エレン「森にて、触手誕生」【第二部】
関連記事:エレン「森にて、触手誕生」【第一部】- 110 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 18:48:03 ID:brFlLzOU
- なんだかんだ仕上げられたので投下します
・エレクリ(むしろクリエレ?)
・微エロ
・救済
想像と違うじゃないか!ってなったらすみません - 111 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 18:50:16 ID:brFlLzOU
- ~第二部~
「クリスタ、お前本当にどうしちまったんだよ」
「ご、ごめん。なんだかボーっとしちゃって」
ユミルの呆れ声は、目の前でその身を萎縮させているクリスタに向けられていた。
ここ数日のクリスタは、ユミルでなくとも分かる程にどこかおかしい。
心ここに在らずといった様相で、どこか訓練にも身が入らないようである。
「ボーっとするにも程があるだろ。一人でルート外れてフラフラと……」
「う……本当にごめんなさい。声掛けてくれなかったらルートを外れた事にも気づかなかった」
しっかりしてくれよと言うユミルの背中を追いながら、クリスタは溜め息をついた。
最近の不調の理由は自分がよく分かっているのだ。
ただそれを、この大切な友人にすら、おいそれとは話せないと言うだけで。 - 112 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 18:51:14 ID:brFlLzOU
- “呼ばれている”
クリスタがその声に気づいたのは、エレンが化け物から解放された日から一か月ほど経った頃だった。
初めはそら耳かと思うほど小さな声だったそれは、日を追うごとにはっきりとクリスタの頭に響き始めたのだ。
(怖い……でも……)
(“あの声”と一緒だなんて、誰に相談すればいいの……?)
(やっと以前の姿を取り戻したばかりのエレン?)
(エレンの回復の為に心を砕いたアルミン?)
(……言えないよ)
関係者がお互いにギクシャクと接していた期間を経て、今があるのだ。
今更蒸し返すような事も出来ず、クリスタは一人思い悩む日々を過ごしていた。 - 113 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 18:52:38 ID:brFlLzOU
- (ベルトルトにもさり気なく聞いてみたけど、後遺症なんて無いみたいなのになぁ。やっぱりあれかなぁ……?)
粘液に操られた者同士、もしやベルトルトも声に呼ばれているのではと考えたクリスタだったが、彼には異変は起きていないらしい。
しかし数日の間、悩みに悩んで出た一つの推測があった。
粘液の摂取。
現場で見た限り、ベルトルトの顔には粘液が付いていなかったのに対してクリスタは頭から被ってしまっていた。
クリスタは、あの粘液の甘さすら覚えているのだ。
(アルミンが化け物を退治した時に粘液は消えたって聞いたけど……何でなのかな) - 114 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 18:53:30 ID:brFlLzOU
- 「こら、クリスタ!」
「は、はぁいっ!?」
「言ったそばからボーっとするなってば!次意識飛ばしてたらチューするぞ、チュー!」
「ごめん!やめてよー!」
ニヤニヤとしながら顔を寄せるユミルだったが、これはクリスタを元気づけようとしているのだと言う事はクリスタ自身にもわかる。
だからこそ、早く解決してしまいたかった。
訓練兵とはいえ、やっていることは常に死と隣り合わせだ。
自分のミスが仲間に影響を与えることもあり得る。
それだけでも、クリスタに決断させるには十分過ぎるほどの理由であった。 - 115 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 19:01:17 ID:brFlLzOU
- ・・・・・
『癒やしてあげたい』
『癒やしてあげたい』
「絶対に寝てろよ!飯取ってきてやっから」
『癒やしてあげたい』
『……早く来て』
「う、うん……」
ある日、クリスタの頭に響く声は仲間の挨拶すら聞き取れ無いほどに増幅していた。
それは大雨の休日で、まだ訓練が無くて良かったと言わざるを得ない状況である。
絶え間なく響く声は起きた瞬間から始まり、異常な事態を察したユミルはクリスタをベッドから出そうとはしなかった。
(どうしよう……)
(これ、やっぱりあの木だよね?私が化け物の粘液を被った時もずっと頭の中に響いてたのと同じ言葉……) - 116 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 19:01:48 ID:brFlLzOU
- (あの時エレンが暴れて拒んでくれなかったら、私はきっとエレンの……その……体に触れていたと思う)
(自分が何をしているか理解はしているのに、手を伸ばさずにはいられないかった……幸せな気持ちでいっぱいになっちゃって)
(また……あの時みたいになっちゃうのかな?)
ゾクリと、クリスタの肌が泡立つ。
自分の意思など関係無しに体が動くという恐怖は、なかなか忘れられるものではない。
ましてやクリスタがエレンを襲うというあの時の再現が、このままでは兵舎で繰り返されてしまうかもしれないのだ。
そんな事が起きたらクリスタはもとより、エレンの評価にすら大打撃になってしまう。
(……なんとか、しなきゃ)
震える手足を一度ギュッと抱き締め、クリスタは部屋を後にする。
主の消えたベッドは、ただ冷えゆくばかりだった。 - 117 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 19:03:30 ID:brFlLzOU
- ・・・・・
「なぁ、男子寮の方にクリスタいねぇか?」
「え?流石にいないと思うけど……何かあったの?」
不機嫌そうに兵舎をうろついていたユミルに捕まったのは図書室帰りのアルミンだった。
「あいつここ最近様子がおかしくてな。今日は特に酷かったから部屋を出るなって言っておいたのに……」
ブツブツと文句を言いつつも、ユミルは本気で心配をしているようだった。
その姿を目の当たりにして、話を聞いたアルミンの顔も曇る。 - 118 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 19:05:00 ID:brFlLzOU
- 「そう……心配だね。こんな雨ではあるけど、街に行ったってことはないの?」
「外出届は出てなかった。つーことは少なくとも探せる範囲内にいるはずなん──あ!クリスタ!」
「え?……わ、わぁっ!」
気を揉む二人の前に現れたのは、今まさに探していた人物だった。
しかしその姿はいつものクリスタとは少し、いや……かなり違っていた。
クリスタが普段から好んで着ている白のワンピースは外の激しい雨にうたれて全身が透けている。
下着の形、肌の色すら露わになった扇情的な姿でありながら、クリスタは恥ずかしがる様子もなく微笑んで二人へと歩み寄るのだ。
それはアルミンを慌てさせるのには十分な威力をもつ姿であり、すぐさまユミルの叱責が飛んだ事も、ある意味仕方のない話であった。 - 119 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 19:13:29 ID:brFlLzOU
- 「ク、クリスタ!?お前なんて格好でフラついて……あ、ちょ、おいっ!」
急いで自分のジャケットを脱ぎ、クリスタに着せようとしたユミル。
しかし、ユミルの手がクリスタの体に触れた途端、クリスタはまるで崩れ落ちるように意識を失って倒れてしまったのだった。
「アルミン!お前の上着もよこせ」
「えっ!?うわぁっ!」
ユミルは気を遣って目をそらしていたアルミンから上着を剥ぎ取るように奪うと、それでクリスタを隠すように巻き、彼女を抱えて医務室へと走っていく。
「……さ、寒い!」
取り残されたアルミンは、あまりに急な展開に廊下に立ち尽くして二人を見送るほか無かった。 - 120 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 19:20:15 ID:brFlLzOU
- ・・・・・
「クリスタは大丈夫なの?」
「ああ、着替えの最中も起きなかったけど、雨にうたれて冷えたってだけらしい。ただ相当長い間外にいたみたいだけどな」
少し時間をおいて彼女の見舞いに向かったアルミンは、医務室で穏やかに眠るクリスタの姿に安堵のため息をついた。
ついでに上着を返してもらい、その代わりにベッド横にハンカチ包みをそっと置く。
「?……なんだよそれは。プレゼントでクリスタの気を引こうってか?」
「ち、違うよ。これはさっきクリスタが倒れた時に落としていったんだ。綺麗な赤い実が包まれてたから、一応拾っておいたんだよ」 - 121 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 19:26:45 ID:brFlLzOU
- 怪しがりながらもユミルがハンカチを開くと、確かに五粒ほどの小さい実がその赤を鮮やかに艶めかせている。
「確かにハンカチはクリスタのだけど……なんだこりゃ。こいつが食いたくてどっかから拾ってきたのか?」
「さぁ……。ねぇ、ユミルはクリスタがどこに行っていたかわかるかい?」
「いや、見当もつかねぇが。何でだ?」
「うーん、もしかしたら……いや、でもなぁ……」
話を振っておきながらどこか歯切れの悪い返事をしているアルミンだったが、先を促すユミルの視線にその重い口を開いた。
「確かな話って訳じゃないけど……もしかしたら、クリスタはエレンと一緒だったのかなって思って──」 - 122 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 19:28:01 ID:brFlLzOU
- ─────
───
─
「ぼ、僕の上着が……まぁクリスタに貸したと思えばいいか。ん?あれは……?」
ユミルの背を呆然と見送った後、アルミンの目に引いたのは床に落ちた赤い物だった。
それは小さな木の実で、ハンカチに包まれていたのがこぼれたようだ。
見覚えのあるこのハンカチの持ち主はクリスタだったかと思い出し、アルミンは丁寧にそれらを拾った。
(気を失った時に落としたのかな?)
もしクリスタがこの実を取りに外へ出たのだとしたら、目が覚めて手元に無ければきっとがっかりしてしまうだろう。
ならば、と思ったアルミンが医務室へと歩を進めようとした時、彼は聞き慣れた声に呼び止められたのであった。 - 123 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 19:34:47 ID:brFlLzOU
- 「アルミン!」
「ミカサ、そんなに慌ててどうしたの?」
「聞きたい事があって……エレンがどこにいるか知らない?」
「今度はエレンか……悪いけど僕は知らないなぁ。自主練習するって言ってたからエレンとは朝からずっと別行動だし」
何か用事なら部屋を見てくるよと言うと、ミカサはエレンの体調を気にしているようであった。
最近のエレンが一時期の不調を取り戻そうとするかのように熱心に訓練に打ち込んでいるのは誰から見ても明らかだ。
しかしミカサは休日くらいは休ませたいのだと言い、そのためにエレンを探しているとの事だった。 - 124 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 19:35:57 ID:brFlLzOU
- 「ミカサ、エレンが体調を崩してたのは一か月も前の話じゃないか。今はきっと大丈夫だよ」
「でも……兵舎のどこを探しても見つからないから心配で。雨が当たらない場所で、トレーニング出来る場所は限られているはずなのに」
「……休日くらい好きにさせろよ。体調が心配だってんなら尚更鍛える必要があるって事だろ」
「エレン、今までどこにいたの!?そんなずぶ濡れで……っ!」
エレンなら大丈夫、いや心配だと言い合う二人の前現れたのは、まるで先ほどのクリスタのようにずぶ濡れになったエレンであった。
エレンの体から滴る水の量に驚くミカサをよそに、エレンはそのまま二人を素通りして寮へと入ろうとしている。
その姿にどこか話し掛けにくい雰囲気を感じとったアルミンとは対照的に、ミカサはエレンを逃がす気は無いとでも言うかのように彼の目の前に立ちはだかった。 - 125 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 19:37:36 ID:brFlLzOU
- 「エレン、一か月前も貴方はそうやって私を遠ざけた。でも心配させるような事をしているのは貴方なのだから少しは……」
「うるせぇな。オレだって人に言いたくない事くらいあるんだよ」
「行かないで!まだ話は終わっていない!」
アルミンが心配そうに二人を見守る中、エレンはミカサの静止を振り切ろうとした。
しかしそれよりも一瞬早く、ミカサの手がエレンの腕を捕まえる。
すると、今までこの場を離れようとしていたエレンの纏う空気が変わり、その目は自分の腕に絡むミカサの手を食い入るように見つめ出したのだった。 - 126 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 19:43:32 ID:brFlLzOU
- 「エレン……?その、私──」
突然向けられたその強い瞳は、ミカサにすら二の句を継がせなかった。
そしてエレンは掴まれた腕を静かに引き寄せ、未だに腕を放さずにいたミカサの手の甲を口元へと運んだ。
エレンの唇が、ミカサの指を捉える。
「あ……っ!」
まさか噛まれるのかと身を固くしたミカサをよそに、意外にもエレンの唇は優しくその指に触れた。
触れるだけ。
それでもミカサを驚かせるのには十分だ。
冷えた指先にエレンの吐息を感じたミカサは、慌ててその手を放すとエレンから距離をとった。 - 127 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 19:46:54 ID:brFlLzOU
- 手を抱くように胸に寄せたミカサの顔は困惑しているようだったが、その頬は微かに赤みを帯びている。
「こ、このようなことは……っ!人前ですべきではない、と思う……」
混乱の中でなんとか絞り出したその声も、普段とは違うたどたどしさで震えていた。
エレンはというと相も変わらず強い瞳を逸らしもせずにミカサを見つめている。
どこか熱を帯びたようなその瞳を真っ正面から受け止め、ミカサは堪えられないといった表情でその場から走り去っていったのだった。 - 128 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 19:48:33 ID:brFlLzOU
- 「ちょっとエレン、今のは何のつもり?あれじゃミカサが──」
このタイミングで幼なじみの意外に乙女な顔を見ることになるとは思わず、アルミンは驚きを通り越して呆れてしまった。
こんなことをするような男だっただろうかと訝しむ視線をエレンに向けると、彼は「自分でも信じられない」といった表情で固まっていたのだった。
「……エレン?」
「!……何でもねぇ。あいつ最近しつこいからな、ちょっとからかってやっただけだ」
じゃあオレは風呂に行くからと、これから続くであろうアルミンの追求から逃げるように足早に去るエレン。
アルミンはこの短時間に起こったいくつかの非日常をまだ処理しきれずに、ただ誰もいなくなった廊下に立ち尽くしていた。 - 129 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 19:50:13 ID:brFlLzOU
- ──
─
「つまりなんだ?てめぇの幼なじみが色気づいて帰ってきたからクリスタと一緒に居たんじゃないかって話か?」
「そんな極端な事言ってないよ!ただエレンも雨にうたれたみたいだったし。もしかしたらクリスタと一緒にいたか、探していたのかなって……」
「エレンも来てくれたのね!?」
静かなアルミンの言葉に反応し、唐突にベッドから体を起こして満面の笑みで叫んだのはクリスタだった。
「お、驚かすんじゃねぇよ!いつ気がついたんだ……っていうか今なんて言った?『エレンも来てくれたのね』……だと?」
(えー……何その恋人の待ち合わせみたいな感じ……)
言葉から受け取った印象は二人とも同じだったようだ。
ユミルはクリスタの肩を掴んで「あんな死に急ぎ野郎はやめておけ!」と説得に必死で、アルミンは希望の芽が摘まれたかのような落胆ぶり。
しかしそんな騒がしさを生み出した張本人はと言えば、いつの間にかユミルに揺さぶられながらまた眠りの中にいたのであった。 - 130 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 19:52:04 ID:brFlLzOU
- ・・・・・
「おい死に急ぎ野郎」
「あ?ユミルか、何か用かよ」
夕食を食べ終え、さっさと部屋へ移動を始めたエレンとアルミン。
その二人を呼び止めたのは不機嫌さを隠しもしないユミルである。
(うわぁ……なんか今はすごく嫌な組み合わせに思えるよ)
「お前、今日は随分と雨にうたれたみたいじゃねぇか。誰とどこに行ってた?」
ユミルの待ち伏せは、言わずもがな今日のクリスタとの関係を言及する為であった。
自分が話した事がきっかけと知っているだけに、アルミンの背中には人知れず冷や汗が滲む。 - 131 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 20:01:12 ID:brFlLzOU
- 「?……なんで話す必要がある?オレが雨にうたれたところでお前に迷惑掛かるわけでもないだろ」
喧嘩腰の質問に、虫の居所が悪いエレンもつい語気が強まる。
だが、相手はそれで怯むような女ではない。
「私だってお前が雨にうたれようが風に飛ばされようが知ったこっちゃない。正直に言えよ、クリスタと待ち合わせてたのか?」
有無を言わさぬ勢いに、面食らってしまったのは隣にいたアルミンだった。
エレンが襲われた“あの事件”があって以来、クリスタと距離を縮めていたのはどちらかと言えばアルミンの方である。
それ故に先ほどユミルへ「エレンと一緒だったのかも」と言った時も、さほど重要な話ではないだろうと思っていたのだ。
(まさかユミルがこんなに大事に捉えるなんて……)
エレンがクリスタと特別に待ち合わせるような仲ではないとわかっているだけに、アルミンは「エレンは早くユミルに本当の事を言えばいいのに!」とヤキモキしてしまう。 - 132 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 20:02:15 ID:brFlLzOU
- 「……クリスタにも面倒な“保護者”が一人くっついてんだな」
しかしそんなアルミンの期待を裏切るように、エレンが言ったのは皮肉の一言だった。
「言う気はない」と、はっきり示すかのような物言いだ。
それを聞いて余裕から怒りへと表情を一転させたユミルは、どこか普段とは違う雰囲気を出すエレンに詰め寄る。
「そりゃ世話焼かれ主義の自分を嘆いて言ってんのか?後ろめたい事がないならつっかかってくるんじゃねぇよ」
「!……そうだな、悪かった。少し気が立ってたんだ」
睨み合いの末、先に目をそらしたのはエレンの方であった。
食ってかかったことを後悔しているようで、その表情は暗い。 - 133 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 20:03:31 ID:brFlLzOU
- 「待て、話は終わってないだろ!?」
ユミルはふらりと男子寮へまた歩を進めようとしたエレンの腕を引ったくるように掴み叫んだ。
ユミルとて喧嘩をしたくて声を掛けた訳ではない。
クリスタの事を何か知ってはいないかと、それを聞かなければ意味がないのだ。
(あ……れ?)
そばで二人のやり取りをハラハラしながら見つめていたアルミンは、この流れに見覚えがあることに気づいた。
(まるで……少し前のエレンとミカサみたいだ) - 134 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/28(日) 20:04:36 ID:brFlLzOU
- 「お、おい……お前、どうし──」
そしてそれは、またもやアルミンの目の前で繰り返されることとなった。
戸惑うユミル。
そして自分の腕を掴むユミルの手に唇を寄せるエレン。
チュッという幼いリップ音が、小さいながらも三人の耳にはしっかりと届いていた。
「!チッ、離せ……っ!」
予想もしなかったエレンの行動に、ユミルはあの時のミカサ同様にエレンから距離をとる。
しかし、この続きは先ほどとは少し違っていた。
エレンはユミルが引いた手をパッと掴むと、視線はユミルを捉えたままでそのスラリと長い指に舌を這わせたのだった。 - 138 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 06:39:43 ID:6MAOL2VU
- ユミルの背中に、トンっと冷たい壁が触れる。
指の股に、腹に、爪に、エレンの舌が絡む。
ユミルの手を掴む力はさほど強くもないのに、何故か再度振りほどくという動作がとれないでいる。
「お、おいエレ……ンなんでこんな……?」
目の前で上等な飴をしゃぶるかのように弄ばれているのは自分の右手であるはずなのに、それよりも近づいてくるエレンの瞳から目が離せない。
何故?
呟いたユミルの至極最もな疑問に、エレンは意外にもすんなりとその答えを囁く。 - 139 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 06:41:37 ID:6MAOL2VU
- 「甘そうだったから」
そんな囁きを、吐息すら感じられる距離で聞いた。
エレンは唾液まみれのユミルの手に自分の手を絡めている。
(この距離……マズいんじゃないか……?)
逃げるという選択肢が見つからないまま、互いの唇が今にも触れそうな所までその距離を縮めているのが他人事のように感じられた。
(このまま……受け入れたら……?)
(私は……エレンを……い──) - 140 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 06:44:31 ID:6MAOL2VU
- 「さ、流石にそれ以上はダメだってば!エレン!」
急に、エレンの体がユミルから離された。
二人の傍らで激しく混乱していたアルミンが、その場の怪しい雰囲気に堪えきれずついにエレンの前進を止めたのだ。
慌てたアルミンの声にハッとしたのは、今まさに同期の女子に口づけを迫っていたエレンだけではなかった。
(わ、私は今何を……っ!?)
直前までいがみ合っていた相手の口付けをすんなりと受け入れようとしていた自分に、ユミルは唖然とするしかない。
更に自分の右手を見れば、唾液にまみれたその手が未だにエレンのそれと繋がれたままでいる。
「き……っ!」 - 141 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 06:46:13 ID:6MAOL2VU
- 「きぃぃぃぃいっ!!!」
──バキッ
「うわぁっ!」
エレンの手を振りほどき、その勢いのままエレンの頬へと渾身の右ストレートを叩き込んだユミルは、奇声を上げながら走り去っていった。
「ごっごめん!僕が押さえてたから避けられなく……いやでも無理矢理ユミルにキスしようとした君も悪いって言うか何て言うかその……」
アルミンが後ろから羽交い締めにしていたおかげで、これ以上ない程にまともに攻撃を受けたエレン。
しかし当の本人はアルミンの弁解など耳にも入っていないようである。 - 142 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 06:51:31 ID:6MAOL2VU
- 「……アルミン、今日はもうオレに近づくな。更にろくでもない事をしちまいそうだ」
「エレン……」
切れた口の端に滲む血を拳で拭い、エレンはアルミンの顔すら見ないで静かにその場を後にした。
少しだけ見えたエレンの表情は、一言で言えば“諦め”。
ミカサやユミルに対してとった行動は、きっとエレンの本意ではなかったのだろう。
遠くなったエレンの後ろ姿。
(今日は誰かを見送ってばかりだな……)
(なんだか疲れちゃった)
思い出したかのように襲う寒さに一度だけ身震いし、アルミンは部屋へと向かい歩き出したのだった。 - 143 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 06:52:28 ID:6MAOL2VU
- ・・・・・
影が走る。
弱まったとはいえ、外はまだ冷たい雨が降り続いているという身を切るような寒さの中、人目を避けて森を目指す。
グチャグチャとした泥に足を取られながら、しかし休むことなく走り続けた影。
それは外套を頭からすっぽりと被ったエレンだった。
(怖い)
(でももう無視は出来ない)
(オレを呼ぶ声──)
(“あいつ”だ)
(倒したはずなのに)
(解決したはずだったのに)
(……なんでまた聞こえるんだ) - 144 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 06:53:36 ID:6MAOL2VU
- (最近になって少しだけ聞こえてきた呼び声。気のせいだと誤魔化せていたのはほんの短い間だけだったな)
(今までは呼び声に抗って、訓練に没頭出来ていたのに)
(もう今日にはフラフラと森の入り口にまで行ってしまうほど強い呼び声になっていた)
(ミカサにも、ユミルにも悪い事をしちまった)
(いっそ抗わないでさっさと呼ばれてりゃ良かったのかもしれない)
(解決しなきゃ。今度は、一人ででも) - 145 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 06:55:35 ID:6MAOL2VU
- 息を切らしたエレンが目指した場所、それは多少時間が経ったとはいえ到底近づきたくもない所だ。
灯りを持ってきたとはいえ尚暗い森の中を慎重に進み、疲れと緊張から浅くなる呼吸を無理に続けて平静を取り戻そうと足掻きながら辿り着いた。
見つけたのは不自然に拓けた草むらと、そこに埋もれるように鎮座する巨大な切り株だ。
「やっぱり……お前だったんだな」
化け物がいた古木の切り株から出た新芽。
今は禍々しい程に赤い実を数個つけており、ツヤツヤとした葉は雨の恵みを一身に受けているといった様子だった。
「しかしよ、新芽が育ったにしてはもうやけにデカいじゃねぇか。流石は化け物ってところ──」
「待ってたよ」
忌々しげに切り株を見つめるエレンの前に、ガサリと音を立てて唐突に木の陰から現れた人影があった。
誰かがいるはずもないと油断していたエレンは思わず数歩退く。
姿は鮮明に見えなくとも、それが誰であるかは声でわかった。 - 150 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 20:26:28 ID:6MAOL2VU
- 「クリスタ……お前なんでこんなところに?」
優しく微笑む目の前の少女は、いつからここに居たのか頭の先から足の先まで余すところ無く雨に濡れている。
またこの寒さの中、外套一枚羽織ってはいないという姿がその異様さを増していた。
「待っていたの。来てくれて嬉しい。声が届いていないのかと思った」
それは、どこか普段のクリスタとは違うたどたどしい話し方であった。
近づいてくるその姿形こそ見慣れた彼女であるはずなのに、エレンに向けられた笑顔の無邪気さは違和感を覚えるほどだ。
「待て、それ以上近づくな。……クリスタ、なんだよな?」 - 151 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 20:27:09 ID:6MAOL2VU
- 「私?クリスタじゃない。この子は一番借りやすかったから。人間ってすごい、頭の中、沢山言葉が詰まってる……わからないものだらけだけど」
笑顔を崩さないままの告白に、エレンは寒気が全身に走るのを感じた。
しかしクリスタはそんなエレンの警戒を気にもせず、木になっていた赤い実を摘んでいる。
「お前……もしかしてあの化け物なのか?」
エレンの小さな問いかけに、クリスタはピクリと反応した。
「それ私の名前?嬉しい、私には長い間名前が無かったから、とても」 - 152 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 20:28:18 ID:6MAOL2VU
- (何がどうなってるんだよ……)
エレンの目の前の少女は、本人の言葉を信じるならば“クリスタの体を借りた化け物だ”
この場に着いた時はあの木を再度切ってしまえばいいと考えていたが、そうした場合にクリスタの体がどうなるかなどエレンには見当もつかない。
(オレは一人じゃ何も出来ないのか?……いや、諦めるな。考えろ、クリスタをこのままにはしておけない)
とにかく化け物と話を続けて策を練ろう。
エレンがそう心を決めた時だった。 - 153 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 20:31:11 ID:6MAOL2VU
- 「んっ……」
ほんの少しエレンが思考に捕らわれた間に、さっと距離を縮めたクリスタの顔が視界いっぱいに広がる。
エレンの頬にはクリスタの手が優しく添えられ、唇には柔らかな感触。
「んむ……っ!」
そして差し込まれた小さな舌から受け取ったのは、痺れるような甘さの唾液だった。
「はっ……、クリスタ!何して……っ!」
「……やっと癒やしてあげられる。もう一つ、食べて……?」 - 154 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 20:34:44 ID:6MAOL2VU
- 「もう一つ……?お前いまオレに何を……」
震える声で問い掛けるエレンに、クリスタは答える。
至近距離でペロリと出して見せた舌の上には赤い実が潰れていた。
「これは“私”。今日貴方にあげたくて摘んだのものは……他の人が食べちゃったから」
クリスタの話が終わるより早く、エレンは自身に起きた変化に気づいた。
熱、そして働かない頭に霞む視界。
新たな実を口に含み、今度はゆっくりとその唇を寄せるクリスタ。
求めていた甘さがそこにある。
二つ目の実は、クリスタの舌と共にエレンの舌に絡め取られていった。 - 155 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 20:36:02 ID:6MAOL2VU
- (柔らかい……)
同じ部屋の仲間が噂していた、女の唇の柔らかさ。
経験者は自慢げに、そうでなければ想像するだけでのバカ騒ぎ。
そしてそんな話で決まって出るのはクリスタの名前だ。
しかしエレンにとって、草むらに押し倒し、貪るように唇を求め合う相手がクリスタであること──その事実から生まれる感情は罪悪感、それのみであった。
それは仲間内での圧倒的人気からだけではない。
己の親友すら彼女にその心を傾けているのだと、エレンが知っているからに他ならなかった。 - 156 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 20:36:57 ID:6MAOL2VU
- (オレはクズだ)
(このキス一つで、オレは何人の仲間を裏切っているんだ)
(たった一人の親友を裏切って、化け物に操られているだけのクリスタを汚してまで──)
「嫌なの?おかしい。私の足元に来る人間達は皆これが好きだったのに」
「……え?」
心の内の葛藤を、正確に言い当てられたエレンは少なからず動揺した。
体を押され、今度はエレンが草むらに組み敷かれる。
そして、クリスタの視線が真っ直ぐにエレンを捉えた。
「唇を合わせて、体を重ねて、心を満たす。人間はそうやって癒やし合っていた。……貴方は違うの?」 - 157 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 20:39:21 ID:6MAOL2VU
- 「お、オレは……」
「“この変化”も、その人間達と一緒なのに?」
するりと伸ばされたクリスタの手が、エレンの高ぶった陰茎をズボンの上から撫でる。
大袈裟な程に、エレンの体が震えた。
期待した刺激が与えられ、体中の熱が集まるような気さえする。
「こっち?」
そう言いながらクリスタはエレンの体のあちこちに手を伸ばした。
服をめくり上げ、その引き締まった体にキスをして、乳首に舌を這わせエレンの反応を見る。
それはまるで初めて体を重ねる恋人同士のように、手探りで始まる見よう見まねの性行為であった。 - 158 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 20:43:17 ID:6MAOL2VU
- クリスタの手や舌は、癒やしそのものだった。
触れたそばから熱が生まれ、気づけば体の疲れは少しも感じられない程に回復している。
しかし、体が元気になればなるほど、みなぎる精気も無視出来なくなってきてしまった。
「もう、やめてくれ……っ!」
「きゃっ!」
エレンはなけなしの理性をかき集め、のしかかっていたクリスタの体を突き飛ばした。
小さな悲鳴にまた心が乱れるが、距離をとって呼吸を整え、体の内に湧き上がる欲と戦う。 - 159 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 20:44:08 ID:6MAOL2VU
- 「なんで……なんでオレなんだよ!?オレはお前の枝を折ったんだぞ?憎くないのか!?それともこれが仕返しなのか!?」
エレンの叫びに、今まで笑顔を絶やさなかったクリスタの表情が変わった。
「ち、違う!私は貴方を癒やしてあげたくて……仕返し、違う」
「こんなのは癒やしじゃないんだ!オレはこんな事は望んじゃいない!」
「嘘!私、長い間ここで人間を見てた。私にはわかる、私を癒やすのは雨と光だけだけど……人間は触れ合いで心を満たしていたもの!」
それは、不幸にも孤独の中で心を持ってしまった古木の悲痛な叫びであった。
呼びかける相手も触れ合える相手もおらず、いつしか現れた人間に体を傷つけられる日々。
鋭いものが体をけずり、枝葉は千切られる。
最初は憎しみの対象であった人間……しかし長い長い孤独の中で様々に変わり行く人間は、その場から動くことさえ叶わない古木にとっての唯一の慰めだったのだ。
だから疲れに倒れそうな者には自らの力を分け与えてきた。
太い枝を伸ばし、その体を休ませる足場となった。
しかし、結局人間は人間同士で仲睦まじく寄り添うだけだ。
古木はそれを見るだけ。 - 160 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 20:45:17 ID:6MAOL2VU
- 「貴方は他の人間と違った。折れた枝を気にしてくれた。水をくれた。……初めてだった、光以外の暖かさ。だから──私の全てを掛けてでもあなたを癒やしてあげたかった」
そう言うと、クリスタは立ち上がり、するりと濡れたスカートを地に落とした。
白い太ももが露わになる、シャツを脱ぐ、下着を脱ぐ……雨に濡れたクリスタの体は、本当に兵士かと疑いたくなるほど滑らかな肌をしていた。
「ダメだ……」
目を反らそうとしても、年の近い女子の裸から目を離すのは並々ならぬ精神力が必要だ。
高ぶった陰茎がズボンの中でその硬さを増し、エレンの理性を揺さぶる。
口内は乾き、声が上手く出せない。
「受け入れて欲しい、温め合いたいの」
そんなエレンを優雅に見おろしながら、水の滴る髪の毛を軽くかきあげて、クリスタは微笑んだ。 - 161 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 20:46:17 ID:6MAOL2VU
- 暗い森の中、ランタンの頼りない灯りに照らし出された一糸纏わぬその姿は、それでも清廉さを失ってはいない。
しかし、誰も触れたことのないだろうその体を、クリスタは躊躇い無くエレンへと重ねた。
「クリス……っ!やめろ化け物!」
「嬉しい、もっと名前を呼んで。嬉しい……」
抗うエレンに向けられた曇りのない笑顔に、今度は心苦しさが込み上げてくる。
形容しがたい葛藤がそこにはあった。
(喜ぶなよ……違うんだ、オレはお前なんか……)
上機嫌といった様子のクリスタは少し体を起こすと、今度はエレンのズボンへと手を掛けた。
触れ合うほどにみなぎる精気は解放を待ち望み、一生懸命ズボン脱がそうとしているクリスタのぎこちない手つきにすらその興奮を高めていく。
そしてついに、下着をずらされ外気に触れた陰茎にクリスタの指が絡んだ。 - 162 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 20:53:30 ID:6MAOL2VU
- 「!……もう、いい、もういいから……っ!」
「……え?」
愛おしそうにエレンの陰茎に唇を寄せようとしたクリスタを、エレンは必死に抱き寄せた。
驚きに身を引こうとするその体を、力一杯抱き締める。
「なぁ、オレはもう癒されたよ、十分だ」
それはまるで子供をなだめるかのように優しい声だった。
濡れて冷えたクリスタの体をいたわるように包み込み、その髪をふわりと撫でる。
「もういいんだ。お前……お前が人間を癒やすには自分の力を削らなきゃいけないんだろ?──さっきまで実をつけて元気にしてた木が枯れかけてるじゃねぇか」
エレンの言葉に、クリスタはハッとして木に視線をやる。
古本からはえた木は葉も実も鮮やかさを失い、今にも倒れんばかりにしおれていた。 - 163 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 20:54:14 ID:6MAOL2VU
- 「あ……あれはまた力をためれば元通りに……」
「聞いてくれよ、オレは知らなかったんだ、命を削ってまでオレを癒やそうとしてくれてたなんて。それを知っただけで十分だ、お前は体じゃなくてオレの心を癒やしてくれたんだ、わかるだろ?オレはいま暖かい気持ちでいる、伝わるよな?」
エレンはそう言いながら落ちていた外套を手繰り寄せ、クリスタの体を隠すように巻きつけた。
それから改めてクリスタを抱き寄せ、言葉を続けた。
「もう周りに比べてお前だけ枯れちまうような無理はするな」 - 164 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 20:54:48 ID:6MAOL2VU
- 「……お前の寂しさはオレがどうにかしてやるから。もう自分の命を削ったりしないでいい、新しい体で精一杯綺麗な葉を茂らせてくれよ」
──オレたちはお前の体を傷つけないで済む世の中を目指してる。武器を持たないような人間が沢山森を訪れるような平和な未来の為に生きてるんだ。
「だから……だから今は体をクリスタに返してやってくれ。なんでこんな事に巻き込んじまったかわからないが、こいつもオレと共に戦う大事な仲間なんだ。オレはオレの癒やしの為にこいつを傷つけたくはないんだよ」
頼むからと、懇願するかのようなエレンの囁き。
一瞬の沈黙の後、クリスタはその口を開いた。 - 165 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 20:55:34 ID:6MAOL2VU
- 「……人間は不思議。私の見てきた人間は必死に体を求め合っていたのに。体が無くても癒やしてあげられたのね、嬉しい」
それは穏やかな声であった。
エレンやクリスタを混乱させたのとは違う、静かな声だ。
「私がこの子の中から消えても私を忘れないでいてくれる?」
それでもエレンから離れがたいと言うかのように、彼の首もとへスリスリと顔を寄せ甘えた仕草をする。
それは今まで古木が見てきた人間がしてきた仕草だったのであろうか。
「忘れない、約束する」
「約束……知ってる、人間にとって大事なもの。わかった。ありがとう。あと……もう一度私の名前を呼んでほしい」
きっとこれが最後だという時に、エレンはふと微笑んだ。
“化け物”が名前では、何かの拍子にまた化けて出てきそうだなと。
「あれは名前じゃねぇよ、今つけてやる。そうだな──」
─────
───
─ - 166 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 20:58:40 ID:6MAOL2VU
- ・・・・・
「お、今日も晴れた。良かったなぁクリスタ、お前は雨の日外出禁止だから」
「もう、体調もよくなったんだからそんなこと言わないでよ」
「……本当に何も覚えてないのかぁ?確かエレンも同じ日から風邪ひいて──」
「!お……覚えてないってば!エレンの事も知らないって何回言ったらわかるの!?」
数日後、盛大に風邪をひいたエレンとクリスタがようやく体調を戻した頃、クリスタはしつこいユミルの追求から逃げ回っていた。
「エレンも覚えてないっつーし、怪しすぎんだよお前ら!あんな死に急ぎ野郎はやめておけって言ってんのに!」
「エレンは別に悪い人じゃないでしょ。ユミルの方がエレンを気にしすぎなんだよ!」
「そ、それはあのスケベ野郎が人の指を舐めたりするから……っ!」
「あ、やっぱり気にしてたんだ。なんか様子がおかしいと思ったら……」
「こ、この野郎!かまかけやがったな!?」
「言われるのが嫌なら私のこともほっといて!」 - 167 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 20:59:17 ID:6MAOL2VU
- 二人はわいわいと騒ぎがら食堂へ来ると、いつも通りの食事を始めた。
しかし、ユミルの話を聞きながらもクリスタが意識してしまうのは目の端にうつるエレンだ。
(あ、こっちを見た……)
最近よく絡むようになった二人の視線。
だがそれは顔を赤らめたエレンがすぐに目を反らしてしまいいつも長続きはしなかった。
──
─
あの日、クリスタは夜も明けきらない頃に兵舎の隅でエレンに起こされた。
既に雨はやんでいたがお互いにびしょ濡れで。
少しでも寒さを凌げるようにと堅く絞られた重い外套を意味もなく羽織っていた。 - 168 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 20:59:56 ID:6MAOL2VU
- 「私……なんで外にいるのかな?医務室にいたはずなのに」
何も覚えていないというクリスタに、エレンの表情は複雑に変化した。
安心したような、しかしいたたまれないような、苦々しい気持ちを押し殺した表情だ。
「オレも……覚えてないんだ。このままじゃ誰かに見つかるかもしれないし、風邪ひいちまうから……とりあえず帰ろうぜ」
「うん、じゃあ……」
そのまま大した会話をするでもなく、クリスタは外套をエレンに渡すと医務室へ向かい歩きだし、エレンはその後ろ姿を見送った。
「……ごめん」
それは誰にあてた謝罪の言葉だったのか。
部屋へ向かうエレンの足取りは重かった。 - 169 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 21:00:52 ID:6MAOL2VU
- ──
─
(本当は……全部覚えてるんだけど)
操られていた間、クリスタにはエレンの考えていることが全て伝わってきていた。
化け物への恐怖、誘いに負けそうな悔しさ、クリスタへの申し訳なさ、アルミン達への罪悪感……全てが手に取るように伝わったのだ。
その中には起きた事をクリスタにどう説明すればいいのかという彼の嘆きがあった。
操られていたとはいえ、互いに裸体を晒して触れ合ったのだ。
男である自分に比べ、衝撃も恥ずかしさも段違いであろうことを気遣ってのこと。
だからクリスタは先手を打ったのだった。
──自分は何も覚えていない、と。 - 170 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 21:03:46 ID:6MAOL2VU
- それは、操られて積極的に体を求めにいった自分の事を、それでも大事に思って手を出さずにいてくれたエレンの誠意に対するせめてもの礼であった。
エレンの体に舌を這わせ、その高ぶった陰茎を握り締めた時、抑え込まれた意識の彼方でクリスタはもう清い体で兵舎へ戻ることを諦めていたのだった。
「借りやすかったから」と、化け物は言っていた。
あの日エレンに食べさせようと持ち帰った実は、全てユミルが食べたのだ。
しかしその彼女よりも、自分が弱かったから呼ばれてしまったのだ、自業自得だとクリスタは考えていた。
『何もなかったことにしよう』
ただでさえ親友を裏切ったと苦しんでいる状態なのに、自分が覚えていると知ればエレンの心はどれたけ傷つき、思い悩む種となってしまうのだろうか。
それを考えたら、何も覚えてないと言い張ることぐらいクリスタにとっては何でもなかった。 - 171 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 21:04:29 ID:6MAOL2VU
- (でも……少し複雑な気分なの)
(男の子に力一杯抱き締められたのは初めてだったから)
(『お前の寂しさはオレがなんとかしてやる』──そう言われたのは私じゃないのに……すごく、羨ましかった)
(……忘れるよ、それがエレンにとって一番いいことだと思うから)
(でも……)
(このドキドキは暫く忘れられそうにないの……) - 172 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 21:05:11 ID:6MAOL2VU
- 「……全く、エレンもエレンだよ。目があっただけであんな顔をされたら嫌でも意識しちゃうもん……」
「なんか言ったか?あ、クリスタ!またエレンを見てたんだろ~!?」
ふと口をついて出た愚痴は、あろうことか隣にいたユミルにまで聞こえてしまったらしい。
彼女に事の真相がバレてしまったら大変だ。
エレンが受ける被害は甚大な物になるだろう事は想像に難くない。
ここは口を噤むのが最善だと、クリスタはよく理解していた。
……しかし、連日のように「エレンとは何の関係もない」と主張し続けていたクリスタにも、少しだけ言いふらしたい事があった。
それは……
「なんでもないってば!ただ……」
──エレンのネーミングセンスは最悪って言っただけ!
完 - 178 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 21:14:21 ID:3K5ctKVI
- 乙。凄い丁寧な文章で好きだ
他にも書いたのがあれば読んでみたいけど、あります? - 179 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 21:22:49 ID:VGBLmZ3c
- 乙!
エロありなのにじんわり来たわ
>>1は他にも進撃書いてる?
聞いてもよければ教えて欲しい - 180 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/07/29(月) 21:32:37 ID:6MAOL2VU
- >>178
>>179
地の文ありで書くのは今回初めてだから他は全部台本形式なんですが、
進撃はユミル「キュンとしたいお年頃ってか?」
が最近の奴で、他にも10本くらい
一つ前は聖☆おにいさんクロスでイエスとブッダ「進撃の巨人?」
ってのを書きました
読んでもらえたら嬉しいです
どうもありがとう
転載元
エレン「森にて、触手誕生」
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1374320112/
エレン「森にて、触手誕生」
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コメント一覧 (39)
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- 2013年07月30日 03:11
- やった!!コメント数1ッ!!
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- 2013年07月30日 05:20
- Well is not it now or Ru when prisoners じゃ いつ犯るか 今でしょ
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- 2013年07月30日 05:39
- ほのかなエレユミ俺得
この人も色々書いてるけどヒット率高い
-
- 2013年07月30日 06:42
- あれもこの人のだったのか
このエレンもこれはこれでエロい
-
- 2013年07月30日 07:46
- エレンとヤンデレの組み合わせはどうしてこうもマッチしているのか
-
- 2013年07月30日 08:17
- 古木に萌えた
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- 2013年07月30日 08:30
- この作者のSSはどれも面白い。
ので、次はわた…ミサカとエレンで続きを書くべきだ。大丈夫この>>1には書く力がある
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- 2013年07月30日 09:20
- なんか引き込まれるんだよなぁ
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- 2013年07月30日 10:40
- アルミンSSとか最近増えたけどエレンと女の子が絡むエロSSが一番興奮するわ
原作だと女興味無いって感じとのギャップに興奮すんのかなぁ
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- 2013年07月30日 10:58
-
微妙
それと台詞の前に名前を書こうや・・・
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- 2013年07月30日 11:10
- エレンがイケメン
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- 2013年07月30日 11:24
- ※10
台詞の前に名前書こうやwwwwww
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- 2013年07月30日 11:38
- 導入部がしっかりしてればエレクリでも荒れない、はっきりわかんだね
そして※10の読書感想文が心配
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- 2013年07月30日 11:52
- 進撃読んでる層には小学生多いからね、仕方ないね
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- 2013年07月30日 12:12
-
第一部は良かったがコレはツマんなかった
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- 2013年07月30日 12:21
- もう少し古木の過去を示唆するエピソードが挟まれていれば尚良かったと思う次第
>10
台本形式じゃなきゃ混乱する程に欠片も書き分けが出来てない作品ならともかく、
本作は登場人物も少ないし書き分けも必要十分なんだから、
ちょっとはこういった書き方にも慣れようぜ
-
- 2013年07月30日 12:24
- ミッション
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- 2013年07月30日 12:36
- ※10の言ってることもわかる(いちいちそれで小学生とか読書とかいってる奴の方が精神年齢が低いかと(^^;)
自分も台詞前に名前が書いてないと読まないことはあるし(大抵そういうSSは下手だからなぁ)
登場人物が少ないか書きわけが出来てるかは読んでみないとわからんしね
まあこのSSは前回も読んでるしスレタイからも面白ろそうだったから読んだけど
-
- 2013年07月30日 13:36
- 書き分け出来てるかは読んでみないとわからない→つまり読んでみたらわかる→「微妙だ、名前入れろ!」→あれこいつ読んでなくね?
この内容で理解出来ないなら年齢も精神年齢()もお察し
-
- 2013年07月30日 13:38
- ※19
煽ってるお前みたいなアホも同レベルだから・・・呆れ
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- 2013年07月30日 13:48
- ※10=※20
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- 2013年07月30日 13:48
- ※20
まさに正論w
SSの方は俺も微妙に感じた
別の人物で書いて欲しかったな
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- 2013年07月30日 13:57
- 19のような馬鹿ガキが増えるだろうよ夏休みだし
構って欲しい煽りたいだけの馬鹿なんだからスルー推奨
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- 2013年07月30日 14:06
- エレン編は第一部で終わった感があったからなぁ
ライナーやベルトルト編を見たかった
-
- 2013年07月30日 14:19
- 古木×エレンおいしい…
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- 2013年07月30日 14:24
- 煽る訳じゃ無いけど※10wwwwwwwwww
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- 2013年07月30日 14:42
- ※10の人気に嫉妬
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- 2013年07月30日 15:16
- 照れるミカサかわいい
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- 2013年07月30日 15:19
- 結局このカップリングが嫌いなだけか
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- 2013年07月30日 18:50
- この書き方なら名前はいらんな
誰がしゃべってるかはちゃんと読んでればわかる
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- 2013年07月30日 21:09
- これで分かり難いなら原作読む事の方が100倍難解に感じるだろうね
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- 2013年07月30日 21:15
- 何回も書き込む奴ってなんなの?バレてないとか思ってんなら滑稽すぎるぞ
-
- 2013年07月31日 00:31
-
結局、古木になんて名前つけたんだろな。
-
- 2013年07月31日 00:44
- ヒストリアじゃね
-
- 2013年07月31日 01:43
- よかったよ
続きが見たいぐらい
-
- 2013年08月01日 15:37
- おもしろかった
エレンとクリスタの後日談もみたいぐらい
-
- 2013年08月04日 09:04
- このあと古木の元に足繁く通うエレンの姿が目に浮かぶよ(*´Д`)
-
- 2013年08月05日 22:31
- 名前はタイトル通り「触手」だろ
-
- 2013年11月26日 09:06
- 古木の精霊×エレンかぁ…新しいジャンルが誕生したな
なんか普通に良い話だったんで予想を裏切られたな(良い意味で)
さて、次は触手と本番ですよね?(超期待の眼差し)