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勇者「世界救ったら仕事がねぇ……」【前編】

1: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/23(月) 22:26:36.86 ID:whtp64qH0

勇者「魔王も倒して、世界を闇から救ったはいいけど」

勇者「勇者的にはやることがもうなくなってしまった」

勇者「用心棒とかは『いやいや、勇者様には!』とか言われるし……」

勇者「定番の国の姫と結婚とかは、隣国の王子との婚約が決まってるとかで出来ず……」

勇者「褒美をもらって、ぐーたらしていたら、白い目で見られ始めたし」

勇者「パーティーも解散しちゃったしなぁ」

勇者「実家に帰っても、ごろごろしていたら、母さんに怒られたし」



2: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/23(月) 22:28:46.40 ID:whtp64qHo

<注意点>

・同ネタ多数は承知の上。
・オチが弱いのもいつもどおり。
・のんべんだらりと読んでください。
・地雷臭を感じたら退避。

それではどうぞ。



3: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/23(月) 22:29:19.99 ID:whtp64qHo

勇者「身分を隠して、どこかの闘技場にでも出るかなぁ」

勇者「つーか、勇者って職業じゃないから、転職できないんだよな……」

勇者「山でウサギでもとって暮らすか?」

勇者「ほら、結構世界を救った勇者って山で隠遁生活を」

勇者「ああ、でもなー、俺まだそんなじじい暮らしするほど老いてないし……」

勇者「褒美の半分くらいは実家に預けちゃったけど、まだお金残ってるしな」

勇者「……」

勇者「あ、そうだ。パーティーのみんなに会いに行くか」

勇者「そんで、あわよくば再就職先を斡旋してもらおう」



4: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/23(月) 22:29:54.97 ID:whtp64qHo

田舎の村。

勇者「この辺に戦士が住んでいるって聞いたけど」

村人「おお、あなたは勇者様ではありませんか」

勇者「お、おう」(知らん人から話しかけられた)

村人「もしや、戦士殿に会いに?」

勇者「そ、そのとおりだ」

村人「……すみませんが、それはやめていただけますか」

勇者「ど、どうして?」

村人「戦士殿はこの村で結婚もされ、畑を耕し、自警団長としても活躍されておりまして……」

勇者「はぁ」

村人「この村の大切な一員なのです」

勇者「……?」



5: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/23(月) 22:30:25.20 ID:whtp64qHo

勇者「それがどうかしたんですか」

村人「いや、ですから、また冒険へと連れて行かれては……」

勇者「ち、違うって! 久しぶりに会いに来ただけですから!」

村人「そ、そうでしたか! それは失礼いたしました」

勇者「よければ、呼んでもらえますか?」

村人「それでは、早速、戦士殿を呼んできます! お待ちくださいね」タタタッ

勇者(勇者って冒険しかしてないイメージなのかな)

勇者「ううん、そうなると、この村で働くとかは」

戦士「おーい! 勇者!」



6: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/23(月) 22:30:55.53 ID:whtp64qHo

戦士「久しぶりだな! この村に来ていたのか」

勇者「おう、戦士! 聞いたぞ、結婚もしたんだって?」

戦士「お、おう。すまんな、式にも招待せず」

勇者「あー、いいっていいって。それにしてもこの村は」

戦士「ああ、俺の故郷だ。錦を飾るってやつでな」

勇者「ふ、ふ~ん」

戦士「今日は泊っていくんだろ?」

勇者「そうだな……積もる話もあるだろうし」

戦士「よし、妻に話しておくぜ」

勇者(奥さんか……)



7: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/23(月) 22:31:53.34 ID:whtp64qHo

戦士宅。

勇者「お邪魔します」

戦妻「あらあら、どうぞいらっしゃいました」

戦士「そんな畏まらなくていいんだぞ」

戦妻「もう、あなたったら。せっかくのお客様でしょ?」

戦士「バカ。よし、一番いい酒出しておくれ」

戦妻「はーい」テッテッテ

勇者(すげぇ巨乳)

戦士「ちょっと猫被ってるんだあいつ」

勇者「そ、そうなのか? ちなみにどういう関係で」

戦士「ああ、同じ村の出身でな」

勇者(お、幼馴染かよッ)



8: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/23(月) 22:32:28.48 ID:whtp64qHo

戦士「……どうだ、世界の方は」

勇者「ん? ああ、気抜けするくらい平和だよ。少なくとも、俺の実家も」

戦士「そうか。俺はもう、たくさん稼いだしな、いろいろ教えてくれ」

勇者(地に脚つけてる感じでうらやましいんだが)

勇者「ち、ちなみに、畑仕事しているって聞いたけど」

戦士「まあな。元々村全体が、魔物も来ないような貧弱な土地だったから、なんとかしてやりたくて」

勇者「ああ、そういや、賢者にいろいろ聞いていたな」

戦士「おう。肥料に品種改良、新しい農具の考案書まで作ってもらったぜ」

勇者「お前の口から聞きなれない言葉が……」

戦士「うるせぇ!」



9: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/23(月) 22:33:32.60 ID:whtp64qHo

勇者「でも、それだけじゃないんだろ?」

戦士「ああ、聞いていたのか。いやなに、名前を売り出してあちこちに野菜の売買の交渉をしていたら、剣術を教えてくれって連中が集まってしまってな」

勇者(そ、それは聞いてない)

戦士「体力をつけて、いい武具を装備すれば勝てる! って言って適当に追い払ってたんだが」

勇者「いやあ、お前の場合はそれだけじゃないだろ」

戦士「そうかなぁ」

勇者「そういえば、冒険で来たときより、すごい人がいたな」

戦士「住み着いちまったやつもいる。道場を開かされる羽目になったよ」

勇者(こりゃ村の救世主になるわけだ)



10: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/23(月) 22:34:13.54 ID:whtp64qHo

戦妻「うふふ、盛り上がってますね」

勇者「あ、すみません、奥さん」

戦妻「この人ったら、何でもほいほい引き受けちゃうから」

戦士「う、うるせぇな」

勇者「ああー。俺が最初にメンバーを集めようとしたときもね、そのときはガキだったから結構断られてたんだけど、戦士がまず引き受けてくれて」

戦妻「あら、見る目があったのね」

戦士「そ、そういうことだ」

勇者「なんで俺がって言ってたぞ」

戦士「なんで覚えてるんだよ!」



11: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/23(月) 22:34:58.71 ID:whtp64qHo

勇者「おおー、これは戦士の名前入りワイン」

戦士「生産者の名前を出すってのが流行ってるらしい。つっても、俺はワインなんか作ってないんだけどなぁ」

勇者「じゃあ、何したんだよ」

戦士「一番うまいワインを選んでくれって試飲会を」

勇者「うわぁ……」

戦妻「あの時は、そんなに酔っ払わなかったけど、お腹がたぽたぽになったって」

勇者「十分、いやな話だろ」

勇者(ん……そうか、勇者ご推薦の商品とかだったら商売できる?)



12: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/23(月) 22:35:42.22 ID:whtp64qHo

戦士「そういや、何かあったのか?」

勇者「ん?」

戦士「久しぶりにやってきたから、何事かと思ったからさ」

勇者「お、おう」

戦妻 ニコニコ

勇者(やべぇ、奥さんのいる前で仕事の斡旋をしてくれとは言いづらい……)

勇者「い、いやまあ、その、な」

戦妻「あら、男同士の話かしら。なら、少し果物を切ってきますね」

勇者「あ、いや、すみません」

勇者(うおー気遣いできる幼馴染妻とか最高すぎる)

戦士「なんだ、そんな気を使わなくても」

勇者「お前はちょっとは察しろ」



13: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/23(月) 22:36:23.64 ID:whtp64qHo

戦士「……なんだなんだ、何かあったのか」

勇者「いやー、実はな。世界が平和になったせいで、仕事がな……」

戦士「あん?」

勇者「だ、だからな、仕事がほしいんだよ」

戦士「仕事がほしいって、勇者なら引く手数多だろうが」

勇者「ねーよ! そんなもん!」

戦士「お、おう」

勇者「用心棒や剣術指南は『間に合ってる』か『恐れ多い』でお断りだよ!」

戦士「うーん、そんなもんかな」

勇者「逆玉とか狙ったけど失敗したし!」

戦士「じ、実家はどうなんだ」

勇者「お前と違って、俺は元々勇者になる修行しかしてなかったから、実家の仕事とかもないんだよ」

戦士「お前、農村出をバカにしてんのか」



14: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/23(月) 22:36:52.96 ID:whtp64qHo

勇者「とにかく、仕事がない。マジで、ない」

戦士「いやしかし、褒美だってもらっただろ?」

勇者「もらったけど、あれでごろごろしろってか?」

戦士「いやそれを元手に事業を始めるとかさ」

勇者「じ、事業ってなんだよ」

戦士「それは俺にはわからんが……」

勇者「はぁー、そりゃ周りが慕ってくれてるお前なら、何か起こせるだろうけどよ」

戦士「いやいや、お前ほどの才覚のあるやつ、どこでも欲しがると思うんだがな」

勇者「……」

戦士「言われたことがないのか?」

勇者「うるせぇー!」



15: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/23(月) 22:37:24.78 ID:whtp64qHo

勇者「なんだよー、あんな巨乳でかわいい奥さんまでいてさー」

戦士「ば、バカ。それにああ見えてじゃじゃ馬なんだぞ、あいつ」

勇者「巨乳幼馴染でツンデレ妻とかいい加減にしろよ!」

戦士「あのなー」

勇者「……もしかして、子どもも?」

戦士「……ああ、3ヶ月だ」

勇者「くそっ、ふざけるな!」

戦士「うおっ、からみ酒だったっけ? こいつ」



16: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/23(月) 22:38:00.73 ID:whtp64qHo

戦士「大体、俺みたいなやつより、僧侶とか賢者とかに聞いたほうがいいんじゃないのか」

勇者「……」

戦士「奥さんで言うなら、あの二人なんかお前に気があったと思うし」

勇者「いや、それはない」

戦士「ええー? そうかな」

勇者「僧侶さんは、信仰に篤くてまったくその気がないし、あー、賢者はクズだしな」

戦士「お前、仲が良くなかったからって、賢者をそんな風に」

勇者「それに、賢者は魔王を倒した後、どっかに行っちまったじゃないか」

戦士「そうだったっけかな」

勇者「……よし、戦士。勇者ブランドをつくろう」

戦士「は?」



17: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/23(月) 22:38:51.76 ID:whtp64qHo

勇者「だから、このワインみたいにさ、ここで勇者ブランドをつくって、売り出すんだよ」

戦士「いやお前、この村に住むってことか?」

勇者「そりゃそうよ! 農業なんて初めてだな~」

戦士「お前はやめたほうがいいと思うぜ」

勇者「な、なんでだよ」

戦士「こう言っちゃなんだが、場当たり的だろ、お前」

勇者「それがどうした」

戦士「冒険の時も、俺と賢者でフォローしてたしな」

勇者「お前らが慎重すぎるだけなんだよー」

戦士「いやいや。だから、そういうんじゃ村では歓迎されないし、大体、農業は天に頼る仕事だ。飽きて放り出したりできないんだぞ」

勇者「う、うるせぇな。やってみなくちゃ分からんだろ」

戦士「分かるよ。お前は勇者らしいんだろうが、無計画すぎる」



18: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/23(月) 22:39:28.06 ID:whtp64qHo

勇者「……」

戦士「冒険者だってちゃんと計画立てるだろうに、薬草の数が足りなくて死に掛けたことも覚えているぞ俺は」

勇者「あ、あの時は、武器がどうしても欲しくて」

戦士「だったらもう少し稼げばよかったろうに。道具を全部売って武器を買うバカがどこにいるんだ」

勇者(正論だな……)

戦士「……ふむ。なるほどな」

勇者「な、なんだよ」

戦士「どこでも欲しがる人材かと思っていたが、案外、平和な時は組織の邪魔になってしまうんだな、お前」

勇者「れ、冷静に評論するんじゃねぇー!」



19: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/23(月) 22:40:04.36 ID:whtp64qHo

隣国。

勇者「結局、戦士にゃ仕事を紹介してもらえなかった」

勇者「こうなったら僧侶さんだ」

勇者「僧侶さんなら、教会で偉い立場についてるだろうし、いろいろ分かるだろう」

勇者「あ、すみませーん」

村人「はい?」

勇者「この辺に、勇者一行だった僧侶さんは……」

村人「あ、ああ。そういうあなたは、勇者様?」

勇者「そのとおり、勇者ですよ」エラソウ

村人「そ、そうですかぁ、僧侶さんに」

勇者「……? なにかあったんですか?」

村人「実は、僧侶さんは、わが国の教会を出て行ってしまったんですよ」

勇者「な、なんだって!?」



20: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/23(月) 22:40:58.69 ID:whtp64qHo

教会。

神父「……そうですか、僧侶にお会いしたいと」

勇者「出ていったって、何があったんですか?」

神父「うむ……実は、僧侶は旅をする途中で、多くの孤児に出会いましてな」

勇者「そ、その孤児を」

神父「さよう。いただいた褒美もすべて孤児院設立に使ってしまったそうで」

勇者「教会には戻ってきていないんですか」

神父「寄付を募ったり、孤児の働く場所を確保するために、各国を回っているうちに、もう教会には戻れないと……」

勇者「ど、どうして戻れないんですか」

神父「勇者殿、僧侶はこの国に孤児院を設置したわけではありません」



21: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/23(月) 22:41:32.88 ID:whtp64qHo

神父「他国では、わが教会と関わらない土地もある。そのようなところで、孤児院や作業場などを作ろうとすると、その承認や手続きのため、大変な苦労が必要なのです」

勇者「はぁー、なるほど」

神父「教会から他国に口を出すなどすれば、大変なことになりましょう」

勇者「はぁ……なるほど」

神父「したがって、一市民として、建設に携わると……」

勇者「僧侶さんらしいなぁ」

神父「一応、支援は行っているのですが」

勇者「じゃあ、居場所は分かるんですか」

神父「ええ、まあ。勇者殿の方がお詳しいかと思っておりましたが」

勇者(実家でごろごろしてたとは言えねぇ……)



22: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/23(月) 22:41:59.42 ID:whtp64qHo

孤児院。

男子1「せんせー、遊んでー」

女子1「せんせー、お腹すいたー」

女子2「うえぇぇん、男子くんがぶったぁああああ」

男子2「せんせー、俺、わるくない!」

僧侶「はいはい、みんな、もうお昼だから、ケンカしちゃだめですよ」

わいわい、がやがや。

トントン

僧侶「は、はい!」

勇者「あのー……」

僧侶「ゆ、勇者様!?」



30: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:17:48.37 ID:Ccd+oFHRo

僧侶「す、すみません、ばたばたしてしまって」

勇者「いやいや、お昼時に申し訳ないことを」

僧侶「……元気でしょう、子どもたちが」

勇者「そうですねー。まさか、孤児院を建てていたなんて知りませんでしたよ」

僧侶「ええ。魔王征伐の旅の途中では、それどころではありませんでしたから」

勇者「がんばったんですね」

僧侶「はい。子どもたちの笑顔が、見たかったんです」ニコッ

勇者(僧侶さんの笑顔もステキだあああ!)

僧侶「ど、どうしました、勇者様」

勇者「あ、ああ、いやいや」



31: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:18:23.62 ID:Ccd+oFHRo

勇者「せっかく僧侶さんなら、教会でも重要な地位につけると思ったんですけど」

僧侶「私には向いておりません。現場で誰かを救う方が好きなのです」

勇者(ええ娘や~)

僧侶「そういえば、勇者様はどうしてこちらに?」

勇者「うっ」

僧侶「確か、最後に立ち寄った王国に客人の身分で滞在なさっていると」

勇者(実家帰ってごろごろしてましたぁあああああ!)

僧侶「ま、まさか、再び闇がこの世界をっ」

勇者「いーやいやいや、そういうんじゃないですよ!」

僧侶「そ、そうですか」ホッ

勇者「ただちょっと、僧侶さんの顔が見たくて」

僧侶「そ、そうですか?」ポッ



32: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:18:54.08 ID:Ccd+oFHRo

勇者「その、戦士は故郷帰ってたから、僧侶さんはどうしてるかなって」

僧侶「わ、私はその、こうして、子どもたちのために生きています」

勇者「でも、戦士なんかかわいい幼馴染と結婚してるんですよ?」

僧侶「え! それは喜ばしいことです」

勇者「しかも巨乳で妊娠三ヶ月」

僧侶「あら、おめでたいですわ!」

勇者「……僧侶さん?」

僧侶「お祝いを言えなかったのが残念です……」

勇者「な、なんだったら、俺が伝えておきますよ」

僧侶「まあ、でも、そんな悪いです」



33: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:19:17.53 ID:Ccd+oFHRo

勇者「それとも、あれですか、俺とその……して、戦士のところに行くって言うのでも」

僧侶「……」

勇者「僧侶さん?」

僧侶「それは、できませんわ」

勇者「どうしてですか?」

僧侶「私は、ここにいる子どもたちを置いてはいけません」

勇者(くっ、僧侶さんのヒモになる計画が!)

僧侶「た、確かに、その、男手がほしいと思うときもありますけれど」

勇者「! じゃあ、俺」

バタン

貴族「僧侶さんはいらっしゃいますか!」



34: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:19:50.21 ID:Ccd+oFHRo

勇者「お、おお?」

貴族「うん? なんだ、貴様!」

僧侶「あら、貴族様ではありませんか」

貴族「そ、僧侶さん、この男は何者ですかっ!」

僧侶「その方は、私と一緒に旅をした勇者様です」

貴族「な、なんだと……この冴えない男が」

勇者「おいてめー、いい度胸してるじゃねぇか」

僧侶「あら、お客様が増えたなら、お茶をお入れしますね」パタパタ

貴族「―――き、貴様、本当に勇者だというのか」

勇者「正真正銘、俺が勇者だ! なんなら試してみるかい?」チャッ



35: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:20:22.73 ID:Ccd+oFHRo

貴族「ふん、こんなところまで何をしにきた」

勇者「かつての仲間に会いに来ちゃいけないっていうのかい」

貴族「会ってどうするつもりだ。ま、まさか、また何か大きな闇がっ!」

勇者「いや、違うけど」

貴族「そ、そうか。僧侶さんはここの子どもたちを置いてはいけないからな」ホッ

勇者(大げさなやつだな。こいつも)

貴族「では、それ以外で何か用だというのか」

勇者「そういう俺のほうこそ聞きたい。貴族が孤児院に何の用だ」

貴族「そ、それは……」

僧侶「お茶を淹れなおしましたよ~」

貴族「あ、ありがとう!」パァッ

勇者(なるほど)



36: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:21:04.01 ID:Ccd+oFHRo

貴族「いや、僧侶さんの淹れたお茶はすばらしい」

僧侶「そんなこと、貴族様がいつもよい葉をご用意していただけるからですわ」

勇者(うおお、そこまでモーションかけてんのか)

貴族「いやいや、お茶は、淹れる人の心が出てくるものなのだ」

僧侶「まあ、お上手ですわ」ウフフ

貴族「う、うむ」カァッ

勇者「きざっ」

貴族「な、なんだ、その言葉は」

僧侶「勇者様は貴族様をご存知でないでしょう? 紹介いたしますわ」

貴族「う、うむ。わが国きっての名門、貴族である」

僧侶「孤児院設立のために、尽力された方なのです」

勇者(下心で協力したようにしか見えん)



37: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:24:06.35 ID:Ccd+oFHRo

僧侶「それだけではなくて、度々、こうしてお出でくださって、お手伝いまで」

貴族「いやなに、わが国の領民を守るためだ。むしろ、僧侶さんには頭の下がる思いだよ」ハッハッハ

勇者「頭上げてんじゃん」

貴族「な、なんだと」

勇者「頭が下がるってんなら、孤児院に援助くらいしてるんだろうな」

貴族「ふん、それどころか、ひと働きしているくらいだ」

僧侶「……でしたら勇者様も、貴族様とご一緒に、薪割りをしてくださいますか」

勇者「ま、薪割り……あんたそんなことまで」

貴族「ふははは! 勇者殿にはちとキツイ仕事かな?!」

勇者「なんで偉そうなんだよ」



38: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:25:01.42 ID:Ccd+oFHRo

一時間後。

勇者「はぁーっ、はぁーっ、つ、疲れた」

貴族「だ、だらしがないですな、勇者殿」

勇者「ひ、久しぶりになたなんか振るったからな」

貴族「ふ、ふふふ、女性の身でもやっているんだぞ、僧侶さんは」

勇者「あんた、いつもこんなことやってんのか」

貴族「こ、今回は割とハードな仕事だったが、大工仕事とか、洗濯をしたりとか」

勇者「あんた、本当に貴族なのかよ」

貴族「その通りだとも。領民を監督するのは領主の務め」

勇者「でも、僧侶さんを狙ってんだろ」

貴族「ねらっ……確かに結婚を申し込んだことはある」

勇者「あるんじゃん」



39: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:25:51.77 ID:Ccd+oFHRo

貴族「しかしだな、元々は僧侶さんが私を尋ねてこられたのだ」

勇者「それは孤児院設立のために、協力者を探していたからだろ?」

貴族「うむ。彼女の熱弁を聞いて、私も気づいたのだ……わが国がなぜ魔物に押されていたのか」

勇者「へぇ」

貴族「要するに、民生に対する意識が低かったのだ。大臣、兵士は王室しか守らない」

勇者「はぁ」

貴族「その結果があのようなあふれるほどの戦災孤児だ」

勇者「ふーん」

貴族「私は、王政の改革を行いたいと思っている。しかし、そうなれば混乱が生まれるかもしれない」

勇者「そんで?」

貴族「まじめに聞いてもらえぬか?」スラッ

勇者「聞いてるじゃねぇか! 剣を抜くな!」



40: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:26:23.09 ID:Ccd+oFHRo

貴族「つまりだな、僧侶さんに安全でいてもらうために、結婚を申し込んだのだ」

勇者「勝手なやつだなー」

貴族「何を!」

勇者「大体、僧侶さんはあんたより強いぜ?」

貴族「そ、そのようなことはない」

勇者「まあ、でも、俺もなまってるからなー」チャッ

貴族「ぬ……」

勇者「相手になるぜ。腕の一本くらいは覚悟しているんだろ?」

貴族(なんだ、こいつ。剣を構えた途端に雰囲気が変わったぞ……!)

勇者「剣を構えると人格が変わるんだ」

貴族「危険人物ではないかっ」



41: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:26:49.64 ID:Ccd+oFHRo

僧侶「お二人とも、薪は……って」

勇者「おー、僧侶さん。ちょっと一本試合をするから、待っててくれ」

僧侶「だ、ダメです! 勇者様! その方は大事なお客人なんですよっ」

貴族「そ、僧侶さん……なに、このような腑抜けに遅れは取りません」

僧侶「ダメですー!」ブン

勇者「うわっ、洗濯桶か」

貴族「おうっ」ゴン

僧侶「きゃー!」

勇者「僧侶さんが本気を出していたら死んでいたな」



42: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:27:20.70 ID:Ccd+oFHRo

僧侶「もう、お二人とも、はしゃぎすぎです! 貴族さんは気絶してしまうし」プンプン

勇者「いや、それは僧侶さんが……」

少女「……」ジーッ

勇者「お、おう。どうした」

少女「弱そう」

勇者「おい、くそがき」

少女「逃げろーっ」タタタッ

勇者「……教育がなっていないんじゃないですか? 僧侶さん」

僧侶「い、いえ、どの子も、寂しいだけかと」



43: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:27:50.57 ID:Ccd+oFHRo

僧侶「そ、そういえば、肝心なことを聞き忘れていましたね」

勇者「なんでしたっけ」

僧侶「その、勇者様は、どうしてこちらに?」

勇者「あ、あー……」

勇者(仕事を求めてとか言うべきか)

僧侶「私のことでしたら、お気になさらずに」

勇者「いや、僧侶さんに、相談したいことは、あったんですけど」

僧侶「まあ、何かしら」

勇者「でも、あの貴族とかもいるんだったら、特に心配はないですかね」

僧侶「よろしいのですか?」

勇者「ええまあ。困ったことがあったら、言ってくださいよ」

僧侶「え、ええ」



44: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:28:30.48 ID:Ccd+oFHRo

帰り際。

勇者「参ったな。この調子だと、仕事を見つけるなんて出来そうもないぜ」

貴族「……待て!」

勇者「……なんだよ」

貴族「貴様に一つだけ言っておきたい」

勇者「手短にしてくれないか」

貴族「もし、私が蜂起したとき、国王に味方しないでほしいのだ」

勇者「いや、俺もあのおっさんに味方したりはしないけど」

貴族「しかし、わが国王と貴様の国の王は友人関係にある。そしてそこには貴様の母上殿も、いる」

勇者「……母さんを人質にする可能性もあるってことか?」

貴族「そうだ。まあ、戦争が長引けば、の話だが」



45: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:28:59.72 ID:Ccd+oFHRo

勇者「バカらしい、仮にも英雄の家族をそんな風に扱うかね」

貴族「どうかな。我が家も建国からの名門であるが、いまやないがしろにされつつある」

勇者「……あっ、それより、俺を雇うとかってのはどうよ!?」

貴族「はぁ?」

勇者「いやあ、いま、仕事を探しててさ」

貴族「確かに、救世主が我が方についたとなれば、断然有利だが」

勇者「だろ? まあ、世界を救う次が、反体制軍ってのも格好悪いかもしれんが」

貴族「……いや、しかしな。貴様はこの国に骨を埋めてくれるのか?」

勇者「え?」



46: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:29:46.20 ID:Ccd+oFHRo

貴族「王政の改革などと言っても、戦乱の後には保守派との長い地味な政治対決が待っている」

勇者「そ、それは任せるけどさ」

貴族「つまり、貴様は戦が終われば離れてしまうのだろう?」

勇者「……まあ」

貴族「貴様が我が方に入れば、それは反体制の核になる。しかし、長い政治の戦いで核が抜けては何の意味もないのだ」

勇者「えーっと……」

貴族「国を変えるのに英雄はいらないのだ。僧侶さんのような人こそが、求められる」

勇者「お前、俺をdisりやがって」

貴族「申し出は、感謝する」ペコ

勇者(いや、感謝より仕事くれよ)



47: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:30:15.96 ID:Ccd+oFHRo

少女「あっ、弱そうなやつ!」

勇者「ああん?」

少女「もう帰るの?」

勇者「そうだよ。ここに俺の居場所はなさそうだからな」

少女「……弱いのに無理するから」

勇者「弱くねぇよ! 俺は世界を救ったんだよ!」

少女「大人は口だけだから」

勇者「てめぇ……」

―――ハハハッ 

少女「!」

勇者「なんだぁ?」

少女「隠れて、隠れて」

勇者「おい、ちょっと」



48: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:30:44.57 ID:Ccd+oFHRo

兵士A「こんなところに孤児院なんて作ったのか」

兵士B「元勇者の一行らしいぜ」

兵士C「ケッ、いけすかねぇな。大体、勝手に死んだ連中のガキを集めてどうしようってんだ」

兵士A「それがな、どうも反王政派の大物が出入りしてるんだってよ」

兵士B「じゃあ、テロリストのアジトか!」

兵士C「テロリストの養成所ってわけだな……」

兵士A「なに、そのうち……」

兵士B「そういや、元勇者パーティーの戦士が……」

兵士C「マジか? 隊長に……」


少女「……」

勇者「おい、苦しいぞ」

少女「も、もういいよ」



49: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:31:24.40 ID:Ccd+oFHRo

勇者「なんだってんだ、あいつら。僧侶さんをこき下ろしやがって」

少女「あいつら、私のお父さんが助けを呼んだのに、助けてくれなかったんだ」

勇者「話が見えん」

少女「だから、魔物が来ても、村を助けてくれなかったの」

勇者「ふーん、そんなやつらだったのか」

少女「私も、早くこんな国出て行きたい……」

勇者「じゃあ、出ちゃえばいいじゃん」

少女「ダメ、弱いから」

勇者「だったら、強くなれや」

少女「弱いくせにえらそうだよ?」

勇者「俺は強いの!」



50: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:32:02.56 ID:Ccd+oFHRo

故郷。

勇者「くそっ、どいつもこいつも役立たずだな! まあ、俺が一番の役立たずって説もあるが」

勇者「ん、人だかりだな」

ざわざわ、ざわざわ

勇者「どうかしたんですか?」

村人「あ、勇者様! いやあ、実は、王様が魔物がいた土地に探検隊を出そうと」

勇者「ほ~……」

村人「なんでも、商人やら富豪やらに金を出させて、隊を作るって話ですよ」

勇者「た、探検隊かー。冒険なら得意だったし、俺にぴったりじゃん」

村人「あ、そういえば、その企画立案に、魔法使いさんも関わっていると」

勇者「魔法使い?」



51: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:33:02.01 ID:Ccd+oFHRo

勇者「おかしいな。魔法使いは賢者になったはずなんだが」

勇者「……その探検隊、ちょっと見に行きたいんですけど」

村人「あっ、今、お城で選抜をやってるそうですよ!」

道具屋「名の知れた冒険者たちがくるって言うんだから、楽しみだぜ」

武器屋「ああ、ここらで一儲けできそうだしな!」

勇者「おいおいおい、呼ばれてないよー俺」

勇者「よし、お城だな」

勇者「すいませーん! ちょっと通してください!」

\おお、勇者様だぞ!/ \もしかして勇者様も探検隊に?/

勇者「うひひ。ついでにかわいい女の子も物色するか」

魔法使い「ふざけんなバカ」ポカ



52: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:33:40.85 ID:Ccd+oFHRo

勇者「お、お前……魔法使い!?」

魔法使い「嫌なタイミングで現れたわね。どこかに出かけたと聞いて、チャンスだと思ってたんだけど」

勇者「お前、賢者にならなかったっけ?」

魔法使い「転職したのよ」

勇者「ふ、ふざけんな! 悟りの書返せよ!」

魔法使い「まあまあまあ。とりあえず、酒場でお話しましょうよ」

勇者「だ、だれが従うかそんな」

魔法使い「ちゃんとおごるから」

勇者「マジで!?」

魔法使い(こいつ、ホントアホね)



53: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:34:16.79 ID:Ccd+oFHRo

酒場。

勇者「それにしても、なんで魔法使いに戻っちゃったんだよー」プハー

魔法使い「魔王を倒してから、いろいろと考えたのよ」ゴクゴク

勇者「かわいかったのに」

魔法使い「ウゼェ。まあ、賢者じゃあ食っていけないということを悟ったわけ」

勇者「賢者だけにか」

魔法使い「賢者だけに」

勇者「つまらんよ?」

魔法使い「……そういうあんたは、今まで何してたの?」

勇者「そ、それは……ごろごろしてた」

魔法使い「だと思った。みんなが今後の相談をしているときも、お姫様の尻、追っかけてお城に泊ってたし」

勇者「あ、道理でみんなの居場所を知らなかったわけだわ」



54: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:35:49.82 ID:Ccd+oFHRo

勇者「でもな、一つ言わせてくれ。俺も今は、仕事を探そうと思ってがんばっているわけだよ」

魔法使い「それ、普通の人じゃん」

勇者「な、なんだと。じゃあ、お前は何の仕事してるんだよ」

魔法使い「うん。賢者時代の知識を活かして、いろんな事業の企画立案なんかをやってるわ」

勇者「何言ってるのかわかんね」

魔法使い「……戦士や僧侶には会ったんでしょ?」

勇者「おう、会った会った」

魔法使い「戦士が故郷の農村を再興させたいっていうから、参考書を書いたり」

魔法使い「僧侶が孤児院を作りたいっていうから、協力できそうな人物をリストアップしたり」

魔法使い「お互い別れる前に、そういうことをしていたわけ」

勇者「ああ……お前が立案者だったのか。道理でみんなよく考えているなとは思ってたけど」

魔法使い「そうよ。で、これなら仕事になりそうってことで、転職して事務所を作ろうとしていたのよ」

勇者「ふうん」



55: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:36:35.61 ID:Ccd+oFHRo

魔法使い「あんたはどうなの? 仕事は見つかった?」

勇者「いやいや、どこもかしこもうまく行かなかったり、断られたりでさ」

魔法使い「戦士や僧侶にも、仕事を斡旋してくれないかって行ったわけ?」

勇者「その通りだ」

魔法使い「……あんたは自分のことを知らなさすぎるし、他人を頼りすぎなのよ」

勇者「なんだよそれ」

魔法使い「いいこと、勇者ってのは、魔王を倒す最強の冒険者よ」

勇者「そうだろ」

魔法使い「でも、別に王国の兵士でもないし、傭兵でもないわ」

勇者「いや、支度金と褒美はもらったけど」

魔法使い「それはお給料じゃないでしょ。とにかく、魔王がいた頃は、この化け物みたいなやつをそこに向かわせるだけでよかったわ」

勇者「ばけもの……」



56: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:37:23.41 ID:Ccd+oFHRo

魔法使い「魔王がいなくなった以上、今度は魔物対人間ではなく、人間同士の争いになるわ」

勇者「うーん、そんなものかね」

魔法使い「そうよ。僧侶のところに行ったんなら、内紛の火種も見てきたんじゃない?」

勇者(あの連中か)

魔法使い「となると、各国からすればバランスブレイカーなあんたを、誰でも味方につけたいと思うわ」

勇者「う、ウソつけ!? どこもかしこも断られたわ!」

魔法使い「できればお姫様も、政略のために英雄と結婚したかったんじゃないかしら」

勇者「ええ、マジで、マジなん?」

魔法使い「相談受けたもん」

勇者「てめぇ、知ってたなら!」

魔法使い「言うわけないでしょ。そんな女の子を道具扱い」

勇者「まあ、そう考えるとかわいそうだけどよ」

魔法使い「……そんなものなのよ」ゴクゴク



57: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:39:02.79 ID:Ccd+oFHRo

魔法使い「ところで、魔王の時に、どうしてどこの国でも良くしてくれたか分かる?」

勇者「そりゃ、俺の活躍のうわさを聞きつけて」

魔法使い「違うわ。各国は牽制的にとはいえ、お互いに連絡を取り合っていたの」

勇者「はぁ」

魔法使い「魔王征伐という目的でつながりあった国々は、何かひとたび事が起これば、それをどこでも察知できるようになってしまったわけ」

勇者「ふーん」

魔法使い「つまり、あんたがどこかの国に肩入れするとなったら、一斉に他の国が敵に回る恐れも出てくるようになった」

勇者「おい……」

魔法使い「人間同士の争いと言っても、すぐ戦争にまでは結びつかないわ」

勇者「つまり……」

魔法使い「極端な戦力はかえって政治外交、交易の邪魔」

魔法使い「結局あんたは、味方にはほしいけど、世界征服する気でもなければ、うかつに手は出せない存在ってこと」

勇者「なんだそりゃあ!」



58: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:39:33.58 ID:Ccd+oFHRo

魔法使い「マジよ、マジ。今度の探検隊の企画を持っていく過程でも、勇者の元パーティーってだけでかなり警戒されたわ」

勇者「そ、そんなバカな話があるか」

魔法使い「戦士は村おこしをしているだけだから、大してにらまれていないけど、僧侶はかなり危険よね。内政に踏み込みかけているもの」

勇者「じゃあ、つまり、働けないのは、俺が勇者だからってことか」

魔法使い「そういうこと」

勇者「……じゃあ、仕方ないな。もう引きこもるしかない」ゴクゴク

魔法使い「アホか、あんたは」

勇者「だってよー、その調子だと、今度の探検隊も俺に入るなとか言っちゃうんだろ」

魔法使い「当たり前でしょ」

勇者「だったら何したらいいのかわかんねぇもんよー」



59: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:40:30.29 ID:Ccd+oFHRo

魔法使い「あんたは人を頼りすぎなのよ」

勇者「そりゃしょうがないだろ。勇者とはいえ、人の子だ」

魔法使い「そうじゃなくて。自分の価値を自覚したんなら、後は自分で生き方を考えればいいじゃない」

勇者「けどな……」

魔法使い「冒険者だって、今だから需要が高いのよ?」

勇者「本当かよ」

魔法使い「魔物にやられた地域や、人が入りにくかったところなんていくらでもあるわ。各国はそこを調べて、勢力を拡大したいのよ」

勇者「……」

魔法使い「自分の魅力をお金に変えられるかどうかは、頭を使わないとダメだわ」

勇者「ただし、頭を使えばチャンスだらけだ、ってか?」

魔法使い「そうそう、覚えているじゃない」

勇者「冒険時代は、口癖だったもんな。お前の」



60: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:40:56.49 ID:Ccd+oFHRo

魔法使い「私は体力がなかったからね。頭を使うしかなかったのよ」

勇者「うそつけ、冒険に最後までついてきたくせに」

魔法使い「……言いたくないけど、あんたに背負われて山を越したのだって一度や二度じゃないでしょ」

勇者「そりゃお前、仲間を見捨てる勇者はいないからな」

魔法使い「ふん、私は嫌だったわ」ゴクゴク

勇者「おいおい、ペース早くないか?」

魔法使い「とにかく、頭は自分で使いなさい」

勇者「……ふん」

魔法使い「あー、バーテンさん、もう二杯持ってきて!」

勇者「酒豪なやつだな」



61: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 22:41:23.23 ID:Ccd+oFHRo

帰ってきて。

勇者「……」


戦士『お前は勇者らしいんだろうが、無計画すぎる』

僧侶『私は、ここにいる子供たちを置いてはいけません』

貴族『国を変えるのに英雄はいらないのだ』

魔法使い『あんたは人を頼りすぎなのよ』


勇者「……そんなもんかねぇ」ガリガリ

勇者「……」

勇者「んー……」

勇者「言われるほど、俺はがんばってないわけじゃなくね?」

勇者「んー……」



64: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:07:40.02 ID:Ccd+oFHRo

翌日。

魔法使い「は?」

勇者「だからさ、もう一度、四人で冒険しないかってこと」

魔法使い「あんたね……」

勇者「まだ行ってないところもあるだろ? 国同士の思惑も、四人パーティーなら巻き込まれづらいはずだ」

魔法使い「昨日の私の話を覚えてる? 事務所開くって言ったんだけど」

勇者「そうだけど、別に今度の探検隊に参加するわけでもないんだろ、お前」

魔法使い「はぁー、アホだアホだとは思ってたけど」

勇者「やっぱりダメか?」

魔法使い「却下よ、口説き文句くらい、もっと練習してきなさい」

勇者「ちえっ」



65: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:08:38.85 ID:Ccd+oFHRo

魔法使い「……行っちゃったか」

魔法使い「……」

魔法使い「まあ、故郷に帰った戦士とか、人生捧げてる僧侶に比べれば」

魔法使い「多少はね、自由が利くのは私かもしれないけど」

魔法使い「いやいや、何言ってるの私」

魔法使い「さーて、仕事仕事っと」

事務員「あ、所長!」

魔法使い「なにかしら」

事務員「新聞持って来てますよ!」

魔法使い「はいはい、そこおいといてねー……って」



66: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:09:05.41 ID:Ccd+oFHRo

戦士の村。

戦士「うーむ」

勇者「どうだろう。新しいところに冒険に行けば、市場を広げるチャンスはあるだろ」

戦士「そりゃ確かに、俺自ら別の国に行くこともあるが……」

勇者「やっぱり、俺たちは冒険してなんぼのところはあると思わないか?」

戦士「すまん。数週間ならともかく、身重の妻までおいて、そこまで長期間の冒険は、難しい」

勇者「けどよ、世界を救ったって言っても、まだまだ混乱の種は残っているんだぜ」

戦士「うん。だからこそ俺は居を構えて、この村で暮らしたいんだ」

勇者「そうか……いや、無理なことを言って、すまなかった」

戦士「いや……」



67: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:09:37.78 ID:Ccd+oFHRo

戦士「……」

戦妻「どうしたの? お茶も飲まずに勇者さん、出て行ったみたいだけど」

戦士「うん、たいした用事じゃない」

戦妻「うそ。結構悩んだ顔してるわよ」

戦士「そ、そんなことはない」

戦妻「この村を出るときも、似たような顔してたわ。あなた、冒険に誘われたんじゃないの?」

戦士「出たいわけじゃない。だが、あいつがやる気になるのを見ると、何か出来ないかとも思うんだ」

戦妻「だったら、もっと相談したらいいじゃない」

戦士「だが、お前のこともあるし……」

戦妻「気になってるなら、最後までやればいいのよ」

戦士「……。すまん、ちょっと行ってくる」

戦妻「はいはい」



68: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:10:19.33 ID:Ccd+oFHRo

孤児院。

ぎいん、ぎいん! がしっ、どさっ!

貴族「くっ、貴様ら!」

僧侶「き、貴族様! もうおやめください!」

少女「うえぇぇん! うぇえぇええん!」

隊長「貴族殿、剣をお捨てください。わが国の転覆を企てて、無事ですむはずがない」

貴族「私は転覆など企てていない! それに、子どもや僧侶さんは関係がないはずだ!」

隊長「元勇者の仲間とはいえ、反逆者を匿うなど、許されませんぞ」

僧侶「あなたたち……!」

隊長「おっと、あなたも武器を捨てなさい……おい、拘束しろ」

兵士「はっ!」

僧侶「親を失った子を人質に……こんな非道が許されるとでも!?」

隊長「世界を救った御方らしい発言だ」



69: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:10:48.79 ID:Ccd+oFHRo

貴族「僧侶さんを離せ! 彼女は人道のために活動しているにすぎない!」

隊長「人道のために、社会の秩序を破壊されては困る。それでは魔物と同じでは?」

貴族「貴様……」

隊長「勇者ならともかく、勇者の仲間程度なら大したことはあるまい」

兵士「隊長、この女性は」

隊長「城に連れて行く。確か異教徒だったな、城で裁いた方が良いだろう」

兵士「了解しました!」

僧侶「くっ……」

貴族「僧侶さん!」



70: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:11:16.38 ID:Ccd+oFHRo

隊長「確か、貴族殿は建国以来の武門のお出でしたな」

貴族「……」

隊長「どうですか? 裁きを受ける前に、私とひと勝負というのは」

貴族「いらん。やれば後悔するぞ」

隊長「口は達者ですな」

貴族「とにかく子どもを放せ。私の要求はそれだけだ」

隊長「ちっ……」

少女「お、おじちゃん……」

貴族「……私はおじちゃんではない」

兵士「た、隊長」

隊長「離してやれ」

少女「う、うあ……」どさ

隊長「……おい、弓兵」

貴族「!」



71: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:11:51.16 ID:Ccd+oFHRo

貴族「バカな真似はよせ!」

隊長「魔物が消えてから、たまにはこうして訓練をしないとなまってしまうからな」

どっ げらげらげら

貴族「貴様ら、何が魔物だ! 貴様らの方が十分悪魔ではないか!」

少女「た、助けて……」ヨロヨロ

隊長「ちゃんと逃げられれば生かしてやる……おい、よく狙えよ」

弓兵「はっ」 キリキリ

少女「やだ、やだ……」

貴族「やめろーッ!」

ヒュバッ



72: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:12:18.09 ID:Ccd+oFHRo


――――バシッ

少女「あ、う」




73: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:13:41.63 ID:Ccd+oFHRo

勇者「……間に合ったか」

隊長「だ、誰だ!?」

兵士「隊長、陣形を突破されました! あいつ、あいつです!」

貴族「き、貴様……」

勇者「誰だの、あいつだの、今、世界でもっとも有名な男の名前をまだ知らんやつがいるようだな」

少女「お、お兄ちゃん」

勇者「おう! とりあえず隠れろ!」

少女「う、うん」タタッ

貴族「……なぜここに」

勇者「べ、別にお前を助けに来たわけじゃなくて、僧侶さんに会いに来ただけなんだからね! 助けるのは本当についでなんだからね!」

貴族「いや、それなら、仕方ないが……!」ゾクッ



74: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:14:22.36 ID:Ccd+oFHRo

勇者が剣を構えた。
軽口を叩くその風体は変わらないのに、ただそれだけで、敵味方の両方が寒気を感じた。

目の前にいるのは、人というより殺気の塊、突きつけられた刃に隊長が後ずさった。

少女は後ろ姿を見て、自分が以前に「弱そう」とコケにした相手ということを思い出した。
貴族は後ろ姿を見て、自分が以前に剣の試しあいで対峙した相手ということを思い出した。
殺気の膨れたその姿には結びつかない。

一方、貴族を狩り出しに来た部隊の長は、目の前にいる男が「魔王を殺した人間」であることを、たった今理解した。


勇者「数百人しかいないんじゃがっかりだな」

隊長「弓兵……!」

勇者「雷よ!」

びっしゃ! ばりい!


黒こげた物体が出来上がる。

雷の魔法は勇者のみが扱えるという魔法だ。
ことここに至って、世界最強の人間が目の前にいることを兵士たちも理解した。



75: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:15:19.87 ID:Ccd+oFHRo

勇者「どうしたんだ、せっかく勇者とやりあう機会なんだぜ。大ラッキーだろ」

隊長「うっ、くぅ、ああ……!」

隊員「う、うわああああ!」

どん、ばきいっ!

戦士「おい、お前は先行しすぎなんだよっ!」

魔法使い「無思考は無能につながるの、分かる?」

勇者「お前らの足が遅いだけだろ!」

貴族「こ、この方々は、勇者ご一行!」

隊長「な、なんだと……」



76: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:15:58.25 ID:Ccd+oFHRo

僧侶「き、貴族様……!」タタッ

貴族「ああ、僧侶さん!」

戦士「とりあえず、捕まってたから助けた」

魔法使い「僧侶! こんな内紛地帯は手を出すなって言ったでしょうに!」

僧侶「一番困っている子どもたちのところに行ったんです!」

魔法使い「はぁ~……とにかく、おっさん、早く隠れてなさい」

貴族「ご、ごめんこうむる……」


勇者「うきゃきゃきゃー! 逃げもせず、かかってもこないなら、俺が全滅させてやるよ!」ダダダッ

隊長「や、やめろっ……!」


魔法使い「……バーサクしてるやつを止めなくちゃ行けないから、構ってる暇ないんだけど」

貴族「わ、分かった」



77: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:16:33.18 ID:Ccd+oFHRo

戦意をも失った兵士たちが、本来の力を発揮できるはずがない。
たった四人の最強部隊が、数百人をあっという間に蹴散らしていく。

狂ったように剣を振るう勇者を追って、戦士が殺到しかけた兵士たちの列を割る。
密集したところへ、爆音と竜巻が炸裂する。

わずかな時間で勝敗は決した。



78: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:17:21.68 ID:Ccd+oFHRo

勇者「つまらんな、魔王軍と比べたら」

戦士「勇者とは思えん発言だな」

魔法使い「まったくだわ」

僧侶「もう、兵士さんを回復させる手伝いくらいしてください!」

貴族「……これが勇者の力か」

勇者「ふふん。四人集まれば、怖いものなしだ」

魔法使い「私らはこいつの暴走を止めるだけよ」

貴族「そうだな……確かに、大暴れしていたのは勇者殿だけだった」

勇者「そうだろう!」

戦士「ほめてないぞ」



79: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:17:48.45 ID:Ccd+oFHRo

貴族「しかし、よろしかったのか。こうして私を助けて」

魔法使い「考えてるわ」

戦士「ああ、軍隊が孤児院を襲撃、という報せを各国に飛ばした」

勇者「そこを、通りすがりの勇者一行が助けたってわけさ」

戦士「あんたもたまたま孤児院を助けようと飛び込んだ、そういうことにしておけば、多少は動きやすいだろ」

貴族「……かたじけない。これを理由に反転攻勢をかけられる」

僧侶「貴族様、では、蜂起を?」

貴族「そのとおりだ。もちろん、あなた方の協力が得られればありがたいが」

魔法使い「直接はバツ。ただ、内政不干渉の圧力をかけるくらいはやってもいいわ」

戦士「俺もパスだ、一応、この国も取引先だしな」

僧侶「私は、このような不義を許すわけには参りません!」

勇者「ええっ」



80: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:18:20.62 ID:Ccd+oFHRo

勇者「……パーティ集合!」

魔法使い「な、なによ」

戦士「なんだ」

僧侶「どうかなさいましたか」

勇者「あのさー、ここまで来たんだし、一応言うけどさ」

一同『……』

勇者「もう一回、冒険やろうよ。四人で」

魔法使い「私、断ったけど」

戦士「俺もだ」

僧侶「申し訳ありませんが、子どもたちを守るためでもありますし……」

勇者「ちえっ。みんなして仲間外れかい」

魔法使い「あんたね、子どもみたいなことを言ってんじゃないわよ!」



81: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:18:59.50 ID:Ccd+oFHRo

勇者「分かってるよ」

魔法使い「分かってないじゃない。みんなそれぞれ、新しい生き方をしてるの! あんただって、そのために仕事を探しているんじゃないの!?」

勇者「分かってるって」

戦士「……すまん。だが、力にはなりたい」

勇者「ん、まあ、本当は、もう一回くらい、みんなで集まりたかっただけだしな」

僧侶「……勇者様」

魔法使い「あんたね」

勇者「いいんだよ。俺はみんなと違って、定職についたり、事務所を立ち上げても、うまくいかなそうだしな」

魔法使い「……」



82: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:19:34.00 ID:Ccd+oFHRo

勇者「まあ、だからさ、今度はみんなの役に立とうと思ったわけよ」

戦士「えーっと、そりゃどういう意味だ?」

勇者「魔法使いが言ってた方式さ。戦士や僧侶が俺に出資して、ほしいものを言う。んで、俺が冒険してるついでにそれを持ってくる」

僧侶「それはその……新しい孤児院の土地とかでも?」

勇者「と、土地? うーん、まあ、なんとかなるだろ」

魔法使い「……」

勇者「もちろん、受ける依頼はお前ら三人からだ。これなら、国に肩入れとかじゃなくて、友達を助けるだけだろ?」

魔法使い「そんなうまく行くわけないでしょ」

勇者「そうかな?」



83: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:20:00.02 ID:Ccd+oFHRo

魔法使い「僧侶なんか、今から反乱しようとしているじゃないの」

僧侶「私は、不義を見逃したくないだけです」

勇者「頼む内容にもよるだろ。孤児院の新しい土地を見つけるとかなら、今ならまだありえる話さ」

魔法使い「……あんたは、自分のやりたいことをやるってないわけ?」

戦士「いや、それはな……」

勇者「世界の次は、みんなに会いたいってわがままじゃん」

魔法使い「……」

勇者「……」

魔法使い「バカ」

勇者「うっせ」



84: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:20:47.16 ID:Ccd+oFHRo

魔法使い「頭を使いなさいよ。それならいっそ、前に作った町を、あんたの国にするとか」

勇者「なるほど、政治的にも独立してしまえってわけか」


貴族「……なにやら、不穏な話が聞こえたが」

戦士「ああ、いい、いい。どうせあの二人は悪巧みをさせたら止められないんだから」

僧侶「ああ、神よ。暴力と悪知恵が再び、正しい方向に使われますよう……」


魔法使い「何言ってるの、貴族。ピンチこそ、頭を使えばチャンスに早変わりよ」

勇者「ふははは、これなら正々堂々と支援もできるな!」

魔法使い「……侵略もね」

貴族「……勘弁して欲しい」ゾッ



85: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:21:19.10 ID:Ccd+oFHRo

少女「……お兄ちゃん」

僧侶「あ、少女ちゃん! これから、少し移動しないといけないから……」

少女「……」ギュッ

勇者「おお? どうしたどうした」

少女「ついてく」

僧侶「!」

魔法使い「!」

勇者「そうかそうか! だが、俺の冒険は厳しいからなぁ」

少女「がんばる……お兄ちゃん、弱く、ないもんね」

勇者「仕方のないやつだな。僧侶さん、こいつは」

僧侶「だ、ダメですよ!? そんな危険な!」

魔法使い「ろーりーこん! ろーりーこん!」



86: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:21:49.25 ID:Ccd+oFHRo

戦士「……緊張感がねぇな」

貴族「……魔王征伐の時もこのような?」

戦士「もっとひどかった」


勇者「うーっし! 仕事は自分で見つけないとな!」

少女「がんばる」

魔法使い「ダメに決まってるでしょ!」

勇者「お前は出資だけしてくれ」

僧侶「少女ちゃん、勇者様は危険なのよ?」

戦士「おい、お前ら! いい加減遊んでないで、安全なところに移動するぞ!」

一同『……おー!』



87: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:22:19.93 ID:Ccd+oFHRo

かくして、新たな冒険は始まった。
勇者の行く手には、様々な困難が待ち受けている。

しかし、必ず彼は立ち向かうだろう。
勇気ある者、それが勇者なのだから。

―――たとえその困難が、無職であっても。


おしまい。



88: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/24(火) 23:27:37.31 ID:Ccd+oFHRo

というわけで、さくっと終了です。
この種の、世界を救った後の話は結構あるかと思うんですが、
まあ、やっぱり勇者はなんだかんだで強くて格好良いイメージを保って欲しいなぁと思って書きました。

勇者SSはそれなりに楽しいんですが、
少しやりつくされた感もあって大変ですね。

次回もよろしくお願いします。



89:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2012/01/24(火) 23:33:05.22 ID:EUoFJMq1o

勇者が魅力いっぱいでおもしろい。
続編期待しています。



96:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/01/25(水) 12:22:42.08 ID:glYcaEaIO

あれ?続きは?



99: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/25(水) 14:06:10.72 ID:+3cHz1GIO

もう依頼出しちゃったもんよ(´・ω・`)

じゃあ、取り下げてくるから、せめてネタがほしいんよ。
世界が平和になって失職したキャラを書いてほしいんよ。



100:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2012/01/25(水) 14:16:21.22 ID:sCAQZWu/o

無理すんなよ
これで終わりならそれでいいじゃんよ
お前らも終わりつってんだから無理に書かすなよ

① 勇者土地を探すの巻
② 勇者自分ブランドを作るの巻
③ 勇者世界征服をするの巻
④ 勇者嫁を探すの巻
⑤ 勇者結婚するの巻
⑥ 勇者最終回の挨拶をするの巻

べつに書けとか催促してるわけじゃないんだからね
ただ思いついたのを列挙しただけに過ぎないんだからね
無理して書いて欲しいなんて言ってないんだからね!!
本当だからね!!



101:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/01/25(水) 15:00:40.16 ID:hf0bjAC+o

何だかんだ少女と旅に出て、までは思い浮かぶけどそれ以降がスレの雰囲気にそぐわないネタしか浮かんでこない
ただ、無難に上げるなら、魔法使いの依頼という名の命令でトレジャーハンターする羽目になった勇者の巻き、と言った感じのものだろうか

あ、べつに書けとか催促してるわけじゃないんだから(ry



102:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2012/01/25(水) 15:47:50.07 ID:WTsQ/Mjuo

お前らツンデレだなwwww
いや、俺も催促のためにレスした訳じゃ(ry



103: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/25(水) 16:58:14.03 ID:+3cHz1GIO

いや、新キャラというか、
平和になって、仕事がなくなってもうた職業を、なにか選んでもらえると、話が膨らませやすいかなと。

盗賊とか商人とか。



105:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2012/01/25(水) 17:21:41.17 ID:WTsQ/Mjuo

じゃあ魔王



107:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸):2012/01/25(水) 17:25:35.67 ID:EiHvTZYAO

>>105
魔王は死んだ
勇者に殺されたんだ
でも魔王軍の残党がどうなったかならいけるかもね?



106:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/01/25(水) 17:24:34.26 ID:Cagdfydwo

仲間になったモンスターとか



108: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/25(水) 17:35:55.60 ID:+3cHz1GIO

じゃあ、魔物の残党を絡めていきます。



115: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:32:18.38 ID:3bTjqtKco

とある山奥。

魔法使い「あのバカのせいで、事務所捨てる羽目になったわ……」

魔法使い「まあ、別に、私がついていく必然性もないんだけど」

魔法使い「あいつがガチで無計画なものだから、お鉢が回ってくる感じで……」

魔法使い「大体、戦士はとっとと村に帰っちゃうし」

魔法使い「僧侶は子どもを連れて一時避難」

魔法使い「そうなると私しか残ってないってのがもうね」

魔法使い「放っておくと、平気で無茶無理無謀を押し通そうとするし」

勇者「さっきから何をぶつぶつ言ってるんだ?」



116: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:32:44.86 ID:3bTjqtKco

魔法使い「うるさいわね! あんたのことで頭を痛めてるだけよ!」

勇者「ええー? だって、俺、お前にはまだ要望を聞いてないぜ」

魔法使い「……安請け合いした依頼を言ってみなさい」

勇者「おう! まず新しい孤児院を建てる土地がほしい」カサカサ

魔法使い「うん」

勇者「それから、農作物の研究者を探して欲しい」

魔法使い「うん」

勇者「それから、お嫁さんにしてほしい」カサッ

魔法使い「ああ?」

少女「……」ジー



117: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:33:12.51 ID:3bTjqtKco

魔法使い「おい、クソガキ」

少女「……なに、おばさん」

魔法使い「チッ。消されたくなかったら、とっとと消えうせろよ……?」

少女 ビクッ  テテーッ

勇者「いやあ、お嫁さんねー。かわいいじゃん」

魔法使い「なんであの子どもを連れてるのよ」ヒソヒソ

勇者「ついてきたんだからしょうがないだろ」ヒソヒソ

魔法使い「ロリコン」

勇者「バカいえ。将来の結婚相手と考えれば、有望株だろ?」ヒソヒソ

魔法使い「それはおくとしても」



118: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:34:17.07 ID:3bTjqtKco

魔法使い「どうやって、土地やら専門家やらを見つけ出すのか、言ってみなさい」

勇者「それはお前が止めたんだろ?」

魔法使い「いきなりお城に向かって『孤児院を建てたいんですが、この辺の土地を頂いても構いませんね!』とか言い出すからでしょ?」

勇者「結構、いけると思ったんだけど」

魔法使い「どんな横暴君主なのよ。勇者だからって土地を拡張しろなんて突然言って、通るわけないでしょ」

勇者「えー」

魔法使い「専門家はどうするつもりだったの」

勇者「お前の知識で」

魔法使い「……私は知ってる限りは戦士に教えたわ」

勇者「使えねぇ」

魔法使い「……天に轟く……」

勇者「呪文唱えるなよっ!」



119: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:34:45.54 ID:3bTjqtKco

魔法使い「だから、こうして私が計画案を作ったんでしょうが」

勇者「便利だな」

魔法使い「……闇の底に膨れ上がる……」

勇者「ほめただろ!?」

魔法使い「どこがよ」

勇者「と、とにかく、お前の腹案ではだな、まず新しく町を作ると」

魔法使い「そう」

勇者「そしてその町の周辺の土地を利用して孤児院をつくり……」

魔法使い「うん」

勇者「勇者の名前を使って、専門家を募集すると」

魔法使い「そういうこと」

勇者「十分むちゃくちゃじゃん!」



120: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:35:18.79 ID:3bTjqtKco

魔法使い「どうして? まだ人の手が及んでいないところに住んじゃえば、町は作れるわ」

勇者「そ、そうかもしれんが」

魔法使い「とにかく、こうして私の手を煩わせた以上、徹底的にやってもらうわ!」

勇者「くっ」

魔法使い「そして放棄した事務所は、あんたのその町に作ってもらうことにするわ」

勇者「寄生する気かっ」

少女「……」ジー

勇者「お、おお、なんだよ」

少女「おばさんに、負けないで」

魔法使い「よーし、お姉さん、野外で魔法の練習しちゃうぞー、誰が巻き込まれてもどうでもいいわー」

勇者「やめろ!」



121: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:35:58.37 ID:3bTjqtKco

一方、その頃―――

側近「魔王様が亡くなってから暇よね」

魔物「……そっすね」

側近「魔界に帰りそびれちゃったしね」

魔物「……そっすね」

側近「……」

魔物「……」

側近「もう! なんなのよ! こっちが話し振ってるのに!」

魔物「そんなことを言われましても」

側近「大体、決戦に間に合わなかったのは誰のせいよ!」

魔物「ご自分で計画したんでしょ」

側近「なんか気がついてたなら報告してよ!」

魔物「……そっすか」



122: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:36:31.18 ID:3bTjqtKco

側近「私の計画は完璧のはずだったわ」

魔物「……」

側近「勇者たちは魔王城だろうと必ず家捜しをする。そこを突いた計画だった」

魔物「……そっすね」

側近「隠し部屋に強力な装備を用意し、必死になって見つけたところで一斉に襲い掛かる」

魔物「……」

側近「城内の探索ですでにぼろぼろになった勇者を一網打尽にする」

魔物「……」

側近「完璧な計画でしょ」

魔物「……スルーされましたが」

側近「そうよ! 気がつかねぇでやんの!」

魔物「われわれも決戦に気がつきませんでしたけど」

側近「言うな!」



123: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:37:25.33 ID:3bTjqtKco

側近「まさか魔界と通じているゲートまで封じられるとは思ってなかったわ」

魔物(なんでこいつ、魔王様の側近だったのかなぁ)

側近「せっかくの装備も宝の持ち腐れだし」

魔物「勇者倒したらいいじゃないすか」

側近「む、無理に決まってるでしょ」

魔物「……」

側近「私たちが強さを維持できたのも、魔王様の闇の力によるものだったのよ」

魔物「へー」

側近「おまけに、こちらはもう数の上でも負けているし」

魔物「でも、強力な装備があるわけですし」

側近「強力だけど、呪われているのよね」

魔物「……」



124: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:37:51.40 ID:3bTjqtKco

魔物「まあでも、いつまでもここでうだうだしてもしょうがないのでは?」

側近「う、うるさいわね」

魔物「魔王様のご遺志を継いでとか言ったら、格好良く見えますよ」

側近「バカね、魔界への道が封印され、補給ルートも断たれたのよ」

魔物(確かに補給が途絶えてから、戦うどころじゃない)

側近「ああ、こんなことなら、ボーナスまで我慢せずに、魔界スイーツバイキング行っておくんだった……」

魔物(そっちかよ)

側近「あんたも未練があるでしょ?」

魔物「はあ。飼ってるスライムが心配ですね」

側近「……スライムなんか飼ってるの?」

魔物「まあ」



125: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:38:29.91 ID:3bTjqtKco

側近「ええー!? 全然見えない」

魔物「……あいつら、勝手に増えるし、すぐ変なもの食べるんすよ」

側近「ああ、スライムは増えるよね」

魔物「食べたもので柔らかくなったり、硬くなったりしますし」

側近「そ、そうなんだ」

魔物「……」

側近「え、終わり?」

魔物「いや、帰れなかったら、心配してもしょうがないですし」

側近「何言ってるのよ。このまま帰れるわけないでしょ」

魔物「……」

側近「魔界に帰るにしても、なんかこう、精霊を半殺しにしましたとか」

魔物「……そっすか」



126: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:39:03.44 ID:3bTjqtKco

側近「いやあんたね、きっと魔界じゃ、次期魔王の争いをしてるでしょ」

魔物「……そっすね」

側近「そしたら、私たちが帰ったらもう大体決まってるでしょ」

魔物「……そっすね」

側近「じゃあ再就職っていう時、『あなたは人間界に留まって何をしていましたか』って聞かれるでしょ」

魔物「……そっすね」

側近「なんて答えるの?」

魔物「『魚採ってました』」

側近「今日のおかずじゃない!」



127: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:39:39.05 ID:3bTjqtKco

側近「どうするのよ、それで」

魔物「いや、魔界へのゲートの封印を解けば、評価してもらえるんじゃないすか」

側近「バカ、態勢が整わないうちに解いたら、今度は人間側が侵略するわよ」

魔物「……」

側近「そうなったら再就職もクソもないでしょ」

魔物「どの道、封印を解かないと魔界に帰れないじゃないすか」

側近「だから! 向こうが態勢を整えて、こちらに来る間に、ここで一旗上げようって作戦なのよ」

魔物(何百年ここで暮らすつもりだ)

側近「ふふふ、勇者……は、無理でも、勇者の子孫くらいなら行けそうじゃない?」

魔物(すでにへたれているし)



128: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:40:07.14 ID:3bTjqtKco

魔物「だったら、今から行動して、こう、人間の闇の心を増幅させるとかしないんすか」

側近「まあ、待ちなさい。二匹で行動してもたかがしれてるわ」

魔物(争いの種を撒くとかすればいいのに)

側近「きっと取り残された魔物が、魔王様を慕って集まってくるはずよ」

魔物「この数ヶ月、誰もここに来ませんでしたが」

側近「大丈夫よ! 私も点呼の時はよく遅れて、魔王様に叱られたわ」

魔物(ダメだこいつ)


―――がさがさっ


側近「!」

魔物「……」

側近「誰か来たわ!」

魔物「いや、隠れましょうよ」



129: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:40:41.90 ID:3bTjqtKco

勇者「だからよー、魔王城だったら、最初から城があるし、いいかと思ったんだよ」

魔法使い「ここまで来て何だけど、やっぱりイメージ悪いわ」

少女「ここ怖い……」

魔法使い「ほら、この子も言ってるじゃない」

勇者「けどさ、実際のところ、戦闘でぼろぼろになったと言っても、まだかなり立派だぜ?」

魔法使い「確かにそうだけど、何、あんたは新たな魔王にでもなるつもり?」

勇者「ふむ……」

魔法使い「真面目に考えないでくれる?」


側近「み、み、見なさい、勇者よ!」

魔物「そっすね」

側近「ふ、二人だし、子連れだし、チャンスじゃね!」

魔物(汗だくになっている)



130: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:41:13.13 ID:3bTjqtKco

少女「お兄ちゃん、魔王になるの?」

勇者「嫌か? まあ、お前の父ちゃん母ちゃんは魔物になー」

少女「……」

魔法使い「……デリカシーがないわね!」

勇者「な、なんだよ」

少女「じゃあ、私、魔女になる!」

魔法使い「は?」


側近「よおし、魔物、ま、まずはあのちびっ子を人質に取るのよ!」

魔物「待ってください、他に仲間がいたらどうするんです?」

側近「大丈夫よ! みみみ、見た感じ親子連れでキタっぽいし!」

魔物「……見た感じ?」



131: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:41:46.55 ID:3bTjqtKco

魔法使い「そうなの、魔女になりたいの」

少女「お、お兄ちゃんが魔王になるならね」

魔法使い「知ってるかしら。魔女って狼とセ○クスしたり、赤ん坊を食べたりするのよ?」

少女「!」

魔法使い「魔法使いより、何倍も恐ろしいのよ」

少女「う、うう……」

勇者「おい、いじめるなよ!」


側近「ちょっと、手柄を立てなきゃって言ったのはあんたでしょ」

魔物「……あなたですよ」

側近「あ、あんたがやらないなら、わ、私がやるわ」

魔物「はあ」

側近「人、人、人、ごくん」

魔物「……」



132: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:42:19.20 ID:3bTjqtKco

側近「よし! 気合が入った!」ガクガク

魔物(ひざが笑ってる)

側近「いいこと、私が子どもをさらう、あんたが勇者に突っ込む。完璧なささ作戦ねね」

魔物「全然完璧じゃないですが」

側近「だだだ、だったら、あんたに何かいい案があるって言うの?」

魔物「そっすね。交渉してみてはいかがです?」

側近「こ、交渉?」

魔物「ええ。勇者が一度攻略したアジトにわざわざやってくる理由は、何かを探している以外にありえません」

側近「な、何言ってるのよ、相手は魔物相手にゃ見敵必殺しちゃう連中なのよ」

魔物「いやー、魔王様を破った以上、あえて魔物を屠る理由はないんじゃないですか」

側近「バカ! ここには呪われたとはいえ、強力で貴重な装備品があるのよ! やつらにとっちゃそれだけで……」

勇者「ほう」



133: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:42:46.67 ID:3bTjqtKco

側近「勇者ー!?」

魔物「……」グルルル

勇者「まあ、何かしら出るだろうとは思っていたが、強力で貴重な装備品を持っている魔物が大騒ぎしているとはな」

魔法使い「気づかないうちにやっちゃえばよかったのに」

少女「私もそう思う」

勇者「ふっはっは、いや、ここは一つ、腕を確かめるのが筋だろう」チャッ

側近「くっ」

魔物「……」


勇者が剣を構えて、不敵に笑う。

魔物は自身の鋼のような鱗に触れてみた。硬さには自信がある、つもりだった。
しかし、やすやすと仲間が屠られた噂を聞いていたため、それが紙のようなプライドに過ぎないことも知っていた。

悪魔族の側近が、魔物を盾に隠れる。



134: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:43:13.55 ID:3bTjqtKco

勇者「どうした、かかってこないのか」チャキ

魔法使い「やらないなら私がやるわよ」ボッ


二人が武器を構える。

二対二の格好になるが、その表情はまるで違う。
片側は自信に満ち溢れた歴戦の戦士のそれで、もう片側はただひたすら険しいだけだった。

緊張に耐え切れなくなったか、悪魔の娘が叫ぶ。


側近「……ふ、ふふふ、この魔物は竜の鱗を持つ戦士なのよ! 並みの剣や魔法では貫けないわ!」

勇者「並じゃなきゃいいんだな?」

側近「え」

魔物「黙っててくださいよ、割とマジで」


魔物(どうする……?)



135: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:44:06.29 ID:3bTjqtKco

魔物「……勇者よ」

勇者「なんだ?」

魔物「私が戦う意思がないと言ったら、武器を収めてくれるか?」

勇者「なんだ、やる気がないのか」

魔法使い「ちょっと、魔物に耳を貸してどうする」

少女「お兄ちゃん?」


魔物(……チャンスだな)


魔物「勇者よ。もはやわれらは魔王様を失い、たとえ戦って貴様の首を手に入れようと何の意味もない」

勇者「ほうほう」

魔物「魔界への道が閉ざされたゆえ、故郷に帰るに帰れない」

魔物「われらの望みは、ただ魔界に帰ることだけなのだ」



136: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:44:38.59 ID:3bTjqtKco

魔物「どうだろうか、戦争が終わったのであれば、殺しあう必要はない」

勇者「確かになー」

魔物「魔物を許せぬ人間もいるだろう。しかし、私も戦友をお前に奪われたりもした」

勇者「ああ。お前みたいなやつはずいぶん倒した」

魔物「そうだろう……だが、さらに憎みあうこともなかろう」

勇者「……」

魔法使い「勇者! いい加減、そいつを倒しなさい」

勇者「なんでだ? かわいそうじゃんか」

少女「お、お兄ちゃん」



137: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:45:11.75 ID:3bTjqtKco

魔物「お前たちを傷つけることはしない。他の人間への復讐もしない」

勇者「本当か?」

魔物「……装備品も渡す。代わりに、われらを見逃し、できるならば、魔界へ帰してほしい」

勇者「ふーん、そうか」

魔法使い「あんたね……!」

勇者「だって、故郷に帰れないなんて寂しいだろ?」

少女「……」

勇者「お前も、そう思わないか」

少女「それは……でも……」


側近「何言ってるのよ!」バンバン



138: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:45:38.08 ID:3bTjqtKco

側近「あんたね、よりにもよって勇者と妥協してどうするのよ!」

魔物「……は?」

側近「魔界に帰っても、どうせごみクズ扱いなのよ!? だったら勇者の首を一つでも二つでも取っておかないと!」

魔物「……黙ってくださいよ、本格的に」

側近「再就職のこと考えてるの? 帰って職なしだったら、結婚もできないわよ!」

魔物「いや、大体、竜系の魔物は、イケメンがかっさらっていくんで」


魔法使い(竜族にイケメンがあるのかよ)

少女(結構、この人もかっこいいと思うけど)


側近「バカ、顔より年収、顔より年収なんだからね!」

勇者「魔物って大変なんだな」



139: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:46:14.67 ID:3bTjqtKco

勇者「まあ、そういうことなら、お互い首を賭けあおうか」

魔物「……いやほんと、やる気のあるバカほどいらないものはない」

魔法使い「力持ちのアホも困るけどね」

魔物「……確かに」

側近「安心なさい! あんたが盾になってるところで、私が魔法をぶちかましてやるわ!」

魔物(なぜ作戦を全部しゃべるんだろう)

勇者「よし、まずはあのアホを狙うぞ」

魔法使い「アホがアホ呼ばわりしてるわ」

側近「何よ、人間のくせに!」


少女「あ、や、やめて……!」

勇者「おお?」



140: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/26(木) 23:46:45.64 ID:3bTjqtKco

勇者「お、おい。腰に抱きつかれると危ないだろ」

少女「や、やめてよ、やめて!」

勇者「あ、ちょっと、変なところを触るんじゃない」

少女「け、ケンカしなくて済むなら、その方が……!」

魔法使い「ふん」ゴン

少女「きゅう」

勇者「……お前、杖で叩くとか下手すると死んでるぞ」

魔法使い「混乱に効くのは、ぶん殴ることよ」


魔物「容赦なく殴ったすね」

側近「容赦なく子どもを殴ったわね……」



146: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/28(土) 21:07:25.06 ID:35PQO6JYo

一応、設定。

勇者:嫌いな食べ物はしいたけ。

魔法使い:ツンデレではない。乳はそれなりにある。

戦士:勝ち組。今後の出番が危うい。

僧侶:痛い子。力が強い。

貴族:自分に酔ってる系。それなりには強い。

少女:年は10代。

新顔ども。
側近:悪魔族。多分、♀。参謀役だったと言い張る。

魔物:竜族。竜人系で、武器を装備できるタイプ。



147: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:28:32.02 ID:yjXE6fBSo

側近「ふ、ふ! 少し驚かされたが、もう遅い! この私の力を見せ付けてあげるわ!」

魔物(む……そうか)

魔物「……側近殿」

側近「な、なによ。もう、あんたまで私の格好いいポーズに水を差さないでよ」

魔物「……この状況を打破する良い方法を思いつきました」

側近「え、いや、だからあんたが盾で、私がどかーんと」

魔物「それよりもよい方法です。耳をお貸しください……」

側近「な、なんなの」コソコソ

魔物「ふん」 ごんっ!

側近「むぎょぶ」ぼきり。

ばたっ


魔物「……さあ、これで邪魔者はいなくなった」

勇者「いやいやいや」



148: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:29:02.08 ID:yjXE6fBSo

魔物「……どうした?」

勇者「こっちが聞きたいよ!」

魔物「これでお互いに冷静になって話し合えるというものだ」

勇者「……おい、魔法使い。お前のせいだろ、これ」

魔法使い「引くわー」

魔物「……そうか?」

魔法使い「というのは冗談にしても、そこまでして戦いを避ける理由が分からないわ」

魔物「すでに戦争は終わった。人間を襲うメリットがなくなったからな」

勇者「割とクールなんだな、魔物って」

魔物「……人を一人襲うたびに、金貨一枚。実家に振り込まれていた」

勇者「歩合制かよ……」



149: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:29:32.32 ID:yjXE6fBSo

魔物「私も最初は、一矢報いることも考えていたが」

勇者「ほうほう、そういうのがいいね、俺は」

魔物「……だが、いまやカウントしてくれる悪魔もいない」

魔法使い「まあ、魔界に追い返しちゃったものね」

魔物「無論、プライドもないわけではないが、お前たちに真正面からぶつかって勝てるとも思わん」

魔法使い「なるほど。要するに、自分たちは本当に故郷に帰りたいだけだと」

魔物「……現状、直属の上司がこの様では、お前たちの方が頼りになりそうだ」

勇者「はっきり言うな」

魔法使い「そういうのは嫌いじゃないわ。ただし信用もしないけど」

魔物「……そうか」

魔法使い「私から提案するのは、不可侵条約かしら」

勇者「不可侵じょーやく?」



150: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:30:08.30 ID:yjXE6fBSo

魔法使い「そう、お互いに攻撃しあわないという取り決めよ」

魔物「……」

魔法使い「私たちは、ここら辺は魔王の瘴気が残っているので危険だという情報を流す。あんたたちも代わりに出てこないようにする」

魔物「……なるほど」

魔法使い「その間に、魔界に帰る方法なりを見つけ出しなさい」

勇者「おう、お前にしちゃまともな提案だな」

魔法使い「ただし、ここから少し離れたところに私たちは町をつくるわ。もし、あんたたちが余計な行動をしたら、即座に潰せるようにね」

勇者「お、おう」

魔物「……そういうことなら、側近殿も納得するだろう」

勇者「す、するのか?」



151: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:30:35.25 ID:yjXE6fBSo

勇者「でもよ、魔物的にはチャンスもあるんじゃないのか?」

魔物「……何がだ?」

勇者「だって魔物がいなくなって逆に、人間同士が争っているんだぜ」

魔法使い「このアホ!」ボッ

勇者「やめろ! 燃やすな!」

魔法使い「そういう余計な情報を与えてどうするのよっ!」

魔物「……なぜ人間同士で争うのだ? 集まって生きるのがお前たちの生き方ではないのか」

勇者「いやそれがさ」

魔法使い「……燃え滾る炎に、身を焦がし……」

勇者「分かったから!」



152: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:31:10.06 ID:yjXE6fBSo

魔物「……だとすると、われわれ以外の魔物がいまだ暗躍しているのかもしれん」

勇・魔「!」

勇者「……その発想はなかったな」

魔法使い「確かに。でも、こうして魔物がいるってことは、考えられなくはないわね」

勇者「まあ、単に強欲な連中同士で争ってる可能性も否めないが」

魔法使い「政治的な解決策以外も視野に入れるべき、というわけよ」

魔物「……おい」

勇者「な、なんだ?」

魔物「もう一つ、これはお願いになるのだが……」

魔物「もし、他に魔物がいて、戦わずに済んだなら、ここに連れてきてくれないか」

魔法使い「……」

勇者「そりゃまた、でかいお願いだな」



153: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:31:38.20 ID:yjXE6fBSo

魔法使い「いいわよ」

勇者「い、いいのか?」

魔法使い「私たちにとっちゃ、不可侵条約さえ守ってもらえればいいわけだからね」

魔物「……助かる」

魔法使い「ただし、兵力が増えたーって調子に乗ってると、ひどい目にあうからね」

魔物「……」

勇者「うんって言っとけ。ああ言ったら、本当にひどい目にあわせるからな、やつは」

魔法使い「あんた、どっちの味方よ」

魔物「ついでに、この装備品は」

魔法使い「金にならないからノーサンキュー」

魔物「……そうなのか? 強力な装備だが」

魔法使い「呪われている装備なんて、誰も欲しがらないのよ」



154: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:32:08.32 ID:yjXE6fBSo

魔物「しかし、そういう装備以外にお前たちに得るものは……」

勇者「いやいや、最初はこの魔王城を新しい町にしようかと思ってたんだけど」

魔物「……そうなのか?」

魔法使い「だからパスよ、パス。少し離れたところに町を作るわ」

魔物「……ふむ」

勇者「何かあるのか?」

魔物「いや、それならばここから北へ行くと、多少開けたところが出てくる。海も近いし、移動しやすいだろう」

魔法使い「あら、気が利くわね」

魔物「お互い様と言っておこう」


魔法使いと魔物は、互いににやりと笑って見せた。



155: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:32:46.41 ID:yjXE6fBSo

―――しばらくして。

側近「……ん、んう」

魔物「……」

側近「すみません……魔王様……プリンを勝手に食べたのは、私じゃなくて……魔物……」

魔物(寝言がひどい)

側近「はっ!」ガバッ

魔物「……お目覚めですな」

側近「ゆ、勇者は!?」ジュル

魔物「追い返してやりましたよ」

側近「お、追い返してどうするのよ! 首を取らなきゃ」

魔物「そう簡単に倒せるものではないでしょ」



156: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:33:16.42 ID:yjXE6fBSo

側近「くっ、勇者を倒していたら、一気に上役ゲットできたのに!」

魔物「……魔界に帰れたら、の話でしょ?」

側近「そ、そうかもしれないけどぉ」

魔物「取引をして、やつらから手出ししないようにしました。まずは魔界に通じる封印を解くことに専念してはいかがです?」

側近「まあ、退路を確保するのは重要だけどさー」

魔物(そういう言葉は知っているのか)

側近「でも、あんただって勇者を倒したらとか言ってたじゃない」

魔物「側近殿がノープランすぎたので」

側近「わ、私が無計画だって言いたいの!?」

魔物「……違うんですか?」

側近「ふ、ふん! 多少はそうだったかもしれないわね」

魔物(まだ言うか)



157: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:33:42.96 ID:yjXE6fBSo

魔物「こちらからも手出しはしなければ、各地で魔物を見つけたら、ここに集まるよう呼びかけてくれるそうです」

側近「くっ、なめられてるわね」

魔物「……そうですか? まあ、お互い利用しあえばいいではありませんか」

側近「そ、そうね。相手が手を出さないなら、こちらもじっくり準備できるわけだし」

魔物「そうそう」

側近「あ、それならまずはスライムとか呼び寄せちゃう?」

魔物「は?」

側近「弱いけど、数をそろえるのにはまず便利でしょ」

魔物「……まあ、やつらは勝手に増えますけど」

側近「あんた、スライム飼ってたんでしょ? ちょうどいいじゃない」

魔物「……そっすね」



158: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:34:24.47 ID:yjXE6fBSo

こちら、勇者一行。

勇者「でも、意外だなー。お前が魔物と取引なんて」

魔法使い「そりゃあね、あの魔物、知恵はあるし、話の分かるやつだったから」

勇者「そうは言うが……何かたくらんでないか?」

魔法使い「実を言うと、切り札としても考えているわ」

勇者「切り札?」

魔法使い「もし、政治的にあんたが孤立した場合よ。魔物と手を組むという選択肢があってもいいじゃない?」

勇者「お前、本気でそんなことを考えていたのかよ……」

魔法使い「もちろん、最悪の場合よ。実行しなくても、選択肢をちらつかせるだけで、圧力になる」

勇者「恐ろしいこって」

魔法使い「恐ろしいと思うなら、きりきり働きなさい」

勇者「くそっ、再就職、再就職のため……!」



159: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:34:52.60 ID:yjXE6fBSo

魔法使い「……それと、いい加減、その背負ってる子も起こしなさいよ」

勇者「お前が寝かしたんだろうが。物理的に」

魔法使い「うるさいわね」

勇者「大体、年頃の女の子の頭を杖でぶっ叩くとか」

魔法使い「余計なことするからでしょ?」

勇者「お前なー、魔物にトラウマのある子が、争いはやめろって飛び出したんだぞ」

魔法使い「……」

勇者「デリカシーがないよな」

魔法使い「その言葉、そっくり返してやりたいわ。マジで」

勇者「な、何でだよ!」

少女「ん……うゆ……」



160: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:35:25.67 ID:yjXE6fBSo

勇者「お、起きたか?」

少女「あたま、いたい……」

勇者「あまり無理するなよ」

魔法使い「……」

少女「あ、えっと」

勇者「よしよし。そろそろキャンプ地にするからな」

少女「り、竜のおじちゃんは」

勇者「大丈夫だ、一応、戦わなかったぞ」

少女「よ、よかった」ホッ

魔法使い「甘いわね」

少女「な、なに」



161: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:35:52.03 ID:yjXE6fBSo

魔法使い「あの時はたまたまタイミングよく私が気絶させたから良かったようなものを」

勇者「良かったのかよ」

魔法使い「もしあそこで、勇者が攻撃されていたら、大ピンチだったのよ」

少女「う……」

魔法使い「魔王が滅びたとはいえ、私たちの一挙手一投足は監視されている」

少女「い、いっきょしゅ……?」

勇者「要するに行動の一つ一つが注目されているってことだ」

少女「お兄ちゃん、頭いいんだね」

勇者「まあな」エラソウ

魔法使い「要するに!」

魔法使い「……隙を見せれば、総崩れになりかねないのよ」

少女「……」

魔法使い「そうなった時、責任が取れるの? あなたは」



162: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:36:22.38 ID:yjXE6fBSo

少女「そ、そんなこと……」

魔法使い「仮にも、勇者のパートナーになりたいって言うなら、そこを自覚しないでどうするの?」

少女「うっ……」グス

魔法使い「とりあえず、背中から降りて、自分の足で立ちなさい」

勇者「お、おう。大丈夫か?」

少女「ん、は、い」トッ

魔法使い「……とりわけ、これからは魔王を倒すという明確な目的があるわけでもない」

魔法使い「だからこそ、余計に判断が難しくなるのよ」

魔法使い「分かっているの!?」

少女「う」ビクッ

魔法使い「逃げるな!」

少女「ふ、ふぇ……」



163: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:36:51.72 ID:yjXE6fBSo

魔法使い「分かったなら、さっさとテント張る準備しなさい」

少女「は、い……」グスグス  テッテッテ……

魔法使い「……」

勇者「うーん」

魔法使い「何か言いたいことでもある?」

勇者「いや、お前が俺のパートナーという自覚があったとはな」

魔法使い「誰があんたのパートナーよ!」

勇者「いやでも、パートナーとしての心得を話すってことは、少女ちゃんを牽制しているってことだろ? 勇者のパートナーは私よ、的な」

魔法使い「あんたね……」

勇者「でも、確かに戦士は結婚したし、お前も適齢期だもんな」ウンウン

魔法使い「おい、お前」



164: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:37:18.40 ID:yjXE6fBSo

勇者「でもよ、一つ言わせてもらうが、お前って俺のこと嫌ってるだろ?」

魔法使い「はあ?」

勇者「やっぱり、義務感で結婚してやるって言うんじゃ俺も納得できないしな」

魔法使い「……なんで私が義務感であんたと結婚するのよ」

勇者「いやでも」

魔法使い「そうじゃなくて! あの子があんたと結婚したいなんて奇特なことを言うから、指導してやっているだけよ!」

勇者「嫉妬じゃないよな」

魔法使い「……頭痛くなってきたわ、マジで」

勇者「実は俺のこと好きなのか?」

魔法使い「別に嫌いでも好きでもないわよ……」



165: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:37:46.58 ID:yjXE6fBSo

魔法使い「あのねぇ、あんた、お姫様も牽制があって結婚できなかったって、前に教えたでしょ」

勇者「ああ、そうだっけ」

魔法使い「そうよ。もしそういう人とも出来るとしたら、あんたが一国一城主になるということ」

勇者「ふーん、これから町を作るし、可能性は出るかもな」

魔法使い「そうよ……勇者が政治の表舞台に出るとなれば、同盟を結ぶために、こぞって女性が迫ってくるでしょうね」

勇者「いやな迫られ方だな」

魔法使い「ということはね、下手すると、そういう争いにあの子も巻き込まれるわけ」

勇者「ほうほう」

魔法使い「心構えは必要でしょ? 牽制とかじゃないわ」

勇者(言い訳くさいな)



166: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:38:21.86 ID:yjXE6fBSo

勇者「じゃあ、お前の気持ちはどうなんだよ」

魔法使い「はあ?」

勇者「お前だって、俺に付き合わんでも良かったじゃないか」

魔法使い「そうね……」

勇者「事務所も放り出しちまったし」

魔法使い「そうねぇ……」

勇者「探検隊の仕事も最後まで確認できなくなったし」

魔法使い「そうねぇえ……」

勇者「そうまでして俺についてくるってことは、実は惚れてるんじゃないのか」

魔法使い「なんか腹立ってきたから、ぶちのめしていいかしら」

勇者「おい!? 愛情表現にしちゃ痛いぞ!」



167: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:38:43.09 ID:yjXE6fBSo

勇者「あ!」

魔法使い「何よ」

勇者「よくよく考えたら、お前も今、無職じゃん!?」

魔法使い「……」

勇者「わははは! 無職、無職ー!」

魔法使い「……」

勇者「いろいろ投資したのに回収できねぇでやんの!」

魔法使い「ねえ」

勇者「わはは……は?」

魔法使い「そこまで言うなら、あんた30年くらいタダ働きでいいわよね」

勇者「さ、さんじゅう?」

魔法使い「私の投資分を回収できるまで、あんたをこき使っていいのよね」

勇者「……」



168: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:39:16.86 ID:yjXE6fBSo

勇者の故郷。

商人「……探検隊に投資したら、生活費がなくなってしまったでござる」

商人「やべー、やべーよ。そりゃ商売なんてやったことなかったからだけどさ」

商人「配当金が出るのが一年後ってどういうことだよ」

商人「大体、退職金をほとんど全部突っ込んだらそりゃ生活できるわけねーもんよ」

商人「くっそ、マジでやべーよ。そりゃ城の裏門なんか、魔物がいなくなったら常駐させとく必要ないけど」

商人「せめて倉庫番とかで食らいついておくべきだったよなー」

商人「どうすんだよ、もう実家は頼れないし」



169: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:39:44.04 ID:yjXE6fBSo

商人「大体、おかしいと思ったんだよなー」

商人「門番を退職した直後に、探検隊募る! とか言い始めて」

商人「冒険の経験がないって言ったら、お金を投資するだけでもよし、とかさ」

商人「あれ、絶対、退職金を回収するつもりで出した手だったんだよ」

商人「国の財政的には、人件費を削減できるし、放出も少ないし、そりゃうまい手だよ」

商人「ペーペーの元門番が手を出せる世界じゃなかったんだよ」

商人「どうすんだよ、マジでやべーよ」

商人「もう元手がないし、いつまでも宿には泊れないし」

商人「くそ、酒場にでも行くか!」(職探し的な意味で)



170: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:40:14.50 ID:yjXE6fBSo

商人「ちはーっす」

マスター「あら、商人君ね。こんな昼間から」

商人「へへへ、ども」

マスター「何を飲むつもりなの?」

商人「いやいや、もう飲むお金なんかないっすよ。水とかで……」

マスター「もう、毎回それね」

商人「お、お金を突っ込んじゃって……なんか仕事がないかなってー」

マスター「悪いけど、そう景気のいい話はないわ」

商人「またまた、結構儲かってるんでしょ?」

マスター「うーん、魔物が活発だった時代は、勇者さんが仲間を探したり、冒険者でパーティー組んだり、それなりにここも賑わっていたんだけどねー」

商人「そうなんすか」



171: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:40:41.53 ID:yjXE6fBSo

マスター「安心して飲めるようになった代償なのかしらね」

商人「……じゃあ、ここのお店で雇ってもらうってわけにも」

マスター「今はウェイターも募集してないの」

商人「まいったなー」

マスター「ごめんなさいね」

商人「あ、そうだ! せっかく勇者さんの故郷なんだから、勇者が好きな酒とかで売り出したらどうっすか?」

マスター「え?」

商人「勇者さんのサインとかもらってきて、売るんすよ。いやー、俺って頭いいかも」

マスター「え、でも、それは」


女商人「……バカの極みね」



172: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:41:23.02 ID:yjXE6fBSo

商人「な、なんだと。ていうか、あんた誰だ」

マスター「あら、商人君は知らないの? この人は、女商人さん。あちこち回ってるんだけど、うちのお酒の仕入れもお願いしてるの」

女商人「……最近、浮浪者が酒場に来ているって聞いてたけど」

商人「誰が浮浪者だ! 俺もあんたと同じ、商売人だ」

女商人「商売人が聞いて呆れるわ」

商人「なんだと……」

マスター「あのね、商人君。女商人さんは、昔、勇者さんのパーティーにいたこともあったのよ」

商人「え、マジすか!?」

女商人「……」

商人「そ、そうとは知らず、失礼しました」

女商人「今、あんたは三つ無能を晒したわ」



173: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:41:55.40 ID:yjXE6fBSo

商人「……は?」

女商人「一つは、相手を知らずになめた態度を取ったこと。もし顔の知らない取引先だったらどうなってた?」

商人「う、おう」

女商人「一つは、自分の儲け話を垂れ流したこと。うまく行くならさっさとやってるはずだから、自分には実行力がありません、と宣伝しているようなもんだわ」

商人「お、おう」

女商人「最後に、その肝心の儲け話が大間抜けだってこと」

商人「な、なんだと?」

マスター「お、女商人さん、何もそんなこと言わなくても」

女商人「……それもそうですね。マスター、これ、『戦士の村のおいしいワイン』です」ドン

マスター「あらぁ~、いつもありがとう」



174: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:42:25.83 ID:yjXE6fBSo

商人「お、おい! おい!」

女商人「何かしら」

商人「大間抜けって言ったけど、戦士ってあの勇者一行の戦士だろ? 戦士のブランドがあるなら、勇者のブランドがあってもいいじゃねぇか!」

女商人「……はぁ~」

商人「な、なんだよ。間違ってるか!?」

女商人「戦士さんと勇者さんの違いって分かる?」

商人「はあ? そんなの、あれだ。勇者はリーダーで、戦士は……」

女商人「……戦士さんは、郷里で農業を営んでいるのよ」

女商人「確かにワインは彼の仕事と直接関係がないけれど、世界を救った仲間が作ったおいしい野菜と、その村の名前を売り出してきたわ」

女商人「つまり、戦士さんのブランドは、かつての勇者一行であることと、実際に優れた農業を行っている両面によって作られたものなの」

商人「お、おう」



175: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:42:52.89 ID:yjXE6fBSo

女商人「一方の勇者さんは? 世界を救った以後、雨後のたけのこのように、勇者グッズの店が世界中に広がったわ」

女商人「今でも新しくオープンしている。けれど、そんなもの、いずれ忘れられてしまう」

女商人「世界を救ったこと以外、彼は他に何の業績もないもの」

商人「そ、そんなことはないだろ」

女商人「あるのよ。確かに世界で多くの魔物と戦ったわ。けれど、多くの人にとって、勇者さんの価値は、魔王を倒して世界を救ったことだけ」

マスター「……そうね。色紙のサインはお店に飾ってあるけど、もう、物珍しさはないわね」

商人「……」

女商人「もちろん、彼がどこかの王様にでもなれば別よ? 世界の英雄が、国の指導者になる。ビッグチャンスと言っていいわ」

商人「だ、だったら」

女商人「でも、彼は滞在していた国を出て以来、ふらふらと世界を回っているだけ……そういえば、どうやってサインをもらうつもりだったの? 場所も知らないのに」

商人「……」



176: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:43:22.39 ID:yjXE6fBSo

マスター「……私も、勇者がパーティーを組んだ酒場! とかやってたけど、もうそれも難しいかしらね」

女商人「そうですね、あの、お城からのまとめ買いは」

マスター「それは大きいわ。けど、たとえばこのワインも、戦士さんの村と直取引した方が安いんじゃないかって意見もあるらしくって……」

女商人「ふむ……」

マスター「女商人さん、もし、いいアイデアがあったら教えてくれないかしら」

女商人「そうですね……これまでの冒険者たちとのつながりはあるんですよね」

マスター「ええ、名簿にして持っているわ」

女商人「でしたら、それを元に……たとえば、彼らの地元のお酒や物産を集めてもらうのもいいかもしれません」

マスター「あら、それならお酒の品評会なんかもいいかもしれないわね」

女商人「いいアイデアです。私も知り合いに声かけをしてみましょうか」

マスター「本当~? 助かるわ」

商人「……」



177: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:43:56.74 ID:yjXE6fBSo

女商人「よっと。それじゃあ、私はこれで」

マスター「またお願いよ?」

女商人「ええ、それでは」

商人「ま、待ってくれ!」

女商人「……」

商人「頼む、俺も連れて行ってくれないか」

女商人「どうして?」

商人「あんたの言っていることに感動したんだ。俺を、あんたの弟子にしてくれ!」

女商人「嫌よ」

商人「頼む、荷物持ちでも何でもする! 俺は駆け出しだから、何をどうしていいのか分からないし」

女商人「そのくらい、自分で考えなさい」



178: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:44:18.02 ID:yjXE6fBSo

商人「お願いだ。あんたの言葉で目が覚めたんだ!」

女商人「……ちっ」

マスター「女商人さん、私からもお願いできないかしら」

女商人「マスターまで……」

マスター「なんとも思っていないなら、あなたも彼にあんな話をしなかったでしょう?」

女商人「……」

商人「頼む! このとおりだ!」ゲザー

女商人「……その軽い感じ」

商人「……え?」

女商人「そういうところが、なんか勇者さんに似ているのよ、あんた」

商人「俺がぁ?」

女商人「だから、お断りするわ」バタン



179: ◆WPwc2pN1N6:2012/01/29(日) 23:44:43.99 ID:yjXE6fBSo

マスター「あ、女商人さん!」

商人「……くそ! こうなったら意地でもついていってやる!」

マスター「あ、商人君まで」

商人「おい、おーい……!」バタバタ

マスター「行っちゃった……」

マスター「……」

マスター「新しい冒険の時期なのかしらね」

マスター「冒険者は集まってこないけど、何かが始まりそうな感じ」

マスター「不穏な噂もあるし……」

マスター「……よし。とりあえず、連絡の取れそうな人に、片っ端から手紙を書くわよー」



193: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:25:01.73 ID:wHm6adUeo

魔王城の北。

勇者「さて、候補地が決まったわけだが」

魔法使い「町をつくるには、そうね、大工さんも必要だけど」

勇者「やっぱり商人が必要だよなー」

少女「……?」

魔法使い「女商人ちゃん辺りはどうかしら。経験があるし」

勇者「えー? でも、あの子も俺のこと嫌ってるしなー」

少女「ね、ねえねえ」

勇者「おう、どうした」

少女「どうして町をつくるのに、商人さんが必要なの?」

勇者「そりゃ、商人だからな、ほら、人買い……とか……?」

少女「え」

魔法使い「……人を集めるのが得意だからよ」



194: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:25:30.38 ID:wHm6adUeo

魔法使い「村っていうのは、食べ物が作れるところに人が集まって出来るものでしょ?」

魔法使い「同じように、町っていうのは、人がたくさん行き来するところに出来るものなの」

少女「人がたくさん行き来する……」

魔法使い「これまで、魔王城に近いということもあって、この周辺には人が近寄れなかったわ」

魔法使い「でも、これからはこの周辺にも人が入ってこれるでしょう」

魔法使い「……あとは、名産品になりそうなものがあればいいんだろうけど」

勇者「ふむ。どうだ、この辺に孤児院も引っ越してくるのは」

少女「う、うん」

勇者「これから町をつくるとなれば、お前らだって働き手だ」

魔法使い「確かに、それは妙案かもしれないわ。あの国で苦労するより」

勇者「そうなったら、ゆくゆくはここで結婚して、子どもつくってってなるだろうし」

少女「そうかぁ……」



195: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:25:56.77 ID:wHm6adUeo

少女は目をきらきらさせながら、辺りを見回した。

木々が途切れている野原の先には、海も向こうに見えている。
風がすっと通り抜けてきて、ようやく彼女はこの土地の自然に目を向けた。

打ち捨てられて、必死に生きて、ここまでもずっと歩いてきた。

きっとこれからは―――


少女「うん! いいかも」

勇者「うっし、そうと決まれば、僧侶さんに連絡を取ってー、あとどうする?」

魔法使い「そうね、酒場のマスターに冒険者たちから商人を紹介してもらうのがいいかも」

少女「ねえ、私はどうしたらいい?」

魔法使い「その辺で遊んでなさい」

少女「は?」



196: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:26:22.73 ID:wHm6adUeo

魔法使い「これから、まず人手を集めて、地味~な仕事をしないといけないの」

少女「でも……私、字だって書けるよ?」

魔法使い「ああそう。じゃあ、酒場のマスターと僧侶に手紙を書いて頂戴」

少女「ええと、僧侶のお姉ちゃんは知ってるけど……」

勇者「こらこら、無茶ぶりするでねえだ」

魔法使い「……そうね」

勇者「とりあえず、少女ちゃんは遊んでてもらってええかい」

少女「ぶー」



197: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:26:54.53 ID:wHm6adUeo

少女「……お兄ちゃんはついてきていいって言ったけど」

少女「やっぱり、私、足手まといなのかな」

少女「よく考えたら、孤児院でもあまりすることなかったし……」

少女「……」

少女「わ、私、ニート!?」

少女「いやいや、お兄ちゃんのお嫁さんになるとかあるし……」

少女「……仕事仲間とお嫁さんは違うよね?」

少女「ああ、でも、役立たずは消えろ的なオーラが」

がさっ

少女「ひゃあああああああ!」



198: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:27:27.21 ID:wHm6adUeo

竜魔物「む」

少女「ひっ」

竜魔物「……人間っすか」

少女「あ、あ、あのときの、魔物さん」

竜魔物「……? ああ、こないだ勇者と一緒にいた人間か」

さささっ

少女「ゆ、ゆ、勇者さんを呼びますよっ」

竜魔物「なるほど。こんなところまで来てしまったか」

少女「……」ドキドキ

竜魔物「……勇者が近くにいるのだろう。ほれ」ぽいっ

少女「こ、これは?」カサカサ

竜魔物「乾燥スライム」

少女「ひゃあああああああ!」



199: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:27:54.06 ID:wHm6adUeo

竜魔物「……みやげにと思ってな。けっこうおいしいぞ」カミカミ

少女「き、気持ち悪いよっ」

竜魔物「……スライムは飼えばなつくし、食えばうまいぞ」

少女「か、飼う?」

竜魔物「うむ。魔界でも飼っていたんだが」

少女「……」ジーッ

竜魔物「……一匹分けてやろうか」

少女「い、いらない」

竜魔物「便利だぞ。放っておいても増えるし、教えればいろいろ仕事するし」

少女「……! 仕事?」

竜魔物「……ああ。大きくなれば乗ったりできるしな」

少女「よ、よし。教わってやろう」

竜魔物(人間は偉そうだな)



200: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:28:21.30 ID:wHm6adUeo

竜魔物「まずは、ほら、そこにいるから、ぶん殴って勝ってみろ。魔物は強いものに従う」

少女「お、おお」


少女はその辺の棒を装備した。


スライム「ぴー」

少女「てやーっ!」


竜魔物(こけた。あ、思い切り当たった)


スライム「ピキー! ピキー!」

少女「よ、よし、これでどう!?」

竜魔物「そこですかさずこのモンスターボールを」

少女「これね!?」


ボールはスライムに当たった! スライムは倒れた!



201: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:28:47.62 ID:wHm6adUeo

少女「た、倒したよ!?」

竜魔物「……すまん。冗談で殺してしまったな」

少女「え、ええええ!? 殺しちゃった!?」

竜魔物「次にいこう、次」

少女「……おじさん、本当にスライム飼ってたの?」

竜魔物「本当だ。魔界ではスライム服も買っていたほどのブリーダーだったぞ」

少女「なら、もうちょっと愛情持とうよ……」

竜魔物「強くなければ飼う価値もないからな」

少女(なんか矛盾してる……)

竜魔物「む。まだこいつは息があるな。よし、薬草を塗って……」

スライム「ぴ、ぴー」

竜魔物「これで今日からこのスライムの主人はお前だ」

少女(死にかけてる……)



202: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:29:14.62 ID:wHm6adUeo

竜魔物「元々、スライムは成長が速い」

少女「う、うん」

スライム「ぴ、ぴー……」

竜魔物「餌は硬いものをやれば硬くなるし、柔らかいものを食わせれば柔らかくなる」

少女「そ、そう」

スライム ゼエハアゼエハア

竜魔物「仕事を教えるコツだが、命令すれば自分で覚えるからな。あまり構ったりせずに、時々、うまくやるポイントを教えてやるだけでいい」

少女「わ、わかったけど」

スライム ドロッ

少女「す、スラちゃんが溶けた!」

竜魔物「……疲れて溶けただけだな」

少女「いや死んでるよねこれ!」



203: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:29:55.83 ID:wHm6adUeo

勇者「おーい、少女ちゃんいるー?」

少女「あ、お兄ちゃん」

勇者「おう、こんなところに」

竜魔物「……」

勇者「おっ、こないだのドラゴンじゃん。どうしたの?」

竜魔物(フレンドリーすぎないか、この勇者)

少女「あのね、お兄ちゃん、竜のおじさんがね……」

竜魔物「……勇者よ」

勇者「なんだ?」

竜魔物「私が言うのもなんだが、この状況で、少女を人質にしているとか勘違いしないのか、お前は」

勇者「……? してほしいのか?」

竜魔物「……いや、別に」



204: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:30:18.38 ID:wHm6adUeo

勇者「そういえばよ、お前って大工とか得意?」

竜魔物「……」

勇者「せっかくだし、しばらくこっちで家を何軒か建ててみない?」

竜魔物「……勇者よ」

勇者「なんだよ」

竜魔物「お前は不可侵条約なるものを結んだことを忘れているだろう」

勇者「そういえばそうだったな。じゃ、今の話はなしで」

竜魔物「……」

少女「あのね、お兄ちゃん。スライム捕まえたの、私」

勇者「そーか、姿が見えないと思ったらスライム捕まえてたのか」

竜魔物(……本気で軽いな)



205: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:31:07.06 ID:wHm6adUeo

魔法使い「ちょっと、あんたたち、どこに行ってたの!」

勇者「おう、ちょっと少女ちゃん探してた」

少女「あのね、スライム捕まえたの」

竜魔物「……」

魔法使い「って、あんたこないだのドラゴンじゃない。なに、早速決裂ってわけ?」

竜魔物「いや、ついスライムを追っていてここまで来てしまったのだ。申し訳ない」

勇者「スライム?」

竜魔物「ああ。ほら、乾燥スライムだ。おみやげにどうぞ」

勇者「うわー、カチカチしてる」

魔法使い「……食えるの、これ」

竜魔物「……飼えばなつくし、食べればうまいっすよ」カミカミ

スラ「ピーッ、ピーッ」(抗議の意)



206: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:31:38.76 ID:wHm6adUeo

魔法使い「そ、そんなことより、大変なのよ!」

勇者「なんだよ、お前らしくもない」

魔法使い「あの貴族のいる国の国王が、隣国と手を結んだのよ!」

勇者「な、なんだってー!?」

少女「え……」

勇者「って驚いたけど、それのどこが大変なんだ?」

魔法使い「だから、あの国は孤児院に軍隊を差し向ける野蛮な国だって情報を流して、孤立化策を進めたじゃない」

勇者「あー、それを振り切って手を貸したってわけか」

魔法使い「……いくら反体制派に僧侶がいるとはいえ、他国まで介入してきたらさすがに押し切れない」

少女「ど、どうしよう……」

勇者「ってことは、僧侶さんがピンチなんだな!?」



207: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:32:09.87 ID:wHm6adUeo

魔法使い「だから、そう言ってるじゃない」

勇者「よし、ちょっと手助けしてくる!」

魔法使い「あ、ちょっと、あんたは不用意に出て行っちゃ」


勇者は移動呪文を唱えた。


勇者「後は任せたぜー!」

魔法使い「おい、馬鹿。馬鹿野郎!」

少女「わ、私も……」

魔法使い「……あんたこそ、行ってどうするのよ」

少女「だって、お姉ちゃんが……」

魔法使い「あんたね、自分から離れてついてきたんだから、ここで全うしなさいよ! 私だって、この場を離れられないんだから……!」

少女「だって、だって」グスッ

竜魔物(居づらい)



208: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:32:36.68 ID:wHm6adUeo

元事務「所長ー! もう、手紙を渡したらさっさとどっか行っちゃうんだから」

魔法使い「あら、あんたまだいたの」

元事務「まだいたって……所長が急に事務所たたむとか言い始めるから、帰っても仕事ないんですよ」

魔法使い「それもそうね……」

元事務「本気でこんなところで、事務所を再開するんですか?」

魔法使い「そうよ。あんたがこっちに移住するって言うなら、再雇用するけど」

元事務「うっ、まあ、向こうに帰っても、ボロアパートしかないですからね」

少女「どうしよう……どうしよう……」

魔法使い「……」

元事務「あの女の子はどうしたんですか?」

魔法使い「あんた、そういえば、冒険者だったわね」

元事務「ええ、まあ。昔は武闘家でしたが」

魔法使い「よし、ひとっ走りお願いしようかしら」

武闘家「ええ!? もうですか?」



209: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:33:03.81 ID:wHm6adUeo

少女「ぐすっ、お姉ちゃん、うっうう……」

魔法使い「泣いているところ悪いんだけど、お使いしてもらえないかしら」

少女「ふえっ?」

魔法使い「手紙を書いたわ。これを、あちこちに届けるのが一つ。もう一つは、帰ってくるときに孤児院の子たちを連れてきなさい」

少女「……私が?」

魔法使い「そう、あんたが」

少女「私……」

魔法使い「手紙を届けるだけなら、こいつで十分よ。けど、あんたじゃないと孤児院の子達は安心できないでしょ」

武闘家「こいつ呼ばわりはひどいですよ!」

少女「……」

魔法使い「やるの、やらないの?」

少女「……スラちゃんも連れて行っていい?」

スラ「ぴきー!」

魔法使い「……好きにしなさい」



210: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:33:31.53 ID:wHm6adUeo

少女「じゃあ行く」

魔法使い「しっかりやりなさい」

武闘家「あ、所長、ちなみに経費は……」

魔法使い「しばらくは退職金で働いてて」

武闘家「ひどい!」

魔法使い「あと、ロリコンじゃないわよね?」

武闘家「さすがに10代前半はノーサンキューですよ」

魔法使い「一桁とか引くわー」

武闘家「その手前はもっとないでしょ!?」

少女「大丈夫。スラちゃんがいるし」

スラ「ぴー!」(任せろの意)

武闘家「どんだけ信用されてないんですか……」

竜魔物(……ふむ)



211: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:37:01.88 ID:wHm6adUeo

――某国。

大臣「陛下、隣国からの援軍が、反乱軍を包囲したそうです」

国王「うむ」

大臣「……これで、よろしいのですか?」

国王「何が言いたい」

大臣「恐れながら、我が方の評判は芳しくありません。まして他国の軍隊を引き入れるなど」

国王「反乱の芽はつぶさねばならん」

大臣「……しかし」

国王「とりわけ、連中は孤児院と称して反体制派の再生産を目論んでおった。そこに勇者の一行が絡んでいることもな」

大臣「……」

国王「もはやわが国の存亡がかかっているのだ」



212: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:37:22.84 ID:wHm6adUeo

大臣「どこかで、手を打つというわけには……」

国王「やつらは、再生産している」

大臣「……」

国王「息の根を止めねばならん」

大臣「……」

国王「もうよい、下がれ」

大臣「……はっ」

国王「……」

国王「……これでよいか?」


―――ばさっ。


鳥魔物「けっこうです」



213: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:38:16.97 ID:wHm6adUeo

国王「そ、それにしても、本当にどうするつもりだ。た、他国と手を結んで」

鳥魔物「……」

国王「ぜ、全面戦争でもするつもりか?」

鳥魔物「それも面白そうですね」

国王「ほ、本気か……!?」

鳥魔物「まあ、勇者がいる限り、なかなかそうはなりますまい」

国王「そうだ。その通りだ。ど、どうするつもりなのだ! 私の国が、王家が……」

鳥魔物「勇者には早く表舞台に出てきていただかなくては」

国王「な、なんだと」

鳥魔物「……早く勇者のパーティーをつぶしましょう」

国王「き、貴様は……大体、勇者も、なぜわが国を放置して魔王を倒してしまったのだ……」

鳥魔物(その点は同意しますよ)



214: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:38:45.71 ID:wHm6adUeo

鳥魔物「さあ、命令は済みました。寝所にでも戻ったらいかがです?」

国王「ぐっ……」

鳥魔物「それとも、あなたの奥方や息子のようになりたいですか?」

国王「……くそっ」


バタバタバタ……。


鳥魔物「ふむ」バサッ

鳥魔物「玉座も悪くないですね」

虎魔物「似合わねーぜ」スッ

鳥魔物「虎ですか。ここで何をしているのです」

虎魔物「何をしているって、出番はまだだろ?」

鳥魔物「すでに勇者のパーティーが戦場に出ています。並みの兵士では倒せないでしょう」

虎魔物「勇者以外はたいしたことないだろう」

鳥魔物「虎」

虎魔物「あ?」



215: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:39:12.58 ID:wHm6adUeo

鳥魔物「そのような読みの甘さが我らをこのような事態に追い込んだのです」

虎魔物「そーかねぇ」

鳥魔物「そうです。まさか、勇者とあろうものが、このような不穏な国のありように首を突っ込まず、一直線に魔王様の居城に突入してしまうとは!」

虎魔物「イベントをスルーされるとは思ってなかったからな……」

鳥魔物「私は勇者を待ち続けました。しかし、やつは現れませんでした」

虎魔物「俺もだ。がんばって洞窟に罠いっぱい仕掛けたのに」

鳥魔物「そして、魔界への道が封じられたと聞いたとき、もはや絶望しかありませんでした」

虎魔物「そうだな、そのときは」

鳥魔物「しかし……勇者が魔物の残党狩りすらせず、ごろごろしていると聞いた日には」

虎魔物「びびって数ヶ月逃げてたのがアホみたいだったな」



216: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:39:40.09 ID:wHm6adUeo

鳥魔物「もはやわれらに道は残されていません」

虎魔物「まあ、まだ仲間がいそうな気もするんだがな」

鳥魔物「魔王様の闇の衣がはがされた以上、ほとんどの魔物は弱体化しました。おそらく、戦える魔物はわれわれ以外には……」

虎魔物「そうかねぇ」

鳥魔物「とにかく! 人間どもを同士討ちさせ、勇者をその争いに巻き込む、この計画を完遂させるのです!」

虎魔物「まー、なんでもいーんだけどよ」

鳥魔物「だから、とっとと隙を突いて、勇者のパーティーを一人でも血祭りに上げてきなさい」

虎魔物「へいへい」シュパッ

鳥魔物「まったく……」

鳥魔物「……」

鳥魔物「魔王様……」グスッ



217: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:40:28.33 ID:wHm6adUeo

戦士の村。

戦士「どうだ。売れそうか」

女商人「……」

戦士「一応、やせた土地でも作れるようには出来ているはずなんだが」

女商人「種を売る……ですか」

戦士「嫌そうな顔だな」

女商人「正直、これは村の財産としてもっておくべきだと思いますよ」

戦士「そうかな。食糧不足はあちこちで聞くんだが」

女商人「だからといって、お金になるものを流出させていいんですか?」

戦士「ここで食料を作っても、輸送には限界がある。これでいいのさ」

女商人「ですけど―――」

戦妻「はいはい。口論はそれまで、とりあえずお茶にしましょう?」

戦士「すまんな」

女商人「あ、ありがとうございます」

女商人(さえぎられた。そしてでかい)



218: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:41:07.65 ID:wHm6adUeo

戦士「それにしても、そろそろ立ち仕事きついだろ?」

戦妻「そうねぇ。急にたくさん、子どもできちゃったし」

女商人「……僧侶さんの孤児院から、でしたね」

戦士「そうだ。まあ、村はガキが遊ぶには困らない広さだし、外から入ってくる連中も多いから、なんだかんだ大丈夫だろうと思って受け入れちまった」

女商人「あの人らしい」

戦士「含みがあるな」

女商人「そうでもないです」

戦妻「あら、もしかして、僧侶さんともお友達?」

戦士「こいつは、一時期、俺たちのパーティーだったんだよ」

女商人「思い出したくありません」ぷいっ

戦妻「うふふ、ずいぶん楽しかったのね」

女商人(勘違いしている。そしてでかい)



219: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:41:45.78 ID:wHm6adUeo

戦士「まあ、お前にとっちゃ、投獄されたり、嫌な思い出だったかもしれんが……」

女商人「そ、それは……私が強引過ぎたのです」

戦妻「投獄……?」

戦士「ああ、一時期、町をつくってもらったことがあってな。ちょっと無理しちゃったんだよな」

女商人「と、とにかく、それはもういいのです」

戦士「だったらあれか。勇者のことか」

女商人「当たり前でしょう!」ドン!

戦妻「わ、びっくりした」

女商人「す、すみません」

戦士「……そんなにひどかったか?」

女商人「ひどいなんてもんじゃない、路銀はばら撒く、武具の買い付けは無計画、悪徳商法にだまされる、洞窟に入っても宝箱を見落とす!」

戦妻「性格が合わなかったのね~」

女商人(くっ、とにかく、でかい)



220: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:42:13.81 ID:wHm6adUeo

女商人「おまけに、あの、私が投獄されて……」

戦妻(私、やばい尻尾でも踏んじゃったかしら)ヒソヒソ

戦士(鬱憤たまってるんだろ、いろいろと)ヒソヒソ

女商人「つい、強がりを言ってしまったんです。こんなの平気だって。そうしたら」

戦士「わ、分かったから」

女商人「聞いてください! あいつは『そんなんだから、人に嫌われるんだぞ』って言ったんですよ!」

戦妻(ただの愚痴ね)ヒソヒソ

戦士(昔からこうなんだ)ヒソヒソ

女商人「私が、あの町をつくるのに、どのくらい、必死だったか、知りもしないで、それを、貶められて、苦しんでるのをっ!」

戦士「分かったよ、というか、その後ちゃんと俺たちが出してやっただろ」

女商人「……人の気持ちも知らないで訳知り顔なのが嫌なんです」



221: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:42:41.14 ID:wHm6adUeo

戦妻「なるほどね~、きっと勇者様には気持ちを分かって欲しかったのね」

女商人「な……!」

戦妻「女商人さんも、ずいぶんお堅い人なのかなって思ってたけど、かわいいところがあるのね」

戦士「ああ、なるほど。そういうことか」

女商人「あなたがたは勘違いをしている。私は勇者なんか大嫌いです」

戦妻「にやにや」

女商人「口で言わないでください」

戦士「……そういえば、勇者は新しく町をつくろうとしてたな」

女商人「手伝いませんよ、私は」

戦士「なに、町ができたら、取引を頼みたいってだけだよ」

女商人「……」



222: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:43:15.17 ID:wHm6adUeo

戦士(勇者も、女商人のことでずいぶん悩んでいたんだがな)ヒソヒソ

戦妻(あらそうなの?)ヒソヒソ

戦士(能天気に見えて、あいつは結構むらむら考えるタイプなんだ)ヒソヒソ

戦妻(ふーん……)ヒソ


ばたん!


商人「おい、大変なことになったぞ!」

女商人「人様の家に乱暴に入ってくるなと言ったはずよ」

商人「あーっ、すみません! もうしません!」

戦士「なんだ。ガキどもの世話に疲れたのか?」

商人「そうじゃないっすよ、だんな! 例の国と隣国が手を結んだってニュースで!」

戦士「なに……」

女商人「それは本当なの?」



223: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:44:01.96 ID:wHm6adUeo

商人「マジっすよ! それだけじゃなくて、ほら!」


―――商人が広げた新聞には、すでに軍が動いたことを知らせる記事の横に、
今回の反乱が、勇者一行、いや、『勇者一味』による世界征服のたくらみである旨が記されていた。


商人「だんなも勇者一行なんでしょ。これ、やべーんじゃねぇすか」

戦士「……」

女商人「発行はこの王国か……『勇者一味』の動きとしては他に、魔法使いが他国への牽制を狙って、某国軍が孤児院に攻撃したとウソの情報を流した……」

戦士「ウソではない。俺もその場にいた」

女商人「それは通じないでしょうね」

戦妻「あなた……」

戦士「うん。村の人は信じてくれるだろうが、取引先のこともある」

女商人「どうするつもりです」

戦士「他人事だな。お前も元勇者のパーティーだろ?」

女商人「忘れました」



224: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/02(木) 20:45:11.09 ID:wHm6adUeo

ここいらで今回は終わりです。

キャラが増えすぎてわからん? 私もよく分からなくなってまいりました。



225:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/02(木) 22:35:33.79 ID:QP/q5p1No

乙ー
まだまだ国王が8人ぐらい一気に出てくるとかじゃない限り余裕だ



230: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/04(土) 13:35:13.55 ID:XYLOXhFIO

表記

貴族と僧侶が反乱してる国 → A国
勇者の故郷の国(戦士の村もここの一部) → B国
隣国(協会のあるとこ) → C国

本編は作成中です
お待ちください……



231:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/04(土) 16:42:14.29 ID:dj8Qwg7Oo

ABCではなく漢字一文字とか…おっと誰かきたようだ



232: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/04(土) 17:38:31.18 ID:XYLOXhFIO

>>231
じゃあ記号もなんだし、方角の東西南北にしましょう。

A国→北
B国→南
C国→東
魔王城→西側

となります。

今日中にも少しでも投下していきたい……



234: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/04(土) 21:36:13.80 ID:Z3zWVutso

戦士「どう手を打つかな、女商人」

女商人「私に聞かないでください」

戦妻「でも、何ヶ所かはあなたに販売をお願いしてますし」

女商人「……そうですね」

女商人「国の軍隊が動いた以上、政治的立場を明確にすべきでしょう。私は中立を勧めます」

商人「中立?」

女商人「そう。正確に言うと、どちらも支持しないという立場です」

女商人「どちらかにつけば、勝敗によって打撃を受けます。それはこの村のためにもならないでしょう」

戦士「いや、それはもう決まってるんだ。俺が聞きたいのはその先だ」

女商人「決まってるって……」



235: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/04(土) 21:41:12.44 ID:lmBb8/c3o

女商人「……要するに取引先を裏切ると?」

戦士「俺は友人を助けたいし、第一子どもを襲った連中に正義ヅラされては敵わん」

女商人「他の人はそうは思っていないんですよ」

戦士「このままじゃ、間違った連中が勝つことになる。それを防ぎたいだけだ」

女商人「……まあ、そう言うと思ってました。でも、いいですか?」

女商人「反乱の起きた北国は、もともと同盟関係にあったこの国、南国ではなく、隣国の東国に援軍を求めました」

女商人「これがどういう意味か分かりますか?」

戦士「俺がいるからだろうな」

女商人「そうです」



236: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/04(土) 21:42:29.36 ID:lmBb8/c3o

女商人「つまり、世界を救った勇者一行を輩出した南には援軍を求めにくかったわけです」

女商人「そこへあなたが態度表明したらどうなりますか」

戦士「南も軍を出す大義名分が手に入る」

女商人「そうです。それだけではなく、内乱罪という名目でこの村を潰そうとするかもしれない」

戦士「……」

女商人「何れにしても、良い結果にはならないでしょう」

戦士「それは分かってる」

女商人「だったら」

戦士「それでも我を通したいから、知恵を貸してくれって言ってるんだ」

女商人「……むちゃくちゃですよ、あんた」



237: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/04(土) 21:42:56.19 ID:lmBb8/c3o

戦士「俺も勇者に毒されたかな」

女商人「……やめてください! そういうのは」

戦士「しかし、動かなければやられ放題だ」

女商人「だから、中立ではダメなんですか?」

戦士「それは無理だな。孤児院の子どももいる」

女商人「……引き渡したらいいんじゃないですか」

戦士「お前な……」

商人「なあ、よく分からんけど、いま僧侶さんがピンチじゃないのか。行った方がいいんじゃないのか!?」

女商人「あんたは黙りなさい」



238: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/04(土) 21:43:23.50 ID:lmBb8/c3o

戦士「そうだな。いい案がないなら、行くとするか」ガタッ

女商人「ま、待ってください! 本気で行くつもりですか」

戦士「当たり前だろう。よし、お前、鎧を着るから手伝ってくれ」

商人「お、おう。じゃなくて、はい!」

女商人「お、奥さんも黙ってていいんですか?」

戦妻「いいのよ~、この人のお弟子さんもいるし、安全でしょう」

女商人「そうじゃなくて……! な、ならせめて」


ばたん!


少女「こんにちはー!」



239: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/04(土) 21:43:51.35 ID:lmBb8/c3o

少女「ここ、戦士さんのお家って聞きましたけど」

戦士「おう、こないだの嬢ちゃんか」

少女「あ、お久しぶりです」

戦妻「あら、あなたったらどこで捕まえてきたのかしら」

戦士「アホか。勇者についていった子どもだよ」

少女「奥様ですね。初めまして」

戦妻「はい、初めまして」


商人「……誰だ?」

女商人「私が知るわけないでしょ」



240: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/04(土) 21:44:33.42 ID:lmBb8/c3o

少女「これ、魔法使いのお姉ちゃんから」

戦士「ありがとう……ふむ、魔王城の北に町をつくる。僧侶の状況は新聞でつかんでいる……さすがだな」

少女「それで、私、向こうで孤児院をつくるから、みんなを連れてこいって」

戦士「なるほど。そこに居を移すと」

武闘家「ちょっとお嬢さん、待ってくださいよ~」

戦士「今度は誰だ?」

女商人「あなたは、魔法使いの事務所にいた……」

武闘家「あ、女商人さん! お久しぶりです!」

戦士「魔法使いの知り合いか」



241: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/04(土) 21:45:07.65 ID:lmBb8/c3o

武闘家「はい、女商人さんあてにも」

女商人「……ありがとうございます」

商人「なんて書いてあるんだ?」

女商人「あんたには関係ない」

女商人「……」

女商人(資金援助、人材確保、政治的アピールまで書かれた計画書……「勇者の町」をつくる……本気で戦争する気なの?)

女商人(これは。『重要。他を捨ててもこれだけは確認のこと』)


魔法使い『今度の事態は想定していたとは言え、もっと時間が経ってからと予想していた』

魔法使い『元勇者一行を相手にし、一時は四人が集結して部隊が撤退したにも関わらず』

魔法使い『この早さで他国の軍隊まで引き入れてしまうのは異常』

魔法使い『何か裏がある』


女商人(確かに、そうね……)



242: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/04(土) 21:45:30.57 ID:lmBb8/c3o

魔法使い『あなたには出来れば、こちらで仕事をしてほしいと思っている』

魔法使い『勇者や私を嫌っているのは知っているが、私たちはあなたを必要としている』

魔法使い『納得できないなら、せめてそちらで、今度の事態の真相を確認してほしい』


女商人「……」

商人「何が書いてあったんすか?」

女商人「あんた、お金と友情だったらどっちを取る?」

商人「そ、それは商売人の鉄則ってヤツすか」

女商人「どっち?」



243: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/04(土) 21:46:00.67 ID:lmBb8/c3o

商人「うーん、まあ、商売人としてなら、でも、いや」

女商人「難しく考えることはないわ」

商人「今の事件の話っすよね……でも、俺はその、戦士さんほど強くないっすから」

女商人「……」

商人「それに、正直に言うと、なんでこうなったのかよく分からないでしょ」

女商人「……そうね」

商人「友情を捨てても儲からないって可能性もあるし、どっちに転ぶのか、ちゃんと知らなきゃまずいんじゃねぇっすか」

女商人「……」

商人「あ、でも、やっぱり武器を売ったほうが早そうっすよね」

女商人「やっぱりアホだわ、あんた」

商人「ひでぇ!」



244: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/04(土) 21:46:34.41 ID:lmBb8/c3o

戦士「……子どもたちが安全なところに行くなら、懸念は減るな」

武闘家「ああ、帰りも子守ですかねぇ」

戦士「まあまあ、俺の弟子を護衛につけるから」

武闘家「あ、ありがとうございます」

少女「私もいるんだけど」

スラ「ぴー! ぴー!」(任せろの意)

戦士「そのスライムはどうしたんだ」

少女「私が飼ってるのよ」

戦妻「かわいいわね~」

少女「お、お姉ちゃんも、胸に、す、スライム飼ってるの?」

戦妻「え?」

戦士「おい、誰にそういう言葉を教わった」



245: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/04(土) 21:47:07.24 ID:lmBb8/c3o

女商人「……戦士さん。提案があります」

戦士「なんだ」

女商人「私は今回の件、自分なりに真相を調べてみようと思います」

戦士「……魔法使いの指示か?」

女商人「私の意志です。ついては、北に行くときには、この男をそちらに連れて行ってもらえないでしょうか」

商人「ええ、俺っすか!?」

女商人「この男は一応、元王宮兵士です。多少の無理をしても足手まといにはならないでしょう」

戦士「俺は別に構わないが……」

女商人「……私は別方面を調べるから、あんたは北の現地調査を頼むわ。何か分かったら知らせること」

商人「いや、俺はただの裏門の門番であって」

女商人「調査費用は先に渡しておくわ」チャリ

商人「うお、い、いいんですか」

女商人(相場の三分の一くらいで良ければ)



246: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/04(土) 21:47:39.71 ID:lmBb8/c3o

戦士「俺は払わないぞ」

女商人「彼女の依頼ですから、かかった費用は彼女に請求することにします」

戦士「……らしくなってきたな」

女商人「どうでしょうね」

戦士「よし。そうと決まれば早速行動だ。西に子どもたちを送り届けるのと、俺は北に行く」


ざわざわ――ざわざわ―――


商人「なんか、外の様子が変っすね」

村長「せ、戦士殿、戦士殿!」

戦士「どうしましたか、村長」

村長「お城から、軍隊が来ているのです!」

商人「マジっすか!?」



247: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/04(土) 21:49:00.27 ID:lmBb8/c3o

女商人「早すぎですね。南の王国が動くにしては」

戦士「目的は俺だろうな……ちっ」ガチャ

商人「戦士のだんな、それじゃ完全武装じゃないっすか」

戦士「武器がまだだ」

商人「そういう問題じゃないでしょ!?」

女商人「どうするつもりですか。そんな格好で出てくれば衝突はさけられませんよ」

戦士「……おい」

戦妻「はい、兜」

戦士「ありがとう。……こうなったら、俺がひきつけるから、その間にお前らは脱出しろ」

戦妻「ま、最悪、この村はどうでもいいのよ」

村長「ど、ど、どうでもよくないですぞ!」



248: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/04(土) 21:50:18.26 ID:lmBb8/c3o

商人「で、でも、だんな」

戦士「現地には一人で先に行け。ちゃんと根性みせろよ」

女商人「では、私も隙を突いて脱出します」

戦士「ああ。そうだ、ガキどもはどうした?」

戦妻「女の子と武闘家さんが、広場に行ったと思うけど」

戦士「よし……包囲はしても、俺が出てこない限りは交渉しないはずだ。時間は稼いでやるから、隙を見つけろ」

女商人「恩に着ます」

商人「だんな、すみません」

戦士「すぐには出るなよ、やつらを引き付けてからだ」

戦妻「ふふ」

戦士「なんだよ」

戦妻「やっぱり、頼もしいなって」



249: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/04(土) 21:51:05.60 ID:lmBb8/c3o

村長「せ、戦士殿……」

戦士「村長、申し訳ないが、この村にいられるのもこれまでかもしれません」

村長「戦士殿……いや、戦士君」

戦士「……」

村長「君が、この村のために一生懸命やってくれたことを、忘れるわけにはいかん」

戦士「……そうですか」

村長「世界に平和が戻ったのも、この村に活気が戻ったのも、すべて君のおかげだ」

戦士「俺は自分の勝手を通してきただけです」

村長「そうかもしれん。だが、とにかく、お、お互いがんばろう」

戦士「……分かりました。じゃあ、俺は道場の弟子を連れてきます。村長は他の人を、安全なところまで避難させてもらえますか?」

村長「わ、分かった。う、裏の森で大丈夫かね?」

戦士「大丈夫でしょう。なに、念のためですよ」



250: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/04(土) 21:51:50.99 ID:lmBb8/c3o

―――広場。

戦士「さて、ガキどもはいるかー?」

少女「あ、戦士さん!」

武闘家「す、すみません。ちょうど出て行こうとしたところで、軍隊にぶつかりそうになりまして」

戦士「そりゃ仕方なかろう。子ども連れて、戦うってわけにもいかんしな」

男子1「ぼく、戦えるよ!」

男子2「剣を習ったもん」

女子1「武器も貰ったんだよ!」

女子2「わ、私も!」

戦士「……誰だよ、子どもに武器を持たせたやつは。ああ、あのバカ弟子どもか」

少女「ふっふっふ。私も忘れてもらっては困る!」

スライム「ぴきー!」

戦士「勘弁してくれ……」

武闘家「ま、参りましたね」



251: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/04(土) 21:52:19.43 ID:lmBb8/c3o

戦士「……よし、お前ら、全員ならべ!」

エー ナニー キャッキャ

戦士「ならべ!」ずん

子どもたち『は、はいっ!』

戦士「いい返事だ。いいか、今回の作戦をもう一度確認する」

戦士「お前たちはここを脱出したら、西へと向かい、そこで新しい町をつくる準備を行うという任務を負っている」

戦士「……分かるか?」

子どもたち『はいっ』

戦士「よし。そのためにはここで消耗してはならない」

戦士「俺が囮になって、その隙に脱出する必要がある」

戦士「……分かるな?」

子どもたち『わ、分かりました!』シター



252: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/04(土) 21:53:03.77 ID:lmBb8/c3o

戦士「よし。では、合図があるまで、待機!」

子どもたち『分かりました!』


武闘家「うまいですねー」

戦士「あんたものほほんとしてるな」

武闘家「す、すみません」

戦士「とりあえず、うちの弟子を何人か護衛につけると言ったろう。ちょっと待ってくれ」

武闘家「分かりました」

少女「お、おじさん」

戦士「……なんだよ」

少女「ごめんなさい、私がしっかりしないといけないのに」

戦士「気にするな。ぶっちゃけ、勇者と大して変わらん」

少女「ホントに?」

戦士「……あまり真似するなよ」



253: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/04(土) 21:53:36.82 ID:lmBb8/c3o

―――道場。

戦士「おい、お前ら!」

弟子A「あ、師匠!」

弟子B「なんか軍隊来てるみたいっすよ」

戦士「知ってるよそんなこと。それより、ガキどもに武器触らせんなよ!」

弟子A「す、すみません」

弟子B「気をつけます……」

戦士「分かったんなら、その軍隊と『話し合い』に行くぞ。二名ほどはガキどもについていってやれ。後の連中は俺の武器を持って来い!」

弟子たち『了解しました!』

バタバタバタ……

戦士「……」

戦士「結局、俺は損な役回りだな」



258: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/06(月) 23:08:46.80 ID:E4XFm5Cyo

北国、戦場。

すでに数週間が経過しているというのに、貴族と僧侶はまだ城に近づけずにいた。

その理由の一つは、蜂起の際の出遅れである。
呼びかけた兵士や領主たちが集まるまでに時間がかかり、今なお態度を決めかねているものたちも多くいた。
何しろ蜂起のきっかけが、貴族が襲われたことだったので、準備が整っていない。
まして、それが正当性を持ちえるのか、ということを悩むものいたのでなおさらだった。

兵を集めるのに時間がかかれば、相手にも時間を与えることになる。

すばやい作戦が失敗した上に、東の国から軍が派遣されると伝わって、何名かの有力者は離脱を宣言し始めた。
位置関係から言って、北国の軍と挟撃されるのは分かりきっていた。
貴族と僧侶の奮闘あって、城に迫りつつはあったが、みるみる内に兵力差がついていく。

もはや、勝敗は決したと言ってよかった。



259: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/06(月) 23:09:12.60 ID:E4XFm5Cyo

僧侶「貴族様、これ以上は無理です!」

貴族「くっ、あと少しで次の町だというのに……」

僧侶「無茶をしてはなりません」

兵士「南から、新手です!」

貴族「味方ではありえないな……」

僧侶「……後退しましょう」

貴族「しかし、このままでは!」

僧侶「作戦を練り直しましょう」

兵士「し、しかし、囲いが出来つつあります」

僧侶「……私が血路を開きます。貴族様はそれを越えて、先へ」



260: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/06(月) 23:09:44.41 ID:E4XFm5Cyo

貴族「それだけはできない!」

僧侶「貴族様、あなたはこれから必要な方です」

貴族「何を言う! それなら、僧侶さんも」

僧侶「……国を変えるのに、英雄はいりません」

貴族「!」

僧侶「私は救世の英雄と持ち上げられてしまいました」

貴族「そ、そうかもしれんが!」

僧侶「大丈夫です、みなを逃がしたら、ちゃんと追いつきます」

貴族「そういう問題ではない!」



261: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/06(月) 23:10:17.66 ID:E4XFm5Cyo

僧侶「……貴族様。私は感謝しています」

貴族「な、何を言う」

僧侶「英雄という肩書きは、子どもらを救うのに何の役にも立ちませんでした」

貴族「そんなことはない!」

僧侶「孤児院の許可を下さったのは、あなただけでした」

貴族「そんなバカな……」

僧侶「ウソではありません。教会では他国へ支援は難しいと言われました」

僧侶「他国で活動しようとすれば目立ってしまい、嫌がられました」

僧侶「ある時など、はっきり言われました、『まだ名声が欲しいのか』と」

貴族「……」



262: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/06(月) 23:10:43.75 ID:E4XFm5Cyo

僧侶「私は神に捧げた身と思って、魔物と戦いました」

僧侶「けれど、子どもたちはその間にも親を失い……」

貴族「それは僧侶さんのせいではない!」

僧侶「……ありがとうございます」

僧侶「とにかく、私は名誉や名声のために戦うつもりはありません。ここで貴族様を死なせるわけにも」

貴族「それは……私も」

兵士「貴族様! 相手の陣形が狭まりつつあります!」

貴族「囲まれる!」

僧侶「無駄話をしている場合ではありませんね!」ダッ

貴族「僧侶さん……!」


僧侶は飛び出した!



263: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/06(月) 23:11:20.14 ID:E4XFm5Cyo

僧侶「愚か者どもよ!」

敵兵1「おっ、なんだぁ、女だ!」

敵兵2「油断するな! そいつは勇者の一行だぞ!」

敵兵3「かまわねぇ、やっちまえ!」

敵兵2「相手は魔王を倒した化け物だぞ。特に僧侶は怪力だと聞く」

敵兵1「へっ、ゴリラじゃあるまいし、びびりすぎだ」

敵兵3「女だから、メスゴリラだな、がははははっ!」

ぶはははははっ!


笑い声が響く。
突出してきた僧侶を侮りながら、敵兵たちは数に任せて殺到しようとした。

その目の前に、宝玉のぶら下がった大きな杖を突き立てて、僧侶もまた笑った。



264: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/06(月) 23:11:52.00 ID:E4XFm5Cyo

僧侶「……メスゴリラ?」

僧侶「あなた方は、猿の魔物も見たことがないのですね」

敵兵1「何言ってんだぁ?」

僧侶「一つ、近いものをご覧に入れましょう」

僧侶「死を恐れないというなら」


異様な雰囲気に、前面にいた兵士たちが飲まれた。
後ろの兵士が押し出そうとするが、まるで結界が張られたように、うまく動けない。

兵士たちの目の前で、僧侶が杖を光らせ始めた。


僧侶「鋼の肉体……」

僧侶「強靭な腕力……」

僧侶「……神の名の下に、私は現れるだろう……」


僧侶『鋼 鉄 防 御 呪 文!』

―――みりぃっ




265: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/06(月) 23:13:19.63 ID:E4XFm5Cyo

肉が裂ける音が聞こえた。
しかし、見てみれば裂けた肉の隙間から、新しい肉が膨れ上がってくる。

僧侶の身体が、見る間に厚みと大きさを増していく。
背丈が、シルエットが、三回りほど大きくなったところで、タイツから零れ落ちる筋肉が、
実際に鋼鉄のような艶と色合いをしていることに兵士たちが気づいた。

顔だけは、元のまま。
まるで鉄製の裸身像にお面を被せたような僧侶は、にこり、と相手に笑顔を見せた。

追いついた貴族が絶句した瞬間、僧侶の姿がかき消えた。
いや、殺到した敵兵たちの肉の間にもぐりこんだのである。


ぐぎゃああああああっ

ひぃいいっ

うわっ、うわあああああ


文字通り、黒い塊の敵兵が引きちぎられていく。
殺到から一転、敵兵の集団は退却の態勢に入れ替わった。



266: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/06(月) 23:13:47.14 ID:E4XFm5Cyo

僧侶「……今のうちです!」

貴族「あ、はい」


振り返られて、話しかけられた貴族が、深呼吸する。
一度、間を入れなければ耐えられなかった。


貴族「……僧侶さんが道を作った! 全軍、ここを突破しろっ!!」

兵士たち『うおおおおおおおおおっ!!』

貴族「西だっ、西の森の方角へ!」


僧侶の脇をすり抜けて、まず騎兵が突破していく。
邪魔をしようと前に飛び出すものはいない。
馬にぶつかろうとするものがいないのと、そして止めようとするものは、筋肉に叩き潰されているからだった。


僧侶「鉄槌です! 神の鉄槌です!」

貴族「……神の威力は凄まじいな」



267: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/06(月) 23:15:05.34 ID:E4XFm5Cyo

半刻、いや、もっと短い時間の内に、部隊の一角が散り散りにさせられた。

後ろから追撃しようとする部隊もいたが、逃げ出した敵兵が邪魔になり、進めない。
そしてさらに、壁となっている僧侶の肉体は、矢も剣も通さなかったのである。

何を投げつけても、鋼鉄の肉体に通じるものなし。
彼女には不釣合いに見えた大きな装飾つきの杖は、いまや別の意味で不釣合いに見える。
すでに小さな棍棒と化していたそれは、何十本かの人間の骨を打ち砕いていた。

なおかつ、彼女は次第に速さを増していった。
そう、「速度上昇呪文」である。

囲いは破れ、決着に思われた事態は別の方角へ転がりだした。



268: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/06(月) 23:15:40.94 ID:E4XFm5Cyo

貴族「僧侶さん、もう我々が最後に近い!」

僧侶「ふうっ、はあっ、わかり、ましたっ!」

貴族「西の森だ! 急いで!」


貴族は黒光りする筋肉に手を差し伸べた。
硬い、そして優しい手が、それを握り返す。


貴族(手をつなぐのは、初めてだな……)

僧侶「貴族、様、これを、使う、と、ちょっと、疲れます」

貴族「しゃべってはならん!」


貴族は僧侶を引っ張りながら、次第にしぼんでいく僧侶の身体を抱き寄せた。
そのまま、ふらつく彼女を支えて、走り出す。

だが、二人の視線の先に、影が映った。
先行する兵士たちをなぎ倒して、こちらに躍り出てくる。
それは明らかに人のシルエットではなかった。



269: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/06(月) 23:16:06.82 ID:E4XFm5Cyo

貴族「こんな時に、魔物の残党か……!」

僧侶「貴族、様、私、おいて……」

貴族「しつこいぞ! 私にはあなたが必要だっ」


虎魔物「……勇者の仲間はいるかあー!?」


貴族「!」

僧侶「……」


虎魔物「ちっ、手応えがない連中ばかりだ。また外れかね」


貴族「あいつ、勇者殿の一行を探しているのか」

僧侶「はぁ、はあっ」

虎魔物「さっきはこっちの国の兵士をやっちまったしな。人間なんか大体同じ顔に見えるのがいけねぇ」

貴族「くっ、しかし、戻るわけにはいかない……」

僧侶「……ここです!」



270: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/06(月) 23:16:33.26 ID:E4XFm5Cyo

虎魔物「おっ?」


僧侶「私、です! 私が、勇者の仲間っ」

貴族「僧侶さん!?」

僧侶「貴族、様、早く、私、おいて、みなさんを、助けてっ!」

貴族「できるわけがないだろう!」

虎魔物「……よく分からんがお前が勇者の仲間なんだな」ずん

貴族「魔物めっ、この私が相手だ!」チャキ

僧侶「き、貴族様……」

虎魔物「……」

貴族「僧侶さん、愛しています!」

僧侶「うっ、うう」グス

虎魔物(なんか気まずい……)



271: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/06(月) 23:17:04.76 ID:E4XFm5Cyo

虎魔物「あー、どっちが勇者の仲間だ? 俺はそいつを探しているだけだ」

僧侶「私、です!」

貴族「僧侶さんには指一本触れさせん!」

虎魔物「……」

兵士1「こらあ、魔物風情が、お二人を邪魔するんじゃねぇ!」

兵士2「貴族様ー! 僧侶様ー!」

虎魔物「……うるせーし、とりあえず、両方やっちまうか」

兵士たち「ああっ!」


虎の魔物が腕を振り上げる。
もはや、疲れ切った二人には、それを受け止める力は残っていない。

振り下ろされた爪が、二人を切り裂く。



272: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/06(月) 23:17:32.00 ID:E4XFm5Cyo

―――ことはなく。

がきぃっ!

という、金属音が戦場に響いた。

爪の間と間に剣が入り込み、虎の前進を阻む。
その剣の主は、間違いなく。


勇者「なんだよ、魔物がいるんじゃん」


僧侶「ゆ、勇者様」

貴族「勇者殿!」

兵士1「勇者様だ」

兵士2「勇者殿が来たぞー!」


勇者だった。



273: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/06(月) 23:18:19.67 ID:E4XFm5Cyo

今夜はここまで。

「鋼鉄防御呪文」ってあれです。スカラ的なやつ。



275:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2012/02/07(火) 00:16:45.26 ID:mIBJKo/Co

>>273
嘘だよ、動けるアストロンクラスの描写だったじゃんw



277:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/07(火) 00:21:08.58 ID:RvXipB9IO

スカラとバイキルトもかかってそうだなww



280:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/07(火) 08:15:56.81 ID:FdaYCYGIO

動けるアストロンとかチートすぎるwww



287: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/07(火) 22:47:02.30 ID:ZFYBcsmdo

虎魔物「勇者? お前が勇者なのか?」

勇者「おう! あと、重いから力をぬけ」

虎魔物「……」


がいん!


勇者「親切なやつだな。ありがとう」

虎魔物「そうか、お前が勇者か……初めて見たぜ」

勇者「おう、いま、世界で一番有名な男さ」

虎魔物「……こういう場合はどうするんだっけな」

貴族「勇者殿! 今は非常時です! おしゃべりしている場合ではありませんよ」

勇者「いいじゃん、別に。虎男! 斬られる前に何か言いたいことでもあるのか?」

虎魔物「まるで自分は死なないような言い草だ。だが、お前に聞きたいことはある」

勇者「ほほう」

虎魔物「なぜ、俺のいた氷の洞窟にこなかった」



288: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/07(火) 22:47:34.24 ID:ZFYBcsmdo

勇者「氷の洞窟? そんなもん、あったか?」

虎魔物「あったぞ! ほら、この国の、もっと北の方に、氷河の近くにな」

勇者「……あの辺は寒いからスルーしちゃったなぁ」

虎魔物「なんだと!?」

勇者「だって、氷河の手前にあった村には立ち寄ったし、それ以上は特に重要な道具が眠ってるとか、そういう情報なかったし」

虎魔物「……罠をたくさん仕掛けて待っていたんだぜ」

勇者「そっかー」

虎魔物「……ちょっと洞窟を出て、狩りをしている人間どもに吠えたりしてアピールしてた」

勇者「ふーん」

虎魔物「暇すぎて、洞窟にカーペット敷いたりしたし」

勇者「経費の無駄遣いだな」

虎魔物「お前が来ないのが悪いんだろうが!」

勇者「えっ?」



289: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/07(火) 22:49:28.30 ID:ZFYBcsmdo

勇者「俺はあまり頭良くないけどさぁ、そりゃお前のマーケティングが悪いよ」

虎魔物「マーケ、なに?」

勇者「マーケティング。女商人が言ってたんだけど、お前の場合、冒険者が求めてるものを考えてないわけじゃん?」

虎魔物「魔物がいれば、退治したくなるんじゃねーんか?」

勇者「そりゃ現実に脅威ならな。でも、氷河の奥地に貴重な武器があるわけでもなし、遠くで吠えているだけなら野犬と同じだ」

虎魔物「……」

勇者「ちなみに、実際、俺ら以外の冒険者も来てたのか?」

虎魔物「そういえば、ほとんど来てない気がするな……」

勇者「だろ? 普通の冒険者も来ないんじゃダメだよ」

虎魔物「だって、勇者倒すためだから、他の冒険者に来られても困るしよ」



290: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/07(火) 22:50:03.21 ID:ZFYBcsmdo

勇者「それがダメなんだよ! まずは冒険者を集めないと、村でも話題にすら上らないんだぜ」

虎魔物「その、近くの村はどーだったんだ」

勇者「ダメ、全然記憶にねぇ」

僧侶「魔物が増えたという話はありましたよ……」

虎魔物「……」

勇者「なんか大事なものを奪ってきて、アピールするとか」

勇者「何もなくても、せめて何かありそうなうわさを流すとか」

虎魔物「……お前、頭いいな」

勇者「いや、これ受け売りよ? もっと勉強しろよ」

虎魔物「分かった。お前を仕留めたら、鳥に学ぶことにしよう」

勇者「……結局、やるんでいいんだな。分かりやすいぜ」



291: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/07(火) 22:50:56.64 ID:ZFYBcsmdo

貴族「勇者殿!」

勇者「僧侶さん、フォローよろしくっ!」


叫んで、勇者は虎の魔物に襲い掛かった。

虎は突きつけられた剣を爪でさばく。
すばやさに自信のあった虎は、自分が後手に回ったことに驚いていた。
何の威圧感もなく、さくり、と左腕の毛を裂かれたところで、寒気が走った。

先ほど会話していたその調子と同じように、目の前の人間は突っ込んでくる。
何の気負いも緊張もなく、剣を振るってくる!

剣を横に振られて、大きく体を反らした虎は、横合いにすっ飛んで間合いを取った。


虎魔物(なるほど、この無謀さ、ためらわない行動力、これが勇者というやつか!)


にゃあ、と虎の口元が歪んだ。
勇者のこの、訳の分からない強さに、虎は興奮を覚えた。



292: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/07(火) 22:51:28.77 ID:ZFYBcsmdo

虎は二足で迎え撃つのをやめて、四足で地面をつかんだ。
ちょうど力士が突進するように、身を縮めて力を溜める。


僧侶「勇者様、危険です!」

勇者「フォローを!」

僧侶「ああ、もう!」


後ろの方で勇者の仲間がごちゃごちゃと話している。
だが、虎の体勢を見ても真っ直ぐに突っ込んでくる人間を見て、虎も構わず彼だけを見つめた。

勇者が間合いに入る。それを見て、虎も跳ねた。

虎の伸び上がった体が、勇者の頭を目掛けて突っ込んでくる。
それに対して、勇者も剣を構えて突きを打ち込もうとする。

剣が突き刺さる直前、虎は右爪で剣を横に弾いた。
そして、大口を開けて、かぶりつこうと牙を立てた。



293: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/07(火) 22:51:57.89 ID:ZFYBcsmdo

かわせない。

剣を弾かれた勇者はしかし、武器を持たない素手を、虎の口に伸ばした。
伸ばした右腕が赤く光る。


勇者「燃えろボケッ!」


ずどん、という音があたりに響く。
何の魔法だったのか、虎の口内に、火の球が弾けたのだ。
前傾姿勢のために仰け反ることもできず、虎はその場で踏ん張るほかなかった。

勇者が横にすっ転んでしまうかのように、姿勢を低くする。
踏ん張る虎の足に、勇者は、叩き落とされた剣を拾って斬りつけた。

魔法を放った右腕は黒こげていた。
残った片腕だけの威力だったが、虎はたまらずバランスを崩した。



294: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/07(火) 22:52:24.14 ID:ZFYBcsmdo

勇者「やった!」


勇者が叫んだ瞬間、頭部を焼かれて飛びかけていた虎の意識が戻った。
無様に、だが必死になって丸く横っ飛びに転がる。

捨て身、無鉄砲、命知らず、勇者を戦闘スタイルを表す言葉が虎の頭に浮かぶが、消える。
力で勝っている、技でも遅れは取らない、はずだった。
だが、それ以上の何か、訳の分からない強さを、虎は確実に感じ取った。

ごろごろっとさらに森の方へ転がって、起き上がる。

勇者が止めを刺し損ねてたと気づき、駆け寄ってくるのを見て、虎は移動の道具を取り出した。
口が焼かれているので、捨て台詞も吐けやしない。

だが、駆け寄る勇者を見つめながら、にゃあ、とまた笑った。


虎魔物(十年はなかったぜ、こんな勝負。魔王様以来だ!)


虎の姿が掻き消えた。



295: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/07(火) 22:53:55.61 ID:ZFYBcsmdo

勇者「あっ、くっそー逃げられちまった」

僧侶「勇者様! 無茶しないでください」

勇者「おう、焦げちまった」

僧侶「もう……癒しの力よ」


勇者の火傷が治っていく!


勇者「ありがとー」

貴族「……いつもあのような?」

勇者「久しぶりに強敵だったからなー。勘が鈍って、倒せなかった」

僧侶「お一人で先行しすぎなのです!」

貴族「恐ろしい男だな……」



296: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/07(火) 22:54:36.21 ID:ZFYBcsmdo

僧侶「それより、今はみなをまとめて脱出しなければ」

貴族「そうだ。よし、急ぎますぞ」

勇者「おう、んじゃ、二人とも俺に負ぶさってくれ」

僧侶「そ、そんな」

貴族「何を言っている」

勇者「力が有り余ってんだよ! そうでもなけりゃ、一部隊つぶしてから戻ってくるけど」

貴族「……大量破壊兵器だな」

僧侶「わ、分かりました。お言葉に甘えます」

貴族「そ、僧侶さん!?」

勇者「っしゃあ! 積もる話はまた後だ!」


勇者は両腕に二人を抱えあげて、一目散に駆け出した。



297: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/07(火) 22:55:06.49 ID:ZFYBcsmdo

南の国、勇者の故郷。酒場。

女商人「マスター」

マスター「あら、女商人さん、もう帰ってきたの?」

女商人「ええ。前置きせずによろしいですか?」

マスター「え、ええ」

女商人「魔法使いからの手紙、受け取りましたね」

マスター「読んだけど……」

女商人「では、支度を」

マスター「できないわ」

女商人「……」

マスター「このお店は、先代からずっと受け継いできたものだもの。それを捨てるなんてこと……」

女商人「そうですか」



298: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/07(火) 22:55:51.43 ID:ZFYBcsmdo

マスター「魔法使いさんの気持ちも分かるわ、なんだか、この国も物騒になってきたもの」

女商人「実は、ここから出た軍隊が、いま戦士の村を襲っています」

マスター「え……」

女商人「おそらく、北国で反乱を起こしている僧侶への牽制でしょう」

マスター「た、大変じゃない!」

女商人「ええ、隙をついて逃げ出してきました」

マスター「逃げ出してきたって……」

女商人「私なりにやるべきことがあると思いまして」

マスター「……」

女商人「マスター、私はこの国が許せません。冒険者たちを集めて、その交流で栄えてきたのに、魔王を倒した途端に登録制を廃止して」

マスター「そうね……盗賊さんなんか、冒険者として認められなくなったら、捕まっちゃって」



299: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/07(火) 22:56:40.05 ID:ZFYBcsmdo

女商人「冒険者たちを集めて、探検隊を作るという魔法使いの計画、あれは一つの救済策でした」

マスター「おかげで、こっちはもっと寂れちゃったけど」

女商人「……実を言うと、国が探検隊を了承したのにも裏があるのではないか、と私は思います」

マスター「そう……なの?」

女商人「ええ。おそらく、私は普通にしていたら捕まるでしょう。マスターが勇者の町に行かないというのであれば、もう私からは何も言えません」

マスター「……」

女商人「……私は、場所も建物も大事だと思います。けど、思いの方が大事だと思ってます」

マスター「それは、簡単に言っていい言葉じゃないわ」

女商人「分かりません。思いを踏みにじられて、悲しんでいる顔を見たくないのも、事実です」

マスター「……うん」

女商人「もし、賛同してくださるのであれば、馬車のお手配は済んでますので」

マスター「そ、そうなの?」

女商人「勇者の家族も移住させる計画なんです」



300: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/07(火) 22:57:27.76 ID:ZFYBcsmdo

勇者の実家。

女商人「こんにちは」

勇者母「あら~、しょーにんさんじゃないの~」

女商人「あの、実は、息子さんがピンチでして」

勇者母「そうなの~? でも、あの子のことだから、大丈夫だと思うわ~」

女商人「いや、それでですね、お母さんのことも心配してらしてですね、引越ししてほしいと」

勇者母「大丈夫よ~、ずっと住んできたんだもの~」

女商人「……」

勇者母「しょーにんちゃんは~、うちののお嫁さんになる気はないの~?」

女商人「は?」

勇者母「なんだか、お城のお姫様との縁談は~、ことわっちゃったみたいで~」

女商人「はあ」

勇者母「ちょっと心配っていうか~、私に似て要領が悪いところあるし~」

女商人(なんだかな……)



301: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/07(火) 22:58:02.59 ID:ZFYBcsmdo

女商人(あ……そうだ)

女商人「あの、実はですね」

勇者母「何かしら~」

女商人「彼、今度結婚するんです」

勇者母「あらほんと~? 私にはなにも言わないで」

女商人「それでですね、お相手はあの、魔法使いさんなんです」

勇者母「あらあら、うふふ、あらあら」

女商人「彼、魔法使いさんと新居を構えてまして、ぜひお母様にもこちらに移って欲しいと」

勇者母「そうなったら、お祝いしないといけないわね~」

女商人「そうでしょう、今、友人も招待したいということで、彼は飛び回っているんですが」

勇者母「魔法使いちゃんがその町にいるのね~」

女商人「そうなんです」



302: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/07(火) 22:59:05.59 ID:ZFYBcsmdo

女商人(この程度の無茶振り、許されるわよね)

勇者母「でも~、がっかりしてるでしょう~?」

女商人「何が、ですか?」

勇者母「あなたも~、息子に少し気があったんじゃないかーって思ってたから~」

女商人「そんなことはありえません」

勇者母「あの子~、度量が広いから~、納得してる範囲なら許可しちゃうわよ~?」

女商人「お断りしますよっ!」

勇者母「財産分与」

女商人「なん……ですか?」

勇者母「相続について口添えしてもいいわよ~」

女商人「……そ、そんなことで動きません」

勇者母「褒美、まだたんまり残ってるのよね~」

女商人「とにかく! 早くご準備お願いします」

勇者母「うふふ」



303: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/07(火) 23:00:55.58 ID:ZFYBcsmdo

今夜はここまで。

よろしければ次回の順番をお選びください。


1.魔法使いと側近の対決?

2.お姫様と勇者の回想

3.探検隊はどーなったのか



305: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/07(火) 23:06:19.81 ID:ZFYBcsmdo

あ、一応、全部書くつもりですが、読みたい順番をお選びください、ということです



306:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/07(火) 23:07:50.01 ID:Cn3wwrrco

2→3→1で



307:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/07(火) 23:15:28.92 ID:YshDxLoDO

2-1-3かな



308:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/02/07(火) 23:37:57.14 ID:zcZM6aTEo

2→3→1



309:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/08(水) 02:23:36.54 ID:ZzV5TCLIO

2-3-1安定だな



311: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 06:42:54.47 ID:nge1lidIO

じゃあ、231で、お姫様のところから書いていきます。

虎は強敵には楽しんで全力で挑みますが、弱者にはつまらんと言いながらも殺戮したりできちゃうので、まあ普通に魔物です



312:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/08(水) 08:11:05.46 ID:FlQlWF6IO

231と思ってたらおれおまだった



318: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:23:40.44 ID:HCOjZ9rwo

南国、城。

姫「……」

侍女「お茶でございます、なんつって」

姫「ありがとうございます」

侍女「身分の低い娘っ子に敬語を使う必要はございませんよ?」

姫「相変わらずですね、あなたは……」

侍女「また暗い顔ですね。やなことでもありました?」

姫「いえ、別に」

侍女「『あなたは憂い顔も美しい』キリッ」

姫「隣国の王子様ですか、その真似は」

侍女「そうですよ。似てたでしょ?」

姫「ふふっ」



319: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:24:12.89 ID:HCOjZ9rwo

侍女「戦争のことですか? まあ戦争で死人が出るのはしょーがないですよ」

姫「いえ……」

侍女「あのバカ王子も出てるから、下手うってお亡くなりになる可能性もありますし」

姫「人の死を願うものではありませんよ」

侍女「さーせん。じゃあ、勇者のことですか?」

姫「えっと……ええ」

侍女「私せいかーい。ご褒美にお茶をご一緒する栄誉を賜ります。ロイヤルスイーツうめぇ」ムシャムシャ

姫「もう、侍女さんったら」



320: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:24:41.88 ID:HCOjZ9rwo

姫「……この度の争いは、勇者様のご一行が引き起こしたと聞いています」

侍女「僧侶さんでしたっけ」

姫「勇者様も、戦いに身を投じられたとか」

侍女「みたいですね」

姫「もしや、私が勇者様を追い出したことが遠因なのではないかと……」

侍女「それはいくらなんでもないですね」

姫「そうでしょうか」

侍女「あの手のタイプは、追い出されたことなんか今ごろ忘れてますよ」

姫「そ、そうでしょうか?」



321: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:25:14.19 ID:HCOjZ9rwo

侍女「だから、姫様が気にすることはないですよ」

姫「……私は」

侍女「まだ何かあるんですか?」

姫「私はあの方を尊敬しています……」

侍女「姫様はろくでなしに引っかかるタイプですね」

姫「ど、どうしてですか!」

侍女「いや、まあ、この城に滞在してた時のことを思い出していただければ」

姫「……」



322: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:25:48.86 ID:HCOjZ9rwo

―――数ヶ月前。

勇者『まあ、そういうわけで、あの辺の村は魔物が住人になってたわけですよ』

姫『まあ』

勇者『そのまま宿に泊りましたけどね。分かってて』

姫『そ、それでどうなったのです?』

勇者『夜中に襲い掛かってきたので、「宿代踏み倒すぞ!」って叫ぶと硬直して』

姫『魔物なのに、おかしいですわ』

勇者『それがどうも、本当に魔物同士で休憩所に使ってたみたいで』

姫『あら、それはかわいそうですね』

勇者『まあね。全員ぶん殴って寝なおしました』

姫『宿代は……』

勇者『サービスが悪いってんで、賢者が値切りました』

姫『ふふふっ、ちゃんと払ったんですね』

勇者『そうそう! いやあ、面白かったですよ』



323: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:26:11.93 ID:HCOjZ9rwo

―――数日後。

侍女『ちわー、お茶屋が配達ー』

勇者『あんた、侍女だろ』

姫『あら、いつもありがとう』

侍女『……』

勇者『なんだ?』

侍女『勇者様、お仲間どっか行っちゃったみたいですけどー』

勇者『え、マジ?』

侍女『マジマジ』

姫『こ、困りましたね、追いかけなくては』

勇者『うーん、ま、でも、平和になったし、いいか』

姫『え? でも』

勇者『お、今日のお茶はなんか浮いてるぞ』

侍女『今日は果物のお茶ですだ』



324: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:26:42.40 ID:HCOjZ9rwo

―――数週間後。

勇者『うーん、することないなー』

姫『あの、勇者様。お暇でしたら、ボードゲームなどいかがでしょう』

勇者『いいね!』

姫『はい、それでは』

勇者『あ、いつもいる子も呼ぼう。おーい、侍女ちゃーん』

侍女『呼ばれて飛び出て』

勇者『ボードゲームして遊ばない?』

侍女『完全に堕落してますな』

勇者『な、なんだよ』

姫『侍女さん、一緒に……ダメ?』

侍女『姫様に言われちゃ、かないません』



325: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:27:14.11 ID:HCOjZ9rwo

侍女『あーがりー』

勇者『くそっ、強すぎだろ、お前』

侍女『猪突猛進にサイコロばかり振るからでござい』

姫『うふふ』

勇者『うーん、やっぱり俺、一人旅は向いてないのかねー』

侍女『魔王を倒せたのも、お仲間のおかげですか』

勇者『そうなんだよなー、一人じゃダメなのかね』

姫『こら、侍女さん、失礼でしょう』

侍女『しーましぇーん』

勇者『いやいや、実際、そうだしな』



326: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:27:41.49 ID:HCOjZ9rwo

メイド1『クスクス……』

メイド2『勇者さんって、全然働いてないよね』

メイド3『逆玉狙ってるのかしら』

メイド1『出身は城下の地元民らしーよ』

メイド2『えー、ちょっとショック』

メイド3『お父さんも勇者なんだって?』

メイド1『ひぇぇぇ(笑)』


侍女『……』

勇者『お、侍女ちゃん』

侍女『あー、こっちは清掃ちゅーですよー』

勇者『なんだよ、急に』

侍女『勇者様は姫様の相手だけしてればいーんじゃないですか』

勇者『うーん、まあ、な』



327: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:28:10.94 ID:HCOjZ9rwo

侍女『何かご不満でも?』

勇者『なあ、姫様って俺と結婚する気とかないのかね』

侍女『さあー、姫様に決定権はありませんので』

勇者『そんなもんかなぁ』

侍女『結婚する以外に、したいことないんですか?』

勇者『うーん……』

侍女『え、え、どうなんだ、このこの』

勇者『やめろ、モップでつつくな。まあ、あまりやりたいこともないな』

侍女『この寄生虫が』

勇者『あ?』

侍女『わったしはお掃除侍従長~』サササー



328: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:28:39.04 ID:HCOjZ9rwo

侍女『勇者様はダメなんじゃないですか?』

姫『どうしたんです、急に』

侍女『なんかやりたいこともないみたいですし、へーかも評価しないでしょう』

姫『そんなことないでしょう、彼は世界を救ったのよ』

侍女『まーいーですけどー』

姫『だったら、お父様に聞いてみるわ』

侍女『やめといたほうがええで』

姫『もう、そんなこと言って』

侍女『いや、今、大臣と話してたんで』

姫『大丈夫ですよ、話が終わったら出てくれば良いのです』



329: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:29:05.19 ID:HCOjZ9rwo

玉座。

南国王『……勇者殿はどうしている?』

南大臣『ごろごろしております』

南国王『……』

南大臣『率直に申し上げます。世界が平和になった以上、もはや勇者殿は不要……』

南国王『言うな。何か事業でもなすなら、我が娘を嫁がせようかと考えていたのだが』

南大臣『褒美は与えたのです。もう良いでしょう』

南国王『軍事力としてはどうか?』

南大臣『救世主を値切って雇うことは難しいでしょう』

南国王『……』


姫『……』

侍女『ぼろくそっすね』

姫『きゃ! 急に声をかけないで』

侍女『すんませーん』



330: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:29:36.01 ID:HCOjZ9rwo

将軍『……指南役は無理でしょう』

南国王『なぜだ?』

将軍『彼の剣術は防御がありません。多少のケガを物ともせずに飛び込んでくるのです』

南国王『ふむぅ』

将軍『……多少どころではありませんな。一度、自身の骨を折りながら、我が隊で腕の立つ兵士を十人まとめて病院送りにしました』

南国王『なるほど』

将軍『しかし、手当て慣れといいますか、回復の魔法の効きが良すぎるのですが』

南国王『精霊の加護を得ただけはあると……』

将軍『とにかく守りがありません』

南国王『守りの時代には向いていないということか』

将軍『有名を利用する手はありますが』

南国王『下手を打てば、私の地位を脅かすやも知れん』

南大臣『……陛下。この際、勇者殿を政治利用しない方向で、他国と共同しましょう』

南国王『大丈夫かね?』



331: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:30:03.60 ID:HCOjZ9rwo

南大臣『万が一、勇者殿が他国につくようなことがあれば、我が国には勇者殿のご実家が城下にありますし』

将軍『それはいささか抵抗がありますが』

南大臣『万が一です、そうならないようにすればよろしい』

南国王『うむ……それがいいかもしれんな』

将軍『しかし、彼は姫様とも仲がよろしいご様子』

南大臣『それでは、姫様から押し出してもらうことにしましょう』

南国王『よいのか?』

南大臣『隣国の王子が姫様を見て、一度お話したいと言ってきています。それに、今後は姫様も働いてもらわねば』

南国王『うむ……そうだな。我が王家の一員として、自覚を持ってもらわなくては困る』

将軍『お二人が好きあっているのならば……』

南大臣『将軍、情で政治を決めてはかえって姫様に不幸をもたらしますぞ』

将軍『そ、そうでしょうか』



332: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:30:42.32 ID:HCOjZ9rwo

侍女『あれまー』

姫『……』

侍女『姫様、どうしますか』

姫『……』ダッ

侍女『あ、姫様!』


姫『はぁ、はあ、勇者様、勇者様……!』


姫『ゆ、勇者様!』

勇者『んあ?』ぐでーっ

姫『……』

勇者『どうしたんですか? 姫様』

姫『えっと、あの……』



333: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:31:08.86 ID:HCOjZ9rwo

勇者『息を切らして、走ってきたんですか?』

姫『い、いえ……その』

勇者『?』

姫『あのですね、勇者様』

勇者『はい』

姫『そろそろ、ご実家に戻られてはいかがでしょう』

勇者『へ?』

姫『かなり長い間、お城にお引止めしてしまって……』

勇者『いやいやいや、実家は城下町にあるんで』

姫『そうですが、もうしばらくお母様にお顔を見せていらっしゃらないのでは?』

勇者『えーっと』

姫『きっと、そろそろ心配なさってますよ』

勇者(これ、あれか? もう帰れ的な?)



334: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:31:35.20 ID:HCOjZ9rwo

―――数日後。

姫『……』

侍女『あなたのお城のお茶屋さん、ただいま参上しました』

姫『ああ、侍女さん』

侍女『元気ありませんね』

姫『……勇者様は』

侍女『ご実家でごろごろしてます』

姫『……きっと、私が手ひどく追い返してしまったからだわ』

侍女『いや、することないだけでしょう』

姫『そんなこと……!』

侍女『それより、隣国の王子様からまたお手紙来てますよ』

姫『捨てて』

侍女『あいあい』ビリビリ



335: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:32:03.88 ID:HCOjZ9rwo

侍女『あと、勇者様からも手紙が』

姫『か、貸してください!』バッ

侍女『おう』

姫『……』


勇者「この度はとんだ失礼をしてしまい、申し訳ありませんでした」

勇者「隣国の王子様とのご成婚、まことにおめでとうございます」

勇者「私も故郷の姫君の慶事を、自分のことのように嬉しく思っています」

勇者「これからも良き指導者、妻として、世界を導いてください」


姫『……うっ、うう』グスッ  カサカサ

侍女『……そんな感動的なことは書いてないはずですけど』



336: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:32:57.30 ID:HCOjZ9rwo

姫『二枚目……』カサッ


勇者「堅苦しいのはここまでにする。辞書引きながら書いたんだが、なんか言葉が下手ですまんね」

勇者「結婚おめでとう。正直言って驚いているが、姫様ともなれば無理はないわな」

勇者「それで、お祝いということで、褒美の四分の一は返納することにした」

勇者「もらった金だが、せっかくの機会なんだし、盛大な結婚式をやるのに使ってくれ」

勇者「しばらく一緒に暮らせて、結構楽しかったぜ。ただ、怠けすぎちゃったからな」

勇者「俺も自分なりにがんばってみようと思う」

勇者「なんだかんだで、俺は自分ひとりじゃ生きられないみたいだ」

勇者「だから、姫様にもらった分は、俺もちゃんと返せるようにがんばるよ」

勇者「それじゃあ、また」


姫『……勇者様』



337: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:34:57.61 ID:HCOjZ9rwo

姫「あの方は、私たちの都合で追い出したのに、文句も言いませんでした」

侍女「いやけど、そもそも褒美は渡してましたよ?」

姫「そればかりではなく、私を励ましてくれて」

侍女「美化しすぎ美化しすぎ」

姫「……グスッ」

侍女「あーはいはい、リッパナオヒトデシタネー」

姫「侍女さん、クビにしますよ?」

侍女「どうせ、この戦争が終わったら姫様、東国に行っちゃうんだし、いーです」

姫「そ、そう……」



338: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:35:32.73 ID:HCOjZ9rwo

侍女「結婚が嫌なら、勇者様と一緒に逃げるって選択肢もありましたよね?」

姫「それは、ご迷惑がかかるわ」

侍女「そうっすかねー」

姫「勇者様は、今も、正義のために戦っているんです」

侍女「いやあ、流れとか成り行きでしょ、間違いなく」

姫「そうだとしても、勇者様は自らのわがままを通しているのではないのだと思います」

侍女「自分の意見ってのがないんじゃないですかね、それ」

姫「もう! 勇者様はかっこいいんです!」

侍女「す、すみません」



339: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:36:22.28 ID:HCOjZ9rwo

侍女「でも、勇者様は今、北の王国の反乱軍に加わっていると」

姫「北国では、良い噂は聞きませんでしたから」

侍女「いやあの、これで我が国でも王制の反対運動とか出てきたらどーします?」

姫「……私は、勇者様を信じたいと思います」

侍女「……」

姫「どうしたのですか、侍女さん。また何か言いよどんで」

侍女「私はっすね、王家に拾われたので、あまり勇者様に肩入れしたくないんです」

姫「……」

侍女「だから、姫様の心が多少傷ついても、いろいろと黙ってようと思ってたんですが」

姫「何か、知ってしまったのね?」

侍女「……はい」



340: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:36:53.26 ID:HCOjZ9rwo

姫「教えてくれませんか、そのこと」

侍女「……あのっすね、大臣、いるでしょ」

姫「え、ええ」

侍女「あのおっさん、人間じゃないっぽいんです」

姫「は?」

侍女「だから、多分、魔物なんです。あのおっさん」

姫「え、え、王宮に、魔物が入り込んでいるということ……?」

侍女「はい。多分ですけど」

姫「どういうことなの?」

侍女「んー、夜中にいつものように王宮を歩き回ってたら、裏庭に大臣がいたんすけど」

侍女「大臣、明らかに魔物と話してたんですよね。骸骨とか、人魂とかと」

姫「そ、それは一大事ではありませんか!」



341: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:37:22.12 ID:HCOjZ9rwo

侍女「そーっすけど、あの大臣のおかげで、国はよくなったじゃないですか」

姫「そんなこと……」

侍女「冒険者って言ってたごろつきは減ったし、明らかな犯罪者は牢屋にぶち込まれたし」

姫「……」

侍女「財政だって、冒険者に払いまくってた報酬を整理しましたし」

姫「そうかも、しれませんが」

侍女「王様も良くやっているって言ってるし、いいのかなーって」

姫「……彼の目的は、勇者様を陥れることなのかもしれませんよ!」

侍女「勇者様が何かしてくれたんですか? この国に」

姫「そ、それは……」



342: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:39:05.45 ID:HCOjZ9rwo

侍女「魔王を倒したら、褒美をやる、だから戦って倒して、褒美ももらった。それでおしまいでしょ?」

姫「……」

侍女「ぶっちゃけ、私は嫌いです。勇者なんか」

姫「侍女さん……」

侍女「あ、あの野郎、たくさんもらった褒美、あっちこっちに寄附してたんです」

侍女「……使いきれないからって」

姫「え?」

侍女「私が、寂れた村の出身だって教えたから、そこに寄附して……」

侍女「私は身売りされてこっち来たんだから、うれしくもなんともないのに」

侍女「……わざわざ両親からの、謝罪の手紙まで持ってきて」



343: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:40:05.23 ID:HCOjZ9rwo

姫「……」

侍女「わ、私は、何もしないで、ごろごろして、嫌いなのに、あんなやつ、嫌いなのに」

姫「侍女さん……」

侍女「なのに、世界を救っても、私は救われてないじゃんって言ったら、謝ったりプレゼントくれたりするんですよ」

侍女「分かんないんです。あいつが正しいのかどうかも……」

姫「……」

侍女「でも、やっぱり、今の状況を見ると、おかしいんですよね、うちの国」

姫「……ええ」

侍女「あいつが正しいんですよね、多分」

姫「……」



344: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:40:32.08 ID:HCOjZ9rwo

姫「侍女さん」

侍女「……はい」

姫「おそらく、我が国は魔物に操られている恐れがあります。私たちがそれを知ったと気づかれれば、私たちも口を塞がれるでしょう」

侍女「まあ」

姫「侍女さん。こうなったら、正式にあなたをクビにします」

侍女「え」

姫「そして、勇者様のところへ、その情報を伝えてきなさい」

侍女「それは……」

姫「それが嫌なら、勇者様の他の仲間のみなさんのところへ行きなさい」

侍女「でも」

姫「こうなった以上、事は一刻を争います。名目は暇を出すことにして、早く知らせにいきなさい」

侍女「……姫様はどーするんです?」

姫「……王宮に残るのが、私の仕事です」



345: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:41:11.20 ID:HCOjZ9rwo

探検隊、キャンプ。

盗賊「あー、ほんっとよくここまで来たもんだわ」

盗賊「せっかく冒険稼業で名前を売ってきたのに、平和になったら一転犯罪者扱い」

盗賊「いやそりゃ、一時期は人様のモノを盗んだりしてましたけどね?」

盗賊「どっちかっていうと、洞窟の探索とかの方が得意だったわけで」

盗賊「過去にさかのぼって調べ上げて、牢屋に入れられるとか本当ないわよねー(開き直り)」

盗賊「……この探検隊がなければ一生牢屋暮らしだったかもしれないわけだし」

盗賊「仕事って、一度なくなると大変よねー」

盗賊「でも、なんていうかこの探検隊、男女混合の隊のせいか、やたらむらむらしてる連中が多い気がするのよねぇ」

盗賊「……とりあえず配給行くか」



346: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:41:43.63 ID:HCOjZ9rwo

隊員「おっ、いい姉ちゃんがいるじゃねぇか」

盗賊「……」

隊員「おい、ねーちゃん! ちょっと気分転換に付き合えよ!」

盗賊「……うっざ」

隊員「おいおいおい、なんつった?」

盗賊「鏡貸そうか? 自分の顔面見たら、私がそういいたくなる気持ちが分かるでしょ」

隊員「なんだぁ、こいつ!」

遊び人「まあー、まあまあまあ」スッ

隊員「な、なんだぁ、お前!」

遊び人「だんな、向こうでお仲間が、ポーカーの頭数ぅって怒ってましたよ」

隊員「げ」



347: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:42:22.68 ID:HCOjZ9rwo

隊員「おい、お前、俺のこと悪く言ってないだろうな!」

遊び人「とんでもございません」

隊員「くそっ」タッタッタ

盗賊「……」

遊び人「行っちゃいましたよ」

盗賊「ありがと。じゃあね」

遊び人「はいはーい」

盗賊「……え、何もしないわけ?」

遊び人「芸人が観客に手を出すのは、命がかかってるときだけでして」

盗賊「あっそう」

遊び人「あ、でも、配給に行かれるんですよね。僕もです」

盗賊「この野郎」



348: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/08(水) 22:42:49.15 ID:HCOjZ9rwo

遊び人「お姉さんも、牢屋に入れられたクチですか?」

盗賊「そうよ。「も」ってことはあんたもそうだったわけ?」

遊び人「昔は規制が緩かったですからねー」

盗賊「何してたのよ」

遊び人「ストリ○プダンサーを」

盗賊「ぶっ」

遊び人「あと男娼を少々」

盗賊「げほっ、ぐぇっほ」

遊び人「大丈夫ですか?」

盗賊「大丈夫なわけあるかっ! なんなのよ、ストリ○プって」

遊び人「知りませんか? 服を脱いで踊る」

盗賊「知ってるわ! なんで男なのに出来るのよ!」

遊び人「需要があったとしか言えませんねぇ」



373: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/09(木) 21:27:03.64 ID:83Cp8ad+o

盗賊「……なに、あんた、あれなの?」

遊び人「あれとは?」

盗賊「その、男の人が好きな」

遊び人「ああ、お仕事は基本、女性のお相手ですよ。結構お金を持って暇な女性はいますから」

盗賊「そう、それはそれで引くけど」

遊び人「男性もいますけどね」

盗賊「引くわ」

遊び人「僕はあまりお客さんを好き嫌いで差別しませんけどねー」

盗賊「……」

遊び人「買います?」

盗賊「買わないわよ!」

遊び人「大道芸とか手品とかもしますけどね」



374: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/09(木) 21:27:31.68 ID:83Cp8ad+o

盗賊「そういえば、どうして探検隊なんかに入ってるのよ」

遊び人「盗賊さんと同じ流れだと思いますけど」

盗賊「といっても、性産業なんか一番廃れにくそうなところじゃない。お客が守ってくれたり」

遊び人「ところがですね、最後に商売に行ったところで、お客がかち合っちゃいまして」

盗賊「は?」

遊び人「旦那さんと奥さんが」

盗賊「あーもういい、聞きたくない」

遊び人「すごい修羅場でしたよー、僕が牢屋に入れられたのは巻き込まれ事故ですね」

盗賊「あんたねぇ」

遊び人「ま、平和になると、乱れた性風俗は百害の元ですからね」

盗賊「はぁー、ま、平和だと商売がやりにくいのは確かよね」



375: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/09(木) 21:28:00.37 ID:83Cp8ad+o

配給所。

配給係「おっ、なんだい、あんたらカップルかい?」

盗賊「どこをどう見たらそう見えるのかしら」

遊び人「美男美女だからでしょうね」

盗賊「……さらっと言うわね」

配給係「はっはっは、違いねぇや」

遊び人「次の探索ポイントまでは長そうですから、多めに盛ってくださいな」

配給係「そーだな、精をつけなきゃな」

盗賊「……」

遊び人「要ります? 赤蛇ドリンク」

盗賊「要らないわよ!」



376: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/09(木) 21:29:24.21 ID:83Cp8ad+o

盗賊「……前から思ってたんだけど、この探検隊って変よね」

遊び人「そうですか?」ハグ

盗賊「なんかやたらと言い寄ってきたり、カップル認定したり」

遊び人「あれ、ご存知でない」

盗賊「何よ」

遊び人「この探検隊、移民政策の一環でもあるんですよ。カップル推奨。現地で子作り」

盗賊「はああああ!?」

遊び人「犯罪者紛いの連中が多いのも、移民というか棄民というか、ま、ある意味そういうわけで」

盗賊「聞いてないわよ、道理でぎらぎらしてるやつが多いと思った」

遊び人「先住民がいなければ、このまま住んじゃえばいいと」

遊び人「増えすぎた冒険者への対応策ですね、最初に南大臣が説明してましたよ」

盗賊「……そんな説明あったっけ」



377: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/09(木) 21:29:47.82 ID:83Cp8ad+o

遊び人「……まあ、それ以外にも変なところはありますけど」

盗賊「頭おかしいでしょ、でも」

遊び人「そうですかね? 僕の芸人仲間の女の子も、これで結婚できるって喜んでましたよ」

盗賊「はあ?」

遊び人「遊び人なんてやってると、やっぱり偏見で見られちゃいますから」

盗賊「嫌なら転職すればいいじゃない」

遊び人「神殿に行くのも一苦労なもんで」

盗賊(……私も他人のことは言えないか)



378: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/09(木) 21:30:30.48 ID:83Cp8ad+o

盗賊「でも、おかしいわよね」

遊び人「まだ言うんですか」

盗賊「うっさいわね。女の子はいつも男とくっついてるし、後はぎらぎらしてる男ばっかりで、うんざりしてたの」

遊び人「僕も一発やりたくて近づいたのかもしれませんよ」

盗賊「なに、命を盗られたいわけ?」

遊び人「あっはっは! お姉さん、面白い!」

盗賊「……あのね、あんたはまだ話が通じそうだから、言ってるんだけど」

遊び人「なんですか?」

盗賊「ただの探検でも、移民政策でもいいけど、それにしたってまだおかしいとこあるでしょ」

遊び人「……遺跡の調査とかしてましたからね」

盗賊「何の意味があるんだっていう」



379: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/09(木) 21:31:07.32 ID:83Cp8ad+o

遊び人「だったら、計画書盗んじゃいます?」

盗賊「……あっさり言うわね」

遊び人「散々振り回されて、何も知らないまま他人にこき使われるのも癪じゃないですか」

盗賊「いいけど、私もそれほどレベルが高いわけじゃないわよ」

遊び人「だったら僕が隊長さんを誘ってきます」

盗賊「もうなんなの!? 隊長って男じゃん!」

遊び人「まあまあ、あの人もいっぺんやってみたいオーラがある人でしたし」

盗賊「ああー、もう。勇者より狂ってるやつは初めて見たわ……」

遊び人「え、勇者さんを知ってるんですか?」

盗賊「……一度捕まって、盗んだ財宝を引き渡す代わりに見逃してもらったの」

遊び人「へー」



380: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/09(木) 21:31:39.20 ID:83Cp8ad+o

盗賊「よく考えたら、こうして辺境で働いてるのも、勇者のせいよね」

遊び人「勇者が世界を救ったから、ですか?」

盗賊「そうそう! 魔王がいたってそれなりに仕事できてたんだし、そんな無理に倒さなくても良かったのに」

遊び人「……まあ、苦しんでいる人もいたんでしょうよ」

盗賊「そんなもんかしら」

遊び人「ところで、どうします? やるなら今夜にでもやりましょうか」

盗賊「あ、マジでやる気なの?」

遊び人「そりゃもう! いい加減、同じことの繰り返しで飽きてましたし」

盗賊「やっぱあんたおかしいわ」



381: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/09(木) 21:32:07.91 ID:83Cp8ad+o

―――夜。

隊長「ああー、やっと会議終わったわ」

遊び人「隊長さぁん、遅くまでお疲れ様ですぅ」

隊長「な、なんだ」

遊び人「僕、遊び人って言うんですけど、一度隊長さんとお話したいなぁって思ってまして」

隊長「う、おお、しかし、記録の整理が……」

遊び人「僕の仲間も、隊長さんとお話したいって言ってるんですよぉ」

隊長「そ、そう、か……」

遊び人「もちろん、お話以外もできればなって」

隊長「ゴクリ……」

遊び人「お願いしますぅ」

隊長「し、仕方ないな、今夜だけだぞ」

遊び人「やったぁ! えへへ」


盗賊「……ありえねぇ」



382: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/09(木) 21:33:19.71 ID:83Cp8ad+o

盗賊「ま、気にしてても仕方ないわ」

盗賊「テントに鍵はかからないしね。お邪魔しまーすっと」

盗賊「目当てのものがある場合、何から探すべきか……」

盗賊「探検隊の日々の記録はそれほど整理されていない」

盗賊「……何週間分かは、ヒモで縛って積んでいる」

盗賊「簡易机の横、何もなし」

盗賊「生活用品に紛れてる? さすがにないわね」

盗賊「……最初から持っているようなものだから」

盗賊「でも、見返したりはする?」

盗賊「いや、毎日見返すほどではないわ」

盗賊「節目ごとに、たとえばキャンプ地に荷降ろしするたび、とか」



383: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/09(木) 21:33:46.94 ID:83Cp8ad+o

盗賊「テントを張ってから、数日だから……」

盗賊「散らばってる記録、その下に……」ゴソゴソ

盗賊「ありました~」

盗賊「楽勝。でも持ち帰るのも嫌だし」

盗賊「時間があるから、要点だけ書き写しちゃいましょ」カキカキ


見張り「そこに誰かいるのか」

盗賊「!?」

見張り「……おい、いるのか」

盗賊「……」



384: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/09(木) 21:34:24.48 ID:83Cp8ad+o

見張り「ちっ……まあ、さすがに粗末な貧乏隊をあさるやつもおらんか」


盗賊(バカで助かったわ)

盗賊(しょーがない、このまま計画書は持ってきましょ)

盗賊(ばれないうちに、読んで返す、これね)

盗賊(……見張り、なし)

盗賊「……」サササッ

盗賊「楽勝ね。私もまだまだこっちでいけそうね」



385: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/09(木) 21:34:49.73 ID:83Cp8ad+o

翌朝。

盗賊「……」

遊び人「……おはようございます」

盗賊「なんか疲れてるわね」

遊び人「あの隊長さん、溜まってたみたいで」

盗賊「聞かないことにしていいかしら」

遊び人「ええ、ええ。女の子も疲れたーって言ってましたよ」

盗賊「それより、計画よ」

遊び人「……もう少し、人気の少ない場所で見ましょう」

盗賊「いいわよ……」

遊び人「ふわああ、腰が痛い」



386: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/09(木) 21:35:21.36 ID:83Cp8ad+o

盗賊「なんか変なことがいっぱい書いてあるのよ」

遊び人「なんですか?」

盗賊「魔法の専門的なことみたいなんだけど、遺跡を探すのもちゃんと計画に書かれてある」

遊び人「うーん……」ペラ

盗賊「ちょっとねぇ、私らじゃ太刀打ちできない内容みたい」

遊び人「そうですねぇ……」パラパラ

盗賊「魔法使いでもいればいいんだけど」

遊び人「そういえば、今回の件、魔法使いさんも一枚噛んでたとか」

盗賊「マジで? あいつも厭味な女なのよねー」

遊び人「どこがです?」



387: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/09(木) 21:35:53.57 ID:83Cp8ad+o

盗賊「昨日、盗賊団に入ってたーって話しなかったっけ」

遊び人「ああ、見逃してもらったとかいう」

盗賊「そうそう。んで、そのとき、あの女がね」


魔法使い『そんなに財宝を見つける能力が長けているなら、冒険者としてでもやっていけるでしょうに』

魔法使い『勿体ない。頭使いなさいよ。頭を使えば、真っ当に生きるチャンスなんかいくらでも転がってるわ』


遊び人「うわー……」

盗賊「そうなるでしょ!? こちとらそんな理由でやってたわけじゃないのよって」

遊び人「あれ、でも」

盗賊「……はい、冒険者登録のやり方も教えてもらいました」

遊び人「世話になりまくりじゃないですか」

盗賊「もう、そうなのよ~! だから余計憎たらしいの」



388: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/09(木) 21:36:30.24 ID:83Cp8ad+o

遊び人「……ん?」

盗賊「なに、なんかあった?」

遊び人「どうもこの計画、魔法使いさんが噛んでるのは、選抜とかみたいですね」

盗賊「どういうこと」

遊び人「計画は複数人で書かれて、選抜の件を魔法使いさんがやったみたいです」

盗賊「ふ~ん」

遊び人「厳しすぎる処分を受けた者に対して減刑し、労役処分という名目ではあるが、適切な条件で雇い入れること」

盗賊「くあああっ、憎たらしい!」

遊び人「魔法使いさんなりに、いろいろ考えてるんですねぇ」

盗賊「虫唾が走るわっ」

遊び人「でも、実際助かったじゃないですか」



389: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/09(木) 21:37:00.97 ID:83Cp8ad+o

遊び人「……あ!」

盗賊「何よ、今度は」

遊び人「……」

盗賊「黙ってちゃ分からないわ」

遊び人「……盗賊さん」

盗賊「どうしたのよ」

遊び人「魔法使いさんの居場所、分かりませんかね」

盗賊「……どうしたっていうの?」

遊び人「この計画、具体的な中身はかなり複雑なんですけど―――」


遊び人「『魔王の復活』が可能かどうか、が目的みたいです」



390: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/09(木) 21:37:32.68 ID:83Cp8ad+o

盗賊「……」

遊び人「……」

盗賊「え、マジ?」

遊び人「あまり学がないので良く分からないんですが、専門家に見せれば一発だと思います」

盗賊「や、やややややばいんじゃないの、それ」

遊び人「早く返したほうがいいですね、もうそろそろ今日の作業が始まるし」

盗賊「そ、そんなこと言っても」

遊び人「でなければ、このまま逃げるか」

盗賊「逃げるったって、どこに逃げるのよ!?」

遊び人「……この辺までくると、もう魔王城くらいしかないですからね」


どぉん、どぉん、どおん


盗賊「!」

遊び人「始業の会を知らせる太鼓ですね。さて、どうするか……」



391: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/09(木) 21:38:58.75 ID:83Cp8ad+o

隊員「おーい、急ごうぜ」

遊び人「あ、はいはい」

盗賊「……」

隊員「なんでもよぉ、隊長のやつが酔って大事な書類をなくしたとかで、周りに八つ当たりしてるらしいぜ」

遊び人「いい気味ですね」

隊員「違いねぇ。けど、始業前になんかやらされそうだよな」

遊び人「こっちにまで振らないでほしいですよねぇ」

隊員「まったくだぜ」タタッ


遊び人「……だそうですけど」

盗賊「もうないことに気づかれたってわけ……」

遊び人「……」

盗賊「……」

遊び人「逃げましょうか」

盗賊「逃げよっか」



401: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/10(金) 21:16:27.57 ID:jiiL7IP+o

今夜はおまけで。「出会い」


勇者「たのもう!」

マスター「あ、あら、いらっしゃい。ここは初めてかしら」

勇者「そうです、仲間を探しに来たわけで」

男冒険者「ははっ、あんな子どもまで冒険者か」

勇者「……勇者です、国家公認の!」


……どっ!


勇者「おい、笑うとこじゃねーよ」

マスター「あー、じゃあ勇者君、とりあえず冒険の書を見せてね」

勇者「はいはい」

女冒険者「……ちょっと、かわいそうじゃん、仲間になってあげれば?」クスクス

戦士「なんで俺が……」

勇者「雑魚はいらん。魔王を倒せる素質の持ち主を探している」


……ぷぎゃーっはっはっはっは!


戦士「お前ら、いい加減にしろ」

勇者「いま笑った連中は、選ばないでください」

戦士「お前もお前だ!」

勇者「はい?」



402: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/10(金) 21:23:27.05 ID:jiiL7IP+o

戦士「お前は仲間を探して雇う立場にいるんだろうが」

勇者「……そうだけど」

戦士「仲間になってください、とお願いすべきじゃないのか? そんな態度で誰が仲間になりたいと思うんだ!」

勇者「す、すみません」

戦士「……いくら金を払うと言ってもな、それで本当に魔王を倒す仲間が得られるわけないだろう」

勇者「……わかりました。お願いします」ペコリ

マスター「じゃあ、戦士さんがまず一人目でいいかしら」

戦士「は?」

勇者「よろしく!」

男冒険者「付き合ってやれよ、戦士」

女冒険者「そーよそーよ」

戦士「……」


ばたん、ツカツカツカ。


魔法使い「……ちょっと邪魔なんで」

勇者「な、なんだよ」

マスター「あら、魔法使いちゃん。今日はどうしたの?」

魔法使い「どうしたのって、今日で私も登録できる年齢です」

マスター「そうなの、じゃあ一応、手続きね。もしよかったら、いま、勇者君が来ているから……」

魔法使い「勇者? 誰が?」

勇者「俺だ」



403: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/10(金) 21:32:52.35 ID:jiiL7IP+o

魔法使い「何かの冗談でしょう」

勇者「違うわい! 冒険の書も、ほら!」

魔法使い「……」

勇者「はっきり言って、本気で魔王を倒すつもりだ」

魔法使い「ふーん。じゃあ、聞くけど、どうやって倒すつもりなの?」

勇者「まずは仲間集めからだな。単身で旅立った連中はことごとくやられている」

魔法使い「……それだけ? そんな無計画で魔王討伐とは笑わせてくれるわ」

勇者「何言ってんだよ。そもそも、今、魔物が増えたせいで国交も途絶えてるじゃん。情報もないじゃん」

勇者「一歩ずつ、現状を確認できなきゃ、討伐もクソもねぇ。魔王城の正確な位置も知ってるやつは少ないんだぞ」

魔法使い「……あ、そ」

勇者「って、王様が言ってた」

魔法使い「受け売りじゃない!」

勇者「仲間を集めれば、いい知恵も出てくるだろ」

魔法使い「あんたがリーダーを勤めるとしたら、いい知恵を出しても無駄そうだわ。もっと頭使いなさいよ」

勇者「言うじゃねぇか。どの道、雑魚はいらん!」

戦士「……お前ら、ちょっと落ち着け」


ばたーん!


僧侶「おはようございまーす!」

マスター「あらー、僧侶さんじゃない」



404: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/10(金) 21:40:10.10 ID:jiiL7IP+o

マスター「今日はここに来るのが遅かったわね」

僧侶「ええ、お祈りをしていたものですから」

勇者「……誰?」

魔法使い「僧侶よ。東国から、この国の教会に出向してきてるの」

僧侶「それより、聞いてください、みなさん!」

僧侶「お祈りをしていましたら、お告げがあったのです!」

僧侶「今日、魔王を倒し、世界を救う勇者様が、この町に現れると!!」

戦士「……」

魔法使い「……」

冒険者たち『……』

僧侶「ど、どうしたんですか? これほど喜ばしい報せはありませんよ」

マスター「そ、そうなの。実は、今日も勇者君が一人、来ていてね」

僧侶「ええ! どちらですか、どちらにいらっしゃるのですか!?」

勇者「はい」

僧侶「……」

勇者「僧侶さんといいましたね。俺がその魔王を倒す勇者です!」

僧侶「……まあ。そうでしたの」

マスター「じゃあ、僧侶さんが勇者君のパーティーの二人目ね」

僧侶「ええ!? ちょっと待ってください!」



405: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/10(金) 21:51:10.35 ID:jiiL7IP+o

勇者「あと一人くらいほしいんですが」

マスター「じゃあ、魔法使いちゃん、入ってみない?」

魔法使い「お断りします」

マスター「といっても、この人、一応国家公認なのよ?」

魔法使い「どうせ、わずかな支度金と粗末な装備しか渡されなかったんでしょう」

勇者「宿代も安くなるぞ」

魔法使い「悪いけど、こちらにも選ぶ権利はあるわ」

マスター「魔法使いちゃんの条件に当てはまるパーティーは、勇者君くらいしかないわよ?」

魔法使い「……」

勇者「仲間にしてやってもいいぜ」

戦士「だから、お前は」

勇者「あ、すんません! ぜひとも、よろしくお願いしたい」ペコリ

魔法使い「あ、あのね、私は将来性のあるパーティーにね」

マスター「じゃあ、三人目っと」

魔法使い「なに、勝手に決めてるんですか!」

僧侶「わ、私も、彼がお告げに出た勇者様か、分かりませんので」

マスター「他に、やりたい人!」


シーン……


マスター「いなさそうだから、決定ね~」



406: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/10(金) 22:04:18.55 ID:jiiL7IP+o

勇者「よっしゃ、これからよろしく頼むぜ!」

魔法使い「み、認めないわよ! こんなやり方!」

僧侶「ああ、神よ、私に苦難の道を歩めというのですか……」

勇者「なんだと……」

戦士「お前ら、うるさい!」

勇・魔・僧「はい」

戦士「……いいか。魔法使いと僧侶は冒険者名簿に登録したんだ。仕事を選り好みするんじゃねぇ」

魔法使い「でも」

僧侶「そ、そうですわね……」

戦士「どうしても合わないなら、死ぬ前に辞めればいい」

勇者「重いな、おい」

戦士「そうだよ」

勇者「お、おお?」

戦士「お前は雇い主として、命を預かっていることを自覚しろ。魔王を倒すと宣言したならなおさらだ」

勇者「……おう」

マスター「まとまったみたいね~」


勇者「何べんでも言うけど、俺は本気だ。よろしくお願いします」ペコリ

戦士「まあ、仕送りできればなんでもいい」

魔法使い「……知恵は出すわ、知恵は」

僧侶「こうなってはあなた方を信じるほかありません。よろしくお願いします」


……かくして、勇者のパーティーは結成されたのだった。



414: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:06:07.07 ID:JCs4RTDJo

側近「……まさか、人間の方から私を呼び寄せるとはね」

竜魔物「何度も言いますけど。罠かもしれないっすよ」

側近「大丈夫よ! スライム隊もいることだし」

スライムたち『ピキーッ!』

竜魔物(スライムだけじゃな……)

側近「そ、それに、あんたも来てくれるんだから、なんとかなるでしょ」

竜魔物「……失礼ですが、側近殿は本当に参謀役だったので?」

側近「当たり前よ! 御前会議とかも出てたもん」

竜魔物「……で、何してたんすか、会議で」

側近「お茶くみ」

竜魔物(それじゃメイド役だ)



415: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:06:34.26 ID:JCs4RTDJo

側近「あ、でもね、魔王様の会議資料とかも整理してたよ?」

竜魔物「それって……単なる秘書……」

側近「参謀だもん! 頭を使うところだもん!」

竜魔物「まあ、いいっすよ。もう交渉は私がやりますんで」

側近「なんでよ!」

竜魔物「不可侵条約とか、私が結んだじゃないっすか」

側近「そ、そうかもしれないけどぉ……」

スライムたち『ピキー、ピキー!』

竜魔物「……いじめるなって?」

側近「あ、もしかして、再就職のネタに狙ってるんじゃないでしょうね」

竜魔物「……」



416: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:07:06.55 ID:JCs4RTDJo

魔王城の北、仮設「勇者の町」。

側近「……掘っ立て小屋ね」

竜魔物「……そっすね」

側近「なんかこう、会談するような場所じゃない気がするんだけど」

竜魔物(……大工してくれってのはマジだったのか)


魔法使い「来たようね」

側近「来てやったわ! こんなボロ小屋にわざわざ!」

魔法使い「私じゃこれが限界だったの。悪い?」ボッ

側近「ち、ちょっと嫌味を言ってみただけじゃない、脅すのは卑怯よ」

竜魔物「……不可侵条約は、あまり意味がなかったようだな」

魔法使い「そうね。展開が早すぎて、私にも読めないの」

側近「……なんのこと?」

魔法使い「その辺も説明するわ」



417: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:07:37.85 ID:JCs4RTDJo

竜魔物(せめぇ……)

側近「汚ーい」

魔法使い「うるさいわね、仮設だからいいのよ」

竜魔物「これでは冬を越すこともできんぞ」

魔法使い「……早く男手が欲しいわ」

側近「そうよね、女が頭脳労働よね?」

魔法使い「は?」

側近「いやあの……と、とにかく! 私も暇じゃないのよ」

魔法使い「そうなの?」

竜魔物「最近は飼っているスライムの訓練に追われていてな」

側近「いやあ、飼ってみると結構楽しいものね」

魔法使い「スライム牧場か……ネタになりそうね……」メモメモ



418: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:09:01.74 ID:JCs4RTDJo

魔法使い「そういえば、魔界に帰れそうなの? あんたたち」

側近「ダメダメ。どうもね、ゲートが閉じたというより、穴が塞がっちゃたみたいで」

魔法使い「塞がる?」

側近「元々、出入口は無理やり穴を開けたような状態だったの。で、穴を閉じたら、こっちの世界の修復力でキレイに直っちゃったと」

魔法使い「ふーん」

竜魔物(そうだったのか……この辺は優秀なのだな)

側近「ああ、魔界スイーツともお別れね……地獄モンブランとか、内戦始まったら絶対なくなるし」

魔法使い「なにそのゲテモノくさいの」

側近「げ、ゲテモノじゃないわよ! 一日一個限定の超濃厚なやつなの!」

魔法使い「どの辺が地獄なのよ」

側近「すんごい甘いの! 人間には耐えられないんじゃないかしら」

魔法使い「あら? 私は甘いの大好きだけど?」

側近「三種類の地獄産マロンクリームに魔牛の濃厚ホイップに、クッキーも散らしてあって食感もたまらないのよ」

魔法使い「……超うまそうじゃないの」



419: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:09:48.24 ID:JCs4RTDJo

側近「でっしょ!? 魔界タワーの30階にスイーツバイキングがあってね、年一で行ったもんよ」

魔法使い「他にはどんなのがあるのよ」

側近「魔女いちごのタルトとかー、ドラゴンブレスシャーベットとか。あの、冷気ブレスで冷やし方を調整するから、ガチもんは高級ってレベルじゃないのよねー」

魔法使い「でも、帰れないのよね」

側近「そうなのよ……!」

魔法使い「あんた、冷気とか吐けないの?」

竜魔物「はいっ?! 俺っすか」

竜魔物(話を聞いてなかった……)

側近「あー、ダメ。竜人タイプはブレスが苦手なのよね」

魔法使い「残念ねー、しっかりしなさいよ」

竜魔物「……そっすね」



420: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:10:35.82 ID:JCs4RTDJo

魔法使い「そうなると、あれかしら? ここで頑張ってもしょうがないって感じ?」

側近「そうね、まあ次期魔王選には噛めないし、次はいつゲートがつながるかも分からないし……」

竜魔物「……待て、人間」

魔法使い「なに?」

竜魔物「貴様、何を聞き出そうとしている?」

魔法使い「……」

側近「どういうことよ」

竜魔物「こやつ、我々から何か情報を聞き出そうとして誘導していたのです!」

側近「え……じゃあ、スイーツ好きってのは」

魔法使い「まあ、お菓子は好きなんだけど」

側近「安心したわ」ホッ

竜魔物「おい、この無能」

側近「むのっ……無能!?」



421: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:11:35.88 ID:JCs4RTDJo

魔法使い「ケンカしないで頂戴。私もあんたたち相手に聞き方が悪かったわ」

竜魔物「どういうつもりだ。貴様、何を隠している!」

魔法使い「どうも情報を得ていないみたいだから、簡単に説明するわ。今、人間たちはかつての勇者の仲間を攻撃して、分断しようとしている」

側近「むのう……」

竜魔物「それは人間共の勝手な争いに過ぎんだろう」

魔法使い「仮にも勇者は人間側の英雄なのよ? 私はこの裏に、あんたたちの把握していない魔物がいるんじゃないかと睨んでいるわ」

竜魔物「……つまり、残った魔物に戦いを諦めていない者がいる、ということか?」

側近「むのうぅぅ~……」

魔法使い「そう。私たちは、それらと戦うことになるでしょう」

竜魔物「……」



422: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:12:41.94 ID:JCs4RTDJo

竜魔物「だから何だというのだ、まさか、彼らの情報を渡せ、というのではないだろうな」

魔法使い「まさにそれよ。あんたたちは魔王城にいたのよね? 世界で活動している魔物が、どのくらいいるのか、知っているんでしょう」

竜魔物「断る! いくら我々が戦いを諦めたとはいえ、仲間の情報を売り渡す気はない」

魔法使い「でも、少なくとも、ここに残っている連中は次期魔王選、かしら、そこには参加できない」

竜魔物「……」

側近「無能、無能って……」

魔法使い「仮にこの世界に打撃を与えたとしても、その後の魔界の体制にも加われない、そうじゃないかしら」

竜魔物「……」

側近「ムノー、ムノー」

竜魔物「……だから、何だというのだ」

魔法使い「それでも戦う理由って何かあるの?」

竜魔物「……私には、分からん」



423: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:15:20.29 ID:JCs4RTDJo

魔法使い「私の考えを言うわ。今度の事件、三つの理由が考えられる」

魔法使い「まず、魔王を慕って、その遺志を遂げるという名目で、勇者を攻撃している。つまり悪あがき」

魔法使い「次に、一番悪い例だけど、魔界へ行き来することが実は可能で、再侵攻を計画している。今度の事件はその計画の一端だった、という可能性」

魔法使い「あるいは闇の力を剥がされた世界、という劣勢をひっくり返す、方策を持っている。つまり勝算がある」

魔法使い「いずれにしても、現時点で人間同士を割ることには成功しているわけよね」

竜魔物「……」

側近「……魔界に行き来するのは無理でしょうよ。私なりに調べたけど、難しいもの」

竜魔物「あなたは……!」

側近「いいじゃん、もう。私は無能なんでしょ?」

魔法使い「……」

側近「正直、私も魔王様に気に入られたから、たまたま出世したような感じだし。もう、いまさら」

竜魔物「いや、しかし……」



424: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:16:09.53 ID:JCs4RTDJo

側近「魔王様は尊敬していたけど、私は他の魔物とか嫌いだもの」

竜魔物「……そう、っすか」

側近「私のことを馬鹿にしていたわ。そういうの、すぐ分かっちゃうものなんだけど」

側近「みんな、会議の時に私にお茶を零したりして、笑いものにしたりとかさ」

側近「こんな調子で、この世界を支配することなんか、できないって思ってた」

魔法使い「……」

側近「魔界への道が閉ざされていた時、ちょっと安心したんだ、ああ、少なくとも、もう馬鹿にされなくて済みそうだって」

側近「でも……やっぱり、馬鹿は馬鹿だね」

竜魔物「……すんません」

側近「謝らなくてもいいよ。何とか、一体でも帰せる方法が分かったら、あんたくらい、私が帰してあげるから」

竜魔物「……いや、私も独身で、帰る家なんか」

側近「そのくらい、いいでしょ? 人間」

魔法使い「構わないわ」



425: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:17:25.97 ID:JCs4RTDJo

魔法使い「一応、私からも提案はあるんだけど……その前に、どんな魔物が世界に派遣されてたか、聞いていいかしら」

側近「いいわよね、竜」

竜魔物「……お任せします」

側近「そうねー、でも、大体あんたたちが倒しちゃったんじゃない? 極東の大きなドラゴンとか」

魔法使い「それは倒したわ。強敵だった」

側近「後は北極のタイガーとか、北西のバードとか」

魔法使い「その辺は知らないわね……」

竜魔物「……マジかよ、四天王なんだけど」

魔法使い「そうなの?」

側近「ジャングルのトロルとか、砂漠のシザースとか」

魔法使い「……その辺は倒したような……」

側近「遺跡のマシン兵とか、海軍のボーン船長とか」

魔法使い「遺跡は行ったことあるけど、私らが来た時点で錆びて動かなくなってたわよ?」

側近「マジで? あれ、めっちゃお金かけてたんだけど……」



426: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:18:38.28 ID:JCs4RTDJo

魔法使い「大体分かったわ。闇の力が剥がされても、強力な四天王とかいうのが残ってたわけね」

側近「むしろそこを倒してないのが驚きよ」

竜魔物「……戦力分散しすぎてたんすね」

魔法使い「だとしたら、ここら辺の連中が行動していてもおかしくはないわ」

側近「あー、じゃあ、あれ、バードとか、めっちゃ魔王様崇拝してたやつとか残ってるわ」

魔法使い「なるほど、1の理由で動いている可能性が高い、と……だとしたら、次の行動も想定できる気がするわ……」

竜魔物「……ふむ、どうも無傷で説得というのも無理だろうな」

魔法使い「四天王ってどのくらい強いの?」

側近「極東のドラゴンが四天王の一角よ」

魔法使い「うーわ。力が衰えたとはいえ、あれと同じくらい強いわけ……?」



427: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:19:36.74 ID:JCs4RTDJo

側近「バード残ってるとか、ホント萎えるわ。あいつ、私が魔王様のお気に入りだったからって、いっちばん陰険な攻撃してきたもん」

魔法使い「どんなよ?」

側近「まず、他の連中に、私が魔王様に色目使ってるとか噂流してー、孤立させるでしょ」

竜魔物「……陰険っすね」

側近「でっしょ? そこから、実は人間と通じているとか、根も葉もない噂を大合唱させて、魔王様に直訴してさ」

魔法使い「……今の状況に似ているわね」

側近「まあ、私は、ほら、魔法関係が割りと使えたから、さ。その辺は認めてもらってたから、魔王様には」

側近「っていうか、魔王様には信じてもらって、むしろ側近に取り立てられちゃったわけよ!」

側近「いやあ、あの時のあいつの顔とか、今でも思い出せるわ! うひゃひゃひゃ!」

竜魔物「女の世界は怖いっすね……」

魔法使い「宮仕えはこれだから嫌なのよねー」



428: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:20:52.50 ID:JCs4RTDJo

竜魔物「……タイガー殿も残っているのか。彼は魔王軍一の武人だからな」

魔法使い「戦ったことはないわね。どんなやつなの」

竜魔物「私もそうだが、魔王城にいた雑兵のほぼ全員が、一度はタイガー殿に病院送りにされた」

魔法使い「脳筋ってわけね……」メモメモ

側近「タイガーはちょっと素直なのよね~、僻地に行くことになっても文句も言わなかったし」

魔法使い「なるほどなるほど。じゃあ、大体分かったから……」


どぉん、と遠くで音がした。

耳聡い竜の魔物がぴくりと反応すると、外に控えていたスライム達が一斉に騒ぎ始めた。
ピキピキと合唱をやり出したのに驚いて小屋の暖簾をめくると、何かが走ってくるのが三人の目に映った。


魔法使い「……なに?」

竜魔物「人間っすね。先頭に二人、その奥にもいるっす」

側近「いよいよ、ここにも敵が来たみたいね」

魔法使い「……しょうがないわね」



429: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:22:06.91 ID:JCs4RTDJo

その、先頭に走っている二人は。


遊び人「はあっ、はあっ、隠れるとこ、ないですね!」

盗賊「もう、だから、森か、城で、やりすごそうって……!」

遊び人「あ、あそこ、目の前、スライム、がっ!?」

盗賊「なんなの、よっ、もう、逃げ場、ない、じゃないっ!」


追撃隊長「逃がすな! 追え!」


盗賊「あ、あ、スライム、のっ、真ん中、誰か、いるっ!」

遊び人「い、いちお、助け、呼びましょ、はっ、はっ」

盗賊「おー――いっ!」

遊び人「たすけてぇえええええっ!」


だが、手を振って助けを求めた二人は、その姿がはっきりしてくると、ぎょっとした。

一人は、おそらく人間。
しかしもう二つの影は、つやつやとした鱗を持つ者と、青い肌にこうもりのような羽を生やしている者だったからだ。



430: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:24:13.57 ID:JCs4RTDJo

魔法使い「逃げる二人と、追う部隊か。どうやら私たちが目当てじゃないみたいよ?」

竜魔物「……そのようだな」

側近「なんだ、つまんないの」

魔法使い「とりあえず吹き飛ばすか」

竜魔物「ふ、吹き飛ばすのか?」

魔法使い「冗談よ」


そう言って、魔法使いはスライムの集団から抜け出た。
とんとん、と地面を杖で叩くと、がごぉっと勢いよく、埋まっていた柵が立ち上がる。

ちょうど、逃げる二人が隙間を縫ってゴールする。


竜魔物「こんなものを……それで小屋はボロかったのか?」

魔法使い「用心にね。言い忘れてたけど、私に下手に襲い掛かると、周辺一帯、爆発するからね?」

側近「危ないわよ!」

魔法使い「魔力の節約のためよ。魔法使いにとっては、魔力切れが一番怖いんだから、あんたも気をつけなさい」

側近「そ、そっか。そうよねー」



431: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:25:02.36 ID:JCs4RTDJo

盗賊「はあ、はあ、はあ」

遊び人「ひい、ふう、ふう」

魔法使い「息が上がってるところ申し訳ないけど、命乞いしてもらうわ」

竜魔物「……そこは説明ではないのか」

魔法使い「私が認めるなら助けてあげる、救う価値がないなら放り出す」

盗賊「こ、この、あんた、ま、まほ」

遊び人「ま、魔法使い、さん、ですね、ぼ、僕ら、探検隊の」

魔法使い「探検隊? ああ、そういえば、どこかで見覚えがあると思ったら……」


追撃隊長「おい、貴様ら! なんだこの柵は、そこの二人を引き渡せ!」

魔法使い「最初から高圧的。マイナス十点」



432: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:25:46.21 ID:JCs4RTDJo

追撃隊長「そいつらは、我が隊から重要なものを盗み出した、犯罪者なのだ!」

魔法使い「そうなの?」

盗賊「はぁ、はぁ」ブンブン

遊び人「ふう、ふう」ブンブン

魔法使い「違うって」

追撃隊長「事実だろうがー! そこは明らかに事実だろうがー!」

魔法使い「何を盗んだわけ?」

追撃隊長「それは、貴様に言う必要はない!」

魔法使い「重ね重ねの無礼な態度、マイナス三十点」

盗賊「私らは、別に、最初は、返す、つもりで」

遊び人「とにかく、これです、読めば、分かります」サッ

魔法使い「何コレ……」

追撃隊長「あ、貴様ッ!」



433: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:26:26.39 ID:JCs4RTDJo

魔法使い「ふむ。探検隊の計画書か」

追撃隊長「もはや、容赦はできん! 見れば魔物も従えた魔女! 全員、柵を倒す準備にかかれっ!」

側近「従ってないけど?」

竜魔物「……そっすねー」

魔法使い「いや、別にいいわ。読んだし、返す」ぽいっ

盗・遊『はっ!?』

追撃隊長「な、なんだと……」

魔法使い「返したから、いいでしょ。正直、相手をしている暇がないの」

追撃隊長「……い、いや、生かすなという命令だ、魔物もいるなら不足はない!」

魔法使い「……」

追撃隊長「大体、貴様のようなチビが、でかい口を叩いて……!」

魔法使い「マイナス二十点。いくら不遜な態度を取られたからと言って、冷静にもなれずに暴言」


魔法使いが柵を杖で叩く。

取り外しにかかっていた隊員たちが、柵の隙間からころころと何か転がってくるのに気づく。
一人があっと声を上げた。

―――爆弾石!



434: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:27:19.55 ID:JCs4RTDJo

隊員1「うわああああ!」

隊員2「にげ、逃げろおおおお!」

追撃隊長「ば、馬鹿、逃げるな!」

魔法使い「踏んだりして、ショックを与えすぎると、爆発するわよー」

追撃隊長「き、貴様っ!」

魔法使い「状況を見極められない。マイナス五十点。さあ、燃えろ」


魔法使いが手のひら大の火球を柵の向こうに投げつける。

瞬間、盛大に花火が上がった。



435: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:28:10.02 ID:JCs4RTDJo

爆発、爆発、爆発が連鎖する。

追撃隊の何人かが吹き飛ばされていく。
ついでに、周りにいたスライムたちも、何匹かが吹っ飛んでいく。
あわててプルプルと避難するスライムたち、そして、追撃隊も逆方向へ避難する。

味方をなんとか救い出しながら、人間どもが脱出していく。
元来た道を、罵声を叫ぶ暇もなく、隊長も逆戻りしていく。

それを見送りながら、盗賊が叫んだ。


盗賊「あ、あんた、計画書も吹っ飛ばしてるじゃないのよおおおおっ!」



436: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:29:49.00 ID:JCs4RTDJo

遊び人「ま、魔法使いさん、お久しぶりです。ほら、砂漠の町にいた」

魔法使い「あー、勇者と飲んでた芸人さん。お久しぶり」

盗賊「何を再会を喜び合ってるのよっ! 吹っ飛ばす必要性なかったでしょっ!?」

魔法使い「あれ、いらない魔法書」

盗賊「はあ!?」

遊び人「だろうと思いました」

魔法使い「一応、相手の反応が見たくてね、その場ですり替えちゃった」

盗賊「だからって……もう!」

魔法使い「頭を使いなさいよ、誰が素直に行動してやる必要があるって言うの」

盗賊「やっぱり、あんたは変わらないわ……」



437: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:30:24.54 ID:JCs4RTDJo

遊び人「そ、それで、その隣にいるのは……」

魔法使い「友達よ」

盗賊「嘘つきなさいよ!」

魔法使い「いや、これから交渉するところだったのよ、お友達になりましょうってね」


側近「……見分けつく? 竜」

竜魔物「ぎりぎり……♀っすよね? 全員」


魔法使い「で、あんたたちは何で探検隊を逃げ出してきたわけ?」

遊び人「そ、その計画書がね、気になってまして」

盗賊「そうなの、あのね、魔王の復活が目論まれていたらしいのよ!」

魔・側・竜『!』

遊び人「盗賊さん!」

盗賊「ご、ごめん、つい……」



438: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:31:14.94 ID:JCs4RTDJo

魔法使い「なるほど……魔王が復活すれば、人間同士が争っている現在、魔物にとっては大チャンスが発生するわね」

魔法使い「理由の3は、これを狙ってのことだったか」

側近「魔王様の復活? そんなこと、ありうるわけ?」

竜魔物「……」

盗賊「ど、どうしよう……」

遊び人「……とにかく、計画書を見てください」

魔法使い「ふむ……」

側近「……」

竜魔物「……」

魔法使い「あんたたちも見る?」

側近「え、いいの? マジで?」

魔法使い「もし、魔王が復活できたら、どうする?」

側近「そうね……」



439: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/11(土) 21:33:14.63 ID:JCs4RTDJo

魔法使い「私は、恨みっこなしでいいわ。最終的に相容れないなら、それでも構わない」

側近「う、うん」

竜魔物「……良いのか。人間の未来を左右するのではないのか」

魔法使い「あんたたちの将来もかかってるんでしょ」

盗賊「ま、魔法使い……」

遊び人「よく分かりませんが、彼らと取引しているんですね?」

魔法使い「そういうこと。まあ、見てみましょう」

側近「じゃあ、見せてもらうわ……」

竜魔物「……難しいっすね。私には読めない」


―――そして、彼らはある結論に達する。



464: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 21:34:43.72 ID:VPuhrSuxo

戦士の村。

戦士「……なに、もう脱出した?」

弟子A「ええ、まあ。なんていうか、包囲が隙だらけだからっつって、女商人さんが」

戦士「まあ、軍隊として攻めるなんてほとんど初めてだろうからなぁ」

弟子B「……兵隊ってのは素人なんすかね」

戦士「無理もないだろう。冒険者がいるから、兵士は守るだけでよかったんだ」

弟子A「大所帯はまだです、あの、子どもたちが」

戦士「ああ、さすがに大人数は難しいだろう」

弟子C「……師匠、準備できました」

弟子D「ほんじゃ、俺ら、子ども連れて行きますんで」

戦士「おう、よろしく頼む」

弟子A「師匠! 兵隊が呼んでますよ!」

戦士「さて、行くか」



465: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 21:35:14.24 ID:VPuhrSuxo

村の門前には、詰め掛けた兵士たちがざわざわとしゃべっていた。

そこへ、戦士がゆっくりと進み出てくる。
兜に胸部全面を覆う鎧、膝や足首もがっちりと具足で固められている。
背中に二つの戦斧をくくりつけて、完全武装の態で歩いてくる。

ざわめきが大きくなる。

戦士は改めて軍容を眺めた。

なるほど、整列もなっていない。
村を蹂躙するには足るかもしれないが、これなら逃げるチャンスはいくらでもありそうだ。

戦士はがしゃん、と背中の戦斧を一つ降ろし、それを地面に突き立てて直立した。
相手の出方を待つ。

やがて、兵士が一人、兵の群れをかきわけて進み出てきた。


兵士「戦士殿ですか!?」

戦士(声がでけー)



466: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 21:35:35.77 ID:VPuhrSuxo

戦士「そうだ」

兵士「兵士長が会談を希望です! こちらへお出でください!」

戦士「この場で結構。要求を聞こう」

兵士「な、な、なにを」

戦士「だから、この場でいいから。どうしてほしいのか、言えってんだよ」

兵士「え、えー、あー……聞いてきます!」ダッ


弟子A「……なんすか、あれ」

戦士「交渉の仕方も分からないんだよ」

弟子B「師匠、あれ、近くまで運んでおきましたから」

戦士「ありがとう」



467: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 21:36:20.78 ID:VPuhrSuxo

兵士が戻ってくる。


兵士「……お待たせしましたっ! まず武装を、解除してください!」

戦士「断る。理由なく武装した連中に囲まれて、そんなことに従う義理がない」

兵士「あ、あなたは、南国の国民です……よ?」

戦士「その前に、この村の代表としてこの場にいる。撤兵して、安全な会談場所を設けるのでなければ従わない」

兵士「そ、そんな……!」

戦士「別に俺はやり合うのでも構わない。せめて目的を言え」

兵士「わ、我々は、戦士殿を迎え入れようと……」

戦士「そのために軍隊を差し向ける必要はないだろう」

兵士「そ、それは……」

戦士「勇者の一味を拘束しに来たってことか?」

兵士「そんなつもりは」

戦士「ふざけるのもいい加減にしろッ!」



468: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 21:37:02.93 ID:VPuhrSuxo

戦士「やましいところがないというなら、なぜ最初から軍隊で取り囲んだ」

兵士「あ、え、う」

戦士「俺はこの村で農業をやっている、お城とも取引がある」

戦士「勇者たちも、誤った事はしていない」

戦士「それなのに、なぜウソをつく!」

兵士「ゆ、勇者は……」

戦士「あ?」

兵士「勇者一味は、北国で反乱を起こしていると」

戦士「元々、孤児院に攻撃を仕掛けたのはあの国だ。自分の身を守るのは当たり前だろうが」

兵士「し、しかし……」

戦士「……大体、他所の国とこの国と何の関係がある?」

兵士「北国と南国は同盟関係にあり……」

戦士「だから俺を拘束する? そりゃとんだ内政干渉だ!」



469: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 21:37:32.96 ID:VPuhrSuxo

兵士「し、しかしですね」

戦士「もういい。軍を退け、会談場所をつくれ。せめて最低限の手順を踏んでからにしろ」

兵士「……」

戦士「いいから伝えて来い!」

兵士「は……はい!」ダダッ


弟子A「いいんですかい?」

戦士「構わん……ガキどもの準備は出来てるな?」

弟子B「大丈夫みたいっすよ」

戦士「じゃあまだ引き伸ばせそうだから、もう、海経由の進路を取って脱出するよう言ってくれ」

弟子B「了解しやした」



470: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 21:38:05.97 ID:VPuhrSuxo

弟子A「ん……?」

戦士「どうした?」

弟子A「動きがあるみたいですね」

戦士「司令官が動いてるのかな」

弟子A「いや、なんつーか、こりゃ」


弟子が言わないうちに、戦士も察しがついた。
まず臭いがしたからだ。一瞬、まさか、と思ったが、遠くで赤く光るのを見て、確信した。

火矢だ。

相手は、最初から交渉する気などなかったらしい。
そのまま、辺鄙な村を焼け落とすつもりで、やってきたのだ。
勇者の一味を、村ごと潰すために。

戦士は顔を赤くして怒鳴った。


戦士「盾を用意しろ!」



471: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 21:38:38.32 ID:VPuhrSuxo

弟子が戦士の叫びに応え、盾を構えて列を作った。
いくら相手が整列も出来ぬ相手とはいえ、多勢に無勢は戦士も知っている。

ならば、どうするか。


戦士「いいか、俺が大将をつぶす! 盾があるやつは村を守れ!」

弟子たち『応!』

戦士「持ってねぇやつは、俺に続けッ!」

弟子たち『応! 応! 応!!』


―――速攻で、頭をひねり潰す。



472: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 21:39:36.78 ID:VPuhrSuxo

戦士は命令を飛ばしたにも関わらず、戦斧を背負いなおすと、一度、村の入り口に走って戻った。
そこには戦士の長身の、さらに三倍にもなる、巨大な斧が突き立っていた。

弟子たちに用意させていたのはそれだ。

この巨斧は神事に使われるものであって、本来、実用に使えるものではない。
弟子たちも、これを運ばされた時、まあ、村の守護を意味するものだから、程度にしか考えていなかった。

……戦士も、「使った」ことがあるのは数回ほどだ。
だが、大軍を前にして、短い時間で決着をつけるなら、やはりこれしかあるまい。
戦士は、斧の柄に手をかけた。


弟子A「し、師匠!? それ、使うんですかっ」

戦士「……すーっ、はーっ」


息を吸う。
息を吐く。



473: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 21:40:13.79 ID:VPuhrSuxo

ちょうど、大地にどっしりと根を下ろした大木のイメージ。
それを両腕で抱え込むようにして力を込める。
前に「使った」時は、魔法使い(そのときは賢者)に腕力を増強してもらって振るったものだが、今度はそういう訳にもいかない。

後ろで兵隊たちも動き始めた。
弟子たちが盾を持って、それを防ぎにかかる。

戦士は全身に力を込めて、地面に突き立った斧を抜き始めた。

地響きのような音がする。
ゴゴゴ、という音が、戦場の叫び声に混じって聞こえてくる。
巨大なシルエットが、村の入り口で膨れ上がってくる。

ぐるり、と戦士は敵軍に振り向いた。

腹に柄を当てた、旗を持つような姿勢から、ゆっくりと上段に振りかぶる。

そして、戦士は、敵軍に一歩を踏み出した。



474: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 21:40:43.23 ID:VPuhrSuxo

ずしぃぃん――ずしぃぃぃん―――


まるで巨人が近づいてくるかのような、大きな足音。


ずしぃん――ずしぃぃん―――


振りかぶられた斧は、すでに武器というよりは断崖に近かった。
なにしろ、それを見上げると、太陽さえ隠されてしまうのだから。


ずしん――ずしいいん―――


そして、人に迫るその速度が、次第に速まってくる。
そうだろう、そんな巨大な斧を振りかぶれば、重みで速度を増すのは必定だ。

巨斧から、声が放たれる。


戦士「死にたくなければ、大将まで道をあけろッ!!」



475: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 21:41:27.04 ID:VPuhrSuxo

人垣が割れた。


ずしん、ずしん、ずしん―――


うわあああああああ!

ひぃいいっ、ひいいいいいい


二つに割れた悲鳴の間を、さらに速度を増した巨斧が通り抜ける。
弟子たちがその後ろに続く、火矢を準備している者たちの油壺を壊し、なお、抵抗するものをなぎ倒す。
人垣は、もはや逃げるどころか、横倒しになって踏み潰される者まで出てきた。

割れた道の先に、陣取っていた兵士長の姿が見えた。
うろたえながら逃げ場を探すが、部下たちに押しとどめられて、あるいは渋滞して、動けない。

待て、と言おうとしたのか、兵士長は制止の素振りを見せた。

だが、遅い。

地面に巨大な斧が、叩きつけられた!



476: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 21:42:37.00 ID:VPuhrSuxo

ずどぉぉおんっ、という轟音。

そして、砂埃。
それに紛れて、戦士は即座に巨斧から手を離し、その先端に走った。
大地を割ったにも関わらず、戦士は自分のコントロールがうまくいったことを確信していた。

そう、兵士長には当てていない。気絶しているだけだ、と。

戦士は背中の戦斧を取り外し、彼の首を引っつかむと、そのまま突きたてた。
煙が次第に収まっていく。
悲鳴も、怒号も、あまりの衝撃にかき消されたようだ。

戦士が叫んだ。


戦士「貴様らの大将は俺が確保した! 全員、武器を捨てろ―――ッ!」



477: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 21:43:32.32 ID:VPuhrSuxo

兵士「ひうっ……」

戦士「……おう、さっきのガキか」

兵士「あ、あ、あなたは、その、あなたはっ」

戦士「武器を捨てろ」

兵士「ひっ、はいっ」ガチャン

戦士「よし、いいか。お前が責任を持って、村から軍を引き離せ」

兵士「わ、私はぁ」

戦士「いいから早くしろ。別に俺はお前らの命がどっちに転んでも構わんのだ」

兵士「わ、分かりましたっ」ダダッ


弟子A「師匠ー、とりあえず、十人ほどぶん殴りましたよーっ」

戦士「よーし、分かった! 今から大将を渡すから、縛り上げといてくれ!」

弟子B「了解しましたーっ」



478: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 21:45:12.00 ID:VPuhrSuxo

戦士「それにしても、ひでぇ様だな。まあ、俺がやったんだが」

弟子B「一目散で逃げていきますね」

弟子A「……師匠」

戦士「ああ?」

弟子A「なんか、妙なもんがいるような気が……」


戦士は、弟子に言われて目を凝らした。
確かに、何かがいる。村から離れていく軍勢の影に、青白い炎が見える。


戦士「……魔物だな」

弟子B「兵隊が足りないからって、魔物も採用したってわけっすか」

弟子A「南のお城は人減らししたんだろ? その代わりに魔物ってのも笑えねぇ」

戦士「確かに笑えないな」

戦士(軍とともに逃げていく、ということは、あれは確かに南国から来たのか)


戦士は舌打ちをした。まだまだ、損な役回りは続きそうだった。



479: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 22:14:20.15 ID:VPuhrSuxo

北国、森のアジト。

勇者「うーん」

僧侶「どうなさったのですか、勇者様」

勇者「いや、結局、俺ってちゃんと仕事してるのかなーって」

僧侶「そ、そういえば……あ、孤児院の土地は」

勇者「それは見つけたよ!」

僧侶「ありがとうございます! でも、その、今すぐ報酬をお支払いするというわけにも……」

勇者「まあ、状況が状況だからねー。でも、踏み倒しちゃ駄目だぜ」

僧侶「そうですわね」

貴族「何を言っておられるのですか、勇者殿」

勇者「なんだよ」

貴族「かつての仲間をお助けしたのに、報酬などせびるとは!」

勇者「めんどくせーな、あんた」



480: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 22:14:50.60 ID:VPuhrSuxo

勇者「大体、ちゃんと契約を交わしているんだから、いいんだよ」

貴族「嘆かわしい、勇者とあろう御方が」

勇者「てめぇ、都合のいい時だけ勇者扱いしやがって」

貴族「何をおっしゃいますか。この手助けも、無報酬でやっていただきたいと思っているだけで」

勇者「はぁあ!?」

僧侶「ま、まあまあ。別に勇者様も、この件については頼まれてしたことではありませんし」

勇者「……そうだな」

貴族(ナイスです、僧侶さん!)

勇者「じゃあこれのお礼は、今度町をつくるから、そこと年契約で商品買うってのはどうだ」

貴族「な、何をおっしゃる」

勇者「孤児院の子どもがたくさん商品を作る予定だから」

僧侶「それはステキですわね!」

貴族「そ、僧侶さん!?」

勇者「契約書つくっとこ」

貴族「ちょっと待て! 誰が承知するか、そんなもの」



481: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 22:15:28.53 ID:VPuhrSuxo

勇者「だって、魔法使いがピンチはチャンスにしろって」

貴族「貴様、都合の良い時だけ魔法使い殿の言葉を使うな!」

勇者「お前、俺が勇者だけでちやほやされた時代はもう終わったんだよ」

貴族「やかましい! 大体、金の話の前に、今後の計画だ!」

僧侶「そ、そうですわね」

勇者「しかしなあ。実際、兵力ではもう負けたも同然だろ」

貴族「そのようなこと……!」

僧侶「確かに、私たちを支持してくださる方も減りましたし……」

勇者「あーあ、勇者効果も数ヶ月か。みんなこき下ろすのだけは早いんだから」

貴族「待たれよ! 何か、何か方策があるはず……!」



482: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 22:16:04.12 ID:VPuhrSuxo

見張り兵「――貴族殿!」

貴族「な、なんだ」

見張り兵「なにやら、怪しいやつがうろついておりまして」

貴族「……このアジトを知られるわけにはいかん。申し訳ないが」

見張り兵「い、いえ、『僧侶を出せ』と騒ぎ立てているものですから」

僧侶「わ、私ですか?」

見張り兵「は、はあ。『僧侶に会えば分かる』と、言うものですから」

僧侶「そ、その、どうしましょうか」

勇者「まあ、会ってやれば? 不審なやつなら、俺が叩き切る」

貴族「……完全に危険人物だな」



483: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 22:16:34.73 ID:VPuhrSuxo

アジトの前。

商人「離せ! 苦しい!」

貴族兵「何を言っているんだ! 武器を大量に抱えて怪しくないとでも言うつもりか!」

商人「違う! 俺は味方なの!」

僧侶「あのう……」

貴族兵「はっ、僧侶殿!」

僧侶「私に御用があるという方は、その……」

商人「あ、俺です、俺俺!」

勇者「軽いやつだな」

貴族「……貴様と変わらん」

僧侶「お話できませんから、離してあげてください」

貴族兵「は、しかし」

貴族「よい。万一があれば、勇者殿が切り殺してくださるそうだ」

商人「お……おいっ!」



484: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 22:17:04.02 ID:VPuhrSuxo

商人「ひでぇ目にあったぜ」

僧侶「失礼ですが、どちら様ですか? 私とは面識は……」

商人「いえ、あります! 面識!」

勇者「お城の門番じゃん。南国の」

商人「あ、そうそう、そうなんっすよ!」

僧侶「お城の門番の方は、このような方だったか……」

勇者「いや、裏門の方だよ。鍵がどうとか、世間がどうとか言ってた」

商人「うおお、俺を知ってる人がいるとは、ついてる!」

勇者「……お前は俺を知らないのか?」

商人「……誰?」

勇者「勇者だよ! あーもう、やっぱりこいつ叩き切ろうぜ」

商人「わー、ちょっと待って、今のなし!」

勇者「なんで、世界で一番有名な男の顔を、みんな知らないんだよぉ!」



485: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 22:17:36.84 ID:VPuhrSuxo

勇者「……で、門番が何の用なんだよ」

商人「ちょーっと待った! 俺はもう、門番は首になったの」

僧侶「そ、そうですか」(視線そらす)

勇者「かわいそうにな。俺と同じ無職か」

商人「何言ってんの!? フリーの商人になったってことだよ!」

勇者「ああ、そう」

商人「勇者のくせに、冷たいなー、あんた」

勇者「そりゃ、知らない人から『勇者ですか? サインください』とか言われるのも面倒だけど、何でみんな知らないかね」

商人「だって、なかなか会う機会がないしさ」

勇者「……俺は覚えてたのに」

貴族「まあ、どうでも良いではありませんか」

勇者「お前も初めて会った時、疑ってたよな」

貴族「記憶にありませんな」

勇者「おい、てめー!」



486: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 22:18:12.46 ID:VPuhrSuxo

勇者「……で、早く用件を言ってくれよ」

商人「え、あ、はい。実はその、女商人から手紙を預かっておりまして……」ゴソゴソ

僧侶「まあ、女商人さんから!」

貴族「どなたですか」

僧侶「かつて、魔王討伐の一時期、私たちと共に戦った仲間です」

勇者「お、女商人か……」

商人「これっす! 魔法使いからの手紙もありますけど」

僧侶「ああ、彼女の字だわ、丁寧な」カサカサ

商人「勇者にも会えるとは思ってなかったので、そっちは持ってないんすけど」

勇者「い、いいよ。女商人からなんて」

商人「……あれ~? かつての仲間じゃないんすか」

勇者「う、うるせぇ。あいつは俺を嫌ってるから、いいんだよ」



487: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 22:18:42.42 ID:VPuhrSuxo

商人「ま、それはそれとして」がっちゃん

貴族「その、武器の山は?」

商人「もちろん、商人が武器を抱えてやってきたとなれば、これは商売しかないっすよ!」

貴族「……まさか、そのためにここまで来たのか?」

商人「女商人から、ここの場所も聞いてきたんでね」

貴族「な、なぜこの場所がばれているのだ!」

商人「離反した同志もいたでしょ~? 詰めが甘い反乱だって、女商人が言ってましたよ」

貴族「ぬ、ぬう……」

勇者「ああ、女商人は冷たいやつだからな」

商人「とにかく、格安で前払い! 反乱が成功したら、残りを頂きましょう!」

貴族「足元を見おって! 誰がそんなものを欲しがるか」



488: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/13(月) 22:22:18.54 ID:VPuhrSuxo

勇者「まあ、待て。貴族」

貴族「ゆ、勇者殿」

勇者「まず、アジトの場所が知られてるってことは、敵方にも知られているってわけだ」

貴族「ぬう……」

勇者「で、それにも関わらず武器を持ってきたってことは、女商人はそれでも勝算を見込んでいるってわけだな」

商人「……その通りっすよ、だんな」

貴族「勝算と言われても……兵をかなり失い、魔物まで出てきたんですぞ!?」

勇者「そうだな、まず武器を買う前に情報を買おう」

商人「よ、よく分かりましたね、俺が情報を持ってるって」

勇者「女商人にも言われてたからな、『頭悪い人は嫌いです』って」



499: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:03:07.92 ID:0z7jsROlo

貴族「しかし、いまさらどのような情報があろうと……」

勇者「そりゃ、分からんよ。で、お前が持ってる情報はなんだ?」

商人「へへ、まずは僧侶さんに渡した手紙っす」

貴族「……ずいぶん、熱心に読まれておりますな」

勇者「それで、他には?」

商人「新聞を持ってきました。南国、東国、北国の全部です」どさっ

勇者「よし、これはいくらだ?」

商人「ま、まけておきますよ」

勇者「ありがとうよ」

貴族「新聞……ですか」

勇者「そうだ。まあ、全体の戦況を把握するにはよかろうさ」

貴族「暢気なことを」

勇者「そうか? おー、『南国も行動、国内の勇者一味に対して』。戦士のことかな」



500: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:03:40.47 ID:0z7jsROlo

貴族「ぬ、ぬう……『北国の反乱、テロリストを鎮圧間近』!? ふざけおって!」グググ

商人「あーちょっと! 破かないでくださいっすよ!」

勇者「ふむ。『勇者が魔物と手を結んだ? かつての英雄の面影なし』」

商人「滑稽でしょ?」

勇者「いや、実際、西の方じゃ魔物と条約結んだしなぁ」

商人「え、マジなんすか?」

勇者「つっても、これはその辺りを書いたわけでもなさそうだな。ただの中傷記事だ」

商人「つまり、勇者のイメージを落とす作戦っすかね」

勇者「だろうな。でも、実際のところ離反者も多いんだろ? 効いてる効いてる」

貴族「笑い事ではありませんぞ!」

勇者「別に笑ってねぇよ」



501: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:04:41.60 ID:0z7jsROlo

貴族「そういえば……ゆ、勇者殿は、魔物と手を結ばれたのですか」

勇者「ああ、その話? 魔王がいないなら、戦う理由もないって相手が言うからさ」

貴族「し、しかし、あの虎はこちらに戦いを挑んできましたぞ!」

勇者「それもそうだ。なんで、あの虎は戦いを挑んできたんだろうな?」

貴族「それは……魔物は人を襲う性質だからでしょう」

勇者「それなら、俺が魔物と不可侵条約を結べたわけがないだろ」

商人「なんすか、それ」

勇者「あー、お互いに手を出し合うのはやめようって約束だ」

商人「へぇ。魔物にも知恵が回るやつがいるんすね」

勇者「知恵が回る、ねぇ?」

貴族「……大体、魔物は生来凶暴な性質を持つとよく知られています」

勇者「そうでもないんじゃねぇか」



502: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:05:30.75 ID:0z7jsROlo

勇者「そのー、俺が会ったのは竜の魔物だったな」

商人「はあ」

勇者「そいつが言うことには、魔物は人を一人襲うごとに、給料が入ると」

商人「歩合制っすか」

勇者「うん、確かにそう言ってた。だから人を襲っていたと」

商人「……仕事だから人を襲うってのも、嫌な話っすね」

貴族「そんなばかな話があるか!」

勇者「だって、魔物自身が言ってたんだもの」

商人「他に何か言ってました?」

勇者「後は、そうだな、魔界に戻れなかったら、いくらここで成績を上げてもなーとか、顔より年収とか言ってたぜ」

商人「ダメな勤め人かよ……」



503: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:06:03.88 ID:0z7jsROlo

貴族「ならば、あの虎の魔物はなんだというのです」

商人「虎の魔物ってのは?」

勇者「なんか北の軍から逃げる途中で、僧侶さんを襲っててよ。そこそこ強かったぜ。ま、俺が追い払ったんだけど」

貴族「つまり、襲ってきたわけでしょう!」

勇者「あいつ、なんか言ってたっけ?」

貴族「……確か、勇者殿の仲間を探していました」

勇者「ふーん」

商人「それって、あれっすね。なんか、北国を手助けしているみたいな」

貴族「……もしや」

勇者「なるほど」

商人「え、え?」



504: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:06:37.20 ID:0z7jsROlo

勇者「つまり、北国は魔物を雇ったわけだな」

貴族「ど、どうしてそうなるのです! 魔物に支配されていると考えるのが筋でしょう!」

商人「……いや、どっちでもよくないっすか?」

勇者「そうだな。どちらにしても、魔物と北国が何かつながってることはありうるわけだ」

商人「仕事でやってるってことっすか」

貴族「くそっ! 王軍に魔物も加わっては、もう勝ち目がないぞ!」

僧侶「……勇者様、貴族様」

勇者「おお、僧侶さん。何か分かった?」

僧侶「ええ。まず、魔法使いさんの方ですが……」

勇者「なんて書いてあった?」

僧侶「それがですね……」



505: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:07:05.06 ID:0z7jsROlo

魔法使い『僧侶へ。おそらく、このままではあんたたちは負ける』

魔法使い『孤児院の襲撃を大々的に報道してもらって、北国を不利に追いやるはずだったのに、効いていない』

魔法使い『それどころか東国まで介入してきた。あそこには教会があり、そこから孤児院に支援も出ていたはず』

魔法使い『それを振り切ったということは、相当な力関係が働いているということ』

魔法使い『私の推測だけど、これは北国の方で何か裏があるとしか思えない』

魔法使い『私はこれから、魔物の残党の線で当たるけれど、新聞などの情報発信の部分が握られている可能性がある』

魔法使い『マイナスイメージが流されては、下手を打てば日に日に悪くなるばかり』

魔法使い『だから、この際、北国の国王を暗殺するくらいしかない』

魔法使い『あなたは嫌でしょうけど、正々堂々はもう無理に近い』

魔法使い『一応、使えそうな人間に当たってみるけど、考えておくこと』



506: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:09:10.02 ID:0z7jsROlo

一同『……』

勇者「要するに、正面からじゃなくて、暗殺しろってことだよな」

商人「ドン引きだよ!」

貴族「承服しかねる!」

僧侶「でも、確かに私たちは追い詰められています」

勇者「ま、まあな~、いくら俺でも、東国も含めれば数千人の兵隊だしな~」

貴族「完全にテロを推奨しているではないか!」

勇者「まあまあ。でも、俺らが魔王城を攻めたやり口も、言っちまえばテロだったしな」

僧侶「神の裁きですよ!」

商人「そ、そうっすか」

勇者「で、で、女商人からも、来てるんだろ?」

僧侶「はい。こちらが、女商人さんからの、手紙です」



507: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:09:58.41 ID:0z7jsROlo

女商人『手短に。南国も動き出しました。勇者一行を相手に、このような動きは異常です』

女商人『おそらく、魔王を倒した数ヶ月の間に、勇者を排除する動きが作られたのでは』

女商人『戦後処理のための三国会談の参加者は、北国の国王、東国の王子、南国の大臣』

女商人『現在、積極的に動いている連中と一致します』

女商人『それでも勇者を排除することを可能にするためには、武力が必要』

女商人『つまり、それが魔物ではないかと思います』


貴族「魔王を倒した勇者殿を、魔物の力で追い払うなどと……!」

勇者「やっぱりな」

商人「やっぱりって、あんた」

勇者「でも、これってさ、魔物と手を組んだから、遠慮なく滅ぼしてくれってことじゃね?」

僧侶「そうなりますね」

貴族「そ、僧侶さん?」



508: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:10:34.72 ID:0z7jsROlo

女商人『北国のお城へ行く、裏のルートを記します。これは敵方にもあまり知られていないでしょう』

女商人『私も、魔法使いと同じように、北の城を直接攻撃することをオススメします』


商人「あー、この人もテロ推奨だよ」

貴族「ど、どいつもこいつも……!」

勇者「まあ待てよ、貴族」

商人「何か秘策でもあるんすか?」

勇者「元からお城に近づくつもりだったんだろ、それは間違ってないじゃねーか」

貴族「それは、確かに……」

勇者「その後、どうするつもりだったんだ?」

貴族「そ、それは、国王に不正義を認めさせ、退位していただくと」

商人「ふわっとしてんなー」

貴族「黙れ! では、他にどんな策があるというのだ」



509: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:11:40.84 ID:0z7jsROlo

勇者「……」

僧侶「魔法使いさんなら、なんて考えるでしょうか……」

勇者「……これはチャンスだって言うだろうな」

貴族「ど、どこがチャンスだと言うのだ」

勇者「要するに、頭を使えってことだよ。北国と魔物は手を組んでいる」

僧侶「そうですわね」

勇者「だったら、お城に行く裏ルートで全速力で近づけば、どこかで魔物に出くわすわけだ」

僧侶「はい」

勇者「じゃあ、魔物に会ったらそいつを倒して……」

勇者「その魔物と北国がつながっていたことを大宣伝する、ってのはどうだ」

貴族「!」

商人「なるほど、自分が魔物と組んでたなら、正当性もないっすからね」

貴族「し、しかし、国王が認めるかどうか……」

勇者「それこそ、そのくらい認めさせなければ、退位なんか無理だろ?」

貴族「……」



510: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:12:21.92 ID:0z7jsROlo

商人「でも、倒すっていうけど、もし魔物に会えなかったらどうするんすか」

勇者「そんときゃ、王殺しでも何でもやればいいさ」

商人「バイオレンスだなぁ」

貴族「……」

僧侶「貴族様、ご決断ください」

貴族「む、うむ」

勇者「国を変えるのに、英雄はいらんって言ったよな、お前」

貴族「そうだ……」

勇者「英雄として言わせてもらうが、英雄なんか利用すればいいんだよ」

貴族「……」

勇者「どうせ、その後の『長い政治の戦い』をやるのはお前だ」

貴族「……分かった」



511: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:15:20.08 ID:0z7jsROlo

商人「よっしゃ! そうと決まれば、後は武器を売って、俺は帰りますよ」

勇者「は? 帰る?」

商人「な、なんで不思議そうに聞くんだよ」

勇者「いや、ここから無事に帰れるわけがないだろ」

貴族「その通りだ。アジトの場所は知られているんだぞ?」

勇者「出て行ったら、途中でとっ捕まるな」

商人「で、でも、俺はなんか分かったら、情報を持ってこいって女商人に言われてるんすよ」

勇者「完全に使いっ走りじゃねぇか……」

商人「か、帰るまでが修行の一環ってなわけでさ」

僧侶「……商人様、今は一人でも力がほしいのです」

僧侶「ぜひとも、力をお貸しいただけないでしょうか」

商人「そ、それは……」

勇者「まあ、どの道このクーデターが成功しなけりゃ、殺されるんだ」

貴族「あきらめるがよい」

商人「うおおお!? いつの間に道を誤ったー!」

勇者(どう考えても最初から女商人の生贄ルートだったろ……)



512: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:16:24.20 ID:0z7jsROlo

―――海上。

男子1「海だー!」

女子1「うーみ、うーみっ」

男子2「うええっっぷ」

女子2「大丈夫?」

少女「水着、持ってくれば良かったかな」

武闘家「やれやれ、そんな暇はありませんよ」

弟子C「……大丈夫だ。順調に、進んでいる」

弟子D「船を操るのは初めてだが、まあ、なんとかなるんでは?」

スラ「ぴきーっ!」 ぴょいん

少女「うんうん、スラちゃんもいるしね」

武闘家「はあ……まったく、あの人が頼む仕事は面倒ばかりなんだから」



513: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:16:54.71 ID:0z7jsROlo

少女「あの人って、あのおばさんのこと?」

武闘家「お、おばさん? いやほら、魔法使いさんですよ」

少女「ふーん、私、あのおばさん、嫌い」

武闘家「ま、まあまあ。魔法使いさんは僕より年下ですし」

少女「じゃあ、あんたはおじさん?」

武闘家「あ、あのですね……」

弟子C「……生意気盛りの年頃だ」

弟子D「容赦なく大人をけなすのは子どもの特権みたいなもんでしょ」

少女「むー、生意気とかじゃないもん!」

スラ「ぴっぴーっ」

武闘家「あははは……」



514: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:17:27.72 ID:0z7jsROlo

弟子C「……おい、武闘家」

弟子D「ちょっと気になるんですがね」

武闘家「な、なんでしょうか」

弟子C「……この辺は、船の行き来はあるのか」

弟子D「要するに、航路になってるかどうかってことっす」

武闘家「いえ、西の方角は魔王の居城があった方角ですから、まだまだ開拓されてないはずです」

弟子C「……なるほど」

弟子D「そりゃまずいっすね」

武闘家「な、なんですか?」

弟子C「……右方、船影が」

弟子D「しかもこっちに向かってきてるし」

武闘家「う、うわわ」



515: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:17:51.23 ID:0z7jsROlo

武闘家「と、とにかくまずは子どもたちに伝えないと……!」

少女「敵なの?」

武闘家「う、うわあ! お嬢さん、びっくりさせないでくださいよ」

少女「敵なのね?」

武闘家「まあ、おそらく。安全のため、隠れてもらわないと」

少女「分かったわ、みんなに伝えてくる」

スラ「ピキーッ!」

武闘家「つ、伝えてくるって」

少女「みんなー! 全員隠れて行動する準備よ!」

子どもたち『おおーっ!』

武闘家「良かった、ちゃんと隠れてくれる気らしい……」

少女「後の事は、私とおっさんどもに任せなさい!」

子どもたち『了解しました!』

武闘家「!?」



516: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:18:23.87 ID:0z7jsROlo

武闘家「お、お嬢さん? 一緒に隠れてもらわないと」

少女「大丈夫よ! 私にはスラちゃんもいるし」

スラ「ぴーっ、ぴーっ」

武闘家「いやいやいや! それとこれとは別ですよ!」

少女「私ががんばるんだもん! 私がリーダーだし!」

武闘家「あ、あのね」

弟子C「……来るぞ」

弟子D「右舷に骸骨だ、やはり魔物の船だな!」

武闘家「ええいっ」ダッ


武闘家は、船の縁に駆け寄って、先にかかった白骨の手を叩き落した。


武闘家「もう、魔物は滅びたんじゃないんですかっ」



517: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:19:17.67 ID:0z7jsROlo

弟子C「……俺が舵を取る」

弟子D「後方を守る! そっちは頼んだぜ」ダッ

武闘家「分かりました!」


武闘家は息を吐いた。

これでも元は冒険者の端くれだ。
幸いにして、魔物は弱い。
船上ながら、顎を突き出してきた骸骨に蹴りを放てば、会心の当たりだった。

だが、近づいてくる船影をにらむと、その甲板には、出番を待つ青白い光が満載されていた。
後に控えた骨の海賊たちもいる。


武闘家「ひ、人魂も!? 私の拳で、通じるのかな」


どぉおおんっ!


叫んだ途端、何かがぶつかる音と、激しい衝撃。
思わず武闘家はバランスを崩した。


弟子C「……砲撃だ!」

弟子D「だ、大丈夫かあーっ」

武闘家「くそっ」



518: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:19:54.79 ID:0z7jsROlo

武闘家が悪態をつく。
嫌な記憶がよぎる、仲間を失ったときの。

揺れる船の船室から、子どもたちが叫ぶ声がする。
武闘家は、船にしがみつきながら、なんとか立ち上がろうとした。

その瞬間、武闘家の横に、影が追いついた。


少女「スラちゃん!」

スラ「ぴいっ!」

武闘家「お、お嬢さん……!」

少女「あいつらを追っ払って!」


脇に抱えたスライムが、大きく息を吸い込む。
ぼうっという音がする。
その透き通った身体に火がともったように見えたのは、見間違いではなかった。

―――激しい炎がスライムから吐き出された!



519: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:20:29.31 ID:0z7jsROlo

熱で、武闘家は思わず顔を背けた。

こちらの船に乗り出していた白骨は、炎をもろに食らって海に投げ出された。

近づいてきた船に、炎が移る。
待機していた人魂が、炎の勢いを食らって吹き飛ぶ。
骸骨たちは大慌てで、焼ける船の帆から、火の粉を払い出した。


弟子C「……チャンスだ!」

弟子D「全力で振り切れ、舵を切れ! みんな船につかまれーっ!」

武闘家「お嬢さん!」

少女「ひゃああ!」

スラ「ぴ、ぴーっ!?」


武闘家は、身を乗り出していた少女を引きずり倒した。
激しい揺れとともに、左方へと大きく船が曲がる。

勢いのついた船が、そのまま波に乗って、魔物の船を引き離していく。



520: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:20:56.77 ID:0z7jsROlo

武闘家「はあっ、はあっ」

弟子C「……よし!」

弟子D「なんとか、なったかぁー?」

弟子C「……追っ手は離れてきている」

弟子D「ふう、はあ、助かったか……」

少女「……へへへ」

スラ「ぴぃ、ぴきーっ」

武闘家「……」

少女「私とスラちゃんのおかげだよね、これは」

スラ「ぴいっ!」

武闘家「お嬢さん」

少女「なに?」


ぱちん。



521: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:21:27.74 ID:0z7jsROlo

少女「え、え……」

武闘家「どうして前に出てきたんですか」

少女「だって、私」

武闘家「あなたはね、船室で隠れてる子たちのまとめ役でしょう」

少女「で、でも」

武闘家「あなたが死んだら、あの子たちをどうするつもりだったんですか!?」

少女「だって、私、役に立たなくちゃって……」

スラ「ぴいっ、ぴいーっ!」

武闘家「……船が大きく揺れて、ケガした子がいるかもしれません」

少女「!」

武闘家「早く、見に行ってあげなさい」

少女「はい……」



522: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:22:04.53 ID:0z7jsROlo

少女「あ、あの」

武闘家「……」

少女「ごめん、なさい」

武闘家「……最初に、みんなを隠したのは、正しい判断です。それに、あの炎を指示したことも間違ってませんでした」

少女「……」

武闘家「でも、ああいうことができるなら、ちゃんと教えてください」

少女「……分かりました」タタッ


スラ「ぴきーっ!」

武闘家「はいはい、君は殊勲賞でしたよ」

弟子C「……キツすぎんか」

弟子D「かわいそうになー」

武闘家「知ってますよ」



523: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:23:24.32 ID:0z7jsROlo

知ってても言わずにはいられなかった。
手柄がたてたくて、前のめりに飛び込んで、仲間を死に追いやった自分に重なって見えたからだ。


勇者『誰かの役に立ちたかった? 認められたかった、の間違いだろ。お前は』


頭の中に、はっきりと勇者の顔が思い浮かぶ。
後にも先にも、勇者の軽蔑した顔を見れたのは自分くらいだろう、と武闘家は思った。


武闘家「でも、勇者さんじゃないんだから、あんなに前に出過ぎなくていいんです。僕らは」

弟子C「……それは納得」

弟子D「ま、確かにな」

武闘家「それはそれとして、やっぱりすごかったですよねぇ。あの度胸は」

弟子C「……ただの女の子にしておくには勿体ない」

弟子D「立派な魔物使いになれそうだよな」

武闘家「あ、村が見えてますよ!」

弟子C「……よし、近づくぞ」

弟子D「おう、準備するぞ!」



524: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/15(水) 21:23:50.65 ID:0z7jsROlo

今夜はここまで。



525:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/02/15(水) 21:51:03.83 ID:2muWQuWG0

乙でした



531: ◆WPwc2pN1N6:2012/02/16(木) 23:57:15.86 ID:47dHPmcIO

おまけ。本日更新不可。

勇者人物評。

魔法使い「あいつ見てると何か思い出すのよね。バーサーカーとか首狩り族とか」

戦士「……まあ。いいやつ、じゃないか?」

僧侶「悪知恵、悪巧みさえなければ理想の御方なのですけど」

女商人「私は嫌いですけど、良い人なんじゃないですか? 私は嫌いですけど」

少女「かっこいいよ? 少しは…」

竜魔物「底の見えない人間だ」

側近「割りと魔王様に似てるわよねー」

遊び人「むかーし、一緒に飲んだんです。懐かしいなあ」

武闘家「 僕に似てませんか?」

盗賊「話の通じないやつよね。仲間がいなかったらどうなってたか」

姫「かっこいいです……」

勇者「全世界のあこがれだよな!」



532:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2012/02/17(金) 00:27:15.10 ID:IhXeTUPno

最後おいww


勇者「世界救ったら仕事がねぇ……」【後編】



転載元
勇者「世界救ったら仕事がねぇ……」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1327325196/
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