勇者「パーティ組んで冒険とか今はしないのかあ」【後半】
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戦士「待たないよ。ボクは辛抱強い方じゃないし、どちらにしよう、これは王の命令に含まれていたことだ」
男「なに言ってんだ!? 戦士、お前はオレたちの仲間だろうが!」
?「話にならんな。俺も手を貸す。さっさとおわらせるぞ」
戦士「悪いけどボク一人にやらせてくれない? もとからキミたちはボクらのバックアップみたいなものだろ?
お手伝いと余計な世話はまったくの別物だよ」
?「……勝手にしろ。俺はその間にここらの実験データを回収させて……」
戦士「だからさあ。余計なことはするなって言ってんだよ。すべてボクがやる、キミは黙って見てろよ」
?「ふっ、いいだろ。そこまで大口を叩くのなら見学させてもらおうか」
男「……本気なのか?」
戦士「どうもキミはキミ自身の認識ができていないみたいだね。勇者様くん、自分の姿がどうなっているかわかっていないのかい?」
男「オレの姿?」
戦士「背中に意識を傾けてみなよ。わかるだろ、自分の背中に生えてるものが」
男「……え? な、なんだこれ……」
僧侶「私もずっと気になっていたんだが、その勇者の背中から生えている翼はなんなんだ?」
男「なんだよこれ!? オレの背中から生えてんのか!?」
?「ふっ、哀れだな。自分が何者かわからない、自分が異形の存在だというのに自覚がないとは」
男「どうなってるんだ!? なんなんだよこれは!?」
魔法使い「それは……」
戦士「勇者くん、戸惑ってるところに悪いけどそろそろやらせてもらうよ」
魔法使い(……やっぱり私の回復魔法は完璧には程遠い。表面上の身体の傷を取り除くことはできても、戦闘できるほどには回復していない……)
僧侶「なにを考えてるんだ、戦士!?」
戦士「さあね!」
戦士が仕掛けてくる。勇者が自身の身体の異変に戸惑っている隙に、素早いステップで距離を詰める。
戦士「ボクより遥かに弱いんだから集中しないと、死ぬよっ!」
戦士「何度も言わせんなよ、ボクは待てないんだよ」
気づけば戦士が勇者の懐に入り込んでいた。
未だに戦闘体勢を作れないでいる勇者のみぞおちを、剣の柄で容赦なく突く。
男「ぐっ……!」
戦士「ボクが本気だっていうのが伝わってないのかな? 仕方ないな、じゃあボクが本気でキミを殺す気だっていうのをわかってもらおうか」
腕を掴まれる。戦士は器用に剣の柄を持ち替えていた、剣の刃が勇者に吸い込まれる。
男「ちっ、くしょおおぉっ!」
剣の先端が勇者の服に触れる直前、渾身の力で勇者は戦士を蹴り飛ばした。素早く距離をとる。
しかし、それを戦士はなんなくガードしてやりすごす。それどころか青い炎がすでに勇者に目がけて放たれていた。
まだ魔力が身体に残っているというのは、感覚でわかった。
魔力を剣の刀身に込める。徐々にコツが掴めてきたのか、初回よりも時間をかけずにできた。
炎が迫ってくる。剣を横薙ぎにし炎を魔力で振り払う。だが炎の数が多すぎる。炎が肩や足を掠める。
咄嗟に横転してなんとか炎をやり過ごす。防戦一方だった。
戦士「手応えがなさすぎて不安になるよ、勇者くん?」
炎を相手に手間取っていたら、戦士がすぐそこまで迫っていた。
細身の剣で勇者の胴体に向かっての突きを繰り出してくる。
なんとか、剣の刀身で受けるも鋭すぎる突きは、手の感覚を奪うほどの痺れをもたらした。
男「……っ!」
戦士「どうしたの、勇者くん? いや、勇者。キミは勇者じゃないのかい? この程度でやられていいのかい?」
男「お前こそ……! なんで、どうして……」
戦士「ボクに質問されても困るね。ボクに質問したいのなら、ボクを力づくでねじ伏せろ!」
戦士が飛び退く。距離を置いたかと思うと、剣を中空に向けて突き立てる。
ここにきて勇者は魔力の強力な流れを感じた。戦士の剣に魔力が集中していくのがわかる。
戦士「そろそろ終わりにしようか」
男「やらせるか!」
魔力が別の物質へと転換されていく。火の玉だ。だが今度はサイズも数もさっきのものとは比較にならない。
無数の巨大な火の玉が、浮かび上がる。明らかに室温が上がっていた。
あれを発動されたらよけきれない。術が発動する前に術者を叩くしかない。
男(間に合うか!?)
戦士「遅いんだよ、キミは」
戦士の言った通りだった。勇者が戦士のもとへとたどり着く前に術はすでに発動していた。
巨大な火の玉が勇者に向かって降り注ぐ。
剣に魔力を込めようとするが間に合わない。超高熱の青い炎が迫る。
男(やばい……!)
胸の奥で低く響くかのような鼓動がした。身体の内側のどこかで水が湧くような、魔力が溢れてくるのがわかる。
炎が直撃する。視界が青く染まり、全身を灼熱が支配した。
………………………………………………
戦士「普通ならこれで死ぬんだけどな」
自分が扱える呪文の中でも、かなり高い魔力を要する魔法を使った。
青い炎が空間を埋め尽くし、景色を歪ませていた。
僧侶「勇者!」
僧侶の悲鳴のような叫び。それに答える声はなかった。
しかし、戦士は確信していた。彼が死んでいないことを。勇者はまだ生きていると。
不意に炎が切り裂かれたかのように割れた。
否、黒い霧のようなものが、突然蜃気楼のように現れ青い炎をぬりつぶしていく。
禍々しい魔力をはっきりと感じた。肌が泡立つのを自覚した。さっきまで相対していた勇者が、炎の中から姿を表す。
勇者は猛禽類を思わす巨大な翼に身を包み、炎から身を守っていた。
戦士「それがキミの本来の姿ってわけかい」
勇者はなにも答えない。
戦士「まったく……さっきまではうろたえまくってたのに、今度はえらく超然としてるじゃないか。今度こそ殺す……」
再び火を放つ。さすがに先ほどのレベルの術を連発するのは負担がかかりすぎる。
低下力魔法でまずは相手の出方をうかがうことにする。
勇者「……」
勇者の翼がはためくように大きく開く。同時に凄まじい突風が起こり、炎をすべて吹き飛ばした。
戦士「なるほど……」
翼が開くとともに起きた風が炎を払った、ように見えたがそうではない。
翼から発せられた強すぎる魔力が、炎をなぎ払ったのだ。人間とはかけ離れた技だ。
勇者「ううぅ……」
勇者の翼が大きく動く。勇者が地面を蹴り、凄まじい勢いで走り出す。
黒い霧とともに身にまとった殺気の凄まじさに、戦士は知らないうちに後ずさりしていた。
戦士が放つ炎は茶褐色の翼がなぎ払ってまるで効果をなさない。
しかし、戦士は構わず炎を連発する。
戦士(この程度の火力じゃ、無理か)
勇者の持つ剣を黒い霧が包みこむ。闇の剣と化したそれを勇者は予備動作なしで投擲する。
もちろん、対象は戦士だった。魔力の塊が神速のスピードで戦士に吸い込まれる。
初めて戦士の表情が焦りに歪む。
戦士「……っ!!」
凄まじい衝撃。部屋全体が揺れ、土煙が戦士そのものを覆い隠した。
間一髪だった。煙の中から戦士が現れる。魔力の塊と化した剣は壁に突き刺さっていた。
戦士(今なら武器はない、素手の状態……畳み込むチャンス)
その考えが甘いと知るのに時間はかからなかった。
勇者の手が黒い霧に覆われていく。霧から現れたのは関節から下が長剣と化した手だった。
勇者はその場から動こうとはしなかった。剣と化した腕、それを戦士に向ける。
訝る戦士の表情が驚愕のそれに変わる。
戦士「うそだろっ……!?」
刀身が伸びたのだ。速すぎる。横っ飛びに避ける。剣が風を斬る音が、耳にこびりついた。息を飲む。
少しでも動きを止めれば、間違いなく殺される。気づけば狩る側と狩られる側が入れ替わっていた。
伸びた剣が壁を深く穿つ。魔法を唱える……否、不可能だった。
戦士「しまった……」
謎の触手が足首に絡みついていた。
なんの抵抗もできないまま、戦士は勇者の目の前まで引きずられていた。
濃密な霧が勇者を覆っていてその顔は見えない。それでも自分の知っているだろう表情がその顔に浮かんでいないのだけは予想がついた。
戦士(ここまで、か……)
死の剣が振り上げられる。奇妙な感覚だった。死を目前にして、胸中はひどく穏やかだった。
ずいぶん昔、誰から見ても子どもと言われる年齢のときにも死にかけたことがあった。あのときはただひたすら泣き叫んでいた。
振り上げられた剣が、落ちる。
一瞬が永遠に引き伸ばされる。剣が止まって見えた。
色々なことが一瞬で脳裏をかけめぐる。ローブ下に隠していたものを取り出す。そしてそれを放とうとして……戦士はやめた。
勇者「ぐおおおぉぉ……」
苦痛に呻くかのような悲痛な声。勇者の剣は止まって見えたのが自分の錯覚だと知った。
実際に止まっていたのだ。勇者がその剣をギリギリで止めたのだ。
勇者「うおおおおおおおおおおおぉっ」
霧が勇者の咆哮とともに霧散する。戦士の足に絡んでいた触手が黒い霧となって、同じように消えていく。
戦士「なるほど、ね……」
どうして自分が死を目前にして、ここまで穏やかにいられたのかを理解して戦士は独りごちた。
勇者の前まで引きずられたときには、彼の殺気はすでに完全に消え失せていたのだ。
男「はぁはぁ……オレは…………オレは……」
戦士「やあ、調子はどうだい? ずいぶんと破天荒になったもんだね。勇者くん?」
男「……オレはいったいなにを……」
翼も霧となって蒸発していく。完全にもとの姿に戻っていた。
戦士「ボクが誰かはわかるかい?」
男「……戦士」
戦士「オーケー、そこまでわかってるなら大丈夫だね。じゃあ……パーンチッ!」
男「いってぇ! な、なにするんだ!?」
男「ああ言った! 状況がまったく掴めていないのに急に殴られたからなっ!」
戦士「なにを言ってるんだ!? こっちは危うく死にかけたんだぞ!? パンチ一発で済ますボクの懐の広さに感謝しろよ!」
男「それは……いや、たしかに危うく殺しかけたがそれはお前もだろうが!」
戦士は剣の柄を握り直した。魔力を込める。
戦士「あ、いや、それを言われると……」
剣を抜けるように、柄を握る。
戦士「いや、じゃあさ、こうしない?」
男「……なんだよ?」
剣を引き抜く。
次の瞬間、戦士の背中を目がけて光弾が放たれる。
戦士は引き抜いた剣で自らの背中を襲おうとしていた、光の球を切り裂いた。
戦士「……とりあえず、まずはボクらで共闘して敵を倒そう。交流を深めるための親睦会だ」
?「……なぜだ、戦士。そいつを殺さないという選択肢をとる? 血迷ったか?」
戦士「わりとボクって悩みとかと無縁な人間に思われるけど、意外としょっちゅう迷ったりしてるんだよ」
?「……」
戦士「けど、まあ血迷うのは初めてかもね。勇者くん!」
男「……なんだ。さっきからオレだけ置いてけぼり状態で困ってんだけど」
戦士「とりあえずこの流れで言うのはいささか以上におかしいんだけどさ。ボクを信じてくれないか?」
男「まったく……裏切ったり信じてくれって言ったり、お前、メチャクチャすぎるだろ」
戦士「我ながらそう思うよ。理路整然からは程遠い」
男「お前は間違いなくなにか知ってるな?」
戦士「少なくとも頭の悪いキミよりはね」
男「オレのこともなにかしってるだろ?」
戦士「うーん……まあね」
男「全部洗いざらい教えろ、それでオレは許してやるよ」
戦士「ボクの方は……まあいいや、とりあえずはボクとキミでこいつを倒す。話はそれからだ」
男「了解……!」
?「……まったく、手間をかけさせてくれる」
戦士「残念だったね。ボクは卑怯なことをするにしても、正々堂々とやるタイプなんだよね。
まあそれに、キミとボクって致命的に相性があわないしね」
?「……ハナっからこうする予定だったのか?」
戦士「言ったろ? 迷っていたって。まあ天秤は彼の方へと傾いたみたいだね」
?「まあいい。貴様らに生きていられては都合が悪いことになりそうだ。
利用価値もなくなった以上……消えてもらおうか」
僧侶「……私たちも加勢する」
戦士「いや、キミと魔法使いの傷は……」
魔法使い「……完治には程遠い。無理に動くことは……推奨できない」
僧侶「だが、二人であの男とやるのは厳しいんじゃ……」
男「らくではないな……でも!」
戦士「倒せない敵じゃない!」
と、その前に……」
男「ん?」
戦士「これを飲んでくれよ……なに、悪いものじゃない。さっきみたいなキミの暴走を抑えるものだ」
?「来ないのならこっちからいくぞっ!」
戦士「とりあえず飲め! 飲むんだ勇者くん!」
男「あぁーもういい! ……んっ、飲んだぞ!」
戦士「よし、いくよ!」
男「ああ!」
僧侶(……あのとき、ケルベロスをよこした後、私たちはこいつからは逃げ切ってなんとかケルベロス一体を狙った。
こいつは強い、少なくとも私と魔法使いのペアでは勝てる可能性はかぎりなく低かった。
この二人はいったいどうやって戦う気だ……?)
戦士「勇者くん、キミは前衛を頼むよ! サポートにはボクが回る!」
男「言われなくても!」
?「ふっ、勇者でオレを引きつけ、その間に戦士の魔法術で狙い撃ち……浅はかだな!」
僧侶(その戦略と似たものは私たちもやったが……前回使った戦術は読まれてまるでこいつには通じなかった)
戦士「すばっしこいなあ! 勇者くん、もっと引きつけて!」
男「うるせえ! とっくにやって……うおっ!?」
?「貴様ごときがこの俺の相手になると思うなっ!」
僧侶(勇者はまだ普段通り動けている。しかし……戦士の出す術の頻度が少ない。
魔力が足りなくなってるということが、明らかじゃないか……)
?「どうしたどうした!? 二人がかりでこの程度か……!?」
男「くっ……」
男(こいつ……やっぱり強い……!)
戦士(さっきの戦いでボクの魔力はだいぶもってかれたみたいだ……くそっ、下級魔法を連発することもできないなんて)
?「さっきの強さはどうした勇者!? 戦士を圧倒したように俺もあの力で圧倒してみせろよっ!」
男「お前相手にあの力は必要ねーんだよっ!」
勇者はなにか思いついたのか、素早く飛び退き男との距離をとる。
戦士「おいおい、勇者くん。なにキミ、勝手に戻ってきてんだい」
男「べつに勝てないと思って逃げたわけじゃない。戦士、一つ提案がある」
戦士「言ってみてよ」
男「……………………………………………………って、ことだ。どうだ?」
僧侶「……本気で言ってるのか?」
男「一通りの攻撃は試した。その上で、この提案をしてんだよ」
戦士「まあ、たしかに意外と言えば意外な方法だけど……」
魔法使い「成功の保証はない。はっきり言って危険すぎる」
男「でもこのままじゃあ、オレたち、死ぬぞ。あいつに全員殺される。だったらオレだけが死ぬけど、あいつを倒せる可能性にかけるべきじゃないか?
なによりオレは特別だ……オレが適任だろ」
?「いいかげんに飽きたなあ……終わりにしよう」
男「……やらなきゃやられるぞ!」
戦士「今回ばかりはあまりに気が進まないけど……」
男「さっきまでオレたちは戦ってんだ。その延長だと思えよ」
戦士(他に思いつく手段はない……これしかない、ってことか)
戦士「キミたちは回復の準備を頼むよ……」
僧侶「本当にやる気なのか……?」
男「安心しろ。オレはこいつを倒す。そしてその上で生き延びる」
魔法使い(記憶がないゆえにできる暴走か……あるいは
、そういう風に勇者として…………)
男「いくぞっ!」
?「ふっ……また懲りもせずに突っ込んでくるばかりか!」
?(なにか相談していたが……だが少なくともこいつ一人ではなにもできまい)
男(勝負は一瞬……オレはただこいつと直線ラインに立っているだけでいい!)
男「終わりだああああああ」
男は最初なにが起きたのかわからなかった。
ただ、急に脇腹のあたりが溶岩でも垂らされたかのように熱くなったのだ。
そこに視線を移動させる。杖が脇腹に刺さっていた。
そして次の瞬間、杖から男の全身に魔力が行き渡り、激痛が走り男は膝をついた。
なにが起きているのかまったく理解できなかった。
?「ぐっ……ぐあああああぁ!! な、なにをしたっ……!? いったいどうやって……!?」
勇者がなにかやったのかと思ったがちがった。彼もまた同じように、膝からくずおれて腹を押さえていた。
男「……どうだ、オレたちの……攻撃は…………見えなかったろ?」
顔から血の気が失せた勇者がニヤリと紫に変色した唇を歪める。
ようやく男は理解した。勇者パーティの攻撃方法を。
?「貴様……自分を盾にし視界に入らぬように……っ!」
男「……正解だっ、見える攻撃じゃあ…………お前に、かわされることは……わかってた、からな」
しかも杖を投擲したせいで余計にわからなかった。
戦士「杖はもっとも魔法に長けた魔法使いが扱い、魔法を媒介とする上では一番適しているからね。
ボクの魔力をかなり消費させてもらったけどね」
?「ぐっ……まさかこんな手段をとってくるとはな……」
戦士「勇者くんをなめすぎだよ、そしてそれが今の状況にそのままつながったんだよ」
?「まったく……ヤキが回るとはこういうことか……」
戦士「さあ、おとなしく捕まってもらおうか。リザードマンを殺したのはキミなんだろ?」
?「……ふっ、俺がたたで捕まると思うのか?」
?「悪いがこんな状態になってしまえば、もはや生きていても仕方ない。どの道、近いうちに死ぬだろうしな」
不意に男の身体が光る。全身に謎の術式が浮かび上がる。
戦士「しまっ……死ぬ気か!?」
?「貴様のような若造に利用されるなんてごめんだからなあ!
くくくっ、勇者よ……いや、ニセモノの勇者よ」
男「……なん、だ……?」
?「見事な攻撃だったなあ! 怖くはなかったのか、なにも感じなかったのか!?」
男「お前を倒すためだったからな……これぐらいしなきゃ勝てないと思ってな……」
勇者は必死で途切れかかる意識をつなぎとめる。が、指先から冷えていく。痛みが意識を侵食していく。
?「勇者の亡霊よ、貴様はニセモノにしてはよくやったな」
?「わからないのか……あんな状態になっても自分が勇者だと思えるのか?
気になるならそこの戦士か魔法使いにでも聞けばいい」
魔法使い「……」
男「……なにが、言いたい……?」
景色がゆがんでいく。痛みが流れ出る血と共にどんどん大きくなっていく。
?「……くくくっ、人の手により作られし哀れなニセモノよ…………」
男(ニセモノ……オレは封印された……昔の勇者ではない、ということなのか……?)
男の声がどんどん遠くなっていく。
僧侶や戦士の声が上から降ってくるが、なにも答えられない。景色は暗くなっていく。
ニセモノ。その言葉だけは消えていく意識の中でも、ぼんやりと浮かび上がっていた。
地面がなぜか近づいてくる。なにかが倒れる鈍い音。まばゆい光。遅れて衝撃と爆発音。
男(ニセモノ……オレは……)
勇者の意識はそこで途絶えた。
男(ここは……オレは死んだのか?)
なにもない真っ白な空間。そこに自分は羽のようにぼんやりと浮いていた。
どうにかして敵を倒したのは覚えている。いや、本当に倒せたかどうかは自身がない。
男(これは……)
真っ白な景色にうっすらとなにか浮かんで来る。様々な景色が波紋が広がるように浮かび上がる。
男(オレの記憶なのか……いや、ちがうか)
色々な景色や出来事。空間を埋め尽くす様々な光景は、しかし、自分の記憶ではない。
それだけはなぜか本能的に理解できた。
ふと様々な記憶の中で、一つの光景だけが大きくなっていく。
男「あっ……」
その光景に一人の少女が映る。勇者はなぜかその人が姫だとわかった。
男(こいつは……勇者だ。なんで勇者と姫が対立してるんだ?)
姫は両手を広げてなにか、その勇者である男に言っている。必死でなにかをうったえようとしている。
一方で男もなにかを必死にうったえている。
よく見れば姫の背後の魔王はかなりの傷を負っていた。
男(なんで姫が魔王を庇うんだ……?)
さらに先を見ようと身を乗りだす。
だが、またべつの光景が現れる。
男(なんだ……)
凄惨な光景が広がっていた。人々が逃げ惑う街は魔物が暴れ、建物を破壊していた。
勇者と思わしき男が魔物と戦っている。他にも兵士たちが戦っている。だが、明らかに魔物が多すぎた。
男がなにか叫んでいる。
男の視線の先には姫の面影を残した女性がいた。そしてその女性は、魔物に襲われようしていた。
一つ目の巨大な身体を持つ魔物が、腕を振り上げる。男が手を伸ばす。
それ以上は勇者が先を見ることはできなかった。
ふっ、とその景色が消えてしまう。
淡い光。空間が光で満たされてその光景が淡くなっていく。
不意に勇者は目が覚めた。
……………………………………………………
男「……っあ」
竜「おや……お目覚めですか?」
男「お前は……たしかあの女の子の……」
竜「ええ。四日前、あなたを例の牢獄へ案内しようとして……」
男「そういや、あの赤いローブのやつから逃げるために魔法陣使ったんだよな……。
あのあとお前はどうしたんだ? 逃げたのか?」
竜「はい。身の危険を感じたものですから。あと、手記についてはなんとか回収しましたよ」
男「ああ、ありがと。で、あの赤いヤツはどうなったんだ?」
竜「わかりません。私は逃げましたし、特に情報は入ってきていません」
男「そうか……って、さっき四日前って言わなかったか!?」
竜「ええ、言いましたけど」
竜「あなたは三日間、ずっと眠っていたのですよ。一瞬だけ意識を取り戻したりもしていたみたいですが……」
男(……三日間も寝ていたのか、オレは。あのときあの赤いローブの一人を倒すためにオレと戦士は……)
男「そうだ! みんなは!?」
竜「戦士様と僧侶様は、ある公爵家に向かわれましたよ。
目的は私は聞いていませんが、もしあなたが目覚めたらそのときはそう伝えるようにと言われていました」
男「公爵……?」
男(そういえば本来はオレたちは、最初の魔法陣で直接帝都に行って、魔王に会う予定だったんだよな。
そうだとすると、その公爵のとこが本来最初に向かうところだったのかな)
竜「魔法使い様は少し席を外しているだけなので、次期に戻られると思います」
男「……そうか」
男「ていうか、ここはどこだ?」
竜「エルフ様の屋敷です……もう身体を起こして大丈夫なんですか?」
男「んー、そういえば身体には異常はないみたいだな」
竜「それはなによりです」
男 「なんかまだ記憶がぼんやりとしてるが……そうだ! オレたち、本当なら捕まってたんだよな? みんな大丈夫なんだよな?」
竜「先に言ったとおりです」
魔法使い「私たちは無事」
男「魔法使い! よかった、無事だったんだな!」
魔法使い「……」
魔法使い「……あなたは大丈夫? 人間地区の方から町医者を呼び出して、診てもらった。大丈夫みたい、だけど……」
男「ああ、特になんともない。好調みたいだ」
魔法使い「そう……」
男「……」
魔法使い「……」
男「ああー、あのさ……」
魔法使い「少し、待ってて。部屋からものをとってくる」
男「お、おう。なにをとってくるんだ?」
魔法使い「……お酒」
…………………………………………………………
魔法使い「ふふっ……あぁ……うん、少し飲み過ぎだかしらね」
男「なんでわざわざ酒を飲む必要があるんだよ?」
魔法使い「このほうが、色々と話しやすいのよ。素面だと、これからあなたに話そうとすることをうまく伝えられるか自信ないし」
男「そうか……まあたしかに、色々と疑問が残ってるしな」
魔法使い「ところで記憶はしっかりしてる? あなたは酔った勢いでサキュバスを襲って、返り討ちにされて今に至るのよ?」
男「堂々とうそをつくな。オレは死に物狂いで、あの赤いローブのヤツを倒そうとして、今の状態になってんだよ」
魔法使い「ふふっ、安心したわ。これ以上記憶をなくされても困るからね」
男「ひどいこと言うなあ……」
魔法使い「……ごめんなさい。なんとか明るい雰囲気を作ろうとしたのだけど」
男「あー、いや、気をつかってくれたのか……」
男「単刀直入に聞く。オレはいったいなんなんだ?」
魔法使い「……」
男「悪いけど、覚えているよ。オレは勇者なんかじゃないんだろ? 本当はオレは何者なんだ? いや、なんなんだ?」
魔法使い「……意外と冷静なのね。私、実はマントの下に杖を隠しているのよ」
男「なんでだよ?」
魔法使い「目覚めた瞬間に暴走……なんて可能性を考えていたからよ」
男「なるほど……自分で言うのもなんだけど今のところは冷静だよ。
なんでだろうな……なんて言うか、こういうときはやっぱり取り乱したりするもんなのか?」
魔法使い「……」
魔法使い(記憶を蓄積して人格を形成していく普通の人間とは、やはりずれているのかしら……?)
魔法使い「どうかしら、ね。あなたって意外と冷めてるのかも」
男「冷めてる、か」
魔法使い「あなたは勇者じゃない。まして、普通の人間ですらない」
男「……そうなんだろうな。まあ普通の人間は腕からツタ出したり、翼生やしたりはしないんだろうな。
でも、だったらなんなんだ? どうしてそんな異常なことがオレの身体には起こる?」
魔法使い「いつか話した『マジックエデュケーションプログラム』については覚えてる?」
男「ああ、話してたな」
魔法使い「そしてそのプログラムの発足から起きた記憶喪失事件は……覚えてる?」
男「ああ、なんかあった気がする……」
魔法使い「覚えてなくてもいいわ。
このプログラム……災厄をもたらした女王による人工勇者を作るために発足されたプログラムなのよ」
男「ああ、知ってる」
魔法使い「知ってる? どういうこと……? 説明した覚えはないけど」
男(オレは例の情報屋の女の子から、聞いたことを魔法使いに伝えた。
魔法使いは不思議そうだったが、とりあえずは話を続けるために少女には触れなかった)
魔法使い「このプログラム……一つはそういう方面に特化するであろう魔法使いを選定することだった。
そしてもう一つは、人の記憶に干渉することができる魔法使いの選定」
男「人の記憶に干渉なんて、魔法でそんなことまでできるのか?」
魔法使い「できるわ、ただし肉体だけに影響を与える魔法よりも遥かに高度だから、本当にごく少数だけどね」
男「まさか、オレの記憶は……」
魔法使い「……そうよ」
けど記憶や感情、それらによって形成されていく人格がない。そう、あなたには、はじめから記憶なんてなかった……だから無理やり作ったのよ」
男「ちょ、ちょっと待ってくれ。えーと、うまく整理できない。先にプログラムの説明の続きをしてくれ」
魔法使い「……プログラムは表向きは魔法教育の強化が目的だった。実際にはある方面に特化した魔法使いを育てることだけどね。
そして、その魔法使い……その中でもとびっきり魔法使い、ようは賢者ね。
その人たちによって人工的に作った勇者にさらに記憶干渉できる賢者が記憶を与えたのよ」
男「つまり、そのプログラムは人工勇者を作るためだったってことだった。でも結果的に災いが起きたんだよな?」
魔法使い「ええ、人の記憶の干渉はかなり高度な上に危険そのものだったわ。
しかも記憶を引っ張り出す実験体に一般市民を用いたのよ」
男「まさかそれが例の魔女狩りにつながった記憶消失事件なのか……?」
魔法使い「あら、よく覚えていたわね」
男「わりと最近に情報屋の子から聞いたからな」
異端審問局を利用した大量抹殺……まあでもまったくの嘘でもないのよね」
男「……」
魔法使い「魔法使いたちが記憶を一般市民から奪っていたのは本当だし、彼らがいなくなったあとは記憶の消失事件はなくなったわけだしね」
男「でも、そんなのって……」
魔法使い「あんまりだと思うけど、でも過去の話よ。それに、本当に重要なのは、人工勇者を作るために行われた前段階の実験による被害」
男「前段階の実験って……他にもなにかしてたのか?」
魔法使い「人の記憶を他のものに定着させる。これがとどんな結果を生むかわからなかった、だから実験機関では、盗った記憶を魔物に定着させたのよ」
男「……」
魔法使い「さらに、魔王と勇者、両方の血をもつ存在を作るための前段階として魔物の混合もやったわ。
そうしてこの実験はエスカレートしていって、最終的には魔物の暴走」
男「それで国は魔物たちによってめちゃくちゃになったんだな」
まして、魔王の血を合わせもつ勇者なんて……」
男(あの子はたしかそのことも言ってたような……いや、今はそのことはいいか)
男「そのプログラムのことについてはわかった。で、次はオレだ。オレのこの半端な記憶はどこから引っ張ってきた?」
魔法使い「ごめんなさい、私も正確な情報はわからないわ」
男「そもそもオレは八百年前に生まれた勇者なんかじゃないんだよな?」
魔法使い「ええ、ごく最近生まれた勇者とはちがう人工の誰か。それが、あなた」
男「でも、オレには八百年前のうっすらとした記憶がある……それって八百年前の勇者の記憶を流用したってことなんじゃないか?」
魔法使い「そうね、その可能性はないこともないわ。ただ、それだと……」
男「……なんだよ?」
魔法使い「八百年前の勇者の記憶はどうやって引っ張ってきたのかしら? 肉体については細胞を利用したりどーとでもなるわ。でも記憶は……」
男「だんだんわからなくなってきたな。オレの身体ってでも明らかに勇者の身体だけがもとにはなってないよな?」
魔法使い「……おそらく」
男「たとえば魔王とかの肉体がもとになっていたりしないか?」
魔法使い「どうしてそう思ったの?」
男「わからん。ただ、なんとなく魔王だと思わしき記憶が時々よぎるんだよ」
魔法使い「興味深い話ね」
男「しかし、なんで魔王の身体をオレに使う必要があったんだ? 勇者の身体だけをベースにしちゃダメだったのか?」
魔法使い「……わからないわ」
魔法使い「それは簡単よ。私もあなたを作り出した実験機関に所属しているからよ。
と、言っても中途半端な位置にいる私は、あなたに関してはなにも携わっていないのだけど」
男「ったく、わけわかんねーよ。ややこしくて頭に入らない……イライラするな」
魔法使い「……」
魔法使い(自分の中のもどかしさをどう解消していいのかもわからない……か)
魔法使い「あとのことは……彼に聞いたほうがいいわね。ねえ?」
男「よお……」
戦士「やあ、勇者くん。気分はどうだい?
色々な疑問が残るだろうけど、それについてはボクがお答えするよ」
戦士「どうしたんだい? なんだか元気がない気がするんだけど?」
男「いや……ていうか、みんな無事だったんだなって思ってさ」
戦士「キミのおかげでね。真面目な話、助かったよ。ありがとう」
男「……」
戦士「さっきから沈黙が多いけど、本当に大丈夫なのかい?」
男「いや、べつに……それより気になってることが色々ありすぎる。
あの赤ローブのヤツらとかのこととかな」
戦士「彼らについての詳細はボクも知らない。一応彼らについては、陛下から直接聞いてはいたけどね。
彼の本来の役割はボクらのバックアップだったんだ」
男「バックアップ? あいつら、オレたちを襲ったじゃないか!?」
バックアップって言うのは万が一、キミが暴走したときのためのね」
男「お前と魔法使いはオレが……作られた勇者だって知ってたんだよな?」
戦士「黙っていたことは謝る。すまなかった」
魔法使い「……ごめんなさい」
男「口止めされてたのか、王様から」
戦士「うん。キミのことは黙っているように承ってはいたよ。だけどまあ、そういうこととは関係なく、黙っていたのは事実だ」
男「……まあ、今はまだ正直なところさ、よくわかってねーんだよ。自分が実は作られてました、とか言われてもさ。
だから、そんなことよりその赤ローブのヤツらについての話、続けてくれ」
戦士「さっきも言った通り、詳しいことは不明。陛下もなぜか彼らについての情報は開示しなかった。
ボクが伝えられたのは、ボクらよりあとで来るということと……」
男「なんでそこで止めるんだよ?」
戦士「……キミが暴走したときは、キミの始末をしろって言われたんだよ」
戦士「いや、あくまで可能性の一つとして、だよ。そして、キミが暴走したらボクでもどうにもならない可能性があった。
だから保険としての彼らってわけさ」
男「でも、あの連中はオレたちより先に来てたじゃないか」
戦士「これはボクの予想なんだけどね。彼らはもしかしたら、とある宗教の一味なんじゃないかって」
男「ある宗教?」
戦士「魔物を敵視し、根絶やしにして人間だけの楽園を築くことを目的にしてるという過激な新興宗教団体。
例の赤ローブの連中がその一味なんじゃないかってね」
男「そんなヤツらがいるのか……」
戦士「まあ、可能性だ。それに異端審問局とかも捜査にはあたってるけど、未だに実態はわかっていない」
男「……」
戦士「だが、あのとき。ボクがキミを殺そうとしたのは本気だった。
ヤツらと組んでキミを始末しようと思った」
男「……みんなを危険な目に合わせる可能性もあったもんな。お前を殺しかけたし……。
でも、じゃあなんでお前はオレを殺すのをやめたんだ?」
戦士「キミの暴走はギリギリのところで止まった。だからだよ」
男「……そう、か」
戦士「キミを殺そうとしたことも謝る……と言いたいところだけど、さすがに殺人未遂を謝罪の一言で終わらすのはさすがに図々しいね」
男(…………)
戦士「そういえば、例の人については話したかい?」
魔法使い「まだ」
戦士「なら、キミにも話しておこう。さっきまでボクと僧侶ちゃんは、ボクらの協力者にして魔王のもとへの案内人でもある、公爵の屋敷にいたんだ」
男「本来最初に行くはずだったところだろ?」
戦士「そう。公爵様のとこに行ってそのまま魔王様のもとへ行く……っていうのが本来の予定だった。
ところがどっこい。魔王がいない今、どうするかって話なんだよ」
男「その公爵の屋敷に行って来たんだろ? なにかしら話しあったのか?」
これはもともとの予定としてあったけど、本来は魔王に謁見したあとの予定だったんだよね」
魔法使い「この視察については私と彼とで行うわ。あなたはまだしばらくは、養生するといいわ」
戦士「そうだね。ああ、そうだ。
しばらくしたら、僧侶ちゃんが帰ってくるしなんなら二人でどっか見て回れば?」
男「んー、そうだな……」
戦士「なんだい、なんか言いたそうに見える気がするけど」
男「…………いや、なんにもだ」
戦士「そうかい? 魔法使い、あとはキミから伝えておくことはある?」
魔法使い「なにか言おうと思ってたけど、いいわ。忘れちゃったし。そういうあなたはもうなにか言うことはないの?」
戦士「……べつに。とりあえずはこれですべてさ」
男「……」
戦士「さて、勇者くんのことは僧侶ちゃんに任せたし、ボクらは公爵閣下――ハルピュイア殿が来るまで休憩していよう」
魔法使い「ずいぶんと彼に対して、説明を省いたわね」
戦士「あれ? いつもだったらとっくに回復魔法使って酔い覚まししてるのに、今日はしないのかい?」
魔法使い「少し酔っていたい気分なのよ」
戦士「珍しいね。キミは酔いが顔には出ないから、そんなにちがいがわからないけど。
……で? 説明を省いたって、ボクがなにか説明し忘れたことなんてあったかな?」
魔法使い「わざとらしいわね。自分のことで頭がいっぱいになってるから、彼は気づいてなかったみたいだけど。
たとえば、リザードマンの殺害。あれを通報したのはあなただけど、それについての説明は?」
戦士「それを言ったら、どうしてキミがあの牢獄に魔物の研究機関があったことを知っていたのか、とかもだろ?
それについては話したのかい?」
魔法使い「……いいえ。てっきりあなたから説明があるかと思ったから」
魔法使い「ええ。一応、彼が気絶したあと多少はあの機関については調べたけど。あなたのやり方が強引すぎたのよ。
まさかリザードマンが殺害されたのを利用して、進んで牢獄に入って機関に潜り込む……そんなやり方をするなんて予想外だったわ」
戦士「今回、ある意味一番難しい課題だったからね。仮に彼が殺害されてなかったら、機関に入り込むことはできなかったかもしれない」
魔法使い「結局、リザードマンが殺されたのは……」
戦士「ああ。ボクらのバックアップである、あの赤ローブの連中で十中八九間違いない」
魔法使い「私たちが牢獄にいるとき、同時進行で城にあの連中の一人が侵入してる。おそらく、混乱を起こすため」
戦士「そして、ボクらと同じように研究機関のデータを盗もうとしていた」
魔法使い「あなたはあの連中が侵入したのに気づいて、わざと私たちとはぐれて、機関に侵入した」
戦士「あの機関を調べるのに一番適していたのは、キミだったんだろうけどね。
しかし、そうも言っていられない。なにせ、赤ローブのヤツらが先に侵入していた可能性があった。
さらに戦闘になる可能性があった。ならば、ボクが行くべきだった」
魔法使い「思い返してみると、奇妙なことはまだあるわよね?」
戦士「陛下のことだね」
魔法使い「ええ」
戦士「あの赤ローブの連中が、例の新興宗教の一味だという情報はボクでも知っていた」
魔法使い「あなたが知っていることを陛下が知らないわけがない。そして、そんな嫌疑を密使のバックアップに選ぶわけがない。
あなたの独断で、あの魔法陣を破壊したものの先手を打たれていた」
戦士「あの赤ローブのヤツらの仕業で、たぶん間違いない。魔法陣の座標を変えられたせいで、ボクらは予定外の場所に来ちゃったわけだ……」
魔法使い「そして、まだ三人のうちの二人は捕まっていない……」
戦士「まったく……課題は増えていくばかりだ」
戦士(そして、賢者が大怪我を負った爆発事故。あれは勇者くんが作られ、生まれた時期とほぼ一致している……)
戦士「……そもそも、あのときは色々と際どかったんだよ。
キミらが機関に入ってきたのにボクはすぐ気づいた。彼の背中から翼が生えていたのも確認した。
だけど、勇者くんは正気を保ってた。だから、あの赤ローブのヤツにキミらが気づかれないように必死だったよ」
魔法使い「場合によっては、彼を利用しつつ勇者くんを殺すつもりだった?」
戦士「うん……まあ、ギリギリまで迷った結果が戦って確かめるってことだったけど」
魔法使い「私たち、よく生き残ったと思うの。まさかあの連中だけじゃなく、ケルベロスが出てきたときは死を覚悟したわ」
戦士「ボクがキミに持たせたものもほとんど役に立たなかったみたいだね」
魔法使い「例の対勇者くん用の魔力封じのヤツだけね、まともに使えたのは」
戦士「さあ、どうだかね」
魔法使い「ふふっ……はぐらかさなくてもわかるわよ」
戦士「キミこそ、わざわざアルコールを接種して勇者くんと話をしようとしたのはなぜなんだい?」
魔法使い「……べつに。説明するならお酒モードのほうが都合よかっただけ」
戦士「そうかい? 状況を説明するだけならそんなことをしなくても、素面のままでよかったと思うけどね。
わざわざ饒舌になるようにアルコールをとったりしたのには、なにか意味があったと思ったんだけどなあ」
魔法使い「……そういうあなたも、なにか言葉を探しあぐねてたように見えたけどね、私には」
戦士「……女の子への口説き文句はすぐ浮かぶのにね。
まあ、とりあえずはキミの魔術と例のクスリで彼の潜在能力は封じた」
魔法使い「彼女は勇者くんに対して不安はないのかしらね?」
戦士「今回、ボクらとちがってほとんど事情を知らないからね、僧侶ちゃんは。
まあ彼女にも一応持たせるものは持してある。大丈夫さ」
遣い「失礼します。ハルピュイア公爵の遣いの者が参られました」
戦士「おや、ずいぶんと早いね。仕方ない、行こうか」
魔法使い「……ええ。気を引き締めて行きましょ」
戦士「うん、敵陣に突入だ」
僧侶「……」
男「……」
僧侶「……お腹、空かないか? どこかへ入らないか?」
男「んー、そうだな……てきとーなとこに入るか」
僧侶 「あ、でもここは魔物圏の場所だからな……まあ、この貴族の遣いであることを示すブレスレットがあれば、大丈夫みたいだが」
男「そーだな」
僧侶「……まあ、入るか」
………………………………………………………………
男「……」
僧侶「……私の話、聞いてる……?」
男「……ん? ああ……ごめん。なんだって?」
僧侶「どこまであの二人から聞いてるのかって、聞いてるんだ」
男「ああ、そういうことか。オレ自身のこと。あと、なんか近況報告も聞いたな。
そういえば、お前らオレが気絶したあと、すぐ牢獄を脱出したのか?」
僧侶「いや、あのあと無理やり回復させたお前をつれて、脱出を試みたが結局憲兵に捕まったんだ」
男「でも、今はこうして自由の身になってるよな?」
僧侶「それなんだが、不思議なことに二日で私たちは釈放された」
男「なにか理由があるのか?」
僧侶「しいて挙げられるとするなら、あの赤いローブの男がリザードマンを殺していた……その証拠が見つかった。
いや、だが、やはりおかしいと思う。私たちをそんな簡単に釈放するなんて……」
男「でも、助かったんだしよかったんじゃないか?」
僧侶「それはそうだが……」
男「気になるのか?」
僧侶「ああ、やっぱり不安要素は少ないほうがいい。なにより、私はあの二人からきちんとした話は聞いていなかった」
男「……」
男「なにが?」
僧侶「私たちを騙していた、というわけではないが、それでもあの二人については、私は釈然としない」
男「……」
僧侶「いや、仕方ないのはわかる。わかってる……」
男「あのさ」
僧侶「なんだ?」
男「お前はオレのことを知ったんだよな? オレがニセモノだって」
僧侶「……ああ」
男「そうだ、オレはめちゃくちゃな存在だ」
僧侶「たしかに私はお前が異形の存在になる瞬間を見た。だが……」
サキュバス「 はーい、すみませーん。メニューお持ちいましたー。
ていうか人間が来るとか久々だね。なに、二人は学生かなにか……ってそんな感じじゃないね」
僧侶「……」
サキュバス「なに? なんかアタシの顔になんかついてる? あ、もしかしてこんな定食屋で働いてるサキュバスが珍しい、みたいな?」
僧侶「いや……」
サキュバス「いやあ、アタシだってそういう方面の職業につこうかな、とか思ったけどね。
みんながみんな似たような職業つくのも面白くないじゃん? まあそういうわけで、こんなビミョーなメシ屋で働いてんの」
僧侶「……それだけ胸元が開いた制服なら、男はそれにつられるんだろうな」
サキュバス「あはは、わかる? アタシけっこう胸大きいからさー。あれ? お姉さんったら、ちょっとムッとしてない? もしかして、ひん……」
僧侶「さっさと仕事にもどれ……!」
サキュバス「うわー、こわーい。ねえねえ、あなたのお連れの方、すごくコワイよー?」
男「え? オレに言ってるの?」
サキュバス「やっだー! お兄さん以外に誰がいるの? なにか悩みでもあるの? 悩みがあるなら聞いてあげようか?」
男「……人間の客は珍しいって言ったけど、キミは人間についてはどう思ってるんだ?」
サキュバス「なになに、どーゆう質問これ? えー、べつに人間ってだけで特に思うことはないなあ」
男「……じゃあオレのことはどう思った?」
僧侶「……?」
サキュバス「オレのことはどう思ったって……もしかして新手のナンパ? やだなあ、人間にナンパされたのはじめてー」
男「いや、そういうわけじゃないんだけど」
サキュバス「お兄さんの印象ねえー、うーん。なんかフツー」
男「なんだよ、普通って」
サキュバス「あ、でもなんかやさしそー」
男「……そうか」
サキュバス「まあ、印象良くみせたいならもっと、シャキッとすることだねー。あ、注文入っちゃったから、またねー」
男「……なんとなく、魔物から自分を見るとどう思われるかを知りたかった、それだけだ。
そういえば、なにか言いかけてお前、やめたよな?
」
僧侶「……お前は自分をめちゃくちゃな存在だと言ったな?」
男「まあ、言ったな」
僧侶「じゃあ聞くが、そんな自分をどうするべきだと思う?」
男「どうするべきって……そんなことを言われてもな。そんなもんわかんねーよ」
僧侶「……少しだけ、私の身の上話を聞いてくれないか?」
男「身の上話? べつにいいけど」
僧侶「ありがとう。まあ、とは言っても大した話なんかじゃない」
僧侶「私がなあなあに生きてきて、父に言われるまま教会に入れられた話はしたよな?」
男「うん。たしか、オレが意外だなってそれに対して言ったんだよな」
僧侶「一時期、教会の生活に嫌気がさして家に帰ったことがあった」
男「なんか本当に想像つかないな」
僧侶「私の家はそこそこ裕福な家だったんだ。だから、多少は甘やかされて育てられた。
なのに、途中から急に教育方針が変わって、厳しくなったものだから、当時の私は理不尽な怒りのようなものを感じた」
男「教会に入れられたのも、そういうのが原因なのか?」
僧侶「そうだ。学校を卒業して意味なく武術を鍛える日々を送っていた私は、父によって教会に入ったが、その厳しさに耐えられなかったんだ」
男「そんで家に帰ったら、なんて言われたんだ?」
僧侶「色々口論したが、最終的になぜかどっかの家に嫁入りしろって話になってな」
男「嫁入り……?」
僧侶「私も最初は驚いた。しかし、同時に結婚すれば少なくとも教会の暮らしから逃れられると考えると、当時の馬鹿だった私にはそこそこ魅力に思えたんだ」
男「でも、こうしてるってことは……」
僧侶「ああ、もちろんその話は最終的には断った。結局、私は教会に謝って戻させてもらった」
男「そう、なのか……」
僧侶「人生は選択肢だらけだ。いつでも取るか取らないかを迫られる。
そして、同時にそんな選択肢を放棄することもできる」
男「……」
僧侶「私はずっと、選択することから逃げて生きてきたけど。嫁ぐか、教会に戻るか。その選択肢からは逃げなかった。
それだけは絶対に選択肢を考えないって選択はなかった」
男「後悔はしてないのか?」
僧侶「したさ。たくさん、未だにすることはある。でも、この選択の結果が生まれたものはかけがえのないものだって、私はそう思ってる」
男「かけがえのないもの……」
僧侶「初めての決心だったとも言える。でも、その選択肢から逃げないことを決めた瞬間の私の選択は、私自身の新たな可能性にもなった」
男「オレは……」
僧侶「お前だって、選択を迫られる瞬間は簡単に訪れる。いや、今がそのときかもしれない。お前はこれからどうする?」
男「わかんねーよ。どうしたらいいんだよ……ニセモノにして化物のオレは……」
僧侶「お前が化物だろうが、ニセモノだろうが選ばなければならないときはくる」
男「わかってるよ。でも……」
僧侶「ケルベロスと戦ったとき、私はお前を庇った。お前がニセモノだろうと本物だろうと、少なくとも私は、お前を庇おうと思ったから。
そして、私が死にかけたとき、魔法使いとともに助けてくれたのはお前だ」
男「……そうだな」
僧侶「お前が私を助けようとした気持ち、それはうそか?」
男「……ちがう」
僧侶「たとえ、お前がニセモノだとしても。私を助けてくれたお前の気持ちまでが、ニセモノだとは思たくない」
男「……」
僧侶「その意思は本物だと思うし、お前がその選択肢をとってくれなかったら私は死んでいた。この事実に本物もニセモノもない」
男「……」
僧侶「どうするかを決めるのは、すべて自分だ……私がえらそうなことを言える立場なんかじゃないけど」
男「……僧侶」
僧侶「ああ」
男「オレも、考えてみるよ。自分なりの選択肢を。僧侶」
僧侶「……なんだ?」
男「ありがとう」
サキュバス「また来てね、お兄さんとお兄さん」
男「わざわざ見送ってくれるんだな」
サキュバス「今はお客さんが、あんまり入らない時間だからね。あと、人間にナンパされたのは初めてだし」
僧侶「……また来るかどうかは知らないが、食事はうまかった」
サキュバス「あはは、それはよかった。お姉さん、いっぱい食べないとおっぱい大き……」
僧侶「……」
サキュバス「いや、そんなに睨まないでよ。冗談だから、じょーだん。
……それにしてもお兄さん、さっきと雰囲気少し変わった?」
男「オレ?」
男「よくわかんないな」
サキュバス「ねえ、お姉さんもそう思うよね?」
僧侶「……いや、私にもわからない」
サキュバス「それにしても最近、常連のお客さんがことごとく来ないから困ってるのよね」
男「客が来ないのはたしかに困るな」
サキュバス「ここのところ色々と街がざわついてるのよね。至るところに警備の連中とかもいるし」
僧侶(魔王がいなくなったからな……とは言えはしないな、さすがに)
サキュバス「ただ、ここんとこの二日間はさらに警備が強化されてるみたいなんだよね」
僧侶「いや……私が知るかぎり、警備強化をしなければならないようなことは、なかったと思う」
僧侶(私たちやあの赤いローブの連中のことと関係あるのか?)
サキュバス「あ、でも一つ気づいたんだけどさ。ここ二日間ぐらいね、街の警備にあたってた連中なんだけど。
ミレットの警備にあたってるみたいだね、なぜかは知らないけど」
男「ミレットって人間地区のことだよな? だけどそれがなんだって言うんだ?」
サキュバス「ミレットは帝都の入口でもあるんだよね」
僧侶「街の入口の警備を急に固める、それって……」
サキュバス「そう。まるで今誰かに侵入されたら困っちゃうみたいな、ね」
僧侶「今、屋敷に戻っても手持ち無沙汰になるな。どうする、他にどこか行くか?
いや、あまり動かない方がいいか。憲兵も少ないとは言え、いるにはいるからな」
男「そうだな……あ」
僧侶「どうした?」
男「いや、あのサキュバスを見ててなにか違和感のようなものが胸につっかえてたんだけどさ。今、なんとなくわかった。それの正体が」
僧侶「違和感? なんだ?」
男「オレの中にある記憶……その中のサキュバスの記憶っていうか、イメージなのかな?
それと一致しなかったんだよ、全然」
僧侶「それはつまり、昔の勇者の記録、それと一致しないってことか?」
男「ああ。オレが知ってるサキュバスは、あんな人間と寸分変わらない姿をしていなかった」
僧侶「より魔物として、わかりやすいような姿だったってことか? 彼女も翼はあったが……」
男「でも、オレの知ってるサキュバスはもっと翼も大きかった」
僧侶「でも、だからってなんなんだ? 時代の変化とともに魔物の姿が変わったってことか?
だいたい、魔物だって生き物だ。個体差がある。
さっきのサキュバスのように人間よりのものがいる一方で、お前の記憶の中のように魔物としての色を濃くするサキュバスもいる」
男「……」
僧侶「そういうことじゃないのか?」
男「……すまん。やっぱりオレの勘違いなのかもしれない」
僧侶(勘違い、その可能性は十分あるが、あの魔物を作る研究機関……あんな施設があることを考えれば、勘違いで済ますのは……)
男(オレの記憶違いなのかな? なにか調べる方法はないのか?)
僧侶「そうだ、帰ってきたら魔法使いに聞くのはどうだ? 魔法使いなら、魔物についてはかなり明るいからな」
男「なるほど、そうだな。だが、それまでに自分でもなにか調べておきたいな」
僧侶「私は少し、街の様子を見て回る。ついでに図書館にも寄っておきたい。お前は?」
男「屋敷に戻る。少し気になることがあるんだ」
僧侶「……」
男「な、なんだよ。そんなじーっと見られても……」
僧侶「帰ったら体調の確認を兼ねた手合わせをしよう」
男「ん、ああ、それはありがたい」
僧侶「じゃあまたあとで」
男「おう」
男「ってなわけで、屋敷に戻ってきたわけだけど……」
男(少し、気分も落ち着いたのか? よくわからないけど、僧侶の話を聞いたらなんだか胸のモヤモヤが消えた気がする……)
竜「おやおや、ずいぶんと早く戻られましたね。お連れの方は一緒ではないのですか?」
男「あいつはまだ街にいるよ。オレは例の手記の続きが読みたくて戻ってきたんだ」
竜「左様で」
男「……いま思い出したんだが、お前のご主人はどうしたんだ? バイトか?」
竜「主は……まあ、そんなところです」
男「あやふやな言い方だな。あの子のおかげでオレは助かったからさ、礼を言いたかったんだよな」
竜「また会ったときにでも。会えたなら、ですが……」
男「……?」
竜「それでは私はこれで」
男「ああ、またな。さて……」
男(なぜかは、わからない。なぜこの手記に惹かれるのかはわからないが、オレはこの中身を見なければならない気がする)
…………………………………………………
ある日のこと。私は気になることがあって、ひたすら本を読み漁っていた。
片付けるのは面倒だったので、そのまま本は出しっ放しにしておいた。普段は誰かがてきとうに片付けてくるので、私には片付けの習慣はなかった。
ちょうど、そのとき彼が部屋に入ってきた。彼は部屋に入ってきたとたん、顔をしためた。私はすぐ本に視線を戻す。
『いくらなんでも散らかしすぎじゃないか……?』
『べつに。あなたが来なくて暇だったから。ねえ、魔王様?』
『……』
『やっぱり、勇者様と魔王は世界に存在し続ける……これは太陽が登って沈むぐらい自然なことなのね』
『今さらそれがどうした? オレでもそんな当たり前のことはわかるぞ』
『そうね、そのことはたいして重要ではないわ。問題は、存在し続ける勇者様と魔王の関係……そうね、なんて言ったらいいのかしら』
私が言葉を探して黙ったりしているときに、彼の表情を盗み見るのは、密かな楽しみになっていた。
まるで忠犬が餌を待ってるような、そんな佇まいなのだ。きっと彼自身が聞いたら怒ってしまうだろうから、それについては私は特に言わない。
その代わり、私だけの小さな楽しみということにしておいた。
ようやく言葉がまとまる。私がしゃべろうとすると、彼が身を乗り出す。これも私が知った彼の癖のひとつだ。
軍隊は街を守る。そういう名目で動かない。そして、勇者たち一行だけが、魔王たちを倒しに行く』
『まるで魔王への貢物のようだな。それだけを聞いていると』
『ある意味そうなのかもね。それに色々と奇妙よね……』
『どういう意味だ?』
『だって、少人数でパーティを組ませているのは、本来勇者一行の存在を魔物たちに知られないためよね?』
『……そーなんだろうな』
どうやら私の思考はまだまとまってはいなかったみたい。
考えが次々に沸き起こって、意味があるのかないのか、あやふやな言葉に変わっていく。
『でも国民は勇者という存在がなければ、不満が出る……絶対に存在する回復魔法を使える者の存在……確実にそろう勇者パーティ……』
近年、回復魔法について疑問の声があがっている。魔法による回復の人体への影響。
勇者様と魔王の戦いはまるで誰かに仕組まれているようだ。
しかも、なるべく犠牲を出さない形をとっている。私はふと、自分が目を通して積み上げた本たちを見た。
『ん、そうだな。誰が記録を残しているんだろうな』
戦い続ける勇者様と魔王。
犠牲を出さない最小限の戦争。
半永久的な争い。
誰かによって記され続ける記録。
『そう、まるで誰かが勇者様と魔王の争いを仕組んでるみたい』
積み上げられた記録たちを、私は見た。なにかが、おかしい。
だが、よくよく考えれば、私と彼の関係もひどく奇妙なものか。
私は答えを見つけられない。魔王の顔を見る。彼の瞳に映る私の顔は、不安に揺れていた。
……………………………………………………
男(なんか、 たまたま開いたページだったけど、あやふやだし、本人もなにが言いたいのかわからないって感じの内容だな……)
男「んー、もうちょっと読もうかな……あ、これは……」
男(勇者パーティについてか)
…………………………………………………………
男「ふむふむ……なるほど」
エルフ「少しよろしいですか?」
男「ああ、はい……って、うおわあ!?」
エルフ「あの方が言っていた通り、反応が大仰ですわね」
男「それは急に話しかけられたから……」
エルフ「部屋に入る際にもノックはしましたがね。あなたが帰ってきてることは、伝え聞いていたものですから」
男「ああ……それは、申し訳ない」
エルフ「いえいえ。私も、もう少し配慮すればよかったですね。
それにしても、ずいぶんと熱心に手記を読んでますね。本の内容はどうですか?」
男「えっと……そう言えばこの手記ってあんた……あ、あなた……のものなんだよな?」
エルフ「まあ、一応そういうことになっていますわ」
エルフ「物事に対して断言できない。私の悪い癖ですわ……あら? そんなに凝視されると照れますわね、なにか私に言いたいことでも?」
男「あのさ、えっと、あなたたち……魔物は……」
男(なんか、このヒトの前だと妙に緊張するな……なんか、すごい変わった雰囲気というか……)
エルフ「ストップ。私たちは自分たちのことを魔物なんて言いません。魔族と言います」
男「あ、はい……魔族……」
エルフ「ええ。魔物って言い方を私たち魔族は好みません。あしからず」
男「はあ……」
男「魔物……じゃなくて、魔族であるアンタたちは、人間についてどう思うんだ?」
エルフ「ずいぶんと抽象的な質問ですね。もう少し具体性が欲しいですわ」
男「だから、たとえば……人間に対して憎しみを抱いたり、とか嫌悪感を覚えたりしないのか?」
エルフ「人それぞれですよ、そんなもの」
男「えらいあっさりと言ってくれるな。そりゃあ、人それぞれだろうけど……アンタはどうなんだ?」
エルフ「少なくとも人間だから、という理由で嫌悪感を他人に抱いたことはありませんわ。
と言うより、私が人間だから、という理由他人に嫌悪を感じたりはしませんわ」
男「えらくはっきりと言うな」
逆に質問しますけど、人間相手にあなたは腹を立てないと言い切れますか?」
男「それは……そりゃあ、人間相手に腹立つことなんて、いくらでもあるだろ」
エルフ「そう、結局そういうことでしょう?」
男「……あ」
エルフ「湧き上がる感情が、魔族だから……人間だから。そんな理由で変わるなんて愚かなことこの上ないですわ」
男「たしかに……」
エルフ「この街を見てあなたはわかったはずです。人間だろうが魔族だろうが、変わらないってことが」
男「……」
エルフ「たとえ、あなたが何者でもない誰かだとしても、その胸に抱いた感情は本物でしょう?」
男「抱いた感情は本物、か」
エルフ「だから、もしなにか胸の内になにかを溜め込んでるなら、吐き出すべきですわ」
男「……魔界の魔族はみんな、アンタみたいな考え方なのか?」
エルフ「ほとんどは。ただ、やっぱりいさかいが全くないわけじゃないですわ」
男「まあ、仕方ないことなんだよな。それもアンタの言う通りなら」
エルフ「いさかいや争いは同じ種族でも起きる。当然、と言えば当然です。
でも、歩み寄ることは心の持ちようで、いくらでもできますわ」
男「……心の持ちよう、か」
エルフ「ええ、大事なのは心ですわ」
戦士「……で、勇者くん。はるばる視察から帰ってきたボクらに、いったいなんの用だい?」
男「オレのリハビリ会だ。眠ってたせいで、カラダが訛っちゃったからな」
僧侶「……なにを考えてる?」
男「なあに、本を読んでたら心と心を交わすのには拳が一番、って書いてあったんだよ」
魔法使い「……」
魔法使い(自分なりのアプローチをする、か。やはり勇者くんは常に変化し続けてる)
戦士「なにに影響を受けたのかは知らないけど、いいだろう。実力の差を見せてあげよう」
男「本気でこい。オレも本気でいく」
男「……この前の決着がついてないから」
戦士「決着って、いったいなんの話をしているんだい?」
男「あの牢獄で、オレとお前は闘ったろ。忘れたのかよ」
戦士「あれのことか。あれはボクの完敗だったよ、あと少しで殺されかけた。今さらなにを蒸し返そうっていうんだい?」
男「あれはオレじゃない。オレの中のなにかがお前を殺しかけた。でも、『オレ自身』は完敗だった。
だからこそ、リベンジしたいんだよ。オレのままでオレはお前に勝つ」
戦士「……なるほど。魔法使いちゃんや僧侶ちゃんもせっかくだ、見ててくれよ」
魔法使い(戦いによって闘争本能が刺激され、またあの力が暴走する可能性がある。
だからこそ、私や彼女もこの場にいたほうがいい、か)
僧侶(なにか考えてるのか……勇者は)
戦士「闘いの状況次第では本気を出してあげるよ」
男「……いくぞ!」
男(たぶん、勝負の時間が長くなればなるほどオレの勝算は減ってく……ならっ!)
魔法使い(これは……)
僧侶「なにを考えてるんだ……?」
戦士「……っ!?」
戦士が思わず声をあげてしまったのは、勇者が手にしていた剣に極端すぎるほどの魔力を込めていたからだ。
ほとんど身に宿したすべての魔力を注いでいると言ってもいい。刀身は、その膨大な魔力によって輪郭を朧げなものにしていた。
大怪我ですら、生ぬるい。間違いなくやられる。
戦士は素早く魔力を剣に先端に手繰り寄せ、火を操る。狙いは……
男「うおおおおおおおおおっ!!」
勇者の咆哮。屋敷の庭全体に広がる叫び声が、雲すらも震わせる。
勇者が地面を蹴る。体勢を低くして、いっきに駆けてくる。以前よりもスピードが速い。戦士は魔法を放つ目測を一瞬でつけ――火の粉を放った。
戦士と勇者の距離はそこまでない。距離をとらなければ、あの剣の餌食にされるかもしれない。
後退しようとして、戦士は気づいた。剣をいつの間にか片手持ちにしているのだ。
刀身どころか、持ち主の手までも魔力が包みこんでいた。投げの構え、あの膨大た魔力の塊をあろことか、この男は投げるつもりなのだ。
戦士「ほ、本気なのか!?」
焦るあまり、声をあげていた。魔力をいっきに高める。剣の投げよりは先に魔法を放たなければならない。
間に合うか間に合わないかの限界を見切り、青い炎を放った。
牽制こそがこの魔法の狙い。
男「悪いけど、予想通りだ……全部なっ!」
戦士「……!?」
勇者の口もとのはしが釣り上がる。獲物が網にかかったことを喜ぶ狩人のようだった。ようやく戦士は自分の間違いを知った。
投げの構えをとっていたはずの勇者は、気づけば刺突の構えをしてそこまで迫っていた。
戦士(フェイク!?)
投げの構えは見せかけなだけだった。
彼の手に目がけて放った火球は、魔力の剣に当たって消滅した。足もとを狙った火を無視して、勇者は突き進んで――
戦士「くっ……!」
魔法使い「勝負あり、ね」
勇者はその剣を戦士の首に当たる直前で止めた。剣に注がれた魔力が解かれていく。
わずかな時間でありながら、勇者の額にはたまの汗が浮いて輝いている。
勇者は剣を鞘にしまうと、得意げに言った。
男「……言ったろ? 本気でいくって」
僧侶「よく、あんな思い切ったことをしたな」
男「いやあ、僧侶とわかれて一人になったあとずっと考えていたんだ」
戦士「考えていたって、ボクに勝つ方法をかい?」
男「いや、自分のことを考えてて、次にパーティのみんなのことをずっと考えてた」
僧侶「どうして?」
男「最初はさ、自分のことをほとんど知らないから、自分について考えてたんだ。でも、そうしてるうちにお前らのことも全然知らないことに気づいてさ。
だから、なにかわかることはないかって考えてた。それで、オレがわかるみんなのことは戦闘のことだ。
というか、オレ自身が戦闘のことしかわからなかった」
戦士「でも、それがどうボクのリベンジに結びつくんだい?」
男「んー、なんていうか、考えて考えて、その考えの結果って感じだな。
オレが考えた結果が正しいのか、知りたかった」
男「戦士とは一番手合わせしていたし、僧侶からオレが暴走したときのことも、戦士が帰ってくる前に聞いてたんだ」
僧侶「いったいなんで私に、あのときのことを聞いたのかと思ったがこういうことだったんだな」
男「うん。暴走したオレ相手でも、本気で殺そうとはしなかった……そのことを聞いたときに確信したよ。
模擬戦でも、戦士は呪文を牽制にしか使わなかった。
だから、オレがむやみやたらに突っ込んだとしても、確実に攻撃は当たらないだろうなってさ」
戦士「……ボクの性格を考えた上での、戦法だったわけか」
戦士(戦略を考える上で、敵の性格を考慮するのは基本中の基本だ。
もっとも勇者くんの場合は、仲間であるボクだからこそとれた戦略、か)
男「まあ、こんなインチキみたいなやり方で勝ったと言うのは、ちょっと卑怯だけど。でも、オレにしちゃあ上出来だろ?」
戦士「そうだね、『ボクの油断』を見事についたイイ作戦だったよ」
僧侶「そうだな。どういう形であれ、戦士は負けたわけだからな」
戦士「……まあね」
戦士「で? 結局、勇者くんはなんのためにこんなことをしたんだっけ?」
男「いや、なんて言うのかな? 心を通わせるには、こういう風に全力でぶつかるのが一番だって聞いたからさ」
戦士(……経験もなければ、記憶もない。そんな勇者くんなりの歩み寄り方ってわけか)
男「オレは作られた偽物だ。だから……」
僧侶「だから、なんだ?」
男「……わからない。いや、なんとなく自分がダメな存在だっていうことはわかる」
戦士「なんとなくなんだろ? 絶対にダメってわけじゃないんでしょ、キミの存在」
男「……それは、わからない」
戦士「だったらいいじゃん。なんとなく程度のダメな存在なら。絶対にダメじゃないなら、ボクがキミとこうして一緒にいる理由に十分になるさ」
僧侶「私も前にも言った。お前を助けたいと思って、お前を助けたこともあるし。
助けられたこともある。そういう意味じゃあ、私にとっての勇者はお前だ」
男「……そ、そうなのか」
僧侶「魔法使いはどうだ?」
魔法使い「……あなたは、危険な存在」
男「……うん」
魔法使い「内に秘めた力を、暴走させればすべてのものを、不幸にするだけの力があるかもしれない。でも……。
それだけ危険な力を暴走させながら、それを最後に制御できたのは、他でもない。あなたの強い意思」
男「魔法使い……」
魔法使い「私はそんなあなたの強い意思を、信じたい」
急遽集められた、言ってしまえば単なる寄せ集め集団だけどさ」
僧侶「妙に上から目線なのが気になるが。でも、同意だ。私たちはこの数日間だけで、いくつかのピンチを乗り越えることをしている」
魔法使い「……うん、悪くない」
男「……みんな」
戦士「きちんと言っておくよ。僧侶ちゃんや、魔法使いちゃん、そして……勇者くん。
ボクは任務が終わるまでは、このパーティで頑張っていきたい。そう思っている」
僧侶「そうだな。私も同じだ」
魔法使い「うん」
男「……」
僧侶「どうした?」
男「……なんか、すごく変な感じなんだ。なんだろ、この感覚。嬉しいとかそういうのに似た感じなんだけど」
魔法使い(植え付けられた記憶は、やはり不完全。それゆえに、幼少期から段階を踏んで経験から感情を学ぶのとはちがう。
自分の感情の発露に戸惑うことが多々ある、か)
戦士「おやおや、もしかして勇者くんは感動してるんじゃないの?」
男「感動……ってこういうことなのか? ああ、でも、なんかそういうのなのかな、この感覚は」
戦士「まあ、これからもよろしく頼むよ」
男「戦士……おう! こっちこそ、これからもよろしく頼む、みんな!」
魔法使い「……よろしく」
僧侶「うん、これからもこのパーティでがんばっていこう」
三日後
男(そういえば、この三日間で結局あの子に会うことはなかったな。
情報屋だから、あそこまで国の事情や秘密に詳しかったのか……)
男「色々と気になるんだけどな、あの子の言っていたこと」
男(……目が疲れてるみたいだな。なんだか眠りも浅いし、こういうのは感情が昂ぶってたりするからなのかな)
僧侶『勇者、入っていいか?』
男「おう、入っていいよ」
僧侶「おはよう」
男「うん、おはよう」
僧侶「明かりがついてたから来たんだが、ずいぶんと早くから起きてるんだな」
男「んー、まあな。でも、僧侶はもっと早くから起きてたんだろ?」
僧侶「私の場合は、その分だけ先に寝ているからな。それにこの早起きは習慣だからな。
お前の場合、あまり眠れてないんじゃないか? 昨日も夜、遅かったらしいし早く起きてただろ?」
男「なんでか知らないけど、寝てもすぐ目が覚めちゃうんだよな。まあ、でも寝てはいるし大丈夫だよ」
僧侶「私が選んだ本、読んでたのか?」
男「うん。本、これを読むと色々とわかるんだな」
僧侶「まあ、そういうものだからな。本というものは」
僧侶(ちがう、勇者にとってはそんな私たちにとって当たり前のことさえも、当たり前じゃなくなるのか)
男「記憶としてはわかってるし覚えてるのにな。
不思議だな、こうやって体験することで、ようやく記憶に自信……っていうか、まあそんな感じのものを感じられる」
僧侶「そうか。だけど少し、今詰めて読みすぎな気がしないでもないけどな」
男「そうかな?」
僧侶「時間があったら剣技についての鍛錬をするか、読書をするか、それしかしてなくないか?」
男「たしかにな。なんか焦ってんのかな?」
僧侶「焦ってる?」
男「自分でもわからないんだ。ただ、オレは誰よりもなにも知らない。だからさ、がんばろうかなと思ってさ」
僧侶「……そうか」
男「昨日も夜に、魔法使いから魔力の効率のいい使い方を聞いてたんだ。あいつの話を聞いて、自分の知識のなさに驚いたよ」
僧侶「魔法使いは魔力や魔物に関して、並の人間より精通しているからな」
男「うん。知識は実践経験と同じぐらい大切なんだって思ったんだ」
僧侶「だから、今も本を読んでたのか?」
男「んーまあ、それもあるのかもな」
僧侶「せっかくだ。先に朝ごはんを食べてしまおう」
男「……先に食べちゃうのか?」
僧侶「お腹すいてるだろ? それに読書や運動、とにかくなにかをするならその前に栄養をとっておくべきだ」
男「まあ、それもそうか」
僧侶「今日は私の新作料理を食べてもらいたい」
男「へー、それは楽しみだな。いったいどんな料理なんだ?」
僧侶「名前はまだ決めていない。よかったら食べたあとにでも決めてくれ」
僧侶「で、どうだった?」
男「……正直に言っていいんだよな? 朝ごはんはおいしいよ」
僧侶「朝ごはん自体はたいしたものではないし、ここの遣いの者に教えてもらったものだ」
男「そういえば、遣いの人に朝ごはんだけは、わざわざ自分で作るように言ったんだよな」
僧侶「ああ。私の教会は人数が少ないからな。ほとんど毎日、食事は私が作ってる。こっちに来てもその習慣ぐらいは続けておきたかったんだ」
男「どうして?」
僧侶「そうやって継続的になんでもやっていないと、意思の弱い私は料理をすることをやめてしまうかもしれないからだ」
男「そんなことないと思うけどな。むしろ、なんかすげー頑固って感じがするのに」
僧侶「たぶん、お前が見ている私と、私が知っている私はちがうんだ。
私は一番、私を信用していない。自分のことは自分が一番よくわかっている」
男「…………自分のことは自分が一番よくわかっている、か」
男「ん? どういうことだ?」
僧侶「なんでもだ」
男(……もしかして、オレに気をつかって冗談でも言ったのか?)
僧侶「話が脱線したな。新作料理の評価を私は聞きたいんだ」
男「えーっと、正直に言うぞ?」
僧侶「構わない。むしろ、こういうことは正直に言ってくれないと困る」
男「……すごく、まずい」
僧侶「……まあ、 そうだろうな」
男「え?」
僧侶「だが、そちらの人参料理はそこそこうまいと思うんだが、どうだった?」
男「ああ、これはなかなか食べやすいし、おいしかったと思う」
僧侶「前々から色々と試行錯誤していた料理なんだ。酢に塩や砂糖、そして細かく刻んだ人参を二日ほど漬けたものなんだ。
ただそれだけだと、どうにも物足りなくてな。色々と考えた末に、にんにくを摩り下ろして一緒に漬けておいたんだが。
これがなかなかによくてな。ぼやけてた味がパンチがきくようになった」
男(なんか料理のことを話してる僧侶は、すごい生き生きしてるように見えるな。これで、料理をしなくなるなんてことがあるのか?)
男「へー、よくわかんないけどこれはなかなかおいしかったよ。ただ……」
僧侶「こっちか?」
男「うん。なんだったんだ、このなんかよくわからない、煮込み料理は? なんか妙に赤いんだけど」
僧侶「赤いのはトマトだ。トマトは加熱した方が栄養価が上がるからな」
男「じゃあ、この謎の肉塊は?」
僧侶「いや、それは私にもわからない。遣いからもらったんだ。栄養価が高いらしい」
男「……なんか他にも色々と入ってるけど、この料理を僧侶は味見したのか?」
僧侶「当たり前だろう。料理をして味見をしない人間などいない。
仮にいるとするなら、そいつは間違いなく料理が下手だろうな」
男「……じゃあ、これがおいしいわけがないってことぐらい、わかるよな?」
僧侶「もちろん。だから、私はおいしいかは聞かなかっただろう。私が聞きたいのは食べられるかどうかだからな」
男「食べれると言えば食べれる。でも、食べないですむなら、食べたくない。そんな味だ」
僧侶「やっぱりそうなのか」
男「なんでこんなまずいものを食わせたんだ?」
男「そうなのか?」
僧侶「そもそもこの料理は、うまいものを作ろうと思って作ったわけじゃないからな。
栄養がきちんと摂取できる料理、それが今回のテーマだ」
男「まあ、理由はわかったけど、もう少し味はなんとかならなかったのか?」
僧侶「……数年前に世界各地を歴訪してきた元軍人の方が教会を訪れたことがあった」
男「なんの話だ?」
僧侶「まあ聞いてくれ。そのとき、その人と話したんだが、野戦食の話になってな。彼らにとって、食糧というのはなかなか重要な課題らしい。
大量かつ保存もきき、衛生面の安全も確保する野戦食というのは、なかなかできないらしい。なにより、味は最悪そのものだそうだ」
男「うん……」
僧侶「その人から聞いた野戦食で、もっともまずい代わりに一番栄養価の高いというもの……それを参考にしたのがこの料理だ」
男「なるほど、まずいわけだ」
僧侶「その人が言ってたんだ、野戦食はまずいが栄養はそこそことれる。むしろ、まずいほど栄養が確保できる、と。
その彼の話を聞いてから、私の料理の持論は『栄養価が高い料理はまずい』になった」
男「なんか暴論なような気がするぞ」
僧侶「暴論と言えば暴論だが、言った人が言った人なだけに、含蓄のある言葉になんじゃないか。
その話を聞いてから、私も日持ちする料理を考えるようになった。特に野菜の類なんかだな」
男「酢に漬けたりしておくと、長持ちするのか?」
僧侶「ああ。だいぶちがうな。塩揉みとかでもいいんだが」
男「なるほどな。まあでも、そうだな……」
僧侶「なんだ?」
男「オレも料理を覚えようかなってちょっと思ったんだ。いつも僧侶に作ってもらってばかりだし」
僧侶「それは私が進んでやってることだからだ。気にしなくていい」
男「まあ、そうなんだけどさ。いずれは魔界を出るだろ?」
僧侶「そうだな」
男「そうしたら、ご飯のことで僧侶に頼ることはできない。自分で作らなきゃいけないだろ?
だから、自分でも作れるようになるべきかな、ってさ」
僧侶「……」
男「それにこの三日間は、メシも腹六分目までって戦士に言われてるから、この任務が終わったら、たらふくご飯くいたいしな」
僧侶「ささやかだけど、いい目標だな」
男「今までご飯作ってくれたお礼に、僧侶には真っ先にオレの作ったのをご馳走するぜ」
僧侶「ふっ……楽しみにしてるよ」
男「なんで今ちょっとだけ笑ったんだよ?」
僧侶「べつに、気にするな。楽しみがひとつ増えた、それだけのことだから」
僧侶(そうだ、私たちは帰るんだ。任務を終えたら自分たちの国へ。そして……)
男(さて、ご飯も食べ終わったし、とりあえず、まだ寝てるだろう魔法使いを起こしに行くかな)
男「魔法使いの部屋はどこだっけ? 本当にここの屋敷広いよなあ。迷いそうになるな……ん?」
男(なんだ、この感覚……)
魔法使い「私なら、ここ」
男「のわあっ!?」
魔法使い「相変わらず大きいリアクション」
男「そ、そりゃあリアクションも大きくなるだろ!? どうやって背後から突然現れた!?」
魔法使い「……まだ秘密」
男「ん、ていうか起きてたんだな」
魔法使い「さっき目が覚めたところ。とりあえず部屋まで、来て」
男「……なんでだよ?」
魔法使い「寝巻き、だから」
…………………………………………………
男(起きてすぐに、部屋を抜けたのか……いや、なんらかの魔法を使ったのか、よくわからないけど。
起きてから着替えもせずに、オレを驚かせに来たせいで、着替えてなかったらしい)
魔法使い「お待たせ」
男「えっと、入っていいのか?」
魔法使い「……うん」
男「おジャマします……カーテン、開けないのか?」
魔法使い「……開ける」
男(なんかいつにも増して、しゃべり方がゆったりしてるな。寝起きだからか……テーブルに空き瓶があるけど、これって酒だよな)
男「昨日、酒飲んでたのか?」
魔法使い「飲んでた」
魔法使い「飲酒は彼から禁止はされていない。自分が飲める量はきちんと把握している。アルコール分解の魔法もあるから、問題ない」
男「……そうか。それで、なんでわざわざ部屋まで連れてきたんだ?」
魔法使い「言いたいことがあった」
男「言いたいこと?」
魔法使い「……うまく言葉にできない」
男「は?」
魔法使い「……このことについては、また、今度。それよりこれを……」
男「これって魔具だっけ? 魔力が込められてるっていう道具で、たしか、ケンタウロスと戦ったときにも使ったよな?」
魔法使い「そう。これはあのとき使ったものとは、べつ。使い方は、あとで三人にも教える」
男「ありがと、助かる」
男「……ん」
魔法使い「……」
男「あー、そういえばさ、魔法使いは酒を飲むのが好きなんだよな?」
魔法使い「そう、だけど」
男「どんなときに酒を飲みたくなるんだ? 前から少し気になってたんだ」
魔法使い「……飲みたい、と思ったとき」
男「いや、その飲みたいって思うきっかけをオレは知りたいんだよ」
魔法使い「……いやなことがあったとき、基本的には」
男「そういえば、酒は気分を高揚させてくれるんだってな。飲んだけど、オレにはよくわかんなかった」
魔法使い「他にも、ある。人と本音で話したいときとか……」
男「魔法使いの場合は、お酒飲むと別人みたいになるもんな」
魔法使い「……自分でも、変っていうのは、わかってる」
男「……そうだな、きっと変なんだよな」
魔法使い「……」
男「……あ、ごめん」
魔法使い「……事実だから、いい」
男「戦士に言われたけど、もっとオレはクールになったほうがいいらしいな。なんか、女にはその方がいいとか」
魔法使い「……意味、わかってる?」
男「……たぶん。一応、わかってるつもり」
魔法使い「彼の言ってることは、間違ってない。でも、今は必要のないこと」
男「そうなのか? てっきり、魔法使いとか僧侶とかも女だから、パーティについての話なのかなと思ったんだけどな」
魔法使い「……」
男「あれ? もしかして今、笑ったか?」
魔法使い「……気のせい」
男「……ホントにか?」
魔法使い「……ん」
魔法使い「……お酒の話」
男「え?」
魔法使い「……なんでお酒を飲むのか、って話」
男「おう」
魔法使い「みんなで酒を飲むのは、楽しい」
男「そういえば、まだ全員では酒を飲みに行ったことはないんだよな」
魔法使い「……だから、すべてのことが終わったら……」
男「そうだな」
魔法使い「飲みに行きましょう」
…………………………………………………………
男(さて、と。まだ戦士には会ってないな。戦士のヤツ、まだ寝てんのか?
昨日も帰ってくるの遅かったみたいだしな……って、テラスにいた)
男「……なにやってんだろ、戦士のやつ」
男(紙になんか色々と書いてるみたいだな。なんか、あーでもないこーでもないと、唸ってるようにも見えるな。
……あ、紙をぐちゃぐちゃにしちゃった。ちょっと覗いてみるか)
戦士「……ふーむ、なんだか台詞回しがおかしい気がするなあ。うーん……」
男「……」
男(なんか殴り書きしてるけど、なんだこれ……)
戦士「……勇者くん。盗み見とはずいぶんとお行儀が悪いんじゃない?」
男「気づいていたのか……べつに盗み見するつもりはあったけど……なにやってるんだ?」
戦士「息抜きに今度の脚本を書いてるのさ」
男「脚本? 脚本って劇の物語のシナリオとかのことだよな?」
戦士「ボクの父が買い取った小さな劇場があるんだけど、そこで月一で演劇を披露して、今はそこの劇場はボクのものになっている」
男「お前が演技したりするのか?」
戦士「ボクは監督兼脚本家だよ。仕事の合間をぬって、趣味でやってるんだ。なかなか面白いんだ」
男「よくわかんないけど、とにかくなんか劇のシナリオを書いてたってことなんだよな?」
戦士「報告書を書くのに疲れたからね。使われてる兵器や、人材、その人材の育成やらまあとにかく色々レポートがあってね」
男「すっかり忘れかけてたけど、本当はこの国の技術がどんなもんか見極めるのが、目的だったんだよな」
戦士「より正確に言えば、契約を結んで魔界の技術者たちをうちの国で雇うのが、密使であるボクらの本来与えられた任務だった」
男「そうなんだよな。色々とありすぎて本来の目的を忘れてたな」
戦士「さすがだね、勇者くん」
戦士(勇者くん以外のメンバーにはなにかしらの報告書を書く義務が与えらているんだけど、それを言う必要はないか)
戦士「まあ、以前の君主は酷くてね、お雇い外国人を連れてくるだけ連れてきて、技術を自国の技術者たちに習得させようとはしなかった。
そのせいで、お雇い外国人や他国の雇用者が離反したときには痛い目を見ることになった。
さすがに陛下は、そんな二の舞を演じたりすることはないだろうけど」
男「…………なるほど」
戦士(勇者くんはここのところ、人が話しているときに、その言葉を吟味するかのように考え込むことが増えたな……。
知識のなさを少しでも考えて補おうとしてる、そういうことなのかな)
男「ところで、いったいどんな話を書いてるんだ?」
戦士「残念ながらこれはオフレコなのさ。まだ世に出ていない、ボクの作品だからね」
男(気になると言えば気になるけど、まあいっか)
戦士「そういえば勇者くん、キミには趣味とかはないのかい?」
男「趣味か? うーん、特にはないと思うな」
戦士「だったらなにか見つけたらどうだい? 趣味とかやりたいことがないって、なかなか悲しいことだと思うよ。
ボクにとって、人生の価値っていうのは限られた時間の中でどれだけ好きなことを見つけ、それをやれるかってことだと思ってる」
男「……やりたいことを見つける」
戦士「ボクの場合はやりたいことが多すぎて、時間が足りないぐらいなんだけどね」
男「多趣味ってやつか。なんとなくだけど羨ましいな」
戦士「もっとも趣味だからって、なんでもやっていいってわけでもないしね。特にいわゆる芸術なんて種類のものはそうだ。
父にも言われたんだ、演劇などがいったいなんの役に立つのかってね」
男「はあ……」
戦士「もちろん、理屈を詰めて反論することはできたよ。
演劇における演技が実は非常に実用性があり、かつ、様々なことに活かせるということについて、語ろうと思えばいくらでも語れたさ」
戦士「まあ、とは言っても結局は趣味の話で、究極的には自分のやりたいことをやりたいようにしているだけだからね。
好きという理由に理屈をつけて、うだうだ語るのもアホらしいと思って結局やめたのだけどね」
男「……なんの話をしてるんだ?」
戦士「ああ……ごめんよ勇者くん。ついついこの手の話には熱くなってしまうんだ、悪い癖だ」
男「なんか意外だな」
戦士「なにがだい?」
男「だって、お前はこの前もオレに向かって男はクールであるべきとか言ってたじゃん。
だから、そういうふうなことを言い出すとは思わなかったんだよ」
戦士「おやおや。ボクとしたことが……そうだね、いささか熱くなってしまったね。
でもさあ、勇者くん。たしかにボクはそんなことは言ったけど常にクールなんてヤツはたいていつまらない人間だよ」
男「そうなのか?」
戦士「普段はクールに、けれども好きなことには熱く。これこそがボクのモットーなのさ」
男「なるほどなあ」
戦士「どうせ、人生の中で好きなことができる時間なんて、やりたくないことをやる時間より遥かに短いんだからさ。
だったら、好きなことや、やりたいと思うことはできるときにやるべきだ」
男「オレにもやりたいこと、見つかるのかな」
戦士「さあね、やりたいことや好きなことなんて、人それぞれだ。漠然と人生を終わらせてしまう人だっているだろうね」
男「……なんか、それは悲しいな」
戦士「ボクもそう思うよ。で、キミもそう思うなら探しなよ」
男「なにを探すんだよ?」
戦士「決まってるだろ? やりたいことだよ」
男「やりたいこと、か。なんなんだろうな、いったい。ていうか、そもそもオレがオレ自身のことをわかってないのにそんな、やりたいことだなんて……」
戦士「関係ないでしょ、それは」
男「関係ないのか? オレはまず自分のことを知って、それから……」
戦士「そんな悠長なことを言っていると、あっという間に人生が終わるよ。
いいじゃん、べつに。キミがどんなヤツだろうと、好きなことを見つけるのには関係ないだろ?」
男「なんかてきとうに言ってないか?」
戦士「そんなことはないよ。まあ、そういう風に聞こえるかもしれないけどさ。
好きなこともやりたいことも見つけられない、もしくはあってもなにもできないまま、死んでいった人をボクは色々と見てきた。
ボクなんかがどう言おうが、最終的に決めるのは勇者くんだ。」
男「……そうだな」
戦士「いいじゃん。色んなことをどんどんやっていけば。そうすればそのうち、色々と見えてくるよ。きっと」
男「……そうだな。さっさと任務終わらせて、趣味を探す旅にでも出ようかな」
戦士「自分探しの旅に似てるね。まあ、とにかくまずは目の前の課題を潰さないとね」
男「おう」
……………………………………………………
二日後
戦士「さて、とりあえず最終調整としてはこんなものかな」
男「……っいてて、容赦無くやってくれたな、戦士」
戦士「悪いね。油断すると負けてしまうということが判明したからね。
手合わせとは言え、ボクを一度は屈服させたキミ相手に手加減や油断なんてとんでもないと思って本気でやらせてもらった次第だよ」
男「へっ、まあそういうことなら、気分は悪くないかな」
僧侶「まったく、これから敵陣に乗り込むというのに、ずいぶんと余裕だな、二人とも。
手合わせでケガでもしたらどうするつもりなんだ?」
魔法使い「彼女の言う通り」
戦士「そうだね。今後は気をつけるよ」
僧侶「戦士、魔法使い。二人はこれから……」
戦士「そう、当初の打ち合わせ通り、ボクたちは公爵閣下の屋敷を訪問しに行くよ。勇者くん、わかってるだろうけど、常に気を張って待っててよ。
あと、エルフさんにも……ってまあ、そっちの準備は大丈夫か」
男「きっちりオレと僧侶は待機してるし、あっちも準備はすでにできてるみたいだ」
戦士「じゃあ、行ってくるよ」
男「ああ、頼んだ」
…………………………………………………………
ハルピュイア「毎度、ご足労を煩わせて申し訳ないな」
戦士「こちらこそご多忙にも関わりませず、こうして謁見を賜る機会をいただけたこと、感謝いたします」
魔法使い「……」
ハルピュイア「どうした? えらくカタイな。もう少しラクにしてくれたほうが私としては話しやすいのだが」
戦士「そうですか? それではお言葉に甘えてもう少しらくーに話させてもらいますよ」
ハルピュイア「構わん。しかし、急遽私のもとを訪ねてきたがいったい全体なんの用だ?」
戦士「こうしてわざわざ閣下のもとを訪ねてきたのにはわけがありまして。
実は気になることがありましてね、それについて聞きたくて……」
ハルピュイア「回りくどいな。さっさと話せ。私も暇ではない」
戦士「すみませんね、回りくどい性分なもんで。公爵閣下、我々とあなたは本来であればもっと早く邂逅をすませているはずでした」
ハルピュイア「そうだな。だが、結果としてこちらの魔方陣の不備によって、そなたらは当初の予定地点とはまったく違うポイントに着くことになってしまった」
戦士「勘違いしないでくださいね、べつにそのことを今さら詰ろうなどという気は、毛頭ないですよ。
しかし、本来なら我々は閣下を介して魔王……国王との謁見を実現するはずでした」
ハルピュイア「だから、言っておるだろうが。こちらの不備によってそれは叶わなかったと」
戦士「さらに、魔界での滞在期間中は、我々は閣下の屋敷でお世話になるって聞いてたんですけどね。
エルフ殿、つまら伯爵閣下のもとでお世話になることになりました」
ハルピュイア「そなたらも知っておるだろう、国王陛下が不在であることは。それゆえ、私がそなたらの面倒を見る余裕がなかったのだ」
戦士「なるほど、わかりました。しかし、本当にそうなんですかね?」
ハルピュイア「……なにが言いたい?」
戦士「実は空いてる時間を利用して、閣下について調べているうちに、さらにあることが判明しました。
例の牢獄にある研究機関、あれの最高責任者が閣下であるということがわかったんですよ」
戦士「さて、ここでボクらの最初の魔界にたどり着いた状況を振り返ってみ ましょうか。
街から離れた港、そしてゴブリンとオークに囲まれた状態」
ハルピュイア「その話も聞いた。だが、それがいったい私とどう関係があるというのだ?」
戦士「そろそろダラダラ語るのもめんどくさくなってきましたね。
あとは謎を解く要素だけを並べてみましょう、そうすれば自ずと答えが顔を出すはずです」
ハルピュイア「……」
戦士「到着地点を変えられた魔方陣。
そして、到着と同時に現れた魔物たち。
あの日、ボクらが魔方陣を使うことを知っていた人物は誰か……おやおや、これはいったいどういうことなんでしょうか?」
ハルピュイア「言いたいことはそれだけか?」
戦士「まだあるんですよ。魔界常備軍03小隊隊長のリザードマン。
彼の殺害の容疑がかかっている、ボクらと同じようにこの魔界へ来た例の赤いローブの一味。
その連中とボクらは何度か交戦をしているんですが、魔物を引き連れていた」
ハルピュイア「……」
戦士「しかし、いったいそれはどこから連れて来たんでしょうか? ケンタウロスや、ましてケルベロスなんて大型の魔物を引き連れていたら、間違いなく目立つでしょう?
自国から魔方陣を使って連れてこようにも、魔方陣は魔法使いが破壊してしまっている」
魔法使い「……」
戦士「そうなると、魔物を連れてくる方法はただ一つ。こちら側で調達する、それしかない。
しかし、ゴブリンやオークも含めて、あれほど戦闘に特化した魔物だけをいったいどうやって調達するか」
ハルピュイア「ふっ、つくづく回りくどいな」
戦士「魔物の研究機関の最高責任者である閣下なら、簡単にヤツらに横流しできますよね?
あの魔物たちをヤツらによこし、勅使であるボクらを殺す……そうすることでいったいどうなるか。
なにが目的なのかはだいたい検討はつきます。わざわざ比較的平和主義である、現魔王の不在を狙ってこんなことをするあたりからもね」
ハルピュイア「で、わざわざ私の屋敷にまで出向いて、どうするつもりだ? 殺されにでも来たのか?」
戦士「答える義理はないね。
魔法使い、準備はオーケーかな?」
魔法使い「……時間稼ぎ、ありがと」
ハルピュイア「……ふっ、なにをコソコソと話しているのかは知らんが、そなたらを帰すことはできなくなった」
戦士「……なるほど、これはこれは。なかなかヤバそうな魔物だね」
魔法使い「……この、魔物はいったい……?」
ハルピュイア「泥や土といった無機物から生み出した巨人型の魔物、ゴーレムだ!」
魔法使い「ゴーレム……」
戦士「まったく、本当に魔界っていうのは恐ろしいところだね。こんな化物を産み落とすなんてさ」
ハルピュイア「愚かだな。あんな風に長広舌をふるっている暇があるなら、さっさと私を殺しにかかるべきだったな」
戦士「たしかに、と言いたいところだけどおそらく、そうしていても、ボクにとって都合の良い展開へと運ぶことはできなかっただろうね」
ハルピュイア「なら、なおさら愚かだな。他にもやりようはあったはずなのにな」
戦士「はあ……ボクはこれでも脚本家なんだよ? 物語の展開をいかに運ぶかを考えるかが、ボクの仕事だ」
ハルピュイア「まだ、減らず口を叩くか。ならば……」
戦士「個人的にはもう少し引っ張りたかったんだけど、まあいいか。魔法使い――頼んだよ!」
魔法使い「りょうかい」
ハルピュイア「なっ……これは、魔方陣!? いつの間にこんなものを仕込んでいたんだ!?」
いつの間にか床に仕込まれた魔方陣が光り輝く。
真っ白な光。空間を包む輝きが終わるとともに、二つの人影が浮かび上がってくる。
勇者と僧侶が、魔方陣の中心に背中合わせで現れた。
僧侶「ようやく私たちの出番……か」
戦士「いやあ、遅くなって申し訳ないね。予想外に時間を喰ってしまったよ」
男「まあ、なにはともあれ、さっさと終わらせるぞ」
魔法使い「……かまえて」
ハルピュイア「なるほど。長ったらしい語りは無駄ではなかった、ということか」
戦士「さて、ボクたち勇者パーティの実力、ここで披露させてもらおうか」
男「これがハルピュイア、まるで鳥人間だな」
ハルピュイア「ふっ……おぬしが例の勇者か」
魔法使い(限りなく人間に近い容姿をした魔物……魔界に来るまでは、私も見たことはなかった。
ハルピュイアの亜種である、ハーピーなら確認されるようになったけど、それすらも数は多くない)
戦士「勇者くん、公爵のことは意識をしつつも、今は目の前のゴーレムだよ」
僧侶「私と勇者で前衛をやる……いくぞっ!」
男「後方支援は頼んだぞ!」
勇者は軽く息を吸った。外気を吸うと同時に自身の魔力を高めていく。剣の刀身へと魔力を滾らせる。
ゴーレムが低い唸り声をあげる。土と泥で構成される巨体は軽く見積もっても、勇者二人分の高さがある。
この広い空間でさえも、三体のゴーレムのせいで狭く思えた。
ゴーレムの一体が勇者へと振り上げた拳を振り落とす。なんとか避ける。泥の拳が地面へと叩きつけられる。
それだけで、立っていられないほどの衝撃が起きた。なんとか体勢を整え、その拳目がけて剣を振り下ろす。甲高い音。
男「……っ! カタイっ!」
刃が文字通り、歯が立たなかった。魔力を込めたにも関わらず、剣はあっさりと弾き返された。
僧侶「させるかっ!」
僧侶がゴーレムの拳をかわし、高く跳ぶ。魔力を増幅させやすい素材でできたブーツ。
それに魔力が行き渡ったのが、勇者にも確認できた。だが、その跳躍をもってしても高さが足りない。
男「僧侶……っ!」
勇者の心配は杞憂に終わった。僧侶は起用にゴーレムの顔を蹴り、背後へと回る。
華麗に地面に着地。拳を容赦なく叩き込む。あのゴーレムの巨体が背後からの衝撃でたたらを踏んだ。
だが、致命傷には程遠い。
僧侶「拳では致命傷にならないか」
男「こいつらめちゃくちゃカタいぞ……」
拳や剣では到底ダメージを与えられない。自分たちの役割がだいたい見えてきた、と思ったときだった。
戦士「じゃあ、試しにボクがやってみようかな」
青い巨大な火の塊が、宙空に現れる。魔力の塊はそのままどんどん膨張し、四散した。三体のゴーレムへと直撃する。
ゴーレムの低い唸り声が、鼓膜を震わせる。だが、ダメージを食らっているようにはとうてい見えない。
僧侶「いや、これは……!」
僧侶の拳が真っ赤に燃え盛る。ゴーレムの拳をかいくぐる。再び跳躍。炎の拳を胴体に直撃させる。
素早く飛び退き、僧侶は距離をとる。
僧侶「やはり、か」
戦士「……なるほど、そういうことか」
男「なにが、やっぱりなんだ?」
僧侶「私の『ほのおのパンチ』が直撃したところを見てみろ」
男「あっ……」
勇者もそこでようやく気づいた。ゴーレムを見れば、すぐわかることだった。
二人の火に当たった部分は見事にただれたかのように、どす黒い泥が剥がれて、赤黒い肌のようなものを窺わせた。
男「こいつら、火に弱い!」
戦士「そのとおり!」
魔法使い「例のものをつかって」
男「言われなくても!」
魔法使いが次々と水弾を生成して、ゴーレムを牽制していく。地面が水で満たされてなお、攻撃を続ける。
僧侶が地面へと拳を打ち込む。衝撃波とともに地面から突起が生え、足もとからゴーレムを攻撃する。
なまじ上背がありすぎる分、足もとの攻撃はそこそこに効果があるようだった。
徐々にゴーレムたちを一角に追い詰めて行く。ふと、勇者は屋敷の主に視線を移した。
ハルピュイア「……」
魔物……否、本人たちは魔族と言っていたか……はひたすらこの戦いを観戦しているだけだった。
だが、ハルピュイアからは確かな魔力を感じた。だが、いったいなにに使っているというのか?
戦士「勇者くん! とりあえず今はゴーレムに集中だっ!」
戦士も気にはしていたらしい。が、彼がそう言うなら、そうするべきだろう。
魔法使い「いま……」
不意に空間の温度が急激に下がる。足もとの水がパリパリと音を立てて、凍りついていく。
戦士「僧侶ちゃん、頼んだよ!」
僧侶「任せてくれ!」
僧侶の拳から炎があがる。超高温の熱を放つ。放たれた炎はうねりのように広がりゴーレムを襲う。
戦士「勇者くん! 例のヤツおねがい!」
男「おうっ!」
戦士も魔法による炎を起こす。場所は、ゴーレム三体の中心。青い炎が渦のように湧き上がった。
急激に空間の温度が上昇。
そして、勇者は取り出した球体へと魔力を込める。すでに何度かお試しで何度か使ったことがあった。
練習時と同じように魔力を込め、全身全霊で投げる。
僧侶と戦士に続き、勇者も全速力で距離をとった。
魔法使い「――発動」
足もとの氷が勢いよくせり上がる。分厚い氷の壁だ。しかも、一つじゃない。
次々と氷の壁が作られていく。作りすぎなのでは……と、思ったが魔法使いの行動が正解だと、勇者が知ったのはその直後だった。
強烈な爆発が起きた。予想していたよりも遥かに強い衝撃が建物を揺らした。空間そのものが軋むかのようだった。
魔法使いが片っ端から氷壁作るが紙細工でも破るように瓦解して行く。
鼓膜を貫かれるのでは、と思えるほどの轟音に焦ったが、それは自分だけではなかった。戦士も僧侶もさすがに驚いたらしい。
僧侶「……なるほど。魔法使いが氷を作ったのはこのためか」
戦士「……そういうことか。急激な温度変化を利用したわけね」
魔法使い「そう」
男「えーと、どういうことだよ?」
戦士「まあ、それはまた暇なときに教えてあげるよ。
それよりは今は、目の前の敵がどうなったかでしょ?」
魔法使いが作った氷は、爆発の衝撃で跡形もなく消え失せている。
煙が立ち込めているせいで、なにが起きているかわからなかった。
魔力の流れを感じて、勇者が目を細める。魔力の正体は風だった。煙を振り払うように現れた風の拳。
直感で勇者はその風が、ハルピュイアのものであると確信した。
視界を遮っていた煙から見えたのは、粉々に砕け散ったゴーレムだった。
戦士「……さすがにあの爆発で死なないわけはない、か」
ハルピュイア「ふっ……見事だな、人間」
ハルピュイアは片翼こそ、もがれていたがそれ以外はところどころ煤を浴びて黒ずんでいるだけで無事だった。
男「よくあの爆発で無事だったな……」
ハルピュイア「無事……? 無事なものか。魔術で無理やり治癒して、ようやくここまでだ」
戦士「あのさ、ボクらも鬼じゃないからさ。ここらで投降してくんないかな?」
ハルピュイア「人間相手に降伏か……私がこんなとこで終わるのか?
国王がいない今こそ、私は死ぬわけにはいかないのに……本懐を遂げずして終われ、だと?」
男「アンタのしもべはやられた、残るのはアンタだけだ」
戦士「ついでに忠告すると、あなたの部下の大半はあなたを守りにはこないだろうね」
ハルピュイア「伯爵か……そなたらのことは監視はしていたが、しかしきっちり手回ししてくるとはな……」
戦士(伯爵がどのようにして部下を懐柔したかは、正確には知らないけど。まあ予想はつく)
男「そう。あのエルフさんの協力によってアンタの逃げ道はもうない」
僧侶「潔く諦めるんだな」
ハルピュイア「笑止。我らより遥かに生物として劣る人間に降伏? それなら最後まで見苦しく足掻く方が、数段マシというもの……」
戦士「魔族としての矜恃ってやつかい? まったく、命を捨ててまで守るものなのかなあ、そういうのって」
ハルピュイア「どうだかな。だが、私はまだ死なない。そしてこいつもまだ死んでいない」
魔法使い「……まずい」
最初に異常に気づいたのは魔法使いだった。
魔法陣に仕込んでいた転移用の術式とはべつの、もう一つの魔法陣の能力を発動させる。
魔法使い「雷を……」
言われてようやく僧侶も、原型をまるで成していないゴーレムだった土塊たちに、魔力が集まっていくのに気づく。
魔力を操っているのは無論、あの魔物だ。
僧侶は一瞬で魔力を電撃へと変換し、グローブを介して増幅させた。
魔法使いは魔法陣を展開する一方で、魔法による水弾を繰り出す。普通の魔法使いにはできない芸当だった。
狙いは術者であろうハルピュイア。
ハルピュイアは片翼をはためかせ、水を弾き返す。
パーティ全員で魔法陣へと飛び込む。地面を満たす水が集約する。一筋の川がハルピュイアに向かって伸びる。
それに向かって僧侶は雷の拳を放つ。魔法陣の光と雷の奔流が視界を空間を真っ白に染め上げた。
僧侶(術者本人を狙うなら、火よりも速い電撃。だが……)
手応えを感じなかった。光が淡いものになっていく。
男「つ、土の壁……?」
電流を魔法のように現れた、巨大な土の壁が遮断していた。
ただ、でかいだけではない。極端に分厚いのだ。だが、いったいどこからこんなものを出したというのか。
ハルピュイア「攻撃のバリエーションが意外と多くて焦ったよ。つくづく、こいつを開発しておいてよかった、そう思うよ」
言葉とは裏腹に口調にはまるで焦りなどなかった。
タクトでも降るかのように魔物は、手を掲げた。
土の塊が崩壊していく……ように見えたが、ちがった。土塊だったものはその姿を変えて、先ほどよりもさらに巨大なゴーレムへと変貌する。
戦士「……たくっ、これはまたずいぶんと大きくなったものだね」
すでに戦士は魔法で巨大な青火を出現させている。ゴーレムに炎が直撃。
ハルピュイア「ふっ……なかなか手が早いな。ただ、す同じことを繰り返すことほど愚かなことはない。
これは戦いに限った話ではないが……」
ゴーレムの腕に火炎球は直撃したものの、腕はあっという間に原型を取り戻している。
明らかに先ほどのゴーレム三体より強い。
男「だったらもう一度、さっきと同じように……」
ハルピュイア「やるというのか?」
僧侶「攻略の術をすでに知ってるからな」
ハルピュイア「……ならば、その攻略手段をさせる気すら起こさせないようにしてくれよう」
魔法使い(魔力が流れている……足もと……いや、天井……ちがう、これは……この空間のすべて…………)
魔力の激しい流れがどこから起きているのか、それを知った瞬間、魔法使いの無表情が凍りつく。
男「な、なんだこれは!?」
ゴーレムの足はいつの間にか、地面と一体化している。
まるで植物が根から栄養を吸収するかのように、足もとから魔力を吸い上げていく。
ゴーレムの巨体は馬鹿みたいに高い天井に、頭がつくほどまでに大きくなっていた。
魔法使い(あの爆発でもこの空間は、無事だった。それは、この空間一帯に、魔力が仕組まれていたから。
今の魔力の流れで魔法陣もかき消された……)
戦士が連続で炎を放つが、まるで効いていない。
戦士「でかくなっただけでなく、カタさも見事なものみたいだね」
男「反則だろ、こんなの……」
僧侶「ゴーレムを狙うな、勇者。こうなったらゴーレムを操っているハルピュイアをやるしかない」
男「ああ……」
そうは言ったものの、ハルピュイアに攻撃が通ることはなかった。
それどころかゴーレムに傷を負わせることすら、満足にできない。しかもゴーレムの動きは、その巨体からは想像もつかないほど速い。
逃げるので手一杯だった。魔法使いがなんとか転移の魔法陣を展開しようとするも、守るので手一杯でその隙すら与えられない。
ハルピュイア「いずれはそなたらを殺すつもりだった。が、こうも早くに始末することになるとはな。もう少しそなたらの国の情報が欲しかったが……」
淡々とした口調でハルピュイアはそう言った。このままでは、あと十分もしないうちに本当に始末されてしまう。
男「……戦士、これってけっこうヤバイんじゃないか?」
戦士「今さら気づいたのかい?」
男「さっきまで、こんな強いヤツ出せるなら最初から出せよ、とか思ってたけど出されなくてよかったな」
戦士「同感だよ。あんな巨大ゴーレムが最初から出てきたら、やる気出なくなっちゃって、即死していたかもしれないよ」
僧侶「なに馬鹿なこと言ってるんだ。どうにかしないと……」
男「一つ、オレに案がある。この前、魔法使いに教えてもらった魔力の使い方なんだけど」
戦士「残念ながら説明を悠長に聞いてる暇はないよ、勇者くん」
男「なら……っと!?」
僧侶「言ってるそばから攻撃がくるな……」
戦士「攻略手段があるなら、実行してくれよ! できるかぎり手伝うからっ!」
男「頼む……!」
男(おそらく、やれるのは一回限り……一撃に集中するっ……)
いや、戦士にしろ僧侶にしろ、魔法使いにしろ、彼らの闘志は消えていない。
男(こいつはデカい上に速い……けど、だんだん動きが目で追えるようになってきた)
横薙ぎの拳を、地面を滑るように避ける。間一髪、やはり余裕はない。
勇者と戦士、そして僧侶の三人がかりで土の魔物を攻撃する。魔法使いは魔法で後方支援。
勇者は攻撃をひたすらかわしつつ、ゴーレムの堂々たる巨躯を精一杯観察する。
だが、魔力だけでなく体力にも限界がある。さすがに動きすぎて、肺が酷使に悲鳴をあげそうになっていた。
時間がない。魔力も体力も尽きれば、なにもかもが終わる。
もはや決断するしかない……勇者は叫んだ。
男「三人とも! みぞおちだ! そこに攻撃……とおっ!?」
ゴーレムの拳が再び迫ってきて、勇者はなんとかこれをやり過ごす。
戦士「オーケー! みんないくよっ!」
三人の技が発動する。
ハルピュイアは小さく独りごちた。なぜ、わざわざ攻撃をする箇所を叫ぶ必要があったのか。
それではこちらに、そこを防御してくれと言っているようなものだ。もはやそこまで気が回らないのかもしれない。
ゴーレムのその巨体すべてに魔力を回すことは、いくら魔族と言えども不可能。
だからこそ、最初にこの状態のゴーレムを出そうとはしなかった。しかし、この弱点は技量で埋められないものではない。
どうするか。常にゴーレムの身体に流れる魔力を移動させればいい。
敵の攻撃が来るタイミングに合わせて、自分が魔力をコントロールし集中させたり、四散させたりする。
勇者一行は宣言通り、ゴーレムのみぞおちを集中して攻撃してきた。
ならばそこに魔力を移動させる。ただ、それだけで簡単に攻撃をやり過ごすことができた。
ハルピュイア(ふっ……この程度か。そろそろ終わらせるか)
だが、そこで気づく。まだ今の攻撃で肝心の勇者が攻撃をしていないことに。
男「やっぱりな……」
自分と勇者の距離はかなりあるはずなのに、なぜかそのつぶやきは聞こえた。唇のはしが、なにかを確信したのかつり上がっていた。
刺突の構えとともに地面を蹴り、勇者はゴーレムの股関節部分へと跳んでいた。
男「やっぱりな……」
ここ何日間かの訓練でわかったことが、勇者にはあった。
自分は魔力の流れに鋭敏である、ということだ。
そして、戦っている最中に気づいたことがある。魔力がゴーレムの体内で絶えず移動しているということだ。
ならば、魔力の流れが薄い場所を狙えば……勇者は駆ける、賭ける。
魔力を集中させる。体力も限界が近い。この一撃にすべてを込める。
魔力を剣に注ぐ。刀身、否、剣の先端。本当に剣のわずかな部分だけに自身のすべての魔力を注ぎ込む。
なぜか、ゴーレムの魔力の流れが勇者には手に取るようにわかった。
三人の攻撃によりゴーレムの中の魔力の大半が、みぞおちに集まっていた。
男「そこだあああああああああっ!」
地面を蹴る。股関節部分、そこに目がけて剣を突き立てる。
男「……っ!!」
今まで一度も刺さらなかった剣が、たしかにゴーレムの肉体に刺さっていた。
剣先にのみ収斂していた魔力。それを勇者は解き放つイメージをする。
ほんのわずかだけ逡巡したが、勇者は最初に決めていたイメージを脳裏に描く。
突き抜けるイメージ。魔力を一筋の流れに変えて、剣のように放つ。
一秒あるかないかの時間の中で、勇者はその脳内の映像を現実へと変える。
男「っおおおおおおおおおっ!!」
なにかが裂ける音が聞こえた、と思った。魔力は確かな質量をもって見えない剣となり、ゴーレムを突き抜けた。
ハルピュイア「なっ……馬鹿なっ!?」
ゴーレムの股関節部分を突き抜け、剣の先端から放出された魔力が、魔族の身体へと吸い込まれる。
超高速の刃は、ハルピュイアの大腿部を肉体を切り裂いていた。
ハルピュイア「ぐっ……!!」
ハルピュイアの顔が苦痛にゆがむ。ゴーレムの動きが止まった。
単純な傷だけでなく、これを負わせた魔力がハルピュイアの体内の魔力をかき乱していく。
ゴーレムの制御ができない。これだけの巨大な質量をもち、かつ特別な魔物は、魔力がなければ制御できない。
ゴーレムが膝からくずおれる。腕や手、胴体など次々と身体のパーツが崩れ落ちた。
ゴーレムのすべてのパーツが煙をあげ泥と土へと還っていく。
男「や、やった……のか?」
戦士「お見事。でもまだ、終わってはいないよ」
魔法使い「ハルピュイアは、生きてる」
ハルピュイア「お、おのれ……人間の分際で……」
ハルピュイアが地面に手をつく。この広間を構成する魔力を吸い上げているのだ。
僧侶「まだやる気か」
ハルピュイア「私の野望を成し遂げる。そのためには、ここでやられるわけにはいかんのだ!」
「ごめんなさい、ハルピュイア。貴方のすべてはここで終わりよ」
凛とした声だった。決して声量があるわけではなかった。
しかし、この広すぎる空間に、その声は透き通る鐘の音のように響いた。
最初に気づいたのは戦士だった。ハルピュイアの背後の壁が突如、壊れた。
けぶの中から巨大な手が現れた。皮膚が剥がれ落ちたかのような、真っ赤なグロテスクな巨大な手。
人間一人より遥かに大きなその手がハルピュイアを握ったのだ。
ハルピュイア「かっ……!?」
「私のいない間になにをしようとしたのかしら? いいえ、すでに伯爵によって調査は終わっている」
ハルピュイア「……ぐああぁっ……へ、へい、か……!?」
巨大な手が魔物を地面へと押しつける。断末魔の悲鳴。肉が潰れる悲鳴。
ハルピュイアという魔族は一瞬にして血と肉塊に成り果てた。
勇者パーティは突然起きたその現象に、ただ驚くことしかできなかった。
今しがたハルピュイアを圧砕した手は、勇者が瞬きをしたときには消えていた。
男「な、なんなんだ今のは……?」
エルフ「駆けつけるのが遅くなって申し訳ございません。少々他のゴーレムに手こずりましたわ」
突き破った壁から現れたのはエルフだった。
一瞬あの手がエルフのものだったのか、という考えがよぎった。
だが、勇者は本能的にその思考がちがうことに気づいていた。
僧侶「今のはいったいなんなんだ?」
「私の『手』だよ」
僧侶の声に答えたのは、もう一つの声だった。そして、その声は先ほどハルピュイアへ死の宣告をした声だった。
エルフの背後に小柄な影が一つあった。
少女「やあ、お兄さんとお姉さん。久しぶりだね、って言うほど久しぶりでもないかな。
いや、でもでも。元気そうでなによりだよ」
男「お前……」
情報屋の少女だった。だが、なぜ彼女がここに?
少女は無邪気に笑った。僧侶の顔が、なにかを思い出したように驚愕の表情を作る。
しかし、そのことについて聞こうとした勇者は、胸の内側でなにかが脈打つのを感じて口を閉じた。
この感覚は……この少女から感じる『なにか』にどこか、覚えがあった。
まるで鏡の中の自分に話しかけられたような、未知の感覚。
自分の中の一部か、あるいは全部が少女によって騒ついているようだった。
男(なんだ、この感覚は……いや、そうじゃない……)
男「お前は……何者なんだ……?」
無意識にそんな言葉が口をついた。少女は勇者へと向き直ると「私?」とにっこりと笑った。
少女は言った。
少女「私が魔王だよ」
全員の表情が驚愕に凍りつく。
戦士「いやいや、なにを言ってるんだ? キミが魔王だなんて……」
戦士の言葉はそこで途切れた。
少女「なにかな? 私が魔王であることが、そんなにおかしいかな?」
少女の小さな唇は、相変わらず笑みの形を保っていた。
あどけなささえ感じさせる表情から、彼女が魔王であると思う者などいるはずがなかった。
しかし戦士の口を塞いだのは、まぎれもない少女の全身から撒き散らされる魔力だった。
その小柄な身体から溢れる魔力は尋常ではなかった。近づいただけで、その魔力が毒のように身体を蝕んでいく。
なにより、一番恐ろしいのは。
男(これだけの魔力を、どこに隠していたんだ……)
自分たちは何度か、少女と会っている。会話さえしている。
だが、そのときの少女からは魔力の片鱗すら感じられなかった。
少女「こうして会うのは、初めてだね」
男「魔王……キミが魔王なのか?」
少女「そうだよ。キミたちの気持ちはわかるよ、そうだね。
いきなり魔王だ、なんて自己紹介されても困っちゃうよね?」
男「……」
少女が一歩一歩近づいてくる。足もとから未知の恐怖が這い上がってくる。指一本動かすことすらできない。瞬きすらも。
全身の毛穴が開いて、汗が滲み出る。鼓動が早くなっていく。
目の前の少女が、魔王であるというのは最早疑いようがないことだった。
少女「こんなに早く覚醒してくれるなんてね。『あなた』に、早く会いたかった」
絹織物を素材とした長衣に身を包んだ少女は、魔王に相応しい風格を漂わせている。
気づけば少女と勇者の距離は、ほとんどなくなっていた。自分の胸ほどしかない少女相手に、勇者は紛れもない恐怖を感じていた。
少女の白い繊手が、勇者の胸に置かれる。
勇者「……っ」
胸に触れた少女の手。わずかに浮いた青い血管がやけに目についた。
胸に手を置かれただけなのに、喉は締めつけられ、呼吸は浅くなっていく。
少女「色々と協力、ありがとう」
エルフ「陛下を弑逆奉ろうとした者は、あなた方のおかげで排除することができました、感謝します」
少女の背後で、エルフが頭を下げた。
言葉は、喉に張り付いていて何も出てこなかった。そんな勇者を少女は慈しむように見上げる。
赤みを帯びた黒い双眸が、勇者の顔を覗き込む。幼い闇を湛えた赤い瞳の向こうに映っているのは、自分であって、自分じゃない。
胸に置かれた手をゆっくりと滑らせ、勇者のおとがいへと持っていく。
少女「ねえ――私のものにならない?」
じだを打った声は、甘く呪うかのようだった。胸の鼓動が大きくなっていくのとは裏腹に、すべての音がぼんやりと曖昧に溶けていく。
身体の内側で得体の知れないなにかが、疼く。これは……。
少女「……なるほどね。私がこの状態だと勝手に覚醒してしまうんだね」
なにを言っているのか、まるで理解できない。
少女の手が離れる。自分の中のなにかの鼓動が止んだ。
時間にして数十秒のことでありながら、あまりにも長く感じられた。勇者は顎を伝う汗を拭った。
少女「キミたちには、色々と迷惑をかけたね。色々と話したいことは、あるけど状況が状況だ。
とりあえずは、いったんここは任せて。キミたちは……」
エルフ「私の屋敷で待機させますわ。よろしいかしら?」
戦士「……現時点では、全然状況もつかめないしね。それでいいんじゃない?」
誰もなにも言わなかった。発言した戦士の唇も血の気が失せ、頬は青ざめていた。
エルフ「誰か。この者たちを屋敷へ」
少女「またあとでね」
男「……」
勇者たちはエルフに軽く会釈をして兵士についていく。
少女たちに背を向け、勇者たちは歩き出す。背後に『魔王』の気配を感じながら。
戦士「はあ……とりあえず無事に屋敷に戻ってこれてよかったね。
しかし、予想していた形とは、まったくちがう結果になったね……」
男「……」
僧侶「……いったいなにがどうなってるんだ……そもそも、魔王は失踪していたんじゃないのか」
魔法使い「……」
戦士「うーん、ていうか、あの子が魔王だったなんてね。ちょっと信じられないよね」
戦士(あの子が魔王だっていうなら、単なる人間としてバイトしてたってすごい事実だけど。
魔界の人間は魔王の顔を知らなかったのかな?)
僧侶「だが、あの雰囲気や魔力は少なくとも、ただの人間じゃない」
戦士「ていうか、魔法使いちゃんはともかくさ。勇者くんは黙りこくったままだけど、大丈夫かい?」
男「ん……ああ、悪い。オレもけっこう衝撃的だったからさ」
戦士「なんか勇者くん、あの子に言われてたけどあれは新手の勧誘かなにかなのかな?」
男「さあな」
戦士「わからないことばかりだけど、それはボクらが考えても仕方ないことだ。
まあ、持ってきた親書や勲章とか贈り物が無駄にならなくてよかったよ」
男「これからどうなるんだ?」
戦士「魔界外交ってだけで極めてイレギュラーな外交だからね。
普通、こういうのって歴訪経験があって、かつ、留学とかしたことがある人間がやるもんなんだけどね」
僧侶「お前も留学経験とか、あるんじゃないのか?」
戦士「短期で何国かはね。まあ、そもそも……」
戦士(今から考えれば、外交なんて二の次だったしね。
人手不足という理由だけで、こんな人選はありえない。
陛下がなにを考えられているのかは、わからなけど)
男「なんだよ?」
戦士「いや、とりあえずこうして魔王に会えたんだ。それにボクらでもある程度の調査はできてるからね。
細かい段取りはわからないけど、そう長くは滞在しない。国へ戻って陛下に報告。後任者に引継ぎ。それでボクらの旅は終わりだ。
もしかしたら、こっちでもなんらかの宴ぐらいはしてもらえるんじゃない?」
僧侶「そうか。もう少しここにいて、魔界を見たい気もするが」
男「難しいことはよくわからないけど、旅はもう少しで終わるのか」
戦士「まあ、もしかしたらこれを機に、和親通商条約締結とかも視野にあるのかもしれない」
僧侶「魔物たちとそんなことをするなんて、現実は物語より、よほど奇妙だな」
戦士「うちの国からしたら、魔界よりも近隣諸国の連中の方がよほど驚異なんだよ。利用できるなら陛下は魔界だって使うつもりなんだよ、おそらく」
魔法使い「本当にこれで、終わる……」
男(全然釈然としないな。この冒険が終わる? 本当にこれで何事もなく終われるのか?)
戦士「釈然としない、って顔をしてるね。勇者くんはなにか気にいらないことでもあるのかい?」
男「自分でもよくわからん。でも、無事に終わるならなんでもいいのかもな」
僧侶「コトはあまりに大規模だ。しょせん、私たちのような凡愚市井にどうこうできる話ではない」
戦士「それでもさ。これがきっかけでボクらの国が発展していけば、ボクらは後々まで語り継がれる英雄だよ。それこそ、勇者のようにね」
男「……」
エルフ「こうして陛下がその椅子に腰掛ける姿を拝見するのは、久々なような気がしますわ」
少女「そうね。とは言ってもそれほど、離れていたわけでもないのだけどね。
でもなぜか、彼らがこちらに来てからの何日間は、密度が濃くて不思議と長く感じたわ。
まあ、『アレ』のせいもあるのだけど」
エルフ「……あの者たちの処置はどうするのですか?」
少女「……」
エルフ「お言葉ですけれど、なぜあの場であの男から力を奪わなかったのです?」
少女「いいえ、あの場で彼の力を奪取するのはおそらく不可能だったわ。『彼ら』が私を警戒していたわ」
エルフ「それでは、不可能……?」
少女「難しい、わね。でも無理ではないわ。ようは警戒させなけれざいい、それだけよ」
エルフ「なにか考えがあるみたいですわね」
少女「一応ね」
エルフ「魔界への闖入者……例の03小隊隊長殺害容疑のかかっている者たちはどうなさるんですの?」
少女「これだけ調査の手を伸ばしても見つからない。もしかしたら、もうこの国にはいないかもしれない」
エルフ「いいのですか?」
少女「今は、ね。これが人間同士なら国際問題に発展する可能性もあるけれど。今はそのことはいいわ」
エルフ「公爵の部下たちの処置はどのように?」
少女「任せるわ」
エルフ「一つ、質問よろしいですか?」
少女「どうして、ハルピュイアを殺したのか、ってことでしょう?」
エルフ「ええ。いくら公爵が本格的に動き出す前から、調査をしていたとは言え、殺めては聞きだせるものも聞き出せませんわ。
彼は機関の責任者でもありましたし」
少女「……殺すつもりはなかったのよ。」
エルフ「では……」
少女「確実に限界が近づいてる、そういうことかしらね。力の調節すら既にできなくなってるわ」
エルフ「力を使いすぎたのでは?」
少女「もちろん、それもあるかもしれないけど。それと、機関の後任者については、すでに決まっているから問題ない……少し席を外すわ」
エルフ「また、あの場所ですか?」
少女「ええ。あとのことは頼むわ。彼らの監視は続行すること。あと手厚い待遇をね」
エルフ「……御心のままに」
………………………………………………
鬱蒼とした木々の下、彼らは戦っていた。
『勇者』は襲いくる魔物の攻撃を避け、背後に回った。
敵は大柄な魔物だ。しかし、なぜかその魔物の姿ははっきりしない。が、そんなことはどうでもよかった。
とにかく倒す、それだけだ。剣を振り上げ、切っ先に魔力を集中。バチバチと大気を震わす音。
強烈な光。帯電体と化した剣。それで容赦なく冗談から切りつける。当たった――いや、敵の皮膚を掠めはしたもののなんとか、かわしていた。
『戦士』、と叫ぶ。すでに戦士は魔物の足もとに狙いを定め、その大剣で切りつけた。
筋骨隆々とした腕による切りつけは、魔物の脚を切り落としていた。苦痛の悲鳴。得意げに戦士が勇者に向けて、視線を送る。
背後で高らかに『魔法使い』が呪文を唱えた。巨大な火柱がなんの前置きもなく湧き上がる。
たちまち、炎は魔物を飲み込んだ。魔物がその熱さに耐えかね、地面を転がる。
彼女はこれ以上攻撃をする必要はないと判断したらしい。任せたわよ、と叫んだ。
最早勝負は決まっている。
突如、身体を高揚感が包んだ。足の爪先から頭頂部まで熱で覆われたような感覚。力がみなぎってくる。
『僧侶』の魔力強化の呪文だ。全身の細胞が覚醒し、魔力が膨れ上がる。増幅した魔力を刀身にみなぎらせる。
窮鼠猫を噛むとはまさにこのこと、魔物はやけくそになって最後の突進をしかけてくる。が、あまりに遅すぎた。
『勇者』の雷を帯びた剣は、その魔物が悲鳴をあげる暇すら与えることなく首から上を切り落としている。
戦いが終わった。額に浮いた汗を拭い、一息つく。『勇者』は仲間の顔を見た。見慣れた光景だ。
冒険の記憶の断片――いや、なんだこの記憶は? 誰だお前らは? 今の戦いはなんだ?
突如、違和感が頭をもたげる。不意に誰かの叫び声とともに、なにもかもが一瞬で暗闇にとってかわった。
男「……っ、あれ? オレ、寝てたのか」
男(なんだ今のは? いや、単なる夢か? それにしては妙に鮮明な気が……ていうか、今何時だ?)
男「……本、読んでたら寝ちゃったみたいだな」
男(オレたちが魔王と名乗る少女と出会って、五日が経過した。
あれからオレたちと魔王が直接会ったのは、一度しかなかった。皇宮で親書や贈呈品を渡したそのとき限りだった。
その後エルフさんの屋敷で、こっそりと宴をしたり、魔界のいくつかの施設の視察をしたり意外なほど平和にことは進んでいった。
だが、戦士いわくオレたちもそうそう長居はしていられないらしい。いよいよ、明日には帰ることになった)
竜「ちょっとちょっと、大丈夫ですか? うなされていたみたいですが」
男「ん、ああ……そうなのか。けっこうカッコいい夢を見てたはずなんだけどな」
男(あの子……魔王の下僕のこの小さなドラゴンは、オレたちパーティの監視ということで、ずっとオレにつきまとっている。
まあ、べつになにかをされるわけでもなければ、基本的には見えないところにいるようにしているみたいだ。
だからそんなに気にならないが、一回だけ僧侶と魔法使いに色々されていた)
竜「顔色もいささか悪いようですが、なんならお冷でも持って来ましょうか?」
男「お前、コップよりちょっと大きいぐらいなのにそんなことできるのか……」
竜「ええ。これでも一応本来は魔王様に仕えるドラゴンですからね」
男「ていうか、あの女の子……魔王はあれから姿を見せないけどなにやってんだ?」
竜「あなたが言っているのは陛下のことですか? それなら、残念ながら私の口からは……」
男「そうか。じゃあさ、なんかオレについては聞いてないか?」
竜「どういうことでしょうか?」
男「いや、魔王のヤツ、オレよりオレのことに詳しそうだったからさ。なにか知らないかなあと思って」
竜「……あなたについて、陛下からはなにもお聞きしていません」
男「そうか。あの子ならオレの秘密も知ってるんじゃないかと思うんだ。いや、たぶん間違いなく知ってるんだ」
『ねえ――私のものにならない?」』
『……なるほどね。私がこの状態だと勝手に覚醒してしまうんだね」』
男(そう、あの子は間違いなくオレのことを知っている。オレの中のなにかがあの子にも反応していたし……)
竜「どちらにしよう、あなたたちは明日には帰途につくわけです。ならば、細かいことを気にせずに、この魔界を堪能するべきなのでは?」
男「たしかにな。視察とか、事情聴取とかに追われて案外、魔界のことよく見れなかったもんな」
竜「魔界に来るような機会は生きてるうちには、もうないかもしれませんよ?」
男「そうだな。ああ、そうか……本当に明日にはここを出ちゃうんだよな」
竜「今さらですね」
男「帰ったらどうなるんだろう?」
竜「そんなことを私に聞かれても、ねえ……」
男「べつにお前に聞いてないよ。ひとり言だ」
竜「……」
男(帰ったら……オレはどうなるんだ? 勇者でもなければ、そもそも人間でもない。
王様がなにを考えてるのか、それすらもわからない。この任務が終わったあと、オレにどういう処置を取るべきだったんだ。
八百年前、封印された勇者。そうだと思っていたオレは得体の知れない作りものだ。帰るべき場所もない。
この任務が終われば、パーティもバラバラになる。みんなと一緒にいることもなくなる……)
男「あっ……」
竜「どうなさいました?」
男「いや、ちょっと気になることがあってさ」
男(そうだ。オレは『八百年前の勇者』ってことになってた。なんでだ?
そうじゃなくても、オレのこの曖昧な記憶は八百年前の勇者のもの……そうだ。自分の正体を知ったときに気づくべきだった。
どっからこの『八百年前の勇者』という記憶はもってこられたのか)
男「明日さ、魔王には会えるかな?」
竜「陛下でしたら会えますよ、必ず」
男「断言したな。なんかこれだけ姿を見せないと会えなくても、おかしくないような気がするけどな」
竜「私は嘘はつかないんですよ」
男「じゃあ、お前の言葉を信じてみるよ」
竜「ええ、必ず会えますよ」
魔法使い「……やはり、この魔界は人型の魔物が、多すぎる」
僧侶「ああ、私も同感だ。だが、この仮説が本当だったら、それはある意味当然なのかもな」
魔法使い「そう。仮説、だけど。あの研究機関が牢獄にあったこと。そして、うちの国にもあの機関の情報があった」
男「……なんか難しい感じの話をしているな」
僧侶「勇者か、食後すぐ寝るのは胃によくないぞ」
男「おう……いったい、なんの話をしてたんだ?」
僧侶「実は私と魔法使いで、魔物について話してたんだ」
男「二人とも魔物好きだったな、そういえば」
僧侶「まあ趣味の話をしていただけなんだが、たまたま魔界の制度のことを思い出したんだ」
男「どういうことだ?」
僧侶「いつか、お前がサキュバスの娘を見て、自分の記憶のサキュバスとはずいぶんとちがう、そう言ってただろ?」
男「……言ったな、たぶん」
魔法使い「返事が曖昧」
僧侶「他にもこの帝国には人型の魔物が妙に多い、という話もしたな? いや、覚えていないならそれでもいい」
男「それは覚えてる。ていうか実際、魔界に来てからは色んな人型の魔物を見たし。
新しい魔物も見た。オレの記憶にはない魔物たちだった」
僧侶「そして、もう一つ。いつかこの国の人材補給制度についても話をしたな……その顔は覚えていない顔だな」
男「えっと……なんだっけ?」
魔法使い「……あなたはこの話を聞いたとき、怒ってた」
男「思い出した! 人間を魔族の奴隷にする、ってヤツだろ?」
魔法使い「せいかい」
男「でも、人型の魔物が多いって話とその制度の話がどう結びつくんだ?」
僧侶「もう一つ。あの地下牢だ。犯罪者を幽閉するあの地下牢と一緒にあったのは?」
男「魔物の研究をするところ、だな」
僧侶「最後に。調べてわかったことがあるんだが、この国の人口だ。
通常、魔物の繁殖率は人間の比ではないんだ。だから、人口比ではどうやっても魔物たちのほうが高くなる」
魔法使い「しかし、この国では人間と魔物の人口比はほとんど変わらない。いいえ、魔物のほうがわずかに低い」
僧侶「人型の魔物の多さ。昔よりも人に近くなっている魔物。人間を魔族の奴隷にする人材補給制度。牢獄と研究機関。
そして、本来ならあり得ない人間と魔物の人口比。これらが示すのは……」
戦士「ふあああぁ……」
男「……え?」
僧侶「……」
男「ソファで寝てたのかよ。全然気づかなかった」
戦士「キミたち、声が大きいよ。ボクがせっかく夢の中で美女たちとの宴を楽しんでいたというのに……」
男「知らねーよ」
僧侶「話を続けるぞ。これからようやく話の核心に入ろうとしていたのに……」
戦士「その話をすることに意味はあるのかい?」
魔法使い「……」
僧侶「なにが言いたい?」
戦士「キミらの話し合いは、夢うつつで聞いてたよ」
僧侶「……私たちは単なる話し合いをしているだけだ」
戦士「ボクらには見張りもついている。今だってどういう手段を用いてかはわからない。
けど、間違いなく監視はされてるよ」
男「危険、だってことか?」
戦士「勇者くんにしては、なかなか察しがいいね。そうだ、ボクらは必要以上に魔界のことに首を突っ込むべきじゃない」
魔法使い「……間違ってはいない」
戦士「帰るまでは胸に閉まっておくべきだろうね、そのことは」
男「……」
戦士「知らない方がいいこともある。少なくとも今は」
僧侶「……そうだな。勇者、悪いがこの話はなかったことにしてくれ」
男「……わかった」
戦士「まあ、今日は最後の魔界だ。せっかくだしどこかで飲まない?」
魔法使い「ほう……」
僧侶「たしかに。明日には私たちは帰らなければならないからな。
最後ぐらいは羽を伸ばしてもいいかもな」
魔法使い「みんなで……飲む」
男「なんか嬉しそうだな、魔法使い」
男(みんなでお酒を飲みたいって、言ってたもんな)
戦士「そういうわけだし、街へ繰り出そうじゃないか!」
魔法使い「……おお」
男「最後の晩餐ってわけだな!」
僧侶「……うん、そうだな」
魔法使い「ぷはぁっ……うまいわね、ふふっ。あら、なにかしら? そんなにじっと見られても、私はなにもあなたにはあげないわよ」
僧侶「べつに。私はただ、魔法使いの豹変ぶりを見ていただけだ。それに……」
魔法使い「どうしたの? 気になることでもあるの?」
僧侶「いや、この地域でこうやってお酒を飲んでる人間が珍しいのか、色んな魔族が見てくるから少し気になっただけだ」
魔法使い「そんなの気にしなければ、いいじゃない」
僧侶「魔法使いはお酒を摂取すると、とことん変わるんだな」
魔法使い「アルコールは人を変えるのよ。あなたはお酒、飲まないの……って、たしかアルコールはダメだったかしら?」
僧侶「ああ。前にも言ったとおりだ。基本的にアルコールは飲めない」
男「魔法使い、すごい勢いで飲んでるけど大丈夫なのか? ここんところ飲んでなかったからか、すげー飲んでるな」
男「僧侶もほんのちょっとぐらい口つければいいじゃん」
僧侶「いや……なにかあったら困る」
男「なにがあるんだよ」
僧侶「……それより、戦士は? 三十分ぐらい前に席を立ってから一向に戻ってこないが」
魔法使い「魔界のビールは薄いわね。おそらく醸造の仕方がかなり古いやり方だからなんだろうけど、これじゃあいくらでも飲めてしまうわ……ひっく」
男「本当に大丈夫かよ」
魔法使い「あなたもこのビールなら飲めるんじゃないかしら?」
僧侶「しつこい。私は料理だけで十分だ」
魔法使い「お酒を飲めないっていうのは、人生の七割は損してると思ったほうがいいわよ」
魔法使い「ええ」
男「あ、戦士のヤツ、女の子連れて戻ってきた……って、あれって……」
僧侶「あの定食屋のサキュバスじゃないか?」
戦士「やあやあ! たまたまそこで会ったんだけど、話が合うもんだから一緒に飲もうって話に……」
サキュバス「わあお! あのときのお兄さんとお姉さんじゃん! アタシのこと覚えてる!?」
戦士「え? なに、勇者くんと僧侶ちゃんはサキュバスちゃんと知り合いなのかい?」
男「知り合いっていうか、まあ、たまたま入った店の店員だっただけの話だけどな」
サキュバス「なに言っちゃってんの? アタシのことナンパしたくせにー」
戦士「ナンパ? キミがこんな麗しい女性をナンパだなんて、ちょっと信じられないね」
サキュバス「へー。あんな神妙な顔して、『オレのこと、どう思った?』なんていきなり聞いてきたくせにー」
戦士「おやおや、勇者くん。ボクはどうやらキミを見くびっていたようだよ」
男「どういうことだよ!?」
サキュバス「いやー、でも世間ってすごく狭いよね。こんな風に、意図してなくても簡単に再開しちゃうなんてね」
「おいおい、ソウルメイトじゃねーか!? お前!?」
戦士「んんんっ!? この声は……」
ゴブリン「よおソウルメイトぉっ! まさかこっちでお前に会うとはな!」
戦士「あ、ああ……どうも」
ゴブリン「おいおい! どうしたよ、顔が引きつってるぜ。さては、オレと飲めるから武者震いでそんな顔になっちまってんのか?」
戦士「え? あ、いや……」
ゴブリン「まあなんでもいい。あっちでヤロウだけで飲もうぜ!」
戦士「だれかたすけて~!」
男「たしか、あれは戦士か飲み比べで勝ったとか言ってたゴブリンだったな」
僧侶「こっちの地区にいるのは、魔族だから当然か」
サキュバス「なんかよくわかんないけど、世間ってやっぱり狭いんだね」
男「どうやらそうみたいだな」
サキュバス「まあ、アタシらはしっぽりと飲もうよ。お兄さんの話も聞きたいしね」
男「べつに話すようなことなんて、なんもねーよ」
サキュバス「つまんないなあ。男はスキャンダラスな話題を常に一つくらいは持ってなきゃ」
男「そうなのか、魔法使い?」
魔法使い「スリルなものを求める女には、そういうのが必要なんじゃないかしらね。ふふっ、まあおつむりの軽い女にはそういうのがわかりやすいのよ」
サキュバス「あれ? もしかしてアタシ、悪口言われてない?」
魔法使い「ごめんなさい、そんなつもりは毛頭なかったんだけれど……ふふっ」
サキュバス「……せっかくだし飲みましょうか」
魔法使い「ええ、喜んで」
僧侶「なんか、すごいな……」
男「ああ。あっちじゃ戦士とゴブリンが飲み比べし始めてるしな」
男(そういえば、ゴブリンと言えばずっと気になってることがあったな……)
男「なあ、僧侶。魔界に来るとき、魔法陣を使ったときのこと覚えてるか?」
僧侶「ん? どうしたんだ藪から棒に」
男「実はけっこう前から、気になってたことがあったんだけど……」
…………………………………………………………
戦士「ああ……今日ほど魔法使いがいてくれてよかったと思ったことはなかったよ」
僧侶「見ているこっちが、怖いぐらいに飲んでたな。いくら今日が魔界最後の日だからって、ハメを外しすぎなのはどうかと思うぞ」
魔法使い「……でも、楽しかった」
男「そうだな。オレも楽しかったよ。魔法使いがいなかったら、オレも屋敷まで戻れなかったかもしれなかったけど」
僧侶「私も飲めればなあ……」
男「なんか言ったか?」
僧侶「……なんにもだ」
戦士「本当に、楽しかったね」
男「……そうだな。魔物がどうとか人間がどうとか、そんなの関係ないんだなって、あの空間にいて思ったよ」
僧侶「たしかにな。酒のテンションのせいもあるのかもしれないけど、みんな楽しそうだった」
魔法使い「……私も、楽しかった」
男「これで、明日になったらオレたちのパーティは解散なんだよな……」
戦士「当然だね。ボクらにだって、戻るべき仕事や場所があるからね」
男「…………」
僧侶「お前は、どうするつもりなんだ?」
男「まだ決めていないんだ。いや、どうしたらいいのか、わからないって言ったほうが正しいか」
戦士「帰ってからのことは、キミ自身が考えることだ。ボクらが干渉するようなことじゃない」
男「……そうだな」
魔法使い「……素直、じゃない」
男「え? オレ?」
魔法使い「あなたじゃない。彼」
戦士「……どういうことかな? ボクは勇者くんに対して、思ったことをそのまま言っただけだよ」
魔法使い「……昨日、私に相談して来た。『勇者くんのことはどうすればいいと思う』って」
戦士「……」
男「戦士……お前」
戦士「まっ、ボクらは短い期間とは言え、パーティなんだ。それに勇者くんってアホじゃん?」
男「んっだと!?」
戦士「仕事のアテぐらい、斡旋してあげてもいいかな。なんて慈悲ぐらいなら与えてあげようと思ってね。
勇者くんが本当に困り果てて、どうしようもないっていうなら言ってくれよ」
男「……ありがとな、本当に」
戦士「べつに。人として当然のことをしたまでさ」
男「……みんなも本当にありがとう」
僧侶「どうしたんだ、急に。まだ私たちの任務は終わっていない。帰ってからだって、引き継ぎとか陛下への報告とかもあるんだ」
男「いや、今のうちに言っておきたかったんだ。自分でもなんか変だなって思うんだけどさ。
僧侶には命がけで守ってもらったりしてるし、魔法使いにもピンチのときは助けてもらった。
戦士、お前にはなんだかんだ戦当面での面倒をよく見てもらったしな。
こんなオレを、見捨てないでくれたんだ」
魔法使い「……見捨てる、わけがない。私たちは、パーティだから」
僧侶「持ちつ持たれつだ。何度も言ってるはずだ。私はお前を助けたが、お前も私を助けたんだ」
戦士「そうだよ、キミは赤ローブの連中を命を賭けて倒したりもしてる」
男「みんな……」
戦士「まあ、帰ってからの話は帰ってから考えればいいことなのかもしれない。深く考えすぎると、勇者くん、頭パンクしちゃうよ」
男「……とりあえず、帰ったら勉強しようかな」
僧侶「博識な勇者か、想像つかないな」
男「うるせー。ああ、本当さ……もっとこのパーティで冒険したいなあって、本気で思ってる」
魔法使い「……そう、ね」
戦士「ふっ、いつかまたできるときがくるかもしれないよ?」
男「なんかあるのか、そういう機会が」
戦士「いや、全然ないよ。でも、冒険とかって言うのは自分でしようという意思が一番大事なんじゃない?」
僧侶「そうだ、自分でなにかをしようとする意思が一番重要なんじゃないか。私がそんなことを言えた義理ではないが」
戦士「なんなら、仕事とかそういう厄介なしがらみが、なくなる年になったら冒険でもなんでもすればいい」
魔法使い「……それは、それで楽しそう」
男「まっ、なにはともあれ。まずは明日になってきっちり帰るところだな」
僧侶「うん、そのとおりだ」
男「というわけてだ、みんな」
戦士「ん? まだなにか言いたいことがあるのかい?」
男「ああ。これだけは、どうしても伝えておく必要のあることだ」
戦士「……聞こうか」
………………………………………………
次の日
エルフ「わざわざ皇宮にま足を運んでもらい、感謝します。しかし、生憎国王陛下は現在席を外しておりますわ」
戦士「おやおや、これは残念だね。ボクら、お金借りたり空き家借りたり、かなり世話になってるからお礼ぐらい言っておきたかったんだけどね」
僧侶「多忙なのだろう。仕方がない」
エルフ「ご理解、感謝いたします」
男「なんだよ、ドラゴンのヤツ。絶対に魔王は来るって断言してたのに」
戦士「まあ、いいじゃないか。ボクは正直、彼女に会わずに終わるなら、それに越したことはないと思うよ」
エルフ「今回の外交が、後の互いの発展に繋がることを祈っていますわ」
戦士「ええ、こちらこそ。本当にお世話になりました。また会える日を、楽しみにしています」
エルフ「あ、そうだ。勇者さん、あなたに言い忘れていたことがありますわ」
男「オレに? なんか用でもある……があぁっ!?」
勇者は振り返ろうとして、そこで足を止めてしまう。不意に腹部を焼けるような痛みが走る。
腹部には長剣のようなものが刺さっていた。
熱いなにかが逆流してくる。鉄錆の匂いが、口腔内に充満して思わずむせる。
男「ぐっ……ううぅっ…………!」
僧侶「ゆ、勇者!?」
エルフ「ごめんなさいね……いいや、ごめんね。お兄さん?」
エルフの手は、二の腕から下が鋼鉄の剣と化し勇者の腹部を貫いていた。
不意にエルフの輪郭がぼやける。やがて、淡い光がエルフを包み込むと、瞬く間にその魔物は姿を変えた。
気づけばそこにいたのは、少女――魔王だった。
戦士「なっ……!?」
少女「やっぱりね。私の姿のままだと、キミの中の『彼ら』が反応するけど、化けて魔力を抑えていれば騙せるわけだ」
少女はあくまで無表情のままだった。鋼鉄の剣をそのまま、べつの物質へと変換。
蔓植物に変化させ、勇者の中の獲物を捉えるために、侵食していく。
少女「あっ……」
不意に強烈な違和感が腕を襲った。今、まさに勇者の中を蹂躙していたはずの腕が、不意に重くなる。
それどころか、熱に浮かされたように腕が熱くなっていく。
少女はとっさに危険を感じて、腕を勇者から引き抜く。勇者の口もとは、はっきりと笑っていた。
少女「なにを……なにをした?」
勇者の身体から引き抜いた鋼鉄の剣は、錆びつき超高熱で熱されたように真っ赤になっていた。
しかも、勇者の肉体の傷は煙をあげ、みるみるうちに塞がっていく。まるで、上級回復呪文を浴びたかのようだった。
いや、よく目を凝らせば勇者の腹部には魔法陣が浮いていた。
おそらくそれは回復と攻撃を同時に行う、かなり高度な魔法陣だ。だが、なぜそんなものが勇者の腹には拵えられている?
男「わかってたんだよ。いや、ちがうな。想定してたんだ、が正解だな。
お前がオレを襲うパターンの一つとして、姿を変えて攻撃してくる可能性があるってな」
少女「なんで……どうして、私にメタモルフォーゼの能力があるってわかったの?」
勇者は立ち上がる。パーティのメンバーはすでに構えていた。
男「お前さ、オレと会う前からボロを出してたんだよ。もちろん、会ったあとでもな。
だがら、わかった。だから、お前が変身能力を持ってる可能性に気づけた」
少女「どうやら、私はキミを侮ってたみたいだね」
男「悪いが、オレはこんなところで死ぬつもりはない。どういう事情があるのかも知らないが、お前のものになるつもりはない」
勇者は叫ぶ。生きるために。自分のために。仲間のために。
男「勝負だ……!」
………………………………………………………………
昨夜
男「実はけっこう前から、気になってたことがあったんだけど……」
戦士「勇者くん、ストップ……魔法使い。あれを頼む」
魔法使い「大丈夫。すでに魔法は発動している」
男「……オレたちは監視されているんだったな」
戦士「勇者くんは顔にすぐ出るからね。けっこう重要な話をしようとしたろ?」
男「さすが、よくわかってらっしゃる」
僧侶「監視と言えば、例のドラゴンは? 私と魔法使いが色々としてからは、少し避けられてるみたいだが」
男「二人でいるときは、顔を出してくれるんだけどな。今もどこかにはいるんだろうど、まあいいや。話しても大丈夫なんだろ?」
魔法使い「……大丈夫」
戦士「屋敷には戻らないで、このまま歩き続けよう。なに、酒場でランチキ騒ぎした後だし、違和感のない行為だよ」
僧侶「屋敷の中が一番危険だろうな、秘密話をするなら」
戦士「さっ、勇者くん。話してくれよ」
男「ああ。オレたちを魔界に繋がる魔法陣へと、案内したゴブリンのことを覚えてるか?」
僧侶「覚えてはいる。けど、それがどうかしたのか?」
戦士「彼は案内するだけ案内して、ボクらを見送ってそれで終わったでしょ?」
男「やっぱりか」
魔法使い「……なにが?」
男「あのめちゃくちゃな魔法空間の中で、オレはたしかに見たんだ。
ゴブリンが魔法空間の中にいたのを」
男「たぶん、間違いない。証拠はないけど……」
僧侶「しかし、そのことがそんなに重要なことなのか?」
男「もう一つある。あの子……つまり、魔王のことなんだけど、あいつが言っていたことで奇妙なことがあった」
僧侶「『だって魔物がしゃべっただけで、急に叫び出したりするし』って言ったことか?」
男「そう、それ!」
僧侶「私たち以外の勇者パーティが来ていると、魔王から聞いたときだ。私も引っかかっていた」
戦士「んー、それってあの魔王が言っていたこと? 勇者くんがゴブリンがしゃべり出して、びっくりして……あっ」
魔法使い「……なるほど」
男「そうだ。オレがゴブリンが話し出してびっくりしたのは、魔界行きの魔法陣に入る前。
そして、それを知ってるのはこの中のメンバー以外では、ゴブリンだけだ」
男「この魔界に来てから、一番最初に話しかけてきたのもあの子だったことも、そうだとすると辻褄があう」
戦士「ちょっと待ってくれ。つまり……勇者くんは、彼女がゴブリンだったって言いたいのかい?
いや、ごめん。酔いがまだ残ってるなね……つまり、魔王には擬態のような能力があるってことか」
男「うん。オレの予想だけどな。そもそも、オレはあの子に記憶がないなんてことを一度も言ってない。
なのに、記憶がないことも知っていた」
戦士「勇み足なような気がしないでもないけどね。魔王に擬態能力がある、っていう根拠はそれだけかい?」
男「実はもう一つある。ゴブリンのくだりを思いだして、さっきサキュバスから話を聞いたんだ」
魔法使い「……アバズレ」
男「ん? なんか言ったか、魔法使い?」
魔法使い「……なにも」
僧侶「話が進まない。お前が聞いたのは、魔王の容姿についてだったな」
男「そう。ほとんどの魔界の住人は、魔王を見たことないらしいな。それでも、噂でどんな感じなのかぐらいは耳にするらしい」
戦士「へえ、どんな容貌なんだい、魔王っていうのは」
男「似ても似つかない、とだけ言っておく」
戦士「……ふうん。影武者とか他にも可能性はないこともないけど、考えの一つとしてはありだね」
僧侶「仮にも魔王だ。それぐらいの力を持っていたとしても不思議ではない」
男「で、みんなにこのことを伝えたのは、あの子がオレのことを狙っている可能性があるからだ」
戦士「勇者くんを狙う? どうして?」
男「わからん。でも、言っていたんだ。自分のものにならないかってこと。もしかしたら、オレの中のなにかを奪おうとしているのかも」
魔法使い「……あなたの中の、力を?」
男「うん」
男(あの女の子の目は、オレの中のなにかを見ていた。恋い焦がれた人みたいに……)
戦士「単なる考えすぎってわけでもないみたいだね……あっ、勇者くんにかぎって、考えすぎってことはないか」
男「いーや! 今回は単なる考えすぎってことはない、はず」
戦士(ここまでボクたちは色々とあったけど、魔王との邂逅を果たして以降は、かなりの好待遇だ。はたして……)
僧侶「警戒するべきなのかもな。私たちは、すっかり気が抜けてしまっていることだし」
戦士「たしかに。勇者くんの潜在能力は、まだまだ未知数だけど。
それでも魔王が手にしたいと思うだけのものなのかもしれない」
男「あと、最後に一つ。魔王が言っていたことで、『私がこの状態だと勝手に覚醒してしまうんだね』とも言っていた。
あの子がオレの近くに来たとき、オレの中のなにかが反応した。魔王だからかもしれない」
僧侶「その言葉と今まで検証してきたことを照らし合わせたとき、一つあるな。勇者の力を奪うつもりが、魔王にあるなら」
戦士「どうやらもう少し酔い覚ましのために、歩く必要があるみたいだね」
魔法使い「夜は長い――」
…………………………………………………………
少女「できれば、手間をかけずに終わらせたかったけど……仕方ないわね」
男「いくぞっ!」
魔王の力がどれほどのものか、見当もつかない。先手必勝。勇者は魔王に飛びかかる。
魔法使い一人を後方支援に。戦士と僧侶も勇者に続く。
男「うらああぁっ!」
鞘から剣を抜き、斬りかかる。一瞬で魔王の小柄な影が、視界から消える。
遅い。そんな呟きが上から降ってくる。勇者が顔をあげようとしたときには、上から蹴りが下される。
頭部を鋭い痛みが襲う。視界がぶれる。一瞬のうちに勇者は、床に這いつくばっていた。
僧侶「勇者……!?」
僧侶が衝撃波を拳から放つ。床を這う衝撃波をしかし、少女はあっさりと避ける。
華麗に舞うかのようにステップを刻み、少女はいっきに距離を詰めてくる。
戦士がとっさに火の魔法を打ち込む。だが、魔王はなんなくやり過ごし――あっさりと僧侶の懐に入ってくる。
僧侶「……っ!」
少女「遅い」
僧侶が蹴りを繰り出す。
魔王は、自分の顔に目がけて繰り出されたその足を両手で掴み、その勢いを利用して僧侶を投げ飛ばす。
なんとか僧侶は受け身をとり、すぐさま飛び起きる。
だが、それすらも遅すぎた。魔王の拳が視界に飛び込んでくる。
身体を仰け反らせ、ギリギリこれをかわす。同時に後転跳びと、蹴りを織り交ぜて距離をかせぐ。
僧侶へと追撃しようとした魔王の背後を青火が襲う。戦士の魔法だ。
少女「だがら、遅いのよ」
体勢を低くし、魔王は火球をかわす。突如、少女の小柄な身体を影が覆った。
勇者が魔力を込めた剣を魔王へと振り落とす。
男「くらえっ!」
だが、その隙をついた渾身の一撃はなんなく止められる。
少女のしなやかな両手が、勇者の剣の柄を握っていた。刃はあと少しで少女の黄金の髪に触れるところまで来ている。
だが、それ以上剣が先に進まない。体格差はかなりあるはずなのに。
勇者の力は華奢な少女の手を、押しのけることすらできない。
少女「どうしたのかしら? 本気で私を殺す気でいる?」
勇者「ぐっ……!」
少女の声はあまりに淡々としていた。気づけば、剣の柄を握る少女の手は、一つになっていた。
少女の手が離れる。慣性の法則のまま、たたらを踏む。隙だらけになった勇者の鳩尾を、少女の拳が捉える。
手の輪郭がぼやけるほどの魔力を、込められた拳の威力は想像を遥かに超えていた。
勇者「かはっ……!!」
勇者の身体が宙を舞った。背中から落ちる。激痛が背中を走る。肺が圧迫され呼吸が詰まる。
少女「……これは」
少女の足が凍りつく。魔法使いの氷の魔法。魔王の動きを封じた瞬間を見逃す戦士ではない。
細身の剣へと魔力を集中させる。戦士は地面を蹴り、魔王へと斬りかかった。
戦士「……!?」
鈍い音とともに、戦士が瞠目する。
見えない壁が、戦士の剣を受け止めていた。パリパリと砂糖菓子が割れるような軽快な音。
魔王の足を掴む氷は、あっさりと砕かれていた。少女が身を翻す。
と、思ったときには戦士の顔面を少女のしなやかな蹴りが襲う。とっさに剣で顔を庇う。
戦士「っ痛……!」
剣とともに戦士が吹っ飛ぶ。戦士自身は受け身を取るが、剣の刀身は折れてしまっていた。
少女「本気を出すまでもなく、力の差は絶対。べつに私はあなたたち全員を殺すつもりはない」
少女が黄金の髪をかき上げる。ようやく立ち上がった勇者たちを見る、赤銅色の瞳に殺意はない。
嵐を前にした海のように、静かな双眸を細め、勇者パーティを見つめる。
勇者「力の差は絶対、か……」
僧侶「まったく歯が立たない。さすがは魔王といったところか」
戦士「ホントにやんなるね。正直、久々に逃げ出したいと思ったよ」
少女「その男を渡してくれれば、あなたたち二人は見逃してあげるわ」
戦士「……ほほう。それはなかなか魅力的な提案だ。どう思う、僧侶ちゃん?」
僧侶「そうだな。私もまだ死にたくないし、やりたいことは山ほどある」
少女「なら……」
戦士「ところがどっこい! 生憎だね。魔王相手に、命乞いをした挙句、仲間を売ったなんてことがバレたら、男として台無しだ」
戦士「それにね。ボクは今、新しい脚本を書かなきゃならないんだけどさ。今度のは勇者くんを主役とした話を書くつもりだ。
これから勇者くんと提携して、大作を作るつもりだ。だから、ここで勇者くんに死なれるのは困るんだよ」
僧侶「私もだ。国へ帰って、勇者の作った手料理を食べさせてもらう。私と勇者はそう約束した」
魔法使い「……私はまだ、酒を奢ってもらっていない」
少女「……理解できないわね。これだけの差があって、なお抵抗しようとするの?
あなたは、あなたの命を差し出せば仲間が助かるというのに私と対峙するの?」
男「…………」
少女「……勇者なら自己犠牲の精神ぐらい、見せてくれてもいいんじゃないかしら?」
男「そうだな。勝てる可能性が、本当にゼロならな」
少女「……」
男「今、みんなが言ったとおりだ。オレは約束がある。死んだら約束を果たせない――だったら生きるしかないだろ」
少女「こんなに聞き分けが悪いとは、思わなかったわ」
戦士「勇者くん、まだ生まれてから全然時間たってないんだぜ。むしろ、お利口だよ」
男「うるせーっつーの……まあ、とにかくそういうわけだ。オレは死なない。みんなも死なない。お前を倒して、それで終わりだ」
少女「……あなたバカなのね」
男「言われなくても知ってるよ。でも、バカなりにわかることがある」
少女「…………なにがわかると言うの?」
男「生きることを諦めたら、絶対に死ぬってことだ――魔法使い!」
魔法使い「おまたせ」
魔力が床に染み込むように、広がっていく。魔法陣が次々と展開され、床を埋め尽くしていく。
少女「そう。なら、こちらも力ずくでいくしかないわよね」
赤銅色の瞳が、嵐の夜の波のような怒りを湛えて、爛々と輝く。
身の毛もよだつような魔力が群青色の輝きとなって、少女を掴む。
輝きが収まったときには、少女の身体を包み込むように翼が出現していた。
コウモリの翼を思わせる漆黒のそれが、大きく広がりはためく。
少女「今度は、手加減できないかもしれない。最後の通告。今なら、まだ助けてあげるわ」
男「……みんな」
僧侶「しつこい。とうの昔に決めている、魔王と闘うって」
戦士「そういうこと。闘って、勝って!」
魔法使い「生き残る……!」
魔法使いの言葉が終わるか終わらないか。そのときには勇者の眼前に、魔王が躍り出る。
その手には不釣り合いな、鋭利な長爪が勇者に振り落とされる。
だが、その爪が勇者を切り裂くことはなかった。
魔法陣が煌めく。勇者は一瞬にして溶けるように、魔王の前から消え失せた。
消えた。文字通り、目の前から。勇者は跡形もなく。
いったいどこへ……と、こうべを巡らせようとしたときだった。
背後に魔力と人の気配が顕現した。魔王は一瞬で踵を返し、背後からの剣を漆黒の翼で受け止める。
少女「おしい、けど……」
男「ちっ……」
魔王の背後の魔法陣にはまだ、光の残滓が散らついていた。少女はこの時点で、床に無数に展開された魔法陣が、どういうものか理解した。
少女「まだまだ甘い――」
少女の手が群青色に輝く。少女の手はグロテスクかつ、歪で巨大なものに変わっていた。
飛び退き、距離をとろうとする勇者を少女の巨大な手が掴む。いや、掴んでいない。
眩い光。いったいなにが起きたのか。勇者がまたもや視界から消えていた。
男「っ……あぶねえ。危うくやられるところだった」
戦士「迂闊に近づくのは危険だ、勇者くん」
男「そんなこと言われても、オレは魔法の類は使えないんだ。接近する以外の方法が……」
戦士「そうなんだよねえ、勇者くんってば魔法使えないんだよね……」
僧侶「だからこそ、空間移動の魔法陣を展開してるわけだがな」
少女「小賢しいっていうのは、こういうことを言うのよね、まったく」
いくつも展開された魔法陣はすべて、空間転移の魔法陣だった。
移動する人間が魔法陣に魔力を注ぎ込むことで、発動するタイプのものだ。
勇者パーティのメンバーは、自分のスピードより遥かに劣るものの、魔法陣によってその部分をカバーしようというわけだ。
僧侶「一人で突っ込むのは危険だ。私も前衛をやる。後方支援は、戦士と魔法使いに任せる」
魔法使い「……任せて」
勇者「いっきにいくぞっ!」
前方から勇者が魔王に向かって踊りかかる。魔王も同時に突っ込んでくる。
勇者の剣が魔王に届くよりも、彼女の方が明らかにスピードは速かった。巨手が勇者を握り潰す……いや、すでに魔法陣が発動している。
勇者が一瞬で移動する。
僧侶「うしろだっ!」
僧侶の炎をまとった拳が少女の背中を捉えた。否、翼がはためき魔力による強烈な風が湧き上がる。
僧侶「っああぁっ!?」
拳の炎は掻き消え、僧侶が吹っ飛ぶ。咄嗟に勇者が僧侶を受け止める。が、勢いを殺しきれずに壁まで追いやられる。
だが、攻撃はそれだけでは終わらなかった。少女の足もとから火柱が立ち昇る。やはり、かわされる。
戦士は舌打ちこそするが、魔法を休めはしない。火の粉を連続で放ちひたすら魔王への攻撃を続ける。
攻撃の手を休めれば、一瞬で反撃され殺される。
魔法使い「……発動」
強烈な魔力が床から湧き上がる。巨大な波がうねりをあげて、魔王へと襲いかかる。
小柄な影が一瞬にして荒波に飲み込まれる。空間が水を覆う。
魔法使い「今……」
僧侶「まかせろ」
最早定番のコンビネーション技とも言える、魔法使いの魔法からの僧侶の雷の拳。
雷撃が魔王へと下る。だが、魔王は翼で身を包み、直撃を逃れていた。
荒れ狂う波は一瞬でやみ、全員が防御用の魔法陣から飛び出し、さらなる攻撃へと移る。
戦士「勇者くん! 準備はいいかい!?」
男「いつでも!」
勇者と戦士が、同時に魔王へと挟み込むように走り出す。魔王の片方の変化していなかった手が、突如変化する。
両の手が巨大かつグロテスクなものとなり、今まさに仕掛けようとしていた勇者と戦士を捉えようとする。
しかし、魔法陣を利用し二人が同時に消える。べつの位置へと現れた二人が再び魔王へと飛びかかる。
勇者はこのわずかに自身の魔力をすべて、剣へと集中させた。
瞬きをする間もあるかないかの、極小の時間。その刹那のときの中で、自身の魔力を剣の先端へと収斂させる。
時間が許す限り、やってきた修練の中で身に付けた技能。その集大成をここで――発揮する。
魔王の手が勇者に向かって、再び伸びてくる。自分の身体より、さらに巨大な手が勇者へと掴みかかる。
さっきは、これを魔法陣でかわした。しかし、集中させた魔力が、時間の経過とともに解けてしまうかもしれない。
ここで決める。勇者をそのまま、刺突の構えで魔王の手を迎え打った。
男「うおおおぉっ!!」
魔力が炸裂する。一瞬だけ恐怖が顔を出した。それすらも切り裂くイメージを脳裏へ焼きつける。
自身の覚悟を剣に乗せ、勇者は咆哮し――その手を突き破った。
甲高い悲鳴が、室内に響き渡る。足もとを満たすみなもに赤い血が飛び散る。
戦士「ふぅ……」
戦士もどうやら上手い具合に、巨大な手をかわし、手首を切り落としていた。
少女の腕は瞬く間にもとの状態に戻る。魔王が膝からくずおれる。両の肩を自らの手で抱くその姿は、魔王とはあまりにかけ離れていた。
なにかがおかしい。あまりにも手応えがなさすぎる。
これならまだ、以前に戦ったゴーレムや赤ローブの男の方が、強く感じるぐらいだった。
僧侶「……観念するなら今のうちだ、魔王」
少女は俯いたまま、なにも答えなかった。勇者が一歩踏み出す。金色の髪が邪魔して、少女の表情は窺えない。
男「……もう終わりにしよう。オレはこれ以上キミと……」
少女「ふふふふっ……ねえ、いったいなにが終わるって言ったの?」
男「これ以上、オレは闘いたくないんだ。だから……」
少女「どうして? 私はあなたを殺そうとしたのよ? なのになんで、あなたは私を殺そうとしないの?」
男「そんなことをしても意味がない。それにオレはキミを殺したいわけじゃない」
戦士「勇者くん、待て。それ以上近づくのはやめるんだ」
僧侶「こんな姿とは言え、魔族の王だ」
男「……」
少女「……そう。私は魔族の王。この国を束ねる者。彼女に頼まれた。だから。守らなきゃいけない……」
少女の瞳はひどく虚ろだった。足もとのみなもを見る赤い瞳は輝きを失っていた。
男「彼女? いったいなにを言って……」
勇者はそこで口を噤んだ。自分の中のなにかが疼くのがわかった。本能が危険だと言っている。
気づけば、広すぎる空間を、名状しがたい緊張が張り詰め、圧迫していた。
少女「――約束を果たさなきゃいけないのは、私もなのよ」
張り詰めた空気が、悲鳴をあげる。少女を群青色の霧が包み込む。幼い闇はあっという間に夜のそれにとってかわる。
男「な、なんだこれは……!?」
どこからか出現した猛烈な風に、足もとをすくわれそうになる。いや、これは単なる風ではない。
黒い風……そうじゃない。
視認できるようになり、触れることさえ可能になった魔力が、荒れ狂っているのだ。
「 ――――やく、そ く ……は、た す 」
地の底から響くかのような、低い声が荒波のような魔力の流れを縫って、勇者の耳に届く。
ただの声でありながら、聞いた瞬間、指先から凍りつくように体温を奪っていく。
闇をまとった少女の姿は明確には視認できない。だが、それでも真っ赤に輝く瞳だけは、異様な存在感を放って勇者たちを見据えた。
戦士「いよいよ、敵も本気のようだね……!」
戦士の声には明らかに、焦りが含まれていた。魔法使いと僧侶にも恐怖の感情が見てとれた。
絶望の象徴のように闇をまとった魔王が、高く飛び上がる。
嵐のような魔力を身にまとった魔王が、宙空に浮いたまま身体を屈曲させる。
魔法使いが、一瞬できた隙をついて魔法を使おうと魔力を集中させる。
肉が裂ける不快な音ともに、先ほどの翼よりも遥かに大きな翼を羽ばたく。
魔法使い「くる……っ!」
魔力の集中を中断し、魔法使いは警告する。
不意に魔王が身体を仰け反らせる。闇をまとった女王が、獣の慟哭にも似た声をあげる。
巨大な紫炎が、次々と少女の周りを囲むように浮かび上がる。
巨大な紫炎のせいで、空間の温度が急激に上昇していた。剣を構える。額の汗を拭おうと、勇者が腕をあげようとして、止めた。
炎塊が四方に飛び散る。
男「……ウソだろ!?」
魔法使い「 ―― 」
魔法使いが呪文を唱える。みなもが刹那のうちに凍りつき、次の瞬間には次々と隆起し氷の壁となる。
魔法使い「隠れて」
だが、炎弾はあまりにもあっさりと氷壁を粉砕し、溶かしてしまう。
そのまま床を穿ち、魔法陣までも破壊する。
魔法使い、戦士の二人が同時に魔法を放つ。が、縦横無尽に空間を駆け巡る魔王を、捉えることはできない。
勇者は残った魔力を刀身へと込め、魔王へと投擲する。が、魔王に当たる前に、超高温の熱の塊が一瞬のうちに剣を溶解させてしまった。
気づけば炎を避けることで、精一杯という状況になっていた。
男「ちくしょおっ!」
ひたすら走る。止まれば、火の餌食にされてしまう。頭上から紫炎が降ってくる。
跳ぶ、かわす。わずかに身体のどこかを火が掠めた。だが、そんなことには構っていられない。
動きを止めれば、間違いなく火に焼かれて死ぬ。
反撃するタイミングなど、どこにもない。ひたすら逃げ惑うことしかできない。息が切れる。眩暈がする。
鼓動は速くなっていく一方だった。いったいあとどれだけ逃げられる?
勇者「ま、魔法使い……!?」
空間内を走り続ける勇者の目に、飛び込んだのは、魔法使いがつんのめる光景だった。
石畳の足場は火炎によって、最悪な状態になっていた。今まで自分が蹴躓いていないのが、奇跡にさえ思える。
地面を蹴る。すでに火の塊が、魔法使いに迫ろうとしていた。間に合え。叫ぶ。
身体のの内側で、なにかが胎動する。鼓動が一際強く鳴った音が響いた気がした。
魔法使いに火が直撃する直前。勇者は飛び込む。炎弾と魔法使いの間に割り込み――
魔法使い「……!」
炎は勇者の背中を直撃した。
魔法使いは目をつぶった。身体を超高温の熱に覆われる。溶岩の中に突っ込まれたような熱が、全身を襲った。
魔法使い「……あっ」
だが、自分はまだ死んでいない。生きているという感覚がある。
目を開くと、誰かの影が自分に覆いかぶさっていた。魔法使いが目を見開く。恐怖に擦り切れた記憶が、一瞬にしてもとに戻る。
勇者「だ、い……じょうぶ、か…………?」
魔法使い「……あなたは…………どうして!?」
勇者「お前だって、あのとき……ケルベロスのとき、助けて……くれた、だ、ろ……」
魔法使いはどうしていいかわからず、こんな状況にも関わらず呆然とする。
だが、勇者は苦痛に顔を歪めながらも、唇のはし釣り上げた。
勇者、と叫び声が聞こえる。火がそこまで迫ってきていた。
魔法使い「にげ――」
男「にげねーよ」
暗い霧のように現れた魔力が突如、勇者の背中にのしかかる。
猛禽類を思わす翼が、勢いよくはためく。勇者の背中へと直撃するはずの紫炎を、その翼が薙ぎ払った。
勇者に手を引っぱられて、魔法使いはすぐさま立ち上がる。
勇者はいつかと同じように、暗い霧のような魔力を身にまとい翼を生やしていた。
魔法使い(自身の危険に反応して、潜在能力が覚醒した……?)
男「走るぞ!」
魔法使い「あ、ありが……」
男「礼はいらない! それより、なんとかして魔王の火を止めないと……!」
勇者は正気を失ってはいなかった。以前までは、覚醒すると意識をなくしていたが……身体が力に馴染んでいってるのかもしれない。
火が次々と襲ってくる。走る。
男「どう……どうすれば、いい!? なにか……ヤツを止める手段はないのか!?」
魔法使いは、走りながら飛んでくる火を見て……一瞬で気づいた。
いや、これは明らかにわかりやすいことだった。
魔法使い「火の威力が、はぁはぁ……弱くなっている……」
男「火の威力……そういえば、さっきより……火力が弱い……?」
考えてみれば、当たり前の話だった。いくら魔王といえど、魔力には限界がある。
床に仕込んだ魔法陣すらも、無効果にする高威力、高魔力の火炎をこれだけ連発すれば、魔力だって足りなくなる。
勇者が無事だったのは潜在的な力も去ることながら、火炎の魔力が明らかに弱くなっているからだった。
魔法使い「これを、あなたに……!」
魔法使いがマントの下からから、あるものを取り出す。走っているせいで、一瞬だけそれを手に取るのに手間取る。
男「これは、あれか……!?」
魔法使い「魔王の虚をつくならっ……これ、しかない……」
男「わかった……!」
僧侶「勇者!」
男「……っ!?」
僧侶の叫び声が聞こえたときには、魔王が超高速でこちらに迫ってきていた。
武器もなにもない、どうすればいいんだ――迫る魔王を前に勇者が身構える。
迫る魔王の横から、戦士が斬りかかる。魔力から生んだ炎で、刀身を包んだ剣が魔王を捉える。
気迫の一撃だった。魔王である少女が、戦士の気迫の一撃によって吹っ飛ぶ。
炎がやむ。できた隙をついて、僧侶も勇者たちのもとへと駆け寄る。
男「……助かったぜ、戦士」
戦士「まったく……相変わらずキミは無茶するね」
男「魔王は……やったのか?」
僧侶「……いや、まだだ」
吹き飛び壁に衝突した少女は、すでに起き上がっていた。強力すぎる魔力の波動が少女の髪を持ち上げ、さか立てる。
「 ――、 じゃ ま ■■ す ■る な……―― 」
少女が再び飛翔する。紫炎が幽鬼のように少女を囲む。やはり、さっきよりは明らかに数が少ない。
僧侶「勇者、それを貸せ。私がその役目をやる」
男「……いいのか?」
僧侶「時間がない。迷ってるヒマはない」
戦士「ボクからも、ボクの剣を渡しておく。ボクの形見だと思って、今だけ大事に使ってくれ」
男「まだ死んでないだろうが、縁起でもねえ。ていうか、なんで剣をオレに……?」
戦士「剣しか使えないキミが、剣を持ってないっていうのは致命的だろ。
ボクなら魔法も使えるからね」
僧侶「そろそろ、構えた方がいい……!」
男「……僧侶、これについてはお前に任せる。頼んだぜ」
僧侶「大丈夫だ。まかせておけ」
魔法使い「……私たちで、時間をかせぐ」
男「……やるぞっ!」
勇者の声が合図となる。魔王の周辺を囲っていた紫炎が、一斉に勇者たち目がけて放たれる。
勇者、魔法使い、戦士、僧侶が散開する。
火の威力も数もやはり弱くなっていたが、しかし、余裕はこちらにもまるでなかった。
魔力が尽きかけているのは、お互い様だった。そうでなくとも、体力的な限界が近づいている。
魔法使いと戦士は、魔法攻撃で魔王を狙い撃ちするが、やはり魔王の動きは尋常じゃないスピードだった。
勇者と僧侶はひたすら魔王を引きつけ走り続ける。苦しい。呼吸過多によって肺が擦り切れるようだった。
視界が霞む。何発か火が身体を掠めている。
どれぐらい時間が経過しただろうか。不意に勝機が訪れる。
僧侶「――もらった」
ようやく僧侶が魔王の背後をとった。右拳に魔力を込め、グローブでそれを増幅。雷の拳を魔王の背中に見舞う。
「 ■ま、 … ■■……おう…………を、 なめる…… な 」
突如、魔王の翼に魔力が行き渡る。雷の拳は、翼の魔力によって弾かれる。
僧侶が吹っ飛ばされた。壁に背中から衝突し、そのまま動かなくなる。
男「僧侶……っ!」
勇者が無意識のうちに、僧侶に駆けつけようとしてしまうのを戦士が引き止めた。
戦士「僧侶ちゃんのことはまかせろ! キミは魔王に集中するんだ!」
僧侶の一撃は、魔王の魔力を削りとったらしかった。火の数が明らかに減っている。
自分に向かってくる炎の処理は、魔法使いと戦士に任せることにした。
魔力を集中させる。全集中力を細身の剣へと向け、魔力を剣へと注ぎ込む。剣の輪郭が黒い霧によって、ぼやける。
すべての魔力……自身の得体の知れない力さえも、刀身へとみなぎらせる。己がすべてをこの剣へと込める。
当てれば、魔王さえも倒せるかもしれない。だが、外せば自分の魔力は空。勝機は確実に消えてしまう。
タイミングを間違うわけにはいかない。
魔王が勇者に向かって、突進してくる――この瞬間だ。
魔王がなにかを叫んでいる。どうでもよかった。自分はただ、この一撃に集中すればいい。
勇者は魔王を迎え撃つために、地面を蹴る。魔王へと飛びかかる。
男「――――おわりだ!」
魔力の剣が魔王の首を捉える……瞬間、魔王はしなやかに身体を斜め横にしならせ、これをかわす。
かわされた。魔王の薄い唇がゆがむ。魔王の長爪が勇者の身体を切り裂く。
いや、ちがう。実際には少女の爪が裂いたのは、虚空だった。
男「今度こそ正真正銘の終わりだああぁっ!」
気づけば、魔王の背後に勇者がいた。刀身に込められた魔力が、暗い霧から淡い光へと変わって眩い輝きを放つ。
光の剣を、勇者は魔王に振り替える間も与えず、突き刺す。
――淡い光が強烈な光となって勇者の視界を埋め尽くす。唐突に勇者の意識はそこで途切れた。
男(ここは……)
暗い闇に勇者は一人でいた。あたりを見回しても誰もいない。
この感覚には覚えがある。たしか、以前にもこんなことがあった。記憶が走馬灯のように、次々と現れては消える空間。
その空間の中央に少女がいた。少女はこちらに気づいていないのか、暗闇を見回して戸惑いの表情を浮かべている。
男(やはり……)
映像がふいに現れる。その映像の中には、幼い少女がいた。その少女の顔には見覚えがあった。魔王に瓜二つだった。
少女は誰かを見上げて、しきりに頷いたり首を傾げたりしている。
これは、魔王である彼女の記憶なんだろうか。
やがてしばらく待つと、少女が見上げた先にいる女性が映った。
赤銅色の瞳。黄金の髪。その女性もまた、魔王である少女に瓜二つだった。恐ろしいほど似ている。
あの少女が大人になれば、おそらくこのような女性になるのだろう。
しばらくすると、会話のようなものが聞こえてきた。だが、音は小さくなにを言っているのか聞き取れない。
待ってはみても、一向に音は大きくならなかった。
女性がしゃがみこんで、幼い少女の瞳を見つめる。なにかを言っている、ということだけはわかった。
女性に瞳は時間が経つごとに熱を帯び、潤んでいく。
なぜか最後の言葉だけ、聞こえた。
『世界と、あのヒトを守って』
不意に光がどこからか漏れてくる。淡い光はやがて濃くなり、視界を真っ白に埋め尽くす。
そして、唐突に意識は現実世界へと戻った。
男「――!」
目が覚めると同時に、勇者は直感した。
すぐさま、身体を起こそうとしたが、激痛が走って勇者は呻き声を漏らした。
戦士「大丈夫かい? 勇者くん」
僧侶「よかった……目、覚めたんだな」
魔法使い「……安心した」
男「オレ……」
戦士「勇者くんは気絶したんだよ、不思議なことにね。魔王に剣を刺そうとしたら、その剣がメチャクチャに光ってね。慌てたよ」
僧侶「光がやんだと思ったら、勇者は気絶していたんだ」
男「そうだったのか……そうだ! あの子は!?」
戦士「あの子って、魔王のことかい? 魔王ならキミが目覚める数分前に目を覚ましたよ」
少女「…………」
男「……よお、元気か? っイテテ……」
僧侶「っと、無理に起き上がるなよ」
少女「……身体中、ボロボロ。その上、あなたたちに負けるしね。いくらこの状態とはいえ、負けるとは思わなかった」
男「4対1、だったからな」
少女「私にはちょうどいいハンデ、どころか全然足りないぐらいの戦力差のはずだったんだけどね。
それで? なにか聞きたいことが、あるんでしょ?」
男「聞きたいこと、というか、確認だな」
少女「言って」
男「……これはオレの予想だけどさ。いや、ほとんど直感だな。けれども確信はしてる」
少女「前置きが長いわね。さっさと言いなさい」
男「わかった」
男「……お前さ、本当は魔王じゃないだろ?」
少女「……」
僧侶「どういうことだ」
戦士「彼女は影武者で、真の魔王はべつにいるとでも言うのかい?」
男「そうじゃないよ。
魔王。お前はたぶんさ、オレと同じなんじゃないか?」
僧侶「同じ……人工的に作られたと!?」
男「どうなんだ?」
少女「……どうしてそう思った?」
男「……オレが魔法陣を仕込んだ護符を利用して、お前を背後から斬った。たぶん、そのあとだ。
あのあと、お前はたぶんオレと同じ景色を見たはずなんだ」
少女「……あれを、見たのね」
男「今までにもあったんだ。真っ暗闇の景色の中に、突然、色んな記憶みたいなのが流れてくるのを」
少女「あんな曖昧なものだけで、私を魔王じゃないって判断したの?」
男「もう一つある。オレ自身のなにかが、お前に反応している。
最初は勘違いしてた。正直、魔王であるお前にビビってて、身体がおかしくなったのかと思ってた。でもちがった」
少女「共鳴、ね」
男「共鳴?」
少女「認めるわ。あなたの言ったとおり、私はあなたと同じ造られしモノよ」
戦士「……!」
僧侶「信じ、られない……」
魔法使い「……」
少女「……これで終わりでいい?」
男「いやいや、早すぎるだろ! むしろ、これから真実を解明するところだろ」
少女「私はあなたたちを殺そうとした。それなのに、こうやって呑気に話してるっておかしいわよ」
男「まあ、たしかにそうだけど……そこは闘った中というか……」
少女「今の私は魔力もほぼ空だし、見ての通りの有り様。殺すのには、絶好のチャンスだと思うのだけど」
男「な、なに言ってんだ……!?」
戦士「勇者くん、落ち着きなよ。
キミを殺すだけならね、たしかに楽勝さ。ただ、ここは仮にも魔王様の本拠地だ。
そんな場所に近衛兵や部下がいないとは、思えない」
少女「……安心したわ。きちんと気づいてくれていて」
魔法使い「初めから逃げる算段はしていた」
少女「魔力を込めた護符……空間転移の簡易魔法陣は用意していたのね」
僧侶「魔王一人でもこの様だった。増援を呼ばれたら、勝ち目はなかった。なぜそうしなかった?」
少女「……最後の最後、私は自分の力を制御できず暴走したわ」
男「あれは、暴走だったのか」
少女「あなたにだって覚えはあるはずよ。自我が飲み込まれ、得体の知れない力に身体が支配される不気味な感覚を」
男「……今までに何回かあったな」
少女「万が一二人が暴走したら、誰も止めることはできないわ。だから、臣下たちは皇宮の外に待機させたわ。
私の暴走がさらにエスカレートしたときは、皇宮ごと吹き飛ばさせるつもりだったから」
男「……そ、そこまでの力なのか、オレたちの力は」
少女「私とあなたの中にあるのは、それほどまでに強大な力なのよ。
……で、結局私をどうするの? このまま見逃してもらえるなら、ありがたいけど。それは都合が良すぎる発想よね」
戦士「なら、こういうのはどうだい? キミを見逃してある。その代わりに勇者くんに真実を教えてあげてほしい」
男「戦士……いいのか?」
戦士「まあ、ボクも色々と気になってるからね。みんなもそれでいいかい?」
魔法使い「……うん」
僧侶「私も聞きたい」
少女「……すごくいい仲間ね」
男「え?」
少女「あなたのパーティ。とても仲間思いで、素敵ね」
男「……そうだよ。自慢のパーティだよ」
少女「……あなたは真実を知りたいのよね?」
男「ああ。お前はオレについてもなにか知ってるな?
オレは、自分も知らない自分のことを知りたいんだ、頼む」
少女「いいわ……ただ、その前に彼女、エルフを呼びたい。いいかしら?」
男「わかった」
…………………………………………………
エルフ「陛下……姫っ、これはいったい!?」
少女「見ての通りよ。私は彼らに負けたのよ。それと姫はやめなさいって何度も言ってるでしょ。
大丈夫よ、ボロボロだけど死に至るほどの傷ではないわ」
エルフ「今すぐ治癒を施し……」
少女「大丈夫よ。簡単な応急処置なら、彼女がやってくれたから」
魔法使い「……」
エルフ「……陛下。なぜ、増援を要請しなかったのですか……?
そうすればここまでの傷を負うこともなければ、彼らを……」
少女「いいのよ。この傷は、私が自分の力をきちんと制御できなかったことこそが、真の原因なんだもの。
私はすでに自分の力の半分以上を制御できなくなっている」
男「どういうことだ、自分の力を制御できないって?」
少女「さすがにね、私も寿命が近づいているのよ」
エルフ「姫……そのことを他言してよろしいのですか……?」
少女「だから姫はやめてって言ってるでしょ。
彼らは私の寿命について知ったところで、どうもしないわ」
戦士「わかんないよ? ボクらだって……」
僧侶「うるさい。話がこじれるようなことを、わざわざ言うな」
少女「エルフ。彼らを例の空間へ」
エルフ「……あそこへ、この者たちを案内するのですか?」
少女「彼らはすでに私の正体を知っているわ。そして、その先にある真実を知りたい、ってね。
そこの彼がそう言ってるのよ」
エルフ「……あなたが?」
男「どうしても知りたいんだ。どうしてかはわからない、けど、知らなきゃいけないって本能がそう言ってるんだ」
エルフ「…………なるほど。まっすぐな瞳ですわね
昔のあなたを見ているみたいですわね、陛下」
少女「そう? それはよくわからないわ。でも、彼らに真実を語ってもいいと思うに値する瞳でしょ?」
男「目? なんかオレの目が特別なのか?」
戦士「……勇者くん。とりあえずは、目のことは気にしなくていいよ」
エルフ「陛下、立つことはできますか?」
少女「なんとか、ね」
僧侶「どこかへ行くのか?」
少女「ええ。真実を知るのに相応しい場所へ、案内するわ……おねがい、エルフ」
エルフ「ええ」
魔法使い「魔方陣……」
…………………………………………………………
男「……っうぅ………ここは?」
戦士「ていうか、魔方陣やるなら唐突にやらないでほしいなあ! びっくりしちゃったよ……ええ!?」
僧侶「な、なんだこれは!?」
魔法使い「巨大なドラゴン……」
竜「あなた方は……陛下に伯爵閣下……なぜ勇者様一行がここに?」
少女「魔王の間に用があって来たのよ」
竜「……その傷を見た限り、勇者様たちに打ち負かされたのでしょうが……よろしいのですか?
ここから先の空間に足を踏み入れた者は、内部の人間でさえ、ほとんど存在しないというのに。
外部の人間をこの空間内に立ち入らせるなど……」
少女「いいのよ」
男「しかし、本当にデカいドラゴンだな。最近、超ちっこい竜を見てたから、ギャップがすごいな。
あいつも最終的には、これぐらい大きくなるのかな」
竜「お言葉ですが、そのちっこいドラゴンというのは、おそらく私のことを言っているのですよね?」
男「え……?」
竜「街へと繰り出すときに、この姿では不便極まりないですからね。あなたがたの前では、極小サイズでいましたが、これが本来の私のサイズなんです」
僧侶「あの小さな竜が、私たちが散々いじくり回した竜の真の姿が、これ……?」
魔法使い「……」
竜「ちょっとちょっと、驚きすぎですよ」
少女「気持ちはわからなくもないわ。でも、あなたたちに見せたいのはこの子じゃないわ」
戦士「いやあ。でも、このドラゴンのギャップを体感した後だと、たいていのことでは驚かなくなれそうだね」
少女「……ドラゴン。ゲートを開けてちょうだい」
竜「承りました。勇者様……」
男「ん? どうした?」
竜「いえ、なにかを言おうと思いましたが……やはりいいです」
男「なんだよ、そりゃ? まあ、また会おうぜ」
竜「ええ」
エルフ「ゲートを開きますわ。皆様、少しお下がりくださいまし」
僧侶「この扉の先には、いったいなにがあるんだ?」
少女「見ればわかるわ。行きましょう」
男(……なんだろう。オレはこの先にあるものを知っている気がする……)
魔法使い「……っ」
僧侶「ここは……妙な息苦しさを感じるが、どうなっているんだ。暗くて周りもよく見えないし……
少女「あたり一帯にある一定の割合で空間に魔力を放出する、魔方陣を展開しているから。
慣れていないと苦しいかもしれないわ。けど、三分もしないうちに慣れるはずよ」
男「オレは特になんともないな」
戦士「勇者くんは鈍いから、わかんないんじゃないの?」
男「んー、そうなのかなあ……」
僧侶「結局ここには、なにがあるんだ? まさか、こんな暗闇空間だけ見せて、終わりではないだろ?」
少女「もちろん。エルフ、灯りを」
エルフ「はい……陛下があなたたちに見せたかったのは、これです」
戦士「灯りがついたとはいえ、まだ少しくらいね。
……この巨大な水槽みたいなのは、培養槽みたいだけど、中に入っているのはなんだい?」
少女「目を凝らしてみて。そこにあるものが見えるはずよ」
僧侶「たしかに集中すれば見えてきたが、これは……ヒト型の魔物?」
戦士「この魔物はいったいなんなんだい?」
男「魔王だ」
戦士「!?」
魔法使い「じゃあ、これが、本当の魔王……?」
少女「ええ。あなたには彼の記憶があるのね。だから彼が魔王だってわかる……そうね?」
男「記憶、っていうか、まあ。それに近いものを何度か見たことがある」
僧侶「どうなっているんだ?」
少女「なにが?」
僧侶「この魔王からはまるで魔力を感じない。まるで、死んでいるかのようだ。
いや、そもそもコイツは生きているのか?」
少女「生きているとも言えるし、死んでいるとも言えるわね。仮死状態というのが、正確ね」
戦士「これが真の魔王だって言うなら、なぜキミが魔王として魔界に君臨してるんだ?
それに、なぜこんな状態になっているんだ? いや、そもそもこれは本当の魔王なのかい?」
少女「むぅ……質問は一つずつにしてほしいわね。ところで、最後の質問はどういう意図で言っているのかしら?
まさか彼も、私みたいに造られしものだって言うの?」
戦士「キミの寿命はつきかけている。そう言ってたでしょ?
ならば、新しい魔王を作ろうとする発想は、べつに不思議ではないでしょ?」
少女「そうね。たしかに発想としては間違っていないのかも。でもね、その考えは外れよ」
戦士「なぜ? この五百年間の間、勇者も魔王も生まれてこなかった。
どうして彼らがこの世に現れないのかは、定かではない。
けど、勇者と魔王は常に同時に存在し続けた。もしその法則に則るなら、魔王だけがこの世に生きているのはおかしいじゃないか」
僧侶「たしかに。戦士の言っていることはもっともだ」
少女「……なるほど。あなたたちはそういう考え方をするわけね。
じゃあ、一つ私から質問してもいいかしら?」
僧侶「なんだ?」
少女「どうして、私は彼……勇者を殺してその力を奪おうとしたんだと思う?」
男「それは……おそらくオレの中にある、なにかの力を奪おうとしたからだろ?」
少女「そう、正解。では、そのあなたが言う『なにか』とはいったいなんなのかしら?」
男「それは……魔王とかの力か……ちがうか?」
少女「いいえ、ほとんど正解よ」
魔法使い「……彼の中にある秘められた力は、魔王のもの……?」
少女「私の予想では、魔王、そして勇者の力も彼の中には眠っているはずなの」
戦士「じゃあ、キミが勇者くんを殺して、その力を奪おうとしたのは……?」
少女「彼の力を奪って、それをもとに魔王を完全に復活しようとしたのよ。
私では、どんなに力を尽くしても彼を復活させられなかったから」
男「なんでだ? お前は魔王ではないかもしれないけど、それでも魔王のようにとても強かったじゃないか」
少女「そうね。全盛期の私であれば、あなたたちを殺すのは容易かったでしょうね。
けれども今や私も、死を待つだけの身となってるのよ」
僧侶「じゃあやっぱり、自分の代わりとなる新たな国王を作るため?」
少女「それもまったくないとは言えないわ。でも、本当の目的はそうじゃない」
男「その……わかりやすくサクッと説明してくれないか?」
戦士「そうだね。ボクもかなり回りくどいおしゃべりの仕方をするけど、ここで焦らされるのは、ちょっとね」
少女「回りくどいかしら? まあいいわ。
つい五百年前までは、勇者と魔王は争い続けていた。そして、魔王と勇者が死ねば、また新たな魔王と勇者が世界に誕生する」
男「でも今は、魔王は……」
少女「新しい魔王が現れないのは、かろうじて生命を繋ぎとめてこの世に生きているからよ」
僧侶「ということは、この魔王が死んだら、新しい魔王が生まれるってことか?」
男「あっ……」
男(――魔王と勇者の闘いは時代があとのものになればなるほど、その規模は大きくなっている――)
男「その、新しい魔王になったら、また強くなって……えっと、なんだ……」
少女「そうね、それもあるわね。でも、それだけじゃない。
新たに生まれる魔王が、どんな魔王かわからない。制御が効くのかも。破綻した人格の持ち主かもしれない。
もしかすれば、この国をメチャクチャにする可能性さえあるわ」
戦士「だから、今ここにいる魔王を復活させようって言うのかい?
だけどこの魔王だって、もしかしたら、とんでもない人格の持ち主かもしれないじゃないか」
少女「勝手なことを言わないで! 彼はそんなヒトじゃないわ……!」
戦士「し、失礼……」
少女「……ごめんなさい。私の方こそ、感情すらも制御できなくなっているのかも……」
男「……ちょっと待った。おかしくないか?」
僧侶「どうした勇者? なにか引っかかることでもあったのか?」
男「ああ。おかしいだろ? 魔王は死にかけとはいえ生きている。なのにどうして勇者はいないんだ?」
戦士「……たしかに。勇者くんの言うとおりだ。
ボクらはすっかり魔王がいて、勇者がいないことを当たり前だと思っていたけど、これってよくよく考えれば、やっぱりおかしいことだ」
魔法使い「……あなたは、最初、八百年前に封印された勇者……ということになっていた」
男「……そういえばそうなんだよな。すっかり忘れてかけてたけど。
オレは八百年前の勇者で、長い封印のせいで記憶をなくしていたって。でも、それは単なる王様の嘘ってことじゃあ……」
少女「じゃあ、あなたのその断片的な八百年前の記憶は、どこから――いいえ、誰から拝借してきたの?」
魔法使い「……そう、彼女の言うとおり。
いかに賢者と言えども、無から有は生み出せない。記憶は記憶の在り処からしか引き出せない」
戦士「そうだよ! それにボクらが八百年云々信じたのだって、その封印の記録自体はあったからだ。
もちろん、詳細についての記録はまるでなかったけど……」
僧侶「それじゃあ……」
少女「そう。これらの要素を突き詰めて考えていけば、一つの事実が浮かび上がってくるわ」
男「つまり――」
少女「本当の勇者は今もどこかで生きている」
僧侶「勇者が生きてる。
……お前は本当の勇者に会ったことがあるのか?」
少女「……さあね。これに関しては答えるつもりはないわ」
僧侶「どうして?」
少女「その勇者について、『直接は』私には関係ないもの」
僧侶「……」
戦士「ちなみに先に言っておくけど、ボクはそんなことは知らなかったよ。
と言うより、発想としてまず、浮かばなかったね」
男「本当の勇者、か……」
魔法使い「…………」
僧侶「なら質問を変えよう。お前は誰に造られた?」
男 「そうだ! オレは王様の命令で造られた。じゃあお前は誰に造られたんだ?
そもそもお前って、何歳なんだ?」
男「よ、四百五十!? そ、そんなに長生きできるものなのか……」
少女「魔族の寿命はもとから人間より長い。その上、私には魔王の力があるから」
戦士「見た目はボクらなんかよりも若いのになあ……」
僧侶「年齢も……まあ、たしかに気になることではあったが、本当に気になることはそこじゃない」
少女「ずいぶんと私の顔を凝視してくるけど。私の顔がなにか?『お姉さん』」
僧侶「……。どこかで見たことのある顔だと思ってた。でも、ずっと誰かわからなかった。
だが、お前が魔王だと名乗ったときに気づいた。ある女王にそっくりだって」
戦士「ある女王? …………ああっ!? あ、あの災厄の女王……そうだよ!
言われてみれば、そっくりだ! ボクが見たことがあるのは成人後のだけだけど……」
少女「…………」
男「お前は、姫様のことを知ってたよな? それに他にもオレたちの国のことについて、色々と知ってた」
少女「そうね、せっかくだから、かいつまんで教えてあげる。私はあなたたちの国が、混乱期に陥る以前よりも更に前。
私はあなたたちが、災厄の女王と呼ぶ彼女によって生まれた」
男「え……それってつまりはどういうことなんだ?」
男「オレたちの国で!?」
僧侶「混乱期より前ってことは五百年近く昔ってことか……」
男「そんな昔に、お前は生まれたのか……」
少女「今のでいっきに様々な疑問が湧いたでしょうね。でも、畳みかけるような質問の仕方はやめてね」
男「じゃ、じゃあ。どうしてオレたちの国で生まれたお前が、今は魔王としてこの国に君臨しているんだ?」
少女「あなたが、勇者の代替え品として造られたように、私は魔王の代替え品として造られたのよ」
戦士「魔王の代替え品……?」
少女「先にこれだけは言っておくわ。女王……彼女は誰よりも、この世界の平和を考えられていた方だった」
戦士「あの女王が世界の平和を?」
少女「結果から見れば、自国を滅ぼしかけたけど。それでも彼女は、たしかに世界を守ろうとしたの」
僧侶「だが、女王はどうやって世界を守ろうとしたんだ?
彼女がやろうとした政策ならいくつか知っているが、世界を守るという名目のものなんてなかったはずだ」
彼女は、人工的に勇者と魔王を造り上げ、世界を騙そうとしたのよ」
戦士「そ、そんな……馬鹿げたことを……?」
魔法使い「……マジックエデュケーションプログラムは、その計画の一環だったということ?」
少女「……さすが、魔法使いね。そう、人工勇者と魔王を造るのになにより必要だったのは、最も魔法を扱うのに長けた魔法使いだった。
そうしてその育てられた魔法使い――そのさらに上のランクに属する賢者たちによって造られたのが、私とその他大勢の私と同じものたちだった」
少女(そして――)
『はじめまして』
『……あなたはだれ? わたしは……だれ?』
『私はこの国の女王。よろしくね』
『じょーおー? じょーお……あなたは、じょーおー。じゃあ、わたしはー?』
『……あなたはまだ、今は……誰でもないわ。……ごめんなさい』
『……どうして泣いてるの?』
『ごめんなさい。あなたがね、生まれるまでに……私、色んな人や魔物たちを犠牲にしてきたの。
……こんなはずじゃ、なかったのに』
『……よく、わからないよ。
……わたしがわるいの?』
『あなたは悪くない……そう、悪いのは私なの。あのヒトとの約束を守らなきゃいけないのに……』
遥か昔の記憶は、あまりに断片的でとりとめがない。
ただ、彼女が私の小さな身体を抱きしめて、肩を震わせていたことは明確に覚えている。
今思うと、私と二人きりのときは、彼女は泣いていることが多かった。
『どうして私は、いつも勉強したり色んなところを見に行ったりするの?』
『……ごめんなさい。でも、あなたにしか頼めないからよ』
『質問の答えになってないよ。質問に答えて』
『あなたは、もしかしたら上に立つ存在になるかもしれないから』
『上に立つ? なんの?』
『それはまだ定かではないわ。人かもしれないし、もしかしたら……』
彼女は常に色んなものに謝っていた気がする。どうして謝っているのかはわからない。
そしてふと、彼女は会話の中で言葉を切ることがよくあった。そんなときは決まって私は、彼女の横顔を窺った。
でも頬に落ちる金色の髪が邪魔をして、彼女の表情はわからなかった。
それでも、きつく結んだ唇の白さだけは、今でも目に焼きついている。
『女王陛下は私に勉強をしろって言うけど、その勉強って色んなものがあるんだよね?』
『そうよ。学ぶっていう行為は、机上だけじゃできないのよ。色々なものを見て、色々なことを体験する。
言ってみれば、生きることじたいが、ひとつの勉強なのよ』
『勉強をするとどうなるの? した先にはなにがあるの?』
『……それは誰にもわからないわ。あなたが勉強をして、自分で探すんだもの』
『それには答えはあるの?』
『それすらも、あなたが探すのよ』
今思えば、彼女が私に向けた言葉の大半は、同時に自分自身に言い聞かせているようでもあった。
私をまるで、鏡の向こうにいる自分に見立てているように。
自分の行動が本当に正しいのか。そんな脅えとも迷いともつかないものが、彼女との日常の端々から見てとれた。
『これはなに……?』
『料理……なのだけど』
『なんだか普段食べてるものと比べると、見た目が変だよ? 大丈夫なの?』
『……料理なんて初めてだったから』
『どうして陛下が料理をするの? そんなの他の人にやらせればいいのに』
『……親は、自分の子どもにご飯を食べさせるものなのよ』
『……私はあなたの子どもじゃないよ?』
『いいの、おねがい……あなたに食べてほしいの』
『……わかった』
彼女が作った料理を食べた。そのときの私の反応を見る彼女の真剣な顔こそ、まさに子どものそれだった。
口にした料理は、見た目から想像した味よりは美味しかった。
私が料理の感想を言うと、彼女は悔しそうで――けれども、とても生き生きとしていた。
もっとそういう表情を見せてほしい、と私は思った。
『こんなとこにいたんだ。なにを見ているの?』
『……べつに』
『培養槽……この中にはなにがいるの? また私とおなじもの?』
『いいえ』
『じゃあ、なに?』
『そうね……強いて言うなら、あなたの……いいえ、やっぱり秘密』
『なにそれ。意味が分かんないよ』
『……今はまだ、教えられないの。でも、そうね。いつか、あなたにもこのヒトを教えてあげる』
彼女は濁りきった培養槽の中身を、食い入るように見つめていた。白い指がその表面を慈しむようになぞる。
彼女の目は雄弁になにかを語っていた。その培養槽の中の、なにかへと。
そして、その唇がゆっくりと動くのを私は見逃さなかった――『魔王』と。
『一般市民の記憶喪失の件、異端審問局が処理するんだってね。どうして彼ら異端審問官が出てくるの?』
『あなたには関係のないことよ。あなたはこの国のことではなく、あっちのことだけを考えていればいい』
『……そうもいかないんだけど。私の同僚……いや、同胞と言うべきかな。
ここ最近になって、彼らが次々と正気を失って暴走を起こしている。他にも実験に使われた魔物たちが研究所から抜け出して、街に甚大な被害をもたらしている。
なんなら私が止めようか? 私なら止められるかもしれない』
『……私だってそうしたい、けど、ダメよ。あなたは知られてはいけない存在。
それに、勇者様も今回の討伐任務には参加しているから……あなたはなにもしなくていい』
『……世界を平和にするのが陛下の夢だったんだよね? なのにどうして?
国の民に危険が迫っている。助けなくていいの?』
『ごめんなさい……ごめんなさい、私が情けない女王だから……』
彼女が縋りつくように私を抱きしめた。自分の肩に顔を埋める彼女は、記憶の中の彼女とどうしてか、一致しない。
こんなに彼女は小さかっただろうか?
彼女の嗚咽を聞いていたら、なぜか私の目頭まで熱くなっていた。頬を伝うものを拭いもせず、ただ私は小さくなった彼女を見つめていた。
実験の失敗が生んだ勇者と魔王の出来損ない、そして、その過程で使われた魔物たちが暴走し、国は混乱期を迎えた。
そして、彼女は――魔物に襲われた。勇者の助けは、寸分で間に合わなかった。
私がかけつけたときには、彼女はすでに死にかけの状態だった。勇者が彼女の治癒にあたっていた。
『陛下! しっかりして……!
勇者、なんとか……なんとかならないの!?』
『今治癒しているがダメだ……! 毒が酷すぎる……解毒しようとしているが、間に合わない……!』
『誰か……誰かっ!? 回復魔法を使える者は……!?』
『……無理だ。大半の魔法使いが異端審問局に捕まってる。そうじゃない連中もあちこちに駆り出されている……くそっ!』
『……私が彼女を助ける……』
私の能力の一つに、触れた対象の器官や一部を取り込む、というものがあった。実験の副産物的なものだった。
対象相手がある程度弱ってさえいれば、この能力は行使できる。彼女の傷口に触れた。
深呼吸をする。毒だけを抜き取る必要がある。失敗は許されなかった。口の中の水分はなぜか干上がっていた。
まるでなにかを恐れているかのように。恐怖に硬直した私の腕を、ふと誰かの手が握った。
彼女の手だった。彼女は意識を取り戻していた。しかし、開いた瞳は濁っていて、どこを見ているのかすら判別がつかない。
そこで決心がついた。自身の能力を使う。彼女の身体の中へ意識を潜らせる。
失敗したら彼女が死ぬ。
彼女の血液やなんらかの器官。毒以外のものを吸収すれば、瀕死の状態の彼女は死ぬ。
その恐怖を振り払い、彼女の毒をすべて抜き取る――そうしようとした私へ、なにかが入ってくる。
今までにも経験がある。感情の奔流。だが、なぜ――彼女は生死をさまようほどの重症を負っているのに。
血が身体をかけめぐるように、私の中が彼女の感情で満たされていく。
私は理解した。彼女が私になにかを伝えようとしているのを。
意識を傾ける。感情の奔流から、彼女の言葉を探し出す。
(……私は、もう長くない……)
私は否定をしようとしたが、彼女が言葉で遮る。
(……この国は今なお、混乱してる。それもこれも私のせい。私が『あの男』の魂胆に気づけなかったから……)
(黙って……集中できないっ! 集中しないと……あなたが死んじゃう……だからっ!)
(いいの……私は罪人。死ななければいけない)
(うるさいっ! 勝手に死ぬとか言うな……! 勝手に思想を押し付けて……勝手に役目を押し付けて! 勝手に死ぬなんて、許さないっ…………!)
(ふふっ……あなたがそんなに感情的になるのは初めてよね?)
私はそんな疑問さえも声にできなかった。ただ、嗚咽を漏らすことしかできない。
自分の中に彼女の感情以外にも、なにかが侵入してくるのを感じた。血のように滾る熱いなにかが、自分の一部となって溶けていく。
彼女はここで死ぬ気だ。私に想いの一部を託して。
『なんで……!?』
(本当にごめんなさい――)
彼女の指が私の唇に当たった。目は見えないはずなのに、彼女は私の方を見ていた。彼女は笑った。
そして言った――いってらっしゃい、と。
私の唇に触れていた手が、音もなく地面に落ちる。彼女の命が終わった瞬間だった。
『ひ、姫……そんな……』
背後で勇者が茫然と呟いた。
彼女が死んだ。
生まれてからずっと、私を母親のように、家族のように育ててくれた彼女が。
世界でたった一人、心を許せる彼女が。
『俺が……俺が彼女を止めていれば…………こんなことには……』
背後の勇者の声が遠くなっていく。
自分のとも彼女のともつかない感情が、私の中で混ざり、溶けて、氾濫しそうになる。
頭が割れそうなほどの痛み。獣のような悲鳴が近くで聞こえた。意識が遠のいていく。
薄れて行く意識の中で私は誓った。
彼女との約束を絶対に果たす、と。
少女「結局、当初の勇者と魔王を混合した究極の存在を造るという、研究は人口の勇者と魔王を造るという研究に成り下がり、それすらも失敗した。
国は半壊するまでに追い詰められた。その後の国の混乱期のことについては、あなたたちも知っているでしょう」
男「お前は、女王様が死んだあとはどうしたんだ?」
少女「魔方陣を用いて、同胞と魔王の培養槽と一緒にあの国を出た。そして、時間をかけて魔物たちを統一して……今のこの国を築いた」
戦士「ずっと気になっていたことが、これで一つ解決したよ」
僧侶「……なにがだ?」
戦士「たぶん、魔法使いと僧侶ちゃんも疑問に思ったことはあると思うよ。どうして魔界の言語がボクらの国のものと同じなのかってさ」
僧侶「……そうか、こういうことだったんだな」
少女「そう、私が支配する以上は私が知っている最も使いやすい言語がよかった。他にも、何ヶ国語かは候補があったけど」
魔法使い「……ひとつ、質問」
少女「なにかしら?」
魔法使い「この国の魔族は、通常の魔物よりも遥かに人間に近い容姿をしている。さらに、魔界の住人はほとんどが人型の魔物……なぜ?」
少女「そもそもあなたたちは、例の研究機関について知っているのだから、だいたいのところは検討がついているんじゃないの?」
魔法使い「……人により近い魔物たち。人間奴隷の、補給制度。そして、例の研究機関」
少女「やっぱり。八割ぐらいはもう答えをわかってるじゃない」
男「あ、それって昨日話してたことだよな。結局それってなんなんだ?」
少女「……あの研究機関の本来の設立目的は、自分自身の強化と魔王を復活させるためのものなのよ」
戦士「単なる研究機関ではないと思っていたけど、やっぱりね……わざわざ地下牢とセットだったりと、気づけそうな要素ではあったよね」
男「意味がよくわからん。つまり、どういうことだよ? いや、待て。やっぱり少し考え……」
戦士「残念、今回はシンキングタイムはなしだよ。答えを言ってしまうと、犯罪者を実験の材料として使ってた。そんなところじゃない?」
少女「ええ。死刑に該当するものをね」
男「そんな……」
僧侶「人材補給制度も、その研究の一環として利用されていたんじゃないのか?」
少女「鋭いわね。そう、人間奴隷を研究材料として使っていたわ」
魔法使い「人に近い、魔物の正体は……」
男「……う、ウソだろ。まさか魔物が人型ばっかりなのも、昔よりも人間に近いのも……」
少女「ええ。魔王を復活させる実験としてね、人間奴隷を使っているわ。ただし……」
男「……おまえっ!!」
エルフ「落ち着いてくださいませ、勇者様」
戦士「そうだよ、勇者くん。彼女の話はまだ途中だ。最後まで聞こうよ」
男「最後まで聞こうが、やってることが変わるわけじゃないだろ!」
戦士「勇者くん」
男「…………わかったよ、聞くよ」
少女「あなたの言う通りよ。私が真実を語ったところで、やってきたことが変わるわけではないわ」
エルフ「ですが……いえ、なんでもありませんわ、陛下。続けてください」
少女「……人間奴隷を使う実験。これなんだけど、一応は任意よ」
男「任意? でも、そんな……自分から実験材料にされようとするヤツがいるわけが……」
戦士「いや、でも被験者になる代わりになんらかの報酬があったとしたら? そうしたら状況はちがってくるんじゃないかな」
僧侶「そうだな。たとえば……実験を受ける代わりに、高位高官にしてやる、とかな。
犯罪者なら減刑とか……その類の交換条件を人にもちかけるわけか」
魔法使い「……ハイリスク、ハイリターン」
少女「そう。特にね、奴隷として貧しい人生を送ってきた人間は意外と多く、この取引にのるのよ」
男「……でも、実験は成功するとはかぎらないんだろ? 失敗する確率だって……」
少女「六割。現在でやっと、ここまで確率をあげることができるようになったわ」
戦士「奴隷という立場は色んな意味で、実験に都合がいいね。しかも、この人材補給制度……大半が子どもだったらしいね。
失敗しても公になることはない、そういうことだね」
男「失敗したら……実験が失敗したら死ぬのか、その実験を受けた人は」
少女「死ぬ、場合もある。色々な実験結果があるけど、少なくともどれも悲惨であることはたしかね」
男「最悪じゃねーかよ。結局、そんな実験を受けなきゃいけないぐらいに、追い詰められてる人たちを利用してるんだろ!?」
戦士(勇者くんがここまで怒るのは初めてだな……いや、そうじゃなくても彼は怒ることなんて、今までなかった……)
エルフ「そうですわね。道徳的な視点で見れば、最低な実験でしょう。
あなたもそう思ってるから、お怒りになられているんでしょう?」
男「ああ、そうだ」
エルフ「でも、その実験のおかげで幸せを掴んだ人間はいるのです、確実に」
男「…………」
エルフ「お気持ちはわかりますし、私たちのやっていることを理解し納得してもらおうなどとは思いませんわ。
でも、そういう存在がいることを、どうか覚えておいてくれませんか?」
男「……納得はできない。それに、理解もしたくない、でも、そのことだけは、覚えておく」
エルフ「ありがとうございます」
少女「……」
僧侶(人間から魔物になった者たち。
つまり、元人間の魔物はこの魔界の人間と魔物の共存という形を作る上で、必要不可欠というわけか……)
少女「そろそろ時間かしら……」
僧侶「え?」
少女「ここに来るときは、私は絶対にこの姿でいることにしているの。どうしてかわかる?」
男「……」
少女「魔王……私よ。今日も来たわよ」
魔王『 …… ■……ひ、 …… め …… 』
魔法使い「……!」
僧侶「生きてるのか!?」
少女「だから死にかけであっても、生きてると言ってるでしょ?
指一本動かすことすらできないけど、それでも私の……彼女の声には反応するのよ」
男「……お前のその声にしか、反応しないのか?」
少女「そうよ。私、ずっと不思議だったの。なにをしても反応しない彼が、唯一反応する手段が彼女の声で呼びかけることだったことが」
少女「最初は不思議で仕方無かった。けどね、あるときふと思いついたの。魔王と彼女は愛し合っていたんじゃないのかって」
僧侶「……魔王と女王が?」
少女「いいえ、彼女が生きている頃からそんな気はしてた。それに魔王を見ていると、私の胸の奥が熱くなるの。どう思う?」
僧侶「どう思うって……そんなことを言われても……」
戦士「演劇の中には、そういった種族間や身分の違いの問題を抱えた悲恋を描いたものもある。
そして……そういう話は現実にもたくさんある。とても悲しいけどロマンチックな恋物語がね」
少女「もしかしたら、恋じゃないかもしれない。
でも、この二人の間にはとても深くて太い絆があると思うの」
男「種族を超えた絆、か」
少女「まあ、この話はこれまでにしましょう。重要な話が一つあるの、あなたに」
男「オレに?」
少女「ええ。あなたになら、頼めるんじゃないのかって思ってたこと。あなたたちと闘う前から決めていたこと」
男「オレに頼みごとって? オレにできることなんてなんもないぞ」
少女「今はね。でも、時間をかければあなたなら、できるんじゃないのかしら。いいえ、できると思うの」
男「なにをだ?」
少女「この魔界の王になることよ」
僧侶「なに……?」
戦士「……いやいや、勇者くんのおツムの悪さは半端じゃないんだよ、国を統治する王なんて無理だよ」
男「そこじゃないだろ! なんでオレが……」
少女「理由はシンプル。あなたが私に一番近い、からよ」
男「近いって……産まれ方が似てるだけだろ?」
少女「そうよ。だからこそ、あなたには問題も抱えている。
でも、長寿や潜在的な力は、うまく制御できるようになれば、間違いなく後々役に立つわ」
男「……本気で言ってるのか?」
少女「こんなことを冗談で言える神経は、もちあわせていないわ」
男「なんでだ? 寿命が迫ってるからか?
だったら自分の臣下に任せるなりすればいい。エルフさんだっているだろ?」
エルフ「……私ではダメなんですよ。私も決して残りの寿命は長くはありませんから。王として君臨できる器でもありませんし」
男「でも、だったらなんとか寿命を延ばす努力をすればいいだろ? いや、もうしてるのかもしれないけど……」
少女「もちろんそれはしているし、これからも続けるつもりよ。
でも、私もいつかは死ななきゃいけない。と言うより、後任者が決まっているなら死ぬべきなのよ」
男「なんで!?」
少女「長く生きすぎたからよ」
男「……それのなにが悪いんだ? 生きてる時間が長いことは、べつに悪いことではないだろ」
少女「ええ、もちろん。そのこと自体を、悪いことだとは言うつもりはないわ。
長く生きすぎることにより、価値観が凝り固まっていくことが問題なの」
少女「年月は積み重ねた分だけ、まぶたにのしかかって視野を狭めていくわ」
戦士「まあたしかにね。何事にも新陳代謝は必要だよね」
男「でも、だからってオレである意味が……」
少女「どうして?あなたはまだ誰のものでもないはずよ。だいたいあなたは、自分がなんのか、自分自身でもわかっていないじゃない。
なにものでもないあなただから、私は頼んでいるのよ」
男「なにものでもない……」
少女「もちろん、王に相応しい存在になってもらうために、色んな勉強はしてもらうけど」
エルフ「でも、この国を手に入れ、王として君臨することができますわよ?」
男「……」
魔法使い「……」
僧侶「勇者……」
戦士「勇者くん……」
少女「どう? もう一回言う――この魔界の魔王になってくれない?」
………………………………………
戦士「そこまで長い冒険、ってわけではなかったけど。それでも過酷だったし密度が濃かったからか、ずいぶんと長く魔界にいた気がするね」
魔法使い「……まだ、終わってはいない」
戦士「まあね。自業自得とは言え、魔方陣壊しちゃってるからね、いや、壊したのはボクじゃないけど。
そして帰りは船旅……まあこれもなかなか味があっていいけどね。
ただなあ、帰っても今回の報告とか例の赤ローブの連中のこととか、色々と問題は残ってるからね」
魔法使い「……これからのほうが大変かも」
戦士「そうだね。ていうか、僧侶ちゃんはさっきからなんでそんな難しい顔をしてるんだい?」
僧侶「いや、なんだか今ここで気を抜いたら、倒れてしまうような気がして……それに」
戦士「それに?」
僧侶「結局、彼女は教えてもらってないが、私たちの国と魔界の国はどうやって繋がっていたんだろうって気になってな」
戦士「ああ……そういえばね。ボクもどういうきっかけで、魔界との関係ができたのかは知らないな。魔法使い、知ってる?」
魔法使い「……いいえ」
戦士「うおぉっ!? びっくりしたなあ……急に背後から話しかけないでくれよ。
ていうか、本を読んでたんじゃないの? 例の女王の手記を」
男「うん。読んでいて、ちょうど休憩に入ったところ」
僧侶「それで、どうして魔王……じゃないけど、魔王でいいか。魔王がうちの国に来たことがあると思ったんだ?」
男「んー、なんとなくだけどさ。この手記の中に書いてあるんだけど、姫様は魔王と一緒に色んな国や街を見て回ってるんだ。
だから、あの子も影響を受けて、そうしていたんじゃないのかなって思って」
戦士「あの子って彼女、勇者くんの四百倍以上の年月を生きてるんだけど……まあそれはいいけど。なかなか勇者くんの意見はアリかもね」
僧侶「姿を変える能力があれば、たしかにリスクも少なく、それをすることはできるな」
男「だろ? なかなかいい発想だと思うんだけど」
戦士「勇者くんにしては、なかなかいい推理だと思ったよ」
男「へいへい。そういうお前は、なんかアイディアあるのか?」
戦士「まあ、勇者くんと似たようなのだけど、一応一個ぐらいはね」
男「どんなのだよ?」
戦士「一時期、彼女がボクらの前に一切姿を現さなかったことがあったろ?」
男「あったな」
戦士「あれって、実は魔王を復活させるために、研究所にこもってたりしてたんじゃないのかなあって思うんだ。所詮は憶測だけど」
魔法使い「続けて」
戦士「で、うちの国って軍事技術とかでは魔界に負けている。けど、医療技術では間違いなく、魔界より勝ってるんだ」
僧侶「つまり、戦士が言いたいのは、医療技術を魔王復活に利用するために、私たちの国となんらかの関りを以前からもっていたってことか?」
戦士「そういうこと。案外、勇者くんが言ったように、自らうちの国へ乗り込んでたりしてね」
男「本当にそうだったら、あの子すげえな」
戦士「まあこんなのは、全部妄想に近い発想だけどさ。ていうか、こんなことよりもさ。勇者くんは帰ってからどうするんだい?」
僧侶「なにせ魔王になるチャンスをふいにしたわけだからな。一つや二つ、やりたことがあるから、断ったのだろ?」
男「あー……」
魔法使い「ないの?」
男「そうじゃない。ただ、ふとオレが魔王の件を断ったときの、あの子の顔を思い出してさ」
戦士「ん? またなんで彼女の顔を?」
男「深い理由があるわけじゃないけど、オレが断ったらあの子、『やっぱりか』って顔をしたからさ。
なんでかなって思って。だって、あの子は自分から頼んできたのに……」
戦士「……ダメでもともとって言葉が世の中にはある。それが答えだよ」
男「そうなのかな……」
戦士「それに、勇者くんはやりたいことがあるんだろ、実際のところ」
男「まだはっきりとプランが決まってるわけじゃないけどな」
僧侶「なにがしたいんだ?」
男「ずばり、冒険」
戦士「……今、やり終えたじゃん」
男「だから、新しい旅をしたいんだ。そして、もっと色んなものを見たい。もっと色んな人と会いたい。
もっと色んなことを知りたいんだ」
魔法使い「……自分のことは?」
男「もちろん、自分のことも……と思ったけど、今はいいかなって。
結局あの子は、なにか知ってる風だったけど、時間の関係で聞けなかったし。
ていうか教えてくれる気があったのかも、わかんないけど」
戦士「自分探しの旅をしたいってわけじゃないんだね」
男「そうだな。あの子の話とか、みんなとの今日までのことを浮かべたら、自分がなにものかってそんなに重要じゃない気がしたんだ」
戦士「なるほどね……」
戦士(彼女は勇者くんのこの考えを、見抜いていたんだろうな……)
男「自分がなにものかって、結局あとから付いてくるんだなあって。だから、今はそういう難しいことはいいやって」
戦士「さすが勇者くん。難しいことは全部後回しだよ。
最終的には最後まで、自分のことを放置しておくんじゃないのかい?」
男「うるせー。オレだって一応は考えているよ」
戦士「本当にかい?」
男「……たぶんな」
僧侶「……旅に出たいなら出ればいい」
男「……僧侶?」
僧侶「ただ、私たちには国に戻っても、やるべきとはあるし、それにお前の問題はどうなるか……」
男「まあな。でも、きっとなんとかなるよ。いや、なんとかする!」
僧侶「そうか、頼もしいな。でも、勇者。お前はまさか忘れていないよな?」
男「忘れる? なんかオレ、忘れてたことってあるか?」
魔法使い「……私に、奢る約束」
男「あ……そうだった」
戦士「ボクの演劇の脚本作りに協力するって話。当然、忘れてないよね?」
僧侶「私に料理を作ってくれる件もだ。やりたいこともいいが、やるべきこともたくさんあるぞ」
男「……全部楽しみだよ。やらなきゃいけないことも、今のオレにとってはやりたいことなんだ」
戦士「まったく……能天気なのか、頼もしいのか」
魔法使い「……両方?」
僧侶「まあ、いいんじゃないか。私たちの勇者はこんな感じで」
彼の最初の冒険はまもなく終わろうとしていた。そして、新しい彼の冒険の始まりは、もうそこまで迫っている。
お わ り
久々にスッキリ終わった面白いSS見れて俺自身もスッキリしたわ
青年の剣が、その最後に残った魔物の肉体を切り裂いた。
これで、ここら一帯の魔物は全部始末した。
周りを見回せば、青年の雷の呪文によってほとんどの魔物が跡形もなく、消え失せていた。
この程度か――青年は淡々と独りごちた。
王の命令によって、ここまで赴き魔物を排除した。
が、彼自身はこの魔物の拠点がどうなろうが、どうでもよかった。
ただ、命令されたからそのまま命令通りに行動した。行動理由はそれだけ。
ふと、青年は額をおさえる。彼は、ここ何日間かずっと頭痛に悩まされていた。
まるで脳がなにかを訴えるように、悲鳴をあげているようだった。
記憶がどこか曖昧でぼんやりとしている。しかし、それがなんなのか。そもそもその記憶は必要か、なにもわからない。
俺は勇者だ――青年は自分の掌を開いた。今まさに魔物を殺した手だ。
自分はかつて、この手でなにかとても大切なものを掴みとった。
しかし、それがなんなのか。記憶は闇の向こうから一向に姿を見せない。
だが、今の魔物との戦闘で一つ思い出せることがあった。自分が一人で戦っているという事実が、過去の自分と食い違っていることに。
かつて、自分には仲間がいた。だが、今は――
空を見上げた。澄み切った青空に一つだけ雲が浮いていた。
そう言えば――王がこの時代について説明してくれていた内容を思いだす。
そして彼は――勇者は呟いた。
勇者「パーティ組んで冒険とか今はしないのかあ」
終
色々と解決していない話もありますし、自分でもあれ?となる部分はあります。
けどひとまずはこれでこの話は終わりです
ここまで読んでくれた人、ありがとうございました
関連ss
神父「また死んだんですか勇者様」
魔王「姫様さらってきたけど気まずい」
またべつのssで
また同じ世界観で書いてください
転載元
勇者「パーティ組んで冒険とか今はしないのかあ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1381053549/
勇者「パーティ組んで冒険とか今はしないのかあ」
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コメント一覧 (87)
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- 2013年11月13日 04:10
- 乙ー
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- 2013年11月13日 06:34
- 情景描写が残念すぎるなあ、特に戦闘
一文が短すぎて詠みづらい
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- 2013年11月13日 07:41
- 文章は好みがわかれるかと
読み応えあったし面白かったけど最後はどういうことよ
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- 2013年11月13日 08:48
- 男達の物語とは別口に、勇者が封印されててかつそれが王によって解かれたのは事実ってことじゃね?
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- 2013年11月13日 11:01
- どーでもいいんだが横の広告がチカチカしてすげーウザいんだが…
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- 2013年11月13日 12:23
- 悪くはない
だが良くもない、そんなss
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- 2013年11月13日 12:37
- スレタイもこれ主人公じゃないということか?
ss見て面白いというよりすげーってなったssは久々だ
勇者メンバーのキャラがすごい立ってたのもよかった
たいていどんな勇者魔王ssでも一人はいらなくね?というキャラがいるが
このssん中にはいなかったな
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- 2013年11月13日 12:49
- 主人公がグチグチうるさい
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- 2013年11月13日 13:23
- 面白かったけど、回収されない疑問が色々とあってなんかモヤモヤするな。
あと「ながら」投下だとどうしても誤字脱字が出てきて、そこで引っ掛かるのがもったいない。
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- 2013年11月13日 13:33
- ※2
SSに冗長な描写は一切不要だと思ってるんで、俺的にはこのくらいで調度いいわ。
むしろ「上手い描写=長ったらしくて独創的な捻くれた文章」だと勘違いした書き手による、変に気取ったオ〇ニーポエム作品の方が個人的には萎える。
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- 2013年11月13日 14:13
- 描写のことは分からんが戦闘シーンはかなり分かりやすくてかっこよかったと思うな
作者はオスマン帝国好きなのかな
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- 2013年11月13日 14:15
- 面白かった
でも基本的に何の問題も解決してないような……
勇者と魔王を殺したっていう神父の話とか裏があると思ったら別にそうでもなかったし
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- 2013年11月13日 14:33
- たくさんの視点から描写するのはよしとしよう
それを不規則にごちゃまぜに多用するから不快になる
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- 2013年11月13日 15:41
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思うところは多いけど、とにかく誤字が多過ぎる
ただでさえ自分の書いた文章っていうのは頭の中にあらかじめ出来上がった文章があるいうこともあって誤字に気が付きにくいもんだけど、それでも多い この作者は即興に向いてないよ
元の表現が平凡で情景描写もイマイチな文章なのに、所々わざと難しい言い回しをしようとしてかえってその言葉が浮きまくり
多分一般のラノベや小説に出ていた表現をそのまま使ったんだろうけど無理がありすぎる
セリフの中では勇者と書いてるのに人物表記では男って書いている(途中一瞬だけ勇者表記になったけど)せいでローブの男が出てきた時少々ややこしくなった 最後の勇者も男のことなのか違う誰かなのか……
たかがSSって言われればそれまでだけど続編という形で出してる割にはちょっとお粗末すぎる 流れは面白いんだけどなぁ
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- 2013年11月13日 16:22
- ※卵になんかワナビが湧いてるなアイタタタ
むしろ表現は簡単にしようとしてるように感じたんだけどな
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- 2013年11月13日 16:48
- ワナビじゃなくても物語読むのが好きならこれぐらいのことは考えられるんじゃないの、何にも考えないでただ文章を咀嚼している人には難しいのかな
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- 2013年11月13日 17:28
- 誤字脱字とか文章談義は他でやってください
僧侶ちゃん魔法使いちゃん結局どっちがヒロインなんだそれが重要だ
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- 2013年11月13日 18:00
- 面白いけど所々ねーよ&無理矢理解釈等で強引に話を進めるのは気になったね。研究所と魔王戦のところとか。
誤字脱字はプロじゃない人に多くを求めんなってことで。
シリーズものは読むのに時間かかるけど読んでいくといつのまにか好きになれるんでいいね。
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- 2013年11月13日 18:25
- 設定とかも斬新でよかった
このシリーズ全部見てるけど全部推理物っぽいのは癖なのかな?
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- 2013年11月13日 21:21
- 面白かった。最後の青年は500年前の勇者かな?
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- 2013年11月13日 22:40
- まだ前編の途中だけれど、会話にしろ戦闘描写にしろ恐ろしく冗長だな
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- 2013年11月13日 22:59
- 前編読んでる途中でなんとなく察したけどやっぱ魔王と姫が愛し合ってたのか
この組み合わせは面白いんだとは思うけどこれやると勇者の存在意義が薄れちゃうから苦手なんだよなぁ
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- 2013年11月14日 00:39
- 面白かった!
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- 2013年11月14日 00:48
- 神父SSとかも前に読んでたし今作も面白かったな。文章表現がくどいとこは流し読みしたら良いだろう。次回作があるなら気になる
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- 2013年11月14日 01:40
- なんか色々と残念なSSだった(悪い意味で)
よくSSである風呂敷広げすぎてキレイに畳めずに汚く畳んだ感じのパターンだな
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- 2013年11月14日 03:00
- 不完全燃焼
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- 2013年11月14日 03:07
- 背景設定やら登場人物のキャラやらは考えられてて良いんだが、
この作者はいかんせん日本語が不自由すぎて読みにくい。
あと二年くらい国語を勉強してから書け。
特に今回は酷くて前半で読み切るのは諦めた。
単語の意味が迷子になってたり誤字脱字とかひどすぎて俺なら絶対表に出せない。
世に出す以上はプロ/アマ関係ない。このレベルはさすがに恥ずかしすぎる。
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- 2013年11月14日 05:10
- うーん、この…
長いのは構わないが真実を知ろうとしたら邪魔が入るパターン多すぎる
無理やり引き伸ばされた感
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- 2013年11月14日 05:25
- 続編ありきの話だと考えれば十分かなと
ストーリーは最近の勇者魔王ものの中じゃよくできてるし歴史好きにはニヤリとさせられる内容だし
誤字脱字だけはどうにかしてほしいけど
日本語がー情景描写がーとかやたら粘着してる評論家()が湧くのは仕方ないのかな
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- 2013年11月14日 06:06
- 誰が敵か味方か?!と推理小説みたいに怒涛のごとく謎かけを仕掛けてくる。
最後には伏線がつながってきて、とてもよく考えてると思う。
これを即興で書いたとしたら凄いわ。
俺なら原案を考えるだけでも1ヶ月くらいかかりそう。
でもこの終わり方のストーリーだと何も物事が解決してないね。
推理小説ものなら、犯人が動機と手法を自供して話が終わりでいいけども。
真犯人=魔王である少女
犯人かと思わせるダミー=戦士、魔法使い、謎の赤い男たち
あととってつけたような毒だとか魔物と人間との共存だとかのテーマは俺の知ってる他作品の影響で意図的に含めたのかと思った。いい作品だった。
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- 2013年11月14日 06:36
- 描写がくどい。わかりにくい。
話とか設定は嫌いじゃないんだけど、戦闘にセンスを感じなかった。
前作までは面白かったと思うだけに残念。
設定とか世界観はいいけど、人物とか構成がおざなりって感じ。
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- 2013年11月14日 07:26
- 色々疑問は残るけど主人公が自分がどうしたいかという結論を出す、という物語だと
思えばいいかなと
キャラクターも戦士とか僧侶とか個性的かつバックグラウンドもしっかりしてるし
※30毒の設定とかは後付けっぽいけど共存のテーマはむしろこの話の根幹だと思うけどな
女王が過ちを犯すのもこのテーマのせいだし
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- 2013年11月14日 10:45
- なんかおかしいと思ったらシリーズ物だったのか
この話で使った設定も次のSSに引き継ぐつもりで書いてたんだな
どうりで不完全燃焼だと思ったわ
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- 2013年11月14日 15:52
- しかしこの話の主人公は、実験動物みたいなもんで戸籍も人権もないような扱いだろ。
そんな人物が、国の内情の余計な部分を色々知って、それで国に帰ってハッピーエンドな展開が待ち受けてるとは思えんな。
一番よくて、戦士くんの家の召使としてひっそり暮らすことぐらいじゃないの。
そのまま魔界の王様になっておくのが自然な流れだと思った
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- 2013年11月14日 17:10
- ※34
それ思った
国に戻ったらほぼ確実に勇者処分されそうだしこのパーティで冒険続けるのかと思ったらなんもなしに終わりだからなぁ
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- 2013年11月14日 17:22
- 面白かったな
ちょっとだけ推理小説読んでるような気分になれた
※34
だからこそ冒険という選択肢なのかなと思った
もしくはこの先の話が暗くなりそうと思ったからここでやめたのか
これだけ凝ったストーリー作る作者だから何かしら考えてはいるんだろうな
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- 2013年11月14日 17:55
- ただただ長いだけで山も谷もねぇストーリー。地の文なんてもっと本を読めと言いたくなるくらい日本語がおかしい
ひたすら何かの説明書読まされてる気分だし久々に時間を無駄にしたわ
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- 2013年11月14日 18:58
- ※37むしろ山場だらけじゃあ…読んでいないのか?
日本語がどうとか言ってるのは同じ人間か?完璧に目を通してるわけじゃないが誤字脱字以外に変な日本語見当たらないんだが
「こちらこそご多忙にも関わりませず、こうして謁見を賜る機会をいただけたこと、感謝いたします」
こんな馬鹿丁寧な日本語さえ正確に書けているのに
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- 2013年11月14日 19:35
- 面白かったけどなあ。誤字とか時々ん?ってなるような言い回しはあったけど、脳内再生余裕というか。
戦士のキャラが好きだったのと、魔法使いと僧侶のどっちがヒロインなんだろうってのは私も思ったww
続きあるなら是非読みたい。解決してない問題は解決させて。
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- 2013年11月14日 20:07
- 馬鹿丁寧というなら機会をいただけたことの所をもっと丁寧にしないと前の関わりませずとあわないな
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- 2013年11月14日 20:39
- ※40お前は日本語を勉強してこい
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- 2013年11月14日 20:49
- どうおかしいのか指摘しなさいよ
頭悪いな
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- 2013年11月14日 22:34
- 伏線がバレバレ過ぎ
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- 2013年11月14日 23:35
- 後で伏線回収するためにわざとぼやかして書いてます、っていうような文章は結構気になったわなw
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- 2013年11月14日 23:38
- ※15
なんでワナビが叩かれる流れになるんだ? ワナビの意味間違えてない?
※38
だから全体通しては普通よりちょっと簡単な感じの文章なのに、そういうところで急に取ってつけたようにやたら慇懃な言葉になったりするのが違和感あるのよ
戦闘描写もそうだけど普通の文章とちょっと普通は使わないひねった言葉が並ぶ文章がごっちゃになってるのがおかしく感じるってこと 文法的なところはどうだったか知らんけど
感想としておかしなところを指摘したら評論家様()って馬鹿にしてるのもいるけど、ここまでおかしなところが多かったらよほど適当に読み流さない限り流石に苦言が出そうなもんだけどな 誤字も脳内補完で済ますにはあまりにも多過ぎるよ
意見も指摘も欲しくないならそれを書いておくかブログにでも書きゃいいのよ 作者はそんなつもりで書いてないだろうけどさ
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- 2013年11月15日 03:23
- 風呂敷を畳まなかったのは続編を書けるようにだろうが。
そもそも、姫と魔王のSSからここまで膨らんだのは素直に褒めるべきでは?
俺的には少しテイルズっぽさを感じた。
勇者はロイドとルークを混ぜた感じで、戦士は綺麗なゼロス的な。
僧侶は何故かISの箒さんで、魔法使いは分からんwww
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- 2013年11月15日 06:31
- それはらしさを感じたんじゃなくて自分で当てはめただけだ
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- 2013年11月15日 11:17
- おかしな日本語は脱字のせいなんだろうな。
誤字も20前後はあったし、脳内補完作業は多いSSだわな。
まぁ『一人ごちた』とかは方言なのかオレには解らん。
感想はとんでもないつなげかたをしたもんだと感心した。
おまけ作品から本編がくるとか衝撃的だったし、おまけがサスペンスで本編をミステリーに構成したのも良い使い回しだと思う。
もっともミステリーは苦手っぽいけど、なんとも言えない作者さんの期待感が持てて好きだ。
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- 2013年11月15日 11:28
- 誤字や設定の歪みで評価が厳しくなりがちな長編ものだからこそ、こういったSSを書ける作者には敬意を表したい。
前作2つは読者に想像の余地を持たせつつしっかり風呂敷畳んでる感じだったから、まさか設定を共有してるとは思わなかった。
結局罪を咎められてた鬼畜神父の話や、今回のSSの根幹にもなってた姫の手記には思わずにやりとさせられたわ。
フードの連中のこととか本物の勇者の居場所とか消化不良な点が多いのが惜しいな。
世界観とか戦闘の描写とか好きだからまたどこかで書いてほしい。
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- 2013年11月15日 11:42
- 俺の読解力が足りんせいなのか最後でスレタイ呟く演出が読み解けん。
最初は魔界から帰った人造勇者が、実は黒幕だった王に記憶いじられてパーティ解散させられてBAD?とか妄想。
しかし、勇者と魔王の台詞がずっと男と少女なのは人造だからかなあと適当に補完してたところ、最後は勇者になっていたので、
今回の主役の人造勇者と最後の勇者は別人説が俺の中で浮上。
だとしたらどういう意図があったのか?見当違いかな?
時間経過で名前が変わることも珍しくないし。
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- 2013年11月15日 14:21
- 他のssとは一線を画する作風(と誤字脱字の多さ)は見てよかったと思えた
設定の良さ以上にキャラクターがすごいよかったと思う
戦士は天才肌で文化人で脚本家で脚本家設定とかは、設定に終わらず物語に生かされていたし
僧侶も厳しい口調なのに昔は駄目人間で嫁に出されそうになったり意外と家庭的だったり、なんとなくこの物語のヒロインは僧侶なのかなと
露骨な伏線も多かったけど終盤あたりの推理の材料になる物語冒頭のゴブリンのとことか僧侶が少女ちゃんの顔を見て何かに気付いている様子とかしっかり書かれていたのが地味にすごい
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- 2013年11月15日 15:48
- この物語もよかったけど、過去二作との繋がりもよかった。
神父のやった事を調べて姫様が「魔王と勇者の混合体を造れば~」を思い付いたのって、神父が実際にやった「魔物の体に勇者の魂を宿した」って事の応用だよな。
こう考えると、神父はギリギリ惜しい事をやってたんだな。もちろんあの勇者のメンタルじゃ自分の体が魔王だなんて受け入れれそうにないし、世界は混乱する一方だろうけど。
こういう物語の積み重ねが歴史なってくんだなぁって雰囲気を感じた。
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- 2013年11月16日 00:38
- 勇者魔王ものでも特にシリーズものの繋げ方のストーリーのすごさだけならトップクラスだわ
惜しいのは恋愛要素が皆無なことぐらいか
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- 2013年11月16日 10:05
- 俺もテイルズっぽいと思った
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- 2013年11月16日 21:06
- 表現や言い回しを工夫しようとして誤字脱字や
表現間違いが多いし
同じ表現が重なって読みにくくて目が滑る
勇者を「男」と言うか「勇者」と言うか決めて欲しい
ローブの男も加わって何が何だか
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- 2013年11月17日 04:09
- 誤字脱字、描写のわかりづらさ、
この2点にかけてマジで読みづらかった。
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- 2013年11月17日 04:10
- 誤字脱字、描写のわかりづらさ、
この2点にかけてマジで読みづらかった。
しかし、最後まで読んでしまうくらいに
勇者の正体がなんだったのか?
魔王はなぜ失踪したのか?
女王の真相とは?
等々の伏線が見事だったのも、また事実。
結局、風呂敷広げすぎて、
グダグダになってしまったのが悔やまれる。
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- 2013年11月17日 06:52
- 本当にすごいssだと思います
自分的には十分まとまってると思いますし風呂敷の畳み方についても、続編があるのだからこれぐらい謎要素が散らばっている方がいいなと思いました
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- 2013年11月17日 21:10
- 誤字脱字の多さと、登場人物の典型的なラノベ口調のせいで読む気が失せる
前半途中までが限界
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- 2013年11月17日 23:59
- 続編を早く読ませてくれ
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- 2013年11月18日 04:48
- ん、読みにくい
展開は普通に面白いけど描写…?文かな?が微妙
あとは…続編に繋げたかったんか畳みきれんかったんか分からんけど終わらせてほしかったな
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- 2013年11月18日 17:21
- 妙に酷評されてるから読んだけど誤字脱字はともかく文章はべつに叩くほどのもんじゃない
それにいくつか嘘書いてあるし・・・
キャラはラノベ口調とはまるで違うし(そもそもラノベ口調で読む気失せたとか言ってる人がラノベ口調について言及する矛盾)
文章は冗長でも無駄なシーンはなく話はポンポンテンポよく進むし・・・
とにかく次回作あるなら期待
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- 2013年11月19日 13:48
- おもろかった。
続編も期待してます
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- 2013年11月19日 15:08
- 文章がくどい回りにくいってのはやっぱりなぁ
そして、対して面白くなかった。
ギャグとかの横道がないから、もっとすっきりした一本道でいいだろと思った
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- 2013年11月19日 17:03
- 致命的な程に語彙が足りない
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- 2013年11月19日 18:08
- 長くてこれ読んでないけど神父のssのときにも粘着アンチ沸いてたけど今回も沸いてんのかな
この人、せっかくだし怖い話しないとかですごい文章うまかったしなあ
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- 2013年11月19日 20:00
- ※66同じ作者なのかよ
まあ得手不得手はあるでしょ。たしかにあっちはすごい文章と世界観がマッチしててよかった
しかし作者マジ何者だよ
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- 2013年11月22日 23:04
- 人称なんとかしてくれ
男と勇者がわからん
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- 2013年11月24日 18:52
- 誤字が多くて読みづらい ←わかる
この程度の文章を世に出すな、日本語勉強しろ ←?
出版物ならそうだけれど2chのSSに何言ってんだか
人称が「勇者」と「男」が入り混じって解りづらかったりしたけれど面白かったよ
結末辺りが不完全燃焼なのは残念
多分またシリーズで書くんだろうけれどきっちり終わらせて欲しかった気もする
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- 2013年11月24日 21:34
- 前半と後半しか読まなかったからかもしれないが、
少女の過去は語ってくれたから分かったけど
男が頻繁に過去の勇者の映像を見る本当の理由を
ちゃんと説明してほしかった。
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- 2013年11月26日 19:01
- 文章は時間なかったのかな、と。
コメ欄見てこの人が書いた他のも見てみたけど、やっぱりそっちも冗長だけど普通に文章力あるし
同じ作者なのか疑うレベルだったけどww(ところどころ似たような表現があったからそうなんだろうけど)
話の設定や構成だけだったら最近のネット小説からデビューしてるのとか目じゃない
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- 2013年11月28日 13:36
- 叩いてる人の多くはストーリーについて認めてるじゃん。まわりくどいだのなんだのってつまり言葉で説明しすぎな部分が多すぎてストーリー上のテンポと合ってないとこが多々あるんでしょ。書きたいことはわかるんだけど、読み手の想像力にまかせる部分が少なすぎる。キャラクターの掘り下げが甘い。
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- 2013年11月28日 14:58
- 面白かった。続きありきで考えるなら、ちょうど半ばの謎を残しつつの盛り上がりって感じでいいな。次が早く読みたくてわくわくするの久しぶりだ。
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- 2013年11月28日 18:44
- ※72キャラの掘り下げはむしろしっかりされてね?
良くも悪くも人間臭い
続編読みたいけど今度はこのキャラたちのままでやってほしい
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- 2013年12月06日 22:22
- 続きはまだですか?!
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- 2013年12月18日 14:30
- 地の文が無くて(少なくて)読み易いってのがSSの強みなのに
地の文に相当する情報量をキャラクターに喋らせるから壮絶に野暮ったくなる…
台詞だけで繋ぐってのは、台詞だけで全てを描写(と言うより説明)しなきゃならないってのとは違うんだぜ
まだ途中だが断念しかけた
が、ストーリーの評判は良さそうなんでもう少しがんばる
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- 2013年12月18日 21:45
- ※76ssはどんな形で書いてもいいのが強みだからべつにどう言う風に書いてもいいだろ
まあセリフとかは長いし読むのが楽ではないな
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- 2013年12月19日 00:23
- ※77 たしかに自由だが…
だったら普通に小説書けよという
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- 2013年12月29日 01:36
- どういう形式で書いてもいいだろssだからこそ
作者はさっさと続編書けよ
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- 2014年01月19日 21:04
- 読みにくいところもあるし描写が不完全でわかりにくいところもあるが、設定は考えられているし何より物語の核心にせまる部分を常に読者に意識させているのは見事だった
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- 2014年01月21日 16:34
- 斜め読み推奨
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- 2014年01月26日 18:31
- すげえええええええええええええええええ
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- 2014年02月07日 15:25
- 冗長すぎんよ。途中で投げたわ。
続編が出たら読破しよっかな
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- 2014年02月09日 17:30
- な、長い・・・
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- 2014年02月12日 12:32
- すごい文章について批判してる人いるが違和感があるーって批判って変だよな
しかも仮にも敵の国とはいえ超おえらいさんに会うんだから慇懃な表現になるのは当たり前なのに
たぶん適当に批判するつもりで読んだんだろうな
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- 2018年05月12日 06:12
- 人物呼称が判りにくい
文章の長さが内容を伝える助けになっていない
この2点を何とかすれば評判は良くなると思います
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- 2019年01月21日 07:07
- 主人公のセリフ→男「」
地の文のローブの男→男
読みづらいねん