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まどか「夢の中で会った……」ほむら「私の名前はほむらです」【その2】

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まどか「夢の中で会った……」ほむら「私の名前はほむらです」【その2】





432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:01:44.69 ID:WQPQ069po

#20『ストーン・フリー』


まどかとさやかと正式的に友人となり、

杏子の見滝原襲撃から数日。

織莉子が死に、キリカが失踪し、マミと手を結び、

そしてスタンドに目覚めてからプラス一日。

当時間軸の新たな習慣ができた。

あれからマミは毎日ほむらも家に誘った。

断る理由はないので、素直に甘味をいただき世間話に付き合った。

心のどこかで自己嫌悪を抱いてはいる。

感傷は敗北に繋がる。

それが前回の教訓であるというのに、内心その時間を楽しんでいる自分がいる。



433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:03:09.10 ID:WQPQ069po

ほむら「…………」

まどか「ほーむらちゃんっ」

ほむら「まどか……どうしたの?」

まどか「ん、帰りの仕度できたかなーって」


元々まどかは人懐っこい面がある。

最近はこれでもかというくらい接してくる……。

嫌ではない……むしろ嬉しいが、正直そこまで好かれる態度は取った覚えはない。

どうせ自分はいつか死ななければならない。まどかをより深く悲しませないためでもある。

だからむしろ少し距離を置かれるくらいの言動をしていたつもりだったのに。

まどからしいと言えばらしいのであるが……。

人間というものは、本当によくわからない。

……無意識の内に『あいつ』が言いそうなことを考えた自分が腹立たしい。


まどか「……?どうしたの?」

ほむら「いえ……何でもないわ」

ほむら「そうね……いつでも行けるわ」



434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:03:54.05 ID:WQPQ069po

今日もまた、巴さんの家で紅茶をいただく予定になっている。

この時間軸で巴さんから実際に数歩離れて観て初めて知ったことだが、

巴さんは本当、頻繁に知り合いに紅茶と甘味を提供している。

この時間軸以前まで毎回出席していた私は、果たしてどれだけ糖分を摂取していたのだろうか。

考えたくない疑問だが……これからはたまに欠席をすることにしよう。


まどか「それじゃ、行こっ」

ほむら「えぇ」

まどか「マミさんは?」

ほむら「先に帰って用意をしているとのことよ」

まどか「そっか」

まどか「……それじゃあ、二人きりだね。ほむらちゃん」

まどか「ほむらちゃんと二人きりになれるのって、ほむらちゃんが転入した初日以来だね」

ほむら「二人きり?」

まどか「うん。仁美ちゃんは今日もお稽古だっていうし」



435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:04:45.01 ID:WQPQ069po

ほむら「……美樹さやかは?」

まどか「さやかちゃんは病院に行ったよ」

ほむら「病院……」

まどか「あっ、そういえばほむらちゃんは知らなかったかな」

まどか「さやかちゃんは幼なじみのお見舞いに行ってるの」

まどか「上条くんっていうんだけどね、事故で入院してる」

ほむら「……そう」

まどか「お見舞い行って、そのままマミさんの家に行くって言ってた」

ほむら「わかったわ」

まどか「あ、そうだ。折角だから病院に寄ろうよ」

まどか「クラスメートだし、上条くん紹介しておいた方がいいかなって」

ほむら「……そう、ね。一応挨拶だけでも」

まどか「うんうん。それでさやかちゃんと合流して一緒に行こう」

ほむら「……えぇ」



436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:08:53.62 ID:WQPQ069po

上条恭介。

美樹さやかが恋慕を抱いている相手。

彼自身とは今までほとんど関わりがなかったと言ってもいい。

会話をした覚えすらない。ないことはないはずだ。

そして、どうやら前の時間軸で彼もスタンド使いだったらしい。

名前は確かハーヴェスト……そう聞いた。

スタンドは一人一能力一体と思っていたが、何でも複数で一体のスタンドらしい。

実際に見る前に彼は佐倉杏子によって志筑仁美と一緒に殺されてしまったが……。

故に詳しくはわからない。


ほむら「ところで、彼はどういう人なのかしら?」

まどか「バイオリンが上手」

ほむら「…………」



437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:09:40.87 ID:WQPQ069po

学校から病院への道。

知らない道ではないが、知らない振りをして歩んだ。

思えばまどかと肩を並べて二人でここを通るのは初めてかもしれない。

道中、他愛ない世間話をした。

まどかと会話をしてからは……その後の内容は今のところなんでも全て覚えている。

更衣室のロッカーの変な落書きだとかお気に入りのぬいぐるみや家族のこと。

エイミーとの出会いや勉強のこと。今後の将来のこと。

演歌が好きだと言われてそのギャップに思わず笑ってしまい、

まどかを拗ねさせてしまったこと……全て記憶している。


まどか「ほら、ほむらちゃん。ついたよ」

まどか「学校からは今通った道が一番近い」

ほむら「そうなのね」




438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:10:13.19 ID:WQPQ069po

まどか「ほむらちゃんは魔法少女とは言え……」

まどか「一人暮らしで体の弱い子なんだからね」

まどか「ちゃんと病院への最短ルートはもちろん、地理はちゃんと覚えてないとダメだよ?」

ほむら「そうね……気を付けるわ」

ほむら(何でちょっぴり得意気なんだろう)

まどか「ほむらちゃんは見滝原に来てあんまり経ってないから、もっと色んな場所を案内したいなって」

まどか「ほむらちゃんに見せたい景色。まだまだたくさんあるんだぁ」

ほむら「…………」

まどか「だから……その……」

まどか「ほむらちゃんがよければ、なんだけどね」

まどか「今度……わたしに、見滝原を案内させてほしいなって」



439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:11:05.07 ID:WQPQ069po

ほむら「……そう、ね」

ほむら「まどかにそう言ってもらえるなんて……嬉しいわ」

ほむら「いつか……喜んで案内されたいものね」

まどか「えへへ、約束だよっ」

ほむら「……えぇ」


世界の平和のためにも、レクイエムのいない未来のためにも、

私はいつか自ら命を絶たなければならない。

まどかが私に好意を持ってくれればくれるだけ、

『その時』まどかをより悲しませてしまう。

まどかの笑顔が辛い。

辛いのに、まどかの幸せそうな顔をもっと見たい。

矛盾した感情がある。




440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:12:32.89 ID:WQPQ069po

ほむら(いつだったかしら)

ほむら(この病院にグリーフシードがあったが……)

ほむら(この時間軸にはなさそう……か?)

ほむら「……ん?」

ほむら「……え」

まどか「ほむらちゃん?」

ほむら「ま、まどか……!」

まどか「?」

ほむら「落ち着いて……今すぐ、ゆっくり……そこから離れて」

まどか「え?ど、どうしたの?」

ほむら「もうゆっくりじゃない!離れなさいッ!」

まどか「!?」



441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:14:20.20 ID:WQPQ069po

ほむらの視線の先に、異常なものがいる。

白い柱に手をつけて、しゃがんでいる生物のようで生物のようでもない。

それは人の形をしていて、半透明。

当然人間ではない。

『そいつ』は背後にいるまどかに気が付いたのか、ゆったりと立ち上がり振り向きつつあった。


ほむら「早くッ!」

まどか「は、ハワッ!」

ほむら(い、糸のスタンドッ!)


ほむらは指から『糸』を伸ばし、まどかの手首に巻き付け、引いた。

まどかは見えない力に引かれ思わず転びそうになるも、すぐほむらに肩を抱かれ、転倒を免れる。

直立した『そいつ』は全長約2m。顔があり、肩があり、四肢がある。

左右の、目があるべき部分からゴムチューブのようなものが生え、

背中にかけて伸びている。悪趣味な魔改造をされたマネキンのようだった。



442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:15:06.78 ID:WQPQ069po

ほむらはすぐに理解した。

「こいつは『スタンド』である」

そして、その心当たりが一つだけある。


『……"アンダー・ワールド"……ソレガ僕ノ名前』


半透明のマネキンは、ほむらに語りかける。

当然、まどかには聞こえない。

まどかは、何もない場所を睨みつけるほむらの横顔を見つめるしかできない。


『ソウか……君ニハ僕ノ姿ガ見えルンダッたね。オメデトウ。スタンド使いにナレて』

『美国織莉子ノ件ハごシューショーサマダッタが……ソレはサテオキ』

『僕ノ能力は……地面の"記憶"を掘リ起こすコト』

『そして……魔女ノ魔力と"共鳴"シテソレヲ"結界"トスル……』

『僕のアルジの結界は"過去ノ世界"ナノだ』



443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:15:50.84 ID:WQPQ069po

ほむら「――ッ!」


魔女の結界の気配が、たった今、現れた……。

おそらく、美国織莉子の家に行った時と同じように、

結界の中は病院そのもののヴィジョンをしているのだろう。

中にいる人々は気付いているのだろうか。

空が真っ黒という異常性に気付く前に、下手をすれば……。

スタンドは、結界の中からでも外で発動ができるのか!

行かなければ!

ジシバリの魔女アーノルド!ヤツを、本体を叩かなければ!


『君ガその気ナラ、来ルトイイ、既にアーノルドノ、娘達は活動ヲ始メた……』

ほむら「なッ!」



444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:16:21.07 ID:WQPQ069po

アンダー・ワールドはガラスをすり抜けて姿を消した。

今、この病院の内部は結界が展開されている。

スタンドと魔女の性能の共鳴。それが異常な結界の正体。


ほむら「まどか……たった今、病院に魔女の結界が現れたわ」

まどか「えぇっ!?」

ほむら「あなたはすぐにここから離れて。気配を感じて巴さんがすぐに来てくれると思うから」

まどか「で、でも!さやかちゃんがッ!」

ほむら「…………」

ほむら「美樹さやかなら……助ける」

ほむら「だから、すぐに離れて」

まどか「……うん」



445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:17:29.00 ID:WQPQ069po

ほむらは変身し、脚で窓ガラスをブチ破り病院の内部に『消え』た。

外側から入った瞬間は目に見えたが、奥に向かう様は見ることができなかった。

何が起こったのか、まどかはまだ、理解が追いついていない。

取りあえず、言いつけ通り病院から距離を取ることにした。

結界の中、即ち病院の中にいる人々が心配で仕方がない。


「……おい」

まどか「ひゃッ!?」


背後から声をかけられ、体がビクリと強ばる。

振り返るとそこには赤毛の少女がいた。

まどかをジロリと睨む。

数日前、風見野から来たという魔法少女。

マミのかつての弟子だったという、杏子だった。



446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:19:32.25 ID:WQPQ069po

まどか「あ、あなたは……!」

杏子「今、魔女の結界が生じたな」

杏子「その結界に対し、あんたは正反対の方向へ走った」

杏子「ということはあんたは魔法少女ではない、と……」

杏子「味方がいるのにわざわざ逃げるっていうことはそういうことだ」

まどか「わ、わたしは……!」


杏子はあわあわとするまどかの横を素通りした。

「マミさんを殺そうとした人」……という印象しかまどかにはない。


既に結界へ入っていったほむらが狙われるのではないか、

これからここに来るであろうマミが危ないのではないか、

まどかは恐怖を感じていた。



447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:21:15.75 ID:WQPQ069po

杏子「……ふん、そんな顔をするな」

杏子「別にあたしは魔法少女じゃねぇヤツに用はねぇよ。失せな」

まどか「あ、あぅ……」

杏子「…………」

杏子(黒髪のヤツが先にあの結界に入ったな)

杏子(今までで見たことないような奇妙な結界ではあるが……それはさておき)

杏子(暁美ほむらってヤツは妙な奇術を使うヤツ)

杏子(あたしには見えない何かで、行動を封じるという芸当をやってのける)

杏子(いつかヤツと対立する日が来るかもしれない)

杏子(あわよくばそれに備えてという意味でもヤツの手札を覗ければいいのだが……)

杏子(そのためにつけてきたが、思わず収入ってところか)



448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:21:46.87 ID:WQPQ069po

――この結界は、過去の見滝原病院の姿をしている。

それがアンダー・ワールドの能力。

空いた病室に、巴マミの姿をした使い魔がいた。

そしてすぐ隣に、もう一体使い魔がいた。

それは千歳ゆまの姿をしている。

通称『Mami』そして『Yuma』がいる。

Mamiは手に赤色に塗れている『指』を持っていた。


Mami「三本?幼女の指三本欲しいの?」

Yuma「うん!うんうん!うんうんうん!」

Mami「新鮮なの三本……いやしんぼめっ」

Mami「ほら、投げるわよー。そぉ~れッ!」

Yuma「わぁー!取って!『猫さん』ッ!」


ズギャンッ!




449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:22:31.36 ID:WQPQ069po

健康的な肌色で細く柔らかく、血が滴る三本の指が宙を舞う。

使い魔のYumaは背後から人型のヴィジョン……スタンドを出した。

頭は猫のようにも見えなくもないそのスタンドの名は『キラークイーン』

能力は『触れたものを爆弾にする』……例えどんなものであろうとも。

キラークイーンは飛び交う三本の指を片手で掴む。

そして落としたハンカチを渡すかのようにYumaに差し出す。

指がYumaの手に触れると、それらは手の中に沈んでいった。

スポンジに水を垂らすように吸収する。

体で食べる。使い魔の食事法。

Yumaは満面の笑みを浮かべた。『旨み』が体全体に広がっていく。

その笑顔に対し、Mamiは衝動に任せてYumaを背中から抱き、小さな頭に手を置いた。



450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:23:24.74 ID:WQPQ069po

Yuma「んー、おいしぃ~」

Mami「よォ~しよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし」

ナデナデナデナデナデナデナデ

Mami「よく取れましたYumaちゃぁ~~ん!キャワイーわ!偉いねェーッ!」

Yuma「えへへ~」

「おいおい、餌付けしてんじゃねーよ」

Mami「ん?」

Yuma「あ!」


そこに、佐倉杏子の姿をした影が現れ、呆れた声を出した。

ドサッと音をたてながら、肩に担いでいた男性の遺体を放り投げる。


Yuma「Kyoko!」

Mami「あら、戻ってたの?」

Kyoko「今戻った」




451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:24:09.70 ID:WQPQ069po

佐倉杏子の姿をした、魔女アーノルドの使い魔、Kyokoが答える。

前の時間軸の魔法少女の概念。

かつて敵対関係にあったとしても、今は同じ使い魔同士。

姉妹のようなものである。

使い魔として産まれた時系列としては、KyokoはYumaの妹であるが、

使い魔に年功序列の制度はない。

Yumaにしてみれば、KyokoやMamiは姉のような存在であることに変わりはない。


Kyoko「Yuma、食っていいぞ」

Yuma「えッ!?いいの!?大人の死体一個丸々ゥ!」

Yuma「全部食べちゃっていいの!?ホントに!?」

Kyoko「ああ。食え食え」

Yuma「わぁーい!いただきまーす!」



452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:24:49.76 ID:WQPQ069po

Yumaは遺体の首筋に人差し指を突き刺した。

すると、遺体はみるみると水気を失っていき『溶け』ていった。

遺体は使い魔に吸い取られる。

指で食べる。アーノルドの使い魔の食事法。


Mami「随分甘いのねぇ」

Kyoko「まぁな」

Kyoko「こいつはあたしの妹みたいなもんだからなぁ。可愛いもんよ」

Mami「あら、怖いって理由で捨てたくせに?この子を最期まで世話したのは私よ?」

Kyoko「うるへー。キラークイーンが化け物過ぎるのが悪いんだ」

Kyoko「それに、こいつが大人(魔女)になれば、きっと強力なヤツになろうよ」

Mami「そうね……将来が楽しみだわ」



453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:26:34.56 ID:WQPQ069po

Kyoko「あたし達の中から最初に魔女になるヤツは……間違いなくYumaだな」

Mami「でも、いいの?」

Kyoko「いいんだよ。別にこいつがあたしより先に魔女に育とうが別に『問題』はないんだからな」

Mami「それもそうかもしれないけど……」

Yuma「けっぷぃ」

Yuma「ごちそーさまでした!」

Kyoko「……おい、待て。髪の毛が残っているぞ」

Yuma「うっ……だってだってぇ、この髪の毛水気が少なくてマズイよ」

Mami「あら、ダメよ。好き嫌いは」

Kyoko「食い物を粗末にするなよ。どうせちょっとしかないんだから我慢してでも食え。折角殺したんだからな」

Yuma「うぅ、はぁ~い……うえぇー!まずーっ」

Yuma「ちゃんと食べたよ!」

Kyoko「よし。ちゃんとな。偉いぞ」

ナデナデ

Mami「たくさん食べて大きくなるのよ~。よしよしよしよしよしよし」

ナデナデ

Yuma「えへへへぇ……でもYuma、なでなでされるの大好き」



454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:28:17.35 ID:WQPQ069po

Yuma「Kyokoとお姉ちゃんと一緒にいれて……Yumaホント幸せぇ」

Mami「ああ……可愛い。何て可愛いの……!」

Kyoko「甘やかすなっつーに。あたしが言えた立場じゃあねーが」

Kyoko「……さて、愛でるのもこれくらいにしてここで報告だ」

Mami「報告?」

Kyoko「ここに魔法少女が来たぞ」

Yuma「魔法少女!」

Mami「随分早いわね」

Kyoko「何でも結界を作った時たまたま近くにいたらしい」

Mami「あらら……やっぱり病院を狙うのはマズかったんじゃあないの?」

Kyoko「かもな。だが今はたくさん食い物が必要なんだよ。長所と短所は表裏一体」



455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:29:13.02 ID:WQPQ069po

Kyoko「さ、Mamiはアーノルドの護衛に回ってくれ」

Mami「アイアイサー」

Kyoko「あたしはどうしようかな」

Yuma「Yumaは!?Yumaはっ!?」

Kyoko「あん?テキトーなとこほっつき歩いて食べ歩きでもしてろ」

Mami「いい?魔法少女には近づいちゃダメよ?」

Yuma「Yumaを子ども扱いしちゃ嫌!猫さんいるもん!」

Kyoko「確かに過保護もよくないが……あまりあたし達を心配かけさせるなよ」

Mami「そうそう。私達はあなたが大切なんだから」

Yuma「大切……えへぇ」

Kyoko「ってことで、怪我しない範囲で遊んでな」



456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:30:06.70 ID:WQPQ069po

――夕日の差した病室。


交通事故で左腕と両脚を怪我している入院患者の少年と、そのベッドに腰をかける見舞客の少女。

上条恭介と美樹さやかがそこにいる。

二人は、一つのイヤホンを共有して、片耳からCDのデータを聴いていた。


恭介「……いい演奏だ」

恭介「気に入ったよ。本当にありがとう、さやか」

さやか「お土産……気に入ってもらえてよかった」

恭介「さやかはレアなCDを見つけてくる才能があるね」

さやか「えへへ、このCD見つけるのにチト苦労したよ」

恭介「うん。ありがとう」

恭介「もうちょっと寄った方がいいんじゃないかな」

さやか「あっ、う、ううん。大丈……」

さやか「……うん」



457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:31:08.91 ID:WQPQ069po

心地の良い気分だった。

さやかがバイオリンの気品ある音色に魅了されたのは、

隣にいる幼なじみがきっかけである。

幼い頃に聴いた、彼の奏でた旋律は今でも脳裏に残っている。

この心地よさは、バイオリンのソロパートが美しいからだけではない。


さやか「……な、なんだかちょっと暑くない?」

恭介「そうかな」

さやか「窓開けていい?」

恭介「でもこの時間帯は太陽が眩しいんだよ」

さやか「大丈夫。カーテン閉めるから」

恭介「窓開けてカーテン閉めても風で……」

さやか「でも暑いんだよ恭介」




458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:31:58.63 ID:WQPQ069po

恭介「……言われてみれば、確かに少し蒸すような」

さやか「でしょ?」

さやか「さやかちゃん汗かいちゃったよ」

恭介「おかしいな……さっきまではそんなでもなかったのに」

さやか「去年の初夏並に暑い」

恭介「あー、ちょっとわかる。確かに去年の夏は特に暑かったよね」

さやか「うんうん」

さやか「窓開けていい?」

恭介「いいよ」

さやか「全開だー!」

恭介「この窓はちょっとしか開かないようになってるよ」

さやか「なーんだ」



459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:33:00.60 ID:WQPQ069po

恭介はCDジャケットを見つめ、好きな曲のトラック番号を確認する。

さやかはその様を横目に見ながら窓へ歩み寄り、カーテンを摘んだ。

橙色のカーテンの隙間から、漆黒の景色がチラリと見えた。


さやか「今日はいい天気だったか――」

さやか「……ら?」

恭介「ん?どうかした?さやか」

さやか「あ、いや……その……」

さやか「……ねぇ、恭介、今何時?」

恭介「今?えっと……六時」

恭介「六時だって?随分と遅くなってしまったね」

恭介「さやか、そろそろ帰った方が……」



460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:33:44.87 ID:WQPQ069po

さやか「違うよ……まだ、そんなじゃないよ……」

恭介「え?」

さやか「何で……?」

恭介「いや、何でと聞かれても……」

さやか(何で……この部屋、夕日が差してたのに……)

さやか(何で『空が真っ暗なのに夕日が差している』わけ……?)


カーテンはオレンジ色。

ベッドも、床も、病室全体。

恭介も、そして自身までもカーテン越しの夕日によって橙色に染められていた。

しかし、空は、窓が黒のインクで塗りたくられたかのように黒かった。

太陽がない。まるで洞窟の中のようだった。




461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:34:29.45 ID:WQPQ069po

恭介「……どうかした?さやか」

さやか「…………」


さやかは理解した。

これは『魔女の結界』である、と。

自分たちどころか、病院そのものが魔女の結界に取り込まれた。

魔法少女という事情を知り、体験していたからこそ理解ができ、冷静でいられる。

同時にこみ上げてくる恐怖。

マミの『おまじない』のかかったバットは当然持ち合わせていない。

そして、歩けない怪我人がすぐ側にいる。

使い魔に襲われたら、どう対処すればいいのか。

まずさやかは、幼なじみを怯えさせないよう、動揺を押し殺した。



462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:35:18.34 ID:WQPQ069po

ジシバリの魔女アーノルドの結界の特徴。

アンダー・ワールドというスタンドの力が利用されている。

アンダー・ワールドは、その土地が記憶してる『過去の事実』を掘り起こす能力。

そしてその光景を、アーノルドは丸々結界とできる。

スタンド攻撃が結界の生成。見た目がほとんど変わらない結界。

場合によっては、魔法少女にもスタンド使いにも気付かれない。

この病室の夕日は、過去の事実に過ぎない。

六時という時間も、気温も、湿度も過去の事実に過ぎない。

この病院は『去年の初夏午後六時の事実』という結界に変異していた。


さやか「あ、あのさ……恭介」

恭介「何だい?さやか」

さやか「その……えっと……」



463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:36:00.35 ID:WQPQ069po

恭介「とりあえず、さやか」

恭介「もうそこの時計を見てみなよ。もう六時。だからそろそろ帰った方がいいよ」

恭介「すぐに暗くなってしまう」

さやか「あ、あはは……優しいね、このあたしを気遣ってくれてるのね」

恭介「……?」

恭介「ねぇ、さやか。何だか顔色が悪いけど……本当に大丈夫かい?」

さやか「は、ははは……」

さやか(マミさんでも転校生でもいいから早く助けに来て……ッ!)

恭介「……外を見てたけど」

恭介「外に何かいたのかい?」

さやか「――ッ!」



464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:36:27.44 ID:WQPQ069po

グイィッ

カーテンの隙間から、黒のべた塗りの世界が見える。

見せてはならない。

さやかは恭介が窓の外を見ようとしたため、その首を固定させた。

顔に両手を添え、目線を自分の目に合わさせる。

互いの顔は橙色の事実で朱色に染まっている。


恭介「ッ!?」

さやか「……!」

恭介「さ、さやか……?」

さやか「う……うぅ」

さやか(こ、こんな時に何やっちゃってんのあたし……!)

さやか(で、でも……恭介には、この異常な光景を見せるわけにはいかない)

さやか(どうすればいい!?あたしは何ができる!?)



465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:37:01.26 ID:WQPQ069po


「ヒュ、ヒューヒュー!おあついねー!」


さやか「!?」

恭介「!?」


可愛らしい子どもの声が病室に響いた。

そこには、声相応の童女がいた。

少女向け戦闘アニメのヒロインのコスプレのような衣装を着ている。

ネコミミとその色彩はとても目立つ。

首もとの大きなリボンの真ん中に、宝石のようなものが光る。


さやか(え……何……?この子は……)

さやか(なんちゅー格好を……親の顔が見てみたい)

さやか(い、いや……まさかその格好……『魔法少女』なんじゃあ?)

さやか(魔女の結界も急に出てきたし……こんな小さい子が魔法少女なんてことも……!)



466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:37:42.39 ID:WQPQ069po

恭介「……え、えーっと?」

さやか「あんたは……?」

「ゆまの名前なんてどうでもいいよ」

ゆま「それよりも、実はさやかに用があってね」

さやか「え?あたし?」

さやか「何であたしのことを知ってるの……?」


魔法少女はとことこと二人に歩み寄る。

さやかの動揺している顔、恭介の混乱している顔、それぞれを見る。

そして、魔法少女はさやかの目をジッと見る。


ゆま「そんなこともどうでもいいの」

ゆま「さやかは、そこのお兄ちゃんのことが好きなんだよね?」



467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:38:23.84 ID:WQPQ069po

さやか「は、ハァッ!?」

さやか「ちょ、ちょちょ!い、いきなりあんた何を言ってるのよ!」

恭介「さやか……?この子、知り合い?」

さやか「知らないよぉ!初対面!」

さやか「えっと、ゆまちゃん……だっけ?あんた何者なの?答えてよ」

ゆま「ごめんね?」

さやか「質問文にはごめんなさいって答えるよう小学校で習ったのかーっ!?」

恭介「さ、さやか……子どもにそういう言い方は……」

さやか「ちゃんと答えなさい!お父さんとお母さんは!?」

ゆま「……ごめんね?」

さやか「ひ、人の話を聞きなさ……」



468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:40:13.99 ID:WQPQ069po

ゆま「キラークイーン」

ゆま「能力は触れたものを爆弾にする能力」

ゆま「……あの世で幸せになってね」

さやか「え?」

恭介「へ?」


ドアを開ける音もたてずいつの間にか現れた魔法少女は、

突飛なことを言い出して二人の時間を静止させた。そして、叫んだ。


Yuma「爆発しちゃえ!」

カチリ

千歳ゆまの概念、Yumaはスタンド能力を発動させる。

キラークイーン、その能力は『触れたものを爆弾にする』

キラークイーンは、恭介に触れていた。

細い少年の体から白い煙が噴き出される。

二人は自分自身に何が起きたのかもわからないまま、視界が今の空のように暗くなった。



469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:41:00.14 ID:WQPQ069po

――暁美ほむらが、アンダー・ワールドの世界を結界とした空間に突入し、

それを追って佐倉杏子が突入した頃。

佐倉杏子は、初めて入る病院を歩き回った。

患者や職員は、処方を待ち、歩き回っていたり、各々の時間を過ごしていた。

槍を持っている少女に一切の関心を向けない。

空が黒い以外は至って普通の光景に見える。


杏子(……なんだ?この結界は)

杏子(何で、こいつらは気付いていないんだ……?)

杏子(空が黒いなんて異常な光景……気付かない方がおかしいぞ)

杏子(それどころか、壁についている『血痕』にも『あたし自体』にも気付いていないようだが……)

杏子(何人か人が死んでるのにこれは……まさか、この人間が使い魔か?)

杏子(いや、それはない……もしそうなら既にあたしを襲っているはずだし……)

杏子(何より経験でわかる。こいつらは本物の人間だ)

杏子(こいつら……耳も目もおかしくなっているのか?)

杏子(魔女の口づけでももらってるんじゃなかろうか?)

杏子「まるで『幻覚』でも見ているかのようだ……」



470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:42:07.42 ID:WQPQ069po


「メモリー・オブ・ジェット……黒琥珀の記憶」


杏子「……ん?」

「黒琥珀の宝石言葉は忘却……」

「今、特定の人間以外はここで殺戮が行われていることを認識していない」

杏子「……てめぇ、いつの間に来やがっった」

杏子「初めから病院にいたのか?」

「いくら騒ごうと、発砲しようと、誰もその音を認識しない。そして気付いたら殺されている」

杏子「……マミ!」

マミ「そうねぇ……初めからいたわ」


失って初めて家族同然の大切な存在だと気付いた、ゆま。

そのゆまを奪った、憎き黄色い魔法少女。

マミが今、診察室から優雅に歩いて現れた。



471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:43:02.20 ID:WQPQ069po

マミ「これはまさに……幻惑魔法」

マミ「一般人にきゃーきゃー逃げ回られて騒がしいのはうっとおしいものね」

マミ「魔女を探しているの?また使い魔は無視するのね?」


優しく見えるが裏のありそうな、かつての師の微笑みが杏子の威勢を逆撫でする。

数歩前に歩み寄ったマミに対し、槍の石突きを思い切り床に打ち付ける。


杏子「やかましゃぁぁぁ――――近寄るなッ!」

杏子「テメーとは口をきかね――って言っただろォォッ!」

マミ「まぁ、酷い言いようね」

マミ「……そんなこと言ってたっけ?あなた」

杏子(こいつッ……!)



472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:43:45.72 ID:WQPQ069po

メモリーオブジェットだかオードリーヘプバーンだか知らねぇが、ふざけたこと抜かしやがって……!

こんなふざけたヤツが……あたしからゆまを奪った!

散々きれい事並べていたが、内面はドス黒い邪悪のドクズ!

今のあたしには、あんたは使い魔や魔女と同類に見えているよ……。

心なしか、結界に漂う使い魔の気配とあんたのオーラがごっちゃになってきている。

……殺す。

恨み晴らさでおくべきか。


杏子「ブッ殺す!」

マミ「ブッ殺すなんて……乱暴な言い方ね」

マミ「どう思う?『母上』?」

杏子「……はは、うえ?」



473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:44:26.66 ID:WQPQ069po

マミが出てきた診察室から、

ノシノシと大きな『生物のようなもの』が現れた。

大人のトラに近い大きさの、四足動物。

――ラブラドール・レトリバーに少し似ている。

三原色の油絵の具を手当たり次第に混ぜ同量の白を入れたような色彩をしている。

首と思われる位置、そこに一文字に傷がある。

そこから赤色の液体が止めどなく流れている。

体内から流れる赤い液体ということで、それは血のように見えた。

しかし、ベチョリ、と粘り気を思わせる音をたてているところから、血ではないだろう。

もしくは、そういう血なのだろう。少なくとも体液ではある。


杏子「こ、こいつ……そんな……馬鹿な……!」

杏子「あり得ない……どうしてだよ……どういうことなんだよ……!



474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:45:11.41 ID:WQPQ069po

杏子「どうして『マミ』が……」

杏子「マミが……『魔女』を……!?」

杏子「な、何なんだよ……!」

杏子「何が起こって……いるんだよ……!?」


金色のロール髪。ベレー帽、コルセット、スカート。

片手にはマスケット銃。

確かにマミの姿がそこにいる。この姿が、ゆまを撃ち殺した。

見間違いはない。


マミ「ふふ……少し、惜しいわね……私は『Mami』の方」

杏子「マ……ミ?」

Mami「ノンノン、Mami……そしてこちらは『アーノルド』……あからさまに男性名だけど気にしないでね」




475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:46:14.43 ID:WQPQ069po

Mami「ささ、母上。ここは危険です。お逃げになってください」

杏子「ア、アーノル……ド……?」

杏子「ど、どっかで聞いたような……どこ、だったか……」

Mami「でも、確かに私は巴マミでもある。間違ってはいない」

Mami「何故なら、私は前の時間軸の巴マミという概念だから」

Mami「私は巴マミという事実」

杏子「……?……!?」

Mami「飲み込みが悪いのね」

Mami「私は使い魔だと言っているのよ」

Mami「ジシバリの魔女アーノルド。その使い魔」

杏子「使い……魔……」

Mami「そう。使い魔」

Mami「アイ カピート?」



476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:47:07.03 ID:WQPQ069po

体が動かない。

脳が現状を受け入れず、動くことができない。

杏子はパニック状態に陥った。

魔法少女が魔女を庇う。

そういうのも世の中に一人くらいはいるかもしれない。

しかし、目の前の魔法少女は使い魔と名乗った。

悪魔に魂を売るようなノリで、魔女の配下にでもなったのだろうか、

それはない。魔法少女の経験でわかる。

魔力の波長というもので、目の前の魔法少女が使い魔であることが、

今、ハッキリとわかった。気のせいではなかった。

使い魔でいて、巴マミでもあると語った。

自分が知っている巴マミとは違う巴マミ。



477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:47:54.29 ID:WQPQ069po

頭の中で情報がグルグルと回っている内に、

犬のような姿の魔女は姿を消していた。

病院の姿をした結界の、どこかへ消えてしまった。


杏子「使い魔……」

杏子「どっちなんだよ……」

杏子「あんたは……魔法少女だ。そういう『波長』がある……」

杏子「でも……使い魔の波長もある……」

杏子「何なんだよ……意味わかんねぇよ……」

杏子「時間軸って何なんだよ……!」

Mami「私は……魔法少女と使い魔両方の概念を兼ね備える」

Mami「時間軸という言葉に関しては……暁美さんにでも聞いてみなさい」



478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:49:22.36 ID:WQPQ069po

こ、こいつ……こいつは……!

そうだ……わかり、かけてきた……『そういう使い魔』だ。

暁美……暁美ほむら。

マミとほむらが言っていた……。

人と『同じ姿』をした……使い魔。

そういうのがいる。

それはわかった。今、理解した。

ということは……!そ、そんな……そんな!

実在しただなんて……そんな使い魔が……いるなんて……!

本当だったんだ……マミの言ったことは……!

だったらあたし……あたしは……マミのことを……。

あたしは、本物のマミを『こんなこと』で殺したかったのか!?




479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:49:54.10 ID:WQPQ069po

Mami「思い込みというのはやっかいなものよ……」

Mami「真実だと思い込んでいたところ、それが異なるものだとつきつけられた時……」

Mami「人はそれにより動揺し、隙を生んでしまう」

Mami「これで、あなたは殺されてしまう」

杏子(そんな……あたしってやつは……)

杏子(あたしは……何で……こんな……)

杏子(何で、マミが人殺しなんてするわけないって思わなかったんだ……)

杏子(普通に考えて……ありえないだろうが……馬鹿か、あたしは……)

杏子(……心の)

杏子(心のどこかで期待してたのかもしれない)

杏子(グリーフシードのために使い魔を放ったりするあたしと、それを否定する立ち位置であるべきマミ……)

杏子(心のどこかで、そんなあたしとマミが『同じ』であって欲しいって、思っていたのかもしれない)

杏子(『人殺しのマミ』というものを、どこかで正当化したかったのかもしれない……結局は同じなんだって……)



480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:52:01.11 ID:WQPQ069po

杏子(……シケた人生、だった)

杏子(家族もゆまも、あたしのせいで死んだ)

杏子(自業自得ってやつだよ。あたしみたいなヤツにとっては……)

Mami「苦痛を与えずに死なせてあげる」

Mami「それが、佐倉杏子という概念へのせめてもの情けよ」


Mamiはマスケット銃の口を、杏子の胸に向けた。

抵抗をする気が湧かない。

目の前の使い魔が「マミそのもの」でもあることがわかっている。

――今のあたしではマミには勝てない。

深層心理にそういう考えがあった。

防衛のために戦うことを放棄した、生存を諦めた魔法少女。


空気を劈く銃声が響いた。




481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:53:01.17 ID:WQPQ069po


杏子「…………」

杏子「……?」

Mami「ブッ……ゴホッ」

杏子「……なんだ?」

Mami「ゲブッ……こ、れ、は……!」


杏子が目を開けると、マミの顔が苦痛に歪んでいた。

口からドロドロとした液体を垂れ流し、右胸に小さな穴が空いていた。

佐倉杏子はその傷――「銃創」を知っている。


杏子「こ、これは……」

「怪我はない?佐倉さん」

杏子「まさか……!」

「無抵抗にやられるなんて……あなたらしくない」

杏子「ま……『マミ』ッ!?」




482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:53:52.55 ID:WQPQ069po

背後から、優しい声が聞こえた。

先程まで前方から聞こえていた声と同じだが、

とても懐かしい気持ちになる。

この世界のマミと、前の時間軸のマミが対峙する形となる。


マミ「でも大丈夫よ、佐倉さん」

マミ「私が来た以上……あいつらの好きなようにはさせない」

杏子「マミ……」

Mami「結界ができて五分足らずで来るとは……」

Mami「やはり……結界は、出すタイミングがシビアね」

Mami「アーノルドにもう少し知性があれば……」



483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:56:23.93 ID:WQPQ069po

マミ「暁美さんから聞いたときは、正直半信半疑ではあったけど……」

マミ「私そのものね……録画したビデオでも見てるみたいで気味が悪いわ……」

Mami「それは光栄ね」

マミ「とにもかくにも、まずはあなたを葬らせてもらう」

Mami「…………」

マミ「佐倉さん!あの時みたいに、一気に一緒に決めるわよ!」

杏子「……あの時」

杏子(まだ……あたしが素直だった時……)

杏子(マミさんと一緒に……戦っていた時……)

杏子「……マミ」



484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:58:00.08 ID:WQPQ069po

Mami「…………」

Mami「やれやれ、ね……」

マミ「さぁ、いくら私の概念と言えど、この状況……勝ち目はないでしょうね」

マミ「私とのミラーマッチだけではなく、佐倉さんまでいるのだから!」

杏子(……あたしとマミ)

Mami「……ダメダメね」

杏子「…………」

Mami「あなたは何もわかっていない」

マミ「……なんですって?」

マミ「この状況で、何を言い出すかと思えば……」

Mami「あなたはジシバリの魔女アーノルド親衛隊『Versace(ヴェルサス)』の恐ろしさを理解していないッ!」



485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:58:38.22 ID:WQPQ069po

バシュッ!

マミ「……ッ!?」

杏子「マ、マミッ!?」

マミ「な……あなた、何を……?」

杏子「こ、これは……!?」

マミ「今……何をしたの……!?」


マミの左手から、突然血が流れ出てきた。

さらさらした血がだらだらと垂れ落ちる。

唐突だった。

突然、左手全体に激痛が走り、血管を破った。

何が起こったのか、視認できなかった。

音も気配もなく、攻撃を喰らってしまった。




486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:59:24.96 ID:WQPQ069po

マミ(私の……手が……?)

マミ(この距離……まさか、撃たれ、た……の?)

マミ(私はいつ……撃たれた?発砲音も聞こえなかった……)

マミ(……まさか)

マミ(まさか……これが……)

マミ(これが暁美さんの言っていた……『スタンド』という能力……!?)

マミ(スタンドが……私の左手を喰らったとでも言うの!?)

マミ「……に」

マミ「逃げてッ!」

杏子「!」

マミ「逃げて!佐倉さん!早く!」

杏子「な、何を……!」

マミ「くっ……!」



487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 22:59:51.19 ID:WQPQ069po

『予感』がした。追撃が来るという勘。

マミは床を蹴り、杏子の前に割り込んだ。

体を回転させ、敵に背を向ける。

その瞬間、マミはスタンド攻撃を喰らった。


マミ「ガファァァッ!……う、ぐぅ……!」

杏子「マミッ!?」


背中に満遍なく痛みが走る。

剣山のマットに背中から倒れ込んだかのようなダメージ。

背中全体から血が流れているような感覚。温かい液体で服が濡れている。

魔法で痛覚を遮断し、考える余裕を作る。

――どうすればいい。何が起こった。



488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:00:35.32 ID:WQPQ069po

マミ「カハッ……!」

マミ(私はさっき……何をされた?)

マミ(目の前の『私』は……銃を撃つ予備動作が一切なく、私の左手を攻撃した……)

マミ(銃を出さずに銃撃はできない……)

マミ(やはり間違いない……これは、暁美さんが話していた……)

マミ(持っていないと見えない能力……『スタンド』という……概念……!)

マミ(そっちの世界の私も『それ』を持っている……)

マミ(スタンドだとして……何をされたのか……)

マミ(……『勝てない』)

マミ(私はもちろんのこと……佐倉さんも……)

マミ(見えない能力に勝ち目はない……どちらにしても……)

マミ(この負傷では……『負け』る)



489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:01:31.97 ID:WQPQ069po

マミ「佐倉……さん……」

マミ「逃げな……さい」

杏子「マ、マミ……どういうことだよ……」

マミ「今のままじゃ勝ち目はないわ……あなたも、私も」

マミ「あなたは……逃げて」

杏子「何で……マミ……あたしは……」

杏子「あたしは……あたしはあんたを殺そうとしたのに……」

杏子「何で助けるんだよ……!?何で庇ったんだよ……!?」

杏子「あんたこそあたしを置いて逃げればいいじゃあねーかよ……!」

マミ「…………」

マミ「……あなたのことはいつだって大切に思っていたわ」

杏子「……!」



490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:02:14.37 ID:WQPQ069po

杏子の目に、涙が浮かんでいた。

混乱と恐怖。マミはどことなく杏子のその表情に懐旧を覚えた。

この負傷。敵に背を向けて走れる自信がない。

敗北を悟った。しかしただでは負けられない。


マミ「佐倉さん……いい?」

マミ「暁美さんを頼りなさい……会ったことあるわよね……?」

杏子「…………」

マミ「私は……暁美さんを支えたいと、心の底から思っていた」

マミ「だけど……それはもう無理そう」

杏子「……え?」

マミ「だからあなたに『託す』わ……」

マミ「あなたが、暁美さんと一緒に……戦うの」

杏子「マ……マミ……?」



491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:02:45.02 ID:WQPQ069po

マミ「暁美さんには、使命がある……」

マミ「暁美さんには、辛く悲しい過去を背負っている」

マミ「そのためには……あなたの力が必要になる」

マミ「佐倉さん……継いでちょうだい。私の遺志を」

杏子「マミ……!あ、あたし……」

杏子「あたしは……!」

マミ(……ごめんなさい。暁美さん)

マミ(あなたにとって鹿目さんはどれだけ大切な人か、心で理解している)

マミ(ワルプルギスを越えた後、鹿目さんを任されたものね)

マミ(でもちょっと、無理そう……でも、代役は用意したわ)

マミ(せめて一度でもあなたの笑顔が見たかったけど……)

マミ(短い間ながら、あなたと友達でいられて、よかったわ)



492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:03:25.42 ID:WQPQ069po

Mami「ごめんなさいね。『私』……」

Mami「あなたを殺すのは、使い魔として産まれた故の使命であり生態であり、私の運命なのよ」

Mami「ゆまちゃんを殺したのもそう。可愛かったのに」

マミ(この気持ち……何かしら)

マミ(佐倉さんを託したことで、まるで今までの人生全てに満足したかのような……)

マミ(体が軽い……こんな気持ち初めて)

杏子「あたしはッ!」

マミ「さようなら、佐倉さん」

マミ「私の代わりにこの街を守って」

マミ「そして、暁美さんを幸せにしてあげて!」

杏子「マ……」



493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:04:18.97 ID:WQPQ069po

マミは力を振り絞り振り返った。

背中全体が真っ赤に染まっていた。


マミ(体を糸にする能力と私のリボン……糸とリボンは似ている)

マミ(だから『それ』のノウハウを教えられればと思っていたけど……残念ね)

マミ(でも……暁美さん。せめて私の気持ち、受け取ってちょうだい)

マミ「ティロ・ボレー!」

杏子「マミィィィィィィィッ!」


残る魔力全てをマスケット銃の生成に使った。

激痛を和らげるための魔力さえそれにあてる。

全身が焼け付くような感覚を覚えたが、

痛み、生命、それらを超越した使命がある。



494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:04:57.74 ID:WQPQ069po

Mami「ティロ・ボレー……マスケット銃を複数展開し一斉射撃を行う技……」

Mami「数で攻めようってことね……しかし私相手に数で攻めるのは悪手よ!」


何十丁ものマスケット銃が宙に展開され、

それらの全てが一斉に発砲する。

一発一発の銃声が重なり、爆発のような音が院内に響いた。


Mami「……見苦しいわよ、『私』……」

Mami「スタンド使い相手に無能力者が突っ込むだなんて……」

Mami「手ぶらの少女が恐竜とタイマンを張るようなもの」

マミ「…………」


しかし、実際にその銃撃がMamiに届くことはなかった。

リボンから作られたマスケット銃とその銃弾はボロボロに解けていき、

砂漠の砂のようにサラサラと溶けていった。




495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:05:47.06 ID:WQPQ069po

リボンだった粉がMamiにかかった。

それを払いながら、使い魔は言う。


Mami「私のスタンドであなたのソウルジェムを砕いた」

Mami「ソウルジェムの破壊は魔法少女にとっては即死の急所」

Mami「私のように、使い魔なら少しは使用が異なるけども……」

マミ「…………」

ドサッ

マミの体は力を失い、床に倒れ込んだ。

変身が解ける。

背中の傷はそのままであるため、

ベージュ色の制服はじわじわと赤く染まっていった。



496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:07:19.00 ID:WQPQ069po


Mami「さて、佐倉さん。次はあなたよ」

Mami「かつての師匠の美しい死に様を見て、あなたはどう思った?感想を聞きた――」

Mami「なッ!?」

Mami「こ、これは……!?」


使い魔は目を丸くした。

杏子がいた場所に『穴』があいている。

スタンド能力、クリームで飲み込んだ跡では決してない。

歪な円が、唐突にぽっかりと開いている。

床にはいくつか皹が走っていた。


Mami「…………」

Mami「そうか、なるほど……」



497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:09:16.80 ID:WQPQ069po

穴を覗くと、下の階層の、瓦礫で散らかった床が見えた。

瓦礫のいくつかは不自然に払いのけられた痕跡がある。

血の付いた瓦礫片があることから、何かで切ってしまったのだろう。


Mami「ティロ・ボレーの弾幕と自分を陰にして……」

Mami「銃声に紛れさせつつも床を破壊したね」

Mami「それで佐倉さんを下の階に床ごと落とした」

Mami「そして無理矢理逃がしたのね」

Mami「佐倉さんを逃がすために……」

Mami「自分の命を犠牲にした最期の策」

Mami「ふぅん……」

Mami「………………」



498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:10:42.79 ID:WQPQ069po

Mami「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

Mami「アァーハハハハハハハハハハハ!フフフハハハハハハハハハハハハ!」

Mami「ウフハハハハ……私ってば……大したタマね」

Mami「ほんのわずかな時間だったけど、二転三転する展開の早い戦いだったわ」

Mami「いいでしょう、いいでしょう。敬意を表しましょう」

Mami「かつての愛弟子の魂はまだあずけておくわ」

Mami「あなたは魔法少女としての誇りを託し、魔法少女の真実を知らないままに逝けた」

Mami「これ以上ない幸せな死……それにかっこよかったわ」

Mami「いいものが見れた……あなたのことは誇り高い戦士として、一生忘れることはないでしょう」

Mami「ディ・モールト・グラッツェ」


その身尽きても魂は死せず。

巴マミは、杏子に遺志を託し――死亡した。



499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:11:17.59 ID:WQPQ069po


――病室に、一体の使い魔がいる。

ベッドの足下に、人が倒れている。

使い魔Yumaは、天井を見る。

時系列は、たった今マミが死亡した時。


Yuma「……?」

Yuma「今の音はなんだろう……」

Yuma「お姉ちゃんかKyokoが頑張ってるのかな?」

Yuma「…………」


キラークイーンで、上条恭介に触れた。

そして、爆発させた。

――さやかを爆弾にしなかったのは、情けからである。



500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:11:45.97 ID:WQPQ069po

前の時間軸、ゆまはさやかも好きだった。

親しみがある。

殺すことには違いないが、爆弾にして『無』にするのも憚れたためである。

しかし、その情けは使い魔としては間違いである。

『さやかは微かに生きて』いた。

爆弾が目の前で爆発したが、ぼやけた視界が映っていた。

運がよいのか悪いのか、殺されることができなかった。


さやか(……ぅ)

さやか(…………)

さやか(……あたし……寝てた?)



501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:12:58.30 ID:WQPQ069po

さやか(声が出ない……体も動かない……?)

さやか(何が、起こったの……?)

さやか(思い出せない……)

さやか(頭が……ぼー……っとして)

さやか(それに何か……寒い。……冷房効いてるのかな)

「……大変なことになっているね」

さやか(……キュゥ、べえ?)


ぼんやりとした白い塊が見える。

聞き覚えのある声が脳に響く。




502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:13:30.11 ID:WQPQ069po

QB「こんな状態になって、よく生きていたね」

さやか(こんな……状態……?)

さやか(あたし……どうなってるの……?)

QB「魔法少女ならまだしも……」

QB「人間がここまで部位を『失って』も生きていられるケースは少ない」

さやか(失……?)

さやか(何を、言って……)

QB「意識があるケースとなるともっと絞られる」

さやか(…………)

QB「君は運がいいというものだ」



503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:14:01.69 ID:WQPQ069po

さやか(そうだ……あたし……)

さやか(恭介が……目の前で……なんか、爆発……みたいな……して……)

さやか(そ、それで……あたしは……)

さやか(……!)

さやか(あ、あたしは……!)

さやか(い、いや……やだ……!)

さやか(た、すけ……て!)

QB「運がいい……と言ったのは……」

QB「意識があれば契約の意思表示ができるということだ」

QB「幸い、千歳ゆまの姿をした使い魔は、僕達のやり取りに気付いていない」



504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:14:43.82 ID:WQPQ069po

さやか(助けて!)

さやか(キュゥべえ!助けて!)

さやか(あたし……あたし、死にたくない!)

さやか(こ、怖い……だんだん痛みを感じてきてる気がする……!)

さやか(早く!早く治して!)

QB「それが君の願いだね?」

さやか(助けて……!し、死んじゃう……!)

さやか(早く……早く助け……てェ……!)

さやか(い、息が……できなくなって……は、早く……早く!)

QB「…………」


QB「契約は成立だ」



505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:15:22.92 ID:WQPQ069po


Yuma「…………」

Yuma「ま、いっかぁ~」


ツン、とYumaは頭を人差し指でつついた。

Yumaは今、非常に気分が良い。


Yuma「Yuma、さやかをやっつけちゃった!」

Yuma「ルンルン!Yumaってば偉い!」

Yuma「あ、そうだ。折角爆弾にさせなかったんだし……」

Yuma「さやかの死体をお土産に持っていこう!」

Yuma「Kyoko喜ぶね」

Yuma「どうせなら食べる部分が残っていればいいんだ、け、ど……」


ベッドの残骸を迂回し、さやかの遺体を確認しようとした。

もう既に死んだものだと油断をしていた。

スパァッ!

Yuma「……ん?」



506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:16:01.32 ID:WQPQ069po

ボトンッ

水分を多く含んだ塊が床に落ちた。

辺りが赤黒く汚れている。

その塊に、Yumaは見覚えがある。

白と緑と肌色。指がある。


Yuma「へ……?え?」

Yuma「これ……何……?」

Yuma「これって……Yu……Yumaの……」

Yuma「い……ギ……」

Yuma「KYAAAAAAAAAAAHHHHH!?」


『左腕がなくなっ』た。

鋭利な刃物で切り落とされたような綺麗な断面。

体液がドバドバと溢れ出す。




507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:17:15.65 ID:WQPQ069po

Yuma「痛い!痛い痛い痛いィィィィヒャァァァァァ!」

Yuma「さぁぁぁぁぁやぁぁぁぁぁかァァァァァァァッ!」

Yuma「いやアァァァァッ!Yumaのぉぉぉぉぉうぅぅぅぅでえぇぇぇぇぇぇぇ!」

Yuma「あァァァァァんまァァァァりだァァァァァッ!AHYYYYYYYY!YAAAAAAAA!」

Yuma「偉くない!Yuma偉くないィィィィィッ!」


瀕死の状態だったさやかに契約をされた。

願いが反映され、固有魔法は治癒。

バラバラになりかけた自分を完治させた。

そして魔法武器の剣で不意を突き、左腕を切り落とした。

頭が真っ白になっている。子どもを斬るのに躊躇はなかった。

Yumaは甲高い声をあげながら病室から逃げていった。



508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:17:50.41 ID:WQPQ069po

さやか「ハァ……ハァ……!」

さやか「……くっ!」


キュゥべえは既にいない。

さやかは呆然と棒立ちする。

恭介がいた場所に恭介がいない。

粉々になって消えた。ベッドの残骸しかない。

呼吸ができるようになって、実感した消失と虚無。


さやか「…………」

さやか「契約……しちゃった」

さやか「契約したのに」

さやか「したのに……」

さやか「恭介……」

さやか「うぅ……そんな……こんなのって……!」



509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:18:22.45 ID:WQPQ069po

『爆弾』にされた幼なじみ。

その残骸一つ残さず、破壊されたベッド以外、その場に何もなかった。

さやかは、自分だけ助かったという事実を突きつけられた。

恭介が死んだ。

体がバラバラにされた際、

自分が「そう」なったという実感と共に痛みを感じ始めた気がした。

大切な存在が死んだということを実感し、

心臓がミシミシと音を立てて潰れていくような気持ちになった。

ドス黒い感情が魂を濁していくような感覚。

さやかは覚束ない足を引きずり、病室から出ることにした。

じわり、じわりとさやかの青色のソウルジェムに、黒色が混じっていった。



510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:19:09.37 ID:WQPQ069po


――佐倉杏子の姿と千歳ゆまの姿が、待合室にいる。

診療受付時間の都合上、遺体は少ない。

Kyokoが殺した。

Kyokoは腕を組み冷たい眼差しで、隻腕のYumaを見る。

居心地の悪そうにYumaは腕を失った経緯を話した。


Yuma「――と、いうことがあってね」

Kyoko「ふーん……へぇ、そう」

Kyoko「オーケーオーケィ。わかった」

Kyoko「それで、おずおずと逃げ帰ってきたのか……」

Yuma「うぅ……」

Kyoko「…………」

Kyoko「情けねぇッ!」



511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:19:46.09 ID:WQPQ069po

ゴツンッ

Yuma「いたぁい!」

Yuma「叩くのはやめてよぉ!」

Kyoko「何てザマだ!テメーッ!それでも使い魔かァ!?」

Yuma「し、仕方ないよ!だって!倒したと思ったら契約して腕スッパリだもん!」

Kyoko「いいかッ!あたしが怒ってんのはな、てめーの『心の弱さ』なんだYumaッ!」

Kyoko「そりゃあ確かに、死んだと思った奴が生きてて、契約されて左腕をぶった斬られたんだ!」

Kyoko「衝撃を受けるのは当然だ!単に強くなんだからな!あたしだってヤバイと思う!」

Kyoko「だがッ!あたしら魔女アーノルド使い魔群『Versace(ヴェルサス)』の他のヤツならッ!」

Kyoko「仕留め損ねた獲物を前にしてスタンドを決して解除したりはしねぇッ!」

Kyoko「たとえ腕を飛ばされようが脚をもがれようともな!」

Yuma「Kyoko……」




512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:20:16.11 ID:WQPQ069po

Kyoko「オメーは甘ちゃんなんだよYuma!詰めが甘いんだ!わかるか?え?あたしの言葉が」

Kyoko「契約のせいじゃあねぇ、心の奥のところでオメーにはビビりがあんだよ!」

Kyoko「成長しろ!Yuma。成長しなけりゃあ、あたしたちはをいつまでも大人(魔女)になれねぇ!」

Kyoko「いただきますと思った時には!既に一口いただいちゃっているもんなんだッ!」

Yuma「……!」

Yuma「わかったよKyoko!」

Yuma「目が覚めました!パッチリ覚めました!」

Yuma「Yumaは本能的な危機回避行動に甘えすぎてた!」

Yuma「Yuma!もう逃げない!」

Kyoko「よし」




513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:20:44.04 ID:WQPQ069po

Kyoko「Yuma……あんたは成果を挙げることはできなかった……」

Kyoko「それどころか結果的にさやかを魔法少女にしてしまった」

Kyoko「こりゃあ戦犯呼ばわりされても仕方ないレベルだ」

Yuma「ぐぬぅ」

Kyoko「しかし、あたし個人としてはよくやったと言ってやる」

Kyoko「獲物を誘き寄せてくれたんだからなぁ」

Yuma「?」

Kyoko「よぉ、ほむら」

Yuma「!」

Kyoko「隠れてないで出て来いよ」

「……っ」

Yuma「ほむほむ!」




514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:21:23.20 ID:WQPQ069po

ほむら「…………」

Yuma「ほむほむじゃない!」

Yuma「メガネと三つ編みじゃないほむほむなんてほむほむじゃない!」

Kyoko「わかった。わかったからおまえはもう帰ってろ」

Yuma「はぁい。じゃーね。お土産期待してるね?」

Kyoko「おうよ」


Yumaは手を振り、背中を向けた。

遺体が転がる床をただ足場の悪い道のように、

ぐにぐにと障害物を踏んで走り抜けていった。


Kyoko「…………」

Kyoko「時を止めてソッコーで殺そうとせず、ちゃんとあたしの前に出てきた辺り、空気の読めるヤツだ。評価する」




515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:22:01.51 ID:WQPQ069po

ほむら「…………」

ほむら(やはり……病院を舞台にされた以上、犠牲者が多数出たか……)

ほむら「……くっ」

ほむら(前の時間軸の佐倉杏子……)

ほむら(どんな能力かは知らないが、ヤツもスタンド使いだ……)

ほむら(ただ、今の私はスタンドが見ることができる)

ほむら(状況は対等……いや、時間停止を考えると今の私はむしろ優位かもしれない)

ほむら(スタンドがどんな能力かわからないということが不確定要素ではあるが……)

ほむら(果たして……そのまま時間停止で殺していいものなのだろうか)

Kyoko「……悩んでいるな?」

ほむら「……!」




516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:22:48.19 ID:WQPQ069po

Kyoko「スタンド使い相手に……慎重になりすぎるということはない」

Kyoko「このまま時間停止をしてあたしのソウルジェムを撃ち抜いていいものか……悩んでいる」

Kyoko「それはさておき、この時間軸にはいないが……」

Kyoko「あたしらは前の時間軸の概念だからその存在そのものは知っている」

Kyoko「引力の魔女のレイミ……あんたはそいつがどうなってるか知らないか?」

ほむら「…………」

Kyoko「何だか、アーノルドが会いたがってるような気がせんでもないんだよな」

ほむら「レイミは……いない」

Kyoko「いない?」

Kyoko「なるほど……この時間軸では孵化に失敗したといったところか」

Kyoko「レイミとアーノルド……何やら繋がりがあるとの使い魔間のもっぱらな噂だったんだ」

Kyoko「スタンドを発現させるレイミがいない世界で産まれた魔女が、何故スタンドを持っているのか……」

Kyoko「まぁ、死人に口なしって言葉もある……アーノルドには言語を話すことも理解することもできない」

Kyoko「レイミとアーノルド、どういう関係かは誰も知らない。使い魔であっても、神であっても」



517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:24:02.39 ID:WQPQ069po

ほむら「…………」

Kyoko「……ほむら。結論から教えてやろう」

Kyoko「あたしが無駄話している間に時間を止めて撃たなかったのは『正解』だ」

Kyoko「あたしの魔女談義を聞けずに一足早く『嫌なもの』を見るハメになってただろうからな」

ほむら「……嫌な……もの?」

Kyoko「だがしかしッ!」

ほむら「!」

Kyoko「こっそりと『糸』を伸ばして体を縛ろうという策は『不正解』だッ!」

ほむら「……ッ!」


右腕の肉を糸にして、指から伸ばしていた。

自身の体と椅子と遺体の死角を縫い、

糸を束ねた紐で拘束するつもりでいたが、バレていた。

しかし今更なかったことにはできない。



519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:24:28.88 ID:WQPQ069po


ほむら「くっ!」

ほむら「くらえっ!『糸のスタンド』ッ!」


Kyokoの背後、遺体の陰から紐が飛び上がった。

時間停止能力者に対し、一番警戒に値するのは時間停止魔法。

その心理の意表を突く、敢えてのスタンド攻撃のつもりだった。


Kyoko「…………」

ほむら「……!?そ、そんな……!」

ほむら「な、何をしているの……!?」


紐が飛び出しても、Kyokoは微動だにしなかった。

スタンド攻撃を見破った上で、紐を避けるようなことは一切せず、

ただ黙って縛られた。両腕を封じられた。

何故、わざわざ拘束されたのか、ほむらは戸惑った。




521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:25:09.61 ID:WQPQ069po

ほむら「……!?」

Kyoko「…………」

Kyoko「ふふん……あんた、あたしのことを知ってんのかよ?」

Kyoko「マミから聞いてなかったのか?」

ほむら「…………」

ほむら「……ハッ!」

Kyoko「気付くのが遅いんだよ!そうさ!」

Kyoko「この光景に一般人は気付いていない!あんたが見えているあたしもだッ!」

Kyoko「種はあたしの『幻惑魔法』だッ!」

ほむら「こ、これは……」

ほむら「そんな……まさか!」

ほむら「ま……」




522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:26:18.70 ID:WQPQ069po

ほむら「『まどか』ッ!?」


得意気な顔をした佐倉杏子の姿は、みるみると形を変えていった。

黒いリボンは赤いリボンに、赤い衣装はベージュの制服に、

手に持っていた槍は溶けて消えた。

そこには『まどか』がいた。

切なそうな表情でほむらを見ていた。

Kyokoはまどかだった。

ほむらの糸で拘束されたまどかがいた。


Kyoko「幻惑魔法ってのは、本当に便利なもんよ」

Kyoko「どっかの誰かさんはメモリーオブジェットだかオードリーヘプバーンだか何だかわけのわからん名前をつけやがったがな……」

ほむら「う、うぅ……!」



523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:27:58.16 ID:WQPQ069po


Kyoko「一般人が異様な光景に動揺して逃げ出さないように……普通の景色に見えているようにしている幻影」

Kyoko「聴覚も視覚も触覚も騙す幻惑……」

Kyoko「まどかの幻覚にあたしの幻を被せていた」


Kyokoは『まどか』の背後から現れた。

まどかの幻覚を作り、それに魔法の幻惑を被せていた。

本物のKyokoは別の場所にいた。

視点が異なっていたため、近づいてくる糸が見えていたのだった。

死角ではなかった。


ほむら「まどかの……幻覚……!?」

Kyoko「あんたは今『ん?』って思ったな?」

Kyoko「幻覚に幻惑を被せるってどういうことなのか」

Kyoko「答えはこれだ!我が能力『シビル・ウォー』ッ!」




524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:29:06.85 ID:WQPQ069po

Kyoko「シビル・ウォーは……そいつが『捨てたもの』の幻覚を見せる能力だ」

Kyoko「このまどかは、あんたが実際に殺した訳でも見殺しにしたわけでもない」

Kyoko「しかし、あんたは見捨てたと思っているんだ」

Kyoko「助けることができなかったという自分自身で勝手に抱いてる罪悪感が、まどかの幻覚を見せているんだ」

Kyoko「あたしは別にそうは思わないが……あんたは心で『見捨てた』と思っている」

Kyoko「このまどかは、あんたの心の闇が生んだまどかだ」

まどか『……ほむらちゃん』

ほむら「……ッ!」

まどか『ほむらちゃんは……わたしを守ってくれるって言ったよね』

まどか『魔法少女にしないって……約束してくれたよね……』

ほむら「こ、これはッ!?」



525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:29:41.59 ID:WQPQ069po


まどかを束縛していた紐が変形していく。

スパゲティのような形をした紐が、放蕩のように平べったく変形した。

紐が『潰されてい』く。

『潰れ』はじわじわと紐を伝い、ほむらに迫ってくる。


ほむら「ひ、紐が……潰れて……!?」

ほむら「ま、まずいッ!」

ほむら「うっ!くぅ!」


ほむらは左手で紐に手刀をあてた。

ブチリと音をたて、紐は切断される。

紐はほむらの肉でもある。

ダメージが伝わる。ほむらの右腕から血が噴き出した。

潰れた紐はそのまま紙くずのようにくしゃくしゃになっていった。




526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:31:38.36 ID:WQPQ069po

ほむら「こ、これは……!」

ほむら「私の、私の糸が……!」


スタンドが傷つけば本体も傷つく。糸が切れたことでできた傷を押さえて止血する。

この程度の軽い傷ならすぐに治癒が可能。


Kyoko「これがあたしのスタンド……『シビル・ウォー』だ」

Kyoko「まず、幻影魔法で作った擬似的なものでも何だっていいから……有効範囲という『結界』を設定する」

Kyoko「で、このまどかは結界が見せる幻覚であり、あんたが『捨てた事実』でもある」

Kyoko「スタンドは精神のエネルギー。精神は肉体。表裏一体の関係……」

Kyoko「精神への攻撃は肉体への攻撃。罪悪感がその身を滅ぼす」

Kyoko「『捨てたもの』で押しつぶす。それが我がシビル・ウォー」


Kyokoの能力――シビル・ウォー。

標的が今までに「捨ててきた物」の幻覚を見せる。

幻覚に触れると、それは皮膜のように変化して、標的を包み『圧縮』する。

スタンドが傷つくと本体も傷つく。精神が押しつぶされれば肉体も押しつぶされるのだ。その逆も然り。

罪悪感という精神的ダメージを肉体的ダメージに変換するという見方も可能。

それが、Kyokoのスタンド。シビル・ウォー。



527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:32:27.32 ID:WQPQ069po

Kyoko「あんたはまどかが大切なようだな……」

Kyoko「あんたは自分の罪悪感を撃てるか?」

Kyoko「これはあんたの脳みそが作り上げたまどかそのものなんだ」

まどか『ほむらちゃん……助けてぇ……』

ほむら「グッ……!う、くぅっ……!」

ほむら「そ……」

ほむら「それが……」

ほむら「それがどうしたというんだッ!」

ほむら「たかが……たかが幻覚ッ!」

Kyoko「その通り。ただの幻覚だ。されど幻覚だ」



528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:32:54.53 ID:WQPQ069po

ほむら(な……何を、躊躇うことがある!)

ほむら(なんであっても、それがなんであっても!所詮たかがまやかしッ!)

ほむら(こんな……)

ほむら(『こんなもの』は!)

ほむら(動揺してはならない!)

ほむら(このままでは……ヤツの思うツボだ!)

ほむら(……撃てる!撃ってやる!)

ほむら「う、うぅぅ……!」

ほむら「違うんだ……ッ!これは……ただの!ただの幻覚ッ!」

ほむら「偽物なんだッ!」

タァン!



529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:33:47.04 ID:WQPQ069po

ほむらは銃を発砲した。

弾丸は、まどかの二の腕を貫通した。

まどかは目から涙をポロポロと流しながら苦痛に表情を歪めた。

ダラダラと赤い鮮血が流れ出ている。

その様を見て、ほむらの目尻から涙が伝った。無意識の涙であった。


ほむら「うっ……!」

まどか『グゥッ!』

まどか『腕が……!腕ぇ……!酷いよ……ほむらちゃん……ハァゥゥ……』

まどか『はあぁぁ……そんなのって、ない、よぉ……痛いよぉ……』

まどか『わたしを救うって……誓ってくれたのに……』

まどか『酷い……よぉぉぉぉぉ……!』

ほむら「……!」



530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:34:23.61 ID:WQPQ069po

こ、これは……!

この息づかい……まどかだ……!

『まどかそのもの』だ……!

幻覚と自覚していても……わかっていても!心の底が私にそう言っている!

私は……私はまどかの姿を、まどかを撃った。

まどかそのものを……!

まどか撃ってしまった!

……『こいつ』がッ!

私にッ!

こいつが私に!まどかを撃たせた!




532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:35:34.20 ID:WQPQ069po

ほむら「くっ……!うぅぅ……!」

ガリッ!

ほむら「くフゥー……!フゥー……!フゥー……!」


涙がポロポロとあふれ出てきてしまう。

手が震える。

手が震えたら、照準が定まらない。

手の震えを無理矢理抑えるため、震える手に噛みついた。

犬歯が深く刺さり、血が滲む。


Kyoko「親友を撃つなんて……見くびっていた。大したタマだ」

Kyoko「……『足りなかった』かな?」

ガタッ

ほむら「ッ!?」




533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:36:33.48 ID:WQPQ069po

転がっている遺体が立ち上がったように見えた。

実際は、遺体と床の間から産み出されている。

まどかがもう一人、二人、三人現れる。

全員、悲しい表情をしている。

守れなかった事実。

ほむらの罪悪感が、シビル・ウォーにより新たに産み出された。


まどか『ほむらちゃん……どうしてわたしを助けてくれなかったの?』

まどか『契約したら……わたしは用済みなの?いらないの?』

まどか『ずっと一緒にいようねって……約束したのに……!』


助けられず死なせてしまったまどか、契約をしてしまい諦めたまどか、

魔女になる寸前にソウルジェムを撃ち砕き『殺し』たまどか。

ほむらの罪悪感が、まどかの姿となってゾンビのようにわき出てきた。



534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:37:16.30 ID:WQPQ069po

ほむら「う……うああ……!」

ほむら「あああ……ああ……!」

ほむら「まど……か……!」

ほむら「わ、私は……!」

ほむら「私はッ!」

ほむら「あなたを見捨ててなんかいないッ!」

ほむら「私は!私はあなたのために……!」

Kyoko「口で否定しても意味がない」

Kyoko「こいつらがいる以上、あんたはまどかを見捨てたんだという意識があった」

Kyoko「そういう揺るぎない真実がある」



535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:37:49.39 ID:WQPQ069po

ほむら「う、うぅぅぅぅぅぅ……!」

ほむら「……グッ!」

ほむら「くそォッ!貴様ッ!絶対にブッ殺してやるゥゥゥぅぅぅ――――ッ!」


ほむらの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。

脚が震える。魂が濁る。頭が働かない。


Kyoko「ほほぉ~……ではやってみるといい」

Kyoko「しかしなんだな……あんたでもそんな下品な言葉使いできるんだな。意外」

ほむら「うおおおあああああああああああッ!」

Kyoko「ちょ……!おまっ!それは……」

ほむら(これは……!これは幻覚だ!幻覚!幻覚!幻覚!幻覚なんだ!)

ほむら(まどかではない!これはまどかじゃない!)

ほむら(まどかの姿をしたただの『ゴミ』だッ!)

ほむら(ヤツを殺すッ!殺せばゴミは消える!)

ほむら(殺してやる!絶対に!殺してやるッ!)

ほむら「うおおおおぉぉぉぉああああああぁぁぁぁぁぁぁッ!」



536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:38:25.93 ID:WQPQ069po

盾から取り出したものは『ピカティニー・レール短銃身、伸縮式ストックモデルM249』

純粋な軽機関銃でありながら非常に軽量で、命中精度も高いという特徴を持つ。

ほむらは目を閉じてミニミ軽機関銃を辺り構わず乱射した。

独自に修得した機械操作の魔法と訓練の経験により、

反動による照準のブレは極限まで小さい。


ほむら「うあああああああああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあぁあああッ!」

Kyoko「う、うおおおおぉぉぉぉッ!?」

まどか『いやあああああああああああ』

まどか『きゃあああああああああああ』

まどか『痛い痛い痛い痛いイタイタイタイタイィィィ!』


まどか達の声が銃声に紛れて響く。

耳を引きちぎりたい衝動に駆られる。

銃の反動で涙が飛び散っていく。



537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:39:07.01 ID:WQPQ069po

――音はすぐに止まった。

弾が切れたのではなく、ほむらは自分の意志でトリガーから指を離していた。

幻覚と言えど、まどかの姿を撃つのに精神的な限界を覚えたためである。

流れ弾で壁に穴があき、転がっていた遺体はズタボロになっている。

異常な世界を認識できていない生存者を無意識的に殺すことはない。

銃口から青白う煙が舞う。

まどかの幻覚はいなくなった。


ほむら「はぁ……!はぁっ!はぁ……!」

ほむら「う、うぅ……く……!ハァハァ……!」

ほむら「や……やったか……?」

「折角のところ申し訳ないが……」

ほむら「……ッ!?」



538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:39:52.92 ID:WQPQ069po

Kyoko「そんな甘っちょろい覚悟ではあたしには勝てない」

ドスッ

Kyokoは、後ろを振り返ったほむらの首に親指を突き刺した。

突き刺したというより、親指と首の肉が同化したという表現が近い。


ほむら「うぐ……!」

Kyoko「銃声とシビル・ウォーの幻覚に紛れて、既に回り込ませてもらった」

ほむら「がふ……うぅ……!」

Kyoko「そのままあんたを『喰う』ぜ」

ほむら「う、うああ……」

ほむら(お、恐ろしい……!)

ほむら(なんて……なんて恐ろしい……!)



539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:40:36.78 ID:WQPQ069po

Kyoko「絶望したらあんたのスタンドが進化してレクイエムが発動して世界が滅びるそうだが……」

Kyoko「何てこともない。その前に喰えばいいんだ。フグを食う時にフグの毒を取るのとそんな変わらん」

Kyoko「それに魔法少女は『絶望しかけ』が一番『美味い』んだ」

ほむら「ぐ、ぐぅ……く!」

Kyoko「魔女になるかならないかのギリギリ」

Kyoko「使い魔としての波長が合うとでもいうのか……とにかく美味い」

Kyoko「人間という面を持ち合わせているからこその、グルメ感覚」

Kyoko「よく言うだろ?食い物は『腐りかけが美味い』ってさ」

ほむら「ぐくっ……が……!」

ほむら(このままでは……この……ままでは……!)

ほむら「うぅ……」

ほむら「うおおおおおあああああああああァァァァァァァッ!」




540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:41:14.78 ID:WQPQ069po

……スタンドのおかげで、時間を止めて兵器を使う以外にも、

確かに私の戦略の幅は広がった。

『糸』で試したいことだってまだある。

成長の余地があるという実感がある……。

だが「意味」なんて何もないッ!

佐倉杏子の概念とはレベルが違うッ!

ヤツの「スタンド能力」には私の「糸」なんて何の通用もしないッ!

ついに『限界』が追いついて来たのか……?

私は……私はまだ納得ができていない……。願いを遂行していないのに!

こんな所で、終わるわけにはいかないのに!

私はまどかを守る私にならなければならないのにッ!

『やるべき目的』があるッ!




541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:42:04.96 ID:WQPQ069po

ドガッ!


Kyoko「ブッ……ガッ!?」

ほむら「……え?」

Kyoko「ゲフ……クッ……」

Kyoko「ゲボッ?!」


――突然、Kyokoは『何か』の攻撃を喰らい仰け反った。

まるで「殴られた」かのように頬が腫れあがっている。

口から血らしき体液が出る。口の中を切ったらしい。

首からKyokoの指が勢いよくすっぽ抜け、首の肉が少し持っていかれた。


ほむら「ゲホッ!ゲホゲホッ!」

ほむら「ゆ、指が……!?」

Kyoko「今……あたしは……何をされた?」

Kyoko「な、何だ……?」

ほむら「……!?……?」



542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:42:46.98 ID:WQPQ069po

――かつて、ほむらは似た光景を見たことがある。

前の時間軸。

「ある敵」に襲われた時、同様にそいつは『急』に『殴』られた。唐突だった。

その正体は、まどかのスタンド『スタープラチナ』だった。

友達を助けたいという一心で発現した、まどかのスタンド。

まどかの精神力が敵を攻撃し、自身とほむらを助けた。

その光景と似ている。

今はその視点が、第三者から第一者のものとなった。

Kyokoは頬を赤く腫らす。血が口から流れ出ている。


Kyoko「あたしは……殴られたのか?」

Kyoko「あたしは『こいつ』に殴られたのか!?」

ほむら「ハァ……ハァ……」

ほむら「こ、これは……!」



543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:43:40.31 ID:WQPQ069po

ほむらは、視界の端に、何かを見た。

上目遣いになってそれを確認する。

「拳」そして「腕」が見える。

それを辿った先にいた……

『糸の塊』


ほむら「い、『糸』が……」

ほむら「糸が……『人』に……!」


ほむらの体から出る半透明の糸スタンド。

そのしなやかな糸が、一本一本が重なり寄り集まり、

塊――人の形を形成した。

それが自らの拳を、Kyokoに叩き込んだらしい。




544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:44:31.49 ID:WQPQ069po

女性的な体格をしている。

有名な彫刻のような存在感があり、

所々が『ほつ』れている。

糸の拳は様々なものを砕きそうな、頑丈さを見て取れる。

鼻腔の奥で、微かに石鹸のような匂いを感じた。


ほむら「こ、『これ』は……」

ほむら「私の……私の『スタンド』が……!」

ほむら「糸が束ねられて丈夫な紐になるように……」

ほむら「糸が集まって!そのパワーが集中してッ!」

ほむら「線が集まって固まれば『立体』になるこの概念!」

ほむら「パワー……」

ほむら「私に『パワー型スタンド』が目覚めたッ!」




545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:45:13.46 ID:WQPQ069po

ほむら「あの時のまどかも……似たような感じだったのかしら……」

ほむら「己の精神の、力強いヴィジョン。これが私の……精神の具象」

Kyoko「ぐ、グフッ……き、貴様……!」

Kyoko「よくも……よくもあたしに向かってそんな舐めた真似を……!」

ほむら「糸が塊になることでパワーが集中した……塊のスタンド」

ほむら「まるで引き裂かれそうだった心を縫い合わせ『繋ぎ』止めたかのように……」

ほむら「しなやかさと力強さが兼ね備えられた……糸のスタンド……」

ほむら「…………」

ほむら「いつだったか……『矢』を大切にしてと、夢の中で会ったまどかは言った」

ほむら「夢とは言え、縁起を担いで得体の知れない『矢』をお守りとした……今も盾の中に入れている」

ほむら「何故唐突にその矢のことを思い出したのかはわからないけど……」

ほむら「名付けよう……お守りにした石の矢に肖って」



546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:46:09.30 ID:WQPQ069po

ほむら「これは既に『糸』を超えた……」

ほむら「……ストーン・フリー」

ほむら「まどかに……何ものにも縛られない自由な未来を与えたい」

ほむら「私は『石作り』の矢と『自由』を手に入れる」

ほむら「聞こえた?『ストーン・フリー』……それが名前」

ほむら「これからは『ストーン・フリー』と呼ぶ!」

Kyoko「……っ!」

ほむら「これは、私の未来への誓い!」

Kyoko「ヤ、ヤバ――」

ほむら「ストーン・フリーッ!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

糸の塊――『ストーン・フリー』はかけ声を共に拳のラッシュを放った。

スタープラチナを操っていたまどかも、スタンドの声を聞いていたのだろうか。

まどかと同じ、パワー型のスタンド。そう思うだけでますます勇気が湧いてくる。



547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:46:59.81 ID:WQPQ069po

Kyoko「うおわあああああああああッ!?」

Kyoko「こ、このパワーはッ!」

Kyoko「ほ、ほむらァァァッ!」


腕をソウルジェムの前に交差しKyokoは必死に防御をする。

糸であるにも関わらず、その拳は鉱物のように固く重い。

「オラァッ!」

ドッゴォォッ!

Kyoko「GYAAAAAAAAAHHHHH!……ゲボファ!」


ストーン・フリーの力を込めた一撃により、Kyokoは吹き飛ばされた。

体が宙に浮き、そのまま壁に背中を叩き付ける。



548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:47:28.38 ID:WQPQ069po

ほむら「強い……!」

ほむら「ストーン・フリー……」

ほむら「どうやら人型になると遠くへ行けないらしい……」

ほむら「だけど!その代わりにこのパワー!」

ほむら「これが……これが私のスタンドの真の力!」

ほむら「私の新しい力ッ!新しい武器ッ!」

Kyoko「ゲボッ……グフゥ」

ほむら「ま、まだ生きている……」

ほむら「ソウルジェムは砕けなかったか」

Kyoko「…………」



549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:48:02.33 ID:WQPQ069po

Kyoko「ソウルジェムを砕こうとしたのか……おまえ……」

Kyoko「あたしは……使い魔であると同時に魔法少女の概念でもある」

Kyoko「確かに……ソウルジェムが無事な限り死にはしない……と思う」

Kyoko「ソウルジェムの穢れは空腹だ。絶望をしない以上、魔法を使いすぎて魂を汚せば餓死をする」

Kyoko「魔女寄りな存在にでもならん限り、あたしを殺すにはソウルジェムを砕くしかないのさ……」

Kyoko「だのにおまえ、何の躊躇もなくぶっ放しやがって。なにがオラオラだ」

ほむら「初めての割には上手く扱えた……かなり素早いわ!次こそは!」

Kyoko「HEY!ほむら……」

Kyoko「スタンド能力の新しい境地を切り拓いておめでとうと祝ってやりたいとこだが……」

Kyoko「チト詰めが甘い」

ほむら「詰めが……甘い……?」



550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:48:32.67 ID:WQPQ069po

Kyoko「ここはあたしの……依然シビル・ウォーの支配下にあるんだ」

Kyoko「則ち……どっち道、あたしには勝てない」

ほむら「……!」

『酷いよ……そんなの……』

ほむら「ハッ!?」

『ほむらちゃんのバカ……』


先程まで看護婦の遺体だったものが、まどかの姿をしている。

正確には、看護婦の遺体の側にまどかの幻影を作り、幻惑で隠していた。

涙を流しているまどかが恨めしそうな声をあげている。

まどかの幻覚は震える指でほむらの左袖をつまんでいた。



551 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:49:53.60 ID:WQPQ069po

Kyoko「シビル・ウォーでもう一体まどかの幻覚を作った!」

Kyoko「よし!触れたな!あんたが捨てたものに……」

ほむら「し、しまっ――」


ドパァァァン

まどかの手が水風船のように破裂して皮膜となる。

ほむらの左腕に、それが巻き付く。

同時にストーン・フリーの左腕が押しつぶされる。

関節と盾が動かなくなった。時間停止と武器を扱えなくなる。


ほむら「う……くッ!?」

Kyoko「左腕を封じたッ!」

Kyoko「幻覚共ッ!こいつの右腕と両脚も封じろォォォ!」



552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:50:27.45 ID:WQPQ069po

Kyokoの背後からわらわらと『まどか』が現れた。

ほむらは、時間遡行の度に見滝原を捨てている。

そのため、まどかの家族やマミ等の幻覚も見せようと思えばできる。

しかし今のシビル・ウォーには、見せられる幻覚のキャパシティが定められている。

体力も魔力もかなり消耗してしまったため、スタンドパワーに余裕がない。

結局、少ない人数で最も追いつめる幻覚は、まどか以外ありえない。


ほむら「……!」

Kyoko「まずは……四肢を潰せ!」

Kyoko「そしてソウルジェムが漆黒に染まるスレスレに喰い殺す」

Kyoko「この傷は……ほむら!」

Kyoko「貴様を喰って癒すッ!」

ほむら「くっ!」



553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:51:03.40 ID:WQPQ069po

まどか『ほむらちゃん……』

まどか『わたし達、友達だよね』

まどか『燃え上がれーって感じでかっこいいよね』

まどか『わたしを救うって、言ってくれたよね』

ほむら(ま、まどかの幻覚が……)

ほむら(このままでは……包囲されてしまう!)

ほむら「くそっ……!」

ほむら(盾が使えない以上……どうすることもできない)

ほむら(ここは……撤退するべきか。脚が動かせる内に……)

ほむら(ここから離れればシビル・ウォーの結界とやらから抜け出せるはず)

ほむら(最悪その結界から一度抜け出せば……きっとこの腕もどうにかなる)

ほむら(ここは……逃げるしかできない!)



554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:52:16.62 ID:WQPQ069po


「逃げるというのは……得策じゃあないよ」


ほむら「!?」

Kyoko「ッ!?だ、誰だッ!」

ほむら「この声は……!」

「遅れてごめんよ。恩人」

ほむら「あなたは……!まさか……!」

ほむら「く……」

ほむら「『呉キリカ』ッ!」

キリカ「YES! I AM!」


眼帯をつけた、黒い魔法少女。

八重歯をニヤリと見せつける、魔法少女。

呉キリカが、参上した。



555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:53:22.20 ID:WQPQ069po

ほむら「……本物、でしょうね」

キリカ「当たり前でしょーが!証拠は出せないけどね」

Kyoko「む……てめぇ……!」

キリカ「さて、キョーコとか言ったか。君の話は聞かせてもらったよ」

キリカ「正確には、恩人がビービー泣いてる様も見させてもらった」

キリカ「なるほど、スタンドねーって感じだ」

Kyoko「シビル・ウォー!幻覚でキリカを捕らえろ!」

ほむら「く、来る!」

ほむら「呉キリカ!盗み見をしてたなら知っているでしょうけど、幻覚に決して触れてはいけないわ!それがルール!」

キリカ「盗み見って……別に意地悪をしたんじゃあないよ。これは偵察と言うんだ」

キリカ「助言ありがとう。恩人」

キリカ「シビル・ウォーとやらは『捨てたもの』……私が捨てたものか。私が見ている『もの』は私が捨てたと認識しているものなのか」

キリカ「自分のことながらいまいち納得いかないところではあるがそれはさておき」




556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:53:50.54 ID:WQPQ069po

キリカは周りの状況に全く興味がないとでも言いたげに、

ゆったりとほむらの方を向き、手を差しのばした。


キリカ「恩人。君は今、逃げようとしたね……敵から一歩下がった風に見えた」

ほむら「…………」

キリカ「それじゃあダメなんだ」

キリカ「生かしておいたら、いざって時、土壇場で障害となりうる」

キリカ「つまり……」

キリカ「私は意地でもヤツを殺すことを推奨するッ!前へ進むんだ!」

ほむら「で、でも……」

ほむら「でも呉キリカ!今、私は……!」

キリカ「何の問題もない」




557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:54:17.45 ID:WQPQ069po


キリカ「恩人。私の手を握るんだ」

Kyoko「……ッ!」

キリカ「ほら、早く」

ほむら「え、えぇ……」

Kyoko「ぼ、亡霊共!早く捕まえ――」


――瞬間。

まどかの幻影の呻き声とKyokoの怒声が途絶えた。

口はゆっくりと動いている。足はじわじわと動いている。

キリカの固有魔法。時間を遅くする魔法。

「ノロマ」な自分を変えるために得た能力。




558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:56:11.73 ID:WQPQ069po


キリカ「周りの時間を遅くした」

キリカ「そして恩人。君はその時間に対応ができるようにした」

キリカ「『時が遅くなった世界に入門させた』とでも言おうか」

キリカ「さぁ、このままこいつをやってしまおう」

ほむら「……えぇ」

キリカ「立てるかい?」

ほむら「大丈夫……よ」


キリカは「捨てたもの」には目もくれず、ほむらの手を引いた。

ほむらは『まどか』を横目に素直に引かれた。左腕が重い。

スローに動く幻覚を避けつつ、二人はKyokoの側に到達する。




559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:57:21.86 ID:WQPQ069po

ほむら「呉キリカ」

キリカ「何だい、恩人」

ほむら「その……ありがとう。助かったわ」

キリカ「……やれやれだよ」

キリカ「もう織莉子以外と手を繋ぐことなんざ」

キリカ「一生ないって思ってたのに」

ほむら「……私も家族を除けば手を繋ぐ相手と言ったら、まどかと巴さんくらいよ」

キリカ「私が第三位ってことかい?」

ほむら「猫を含めてもいいのなら四位」

キリカ「ありゃ……銅メダル逃したね」




560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:59:06.14 ID:WQPQ069po

二人は、シビル・ウォーの本体の側に歩み寄った。

人型のストーン・フリーの射程距離、数メートル範囲。


キリカ「さて……それじゃ、そろそろ終わらせようか」

ほむら「えぇ……」

キリカ「私にはスタンドとかいうものはよくわからないから何とも言えないが……」

キリカ「時間を遅くする魔法はそろそろ解除させてもらうよ。この範囲だけでも結構な燃費がかかるんでね」

ほむら「えぇ、わかったわ」

キリカ「早く早く。これは時間を止めてるわけじゃない。防御の姿勢を取り始めているぞ」

ほむら「……ストーン・フリー」

「オラァァッ!」

ガシャン

Kyoko「――ッ!?」



561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/19(火) 23:59:40.06 ID:WQPQ069po

そして時間は、元の早さに動き出す。

使い魔は自分の胸に手をあてがった。


Kyoko「…………」

Kyoko「そ、そんな……ソウルジェ……ム……」

キリカ「ソウルジェムが破壊されたのに生きているよ?」

ほむら「そうね……」

キリカ「ソウルジェムは破壊されると即死する」

キリカ「……って聞いたのに。その違いがちょっと気になる」

ほむら「こればっかりは『使い魔だから』とでも言ったところかしら……」

キリカ「なるほど……スゲー納得した」



562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:00:15.23 ID:hYDtyF/6o

Kyoko「そうか……あたしは……死ぬ、のか……」

Kyoko「だ、だが……結界内で死ねば……」

Kyoko「あたしの、シビル・ウォー……」

Kyoko「結界内で殺されれば……あたしの罪を……おっかぶらせ……」

Kyoko「あたしの……罪……」

Kyoko「あ、ああ……そ、そうだ……!」

Kyoko「ダメだったか……根本的に……ダメじゃねぇか……!」

Kyoko「あたしは……『罪を犯していない』……」

Kyoko「使い魔だから……殺しは生理現象であり、罪悪感が……ない」

ドサァッ

使い魔はその場で倒れた。

前の時間軸の佐倉杏子。

次元を超えて、この時間時にて、二度目の死亡。



563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:01:55.59 ID:hYDtyF/6o

そのままKyokoは黒い塵となって消えた。

ほむらとキリカは、その様をただ見ているだけだった。

シビル・ウォーの結界は解除される。

当然、まどかの幻影は消える。

ほむらを束縛していた皮膜も消える。

ストーン・フリーはシビル・ウォーに打ち勝った。

Kyokoが死んだことによって、幻惑魔法、他称メモリー・オブ・ジェットは解かれた。

同時に、空は黒から橙色に置き換わっていた。

丁度、魔女の結界が解かれたらしい。

待合室の遺体はなくなった。全て結界に取り残された。

この病院は、再びいつもと同じ時間が流れ出す。



564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:04:22.37 ID:hYDtyF/6o

血まみれの床や弾痕だからの壁はもうなくなっている。

ほむらは時間を停止させ、人目のつかない場所に移動した。

そして、変身を解除する。魂の浄化もついでで行う。

魔法少女の姿は社会には目立ちすぎるのだ。


キリカ「……勝ったね」

ほむら「……えぇ」

キリカ「しかし……ストーン・フリー?それ恩人のセンス?」

ほむら「……私にとっては縁起のいい名前なのよ」

キリカ「別に悪いとは言ってないけど……」

キリカ「ところでケガは平気?」

ほむら「えぇ……大丈夫。どちらかと言えば精神的な消耗の方が大きいわ」

キリカ「グリーフシードはどうせ持ってるだろう?」

ほむら「えぇ……」



565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:06:37.45 ID:hYDtyF/6o

ほむら「……呉キリカ。本当によく来てくれたわ……」

ほむら「本当に……。あなたが助けてくれなかったら、私はヤツを殺せなかった」

ほむら「私は逃げていた……結果的にやられていたかもしれない」

キリカ「気にするな恩人」

ほむら「あなたは……強いのね。捨てたものに対して……」

キリカ「私は捨てたものよりも大きいものを奪われたからね」

ほむら「……そう」

ほむら「正直なところ、私は既に自害してこの世にいないとさえ思っていたわ」

キリカ「……うん。まぁね」

キリカ「私……変な『夢』を見たんだよ」

キリカ「夢って言ったけど……頭がぼんやりしてたから本当に夢だったのか、幻覚だったのかイマイチなんだけど」

ほむら「……夢?」



566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:09:42.59 ID:hYDtyF/6o

キリカ「織莉子の声が聞こえたんだ……」

キリカ「『キリカ』……って私の名前を呼ぶんだ」

キリカ「その時、私は織莉子がいない世界なら死んでしまおうかとか考えていたんだ」

キリカ「だって、織莉子はいつだって頼りになったし……」

キリカ「大好きな織莉子の決断なら、私は何をするにも勇気が湧いて、やれるって気になれたんだ」

キリカ「そしたら、織莉子は……『あなたが決めなさい』って言うんだよ……」

キリカ「『キリカ……行き先を決めるのは、あなた』ってね」

キリカ「私……少し考えて」

キリカ「『恩人のとこに行こう』って思ったら、声が聞こえなくなった……とてもさびしい夢だったよ」

ほむら「夢で……美国織莉子を……?」

キリカ「うん……と、言っても所詮は私の死にたくないって願望に過ぎないんだろーけどね」



567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:10:55.47 ID:hYDtyF/6o

キリカ「とにかく、私にしたあの時の交渉、乗ることにした」

キリカ「君が守りたいという友達を、私も手を貸そう」

キリカ「契約をさせないという条件付きでね」

キリカ「生き甲斐を失ったから、殺されるまで君のために生きる」

キリカ「君の友達とやらの護衛を引き受けてやれるよ。私は」

ほむら「……」

キリカ「そ、そりゃまぁ彼女を殺そうとは考えてた身分だけれども……」

ほむら「……歓迎するわ」

キリカ「そりゃどうも」

ほむら「それよりも……早く行かないと」

キリカ「ん、どこに?」



568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:11:31.34 ID:hYDtyF/6o

ほむら「美樹さやかがこの結界に巻き込まれたのよ」

ほむら「それに、巴さんも既に来てるかも」

ほむら「魔女を探して使い魔と対峙したから見かけることはなかっ……」

キリカ「…………」

ほむら「……呉キリカ?」

キリカ「恩人……合流する前に話しておくことがある」

ほむら「……何?」

キリカ「まぁ結界が解けたんだから落ち着こうよ」

キリカ「BADニュースとWORSEニュースがある。どっちから聞く?」

ほむら「…………」



569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:12:14.12 ID:hYDtyF/6o

ほむら「……悪い方から」

キリカ「美樹さやかが契約した」

ほむら「……ッ!」

キリカ「君を捜していたら、おぼつかない足でうろうろしてたんでね」

キリカ「事情を少し聞いて、グリーフシードを一個あげて結界から出るよう避難させたんだけど……」

キリカ「願い事は『治して』だそうだ。だから傷を癒す魔法が使えるようになった」

キリカ「爆発に巻き込まれたかのような傷跡があったけど……」

ほむら(爆発……)

ほむら(キラー……クイーン)

ほむら(……そんな)


……さやかの契約を防ぐことができなかったのか。

上条恭介の病室をうろ覚えではあったが知らないわけではなかった。

しかし、私は……。

まどかの「さやかを助ける」という約束を差し置いて、魔女を探してしまった。

その結果として、全速力で走るYumaを見かけて、追ってしまった。

間に合わなかったのだ。これは……完全な失態だ。

あの時は『魔女を倒せさえすれば全て丸く収まる』としか考えていなかった。



570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:13:13.45 ID:hYDtyF/6o

ほむら(美樹さやか……)

ほむら「…………」

ほむら(私のせいだ……)

ほむら(認識があまりにも甘すぎた)

ほむら(私は……!)

キリカ「さて、より悪いニュースの方なんだけど……」

ほむら「……?」

キリカ「…………」

ほむら「……うっ」


キリカの表情を見て、ほむらは吐き気を催した。

腹の底からわき上がるような「嫌な感覚」が胃を押し上げた。

ほむらの後悔は、立て続けにのしかかる。



571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:13:52.82 ID:hYDtyF/6o

キリカ「君の先輩とやら……マミだっけ、彼女も死んだ」

ほむら「……っ」

ほむら「巴さん……が……」

キリカ「さやかと同様、佐倉杏子に出会ってね……」

キリカ「聞いた話では、彼女を庇って死んだらしい」

キリカ「恩人のとこに辿り着く前にちょいと遺体を確認していたんだが……酷い有様だった」

キリカ「惨死体よりも行方不明ということにしておいた方がいいと思って、敢えて放置した」

キリカ「結界が消えて、彼女も消えたということさ」

ほむら「…………」

キリカ「死んだってことは、葬儀に出なきゃならないだろう。冷酷な発想だが、時間が勿体ない」

ほむら「……そう、ね」

ほむら「その通りだわ……」



572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:14:26.36 ID:hYDtyF/6o

いざという時は、見捨てる。

そういう意識があった。

それはあくまでも、いざという時。

美樹さやかのように、救おうと思えば救えた状況で無視することとは違う。

魔女を倒せば全てが終わると先走ることとは違う。

少しでも冷静になっていれば、

美樹さやかを助け出すことができただろうし、

巴さんと合流だってできたに違いない。合流していれば、死なせるなんてことはあり得なかったはずだ。

……何でこんな結果になるような行動を、私はとってしまっていたのか。

今になって思えば、こういうことも予測できたはずだった。


行動をしている時には気付かないのに、行動を終えた時に気付いてしまう。

ほむらは、自分の頭の働かなさに嫌気が差した。



573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:15:44.65 ID:hYDtyF/6o

――二人は病院から外へ出た。


ほむらは内心、外に出たくなかった。

さやかを魔法少女にしてしまったのは自分のようなもの。

マミを死なせてしまったのは自分のせいと言っても言い返せない。

まどかに会わす顔がない。

さやかにかける言葉がない。

杏子に触れる勇気がない。


その三人は、病院から少し離れた公園にいた。

外は暗くなりつつあった。この三人以外、この公園に人はいない。

三人はそれぞれの思いの内に苦しんでいた。


まどか「酷いよ……あんまりだよ……!」

まどか「うぅ……うあああぁ……!ヒグッ……エグッ……うぅ」

杏子「…………」

さやか「マミさんまで……そんな……」



574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:16:33.68 ID:hYDtyF/6o

さやかが結界から脱出した時、まどかはまず喜んだ。

そしてさやかが契約してしまったことと、

幼なじみが死んでしまったことを、まどかは聞かされた。

次いで、佐倉杏子が結界から脱出した。

悲しみに暮れる二人に、杏子は追い打ちのように、

マミの死を伝えた。

さやかのような性格では「杏子が殺した」と決めつけてもおかしくはない。

しかし、その杏子の声は震えていた。二人は事情を悟った。

まどかはますます泣いてしまった。

さやかは悔しかがった。


そこに、ほむらとキリカが現れる。



575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:17:34.17 ID:hYDtyF/6o

ほむら「……まどか」

まどか「……ほむらちゃん」

まどか「うぅ……ほむらちゃぁん……」

まどか「グスッ……」

まどか「ほむらぢゃぁぁぁぁん!」

まどか「うああああぁぁぁ……!ああぁぁぁ……!」


ほむらの姿を見つけた途端、まどかはほむらに飛びついた。

胸に顔を押しつけ、腕を背中に回し抱きしめ、大声で泣いた。

ほむらは、悲しんでいるまどかを身近に感じ、ますます悔しくなった。

自分の浅はかな考え方のせい。

さやかも恭介も救えていた。マミも合流していれば死なずに済んだはずだった。

急がなければよかった。



576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:18:54.30 ID:hYDtyF/6o

ほむら「……ごめんなさい」

ほむら「……ごめんね。まどか」

ほむら「私……美樹さやかを助けられなかった」

ほむら「巴さんを……犠牲にしてしまった」

まどか「あ゙あ゙あ゙あぁぁ……!うあああ……!」

まどか「うぅぅ……グスッ、ひぐっ、えぐ……!」


キリカ「えー、と……」

さやか「…………」

杏子「…………」

キリカ「グリーフシード……使い切ったなら、私に渡して」

さやか「……はい」

キリカ「……ん」



577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:19:34.97 ID:hYDtyF/6o

ほむら(巴さんが……犠牲になってしまった)

ほむら(いざという時には見捨てると誓っていた)

ほむら(魔女になるくらいなら死なれた方がマシ……とまで、かつては思っていた)

ほむら(感傷は敵……だから……そう、思っていた……見捨てなければならないって……)

ほむら(だけど……私は……)

ほむら(私は……!)

ほむら「…………」

ほむら(悔いるのは、やめよう……)

ほむら(…………佐倉杏子、呉キリカ、そして美樹さやか)

ほむら(……四人いる)

ほむら(そして何より私には……スタンド……ストーン・フリーがいる)

ほむら(ワルプルギスの夜を越えるに……十分可能性がある)




578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:20:33.03 ID:hYDtyF/6o


――辺りはすっかり暗くなっていた。


まどかは泣き疲れて眠ってしまった。

まどかはほむらの袖を掴んで離さなかった。

仕方なくほむらの膝を枕にベンチで横にさせた。

さやかと杏子はずっと黙りっぱなしだった。

何を考えているのか、想像する気にもなれない。


キリカ「……恩人。まどかは完全に寝たかな」

ほむら「えぇ……」

キリカ「まどかには刺激が強いんで、その方がありがたい」

ほむら「……?」



579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:21:30.06 ID:hYDtyF/6o

キリカはケータイを取り出した。

さやかと杏子は、それに興味を引いたのか、キリカの元に歩み寄った。


ほむら「刺激が強い?」

キリカ「うん……実は、気になることがあるんだ」

キリカ「マミの遺体を写メったんだ」

さやか「なっ……」

杏子「……ッ!」

ほむら「巴さんの……遺体?」

杏子「オイ!テメェ……!」

さやか「マミさんの遺体をそんな……!」

ほむら「……二人とも。静かにして……まどかが起きるわ」



580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:22:18.52 ID:hYDtyF/6o

さやか「……っ」

杏子「……チッ」

キリカ「…………」

キリカ「……いいかな」

キリカ「恩人。これを見て」

ほむら「…………」

ほむら「これは……」


液晶に写っていたのは、今やこの世界に存在しないマミの遺体そのものだった。

画面は赤と黄色と白の三色で構成されているようなものだった。

その顔が安らかに見えたのは、都合の良すぎる見方だとほむらは心の中で改める。



581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:23:16.84 ID:hYDtyF/6o

キリカ「……手首を見てくれ」

ほむら「……手首」

キリカ「これがズームした写真」


赤い絵の具を塗りたくったように真っ赤に濡れている。

どんな攻撃をくらえばこれだけ赤一色になるのか……。

痕跡はMamiのスタンドの推測材料となる。

今の状態ではスタンドの実像は全く想像がつかない。

……そして、マミの手首は『切断』されていた。

指が千切れていたり、肩がもげているというような状態ではない。

それなのに、手首がスッパリと切れているのは、明らかに浮いている。


ほむら「この手についている傷で切断されたものとしては……断面が綺麗すぎる」

ほむら「つまりこれは……『別の要因』で切断された」

キリカ「恩人は察しがいいな」

ほむら「つまり……この手は……」



582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:23:57.48 ID:hYDtyF/6o

ほむら「巴さんがリボンを使って……自分で断った」

キリカ「そうなるんだろうね」

ほむら「巴さんが『自ら手首を斬り落とす』だなんて……」

ほむら「これは……敵スタンドのヒントなのか……」

ほむら「あるいは……何かの『メッセージ』……?」

ほむら「…………」

ほむら「呉キリカ。画像を転送して」

キリカ「わかった……赤外線で?」

ほむら「今後のこともある……メールアドレスを教えるから、メールに添付して」

キリカ「アイアイサー」



583 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:25:00.61 ID:hYDtyF/6o

ほむらがカバンからケータイを取り出した時、

今最も聞きたくない声が聞こえた。


「マミが死ぬなんて……よっぽどの魔女のようだね」

さやか「……キュゥべえ」

杏子「…………」

キリカ「しろまる……」

QB「いや、正確には使い魔か」

QB「今までに前例がないよ。魔法少女と全く同じ姿をした使い魔だなんてね」

ほむら「…………」

杏子「おい、キュゥべえ。あの魔女は……」

杏子「あいつは何なんだよ……!」

杏子「あの魔女は、使い魔は、何がどうなっているんだよ……!」



584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:25:33.96 ID:hYDtyF/6o

QB「僕にもわからないと言ったじゃないか」

QB「……ただ、調査をして最近わかったことがある」

QB「あの魔女は『ある魔法少女が魔女になったもの』だ」

杏子「……は?」

さやか「……え?」

ほむら「……ッ!」

QB「ほむら。君は彼女に会ったことがあったようだね」

QB「M市に住んでいる魔法少女のことだよ」

QB「しかし、彼女は他の魔法少女のテリトリーに侵入するようなことはしないはずなんだけど……」

ほむら(……!あの……魔法少女……?)


スタンドの存在を確認しにいった……指標として活用したM市の魔法少女。

首に切り傷があり、前の時間軸では水を熱湯にするスタンド使い。

何を考えているのかいまいちつかめない、少し背伸びをする性格の少女。



585 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:26:23.66 ID:hYDtyF/6o

ほむら(あの魔法少女が……)

ほむら(彼女がアーノルドになったって……!?)

ほむら(確かに……彼女は、引力の魔女レイミになるかもしれなかった魔法少女の知り合いだ)

ほむら(スタンドを作りだした魔女の、生前の知り合いなら……)

ほむら(もしかしたら……スタンドのある魔女もあり得ない話ではないのかもしれない……)

キリカ「……しろまる。今すぐこっから失せてもらいたい」

QB「……聞かれたから答えたのに、人間はいつもそうだ……」

QB「わけがわからないよ……」


QBは闇に溶けるように消えた。

さやかは聞き間違いかと思っていた。

杏子は比喩的な表現かと思っていた。




586 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:26:55.52 ID:hYDtyF/6o


杏子「……おい、どういうことだ」

さやか「い、今……キュゥべえが言ったのって……転校生……?」

ほむら「…………」

杏子「お、おい……黙るな。言え……ヤツは、どういう意図があってそんなことを言った!?」

さやか「転校生!まさか、違うよね……!?魔法少女って……もっと良い物だよね……?」

ほむら「…………」

キリカ「……恩人、もう時間がないと呉キリカは考える」

キリカ「ここは、もう教えてやるべきだ」

キリカ「魔法少女の真実を」

ほむら「…………」

さやか「魔法少女の……」

杏子「……真実、だと?」




587 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:28:15.63 ID:hYDtyF/6o

ほむら「し、しかし……」

ほむら「いくらなんでも……早すぎるわ……!」

ほむら「美樹さやかは魔法少女になってまだ数時間も……」

キリカ「私は知っているからまだいいが、二人に教えておくに越したことはない」

キリカ「既に一人逝ったんだ。もしそういう時が起きてしまった際、混乱が起きる」

キリカ「起こりうるんだよ。実際に……」

キリカ「さやかだって、私がグリーフシードをあげてなかったら……」

キリカ「私だって、恩人にグリーフシードを貰っていなかったら……」

さやか「キリカさん……あたし、どうなってたっつーんですか……!?」

杏子「ほむら……今すぐに教えろ……!どういう意味だ……!何故、何故そんな辛そうな顔をするんだ……!」

ほむら「……っ」



588 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:29:02.78 ID:hYDtyF/6o

「……わたしにも、教えて」

ほむら「!」

ほむら「ま、まどか……!起きていたの……?」

まどか「うん……キュゥべえが来た時に……」

まどか「ほむらちゃん……魔法少女の真実って、何?」

キリカ「……もう、逃げることはできない」

さやか「転校生……!」

杏子「…………」

ほむら「……わかったわ」

ほむら「……みんな。落ち着いて聞いて」

ほむら「ソウルジェムが穢れきると、魔法少女は――」



589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:30:20.05 ID:hYDtyF/6o

ほむらは話すことにした。

魔法少女の残酷な真実。

それを知って、さやかと杏子がどうなってしまうのか。

こればかりは、二人に託すしか他ない。

魂のない肉体、魔女になりうる魂。

最悪、キリカと二人だけで戦うようなことになったとしても、

杏子が絶望して魔女になり襲われるようなことがあっても、

助けてくれなかったとさやかから憎悪の対象にされようとも、

そういうことになる覚悟はできている。

せめて、まどかが契約をしないと思うようになればせめてもの幸いである。



590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:31:40.93 ID:hYDtyF/6o


――この世界のどこでもあり、否なる場所。


魔女の暮らす異空間。

世界の狭間。

ジシバリの魔女アーノルドの結界は、過去の土地をコピーする。

自身というものが存在していないのか、

アーノルドらしさが、この世界にはない。闇、無の空間。

背景のない世界で、その主は持ち込まれた「食糧」を食べている。

そこから少し離れた場所に、アーノルドの使い魔群、ヴェルサスがいる。

もたれ掛かる壁がなければ肘を置けるインテリアもない。

暗闇の世界で、Yuma、Mami、Kirikaが輪をつくって地べたに座り込んでいる。

今日の戦果を報告し合っている。




591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:32:13.61 ID:hYDtyF/6o

Yuma「あ~あ……」

Yuma「なんだ……Kyoko死んじゃったんだぁ」

Mami「残念ながらね」

Kirika「シビル・ウォーは強いスタンドだが……弱体化してしまった以上仕方がない」

Yuma「それなりに悲しいけど、Yumaにはまだ、お姉ちゃんがいるし……いつまでも悲しんでちゃあいけない」

Mami「その通りよ。Yumaちゃん。よく言ったわ。偉いねぇ~」

Yuma「だからKirikaお姉ちゃんも恋人を殺されたからっていつまでも泣いてちゃダメだよ」

Kirika「あー、うん。そりゃまぁわかってんだけど……」

Mami「それにしたって、情けないわねぇ」

Yuma「Kirikaお姉ちゃんの『チーム』はもう二人も脱落しちゃったよ」

Kirika「ぐぬぬ……」



592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:32:53.42 ID:hYDtyF/6o

Yuma「『追加』する?一人になっちゃったよ?」

Kirika「いや……いいよ。私のクリームは正直単独の方がやりやすい」

Mami「強がりね」

Kirika「違わぁい」

Yuma「じゃあ追加は『Sayaka』のになるね。元々欲しがってたから」

Kirika「好きにしなよ」

Mami「片割れがスタンド使いとは言え、同じ人間にやられたってのはメンツ丸つぶれよね。本当に大丈夫?」

Kirika「大丈夫だってばさぁ、ほむらも『私』もどうにでもなるって」

Mami「ところで、そろそろ『出産』に立ち合いましょうか」

Kirika「うん」

Yuma「わくわくぅ」



593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:34:12.89 ID:hYDtyF/6o


現段階で産まれている同使い魔、ヴェルサスの中に『あるゲーム』をしている小集団がいる。

Oriko、Kirika、Kyoko。対するは、Mami、Yuma、Sayaka。

前の時間軸、概念として対立した間柄。

前の時間軸に関わった概念を多く滅ぼした方のチームの勝ち。

Orikoのチームは美国織莉子と巴マミを殺害した。

Mamiのチームは千歳ゆまと上条恭介を殺害した。

現在同点ではあるが、Orikoのチームは既にKirika以外が脱落している。

『追加』とは、アーノルドが食事を終えて新たに産む使い魔。

その概念はMamiのチームに加入させられる。



594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/20(水) 00:34:58.90 ID:hYDtyF/6o

シビル・ウォー 本体:Kyoko

破壊力-なし スピード-C 射程距離-B
持続力-A  精密動作性-C 成長性-D

過去に「捨てたもの」を支配する空間を創造する能力。その性質は「浄罪」
「捨てたもの」の幻覚を見せつける。その幻覚は相手に直接襲いかかる。
図書室や廃教会等の屋内に「結界」を設定し、その結界に入り込んだ相手に作用する。
結界内で本体が殺された場合、殺した相手に「捨てたもの」を押しつけて生き返るという能力もある。
しかしKyokoは使い魔なので、罪悪感というものがない。
故に押しつける罪も清める罪もないため、罪を押しつけることはできず、殺されると死ぬ。

A-超スゴイ B-スゴイ C-人間と同じ D-ニガテ E-超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある



608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/24(日) 23:52:38.41 ID:7yEfXCmko

#21『私達、親友だったんだよ』



『ストーン・フリー』


糸の形の時は遠い距離まで行ける……。

でも力が弱く、ダメージも受けやすい……。

立体になり固まれば……力も集中して強くなる。

しかし、逆に距離はせいぜい……二メートル。

この「ストーン・フリー」で鉄板を破れるか?

いや、それは不可能だった。

コンクリートブロックを殴り砕く程度はできる。

突如発現した私の『精神のエネルギー』


まず把握しなくては……能力の汎用性を……。



609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/24(日) 23:53:16.50 ID:7yEfXCmko

昨日――病院に生じた結界へ行く前のこと。

美国邸に警察の人間が入っていったのを見かけた。

織莉子が行方不明になったことが、ようやく世間に認知されたようだ。

やっと、だ。今更だ。警察をのろまだのなんだの非難するつもりはない。

数日経ってやっと織莉子の失踪が社会に知れたということは、

逆に言えば白百合女子中学校の連中は今日の今日まで

誰も織莉子の無断欠席を不審に思わなかったということになるからだ。

電話くらいはしただろう。当然留守番電話だ。

それを踏まえてやっと織莉子がこの世からいなくなったという事実へ踏み込んだ。

……織莉子の父親は、政治家だった。

それも人徳があり、尊敬される人物だったそうだ。

その娘である織莉子もまた、敬われた。

しかしそれは、父親が政治家だったからに過ぎなかった。



610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/24(日) 23:54:14.54 ID:7yEfXCmko

織莉子の父親は不祥事をやらかして自殺した。

同時に織莉子の評価も地に落ちた。手の平返し。

周りの人間は織莉子の父親の影しか見ていなかったんだ。

汚職議員の娘という肩書きが汚らわしく見えたのだろう、

だから発見が遅れたんだと思う。関心がなくなったんだ。

クラスメートも教師も……織莉子から目を逸らしたんだ。

……織莉子の遺伝子の半分は彼のもの。

過去のことだということもあるし、そんなことをした織莉子の半分を軽蔑する気はない。

非難すべきは、織莉子を見捨てたヤツらだ。

一人暮らしの女子生徒の数日に渡る音信不通を不審に思わない薄情者共だ。

美国議員の娘の失踪がニュースになってマスコミ連中が来たら、

そういうヤツらはぬけぬけと都合の良いことを抜かすんだろう。腹立たしい。



611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/24(日) 23:55:40.19 ID:7yEfXCmko

私は違う。

私は織莉子の人間性に惚れ込んだんだ。

織莉子はこんな私に優しくしてくれた。

私を必要としてくれた。頼りにしてくれた。

私の心は織莉子という天使、いや、女神と出会って生まれ変わったんだ。

……いや、生き返ったと言ってもいい。それまでの私の心は死んでいた。

私こそが織莉子の最愛の人になれる。

織莉子を愛する資格を持つ。

そう思っていた。

だから私の味覚も嗅覚も、織莉子が一番なんだ。




612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/24(日) 23:56:21.43 ID:7yEfXCmko

キリカ「恩人には悪いけど……」

キリカ「織莉子のじゃないと、こんなに美味しくない」


織莉子の家にはもう行けない。家にはいたくない。学校へは端から行く気がない。

キリカは今、家出のような形でほむらの家に居候をしている。

こぢんまりとしたアパートの一室。

作り置きの食事が小さなちゃぶ台に置かれている。

料理は上手だが、味覚が合わない。

キリカは昼食を横目にごろりと畳に寝転がる。

床の隅に銃弾が一個転がっていた。

「完璧に見えてどこか抜けている」

一夜ほむらと過ごして感じた内面。



613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/24(日) 23:58:20.41 ID:7yEfXCmko

キリカ「恩人は学校へ行ったけど……」

キリカ「昨日の今日で、まどかやさやかは大丈夫なんだろうか」

キリカ「……キョースケっていうのも行方不明になったんだっけか」

キリカ「一人暮らしの織莉子やマミと違って彼は入院患者だ……いなくなったことがわからないということはなかろう」

キリカ「誘拐されたとか、そんな話になるのかな?学校の対応としては……生徒を不安がらせないために、内密にするんだろうか」

キリカ「相談中って、とこだろうか……」

キリカ「……あぁ、落ち着かない」

キリカ「おつかいにでも行こうかな」


キリカは食べかけの食事にラップをして冷蔵庫へ入れた。

居候先の家主から託されたメモと財布。居候として暮らす上の義務を果たすべく、

キリカはそれらと合い鍵を持ち、外出することにした。

そしてふと、最近の天気は晴ればっかりだなと思った。



614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:00:02.61 ID:9VFusYaAo

見滝原中学校は、いつも通りであった。

毎日の通り、仁美は温厚な微笑みと共に丁寧に挨拶をした。

担当教諭の和子は何やら浮かない表情をしていたが、普段通りだった。

今日、さやかは学校を体調不良により欠席した。

まどかは欠席さえしなかったものの、一日中魂が抜け出たかのような沈んだ表情をしていた。

仁美やクラスメート、教師はその様子を心配に思ったが、

まどかは力無く微笑み、大丈夫と言った。

事情を知っているほむらにしてみれば、

その弱々しい笑顔はとてもいじらしい。

ほむらはなるべく、普段通りを振る舞った。

まどかを気にしている内に放課後になっていた。

幸か不幸か、マミと恭介がこの世から消えたということは今のところ誰も知らない。



615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:01:21.24 ID:9VFusYaAo

ほむら「……まどか。大丈夫?」

まどか「うん……大丈夫だよ」

ほむら「…………」

ほむら「……美樹さやかのことが心配なのね」

まどか「…………」

ほむら「……無理もないわ」

ほむら「…………」

仁美「まどかさん。ほむらさん」

ほむら「志筑仁美……」

まどか「……仁美ちゃん」

仁美「……あの、つかぬ事を聞くんですが……」




616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:02:16.52 ID:9VFusYaAo

仁美「さやかさん、メールアドレスを変えたりしてましたか?」

まどか「ううん、してないよ」

ほむら「……どうかしたの?」

仁美「メールを送っても返信がないんですよ」

仁美「明日のことで連絡したいことがあるのに……」

まどか「返事が来ない……?」

仁美「えぇ」

ほむら「そう、返事が……」

ほむら「後でこっちの方でも連絡してみるわ」

ほむら「繋がり次第、あなたに連絡をするように伝えておく」

仁美「すみません。助かります」



617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:03:04.00 ID:9VFusYaAo

仁美「それじゃあ、私は今日もお稽古があるんで」

まどか「……うん」

ほむら「いつも大変ね」

仁美「いえいえ」

仁美「ところで……今日もお二方は『マミさん』のところに行きますの?」

まどか「……ッ!」

ほむら「…………」

仁美「私はなかなか機会がなくてお会いしたことありませんが……」

仁美「いつか私にもマミさんを紹介してくださいね」

まどか「…………」

仁美「……まどかさん?ど、どうかなさいました?」



618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:03:45.45 ID:9VFusYaAo

まどか「……ごめん。わたし、先帰るね」

仁美「え?あ、はぁ……」

ほむら「まどか……」

まどか「また明日ね」

仁美「え、えぇ……」

仁美「今日のまどかさん、どうかしたのでしょうか……?」

仁美「もしかして……『あの日』だったとか……」

ほむら「…………」

ほむら(……巴さんのことを知らないのだから、仕方がないわね)

ほむら「志筑仁美……その……何と言えばいいのか……」

仁美「?」



619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:04:30.81 ID:9VFusYaAo

ほむら「その、まどかとさやかは今……巴さんとケンカをしているの」

仁美「そ、そうだったんですか……?」

ほむら(嘘をついた……でもこのくらいの嘘許されるはず)

ほむら(……それに魔法少女のことを喋る訳にはいかない)

ほむら「だから……二人のことを思うなら、放っておいてあげて」

ほむら「話題に出すなというのもなんだけど……理解して」

仁美「さやかさんも……ですか」

仁美「それなら私……まどかさんに気まずいことを言って……」

ほむら「仕方ないわ。知らなかったのだし……言わなかった私にも落ち度がある」

仁美「…………」

ほむら「これから習い事だというのに後味の悪い思いをさせてごめんなさい」

仁美「い、いえ……ほむらさんが謝ることなんて……!」



620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:05:02.07 ID:9VFusYaAo

仁美「…………」

仁美「……ほむらさん」

ほむら「……何かしら」

仁美「その……」

仁美「変なことを聞くようですが……」

ほむら「?」

仁美「……ほむらさんも、無理してませんか?」

ほむら「……え?」

仁美「私、まだあなたのことあまり存じませんが……」

仁美「何となく……思うんです。ほむらさんも、巴さんと……?」

ほむら「……私は大丈夫よ。何の問題もないわ」



621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:07:17.72 ID:9VFusYaAo

仁美「そう……ですか。ならいいんですが……」

仁美「えっと……それじゃあ、私はそろそろ」

ほむら「えぇ」

仁美「それでは、また明日……まどかさんを、よろしくお願いしますね」

ほむら「……えぇ、さようなら」

ほむら「…………」

ほむら(無理してないか、か……)


志筑仁美……。

元々気遣いができる優しい人ではあるけど、まさか彼女に心配されるなんてね。

この時間軸での巴さんは初対面なのに無理してるとか言われたけど……。

そんなにもわかりやすいのかしら。私は。



622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:09:17.67 ID:9VFusYaAo

志筑仁美もまた……美樹さやかと同じく、上条恭介に恋心を抱いている。

きっと、この時間軸でもそうだろう。

恋敵であるはずの美樹さやかを気遣い、その好意を隠す、

正々堂々、芯の通った性格をしている。

しかし……何にしても彼の死をいつか知らされることになる。

大きなショックを受けることになるだろう。

思いを伝えられないまま好きな人を亡くしてしまうなんて……

恋愛にトラウマを抱くなんてことがなければいいが……


ほむら「…………」

ほむら(さて……どうしたものか)




623 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:09:50.46 ID:9VFusYaAo

ほむら(美樹さやか……)

ほむら(ケータイの電源を切っているのか、家に置きっぱなしなのか)

ほむら(家に引きこもっているというのは考えにくい)

ほむら(彼女を捜すべきか?)

ほむら(しかし佐倉杏子の様子も気になる)

ほむら(呉キリカにも同行してもらおう)

ほむら(何にしてもまずは一度家に帰らなければならない)

ほむら(まどかを追いかけた方がいいだろうか……)

ほむら(でも……一人にさせた方がいい時というのもある)

ほむら(魔女になるということを知ってる以上……契約することはないだろうけど……)



624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:10:27.96 ID:9VFusYaAo


頭が働かない。


体から力を感じない。体重すら感じない。

まるで関節部分が糸で吊された、操り人形のような気持ちだった。

昨日、マミという尊敬する先輩、恭介という友人の死を突きつけられた。

昨夜、魔法少女という存在の真実を知った。

その時の幼なじみの失意の表情は、見ていてとても辛かった。

友達が「そんな存在」になった。

友達が「そんな存在」だった。

昨日から、喪失感が心を締めつける。

果たしてどれだけ涙を流したことか、記憶にない。

気が付けば朝だった。



625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:11:31.14 ID:9VFusYaAo

やっと泣かずに家族と会話できるようまで、その感情を抑えられるようになったにもかかわらず、

仁美にマミの名前を出され、逃げるように行ってしまった。

再びわんわんと泣きかねなかったのだ。

そして呑気にもマミという名を出した仁美が、心のどこかで憎らしく思ってしまった。

事情を知らないのだから当然なのに、

気を使わせてしまい、そんなことを思ってしまい、

申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「君も僕のことを恨んでいるのかな?」

まどか「…………」


力無く歩むその足下を、いつの間にか並行していたキュゥべえは言う。

可愛らしい小動物に思っていた「それ」も、

末恐ろしい悪魔の使いのように思えた。



626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:12:09.42 ID:9VFusYaAo

昨夜、ほむらから聞いた魔法少女の悲しい真実。

魔法少女の魂はソウルジェム。体を抜け殻にされる。

そして、そのソウルジェムが穢れきると魂は魔女となる。

そのことを内密にし、騙すようにして「搾取」しようとした。

もっともキュゥベえ自身には、人を騙しているという自覚がない。


まどか「……あなたを恨んだら、さやかちゃんを元に戻してくれる?」

QB「それは無理だね」

まどか「…………」


期待はしていない。

するだけ無駄であるという実感がある。

無駄なことをする気力はない。



627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:13:02.53 ID:9VFusYaAo

まどか「……ねえ」

QB「何かな」

まどか「いつか言ってた、わたしがすごい魔法少女になれるって話……」

まどか「あれは本当なの?」


マミと出会い、そしてキュゥべえと会った日。

その時にキュゥべえは話していた。

まどかには素晴らしい、魔法少女の素質を内包している。

さやかを差し置いてまどかの素質を誉めていた。

そのためさやかは拗ねていた。

あの時は、戸惑いと誇り高い気持ちと照れがあった。

あの時は、魔法少女がどんな職業よりも素敵なものだと思っていた。



628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:13:32.00 ID:9VFusYaAo

QB「すごいなんていうのは控えめな表現だ。君は途方もない魔法少女になるよ」

まどか「どうして、わたしなんかが……」

QB「僕にも分からないが……君の潜在能力は、理論的にはあり得ない規模のものだ」

QB「君が力を開放すれば奇跡を起こすどころか、宇宙の法則をねじ曲げることだって可能だろう」

QB「何故君一人だけが、それほどの素質を備えているのか……」

QB「理由は未だにわからない」


あり得ない程の潜在能力……。

……もし、わたしが魔法少女になって、それで魔女になったらどうなるんだろう。

キュゥべえに聞けば、きっと答えてくれる。

でも……さらっと「日本を滅ぼしかねない」とか言われたら反応ができなくなっちゃう。



629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:14:35.63 ID:9VFusYaAo

まどか「……わたしは自分なんて何の取り柄もない人間だと思ってた」

まどか「ずっとこのまま誰のためになることも何の役に立つこともできずに……」

まどか「最後までただ何となく生きていくだけなのかなって」

まどか「それは悔しいし寂しいことだけど、でも仕方ないよねって思ってたの」

QB「現実は随分と違ったね」

QB「まどか。君が望むなら全てなかったことにできるよ」

まどか「……なかったこと?」

QB「そう。なかったこと……時間を巻き戻すという意味ではない」

QB「契約なら、さやかの体を元に戻すこともできる」

まどか「……っ」

QB「それだけじゃないよ」



630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:15:08.60 ID:9VFusYaAo

QB「肉体は既に存在しないが、マミやさやかの幼なじみだという上条恭介という少年を生き返らせることだってできる」

QB「君がその気になればだけれど……」

QB「キリカの親友である美国織莉子という人物、杏子と行動を共にしていた千歳ゆまという人物を生き返らせたってお釣りが出るくらいだ」

QB「逆を言えば君でないと取り戻せない。取り戻すに顔を知らなくたって構わない」

まどか「…………」


美国織莉子さん……。

キリカさんにとって、この世の誰よりも大切だという人。

千歳ゆまちゃん……。

ご両親が魔女に殺されて、杏子ちゃんがお世話をしていたという子ども。

わたしなら、その二人を取り戻せる。

さやかちゃんの魂も、マミさんも、上条くんも、大勢の命も、

わたしが魔法少女になれば……。



631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:15:54.82 ID:9VFusYaAo

まどか「……わたしなら、できるの?」

QB「と言うと?」

まどか「わたしがあなたと契約したら、さやかちゃんの体を元に戻せる?」

まどか「マミさんも、上条くんも、織莉子さんもゆまちゃんも取り戻せる?」

QB「その願いは君にとって、魂を差し出すに足る物かい?」

まどか(わたしが願えば、みんな……)

まどか(みんな、笑顔になれるんだ)

まどか(わたしごときの命で……)

まどか(わたしが願うことでみんな……取り戻せる)

まどか「それなら……わたし……」


「その必要はないわ」



632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:16:46.63 ID:9VFusYaAo

聞き慣れた声がした。

そして同時に、視界の隅に何かが横切った。吹き飛んでいった。

まずは「それ」を確認する。

ゴミ捨て場に放置されていた継ぎ接ぎだらけの人形のような物体。

まどかはそれが何かを知っている。初見で理解できる。

使い魔。

魔女が産む、配下のようなもの。

次に、声のした方を見た。

黒い長髪が揺れ、凛とした目と目が合った。


まどか「ほむらちゃん……?」

ほむら「…………」



633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:17:15.95 ID:9VFusYaAo

ほむら「呉キリカ。まどかは任せるわ」

キリカ「はいよ。恩人」


ほむらの隣にいたのは、眼帯をした黒い魔法少女、キリカだった。

キリカはまどかの横に移動した。

ほむらは振り返り駆けていった。


まどか「え……」

キリカ「怪我はないかい?まどか」

まどか「あ、は、はい……」

キリカ「私から離れるなよ……使い魔が狙ってるからな」

まどか「使い魔……」

まどか「……!」



634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:17:42.71 ID:9VFusYaAo

気が付かなかった。

自分が今いる場所。

空が空でない。

屋内のようで、屋外のようでもある。

歪な形のオブジェが点在している。

無造作に選んだペンキをブチ撒けたかのような色彩感覚。

『魔女の結界』だった。

ほむらが駆けていったのは、魔女の方だった。

ほむらの体が人形に見える程の大型の魔女。

もしかしたら「これ」は、かつて魔法少女だったのかもしれない。

マミのような「いい人」が絶望した姿なのかもしれない。

目を背けたくなる。



635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:18:15.12 ID:9VFusYaAo

キリカ「まどか……目を背けちゃダメだよ」

キリカ「恩人の戦いを見るんだ」

まどか「…………」

キリカ「君がマミから魔法少女ってのがどんなものだと教えられたのかは知らないが……」

キリカ「これが魔法少女だ」

キリカ「そして宿命なんだ」

まどか「宿、命……」

キリカ「……いや、今の君に言っても仕方がないか」

まどか「……?」


キリカは、象の何倍もの大きさの魔女を指さした。

ほむらの華奢な体は、大きな異物に立ち向かっている。



636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:19:13.28 ID:9VFusYaAo

趣味の悪いオブジェとオブジェを、ほむらはタン、タン、と飛び移る。

跳躍力――現在、4m22

魔女への接近を妨げようと、羽根のような突起が生えた使い魔が飛び、向かってくる。

ほむらの跳躍の軌道上に重なってきた。


ほむら「……退きなさい」

ほむら「ストーン・フリー!」


空中でほむらは体幹をひねり、回転と共に腕を突き出す。

ほむらの右腕に半透明の像が浮上し、二本の右腕が使い魔に迫る。

ドグシァッ!

精神力で生成された糸の塊は、虫を払うように何てこともなく使い魔を殴り飛ばした。

ストーン・フリーのパワーであれば一撃で葬れる。



637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:19:56.73 ID:9VFusYaAo

しかし、使い魔を殲滅させるつもりはない。

魔女を急いで倒さなければならない。


ほむら「この魔女……!」

ほむら「よくも『こんな状態』のまどかを狙ってくれたわね」

ほむら「……一気に片をつける」

カチリ

一刻も早く、魔女を葬らなければならないことには変わらないが、

スタンドの経験値を得るためにも銃器は使わない。

遠距離攻撃主体から、近距離攻撃のみの転換。

ストーン・フリーにパワーを備えさせるには、射程距離を犠牲にしなければならない。

しかし、射程距離が短いというのであれば、時間を止めて接近すれば何も問題はない。



638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:21:34.23 ID:9VFusYaAo

――時間停止と近距離武器。

この組み合わせで思うこと。

かつて二人の魔法少女に時間停止の魔法を披露した時のこと。

ゴルフクラブでドラム缶を殴り、近距離武器との相性の悪さを指摘された。

時間停止の使用者が鈍くさかったということもある。

物理で殴るよりも、爆弾を仕掛け爆破させる方が圧倒的に強い。

また、時間停止をしている間、物体は殴る瞬間だけ、その魔法の影響を受けないという特徴がある。

つまり触れた一瞬だけ時間停止の世界に相手を入門させてしまう。

機械操作の技術のように、訓練次第ではその辺りの調節が後付けで、

いつかできるようになるかもしれない。

少なくとも今はできない。

それが時間停止魔法の弱点。




639 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:22:32.32 ID:9VFusYaAo

――ほむらの背後から、半透明の人型のヴィジョンが出る。

糸の塊。ストーン・フリーの近距離パワー型のフォルム。


ほむら「射程距離……二メートルに入った」

ほむら「ストーン・フリー!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」


ストーン・フリーは勇ましい声をあげながら、

拳の高速ラッシュを叩き込む。

スタンドで触れても、魔女は時間の止まった世界に一瞬だけ片足を入れさせてしまう。

しかし、行動の隙は与えない。

結果的に、いつの間にか近寄られ為す術なくタコ殴りにされる。

至高の戦法。



640 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:23:25.60 ID:9VFusYaAo

ただし、アーノルドの使い魔の総称、ヴェルサスはほむらのことを知っている。

時間停止の魔法を知っている。

病院で杏子の姿の使い魔――Kyokoは幻惑魔法により、ほむらを罠に嵌めようとしていた。

あの時、時間を止めて狙撃をしたとしても、あれはシビル・ウォーの幻覚であり偽物だった。

具体的な策は不明に終わったが、時間停止は対策されていた。

同様に、他のヴェルサス相手に通用しない可能性がある。

勝利には常に相手より一手二手先を行き、上回る必要がある。

対策の対策。それが今のほむらの課題。


「オラァァッ!」

ほむら「……やれやれだわ」

ほむら「こんなのを相手に、消耗なんて……していられない」

ほむら「そして時は動き出す」




641 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:24:11.61 ID:9VFusYaAo


夕日に照らされた公園。


名前も知らない魔女を撃破し、まどかは二人の魔法少女に連れられた。

まどかはベンチに座らされる。

三人の後をひょこひょことついてきたキュゥべえはその隣に「おすわり」をした。

前方に、ほむらとキリカが立っている。

傾いた日差しにより影のあるキリカの顔は、少し不気味に見えた。


まどか「…………」

まどか「あの、わたし……」

キリカ「……君は『魔女の口づけ』をくらっていたんだ」

まどか「魔女の口づけ……?」

まどか「わたしはいつも通りでしたけど……」

ほむら「自覚がないのが魔女の口づけ」

ほむら「あなたの落ち込んだ気分……そこを狙われてしまったのよ」



642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:24:40.11 ID:9VFusYaAo

ほむらは前屈みになり、まどかの首に手を回し、うなじに触れた。

ひんやりとした指が心地よかった。

そこに魔女の口づけを受けていたらしい。

いつどこでついたのかわからない。


キリカ「それはそうと……しろまる」

キリカ「魔女の口づけがついてまともじゃない精神状態で契約を持ちかけるとはね……つくづくムカつく」

QB「いいや。まどかがいつも通りだと自覚していた通り、まどかの精神はまともだったよ」

QB「この魔女の口づけで、ほんの少し心底の欲求に忠実になっていただけさ」

ほむら「そんなこと……」

QB「疑うなら本人に聞いてみればいいんじゃないかな」

QB「あの時のまどかは、魔女の口づけの補正を考慮した上でも、自分が犠牲になれば、さやかもマミも織莉子もゆまも上条恭介も取り戻せるって、本心で思っていた」

ほむら「…………」

QB「そもそも、気が付いた時には魔女の結界にいたんだ」

QB「僕の勧誘行為はむしろ、魔法少女にさせて魔女から助けてあげようとしていたと言えるんじゃないかな」



643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:25:19.64 ID:9VFusYaAo

ほむらはまどかの目をじっと見つめる。

影のせいで、目から感じさせるものが温かいか冷たいか、それが判断できない。

まどかは目を逸らす。


ほむら「まどか……」

まどか「…………」

ほむら「……本当なの?」

まどか「……え、えっと」

ほむら「本当にあなたは、そう思ったの?取り戻そうと思ったの?」

ほむら「自分の命を引き替えにしてもいいって思ったの?」

まどか「…………」

キリカ「……恩人。私に免じて、攻めるような言い方はやめてあげて」




644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:25:49.78 ID:9VFusYaAo

ほむら「…………」

キリカ「まどかはさ……会ったこともないのに織莉子やゆまって子を生き返らせたいと思ったんだろう」

キリカ「大して親しくもない私や杏子を思って……優しいヤツじゃあないか」

ほむら「……まどかは優しすぎるのよ」

キリカ「そうだね……お人好しが過ぎる」

キリカ(今という現実があるから何とも言えないことだけど……)

キリカ(もしかしたらこんな『気のいいヤツ』を殺さなければならなかったのかもしれなかっただなんて、チト心苦しいな)

キリカ(別に織莉子を否定するつもりはないし……織莉子の命令なら何てこともなく殺せるだろうけど……)

キリカ(……まぁ、今は関係ないことだけどね)

キリカ「まどか。悪いがハッキリ言わせてもらう。君がついでで生き返らせようとした私の織莉子のことだ」

まどか「織莉子さんのこと……?」



645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:26:33.30 ID:9VFusYaAo

キリカ「織莉子はね、予知能力者だったんだ。そういう魔法少女だった」

キリカ「そして、君が滅茶苦茶おっそろしい魔女になるっていう予知を見た」

まどか「え……!」

まどか「恐ろしい……魔女……?」

キリカ「何がどう恐ろしいかは私の口からは言いたくない」

キリカ「しかしまぁ、この際ぶっちゃける。私を軽蔑してくれても構わない」

キリカ「そういう魔女の誕生を未然に防ぐため、私と織莉子は君を殺すつもりでいた」

まどか「ッ!?」


背中にツララをあてられたような気分になった。

冗談ではない。偽りでもない。人殺しの目。氷の瞳。

まどかはごくりと唾を飲んだ。



646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:27:24.37 ID:9VFusYaAo

キリカ「まぁあの時はそれが君だってことは特定するには至ってなかったが……」

キリカ「なんだかんだでその織莉子は殺されてしまった」

キリカ「そして、私は恩人に助けられた」

キリカ「恩人の目的は、君を魔法少女にさせないこと。私達と少し似ていた」

キリカ「その魔女の誕生を防ぐこと。それが恩人の目的」

キリカ「そして、織莉子の遺志だと私は受け取ることにした」

キリカ「まぁ織莉子だったら確実な手段だと言って抹殺の方向性を曲げることはなかったかもしれないが、それはさておき」

キリカ「もし、君が織莉子の遺志を踏みにじる行為に至ろうと言うのであれば……」

キリカ「その時は君を『殺さ』せてもらう」

まどか「……!」

キリカ「痛みは感じさせない。首を斬り落とさせてもらう」



647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:28:02.77 ID:9VFusYaAo

キリカ「異論はないよね。恩人」

ほむら「…………」

まどか「ほ、ほむらちゃ……」

ほむら「…………」

キリカ「沈黙は肯定ととるよ。魔法少女となったまどかに守る意義なし、と」

まどか「そ、そんな……」

キリカ「いいね。命が惜しかったらせいぜいしろまるの言葉を無視することだ」


キリカの口は笑っていたが、目は一切笑っていない。

安心をさせるための笑顔なのかもしれないが、尚更まどかの不安を煽ることになる。

ほむらの無言と、怒っているようで悲しんでいるようにも取れる表情がさらに煽る。



648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:28:42.29 ID:9VFusYaAo

QB「……やれやれ」

QB「契約をすれば殺すだなんて、手厳しい手段をとるものだ」

QB「殺されるとなると、契約をするにできないね」

QB「僕としても、まどかを死なせたくないからね」


キュゥべえは特に口調を変えるわけでもなく、淡々と言った。

「死なせたくない」

あたかも人情家を気取るような表現だと、ほむらは思った。


QB「人間がよくよく口にする友情だとか絆だとか……」

QB「ほむら、君にはそういうのはないのかい?」

QB「友達を殺させるのを容認するなんて、わけがわからないよ」

まどか「……」

ほむら「……っ」



649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:30:19.57 ID:9VFusYaAo

キリカ「織莉子を生き返らせる……とっても魅力的だし、是非そうしてくれと言えるならどれだけ幸せなことかと思う」

キリカ「私は……恩人のことを恩人と呼んでいるから、意志に従い君を殺すとか。そういうことを言ってるんじゃあない」

キリカ「覚えておくといい。私個人として、君を殺すことには躊躇はない」

まどか「…………」

キリカ「恩人。私は行く。まどかと二人きりで話すといい」

キリカ「あまり遅くなる前に、まどかを送ってあげてさ……」

キリカ「私は……しばらく歩きたい気分なんでね」

ほむら「……えぇ」

キリカ「あと私個人として腹が立ったからしろまる、おまえは後でケチョンケチョンにしてやる」

QB「えっ」


キリカはキュゥべえの頭を鷲掴み、早歩きで去っていった。

夕日は沈みかけ、橙色の空は藍色に侵食されつつある。

ほむらは何も言わず、まどかの隣に座った。

布が擦れる音と水の音。大型車の遠い走行音が耳に入る。



650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:31:26.64 ID:9VFusYaAo

お互い顔が見れない。

二人とも、地面を見つめている。

沈黙を最初に破ったのはまどかだった。


まどか「……ほむらちゃん」

ほむら「…………」

まどか「ほむらちゃんって、わたしの何なの?」

ほむら「…………」

ほむら「……友達、よ」

まどか「……友達」

まどか「…………」

まどか「……友達って、そんなに悲しい声で言われる言葉なのかな」

ほむら「…………」



651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:31:54.26 ID:9VFusYaAo

まどか「ほむらちゃんは……さやかちゃんやマミさんを……友達と思ってないの?」

まどか「一緒に学校行ったり、お昼ご飯一緒に食べたよね」

まどか「放課後、マミさんの家で美味しそうに紅茶を飲んでたよね」

まどか「ほむらちゃん、全然笑ってくれないけど、とっても楽しんでいるように見えたよ?」

まどか「なのに……それなのに……」

まどか「どうしてそんな冷たい言い方ができるの……?」

まどか「わたし、マミさんが大好きだし、さやかちゃんを助けたい」

まどか「キリカさんのお友達の織莉子さんって人も、ゆまちゃんっていう子も、上条くんも取り戻せるんだよ?」

まどか「わたしなんかが魔法少女になるだけで、みんな元に戻る……笑顔を取り戻せる」

まどか「できることを、どうして止めるの?」

ほむら「…………」



652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:32:44.93 ID:9VFusYaAo

まどか「キュゥべえは……わたしがすごい魔法少女になれるって言ってた」

まどか「それってつまり、どんな魔女にも負けないってことだよね」

まどか「もちろんわたし……怖いよ。魔女……」

まどか「あんなのと戦うのも怖いし、それになっちゃうかもしれないなんて、死んでも嫌だって思う」

まどか「でもほむらちゃんとキリカさんは……それを知っていたのに、力強く生きてるよね……」

まどか「わたしには、二人がやってることはできないのかな?」

ほむら「…………」

まどか「……わたしにはわからないよ」

まどか「どうしてあなたは、悲しまないなんてことができるのか……」

ほむら「……あなたのためよ」

まどか「……確かに」

まどか「……確かにそうかもね」



653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:33:41.92 ID:9VFusYaAo

まどか「わたしが契約したら魔女になるっていう予知なんだもんね」

まどか「わたしが言ってることが自分勝手なことだってのはわかってる。間違っているってわかってる」

まどか「だけど……だけど契約したら見捨てるだなんて、そんなの酷すぎるよ」

ほむら「…………」

まどか「ごめんね……。わたし、あなたのこと理解できない。わからないよ」

ほむら「……い」

まどか「…………」

ほむら「に……ない……!」

まどか「……ほむらちゃん?」


ほむら「悲しいに決まってるじゃないッ!」

まどか「ッ!」



654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:34:13.94 ID:9VFusYaAo

ほむら「悲しまないなんて……そんなことない……!」

まどか「ほ、ほむらちゃ……」

ほむら「悲しいに……決まってるよ……!」

ほむら「私は……私はそんな……」

ほむら「私は……強くなんかない……!」

まどか「…………」


今まで聞いたことのないような声。

まどかは思わずほむらの方を向いた。

ほむらは泣いていた。

頬にキラキラした線がひかれている。



655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:35:28.20 ID:9VFusYaAo

先程までほむらは、冬場に放置された鉄のような冷たい目、シルク生地のような肌をしていた。

その目からポロポロと雫を落とし、肌は紅潮している。夕日のせいでは決してない。

話している間に、じわじわと涙を滲ませていたのだろうか。

まどかはその変化に、俯いていて気が付けなかった。

溢れる涙を堪えることさえ忘れて、震える声でほむらは言った。


まどか「な、涙……」

ほむら「私だって辛いよ……とっても悲しいよ……」

ほむら「巴さんも、ゆまちゃんも亡くなって……!」

ほむら「美樹さんを助けることができなくて、佐倉さんと巴さんを仲直りさせられなくて!」

ほむら「悲しくて悔しいよッ!」

ほむら「だけど……それでも!それ以上に……!」

ほむら「それ以上にあなたには契約なんてしてほしくないッ!」

ほむら「魔女になるだとか、そんなの関係ない!」

ほむら「私は……犠牲を覚悟して、あなたのために……!」

まどか「わ、わたし……」



656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:36:27.70 ID:9VFusYaAo

ほむらはまどかの両肩を掴み、

涙を溜めた潤んだ瞳で、戸惑いの表情を見つめる。

まどかは、妙な感覚を覚えた。形容しがたい、煙のような感覚。


ほむら「あなたを失えば、それを悲しむ人がいるのに……」

ほむら「あなたを守ろうとしてた人はどうなるというの……!」

まどか「…………」

ほむら「……まどか」

ほむら「お願い……」

ほむら「お願いだから……あなたを私に守らせて……!」

ほむら「何も考えなくてもいい。ただ黙って守られて……」


全てを打ち明けたい。

マミが魔法少女というものを、苦労を共有したいと思ったように、

自分の覚悟をまどかに共有させたい。



657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:37:20.77 ID:9VFusYaAo

しかし、まどかのような優しい性格に、自分のことを話すと間違いなく同情される。

今の精神状態で慰められるのは惨めなだけだ。

もう二度と、弱い自分を出したくない。

あるいは自分で気付いていないだけで既に出ているのかもしれない。


まどか「…………」

ほむら「…………」

ほむら「……ごめんね。わけわかんないよね。気持ち悪いよね」

ほむら「あなたにとっての私は、出会ってからまだ一ヶ月も経ってない転校生でしかないものね」

ほむら「だけど私は……私にとってのあなたは……」

まどか「……お願い」

ほむら「まどか……」

まどか「お願いほむらちゃん。教えて」

ほむら「…………」



658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:38:22.99 ID:9VFusYaAo

まどか「あなたにとってのわたしは、本当はどういう存在なの?」

まどか「ただの友達じゃない、よね……」

まどか「私たちはどこかで……どこかで会ったことあるの?私と」

ほむら「そ、それは……」

まどか「ほむらちゃん。あなたにとってのわたし……それを教えて」

ほむら「まどか……」


……前から、そうだった。

初対面の時も、その次も、その次も、一つ前も、ずっとそうだった。

まどかがたまに見せる、弱々しさと強さの混じった瞳。

その顔で訴えられて「勝った」ことはない。

必ず折れるか逃げてきた。

今この場で話さないわけにはいかなくなった。



659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:39:52.18 ID:9VFusYaAo

まどかは……勘づいてきているんだ。

私が、まどかに抱いているこの感情。この思い。

まどかは……いつだって自身のことを無力だとか鈍くさいだとか言っていた。

あなたが自分でそう言うのなら、確かにそうなのかもしれない。

だけど、私からすればそれはとんでもないこと。

あなたはいつだって、優しくて強い、私の憧れの人。


ほむら「…………」

まどか「…………」

ほむら「……私達、親友だったんだよ」




660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:41:11.92 ID:9VFusYaAo

――美樹さやかは考える。


こんなちっぽけな指輪が……あたしの魂だなんて……ね。

自分で言うのもなんだけど、あたしはこんなに強いというのに……、

お腹の宝石が割れたらそれだけで即死するのか。わけがわからない。

……もしこれをこっから落としたら、あたしは死ぬんだろうな。

そんな簡単に死ねてしまう。

これと、ある程度の距離を取るだけでも死ねる。

うっかりこの指輪をトイレに流しちゃったとしても死ねる。

死因がトイレなんて笑い話にも……いや、一周回ってかなり大爆笑。

そんな体で、人間と名乗るのも人として生きるのも烏滸がましいんじゃなかろうか。

魂のない体。まるで死体……差詰めゾンビみたいなものだ。



661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:41:38.20 ID:9VFusYaAo

歩道橋の柵に背中を預け、赤い空に向けて腕を伸ばす。

逆光のおかげでこの黒い手に指輪なんてものがないように見えなくもない。

しかし、実際、この指に自分の魂がしっかりとあるのだ。

さやかは学校を欠席し、一日中見滝原を歩き回った。

まどかや同級生――「人間と接したくない」という精神状態にあった。

途中、魔女と出くわし、戦った。

治癒能力を過信した「無茶な戦い方」をした。

心のどこかで「これで死ねるなら死んでもいい」という気持ちがあった。

しかし、さやかは強かった。

実際に腕が切断されてもすぐに再生ができ、脚がもげ、胸が抉れても戦えた。

魔女を一匹、使い魔六匹。合計で七匹を、結果的に無傷の状態で切り裂いた。




662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:42:30.17 ID:9VFusYaAo

さやか「…………」

「……こんなとこで何してる」

さやか「……杏子?」


ポニーテールの少女が薄汚れた手提げカバンを片手に、

何を考えているのかわからない、微妙な表情をして立っている。

その表情、勇んでいるわけでも悲しんでいるようにも見えない。


杏子「……さやか、っつったっけか」

杏子「まぁいい。何をしてたんだ?こんなとこで」

杏子「あんたはあたしと違って帰る場所がある……親御さんが心配するぞ」

さやか「…………」

杏子「…………」



663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:42:57.38 ID:9VFusYaAo

杏子「……そうだ。キリカに会ったんだ。ほら、昨日の。あんたの髪が黒くなったようなヤツ」

杏子「昼頃にな……そんで、小遣いだっつって貰った金でロッキーを買った。ふざけたヤツだ」

杏子「……食うかい?」


杏子はパーカーのポケットからロッキーの箱を取り出し、

「一本」をさやかに差し出した。


さやか「…………」

さやか「……いらない」


さやかは、体の向きを反転させた。

今、自分がどんな情けない顔をしているのか想像に難くなく、

弱みを見せるわけにはいかなかった。

車が走る道路を見つめた。



664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:43:29.61 ID:9VFusYaAo

ほむらから、魔法少女の真実を聞いた夜。

自分は自分で大き過ぎるショックを受けながら、

隣で歯を食いしばっていた杏子を見た時、同情をした。

杏子という概念に良い印象は一切ない。

勘違いだったとは言え、マミを殺そうとした。

使い魔を放したり、窃盗しつつの生活も聞いている。

ゆまという子どもを助けようがが家族を亡くしていようが、悪い印象の方が優先される。

『そんなヤツ』に弱みは見せられない。


杏子「いつまでもしょぼくれてんじゃねーぞ。ボンクラ」

さやか「……あたし」

杏子「あん?」

さやか「あたし、もうダメかもしんない」

杏子「……ダメだぁ?」




665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:44:19.70 ID:9VFusYaAo

いきなり何を言い出すんだ。と言わんばかりのトーンに聞こえた。

呆れられるのも馬鹿にされるのも嫌だ。

しかし、自分の素直な感情をぶつけたかった。

さやかは『そんなヤツ』に話を聞いてほしくて仕方がなかった。


さやか「一方的に殺されかけて、死にたくないって魔法少女になって……」

さやか「なった矢先魔女になるとか言われてさ」

さやか「マミさんが死んで……恭介、あたしの幼なじみも死んでさ……」

さやか「こんな、人間なのかゾンビなのかもわからない体になった」

杏子「…………」



666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:44:46.25 ID:9VFusYaAo

さやか「……せめて……せめてさ」

さやか「願い事次第では、恭介も助けられたし……」

さやか「マミさんも死なせずにすんだかもしんない」

さやか「だけど……結局あたしだけ生き延びた……」

さやか「たった一度の奇跡がこんな形で終わるなんて……無駄遣いもいいとこ」

さやか「嫌なんだよね……こんなの……」

さやか「こんな体、嫌よ……あたし」

杏子「まだ続くか?」

さやか「……もうちょっと聞いてよ」

さやか「あのさ……」

さやか「あたし……さ」

さやか「……恭介が好きだったんだ」



667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:45:26.56 ID:9VFusYaAo

さやか「恭介のことが……好きだった……」

さやか「ずっと前から好きだった」

さやか「恋愛感情はさ……自分で思って、いやいやと自分で否定するような……」

さやか「恥ずかしい気持ちだった。そういう年頃なんだよ。あたしは……さ」

さやか「実際に死なれて……やっと自分の気持ちに素直になれるなんて……」

さやか「こんなのってないよ……ひどすぎるよね……」

杏子「…………」

さやか「マミさんも死んだ……」

さやか「マミさんは……気遣ってくれるし……優しいし、大好きだった」

さやか「マミさんと……もっとお話したかったよ」



668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:46:30.09 ID:9VFusYaAo

さやか「生き延びたって何もいいことがない」

さやか「古今東西の魔法少女には悪いけどさ……」

さやか「こんな体……ゾンビみたいなもの……!」

さやか「あたし、あのまま死んでた方がよかった……」

さやか「もう、いっそのこと……」

さやか「このまま魔女になって誰かに迷惑にならないよう……」

さやか「ソウルジェムを叩き割るかどうか悩んでるって気持ちだよ」

さやか「……キリカさんに助けてもらって、何だけどさ……」

杏子「…………」

杏子「……そうか」




669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:47:04.51 ID:9VFusYaAo

杏子はさやかの横に並び、柵に背を預けた。

道路を眺めるさやかの横顔を見つめる。

涙の跡があるわけでもないが、悲哀の表情をしていることは言うまでもない。


杏子「確かに、あたし達は……いつか魔女になっちまうかもしれない」

杏子「普通の人間と比べるとあっさりと死んじまうかもしんねぇ」

杏子「マミみたいな……どんなに大きな存在でも、死ぬ時はあっさり死んじまう」

杏子「自分の命がこんなちっぽけなガラス玉みたいなのに変わっちまったんだ。ゾンビってのは、割と言い得て妙だと思う」

さやか「…………」

杏子「だがな……柄にもないことを言わせてもらうが……」

杏子「いつかは今じゃないんだよな」

杏子「生きる死体だとか罵られようとも、あたしは今、生きている」

さやか「…………」




670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:47:30.49 ID:9VFusYaAo

さやか「……それっていつ?」

さやか「絶対に避けられないよ?」

さやか「この苦悩をずるずるといつまでも引きずって生きてくくらいなら、明日って今くらいのつもりで……」

さやか「すぐでも……なれるもんなら楽になりたいとは思わない?」

さやか「どっち道、人間をやめたっていう後ろめたい気持ちを抱えたままじゃ……長持ちしないと思う」

杏子「……あんた、まさかあたしと一緒に心中してくれって言うんじゃなかろうな?」

さやか「そ、そういうわけじゃないけど……」

杏子「…………」

さやか「あたしは……あたしはただ……」

杏子「……そうだな」

杏子「ここで一つ……例え話をしよう」

さやか「……例え話?」

杏子「まぁ聞けよ」



671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:48:26.54 ID:9VFusYaAo

杏子「……暗闇の荒野に地雷がたんまり埋まっているとする。踏めば即死な」

杏子「あんたは、どの方角であろうがどんくらいの歩幅で進もうが『おまえは七歩進めば必ず地雷を踏む運命だ』って宣告されたら……」

杏子「あんたは進む覚悟ができるか?絶対死ぬって一方的に決めつけられて、その通りだとして、納得いくか?」

杏子「生憎、あたし達はそんな嫌なことを覚悟できる程タフな精神してねぇし、へぇそーですかと納得できる程さっぱりしていない」

杏子「都合の悪い未来も予め知っていれば幸福だなんて……例えド偉い神父様がそう言ったとしてもあたしは同調しないね」

杏子「万に一つでも億に一つでも、一メートルでも長く一歩でも遠く地雷を踏まずに進める……」

杏子「そういう可能性があると信じられるなら、暗闇の荒野を突き進める覚悟を持てる」

杏子「……って気にはなれないか?」

さやか「…………」

杏子「具体的にいつなのかがわかれば、あるいは自発的にできるなら……」

杏子「死ぬことも魔女なんていう異形の化け物になるのも、それを覚悟して受け入れられるのか?」

さやか「……どんなに足掻いても揺るがないことなら、あたしはその方がいいな……。あっさりした最期でいいと思う」

杏子「……そうか。こればっかりは考え方の違いだな」

さやか「…………」



672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:48:53.33 ID:9VFusYaAo

いきなりこいつ……何を言ってるんだ?

何でいきなり荒野がでてくるんだよ。

何の覚悟だって?

わけがわからない。杏子って、こんな変なヤツだったのか?


杏子「あたしは、ゆまにもマミにも死なれちまった」

杏子「あたしにとっては……二人ともすごい大切な人だ」

杏子「ゆまのことが好きだった。マミのことも好きだった」

杏子「あたしはそんなゆまにありがとうって言いたかった。そんなマミにごめんなさいって言いたかった」

杏子「でもそれはできなかった……」

杏子「二人に本当の気持ちを言えなかったし、その気持ちも死なれてやっと気が付くんだ」

杏子「あんたと、少し同じだな」

さやか「…………」



673 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:50:06.98 ID:9VFusYaAo


杏子「あたしはいつだってそうさ……実際に失ってやっと後悔をする」

杏子「あたしは、ゆまの分まで生きることがせめてもの手向けだと思いたいんだ」

杏子「マミは、ほむらの力になってやれと言った。それに応えることで報いたい」

杏子「二人の死に向き合って、過去を受け入れて、未来に生き続けていたいんだ」

杏子「だからあたしは、暗闇をがむしゃらに足掻いて、自分の信じた道を歩んでいきたい」

杏子「ひとまずは、ほむらに命を預ける。それが今のあたしにとっての道標だ」

杏子「だからこそあたしは、貯蓄していたグリーフシードを持ってきて、共有する所存よ」

さやか「…………」

杏子「なぁ、さやか」

杏子「色んなことがあって悲観的になる気持ちはわかるよ……でもな」

杏子「生きられる限り生きようぜ」

杏子「その……一緒にさ」



674 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:50:40.69 ID:9VFusYaAo

さやか「…………」

さやか「……一緒?」

杏子「……あたしの友達になってくれ」

さやか「……は?」

杏子「あたしの友達になるんだ。そして、一緒に生きてほしいんだ」

杏子「正直に告白すると……あたしは、ゆまもマミも失って寂しい」

杏子「それで、ゆまやマミみたいに先立たれて後悔する前に……」

杏子「先にありがとうとごめんを言わせてほしい。荒野を並行してほしいんだ」

さやか「…………」

杏子「何の義理もないのに何を言ってるのかって思うだろうが……」

杏子「何でほむらやキリカを差し置いてあんたにこの話をしたのか……そこんとこよくわからないんだがね」

杏子「自分の願いに後悔してるあんたの姿が、何となくあたしと同じ臭いを感じたんだ」

杏子「都合の良い言葉だが……別の場所で会っていたらあんたと友達になれた気がするってヤツだ」

杏子「おまけにあんたの願いってマミのとほとんど同じなんだよな。あいつは交通事故だったが」

さやか「…………」



675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:51:31.68 ID:9VFusYaAo

……アホの子なのかな。こいつは。

何でこんなに、希望を持った風なことが言えるんだ。

あんたは既に魔法少女だったから、

魔法少女として生活をしていたからある程度割り切れるだろうよ。

でも、あたしは昨日だぞ。

魔法少女になってまだ一日経ったか経ってないかだってのに、

何で、一緒に生きようなんて言えるんだ……。

こんな体で……!こんなあたしに……!

ゆまって子のことはよく知らないけど……、

こんなあたしを、マミさんの代わりにするつもりなのか?

役者不足にも程がある。どう見ても人選ミスだ。

…………だけど



676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:52:34.07 ID:9VFusYaAo

さやか「……杏子って、ほんとバカ」

杏子「あん?なんだとコラ」

さやか「……バカだよ」

さやか「バカすぎる。本当……」


さやかは、杏子の方を向いた。

そして、凍結した表情筋を精一杯に動かし微笑んで見せた。

しかし、目から涙が伝っている。

嬉しかったのか、悲しかったのか、感動したのか、

さやかは何故涙が勝手に流れてくるのか、その理由がわからなかった。



677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:53:02.82 ID:9VFusYaAo

さやか「あんたも……あたしも……大バカだよ……」

杏子「……そうだな。バカかもしれないな」

さやか「やーい……!バァカバーカ……!」

杏子「ぶっ殺すぞてめぇ」

さやか「ふぇ……へへ……バカコンビの……結成だよ」

杏子「……そうだな」

杏子「……ん」

杏子「結成早々だが、行くぞ。さやか」

さやか「……うん。そうだね」


微かに、魂に嫌いな匂いを感じた。

魔女がどこかに現れたらしい。

二人の魔法少女は、行くべき場所へ向かった。




678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:53:34.05 ID:9VFusYaAo

空は藍色になってきている。

二人は噴水公園近くに辿り着いた。

確かにここに魔女の結界は生じた。

しかし、道中でその気配が消えてしまっていた。

その理由を二人は理解している。

それでも、生じた場所へ行く。

そこに行くことに意義がある。

魔女がいる場所に魔法少女あり。

魔女がいた場所に魔法少女あり。

魔法少女に会うことが重要である。




679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:54:06.30 ID:9VFusYaAo


――思ったよりも


思ったよりも、スッキリしなかった。

無意味だ。しろまるなんか苛めても。

ストレス解消どころか、虚無感しか残らない。

しろまるは悪だ。

感情がないのかは知らないが、自分が悪だと思っていない最もドス黒い悪だ。

それなのに、あたかもこっちが不当な虐待をしているような……そんな気分に何故かなる。

なんだかんだ言って……私はしろまるに本心からの願いを叶えてもらってはいる。

だからそんな思いを抱くのかもしれない。ヤツのリアクションが薄いのも加わっている。

意味がないんだ。八つ裂きは八つ当たりに過ぎない。

尚更胸くそ悪い。逃げられてしまった。



680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:54:33.31 ID:9VFusYaAo

キリカ「……ん?」

キリカ「……君達は」


キュゥべえに対する無駄な虐待に飽きたキリカはふと、

人の気配を二つ感じた。

足音から感じる歩き方の気配から察するに、顔見知りの者がくる。

そこには、さやかと杏子がいた。当然といえば当然である。

さやかは微笑んで、手を振っていた。元気そうに見えた。

杏子は初めて会った時よりも表情が柔らかくなっているように見えた。



681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:55:54.90 ID:9VFusYaAo

杏子「……よ」

さやか「どうも。キリカさん」

キリカ「……二人とも。どうしたの。仲いいね」

杏子「いや……魔女の気配がしたんだがね……」

さやか「途中でなくなったってことは……」

キリカ「そうだね。私と恩人で始末した」

さやか「やっぱり」

キリカ「骨折り損させちゃったかな?」

杏子「いや、いいんだ。どうせ、あんたかほむらに会うために向かったようなもんだからな」

キリカ「私ぃ?恩人はともかく、私に?」

さやか「いやー、そうなんですよね。できればキリカさんがよかったんスが、丁度キリカさんでした」

キリカ「?」



682 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:56:40.37 ID:9VFusYaAo

杏子「キリカ。ハッキリと聞かせてもらうぞ」

キリカ「うん」

杏子「あんたは……ほむらのどこまで知っている」

キリカ「……どこ、まで?」

キリカ「まだ知り合ったばっかりの領域だから……」

さやか「いえ、『そー』じゃないです」

さやか「何となくわかるんですよね……転校生のことを恩人とか呼んでるけど……」

さやか「キリカさんが転校生のお仲間やってるのって、恩義とかだけじゃないでしょ」

キリカ「…………」

杏子「何か特別な理由がある……違うか?」



683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:57:12.11 ID:9VFusYaAo


杏子「あいつがどこで魔法少女が魔女になるということを知ったのか……あんたは知らないか、と聞いている」

キリカ「…………」

キリカ「……案外鋭いんだね」

キリカ「いいだろう。教えてあげよう」

キリカ「丁度、恩人もまどかに教えてるだろうしね……」

さやか「まどか?」

キリカ「恩人から聞いたよ。ズル休みしたって……その辺ちゃんと話しておきなよ」

さやか「はぁい」

杏子「わかったから。いいから聞かせろよ。あんたが知ってるほむらの全部を」

キリカ「……ん」

キリカ「恩人はさ……未来から来たんだそうだ」



684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:57:45.73 ID:9VFusYaAo

――話せるところまで話し終えた後。


やはりと言えばいいか、まどかは私に同情してくれた。

「今まで辛い思いをしていたんだね。わたしなんかのために」

震えた声でまどかはそう言っていた。

「わたしなんか」……自分を見下すような発言。

なんかではない。私にとって、まどかはそれほど大きな存在なんだ。

それこそ、私なんかの命を犠牲にしてまでも。

……恐らく、私が伝えたかったことの全ては伝わっていない。

当然だ。ハッキリ言って、今のまどかとは無関係なことだからだ。

時間軸という次元に干渉できるのは、私だけ。

ずっと前の時間軸のまどかのことだから、今の時間軸のまどかは実感が湧いていない。

別に、まどかが理解する必要はない。



685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:58:24.84 ID:9VFusYaAo

私にとって大切なのは、

「私」がいる世界のまどかを救うこと。

それに尽きる。

それが、鹿目まどかという概念との約束であり誓い。

私の生き甲斐。

まどかを救うことができて、全てが終わる。

私の時間遡行が終わり、まどかと交わした約束を遂行し、

人生に悔いがなくなるといったところだ。

そのためにも、現行の時間軸のまどかには、

自分の友達が辛い思いをするくらいなら自分が犠牲になるというような、

そういう精神を持たせてはならない。



686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:59:04.06 ID:9VFusYaAo

まどかを家に送った。

軽く手を振って、まどかが帰宅したのを見届けた。

一人暮らしである私の、生活における手伝いをしていて遅くなった。

という言い訳を与えたとはいえ、

たった今、帰りが遅いと怒られていることだろう。心配をかけさせたからだ。

そういうことで怒られるというのは、愛されている証拠。

別に両親に愛されていないわけではなないが、羨ましい。

両親に会いたくないわけではない。

実家が恋しいと思わないこともない。

しかし、会ってはいけない。帰ってはならない。

感傷に繋がるからだ。死にたくなくなってしまう。

レクイエムの誕生を防ぐために死ななければならないのに。




687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 00:59:42.74 ID:9VFusYaAo

まどかの家を後にして数分歩いた頃、

前方から三人分の人影が現れた。

全員魔法少女であり、顔見知り。

赤、青、黒。

佐倉杏子、美樹さやか、呉キリカ。


キリカ「……恩人。話は終わったかい?」

ほむら「……呉キリカ」

ほむら「それに……」

さやか「やっ、ほむら」

杏子「昨日ぶりだな」

ほむら「……美樹さやか、佐倉杏子」



688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 01:00:12.76 ID:9VFusYaAo

ほむら「……どういう組み合わせ?」

キリカ「いやぁ、たまたま会ってね」

キリカ「あ、そうそう。ねぇ恩人、私とさやかって似てる?」

キリカ「杏子が私のことを髪が黒くなったさやかって言ったんだ」

キリカ「そんな似てないよねぇ?」

ほむら「…………」

ほむら「あなた達、気分はどう?」

杏子「ああ、大分落ち着いたよ」

さやか「ん、あたしももう大丈夫だよ。心配かけたね」

キリカ「こら、無視するな恩人」



689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 01:00:50.36 ID:9VFusYaAo

さやか「ねぇほむら……」

さやか「キリカさんから、あんたのことを聞いたよ」

杏子「未来から来たとか、色々ぶっ飛んだ人生送ってんだな」

ほむら「…………」

ほむら「……話したのね」

キリカ「うん」

ほむら「改めて言う手間が省けて丁度良かったわ」

ほむら「そう。呉キリカの言う通り」

ほむら「私は、まどかを救うために戦っている」

ほむら「そして、あなた達の死を何度か見てきたわ」

ほむら「物証はないけど……私は未来人のようなもの」



690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 01:01:46.46 ID:9VFusYaAo

さやか「うん……信じるよ」

さやか「あたし……怖かったんだ。魔法少女になって……そういう体になって」

さやか「だけど……杏子に勇気づけてもらったんだ」

さやか「あたしは受け入れたよ……マミさんの死も、恭介の死も」

さやか「そんで、あんたがまどかのために戦ってるって知って……」

さやか「負けられないなって思ったんだ。あたしの嫁を守るためだなんて……こりゃもう、まどかをあげるしかないね」

さやか「このさやかちゃん。あんたのために全力で戦うよ!」

杏子「あたしもだ……。この命、ほむらに預ける」

杏子「それがマミの遺志だからだ。あたしは、マミがあんたに託したものだ」

杏子「やれる範囲なら何だってやるさ」



691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 01:02:54.08 ID:9VFusYaAo

ほむら「美樹さやか……佐倉杏子……」

ほむら「…………」

ほむら「本当はあなた達に任せるのは不安なところもないこともない」

ほむら「でも、今はそう言ってられない状況だし……複雑だけど、あなた達しかいないから……」

ほむら「だから……キリカには改めて言うことだけど、いざという時は……」

ほむら「まどかをよろしく頼むわよ」

キリカ「……そうだね。了解。殺されるまでやらせてもらう」

杏子「あたし達を置いて先にくたばるのは絶対に許さないが……まぁいいだろう」

さやか「でも、まっ、あたしに、もーしものことがあったら杏子を託すつもりだし……お互い様ってことで!」

杏子「さやかてめぇ何様のつもりだ」

ほむら「…………」


レクイエムというも存在のため、いつか自害しなければならない。

その運命は言わなかったし、誰にも言っていない。自分一人だけの秘密。

ほむらはジシバリの魔女アーノルド、ワルプルギスの夜、

それらとの戦いの生き残りにまどかを託すことにした。



692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 01:03:36.50 ID:9VFusYaAo

さやか「ねぇ、ほむら。話は変わるけど」

ほむら「何?」

さやか「あんた……何でも『お守り』があるそうじゃないか」

ほむら「……お守り?」

杏子「あぁ、そうそう。キリカから聞いたよ」

ほむら「……?」

キリカ「君が織莉子の家に来た時に見せたものだよ」

ほむら「……あぁ、あれ」

ほむら「…………」

ほむら「どういう文脈であの矢のことを出したのよ……」

キリカ「さぁ」



693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 01:05:24.14 ID:9VFusYaAo

さやか「どんな意味があるのかはさておき、あたし達にもその恩恵を分けてよ」

ほむら「恩恵って……別に何もないわよ。そんな神々しいものはないわ」

ほむら「私が勝手に夢で見たからという理由だけで……」

杏子「イワシの頭も信心からってな。学校で習っただろう?」

キリカ「初めて聞いた」

杏子「学校はちゃんと行けよ」

キリカ「君にだけは言われたくないよ」

ほむら「…………」

さやか「ねぇ、見せてぇ」

ほむら「……わかったわよ」



694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 01:05:57.77 ID:9VFusYaAo

大きさは魂と同程度。

涙滴型の装飾が施されている。材質は石。

この石の矢はストーン・フリーの名前の由来にもなっている。

仮に石でなければストーン・フリーという名前に悲劇が訪れる。

中が空洞なのか、とても軽い。

さやかはほむらから手渡された矢をまじまじと見つめる。


さやか「へー……意外に凝ったデザインしてるねぇ」

さやか「なーむー」

ほむら「拝まないで」

杏子「あたし一応教会出身なんだけど」

さやか「じゃあキリカさん先ね。はいどうぞ。それではご一緒に。なーむー」

キリカ「意外に信心深いんだね。生憎私はそういう類のものは一切信じないんだ。だから結構」



695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 01:07:01.61 ID:9VFusYaAo

ほむら「ほら、もういいでしょう。返しなさい」

さやか「…………」

杏子「…………」

さやか「ヘイ杏子パース!」

杏子「よっしゃぁぁぁ!」

ほむら「ちょっ!?」

キリカ「お!?」


さやかは杏子に矢を放った。

矢じりは放物線を描き、ゆっくりと回転し、

ポスンと杏子の手に収まる。



696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 01:08:32.12 ID:9VFusYaAo

ほむら「あなた達!何をしてんのよ!」

杏子「ほれほれ、返してほしけりゃ奪って見せろ!」

杏子「ヘイパース!」

さやか「やっほーい!」

ほむら「返しなさい!あなた達!」

さやか「ヘイヘイヘーイ!」

杏子「ほーい!」

ほむら「……ストーン・フリー!」

シャッ

さやか「ゴェッ!」




697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 01:10:10.98 ID:9VFusYaAo

さやかの首は「何か」に締めつけられた。

石の矢はコツンと音を立てて地面に落下した。

ギリギリ

さやか「あばばばっばばば」

杏子「うおおおお!ほむら!さやかを離せ!」

ほむら「もう既に解いてるわ」

キリカ「ははは、愉快なヤツらだね」

さやか「ゲホッ!ゲホゲホ!やり……すぎでしょうが……!」

杏子「スタンドは卑怯だろ常識的に考えて……」

ほむら「…………」


ほむらの無表情を見て、杏子は悟る。



698 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 01:11:27.20 ID:9VFusYaAo

――見滝原のとある場所。

朝は見滝原中学校への通学路。その夜道に四人の魔法少女がいる。

ほむらは腕を組み、見下ろしている。

杏子とさやかは、コンクリートの地面に正座をしている。


さやか「マジごめんなさい」

杏子「すまん」

ほむら「……で?何でそんな真似をしたの」

さやか「……い、いやぁ……ほむら笑うかなって」

ほむら「……は?」

さやか「あたし、ほむらの笑った顔見たことないからさ」

ほむら「…………」

杏子「あたしは悪くない。さやかが勝手にやったことだ」

ほむら「…………」

杏子「ごめん」



699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 01:14:00.17 ID:9VFusYaAo

言われてみれば……ここのところ最近、

……いや、それどころかこの時間軸、一度も笑ったことがない気がする。

別に笑う必要はないし、今の二人の行為は完全に悪ふざけだったが……

気を使わせてしまったか。



ほむら「いくら拾い物だからって人のお守りを投げる?普通……」

キリカ「んー、私も恩人の笑顔には興味あるなぁ……泣きっ面は見たけど」

キリカ「ま、笑顔はさておき正座はさておき、恩人」

ほむら「……何?呉キリカ」

キリカ「図らずともここに魔法少女が揃ったんだ」

キリカ「今後のことを話し合うべきだと私は考える」

キリカ「前の時間軸のスタンドとやらの情報を教えてよ」

ほむら「……確かに、そうね」




700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 01:15:16.76 ID:9VFusYaAo

杏子「そうだな……あたしの姿をした使い魔はもういないらしいが……」

さやか「スタンドに関して全てを話して、情報を共有しよう」

ほむら「誰が立っていいと言ったかしら」

さやか「女の子に地べた座らすかね?フツー」

ほむら「座りなさい」

さやか「ちぇー」

杏子「なぁさやか」

さやか「何?」

杏子「何かしんないけどどっかで指切ったっぽい。治して」

さやか「ありゃりゃ、血が……」

さやか「もー、杏子ったらお子ちゃまなんだから」




701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 01:15:51.83 ID:9VFusYaAo

杏子「うっせぇ。てめーも手の平切ってんじゃねーか」

さやか「ありゃ?うわ、ホントだ。ねぇねぇ、服に血ぃついてなぁい?腰とか触っちゃったかも」

杏子「くねくねすんな気持ち悪い」

ほむら「二人とも黙ってくれないかしら」

キリカ「いつの間にこんな仲良くなったんだろーね」


人の成長は未熟な過去に打ち勝つことだ、とある人は言う。

杏子はゆまとマミ。さやかは恭介とマミ。キリカは織莉子。

それぞれは各々の喪失の過去に打ち勝ち、未来に戦いを挑むことを選んだ。

もうイジけた目つきはしていない。

生きることが過去に打ち勝てという終生の試練と受け取った。

ほむらの場合、ワルプルギスの夜より先の未来へ進むこと。

それが試練であり、打ち勝つべき過去である。

ほむらは三人の魔法少女という希望が見えた。



702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/25(月) 01:18:19.65 ID:9VFusYaAo

ストーン・フリー 本体:暁美ほむら

破壊力-A スピード-B  射程距離-E
持続力-A 精密動作性-B 成長性-C

一言で言えば糸のスタンド。その性質は「覚悟」
引き裂かれてしまいそうだった心を繋ぎ止めるかのように発現した。
自分の体を解いて糸状にし、その糸を自在に操ることができる。
スタンドの糸を集めて人型にすることで、力が集中しパワー型スタンドになれる。
力が強く丈夫だが、その代わりに射程距離が二メートル程度となる。
糸は「編む」または「縫う」ことができ、汎用性は高い。
糸は石鹸の香りがするらしい。

A-超スゴイ B-スゴイ C-人間と同じ D-ニガテ E-超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある



709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/26(火) 23:47:59.98 ID:adZc2fnao

#22『見滝原中学校神隠し事件』


今日という日は、天気もあって明るく感じた。

さやかが登校し、いつもの空気を作り出したためである。

どんよりとした曇り空に、さやかの明るい性格が引き立てられる。

まどかはさやかの空気に感化されてか、昨日よりは笑顔を見せた。

そんな日の放課後。

ほむらとさやかとまどかは、

「今後のこと」を話し合うべく教室に残っていた。

仁美は「委員会の仕事」ということでまだ下校はしていないが、

ほとんどの生徒は既に帰路に立っていて、三人しかいない物静かな教室だった。

杏子とキリカを除いた三人で話す内容。

それはその仁美と恭介のことだった。

四人の内二人の魔法少女はその話についていけない。知らないからだ。



710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/26(火) 23:48:31.96 ID:adZc2fnao

さやか「……知らなかったな。仁美も恭介が好きだったなんて」

まどか「…………」

ほむら「私があなた達から意見を聞きたいというのは……」

ほむら「彼女へのフォローのことよ」

ほむら「巴さんもそうだけど、学校の生徒が失踪した……それが人為的なものが自発的なものかはまだ世間ではわかっていない」

ほむら「学校側も気遣っているのか……ともかく生徒の中で知っているのは今のところ私達だけ」

ほむら「死亡したと結論が出るには時間がかかるでしょうけど……」

ほむら「果たして、彼が死んだということは伝えるべきか、行方不明のまま内密にするか」

さやか「……言った方が、いいでしょ。行方不明だなんて……もしかしたら帰ってくるかもっていう可能性が否定できなくて、かえって精神的に辛い」

さやか「伝えるのは辛いだろうけど……仁美に秘密にするってのは、あたし達が心苦しい気持ちにもなる」

まどか「わたしも……言ってあげた方がいいと思う」

まどか「わたしが仁美ちゃんだったら……好きな人が行方不明になったら、どうなっちゃったのか、知れるものなら知りたいもん」

ほむら「…………」



711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/26(火) 23:49:04.41 ID:adZc2fnao

ほむら「……なるほどね」

ほむら「彼の死を伝えるのは確かに辛いこと」

ほむら「そうなると、巴さんが亡くなったことも伝えた方がいいかしらね。あなた達とケンカをしてると咄嗟に嘘をついたけど」

ほむら「時期を見て、私の方から伝えておくわ」

さやか「いや……ほむら……あたしが言う」

ほむら「…………」

まどか「さやかちゃん……」

さやか「仁美はあたしの親友だ。そんで、ライバルにもなるかもしれなかったんだ」

さやか「別に……だからどうこうってわけじゃないけど……あたしが言う」

さやか「あたしの方から言うよ」

ほむら「……そう」



712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/26(火) 23:49:46.65 ID:adZc2fnao

灰色の雲のおかげで、電灯のついていない教室は薄暗い。

明度に合った、沈んだ空気に三人は包まれた。

天気予報によれば、夕方には雲は晴れるらしいが……。


さやか「……そろそろ、帰ろうよ」

まどか「うん……そうだね」

さやか「仁美のお仕事もそろそろ終わるかな」

さやか「久しぶりに仁美を連れ出して寄り道しようよ!」

さやか「ここんとこずっとお稽古で一緒に帰ってないもんね」

まどか「うんっ」

ほむら「……そうね」

さやか「そうだ。杏子とキリカさん呼ぼうよ。紹介したい」

ほむら「……呉キリカはともかく、佐倉杏子の連絡先知っているの?」

さやか「まぁね」



713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/26(火) 23:50:30.32 ID:adZc2fnao

さやか「ほむら、キリカさんを呼んでよ。あたしは杏子に電話するから」

まどか「さやかちゃん、杏子ちゃんと連絡できるの?でも杏子ちゃんっておうちが……」

さやか「あたしの部屋にこっそり隠してる」

まどか「えっ」

さやか「ま、お父さんお母さんがいない間だけね」

さやか「なんだかんだで冷蔵庫の物を勝手に食べるような卑しいヤツじゃないし」

まどか「ご、ご飯とかはどうしてるの?」

さやか「んー?まぁなんだかんだで大丈夫よ。残り物とか菓子パンとかあげてる。食べ物なら何あげても食べるし」

ほむら「捨て犬じゃないんだから……」

さやか「…………」

ほむら(何かチラチラとこっち見てる……まるで佐倉杏子を養えを言わんばかりに……)

ほむら(別に構わないけど……でも無視しておこう)



714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/26(火) 23:51:51.37 ID:adZc2fnao

さやか「ぐぬぬ……」

まどか「どうしたの?さやかちゃん」

さやか「このさやかちゃんが頭を下げて遠回しに頼んでいるのに……」

さやか「ふぅ~んそうかい」

ほむら「一ミリも下げてないでしょう」

まどか「?」

さやか「まぁいいや。杏子呼ぼっと。ほむらはキリカさんのアドレス知ってるんだよね」

ほむら「えぇ。まぁどうせウチにいるでしょうけど」

まどか「え?キリカさんほむらちゃんのおうちにいるの?」

ほむら「えぇ」

マミ「それは初耳だわ。どういう事情?」

ほむら「家にいたくないそうです」



715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/26(火) 23:53:27.22 ID:adZc2fnao

さやか「ふーん。親と仲悪いのかな?」

ほむら「さぁ……事情は聞いてないわ」

マミ「贅沢な悩みね……私も人生で一度は家出とかしてみたかったかも」

まどか「マミさん……」

マミ「ところで呉さんは暁美さんの家から学校に行けるのかしら?」

ほむら「えぇ、問題ないです」

さやか「……そういや杏子って学校の場所わかるかな?」

マミ「私と一緒に住んでいた時期があるから知っているはずよ。土地勘もいいし」

まどか「あっ、そういえばそうでしたね」

さやか「流石マミさんは杏子のことなら何でも知ってる」

ほむら「…………」

ほむら「……え?」



716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/26(火) 23:54:07.10 ID:adZc2fnao

ほむら「……!」

さやか「ん?」

ほむら「そ、そんな……」

まどか「どうしたの?ほむらちゃん」

マミ「具合悪いの?」

ほむら「二人とも離れてッ!」

まどか「えっ!?」

さやか「……あ!」

マミ「危ないわ!」

まどか「……ッ!?」




717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/26(火) 23:56:44.94 ID:adZc2fnao

さやか「何……で……!?」

まどか「あ……ああ……!」

ほむら「早く!早く離れなさい!」

マミ「そうよ!急いで!」

さやか「何で……そんな……!」

まどか「ま……マミさん……!」

ほむら「違うわ……まどか」

ほむら「……『こいつ』は巴さんじゃない」

ほむら「ジシバリの魔女アーノルドの使い魔群……ヴェルサスの内一体」

マミ「ふふふ……私は危険よ」

ほむら「……『Mami』!」

Mami「久しぶりにあなた達とお話ができて、嬉しかったわ」



718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/26(火) 23:57:20.54 ID:adZc2fnao

ほむらとさやかはたった今『気配』を感じた。

感じていたはずなのに、気付くのが遅れた。

何故気付かなかったのか。

この空間にあまりにも浮きすぎた、魔法少女の姿でいるというのに。

あまりに自然で、不自然すぎて気付かなかった。

――こういう会話ができることは、この場の誰もが望んでいた。

優しい声と、温かい包容力、その微笑みからは母性さえ感じる。

そんなマミの死を受け入れるのと、望むことは違う。

三人は、マミの声が、マミのことが好きだった。

心のどこかで、死んだということを認めたくなかったのかもしれない。

そのせいで、気付くのが遅れたのかもしれない。



719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/26(火) 23:57:50.54 ID:adZc2fnao

まどか「あ……ああ……!」

さやか「う、うぅぅ……!」


まどかは、恐怖に襲われた。

さやかは、悔しい気持ちになった。

ほむらは、冷静になるよう自分に言い聞かせる。

結界が生じた。

生じていたということは、

キリカと杏子は既に気付いているはずである。

二人とも、見滝原中学校への最短ルートを知っている。

結界ができてどれだけ時間がかかったかはわからないが、

恐らく、すぐにでも二人の魔法少女は合流できる。



720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/26(火) 23:58:21.46 ID:adZc2fnao

Mamiは、マミの顔で不敵に微笑んだ。

ほむらとさやかは魔法少女に変身する。

しかし、すぐに攻撃は仕掛けない。することができない。

余裕の表情を見せているため、何か裏があると踏みとどまってしまう。

スタンド使いだからこその警戒。

スタンド使いでないからこその警戒。


Mami「学校にこんな遅くまで残っているなんて……いけない子っ」

ほむら「……あなたは、何をしに、現れた」


ほむらはMamiの笑顔を睨みつける。

Mamiは困ったように眉をひそめ、溜息をついた。

相変わらず、その顔は優しく可愛らしい微笑みの表情。



721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/26(火) 23:58:47.31 ID:adZc2fnao

Mami「実は私達はね……ちょっとしたゲームをやっていたの」

さやか「ゲーム……?」

Mami「前の時間軸でスタンド使いだった人を殺すゲーム」

Mami「前の時間軸の概念が現行の世界の概念で葬ること」

Mami「それが過去との因縁を断ちきる……って考え方よ」

Mami「あらかたは殺したわ」

まどか「…………」


かつて憧れた先輩の顔、声から「殺した」という言葉は聞きたくなかった。

使い魔とはいえ、ゲーム感覚で人を殺すことをにこにこと笑みながら語る、

そんな姿は見たくなかった。泣きたいところだが、当然、泣くわけにはいかない。

まどかは、下唇を噛むことでその感情を紛らわしながら、ほむらの袖を強く握った。



722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/26(火) 23:59:24.98 ID:adZc2fnao

Mami「それで『残り』の内あなた達が知っている人物を挙げると……」

Mami「鹿目さん、暁美さん、美樹さん、佐倉さん、呉さん、志筑さん、早乙女先生……」

まどか「……ッ!」

さやか「せ、先生まで!?」

Mami「まぁ、落ち着いて。そういうルールなのよ……」

ほむら「何がルールよ……くだらない」

Mami「…………」

Mami「約束するわ。ゲームの参加者は、前の時間軸スタンド使いだった人以外は狙わない」

Mami「まぁ……うざったい虫を払いのけるように、つい殺しちゃったりすることはあるかもしれないけど」

Mami「そこで私は……暁美さん」

Mami「私はあなたとの決闘を希望したい」

ほむら「……!」



723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/26(火) 23:59:59.82 ID:adZc2fnao

Mami「拒否権はあるといえばあるわ」

Mami「され、私はこの『三ヶ月前の学校』の……三年生の教室にいる。何組かは言うまでもないわよね?」

Mami「それじゃあね。いい答えを期待するわ」


言うだけ言って、Mamiは教室から出ていった。

凍り付いた空気に閉じこめられた三人は、

ひとまず解放される。

まどかは過呼吸気味になっていた。胸が押しつぶされそうな気持ちになっている。

ほむらはまどかの背中をさすった。

さやかは剣を強く握り、大きく一歩前に踏み込んだ。

それに気付いたほむらは「待ちなさい」と静止させる。

「どこへ行くつもり?」続けて尋ねる。



724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:00:47.66 ID:B3MJg5ALo

さやか「ひ、仁美と先生が危ないから助けに行くんだよ!」

ほむら「なるほど……しかし、一歩下がって元の位置に戻りなさい」

さやか「あたしを……止めるつもりか?」

さやか「それともまずは深呼吸でもして落ち着けって言うのか……!?」

ほむら「魔女を探して叩くことが先決よ」

まどか「え……!?」

さやか「な……!」

さやか「あんた……何て言った……?」

ほむら「魔女を倒すが最優先事項であると言った」

まどか「…………」

さやか「時間が……時間がないんだよ!?仁美が狙われてるんだよ!?」

さやか「まさかあんた……」



725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:02:45.28 ID:B3MJg5ALo

さやか「まさかとは思うけど……仁美を……先生を見捨てろっていうのか!?」

まどか「!」

ほむら「……そうとは言わないわ」

ほむら「冷静に考えなさい。美樹さやか」


ほむらは淡々と言った。

その目はとても冷たく見えた。

さやかはほんの一瞬だけ「こいつ感情あるのか?」と思った。


ほむら「病院の時はほとんど無差別に襲っていたにもかかわらず、わざわざ予告をして存在と行動をアピールした」

ほむら「志筑仁美や早乙女先生を助けに来るだろうと、使い魔は誘っているんだと考えるべき」

ほむら「現に私を誘ってきたし……」

ほむら「ヤツらは私達の戦力を分散させるためにそうしたと推測できるわ」



726 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:03:18.78 ID:B3MJg5ALo

ほむら「スタンド使い……本体が死ねばスタンドも消滅する」

ほむら「アーノルドの使い魔はスタンドで産みだしされたもの……魔女を倒せばそれで全てが終わる」

ほむら「アーノルドを優先し、一気に叩くのが最も合理的」

ほむら「それにゲームの参加者『は』……という表現を使った」

ほむら「ゲームとやらに参加していない使い魔がいると解釈が可能。それらは無差別に狙ってくる可能性がある」

ほむら「つまり、全員を救うことなんて元より不可能なこと。既に犠牲者もいるかもしれない」

ほむら「何人かの犠牲には目を瞑らなければならない……そう考えるべき」

ほむら「犠牲者ゼロではなく、少しでも犠牲を減らすという考え方」

ほむら「そのためにも、魔女を優先し、一秒でも早く殺すことが望ましい」

まどか「そ、そんな……」

さやか「くっ……!」

さやか「そんなの……そんなの納得いかないッ!」




727 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:04:17.57 ID:B3MJg5ALo

さやか「百歩、いや、三百歩譲って、多少の犠牲には目を瞑るとしても……」

さやか「救う気ゼロの心構えなんてできるかッ!」

まどか「わたしもさやかちゃんと同じ気持ちだよ……」

ほむら「私だって同じよ。でも状況が状況」

ほむら「スタンド使い相手に、スタンド使いでないあなたの勝機は薄い」

ほむら「私は見えるから、強いて言うのなら私が行くべきなのだけれど……」

ほむら「私はそれをしない」

さやか「確率がいくら低かろうと……そんなんがなんだ!」

さやか「覚悟とは暗闇の荒野に進むべき道を切り開くことだ!」

さやか「諦めず、道を切り開こうとする覚悟が大事なんだ!」

ほむら「私は諦めろと言っているんじゃあない!全滅する危険を冒すことがいけないのよ!」

ほむら「魔女を殺すことがみんなの安全を守ること!」



728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:05:14.29 ID:B3MJg5ALo

さやか「何を言ってんだ!魔女を優先!?じゃあ病院の時のことはどうなのさ!?」

さやか「言っちゃ悪いけどあんたが魔女を優先したからあたしは契約をしたのよ!」

さやか「この学校に魔法少女の素質のある人はもういないと言い切れるの!?」

さやか「あんたは全校生徒のことを掌握できていると言えるの!?」

ほむら「……っ!」

さやか「ほむら!あんたの意見もごもっともだし、あたしは無責任で感情的に助けるって喚いてるに過ぎないかもしんない!」

さやか「あんたのことは尊敬しているが魔女最優先って案には従えない!」

さやか「何のための魔法少女だ!?卑怯な手も使おう!最悪魔女になったって構わない!」

さやか「でも人命を二の次にするってことだけは……」

さやか「できないねッ!」


さやかは振り返り、全速力で走り出した。

机をいとも容易く避け、教室を出ていった。

強化ガラス越しに、さやかの必死な横顔を見た。



729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:05:46.41 ID:B3MJg5ALo

まどか「さやかちゃん!」

ほむら「ま、待ちなさい!美樹さやかッ!」

ほむら「……くっ」

まどか「ほむらちゃん!さやかちゃんを追いかけようよ!」

ほむら「…………」

ほむら(私に命を預けるって言った昨日の今日で……!)

ほむら(忘れていた……美樹さやかの頑固さを……誓ってくれたからって油断をした……!)

ほむら(とは言え……)

ほむら「……追う必要はない」

まどか「ほむらちゃん!?」

ほむら「追わないというより、追えないわ……」



730 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:06:16.57 ID:B3MJg5ALo

ほむら「私は唯一のスタンド使い……敵の最大の驚異と言っていい」

ほむら「私は狙われやすい……それに時間停止もストーン・フリーも対策されている恐れがある」

ほむら「私としても……スタンド使いとの戦いに慣れているわけではないし、あなたや美樹さやかを守りながら戦える自信がない」

ほむら「美樹さやかのような直情タイプは、今は放っておくしかない」

まどか「そんな……そんなのってないよ!仁美ちゃんや先生だけでなく……さやかちゃんまで見捨てるなんてこと……」

ほむら「……昨日話した通りよ」

ほむら「あなたが契約したら……学校の人々どころか、世界が滅ぶ。守るという思考さえままならない」

ほむら「どっちがマシか、とかではない。それを抜きにしてもあなたが最優先。それが私という魔法少女よ」

ほむら「志筑仁美や早乙女先生の死も、美樹さやかの自滅も、場合によっては仕方ない犠牲」

ほむら「あなたの無事を保証できるまで、余計な行動はできない」

まどか「そんな……そんな言い方あんまりだよ……!」

ほむら「あなたがすることと言えば、大切な人の無事を祈ること」

ほむら「今はあなたを呉キリカに託すことしか私にはできないが……ただ守られていればいい」



731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:06:49.95 ID:B3MJg5ALo

呉キリカが到着したのは、丁度一分三十秒後のことだった。

ぜぇぜぇと息を切らしているが、現在自分以外で最も頼りになる魔法少女。

その間、ほむらとまどかは、一切言葉を交わしていない。

まどかは、ほむらの目を見ることができなかった。


キリカ「お待たせ……恩人……!」

ほむら「思った以上に早かったわね。素晴らしいわ」

まどか「…………」

キリカ「……君が頼みたいこと、何となくわかった」

ほむら「なかなか空気が読めるのね」

キリカ「でも一応、聞かせてよ」

キリカ「恩人はこれからどうするのか、そして私は何をするべきか」



732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:07:52.09 ID:B3MJg5ALo

ほむら「……私は魔女を探すわ」

ほむら「ヤツらは私がスタンド使いであることを知っているし、佐倉杏子の使い魔の仇でもある」

ほむら「私は確実に狙われる。私は先に魔女を探して、戦況を作る」

ほむら「あなたは佐倉杏子と合流して、状況を伝えて」

ほむら「そしたら佐倉杏子と一緒にまどかを結界から避難」

ほむら「あなたの魔法は私の時間停止魔法と似たようなものだから、避難する分には十分過ぎるわ」

ほむら「まどかを避難させたら、二人で魔女を探して殺すこと」

キリカ「あぁ、わかったよ。別にまどかを殺して織莉子の遺志を継ごうだなんて考えてないもんね」

キリカ「……そんな怖い顔しないで。任せなよ。恩人」



733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:08:36.05 ID:B3MJg5ALo

キリカ「それで?恩人は単独で行動するんだ?」

ほむら「えぇ。私は狙われやすいし、実際一体の使い魔に目をつけられた」

ほむら「私の場合はスタンドが見えるから……まだ渡り合える」

ほむら「それじゃあ……任せたわ。私は行く。杏子もすぐ来てくれるはずよ」

キリカ「わかったよ。恩人」

ほむら「…………」

まどか「…………」


ほむらは、まどかに何か声をかけるわけでもなく、一瞥してから教室を出ていった。

まどかは沈んだ表情をしていた。気を使ったのだろう。



734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:09:20.58 ID:B3MJg5ALo

まどかは、ほむらの魔女最優先という判断に対し「冷酷」と思ってしまった。

昨日ほむらから、自分のために悲しすぎる過去を体験しているということを聞いていた。

嘘だと疑うわけではない。

むしろ自分のことをこれ程までに大切に思ってくれている人がいたことに、嬉しく思った。

そうだとしても、まどかはほむらのことが、自分にとってのヒーローであると同時に……怖かった。

涙を流しながら、いつもと違う口調で話したほむらが、愛おしくいじらしく思えたのも事実。

しかし、そのほむらに、契約をしたら殺すと遠回しに脅されているという事実もある。

脳裏に押し込んだ複雑な気持ちが、再び浮上してきた。

友達なのに、怯えている自分が存在する。

――自分を救うために、悲しい思いをされていること。

全ては自分のためにやってくれていること。しかしその選択を心のどこかで否定している。

まどかは、そういった罪悪感も感じていた。



735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:10:35.69 ID:B3MJg5ALo

ほむらは、取りあえず屋上へ向かっていた。

屋上に魔女がいるかもしれない。何となくそう思い、向かった。

しかし、結論から言うと……ほむらは屋上にたどり着けなかった。

気が付けば、教室にいた。

均等に並べられた、統一感された机と椅子。

床には、見滝原中学校の制服を着た遺体が数体転がっている。

電子機器内蔵されている、何も書かれていない綺麗な白板に血がついている。

「いらっしゃい。暁美さん」

そして、ベレー帽を被った、魔法少女の姿がそこにいる。

先程会った、先輩の概念。前の時間軸の巴マミの概念。Mami。


Mami「あなたが来るのを楽しみに待っていたわ」

Mami「Kyokoの仇だからね」

ほむら「…………」



736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:11:08.28 ID:B3MJg5ALo

ほむら「私は魔女を探して屋上へ行こうと思っていた……」

ほむら「そして、階段を上がっていたと思ったら……」

ほむら「いつの間にかここにいた」

ほむら「……幻覚のスタンドね」

ほむら「志筑仁美がそういう能力を持っていた。名前は確かティナー・サックス」

ほむら「幻覚の迷路で、私をここに誘い込んだ……」

ほむら「そういうことなのね?」

Mami「Esattamente(その通りでございます)」

Mami「アーノルドの使い魔群ヴェルサスのリーダーとして、私はあなたを葬る意義と義務がある」

Mami「元あなたの先輩として、正々堂々と決闘という形で決着をつけなければならない」

Mami「決闘を断る権利はある……しかし、断れない状況を作ることは嘘つきの行動ではない」

Mami「だから、こうなった」



737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:12:05.70 ID:B3MJg5ALo

Mamiは、「同じ顔」をしていた。

「友達」を家に招き入れた際に見る歓迎の微笑み。

それと、全く同じだった。

遺体が転がっている教室にも関わらず、紅茶とケーキをご馳走してきそうな顔だった。


ほむら(決闘……か)

ほむら(使い魔だというのに、そんな人間らしいことを言えるのがこの使い魔の恐ろしいところだ)

ほむら(……さて、どうしたものか)

ほむら(今ここで時間を止めて即、撃ち殺せるのがベストではあるが……)

ほむら(果たして、そんな簡単にいくだろうか)

ほむら(ヤツはわざわざ私をここに呼びよせた……)

ほむら(時間停止魔法が使える私を、わざわざ迎え入れた)

ほむら(ならば当然、時間停止に対して何らかの対策をされているはずだ)

ほむら(されているとすれば、どういう対策か……恐らくスタンドが関係している)

ほむら(ヤツのスタンドもわからない以上……迂闊に行動はできない。ここは様子を見ておくか)



738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:13:10.25 ID:B3MJg5ALo

ほむら「……質問したいことがある」

Mami「えぇ、どうぞ」

ほむら「私との一対一を望んでいるのね?」

Mami「その通りよ」

ほむら「ティナー・サックスの幻覚が加勢しているようなものじゃないの?」

Mami「それはないわ」

ほむら「この三年生の教室は本物?」

Mami「そうかも……」

ほむら「無関係の人間の遺体が転がっているのは何故?」

Mami「正当防衛よ」

ほむら「ゲームとやらの参加者というのは、使い魔全員を指すの?」

Mami「いいえ」



739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:14:23.42 ID:B3MJg5ALo

ほむら「今までにあなたは何人殺した?」

Mami「答える必要はないわ」

ほむら「今スタンド使いの使い魔は全部で何体いる?」

Mami「答える必要はないわ」

ほむら「アーノルドはどこにいる?」

Mami「答える必要はないわ」

ほむら「あなたはアーノルドを守るためにここにいるの?」

Mami「答える必要はないわ」

ほむら「他の使い魔はどこにいる?」

Mami「答える必要はないわ」



740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:14:55.00 ID:B3MJg5ALo

ほむら「……答えられないという答えが多いようだけど」

Mami「嘘をついても構わないのよ」

Mami「でも私は嘘をついたり騙したりするのはあまり好きじゃないの」

ほむら「……そう」

Mami「さぁ、て、と……無駄話もこれくらいにして……」

Mami「そろそろ、始めましょうか。スタンドバトル」

ほむら「…………」

Mami「あなたのスタンド、ストーン・フリー」

Mami「剛と柔を兼ね備えた糸のスタンド。一方、私のスタンドは不明」

Mami「情報量に差があってフェアではないけど、仕方ないわよね」

ほむら「……そのハンデとして、とまでは言わないけど一つ要求したい」

Mami「あら、何かしら?」



741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:15:24.39 ID:B3MJg5ALo

ほむら「待ってくれない?」

Mami「……なんですって?」

ほむら「あなたとの戦い、少し待ってくれと言ったのよ」

Mami「……怖じ気づいたのかしら?」

ほむら「いいえ。言葉通り。ただ待ってほしい」

Mami「随分とふざけたこと言ってくれるじゃない」

ほむら「待ってくれないの?」

Mami「どうしようかしら」

ほむら「虫けら以下の存在が尊敬する先輩の姿であることへの躊躇を消すための『時間』が欲しい……」

ほむら「私にとっては非常に重要な世界なわけだけど」

Mami「……虫けら以下の存在に交渉が成立すると思って?」



742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:16:59.09 ID:B3MJg5ALo

ほむら「通じるわ。あなたは腐っても巴マミだから。巴マミという概念だから」

ほむら「それなりのプライドがある。挑発に乗らない冷静さがある。戦士としての誇りがある」

ほむら「今のあなたなら、敵と言えど可愛い後輩の頼みは聞いてくれるんじゃないかしら」

Mami「…………」

ほむら「それとも……使い魔になると全部が全部、ただの人食いしか脳のないノミ以下の概念となるの?」

ほむら「敵のスタンドの秘密を知っているというアンフェアな状態で勝てても嬉しいんでしょうね」

ほむら「正々堂々と戦うという当たり前のことができない……あぁ、嘆かわしい」

Mami「ずいぶんと露骨な挑発をするじゃない。人を虫けら以下呼ばわりして……」

ほむら「えぇ、絶賛挑発中……。それとあなた人じゃあないでしょう。あなた如きが人を語るんじゃないわ」

Mami「本当にあなた私と交渉するつもりあるの?」

ほむら「大いにあるわ」



743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:19:33.94 ID:B3MJg5ALo

ほむら「……いい?あなたにもう一つだけはっきり言っておくわ」

ほむら「あなたと私は精神的に身分が違うのよ。今の私は精神的貴族に位置する」

ほむら「つまり私とあなたとでは考え方が決定的に違うというもの……」

ほむら「もう一度、交渉内容を確認するわ。悔しければ応じなさい」

ほむら「成り上がり貴族を気取りたいならYESと言うべきよ」

ほむら「私は純粋に、心おきなく戦えるために虫けら以下の存在が尊敬する先輩の姿であることへの躊躇を消すための心の準備がしたい」

ほむら「あなたが戦いに誇りを覚えているのなら、全力で戦える私と戦う必要がある。義務がある。意義がある」

ほむら「何もあなたのスタンドの秘密を教えろと言っているわけじゃあないのよ」

Mami「…………」


Mamiの左瞼はピクピクと痙攣していた。

優しい微笑みは、苦笑いと化していた。




744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:21:34.29 ID:B3MJg5ALo

Mami「虫けら以下……ね。まぁブタとかカスとか言わなかっただけ良しとしましょう」

Mami「私も私だし……お腹も一杯だし、すぐに食べるのもあれよね……」

Mami「いいわ。五分だけ待ってあげる」

ほむら「……チョロい」

Mami「何か言った?」

ほむら「感謝すると言ったのよ。小声で」

ほむら(……挑発を交えつつ譲歩を要求する。そうすることで『敢えて』乗ってくる)

ほむら(もし乗らなければ挑発を受けてしまったようで『ダサい』からだ)

ほむら(敢えて相手の欲求を受け入れる。そういう余裕を見せたがる。相手よりも先に引き金を引かない性格)

ほむら(言い方は悪いけど、巴さんには、こういった性格上の欠点がある)

ほむら(それは、巴さんの概念であるヤツにも通用する……『決闘』や『フェア』という言葉を使用したならなおさらのこと)

ほむら(それにしても、よくもまぁここまで口が回ったものね、私……)

Mami「そうそう……暁美さん。ただし、条件があるわ」

ほむら「条件?」



745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:22:12.96 ID:B3MJg5ALo

Mami「……トッカ」

シュルッ

ほむら「ッ!」


使い魔は腕を軽く持ち上げた。

指の先から黄色いリボンが、真っ直ぐに伸びた。

まるでストーン・フリーの糸のようだった。

リボンはほむらの左腕と、盾に巻き付く。


Mami「リボンであなたの左腕を縛った」

Mami「あなたの時間停止能力……止められる前に触れていれば時の止まった世界に入門できる。前の時間軸の経験」

Mami「だから、リボンであなたに触れることにする。拒否は許さない」

Mami「まあ、触れてようがなかろうがそれくらいの調節はできるようになってるかもしれないけど……」

Mami「それを踏まえて左腕……盾を縛った。時は止められても武器は取り出せまい」



746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:23:21.47 ID:B3MJg5ALo

ほむら「……わかったわ。えぇ、当然の発想ね」

ほむら(ストーン・フリーでその気になれば切断できるが……それはさておき)

ほむら「今から、きっちり五分ね……わかったわ」

Mami「やれやれ……あなた、ずいぶんと変わってしまったわね」

ほむら「これから私はあなたの顔面をストーン・フリーで殴り潰す覚悟を完了するまで精神統一をする。……だから静かにしててちょうだい」

Mami「……はいはい」


ほむらは透明の壁にもたれかかり、腕を組んだ。

所詮は使い魔。

元より尊敬していた先輩の姿だからといって殴ることに躊躇はない。

精神統一をするというのは真っ赤な嘘。

それでもほむらはそのままじっと床を睨みつけた。

ほむらと先輩の概念の決闘は一時的に凍結される。



747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:23:48.11 ID:B3MJg5ALo


キリカと合流して、ほむらと別れ、何分くらい経っただろうか。


まどかは、ずっとそわそわしていた。

すぐ隣にいるキリカは、契約したら殺すと口に出して言った人物。

そして、仮に織莉子という人物が生きていれば、その人と共に殺しに来ていたであろう人物。

実際は今こうして守られているし、悪い人ではないと思えるが、やはり恐怖は拭えない。


「まどか!キリカ!」


――この瞬間を、まどかはどれだけ待ち望んでいたことか。

ポニーテールの魔法少女の声が、名前を呼んだ。

紅潮している頬に一筋の汗が伝っている。

彼女も彼女で、良い印象を持っているわけではないが、

さやかの友達というだけで、ずっと気楽にその名を呼べる。



748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:24:28.80 ID:B3MJg5ALo

まどか「杏子ちゃん!」

杏子「気配がしたんでな……急いで来たぜ」

キリカ「それはよかった。しかし、よくここがわかったね」

杏子「まぁな。やっぱり覚えてるもんだな。見滝原の地理は」

キリカ「あー、違う違う。私達がこの教室にいるってことだよ」

杏子「あぁ、そっちか。学校ん中は初めてなんでチト迷ったがな」

杏子「まどか。怪我はないか?」

まどか「うん」

杏子「そうか。よかった」

キリカ「君もまどかが大事なのかい?」

杏子「ぶっちゃけ言うほどじゃない。ほむらが大事だっつーなら、あたしが守りたいものでもあるってだけさ」

杏子「マミの遺言だからな。ほむらに尽くすことは……で、そのほむらはどこだ?」



749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:25:06.02 ID:B3MJg5ALo

まどか「ほむらちゃんは一人で行っちゃったよ……」

杏子「そうか……まぁあいつなら大丈夫だろう」

杏子「それで、あたしはどうすればいい?」

キリカ「えーっと……」

キリカ「あれ?君に何か伝えるようなことあったっけ?私ィ」

まどか「…………」

杏子「…………」

キリカ「あ、そうそう。私と一緒にまどかを避難させようってこと」

杏子「何だそんなこと。元よりそのつもりさ」

キリカ「思い出した。私は君にそれを伝えるまで待機していた。で、君にそれを伝えたから、まどかを避難させて再入場」

杏子「なるほどね」

まどか「…………」




750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:25:54.74 ID:B3MJg5ALo

杏子ちゃんもキリカさんも……結界で迷ってる人を助けようって言ってくれない。

わたしは、仁美ちゃんや早乙女先生……みんなを助けてほしい。

でももし言ったら、ダメって言われるだろうな……聞かなくても何となくわかっちゃう。

やっぱりほむらちゃんが言ってた通り……

魔女を早く倒すのが、結果的にはみんなを助けることになるんだよね。

だけど……わたしは……。


「……え?杏子?」

まどか「え?」

キリカ「ん?」

杏子「……さやか?」

さやか「な、何……で杏子がここにいんの?」

さやか「何で、まどかやキリカさんがこんなとこに……?」



751 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:27:23.31 ID:B3MJg5ALo

杏子「は?何言ってんだおまえ」

まどか「さやかちゃん……さっき出てったよね?」

杏子「出てった?……と、なると戻ってきたのか」

さやか「いや……あたしにもよくわかんない……」

キリカ「わからない?」

さやか「うん、気が付いたら……ここにいたんスよ」

さやか「……あ、ありのままに起こったことを話すよ!」

さやか「あたしは階段を下りたと思ったらいつの間にか上っていた」

さやか「な、何を言ってるのかわからないと思うけど、あたしもよくわからなかった……」

さやか「超スピードだとか瞬間移動だとかそんなんじゃない!」

さやか「学校を走り回っていると思ったら、ここに戻ってきていたんだ!」

杏子「お、おい……落ち着けよ」

キリカ「…………」



752 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:28:07.68 ID:B3MJg5ALo

キリカ「……なんて言ったっけか」

まどか「?」

キリカ「恩人が昨日言ってた……スター……いや違う。『ティナー・サックス』とかいうスタンド」

キリカ「迫真のリアリティーな幻覚の能力。もしかしたら、それでさやか、君は……」

さやか「ゲ、ゲームとかでよく見る、元いた場所に戻って来ちゃう迷いの森的な……?」

杏子「それしかないな……」

まどか「そ、そんな……既に、スタンド攻撃が……」

さやか「言われてみれば……ほら、空が……病院の時みたいに暗くないし……」


さやかは指をさした。三人が振り返ると、その通りだった。

空が黒い。しかし、室内には確かに雲越しの日光が入っている。

まどかはこの光景を見るのは今が初めて。そのため、とても驚いた表情をしている。



753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:28:47.18 ID:B3MJg5ALo

杏子「ん、そう言えば……」

キリカ「うっかりしていたが……そうか」

キリカ「……あくまで一般人には結界を悟らせない、と」

杏子「混乱させない、騒がせないために……幻惑魔法の代理か」

さやか「と、取りあえずまどかを避難させよう!」

さやか「折角戻ってきたし、あたしがまどかを抱えますからさ!一緒に……」

杏子「いや、さやか。キリカには時間を操るタイプの魔法が使えるんだ」

杏子「ほむらはあたしとキリカの二人でと言ったそうだが……こいつ一人で十分」

杏子「さやか。あたしと二人で行くぞ。魔女を優先するして倒そう」

さやか「魔女ぉ!?いやいや!ダメだって!」

まどか「そうだよっ!仁美ちゃん達を助けなくちゃ……!」

杏子「仁美ぃ?気持ちは分かるが甘いこと言ってんじゃないぞ」



754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:29:13.72 ID:B3MJg5ALo

さやか「仁美はあたしの親友だ!助けないと!」

キリカ「さやか……取りあえず落ち着いて」

さやか「キリカさんはどうなの!?あんたはどっち派!?」

杏子「ほむらは魔女を最優先だっつった」

杏子「ほむらがそういう方針ならそれに従うべきだ!」

まどか「そ、それでも……!」

さやか「……まどか。もう二人はほっといて、二人で仁美を捜そうよ」

杏子「だー、もう!勝手な行動をするな!まどかは避難させるのは絶対だろ!」

キリカ「…………」

さやか「だったら仁美を助けに行こうよ!ねぇ!」



755 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:29:47.35 ID:B3MJg5ALo

キリカ「…………」

キリカ「……なぁ、三人とも」

まどか「?」

杏子「何だよ」

キリカ「あんまり迂闊に動くな」

さやか「い、いきなり何ですかキリカさん……」

キリカ「正直言ってね、私は疑ってるんだ。元々疑り深い性格なんでね……」

杏子「何を疑ってるっつぅんだよ」

キリカ「使い魔は私達にそっくりだ。つまり、この中に『偽物』がいる可能性を危惧している」

キリカ「杏子かさやか。まどかも案外そうかもしれない」

まどか「えぇっ!?」



756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:30:33.86 ID:B3MJg5ALo

キリカ「さやかは一旦退室したから結局、この教室に最初からいたのはまどかだけだ」

キリカ「疑うのは当然だろう」

さやか「……そ、そんなこと言われてもさぁ」

まどか「…………」

杏子「…………フン」

キリカ「でも心配はいらないよ」

キリカ「実はね……使い魔とモノホンを見分ける方法を見つけたんだ」

さやか「え……ま、マジですか?」

まどか「み、見分けるって……」

杏子「正直、本物も偽物も、あいつらは一応概念っつー『本物』でもあるんだぞ。見分けられんのか?」



757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:31:05.14 ID:B3MJg5ALo

キリカ「この使い魔共はね……『指』で食事するんだ」

キリカ「吸って喰うらしい」

まどか「吸う……?」

キリカ「そう。体に指をぶっ刺してそこからチューチュー吸いとるんだ。蚊やダニが血を吸うみたいにね」

キリカ「そこで、肉に食い込みやすくするよう、使い魔の『指はチト鋭い』んだ」

さやか「えっ!?嘘ッ!?」

まどか「ほ、本当ですか!?」

杏子「んなことがあるわけねぇだろ……」

キリカ「…………」


まどかは目を丸くしてキリカの顔を見つめ、次の言葉を待つ。

さやかは自分の指を見て、そして隣にいる杏子の手を見た。

杏子は呆れた顔をして答えているが、視線の先はキリカの顔ではなく指にいっている。



758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:31:39.41 ID:B3MJg5ALo

キリカ「……ふふ」

キリカ「ああ、嘘だよ……。だが、マヌケは見つかったようだね」

まどか「え?」

さやか「何を言ってんスか?」

杏子「…………」

杏子「……そういう、ことか」

さやか「……?」


杏子はその意図を悟り、視線を移す。

まどかは杏子の動きを察知し、同じものを見る。

さやかは少し考えた。



759 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:32:18.64 ID:B3MJg5ALo

杏子「…………」

キリカ「…………」

まどか「……あっ」

さやか「…………あぁッ!?」


さやかは気が付いた。

三人の視線が自分に集中していることに。

そしてさやかは理解した。

自分が置かれている立場。

自分の行動が犯したミス。

まどかがその意味を理解した少し後だった。



760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:34:01.34 ID:B3MJg5ALo

杏子「てめぇ……!」

まどか「……さ、さやかちゃ……」

さやか「…………」

キリカ「なぁ、どうなんだ?さやか」

キリカ「いや……」

キリカ「この『使い魔』ッ!」

さやか「…………」


さやかの姿は眉を潜めてキリカの顔を見る。

そして、口角がじわじわと上がっていく。

前の時間軸の美樹さやかの概念。ヴェルサスのSayakaだった。


Sayaka「……プ――ッ!」

Sayaka「ウヒヒヒヒヒヒヒ!ハハハハハハハハーッ!」




761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:34:58.76 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「ウッ、クックックックックックッ、クックッフヒヒヒ!フッフッフッ、ハハハハフフハハッ!ノォホホノォホ」

Sayaka「ヘラヘラヘラヘラ……アヘ、アヘ、アヘ……ウヒヒヒ!ウハハハハハハハハハ!フハハハハハハハ!」


さやかの姿をしたものは、笑った。自分で自分をあざ笑っている。

杏子はまどかの真横に移動した。キリカは爪を構えている。

ジシバリの魔女アーノルドの使い魔、Sayakaは大声を出して笑った。

まどかは、歪んだ笑顔で笑う幼なじみの姿に戦慄した。

杏子は、全く気付けなかった自分に苛立った。

キリカは、もし違和感を覚えていなかったらまどかがどうなってたことか……そう思い寒気がした。


Sayaka「クックック……ヒヒヒ……いやぁ……」

Sayaka「……シブいねぇ」



762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:35:50.56 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「……キリカさん。ほんと、シブいねぇ」

Sayaka「そっか……そうだよね……」

Sayaka「使い魔だったら指の形が変だ、な~んて言われてもさぁ……」

Sayaka「わざわざ『自分の手』なんざ見るもんじゃないよねェ」

Sayaka「普通、話者の顔とか周りの人の指を見るってもんだ」

Sayaka「だって使い魔じゃないもんよ」

キリカ「……いいや、そうとは限らない」

キリカ「自分の指と『それ』の指を見比べるという意味で……自分の指を見ること自体は何らおかしくない」

Sayaka「ほえ……?」

キリカ「結局のとこ、君は自分で自白したんだよ」

Sayaka「…………」

Sayaka「ふぅー……」

Sayaka「あたしってほんと馬鹿」




763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:37:01.93 ID:B3MJg5ALo

Sayakaは頭をポリポリと掻いた。

そして、その手を首に宛った。


Sayaka「やるじゃない。ちょっと見くびってたよ」

Sayaka「まぁ、あたしとしても……今の演技がバレてもいいとは思っていたんだよね」

Sayaka「惜しかったなぁ……あと少しで一気に『三ポイント』だったのに」

Sayaka「……しかしッ!」

キリカ「!」

ズバァッ!

Sayakaは自身の首を指で掻き切った。

肉を抉りとり、そこから体液が勢いよく噴出される。

その液体は、杏子とまどかにかかる。

まどか「んッ!?」

杏子「うあッ!?」

Sayaka「どうだこの血の目つぶしィッ!」



764 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:37:38.20 ID:B3MJg5ALo

キリカ「まどか!杏――」

キリカ「ガフッ!?」

キリカ「ゲホ……?ゲハッ!」


キリカは首を抑え咳き込んだ。

激痛と共に吐血をした。

手に濡れているような感覚。首から出血している。


キリカ「な、何だ……!?」

キリカ「わ、私は……触れられていないのに……」

キリカ「いきなり首の肉が裂け……いや、抉れた……!?」




765 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:38:32.53 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「まどかはいただくよッ!」

まどか「わあッ!?」

杏子「ああっ!」

キリカ「ぐっ……!ガホッ!」


二人の目がくらんだ隙とキリカが咳き込んでいる突き、Sayakaは駆ける。

スピードには自信がある。

一気に距離を詰め、杏子を突き飛ばす。

そして素速くまどかを抱え、全力で走る。

Sayakaはそのまま教室から出ていった。

杏子は顔を拭い、キリカは魔法で首を治癒した。

使い魔を逃がしてしまった。



766 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:39:09.55 ID:B3MJg5ALo

キリカ「ハァ、ハァ……」

キリカ「くそぅ……スタンド能力か……名前は確か……『ドリー・ダガー』……」

キリカ「ダメージを転移する能力……いきなり私の首を……くっ、恐ろしい能力だ……」

杏子「うえぇっ、ペッ、ペッ!く、口に入って……!」

キリカ「あーあ……参ったな……まどかが攫われちゃったよ」

キリカ「こりゃ恩人に顔向けできない」

杏子「……え?」

キリカ「いや、こっちの話さ」

キリカ「それよりも、さっさと顔を拭いな。こっちもこっちで大変だよ」

杏子「……?」

杏子「……!」



767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:39:52.95 ID:B3MJg5ALo

Sayakaと入れ替わったかのように、既に別の「人物」がいた。

そこにいたのは、小柄な女性だった。

眼鏡をかけて、にこにこと微笑んでいる。


キリカ「……『早乙女先生』……どうしたんですか?」

和子「いえ、みなさん。学校に遅くまで残って勉強だなんて、感心だなと思いまして」

和子「呉さん。久しぶりですね。担任の先生が心配してましたよ」

キリカ「……何て言うと思った?」

キリカ「貴様は使い魔だ……差詰め『Kazuko』ってとこかい」

Kazuko「やっぱり、気付いてましたか……タイミングがタイミングですしね」

キリカ「かかってきなよ……」

キリカ「私は……絶対にまどかをこの結界から避難させる!」

杏子「…………」



768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 00:40:33.46 ID:B3MJg5ALo

キリカ「アメリカ方式」

キリカ「フランス方式」

キリカ「日本方式」

キリカ「イタリア、ナポリ方式」

キリカ「世界のフィンガー『くたばりやがれ』だ」

Kazuko「せ、先生をバカにしているんですか!?体罰をします!」

Kazuko「『スケアリー・モンスターズ』ッ!」

キリカ「ふん!首を切り落としてやるさ!」


キリカは爪を構え、使い魔と対峙した。

愛情を一切感じさせない表情を見せる、教諭の概念はヒステリックに叫んだ。



776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 22:38:29.24 ID:B3MJg5ALo

#23『そんなの、佐倉杏子が許さん』


一方、まどかを抱えたSayakaは、

追っ手がいないことを確認しつつ『図書室』に辿り着いた。

図書室は、Sayakaにとっては思い出の場所。

前の時間軸の死に場所である。


Sayaka「ふぅ……ッブネー!」

Sayaka「まさか使い魔ってことがバレるとはね……」

Sayaka「でもま、いっか~。これでゆっくりと食える」

Sayaka「たくさん食べて大人の女になるぞー!」

Sayaka「まどか。あんたはあたしの嫁だからなぁ……。嫁だからあたしが食わないといけないんだ」

Sayaka「うぇひひ!別にイヤらしい意味じゃないからね。食べ方も動機もさぁ!」



777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 22:39:02.49 ID:B3MJg5ALo

まどか「…………」

Sayaka「どうしたい?恐怖で言葉も出ないのかな?」

Sayaka「安心しなよ。痛くしないからねぇー」

Sayaka「まずは服を脱がそう」

Sayaka「あ、勘違いしないでね。あたしはKirikaさんと違って同性愛者じゃあないからな」

Sayaka「バナナを食べるのに皮を剥くのと同じ理由だよぉ」

Sayaka「……そもそも使い魔に性別ってあるのかな?あたし乙女名乗っていいの?」

まどか「……おい」

Sayaka「え?」

Sayaka「……き、気のせいかな?今、まどかの口から出てはいけない言葉が――」

まどか「図に乗ってんじゃあねーぞスカタンが!」



778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 22:39:58.72 ID:B3MJg5ALo

ガシィッ!

まどかはSayakaの顔面に肘鉄を叩き込んだ。

Sayakaは思わず鼻を押さえるためにまどかを離す。

そしてまどかはSayakaから離れ、後方にジャンプし距離をとった。

まどかは不敵に、ニヤリと笑っている。


Sayaka「ブッ!?ぶがっ……!ま、まどか……!?……い、いやッ!貴様ッ!」

まどか「……本物のさやかがこの場にいたならこう言うだろーな」

まどか「まどかだと思った?」

まどか「残念!『あんこちゃん』でしたってな」

Sayaka「!?」

まどか「そしてあたしが『誰があんこだ!』ってツッコミをいれるんだよ」



779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 22:40:41.23 ID:B3MJg5ALo

鹿目まどかの姿は、いつの間にか変わっていた。

制服は赤い衣装。

桃色のツインテールは赤銅色のポニーテール。

佐倉杏子がここにいた。


杏子「実はそんなにさやかと話してはいないが……何故だかそんなやり取りが思い浮かぶんだ」

Sayaka「な、何ィィ~!?」

杏子「あたしの固有魔法は幻惑だ」

杏子「ちょいと幻惑魔法を使わせてもらったぜ」

杏子「あたしの姿とまどかの姿が入れ替わる。そういう幻を見せた」

杏子「あんたは、まどかと『見間違えて』あたしを連れてきたんだ」

杏子「さぁ、あんたの相手はこのあたしだ!」

Sayaka「あたしをおちょくりやがってぇ……!絶対に絶っ……」

Sayaka「~~~~~~~~~~対に!ぶっ殺ォォォォス!



780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 22:43:26.51 ID:B3MJg5ALo

Sayakaは剣を構え、杏子に剣先を向ける。

「ガル」と言わんばかりに顔を強ばらせ威嚇した。

そして、スタンドの名を叫ぶ。


Sayaka「ドリー・ダガーッ!」

杏子「出してきたか……スタンド!」

Sayaka「スタンド使いの魔法少女と魔法少女、どっちが強いか!」

Sayaka「そんなの試すまでもない!すぐに勝つ!」

杏子「……種はわかっているぞ」

杏子「あたしはほむらと共闘を結んだ。そして、前の時間軸とやらのことを聞いた」

杏子「前の時間軸……あんた、いや、その時のさやかもほむらと共闘関係にあったそうだ」

杏子「あたしとは敵対していたらしい……それはちょっぴり寂しいことだがそれはさておき」

杏子「ドリー・ダガー……『その刀身に映った相手に自身へのダメージの七割を転移する能力』……ほむらからの情報だ」

Sayaka「…………」



781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 22:44:04.17 ID:B3MJg5ALo

ドリー・ダガー。

剣に取り憑いている、実像を持たないスタンド。

その能力は、剣の刀身に映っている相手に自身への『ダメージの七割を転移』する。

Sayakaの頭を吹き飛ばそうものなら、相手は頭の七割が吹き飛ぶ。

体を突き刺せば、転移する七割分の傷を相手は負う。

首を掻き切れば、転移する七割分の傷を相手は負う。

それは、転移に成功すればダメージを三割に軽減されるということも表す。


前の時間軸、「さやか」は失恋をした。

「恭介」が「仁美」に好意を抱いてしまったためである。

そして「恭介」が「仁美」を好きになった原因は『スタンド』にあった。

「さやか」は『自分が悲しい思いをしているのは全てスタンドのせいだ』と、思った。

悪い結果が訪れても自分に落ち度はないはず。

そういう責任転嫁願望から発現したスタンド。



782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 22:45:57.42 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「へぇ……よく知ってたもんだ」

Sayaka「スタンドの種が既に知られているってのはあまりいいことではない……」

Sayaka「スタンドを知られるということは弱点を知られることに繋がるからねぇ……」

Sayaka「だけどだよ?」

Sayaka「それはスタンド使いが相手だったら、の話だ」

Sayaka「公平な立ち位置だったら、の話だ」

Sayaka「あるとないでは、ある方が強いに決まってる!」

Sayaka「あんたにあたしが倒せるのかぁ!?」


Sayakaは刀身を杏子に見せつけた。

鏡のように光り、杏子の姿を映している。



783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 22:49:24.10 ID:B3MJg5ALo

杏子「それがどうした」

Sayaka「ん?」

杏子「それがどうしたのかと聞いたんだよ。有利不利なんてのは関係ない」

杏子「確かに……スタンドという未知の能力の差を超えるのは難しいかもしれない」

杏子「だが……あたしはあんたと違って人間の心……」

杏子「人としての考えがあり、誇り高い意志と覚悟がある」

杏子「だからわざわざあんたに教えてやる。使い魔ごときにはチト難解かもしれないが……」

杏子「いいか、最も難しいことは……そういう障害を乗り越えることじゃない」

Sayaka「…………」

杏子「最も難しいことは『自分を乗り越える』ことだ!」

杏子「あたしは自分の『過去』をこれから乗り越える!」

Sayaka「過去?乗り越えるぅ?何を言ってるんだあんた」



784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 22:50:39.51 ID:B3MJg5ALo

杏子「家族が死に、ゆまが死に、マミが死んだ!」

杏子「あたしの心はマイナスだった!それをゼロにするというんだ!」

杏子「行くぞ!『ロッソ・ファンタズマ』だッ!」

Sayaka「なっ……!」


ロッソ・ファンタズマ。

杏子の幻惑魔法。それは己の分身を作り出す魔法、その名前。

分身は幻影であると同時に力があり、

それぞれの分身がその槍を振るい攻撃をすることが可能。

また、視覚的な撹乱や身代わりによる回避もできる。

過去を拒絶して封印された、杏子の願いに伴い目覚めた固有魔法。

杏子の姿が複数に「増え」た。

ちなみに名付けたのはかつての師匠、マミである。




785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 22:52:20.56 ID:B3MJg5ALo

一人、二人、三人。

杏子の分身が増えていく。

幻影でありながらダメージを与えることができる。

使い捨てのスタンドのようなものだと、杏子は思った。

Sayakaは歯を食いしばり、目を丸くして驚いてみせる。


Sayaka「げ……『幻惑魔法』ッ!」

Sayaka「ど、どういう……ことだ!そういえばそうだった!」

Sayaka「ヤツは幻惑魔法が使えなくなっているはずだ!」

Sayaka「過去のトラウマなぞいざ知らずなKyokoならまだしも……」

Sayaka「こ、『この杏子』が使えるはずがない!」

Sayaka「当たり前に使ってて気付かなかった!」

Sayaka「こいつは幻影を使って、まどかに化けてた!」



786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 22:53:38.57 ID:B3MJg5ALo

杏子「人は、変われる。時として精神的に成長するんだ」

杏子「あたしには、未来を生きる決定的な理由と目的がある!」

杏子「あたしは、さやかと生きるという楽しみがある!」

杏子「そのためにはいつまでも過去に縛られてはいけないんだ!」

杏子「ほむらもキリカも、失った過去を心の隅に追いやって生きて戦っている!」

杏子「だったらあたしもよぉ!マミもゆまも家族も、失った過去と向かい合わなきゃいけねーだろ!」

杏子「マミに付けられた名前!父親から拒絶された幻惑魔法!」

杏子「そしてゆまを救ったこの槍であんたに引導を渡してやる!」


分身は一斉にSayakaを包囲した。

杏子達の内の一人がSayakaに語りかける。

使い魔は、複数の杏子に囲まれ、睨まれる。



787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 22:54:27.64 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「う、うぅぅ……!うぅぅぅ!」

杏子「前の時間軸のあたしは……シビル・ウォーというスタンドに目覚めた」

杏子「シビル・ウォーは罪を他人に押しつけて過去から目を背ける。そんな能力だったそうだが……」

杏子「あたしは違う!あたしは罪を、あたし自身で受け入れるッ!」

杏子「あたしは過去を克服するんだ!」

杏子「もう一度言うぞ!あたしは自分の『過去』をこれから超えるッ!」


幻惑魔法そのものは、杏子はかつての心因的な理由で使えなくなった。

しかし、家族を失った過去を受け入れようと決心したためか、

マミとゆまの死の悲しみを克服した精神的覚醒か、

それらによって失われた魔法が今再び使えるようになった。

杏子はそう解釈した。

使えるようになっているという実感を抱いていた。

そして実際に、なった。



788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:01:32.36 ID:B3MJg5ALo

杏子「ドリー・ダガー……剣に映った相手にダメージを転移する能力」

杏子「分身が剣に映ることで……その転移を分身に受けさせてやる!」

杏子「あんたにゃ治癒魔法があろうが……」

杏子「そんなものは関係ない!ソウルジェムを砕けば即死!」

Sayaka「……くぅ!こ、こいつ!」

杏子「数で押せば必ずソウルジェムを砕けるチャンスはある!さすれば即死だッ!」

杏子「即死すれば転移しない!それがドリー・ダガーの弱点だ!」

杏子「使い魔一体にこんな大技を使うのはチト勿体ない気分だがなァッ!」

Sayaka「か、過去を……超えるだと?……それがどうした!」

Sayaka「な、な、何にしたって!あんたはあたしという過去に敗れるんだ!」


複数の杏子が、ある分身は直線上に、ある分身は角度をつけて、

ある分身は飛び上がり、ある分身は複雑な軌跡を描きながら、一斉に突進する。



789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:02:16.50 ID:B3MJg5ALo

杏子「ロッソ・ファンタズマ躱せるかァ――ッ!」

Sayaka「そ、そうはいかんッ!」

Sayaka「うあありゃぁぁぁぁ!」


Sayakaは剣先で『右』を指し、腰を捻りながら、

体を回転させた。

右脚を軸に独楽のように回り、振り回される剣が分身に触れる

分身は剣撃を喰らう。

複数の分身は一体一体がロウソクの火に息を吹きかけたかのように消える。

分身は一瞬にして破れた。

頭をくらくらと揺らすSayakaは、たった一人で立ちつくす杏子を笑った。


Sayaka「ハハハ!ど、どうだッ!回転斬りで幻惑をうち消せたぞッ!」

Sayaka「たかが幻覚!無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁーふははははー!」



790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:02:49.36 ID:B3MJg5ALo

杏子「…………」

杏子「ああ……そうだな」

Sayaka「!」

杏子「確かに無駄かもな。ただし……魔力の、だ」

Sayaka「な……そ、そんな……!」


違和感のある声が聞こえる。

方角が違う。後ろから、聞こえる。

考えている内に『前方にいる杏子』が消えた。

Sayakaは声の方へ振り返る前に、杏子は行動に移していた。


杏子「ロッソ・ファンタズマ。分身に紛れてあたしは既にあんたの背後に回った」

杏子「あんたが楽しそうに話していたのは……あたしの分身だ」

Sayaka「な、何だと……!?」



791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:04:13.40 ID:B3MJg5ALo

杏子「この距離なら……確実に背中を貫通させて腹の魂を砕く……おっと、使い魔に魂もクソもないか?」

Sayaka「き、貴様ッ……!」

杏子「ブッ殺してやる!」

Sayaka「GYAAH!」

ザシュッ!

杏子の分身はSayakaの背中を槍で突き刺した。

体を貫通し、腹部のソウルジェムを砕くことができる。

Sayakaは膝をついた。

背中を貫通し、臍の位置を貫いた。

ソウルジェムがあれば、砕ける位置。

砕ける、はずだった位置。




792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:05:01.32 ID:B3MJg5ALo

杏子「…………」

杏子「……ゴフッ」

杏子「……え゙」


杏子の口元から赤い液体が垂れてくる。

背中に体の水分が蒸発するかのような、熱い痛みが走る。

ゆっくりと腰に手をやり、痛みのする場所に押さえると、生暖かい液体の感触。

言うまでもなく、それは血だった。背中が抉れている。

足に力が入らない。


杏子「げほっ……ぐふ」

杏子「な……」

杏子「何……?え?」

Sayaka「『ぶっ殺す』……」



793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:06:40.00 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「そんな言葉は意味がない。こういうどんでん返しがある世界では尚更ね……」

Sayaka「ぶっ殺したなら使っていい」


Sayakaは、何てこともなく立ち上がり、数歩歩いた。

そして、背中を向けたまま言った。

ガクッ

杏子の方が、膝をついた。

感覚でわかる。背中から腹にかけて『七割』方が抉られた。

内臓が破れ、背骨が折れ、脊髄が断たれた。


杏子「ば、馬鹿な……!」

杏子「あたしの体……『七割』……穴があいた……!?」



794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:07:41.37 ID:B3MJg5ALo

仮に、狙いが逸れてソウルジェムを砕けなかったとしても、

ドリー・ダガーは光の反射に捕らえられた相手が対象。

背後は反射の死角。刀身に杏子は映るはずがない。

その仮定を踏まえて背後に回ったのだ。


杏子「背後からの攻撃……死角だ。刀身に映して反射させるってんなら……」

杏子「あたしは……映っていない……のに……!」

杏子「ドリー・ダガーは光の反射に関係する能力……!ほむらから直々に聞いた情報だ……」

杏子「剣に……あたしの姿が映ってないのに……映るはずがないのに……」

杏子「転移される、はずがない……」

杏子「何故、だ……!?何故、てめぇ、生きている……何故、転移した……!?」



795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:08:54.15 ID:B3MJg5ALo

杏子は魔力を神経の治癒にあて、取りあえず再び立てるようにした。

追い打ちを喰らわないよう、槍を杖に半ば無理矢理立ち上がる。

石突の部分で床を突き、その勢いのバックステップで距離を取った。


Sayaka「ふっふふふーん」

Sayaka「あんたがさぁ……ほむらからそういう情報を受けてたであろうってのは流石に馬鹿なあたしでも想定済みよ?」

Sayaka「確かに、あたしのダメージ転移能力……」

Sayaka「反射させなければならないということは……それにはどうしても死角ってのができてしまう」

Sayaka「攻撃の方向によっては『詰む』かもしれない……ドリー・ダガーの弱点その一……」

Sayaka「それをカバーする戦略を考えてないと思ったの?」


Sayakaは依然杏子に背中を向けたまま、両腕を大きく広げた。

白いマントには、赤渕の穴があいている。



796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:11:07.12 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「周りを見てみろ!」

杏子「ゲホッ……ま、周り……?」

杏子「ッ!?」

杏子「こ、これは……!」


杏子は首を横に向けた。

そして、杏子は自分の目を疑った。

自分がいる。

ここは確かに図書室だった。本棚も机もあった。

しかし、それらがない。驚いた自分の表情が見える。

本棚も机も椅子も全て取っ払われている。

壁面全体に何枚もの『鏡』が立て掛けられている。

鏡に、槍を杖のようにして、震える足で体を支えている自分がいる。

使い魔の方に向き直すと、その方向の壁も『鏡』になっている。



797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:12:29.28 ID:B3MJg5ALo

『鏡』

床は変わっていない。天井も変わっていない。

机も椅子も本棚も窓さえなくなっている。

いつの間にか、図書室はガラス張りの一室となっていた。

自分とSayakaを鏡が囲う。

万華鏡の中にいるかのような状況だった。


Sayaka「既にだ。既に対策トリックを仕掛けた」

杏子「こ、これは!げ……『幻惑』か!?」

Sayaka「ご名答。流石は幻惑使い。よくわかったね……ただ、正確には幻覚ね」

Sayaka「ネタ晴らしすると……図書室に『Hitomi』がいる。志筑仁美の概念だよ」

Sayaka「ほむらから能力は聞いているかな?『ティナー・サックス』……幻覚のスタンド能力」

Sayaka「ティナー・サックスの幻覚は五感で騙せる」

Sayaka「既に学校全体にも作っているけど……たった今ここに幻覚の鏡を作らせた」




798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:13:23.40 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「鏡は目に見えるものを反射する。光は像だ。光は反射だ。ドリー・ダガーは反射のスタンドだ」

Sayaka「ドリー・ダガーの刀身には『鏡に映ったあんた』が映っている」

Sayaka「あたしのスタンドは清らかなさやかちゃんにピッタリな『光属性』だ」

Sayaka「これにより……どの角度からでも、だ」

Sayaka「あたしのドリー・ダガーには鏡越しにあんたが映るのよ」

Sayaka「つまり『鏡を介してあんたにダメージの転移が行われる』ということだ!」

杏子「ひ、光の反射……だと……!?」

Sayaka「ダメージはどの角度からやっても転移する。ドリー・ダガーの弱点その一を克服した」

Sayaka「さらにだな……」

Sayaka「あたしのおへそをご覧なさい。おへそフェチに目覚めてもよろしくてよ!」

杏子「なっ……!」

Sayaka「鏡と同様……既にあたしは幻覚を『被っ』ていた」



799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:15:00.45 ID:B3MJg5ALo

さやかの魔法少女姿を見るのは、今日が初めてではない。

昨日「さやかちゃんのファッションショ~」だとか言って、変身して見せつけてきた。

白いマント。露出された両肩と腹。水色と白を基調としたデザイン。

今戦闘をしている敵とは全く同じだった。つい先程までは。

ドリー・ダガーと鏡によるほぼ全自動ダメージ反射構造を理解した時。

その前後でSayakaの姿に異なる部分がある。

腹にある、ペタリと貼り付けたシールのような水色の宝石。

それがない。

振り返ったSayakaには、ソウルジェムがなかった。

引っぱたいて紅葉を彩らせたくなるような健康的で綺麗な腹に、

小指の先がすっと収まりそうなへそがある。


杏子「ソウルジェムが……ソウルジェムが『ない』ッ!?」

Sayaka「ソウルジェムは『二個』あった!」



800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:16:02.55 ID:B3MJg5ALo

絵に描いたようなしたり顔で、Sayakaは叫んだ。

即死のポイントがない、魔法少女のさやかの概念。


Sayaka「あんたが見ていたのは、ティナー・サックスの幻覚だ」

Sayaka「あたしは既にお腹に剣をぶすーってやってソウルジェムを抉り出した」

Sayaka「肉体と魂を分離させる戦法……魔法少女ならどうかわからんが使い魔だからこそできる芸当よ」

Sayaka「壊れたら即死するっつーもんをわざわざお腹につけるとか、今にして思えばバカだよね」

Sayaka「……どーいうこったか、わかるかな?」

杏子「…………」


唾を飲む。

ソウルジェムを分離させた魔法少女の概念。

杏子はそれの意味を悟っている。



801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:18:34.49 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「そして魔法少女の概念という不死身の体……」

Sayaka「いくらやっても死にはしないという、好き放題が出来る反面、即死の弱点が存在する」

Sayaka「ソウルジェムはいわば使い魔にとって単なる生命維持装置……」

Sayaka「それがないなら、死にはしない」

Sayaka「ドリー・ダガーの弱点その二は、ソウルジェムの破壊……」

Sayaka「本体が即死したら意味がない。あたしのソウルジェムを『預かってもらう』ことでそれも克服した」

杏子「くっ……!」

Sayaka「治癒に定評のあるさやかの概念であるソウルジェムのないSayaka……」

Sayaka「つまり……あたしは死なない肉人形!」

Sayaka「不死身!不老不死!スタンドパワー!」

Sayaka「あたしは最強だァァァァァッ!」



802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:19:50.41 ID:B3MJg5ALo

ザグゥッ

Sayakaは剣を自分の膝に突き刺した。

剣が膝を貫通する。赤い体液が流れ出す。


杏子「グァァッ!?」

ドサッ

杏子「グッ!」


ドリー・ダガーの能力。本体へのダメージの七割を刀身の映った相手に転移する。

ドリー・ダガーの刀身には、鏡に反射した杏子が映っている。

七割のダメージは光に乗せられ、鏡を跳ね返り、杏子へ、間接的に刺された。

杏子の膝から鮮血が噴き出す。膝関節の七割が破壊され、再び倒れる。

尻餅を突いて転倒した。立つことができない。



803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:20:55.95 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「やったッ!勝ったッ!仕留めたッ!」

Sayaka「これで杏子は死んだァァァァ!」

Sayaka「苦し紛れにあたしを攻撃しても、あたしは死なないもぉんねえぇぇぇぇ!」

Sayaka「試しに頭をかち割ってみるかい?あんたの七割がかち割れるよ!」

Sayaka「アハハハ!まどかが喰えなかった腹いせだッ!」

Sayaka「四肢を断ち切って抵抗できなくしてから喰ってやるッ!」

杏子「く……!」


使い魔は不気味な笑みを向けながら、

一歩一歩ゆっくり歩み寄る。

膝を刺したにも関わらず、何てこともなく歩く。

刺し傷は既に消えている。



804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:22:37.58 ID:B3MJg5ALo


杏子(……ま、負ける)

キョ粉(負けるのか……あたしは)

杏子(…………ダ、ダメだ)

杏子(あたしはまだ死ねない……!)

杏子(約束を……したんだ……)

杏子(あの夜……あたしは、さやかの友達になったんだ……)

杏子(そして、ずっと一緒にいることを誓ったんだ)

杏子(さやかは、あたしと一緒にいてくれると言ってくれたんだ!)

杏子(死ぬ覚悟はできている……だからあたしはここにいる!)

杏子(だが……!)




805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:23:13.37 ID:B3MJg5ALo

杏子(ここでは!こんなところでは死ねない!)

杏子(こんなシケた死に方!ゆまとマミに顔見せできねぇ!)

杏子(あたしは……あたしはまだ死ねない!)

杏子(あたしはまだ!さやかに何もしてやれていない!)

Sayaka「勝った!死ねィ!杏子ッ!」

杏子「ぐ……!」

杏子「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」


使い魔は、脚を間接的に斬りつけられ歩けなくなった杏子に近寄り、

頭をめがけ剣を振るった。

空気を切る音が聞こえた。



806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:27:16.85 ID:B3MJg5ALo

バァン!

破裂するような音が聞こえた。

杏子は、腕で頭を庇い、ギュッと目を瞑った。

……何も起こらない。

訓練されたボクサーは相手のパンチが超スローモーションで見え……

事故に遭った瞬間の人間は体内や脳でアドレナリンやらなにやらが分泌され、

一瞬が何秒にも何分にも感じられるというあれだと思った。

しかし、杏子はパチリと目を開けることができた。


杏子「……!」

杏子「あ……あれ……?」

杏子(なんだ……何も……起きない……痛みを感じずに死んだのか?)

杏子(いや……違う……なんだ。この感覚……。胸が……いや、心が……『熱い』)

Sayaka「…………」

Sayaka「さ……ま……!」

杏子(燃え上がるように、熱い……!)




807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:27:48.29 ID:B3MJg5ALo

腕を開け、視界を開けさせる。

そこには、目を皿にして、歯を食いしばるSayakaの姿。

空中で静止している、水に濡れているかのように綺麗な刀身。

Sayakaの剣を白羽取りして止めた。

『赤い両腕』が、止めた。

半透明の、赤くて温かい『もう二本』の両腕。

それらが、両肩から飛び出している。

初めて見るが、『それ』が何なのか、杏子は知っている。

魂が、それを理解している。


Sayaka「杏子……!き、貴様……!」

Sayaka「あんたッ!バカな……い、いつだ……」

Sayaka「ス……『スタンド』を!?」




808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:28:48.04 ID:B3MJg5ALo

何故、いつ、どこで、自分にスタンドが発現したのか。

疑問は尽きない。

しかし、不思議と心は落ち着いていた。

突然体から飛び出してきた、赤銅色の両手首。

HBの鉛筆をベキッとへし折るように、さも当然のように、スタンド使いになっている。

それ自体に戸惑いはなかった。

杏子は、見た瞬間に理解した。

この、赤いスタンドの能力を。

使い魔に、それを見せることで、実際に見ることで実感することにした。

Sayakaの顔は見る見る赤くなり、ダラダラと水滴を垂れ流す。

顔だけでなく、露出した腹や両肩からも、粘液状の液体が浮かんでくる。



809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:30:51.68 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「う……こ、これは……!?」

Sayaka「なんだ……これ……は……!」

Sayaka「あたしの……あたしの体が……!」

Sayaka「あ……つい……」

Sayaka「『熱い』ッ!?」

Sayaka「か、体の奥から……体液が灯油になって燃えているかのような……!」

Sayaka「と……『溶けて』るッ!?」

Sayaka「ヤバイ!何かヤバイ!体が溶けるだとッ!?」

Sayaka「……!ど、ドリー・ダガー!」

Sayaka「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHH!?」



810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:31:43.46 ID:B3MJg5ALo

Sayakaの体から、黒い煙がぶすぶすとあがっていく。

皮膚や肉がただれている。

赤い腕に押さえつけられた剣が、溶けてきている。

鋼の融点は約1600℃程度。赤い腕が、それを超える熱を持っている。

ドリー・ダガーは、魔法武器の剣に取り憑いている『本体へのダメージを転移する』スタンド。

つまり、剣――スタンドそのものにダメージが加われば、

スタンドが傷つけば本体にもダメージが及ぶというルールに乗っ取り、スタンドが受けたダメージが本体に及ぶ。

剣そのものが熱せられれば熱される程、Sayakaの体は沸騰するかのような苦痛に見舞われる。

100%のフィードバック。体が間接的に溶かされている。

Sayakaは剣を思い切り引き、灼熱のスタンドから回避した。

治癒魔法でただれた肉を元に戻していく。

くの字に変形しつつあった剣が、本体の回復に伴い元に戻っていく。



811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:32:47.03 ID:B3MJg5ALo

杏子は立ち上がった。

針穴に糸を通せるくらいに心は落ち着いている。

そして自分の精神、闘争心が体から抜き出る様子、

ロッソ・ファンタズマで分身を作り出す様をイメージする。

赤い両腕の持ち主が、杏子の体から分離していく。

太い嘴。鋭い目。頭は鳥そのものだった。

ミノタウロスの頭が、牛から鳥に置換されたような、

鳥獣の頭をした、亜人型スタンド。

赤いスタンドの周りの空気が揺らめいているように見えた。


杏子「こいつが……あたしの……」

杏子「こいつがあたしのスタンド……!」



812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:34:36.08 ID:B3MJg5ALo

何がきっかけで現れたのか、やはり心あたりが全くない。

発現することが運命で定められていて、

それを魂が理解していたかのようだった。

どういう能力か、心で理解している。

しかし時には実感することが必要になる。

杏子は「何か出せ」と念じながら、赤いもう一つの自分を観察する。

スタンドの手の平の上に、橙と黄のグラデーションを彩る「もや」のようなものが生じたちわかる。

それは『炎』だった。そしてさらに、幻惑の魔法使いならではわかることがある。

これは本物の炎ではない。『炎のヴィジョンをした熱エネルギー』である。

杏子は自分の精神が求めた能力を実感した。


杏子「……炎に見える熱を操るスタンド」

杏子「……あたしの、心の炎……とでも言おうか」

杏子「……あたしのスタンドは!『炎を操る能力』ッ!」



813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:35:15.41 ID:B3MJg5ALo

『ギャァァ――ス!』

杏子の高ぶる精神に同調したかのように、

鳥獣のスタンドは雄叫びをあげた。

禍々しくも、逞しい。

未来へ雄飛する正義の咆哮。

離れた位置からでも、Sayakaは熱を感じた。


Sayaka「炎の……スタンド。なるほど」

Sayaka「あんたは確か、火事で家族を亡くしてるんだったね」

Sayaka「そのトラウマを克服して炎のスタンドが目覚めたってところかな?過去を受け入れるとか言ってたしね」

Sayaka「合点がいくが……杏子。どんな能力であろうと無駄だよ。忘れた?あたしの能力を……」

Sayaka「あたしに攻撃することは無意味だ。あたしを焼き殺すなら、自分の首を絞めることになる」

Sayaka「あたしに対して『熱い』というダメージもあんたに転移することになるんだよ」

杏子「…………」



814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:39:00.68 ID:B3MJg5ALo

杏子「スタンドが傷つくとスタンド使いも傷つく……」

杏子「てめぇは剣を溶かされかけた時……スタンドのダメージは転移しなかったな」

杏子「だったらよぉ……その剣が完全に溶けたら……即ち、スタンドが消滅したらどうなるんだろうな?」

Sayaka「……!」


あの時――ドリー・ダガーが取り憑いた剣が熱で溶解しそうになった時、

体液が溶かした鉄になったかのように苦しかった。

杏子の目を見て、使い魔としての本能がうずく。

待避しなければと思ったが、魔法少女の概念としての意地とプライドがムンムンと湧いて出てくる。


Sayaka「…………」

Sayaka「や、やってみればいいじゃあねーか……」

Sayaka「確かにあたしのドリー・ダガーの能力は、本体へのダメージを転移する能力に過ぎない」

Sayaka「剣に取り憑いたスタンドそのものへのダメージは、本体へのダイレクトダメージと違うからな……そういう可能性もあるかも」

Sayaka「だが、それは無理だね」



815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:39:26.70 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「先程は油断したが、この状況をもう一度見てみろ」

Sayaka「全面鏡張りの世界!鏡の世界は反射の世界!」

Sayaka「炎ごときがどうだと言うんだ!コノヤロー!」

Sayaka「あんたが炎を火炎放射みたいに放出しようもんなら……」

Sayaka「あたしのスタンドが熱くてたまんねーってなる前に!」

Sayaka「その焼けるダメージを転移して、逆に焼き殺してやる!」

Sayaka「これは予告だ!」

Sayaka「あんたは自分自身のスタンドに焼かれ死ぬ!」

杏子「…………」

杏子「そうかい」

杏子「それが……どうした?」



816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:39:57.84 ID:B3MJg5ALo


杏子「あたしには勝利の感覚が見えたぞ!」

Sayaka「炎なんかに!何の意味があるのか!」

杏子「魔法武器が何でできてるか知らねーけどよぉ……」

杏子「鋼の融点は……炭素の含有量によってそれは下がるが……およそ1600℃くらいだそうだ。学校で習っただろう」

杏子「今からあたしは2000℃の炎であんたを燃やしてやる!」

杏子「あんたをスタンドごと体ごと焼き尽くす!」

杏子「スタンドの剣へのダメージは、あんたに直接喰らう」

杏子「ソウルジェムのない不死身の体だろうが……そんなもん知るか」

杏子「スタンドの剣を溶かす!あんたを間接的に溶かし殺す!消し炭にしてくれる!」

杏子「それができるくらいの火力はあるはずさ!」

Sayaka「杏子……!それでも火焔をよこすかァッ!」

杏子「いくぞ!あたしのスタンド!」



817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:40:36.81 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「そういうのをなあ~……ただのやけくそと言うんだッ!」

Sayaka「いいだろう!意地でも反射してやる!あんたはあんた自身の炎に焼かれ死ぬんだ!」

杏子「そんなの、佐倉杏子が許さん!」


杏子がかつてマミと共に活動していた頃――

ティロ・フィナーレを始めとして

「戦ってる最中に技名を叫ぶ意味ないだろう」と言い争った過去がある。

決してマミの「技名を叫ぶと良い」という持論を受け入れたわけではないが、

今は亡きマミを思うと、名付け、叫ばずにはいられなかった。

「折角だから名付けよう……マミみたいに。技に名前を……」

「生憎あたしはイタリア語がわからないが……決めた。名付けて……」


杏子「『クロスファイヤーハリケーン』ッ!」



818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:46:55.63 ID:B3MJg5ALo

杏子は片膝をつき、祈るように両手を組み唇に近づけた。

炎で「それ」を作ることに対し炎で死んだ家族への、

安らかな眠りを祈る思いと懺悔の念を表す。

その背後で、赤いスタンドは両手を交差して炎の塊を生成した。

その炎は巨大な『十字架』の形をしている。

杏子がわざわざ十字の形にしたのは、封印した教会の子どもとして生きた過去の象徴。

それをわざわざ炎で象ったのは、燃えて消えた過去。それらを精神的にも受け入れたという象徴。

幻惑も炎も、もう心因的な恐怖が杏子を縛ることはない。

自分自身のけじめという意味を込めた十字の炎。

過去を克服した炎、未来へ雄飛する炎が放出された。


Sayaka「う、うぅ……うおおおおぉぉぉぉぉぉっ!?」

Sayaka「こ、この熱は!このエネルギーは!」

Sayaka「……や、ヤバイ!」




819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:47:57.52 ID:B3MJg5ALo

炎の塊が迫れば迫るほど、空気が熱くなる。

その勢いに、Sayakaは気圧された。

まるで炎上している納屋に放り込まれたかのような恐怖心。


Sayaka「うぅ……だ、だがッ!」

Sayaka「ま、ま、負けるか!負けるものか!」

Sayaka「ダメージ反射能力と回復魔法!これほど相性のいい組み合わせはあるだろうか!」

Sayaka「炎だろうが何だろうが!反射してやる!反射できる!」

Sayaka「反射して治す!あたしは無敵!ドリー・ダガーは炎を反射できるッ!」

Sayaka「あんたはあんた自身の炎に焼かれて死ぬんだ!」

Sayaka「かかってこい!炎ごときに負けたりするもんか!」

Sayaka「ドリー・ダガァァァァァッ!」


十字の炎がSayakaに迫る。

まず熱風がSayakaを包み、次いで灼熱が襲う。

2000℃の炎がSayakaとドリー・ダガーを覆った。



820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:49:07.47 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「ぐぅぅあああぁぁぁぉぉぉぉぉッ!」

Sayaka(よ、予想以上……だ!予想以上のエネルギー!)

Sayaka(し、しかし……ドリー・ダガーの能力で七割を反射したとしても……)

Sayaka(2000℃の三割……三十パーだから……えっと、何百℃程度の炎に襲われることになる!)

Sayaka(魔法少女の概念を備えるあたしにとって!耐えられない温度ではない!)

Sayaka(七割の炎が……相手にいくんだ!いくはずなんだ!)

Sayaka(……なのに)

Sayaka(だのにッ!)

Sayaka(だと言うのにッ!)

Sayaka「く……」

Sayaka「KUWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHH!」



821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:49:51.45 ID:B3MJg5ALo

服は全て燃えてしまった。剣は変形し、液状化した鋼が床に垂れた。

炎が視界を支配しているため、杏子の様子を見ることはできない。

Sayakaは、このまま自分が溶け死ぬという実感を、今、本能で感じ取った。

腕がドロリと溶け、剣の持ち手が落下する。

液状化したSayakaの肉は黒い煙をたてて『蒸発』していく。


Sayaka「ギャヤヤアアアアアアア!」

Sayaka「うううッ!炎がァ!炎が!あたしの体を!あたしのスタンドを焼くゥ!」

Sayaka「ま、間に合わない!治癒能力が!」

Sayaka「……よくも!よくも貴様ッ!よくもこんなァアアアアアアア――――ッ!」

Sayaka「キョオコオオォオオ!ふ……ふ……不死身……不……老……不……死ィ……」

Sayaka「こんなァ~……こんなぁはずでは……」

Sayaka「……あたしのォ……人、生……」

Sayaka「KURUYAAAAAAAAAAAAAAHHHHHH!」



822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:51:06.33 ID:B3MJg5ALo

炎の中から、黒い煙が多量に出てきた。

アーノルドの使い魔群、ヴェルサスは、死亡すると黒い煙となる。

ソウルジェムは無事であるはずだが、Sayakaは死亡した。

スタンドのルール、スタンドが傷つけば本体にもダメージを受ける。

それを行き当たれば、スタンドが消滅すると本体は死ぬ。

ドリー・ダガーは剣ごと焼き殺された。


杏子「…………」

パチン

杏子は指を鳴らした。炎は一瞬にして消えた。

スタンドの操る炎の扱いは本能で理解している。

Sayakaは燃え尽きたが、杏子は『無事』だった。

火傷一つ負っていない。



823 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:51:43.80 ID:B3MJg5ALo

杏子「Sayaka……あんたの敗因は……二つある」

杏子「一つは、自分の能力を過信していたことだ」

杏子「ドリー・ダガーは光を反射させてこその能力」

杏子「炎のヴィジョンという光源に包まれていたってことは……剣に映るのは当然『炎だけ』ということになる」

杏子「少なくともあたしは刀身に映っていなかった。だから反射を受けなかった」

杏子「炎という光に包まれた剣は、あたしを映さなかった」

杏子「もう一つは……」

杏子「あんたが『スタンド使い』だったということだ」

杏子「…………」

杏子「……桁外れの強さになるが、スタンドが傷つけば本体も傷がつく」

杏子「不死身の体だろうが、そこを突かれてしまえば……」

杏子「長所と短所は表裏一体と言ったところか」



824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:52:15.81 ID:B3MJg5ALo

Sayakaのドリー・ダガーは、魔法武器に取り憑いているスタンド。

つまり、スタンド=魔法武器という具体的な物であったため、破壊という撃破の手段があった。

しかし、もし相手がドリー・ダガーのようなダメージのフィードバックが特殊なものでなかったら、

どれだけダメージを与えれば『破壊された』という扱いをされるのかがわからない。

「スタンドの破壊」の終着点は抽象的なものとなっていただろう。

ソウルジェムを破壊しなくても、魔法少女は死んだと思えば死ぬが使い魔ではそうとは限らない。

今倒した相手は、ソウルジェムという即死のツボがない。

そして魔法を持ち人外故の残虐性と耐久力を持つ敵。

炎のスタンド、強力なスタンドだからこそ、二体のスタンドを同時に相手して勝てた。

しかし、もしそうでなかったら……それこそ戦闘に役立ちそうにないスタンドだったなら、

どうすれば殺せたものか全く想像ができない。スタンド使いの魔法少女という概念。

杏子は、改めて自分たちが戦っている敵の恐ろしさを実感した。


杏子「……もう一匹」

杏子「いるって言ったよなぁ……逃げていないよなぁ?」



825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:53:05.94 ID:B3MJg5ALo

使い魔、Hitomiのスタンド能力『ティナー・サックス』は幻覚の能力。

幻覚で作り出した鏡で図書室を全面鏡張りにした。

鏡の光の反射により、杏子は苦しんだ。

ヤツがここにいるはずである。


杏子「……相手の立場になって考える」

杏子「これは戦いにおける基本的な考え方だ」

杏子「ソウルジェムを敢えて分離させるという発想……普通はそうこれとできない」

杏子「そしてソウルジェムを離してるってことはよ……どっかに隠してるってこと」

杏子「援護ができる程近くで見晴らしがよく、安全な場所……そうなると」

杏子「なぁ、あたしのスタンドよ……」

杏子「やろうと思えば『それくらい』できるだろ?」



826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:54:04.83 ID:B3MJg5ALo

炎のスタンド。

熱エネルギーを炎のヴィジョンで表現し、自在に操る能力。

その使い方を、杏子は本能で理解している。

亜人のスタンドは、手の平からゆらゆらと揺らめくオブジェのような形をした「炎」を生成した。

その炎はふわふわと浮かんでいる。

上下前後左右、それぞれに火の玉が等間隔にある、六つの炎の集合体。


杏子「洞窟とかで迷った時、火の揺れ方を見て風が通ってる出口を探す……なんていうような話をどっかで聞いたことがある」

杏子「これは……あたしの魔力が込められたスタンド炎だ」

杏子「魔力には、光や音みたいな……波長のようなものがある。その波長で魔女の居場所がわかったりするもんだ」

杏子「……この炎はそれを探知する……『魔力探知機』だ」


呼吸や運動等で気流が生じてロウソクの火が揺れるように、

魔力の波長を感知して揺れる特殊な炎。空気の影響は受けない。



827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:54:52.78 ID:B3MJg5ALo

「右の炎」が激しく揺れ「前の炎」が形を乱す。

杏子の前方、魔力探知機の右前方向。

探知機によると、その方向にある鏡から特殊な魔力の波が放たれていることがわかった。

距離的には近い。杏子は悠然とそこへ向かい、槍を振るった。

ガシャァァン

幻覚は聴覚や触覚も騙す。

鏡はあたかも本物のように音をたててバラバラに砕けた。

その裏に、目を丸くしている志筑仁美の概念、ティナー・サックスのスタンド使い、Hitomiがいた。

手に持っている青い宝石が黒い霧を出しながら溶けていっている。


杏子「よぉ……ここにいたかい。さやかの親友だそうだな。あんたのその姿」

Hitomi「あ、あぁ……あああ……!」

杏子「あんたがヤツのソウルジェムを預かって無敵の体に仕立て上げたんだな」

杏子「そして今破壊した鏡は、裏側から透けて見えるマジックミラー」

杏子「……さて、始末させてもらうぞ」

Hitomi「み、み……」



828 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:55:20.50 ID:B3MJg5ALo

Hitomi「見逃してくださァい!殺さないで!」


Hitomiは頭を床に叩き付けて土下座をした。

魔法少女と使い魔、両方の概念を両立させた特異な使い魔。

そのソウルジェムを破壊されない限り死ぬことはない。

しかし、それ以外。

スタンド使いではあるが、魔法少女でない、人間と使い魔の中間の存在。

それは人が死ぬ程度で死ぬ。使い魔としては簡単に死ぬ。

スタンド使いでない限りわざわざ産み出す価値のない妥協点。


Hitomi「どうか!どうか見逃してください!何でもしますから!」

杏子「…………」

Hitomi「そ、そうだ!わ、私の母、もといアーノルドの居場所を教えましょう!」

Hitomi「交換条件ですわ!たっ、たかが雑魚と天秤にかけたらいい交渉に違いありません!」




829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:55:47.76 ID:B3MJg5ALo

杏子「使い魔とはいえ、親を売るのか」

Hitomi「い、命の方が大事に決まってますわ!」

杏子「…………」

Hitomi「ど、どうかお慈悲を……!」

杏子「ダメだね。我がスタンドは許さん」

杏子「そんなの、あたしが許さない」

Hitomi「……この人でなしィィィィィッ!」

杏子「うるせぇ。人でないくせに!」

Hitomi「HYYYYYYYYAAAAAAAAAAAHHHHH!」


Hitomiはそのままさっくりと刺殺された。

断末魔が途切れ、幻覚の世界が解かれる。

元の図書室――過去の見滝原中学校に戻った。




830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:56:24.17 ID:B3MJg5ALo

杏子「……スタンドを消滅させ、肉体を塵にした」

杏子「そうしたら分離させていたソウルジェムも消えていった……」

杏子「魔法少女の魂はソウルジェムだ」

杏子「ソウルジェムさえ無事なら多少無茶しても死にはしないという認識をしていたが……」

杏子「スタンドが消滅したら本体も死ぬ。ソウルジェム云々以外にも死因は確かに存在している」

杏子「実際使い魔だったが魔法少女でもあるあいつは、そうやって死んだ。ソウルジェムも後を追って消滅した」

杏子「スタンドは精神のエネルギー。精神と魂は類語みたいなもんじゃあないのか?」

杏子「精神ってのは何なんだ?」

杏子「……違う」

杏子「ゾンビみたいな体という表現……あの時は否定しなかったが、それは違うんじゃあなかろうか」

杏子「……ゾンビには勇気はあるか、否、ノミが大きな動物に飛びかかるのと同じように、そんなものはない」

杏子「人間の素晴らしさは勇気の素晴らしさだ、あたしは今、勇気がムンムンと湧いてきているからな」



831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:56:59.30 ID:B3MJg5ALo

杏子「ゆまから貰った気持ち、マミから受け継いだ意志」

杏子「あたしのこの体に、人の心は確かに存在しているじゃないか」

杏子「精神と魂は同じものだ」

杏子「しかしソウルジェムに入れられた魂は……ただの表現に過ぎないんだ」

杏子「全くの別物……人間の魂は分離なんてされちゃあいない!」

杏子「……いや、待てよ」

杏子「じゃあキュゥべえの集めてる感情エネルギーってのは何なんだ?」

杏子「何で感情でソウルジェムが濁るんだ?何で魔女になるんだ?」

杏子「あれ……?わけわかんなくなってきた。やっぱ魂と精神って別物なのか?」

杏子「え、えーっと……えっと……」

杏子「…………」

杏子「フッ、ソウルジェムのない魔法少女……恐ろしい敵だったぜ」



832 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:58:21.22 ID:B3MJg5ALo

――杏子は思った。


……それにしても危なかった。

あたしが勝てたのは……スタンドのおかげだ。

いつどこで目覚めたのかしらないが……スタンドがなければ普通に死んでいただろう。

そして……精神論になるが、さやかのおかげでもある。

さやかはあたしの友達になってくれた。

さやかが待っている。それだけであたしは救われる気持ちになるからだ。

誰かがあたしを待っている。そういう生活を、あたしは求めているんだ。

思えば、ほんの少しの間だったが、ゆまがあたしの帰りを待ってくれていた……

そういう時期が、今なら幸せだったと胸を張って言える。

ゆまをマミに置き換えても言える。むしろ、マミとゆまが迎えてくれたらなお良かっただろうに。

今ならさやかもその中にぶち込んでしまえ。想像するだけでとっても幸せじゃねぇか。ゆまもマミもさやかも……みんないるなんてな。

そういうのは……失って初めて、実現が不可能だとわかってやっと気付くもんだ。いつだってそうだ。

もし、ゆまもマミも生きていたとて……こんな妄想をしたところで心を和ませることはなかっただろうからな。

あたしってのはつくづく素直じゃない人間だ。後悔ばっかりの人生だ。



833 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/27(水) 23:59:39.22 ID:B3MJg5ALo

杏子「……待ってろ。さやか」

杏子「いや、ほむらでも構わない。キリカはまどかを避難させれただろうか」

杏子「とにかく、誰かしらに合流する必要がある」

杏子「怪我はぼちぼち何とかしておくとして……」

杏子「行かなければ……今すぐに……!」


杏子は、自分のスタンドに名前が必要だと思った。

ほむらのストーン・フリーのように、ものには名前が必要だ。

「ロッソ・ファンタズマ」は「赤い幽霊」という意味だと、かつてマミから聞いた。

そこで、この能力の名前は『赤』という言葉と使おうと考えている。

杏子は無名のスタンドを持ってして、次の戦いのために心の準備を構えた。




834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/28(木) 00:00:15.62 ID:k+xrQ6cbo

ドリー・ダガー 本体:Sayaka

破壊力-A スピード-A  射程距離-C
持続力-A 精密動作性-C 成長性-C

魔法武器の剣に取り憑いているスタンド。その性質は「転嫁」
自身に受けるダメージの「七割」を刀身に映りこんだ相手に転移する。
三割は喰らうが、Sayakaの治癒能力と半自動カウンター能力は相性抜群。
Sayakaは常に魔法少女の姿をしているため、24時間スタンド剥き出しである。
光の反射を利用した能力であるため、暗闇では発動しない可能性がある。

A-超スゴイ B-スゴイ C-人間と同じ D-ニガテ E-超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


まどか「夢の中で会った……」ほむら「私の名前はほむらです」【その3】



転載元
まどか「夢の中で会った……」ほむら「私の名前はほむらです」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361546925/
まどか「夢の中で会った……」ほむら「私の名前はほむらです」 ACT2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1364654387/
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