

~鳴海探偵事務所~

亜樹子「ただいまー!」

フィリップ「やぁ亜樹ちゃん。ちょうどいい時間に来たよ」

照井「……良い匂いがするな」

フィリップ「照井竜も久々だね。張り込みはどうだったんだい?」

照井「あぁ、新しいガイアメモリ販売組織の一斉摘発だったんだ。メモリを売買している現場を押さえるのにかなり手間取った」

翔太郎「帰って早々なんで料理を作らされてるんだろ俺……」

翔太郎「ホラ出来たぞー」

亜樹子「出た翔太郎くんの肉じゃが!待ってましたー!」

フィリップ「最近外食ばかりだったからね、匂いだけで気分が高揚してきた」

照井「俺も張り込み中はインスタント食品やパンばかりだったからな、ありがたい」

翔太郎「ちなみに味を染み込ませるためには、サッと茹でて後は放ったらかしにするのが一番いいんだぜ。冷める時に味が染みるからな、長く煮ればいいワケじゃない」

照井「……そう言えば、俺の祖母が晩に煮物を出す時、いつも朝か遅くても昼に作っていた。そのタメだったのか」

亜樹子「お年寄りの家庭料理のコツを語る探偵ってどーなのよ」

翔太郎「ちなみに、俺のおばあちゃんが言っていた」キリッ

フィリップ「それにしても、翔太郎がモテる日は来るのかなぁ。カップルのデートどころか泥棒に利用されてたなんて……」

翔太郎「はんっ、事件に巻き込まれるのが探偵の宿命なんだよ」

フィリップ「……」

翔太郎「おい憐れんだ目を向けるな、肉じゃが食べさせねーぞ」

フィリップ「ソレは困る」

照井「この卵焼きは何を入れてるんだ」

翔太郎「それは塩昆布と鰹節と、あとちょっと醤油だな」

照井「なるほど……今度作るか」

亜樹子「楽しみにしてるねりゅー君っ」ニッコリ



137: ◆NrFF2h.q26:2014/01/01(水) 02:36:04.73 ID:TLOVo0XqO

~数日後、夜~

照井「貴様、何をしている」



仕事を終え、帰宅の途についていた照井竜は、もう何年も使われていないだろう朽ち果てた無人のビルの影にいた。
そして目の前の人間に自らの警察手帳を翳しながらそう言った。



???「何をしてると思う?」



手帳を見せ付けられた黒衣の青年は、整った顔で愛想よくニコリと笑う。
警察相手に全く不遜な態度だ。
しかしそれに苛立っている場合では無かった。
彼は両手の双剣で、あろうことか一人の若い女性の両腕を地面に縫うように貫いていたのだ。
女性は照井に気付き、痛みを訴えていた悲鳴から助けを求める声色へと変わる。
青年はその声に鬱陶しそうな顔をしてみせた。



照井「俺に質問するな」

???「……うわー。お兄さん、俺の知り合いに超そっくりだよ」

???「でもねぇ、お兄さんの質問にちゃんと答えるタメに、俺もしなきゃならない質問があるんだけど」

照井「……」



照井は直立不動のまま動けなかった。
この青年、かなり人を喰ったような態度だが、全く隙がない。
一歩でも動けば、すぐにあの女性にトドメの一撃を刺し、挙句こちらに斬りかかってくるだろう。
照井は決まり文句も言わず、その質問とやらを待った。



???「所属はドコ?階級は?」

照井「風都署の超常犯罪捜査課。階級は警視」

???「お、それなら話が早い」



青年は言うや否や双剣を引き抜くと、思いっきり女性を斬りつけた。
照井があっという間もなく、彼女は獣のような声を上げ、異形の姿と化す。
これは……!
照井は目を見開いた。
長期の張り込みから戻った後、翔太郎から聞かされた話を思い出す。
最近風都に現れている、ドーパントとは異なった、本当の怪物。
そしてそれを狩る魔戒の名を持つ戦士。



照井「お前が魔戒騎士か……!」

零「そ。俺は涼邑零。そしてーー」



零は双剣でぐるりと円を描いた。
空間が切り取られ、その穴から銀色の鎧が飛び出ると、すぐさま零の身体を覆う。



絶狼『またの名を絶狼!』



138: ◆NrFF2h.q26:2014/01/01(水) 13:20:16.75 ID:TLOVo0XqO

魔戒騎士・絶狼となり、あっさりとホラーを倒した零はかなり上機嫌そうだった。



零「鋼牙から聞いてるよ、この街にはホラーと渡り合える実力を待つ仮面ライダーって人がいるって。お兄さんもそうでしょ?所轄署の変な名前の部署に所属してる警視サマ……だよね」

照井「俺も聞いている。最近現れるホラーという化け物を狩る戦士が、この街に集まっていると」



照井自身はそのホラーに遭ったのは、実は今日が初めてだ。
何故かいつも翔太郎の方が出くわしていて、照井は話に聞くだけだった。


だが最近、人間業では有り得ないような殺し方をされた死体が幾つも発見されている。
ドーパントも怪人ではあるが元は人間だ。
余程精神汚染が進行しなければ、あんな無残な殺しは普通の人間には出来ない。
ミュージアムが崩壊して以降、警察による徹底したガサ入れが幾度も行われ、ガイアメモリはかなり流通量が減っている。
それなのに変死体が多数発見されるのはなんなのか?と思っていた矢先、ホラーという存在を知った。
照井はその存在に関してあらゆる手で調べたが、全く分からなかった。
それも無理はなかったのだろう。
魔戒騎士や魔戒法師の存在は決して表には出てこない、この世の影に忍びながら連綿と受け継がれていった力に生きる存在なのだ。



零「いやー正直、いきなりビンゴだとは思わなかった」

照井「……?」

零「だって警視サマだよ?気になるでしょー。街の警察署だったら署長クラスじゃん。なんでそんな人が地方の所轄署の一部署の一課長止まりなワケ?」

照井「階級などつまらん括りだ」

零「そう思ってるのは警視サンだけだよ。だから俺、お兄さんのコト聞いた時から、目をつけてたんだよ」



照井はもう確信していた。
この男は自分の苦手なタイプだと。
翔太郎とは出会いの当初こそいがみ合ったが、彼はその心の内が丸見えで、人をおちょくるどころおちょくられる、かなりのお人好しだった。
その詰めの甘さに苛立ちはしたが、零のように心の内を晒さず、自分の気分に任せて人を困らせるタイプの人間はまた、別に苦手な部類に類するのだ。



零「気になるな~」

照井「大した理由はない」

零「ま、いいけどね。この街に暫くいなきゃいけないから、その間の暇潰しが欲しかったダケだけだし。もちろんソレはお兄さんの秘密を探るで決定」

照井「……」

零「じゃーね、警視サン」



141: ◆NrFF2h.q26:2014/01/01(水) 14:32:28.33 ID:TLOVo0XqO

~翌日、翼の屋敷~

零「~♪」

翼「屋敷に来てから随分機嫌がいいな」

レオ「面白いモノを見付けたって喜んでましたよ」

翼「ゲームか何かか?そういう娯楽用の玩具は好かん。その時間は鍛錬にあてるべきだ」

レオ「うーん、零さんもゲームはやらない方だと思いますけど」

零「そろそろお昼の見回り行って来まーす」





シルヴァ『……アナタ、あの警視を気に入ったのね?』

零「昔の誰かさんみたいじゃない?ああいう人種をおちょくるのは面白いんだよね」

零「ソレに仮面ライダーなんておかしな名前のクセに、この街の誰もが知る正義のヒーロー……闇に生き人知れず守りし者として戦う運命の魔戒騎士としては、ねぇ?」

シルヴァ『彼らは彼らで強大な悪と戦っているのよ?あの冴島鋼牙もこの街の怪異の力には驚かされたと言っていたじゃない』

零「別に仮面ライダーが嫌いなワケじゃないって。とにかくあの人が一番面白そうってだけなの。ほらー、探偵のヤツなんか予想通り過ぎてつまんなかったもん。もう一人のあの少年は気が合ってよかったけど」

シルヴァ『いい大人なんだから、もんなんて語尾に付けないで欲しいわね』

零「シルヴァだって気になるでしょ?お偉い警視さんが仮面ライダーになってこの街に来たのは何故なのか……」

シルヴァ『また喧嘩になってもしらないわよ』

零「相手は魔戒騎士じゃないじゃん。決闘しても罰として寿命を削られることはないし、そうなったらなったで面白そうだ」

シルヴァ『いつまで経っても悪戯っ子気質が抜けないのね、呆れたわ』



143: ◆NrFF2h.q26:2014/01/01(水) 16:33:02.20 ID:TLOVo0XqO

~鳴海探偵事務所~

零「失礼しまーす!探偵さんいますか~?」

翔太郎「うわ、性悪魔戒騎士……」

零「ちょっと、失礼な呼び名だね。せっかく遊びに来てあげたのに」

零「あれ、他の二人は?フィリップくんと亜樹ちゃん」

翔太郎「フィリップが家庭菜園にハマったんだよ。んで、二人で種とか鉢植えとか買いに行ってる」

零「ふーん……ま、翔太郎でいいや」

翔太録(何で俺は呼び捨てなワケ?)

翔太郎「お前の依頼は絶対受けねぇかんな」

零「依頼じゃないって。仮面ライダーの警視さんのコト知りたいんだよ」

翔太郎「照井のコトか?」

零「そうそう。あの人警視でしょ?警視って地方の所轄じゃ署長になれるんだよ。なんでそんな偉い人が胡散臭い部署の課長止まりなワケ?」

翔太郎「胡散臭い言うな。そんなのアイツがよっぽどガイアメモリ犯罪に熱心だったからだよ。それでわざわざ新設の部署を志願したんだろ?」

零「そうなのかなぁ……何か警察組織の大きな思惑が背後にあれば面白かったのに」

零「で、なんでそんなガイアメモリ犯罪に熱心なの?」

翔太郎「教えねー」

零「知ってはいるんだ?」

翔太郎「……言わねー!」





フィリップ「ただいま。おや、君は涼邑零。来ていたのかい」

亜樹子「イケメンキター!」バッ

零「やっほー」ニッコリ

翔太郎「なんでもう馴染んでんだよコイツ」ムスー



144: ◆NrFF2h.q26:2014/01/01(水) 16:54:48.45 ID:TLOVo0XqO

零「家庭菜園をするんだって?」

フィリップ「うん、この建物の屋上を特別に貸してもらって、そこで育ててるんだ」

亜樹子「家計的にも助かるからあたしも協力してるの!」

フィリップ「でも今日は一つ試したい野菜があってね……コレだよ!」

零「わぁ、立派なネギだね」

翔太郎「」ビクッ

フィリップ「ネギの根元を残して鉢植えで育てると、また生えてくるそうなんだ」

零「へ~」

亜樹子「すごいお得よね~!……あれ?翔太郎くん?」

翔太郎「ね、ネギ……」ガクガク

零「なんか怯えてるけど?」

フィリップ「あぁ、二人とも気にしないで。前に酷い風邪になってしまった時に施された荒療治が、ちょっとトラウマになっているだけだから」

亜樹子「え?そうだったの?」

フィリップ「カット済みのネギなら問題ないんだ。ただこのままだとね」ズイッ

翔太郎「うわぁぁああ!!」ガタガタ

亜樹子「テラー並の怯えっぷりなんだけど!?」

零「一体何があったの、アレ」

フィリップ「気にしないで。とっととネギをカットしてしまおう」



145: ◆NrFF2h.q26:2014/01/01(水) 16:57:03.62 ID:TLOVo0XqO


風邪の荒療治でネギとは?という方がいるかと思いますが、ダブルの小説『Zを継ぐ者』を読んでみると分かります……(意味深)



148: ◆NrFF2h.q26:2014/01/01(水) 18:12:50.82 ID:TLOVo0XqO

~翼の屋敷~

零「結局あの後は、翔太郎がよく分からないトラウマ思い出して調子悪そうだったから、何にも話を聞けなかったな」

鋼牙「その警視という男、俺は会っていないな。仮面ライダーはあの二人だけではなかったのか」

零「なんだ鋼牙も知らないのか~」

鋼牙「……人の過去を無闇に詮索するもんじゃないぞ」

零「分かってるよ。でも仮面ライダーがどんなのかもっと知りたいでしょう?」

零「街のみんなのヒーローにはどんな過去があるのかもさ……」

鋼牙「連中が気に入らないか」

零「そうじゃないって!それ、シルヴァにも言われたけど。あっちはあっちのお仕事やってると思うよ」

鋼牙「では……羨ましいのか」

零「……」

零「残念ハズレー。正解はただ面白そうなダケだから!」

零「さーってと、ちょっくら型の練習でもしてこよっかなー」





ザルバ『どうやら図星らしいな』

鋼牙「アイツの気持ちは分からなくもない」

ザルバ『魔戒の戦士は決して陽の光を浴びぬ、闇の戦士だからな。ヒーローとして皆に認められるコトに憧れる気持ちも、少しは持つだろう』

鋼牙「しかし闇に紛れていようが日向に立とうが、希望とは正しき者の心と共にある」

鋼牙「そして正しき者の道に乗り越え難き苦難があるのもまた、真理だ」

ザルバ『鋼牙、お前はあの仮面ライダーの連中にも、過酷な試練や過去があったハズだ、と言いたいのか?そしてそれを乗り越えた強き者たちだと』

鋼牙「零も分かっているハズだ。彼らの本当の強さを。しかし変なトコロで意地を張る節がある」

ザルバ『お前はその年で達観し過ぎだと思うぞ』

鋼牙「……まぁ、ともなく放っておけばいい。どちらもバカではないハズだ」



151: ◆NrFF2h.q26:2014/01/02(木) 10:52:01.91 ID:kzH7SvUAO

~翌日、超常犯罪捜査課~

照井「……なんで民間人がこの中にいるんだ」

真倉「おかたいこと言わないで下さいよ~零のヤツがどうしても超常犯罪捜査課の素敵な仕事場を見てみたいって言うから~」

刃野「将来ここのエースを担う期待の若手候補ですよ。無碍に出来ませんよーなぁ零!」

零「ありがとうね二人とも」ニッコリ

照井「……」

照井「勝手に捜査資料を見るなよ」

零「分かってるって。それより、ねぇねぇ、なんでこの超常犯罪捜査課って設立されたの?」

真倉「なんで?さ~……先輩なんでなんすかね?」

刃野「俺ら異動されただけだもんな。警察庁の刑事局から直々にお達しがあった、一大プロジェクトだとかいう噂もあったよなー」

真倉「あ、ソレありましたね~。聞いた時はむっちゃくちゃテンション上がりました」

零「そういう極秘のプロジェクトとかロマンあるよね。でも実際はどうなの?」

真倉「特にそんな話はなく……」

刃野「警察庁に引き抜かれるのを夢見た時期は儚いモンだったぜ……」

零「残念だな~課長さんはなんか知らないの?」

照井「……噂もあながち嘘ではないのかもしれん」

零「え!?本当に!?」

照井「さぁな。だが俺はただこの街に戻り超常犯罪捜査課に所属したかった。そんな組織の思惑があったとしても、どうでもいい」

零「なんだ~上げて落とさないでよ」

照井「用が済んだらとっとと出て行け」

零「マジで嫌われる前に退散するよ。じゃねー」



152: ◆NrFF2h.q26:2014/01/02(木) 16:35:23.47 ID:kzH7SvUAO

~風都署前~

零「ふぅ~警視さんにこのファイルがバレなくて良かった」ゴソゴソ

《風都署超常犯罪捜査課設立についての概要》

シルヴァ『勝手にくすねてきたの?そんなことしたら本当に逮捕されるかもしれないわよ』

零「いいじゃん、ちゃんと戻しておくから」

零「あの警視さんのデスクの奥にあったんだから、きっと凄い大事な書類だよ」

シルヴァ『そうかしらねぇ……たいして重要じゃないから奥に放ったらかしにされてたんじゃないの?』

零「どれどれ……風都署超常犯罪捜査課(仮)は、2010年度1月中旬に設立される予定である。これは近年、日本各地で起こっている超常的な犯罪に対し国家が対応するため、警察庁刑事局にいずれ新たに発足される超常犯罪捜査課(仮)の運用に必要な情報を収集し、データとするためである」

零「……あれ?コレさっきの刑事たちが言ってた噂まんまじゃないの?」

シルヴァ『確かにそうみたいね』

零「……」

零「必要な情報とは、超常的犯罪に対し従来の捜査手法を導入した場合の捜査の進捗状況である。また、いずれは警察庁が考案した超常的犯罪への新たな捜査手法を試験的に導入し、その捜査の進捗状況もデータとして収集する予定である」

零「風都署超常犯罪捜査課課長には、照井竜警視に着任してもらう。二年間の任期の後、警察庁刑事局に超常犯罪捜査課が設立された暁には、照井竜警視に超常犯罪捜査課課長補佐の任についてもらい、主として実務におけるサポートを行ってもらう……」

零「警察庁刑事局超常犯罪捜査課の役割は、地方警察に対する超常的犯罪捜査への指導、調整である。また捜査の指揮も行うことがある……」



バッ



零「あ、ちょっと!」

照井「油断も隙もないな。なんなら今この場で逮捕してやってもいいぞ」

零「そ、そんなご無体な……興味があっただけだよ」

照井「……まぁ、この書類を見たところで意味はないがな。俺はもう随分前にこの計画からは降ろされている」

零「ということは今は幻の警察のプロジェクト……尚更気になるじゃん!」

照井「お前は陰謀論が好きな人間なのか?」

零「いやー魔戒騎士にはそういう国家の陰謀とか利権争いみたいなのって、無縁だからさ~」

照井「……」ハァー

照井「痛くもない腹を探られるのは面倒だな。第一これ以上書類を持ち出されては面子が立たん」

零「それはつまりもうちょっと話してくれるってコト?」

照井「……こっちに来い」



153: ◆NrFF2h.q26:2014/01/02(木) 18:03:13.33 ID:kzH7SvUAO

~SNACK&COFFEE 白銀~

零「やっぱりクリームソーダに限るよねぇ」

照井「言っとくがあの書類の内容以上は俺もあまり知らないぞ」

零「何で?」

照井「言っただろう。組織の思惑に興味は無い」

零「えー!?何だよソレ、ソレでも警察官なの?」

照井「とにかく……あのプロジェクトは国家の威信を守るタメというヤツだ」

照井「この国には超常的な力による事件が各地で怒ってる。詳しくは知らないが、ドーパントやホラー以外にも、様々な怪物が至る所で確認されていると言う。そしてそれに人知れず対抗する、仮面ライダーや魔戒騎士のような人々もな」

照井「しかし警察は今までそんな怪物たちの前で無力だった。いつ現れるかも素性も分からない人間に怪物の対処を任せている現状は、度々警察内部で問題になっていたらしい」

照井「それでとうとう対策するための課を警察庁に正式に設立するプロジェクトが発足された……警察庁は地方警察への捜査の指導も役割の一つだからな」

零「じゃあ本当なら警視さんは全国の警察官に、超常犯罪の捜査を指導するお偉いさんになってたかもってことか」

照井「そうだな。ただ警視以上の階級の者でないと、警察庁で課長や課長補佐の要職には就けない」

零「それでお偉い警視さんが選ばれて、地方の部署に異動したんだ」

照井「国家公務員?種試験に合格したキャリア組なら、俺の年では大体警視だから、実際に過酷な捜査活動を行える体力もある。だからキャリア組に声が掛かったが、俺以外に誰もなりたがるヤツがいなかった。上の人間も、俺なら適任だと考えたのだろう、志願したらあっという間に決定された」

照井「もっとも、俺はそんな思惑など気にせず勝手な行動ばかりしていたから、すぐ警察庁に昇格される話は消えたがな。今頃、他の誰かが代わりに任命されているだろう。風の噂では警視庁の国家安全局にその人間がいると聞いた」

零「ふーん、ホントに偉く壮大な話があったんだねぇ。すっげーなー警察って」

照井「……」

照井「この話は、左たちには話していない」

零「え?そらまたなんでよ。仲間に対して白々しいんじゃないの」

照井「……警察もガイアメモリを作ったミュージアムと同じだったからだ。この街は、ミュージアムにとっても、警察にとっても、データを集める実験の場として利用されていたんだ」

照井「俺はそれを知ってて、この街に来た。だからこそ、この街が汚れていると最初は思っていた」

照井「……でも今は違う。だからこそ、言いたくないのだと思う」

零「ふ~ん……?」



154: ◆NrFF2h.q26:2014/01/02(木) 18:05:39.66 ID:kzH7SvUAO


警視庁国家安全局の人間というのは、ウィザードの木崎警視を想定してます。
適当設定ですみません。
こんな背景があったらなーっていう妄想なので矛盾があるかと思います。
そうです、相棒が好きです……。



159: ◆NrFF2h.q26:2014/01/02(木) 21:37:13.12 ID:kzH7SvUAO

~翼の屋敷~

零「夢があるよねぇ~国家の威信をかけたプロジェクトとかさ~」

シルヴァ『もう、調子に乗らないで欲しいわね』

ゴルバ『まぁまぁ、見逃してもらってなによりじゃな』

レオ「僕らは社会権力ではなく、古来からのしきたりに生きる身ですから、そういうのはやっぱりドラマみたいでちょっとドキドキしますね」

エルバ『レオはもう少し落ち着きを持って欲しいのう』

レオ「えぇ?なんでまたそんな話になるのかな……」

翼「ふん、感心せんな。社会権力などいずれ腐敗するものだ。魔戒騎士や魔戒法師がそんな俗世の鎖に縛られていては、人間の闇に潜むホラーを倒すことなど出来ない」

ザルバ『ははは、翼はそれくらいの石頭でないとな』

鋼牙「……それで、結局その警視については満足したのか」

零「んーまた新たな謎が生まれたよね~」

ゴルバ『それはなんじゃ?』

零(どうして警察庁のお偉いさんはあの警視を適任としたのか、それとどうして街に対する考えを改めたのか。まぁ前者は単に有能ってだけかもだけど)

零「まぁ、そのコトはおいおい」

鋼牙「……ではとっとと本題に入るぞ」

翼「最近のホラーの出現についてだな」

レオ「この数日間、徹底的に調べましたが、ホラー自体には異常はありませんね……問題はやはり突然発生するゲートです」

レオ「自然発生的でなく急に発生するゲートが存在している……陰我の成長の痕跡なければ、魔戒の者が手を施した痕跡もない……」

零「しかも思ったより発生数が多かったから、俺も急に呼ばれたんだよね」

翼「近頃は一日一体はホラーが出現している……ということは、ゲートはそれ以上設置されている可能性もある」

鋼牙「ホラー出現の間隔は狭まっている傾向があるようだ。このままでは一日二、三体現れることになるかもしれない」

翼「まったく……ホラーたちにも何か大きな思惑が潜んでるっていうの?たまんないよそんなのー」



160: ◆NrFF2h.q26:2014/01/03(金) 17:23:29.35 ID:ETMg2L1YO

~数日後、夜~

絶狼『おりゃぁあ!』ザシュッ

ホラー『~!!!』

絶狼『ふぅ』バッ

零「お仕事完了!」

零「今日はホラーのお出ましが早かったね~お腹減ったなぁ」

シルヴァ『まったく呑気なものねぇ』

零「こってりしたモノがいい気分だな……」ジュルリ

シルヴァ『おやつにケーキ食べたでしょ?若いからって油断してると太っちゃうわよ』

零「聞こえない聞こえない。そうだ!ラーメンがいいな、ラーメン!」

シルヴァ『ラーメン?どこの店に行くつもり?』

零「マッキーが言ってたんだよ、この街名物のラーメンの屋台があるって。行ってみよーよ!」





~風麺~

マスター「らっしゃい」ボソリ

零「ここだここ~……あぁ!!」

照井「……」

零「ちょ、警視のお兄さんがラーメン屋台って!なんか全っ然似合ってないね!?いやむしろ似合い過ぎてておかしいのかな?とにかくこの光景、何故か笑える……!」

零「マスター、この赤ジャンバーの人と同じの一つで!」

マスター「毎度あり」ボソ

照井「……俺がどこで何を食べようが勝手だろ」

零「笑っちゃうのもこっちの勝手だよね、クスクス」

照井「……」イラッ



161: ◆NrFF2h.q26:2014/01/04(土) 02:26:05.89 ID:N+DhhKJYO

マスター「へいお待ち」ゴトッ

零「うわ~見事なナルトですねぇマスター!」

零「麺は程よい太さ。スープはあっさりとした醤油ベース……しかしそれでいて鶏ガラの濃厚なコクがしっかりと感じられる……素晴らしい一品!」

照井「黙って食べられないのか」

零「警視さんがあまりにも無口でついつい」ズズー

零「でも、この前の警察庁云々の話を聞かせてくれたお礼も言いたくてさ」ズズー

照井「礼だと?」ズズー

零「俺の仲間にはウケがよかったんだよーあの話」

照井「そういう風に扱う話じゃない。一応立派なプロジェクトだ」ズズー

零「勧んで情報漏洩したクセに」ズズー

照井「だいたいお前は俺の何が知りたいんだ。アレで満足したのか?」

零「単なる暇つぶしだって。まだ満足はしてないけど」

照井「……お前のその、人に腹を探らせない態度は気に入らん」

零「俺は気に入ってるよ?仏頂面の人間には、どうしてかちょっかい出さずにいられないんだよねー」シミジミ

照井「……」

照井「……そうやって、頑なに自分の腹の内を誰にも明かさないヤツが昔いた」

零「お?なになに?」

照井「……ソイツは、周りも自分さえも、全てがどうでもいいと本気で思っていた」

零「ほうほう、それで?」

照井「それだけだ」

零「えぇ!?意味深に終わらせないでよ!」

照井「いいだろう、別に」

照井「……お前はソイツと性格は真逆だ。だがそうやって頑なに本心を見せないトコロは、よく似ているのかもしれない」

零「ふぅん……?」

照井「お前には一体どんな過去がある」

零「え?俺?」

零「……そりゃもうあったよ!涙涙の悲しい過去があったんだって~ホントに」オヨヨヨ

照井「そうか」

零「あれ?すんなり?」

照井「それなら納得だ。似ているトコロがあると思ったのは」

照井「じゃあな」

零「……」

零「なかなか読めないね~あの警視さんも」ズズー

零(最初、あの警視さんは鋼牙と似てると思ったけど)

零(なんか違う……さっきの警視さんの話に出て来たのって、警視さん本人ぽかったような?いやー違うか?)

零(つうか悲しい過去なんて言ったけど……俺の場合は、大事な人を殺され、復讐に生きてきた、と大まかに言えばそうなるワケだけど)

零(……あの警視さんならそういう過去があっても違和感ないよね。ホントない。マジでそういうことだったりして?)

零(じゃあ俺とホントに同じじゃね?いやいや、まさかなー……まさかねー)

零(だって仮面ライダーなんて名前のヒーローでしょ?そんな過去なんて……あるのか?)



165: ◆NrFF2h.q26:2014/01/04(土) 15:37:18.35 ID:N+DhhKJYO

~翌日、鳴海探偵事務所~

フィリップ「おや、涼邑零じゃないか。いらっしゃい」

零「やっほー。あれ?一人だけ?」

フィリップ「翔太郎はお得意の猫探し、亜樹ちゃんはお得意のスーパー特売での買い出し中だよ」

零「この事務所の得意分野それでいいの?」

フィリップ「まぁまぁ。それはともかく、何か用かな?」

零「……あの赤いジャンバーの警視さんのコトなんだけど」

フィリップ「照井竜かい?彼がどうかした?」

零「そうその人。ねぇ、その人ってさ、昔何かあったの?同じ仮面ライダーなら知ってるかなって」

フィリップ「……どうしてそう思うの?」

零「昨日、なんか意味深なコト言われちゃってさ。『頑なに自分の腹の内を誰にも見せないヤツが昔いた』とか」キリッ

フィリップ「……一つ聞きたいのだけど、それ、照井竜のマネ?」

零「けっこう似てるでしょ。でもそこはおいといて……ソイツと俺は似てるって言っててさ、でもそのソイツって警視さん自身のコトっぽい言い方だったから、気になっててね」

フィリップ「ふむ……彼がそんなコトを言うとは」

零「あの人何があったの?俺がふざけて悲しい過去があったんだよ~って言ってたら、『だから似てると思ったのかもな』って納得してたし」キリッ

フィリップ「……僕の口からは言えないな。言えるとしたら、その過去のせいで彼は仮面ライダーになった。後は本人に聞きたまえ」

零「勝手に口外出来ないほどの過去があったっていうの?」

フィリップ「そうだよ。でもきっと、彼は自分で言ってくれると思う。君の実力は認めているようだし」

零「ふぅん……とっくに過去を乗り越えてるってコト?」

フィリップ「その通りさ。でも照井竜が乗り越えられたのは、自身の強さだけでなく翔太郎の力が大きいと思うけど」

零「あの探偵が?」

フィリップ「そう、あの翔太郎が。照井竜が仮面ライダーになったのは過去のせいだ。でも、仮面ライダーとして今も街を守るタメに戦い続けるようになったのは、きっと彼の力が大きい」

零「随分な肩入れをするんだねぇ」

フィリップ「肩入れなんかじゃない。僕は僕の見解を述べたまでだ」

零「翔太郎って、魔戒騎士だったらとっくに死んでる性格してるけどな~」

フィリップ「仰る通り、ドーパントの事件でも何度も死に掛けてるよ……でも彼は死ななかった。それも実力なんじゃないかって、今はそう思うよ」

零「ふぅん……」



170: ◆NrFF2h.q26:2014/01/04(土) 20:46:27.12 ID:N+DhhKJYO

~夜~

真倉「お疲れ様です課長!」

刃野「お疲れ様でーす」



部下の声を背に受けて、照井竜は愛車のディアブロッサに跨り、エンジンを掛けた。
新しい年を迎えて既に二週間は過ぎている。
夜の街中を走りながら、同じ漆黒を纏うあの青年のコトが、景色と同じようにして頭を過る。



何故、あの青年は自分を気にするのだろう?
照井はずっと不思議でならなかった。
反りが合わないのは分かっていたが、頭の回りそうな彼ならば、きっと不要な諍いを避け自分と距離を置くのだと思っていた。
ところがその予想とは裏腹に、ずっと真っ向から関わってこようとするのだ。



その間中ずっと本心を見せない頑なな態度が、いつしか昔の自分と同じモノを秘めているように見えていた。
魔戒騎士の話はフィリップから知らされているが、聞けば聞くほど過酷なものだ。
また彼が言うに、通常の魔戒騎士は生まれて直ぐに魔戒騎士の系譜に名を連ねるものだが、零の場合は大分後、というよりはむしろわりと最近その系譜にやっと名を連ねたそうだ。



彼には容易に他人に言えない過去があるようだ。
そう知った時に、彼の面影に昔の自分が見えた気がした。
何か苦い過去があったからこそ、正統な魔戒騎士にはなれなかった。
自分が昔、本当の仮面ライダーにはなれていなかったのと同じように。



だが自分を一歩も動かせなくしたあの実力、そして今は正統な魔戒騎士として戦っていることを鑑みれば、もう既にその過去も振り切れているのだろう。
だが、あったコトは変えられない。



今でも時々思い出す。
井坂の復讐に生きていた頃、あの頃の照井はいつまでも止まない土砂降りの雨の中で生きていた。
自分の身体をを無情に打ちのめす雨音を聞きながら、地面に這いつくばって、何処かへ流れていきそうな小さな手掛かりを血眼で探し出しては、そのどれもが無駄骨になることの繰り返しだった。
でも自分の一生がそれで終わってもいいと思っていた。
長い長い一生の、その最期の一瞬で仇が取れれば、それでいいと思っていた。



そんな過去を背負っていた。
しかしそれを乗り越えた。
きっと一人ではその道へは行けなかっただろう。
零をそこへ導いたのは一体誰なのか。



自分をそこへ導いたのは一人の探偵だった。
過去は消せない。
しかし、過去を思い返す今の自分は変えられる。
左翔太郎はそういう男だった。
人を変える何かを持つ男だった。
そんな人間が、零の傍にもいたのだろうか。



171: ◆NrFF2h.q26:2014/01/04(土) 23:52:11.87 ID:N+DhhKJYO

照井「……!」



物思いに耽っていた自分の視界の端に、ある光景が見えた。
一人の幼い少女が、ビルとビルの間の暗い隙間にじっと立っていたのだ。
異常なのは、あの暗闇の中で少女の姿があまりにもはっきりと捉えられるコトだ。
照井はすぐに路肩にディアブロッサを停めた。
少女は照井に気付いた様子で、幼い外見とは掛け離れた怪しげな流し目をくれると、ビルの合間に消えていく。
反射的に照井は駆けだした。



ビルの合間を縫うように細い路地の一本道を走っていく。
少女の笑い声が照井を挟む壁を反響して、鈴のように鳴り響いていた。
もはや直感していた。
コレはホラーだ。
ドーパントではない。
人間の域を超えた闇に生きる、本当の怪物だ。
出なければ、こんな反吐が出そうな程の邪悪な気配はあり得ない。



路地を抜けると、そこは空き地だった。
恐らく最近、何か家屋を取り壊して更地にしたところだろう。
周りには工場やビルが囲んでいるが、電気は消えており人気は無い。
その更地の真ん中に、一人の人間が立っていた。
それは照井だった。



172: ◆NrFF2h.q26:2014/01/04(土) 23:53:47.63 ID:N+DhhKJYO

照井「……」

???『……』



さっきまで少女の姿だったのに、まさか自分と瓜二つの人間が待ち構えているとは、一体どういうコトだ。
ホラーという化け物なら、姿も自在に変えられるのか。
いや、ホラーにもそれぞれ特性がある、とフィリップが言っていた。
照井は胸ポケットに手を入れ、アクセルメモリを取り出した。



照井「お前、ホラーだな」

???『憎い……』



目の前の照井の姿をした何者かも、そう呟きながら胸ポケットに手を入れる。
驚くことに照井と同じようにガイアメモリを取り出してきた。



『アクセル!』

???『俺の家族を殺した井坂真紅郎……お前が憎い……!!』

照井「……どういう趣向のホラーだ?」

???『お前を殺す……!俺の家族が味わった苦しみを、味合わせてやる……!』



言うや否や、目の前の照井の偽物は、ドライバーを翳し、腰に装着した。



???『変……身ッ!!』



そして見事にアクセルの姿になった。
エンジンブレードを構え、アクセルの偽物は勢いよく飛び出してくる。
思いっきり振りかぶった一撃をかわすと、地面にガツン!とブレードが当たり、土砂が噴出した。
見たところ、照井のアクセルと同じかそれ以上の力のようだ。



照井(……相手に擬態して力を得るのか)

???『井坂ァァァアア!!』ブンッ

照井(しかも昔の記憶だな……何故過去の俺なんだ?)ヒョイッ

『アクセル!』

照井(しかし呑気に考えてる場合じゃないな)

照井「変……身ッ!」

アクセル『自分と戦うとは変な気分だが、やるしかない』

ガキィイン!!

アクセル『さぁ……振り切るぜ』



173: ◆NrFF2h.q26:2014/01/05(日) 03:53:03.81 ID:+9mLZzaJO

暫くエンジンブレード同士を競り合わせていたが、先に折れたのは照井の方だった。
このままではまずい!と咄嗟に突き飛ばしたが、偽物は大してふらつきもせず、すぐに下方からなぎ払うようにブレードを振り上げた。
態勢が崩れながらも、なんとか照井もブレードを合わせる。
キィィイイン!と甲高い金属音。
同時に照井の手に重たい痺れが伝わってきた。



ーーコイツ、俺より強い。

鈍い金属音が何度もがらんどうに辺りに響き渡るうち、照井は悟ってきた。
なるほど、このホラーは相手の能力を忠実に再現するのだろう。
しかしそれは対象の現在だけでなく、過去の状態も可能なのだ。
そしてホラーは照井のもっとも強い状態を再現した。
それが井坂への憎しみに溢れていた頃の自分というワケだ。
確かにあの頃の自分は、今の自分より純粋に強かったらしい。
これでも鍛錬は怠ってないのだがな。
ホゾを噛みながらも、押されているこの現状は変えようがない。



???『汚れたこの街にまだお前がいたとは思わなかったぞ、井坂……だが理由なんぞどうでもいい。お前を殺せるならな!!』



憎い憎い憎い憎い。
さっきからそんなコトしか言わない目の前の自分。
あの頃は荒んでいたとは言え、もう少しの情緒はあった気がするのだが。
なんて思考の片隅で呆れていると、視界の端にキラリと一閃。
瞬きする間もなく、照井は偽物のエンジンブレードの斬撃をまともに喰らって吹っ飛ばされていた。



ゴロゴロゴロ、と地面を転がり、照井は無様にも仰向けの大の字になっていた。
頭がガンガンと痛む。
ふぅ、と一息吐いて上体を起こすと、偽物がゆっくりと近づいてきていた。



176: ◆NrFF2h.q26:2014/01/05(日) 14:21:41.06 ID:+9mLZzaJO

昔の、憎しみに満ちた自分の方が純粋に強かった。
そうなのかもしれない。
自分が死んでも構わない、そういう戦い方が出来た。
井坂と戦う時、生きて帰ることを考えなかったからだ。
足や腕の一つ、無くなってもいい。
そういう強さがあった。



照井は立ち上がると、偽物と鏡のように対面した。
人の闇に生きるホラーならば、昔の照井の強さを選ぶのも道理だろう。
しかし、そんな強さはとうに捨てた。
他人を守り、自分の命を投げ出さず、絶対に生きて帰る。
それが今の照井の戦い方だ。



アクセル『俺が選んだ強さを見せてやる』

『トライアル!』



お馴染みの効果音と共にアクセルの紅く分厚い装甲がなくなり、蒼のメタリックなボディが現れた。
憎しみでは勝ち取れなかった力、それがトライアル。
偽物が反応する間を与えることなく、照井は一気に間合いを詰めると無防備な顔面に回し蹴りをくれた。
軽くよろめくうちにさらにもう一発、のろのろと態勢を立て直すうちに連撃を喰らわせる。
息つく暇もない、いきなりのラッシュにアクセルの偽物は手も足も出ず、慌てて飛び退いた。

『トライアル!』

そこで聞こえたガイアウィスパーに思わず目を見開く。
目の前の偽物も、同じようにトライアルになったのだ。



???『お前を……殺す!!』



言うや否や、トライアルメモリをドライバーから抜き出す。
照井にはその意図が分かった。
トライアルのマキシマムドライブをいきなり放とうというのだ。

ーー受けて立ってやる。

照井もすぐさまトライアルメモリを引き抜いた。

『『トライアル・マキシマムドライブ!』』

二人は同時にトライアルメモリを放り投げる。
その刹那、両者の脚と脚がぶつかり合っていた。
目にも止まらない速さで、次々と蹴りが放たれていく。
そのどれもを蹴り返し、音速の連続攻撃の隙間を見つけ出し、僅かな一点に蹴りを叩き込む。



互角の戦いだったが、四秒を過ぎた辺りで徐々に照井が押してきた。
それも無理はない。
元々、制御が難しいトライアルメモリの性能だ。
照井の過去の状態を忠実に再現するホラーは、トライアルメモリの能力も忠実に再現してしまっている。
偽物の方が身体能力が上だとしても、トライアルメモリの暴れ馬のような力を制御するのは不可能だ。
況してや、我を忘れるほどの憎しみに満ちた力で抑えるコトなど。
シュラウドはソレを望んでいたが、無理な話というものだ。



トライアル『はぁぁぁあああ!!』

???『ぐぁぁぁあああ!!』



ピッ、と電子音が鳴る。
照井がトライアルメモリのタイマーを止めたのだ。



トライアル『9.9秒……それがお前の絶望までの絶望までのタイムだ』



178: ◆NrFF2h.q26:2014/01/05(日) 16:03:08.28 ID:+9mLZzaJO

爆発が起こり、偽物のトライアルが倒れる。
その身体を押さえつけ、照井は工場の影を見た。



トライアル『出て来い。俺では完全に倒せんのだろう』



黒い影が、ゆらりと動いた。
現れたのは零だった。
彼はばつが悪そうに笑いながら、コツコツとブーツを鳴らしてやってきた。



零「ホラーが出たって言うから来たら、警視さんが二人いるじゃん?戦い始めたら、どっちがどっちか分からなくなっちゃってさー」

トライアル『御託はいい。早くしろ』

零「へいへい」



零はくるりと双剣を回すと、銀牙騎士・絶狼の姿となった。
そして銀狼剣の柄を繋ぎ、一つの大きな剣にすると、偽物のホラーに突き刺す。
人のモノではない、耳をつんざくような悲鳴をあげ、偽物の姿は消えていった。
自分の偽物とは言え、なんだか嫌な気分だ。
照井が変身を解くと、零もすぐ変身を解いていた。
零は珍しく何も言わず、暫く地面を眺めていた。
その理由が照井には分かっていた。
一部始終を見ていた零は、全て聞いているのだから。
別に苛立つ気持ちは無かった。
それより零がどう反応するか、照井はじっと彼を見た。



零「……俺も昔、復讐に生きていた人間を知ってるよ」



そう言って、零は人懐っこそうな笑顔を見せた。
こうしてみると、人を喰らう化け物と戦う人間だとは思えない。
打ち明けてくれるのは、フェアじゃないと考えたからだろう。
照井は黙って聞いていた。



零「ソイツはね、父親代わりの人間と、恋人を殺されて、ずっと仇を追っていた」

零「それでやっと見付けたって思ってたら、ヤツは仇じゃなかったけどね。そうとは知らず何度も殺そうとしてた。いやーアレは申し訳なかった、ってソイツは言ってたよ」

照井「間違えられた方はたまったもんじゃないな」

零「あはは、そうだね。でも仇と間違われたヤツは何も言わず、ずっと相手をしてくれた。ソイツを殺せるコトが出来た時にも、あえて手心を加え、見逃した……結局ホントの仇はヤツと協力して倒せたそうだよ」

零「喋るのが苦手なヤツだから、剣で語るって道を選んだのかね。不器用で無骨なヤツだよ。でも、ソイツの心はヤツの心に動かされたコトは確か」

零「そんなコトが警視さんにもあったんだ。あの探偵が……ヤツみたいなことを警視さんにしてた」

零「……面白いねー、あの探偵」

照井「ターゲットを変えるか」

零「ソレもいいかも。取り敢えず警視さんの攻略目標は達成しちゃったから」

照井「……」

零「そんな顔しないで~。ほら、早く帰んないと、奥さん待ってるんでしょ?」

照井「おい」

零「あはははは!じゃーね、竜!」



照井「……」フゥ

照井「……悪いな左」



181: ◆NrFF2h.q26:2014/01/05(日) 17:48:57.82 ID:+9mLZzaJO

~翌日、鳴海探偵事務所~

翔太郎「」カチンコチン

零「おー!随分と見事なネギになりましたねー」

フィリップ「次は何を栽培しようかな……一般的な野菜は栽培し尽くしたけど、香辛料に用いられる植物はまだ着手していないし」

亜樹子「あ、だったらーミントとかバジルとかローレルみたいな、お洒落なヤツがいいなぁ」

フィリップ「そうだね、料理の幅も広がるだろうし、翔太郎も喜んでくれるだろう」

零「ねぇ~なんでそんな顔色悪いのか教えてよ。たかがネギだよ?食べられないワケじゃないんでしょ?」ツン

翔太郎「」ビクッ

零「ねぇったら、顔芸が得意なのは分かったからさ」ツンツン

翔太郎「!!?」ガタッ!

翔太郎「」ブルブルブル

零「うーん、仏頂面タイプもいいけど、やっぱり王道のいじられキャラは安定して面白いね」ツンツン

翔太郎「」

翔太郎「」グスグス

亜樹子「泣き出しちゃった。いい大人でしょ~?アンタ一体いくつやねん!」

フィリップ「翔太郎はもう立派な所謂アラサーだよ」

亜樹子「マジか……え、それホンマに!?光陰矢の如しや~」





零「この人たちホントに竜の仲間なんだよね……?」ボソリ

零「まぁでも、賑やかなのはいいコトだね」ツンツン

翔太郎「」グスグス



183: ◆NrFF2h.q26:2014/01/05(日) 18:42:04.14 ID:+9mLZzaJO


どうでもいいですけど、ホラーの名前出すの忘れてた……。
ダンタリアンという名前です。
ソロモン72柱から借りました。



188: ◆NrFF2h.q26:2014/01/05(日) 20:46:39.16 ID:+9mLZzaJO

~数日後、夜~

翔太郎「寒い~風が年中吹いてるのも、この季節は辛いぜ」テクテク

翔太郎「でも予約してた『風の左平次』の新作Vシネを、猫探しで遅くなったとは言え受け取らないワケには行かねぇ……」テクテク

翔太郎「でも寒いモンは寒い~」テクテク





ホラー『~~!』バッ

翔太郎「うわ!?素体ホラーか!」ヒョイッ

ホラー『……』ジリジリ

翔太郎「っと危ねぇ……まったくコレで何体目だ?もうすぐ両手じゃ足らなくなっちまうぜ」

翔太郎「照井はこの前が初めてだっていうのに……何で俺だけこんなホラー運が悪いんだよー!」バッ

『ジョーカー!』

翔太郎「今フィリップは『相棒』にハマって評判の良い回を観まくってるせいで、手が離せねぇしな……俺もつい観ちまうんだけど」ブツブツ

翔太郎「クソ、フィリップのヤツ何が相棒は神戸派だよ。どう考えても亀山だろ、アイツしかいねぇよ」ブツブツ

ホラー『~~!!』バッ

翔太郎「のわぁ!?」バッ

翔太郎「そうだった、今は相棒が何派なんて言ってる場合じゃねぇや。と、とにかく変身だ!」

『ジョーカー!』

翔太郎「変身!」

ジョーカー『さぁ、行くz』

打無『絶対正義、参上!!』ザシュッ

ホラー『~~~~!!?』

シュゥゥゥウウウウ……

ジョーカー『』

打無『素体ホラーでよかったな。しかし今、俺は何か変な言葉を口走ったろうか、ゴルバ』

ゴルバ『大丈夫じゃぞ翼。カブトムシの気配がしたが気のせいじゃ』





ジョーカー『……』ヒュゥゥウウ

翔太郎「……」

翔太郎「帰ろうかな……」



189: ◆NrFF2h.q26:2014/01/05(日) 20:53:17.88 ID:+9mLZzaJO


絶対正義参上!のカブトムシは雨宮作品『ゴウライガン』のガンからです。
翼と同じ役者繋がりです。
あと相棒はテレビ局繋がり。
だいぶ前に翔太郎が読んでたダイ大は、ご指摘の通り脚本家の三条さん繋がりでした。



190: ◆NrFF2h.q26:2014/01/05(日) 22:18:03.73 ID:+9mLZzaJO

~数日後、夜~

翔太郎「くそー亜樹子のヤツ、あんだけ新しい醤油を買ってこいって言ったのにー!」テクテク

翔太郎「しかもみりんが本物のみりんじゃなくてみりん風調味料だし」テクテク

翔太郎「挙げ句の果てに豆板醤と甜麺醤を間違えやがって~」テクテク

翔太郎「アイツ調味料くらいしっかり分っとけよな!」テクテク



ーー待て、ホラー!!



翔太郎「ん?」

ホラー『~~!』バッ

翼「待てぇぇえええ!」バッ

ドンッ

翔太郎「ひでぶっ」バタンッ

翼「!すまない翔太郎!」

ホラー『~~!』ダッ

翼「くそ、逃がすか!!」ダッ





翔太郎「……」ムクリ

翔太郎「いてっ、手の甲に擦り傷がある」

翔太郎「……傷口に風が染みるぜ……」フッ



191: ◆NrFF2h.q26:2014/01/05(日) 22:18:38.78 ID:+9mLZzaJO

~さらに数日後、夜~

翔太郎「本屋で立ち読みしてたら遅くなっちまったぜ~」テクテク

翔太郎「今度のWIND SCALEの新作は楽しみだな~今月は自炊ひまくって食費減らさねぇとな~へへへ」テクテク

翔太郎「♪さぁおー前のー罪をー数えー♪たまs」

ガツン

翔太郎「あべしっ」バタンッ

ゴロゴロ……

翔太郎「い、石?割とデカイ……こんなの頭にモロに喰らっちまったのかよ~」ヒリヒリ

タッタッタッ

翼「すまん翔太郎!俺の法術が……」

ホラー『~~!!』バッ

翼「そこかっ!」ヒュンッ

ホラー『!!』ガシッ

ホラー『~~っ』ブンッ

ドスン

翔太郎「ぐはっ!?」

翼「おのれ……急所の鳩尾に!許せん!」

ホラー『~~!』ダッ

翼「待てっ!」ダッ





翔太郎「……」ムクリ

翔太郎「……痛くないし……全然痛くないし……ホントに……」

翔太郎「……」

翔太郎「相棒がいるし……むっちゃくちゃ頭いいし、相棒が……」テクテク



193: ◆NrFF2h.q26:2014/01/06(月) 00:31:51.71 ID:bq96vHnlO

~翌日昼、翼の屋敷~

烈花「久しぶりだな、みんな」

邪美「ギャノン以来にこの面子が集まるコトは、喜ぶべきなのかね」

鋼牙「長旅ご苦労だった」

レオ「ずっと間岱で修行をされていたとか……大変でしたね」

翼「ところで、ホラーに関する重要な情報があるそうだな」

零「もぉ~、すぐ本題に入ろうとするんだから。二人は長旅でお疲れなんだよ?」

烈花「生憎、オレはそんなやわじゃないぞ」

邪美「アタシもだよ。そういう扱いはよしとくれ」





鋼牙「しかし……本当なのか?使徒ホラーがまだ生き残っているとは」

翼「そもそも随分前の話だろう、使徒ホラーの討伐は」

烈花「およそ三年前だ。そもそもオレと鋼牙が出会ったのは、その使徒ホラーの一体、魔鏡ホラー・カルマとの戦いがキッカケだった」

邪美「だけど生き残ってると推測されてるのは、魔針ホラー・二ドルだよ」

零「魔針ホラー・二ドル……ってどんなヤツだっけ?」

レオ「特殊な針を打ち込むコトにより、他の生物を操れるホラーです。主に針で刺した人間を利用し、人を集めて捕食するそうですよ」

翼「ふむ……ソイツを鋼牙が仕留め損なっていたのか?」

鋼牙「確かに本体を倒したと思ったのだがな。手応えはあった」

邪美「だが、どうやらこの魔針ホラー・二ドルは、鋼牙に倒される前、ヤツの核とも言える魔針を人間に刺していたようなんだよ」

烈花「その人間は額に魔針を埋め込んでいるらしく、多数の目撃証言がある。魔針に支配された人間は、二ドルの死後、密かにその復活を企んでいるとみて間違いない」

翼「それで今、その人間はどこにいる?」

零「言わずとも分かるでしょ?彼女たちがここを立ち寄ったってコトは」

鋼牙「この街の付近に潜伏している可能性が高いというコトだな」

レオ「しかし僕の探知機には反応がありませんが……」

烈花「まだホラーではないのだろう。今は単に魔針の力で人間の心を操っているに過ぎないんだ。しかしただの人間となるとオレたちが探すのは難しい」

邪美「額の魔針も隠しているだろうし、魔導火では見分けられないからね」

翼「その魔針に支配された人間と、この街のホラーの増加は ……関連しているのだろうな」

邪美「アタシもそう思う。魔針に支配された人間が、何かしらの力でゲートを生み出し、二ドルを復活させるべく人間の魂を集めているんだろう」

レオ「しかし魔針に支配されるとはいえ、身体は完全に人間であるのに、そんなコトが出来るのでしょうか……」

烈花「それはオレたちも疑問だ。だが二ドルとホラーの増加が無関係とも思えない」

零「結局、ラスボスが分かっただけで、解決方法はサッパリってコトかぁ」ハァー

鋼牙「……」



194: ◆NrFF2h.q26:2014/01/06(月) 00:40:09.85 ID:bq96vHnlO


使徒ホラーは映画RED REQUIEMに出てきました。
この中で魔針ホラー・二ドルは劇中には出ず、設定だけ存在しています。



200: ◆NrFF2h.q26:2014/01/06(月) 14:39:47.14 ID:bq96vHnlO

~翌日昼、鳴海探偵事務所~

翼「失礼」

翔太郎「うぉ、ホラーはどこだ!?」キョロキョロ

翼「昼はいるワケないだろう。何を言っている」

翔太郎「そ、そうか……いやていうかコレお前のせいだかんな!」

亜樹子「いらっしゃーい。あ、その格好!最近、魔戒騎士の人たちがよくウチに来るわね~」

翼「?彼女は俺たちのコトを知っているのか」

フィリップ「涼邑零が来た時に教えてあげたんだ。彼女はここの所長だよ」

亜樹子「鳴海亜樹子で~す!魔戒騎士の人ってコーヒーよりお茶の方がいい?」

翼「別に拘りは無いが」

亜樹子「そうですか~。じゃあちょうど沸かしてたんでコーヒーで……」

翼「お構いなく」

翔太郎「で、俺たちに用か?」

翼「あぁ。人探しを依頼しようと思ってな」

フィリップ「人探し?それを魔戒騎士が頼むとは、最近のホラー増加とやらに関係のある人間かな?」

翼「そう睨んでる。一般人にホラーに関する人間を探させるのはどうかとも思うが……」

翼「お前たちはホラーと遭遇しても対抗出来る力があるし、この街の人間との人脈もあるからと、鋼牙が推しているんだ」

翔太郎「へー鋼牙が……なんだアイツ、アテにしてくれてんじゃん」

フィリップ「今もホラーが増加しているなら、その対処に人手を割かなくてはならないものね。魔戒騎士でなければ完全にホラーを倒せないし」

翔太郎「普通の人探しで力になるっていうなら、喜んで引き受けるぜ」

亜樹子「あ、でもお代の方は頂きますんで!それと、コーヒーです、どうぞー」コトッ

翔太郎「先にコーヒー出せよ、がめつ過ぎだろ」

翼「分かっている、タダでしてもらうつもりはない」

翼「しかも手掛かりが少ないんだ……男か女か、若いのか年寄りなのかも分からない」

翼「分かっているのは、その人間には、額に魔針が埋め込まれているというコトだけだ」

フィリップ「魔針……針を埋め込まれているってコトか」

亜樹子「うわーちょっとアタシそういうのは苦手かも……あっち行ってよー」コソコソ

翔太郎「その魔針を埋め込まれた人間が、ホラーの増加に関わってるって睨んでるんだな?」

翼「魔針は生物を操る。その力で洗脳された人間が、強大なホラーを復活させようとしているのではないかと」

フィリップ「なるほど……しかし今の情報では、《地球の本棚》には信憑性の無いオカルト話しか引っかからないよ」

翔太郎「取り敢えず風都イレギュラーズの面々に、それらしい人間を見掛けた噂がないか聞いてみるか」



201: ◆NrFF2h.q26:2014/01/06(月) 15:19:34.53 ID:bq96vHnlO

ゴルバ『時にそこの人間』パチパチ

翔太郎「へ?」キョロキョロ

フィリップ「ほら、左手首のブレスレット。魔導輪のザルバと一緒だよ」

ゴルバ『そこの少年は随分と聡いのぉ』

翔太郎「うわ喋った!へぇ、アレって指輪だけじゃねぇんだ。かっけーな……」シゲシゲ

ゴルバ『しかし二人とも、なんとも変な匂いがするのう』

フィリップ「匂い?」

翼「そう言えば、ザルバもお前たちからは変な匂いがすると言っていた、と鋼牙から話を聞いたコトがある。恐らく仮面ライダーの身体にはホラーだけが識別出来る匂いがあるのだろうな」

フィリップ「もしかして、翔太郎がよくホラーに出くわすのって……その匂いのせい?」

翔太郎「いやでも、だったら照井だってもっと出くわしてるハズだろ?」

フィリップ「照井竜とは匂いがまた微妙に違うんじゃない?違うドライバーに、違うメモリを使ってるんだし……」

フィリップ「でも僕も最近は夜に少し出歩くコトがあるけど、僕自身はホラーと出くわすコトがないな」

ゴルバ『匂いがする、と言っておいてなんじゃが、ワシには特段に惹かれるような感じのする匂いではないぞ』

翔太郎「あ、そうなのか」

ゴルバ『他のホラーにとっても、珍しい匂いであるだけで、誘われるような類いのモノではないと思うがの』

ゴルバ『しかし何分ワシらは魔導具に封じられた身じゃからな。もしかしたら、純粋なホラーには何か感じるモノがあるのかもしれんの』

フィリップ「ふむ……やっぱり翔太郎の運が悪いってコトだね」

翔太郎「なんでだよ」



202: ◆NrFF2h.q26:2014/01/07(火) 00:09:11.42 ID:w2eCH+mTO

~風都イレギュラーズ~

ウォッチャマン「額に針が埋め込まれた人間ねぇ~聞いたコトないかなぁ」

サンタ「そういうグロい噂はちょっと……」

クイーン「あーでも、マサキから聞いたことあるかも、超オカルトオタクなヤツ」

エリザベス「ホントぉ?やるじゃんクイーン♪」

サンタ「近頃の女子高生は物騒ねぇ~」

ウォッチャマン「ぐぬぬ~情報屋として負けちゃったなぁ」

クイーン「でもマサキもあんまり分かってない感じ。額に不気味な針を埋めてる若い男がいるってダケ」

サンタ「うわ痛そう~絶対グロいよ~」アワアワ

エリザベス「サンタちゃん意気地なさすぎぃ。ホラー映画もダメでしょ~?」

サンタちゃん「おっしゃる通り……エクソシストとかもうトラウマだよぉ、悪魔に憑依されるなんて怖すぎ!」ショボーン

ウォッチャマン「悪魔と言えばさぁ……最近悪魔使いの若い男がいるって噂は聞いたコトあるかも」

クィーン「何それ、いくらなんでも幼稚過ぎない?悪魔使いとか……何のマンガ?」

ウォッチャマン「なんでも街外れの山奥の道路のとこを走っててふっと横を見ると、森の中に不気味な悪魔と、それと一緒にいる男がいるみたいな」

サンタ「あーあーあー!聞こえない聞こえなーい!!」

エリザベス「もぉ、ウォッチャマンの話が聞こえないじゃん!」



203: ◆NrFF2h.q26:2014/01/07(火) 01:39:02.37 ID:w2eCH+mTO

~翌日、翼の屋敷~

レオ「ようこそ、フィリップくん。このソファにどうぞ」

フィリップ「随分と立派なお屋敷だね」キョロキョロ

鋼牙「今日は翔太郎は来れなかったのか」

フィリップ「うん、彼はドーパントと猫探し専門の探偵で忙しいんだ、猫探しの方が」

零「この前、街でにゃあにゃあ猫の真似してるの見て、思わずドン引きしちゃって声掛け損ねたんだけど、アレってお仕事中だったんだ」

烈花「この少年が、仮面ライダーという戦士なのか?」

邪美「とても戦えそうな身体つきじゃないけどねぇ」

フィリップ「あなたたちは魔戒法師だね?確かに生身の戦闘能力が常人と変わらないのは認めるけど」





レオ「でもフィリップくんと翔太郎さんのお蔭で、魔針を埋め込まれた人間の潜伏先の見当が付きました」

翼「俺が偵察したが、街外れの森にホラーが多数いるのは間違いない。まさか街の中だけでなく外にまでいるとはな」

フィリップ「しかし照井竜に調べてもらったのだけれど、あの森で行方不明になった人間も死亡した人間も、ここ数ヶ月は記録にないよ。元々人が入らない場所だしね」

烈花「ではホラーは森の中では人を襲わず、森から街に来て人間を襲ってるんだな」

鋼牙「だがレオのホラー探知機では、今まで森の方面からくるホラーは確認されていない」

零「森から来てるのを誤魔化すために、遠回りするような器用なマネは普通のホラーには出来ないよねー」

翼「そもそも今まで見つけたホラーは、外から流れて来たモノより、街で発生した方が数は遥かに多い」

邪美「じゃあ森にいるホラーは人間を喰うのを我慢して、森の中に留まってるってコトかい?」

零「そんな知能があるホラーがたくさんいるもんかな」

鋼牙「多勢のホラーたちを操る存在がいると見て、間違いないだろう」

フィリップ「それが悪魔使いの男だろうね、恐らく」

レオ「森の中に集められているホラーは、二ドルが復活した際にその身体を作る材料、というトコロでしょうか……」

翼「悪魔使いが魔針を埋め込まれた人間で、ホラーが人も襲わず森に隠れているならば、その可能性はあるな」

鋼牙「取り敢えずもう一度、森の中をきちんと探索せねばなるまい」

鋼牙「今晩にでも向かおう。翼とレオにはこの街に留まってもらい、残りの四人で森を調べる」

烈花「分かった。それなら今すぐ札や魔導具の用意をしよう」

邪美「そうだね、ちゃっちゃとやるよ」



204: ◆NrFF2h.q26:2014/01/07(火) 14:13:04.51 ID:w2eCH+mTO

ーーーーーーーーーー

鋼牙「……」ムスー

邪美「なにおかたい顔してんだい」

鋼牙「……別に」ムスー

邪美「どうせ二ドルを仕留めそこなったコトを気にしてんだろ?起きてしまったコトはしょうがないよ」

ザルバ『同感だぜ、鋼牙』

邪美「気にしてんならきっちりその分働けばいいのさ」

鋼牙「分かっている」

ザルバ『それにしても烈花や邪美が来てくれてよかったぜ。野郎ばかりでむさ苦しかったのなんの』

邪美「あははは、ソレだけは同情出来るよ」

邪美「あぁ、そう言えば、カオルの方は今どうしてるんだい?」

鋼牙「海外で個展だ」

邪美「へぇ~立派じゃないか。鋼牙、アンタも負けてられないね」

鋼牙「……」

ザルバ『おい言われてるぞ』




邪美「……アンタさ、あの娘とまだ結婚してないんだろ」

邪美「まぁ今時の魔戒騎士が結婚に囚われる必要はないと思うけど、あの娘だってちゃんと家族が欲しいんじゃないのかい?ちゃんと話し合ってるんだろうね?」

鋼牙「……」

ザルバ『コイツはそんなコト全く話してないぞ、一言も』

鋼牙「おい」

ザルバ『隠し事はよくないだろ~?』

邪美「呆れた!アンタねぇ、何でも背で語ればいいってもんじゃないんだよ?女ってのはね、ある程度若い内でしか子どもを産めないんだから、根性なしにいつまでもだらだら付き合ってたら、カオルが取り返し付かないんだよ!?」

鋼牙「……」タジタジ

ザルバ『……』クスクス

邪美「いやね、アタシだって鋼牙がカオルを大事にしないとは思ってないよ。でも結婚とか家族の形ってのは個人の価値観ってヤツなんだから、いつまでも逃げてちゃダメなんだ。分かったかい?」

鋼牙「……」

鋼牙「……分かってる」

邪美「ホントに分かってんのかね~ガツンと行かなきゃダメだよガツンと!」

ザルバ『邪美のがよっぽど男前だな』





烈花「……」ちらり

烈花(鋼牙が迷うのも無理はない。カオルは魔戒の世界など知らなかった人間なんだ……)

烈花(家庭を持てば、より一層危険な目に遭うだろうし、普通に暮らしていれば知らずにいられた苦しみを味わうだろう)

烈花(しかし鋼牙にはカオルが必要だ……そしてきっと本当はアイツもカオルも家族を持ちたいハズ。邪美も鋼牙の苦しみを分かっていて、わざと焚き付けているんだ)

烈花(オレは邪美のような言葉さえ掛けられないな……)



205: ◆NrFF2h.q26:2014/01/07(火) 15:04:01.13 ID:w2eCH+mTO

ーーーーーーーーーー

フィリップ「魔道具は見ていて飽きないなぁ、一体どんな原理なんだい?特にこの号竜……技術の質が普通の機械類とは根本から違う」

レオ「僕もこのガジェットやドライバーにはとても惹かれるなぁ。しかしこの設計図通りにここまで完璧にガジェットを作れるなんて、フィリップくんも凄いね」

フィリップ「とは言え、君は号竜を考え出したんだろ?設計と製作じゃレベルが違うよ」

レオ「そうかな……でも僕の号竜だって、昔からある魔戒の技術を応用して作ってるに過ぎないよ。新しい法則を発見してるワケでもないし」

フィリップ「ふぅん」

零「全然分かんなーい全然つまんなーい」

フィリップ「こんな魅力的な魔戒の技術を身近にしながら、そんな態度が取れるコトが羨ましいよ」

零「んなコト言われてもね~……森に待機してるホラーたちは二ドルの身体の材料、街で生まれるホラーたちは二ドル復活のための人間の魂集めっていう、この非常事態のさなかにさー」ゴロゴロ

レオ「一番緊張感が無いのは零さんじゃないですか」

零「あえてリラックスにつとめてるんだよ。魔戒騎士たるもの泰然自若として人の闇を討つべし、ってね!」

レオ「適当な格言を作らないで下さい」

フィリップ「しかし……魔針を埋め込まれてはいても、人間の身体のままでホラーを操るなんて、出来るのかな?」

レオ「そこなんですよね。額にある魔針の力なんでしょうか。あれが二ドルの核らしいですから」

零「でも二ドルって針を刺した生物を操るホラーなんだとすると……それだとそもそもゲートを作ってる力の説明がつかないよね~」

フィリップ「魔戒騎士や法師がお手上げなら、僕や翔太郎はもっとお手上げだよ。しっかりしたまえ」

零「耳に痛いなぁ」ゴロゴロ

レオ「今日の探索で何か分かるといいですが……」



206: ◆NrFF2h.q26:2014/01/07(火) 15:32:45.85 ID:w2eCH+mTO

~街の中~

白猫「ニャー!」ジタバタ

翔太郎「あーなんか写真と微妙に違うな。てか首輪の色が緑だったよな、ユキちゃんは」

翔太郎「ごめんよ?猫違いだったぜ。にしても可愛い猫だなーお前」

白猫「ニャー!」キシャー

翔太郎「え!?ちょ、暴れるなっつーの……あで!引っ掻きやがったコイツ!」

白猫「ギニャァァアアア!!」バリバリ

翔太郎「離すから落ち着けって、いてっ、いててっ、あーもうほら!!」

白猫「ニャァァアアア!」ダッ

翔太郎「いたた……いつもなら猫にこんな暴れられないのになぁ」

翔太郎「さて、いつまでもしゃがんでねーで、とっとと次に猫がいそうな所に行かなきゃ」スッ

翔太郎「……」フラッ

翔太郎「おっとと。最近立ちくらみするな……まさか年……?いやいやいや、身体動かすのだけが取り柄だぞ俺は」

翔太郎(しかし最近体調が優れないのも事実……風邪か?年取ったら風邪ってなかなか治らないらしいし……)

翔太郎(くっ……俺がいくら否定しようと身体は老いているというコトなのか……!だがしかし認めるワケにはいかねーぜ……痩せ我慢、それこそがハードボイルドだ)フッ

翔太郎「うし、次行くか!」

白猫2「ニャー」

翔太郎「あ、あの猫……ちょっと遠くで分かりづらいけど、今度こそユキちゃんか!?」

白猫2「ニャー」タッタッ

翔太郎「待てユキちゃん!ニャー!ニャニャー!」ダッ



208: ◆NrFF2h.q26:2014/01/07(火) 17:27:46.79 ID:w2eCH+mTO

~夜、街外れの森~

鋼牙「ここからは俺と烈花、零と邪美で行く」

零「取り敢えず魔針を埋め込まれた人間探しだね」

烈花「何かあったら、お互い魔戒竜の稚魚で知らせてくれ」

邪美「あぁ、夜明けにここで落ち合おう。それじゃ」





カサカサカサ……





白猫3「ニャー」ヒョコッ

翔太郎「ぜぇ、ぜぇ、こ、こんなトコロまで来ちまうなんて……つうかここ、ホラーがいるヤバい森じゃねぇか……はぁ、はぁ」

白猫3「ニャー」タッ

翔太郎「あ、危ないんだって!くそーあの猫が依頼されてるユキちゃんかは分からないけど、ホラーに喰われるかもしんねぇのを見過ごすワケには……」

翔太郎「あーダメだ気分悪い……走り過ぎたか……けど行くしかねぇや。ったく、なんでこんなコトになっちまうのかな~」



210: ◆NrFF2h.q26:2014/01/07(火) 19:20:34.73 ID:w2eCH+mTO

~翼の屋敷~

フィリップ「メールだ。翔太郎から?『おそくなる』だけってどれだけ急いでるんだい、たかだか猫探しで……」

レオ「探偵はそんなコトもやるんだね」

フィリップ「そんなコトどころか、ペット探しは探偵業のメインだよ。あとは浮気の素行調査かな。僕の事務所はそれに加えて、ドーパントの駆け込み寺になってるけど」

翼「まったく、世の中楽な仕事など無いな」

レオ「でも翔太郎さんとフィリップくんって、年は離れてるしタイプも違うのに意外な名コンビだね」

フィリップ「そう言ってもらえると素直に嬉しいよ。僕はまだまだ翔太郎に及ばないトコロがあるから」

翼「地球の記憶をすべて見れるのだろう?その知識や、それを活かせる洞察力があるそうじゃないか。及ばないトコロなどあるのか?」

フィリップ「頭が良いだけで探偵がやれたら苦労はないよ。事件に関する情報を集める人脈、この街の風土の把握、何より人間関係や人の心理を予測する経験、僕の圧倒的な経験不足だよ。この前も聞き込みで翔太郎に先回りされたしね」

レオ「探偵は難しいお仕事なんだね。でもそれ以上に、フィリップくんは翔太郎さんを信頼してるのが僕には分かるよ」

翼(……そう言えば、翔太郎に最近のホラー退治で出くわした時のコトをまだきちんと謝ってなかったな……しまった……)





フィリップ(何より僕は、もし僕が一人で残されたら、探偵を続けるなんてコトが出来るのか……その自信もあまりないしね)

フィリップ(考えてみれば、僕は翔太郎にいつもついてきてもらっていた気がする)

フィリップ(ファングやエクストリームの時のように……僕の力に翔太郎がついてきていた。それなら僕は、翔太郎の優しさについていけるようになりたい)

フィリップ(ーーと考えているコトは絶対に知られたくないな。これが見栄を張るという気持ちなのかな?)





~街外れの森~

翔太郎「ふぇっくしょーい!!」

白猫3「にゃー!」ジタバタ

翔太郎「やはりここ最近の体調不良は風邪か……」ズズッ

翔太郎「よーし、今度こそ捕まえたぞ」

白猫3「ニャー」バタバタ

翔太郎「はっはっは、手こずらせおってーコイツ。はっはっは」

翔太郎「緑の首輪だし、間違いねぇ。とっとと帰るか……」



カサカサッ



翔太郎「?」

翔太郎「なんだろ……なんか気配がするな」

白猫3「ニャー?」

翔太郎「おっと、お静かにお嬢さん」

白猫3「ふがふが」

翔太郎「……一先ず行ってみるか」



211: ◆NrFF2h.q26:2014/01/08(水) 00:14:34.15 ID:3Fp5Cv90O

~零&邪美~

零「ホラーの気配、むちゃくちゃするよ」

邪美「あぁ。でも隠れてる……攻撃してくる気配もない」

零「どうする?倒しちゃう?」

邪美「その前に、二ドルを復活させようとしてるなら、何かその痕跡を見付けたいね」

零「確かにそれもそーだ」

シルヴァ『近くにホラーの気配が集まってる場所があるわ。そこに何かあるかも』

零「そっちに言ってみようか」

邪美「にしても……隠れてるホラーたちは監視してるみたいだね、アタシたちを」

零「こんなにいるホラーを身体の材料にしようってんなら、前に鋼牙が倒した時よりさらにパワーアップするつもりなのかも」

邪美「そうかもしれないね」

邪美「……」

零「どうかした」

邪美「どうやらもう見付けたようだよ、あそこ崖の下の淵にある、大きな洞穴のようなトコロ……」

零「アレ?ここからあの大きさに見えるなら、実際はかなり大きいだろうね」

シルヴァ『零、アレは穴じゃないわ。素体ホラーが崖の壁に重なるようにして群がってるのよ。そのせいで黒くて穴に見えてるだけ』

零「え!?ホントだ……気色悪~!俺、虫がうじゃうじゃしてんの見るのダメなんだよね」ゾッ

邪美「しっかりしてくれよ。あの崖の下は並の人間じゃあ辿り着けないし、アタシらのいるこんな道に外れた所はそもそも誰もこないから見付からない。いい隠し場所だよ」

邪美「しかしアレが全部二ドルの身体の材料用のホラーだっていうなら、かなり強大なホラーになるだろうね」

零「あーきもいきもいきもいきもい」

シルヴァ『零、落ち着いて』

零「落ち着いてられるワケないでしょ!?」



カサカサッ



零「!」チャキッ

邪美「!」バッ

???『……』スッ

シルヴァ『この男、ホラーじゃないわ。でも禍々しい力を感じる』

零「いきなりビンゴってコト?」

???『もうバレたのか……我が完全に復活するまでは大人しくしておきたかったが』

邪美「アンタが魔針ホラー・ニドルかい?」

二ドル『いかにも……しかし我自身はこの男の額の針だけ。この男の魂は喰らわないまま眠らせておるから、この男自体は無事だ』

零「とか言ってさ……ソレって要は脅しでしょ?下手に手を出したら、その乗り移ってる人間を殺すコトが出来るっていう」

二ドル『ふふふ、察しがいいな人間。我がこの身体の心臓を貫いたところで、そこらのホラーにでもまた我自身である針を埋め込み直せば無事に済むが、この身体の男は身体に戻るコトなく死んでしまうなぁ。可哀相に』

邪美「下手にアンタに手だし出来ないってコトかい……姿を現したのはそれを伝えに来たってコトか?」

二ドル『そうだ。我はもうじき来る解我生来の月に復活する。そうすればこの男の身体は用済みなのだ……我を倒そうとするのはそれからでもよいのではないか?』

邪美「誰がホラーと取引なんかするか!」

二ドル『ふふふ……我はもう人間の魂は十分に集めたし、復活するための身体の材料も手に入れてある。これ以上はもう無為に人間を殺めるつもりはない』

零「どういう魂胆なワケ?随分饒舌なタイプみたいだけど、ホラーが取引持ちかけるなんて、あのうじゃうじゃ壁に群がってるヤツらより気色悪いんだけど」



212: ◆NrFF2h.q26:2014/01/08(水) 00:55:00.69 ID:3Fp5Cv90O

ニドル『正直に話せば我は今、ゲートを自在に生み出せる力がある。そして我が作ったゲートから来たホラーは、我が意のままに支配出来る。そういう力がこの人間の身体でのみ使える』

二ドル『どうして出来るか?それは極めて簡単な話だが今はおいておく。問題は、ある人間の近くにいる場合のみ、ホラーが我の支配よりも本能を優先して命令に背き、その人間を襲ってしまうのだ』

二ドル『我の身体の材料として、出来るだけホラーは残しておきたかった。あの崖にいるホラーだけでなく、あればあるだけよい。なのでその人間が非常に邪魔だったのだが……それももう仕方あるまい』

邪美「ぐだぐだ前置きが長いんだよ!それで、だからどうしたいんだい?その人間を殺せって言うならお断りだよ!」

二ドル『だから、その人間がホラーを引き寄せてしまう状態にあるのを治す時間を、解我生来の月がくる日までお前たちに与えてやろうというのだ。それにはおそらく二、三日かかる。その時までお互い手を出さずにいようという話だ』

二ドル『元々我がこの人間の身体を人質にしている時点で、人間どもは分が悪いではないか。どうせ手が出せないのなら、その時間はホラーを引き寄せてしまっている人間の治療を優先するのがよいのではないか、と提案しているのだ』





邪美「……」

邪美「二ドル……アンタまさか……《アレ》である人間がいるってのかい!?」

邪美「しかしそんな人間……街にいる大勢の人間の中から探し出せるワケないだろう!」

零「邪美、ソレは違う」

邪美「え?」

零「しかもその人間、もう時間があまりないかもしれない」

邪美「どういう意味だい?《アレ》になっちまった人間は、魔戒騎士や魔戒法師が保護でもしていない限り、誘き寄せられたホラーにすぐ殺されちまうだろ?運良くホラーに遭遇せず生き残ってるってコトかい?」

零「違うよ……遭遇しても殺されずに生き残り続けてるんだよ……」

二ドル『そこの人間は心当たりがあるようだな。その人間が分かったなら、早くこの森から連れ出してくれ。でないと、お互いに損な目に遭う』

零「邪美!とにかく魔戒竜の稚魚に鋼牙たちがいるところへ案内させて!」

邪美「あ、あぁ!」



217: ◆NrFF2h.q26:2014/01/08(水) 12:43:15.17 ID:3Fp5Cv90O

~鋼牙&烈花~

鋼牙「こんな陰我に満ちた気配を、普通の森だったところに作り出すとはな」

烈花「……」

ザルバ『どうした烈花?さっきから何か思い詰めているようだが』

烈花「……なぁ、鋼牙」

鋼牙「なんだ、烈花」

烈花「昼間の邪美との話なのだが……」

ザルバ『お前、聞いていたのか?とんだ地獄耳だな』

烈花「邪美と魔導具の調整で話をしようと思ったら、あんな話をしていたんだ。仕方ないじゃないか」

鋼牙「……その話がどうした」

烈花「邪美はあんなに強く言ってたけど、分かってるんだ。カオルを魔戒の道へ歩ませるコトが、どれだけ辛いコトを彼女に強いらなければならないか。鋼牙がそれを悩んでいるコトが……」

鋼牙「……」

烈花「家族を持てば、カオルの子は魔戒の戦士にならなければならない。辛い戦いから逃れられぬ運命を子に負わせれば、カオルも胸を痛ませるようになるかもしれない」

鋼牙「……」

烈花「それだったらオレは、別に今のままでもいいんじゃないかと思う。邪美も言ってたじゃないか、家族の形に囚われる必要はないって。……牙狼の名が途絶えたって……」

鋼牙「烈花、すまない」

烈花「鋼牙」

鋼牙「だがコレは俺の問題だ。お前たちに迷惑をかけるつもりは」





「ニャーイ」





鋼牙「……」

烈花「……」

ザルバ『……』

「ニャーィ!ニャー!」



ガサガサ



翔太郎「その、す、すまん……」

白猫3「ニャア」

鋼牙「……」

翔太郎「猫探しで猫追ってたら、この森に入っちまってさ……物音がするなーと思って来たら、二人がいて……」

烈花「こんな時に間の抜ける……お前は何者だ!」

翔太郎「お怒りはごもっともですすみませんした!」

白猫3「ニャニャー」



218: ◆NrFF2h.q26:2014/01/08(水) 13:31:14.09 ID:3Fp5Cv90O

鋼牙「烈花、そいつはあのフィリップの相棒の男、仮面ライダーの片割れだ」

烈花「あぁ、あの子の……お前もこの森にホラーがいるのは知っていたろう?いくら力があろうと無謀過ぎる」

翔太郎「返す言葉もない……」

白猫3「ニャー……」

鋼牙「とにかく、早くこの森から出ろ」

翔太郎「それもそうなんだけど……でもちょっと帰らんねぇぜ」

白猫3「ウニャ!」

烈花「他人の会話を盗み聞きしてたヤツが何を言っている」

翔太郎「ソレはホントに申し訳ないんだけど……聞いちまったからにはほっとけねぇぜ」

白猫3「ニャア!」

翔太郎「鋼牙……お前、ソレは自分一人で抱えるモンじゃねぇ。そのカオルって人と二人で抱えなきゃいけない問題なんじゃないか」

鋼牙「……とうとう開き直ったか」

翔太郎「いくらでも開き直ってやる。だいたいな、家族って形を大事にして何が悪いんだよ。家族は絆の形なんだから」

烈花「……」ムッ

翔太郎「それにさ、鋼牙……カオルって人のコト、ちゃんと信じてやれよ」

鋼牙「……信じろ、だと?」

翔太郎「力が無い人間でも、覚悟するコトは出来るんだ。どんな苦難があっても、絶対に乗り越えてやるって覚悟。辛くても大切なモノのために進みたいって気持ち」

鋼牙「……」

翔太郎「その覚悟があれば、お互いに離れそうになってもなんとかなる。困難を乗り越えられる。俺は知らないけど、鋼牙はそのカオルって人には、それが出来ないって思ってるのか?」

鋼牙「……」

翔太郎「カオルって人も、お前の将来の家族も、困難にあっても負けない人間だって、お前が信じてやらねぇと。何よりどんな困難があっても守れるって、お前が自分を信じねぇとダメだぞ」

白猫3「ウニャ」コクコク

鋼牙「…………」

鋼牙「……そうだった。俺は、守りし者だったな」

烈花「鋼牙」

鋼牙「守りたい気持ちが強いばかりに、臆病になっていたのかもしれない」

ザルバ『まさか鋼牙が翔太郎に説教を喰らうとはな。なかなか迫力のある説教だったぜ』

翔太郎「まぁ、コレも俺の実体験だからな、当然だぜ」フフン

白猫3「ニャー♪」

烈花「……俺はただ逃げるコトを鋼牙に勧めていたのか」

翔太郎「そんなコトないさ。悩んでるのが心配だったんだろ?」

烈花「……」



ガサガサガサ、ガサガサガサ



烈花「……なんだ?」

ザルバ『おい、ホラーがどんどん集まってきているぞ』

鋼牙「さっきまでは俺たちを見張っているかのように、じっと身を潜めていたが……」

烈花「何があったのかは分からないが、とにかくこの場を離れよう」



220: ◆NrFF2h.q26:2014/01/08(水) 15:13:58.71 ID:3Fp5Cv90O

翔太郎「……」

白猫3「ニャー!ニャー!」

鋼牙「おい、どうした。早く逃げるぞ」

烈花「まだ数はそこまで集まってない、急がないと」





バタンッ





烈花「!どうした翔太郎!?」

翔太郎「はぁ、はぁ……お、おかしいな……さっきまでは……ここまでひどくは……」

白猫3「ニャー!?ニャァニャア!」

鋼牙「凄い熱だぞ、自分で気が付かなかったのか」

翔太郎「全然……はぁ、はぁ」

鋼牙「……この症状……」

ザルバ『今まで変な匂いが強くて気付かなかったが、鋼牙、コイツもしや……』

烈花「ホラーがどんどん集まってくる!さっきまで不気味なくらい大人しく隠れてたのになんで……!」





邪美「はぁ!」シュッ

ドンッ

ホラー『~~!』ササッ

烈花「邪美の魔導文字……!」

零「鋼牙、早いトコロ翔太郎を連れて逃げるよ!さっき魔針を埋め込まれた人間に会ったんだ。翔太郎はーー」

鋼牙「分かっている。俺がおぶる」

翔太郎「はぁ、はぁ……あの、コイツ」

白猫3「ニャー……」

邪美「……猫?」

翔太郎「た、頼みます……はぁ、はぁ」

邪美「あ、あぁ」

烈花「早く行くぞ!」



225: ◆NrFF2h.q26:2014/01/08(水) 17:27:34.51 ID:3Fp5Cv90O

~翼の屋敷~

レオ「翔太郎さんが、《血に染まりし者》なんですか!?そんな……」

零「しかも恐らくもうすぐ100日目……あの様子だと、明日がその日かもしれない」

翼「普通に考えれば思い当たる可能性だった……魔戒の者でない人間がホラーと何度も遭遇して、尚且つ生き残れているのはかなりの特例だ」

エルバ『しかし血に染まりし者の匂いが、魔導輪に封じられた我らにはあの仮面ライダーとやらの匂いで分からなかったからのう。純粋なホラーには嗅ぎとれていたのじゃな』

烈花「それにしたって誰も気付かなかったのか?魔導輪が感知出来なくとも、一般人がホラーと連続で出くわすなど、ありえないぞ」

翼「それは……言い訳のしようがない」

零「しようならあるよ。翔太郎は元々ドーパントっていうこの街の怪人専門の探偵なワケ。つまり超常的な事件が得意分野なんだから、ホラーとも遭遇する確率は必然的に高くなるでしょ?」

邪美「とは言え明らかに異常な遭遇率だよ?」

零「それはもう……翔太郎ならそういう運の悪いコトもありそう、みたいな」

鋼牙「翔太郎には仮面ライダーという力があった。魔戒騎士でない人間が、ホラーに対抗出来る力を持つコトに驚き、気が抜けていた」

シルヴァ『でもホントに仕方がないんじゃない?。血に染まりし者が発見されているのは、魔戒騎士や魔戒法師がその場にいた時がほとんどよ。だってそうじゃなきゃホラーが血を出すコトもないし、何かしら人間が抵抗してホラーを傷付けその血を浴びたとしても、魔戒の者でない限りはすぐにホラーに殺されてるわ』

ゴルバ『まぁ、今さら御託を並べても仕方が無いじゃろう。それより大事なのは、どうするかじゃ』

鋼牙「……ヴァランカスの実を取りに行くしかない」

烈花「しかしそもそもヴァランカスの実が結実しているかどうか分からないぞ」

翼「だがグラウ竜自体は復活しているんだろう。鋼牙が以前見ていたハズだな」

鋼牙「実がなっていたかどうかまでは分からなかったがな」

零「その果実って随分とレアなヤツらしいからね……」

レオ「迷ってる暇はないです。ここから通り道を使っても、紅蓮の森へは往復で丸一日近くはかかります。あるかどうかの確認に時間は取れません。今すぐ紅蓮の森に向かわないと」

邪美「じゃあ、アタシかレオか烈花のうちの誰かが行くしかないね。紅蓮の森では魔戒騎士は変身出来ないし」



233: ◆NrFF2h.q26:2014/01/08(水) 19:14:10.50 ID:3Fp5Cv90O

ーーーーーーーーーー
ーーーーー
ーー


フィリップ「……」

翔太郎「……」

フィリップ「……」

翔太郎「……フィリップ、あのさぁ……」

フィリップ「何?」

翔太郎「コレ、ウサギか……?」

フィリップ「林檎の皮剥きは経験不足なんだ。君も知ってるじゃないか」

翔太郎「そーだな……」

フィリップ「食べられらない?」

翔太郎「……そんなコトないぞ」

フィリップ「そういうのはちゃんと何か食べてから言ってくれ」

翔太郎「う……」

フィリップ「ホントは軽口叩ける元気も無いクセに」

翔太郎「……」

翔太郎「そーだ、ユキちゃん……あの猫は」

フィリップ「照井竜がわざわざ引き取りに来てくれたよ、自宅で預けてくれるって」

翔太郎「そっか……」

翔太郎「……」

フィリップ「いいよ無理に喋ろうとしたなくても。大丈夫、僕は極めて落ち着いてるから」

翔太郎「……そうだな……お前は頭が良いモンな……」

翔太郎「俺とは違って……無茶なコトはそうそうしないヤツだ」

フィリップ「……」

フィリップ「飲み物もらってくる」

翔太郎「……ありがとな」



バタンッ



フィリップ「……」フゥー

フィリップ「ファングの時から分かってるじゃないか……僕が落ち着いていられるワケがないコトくらい」

フィリップ「それが、無茶なコトはしないヤツだって?よく言うよ」

フィリップ「……」

フィリップ「僕がしたいと思ってるコトは、意味の無い不合理なコトだ。でも僕は……僕はどうしてもじっとしていられない……」

フィリップ「……」



236: ◆NrFF2h.q26:2014/01/08(水) 22:11:28.67 ID:3Fp5Cv90O

ーーーーーーーーーー

鋼牙「待ってくれ、邪美」

邪美「?」

鋼牙「俺も行く。俺ならあの森の中の様子も、グラウ竜のいる場所も分かる」

鋼牙「タム婆も以前に一度通った俺ならば、魔戒法師でなくても同行を許してくれるハズだ」

烈花「確かに……紅蓮の森の地理が分かる人間がいた方が心強いな」

邪美「後は魔戒法師の誰が同行するかだけど」





レオ「……ちょっと待って下さい!大変です、ホラー探知の結界が破れてます!」

翼「……どういうコトだ?」

レオ「ホラーの反応は無かったので……たぶん二ドル自身が人間の身体で札を破壊したんだと……」

邪美「アイツ何が取引だ、くそ!」

レオ「ダメだ、全部の札が壊されてます……急いで貼り直さないと」

零「それよりホラーが街に侵入してたらヤバいよ」

翼「と言っても、街の中を闇雲に探し回るワケにはいかない。やはり俺、レオ、邪美、烈花で急いで手分けして結界を貼り直すしかないだろ」

レオ「各所の札にはかなり厳重な術式の保護が掛けてあります。そこまで徹底的に一つずつ破ってるワケにはいかないでしょうから、修復は四人いれば三時間でなんとか」

烈花「しかし森にいるホラーたちが押し寄せてたら、どうする?」

鋼牙「二ドルはより強靭な身体で復活するため、ホラーを失うのが嫌なのは本当だと思う。恐らくホラーは来ない……来ても数は限りなく少ない」

零「だからって、その推測が結界を急いで貼り直さない理由にはならないよね」

邪美「二ドルのヤツめ、なんだってこんな真似を……」

鋼牙「……翔太郎の容態は一刻を争う。魔戒法師が総出で三時間も結界を貼るのを待つ余裕はない。街にホラー襲撃の可能性があるなら、紅蓮の森へ行かせるのは一人が限界になる」

烈花「危険な紅蓮の森へ単身で行かせるのは、魔戒法師であろうとかなり危険だ。再起不能なり、戦闘に支障をきたす怪我を負う確率はぐんと高くなる」

翼「翔太郎が血に染まりし者であるのを抜け目なく利用する気なのか。なんと卑劣なホラー……」グググ

鋼牙「やはり俺が単身で行く。敵の思惑が何であれ、結界を張り直す魔戒法師の人手は削れん」

烈花「しかし危険だ……!」

零「大丈夫だって、コイツは最強の魔戒騎士だよ?それに、タム婆ってわりとサービスしてくれるから」

レオ「以前にも紅蓮の森へ飛ばされた時は、変身出来ない状況ながらも無事生還されましたよね」

邪美「だが確実に紅蓮の森から帰ってくるのに、一人では心許ないよ」





フィリップ「では僕が同行する。僕が単体で仮面ライダーとなり、冴島鋼牙に同行する」



239: ◆NrFF2h.q26:2014/01/08(水) 22:40:03.20 ID:3Fp5Cv90O

邪美「な……何言ってんだいアンタ!?」

フィリップ「検索したところ、ホラーの返り血を防ぐ法術があるね。それを僕に掛けてもらえばいい。紅蓮の森でもドライバーでの変身はもちろん制限されない。単身のドライバー使用でもホラーに対する戦闘能力は十分にある。以上の点を鑑みて僕は同行することを提案している」

烈花「コイツ、どうして法術のコトをそこまで知っているんだ!?」

零「長くなるからそこら辺は割愛。それよりさっさと術をかけてあげなよ」

レオ「ちょ、ちょっとソレは……さすがにまずいんじゃないですか、一応一般人ですよ?フィリップくんは」

零「変身できない騎士よりはよっぽど戦力になる。そうでしょ?」

フィリップ「時間が惜しいから早く術を施してくれないかな。断られる理由が無いハズなんだだけど」

翼「そうまでしても、ヴァランカスの実が結実しているかどうかは確証がないぞ」

フィリップ「僕の検索によると、魔力が満ちる解我生来の月の夜は、魔戒の植物の成長が促進され、花は開き、実がなるという。ヴァランカスの実も例外じゃないハズだ」

レオ「以前の解我生来の月は、ギャノンが復活させられた時でしたね……というコトはその時にもう結実している可能性が高いかも」

フィリップ「それにもしそこに実がなくとも、僕は諦めないし、挫けない。心配は無用だ」

鋼牙「……」

鋼牙「邪美、烈花、レオ。頼む」

レオ「……分かりました」

邪美「わりかし難しい術だ。三人でやった方がいい」

烈花「まったく、普通の人間にここまで頼るハメになるとはな」

零「思ったより度胸あるね、フィリップくん」

翼「感心してる場合か……」



243: ◆NrFF2h.q26:2014/01/09(木) 00:24:52.05 ID:R8/hlZ2EO

ーーーーーーーーーー
ーーーーー
ーー


ガチャリッ

翔太郎「……」

フィリップ「翔太郎?」

翔太郎「……」

フィリップ「……もう意識が無いのか」

フィリップ「……」

フィリップ「もし僕が君と出会わなければ……というイフを仮定してみると」

フィリップ「僕は今、君の全身を蝕む痛みを想像して苦しくなるコトも……君を失うかもしれない恐怖も……命を掛けなければいせない危険も……何も知らずに生きているコトが出来たんだ」

フィリップ「……」

フィリップ「なんて、ちょっと真面目に考えてみたりもするんだけどね」

フィリップ「全く、こんな無駄なコトを考えてる暇があったら、他にも方法が無いか検索しないと」

フィリップ「……」

フィリップ「ねぇ翔太郎」

フィリップ「僕の気持ちはずっと変わらない。ダブルには……いや僕には……僕の家族が託してくれたこの命のためには……君がまだ必要なんだ」

フィリップ「失うワケにはいかない……絶対に君を助けてみせるよ、相棒」





バタンッ





鋼牙「……」

フィリップ「話は済んだよ、行こう冴島鋼牙」スタスタ





鋼牙「……」

ザルバ『アイツら……まさか出来てr』

鋼牙「言うなザルバ」



246: ◆NrFF2h.q26:2014/01/09(木) 02:02:21.94 ID:R8/hlZ2EO



照井「照井竜だ」

照井「出番がないのと、ダブルの方しか分からない者もいるとのことなので、さらに少し説明させてもらうぞ」

照井「紅蓮の森はホラーが生まれる陰我に満ちた森で、もちろんホラーもたくさんいる。この中では魔戒騎士は鎧を召喚出来ず変身が無理なので、術を使える魔戒法師しか入れない決まりなんだ」

照井「しかし入り口にはタム婆という門番がいて、このタム婆を説得すれば魔戒騎士で中に入れてもらえるようだ。以前、鋼牙も一人で入っているが、その際タム婆は入れてくれたばかりか、鋼牙の魔戒剣を牙狼剣にしてくれている。それに零もその後森に入っているから、タム婆はサービスしてくれると言ったのだな」


照井「さて、この森の中にはグラウ竜という機械仕掛けの竜がいる。グラウ竜は特に意思はなく森の中でホラーを倒し続けているが、そのグラウ竜が倒したホラーの恐怖が凝り固まってヴァランカスの実が出来る。このヴァランカスの実があれば血に染まりし者を浄化するコトが出来るんだ」


照井「また血に染まりし者は100日目を迎えると、魂がこの紅蓮の森に来て、森を通って中にある黄泉への入り口へ向かうというコトだ」


照井「こんなトコロだろうか……」


白猫3「にゃー!」



251: ◆NrFF2h.q26:2014/01/09(木) 19:07:21.15 ID:ER5lq95mO

~魔戒の通り道~

フィリップ「風都の街中に隠し通路があるとはね。知識として知ってはいたが、実際に目にして驚いたよ」

鋼牙「ここは常人では通れない、魔戒の者が使う異空間の道だ。あらゆる所へ通じている。しかし紅蓮の森へ行くにはここを通ってもかなりかかるがな」

フィリップ「知ってるよ。紅蓮の森への最短経路は検索済みさ。冴島鋼牙、そっちじゃなくこっちの道を行くべきだ」

鋼牙「……いつの間に調べた、というのは愚問か」

ザルバ『フィリップ、お前がそんなに何かに必死になるタイプだとは思わなかったぜ』

フィリップ「そういう評価は好きじゃないよ」

鋼牙「……お前は得体が知れないな」

フィリップ「ん?」

鋼牙「地球の本棚とかいう人外の力……ずっと気になっていた。それに気配が普通の人間とは違う」

ザルバ『言っとくが、鋼牙の気配の察知能力は魔導輪顔負けレベルだぜ』

フィリップ「ふぅん……確かに僕の身体は普通の人間と構成要素が根本から違うけど、ワケを話すのは難しいな。なかなか事情が複雑で」

鋼牙「……そうか」

フィリップ「でも君が一番気にしてコトはだいたい分かるよ。僕のような……まぁ大雑把に言ってしまえば特異な存在が、翔太郎という普通の人間とどうして相棒になっているのかってコトだろう?」

フィリップ「それならば答えは簡単だ。僕には……いや、大勢の人間にはあまり無いモノを彼が持っていて、僕はそれをかなり頼りにしているから」

鋼牙「……」

ザルバ『翔太郎が持っているモノねぇ。間違いなく不運や間の悪さは持ってるな』

フィリップ「そうかもねぇ。今回だって血に染まりし者なんかになっちゃったし」

鋼牙「おい」

フィリップ「でも逆に言えば、ホラーに対抗出来る翔太郎が血に染まりし者だからこそ、ホラーは彼に集まっていた。だから犠牲者数は少なかった。最初に会った時、君は言ってたよね?」

鋼牙「……確かにそう言ったな」

フィリップ「禍福は糾える縄の如しってヤツだよ」

ザルバ『なんだその言葉は』

鋼牙「人間の諺だ。意味は分かるだろ」

フィリップ「それに君たちの不運だって僕には幸運だ」

鋼牙「なに?」

フィリップ「僕はどうしても自分自身の力で彼を助けたかった。君たちを信用してないワケじゃないけど、じっとしていられなかった。だから僕が同行出来るこの状況には感謝してる。あのホラーは絶対に許せないけど」

ザルバ『言ってくれるな少年。つくづく大したヤツだぜ』

フィリップ「気を悪くしたなら謝るよ。君たちも必死な状況であるのは分かってる」

鋼牙「……別にいい。お前がそう思っているのは、皆分かっているコトだ」

フィリップ「ふふ、そうだろうね」

鋼牙「しかしヴァランカスの実がなっているとしても、その実を持つグラウ竜と戦わなければならない。俺の場合はグラウ竜が鎧の召喚を許し、変身して戦ったが、それでも零がいなければ負けていた」

フィリップ「戦闘能力は把握してる。僕が勝てる確率はかなり低いだろうね」

ザルバ『随分サラッと言うなぁ』

フィリップ「でも、その確率は単なる戦闘能力の比較に過ぎない。僕にはコレがある」コンコン

ザルバ『そのポーズは頭……じゃなくて、ガッツだって言うのかぁ?』

フィリップ「そうだよ。火事場の馬鹿力ってヤツは科学的にも馬鹿に出来ないし」

鋼牙「……俺も助太刀する。グラウ竜は共闘も認めてくれるハズだ」

フィリップ「ありがとう。頼もしいよ」

ザルバ『ったく、どうなるコトやら……グラウ竜攻略の手を考えてるからこそ、同行してきたと思ってたのによ』



252: ◆NrFF2h.q26:2014/01/09(木) 20:50:36.89 ID:ER5lq95mO

~紅蓮の森~

鋼牙「やっと着いたか」

タム婆「ほう、随分と懐かしい顔じゃな」

フィリップ(タム婆の股の下をくぐって紅蓮の森に入るんだっけ。一体タム婆は何者なんだ……詳細を検索してみたいが今は我慢だ)

鋼牙「この中に入りたい。通してくれ」

タム婆「ふむ……お前は以前もこの森に入り、帰って来れた。じゃがその小僧を通すワケにはいかん」

フィリップ「僕は魔戒の力を持たないが、ホラーと戦える力がある。もちろんホラーの返り血を防ぐ術をかけてもらってるし、魔戒法師が入った場合と比較しても、僕の場合の生還率と大して変わりは無い。むしろ冴島鋼牙のタメにも僕を森へ入れるべきだ」

タム婆「な、なにぃ?」

ザルバ(最強の魔戒騎士と謳われる鋼牙に、説得のためとしてもそんなコトを言えるとはな……末恐ろしいガキだぜ)

フィリップ「納得出来ないなら変身してみせるよ、このドライバーで」スチャッ

『サイクロン!』

フィリップ「変身!」

タム婆「な、なんじゃ、なんなんじゃ……その姿は一体……!?」

サイクロン『どう?今の僕の身体能力はパンチ力1.25t、キック力3t、ジャンプ力はひと跳びで30m、走力は100mを6.2秒で走れる。数値的には十分にホラーと渡り合えるハズなんだけど』

ザルバ(数値で言われてタム婆が分かるのか……?)

タム婆「確かに、その姿からはとても強い力を感じられるが……しかし、しかし……」

ザルバ(んなコト言われてもそりゃ困るだろうな)

鋼牙「タム婆、前に俺を森へ通した時、俺に覚悟を問うたな」

タム婆「うむ……」

鋼牙「コイツにはあの時の俺と同じ覚悟がある。コイツの大切なモノを守るために、ヴァランカスの実が必要なんだ」

鋼牙「それに、鎧を召喚出来ない俺を通せるなら、コイツも通せるハズだ」

タム婆「ぬうう……あい分かった。そこの小僧も通してやろう」

タム婆「いいか小僧、わしの股の下をくぐtt」

フィリップ「失礼」ゴソゴソ

ザルバ『お、おい!先に行くな……まったく!』

タム婆「説明も聞かんとは、少々心配じゃが……冴島鋼牙よ、あの小僧を頼むぞ」

鋼牙「あぁ。俺たちも行くぞ」

タム婆「そうじゃ、またその剣は牙狼剣にしておいてやろう」

ザルバ『助かるぜ!』



255: ◆NrFF2h.q26:2014/01/09(木) 22:35:05.25 ID:ER5lq95mO

~紅蓮の森~

サイクロン『ふむ、僕でも陰我に満ちているコトが感じられる。息をするのも嫌な気分になる空気だ』

鋼牙「この森の中では振り向くコト、走るコトは禁止されている……のだが」

ザルバ『前はどっちもしてたぞ?でも何もなかったよな』

鋼牙「破ると罰があるワケではないのだろう。走るなというのは、『走った方が物音を立てやすく、遠くにいるホラーも気付くから止めておけ』という意味で、振り向くなというのも『振り向く暇があれば逃げろ』という、紅蓮の森を通る上での忠告に過ぎないのかもしれない」

サイクロン『まぁ、普通の人間の僕は、念のためその掟を守っておくよ』

ホラー1『……』スッ

ホラー2『……』スッ

ホラー3『……』スッ

サイクロン『……前言撤回だ。やっぱり走ろうかな』

鋼牙「それがいい。こっちだ、来い」

ザルバ『くれぐれも気を付けろよ、人間がなるドーパントとは違う、コイツらは生粋の化け物だからな』

サイクロン『了解』

ホラー4『~!』バッ

サイクロン『邪魔!』ドカッ

ホラー4『~~ッ』ゴロゴロ

ザルバ『容赦ない蹴りだな~一発でホラーが伸びちまった』

サイクロン『サイクロンの能力で風を操り、風圧で威力を増してる。素体ホラーなら一撃で済むよ』

ホラー5『~!』バッ

鋼牙「ふんっ!」ザシュッ

ホラー5『~~ッ』バタンッ

鋼牙「無駄なコトは止めろ」ギロリ

ホラー6・7『『……!!』』タジタジ

サイクロン『ホラーも気迫でたじろぐもんなんだ』

鋼牙「らしいな。今度はそっちに行くぞ」

ーーーーーーーーーー
ーーーーー
ーー


~分かれ道~

右の少女「……」

左の少女「……」

サイクロン『あぁ、そう言えば二人の少女がいるんだっけね。70%の確率で真実を言う方と、99%の確率で嘘を言う方』

右の少女「……私は99%のうs」

サイクロン『そこの君に聞く。グラウ竜がいるのはどっちの道だい?左の君は黙ってて』

右の少女「……左のみt」

サイクロン『右の道だね、ありがとう』ダッ

少女たち「「……」」

鋼牙「即決だったな」

ザルバ『なんだか仕事をを取り上げたみたいで、あのガキどもが少し可哀想だな』

サイクロン『何を言ってるんだい、人を惑わそうとしてる時点で同情の余地がないよ』



256: ◆NrFF2h.q26:2014/01/10(金) 00:28:10.32 ID:L41XiSL/O

ピィンッ

サイクロン『!足に何か感触が……』

ドゴォォオオ!

鋼牙「地面に網が張り巡らされていたのか!罠だ、避けろ!」

ザルバ『あれじゃ間に合わないぜ!』

サイクロン『それはどうかな!』

ヒュゥゥウウウッ

ホラー8『!?』

サイクロン『よっと……。ふぅ、我ながら風の操作は便利な能力だね』

鋼牙「……なんて跳躍力だ」

ザルバ『風を操って網を跳ね返し、さらに風圧を利用したひとっ飛びで罠の射程から逃げたのか』

サイクロン『いちいち相手をしてる暇はない。じゃあね』

ザルバ『まったく可愛げのないヤツだぜ』

ーーーーーーーーーー
ーーーーー
ーー


もしかして、俺は今、全身に鋭いナイフを刺されて、どくどくと血を流しながらベッドの上に寝ているんじゃないのか。
そう真剣に思ってしまうほど、ひたすら身体中のあらゆる所が痛かった。


いいや、身体の全てどころじゃない。
こうして考えている俺の頭の中にも、浮かんでくる考え事を追うように激しい痛みがやってくる。
呼吸は空気でなく痛みを吸っているようで、息を止めてしまいたいと本気で思った。
この痛みから逃れられるなら、そうしてもいいかもしれない。
そんな考えが一瞬過ったが、なんとか打ち消した。


俺が血に染まりし者のようだ、とフィリップが言っていたが、その言葉の意味までは教えてくれなかった。
ただその表情と身体中を苛んでくる痛みから、どうやら俺の命が危うい状況なのは分かった。
そして俺を治す方法が困難なコトも。


フィリップはどこかへ行ってしまった。
たぶん、俺のタメに困難な道を選んだのだろう。
いなくなる前にフィリップが何かを言いに来ていた。
意識が朦朧として内容までは頭に入って来なかったけど、大きな決意を秘めた声だった。
フィリップ、お前はやっぱり無茶な勝負に出る気なんだな。
普段は冷静な参謀役のクセに、俺が思うよりも大胆な賭けに出るコトがあるんだ。


帰ってきてからホントにアクティブになったモンだ。
でも心配だ。
大丈夫だろうか。
アイツはまた俺の所へ帰ってきてくれるのか?
いや、きっと大丈夫。
アイツを信じてやらないと、それが相棒だ。
ぐるぐる思考が回る度、性懲りも無く痛みが追ってくる。


そしていつしか考えるコトも出来ないくらいの激痛が俺を蝕んできた。
本能で分かる、これは俺の身体が腐っている痛みなんだと。
俺の身体のあらゆるところが、生きながらぐずぐすと腐っていってるんだ。
どんなにひどい拷問でもこんな痛みを味わうコトはないだろう。
筆舌に尽くし難い激痛を感じる一秒が、朦朧とする意識の中で何十倍もの長さに引き伸ばされる。
この世に存在するありとあらゆる痛みを、一気に流し込まれているようだ。



そんな気が狂いそうな激痛の最中、考えるコトも出来なかったハズの俺の思考に、ある考えが気泡のようにぷかりと浮かんできた。

ーー死にたい。

驚くほどにシンプルで、でも何よりも魅力的な言葉だった。



257: ◆NrFF2h.q26:2014/01/10(金) 01:16:06.87 ID:L41XiSL/O

やがて、ふと気が付くと、俺は見知らぬ森の中に立っていた。
さっきまで全身のいたるところにあった激痛もない。
ここはどこだろう?
見渡してみたがさっぱり見当もつかない。
でも心は不思議なくらい凪いでいた。


そして、あれほどいろんなコトを巡らせていたハズの頭の中が、今は一つのコトを思っていた。

ーー疲れたな。

そんな言葉がすとんと胸に落ちた。
何でこんなに疲れているのか?
どういうワケか頭がまったく回らない。
深く考えようとすると、ついさっきまで感じていた気が狂いそうな激痛を思い出してしまいそうで、無意識に身体が思い出すコトを拒んでいた。


こんな状態でろくに考えるコトも出来ないのに、不意に俺の足が一歩動いた。
のろのろとその片足を見下ろす。
この足は一体どこへ行こうとしているのだろう?

ーーどうでもいいや。

別に、これでいいんだと思った。
この足に逆らったって、いいコトなんてないような気がしていた。
そう思うと同時にまた一歩、俺の足は動いていた。


靄がかかった思考の中で、フラフラと何かに導かれるように進んでいく。
ゆっくりゆっくり歩く速度と共に、のろのろと頭も動き出してきた。


まず最初に、俺はフィリップがいなかった一年間、ずっと感じ続けていた孤独と無力感を思い出していた。
その次に、フィリップが消えたまさにその時の、心が張り裂けてしまいそうだつまたあの悲しみを思い出した。
ユートピアにボコボコにされ、仲間まで俺のせいで傷付けられ、俺自身への絶望と申し訳なさで胸がいっぱいになったことも。
テラーに精神を壊されるほどの恐怖を植え付けられたことも。


記憶を遡るように思い出がポツポツと浮かんでくる。
しかし自然と思い出されたそのどれもこれもが、辛く苦しいモノばかりだった。


俺の力が追いつかなくて、フィリップに見捨てられたことも。
死んだハズのおやっさんが蘇り、自分の罪に押し潰されそうになったことも。
そのおやっさんが死んだときのことも。
そして俺の帰る場所が、鳴海探偵事務所だけになってしまった日のことも。


なんで、こんなに辛くて苦しいコトばかりだったのに、俺はずっとがむしゃらに頑張ってきたのだろう。
それをしっかり思い出そうとすると、あの全身が腐っていく痛みがちらついて、反射的に思考を掻き消してしまう。
そんなコトを思い出すのは止めよう。
きっと、この歩みを止めるほどのコトじゃないんだ。
途中で何があろうと、結局はあの耐え難い痛みの中、死んでいく一生でしかなかったのだ。


早く楽になりたい。
何も無い所へ行きたい。
平々凡々で特殊体質もない俺が、あんなに辛いことがあったのに何故かここまでやってこれたんだ。
もうそれでいい。
このまま終わってしまえば、死ぬより辛い苦しみを感じることはないんだーー。





ーー「で、君はなんでそんな所で座り込んでるの?」





頭上から聞こえたその声で気が付いた。
俺はどういうワケか地面に座り込んでいた。
まるでもうこれ以上は進まないぞというように、自分の足を腕で力いっぱい抱えて。



258: ◆NrFF2h.q26:2014/01/10(金) 01:58:57.94 ID:L41XiSL/O

ーーーーーーーーーー

鋼牙「どういうコトだ……血に染まりし者が、自ら歩みを止めているなんて聞いたコトがないぞ」

ザルバ『コイツ、一体どんな力を使ったんだ?』


冴島鋼牙が見下ろす先には、翔太郎が座り込んでいた。
正しくは自分の身体から離れた翔太郎の魂だけど。
血に染まりし者は100日目になると、魂がこの紅蓮の森を通り、中にある黄泉の入り口へと向かうのだ。


僕らはホラーをなんとか振り撒き、その途中の翔太郎を見付けるコトが出来た。
というより、彼が待ってくれていたのだ。
僕も検索していたから、その行動がどれだけ有り得ないコトか分かっている。
奇跡と呼んでもいいだろう。


でもそんなコトに驚いている時間さえ惜しい。
僕はすぐさま座っている翔太郎に手を差し伸べた。
だが彼は、僕の手をぼんやりと見るだけだった。
その顔は表情が薄いが、明らかに困惑している。
ここまで弱々しい顔は、初めて見たかもしれない。


サイクロン『……』


僕は意を決し、ドライバーに手を掛けた。
冴島鋼牙がはっとした顔で僕を見る。
しかしそれを無視して、僕は変身を解いた。


ザルバ『な、何考えてるんだお前!?』

鋼牙「ザルバ、うるさいぞ」

ザルバ『だが鋼牙、いくら辺りにホラーがいないからと言って、変身を解くのは……!!』

鋼牙「何のために俺たちがいる」

ザルバ『うぅ……しかし…………』


何か向こうは揉めているが、知ったこっちゃない。
僕はもう一度、手を差し伸べた。
翔太郎の足を抱える腕が少しだけ緩んだのが見えたが、やはり彼は僕が差し伸べた手を握り返すことは出来なかった。


翔太郎「フィリップ……俺……あそこへ行きたいんだ」


翔太郎はそう言った。
あそこ、とは翔太郎の向かいにある黄泉の入口のコトだろう。
あの入口までの距離はここから10mもない。
そんな直前の場所で、翔太郎はずっと踏みとどまっていたのだ。


翔太郎「あそこに行ったら……楽になれる……今まであった辛いことも……思い出すと胸が痛くて堪らなくなることも……さっきまであった気が狂うような痛みも……全部忘れられる……」


夢現のような口調でそう言う翔太郎。
表情は読めない。
しかし、次に口を開いた時、無感情だった彼の顔色が変わった。


翔太郎「でも……あそこへ行きたいハズなのに……なんで俺……こんなコトしてんだろ……」


そこでようやく、翔太郎と目が合った。
彼の目には小さな、しかし確かな光が宿っていた。


フィリップ「それはね、翔太郎。君が信じているからだよ」

翔太郎「……俺が?」

フィリップ「そう。大きな苦しみや深い悲しみを人が乗り越えた時、より強い喜びや幸せがやってくることを、そんな未来が訪れることを、人がそこへ進めることを、君が誰よりも信じているから」

フィリップ「だから自分のタメだけでなく、他人のタメでも命を掛けてまで頑張ることが出来る。それが君だよ、翔太郎」



260: ◆NrFF2h.q26:2014/01/10(金) 19:02:47.83 ID:L41XiSL/O

翔太郎は僕の言葉をぽかんとした顔で聞いていた。
だけどすぐに、でも……と俯いてしまった。
ここまで心の折れた翔太郎を見たコトがあったろうか。
彼は力が及ばず仮面ライダーになれなかった時でさえ、自分が探偵であるコトからは逃げなかった。
僕が消える間際でも、どうしようもなくなるまで足掻いていた。
ここまで何もかもを放り投げている様子になったコトは、今まで無かったと思う。


翔太郎「そんなコトいくら信じても、無駄だ……」

フィリップ「……え?」


血に染まりし者が100日目に味わう苦痛は、きっと僕の想像が及ばないほどの痛みなのだろう。
そう思っていた僕に聞こえた翔太郎の言葉。
思わず言葉を無くしていた。


翔太郎「そんなコト信じたって……目の前にある辛いコトや苦しいコトの前じゃ……何の役にも立たな」


そこで翔太郎は言葉を途切れさせた。
というより、途切れさせるしかなかった。
たっぷり間を置いて、僕の右手がヒリヒリと痛み出した。
僕は、僕が翔太郎を一切の手加減なくぶったコトを認識するまで、少なくとも五秒はかかっていた。


ザルバ『あー綺麗に決まったな』

鋼牙「……」


僕自身、アレは痛いだろうな、と頭の片隅で思った。
翔太郎はぶたれた勢いで僕から顔を背けた状態になったまま、暫く石のように固まっていたが、やがて赤くなっていく自分の左頬にのろのろと触れた。


翔太郎「……いひゃい、ふぃふぃっぷ」

フィリップ「それは良かった。そろそろ目が覚めた?」


表情はやっぱり薄いが、目の前の彼は痛みで若干涙目になっていた。
翔太郎が一番辛いのは分かってる。
命の瀬戸際にいるのに正気でいるコトを強いるのが酷であるのも、分かっている。
でも僕は我慢が出来なかった。


フィリップ「無駄なんかじゃないよ。君がそれを信じているから、救われた人たちがたくさんいる」

フィリップ「事件の依頼人たちも、ガイアメモリを使っていた人たちも、お父さんを失ってしまった亜樹ちゃんも、復讐にとらわれていた照井竜も、ただガイアメモリを作る道具に過ぎなかった僕も、みんなそうだ」

翔太郎「……」

フィリップ「君がいなかったら、確かに僕は道具のまま辛いコトを知らないままでいられたのかもしれない。でもそれと引き換えに一人の人間として、とても大切なモノをたくさん得るコトが出来た」

フィリップ「そうさせてくれた僕の相棒を馬鹿にするヤツは、たとえ君自身でも許さない」

翔太郎「……で、でも……あんな痛みも……苦しみも……もう、俺には耐えられねぇんだ……」

フィリップ「君が挫けそうなら、僕が支える。だから僕はヴァランカスの実を手に入れ、君を浄化させてみせる。それが今の僕に出来る、君を支えるコトだから。それが鳴海荘吉が僕らに託したメッセージに込めた、大切なコトじゃないか……誰も完璧じゃない……だから互いを信じて支え合うんだって」

フィリップ「僕らは相棒なんだ……だから、君の相棒を信じてよ!僕が君を支えられるコトを、僕の覚悟を、信じろよ!!」


いつの間にか翔太郎の胸倉を掴んでまで叫んでいた。
不甲斐ない翔太郎が許せなくて、心底腹ただしくて、でも絶対に助けたいと思った。
翔太郎は僕にされるがままゆさゆさと揺られていた。
そうして目をぐるぐると回しながら、翔太郎はなんとか僕と目を合わせてくれた。



ザルバ『思い出すな、鋼牙』

鋼牙「何がだ」

ザルバ『お前もさ~、カオルを見付けた時、あの女をひっぱたいてさ、それから何するかと思ったら「俺にはお前が必要なんだ!」って抱きしm』

鋼牙「……」デコピンッ

ザルバ『いっってぇぇえええ!?』



261:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします:2014/01/10(金) 19:26:01.95 ID:PQQ4xAQNo

あれ? 第一期だよな、確かカオルの
このザルバ憶えているのか?



263: ◆NrFF2h.q26:2014/01/10(金) 21:09:46.03 ID:L41XiSL/O


やばいそうでした……。
ど、どうしよう……。
だ、断片的に記憶が戻ってきてるとか……そっちの方で……



264:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします:2014/01/10(金) 21:14:34.80 ID:OUokm3Ddo

あれだよ、不思議パワーだよ



272: ◆NrFF2h.q26:2014/01/11(土) 00:10:48.96 ID:G2ptTLJzO

翔太郎「……俺、は……」

翔太郎「……」

翔太郎「…………分かった」

フィリップ「翔太郎」

翔太郎「……俺は……信じればいいんだよな、相棒」

フィリップ「もちろん。いつもみたく馬鹿みたいに信じといて」

翔太郎「……馬鹿みたいってなんだよ……」





鋼牙「大丈夫か、翔太郎」

翔太郎「あ……おう。フィリップが喝入れてくれたから……少し頭が回るようになってきた」

翔太郎「……俺のせいで無茶してるのは分かってたのに……俺、あんな弱気なこと言っちまって」

フィリップ「いいよそれは。本当にどうしようかと思ったけど」

ザルバ『そういう割には迷いのないビンタだったがな』

翔太郎「……それで俺、どうしたらいいんだ?」

鋼牙「ザルバを貸す。それでこの森を出ろ」

フィリップ「ここはホラーがたくさんいるから、くれぐれも気を付けて」

翔太郎「……お前だけで俺、大丈夫なのか?」

ザルバ『ヤローのお守りは気が進まないがな、任せとけ。伊達に牙狼の魔導輪をやってるワケじゃないぜ』

フィリップ「翔太郎、後少しだけの辛抱だから」

翔太郎「……あぁ、分かってる」

鋼牙「行くぞ、フィリップ。時間は無い」

フィリップ「うん」





翔太郎「……」

ザルバ『どうした?俺たちも急ぐぞ』

翔太郎「……おう」



273: ◆NrFF2h.q26:2014/01/11(土) 00:14:35.86 ID:G2ptTLJzO

ーーーーーーーーーー
ーーーーー
ーー




鋼牙「ここだ」

サイクロン『……この箱のようなものが……グラウ竜……』

グラウ竜『久しいな、そこの魔戒騎士よ』

鋼牙「……俺を覚えているのか、グラウ竜」

グラウ竜『またこの実を取りに来たのか?』スッ

サイクロン『それはヴァランカスの実!よかった、結実していたんだ……!』

グラウ竜『……して、そこの者は?お前は人間なのか?』

鋼牙「その実を欲しているのは俺じゃない。この人間だ」

グラウ竜『魔戒の者でない人間が、この森を通り私の前に来れるとは……外には面白い力がある』

サイクロン『僕はその実が欲しいんだ。助けなければならない人がいる』

グラウ竜『……その言葉に対する答えは、前にもそこの人間に言ったと思うが……私はホラーを倒すためだけの存在。人間にこの実をやる義理は無い』

鋼牙「またその御託か。お前は変わらないな」

グラウ竜『……』

サイクロン『どうしたらその実を僕にくれる?』

グラウ竜『しれたこと。また私から力ずくで奪えばいい。二人掛かりで来い。ただしそこの魔戒騎士の鎧の召喚は許さないぞ。私はあの時、お前の強さの先にあるものを見るタメに許したダケなのだからな』

鋼牙「……」

グラウ竜『今、私が見たいのは、魔戒の者でないそこのお前が持つ、その強さの先にあるモノ。見せてもらうぞ、人間』

サイクロン『望むところだ』

鋼牙「……」チャキッ



276: ◆NrFF2h.q26:2014/01/11(土) 02:55:56.61 ID:G2ptTLJzO

僕は改めてグラウ竜の巨大な姿を見上げた。
グラウ竜は巨大な箱の上部から長首の竜の頭を出し、箱の底面の四隅からゴツゴツとした金属の足が生えている。
そして箱の側面には、女の裸体を模したオブジェや、恐ろしげな化け物の顔のオブジェなどが四つの面に埋め込まれていた。
無機物的な鋼鉄の身体なのに、そんな不気味な装飾が施されているせいで、妙な生々しさが感じられる。
そんな異様な雰囲気を放つグラウ竜の顔のすぐ傍に、僕らが求めるヴァランカスの実が浮いていた。



鋼牙「ぼうっとしてる暇は無いぞ!」



冴島鋼牙の声に呼応するように、グラウ竜は数ある箱の隙間の一つから細長い鋼鉄の鞭のような腕を伸ばしてくる。
咄嗟に飛び退くと、腕の先端の大きな鉤爪が、先ほど僕がいた辺りの地面を瞬時に削りとった。
そうして僕が飛び退いている間にさらに別の箱の隙間からもう一本の腕が飛び出た刹那、目の前に鉤爪が迫る。
その鉤爪を寸前でかわしざま、風圧を込めた蹴りをそれに叩き込むと、ガツンと重たい音と共に鉤爪は思いっきり地面に突き刺さった。



地面に深く突き刺さった鉤爪はなかなか抜けず、それでもグラウ竜が引っ張るタメにその長い腕はピンと張り詰めた状態になっている。
僕はすぐさまその腕の上に飛び乗ると、一気にグラウ竜の元へ駆け寄っていった。
グラウ竜は息つく間も無く、別の隙間から大きな刃を持った腕を出してくる。
そして地面に刺さってしまった腕の上を走る僕目掛け、勢いよく突きを繰り出した。
だが冴島鋼牙が瞬時に飛び出て、その一撃を牙狼剣で払い除けた。



鋼牙「そのまま行け!」



言われるまでもない。
だがもうじき僕の腕が実に届くというところで、グラウ竜の腕が地面から抜けてしまった。
腕が抜けた反動で足場が崩れ僕の足が、身体を空中に投げ出してしまったところで、もう一本あった鉤爪の腕が鞭のようにしなって僕の背にぶつけられる。
受け身も取れず思いっきり地面に叩きつけられ、一瞬息が出来なくなった。



やはりそうそう一筋縄ではいかないか。
全身の痛みに歯を喰い縛りすぐに身体を起こすと、先端部が斧状の新たな腕が僕の前にやってきていた。
一体あの腕は何本出せるんだろう。
しかもまるでこの腕自身が一つの命を持つように動いてくる。
かと言って腕の一本に集中していると、不意にまた別の腕の一撃が繰り出されるから、周囲にも気を配らねばならず、かなりの集中力を消費させられる。
冴島鋼牙の方を横目で見ると、彼もグラウ竜の猛攻を捌くので手一杯のようだった。



グラウ竜『やるな人間……しかしお前は何のタメに戦う?』

サイクロン『どう言う意味だ』

グラウ竜『私には分かる。お前は手練れの人間だ。お前も私と同じように、たくさんの戦いを経てきた。違うか?』

サイクロン『あぁ、違うよ。一緒にしないでくれるかな?』

グラウ竜『なに……?』

サイクロン『意志も無く戦う機械と僕は違う。ーー僕はもう、道具じゃなくなったんだ!』



言うや否や、渾身の力と風圧を合わせたパンチを斧の平面に叩き込む。
悲鳴のような甲高い金属音と共に、ひしゃげた腕が地面にドシンと落ちた。



278: ◆NrFF2h.q26:2014/01/11(土) 16:01:20.94 ID:G2ptTLJzO

鋼牙「前に戦った時には腕は二本だったが……改良でもされたか」

グラウ竜『さぁな。だがそろそろ私も本気を出そう。この腕は使い物にならなくなった』



そう言うと、グラウ竜はひしゃげた腕を完全に胴体の箱から切り離した。
そして残る三本の腕を中に納めると、胴体の箱がぐるりと回る。
グラウ竜の周囲に大きな魔法陣が浮かび上がり、呼応するように鋼鉄の翼が背中に広げられる。
そして左右にあった女性の裸体のオブジェや、化け物の顔のオブジェが箱から離れて出てきたと思うと、それが新たな三本の腕となって伸びていた。



グラウ竜『さぁ行くぞ!』



翼を羽ばたかせ、グラウ竜がその巨体で猛然と突進して来る。
あの大きさでなんてスピードだ。
冴島鋼牙と僕はお互いに反対方向に転がるようにしてその突進を避けた。
僕の横を通り過ぎる時、まるで地響きのような轟音と揺れが感じられた。


突進をやり過ごしたものの、すぐさま腕の先端についた女体のオブジェがそれぞれにやって来る。
オブジェは上下にぱっくりと割れると、僕を挟み潰そうと迫ってきた。
それを避け、風圧を込めた蹴りで吹き飛ばすと、今度は上空に掲げられた化け物の顔のオブジェがこちらを向き、その口から光線を照射した。
後ろに飛び退いてそれも避けたが、光線は地面を粉砕し、噴水のように土砂を撒きあげていった。



グラウ竜『私はずっと考えていた……魔戒騎士、お前と闘った後ずっと……』

鋼牙「俺と戦った後?」



次々と攻撃を繰り出しながら、グラウ竜が冴島鋼牙に話し掛けている。
彼は僕に一瞬目線を遣り、もう一つの女性のオブジェの腕を相手にしながらも、一体何を?と言葉を続けた。
グラウ竜の注意を出来るだけ自分に引きつけようと言うのだろう。



グラウ竜『そうだ。お前が強さの先に見せたモノ……それは他人の力を自らのモノにする、何かの力だった』



女性のオブジェの挟みこみと、化け物の顔のオブジェの光線によるコンビネーション。
話しながらのクセに器用なものだ。
その猛攻撃をくぐり抜け、隙を見て女性のオブジェの後ろに回り込むと、僕は腕の部分を抱きかかえるように捕まった。
当然、グラウ竜は僕を振り払うように腕を振り回したが、必死にしがみつく。



グラウ竜『そして今、そのお前が今度はこの人間の力になっている……』

鋼牙「……」

グラウ竜『自分のためでもないのに他人のタメに命をかける。それがあの人間の力になる。その力の強さは、ただ単に二人分に増えただけでは足りない……つくづく不思議だ』



何度も振り回されたが僕が尚も捕まっていると、振り払うコトは諦めたのか、次にあの化け物の顔のオブジェが上空からぬっと顔を出す。
そしてその口を開けると、次の瞬間光線を照射してきた。

ーーこれを待っていたんだ!

間一髪避けると、光線は見事に僕がしがみついていた腕の部分にあたり、腕の先端のオブジェはごとりと地面に落ちた。



グラウ竜『……!』

鋼牙「はぁぁあああ!!」



グラウ竜が驚きようやく僕に注意を向けた瞬間、冴島鋼牙もその隙を見逃さず、大きく振った一撃をもう一つの腕にある女性のオブジェの腕の付け根に叩き込む。
彼が何回もそこだけを執拗に攻撃し続けていたのを、僕は知っていた。
何度も傷めつけられたそこは、その一撃でとうとうスッパリと斬られ、もう一つの腕も地面に落ちた。



279: ◆NrFF2h.q26:2014/01/11(土) 17:34:56.66 ID:G2ptTLJzO

サイクロン『僕は問答している暇はない。だから拳で語る、というヤツでいかせてもらうよ』

グラウ竜『面白いコトを言う。では語ってみせろ』


グラウ龍は翼をはためかせ、ゆっくりと上空に上がると、残った化け物の顔のオブジェが雨のように光の弾丸を降らしてきた。
辺りに次々と被弾し爆発が起こる。
その衝撃は立っているのがやっとな程の凄まじさだ。


鋼牙「くそ……これじゃ攻撃出来ない。今はあの岩場に隠れるしか……!」

サイクロン『君はそうして。僕はやるよ』スッ

鋼牙「な……!お前、まさかあの弾丸の雨に突っ込むというのか!?」

サイクロン『あぁ、そうさ。どうかぼくの幸運を祈ってくれ、冴島鋼牙』


こんな弾丸の雨、岩場の陰に隠れてもすぐに岩場もろとも粉砕されてしまうハズだ。
ならば一気に決めるしかない。
僕は意を決してマキシマムスロットにサイクロンメモリを挿した。


『サイクロン・マキシマムドライブ!』


途端に凄まじい竜巻が僕を包み込み、グラウ竜のいる上空へ押し上げていく。
僕に向けられた弾は風に吹き飛ばされ、当たるコトは無かった。


グラウ竜『一撃でかたをつけようと言うのか。いいだろう』


グラウ竜は弾丸を止めた。
しかしその代わり、化け物の顔のオブジェの前に徐々にエネルギーの光が集まっていた。
自身の全てのエネルギーを集めた光線を打つ気なのだ。


だが、絶対に負けるワケにはいかない。
僕は集中すべく目を閉じた。
その暗闇の中に、一筋の眩い光が見える。

ーーこれが、僕の失いたくないものの光だ。この光が輝き続け、僕の好きな街や人々を照らしていくタメに!

目を開き、一際高く風で自分の身体を押し上げると、僕は眼下のグラウ竜を見据え右足を向けた。


サイクロン『はぁぁああああ!!』


サイクロンメモリの持つ全てのエネルギーを右足に集め、荒れ狂う風をまとわせながら勢いよく降下していく。
一拍置いて、グラウ竜も貯めていたエネルギーを一気に放出してきた。



280: ◆NrFF2h.q26:2014/01/11(土) 17:36:43.98 ID:G2ptTLJzO

凄まじいエネルギー同士がぶつかり、その余波で空気が震える。
グラウ竜の放つ光線の中心を切り裂くように、僕は右足に力を込めた。
凄まじいエネルギーは僕をなかなか近付けさせず、グラウ竜の元へは到達出来ない。
お互いの力は拮抗している。
しかしこのままでは僕の方が先に押し切られてしまう。
どうしたらいい、いやこのまま限界までやってみるしかない……!
思わずホゾを噛んだ瞬間だった。


突然、僕の後ろから緑の焔が轟音をたててやってきた。
これは冴島鋼牙の烈火炎装の焔だ。
焔は僕の右足に集まり、グラウ竜のエネルギーを飲み込んでいく。
思わず下の方を見ると、冴島鋼牙は黒焦げの手を抱え、牙狼剣を手元から落としていた。
近くには魔導火のライターが転がっている。
自分の手が焦げることも厭わず、彼が生身で烈火炎装を放ったのだ。


グラウ竜『なんという無茶な……』

鋼牙「行け、フィリップ!!」

サイクロン『はぁぁああああ!!』


風と焔は混じり合い、互いにエネルギーを増していく。
その全てを右足に集め、光線を押し切り、顔のオブジェを突き抜け、そしてそのままグラウ竜の胴体である箱を一気に貫いた。
僅かの静寂の後、爆発の音がひびく。
地面に着地した僕が振り向くと、グラウ竜の巨体は、どう!と音を立てて横倒しになり、地に伏した。


そして僕の頭上から、ヴァランカスの実がゆっくりと落ちてきた。
手を伸ばしてそれを受け止めると、冴島鋼牙が火傷まみれの両手を庇いながらやってきていた。


グラウ竜『確かに聞いたぞ……人間の持つ強さの先にあるモノ……その想い……』


その一言を残し、グラウ竜の身体は消滅していく。
グラウ竜には命というモノがない。
時間が経てば、また蘇るのだろう。



281: ◆NrFF2h.q26:2014/01/12(日) 01:54:04.46 ID:NGf66YkXO

グラウ竜が消えていく前の声は、無機質だったがどこか満足そうだった。
感情らしい感情を持たず、戦いのタメにしか存在しないハズのグラウ竜が、何かに興味を示し、挙句考え続けていた。
そのコトが、僕にはなんとなく感慨深かった。
戦う道具であり続けるグラウ竜は、昔ガイアメモリを作り続ける道具だった僕を、想いなんてモノの存在を知らなかったあの頃の僕を、ほんの少し思い起こさせていたから。



でも、そんなコトより。
僕は手の中のヴァランカスの実をじっと見詰めた。



鋼牙「急いで帰るぞ、フィリップ。それまでは気を抜くな」



隣に立つ冴島鋼牙の言葉に、僕は頷いた。



サイクロン『あぁ、帰ろう』



たったそれだけを言う声が、見事に震えていた。
その震えに冴島鋼牙は気付いたようだけど、何も言わず僕に背を向け歩き出していく。
その後ろを追いかけながら、僕は今すぐ大声で泣きたくなるのをぐっと堪えていた。
まだ気を抜くのが早いのは分かっている。

ーーでも、これでようやく翔太郎を救うコトが出来る。

僕は、僕が思っていたよりもその事実に僕の底から安堵していた。
僕が消えてしまう前、翔太郎がそれをなかなか受け入れられなかったのと同じくらい、僕も彼を失うコトをとても耐え難く思っていたのだ。
そのコトを、やっと素直に感じるコトが出来るんだ。



ーーーーーーーーーー



ーー翔太郎、早く走れ!ホラーに追い付かれるぞ!

ーーうわぁぁあああもうダメだぁぁあああ!

ーーあ~もう仕方ない……翔太郎、飛ぶぜぇ!!

ーーのわぁぁあああ!?俺、飛んでる!?ていうか指輪のザルバに引っ張られてる!?

ーー見えたぞ翔太郎!アレが出口だ!



282: ◆NrFF2h.q26:2014/01/12(日) 01:55:07.90 ID:NGf66YkXO

翔太郎「……はっ!」



ぎゅっと瞑っていた目を開けると、俺は真っ白な空間に立っていた。
ココがあの森の外なのか?
森の外というより、俺にとって馴染みのある精神世界のように思える。
でも森を出る途中、ザルバは今の俺が魂だけの存在だって言ってたから、この真っ白な空間に行き着いたのは、魂の俺が無事に自分の身体に戻れたというコトだろうか。



???「そのようだぜ、翔太郎」



そこで俺の思考に相槌を打つ声が聞こえた。
しかしそのコトに驚くより、俺はその声に驚いていた。
ひどく懐かしい声。
まさか、そんな、馬鹿な。
恐る恐る声のした方へ目を向ける。



荘吉「よくもまぁ、そんな間抜け顔が出来るもんだなお前は」



自分でも完璧な絶句っぷりだと思う。
でも、だって目の前におやっさんがいるんだ。
そりゃ仕方ないじゃないか。
俺が一生追い続ける背中を持つ男なんだから。
だけど何で?
何で俺の精神世界におやっさんがいるんだろ。



荘吉「どうしても言いたいコトがあって、ちょっと顔を出しに来たんだ」

翔太郎「そこまでして言いたいコトって……い、一体何を……?」

荘吉「お前は俺が手に入れられなかったモノを手に入れた。そのコトを肝に銘じておけよ、ってな」

翔太郎「……ソレって」



ーーソレって、『相棒』のコトですか?

そう言い掛けたが、すぐに口を噤んだ。
俺はおやっさんがどうしてそれを手に入れるコトが出来なかったか、知っている。
ソレはおやっさんにとって大きな心の傷だ。



俺が弟子入りした時、おやっさんは独りだった。
というか、正式な弟子入りはなく、俺がひたすら根気強くおやっさんの後をついていって、気が付けば周りが俺をおやっさんの弟子と認めてくれていたのだ。
そしておやっさんもいつしか俺がついていくのを黙って認めてくれるようになって、いろんなコトを教えてくれるようになった。



いつもそんな風に必死についていって、その姿が俺のいる世界からなくなっても、ずっと追い越すコトばかり考えていた。
そんな人が、手に入れられなかったモノ。
それが相棒。
それが、アイツ……。



荘吉「その重さを忘れるんじゃねぇぞ」

翔太郎「……もちろんです」



この人が本当におやっさんの魂だろうと、俺の作り出したイメージだろうと、今はどっちでもいいと思った。
たくさん辛いコトや苦しいコトがあった。
だけど俺は。
いや、俺たちは。
それを乗り越えて、こんな大きなモノを手に入れているんだよな。



284: ◆NrFF2h.q26:2014/01/12(日) 03:48:01.64 ID:NGf66YkXO

~翼の屋敷~

翔太郎「……」ぱちくり

フィリップ「あ」

邪美「目が覚めたみたいだね。もう大丈夫だよ」

翔太郎「……なんか……口の中に不思議な味が……」

レオ「はぁ~……結界も貼り直せたし、それに乗じたホラーの来襲も無かったし、翔太郎さんも無事……取り敢えずひと段落ですね」

零「待ってるだけの身にはやけに長かった気がするな~」

フィリップ「僕にしたら時間が無いとしか思えなかったけど」

翔太郎「……自分に何が起こってたのか、未だによく分かんねぇや……」

翔太郎「……あれ?鋼牙は……?」

フィリップ「手を怪我しててね、別室で烈花からの治療を受けてるよ」

翔太郎「な、なんで怪我なんか……なぁ、ホントに何があったんだ?」

翼「それはまたおいおいフィリップに話してもらえばいい」

零「今は俺たちは二ドルのコトに専念しないといけないからね」

フィリップ「……あったね、そんなコト。すっかり忘れてた」

邪美「呆れたねぇ、アタシたちが何のために必死に結界を張り直してたと思ってるんだい?」

零「まぁまぁ。フィリップくんと鋼牙が思ったより早く戻ってきてくれたから、解我生来の月の前日の今日はゆっくり出来るんだし」

レオ「ゆっくりはダメですよ。二ドルの対策を今からちゃんと練らないと」

翼「かと言って、あっちは人間の身体を乗っ取って盾にしているんだ。大人しく完全復活を待ち、その時に二ドルの支配から解放される人間をなんとか救出するしかない。その救出方法さえ何も思い浮かばないが……」

邪美「しかし後手に回ってばかりなのはシャクだねぇ」

零「結局、ゲートを生み出してる力はなんなのか分かんないままだしね。二ドルは人間の身体じゃないとその力は使えないって言ってたけど……」

レオ「いくら魔導具で調べても、魔戒の力を使った形跡は無かったです……ホラーの力だとしても、ここまで痕跡をみつけられないのは……」

フィリップ「……そのコトなんだけど、僕、実は今ちょっと思うところがあるんだけど」

邪美「え?なんだい、その思うところって」

フィリップ「……全く根拠がないんだけど……」

翼「なんでもいい。言ってみてくれないか」

フィリップ「じゃあ言うけど……何も手掛かりが見つからないって言うのは、単に君たちに調べる術のない、専門外の力でゲートが作られてるんじゃないかなって」

邪美「は?」

翼「つまり何を言いたい?」

レオ「……言いたいコトが何と無く分かる気がする……」

零「……」



285: ◆NrFF2h.q26:2014/01/13(月) 01:38:23.23 ID:Jej9Rhm0O

ーーーーーーーーーー

烈花「よし、綺麗に治った。魔導火は普通の焔じゃないのだから、治療も一苦労なんだぞ」

鋼牙「すまない。身体が勝手に動いていたんだ」

烈花「まぁ、オレだって同じコトをしただろうが……あの翔太郎という男、お前の悩みを見抜き、あんな言葉を掛けるなんてな。自分が死ぬ瀬戸際にいたのにも気付かないで」

鋼牙「……」

烈花「だが翔太郎のコトは片付いても、二ドルの方が残ってる」

烈花「……二ドルに支配された人間一人を犠牲にすれば、完全復活する前にあの大量のホラーともども倒せる。レオが邪美とオレが操るタメの号竜を用意してくれている。それでも戦力が足りなければ、元老院に申し立てれば」

鋼牙「まだ時間は一晩ある。それまで他の方法を探すべきだ」

烈花「……そう言うと思っていた」

烈花「しかしオレたちは魔戒に伝わるあらゆる術や、ホラーの仕業の可能性を調べ尽くした。完全に手詰まりなんだ……」





フィリップ「まだ手詰まりじゃないよ、二人とも」

烈花「!お前……翔太郎の傍にいなくていいのか?」

フィリップ「さっき目を覚ましたよ。これでようやく、僕にもこの事態の打開策を考察する思考の余裕が生まれた」

鋼牙「俺たちが見過ごしている他の可能性が存在する、というのか」

フィリップ「そういうコト。僕の思い描く可能性の裏付けを、今照井竜や風都イレギュラーズに頼んでいる」

鋼牙「その可能性とはなんだ?」

フィリップ「勿体ぶるほどのコトじゃないよ。僕はただ、ホラーのガイアメモリがあるんじゃないかと思ってるだけ」



鋼牙「……」

烈花「……」

烈花「……ガイアメモリとやらのコトは、フィリップと鋼牙が紅蓮の森へ行っている間に、零やレオから概ね聞いているが……」

鋼牙「つまり、お前が言いたいのは……二ドルは人間の身体を用い、ガイアメモリでドーパントとなってゲートを生み出し、そこから生まれたホラーを操っている。ガイアメモリは俺たち魔戒の者にとって専門外の技術だから、今まで手掛かりを全く拾えなかった。そういうコトか?」

フィリップ「あぁ」

鋼牙「しかしホラーのガイアメモリがあるならば、お前の地球の本棚で検索すればすぐ引っ掛かるだろう?」

フィリップ「そう思って、ホラー、ガイアメモリのキーワードで検索したけど、様々な検索結果が引っかかって限定が出来なかった」

鋼牙「つまり、ホラーという名前のガイアメモリは存在しない」

フィリップ「そう。でも僕はそこで一つの仮定を考えた」

烈花「一つの仮定……?」




フィリップ「そもそもガイアメモリにこめられている地球の記憶の研究方法は、僕という存在が生まれる前後で大きく異なっている」

フィリップ「僕がガイアゲートに落ちた結果、地球の本棚という膨大なデータベースを直接閲覧出来るようになる前……」

フィリップ「つまりミュージアムがガイアゲートを見付けた最初期の頃、その当時、地球の記憶は僕のように閲覧したい情報だけを取捨選択する術がなかった」

フィリップ「ガイアゲートからとめどなく溢れ出てくる地球の記憶を順次採集し、それを自分たちの手で解析して、該当すると思われる記憶の概念へ解析したデータをそれぞれ分類し、一つの概念の地球の記憶を人力で編纂していった……そういう手法で抽出された地球の記憶を元に、ガイアメモリは作られていたんだ」

フィリップ「この製作方法は極めて効率が悪く、後にシュラウドが考案した研究方法や、僕という地球の記憶の取捨選択が可能な存在の誕生によって、より正確な地球の記憶の抽出と、メモリの大量生産が可能な方法へ改良されたワケだけど」

フィリップ「その最初期の頃、ホラーに関する記憶の概念を集めたガイアメモリが作られた。しかし当時の研究員たちは、採集した記憶同士の繋がりがあるコトは分かっても、それが何の記憶のメモリなのか分からなかった。ホラーの存在は表に出てこないモノだからね」

フィリップ「だからホラーという名前をそのメモリに与えるコトが出来なかった。そして別の概念の名前を与えられた。そんなメモリがあるかもしれないっていうのが、僕の仮定だよ」



286: ◆NrFF2h.q26:2014/01/13(月) 16:08:13.36 ID:Jej9Rhm0O

烈花「な、なんだかよく分からなかったんだが……」

フィリップ「あぁ、すまない。キミたちには話していない事情も含めた仮定を話してしまったものね……」

フィリップ「んーと、つまり最近のガイアメモリは、地球の本棚の中を検索して地球の記憶を引っ張ってるから、何の記憶か分からないなんてコトはあり得ない。地球の本棚にある記憶は、必ずどんな記憶か記されているから」

フィリップ「でもガイアメモリを作り始めたばかりの頃は、地球の本棚からではなく、ガイアゲートという地球の記憶が常に流出しているところから、記憶の断片を抽出していた。それを人間がどんな記憶の一部なのか類推して、バラバラに集まった断片から一つの記憶をパズルのように作り上げていた」

鋼牙「……その中に、どんな名前の記憶なのか分からないまま、一つの記憶としてまとめられたガイアメモリが生まれているかもしれはい……」

鋼牙「ソレがホラーのメモリ……そういうコトか」

フィリップ「一般人が閲覧できる情報媒体にはホラーの存在は記されていない。載っていたとしても、それは怪しげな伝承程度だ。ホラーに関する情報が世に出ないよう、魔戒の人間が管理しているようだね。君たちの組織はかなり大きいし」

烈花「確かにそうだろうな……有能な研究者と言えども、魔戒の者でない限りは、ホラーの存在はオカルト紛いの情報しか知るコトなど出来ないだろう」

鋼牙「しかしその推測が当たっているかどうかは分からないぞ。大した根拠も無い」

フィリップ「だから裏付けを取ってるんだよ。しかし魔戒の人間が調べ尽くしても全く手掛かりが無い現状が、僕には立派な根拠の一つになってるんだけど」

フィリップ「ユニコーンやケツァルコアトルスのような架空の生物でさえ、ガイアメモリは存在するんだ。ホラーに関するものがあってもおかしくないのさ」

鋼牙「ふざけた記憶だな……もしソレが本当なら……」

フィリップ「今は照井竜が最近摘発した、新興ガイアメモリ販売組織の人間に改めて取り調べを行ってもらっている。現在流通している可能性のあるガイアメモリのリストアップ、その中でさらに能力名から能力が曖昧なメモリをピックアップしてもらう」

フィリップ「警察が追いきれていないメモリも考慮して、風都イレギュラーズにも情報を集めてもらってるけど……時間はある程度かかるだろうね」

烈花「いつの間にそんなところまで動き出していたんだ……ヴァランカスの実を取りに行くと言い出した時といい、お前には驚かされてばかりだな」

フィリップ「普段は安楽椅子だから、さすがに疲れてるよ。足で稼ぐのはやっぱり向かないね。僕は暫く休ませてもらう」



287: ◆NrFF2h.q26:2014/01/13(月) 18:32:58.89 ID:Jej9Rhm0O

ーーーーーーーーーー

翼「しかし仮にゲートを生み出し、ホラーを操っているのがドーパントの仕業だとして、状況は何か変わるのか?」

邪美「確かにねぇ……」

翔太郎「意味ならあるんじゃねーかな?」

零「どゆこと?」

翔太郎「いや俺も分からないけど」

レオ「そうですか……」

レオ「あ、そうだ翔太郎さん。良かったらミカンどうぞ」

翔太郎「じゃあいただこうかな」

零「食欲あるの?よく食べられるね」

翔太郎「しっかり食べて休んどかないと、俺もいざという時動けないだろ」

邪美「何言ってんだい、暫くは絶対に安静しておかないと」

翔太郎「街のピンチにじっとなんかしてられねぇよ。それに本当にガイアメモリのせいなら、俺が出なきゃならなくなるかも」

翼「もう一人の仮面ライダーがいるだろう。その男に任せておけ」

翔太郎「あのな、一括りにしてるけど、照井と俺たちじゃあメモリの能力とか全然違うんだよ。だから俺が出なきゃならなくなるかもしれないんだ」

零「強情だね……さすがフィリップくんの相棒」

レオ「そうですね。さすがです」

翔太郎「なぁ褒めてる?馬鹿にしてる?なぁ?」



ーーーーーーーーーー


~夜~

照井「邪魔するぞ」

フィリップ「はぁ、よく寝た。わざわざすまない照井竜」

翔太郎「よ」

照井「!左……瀕死の状態から持ち直したとは聞いていたが、もう歩けるのか?」

翔太郎「まぁな。頑丈なのが俺の取り柄だし」

フィリップ「で、メモリの件だけど……わざわざ来てくれたんだね」

照井「あぁ、ついでに左の様子を見に来たんだ。所長がひどく心配していたからな。だが大丈夫そうだ」

翔太郎「心配掛けて悪かったな。もう俺は平気だって、亜樹子のヤツに言っといてくれよ」

フィリップ(まだ完全復活ではないだろうけどね……痩せ我慢しちゃって)

照井「で、これが改めて流通が確認されているガイアメモリだ」

翔太郎「へぇ、こんなにあるんだな。ていうかオレンジとかアップルのメモリって……どんなドーパントになるんだろ?」

フィリップ「……インジャリーメモリ」

翔太郎「?い、いんじゃりー?」

フィリップ「《危害》って意味だよ」

照井「これも能力の内容がさっぱり分からなかった。かなり古い型のメモリであるようだが……」

翔太郎「……どうだ、フィリップ?」

フィリップ「ビンゴだ。インジャリーメモリはその実、ホラーメモリと呼んでいい」

照井「それを、ホラーに憑依された人間が使っていると……」

フィリップ「大抵の人間はホラーのコトなんて知らないから、この能力を使いこなせず、メモリが生み出したホラーに喰い殺されてばかりいるみたいだね。だから《危害》の名を付けたのかな……」



288: ◆NrFF2h.q26:2014/01/13(月) 23:52:29.94 ID:Jej9Rhm0O

ーーーーーーーーーー
ーーーーー
ーー


フィリップ「ゲートを作り、そこから生み出されたホラーを操っていた力が、ガイアメモリによるモノだと分かった」

翼「そうだったのか……本当にホラーのメモリがあるとはな」

邪美「でも、ソレが分かったところでどうするんだい?魔針を埋め込まれた人間の身体は、二ドルに人質に取られてるってコトに変わりはないよ」

照井「ガイアメモリの力で多くのホラーが操られているなら、ソレを無効化する術があるんだ」

レオ「え、そんなコトが出来るんですか?」

鋼牙「……前に道路を動かすドーパントと戦っていた時、ドーパントの能力を無効化する技を使っていたな」

翔太郎「よく覚えてるじゃんか。その通り、CJXのビッカーチャージブレイクなら、ガイアメモリの能力を打ち消せるんだ」

フィリップ「あのホラーたちの殆どは、人間の魂を喰らうコトが出来ないまま、ずっと森の中に隠れるよう命令されている。今はかなりの飢餓状態のハズだ。そんな状態でガイアメモリの支配を解かれたら……」

零「そりゃ暴れるだろうねぇ。そして近くにいる唯一の人間、つまり二ドルの魔針を埋め込まれた人間を喰らおうとする……のかな?」

烈花「そうなったら二ドルは、本体の魔針が壊されるのを避け、人間の身体を捨てて適当なホラーに憑依し直すだろうな」

フィリップ「そういうコト。二ドルは解我生来の月が天頂に来る頃、復活の儀を行うハズだ。その直前でガイアメモリの能力を無効化し、ホラーが暴れ出せば、時間が無い二ドルは人間の身体を捨てるしか道は無い」

鋼牙「その時、すぐに人間を救い出せるコトが出来ればいいワケか」

レオ「でも、ソレって翔太郎さんが変身しなきゃならないんですよね……」

邪美「アンタ、身体は大丈夫なのかい?」

翔太郎「大丈夫だよ、ご覧の通りピンピンしてるだろ?」

翼「人の命がかかってるんだ。強がりは通せないぞ」

翔太郎「う……」ギクリ

照井「しかし左がいなければ不可能なんだ。多少の無茶もしてもらわなければならない」

零「翔太郎とフィリップくんにパッと無効化してもらって、俺らがパッと助け出しちゃえばいいじゃん」

烈花「そんな風に軽く言えるコトじゃないぞ。第一、多くのホラーが森を出て街へ向かうかもしれない。その対処はどうする?」

フィリップ「ホラーを閉じ込める結界は作れないかな?出来れば、二ドルに気付かれないようにしたいけど」

レオ「結界は……なんとか作ります。魔戒法師をたくさん集めて森を囲んで潜伏し、無効化の際に術式を発動すれば……すぐにグレス様にお願いして魔戒法師の招集を呼び掛けます。魔戒騎士も集めてもらいましょう」

翼「間岱にいる法師への連絡は俺がしておこう」

照井「俺も仮面ライダーとして共に戦う。少しは戦力になれるハズだ」

フィリップ「僕らも、ファングジョーカーなら翔太郎の体調に関係なく戦える。人間を救出するコトが出来たら、すぐモードチェンジして力を貸すよ」



290: ◆NrFF2h.q26:2014/01/14(火) 14:03:19.42 ID:Zuv1fPCXO

~翌日昼、街の外~

ワイワイ、ガヤガヤ

翔太郎「おぉ……50人くらい集まってるんじゃないか?」

レオ「急なお願いなので、これくらいが限界でしょうね。騎士と法師が半々……これだけの魔戒法師がいれば、森に張る結界はなんとかなりますよ」

フィリップ「しかし森の中には何百体とホラーがいる。それを倒すのはなかなか厳しそうだね」

邪美「今回使う結界の術式が強力な分、魔戒法師は結界を張っている間は動けないし……幸いなのは素体ホラーばっかりだってコトかね」

照井「しかし飢えて獰猛になっているのだろう」

翼「もちろんだ。素体ホラーだからといって侮れないぞ」

零「何より二ドルだよね……ホラーの支配を解いて騒ぎを起こした中で、完全復活する前に魔針を壊すコトが出来れば一番いいけど、そんなうまくいかないよね~」

烈花「魔針を壊せず復活の儀が行われたとしても、ホラーを取り込む数を出来るだけ減らせば、復活してもさほど強くはならないだろう。やる前から弱気になるな」

鋼牙「二ドルの元へは俺が行く。俺が仕留め損ねたホラーだからな……」





「アレが生ける伝説の冴島鋼牙……」

「銀牙騎士の涼邑零もいるぞ」

「名だたる騎士や法師が一同に介している……ギャノンを打ち倒した英雄たちだぞ」





翔太郎「な、なんか凄い有名人だな、アイツら……鋼牙なんか伝説と化してるし」

フィリップ「そりゃそうだよ。ホラーの始祖メシア、レギュレイス、使徒ホラー、ギャノン……彼が倒した伝説のホラーは全て、世界の危機をもたらす存在だった」

照井「スケールが違うな」

翔太郎「お、俺たちだって、ユートピアが起こそうとしたガイアインパクトは地球規模だったし」

照井「無駄に張り合おうとするな……」



ワタル「鋼牙」

鋼牙「!」

ワタル「畏まらなくていいぞ。今は同じ魔戒騎士として同士なのだから」

鋼牙「……修練場で教官を務めていると聞いていたが……来てくれたのか」

ワタル「まぁな。約束の地から無事に戻ってこれるとは……つくづく強さの底の知れないヤツだ」



鈴「兄さん!」

翼「鈴、よく来てくれな」

暁「零さん、お久しぶりです」

零「うわ、懐かしい!間岱で会った以来だね、みんな」

日向「俺たち、あれから魔戒騎士になって、今は間岱を守ってるんですよ」

翼「だからこそ俺も管轄を持つコトにしたのだ」

零「へ~、もう七年も前だもんなぁ。ていうか、鈴ちゃんなんて、翼のコト『にぃ』って言ってたのに……」

鈴「もう大きくなったし、そんな呼び方しないってば」

邪美「そうだよ零、鈴は強くなったんだから」

零「うわ~なんだろこの気持ち、あんな小さかった子がこんな大きくなったのを感じるこの気持ち……」



291: ◆NrFF2h.q26:2014/01/14(火) 16:05:50.72 ID:Zuv1fPCXO

ーーーーーーーーーー

鋼牙「改めて作戦を確認するぞ」

フィリップ「解我生来の月が天頂に上ったと同時に結界を張り、僕らがCJXで上空から突入する。プリズムビッカーに乗って飛行出来るから、ビッカーチャージブレイクでホラーを支配しているガイアメモリの能力を無効化しつつ、一気に二ドルの元へ行く」

鋼牙「その時、俺も鎧を召喚し、轟天で同行するんだな」

フィリップ「そう。二ドルが人間の身体を捨てたら、直ぐに僕らが人間を救出し、一時的に退却する」

鋼牙「俺はその場に残って二ドルを倒す」

翔太郎「でも、二ドルの周りにはホラーがウジャウジャいるんだろ?鋼牙一人じゃ無理だ」

照井「だから俺がアクセルブースターの状態で飛行して、左の後をついていくんだ。その時、レオも連れて行く。レオは魔戒騎士として戦えるからな」

零「俺は翼と森の後ろにある崖の上で待機して、フィリップくんたちが乗り込んだ直後、竜とは別に二ドルの元へ向かうよ。魔導馬の銀牙を召喚すれば崖を駆け下りるのもワケないし」

翼「俺も疾風が召喚出来るからな。俺たちは二ドル以外のホラーを鋼牙から引き離すよう戦う」

レオ「魔導馬を召喚出来るのは、零さん、鋼牙さん、翼さんしかいませんからね。申し訳ないですけど、僕は崖から駆け下りるのは難しいので、連れていってもらうしかないです」

照井「レオを運んだら、俺もそこで戦う。ホラーの返り血を防ぐ術はかけてもらった」

フィリップ「僕らも人間を避難することが出来たら、すぐにファングジョーカーで向かうよ」

翔太郎「それで残りの魔戒騎士たちが、森からホラーが出て来れないよう外を包囲して、森の中心へその包囲網を狭めていってもらうんだよな」

フィリップ「うん。森の中からは涼邑零、山刀翼、布道レオ、照井竜、そして僕らがホラーを二ドルから引き離し、外からは他の魔戒騎士たちが追い詰めていく、という寸法だね」

鋼牙「二ドルは任せろ。一度戦った相手だ。今度こそ完全に封じてやる」

烈花「俺たち魔戒法師の結界はずっと術をかけ続けなければならないから、かなり集中力を使う」

邪美「出来れば、二時間以内に二ドルと他のホラー全てを倒してもらいたいね」

鋼牙「分かった」

翔太郎「……本当に鋼牙一人で二ドルを相手にして、大丈夫なんだろうな」

鋼牙「俺を信じろ」

翔太郎「……くっ……!不覚にもハードボイルドを感じてしまったぜ……!」

フィリップ「ついさっきまで死にかけてたのに相変わらずだね、君は」



294: ◆NrFF2h.q26:2014/01/15(水) 00:10:50.32 ID:xVDZwHUUO

ーーーーーーーーーー

~夜~

二ドル「……」

ホラー「「「「……」」」」シーン

二ドル「魔戒の者たちが集まってきておる……」

二ドル「何か策を弄するつもりだろうが……牙狼はこの人間の身体たった一つの犠牲さえ好まぬ男……ヤツさえ怖気付いておれば、他の者たちも勝手は出来ぬ」

二ドル「それにここにいる何百ものホラーを礎に復活するコトが出来れば、いくら騎士や法師が束になろうと敵ではないのだ」

二ドル「もうすぐ天頂に解我生来の月が昇る……我は今度こそ最強のホラーとして復活する!!」

二ドル「……」ピクッ

二ドル「……なんだこの気配……魔戒の者ではないな……」

二ドル「まさか例のこの街の怪異……なぜ此処に」

二ドル「だが、何が出来る……何百年と陰我に生きる我に、小童(こわっぱ)どもが何を……」フンッ



キラッ



二ドル「?なんだ、あの光……?」

ピカァ!

二ドル「……大きくなっている……?」

ピカァァァア!!

二ドル「くっ!?」バッ

ギャアギャア!ギャアギャア!

二ドル「!?何故だ!ホラーの支配が出来ん!」

ホラー「「「「~~!!」」」」ザワザワ

グチャ!ドシャ!グシャァ!

二ドル「ぬぅ……支配を解かれ、飢えたホラーが暴れておる……ホラー同士の共食いまで……なんたる醜い光景だ……」



295: ◆NrFF2h.q26:2014/01/15(水) 00:11:49.38 ID:xVDZwHUUO

ホラー「「「「……!」」」」ジロリ

二ドル「!」

ホラー「「「「……」」」」ジリジリ

二ドル「な、なんだ……下等なホラーが寄るな!」

ホラー「「「「……」」」」ジリジリ

二ドル「……そうか、この人間の身体の匂いか……」

二ドル「一体何をされたのだ……もう解我生来の月は天頂に来てしまう!このまま人間の身体にいては、我の核たる魔針ともども喰われてしまう……」

ホラー「「「「……」」」」

二ドル「くそ!ホラーを支配出来ないこの身体に用はない!」

ブシュッ!!

男「……」バタンッ

グサァッ!

ホラー「!?」ジタバタ

ホラー「……」ガックリ

男「……」シーン

ホラー「「「「~~!!」」」」バッ



CJX(翔太郎)「おっとぉ!!」ヒョイッ

男「……」ユッサユッサ

ホラー「「「「~~!!」」」」

CJX(フィリップ)「計算通りだね。何百年生きてても、考えるコトは知れてるものだよ」

CJX(翔太郎)「あばよぉ、二ドル!コイツは貰ってくぜ!」



二ドル「……」ピクピク

二ドル「おのれぇぇえええ小童どもがぁぁあああ!!!」

ブォォオオオ!!

ホラー「「「「~~!?」」」」

CJX(フィリップ)「月が天頂に来た!」

CJX(翔太郎)「ホラーが……一匹のホラーに吸い込まれてく……」



296: ◆NrFF2h.q26:2014/01/15(水) 02:58:17.31 ID:xVDZwHUUO

ドドドドドドド……!

二ドル「!?」

ザシュ!ザシュ!ザシュ!

ホラー「「「「~!!」」」」

シュゥゥゥゥウウウウ……

二ドル「我の礎となるホラーたちが!!」

牙狼『俺たちがただお前に屈していたと思っていたのか?二ドル』

轟天「……」ブルルッ

二ドル「ぐぅ……!!」ブォォォオオオ!

牙狼『まだホラーを取り込むつもりか。だが無駄だ』

ドドドドドドドドドド……!

二ドル「崖からか……まさか!!」

絶狼『うぉぉぉおおおお!!』

打無『はぁぁぁああああ!!』

ザシュ!ザシュ!ザシュ!

二ドル「くそ……魔導馬が使える騎士は三人だけと聞いていたのに……その三人がよりによって揃っているのか!」

二ドル「!」ピクッ

二ドル「まだ来る……今度は空から!」

Aブースター『着いたぞ!行け、レオ!』

狼怒『はい!』バッ

狼怒『やぁぁぁああああ!!』

ザシュ!ザシュ!ザシュ!

ホラー「「「「~!!」」」」

シュゥゥウウウ……

二ドル「おのれぇ……おのれぇ……!」

二ドル「ホラーたちがどんどんと散り散りになっていく……これだけ離されては取り込めぬ!」

二ドル「こんな少数のホラーしか取り込んでおらん状態で復活せねばならないというのか……!?」

牙狼『そのようだぞ、二ドル』シュンッ

二ドル「!我の前で鎧を解くとは……舐めくさりおって……!」

鋼牙「その程度なら、以前に俺が討伐した時とさほど変わらん」

鋼牙「あの時よりよほど強くなっていなければ……お前は俺には勝てない」チャキッ

二ドル「……ふんっ、最強の魔戒騎士の名に驕っておればいい!」

ブォォォォオオオ

二ドル「ぐ……ぅぅう……!」

ブチィ!グキッ!メキィ!

ザルバ『これ以上のホラーの取り込みは諦めたようだな。しかし、50は吸い込んだぞ。確実にパワーアップしてるぜ?』

鋼牙「分かっている」

魔針ホラー・二ドル『今度こそ、殺してやる……!』

ザルバ『ほぉ、随分と大きな蜂だ。前よりデカくなったな。魔戒の害虫駆除は一苦労しそうだぜ』

鋼牙「……お前が醜く同族を喰らって得た強さなど、打ち砕いてやる!」



297: ◆NrFF2h.q26:2014/01/15(水) 18:33:31.66 ID:xVDZwHUUO

ーーーーーーーーーー



邪美「結界を破ろうとする力がある。ホラーが支配から逃れ暴れているようだね」

烈花「手筈通り進んでいるんだな」

鈴「兄さん……鋼牙さん、零さん……みんな、きっと無事で帰って来てね……!」

邪美「アタシたちもこっから気を抜けないよ、鈴。ちゃんと術に集中してな!」



ーーーーーーーーーー



ホラー「「「~!!」」」バッ

ワタル「来たぞ……ホラーどもだ」

日向「かなりこちらに来てますね」

暁「しかしそれならば、二ドルが取り込めたホラーは限りなく少ないハズ」

ワタル「そうだといいがな……さぁ行くぞ!一匹も森から出すな!」

日向・暁「「はい!」」



ーーーーーーーーーー



CJX(フィリップ)「あった、呼んでおいたリボルギャリーだ」

CJX(翔太郎)「暫くこの人はリボルギャリーの中で待っててもらうか。よいしょっと……うし!」

男「……」

ヒュゥゥゥウウウ

翔太郎「ふぅ……うわっ」フラッ

フィリップ「おっと」ガシッ

翔太郎「……あー悪い、まだ身体が本調子じゃないみてぇだ」

フィリップ「謝ることじゃないよ。それより、君もこの中に身体を置いとかないとね」

翔太郎「おう。……この人、ずっと気絶してくれてるといいんだけどな」

フィリップ「じゃ、行くよ。来いファングメモリ!」

ファング「~!」ヒョイッ

翔太郎「……やっぱいいなー呼んだら来てくれるメモリっていいなー!お前ジョーカーメモリとか改造できないの?」

フィリップ「いい年なんだから……こんな時にそんな子どもみたいな駄々をこねないでよ」ガシャンガシャン

翔太郎「ぐぬぬ……お前は俺のお袋か」

『ファング!』

『ジョーカー!』

フィリップ「はい、変身」スッ

翔太郎「え、早っ、へ、変身っ」スッ

FJ(フィリップ)「さぁ、急いで冴島鋼牙の所へ戻るよ!」

FJ(翔太郎)「オーケイ相棒!」



298: ◆NrFF2h.q26:2014/01/15(水) 20:47:32.87 ID:xVDZwHUUO

ーーーーーーーーーー

二ドル『ぬぅぅううう!!』

キィン!キィン!キィン!

鋼牙「はぁ!!」

キィン!キィン!キィン!

ザシュッ!

二ドル『ぐぁあ!?』

二ドル『くそ……以前よりも我の力は増しているハズなのに……!』

鋼牙「お前の出る幕はもう無いんだ」

ザルバ『その通りだ。とっとと退場しやがれ』

二ドル『お前もあの時よりさらに強くなっているというのか……一体どうして……!』

鋼牙「お前たちには永遠に分からないだろうな」

二ドル『ぐぅ……こうなったら!!』

ガキィィイイン!!

鋼牙「!」ギリギリ

二ドル『お前を我が魔針で操ってやる……最強の魔戒騎士を我が手駒にすれば、誰も勝てぬ!!』グググ

鋼牙「……っ」グググ

ザルバ『鋼牙、単純なパワーならヤツのが上だ!押し負けるぞ!』



ガシャン、ガシャン!

『ショルダーファング!』



ヒュッ!ガキィィイイン!

ニドル『がぁ!?』

鋼牙「!」

FJ(翔太郎)『ナーイスヒット!』

FJ(フィリップ)『ちょっとだけピンチだったね、冴島鋼牙』

鋼牙「どうやら助けられたみたいだな」

FJ(翔太郎)『互いに助け合うのが、人生という名のゲームさ』キリッ

ザルバ『まったくよく言うぜ』

FJ(フィリップ)『さぁ、とっととカタを付けよう。完全復活し損ねたのなら、退場くらいは潔くして欲しいものだな』

二ドル『……えぇい!』バッ

FJ(翔太郎)『あ!アイツ逃げる気か!』

FJ(フィリップ)『二ドルの全力なら、結界が破れるかも。ファングストライザーで僕らが阻止しよう!』

FJ(翔太郎)『トドメは任せたぜ、魔戒騎士さんよ!』

鋼牙「あぁ!」クルリッ

牙狼『来い轟天!!』

轟天『~!』ブルルルッ

FJ(翔太郎)『アイツもあんなの呼べるんだ……いいなぁ』

FJ(フィリップ)『余所見しない!ホラ、行くよ?』



299: ◆NrFF2h.q26:2014/01/15(水) 21:52:03.43 ID:xVDZwHUUO

ガンッ!ガンッ!

二ドル『くそ~小賢しい結界を……!』

FJ(フィリップ)『往生際が悪いねぇ』

FJ(翔太郎)『だが、それもここまでだぜ!』



ガシャン!ガシャン!ガシャン!

『ファング・マキシマムドライブ!』



FJ『ファングストライザー!!』

ザシュゥゥウウウ!!

二ドル『ぐぁぁああ!?』



牙狼『……』キッ!

牙狼『はぁっ!』

轟天『~!』バッ

ドシィィイイン!!



FJ(翔太郎)『うおお!?牙狼剣がデカくなったぞ!?』

FJ(フィリップ)『牙狼斬馬剣だよ。魔導馬の蹄音は剣を変化させるんだ』

FJ(翔太郎)『か、かっこいい……!』



牙狼『貴様の陰我……俺が断ち切る!!』

轟天『~!』ドドドドドドド

二ドル『こ、こんなにも容易く敗北するなど……全て上手く行っていたハズなのに……最後の最後にぃぃいい!!』

牙狼『うぉぉぉおおおお!!』


ズバァァアア!!



二ドル『……!!』シュゥゥゥウウ……

二ドル『……使徒ホラーの我が……ば……馬鹿な……』

牙狼『力を驕っていたのはお前の方だ、二ドル』

二ドル『……!!』

シュゥゥウウウ……

コロンッ

牙狼『……』ヒョイッ

FJ(翔太郎)『よ、鋼牙!やったな!』

FJ(フィリップ)『!その針は……』

牙狼『二ドルの核の魔針だ。まだ近付くな』

FJ(翔太郎)『わ、分かった』

牙狼『……』ザシュッ

パリンッ!



300: ◆NrFF2h.q26:2014/01/15(水) 22:10:15.73 ID:xVDZwHUUO

ーーーーーーーーーー



シルヴァ『零、二ドルの気配が消えたわ!』

零「……よっしゃ!」グッ

アクセル『核の魔針も壊せたのか?』

ゴルバ『うむ。完全に破壊されたようじゃ』

エルバ『後はこのホラーたちを片付けるだけじゃのう』

翼「あぁ、そうだな」

レオ「一気にやっちゃいましょう!」クルッ

翼「言われるまでもない」クルッ

零「さーお片付けお片付けっと」クルッ

狼怒『どりゃぁ!』ザシュッ

打無『ふんっ!』グサァッ

絶狼『よっとぉ!』ザンッ

ホラー「「「~~!!」」」

シュゥゥゥウウウ……



ーーーーーーーーーー



ウルバ『ワタル!強力なホラーの気配が消えたよ!』

ワタル「!鋼牙が二ドルを撃破したか」

日向「本当ですか!?」

暁「やったー!」

ワタル「……よし!」クルッ

バロン『早くケリを付けるぞお前ら!』



301: ◆NrFF2h.q26:2014/01/15(水) 22:12:05.47 ID:xVDZwHUUO

ーーーーーーーーーー



鈴「邪美さん!烈花さん!二ドルが消滅したそうです!」

邪美「やっぱり……明らかに森の空気が変わったからね」

烈花「だが、森中に散らばったホラーを全て始末するには、まだまだ時間が掛かるな」

邪美「あぁ、最後まで気は抜けないよ!」

鈴「はい!」



ーーーーーーーーーー
ーーーーー
ーー





~二時間後~

???「おーい、烈花~!!」

烈花「!シグトじゃないか……なんでここへ?」

シグト「え?な、なんでって……二ドルが復活するから人手が欲しいって言ってたじゃん!俺、遠くだったからむちゃくちゃ急いでここに来たんだよ!?」

烈花「もう全て終わったぞ」

シグト「へ?」

烈花「だから……もう二ドルも、他のホラーも、全て消滅した。ホラ、結界も解けてるだろ?」

シグト「そ、そんな……急いで来たのに、無駄足だったってコト……?」

烈花「まぁ、そうなるな」

シグト「えぇー!?だ、だって数百体のホラーを吸収して、史上最凶のホラーとして復活するかもしれないって言ってたじゃん!それがもうケリついちゃったの!?」

烈花「綺麗さっぱりな」

シグト「出番ゼロなんて……あんまりだぁぁああ!!」





フィリップ「翔太郎、今、君は彼に親近感を覚えたね?」

翔太郎「な、なな、何の話ですか~?」ドキリ

照井「図星のようだな、左」



302: ◆NrFF2h.q26:2014/01/16(木) 17:20:20.64 ID:6FWh8EjZO

ーーーーーーーーーー
ーーーーー
ーー



鋼牙、元気ですか?
アタシはもちろん元気です。
パリで開いている個展には、毎日いろんな人が来てれて、いろんなお話をする機会があります。
アタシの絵に何を感じるのか話を聞くと、アタシが思いもしなかったことを感じている人も多くて、自分が知らない自分の気持ちに触れられるっていうのかな?
とても新鮮な気持ちになります。


特に人気なのが、鋼牙の横顔を描いた絵です。
覚えてる?
鋼牙が約束の地から帰って来た時以来、アタシがずっと描き続けていたあの絵だよ。
個展が始まるギリギリまで仕上がらなくて、パリについてからも徹夜で仕上げるハメになっちゃったんだけど、お蔭で良い絵が描けたと思います。


たった一人の人物の横顔から、様々な感情が感じられる。
あなたがこの人物に想う、いろんな想いが伝わってくる。
画廊のオーナーがそう言ってくれました。
アタシがいつも見上げている鋼牙の横顔。
悲しい気持ちで見たこともあったし、怒った気持ちで見たこともあったし、嬉しい気持ちで眺めたりしたこともあった。


でも、どんな時も鋼牙は真っ直ぐ前を向いていたよね。
何を見ているのかな?ってよく思ってたけど、だけど何よりもアタシは、その先でも鋼牙と一緒にいたいなぁと思うの。


柄にもなく真面目な手紙になっちゃいました。
パリで感じたり考えたりしたいろんなことを、早く鋼牙に話したいです。
そっちも任務が終わってるといいけど。

それでは、今度は日本で。
ゴンザさんの手料理が待ち遠しい、カオルより。



303: ◆NrFF2h.q26:2014/01/16(木) 17:22:47.29 ID:6FWh8EjZO

~翼の屋敷~

邪美「へぇ~この写真がカオルが書いた鋼牙の絵なのかい?あの娘も大した腕前だね」

烈花「随分と印象が違うな。最強の魔戒騎士という感じではないぞ」

鈴「本当ですね。凄く優しそうな印象を受けます」

シグト「それにしてもパリで個展って凄いよなぁ、芸術の本場パリなんて憧れちゃうなぁ」

烈花「お前が憧れてもどうしようもないだろ」フッ

シグト「ちょ、笑わないでよ烈花ぁ~!」



さっきまで見ていたハズのカオルからの写真が奪われ、魔戒法師連中がやいのやいのと集まって騒ぎ出す。
つい一昨日まで、二ドルの復活を阻止すべく戦っていた戦士とは思えない和やかな空気だ。



ザルバ『おい鋼牙』

鋼牙「なんだ」

ザルバ『今日、ここを発つんだろ?ヤツらに挨拶はしないのか?』

鋼牙「……今から行くつもりだ」

ザルバ『早いとこ行くにこしたことないぜ』

鋼牙「分かってる」



腰掛けていたソファから重い腰を上げて立ち上がり、いつものコートを羽織る。
玄関に向かうと、レオが向こうからやってきた。



レオ「鋼牙さん、お出掛けですか?」

鋼牙「あぁ。今日、此処を発つからな」

レオ「そうですか。それにしても良かったですね、カオルさんの帰国に間に合って」



ニコリと笑うレオに、そうだなとだけ言って擦れ違うと、ザルバがくつくつと笑いを抑える声を出していた。
俺のぎこちなさに気付いているのだろう。



玄関を出ると、屋敷の中庭にはワタル、日向、暁が稽古をしていた。



ワタル「鋼牙、お前も今日ここを発つのか」

鋼牙「あぁ。だがその前に挨拶しに行こうと思ってな」

日向「俺たちも今日帰ります。念のため二日ほど様子を見ていましたが、もうホラーは発生していないようですし」

暁「鋼牙さん、また間岱に来て下さいね!大歓迎です!」

ワタル「挨拶が済んだら、発つ前に一度俺と手合わせをしないか?」

日向「あ、出来たら俺も」

暁「俺もしたいです!」

鋼牙「あぁ、後でな」



304: ◆NrFF2h.q26:2014/01/17(金) 03:10:09.71 ID:qJPfrcSkO

屋敷を出て、街の中を歩く。
身を竦ませる真冬の肌寒い風だが、澄んだ冷たさには不思議と不快感が起きない。
そこかしこにある風力発電の風車がくるくると回っている光景は、カオルが見たら面白いと喜ぶだろう。


翼「鋼牙、どこへ?」

鋼牙「お前は昼の見回りか」

翼「あぁ、陰我自体が完全にこの街から消滅したワケではないからな。当分は管轄を続ける」


街で出会った翼は手に紙袋を持っていた。
思わず目を手元に向けると、いつもの険しい顔を少し緩め、翼は袋をついとこちらに掲げて見せてきた。


翼「さっき和菓子屋の前を通ったら貰ったんだ。前に《アイツら》といるところを見かけていたらしく、知り合いならとサービスしてくれた」

ゴルバ『鈴たちも喜ぶじゃろう。大福は好物じゃったからのう』

ザルバ『ほう。随分と顔が利くもんだなぁ、《アイツら》は』


翼は軽く笑みを浮かべると、俺を見た。


翼「間岱にこもっていた頃の俺なら、きっとはなから相手にしなかった。昔のお前もそんな人間だったのだろう?」

鋼牙「……」

翼「あんな守りし者もいるのだな」


街を吹き抜ける風を見るように、翼はしみじみとどこかを見上げ、去って行ってしまった。


ザルバ『なんだか黄昏れてるな、翼のヤツ』


不思議そうに言うザルバの声を受け流し、尚も街を歩いていく。
人の喧騒を乗せ、絶えず空気が流れていく。
今まで数々の街を流浪としてきたが、こんな風に人々の活気に包まれているような気持ちになったのは、初めての感覚だ。


零「なになにー?黄昏れてんじゃん鋼牙!」


突然ヒョイっと軽快な音をさせて、視界に零の涼やかな笑顔が広がった。
目を白黒とさせていると、その横に紅い革ジャンにしかめっ面の男が顔を覗かせている。


ザルバ『ははは、これで翼もいれば、しかめっ面堅物トリオだったな』

照井「……」

零「ん?俺たちが何をしてたかって?照井竜警視と街の巡回です!サーイエッサー!」

照井「何故か大量のケーキを買わされたんだが」

零「巡回手伝いの謝礼ってことで経費で落ちるよね!」

照井「……餞別代わりだ。今回だけだぞ」

鋼牙「俺たちが発つことを聞いているのか」

照井「あぁ。……《アイツら》なら、風都タワーにいる」

ザルバ『どーも。ありがとよ』

零「竜、次ここのケーキ買ってよ!Bell equipe ASAKAWAka!この街一番のケーキ屋さんを見過ごすワケにはいかないっしょー!」グイグイ

照井「……」ズルズル



305: ◆NrFF2h.q26:2014/01/17(金) 19:31:59.49 ID:qJPfrcSkO

~風都タワー付近、広場~

翔太郎「ホントにもう帰っちまうのか」

鋼牙「あぁ」

フィリップ「まだちゃんとお礼もしていないのに」

ザルバ『礼?何のことだ』

翔太郎「とぼけんなよ。俺が血に染まりし者ってのになってたせいで倒れた時、いろいろ手を貸してくれたんだろ?フィリップから聞いてるぜ」

鋼牙「……大して貸したモノなどない。むしろ何百体ものホラーを吸収し、復活してしまうハズだった二ドルを速やかに倒すコトが出来たのは、お前たちのお蔭だ」

ザルバ『貸し借りなんざナシにしようや』

翔太郎「でもフィリップはともかく、俺、ホントに今回は何もしてないからなぁ」

フィリップ「お礼がてら、観光案内でもしようかって話をさっきしてたんだけどね」

鋼牙「……では、それはまたこの街に来た時に頼む」

翔太郎「お、それがいいな!今度はカオルって人も連れて来いよ」

フィリップ「カオル?誰だいその人。冴島鋼牙の知人なのかい?」

翔太郎「まぁ、お前にとっての香澄さんみたいなもんだな」

翔太郎「そして俺にとっての……俺の……あれ……?…………」ズーン

フィリップ「?何故か黙ってしまった」

鋼牙「……じゃあな、翔太郎、フィリップ」

ザルバ『元気でなぁ、二人とも』

翔太郎「おう、そっちこそな。鋼牙、ザルバ」

フィリップ「また会おう、魔戒騎士」


そう、俺たちはまた会えるのだ。
だから挨拶はこれくらいで丁度良い。
お互いに沢山の別離を経てきた。
悲しい別れも、未来へ向かうタメの別れも、全て知っている。
目の前で風に吹かれ二人立つ姿は、全く絵心というモノが無いハズの俺にさえ、一つの絵のように見えた。


俺も早く話したい。
新たな守りし者と出会ったこと。
新たな信じる心を見たこと。
新たな俺たちの未来を掴もうと、決めたこと。
そんなことを、お前と話したいんだ。
ーーカオル。





亜樹子「あ、いたいた二人ともー!」

翔太郎「亜樹子!お前どこ行ってたんだよ。さっき鋼牙が出発する前の挨拶に来てたのに」

亜樹子「えぇ!?アタシ聞いてない~!」

フィリップ「それはそれとして、亜樹ちゃん、何やら僕らを探しに来てたようだけど……」

亜樹子「あ、そうそう、依頼よ依頼!翔太郎くん、フィリップくんお仕事!その名も……『ユキちゃんを探せ、プレイバック』!」

フィリップ「翔太郎が倒れる前に探してた猫じゃないか……また逃げたんだ」

亜樹子「さぁ、探すわよ二人とも!荒れるでぇ~止めてみや!!」

フィリップ「……すっかり元通りだねぇ翔太郎」

翔太郎「まっ、俺たちはこの街の仮面ライダーだからな。所長の機嫌を損ねる前に早いトコ行くぞ、相棒」

フィリップ「あぁ、そうだね……相棒」


おしまい!



310: ◆NrFF2h.q26:2014/01/17(金) 19:55:26.16 ID:qJPfrcSkO

長々と読んでもらってありがとうございました!
ただ好きな二つの特撮をクロスさせたいってだけで始めましたが、こんなに長くなるとは……。


・翔太郎にもヒロイン候補が欲しい。
・フィリップには優しさの面でも翔太郎を引っ張るとこが見たい。
・鋼牙にはちゃんとカオルと家族を持って欲しい。


と、とりあえずやりたかったことは全部こなせたかな……。
ちょくちょく設定ミスしてしまって申し訳ありません。


仮面ライダーW本編を観ていた方は、最初のSSである《翔太郎「フィリップがいなくなって一週間か……」》もどうぞ。
まとめられていたので、検索すれば見れるハズです!


前作でも今作でもたくさんのレスありがとうございました。



309:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします:2014/01/17(金) 19:51:26.06 ID:KKAlC0OZo

おつおつ
いいもんだったわぁ



転載元
翔太郎「魔戒騎士?」フィリップ「ゾクゾクするねぇ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1387628316/
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        コメント一覧

          • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月17日 21:41
          • 街つながりで流牙の方かと思った
          • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月17日 21:44
          • 俺得スレだ、長いけど頑張って読むか
          • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月17日 21:57
          • 長いな…
          • 4. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月17日 22:03
          • 最近ほんとWのSS多いな
            同じ人が書いてるわけでもないみたいだし
          • 5. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月17日 22:25
          • 5 面白かったよ乙!
          • 6. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月17日 22:44
          • 5 互いの持ち味を壊さない良いクロスだった
          • 7. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月17日 22:46
          • バランスいいゾー
          • 8. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月17日 23:00
          • 俺得過ぎる組み合わせ
          • 9. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月17日 23:23
          • 鋼牙も丸くなったよなぁ
          • 10. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月18日 00:14
          • スタートメモリはサイクロンとジョーカーだからどっちも含まないHMじゃ変身できないけどな・・・。
            まあ、ハイパーバトルビデオだと最初からHMだったか
          • 11. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月18日 00:14
          • 5 最高だった
            劇場版絶狼も待ち遠しいぜ…
          • 12. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月18日 01:43
          • 5 互いの設定と持ち味を巧みにいかした、良いクロスオーバーでした
          • 13. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月18日 01:50
          • 5 この人のSSはホントに素晴らしいな…
          • 14. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月18日 02:02
          • 5 良かった
          • 15. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月18日 03:39
          • 4月には鋼牙の息子の牙狼がはじまるし、いいssでした
          • 16. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月18日 04:35
          • 5 文句無ぇぜ
          • 17. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月18日 05:03
          • WのSS時々書かれるけど嬉しいな
            長いけど…
          • 18. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月18日 09:41
          • 5 オレンジのドーパント…?
            あっ…ふーん
          • 19. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月18日 20:24
          • 映画化規模したい
          • 20. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月19日 00:55
          • 5 乙!
            お互いの作品を活かした良いクロスでしたわ。
            って、この間のVシネ仮面ライダージョーカーの人だったのね、質の高さに納得。
          • 21. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月19日 02:26
          • 4 ダンタリアンは確か本編にもいたような気がするな
            どちらの作品にも愛が感じられてよかった
          • 22. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月19日 04:45
          • 4 牙狼一話しか見てないんだよな、いい機会だし見よう
          • 23. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月19日 18:21
          • 5 乙!
            これでテレビでやると2カ月ぐらいかかりそうだな
            Vシネ化してくれねぇかなぁ
          • 24. ガスマスク
          • 2014年01月23日 17:11
          • 5 牙狼知らないけど面白かった
          • 25. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月30日 00:51
          • 5 ジョーカーに続いてこの人の書くWSSにハズレはないな、設定も把握してるし脚本ネタや中の人ネタも網羅してるし文句がない

            次作あったら楽しみにしてる
          • 26. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年02月27日 01:30
          • 5 このSSは、俺の為に用意された様に思っている…



            だって、二作とも大好物やもん(≧▽≦)

            作者殿、大層乙で在ります(^_^)ゞ
          • 27. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年03月01日 10:48
          • ※26の続き


            作者殿、出来たらWとディケイドと牙狼で続きを書いて下さいまし<(_ _)>


            彼等の結末的な旅を、文章を通して是非とも観てみたいのです(≧▽≦)


            宜しくお願い申し上げます(^_^)ゞ
          • 28. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年03月01日 10:56
          • 5 ※26・27の続き

            出来るだけ、長めに且つ彼等の作品が好きな他の方も少なくとも…

            「あぁ、漸く彼等も旅の幸せを手に入れて新しい道を歩いて行くんだな…」と


            彼等を通して、出来た作品を愛している貴殿にしか書けない作品をみたい…

            厚かましいとは思いますが、何卒よろしくお願い申し上げます<(_ _)>
          • 29. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年03月05日 00:42
          • 5 作品名 仮面ライダー×魔戒騎士 W&牙狼でいいだろうかw
          • 30. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年03月24日 04:53
          • 5 Wと牙狼のクロスいいゾ~コレ!
            やっぱ特撮好きなんすねぇ!
            乙!
          • 31. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年05月01日 00:43
          • 最新作のGAROの主人公は鋼牙とカオルの息子の雷牙が主人公なんだよな。
            何はともあれ、面白かったぜ!!!
          • 32. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年02月03日 14:33
          • 面白すぎて仕事の合間に完読しちゃったじゃないかどうしてくれる(誉め言葉
          • 33. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年07月20日 03:14
          • スッゲー面白かった、そしてこれからは風都探偵としてまた会えるんだな

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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