TOP

魔王「ああ……世界は美しい」

1:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/15(金) 11:46:27.09 ID:dNNH7u2a0

勇者「拒否権はないんだな」の続きです



3:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/15(金) 11:59:43.48 ID:dNNH7u2a0

癒し手「側近さん、そろそろ街へ行きませんか……もうすぐ日が暮れます」

側近「ああ……そうだな。今日は随分歩いた。疲れたか?」

癒し手「いえ、それは大丈夫なのですけど……多分、雨が降ります」

側近「……感じるのか?」

癒し手「はい……私達は良いですけれど」

側近「……そうだな。幼子の身を濡らす訳にはいかん」

癒し手「……ぐっすり、眠っていますしね」

側近「可愛い……寝顔だ」

癒し手「……ええ」

側近「どうした……浮かない顔だ」

癒し手「この子の為にも、今の……平和が続いて欲しい。ですが……」

側近「……ああ」

癒し手「複雑です……后様のご懐妊の知らせは……とても嬉しいのですけど」

癒し手「お生まれになるとき、もし……光に抱かれて、産まれて来られるのなら」

側近「ああ……平和は、続かない」

癒し手「もし……魔王様のお子様が勇者であられなくても…同じですね」

側近「そうだ……魔王が居る限り、勇者は必ず……産まれてくる」




5:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/15(金) 12:20:36.17 ID:dNNH7u2a0

側近「複雑、だな」

癒し手「……はい。勇者は、魔王を倒します……から」

側近「………」

癒し手「仕方ないのは分かっています。できれば……貴方と。この子と……みんなで」

癒し手「幸せになりたいと……思ってしまいます」

側近「我が子の幸せを願わない親は居ない」

癒し手「……はい」

側近「とりあえず、急ごう。目を覚ます前に宿を見つけなければ」


……
………
…………

使用人「お加減、如何ですか后様……お茶をお持ちしました。余り根を詰められてはお腹に悪いですよ」

后「ああ、ありがとう、使用人……魔王は?」

使用人「朝から書庫に篭もっておられます」

后「またなの……いえ、そうね。そうよね……」

使用人「……はい」

后「側近達からの連絡はあった?」

使用人「まだですが……そろそろ戻るのでは無いでしょうか」

后「そうね……どこまで行ってるんだかわからないしね、あの子達」

使用人「エルフの里は……見つかったんでしょうか」

后「どうかしらね……地上であり地上で無い、この世の物とは思えない楽園、だっけ?」

使用人「はい」

后「……光を掴んで、瓶に詰めようとするような物なのかもね」

使用人「………」

后「貴方は……何か知らないの?エルフの里の事」

后「随分……長い間を生きているんでしょう」

使用人「エルフについての知識は多少ありますが……その里についてまでは」

使用人「旅立たれる前に、癒し手様にも聞かれましたが……」

后「そう、よね……」

后(本当に……不可能に近い事ばかり、やっているのかしらね、私達……)




6:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/15(金) 12:37:10.27 ID:dNNH7u2a0

……
………
…………

魔王「本当に良いんだな」

戦士「構わん」

魔王「……願えば叶う、か。お前も……簡単に言ってくれるな、使用人」

使用人「申し訳ありません。ですが……事実ですので」

戦士「だが……それが心理なのかもしれん」

魔王「……世界の心理、か」

魔王(知るには未だ……ほど遠い)

魔王「で、どうすれば良いって?」

使用人「戦士様の身に印を触れさせ、願えば良いのです」

魔王「魔族になれ、てか……」


カチャ、パタン
僧侶「……戦士さん、ゆう……魔王様」

魔法使い「………」

戦士「……向こうの部屋で待ってろと言っただろう」

魔法使い「僧侶を責めないのよ、戦士」

僧侶「すみません、戦士さん、でも……」

僧侶「どうしても、この目で……見ておきたいんです」

戦士「……好きにしろ」




7:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/15(金) 12:46:56.83 ID:dNNH7u2a0

魔王「良いんだな、戦士」

戦士「ああ……何度も聞くな」

魔王「すまん……」

魔王(戦士の手を握って……願う、か……)

魔王(こんな事で……)


ジュウゥ…

戦士「!? ……ッ ぅ、あ……ッ」

魔法使い(魔王様に触れられた所から……煙が!?)

僧侶「せ、戦士さん……ッ」

戦士「寄るな!………う、ぅああああああッ!!」

魔王(流れ込んでくる……人の、命、か……これ……!?)

魔王(魔力が……黒い何かが、逆流する……!!)


シュゥウゥ……

戦士「……ッ …? 終わった、のか」

魔王「ああ……お前の……人だったお前の命は、俺の中で燃え尽きて……消えた」

僧侶「せ、戦士、さん………ッ」ガタガタ
魔法使い「………私も、見ない方が良いって止めたのよ」ギュ。ソウリョナデナデ
僧侶「だ、大丈夫、です……大丈夫……です」




8:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/15(金) 13:25:15.41 ID:dNNH7u2a0

僧侶(こんなに、こんなに……容易く、人と言うのは……)

僧侶(魔へと……転じる事ができるのですか……)

僧侶(ああ、でも……)ポロポロポロ
魔法使い「……僧侶」ギュ
僧侶「大丈夫です……魔法使いさん」

戦士「……変わった風には思えないんだが」

使用人「内なる声に耳を傾けて下さい」

使用人「……貴方の気配は、最早……魔そのものです」

戦士「……そう、か」

魔王(……確かに、俺は戦士の命を飲み込んだ)

魔王(魔力を放ち、力を与えた筈なのに)

魔王(……どうして、こう…身体に力が、漲るんだ)

魔法使い「次は、私ね」

魔王「魔法使い………」

魔法使い「ストップ。もう決めた事よ………聞かないで」

魔王「分かった……我慢しろよ?」




9:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/15(金) 13:31:01.21 ID:dNNH7u2a0

魔法使い(魔王様の手から……凄い力を感じる)

魔法使い(触れた場所が……熱い……ッ)ジュゥ
魔王「……すぐに、済む」

魔法使い「あ……ッ ァ …!」ガクッ
魔王「お、おい……ッ 大丈夫か!?」

魔法使い「ええ……… へ、いき……」ハァハァ
魔法使い(何、これ……ッ)

魔法使い(身体の中が、熱い……ッ 炎が、渦巻いているのが分かる……)

魔法使い(押さえなきゃ……ッ うぅ……ッ)

魔法使い「あ、ぁ………ッ」ウェッ
僧侶「魔法使いさん!」

魔法使い「い、い……大丈夫よ、僧侶……」

魔法使い「……それより、教えて頂戴、使用人」

魔法使い「あの人達は、消える前に言ったわ……私達は、全て知る事ができると…ッ」

使用人「はい……ですが、どうぞ先にお休みを」

使用人「……魔力の暴走は危険ですから」

魔法使い「………ッ」

使用人「お茶の用意をしてまいります。お話はその時に」


パタン



10:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/15(金) 13:36:16.22 ID:dNNH7u2a0

魔王「……確かに、二人は魔族になったのか、僧侶」

僧侶「………」

魔王「僧侶?」

僧侶「あ、申し訳ありません……!」

魔王「……いや、俺こそすまん」

魔王「使用人の言う通りだ……少し休もう」

魔王「俺たちには………嫌になる程の時間がある筈だ。今は、まだ」

戦士「………」

魔法使い「………」

僧侶「……はい」

魔法使い「とりあえず、のんびりしてましょ……お茶、もって来てくれるまで」

魔王「いや、お前と戦士は部屋で休め。横になってた方が良いだろう」

戦士「そうしたいのは山々だがな」

魔法使い「残念ながら……動ける気がしないのよ」

戦士「そういう事だ」

僧侶「………」

魔法使い「ここに座り込んでるから大丈夫よ」

魔法使い「……流石魔王の居城ってだけあって……絨毯もふかふかよ」

魔王「……そうか」

僧侶「………魔王様は、感じましたか?」

魔王「ん……? ……ああ」

魔王「初めて実感したよ……俺は、確かにもう、人間じゃ無い」




29:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/16(土) 18:08:36.25 ID:DUVGqik5P

魔王「戦士と魔法使いの身体に触れて……使用人が言うとおり、願った」
魔王「人を捨てて、魔族になれ、とな」
魔王「そうしたら……何かが流れ込んできて……何かが、放出された」
魔王「……人としての命、と俺の魔力…だと思う」
魔王「……だよな、僧侶?」
僧侶「………はい」
戦士「………」
魔法使い「………」
僧侶「人としての命の炎が徐々に魔王様に吸い込まれて」
僧侶「代わりに……魔王様の魔力が、戦士さんと魔法使いさんの身体の中へと」
僧侶「流れ込んでいくのを……確かに、感じました」
魔王「………」




30:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/16(土) 18:14:18.21 ID:DUVGqik5P

僧侶「……お二人の身体……今まで人間でしか無かったお二人の身体に」

僧侶「異質な……しかも、とても強大な魔力が注がれたので……」

僧侶「……見ているだけでも、胸が張り裂けそうでした」

僧侶「……すみません。とても言葉は悪くなりますが」

僧侶「吐き気が、しました……嫌悪感、です。あんなにも容易く、命が奪われ……る、なんて」

魔王「いや……良いんだ、僧侶」

魔法使い「分からなくは無いけどね……命が奪われる、ってのは大袈裟ね」

戦士「ああ……確かに……苦しかったがな」

僧侶「………」

魔王「いや……多分僧侶が……感じたのは」

魔王「完全に……俺の中にお前達二人の命が吸い取られた様を感じたから故の……感情だろう」




37:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/17(日) 08:41:48.80 ID:vXtRPY5FP

魔法使い「……成る程ね」

戦士「どういう意味だ?」

僧侶「………」

魔法使い「相変わらず脳筋ね……良いわ、説明したげる」

魔法使い「簡単に言うと、私達は一度死んだ」

戦士「!?」

魔法使い「私達の命は、完全に……魔王様に吸い取られた」

魔法使い「そして、魔王様の魔力を身体に注がれて、新たな命を得た」

戦士「……魔族としての、命か」

僧侶「………」

魔法使い「さっきは大袈裟だなんて言っちゃったけど……」

魔法使い「改めて……口にすると、確かに。僧侶の気持ちも……分かるわね」

戦士「………そうか。しかし」




38:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/17(日) 08:48:49.37 ID:vXtRPY5FP

戦士「自分で決めた事だ。それに……人では無いと言え」

戦士「俺も、魔法使いも……生きている」

戦士「……余り、嘆かないでくれ、僧侶」

戦士「大丈夫だ」

僧侶「……はい」

魔法使い「……すっきりしない顔ね?」

僧侶「……すみません」

魔法使い「あ、ごめん……その、他意は無いのよ?」

僧侶「はい、分かっています……あの」

僧侶「魔法使いさんの仰るとおり……」

僧侶「人間としての、戦士さんと魔法使いさんの命は……魔王様に吸い取られ」

僧侶「お二人は、一度……確かに人としての生を終えられたのだと思います」

僧侶「ですが、魔力の……魔王様の、とても強い魔力に与えられた模擬的な死ですから」

僧侶「命の炎を抜き取られたとは言え、まだ……器は、残ります」




39:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/17(日) 08:54:31.05 ID:vXtRPY5FP

魔法使い「器……身体の事ね、この……肉体」

魔王「………」

僧侶「はい。そこに魔王様の魔力を注ぐことで……器に残る、加護の力と相まって」

僧侶「新たに、魔族としての生を得られた………と、解釈して良いと思います」

戦士「さっきよりは随分落ち着いた故に感じるのかもしれないが」

戦士「確かに……身体の中に、不思議な……強い力があるのが分かる」

魔法使い「………」

僧侶「はい……戦士さんは、多分……もう、心配ないと思いますが……」

魔王「戦士、は?」

僧侶「……魔王様も気付いていらっしゃるのでは?」

魔王「……ああ。気付いていると言うよりは、さっきの使用人の言葉が気になっている」




40:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/17(日) 09:01:25.26 ID:vXtRPY5FP

魔法使い「魔力の暴走……ね」

魔王「ああ」

僧侶「戦士さんは……元々、魔法自体お使いになれる訳では無かったので」

僧侶「新しい環境になじむ迄……違和感を感じる程度だと思います」

戦士「……ああ。正直、俺の何処が変わったのか……いまいち分からんぐらいだ」

僧侶「魔法使いさんは………先ほどから、まだ……お顔の色が」

魔法使い「まぁ……別に隠そうとは思ってないわよ、て言うより……隠せないわよね」

魔王「……辛いのか?」

魔法使い「辛い……と言えばそうね。とにかく……平静を保っていないと…暴れ出しそうなのよ」

魔法使い「身体の奥から……どんどん熱い、炎の力が溢れて来る」

魔法使い「理性で押さえ込まないと……ッ」

僧侶「魔王様、どうにか……ならないのですか?」


コンコン、カチャ

使用人「失礼致します。お茶のご用意ができました」

魔王「その前に、魔法使いを見てやってくれないか、使用人」

使用人「ああ……落ち着きませんでしたか」




41:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/17(日) 09:08:30.84 ID:vXtRPY5FP

魔法使い「随分……涼しい顔ね、アンタは……ッ」

使用人「そうですか……いえ、申し訳ありません」

使用人「何か、変わったのかと……思っておりまして」

魔王「?」

使用人「……以前も、そうでしたから。魔導将軍様が、今の魔法使い様と同じように」

使用人「暴走一歩手前の状態でしたので」

魔王「……同じ、変わる。成る程な……しかし話は後だ」

魔王「魔導将軍はどうやって暴走を押さえたんだ?」

魔法使い「……すぐにどうこう、なる訳じゃないわ、魔王様」

魔法使い「私は魔導将軍の……その話、聞きたいわね」

魔王「でも、お前……」

魔法使い「大丈夫よ、どうにかなりそうなら……アンタがどうにかしてくれるでしょ、魔王」

魔王「……そりゃ、まあ」

使用人「では、手短に。魔導将軍は魔力の暴走を沈める為に、あえて魔力を放出されました」

僧侶「え、でも……!?」

使用人「落ち着いて下さい、僧侶様」




42:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/17(日) 09:13:07.44 ID:vXtRPY5FP

使用人「放出されたと言っても、その魔力を具現化させ、翼となしたのです」

魔王「あ………!」

戦士「確かに……空を飛んでいたな、あいつは」

僧侶(そんな事まで……出来てしまう、のですか……)

魔法使い「成る程、ね……彼女の燃える様な色の、あの翼……」

魔法使い「彼女の魔力の結晶と考えれば……納得いくわ」

魔王「人から魔へと変じただけで、姿形が変わる訳じゃ無いんだな」

使用人「……行使する方のお力にも寄りますよ」

使用人「魔王様だけが、人を魔へと変じる事ができる訳では無いんです……よ」

魔王「そう、なのか?」

使用人「……その話は、また後ほど。魔法使い様、やり方は……分かりますか?」

魔法使い「………」

僧侶(魔法使いさん……さっきより、顔色がさらに悪く……)

戦士「………」




43:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/17(日) 09:21:21.61 ID:vXtRPY5FP

使用人「意識を貴女様の内側の、渦巻く炎に集中してください」

使用人「一カ所にまとめて放出させ、それに、形を与える事をイメージして下さい」

魔法使い「簡単、に……ッ 言ってくれる……わ、ね……!」

使用人「魔王様、念の為……部屋に結界を」

魔王「……え!?俺!? ……結界、って……ど、どうやんの!?」

戦士「おい……ッ」

使用人「願うのです。イメージして下さい」

魔王「お前本当に簡単に言うな……ッ こう、か……ッ」パシンッ
僧侶(……黒い、結界が広がって行く……ッ く、るし……ッ)

僧侶(……戦士さん達は、平気なのね……でも、私には……ッ)

魔法使い「……ッ 冗談、じゃ無いわ、同じ……ッ に、しないで、よね!」


ゴォォッ

僧侶「う、ぁ……熱ッ」

魔王「魔法使い!」

戦士「……ッ」


シーン……

魔法使い「ハァ、ハァ………」バタンッ



44:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/17(日) 09:45:01.22 ID:vXtRPY5FP

魔王「魔法使い!」

魔法使い「……だ、い ……じょ ……」

魔王「ああ、しゃべるな……良いから」ギュ
使用人「まぁ……」

戦士「どうなった?」

僧侶(結界が………消えた。やっと……息が、できる)

戦士「……変わって無いように見えるが」

使用人「……押し込めましたか」

魔法使い「内側か外側か……やり方は一緒でしょ」

魔法使い「使用人の話の通りやっただけよ……ただし、自分の身体の中に、ね」

僧侶「具現化させずに……制御、したのですか」

魔法使い「……制御、なのかなぁ」

使用人「気分は如何です、魔法使い様」

魔法使い「随分ましよ……吐き気も収まったし」




45:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/17(日) 09:53:06.00 ID:vXtRPY5FP

魔王「……無理すんなよ、魔法使い」

魔法使い「大丈夫……平気よ」

僧侶「………」

戦士「僧侶……どうした?」

僧侶「あ……いえ。ほっとして、ちょっと……力が抜けました」

戦士「そうか」ニコ
僧侶(やはり、私は……ここに居る訳には。でも……)

魔王「……とりあえず、落ち着いたところでお茶にするか」

魔王「折角使用人がいれてくれた事だし」

魔王「……君も席についてくれるね、使用人?」

使用人「仰せのままに……では準備致しますので」

使用人「その間に魔王様は、お二人に名をお与え下さい」

魔王「名前?」

使用人「はい。人から、魔へと転じられた身には、新しい名を」

使用人「魔王様から命と名を戴いて漸く、完全な魔となられるのです」




48:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/17(日) 13:32:47.99 ID:vXtRPY5FP

魔王「成る程ね……んじゃ」

魔王「戦士は側近な、魔法使いは……后」

側近「俺は異存は無い……が……さっきも言ったが………」

魔王「僧侶とエルフの里を訪ねる為に旅に出るんだろ?」

魔王「別に構わないよ、俺は。後は……」チラ
魔王「お前次第………魔導将軍、とかの方が良いか?」

后「馬鹿ね……嫌に決まってるでしょ。それに……」

后「私が二人の旅立ちに反対する訳無いじゃ無い」

魔王「………良し」

使用人「どうぞ、熱いのでお気をつけ下さい」

僧侶「あ、良い香り………ありがとうございます……あ、あの、魔王様?」

魔王「ああ……なんだ?僧侶」

僧侶「……私にも…何か、名を……戴けませんでしょうか?」

魔王「そりゃ構わないが……良いのか?」




50:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/17(日) 13:41:18.04 ID:vXtRPY5FP

魔王「…義理の父親から貰った名だろう」

后「良いじゃないの、魔王様。僧侶だって大切な私達の仲間よ」

魔王「…呼び名が変わろうがどうだろうが、大事には違い無いぞ?」

側近「僧侶の気の済む様にしてやってくれないか、魔王様」

魔王「……ああ、まぁ……僧侶がその方が良いって言うなら」

魔王「なら……癒し手」

癒し手「はい……ありがとうございます」

魔王「さて……じゃあ、使用人も席についてくれ」

魔王「聞きたいことが……山ほどある」

使用人「はい」

魔王「とりあえず……俺の事についてだ。身体の事や、力の事。さっきの話の続きもだな」

后「時間は限りなくあるのよ、今は、まだ……」

側近「そうだ。焦る必要は無い」

癒し手「はい。次代の勇者様が、お生まれになるまで……」

癒し手(だけど……私は……魔族ほどの、命は……)

魔王「俺自身の事で申し訳ないが、皆にも聞いていて欲しい」

側近「当然だ……それに、お前だけに留まる話ではない」

后「そうよ。これからの……私達に、関わる事」

癒し手「はい……未来を変えるために、必要な事です」

魔王「ああ、じゃあまず………」


……
………
…………



53:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/17(日) 15:31:58.23 ID:vXtRPY5FP

カチャ、バタン

魔王「ああ、良い匂いだな……俺にもくれる?使用人」

使用人「はい、すぐにご用意致します」

后「あんまり夢中になると疲れるわよ……て、あら……その鳥は?」

魔王「書庫の扉に激突してきた……ほら、手紙が着いてたぞ」ハイ
后「……ふふ、怪我は……大丈夫みたいね」アリガト
魔王「癒し手の使いらしい、と言えばそれまでなんだがな……后、身体はどうだ」

后「大丈夫、良い気分よ……ええと」

后「……港街から船に乗る、ですって。一週間ぐらいで着くかしらね、ここまで」

魔王「そうだな………何年ぶりだろうか」

后「……50年ほど、かしらね」

魔王「そうか………」

使用人「魔王様、どうぞ」

魔王「ああ、ありがとう」




54:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/17(日) 15:38:34.55 ID:vXtRPY5FP

后「使用人、この蒼い小鳥さんにもお水あげて頂戴?」

使用人「はい……おいで」ピピピ……
魔王「もう……腹の中で動くのか?」

后「まだ無理よ……もう少し、後二月ぐらいしてからじゃない?」

魔王「そ、そうか……まあ、大して腹大きくなってないもんなぁ……」

后「……人と同じ、であるならね」

后「私も、魔王も……」

魔王「ああ……だけど。俺は人間で産まれてきたぞ?」

后「そうよね……でも、それは……」

魔王「勇者だから、か」

后「………そうよね?使用に………」


ピィイイイッ

魔王「? ……どうした?」

使用人「………小鳥が」

后「……ッ 死んでる?何故……」

使用人「水を一口飲むと……急に」

魔王「………」

使用人「恐らく……」

魔王「俺の魔力の及ぶ範囲にある水を、ハーフエルフの力の具現でしかない小鳥に与えたから、か?」

后「待ってよ、今までも何度もこうして」

后「癒し手の蒼い小鳥で文のやりとり、したじゃないの!」

使用人「………恐らく」




55:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/17(日) 15:45:22.43 ID:vXtRPY5FP

使用人「后様の中で新しいお命……勇者様が育ち行くに連れ」

使用人「……魔王様の身、そして力に変化が現れたのでしょう」

魔王「………」

使用人「それにしては、時期が早い気が……しますが」

后「……それは、経験則ね?」

使用人「はい。復活準備に入られるのは、遅くても勇者様の生後一ヶ月前後」

使用人「……ですが」

后「前代未聞の特異点の未知数、ね」

使用人「はい。 ……癒し手様の身に、何か」

魔王「……あんまり不吉なこと言わないでくれ、使用人」

后「側近が付いてる限り……何も無いと思うんだけど」

后「二人には……子供も居るのだし、無茶はしないはずよ」

魔王「……そうだな」




56:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/17(日) 16:45:59.50 ID:vXtRPY5FP

魔王「何にしても……もうすぐ、だ」

后「そうね……もう、すぐ」オナカナデナデ
魔王「喜ばなくちゃいけない……んだ、后」

后「ええ……新たな、命の誕生」

魔王「そうだ……おそらく……」

后「勇者の、誕生。光に導かれし……運命の子」

魔王「俺が言うのもおかしいけど……勇者が魔王からしか産まれないとすれば」

魔王「……おかしな話だよな……本当に、腐った話だ」

后「ええ……腐った世界」

魔王「腐った世界の、腐った不条理、か」

魔王「誰が……言ったか知らんが……よく言ったモンだよ」

后「……変わるわ。否……変わって来ているのよ」

后「この子が、無理だとしても」

后「……何れ、終わる……と信じたいわ」

魔王「前代未聞の特異点、か……早く、会いたいな」

后「ええ………50年ぶりに、ね」


……
………
…………



57:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/17(日) 16:59:21.12 ID:vXtRPY5FP

船上

側近「目が覚めたか……もうすぐ、最果ての街だの港に着く」

癒し手「ええ……気配で」

側近「そうか……息子は……どうした?」

癒し手「……さっきから、泣き止まないんです」オギャアオギャア
側近「……俺が抱こう。どうした、息子……」ヨシヨシ
癒し手「何か……感じているんでしょう、ね」

側近「お前の子だから……な。エルフの血が受け継がれているから」

癒し手「……ハイ」

側近「そんな不安そうな顔をするな」

癒し手「ですが……」

側近「まだ……気にしているのか、小鳥の事」

癒し手「……それだけじゃ……無いです」

側近「ああ……癒し手、旅立つ前に……約束した筈だ」

癒し手「分かっています……隠し事は、しません」

側近「なら、良いんだ」

側近「良い事も悪い事も……全部、お前と共有したい」

癒し手「ハイ……」


「港に着くぞ!」


側近「……下船の準備をするか」

癒し手「はい。ここからは……徒歩ですね」

側近「ああ……辛くなったら言えよ。急ぐ旅じゃない」

癒し手「……はい……あ、あれ……」

側近「……ん?」




58:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/17(日) 17:12:28.08 ID:vXtRPY5FP

使用人「お待ちしておりました。側近様、癒し手様……それから」

側近「……息子だ」

使用人「息子様……どうぞ、馬車を待たせてあります」

癒し手「まぁ……良く解りましたね」

使用人「ええ、后様の遠見術で……お二人とも、自分が行くと言い張って」

使用人「お止めするのに苦労しました」

癒し手「ふふ……変わりませんね、あの人達は」

側近「ああ……全くだ」


……
………
…………

魔王「側近!癒し手!」

側近「魔王自ら出迎えとはな」

癒し手「所謂王様、の所行ではありませんね」クスクス
側近「后様は?」

魔王「部屋に閉じ込めてきた!」

側近「……おい」

魔王「いや、だって、なぁ?大事な時期だぞ!?」

魔王「夜風は身体に悪いだろう!?」

側近「……ああ、うん、まぁ」

癒し手「後で燃やされちゃいますよ、魔王様」クスクス
魔王「俺が燃やされない為にも、早く中に入ってくれ」

魔王「疲れただろう?それに……子供も寝かしてやんないとな」

癒し手「ええ……そうですね」

魔王「息子、だっけ?……すぐに食事を準備させるよ」

魔王「……後で、抱かせてくれよな」

癒し手「………はい」

側近「………」




59:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/17(日) 17:22:20.11 ID:vXtRPY5FP

……
………
…………

后「ああ、側近、癒し手………!」

后「良かったわ、無事について……」

側近「俺がついてて何かあるわけ無いだろう……久しぶりだな。体調は如何だ?」

癒し手「まだ、お腹目立ちませんね……」

后「ふふ、そうね……お腹がすくとちょっと気持ち悪くなる位」

后「……魔族になっても、こういうのは一緒なのかしらね」

后「それより……息子ちゃん抱っこしてる側近って………笑える」

側近「……一応父親なんだぞ」ムス
后「分かってるけど、さ……」クスクス
后「使ってくれてるのね、良かった」

癒し手「ええ……折角ご用意してくれたんですもの、暖かそうですしね」

后「おくるみにくるまれてると、いかにも赤ちゃん!て……気がするわよね」

后「私も用意しようかと思ったんだけどね……」

側近「……なんだ?」

后「まあ、良いわ。とにかく食堂に行きましょ」

后「話は、食べながらにしましょ」




60:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/17(日) 17:40:35.61 ID:vXtRPY5FP

……
………
…………

魔王「50年ぶりの再会に」

后「息子ちゃんの健康に」

側近「これからの未来に」

癒し手「未だ見ぬ輝かしい命に」


「「「「乾杯!」」」」バブゥ

魔王「……こうやって揃うのが50年ぶりってのも、信じられない話だな」

側近「そうだな……下手すれば人間の一生分の時間だからな」

后「……変わったんでしょうね、街や……人も」

癒し手「そういえば……遠見術で私達を見たんですよね、后様」

后「……ええ。何だか……妊娠してから、凄く……魔力が強くなったみたいなの」

后「いろんな事ができる様になった……みたいね」

側近「みたい、とは?」

后「試した訳じゃ無いのよ。だけど使用人曰く……願えば」

側近「………叶う、か。便利なもんだな、魔族ってのは」

側近「50年経っても……実感が無い」

魔王「そうだな……俺が一番実感が無いよ」

魔王「勇者から魔王になりました、なんて……」

癒し手「前魔王様達も……こうして、すごして居られたんでしょうね」

魔王「ああ……」

側近「……喜ばねばならん。時間が無い」

側近「意味が良く解らなかった言葉が、今となっては……重い」

后「………」

癒し手「避けては……通れない道です」

癒し手「これからの……未来の為に」


癒し手「私から………よろしいですか?」




68:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/18(月) 09:32:59.44 ID:oYNpMOP0P

癒し手「私の夢は……地上であり地上で無い、この世の物とは思えない、楽園」

癒し手「エルフの里を訪ねる事……でした」

癒し手「この50年、側近さんといろんな場所に行きましたけど……」

癒し手「結論から言えば、見つからなかったんです」

后「………」

魔王「………」

側近「………」

癒し手「あ、でも……途中で、息子が生まれて」

癒し手「いつかこの子が……私の代わりに訪ねてくれれば良いかな、なんて」

癒し手「……その代わり、色々と世界を見て、知識もつけました」

癒し手「側近さんと、途中からは息子も一緒で」

癒し手「とても……楽しかったんですよ」

癒し手「息子も、もうすぐ一歳です」

癒し手「私の血を引いてるので、多分……人の歳で14.5の頃には」

癒し手「成長も止まるでしょう」

癒し手「それまで、ここで……魔王城の中で、色々、教えてあげたいんです」

癒し手「ですが………」

后「………?」

癒し手「ここからは、まだ側近さんにも話してないんですが」

側近「隠し事は……なしだと言っただろう、癒し手」

癒し手「……ここへ、来るまでハッキリしなかったんです」

癒し手「決め手に欠けてたのでどう説明して良いか迷って……」

癒し手「いえ。言い訳ですね、ごめんなさい」




69:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/18(月) 10:03:00.85 ID:oYNpMOP0P

癒し手「この島に近づくに連れて……ハッキリ感じました」

癒し手「魔王様、貴方のお力は50年前より、強くなっておられます」

魔王「……やっぱりか」

側近「気付いてたのか?」

魔王「……小鳥の件でな」

癒し手「はい……死んでしまったんでしょう?」

后「ええ……水を飲んですぐにね」

癒し手「…私の力で具現化した……仮初めの命ですから」

癒し手「本来ならば……たとえば、普通の小鳥の様に弓で射られた等で死んだ場合」

癒し手「遠く離れて居ても私の元に魔力として戻るのですが……」

后「それで……気がついたんじゃ無いの?」

癒し手「言え……魔力が失われたのを感じただけです」

癒し手「戻って来ていません……多分、魔王様に吸収されたのではないかと」

側近「……そうなのか?」

癒し手「推測ですが。私の中には……戻って居ない、のは確かです」

魔王「……そうか」




70:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/18(月) 10:09:27.22 ID:oYNpMOP0P

癒し手「魔王様のお力が……と言うのは、多分」

癒し手「后様のご懐妊が……理由でしょう」

癒し手「次代の勇者様がお生まれになれば、魔王様は……」

魔王「ああ……使用人の話だと、産まれてから一ヶ月ほどしか俺は……俺として居られない」

魔王「話さなくなり、動けなくなり……笑わなくなる」

魔王「そして……勇者がたどり着くまで、お前達に押さえて貰わなければ」

癒し手「……世界を滅ぼしてしまう、ですね」

后「………」

側近「しかし、産まれてくる子が勇者であるとは決まっていない」

癒し手「いいえ……魔王様と后様のお子様は……紛う事無き、光の子でいらっしゃいます」

癒し手「………感じます」

后「……そう、だろうと思ってたけど」

后「癒し手に言われると、疑いようも無いわね」

癒し手「……すみません」

后「なんで貴女が謝るの……喜ばなくちゃいけないのよ、私達は」

側近「これで、魔王を倒す事ができる……曰く、世界を救うことが出来る、か」

癒し手「………」

魔王「后は、気付いていたのか?」




71:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/18(月) 10:20:58.26 ID:oYNpMOP0P

后「勇者が産まれるだろう、って?」

后「そうね……確信は無かったけれど」

后「……私の魔力がこんなに急に高まるなんて、おかしいでしょ?」

后「いくら魔王の力で魔族になったからって……」

后「魔力が強くなる……お腹の子を守らないといけないから?」

后「って、考えたときに……ああ、この子は……やっぱり勇者なのかな、って」

后「……それに、一つ思い当たる事があってね。使用人に聞いたの」

癒し手「前后様はどうだったか、ですか……」

后「そう。あの人は……私達を一瞬の内に、この城まで呼び寄せた」

側近「転移術……か」

后「そう……私も、側近も魔王の力で魔族になって、莫大な力と、永遠に近い生を得た」

后「だけど、二人とも……まあ、側近の場合は特に元々魔法が使えた訳じゃ無いから」

后「時にこれと言って、分からなかったかも知れないけど……」

側近「そうだな……魔法が自由自在に使える様になった訳じゃない」

后「そう……私だってそうよ」

后「炎以外の属性の魔法が使える様になった訳でも無い」

后「基礎能力が底上げされた、って感じなだけだったのよ」

癒し手「なのに……遠見が出来たり、するようになった、ですか」

后「それぐらいなら、身体にも負担かからないだろうし、って」

后「ええ。使用人の言う通りに、試しにやってみたら、ね」

魔王「願えば、叶った……か」

后「そう……でも、癒し手の場合は違うわよね」




72:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/18(月) 10:28:45.54 ID:oYNpMOP0P

癒し手「はい。私は……旅の途中で学んだだけです」

癒し手「小鳥の件にしても……そうです。具現化の方法を知っただけ」

側近「癒し手、お前が隠していたのは……魔王の力が強くなり、自分の力の一部が失われたと」

側近「それだけじゃ無いだろう?」

癒し手「……はい。順番に、お話します」

后「昔に戻ったみたいね……」

魔王「ああ。あの頃も……こんな風に、良く話してたな」

側近「……すまんが、話す前に」

后「はいはい、糖分足りないのね、使用人、パフェとか甘い物、山盛り持ってきて!」

側近「………」ムス
魔王「照れんな」

后「……」プッ
癒し手「……」クスクス
息子(スヤスヤ)




73:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/18(月) 10:41:39.46 ID:oYNpMOP0P

癒し手「……エルフの寿命は、大凡300年と言われています」

癒し手「ハーフエルフの私は、単純に半分として……150年程と推測出来ます」

癒し手「旅の途中、様々なエルフについての文献に触れましたが」

癒し手「ハーフエルフについては、驚くほど知られていなくて……また、記録も残されていません」

癒し手「ですから、寿命についても……本当に推測でしか無いのですが」

癒し手「ですが……」ヒック
后「癒し手……?」オロオロ、ドウシタノ
癒し手「すみません……どうやら、私の寿命は……もう、それほど長くはないと思います」

側近「……な、ん……ッ」ガタッ
魔王「落ち着け、側近。お前が取り乱してどうする」スワレ
側近「……ッ」

后「貴女も落ち着きなさい、癒し手……それは、感じた、の?」

癒し手「……前魔王を倒した時に。この城で、后様と側近さんが魔族へと転じられた時」

癒し手「魔王様、部屋に結界を張られたのを覚えていますか?」

魔王「あ、ああ……」

癒し手「あの時……あの結界の……魔王様の、黒い結界の中で」

癒し手「私は、息が出来なくなりました……正確には、息苦しくなった程度、ですが…」




74:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/18(月) 10:53:38.63 ID:oYNpMOP0P

癒し手「……今、多分……これが無いと、息が詰まりそう、になると思います」コロン
后「綺麗な蒼い石……これは?」

癒し手「私の……水の力を…浄化の水の力を封じ込めた魔石です」

癒し手「港に近づくに連れ、辛くなって来たので……慌てて生成したんです」

癒し手「息子も……泣き止まなかったので」

側近「………癒し手」

癒し手「今、同じ物をおくるみの中に入れてあるんです」

癒し手「あの時、結界が消えた時……息苦しさは感じなくなりました」

癒し手「ですが……魔王様のお力が、強くなった今」

癒し手「私の……寿命が、少なくなった今」

癒し手「これが無いと……私は確実に、ここで……命を削られて行くでしょう」

側近「癒し手!」

癒し手「……この事を告げれば、貴方は……ここに戻りましたか、側近さん」

癒し手「私とこの子の命を、取ってしまう様な方とは思っておりません」

癒し手「ですが……悩まれたでしょう」

癒し手「だから……推測で、告げるのはやめようと思ったのです」




75:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/18(月) 11:02:44.68 ID:oYNpMOP0P

癒し手「確信が無かったのも……本当ですよ、側近さん」

癒し手「魔王様と、私……どちらかだけであれば」

癒し手「……もう少し、気分……ましだったのだと、思うのです、けど」

側近「……癒し手!」ギュ
后「………」

魔王「………」

癒し手「なので、魔王様」

魔王「ん……」

癒し手「この石……魔族の方には、不快な物かもしれません」

癒し手「ですが……」

魔王「阿呆」

癒し手「……は?」

魔王「俺は魔王だぞ、そんなもん、何とも思わんわ!バカタレ!」

癒し手「………ッ」

側近「おい、まお……」

后「………」

魔王「生成するのが負担にならないなら、城中においとけ!」

魔王「あー……! 使用人!」

使用人「お呼びですか?」カチャ
魔王「こういう魔石?みたいなのって、手に入らないのか」




76:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/18(月) 11:08:56.43 ID:oYNpMOP0P

使用人「……これは」

魔王「…どうだ」

使用人「癒し手様の魔力の結晶ですか……」

使用人「……これほどの物はありませんが、しかし……」

使用人「数に物を言わすのであれば……魔除けの石で代用できるのでは」

魔王「良し。すぐに用意してくれ」

癒し手「し、しかし、魔王様……この城には、他にも魔族の方が……」

后「大丈夫よ、魔除け程度じゃ皆、いやぁな感じがする……程度でしょ」

魔王「ああ。どちらにしても、あまり魔族を近づけない方が良いだろう」

魔王「……あ、最たるのは俺か」ショボン
后「アンタは我慢しなさい」

魔王「………」ハイ
側近「……しかし」

癒し手「お心使い、感謝します……魔王様」ヒック
后「な、なんで泣くのよ……」

癒し手「だって、私……まだ、仲間で居て、いいのか、なって……」

魔王「はぁ!?当たり前だろ!阿呆!」

后「そうよ。貴女が居なきゃ」

癒し手「……ハイ」ニコ
側近「しかし……」




77:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/18(月) 11:17:52.67 ID:oYNpMOP0P

后「……側近が心配するのも分かるけどね」

癒し手「あの……大丈夫です。ですが……」

魔王「何だ?まだあるなら、全部聞いてやる」

魔王「側近じゃ無いが……隠し事はなしだ、癒し手」

后「そう……私達は、仲間よ。癒し手」

側近「………」

癒し手「はい……我が儘を、一つ」

癒し手「お子様が……勇者様が、お生まれになったら」

癒し手「息子を連れて、もう一度……旅に出させて下さい」

魔王「……ああ、その方が良いだろうな」

側近「待て!俺も……ッ」

癒し手「貴方は、駄目です、側近さん」

側近「何故だ!俺は……ッ」

癒し手「勇者様がお生まれになれば、后様は……後に、勇者様を連れて」

癒し手「ここを出られます」

癒し手「誰が……魔王様を守るのです!」

側近「………!」

癒し手「……貴方は、何の為に魔族になったか……忘れた訳では無い、でしょう?」

側近「……ッ」ガタンッスタスタスタ

バタンッ

癒し手「………ッ」

后「……そっとしておきなさい、癒し手」

癒し手「………ハイ」

魔王「俺が……見てくる」スタスタスタ



78:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/18(月) 11:32:27.39 ID:oYNpMOP0P

后「前は……魔導将軍に対峙したとき、だったかしらね」

癒し手「……?」

后「こうやって、さ。同じ様に……側近が、頭冷やしに行ったの」

癒し手「ああ……そうでしたね」

后「……変わらないわね。同じ事ばっかりやってる……私達」

癒し手「……ハイ」

后「ねえ、側近や……私は平気なの、癒し手」

癒し手「……? あ、ああ……ハイ。大丈夫です」

后「そう……魔王だけ、なのね」

癒し手「はい……正直、こうして魔王様が傍に居ないだけでも随分……ましです」

后「泣いちゃうわね、あいつ」クス
癒し手「す……すみません」

后「あ、あああ、違うのよ……責めてる訳じゃ」

后「……仕方ないわ。魔王は……魔王だもの」

癒し手「ハイ……でも、大事な仲間です」

后「うん……それだけで、充分よ」

息子「う……わぁああ……」

癒し手「あ、起きた……どうしたの、お腹すいたかな?」ダッコ
息子「ァウー」

癒し手「はいはい、おっぱいねー」

后「……可愛い」

癒し手「もうすぐですよ、后様も」

后「うん……ね、後で抱っこしても良い?」

癒し手「はい、勿論……抱いてあげて下さい」




79:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/18(月) 11:42:41.72 ID:oYNpMOP0P

后「ふふ……悔しがるわね、魔王」

癒し手「?」

后「息子ちゃん、抱っこしたがってたもの」

癒し手「そうですね……この子は、多分……大丈夫ですよ」

癒し手「生命力に満ちあふれて居ますから……私の様に、魔王様の傍に居て」

癒し手「命を吸い取られるなんて事は……無いと思います」

癒し手「私の力が……それだけ弱ってる、と言う……事だと思います」

后「でも、泣き止まなかったんでしょう?」

癒し手「ええ……エルフは、いろんな事に敏感なので」

癒し手「魔王様の力を察したんだと思いますが」

癒し手「……さっき、お話しましたよね」

癒し手「魔王様の力が、強まっているだけで無く、私の力も弱くなっているのだと」

后「……ええ」

癒し手「感じる事が、できなかったんです、ここに来るまで」

后「……?」

癒し手「后様にお会いして、直接目で見て……やっと、宿る物が光であると」

癒し手「確かに、勇者様が産まれてくるのだと……感じました」

癒し手「あの……死んだ小鳥を飛ばした時には、感じなかったんです」

后「………」

癒し手「ここまで来て、感じられて……ほっとしました」

癒し手「ですが、やはり……」

后「残酷な事を聞くわ……後、どれぐらい?」




80:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/18(月) 11:51:19.07 ID:oYNpMOP0P

癒し手「……ハーフエルフの寿命が、150年程度と仮定するなら」

癒し手「後…3~40年、でしょうが……」

后「ここに居る限り、分からない……わよね」

癒し手「はい。それでも……次の勇者様が、魔王様を倒すのには……ぎりぎり、間に合います」

后「………複雑ね」

癒し手「………」

后「ぎりぎり、時間が無い、変わる、同じ………」

后「私達は、結局同じキーワードを、口にし続けているのね」

癒し手「今なら、前后様や、魔導将軍、前側近さんの……気持ちがわかります」

后「うん、分かってしまう………嫌ね、同じになんかなりたくない」

后「私達の手で、変えてやるって思ってたのに」

后「この子達ならば変えられるだろう……って」

癒し手「はい……期待してしまいます。それに……」

癒し手「結局は、同じ……ですね」

后「……ええ」

癒し手「后様、明日から……」

后「ん?」

癒し手「書庫を利用させて戴いても?」

后「勿論よ?」

癒し手「かなり古い文献もあると聞いています」

癒し手「前魔王様を倒してから……殆ど、この城には滞在していないので」

癒し手「楽しみにしていたんです」




81:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/18(月) 11:57:50.11 ID:oYNpMOP0P

后「魔王も随分前から篭もりっぱなしだわ」

后「あ、大丈夫よ、違う部屋でやらすから」

癒し手「あ……すみません」

后「良いのよ、他にもやらすことあるしね」

癒し手「?」

后「とりあえず、その魔石……生成するのに負担は無いの?」

癒し手「魔力を具現化するので……多少は。ですが……」

癒し手「無いとあるのとでは、全然違いますし……」

癒し手「魔除けの石を置いて戴けるだけで、少しは楽になる筈です」

后「ええ、すぐに準備させるわ」

癒し手「ありがとうございます」

后「ああ、息子ちゃん、寝ちゃったわね……貴女も、今日は休んだら?」

癒し手「ええ……そうですね」

后「部屋に案内するわ。後で……ちゃんと側近、行かすから」

癒し手「ええ……」

后「さ、こっちよ」


……
………
…………

魔王「おい、こら脳筋」

側近「………」

魔王「返事ぐらいしろよ………俺が、憎いか?」

側近「……否。そんな事は無い」

側近「自ら望んで……魔族になった。お前を守ると誓ったのは……そのもっと前だ」

側近「その時その時……自分の選んだ道だ。選び取った結果だ……怨むのはお門違いだ」

魔王「………」




82:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/18(月) 12:14:01.93 ID:oYNpMOP0P

側近「辛くないと言えば……嘘になる」

魔王「ああ」

側近「……側近と言う立場に居ながら、殆ど……間を置かず癒し手と旅に出た」

魔王「それは良いだろう、別に。やることも殆ど無いし……俺なんか本しか読んでない」

魔王「まさか魔王自らふらふら出歩く訳にいかんしな……だけど」

魔王「お前と癒し手が……代わりに見て、知って……触って感じて来てくれるからな」

側近「……色々行ったな。息子が生まれる迄は」

魔王「ああ……后が出産するまで、一年近くある」

魔王「また、ゆっくり聞かせてくれよ、后も……楽しみにしてる」

側近「……ああ」

魔王「………」

側近「………」

魔王「………」

側近「癒し手の事だが………」

魔王「……心配するな。傍には寄らん」

側近「すまん」

魔王「……ちょっと寂しいけどな」

魔王「変わらん変わらん、と思っていたが」

魔王「確実に……変わってるんだな」

側近「……喜ばなくては、いけない」

魔王「ああ……そうだな」




83:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/18(月) 12:29:04.79 ID:oYNpMOP0P

側近「分かっていたことだ」

魔王「……ん?」

側近「俺と……癒し手の、生きる時間が違う事」

魔王「………」

側近「俺が人の身であれば、あいつを残して行くだけだった」

側近「魔族となった今は………逆になった。最期を見てやれる」

側近「だが……」

魔王「………」

側近「勇者の誕生を待ち、魔王を倒すのを待つ」

側近「……後……20年も無い」

側近「さっきの癒し手の話だと……」

魔王「俺たちの方が、先……か」

側近「それまで、あいつの命が持てばな」

魔王「………」

側近「旅立ちを、許してやってくれよ、魔王」

側近「……ぎりぎりまで、俺が一人で……どうにかしてみせる」

側近「だから……ッ」

魔王「わかってる。わかってるから……泣くな、側近だろお前」

魔王「……魔王に涙見せる側近って、ナァ……」ヨシヨシ
側近「すまん……わかってる。俺たちは、喜ばなくては……いけない」オトコニナデラレテモウレシクナイ
魔王「………ああ」オマエナグルゾ



84:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/18(月) 12:41:08.95 ID:oYNpMOP0P

……
………
…………

カチャ、パタン……

癒し手「お帰りなさい……」

側近「起きてたのか」

癒し手「……待っていました」

側近「息子は……」

癒し手「そこに……眠っていますよ」

側近「……ああ。可愛い寝顔だな」

癒し手「側近さん……あの」

側近「俺は……お前と、息子を守る」

癒し手「………」

側近「俺たちは、魔王を守る」

癒し手「ハイ……」

側近「正直に聞く、癒し手」

癒し手「………」

側近「どの程度だ。推測で構わん……どの程度……一緒に居られる?」

癒し手「私が……生きていられるか、ですね」

側近「………」

癒し手「3~40年……と、思いたいですが」

癒し手「……いくら魔石や、魔除けの石で魔王様の力を遠ざけても」

癒し手「そこまでは……無理でしょうね」

癒し手「后様のお腹の中で、次期勇者様が……育つにつれ」

癒し手「魔王様のお力は強くなるでしょう」

癒し手「そうすれば……20年にも、満たないかもしれません」

側近「……ぎりぎりか」

癒し手「はい、ぎりぎりです」

癒し手「ですが……」

側近「分かっている……勇者様がお生まれになれば」

癒し手「はい……息子を連れて、旅に出ます」




85:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/18(月) 12:50:17.60 ID:oYNpMOP0P

癒し手「この子を……巻き込みたくはありません、正直……」

癒し手「ですが……」

癒し手「これすらも、腐った世界の、腐った不条理を断ち切る欠片の一部であるなら」

癒し手「………」

側近「……ああ」

癒し手「后様が言っていました」

癒し手「私達も結局……同じ様なキーワードばかり、口にしているのだ、と」

側近「……そうだな」

癒し手「私は、明日から……この子を連れて書庫に篭もります」

癒し手「色々……読んで、時間が許す限り」

癒し手「世界の謎を……探ります」

側近「ああ、無理はするなよ……魔王は近づかせんから安心しろ」

癒し手「……ふふ、魔王様、拗ねて下さいますかね」

側近「拗ねても知らん」ムス
癒し手「……ふふ」

側近「歩む道を違えても……お前は、一生……俺の物だ、癒し手」

癒し手「はい……この身体が朽ちても。貴方の傍にいます、側近さん……」


……
………
…………

魔王「俺自身の事で申し訳ないが、皆にも聞いていて欲しい」
側近「当然だ……それに、お前だけに留まる話ではない」
后「そうよ。これからの……私達に、関わる事」
癒し手「はい……未来を変えるために、必要な事です」
魔王「ああ、じゃあまず………」




86:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/18(月) 13:18:42.09 ID:oYNpMOP0P

魔王「俺の身体はもう、人間じゃ無い。勿論……勇者でも無い」

魔王「勇者の印は……真っ黒だ。僧侶……じゃ無かった、癒し手」

癒し手「ハイ」

魔王「光の力は感じるか?」

癒し手「……いいえ、ですが」

魔王「?」

癒し手「全き闇でも……ありません」

魔王「ん……使用人?」

使用人「それは、魔王様の理性と等しい物です」

使用人「次期勇者様が、お生まれになり、ほぼ一月」

使用人「その頃には、魔王様の理性……いくら魔王に変じられたとは言え」

使用人「貴方は、元勇者……光の残照によって、貴方は理性を保っておられます」

魔王「俺が俺で居られるのは、次の勇者が産まれて一ヶ月まで、か」

使用人「はい……光の残照は、光故に魔と変じたその身を苦しめます」

使用人「そうして完全に闇に溶け、自我を失うまで、一ヶ月」

使用人「後は……勇者が成長し、次の魔王になる器に成長したであろう時……」

使用人「その頃に、復活するのです。世代交代の為に」

后「……今までは、そうだった、よね?」

使用人「……確かに、変わりました。少しずつ」

癒し手「……私、ですね」

使用人「そうです。ですが、それが完全なる魔王の損失に繋がるのかは分かりません」

后「癒し手の存在により、歯車は狂った」

側近「そうだ、既に違った……前魔王は、勇者……お前が、俺たちがここにたどり着くまで……」

使用人「持たなかった……ですね」

魔王「だから母さんは……俺たちを強引に呼び寄せた」




87:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/18(月) 13:26:18.76 ID:oYNpMOP0P

后「とりあえずの結果は、同じだった」

側近「ああ……世代交代」

癒し手「でも、次は確実に変わります」

使用人「はい……正直、私はそれが良いことか悪い事か分かりかねます」

魔王「……使用人、君は……何年生きているんだ?」

使用人「さぁ……はっきりとは分かりませんが」

使用人「前使用人様から、この役目を引き継いで、1000年程かと」

后「……1000年」

使用人「はい。そして、前魔王様の時まで、ずっと同じ事を繰り返し」

使用人「ずっと同じ事を紡いできました」

側近「待て、魔族は……永劫を生きるんじゃないのか?」

使用人「私達魔族は、決して不死ではありません」

使用人「種族や、個人差はありますが……寿命はあります」

使用人「人の様に老いて死ぬものも居れば、若い侭その生を終えるもの、様々です」

使用人「……先ほど、お話ししました、魔王様」

魔王「ん?」

使用人「人を魔となすのは、何も魔王様にだけ限られた特権ではありません」

魔王「……ああ、そういえば」




88:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/18(月) 13:32:43.28 ID:oYNpMOP0P

后「でも、そんな事したら……魔族だらけになっちゃうじゃない」

使用人「やろうと思えば出来る、ですよ……后様」

使用人「ですが、力量と言うのがございますので……先ほど、お二人の人間としての命を喰らい」

使用人「魔王様は、新たな魔族としての命をお与えになった」

癒し手「………やはり、喰らう……ですか」

使用人「はい。魔王様、力が漲っておられるでしょう?」

魔王「……ああ、確かに。あっさりと部屋に結界だとかを張れたしな」

癒し手「………」

使用人「魔王様の力が強大な故に、完璧に近い状態で、人は魔になれるのです」

使用人「これが、中途半端な魔族の所行ならば、自我も残らず……ただの獣と化すか」

使用人「下手をすれば、死にます……勿論。魔王様の行いでも」

使用人「力を注がれる身が、もろければもちません」

后「……成る程ね」

側近「懸念していたのは、それか……癒し手」

癒し手「そこまで、はっきりとは……ですが」

癒し手「やはり……命の炎が消えていくのを、見るのは……気分の良い物では……」

癒し手「勿論、注がれる力が強大なので……心配ではありました」

癒し手「后様、辛そうでしたし……」

后「……そうね、私も聞きたいことがあるわ」

使用人「はい」




89:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/18(月) 13:38:14.85 ID:oYNpMOP0P

后「私は何とか……力を外側に具現化させず、押し込めたわ」

后「魔王の力と、私の炎の力……相まって、強くなったのは分かる」

后「私達は……最早、魔族でしか無い」

后「……産まれてくる子は、どうなるの」

使用人「……人間です。勇者は、人間ですから」

側近「その話だと、勇者は必ず前魔王の子と言う事になるぞ?」

使用人「確証はございません……ですが、勇者が産まれなかった前例も、ございません」

魔王「………」

后「………」

側近「………」

癒し手「………」

使用人「ですから……次、の事は。わかりかねます、としか」

魔王「……良い方にだけ、歯車が狂うとは限らんからな」

側近「魔王!」

魔王「事実だ、側近……」

魔王「お前と癒し手は、旅に出るんだろう」

魔王「……俺と、后に子供が出来る迄」

魔王「こればかりは、産まれてみないとわからん。何時出来るのかもな」

側近「………」

魔王「どれぐらいの時間があるのかはわからんが、俺たちが見れない分」

魔王「お前達で、世界を見てきてくれ」

癒し手「………ハイ」




90:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/18(月) 13:48:48.29 ID:oYNpMOP0P

側近「ああ……定期的に、連絡はする」

癒し手「申し訳ありません……」

魔王「大丈夫だ。執務……とかあるのか知らんが、どうにかするさ」

癒し手「あの、私も……一つだけ」

癒し手「エルフの里……の事。何かご存じありませんか?」

使用人「申し訳ありません……伝承でしか」

癒し手「そうです……よね」

使用人「……あるとも無いとも、ハッキリしない、御伽噺ではないのですか?」

癒し手「ハッキリしないなら、余計……確かめたいんです」

魔王「良し……今日はこのぐらいにしよう」

使用人「そうですね……皆様、お疲れでしょう」

使用人「お部屋の用意をしてまいります。後ほど、呼びにまいりますので……」


……
………
…………

后「ん、夢……?」ムク
后「懐かしい……夢、ね……ぅ」

魔王「んー……」スヤスヤ
后「よいしょ、と……く、お腹重いな……もう、臨月だもんね……」ドン
后「ん………あ、いたた……あら、やだ、これって……」モシカシテ、ジンツウ?
魔王「なんだよ、后……もうちょっと……」ムニャ
后「あ、いたたたた、ちょ、魔王!起きてよ!」イタインダカラ!バシッ
魔王「いってぇ!なに……」ムク
后「陣痛よ……癒し手、呼んで……」ウゥ
魔王「あ、え!?うそ、産まれるの!?」ガバ!



105:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/19(火) 09:51:44.84 ID:MfnuyinZP

使用人「8分間隔……ですね、もう少し、いきむのは我慢して下さいね、后様」

后「……う、ぅ……ッ ちょっと、痛いのよもっとちゃんと腰さすって!」バシッバシッ
魔王「いてぇ! ……やってるんだってば……」サスサス
后「うぅうう……」


ガチャ

側近「癒し手連れてきたぞ。魔王、出ろ」

魔王「お、おう……癒し手、すまん頼むな」タスカッタ
癒し手「はい!お任せ下さい!」タタタタ…
側近「……妊婦の怒りは理不尽だぞ。癒し手の時も大変だった」オツカレ
魔王「おう……大丈夫だ、気にしてない」シバカレタカオガイタイ……ヒリヒリ
癒し手「大丈夫です、魔王様……8分ですか……明け方頃には産まれますよ」

魔王「そんなかかるの!?」

側近「任せておけば大丈夫だ……とにかく、お前は外に出ろ」イヤシテガカワイソウ
魔王「……もうちょっと労って」ワカッテルケド

パタン

側近「………」

魔王「………」ウロウロ
側近「………」

魔王「………」ウロウロ
側近「……落ち着け!鬱陶しい」

魔王「落ち着けるかああああ!」

側近「気持ちは分かるがな……実際、男に出来る事は何も無い」

側近「傍に居てやりたいだろうが……」

魔王「いや、それはな。癒し手の事を考えると仕方ないだろう」

魔王「俺より癒し手の方が、今は必要な筈だし」

魔王「……遠慮無しの后のパンチは痛い」

側近「……」プッ
側近「心配するな。俺も……癒し手に相当どつかれた」

魔王「妊婦ってのは……そんなもんか」

側近「そんなもんだ」




106:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/19(火) 09:59:16.96 ID:MfnuyinZP

魔王「……明け方って言ってたな」ウロウロ
側近「ああ」

魔王「今、何時だ?」

側近「もうすぐ日が暮れる位だろう」トケイトカナイシ、コノヘヤ
魔王「……さっきから、どれぐらい経った?」

側近「まだ30分も経ってない」

魔王「………」ウロウロウロ
側近「……お前やっぱり鬱陶しい!」ドツクゾ!
魔王「お前だって似たようなモンだったんだろ!?」

側近「……外で鍛錬してた」

魔王「何で」

側近「………落ち着かないから」

魔王「………」ホラミロ
側近「………」スマン

カチャ

魔王・側近「産まれた!?」

使用人「そんな訳ないでしょう……でも、もうすぐですよ」

使用人「順調に陣痛も強くなってますし、このままの調子でいけば」

使用人「明け方頃には」

魔王「……それでもまだまだだな」

使用人「大丈夫です。癒し手様がついていらっしゃいます」

使用人「……僭越ながら、私も」

側近「ああ……息子は?」

使用人「后様のベッドの傍で……眠っていらっしゃいます」

側近「……この、大騒ぎの中?」


イヤーオナカイタイーモウヤダー!
キッテー!オナカキッテー!
ダイジョウブデスカラ、キサキサマ、オチツイテ!
アアアア、マダイキンジャダメ!

使用人「……はい」

魔王「……大物になるよ、お前の息子は」




107:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/19(火) 10:06:58.97 ID:MfnuyinZP

使用人「明け方頃には」 →使用人「日が変わる頃には」の間違いorz

……
………
…………

魔王「ウロウロするの疲れた」グッタリ
側近「……そんなお前を見るのにも疲れた」グッタリ
魔王「日、暮れてきたな」

側近「あれから……3時間程か」

魔王「もうすぐ日が変わるか?」

側近「……お前は時間の計算もできんのか」ノウキンメ
魔王「………」ヤカマシイ、オマエニイワレタクナイワ
側近「ん……?」


キサキサマ、モウチョットデス!
アタマガミエテマスヨ!
イヤアアア、モウデル、モウデル!

魔王「!」

側近「……随分早いな」


ハイ、イキンデ!
ダイジョウブデス、ダシテイイデス!

魔王「……無茶言うな、癒し手」

側近「使用人もついてるし……大丈夫だろう」


ウゥウウ、アアアァ……ッ
フ……  フエエエエエ……ッ
オギャアアアアッ!

魔王・側近「産まれた!!!」


カチャ

使用人「魔王様、側近様、産まれましたよ」ニコ
使用人「可愛い、女の子です」




108:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/19(火) 10:22:54.22 ID:MfnuyinZP

魔王「女の子! ……え、女の子!?」

使用人「はい……どうぞ、と言いたいですが」

使用人「先に、癒し手様をお部屋にお連れしますので、魔王様はあちら」

魔王「………ハイ」デモハヤクミタイ
使用人「側近様も、あちら」

側近「……ああ。すまん、息子は?」

使用人「まだ寝てらっしゃいます……一緒にお連れしますから」

側近「……すまん」ワガコナガラズブトイ…

……
………
…………

使用人「……お待たせしました、魔王様。どうぞ」

后「あ……魔王」

魔王「お、おぅ……ええと、お疲れさん」

后「女の子、だって……ほら、見て?」

魔王「うん……あぇ、俺そっくりじゃん……」

后「うん、吃驚するぐらい似てる」

魔王「……お前に似たら美人だっただろうになぁ」

后「ふふ……手、見て」

魔王「ああ……あるな、勇者の印」

后「うん……」

魔王「………名前は、勇者……で良いか?」

后「それしかないでしょ」

魔王「……だな」

魔王「今日は……ゆっくり休んでくれよ」

后「魔王は?」

魔王「俺も今日は休む……と、横で寝る訳にいかないか、勇者いるしな」

魔王「……明日にでも、ベッドを運ぶ」

后「うん……じゃあ、おやすみなさい」

魔王「ああ……寝ぼけて踏むなよ?」

后「は!?赤ちゃん踏むわけ無いでしょ!?」

魔王「違うわ!俺だ!」

后「……なんで」

魔王「……床で寝るから」

后「………」バカ?
魔王「………」バカデモイイ。モウキメタ、ココデネル

……
………
…………



109:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/19(火) 10:33:00.29 ID:MfnuyinZP

側近「ご苦労だったな、癒し手」

癒し手「いいえ……貴方も、ご苦労様でした」

側近「……可愛かったか?」

癒し手「ああ、まだ見ていなかったんですね……ええ、それはもう」

癒し手「魔王様にそっくりの女の子ですから」

側近「……后様に似れば良かったのにな」オンナノコナノニマオウソックリッテ
癒し手「ふふ……でも、大きくなれば似ていらっしゃるかも知れませんよ」

癒し手「髪の色は、后様と同じ赤に近い茶ですし……雰囲気は、ね」

側近「そうか……で、だ……やはり?」

癒し手「ええ……勇者の印を戴いて、産まれて来られましたし」

癒し手「取り上げる前から、溢れんばかりの……光を感じました」フゥ
側近「……すまん、疲れただろう。息子は俺が見てるから、休め」

癒し手「はい……あの」

側近「ん?」

癒し手「明日……いいえ、明後日には」

側近「………」

癒し手「ごめんなさい……」

側近「否……謝る事では……」

癒し手「明日は、三人でゆっくりしましょう」

癒し手「……貴方から、息子を……奪うようで心苦しい、ですが」

側近「それは違う、癒し手」

側近「……大変だろうが、強く……育ててやってくれ」

癒し手「………はい」

側近「眠ろう……」

癒し手「………ハイ」




110:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/19(火) 10:44:54.00 ID:MfnuyinZP

翌日・朝

コンコン

后「はい?」

使用人「失礼しま……魔王様?」ナンデユカデネテルノコノヒト
后「……後でベッド運ばすわ」ホットイテアゲテ
使用人「え、ああ……はい……」

后「どうしたの?」

使用人「……癒し手様が、お話があると」

后「そう……分かったわ……魔王!」

魔王「………」グゥ
后「ごめん、それ、起こして……放り出したら、癒し手呼んで頂戴」

使用人「分かりました……魔王様?」ユサユサ
魔王「あとごふん……」

使用人「魔王様!」ユサユサユサッ
勇者「ふぇ……おぎゃあああ!」

魔王「はい!?」ナニ、ナニドシタ、ウマレタ!?
后「起きろ」

魔王「……ああ、そうだ産まれてた」

使用人「………」

后「癒し手を呼ぶから……出てって?」ニコ
魔王「……うん、間違えてないのは分かるんだけどな」モウチョットヤサシクシテ

……
………
…………

癒し手「失礼します、后様……お加減、如何です?」

側近「失礼する……ああ、本当に……魔王そっくりだ」ザンネン
后「うん、平気よ癒し手……気持ちは分かるけど、失礼よ側近」

息子「あかちゃんー!」

癒し手「后様……あの」

后「……行くのね?」

癒し手「はい……明日の朝には」

后「そんなにすぐに? ……ああ、でも」

癒し手「はい……時間が、ありません」

側近「………」

癒し手「ですので、今日は一日……側近さんと、息子と三人で」

癒し手「のんびり凄そうと思います」

后「ええ、勿論……ごめんなさい、ね……」

側近「謝る事じゃ無い。誰が……悪い訳でも無い」

后「……調子は、どうなの、癒し手」

癒し手「良い、とは……決して。ですが……」

癒し手「用意して戴いた魔除けの石と……それから、魔王様の気遣いで」

癒し手「思っていたよりは……多分、ましです」

后「そう……」

癒し手「ですが、お生まれになった今……正直、猶予は無いと思います」

側近「急速に魔王の力は……強くなっていくだろう」

后「そうね……」

癒し手「后様、これ」

后「ん……これ、貴女の……」

癒し手「はい。私の魔力を具現化した、浄化の石です」

癒し手「……貰って、くださいますか?」




114:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/19(火) 11:52:27.19 ID:MfnuyinZP

后「……でも」

癒し手「勇者様のお守りに……なるかはわかりませんが」

后「……ありがたいわ、だけど、貴女の力でもあるんでしょう……身に戻さないと」

癒し手「……いいえ、良いんです。と、言うより……」

癒し手「それを自分の身体に戻す力自体が……私にはもう、無いんです」

后「………!」

癒し手「多分……今、この城にある分全部を合わせても」

癒し手「全盛期の、半分の力にも満ちません。が……勇者様がここにお戻りになった時」

癒し手「もし………私が、居なければ」

癒し手「……勇者様の……魔王様を倒す、助けになるかも、しれません」

側近「………ッ」フイ
后「………」ソッキン……
癒し手「魔王様の力が増せば、壊れてしまって、それまで……もつかの保証もありませんが」

癒し手「これ以外の分は、このまま、置いといて貰えませんか?」

后「癒し手……」

癒し手「魔王様のお力を押さえられるとも思えません、けど」フフ……ポロポロポロ
后「癒し手!」

癒し手「は、はい!」

后「……魔王は、私と側近がどうにか押さえるから……ッ」

后「だから………また、後で、よ」

癒し手「……は、い……」ポロポロ
癒し手「また、後で……です」フエェ……ニコ
側近「……戻ろう、癒し手」

側近「后様も、まだお疲れだろう……それに」

側近「また、会える」

側近(……癒し手、足下が……ふらついている)

側近(時間が……無い、んだな)

后「ええ……ありがとう。ゆっくり休んで……気をつけて、行ってらっしゃい?」ポロポロ
癒し手「はい……行ってきます」




115:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/19(火) 12:03:02.55 ID:MfnuyinZP

息子「まま、あかちゃん、ねてりゅ」ママ、ナイテリュ……
癒し手「ふふ……うん、そうね」ダイジョウブヨ
息子「あかちゃん、ばいばい?」

后「うん……ばいばい。またね?息子ちゃん」

息子「うん!」

側近「……行こう」

癒し手「はい……では、后様」

后「ええ……」

癒し手「また、後で………」


……
………
…………

魔王「そうか。行ったか」

后「まだよ……明日」

魔王「……見送っても、やれないんだな」

后「………」


コンコン

使用人「失礼致します」

后「ああ、ありがとう使用人。全部集めた?」

使用人「はい、全て……側近様のお部屋に」

魔王「浄化の石か」

后「ええ……魔王は近づいちゃ駄目よ。今の貴方だと……全部吸収しちゃうでしょ」

魔王「……そうだな」

后「気分はどう?」

魔王「別にどうってこと無いさ……まだ、な」

后「そうね……」

勇者「ばぶー」

魔王「お?ご機嫌だなぁ」

后「………」

后(一ヶ月……きっと、あっという間に過ぎてしまう)

后(そうしたら、私も………ここには、居られない)

后「魔王……」

魔王「ん?」

后「………ううん」ピト
魔王「……うん」ダキ
魔王「大丈夫だ………勇者は、魔王を倒す」

后「………」




116:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/19(火) 12:15:58.11 ID:MfnuyinZP

翌日、早朝

側近「行くのか、癒し手……」

癒し手「……はい。まだ、息子も眠っていますから」

側近「……本当に、送らせてくれないのか?」

癒し手「魔王様に何かあったらどうするんですか……大丈夫です」

癒し手「使用人さんが、馬車を用意してくれました」

癒し手「船の手配も……なので、大丈夫です」

側近「……ああ」

癒し手「側近さん、これ」

側近「……息子のおくるみ?」

癒し手「はい。勇者様に……息子には、もう小さいですから」

側近「ああ……渡しておこう」

癒し手「………」

側近「………」ギュ
癒し手「側近、さん……」ギュ
側近「息子を、頼む」

癒し手「……はい」

側近「当てはあるのか?」

癒し手「……はい。私が育った教会へ」

側近「……あそこか」

癒し手「以前、側近さんと訪れた時、この為に掃除しておいたんです」

側近「ああ。瓦礫の片付けをさされたな」

癒し手「ふふ……はい」

側近「神父の墓も朽ちた侭だったが……お前が、綺麗にしてた」

癒し手「はい」

側近「……あそこなら、安心だ」

癒し手「はい……神父様が、守って下さいます」

側近「……気をつけて、行ってこい」

癒し手「はい。また……後で」ムスコダッコ……ギュ
息子(スゥスゥ)

側近「……息子。癒し手を頼むぞ……ッ」ナデナデ。チュ
癒し手「側近さん………例え、この世が終わっても、貴方を愛しています」


パタン

側近「………ッ」ウ、ゥ……ッ
側近「……癒し手……ッ」




117:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/19(火) 12:26:26.68 ID:MfnuyinZP

后「……癒し手は、行ったわ」

魔王「そうか……」

勇者(スゥスゥ)

后「……側近は、暫くそっとしておくしかないわね」

魔王「ああ………ッ」ズキン
魔王(なんだ、胸が痛い……?)

魔王(……感傷的にならない訳がないよな、そりゃ……)


コンコン

后「はい?」

使用人「失礼します……癒し手様をお送り致しました」

魔王「ああ……ご苦労だった」ズキン、ズキン
魔王(あれ……まだ痛い)

后「ありがとう、使用人……側近の様子は?」

使用人「こちらを、勇者様に、と」

后「これは……」

魔王「お前が用意してやったおくるみか?」

后「……何だか、ばたばたしてて言いそびれちゃったんだけど」

后「貰うつもりだったのよね……」

魔王「俺が用意しようかって言ったのに……断った理由はそれか」

后「そ。 ……気に入ってるのよ」

使用人「……暫くそっとしておいて欲しいと言われたのですが」

后「……? …ええ、それは別に構わないんじゃ?」

魔王「………」ズキン、ズキン、ズキン
使用人「………違う。早い」

后「え?」

使用人「魔王様……大丈夫ですか。痛みますか?」

魔王「……ッ まだ、大丈夫、だ……ッ」

后「……ッ そんな、まだ……数日よ!?」

使用人「経験則、です。それに過ぎませんが」

使用人「……身に残る、光の残照が魔王様の身体を苦しめ出すのが」

使用人「大凡、二週間。その後は………」

使用人「動けなくなり、目が見えなくなり、喋れなくなり……」

后「……ッ 冗談じゃ無いわ、まだ早いわよ、しっかりしなさいよ、魔王!」

魔王「……だい、じょうぶ……って言ってんだろ……ッ」




118:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/19(火) 13:02:03.58 ID:MfnuyinZP

使用人「……側近様をお呼びします」

魔王「良い! …大丈夫だ。 ……悪い、使用人。横にならせてくれ」

使用人「はい……」

后「…………」

勇者「ばぁ、ぶ……」


……
………
…………

魔王「おぉ、側近」

側近「大丈夫か?」

魔王「いやぁ、なんか仕事お前に任せちゃって悪いなぁ」

側近「構わん。特にこれといってやらなきゃいけない事も無い」

后「たんまに見回りに行く程度ですもの」

后「側近に任せて、寝てなさい……あら、勇者は?」

魔王「……俺の腹の上でよだれ垂らして寝てる…ッ」ゥ…
后「……痛む?」

魔王「んや? …勇者の肘が鳩尾に……入っただけだ」


……
………
…………

側近「……魔王の様子はどうだ」

后「横になると呼吸が楽にはなるんだけど……」

側近「……そうか。今は?」

后「さっき、勇者を抱いて眠ったわ」

側近「……起き上がれ……んのか」

后「支えてやれば……まだ、何とか」


……
………
…………

后「魔王、何してるの、腕ぱたぱたして」

魔王「……后?勇者は?」

后「私が抱っこしてるけど……おっぱいの時間だし」

魔王「そか……なら、良い」

后(……目が、見えてない?)

后(顔はこっち向いてるけど……)メノマエデ、テ、ヒラヒラ
魔王「今日は……随分寒いな」

后(………! 気付かない…!?)




119:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/19(火) 13:11:11.84 ID:MfnuyinZP

……
………
…………

魔王「抱っこさせてくれよぉ」

后「また?もう……」ヨイショ、マオウノウデモッテ、ト
魔王「おぉ。暖かいなぁ……大きくなったか?」

后「……まだ生後二週間よ?」マオウノウデゴトササエテ、ト
魔王「……悪いな、后。腕、動かなくて」

后「気にしないの……でも、10分に一回は勘弁してよ」

魔王「……けち…… ……」

后「魔王……?」

魔王「ん、すまん……うとうと……してた、か」

后「………」


……
………
…………

后「魔王、朝よ?」

魔王「…………」

后「魔王……? …ッ 使用人!」

使用人「お呼びでしょうか」ガチャ
后「側近を呼んで頂戴」

側近「……ここに居る」

后「側近……魔王が」

魔王「…………」

使用人「………魔王様、瞬き、できます?」

魔王「…………」パチパチ
側近「聞こえてるか?」

魔王「…………」パチパチ
后「………」

勇者「だぁ」


……
………
…………

后「側近、使用人」

使用人「はい」

側近「なんだ」

后「癒し手の浄化の石を一つと、おくるみを用意しておいて」

使用人「………はい」

側近「……行くのか」

后「もう………目を開けないわ」

側近「……後は、任せろ」

后「………頼んだわ」

側近「何時、発つ?」

后「明日………始まりの、街へ」

使用人「恐れながら、后様」

后「ん?」

使用人「お気付きとは思いますが……」

使用人「魔王様の、光の残照が魔王様の身を蝕みだして、3週間ほど」

后「ええ……何時もより、早い……んでしょ」

使用人「それもあります。が……」




120:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/19(火) 13:19:53.60 ID:MfnuyinZP

使用人「直に、魔王様の闇が、勇者の光の残照を飲み込みます」

使用人「そうすれば……光の子、には……まだ、幼い人間の身には」

使用人「……毒とも等しいかと」

后「………!」

后「ゆっくり……お別れもできないのね」

側近「向こうの部屋へ……気休めかもしれんが」

使用人「すぐにお支度致します。馬車を……」

后「いえ、良いわ……ここから、飛ぶから」

側近「……転移か」

后「ええ……」

使用人「……五分、お待ちを」パタパタパタ
后「不思議よね……勇者を産んでから、本当に……力が溢れてくる」

側近「……母は強い、って奴だろう」

后「そうね……この子、守らないと」

側近「后様……癒し手は」

后「ん……?」

側近「否……もし、会うことがあれば」

側近(場所を告げても……后様と勇者では、旅もできまい)

側近(転移術も……人の子の傍では、使えんだろうし)

側近(……ずっとあそこに居るとも、限らん)

后「うん………伝える」

側近「……ああ」

使用人「お待たせしました。どうぞ」

后「ありがとう………」

后「魔王……ごめんね。大好きよ、大好き……愛してる……」ポロポロ
后「勇者……」ギュ
后「……」ゴシゴシ
后「行くわ………また、後で」シュゥン……

側近「ああ……また、後で」

使用人「………」

側近「………」

側近「とうとう、二人だな、魔王」


魔王「…………」




121:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/19(火) 13:28:35.81 ID:MfnuyinZP

時は、流れ―――16年後

勇者「おはよう、お母さん!」

后「はい、おはよう勇者。さて、ご飯食べたら……行ってらっしゃい?」

勇者「うん! ……緊張するなぁ」

后「大丈夫、貴女なら……きっと、いいえ。絶対……魔王を、倒せるわ」

勇者「うん……でも……」

后「どうしたの…?」

勇者「……お母さんに会えなくなるのは、寂しいなぁ」

后「……良いお姉さんになって、何言ってるの……」クスクス
勇者「魔王を倒したら、すぐ帰ってくるからね!」

后「ええ……楽しみにしてるわ。ほら、覚める前に食べなさい」

勇者「うん……あれ、これ ……何?」

后「ああ……これはね、貴女の……お父さんが、お母さんにくれたペンダント」

后「……お祖母様の形見よ」

勇者「へぇ……古い物なんだね」

后「そうね……持って行きなさい、勇者」

后「きっと、貴女を守ってくれる」

勇者「え、でも……お父さんの形見でもあるんでしょ?そんなの……」

后「………良いのよ。でも、ちゃんと大事にして頂戴?」

后「そして……貴女の子に、受け継いで欲しいの」

勇者「え、ちょ、お母さん!何いってんの」ハズカシイ!
后「……ふふ。まだまだねぇ」

勇者「もう………と、ご馳走様!美味しかった!」

勇者「ええっと……持ち物確認しよっと……あ、ねぇ、お母さん。」

后「ん?」

勇者「このペンダント、お守り袋に入れておいて良い?」

后「ええ、良いわよ……その石も、無くしちゃ駄目よ」

勇者「分かってるよぅ。こんな綺麗な石、無くさないって!」

勇者「……この、蒼い石……身につけてると落ち着くんだよね」




122:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/19(火) 13:34:46.95 ID:MfnuyinZP

后「そうね……それは浄化の石だから」

勇者「身を清めて、魔を寄せ付けない、んだっけ?」

后「そう……ほら、剣も忘れないで」

勇者「はーい……ねぇ、お母さん……」

后「……なぁに?」

勇者「この、光の剣……治るのかな」

后「……こればっかりは……わからないわね」

勇者「……これも、お父さんの……前、勇者の形見、なんだよね」

后「そうよ……それが無いと、魔王は……」

勇者「倒せない、のか……」

后「……そう言う言い伝え、があるのよ」

勇者「うん……治せる人が見つかれば、今度こそ!」

后「………」

勇者「大丈夫だよ、お母さん!お父さんの敵は、絶対に私が取るからね!」

后「ええ……身体に気をつけて、行ってらっしゃい、私の……可愛い勇者」ギュ
勇者「はい……行ってきます、お母さん!」ギュ

パタン

后「とうとう、この時が来てしまった……のね」

后「私が、魔王の傍へ戻る日」

后「勇者が、魔王を倒すために旅立つ日」

后「………ごめんね、勇者」

后「魔王、待ってて……今、戻るから……」シュゥウン…



123:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/19(火) 13:43:59.21 ID:MfnuyinZP

魔王城

使用人「お帰りなさいませ、后様……側近様が、お待ちですよ」

后「ただいま……16年ぶりね」

使用人「はい……お変わりないようで、何よりです」

后「貴女もね……案内して頂戴。 ……魔王は?」

使用人「はい。 ……后様が出て行かれてから……徐々に力が増しておられる以外は、特に」

后「そう……まだ、側近は動けるのね」

使用人「……はい、ですが」

后「………まさか、もう?」

使用人「……2、3日中には、側近様のお力が必要になるかと」

后「……そう。急がないとね」

使用人「はい……時間がありません。 …どうぞ。こちらです」カチャ
側近「戻ったか、后様」

后「久しぶりね、側近……」

側近「ああ……色々と話したいのは山々なんだが」

后「……? 使用人は、後2、3日、って……」

側近「……これを見ろ」

后「……! 癒し手の、浄化の石が……!?」

側近「ああ……先ほど、全て砕けた」

后「そんな……!」

側近「……魔王の力の所為か、癒し手に何かあったのか」

側近「判断は……つかんが」

后「………ッ」

側近「……遠見は、効かん、よな」

后「癒し手と……子供の居場所が分からない事には」

側近「そう、だよな……便りを寄越すと言ってはいたが」

側近「……結局、一度も」

后「随分と……弱っていたものね。多分……彼女の言葉以上に」

側近「だろうな……否、無茶を言ってすまん」

后「……謝らないでよ、側近」

側近「ああ……そうだ。俺たちは……」

后「そうよ……私達は、喜ばなくちゃいけない……!」




129:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/20(水) 09:24:06.96 ID:2uIEjvpkP

側近「……とりあえず、様子を見てくる」

后「私も行くわ」

側近「ああ……しかし」

后「大丈夫……勇者は無事に、旅立ったわ」

后「私も、もう……戻ることは無い」

側近「………」

后「さぁ、行きましょう」スタスタ
側近「……ああ」スタスタ
后「魔王は……あの部屋?」

側近「ああ……俺たちがあの時、前后様に案内された玉座の間……ここだ」キィ
后「……ああ、魔王……ッ」

魔王「…………」

側近「動かない。喋らない。笑わない……目も、開けん」

后「……魔力がこんなにも」

側近「これでは……癒し手の石が砕け散るのも無理は無い」

后「………間に合うかしら」

側近「ぎりぎり……と思いたいがな」

側近「とりあえず……俺が押さえる」

后「ええ……私は勇者の様子を見てる、ここで」

側近「后様までこの部屋に留まる必要は無いだろう」

后「……幻視を映し出すには、魔王の魔力がある方が良いわ」

側近「魔王の魔力を取り込む気か……!?」ソンナコト、デキルノカ
后「母は強し、よ……聞くより見る方が早いでしょ」ノウキンダカラ
側近「……無理はするなよ」ヤカマシイ



130:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/20(水) 09:37:58.87 ID:2uIEjvpkP

后「それに……魔王の傍に居たいの……時間が、ないもの」

側近「………そう、だな」


……
………
…………

勇者「ここで仲間が募れるとか聞いたけど……すみませーん?」


オオオオオ!ユウシャサマダ!ユウシャサマ!
オンナノコ!カワイイ!オレオレオレ、オレツレテッテクダサイ!
ワタシダ、オレダ、イヤ、ワタシダ!

勇者「………えー」

勇者「あのぅ、すみません……」

事務員「お待ちしておりました、勇者様」

勇者「王様に、ここで仲間を集めたら良いって聞いたんですけど」

事務員「はい、皆様、勇者様がいらっしゃるのを待っておられましたよ」ニコ

オマエマエデスギ、ノケヨソコ!
ユウシャサマカワイイ、イッショニイキタイ
ワタシヲエランデクダサイ、ユウシャサマー!

勇者「……ですよねー…ん?」チカッ
勇者「え……お守り、光ってる…」チカチカッ
??「………」チカチカッ
勇者(え……あの人の……首から提げてる小さな袋……)

勇者(同じ、光?………優しく、癒される様な……)

勇者「………」スタスタ
??「………」ニコ
勇者「貴方の、それ……?」

??「勇者様だね、僕は青年。 ……僕は、君を待ってた」


ナンダアイツフザケンナ
オレダッテマッテタシ、ワタシダッテ、イヤオレガサキダ

青年「……どうする?」

勇者「その前に、その袋の中身、見せて貰って良いかな?」

青年「僕を連れて行ってくれるならね」

勇者「………」




131:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/20(水) 09:52:26.64 ID:2uIEjvpkP

青年「そんな目で見ないで欲しいな……これは、僕の母から貰った大事なものだ」

青年「君は……宝物を誰ともしれない人に求められて、はいそうですかと渡さないだろう?」

青年「それが……例え勇者であっても」

勇者「……うん、そうだね」

青年「分かってくれて嬉しいよ」ニコ
青年「だけど、仲間になるのなら、別だ。信頼関係が無いと魔王を倒す旅になんて出られない」

青年「僕は、世界の謎を追っている。この石と……君が導いてくれると信じている」

勇者「ちょっと待って、それは買いかぶりすぎじゃ無いの?」

勇者「私の目的は魔王を倒す事。世界の謎を解明することじゃない」

勇者「それに……まだレベルだって1だ」

勇者「……確かに、魔王を追う内に世界の謎に触れる機会はあるかもしれない」

勇者「だけど……」

青年「……まあ良い。何れ分かる」

青年「それに、これ。気になるんだろう?」チカチカ
勇者「それは、まあ……」

青年「今ここで、僕がその石は何、どうしたの?って君に尋ねて」

青年「……君は応える気になるかい?」


ジー……
ナンナンダ、アイツ
ナンデイシガヒカルノ、マセキ?
テイウカユウシャサマカラハナレロ、クソウラヤマシイ

勇者「………オーケー、一緒に行こう、青年」

青年「ああ、この腐った世界の腐った不条理を裁ち切りに、ね」

青年「これから宜しく、勇者様……続きは後でゆっくり、だ」

青年「まさか、僕と君だけで魔王を倒しに行こうと思ってる訳じゃないだろう?」

勇者「あ……そうか。もう何人か……あ、っと」

勇者「青年は、えーと……」

青年「……ん?ああ……」

青年「僕は弓と癒やしの魔法が得意だよ。攻撃魔法も多少使えるけどね」

勇者「……何でもありだね」

青年「特化してる物が無いとも言えるよ」




132:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/20(水) 10:06:15.50 ID:2uIEjvpkP

勇者「戦力的には攻撃魔法と……前衛がもう一人欲しいな」

勇者「回復魔法は私も使えるし……」

青年「……そうだね、勇者は人間だしね」

勇者「……?」

勇者「じゃあ、えっと魔法使える人ー……」


ハイハイハイ!
ワタシダオレダボクダ!
コッチ、コッチミテユウシャサマ!

勇者「……あー」

青年「直感で選びなよ。それが真実に近づく近道かも知れないよ……意外と、ね」

勇者「……さっきから、良くわかんないことばっか言うね、青年は」

勇者「直感ねぇ……適当に、って事?」

青年「直感は、直感。以上でも以下でも無い」

勇者「………」キョロキョロ
勇者「ええと……君は…」
??「あ、はい!あの、まだ……レベル1の、魔法使いなんですけど……」
??「知識と、魔力には自信があります!それに…鍛冶も得意です!」
勇者「鍛冶?」

??「は、はい!」

勇者「ふむ……名前、聞いても良い?」

??「あ……魔導師と申します!あ、あの……」

勇者「うん、じゃあ……一緒に行こうか」

魔導師「ありがとうございます!」

勇者「後は……と」キョロキョロ
勇者「貴方は……剣士?」

??「ああ」

勇者「……えーと?」

??「名か? …剣士だ」

勇者「うーんと……貴方、魔法も使えるよね?」

剣士「………否?」

勇者「……あれ? 魔力を感じるんだけどな……」

剣士「………連れて行って貰えば、分かる」

勇者「なんか……青年みたいだな」

剣士「……あいつか」チラ
青年「……」ニコ
剣士「……」フイ
勇者「うん、じゃあ貴方に決めた!」




133:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/20(水) 10:22:23.78 ID:2uIEjvpkP

剣士「……よろしく」

勇者「じゃ、改めて……勇者よ、宜しく。えーっと……とりあえず」

青年「場所を変えようよ、勇者様……ここじゃ、視線が痛くて話せない」


クソ、ユウシャサマトタビヲシタカッタノニ!
イマカラデモオソクナイデスユウシャサマ!
ワタシヲ!オレダ!ボクダ!

勇者「……賛成。ついでに街を出る前の準備も済まそうか」




―――旅籠


勇者「えっと、じゃあ。私は勇者ね。レベルはまだ1です」

青年「世界で唯一、光の加護を受ける、選ばれし運命の子」

勇者「ああ、うん……ついでに、簡単な回復魔法も使えるのと……」

勇者「やっぱり簡単な物だけど、炎の魔法を使えるよ」

青年「……そりゃ吃驚だ」

魔導師「二つ……属性を持っているのですか?」

青年「いや……勇者様からは光の加護しか感じないけどね」

勇者「んー、お母さんにも驚かれたんだけどね」

勇者「お母さん、炎の加護受けるからじゃないのって聞いた事はあるんだけど…」

魔導師「普通、人間は二つの加護を同時に授かることは出来ません」

魔導師「ですけど……勇者様ですから……ううん、でも……」

青年「まあまぁ、その辺は良いじゃないの。とにかく先に、自己紹介済ませちゃおうよ」

青年「話、切ったついでに僕ね。青年。レベルは……10ぐらいかな」

青年「僕は水の加護を受けてる。海や川で溺れることは無い」

勇者「優れた加護を受けてるんだね」

青年「おや……知ってた?」

勇者「お母さんにその辺の話は、たたき込まれたのよ」

魔導師「優れた水の加護ですか……先ほどの話では、回復も攻撃もできると……いってましたね」

青年「まぁね。でも……ああ、いいや。後は弓が得意」

剣士「そんな細腕で弓を番えることができるのか?」

青年「一応男の子だからねぇ……って、ああ、睨むなよ」

青年「僕の母さんから譲り受けた、これさ」

魔導師「これは……エルフの弓!?」

青年「正解……流石だね」




135:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/20(水) 10:34:00.34 ID:2uIEjvpkP

魔導師「……鍛冶の勉強をしだして、それほど長くないですが」

魔導師「それでも……話には聞きます。魔法剣や変わった……人の技術緒で作られた物、以外の」

魔導師「……不思議な、武器に……こんなに簡単に、見る事が……出来るなんて」

青年「……君は、この弓や、魔法剣を鍛え直す事は?」

魔導師「ものにも寄ります……が、いえ。多分……もっと腕を磨かないと……」

勇者「えええええええ!?」

剣士「?」

魔導師「え、え?」

青年「……ほら、君の番だ魔導師」クスクス
魔導師「あ、は、はい……」ユウシャサマ、ドウシタンダロウ
魔導師「ええと、魔導師、レベル1です……さっきも言いましたが、鍛冶が得意です」

魔導師「腕の方はまだまだですが……魔法についての知識は、ある方だと思ってます」

魔導師「え、ええと……以上です……」チラ
剣士「……剣士だ」オレカ
剣士「レベルは16」

勇者「え、終わり?」

剣士「他に何がある」

勇者「……さっき、本当に剣士から魔力を感じたんだけど……」

青年「うん、僕も……感じる」

魔導師「………」ワカラナイ
剣士「……俺は、魔法は使えん。さっき言ったとおりだ…が」

青年「が?」

剣士「……剣を媒介にすることで、魔法剣となすことが出来る」

勇者「魔法剣!」

魔導師「嘘!?」

剣士「……見れば分かる。戦闘時に見て確かめろ」

青年「……加護は?」

剣士「何?」

勇者「……ああ、そうだ。紫の瞳って珍しい」

剣士「………」

青年「言いたく無いんだね……魔導師、分かる?」

魔導師「……連想になっちゃいますけど」

青年「だよねぇ」

勇者「青年は?」

青年「……剣士が言いたくなるまで待ってあげれば?」

剣士(こいつ……ッ)

勇者「………うーん、うん。無理矢理聞き出すのも良くないよね」

剣士「詮索されるのは好きじゃない……魔王を倒せば、なんの問題も無いはずだろう?」

青年「何の問題もない、ねぇ?」

剣士「………」




137:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/20(水) 10:42:09.17 ID:2uIEjvpkP

勇者「やめなよ、青年……折角仲間になったんだから」

勇者「それより、聞きたい事があるんだ」

青年「さっきの……僕と勇者様の石の事だろ?」

勇者「それもある、けど。これ、見て」シャキン
魔導師「……ひ、ひひひひ、光の剣!?」アワワワワワ
剣士「……魔法剣、か」

勇者「そう。お父さんの形見」

青年「………形見、ね」

勇者「何よ青年……」

青年「いやいや。続けて?」

勇者「……これ、ぼろぼろでしょ?でも……お母さんが」

勇者「完全では無いけど、光はちゃんと感じるんだって教えてくれた」

勇者「私も、確かに光が宿ってるのは感じるんだけど……」

勇者「刀身はぼろぼろだしさ」

勇者「……魔法剣は、鍛えるのが難しい。それに……」

魔導師「刀身だけを完全にしても、内側に宿る魔力が……完璧で無いなら」

魔導師「それは……魔法剣とは呼べません」

勇者「そう……魔導師には……鍛えられない、かな」

魔導師「……刀身、だけなら……多分。いえ、でも……すみません。正直自信が無いです」

青年「おやおや。鍛冶は得意じゃ無かったのかい?」

魔導師「……まさか、こんな……存在自体が伝説と言われる様なものですよ!?」

魔導師「存在を確認できるだけで無く、目の前にあるなんて……」

魔導師「……すみません、ちょっと混乱してます」

剣士「………」

青年「……まあ、ほら、さ。魔導師の腕を磨けば」

青年「何時か……治せるかもしれないだろ?」




138:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/20(水) 10:48:29.39 ID:2uIEjvpkP

魔導師「普通の剣であれば……勿論、きっちり治します。治せます……しかし」

魔導師「……いえ。それがしたくて、知識や……魔法を学んだんです」

魔導師「勇者様、時間を下さいますか?」

魔導師「旅の中で……まだ知らない世界に触れて、腕を磨いて」

魔導師「いつか……必ず!」

勇者「うん……期待してる!」

青年「間に合うと良いね」

勇者「ん? …大丈夫!私は……必ず、魔王を倒す!」

勇者「魔王を倒して……世界を、平和にしてみせる!」

青年「ああ……勇者は、魔王を倒すよ。必ず」

魔導師「そ、そうです!僕も頑張ります!折角……勇者様のお仲間にしていただいたんですから!」

剣士「……ああ」

魔導師「剣士さん」

剣士「なんだ?」

魔導師「後で、剣士さんの剣も……見せて貰えませんか?」

剣士「……たかが鋼一本。何の変哲も無いぞ」

魔導師「勇者様の光の剣を治す、ヒントがあるかもしれません」

魔導師「たかがといえど……簡易的に魔法剣もなさるのなら」

剣士「……気が向いたらな」

魔導師「ハイ!」

青年「……落ち着いたところで、勇者様」

勇者「ん?」

青年「知りたいんだろう、この……石がなんなのか」

勇者「! ……勿論!」




143:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/20(水) 13:52:25.06 ID:2uIEjvpkP

青年「母から貰った大事な物。水の魔力の篭もった、浄化の石」コロン。チカチカ
勇者「……私もだよ。お母さんがくれた……魔とか遠ざける浄化の、魔除け石」コロン。チカチカ
魔導師「綺麗、ですね。魔石の類はいくつか目にした事がありますが……これは、凄い」

剣士「………」

勇者「魔石、なんだよね。持ってると落ち着くんだ。癒されてるみたいで……でも」

勇者「何で光ってるんだろう……」

青年「そうだね。僕も……こんな風に光っているのは見たことが無い。君に会うまでは、ね」

魔導師「魔石とは、基本……魔力の高い者が、その魔力を何か……形のあるものに封じ込めた物の事なんです」

青年「そうだね。市場にも出回ってる魔除けの石なんかがそれだ」

魔導師「はい。位の高い聖職者が、清浄な水とその魔力で清め、そこに力を込めた物……ですね」

青年「ご名答。出回ってる、って言ったって……高価な物だけどね」

勇者「そうなの?」

青年「そうさ……たかだか、聖職者如きの力を封じ込めたタダの石ころの本当の力なんて」

青年「気休めに他ならない。力の弱い、知能の低い魔物には多少効果はあるかも知れないけど」

青年「強い力を持つ魔族なんかには、別に驚異でも何でもない」

勇者「……じゃあ、意味無いじゃ無い」

青年「だから気休めだと言っただろう?」

魔導師「王国の城下町などに住んでいる人の場合、騎士様が守って下さいますし」

魔導師「そういう所では、それほど強い魔物は目撃されていませんしね」

青年「そういうこと。これがあるから大丈夫……さ」

青年「高価な石を買うことが叶わないような、もしくは物流が悪い地域に住んでる様な人達は」

青年「弱い魔物ぐらい、撃退できる術を持ってる。 …そうじゃなきゃ、即、死に……繋がる」

勇者「……成る程」

魔導師「ですから……これは、魔石と呼んで良いんでしょうか?」

青年「良いところに気がついたね、魔導師」

剣士「………すまんが、席を外してかまわんだろうか」

勇者「え?どうしたの?」




144:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/20(水) 14:02:58.97 ID:2uIEjvpkP

剣士「……興味の無い話だ」

勇者「えええええ」

青年「協調性の無い男だなぁ」クスクス
魔導師「青年さん!」

剣士「……構わん、魔導師」

勇者「あ、でも……えっと、出来れば聞いてて欲しいな」

勇者「これから、一緒に旅をするんだし」

剣士「……すまん」スタスタスタ
青年「あーあ、行っちゃった」

勇者「……青年は、少し口を慎んだ方が良いと思うよ?」

青年「……勇者様の命令だったら聞くよ」

勇者「命令じゃ無いよ、お願い……仲間、でしょ?」

青年「了解……後で謝っておくよ」

青年「それより、話の続き……良い?」

魔導師「あ……えっと。これって………魔石、ですか?」

勇者「うーん…呼び方は別にどうでも良いような気がするけど…」

青年「そこは、勇者様に同意。だけど……一般的な魔石の生成法で作られた訳では無いよ」

勇者「そうなの!?……ってか……」

青年「何で知ってるの、って聞きたいんだね?」

勇者「うん……」

青年「さっきも言っただろう?これは、僕の母さんから貰った物」

青年「そして、母さんが作ったものだ」

魔導師「………これを、ですか!?」

青年「そう。母は……人に言いたがらなかったみたいだし」

青年「僕にも、頑なに人には言うなと言われてきたけれど」

青年「君たちは……仲間、だから。良いよね?」ニコ
勇者「………うん」ドキドキ、ナンダロウ
魔導師「……た、他言はしません!」ワクワク
青年「僕はエルフの血を引いている。と言うより……母さんは、ハーフエルフだ」

勇者「………マジで!?」

魔導師「ハーフエルフ!? ……まさか!?」

青年「嘘なんかじゃ無いさ。さっきの弓、見せただろう……とは言え、それだけじゃ」

青年「確実な照明にはならないだろうけどね」

魔導師「……エルフは、人との干渉を避けるのでは無いのですか?」

魔導師「ましてや、子供を……作るなんて」

青年「さてね。その辺は……何とも。だけど僕の父親は人間だったよ?」




145:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/20(水) 14:11:34.07 ID:2uIEjvpkP

青年「だから、まあ……僕には1/4だけエルフの血が流れてる事になる」

青年「で、そのハーフエルフの母さんが、自分の魔力を具現化させて、作ったのがこれだ」コロコロ。チカチカ
魔導師「本当……なんですか? あ、すみません……疑ってる訳では無いんですが」

青年「だと思う、よ?」

魔導師「思う?」

青年「僕がこの目で見たわけじゃ無いから。母さんからそう聞かされただけだから」

青年「勿論、僕は信じてる……で、問題は」

勇者「どうして、私がそれを持ってるか、って事か……」

青年「……僕の母さんに貰ったんじゃ無い?」

勇者「いやいや、流石にそれは……安直すぎるでしょ」

青年「安直、ね……」クスクス
勇者「……言いたいことあるなら、ハッキリ言えば良いじゃん、青年」ムッ
青年「難解なパズルを解いた先に、必ずしも答えがあるとは限らないよ?勇者様」

勇者「そりゃそうだけど……いくら何でも、ねぇ」

魔導師「そうですね……珍しい物には違い無いですから」

魔導師「おいそれと手に入らないでしょうけど……」

魔導師「お話を伺う限り、勇者様と青年さんのお母様に、どこかで接点があったとは」

魔導師「………考えにくいですよ」

青年「うんうん、そうだよねぇ……普通は、ね」

勇者「もう、青年!ふざけないでよ!」

青年「僕は至って真面目だよ?」




146:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/20(水) 14:27:35.60 ID:2uIEjvpkP

青年「……じゃあ、逆に聞くけど?」

青年「君たちにはこれが、似てるだけで違う物だと説明できる?」

魔導師「………」

勇者「………」

青年「同じような形をし、同じような効用を持ち……僕と勇者様が出会って、光り出した」

青年「……なんだと思う?」

魔導師「……わかりません」

勇者「同じく」

青年「まあ……僕にも、光ってる原因はわかんないけど」

勇者「……物理的には、同じ物だって思った方がしっくりくるね」

青年「そう言う事……何処でどうやって手に入れたかは……まあ良いんじゃない。今は」

勇者「うーん……まあ、それほど重要では無いかなぁ」

青年「何れ……知るよ」

勇者「……え?」

青年「いや、何も……運命なんじゃ無いかなぁ?……って」

魔導師「運命?」

青年「そう。僕と、勇者様の。二人で共に、悠久の遙か彼方」

青年「世界の始まりと終わりを知り、世界の終わりと始まりを見るための」

勇者「……何言ってんのかさっぱりわかんない。言葉遊び?」

青年「……さてね。興味があるなら何時か紐解いてみると良い」


……
………
…………

后「…………」

側近「…………」

后「良い性格してるわねぇ……」

側近「何も、言わないでくれ……」ドウイウソダテカタシタ、イヤシテ……
后「しかしまぁ……勇者も、なんと言うか……」

側近「……個性の強い面々を選んだもんだ」

后「光に導かれし運命の子……そして、運命に選ばれた子達……」

側近「これも………必定か」

后「……青年君は、全て知っている様ね」

側近「ああ……癒し手が全て、伝えたのだろう」

側近「……間に合わなかった時の、為に」

后「そうね………」




163:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/21(木) 09:56:36.49 ID:Bmy0pr14P

后「……どうなるのかしら、ね」

側近「さぁな……だが」

側近「勇者が産まれ、魔王は……復活した」

后「仲間が集まり、旅に出て……ここへ、たどり着く」

側近「そして……勇者は魔王を倒す」

側近「……筋書き通りか」

后「わからないわよ……前代未聞の特異点」

側近「………癒し手」

后「気になるのは同じよ、側近」

側近「ああ、分かってる」


魔王「………」


后「魔王……もう少し。もう少しだけ……待っててね」

后「すぐに、貴方の所に行くから」

側近「……后様」

后「わかってるわ……接点は出来た」

側近「ああ……青年」

后「ええ……癒し手の気配も追ってみる」

側近「……会えると信じてるぞ、癒し手……ッ」

后「大丈夫よ、約束したわ」

側近「また後で、か」

后「ええ……」


……
………
…………

青年「で。 …剣士は何処に行ったんだろうねぇ」

魔導師「あ…僕、街の中探してきます」

勇者「私も行くよ……魔導師、あっちね、私は……こっち」

勇者「青年も探してよ?」

青年「はいはい、じゃ……僕はあっち探してみるよ」

勇者「見つけたら、街の入り口で集合ね!」


青年(気配は……こっちか)スタスタ
青年(……居た)

青年「剣士?」

剣士「………」

青年「あの態度はどうかと思うけど?今から一緒に旅しようって言うのにさ」

剣士「……お前、人間では無いだろう」シャキン
青年「………穏やかじゃないねぇ、物騒な物、仕舞ってくれる?」

剣士「それは出来ん相談だな……質問に答えろ」

青年「答える必要があるようには見えないけどね」




164:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/21(木) 10:09:22.22 ID:Bmy0pr14P

剣士「………」

青年「僕は君の気配を追ってここまで来たんだよ?」

青年「……紛れも無い殺気。隠す気無かったんでしょ」

青年「僕なら辿ってこれると思ってた。だから……こんな町外れの、人の目に付かないところで……」

剣士「黙れ! …答えろ。答え無ければ切る」

青年「切れば」

剣士「!?」

青年「……勇者様になんて言うつもり?」

青年「さっきも言っただろう?僕たちはこれから、魔王を倒しに行くんだよ?」

青年「勇者様の仲間としてね……どう言い訳するのさ」

剣士「………ッ」

青年「意味も無く体力や精神力を使うのはお勧めしないけど?」

青年「心配しなくても、君の正体をばらすつもりも無いよ」

剣士「……気付いていたのか」

青年「君が……僕が人間で無いと気付いたのと同じ理由でね」

剣士「………」ス……
青年「剣を引いてくれたお礼に一つご注進……そんなやり方じゃ、疑われるだけだよ」

剣士「……放っておいてくれ」

青年「やれやれ……人の親切は素直に受け取る方が賢明だよ?」

剣士「どうどうとしていれば良いのさ。それに……僕は勇者様達にもう、正体ばらしたしね」

剣士「……何?」




165:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/21(木) 10:18:31.22 ID:Bmy0pr14P

青年「エルフの血が入っているから、何だと言うの……僕は僕でしか無い」

青年「仲間を信じないなら、真実を知るための道に、自ら背を向ける様なもんだろう?」

剣士「………」

青年「そんな選択肢を選ぶなら、僕はあそこで、勇者様を待ったりしない」

青年「君は何の為にあそこに……登録所に足を運んだの?」

青年「勇者様に選ばれる可能性を得る為にだろう?」

剣士「………」

青年「そんなに睨むなよ。 ……苦手なら、近づけないでおいてやるさ」

剣士「……ッ」

青年「言い気がしないんだろう、この浄化の石……さっきも言っただろ、言わないから安心しな」

剣士「あの時に、気がついたのか」

青年「否。僕は感じる事ができる。母さんが昔、仲間に言われたんだってさ」

青年「それをそれ、これをこれと、すとんと受け止める力。 ……感じる、って事は」

青年「そう言う事だ、とね」

剣士「さっきお前は……俺と同じ理由と言っていたな」

青年「ああ。少し語弊があったかな?」

剣士「……人で無い気配を感じただけだ。お前の中のエルフの血……のな」

青年「正確には少し違うのかもしれないね」

剣士「………」

青年「母さんは僕よりもエルフの血が濃かったからね」

青年「その母さんの魔力の篭もった、浄化の石の力は……まぁ、辛くないとは言えないんだろう?」

剣士「……ああ」

青年「なら、何故勇者様に着いてきた?」

青年「断ることだって出来ただろう」




166:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/21(木) 10:26:00.94 ID:Bmy0pr14P

剣士「……魔王を倒すためだ」

青年「……そう」

剣士「………」

青年「そう、睨むなよ」

剣士「……悪かった。勇者様達も、探してくれているんだろう」

青年「ああ。町の入り口に集合だってさ」

剣士「………」クル、スタスタ
青年「剣士」

剣士「……なんだ」

青年「勇者様は、君の正体を知ったところで、別に何も言わないと思うけど?」

剣士「…………」

青年「僕たちは、何れ知るんだ。全てをね」

剣士「……?」

青年「終わりの始まりも、始まりの終わりも。この世の行く末も」

剣士「……お前の言葉は、曖昧すぎて分からん」

青年「……同じような事を勇者様にも言われたな」クス
青年「良いさ、今は……ね」

青年「何れ、分かる……知る事になる」

剣士「………先に行くぞ」スタスタ
青年「やれやれ、迎えに来てあげた僕を置いていくとか」

青年「……凄いねぇ、勇者様は」

青年「光に導かれし、運命の子。汝の名は勇者……伊達や酔狂じゃ」

青年「選ばれる事も無いんだろうけど……さて、どうなるのやら」




168:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/21(木) 11:09:22.86 ID:Bmy0pr14P

……
………
…………

勇者「あ、剣士!」

魔導師「剣士さん、良かった!」

剣士「すまん。町外れで……鍛錬を」

青年「だってさ……全く、もう少し協調性を持って欲しいよねぇ」

勇者「こら、青年!」

青年「はいはい」

勇者「良し、じゃあ……改めて、出発!」

剣士「どこへ向かうんだ?」

勇者「そうだなぁ、とりあえず、私と魔導師のレベルをあげないとね」

魔導師「す、すみません……」

勇者「何で謝るの。私もまだレベル1何だもん……一緒に頑張ろ!」

魔導師「は、はい!」

青年「じゃあさ、ひとまず、大きな街を目指してみようか?」

魔導師「大きな街?」

青年「そう。少し遠いが、途中に小さな村もいくつかあるし」

青年「険しい山道を通る必要も無い……大きな港街だ」

青年「貿易が盛んって事は、情報も多く集まる」

勇者「なるほど……どれぐらいかかる?」

青年「村々で宿を取って進んでも一週間ほどだろうね」

青年「それに、そこからなら魔王の住む最果ての街近くへの港への船も出てる筈だ」

青年「中心に動くとしたら、便利な場所だと思うよ」

剣士「……詳しいな」

青年「母さんに、結構あっちこっち連れ回されたのさ、子供の頃からね」

青年「……近くには、魔法の研究が盛んな街もある」

青年「港街ほどじゃ無いが、鍛冶についての知識も得られるかもしれないよ」

魔導師「ふむ……そちらも、足を伸ばす価値はありそうですね」

剣士「……では、進もう」

勇者「よし………行こう!」




170:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/21(木) 11:32:59.42 ID:Bmy0pr14P

……
………
…………

勇者「うわぁ、綺麗な川だねぇ」

魔導師「美しいですねぇ……」

剣士「まるでピクニックだな」

青年「まあ、良いんじゃないの。まだ若いんだし」

勇者「何よぅ、剣士も青年も、あんまり歳変わらないでしょ?」

青年「エルフは魔族ほどの時を生きることは出来ないけど、人間寄りかは遙かに長寿だよ」

魔導師「そうなんですか?」

勇者「あ……それは知ってる。お母さんに聞いた」

青年「まあ、僕の母さんはハーフエルフだし」

青年「僕は母さんよりエルフの血は薄いから……どれぐらい生きるかわかんないけどね」

剣士「………」

魔導師「エルフの寿命は……どれぐらいなんです?」

青年「300年程らしいけど。その半分の半分って考えれば……あんまり人間と変わらないかもね」

青年「でも、ある程度の年齢にくるとそこから見た目の成長は止まるらしいよ」

勇者「何時までも若い侭、って事? ……羨ましい」

青年「そんなぴちぴちした綺麗な肌して何言ってんの」

勇者「あれ、じゃあ……青年は、ずっと見た目はその侭、成長してないって事?」

青年「さぁ、何処で止まるかなぁ……」

魔導師「……青年さん、今おいくつですか?」

青年「幾つに見える?」

魔導師「17.8……?」

青年「ん、ビンゴ。18歳だよ」

勇者「え?」

青年「……何」

勇者「いや、さっきの話だと……」

青年「たとえば50年後に再会したとしても、今とは変わらないってだけでしょ」




171:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/21(木) 11:47:31.00 ID:Bmy0pr14P

勇者「そっか……じゃあ、ちょっとだけお兄ちゃんなんだね」

青年「お兄ちゃん……なんかちょっとくすぐったいな」

勇者「あ、なんか珍しい、その反応……魔導師は?」

魔導師「僕は、16歳です。勇者様と同じですね」

青年「……剣士は?」

剣士「………」ジロ
青年「見た目は……僕と同じくらい、かな?」

魔導師「そうですね、それぐらいに見えます」

剣士「ああ……そうだな。同じだ」

青年「………」ニヤニヤ
剣士「!……おしゃべりは終わりだ……来るぞ」

青年「おっと……ちょっと数が多いね」

勇者「……ッ 5、6……ッ 7!?」

魔導師「あ……ッ う、後ろも……!?」

青年「そっちは一匹か……魔導師、頭下げな!」ヒュン

ドシュ!ギャアアアア!

勇者「……お見事」

青年「大群が残ってるよ、気を抜かないの」

勇者「う、うん……ッ」

剣士「……ッ」スゥ
剣士「下がれ!」

魔導師「………ッ 魔法剣……ッ」


ギャア、ギャアアアアア!

青年「刀身に……雷を宿すのか」

勇者「………凄い」

魔導師「まだ……残ってます!」

青年「ちィ、弓……だと近いな……」

青年「……風よ!」ゴオオォ
勇者「え!?」

青年「ほら、ぼけっとしない。勇者様も手伝ってよ」

勇者「あ、うん、えっと……炎…よ!」ボォ
剣士「くッ……魔導師、とどめだ!」

魔導師「あ、は、ハイ……ッ氷……ッよ……!!」キィンッ

ギィィ、ギャアアアアアア………!!

勇者「………」

魔導師「………」

剣士「すまん、数が多くて仕留め損ねた……」

青年「まあ、怪我も無いんだし……良い経験出来たんじゃ無い」

剣士「……二人とも実戦は初めてか?」

青年「この様子じゃ……聞くまでも無い感じだねぇ」




172:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/21(木) 11:55:56.94 ID:Bmy0pr14P

勇者「いや、それはそうなんだけど!そうじゃ無くて!」

青年「おや、それだけ大声出せれば大丈夫だね……で、なんだい?」

勇者「青年って、水の加護受けてるんじゃないの?」

青年「そうだけど?」

魔導師「あ……ッ」

勇者「何で……風の魔法が使えるの!?」

青年「ああ……それか」

魔導師「そ、そうですよ!普通、人であれなんであれ……二つの加護は持ち得ませんよ!?」

青年「……まあ、ちょっと落ち着きなよ二人とも」

青年「とりあえず、足動かしな。ほら、魔導師は立って……それとも、野宿したいの?」

剣士「村まではどれぐらいだ」

青年「この調子で行けば……夜までには着けると思うけど?」

魔導師「…………あの」

剣士「……何だ?」テヲカスカラ、タテ
魔導師「……腰が抜けました」タテマセン…
青年「………」

勇者「………」

剣士「………」

青年「……仕方ない、おぶってやるよ、ほら……ッと、君、見た目より……重いな」

魔導師「す、すみません……」

剣士「……待て」

青年「何だよ、剣士……!?」

剣士「聞こえるか?」

勇者「聞こえた」

魔導師「え?」


グルルルルルルル……



174:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/21(木) 12:10:24.51 ID:Bmy0pr14P

青年「否応なしの経験値稼ぎ……とは、言ってられないね」

勇者「……少数なら…ッ」

剣士「やめておけ……手を出すと一斉に襲われる」

魔導師「………」アワワワワワ
青年「……血の匂いを嗅ぎ付けたか。ちょっと派手にやり過ぎたな」

青年「二人とも、なるべく静かに着いてきて……走らないで」

勇者「え!?」

青年「心配しなくて良い、安全な場所に案内する………ここよりは、ってだけだけどね」

青年「合図したら、後ろ……」チラ
青年「あの大きな木の傍の、細い道、見えるね? ……あれを上る」

青年「………行くよ!」


グルルル……ッ …… ……

……
………
…………

青年「ここなら……大丈夫だろう」

勇者「ハァ、ハァ……ッ」

魔導師「………す、すみませんでした、僕の所為で……ッ」

剣士「……仕方ない。実戦は初めてだったんだろう」

青年「そういう事。慣れれば良いさ」

魔導師「……ハイ」

勇者「随分……森の奥まで来たよね」

青年「村からは随分離れちゃったけど……仕方ないね」

青年「剣士、野営の準備をしよう」スタスタ
剣士「……ああ」スタスタ
勇者「魔導師、大丈夫?」

魔導師「はい……あの」

勇者「ほら、もう謝らないの……私達も、手伝おう?」

魔導師「……はい」


……
………
…………

青年「念のための食料を準備しておいて良かったね」

剣士「……全くだ」

勇者「ふぅ、お腹いっぱい」

魔導師「………あの」

青年「ん……大丈夫だよ、魔導師。ここは安全だから」

魔導師「いえ……あの、さっきの……青年さんの、話の続きを聞かせて戴けませんか」

青年「ああ……明日の朝、早く出発したいから少しだけね」

青年「とは言え……実のところ、僕にもわからないんだけど」




176:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/21(木) 12:20:38.60 ID:Bmy0pr14P

勇者「……そうなの?」

青年「そうだよ。勇者様だって、同じでしょ」

勇者「ん……まぁ」

魔導師「勇者様は、勇者……ですから」

青年「それでも、人は二つの属性の加護は持ち得ない、んだろ?」

魔導師「そう……ですけど」

青年「勇者様は、お母さんが炎の加護を受けてたんだろ?」

勇者「うん……」

剣士「………」ス…
青年「こら、剣士。流石に今回は……ここに居なさい」

剣士「お前……」

青年「襲われたら、僕一人でこの二人を守れって言うの?」

剣士「………」ストン
青年「素直でよろしい……で、僕は水の加護。母さんと同じ」

魔導師「はい。それは……その蒼の瞳から推測出来ます」

青年「そう。魔導師の瞳は深海の色みたいだよね……加護は、水で良いんだよね?」

魔導師「はい……ですが、僕が扱えるのは氷系の魔法です」

勇者「あ、そっか……さっきの戦闘で……」

青年「僕は、回復魔法が使えるって前に言ったよね……あれは水の加護のおかげ」

魔導師「癒やしの水……ですね。ですが……どうして、風の魔法が……」

魔導師「風の魔法と言えば、緑か、大地の加護を受ける方が得意とされる筈です」

青年「そう。母さんから聞いた話だと、僕の父さんが緑の加護を受けていたらしいよ」

魔導師「ですが……!」

青年「二つの加護は、だろ?」

青年「だから、何故か……は、僕にはわからないってば」

青年「分からないけど、使役できる説明をつける材料ではある」

勇者「エルフだから?」

青年「んー…まあ、可能性はあるかもね?でも、母さんは僕よりもエルフの血が濃いけど」

青年「水の魔法……回復魔法しか使えなかったよ」

青年「……まあ、この浄化の石を生成したりは出来たけど」




177:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/21(木) 12:32:30.57 ID:Bmy0pr14P

魔導師「それも、不思議です……エルフはそれほど、強い力を持っているんですか?」

青年「……魔導師は、さ。知識が豊富だって自分で言ってたよね?」

魔導師「……はい。自負は……しています」

青年「うん。知識は大事。経験も同じぐらい、大事」

青年「人は……生き物は、目で見たものを信じないことは難しい」

魔導師「………!」

青年「認めたくないのはわからなくも無い。知らないことを、他者から学ぶのは恥じゃ無いよ」

魔導師「……そ、そんな風には!」

青年「ああ、御免。言葉が悪いのはわかってる。知る手段は、書物だけじゃ無いって言いたかっただけさ」

魔導師「……信じられない事が、多すぎます」

青年「目で見たことを否定する? ……構わないけど、正直無駄だよ」

青年「君は……否、君たちは。これから、もっと信じられない様な事を見、知り、感じるんだ」

青年「この腐った世界の、腐った不条理をね」

魔導師「……ッ 世界は、腐ってなどいません!勇者様は、魔王を倒し……平和を取り戻すんです!」

青年「……そうだ。勇者は魔王を倒す」

魔導師「そうです。魔王が居る限り、確かに世界は荒廃していくかも知れません」

魔導師「ですが……勇者様が。僕たちが、この腐った世界を救うのです!」

青年「魔王は、世界を荒廃させたりはしない。魔王は世界を……滅ぼしはしない」

青年「それは……大いなる人の勘違い、だ」




179:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/21(木) 13:30:55.63 ID:Bmy0pr14P

魔導師「貴方は……さっきから。いいえ、最初からです……」

魔導師「何故、煙に巻くような話し方をされるのです?」

魔導師「世界は腐って等居ない!腐っているとすれば、今、魔王が猛威をふるっているからでしょう?」

青年「腐ってると言ったり、腐っていないと言ったり……ちょっと落ち着きなよ」フゥ
魔導師「魔王は世界を滅ぼさない?冗談じゃ無い!大いなる勘違いって、何です!」

勇者「ちょ、ちょっと、魔導師、落ち着きなって……」

勇者「剣士もなんか言ってよ!」

剣士「………」

青年「……ここで売り言葉に買い言葉で、全部ぶちまけてやっても良いけど……」

青年「今の君が、到底信じる話では無いと思うよ?」

魔導師「………ッ 何処まで、人を馬鹿にすれば気が済むんですか……!?」

魔導師「………先に休みます!」クルッスタスタスタ
勇者「………」

剣士「………」

青年「……馬鹿にしてなんか居ないんだけどな?」

勇者「私には、魔導師がなんであんなに怒ってるのかわかんないけど」

勇者「青年の言葉も……確かに、良く解らない」

青年「そうかい?」

勇者「……何か、知ってて隠してる事があるのは、分かった、かもしれない」

勇者「なんとなーく、だけど、嘘をついてるようには……思えないんだよね」

青年「……エルフは、嘘をつけない」

剣士「……何故だ?」

青年「人が……生きとし生けるものが、全て平等に何らかの加護を持って生まれて来ることは」

青年「知っている、よね?」

勇者「うん」

剣士「……ああ」

青年「それは、産まれる時に精霊と契約するからだと言われている」

青年「エルフは、優れた精霊と契約できる確率が高いらしい」

青年「その為の制約として、エルフは嘘をつけないんだ」

勇者「へぇ……それは、初耳」

青年「お母さんは教えてくれなかったかい?」

勇者「……多分。それに、確かにお母さんは優れた魔法使いだし」

勇者「博識だったけど……普通の人だったもん」

青年「……普通の人、ね」

勇者「ほら、そういう所!」

青年「ん?」

勇者「魔導師が……馬鹿にしてる、って……さ」

青年「……そう、か」

剣士「しかし……魔導師はどうしてあんなにお前に突っかかる?」ナニカシタノカ
青年「さぁね」シテナイヨ!



180:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/21(木) 13:42:12.15 ID:Bmy0pr14P

勇者「うーん……それは、私も思った」

勇者「自分より……青年の方が物知りっぽい、から、とか……?」

青年「当たらずとも遠からず、だね」

剣士「……魔法のことになると、顕著だな。確かに」

勇者「さっきの二人の会話から推測すると、そんな感じだよねぇ」

青年「魔法剣、見せてやったら?剣士」

剣士「……見ただろう、先ほど」

青年「たかだか鋼一本、の方さ……勇者様の光の剣を鍛えたいんだろう。知識を吸収させてやれば?」

青年「……何かヒントが見つかれば、多少気も晴れるだろう、さ」

青年「それに、勇者様の光の剣の修理については」

青年「僕も是非に推し進めて欲しいね」

剣士「……魔王を倒すために必要なのであれば、協力は惜しまん」

勇者「ん……あ、その話で思い出した」

勇者「剣士の、加護は雷なの? …紫の瞳からは想像がつかないけど」

青年「僕もその話には興味があるね、是非聞きたい」

剣士「………!」

青年「けれど。勇者様も、もうテントに戻って休んだ方が良い」

青年「明日、早い内に出発するよ?」

勇者「う……そうだよね」

青年「ああ……今日は僕と剣士で交代で見張るから……良いよね?」

剣士「それがベストだろう」

勇者「ん……じゃあ、お休みなさい」

青年「あんなナリしてても、一応魔導師も男の子なんだから、襲われたら大声出すんだよ?」クスクス
勇者「! ……青年、下品!」カァッ
青年「君のためなら、すぐに飛んで行って助けるさ。何時でも、何処でも……ね」ニコ
勇者「………ッ」ドキ
勇者「(ど、どきってなんだ、どきって……)お、おやすみなさい!」タタタタ…
青年「……剣士も先に休みなよ。適当に起こして変わって貰うから」

剣士「良いのか」

青年「構わないよ……疲れているだろう?」

剣士「……お互い様だろう」




181:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/21(木) 13:47:44.87 ID:Bmy0pr14P

青年「……森の中は、心地が良いのさ」

青年「ここは、空気が良いし……大地に守られている」

剣士「大地の加護を感じる……のか。エルフと言うのは便利だな」

青年「そうかな。加護に縛られない君の方が便利だと思うけど?」

剣士「……!?」

青年「だから……そう睨むなって。仕方ないだろう。感じるってのは……そう言うものだ」

青年「……それとも、ハッキリ言った方が良いかい?君の加護は………闇、だと」

剣士「俺は……お前が好きにはなれん」

青年「おやまぁ……そっちもハッキリ言うね」

剣士「……嫌いでは、無いがな。少なくとも本当に……嘘は吐かないんだな」

青年「つけないの……つこうとも思わないけどね」

剣士「何を知っているのか……問いただすのはまたにする」

剣士「……先に、休ませて貰う。起こせよ」スタスタ
青年「ああ……おやすみ」

青年「……誰得だよ」クックック…ケンシノツンデレッテ
青年「…………」

青年「………見てる、んでしょ、后様?」




201:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/22(金) 13:28:50.95 ID:CGEqgPV1P

青年「……父さんは、そこに居るのかな?」

青年「安心して、勇者様はちゃんと、僕が守るよ」

青年「……ちゃんと、そこに連れて行く」

青年「………」

青年「腐った世界の、腐った不条理………」

青年「必ず、僕が断ち切ってみせるよ」

青年「………」

青年「独り言って、虚しいな」フフ

……
………
…………

側近「青年!青年………ッ 癒し手は……ッ」

后「落ち着きなさい、側近……こっちの声は聞こえないわ……」

側近「………! 糞……ッ」

后「……それより、側近」

側近「なんだ……」

后「あの、剣士って子………」

側近「……ああ。それは俺も気になっていた」

后「青年君の……感じる力は癒し手譲りでしょうし……」

側近「エルフは、嘘をつけない」

后「ええ……でも、闇の加護なんて……聞いた事無いわ」

側近「……加護に縛られない、と言うのは?」

后「……そう。意味が通じない」

側近「……使用人に聞いてみるか?」

后「そうね……それが一番早い様な気がするけれど」

后「……青年君は、何か気付いて居る様だけれど」

側近「ああ……」

后「………見守るしか出来ない、と言うのも、歯がゆいわね」

側近「…………」

后「側近……?」


魔王「…………」


側近「そろそろだな」

后「……そうね。動ける内に……使用人に会ってくるわ」

后「すぐに……戻るわ」


……
………
…………



202:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/22(金) 13:35:31.65 ID:CGEqgPV1P

魔導師「あ……おはようございます」

剣士「早いな……眠れなかったのか?」

魔導師「……つい、考え事を」

剣士「勇者様は?」

魔導師「まだ、寝ていらっしゃいます」

剣士「……可能なら、もう少し休んでおけ。まだ……出発には早い」

魔導師「はい……いえ、大丈夫です」

剣士「……そうか」

魔導師「あの……青年さん、は?」

剣士「狩りに行った」

魔導師「狩り?」

剣士「……食料の確保だろう」

魔導師「そう、ですか……あの」

魔導師「……昨日は、すみませんでした」

剣士「その言葉は俺に向けるものか?」

魔導師「………」

剣士「……眠らないなら、座ったらどうだ」

魔導師「……すみません」ストン
剣士「………」

魔導師「………」

剣士「青年が苦手か?」

魔導師「………良く、分かりません」

剣士「……そうか」

魔導師「仲間を……仲間だから、信じてるから」

魔導師「あの、浄化の石を見せてくださったのでしょうし」

魔導師「仲間だから……ああして、色々な話を、してくださるのでしょうけれど」

剣士「……何が気に食わん」

魔導師「……自分でも、良く解らないんです」




203:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/22(金) 13:47:40.34 ID:CGEqgPV1P

魔導師「昨日、青年さんに言われた事は」

魔導師「……当たってるんです。僕は、魔法の知識や、鍛冶の知識に……自信がありました」

魔導師「褒め称えて欲しい訳じゃ無い。だけど……」

魔導師「……僕は、レベルも低いし」

魔導師「剣士さんや、青年さんの様に、強いわけでも無い」

魔導師「せめて、知っている事……知識で、勇者様の力になれれば、と」

魔導師「いえ……力になれると。思っていたのに」

魔導師「………何だか、僕……その。 ……必要なのかな、って」

剣士「………」

魔導師「折角、勇者様に選んで戴いたのに」

魔導師「…良かったのか、なんて……思っちゃって」

剣士「……下らんな」

魔導師「……え?」

剣士「そんな事は無い。お前は旅に必要な、大事な仲間だ」

剣士「……そう言って表面上だけの慰めが欲しいのか?」

魔導師「ち、違います……ッ」

剣士「ならば、そんなお前を選んだ勇者様の咎か?」

魔導師「………!」

剣士「まずお前は、自分を信じろ」

魔導師「僕を、ですか……?」

剣士「……勇者様の選択は間違っていたと……言われたいのか?」

魔導師「い……いいえ!」

剣士「ならば誇れ。 …奴は確かに……俺も好きになれん」

剣士「だが、嫌いでは無い……奴の言葉は、良く解らんが」

剣士「……嘘だけは吐かない」

魔導師「それは、エルフの血を引いているから」

剣士「それもある……だが、それは真実だろう」

魔導師「………」

剣士「それを認めたくないのか?」

魔導師「ずるいです……」

剣士「……ずるい?」

魔導師「知識もあり、優れた加護を持ち、弓だって使えて、し、しかも……ッ」

魔導師「あり得ない!水と、風と……ッ 二つの魔法を使って……!」

剣士「……ただのやっかみか」

魔導師「……ッ そうです!昨日だって、図星突かれて、それで……ッ」

魔導師「僕は……ッ 僕だって……ッ」ウッゥ…
剣士「泣くな、鬱陶しい」




210:1@もしもし:2013/02/22(金) 17:02:36.26 ID:Prxpb3/bI

魔導師「……ッ 貴方は! …強い、から……!」ヒック…
剣士「……ああ、お前よりかは。だが……」

剣士「俺だって、最初から強かった訳では……無い。この世に……生まれ」

剣士「初めて剣を……武器を手にした時、何の苦労も無く、他者の命を屠れたと思うか?」

魔導師「…………」

剣士「何の苦労もせず、この鋼一本に魔法を、宿せたと思うのか?」ポイ
魔導師「……ひ…ッ」ガシャンッ
剣士「……何を怯える。見たかったのだろう」

魔導師「………し、つ…れいします……ッ」ズシ
魔導師(……重い。一般的な……鋼の剣より……刀身が長いのか………いや)チガウ……



221:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/23(土) 03:06:07.12 ID:yAkVU0rvP

魔導師(密度が濃い……?否。これは………)ブツブツ
剣士「………」

魔導師「……ずっと、この剣を使っていらっしゃるのですか」

剣士「そうだ。だが、別に特別な物は無い」

魔導師「誰かに……鍛えて貰った、とかは?」

剣士「……否?」

魔導師「そうですか………うーん……」マジマジ。ナデナデ。ブツブツ……
剣士「………」


ガサッ

剣士「!…… なんだ、お前か」

青年「……無事で何よりぐらい言えないの?」

剣士「心配する必要は無いだろう」

青年「褒め言葉と受け取っておくよ……魔導師、おはよう。よく眠れたかい?」

魔導師「…………」ブツブツ
青年「……おーい?」

魔導師「あ……おはようございます……しかし、それだと……」ブツブツ
青年「……彼は剣と会話する趣味でも持っているのかい」

剣士「突っ込む気にもならん」

青年「ま……元気が出たなら何よりだけどね。……勇者様は?」

剣士「まだ寝てるのだろう」

青年「流石にお疲れ、かな……ここは君に任せるよ。朝ご飯の準備でもしてくる」

剣士「獲物は捕れたのか?」

青年「ああ、野兎ぐらいだけどね」スタスタ
魔導師「…………」ブツブツ
剣士「………」

魔導師「あの、剣士さ……あれ、今誰か居ましたよね」

剣士「………青年だ」

魔導師「え? ……あ、ああ……そうですか」

剣士「………」ヤッパリツッコムノメンドウ
魔導師「彼は……何処に?」

剣士「………」フゥ
魔導師「あ、あの……?」

剣士「朝食の準備をすると。 ……で、何だ?」




224:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/23(土) 03:14:50.74 ID:yAkVU0rvP

魔導師「あ、はい。あの……一般的な鋼の剣より、重い気がするんですけど」

剣士「……そうか?わからんが」

魔導師「刀身の手入れはされています……よね?」

剣士「ああ。自己流でだが……他人の手に預けた事は無い」

魔導師「ふむ……何でしょうね。特にこれと言って……変わったところが見受けられない」

魔導師「魔法剣になる要素も剣の方には無いんですけど……重さはちょっと気にかかるな」

剣士「………」

魔導師「うーん……と、すれば、やはり……剣士さんの魔法力の問題なんでしょうか」

剣士「俺は魔法は使えない」

魔導師「……他の剣でも可能、なのですか?」

剣士「さあな……試した事が無い」

魔導師「そうですか………」ブツブツ

勇者「うぅ……おはよう」フラフラ

魔導師「あ、おはようございます、勇者様」

剣士「……おはよう」

勇者「あれ、青年は?」

剣士「朝食の準備をしてる」

勇者「……なんか、何から何まで……剣士と青年に頼ってるなぁ」

青年「そこは素直にありがとう、で良いんだよ勇者様……おはよう?」

魔導師「………」

勇者「おはよう、青年……ん、ありがと………あ、良い匂い」

青年「よく眠れたかい? ……さて、じゃあ冷めない内に食べて、出発しようか」

勇者「うん……あれ、魔導師何してるの?それ……剣士の?」

魔導師「あ、ハイ。見せて戴いてたんです……勇者様の」

魔導師「光の剣の、修理の……参考になればと思って」




226:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/23(土) 03:25:25.12 ID:yAkVU0rvP

勇者「そっか。何か……分かった?」イタダキマス
魔導師「……少し、一般的な物より重い気はするんですが」

魔導師「それ以外は特にこれと言って……あ、剣士さんありがとうございました」オカエシシマス
剣士「ああ」イタダコウ
青年「重い、ねぇ。血でも吸ってんじゃないの」ハイドウゾ
勇者「それじゃ魔剣じゃないの」オイシイ!
剣士「………」モグモグ
魔導師「勇者様はどう思われますか?」…イタダキマス。パク
勇者「私? ……うーん、魔法についても剣についても、凄い知ってる訳じゃ無いしなぁ」

勇者「青年はどう思う?」パクパク
魔導師「………」モグ……モグ
青年「僕は剣は専門外だよ。まあ、剣士は確かに魔法を使える訳じゃ無いみたいだけど」モグモグ
青年「加護の力は……持ってる訳だし、誰でも」

青年「剣を媒介にして放出してるって考えれば、刀身に残留しててもおかしく無いんじゃ無い?」

魔導師「残留……」ブツブツ
青年「……魔導師、考えるの後にして、先に食べちゃいな」

青年「体力つけとかないと、この先厳しいよ?」

魔導師「あ……すみません、ごちそう様です………ちょっと、手洗ってきます」スタスタ
勇者「え、もう食べないの……って、ああ」イッチャッタ
青年「……随分嫌われたなぁ」

剣士「感情のコントロールが出来んだけだろう」

青年「だったら良いけどね……」

剣士「気になるのか」メズラシイ
青年「君は僕を何だと思ってるんだい……仲間だからね」

勇者「二人は随分仲良くなったんだね」ニコ。ヨカッタヨカッタ
青年「……勇者様にはそう見えるの?」

剣士「………」

勇者「え、違うの?」

青年「さてね……魔導師が戻ったら出発しよう。今日中には目的の村に行くよ」




228:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/23(土) 03:40:21.15 ID:yAkVU0rvP

……
………
…………

近くの村

勇者「………」グッタリ
魔導師「………」グッタリ
青年「結構時間かかったな……もう、直に日が暮れる」

剣士「勇者様と魔導師の体力を考えると、今日はここで宿を取った方が良さそうだな」

青年「だ、ね。 ……それにしても魔物の数が多かったな」

剣士「……流石に、俺も少々疲れた」

青年「同感」

勇者「御免……殆ど二人に任せちゃったから……」ハァ
魔導師「………」シャベルゲンキモナイ
青年「気にしないの。二人も随分頑張ってたでしょ? …レベルも上がったし」

青年「美味しい物食べて、休むのも大事さ」

剣士「先に宿の手配を済まそう」

青年「ああ……魔導師、歩けるかい?」

魔導師「はい……」フラフラ
青年「肩貸すからほら……掴まりな」

魔導師「………」フラフラ
青年「こんな時までつまらない意地張らないの」ボソ
魔導師「……ッ」

勇者「青年……早くぅ………」

青年「はいはい……ほら、行くよ」


……
………
…………

旅籠

青年「勇者様と魔導師はとりあえず休んでな」

青年「二人の食事は後で、部屋に運んで貰うように行っといたから」

魔導師「はい………」フラフラ…パタン
勇者「あい……」フラフラ
青年「あ。勇者様はこっちの個室」

勇者「え、なんで……」

青年「女の子でしょ」

勇者「……でも。もったいないし、一緒で良いのに」

青年「次からは考えておくよ……今日はほら、とりあえず」

勇者「ん……」パタン
青年「剣士も休むかい?」

剣士「……否。お前は」

青年「ちょっと軽く一杯、ね……付き合う?」

剣士「ああ……悪くない」

青年「………意外」

剣士「お前こそ俺を何だと思ってる」

青年「……言っていいの?」

剣士「………」ジロ
青年「………」ニコ
剣士「お前は……何を知っている?」

青年「さてね。腐った世界の腐った不条理の欠片と、それを断ち切るための……亀裂の一部、かな?」

剣士「……意味が分からん」

青年「立ち話はここまでだ……行くよ」

剣士「………」

青年「聞きたいんだろう? ……おいでよ」




230:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/23(土) 03:53:43.47 ID:yAkVU0rvP

青年「とりあえず、乾杯!」

剣士「……ああ」

青年「で……言っていいの?」

剣士「……先に聞きたい事がある」

青年「そう……何?」

剣士「……お前は、何者だ?」

青年「忘れたの?僕にはエルフの血が流れてる」

青年「エルフは嘘をつけない……言ったとおりさ」

青年「母がハーフエルフ。父は人間……僕は、僕」

剣士「……疑っている訳じゃない」

剣士「だが、知っていて言わないのは嘘を吐く内には入らないだろう」

青年「……何れ知るさ」

剣士「何をだ」

青年「今聞いたって、混乱するだけだよ……君は信じない、とは思わないけど」

青年「勇者様と魔導師には言えないな……まだ」

剣士「まだ……?」

青年「ああ、まだ……ね。言ってるだろう。何れ知るんだ」

剣士「………」

青年「僕からも質問だ」

剣士「……何だ」

青年「君は、何者だい?」

剣士「………」

青年「………」

剣士「分かっているんじゃ無いのか?」

青年「推測に過ぎない……何時か確かめようとは思っていた」

剣士「………」

青年「加護に縛られない加護を持つ者。闇の加護を持つ者」

青年「魔法を使うことは出来ないのだろうけど、魔力を持つ者」

青年「……そして、この浄化の石を苦手とする者」

青年「君は……魔族だろう?」

剣士「……そうだ」




231:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/23(土) 04:03:56.63 ID:yAkVU0rvP

剣士「否、そうだろうと思う……が正しい」

青年「………」

青年「それにしても疑問が残る」

青年「……闇の属性なんて、見たことは無い」

剣士「……だろうな。俺も無い……知らなかった」

青年「………」

剣士「気がついたらこの姿だった」

青年「記憶が無いのか?」

剣士「わからん……が、そう言う事だろう」

青年「………」

剣士「気がつけばこの姿で、古い鋼一本を握って荒廃した街に居た」

青年「何時の話だ?」

剣士「……60年程前だ、と思う」

青年「……わぁお」

剣士「何も覚えていなかったが、知識はあった……日常生活に困らない程度には、な」

剣士「魔物に対峙しても、身体は動いたから、旅をするのに支障も無かった」

青年「……一所にはとどまれないからね」

剣士「ああ……自分が、所謂人間でない事には気がついていたが」

剣士「魔族という存在を知ったのは随分立ってからだ」

青年「………」

剣士「世界を歩き、得意では無いが……書物にも触れた」

剣士「紙面上の知識だが、加護だとか、属性だとか……一応の納得の範囲まではどうにか知り得た」

青年「闇の加護か」

剣士「……それは、わからん。が、瞳の色で大体の加護を判断できると言うのならば」

剣士「そうなのだろう」




233:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/23(土) 04:14:37.11 ID:yAkVU0rvP

剣士「俺は、魔法は使えない」

剣士「だが、この……剣を媒介にすれば、所謂魔法剣となすことが出来る」

青年「この間は雷を使役していたな。使えるのはそれだけか?」

剣士「否……特に縛りは無い」

青年「……へぇ?」

剣士「あの辺の魔物は、雷に弱い……それに、勇者様と魔導師の手前」

青年「ああ……そうだね」

剣士「特に魔導師は、随分と過敏になっている」

青年「あれも悩みの種だなぁ……」

剣士「自分で蒔いた種だろう」

青年「……若いって事だろうさ」

青年「自分で納得して貰うしか無い」

剣士「ああ……」

青年「魔導師の話は後だ……一般的には、だが」

剣士「?」

青年「自分で、自分の加護は……まあ、大体分かる物だ」

青年「僕は君の瞳の色とその特性で当たりをつけたに過ぎない」

青年「加護に縛られないのが闇の属性の特性だ、と言い切れる訳でも無い」

青年「……見たことは無いからね」

剣士「ああ」

青年「………願えば、叶う」

剣士「……何?」

青年「魔法と言うのは、そう言う物なのだと母さんが言っていた」

青年「こうしたい……たとえば、水を操りたいと願う。イメージする」

青年「そうすれば、叶う」

青年「それが、魔法を使うと言う事だと」

剣士「………」

青年「この浄化の石を作ったのも、その言葉がヒントだったのだ、とね」

剣士「………」

青年「たかだか鋼一本、そこに、加護の……何かしらの属性の力を宿らせるように」

剣士「願い、叶える……か」

青年「そうだ。君がその方法を知ったのは?」

剣士「……わからん。気がつけば……使えていた」

青年「………」

剣士「さっきも言っただろう。魔物に対峙したときに、勝手に身体が動いたのだと」

青年「……無くした記憶の彼方にしか、頼れる物は無いのか」




235:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/23(土) 04:33:13.35 ID:yAkVU0rvP

剣士「……もう一つ、聞きたい事がある」

青年「どうぞ?」

剣士「その、石だ」

青年「ああ……悪い、苦手だったな」

剣士「否、まあ……いい気はしない。だが……始まりの街の旅籠で話していた時程の」

剣士「……嫌悪感を感じなくなった」

青年「慣れた、んじゃないのか?」

剣士「どうだろうな……そうかもしれん、が」

青年「ん……まあ、頭に入れておく。どちらにしてもその状況は」

青年「マイナスでは無いだろう。こうして……旅をする以上」

剣士「ああ……別に苦しい訳では無かったんだが」

青年「……どんな感じ?」

剣士「何だろうな……胸が痛い、様な」

青年「それ、苦しいって言わないのか?」

剣士「……痛み、だとかの苦痛では無い……切ない、とか」

剣士「悲しい……ような」

青年「………」

剣士「……何にしろ、今は感じない」

青年「まあ……いったん結果オーライ、って事にしておくか」

剣士「ああ……」

青年「明日は……港街に向けて発とう。魔導師の元気の素を手にいれないとな」

剣士「鍛冶についての知識か……青年」

青年「なんだい?」

剣士「何れ知る、と言ったな」

青年「ああ。君たちは……否、僕たちは。何れ全てを見、知り、感じる事ができる」

剣士「……何故、言い切れる?」

青年「腐った世界の腐った不条理を断ち切るからさ」

剣士「………」

青年「……亀裂を深めるに留まるかもしれないけれどね」

青年「だけど、何れ知るんだ。勇者は、魔王を倒すのだから」

剣士「……お前は、魔王は世界を滅ぼさないと言っていたな」

剣士「人間の大いなる勘違いだ、と」

青年「ああ、そうだよ」

剣士「……意味が分からん」

青年「今はそれで良い……話すには、今日は遅い……それに」

剣士「何れ知る、か」

青年「そういうこと」ニコ
青年「さぁ、僕たちも休もう。明日も早いよ」




237:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/23(土) 04:39:40.96 ID:yAkVU0rvP

……
………
…………

后「………」

側近「………」

后「………」

側近「……使用人はなんと言っていた?」

后「喋っていて大丈夫なの、側近」

側近「体力には自信がある。気にするな……それより、返事を」

后「信じがたい話だわ……闇の加護を受けるのは、魔王だけよ」

側近「……想像に難くはなかった、正直、な」

后「そう、よね……」

側近「……青年は…気付いているだろうか」

后「どうかしらね……でも、あの子……私達が見ている事には気がついている」

側近「ん? ……ああ」

后「だけど……心の中までは読めないから」

側近「………」

后「加護に縛られない、闇の加護……魔王だけの特権」

后「何故、剣士は……」

側近「何れ、知るさ……俺たちも、あいつらもな」

后「そうね……」

側近「しかし、お前は大丈夫なのか?」

后「ええ……魔王の傍に居るからかしらね」

側近「皮肉だな」

后「こうして、魔王の魔力を借りることで……多分、抑える事にもなっているのよ」

側近「……成る程な」

后「前后様も、多分、こうして……私達を、見てた」

側近「腐った世界の腐った不条理を断ち切る、唯一の亀裂」

后「そう、前代未聞の特異点……間に合わなかった時の、為に」

側近「癒し手の存在で……歪んだ運命の輪……か」

側近「まだ、大丈夫だ。俺一人で抑えられる……しかし」

后「ええ……無理はしないで……そう」

側近「時間が、ない」

后「癒し手……いいえ。ギリギリ……まで……!」

側近「癒し手………無事で、居てくれ……!」




247:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/23(土) 13:40:03.45 ID:yAkVU0rvP

……
………
…………



勇者「ん………」

勇者(目、覚めちゃった……みんなは……)

勇者「あ………そうか」

勇者(私だけ別だったんだ………)

勇者「………」

勇者(外は……もう明るい、か)

勇者「………」グゥ
勇者(まだみんな寝てるかな……起こすのも悪い、よね)

勇者(お腹すいたし……)スタスタ。パタン

旅籠の女将「おや、おはよう早いね……お嬢ちゃんだけかい?」

勇者「あ、おはようございます……うん、まだみんな寝てるみたい」

女将「そうかい……何か食べる?」

勇者「うん……お腹すいちゃった」

女将「じゃあ、サンドイッチとスープでも用意しようか」

勇者「あ、嬉し……お願いします」


勇者(ん、このスープ美味しい………)

勇者(今日中に……港街につけるかな)

勇者(青年は魔物の数が多いって言ってたけど……)

勇者(戦闘……青年と剣士に任せっぱなしだもんな)

勇者(……私がもう少ししっかりしてたら)

勇者(そりゃ……少しは、レベル上がったけど)

魔導師「あれ……勇者様?」

勇者「ん?あ、魔導師……おはよう。早いね?」

魔導師「ええ……一緒のテーブル、良いですか?」

勇者「勿論」ニコ
魔導師「流石に寝過ぎた様で……お腹もすきましたし」スミマセン、カノジョトオナジモノ
勇者「あはは、私も一緒だよ」

魔導師「……随分、難しそうなお顔、されてましたけど……?」




248:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/23(土) 13:52:15.49 ID:yAkVU0rvP

勇者「ん……今日、さ……港街に向かうじゃない?」

勇者「戦闘、どうしてもあの二人任せになっちゃうから……」

勇者「足、引っ張ってるなぁって……思って」

勇者「私……勇者なのにね」ハァ
魔導師「勇者様………すみません」

勇者「なんで……魔導師が謝るの」

魔導師「僕……体力も無いし、その……レベルも、低いので」

魔導師「あんまり……役に立てなくて……」

勇者「……ううん。私も、一緒だもん」

勇者「でもさ、誰か一人だけが強くても……魔王なんて倒せないよね」

勇者「みんな、それぞれ……いろんな意味で強く無いとさ」

魔導師「……そう、ですね」

勇者「私と魔導師は、確かにあの二人に比べたらレベルも低いし」

勇者「まだまだ、弱いけど……少しずつでも、強くなってる」

勇者「自信無くしたり、卑屈になったり……そういうのは、駄目だよね」

魔導師「………」

勇者「ね、魔導師……」

魔導師「はい……?」

勇者「言いたいことがあったら、ちゃんと言おう」

勇者「青年は、確かにちょっと口は悪いけど……仲間、だし」

勇者「何より、嘘は……言わない」

魔導師「はい……彼は、エルフですから」

勇者「うん……弓も使えるし、行動力もあるし……便りになる仲間だ」

勇者「私よりも、色々な事を知ってるし……多分、隠してる事も……まだ一杯あると思う」

魔導師「……はい」

勇者「でも……彼自身、悪い人ではないと思う」

魔導師「………」

勇者「魔導師は、青年が嫌い?」

魔導師「……正直に言えば、苦手です」




249:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/23(土) 14:34:29.37 ID:yAkVU0rvP

魔導師「……剣士さんに、下らないただのやっかみだと……言われました」

勇者「………」

魔導師「ずるい……と、思います。正直な気持ちです」

勇者「エルフという特殊な血を引き、博識で、水と風の魔法を使えて?」

勇者「でもね、魔導師」

魔導師「はい…?」

勇者「そんな事言っちゃえば、私だってそう思われても仕方ないじゃん」

魔導師「光と、炎……ですか。そうですね……ですが」

魔導師「勇者様は……勇者ですから。特別な存在ですから」

勇者「私なら許せて、青年なら許せないの?」

魔導師「ゆ……許せないとか、そんな……!」

勇者「ごめん、きついかもしれないけど……青年に対する偏見もあるよね?魔導師」

魔導師「………」

勇者「信じて……無い?」

魔導師「エルフは嘘をつけない、と言われれば信じざるを得ません。ですが……」

魔導師「それすらも嘘であるなら?」

勇者「………」

魔導師「……エルフが、嘘をつけないと言うのは知っています」

魔導師「ですが、彼は……ハーフエルフの、子……です」

魔導師「人の……いえ、エルフ以外の血が半分以上流れている」

魔導師「その残りが……魔物の血であるかもとは……どうして、勇者様も」

魔導師「剣士さまも、考えないのですか!?」

勇者「……魔導師」

魔導師「………」

勇者「良く、思い出して?ここに来るまでに、私や、魔導師の怪我を回復してくれたのは誰?」

魔導師「……え?」

勇者「私は攻撃するのに精一杯で、回復にまで魔力を回せなかった」

勇者「青年が、回復魔法を唱えてくれたよね?」

魔導師「それが、何か……?」

勇者「………ハァ。魔導師、本当に色々見失ってるよね」

魔導師「………」ムッ
勇者「回復魔法が使える条件は?」

魔導師「………!」

勇者「人間であること……だよね」




250:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/23(土) 14:55:54.70 ID:yAkVU0rvP

勇者「確かに、彼に謎は一杯あるよ。でもね?」

勇者「嘘を言っていないと、私は思う……し、信じてる」

勇者「仲間だからね」

魔導師「………」

勇者「勿論、剣士も、魔導師も大事な仲間だ」

勇者「それに……私の光と炎。剣士の……珍しい紫の瞳……魔法剣の事」

勇者「ねぇ……謎な事、分からない事って、みんなに、一杯あるんだよ?」

勇者「どうして、青年にだけそんなに……つっかかるの」

魔導師「勇者様は、勇者です!特別ですから……!」

勇者「それはさっきも聞いたよ……じゃあ、剣士は?剣士も特別なの?」

魔導師「……ッ 剣士さんは……ッ」

剣士「俺は、何だ」

魔導師「!!」

青年「吃驚したよ、起きたら二人とも居ないんだもの」

勇者「おはよう、剣士、青年……聞こえてた?」

青年「立ち聞きする気は無かったんだけどねぇ……」

剣士「魔導師」

魔導師「……はい」

剣士「俺は……なんだ?」

魔導師「剣士さんは……確かに、不思議な力を使うけど……ッ」

魔導師「でも、人間じゃないですか!」

剣士「………」

魔導師「………ッ 特別、は勇者様だけの特権じゃ無いんですか!?」

魔導師「どうして……ッ 青年さんは……ッ」

青年「あー……要するに」

青年「君は、勇者様以外を特別だと認めたく無いんだね?」

青年「博識を自負して、そのプライドをあっさりと僕にくじかれて」

青年「拗ねちゃった困ったお子ちゃまだと思っていたけれど」

青年「勇者様以外、特別ってのは許せないって言う……」

青年「どうしようも無い、下らない糞ガキだった訳だ」ニッコリ
勇者「ちょ、ちょっと、青年……」

剣士「おい……」




251:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/23(土) 15:12:06.73 ID:yAkVU0rvP

青年「オモチャを独り占めして、誰にも貸したくないって言う子供と一緒じゃ無いか」

勇者「……まあ、まあ」

青年「僕の事は別に、嫌いでも構わないけどね?」

青年「そうやって君が意固地になってると……」

魔導師「仲間を信じられなければ、魔王を倒せないとでも言うんですか?」

青年「……イエスで、ノーだ」

魔導師「は?」

青年「勇者は魔王を倒す。必ず。だが……」

青年「君が居なければ、腐った世界の腐った不条理を断ち切る事が難しくなるかもしれない」

青年「だから、イエス、で……ノーだ」

魔導師「……ッどうして、何時もそうやって……訳の分からない言葉で」

魔導師「僕たちを混乱させるんです!?」

青年「………」ハァ
青年「わかった。教えてあげるよ……まだ、君たちに話す気は無かったんだけどな」

剣士「……部屋で話した方が良いだろう」

勇者「そう、だね……魔導師、行こう?」

魔導師「………ッ」グイッ ゴシゴシ

……
………
…………



274:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/24(日) 11:29:37.51 ID:emDjFy1lP

旅籠・勇者の部屋

青年「さて……何から話そうかな」

剣士「待て、青年」

青年「ん、何だい」

剣士「……先に、魔導師に聞きたい事がある」

魔導師「なんで……しょうか」

剣士「お前はさっき、俺は人間だから、と言ったな」

魔導師「……はい」

剣士「人間だから、特殊な魔法剣を使えても気にならないのか?」

剣士「……お前の中の、特別に当てはまらないのか」

魔導師「……僕は、確かに勇者様に憧れていました」

魔導師「誰も持ち得ない光の加護を持ち、その光に導かれる、運命の子……」

魔導師「世界に二人と存在することを許されない、選ばれた勇者……」

魔導師「勇者様のお力になりたくて、一杯本を読み、知識を得ました」

魔導師「勇者様の剣を鍛えられるならと、鍛冶の勉強だって頑張りました」

魔導師「全部、勇者様の為です!か弱い女性の身で、魔王を倒すという偉業を成し遂げるため……!」

魔導師「そんな、素晴らしい人の傍に居たかったんだ!だから……ッ」

青年「だから、どんな不思議があっても無条件で許せる、って言いたい訳?」

魔導師「……勇者様ですから。選ばれた、運命の光の子です!」

魔導師「そんな、そんなの……誰も手に入れられないものを持つのは」

魔導師「勇者様しかあり得ちゃ……いけないんだ!」

青年「……君の勇者様……否。『勇者』に対する思い入れは分かった……が」

青年「剣士の質問の答えにはなっていないよ?」

剣士「………」

魔導師「命のあるものは、何らかの加護を持って生まれてきます。魔法を使えなくても」

魔導師「剣士さんのは……使用方法が、一般的な魔法詠唱では無いだけでしょう……」

魔導師「剣も見せて貰ったけど、それほど特別な物じゃ無かった」

魔導師「それに、剣士さんは人間です。勿論、大切な仲間ですが……」

魔導師「……別に、特別な訳じゃ、無いじゃないですか」

魔導師「なのに、貴方は……ッ」キッ
青年「……睨まれる様な事、したかい?僕……」ヤレヤレ
剣士「なるほどな」

勇者「………」

剣士「魔導師、俺は……」

勇者「剣士、待って。先に言わせて」




275:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/24(日) 11:38:56.27 ID:emDjFy1lP

勇者「魔導師の鍛冶の腕があれば、この光の剣を治せるかも知れない」

勇者「光の剣でしか、魔王が倒せないのかどうなのかはわかんない」

勇者「でも、これは前勇者であるお父さんの形見。お父さんが戦ったときに」

勇者「魔王を倒しきれずに、封印とかに留まっただけなんだろうと思ってた……思ってる」

勇者「だから、今度こそ、これを治して……完璧に魔王を倒す」

勇者「私は、勇者として産まれたから、魔王を倒さなきゃいけない。お父さんの敵も……取らなきゃいけない」

勇者「………多分、今から……これを治せる可能性が一番高いのは」

勇者「魔導師、だよね……他に、鍛冶を出来る人なんて、私は知らないし」

勇者「どこで出会うかもわからない。でも、折角仲間になったんだ」

勇者「私は、魔導師に治して貰いたい。絶対に治してみせるって、言ってくれた……魔導師の」

勇者「その、言葉を信じてる」

勇者「でもね、魔導師」ジィ
魔導師「……はい」ジィ
勇者「君を仲間にしたのは、鍛冶の腕を見込んで……ってだけじゃ無いのは、分かるよね?」

魔導師「え……? も、勿論です!」

勇者「私はあの時、青年に言われたとおり直感で選んだ」

勇者「それは間違えてないと……自分を信じてる」

勇者「でもね、魔導師……」

魔導師「………」

勇者(言いにくいな……でも)イワナクチャ
勇者「……君は、『勇者』と旅をしたいの?『勇者』の役に立ちたいの?」

勇者「『私』では、無くて?」




276:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/24(日) 11:48:03.83 ID:emDjFy1lP

魔導師「……ち、違いますよ!?勇者様、だから……!」

勇者「うん。勿論そう言ってくれるだろうとは思ってた。けど……」

勇者「それは、私が勇者だから、でしょう?」

勇者「もし、剣士が……青年が。僕が勇者だって、君に言ったら」

魔導師「そ、そんな事は無い!見れば分かります!勇者様しか、金の瞳なんて……!」

勇者「……あのね、魔導師」ハァ
勇者「器も中身も、揃っての……命、だよ。それで初めて、個人になるんだよ」

勇者「私の事を特別だ特別だと言って、色々と頑張ってくれるのはありがたいんだけど」

勇者「……私が特別なんじゃ無くて」

勇者「『勇者』が特別なんだよ?」

魔導師「………」

勇者「君は、器しか見ていない気がするよ」

勇者「青年は確かに不思議だ。良くわかんない事ばっかり言うし、最初は正直胡散臭いと思ったし」

青年「……酷いなぁ」ウサンクサイ、テ
勇者「でもね、青年の中身を、ちゃんと見てあげて欲しいよ」

勇者「今の魔導師は、本当に……青年が言うように」

勇者「……おもちゃを独り占めしたいだけにしか、見えない」

魔導師「………」ポロポロポロ
勇者「………」

剣士「………」

青年「………」




277:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/24(日) 11:59:25.61 ID:emDjFy1lP

勇者「きついこと言ったね。でも……謝らないよ」

勇者「嘘じゃ無いから。仲間として、一緒に頑張っていきたいから」

勇者「一緒に、魔王を倒したいから。だから……少し、考えて欲しいんだ」

勇者「勿論、みんなで仲良くしたいけど……無理なら、仕方ない」

勇者「でも、ね……それでも、信じ合わなくちゃ」

魔導師「………」コクン
勇者「魔導師?」

魔導師「……す、み ……ま、せん……で、……ッ た……ッ」ヒックヒック
勇者「ん。はいそうですかって、どうにかなるものだとは思ってないから」

勇者「ちゃんと、態度で示していってね?ゆっくりで良いから」ニコ
青年「………」イガイトキツイナ、ユウシャサマ。ヒソ
剣士「………」エガオデナカシタヨネ。ヒソ
勇者「聞こえてるよ!」ソコフタリ!
魔導師「………」クス
勇者「話割り込んだね、御免ね剣士」

剣士「否、別に良い……いや」

剣士「丁度良い機会だ……青年の話の前に伝えておこう」

青年「……僕的にはこれで、仲直り。気合い入れて出発! ……ていう」

青年「展開を期待したんだけどなぁ」アマカッタカ
剣士「話すと言っただろう。エルフは……嘘がつけないんだろう?」

青年「……仕方ないな」ハァ
勇者「私だって忘れてないよ。出発明日に延ばすつもりで」

勇者「さっき、女将さんにももう一泊するって伝えたし」

青年「………まじで?」

勇者「まじで」

勇者「全部聞くまで、寝かさないよ!」

青年「何それ卑猥」ニヤニヤ
勇者「………下品!」バカ!



278:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/24(日) 12:13:23.83 ID:emDjFy1lP

魔導師「……僕も、聞くまで、寝ないです」グスグス
青年「君は先に泣き止みなよ……」ホラ、ティッシュ
魔導師「……すみません」フキフキ
剣士「単刀直入に言う。俺は人間では無い。多分……魔族なのだろう」

勇者「え?」

魔導師「え?」

青年「あっさり言い過ぎ」

勇者「……ええええええええええ!?」

魔導師「………」ポカーン
剣士「………」ユウシャサマ、ウルサイ
青年「………」マドウシ、クチトジナサイ
勇者「いやいやいや、え、えええええ、えええええ!?」

魔導師「な、なんで!?人にしか見えませんよ!?」

剣士「……とりあえず、聞いてくれないか」

勇者「……青年は、知ってた?」

青年「気付いてた、が正解かなぁ。その後で剣士に聞いたけど」

勇者「君、魔族? ……て?」

青年「うん」アッサリ
勇者「……あ、ああ。そう……でも、だろう……て?」

魔導師「………」ポカーン
剣士「……記憶が無い」

勇者「え?」

剣士「気がついたら、廃墟の様な街に居た。この姿で」

勇者「……それ、何時の話?」

剣士「60年程前だ」

魔導師「………」ポカーン
青年「ストップ、二人とも。魔導師……大丈夫?」

勇者「……魔導師?」

魔導師「な、なんなんですか、貴方達!?」

魔導師「揃いも揃って、規格外ばっかり……!?」

勇者「酷い」

剣士「……確かに」

青年「え、僕も?」

勇者「……青年が筆頭でしょ」

剣士「同感」

青年「ええ……」ウソン
魔導師「………もう、何も考えたくない」グッタリ



282:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/24(日) 13:16:49.41 ID:emDjFy1lP

剣士「で……続きを話して良いのか」

勇者「うん……もう、この際隠し事無しで行こうよ」

青年「僕も?」

勇者「当たり前でしょ」

青年「……だよね」

剣士「……廃墟の街で目を覚ました時、俺は既にこの姿だった」

剣士「手には、この鋼の剣を握って、な」

勇者「それが、約……60年前?」

剣士「ああ……それぐらいだと思う」

魔導師「旅を……して、剣技を磨いた、のですか」

剣士「……気がついたら、魔法剣を使えた。身体も勝手に動いた」

魔導師「………」

剣士「前に……森の中でお前に偉そうな事を言ったな。嘘を吐くつもりはなかったんだが」

剣士「……悪かった」

魔導師「いえ……良いんです」ダイジョウブ…デス
青年「偉そうな事?」

剣士「……それは後だ」

剣士「世界を転々とし、知識も得た……そして、勇者の誕生と魔王の復活の話を聞いた」

勇者「16年前、だね」

剣士「そうだ……勇者様と旅をする事になれば」

剣士「俺の……正体を知れるかもしれないと思ったんだ」

勇者「……魔族、と決まった訳……じゃ無いんでしょ?」

剣士「それはそう……だが」

魔導師「人間では……無いのは間違いありませんけどね」

青年「……トゲがあるような気がするのは僕だけ?」

魔導師「急にはいそうですか、は無理です」フン
青年「開き直ったね……ま、いいんじゃない」クスクス
勇者「んー……じゃあ、剣士の瞳が紫なのは……」

青年「別に、瞳の色が必ず加護の属性を連想させる物であるって言う保証は無いよ?」

勇者「うん、そう、だよね……違う場合もまれにあるんだっけ」

魔導師「珍しいですけどね……でも、剣士さんが人間で無くても」

魔導師「属性は必ず、もって産まれてくる筈ですよ?」




283:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/24(日) 13:36:25.16 ID:emDjFy1lP

剣士「闇……では無いのか、青年」

魔導師「……闇?雷では無いんですか?」

勇者「闇の属性なんて……聞いた事ないよ?」

青年「僕は色から推測しただけだよ。それに、言っただろ、剣士……君は」

剣士「……加護に縛られない加護か」

魔導師「……どういう、意味です?」

剣士「……光と闇以外であれば、どの属性でも魔法剣となす事ができる」

魔導師「………やっぱり規格外じゃないか」ガックリ。モウイイ…オドロクノモアキタ
勇者「闇の加護って……そう言うモンなの?」

青年「いや、違うと思うよ? ……だから、色から想像しただけだってば」

魔導師「………」ウーン
勇者「魔導師?」

魔導師「……神話や、古い詩の一節に……出てくるのですが」

青年「………光と闇は表裏一体、て奴か」

魔導師「そうです……青年さんは多分、同じ事を考えてますよね?」

青年「……だろうね。行き着く先はそこだ」

魔導師「はい……もし、闇の加護と言うのがあるとするのならば」

勇者「………?」

魔導師「それは……魔王の物、と言う事になるんでは無いでしょうか」

剣士「………」

勇者「え!? ……な、なんで!?」

青年「光と闇は、表裏一体……光は、それに選ばれし勇者だけが持つ特別な加護」

青年「勇者は世界にただ一人。魔王もしかり……と考えれば?」

勇者「あ……!」

勇者「じゃ、じゃあ……剣士が、魔王!?」

魔導師「え?」ソウクルノ?
青年「……ッ」ブフッ
剣士「………」キモチハワカルガフクナ、キタナイ
勇者「……覚悟しろ、とか言った方が良いのかな?」

魔導師「勇者様、ふざけないでください」メッ
勇者「……はーい」ゴメンナサイ



284:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/24(日) 13:48:33.51 ID:emDjFy1lP

勇者「いや、でもさ……記憶無いって言うし」

勇者「……完璧あり得ない話でも無くない?」

魔導師「そ……それは、そうかもしれな……えぇ?」ウーン
剣士「……流石にそんな事は思いもしなかったが……そうか」アリエルノカ
青年「いやいやいや、君たち落ち着いて。剣士まで何言ってんの」

勇者「え、だって」

青年「大丈夫、違うから」

魔導師「どうして言い切れるんです?」

青年「後でちゃんと話すって……でも、剣士が魔王だってのはあり得ない」

青年「……僕は、魔王の正体を知っている」

勇者「………え?」

魔導師「………はい?」

剣士「………何だと?」

青年「……頼むから、一斉に睨まないでくれよ」

青年「とにかくその話は後!」

青年「……もう一回、聞くよ?光と闇は、表裏一体」

青年「光は、勇者だけの、闇は魔王だけの、特別な加護と考えれば」

青年「……剣士は?」

魔導師「闇の加護を受けるわけでは無い」

青年「……まあ、それが一番可能性が高い」

青年「加護に縛られない加護、が……闇の加護の特徴と決まった訳でも無い」

勇者「そうなの?」

青年「わからないってだけ。ノーともイエスとも、ね」

魔導師「そうですね……剣士さんは、加護を持たないのかもしれません」

魔導師「……それでも充分規格外ですけどね」チッ
勇者(舌打ちした?)ソラミミカナ
青年(舌打ちしたな)キコエタヨ
剣士(………)コッチガホンショウカ



285:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/24(日) 14:02:11.01 ID:emDjFy1lP

剣士「……何にしても」ハァ
剣士「俺が何者かは……わからない。人で無いことだけは確実だが」

青年「知りたいのか?」

剣士「……そうだな。出来れば」

青年「廃墟の街、とやらに……心当たりは?」

剣士「……60年も前だからな」

青年「その当時、廃墟だったと考えれば……一つしか無い」

勇者「あっさり解決」

魔導師「そうでもありませんよ、勇者様……今、復興されているかもしれませんし」

魔導師「……記憶違いって可能性だって」

剣士「……古い、教会があった。十字架が折れて地面に刺さって居た」

剣士「後は……灰色の空」

青年「間違いないな。多分それは……最果ての街だ」

剣士「最果ての街……」

青年「魔王の居城のすぐ傍の……かつて街だったとされている場所、さ」

勇者「……ますます、魔族である可能性が高くなってきたね」

魔導師「そう……ですね」

勇者「あ……ねぇ、青年」

青年「ん?」

勇者「いや……いいや」

青年「隠し事は無しだと言ったのは君だよ、勇者様」

勇者「……もし、魔王を倒したら……魔族、とか魔物は」

勇者「消えちゃう、よね……」

剣士「………」

魔導師「………」

勇者「もし、剣士が魔族なら………」チラ
剣士「……構わん」ジィ
勇者「……え?」

剣士「魔王を倒すために旅をしているんだ」

剣士「……本望だ」

勇者「そんな!」

剣士「では、魔王を倒すのを諦めるか?」

勇者「………それは」

剣士「勇者様は……勇者、だろう」

勇者「うん」

剣士「……ならば」

勇者「私は……魔王を倒す!」

剣士「ああ……」ニコ
勇者(わ、剣士の笑顔……初めて見た)ドキドキ
勇者(あ、あれ? ドキドキって)カオマッカ
青年「あー、あのさぁ。二人で盛り上がってるとこ申し訳ないけど」ウンザリ
青年「魔王倒しても、魔物も魔族も消えないから」

魔導師「え?」

勇者「え?」

剣士「……何?」

青年「もう一回言おうか?消えないから心配しなくて良い」ハズカシイダロウ。ザマアミロ



286:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/24(日) 14:24:33.06 ID:emDjFy1lP

青年「とりあえず、最初から話すよ」

青年「到底信じられない話だ。だけど……全部、真実だから」

勇者(青年……真剣な顔だ)

魔導師(もう驚くもんか……これ以上吃驚する事なんか……!)

剣士(………)

青年「魔王が産まれれば、勇者が産まれるってのは知ってるね?」

勇者「魔王を倒すために……って事ね」

青年「そう。そして勇者が産まれれば魔王が産まれる」

魔導師「……え?」

剣士「……何故だ?」

青年「勇者に倒される為に、さ」

勇者「……どういうこと?」

青年「さっき、僕は魔王の正体を知っていると言ったね?」

勇者「?………うん」

青年「僕は、魔王に会ったことがある」

魔導師「え!?」

剣士「何!?」

勇者「………は?」

青年「抱っこして貰った事もある……らしい。流石にこれは覚えて無いけど」

青年「勇者様の母上にも会ったことがある」

青年「前に言っただろう?この……浄化の石」

青年「僕の母さんが作った物だ。そして……勇者様の持っているのは」

青年「母が、君の母上にあげた物だ、と」

勇者「ちょ、ちょっと待ってよ……?」

青年「ハーフエルフの母は、優しい僧侶だった。僕の父は、偉大な戦士だった」

青年「君の母上は……とても優秀な魔法使いだった」

青年「そして、君の父上は……誰よりも強い、勇者だった」

青年「黒い髪に、優しい金の瞳をしていた」

青年「……僕は、君が産まれた時に一緒に居た」

青年「僕たちの両親は、以前の勇者一行だ」

青年「そして、君は……魔王の娘だ。勇者様」




289:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/24(日) 14:33:55.54 ID:emDjFy1lP

魔導師「………い、くら、何でも……」

魔導師「信じられませんよ、そんな話……ッ!?」

青年「だろうな。だが事実だ」

青年「……だから、まだ言うつもりは無かったんだ。絶対に……信じられない」

剣士「エルフは嘘をつけない」

剣士「だが……これは」

青年「そうだ。僕は嘘をつけない」

青年「……だけど、事実だ。僕は……母に全て聞かされて育った」

勇者「青年のお母さん……ハーフエルフの、僧侶さん?」

青年「そうだ……癒し手、と言う」

勇者「この……浄化の石を、お母さんにくれた人」コロン。チカチカ
青年「……そうだ」

勇者「優しくて……癒される気がする。身を清め、魔を寄せ付けない……」

勇者「お守りにしなさいって……」

青年「……もう一つ、あるだろう、お守り」

勇者「え……?」

青年「金色のペンダントだ」

勇者「……何で知ってるの」

青年「母さんから聞いたからだ」

青年「母さん達が、前々魔王を倒す旅をしているとき」

青年「……前勇者…君のお父さんの母上…だから、君のお祖母様」

青年「……そのお祖母様から譲り受けた物だそうだ」

青年「おそらくはそうして、代々勇者に受け継がれている」

勇者「………」

勇者「………本当、なんだね」

魔導師「勇者様!?」




290:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/24(日) 14:41:27.67 ID:emDjFy1lP

勇者「この、ペンダントは……誰にも見せた事無いでしょ?」スル。チャラ…
剣士「……普通のペンダントだな。その浄化の石の様に……癒やしの力は感じない」

魔導師「え……あ、そういえば剣士さん、あの時……」

剣士「……傍に居ると息が詰まる。故に……席を外した」

青年「だから魔族……に、近い何かじゃないかって推測にも繋がったんだ」

魔導師「そう、だったんですか……あの、今は?」

剣士「……不思議な事に、何も思わない」

魔導師「………何故、でしょうか」

剣士「慣れたのか……何だろうな」

青年「この二つの石から、力は失せては居ない」コロン。チカチカ
青年「光ったまんまだしね」

勇者「……お母さんが、この二つを旅に出る前に持って行けって」

勇者「青年、私はその話を……信じる」

勇者「だけど……」

青年「混乱するのは……無理は無いよ」

勇者「違う! …剣は?光の剣は!?」

勇者「お父さんは……光の剣を持ってて、何故!?」

勇者「お父さん、強かったんでしょ!?凄い……勇者だったんでしょ!?」

勇者「なんで………なんで、魔王なんかになっちゃったの!?」

青年「……君の父上だけじゃ無い」

青年「代々の魔王は勇者だ。勇者は、必ず魔王を倒す」

青年「そして……次代の魔王となるんだ」

青年「だから………剣士が魔王な筈は無い」

魔導師「待ってください!時間が……おかしいですよ!?」

魔導師「魔王が復活して、50年……勇者様は、16年前に産まれたんでしょう!?」




291:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/24(日) 14:48:44.88 ID:emDjFy1lP

青年「そう。母さん達もその謎に頭を悩ませたと言っていた」

青年「……しっかり聞いてくれ」

青年「前勇者……君の両親と、僕の両親が」

青年「前々魔王を倒したのが、約60年前だ」

青年「それから、約50年。君が両親の元に宿った」

青年「僕が一歳ちょっとの時だ」

魔導師「おかしいです!どうして……青年さんのお母様はともかく、他の三人は人間でしょう!?」

青年「前勇者は魔王になった。魔法使い……君のお母さんと、僕の父さんは」

青年「その時に、魔王の力で魔族になっている」

剣士「……そんな事、可能なのか?」

青年「前に言っただろう。願えば、叶う」

魔導師「……魔王は、それほどの力を持っている、のですか」

勇者「じゃあ……お母さんは……魔族、だったの?」

青年「元人間、のね」

青年「人間だけが、魔へと変じる力を持っている」

魔導師「……どういう意味です?」

青年「君には分かるだろう、魔導師。 ……光と闇の獣。汝の名は、人間」

魔導師「あ………」

剣士「なんだ、それは」

青年「人間と言う生き物は、光と闇の両方を選び取ることが出来るのさ」

青年「強くて弱い。弱くて強い……無限の可能性を秘める物。それが……」

青年「たかだか人間、なのさ」




293:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/24(日) 15:08:40.07 ID:emDjFy1lP

勇者「……私は、魔王と……魔族の、子」

青年「ああ。だが……君は人間だ」

勇者「どうして!?」

青年「勇者だからさ」

勇者「………!」

青年「光に導かれし運命の子。汝の名は、勇者」

青年「弱くて強く、強くて弱い……世界で唯一、光を加護に持つ、人間」

青年「それが、勇者だ」

魔導師「……魔王は、何故……世界を滅ぼそうとするんですか」

青年「それも、前に言っただろう?」

剣士「魔王は世界を滅ぼそうとなどしていない……人間の大いなる勘違い」

青年「……そうだ」

魔導師「ですが……魔王が復活して、魔物の力が強くなっていると」

魔導師「……そうだ、魔王を倒しても、魔物は消えないとも……言っていましたね」

青年「魔王の世代交代が行われた時に、魔物の力は急速に衰える」

青年「魔王は、次代の勇者がこの世界に生を受けるまで、休眠期間に入るんだ」

青年「……勇者が宿った時、復活の準備期間に移行する」

青年「そしてそれは、産まれると………最終段階に入る」

青年「魔物達は、その魔王の状態に合わせて、力が上下するに過ぎない」

魔導師「……今は、最終段階、なのですか?」

青年「そうだ。最終段階に入ると……魔王は、動けなくなる」

勇者「……え?」

青年「動けない、喋れない、笑わない……目も、開けない」

青年「次に目を開けば、完全に勇者であった自覚も、自我も失っている……らしい」

勇者「それは ……どれぐらいの、時間なの」

青年「……勇者が産まれて、約一ヶ月」

青年「再び目を開くまで……ほぼ16年、だ」

勇者「………」

剣士「………」

魔導師「だから、勇者の旅立ちは16歳と……決まっているんですね」




294:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/24(日) 15:16:45.97 ID:emDjFy1lP

青年「勇者達は、魔王と対峙する。そして、必ず魔王を倒す」

青年「……そうで無ければ、この世界は存在を失う」

魔導師「……! では、やはり魔王は……この世界を滅ぼすじゃないか!」

青年「違う。勇者は魔王を倒すんだ。必ず」

勇者「……そして、新たな魔王になる、んだね」

魔導師「勇者様!」

青年「………そうだ」

勇者「次は、私が……魔王になるのか」

剣士「……他に方法は無いのか?」

青年「世界を救う方法はそれしかない」

魔導師「そんな……そんなの、おかしいよ!どうして……!」

青年「それが……この腐った世界の腐った不条理」

青年「僕たち……人も、魔も……生きとし生ける物全ては」

青年「こうして……世界を紡いできたんだ」

剣士「……魔王になることを拒否したら?」

青年「拒否権があるように見えるか?」

剣士「………」

勇者「私が……魔王になる事を拒否したら」

勇者「世界は………終わる、のか」

青年「選ぶことで変わるだろうね。だが……」

青年「否。それは確かに、誰も知らない物語に繋がる」

青年「それも、選択肢の一つだよ、勇者様」

勇者「……ッ 選べる訳、ないでしょ!?そんなの………ッ」

青年「………」

魔導師「………」

剣士「………」

勇者「だから………誰も、拒否なんてしなかったから……」

勇者「世界が、今、ある……ん、じゃない……」

勇者「私だけ……嫌だ、なんて……言えない、よ……ッ」ポロポロポロ
魔導師「勇者様………」




295:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/24(日) 15:24:43.89 ID:emDjFy1lP

青年「……僕たちは、喜ばなくてはいけない」

剣士「……何?」

魔導師「何を言っているんです!?」

青年「どうして人々は、勇者様の誕生を歓喜する?」

青年「……魔王を倒し、世界を救ってくれるからだ」

魔導師「……ッ し、しかし……」

青年「繰り返していくことで、世界は平穏な侭だ」

青年「だから……僕たちは喜ばなくてはいけない」

剣士「……ッ やめろ……!」

青年「……腐った世界の腐った不条理を断ち切る、唯一の亀裂」

青年「前代未聞の特異点。狂った運命の輪」

魔導師「……何度か聞きましたね、その言葉」

青年「僕の母さんの事だ」

魔導師「え……?」

青年「魔王となった前代の勇者が、復活の最終段階に入ったとき」

青年「次代の勇者と対面するまで、魔王の力を抑えるために」

青年「代々の仲間達はその身を魔へと変じさせ、魔王と共にあった」

青年「……僕の母さんは、ハーフエルフだ」

青年「人間じゃ無い」

魔導師「魔へと、変じられない……」

青年「そうだ」

魔導師「で、でも……い、癒し手様は……人寄り長い寿命をお持ちなのでは?」

青年「エルフの寿命が約300年。半分としても、150年」

青年「……前勇者の旅立ちの頃、60歳ほどだったと聞いているよ」

魔導師「え、ええと……」ケイサンニガテ
剣士「………ギリギリ、か」

青年「と、思うだろ? ……そうでも、無い」

勇者「……何で?」




296:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/24(日) 15:35:05.17 ID:emDjFy1lP

青年「感じる力が強い、エルフの血の所為で」

青年「……母は、魔王城に居る間に随分力を消費した」

青年「否、寿命を消費したと言う方が正しいかな」

勇者「………ッ」

青年「覚えて無いと思うけどね。君を取り上げたのは、僕の母さんなんだよ、勇者様」

勇者「………」ポロポロポロ
青年「この浄化の石を作った目的は、そんな強くなる魔王の力から自分を守る為だったんだって」

青年「それをお守り代わりに、僕と……勇者様に分けてくれたのさ」

魔導師「………光っていたのは、喜ばれていたのかもしれませんね」

青年「ん……?」

魔導師「勇者様が無事に育たれ、貴方と……青年さんと、再会した事に」

青年「……それだけじゃないだろう」

魔導師「え?」

青年「否……ありがとう。そう言って貰えるのは、素直に嬉しい」

魔導師「………いいえ」

勇者(だから……優しかったんだ)ポロポロポロ
剣士(だから……悲しみという苦痛を感じたのか)

青年「今……魔王を抑える手は、僕の父さんと、君のお母さんしか居ない」

青年「……本来ならばもう一つの力が加わる所が、欠けているんだ。僕の……母さんが」

剣士「………お前の母は…何処に?」

青年「………」

青年「………」ス…
魔導師「……上…? ……ッま、さか……ッ」

青年「身体は、土の下だけれどね」




297:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/24(日) 15:42:19.67 ID:emDjFy1lP

……
………
…………

后「嘘よ!」

側近「そ………ん、な……ッ 嘘だ、嘘だろう……ッ青年……ッ」

后「………そ、んな……癒し手……」ポロポロポロ
側近「………ッ」

后「や、くそく……したじゃない、また後でって!! ……何で……ッ」

后「ばか!ばかばかばか!約束破るなんて……ッアンタらしくないわよ、癒し手!」

側近「……ッ 后……様」

后「な、に………よ……ッ」ヒックヒック…
側近「無茶を承知で言う」

后「…………」

側近「……癒し手を、連れてきてくれないか」

后「……土、掘り起こせって言うの」

側近「そうだ」

后「もう……く……朽ちて、る、……わ。よ……ッ」

側近「それでもだ!」

后「……ッ」

側近「今しか無い。もう……ッ俺だけじゃ持たなくなる」

側近「……多分、墓は……あの教会だ」

后「教会?」

側近「……癒し手が拾われたという、森の中の朽ちた教会」

后「……場所は?」

側近「……ビジョンを頭に送る……願えば、叶うんだろう……!」ググ……ッ
后「………!!」ウッ……
側近「最期の最期で……魔族らしい事をさせてくれる」

后「……やり方が乱暴なのよ……」イタタ
側近「無茶言うな」

后「無茶言ってるのはアンタよ! ……帰るまで、くたばらないでよ!」

后「………先に魔王にあったら、承知しないわ!」シュウッゥン
側近「………ッ癒し手……ッ 馬鹿野郎………ッ」グス……



300:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/24(日) 16:06:56.28 ID:emDjFy1lP

……
………
…………

剣士「……そうか」

魔導師「ご……ごめんなさい」

勇者「………」

青年「良いさ……それが母さんの……選んだ道だ」

青年「前回……正確には、前々回の世代交代から、少しずつ……運命の輪は狂っている」

青年「永遠に同じ事の繰り返しだったはずだ……だが」

勇者「前代未聞の……特異点」

剣士「腐った世界の腐った不条理を断ち切る、唯一の亀裂……か」

青年「そう……変わった。色々と、変わったんだ」

魔導師「……では、今回こそ……完璧になおさくちゃいけないんですね」

勇者「光の剣か……」

青年「……それも、違った」

勇者「え?」

青年「どんどんと、朽ちていくばかりだったそうだ。今までは」

勇者「……どういうこと?」

青年「母さんに聞いた話では、前回は刀身に傷が一つ」

青年「今回……母さん達の時、ね。 …には」

青年「完璧では無いが、光が戻った。 ……刀身の傷はそのままだったそうだけど」

剣士「……再生したのか?」

青年「前勇者の中の光の一部が吸い込まれたらしいが」

魔導師「………刀身の傷だけであれば、治せます」

勇者「本当に?」

魔導師「はい……この間、剣士さんの剣を見て……考えていたんです」

青年「……でも、魔法剣の鍛冶は難しいんだろう」

魔導師「難しいです。僕の腕だけでは無理です。でも……剣士さんの力を借りれば」

剣士「……俺の?」

魔導師「はい。自己流で手入れされているんですよね?」

剣士「ああ……しかし」

魔導師「教えてください。それから……貴方の、加護に縛られない加護の……」

魔導師「力を注いで、強化します」

青年「……成る程」

勇者「………」ワカッテル?
青年「………」ナントナーク
青年「剣士の剣が重い、理由だね?」

魔導師「はい……多分、ですけど」

勇者「………説明してくれると嬉しい」




301:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/24(日) 16:15:56.37 ID:emDjFy1lP

魔導師「推測ですけど、剣士さんの……その力が万物に作用すると考えれば」

魔導師「剣を媒介にする度に、無機物である鋼……に、力が注がれているんでしょう」

魔導師「……正直言って理屈はわかりませんが」

魔導師「旨くやれば………」

勇者「うん、さっぱりわかんない」

青年「通常なら、剣に魔法なんて流し込んだら」

青年「所詮たかだか鋼。一発で砕け散る………か」

魔導師「……そうです。でも……青年さんの話がヒントでもあります」

青年「僕?」

魔導師「はい。願えば、叶う………剣士さん、刀身の物理的な修理が終わったら」

魔導師「剣を握って、願ってください」

剣士「………治れ、と……か」

魔導師「はい」

勇者「……そんなんで、旨く行くの?」

魔導師「正直、やってみないと分かりませんが……」

青年「価値はあるね」

剣士「……わかった」

魔導師「ですが……ここでは無理ですね」

魔導師「設備が……」

青年「やはり……港街に向けて発つ必要があるか」

魔導師「はい、大きな街なら……材料も揃うかと」

勇者「何が必要なの?」

魔導師「刀身を打つ打具ぐらいでしたら、この村にもあるでしょうけど」

魔導師「強力な火が無いと……」

勇者「そうか……流石に私の炎の魔法程度じゃ無理だよね」

魔導師「……時間がかかりますからね。打ち出しっぱなしにして貰うわけには……」

剣士「……なら、明日早朝に……」


??「その必要はないわ」


青年「誰だ!?」バッ
剣士「……!」グ……ッ
魔導師「ど、どこから……ッ」


シュウゥウウウン……ッ

勇者「あ………!」




302:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/24(日) 16:24:36.35 ID:emDjFy1lP

青年「母さん!?」

勇者「お母さん!」


魔導師「え?」

剣士「何?」


后「久しぶりね、勇者……それから、青年君」ヒック……ニコ
青年「……后、様? ……どうして……母さんを」

后「………側近…貴方のお父さんの、お願いでね」

青年「………!!」

魔導師「その、蒼い、髪の方が……癒し手様、ですか…」

剣士「……死んだんじゃないのか」

后「掘り起こしてきたのよ。土の下から。墓の中から」

勇者「お母さん!!」

青年「………綺麗な、ままだ」

后「……あの丘は、水と大地……緑に守られた美しい場所だった」

后「……魔王が。前勇者が……貴方のお父さんが守ったこの世界は」

后「とても………美しいの、勇者」

勇者「……わかってる。大丈夫だよ、お母さん」

后「……ごめんなさいね」

青年「后様……どうするんですか、母さんの……身体」

后「また後で、と約束したのよ」

青年「………そう、か」

后「話は………またにしましょう。魔導師君ね?」

魔導師「は、はい!」

后「光の剣を持って、着いてきなさい」

魔導師「え、え?」

后「鍛えるんでしょう? ……私なら、炎を自由に操れる」

魔導師「………! …はい!勇者様、お借りします!」

勇者「あ、え?うん……!」ハイ
魔導師「ありがとうございます」タシカニオアズカリシマス
后「急ぎましょう。時間が無いわ」

后「……戻る迄、癒し手……お願いね」シュウン
魔導師「あ、あの……いってき」シュウン

青年「………」ハナシニハキイテイタケドスゴイ
剣士「………」ビックリシタ
勇者「………」オカアサンスゲェ



304:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/24(日) 16:34:18.86 ID:emDjFy1lP

剣士「……魔族ってのはああいう物なのか」オレヤッパリチガウカモ
勇者「……魔王はもっと強いんだよね」カテルキシナイ
青年「願えば叶う、のさ………母さん」カアサン……テ、ギュ……ツメタイ
勇者「綺麗な……人だね」

剣士「……エルフの血が入っていると言うのは凄いな」

青年「ああ……勇者様より若く見えるだろう?」

勇者「……150年も、生きているのか」

青年「生きていた、だ………母さんは、もう死んだ」

青年「……これは、ただの器だ」

剣士「………」

勇者「………」

青年「……后様の魔力は凄まじかった」

剣士「ああ……それは俺も感じた」

勇者「私は……わかんないや」

青年「魔族になるというのは……人の特権なんだ」

勇者「さっきの話だね」

青年「……僕は、魔には変じられない」

勇者「………」

剣士「………」

青年「勇者様、君は……魔王になる」

勇者「……うん」

青年「君が産むのは、次代の勇者だ」

青年「………僕の子を、産んでくれないか?」

勇者「………へぇ!?」

青年「前代未聞の特異点……母さんが、母さん達が紡いだ物語を」

青年「変えていくのが、僕たちの役目だ」

剣士「待て……光の剣を鍛えたら」

剣士「………魔王を倒せるのでは無いのか?」

青年「それで、この物語が終わるのならばそれで構わない」

青年「だけど、もし」

青年「………まだ、次の勇者が必要となるのなら」

勇者「…………」ドキドキドキドキ
青年「僕の子を産んでくれ、勇者様」

青年「特異点は多い方が良い」

勇者「………!!」バッチン!!
青年「……ッ 痛…ッ」

勇者「………」スタスタスタ。バタン!



306:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/24(日) 16:49:43.66 ID:emDjFy1lP

剣士「………」コイツ、アホウダ
青年「……僕、なんかまずいこと言った…か?」ヒリヒリ
剣士「いくら何でも今のは駄目だろう……」オンナゴコロノワカランヤツダ
青年「……真剣なんだけど」

剣士「そういう所は、鈍いんだな」

青年「??」

剣士「………」ユウシャサマカワイソウニ。スクッ
青年「どこ行くんだい?」

剣士「勇者様の様子を見てくる……お前は、癒し手様を見ておけ」

青年「あ、ああ……」

剣士「後で勇者様に謝れよ」パタン
青年「………何か、おかしい事言った……のかな、僕……」カアサン…

……
………
…………

コンコン

勇者「……はい」

剣士「入って良いか?」

勇者「剣士……うん」

剣士「……許してやれ。悪気は無いんだろう」

勇者「……解ってるけど、さ」

剣士「まあ……あいつが悪いがな」

勇者「吃驚したよ……」

剣士「……青年が好きなのか?」

勇者「んー…嫌いじゃ無いけど。そういうのはわからない」

剣士「……そうか」

勇者「正直……混乱してるし。いきなりこんな話、聞いても」

剣士「ああ……」

勇者「だけど……あれは……無いよ!」

剣士「……魔導師と同じだな。魔王の子は勇者。であれば」

勇者「うん……特異点が多い方が良い、だなんて」

勇者「……私は、私なのに、な」

剣士「……母親が守ろうとしたものを、守りたくて……必死なんだろう」

勇者「………」

剣士「魔王に、なるのか」

勇者「……拒否権なんかないじゃん」

勇者「それに……青年の言い方だと」

勇者「魔王を……お父さんを、倒すのは無理だと思ってるみたい」

剣士「……俺も、それは否定しない」

勇者「………」

勇者「癒し手様、居ないから……」

剣士「難しい、かもな」

勇者「うん………」




307:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/24(日) 16:59:53.40 ID:emDjFy1lP

剣士「だと、すれば次代に……と言うのは」

剣士「……ずっと、癒し手様の話を聞いて育った奴に取っては」

勇者「簡単に結びつく……よね」

剣士「………」

剣士「……勇者様」

勇者「ん?」

剣士「否……良い」

勇者「何よぅ……」

剣士「……! …戻ったな」

勇者「え?」ナニカイイカケタデショ?
剣士「後だ……后様と魔導師が戻った」スタスタ。パタン
勇者「え、え??」チョットマッテ!タタタ

……
………
…………

后「後は……大丈夫ね」

魔導師「は、はい……ありがとう、ございまし、た」……ゼェゼェ
青年「連れて……行くんだね」カアサン…
后「ええ……側近とも約束したから」ダキアゲテ……ギュ
剣士「魔導師……」カチャ
勇者「待ってってば……お母さん!?もう行っちゃうの!?」

后「ええ………時間が無いの」

后「……結局、同じ事の繰り返し。でも、確実に違う」

后「これから先、どうなるかはわからない……でも」

后「腐った世界の、腐った不条理を断ち切る為に」

后「………また後で、ね」

勇者「お母さん……」

后「ごめんね、勇者。こうなること、解ってて……」

后「私達は、貴女が……授かることを願った」

勇者「………」

后「勇者は、皆の希望。光に導かれし、運命の子」

后「……貴女の、ペンダントに願いなさい」

后「もう……貴女達を見ていられるかわからないから……」

后「願えば、叶う……大丈夫よ、私の……私達の、可愛い勇者」ホッペニチュ
后「………」シュゥン
青年「………」

魔導師「………」

剣士「………」

勇者「……お母さん」




328:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/25(月) 09:35:15.53 ID:TwlCfvPfP

勇者「……魔導師、光の剣はどうなった?」ゴシゴシ…
魔導師「あ……はい!ここに!」シャキン。キラン
青年「……お見事」

剣士「見た目は……完璧にみえる、が」

魔導師「……后様のお力は凄かったです」

魔導師「あんなに……自在に炎を……操れるなんて」

勇者「……そうなんだ」

青年「元々優秀な魔法使いだったんだろう?」

勇者「うん……だけど、優れた加護を持つことは出来なかったって……言ってた」

魔導師「はい……剣を打っている間、色々教えて貰いました」

魔導師「前勇者と旅をしている時、癒し手様が優れた加護を持っているのを知って」

魔導師「嫉妬した、とか……お家が厳しくて、飛び出した話、とか」

勇者「え、そうなの?」ナンカ……ズルイ
魔導師「……全て終わったら、勇者様に教えてあげて欲しい、と」

魔導師「もう……ゆっくり話してる時間は無いから……って」

青年「………」

剣士「………」

勇者「………」

魔導師「……申し訳、ありません」

勇者「ううん。良い……後で、ゆっくり聞くよ。それより、剣を」ニコ!ダイジョウブ!
剣士「……ああ。先に、すべき事を済ませよう」

魔導師「はい……では、剣士さん……柄を握って………願ってください」ス
剣士「……こうか」ギュ……!
青年「勇者様、僕の後ろに……何があるかわからないから」

勇者「う、うん……」


剣士(握って……願う……)

剣士(………ッ)

剣士(………こ、れは……ッ く……ッ)


魔導師「ぐ……ッ」

魔導師(光ってる……ッ 何で……!?)


シュウ、シュウ……ッ

勇者「あ、あ……ッ 光が……ッ」グイッ
青年「出るな、勇者様ッ」ガシッ

パアァァァ……ッ



329:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/25(月) 09:43:18.89 ID:TwlCfvPfP

シュウゥ………

剣士「………う、うわああああああああああああ!」ガシャン!
魔導師「あ、つ……ッ 剣士さん!?」

剣士「……!!」バタン!
勇者「剣士!……ッ 青年、離して……ッ」

青年「駄目だ、勇者様…! ……危ない!」


剣士「………う、ぅ……」

魔導師「剣士さん、剣士さん!」

青年「……どいて、魔導師……勇者様を」

魔導師「は、はい……!」ユウシャサマ、コチラへ
勇者「………」ガタガタ、ギュ……
青年「………剣士?」カイフクマホウ……ポウ
剣士「………う、ぅ…」

青年(気を失ってる……が)

青年(……剣は?)チラ
勇者「せ、青年……剣士は?」

青年「……気を失ってるだけだろう」ダガ……
青年「………」チャキ
魔導師(剣は……無事、いや、だけど……!)

青年「………光が弱くなってる」

魔導師「……え?」

勇者「失敗………した、の……」

青年「……否。刀身は……完璧に治ってた…よね?魔導師」

魔導師「は、はい!后様の魔法の炎で……」

青年「……前ほどの光を感じない」

勇者「貸して………!」チャキン
勇者(前より、軽い……手にしっくりとなじむ……だけど)

勇者(……光が、少ない)

勇者「………どうして」

剣士「う……ッ」ムク
勇者「剣士!大丈夫!?」

剣士「あ、あ……」フラ
青年「……無理しない方が良い」

剣士「……どうなった?」

青年「こっちが聞きたい……とにかく、座れ」




331:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/25(月) 09:54:27.24 ID:TwlCfvPfP

剣士「………ぅ」

青年「話せるかい?」

剣士「ああ……大丈夫だ。剣は?」

青年「……光が少なくなってる」

剣士「……何?」

魔導師「勇者様……」チラ
勇者「……確かだ。前よりも……光が、少なく感じる」

勇者「だけど……前よりも、軽い。否、だから……かな?」

勇者「でも……手になじむ様な気が……する」

青年「僕には……剣士に光が吸い込まれた様に見えたけどね」

魔導師「……あの光の中で良く見えましたね」

青年「わからない。そう感じた……から、見たように思ってるのかも知れないけど」

青年「魔導師は……どうだった?」

魔導師「……剣士さんが柄を握って少ししてから」

魔導師「熱さを感じましたが……后様の魔法で鍛えたから…かも」

青年「………」

勇者「………」

剣士「何かが流れ込んでくるのを感じた」

剣士「身体を……焦がすほどの光……しかし」

剣士「そうであれば、俺が無事な筈が……ないだろう」

青年「……お前が、魔族だからか?」

剣士「そうであると仮定するなら、だ」

青年「闇の魔王を倒す勇者の光……弱点で無いとは限らない、けどね」

青年「……剣士、気分は」

剣士「……少し眩暈がする程度だ」

勇者「青年……何か、感じないの?」

青年「……否、特には。しかし……」

青年(………わからない。剣士からは……変わった様子は無い)

青年「加護に縛られない加護、で……打ち消した?」

魔導師「闇の属性であれば……光を、飲み込んだ……? でも……!」

魔導師(……考えられなくはない。でも……)

勇者「……剣士が無事なら、良いよ」

剣士「勇者様……」




333:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/25(月) 10:14:27.10 ID:TwlCfvPfP

勇者「……私は、勇者だ」

勇者「勇者は必ず……魔王を倒す、んでしょ?」

青年「……そうだ」

勇者「じゃあ、大丈夫」

剣士「………未知数だらけだな」

魔導師「規格外ばっかりですからね」ボクイガイ
青年「言う様になったね、魔導師……はいそうですか、は無理じゃなかったの」

魔導師「だからですよ……こんな人達相手に、複雑な事考えたって……無駄です」

青年「良いんじゃない、それで」クス
勇者「……でも、さ。一つだけ聞きたい」

青年「何だい?」

勇者「いくらなんでも、私達レベル低すぎない?」

青年「……時間がないんだ」

勇者「……勝てる気、しないんだけど」

青年「気にしなくて良い……行けば、解る」

魔導師「……大丈夫ですよ、勇者様」

魔導師「青年さんは、嘘はつきません」ニコ
青年「……そう言う事」ニッ
剣士「………」フラ
勇者「剣士、少し休んで?」

剣士「否、平気だ」

魔導師「だ、駄目ですよ、剣士さん……足下、ふらふらです……」

剣士「構わん……時間が無いんだろう」

青年「……恐らく」

勇者「………じゃあ、行こう」

勇者「でも……どうやって?」

青年「后様が言ってただろ?……ペンダントに願えって」ホラ、ニギッテ
勇者「ん……」チャラン



334:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/25(月) 10:23:43.32 ID:TwlCfvPfP

魔導師(いきなり最終決戦……信じられない)

魔導師(でも、后様……約束は、果たします)

魔導師(魔王を倒して、勇者様に、ちゃんと……伝えます!)


青年(謎は謎の侭だ……だが)

青年(時間が無い……でも、僕たちは何れ、知る。全てを……)

青年(母さん……僕は、貴女の代わりに、きっと……!)


剣士(魔王を倒す……それが俺の役目。役割)

剣士(ここまで来て……何を、迷う?)

剣士(くそ、足下がふらつく……これは……なんだ?)


勇者(魔王……お父さん)

勇者(お母さん……私は、勇者)

勇者(勇者は必ず、魔王を倒す……!)


勇者「………!」ギュ
勇者「………お母さん!」


パアアアアアァァッ

青年「……ッ 眩しッ」

剣士「………!!」

魔導師「……うぅッ」

勇者「待ってて……お父さん!」


……
………
…………

勇者「……こ、こは」

魔導師「………灰色、の空」

青年「最果ての街……かな」

剣士「………」

勇者「……前も、ここに?」

青年「否……母さん達の時は、城の中に飛ばされた、と言っていた」

魔導師「違いますね……寒ッ」

勇者「城は………あれか。歩けない距離じゃ無いな」

剣士「………」ココ、ハ……
青年「前は。 …前后様の転移術で呼びつけられた、らしいからね」

青年「……まあ、違っても不思議は……剣士?」

剣士「ここだ。俺が……倒れていた、場所」

勇者「………」

剣士「あっち……に、折れた十字架の教会が……」フラフラ
青年「お、おい、剣士!」

魔導師「お、追いかけましょう!」




336:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/25(月) 10:37:20.33 ID:TwlCfvPfP

剣士「……あった」

魔導師「け、剣士さん!」タタタ。ハァハァ…
勇者「間違いない?」

剣士「ああ……」

青年「………」

青年「感傷に浸ってる時間は無いよ、剣士」

魔導師「青年さん!」

青年「……君たちは感じないのか?」

青年「魔王の、気配……」

勇者「………ピリピリ、肌を刺すような」

魔導師「………」サムサノゲンインハコレカ…
剣士「……歓喜と、寂寥」

青年「ああ」

魔導師「僕たちは、喜ばなくてはいけない……」

青年「……そうだ」

勇者「行こう……時間が無い」


……
………
…………

后「もうやめなさい、側近……そんなに抱きしめないで」

側近「………ッ ぅ。う……ッ」ギュウ
后「奇跡よ。美しい水と、恵まれた大地。澄み渡る緑の風……」

后「奇跡なのよ!その……癒し手の美しい身体が、朽ちずに残っていたのは!」

側近「………ッ」

后「奇跡は簡単に何度もおこらない!身体は朽ちなくても……ッ もう、器に過ぎないの!」

后「生き返らないのよ………!」ウワアアアア……ッ
側近「解ってる。解っている……だが!」

側近「離せる訳が無い!何度も何度も……ッ夢に見た」

側近「もう一度……こうして、この身体を……抱く、のを……!」

后「………ッ」ポロポロポロ
側近「………」

后「………うッ」キンッ
側近「……なんだ」

后「来たわ……街の外れ、ね」

側近「……城内に呼ばなかったのか」

后「もう、私も貴方も離れられないでしょう」


魔王「………ゥ」


側近「………」

后「……もう、すぐね」

側近「ああ……時間が、ない……否……もう、少しで終わる」

后「………ええ」

側近「癒し手……もう、すぐだ」

后「まだ早いわ……まだ、やることがある」

側近「ああ……俺たちは」

后「……喜ばなくては、ならない」


魔王「………ゥ」




339:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/25(月) 10:57:25.90 ID:TwlCfvPfP

勇者「……静か、だね」テクテク
青年「廃墟だからね」スタスタ
剣士「………」スタスタ
魔導師「剣士さん……大丈夫ですか?」テクテク
剣士「ああ……少し、頭が痛いだけだ」

青年「何か思い出したのか」

剣士「否……何も」

勇者「……城門だ」

魔導師「誰か……居ます」グッ
勇者「!」チャキン
青年「……待て」

剣士「………人、か?」

使用人「お待ちしておりました、勇者様方」

勇者「……貴女は?」

使用人「……代々、魔王様に使えております。使用人と申します」

青年「魔王の手下に丁寧な出迎えを受けるってのもどうだかな」

使用人「……后様に申しつけられましたので」

勇者「お母さんは……?」

使用人「……后様も、側近様も、玉座の間におられます」

使用人「もうすぐ、魔王様の目が……開きますので」

剣士「時間が無い、か」

使用人「はい……どうぞ。ご案内致します」キィ…
魔導師「う、わ……ッ」

青年「これは……見事だね。もっと禍々しいの想像してたけど」

勇者「……王様の城より立派だ」

剣士「………」グッ
青年「……剣士?」

剣士「大丈夫だ」

剣士(なんだ……胸が、詰まる)

剣士(浄化の石を初めて見たときに感じた痛み……に、似てる?)

剣士(………悲しみ、切なさ)

剣士(魔王の………魔力、か?)

勇者「……使用人、さん。側近さん、と言うのは……」

青年「僕の父だろう」

使用人「はい……癒し手様も、一緒です」

魔導師「………」

青年「……そうか」

使用人「どうぞ、この扉の奥です」

使用人「………私は、これで」

勇者「あ、待って!あの……」

使用人「はい?」

勇者「……お父さん、は」

使用人「全て、知ります」

青年「………」

使用人「全てを見、知り……感じる事ができます」

使用人「では……後ほど」スタスタスタ
魔導師「何だか……なぁ」

剣士「緊張感が無いな」

青年「そうかい……?扉越しに……感じるよ」

勇者「うん……」

青年「……開けるよ。準備は、良いね?」

剣士「ああ」

魔導師「ハイ!」


勇者「………良し、行こう……魔王を、倒す!」


カチャ……



340:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/25(月) 11:05:54.92 ID:TwlCfvPfP

魔王「………ゥ」


后「来たわね、勇者……」

側近「大きくなったな、青年」


勇者「お母さん……」

青年「………」

魔導師(こ、れが魔王……なんだ、この魔力は……ッ これが、本当に…元勇者…!?)

剣士「……感動の再会だな、青年」

青年「茶化すな……父さん」

側近「……癒し手にそっくりだな」

青年「母さん……間に合わなくて、御免」

側近「………」

青年「母さんは……」

側近「器だけでも、間に合った……ありがとう」

青年「………」

后「……… ……勇者」

勇者「はい」

后「貴女を勇者に産んでごめんなさい。でも、私達はどこかで、それを願ってた」

勇者「………」

后「……もう、時間が無いから、少しだけ」


后「勇者、世界を救いなさい」

后「勇者は必ず、魔王を倒す」

后「貴女が無理でも、何時か必ず……!」

側近「……癒し手の想いを、無駄にしないでくれ」

側近「礎がここで終わらなかったのは残念でならん。だが……」

側近「腐った世界の、腐った不条理を……断ち切るんだ!」

后「貴女達は、もう、亀裂の一部じゃない!」

后「その光の剣で……魔王を貫きなさい!」

勇者「お母さん……!」ポロポロポロ

魔王「………ぅ、ウ」


勇者「お父、さん……う…ッ!?」チカチカチカッ
青年「う、ぅ……母さ、ん………ッ」チカチカチカッ
魔導師「……!浄化の石が!?」

剣士「………ッ う、ァ……ッ」


魔王「………う、ゥ…ッ」


パリン! ……ピカ……パアアアアアッ……

剣士「うわあああああああああああああああッ!!!」




344:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/25(月) 11:17:32.20 ID:TwlCfvPfP

癒し手「…………」パチ
癒し手「……側近、さん」

側近「……癒し手!?」

后「癒し手!!」


勇者「剣士、剣士!?」

魔導師「剣士さん!」

青年「………か、かあさん……ッ」

剣士「……ッ う、ぅ……あ……ッ」


癒し手「話は、後……時間がありません」

癒し手「后様と、側近さんは……魔王様をお願いします」スタスタ……
青年「か、母さん…… 母さん!母さん!」ギュ
癒し手「青年……」ナデナデ
癒し手「後で……先に、やることがあります」ス……
癒し手「勇者様、光の剣を……剣士さんに」

勇者「え、でも……」

癒し手「大丈夫。手に持たせてあげてください」

勇者「あ、は……はい……」ギュ
剣士「……う、ぅ……ッ」ハァハァ
魔導師「剣士さんの呼吸が……楽になった……?」


魔王「………ゥ、う……ッ」


癒し手「魔王様、お待たせしました……約束、守れなくてご免なさい」

癒し手「もう少しだけ……お話、する時間……くださいね」


側近「癒し手! ……死んだ、んじゃ……無かった、んだな……!」

癒し手「……いいえ。私は死にました」

癒し手「青年に、あの場所……神父様の隣に、埋めて貰うように頼んだのは」

癒し手「賭でした……あそこなら、守ってくれるかと……願いました」

癒し手「叶いましたね」フフ
后「癒し手……」ポロポロ
癒し手「……勇者様と、青年が浄化の石を大事にしてくれたから、です」

青年「あ……」

勇者「砕けちゃった、ね……」

癒し手「良いんです。死んで……風になった私は、石に微かな残った魔力に」

癒し手「同調してるに過ぎません……だから、時間が無い」

癒し手「それに……石はもう、必要ありませんから」


魔王「……う、ゥ」


癒し手「私の、魔王様を抑える力は微々たるものですから」

癒し手「後は、貴女達に託します……勇者様」

癒し手「断ち切れなくて、ごめんなさい」




345:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/25(月) 11:27:38.14 ID:TwlCfvPfP

癒し手「……剣士さんは、光と闇の二つの力を必要以上に身に宿し、苦しんでいます」

癒し手「光の剣を握らせたのは、そのバランスを取るため」

癒し手「勇者様、後は……選んでください」

后「……ッ 結局、こう……なるのね、く……ッ」

側近「駄目だ、もう……ッ 癒し手、魔王が!」

癒し手「はい……勇者様、その光の剣で魔王様を貫くも良し」

癒し手「……手を、取るも、取らないも」


魔王「う………ッ ァ……」


后「選びなさい、勇者! …光に導かれし、運命の子……!」

側近「光はお前達と共にある……臆するな!癒し手……ッ今度こそ……ッ」

癒し手「前代未聞の特異点……腐った世界の腐った不条理を、断ち切るのです!」


バチバチバチッ

魔導師「あ……あ、ま……魔王が……ッ」
青年「目を、開く……ッ あ……れ、は……」


勇者「紫……闇色の、瞳……ッ」

剣士「俺は、構わん、勇者……様ッ ……剣を!」 ポイッ
勇者「あ ……あ、お父さん……ッわ …ッ でも、剣士…!」ガシ

剣士「う…。ぅ……ああああああああああああああああああ!!」

魔王「………お前が、勇者か」
バチバチバチッ
勇者「あ、 ……あ……」
バチバチバチッ
魔王「さあ、我が手を取れ」
バチバチバチッ
勇者「………ッ」
バチバチバチッ
魔王「光と闇は、表裏一体。どちらを欠いても存在できぬ」
バチバチバチッ

勇者「拒否権は……無い、んだね……」




346:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/25(月) 11:30:02.12 ID:TwlCfvPfP

魔王「ああ……世界は美しい」

勇者「私は……魔王を、倒す!」グッ

バチバチバチッ!


……
………
…………



347:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/25(月) 11:39:10.78 ID:TwlCfvPfP

側近「奇跡だな」

癒し手「奇跡ですね」

側近「……まさか、一緒に逝けると思わなかった」

癒し手「私もです……ごめんなさい。約束、守れなくて」

側近「……否。こうして、帰ってくれた」

癒し手「……はい」

側近「残して行くかと思ってた」

癒し手「はい、最初は。でも……」

側近「ああ……だが、残されて思った。残して行かず、良かったと」

癒し手「……ごめんなさい」

側近「辛かった……だが、夢の様だ」

癒し手「はい。もう……離れません。死んでも、一緒です」

側近「癒し手……愛してる」

癒し手「私も。死んでも良いぐらい、愛しています」


后「信じられないわね」

魔王「色々とな」

后「……でも、私達だけでは終わらなかった」

魔王「……大丈夫だ。俺たちの娘だ」

后「ええ、強い子ね……」

魔王「重荷を押しつけちまったな」

后「……今度こそ」

魔王「ああ……腐った世界の腐った不条理を断ち切り」

后「この世界の終わりの始まりを、見せてくれる」

魔王「……できる、かな」

后「大丈夫よ……あの子達なら」

魔王「勝手だよな、俺たち」

后「魔王と……その仲間だからね」

魔王「そう……だな」

后「ここからは……いいえ。既に……誰も知らない物語は始まっているわ」

魔王「前代未聞の特異点、か」

后「光と闇の獣よ………汝の名は、人間」


……
………
…………



348:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/25(月) 11:50:58.42 ID:TwlCfvPfP

魔王「………う、ん…?」パチ
魔導師「勇者様!勇者様!」ウワアアアアン、ヨカッタ……!ガシッ
青年「もう、魔王……だ、魔導師」フゥ
剣士「………無茶をする」

魔王「魔導師、青年……ッ剣士、大丈夫……!?」

剣士「ああ、生きてる……信じられないがな」

魔王「……どうなった、の?」

青年「……勇者は魔王を倒す、と言っただろう?」

魔王「………」

青年「君は、剣士から剣を受け取り、魔王……前魔王と対峙した」

青年「そして……剣で貫かず、手を取った」

魔導師「……前の時は、勇者の印が真っ黒になったと聞いています」ドウデスカ?
魔王「あ、ほんとだ……真っ黒」

青年「勇者の光は魔王に吸い取られ、闇に染まる……んだったかな」

魔王「……魔王になっちゃった、んだね」

剣士「どうして……剣を使わなかった?」

魔王「……単なる推測だけど」

魔王「私じゃ無い、気が……したんだ」

魔導師「……それは、どういう?」

青年「ここで魔王を殺す事はできないって事?」

魔王「うん……私は、魔王にならなくちゃいけない気がした」

剣士「………勇者様」

魔王「もう、魔王だよ」

剣士「では、魔王様……言わなくてはいけない事がある」

青年「思い出したのかい?」

剣士「ああ……全て」

魔導師「……僕たちは、全てを知る事ができる」

魔王「……うん、話して」




349:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/25(月) 12:00:17.83 ID:TwlCfvPfP

剣士「俺は……人間では無い。が……魔族と言うにも……しっくりこない」

魔王「と、言うと?」

剣士「……魔王の、残留思念。否……闇の力の欠片と言う方が良いか」

青年「……魔王の瞳は、紫だったな」

剣士「ああ。俺は魔王の魔力に当てられて……あれは、想像を絶する程苦しかった」

剣士「身体がばらばらになってしまうような感覚だった」

剣士「奥の奥から身を不気味な炎に焼かれ、焦がされていくような」

剣士「……歓喜と、悲しみの混じった言い様の無い、感覚」

魔導師「………」ゾッ
青年「引き戻され存在を失いかけたか」

剣士「……そうかもしれない」

剣士「浄化の石が光り、癒し手様の魔力が器に戻ったとき」

剣士「……魔王の魔力が確かに歓喜した」

剣士「そして、光の剣を握らされる迄に、狂ってしまうかと思った」

剣士「……バランスを取る、か……それが、急に楽にしてくれた」

青年「………」

魔導師「………」

魔王「………」

剣士「あの時、勇者様……魔王様が、前魔王を剣で貫いていたら」

剣士「……俺は多分、良くて消滅悪くて……魔王に、取り込まれていただろう」

魔導師「じゃあ……勇者様…違った、魔王様の取った行動は正しかった、のですか……」

青年「結果的にはそうなるね。物理的にぶつかっていたら、こんなレベルの僕たちじゃ」

青年「………一瞬で消し炭だろう。そして世界は」

魔王「自我を失った魔王の手により、消滅……か」




350:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/25(月) 12:08:47.41 ID:TwlCfvPfP

剣士「……俺は、前魔王が、勇者から魔王へと変じた時に」

剣士「前魔王に吸収されるはずだった、闇の力の一部、だ」

青年「……あの時、光の一部は光の剣に吸い込まれたと母さんから聞いている」

剣士「そうだ。光の剣は……代々の勇者の、魂の欠片。光の欠片」

剣士「魔王は、勇者。勇者は、魔王……」

青年「………」

剣士「俺が光の剣の光の一部を……吸い込んだ様に見えたと言ったな」

青年「ああ」

剣士「……元は同じ物、だからな」

魔導師「……そ、んな…」

魔王「じゃあ……あの時、剣が完璧に治らなかったのは」

剣士「時期じゃ無かった……そう言う事だ」

青年「……母さんは知ってたのかな。感じてた……のかな」

剣士「さぁな……もう、確かめる術は無い」

青年「………」

魔王「……あ! …お母さんは、お父さんは……!?」

青年「悠久の空の彼方へ還っていった。そうして、この世界へ孵る」

青年「……母さんはずっと、そう言っていた。できればそれは……父さんと一緒が良い、とも」

魔導師「………願いは、叶ったのですね」




352:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/25(月) 12:18:43.49 ID:TwlCfvPfP

魔王「私達は……これから、どうしたら良いんだろう」

魔導師「あ、そういえば……使用人さん、遅いですね」

魔王「え?」

魔導師「魔王様が目覚められる前に、お茶の準備をすると……」

青年「暢気だなぁ……」

魔王「時間は……あるんだよね。たっぷりと……」

剣士「……ああ」

青年「………」

魔王「どうしたの、青年?」

青年「いや、良い……僕たちが出来る事、とやらを考えていたのさ」

魔導師「……魔王様」

魔王「ん?」

魔導師「后様が、いってらっしゃいました」

魔導師「貴女が、光や回復魔法だけでなく……炎を扱える理由に一つ思い当たるところがあると」

青年「今更、じゃないの?」

魔導師「いえ……青年さんは感じませんか?」

青年「ん?」

魔導師「……魔王様の中に、まだ炎の力があるのを」

青年「……! …微かに、だが」

魔導師「后様は、以前、人から魔へと変じられたとき」

魔導師「溢れる魔力を、外側でなく内側へと押し込め制御した、と…仰っていました」

青年「……ああ、母さんから聞いている。母さん達の前には、確か……翼に具現化させた人が居たんだったな」

魔王「凄いね……お母さんも、その人も」

青年「君は今から、何だって出来る様になる……なんせ魔王だから、ね」

魔王「………」

魔導師「それが……貴女にそのまま、宿ったのでは無いかと」

青年「一応の説明は確かに付く……けどね」

魔導師「貴方が、水と風を扱えるのもそう言う理由かもしれませんよ、青年さん」

青年「父が、か……そんな器用なタイプには見えなかったけどな」

青年「母さんの話でも、散々聞いたけど……父さんは戦士で、魔法なんて扱えなかった」




353:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/25(月) 12:28:06.70 ID:TwlCfvPfP

剣士「親の愛、って奴じゃ無いのか」

青年「……何?」

剣士「子を思う親の愛……未来を押しつける親の憂い」

剣士「せめて何か残してやりたいと思うのだろう……愛しい子供のために」

青年「………」

魔導師「……はい。それが、無意識であれ、なんであれ……出来てしまうのは」

魔導師「……人で無い、証……で、しょうけれど」

青年「魔へと変じた人の贖罪? ……フン。馬鹿馬鹿しい」フイッ
魔王「青年!」

剣士「……魔王様」シッ
魔王「………?」

青年「……ッ 母さん、父さん……ッ」ウゥ……ッ
魔導師「………」


コンコン

使用人「失礼します。お茶の準備が出来ました」

青年「!? ……ッ タイミング悪い事、この上ないね……ッ」グスッ
魔導師「良いじゃないですか、ちょっとザマアミロ、です」カワイイカワイイ
青年「魔導師、君ねぇ……」ホントイイセイカクシテルナ
魔導師「開き直ったんです。もう」ソックリソノママカエシマス
剣士「使用人、一つ聞きたいんだが」

使用人「……どうぞ、お席にお着きください。何ですか?」

剣士「闇の加護と言うのは、どんな属性の魔法も操れるものなのか?」

使用人「加護に縛られないと言う意味では、そうです」

剣士「………」

使用人「光と闇の獣。汝の名は人間」

魔王「……どこかで、聞いた事がある」

青年「人間は、光も闇も選び取ることが出来る」

魔導師「……表裏一体、と言う奴……ですか」

使用人「全き光も、闇も、それだけでは存在できません」




354:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/25(月) 12:36:59.33 ID:TwlCfvPfP

使用人「その両方を併せ持つからこそ、強くも弱くも、あるのです」

剣士「相反する物。表裏一体……光と闇、か」

使用人「はい。光そのものは闇へと、その逆も然り……変じる事ができます」

魔王「勇者と魔王、だね」

青年「……勇者は魔王を倒す。勇者は魔王になり、魔王は勇者を産む……か」

青年「でも、魔王の子供が必ずしも勇者であるとは限らないんだろう?」

魔導師「そうなんですか?」

青年「……て、聞いたけど」

使用人「はい、決まっている訳ではありませんが」

青年「産まれなかった前例も……無い」

使用人「……はい」

魔導師「魔王が産まれ、勇者が授からなければ」

魔導師「……どこかで、勇者が誕生する…?」

青年「かも、しれない。だが……自分の子に倒して欲しいと言う気持ちは」

剣士「……理解できなくも、ない……か?」

青年「……贖罪なんじゃない。他者を巻き込むべからず、なんてね」

魔王「……魔王が、女であった前例は?」

使用人「勇者が女性であった前例も、ですね……貴女が初めてです。魔王様」

魔王「……あらま」

魔導師「……僕たちは、喜ばなくてはいけないんですね」

青年「……そうだな」

魔王「うん……私達は、断ち切れなかった。だけど」

魔王「次に……繋ぐ事はできた」

剣士「二つの加護を持つ勇者に、魔王の欠片の剣士、エルフの血を引く青年、か」

魔導師「………僕だけ、確実にふっつーぅ、ですね」フゥ
青年「トゲがあるなぁ……でも、残念ながらそうじゃない」




361:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/25(月) 13:09:14.25 ID:TwlCfvPfP

魔導師「え……?」

青年「君が居なくては、光の剣は……どうにもならなかっただろう」

魔導師「……はい」

青年「自分に自信を持ちな……立派な鍛冶師になれるさ」

青年「……これからの道の選び様によっちゃ、無限にも等しい時間も得られる」

魔導師「………」

剣士「………」

魔王「………」

青年「僕は、無理だけどね」

魔王「……そう、だね」

剣士「俺も無理だ」

魔導師「剣士さんは……魔族、みたいなものでしょう……?」

剣士「……話が逸れた。戻させて貰う」

青年「どうぞ?」

剣士「光と闇が……は、解った。何故闇の加護を受けていると」

剣士「加護に縛られない……んだ?」

使用人「魔王のお力だから、としか申し上げられませんが」

使用人「……そうですね……魔王様」

魔王「あい?」コウチャオイシイ
使用人「魔王様の中にある、后様の……炎の力」

魔王「………?」

使用人「多少、弱くなっておられます」

青年「ああ、だが……何故だ?」

魔導師「そう、ですよね……光から闇へと変じただけで、何故……」

使用人「闇は加護に縛られません。全てを飲み込みます」

使用人「例外なく、全てを」

魔王「………」

青年「光も、かい?」

使用人「はい。光は……闇を照らすことは出来ますが、逆に飲まれてしまうこともある」

使用人「そして闇は、光を飲み込むことも可能ですが、照らされると光へと散ります」

魔王「……表裏一体、ね」

青年「成る程。加護に縛られない……光すら飲み込むことの出来る闇、か」

魔導師「……炎は、飲み込まれたら消えてしまうのですか」

使用人「いいえ……魔王様は、強い力をお持ちですから」

使用人「闇の炎として、使役することが出来るでしょう」

魔王「願えば叶う? ……何でもありだなぁ」

青年「………厄介だな」

魔王「え?」

魔導師「……もし、剣を交えるとすれば、ですか」

剣士「………」




362:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/25(月) 13:17:10.13 ID:TwlCfvPfP

青年「もし、次の勇者が産まれて……今回と同じ事を繰り返すなら、構わないけどね」

魔導師「……力が、足りなければ」

剣士「それでも、何れは……断ち切るんだろう」

魔王「……腐った世界の、腐った不条理、か」

青年「多分、色々な意味で……君は最強の魔王になるだろう」

青年「君は魔王だ……そして、女だ」

魔王「………?」

青年「女と言う生き物は、育み、産み……育てる事ができる」

魔導師「……后様も、勇者様を身籠もって力が強くなったと仰っていましたね」

青年「そうだ。転移の術や、遠見……願えば叶うとはいえ、規格外だろう」

魔王「しかも、私は……ただの魔族じゃ無い。魔王だ」

剣士「……光の剣を、完璧な状態に戻そう」

魔導師「……しかし」

青年「方法があるのなら、それがベストだろうな」

剣士「使用人」

使用人「はい」

剣士「願えば叶う、のだな?」

使用人「……はい」

青年「……待て、何をするつもりだ?」

剣士「お前には隠しても仕方ないだろうな」

青年「………! 時間はあるんだ!方法を探してからでも遅くない!」ガタンッ
魔導師「……え、え?」ナニ?
魔王「……剣士?」

剣士「俺の全てを魔力に変えて、光の剣を復活させる」スタスタ
青年「剣士、待て!」

魔王「………」

剣士「魔王様。光の剣を」

魔王「……駄目だ、って言って、聞く?」

剣士「否」

魔王「………」ス…
青年「魔王様! ……ッやめろ、剣士!」




363:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/25(月) 13:29:55.20 ID:TwlCfvPfP

魔導師「剣士さん……やめてください、剣士さん!!」

剣士「……これも、運命だ」

剣士「俺の中に、ずっと……魔王を倒さなくてはいけないと言う想いがあった」

剣士「この事だったとするなら……なすべき事をするだけだ」

青年「剣士!」

剣士「具現化したのは、この為だったとするなら……」

剣士「それは勇者の、魔王の意思だ……この腐った世界の、腐った不条理を断ち切り」

剣士「新しい世界を紡ぐ為の……全ての意思だ」

剣士「……それに、時間が無い」

青年「!」

魔王「……私達は、喜ばなくてはいけない!」ポロポロポロ
魔導師「魔王様!」

魔王「私は、最強の魔王になる。その時、止める人が誰も居ないなら」

魔王「私は最強の盾になる……!この世界の崩壊を守る為の」

魔王「勇者は、最強の剣になる!この世界を……救い、新しい世界を紡ぐ為の」

魔導師「……ッぼ、僕がいます、魔王様!僕は、魔族になります、そして……」

魔導師「貴女を守ります……ッ」

魔導師「青年さんだって居ます! ……剣士さん、だって……!剣士さん、こんな、こんな事……ッ」

青年「……僕は魔族ほど長くは生きられない。母さんと同じ事になる……否」

青年「母さんより、寿命は短いだろう。そうすれば……無理だ」

剣士「……俺がこうしなければ、光の剣は復活しないだろう。光の一部は、この……俺の中にある」

魔導師「しかし……ッ 青年さん、止めてください!」

魔導師「さっきまで、反対……ッしてた、じゃ……ないですか!」グスグス
青年「……僕だって止めたいさ!だけど……ッ」

青年「さっきの剣士の言葉で気がついたさ。時間が無いんだ!」

剣士「……そうだ。魔王様の力が増していけば」

剣士「俺は、強大な魔王様の闇の力に何れ、飲み込まれる」

魔導師「………!」

剣士「俺は、勇者の……魔王の、一部。だからな」

魔導師「そ……ん、な…… ……そんな!」




383:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/26(火) 09:25:09.26 ID:ymwhiM+QP

魔王「……剣士」

剣士「……なんだ」

魔王「私は必ず、この……腐った世界を終わらせる」

魔王「だから、力を貸して欲しい」

剣士「……承知した」

青年「………ッ」

魔導師「……い、嫌だ! …い、やだ……ッ 剣士さん……ッ!」ウワアアア
青年「泣くな、魔導師! ……言っただろう、お前は……絶対に、剣を鍛えてみせる。光の剣を……」

青年「……治して、みせる、と」

魔導師「………ッ」

剣士「俺たちは、喜ばなくてはいけない」

剣士「……感謝する。この世界に……産まれ、こうして」

剣士「お前達の力に、なれることに」

剣士「魔王様……不条理な消滅の道を選ばずに済むことに……感謝する」

魔王「………うん」ポロポロポロ
剣士「青年。お前とは……もう一回ぐらい酒を飲みたかったな」

青年「……僕はそんな感傷になんか浸ってやらないよ。さようならだって言ってやらない」

青年「また、いつか………後で」

剣士「……ああ」

魔導師「剣士さん、剣士、さ……ッ」ズルズルッボロボロボロ
剣士「お前が鍛えた光の剣に、俺が宿るんだ………必ず、叶う。願えば叶う」

剣士「手入れを怠らないでくれよ」グッ
魔導師「剣士さん………ッ」コクコクコクッ
剣士「………ありがとう」ギュ……ッ スゥ

パア……ッ

魔王「………ッ 眩ッ」

青年(……身を焦がす程の、光……ッ)

魔導師「剣士さああああああああああああああああん!!」


シィン………

ガシャン!



384:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/26(火) 09:35:53.19 ID:ymwhiM+QP

魔王「………美しい、ね」

青年「……ああ」

魔導師「う、ぅ……うあああああああああああッ」

魔王「……魔導師、その……光の剣。預かっておいてくれる?」

魔導師「僕が……です、か……」グスッ
魔王「うん。私は……もう、触れる事はできないよ」

青年「身を焦がす程の光だった。確かに……魔王を倒す、運命の光だ」

青年「……闇の中にあるからこそ、光の真の輝きはその効果を発揮する、のか」

魔導師「………」グスグス。ス……ギュッ
魔導師(なんて眩い、光……暖かい、光。この、光の剣があれば……)

魔導師「確かに……お預かり致します」

魔王「うん。できる限り鍛えて、完全な状態を保って欲しい」

魔王「……魔王を、倒せる様に。剣士の思いを無駄にしない様に」ポロポロ
魔導師「……! はい!」ギュッ
魔王「次代の勇者が、その身に抱いて産まれて来るだろう光と合わされば」

魔王「……その時にこそ、本当に……」

青年「ああ。光に導かれし運命の子……勇者」

青年「勇者は必ず……魔王を倒す!」

魔導師「……ッ」ゴシゴシ
魔導師「魔王様、僕に時間を下さい」

魔王「ん?」

魔導師「この剣を……次代の勇者様がお生まれになるまで」

魔導師「鍛え、保管する為の時間を」

魔王「………良い、んだね?」

魔導師「はい……そして、貴女を守る為の時間……と、力を」

魔王「……解った」

青年「………」

魔王「使用人。私はどうすれば良い?」

使用人「……魔導師様の身に触れ、願えば良いのです」

使用人「願えば、叶います……が、その前に、一つだけ……よろしいですか」

魔王「うん……何?」

使用人「使用人の地位と役目を魔導師様にお譲りし、暇を戴きたく思います」

魔導師「え」ボ、ボクニ?
魔王「……理由を聞いても良いかな?」




385:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/26(火) 09:44:20.27 ID:ymwhiM+QP

使用人「以前の使用人様から役目を引き継いで1000年程」

使用人「……そろそろ、私も寿命が近いのです」

魔王「魔族にも……寿命ってあるんだ」

使用人「勿論です……不老の者は居れど、不死ではありませんから」

青年「……そうでなければ、魔王を倒す事だって叶わないな」

魔王「あ……そっか」

使用人「近いとは言え、まだ……そうですね」

使用人「人の一生に近いくらいの寿命は残っておりますが」

魔導師「……充分……では無いのかもしれない、ですけど……」

使用人「瞬きほどの一瞬、ですよ……魔導師様」

使用人「それに……」

魔王「……?」

使用人「魔王が、貴女で終わるなら」

使用人「……魔と呼ばれる類の物は、この世界から姿を消すでしょう」

魔王「………!」

青年「………」

魔導師「………あ、そ、そうか……」

使用人「誤解無き様に……お引き留め、したい訳でも反対したい訳でもございません」

使用人「貴女様は魔の王……魔の全てを統べる者」

使用人「貴女の決定に、誰も異を唱える者はおりますまい……それが、例え」

使用人「滅びへの道行きであろうとも」

魔王「…………」




386:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/26(火) 09:54:38.61 ID:ymwhiM+QP

使用人「……私は、その様を」

使用人「そっと、見守りたいと思います」

魔王「……解った。けど……魔導師は、良いかい?」

魔導師「……え、っと、でも……その…使用人さんの代わりが、僕に務まるでしょうか」

使用人「私の中にある『知』を。お授け致します」

魔導師「……知?」

使用人「はい。語り継がれてきた、知。見て、知り、感じ得た……全てを」

魔導師「ど、どうやって……」

使用人「大丈夫。願えば……叶います」

使用人「……知りたいのならば、ですが」

魔導師(知……今知り得るだろう知の、全て……ッ)ゴクリ
魔導師「……僕は、知りたい。全てを知りたい……!」

使用人「そう言って戴けると思っていました」ニコ
青年「……探求心は人一倍の魔導師にはうってつけじゃないか」

魔導師「トゲがありますね?」

青年「……少々悔しいさ。僕だって……世界の謎を知りたい」

魔導師「お教えしましょうか?」ニヤニヤ
青年「根に持ってるだろう、君……まあ良い……ご教示願おうかな」

使用人「では、早速ですが……魔王様」

魔王「……魔導師を魔へと変じさせる、んだね」

使用人「はい」

魔王「願えば叶う?」

使用人「必ず……貴女は魔の王。魔王様ですから……魔王に、不可能はありません」

魔王「……皮肉な台詞だな。まあ良い……じゃあ、魔導師」

魔導師「ハイ!」ドキドキ
使用人「魔力の暴走の可能性もあり得るでしょう……器が持たなければ」

使用人「最悪、死に至ります」

魔導師「………え?」ウソ?
青年「大丈夫だろ……知らない内に死ねるか?」ボクガモラッチャウヨ、ソノヤクメ
魔導師「し、死ねませんよ!死にません!」ジョウダンジャナイ!
魔王「……じゃあ、行くよ……良い?」




388:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/26(火) 10:07:36.90 ID:ymwhiM+QP

使用人「耐えてください、魔導師様。人の身の貴方では、知を授けるのに器が耐えられませんから」

魔導師「解ってるよ! ………ッ死んでたまるか!」ギュッ
魔王「………」

魔王(魔導師の額に手を当てて……願う……叶え……!)グッ
魔導師(……ッ なんだ、吸い取られる………ッ う、ぅ。これは……ッ)

魔王「耐えて、魔導師!」

魔王(……冷たい…これは、魔導師の氷の息吹……ああっ ……魔力、が……ッ)

青年「……凄いな。魔導師の中に……魔王様の闇の力が流れ込んでいくのが解る」グゥ…ッ
青年(息が……苦しい。これが……母さんの寿命を削った……魔王の力……ッ)

魔導師「う、ぅ ……あああああああああああッ」ガクッ
使用人「………ッ 暴走!?」

青年「な、に……!?」

魔導師「くッ… ……う、ああ、ああああああ!」バタバタバタッ
魔王「………ッ 魔導師!」

魔導師「だ、い……じょ…… ……ッ」バタバタ……ッガクッ
青年「………ま、魔導、師………!?」

魔導師「ハァ、ハァ………あ、ァ…… ッ !!」グッ
魔導師「…………ッ 」ウェ……ッ

パアアアアアア!

青年「なんだ、蒼い、 ……光ッ!?」

魔王「魔導師!?」


シュウゥ……

魔導師「ハァ、ハァ、は………あぁ」ペタ……
魔導師「し、ぬかと………思った……」フゥ
使用人「お見事、です……」

魔導師「……后様に、聞いてた、んだ……」

青年「……! 具現化の方法、か……」

魔導師「そう……です」




389:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/26(火) 10:22:49.63 ID:ymwhiM+QP

魔導師「身の内に押しとどめても……僕は、仕方ないので」

魔王「……? それ、は?」

魔導師「僕の魔力を、封じてみました」

青年「氷の、剣………か」

魔導師「はい。ありったけの魔力を込めましたよ……」

魔王「……綺麗だ。青く光ってる」

魔導師「……時間はあります。僕は知も……得ます」

魔導師「できる限り、鍛えます……この、二振りの、魔法剣を」

魔導師「……魔王を、倒す為に」

青年「……君だって充分規格外じゃ無いか。結構なことを……やってのけたね」マッタク……ビックリシタヨ
魔王「………」

使用人「……では、魔導師様。少しお休みください……お疲れでしょう」

魔導師「いや、良い……大丈夫です」

使用人「……そうですか」

魔導師「早く、知りたい」

使用人「では……目を閉じてください」

魔導師「ん……」

使用人「頭の中に、直接……送ります」ス…
魔導師「………ッ」ウッ
使用人「情報は何時でも取り出せます……今は、無理をなさらず」

魔導師「知りたいと願えば叶う?」

使用人「はい」

魔導師(……知、全て……僕の、中に)

魔導師(………なんだろう。喜ばしいのに………少し、悲しい)

使用人「では、魔王様……最後に、名をお授けください」

魔王「……闇の手、と」

闇の手「……はい」

魔王「私の……側近として。知り得る全てを知る頭脳として、右腕として」

魔王「……傍に、居て欲しい」

闇の手「はい!」




390:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/26(火) 10:33:31.66 ID:ymwhiM+QP

青年「………」

魔王「青年?」

青年「魔王様。僕は……魔に変じる事はできない」

魔王「……うん」

青年「母さんと同じ様に……力が強くなってくるだろう頃には」

青年「……ここに居る事はできないだろう」

闇の手「………」

魔王「……うん」

青年「覚えて……いるかな」

魔王「?」

青年「以前……始まりの街に、居たとき。僕は言った」

青年「運命だ、と」

魔王「………」

青年「僕と君と二人で、悠久の遙か彼方」
青年「世界の始まりと終わりを知り、世界の終わりと始まりを見るための……運命」

魔王「……興味があれば紐解いてみろとも言っていたね」

青年「ああ」

魔王「今なら、解る……そう、確かに運命だったのかもしれない」

魔王「青年と二人、じゃ無いけどね」

闇の手「そうですよ!」ボクモイマス!
闇の手「……それに、剣士さんも」

青年「まあ……勿論、そうだけど。そうじゃなくて、さ」

青年「……ああ、もう。言っただろう!?」

青年「僕の子供を産んで欲しい、と」

魔王「………ッ 特異点が多い方が良い、とか言ってた」

青年「……言い方が悪かったのは、謝る」

青年「御免……だけど、僕が君の事を好きな事実に変わりは無い」

魔王「そ、そんなもの、何とでも言えるでしょ?」アッサリスキッテ…ッ
青年「……僕は、君が産まれた時から君を知っている」

青年「ハッキリと覚えている訳じゃ無い。だけど……」

青年「母さんから、ずっと君の事を聞いていた。そうして育った」

青年「正直に言う。一時は憎んだ。勇者と言う者を」

魔王「……青年」




391:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/26(火) 10:44:05.16 ID:ymwhiM+QP

青年「魔王へと変じ、母さんを苦しめ、父さんと僕を引き離した勇者」

青年「こんなとんでもない運命を押しつけた、勇者……この世界そのものを憎んださ!」

闇の手「………」

魔王「………」

青年「しかも、会ってみたらどうだい?……何も知らず、魔王を倒す事を純粋に夢見る……」

青年「ただの、少女だ」

青年「僕は知り得る全てを母さんに聞いて育った。腐った世界の腐った不条理を」

青年「それを断ち切る為の特異点だ等と、言われ続けて寿命まで削った母さんから、全て!」

青年「……母さんの夢を継ぎたいとは思った。終わらせる訳にはいかない、と」

青年「だけど、運命の行く先は酷い物だ。僕はその道を否応なく歩かされた」

青年「かたや何も知らない光の少女は……その身を闇に染め、魔となるべく産まれたのだとも知らず」

青年「……その道行きを純粋に平和への一筋だと信じ、疑問も持たず使命に溢れた瞳をしてた」

青年「……僕は、母さんの夢を紡いでいかなければいけない……ただでは逝けないんだ」

魔王「青年………」

青年「だから、これは恋なんかじゃない」

青年「でも、君には僕の子供を産んで貰わないと困る。魔導師……闇の手でも、剣士でも駄目なんだ」

青年「……嫌がるなら、無理矢理にでもと……思った」

魔王「………」

青年「だけど……一生懸命に、自分の使命を受け入れて」

青年「勇者として、魔王として……この腐った世界の腐った不条理を断ち切ろうとする君を見てると」

青年「そんな気は、失せた……まあ、勿論……今の君に、僕が勝てるはずも無い」




392:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/26(火) 10:53:15.38 ID:ymwhiM+QP

魔王「………」

青年「君は、立派な勇者だ。そして、魔王だ……」

青年「たかが小娘、なんて思ってた。どうにでもなるだろうとね」

青年「……君とあの始まりの街で会ったとき。とても懐かしい感じがした」

青年「羨望と憎悪。言い様の無い……決まった未来を憂う寂しさと……安堵」

青年「会えて、嬉しかった」

青年「……光に焦がれる気持ちなど、認めたくなかった」

魔王「青年……」

青年「君は、剣士に惹かれていただろう」

魔王「……!」ドキ
青年「父を知らず育ったんだ。年上だろう存在に惹かれるのは無理も無い」

青年「旨くやればその対象を僕にする事は容易かっただろうとは思う」

青年「だが、君は……剣士の思いを尊重し、世界を救う選択肢を選んだ」

青年「……そんな君を、もう無理矢理に、なんて思えない」

青年「そんな君に、隠すことは出来ない」

青年「僕は、君が好きだ……どこが、も何を、も言えない」

青年「僕は、君が君だから……好きだったんだ」

青年「ああ、と思う時には既に……好きになってたんだ」

魔王「………うん。ありがとう。でも」

青年「………」

魔王「私には………ワカラナイ」

魔王「剣士は……うん。確かに惹かれて居たのだと思う」

魔王「でも、それが恋かどうかも、ワカラナイ」

青年「ああ」

魔王「時間をくれるか、と言いたいけれど」




393:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/26(火) 11:02:18.06 ID:ymwhiM+QP

魔王「青年に、それほどの時間は無いね」

青年「………そうだね」

闇の手「あの……僕の存在、忘れてますよね?」フタリトモ
魔王「……あ」

青年「……ッ」カアァッ
闇の手(あ、照れた)

魔王(わぉ……真っ赤)チョットカワイイ
青年「……そんな目で見るな、二人とも」

闇の手「見てるこっちが恥ずかしいんですけどね……」ハァ
闇の手「使用人さんが出て行かれたのも気がついてないでしょう」

魔王「………」マッカッカ
青年「………」マッカッカ
闇の手「あー…僕も、席外しましょうか?」サスガニアキレタ
魔王「……いや、良い。居て欲しい」

青年「えぇ……なんのプレイだよ……」ガックリ
闇の手「最低です青年さん」プレイッテ
魔王「……子供を、勇者を産むのなら」

魔王「青年の子が、最良だろうと思う」

青年「……僕が先にやった事だけど、流石にぐさっと来るね」

魔王「やっと解った?」

青年「……御免」

魔王「エルフの血が入ってる事も勿論あるけど」

魔王「……癒し手様の意思を継ぎたいのは、私も同じ」

魔王「勿論、お父さん、お母さん……側近様の意思も、ね」

魔王「青年と私の子、勇者が……剣士と、闇の手の鍛えた光の剣を持ち」

魔王「私を……魔王を倒しに来る」

魔王「……これ以上、無い」

闇の手「………」

青年「………」




395:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/26(火) 11:13:13.30 ID:ymwhiM+QP

魔王「私は、魔王だから……青年を利用したって罰は当たらないよね?」

青年「……そんなに悪役ぶらなくても良いよ」

魔王「御免ね……好きになる、努力はするよ」

青年「及第点……とは言いがたいけど、まあ仕方ない。それで満足しておく、今は」

闇の手「……仕方ありませんね、ほれ薬でも作りましょうか?」

青年「ぶん殴るよ?」キミッテヤツハ…
魔王「魔王に効くのかなぁ」

闇の手「どうでしょうねぇ」

青年「……もう良い。突っ込むのも面倒臭い」

魔王「とりあえず……今日は休もうか。使用人さんが居なくなるのは……痛いな」

闇の手「僕が頑張りますよ……とりあえず、城に居る今の人数とか把握して、役割作って……」ブツブツ
青年「頼もしいね」ハァ
魔王「魔王の側近だからね」

青年「……仕方ない。僕も手伝うかな」

魔王「留まってくれるの?」

青年「子供が出来る迄は、君の魔力もそう強くはならないだろう」

青年「……時間と、寿命が許せば」

青年「その後は、母さんの辿った道を歩くよ」

青年「……勇者が産まれたら、どうせ……ここには居られない」

魔王「そうだね。私はここを離れられない」

闇の手「あ、そうだ!青年さん!」

青年「何だい?」




396:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/26(火) 11:19:08.29 ID:ymwhiM+QP

闇の手「貴方のエルフの弓……僕に、預けて貰えませんか」

青年「弓を?」

闇の手「はい……僕の手で、鍛えたいんです」

闇の手「そして……光の剣と、氷の剣と共に」

闇の手「……次代の、勇者様達へ」

青年「………」

闇の手「時間が、許せば……貴方は旅立たれる」

青年「それを引き継ぐのは僕の役目だ、って言いたいのか?」

青年「……やれやれ、そう簡単には死ねないな」

闇の手「……エルフの研究も、します」

闇の手「浄化の石を作れるかは解りませんが……なるべく、延命して貰います」

青年「強制か……」

闇の手「魔王様の為です」

青年「拒否権はないね……オーケィ。期待してるよ」

魔王「……この美しい世界を守る為だ」

青年「……ああ」

魔王「私は世界を守る為、最強の盾となる」

闇の手「勇者は世界を救う為、最強の剣となる」

青年「勇者は必ず、魔王を倒す」


魔王「きっと……私が、魔王が死んでも、世界は美しいよ」




398:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/26(火) 11:29:07.38 ID:ymwhiM+QP

魔と言う器があった
金の瞳を闇に染めし時、世界は滅びると言う

人とも魔とも呼べぬ器があった
金の髪を風に靡かせ、世界に知り得る知、見得る見、感じ得る想いを運ぶと言う

人と言う器があった
知を持ち、術を持ち、世界を救う武具を産みだしたと言う

武具は光で、闇だった
器を持たないそれは、悠久の空の彼方
世界の終わりの始まりを、始まりの終わりへ還り、美しい世界へ孵ると言う

光に導かれし運命の子、汝の名は勇者

父親譲りの金の髪
母親譲りの金の瞳

手には光の印を持ち

光の剣を手にし、闇を払う者

拒否権の無いその運命を担い
美しい世界を紡ぐ為
勇者は、魔王を倒す

光と闇の獣、汝の名は人間

……
………
…………

オギャア、オギャア……ッ

「おめでとうございます!男のお子様ですよ!」

「金の髪と金の瞳……そして輝く印を持つ……勇者様の、誕生です!」



魔王「ああ……世界は美しい」

おしまい

勇者「俺は、魔王を倒す」へ
続きます



399:名も無き被検体774号+:2013/02/26(火) 11:31:43.17 ID:V/9J+hCXP

ふおおおおお続くのかぁぉぁーーー!
乙!



404:名も無き被検体774号+:2013/02/26(火) 12:03:24.54 ID:zBpZVAZn0

うおおおお>>1乙!
楽しませてもらったぜー!



408:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/26(火) 12:44:35.88 ID:ymwhiM+QP

取りあえず番外編どうしようか考えながらぽちぽちと
こっそりおいとく。
http://imepic.jp/20130226/457060

左から
勇者、魔導師、青年、剣士です



411:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/26(火) 13:17:40.75 ID:ymwhiM+QP

??(……… ………)

??(うぅ………ここは、どこ、だ……)

??(……街……否……廃墟、か……?)

??「痛……ッ 身体、が……」

??(関節が痛む…… 長く、伏して居たのか)カチャン……
??(……剣、鋼……の剣、か……俺のか?)

??(俺…俺は………男か?)

??(………折れた、十字架……あれは、教会)キョロ
??(……立てるな)

??(空が………灰色をしている……雲、か?)

??(……空気が、重い)

??(誰も、居ない………どちらに、行けば良い)

??(………あっちか…?否、森か……では)

??(……潮風の、匂い………向こうか)スタ ……スタ
??(海に……出る、のだろうか)スタ……スタ
??(……身体中が、痛い)

??(……先が、見えない)

??(歩けば、着くか)


……
………
…………

??(随分、歩いたか……否)

??(……ん、あれは………港……?)

??(馬車が、走っていく………あっちは、森しかなかった筈だが)

??(違うのか……随分と、立派な馬車だな)


ガラガラガラガラガラ……

??(誰が乗っているのか、は……見えないな)

「おい、そこの兄ちゃん!」

??(………?)

「おいおい、お前随分汚れてるな……大丈夫か?」

??「……俺、か」

「お前さんしか居ないだろ……船に乗るのか?」

??「船……?」

「おう。この船が最後だぜ、こんな……廃墟の街にくる用事なんかねぇからな」

「逃したら二度と出れないかもしれないが……良いのか?」

??「………金が、無い」

「はぁ!?」

??「ここは、何処だ? ……俺は………?」

「………おいおいおい、何だそりゃ……ちッ訳ありかよ……」

「仕方ないな……良いよ、乗りな」

??「良いのか」

「放って行って欲しいならそうしてやるよ……自分で決めな」

??「……頼む」

「お願いします、だろ?」ニヤニヤ
??「………お願いします」

「……素直だな、まァ、良いだろう……ほら、早く乗りな。話は中で聞くよ」

??「………感謝する」スタスタ……
「大丈夫かね、ありゃ……まぁ、良いか……野郎共!船を出すよ!」

「出航だ!」


アイアイサー!



413:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/26(火) 13:28:05.83 ID:ymwhiM+QP

??「…………」

「なァにぼさっと突っ立ってんだい!金が無いなら働いて貰うよ!」

??「……この船は、商船か?」

「そんなモノと一緒にして貰っちゃ困るね。この船は天下の大海賊様の立派な海賊船だよ?」

??「……海賊?」

「そうさ、あんな廃墟に普通の商船に何の用事があるって言うんだい」

??「……お前、は海賊なのか」

「お言葉だね……この船に、アタシ以上に偉そうな奴が乗っている様に見えるかい?」

??「……お前が、船長?」

船長「そうさ……これがアタシの海賊団の動く要塞。不沈の海賊船だよ」

??「……そうか」

船長「……アンタね、もうちょっと驚きなよ。これでもちょっとばかし、有名な海賊団なんだぜ?」

??「……すまん。どうやら……記憶が無い様なんだ」

船長「は?」

??「どうしてあそこに居たのか、何処から来たのかも……わからない」

??「……名も、解らん」

船長「……まじ?」

??「嘘を吐いてどうする」

船長「参ったねぇ……とんだ拾いモンだ」

「船長! ……あれ。誰です、それ」

船長「あー……拾った」

「拾ったぁ!? ……奴隷ですか」

船長「……」ギロ
「ひッ ……じょ、冗談ですよぅ」

船長「用事が無いなら持ち場に戻りな!」

「いや、呼びに来たんですよ、俺は……」

船長「ちッ ……仕方ない。おい、アンタ……取りあえずそこの小部屋に入ってな」

??「……あ、ああ」

船長「アタシの部屋なんだからね!いじくり回すんじゃないよ!」

「……船長、男前に弱いからなぁ」ボソ
船長「何か行ったかァ!?」

「し、失礼しまああっす!」タタタタタ



430:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/27(水) 09:30:29.71 ID:liHUzSTPP

??「………」スタスタ
船長「一眠りしてると良い……アタシのベッドで変な事はすんなよ?」ニヤニヤ
??「………」パタン
??(下品な女だ)

??(………)ゴロン
??(………暖かい、な……)スゥ
??(…………)


船長「……先にコッチに行ってそれから……」ブツブツ
??「………!」ガバ
船長「アァ、やっと起きたかい」

??「……俺は、どれぐらい……」

船長「あれから5時間程だな……疲れは取れたか?」

??「疲れていたのかどうかすら……」

船長「記憶喪失って奴かァ? ……名も覚えて無いって言ってたな」

??「ああ……」

船長「剣士、だ」

??「剣士?」

船長「名前が無いと不便でしょうが無いだろ。文句あるかい?」

剣士「……否」

船長「オーケィ。で、だ……本当に何も覚えちゃ居ないのか?」

剣士「ああ……気がついたらあそこに倒れていた」

船長「あそこがどこだか……知ってる訳ないな」

剣士「……空が灰色だった」

船長「あそこは最果ての街と呼ばれてる」

剣士「最果ての街?」

船長「そうだ。世界の果ての、果てにある朽ちた街」

剣士「……無人では無いのだろう?馬車と……すれ違った」

船長「森の方向に走っていっただろ?随分と立派な馬車が」

剣士「ああ……」

船長「あれに荷物を下ろしたのさ。アタシ達の大事な顧客様さ」

剣士「……人が、住んでいるのか?森しか見えなかったが」

船長「……知りたいか?詮索は時に身を滅ぼすよ」ニィ
剣士「…………」




431:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/27(水) 09:41:13.87 ID:liHUzSTPP

船長「仲間とは秘密を共有する義務がある。そうやってアタシ達は信頼し合う」

剣士「………」

船長「行く当ては?」

剣士「……俺は……」

船長「わからない、か」

剣士「……ああ」

船長「思い出すまで、置いてやっても良い。が……きちんと働いて貰うよ?」

剣士「……感謝する」

船長「あんな場所に居るからには訳ありなんだろうしな」

剣士「あんな……場所? …廃墟か」

船長「それだけじゃない。あの森の奥には魔王の城があると言われているのさ」

剣士「……魔王、の城……」ズキン
船長「そう、だけど魔王は……! どうした!?」

剣士「……頭が……魔王……」ズキンズキン
船長「………」

剣士「俺は……魔王を、倒さなければ……」ズキンズキン
船長「それは、無理だ」

剣士「……何?」

船長「無駄だよ……ついこの間、勇者様が魔王を倒したって話だ」

剣士「………魔王を、倒した」

船長「………封印したと言う方が正しいのかもしれないがな」

剣士「どういう事だ?」

船長「世界のありとあらゆる場所に蔓延る魔物の力が、急に弱くなった」

船長「アタシ達は常日頃から、海の魔物を相手にしてるんだ」

船長「驚いたよ……だけど、奴らは消えては居ない」

剣士「………」

船長「それに、この船にはくたばり損ないのジジィだけど」

船長「一応魔法使いが居るのさ……自称物知り、のね」

剣士「……そう、なのか」




432:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/27(水) 09:50:28.25 ID:liHUzSTPP

船長「そのジジィの話だと、魔王ってのは何度も封印されては復活しているらしい」

船長「その内また、新たな勇者様とやらが産まれれば……復活した魔王を倒してくれるんだとさ」

剣士「……仕留め損なった、のか」

船長「さてね。仮初めだが、平和にはなったんだろうさ」

剣士「……さっきの、馬車は?」

船長「知りたいか?」

剣士「……仲間とは秘密を共有しあうんだろう」

船長「言ったね?……まあ、良いだろう。アンタ、いい男だしね」

剣士「……関係あるのか?」

船長「目の保養って言葉は知ってるかい?」

剣士「………」

船長「あの森の奥には、魔王が住んでると言われている。常に灰色に淀んだ空の下に」

船長「聳える、古い居城があるらしい……が」

船長「あの森を抜けてそれを確かめた人間は居ないって話さ」

剣士「……しかし、あの馬車は」

船長「人間は、と言っただろう?」

剣士「……!まさか!?」

船長「さっきも言った。詮索は時に身を滅ぼす……アタシ達は、金さえ払って貰えりゃ」

船長「文句はネェ……あの馬車に乗ってた女はな」

船長「随分昔からお得意様なのさ」

剣士「………女?」

船長「顔は隠してやがるがね……声と雰囲気で解る」

剣士「……魔族、なのか……?」

船長「さぁな。だが、常識で考えられない値段の物を」

船長「常識で考えられない数注文する」

船長「アタシ達は何とでもして、その依頼を早急にこなす」

船長「……それだけで、2,3年は何もせず遊んで暮らせる額を稼げるからね」

剣士「………」




433:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/27(水) 10:02:14.78 ID:liHUzSTPP

船長「アタシの親父が若い頃は、とびきり上等な蒼い布を届けた事もあったらしい」

剣士「……今回は?」

船長「今回のはとびきりおかしかったね」

船長「魔除けの石を、ありったけ……何考えてるか解りゃしネェが」

剣士「金さえ払って貰えれば……か」

船長「そう言うこった」ニィ
剣士「……お前の、親父は?」

船長「ついこないだ、さ……海の魔物に食われて死んだよ」

剣士「……すまん」

船長「気にする事じゃない」

剣士「なのに……魔物を相手に商売するのか」

船長「生きる為だ。食う為だ……金を稼ぐのに、アレは嫌コレは嫌なんて」

船長「……言える身分じゃ、海賊なんてやってネェよ」

剣士「強い、んだな」

船長「……人には、分不相応の幸せってものがあんのさ」

剣士「………」

船長「さて、そろそろベッドに寝かして貰えるとありがたいんだけどね」ス…
剣士「あ、ああ……悪かった…… ……」ギシ
船長「……眉間に皺刻んでんのもイイね、アンタ」

剣士「………何故、上に乗る」

船長「男と女が一つの部屋で一人きり……他に何するんだい」

剣士「………」ハァ
船長「諦めが早いのは良いことだ。アンタ、得するよ……この世界ではね」

剣士「断れる状況でも無いだろう」

船長「おまけに、飲み込みも早い……アンタ、海賊に向いてるよ」チュ
剣士「……褒められているのか、それ…は… ……」


……
………
…………



434:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/27(水) 10:13:28.37 ID:liHUzSTPP



船長「……て、訳だ。今日から仲間の剣士だ、お前ら、仕事教えてやれよ!」

「アイアイサー!」

センチョウ、クッタナ
オトコマエニヨワイカラナ

ヒソヒソ
ヒソヒソ

船長「んじゃマァ、恒例の……儀式の準備だ!」


オオオオォ!

剣士「……儀式?」

船長「海賊の掟さ……剣を構えろよ、剣士」

剣士「……何?」

船長「海の男は強く無いと……な!」ブンッ
剣士「………ッ」ガキィン!
船長「受け止めたか……伊達じゃネェな」

剣士「お前とやるのか」

船長「アタシから一本取ったら認めてやる……死なない様に、精々気をつけな!」

剣士(……この、女、強い!)


キィン!
ガン!

剣士(……身体が、勝手に動く。俺は……)

船長「流石、だね……ッ フ…こうじゃなくちゃな!」ブゥン!
剣士「上か……ッ」ガシィン!

グラグラグラ……

船長「!」

剣士「……ッ なんだ ……ッ」


「船長!魔物が!」


船長「ち、こんな時に……ッ 大砲の準備だ、急げ!」

船長「ビビんなよ、テメェら! …魔物は弱くなってる!」

船長「ジジィ呼んで来い!雷で沈めちまえ!」


「船長!数が……ッ」

「ジジィ死にますよ!昨夜からくたばってます!」


船長「何!? …糞、アタシも出る!銛もってこい!」

船長「あんの糞ジジィ、死ぬなら海の上で死にやがれ!引きずりだせ!」

剣士「……俺が行こう」スタスタ
船長「は!? …そりゃアンタの腕なら助かるけど」

船長「……魔物は海の中だ。剣一本じゃ……あ、オイ!」


剣士「………」スタスタ
剣士「……多いな」

船長「待てって、剣士 ……!」

剣士「……下がれ」


剣士(海の魔物は、雷に弱い ………か)

剣士(………ッ)グッ ……バリバリバリ!

ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!



435:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/27(水) 10:24:37.15 ID:liHUzSTPP

船長「…………」

「…………」

「…………」

剣士「………」

剣士(今のは、俺が……やった、んだ、な……)

剣士(俺は……魔法が? …否)

剣士(剣から……稲妻がほとばしった)

剣士(…………俺は、何だ?)


船長「す、スゲェ……今のは、魔法…か?」

剣士「………さぁ、な…… ……」ガク
剣士(……意識、が……)バタンッ
船長「……おい、剣士!?」


……
………
…………

ジジィ「……成る程のぉ」

船長「テメェがくたばってるから悪い」

ジジィ「口を慎め、この小娘は全く……」

船長「口が悪いのは、こんな育てた糞親父に言えよ」

ジジィ「死人に文句言っても仕方なかろうが」

船長「涅槃で待っててくれるさ。死に損ないめ、何なら今すぐ感動の再会させてやるよ」

ジジィ「……この青年……何色の瞳をしておったかの」

船長「聞けよジジィ……ったく。目の色ぉ? ……確か、紫だ。それがどうした」

ジジィ「頭の悪い小娘じゃの。この間教えてやったろうが……瞳は、その者の加護を写し取る」

船長「こいつは雷の魔法で魔物を沈めたぜ」

ジジィ「それじゃ。雷の加護ならば、黄土や茶を彩る事が多い」

船長「……テメェ、何が言いたい?」

ジジィ「紫と聞いて連想するのはなんじゃ?」

船長「………」

ジジィ「難しい質問じゃったかのぅ ……闇、だと思わんかの」

船長「こいつは……魔族だって言いたいのか?」

ジジィ「最果てで拾ったんじゃろう……想像には容易いの」

船長「………こいつは仲間だ。誰がなんと言おうと、文句は言わせネェ」

ジジィ「ハ!小娘が……惚れよったか」

船長「黙れ色ぼけジジィが!」

ジジィ「……もしくは、闇に触れその瞳を灼かれた、か」

船長「……何?」

ジジィ「魔王を倒すと……言うておったんじゃろう」

ジジィ「記憶の一部とすれば……勇者一行の一人だったのかもしれんのぅ」

船長「………」

ジジィ「魔王は封印されたのじゃろうが……勇者の帰還の知らせは……届いておるかの?」

船長「否……」

ジジィ「そう言うこった……命からがら、逃げ帰った、のかもしれんな」

船長「………」




437:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/27(水) 10:34:09.14 ID:liHUzSTPP

ジジィ「剣を媒介に、魔法を行使し、弱っているとは言え」

ジジィ「魔物の大群を一人で沈めたのじゃろう……勇者の仲間と考えれば」

船長「説明もつく、か……成る程な」

ジジィ「今日はゆっくり寝かせてやるんじゃな」

船長「ああ……悪かったな、ジジィ」

ジジィ「儂も腐っても海の男じゃ」パタン

船長「……生きてる世界の違う男か。クールじゃネェか」

船長「剣士………」チュ
剣士(スゥスゥ)


……
………
…………

船長「剣士、空だ……!」

剣士(……翼の敵には……風、か)グッ

ギャアアアアアアアアア!

船長「お見事……お前が一人いれば、この船は安全だな」

剣士「……働かせ過ぎだ」

船長「働かざる者食うべからず、だぜ」

剣士「まあ……そうだな」


剣士(拾われて、共をして……5年か)

剣士(……潮時、だろうな)

剣士「船長」

船長「ん? ……もうすぐだ。もうすぐ港に着くぜ」

船長「魔導の街のすぐ傍の港街だ。世界中から情報や物資が集まる」

船長「……何かお前の役に立つモンがあれば良いな」

剣士「ああ……すまん、話したい事が」

船長「今か?」

剣士「できれば」

船長「……良いだろう。オイ!お前ら!着港まで気抜くなよ!」

船長「団旗を降ろして、商船を装うのも忘れるな!」


アイアイサー!

船長「良し……部屋で良いか」

剣士「ああ」




438:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/27(水) 10:39:46.87 ID:liHUzSTPP

剣士「………」

船長「降りるのか」

剣士「……ああ」

船長「気にして……るのか」

剣士「気付いてたか……は、愚問だな」

船長「当たり前だ。何年一緒に居ると思ってる」

剣士「………」

船長「……お前の見た目が変わらないのも、加護に捕らわれずに魔法を使えるのも」

船長「誰も、何も気にしない。お前が何者だろうと、お前はお前だ」

剣士「……ありがとう」

船長「陸に上がれば生き難いぜ」

剣士「……解ってる」

船長「一所には留まれない」

剣士「ああ……」

船長「前に話したな。お前が……勇者の仲間だったんじゃ無いかって」

剣士「荒唐無稽な話だったな」

船長「アタシは今でも信じてるぜ?」

剣士「……俺は、人では無いだろう。だとすると……あり得ない」

船長「勇者ってのは、そんな器量の狭い存在じゃネェと思うけどな」

剣士「………」

船長「特別、なんだろう?光に選ばれた勇者、ってのは」

剣士「……だろう、な」

船長「降りて……どうする」

剣士「……勇者の誕生を待つ。魔王の復活を待つ」

船長「………」

剣士「恐らく……俺は、それまで生きているだろう。この……姿の侭」

船長「確証はあるのか? …思い出した、のか」

剣士「……否。何も」




439:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/27(水) 10:45:11.04 ID:liHUzSTPP

剣士「だが……俺は、魔王を倒さなければ行けないらしい」

船長「……そう、か」

剣士「……ああ。魔導の街とやらに、行ってみようと思う」

船長「わかった……下船を許可する」

剣士「あっさりだな」

船長「引き留めると思ったか?」

剣士「………少し」

船長「寂しいか?」

剣士「………」

船長「ハハッ 良いさ……お前は、違う世界で生きてる。それは……解ってた」

剣士「お前の事は……忘れない」

船長「ありがたいね。だが……アタシは過去に拘る生き方はできねぇんだ」

剣士「……忘れてくれて構わん」

船長「……甲板へ行け。挨拶は忘れるなよ」

剣士「ああ……解ってる」

船長「下らネェ死に方はすんなよ」

剣士「……無論だ」パタン
船長「……下らネェな」ポロポロポロ
船長「死ぬなよ、剣士。アタシに……魔物の居ない平和な世界の海を渡らせてくれよ」




446:1@もしもし ◆6IywhsJ167pP :2013/02/27(水) 16:58:03.36 ID:U8xg2waZI

……
………
…………

剣士(……一人、か。気楽で良い…筈なんだが)

剣士(………)

剣士(寂しい……か。そうか……そうだな)

剣士(楽ではあった…楽しくも。 ……だが)

剣士(俺は……魔王を倒すまでは……逝けない)

剣士(確か……大きな図書館があるとか言ってたな、爺さん)

剣士(人の出入りも激しい……暫くは……大丈夫だろう)


??「図書館は……あれか。どうする。行ってくるか?」

??「はい。貴方は……どうされます?」

??「……俺は良い。宿の手配と、そうだな……武器屋にでも行っている。気にせずに行ってこい」

??「はい……すみません」

??「気にしなくて良い……書物の数も膨大なのだろう。では、後でな」スタスタ
??「はい……では、宿で」テクテク

剣士(……知恵を求める者は多いんだな)

剣士(先に……宿を取るか。さっきの戦士風の男は……あそこか)キョロキョロ
剣士(……確か、別の場所にもあったな。無意味な接触は避けるべきだ)スタスタ

……
………
…………

??「すみません、図書館を利用したいのですが……」




453:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 10:04:14.22 ID:aJ4rDMrYP

「はい、どうぞ……ここは、求める者全てに平等に開かれております」

「お探しの案件は? …数が数ですので、ご案内させていただきますよ」

??「……そうですね、一人で見てると、日が暮れてしまいそうですし」

??「魔力の……具現化の方法についての書籍を、探しております」

「……旅の僧侶様とお見受け致しますが」

??「まあ……そのような者です」

「ああ、やはり……得の高い聖職者様の魔力を結晶化させた物は」

「上等な魔除け石として、貴族様の間で重宝されておりますものね」ニコリ
「お勤め、ご苦労様でございます」

??「……いいえ」

「具現化や結晶化についての本は……この、棚のあたりにまとめてあります」

「赤い棚ですので、すぐにわかるかと……地図をお渡しいたしますね」

??「ありがとうございます」

「また、何かありましたらお声をおかけ下さいませ」

??「ええ……ありがとうございます。助かりました」スタスタ
??(赤い棚……赤い棚………あ、あれかな)

??(でも、丁度良かった……魔除けの石の生成方法の本なら……)

??(あった……これだ)

??(旅の僧侶……か。間違えては居ないですね)

??(この格好してて、良かった……彼は、立派な戦士に見えるし)

??(………禁持出、か)

??(取りあえず、重要な所だけ……読んでしまおう)


……
………
…………

??(………は、しまった、今……何時だろう)

??(おもしろくてつい……読んじゃった)

??(……うぅ、まだ読みたい、けど………今日は、ここまでにしなきゃ)

??(戻して……行かなくちゃ)タタタタ
「お帰りですか、僧侶様……またのご利用、お待ちしております……」

??「は、はい……ありがとうございました!」タタタ、バタン
??「えっと宿は……あ!」

??「……お帰り、癒し手……じゃなかった、僧侶」

癒し手「そっ ……戦士さん、すみません!つい……!」

側近「気にするなと行っただろう?」

癒し手「ぅ、でも……結局迎えに来て下さったんですね」

側近「まあ……日も暮れたからな。街の中とは言え……何かあっては困る」

癒し手「すみませ……あ」グゥウウ
側近「……予約、入れておいた。飯にするか」クス
癒し手「はい!」




454:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 10:27:32.24 ID:aJ4rDMrYP

飯所

側近「本は見つかったのか?」

癒し手「ええ、丁度……でも、凄いですね、あの図書館」

側近「外から見てもでかいからな」

癒し手「あそこなら……エルフについての本もある程度見つかりそうですね」

側近「……大丈夫だったか?」

癒し手「僧侶が、知を……求めるのは不思議では無いですよ」

側近「そうだな……」

癒し手「今日、館内地図も戴きましたし……エルフの本は、自分で頑張って探してみます」

側近「これだけ人の出入りが激しい街だ……怪しまれる事は無いだろうが」

癒し手「そうですね……ですが、用心するに超したことはありませんよ」

側近「1、2年は大丈夫だろう?」

癒し手「……と、思いますけど。宿に泊まり続けるのもどうでしょうね」

癒し手「今日も、旅の僧侶だろうと言われましたし……」

側近「ふむ……」

癒し手「……魔王が倒れて、まだ世界は平和ですから」

側近「………」

癒し手「いったんここに居を構えても良いんですけど……」

側近「そうだな……しかし流石に一度連絡を入れた方が良いんだろう」

癒し手「あ……そうそう。それなんですけど」

側近「ん?」

癒し手「良い方法を思いついたんです……後で、宿のお部屋で」フフ
側近「? ああ……では、腹も膨れたし行くか?」

癒し手「あ、すみませーん、チョコレートパフェください!」

側近「………俺は、プリンパフェ」


……
………
…………

癒し手「ああ、お腹いっぱい!」ボフン
側近「癒し手、靴ぐらい脱げ」シーツガヨゴレル
癒し手「忘れてた……でも、良い部屋ですねぇ、ここ」ヌギヌギ
側近「僧侶様の旅の護衛だと言ったからな」

癒し手「……成る程」

側近「今の時代、僧侶様ってのは貴重らしいな」

癒し手「そうですね……魔物が弱くなった今、魔除けの石を持っていれば」

癒し手「街から遠く離れない限り、安全ですから」

側近「……魔王が倒されたから、か」

癒し手「封印された、が……大凡の見解みたいですね」

側近「ああ……こうしてお前と旅をして思ったが」

側近「……誰も、勇者が帰還しない事を不思議がらないんだな」




455:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 10:44:18.18 ID:aJ4rDMrYP

癒し手「魔王と差し違え、世界を救った偉大な勇者様……です」

癒し手「弱体化したとは言え、魔物は消えません……しかし」

癒し手「遙かに平和になったんです……こうして、力の弱い僧侶が」

癒し手「一人の護衛だけを伴って、旅をしていても不思議がられない程度に」

側近「勇者様は命と引き替えに、仮初めといえど平和を下さった」

側近「……封印が解けても、また新たな勇者が現れて、世界を救ってくれる、か」

癒し手「次こそは必ず、完全に魔王を倒し……魔物の居ない本当の世界を作ってくれる、と……」

癒し手「誰もが信じているのですよ……魔王が居る限り、勇者は産まれるのですから」

側近「そして勇者が居る限り、魔王もまた……産まれる」

癒し手「はい……勇者は必ず、魔王を倒します」

側近「……ああ」

癒し手「私達も、信じているんです……勇者は、必ず……確実に、魔王を倒す」

癒し手「……その日が、来る事を」

側近「そうだ。腐った世界の腐った不条理を断ち切る、その日を……信じている」

癒し手「一緒ですね、私達も」

側近「仮初めの平和で、満足している訳ではないぞ?俺たちは」

癒し手「勿論です……ですが」

癒し手「私達には、時間がある。人としての一生と比べものにならない位の時間が」

側近「……ああ」

癒し手「限られた生を生きる人間に、風化を否とするのは酷なことです」

側近「勇者様が作ってくれた仮初めの平和の中で、その生死は風化する……か」

癒し手「英雄譚として、語り継がれては行くのでしょうけど」

側近「そうだな。寧ろ……そうであるからこそ」

癒し手「はい。特別……になるんですよ。勇者、と言う存在、その物が」

側近「……繰り返し、繰り返し……運命の輪は回るんだな」

癒し手「それが、世界です。この腐った世界の腐った不条理です」




459:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 11:43:15.78 ID:aJ4rDMrYP

側近「皮肉だな」

癒し手「皮肉ですね……でも、私達は」

側近「喜ばなければならない?」

癒し手「……そうです。前代未聞の特異点」

側近「お前だ、癒し手」

癒し手「………はい。烏滸がましい気は、しますけど」

側近「そんな事はないさ……ああ、そうだ。さっきの……良い方法、とは?」

癒し手「ああ、そうです忘れてました……」プチン
側近「……?」

癒し手「こうやって……抜いた髪に、魔力を……と」フワァ……パタパタ
側近「蒼い、小鳥……」

癒し手「はい。これで……魔王様と后様に、文を送れます」

側近「なるほどな」

癒し手「暫く、この街の図書館に通いたいんです……良いですか?」

側近「勿論だ……俺たちの旅は、エルフの里を訪ねる事が目的だろう?」

癒し手「はい……知れる事は、知りたい」

側近「良し……では俺も仕事を探そう」

側近「この辺の魔物を討伐するぐらいなら、疑われる事も無いだろう」

癒し手「そうですね……」

側近「良し……俺たちは、僧侶とその護衛」

癒し手「はい。私が知を求めるので、暫く滞在する」

側近「宿代を稼ぐためと、路銀の足しにするために、護衛は魔物の討伐隊に参加する」

癒し手「その後は……」

側近「ああ。エルフの里を目指そう」

癒し手「はい……次代の勇者様が、お生まれになるまで」


……
………
…………



460:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 12:02:59.42 ID:aJ4rDMrYP

魔王「…………」ペラペラ
魔王「…………」ペラペラ

コンコン

魔王「……?」


コンコン

后「魔王、いる?」カチャ
魔王「ああ、后か……どうした?」

后「癒し手の小鳥が来たわよ」

魔王「そうか……んー、俺もちょっと休憩するかな」

后「毎日毎日ご苦労様、ね。アンタがそんなに本が好きとは思わなかった」

魔王「ここにあるのは物語の類が殆どさ……魔術書なんかもあるにはあるが」

魔王「流石に俺にはわからん」

后「アンタも一応魔法使えるでしょうが」

魔王「専門じゃねぇよ。それに……魔王になっちまえば、必要ないさ」

后「……願えば、叶う」

魔王「そう言う事」

后「便利なもんよね……昔、あれほど必死に勉強したのに」

魔王「お前は魔導の街出身だったな」

后「そうよ。めちゃくちゃ厳しい親でね……」

后「とにかく難しい魔導書ばかり、読まされた」

后「……原理は、一緒なのよね、解ってさえしまえば」

魔王「ん?」

后「願えば叶う、よ……魔法ってのは、そんなもんなんだわ」

魔王「なるほどね……まあ、だからって一朝一夕で身につくものでもないんだろ?」

后「そりゃそうだけど」

魔王「で、小鳥は?」

后「……私の部屋に飛び込んで来るや否や、クッキーにかじりついてる」

魔王「……流石癒し手の小鳥」

后「文も取らせてくれないのよ……全く」

魔王「なんだ、まだ見てないのか」

后「そうなのよね……あ」


パタパタパタ……

后「お腹いっぱいになったのね……ヨイショ、と」

魔王「うわ、クッキーの粉まみれじゃねぇか、お前……」

后「まあ、魔王!」

魔王「痛、こらつっつくな……ん、何?」

后「癒し手、赤ちゃんができたんですって!」

魔王「え!? ……そうか… 先越されちまったな」

后「ふふ……そうね、でも……おめでたいじゃない」

魔王「いや、そりゃ俺だって嬉しいさ」

魔王「それだけか?」

后「暫く、魔導の街に滞在するんですって」

魔王「ほう」

后「………様子、みてきて貰おうかな」

魔王「………」

后「そんな顔しないの。もう……両親はとっくに死んでるわ。解ってる」

魔王「すまん」




461:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 12:19:48.02 ID:aJ4rDMrYP

后「良いのよ……だって、もう……あれからほぼ50年近いのよ」

魔王「そう、だな」

后「……家はきっと続いてるわ。そう言う人達だったもの」

后「私は飛び出したまま、結局帰らなかったけど……」

后「あの人達の事だし、もう一人子供作るぐらい、やってのけるわ」

魔王「兄弟は居なかったんだよな?」

后「ええ……必死だったでしょうね」クスクス
魔王「おい……」

后「……娘が優れた加護を持たないって知っても同じよ」

后「きっと、次の子に期待してた」

魔王「………」

后「良いのよ。もう……そんな事」

魔王「……でも、気になるんだろう?」

后「多少は、ね」

魔王「………」

后「あの人達は、ずっと変わらないと思ってた……あの家があって」

后「優れた加護を持つ子供が生まれて、それを代々続けて、血を繋いでいく」

后「私達は、優れた血の流れる優れた人間。恵まれた、人間」

后「自分たちは、特別なのだ……とね」

魔王「特別、ね」

后「そう……勇者様の旅立ちに、一族の者が共をしたとなれば」

后「名が売れる。自尊心が満たされる」

魔王「私達は特別なのだ、ってか」

后「そう言う事……特別な何かで自分を飾ったところで、自分が特別になれる訳でも無いのにね」

魔王「良いもんじゃないのにな、特別なんて」

后「………そうね」

魔王「俺は、もし……俺が勇者じゃなかったら」

魔王「何、してたかなぁ……」

后「……そう、か。貴方は……」

魔王「物心ついたときから、お前は勇者だ、魔王を倒す為に産まれたんだ、だったからな」

后「……前后様、ね」

魔王「ああ。優しい母さんだったけど、悲しそうに笑う事が多かった」

魔王「今から考えれば……そりゃそうだよな」

后「私達も……今から同じ事をするのね」

魔王「……そうだ。お前は特別だ、って……育てるのさ」

后「………皮肉ね」

魔王「………ああ」




463:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 12:57:53.83 ID:aJ4rDMrYP

后「……癒し手に、返事を書くわ」

魔王「ああ……様子、見てきて貰えよ」

后「……やめとく」

魔王「そうか?」

后「うん……知りたければ、自分で行くわ」

魔王「ああ……そうだな。俺たちには未だ……時間がある」

后「ええ……」

魔王「ああ、そうだ。后、暇なら後で手伝ってくれよ」

后「何?」

魔王「御伽噺の類だけどさ。エルフについての本が何冊か出てきたんだ」

魔王「読み物としてはおもしろかったし……案外」

后「真実が書かれてるかもしれない、か」

魔王「そう言う事。いつか……帰ってきた時にな」

魔王「読みやすいように、一カ所にまとめておいてやろうと思ってさ」

后「ええ、解った……返事書いたら、来るわ。どうせ……小鳥はここに居るでしょ」

魔王「ああ、そうだな……書庫好きだよな、こいつ……」

后「癒し手の一部ですもの。 ……後でお水と、クッキーも持ってくるわよ」

小鳥「ピィ」クルクル
魔王「まだ食うのか、お前……痛ッ」

后「ふふ……じゃあ、後で」パタン
魔王「さて、もうちょい発掘続けるかな……」

魔王「こら、髪を摘むなそれは食いモンじゃない……ん?」

魔王「……これも、エルフの本か……表紙が」

魔王「……癒し手に似てる」ペラ

……
………
…………



464:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 13:04:11.34 ID:aJ4rDMrYP

むかしむかし、あるところに、エルフのお姫様がいました
エルフのお姫様は新緑の髪に透き通った湖の瞳を持っていました
その声は小鳥の如く、その肌は雪よりも白く
誰にも愛される、特別なお姫様だったのです

ある日、傷付いた旅人がエルフの森に迷い込んできました
エルフは、エルフ以外の者に干渉する事を嫌います

ある者は、旅人を散々迷わせた後、外へ出そうと提案しました
ある者は、森外れの沼地に誘い込み、沼地の化け物の餌にしてしまおうと提案しました

お姫様は、旅人を迎え入れ、傷を癒し、その後はその者のしたい様にさせようと提案しました

お姫様は、森の中で一番偉い人でした
誰も、お姫様の決定に逆らうことができません

旅人は、森の外れの小屋に招き入れられ
手厚い姫様の手当を受けました
旅人は、とても良い人でした

人に関わる事を嫌うエルフの事を理解し、深く謝罪しました
優しいエルフの歓待に心から喜び、深く感謝しました

最初は旅人を嫌っていたエルフ達も、徐々に旅人に心を開いていきました



465:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 13:10:34.12 ID:aJ4rDMrYP

いつしか、お姫様と旅人は恋に落ちました

お姫様は旅人に、ここに何時までも留まり
一緒に過ごしてくれる様に願いました
旅人は、生きる時間が違う事、自分は人間である事を憂い
お姫様に返事を待ってくれる様に願いました

お姫様が悲しんで涙を流していると、空に浮かぶ月が言いました
エルフは嘘を吐くことが出来ない
故にその涙はとても美しく、まるで宝石の様だと
その様な宝石を零し続けていると
欲の塊である人間がお姫様を攫って行ってしまう
だからどうか、泣かないでおくれ

お姫様は、思いました
私は旅人になら攫われても良い
あの人と一緒に、限りある時間を生きていく事こそが
私にとっての宝石の様なものだと

お月様は悲しみました
エルフのお姫様の気持ちは、もう既に旅人に盗まれてしまったのかと
お月様は嘆きました
そうして、エルフの森に雨が降りました



466:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 13:18:11.22 ID:aJ4rDMrYP

雨の森の中、旅人が歩いていました
帰ってこないお姫様を心配し、探しに小屋を出たのです
その濡れた背中を、一本の細い矢が貫きました

旅人は、倒れました
雨は非情にも旅人の亡骸を打ち続け
旅人の暖かい血は雨に混じって流れていきました

肉は土となり、旅人は森に還りました
長い雨があがり、柔らかい朝日が差し込む頃
花が、旅人を隠しました

お姫様は、もう二度と帰ってこない旅人を思い
毎日、泣いて過ごしました
エルフは、ウソをつけません
旅人が居なくなった事、殺されてしまった事を聞き
お姫様は深く悲しみました

お姫様は、身籠もっていました
お腹の子の父親は、旅人でした
エルフ達は、恐れました
お姫様は、ハーフエルフを産むのだと
お姫様は、怪物を産むのだと



467:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 13:25:06.71 ID:aJ4rDMrYP

人間は簡単に死ぬのだと、お姫様も恐れました
だから、この子は大事に育てなくてはいけないと

エルフは嘘をつけません
お姫様以外のエルフは、お姫様を森の外に出すことを望みました
お姫様も、嘘をつけません
お姫様は、自らも森の外に出る事を望みました

エルフ達みんなの望みは、叶いました

お姫様は小さな弓を持ち、お腹をかばいながら
エルフの森の細い道を進みました
いつしか、夜になり、空には月が出ていました

月は言いました

空からではお姫様を見る事しかできません
何も、助けてあげられません
だからせめて、お姫様の涙を隠してあげよう

月は雨を降らせました
月はお姫様が好きでした
エルフのみんなも、お姫様が好きでした

だけど、お姫様が旅人を助けたばっかりに
お姫様が、旅人と恋に落ちたばっかりに

お姫様は、雨に身を冷やしながら、後一歩
これが最後の後一歩、と
何度も何度も繰り返し
漸く、エルフの森を出る事ができました



468:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 13:37:16.25 ID:aJ4rDMrYP

美しい川の畔でした
お姫様が後ろを振り向くと
ザザザ、と音を立てて、エルフの森は道を閉じていきました

もう、誰も入ってこないように
もう、誰も出て行かないように

エルフの森は、迷いの森となりました

心の美しいものは、迷いに迷って外へ出てしまう不思議な森
心の汚れたものは、獣に食われるか、餓死してしまう怖い森

お姫様がその後どうなったのか
エルフ達は知りません
人間達も知りません
空から見ていた筈の月も

雨に濡れ、涙に濡れ、宝石の様に美しかったエルフのお姫様は
生まれ育ったエルフの森を巣立ち、母になりました


??「そうして、エルフのお姫様は、どこからも失われてしまったのです……」

「ねえ、赤ちゃんどうなったの?」

「お姫様、死んじゃったの?」

シスター「どうなったと思いますか?」

「死んじゃったらかわいそう……」

シスター「そうですね……さて、今日はここまでです。本を読んで下さったお兄さんに」

シスター「皆様、感謝のご挨拶を」


「「「ありがとうございました!」」」


??「いいえ、どういたしまして」ニコ
シスター「では、行きましょうか……今日は、ありがとうございました」

??「いいえ、こんな事で良ければ、何時でも……しかし」

シスター「はい……?」

??「お言葉ですが、小さな子にこの物語は……難しいのでは無いでしょうか」

??「相当古い本の様ですが……描写も少々、残酷ですし」

シスター「……魔導師さんは、どうなったと思いますか?」

魔導師「……はい?」

シスター「このエルフのお姫様、ですよ」




469:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 13:47:07.78 ID:aJ4rDMrYP

魔導師「………僕は」

シスター「本当は、ああして読み聞かせた後に、子供達の考えを聞いて」

シスター「色々、話をするのですけどね」

魔導師「だとしたら……これを題材にするのは、やはり」

シスター「そうですね……ですが」

シスター「そういう事も、教えていっても良い年齢でもあるのですよ、皆」

魔導師「………」

シスター「ここは孤児院ですから。親の愛情を、ほとんどの子が知りません」

魔導師「はい」

シスター「何か、プラスになればと思ったのですけど……やはり、難しかったでしょうか」

魔導師「……て、言うか、これ……ページ、抜けてますよね」

シスター「やはり、そう思います?」

魔導師「恐らく、ですけど……エルフの森に雨が降った下りから、旅人が矢に打たれるところが」

魔導師「唐突すぎて……繋がらない」

シスター「……続きも、まだあるのかもしれませんね」

魔導師「ああ……それも考えられますね」

シスター「ふぅ……失敗してしまいました、かね」

魔導師「……すみません、責めるつもりでは」

シスター「いえいえ、大丈夫です……まあ、偉そうな事を言いましたが」

シスター「……新しい本を買ってあげる余裕も、正直無いのですよ」

魔導師「………」

シスター「あの子達には、何度も何度も同じ本を読み聞かせています」

シスター「飽きる事無く、何度も目を輝かせて聞いてくれはします」

シスター「仕方ない、のですけれど……」

魔導師「そう、ですね……」




471:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 13:57:55.77 ID:aJ4rDMrYP

シスター「もう少し、寄付があれば良いのですけれど」

魔導師「……お力になれず、申し訳ありません」

シスター「いいえ……そういえば魔導師さんは、旅に出られるとか?」

魔導師「はい。僕ももうすぐ16歳ですし……勇者様の旅立ちに、ついて行けたら、と」

シスター「では、始まりの街へ?」

魔導師「はい。お供できるとは限りませんが……それが叶わなければ」

魔導師「魔導の街、とやらに行ってみようと思っています」

魔導師「……今度、来るときは絵本、買ってきますよ」

シスター「楽しみに待っています……旅の安全を祈ります」

魔導師「ありがとうございます。では……」スタスタ

魔導師(あの孤児院も古いからな……書庫を漁れば、色々と出てくるだろうと)

魔導師(訪ねて見れば……御伽噺の類ばかり)

魔導師(しかもその殆どが……インクも掠れて読めない)

魔導師(……通い出して、半年、か……収穫は殆ど無かったな)

魔導師(はぁ……しかも子供達に、本まで読まされるし)

魔導師(まあ、良いけど……)

魔導師「ただいま、兄さん」

兄「おかえり魔導師……毎日ご苦労様」

魔導師「うん……でも今日でもう終わりだよ」

兄「……お前、本当に旅に出るのか?」

魔導師「まだ行ってるの、兄さん……でも兄さんでしょ?シスターに話したの」

兄「ああ……昨日、会ったからな」




472:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 14:06:03.38 ID:aJ4rDMrYP

魔導師「丁度良かったよ。あの書庫には……僕の見たい本は無かったしね」

魔導師「今日で最後だって言ったら、子供達に本を読んでくれって読まされたけどね」

兄「遅かったのはそう言う理由か」

魔導師「読めそうな物が見つかったんだってさ。エルフのお姫様の話だったよ」

兄「そっか……おもしろかったか?」

魔導師「……僕の事幾つだと思ってるんだよ……絵本見ておもしろいって」

魔導師「しかも、エルフなんて……本当にいると思ってるの?」

兄「そりゃ、魔物が居るぐらいだからなぁ」

魔導師「おめでたいね……結局魔導書の類も、鍛冶に関する本も無かったし」

魔導師「無駄にしたな、半年」

兄「お前なぁ……」

魔導師「まあ、良いよ。やっぱりこんな田舎の村じゃたかがしれてるって事が解っただけでも」

兄「……本当に行くのか」

魔導師「しつこいな……僕は、鍛冶師になりたいんだよ」

兄「世界を見る、って? ……勇者様にあいにいくんだろ」

魔導師「まあ、連れて行って貰えるのならね」

魔導師「僕ぐらい知識があれば……役には立てるでしょ」

兄「……井の中の蛙大海を知らずって言葉知ってるか?」

魔導師「………」ジロ
兄「勇者様と旅が出来なかったら帰ってくるんだろ?」コワイコワイ
魔導師「いや、帰らないよ」

兄「……何?」

魔導師「駄目だったら、僕は魔導の街へ行く。そこで……腕を磨くさ」

兄「……この村の警備にはつかないのか」

魔導師「兄さんがいるじゃないか。他にも、魔法が使える奴だって」

兄「しかし……みんなお前ほどじゃ……」

魔導師「だからだよ。だからこそ、こんな田舎の村で燻って終わりたくないの、僕は」

兄「…………」




473:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 14:17:38.27 ID:aJ4rDMrYP

魔導師「……休むよ。明日朝、出発するから」

兄「……随分急だな」

魔導師「善は急げ、って言うでしょ?」

魔導師「時間は限りなくあるわけじゃ無い。有効に使わないと」

兄「もう……何も言わんよ、お前は本当に……」

魔導師「ちゃんと便りぐらい出すさ。じゃ、お休み」スタスタ
兄「……あの性格で大丈夫かねぇ、全く」

兄「世間は広いぞ?魔導師……」


……
………
…………

后「で、世界は広かった?」クス
魔導師「……はい」ガンガン!
后「炎はどう」

魔導師「充分です……后様は、大丈夫ですか?」ガンガン!
后「ええ、平気よ」

魔導師「……こんな、自在に操れたら」ジュウウ……チョットキュウケイシマス
后「……私は、もう人間じゃ無いもの」オーケー
魔導師「………」

后「でも、どうして私に話してくれたの?」

魔導師「癒し手様に……似てたんです。その、表紙の……エルフが」

后「………」

魔導師「あの時の僕は、エルフなんて……信じてなかった」

后「御伽噺だと思ってた?」

魔導師「はい……でも、青年さんが……エルフと聞いて。頭を打たれたみたいだった」

后「………」

魔導師「言われました。目で見た物を否定するのは難しいって」

后「……そうね。私も……難しかった」

魔導師「え……?」

后「癒し手がね……優れた加護を受けていたから」

魔導師「あ……青年さんも、ですね」

后「ええ、そうね……私は、違った」

魔導師「………」




474:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 14:30:08.65 ID:aJ4rDMrYP

后「私はね、魔導の街の……そうね。良くも悪くも有名な……高名な」

后「魔法に秀でる家、の出身なのよ」

魔導師「聞いた事……あります」

后「悪名高いからね」クス
后「殆どの人が、優れた加護を持ってた……そう言う人を探して」

后「見合いで結婚するのよ。もし、優れた加護を持っていなかったら」

魔導師「落ちこぼれ……ですか?」

后「そんな優しいものじゃないわ。人以下よ……生きてる価値なんて無いのと一緒」

魔導師「………」

后「そんな子を産んだ親も、含めてね。一族の面汚し、名を、血を汚す不届き者」

后「怖かったわ、何時か両親にばれるんじゃ無いかって」

后「結局、勇者様と共にする事になって……帰ってないから、後は解らないけど」

魔導師「……癒し手様と、出会ってしまった」

后「そう……彼女は優れた加護を持ち、しかもハーフエルフなんて特異な存在」

后「嫉妬したわ。どうして彼女だけ。どうして私には……って」

魔導師「僕も……です。博識だと自負していたんです。ちっぽけなプライドですけど……」

魔導師「挫かれて……拗ねて、八つ当たり、した」

后「………」

魔導師「特別は、勇者様だけであって欲しかったんです」

魔導師「僕は、特別にはなれない。だからせめて……自分の認めたもの以外は」

后「特別であって欲しくなかった?」

魔導師「はい……特別であって良い筈が無いって。そうしたら……僕は」

魔導師「下らないプライドですけど……保っていられたんです」

后「……そうね。でも特別、なんて……辛いだけよ」

魔導師「はい……」

后「だけど、私は特別、を産んだ。特別として育てなくてはいけなかった」

魔導師「勇者様……ですね」

后「ええ……家から出さず、貴女は魔王を倒す為に産まれたんだって」

后「それだけを、押しつけた」

魔導師「……必ず、断ち切ります。僕たちの手で」

后「結局、私達は……礎にしか、なれなかった」

魔導師「………」

后「結局、貴方達にも……こうして、押しつける結果になってしまった」




476:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 15:05:58.23 ID:aJ4rDMrYP

后「でも……私達は喜ばなくてはいけない」

魔導師「……はい。僕たちも、です」

后「この先……勇者がどうするのかは、わからない」

魔導師「………」

后「この剣で、魔王を……倒すのか。また、同じ事を繰り返すのか」

后「癒し手の、居ない今……」

后「前とは、違う。少しずつだけど……確実に、違う」

魔導師「癒し手様は………本当に、あの……お亡くなり、に?」

后「……確かよ。抱いた身体は冷たかった」

后「土の中から掘り起こしたわ。重い土の下の、簡素だけど綺麗な棺桶の中から」

魔導師「………」

后「命の鼓動は感じられなかった。体温も……」

魔導師「眠っている様に……見えました。それに……」

后「ええ……朽ちて居なかった」

魔導師「いつ頃、亡くなったのか存じませんけど……」

后「………わからないわね。エルフは土には還らない? …まさか、ね」

魔導師「半分は、人の血が……流れているのでしょう?」

后「ええ……」

魔導師「分からない事だらけ、ですね……まだ」

后「そうね。でも……貴方達は、知る事ができる」

后「知り、見、感じる事ができる。私達よりも……もっと。全てを」

魔導師「はい……その為には」グッ
后「ええ、続けましょう……時間が無いわ」ボッ



478:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 15:22:14.85 ID:aJ4rDMrYP

魔導師「后様、一つだけ……お願いが」ガンガン
后「何?」

魔導師「……具現化の方法を、教えて戴けませんか」

后「……貴方ならすぐに解るわ」

魔導師「願えば叶う……ですか?」

后「魔法と言うのは……そう言う物よ」

后「イメージするのよ……出来るだけ、具体的に」

后「本当は……依り代がある方が簡単なんでしょうけど」

魔導師「后様は、身の内に……」

后「ええ……前と同じは嫌だったのよ……魔導将軍……以前の、人は」

后「同じ、炎の加護を受けていた……彼女は、背に真っ赤な翼を持っていた」

魔導師「………」

后「同じ事してたまるか! …ってね」

魔導師「それで……出来てしまうのも凄いですけど、ね」

后「人では無かったからね……もう」

后「それに、それって凄い原動力でしょう?」

魔導師「……違い無いです」クス
后「さぁ……もう少しよ!」

魔導師「ハイ!」ガンガン!
后「……私も、一つお願い」

魔導師「はい?」

后「……こうやって、話したこと。勇者に……伝えて欲しい」

魔導師「……はい。勿論です」

后「それから、青年に……」

魔導師「青年さんに?」

后「ええ……癒し手の話を聞きたいの。でも、時間が無い」

后「だから……代わりに、聞いて頂戴」

后「そして………忘れないで、欲しい」

魔導師「………はい」




480:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 15:35:43.44 ID:aJ4rDMrYP

后「それから……もう一つ」

魔導師「はい」

后「多分……書庫に、貴方が読み聞かせた本と同じものがあるわ」

魔導師「え?」

后「中身は読んでいないから解らないけれど……あの表紙の絵、癒し手に似てた」

魔導師「………」

后「青年に、渡して欲しいの」

魔導師「……はい」

后「読んでおけば良かったな……あんなに、時間があったのにね」

后「今は、もう……時間がない………あ」


ポツポツポツ

魔導師「雨、ですね……」

后「……急ぎましょう」

魔導師「はい!」


ポツ、ポツ……
ザアアアアアアアア………


……
………
…………

ザアアアアアア

青年「……雨、だよ母さん」

青年「ねぇ、なんでそんなところで……寝てるのさ」

青年「風邪、引くよ」

青年「………母さん……もう」ヨイショ、ダッコ
青年「こんなに、身体が……冷えてるじゃないか」

青年「母さん……返事、してよ、母さん!」




482:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 15:43:48.61 ID:aJ4rDMrYP

青年「………」パタン
青年「母さんの身体、拭かなきゃ」ゴシゴシ
青年「……庭に、出て花の手入れをしてたんだね」ゴシゴシ
青年「母さん……何時も言ってたよね」ゴシゴシ
青年「清らかな川が流れる豊穣な大地……緑の風が渡り、心地よい場所」

青年「神父様、とやらの墓の隣……そこへ、埋めてくれって」

青年「私が死んだら、そこに埋めてくれって」

青年「………僕は、嫌だって言っただろう!?」

青年「どうして、どうして僕を一人にするんだ!母さん……ッ」

青年「母さん、ねぇ、返事……返事、してよ……」

青年「どうして、雨の中でなんか倒れるんだよ………馬鹿野郎……ッ」

青年「どうして、僕を一人にするんだよ……!」

青年「勇者だとか魔王だとか、一方的に押しつけてさ」

青年「それで、僕をおいて行くのか!母さん!」ウワアアアアアア



484:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 15:53:11.09 ID:aJ4rDMrYP

青年「……か、あ ……さん」ナデ
青年(頬、冷たい……)

青年(……死んだ。母さんが……死んだ)

青年「………」

青年「ご丁寧に、自分で棺桶まで用意しちゃってさ」

青年「……死期まで、悟れるんだったら、さ」

青年「雨が降りそうな日に、わざわざ……花の手入れなんて……」

青年「全く……間抜けだよ、母さんは……」

青年「今日は、久しぶりに……一緒に寝て、良いよね?」

青年「昔みたいにさ、子守歌、歌ってよ……夢の中で……良い、から」ギュ
青年「……ふ、小さいな、母さんの身体」ベッドモセマイネ
青年「明日……雨が上がったらあの丘へ行こう。母さんと、神父様の為に……両手一杯の花を抱えて、さ」

青年「母さん……おやすみ」

青年「もう、明日から……朝ご飯を作って、中々起きない僕を起こさなくて良い」

青年「気にしないで、ゆっくり眠ってくれて良いんだ。母さん………」

青年「………おやすみ、母さん」ポロポロポロ

……
………
…………

青年(………ん?)

青年「……夢、か」ムク
青年(母さんが死んだときの、夢……フン)ナミダノアトガ……ゴシ
青年(あれから、一年……もうすぐ、勇者の旅立ち、か)

青年(ここは………魔導の街、だったな)

青年「……まだ深夜じゃないか」

青年(外……雨が、振ってる)

青年「……雨は、嫌いだ」カーテン、シャッ



485:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 16:09:42.06 ID:aJ4rDMrYP

青年「……糞、目覚めたな」

青年(魔導の街……后様の出身地、か)

青年(あの家は……まだあるのかな)

青年(明日……始まりの街へ立つ前に寄ってみるか……)

青年(時間はまだ……ある、しな)

青年「……もう一回、寝よう」コロン

……
………
…………



青年「……あれか」

青年(立派な屋敷、だな)

「さっさと出て行け!」ドン!
??「きゃ……ッ」

青年「ん?」

青年(家の中から出てきた……あの家の人間か?)

「二度と家の敷居を跨ぐことは許さんぞ!」

??「お父様!」

「父などと呼ぶな! ……この、出来損ないが……ん、何を見ている?」ジロ
青年(おっと……)

青年「ご高名なお家とお聞きしまして……勇者様の旅立ちにあわせ始まりの街に向かう前に」

青年「一度、目に焼き付けておこうかと……」ニッコリ
「……そうか、良い心がけだな。お前は……見たところ魔法使いか?」ジロジロ
??「………」ヨロヨロ
青年「はい……水の加護を受けております」

「そうか……身を濡らすことは?」

青年「ありません」ニッコリ
「ほう!それは素晴らしいな」

青年「……その、お嬢さんは?」




486:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 16:24:17.28 ID:aJ4rDMrYP

「……我が家には関係の無い者だ」

??「お父様!」

「父などと呼ぶなと言って居るだろう!」ブン!
??「キャア……ッ」ゴスッ
青年(ステッキで……! この糞ジジィめ)

青年「……君、おいで」カイフクマホウ
「……君は、回復も出来るのか」

青年「ええ、まあ……母が僧侶でしたので……大丈夫?」

??「……はい…ありがとう…」

青年(ん……この子……?)

「ふむ……時間はあるのだろう。どうだ、茶でも飲んでいかんかね?」

「良ければ娘を紹介しよう。娘はなかなかの器量よしだぞ。それに……風の魔法に秀でる、できた娘だ」

青年「いえ、折角ですが……船の時間がありますので」

「そうか……勇者の共になりに行くのだったな」

青年「ええ」

「では、その夢が叶い世界が平和になったらもう一度訪ねたまえ」

青年「……覚えておりましたら」クルッ
「な……ッ」

青年「ほら、なにぼさっとしてんの、おいで」グイッ
??「え、え……でも」

青年「また殴られたいのか? ……君は、捨てられたんだろう」

??「………!!」

「お、おい、まちたまえ……君、待て!」

青年「放っておきな。残酷だろうけど……もう君の事なんか見えてないよ」


……
………
…………

??「………」ビクビク
青年「あのね、別に取って食いやしないから」ヤレヤレ
??「だって……ベッドが」

青年「そりゃ宿の部屋だからね」

??「だって……男と、女……」

青年「あのねぇ……」ウンザリ
??「だってお父様は……何時も、そう言う人を連れてきた」

青年「!?」

??「私に……優れた加護がないから。せめて……違うとこで役に立てって」

青年「一つ聞くけど……実の父親だよな?」

??「……ええ」

青年「……さっきあのおっさんが、言ってた娘、てのは?」

??「姉さんよ」

青年「………」

??「良いのよ別に……私は、どうせ長くない」

青年「そうだな。もって一年……ってとこか」

??「!?……どうして」

青年「解ったかって? ……感じるんだよ」

??「……水の魔法に、回復魔法も使えるんですって?」

青年「風の魔法もね」

??「まさか!?」

青年「僕は人間じゃないから」

??「………ま、ぞく…?」

青年「それも、違う」




487:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 16:34:37.03 ID:aJ4rDMrYP

??「………エルフ?」

青年「人の血は混じってるけどね」

??「あ……そうね、回復魔法……」

青年「流石によく知ってるね」

??「……本だけは一杯あったからね」

青年「名前は?」

??「え?」

青年「君の、だよ」

??「……少女」

青年「そうか。僕は青年だ」

少女「……私を、どうするつもり?」

青年「別に。あそこで見捨てておいた方が良かったか?」

少女「……同じ事よ。別に……貴方が面倒を見てくれる訳でもないんでしょ」

青年「君は誰かに庇護される事でしか生きていけないの?」

少女「!」

青年「……事実だろ。自分でどうにかしようって気はないのかい」

少女「………」グス
青年「泣かれてもね。御免、悪かったよって謝れば気は済むのかい?」

少女「………」グスグス
青年「………チッ」

少女「私……どうしたら、良いの……」

青年「知らないよ」

少女「じゃあ、なんで連れてきたのよ」

青年「暇つぶし?」

少女「酷い……!」

青年「僕が気に入らないなら出て行きなよ。ここは僕がお金を払って借りた、僕の部屋だ」

少女「……宿屋でしょ」

青年「宿泊代を払ってるのは僕だろう」

少女「……今日だけ、泊めてよ。お礼は、するわ」

青年「君に何が出来る?」

少女「………」スタ、スル……
青年「……傷だらけだな」

少女「いたぶるのが趣味な奴は多いのよ」

青年「で?」

少女「好きにして良いわよ」

青年「そう……じゃ、遠慮無く」ス……
少女「………」




488:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 16:42:39.66 ID:aJ4rDMrYP

青年「ほら、服着て」ポイ
少女「……な、んで」

青年「君、自分がいくつか解ってる?精々14、5でしょ……」

青年「そんなのに、欲情なんてしないよ、残念ながら」

少女「……でも、私他に出来る事なんて」

青年「本だけは一杯あったんだろう?」

少女「え?」

青年「君の、家に」

少女「……ええ。でも……魔導書の類は、読ませてくれなかったわ」

青年「君が……出来損ないだから、か」

少女「……せめて言葉は選びなさいよ」

青年「選んだよ。一番正しく伝わるだろうものを、ね」

少女「………」

青年「君の家での常識、だろう……それが」

青年「世間一般では、優れた加護なんて持っている方が少ないんだ」

青年「別に、君を出来損ないだと……僕は思わないよ」

少女「………」

青年「で、魔導書じゃなくて何を読んでたの」

少女「童話の類ばかりよ。姉は勉強熱心だったから」

少女「魔導書は貸してくれなかったけど……書庫からこっそりと、童話は持ってきてくれた」

青年「……重畳」

少女「え?」

青年「魔導書の知識なんて僕にはいらない。僕は……僕が本当に知りたいのは世界の謎だ」

少女「世界の、謎……ああ、そういえば貴方。勇者様についていくって……」

青年「ああ、そうだよ」




489:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 16:50:47.88 ID:aJ4rDMrYP

青年「僕は……勇者様に会わなきゃいけないのさ」

青年「そして、連れて行って貰う」

少女「どうしてそんなに自信過剰で居られるの」

青年「……僕は僕でしかないからさ」

少女「……?」

青年「身の丈を知ってる。自分の限界を知ってる。あと、ちょっとばかしの世界の秘密を」

少女「……世界を、救うの?」

青年「……そうだね。勇者は、魔王を倒すから」

少女「そう。でもその頃には……私は生きてないわね」

青年「………多分」

少女「どこまで解るの」

青年「君の命の炎の……残りが少ない事はわかる」

青年「何時とはっきりは言えないけど……さっき言ったとおりさ」

少女「便利ね、エルフって」

青年「……どうかな」

少女「自分の死期もわかるの?」

青年「……僕がまだまだ、しぶとく生きそうだって事なら」

少女「そう……話が逸れたわね」

青年「ああ……エルフについて、何か知らないかい?」

少女「……自分の事なのにわからないの?」

青年「ハーフエルフについて書かれた書籍なんか殆どない」

少女「……そう、そうね」

青年「何か……知らない?」

少女「流石に……わからないわ」

青年「そうか……いや、良い。ありがとう」

少女「………ねぇ」

青年「何だい?」




490:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 16:57:44.02 ID:aJ4rDMrYP

少女「はじまりの街には、何時発つの?」

青年「明日だ」

少女「……連れて行ってくれない?」

青年「……はぁ?」

少女「この町に……居場所なんてない」

青年「金も持ってないくせにか」

少女「……お願い!私、この街じゃ生きていけない!」

青年「エルフの話でも知っていれば考えても良かった……が」

青年「君にそこまでしてやる義理と、価値は?」

少女「………ッ」グス
青年「泣くなと言っただろう……慈善事業やってる訳じゃない」

少女「私に、野垂れ死ねと言うの」

青年「……僕の目の前で死ななければどうだって良い」

少女「連れていってくれないなら、今ここで、貴方の目の前で死んでやる」

青年「………」

少女「どう?」フフン
青年「………」ゴォオオオッ
少女「え……キャアッ」フワ………バン!
少女(身体が、浮いて……背中、が……壁、に……!)ズルズルズル……ベチャ
青年「それ以上ふざけた事を言うなら、この侭僕が殺してやる」

少女「………ッ」

青年「今日はベッドで寝れば良い。約束したからな」

青年「明日は、出て行け。後は……僕は知らない」パタン
少女「い、た………く……ッ」ポロポロポロ



491:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 17:07:59.47 ID:aJ4rDMrYP

……
………
…………

青年「糞、飲みすぎた……」カチャ…パタン
青年(少女は……寝てるか)

青年(……涙の、後。目が腫れてる)

青年「……もう、誰も死ぬところなんてみたくない、さ」

青年(………)

青年(床で寝るか)


……
………
…………

少女「……きて、起きて、青年!」

青年「ん……もう、朝、か……う」ズキン
青年(糞……酒が残ってる)

少女「昨日は……ごめんなさい」

青年「ん……ああ ……!どうした、その傷……」

少女「……家に戻ったのよ。窓からこっそり、姉の部屋に」

青年「……父親に見つかったのか?」

少女「いいえ。これは……姉よ」

青年「………」カイフクマホウ
少女「……ありがとう」

青年「優しい姉……じゃ無かった、のか」

少女「姉の目は何時も、優越感に溢れて居たわよ」

少女「童話を読ませてくれたのは、ただの施し」

少女「パーティの名目で好色な親父に私をあてがった時も」

少女「進言したのも姉だったわ」

少女「それぐらいしか利用価値が無いってね」

青年「……昨日、どうして家を放り出されたんだ?」

少女「いたぶる趣味がある変態が居るって言ったでしょ?」

青年「ああ……」

少女「思いっきりかみついてやったのよ。アレにね」

青年「………成る程」




492:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 17:19:12.14 ID:aJ4rDMrYP

少女「利用価値が無くなったどころじゃ無い私に」

少女「……姉は、容赦なく炎の魔法を打ち込んだ」

青年「何をしに行ったんだ」

少女「………これ」ス…
青年「……何だ、これ?」

少女「表紙は無かったわ。古い童話に挟まっていたの……何かの物語のページの一部」

青年「…………」ペラペラ
少女「エルフの文字があったのを思い出したのよ……紙の質が違うし、落丁してる訳でも無かったし」

青年「話の一部しかわからないな」

少女「……最初しか読んでないけど。どうせ、前後は無いし」

青年「これの為に………戻ったのか」

少女「始まりの街に行くんでしょう?」

青年「……これで、連れて行け、と?」

少女「港街までで良いわ。あそこには確か、娼館があったはず……通るでしょ?」

青年「…………」

少女「私、他にできること無い」

青年「……良いのか」

少女「ええ」

青年「……解った。連れていってやる」

少女「………ありがとう」

青年「取りあえず、このマントを被って顔を隠せ」

少女「ん……」ゴソゴソ
青年「良し……良いだろう」

少女「もう、行くのね」

青年「船は待ってはくれないからな」

少女「……どれぐらいで着くの?」

青年「港街までか? ……数時間さ」

少女「そう……」

青年「? ……行くぞ」


……
………
…………

甲板

少女「青年」

青年「なんだ、船室に居ろよ」

少女「………マント、返す」

青年「ああ……」

少女「………」

青年「何だよ、何か話でもあるのか?」




493:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 17:25:23.16 ID:aJ4rDMrYP

少女「……抱いて欲しかった」

青年「そんな気は無いよ」

少女「……時間も、無いわね」

青年「ああ」

少女「せめて、キスしてよ」

青年「……本当に君、我が儘だね」

少女「良いでしょ、それぐらい」

青年「……気が済むのか?それで」

少女「………」

青年「………」グイ
少女「あ……ッ」チュ
青年「礼だ。 ……ありがとう」

少女「………」

青年「………」

少女「行くのね」

青年「当然だ」

少女「引き留めたい訳じゃ無いわ」

青年「そうされる理由は無い」

少女「……冷たいわね」

青年「……優しくする理由も無い」

少女「嘘よ。優しいわ」

青年「どっちだよ……」

少女「貴方達が世界を救うのと……私が死ぬの。どっちが早いかしら」

青年「………さぁな」

少女「できれば、貴方が作った平和な世界を生きてみたいわ」

青年「願えば、叶うさ」

少女「……そうかしら」

青年「………」

少女「ねぇ、青年」

青年「何さ」

少女「……ありがとう」

青年「………ああ」

少女「港街に着く、わね……」

青年「………そうだね」

少女「行くわ」

青年「………」




494:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 17:33:12.19 ID:aJ4rDMrYP

少女「………青年!」

青年「……なんだよ」

少女「世界を救って! ……願ってる」

青年「世界を救うのは、僕じゃなくて勇者様だけどね」

少女「願えば叶うんでしょ」

青年「そうだよ……勇者は、魔王を倒す」

少女「……ありがとう。元気で」スタスタ
青年「君も……少女」

青年(……願えば叶う、か)

青年(願っても……母さんは生き返らない)

青年「…………船室に戻るか」スタスタ

カチャ……パタン

青年「……本当に数ページしかないな……」

青年「…………」

青年(お月様は悲しみました……)



エルフのお姫様の気持ちは、もう既に旅人に盗まれてしまったのかと
お月様は嘆きました
そうして、エルフの森に雨が降りました

森の中に、影が一つ落ちました
エルフの若者でした
彼は、お姫様の事が好きだったのです
こっそりと、小屋を伺っていたのです

しとしとと降る雨の中、エルフの若者は
弓を構えて旅人を見ていました
旅人が出てくるのを、じっと待っていました
何時しか、森の中に影が一つ増えました

雨の森の中、旅人が歩いていました
帰ってこないお姫様を心配し、探しに小屋を出たのです
その濡れた背中を、一本の細い矢が貫きました

青年(………ん、これは……続きのページ、じゃ無いな)




495:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 17:46:01.02 ID:aJ4rDMrYP

青年(雨に濡れ、涙に濡れ、宝石の様に美しかったエルフのお姫様は…)


生まれ育ったエルフの森を巣立ち、母になりました
そうして、お姫様は死にました
それはそれは美しい、一人の娘を残して、死にました

青年(娘は……人?で………掠れてて、読めないな)

青年「こっちは……」パラ
魔王「青年、居る?」

青年「ああ、魔王様どうしたの……闇の手は?」

魔王「世界地図とにらめっこしてる」

青年「……何やってんの」

魔王「どこにどの魔物がいるのか把握して表作るんだってさ」

青年「よく働くねぇ……」

魔王「青年は何してたの」

青年「これさ……后様が僕にって……闇の手から聞いたから」

魔王「ああ、エルフの御伽噺……」

青年「で……何か用事あったんじゃないの?」

魔王「あ、うん。闇の手が手伝って欲しいって」

青年「えぇ………」

魔王「本は後でも読めるでしょ」

青年「まあ……時間はあるからね……」

魔王「きりの良いところまで終わらさないと、ご飯が遅くなっちゃうよ」

青年「人を食いしん坊みたいに……まあ、いいや。続きは寝る前にするよ」

魔王「ん……じゃあ、行こうか」

青年「え、魔王様も行くの?」

魔王「……だって、手伝えって」

青年「……こき使われる魔王様ってのも」

魔王「まあ……良いんじゃない。他にやることも無いし」

青年「そうかい……良いなら良いさ」

魔王「ん、じゃ行こうか……怒らすとしつこいからね、闇の手」

青年「違いない」クス

……
………
…………



496:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 17:52:49.82 ID:aJ4rDMrYP

そうして、お姫様は死にました
それはそれは美しい、一人の娘を残して、死にました

娘は、人でありました
娘は、エルフでもありました

娘は、また娘を産みました
その娘もまた、娘を産みました

娘達は有限の時間を大切に生き
無限の世界へと死んで行きました

エルフの森は、ひっそりと
娘の心の中で、生き続けていました

地上であり地上でない、この世の物とは思えない楽園
それは、誰の心の中にも、ひっそりと生き続けていました

心優しき者には決してたどり着けず
心汚れ死者にも決してたどり着けない
不思議で優しく、怖い森

それは、誰の心の中にもある、光と闇なのでした






番外編、おしまい



497:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/28(木) 17:54:11.10 ID:aJ4rDMrYP

お風呂とご飯ー!

続きはまた明日-、です。

>>515
ピンクの栞に進む?
ゴールドの栞に進む?
勇者「俺は……魔王を倒す!」に進む?




499:名も無き被検体774号+:2013/02/28(木) 18:26:52.02 ID:royCKBBX0

ゴールドとは…



511:名も無き被検体774号+:2013/03/01(金) 02:49:26.69 ID:ybqHHng+0

かそピン



512:名も無き被検体774号+:2013/03/01(金) 06:28:39.45 ID:tMkXWX0c0

加速ピンク



513:名も無き被検体774号+:2013/03/01(金) 07:57:02.67 ID:3mEz5bk10

加速



514:名も無き被検体774号+:2013/03/01(金) 08:56:38.52 ID:10Ld1YDu0

加速ピンク



515:名も無き被検体774号+:2013/03/01(金) 08:58:14.31 ID:ugd6lOb70

ぴんくー!



517:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/03/01(金) 10:01:28.36 ID:pYCHjcI2P

「さて、そろそろベッドに寝かして貰えるとありがたいんだけどね」

「あ、ああ……悪かった…… ……」

小さな欠伸を零し、ベッド傍のスツールから船長は立ち上がる。
退こうと身を捩る剣士の両腕を掴み、ゆっくりとその身を組み敷いた。
「……眉間に皺刻んでんのもイイね、アンタ」
ぺろり、舌で赤い唇を舐める船長の声が、剣士の顔へと降り注ぐ。
「………何故、上に乗る」

「男と女が一つの部屋で一人きり……他に何するんだい」
「………」

剣士が船長を見上げ、諦めたような吐息を落とした後、船長はからりと笑む声に喜びを乗せた。
「諦めが早いのは良いことだ。アンタ、得するよ……この世界ではね」
「断れる状況でも無いだろう」

船長の柔らかそうな胸が、剣士のそれの上へと押しつけられる。
徐々に近づく唇はその侭剣士の吐息を阻害した。剣士に、抵抗の意思は無い。
「おまけに、飲み込みも早い……アンタ、海賊に向いてるよ」

嬉しそうに告げられる、些か悦を含んだ船長の声。ちゅ、ちゅ、と湿った音を響かせて
船長は剣士の唇へと舌を這わす。
「……褒められているのか、それ…は… ……」

柔らかい感触に、剣士の声は途切れ途切れ。熱を帯びた吐息はどちらのものともつかず
剣士の身は組み敷かれた侭、力が抜けていく。

衣服を身に纏う侭、シーツの合間で身を捩りあう。
剣士はそろりと動きを封じられた両手を解放する様力を込めた。
解けた二人の両腕は、互いの身を抱きしめ合う。
「こんな良い女を抱けるんだ。喜んで欲しいね?」

「……自分で言うか」

「不満かい?」

「……否」

剣士は船長の細い腰を抱きしめた侭、身を起こす。
ごろりとシーツの上を転がって、場の逆転。
頬が触れるか触れないか、近い距離で船長の情熱的な赤い瞳を見下ろした。



518:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/03/01(金) 10:15:12.03 ID:pYCHjcI2P

ふ、と一つ吐息を落とし、船長の細い指は剣士の漆黒の髪を梳く。
「……綺麗な顔だね」

「…………」

剣士は答えない。
船長の項へと唇を押しつけ、白いそこへと舌を這わす。
ああ、と一際大きな歓声と共に、船長の背が弓なりに反る。
項から胸元へ。指で大きく開いた衣服をずらし、つつ、とゆっくりと、舌を滑らせていく。
「………ッ 、ァ……ッ」

ひくひくと小刻みに震える船長の身をきつく抱きしめた侭、剣士の舌は白い肌を唾液で濡らして行く。
胸の頂きへとちゅ、と小さな口づけの後、軽く、そこへと歯を立てた。
「………ッ イ、ァ……!」

「……痛い、か?」

「……ん、いィ………だい、じょ……ン……ッ」

再度。再度。
徐々に力を込め、舌を這わす。
ゆっくりと舐め上げた後、痛み。
それだけで達したかの様に、船長の身は大きく一度剣士の腕の中で跳ね、脱力する。
「………フゥン」

どこか楽しげな響きを帯びた、剣士の声に、潤んだ瞳で不思議そうに船長は剣士へと視線を向けた。
ぐったりと力の抜けた船長の上から身体を離し、剣士はするりと衣服の上から船長の太股を撫でた。
随分と熱を帯びた肌はしっとりと汗に濡れているのが解る。
小さく反応を返した船長の足を執拗に撫で、ゆっくりと衣服をはぎ取っていく。
「ん、……ちょ、 と……アタシ、だけ……?」

「何だ、恥ずかしいのか?」

「………ッ」

声で反論する代わり、船長は剣士から顔を背ける。
一糸纏わぬ姿に、悦と羞恥の含まれた赤い頬、表情。
ちらりと、ゆっくりと一瞥をくれた後、剣士は柔らかい船長の腹へと頬を埋めた。



519:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/03/01(金) 10:29:46.06 ID:pYCHjcI2P

口を開き、肉を食む。
臍の辺りへと舌を這わせ、また、食む。
剣士の頭を無造作に掴む船長の手は、引き離そうとする様にも。
押しつけようと、する様にも。
声を堪える様に唇を噛み、その隙間から漏れる甘い甘い声を、どうにか剣士に届けまいとする。
ちらとその表情を盗み見る剣士の唇は、愉悦に孤月を描く。
船長の裸体を、その腰を抱きしめる。
唇は柔らかい肉を味わうように、甘く食む動作を繰り返しながら、剣士は背へと腕を回し
その白い背へと軽く爪を立てた。
「ぁ、あ……アッァ……ッ !!」

「……気の強そうな顔をして、被虐されるのが好みなのか」

「………ッ ァ ……ン……ッ」

熱に、蕩けた顔だった。
剣士の声だけですら、船長の身に快楽を刻む。
「……何度達した? ……言え」

「………ッ」

剣士の声は、船長の耳の傍で。
顔を背ければ指で顎を挟まれ、強制的に剣士の瞳を覗き込まされる。
深淵に似た、深い紫色をしていた。闇色の、瞳。
ゆるゆると顔を左右に背け、口付けをせがむ。
どちらからともつかず、深く舌を絡め、体液を共有する。
「……わからんのか、言いたく無いのか……まあ、良い」

生娘ではあるまいと。一度身を離し、剣士は手早く衣服を脱ぎ捨てた。
再度船長の柔らかい旨へと己のそれを押しつけ、剣士は一気に船長の身を貫いた。
「ア……ッ  ………!!」

歓喜とも、苦痛とも、切なさともつかない、船長の儚げな、声にならない声が狭い船室に響き渡る。
ゆるゆると動き、止め、動き……剣士は、数度繰り返した後、己の身の下で悶える船長の項へと
そろりと手を沿わせた。
軽く、力を込める。
「ひ…… ィ、ヤ ……!?」

「嘘吐け」




521:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/03/01(金) 10:41:39.15 ID:pYCHjcI2P

力を緩めない侭、剣士は身体をぐ、と押しつける。
己の指毎、船長の首筋を舐め上げる。
悲鳴に似た声。されど、歓喜をひたひたと含んだ、船長の声が、切なげに震えた。
剣士自身を締め付ける柔い肉の感触に、達したのだと察し、剣士はまた動き始める。
ああ、ああ、と……細い喉から何度も何度も、船長の声が漏れ続ける。
「……変態」

剣士は一言だけを小さく、苦しげに落とし……快楽の限界を見た。
身体の奥からせり上がってくる熱い物を放ってしまえば、ぐったりと船長の汗ばんだ肌の上へと身を落とす。
ハァハァと苦しげな、されど満足を含んだ二人分の吐息だけが、互いの脳裏に反響していた。
「……変態は、どっちだい」

「……さぁな」

外から微かに吹き込んでくる、潮風が汗ばんだ肌に心地よかった。
一度身を離し、再度抱きしめ合う。
衣擦れの音に、まだ切なげな熱の余韻を含んだ声が混じる。
「………疲れた!寝る!」

「……あ? ……ああ」

ゴロン、と船長は剣士に背を向け、身を縮めた。
剣士はクスクスと呆れた様に笑って、背中からそっとまだ熱っぽい身を抱きしめた。
微かに赤く、爪の跡。そこへと、舌を這わせる。
「きゃ……ッ ちょ、 …っと!?」

「……なんだ」

「……ッ ね、寝るって言った……ァ …ン」

「まだ足りないのか」

「アンタが……ッそ、ん ……な、事、する……か………ッ」

「するから?」

「………」

剣士は、船長の頬へと。そして振り返り、文句を言う唇へと、軽く、小さく口付けた。
そうして、手で船長の顔を向こう側へと押しやって、背からそろりと抱きしめる。
「………俺も、疲れた」

「……寝ろよ、もう」

「………」

剣士からの返答は無く、代わりに小さな寝息が船長の耳へと届く。



522:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/03/01(金) 10:45:23.70 ID:pYCHjcI2P

「……ッ こいつ、は……ッ」

はぁ、とまだ微かに震える吐息……呆れた吐息を吐き船長は、己の身に回された無骨な、されど細い腕を抱きしめた。
「大した男だよ……とんだ拾いモンだね」

まだ余韻の残る身を、剣士の腕毎己の腕で抱きしめる。
再燃しかけた身の中に、産まれかけた欲望がチラチラと睡眠を阻害する。
全くもう、と再度の吐息。ぎゅ、と瞳を閉じ、眠れないだろう時間を憂う。
されど、激しく身に刻まれた心地よい疲労感はすぐに、船長の身を犯し、甘い吐息はすぐに
安らかな寝息へと変じていった。


ピンクの栞、おしまい。



523:名も無き被検体774号+:2013/03/01(金) 11:02:00.04 ID:S9T3Sl6cO

ふぅ…
乙!次はゴールドか。



524:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/03/01(金) 11:11:30.02 ID:pYCHjcI2P

「ここは……私、は?」

きょろきょろと、少女は当たりを見回した。
灰色の空の下だった。
背後には鬱蒼とした森が広がり、地面は不気味にも薄く光っている。
「……ここは……ここ、は……最果て、の……」

考えると、頭が重かった。
数度瞬きをした後、ずしんと肩に重い何かを感じて、少女はその場に蹲る。
「私、は………」

少女の金色の双眸から、一筋の涙が零れた。
何故か、妙に悲しい。
「お前は、勇者だった」

「……誰!?」

頭の中に響くような、声が聞こえた。
少女はその場で身を縮めた侭、空を見上げる。
「そしてお前は、魔王になった」

「ま……おう」

そうだ。
自分は勇者だった。そして……魔王になった。
そう思った瞬間、涙が地面へと落ち砕け、光が少女の身を包んだ。
「……ッ」

「魔王は、世界を滅ぼす……勇者は、魔王を倒す」

「……誰だ! ……姿を、見せろ!」

少女は、立ち上がる。その手にはいつの間にか、光り輝く剣を握りしめていた。
「お前は、世界を救うのか?それとも……滅ぼすのか?」

「……」

少女は、剣の柄を握る手に力を込め、そっと瞳を閉じた。
意識を、集中する。
暗闇の視界の中。閉じられた瞼の奥に、もやもやと紫色の靄が浮かぶ。
私は、この声を知っている。
私は……この姿を知っている。
「……私は、勇者だ!勇者は必ず、魔王を倒す!」

少女は、金の双眸を見開いた。そして、地面を蹴り、駆けた。
少女の眼前には何も無い。だが、少女の瞳は一点を見据え、そこへと
頭上に振り上げた光の剣を力一杯振り下ろす。



525:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/03/01(金) 11:20:48.91 ID:pYCHjcI2P

空を切る筈であろう光の剣に、少女のか細い腕に、衝撃が走る。
紫の靄の中から、すらりと伸びた黒い腕。
その長い指に握られた、一降りの鋼。
それが少女の剣を受け止め、微かに震えていた。
「私は貴方を知っている――剣士。過去の魔王の残照。闇の欠片の一部」

「そうだ、俺はお前を知っている……最強にして最後の魔王。汝の名は、勇者」

靄の中から、それが晴れるに伴い、姿を現したのは少女のよく知る姿だった。
もう、二度と少女の視界にその姿を映す事が叶わない、かつての仲間の姿だった。
「……最後の魔王」

「そうだ。お前で最後にするのだろう。そうで無ければ俺は、無かったはずの命を賭けた甲斐も無い」

「…………」

「私は世界を滅ぼす魔王。そして、世界を救う勇者だ」

「ならば、やることは一つ」

先に力の均衡を崩したのは剣士だった。
打ち合わせた剣をすらりとなぎ払い、その勢いを殺さず、少女の右肩へと袈裟懸けに振り下ろす。
「……ッ」

太刀筋と反対へと凪がれた剣の勢いに、少女はくらりと身を崩す。
その侭地面へと転がり、後方へと身を避けた。
――間一髪。激しい金属音、剣士の鋼は少女の足下の地面を打つ。
「強くなれ、魔王。身の内に、強い勇者を育める様に」

剣士の攻撃は、容赦が無い。
ゆるゆると足は、離した筈の距離を詰めに歩む。
少女は慌て身を起こし、思わず背を向け駆けていく。
「背を向ける阿呆が居るか」




526:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/03/01(金) 11:33:48.35 ID:pYCHjcI2P

「………ッ あ、ァ …ッ!?」

トン、と軽く地面を蹴った剣士の足は、易くその小さな背へと追いついた。
空中で振り上げられたろう、軽やかな剣先は少女の背を深く切り裂き、少女はその場に身を崩す。
――不様、この上無く。少女はべちゃりと地面へと伏し、力無く四肢を投げ出した。
どくどくと音を立て、赤い鮮血が地面を染めていく。
「もう終わりか」

チャキ、と小さな音を立て、背後から剣士の剣先が首筋へ迫る。
ちらりと頭上を仰げば、無表情の剣士の視線が降り注ぐ。
「……く、まだ……ッ あ、ゥ…ッ !」

ぐしゃり、と音が響いた。
剣士の靴底が、少女の剣を持つ拳を踏みつけ、力を込める。
ミシミシと骨がなる。
激しい痛みに呻く少女に、容赦の無い冷たい声が落ちてくる。
「お前は魔王なのだろう。お前は勇者なのだろう。
このまま自我を失い、この世界の存在その物を無に返すのか。
……この美しい世界を、紡いできた想いを、消し去るのか」

「………ち、違う! …うぅ…ッ!」

「ならば、どうする」

「私は……私は、勇者だ!勇者は、魔王を……倒し、世界を……!
この、美しい世界を救うんだ!」

少女は、踏みつけられた拳を剣士の足の下から力任せに引き抜いた。
光の剣の剣先は何かを切り裂くは叶わずとも、その眩い光は剣士の瞳を眩ませた。
微かに身を揺らし、背後へ一歩蹈鞴を踏んだその身へと、少女はゆるゆると立ち上がり対峙する。
「……そんなふらついた身で、瞳を闇に染めていく身で、光を用いる気か」

「この光は、勇者の光。私が……次代の勇者へと引き継ぐべき光」




527:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/03/01(金) 11:48:52.48 ID:pYCHjcI2P

少女は、痛みに霞む瞳で、剣士を睨み付ける。
剣士は、上体を低く、剣を構え治した。
「私は、最強の魔王になり、最強の勇者を育てる……そして、この世界を救う!」

少女は、ふらつく足で光の剣を握りしめ、一歩剣士へと近づいた。
剣士は、薄く笑む。
「そうだ、母となれ、勇者。その身でしか叶わない夢を願え。人の子の命の理を用い、光を用い……
この腐った世界の、腐った不条理を、その手で断ち切れ!」

「うわああああああ!」

少女は、光の剣を振るった。その刀身は剣士には届かずも、剣先から迸る激しい光は
闇の欠片である偽りの器を灼いた。
「……見事」

少女は、肩で息をし、がっくりとその場に項垂れる。
剣士の身は変わらず、そこにあった。
光は、闇に絡みつき、きらきらと光るに留まっていた。
「気付いているだろう。これは……夢だ」

「夢……」

そうだ、と剣士は言葉を続ける。
「俺はあの時、器を空に還し、不条理を断ち切る為の光と闇へと孵った」

「………そう、だ ……った」

「寝てみる夢は夢に過ぎん。現実に描く夢は……お前達が紡ぐ物だ」

そう言うや否や、剣士の身は光に飲まれた。
きらきらと輝く、金と闇色の光。
ふわふわと周辺を漂い、それは勇者の身へと吸い込まれ……消えた。
「光と闇、勇者と魔王、全て表裏一体……全て、お前の物だ。
強くなれ、世界を滅ぼす程に。強くなれ、世界を救う為に……光と闇の獣、汝の名は人間
………お前の、事だ」

「剣士!……ッ」

急速に、少女の身から力が抜けていった。
視界に飛び込んできたのは、既に見慣れた魔王城の天井。
涙に濡れた双眸に、朧に映る見慣れたそれだった。
「……ゆ、め」

「大丈夫ですか、魔王様!?」

「え……闇の手?何で……」

少女は、魔王だった。そうだった……と、見知った仲間の顔を見て、漸く思い出す。
「何で、じゃないだろう……急に倒れるから吃驚したよ……」

「青年……」

顔を見て、名を呼んだ。もう一人の仲間であり、つい昨夜も愛を交わしたばかりの、不安げなその顔に
魔王は力無く笑みを向ける。
そうだ。私は会議をしていた。
次代の勇者の事を、三人で話し合っていた。



528:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/03/01(金) 11:57:42.90 ID:pYCHjcI2P

「うん……御免、大丈夫……」

魔王は濡れた頬を、ごしごしと手で擦る。
二人の心配そうな顔を見、にっこりと笑みを浮かべる。
「もう大丈夫……どこまで話たっけ」

「今日はもう、話し合いは中止ですよ、魔王様……ゆっくり休んでください」

不安を消した闇の手の、どこか嬉しそうな声に、魔王は疑問を乗せて視線を向ける。
「……どこか、悪いのか?」

魔王と同じ動作の、青年の声は、どこか不機嫌にも聞こえた。その正体が不安と、心配である事は火を見るよりも明らかで
魔王は思わず眉間に皺を刻む。不気味な温度差を感じ、闇の手の声の続きを待った。
「ご懐妊ですよ、魔王様……気持ち悪く、無いですか」

「……え?」

魔王は思わず、青年と闇の手、掛け替えの無い二人の顔を交互に見やる。
「そ、そうか……じゃあ……僕と、魔王様の子が……勇者が」

産まれるのか、と。青年は、どこか惚けた声を続けた。
心から愛しいと思えるかと言えば、そうでは無い。
だが決して、愛しくないと断言する事もできない、エルフの血を引く青年。
何度も何度も、未来の為だけに身体を交えた。
青年は何時も愛を囁く。
それが心地よく、苦痛でもあった。
応えてやれない、複雑な思い。
そして、その子に己の命を絶たせなければならない呪いの様なこの世界の
不条理に対する、複雑な思い。



529:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/03/01(金) 12:06:57.93 ID:pYCHjcI2P

そして、未だ夢に見る、叶わなかった切ない、勘違いに似た淡い……剣士への思い。
魔王には、自分には、勇者には。
何もかもを背負い、全てを消化し断ち切る義務がある。
世界を滅ぼす程強く、世界を救う程強く、あらねばならない、選ばれた者としての義務。
「青年さん……そんな馬鹿面してないで、魔王様の分も働いてくださいね?」

「だ、誰が馬鹿面だよ失礼だな……解ってるよ」

「魔王様は、とにかく休養が必要です。これからはご無理なさいませんように」

「……うん」

闇の手の言葉に、魔王の思考は遮られた。
離れがたそうな青年を半ば引きずるようにして、二人が出て行った部屋で、寝具の上で。
魔王は、考える。
ゆったりとしたシーツに身を横たえ、考える。
私は、勇者だった。
私は、魔王になった。
仲間に誓った。
魔王は、最強の盾となる。世界を滅ぼす為に。
勇者は、最強の剣となる。世界を救う為に。
誰にも、拒否権なんか与えられていない。
世界は、きっと美しい。
勇者は必ず魔王を倒し、この美しい世界を守る。
腐った世界の腐った不条理を断ち切り
誰もが望んだ世界を手に入れる。



530:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/03/01(金) 12:14:12.10 ID:pYCHjcI2P

例え、その時、私は存在しなくても。
世界はきっと美しい。
私は、その礎にならなければいけない。

光と闇の獣、人間
強くもあり弱くもある、人間

私は、人間を産み、育てる
私を、倒して貰う為に

この、美しい世界を救って貰う為に

光に選ばれた特別な存在、勇者と言う人間を産む

「……決めた。勇者が産まれたら」


私は、魔王として最初で最後の大きな仕事をしよう
この美しい世界を守る為
この腐った世界の腐った不条理を断ち切る為に

「人間共に、宣戦布告を。私は魔王……世界を、滅ぼす!」



ゴールドの栞、おしまい



531:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/03/01(金) 12:16:14.41 ID:pYCHjcI2P

次で最後ですー
勇者「俺は……魔王を倒す!」に続けます。

なんだかんだでほぼ一ヶ月。
沢山の人に見て貰えて、嬉しかったですー

スレ立てしたらまた、報告にきます。
取りあえずお昼ご飯~

ここは好きに使って下さいませ。



532:名も無き被検体774号+:2013/03/01(金) 12:59:59.94 ID:9Z7vOn/y0

1乙。サイコーやで!!
次で最後か… 毎日楽しみにしとったから
、ちとさみしいなぁ。



533:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/03/01(金) 13:11:41.47 ID:pYCHjcI2P

次たてさせて貰いました。
バイトまで、ちょっとだけ。

勇者「俺は……魔王を倒す!」

>>532
ありがとー!
そう言って貰えると本当嬉しい
もう少しだけ、付き合って戴けると嬉しいー



転載元
魔王「ああ……世界は美しい」
http://hayabusa3.2ch.net/test/read.cgi/news4viptasu/1360896387/
このエントリーをはてなブックマークに追加
Clip to Evernote

        • 月間ランキング
        • はてぶ新着
        • アクセスランキング

        SSをツイートする

        SSをはてブする

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

        カテゴリ別アーカイブ
        月別アーカイブ
        記事検索
        スポンサードリンク
        画像・動画
        • 【モバマス安価】乃々「森久保乃々魂の5番勝負~りたーんず~....?」
        • 彡(゚)(゚)「若くていい投手?」
        • 彡(゚)(゚)「若くていい投手?」
        • 彼女は窓フェチの変態だった
        • 彼女は窓フェチの変態だった
        • 志々雄真「安価で他のジャンプ作品キャラを倒してみるか」
        • 志々雄真「安価で他のジャンプ作品キャラを倒してみるか」
        • 彡(゚)(゚)「決闘者の王国」
        • 飛鳥「ドン・キホーテは旅に出る」
        • モバP「楓さんも敬語を崩したりするんですか?」
        • モバP「楓さんも敬語を崩したりするんですか?」
        • 勇者「長老、なんかこの剣喋ってない?」長老「なんじゃと」聖剣「……」
        • 彡(゚)(゚)「ワイがこの国を変えたるわ」
        • 周防桃子「みんな、桃子のことバカにしてるんでしょ!」
        • 周防桃子「みんな、桃子のことバカにしてるんでしょ!」
        • 周防桃子「みんな、桃子のことバカにしてるんでしょ!」
        • 周防桃子「みんな、桃子のことバカにしてるんでしょ!」
        • 周防桃子「みんな、桃子のことバカにしてるんでしょ!」
        新着コメント
        最新記事
        LINE読者登録QRコード
        LINE読者登録QRコード
        スポンサードリンク

        • ライブドアブログ
        © 2011 エレファント速報:SSまとめブログ. Customize by yoshihira Powered by ライブドアブログ