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キョン「戯言だけどな」【後編】

関連記事:キョン「戯言だけどな」【前編】





キョン「戯言だけどな」【後編】




253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 23:00:00.37 ID:XrK83BFc0
悩んでいてはタイミングを逃す。その肩を捕まえようと手を伸ばした、その手が届く前に橘の背が……消えた。
……置いて、行かれた。

「くそっ……俺は……俺はっ! ああ、何やってんだよ、俺はっ!!」

見過ごしは、見殺し。

「何も……何も学んじゃいないじゃねえか! 何が宇宙人、未来人、超能力者との付き合い方を覚えた、だよ!!」

見逃しは、見殺し。

「結局、ソイツらがどれだけマジになってんのかも分かってないじゃねえかっ!!」

見て見ぬ振りは、加害者の内。
ならば見殺しは、人殺し。

「……ちくしょう……こんな所で……足止め食ってる…………食ってる場合じゃ………………ハルヒ……っ」

項垂れる。以外に俺にはもう、何も出来ない。自慢のなんちゃって戯言も、誰も聞いてなきゃただの独り言だ。
両足から力が抜けていく。崩れるように地面に座り込んだ。ここ最近で最大級の無力感が俺を襲う。せめて俺が超能力者なら。なんて有り得ない仮定だ。
……所詮一般人な俺には何も出来ない。手には何も無い。助けに来るヤツの当てなんて無けりゃ、藁にも縋る思いで取り出した携帯電話は当然のように圏外だ。
縋る藁にすら見捨てられた、ってか。
誰もいない。当然だ。居る訳がない。ここは閉鎖空間。超能力者、それも佐々木側の超能力者しか出入りが出来ない真っ白ワールド。なけなしの力で首を上げて周りを見渡しても人っ子一人――え?
思わず二度見。おい。おいおい。おいおいおい。夢じゃねえよな。幻じゃねえよな。

「なんて顔をしているんだい、キョン。まるで砂漠でオアシスを見つけた旅人のようじゃないか。生憎と飲み物は持ってないよ? そこの自販機ならば使えるかも知れないけれどね、くっくっく」



254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 23:19:29.02 ID:XrK83BFc0
ああ、今なら橘達がコイツを女神だとかのたまっていやがるのも十分の一くらいなら信じちまえそうだ。まさしく、救いの女神。このタイミングで出て来るのは、そりゃもう反則じゃないのか?
感極まって泣いてたとしたら、その精神的苦痛はどこの誰が賠償してくれんだ、馬鹿野郎。

「……戯言言ってんじゃねえよ。仮にジュースが出て来たとして、そんな得体の知れないモン、飲めるか?」

「さあ? 僕なら口にしない」

手を差し出す、少女。その手を取って立ち上がる、俺。

「だよな。俺だってそんなモンは飲まん。俺が冒険心とは縁も所縁(ユカリ)もない事くらいはお前も知ってたと思ってたんだが」

「その割には面白そうな日常を送っていると聞いているよ。まあ、そういったものは往々にして望んでいるものの元へは訪れないんだ。侭ならないね、人生というのは」

白いセミロングコートに緑基調のチェック柄のマフラー。そこに乗ってるのは懐かしい友人の顔だ。柔和で整った顔立ち。髪は春に比べて大分伸びたじゃないか、佐々木。

「ああ。切ろうかとも思ったけれどね。夏などは鬱陶しくてしょうがなかったよ。まったく、誰かが春に髪型への注文をしたせいで美容院に行っても毛先を整える程度さ」

はて、誰だろうか。まあ、高校二年生だしそろそろお互い恋人とかが出来てもおかしくはない。そうは言っても俺の方は当てどころか先ず出会いが無いが。しっかし、誰だか知らんが羨ましい。
言葉遣いが少しおかしいせいで取っ付き辛く思われがちだが、しかしてその実、中身も外見も言う事無しのこの友人を見初めるとはな。良いセンスだ。

「良いんじゃないか。長い方が似合うぜ?」

俺がそう言うと、佐々木は微笑んだ。



256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 23:36:06.48 ID:XrK83BFc0
「ありがとう。ただね、キョンの未来を思って言わせて貰うがそういう場合は『似合う』よりもストレートに『可愛い』もしくは『綺麗だ』と褒めるべきだ。……僕は特に気にしないが、しかし女性とはそういうものさ」

なるほどな。コイツと話してると為になる。とは言え流石にそれは実践出来そうにないが。そういうのは古泉が専門だし、谷口がこの話を聞けば翌日から「可愛い」「綺麗」を軒先で叩き売ってその価値を下げるのに余念が無さそうだ。

「ハードルが高くないか? 俺の性格は知ってるだろ?」

「ああ。さらりと言おうとして肝心の台詞を噛むか、喉奥から出て来ないかのどちらかだろうね。なに、からかっただけだ。真に受けなくてもいいさ」

喉の奥で含むように笑う、その笑い方は変わってない。そうだな。変わったのは髪形くらいのモンで、安心した。……なんで俺は安心してんだ? そりゃ、ちょっと見ない内にゴスロリ趣味やら語尾に「にゅ」を付けるようになってたら驚愕だろうけども。

「君は……変わらないな、キョン」

「んなこたーない。俺自身は成長も退化も自覚しちゃいないが、周りは激変だ。日本列島が大陸プレートのせめぎ合った場所に有るのは知ってたが、ここまで地殻変動が多いとは思わなかった」

俺がそう言うと、佐々木は少しだけ眼を細めた。笑っているように、見えなくも無いが……なんか違うな。

「楽しそうで結構じゃないか」

「楽しいかどうかは置いておくが、疲れるのは間違いない」

楽しいか、と聞かれて否定出来ないのは、この日常を選んだのは誰でもない俺自身だから。それを否定する事だけは、出来なかった。



275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 21:01:08.44 ID:U+h8+1Aa0
「っと。こんな事を話している場合じゃなかったな。佐々木……あれ? そういやお前、なんでここに居るんだ?」

深夜だ。日は変わって午前様。これが早起きだとしたらつ寝ついたのかが疑わしくすら有る時間。こんな時に出てくるのは幽霊くらいのもので、俗に言う丑三つ時だな。深夜業務のコンビニ店員なら話は分かるものの、しかして俺も佐々木も学生である。
冬休みに入っているので昼夜逆転生活をしていたところで特に俺から言う事も無いが、勤勉なコイツの事だ。冬期講習なんかに足しげく通っているのは聞かなくても分かるさ。だったら、こんな時間に起きている訳はない。本来なら。
橘にでも連れ出されたか?

「ふむ。確かに自分でも不思議だよ。自分の心の内に入り込む、なんてちょっとしたパラドックスじゃないか。いや、マトリョーシカかも知れないな。鏡合わせの悪魔も真っ青な貴重な体験をさせて貰っているよ」

「いや、俺が聞きたいのはそういう事じゃないんだが」

だがしかし、確かに奇妙な話では有る。心っていう本来自分の体の内側に有るべきものの中に入り込んでいるという矛盾。とは言え、俺にはそこに説得力の有る説明は用意出来そうにもないが。
そこに疑問を持つのは、二年程遅い。ハルヒはハルヒ自身の創り出した閉鎖空間の中にあの時存在していた。そういう前例が有る以上、俺には「そういうモンなんだ」と漠然と納得するしかないのである。

「だが、僕らはこれと同じ経験を日常的にしている。そう考えたら然程不思議に思う事でも無いかもしれないな。キョンだって経験が有る筈さ」

「いや、俺は生憎自分の心の中に入り込むなんて経験にはとんと縁が無いぞ?」

「いいや、有る筈だよ。これはね……僕の感覚で物を言って申し訳無いが、『夢』と同じさ。少なくとも僕にとっては」

夢。ドリーム。なるほど、確かに似たようなものかも知れないし、去年の春、ハルヒ(と俺)はそうやって自分を納得させていたっけか。夢と閉鎖空間の違いはそれが個人のものではなく、複数の記憶に残るって点しかない。
……まあ、そんな思索に耽っていて現状がどうにかなる訳でもないので、これについての考えはここらで止めにしておこう。



276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 21:24:24.28 ID:U+h8+1Aa0
「夢、か。だが残念だが夢に現(ウツツ)を抜かしてる暇は無いんだよな。招待ならまた今度にしてくれよ、佐々木。そん時は言葉通り『一晩中』付き合ってやるさ」

「おや、嬉しい事を言ってくれるじゃないか。……キョン。君は時折、本当に天才染みた発想をするな」

本物の秀才様に言われても、只の皮肉としか受け取れないのは俺の性格が屈折している所為なのか……ああ、いつから俺はサンタクロースを信じるような素直な心をなくしてしまったのだろう。合掌。
気付いたらいつの間にやら、超能力者扮する赤服爺さんの乗るソリ役だ。去年はトナカイだったのに、今年はついに無機物にクラスチェンジである。このまま扱いが年々酷くなっていったら次はなんだ? 天井から白い紙で出来た花吹雪を撒く黒子か?

「そんなに自分を卑下しないでくれよ。それに皮肉と取られるのも心外だな。僕の身に宿る……宿っているとされる願望実現能力、だったかい。身に覚えは無いけども。とにかく、それにそんな使い方が有るなんて思ってもみなかったのは本当だ」

「だろうな」

「素晴らしい発想じゃないかい? お互いに睡眠時間を調整するという手間は有るが、それ以外にデメリットは皆無だ。僕に限って言えば睡眠時間を削る事が出来なくなるから健康にも良いだろう。睡眠不足は肌に悪いんだよ、くっくっく」

意外だった、とそんな感想を持った事はともしたら怒られてしまいそうだ。だがまさか、コイツの口から「肌に悪い」なんて言葉が聞けるとは思わなかったからな。記憶をかき回してみても、佐々木がこういった、いわゆる性別を加味した発言をしたのはこれが初めてじゃないだろうか。

「おいおい。俺は特に構わないが、しかし毎晩夢で俺なんかが出て来てみろ。ホラーだ。サスペンスだ。その内精神科に通わなきゃならんくなる事は想像に難くない。精神病患者と知り合いってのは、しかも原因が俺ってのは勘弁してくれ」

俺がそういうと、とうとう堪え切れないといった様子で佐々木が笑った。目尻に浮かんだ涙を拭って、口を開く。

「今更だよ」

少女のその言葉の意味が分からないのは俺が馬鹿だからか? それとも前後の脈絡が破綻しているからか。恐らくは両方だろう。そもそも俺に向けて言った台詞ではないような気もした。



277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 21:46:03.71 ID:U+h8+1Aa0
「何が今更だって?」

それでも一応聞いてみるのは中学時代からの癖も有ったんだろうな。分かってやれないと分かっていながら、それでも人に話す事でコイツが何かを楽しんでいることを俺はもしかしたら分かっていたのかも知れない。ま、勘違いかも分からんが。
だが、コミュニケーションってヤツは十割の理解がそもそも前提ではないよな。本質ってヤツは中身よりもそれによって生まれる空気にこそ有るような気がするね。

「君はすでに精神病患者と知り合いで、しかもその原因は君なんだよ。くっくっく」

「おい、佐々木。何を言ってるのかは正直サッパリ分からんが、それでも自分を蔑むのは傍(ハタ)から見ていて気持ちの良い趣味とは言えないぜ?」

「蔑む? 何を言っているんだい、君は?」

ニヤリ、笑って俺を見る友人。「何を言ってるんだい、君は?」なーんて俺の方こそお前に尋ねたいね。俺の読解力が低いのはそりゃもう現国の答案を見るまでもなく明らかだが、それでもお前には伝達力が足りないんじゃないのかよ、佐々木。

「僕はこの精神病に関しては……罹った事を自覚するまでは、そうだね。君の言う通り蔑んでいた節は有る。けれど、自覚してしまえばそれまでさ。蔑むとか寿(コトホ)ぐとか、そういう対象じゃないんだ。これはもう、それはそういうものだと受け入れるしかないものなんだよ」

いや、だから何の話だよ。自分の世界に入り込んで、他人様の理解を置いてけ堀に勝手にすらすらと言葉を紡ぐ病気の話か? ああ、そりゃ奇遇だな。おんなじような病気の症状の持ち主を俺は知ってる。

「ハルヒみたいだな、なんか」

少女の前で少女の名前を持ち出したのは致命的だった。佐々木にとってハルヒは、橘に言わせれば不倶戴天、なのだから。
まさか佐々木本人までが同じ考えだとは思わなかった。ああ、思わなかったとも。

「ふむ……涼宮さんか。まあ、間違いじゃない。彼女と同じ精神病だと最近、自己診断した次第だから」



278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:13:53.69 ID:U+h8+1Aa0
ハルヒと同じ精神病? それは願望実現能力を患っている事か? いや、でも……それを「精神病」と表現するのはなんか違う。俺でさえ気付く語弊に佐々木が気付かない訳がない。だったら多分、違う意味。そう考えた方が自然だった。
だが……ハルヒと佐々木の共通点なんて言われても咄嗟には思い浮かばないぜ? 方向ってーか性格が違い過ぎる。見た目だってそうだ。美少女って点こそ同じだが、可愛いと一言で言った所でその中にも様々なタイプが存在する。
この場合、佐々木とハルヒは正反対の魅力と言い切っちまってもいいだろう。

「そんなに深刻そうな顔をしないでくれよ。心配されるのは嫌いではないがね。くっくっ……この病気は医者に掛かる類ではないんだ。そもそも罹らない方がヒトとして問題が有るくらいだと思う」

佐々木はどこか自嘲するように「僕も只のヒトだった訳だ」と呟いて俺から距離を取った。まるで逃げるようにするすると三歩分、二人の間に空間が生まれる。

「僕は今から卑怯な手を使う。キョン、この戦いはなんでもありなんだ」

「何の話をしてんだよ、お前?」

「君こそね。こんな所で僕と与太話をしている場合じゃないだろう? ……十三銃士」

佐々木は、口にする。ソイツが知っているはずもない、言葉を。

「第一席『人類最悪の遊び人』
第二席『空間製作者』
第三席『結晶皇帝』
第四席『人類最強の請負人』
第五席『大泥棒』
第六席『断片集』
第七席『外側の内側』
第八席『辻褄併せ』
第九席『街』
第十席『害悪細菌』
第十一席『心中強要』
第十二席『非選主義者』
第十三席『水足らずの使人』
……もう、会ったかい? それとも、まだ会っていない人は居るかな?」

なぜ……なぜ、ソイツらの言葉がさらさらと、他の誰でもないお前の口から出るんだよ、佐々木!



281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:54:31.14 ID:U+h8+1Aa0
「知らない名前も有るかも知れないが、別にそれが僕って訳じゃない。逆にね、この中から自分に合う名前を選べと言われても、レストランでメニュを見せられているのとは違うんだ。どちらかと言えば、服を選んでいる感覚に近いね。
誰かの為に作られたオーダーメイドだから、他人が着るとどこかに必ず襤褸が出る。フリーサイズ、とはいかないのさ。こればっかりは。
安心したかい? いや、無理な相談か。僕が彼らの名前を知っている以上、安心などが出来るはずもない。
君の煩悶は分かるよ、キョン。恐らく橘さんの所為にしようとしているんじゃないかな? だが、それは違う。僕は吹き込まれたんじゃない。
彼女をどう評価しているのか僕は知らないが、橘さんは賢い人だよ。そしてあれで中々僕に気を使ってくれていてね。彼女の属している組織……四神一鏡、だったと思うが。その内情についても僕は彼女から聞いた事が無い。
そんな顔をしないでくれよ。君を『困らせる』のが『目的』なんだ。嬉しくなってしまう。
どこまで話したかな。ああ、そうそう。橘さんは無関係という話だったな。無関係とも言えないが、しかし本質とは確かに関わりが無い。彼女は……こう言っては悪いかも知れないが、舞台設営側の人間だ。
脚本家でも演者でもない。描いたシナリオとは何の関わりも無いんだよ。
さて、話は変わるが君は疑問を抱かなかったかな、キョン。十三銃士。元ネタの三銃士を読んだ事は有るかい?
三銃士という話の主役は、三銃士ではないんだよ。アトス。ポルトス。アラミス。この三人の名前くらいは聞いた事が有るだろう。そして、それ以上に有名な名前がこの物語には有る。
主役――ダルタニャン。実はも何も無い。三銃士は彼、ダルタニャンの立身出世物語だ。決してアトス、ポルトス、アラミスの物語じゃない。
考えなかったかい? 『十三銃士』が『物語』の登場人物ならば、彼らにとっての『ダルタニャン』が別に居るんじゃないか、と。
いや、そこまで思い付かなくてもいい。ただ、『じゅうさんじゅうし』という音の並びだけでも気付く筈なんだよ、普通は。
十三、十四。十四人目の存在は最初から示されていたんだ。いや、零人目、かな。ここまで言えばもう、分かるだろう。
つまり『皆は一人の為に』だったという事だ。ただそれだけだったのさ。
考えなかったかい。思い至らなかったかい。涼宮さんには願望実現能力が有るのだろう? だったらそもそも、こんな事は起こり得ない筈なんだよ。こんな事が起こる以上、彼女の願望実現能力に何かが有ったと、そう考えるのが筋というものじゃないか。
そして、そんな事が出来そうな人間を、僕も君も、幸福か不幸か知っている。
さて、そろそろ僕も名乗らないといけないな。
『初めまして』だ、『僕の鍵』。十三『従士』。玉座。『我が為に鳴る鐘(チャペルエンディング)』だ。
お手柔らかに頼むよ、キョン。くっくっく」



284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 23:19:23.00 ID:U+h8+1Aa0
息を飲む。ソイツは、笑っていた。どこまでも、笑顔だった。鏡なんか見なくても分かる。俺と佐々木の表情はきっと正反対。
後ずさる、足が縺れて後ろ向きにすっころんだ。

「さ、佐々木……お前、何言ってんだよ?」

冗談だろ? 冗談だって言ってくれよ。あれだ、今流行の戯言なんだろう? 誰も彼もが使いたがるからお前も使ってみたくなった、ただそれだけなんだよな? な?
ああ、そう考えたら今夜……いや、明けて十二月三十一日。今年最後にして最高の冗談だぜ? まったく、とんだビックサプライズも有ったモンだ。驚いた。驚きまくって言葉も出ないし間抜けな顔を晒してる事も理解してるから「ドッキリ大成功」の看板を持ち出すんならこのタイミングしかないだろ。
……なんで、何も起こらない? なんで、誰も来ない? なんで、ネタばらしをしないんだよ、佐々木っ!!

「何を言っているのか? ふむ、そうだね。分かり易く言い直そうか。今夜、君と君のSOS団に起こっている事件の、全ての黒幕も元凶も僕なんだ」

佐々木は笑顔を崩さない。まるで仮面でも被ったように。ここで顔を崩したら何かに負けちまうとか、そんな強迫観念に襲われているみたいに終始微笑を頬に浮かべて。

「まあ、持ち掛けてきたのは狐面の第一席だったけれどね。だが、話に乗ったのは間違い無いし、脚本だって合作だから黒幕で間違いないよ、やはり」

「……なんで…………なんで、そんな事をするんだよ、佐々木! お前は!」

「君がそれを言うかい? 悲劇だな。いや、キョンはそれでいいのかも知れない。それでこそキョンだ」

少女が歩み寄る。そして、ここで出会った最初のシーンを巻き戻したように俺へと手を差し出した。俺の表情も佐々木の表情も、巻き戻したようにそのままで。ああ、この一連の会話がマジで夢だったみたいに。
夢であれば、どれほど良かっただろう。

「なんて顔をしているんだい、キョン?」

でももう、俺の眼にソイツは女神とは映らない。



286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 23:49:21.42 ID:U+h8+1Aa0
「キョン。君は世界崩壊を望んだ事の有る女の子を知っているだろう?」

「……ハルヒの事か」

「ああ。それと同じさ」

「退屈が、理由かよ。だったら俺が」

「理由は違う。でも衝動は同じ。こんな世界なら、要らない」

「なんだよ、理由って?」

「知ってしまったんだよ」

「何を?」

「世界の残酷さを」

「漠然とし過ぎてる。具体的に言え」

「……恋愛は、精神病の一種。僕と涼宮さんの共通認識で、彼女と僕の罹っている病名さ」

「恋愛? そんな事で、世界を滅ぼすのか?」

「そうだ。僕はそんな事で世界を滅ぼすんだ。精神病だよ。自分でも病んでいるとしか思えない。だけど、止められないんだ。キョン、僕はね」

「僕は……なんだ?」

少女は、笑った。白い世界で。

「こんな想いをするくらいなら、報われない恋愛をするくらいなら、恋心なんて自覚したくなかった」



289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 00:17:41.47 ID:xibZ3kzR0
その笑顔は台詞の内容とは裏腹に鮮やかで。でも朗らかではなくて。鮮やかで。でも明るくはなくて。どこまでも、鮮やかで。
どっかの国の画家が言っていた、恋に憂いた女以上にそそられるモデルはいないという一節を思い出すのに十分だった。

「お前なら……振られる要素なんて無いだろ。俺が保証してやる。だからこんなバカな事は止めろ。なんなら紹介状だって書いてやる。本日のシェフのオススメってポップだって幾らでも書く所存だ」

「……その相手に他に好きな人が居ても、君は同じ事を言えるかい?」

「その言い方だとまだ恋人、って訳じゃないんだろ? だよな? だったら勝算は有る。お前、自分の価値を分かってないんじゃないのか? ほっとく男がもし居たとしたら、ソイツは同性愛者だ、って断言出来るくらいには魅力的なんだよ」

少し言い過ぎかも知れないが、それだって九十五歩と百歩くらいの違いしかない。佐々木に好きな相手が居るってーのは、なんか勝手な話で申し訳無いが男友達代表として寂しい話であったのは間違いないが、この際そんな感情は脇に置いておく。
ああ、そんな俺が佐々木の片恋相手に嫉妬しちまうくらいには、コイツは可愛いんだ。
だから……だから、俺は納得いかないぞ、佐々木。

「君が言うと、滑稽だ」

「俺の口から出ても説得力は皆無だが、これは断じて笑い話じゃない。お前は、可愛いんだよ。自覚しろとは言わないが、俺を信じろとは言うぞ。信じられないような相手を友達に選ぶようなお前じゃないだろ」

「友達は選ぶものじゃないと思っていたけどね」

「揚げてもいない足を取るな。言葉の綾だ。信じられないと言われればそこまでだが。だが、佐々木よ。お前を見てれば『まだ告白もしていないのに一人で勝手に諦めてるんだろう』なんて事くらいは俺にも分かるんだ。
日頃、やれ鈍感だの、やれ朴念仁だの言われてる俺ですらお前に関しちゃこの通りの、俺たちの関係ってのはそういうものだぜ。今更、信じられないなんて言うなよ」

「信じてるよ。ああ、今の君の言葉で確信した。キョンはやっぱり思った通りだ、ってさ」

おい、今の言葉、なんか毒を含んでなかったか……と、まあいい。それよりも本題だ。

「だったらもいっちょ信じろ。ソイツに告白してみるんだ。それで上手くいかなかった、ってんなら世界崩壊も止(ヤ)む無しだが……絶対にそんな事は無いから安心してくれ。佐々木の見初めた男がそんなに馬鹿で見る目が無いとは俺も思わん」

「止む無し、なのかい?」

「いや、止めるが。だが万が一にも有り得ん話だ」

俺がそう言うと佐々木はその顔から笑顔を消して、そして真剣に思案を始めた。よし、良い兆候だ。もう一押しって感じだな。
まったく、どこの誰だか知らんが世界崩壊なんて罪作りにも程が有る。この一件が終わって佐々木の告白が上手くいったら殴ってやってもいいだろう……いや、それが元で佐々木との関係がこじれたりしたら元の木阿弥だしな……。



294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 00:47:48.82 ID:xibZ3kzR0
「君が言うと説得力が有るな。なら……キョン」

「なんだ? なんでも聞くぜ。世界崩壊の危機とかそんなんの為じゃなく、俺の友人の為にな。どんな裏方だってやってやる」

校舎裏に呼び出す手伝いから、いたいけな少女に絡む不良役まで、この際なんだってこなす所存だ。必要なものが有れば古泉を脅して用意させるも吝(ヤブサ)かじゃない。世界平穏の必要経費だから領収書は切ってくれよ?

「保険が欲しい」

「保険?」

「ああ、そうさ。振られればきっと僕は泣くだろう。そうなったら……らしくないと言われるかも知れないが、問題が問題だからね。借りれる胸が欲しいのさ」

「そんなもん、幾らでも貸してやる! むしろ役得だから安心しろ」

「そうかい。毎晩、それこそ君がもう止めてくれと言い出すまで夢の中で呼び出すだろう。それは?」

「構うものか」

「だったら……そうだな。デートがしたい。その人と出来なかった分、自分でも愚かだと分かっているけれど君を代役に」

「休みの度に付き合ってやる。俺なんかでよければ、な」

任せろ。ハルヒには不審に思われるかも知れんが、しかしそれよりも優先する事態ってのは有るんだ。例えば俺を親友だと言ってくれた、少女の失恋を慰めるだとかな。
世界を揺るがす大恋愛なんかにコイツが陥っていたとは正直予想外だが、しかし確かに佐々木の言う通り。それは異常じゃなくて人間として正常であり、厄介な精神病であると共に一生を通じて御厄介になる精神の支えでもある。
恋愛感情ばっかりは俺にだって否定出来ないし、する気も無いね。

「だから、頑張れ」

「……頑張る。キョン、有難う。君のお蔭で決心が付いた。僕の決意の程を、聞いて欲しい」

佐々木の白い喉がゴクリと鳴る。なんだって聞いてやるさ。ここで好きな男の名前を暴露して退路を断とうとかそんな事を考えているんだとしたら、勿論付き合ってやるともさ。
だから……だから、戦う前から逃げてんじゃねえ。戦う前から退路確保すんのは戦術の基本でも、恋は真逆。背水の陣こそ最良の構えだぜ。

「キョン……ポニーテールは、好きかい?」





「は?」



314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 13:28:38.84 ID:18dJQqDo0
俺の脳みそはフリーズしていた。予想外、過ぎた。真面目な顔をして何を言い出すかと思えば、飛び出したのは直前身構えたのが阿呆らしくなる程の妄言。ああ、妄言と一言で切り捨ててしまって何の問題もないだろうよ。
何を言ってやがるんだ、コイツは?
ポニーテールは好きか? いや、そりゃ好きだが。聞きかじった所によると男性が好ましく感じる女性の髪形ランキング堂々の一位に輝いたらしいし、それがどこ調べなのかは生憎覚えちゃいないが、その記事を見て自分がマイノリティではない事を確信した記憶が有る。
だが……それがどうした?
俺がどんな異性の髪型を嗜好していようが、しかし今議題に挙がっているのは佐々木の片恋相手の話であり、言ってしまえばそこに何の脈絡も無い。いや、もしかしたら無知蒙昧な俺には分からないだけで深淵にて話は繋がっているのかも知れん。

「あーっと……そうだな。好きだぜ。ポニーテールは一番好きな髪型だと言っても良い」

「そうかい。それは良かった」

あからさまにさっきまでの緊張した面持ちを崩して笑みを浮かべる少女に、俺としちゃまたしてもクエスチョンマークの大盤振る舞いでしかない。
何がしかの婉曲迂遠な表現なのかも分からんが、しかし遠回り過ぎるのではないだろうか。例えるなら地球を一周して飛んでくるドッジボールの球のようだ。
光は一秒で地球を七周半するらしいが、それが言葉、音ともなればどれだけの時間を必要とするのか。一秒三百メートル強。誰か俺の代わりに計算しておいてくれ。

「いや、春に聞いた通りだったな。君の趣味が変わっていなくて僕はほっとしているよ」

「ん? 俺、春の時にお前に何か言ったか?」

「覚えてないのかい? いや、無理も無いか。あの時はそれどころではなかったからね」

春。ついに現れたSOS団の鏡写しを相手にてんやわんやだったあの事件の最中、もしも俺が性癖を暴露していたとしても不思議は無いが……特に隠すほど特殊でもないしな。しかし、そんな自分の戯けた発言を脳に刻んでおくにはちょいとその当時は驚愕する事態が多過ぎた。
ともすれば記憶回路を疑われてしまいそうだが、けれどこればっかりは俺の脳みそに責を求めるのは辛い気がする。
記憶ってのは衝撃的なシーンほど強く残るものだからな。上書きに次ぐ上書きで、そんな俺の下らない台詞を覚えている佐々木の方がこの場合は特殊だと言わせて貰おう。



315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 13:50:40.19 ID:18dJQqDo0
「で? 俺がポニーテールを好きだったらなんだってんだ?」

「改めて美容院に行く必要が無くなった、といった所さ。……はあ。話には聞いていたが、まさかこれほどだとは思わなかったよ、キョン」

これ見よがしに溜息を吐くな。むしろ溜息を吐きたいのはこっちの方だっつーの。どうしてこうも俺の周りには意味不明な言葉を意味深長気味に口にする輩が多いのか。
それともこのやり取りに地球の明日が乗っかってるんだとしたら、地面の下にはヘリウムガスでも詰まってるんじゃないかと勘繰っちまうほどの軽さにいつの間にやらなっちまってまあ。俺に明日を心配されるようになっては大きな宇宙船地球号様も心外に違いない。
俺だってそんなものに両足を預けていたくはないな……。

「何が『これほど』なのか分からん。具体的に説明しろ」

「重症だな。国木田君が心配して僕にメールを寄越す度にこれまでせせら笑っていた訳だが、事これが自分の身に降りかかるとなると……なるほど、厄介だ」

「国木田とメールのやり取りとかしてたのか、佐々木? なんっつーか、意外だな」

これは正直、驚いた。いや、男女ともに平等に接するヤツなのは知ってはいたが、それにしても交友関係ってのを疎ましがっていそうなイメージを勝手に佐々木に作っていた。まあ、これは佐々木にも非は有って、メールアドレスなんかをお互いに知っちゃいても、中学卒業以降佐々木から連絡が有った事など片手で済む程しかなかったからな。
いや、俺も片手で余る程しかメールを送らなかったのだから人の事は言えないのだけれども。

「メル友、というヤツだよ。気軽に話が出来る間柄だ。これは互いに互いの弱みを握っているから、といった理由が大きい」

「そりゃまるで、俺が『気兼ねする友人』にカテゴライズされてるような言い方だな」

「そう言わないでくれ。君にはもっと、別のカテゴリを用意してあるさ」

久方振りの再開の場で「親友」と俺を称しておいて、しっかし国木田よりも優先順位が低いのは何か納得がいかない。筆不精な自分も悪いと分かっちゃいるが、それにしたって……ああ、何だこのモヤモヤは。



317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 14:14:24.20 ID:18dJQqDo0
「その『別のカテゴリ』ってのが大いに気になるね。メールが着信と同時にゴミ箱へと投げ捨てられる迷惑メールのような扱いをされていたとしたら、泣くぞ。いや、マジで」

「そんな心配はしなくてもいい。全くの的外れさ。なんなら僕の携帯を見てみるかい? 君から受け取ったメールは全て保存してあるよ」

そこまでの待遇は要求してない。普通で良いんだ、普通で。

「冗談にしても薄ら寒いな。連絡を怠けてた事は謝るから勘弁してくれ」

俺がそう言うと佐々木は笑っているような、泣き出しそうな、そんなどちらとも取れる表情をした。元々、コイツはあまり感情を表に出すタイプではない筈なのだが、場所が悪いのかも知れない。
閉鎖空間。自分自身の心の内側。そういったものが佐々木を普段とは異なる精神状態に追い込んでいたとしても、それはなんら不思議じゃない。不思議なのはむしろ、俺たちが今居る、この真っ白空間だ。

「くっくっく。だが、君が『そう』だと言うのは別に今に限った事では無いし、それに悪い面ばかりでもない。裏を返せばつまり、攻めあぐねているという事だろう。だったら後は覚悟次第さ」

「何を言われてるのかはよく分からんがしかし、馬鹿にされてるってのだけは理解したぞ」

「馬鹿に? いや、むしろ逆だ。褒めている、とまでは言えないが。それでも一年と八か月かい? その間、変わらずに僕の知っているキョンであり続けてくれていた事に僕は感謝しているくらいさ」

だから、それが「成長してない」って意味以外の何に取れるってんだよ……ったく。

「十何年ぶりの同窓会辺りなら感動の台詞なんだろうが、そこまで郷愁をそそられる程の疎遠って訳でもないぜ」

口にした、その言葉が恐らくは発端だったのだろう。突然、白い世界に雨が降った。いや、雨と言い切ってしまうと語弊が有るかも知れない。冷たい訳じゃないし、地面やら服やらに落ちてもその滴は跡を残さなかったからな。
とは言っても雪のように降り積もりもしない。不思議空間にお似合いの不思議雨だ。実体が有るのかも定かじゃない。何せ、触れれば消えちまう。空を見上げても雲も青空も確認出来ない以上、解析不能だ。物理学の限界ってのは人間の心の中にこそ有るんだろう。
その雨は、ざあざあと。
閉鎖空間――いや、佐々木の心の中に降った。



318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 14:27:10.24 ID:18dJQqDo0
「……ままならないね」

雨の中、姿勢を崩さず立ち続ける佐々木は言った。

「ああ、ロケーションにここを選んだのは失敗だったよ。進学する高校を選択した時と比しても見劣りしない選択ミスだ。僕の心の中ならば、こういった事が起こり得るのは少し頭を回せば予想は付いたのだけれど……だが、誰にも邪魔されないとなると、ここ以外には無いしね」

「……なんだよ、この雨?」

「お察しの通り」

察しは――付いた。

「僕の涙だ」

少女の、涙。顔で笑って心で泣いて。不器用なソイツの、宿主に代わりましての感情表現。
ハルヒの閉鎖空間で神人が暴れるのは、ハルヒのストレス……破壊願望の顕(アラワ)れ。それと同じように。心は誤魔化しようがない。
それが鉄壁の理性を持つ佐々木でも。いや、だからこそ。

「僕はね」

少女が一歩俺へと近付く。

「僕がね」

そしてもう一歩。三歩分有った俺とソイツとの距離はもう、一歩分しかない。

「君との再会を――この日をどれだけ待ち望んでいたか、焦がれていたか、キョンは知らないだろう?」

もう一度。佐々木の左足は地面から離れた。最後の一歩分を、詰めようと。



319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 14:58:19.49 ID:18dJQqDo0
なぜだろう。俺は一歩下がろうとした。いや、理由は分かる。人とぶつかりそうになったらそれを避けようと動くのは、これはもはや本能だと言ってもいい。
だが、俺の足は上がらなかった。もっと正確に言うならば靴が地面に貼り付いていた。俺の方へと倒れ込みそうな佐々木の両肩を、こっちは動く両手でもって受け止める。
初めて触れた佐々木の体は、比喩は悪いかも知れないがまるで軟骨生物のようにぐにゃぐにゃとしていた。男の体とは、それは根本から異なる事を俺の脳髄に叩き込むのに十分な感触だ。
ああ、このシチュエーションはなんだ? なんなんだよ、このデジャブ(既視感)? いや、デジャブだとしていつのデジャブだ?
閉鎖空間で、少女の肩を掴んでその動きを押し止めて……そこまで来て、ようやく、俺は理解した。
ようやく、会話のすれ違いに気付いた。
ようやく、役者の入れ違いに気付いた。
ようやく、佐々木が何を目的としているのかに思い当った。
唐突な事態に呆ける俺へと、少女が唇を開く。花が、綻ぶようにゆっくりと。スローモーション映像、もしくは早送り映像でも見ているようだった。

「『私』」

佐々木の一人称が俺にこれまで向けられた事のないものに変化する。なんなんだ、なんなんだよ。
俺が知らないだけで、世界は確実に面映ゆい方向に進んでいたんだ。置いてけ堀食らってたのは、自覚の無いスルーパスでフィールド外にボールを弾き出していたのは誰でもない俺だったって事なのか!?

「実はハーレクイーンが好きなんだ」

宇宙人、未来人、超能力者。三者三様に好き勝手な事をコイツに向けて言いやがる。
だけどさ。だったら俺にとって佐々木はどういう少女なんだ? 高校受験をともに戦った戦友? 勉強を家に招いてまで教えて貰った家庭教師? いやいや、そういう外から見ても分かるラベリングじゃない。そういう事を自分に問いかけてるんじゃない。ないが!
だったらなんだ? 友人? 親友? そういった言葉で済まそうとしていただけだろう? 今はもう疎遠になっちまった。自分から連絡を取るのも何か下手な事を勘繰られそうな気がして気が引けた。
それってのはどんな感情だ? もしも佐々木を本当に、心底から友人として見ているのならそんな遠慮が必要有ったのか、いや無い!
ああ、だが! だからと言ってこの感情を明確に「それ」だなんて言えるのか? 「それ」じゃないなんて言い切る事は出来やしない。そういう部分も含んでいるのは認めよう。
だが、「少女は神様ではない」じゃないならそれは「神様である」なんて数学の問題みたいに上手くいくかよ!
二重否定が肯定の意味なのは英語文化圏だけで、ああ悪いが俺は奥ゆかしい日本人なんだ!

「君の自転車の荷台に乗っていた帰り道、私はまるで小説の中のヒロインであるような気持ちだったんだ」

そう呟いて、そして佐々木は俺の方を向いたまま目を閉じた。



320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 15:28:05.77 ID:18dJQqDo0
何を期待されているのかは分かってる。これはあの時のリフレイン。だけどあの時と違うのは。あの時の記憶が俺に有るって事。
それは、選択肢。
どちらの世界を望みますか?
目の前に提示されたT字路。左に行くか右に行くかで、見える景色はまるで違う。なぜならそれは後戻りだけは決して許されちゃいないからだ。そういう意味じゃ、丸一年前のリフレインでもある。
佐々木の世界と、ハルヒの世界。きっとどっちに行っても俺は後悔しないんだろうさ。だからこそ、俺はここでだけは熟慮しなきゃならない。そうじゃないか?
目の前で震える睫毛、唇。抗い難い引力を発生させる。目を閉じてもコイツは美人だな、なんて今更だ。佐々木を今になってようやく異性扱いしてやがるとかお前本当に健康な男子高校生なのか? なあ、俺よ?
吸い込まれるように顔を近付ける。ああ、ここで状況に流されちまってもそれはそれで俺らしいかもな、なんて。
神様が居るんなら。きっと笑うんだろうよ。大爆笑だ。シナリオ通りだとかなんかそんな事言って。
俺らしく。
俺っぽく。
アイデンティティってのが希薄な俺であってもキャラ作りってのをまるでしてない訳じゃない。それはまあ、言葉遣いであったりだとか身の振り方であったりだとか自覚の無いレベルでの話だが。
それに身を任せるなら。
それが俺だから、とか自分に言い訳だって出来るしさ。そういうのも良いんじゃないか、って思うんだよ。
そうだな……佐々木の気持ちは分かった。ここまでされてまだ何も理解出来ないってんなら、初等教育からやり直ししなきゃならんだろう。
だから後は、俺の気持ちだ。
俺は。
誰が好きだ?
俺は。
どうやって生きていたい?
俺は。
どんな奴だった?
神様はサイコロで遊ばない。ここでハルヒを選んでも、佐々木を選んでも。どちらにしたって手の内の孫悟空。
だが……だが!
キャラじゃないとか、そんなんは知った事か!
こんなの俺らしくないとか、言いたきゃ勝手に言え! それでも、これが! この選択が「らしさ」じゃない「俺」なんだよ!
手の中の賽を投げ捨てた。T字路の、正面の壁に向かって。ざまあみろ。人を舐めんのも大概にしろよ、神(シナリオライタ)様。
裏も表も巻き込んでメビウス、賽子(サイコロ)の目は手榴弾。
佐々木の顔に唇を近付けて。
そして、俺は言った。

「タイムアウト」

時間制限を付け忘れたヤツが悪いんだよ。



321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 16:01:18.03 ID:18dJQqDo0
「え?」

佐々木が目を開く。その目に涙が浮かぶよりも早く、浮かばせて堪るかと矢継ぎ早に、俺は捲し立てた。

「佐々木。お前の気持ちは分かった。こういうのはその場で返事を寄越すのが礼儀なんだろうが、礼儀なんてのを俺に求める所から先ず間違えてる気がしないか? 人選ミスだろ。それも致命的だ。
ああ、こういう事をグダグダ言うのが男らしくないってのは分かるが、だがその『男らしい』ってのが熟慮しないっつー意味なら俺は男らしくなくて結構だ。
ハーレクイーン、恋愛小説の代名詞だな。俺はそういう方面に関してはとんと無知だが、それにしたって『今、ここで答えを寄越せ』なんて告白の仕方はせんと思う。まあ、こいつは俺の思い込みだが。
体育館裏に呼び出して告白して、だ。そういう時のお決まりの台詞は『返事はいつでも構いません』と、普通はこう来るモンだろ。内心では今返事を下さいと思いつつも、それを言い出さず相手を立てる。……こういうのはどっちかってーと少年漫画のお約束なのか?
どっちでもいいが。そんな訳で俺は時間を求める。勘違いすんなよ? 別に断り難いから保留してるんじゃない。むしろ逆かも分からん。
佐々木。お前の事は好きだ。これは間違いない。だが、果たしてこれが友達としての好きなのか……いや、恋愛側の好きだとは思うんだよ。けど、自信は無い。確信も無い。
こんなんでお前の気持ちに答えたくない。分かってくれとは言わんし、お前としちゃ不満だろうさ。
しっかし……済まんが佐々木。俺はこういうヤツなんだよ。決断が早い、なんて流石のお前も思っちゃいないだろ?
だから、タイムアウトだ。棚上げじゃない。クイズ番組でも回答時間が設けられてないような鬼畜な番組は見た事がない、って事で頼む」

雨が、上がる。

「……分かった」

「分かって、くれたのか? いや、正直自分でも苦しい言い訳だとか思ってるんだけどな。っと、言い訳じゃない。言い訳じゃないぞ」

「二回言わなくても良いよ。それに、僕が分かったのは別の事さ」

「へえ? 何だよ」

佐々木は踵を上げた……んだろう、きっと。急にソイツの顔が迫ってきて避け切れなかった。

「んっ…………ふう。御馳走様。憎からず思っている相手なんだ。悪い気は、しないだろう?」

俺としちゃ、どんな表情を浮かべていいものかも分からずに、ただ立ち尽くすしかない。喜ぶとか、悲しむとか、そういうんじゃない。あのモヤモヤを何倍にも増幅したような。ああ、なるほど。これを言い表す言葉はそりゃ一つしかない。
精神病、だ。



323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 16:31:10.24 ID:18dJQqDo0
「キョン」

呼び掛ける、少女の顔は目と鼻の先。距離を取ろうと考えないのはどうしてなのか。分からん。分析不能って事にしておく。
こっちの問題は棚上げしても誰にも怒られたりはせんだろうよ。

「なんだ?」

「悪かったね」

「……こっちこそ、だ。そう言わなきゃならん。恋愛感情ってのが、それが例え心恋(ウラゴイ)程度であったとしても世界を壊す理由になり得るのは知ってた……筈なんだけどさ。どうも、忘れてたみたいだ」

「くっくっく」

「何が、可笑しいんだよ?」

「キョン。君は日頃わざとやっているんじゃないのかと思ってしまう時があるよ。心恋なんて言葉を知っているとは思えない呆れる程の鈍感だ」

言って靴音二つ、離れる少女。視界が佐々木で埋められていた時は、気付かなかった。

「……うお……凄っ」

白色だった世界はいつの間にだろうか。鮮やかな桜色へと模様替えを果たしていた。その中央で笑う少女。季節外れに、桜吹雪の中。

「君とこの世界でたった二人、生きていくのもいいかも知れないと、そんな愚かな事を考えてしまったような、愚かな女だが、今後ともよろしく頼むよ。友人じゃなく、親友じゃなく、恋人候補として」



324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 16:52:09.20 ID:18dJQqDo0
桜色の世界が、割れる。天井――っつーか、空か。空にゆで卵をテーブルにぶつけた時のような罅が入っていく。佐々木はそれを満足そうに見つめていた。

「満たされて、内側からの圧力に耐えられなくなった。そんな所かな」

一人ごちる、ソイツは空から視線を外し俺を真っ直ぐに見つめた。

「僕は、期待してもいいのかい?」

「さあな。サイコロの出目なんて俺たちの意志の外だ。だがまあ、お前を蚊帳の外にはしない。こっちは約束する」

「ただ、この為だけに君たちを危険に晒した女を、君は許せるのかな?」

「許すも許さないも無い気がするね。清濁飲み込んでプラスマイナスゼロだ。関係を始めていくんなら、ゼロからの方が良い事だってきっと有る」

桜のように、綻ぶ口元。

「……なら、済まない。頼みが有る」

「なんでも聞く」

「僕がようやくの思いで気持ちを打ち明ける事が出来たこの世界の明日を、守ってくれ」

「言われるまでもない。そのつもりだ」

「もう一つ。僕が好きになった男の子を、守ってくれ」

「まだ死にたくはないね」

頷いた。俺を見て少女は一筋涙を流した。閉鎖空間は、泣かない。だから俺にもそれが悲しい涙じゃないのは分かった。

「僕の想いは……やっと君に届いたんだ。産まれてから今までで、こんなに嬉しい事は無い」

罅はどんどんと浸食する。周りに有るビルまでもが、ぐしゃぐしゃになったプリントを広げたみたいになっていた。時間は、もう無い。

「後、一つだけ」

「欲張りだな」

「欲張りだよ、だから」

天井が、剥がれ始める。ちょっとしたスペクタクル、って感じに現実離れした景色。

「僕を……嫌いにならないでくれないか」

閉鎖空間が崩壊する。現実が戻ってくる。最後に俺が口にした言葉は、果たして佐々木に届いただろうか。

「何時寝るか、またメールしといてくれよ」

明日の夜、夢の中でまた会おうぜ。



325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 17:30:04.46 ID:18dJQqDo0
やっとの事で現実へと回帰した時、そこは戦場になっていた。

「いいぜ、いいぜ! やっぱりアタシの睨んだ通りだった! アタシの強さを測れるのは、測り知れない力を持っているヤツしか、居ねえよなあ!!」

それをどう表現すれば良いだろうか。そうだな、言葉にするならば……赤き征裁。

「……身体情報を改変。エマージェンシーモード。情報操作範囲拡大申請……不許可」

宇宙人少女が疾る。その手には毎度お馴染み絶対障壁。それを下向きに、赤一色のウェイトレスへと叩きつける。壁を叩きつけるってのは想像に難しいとは思うが、事実としてそうだから仕方がないので諦めてくれ。
情報操作によって産まれる半透明の壁。それは、よく分からんが最早固いとかそういう次元のモノではない。そしてそれを長門が振るう以上、そこには重さでは計れない類のよく分からん力が掛かっているはずだ。
つまり、受け止める事は、不可能。

「点で捉えられない相手なら面で捉える、ってその考え方は間違ってねえぜ、お嬢ちゃん! ただし!」

赤い彼女……人類最強、哀川潤は受け止めた。それも右腕一本で。

「だが生憎、アタシは力持ちなんだよなあ」

……有り得ない生き物が、そこには居た。力持ち、とかそういう話で済む訳が無い。その壁は勢いだとか加速だとか重量だとか、そういう物理法則とは無縁なんだ。それは、力では受け止められないはずなんだ!

「ATフィールド、全開っ、とくらあ!」

右手で受け止めた壁に乾坤一擲。左腕で繰り出したアッパーカットが「突き刺さる」。……この女、本当に人間かよ、おい。



326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 17:49:54.71 ID:18dJQqDo0
「……人間よ。信じたくないけど」

どうやら意識の外で疑問を口に出していたらしい。そう答えたのは後ろに居た朝倉だ。前で行われている戦いから目を逸らさぬように後ろ歩きでその隣へと移動する。

「何が、どうなってやがるんだ?」

「こっちが聞きたいわ。何よ、『アレ』は?」

アレ。まあ、何を指しているのかは聞かなくても分かる。俺だって「あの人」という代名詞の使用を躊躇っちまうくらいに長門とぶつかり合う人類最強は、人類と言っていいのか正直分からない。

「十三銃士、第四席……だったか。人類最強、らしい」

「人類!? あれが!? 有り得ないわよ!」

朝倉の口は止まらない。俺との会話の合間にも、いやそっちの方がより複雑に動いている。長門のフォローをしているのは明らかだった。

「宇宙人二人掛かりでも、なのかよ……っ!?」

そんなんはきっと人間じゃないぜ? 俺と同じ原子で構成されているとは思えないし、思いたくない。

「いいえ、流石にそこまでじゃないわ。あっちには天蓋領域が加担してる。だけど。それでも『戦えるようにした』ってそれだけなの! 最低限、舞台が整えられたに過ぎないのに!」

壁が壊される直前、跳び退いた長門は間髪入れずに情報操作。左手を哀川潤へと翳し。

「座標確定。不可視帯域のコヒーレント光に指向性を持たせて凝縮放出」

「みくるビーム!?」

ああ、その手のひらから出たのはビーム砲。レーザだったか? とにかく、長門が本気なのはそれだけでも理解出来た、が。

「必殺! 光線白刃取りっ!!」

哀川潤は……人類最強のウェイトレスは有ろう事か、その光を両の手で挟み込んで止めて見せた。
……この女、人間じゃねえよ!



327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 18:13:11.28 ID:18dJQqDo0
「人間じゃないわよ、ホント! 情報操作が只の物理攻撃に変換されちゃってるから……でも、天蓋領域がやってる事ってそれだけなの! こっちは私が長門さんの身体能力を増幅して……それでやっと互角。
ううん、むしろ押されてるくらいって……そんなのとっくに有機体の限界超えてるわ」

いや、有機体の限界云々は言われんでも分かる。なるほど、さっきの情報障壁も無茶苦茶固い壁、でしかないって事か。だから、触れるし、壊せる。それにしたってまさか水飴程度の強度にされている、って事はあるまい。
攻撃として成り立つ強度であるから長門だってそれを使用したんだろうし、長門ビームと同格の攻撃翌力は持っていたと思うのが自然だろう、うむ。
俺なら間違いなくぺちゃんこだ。漫画に出てくるような薄さ一ミリの紙人間になって風に飛ばされる展開が目に見えるようだぜ。

「おいおい、まさか漫画で見ただけの技が出来ちゃうなんて流石のアタシも思わなかったぜ。流石、潤ちゃんだな」

言って、光線を受け止めた両の掌に息を吹きかける人類最強……言わせて貰っていいだろうか。アンタ、馬鹿か。そんなんで冷めるか。コーヒー飲んでるんじゃねえんだぞ。
ああ、大声で叫びたい。だが、そんな荒ぶる思いなんか知る由も無い赤い彼女は、俺の見ている前で両手をぱんぱんと擦り合わせてこう言った。

「よし、治った」

「アンタの皮膚はスペースシャトルの外壁で出来てやがんのか!!」

これが叫ばずにいられようか。

「失礼な事言うなよなー。生身での大気圏突入くらい江田島平八でもやってたくらいだぜ? だったらこのアタシに出来ない訳が……って、お。キョン、久し振り」

ひらひらと手を振る。その掌は煤けてはいるものの確かに火傷を負っているような形跡は見られない。って、火傷で済むかよ。常識で考えろ、俺。普通は穴が開くか手首から先が蒸発してんだぜ……。



329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 18:57:14.34 ID:18dJQqDo0
「久し振りです……って、そうじゃなくって」

何、相手のペースに合わせて挨拶してるんだ、俺も。

「長門、ちょっとストップだ」

「……分かった」

地面に降り立った長門は俺の言いつけ通りに動きを止める。朝倉の口の動きは止まっちゃいないが……こっちは敵性宇宙人に対抗しなきゃならんって要素も大なり小なり含んでいるんだろう。まあ、止めなくとも害はない、か。

「おいおい、キョン。何、人の喧嘩に水差してんだよ。ぶっ殺すぞ、この野郎」

ギロリ睨み付けられるが、ファミレスで対峙した時みたいに動けない程じゃない。今夜、色々有ったせいでこういうのに耐性が付いてるのか……嫌だ。普通に普通の高校生やってる上でそんな特殊耐性は必要ない……。

「……えっと、哀川さん。貴女の目的は聞きました。宇宙人と喧嘩するのが目的なんでしょう?」

「おうよ」

「だったら別に今じゃなくてもいいじゃないですか。知っての通り、俺たちは今、非常に忙しいんです。取り込み中なんですよ。長門や朝倉と喧嘩したいのは……出来るなら止めたいけど俺じゃ止められないのは分かりました。でも……」

「でも? 今度必ず喧嘩するって約束するから今は退いてくれってか?」

読心術……いや、これくらいは誰でも読める展開だ。

「ええ。そうです。貴女が満足するまで何回でも、好きなだけやればいい。……長門、朝倉。悪いな。勝手に約束を取り付けちまう」

「……構わない」

長門が言って、朝倉はただ俺に向けて頷いた。だが……一人、納得していない奴が居た。肝心要、交渉相手だけは納得しちゃくれなかった。

「イヤだね」



330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 19:28:07.16 ID:18dJQqDo0
たった一言。拒絶。しかし、たった一言で交渉は完膚なきまでに決裂した。

「……え?」

「何、呆けた顔してやがるんだ、キョン? 考えてみろって。そこのかわい子ちゃん二人が全力出してくれてんだぜ? 友達の為に。泣かせるじゃねえか。でもってな、これ以上に本気を奮う場面なんて早々用意出来るモンじゃねえんだよ。アタシはともかく……そこの二人はな」

宇宙人の本気。ああ、確かにさっきの長門は本気だった。人間相手にビームだかレーザだかを躊躇無く撃つくらいには。ハルヒを守る為ならば、俺たちを守る為に。その為ならばアイツは全力だって出すし、容赦だってしない。
けれど、そういう事情が無かった場合。つまり「最悪殺しても仕方ない」って理由が無かったら果たして長門は哀川さん相手に当たり所が悪ければ死ぬビームを放つだろうか。
そんな事は……出来ない。きっと俺が止める。見ていられなくて止めちまう。
今更、古泉が赤神オデット相手に拳銃を取り出した理由が分かった。古泉は、長門は。SOS団の為ならなんだってやる。そういう覚悟を持って俺の、ハルヒの傍に居るんだ。
そしてそれを、今回は逆手に取られた……ちっ。

「殺すくらいの気持ちで来てくれないと、こっちだって張り合いが無えんだよ。ま、心配するな。アタシだったら全力の中でも殺さずに寸止めするくらいの芸当は出来るし、それに殺された所で『生き返った』前例が有るからな!」

……おいおい、冗談だろ。それこそ生物って範疇から放り出されてるみたいじゃねえか。
死んでも、生き返る。
そんな都合の良い話が罷り通って堪るかよ!

「罷り通るんだよ、アタシは。そういう風に……『創られ』てっからなあ」

「それじゃ……それじゃまるで、人間をベースに人間でないモノを創ったように聞こえちまう! そんな、仮面ライダーみたいな……!?」

「おう、そんな感じだ。改造人間。元になったのはバッタじゃなくて鷲だけどな。砂漠の鷹、なんて呼ばれてた頃も有ったぜ。ぎゃはは!」

……人類最強。そりゃ、そうだ。人間離れしていて当然だ。
なぜなら哀川潤は、改造人間なのだから!



331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 19:50:03.55 ID:18dJQqDo0
「ほんじゃ、続きと行こうかい、長門有希。……ああ、キョン。その前にレクチャしておいてやるよ。戯言の遣い方だ。どうもお前は間違ってるから言ってやる。ソイツはな、理を説くんじゃない。無理を説くから、戯言って呼ばれてんだ。
ここでさえ無ければ満足行くまで何回でも相手をしてやる。その『満足行くまで』『何回も』って所でアタシを釣ろうとしたんだろうがな。アタシに言わせりゃそうじゃない。そういう遣い方じゃ格上相手は通用しないぜ?
そうだな……いーちゃんならきっとこう言ってたんじゃねえか? もっと貴女が満足行く相手をご用意します、ってなあ! でもってそこにこう続けるんだろうよ。僕が相手だ、哀川潤! くひひ、戯言だぜ」

僕が相手だ。
あの戯言遣いなら。なんて……なんて、戯言。なんて、胆力。

「なら、哀川さん。俺が……」

「無理だね。お前にゃ無理だ、キョン。お前じゃちっとばっかし人数が足りねえよ。後六十億程な!」

言って哀川潤の体が消えた。長門がその体の前に壁を創り出すのと、跳びかかった赤いウェイトレスが拳を振り抜くのは、同時。

「すごいパーンチ!!」

その右手は、軌道上に鋼板よりも尚固いものが有った事実を蔑(ナイガシロ)にして進む。パキン、という小気味良い音を伴って空中に浮かんだ幾何学模様が霧散する。
その直線上、長門の体へと吸い込まれるように、それはめり込んだ。

「……ッ!?」

吹き飛ぶ少女の体。追従して疾走する哀川潤は、低空飛行をする長門をあっさりと追い越した。

「長門さん!!」

間一髪。朝倉の情報操作で長門の体が停止する。コンマ一秒後、長門の頭が有ったと思われる場所では人類最強がその長い脚線美を惜し気無く持ち上げて待ち構えていた。

「そうそう。二対一くらいじゃないと張り合いが無えよなー」

赤いハイヒールを勢い良く地面に減り込ませながら、人類最強は笑った。朝倉のフォローが遅れていたら、あのヒールが刺さっていたのは長門の……想像、したくもない。なのに一度脳裏に浮かんだ映像は消えちゃくれない。



332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 20:10:01.34 ID:18dJQqDo0
体を張って二人の間に入れば、この戦いを止められるだろうか。いや、一撃で昏倒させられるのがオチだ。その一瞬こそ人類最強に隙は作れるかも分からんが、それを長門が物に出来なかったら、どうなる?
逆に守らなきゃならないものが増えるだけ足手纏いになりかねない。
だけど……だけどなんとかしないと。何か、しないと! 朝倉の言った通り……なんて、なんて女だ! 朝倉のバックアップが有る長門。なんてのはぶっちゃけ無敵に限りなく近い。
そのSOS団の誇る最終兵器を相手にして。
ただ「情報操作能力を物理変換した」だけで渡り合える……いや、優勢にバトルを展開するなんて!
見ていて分かる。俺にだって分かる程明らかな長門の劣勢。試合のイニシアティブは目まぐるしく入れ替わる。だけど傷を負うのは長門ばかり。哀川潤は終始笑顔で猫とじゃれているような鼻歌混じり。
時折「お、そう来る?」だったり「やるじゃん、有希ちゃん」と言った台詞は聞こえるが……聞こえてくるがその声から余裕が消える様子は無い。
長門は無口でこっちからは勝負の行方は見えちゃ来ない。何せ、何をやられても長門の体は瞬く間に修復するからな。長門は、大丈夫に見える。
目に見える不安要素ってのはこっち。つまりは俺の隣に居る朝倉だ。見るからに消耗している。最早俺が声を掛けても返事が返っちゃこない。
俺に割くだけの余裕が、長門と哀川潤の戦いには無い、って事。思い出すのは朝倉の数時間前の台詞。
「あ、これ? 長門さんのバックアップをしてたらお腹減っちゃって。もう、食い意地が張ってるとか今、失礼な事考えたでしょう? 止めてよね、そういうの。貴方には分からないだろうけれど情報操作ってすっごくエネルギを使うんだから」。
あんな……他愛も無い世間話としか取れない筈の台詞が、事ここに至って伏線と化して俺を急き立てる。
何か……何か俺に出来ないのか、何か!

「お前には何も出来ねえよ、キョン。そこで黙ってお前のかわいー長門ちゃんがアタシに食われるのを見てろ」

哀川潤は、そう言った。そこで俺の中の何かが切れた。

「ふっざけんなああっっ!!」

気付けば俺の足は、人類最強に向かって走り出していた。走り出した体は、止まらない。止まる、意志も無くなっちまっていて。



333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 20:22:55.91 ID:18dJQqDo0
ああ、何を馬鹿な事をやってんだ、俺は。戯言遣いも言っていたじゃないか。何も考えていない人間には何も報わない、って。
考えるのを放棄して、怒りに我を忘れて突撃して、それで何がどうなるってんだ?
我に返ったのは、時既に遅くて。

「……あなたは私たちが守る」

「……な、長門?」

長門の背中から、形も流麗な腕が一本、最初からそこに有ったみたいに生えていて。

「大丈夫。何も心配しなくて良い」

「長門さん!!」

その腕は赤い、真っ赤な液体に濡れていて。

「個体名……哀川潤を……敵性と判……定……」

「長門! もういい! 喋るな!!」

あんまりに鮮やかな赤だから、ああこれは長門じゃなくて哀川潤の腕だって気が付いて。

「当該対……象の有機情報……連結解除を…………申請す……る」

「おやおや、なんか物騒な単語が聞こえたが……残念だったな、お嬢ちゃん」

そこで俺はなんて事をやっちまったのか、理解するんだ。

「……………………エラー」

「そんなどこの誰かも知らないようなヤツに、このアタシの存在が消せるかよ」

人類最強が腕を振る。そこに纏わりついていた長門の体が放り出されて、地面に落ちた。駆け寄る。長門の胸には大きな穴が開いていた。

「あーあ、もう終わっちまった。つっまんねえな……」

俺のせいで、長門の胸に大きな穴が開いていた。俺を庇って、穴が。俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで。
俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで!!!!



334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 20:39:13.61 ID:18dJQqDo0
「長門……ちくしょう……俺は……俺は……」

なんて、無力だ。
戯言が通用しない相手。そもそも戯言にすらなっていない、ただの虚勢。相手にすらして貰えない、一般人。
挙句、この様だ。友達を守るなんて抜かしておいて。世界を守るなんて約しておいて。世界どころか友達どころか。守るどころか守られる始末。

「逃げるわ」

朝倉の声はともすれば際限無く自虐に沈みそうになった俺の意識を現実へと引き戻す。

「大丈夫。まだ脈は有るから。でも、それも修復に専念出来ればの話。だから、逃げるわよ」

少女の口は開いていない。どうやらこの声は俺の耳、っつーか聴覚神経に直接届けられているらしい。まあ、逃げるなんて算段は盗み聞きされちまえばそこまでだからな。俺は……頷いても哀川潤にやり取りが悟られそうな気がして目だけで朝倉に返事をした。
果たして届いているか……いや、きっと大丈夫だ。
だが……だが、声にさえしなければという朝倉の考えも、頷きさえしなければなんて俺の浅知恵も、通用する相手じゃなかった。

「ああ、逃げるとかそういうのは無理だぜ?」

なぜなら彼女は人類最強。読心術すら、お手の物。

「アタシ相手に虚を突けるとか、そもそもその考えからして甘いんだよな。敵の実力が分かるのも実力の内、って知ってるか? お前らの前に立ってるのは人類最強なんだよ。寝首すら掻けない、そういう相手に逢った事が無いみてーだが、残念だったな」

哀川潤は俺たちに向かって、どこまでも絶望を突き付ける。

「最初に逢ったそういうのがアタシなのが、ま、運の尽きって事でよお。悪いが最後まで付き合って貰うぜ?」



335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 20:51:14.38 ID:18dJQqDo0
例えばここで、俺が哀川潤を食い止めれば長門と朝倉を逃がす事が出来るのか。いや、時間稼ぎにすらきっとならないだろう。
時間稼ぎは戯言の十八番。だけど俺は出来損ないの戯言遣い。人類最強を相手に俺なんかの戯言は通用しない。
よしんば哀川潤が俺を対戦相手として認めたとしても。この仮定自体が有り得ないが。それでも、もしそれが上手くいこうが。
それでは、朝倉が長門の二の舞になるだけ。
私たちが守る。長門と朝倉はそう言った。コイツらは約束を絶対に破らない。だからこれは最悪の選択肢。
けど……けど、だったら俺に何が出来る。
何がしてやれる?

「……頼む……友達なんだ」

「あん?」

「大切な、友達なんだよ、コイツらは」

「ふーん、あっそ。で? それがアタシに何の関係が有るっての?」

「助けて、やってくれ」

「見返りがねえな。そんな依頼は飲めねえよ。相応の代価を払えるようになってから出直して来い」

「出世払いとか、利かないのか?」

「生憎、アタシはいつもニコニコ一括現金払いが主義でよお。そういうサービスは受け付けてねえんだわ、これが」

「俺なら……俺ならどうなってもいいからっ」

「聞けないな」

ああ、命乞いすら許されないのかよ。

「……頼む……頼むよ。コイツらだけは……俺の日常だけは、俺の身と引き換えでいい。返してくれ」



336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 20:57:32.90 ID:18dJQqDo0
答える声は、見当違いの所から、届いた。






「その依頼、請け負った」






赤い人類最強よりも、まだ赤い。紅蓮の炎を思い起こさずにはいられない声だった。





「ヒーロー見参」





そこに居たのは、見慣れた顔。だがきっと初めまして。この展開は二度目だからもう驚かないが。その代わりと言っちゃなんだ、救いの女神って形容をさせてくれ。
それは人類最強の請負人。哀川潤。その当人だった。



337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 21:27:44.42 ID:18dJQqDo0
「なっ!?」

哀川潤Aがビクリと震える。演技する事を忘れたように、口を開けて。対する哀川潤Bはコツリコツリと、靴音を響かせながらこちらへ歩み寄ってくる。

「おー、いい表情だ。そういう顔も出来るんだな、園山赤音ちゃん? いや、ここはプレーヤらしく二つ名で呼んどくか、『軛回し(ネックレス)』。ま、こっちも驚いたけどよお。まさかアタシを完コピするとは夢にも思わなかった」

軛(クビキ)回し。園山赤音。なるほど、それが偽ライダーの名前かい。

「だが、相手が悪かったぜ。そのツラは、そのツラだけは絶対にコピー&ペーストしちゃならなかった。するんならカット&ペーストにしとくべきだった。哀川潤は、自分の名を騙るヤツだけは一回も許しちゃいねえ」

「うう……ううう…………」

唸る偽ライダー。目に見えて分かる。彼女は……いや彼かも分からんか。とにかく園山赤音は、哀川潤に気圧されていた。
威風堂々。役者としての格があからさまに違う。身に纏っている雰囲気は、こうやって対比をされれば明らかに違う。本物の哀川潤は、そこに居るだけで否が応にも目を引かれる、そういうオーラを醸し出している。
目を逸らす事すら出来やしない。口を聞く事すら躊躇われる。
王者の風格。
これが、人類最強。

「いやいや、やろうとした事は褒めてやるよ。アタシを亡き者にしようとしたその努力だって認めてやる。流石のアタシもグランドキャニオンで妹に再会した時は驚いた。
しかもそれが千人も居りゃあんまりに熱烈な歓迎過ぎて何度か死にかけたぜ? シスプリ換算で八十三周とか、姉冥利に尽きるってなモンだ。ま……量産工場は潰してきたけどよ」

……量産式妹とか、ますますどっかのアニメみたいなんだが。

「ったく、ロクな事しねえよな、ウチの親父も。赤音ちゃんの改造もどうせアイツの仕業だろ? ベースは悪くないから結構楽勝だったろうなあ……だが、アタシのかわいーいーたんを『いーちゃん』呼ばわりしてたのは減点だ」



349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 21:48:33.36 ID:18dJQqDo0
ってか、この人はそんな事まで知ってるって……そりゃつまり、最初から全部見てた、って事か?

「おう、もちろん」

……俺、今何も喋ってないんだが。

「見てた見てた。ぜーんぶまるっとお見通しだったぜ。ちなみにアタシに関する伏線を総浚いしてやろうか?
一つ、哀川潤がいーたんを『いーちゃん』呼びしていた。
二つ、哀川潤が西東天と行動を共にするなんて有り得ない。
三つ、仮にしてたとしても十三銃士なんて名乗るかよ、恰好悪ぃ。
四つ、アタシが居るなら小唄なんて誘わなくてもガキ一人くらい攫うのは訳ないぜ。
五つ、可愛い宇宙人なら喧嘩するよりも愛でるのが基本だろ。
六つ、本当にアタシがあっちに回ってるならその時点であの戯言遣いは諦める。どの時点かは知らねーけどいーたんは気付いてたぜ?
七つ、散々『演技』やら『偽物』やらって展開をやってたのは、全部アタシの為のお膳立てだよな。ま、これは物語が気ぃ利かせたんだろ。
八つ、ってな訳で小唄ばーさす真心は天丼の前振りだ。
九つ、強さの尺度なんか必要ねーんだよ。最強は測れないから最強だ。
十。あー、まだ有るんだが、この辺で終わっとくか。赤音ちゃん。アンタの一番の間違いはな」

軛回し。完璧に見えた成り替わりは、しかし人類最強の手でいとも容易くメッキを剥がされる。

「ヒーローが正義を間違えたりするかよ」

正義の味方。
「貴女は、貴女だけは正義を間違えないと思っていましたから。どうやらぼくの買い被りだったようでほっとしていますよ。哀川潤も、人の子だったんだな、なんて。変な話ですけど」。
きっと、あの時点で戯言遣いは気付いていたに違いない。
この人を見ていれば分かる。買い被るなんて真似、出来るものか。



350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 22:05:22.81 ID:18dJQqDo0
「ま、それでもいーたんには感謝だな。おっと、キョン。お前にも感謝しとくぜ。お蔭で願ってもない強敵に出会えたんだからな。
『げらげらげらげらげら! って訳でアタシのそっくりさん。どうも青少年達は忙しいらしいからピンチヒッターって事でおめーの相手はこのアタシだ。人類最強ばーさす人類最強。げらげら! これって戯言じゃね!? 生きてるのもそうつまんねー訳じゃねえな』!」

ニヤリと笑う、口調は言うまでも無く、その笑顔まで人類最終にそっくりだ。

「いーたんの友達はこれだから辞められねえ」

……傑作だ。そう言う以外にこの状況を何と言ったら良い?
同じシーン。リフレイン。だってのに、なんでこうも感動するんだろうか。

「あー、そこのかわいーお嬢ちゃんズ。取り敢えずこの状況はアタシが何とかしてやるから治療に専念してろ。心配すんな。お嬢ちゃん達のかわいーかわいー目に入れても痛くないキョンも、お嬢ちゃん達にも、もう指一本触れさせねえよ」

戯言遣いと同じ、力有る言葉。何の根拠も無くったって、それでも何の不安も無く信じてしまえる魔法の言葉。

「アタシを誰だと思っていやがる」

人類最強の請負人、哀川潤!

「アタシが出て来たって事は、もうこの話のフィナーレは始まってやがるんだよ。勿論、ハッピーエンドだ。誰一人、欠けさせない。……お前もだぜ、赤音ちゃん」

人類最強の姿が消える。次の瞬間、赤い偽物は地面に一本背負いで叩き付けられていた。

「……がっ!! はっ!?」

「全部纏めて面倒事は背負い込んでやるよ。それがアタシに出来る事で、アタシにしか出来ない事だかんな」

偽物とは言え、あの長門を追い詰めた彼女が反応すら出来ない。……だけど、人間とは思えない人類最強の、その口振りは俺が知っている誰よりも人間らしさに溢れていた。



352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 22:24:06.72 ID:18dJQqDo0
「なぜ……哀川潤は完全に模倣(トレース)していた筈だ!」

襟首を掴まれて無理矢理に引きずり起こされた園山赤音が訴える。その叫びに哀川潤は鼻を鳴らした。

「赤音ちゃんがどの時点でのアタシをベースに改造されたのかは知らねえけどよ。常に自分を超えるからこその最強(アタシ)だろ?」

言って、投げる。偽ライダーはビルの壁に、そりゃもう漫画みたいに叩き付けられた。コンクリの壁に罅が入るとか、俺の知らん間に建設基準法はやけに緩くなったモンだとか現実染みた方向に逃げる思考回路は、どこまで行っても俺は一般人の枠から抜け出せんらしい。

「おいおい、赤音ちゃん。突然の本物登場に驚くのは物真似番組くらいにしといてくれよな。アタシがそんなに弱かったとあっちゃ、幾ら優しいアタシでも終いにゃ怒るぞ、このヤロウ」

くいくい、と掌を内向きにして挑発のハンドサイン。だが、一向に園山赤音は起き上がっちゃこない。

「……おんやあ?」

おんやあ、じゃねえよ。何を期待してるのかは分かるが、地震速報のテロップが出そうな攻撃を二連発で噛ましておいてそれでも起き上がってくるような構造に人体はなってないっつーの。

「いや、そう見せ掛けてアタシが油断した所を反撃っ……って、おい、マジか? おーい、赤音ちゃーん? 潤ちゃーん? おはよー。朝だぜー? この寝坊助は……起きないとそのかわいー寝顔にちゅーしちゃうぞ?
って……流石に自分の顔にちゅーする趣味は無いなー。おい、キョン。お前一発その女にキスしろ。アタシが許す」

「え? 俺!?」

指一本触れさせない、って約束はどこ行ったのか小一時間ほど問い詰めたい。



396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/24(木) 15:31:56.76 ID:T1FRWwfm0
「躊躇する事も無えだろ。赤音ちゃんとはもう、一回キスしてんだからよ。それとも何だ? アタシの顔にキスするのが嫌だとでも言いたいのか? ああん?」

……こ、この人、中身が偽者と丸っきり一緒だ! 完全無欠にヤンキーじゃねえか!
しかもバージョンアップだか何だか知らんが、威圧感が増している分、余計にタチが悪い!

「い、いえ、そんな事は……」

救いを求めるように朝倉と長門を見るも、朝倉は長門の治療に必死だし、長門は状態が状態だ。助けなんて頼める訳が無い。

「で、でもですね。その、園山さん、ですか? 俺が近寄って行ったら、それこそ鴨が葱背負ってトコトコ歩いていってるようにしか……」

「馬っ鹿じゃねえの? それがアタシの狙いじゃん。これを好機と立ち上がってくれたら万々歳ってな? まあ、安心しろよ。ピーチ姫はどんだけクッパに攫われても五体満足だったしよお」

ああ、そう言や確かにクッパは一度としてピーチ姫を盾として使った事は無かったな。ああ見えて案外紳士的なヤツなのかも分からんぞ……と、いやいや、それが何の関係が有るってんだ。

「そもそも、キョン。お前が葱背負ってても萌えねえよ。ツインテールにして出直して来い」

「まさかのボーカロイドですか! 哀川さん、アンタどこまでネタが広いんです!?」

大体、俺がツインテールで踊った所でどこの誰が得をするのか。芸人で言えば出オチも良い所。一発屋で後は地方のドサ周りが関の山。
せめてマフラーを巻いた長兄扱いでお願いします、とかそんな事を言い出そうとした俺を遮るように人類最強は言った。

「潤だ」

「え?」

「上の名で呼ぶな。下の名で呼べ。アタシを上の名で呼ぶのは敵だけだ」

髪をかき上げながら、言う赤い彼女はその凛とした立ち姿も相まってちょいと神々しいくらいに俺の目には映った。ハルヒが神様だってのは信じられないが、この人が神様だって言われたら信じないまでも疑っちまいそうにはなりそうだ。

「お前はもう、アタシの身内だよ。安心しろ。言ったはずだぜ? 指一本触れさせねえ、ってな。お前を人質に取ろうと立ち上がった瞬間には、その横っ面にアタシの拳が減り込んでるっつーの」



397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/24(木) 15:58:46.91 ID:T1FRWwfm0
どうやら断れる流れではないらしい。断ってしまえばその瞬間に園山さんの唇目掛けて顔からダイブさせられそうな勢いすら感じ取れる。
……やれやれ。サッカーボールが友達の誰やらよろしくの顔面ブロックは願い下げだ。
まあ? そりゃ、俺だって高校生の端くれ、キスという行為に幻想を抱いていなかったと言ってしまえば嘘になる。そういう意味での躊躇いだって無くは無い。無いが……これがアレか。今、流行の「幻想殺し」ってヤツか。

「良いぜ……お前が口腔粘膜の接触行為に恋愛的な妄想を膨らませてるって言うんなら……先ずはその、ふざけた幻想をぶち殺す!」

「人の思考を読むのがホント上手いよなあ、チクショウ!」

サトラレか! よく有る妄想よろしくに「実は自分の考えてる事は周囲に駄々漏れだった」とか考えた事が俺にも一度や二度有るが、その頭の悪い空想もここまで読心術に長けている人が実在していては笑えない!

「お前、もしかして主人公にプライバシとか有ると……思ってんのか?」

「演技だと分かっちゃいるけど、そんな絶望的な事を真顔で言わないで欲しかった! 後、俺は主人公でもなんでもねえ! ごく普通の男子高校生ですよ!?」

分を知る、という言葉の体現者。それが俺のパーソナリティだと今日だけは言い切ってしまおう。うむ。
楽しい会話の所為も過分に含まれているだろうが、どうにも偽人類最強へと一歩が踏み出せない俺へと歩み寄りながら哀か、違った、潤さんは分かってねえなあ、と呟いた。

「人は誰だって、自分という物語の主人公なんだぜ?」

「格好良い台詞だけど! やらせようとしてる行為が行為だから台無しでした!」

「これはお前だけの物語だ」

「マジ格好良いのに! なのに!!」

「あ、それ。きーす! きーす!」

「どこの合コンノリですか! そんなん言われたら余計にやりづらくなるって事を世の中の大学生達に声を大にして伝えたい!」

「キョン君の、ちょっと良いトコ見てみたいっ」

「一気飲み、ダメ、絶対!」

そうツッコミを入れた、次の瞬間に俺の体は宙を舞っていた。何を言っているか分からないと思うが、俺だって分からないのでこれはもう、どうしようもない。こっちに歩いてきていた人類最強の姿が消えたと思ったら横っ飛びである。
勿論、俺の意思では無いし、これがもしも自力なのだとしたら人類は飛行機なんてモノに頼らなくとも空を飛べていた事になる。以上、外的要因による低空飛行な訳で証明終了。

「なんで俺、飛んでんだよおおっっ!!」

「飛べないキョンは、只の鹿だ」

追走する笑い声。ああ、間違いない。これは顔面ブロックの執行だ。



399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/24(木) 16:23:58.32 ID:T1FRWwfm0
「……酷い目に遭いました」

結論から言えば、思惑通りに起き上がってきた園山さんに対して人類最強の光り輝く右拳、通称[禁則事項です]が炸裂して終了。ちなみに滑空していた俺は左手で足首を纏めて捕まれての人間バット状態であった事はここに記載しておく必要があるだろう。

「まあ、いいじゃねえか。生きてるんだしよお。しっかし、『今の』アタシの本気を三回か。そこそこストレス解消にはなったぜ」

「あれで『そこそこ』!?」

「こそこそ抜いちゃいたんだが……しっかし、コンクリってのは脆くていけねえなー」

阪神大震災以降、日本の建造物の強度基準はかなり上がっている事は俺だって知っちゃいたが。つまり、この人類最強を自負する彼女は少なくともマグニチュードで表記すべき腕力を持っている事になり……に、人間じゃねえ。

「いや、壊してたのはそこここの悪の秘密結社だけどな?」

「そこここに秘密結社が有るとか知りたくなかった!」

「自慢じゃないが、アタシが足を踏み入れた建物は軒並み崩壊するという伝統が有る。まあ、芸術は爆発だし良いんじゃね?」

嫌な伝統芸能も有ったものだと思う。それが確かならこの人、宿無しなんだが……まあ、深くはツッコむまい。俺だって聞きたくないし。
君子危うきに近寄らず。まあ、SOS団なんて集団に所属している俺が言っても説得力は皆無なんだけどさあ。

「っと。さて、ここはこれで終わったな。ほんじゃ、次。どこ行くよ、キョン?」

哀……潤さんの一言で我に帰る。楽しい会話パートをいつまでも続けてはいられないんだったか。ああ、そうだな。次は……当然、ハルヒの所だ。
きっとそこには全ての元凶、あの狐面も居るだろう。とうとうやってきましたのラスボス戦。意識せず、体が震えるのを抑えられない。
武者震いか、恐怖からくる震えか。前者って事にしておく。
……男の子には格好を付けなきゃならん時ってのが有るんだよ。

「んー、いや、そりゃちょっとマズいんじゃねえの? お前が逸(ハヤ)るのも分かるけどよ」

人類最強は言葉を続ける。

「いーたんと古泉だっけ? あのイケ好かねえ美少年。アイツらそろそろピンチってる気がすんだけどなー」



401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/24(木) 16:49:59.92 ID:T1FRWwfm0
時計を見て青ざめる。マイナスする事の三時間半は……あの時間。時計を見て、朝比奈さんに時間移動をお願いした「あの」時間!

「やっちまった!」

匂宮五人衆に橘、佐々木。でもって偽人類最強と。予想以上に時間を食っちまっていたらしい。桃太郎だか金太郎だか御伽噺の名前が付いた時間に関する物理学用語が、ここでも俺に立ちはだかりやがった。
楽しい時間は流れるのが早い。楽しかった展開は一度として無いのだが、だからと言ってそれを理由に時間を巻き戻す事も朝比奈さんがいない以上出来やしない。

「なあに、いーたんがあっちに居る以上『間に合う』だろ。戯言遣いの時間稼ぎテクにだけはアタシだって勝てねえさ。昔なら違っただろうが。今のアイツはアタシに並び立てるよ。保証する」

「……それでも、ハルヒを助けてからじゃ」

「遅いな。二者択一だ。どちらを助ける? ハルヒちゃんか? いーたんと古泉君か?」

哀川潤は目を細める。それはまるで俺を値踏みしているような眼で。
俺は……どっちを? どっちかしか、なんて理不尽な選択。でも、それが現実。現実ってのは往々にして理不尽だ。理不尽だから、現実なんだ。
例えばこれがアドベンチャーゲームなら。ここでセーブして選択肢を選んでルート分岐。ハルヒエンドを見た後にデータロードで選ばなかった選択肢も補完なんて事も出来るんだろうさ。
だけど、それは出来ない。
選択は一度きり。平行世界(パラレルワールド)になんて生きちゃいないんだ、俺たちは。だから後悔して、だから悔いが無いように生きようとする。選択肢を前にして悩み、進んでいける。
ハルヒ……古泉……どっちも大切なSOS団の団員で。俺の親友で。俺の日常を形成するのに決して欠けちゃならないヤツら。
どちらかなんて選べないのに、残酷な現実は見るも無残に突き付ける。
どちらにするよ、俺? なんて具合にさ。右耳と左耳の辺りで天使と悪魔がぶんぶんと回ってやがる。



403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/24(木) 17:07:08.44 ID:T1FRWwfm0
「悩み込んでる時間は無いぜ?」

赤い彼女の言う通り。正直、悩んでる時間すら惜しい。ってのに、俺は二の足を踏んでる。どっちに足を向けようかが分からない所為で。
潤さんは大泥棒対人類最終の過程を知っていた。ならば、俺たちがモノクロブラザーズと出会ったのはその後だ。つまり、今の時間帯だってのは時計を見なくても分かった筈で。
くっそ、馬鹿な会話なんてしてる暇は一秒だって無かったってのに!
……え?
……だよな?
…………だったら、なぜ人類最強はあんな話をした?
一番納得の行く解は……時間稼ぎ? そんな? なんで?
俺から悩む時間を奪いたかった? この二者択一に俺を追い込みたかった? そんな事をしてこの人に何の得が有る?
そんな事をして……俺に何を……望んでるんだ?
思い返せ、人類最強はどんな人だった?
「人は誰だって、自分という物語の主人公なんだぜ?」。
思い起こせ、赤い彼女は一体どういう役どころで出て来た?
「これはお前だけの物語だ」。
思い出せ、哀川潤は俺に何を言っていた?
「ヒーローが正義を間違えたりするかよ」。
ハルヒを見捨てるのも、いーさんと古泉を見捨てるのも、そんなのは正義の味方のやる事じゃ絶対に無い。
ああ、覚悟は決まった。そうだよな。それが一番、かっこいいよな!
一番、最高で王道な展開ってヤツだよなあ。
心は決まった。腹は括った。覚悟は据えた。
……そして俺は哀川潤、正義の味方を真っ向から見据える。臆せず、怯まず。一人と一人として。

「良い顔してんじゃねえか。決まったかよ、キョン……いや、こう呼ぶべきじゃないな。その眼に敬意を払ってプレーヤらしく呼んでやるよ。どうすんだ、『裏も表も(センスオブワンダラー)』?」

「……決まってるじゃないですか、人類最強」

底抜けに、心の底から、戯言を。

「選択肢が有るなら『裏も表も』選びますよ。それが、俺だから。それが、SOS団のやり方ですから」



404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/24(木) 17:27:11.64 ID:T1FRWwfm0
サンタクロースなんて赤服爺さんを信じるのを止めたのはいつの頃だ?。
宇宙人なんて居る訳ないし。
未来人なんて以ての外。
超能力者とか口にするのも恥ずかしいよな。
そう思っていた。そんな俺に降り注いだ奇跡。
宇宙人だって、未来人だって、超能力者だって、居たんだよ。居たんだ!
ハルヒの力が有ったから? いや、そのハルヒの力ってのが現実に有る事がそもそものファンタスティック!
だったらさ。居ても良いんじゃねえか?
只の高校生で。只の高校生なのに。
まるで物語のみたいにだ。ソイツが世界を守る正義の味方になるような現実も。
俺には――世界を殺す事も。
   ――世界を壊す事も。
   ――世界を終わらせる事も出来っこない。
だけど。
   ――世界を救う事は出来る。
分かったよ。シナリオ通りだろ。踊ってやるから、最高の舞台を用意しておけ、請負人!

「決めたぜ」

今晩だけは、世界の中心、物語の主人公は他の誰でもないんだろ。

「俺は」

SOS団を救うのは、SOS団でしか有り得ないんなら。
動けない長門、無事を祈る朝比奈さん、必死に戦っている古泉に代わって。

「俺は正義の味方になってやる」

ヒーローにだって、なってみせるさ。



407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/24(木) 17:46:29.66 ID:T1FRWwfm0
振り返る。そして叫んだ。

「長門! 朝倉! 動けるか!」

「ごめんなさい、天蓋領域による負荷が有ってもう少し掛かりそう」

朝倉が眉をへの字に曲げて見るからに申し訳なさそうな顔をするが、元々長門の傷は俺を庇ってのものだし俺に何かを言える権利は無い。
そして、ここでコイツらに頼るのもきっと正義の味方としちゃ失格だ。

「分かった。なら、傷が治ってから俺の所へ来てくれ。潤さん!」

正義の味方は、一人じゃない。

「あいよ」

「古泉といーさんをお願いします」

赤い彼女は俺の意図をその一言で理解した。違うな。最初からこうなる事は予想済みだったんだ。
だから、ただ一言。

「請け負った」

言って右腕を掲げる人類最強。その手のひら目掛けて俺は思いっきり腕を振り抜いた。
夜の静寂を切り裂くような、小気味の良い音を響かせるハイタッチ。

「なるべく早い援軍、期待してますよ?」

それを最後に駆け出す体。迷いなんて振り切って。戸惑いなんて有りはしない。左足も右足も軽い。加速に次ぐ加速。
アイツの所へ続く道。これじゃあまるであの十二月のリフレイン。だけど構うものかよ。
ああ、もう一度言ってやる。だけど、なんてこったとはもう言わないぜ?

俺は、涼宮ハルヒに会いたかった。



409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/24(木) 18:27:02.73 ID:T1FRWwfm0
ファミレスへ向かう最後の曲がり角は勢い余っての人間ドリフト。ビル壁が視界を左から右へ流れる。最後の直線で、俺は見慣れた後姿を見つけた。薄緑に青いラインが入ったあのコートは、間違いない。
ふらふらと、何を一人でこんな夜中に出歩いてやがるんだ、アイツはよ!
ようやく、ようやく見つけたぜ! ああ、三ヶ月近く会ってなかったような気さえするね!

「ハルヒ!!」

その小さな背中へと吼えた声は、届かなかった訳が無いんだ。距離は有っても肺を振り絞ったんだからな。目算で百メートル弱。音速なら三分の一秒。それくらいは残るだけの声量だ。
だってのに、ハルヒは振り向きさえしない。嫌な予感がガンガン俺の頭で警報を鳴らしてやがるが、しっかしそれくらいで俺の足は止まらない。

「テメエ、何、シカトしてやがるんだ、この野郎!!」

二度目の呼び掛けも反応無し。何だってんだよ、クソッ。まあいい。だったら追いついて肩を揺すってやるまでだ。
ファミレスからの明かりにハルヒが照らされる。中に入られたら面倒か? 西東天が店内に居るのは想像に難くない。だったら、その手前でタッチダウンだ。このスピードなら余裕は十分。なんせ、ハルヒまで後三十メートル。全力疾走すりゃお釣りが来るぜ。
ラスボス戦を回避出来るなら、それでいい。別に争う必要なんざこっちには無いんだ。人類最強には同じ事を繰り返さないってポリシーが有るんだったか? なら、これでゲームオーバだ。
ハルヒを狙っても、それは俺たちSOS団が居る限り決して上手くはいかないって事くらい、ハルヒについて調べてる時点で分からなかったか、狐面!
手を伸ばす。その背中は眼と鼻の先。コートの襟首を掴んで引っこ抜く。後で何を言われようが知った事か! 緊急事態って事で勘弁して……は貰えんだろうが、喫茶店での奢りが増えたら領収書切って古泉のところに請求を回してやる。
その時だった。俺の視界に映り込んだのは、いつぞやのクレータ。アスファルト舗装にそこだけくっきりしっかりはっきりと有る異常の欠片。
一瞬だった。それを見てゾクリと背筋に寒気が走って。そして立て続けに掛けられた声は俺の足に急ブレーキを掛けさせるのに十分な重圧を伴っていた。

「感動の再会には、少し早いのう」

背後! でも、どこから!? 俺はこの直線を走ってきたんだぜ? 人影なんてハルヒ以外には無かったのに!

「若さ故の焦りか。羨ましい事じゃ。だが……だからこそ、急いては事を仕損じるという言葉を教えるのは……西東の配役はやはり最悪よ」



413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/24(木) 18:57:58.38 ID:T1FRWwfm0
振り返るか、ハルヒに走り寄ってゲーム終了か。逡巡は……一秒も無かったと思う。

「やれやれ……一筋縄じゃいかない、ってかい」

背後でカランカランと来客を告げるベルの音。後ろ髪を引かれる、ってのはまさにこの事を言うんだろうね。だが。
ここで謎の男に背を向けてハルヒの目の前で俺が殺されたらそれこそ人類最悪のシナリオ通り。ハルヒは世界を壊すだろう事くらい俺にだって想像が付くさ。そいつは流石に願い下げだ。
ラスボスの前に中ボスが現れるのはRPGの常識で。ルート変更は利かない、ってんだろうな。

「どうにも参ったね。今夜の俺は引く手数多らしい」

がんとして睨み付ける。大丈夫だ。人類最強ほどのプレッシャも、顔面刺青ほどの殺気も感じられない。こうやって対峙していても、口も開けば指先だって神経が通ってる。
ソイツは壮年の男だった。狐面のような着流しではない、もう少し厚手というかしっかりとした着物を着て……和装なのは共通項か。外見からすると年は四十過ぎ。まさか五十を越えちゃいないだろう。
先ほどの口ぶりから察するに西東天とは旧知なんだろう。だったら二人は同い年くらいか? だが、一方はお面をしてるせいで断言は難しいな。

「そう迷惑そうな口を叩くでないわ。興醒めなのはむしろこちらよ。てっきり西東の娘が相手で呼ばれたかと思えば……こんな小倅とはな。生涯無敗も舐められたものじゃ」

人類最悪の娘……潤さんの事か!? おいおい、このおっさん、人類最強と勝負出来るようなヤツなのかよ……そんな風には見えないが、しかしそれはたしかにちょいと俺には荷が重いんじゃないかい?

「おっと、名乗りじゃったの。……西東め。興が過ぎるわ」

潤さんレベルって、中ボスに持ってくるにはハードルが高過ぎるだろ。なんて心の中でボヤいてもどうにもならないのは分かってる。
だから、代わりに再度腹を括り直した。
俺は、正義の味方だ。
正義の味方は、決して負けない。

「十三銃士、第三席。『結晶皇帝(クリスタルカイザー)』、六何我樹丸じゃ。呼びにくければ、こう呼ぶがいい。我こそが」

正義は勝つ。

「生涯無敗」



415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/24(木) 19:36:43.37 ID:T1FRWwfm0
生涯無敗。負けた事が無いという意味。その意味の意味。
例えば大泥棒は全てを盗んでみせた。
例えば人類最強は誰よりも強かった。
例えば人類最終は人間として突き詰め切ったスペックを持っていた。
例えば戯言遣いは誰よりも戯言を弄するのが上手く。
例えば人類最悪はやる事成す事最悪だったように。
名は体を表すのならば。生涯無敗は、恐らく俺の予想だが「負けない」。そういう個性みたいなモノを持っているんだろう。
コイツは厄介だ。なんせ人類最強は最強であって負けない訳じゃないんだろう。強い事は勝敗とは無関係だ。そう考えれば六何我樹丸の発言も頷ける。
潤さんの相手として呼ばれた、ってのは言葉を額面通りに受け取れば嘘とも思えない。

「見逃してくれ、なんてのは通らないんだろうな、やっぱり」

「ならんのう。西東とは縁が有る。切っても切れそうにない腐れ縁よ」

「あんなヤツに義理立てする必要は無いと思うぜ。俺が保証する。あのおっさんは最悪だ」

「言われずとも、あの男に関してはよく知っておる。最悪よ。だが、最悪故に敵は多い。童(ワッパ)、生涯無敗の人生というのは空しいものでのう。敵が欲しいのじゃ。そして、敵を見繕ってくるという意味合いにおいて、アレを凌ぐ才能は無い」

それも褒め言葉のように聞こえて、その実、馬鹿にしてるよな。

「とは言え、戦う前から勝つ事など分かっている。勝負の場が整った時点で、相手は負けておるという不動の法則故の生涯無敗。……哀川潤くらいよ、この六何我樹丸を相手取り良い勝負に持ち込んだのは」

……なるほどな。それが人類最悪の主催する十三銃士にこの人が加わった理由か。
人類最強との再戦。本当に、結晶皇帝の敵とすら俺は認識して貰えてないんだろうよ。正しく眼中に無いんだ、俺なんか。
だけど。

「潤さん……人類最強の請負人はアンタに負けなかったんじゃないか? 決着は付いてない。そうだろ、生涯無敗?」

「なぜ、そう思うのじゃ?」

「だってよ」

理由なんか聞くまでもないだろ。そいつは子供だって知ってるぜ。かく言う俺も子供の頃には戦隊モノは欠かさず見てた口だ。
だから、刷り込まれてる。魂だか心臓だかに刻まれてるんだ。たった一つの甘っちょろい幻想。

「正義は必ず勝つからな」

格言は、裏切らない。覆らないから、格言だ。



417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/24(木) 20:05:50.02 ID:T1FRWwfm0
「正義……正義か。青い。未熟な果実が口走りそうな台詞よ。教えてやろう。この世の中では勝った者が正義と呼ばれる。だから正義は勝つ。その言葉の真意は真逆。勝つから、正義じゃ」

生涯無敗は言って笑う。だけど、本当にそうか? いやいや、言ってる事は尤もだ。勝てば官軍、なんて言葉も有るくらいだしな。そういう大人のルールは俺みたいなガキでも知っている。
だけど。

「正義などという言葉、それ自体が戯言よ」

戯言じゃ、ない。
俺だって、戯言だと思っていた事が沢山有る。「宇宙人、未来人、超能力者、異世界人が居たらアタシのところまで来なさい! 以上!」、なんて古今無双の自己紹介を聞かされた時、俺だって百パーセントで戯言だと思ったさ。
だけど、その百パーセントは千パーセントのハルヒパワーでもって綺麗に一本背負いされたんだ。
子供の幻想は、戯言なんて言えない。言わせねえぞ、生涯無敗。

「だったら、なんでアンタは正義って名乗らないんだよ」

負けた事が無いんなら。

「必ず勝つ事が正義の前提条件なら、生涯無敗なんてのは正義も良い所だ。正義そのものだ。だけど、アンタは人類最悪の側に付いてる。この事から六何我樹丸が正義でないのは確定だ」

「何が言いたい……若人」

「恐れ多くも若輩がアンタの考え違いを正してやるとな。必ず勝つから正義、じゃねえんだよ。逆にすんな。正義を、謀(タバカ)るな。『生涯無敗』なんて初めて聞いたような言葉で『正義は勝つ』って昔から有る真言を引っ繰り返せる訳無いだろうが」

法則と格言。
ルールとワード。
どっちが上かなんざ知らないが、それでも俺は信じるね。子供の頃から信じてたんだ。今更宗旨替えなんか出来るかよ。

「ずっと待ってたんだろ? 生涯無敗は敗北を知りたいんだろ? ようやくアンタの前に出て来たんだ。興醒めだとか言わないでくれよ。六何我樹丸。アンタに土を付けるのは正義以外には有り得ない」

「ふん、よく吼えるわ……正しいなどという曖昧な言葉に酔っている子供に、何が出来る?」

正しい。正しくない。正しいと正しいがぶつかり合うのもよくある事。だけど、正義と正義じゃないものがぶつかり合えば、その勝敗は火を見るよりも明らかだ。

「アンタに勝てる」

即席のヒーローはそう、断言した。



419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/24(木) 20:30:29.82 ID:T1FRWwfm0
その瞬間、男は笑った。ああ、アンタにしてみたら子供向け日曜朝八時からのテレビ番組を見てるような気分なんだろう。だけどな、真剣にヒーローの安否を固唾を飲んで見守っている子供を笑うなんざ、大人の風上にもおけないぜ。

「生涯無敗を相手に、あの哀川潤にすら負けを認めさせたこの六何我樹丸を前にして、こうも吼えおる! 面白い……面白いのう。良いじゃろう、正義の味方。退屈しておるのも、敗北を味わってみたいのも真実じゃ」

生憎、負けっぱなしの俺にはその気持ちは分かってやれそうに無いね。だから、勝つ。
ここでだけは負けなんて、正直ゴメンだ。
ハルヒは、俺たちの日常は手が届きそうなほど、もうすぐそこまで迫ってるんだからさ。

「では、勝負といこうではないか。ルールはそちらで決めさせてやろう。なに、どのようなルールであろうと勝敗は決まっておる。つまり、勝敗がしっかりと定まっておるルールでさえあれば良い」

ここまで挑発しても尚、自分に得意なルールを持ち出す事すらしないってか。驕り? 慢心? いや、余裕だろうな。
だが、好都合だ。訳の分からん勝負をされても困るし、こちらでルールを決められるって事は少なくとも肉弾戦は回避出来るんだ。直接的な喧嘩であっても、多分だがこのおっさんは相当強いんだろう。対しての俺はからっきしだ。それを封じれたのは大きい。

「それは例えばじゃんけんなんかでも良いのかよ?」

「構わん。ただし、『勝ったら負けよ』などと言い出した場合は相応の事をするが」

……第一案、没。我ながら浅はか過ぎただろうか。
勝ったら負け、というルールなら先ず勝つ事が前提だから、逆に勝てるかと思ったが、やっぱりそういうダブルバインドは反則技らしい。

「手首から先を落とせば、勝負放棄が成立しよう?」

何、物騒な事考えてやがるんだ、このおっさん!



421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/24(木) 20:57:28.76 ID:T1FRWwfm0
冗談でも何でもない。本気でコイツは言っている。「彼ら」はそういうのが当たり前の世界の人間で、本来、俺が交わる事も無かった類の人種だ。こっち側の常識はすべからく非常識で、あっち側のかすり傷はこっち側で言う致命傷。
そういう相手。

「なんて顔じゃ。手首程度斬り落とされる覚悟も無しに先ほどの啖呵を切ったのだとしたら……相手にもならん。どこへなりと去(イ)ね」

そうだよ。何を俺はビビってやがる。
ハルヒを取り返すんだろうが。
SOS団を取り戻すんだろうが!
長門は体を張って俺を庇ってくれた。胸に大穴を空けてまでだ。
古泉は背後に居る俺たちを守るために、殺人鬼を相手に大立ち回りをやってのけ、挙句の果てに拳銃まで躊躇無く発砲する覚悟。
朝比奈さんだってそうだ。時間移動ってのがどんだけ大事なのかくらい俺にだって分かる。歴史を変えちまう危険性はドラえもんで学習済み。下手をすればタイムマシンを凍結されて現在に取り残されないってのに。
俺だけが、守られて。
俺だけが、命を賭ける事を躊躇ってたんじゃ格好悪いにも程が有る。

「去らねえよ」

俺を誰だと思っていやがる。

「SOS団、雑用係! 世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの団、団員その一!!」

両の手のひらでもって顔をぶっ叩く。気合入れろ、俺。ここで奮わないでお前はアイツらの隣で笑ってられんのか?
否! 断じて否だ!

「生涯無敗だかなんだか知らんが、こっちはそんなモンよりよっぽど非常識なヤツらと日常を送ってんだ」

こんな所で尻尾を巻いたら、一生ハルヒに顔向け出来ん。そんなのは、嫌だ!

「アンタなんか怖くも何とも無い! 勝負だ、六何我樹丸! 勝負方法は!」

右拳を前に出す。握り込む指先には知らず力が入って、もう広げられそうになんてないな。構うものかよ。

「『じゃんけん』!!」



422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/24(木) 21:25:20.65 ID:T1FRWwfm0
我ながら阿呆な決闘方法を選んだものだと思う。だが、シンプルイズベスト。こういうのはごく簡単に勝負がつくものがいい。

「勝負は一回。三回勝負の二回先取だとどっかのスタンド使いと被るからな!」

そもそも俺にじゃんけん程度で話を引っ張れるだけの才能は無いし。

「ふむ、余程右手に未練が無いと見えるが……左利きかの?」

はい、そこっ! 人の手首を斬り落とす前提で話を進めないっ! それに俺は右利きだ。右手が恋人暦十七年の超ベテランだっつーの。コートのポケットに入れっ放しの左手じゃ上手く出来ねえよ。
……なんでもない。只の妄言だ。忘れろ。忘れて下さい、オネガイシマス。

「『勝ったら負けよ』とか言わないから安心してくれ。『出したら負けよ』も『ぐーちょきぱーぴすとる』も無しだ。『最初はぐー、じゃんけんぽん』の掛け声と共に手を相手に見せ付けて、その形で勝敗を決する極普通の、シンプルなゲームだよ。おーけい?」

「……捻りが無いが本当にそのルールで良いのか? 先に言っておくが、生涯無敗は当然じゃんけんにおいてすらじゃ。負けた事は無い。そのルールで勝負の場に立つ時点で童の負けは揺るがぬぞ」

言われるまでもない。敵の曲してこっちの心配とかしてんじゃねえ。実は良いヤツだったとか後付の設定にまで構っていられないんだよ、こっちは。

「つまり結晶皇帝の土俵の内って事だろ。そこでアンタを負かすから面白いんじゃねえか。アンタだって知らんルールで勝手に負かされても負けを認めらんねえだろ? だったら、願ったりのはずだ」

虚勢だってのは誰よりも俺自身が一番分かってる。左手に握り締めているのは……携帯電話はお守りじゃねえだろ、俺。ああ、さよならメールでも打っておくか? 縁起でもない。
……送信相手に一番最初に思い浮かべたのがアイツなのは……まあ、生きて会えばいいだろ。そうさ。俺は負けないんだから。



428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/24(木) 21:51:00.22 ID:T1FRWwfm0
「あー、そう言やさ。俺、この勝ち負けに何が賭かってるか確認してないんだが」

「……小童が勝った場合は何でも言う事を聞いてやろう」

あくまでも態度を崩さない、上から目線をありがとうよ。ま、負けた事が無いんだもんな。なら、負けた時の事なんか考えないだろうよ。それで、当然だ。それでこそ生涯無敗だぜ、六何我樹丸。

「だったら俺からの要求は一つだ。この一件から手を退いてくれ。それだけでいい。難しい要求じゃないから飲めない相談だ、なんて言わないでくれよ?」

「良いじゃろう。そもそも、そのつもりじゃからな。敗北さえ知れば西東に義理立てする理由も無い」

おうおう、薄情だな。旧知の仲ではあっても、まあ、相手があの人類最悪なら仕方が無い事なんだろうが。本当に十三銃士ってのは好き勝手やる集団なんだと再確認。
問題はここからだ。

「では、こちらからの要求といこう」

だよな。負けた場合にペナルティが無いなんて、お気楽極楽なハルヒじゃあるまいし思っちゃいないさ。

「言ってみてくれ」

「……儂の趣味は子作りでな」

いや、趣味の話なんか聞いてねえし……って、は!? 何、言ってんの、このおっさん!? 子作り!? 子作りって、え!? ええっ!?

「神との子供というのに興味が有ったのじゃよ。どう切り出そうかと思っておったが、これは好都合じゃったな」

ちょっと待った! 俺に向かって好都合とか言われても何がどう好都合なのか、俺には文脈が理解出来ません!



435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/24(木) 22:09:23.91 ID:T1FRWwfm0
「儂が勝てばあの小娘を孕ませる事としよう」

……どういう流れなんだ、これ? そういうのが本人の承諾無しに決まっちゃっていいものだったとは初耳だった訳で。呆然とするより他無い俺が居る……。なんだろうな、きっと「花京院の魂が有るじゃないか」って言われた時はこんな気分だったのではないだろうか。

「いや、そんな事を俺に言われたって困る! ハルヒ本人と交渉してくれ!」

「何を慌てる必要が有る? 正義は必ず勝つのじゃろう、正義の味方? ならばここで約束を交わすのに何の問題も無いではないか?」

大問題だろ……これが問題じゃなかったとしたら人権団体なんてきっと世界に存在してないぜ?

「負けるとは思ってないが……」

「ならば頷くだけで良い。ただそれだけで勝負の場は整おうよ」

「他の事でなんとかならないか? ほら、こっちは結構飲み易い要求にしてやっただろ。だってのに、こっちばっかり青汁飲まされちゃ釣り合いが取れてない気がなんとなーくするよな? な?」

俺の問い掛けに「そう言われれば」と同調する生涯無敗。良かった。言葉の通じる相手で本当に良かった……。これが日本語どころかボディランゲージも通用しない地球外生命体相手のファーストコンタクトじゃなくて本当に良かった……。

「ならば、宇宙人相手で……」

「一緒だ、馬鹿野郎!!」

長門相手とか命知らずにも程が有る!! 次は朝比奈さんか!? 他に何か無いのかよ! ランプの魔神だって引くような願い事ばっかしてんじゃねえ! ふざけんな!



437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/24(木) 22:24:28.46 ID:T1FRWwfm0
「ふむ……では、同じ要求をするとしよう。この一件から手を引け、小倅」

結晶皇帝の正当に対価として真っ当な要求。だが、俺は首を振った。そんな条件は、飲めない。

「……ああ、それはそれで出来ない相談だ。俺が生きている限り。だからと言って、その要求はイコール過ぎる。これを飲めなきゃ俺は正義の味方失格だ。そこでだ、六何さんよ」

左手を取り出す。ぐーの形で固まりっ放しの右手とは違って、こっちは俺の意思をよく汲んだ。手首を九十度曲げて手のひらは下向き。ソイツを首筋にすっと線を入れるように動かして。

「俺が負けた場合は、俺を殺せ」

命の一つや二つ、賭けられる覚悟。
そこまでしてでも取り返したい日常がある。取り戻せないなら、死んだも同然。

「良いじゃろう。良い、覚悟じゃ」

「お褒めに預かり光栄だ。なら、これで事前交渉は成立だな。だったら、やろうぜ」

勝負だ、負けた事の無い男。
相手にとって不足無しの過不足無し。正義の味方にゃこれくらい無理なハードルがちょうどいい。そうじゃないと最近のテレビっ子は賢いからな。騙されちゃくれねえと来てる。

「勝負方法は変わらず」

力の入れ過ぎと緊張で、固まったまんま開かない右手でもっての。

「じゃんけんだ」

さあ、正義の味方の本領発揮。



453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/26(土) 17:03:58.03 ID:lWstlW4g0
もしも負ければ。それで正真正銘ゲームオーバな大一番。それがじゃんけんってのはなんとも盛り上がらない話じゃないか。
もっとこう、侍同士の真剣勝負、刹那の斬り合いにて時間差で崩れ落ちるだとか、コインが落ちたら開始の合図な早撃ちガンマンウエスタンムービーみたいなのは……俺の人生には似合わないかも知れないなと自己分析。
世界どころか地球より重いと巷じゃ噂の人命すら安っぽくなっちまってまあ。人権団体が抗議に来てもなんら可笑しくないぜ?
命……命、ねえ。
でも、それってのは別に価値なんて無いのかも知れないな。価値が有るのは命じゃないんだ。命なんて燃やすだけの言わばガソリン。一リットル辺りじゃ所詮は天然水にすら負けるレベル。
大切なのは「そこ」じゃないんだ。
そこに乗っかってる、それで動いてるもの。それにこそ価値が在る。地球だってそうさ。星の数ほど、なんて言われるくらいにゃ星は宇宙に溢れ返ってる。奇跡の星? 違うね。地球の存在が奇跡なんじゃない。
そこに産まれた生命と、意思ってヤツが奇跡さ。そうだろ? つまり、アイツらと共に笑っているあの文芸部室の存在が、奇跡なんだよ。
価値は見出されなけりゃ石ころだ。
命を張っても取り返したいものが有る。そういう覚悟を俺に促してくれた世界。ありがとうよ。ようやく俺もつまらない人間から脱出だ。
一人の人間に搭載出来るだけの価値。センスオブワンダラー。握り締めて。
ぶち起こそうか、奇跡ってヤツをさ。
宇宙の規則。六何我樹丸は「負けない」。だけどさ、知ってるか?
規則と呼ばれるものは何だって、大概「例外の方が多い」ものなのさ。
俺が一度信じるのを諦めて、そしてもう一度信じてみたいと思ったものを、なあ、信じさせてくれよ。
センスオブワンダー。
奇跡の価値は。
きっと宇宙だって塗り替える。
もう一度。
何度だって。
世界を、大いに、盛り上げよう。
舞台は整ってるんだ。後は俺の気持ち次第。だったら。
今だけでもいい。その為だけに、生きてみようじゃないか。



454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/26(土) 17:26:22.54 ID:lWstlW4g0
目を閉じる。信じる。正義は勝つ。

「最初は」

右腕を振り上げる。振り下ろす。

「ぐー!」

また持ち上げる。固まった右手は開かない……事なんて有るか。お前は俺の一部だろ。だったら……だったら開かないなんて言ってんじゃねえ。怯えて縮み上がってるだけじゃ、何も出来ないんだ。

「じゃん!」

何もしない人間には何も報わないってんなら!

「けん!」

抗おうじゃないか、俺の体。心の方はとっくに覚悟決めてんだ。置いてけ堀にはしてやらないぜ。二つ合わさって俺なんだから。
張り裂けそうな心臓は、実は極上のポンプ。ドキドキは過去最大級の血圧だ。なら回せ、体の隅々まで。届けろよ、俺の思いを。
動け、俺の指。
大丈夫だ、安心しろよ。俺は負けない。何のために今まで負けっぱなしだったと思ってる? 負け犬根性が染み付いちまったか? だったらそろそろ反撃開始といこうじゃないか。
ここらが潮時。流され体質に蹴りをつけよう。
俺の人生は誰でもない、俺が切り開くんだ。
尖ってなくても、研いでなくとも。それでも、どんな負け犬にだって牙はちゃんと付いてるんだ。
声帯震わせて。叫べよ。正義はここに有り。
俺は、ここにいる。
生死を分かつ一瞬。脳神経が焼き切れたような頭痛が俺を襲う。だけど、ここで意識を手放す訳にはいかない。こんな事は障害でもなんでもない!
人差し指、中指が開く。正面に突き出す右腕。まるで刀を振り下ろすが如く。

「ぽん!」

未来だって切り開く、渾身の……俺の右手は鋏の形を示していた。



455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/26(土) 17:49:57.56 ID:lWstlW4g0
目を開ける。もしも……もしもこれで生涯無敗がぐーを出していたのだとしたら……。

「……小倅、名前を聞いておこう」

「『裏も表も(センスオブワンダラー)』」

「覚えておく。誇るがいい、この六何我樹丸と対戦した事を」

結晶皇帝は言う。

「俺が出したのはちょきだ。アンタはなんだ、生涯無敗?」

「……ぐー、だ」

「そうかい」

じゃんけんの勝敗は、揺るがない。ちょきとぐーではぐーを出した方が勝つ。そういうルール。

「じゃあ、勝敗は決まってるな」

「見事じゃ、『裏も表も』」

「いやいや、アンタも十分凄いよ。この状況で『認められる』ヤツなんてのは早々居ないさ」

言って、俺は「振り返る」。

「で、結晶皇帝。判定は?」

じゃんけんの勝敗は、揺るがない。ぱーとぐーではぱーを出した方が勝つ。そういうルール。

「貴様の……勝ちじゃ」

生涯無敗、破れたり。

「右手でちょきを出していようとなんだろうと……その右手が『手首から離れていて』は、それを証とは出来んじゃろう。それよりは……掛け声と共に示された『後ろ手で開かれたままの左手』を出目とするのが、筋じゃ」

そう言う、六何我樹丸の顔はまるで憑き物が落ちたように晴れ晴れとしていた。



456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/26(土) 18:06:40.46 ID:lWstlW4g0
「……何をした、『裏も表も』?」

「何をしたって言われてもな……俺にもちょいと頭の中で整理が付いてないと言うか、正直イメージしか無かったからまあ、待ってくれよ」

地面に落ちている右手を左手で拾い上げながら呟く。おーおー、流石宇宙的メルヘン能力。断面から血が出てる訳でもない。CTスキャンでもしたみたいな切り口だぜ。まるで加工でもされたみたいに右腕の方も出血無し。
激痛くらいは覚悟していたんだが、どうも情報操作ってのはそういう常識で考える事それ自体が間違ってるらしい。

「あー、最初に思ったのはさ。勝負の場を整えちまったらその時点で負け、ってアンタの台詞なんだよ。つまり『勝負だ』ってなったらもうどうしようも無いんだよな。それこそ、勝負を台無しにしちまわない限り」

勝負で有れば、負けが無い。そういう前提。

「で、どういう状況が『勝負無し』になるのかを考えた。勝負方法がじゃんけんだったら、あいこが続きまくればそうなるんだろうが、生憎こっちで俺には名案が思い浮かばなかった。いや、逆だな。それよりも良い方法を思い付いたのが先だったんだ」

「良い方法?」

「ああ。反則だけどな。例えば地球の裏側に居る人間とじゃんけんが成り立つか、って話さ。ああ、テレビ電話とかは使わずにだ。じゃんけんってのはお互いがお互いを確認出来る場所に居て、初めて成り立つゲームなんだよ」

どちらかがどちらかの確認出来る場所から消えれば、それは「勝負無し」にならざるを得ない。

「で、だ。例えば俺がコンマ一秒でもいい。この世界から消えたら、それを世界ってヤツは『じゃんけん継続中』と判断するかね?」

なんだったかな……朝倉の説明によるとそれが「瞬間移動」となるのは結果論で、俺の座標軸を一旦非侵食性融合なんたら空間へとズラし、そしてまた現実世界へと復帰させるとか、まあ詳しい話は忘れた。
つまり、俺は一瞬、この世界に存在しないものとして扱われたんだ。

「……なるほどのう」

「ああ。じゃんけんが継続中だと思っていたのは、実際、アンタだけなんだよ。じゃんけんは『ぽん』の掛け声と同時に『勝負無し』に縺れ込んでたって訳さ」



459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/26(土) 18:28:05.01 ID:lWstlW4g0
「宇宙人、とやらの仕業か」

「まあね。後は簡単だ。俺はちょきを出そうとしてた。だったらアンタの出目は自然、ぐーしか有り得ない。どうせ瞬間移動をするんだからアンタに背を向けて、だらしなく開きっぱなしの後ろ手の左を見せ付けてやるだけさ。
ああ、勿論だが、そこで俺の示したのは右手のちょきだろうとか言われないように右の手首から先はちょいと戻ってくる座標をズラしてやる。以上……まだ種明かしが居るかい?」

「いや、十分じゃ」

「さっきも言ったと思うが、俺を含めて瞬間移動をした時点でじゃんけんをしているとは考えちゃいない。だから、勝敗はアンタに委ねるしかないし、そもそも俺は後ろを向いていたんだからとっさに手の形を変えれば『勝利』を言い張れただろうさ」

だけど生涯無敗は負けたがっていた。もしも、負けを認められる状況がそこに転がっていたのならば、きっとこのおっさんはそれを素直に認めただろう。
こればっかりは、賭けだったのだが。

「じゃんけんをノーカウントにしてくれてもいい。勝負は不成立なんだ。だから、アンタはまだ生涯無敗のまんまだよ。ただし『試合に勝って勝負に負けた』じゃないが、これを敗北だと感じるのはアンタの勝手さ」

自分で言いながらも戯言も良い所だった。だけど、勝敗ってのはそういうモンだろ。少年漫画じゃよく使われるぜ? 「まだだ! まだ負けてない!」ってな? 勝ったも負けたも、そんなのは正直、ソイツ自身が決める事なんだよ。

「くくくくっ……くくくっかかかかかかっ!! 愉快じゃ! 愉快で堪らぬわ! 若輩でありながら、この儂の二つ名まで気遣いおるとわ! 負けてない? 勝負無し? いいや、『裏も表も』! ここまでされて認めぬ訳にはいかぬ。勝負ではない。だが、六何我樹丸の揺るがぬ負けよ!!」

おっさんは笑った。笑って、笑って笑い続けた。

「勝敗の判断を儂に委ねる……いや、相手を信じるその心意気! 嘲っておったのが恥ずかしい程よ! 誇るが良い! この『勝負』、貴様の勝ちじゃ!」

……そりゃ、どうも。



463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/26(土) 20:16:46.67 ID:lWstlW4g0
「ふむ……儂は今まで軽んじておった。試合に勝って勝負に負ける、か。聞いてはおったが無縁だと思っておったわ。だが『これ』が『そう』か」

きっと、六何我樹丸は俺とは違って勝ちっぱなしの人生だったんだろう。それがどういう人生だったのか、俺には想像しか出来ないし、想像し切れるものじゃあない。勝負と試合は同じもので、どちらにだって勝ち続けた。
気付けば勝つ事に飽きて、好敵手を探す日々。負ける方法を模索する人生。羨ましい話……とも思えない。

「ああ。俺に課せられたのはさ。勝つ事じゃあ無いんだ。アンタに負けを認められる状況を作ってやる事、だったんだよ。そう思い至ったら、多分アンタならこの三文芝居に乗ってくれるんじゃないか、ってさ」

そう。これは勝負じゃないんだ。どちらかと言えば学芸会。二人の役者で作り出す、過去に類を見ない劇さ。
つまり、探偵と犯人が共犯者っていう古今無双のジャンル。あとはそれっぽく説得してやればいい。それだけの話。

「戯言だろ?」

「いやいや。傑作じゃったよ。『表も裏も』。貴様はあの哀川潤にすら成し得なかった事を、やりおったのだ」

「そんな大層な事はしてねえよ。こんなのはペテンも良い所だ」

「ふん、言いおるわ。だが……もしも生涯無敗がこの敗北を認めなければ、それでも手は残しておったのだろう?」

「そりゃまあな。勝負無しって事になれば、次は鬼ごっこを提案するつもりだった」

良い年をしたおっさんと男子高校生が鬼ごっこをする図、ってのは流石にどうかと思うが。

「鬼ごっこか。それはどのような勝ち方を……いや、聞くまい。今度の楽しみに取っておくとしよう」

「ああ、任せておけよ……って今度!? 今度ってナニ!?」

おい、こんな命がけのペテンをなんで俺は何度も強要されにゃならんのだ。俺は日常を取り戻す為に命を懸けてたんじゃないのか。それが何がどう転んでこんな物騒なおっさんに好かれる羽目になってんだ?
俺の日常を返せ!



464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/26(土) 20:35:04.89 ID:lWstlW4g0
「何、今度はもっと穏やかな掛け金で構わぬ。大厄島へと招待しよう。楽しませてくれた礼じゃ。体面も有る故『生涯一敗』を名乗る事は適わぬが」

別にそんな事は強制してねえって。それに言ったはずだぜ? 少なくとも勝負の上じゃアンタは負けちゃいない、ってな?
大体「生涯一敗」って凄く間抜けな二つ名だし。
戯言なんだよ、戯言。

「歓待は用意させて貰うぞ、『裏も表も』。女子も好きなだけ手配しよう。気に入ったものが居れば持って行っても構わぬ。おお、そうじゃ。それをこちら側の掛け金としよう」

しよう、じゃねえよ。要りませんから勘弁して下さい。と口に出そうとするが浅ましくグビリと鳴る俺の喉はまるで見本のような男子高校生だな。欲望に忠実なのは結構だが、我ながらもう少し自重してくれと言わざるを得ない。

「あーっと……俺、もう行っていいか?」

口に出した、その瞬間に結晶皇帝の目の色が変わる。

「人類最悪は最悪よ。それを知っていながら挑むか、少年」

「大切なモンを取り返さなきゃいけないんでな」

「右手も無しにか?」

「まだ左手が残ってる。ソイツを引っ捕まえるだけなら一本有れば十分だ。勝利の女神には前髪しか無いんだとよ。どんだけアバンギャルドな髪型してやがるんだよと思ってたんだが、握り易いようにだったんだろうな」

「死ぬなよ。再戦を放り出せば、試合放棄で今度は儂の勝ちじゃ。勝ち逃げは、実は余り好かぬ」

俺は笑った。これから俺にどんな死地が待ち受けているのか分からないのに。それでも生涯無敗の冗談は負け無しに面白かった。
このおっさん、戯言遣いの素質が有るんじゃないのか、なんて思うくらいにはさ。



466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/26(土) 20:54:33.85 ID:lWstlW4g0
この一件から手を引くって約束だったからな。結晶皇帝は引き下がった。悔しそうに。出来れば西東相手の手伝いをしたかったが、なんて言ってたがどうもそういうのは契約不履行になるらしい。
約束には律儀なのが六何我樹丸のポリシーらしい。俺としてはそんなポリシーなんざ放り出して手伝ってくれたら嬉しかった。
ま、しかしてこれが現実なんだろう。戦った相手が一人残らず味方になってくれる展開なんて少年漫画じゃないんだから、そう都合の良い事も無いんだろうね。
それに。
ラスボス相手に主人公が一対一なんて展開に燃えないヤツが居るか、って話。
シナリオ通り、なのかねえ。なーんて事を思いながらファミレスのドアを潜る。これで後は……誰だ? えーっと、非選主義者とか言うのが残ってるんだっけ?
この時間なら空間製作者はいーさん達の方に掛かりきりだろうし……いや、案外もうあっちも片付いてる頃かも知れないな。
何にしろ、だ。これでラストダンジョンなのは間違い無い。日本的に言い換えれば本丸。
ああ、長い一日だった。だが、エンドロールは見えたぜ、人類最悪。

「お還りなさいませ、ご主人様」

来店を店員に知らせるベルが鳴る。入り口で俺は佇んでいた。……ここ、ファミレスだよな? ファミレスだったよな、確か?
え? あれ?
目を擦る。ああ、勿論左手でな? 右手はコートのポケットの中だ。後で長門にくっつけてもらおう。……じゃなくてえ。

「あ? あーっと、た、ただいま?」

とっさにそう返す俺だが、これが返答として正しいのかは知らん。仕方ないだろ、メイド喫茶なんて行った事無いんだよ。メイドさんならたまに朝比奈さんがやってくれるけどな!
……そう、メイドさんなんだよ。扉を開けていの一番、俺を受け入れてくれたのはこれでもかってぐらいコテコテな服装のメイドさん。フリルにカチューシャにエプロンで絶対領域っつー、絵に描いたような服装をした、な。
もしかして俺が認識を間違えていただけで、ここはファミレスじゃなくてメイド喫茶だったりしたのか? そう言えば人類最強、じゃなくて園山赤音さんも色こそ違えどメイド服っぽかったな。最近のウェイトレス衣装は日々萌えにシフトしているようで結構な事だ。
……でもさ、メイドさんは足元からキャタピラ音とかさせないような気がするんだよ。

「一命様、Deathか?」

……今この人、非常に物騒な単語を並べたような気がするが。いやいや、俺の気のせいだ。きっと、疲れてるんだ。うん、今日は疲れる出来事がたくさん有ったもんな。仕方ない、仕方ない。



467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/26(土) 21:12:21.38 ID:lWstlW4g0
「では、鬼籍にご案内致します」

「はい、アウト! 今、『鬼籍』って言った! アウト! 超アウト!」

「逝ってらっしゃいませ」

言うが早いかメイドさんは両腕を俺に向けて水平に構える。いや、腕じゃねえ。ガトリング砲(本物なんて初めて見た)を腕って言うようなら、日本語は俺の知らん内に随分と難解になっちまったモンだと嘆いてしまう。
……えーっと、腕の代わりに重火器が付いていて、挙句足元からはキャタピラ音。よくよく見れば顔には何やら螺子が付いてるし、アニメでしか見たことが無いようなカメラアイ。

「……メイドロボ?」

おい、自律型機動兵器とか本気でどうなってやがるんだ、世界。この俺に行く末を心配されるような体たらくで、本当にお前はそれで良いのか?

「由比ヶ浜ぷに子と申します」

「ぷ……ぷに子……」

ネーミングセンスについてツッコミを入れようと思ったが、それよりも生存本能が勝った。背中を走る怖気に身を任せて横っ飛びにダイブ。待合用に置かれていた椅子で横っ腹をしこたまぶつけたが、構っていられない。
一瞬遅れて、爆発音が高橋名人もびっくりの秒間十六連射。割れたドアのガラスが俺の背中に降り注ぐ。コートを貫いたりはしないが……ああ、厚手のヤツ新調しといて助かった!

「ご注文を繰り返します」

「この店は入った人間に戒名を強制注文させるようなシステムだったのかよ!」

ガチリガチリと歯車の音を立ててこちらを向くメイドロボ。無理無理! あんなの相手にするなんて聞いてませんよ、俺!



468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/26(土) 21:35:09.29 ID:lWstlW4g0
ファミレス店内を走り抜ける。ええい、最近の子供はマナーがなっちゃいないとかそんなん知るか! それよりも俺はメイドさんのマナーについて真剣に議論したい! 日本メイド協会とか有ったら直訴してやるぞ、直訴!

「死んじゃう! ガトリング砲とか普通に死んじゃうから! ねえ、聞いてる!?」

「では、ご一緒にこちらの絶途メニューなどいかがでしょうか?」

なんだその断崖絶壁、一寸先は闇を地で行く響きは。飛び込んだ窓際テーブル席のソファから恐る恐るメイドさんを覗き見れば……その口を大きく開けてまあなんとはしたない。ミサイル見えてますよ、ぷに子さん。
……ミサイル? それって着弾したら爆発して辺りを火の海に変えるヤツですよね? 一網打尽ってヤツですよね? ソファに隠れていようが何しようが一撃必殺ですよね。
テーブルの下に隠れるとか咄嗟に思い浮かぶが、それは地震の時であってミサイル相手の教えではないだろうなあ。あ、この的外れな思考、もしかしなくても死亡フラグ立ったんじゃねえの?
ロボット相手じゃ戯言だって通用しないし。瞬間移動は一回限りの制限付き。対抗手段は、そんなもの都合良く有りはしないのが現実。
現実離れはしていても。

「逝ってらっしゃいませ、ご主人様」

放たれるミサイル。咄嗟に目を瞑ったのは人間として当然の生理反応なんだろう。
……一秒、二秒……あれ? 不発弾?

「言ったよなあ、アタシ! お前には指一本触れさせねえってな!」

「まったく、心臓に悪いですよ。ようやく追いついたと思えばミサイルですか? 貴方にはもう少し鍵としての自覚を持って頂きたいですね」

「それでも、生きている辺りは……やっぱり君、戯言遣いの素質が有るよ」

正義の味方のピンチには仲間が駆け付ける。それは王道で、お約束。
俺の前に壁の如く立ち並んだのは潤さん、いーさん、古泉、だった。ミサイルを片手で受け止めてるのは、そんな芸当が出来るのは一人しか居ないけどさ。

「援軍、参上」



470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/26(土) 22:08:41.34 ID:lWstlW4g0
援軍。確かに早い内にお願いしますとは言ったが、こんなに早くとは思わなかった。長門朝倉組よりも早い到着ってのは……流石は人類最強の請負人と言うべきだろうな。まあ、古泉も、いーさんも。見た目にちょっと埃被ってるが無事で何よりだ、二人とも。

「いや、アタシが出るまでも無かったんだよな、実際。見直しちゃったぜ、戯言遣い」

え? それって……何? どういう事?

「まあ、彼らがまだ『仲間(チーム)』の一員で有るつもりなら、その支配者に逆らう事は出来ませんからね。僕の手柄ではありません。友を連れてきた滋賀井さんと崩子ちゃん、何より空間製作を潜り抜けてその道案内をして見せた朝比奈ちゃんを褒めてあげて下さい」

「朝比奈さん?」

俺の疑問に答えたのは古泉だ。

「ええ。流石に銃声が響くここに連れて来るのは止めましたが。店の外まで来ていますよ。今回、一番の功労者は彼女ですね。間違いありません」

空間製作の突破口。それは現代技術では敵わない、未来の技術だけなのは分かっちゃいた。確かに彼女には頼らざるを得ない「ここ一番」が有るって事も。だけど……いや、少女だってSOS団の一員だ。仲間の危機に一人だけ何もしないなんて、出来なかったんだろう。
俺の知らない所で大活躍じゃないですか、朝比奈さん。てっきり長門のマンションで帰りを待ってると思ってたら……最近の女の子ってのはアクティブだぜ。いや、「未来の」だな。

「いや、違うね、古泉」

「おや?」

「SOS団は全員がやれる事をやってんだ。そこに順位を付けるのは野暮ってなモンだろ。お前らしくもない」

今夜ばっかりは俺だって胸を張るぞ、この野郎。

「誰が欠けても成り立たないんだ、俺たちは」

「……ふふふっ。確かに、仰る通りかと。聞きましたか、長門さん」

超能力者が俺の後ろに向けて問いかける。振り向けば神出鬼没。よう、長門。その背中に隠れてんのは……お疲れ様でした、朝比奈さん。

「……聞いた」

「あ、あの、古泉くんが危ないからって言ったんですけど! でも、私だけこんな所に居てもって思ってたら長門さんが来て、それで一緒に行かせて下さい、ってお願いして、その、ご、ごめんなさい! だけど……だけど、私!」

みんな、心は同じだ。朝比奈さんだけ仲間外れにはしませんよ。そんな事をしたらハルヒに怒られちまう。

「良い仲間を持ってんじゃねえか、キョン」

潤さんが言って、俺は頷く。

「良いでしょう? でも、あげませんよ」

「ちぇっ。お前、ケチだなー。可愛い子が三人も居るんならこっちにも一人寄越せってんだ」

こればっかりはいくら命の恩人の頼みでも聞けないね。SOS団は誰が欠けてもダメなんだ。
そして、全員揃えば絶対無敵なんだよ。後は団長。お前だけだぜ?
さあ、フィナーレだ。



471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/26(土) 22:11:54.54 ID:lWstlW4g0
哀川潤が聞く。




「お客さん、どちらまで?」




俺は答える。




「こいつらとともに、いけるところまで」




こればっかりは、戯言って訳にはいかないよな。



472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/26(土) 22:36:39.10 ID:lWstlW4g0
俺が笑う。古泉が笑う。朝比奈さんは麗しい。長門は無表情だが大丈夫だ。そういうのだって需要は有るらしいぜ、ハルヒ曰く。

「なんか懐かしいですね、このノリ。あの時は四人で、萌太くんはもう居ませんけど」

いーさんの放ったしみじみとした呟きは、人類最強に一蹴される。

「居るよ。萌太くんはあの子の心の中に居る。案外、お前の中にも居るんじゃねえのか? 骨董アパート組は皆、家族なんだろ?」

「……そうでした。ええ」

伏目がちに頷く、戯言遣いにもきっと譲れないものが有るんだろう。大切な家族が居るんだろう。ああ、今更気付いた。この人は世界を守るような人じゃない。この人は世界なんてきっとどうでもいい。
ただ、大切な家族が居て。その人達の為にしょうがなく世界を守っているだけなんだ。
俺と同じ。成り切れないヒーロー。なんちゃってでも正義の味方。

「なら、行けよ。ここはアタシに任せとけ。良い女ってのは自分の出番を知ってるし、引き際も理解してるモンだ。そもそも妹の相手は姉の役目だっつの」

哀川潤は由比ヶ浜ぷに子を睨み付ける。

「六命様、Deathか?」

ジャキリと、その両腕の火器を俺たちへと向けるメイドロボ。

「いんや、一名様だ。こいつらはご案内してやる必要はねーぜ。誰かに言われるまでもなく、自分の行き先くらいは自分で見つけられるくらいだからなあ!」

叫んで疾る赤い彼女。その体へと銃弾が放たれる。

「お還りなさいませ、ご主人様」

「スクラップに還るのはテメーだ、ぷに子!」



473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/26(土) 23:08:39.09 ID:lWstlW4g0
一閃、その右腕が振るわれる。壊された玄関ドアから外へ吹き飛ぶ人型兵器を追って飛び出す人類最強。アレは……きっと戦場を移したんだろうな。……朝比奈さんが外に居たまんまだったら巻き添え食ってたんじゃないかと思うとぞっとする。いや、その場合は外じゃなく厨房に移動したんだろうけれども。

「行こうか」

いーさんが促すも、ちょい待った。ここはファミレスで、店内で、ここにハルヒと人類最悪が居ないってなると後は厨房くらいか? いや、ファミレスの構造なんかよく知らんけどもさ。
にしたって最終決戦の場がファミレスの厨房ってのは盛り上がらないな。いや、場所を選べないってリアリティは有るが。

「行こうかってどこに?」

「さあ? 僕には分からない」

おい、戯言遣い。そんな事きっぱりと言うんじゃねえ。

「だけど、彼女なら分かるんじゃないかな……ハルヒちゃんの今の居場所」

彼女……長門か。確かに宇宙人の千里眼からハルヒを隠す事なんて出来やしない。

「分かる。涼宮ハルヒはこの建造物の地下に居る」

「ファミリーレストランに地下を作っちゃう非常識は、確かに狐さんらしいなあ」

そんな事を褒めてる場合かよ、いーさん。長門に聞けば出入り口も分かるだろうからそっから行くぞ。早いトコ、あのお姫様を奪還しないとどんな癇癪起こすか分からんぜ。いや、マジな話。

「いいえ、罠が有るかも知れない出入り口なんて素直に使ってあげる義理はありません。……長門さん」

「……分かった」

宇宙人少女の高速詠唱によって古泉の足元に穴が開く。なるほど、通り抜けフープか。

「では、お先に」

古泉が穴へと飛び込み、長門がそこに続く。下は暗く、覗き込んでもどこまで続いているのか分からない穴によく躊躇無く飛び込んでいけるな……長門はともかくとして、古泉。

「……ふええ、この中に飛び込むんですかあ……」

ぷるぷると震える姿も小動物ちっくに愛らしい。だよなだよな。それが一般人の反応だよな。未来人だけど。



475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/26(土) 23:25:41.77 ID:lWstlW4g0
「まあ、先に二人が行ったから着地くらいは補助して貰えるよ。それじゃ」

戯言遣いまでちょっとそこのコンビニまでって気軽さで穴から急降下。だけど、マリオだったらステージ最初からやり直しにしか俺には見えないんだよなあ、この穴ぼこ。

「ど、どうしましょう、キョン君……」

どうしましょうと言われても……飛び込む以外に選択肢は無い訳で。しかし朝比奈さんを置いていくのも躊躇われる……ええい、ままよ!

「朝比奈さん、目を瞑ってくださいっ!」

「へ? え? は、はいっ! 分かりましたっ!」

頬を赤く染めて力強く目蓋を閉じる朝比奈さんはキス待ちの態勢に見えなくもな……いやいや。何を考えてるんだ、俺は。消えろ邪念。滅せよ雑念。これからやる事も決していかがわしい行為じゃないんだ、断じて違う。だから役得だなんて思ってもいない!

「行きます!」

「はい!」

朝比奈さんの背中に手を回す。もう一方の腕は膝……ああ、なんで朝比奈さんからは良い香りがするのだろう……と、色即是空! 空即是色!
右の手首から先が無いせいで少々不安だが、それでも朝比奈さん一人くらいならっ。

「よいしょ、っとお!」

「わひゃあ! きょ、キョン君!?」

持ち上げた時に漏れた美少女の可憐な悲鳴は俺の中で隠れていた嗜虐心を掻き立てるのに……掻き立てられてるんじゃねえ、俺!
ただのお姫様抱っこだ! 他意は無い! 無いんだよ、マジで! 信じて下さい、朝比奈さん! そりゃ、ちょっとは嬉しかったりしますけど、そこはそれ、この状況に歓喜を覚えないのはそれもちょっと男子高校生として逸脱しているというか……ああ、怒涛の言い訳は誰に向かってなんだよ。

「行きます。舌を噛まないように歯を食い縛っていて下さい、朝比奈さん!」

右足を前に出す。そこに床は無い……ああ、左足を踏み切るのが怖い……上手い事着地させてくれよ、長門! 信じてるからな!

「アムロ、ガンダム、行きまーす!」

自分を誤魔化すように戯言一発、俺は穴の中へと体を放り出した。落ちていく俺たち。フリーフォールは安全性が確立されているから遊戯となりうるのであり……ああ、もうなんで俺がこんな目に遭うんだよ! あの狐面! マジ覚えてろよ!



477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/26(土) 23:42:07.22 ID:lWstlW4g0
「……よお、優男。状況を説明してくれるか?」

顔が近い!

「そうですね……先ず、貴方が途中で朝比奈さんを放されたのは覚えていますか?」

「いや、右手から先が諸事情で無くてな……左手で抑え続けるのには無理が有っただけで本意じゃない」

顔が近い!

「ですので、僕と長門さんとで落ちてくるあなた方をそれぞれに受け止める必要が有りました」

「まあ、しょうがない流れだよな。でもさ。俺が言いたいのはそこじゃないんだ」

「おや? ではどこでしょう?」

わざとやってるんじゃないだろうな、この超能力者。……だから一々顔を近付けるな! 気持ち悪いわ!

「なんで俺はお前にお姫様抱っこされてるんだ?」

「ああ、なるほど。ですが考えてもみて下さい? 落ちてくる人をキャッチするのに一番都合の良い体勢だと、そうお思いにはなりませんか?」

「そんな事を言いたいんじゃない……俺はさっきから『さっさと下ろせ』って言ってんだ!」

男に抱きとめられる男。いや、まあ朝比奈さんに同じ事をやっていたら俺は問答無用でぶん殴るが。長門が良かったとか我が侭は言わない。だけど……一体、こんな展開で誰が得するんだよ。
この世界に物語なんてものは存在しない事を確信したぜ。今、確認した。

「それは失礼しました」

「謝るよりも先に下ろせ!」

後、一々顔が近い!



489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 00:15:03.69 ID:RaCRkI9j0
暗い通路を携帯の明かりを頼りに歩く。隊列は古泉を先頭に長門、俺の背中に引っ付くように朝比奈さん。殿(シンガリ)は安心のいーさんだ。

「古泉くん、多分罠みたいなのは無いから安心していいよ。あの人の性格上、ね」

「性格、ですか。ですが人類最悪と聞き及んでいる僕からしてみれば中々……それは解せない話ですね」

「簡単だよ。人を傷付けるのも苦しめるのも陥れるのも蔑むのも悲しませるのも殺すのも滅ぼすのも……それに一番適しているものの存在を狐さんは知っているからさ」

「ふふっ、なるほど。それは確かに人間以外にありませんね」

楽しそうに言う古泉は「それでは」と歩くスピードを上げる。まあ、万が一罠が有ったとしてもこっちには長門が居るんだ。なんとかなるだろうさ。……って、そういや今更だが朝倉はどうしたんだ?

「彼女は現在、天蓋領域による負荷を一手に引き付けている。度重なる干渉で波長パターンは解析を終えた」

「なるほどね。つまり、今の長門は百パーセントの状態な訳だ」

「そう」

そりゃ心強い話だ。SOS団の誇る万能選手、長門有希が復活と来ればもう後は矢でも鉄砲でも、ってな。いや、心強いのは長門が居てくれる事だけに起因してる訳じゃないさ。朝比奈さんに、古泉だって居る。

「宇宙人に未来人に超能力者、かい。まるで神でも倒しにいくようなパーティ編成だね。本当に、君たちは見ていて眩しいよ」

「何言ってんだよ、戯言遣い。神を倒しに行くんじゃねえよ。救いに行くんでもない。そもそも、アイツが神様だなんて認めてねえんだ、俺は。どこにでも居て、どこにも居ない、ちょいと思考回路がアブノーマルな女子高生。
そいつを迎えに行く友達の図に、見えないか?」

「なるほどね。うん、そう言われれば見えなくも無い。キョンくん、君は本当に才能が有るな」

よしてくれよ、いーさん。

「こんなんはただの戯言だぜ?」

「ああ、戯言だ。でも、茶番にはそれくらいで丁度いい」




510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/05(土) 19:22:16.45 ID:w4y7cOp80
「お喋りはそれくらいで。どうやら、出口のようですよ。いえ、入り口でしょうか」

前を歩く古泉が手元の携帯電話を動かす。その裏側に付いているライトの照らす先にはドアノブが有った。白い廊下に白いドア。一見すると突き当りにも見えてしまいそうな中で、ドアノブだけがポツンと存在している。

「……開けます」

その声に長門が反応しなかった事から罠が無い事は明白だった。どうやら古泉も同じ事を考えていたようで、内開きの扉はごく普通に開けられた。途端、入り込む人工灯の明るさに、闇に慣れた目が軽い抗議の声を上げる。

「明るっ」

地下とは思えない光量だった。これじゃあ夜も昼も有ったもんじゃない。スタジアム仕様の夜間灯でも付けてあるのかと思ったが、さすがにそれは考えすぎのようで目が慣れてくると、晴天の太陽の下と似たり寄ったりかなどと思い直した。
いや、それにしたって明る過ぎる。暗がりで本を読むなと言われて育ったにしても、これはちょっと、ちょっとと言った感じだ。
長門に続いて部屋へと入る。広さにして俺の部屋が縦に三つ横に三つ、合わせて九つは入るだろうか。狭いとは言えそうにないが、しかし狭苦しく感じるのはひとえにそこに置いてある機械設備のせいだろう。

「……実験室?」

呟いたのは後ろに居る朝比奈さんだ。確かに、電子顕微鏡やら注射器やらが有るからかそんな印象を受けなくも無い。だが、それにしたって右側の壁一面に並ぶコンピュータはどちらかと言うと制御室のイメージだな、俺的に。

「手術室、のように僕には見えますが」

言いながら古泉が指を差したのはその中央やや左手気味に設置された医療ベッドだ。よくよく見れば、奥にもCTスキャンって言うのか、人間をまるっと輪切りに検査出来る機械も置いてある。ふむ、となると古泉の意見が正しいのか?

「いや」

そのどちらの意見もを否定したのは一番最後に入ってきた戯言使いだった。

「ここはきっと分娩室だよ」



511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/05(土) 19:38:55.33 ID:w4y7cOp80
「分娩室?」

分娩室って言うとアレか? 妊婦さんが子供を産む部屋の事か? いやいや、それは無いだろ。手術が出来そうな設備は揃っちゃいるが、けれど子供を取り出すってのはいろいろと特殊な設備が必要なはずだ。
まあ? 特殊な機械、使い方もとんと分からない器材は見渡せば幾らでも転がっていそうな部屋ではあるよ。だが、出産の際にコンピュータも電子顕微鏡も必要無いだろ?
なんて心の中で否定を乱発する俺とはうってかわって、古泉はいーさんの言葉に頷き返す。

「ふむ……なるほど」

どうやら変態超能力者はご納得あそばされたらしいが、俺には皆目理解が出来ん。説明はまだか。

「分かりませんか?」

「今のやり取りを傍で聞いていて分かるようなヤツはお前くらいだよ」

「おやおや、酷い言われようですね。まあ、いいでしょう。貴方にも理解し易いような言葉で説明しますと、つまりここは『ショッカーの怪人工場』なんですよ」

おい、それは果たして分かり易い比喩なのか、副団長? 古泉に更なる説明を要求しようとした俺だったが、しかし戯言遣いが二の句を継いだ。

「うん。恐らくは古泉くんの言う通りだ。ぼくは昔、これとよく似た部屋を見た事が有る。もう十年以上前の話だけどね。ヒューストンでぼくの友達……想影真心がよく通っていた部屋が丁度こんな感じだったっけ」

人類最終、想影真心。人間として枠内ギリギリの強度を持つ橙色。

「後から知った話だけれどね。それは改造人間を造り出す部屋だったんだ」



512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/05(土) 20:02:15.60 ID:w4y7cOp80
改造人間。そういや最近聞いた事の有る単語だ。アレを言っていたのは誰だったか。

「人類最強を造る目的の部屋さ。潤さんから話は聞いてるよ。きっと『彼女』はここで産まれたんだ。だから『分娩室』」

彼女……偽哀川潤。いや、園山赤音さんか。
なるほど、言われてみれば確かにそうだ。手術用の寝台、解析用のコンピュータ。検査用の人体スキャナ。それ以外の用途で使うものが室内には一つとして見受けられない。
人間改造工場。ここほどそう呼ぶのがしっくりとくる場所も早々無いだろうな。少なくとも俺は他に見た事がない。

「……戯言遣い。少々、よろしいですか?」

「なんだい、古泉くん?」

「僕の杞憂であればそれで良いのですが……ここには足りないものがありませんか?」

古泉が顎を摩りながら辺りを探り歩く。辺りを引っくり返す訳でもなく、ただ歩いている事から余り細々としたものを探しているんじゃないっぽい。その様は夢遊病患者にも見えそうだが、しかし超能力少年の眼差しは真剣だ。

「……やはり有りませんね。先を急いだ方が良いかも知れません」

言って一転、こちらはそれと見て分かるほど明らかに扉を探し始める副団長。ぱっと見、この部屋は入ってきた扉しか無い行き止まりなんだが。穴から落ちてきた場所が通路だったから、歩いて来る方向を間違えたんじゃないのか……って、長門がそれに気付かないはずは無いな。

「古泉一樹。扉はここ」

とてとてと歩いて行った長門が手を触れた壁の一部が左右に開いていく。……隠し扉の実物とか初めて見たぜ。
古泉はすれ違いざま宇宙人少女に軽く会釈をし、示された扉へと入った。何を急いでやがるんだ、アイツは。それに、だ。何がこの部屋に足りないのか、その説明を俺はまだ受けてないぞ。だってのに説明役が早々に部屋を出て行ってどうするってんだよ、まったく。

「ぼくらも急ごう」

戯言遣いが背中を押す。まあ、立ち止まっていても埒が明かないので古泉を追って歩き出すのは良いが……。

「なあ、いーさん。一体この部屋に何が足りないのか、貴方には分かります?」

背中に向けての質問に、返ってきたのは耳を疑いたくなるような単語だった。

「洗脳装置だよ」



513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/05(土) 20:25:14.52 ID:w4y7cOp80
いーさんは言う。
人類最強を人類最強足らしめるもの。それは肉体の強度ではない、と。
ただ単純にそれだけを比較するのならば。それだけで最強が決定するのならば。人類最強とは人類最終にこそ冠せられる称号なんだそうだ。
では、最強とは何なのか。何が強ければ最強なのか。
いーさんの考える最強の定義とは、次の通りだ。
我こそが最強という強い自負。それこそが最強を産み出す。……まあ、実際の所はどうなのか俺は知らない。人類最強、哀川潤本人様に聞くのが一番手っ取り早く、かつ的確な解答を得られそうだ。
最強と言い切る、それが非常に難しい事だってのくらいなら俺にも分かる気がする。上には上が居る、ってのはよく聞く言葉で。現実に即している言葉でも有るよな。自分が一番だ、なんてきっとオリンピックで金メダルを獲っても未だ口にし難いんじゃないだろうか。
世界のどこに自分より走るのが、泳ぐのが、跳ぶのが、投げるのが、踊るのが、上手いヤツが居るのかも分かったモンじゃない、世の中だ。世界は広い。
けれど、だからこそそれを知りながらも「自分が一番だ」と胸を張って言い切るのは度胸も覚悟も必要とされてくる。
その、言うなれば意志の力。
それこそが列強を最強に押し上げるのだと、いーさんは言う。
強いとは、意志が強いのだ。
それは折れず屈さず揺るがず歪まず振れず、諦めない事に繋がるから。
ではもしも。どこかの誰かが人類最強に成ろうとしたら。どうすれば良いのか。
肉体の強化は勿論必要だろう。だけど、もっとも大切な「最強が最強である証」は前述の通り。それは常人では身に付けられないし、身に付かない。それを手に入れる為には……心を改造(イジク)る必要が有るんだ。
もっとも手っ取り早く「最強」に近付く方法。
それは教育。それは漂白。それは洗脳。それは……総合すれば「生まれ変わる」事と、こうなる。
人類最悪はこの部屋にいなかった。ハルヒもだ。
そして、この部屋「怪人製造工場」にはあるべきはずの洗脳装置が無い。
古泉が焦っていた理由に漸く行き当たる。
外れてくれているなら良い、こんな予想。最悪だ。
だけど。
最悪ならば、それは例外無く行われているという事。

「アレは……ハルヒちゃんじゃない。『ハルヒちゃん改』だ」

その部屋に入って絶句する俺たちの中で、一人だけ口を開く事が出来た戯言遣いが、そう、言った。



517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/05(土) 20:55:19.09 ID:w4y7cOp80
再会は「感動の」なんて枕詞とは無縁だった。長門も朝比奈さんも古泉も、無論俺だって一目見てソイツが壊されている事に気が付いた……付いてしまった。
髪の毛を無造作に下ろし、トレードマークの黄色のカチューシャはその足元に捨て置かれている。目は虚ろでどこを見ているのか分かったもんじゃない。ファミレスの前で見たソイツのコートは部屋の隅に投げられていた。中に着ていたのは……ハンニバル・レクター博士以上に、この服を着こなせる人間はこの世にいないだろう。少なくとも俺の知り合いにはいない。
バニーやらチャイナやらソイツのコスプレを幾つも見てきた俺は何を着せても似合うなどと本人には決して言わずとも思っていたのだが、しかし世の中には美少女が着ても似合っているとは言えない服が有る事を知る。
胸の前で袖がクロスされてそれが服と一体化、なおかつその上を二本の革のベルトで縛られていている。
拘束衣。それってーのは決してワンピースのように着こなすものじゃない。ファッションだとしてもアバンギャルド過ぎる。前衛的を軽く通り越して前傾的ですらあった。
絶望的な、再会だった。

「ふん、『ハルヒちゃん改だ』か。よく分かってんじゃねーか、”いーちゃん”。確かに、お前の言う通りだぜ。改めてやった。時間が無かったせいで納得いく仕上がりとは言い難いが……それでも俺の最高傑作には違いない」

ハルヒの隣に立つ狐面が宣言する、高らかに。
宣言する、フィナーレを。

「みんな纏めて『ご破算に願いましては』といこうじゃねえか。グッドもバッドもベストもトゥルーも無い。ノーマルエンドの始まりだ」

動けない俺たちの前で、ソイツはハルヒの耳元に口を近付けて何事かを囁いた。長門の宇宙製の聴覚ならもしかしたら聞き取れたかも知れないが、俺の耳には何を言っているのか一つも分からない。
いや、一つだけ分かる事は有った。
西東天の言葉は、行動は、一つ残らず最悪なんだ。

「みんな、お疲れ様」

ハルヒは言った。ハルヒの姿をした何かだったのかも知れない。その声には生気が無かった。抑揚が無かった。だけど確かにハルヒの声だった。
悪夢みたいな現実。夢なら早く覚めてくれ。

「これでもう、全部終わりにするから。ごめんね」

世界の全てを思うがままに出来るコイツが全部を終わらせると口にする、その意味。
……成り立ての戯言遣い見習いが何を口にする事も無いままに、リセットボタンは押されてしまった。



521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/05(土) 21:58:42.47 ID:w4y7cOp80
「涼宮ハルヒにおける願望実現能力の活性化を確認。惑星規模での多重平行世界が反転形成……非常に危険な状態」

「じ……時空震が過去最大規模ではっせ……え!? 禁則が掛かってない!? そんな……まさか! 嘘、TPDDの通信が途絶してる! 未来が……未来が、断絶していますっ!!」

「……僕の方でも閉鎖空間が発生しています。数を追い切れません……機関員総当たりで対処しても、世界の崩壊は免れそうに、ありませんね」

それまで絶句していたのが嘘のように、余りの事態でか宇宙人、未来人、超能力者が三者三様にアラートを口にする。それを聞いて、そこでやっと俺の唇も解凍した。
黙っている場合ではない事に思い当たった、と言うべきか。

「……ハル、ヒ?」

絞り出して、それでも出て来たのは少女の名前だけ。力無い呼び掛けに、けれどソイツは答えない。反応する素振りすら無い。そもそもその目に、俺も、SOS団のみんなも映っちゃいなかった。

「何……何、やってんだよ、お前?」

それは自分への問い掛けでもあったのかも分からない。

「なんで、世界を壊そうとなんか、してんだよ」

それは、少女の気持ちを理解出来ない自分の不甲斐無さを正当化している事でしかないのかも知れず。

「何が……何がしたいんだよ、お前!」

苛立つ心に遅れて追いついた体から出て来たのは責め立てる言葉でしかなかったってんだから、俺は本当に器が小さい。
女の子一人、満足に受け入れてやる事すら出来ないなんて。なんて……情けない話だ。



522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/05(土) 22:07:20.90 ID:w4y7cOp80
「何をやってるのか? キョン、分からないの? 世界を造り直してるだけよ」

ハルヒは言う。

「そんな顔しなくても良いわ。何も心配要らないし。何も変わらないから。アンタの周りには有希もみくるちゃんも古泉くんも、ちゃんと用意してあげる」

その言葉には誰かが居ない。

「気付いたのよ。この世界で一番、SOS団を傷付けているのは誰なのか。この世界で一番アタシが好きな人達を、苦しめているのは誰なのか」

俺はそれに違うと即答出来なくて。

「それは……アタシ」

馬鹿だからそれに何と答えていいか分からなくて。

「有希を傷付けて、みくるちゃんを傷付けて、古泉くんを傷付けて、アンタも……悪かったわね、ホント。気付いてなかったなんて何の言い訳にもならないじゃない」

助けてくれ、と。そう言っているのは分かっているのに。

「こんなんじゃ、団長失格」

ソイツの今世紀最大級のSOS信号を。

「だから、今度はアタシのいない世界でみんなと……楽しくやりなさい、キョン」

見過ごした。

「今日をもって、SOS団は解散します」

見過ごしは、見殺し。



523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/05(土) 22:22:59.71 ID:w4y7cOp80
ハルヒの姿が霞む。ホログラフィとかそんなんだろうか。後ろが透けて見えるそれはなんか幽霊みたいに見えなくもない。実物は見た事無いし、そもそも幽霊に実物が有るのかって話だが。

「何をしやがった! ハルヒに! 何を吹き込みやがった!」

走り寄って掴み掛かる。有ると思っていた抵抗は無く、俺は狐面の襟首を締め上げる事に成功した。拍子抜けするくらいに無抵抗。これがラスボスだったとしたら、それだけでクソゲー認定しちまいそうだぜ。

「『何を吹き込みやがった』……ふん。吹き込むとは人聞きが悪いな。気付いているだろう? 俺はただ気付かせてやっただけだ」

だけ……だと!? それがどんだけヤバい事なのか……どんだけ最悪な事態を招くのか! 分かっていながら! ……コイツは!

「涼宮ハルヒ、か。思えばこれ以上滑稽な存在もねえなあ。出来損ないの神。全能でありながら無知。知ってるか、キョン。無知は、昔から罪って決まってんだとよ」

「クソッタレが!」

叫んでソイツを突き飛ばす。こんな奴、今はもうどうでもいい。それよりもハルヒだ。ハルヒを、なんとかしないと。でも、どうやって!? 何を言ってやれば良いんだ!? お前のせいじゃない? 俺も悪かった? そんな上っ面撫でただけの言葉が届くとは、とてもじゃないけど思えない!

「……ぼくが、やろうか?」

ぽつり、そう言ったのは戯言遣い。

「汚れ役は、大人の仕事だろうしさ……あまり気は進まないけれど」



525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/05(土) 22:38:49.44 ID:w4y7cOp80
地獄に垂れ下がった蜘蛛の糸のような言葉。説得力の塊。ああ、そうだ。ここには本物の「戯言遣い」が居る。俺の出る幕なんて無いんだ。
俺が何を言うよりも、何を言ったって、何も言えないのだから、でもきっといーさんなら。
いーさんなら、なんとか……して、くれる。
そう思った。だけど、それは浅はかなガキの考えでしかなくて。

「世界の終わりを回避するだけなら簡単だ。ぼくの戯言で」

大人は子供に出来ない汚れ役を買って出る。

「ハルヒちゃんだけを自殺に追い込む」

戯言遣いはその説得力の有る口調で、最悪の選択を口にした。
ハルヒを殺す。ハルヒだけを殺す。世界を救う為に。ハルヒを殺す。殺す。殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す…………。

「ぼくになら、きっとそれは出来る」

冗談を言っているようには、どう間違えても聞こえなかった。戯言、なんかには思えなかった。
いーさんは本気で言っているんだ。
戯言遣いは、本気で世界の為にハルヒを切ろうとしている。それに気付いて声を上げるよりも、しかし早く。
長門の左手から伸びた光の槍の切っ先がいーさんの目玉すれすれで停止し。
古泉が右手で構えた拳銃がいーさんのこめかみに押し当てられて。
朝比奈さんは震える両手で何時ぞやお世話になった麻酔針銃を握り締めていた。

「……長門……朝比奈さん……古泉……」

心は、一緒だ。思ってる事は、おんなじだった。
涼宮ハルヒは俺たちの大切な、団長様なんだ。



527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/05(土) 22:58:56.75 ID:w4y7cOp80
「涼宮ハルヒの殺害は許可出来ない。私に課せられている命令に則り、その行動をあなたが実行した場合私は然るべき手段を用いてあなたを機能停止させる」

「す、涼宮さんは! とっても優しいんですっ! 今は自分のせいでなんて勘違いしちゃってるだけで、えっと、ええっと、とにかくっ! 私は! 涼宮さんを信じますっ!」

長門は言う、しっかりと。朝比奈さんは言う、力強く。
宇宙人としての長門はきっと、本来ならばその親玉的存在をも巻き込みかねないハルヒの世界改変を止めないといけない立場に居るんじゃないだろうか。ならば、いーさんの言い出した事はもしかしたら渡りに船なのかも知れない。
朝比奈さんだってそうだ。未来が無いって言うのに、その未来を放ってまでハルヒを守るべきじゃないんだろう。
だけど、二人とも。宇宙人としてではなく、未来人としてではなく、一人一人のSOS団員としての自分に殉じた。

「……古泉くん。君も同意見かい? 言っておくけれど、これは重大な違反行為だよ。玖渚機関に対しての明確な反逆だ」

「承知していますよ」

古泉は笑う、朗らかに。

「だけど、仕方ないじゃないですか。自分の居場所を守る為ならどんな動物だって戦います。僕の居場所は『ここ』なんですよ」

それが「機関」にとって好都合なことなのだとしても、僕は一度だけ「機関」を裏切ってあなたに味方します。僕は「機関」の一員ですが、それ以上にSOS団の副団長でもあるのですから。古泉がかつて言った言葉。
一度だけ。それは処罰すら受け入れる覚悟をもってのたった一度。

「……子供だね、君たちは」

ああ、俺たちはアンタから見たらとんでもなくガキだよ、戯言遣い。だけど、ガキにだって通したい意地も有れば、守りたい仲間だって居るんだ。
命を懸ける事すら厭わないでいられるくらい、大切な過去だって沢山有るんだ!

「守るべきものの優先順位すら、分からないのかい?」

「分かってるさ」

俺たちはSOS団。世界を大いに盛り上げる「涼宮ハルヒ」の団だっつーの!

「世界よりも、俺たちにとっちゃハルヒ一人の命の方がよっぽど重たいね!」



528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/05(土) 23:19:37.68 ID:w4y7cOp80
正義の味方は、廃業だ。いや、お役御免ってところかもな。ま、最初から俺のキャラじゃ無かったんだし、別に後悔なんてさらさら無え。
俺はエゴイストで、それでいい。大泥棒も言ってたじゃないか。エゴは許容されるべきだ、って。
だったら……意地も覚悟も貫き通す。

「……そうかい」

戯言遣いは両手を上げる。それは降参のポーズだった。

「だったら、やってみると良い。君たちはハルヒちゃんを守るんだ。世界の方はぼくが担当しよう。存分に、やってごらん」

「え? ……それってーのは、いーさん?」

戯言遣いは正義の味方。正義の味方は、正義を間違えないから、正義の味方。
少女を絶望から掬い上げるのが正義じゃないなら、世界に正義なんてどこにも無いんだろうよ。そして世界は、そんなに薄情でも無情でも非情でも、無いんだ。ハルヒが昔、造り上げた世界はそんなんじゃあない。

「正義の味方が君たちの後ろ盾になるって、そう言っているつもりだったんだけど伝わらなかったかな?」

最悪は回避して。
なら後は最善を尽くすだけ。

「す、涼宮さんが!」

朝比奈さんの叫び声にハルヒを振り返れば、そこに有った少女の立体映像は既に無く。本格的に世界の終わりが始まったって事かよ、クソッ。
折角、人が覚悟を決めたってのに、その覚悟を伝える相手が居ないんじゃ文字通り話にならんぞ、ああ!

「……ハルヒは!? どこへ行った!?」

俺の問い掛けに長門が視線で答える。その先には……超能力少年。目を閉じ、一秒くらいか、開いた後にソイツは言った。

「確認しました。涼宮さんの現在地は……」

逃げ込む場所は、夢の中と相場が決まってる。

「閉鎖空間です」



531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/05(土) 23:43:22.63 ID:w4y7cOp80
「古泉」

呼び掛ける。副団長は頷いた。

「僕は……無理そうですが。貴方ならば、きっと。長門さん、お手伝いして頂けますか?」

宇宙人は頷いた。

「了解した。個体維持のメモリを最低レベルにまで落としてバックアップする。朝比奈みくる、この個体の管理をお願いしたい」

一瞬驚いた未来人は、しかし彼女もやはり頷いた。

「ま、任されました! 長門さん、古泉くん……それに、キョンくん! 頑張って下さいっ!!」

言われずとも。

「そんじゃ……頼むわ、古泉」

「はい、良いですか、長門さん。彼女は今、全てを拒絶しています」

「理解している。そこに彼一人が通れる大きさの穴を開けるのが私の仕事。持続時間希望を」

「一秒有れば、十分です」

「ふれー! ふれー! みんなっ! が、がんばれっ! がんばれっ! えすおーえすだんっ!」

目を閉じる。俺の肩に古泉の手が触れる。

「朝比奈さんは可愛らしいですね。……リラックスしてください」

「リラックスとか……この状況で出来ると思ってんのかよ、古泉?」

「ふふっ。戯言ですよ。これで僕も戯言遣いの弟子を名乗れますかね? ……行きます、長門さん」

――瞬間、俺の意識は暗転した。



535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/06(日) 00:14:23.11 ID:f08EZDsl0
目を開ける。見た事の有る灰色空間。もう来る事は無いかもなとか思っちゃいたんだが、久しぶりだな、ここも。
頭を振って意識を覚醒させる。五体満足を確認……あ、そういえば右手取れたままだよ、俺。しまったな。長門にくっつけて貰うのをすっかり忘れてたぜ。まあ、痛くないし取れちまった手が変容してる様子も無いから後回しでもいいか。

「……にしても、どうしてアイツはこんなに学校が好きなんだ?」

目が覚めたのは後者の裏庭。俺としちゃてっきりあのファミレス地下にそのまんま飛ばされるモンだと思っていたんだが……ま、ハルヒの脳内も長門&古泉のトンデモパワーも考察するだけ無駄か。
何でも有りって訳じゃないらしいが、一体どの辺りにその限界っつーか枠っつーかが有るんだろうね。

「っと。そんなんはどうでもいい。それよりも先ずはハルヒを探さないとな」

駆け出す。居場所の目処は立ってるんだ。アイツが逃げ込むような場所はそこしかない。アイツが最後に一人で感傷に浸るつもりってんならそこ以外に有るものか。
文芸部室。俺たちのアジトだ。そこ以外に居る訳が無い。とりあえずこっから一番近い校舎への侵入路は……ま、順当に下駄箱か。
全速力の五十メートル走。事情が事情だし恐らくはベストラップを記録しているだろうが、記録係が居ない事が悔やまれる。いや、冗談だが。校舎の壁を過ぎ、視界が開けた所で――俺は愕然とした。
端的に表現する。下駄箱が無かった。代わりにと言っちゃなんだが、あの青い巨人がそこには居た。
超能力者が表現する所の、神の人。
神人。

「チックショ、マジっかよ!」

慌ててドリフト気味のUターン。正面はアイツが居やがるって事は……裏玄関か!
来た道を逆走して校舎脇を爆走する俺。急な運動で心臓はバクバクと破裂しそうに暴れ回るが構ってなんかいられない。
……ん? 待てよ。なんであのバケモンは生徒用玄関をぶち壊したんだ? ここに俺が侵入した事に気付いてる? 恐らくはそうだろう。だから入り口を破壊した。誰にも会いたくないってハルヒの願い通りに。
だったら、きっと裏玄関だってぶち壊されてる。……そう考えた方が、自然で懸命だろう。



536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/06(日) 00:32:52.52 ID:f08EZDsl0
「……ああ、面倒臭い事させやがんぜ、あんにゃろうがっ!」

裏へ回れば予想通り。ここでも青白い巨人さんがこんにちわ、と。建物解体現場に行けば幾らでも歓迎されそうなのに、どうしてこう、しょうもない所ばっかりぶち壊すのかね、コイツらは。
ビビってる。ああ、認めよう。だが!
それでも足を止める訳には行かない。この体には俺一人分だけじゃない。団員全員の意思が乗っかってるんだ。こんな所で引き下がれるかよ。
向かう先は青く光る、巨人の足元!

「うおおおおおおっ!」

のっそりと歩く巨人。その足に踏み潰されれば俺なんか丸めた新聞紙で叩かれた蚊ってなモンで、即アウト。でもさ。よくよく考えたら古泉たち超能力者連中は常日頃からこんなデンジャラスゾーンに挑んでる訳で。
一回くらい、同じ事にチャレンジしたからって泣き言は言えないよな。今日ばっかりは、アイツの代理でも有るのだから。

「武器は加速装置だけか! 後は勇気だけだあああっ!!」

どっかのサイボーグに成り切ってBダッシュ。今だけで良い。この両足に宿れ、縮地法!
神人が右足を上げる。俺が突っ込んで行く、丁度その辺りが右足の着弾点。あああ死にたくない死にたくないでも立ち止まったら死ぬから走るしかない!
青白い発行体が頭上に迫る。俺の影が地面に落ちる。踏んづけられて堪るかよ! 間に……合わせるっ!

「跳べないキョンは! ただの鹿だああっ!」

最後の踏み切りはヘッドスライディング。一瞬遅れて地響きが轟く。俺の体は砂塵と共に吹き飛んだ。校舎の壁に背中から叩き付けられるも……まだ、生きてる。生きてるなら立てるよな、俺。

「……玄関ぶち壊したくらいで引き籠れるなんて思ってるなら、浅はかだぜ、ハルヒ」

手近に有った石ころを廊下の窓目掛けて投げ付ける。ガラスは呆気無く割れて散った。ちょいと良心が痛んだが、緊急事態って事で勘弁して貰いたい。
ガラスの破片で体を切らないように気を付けて、俺は校舎に乗り込んだ。目指すは部室棟。そこに、ハルヒは居る。



539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/06(日) 00:52:36.19 ID:f08EZDsl0
文芸部室の扉を開ける。予想通りに、そこにはハルヒが居た。

「何しに来たのよ、馬鹿キョン」

開口一番、コレだよ。だがまあ……あっちで出会ったような抑揚の無い声では決してない。椅子に逆向きに座って俺に背中を向け、自分の分身が大暴れするグラウンドをソイツは見つめていた。

「ご挨拶じゃねえか、ハルヒ」

「呼んだ覚えはないわ」

「呼ばれた覚えも無い。だがお前、昔言ったじゃねえか。放課後は文芸部室に来ないと死刑だって。死刑は嫌なんだよ、俺だって」

……机の上の「団長」と書かれたカラーコーンは無し、か。当然のように腕章もしちゃいない。
こりゃ、重症だな。

「古い話持ち出すわね、アンタ……別に、死刑になんてしないから今すぐ帰りなさい。ここに居るとアタシと一緒に死んじゃうから」

自殺……ねえ。良心の呵責ってヤツか。自分が何をやってきたのか気付かされたんなら、そりゃ無理も無い話かも知れん。
生憎、俺には今のハルヒに掛けてやれる言葉が無い。戯言なんかじゃ、コイツの心までは届かないだろう。
だから。

「分かった。なら一緒に死ぬか、ハルヒ」

死なば、諸共。

「はあ?」

「俺じゃ不服かも知れんが。だが、お前をそこまで追い詰めた一人として責任を感じてんのも事実なんだよ、これが」

心の底から、本音を吐こう。

「だからさ……ま、茶でも飲みながら世界の終わりでも見物しようかな、ってさ。ああ、朝比奈さんみたいに美味い茶は淹れられんが、それでも良ければお前の分を淹れてやるぞ、ハルヒ」

狐が望んだ世界の終わり。それってーのは、案外こんなしょーもないモンだった訳だ。



540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/06(日) 00:53:15.33 ID:f08EZDsl0
文芸部室の扉を開ける。予想通りに、そこにはハルヒが居た。

「何しに来たのよ、馬鹿キョン」

開口一番、コレだよ。だがまあ……あっちで出会ったような抑揚の無い声では決してない。椅子に逆向きに座って俺に背中を向け、自分の分身が大暴れするグラウンドをソイツは見つめていた。

「ご挨拶じゃねえか、ハルヒ」

「呼んだ覚えはないわ」

「呼ばれた覚えも無い。だがお前、昔言ったじゃねえか。放課後は文芸部室に来ないと死刑だって。死刑は嫌なんだよ、俺だって」

……机の上の「団長」と書かれたカラーコーンは無し、か。当然のように腕章もしちゃいない。
こりゃ、重症だな。

「古い話持ち出すわね、アンタ……別に、死刑になんてしないから今すぐ帰りなさい。ここに居るとアタシと一緒に死んじゃうから」

自殺……ねえ。良心の呵責ってヤツか。自分が何をやってきたのか気付かされたんなら、そりゃ無理も無い話かも知れん。
生憎、俺には今のハルヒに掛けてやれる言葉が無い。戯言なんかじゃ、コイツの心までは届かないだろう。
だから。

「分かった。なら一緒に死ぬか、ハルヒ」

死なば、諸共。

「はあ?」

「俺じゃ不服かも知れんが。だが、お前をそこまで追い詰めた一人として責任を感じてんのも事実なんだよ、これが」

心の底から、本音を吐こう。

「だからさ……ま、茶でも飲みながら世界の終わりでも見物しようかな、ってさ。ああ、朝比奈さんみたいに美味い茶は淹れられんが、それでも良ければお前の分を淹れてやるぞ、ハルヒ」

狐が望んだ世界の終わり。それってーのは、案外こんなしょーもないモンだった訳だ。



552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 12:50:47.08 ID:itzVSEe30
ハルヒの背中が震えた。肩の震えは最初は小さく、徐々に大きくなっていき止まる気配は無い。小さくしゃくり上げるような声も聞こえてくる。俺はソイツの背面、団長様専用デスクに茶の入った湯呑を置くといつも通りの定位置に座った。
窓の外では世界の終りが進行している。とは言ったものの、実際何がどうなったら世界が崩壊するのか、なんてのは俺には分かりようもない。神人の振るう拳が俺たちの居るこの場所を叩き潰したら、とかかね?
まあ、いい。

「茶、冷めてから飲んで不味いとか言われても、そりゃ俺のせいじゃ無いからな」

言ってちびりと口を付ける。当然だが、朝比奈さんが淹れたヤツとは天と地ほどの違いが有るぜ。お湯の温度を几帳面に計ってる訳で無し、これで同じ味が出せたりしたらむしろ申し訳無いってなもんか。

「……不味い」

以前、俺に背を向けるハルヒの声は湿っている気がした。が、本人の名誉の為にもこれは気付かない振りをしておくべきだろう。

「一口も飲まないでそれを言うかい?」

「飲まないでも分かるわよ。アタシを……誰だと思ってんの?」

それにしたって色も匂いも確認しないでとは、某美食倶楽部のおっさんもびっくりだ。……事態が事態なだけに味なんて気にかけてられないだろうけども。しかし、一口くらい口を付けるのが礼儀じゃ無いかねえ。

「誰だと思ってる? お前こそ、お前を誰だと思ってんだ?」

「……知ってるんでしょ? アタシは……神様なのよ」

狐面の入れ知恵は、どこまでもハルヒを侵食しているらしい。どんなやり方でその理解をコイツに促したのか、そんなのは知った事じゃないし推測すんのも胸糞悪い。
それに……それに、その理解は勘違いにしても行き過ぎだ。

「お前は涼宮ハルヒだ」

神様なんて信じちゃいない。生憎、俺は無宗教なんだよ。

「神様じゃない。ただの女子高生で……SOS団の団長だ。違うか?」



553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 13:07:12.67 ID:itzVSEe30
「……戯言よ、それ」

ハルヒは呟く。

「アタシが何をしてきたか、誰よりもアンタが一番よく知ってるんでしょ? だったら分かってるはずじゃない」

いいや、分からないね。分かりたくもない。お前が何をしてきたか? ああ、確かに。ずっと見てきたし振り回されたのは否定しない。入学当初の素っ頓狂な自己紹介に始まり野球大会、なんちゃって失踪事件に殺人事件、ハードスケジュールを強制された夏休みと、数え出したらキリが無え。
だけど、それがどうした。

「アタシが全部、悪いのよ」

「ふざけんのも大概にしろ、ハルヒ」

ああ、ようやく分かった。今更ながらに理解した。
勝手に自己嫌悪に浸って、派手に自己犠牲精神を丸出しにして。そんなもん、見せられる側からしたら気分が悪いだけでしかない。
大泥棒相手にした俺の告白。それと全くおんなじの、この場面。
知らないところで勝手な理由で謝罪されても哀れまれても、苛立つだけなんだよな。

「人を馬鹿にすんのもいい加減にしろ。自分を卑下すんのもいい加減にしろ。俺は」

俺は、絶対に神様の存在なんて信じない。

「俺はお前に何かの責任を一つだって求めたりしねえぞ、ハルヒ。俺の苦悩も、後悔も、欺瞞も、痛苦も、疲労も、そんなのは全部、俺のモンだ。俺個人のモンだ。お前なんかにやってたまるか」



554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 13:27:17.07 ID:itzVSEe30
まるっと纏めて背負い込んで、それで立てなくなるような弱い足腰してたつもりはない。大体だ。重石が無くなりゃ宙に浮いちまうかも知れねえし、踏ん張りだって利きゃしない。
これまでの十七年間、積もりに積もって貯めに貯めて、それでようやくブレないで一人でたてるだけの重さ、過去を手に入れたんだ。それをなんだ? ネコソギ奪い取るってどんだけお前は横暴なんだよ。
いいか、そういうのはな「偽善」ですら無いんだ。昔、キリストって馬鹿が居てな。人間みんなの罰を一身に背負うとかなんかそんな誇大妄想を膨らませまくって磔になった訳だが。ソイツは、ソイツ自身が死ぬ事で誰が泣くのかも考えちゃいなかった。
周りすら幸せに出来なかったような、そんなヤツの真似をして何になる?

「アンタは何も分かってない。アタシが有希に、みくるちゃんに、古泉くんに……アンタに何をしてきたのか、振り返ってみなさいよ!」

「お前は何も分かっちゃいねえ!」

俺の一年半は、そんなにクソッタレなものだったか? 否! 断じて否だ!
少なくとも俺は……俺はお前と出会ってからの一年半ほど充実した時間を、他に知らねえんだよ!

「世界はな! 俺の世界は! お前の馬鹿馬鹿しい行動力のせいで、だけど確実に面白い方向に向かってたんだ!!」

こればっかりは確信を持って言える。胸を張って誇ろう。

「SOS団は俺にとって最高の集団だ!」

世界を大いに盛り上げる、その革新を世界で一番享受していたどっかの男子高校生はそれを宝物にして大事に抱えてこの先も生きていくに決まってる。
その中心はお前なんだよ、涼宮ハルヒ。

「お前が神様だってんなら、どうしてそんな簡単な事くらい分からねえっ!」



555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 13:41:05.28 ID:itzVSEe30
核心、ってのはきっとその程度のものなんだろう。全能かも知れんが、全知じゃあない。だったらそれは神様なんて呼べる代物じゃないね。そうだろ?
少なくともハルヒは知らない。俺の思いも、覚悟も。いや、俺だけじゃない。長門、朝比奈さん、古泉がどんな気持ちでお前の傍に居るのか。それは生半可な思いじゃないし、並大抵の覚悟でもない。それくらいは俺でも分かる。なのにコイツには分からない。
ただ、襲い来る罪悪感に打ちのめされて他に気を回す事すら出来なくなっちまってる。

「……キョン」

「なんだよ」

「アタシと一緒に」

「一緒に?」

振り返ったハルヒは、涙を目に貯めて俺をキッと睨み付けた。その強い意志の宿った瞳は、ソイツの精一杯の矜持だったんだろう。恐らくな。

「これから新しく作る世界に来てくれる?」

なるほど、それがお前の選択か。今までの世界は俺とお前が居ないって前提で創り直して、でもって俺とお前はまた違う、新しく創る世界で生きていくつもりなんだな。
もう迷惑をかけないように。
もう苦労を強いないように。
それでも、俺だけは連れて行ってくれるのかい。……光栄、と思うべきなんだろうな。特別扱いはして貰えたって訳だ。

「一緒に死んでやる覚悟でここに来たんだ。今更だろ?」

世界の中心。癇癪持ちの神様。一人にしとくにゃ、ちぃと危なっかしいしな。

「どこへでも、連れて行けよ」



556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 14:08:49.03 ID:itzVSEe30
鬼の目から涙、って表現はいささか自分でもどうかと思う。それくらい、ソイツの涙は今まで見た事が無かったし、それは綺麗だった。

「茶、冷めちまってんな。淹れ直すか?」

「……いい」

「そうかい」

溜息。何に対して出たものなのか、自身の口から出たものでありながら分からなかった。いや、身に覚えが有り過ぎて絞れなかっただけだな。
そもそもハルヒに罪悪感を植え付ける、その根底に有ったのは俺たちの秘密主義であり、まあこれは言った所でどうしようも無かったのだけれども。他にもフォローし切れなかった事だとか、この事態に解決策を見出せない自分だとか、そういうのが両肩に容赦無く圧し掛かる。
結局、戯言遣いの言った通りになった。自殺するのがハルヒ一人から、ハルヒプラス一名になっただけで。しかもそのプラス一名ってのが「仕方無いか」とか心の隅っこで思っちまってるのが尚更タチが悪い。
でも、ま。なるようになれだ。逆に言えばなるようにしかならん。そんな諦めの境地で見つめる、俺の視線の先のソイツは何を考えているのかねえ。
あ、ようやく茶に口を付けた。

「……アンタ、執事の才能はゼロね」

苦い顔をして言う事がそれかよ。残念だが、俺は執事になる気は無いぞ。

「あーあ。人生最後で飲むお茶がこれなんて、最悪。せめて、みくるちゃんに淹れて貰いたかったわ。勿論、メイド服着た状態でね」

それに関しては諸手を挙げて同意する。手ずから淹れた茶が否定されるのは癪に障るが、しかし美少女メイドと比べられてはそれが当然の結論なのは、これは最早真理と言っても良いだろう。

「……みくるちゃん、もう会えないんだ……最後に飲んだお茶、アタシちゃんと美味しいって言ってあげてたかしら」



561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 14:27:05.47 ID:itzVSEe30
ハルヒは言って、俺に背中を向けた。どうだっただろうか。一応記憶をかき回しちゃみるが、そこまで覚えていられるような出来の良い記憶回路は生憎持ち合わせちゃいない。テストの点数を思い返せばこの辺りは自明だな。

「……俺も、ちゃんと礼を言ってたか記憶に無いよ、そういや」

人生の最後ってのは結構どうでもいい事が引っ掛かるものなのかも知れない。他の何よりもお茶の礼だなんて、いやまあ、そういうものなのかも知れないが。

「あー、しくじったな。ここに来る前に言っておけば良かったぜ」

呟いた、その時だった。目の前が光り輝いて生理反応で目を瞑る。

「な、何だ!?」

瞼越しに光が収まった事を確認して、目を恐る恐る開くとそこにはメイド服を着た天使がきょろきょろと周りを見回していたってんだから。
……っとに、神様ってヤツは慈悲深い。

「え? あれ? ここ、どこですかあっ? きょ、キョンくん? あれ? あれれっ? 部室……どうして? ええっ? 涼宮さんっ?」

朝比奈さんは訳が分からないと目を回す。振り返ったハルヒは唖然と口を大きく開けて虫歯の検査でもしてるんじゃないかって間抜け顔。
そして……そして俺は。

「ははっ……は、はははははははははははははははははははっ!!」

爆笑、していた。止められなかった。止める気も無かった。なあ、ハルヒ。いや、神様よ。お前ってヤツは本当にツンデレだな。でもって、寂しがり屋で……何より仲間思いだ。
だけど、そんなお前だから。
俺は傍に居たんだぜ?



563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 14:57:06.90 ID:itzVSEe30
「……み、みくるちゃん?」

何が起こってるのかさっぱり訳が分からないって感じの顔をするハルヒ。ほらな。やっぱりお前は全知って柄じゃないぜ。俺にだって何がどうして朝比奈さんがここに呼ばれたか理解してるってのに、その一番の当事者が間抜け面かよ。
ま、それもそれでハルヒらしいっちゃらしいんだけども。きっと、俺の発言がトドメだったんだろうよ。なんだっけ? ここに来る前にお礼を言っておけばとかなんとか。
俺は後悔したんだ。だから。
神様はそれを汲んだ。俺の想いを汲んだ。多分無意識下での願望なんだろう。「団員に後悔をさせたくない」ってな具合にさ。
知ってたよ。根っこの部分でお前が優しい事くらい。SOS団に所属してるヤツなら、みんな知ってる。

「あー、混乱してるトコ、すいません。朝比奈さん」

「は、はいっ!」

名前を呼ばれて直立不動のSOS団専属マスコット。ああ、どんな表情をしていても愛らしいです。

「お茶を淹れてくれませんか、五人分。どうも、俺が淹れたヤツは不評だったらしくて……同じお茶っ葉を使ってるのにどうしてこうも味に違いが出るんでしょうね」

「あ、えっと、お茶ですね。分かりましたっ! ……え、キョン君?」

慌ててコンロへと向き直った、朝比奈さんが振り向く。

「五人分?」

訊ねられた内容には答えず、俺はハルヒを見る。ニヤニヤと。ああ、鏡が有ったらきっと後で死にたくなるくらい、今の俺は気持ち悪いしたり顔をしてるんだろう。だが、構うものか。

「おい、ハルヒ。一つ質問だが……SOS団って何人だった?」



564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 15:17:46.39 ID:itzVSEe30
ハルヒは答えない。まさか何人だったか覚えてない……なんてな。
SOS団は発足当初から今まで、多少の紆余曲折は有りつつも、結局は五人で落ち着いてんだ。誰一人欠けても成り立たない、そういう……今思い出しても去年の五月、コイツの人選は確かだった。うむ。

「仲間外れには……出来ないだろ。今までずっと五人でやってきたんだし、さ」

「有希と古泉くんの事?」

「他に誰が居るよ?」

他の宇宙人も他の超能力者も、そんなんは願い下げだ。今更パーティ入れ替えしてレベル一から入られても困っちまう。こっちは即戦力が欲しいんだ。出来ればここまでのあらすじとか説明しなくても済むようなヤツがいい。

「……無理よ。巻き込めない」

「だったら最初から朝比奈さん呼んでんじゃねえっつの」

名前を呼ばれて少女の肩がビクリと震えるが、彼女が会話に混じってくる事は無かった。今自分がやる事、ってのを分かっているらしい。ええ、すみませんが朝比奈さん。あなたにはすこぶる美味いお茶を五人分淹れて貰わないと困ります。
コイツの心を解きほぐす為に。

「そ、そんなの知らないわよ! アタシが意識して呼んだ訳じゃないんだから! 勝手に来たのよ、勝手に!」

「だったら、長門も古泉も、きっと『勝手に』来るな。神様気取りの誰かさんが仲間外れを嫌ってる以上、来るよ。必ず」

SOS団は、そういう連中だから。俺は信じてる。団長様の発した今世紀最大のSOS。これに集わないようなヤツらじゃ、決してない。
だから、来る。

「朝比奈さんが折角用意したお茶を無駄にするなんて、ハルヒ。お前許せるか?」



565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 15:39:08.63 ID:itzVSEe30
戯言か。本音か。ある方向に誘導する言葉を選んで喋っている気もするし、選ぶ余地なんて無い気もする。どっちでもいいさ。
やりたい事と、やれる事と、やらなきゃならない事と、そんなんが三拍子揃ってんだ。だったら何を躊躇する必要が有る? そして同時に、楽観的だと笑われるかも知れないがこうも思っていた。
SOS団が全員揃えばどんな状況だって覆せる、と。それが世界の終りだって。それが世界の始まりだって。
決定も既定も修正ペンで塗り潰して、新しい道を創っていける。創ってきた。だったら今回に限ってそれが出来ないなんて事有るかよ?

「とびきりの美少女でメイドさんだ。その辺どこにでも転がってる冴えない男子高校生が淹れるのとは訳が違う。そこんとこ、異論は有るか?」

沈黙する少女。萌えの求道者にして、朝比奈さんをスカウト(強奪とも言う)してきた張本人に異論なんてあろうはずも無い。何かにつけて朝比奈さんにコスプレを強要するコイツが、彼女をどう思っているのかなんて今更だ。

「長門も、古泉も。必ず来る。案外、もう来てるかも分からんぞ。なんせ、俺の時は裏庭に放り出されてたからな。今頃、神人と仲良く鬼ごっこでもやっていたところで別に不思議は無いし」

俺はともかくとして、あの二人ならば神人に襲われても大事には至るまい。どころか返り討ちにしていそうだ。なんて思っているとポットから蒸気が噴き出し始めた。後は温度を調節して、ってか。
両手にミトンを付けて温度計を睨み付ける朝比奈さんの横顔は真剣そのもの。もしかしなくても気付いてるのかも知れない。今から淹れるお茶の重要性ってのに。そうです、朝比奈さん。
あなたの出すお茶が美味しければ美味しいほど、それをハルヒは勿体無いと、出来れば長門と古泉にも飲ませてやりたいと思うんですよ。だから、頑張って下さい。
そのお茶は、世界の危機を救うかも知れない一杯なんです。

「でも……二人がアタシを迷惑がっていたのは確かよ」

さて、どうだろう。そればっかりは宇宙人アーンド超能力者に聞いてみる他無い。俺に返答は出来ないし、長門は無表情だから何とも言えないが古泉にはそういった節が無いとも言い切れない。
ここで「そんなこたない」と嘘を吐くのは簡単だ。だけど、きっとそれじゃ届かない。俺の口からそれは告げられない。



567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 15:52:54.83 ID:itzVSEe30
「聞いてみろよ、本人に」

「その本人が居ないじゃない」

ハルヒ。お前は信じられないか。
ハルヒ。お前を助けるためにそいつらがここにやって来る事を。
世界の壁なんか乗り越えて。
空間の差異なんかぶち破って。

「来る」

俺は言い切れるぞ。

「必ず来る」

俺は信じてるぞ。

「SOS団を舐めんな」

世界の終りを回避するために。
少女の絶望を晴らすために。

「俺たちの掲げる、世界最強の団長が目を付けた人材だ」

涼宮ハルヒの世界を大いに盛り上げるために。

「ソイツの目は節穴じゃない」

宇宙人と超能力者は絶対現れる。まるで正義の味方みたいに颯爽と現れる。
最近は知らんが、昔のヒーロー戦隊ってのは五人組だったんだ。右に習えってなモンで。

「涼宮ハルヒを、舐めんじゃねえ」



568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 16:13:22.38 ID:itzVSEe30
俺が知っているソイツ、なんてのはきっとごく一部なんだろう。ソイツを全部知った気になんてなっちゃいない。それでも、だ。それでもこれだけは断言出来る、的な事柄はいくつか有ったりするんだ、これが。
これ以上俺に言える事は無いか、なんて思った矢先に俺の座っている机の脇に湯呑がおずおずと置かれた。音を立てる事すら今は許されないと、給仕にも力が入っている朝比奈さんだ。
……力の入れ所を間違えている気がしないでもないが、しかしそれを指摘出来る空気じゃない。一歩一歩、慎重に歩く少女の手に持つお盆が震えているのは緊張からだろう。……ああ、なんか嫌な予感がする。
溢さないように注意すれば、その注意が徒(アダ)となって盆をひっくり返しかねないため、見守る事しか出来ない。ゴクリと俺の喉が大きく鳴った。頑張れ、頑張れ、朝比奈さん。

「そ……粗茶ですが……」

無事ハルヒの下へとお茶を運ぶ事に成功する少女。ああ、古今これほどハラハラする給仕が有っただろうか。ドジっ子メイドは文化、とか言い出したヤツの顔が見てみたい。まさか、ソイツもお茶の一杯に世界の行く末が掛かってる事態なんて想定外だろうけれども。

「……あ、ありがと、みくるちゃん」

「い! いえいえ! これくらいしか私には出来ないし! あの……美味しく淹れられてると思うんですけど……」

言外に「飲んでみて欲しい」と含ませるのは忘れない。湯呑を手にしたハルヒの一挙一動に真剣な眼差しを向ける、その気持ちは分からなくもないですが……だけど、きっと大丈夫です。
愛情は最高のスパイスと言うように、味よりも誰がどんな気持ちで淹れたかが実は一番重要なんだからさ、こういうのは。
果たしてそのなだらかな喉が一度二度動き、そして湯呑を机に置いたハルヒは言った。

「いつもも美味しいけど、だけど今日のは……これまでで一番美味しかったわ。腕を上げたわね、みくるちゃん」

その瞬間のハルヒと朝比奈さんの満面の笑みは、こりゃもう筆舌に尽くし難いものがあったとも。



569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 16:38:34.88 ID:itzVSEe30
一仕事終わった、というのも有ったのだろう。安堵の溜息と共に振り向いた、少女の足にPSの電源コードが(案の定)引っ掛かった。

「はうわっ!?」

転ぶ少女。スローモーションで宙を舞う湯呑二つは俺の顔面直撃コース。おいおい、マジですか。とっさに避けようとするべきか受け止めるべきかを思案してしまったせいで判断が遅れる。どちらも間に合わない。
こういうのは谷口の役回りじゃないのか。なんて考えたところでそれが何の役に立つっていうのか。
マジで火傷する0.5秒前。ええい、俺が熱湯を浴びる事に一体どんな需要が有るのか、分かるヤツが居たらここに飛んでこい! そして俺に必要性を説明しろ!
襲い来る不可避の未来に目を閉じた、瞬間に背後から聞き覚えの有る爆発音がした。

「熱っ……くない?」

どうした事か。用意していた台詞は空振り。目を開け、視界に飛び込んで来たのは左目の直前で空中で停止する湯呑と、右目の直前には男の拳。

「間一髪、でしたね」

「当該対象の周囲ごと時間凍結を施した。温度が冷める事は無い。安心して良い」

長門の声は後ろから。右向きゃ古泉が素知らぬ顔でお茶を口に運んでいた。

「今日のは特に美味しい気がしますよ、朝比奈さん。流石です。今度、僕にも一つご指南頂けますか?」

お前はこのドサクサに紛れて何を個人授業の約束を取り付けようとしていやがる。ああ? 羨ましいに決まってるだろが。そして朝比奈さん、混乱しながらも頷かないで下さい。後、その授業に参加する人数枠を増やして貰えたら嬉しいです。



570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 16:53:15.70 ID:itzVSEe30
「有希……古泉くん……どうして……?」

おい、ハルヒ。その疑問よりも先ず俺を気遣う心とか無いのか。こっちは危うく大被害に遭うところだったんだぞ。
……いや、朝比奈さんを非難するつもりは有りません。有りませんから、そんな目に見えて気落ちされても弱ります。

「おや、その質問はこちらこそさせて貰えませんかね、涼宮さん。どうして、僕たちを受け入れてくれたのですか? ……いえ、朝比奈さんが消えた事から僕らもそろそろ呼ばれるだろう、とは考えていましたが」

「……涼宮ハルヒは仲間外れを何より嫌う」

「ですね。僕とした事が。愚問でしたね。忘れて下さい」

古泉が微笑む。いつも通りのスマイルをこの土壇場でも忘れないとは、コイツの笑顔は最早癖を通り越して顔面神経症の疑いが有りそうだ。

「だ、だけど! ……だけど、なんで来たのよ!? ここは危ないの! 分かってるでしょ!?」

ハルヒの訴えに長門が頤を数ミリ動かす。

「状況はおおよそ把握している。世界改変は依然として継続中。ここに居ては危険」

「同じく、ですね。いや、こんな大規模な閉鎖空間は久々ですよ。まあ……『だから』ですよね、長門さん」

宙に浮いている湯呑を手に取った、長門へと同意を求める古泉。そうだよな。危ないもんな、ここは。

「あなた達が危険だと判断し、この空間へと侵入した」

仲間を見捨てるようなヤツは在籍していないという、誇り。

「右に同じです。閉鎖空間の枠組が弱まったのは涼宮さんからの許可と、そう勝手に解釈させて頂きました。もしも意に添わなければこの場で謝罪します。申し訳ありません、涼宮さん」

心にも無い事を言いやがって。全く、どこまでもイケメンだぜ。気に食わないが……だが、俺はお前のそういう所を割と気に入っている節も無くは無い。今日は緊急事態って事で不問にしといてやってもいいか。
長門、古泉。SOS団全員集合をハルヒがどう思ってるかなんて、ソイツの顔を見れば一目瞭然だろ?



571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 17:09:58.48 ID:itzVSEe30
「……私は何をすれば良い?」

ん? 質問されたのは俺か? あーっと、そうだな。先ずはお茶を飲んでその感想を朝比奈さんに言ってやってくれ……っていつの間にか湯呑空だし! 宇宙マジック! 神秘!

「平常と比較して茶葉の成分がおよそ八パーセント多く抽出されている。しかし苦味や酸味といった成分は逆に抑えられていた。朝比奈みくる」

「は、はいっ!」

「私はこれを美味しいと感じた」

分析はともかくとして感想を言う長門ってのは珍しい。いや、初めてじゃないだろうか。朝比奈さんが感動して震えているのも、気持ちは理解出来ようというものだ。出来ればこの和やかな雰囲気にいつまでも浸かっていたかったが……残念ながら後回し。
後で浸るために、俺たちの日常を取り返すために、やらなきゃならん事が有る。

「長門」

「……何?」

「古泉」

「……どうぞ、なんなりとご命令を」

宇宙人と涼能力者。切り札と奥の手。ここで切らずにいつ切るってーのか。チェンジは無しだ。既に手の中ではロイヤルストレートフラッシュが出来上がってる。

「時間を稼げるか?」

「任せて」

「お安い御用ですよ」

頼れる仲間。SOS団の秘密兵器。二人は揃って頷いた。一人は無表情に、一人は不敵に笑って頷いた。
何度でも言わせて貰いたい。だってしょうがないじゃないか。その姿は正義の味方にしか、見えないんだ。



572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 17:30:48.46 ID:itzVSEe30
ハルヒに歩き寄った古泉は、グラウンドに面した窓をガラリと開ける。窓枠に手を掛けるとソイツは言った。

「貴女を迷惑に思った事が無いと、言ったらそれは嘘になります」

恐らく、ハルヒによって一番振り回されてきたのは古泉たち超能力者だ。だから、その言葉は仕方が無い。言葉を遮る事も、きっと俺には許されないだろう。古泉の本音ってのを初めて聞かされた、そんな気がしたってのも有る。

「どうして自分に超能力などというものが与えられたのか。それを呪った事も有りました。どうして貴女のような存在が許されているのか、嘆いた事だって有ります。想像くらいは出来るでしょう? 唐突に」

青い巨人を指差す超能力少年。

「あんなものと戦う運命を背負わされて。……当時の僕は十三歳でしたか。ノイローゼ気味になったりもしましたよ」

触り程度は聞いた事が有る。古泉の過去。想像は出来ても……いや、想像しか出来ないし、実際はその斜め上を行くんじゃなかろうか。
中学時代のハルヒは相当に荒れていたと聞いている。古泉は無論の事、谷口他東中出身複数から聞いた事なので間違いはあるまい。高校に入ってからのハルヒしか俺は知らんが、それでもまだ穏やかな方だと聞いているのだから相当なものだったんだろう。

「ですが」

少年は恨み言にしか聞こえない台詞を言っている間も、笑みは崩さなかった。まるで友人と昔を懐かしむような、その笑顔は……ああ、きっとソイツも本音なんだろう。偽りじゃない微笑みに、俺には見える。
これが演技だとしたら、アカデミー賞ものだぜ。

「それでも、僕の大切な過去です。今に至るための掛け替えの無い足跡だと思っていますよ。いえ、もっと単刀直入に言い換えましょうか」

古泉は「ハルヒの見ている前で」赤い球体状にその身体を変化させた。
そして、告げる。

「あなた達に出会えて、良かった」

それはきっと「優しい嘘」の本音本心。

「僕は貴女に選ばれて、本当に良かった」



574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 17:56:41.38 ID:itzVSEe30
では、と一言そう言ってレッドボール古泉が窓の外へと飛んで行く。世界を守る戦いへと向かう、その軌跡に迷いは無い。一直線に校門近くで暴れている神人へと突っ込む。
長門がそれを追いかけるように窓の桟に足を掛けた。

「有希、ちょっと待って!」

ハルヒが呼び掛ける。古泉の姿を瞳に映しながら口を素早く動かし続ける少女は、きっと朝倉をフォローしてた時と同じ要領なんだろう。見れば神人の腕が赤い球向けて振るわれる、その先々で情報障壁が展開されている。

「……何?」

必要最小限を口にすると、すぐさまその口は情報操作へと動き出す。ハルヒの力、願望実現能力に対して長門の力ってのはどうやら弱いらしく、光り輝く壁は巨大ラリアットを一秒かそこら遅らせる事しか出来ちゃいない。
だけど、それでも古泉にとっては十分だった。与えられた一秒間を用いて神人アタックを掻い潜り、その腕を見えない刀で斬り裂いたように落とす。即席の連携とは思えない程に長門のフォローは的確で、また古泉もそれを理解しているような動きを見せている。

「ゆ……有希は……有希はアタシに言いたい事は無いの!? アンタのせいでとか! 居なければ良かったとか!」

長門はハルヒを見なかった。それどころじゃなかったっていうのも有るだろう。目を逸らせば古泉が危ないのは俺にだって分かる。けれど、それ以上に何か……何か含みが有るような気がした。

「……ありがとう」

それだけを言って、後方支援宇宙人は窓からグラウンドへと飛び降りた。何を感謝したのかは分からない。何をもってのありがとうなのか、そんなのは長門にしかわからない。
分かる事は一つ。
ソイツの口から出て来たのは非難でも拒絶でもない、感謝の言葉だったってそれだけ。それだけで、だけどそれで良かった。



575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 18:15:08.27 ID:itzVSEe30
「……何よ……なんで……なんで誰もアタシを責めないのよ! アタシのせいでみんな迷惑してるんじゃない! アタシのせいでみんな困ってるんでしょ! 違う!? だったら……だから……みんな、帰ってよ……一人に……一人でいなくなるつもりだったのに」

ハルヒの膝が折れる。そのまま床に崩れ落ちたソイツを抱き締めたのは……まあ、俺じゃない。こういうのはもっと適役が居るからな。

「みんな、涼宮さんが好きなんですよ」

聖母だとか天使だとか。そういった言葉が似合う人材には事欠かない。それがお前の集めたSOS団だぜ、ハルヒ。

「古泉くんも、長門さんも。勿論、私だって。宇宙人だから、未来人だから、超能力者だからで涼宮さんの傍に居るんじゃないんです。ううん、最初はそうだったかも知れない。私はそうでした。だけど、今は違います」

なあ、ハルヒ。絶望すんにはちょいとお前の集めたヤツらは人が良すぎるだろ。
誰一人、お前を一人にはしてくれないんだからさ。だから、諦めて縋り付いてみろよ。

「私は今年、卒業です。私一人だけ、SOS団で三年生なんですよ。それが悲しいんです。なぜだか分かりますか?」

朝比奈さんはハルヒを一際強く、抱き締めた。

「このSOS団から離れてしまわないといけないからです」

「……みくるちゃん」

「私は、SOS団が好きです。涼宮さんが好きで、キョン君が好きで、長門さんが好きで、古泉君が好きです」

少女は泣きながら、訴える。

「涼宮さんは、私たちが嫌いですか?」



576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 18:28:04.08 ID:itzVSEe30
きっと、そうだ。
戯言なんかじゃ届かないものってのを届ける方法。それはこういうのなんだ。古泉が、長門が、朝比奈さんが、教えてくれた。
たった一つの、冴えたやり方。

「嫌いな訳……無いじゃない!」

「涼宮さんに私たちの事情を隠していた事が憎いですか?」

「そんな事、絶対、ぜったい無い!」

「だったら」

少女は窓の外を見る。グラウンドには続々と敵を見つけた青白く光る巨人たちが押し寄せていた。それを押しとどめているエスパー少年の飛び回りっぷりは八面六臂と言っても何ら問題はあるまい。

「だったら、信じて下さい」

「信じ……る?」

「はい。古泉君を、長門さんを。……そして、キョン君を」

話を突然振られて戸惑いを隠せない俺に、ハルヒの目が向けられる。真っ赤に充血して、普段の見る影も無い。だけど……なんだろうな。こんな時に不謹慎だと思われるかも知れないが、その顔は滅茶苦茶に可愛かった。
……正直、少し萌えた。

「キョン君は涼宮さんを信じていますよ。ずっと。今も。ね、キョン君?」

朝比奈さんのウインクを受けて知る。最後はどうやら宇宙人、未来人、超能力者それぞれのターンは終り。って事で俺のターン。
戯言遣い改めまして真言遣い。いや、心言遣いってトコロか。どっちでもいいや。
一般男子高校生代表「裏も表も(センスオブワンダラー)」の一世一代、大一番。



577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 18:46:02.99 ID:itzVSEe30
「信じてますよ、ええ」

ホント、どの口が言うのか。

「なあ、ハルヒ。現実問題、だ。こうやって五人ともここに揃っちまった以上、お前が今創ろうとしてる新しい世界ってヤツには五人とも残るぞ? お前が今まで迷惑を掛けてきた長門も朝比奈さんも古泉も」

まあ、この口以外に無いんだけどよ。

「だったらどうする? 記憶を奪っとくか? 宇宙人未来人超能力者って属性も剥ぎ取っておくか? でも、それもオススメ出来ないな。悪いがこっちには長門が居る。記憶の確保くらいはメモリーカードにセーブする感覚で済ませちまうだろうさ」

でも、他に俺に何が出来るでもないしな。

「ってな訳でお前の目論見は失敗だ。世界は終わるかも知れんが、SOS団はそっくりそのまま続いてく。だったらそりゃ、今有る世界と何が違う? お前に自覚が有るかどうか、って程度だろ。ま、それはそれで問題だが」

だから考える暇が有ったら口を動かせ。思うがままに言っちまえ。装飾も虚飾も要らん。端からそういうのは俺に向いてないんだ。素直なんだよ、根が。だが、それの何が悪い?
素直は良い子の第一条件だ。

「しっかし、その問題の方もなあ……お前に『力』を使ってるってこう、なんってーんだ? 手応え? そういうのが無きゃ同じだろ。今日まで気付かなかった以上、自覚が有るかどうかも怪しいモンだ。指摘されてようやく気付けるくらいじゃないのか?」

狐面のやった事。それが最悪なのは知っている。だけど、だ。人は誰だって、生きているそれだけで「あー、最悪」って呟く事くらい有るんだよ。それはリカバリ出来ない事じゃない。絶対に。

「だったら、やっぱり一緒だ。さて、古泉も長門も朝比奈さんもお前を恨んでたりしちゃいないんだが……なあ、どうする? 自己嫌悪に浸る事すらさせて貰えんぞ、お前。自業自得、因果応報。お前がやってきた事は、はてさて悪い事だったりすんのかね?」



579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 19:06:52.41 ID:itzVSEe30
情けは人の為ならず。回り回って自分に返ってくる。
……ハルヒ。お前、自分が人に大切にされてる事に気付いてない訳じゃないんだろ? お前がSOS団を大切にしてきたから、なんだぜ、それ。そこの所をきちんと理解しろよ。
でもって分かったら前を向け。ちゃんと世界を見つめてみろ。全部飲み込んで、目を開けてみろ。さあ、お前の目に映るのはどんな世界だ?

「俺は世界を結構気に入ってるんだよ」

古泉がいつだったか、同じ様な事を言ってたな。なんて思い出して苦笑する。あれは……出会ってすぐくらいだったかい?

「いや、世界っつーか『ヒト』かな。どいつもこいつもエゴイストだし、誰も俺の言う事なんざ聞きゃしない。こっちばっかり誰かの一言に一喜一憂してるんじゃないかとたまに思わされたりする。そんなんだけどな……でも、たまーにすっげえ感動する時が有る」

ハルヒが無意識に俺の後悔を汲んで朝比奈さんを呼び寄せてくれた事しかり。古泉と長門が躊躇無く閉鎖空間まで助けに来てくれた事もそうだ。そして……そいつらを無条件に信じてしまえてた俺自身の心の有り様。
無条件幸福。

「だから、お前がその俺のお気に入りをぶち壊そうとしてる事ばっかりはムカつく」

「…………キョン」

「本当に迷惑だとか思ってんのか? ああ、迷惑だよ。お前には迷惑掛けられっぱなしだった。ずっとだ。高校に入学してからの俺がお前を迷惑に感じなかった日なんて数える程しか無い」

「ちょっと、キョン君!」

朝比奈さんが諌めようと口を挟む。だけど、俺の心は止まらなかった。

「それなのに、俺はずっとSOS団の! お前の傍に居たんだよ! その意味くらいは分かるだろ!! 分かれ!! 俺よりもよっぽど賢いその脳味噌フル回転させて理解しろ。二度は言わん。お前の傍はな!」

俺にとって、涼宮ハルヒはどういう存在か。俺なりの答えはこうだ。

「ぶっ倒れてもう勘弁してくれってくらいに楽しいんだ!!」



580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 19:22:58.96 ID:itzVSEe30
言いたい事は全部言った。まだ山と言ってやりたい事は有るが、そいつはきっと蛇足だろう。こういうのは核心部を伝えるだけで良いはずだ。現代国語の授業でもよくやるしな。傍線部の要点を書きなさい。なるほど、学校の授業ってのは満更でもないらしい。

「……たの、しい?」

「ああ、苛立たしい事にな」

お優しい神様よ。アンタがホントに慈悲深いってんなら俺の願いをもう一回だけ汲んでくれるかい?
最初から最後まで、一貫して願ってた事なんだ。

俺の日常を、返してくれ。

長門が窓際でいつも本を読んでいたあの時間を。
朝比奈さんがにこやかにお茶を淹れてくれたあの放課後を。
古泉が渋い顔をして盤面を睨み付けていたあの毎日を。
そうこうしてるとハルヒが満面の笑みでドアを勢い良く開けてこう言うんだ。
「みんな、良い報せを持ってきたわよ」ってな。
……あそこが、俺の居場所なんだよ。だから、頼むよ。
戻ってきてくれ、どこかの誰かさん。受け入れる準備は四人ともオーケーなんだ。後はお前だけなんだ。お前が居なきゃ成り立たないんだ。
涼宮ハルヒ。

「キョン、アンタもしかしてアタシの事……えっと、その……」

涙の跡を頬に残して少女が俺を見上げる。なんだよ。そんなの、今更聞くまでもないだろうが。長門も朝比奈さんも古泉も同じで、俺だけ違うなんて事が有り得るか?
決まってんだろ。

「俺もハルヒが好きだ」



581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 19:50:59.25 ID:itzVSEe30
携帯電話の音で起こされる事ほど人の神経を逆撫でする事は無いと思う。これは経験論であると共にこの時もそうだった事から多少オーバーに表現しているが、何にせよそれで爽やかに目覚める事が出来る人は少数派であろう。
でもって、電話の相手が胡散臭い超能力少年だったりした場合には尚更だ。

「……はい、もひもひ」

自分ではもしもしといったつもりだったのが、体が覚醒していない状態では呂律も回らない。結果としてどっかの萌えキャラのような口調を披露してしまったが断じて故意ではないので怒らないで頂きたい。
大体、どこの世界に冴えない男子高校生が萌え口調などというものに需要が有ろうか。少なくとも俺には分からない世界である。

「おはようございます。夢見はいかがでしたか?」

「……今のお前の一言で最悪になった。ありがとうよ」

どうやら夢オチって訳でも無いらしい。古泉の訳知り声とか目覚ましアラームに有ったら絶対売れ残る。断言してやる。

「そうですか。それは失礼しました。そしてつつがなく現状を理解していいらっしゃるようで何よりです」

「そうかい。俺はいっそ昨晩の記憶なんて消えちまえば良いと思ってる。……今、何時だ?」

「そうですね……『昨晩』の午前三時、と言ってしまいましたら誤解を生みますでしょうか?」

……昨晩? 午前三時って事は夜中で……ん?

「僕も先ほど長門さんに確認を取りました。どうやら時間が上書きされたようです。いえ、より正確に言うならば。十二月三十日が二日有った……らしいです」

オウ、タイムリープ。今日は昨日。



583 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 20:09:53.47 ID:itzVSEe30
「勿論、この事を理解しているのは少数ですね。涼宮さんに関わった人以外は誰一人この事態に気付いていません。これは……ちょっとしたスペクタクルですよ。機関でも別部署の人間はその事実を知りませんでした。きっと浦島太郎ってこんな気分だったのでしょうね」

タイムトラベル初体験の古泉は電話越しでも分かる程にテンションが高い。いや、もしかしたら俺の「早く本題を言って俺を眠らせろ」ってな感情がソイツをウザったく思わせている可能性も否定出来ないか。
どっちにしろ、って話だよな。

「あー、悪いが古泉。要点のみを掻い摘んで俺に説明してくれ。電話してきたって事は何か要件が有るんだろ? それをさっさと済ませてくれないか。実はも何もない。普通は爆睡してるような時間帯なのは分かるな?」

「分かります。ああ、申し訳ありません。火急の要件という事も無いのですから明朝に回すべきでしたね。僕とした事が考えが至りませんでした。そこは謝罪します」

眠い。眠りたい。だってのに古泉の説明を聞いておかないと気になって眠れないだろう予感がする、このジレンマ。本音を言えば今すぐ電話をぶち切ってやりたい。どうせソイツの口からは俺の自己嫌悪を促す言葉しか出ては来ん。分かってる。

「先ずは……そうですね。おめでとうございます」

……ごめん、ちょっと意味が分からない。なんでいきなり俺は祝われてるんだ?

「詳細を説明しろ」

「いえ、これは僕の口から説明するまでもないでしょう。明日明後日のSOS団二年参りの時にでも理解出来る事と思います」

「嫌な予感しかしないんだが」

「いいえ。言いましたよね。これは間違いなく喜ばしい事ですよ。機関などは既に祝賀会の準備が始まっています」

……寝汗ではないものが携帯を握り込む俺の手を湿らせる。度重なる非日常経験により培われた俺の緊急警報はアラームレッド。残念な事に悪い予感にばかり限って外れた事が無い優れモノだ。



584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 20:25:50.86 ID:itzVSEe30
「僕も肩の荷が下りた気がしてほっとしていますよ」

その肩の荷とやら。どこに下ろしたんだ? なあ、オイ。ちょっと具体的な個人名称を挙げてみろ。十中八九心当たりが有る名前が出て来そうじゃねえか。十七年間慣れ親しんだ名前が聞こえてきたりするんじゃないだろうな。オイ!

「どなたでもよろしいではありませんか。ああ、そうです。先ほどもチラリとお話しましたが、明日の午後十一時にいつもの駅前公園に集合だそうです。朝にでも涼宮さんの方からあなたに連絡が入ると思いますが、一応」

「二年参りか」

「はい、そうです。ちなみに、このイベントのためにあなたはご両親との温泉旅行を辞退したと、こうなっていますので上手く口裏を合わせておいて下さい」

……なんでそうなる? 別にそんな理由が有ろうが無かろうが俺は温泉になんて付いて行っちゃいなかったし、必要性がまるで感じられない。
なんだろうか、この感覚は。ああ、去年の十二月に階段から落ちた事に「されていた」あの時以来の居心地の悪さ。俺の知らない所で過去が捏造されているのは間違いない。
しかし誰が? 何のために?

「そう警戒せずとも大丈夫ですよ。大筋は変わっていません。変更はただ二点だけです。これを世界改変と見るかは機関でも意見が分かれていますが。僕としては楽観論を支持したいですね。つまり」

結果発表を言い出す前に一拍矯めるのはクイズ番組のお約束だが、無駄な小技は苛立ちを加速させるだけだぞ、変態エスパー。CMとか入った日にはチャンネル変えるタイプだからな、俺。

「世界の改変は一部に留まり、この世界は僕らの知っている世界の延長線上なのではないか、と考えています」

「って事は世界の終りは回避したんだな?」

安堵する。……いや、安堵するべきではなかったのかも分からん。あんな事件は夢オチで済ませておいて貰いたかったという気持ちも、無いでは無い。むしろ、そうあって欲しかった。

「はい。と言いますか、世界が終っていたのならばそもそもこんな電話自体が有りませんよ」



587 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 20:44:04.20 ID:itzVSEe30
それもそうだな。世界が終わりってのが具体的に何を指すのかはよく分からんが、少なくとも俺にとっちゃ世界ってのは今居るここであり、ベッドの上であり、そして携帯電話で誰かと繋がれる事を言うんだし。

「あなたに、感謝を」

「よせよ。俺は何もしちゃいないぜ」

「謙遜も度が過ぎるとただの嫌味でしかありませんよ」

ハイ、お前が言うな。

「あなたは僕のお願いを聞いてくれた。覚えていますか? 昨日の夜、僕はあなたに言いました。どうか涼宮さんだけは否定しないで下さい、と。それをしっかりと守ってくれたではありませんか。意識的にか、無意識にかは知りません。それでも」

そう言えばそんな話もした気がする。ダメだな、アルコールが回っていた当時の記憶なんかもうおぼろげにしか残ってない。

「僕が感謝を申し上げるには十分です。ありがとうございました」

そんな回収し忘れた伏線を後書きで披露されるような事をされてもな……正直、こそばゆい以外に何の感慨も湧かない訳だが。

「あーっと。まあ、なんだ? 感謝の言葉は受け取っておくが、あんまりそれで畏まられても困るぞ?」

「ご安心下さい。機関からは何もなかったように振る舞えと指示が出ています。僕としては思う所も有りますが、命令であれば従うより他はありませんので。ですが、二年参りの屋台でくらいは奢らせて頂きますよ」

くすくすと笑う、古泉はなんだかいつもよりも距離が近いような気がし……気のせいだ。気のせいって事にしておく。気持ち悪い想像なんかしてないからな!



589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 21:03:05.83 ID:itzVSEe30
ってな訳でこの話もそろそろ終わりだ。まあ、話す事は尽きないが有り過ぎて正直どれから手を付けて良いのか分からん。
あんまりだらだらと長引かせるのもどうだろうと考えた次第であり、どうかご理解を頂きたい。
そうだな。それでも言っておかなきゃならん事って言うと……アレか。朝比奈さんが長門のクラスメイトになっていた事だろうか。

「……谷口、お前珍しくナンパに成功したんじゃないのかよ? なんで初詣メンバーに居るんだ?」

「それが聞いてくれよ、キョン。すっげーいい所まで行ってケー番交換もしたんだけどな……ほれ」

「春日井春日……さん、ねえ。なんか回文みたいな名前だな」

「いや、名前なんかどうでもいい。肝心なのはこの電話番号を掛けたら別の人間が出た事なんだよ!」

「……そりゃ、お前。遊ばれたんだろ」

「やっぱ!? だよなあ……薄々感付いてたんだが、ショックだ……掛けてみてビックリだぜ? なんかすっげえドスの利いた声で西東天とか名乗るんだ! どうするよ、この番号……」

「ああ、そりゃ最悪だな」

間違いない最悪の電話番号だよ、そりゃ。

「こうなったら、アレだ。アレ」

俺は携帯電話を取り出すと電話帳を開いて十一桁の数字を読み上げた。
彼女の番号は電話帳の一番最初にある。

「……なんだ、この電話番号! もしかして……キョン、これ女の番号!? くうーっ、やっぱ持つべき者は友達だぜ! ちなみにこの人可愛いか? 綺麗か? 美人さんか!?」

「おう、俺の知っている限り最強に綺麗な人だ。ちなみに職業は」

ま、戯言だけどな。






「正義の味方」




594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) 2011/03/15(火) 21:49:09.78 ID:itzVSEe30
「なーんて終わると思ったか?」

新学期、放課後のSOS団活動……ま、言ってしまえばただのダベりだが。も終わり家路を急ぐ途中、真っ赤なコブラに拉致られた。
真っ赤な彼女に、拉致られた。
……おい、俺の日常は戻ってきたんじゃなかったのか?

「残念だったな、キョン。お前は伏線回収の大切さをまるで理解してないようだから言っといてやる。推理小説ってのは伏線回収の上手さがその評価材料になるんだよ」

いや、推理小説じゃないし。っていうか、人の人生を小説とか言わないで頂けないだろうか。

「回収してない伏線を羅列してやっても良いんだが、それは前回やったからな。って訳で今回は文脈を読んで要点だけを抜き出してやる。おおっ、このアタシにこんな大サービスをさせるなんて中々無いぜ。ひゅーひゅー、お兄さんツイてるー」

憑いてるの間違いじゃなかろうか。

「で? 俺は何を回収し忘れてるって言うんですか、哀川さん?」

「潤だ」

ジロリ、車を運転したままに俺を睨み付ける人類最強の請負人。ちなみに現在地は高速道路上で、速度計は問題しかない法定速度の二倍である。正直、気が気じゃない。二重の意味で。

「上の名で呼ぶな、下の名で呼べ。アタシを上の名で呼ぶのは敵だけだ」

「……そうですか」

「ま、お前がアタシの敵に回りたいってんなら止めないけどよお。何せ、あの崩子ちゃんパパを負かした逸材だ。アタシの中では次世代を担うセンシティブな人材として期待が集まってるんだけどなー。その辺どうよ、『裏も表も(センスオブワンダラー)』?」

過大評価にも程が有る……ああ、これが伏線回収忘れ、ってヤツか?

「いやいや、違えって。もっとデカいヤツが有んだろ。アタシ絡みで。さっすがにアレばっかりは忘れられちゃうとおねーさん困っちまうなあ。人類最強を相手に、たとえ口約束であろうと反故なんて出来る訳ねーし」

……この人を相手に、約束……? え? ……あ!

「『……頼む……頼むよ。コイツらだけは……俺の日常だけは、俺の身と引き換えでいい。返してくれ』」

哀川潤、人類最強は声真似もお手の物らしい。

「って訳でお前はあの時からアタシの持ち物になってんだよなー。異論は有るか? ねーよな?」

有る、って言ったら俺の日常が没収されるのは恐らく間違いない。……あああ、俺はなんっつー事をあの時口走っちまったんだよ!! 軽はずみって訳じゃないが、それでも流石にちょっと、オイ、あの時の俺! ツケがデカ過ぎるぞ!!



595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 22:01:37.62 ID:+L6vO1aUo
何かあるとは思ったが普通に続くとは……



596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) 2011/03/15(火) 22:09:13.47 ID:itzVSEe30
「そういう理由で、今回はまあ性能チェックだな。アタシの仕事を手伝ってもら……そんなに警戒すんなよ。心配すんなって。あの事件みたいな事にゃならねえからさ。こんなんただのボーナストラック、おまけだ、おまけ」

「……おまけ、ですか」

「おう。ちょっと殺し名が暴れてるみたいなんでそれを懲らしめに行くだけの簡単なお仕事だよ」

コロシナ。……殺し名。それはえっと……匂宮五人衆だとか零崎一族だとか……ああいうのの事デショウカ……。

「まあ、そうなるな。なあに、五人ばっかししか居ないらしいから。アタシ三でお前の取り分が二で良いよな?」

「その、取り分っていうのは報酬ですかね?」

「は? あー……それもそうだな。只働きじゃ気合入んねーもんなー。じゃ、歩合制にすっか。一人倒す毎に依頼人から貰う報酬の一割をやる。パーフェクト達成で倍! 最初って事も加味して更に倍だ。何、礼は要らねえよ。その分、これからガシガシ稼いで貰う予定だし」

……なんだ、この言いようの無い絶望感は? 俺が返して貰いたかった世界ってこんなんじゃないはずだ……違う……なんかどっか違う……。

「あの……潤さん?」

「何だよ。まだなんか有るってのか? ああ、文句の多い助手だ。あんまり五月蠅いとどっかの組織に売っ払うぞ、お前」

古泉の機関に身柄を買い取って貰う事も最悪視野に入れつつ、俺はおずおずと質問を切り出してみる。

「ちなみにその所有物ってのはいつまで続くんでしょうか?」

「いっしょう」

「だよなあ、クソッタレ!!」

俺は、俺が可哀想だった。



598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) 2011/03/15(火) 22:30:26.47 ID:itzVSEe30
「だーかーらー。そんな目に見えて落ち込むなって。なんだかアタシが悪い人みてえじゃねえか。悪い事してるみてえじゃねえか」

ハイウェイを走る車内。逃げ場などはどこにも無い。たとえ俺が暴力に訴えた所でこの人は左手一本で気絶させてしまえる。それだけの力を持っている。何から何まで用意周到だ。

「悪人とは言いませんよ。約束をしたのも俺自身ですし。でも、言わせて下さい。この人でなしが!」

「はっ! 吠えるじゃねえか。アタシが人でなし? だったらお前はロクデナシだな! 命を懸けた約束さえろくすっぽ守れねえんだからよお」

……そうなんだよな……長門と朝倉を助けて貰ったのは事実だし、俺自身もこの人のお陰で九死に一生を得ている、言わば命の恩人なんだよな……ダメだ。完全無欠に正論だ。

「ですが……それにしたって人殺しのプロ相手に俺なんかに何が出来るって言うんですか、潤さん?」

ヘタレと言うなかれ。幼稚園児に「では百メートルを九秒台で走って下さい」ってな感じの無理難題なのだから。

「……それが知りたいんだよな、アタシは」

哀川潤は言う。

「匂宮五人衆……殺し名の中でもハイエンドクラスのプレーヤを相手に時間を稼ぎ、このアタシでさえ引き分ける事しか出来なかった結晶皇帝に負けを認めさせて、でもってあのクソ親父の野望を止めた……それが果たしてただの一般人の成せる業なのか。
いーたんの時も思ったんだけどさ。無力ってのは、力ってのはアタシみたいに目に見えるものだけじゃねえんだよ。だが、アタシにはそれが無い。だってのにアタシは人類最強だ。矛盾するだろ?」

「……それを見極めないと本当の意味での人類最強にはなれない、って事ですか?」

「見極めは済んでんだ。弱いは強い……んだとよ。いーたんが言ってた。アタシみたいにぶっちぎりなヤツにはもう取り返しが付かない類の強さだろ。だから、アタシは手に入れる事にした」

哀川潤は、人類最強は前を向いて言う。

「弱い弱い、もう涙が枯れ果てるほど弱過ぎる相棒を。で、そんな事を決意した頃に丁度良くお前らの事件が起こったんだよ」



599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) 2011/03/15(火) 22:49:23.44 ID:itzVSEe30
なんてこった……それじゃあの俺の救援要請は、この人にとっちゃ渡りに船。これ以上ない程のグッドタイミングだったのかよ。

「ま、そうなる。これは結果論だけどな。言っとくけど今回は慣らし運転でしかないぜ。本番は一か月後だ。竹取山ってところで殺し名呪い名その他が一堂に会しての頂上決定戦が有るんだ」

「……なんですか、そのジャンプ的王道展開は。一番強いヤツを決める事に何の価値が有るのか、正直俺には分かりかねますよ」

「何? お前格闘技番組とか見ない口?」

「リビングには妹も居ますからね。そういうのはテレビに映さない事になっているんですよ、俺の家は」

ちなみに恋愛ドラマの少々過激なシーンであったりも同様。妹としてはその辺りこそが一番興味が有るらしいが、それでもまだアイツには早かろう。精神年齢的にな。

「おうおう、過保護だねえ」

「ほっといて下さい。それより疑問が有りますよ、俺は。なんで『人類最強』の称号を持っている人が居るのにそんな大会を開く必要が有るんですか?」

俺が言うと、哀川さんはガックリと頭を垂れ下げた。ちょっと、前! 前見て運転して下さい! ねえ、聞いてる!?

「……タッグマッチなんだよ」

「はあ」

「二人一組が参加の条件でよお……アタシが声掛けようと思ってた連中は軒並み売約済みだった。いや、最初からこのアタシをハブるつもりだったんだろうな、イリアのヤツ……いーたんは崩子ちゃんと。人識クンは伊織ちゃんだろ? 小唄は真心と出るし、だからってあのクソ親父だけは勘弁だしなあ……」

「それで、俺ですか」

「選択肢ってのは結局消去法で選ぶしかない、ってな」

その台詞、もう既に二回ほど使いました。



600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) 2011/03/15(火) 23:12:03.84 ID:itzVSEe30
「ま、そういう事だから、今日から特訓な。一か月も有りゃ何て言ったっけ? あの胡散臭い笑顔の超能力者。アイツレベルには仕上げてやるから任せろ。アタシは教育者としても超一流だ」

古泉レベルってのがイマイチどの辺りなのか掴めないが、とにかくスパルタな事だけは理解した。俺を日常に帰らせろ。

「それが終わったら当分仕事はねーよ。使わないと貯まってく一方だろ、金って。適度に消費しねえと銀行が五月蠅え」

言って、車は夜の高速を東へ向けてひた走る。覚悟なんか決まらんが、人生なるようにしかならん。

「あ、そう言えばどこに向かってるんですか、この車」

「あれ? 言ってなかったっけ? 澄百合学園ってトコだ。一昨年だったか共学になったんだが、そのせいか色々内部でごちゃごちゃが絶えねえらしい。でもって殺し名が生徒に混じってたらしくて現在、学校のそこここで戦闘中だとよ。それを収めるのがアタシたちの仕事」

「……収めるだけなら別に戦う必要は無いんじゃ?」

「そこだよな、そこ。その発想。ソイツがアタシには無いんだ」

「は?」

「手っ取り早く済ませるんなら力づくが一番効率が良い。仕事だからな。最適化された行動をアタシはしちまう。だが、お前らは違うだろ。そうやってケースバイケースで対応する」

哀川潤はニヤリと笑った。それは意地が悪いのに魅力的な、不思議な笑顔だった。

「キョン。やっぱお前戯言遣いの才能有るよ」



今度こそおわり



601 :空紅 ◆.vuYn4TIKs 2011/03/15(火) 23:25:26.92 ID:itzVSEe30
いーちゃんサイドは有りませんw
では、また他のスレでお会いしましょう。っていうか明日
古泉「もしも『私』が神様の敵でも、好きと言ってくれますか?」とかってスレが建ったらぼくの仕業です



603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/15(火) 23:45:09.02 ID:+L6vO1aUo
今度こそ乙
いや純粋に楽しめた



609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/16(水) 15:41:05.38 ID:3Tf3bAPDO
やー、余韻のある終わり方だった
GJ



639 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) 2011/05/24(火) 01:58:38.49 ID:I2GDz4Ido
面白かった。乙



転載元
キョン「戯言だけどな」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1295432289/
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         コメント一覧 (35)

          • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月07日 00:12
          • 携帯読みづれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!
          • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月07日 00:17
          • 87-67とか
          • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月07日 00:46
          • 傑作だろ
          • 4. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月07日 01:08
          • この人形遣いみたいなのってなに?
            最近ハルヒの持ってくるなぁ
          • 5. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月07日 01:17
          • いくらか違和感はあったがまあ 西尾だからしょうがないか
          • 6. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月07日 01:34
          • 長すぎる・・・

            簡単にあらすじ、というかどういうタイプの話で誰がメインヒロインか誰かかいてくれないか?

            頼む。
          • 7. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月07日 01:46
          • ひっしー元気なことだけ引っかかった
          • 8. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月07日 01:51
          • 確かにドクターにもう戦えない言われた人間失格が元気なのは問題かもな
            まあかなり楽しめたけどな
          • 9. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月07日 03:59
          • 1 一生懸命書いたのは伝わったが、戯言と合わすには長ったらしいわりに味がない。
          • 10. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月07日 04:10
          • 戯言シリーズ読もうかしら!
          • 11. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月07日 04:32
          • ワイはやっぱり西尾好きになれんわ…
          • 12. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月07日 06:27
          • 西尾もハルヒも好きだけどこれは・・・
          • 13. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月07日 06:31
          • 戯言シリーズ既読者は楽しめる、と思う
            欲を言えば出番が終わったキャラについてもう少し書いてほしかったなあ

            後日談てきなものもほしい

            佐々木とか佐々木とかのね

          • 14. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月07日 07:30
          • 西尾よりは人間っぽいな
            てかなげぇ
          • 15. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月07日 11:20
          • 長かったが今読み終わった
            戯言はにわか知識しか無かったがそれなりに楽しめたわ
          • 16. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月07日 15:27
          • 双子はどこいったんだよ!!
            いーちゃんサイドもっと頼むわ
          • 17. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月07日 20:35
          • 一言「好きです」を伝えるだけで終わるのに、ここまで冗長に事態を悪化させられるってのは凄いな。
          • 18. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月07日 23:30
          • 親分と人識の絡みが欲しかった。
          • 19. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月07日 23:34
          • 戯言×ハルヒらしくどこがショートストーリーだってくらい見事にクッソ長かったなwwwwwwwwwwww
            朝倉やら人識やらの感情回しがクールでよかったし
            ひっくり返しもうまかった
            でも友にも喋らせろ
          • 20. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月08日 21:38
          • 戯言では好きなキャラが死んでるからssにすらあんまり出ないんだよなあ…双識とか出夢とかしおぎとか

            悲しい
          • 21. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月09日 21:43
          • 2 面白かったけど、なんか色々設定に違和感が・・・
            オデットって死んでるハズじゃね?とか
            式岸の時の軋識はシームレスバイアス使わなくね?とか
            崩子ちゃんはプレイヤーとしてのスキル使えないんじゃね?とか
          • 22. クロ
          • 2012年12月09日 23:14
          • 5 こいつはサイコーにおもしろい
            この物語の先も読みたくなる
            キョンかっこよかったぜ
          • 23. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月10日 00:33
          • 1
            なんつーか、グロテスクなぐらいキャラにも言葉にも違和感があって…
            なんつーかもう、ただ気持ち悪いな


            作品のチョイスはいいと思っただけに残念




            まあ、たかがSSだもんね
          • 24. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月11日 04:35
          • 前編合わせてまとめミスっているような
          • 25. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月11日 21:41
          • 評判悪いみたいだけど俺は楽しめたぜ
          • 26. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月12日 21:21
          • >>21
            まとめてるからそのへん矛盾してるように見えてるだけで元スレではちゃんと説明されてる

            後日談的なにあったらいいな
          • 27. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月18日 19:09
          • >>8
            メロスは親友のためにボロボロになって走ったけど親友の前では元気そうだったろ
            そういうことだ
          • 28. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月24日 15:45
          • おもしろかった。
            複雑な設定をよくまとめたなぁ・・・すごいと思う。
          • 29. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年01月19日 12:17
          • 5 キョンがエセ戯れ言使い
            最悪がハルヒにネタバレ
            ハルヒの〇〇を皆で制止

            三行だとこんな感じ
            朝倉と佐々木が可愛い。
            いーたんはイケメン。
            戯れ言好きなら楽しめると思う。面白かったよ
          • 30. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年01月19日 12:23
          • ところで昔国語のテストの時、片仮名を漢字に直すっていう問題で「セイシをカけたタタカい」って文章を「精子を掛けた戦い」って変換したNって奴がいたんだけどさ。魚類ならあんまり間違ってないよね。正しくは「生死を賭けた戦い」なんだけどさ。
            まあ戯れ事だよね。
          • 31. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年02月02日 21:41
          • 5 どっちも好きな人間には歓喜だな
            良作だね
          • 32. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年03月08日 01:29
          • 1 いーちゃんが笑ってる

            狐さんのほうにつくはずない人が
            とんでも理論でついてる

            技の説明が全然違う


            頑張ってはいるけど
            特に必要ない所でオリはいらないと思う
          • 33. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年03月08日 22:19
          • 4 問識くんっぽいのがちょっとだけ出てて嬉しくなった。
          • 34. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年08月05日 23:43
          • 戯言含め西尾の作品って、かなり設定が大仰なようで割とテキトーだからな…
          • 35. ティロル
          • 2016年07月29日 00:36
          • 5 何度でも読み直したくなる。
            タイトルは、戯言風なら『スズミヤドリーム』かな?それとも『ザレゴトトラベラー』?
            ハルヒ風なら安直だけれど『涼宮ハルヒの戯言』かな?

            まぁ、戯言だけどね。

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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