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ヴェント「私の背中はアンタに預ける」【前半】

1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 08:02:57.99 ID:+oy27w/DO


※原作設定、キャラ設定、もしかしたら違いが出て来るかもしれません
脳内変換、ご都合主義、よろしくお願いします



2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 08:04:06.37 ID:+oy27w/DO

戦争が終結して一週間が経つ。双方の国も大分復旧が進み、元の日常が戻りつつある日の事。


「はぁ? フィアンマの生存を確認しろぉ?」


バチカン、聖ピエトロ大聖堂。静謐で神聖たる雰囲気にそぐわない、荒々しい言動が響く。
声の主は全身が真っ黄色でワンピースのような服装を身に纏う、中世ヨーロッパを連想させる女性。
彼女は“元”神の右席。「前方のヴェント」。


「別に確認しなくてもフィアンマならどっかでしぶとく生き延びてんでしょ? わざわざ考えなくても判る事じゃない?」


至極億劫そうに言い放つ。眉間を顰めるあたり、行く気は更々無いようだ。


「確認など建前に過ぎん。要は「連れ戻して来い」と言いたいのだろう」


返すのは荘厳なる声色。青を基調とした服装の男。屈強の肉体は布越しからも露呈していた。
彼は“元”神の右席。「後方のアックア」。


「それこそ変な話。何で私らなのよ? ローマ正教から抜け、神の右席からも外され、何処にも所属していない放浪者の魔術師に」



3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 08:05:06.59 ID:+oy27w/DO


堅っ苦しい文章が綴られた書類が送り付けられたのは、つい先日の事。

『自分本位なる行動で、数多くの損害損傷。命令は一人の少年が標的で、学園都市ではない。
加えて少年は今回の戦争に大きく貢献した模様。よって命令は元ローマ教皇の発言の下で破棄。
処罰は皆無とする代わり、神の右席は解散。ローマ正教の追放を此処に命ずる』

大凡の予想は出来ていた反面、随分と淡白してる事に肩透かしを食らっていたりするのが事実。
行き場を失い、各々が自由の身となったのは良いが、さしてする事も無い。

アックアはイギリスへ一時的に帰還。
フィアンマは戦争以来行方不明の状態。

一方の自分。帰る当ても無ければ、目標となる当ても無い。
何なら今直ぐ学園都市に侵入して、アレイスターの野郎をブチのめすのも有りだが、残念ながらそういう気分にはなれない。

そこへアックアからの急な呼び出し。来てみればフィアンマを連れ戻せときたもんだ。
呆れを通り越し、溜息すら出ない。ローマ正教を永久追放されて、今更何をしろと言うのか。


「適任が居らぬらしい。奴と対等に話し合える存在は我らぐらいであるからな」

「使い勝手もいいトコね」

「全くだ」


これには流石に嘆息を漏らす。
誰しも利用されて良くは思わないだろう。



4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 08:05:49.43 ID:+oy27w/DO

「私がそういうの性に合わないと判ってて言ってるのかしら?」

「しかし蔑ろにする訳にもいかん。仮にも元教皇からの依頼だ」

「……へぇ。新しい方のじゃないんだ? てっきりそっちばっかだと思ってたんだけど」

「両方からである。昇格された方は兎も角、元教皇は恩がある。それに……」


一度切る。吐息を挟んで呆れるような仕草を見せると、再度彼女を見据えて口を開く。


「フィアンマが単に姿をくらましてるとも思えん。またよからぬ計画を目論んでる可能性も否めない」

「成る程ね、一理ある。ここ最近色んな厄介が有ったから、当分は七面倒なコトは勘弁してもらいたいし……いいわ。乗ってアゲル」


楽しそうに笑みを浮かべ、ジャラリと舌に取り付けられた細い鎖が音を立てた。その先端には、唾液に濡れた見覚えのある小さな十字架。



5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 08:06:41.12 ID:+oy27w/DO


「―――『天罰術式』。復元したのであるか?」

「未完成よ。使用制限も限られてるから、いざという時殆ど使えない。そういうアンタこそどうするき?」


不躾に指差して尋ねる。

問われたアックアは、別段彼女の態度を意に介しないようで、戒めない様子。寧ろ質問の意味が解らないらしく、眉を顰めるばかり。
有り様を察したのか。ヴェントは自らの腰に手を当て、吐き捨てるように言う。


「『聖人』、『神の右席』。この二つの力を有していたアンタも、今では失って普通の人間。脱退したものの、私はまだ“神の火”を扱える。でもアンタは違う。
何らかの原因で戦闘する羽目になったらどうするつもり? それとも新しい術式でも組み立てちゃうのかしら」


アックアは得心したとばかりに頷く。だが、と呟く彼は身を翻してヴェントに背中を向けた。


「愚問であるな」

「……はぁ?」



6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 08:07:14.93 ID:+oy27w/DO



余りに予想外の回答に、彼女からは素っ頓狂な声が漏れる。
そんな状態に対してアックアは、不可解で占める彼女にそれ以上何も告げず、歩み出す。


「……」


唖然と立ち尽くす彼女を余所に、依然と歩み進めるアックア。
……だが、十メートル程離れた所で足を止め、顔だけヴェントへ振り返る。


「力を所有しなくとも『戦う理由』は消失せぬ。幾らでもあるさ、それこそ樹木の木の枝のようにな」


アックアは口元が僅かに緩んで笑みを浮かべ、戦争時を想起する。



7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 08:07:54.11 ID:+oy27w/DO

雪の世界。ロシアとエリザリーナ独立国同盟の国境から少しだけ離れた場所。
そこで迎え来る死を待っていた時。東洋人である“あの男”が突然やって来たのだ。


――うるせえっつってんだろうがよ!!


事前に自分が述べた全てを、引き裂くように男は否定した。


―――だったら……アンタを待ってる人はどうするんだよ。


この言葉を皮切りに、自分が僅かに止まってしまったのを今でも覚えている。


―――アンタの後ろには多くの人達がついてきてる。そういう人達はどうするんだよ!!


まるで説教をするような口頭。
上条当麻を彷彿させる男は、自身には存在しない強さを持ち合わせていた。


―――アンタが掲げる『戦う理由』ってのは、アンタを待つ人達の泣き顔を見て笑みを作るようなくだらねえモンなのかよ!!


走馬灯が駆け巡り、諦めの境地に達していた心境が覆す。まともに動かない身体を叱咤して奮え立たせ、アックアは生き延びる道を選ぶ。
壮年の過ぎない傭兵でしかなくなった彼だが、何か大切なモノを掴む決意をした瞬間だった。


「尤も戦闘に関して、逝去も敗北のつもりも皆無である。我が戦場に立つならば蹴散らすのみ、それだけだ」


捨て科白を吐き、ヴェントの応答も聞かないまま彼はその場を去る。
例え何か応えたとして、アックアは足を止めず、取り合わないだろう。彼はそういう男だ。



8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 08:08:51.77 ID:+oy27w/DO

一方のヴェントは去る様子を目で追うだけで、何も言葉を発しない。
アックアが居なくなった後も、暫く彼女は微動だにせず、凍結していた。音もしない場所で、ヴェントは視線を移し天窓を一点に見つめる。

天窓の縁には小鳥。空の長旅に疲れて休憩中なのだろうか。チュンチュンとさえずる鳴き声が窓越しにヴェントへ伝わる。


「……ったく」


ボソッと今日一番の重い溜息。
誰に語り掛ける訳でもなく、彼女は蟠りを晴らす手段を選ぶかのように漏らした。
彼女がアックアに対し何故応じなかったか。去り際のアックアに言葉を投げ掛けなかったか。

アックアが語った言動が―――あの忌々しい上条当麻に似ていて、重なってしまったから。

思念した瞬間、身の毛が弥立ち反吐が出た。おそらく今自分の顔を鏡で見たら、苦虫を噛み潰したような表情をしているだろう。



9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 08:10:23.17 ID:+oy27w/DO


「まるで病原菌ね……フィアンマも感染者だったりして」


止めよう、冗談に聞こえない。これ以上考えても気分を自ら悪くするだけだ。
思考を切り替えよう。フィアンマ捜索について……と、そこで彼女は気付いた。

些か混乱してきたので状況を整理する。先日アックアに呼び出されて、元ローマ教皇の依頼でフィアンマを連れ戻して来いとアックアから伝えられ、本題の路線が逸れて術式の話になり、アックアが先にこの場を去り……現在までの事柄を辿って再確認。一つの過程が抜けているのだ。―――ということは?


「肝心の手掛かりを訊き忘れてる……?」


彼女は慌てて身を翻して大聖堂の玄関へ駆ける。バン! と乱暴に扉を開け放ち周囲を見渡すが、目的の人物は当然の如く既に居なかった。

諦めたのか、ヴェントはがっくりと項垂れるように落胆。アックアとの通信手段は無い。途中で合流という手もあるが、その間にフィアンマが見付かっている可能性が高い。
結論として自分の足で手当たり次第、手掛かりを探していくしか無さそうだ。


「チッ……私は情報収集にゃ向いてないっつーの」


『自分本位なる行動』。

彼女はつい先日見た書類の中に、そう綴られていた文章を反芻する。
あながち間違っては無さそうだ。何だかそれも癪な気がするが。



10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 08:10:59.99 ID:+oy27w/DO


―――余談。


「そう言えばさ」

「む?」

「どうして場所をココに選んだの? 別にそこら辺にある飲食店でよくない?」

「……」

「もしかして騎士道精神とか鍛えすぎちゃって、そういうのには疎いとか? って、んな訳ないか。流石のアンタでも行きつけトコぐらい一つや二つ……」

「……」

「は? まさか図星?」

「……」

「ちょっと、何戦闘の構え取ってんのよ! アンタ仮にも元『神の右席』だった―――」

「ふんっ!!」

「危なっ!? ……イイわ。そっちがその気なら乗ってやろうじゃねえかあッ!!」

「うおおおおッ!!」

「凡人が私に勝てると思ってんじゃねえぞおおお!!」



18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 12:49:14.34 ID:+oy27w/DO


―――ロシア。現象管理縮小再現施設。


「ふっふふーんふっふふーんふっふっふーん♪」


やけに上機嫌な鼻歌が廊下に響く。紅茶を淹れたティーカップが二つ。トレイを両手で掴み、軽やかなステップを弾むも紅茶は零さないという偉業を成す。
真っ赤な修道服を身に包む女性。名はワシリーサ。


「サーシャちゃんと息抜きタイム。息抜きタ・イ・ムー♪」


向かう先はサーシャ=クロイツェフが勤しむ部屋。ワシリーサはタイミングを見計らって、紅茶を用意したのだ。

彼女らが所属する『殲滅白書』。半月程前に起きた戦争のさなか、サーシャは戦争の元凶に狙われ、ワシリーサは世界の広い範囲を敵に回す。……結構過激な数日間を送っていた。
戦争終結後。サーシャは兎も角、ワシリーサは計り知れない敵から狙われる“はずだった”。そう、はずだったのだ。
彼女が全て破った契約書のような書類については、なんと綺麗さっぱりお咎め無し。おそらく誰が裏で飛び回ったのだろうが、こちらとしては好都合。
代わりに生じた天井に届く程の始末書を出された時には嘆いたもの。



19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 12:50:01.20 ID:+oy27w/DO

閑話休題。

無事『殲滅白書』に帰還し、全てが戻りつつある日々。彼女は先刻立てた今日のスケジュールを振り返る。


(まずはサーシャちゃんと紅茶タイムで、満たされたサーシャちゃんのラヴリーなお腹をマッサージしてあげてー、そのまま抱擁で堪能した後は、サーシャちゃんのドキドキ着せ替えのタイムー。うふ、うふふ、うふふふふふふふ)


微笑みは次第に変態気質に満ちた笑みへと変貌していく。口元から涎を垂らしそうな勢いだ。
シスター達がワシリーサと擦れ違う度に脅えられるのは、言うまでも無いだろう。中にはトラウマさえ覚えたシスターも居たとか。

部屋前に到着し、ドアノブに触れるその瞬間、


「――だ――さ――よ」

「――と――い」


ピタッと凍結する。ワシリーサは首を斜めに傾けて疑念。



20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 12:50:53.92 ID:+oy27w/DO

耳に届いたのは声は二つ。片方は自分がよく知る人物の愛しい声だ。では、もう片方の女性の声は……?


(オッケー。冷静になれ私。この部屋からサーシャちゃんじゃない別の女が居て、サーシャちゃんと喋っていると……女?)


思考を素早く回転させる。彼女は自身に冷静になれと必死に訴えかけ、分析の途中で『女』というキーワードに刮目した。ワシリーサの見解はこうだ。

女が居る。
サーシャちゃんと会話中。
会話するほど仲が良い。
だがそれは私が居ない間。
私が居ると邪魔。
つまりサーシャちゃんを狙ってる。
女は泥棒猫。


(―――サーシャちゃんの貞操の危機っ!!!!)


女=サーシャを奪おうとする泥棒猫。と極論直結に至った彼女は、ご機嫌だった頃の笑顔とは打って変わって、鬼の形相へ。
鬼を討つべき桃太郎は、不幸な事に彼女の周りには一人も存在しなかったらしい。

本人的には、ヒロインを攫う悪役に怒りを覚え、退治すべく立ち上がる主人公のポジションであるのだが……端から見るとその見解が、手の平を返されるように覆る事を彼女は知らない。



21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 12:51:45.42 ID:+oy27w/DO


「サーシャちゃああん!! 私が来たからには安心だよー!!! 横から奪って行くよゴパァーっ!!!?」


扉を蹴破り、バターン!! と、つんざく轟音を響かせて室内に駆け込む……が。
突如としてワシリーサの顔面に金鎚が鈍い音と共に突き刺さった。しかし無傷である。痕さえ残らない。


「意味不明な言動は放っておいて第一の解答ですが、私にとって最も危険な存在は貴様だという事にさっさと気付けよクソ野郎」


冷淡な言葉をワシリーサに贈り付けたのは小柄な少女。サーシャ=クロイツェフである。
見に包むのは、赤いマントの下にインナーそのもののようなスケスケのスーツと黒いベルトで構成された、水着のような拘束服。
但しこれは彼女自身が、自ら望んで着てる訳では無いという事を覚えといて欲しい。


「あぁん、冷たいサーシャちゃんも可愛いー」

「第一の質問ですが、面倒くさいので出て行ってもらえませんか?」


腰をくねくねして頬を染める上司にサーシャは溜息をつく。



22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 12:54:16.46 ID:+oy27w/DO

話しにならないと感じたのか、彼女は身を翻して歩き出し、椅子に座って『客人』と対面する。


「第一の質問ですが、多少逸れましたが話を戻していいですか? 付け加えて補足しますと、先程と同じような答えを出されますと永遠とループする羽目に―――」

「手伝いなさい」

「……第二の質問ですが、せめてあなただけでも話を聞く常識人で居て下さい。私が疲れます」


困り果てる彼女を余所に、目の前の人物は構わない様子で自ら話を促す。


「別に良いじゃない。アンタどうせ暇でしょ。それとも、戦争の時の恩を仇で返すつもり?」

「う……だ、第一の解答ですが、それとこれとは話が別です。付け加えて解説しますと、私は暇ではありません。なので手伝う事は出来ません」

「私に否定形はない。だから手伝え」

「第二の解答ですが、それは何度も言うように、ただの横暴ですっ!!」


ガタッと身を乗り出して力説。全く意見を取り合わない彼女にサーシャは声を荒げる。
そこでワシリーサが二人の会話に乱入してきた。机の上に紅茶が入ったカップを二つ置き、


「あらあらぁ~ん? 『神の右席』がサーシャちゃんに何の御用かしら?」


サーシャと同様に用意された椅子に腰を掛け、相対するのはヴェント。彼女は手足を組み、片目を瞑り淡々と対応していた。
突然割り込んで来たワシリーサに眉を顰めるも、変わらない調子で答える。


「“元”だ。今は何処にも所属しない流れ者の魔術師よ」

「その報告は受けてなかったわ。あのクソジジィめ……」

「第二の質問ですが、あなたが関わるとややこしくなるので、部屋の隅で黙っててくれませんか?」

「酷いっ!? サーシャちゃんは私よりこの女が良いっていうのーっ!!!?」

「第二の解答ですが、断言が可能なほど比べるまでもありません。寧ろ価値があるのですか?」


彼女はさらりと刺々しい言葉を放ち、置かれたカップを一つ手に取って口の中へ流す。



23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 12:54:44.62 ID:+oy27w/DO

そして愕然な衝撃的発言をされたワシリーサは、文字通り『拗ねた』。


「ちくしょぉぉぉ……サーシャちゃんは私だけのモノなのに、あんな女に穢されて……」


膝を抱え、ブツブツと止む事無く一頻りに念仏を唱えるように呟く上司の姿があったという。

ヴェントはそれを尻目に一言。


「いいのか?」

「第三の解答ですが、問題ありません。どうせ長くは保たないでしょう」


それより、とサーシャは畳み掛ける。



24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 12:55:54.38 ID:+oy27w/DO


「第三の質問ですが、そもそも何を手伝えと言うのですか? 何の説明も無しに単刀直入ばかりでは理解が追い付きません。事によっては場合も異なりますが」


言い終わってから再度、紅茶を口に含む。理由によっては断れなくもない、そう明言した。

ヴェントにしたら今回の件は確実に内輪の話になるため、余り事実を公言するのは控え目にしていたのだが、……仕方無いと腹を括る。


「捜索よ。赤い男の」

「?」


遠回しに気付かせようとしたのが間違いだったらしい。サーシャは全くピンと来てない様子。
心の中で大きく舌打ちをし、


「フィアンマ。『右方のフィアンマ』の事しかないでしょ」


今度こそピタリと、カップを傾けていたサーシャの手が停止し、ワシリーサまでもが念仏を止めた。



28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 16:32:11.32 ID:+oy27w/DO


場が凍り付く。それもそうだろう。
フィアンマは今回起きた戦争の首謀者。表沙汰には名が挙がって無いが、多くの魔術師から殺害の対象となっているのは間違いない。
しかもその大半がロシア成教の魔術師である。そしてココはロシア成教の中枢、場を間違えばヴェントさえ狙われかねない。


「……第四の解答ですが、状況を把握しました。詳細の続きをどうぞ」

「だから手伝え」

「ですからっ!! 何度もっ!! 言ってるじゃないですかっ!!」

「チッ、せっかちなヤツめ。騒ぐと誰か来るわよ?」


ギリギリと強く握り拳を作り、彼女は融通の利かないヴェントに頭を悩ます。
どうして自分の周りは話を聞かない人ばかりなのだろうか、これも運命なのか。サーシャは苦悩の種が尽きない。



29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 16:32:47.46 ID:+oy27w/DO


「一応言っとくけど、私はアイツを助けようとか守りたいとか、そんな下らない概念で動いてる訳じゃないから。
アイツがどうなろうと知ったこっちゃないし、どうでもイイしね」


彼女は本当に心の奥底からどうでもいいと吐き捨てた。
組んだ手足も表情も変わらない。元々仲間意識が無かったからなのか、真実は彼女にしか判らない。


「第四の質問ですが、では何故捜索を? あなたがそこまで言うんです。相応な理由があるでしょう?」

「アンタはホントに間抜けね」


呆れて盛大に溜息をつく。対するサーシャはムッと顔をしかめる。
……後ろの方で何やら上司が悶絶して騒いでいるが、この際無視。



30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 16:33:21.29 ID:+oy27w/DO


「仮にも元『神の右席』。私の存在を関知、尚且つ戦争の元凶と面識のある人間……こう考えたら簡単でしょ?」

「元ローマ教皇。あのクソジジィか」

「ビンゴ♪」


的を射たワシリーサに指を差し、口元を吊り上げて嫌な笑みを浮かべた。


「正確には『連れ戻せ』って依頼らしいけどね。それにあのクソ野郎が意味も無く姿を晦ます何て気色悪い。また面倒事を起こされたら堪ったもんじゃないわ」


勘弁被る、と首を横に振った彼女は肩を竦める。



31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 16:34:07.02 ID:+oy27w/DO

ヴェントの言葉にサーシャは頷き、


「第五の解答ですが、事情は理解しました。しかし協力は困難が立ちはだかります。
更に補足しますと、今ロシアは学園都市からの攻撃を受け、復旧に必死です。私達も例外ではありません。
その状況中で私だけ戦争の元凶を捜索というのは、必ずしも上への許可が必須。事が悪い方向に行けば私は罰則が下ります。
第六の質問ですが、その上、同行の人物が元だとしてもローマ正教に属すると知れば、あなたまで危険が及びますよ?」



32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 16:34:53.40 ID:+oy27w/DO


ロシア・ローマの仲は、戦争以降どちらかと言えば悪くなった。何故こんな曖昧な表現について掻い摘んで説明すると、上の人間だけが今回の戦争を引き摺っているのだ。
大の大人が責任はそっちだそっちだのと、お互い罪を擦り付け合いを議論している。七つの美徳や七つの大罪なんて何処へやら。
だからこそ、サーシャは懸念するのだ。過去形にしても元ローマ正教のヴェント。上が黙っちゃいないだろう。今こうして会話しているだけで十分危険極まるのだが……。
ヴェントは「大人の事情」とやらに嘆息を漏らす。


「……はぁ、面倒ね。結局無駄足だったってわけか」

「第六の解答ですが、もしフィアンマ捜索に当たるなら有力な情報があります」

「それを先に言えよ私の気分が無駄に落ちたじゃない」

「……第七の解答ですが、疲れてきたので、何だか段々どうでもよくなってきました」



34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 16:38:08.35 ID:+oy27w/DO


ヴェントは山の雪道を歩いていた。
吹雪は吹いてないものの、現在並木道は小降りの雪がしんしんと降り、山全体を白銀の世界に染める。
気温にしてマイナス三度程度。正直彼女は極寒の中で歩く格好ではない軽装。それでも寒さを微塵も感じないのは術式の効果か。


「…………」


ザッ、ザッと真っ白に彩られた雪道に足跡をつけながら目標地を目指す。
目を配らせれば所々の樹木が抉られていたり、薙ぎ倒されている。
明らかに自然の猛威で作り出されたモノでは無い。人の手によって現象されたモノだ。考えなくても判断出来る、戦争時の人害だろう。
その有り様をヴェントは些か目を細めるだけで気に留めない。彼女は先刻ロシアでの件を振り返る。



35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 16:38:42.52 ID:+oy27w/DO



『第七の質問ですが、最近イギリス清教の一部の動向が活発なのを知っていますか?』

『イギリス清教が?』

『はい。と言っても一部だけですが。補足説明しますと、東洋の聖人が先導を切ってロシアの雪山を中心に活動を行っているようです』

『それがどうしたって言うのよ? 有力どころかゴミクズのように要らない―――』






『上条当麻を、ご存じですか』



36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 16:39:32.93 ID:+oy27w/DO


「…………」


一瞬でも、言葉が詰まらせてしまったのを明確に覚えている。
上条当麻という名前が挙がるだけで敏感に反応を示す自分が居るのも自覚している。それは決して、好意とか友好的な物ではない。対照的の『悪意』だ。

別に憎んでる訳では無い。憤りを感じてる訳でも、怨恨という訳でも無い。
ただ、気に食わないだけ。



―――死に掛けてたお前の弟は、お姉ちゃんを助けてくださいって、どんな気持ちで言ったんだよ!!



偽善立てて綺麗事を並べた言動も、



―――自分がどんな状況にいるのか全部知った上で、それでもそいつはお前を助けたいって願ったんじゃねえのか!!



狼狽しないその心も、



―――そんな人間が、科学に対して復讐して欲しいなんて言うと思ってんのかよ!



屈服しない精神も、



―――お前の幸せを誰よりも願っていた人間がッ!!



怯む事のないその姿勢がただ、



―――少しだけお前を救ってやる。もう一度やり直して来い、この大馬鹿野郎!!



……気に食わない。



37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 16:40:22.33 ID:+oy27w/DO


「……ケッ」


彼女は自身の行為に唾を吐く。
実に不愉快だ。反吐が出る。


(何であのガキに掻き乱されなきゃならないワケ……クソが!!)


ガシガシと乱暴に頭を掻いて、歯軋りをする。
上条当麻という名が挙がるだけで乱される自分が鬱陶しい。
何故行くトコ行くトコその名前が必ず有るのか、そう考えるだけで煩わしい。


「纏わり付くハエみたいね……」


天を仰いで嘆息する。
彼女は再びサーシャとの会話を回顧する。



38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 16:42:10.57 ID:+oy27w/DO


『第八の解答ですが、あの少年もフィアンマ同様に姿を消しています。
付け加えて補足しますと、少年が姿を消す直前に『神の力(ガブリエル)』が観測されました』

『……大体読めてきたわよ。つまりあのガキが全部持って行ったってワケね』

『そう結果情報を受けています。補足説明しますと、少年が消失に伴い東洋の聖人率いる一部が慌ただしく、捜索に励んでいる事が確認されています』

『ってか、それがどうしたってのよ?』

『第九の解答ですが、簡潔に言いますと、協力を要請するならば彼らが適任かと』

『…………』

『……? 何か?』

『いや、……そうね、考えておくわ』



39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 16:42:53.10 ID:+oy27w/DO


使い勝手の良い人員が出るのは甚だしく構わない。聖人という強大な怪物も大いに結構。

しかしだ。

自分は元ローマ正教で、元『神の右席』。闇の奥底に潜み、そのキーワードすら一握りしか知られない存在。
そのような自分と対峙した時、快く受け入れるだろうか? 答えは否。
自分が仮定として、もし上条当麻が目の前に現れたら、迷いも躊躇も逡巡も無く、寸分の動作も与えないまま突っ込んで行き得物を振るうだろうから。


(接触は避けた方がいいわね。すこぶる面倒くさそうだ。
……ってコトは結局、私一人でフィアンマの野郎を捜さなきゃならないんじゃない)


彼女は、ここで一つの失態を犯していた。
思考に没頭していた所為で、周りに配る注意を失せていたのだ。



40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 16:44:35.78 ID:+oy27w/DO


結果、後頭部に―――コツンと固い何か当たる。同時にカチャッと軋む音。
ヴェントは進めていた歩みを止める。後頭部に当たる感受は消えない。

ここは雪山の奥。見渡す限り白銀に染まる樹木並木道。
静寂なるこの場所に人気なんて皆無。獣の気配すら絶無。

山奥。そう、ここは山の奥。
しからば答えは一つに辿り着く。


「ひひ、ひひひひ。奇抜な姉ちゃんだ。逃すには勿体無ぇが、こちとら生活が係ってんだ……持ってる物は全部置いてってもらおうか!!」


―――山賊だ。



41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 16:46:26.85 ID:+oy27w/DO


「…………」


ヴェントは視線を巡らせる。
背後の声に呼応するように樹木の陰から一人、二人、三人……。
数えるのが面倒になる程、続々と仲間であろう山賊が姿を現す。見事に極数秒で彼女を中心に取り囲んだ。
それぞれ山賊が両手に抱えるのは、遠くの獲物を狙う時に用いる、標準サークル付きのライフル。


「ひひ、ハハハッ!! 余計な抵抗はしない方が得策だぜ~? その瞬間、姉ちゃん頭がボーンだぁ!!」


後頭部に当て続けているのは、おそらく周りの山賊と同じ系統の物だろう。
ライフル、又は小型の拳銃。若しくはハッタリか。


「オラどうした!! さっさとしやがれ!! さもねぇと身包み剥ぐぞォッ!!」


ここまでは山賊も完璧だろう。
全て予定通り、一寸の狂いも無いはずだ。『ここまで』は。



42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 16:46:55.33 ID:+oy27w/DO


「……クク」

「あぁん?」


彼らの誤算は二つ。


「アッハハハハハハ!!」

「な、なんだ……!?」


一つは、彼女が元であれ、『神の右席』である事。


「アンタら最っ高……くくっ。
はーあっ、久し振りにこんな笑ったわ。そうね、ここは発散しておいた方が良さそうだ」


二つ目は、


「上等ね。誰に向かって舐めた口効いてんだ?」



43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 16:47:44.61 ID:+oy27w/DO







―――彼女は今、非常に恐ろしいくらい、機嫌が悪い事。



44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 16:48:25.36 ID:+oy27w/DO


バタバタバタバタバタッ!! と。
突如として、彼女の背後に居る男以外全員が、力を失ったように倒れていく。
当然、男は理解が追い付けるはずも無く、狼狽するばかり。


「お、おいっ!? どど、どうしたテメェら!!? 何が起きて―――」

「範囲を限定させてもらったわ。使用制限もあるから節約しないとね」


彼女の手には、何時の間にか全長一メートルを越すハンマーが握られていた。
普段のヴェントならば問答無用で全員気絶させ、転がった人間を跨いで足を進めていただろう。
しかし、今は機嫌が物凄く悪い。故、彼女にとっては足枷すらならないのだ。



45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 16:49:32.81 ID:+oy27w/DO


「それに、私も遊びたいじゃない?」


ゴシャッ!! と鈍い音が、男の手首と得物から響く。
男が呻き声を漏らす隙も与えないまま、男の腹部と顔面がベコッと、……決して人間が鳴ってはならない音が木霊する。


「がァァァああああああああああッッ!!!??」


ボールを蹴った時のように、彼は綺麗な放射線を描いて十メートル以上吹き飛んだ。
幸いな事に地上は雪が積もってクッションになっている。地面に叩き付けられる事は無かった。
それでも致命傷なのは間違いない。
思考回路が上手く働かない男は、何が起きたか見当も付かない。
一瞬だ。一瞬で立場が逆転したのだ。


「あがっ……ぁがふ……?」


話す言葉すら儘ならない有り様。
鼻はへし折れ、顎が粉々に砕かれた状態で喋れというのも酷な話だが。



46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 16:51:09.52 ID:+oy27w/DO


「おやおや、大の大人が何とだらしない。露骨にダラダラ血を垂らしてんじゃないわよ」


頭上から声。男にとってはもはや絶望にしか聞こえないだろう。
まるで死神の吐息のようだ。吐く一言一言が、彼を確実に窮地に追い詰める。


「大丈夫、殺しはしないわ」


その言葉に彼は過剰に反応する。見上げてヴェントを目視。
彼女は遊び道具を見つけたかのように、嘲笑っていた。


「殺したらつまらないでしょ。
せっかく狩人と獲物が逆転したんだ。私を楽しませてよ?」


ゆっくりとハンマーを振り翳す。
それを成す意味を、回転が遅い頭でも男は早急に理解する。


「―――ッッ!!!!」


声とは程遠い、奇声を上げながら男は逃げていく。
彼も人間だ。生き延びたいのだろう。



47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 16:51:37.31 ID:+oy27w/DO


「……ふん」


彼女は尻尾巻いて逃げていく男を尻目に興が削がれたのか、踵を返す。
普段通りの澄ました表情に戻り、何事も無かったかのように歩み出した。


(甘くなったな……私も)


自分に敵意を向け敵対したはずなのにワザと逃してる当たり、アックアとフィアンマに「誰かさんの影響を受けているんじゃないの」と、人の事を言える立場じゃ無くなった。


「最悪……」


そこには心底嫌そうに呟くも、足は止めないヴェントの姿が在ったと云う。



51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 21:59:42.41 ID:+oy27w/DO


―――学園都市。窓のないビル。


「部屋」……というのも言い難い広大な空間にはドアや階段、エレベーターと通路すら無い。
存在するのは、ただ一つだけ。
中央に床から天井まで繋って聳え立つ、培養液で満たされた巨大なビーカー。
中に浮かぶのは、男にも女にも大人にも子供にも聖人にも囚人にも見える……『人間』。

『人間』の名はアレイスター・クロウリー。

彼と相対する影が存在した。
黄金の輝きを放つ髪。
肢体を包む白い布の装束。
全てが異質、名は『エイワス』。


「…………」

「ふふ、面白い事になっているな?」


彼らの前方の空間に立体映像が、二つ映し出されている。



52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 22:00:29.61 ID:+oy27w/DO

片は三人の集団、片は四人のグループ。

三人の映像はファミレス。
黙々と口内に肉を放り込む『一方通行』。
お子様ランチのハンバーグを口一杯に頬張る『打ち止め』。
日替わりランチを食すが、時折一方通行に毒を吐く『番外個体』。

四人の映像は何処かの家。
何度も床に頭を叩き付けて土下座する『浜面仕上』。
手足を組み、鬼の形相で浜面を見下ろす『麦野沈利』。
両膝を立て軽蔑な目線を送る『絹旗最愛』。
絹旗の隣で紙パックのジュースを飲む『滝壺理后』。



53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 22:02:00.88 ID:+oy27w/DO


「一方通行の暗部を卒業。浜面仕上の学園都市へ帰還。更には幻想殺しの消失。
……見事に君のプランとやらには無い手順じゃないか?」


エイワスは薄く微笑む。
対するアレイスターは目を瞑り、


「……あなたの言う通り、これは私の計画するプランには無い。完全なる予定外だ」


表情を変えず言う。
その様子にエイワスは笑みを濃くする。


「ふむ。あっさりと肯定する所、存外に期待していいのかな?」

「あなたの期待に沿えるかは危ぶむが、大層な事態が起きて予定外が生じているんだ。
―――こちらも『予定外のモノ』を出す他ないだろう?」

「ほう、垣根帝督でも復活させる気かね?」

「いや」


シュンと。この空間に新たな影が現出した。



54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 22:03:17.18 ID:+oy27w/DO

扉が無ければ出入り口さえ無い場所だ。大能力者(レベル4)の『空間移動』や『座標移動』が居なければ入る事すら出来ない空間。

そこに、一人の人間が侵入する。


「……これはこれは、実に興味深い結果が起きそうだ」


エイワスは顎に指を添える。
その佇まいが、楽しみで仕方無いと語っていた。

カツ、カツ、と小気味の良い音を鳴らして近付く影は、次第に姿を現す。



55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 22:03:59.62 ID:+oy27w/DO

身に包むのは何の変哲も無いとある高校の制服。シャツの上に学ランを羽織り、黒いズボンにスニーカー。唯一、首から上は仮面によって隠されていた。
視界を遮断しないように左目の部分だけ、羽の形に穿つ白い仮面。中央には太い黒字で円を描いて『0』の数字。





そして―――“ツンツンヘアー”の髪。



56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 22:05:13.17 ID:+oy27w/DO


「目覚めたばかりだとは思うが……調子はどうかな?」


閉じた瞳を開け、アレイスターは姿を現した人間に尋ねる。
暫く間があった後、人間は自らの手の平を見つめ、ゆっくりと拳を作って再び開く。


「……無問題。体の不具合は確認されない。正常だと思われる」

「そうか。ならば、早速仕事だ」


空間に浮かぶ映像は、人間の目の前へ移動。
そこには相も変わらず肉を貪る『一方通行』の姿。



57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 22:06:22.46 ID:+oy27w/DO


「名は一方通行と言う。彼を殺害する。それだけでいい」

「手段は?」


“何処までが許容範囲?”の短縮。
アレイスターは笑みを浮かべ、


「君に任せる。月並みな方法を取ってもらって構わないさ。例えば……」


次に映し出されたのは、お子様ランチを食べ終えたらしく、一方通行に縋り付く『打ち止め』の姿。
更にもう一つ。こちらはまだ食べ終えてなく、意地の悪い笑顔を見せて一方通行に毒を放つ『番外個体』の姿。


「―――彼女らを人質に取るとかね。用いるかどうかは君の判断に委ねよう」



58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 22:06:56.52 ID:+oy27w/DO

「了解した。任務内容を繰り返す。
『目標コード、一方通行。達成条件、一方通行の殺害。成し遂げるための手段は、状況に合わせて適切に処理。困難が生じた場合、月並みに人質を優先』。……これでいいか?」

「構わない」


皮切りに人間の姿が消える。
あたかも最初から何も無かったように跡を残さず。

今まで口を閉ざしていたエイワスが、ボソッと独り言を呟く。


「――――」


吐息だと思わせる程、口を動かさず小さく呟いた。
アレイスターでさえ気付かなかったそれは、本人にしか判らない。



64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 19:50:41.58 ID:uGgtFTwDO


ヴェントは頭を抑えて思念する。―――どうしてこうなってしまったんだろうか?―――と。


「五和ーっ!! 落ち着くのよなーっ!!」

「離じて下ざい建宮ざあぁん!!!!」

「あいつが行方不明になって悲しいのは同意するが、自殺は駄目なのよーっ!!」

「上条ざんが居ない世界で、私が生きる価値なんて無いんでずううぅぅぅぅ!!!!」

「まだ死んだとは決まっとらーん!!」

「上条ざあ゛ぁ~ん!!!!」


木の枝から吊した縄で、自らの首を絞めようと典型的な自殺を謀る五和。
顔面はぐしゃぐしゃに崩れ、大粒の涙をボロボロと零すそんな彼女も恋する乙女。
今にも首を吊って死のうとする彼女を羽交い締めにして、必死に食い止めようとするのは建宮斎字。


「…………」


目の前の光景に呆れて物も言えない。
多方面から視点を変えても、ヴェントにはコントにしか見えないからだ。
本人達は至って真面目なんだろうが……。



―――それは数十分程前に遡る。



65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 19:51:16.36 ID:uGgtFTwDO


少し考慮すれば判る事だった。
あれだけ騒いだのだ。人気が無いからって、意味も無く声を張り上げて笑ったりしてたら気付くだろう。
サーシャも言っていたではないか。―――最近ロシアの雪山で東洋の聖人率いるイギリス清教の一団が活発に行動している、と。結果、


「あなたは……っ!?」

「……?」


視界に入るのは黒い修道服。

三つ編みをした赤い髪の少女。丈の短いスカートに三十センチくらいの厚底サンダル(チョピン)。

その背後には更に修道服が二つ。
警戒心バリバリでこちらを睨むのは、猫目で背が標準より些か高い少女。先頭に立つ少女と同様に丈の短いスカート。
彼女を盾にビクビクして寄り添うのは、猫背で背が低い少女。二人とは対照的にロングスカートだ。

ヴェントは彼女らの存在を見た事も聞いた事もある。
ローマ正教を抜け、今ではイギリス清教の傘下に入った二五十名のシスター部隊。確かこういう名だったはずだ。


「アニェーゼ部隊……」

「『神の右席』……ッ!!」



66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 19:52:02.53 ID:uGgtFTwDO


アニェーゼ=サンクティスは牙を向く。『蓮の杖』を展開させ、敵意を剥き出しにしていた。
目の前の怪物がどれほど危険かを熟知するからこその行動。……当然、勝てる見込みや勝機を掴めるはずが無い事も把握している。

対するヴェント。これが困ったもので、彼女は露骨に牙を向くアニェーゼに対抗して、戦闘意識を活発化させて撃退するつもりなど、更々無い。
理由? そんな物は一言に尽きる。


(面倒くさいわね……)


別に戦闘がという訳では無い。
ただ純粋に相手にするのが面倒なだけ。

何だったら裏切り者や大罪人などと、罵ったり嗾ける事すら造作に無い。
以前までの彼女ならばそうしていただろう。比喩無きに五臓六腑を圧砕していた。以前までは。

但し今は違う。甘くなったし、面倒くさがりになった。
厄介事は御免被るし、なるべく関わりたくない。平和ボケもいいトコだと自分でも思う。
先刻の山賊共の場合は、偶然機嫌が悪い時に現れたので適当にあしらったが、今は発散したので別に機嫌も悪くない。



67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 19:53:00.80 ID:uGgtFTwDO

さて、どう対処すべきか。
『天罰術式』を発動させても良いが、使用制限の方も気になる。
依然としてお互い停止状態。あちらは敵意剥き出しで、今にも飛びかかって来そうな勢いだ。
このまま現状維持で、誰かが横槍が入るのを待つという手段も良いかもしれない。
実際状況は悪化していな―――いや、前言撤回しよう。状況は悪化した。


「どうしちまいました? 『神の右席』とあろう御方がのんびりと。まさか増援を呼んでないと思いで? ハッ、クソ食らえやがれってんです」


私服を纏う多数の老若男女。
各々の武器を構え、矛先をヴェントへ向ける。―――「天草式」だ。


「チッ……」


いよいよ『天罰術式』を使う羽目になり兼ねない事態に陥った。
どうやら黙ったままでも状況はエスカレーター式に自動で急降下していくらしい。


「あなたが何故ココに居やがるとか、こんな所で何をするつもりとか、知ったこっちゃねえですけど」


アニェーゼは『蓮の杖』の先端をヴェントに向け、宣告する。


「―――あの少年の捜索を邪魔しやがるってんなら、例え『神の右席』だろうと容赦しねえです」


シスター三人と天草式を含む全員が、一斉に彼女へ飛びかかる寸前、





「待つのよな!!」





勢いを引き裂くように、押し留める声が響く。



68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 19:54:22.68 ID:uGgtFTwDO

結果全員が静止して、背後を振り返る。
目立つのは黒光りするクワガタのような髪をした男。建宮斎字だ。


「全くお前らは、あいつを捜すのに集中しすぎなのよ。体調管理がなってない所為で気が立ってるのよな。ほら、武器を下ろせっ!!」


建宮が怒鳴ると、大人しく武器を下ろしていく。
全員が仕舞うのを確認した後、天草式のメンバーを掻き分けて進んで行き、ヴェントの前に立つ。


「元『神の右席』。前方のヴェントでいいのよな?」

「……」


眉間を顰める彼女は、言葉も発しなければ頷きもしない。
警戒をというより、何の用だ? と問い掛ける佇まいだった。

建宮は肩を竦め、


「連絡は承っているのよ。ロシア成教の『サーシャ=クロイツェフ』から、じきに我々の下へある人物の捜索を要請しに来る、と」

「……余計な事を」

「そんな事は無いのよな。我々も恩人を捜している身。目標の人物は違えど、道のりは同じなのよ」

「アンタらが私と行動して享受する得は? 寧ろ損しかしないと思うけどね」

「んなもん関係無いのよな」


間髪を容れず、彼はきっぱりと言い切った。



69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 19:54:55.93 ID:uGgtFTwDO


「損や得なんて必要無いのよ。困っている人が居るならば救いの手を差し伸べる、それが我らが掲げるモンなのよな」

「はぁ……呆れた」


本当に心底呆れる。
ただのお人好しではないか。
目も当てられない程の重症だ。

でも、


「……勘違いはしないでよ。あくまで利害関係に過ぎないから。
私は勝手に行動させてもらうし、抜ける時は自己の判断で抜けるし、どっかの魔術師と戦闘になっても助太刀はしないから。
私は私に降り懸かる火の粉を振り払う。それだけよ」

「構わないのよな」


―――それも良い気がしてきた。



70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 19:55:53.35 ID:uGgtFTwDO


「教皇代理っ!! 大変っす!!」


雪道の奥から、小柄の少年が慌てた様子で走ってくる。
建宮は振り返り、


「どうしたのよな?」

「“また”っすよ!!」


呼吸を整え、一言。端から聞いたら全く判らない。
拘わらず、瞬時に建宮は把握する。


「またかーっ!! 俺は先に戻るから、誰か案内してやるのよなー!!」


全速力で走り、奥に消えていく。
ヴェントが状況の置いてけぼり食らっていると、


「え、と……。勘違いをしちまったようです。すいませんでした」


呆然とする彼女に近付くのはアニェーゼ。見れば頭を下げていた。
アニェーゼに倣って、ルチアとアンジェレネが同様に頭を下げる。

ヴェントは至極面倒くさそうにシッシッとアッチ行けと言わんばかりに手首を二回払う。


「気にしちゃあ無いわよ。敵意なんて浴びれ慣れてる。今更気にするようなタチじゃないし」


それより、と続け、


「さっきのアレ、なに?」

「……あー、何て言いますか」


苦笑を浮かべ、視線を漂わせてルチアとアンジェレネを見る。


「……私達に振らないで下さいシスター・アニェーゼ」

「え、ええと……」


振られた二人の反応も曖昧。
それほど言い難い事なのだろうか? ヴェントは些か思考を巡らすが、幾ら考えようと解るはずもないと判断したのか、頭を振って歩き出す。


「行けば判るでしょ。案内しなさい」




―――そして、現在に至る。



71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 19:57:03.04 ID:uGgtFTwDO


「…………」


確かに理解した。迅速に判った。
同時に抱いた感想は、下らないの一言。
しかも、あれだけ騒いでいたのにも拘わらず、都合良く耳に届いたらしく、更にヒートアップ。
その時に聞こえてきた会話の中身はこのようなもの。

『私の恋なんて下らないモノだったんでずよーっ!!!!』
『う、うおおおぉぉぉっ!!? 五和の力が何時もより三倍くらいに跳ね上がったのよなー!!!? ぶほぉっ!?』
『教皇代理ーっ!!!!』

……どうしろと?

自分は彼らみたいにバカ騒ぎするスキルは身に付いていない。って言うかキャラじゃない。
ヴェントがこの有り様の対応に困っていると、


「紅茶でございますよー」

「……」


コトっと、紅茶が入ったコップがテーブルに置かれた。
視線を移せば、これまた見覚えがある黒い修道服のシスター。
『法の書』を解読したため、ローマ正教から追われる羽目になってしまった女性。


「オルソラ=アクィナスか」

「あら、私をご存じなのでございますか?」



72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 19:57:57.78 ID:uGgtFTwDO

「『法の書』。このキーワードで知らないやつは居ないでしょ」

「そうでございましたかっ。私はオルソラ=アクィナスと申すのでございますよ」

「は? いや、名前は知ってるわよ」

「『法の書』でございますか。では、あなた様はローマ正教の方でございましょうか?」

「…………」

「? どうなさいました?」


拙い。非常に拙い。
今まででダントツに拙い。

これは最上級に面倒くさい人物と関わってしまったようだ。
名前と顔を関知しただけで、性格や口調の詳細情報は判らなかったが、……まさかこれ程とは。

よし、何か理由を付けてこの場から離脱しよう。このままでは耐えられない。


(何か……)


彼女は縋る思いで目を配らせる。



73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 19:58:28.61 ID:uGgtFTwDO

未だに騒ぐ五和と建宮、天草式複数。
デザートに手を伸ばそうとしてルチアに頬を引っ張られているアンジェレネ。
アニェーゼは何やらずっと写真を眺めていて、何故か恍惚に浸っていた。

全員を見渡してヴェントは思う。


(どれに転がり込んでも碌なコトにならなさそうね……)


マトモな人間は存在しないのかと嘆く。
と、そこでオルソラがヴェントと同じように辺りを見渡す。


「そういえば、神裂さんが見当たらないのでございます」

「神裂……? あぁ、聖人か」

「はい。建宮さん達には女教皇様(プリエステス)と呼ばれていますが……自室でございましょうか?」


もう一往復して、小首を傾げる。

自室、おそらくそこら中に有るテントのどれかだろう。



74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 19:59:02.36 ID:uGgtFTwDO

好機! と逃げ道を見つけたヴェントは勢い良く立ち上がる。


「私が見に行く。丁度暇だったし、色々聞きたいコトもあるからね」

「あっ、そうでございますか? なら、神裂さんにそろそろご飯でございますと、伝言をお願い出来ますか?」

「イイわよ。だからどのテントか言いなさい」

「あちらの一番奥でございますよ」


ヴェントはテントを確認して、少し早いスピードで奥に歩いて行く。
彼女にしたら苦痛で堪らなかったのだろう。


(聖人ねぇ。アックアしか知らないけど、まぁココに居る連中の中で一番マシでしょ)


漸く普通の人間と情報交換出来ると考えただけで、気持ちが晴れていく気がする。
彼らはキャラが濃すぎるのだ。
相手にするだけで結構疲れる。



75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 19:59:47.68 ID:uGgtFTwDO


そんなこんなでテント前に辿り着く。
呼び掛けも無しで堂々と入ると、






「かかか、上条当麻ー? おおお帰りなさいですよ☆」






「――――」


ヴェントは、時が止まった感覚を覚えた。
目の前に居るのは間違い無く聖人の神裂火織その人。

等身大の鏡を前に立つ彼女は、何やらポーズを決めていた。
左手を腰に、右手は人差し指と中指を立てて目元に。片目を瞑り、引き吊った笑顔を放つ。
今にも『キラッ』と響きそうな状態。

問題はその格好。露出しまくった胸元と、透けまくったスカート。
ある人物はこの衣装をこう述べるだろう。



76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 20:00:56.65 ID:uGgtFTwDO











「堕天使エロメイドだにゃー!!」と。



77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 20:01:46.03 ID:uGgtFTwDO


「はっ」

「……」


鏡越しでバッチリと視線が交差した。
長い長い間、沈黙が訪れる。

口が動かないと察したヴェントは―――無言で退室。



78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 20:02:17.36 ID:uGgtFTwDO

そこへ神裂が飛びかかった。


「ちちちょ、ちょぉっ!? ちょっとちょっと待って下さいっ!!!!」

「趣味は人それぞれだって言うしね。別に気にしなくてイイわよ?」

「じゃ、じゃあ! どうして入り口を開けてくれないんですかっ!!!?」

「私は一瞬で理解したのよ。関わりたくないって」

「弁明を!! どうかお願いしますから弁明を!! これにはちゃんとした理由があるんですよっ!!!!」

「理解したら私までそっちの領域に蝕まされそうだから、遠慮しとくわ」

「土御門おおおおおッ!!!! あなたが!! あなたが余計な事を唆すからああああッ!!!!」


東洋の聖人、神裂火織。
ヴェントの中では一番マトモではない人間に指定された。



94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/15(火) 09:04:07.48 ID:P2/0f+SDO



―――学園都市。



御坂美琴は何時ものルートで、常盤台に向かって歩行していた。
ルートと言うのは、“あの馬鹿”が必ず通る道の事。だが、日常になってしまったあの馬鹿に声を掛ける事も、当分は無くなってしまっている。

彼女は推し量る。戦争時、上条当麻は確かに居た。この目でしっかりと目撃した。
しかし、戦争が集結して半月が経とうとした今でも、彼は帰って来ない。


(あの時……アイツが拒んだ理由は、絶対に有るはず)


過去を振り返れ。
そして従来の経験を生かすんだ。



95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/15(火) 09:04:39.07 ID:P2/0f+SDO

彼のあの瞳は、よく見て来た瞳。

例えば8月21日の“絶対能力進化実験”の時。
例えば9月14日の“残骸”事件の時。
例えば9月30日の“0930”事件の時。
例えば記憶喪失を打ち明けたあの時。

全て同じ瞳をしていた。
理由について詳しくは知らない。
彼は語ってくれなかったから。
きっと真実は自分が想像しているモノより、遥かに凌駕するモノだろう。
それでも、彼がその瞳を持つ理由は、何かしら決意を示して行動に移す時分。
だからあの時、彼が自分の手を掴まず、首を振ったのはそういう意味合いが込められているに違いない。

―――まだやり残した事がある、と。



96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/15(火) 09:05:24.85 ID:P2/0f+SDO


「あんの馬鹿……」


彼女は葛藤に苦悩。
もし、この仮説が正解だったとする。確かに彼の言えない事情や複雑な事柄も踏まえて、ズカズカと割り込むのは御門違いなのかもしれない。











―――そうであっても、彼の役に立ちたいと思うのは、我が儘なのだろうか?






―――お節介だとしても、彼の背負う荷を軽くさせたいと思うのは、自分勝手だろうか?



97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/15(火) 09:06:14.41 ID:P2/0f+SDO


「……よしっ、もう一度捜すか」


悩んでたって仕方無い。
何も行動に移さないのは性に合わない。自分がやれる範囲の事は全てしよう。
上条当麻の“バンク”上には『帰省中』とされているが、そんな訳が無い。
捜そう。例え学園都市を敵に回す事になっても。
矢張り、恋を自覚した乙女は何でも出来るのだ。

だが、そんな思考も中断される。何故なら、


「―――っ!?」


目の前に、見覚えのある背格好。
指定の制服で、黒髪のツンツン頭。
あの後ろ姿を見間違えるはずがない。



98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/15(火) 09:06:57.36 ID:P2/0f+SDO











―――上条当麻だ。



99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/15(火) 09:08:10.23 ID:P2/0f+SDO


「な、んで……っ!!?」


彼女は言葉が詰まる。
行方不明になっている上条当麻が何故ココに居るのか。
様々な感情があり、色々な疑問が混ざり合って縺れる中。
前を歩く『上条当麻』が止まった。

ビクッと体が怖じ気ついた。
何故かは判らない。本能的に彼女は畏怖する自分に気付く。
だが、彼に脅えたのはコレが初めてではない。


―――じゃあ、本気出してもいいんかよ?


昔、夏休みに入った直後の頃。
御坂美琴は初めて、上条当麻に恐怖を抱いた瞬間。
あの雰囲気と全く同じ。底が見えない穴に食い潰される感覚。



100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/15(火) 09:09:09.22 ID:P2/0f+SDO


「…………」


不意に、『上条当麻』がこちらに振り向く。
一瞬、御坂美琴は安心を覚えた。

と言うのも、彼の顔面は仮面で覆われていたから。
上条当麻という人物は装飾系を身に付ける事を好まない。いや、興味が無いのだろう。
仮装の案も有るが、流石に無い。
結論として、目の前に居る人間は『上条当麻』ではなくなった。


「アンタ……誰?」


こめかみに冷や汗が一滴垂れるも、彼女は目の前の人間に問う。
感覚は初めて妹達(シスターズ)と出会った時を反芻。



101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/15(火) 09:10:01.29 ID:P2/0f+SDO


「学園都市第三位、『超電磁砲』。御坂美琴か」

「……?」


美琴は疑問を覚えて、眉間を顰めた。
人間が放った声がオカシイのだ。何とか聞き取れるものの、不協和音になって耳に届く。
仮面越しだからといって、こんな声にはならない。まるで人間ではないような……、


「残念だが、目標は『一方通行』の殺害。『超電磁砲』ではない」

「―――っ」


一方通行の名が出た。疑問だった声の不協和音とか、瞬時にどうでもよくなった。



102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/15(火) 09:10:58.99 ID:P2/0f+SDO

ドッと背中に比べ物にならない程の汗が噴き出す。脳裏に焼き付いた絶対な恐怖。

そんな化け物を『殺害』と発言。
美琴は止まらずには居られない。


「あ、アンタ判って言ってんの!? アイツの能力―――」

「勿論。心得ている」


遮って、当然のように言い放った。


「対処法は既成済み。加えて一方通行は現在、能力に制限が生じている。問題は皆無」

「制限って……?」

「知らないのか?」


次の瞬間、御坂美琴は事態を覆すセリフを耳にする。



103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/15(火) 09:12:32.71 ID:P2/0f+SDO


「一方通行は検体番号20001号を救出の代償として、演算能力を消失。8月31日の出来事だ」

「―――」

「詳細情報は自身で。『超電磁砲』ならば造作に無い事だろう」

「っ!! ちょ、待ちなさいよ!!」


言葉を待たずして、人間は姿を消す。空間移動を使用したみたいに。

御坂美琴は困惑していた。
聞き慣れないキーワードが、頭の中で駆け巡る。
20001号? 8月31日の事? 演算能力を消失? ―――一方通行が救出?
訳が判らない。しかし一つ判る。
あの馬鹿の事もそうだが、どうやら学園都市でも自分のあずかり知らぬ所で、まだまだ深い闇や暗躍があるようだ。


「…………」


彼女は踵を返す。上条当麻の捜索も大事だが、予定を変更。
学校も今日は欠席だ。代わりに向かう場所がある。―――10032号、通称御坂妹が居る病院だ。



104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/15(火) 09:13:14.06 ID:P2/0f+SDO




―――とあるコンビニ。



105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/15(火) 09:14:19.54 ID:P2/0f+SDO


「これが欲しい! ってミサカはミサカは懇願してみたり!」

「却下。もっと年相応なモンを選びやがれ」


間髪を容れずピシャリと放った。

一方通行が普段通り珈琲をカゴに入れていた時、打ち止め(ラストオーダー)が持って来た漫画。
隅のロゴには『新連載! 姉妹二人が男を争うドロドロの三角関係!?』という物。
承諾を得られないのは言わずもがな。



106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/15(火) 09:15:45.14 ID:P2/0f+SDO


「ケチーっ!! ってミサカはミサカは叫んでみたりー!!」


再び漫画コーナーに戻っていく。
彼は一度溜息を吐く。


(『姉妹二人が男を襲う』って、俺に対しての皮肉かよ……)


最近の彼は、悩みの種が絶賛増加中なので困る。

姉妹に当て嵌るのは『番外個体』と『打ち止め』以外何者でも無いだろう。
何故か番外個体をライバル視して、対抗心を勝手に燃やし続けるのは大して問題じゃない。
便乗して番外個体が直接的過ぎる面倒くさい行動を移すのが問題なのだ。
そう、例えば、


「じゃあミサカは年相応だから問題無いでしょ?」



107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/15(火) 09:16:36.54 ID:P2/0f+SDO


入れ替わりにやって来たのはニヤニヤとした表情を浮かべる話題に挙がった番外個体。
打ち止めとは違って、手には雑誌が握られていた。……年齢確認(R18)をされる方の。

一方通行は僅かに舌打ちし、


「もっと却下だボケ。どォせテメェの私利私欲のために使う訳じゃねェンだろォが」

「半分正解で半分ハズレ。ミサカの私欲はあなたを困らせる事だし、でも確かにミサカがコレを使う訳じゃない。だけどこうしてるだけで―――」

「な、何してるのーっ!? ってミサカはミサカは驚愕してみたり!!」


何時の間にか寄って来ていた打ち止めが、喚声を上げた。
顔を真っ赤にして、雑誌を指差す。



108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/15(火) 09:18:09.12 ID:P2/0f+SDO


「あああ、あなた達はそこまで発展しているの!!? ってミサカはミサカは体の差で敗北を実感じてみたりっ」

「ンな訳ねェだろ。ちったァ頭使え」

「だ、だって昨日は一緒に寝てたじゃない!! ってミサカはミサカは事後の予測を立ててみたりぃっ!!」

「バカか。あれは俺が寝てる間に、コイツが了解も無く入って来たに決まってンじゃねェか。
そこを付け狙ったよォなタイミングで、オマエが朝早く部屋に侵入したンだろ」

「昨晩は凄かったよっ、ミサカ何度も達しちゃった♪」

「た、たたたたたたたたた、たぁーーーっ!!!!!!!?」

「テメェらマジで黙れ」



109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/15(火) 09:19:16.98 ID:P2/0f+SDO


ヒクヒクと眉を吊り上げる一方通行。
若干だが眉間のシワが増えたような気もする。

こんなやり取りが毎日。
番外個体がその気が有るような言動で打ち止めを唆し、一方通行に憤慨する小さな少女。
全く身に覚えが無い事ばかり呟いて嗾けるのだから、彼からしたら迷惑極まりない。
それでも近頃は漸く彼も勉強して、「面倒だから放っておく」手段を用いるようになった。

取り合わない形で、一方通行は「もォ何も買ってやらン」と吐き捨て、まだ言い合っている二人を放置してレジに向かう。



110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/15(火) 09:20:16.55 ID:P2/0f+SDO

カゴを台の上に置くその刹那、









『一方通行。聞こえているかな?』









ピタリと。カゴを持つ手が止まる。
耳にではない。脳に直接語りかけてきている。

しかも能力じゃない。そういう次元の話ではないのだ。
忌々しくも、一方通行はこの声を聞いた事がある。だからこそ判る。



111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/15(火) 09:20:56.52 ID:P2/0f+SDO


「ど、どうしました……?」


店員が怖々と尋ねた。
一方通行は我に返り、無言でカゴを置く。
オドオドしながら店員はテキパキ仕事をこなす中、一方通行は心中で呟く。


『なンの用だ、“エイワス”』



112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/15(火) 09:23:41.38 ID:P2/0f+SDO

『理解が速くて助かる。今回はそう時間も無いものでな』

『いいからさっさと言え』

『なに、このままだと一方的な結果で結末を向かえそうなのでね。それでは面白く無い』

『抽象的過ぎンだよ。要点を言っていきやがれ』

『そこからか。全てを言うのは面倒だ。掻い摘めば君は“負ける”』


一方通行は、怪訝そうに目を細めた。


『……へェ。またテメェとやり合ってボッコボコにブチのめされるってかァ?』

『ほう、君ならばここで激昂すると推測していたのだが、……ロシアで成長でもしたか』

『ンなこたァどォでもいい。テメェじゃなけりゃ誰だ。上の連中が造った新ネタか?』

『いや、寧ろ逆だ。それは兎も角、まぁ案ずるな。私のように物理的に適わない相手ではない。勝てる見込みは存在する』

『……なンで俺の方を持つ。テメェに何の利益が有るってンだ』

『言っただろう? 平行線しか見えない道は興味が持てない。ならば多少なりに道をねじ曲げて、答えを判らなくする方が一興というものだ』

『命令か?』

『助言だ。尤も受け入れるかは君次第だがね』



113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/15(火) 09:25:34.98 ID:P2/0f+SDO


彼は盛大に溜息を吐く。


『何をしろってンだ。話によって受け入れるか決めよォじゃねェか』

『君の側に番外個体と打ち止めが居るだろう? 彼女らを夜に出歩かせない事だ』

『……オイ、どォいう事だ』

『しからば君の勝率は愕然と上がるだろう。ま、それでも限り無く低い訳だが』

『オイ!! どォいう事だっつってンだ!!』

『どういう事かどうかは実際に体験してみなければ判らない事さ。しかし、彼女らを危険に及ぼしたくないのなら、自宅待機を釘を差しておくの―――』


言葉は最後まで続かない。“時間”とやらが来たのか、どうやら途絶えたようだ。
彼は大きく舌打ちをする。その際に店員がビクッと震えたが、どうでもいい。



114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/15(火) 09:27:29.21 ID:P2/0f+SDO


(ココは温和しく従うべきか?)


もしエイワスの言葉が本当ならば二人は必ず家から出させない。その話が真実ならばの話だが……。
だが仮に嘘だとして、エイワスが得するような事は何もない。
結局、一方通行は信用する他に道は無いのである。


(……いざとなりゃァ俺が側に居てやればいいか?)








―――後に彼は思い知る事になる。その選択が、悲劇を生むことに。







「そんなに悔しいんだったら誘ってみれば? 案外受け入れてくれるかもね♪」

「え、えーっ!!!? って、み、みしゃかはみしゃかは……っ!!」

「…………やっぱ放置は悪化の原因なるかァ?」


教育に悩む一方通行であった。



122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/17(木) 01:25:59.13 ID:A/uIhSDDO


「我々が捜索した範囲は上条当麻が消失した北極海を含み、上条当麻と行動を共にしたレッサーという魔術師の情報を基にロシアの山道を手当たり次第、といった所です。
捜索メンバーは私が率いる『天草式』。元アニェーゼ部隊から三名。後、オルソラもですね」

「……あ? 禁書目録は一緒じゃないワケ?」

「インデックスは療養のため同行はしていません。本人は凄く行きたがっていたんですが、ね……」


神裂は微笑む。妹が我が儘を言った時に姉が笑みを見せる表情に酷似していた。
彼女の笑みを理解したヴェントの脳裏に、ほんの数秒だけ映像がよぎる。



123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/17(木) 01:26:55.51 ID:A/uIhSDDO



それはまだ幼い頃の話で。



今ではもう取り戻せない記憶で。



生涯で唯一輝いてる時間で。









――――お姉ちゃんっ。









ヴェントは僅かに目を細め、眉間を顰めた。



124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/17(木) 01:27:52.71 ID:A/uIhSDDO


「……」


仄かに憂いを帯びた表情の真意は、神裂には判らない。彼女のそれは無意識かもしれないし、有意識かもしれない。
彼女の胸中は彼女本人にしか理解出来ないモノ。しかし、神裂はただ一つだけ感じ取れるモノは有った。……ヴェントは何かしら背負っている事。



125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/17(木) 01:28:47.75 ID:A/uIhSDDO

こんな推測、的中させた所で自分は何も行動に移せない。おそらく自分では彼女を救えない。
「救われぬ者に救いの手を(Salvere000)」の名が泣くだろう。だが仕方無い。
これらは“彼”の専売特許なのだから。


「随分と……あのガキに執着ね」


依然とシャッターのように口を閉ざしていたヴェントが、唇を動かさず言う。
相変わらず憂いを漂わせて、まるで自らの葛藤を晴らす手段を求めるかのような口調だった。



126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/17(木) 01:30:24.22 ID:A/uIhSDDO

神裂は、笑みを濃くして話す。


「私は、上条当麻に返しきれない程の恩や借りがあります。ですが、彼と最初から仲が良いって訳じゃないんですよ?
当初の頃はインデックスの件に関して、『何も知らないくせに』と憤慨して拳を交えたものです」


古い、古い記憶を辿る。
今となっては懐かしい映像。

悲しみしか存在しなかった時。
インデックスを救えない悲劇の連鎖が続いて、ただ敵に回るしか出来なかった自分。



127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/17(木) 01:31:19.18 ID:A/uIhSDDO


「でも、彼は教えてくれました。まだ会って間もない私に。
説教……と、言うんですかね?」


照れくさそうに首を傾げる。
頬を染める当たり、恥ずかしい気持ちが混ざっているのだろう。


「上条当麻はあなたが思っている程、悪い人間ではありませんよ? ですから、少しずつでいいので、彼に対する印象が変わる事を祈ります」

「……私が何時、あのガキを嫌ってると言った?」

「それくらい様子で判断出来ます」


ヴェントは大きく舌打ちし、顔を逸らす。



128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/17(木) 01:32:00.28 ID:A/uIhSDDO

それに、と神裂は続け、


「これは外に居る五和達も含みますが、おそらく我々は……上条当麻に憧憬を抱いているんだと思います」



129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/17(木) 01:33:33.98 ID:A/uIhSDDO


人は必ずしも、『諦めなければならない局面』に陥る時がある。
極端に例えるならば、親しい人間二人が崖から落ちるとして、一人しか助けられない場面に直面した時、必ず一人は見捨てなければならない。……そういう状況。

神裂火織の場合は、『インデックスの記憶を消さずに脳のパンクを抑える』という事柄。
ヴェントを助けた医者の場合は、『姉弟二人とも欠けずに助け出す』という事柄。

プライドや信念を無理矢理屈折させても“どうにもならない”と思惑する瞬間だ。



130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/17(木) 01:34:38.31 ID:A/uIhSDDO


「ですが、上条当麻は違います」


上条当麻という人間は、どんな絶望的な局面に陥落しても、どうにもならない状況でも、決して諦めない。

例え学園都市最強の相手をする事になっても。
例え二五十人のシスターと対峙する事になっても。


―――決して諦めない。



131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/17(木) 01:36:27.62 ID:A/uIhSDDO


「我々には持っていない強さを、彼は有しています」

「…………」


彼女が述べる言葉をヴェントは黙って耳を傾けていた。
重い口を開け、溜息を吐く。


「ベタ惚れじゃない。私は惚気を訊きに来たんじゃないんだけど?」

「べ、べたぼっ!!? ちちち、違いますっ!! 私はただ借りを感じているだけで、そのような感情は一切―――っ!!!!」

「ハイハイ。しっかしまぁ私服はマシかと思ったら、露出狂に変態癖が有るとわね」

「ろっ!!!? さっきの光景は忘れて下さいッ!! 着たくて着た訳じゃないんですッ!!
それに、この格好も魔術的な意味合いも含まれているので露出狂ではありません!!」

「だとしても無駄に肌見せ過ぎでしょ。誘惑してるようにしか見えないわよ」



132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/17(木) 01:37:25.37 ID:A/uIhSDDO


誘惑っ!!? と嘆く神裂を放って置き、胡座から立ち上がって外へ向かう。
去り際にヴェントは神裂に述べる。


「私はあのガキに対する対応は変わんないわよ。今でも現れたら問答無用で叩き潰すつもりでいるし、これからもずっとそうでしょうね」


でも、と続け、



133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/17(木) 01:38:43.63 ID:A/uIhSDDO


「印象は……変えてやらない事もないわ」


捨て台詞を聞いた時は、話して良かったと、神裂は心の底から本当にそう思った。



134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/17(木) 01:41:33.92 ID:A/uIhSDDO



―――辺りを占めるのは闇。


静寂なる森林。
暗闇を染める雪も、削がれる。
ロシアの雪山。しかし雪は降らない。

“雪が降っているはずなのに、一つさえも降らない”矛盾。
“本来の時間帯は太陽が頂点を指す時間のはずなのに、月が顔を出し闇を照らす”矛盾。

その二つの矛盾の中で、二つ存在する“モノ”があった。


「――――っ」


一人の人間が雪道を駆ける。
後から追跡する形で、一歩遅れて雪道が爆ぜていく。

と、人間が行き道を予測したように五メートル先で“何か”が降り立った。
ドンッ!!!!!! と地表を抉って、人間と相対する。


「くそっ……しつけえな」


背中に“氷の翼”を携えて、莫大な殺意を人間に向け、―――地響きを起こす。

視界が縦へ小刻みに揺れ動く。その現象を感知した人間は、咄嗟に構えを取って、拳を振るう。
途端に、パキンと、人間を突き刺さんと伸びた“一本の氷”が、跡形も無く砕けた。


「ったく、何時になったらみんなの下に帰れるんだかッ!!」


人間は再度、前進。
倒すべく怪物を拳一つで立ち向かう。

今宵も大規模の爆発と、轟音が鳴り響く。



139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/18(金) 10:57:16.19 ID:jLYAcDzDO


時刻は『1』を指す。
昼食を終えた上条捜索メンバー(一人除く)は再び足を動かせる。

食事の際にリーダーである神裂火織が遅刻した事以外は、何の音沙汰も無い時間を過ごしていた。
遅刻の理由として、単なる「ヴェントのガチ忘れ」とだけ言っておこう。多くは語らない。
ヴェントのたった一言で神裂火織のプライドをズタズタに崩壊させたのだから。



140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/18(金) 10:58:15.11 ID:jLYAcDzDO

『あぁ、また天使に喧嘩売ってるような変態服でも着てたんじゃないの?』

勘の鋭い建宮を筆頭に天草式メンバー(主に男性陣)が騒ぐ騒ぐ。昼食そっちのけで嘆き喚く悔やみ唸る呻く。
『またしても機会を逃してしまったのよなーっ!!!!』とかなんとか。
彼らを鎮めようと「七天七刀」を持ち出す神裂や、彼らに便乗してルチアに熱い視線を贈るアニェーゼとアンジェレネ。
事態は雪だるま式に膨らんでいった。
爆弾を放り込んだ本人は、黙々とオルソラが作った絶品料理を食していたそうな。



そんなこんなで活動開始である。



141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/18(金) 10:58:47.32 ID:jLYAcDzDO


「先程は酷い目に遭いました……」

「アンタらって、何時もあんな感じなワケ? 喧しいコトこの上無いんだけど」

「あの騒動の元凶はあなたでしょうっ」


先陣は建宮に任せ、最後尾を歩く神裂とヴェント。捜索と言っても、全員で行う訳ではない。
先刻建宮が述べたように、己の体調管理を顧みず、捜索を続行するメンバーも居るので、『救護班』というのを設けている。
オルソラ+天草式メンバー十数名で構成。主に移動用の車で待機中だ。



142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/18(金) 10:59:39.87 ID:jLYAcDzDO

そこで捜索中にも拘わらず、建宮が昼食の件を引きずっているのか、隣に居る五和に爆弾を放り込む。


「くっ……! 女教皇様が遂に堕天使エロメイドを解禁となると、五和も負けてられないのよなっ!! ここはやがて見付かるあいつに備えて、大精霊チラメイドに着替えてお出迎えという手段も視野に入れておくのよっ!!」

「ぶほっ!? たったた、建宮さん!? 一体何処からそれを取り出したんですかっ!!?」


ワナワナと震えて指差す先には、大精霊チラメイドの衣装を手にした建宮の姿。



143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/18(金) 11:00:45.39 ID:jLYAcDzDO

彼は意気揚々と衣装を掲げ、


「こんな事もあろうかと用意しといたのよ!! しかし!! 女教皇様が画策してるとは流石に予想外だったのよな!! 五和もウカウカしてられんのよ!!」


と、会話を聞いていた神裂が、最後尾から建宮の所まで一気に飛躍。……「七天七刀」を構えて。
よって、一瞬の閃光が建宮の目の前を煌めく。


「うおぉっ!? ぷ、女教皇様!? お気を確かに―――」

「どうやらあなたには本格的に制裁が必要なようですね……。
五和!! 援護を頼みますッ!!」

「うぇあっ!? で、でも……」


ゆらりと抜刀の構えを取る神裂を宥めようと狼狽える建宮だが、今の女教皇様は聞く耳を持たないのでその努力は全て皆無である。



144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/18(金) 11:01:40.87 ID:jLYAcDzDO

対する五和は突然名前を呼ばれ、びくぅっ!! と飛び上がった。
彼女的に大精霊チラメイドは最終兵器として忍ばせておいたが、あの少年の帰還にこの衣装で出迎えしてイチコロ作戦も確かに有りかも?
とか何とか大胆ながら思念してしまう訳で、加えてサイズもぴったりなので破棄するのはちょっと勿体無い、と感じて……悩んだ結果、


「―――了解しましたっ!! すみませんが建宮さん、その衣装は綺麗に残したまま女教皇様に助太刀します!!」

「「それじゃあ何の解決にもなってない(のよな・です)!!」」


見事にハモった二人。
それぞれの意味は当然ながら違う。
建宮は制裁を与える事に関して。
神裂は大精霊チラメイドを残す事に関して。
どうしようも無くなった五和は、じゃじゃあどうすればいいんですかーっ!? と嘆くばかり。



145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/18(金) 11:03:11.19 ID:jLYAcDzDO

止まる事を知らない影響はアニェーゼ達にも広がって行く。


「うぅぅむ、矢張りあの少年を射止めるにはメイド服とやらが、必要不可欠なんでしょうか」


チラッ。


「で、ですがシスター・アニェーゼ。私達のような体形では胸の部分が悲しくなってしまいますよ!?」


チラッ。



146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/18(金) 11:04:28.61 ID:jLYAcDzDO


「そこに難が生じちまいますね。聞く所によると、私達の体形用もあるみてえですけど……」

「や、やっぱり見栄えって大事でしょうか。何処か私にも誇れる美点があれば武器に出来るんですが……」


チラッチラッ。


「……何なのですか二人して。昼時の際にも言いましたが、そこまでして私にそんな物を着せたいのですか」


小柄二人組の会話は、昼食と同様の熱い視線を時折ルチアに向ける。
ルチアは惘然とした口調で二人の内容を否定。途端にアニェーゼとアンジェレネは火を噴くような勢いで食い付いた。



147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/18(金) 11:05:36.56 ID:jLYAcDzDO


「何を言ってやがりますかっ!! まるで栄養が全てそっちに行っちまったような発達!!」

「そっ、そうですよシスター・ルチア!! 持て余した胸を活用せず、野放し状態にするんですか?!」

「少なくとも、あなた達が描いているメイド服という物を着て、あの少年を射止めるために発達したのではありません」


「そもそも好んで発達させてません」と、二人にトドメの一撃。
悔しがって地団駄を踏むアニェーゼに、虚しく胸にぺたぺたと両手を当てるアンジェレネ。



148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/18(金) 11:06:24.91 ID:jLYAcDzDO

この光景を遠目で見ていたヴェントは嘆息を漏らす。


「私が居なくても、勝手に盛り上がるんじゃない……ん?」


チョンチョンと、肩をつつかれた。振り向けば、何時の間にかオルソラが接近していた。


「実はヴェントさんに差し上げたい服がございまして……」


持って来た紙袋をガサガサと探り出す。
嫌な予感がして堪らないヴェントは、杞憂に終わって欲しいと願う。



149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/18(金) 11:07:04.25 ID:jLYAcDzDO


「シェリーさんが断られたので、ならば是非ヴェントさんにと……じゃーん!! 女神様ゴスメイドでございますよー!!」

「アンタ喧嘩売ってんでしょ?」



結論。おそらく今日の捜索は進まないだろう。



150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/18(金) 11:08:16.65 ID:jLYAcDzDO



―――一方、学園都市。


こちらの時刻は『11』を指す。
深夜と言っても過言ではない時間帯。

一方通行は杖を付きながら、歩道を歩いていた。目指すはコンビニ。しかし、特に買う物は無い。
出掛ける前に「買い忘れたモンがあるから、コンビニ行ってくるわ」と、適当な理由にしただけの話。黄泉川や芳川も訝る様子もなく、すんなりと外出。

ただ、唯一怪訝そうな顔を見せたのが番外個体だった。



151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/18(金) 11:09:43.13 ID:jLYAcDzDO


『……ねえ。ミサカも付いて行っていい?』

『駄目だ。大したモンでもねェから温和しくオネンネしてろ』

『いいじゃん別に。夜の散歩してみたいお年頃だから、さ』

『俺は夜遅くまでお嬢ちゃンをエスコートするスキルなンざ、持ち合わせてねェンだ。諦めろ』



152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/18(金) 11:10:27.01 ID:jLYAcDzDO

『あなたの後ろ付いて行くだけでいいから』

『ンだよ、頭でも打ったかァ? えらくしおらしくなってよォ』

『……別に。ただ、付いて行きたくなっただけ。ほら、こうすればあなた困るじゃない?』

『だったら尚更駄目だ。ココであのガキみてェにグースカ寝てろ』



153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/18(金) 11:11:11.29 ID:jLYAcDzDO

『……じゃあさ。約束してくんない?』

『あン? 何だよ?』

『必ず帰って来て。絶対』

『……ったりめーだろォが。何の心配も要らねェよ』



154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/18(金) 11:12:09.12 ID:jLYAcDzDO


何故、番外個体が感づいたのかは判らない。
もしかしたら、自分の僅かな顔の動きで判断したのかも知れない。だが、気付いたとして連れて来させる訳にもいかないだろう。

エイワスの助言とやらも、蔑ろには出来ない程、不吉なモノであったし。
一応、釘を差しておいた。これで絶対に付いて来ないかどうかは危惧するが、黄泉川や芳川が止めてくれるだろう。



155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/18(金) 11:12:50.24 ID:jLYAcDzDO

問題は敵について。
エイワスは言った、「君は負ける」と。
番外個体や打ち止めを外出させ無かったとしても、勝率は限り無く低いとも言った。

消去法としてまず候補に挙がったのが『エイワス』。だが、本人が否定したので削除。

次に『垣根帝督』。しかし、何かしら機械で生きているだろうが、相手にならないので削除。

最後に『外側の勢力』。戦争時に聞いた“魔術”とやらだ。対峙したあの怪物でさえ「反射」が上手く働かなかったので、可能性としては一番有力。



156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/18(金) 11:13:52.76 ID:jLYAcDzDO


(有り得そォなのは最後か? だとしたら厄介だな。どンな戦法で攻めてくるか予想が付かねェ)


とか何とか思考を巡らしてる内に、仮の目標であるコンビニの目の前まで辿り着く。
一旦、一方通行は足を止めた。


「……そォだな、珈琲でも飲ンで休憩すっかァ」


コンビニに入り、真っ先に飲み物コーナーで缶珈琲を一本を手に取る。
レジに向かい、台に乗せてから財布の中身を確認。


「チッ、札しかねェ」


仕方無いと、千円札を一枚取り出して缶珈琲の横に添える。
と、そこで一方通行は気付く。言ってしまえば漸く気付いたのだ。



157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/18(金) 11:14:26.20 ID:jLYAcDzDO


―――コンビニに、誰も居ない事に。


時刻はまだ11時。他に客が居てもオカシくは無い時間帯。
客だけでは無い。店員さえも居ないのだ。

一方通行は缶珈琲と千円札を放置して、急いで外に飛び出した。
辺りを見回す。そして大きく舌打ち、


「何時からだ……思い出せ。何時からこンな状態になってやがった……!!」


人さえ通らない街は、車も通らない。
街灯は点いてるものの、ビルの明かりは皆無。



158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/18(金) 11:15:01.05 ID:jLYAcDzDO







―――カツン。



159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/18(金) 11:16:31.33 ID:jLYAcDzDO


刹那。一方通行の背後で反響するように響く足音。
彼は後ろへ振り返る。視界に映る歩道の奥底は、闇に包まれて何も映さない。




―――カツン。




ただ、虚空に足音だけが響くだけ。
彼は目を細める。見つめる先は暗闇。




―――カツン。




……その暗闇から、一人の『人間』が現れる。



160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/18(金) 11:17:42.84 ID:jLYAcDzDO


「確認。殺害対象『一方通行』と一致。速やかに戦闘態勢移り―――」


引き金は、十分だった。

バンババン!! と。

唐突にズボンのベルトに挟んでおいた拳銃を、出し惜しみや躊躇う事無く、闇から現れた「殺害」とほざいた奴に発砲。
同時に杖を投げ捨てて、首のチョーカーにスイッチを入れる。


「嘗めてンじゃねェぞコラ」


ギュン!!!! と、ベクトルを脚に利かせ、音速の速さで『人間』の懐に潜り込む。
そのまま拳を顔面に叩き込んで意識を刈り取る。戦闘は終了。



……そのはずだった。



161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/18(金) 11:18:23.40 ID:jLYAcDzDO

パシ、と。
『人間』の手に一方通行の拳が収まる。


「は……?」


流石の彼も驚愕を隠しきれない。敵が目の前に居るのに素っ頓狂な声を上げてしまう程。
それもそうだろう。彼が放った今の一撃は、ベクトルを加えた必殺の拳。当たればボール球のように吹っ飛んで行くはず。

それを、片手一つで受け止めた……?



162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/18(金) 11:19:14.75 ID:jLYAcDzDO


「問題は絶無。忠告はしておく、『能力』は無効だ。故に、反射は効かないぞ」


一方通行の顔面に―――弾丸の如く拳が突き刺さる。



169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/20(日) 09:19:11.42 ID:IPw4RKqDO


時刻は『2』を指す。
活動開始から早くも一時間経過。
存外にも騒動は短時間で治まった。

特にする事も無いヴェントは相変わらず最後尾に立って、腕を組んで彼らの様子を傍観していた。

故に不可思議な点を見付ける。
最後尾で傍観していたからこそ気付いたのか、彼女だからこそ気付いたのかは、些か不明。



170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/20(日) 09:20:02.78 ID:IPw4RKqDO


「ねえ、一つ尋ねてもいい」

「はいっ、何でございましょう?」


未だに隣に居るオルソラに不躾ながらも訊く。
何故か彼女は意気込んで応答。しかも予備動作で紙袋に又しても手を突っ込む。凡その推測は可能だった。


「予め言っておくけど、別にあの衣装をやっぱ着たいとか、そんなんじゃないわよ」

「そう、でございますか……」


シュン……、と明らかヘコんだ様子のオルソラを尻目に、溜息をヴェントは漏らす。



171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/20(日) 09:21:29.27 ID:IPw4RKqDO

打って変わって真面目に捜索に励む天草式+αに指差し、


「何でさっきから活動範囲が“右側だけ”なのよ?」


雪山の森林が並ぶ並木道。
何故か右側の森林だけを活動。
まるで『避ける』ように。左側を捜索しないよう意識を根本的に『削ぐ』みたいに。


「……あら? そういえばそうでございますね」

「…………」


彼女は冷静に状況を分析する。
オルソラの有り様。“今初めて意識しました。”そんな感じの言動だ。
この様子だと、捜索中のメンバー、露出狂聖人さえも言い兼ねない。

『根本的に“左側を捜索する”という意識そのモノを無くしている』。
そうヴェントは結論付けた。



172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/20(日) 09:22:39.67 ID:IPw4RKqDO


(人払いの一種? だとしてもプロの魔術師が揃って引っ掛かるとも思えないわね……)


彼女は歩み出す。道から外れ、左側の木と木の間に踏み入れる。
視線を移して足下や、顎を上げて樹木の天辺を刮目。
別に何の変哲も無い。特筆する異変も感じられない。


(考え過ぎ、か?)


ならば、あれだけ上条当麻に執着していた連中が何故「左側だけ捜索しない」何て、手を抜くような生半可な行動をしているのだろうか?
五和という少女とか、吟味されてない箇所が微塵さえ有ったら、鬼の如く激怒し兼ねないのに。


「って、何コイツらのために真剣に考えてんのよ」


今日何度目になるか判らない嘆息を漏らす。
腕を組んだまま樹木に寄り掛かり、少々寛ごうかと思案した時だった。


―――ブォンッッ!!!!!! と、世界が反転する。



173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/20(日) 09:23:18.00 ID:IPw4RKqDO


「っ!!!!」


視界に移るのは月夜の闇。
太陽が昇った景色は、月明かりが照らす光景に一変する。
まるで、全く別世界に放り込まれた感覚に囚われているようだ。

慌てて彼女は辺りを見渡す。
神裂火織や建宮の天草式のメンバー、アニェーゼの三人にオルソラ。
……全員がこの場に居なかった。


「チッ……これだから厄介は面倒なコト極まりないわね」


吐き捨てるように言う。



174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/20(日) 09:25:03.66 ID:IPw4RKqDO

神裂達が何処かに吹っ飛ばされたのではない。自分が何らかの“領域”に足を踏み入れ、取り込まれたのだ。
仮定でこの現象が魔術師による術式だとする。しからば自分が何らかの行動を取ったか、何らかの物体に接触したために発現したに違いない。
例えば、


「……ふっ!!」


―――背もたれに使った、『樹木』とか。

ヴェントは突然出現させたハンマーで、下から上へ掬うように振り上げる。
それだけの動作で彼女が寄り掛かっていた樹木は、いとも簡単に薙ぎ払われた。
けたたましい音を立てて崩れていく樹木を無視し、ヴェントは再度辺りを見渡す。


「変化無し、ね」



175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/20(日) 09:26:22.92 ID:IPw4RKqDO


一向に変わる様子は見当たらない。これで魔術師である線は消えた。
もし薙ぎ倒した樹木に仕掛けていたなら、術式は壊されたのでヴェントは既に元の世界に戻されているはず。
樹木じゃなく範囲を指定した術式ならば、あれだけの人数が居た中で、ヴェントだけが放り込まれたというのは変な話だから。
ヴェントだけを狙っていたという場合も有るが、流石に無いだろう。ピンポイント過ぎるし、都合が良すぎる。
以上の事柄で魔術師という線は失せる。

しかしそこで新たに生じる問題が、ならば「誰」という点。現時点では全貌どころか欠片すらも判らない。



176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/20(日) 09:27:40.90 ID:IPw4RKqDO

周辺は至って変わらない。ロシアの雪山だ。つい数秒前の樹木の位置も全て同じ。

一目で判る違いは、被害の酷さ。
見る限り引き裂いた跡が甚だしい上に、


(傷が新しいわね。雪は……止んで――って)


夜空を目視した彼女は我が目を疑う程、驚愕する。
こめかみにじとりと嫌な汗が一滴。


「何よ、コレ……っ!?」


天空を覆う魔法陣。
この現象をヴェントは知っている。



177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/20(日) 09:29:02.80 ID:IPw4RKqDO

自身の属性強化のために、強制的に空を支配し夜闇に変える『世界を終わらせる力』―――『天体制御』。

ヴェントは再び樹木の甚だしい引き裂いた跡に視線を移す。


「『水翼』で抉った跡……っ」


何という事だろう。厄介や面倒事では済まされない事態に陥る羽目になっている。



178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/20(日) 09:30:12.81 ID:IPw4RKqDO

ヴェントは駆け出す。足下に目を凝らせれば、足跡が幾つもの存在した。全て同様の型だ。


「たった一人で立ち向かっている? ……フザケてるわね」


名も姿も知らぬ人間に悪態を吐く。
もしあの怪物を一人で相手してると言うなら、正直人間業じゃない。
世界を終わらせる力を有する怪物と対等に相対出来る人間なんて、少なくともヴェントの知る中には居ない。そもそも居るはずも無いから有り得ない。
怪物と渡り合える何てそう居るはずが……、と。
忽然と彼女の思考は中断された。



179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/20(日) 09:31:31.89 ID:IPw4RKqDO

足を止め、目を見開き、息を詰まらせる。

彼女の行く手には、森林とは隔てるようにポッカリと樹木の無い空間が広がっていた。
真ん中には寂しく切り株がポツンと孤立。……その切り株に、腰掛ける人影が一つ。


「……あは」


瞬時に怪物だとか世界を終わらせる力だとか、どうでもよくなった。

自分の中で何かが駆り立てられる。
その意は、憤怒? 憎悪? 焦燥? 復讐? 怨念? いや―――歓喜だ。



180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/20(日) 09:35:05.01 ID:IPw4RKqDO

彼女の形相が深い笑みへと変貌していく。艶めかしく舌なめずりをする姿は、獲物を見付けて奮い立つ獣に酷似していた。
ヴェントはステップを踏むように十メートル以上空を飛翔。ハンマーを携えて、咆哮の如く叫ぶ。







―――だから言ったではないか。




―――もし目の前に現れたのならば、迷いも躊躇も逡巡も無く得物を振るう。




―――寸分の動作も与えないまま突っ込み、五臓六腑を圧砕してやると。








「―――幻想殺しァァァァあああああああああああッッ!!!!!!」







あの容姿を見間違えるはずがない。
面構えも、ツンツン頭も、服装も、身長も、苛立たせる信念が籠もった瞳も全て。
……忌々しい存在を見誤るはずがない。


―――上条当麻だ。



181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/20(日) 09:38:53.37 ID:IPw4RKqDO


「いっ!? ヴェ、ヴェントぉっ!?」


非常に猛々しい叫び声に反応して空を見上げた上条当麻は、視界に映る彼女を即座に識別した。

より一層笑みを濃くするヴェントは、舌に取り付けられた細い鎖の先端の十字架を操る。
ジャラジャラと音を立て、鎖と十字架が描くのは―――螺旋。


「やばっ!?」

「アッハー!!!!」


落下しながらハンマーを振り下ろし、上条当麻に矛先を向けて『空気の鈍器』が鎖をなぞるように螺旋状に発射。



182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/20(日) 09:40:11.97 ID:IPw4RKqDO

直ちに彼は前方に沿って大きく飛び跳ね、回避を試みる。
その僅か数秒後。着弾した空気の鈍器は、切り株を木っ端微塵に炸裂。
しかし被害はそれだけに留まらず、周りの雪や泥を根刮ぎ抉って、四方八方飛び散らせた。

上条当麻はこの一連の動作を目視し、悲鳴を上げた。


「うおぉぃっ!? ヴェントさーん!!? 一歩遅かったら上条さんミンチになってましたよーっ!?」

「当たり前でしょ。そのつもりでやったんだから」


とん、と彼女は元切り株が在った所へ軽快に着地。
ハンマーを担ぎ、体勢を整える彼を見据え、ヴェントは愉しげに言う。



183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/20(日) 09:41:32.13 ID:IPw4RKqDO


「ハッアァーイ♪ アンタをブチのめすために、こーんな元の場所とは切り離されてる下らない所までやって来たわよ。
感謝しろとは言わないから、素直に潰されなさい」

「……何つーか、ビリビリみたいな発言だな。アイツなら言い兼ねないし」

「否定も肯定もしないなら潰す。ま、私に否定形は存在しないから、否定しようが関係無いけど」

「いやちょっと待とうぜ!? ココは穏便にいきたいな~、何て上条さん的にも思う訳ですよはいっ!!
ほらっ、仮にも一度は同じ敵を倒そうと、共に戦場を―――」

「何自分の都合良いように解釈してんのよ。あの時は偶然アンタと利害が一致しただけに過ぎない。
っていうワケで潰されろッ!!」

「結局こうなるのかよ!! こんな事してる場合じゃねーのにぃ!!
ああいいぜ、久し振りに叫んでやる!! 不幸だあああああッ!!!!」


彼らの逃避劇が幕を開ける。



201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/22(火) 02:34:17.55 ID:KTKGNVuDO


二人は森林とは隔離された空間に留まっていた。……著しく一方的な戦闘を繰り広げながら。


「いやだからっ!! 一回話し合いましょう!? だったら分かり合えるってえぇ!!」

「アンタと和解なんて、真っ平御免よ!!」


乱雑にハンマーを振り回し、十字架で的確に狙う。
上、横、斜め、時には曲線を描いて上条当麻の命を刈り取ろうと牙を剥く。

しかし、彼も黙って空気の鈍器を浴びる程、馬鹿ではない。
寧ろヴェントのパターンは、既に九月三十日の時に会得済み。
だからなのか、未だに一発も命中しない。巧みに回避し、時に右手を使って直撃を免れている。



202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/22(火) 02:35:15.37 ID:KTKGNVuDO


「チッ!! 情けない戯言ほざきつつも、しっかりと避けてんじゃないのよ!!」

「避けなきゃ比喩とか関係無く死んじゃいますからねっ!? まだまだ上条さんには未練が―――って、うほおぉいっ!!!?」

「躱すなクソガキがぁ!!!!」

「あーもう!! こんな事をしてる場合じゃねえのにチックショー!! 大体っ!! 俺はそんな無闇に拳を振るうほど暴虐じゃありませんのことよ!!?」

「散々人のコト殴ったヤツの台詞じゃないわよ!!」


水平にハンマーを振るい空気の鈍器を生み出す。が、射出される前に彼女は手首を返すと、掬うように振り上げた。
二発目の鈍器が生み出される。



203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/22(火) 02:36:28.68 ID:KTKGNVuDO

この光景を目に、上条当麻は「げっ」と蛙が潰れたかのような声を漏らす。
有り様の現象を彼は熟知している。体験者だからこそ、粟立つ悪寒に感づけた。
膝を曲げて体勢を低くし、足のバネを利かせて横へ跳ね飛ぶ。
躓かないよう片足ずつ交互に前へ前へと、駆け抜けていく。

途端に一つの塊になった数百もの尖った空気の錐が彼の元居た場所へ襲いかかった。
悍ましい爆音を立て、雪と泥が炸裂する。


「うおっ」


散弾となった雪と泥が上条当麻の身体を叩く。だが彼は左腕で顔面を守るだけで、駆け抜ける足は止めない。
行き先は……ヴェントの方向。


「やっと戦う気になったのかしらぁ!!?」

「ちげーよ!!!!」


新たに射出された空気の鈍器を右手で打ち消して、二人の距離は確実に縮まっていく。



204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/22(火) 02:38:25.42 ID:KTKGNVuDO

ヴェントは上条当麻限定で、接近戦が苦手。何故なら右手でハンマーに触れられたら、おそらく一時的に消滅させてしまうから。
この理論は上条当麻が作り上げたモノ。確証なんて何処にも存在しない。
しかし学園都市を襲撃した際、実証付ける反応は彼女は示したのだ。

今のヴェントは、上条当麻のどんな言葉を述べても取り合わないだろう。
ならば、無理矢理にでもとりあえず彼女を落ち着かせる状況を作る他、彼の道はない。


「ッ!!」


懐に潜り込み、彼女のハンマーに右手を伸ばす。


「馬鹿かアンタ。単純過ぎるわよ」



205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/22(火) 02:39:38.18 ID:KTKGNVuDO


行動を読んだ彼女は故意に手元からハンマーが消す。
しかし、ココから二人の予想だにしなかった事態が起きる。

ハンマーがヴェントの意図で消した事で、上条の右手は空を切った。
上から下へ振り下ろした右手は、奇しくも……いや、上条当麻ならば普段通りなのかもしれないが。
兎も角、虚しく空振った右手はそのまま元々ハンマーを所持していたヴェントの片手へ。


「へ?」

「ん?」


当たっただけならまだしも、況してや何をどう間違ったのか重ねる形で、……所謂『恋人同士限定』で出来る貝殻繋ぎを。



206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/22(火) 02:41:32.34 ID:KTKGNVuDO


「……」

「……」


先程の凄まじい死闘とは手の平を返すように、温和しく二人は微動だにせずジッと繋がれた手を見つめていた。
しかも上条の方は意識してしまったのか、反射神経が働いて離れようとしたのだろうが、何故か却ってヴェントの手を握り締めてしまう。


「……」

「……」


何とも言えない空気が流れ、長い長い沈黙と静寂が訪れる。

二人の光景を知り合いが見れば、必ず『勘違いパラダイス』や、周りを巻き込んでいく『勘違いスパイラル』が起きる事間違い無いだろう。
学園都市と天草式に居る、上条当麻に恋する乙女二人が、もしヴェントと同様の状況になった場合、卒倒モノだ。



207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/22(火) 02:43:03.66 ID:KTKGNVuDO

だが残念な事にヴェントは上条当麻に恋をしていない。寧ろ嫌悪を感じている。
なので、


「―――何時まで握ってんのよ!!」


長年、手を握るという行為をしていなかった所為か、人の感触は新鮮な物ではあった。
しかし状況と相手なだけに彼女は振り払おうと、思わず引いてしまったのだ。それがいけなかった。


「うぉっ、おぉおおっ!?」


呆然と油断していた彼は、急に引かれたので体勢を崩してしまい、前へ倒れるように転倒。
……当然、前方にはヴェントが居るわけで。


「えっ、ちょっと……!?」

「おぅわぁっ!!?」


結果、二人は仲良く倒れ込む。



208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/22(火) 02:44:18.86 ID:KTKGNVuDO

オマケに端から見れば「上条当麻がヴェントを押し倒した」構図に見えるので、ココにて上条当麻のスキルが本領発揮中である。


「いやこれはっ、不可抗力というか何というかですねっ!?」

「……」

「黙られたら余計に怖いですがヴェントさーんッ!!!!」


自分が腕を引いてしまった所為とは言え、まさかこれはアンタの所為じゃない? とヴェントは思念せざるをえない。

けれども上条当麻の唯一のラッキーは、この状態に陥った事でヴェントの頭が幾分冷静になれたことだ。



209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/22(火) 02:46:12.43 ID:KTKGNVuDO


「べ、別に疚しい考えが有った訳じゃなくてですねっ!? ほらやっぱり人間急な出来事には対処が遅れるっていうかぁ!?
上条さんも矢張り健全な男子高校生で……いやいや駄目だ駄目だこれじゃ墓穴掘っちまオフッ!!?」

「さっさと退け。何時まで跨ってるつもり?」


喧しく狼狽する上条の股間目掛けて結構強めに膝蹴りをかます。
成果は彼が傍らで、股を押さえながらうずくまる事柄で済んだ。

フンッと鼻を鳴らし、立ち上がる。
そうだ、呑気に戦闘を繰り広げてる場合ではない。少々自分を見失い過ぎた。
衣服に付いた雪を払いながら、彼女は上条に近付く。


「ぐぉぉぉ~……、これは流石の上条さんにも響きましたよぉ……」

「この程度で勘弁するんだから感謝するコトね。アンタには色んな情報を聞き出さなきゃならないんだから、早く立て」

「うぅ……何やら大事物を失った気がする」


渋々緩慢とした動作で起き上がり、同じように髪の毛や制服に付いた雪を払う。



210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/22(火) 02:47:23.08 ID:KTKGNVuDO

ヴェントは腕を組み、言葉を投げかけた。


「別にアンタが何でココに居るとか、どうやったら帰れるとかはこの際一切無視。一つだけ訊くわ」

「んぁ? 何か判んねー点あったけど……まぁいいか。何だよ?」

「……」


ヴェントは無言で上を指差して示唆する。それだけで、上条当麻は察せれた。
だが、彼はヴェントに答えを告げる事は出来ない。


―――彼らの五十メートル以上離れた場所で、爆音と共に何かが降り立ったからだ。



211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/22(火) 02:48:40.64 ID:KTKGNVuDO


「「!!!!」」


二人は迅速に身を翻す。
視線の先には人型のシルエット。
眼も鼻も口も無い上、皮膚の代わりに体表を全て白い布で覆った姿。髪も後頭部から更に後ろへ流れるように形作られている。

他にも様々な特徴が有るが、その情報だけでヴェントの思い描く怪物と一致した。
背筋にドライアイスをぶちまけられたように戦慄が走る。
明確な事実を突き付けられ、彼女は奥歯を噛み締めて声を漏らす。皮肉にも、若干声色は震えて。


「ガブ、リエル……っ!!」


大天使、『神の力(ガブリエル)』。ここに降臨。



212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/22(火) 02:52:15.49 ID:KTKGNVuDO

正確にはミーシャ=クロイツェフだが、今はそれどころではない。


「gjtmd邪duabty魔rieo」


小さく呟く。理解不能な言語は、僅かな怒りを窺わせる。

ヴェントへ向いたミーシャ=クロイツェフは、彼女に手の平を突き付けた。明確な殺意だ。

第六感が警告を鳴らす。マズい、と。行動に移そうと気付いた時にはもう遅い。





―――時間がスローになる感覚。



―――反応が追い付かない自分。



―――来る。避けられない。



―――死ぬ。



そして視界を駆け巡るのは、自分が今まで目にしてきた記憶の光景。走馬灯と言うのだろうか?

私の弟。
遊園地。
医者の顔。
ローマ正教。
聖ピエトロ大聖堂。
神の右席。
テッラ。アックア。フィアンマ。
学園都市。
人工天使。
サーシャ。
アニェーゼ部隊。
天草式。
オルソラ。
露出狂聖人。
ガブリエル。


視界が光に埋め尽くし―――上条当麻の背中が映る。



213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/22(火) 02:53:04.88 ID:KTKGNVuDO














パキン、と。奇跡の音が耳に届く。



214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/22(火) 02:54:01.13 ID:KTKGNVuDO


「―――はっ……、はぁっ……」


息が詰まっていたようで、縋るように乱れた呼吸器官を取り戻す。
一気に現実に覚める。大量の冷や汗が額やコメカミから滴るのを視認。


「……大丈夫か?」


安否を気遣う優しい声が届く。
息が乱れるも視線を巡らす。
目の前に上条当麻が立っていた。


「アンタが……?」


何も告げず頷く。



215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/22(火) 02:57:29.75 ID:KTKGNVuDO

彼は一度深呼吸し、




「オイ」




彼の声色が、一変する。
ただ低く。ひたすら低く。
それは言葉の殺気だ。
矛先は天使に。自分ではない。
なのに、恐怖が迸った。




「テメェの敵は俺なんだろ」




感じたことが無い。
学園都市の時も。戦争の時も。
今さっき戦闘の時も。
目の前に居るのは、誰だ……?




「狙いが俺ならヴェントに手を出すな。もし、それでも狙うっつーなら―――その幻想ぶち殺すぞ」



222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/23(水) 22:55:13.94 ID:uSpadqfDO

学園都市。大通り十字路前。


誰も通らない道路。
車さえも走らない車線。

闇。ただ闇が広がっているだけ。
一方通行は想起する。
まるで、九月三十日みたいだと。

一方通行の頬に拳を入れたのは、生涯に二人だけだ。
能力でダメージを与えた垣根帝督や、訳の判らない攻撃で圧倒したエイワスは含まれない。

何の理屈も無しに殴る事が出来るヒーロー。
反射の隙を極論を叩き付け擦り抜けた木原数多。

そして今、


「く、は……っ。ゴフッゴホッ」


―――一方通行は、再び窮地に陥っている。



223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/23(水) 22:56:15.07 ID:uSpadqfDO

頬は赤く腫れ、口元からは血が流れ出ていた。
彼は奥歯を噛み締めて、前方に居る人間に睨みを利かす。
ぶつけられた漠然たる殺気に、人間は眼中も無いようで意に介さない。


「戦闘開始から五分経過。……もう息切れか?」

「ンな訳ねェだろォがッ!!!!」


呼吸は荒いが、威勢は逞しい。
猛々しい彼の様子に人間は臆せず、冷淡に言葉を贈る。


「ならば仕留めるまで」


人間が体勢を低くし、片手に拳銃をぶら下げて一方通行に駆け出す。



224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/23(水) 22:57:00.70 ID:uSpadqfDO

対する一方通行は迎え撃とうと拳銃を構え、引き金を引く。一発だけだ。
瞬時に脚にベクトルを働かせ、爆発的に前へ出る。
当初は殴打して意識を刈り取るか、触れた途端に血流操作して内部から破裂させてやればいいと踏んでいた。
しかし、それでは駄目だ。人間は先刻こう告げた。能力は無効だ、と。
どの範囲で無効になるかは不明だが、少なくとも人間に触れれば発動するだろう。

ならば血流操作は効かない。その他の『風』も『プラズマ』も効かない。
だがその反面、ベクトル操作した打撃は食らう。槍のように飛ばした線路のレールだとか、拳でも威力を消す訳では無いはず。
ただ、普段敵に能力無しで拳を突き刺す程度に落ちただけの話。現状では所持する拳銃が最適だろう。



225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/23(水) 22:58:31.33 ID:uSpadqfDO

掻い摘めばあの『ヒーロー』と戦ってる要領でいけば何の問題も無い。


(背後からぶっ飛ばして、後頭部に銃弾をブチ抜く)


突撃する前の一発はあくまで囮。
正々堂々だろうと不意打ちだろうと、真っ正面から撃った銃弾は人間に当たらない。
現に出会い頭の三発ですら全て外れ。どういう理屈で避けたかは些か判らないが、だったら確実に避けられない状況の中、銃弾をブチ込んでやればいい。


「……」


人間は銃弾を無造作に首を横に逸らして避けた。奥に居る一方通行を視認……不可。



226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/23(水) 22:59:33.15 ID:uSpadqfDO

一方通行は銃弾を避けた時点で、人間の背後に回り込んでいた。頭上を通過する一発の銃弾を確認し、人間に突撃する。
片手に拳銃を携え、もう片方はアスファルトに叩き付けようと脳天目掛けて腕を伸ばす。

触れるその直前、―――人間が“ブレた”。


「っ!!」


腕を伸ばした先、既に人間は忽然と姿を消していた。
危険を察した一方通行が早急に場から離脱する前に、頬に何かが当たる感触を感受。

―――拳だ。



227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/23(水) 23:01:13.38 ID:uSpadqfDO

そして迸るのは鈍痛と衝撃。
脳を揺さぶられ、視界が霞む。
数歩覚束無い足取りで後退し、彼は脚にベクトルを働かせる寸前、今度は胸にトンと何か押し当てられた。
眼を動かし、目視。確認した瞬間彼は、背筋が極寒の境地に浸る。

胸の位置は心臓。
当てるのは人間が携える拳銃。
故に貫けば一撃必殺あの世逝き決定事項。
カチャリと弾丸を装填され、より一層焦燥感に駆けられる。


(マ、ズ……ッ!!?)


フザケるなと憤慨し、身体を強引に捻って銃口を胸の位置からずらす。
“BANG”と。人間が引き金を引いた。



228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/23(水) 23:02:38.11 ID:uSpadqfDO


「ご、ああああああああァァァァァァァァァッッッ!!!!!!!」


絶叫が闇夜に響く。
幸いにも、弾丸は心臓でなく左肩を貫通。
血が噴き出す肩を抑え、後先考えずただ乱暴に能力を脚に振るい、勢い良く後退。
体勢を整えない状態でアスファルトを蹴ったので、着地の際に転がる形となってしまう。

地に手を付きつつ、一方通行は苦悩。顔色は随分優れない。



229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/23(水) 23:04:40.86 ID:uSpadqfDO


(クソッ、エイワスのヤツ忠告が足りなかったンじゃねェのか?)


「負ける」何てモンじゃない。
遠回しに過ぎなかったのだ。
物理的に適わなかったエイワスとは、また違う次元の壁を感じる。


「何者だ、という顔をしている。知りたいか?」


ふと、意味の解らない言葉が人間から放たれた。
確かに、この『0』を描かれた白い仮面を付け、不協和音になって届く声色。
到底、声の時点で人間とは考えられない。



230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/23(水) 23:08:02.13 ID:uSpadqfDO

何者だ、と問いたいかと言われれば肯定だ。しかし、まさか相手から申告されるとは思わないだろう。


「考えが読めねェな。俺に教えて何の得があるってンだ? テメェの素性まで晒してよォ」

「殺害宣告したが、名も存じない人間の手によって逝去と言うのは、腑に落ちないと思案した」

「ハッ、そりゃどォも。だが残念、殺害とか吼えて尚且つそンな野郎に情けを掛けられ……、俺が癪に障らねェと思ってンのかァ?」

「超能力者(LEVEL5)は七人で構成され、序列を表す」


人間は聞く耳を持たない。
余程、喋りたがりなのか。
一方通行は目を細め、眉を顰める。


「なに当たり前の事言ってやがンだ? 小学生の復習タイムじゃねェンだぞ」

「学園都市、第0位」


一瞬、完全に思考が止まった。
強張っていた表情から愕然だと言えば惘然とも取れ、ただポカンと。



231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/23(水) 23:09:29.67 ID:uSpadqfDO

数秒後復活した頭で、彼は疑問する。
―――第0位?


「仮設定だ。完成型オリジナルの肩代わりに自分が存在。第0位」

「待て、オリジナルだと?」

「クローン体。だが『超電磁砲』のではない。『欠陥電気量産計画』以前に一体だけ造られた模造品が自分。
唯一異なる点は、己は元々駆り出される予定では無かった点」


人差し指で一方通行を指し、


「一方通行の暗部卒業。番外個体の生存。これらの理由で自分は出撃命令が下った」

「……皮肉のつもりか?」

「その概念は有さない」


一度人間は口を閉ざすと、顔を動かし辺りを見渡す。



232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/23(水) 23:10:43.52 ID:uSpadqfDO

二往復した所で、仮面にに掘られた奥の鋭い瞳が一方通行を再度射抜く。


「見る限り、打ち止めと番外個体はこの場に無存在のようだ。手段によって二人を捕獲又は殺害は思案したが、無用か」




―――ドッ!!!! と。




幾百に分かれた“黒い”杭が人間に襲い掛かった。



233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/23(水) 23:12:06.59 ID:uSpadqfDO

人間は冷静に対処。呼吸をするかのように、ステップを踏む。それだけで『空間移動』を引き起こす。
残された黒い杭は、アスファルトを数十メートルに渡って根刮ぎめくり上げる。


「……テメェの言い分はよォく判った」


ゆらりと一方通行の身体が揺らぐ。左肩から血はもはや流れていない。『破壊』ではない、『治癒』のためのベクトル操作。
背中には黒い翼が噴射していた。明確な殺意を含む真っ赤の瞳が、第0位を射抜く。


「要は前置きの自己紹介も、俺を煽るためなンだろ? だったら容易な解答を言ってやる。
―――ブチ殺し決定だ乱造品が」

「捉え方は自由。煽る目的で述べたつもりは無いがな」

「そォにしか聞こえねェンだよ、クソッタレ」


得心したとばかりに頷き、独り言のように呟く。



234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/23(水) 23:14:13.89 ID:uSpadqfDO


「手順を短縮。オリジナルの記憶に基づいて情報データを入手。相手に適切な記録を取り入れる」


瞬間。辺り一面の空気が変わる。
第0位はこう告げた。









「発動。―――神の力(ガブリエル)」








周囲一帯が炸裂する。



244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 08:33:04.56 ID:4w6URmLDO


ギャリギャリギャリッッ!!!!!!


交じり合う翼。火花が迸る夜空。
空を裂き、衝撃波が鳴り響く。

黒と青のコントラストが、月光の下で獰猛な牙を剥く。


ギャリギャリギャリッッ!!!!!!


互いに翼で空を高く舞い、五十メートル以上距離の間が有る中で、第一位と第0位は音速を超える戦闘を行う。
ビルを越え、周りを気にせず破壊を被る対象が一人となった今、一方通行が黒い翼を振るうのに危惧する必要は烏有。



245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 08:34:14.69 ID:4w6URmLDO

第0位は能力を無効にする力がある。しかしそれは不完全、若しくは限定されているはずだ。
もし、どんな異能も無差別に効果が発揮するのならば、一撃目の黒い翼を避ける必要は無い。
拘わらず、第0位は回避に転じた。それはつまり、


(少なくともコレは効き目が有るっつー事だ。なら休む余地を与えないまま徹底的に叩き込むッ!!)


右翼は縦に振り下ろし、左翼は横に薙ぎ払う。
対する第0位は、迎え撃つため何十の水翼を展開させ、相殺。



246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 08:35:13.33 ID:4w6URmLDO

大天使ガブリエルの天罰『水翼』は、海と接続する事で何本も再生が可能で、本来なら海が存在しない学園都市では上記の事柄は不可能。
だが、理屈が通じないのか、第0位は水翼の再生を可能にしていた。


「翼二本では融通が利かないように思えるが?」


氷の翼は意図的に分解し、数千の破片の刃となって、一方通行へと四方八方降り注いで行く。



247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 08:36:46.86 ID:4w6URmLDO

回避するには無茶だと判断した彼は、同様に数千を越す黒い杭を噴射させ、片っ端から撃ち落とす。


「嘗めてンじゃ、ねェッ!!!!」


第0位までの道筋に、右翼が奔流の如く流れ込む。だがそれで終わらない。
右翼が到達する前に先端が弾けた。一本の奔流が枝分かれして数百の槍となり、第0位の視界を覆う。

対して、無造作に片手を振り上げて空へ掲げる。手元に水晶が生まれ、自然と砕けていくと氷の『剣』が完成した。



248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 08:37:46.65 ID:4w6URmLDO

剣を握ると、垂直に振り下ろす。
それだけだ。それだけで全ての槍は纏めて嵐が吹き荒れると共に一刀両断。
まるで動画の停止スイッチを押したように一時的に停止し、巻き戻されるように一方通行の背後まで右翼は弾き飛ぶ。



一瞬の間。僅か一秒にも満たない時間のさなか、二人の視線が交差する。



即座に二人は音速を越す破竹の勢いで突撃。翼を振るい、剣を薙ぎ払う。―――爆音が響いた。



249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 08:38:48.82 ID:4w6URmLDO

刃物と刃物が擦れ合う、人によっては嫌悪を抱く音が鳴り、第0位が生み出した剣が……黒い翼を断ち切る。


「―――っ」

「…………」


そのまま剣を持ち替え、一方通行の胸部目掛けて掬い上げた。
リーチは楽々と範囲内。外れる事は無い……が、剣は空を斬っただけで目標たる一方通行には届かない。

彼がもう片方の翼を用いて後退したからだ。



250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 08:40:07.56 ID:4w6URmLDO


(圧縮、圧縮……ッ!!)


唐突に両手を広げると、彼の頭上で空気が一箇所に収縮される。
圧縮され続け、生じるのは……『プラズマ』。


「っおおおおおォォォォォ!!!!」


眩い煌めきと空気を灼く気体は第0位に射出。受けようものなら、超高温にやられ肉や骨が溶けてしまうだろう。



251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 08:41:42.08 ID:4w6URmLDO

第0位は剣とは逆の手で、又もや無造作にプラズマに向け翳す。
何かが、手の平から発射された。
突如としてプラズマは跡形も無く爆ぜる。代わりに生じた煙が立ち籠め、視界を塞いだ。

だが、第0位は手段を選ばない。
容赦無く煙に向かって数百の氷の翼を振るい、串刺しの有り様に。
互いに擦れ合う削る音が後を絶たないが、一瞬にしてハリセンボンを形成した。


「……」


しかしハリセンボンに目も呉れず、剣を横にスライドするように薙ぐ。



252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 08:42:46.20 ID:4w6URmLDO

矢先、ゴッギィッ!!!! と剣が衝突する。数秒後、余波が生じた。突風が突き抜け、髪と制服が靡いたのだ。
剣を妨げたのは『黒い翼』。即ち、


「ッチ。上手くいかねェもンだな」

「大層な翼で不意打ちは勝手が悪いと思える。狙うならば仕舞う方を優先すべき」

「忠告どォも、ってなァ!!!!」


もう片方の翼が曲線を描き、僅か三メートルしか距離が無い至近距離で、第0位目掛けて放たれる。



253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 08:46:55.80 ID:4w6URmLDO

即座に衝突したままの翼を弾き飛ばし、上から下へ垂直に振り下ろす形で、牙を剥く翼を断ち切った。

だが一方通行による攻撃の手は止まない。
弾き飛ばされた翼が三つに分かれ、上、真ん中、下からそれぞれ獰猛な爪の如く襲い掛かる。
身兼ねた第0位は空いてる片手を突き付け、ッヂ!!!! と、音が響くと三つに分かれた翼はプラズマと同様に跡形も無く爆ぜ、翼の八割が消失。


一方通行は表情を歪め、歯を軋ませた。
幾ら黒い翼が八割消失しようが断ち切られようが、また新たに噴射が可能だから問題は無い。
彼にとって今最大のミスは、ゴリ押しで徹底的に攻めに転じていたので、右翼左翼とも一時的に怯ませられ、“懐に入る隙”を与えてしまった所だ。



当然、第0位はその隙を逃さない。



剣を突き立て音速の早さで僅か三メートルの距離を無くし、―――剣が一方通行の腹部を貫通。



254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 08:47:44.13 ID:4w6URmLDO



暫しの間、無言の時が訪れる。



両者静止のまま、風が吹き抜ける音だけが耳に届く。

一方通行のジャケットから血が滲み出るも、動き出す気配は全く見られない。



255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 08:49:10.03 ID:4w6URmLDO



そして、ガシッ!! と第0位の腕が掴まれた。


「!!」

「悪ィが」


口元から血を垂らしつつも、一方通行は不敵な笑みを漏らす。
弾丸を装填して、銃口を仮面の額部分に突き付ける。


「一発は一発だよな? 弾丸のお返しだ0位さンよォ」


ズガン! と、引き金を引いた。



258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 14:10:21.57 ID:4w6URmLDO


バキバキバキ、と背中の氷の翼が音を立てて崩れていく。一方通行の腹を貫通した剣も同様に、粉々に崩れる。
どれもこれもが、月明かりに照らされて星の瞬きのように輝いていた。

頭を撃たれた衝撃で、背後へ倒れるように落下する第0位の様子を、一方通行は冷めた瞳で追うだけで動かない。
彼は意図的に黒い翼は霧散させると、吐き捨てるよう悪態を吐いた。


「何が0番目だ。学園都市が決めた序列の数字付けなンざ今更勉強し直す気にもなンねェが、数学でさえ……もう少しマシな答えを出しやがンぞ」



259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 14:11:11.82 ID:4w6URmLDO


言い終えた途端、大量の血を吐き出す。即座に口元を押さえ、眉を顰める。
蓄積されたダメージが確実に一方通行を蝕んでいる証拠だ。
今でさえ腹部に刺された穴をベクトルで操作で血を最小限に抑えているが、それも時間の問題。
電池の残りも気になる所。


「クソッ……予想以上に喰らい過ぎた。さっさとあの医者に―――」


彼が踵を返して、カエル顔の医者が居る病院にこのまま直行する寸前、……一方通行の世界が“反転”する。
ビルが視界の端から端へ移動して行くのを視認。―――落下しているのだ。



260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 14:12:06.23 ID:4w6URmLDO

気付いた時は既に、彼はそのまま地上へ叩き付けられた。

戦車に備える大砲が発射したような轟音が辺りに響き、アスファルトに小規模のクレーターが無人の大十字路に具現する。
ビリビリと地響きが数秒間、木の葉がざわめきビルの窓が揺れ、歪んだ地盤に信号機の体重が傾いて転倒。

何が起きたか判らない一方通行は、朦朧とした意識の中で手探りをするよう必死に目を動かす。


(な、に……が……?)


もぞりと手足を這い、上体を起こそうと、感覚が殆ど無くなった両手に力を入れる。
しかしそれも虚しく、なかなか思うように働いてくれない。
奥歯を食い縛り、ひとまず『治癒』を優先すべきと判断。
幸いな事に頭は無傷のようだ。
演算が可能ならば幾らでも回復は可。



261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 14:12:53.12 ID:4w6URmLDO


「保険を掛けて正解か。仮面は右上部破損だが、戦闘の際に問題は見られない」


と、そこに頭上から声。
今夜何度も聞いた癪に障る、声。


「テ、メェ、生きてやが……ごふっ」

「無理に喋らない方が賢明。反射を発動させていたようだが、頭部の代わりに臓器は幾つか破裂を被っているはず」



262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 14:13:37.46 ID:4w6URmLDO


相変わらずの口調で、一方通行の状態を丁寧に説明。
つまり一方通行が空から地上へ落下の原因は、彼が引き起こしたという事。

歯軋りする一方通行を目に、第0位は近付きながら口を開く。


「弾丸を発砲した瞬間、悪いがオリジナルの記憶に有る『一方通行』の情報データを適用した。
実に勿体無いが『ベクトル操作』を行使。故に自分は生存。仮面は一部破損したがな」


一方通行の下まで辿り着き、僅かに惘然とした口調を含む声色を感じさせた。
今まで業務化したような印象とは違う、人間味が滲み出る様子。



263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 14:14:30.78 ID:4w6URmLDO

見上げて視認した第0位の顔面は、破損で露わになった片目。
光を宿さない空虚の瞳は、皮肉にも『超電磁砲』のクローン体を窺わせる。


「自分はオリジナルから情報データを適用、一度でもそのデータを上書きした場合、同じ物は行使不可だ。
しからば『神の力』と『ベクトル操作』が使用不可。再び培養液に入るまでな」


カチャリと銃弾を装填。銃口は地を這い蹲る一方通行の頭部に矛先が向いていた。



264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 14:15:36.76 ID:4w6URmLDO


「潔いな。逃避手段を行使する様子が見られない」

「……そォだな。まずテメェから逃げ切れるとは思えねェ。どォせストーカーみてェに纏わり付くンだろ?
無関係の一般人を巻き込むほど三下には堕落してねェンだよクソッタレ」


存外、饒舌に話す。

覚悟を決めたからか、悟ったからか、些細な事なのに自分でも判らない。
ロクな死に方をしないとは感じていた。
一万以上の『人間』を無惨に殺しておいて、よくノウノウと現在まで生き残れたモノだと今でも思う。

決して償えきれない罪。
絶対に下されるだろう罰。



265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 14:16:58.26 ID:4w6URmLDO

一方通行は思う。振り返れば、憎くも反吐が出る人生だったと。

何度、この手で人の血を浴びて罪を蓄積してきたか。
何度、罪滅ぼしと幼い少女とクローン体を護ってきたか。

自分の手では護りきれない時は、様々な人間の手により援助を受けた。
カエル顔の医者。芳川桔梗。大食いのシスター。そして……ヒーロー。


嘲笑もしたくなる。自分の行為に腹を抱えて嗤い、唾を吐きたくなった。

―――なにやってンだよ俺、と。



266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 14:18:30.85 ID:4w6URmLDO


護ると決めた。
死なせないと決めた。
確かに、結果的に彼女らは生存した。

だが、所詮『結果論』にしか過ぎないのも事実。
無傷で済まない場面も……存在した。


この世界のクソッタレな神様は、必ず一万通行には微笑んでくれない。
きっとそれは死んでも変わらないだろう。地獄に堕ちようが天国に昇ろうが、関係無い。
悪魔に取り憑かれた自分に、穏やかで平和な日々は訪れはしない。



267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 14:19:49.12 ID:4w6URmLDO


しかしその反面で、束の間の出来事だが、『光』を浴びていたのもしかり。

絶望と暗闇しか存在しない人生だったが、打ち止めという『希望』が居た御陰で、僅かだが、一方通行は光を浴びていた。
ヒーローという人間が居たから、拳を交えながらも気付けた真実も有った。



確かに人生の大半は、辛く悲劇の連続で、笑えない事ばかりだ。
けれど―――ほんの些細な幸せが存在したのも、しかり。



268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 14:20:33.47 ID:4w6URmLDO


逃げた所で、周りを巻き込むのは確実。電池を充電するにはそれ相応の場所が必要。
加えて受けた傷。治療するには病院という施設が必須。そこには必ず人が居る。巻き込まない保障は何処にも無い。

この戦闘にミサカ達は直接関与していない。逃避して目標が自分でなくミサカに変わる恐れは無いとは言い切れない。
なら、ココで首を差し出してアイツらが助かるのならば、喜んで死んでやろう。


口を吊り上げるように狂笑する。
最後も彼らしいと語っておこう。

その狂った笑みが……些か穏やかに見えたのは、目の錯覚でないことを願いたい。



269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 14:21:18.35 ID:4w6URmLDO




……。




…………。




………………。




―――?



270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 14:22:06.25 ID:4w6URmLDO


(なンだ、まだ生きてンのか?)


薄ら閉じた瞼を開ける。事態は依然として一つも変化は無い。

銃口は突き付けられたまま。装填もしたはずだ。後は引き金を引くだけ。
なのに……第0位は動かない。



271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 14:23:58.19 ID:4w6URmLDO




「……問題が生じた」




静かに言葉を発する。
まるで独り言のように。




「上層部の人間が自分のためにココら一帯、全ての人間を一時的に移動させたと耳にしたが……」




心の底から困った様子で。
どう対処すべきか判らない有り様で。




「どうやら―――乱入者のようだ」




破壊音。拳銃が粉砕される。
カランと三本の鉄物質が転がる。




「なン……?」




地を這い、顔を上げて視認。
目を見開き、驚愕した。



272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/25(金) 14:26:07.68 ID:4w6URmLDO





―――おそらく本当に。





「ココで殺害しても、彼女は自分を赦さないと予測。戦闘は避けられない」





―――この世に存在する神様は。





「自分は彼女を殺害も構わない。難儀の必要も皆無。
だが、果たしてそれで納得か?」





―――俺の事を嫌ってるらしい。





ノースリーブのシャツ。
紺のジャージ姿。
走って来たのか、息切れして。

手には『鉄釘』。
前髪は『紫電』を撒き散らし。











「そこで、何してるのかな? ミサカにも判るように説明してくれると、嬉しいんだけど」











番外個体(ミサカワースト)。
幸か不幸か、怪物同士の戦闘に乱入する。



283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:16:27.82 ID:KpoO8qEDO


一方通行は我が目を疑う。
驚愕と絶望。
それだけが彼を占める。

その姿を見間違えるはずがない。
その声を聞き誤るはずがない。

けどこの時ばかり、幻覚であって欲しいと願った事は無い。
幻聴であって欲しいと祈った事は無い。


「何、してンだよ、オマエ……?」


何で。何故だ。どォして!
俺を追い掛けて来た―――!!?



284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:17:04.70 ID:KpoO8qEDO


「変だと思ったんだよねー。コンビニの時から妙に思い詰めた辛気臭い顔しちゃってさ」


彼女は心の底から呆れるように。
それでいて殺意の籠もった瞳を宿し。


「言っとくけど、打ち止めも気付いてたよ? あの人の事だから、って片付けてたけどさ。正直、ミサカは黙って居られるほど大人じゃない」


―――矛先は第0位に向けていて。



285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:17:58.83 ID:KpoO8qEDO


「逃、げろ……」


番外個体は足を止めない。
何時でも飛ばせるよう指の間に鉄釘を挟み、紫電を撒き散らす。
一方通行が地に伏せてると言うのに、彼女の闘争心は消えない。
勝敗何て目に見えている。するまでもないだろう。
差など歴然としているのだから。



286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:20:19.91 ID:KpoO8qEDO




―――彼女らを夜に出歩かせない事だ。




エイワスの言葉が、想起する。




―――どういう事かどうかは実際に体験してみなければ判らない事さ。




漸く、気付いた。
遅過ぎた。甘過ぎた。
打ち止めと番外個体が完全に熟睡するまで自宅待機するべきだったのだ。


いざとなれば自分が側に居てやれば良い? フザケるな。
この怪物を前にして、それは意味を成さない。


今度こそ本当に、番外個体の命は保障されなくなる。


「バカ野郎ォッ!!!! 逃げやがれェェェェッッ!!!!」


悲痛な叫び。声は殆ど掠れていた。
言い終えた途端、血を吐き出す。


お願いだから。一生に一度だ。

これ以上贅沢言わないから。
これ以上何も望まないから。
我が儘も放縦もしないから。

土下座だってしてやる。
パシリだってしてやる。

好きなだけ殴らせてやるし、願うなら死んでやっても構わない。
だから……だからお願いだから、逃げてくれ。


彼女の足は―――止まらない。
彼女は耳を―――貸さない。
彼女は―――取り合わない。



287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:20:53.63 ID:KpoO8qEDO


「攻撃手段を用いるのを確認。優先すべき対象を変更。迎え撃つ」


第0位が動く。学ランの内ポケットから新たな拳銃を取り出す。
一方通行を跨いで、空虚な瞳は番外個体を射抜き、明確な敵意をぶつける。

彼女はくしゃりと表情が歪み、悪意の剥き出しの笑みを浮かべた。
鉄釘を数本、発射。


「ミサカに銃弾は当たらない」


鉄釘をいとも簡単に避けたヤツの動きが、止まる。



288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:21:42.83 ID:KpoO8qEDO

様子に調子を良くした彼女は、捲くし立てた。


「弾には鉄物質が含まれてる。そしてミサカはオリジナル譲りの電撃使い。なら話は簡単でさ、ミサカ自身に磁力を掛けて限定で磁気力を働かせればいいの。
あひゃひゃ! 銃弾限定でミサカと弾を同種の磁極にしたら、ミサカが動かなくとも弾が勝手に避けてくれるんだよねぇ!!」


物によるが共通する部分は、弾丸は鉛が主要だという事。
例え御坂美琴のように砂鉄を自由自在に操れなくとも、“磁力で銃弾の軌道を逸らす”程度なら容易い。



289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:22:41.57 ID:KpoO8qEDO

しかし第0位は意に介さない。
雑用をやるような有り様で、弾丸を装填。銃口を番外個体に向ける。


「要はゼロ距離で撃てば問題皆無。速やかに行動不能にさせる」

「ミサカの話聞いてた? 近付こうが例え空間移動しようが、ミサカが少しでも離れれば意味無いんだよ?」

「嗚呼。承知済みだ」


“BANG”と。引き金を引いて、音が響き渡った。




―――番外個体の『背後』から



290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:23:10.68 ID:KpoO8qEDO


「え……?」


振り返り、肩を見る。
弾丸は後ろから肩を穿つ。
背後には第0位が銃を構え、悠然と立っていた。


「い、つの間に……がはッ!?」


彼は番外個体の言葉に応じない。
拳を鳩尾に減り込ませるよう放ち、くの字に曲がった彼女の髪の毛を乱暴に掴み、アスファルトへ顔面から叩き付けた。



291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:24:21.16 ID:KpoO8qEDO


「ご、が……ぁっ」

「身柄の拘束完了。呆気ないな」


暴れ出す予防線として、両腕を背中に締め上げる。後頭部には拳銃を構えた。弾丸の装填はしたし、後は引き金を引くだけ。
ただ、それだと非効率的だ。何が非効率? 簡潔に言えば面倒でしかない。

そう、例えば―――治癒が進んで何とか立ち上がるまで回復した『一方通行』とか。


「離れろ……」

「存外に早かったな。しかし手遅れだ」

「離れろっつってンだろォがァ!!!!」



292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:25:17.39 ID:KpoO8qEDO


予め拾っておいた鉄釘をベクトル操作で、拳銃と頭蓋に突き刺す。それでいい。
だが、彼が行動に移す前に第0位は言葉を放った。


「“蜃気楼”。先刻の現象だ」

「なに……?」

「『ステイル=マグヌス』……これでは不可解か。言わば番外個体は蜃気楼の自分と対峙していた。
だから背後に居る自分に気付けなかっただけ。そう解釈して構わない」

「それがどォしたってンだ」

「今見てる光景、本物か?」


―――成る程、そォきたか。



293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:26:32.82 ID:KpoO8qEDO


一方通行は吟味する。視線を配らせる限り、彼らと同様の姿は無い。
だが第0位には『能力を無効にする』能力と、『空間移動』を引き起こす能力が備わっている。もしかしたら何処かへ空間移動した可能性も否めない。
大気のベクトル操作の応用で居場所を感知しようにも、能力を無効にされているので意味を成さない。

そして一番恐ろしいと感じる点。
仮に鉄釘をベクトル操作で発射して、蜃気楼が本当で鉄釘が外れた場合。番外個体の命が安全であるかどうか。
万が一、第0位の拳銃が番外個体の後頭部をブチ抜く事も考えられる。

そんな非情な事はさせられない。
そんな悲劇を繰り広げて堪るか。




「状況を察したか。
―――さて、取引の時間だ」




静かに第0位は告げる。



294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:27:33.23 ID:KpoO8qEDO




「一方通行が買う物は彼女の命」




番外個体。体中の苦痛に耐えているのか、片目を瞑って歯を食い縛り、抗おうとするが虚しく儚い抵抗に終わっている。




「代わりに一方通行が売る物は自信の命」




自らの命を引き替えに、番外個体には手を出さない。
信憑性など絶無だ。けれど反論する立場でも無いのも事実。


「案ずるな。本来の殺害対象は『一方通行』だ。彼女に危害を加えない、安否は保障しよう」


ココで嘘を吐く皆無だろう。
得する理由が無いからだ。

つまり、一方通行が選択する道は一つしか存在しない。



295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:28:20.47 ID:KpoO8qEDO


「……」


残り一発。弾丸を装填。
銃口の矛先は……自らのこめかみ。


「……ハッ」


いざとなると、恐いモノだと実感する。自然と震えはしない。
何時か背中を刺されるとは思念していたが、自分から死を迎えるとは何と由々しき事態だろう。



296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:29:29.79 ID:KpoO8qEDO


ふと、一方通行は昔を思い出す。そもそも悲劇の幕開けの切っ掛けは些細な喧嘩だった。


自分に突っかかって来た人間は纏めて一掃した。
喩え戦争するかのような武装を身に纏った連中だろうと関係無い。
存在したのは徹頭徹尾の『破壊』だけ。

己に宿したのは“傷付け”、“滅亡”しか齎さない能力である事を、幼い身にして把握したのだ。
そして彼は学ぶ。この能力が争いを生むなら、争いが起きなくなる程の『無敵』の存在になればいいと。



297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:31:06.18 ID:KpoO8qEDO


そんな歪んだ彼を変えたのが、後に出会う『打ち止め』である。
彼女は一方通行を一人の人間として接し、好意を向けて、歪んだ彼に希望の光を浴びせ、見事救い上げた。
彼女と関わって、まだ半年も経っていない。にも拘わらず様々な出来事が有った。
思えば、目まぐるしい日々の連続。全部が全部、一片たりとも欠けてはならない掛け替えのない日常。

木原数多の事件も。
暗部に堕ちても。
垣根帝督と殺し合っても。
エイワスに圧倒的敗北を突き付けられても。
ロシアでヒーローと再戦を叩き込んでも。

どれほど悲劇的な事だとしても、一つでも欠陥してしまったら今の自分は居ない。



298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:32:46.46 ID:KpoO8qEDO


そりゃあ未練が無いと言えば嘘になる。
まだまだやらなければならない事何て腐るほど存在する。

しかしそれでも、護りべき対象を自らの命と引き換えに傷付けないと言うのならば、構わない。






「フザケ……な、いで……」






―――そんな時だ、思考を遮るように言葉が耳に届いたのは。






「フザケてんじゃねえぞ!! こんのクソもやし野郎がァッ!!!!」




―――番外個体……?



299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:33:48.02 ID:KpoO8qEDO


声の矛先など、誰に向いているか言うまでもない。
彼女は声を荒げ、怒りの籠もった瞳をぶつける。眉間を顰め、歯を食い縛り必死に叫ぶ。


「一人で勝手に死のうとしてんじゃねえよッ!! あなたが死んでミサカが生き延びて、ハッピーエンドってかあ!!? 自己満足に浸るのも大概にしろよ第一位ッ!!!!」


番外個体のセリフは止まらない。
激情と激昂が彼女の中で渦巻く。



300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:34:46.34 ID:KpoO8qEDO

彼女には、今一方通行が誰と対峙して、この夜に何が起きているのか把握しきれない。
何故かミサカネットワークとの回線は切断されているし、怪盗気取りの仮面野郎は阿呆みたいに強いし、正直困惑気味だ。


だけど、そんな彼女にも判った事が有る。


あの一方通行がコメカミに銃口を突き付け、自殺を図ろうとしている事。
ミサカのために、ミサカの命を救うために自ら命を絶とうとしている事。

見逃す訳にはいかない。
許す訳にもいかない。

だから叫ぶ。吼える―――ッ!!



301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:35:54.65 ID:KpoO8qEDO


「そんな事でミサカが喜ぶと思ってんの?!! 人に散々治療したり活路を見出せとか生き延ばさせたくせに、自分の命は容易く投げやがって!! ザケンなあああああッ!!!!」


後半は殆ど掠れていた。
ミシミシと体が悲鳴を上げる。
無理に拘束を解こうとしているからだ。
見兼ねた第0位が口を挟む。


「……警告だ。それ以上無理すると骨が粉砕又は折れるぞ」

「五月蝿いッ!!」


ピシャリと言い放つ。
話にならんと第0位は首を振る。



302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:37:09.23 ID:KpoO8qEDO

彼女の次第に声色は震え始め、



「許さない。あなたを犠牲にしてミサカが生存なんて許さない……ッ」



ポタ、と。
水が地面に滴る音がした。
音は止む事無く、寧ろ増えていく。

一方通行は驚愕する。その光景に、目を見開け、ただただ凝視する他無い。



「ぎ、ぎゃはは……。こんな機能、ミサカに付いてたっけ? ―――『涙』、なんて……」



303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:37:59.67 ID:KpoO8qEDO


本人さえ信じられないという様子。
彼女はミサカネットワークから『負の感情』を拾いやすいよう脳を調整されているはず。
故に取り付けられていないか、有っても可能性は限り無く低いだろう。

なのに、『涙』が流れた。
これは奇跡と言っても過言ではない。


「何、これ……。すっごいやる瀬無いんだけど。切ない、鬱陶しい……」


涙を堪えようと、必死に抑え込む。でも、一向に涙は止まってくれない。
逆に抑え込めば抑え込もうとする程、奥底から涙は洪水のように溢れていく。
体の作りは理不尽なものだ。幾ら涙を止めようと拭っても、無尽蔵に流れ出る涙を止める手段にはならない。



304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:38:57.47 ID:KpoO8qEDO

番外個体は初めての経験に戸惑うばかりで、そして何故か、一方通行に対する悪意が消えていくような気がした。
震える唇を噛み締め、ゆっくりと口を開ける。




「ミサカはあの日、本当なら死んでた。死ななければならなかった」




ロシアの戦争時。

第三期製造計画(サードシーズン)。
一方通行を『破壊』するためだけの計画。そこで生まれたのが番外個体。



305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:40:30.69 ID:KpoO8qEDO




「なのに生き延びた。あなたが、治療してくれたから。行き場を失って使い潰されるはずだったミサカを、あなたは活路を見出せと言ってくれた……」




打って変わってしおらしく。
それでいて淡々として口調で。
相変わらず大粒の涙を流していて。




「ミサカはっ、あなたのお陰で生存したんだからさ。今だから言えるけど、心の奥底では感謝してるんだからね……?
だけど、だけど……ッ!! あなたが死んだら、意味無いじゃん!!」




段々と溢れんばかりの激情を露わにする。
普段の彼女とは思えない。それこそ別人なのではないかという程、悪意が全く無い状態。

もはや、街中を歩く普通の女の子と変わりなかった。



306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:41:47.53 ID:KpoO8qEDO




「無理矢理ッ、押し付けるような形でミサカの寿命を延ばしたくせして、あなたは勝手に死ぬなんて……絶っ対に許さないからッ!!」


泣きじゃくるその姿は、幼い少女にしか見えしかなった。









「お願いだからっ!! ミサカを、独りに、しないでぇ……っ」








番外個体は地にへばり付いたまま、初体験の涙に溺れる。会話を交わせそうにないだろう。



307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:42:50.48 ID:KpoO8qEDO

一方通行は、愕然とする他無い。
言葉など出るはずがない。
彼は天を仰ぐ。銃口はコメカミ。
嘲笑するように呟く。



「……やっぱオマエ、俺を困らせる事に関してはピカイチだ。柄じゃねェ。柄じゃねェなァクソッタレが……」



大きく溜息を吐く。空に浮かぶ月を眺め、彼は儚い願望を告げる。







「生きてェ。畜生がァ……」



308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:44:11.98 ID:KpoO8qEDO


折角覚悟を決めたのに。
見事粉々に砕かれてしまった。
これでは修復の仕様が無いではないか。
不覚にも、まだ生きたいと思ってしまったのだから。




「未練何か幾らでもあンだよ。
あの三下にもォ一度再戦申し込ンでブチのめしてェし、打ち止めや番外個体含む妹達全員の最後を見届けてェし、この腐れきった街もぶっ壊してェ」




一体どうすれば、ハッピーエンドを迎える?
どの手段を用いれば、あのヒーローみたいに危機的状況を打破出来る?

どうすれば、どうすれば……。



309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:45:07.04 ID:KpoO8qEDO




(……オマエなら、どう切り抜けるよ)




あのヒーローなら。
こんな場面も屈折せず、助け出すだろう。鋼の精神と諦めない信念を持ち合わせている彼なら。

だが、幾ら思考しても、一方通行は彼にはなれない。到底追い付く事が無い。
矢張り、自分には悲劇が似合っているのだろう。そんな現実、ブチ殺したくなるのが正直本音だが、致し方無い。



310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:46:29.86 ID:KpoO8qEDO




「オマエの言いたい事はよく判った。……でもなァ、それでも俺はオマエに、生きて欲しいンだと、思ってる」




誰かが言っていたような気がする。
何時だったか、とても局面の時に聞いた気がする。




(あァ、そォだ。オリジナルが言ってたンだっけな……)




御坂美琴。10032回目の実験の時。彼女は述べたのだ。
少し、ほんの少しだけ、彼女の気持ちが汲めたような気がする。



311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:47:23.11 ID:KpoO8qEDO

もしあの世で再び出会えたら、謝ろう。許される罪ではない。理解している。
それでも謝ろう。電撃を飛ばされようが砂鉄を操られようが、構わない。
この気持ちを忘れたくはない。
一歩でも前へ進める鍵となるから。





「――――ッッッ!!!!!!!!」





番外個体が今までにない悲鳴を上げる。それはもう言葉になって無い。
彼を少しでも気を引かせ、ガムシャラに食い止めようとする手段に過ぎない。



312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:48:21.78 ID:KpoO8qEDO

そんな彼女の努力も虚しく、一方通行は微笑む。優しい、少年の笑み。
何時か打ち止めが見た、去り際に放った表情と酷似していた。

一方通行は番外個体、そして打ち止めを胸に刻み込み……静かに引き金を引く。










「諦めてんじゃねえよ最強ォォォォォおおおおおおおおおおッッ!!!!!!」










―――その、直前だった。



313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:49:51.09 ID:KpoO8qEDO


第0位が声に気付いて、背後へ振り返ろうとするが、




「超こっちです」




番外個体から手が離れ、拳銃を飛ばされ、世界が反転した。
目で確認もままならない状態で、彼は大十字路へ投げ飛ばされる。




「今です浜面!!」




宙を舞う第0位に視界で確認出来たのは、ボブカットでワンピースのような衣服を身に纏う少女と、―――自分に向けて突っ込んで来るワゴン車だった。



314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 08:53:13.10 ID:KpoO8qEDO




「ハッハー!! 天国へご招待だぁーっ!!」




鈍くて重い音が響いた後、流れるままに第0位はノーバウンドで十メートル以上、吹き飛ぶ。




「な……?」




ポカンと。呆けてる一方通行を余所に、ワゴン車の扉が開く。
中から出て来たのは少年が一人。




「助けに来たぜ一方通行」




浜面仕上。エイワスの言う、もう一人のヒーロー。
一瞬だけ、神様が一方通行に笑みを浮かべたと、感じ取れた。




「何言ってんですか、超キモイです。さっさと車へ運びますよ」

「せめてココは格好良く決めさせてくれよっ!!」



326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 19:25:22.49 ID:I71bx87DO


「オマエ、どォして……?」

「事情は車の中でだ!! 今はとりあえず逃げるぞ!!」


一方通行の下まで駆け寄り、担ぐように肩に腕を回す浜面。
何とか立てるとは言え、重傷を負った怪我人には変わりない学園都市最強。
よもや走って来いと言う訳にもいかないだろう。



327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 19:27:13.51 ID:I71bx87DO

先に番外個体を車内に送った絹旗が、窓から身を乗り出して叫ぶ。


「浜面!! 超早くして下さいっ!! キモくてノロマ何て救いようがありませんよ!!」

「うるせえ!! てめえは勝手良い能力が有っていいよなっ、俺は無能力なんだぞチクショー!!」


必死に言い返すが、若干歩く速度を上げる当たり彼も必死なのだろう。

漸く辿り着いて、一方通行を後部座席に移動させる。
後部座席と言っても、運転席と助手席以外は全体が平らに広がっているため、席とは程遠いかもしれない。



328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 19:31:08.94 ID:I71bx87DO

見届けた浜面は即座に運転席へ。扉を閉めつつ後部座席に居る二人に向かって声を張る。


「滝壺!! 絹旗!! 二人の治療は任せたぞ!!」

「言われなくても超判ってますよ。浜面は気にせず運転に集中してて下さい」

「はまづら。こっちは任せて」

「っしゃあ!! 最初から飛ばして行く、舌噛むんじゃねえぞ!!」


ギュイン!! と急速にタイヤが回転して発進。
ワゴン車は無人の十字路を右に曲がって走行し、闇に消えていく。



329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 19:32:16.57 ID:I71bx87DO

窓を駆け抜ける夜の街は、明かりが一つも無い。ビルも飲食店も、人影さえ絶無である。
一方通行は窓から覗いて見える景色に、事の重大さを再確認。上層部は本気なのだと。

大分、車の揺れが安定してきた頃、まず絹旗が動いた。


「では消毒や包帯を巻きますから、上着を脱いでもらっていいですか?」

「……ミサカは平気だから、あの人を……」


可愛らしいカエルのマークがプリントされた救急箱を取り出す絹旗に、番外個体は首を振って拒否。
顔を動かして一方通行に。番外個体の顔色は優れない。彼の事を心の底から気遣っているらしい。



330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 19:33:19.51 ID:I71bx87DO

凭れ掛かり暗闇の夜景を眺めていた一方通行。話を振られ、絹旗と番外個体の視線が集まった事に対し、彼は気怠そうに答える。


「俺はいい。応急措置は能力で済ませてる。大体、ンなちっせェ箱で治せる程、軽い傷じゃねェしな」

「む、そうですか。という訳みたいなんで、宜しいでしょうか?」

「……うん」


頷いた番外個体は上着を脱ぐ。後ろへ回った滝壺に補助されつつ右腕を抜き、左腕を抜く。
上着の下は、ノースリーブの薄手のシャツ。結構露出度が高かった。
曝け出した肩や、ふくよかに育った胸も、世の男性が目のやり場に困りそうな、はだけた姿。



331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 19:34:10.00 ID:I71bx87DO


「の、ノーブラですか!?」

「……寝間着なんだから当たり前じゃん」

「だ、だ、だとしても出掛けるなら付けません!?」

「いや……面倒臭かったし。あの人を揶揄するのにもいいかなーって思ってさ。こう、胸を押しつけて」

「ぶふっ!!」


誰よりも逸早く反応を示したのは、矛先を向いていた一方通行でなく運転中の浜面。
意外とデカい声が出てしまったため、一方通行以外の全員の視線が集中した。狼狽する絹旗を放って置き、黙々と治療をしていた滝壺でさえ浜面に視線が行く。



332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 19:34:53.70 ID:I71bx87DO

バックミラーで有り様を見た彼は、出るわ出るわの背中に流れる汗状態である。


「……最低ですね。超最低です。死ねばいいと思います」

「きぬはた、それは私が困るからダメ。でも、他の女の人に見惚てれるはまづらは、流石に応援出来ない」

「うおーっ!! 嫉妬してる滝壺も可愛いが、違うんだよコレはーっ!!」


ぎゃあぎゃあ!! と喧しく騒ぐも、着々と番外個体の肩に包帯が巻かれていく。
最後は綺麗に可愛くリボン結びで、キュッと締めた。



333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 19:35:43.39 ID:I71bx87DO


「うん。できた」

「あ、ありがと……」

「いいよ。代わりに名前、聞いてもいい?」

「な、名前? 番外個体だけど……」

「み、みさか、わー……すと? 超長いですし呼びにくいです!」

「そんな事言われても……」

「略して『ミサワ』さん何てどうでしょう? 結構名案だと思うのですが」

「みさわ、みさわ……。うん、いいね」

「えぇぇー……、何かミサカの名前が定着しつつあるんだけど」



334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 19:37:02.86 ID:I71bx87DO


うむ、と一方通行は思考する。
番外個体には打ち止めみたいに教養よりも、コミュニケーション能力が必要なようだ。
現に今も何処か余所余所しさが感じられる。打ち止めは人懐っこい性格のお陰か、初対面でも直ぐに打ち解けられるのだ。

打ち止めには教養。
番外個体にはコミュニケーション。


(一度二人とも、どっかの学校に放り込ンでみるか? いや、それだと変な野郎に絡まれる可能性が否めねェ)


彼の教育の悩みは尽きない。
立派な大人に育てるために、今宵も親代わりの一方通行は案を出す。



335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 19:40:04.57 ID:I71bx87DO


「……あン?」


唸りながら思考を巡らせていた彼だが、突如頬に何か触れる感触。故、思考は中断されて現実に戻される。

目の前に絹旗達と雑談していた番外個体が迫っていたからだ。頬に感じる感触は彼女が片手を宛行っている。
ジッと一方通行を見つめて、手を一向に離す気配は無い。くすぐったい感覚に囚われ、見兼ねた一方通行は尋ねる。


「どォした?」

「……っ」


問われた途端、彼女はじわっと涙を浮かべて―――一方通行の首に両腕を回して抱き付いた。



336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 19:42:10.93 ID:I71bx87DO

突然の事に驚愕し、どうしたらいいか判らないので、彼は不覚にも狼狽するばかり。
絹旗や滝壺、運転中なので音や声で判断出来た浜面も二人に集中した。

先刻のような大粒の涙を流してないが、彼女は涙声を小さく漏らす。







「―――良かった……っ。ホントに、生きてて良かった……!!」








震える声色で、声量も微かで聞き取りづらかったが……断面的でも汲むには容易だった。



337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 19:46:02.48 ID:I71bx87DO

己の血で汚れていない手で、彼女の頭を胸に引き寄せるように優しく撫でる。




「―――悪い。心配掛けた」




悪意が消失した少女は、愛しい彼の胸に抱かれ涙に溺れる。
彼女が本当の意味で救われた瞬間だった。



338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 19:47:59.64 ID:I71bx87DO


「……よくよく考えたら私だけですね。相手居ないのって。ミサワさんはそういうのじゃなさそうですけど」

「大丈夫。私はそんな一人ぼっちのきぬはたを応援してる」

「くーっ!! 何ですかその言い回し!? 勝者の余裕ってヤツですか!! 超悔しいですっ!!」

「その内きぬはたにも相手が見つ―――」


滝壺は言い終えない。唐突に彼女が背後を振り返ったからだ。
視線の先は第0位が居た方向。
絹旗は彼女に懸念の言葉を掛ける。



339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 19:51:00.23 ID:I71bx87DO


「どうしました滝壺さん? もしかして……」

「ううん、違うよ。……ただ、信号が一つ多いなって。これは……?」


二人の会話を聞いていた一方通行が、空いてる片方の手で運転席をド突く。
因みに未だ彼は番外個体の頭をナデナデ中である。


「オイ。そォ言えばあのクソ野郎は放って置いて平気なのか? 車なンぞに振り切れるとは到底思えないンだがな」

「え? あ、あぁ。その辺は心配要らねえよ。全力で行けとは言ってないし、時間稼ぎだからな」

「あァ? 誰が立ち向かってンだ?」



340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 19:52:49.08 ID:I71bx87DO



―――――――――――――――


―――数分前。


第0位はノーバウンドで十メートル以上、吹き飛ばされた後、更に五メートル転がり回った。
額からダラダラと血を流すも、彼は平然と立ち上がり、無機質な声を漏らす。


「……“声認識で適合、『浜面仕上』か。予想外の打撃を感受。損傷は頭部の傷と右腕右足の打撲。瞬時の結界が幸い”―――状態確認完了」


ワゴン車が去って行った方向を見据え、飛ばされた拳銃を空間移動で手元に戻す。



341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 19:53:43.70 ID:I71bx87DO

戦闘の際に差し支えや故障がないか確認。幸いな事に何処も異常が見当たらなかった。


「タイヤに一発。それで行動不能に―――」


彼は最後まで言葉を告げず、ステップで横に移動。
その刹那。第0位が居た場所に一筋の『閃光』が貫く。位置的に心臓だ。
一歩でも遅ければ、彼の命は刈り取られていただろう。

彼は無言で背後へ振り返る。










「あら~ん? 完璧に死角から撃ったのに避けられちゃった。期待していいのかにゃーん?」



342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 19:55:56.75 ID:I71bx87DO



カツ、カツ、と。
反響して耳に届く音は、足音。




「まぁ? テメェは今聞き捨てにならねぇ戯言ほざいたから、容赦はしなくていいよねー」




時間が経つ度に足音の音量は増していく。
次第に姿を現すのは片腕も片目も完全回復した―――新たな怪物。




「うちの“仲間”に手ぇ出すなんざ良い度胸じゃねえか、あ゛ぁ!!?」




―――麦野沈利。



343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 19:58:13.11 ID:I71bx87DO


「“仲間”、か。情報とは異なるな。第四位は仲間意識は存在しないとデータには有るが。
……切っ掛けは浜面仕上と推測」


ズバァッ!! と閃光が迸った。

今度は顔面目掛けて麦野は『原子崩し』をぶっ放す。しかし当たる事は無い。
逆鱗に触れたのだろうか、彼女は据わった目つきで、第0位を睨む。



344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 19:59:11.60 ID:I71bx87DO


「……テメェのようなヤツが、気安く浜面の名前を呼んでんじゃねえよ。上層部の使い捨てが」

「戦力の差は歴然だぞ? そういう風に造られてるらしいのでな」

「ハッ!!」


一度鼻で嘲笑い、挑発的指を鳴らすと、







「ブ・チ・こ・ろ・し・か・く・て・い・ね」







表情が殺意に満ちる。



345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 20:00:15.35 ID:I71bx87DO

しかし、


「あぁ?」


直ぐ素っ頓狂な声を漏らす。
その瞳は第0位を見ていない。
彼の『背後』に向けている。
まるで、「何でテメェがこんな所に居るんだ?」とでも言うように。

第0位が彼女の視線を追うように、背後に振り返る前、








「ちょろっとー、会話の途中悪いんだけど」



346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 20:02:16.39 ID:I71bx87DO


ピン、と。何か弾く音。
麦野は無造作に横にステップして避ける。




「―――私も混ぜてもらっていいかしら」




彼は危険を察知し、空間移動。
その場から十メートル離れた場所へ移動する。

その直後、辺りに響き渡る轟音。
アスファルトを一直線に砕き。
空気中の水分が焼かれ水蒸気が生じる。




「あの子に色々聞いて、結構頭の中がこんがらがって困惑してんのよねー。……でもさ」




靡く前髪に伴ってバチッと放電。



347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 20:04:22.14 ID:I71bx87DO


「とりあえずアンタを片付けてから、本人に直接聞こうと思ってね。“第0位”さん?」




君臨するのは学園都市第三位―――御坂美琴。


彼女は携帯の画面を見せる。
そこには文字の羅列が並び、中には特筆するように『第0位』の文字。



「依頼内容までしか載ってないけど、アンタを片付けないと一方通行にゆっくり聞けないみたいなのよね」



緩慢と近付き、麦野の横に並ぶ。
麦野は反吐が出るように鼻を鳴らし、忌々しいと言わんばかりに嫌悪を示唆した。



348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 20:05:17.46 ID:I71bx87DO


「邪魔する気? テメェもブチ殺すぞ」

「相変わらず物騒過ぎるわよ。
安心して、私もまさかアンタが居るとは思わなかったし。
……でもさ、好都合じゃない?」

「あぁ?」


腕を組み、第0位を睨め付ける。
彼女は不敵な笑みを浮かべると、こう告げた。


「お互いの敵は同じ目の前に居るアイツ。戦う理由は違うにしても、背中を預けるぐらいは良いんじゃない?」



349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 20:06:57.18 ID:I71bx87DO


以前の麦野沈利ならば、取り合わなかっただろう。寧ろ閃光をぶっ放し罵って、敵に回していただろう。
だが今は違う。彼女は変われた。浜面仕上という人間の出会えたからこそ、変われた。

故に、




「……フンッ。邪魔だけはすんじゃねえぞ。足手纏いと感じたらテメェも殺す」




腰に手を当て、同様に第0位を睨む。彼女の言動に御坂美琴は苦笑を浮かべ、




「だから怖いって……。アンタが言うとシャレになんないのよ」

「ハッ! だったらそこらへんの隅で×××から小便漏らしてビクビク震えてな」

「……アンタ、躊躇いないのね」




当時、お互いは敵同士で戦闘を繰り広げていた彼女達。

それは今も変わらない。
だがそれも一旦休戦を終える。

彼女達は第一位を超える化物に立ち向かうため、互いの矛先を変更。

彼女らは倒すため、背中を預け合う。


―――ここに、学園都市最強の女子コンビが降臨する。



362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/02(水) 12:51:41.10 ID:WU43fT9DO



上条当麻は至って普通の人間だ。

音速で移動する事も、一蹴りで十メートル以上跳躍する事も、空を飛翔する事も、手の数が多い訳でも無い。

彼の技法は極めてシンプル。
ただ、右手を振るうだけ。
人並みの速度で駆け抜け、右手一本で様々な敵と相対してきた。

そして現在彼は、




「ptl排jdtbmri除kg」




―――人生最大の強大な怪物と対立している。



363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/02(水) 12:53:28.50 ID:WU43fT9DO


『神の力』。大天使の一角。

逆らおうモノならば、山を裂き大陸をも吹き飛ばす。その様は天罰の如く、五体満足では居られない氷の翼が降り注ぐ。



「―――」



だが、上条当麻は臆しない。
前へ出る。走り、駆け抜く。

天使だろうが天罰だろうが、山を裂こうが大陸を吹き飛ばそうが、その程度では彼の足枷にすらならないのだ。



364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/02(水) 12:59:24.67 ID:WU43fT9DO

地を駆ける彼に何百の水翼が牙を向く。樹木を巻き込んで薙ぎ払い、地を穿つ。
しかし、上条当麻には一つも当たらなければ、傷一つも付かない。
先刻述べたように、別に彼は音速を超える速度で避けている訳ではない。



それは水翼に限った事では無かった。



山を斬り裂く氷の剣も、山を消し飛ばせる目視不能な手を翳す攻撃も、―――上条当麻は無傷で済ます。
だが、全て避けきっている訳ではないのだ。回避が不可能と感知したら右手で安全地帯を作る。
氷の剣は必ず右手で対処し、手を向けられたら地面に沿って転がって躱す。
要するに彼は最低限且つ絶対に回避可能な退避しか行っていない。
その反面、一撃でも食らえば即死覚悟の莫大なる破壊力を誇る。

確かに当たらなければ良いだけの話。しかし、


(だからといって、相手は世界を破滅に追い込む怪物。そんな理屈で適うワケが……ッ!!)



365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/02(水) 13:00:47.53 ID:WU43fT9DO


ヴェントは歯を軋ませる。

聖人でなければ特殊な魔術の施しさえ無い、曰く付きの右手だけの少年。それ以外は何の変哲も無い一般人。
幾ら死線を巡って来ても、今回は桁が違う。もはや人間ではないのだ。



(なのに対等以上に渡り合えてる。このガキ……)



ハンマーを強く握り締める。
僅かだが、微かに震えていた。
矢張り自分も人間。恐怖は存在。
だけど、今となっては流れ者だが、曲がり形にもプロの魔術師。
何もしないまま、ただ歯を食い縛って見ているのは癪な話。



366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/02(水) 13:01:53.24 ID:WU43fT9DO


見ればガブリエルが又しても氷の剣を携えていた。おそらく上条当麻に突進するのだろうか?
彼の顔色は焦りが感じられない。神経を研ぎ澄ませているようにガブリエルから目を離さないでいる。


ヴェントはハンマーを振るい、空気の鈍器を生み出す。射出される前に手首を返して振るう。二発目の鈍器が現出。
更にもう一度繰り返し、合計三つの鈍器が渦を巻き、一本の杭を形成する。


ガブリエルを見据え、―――射出。



367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/02(水) 13:03:18.55 ID:WU43fT9DO



「!!」



上条当麻へ突撃の直後、氷の剣が砕け散る。だが既に音速の勢いで彼の懐に突撃しているため、今更速度は落とせない。
即座に手段を氷の翼へ変更して駆使しようとするも、―――彼の右手の拳が、直前まで迫っていた。



「ふっ!!」



どうして氷の翼が砕けたか、薄々と原因を推し量りつつ、好機と感じた上条当麻は右手を振り抜く。
そして見事にガブリエルの顔面へ右手がクリーンヒット。
下から掬って繰り出した所為か、野球ボールのように飛んで行くガブリエル。



368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/02(水) 13:04:29.79 ID:WU43fT9DO

彼は一度、安堵の息を漏らして背後へ振り向く。



「サンキュ、ヴェント。助かっ―――ふごっ!?」



途端に上条当麻の顔面へ拳が決まる。側まで近付いていたヴェントが繰り出したのだ。
手加減とは言え、綺麗に決まったパンチは相当な威力(特に鼻)を持っていた。

結果、顔面を押さえながら身悶える上条当麻の姿が在ったと言う。……合掌。



369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/02(水) 13:05:56.73 ID:WU43fT9DO



「勘違いすんじゃないわよ。本来ならアンタ何か、骨ごとグチャグチャの塊にしてやりたいトコだけど、……そうは言ってられない現状なのも事実。黙って見るっつーのも私の性に合わない」

「……ん? って事はヴェント。お前……」

「今だけよ。それに一回しか言わないから耳の穴を掻っ穿いて良く聞いときなさい」



ヴェントは彼の隣に並ぶ。
視線は合わせない。依然と前を向くだけ。
腰に手を当て、上条からの視線を感じるが無視したまま告げる。



「私の背中はアンタに預ける。
さっさとこんな面倒事は片付けて、元の場所に帰るわよ」



370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/02(水) 13:08:26.04 ID:WU43fT9DO



上条は意表を突かれたように、目を見開く。だがそれも一瞬。

彼はヴェントと同様に前を向き、右手の拳を二回程、左手の掌に打ち付ける。
爆音と共にガブリエルが姿を現したのに対し、上条は不敵な笑みを漏らす。



「突撃は任せてくれ。ヴェントは後方支援を頼む」

「そうね。あんな化物とマトモにやり合える何てアンタだけだろうし」

「……何だかその言い方だと上条さんも化物みたいな扱いになってると思うのですが……」

「実際、私の目にはアンタも十分化物に見えたから言ってんのよ。
ほらっ、もう一匹の化物が向かって来たし、行きなさい幻想殺し」

「痛っ!? 俺は名前は上条当麻で、アンタじゃ無ければ幻想殺しでも無いっつーの!!」


双方は敵同士だった二人。
彼らもまた、互いに背中を預け合う。



四人の死闘は、これからである。



377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/04(金) 09:54:26.37 ID:DDLO/5kDO


ガブリエルの顔面には僅かなヒビが入っていた。拳の威力が効いたのか、幻想殺しが効いたのか、どちらかは不明だが、



(多分、幻想殺しだろうな。左手が当たった時は、あんなヒビ無かったし)



現在まで上条当麻は左の拳しか命中していない。何故なら、右手は大体が護りに徹しているからだ。



378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/04(金) 09:55:45.97 ID:DDLO/5kDO

右手で殴ろうと自分から接近に転じても、右手の危険性を判っているのか必ず飛翔する。
ガブリエルから接近した場合、カマを掛けようと先に左手の行使を考えたが、氷の剣やら水翼やら一発の衝撃や威力が尋常ではないのだ。幻想殺しを宿さない左手が持ち堪えるはずがないだろう。

彼一人だけでは一向に終わらない。そこで優勢に働くのが、



「おらっ!!」



―――ヴェントのハンマーである。



379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/04(金) 09:57:09.22 ID:DDLO/5kDO

遠距離攻撃が可能なヴェントは主に水翼と氷の翼を破壊。
鈍器に錐や杭を使い分けて、上条当麻に降り懸かる水翼を穿ち、氷の剣を粉砕する。
これらを駆使してガブリエルへの道筋を作ったり、先に牽制して上条当麻が右手の拳を突ける隙を作るのだ。


しかし、ガブリエルとの勝機が見えた代わりにデメリットも浮かび上がるのだ。


一つ。上条当麻はガブリエルの速度に反応可能(理由は不明)だが、ヴェントは僅かに反応が遅れる事。
況してや数百を越す水翼など、対応しきれるはずが無いだろう。

二つ。ヴェントへ穂先が向けられた時、彼女は天使相手に身を護る手段なんて持ち合わせていない事。
氷の剣でも死にはしないものの、タダでは済まないだろう。一瞬で意識を刈り取られる自信が有ると自負出来るほど。
場合によっては上条当麻に護ってもらわなければならなくなる。……本人は嫌がるだろうが。



380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/04(金) 09:58:26.07 ID:DDLO/5kDO

以上の事柄を踏まえ、故に二人の共闘は勝機を見出す手段になるが、その分二人に係るリスクは跳ね上がる羽目になるという事。



「なあヴェント! お前のアレで何とかなんねーの? 学園都市で使ってたヤツ」

「『天罰術式』のコト? あんな化物に効くと思ってるワケ?」

「ですよねー!」



二人は一定の距離を保ち、ガブリエルへと接近していた。最低限、ヴェントには上条当麻が咄嗟に庇う事が可能な範囲に入ってもらっている。
これで例え彼女に矛先が転じても、危険性は限り無く減少されるだろう。



381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/04(金) 10:00:21.23 ID:DDLO/5kDO


「gkadnjruxnk」



コキリ、と。首を傾けた。眼球の無い部分が、二人を射抜いたような気がする。


―――突如、今までとは比べ物にならない量の水翼が互いを削って重なり合い、天を昇って行く。
ほんの数秒で物の見事に、ガブリエルの背後で極大な氷の柱が完成する。



「い゛ぃっ!?」



目視した上条が蛙を潰したかのような珍妙な声を漏らす。天を見上げるが……先が見えない。
もはや『柱』でなく『塔』に近かった。



382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/04(金) 10:01:14.21 ID:DDLO/5kDO



「いよいよ嫌な予感しかしねーぞこれっ!!?」

「戯言ほざく前に走れッ!! あんなモン倒れてきたら圧縮されて死ぬわよ!!!!」



二人は一旦足を止め、方向転換。来た道を戻っても、縦に甚だしく長い塔に潰されるだけ。
だから真横を駆け抜く。縦は長くとも横に広くはない。と言っても、人間の視点から見れば計り知れなく広いわけだが……。



383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/04(金) 10:02:38.44 ID:DDLO/5kDO

ガブリエルは再度、氷の剣を携え―――塔の根元を撫で切り。
傾く方向は当然、二人の元へ。



「クソがッ!!」



駆け抜けながらヴェントはハンマーを振るう。合計三回。
よって生み出されるのは、三つの空気が渦巻く杭。舌に取り付けている鎖の十字架を駆使して、杭を射出。

滑らかな曲線を描き、少しでも軌道を変えようと横から塔を穿つ。
……遠くで響き耳にしてたのは微かな破壊音。塔は微動だにしていなかった。



384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/04(金) 10:03:54.16 ID:DDLO/5kDO


「チッ!!!!」



今度は二回振るう。生み出すのはお互いを食い潰して出来る数百の空気の錐。
速度で駄目ならば、量で試す。


―――しかし、結果は変わらない。


そうこうしてる内にも塔は益々加速して行く。このままでは二人が圧縮されミンチ状態に陥るのを免れない。



「くっ……オイ上条当麻ッ!! 首守っときなさいよ!!」

「へ? どういうべぇっ!!?」



彼が身に包む制服とシャツの襟を乱暴に纏めて掴んで、ヴェントが断然に速度を増す。音速には劣るが、常人では必ず出せないスピード。



385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/04(金) 10:04:58.86 ID:DDLO/5kDO

上条当麻は襟を引っ張られ、首にシャツがめり込んで呼吸困難に陥るが、何とか首とシャツの間に隙間を作って一安心。

ヴェントは流し目で塔を視認。
眉間を顰め、思考する。



(……間に合わないわね)



迫り続ける塔に悪態を吐く。

規模の甚大さとメチャクチャな破壊行動に溜息すら出ない。
現在が元の場所では無いからいいが、普通あんな物が地上に叩き付けられた場合、地震では済まされない。
地球に多大なダメージを負わせる羽目になるだろう。



386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/04(金) 10:06:33.89 ID:DDLO/5kDO

そして同様に、上条当麻も間に合わないと感じていた。
思考を巡らし、解決策の手段を模索する。



「……仕方ねえか」



一つだけ見出す。手段は決定。
上条当麻は実行に移すため、―――ヴェントの手を払った。



「なっ……!!」



彼女が驚愕の表情を放って振り返る中、彼はヴェントに笑顔を浮かべる。笑顔の裏はこう語られていた。……「逃げろ」と。



387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/04(金) 10:07:28.75 ID:DDLO/5kDO

それも一瞬。彼は目と鼻の先まで迫っている氷の塔を睨む。
ギリ……ッと強く拳を作り、腕を引く。


正直、どうにかなるとは思えない。右手で殴った所で、打破出来るとも思えない。
水翼の一本一本が重なり合って氷の塔が構成されてる。故に殴打しても何万何十万本の内一つを砕くだけで、全てを破壊する訳ではないのだ。

しかし、構わなかった。己の身体が潰されようと気にしない。



(ヴェントが逃げる時間を稼ぐ。それでいい)



388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/04(金) 10:08:46.81 ID:DDLO/5kDO


何も、二人とも絶命しなくていい。


彼女は自分を引っ張っていたので速度が落ちたに違いない。
ならば彼女を逃して自分は右手で時間を稼ぐ。

それでいい。彼女のために生を絶つのも悪くはないが、死んでやるつもりは更々無いのもしかり。

精々抗ってやろう。天使に。



「人間、嘗めてんじゃねえぞ!!」



掬い上げるように引いた右手の拳を放つ。
氷の塔と拳が―――衝突する!



389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/04(金) 10:10:10.92 ID:DDLO/5kDO



血管が破裂する感覚。
骨が砕けていく感覚。


激痛が右腕を駆け巡り、血管やら骨やら神経やら、内部から迅速に損壊されていくのが感受。

肌の表面に浮き出す血管がブチブチと音を立て、骨がミシミシと鳴り、神経を伝って肩まで尋常じゃない程の激痛が迸る。



「う、おおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!」



それでも、振り抜こうと渾身の力を振るう。
腕がどうなろうと知ったこっちゃ無い。どうせ諦めたらミンチ決定だ。
ならば最後まで反抗してやる。


―――その時、“何か”が視界を掠めた。



390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/04(金) 10:11:39.48 ID:DDLO/5kDO


氷が炸裂。一回だけじゃない。

何回も。何回も何回も何回も。

炸裂を繰り返す。氷の塔を穿つように。


上条当麻は知っている。
それは空気という名の鈍器。
錐、杭と使い分けも出来る武器。
自身が知る中で、行使するのはただ一人。



「―――ヴェントッ!!」



何で戻ってきた、と。

生き延びる手段は有ったはずだ。彼女の中で自分は相当嫌悪する人物に指定されているはずだ。

なのに、何故戻ってきた。



391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/04(金) 10:16:28.34 ID:DDLO/5kDO




「そんなの知らないわよッ!!」




歯を食い縛り、空気の鈍器をぶつけ、彼女は叫ぶ。




「アンタが死のうが勝手だけど、横から持ってかれんのは性に合わない!! アンタをブチ殺すのは私って決まってんだよクソッタレがッ!!!!」




数百の錐をぶつけ、畳み掛けるよう杭を射出する。




「こうなりゃ乗り掛かった船!! とことん付き合ってやろうじゃねえかあッ!!!!」



392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/04(金) 10:17:17.30 ID:DDLO/5kDO



上条当麻は奥歯を噛み締める。
犬歯を剥き出しにして、唸りを上げる。




「うおおおおおおおおおおッ!!!!!!」




呼応するように、ヴェントも轟きを上げる。




「らああああああああああッ!!!!!!」




二つの獰猛な牙は、互いを高め合う。自身のポテンシャルを相手が伸ばし、相手のポテンシャルを自身が伸ばせてやる。


無限の可能性を秘めた牙の矛先は、氷の塔を穿つ―――!



393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/04(金) 10:18:37.89 ID:DDLO/5kDO




―――――――――――――――




僅かな時間が経った。
一分にも満たない時間だ。
氷の塔が崩れ倒れてから。

未だ呻く地表。揺れ動く世界。
倒れた衝撃で氷が砕け、中には、



「はっ、はぁっ……。ヴェ、ント、生きてるか?」

「当たり、前……でしょ」



―――生存者が居た。



394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/04(金) 10:20:54.32 ID:DDLO/5kDO


体力を存分に使った所為か、呼吸は荒い。身体が悲鳴を上げている。
とてもじゃないが、動ける状態ではなかった。しかし、二人は必死に体を奮い立たせ両足をぐっと踏ん張って立つ。

呼吸を整え、辺りを見回す。



「……あいつ、何処行った?」

「気を付けなさい。下から這い出て来ても変じゃ無いわよ」



んな馬鹿な、とツッコミを入れる直前、―――周りの雪や砕けた氷が水になっていくのを視認する。



395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/04(金) 10:25:59.34 ID:DDLO/5kDO



ぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞッッッ!!!!!! という気味の悪い音と共に、膨大な液体が空中に吸い寄せられていく。


その先、存在するのはガブリエル。


水を吸収した翼が、凶悪な姿へと変貌する。





「……sergv 範 hy 設定……」





ガブリエルの言語がクリアになっていく。





「投 gre 準備……djku 完了」





二人の背筋に悪寒が際立つ。
粟立つ戦慄に恐怖する。

上条当麻も、ヴェントも知っている。その恐ろしさを感知している。
ヴェントを右手で護ろうとして……気が付いた。


動かない。右腕が全く動かない。


原因は容易に辿り着く。“氷の塔”だ。




そして。




今や明確となった『声』は、彼らに無慈悲な宣告を贈る。





「命令名『一掃』―――投下」





夜空が瞬いた。


数千万に及ぶ裁きの礫が、降り注ぐ。



397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/04(金) 10:50:43.20 ID:4rmtmqPDO

ぎゃー



401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/04(金) 19:00:23.01 ID:8qyKUqcV0

まさかの一掃ww



408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/07(月) 09:29:32.21 ID:f0+Zu3GDO


―――学園都市。


全身が緑の装束を身に纏い、白いマスクをした初老の男が扉の奥から出て来た。
彼の下へ駆け寄るのは若い男女が四人。浜面仕上、滝壺理后。絹旗最愛。番外個体だ。

ココは『例の少年が自室を所有している』と患者やナースの中で噂が広まっている病院。

四人の顔色を汲んだ男、冥土帰しがマスクを外して安否の声を掛ける。


「手術は成功。臓器破裂や腹部の刺し傷以外は大した物じゃ無かったからね」


その言葉を聞いた瞬間、彼らの強張った表情が綻びる。各々が安堵の息を漏らす。



409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/07(月) 09:30:23.60 ID:f0+Zu3GDO

中でも番外個体は緊張が解けたのか、力が抜けたように膝が崩れて大きく息を吐いた。


「よかったね」


滝壺が同様に膝を落として、ニッコリと微笑んだ。対して番外個体も彼女に礼の意味を込めた笑顔を向ける。


「全治一ヶ月……と言いたい所だけど、そうもいかない状態みたいだね?」


浜面に視線を移す。その眼差しは、真剣な物。瞳の真意は「理由を話してくれるかい?」と遠回しに促しているのだ。



410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/07(月) 09:35:05.77 ID:f0+Zu3GDO

問われた浜面は乱暴にクシャクシャと頭を掻き、困った表情を見せた。


「実の所、俺も詳しい事情は知らねえんだ。場所と一方通行がピンチだから向かえ、って抽象的に電話で言われただけで……」

「でも、ここは長く持たないと思いますよ。あの仮面の人、超不気味でしたし」

「いやいや、あの仮面野郎が不気味だからってココが長く持たないのと、どう関係あるんだよ」

「超バカ面。よく考えて下さい。第一位がやられたんですよ?
車で移動中の際には“能力で応急処置は済ませてる”とか言ってました。ていう事は能力者同士の戦闘って訳です。
能力有りで戦って負けたって事は……もう判りますよね?」

「……!!」



411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/07(月) 09:36:29.55 ID:f0+Zu3GDO


自分は愚鈍だという事ぐらい自負している。けれども、絹旗の言い回しで幾ら何でも気付いた。
もし仮面野郎がココに来るという事は、


「麦野が危険だ……っ!!」


麦野沈利。彼女が敗北したという事に繋がる。
踵を返して麦野の下へ向かおうとする浜面だが、絹旗に腕を掴まれて行けなかった。
絹旗は浜面が反論を捲くし立てる前に言う。


「麦野も浜面みたいに考え無しではありません。身の危険を感じたら超逃げるでしょう。それに一応全力で行くな、って忠告してますし」

「……スイッチが入ったら判んねえけどな」

「……否定する要素が無さ過ぎて同意しか出来ません」


二人には悪いが一言述べよう。
既に手遅れだ。



412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/07(月) 09:38:10.47 ID:f0+Zu3GDO

会話を聞いていた冥土帰しは得心したとばかりに頷き、丁度通りかかったナースを呼び止める。


「ちょっと君、この番号を掛けてくれるかな?」


懐から取り出したのは、折り畳まれた紙切れ。
ナースは戸惑いながら、差し出された紙切れを受け取る。広げて番号を確認。


「至急来るよう伝えてくれ。警邏を頼みたいと加えてね」

「は、はあ。了解しました」

「僕の名前を使えば素直に承ってくれるよ。じゃ、宜しく頼むね?」


一度軽く頭を下げたナースはパタパタと駆けていく。



413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/07(月) 09:38:55.19 ID:f0+Zu3GDO

見送った冥土帰しは再び、浜面に目を向けた。


「これで患者達の安全は保証されたね。君らも立ち向かうなら、何らかの措置を講じとくと良い」

「あ、嗚呼」


言い終えると、冥土帰しは歩み出した。
浜面と絹旗は去って行く彼の背中を見つめ、疑問を互いにぶつける。


「誰を呼んだんだろうな?」

「超判りませんね。トランプで言うジョーカーかもしれないですよ? まっ、私達も対策を練っておきましょう」


彼女の催促で些か辟易されるも、浜面は半ば納得いかない様子。

彼は暫く頭を悩ますが、まあいいかと思考を切り替える。今は仮面男の方が優先すべき。
標的は一方通行だと土御門という人物から聞いているので、麦野を真面目腐って相手すると思えない。
何時ココが感知されるか不明だが、おそらく時間の問題だろう。
相応の手段は施すべきだ。



414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/07(月) 09:40:14.87 ID:f0+Zu3GDO



―――――――――――――――



一方、無人の大十字路。


「アッハハハハ!!!! オラオラどうしたどうしたよぉっ!!? 這い回る豚になってるだけじゃ私の相手になんねえぞ!!」


第0位に三点射。光線が四肢を吹き飛ばそうと迸る……が、彼は直撃したのにも拘わらず五体満足に生き延びていた。
光線が触れる寸前に跡形も無く霧散したからだ。原因は彼の右手。
麦野は舌打ち、悪態を吐く。



415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/07(月) 09:41:33.00 ID:f0+Zu3GDO



「チッ、相変わらず鬱陶しいわねその右手。まどろっこしい事極まりない」



第0位は何も告げない。何か思考に耽っているように。
一瞬だけ彼の視線が下に向き、蠢く砂を確認。足を弾ませ『空間移動』を引き起こす。

途端、そこへ雪崩の如く途轍も無い量の“砂鉄”が流れ込んで来た。
砂鉄は瞬時に旋風を起こし、辺り一帯を巻き込んで微塵に斬り刻む。―――御坂美琴だ。



416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/07(月) 09:42:23.84 ID:f0+Zu3GDO

空中に転移した第0位は砂鉄の竜巻を視界に入れ、空中を浮遊しながら手に持つ拳銃を装填。



「呑気に風船ごっこしてて良いのかにゃーん?」



丁度右斜め下。麦野沈利の声。
竜巻から視線を移して目視。



「撃っても右手で防がれるなら、“防ぎきれない”ようにすればいい」



417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/07(月) 09:43:13.47 ID:f0+Zu3GDO


彼女は三角形のパネルが組み合わさった形状のカードを、指で弾いて上へ飛ばす。
カードの正体―――『拡散支援半導体(シリコンバーン)』だ。
面制圧を不得手とする原子崩しの弱点を補う、麦野が所有する道具。

宙を舞うカードはクルクルと回転。麦野は片手をスーッと挙げていき、第0位に標準を合わせた。
カードと標準が重なった瞬間、光線を射出してカードが貫かれ、―――拡散する!

光線は何十にも分かれ、そのどれもが第0位を穿つ刃となる。



418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/07(月) 09:45:14.19 ID:f0+Zu3GDO

目を細め、彼の姿がブレた。
空間移動を発動させたのだ。

地に手を付いて、麦野と遥か十メートル以上離れた地上へ転移する。



(空中に有利は皆無。だが……)



チラリと眼球を動かし横目で視認。透かさず前方でなく、斜め前に大きく飛び跳ねて転がった。
刹那、前方と左方の二方向から巨大な光線が彼の居た場所にズバァッ!! と煌めく。

左からは御坂美琴の超電磁砲。
前からは麦野沈利の原子崩し。

閃光が交差して象ったのは十字架。そして起こる現象は―――絶大な爆発。



419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/07(月) 09:46:41.38 ID:f0+Zu3GDO

伴って生じた爆風や衝撃波が第0位を存外に吹き飛ばし、ビルに背中から激突する。

爆風によってビリビリと空気が震動。けたたましい音を立ててビルの窓ガラスが割れていく。
並び立っていた木々が焼かれ薙ぎ倒し、砕けたアスファルトの破片が散弾のように飛び散る。

彼は背中に受ける痛みを感じつつ、立ち上がって思考する。



(―――地上も危険。矢張り空間移動と能力無効だけでは難が生じるか)



あくまでも冷静に。いや、寧ろ彼には狼狽や動揺と言った機能が働いていないのかもしれない。
額から垂れる血が増すも、気にも留めない彼は、第三位と第四位の二人を見やる。



420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/07(月) 09:48:49.41 ID:f0+Zu3GDO



「ちょっと! 少しは加減してぶっ放しなさいよねっ!! 巻き込まれそうになったんだから!!」

「ハッ、テメェなら私の原子崩しも軌道を変えれるでしょうが。爆発は知らないけど。てか、いっそ食らってくたばっちまえよ」

「なんですってえ!!? こんのオバサンが!!」

「あ゛ぁ!? やんのか売女ァ!!」



自分を余所に戦闘態勢で互いを罵り合う。……正直、仲が良いのか悪いのか判らない。

―――その時だ。





『第0位様。準備完了致しました。何時でも戦闘可能でございます。整い次第、移転をして下さい』





彼の脳に直接、無機質な音が流れた。



421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/07(月) 09:49:29.61 ID:f0+Zu3GDO

一度凍結するが、直ぐ溶けたように肩を竦め、漸く血を拭うと彼は一言だけ呟いた。




「了解」




瞳が、据わった気がした。



422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/07(月) 09:50:53.14 ID:f0+Zu3GDO



「じゃれ合いの所すまないが」

「「あ゛ぁッ!!!!?」」



異口同音。額を擦り付け合って超電磁砲やら原子崩しをぶっ放しそうなピリピリとした気迫の中、第0位は空間移動で接近して、ポンと二人の肩を叩く。





「絶望の時間だ。君達には地獄へ招待しよう」





―――御坂美琴と麦野沈利が、この場から消える。



423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/07(月) 09:51:54.62 ID:f0+Zu3GDO



―――――――――――――――



「あ? 何処よここ」


麦野が見えた世界は一変していた。
コンテナ。鉄筋。鉄パイプ。クレーン車。コンクリート等々。

上を見れば錆び付いた屋根。少々鉄の匂いで充満しているのか、鼻がツンと来た。
嗅ぎ慣れたはずなのに、半月も暗部から離れて平和ボケしてると、こうも違うかと実感する。
辺りを見る限り何処かの工場ようだ。しかし、自分が居た学区は工場なんて存在しなかったはず。



424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/07(月) 09:53:19.05 ID:f0+Zu3GDO



「要するに、アイツの能力で飛ばされたってわけか。チッ、面倒ね」



頭をガシガシと掻く。如何にも至極面倒と言うように悪態を吐き捨てる。
だが浜面に時間稼ぎだけで、怪我したら無理せず逃げろと言われていたし、一応目的は達成したかな? と彼女は思考して納得。

懐に手を伸ばし、携帯を取り出す。



「とりあえず絹旗に連絡して、迎えに―――」



彼女の言葉は最後まで続かない。
何故なら、










「むーぎのーん」









―――背後から、冷たくて歪んだ音がしたから。



425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/07(月) 09:55:28.09 ID:f0+Zu3GDO


背筋から汗が噴き出るのを捉える。
全身が固まったように動かなくなったのを感じ取る。
携帯から少女の声が虚しく響くが、麦野の手からスルリと落ちた携帯は誰にも拾われない。


時が止まった。
全てが彼女の中から除外される。

思考も。
携帯も。
場所も。
第0位も。
ツンと来る匂いも。
仲間も。
浜面さえも。
どうでもよくなっていく。


心の底から振り返りたくないと思った。
これ程までに今が夢であって欲しいと思ったのは何時以来だろうか?






「むーぎのーん?」






再度。今度は尋ねるような口調。



426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/07(月) 09:56:43.47 ID:f0+Zu3GDO

それを切っ掛けに体が震え始めた。微動だにしなかった身体を緩慢と動いて、振り返る。



“ソレ”を目にした瞬間、ソレ以外の視界全てがモノクロになった。



周りなんて見えてなかった。
周りなんてどうでも良かった。
ソレしか眼中に無い。
いや、目が離せなかったのだ。

体の奥底から恐怖を感じる。
それは垣根帝督よりも。
はたまた浜面仕上よりも。
彼らの恐怖なんて底辺だ。目の前のソレの方が遥かに凌駕しているだろう。



427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/07(月) 09:58:44.75 ID:f0+Zu3GDO


記憶から消えていれば、“ソレを忘れて”、笑っていたのかもしれない。
記憶から消えていれば、“今の自分”は、無かったのかもしれない。
記憶から消えていれば、全てを忘れたまま……倖せに生きていられたかもしれない。






「結局、久し振りって訳よ~」






―――フレンダという、存在を。



瞳に殺意を宿し、フレンダは狂笑する。
ケタケタと笑い。
クククと笑い。
ハハハと笑い。
ゲラゲラと笑う。

嘲るように嗤うのは、何に対してか。他者か。己か。

或いは学園都市か。




「まあ結局さ、再びこうしてお涙頂戴の感動ストーリーみたいに再会した訳だけど」




くしゃりと顔が歪み、告げる。




「―――死んで♪」



428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/07(月) 10:04:18.91 ID:f0+Zu3GDO



―――――――――――――――



御坂美琴は機会だらけの囲われた空間に居た。戦闘や実験だけに用いられそうな場所だ。
おそらく何処かの研究所。自分は第0位の空間移動によって飛ばされたのだろうと冷静に判断出来た。
超電磁砲とかで穴を空け、脱出して再び第0位の所へ向かえばいい。
……そう、結論付けていたのだ。




―――目の前に居る、人物を見るまでは。




「…………」




無言で、告げている。
態度が、告げている。
他の誰でもない、私へ。


初めまして、と。


だから、認められなくて。
問い掛けだけが口から零れて。




「アンタ……?」




戸惑いだけが露骨で。
動揺だけが隠せなくて。

それもそうだろう。“敵”だなんて考えたことも無かったから。
目の前の人物から感じる溢れる殺気を否定したくて堪らなかったから。



429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/07(月) 10:05:28.55 ID:f0+Zu3GDO




「どうも、お姉様」




言葉を、紡ぐ。
空虚な瞳が、射抜く。

夢では無い。現実だ。




「ミサカは、00001号の前に造られた個体。……検体番号『00000号(フルチューニング)』と言います」




自分と瓜二つ。写し鏡のよう。
ガチガチに固まった全身に恐怖が迸る。

一方通行よりも。
上条当麻さえも。

二人から感じた恐怖を、目の前の妹は遥かに凌ぐ。




「どうやらミサカに命令が下ったようです。“オリジナルと殺し合え”と」




それは歴とした宣告。

未だトラウマを覚える過去に。
古傷を掘って抉るように。




「そんなわけでお姉様」




神は、彼女に残酷過ぎる試練を与える。







「―――ミサカに殺されて下さい」


ヴェント「私の背中はアンタに預ける」【後半】



転載元
ヴェント「私の背中はアンタに預ける」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1297378977/
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         コメント一覧 (7)

          • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年03月22日 21:55
          • これ読みたかったから助かるわ、禁書のSSなのになぜか暇Pぐらいでしかまとめてなかったんだよなぁ。
          • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年03月22日 21:57
          • 俺のハンドルネームがタイトルにあったからビックリしたわ
          • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年03月23日 00:17
          • お前に預けるくらいならロッカーに預けるわ
          • 4. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年03月23日 02:15
          • 1 表現がちぐはぐで読む気が失せる。

            「布越しからも露呈」ってなんだ。
          • 5. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年03月23日 02:39
          • 体言止めと漢語多すぎて読みにくいったらない。わざと難しい言い方に直して格式高い感じに見せようとしてるけど、使い方を間違えてるせいで逆に稚拙に見える。
            これなら会話文だけでいいのに。
          • 6. 華
          • 2013年03月23日 09:29
          • 5 いっす!
          • 7. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年10月03日 13:59
          • 5 これって後半以降の文は書いてないのかなぁ?
            すっっごい好きなんだよね、ヴェント さん良いぞ〜〜。

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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