響「涙そうそう」
- 1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 02:23:57.42 ID:m5SIQPtDO
自分がまだ小さかったとき、父親が死んだ
残ってるのは何枚かの写真だけ
残念ながら、声は残ってない
ずいぶんと照れ屋だったみたいで、ビデオとかに映るのを嫌がったって、母さんが言ってた
だから自分は、父親の声を覚えてない
東京に出てきてから、夢を見るようになった
自分を心配してる、父親の夢
⇒あなたの涙そうそう- 4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 02:26:33.32 ID:m5SIQPtDO
―響、元気でやってるか?
―響、寂しくないか?
父親はいつも、そんなことを聞いてくる
声は社長のだったり、プロデューサーのだったり
自分はその夢が嫌いだった
だって目が覚めたとき、涙で顔がグシャグシャになってるから
いまだってそうだ……
- 9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 02:31:24.87 ID:m5SIQPtDO
「大丈夫だよ、イヌ美」
最初に気付くのは、いつもイヌ美だ
ひょっとして、涙の匂いとか分かるのかな?
いまも、天井を見上げたまま起き上がれない自分の顔を、長い舌で舐めてる
「優しいね、お前」
そう言って頭を撫でてやると、大きな身体をすり寄せて甘えてくる
- 12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 02:35:35.77 ID:m5SIQPtDO
この子たちがいるから、自分は寂しくなんてない
765プロにも家族同然の仲間がいるし、沖縄には本物の家族だっている
「元気でやってるよ、ターリー」
天井に向かってそう呟くと、また涙が溢れてきた
自分、寂しくなんてないけど……
それでもやっぱり、涙は出る
- 14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 02:40:09.82 ID:m5SIQPtDO
「はいさーい!」
いつもの挨拶に、みんなの元気な声が返ってくる
「響は今日も元気だなぁ」
って言ったのはプロデューサー
自分が涙で枕を濡らすなんて、思ってもいないんだろうなぁ
まぁ、知られたら知られたで恥ずかしいけどさ
- 15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 02:46:26.57 ID:m5SIQPtDO
「あれ?千早は?」
そういえば、千早の姿が無いぞ
千早が遅刻するなんて珍しいね
「えっと、千早ちゃんは……」
何だか言いにくそうな顔の春香
みんなも同じような顔してる
「千早は墓参りに行ってるよ。だから少し遅刻してくる」
春香のあとを引き取ったプロデューサーが教えてくれた
そっか
弟くんのお墓参りか……
- 16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 02:51:19.24 ID:m5SIQPtDO
自分はもうどれくらい、父親のお墓に手を合わせてないんだろ?
こっちに来てから一回も帰ってないから……
1年以上にはなるのかな?
父親が夢に出てくるのは
「たまには帰ってこい」
ってメッセージだったりするのかなぁ?
- 17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 02:55:57.10 ID:m5SIQPtDO
なんてことを考えてたら、貴音に
「どうしたのです響?あなたには似合わない、真面目な顔をして」
って言われた
うーん……
いろいろ言いたいことはあるけど、今日のところはガマンしといてあげるよ
- 19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 03:00:34.92 ID:m5SIQPtDO
10時から始まったダンスレッスンの途中で、千早がスタジオに入ってきた
「遅れてしまってすみません」
顔を伏せたままトレーナーに謝った千早
トレーナーも事情を知ってるのか、怒ったりはしなかった
千早が振り付けを間違えたり、自分たちとタイミングが合わなかったりしても、声を荒げることは無かった
なんだかみんなして、千早に気を使ってるように思えた
- 20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 03:08:17.46 ID:m5SIQPtDO
「調子悪かったけど、どうしたの千早?」
レッスンを終えたあとの更衣室で、千早に聞いてみた
同じ更衣室にいた春香と雪歩が、居心地の悪そうな顔で自分を見てる
なんとなくだけど
「空気読んで……」
って言われてるみたいな、そんな感じ
だけど、みんなに困ってることや辛いことがあるなら、自分は何か力になりたい
だって仲間だもん、自分たち
- 24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 03:16:05.98 ID:m5SIQPtDO
「……我那覇さんには関係ないわ」
自分に背中を向けたままで、千早が言った
もう何も入ってないロッカーの中を見つめたままで
「関係ないって……仲間だぞ!」
「……仲間だとしても、触れてほしくないものはあるの」
なんだか、嫌な雰囲気になってきたぞ……
春香と雪歩はオロオロしてるし
- 25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 03:20:52.37 ID:m5SIQPtDO
「……弟くんのことだよね?」
口に出しちゃいけないと分かってたつもりなのに、やっぱり口に出しちゃった
自分の悪いクセだね……
「止めてよ!」
案の定っていうべきか、声を荒げた千早
「も、もう止めよ2人とも。ね?」
見かねた春香が間に入ってきた
雪歩はうつむいたまま身体を固くしてる
- 27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 03:28:08.43 ID:m5SIQPtDO
「ねぇ千早?辛いのは分かるけど、千早がそんな顔してたら、弟くんが安心できない」
「止めってったら!」
振り向いて自分を見据える千早の眼は、赤く充血してた
涙と、たぶん怒りで
「あなたに…あなたに何が分かるのよ!」
「自分は……」
「私の気持ちなんて、あなたには分かりっこない!」
- 28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 03:34:45.56 ID:m5SIQPtDO
……自分、まだまだ子供だね
余計なこと言わずに、みんなと同じように気を使ってれば良かったのに
「弟くんのことで辛い思いしてるんだろうな」
って分かっていながら、気付いないフリをしてれば良かったのに
だけど自分には、それができなかった
一番千早の気持ちが分かるのは、自分だと思ったから
それなのに気付いてないフリをするなんて、自分にはできなかった
- 30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 03:40:55.32 ID:m5SIQPtDO
「……お先に」
そう呟いて更衣室から出て行こうとした千早を呼び止めた
「千早?」
「まだ、何か?」
もう眼を合わせようとはしない千早
だけど自分は、伏せられた千早の眼を見ながら言った
「自分、余計なこと言ったね。それは謝るよ。ごめんなさい」
涙声になるのが自分でも分かった
だけど、ちゃんと全部言わなきゃ
- 33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 03:46:23.04 ID:m5SIQPtDO
「自分、不幸自慢するつもりなんて無い。だけど聞いてほしい」
拳を握りしめて、感情が溢れそうになるのをなんとかこらえた
「自分は……小さいころに父親を無くした。顔は写真を見れば思い出せるけど、声はもう思い出せない」
千早が顔を上げたけど、どんな表情なのかは分からない
涙が邪魔して見えなかったから
- 35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 03:53:27.37 ID:m5SIQPtDO
「千早の辛さは分かる…と思う…自分も…自分も辛いから…今でも……」
もう会えないのが辛い
もう声を聞けないのが辛い
そして何より…忘れてしまうのが辛い……
「だから…だからお願い……自分だけが不幸だなんて思わないで…お願いだから……」
そこから先は、もう声にならなかった
更衣室の中に響く自分の泣き声を、まるで他人ごとみたいに聞いてた
- 38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 04:02:48.86 ID:m5SIQPtDO
30分くらい経つとようやく涙も止まって、周りが見えるようになった
「……千早?」
更衣室にいるのは自分と千早だけ
「春香と萩原さんには帰ってもらったわ。我那覇さんと2人になりたかったから」
……そっか
自分、2人が帰ったことにも気付かないくらい、大泣きしてたんだね
- 40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 04:11:53.01 ID:m5SIQPtDO
「座らない?」
「うん」
千早に促されるまま、更衣室のベンチに腰を降ろした
泣きすぎたせいか、眼も喉も痛かった
「我那覇さんのお父さんのこと、知らなかった」
「うん。みんなには初めて喋った」
自分から言うもんじゃないもんね、そういうの
- 41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 04:23:43.44 ID:m5SIQPtDO
「『何が分かるのよ』って言ったこと、謝るわ。ごめんなさい」
「いいよ。先に言い出したのは自分だもん」
そのあとに訪れた何分かの沈黙のあと、千早が口を開いた
「……お父さんのこと、聞いてもいい?」
予想外の質問にちょっとだけ驚いちゃったよ
だけどできるだけ平静を装って、返事をした
「うん。あんまり覚えてないけど」
って
- 46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 04:35:14.98 ID:m5SIQPtDO
そのあとは、千早からの質問攻めに合っちゃった
あんなによく喋る千早は初めて見たぞ!
―何歳のときに亡くなったの?
―背は高かった?
―どんなことして遊んだ?
質問の内容は他愛の無いものだったけど、いつの間にか忘れてたこともたくさんあったんだなって、ちょっと反省しちゃったよ
- 47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 04:42:44.21 ID:m5SIQPtDO
「優はね…あの子は……」
千早が自分からその名前を口にしたことに、ちょっと驚いた
それが誰の名前なのかはもちろん知ってる
眼を伏せて優くんのことを語る千早
笑ったり泣きそうになったりしながら、優くんに関する一つ一つを確認するように語ってる
それに対して相づちを打ってるうちに、1人の男の子の姿が頭の中に浮かんできた
そして、その男の子のそばで優しく笑っている、可愛らしい女の子の姿も……
- 48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 04:56:53.38 ID:m5SIQPtDO
喋り終わったとき、千早は両手で顔を覆って泣いてた
さっきあれだけ泣いたのに、自分も千早にもらい泣き
今日1日でどんだけ泣いてんだ、自分……
泣き止んだ千早が横目で自分の顔を見ながら呟いた
「お節介焼きね、我那覇さんは」
「……仕方ないじゃん。そういう性格なんだから」
「ふふ…そうね。性格なんて、そう簡単には変わらないものね」
「へへ…そうだね」
泣いたり笑ったり忙しいね、自分ら
そういうお年頃なのかな?
- 50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 05:09:40.99 ID:m5SIQPtDO
「私はまだ、あの子を過去の存在にすることはできない」
「うん……」
「けれど……我那覇さんに言われたこと、忘れないようにするわ」
「言われたことって?」
「自分だけが不幸だと思うな、って」
……自分、そんなキツい言い方したっけ?
「ふふ。ひっぱたかれるより痛かったわよ?」
ごめんよ……
だけどまぁ、少しは役に立てたみたいで嬉しいよ!
- 51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 05:15:48.96 ID:m5SIQPtDO
「今度お墓参りしたときは、あの子にいろいろなこと話すわ」
「今まではなんて言ってたの?」
「『ごめんね』って。その言葉だけを繰り返してた」
「心配するよ、それじゃあ」
「ええ。ダメなお姉ちゃんね、私……」
またそうやってネガティブになる!
そういうの、『千早スパイラル』って言うらしいぞ!
律子が言ってた!
- 52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 05:25:57.39 ID:m5SIQPtDO
「帰りましょう。みんな心配しているだろうから」
「うん。そだね」
自分も千早も、大事な人を亡くした
もう会えないし、声も聞けない
少しずつ少しずつ、その人のことを忘れていってしまう
だけど、帰る場所はある
心配してくれる人たちもいる
ホントの家族みたいに、一緒に泣いたり笑ったりできるみんながいる
- 54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 05:35:49.89 ID:m5SIQPtDO
スタジオの外に出ると、強い日差し眼が眩んだ
暑いのが苦手な自分に、千早が日傘を差し出してくれた
「相合い傘?」
「ひっぱたいてくれたお礼よ」
う……
千早って、けっこう根に持つタイプ?
って、ひっぱたいてないし!
「ふふ…ノリツッコミ……」
何がそんなに面白いのか、肩を震わせて笑ってる千早
ひょっとして笑い上戸なの?
- 55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 05:51:04.75 ID:m5SIQPtDO
事務所まで帰る間も、いろんなことを話した
自分のことや家族のこと
そして仲間のこと
夏休みには、沖縄に帰ろう
そしてお墓の前で、いろんなことを話そう
もう、夢の中で心配されなくてもすむように
梅雨明け前の東京の空は、薄い青色
その空に向かって、小さく呟いた
「元気でやってるからね、ターリー」
みんなといるこの街で
沖縄まで続いてる、この空の下で
お し ま い
- 56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 05:52:47.70 ID:m5SIQPtDO
終わり
お付き合いいただき感謝
最後時間かかってごめんね
そして寝ます、おやすみなさい……
- 65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/07/12(木) 08:49:30.12 ID:x01N3FekO
乙。心がほっこりしたわ。仕事頑張る~
転載元
響「涙そうそう」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1342027437/
響「涙そうそう」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1342027437/
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コメント一覧 (21)
-
- 2012年07月12日 10:41
- 泣けた
-
- 2012年07月12日 10:43
- タイトルが「くさそう」に見えた俺は汚染されてる
-
- 2012年07月12日 10:55
- ※2
いいはなしだなーってしんみり書こうとしたら、持っていかれたっす
-
- 2012年07月12日 11:19
- 珍しい組み合わせだな
響成分少ない気がしたが良かった
-
- 2012年07月12日 11:32
- ツマンネ
-
- 2012年07月12日 12:37
- アイマスはどのカップリングもイケるから、ピヨちゃんが暴走するのも判る
-
- 2012年07月12日 12:39
- イイハナシダナー
-
- 2012年07月12日 13:24
- こういう千早と響の絡みもいいよね
-
- 2012年07月12日 13:44
- ランプは足りないシリーズとかこの前の書類みたいなのもあるけど、こういうのが一番面白いと思う
-
- 2012年07月12日 14:03
- 響はいい娘だな…
-
- 2012年07月12日 15:07
- すごくいい話だった
性格は765プロの中でも対極にいる2人だけど似た境遇を経験してるから分かり合えるはずだよな
-
- 2012年07月12日 15:50
-
このあとニコニコ顔で事務所に戻った2人を見てポカーンとする春香と雪歩が目に浮かぶw
※9
最後に読み返してきますって書いてないけどあの人なん?
いや、確かに雰囲気はそれっぽいと思ったけど。
-
- 2012年07月12日 17:14
- きれいなSS
これは実際にありそうですわ
-
- 2012年07月12日 17:14
- ターリーてお爺ちゃんじゃね?お父さんはスー。
-
- 2012年07月12日 20:27
- ひびちはという新たなる方向性
-
- 2012年07月12日 21:24
- まぁ家族が亡くなる辛さって実際に体験しないと分からんからな…
-
- 2012年07月13日 11:16
- 面白かった。
小さい頃に家族を亡くしているのに、あれだけ真っ直ぐ、純粋に育って、笑顔を忘れない響は、凄いと思うんだ。
多分、家族の支えがあったからだと思うけど、そういう意味で、千早とは対になるキャラだよね。
同い年で長身ちっぱいな千早と、チビ巨乳の響って点でも対になってるし。
-
- 2012年07月13日 21:24
- あの元気いっぱいな響の裏にはこんな悲しい事が感動する話だぬ
最近響SS増えてきたし自分の押すキャラの魅力に自信がない奴らがいらんコメしはじめてくるな…
-
- 2012年07月21日 00:32
- 悲しい過去を背負ってなお、あんなに元気な姿を見せてくれる響はすごいよな。
-
- 2012年11月02日 21:27
- お世話になります。とても良い記事ですね。
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-
- 2013年06月12日 19:08
- 響ぺろぺろ