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槍使い「ヤバい…砲撃だ!伏せろ!」弐

1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) 2011/11/27(日) 21:50:34.69 ID:cV8Ho0wp0
槍使い「ヤバい…砲撃だ!伏せろ!」
http://elephant.2chblog.jp/archives/51914460.html

の続きのスレ。



16 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/19(月) 20:37:05.55 ID:xT2ND3qj0

ダマの接近には隙がなかった。

広げられた羽衣のリーチによる接近戦はもとより、敵の眼はこちらの動きを監視している。


常に刃の攻撃で牽制しつつも、魔術を最大限警戒する動きだ。

中級以上の術を放とうにも、その間はこちらに隙ができる上に、相手はいつだって退避行動をとれる。

初等術だって対策されかねない間合い取りの上手さ。ハープが密かに感心するほどだ。


ハープ(中級以上の術なら応戦に値する動きはできるだろうが、難しいな)


ダマも指摘した、杖の損失。それは、戦闘中の魔術師にとってはあまりにも大きな痛手である。

世にある属性術のほとんどは杖を媒体とし、先端の魔石などを起点に扱うもの。

メイスの先端、つまり魔石を失った杖などは、もはや物理的な道具でしかなく、魔術的な意味は一切持たない。


杖の無い魔術師は、魔力の使用効率が著しく悪化する。

ここから先は魔力を出し惜しみするしかないのだ。




ハープ「ならば、“キュート”!」

ダマ(来たか!)


術のエニグマを解く。初等術にノイズを掛ける集中力すら惜しい。

手から水泡が弾けだし、瞬時に水の塊が形成され、溢れ始めた。


空中に現れた巨大な水滴は、ハープとダマを隔てるまでに成長する。


ハープ「“ステルス”!“キュアー”!」


杖を用いない初等術の連打。ハープに残された数少ない対応策。



17 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/19(月) 23:11:24.68 ID:xT2ND3qj0
巨大な水球が風圧により弾け、幾常もの流れとなって飛散する。

原始的な水の術と風の術による水流。威力のほどはイマイチであれ、初等術の修練を疎かする者にはできない芸当だ。


ハープ(く、さすがに“キュアー”までは発動に至らなかったか…!)


だがミスは生じていた。水の術。風の術。その次に来るはずの術が発動しなかったのだ。

連続で別の術を詠唱するというのは、非常に難しい。杖がなければ尚更である。



ダマ(触れてなるものか!)


水圧も人を吹き飛ばすに及ばないものだが、その後に雷の初等術が来られると話は変わってくる。

最大限の警戒のため、ダマは羽衣によって真上に飛び上がり、水の槍から逃れた。


もちろん警戒の回避それだけのために後手に回る義理はない。律義に相手に続けて番を渡す事は無く、流れるように羽衣を刃に切り替える。


折り重なる赤の布。尖り、刀剣のように変質する。


ダマ「シッ!」

ハープ(これは何としてでも避ける!)


彼女も相手が怯むだけとは考えていない。いわば賭けだ。相手の攻撃を一発だけ、辛くも避ける。

有効の一手のために踏み出さなければならない、危険な一歩だ。


額を狙う大きな広い刃から目は逸らさず、しかし左手は水へ向けたまま。もう一度。



ハープ「“キュアー”!」


左手から生ずる冷気が、水の爆発を捉える。同時にハープの身体は大きくのけぞった。


――スパッ


ハープ「…!」

ダマ「チッ!」


フードの端の糸が解れる。頭頂部すれすれで刃は空を切ったらしい。

羽衣は寸でのところで回避できたが、あと数センチでも当たっていれば前頭葉に切れこみが入っていたに違いない。


ハープ「今度はこっちだぞ!上位種!」

ダマ「!」


打って変わって不敵な笑みを浮かべる少女の手には、巨大な氷のスパイクボールが握られていた。

大きな半球状の盾から無数の長槍が生えたような、凶悪なフォルムのスパイクボールである。氷であれ、放射状に無数のつららを伸べる凶器。

まともにぶつかれば大怪我は免れないだろう。


ダマ(ありゃあマズイな!)


追撃する余裕はない。攻撃用に刃を象っていた羽衣は、再びダマの背後へ戻される。



18 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/19(月) 23:36:41.27 ID:xT2ND3qj0

ハープ「くらえッ!」ヒュッ

ダマ「な!」


予想外の一手は右手から飛んできた。

ダマが使用不可能にした鉄製の先無しのショートメイスだ。切り口鋭く、槍として活用できるほどに尖った鉄棒である。


もちろん距離はある。所詮は振り被って放り出される凶器。外見にモーションの見えない魔術とは、対処のし易さが段違いである。


ダマ「小細工を!」


羽衣は鉄の塊であろうとも易々と弾き飛ばしてしまった。銛やジャベリンとは違うのだ。

それはハープも承知の上。一撃分だけ相手を怯ませた。それだけでお荷物のメイスの最後の仕事としては上々と言えるくらいだ。



――パキパキッ


ダマ「!」


生半可な鉄槍の一撃を防ぐ間に、ハープはより良い武器を手に入れていた。

右手に氷の短槍。左手に氷の長槍。


ハープ「何本まで“そこで”避けていられるかな?」


正面に氷のスパイクを据え、両手に氷の槍を構えたハープの姿がそこにあった。


ダマ「…サルがッ!」


カミソリのような鋭い歯を噛み締める。せっかくここまで追い詰めたのだ。再び距離を開けるわけにはいかない。

こいつは攻撃し続けなければならない。ダマにはそういった焦りがあった。


ダマ「させるか!死ね!」

ハープ「ならば相応の痛手を受けてもらおうか!」


少女の持つ冷たい凶器に怯まず、羽衣を武器に変化させる。氷のスパイクもろとも叩き斬ってしまえば問題ない。


だがハープは、両手の槍を素早く投げ放った。

相手が防御用に戻した羽衣を攻撃用に変化させる間に投じるのは容易かった。その単純なタイムラグを理解できないほど、ダマも愚かではなかっただろうに。


――ドスッ


ダマ「ぐァっ!」


一投目、二投目ともに、ダマの腹部へと命中した。

だが鋭利とはいえどもつらら。致命傷を与えるまでには至らない。


ダマ「…くっそぉおおぉおおッ!!」

ハープ「まだまだ、2本で終わらせるものかよ」


しかし血が頭に登った相手を退かせるほどには効いたらしい。



19 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/20(火) 22:26:06.24 ID:iJTS/PE80
ハープ「弾は、」パキパキパキッ


腕を振るい、刺々しい氷のオブジェを撫ぜる。


ハープ「いくらでもある!」


大小様々なつららが手中に収まり、それらはナイフのように次々に投げられてゆく。

頭、肩、腹、脚、飛んで当たりさえする箇所ならば、どこでも構わず投げつける。

当たったとしてもダメージはさほど大きくはないが、量が量である。どれが致命傷になり得るかもわからない乱打を受けてみる度胸は無い。

羽衣全体を防御に回し、つららの嵐を捌くので手一杯だった。


ダマ(クソ野郎!奴が唱えたのは初等術を3発のみ…!あとは身体を強化し、つららを投げるだけ!魔力の消耗は少ないというのに、なんという嫌らしい攻撃をしてくる…!)


追いつめれば勝てるはずの相手が、不相応に応戦してくる。ダマにとっては許し難い展開だ。


ハープ「呆ける暇があるか!?」

ダマ(!!)



つららの嵐の中に一本、腹部目掛けて飛んでくる、とてつもなく速いものがあった。



ダマ「ぐッ!」バシッ


辛くも弾く。投擲も一定のタイミングで揃っているとは限らない。遅いものもあれば、速いものもある。

これもまた防ぎにくい、嫌らしい緩急だ。



ダマ(ただ距離を開けるだけでは許さないだと!?どこまで俺を愚弄する…!)


再び、氷の濁流に二本の速い刺客が。


ダマ「チッ!」バシッ

ダマ「…その魔力、果たしていつまで持つだろうかなァ!?」


乱打と防御の激しい攻防は、ダマの退避によって一旦は攻撃側の勝利に終わった。


ハープ(…視界外に逃げたか、再び来るはずだ、二度同じ手は通じん)


基礎的な魔術のみを使った戦法で相手を退け、ハープは満足していた。魔力消費は少なく、予想外に与えられたダメージもあり、口元が緩む。

ここから敵が現れるまでは猶予がある。準備を整えることで、ダマとの戦いは非常に有利に進むはずだ。


ハープ(……)



つい、樹の下に目をやる。



22 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/21(水) 21:24:05.06 ID:cSVncdU50

ハープさんとダマが交戦を始めた時、加勢しようとも思ったが、まったくそこまで甘く事は進まなかった。


タイエン「ボォオオオオオ!」

焔「げ…!」


危難のダマへの不意打ちが失敗して、さあどうしようかと考え込みそうになった俺の頭めがけ、巨大な剣が振り下ろされたのだ。


――ドガッ


斜面へ深く突き刺さった大剣は土を大きく抉り、軽く崩れた地面は着地した鎧騎士の魔族を下へと転げさせていった。

咄嗟に避けなければ俺は両断されていたに違いない。ここに来るまでに足首を挫いていたら、高確率で死んでいただろう。



タイエン「ボォオォオ…!」

焔「くそ、やっぱり惹きつけ役に回るしかないか…」


斜面の下に転がっていったタイエンが片膝をついて立ち上がる。

このしぶとさ、加勢どころかハープさんを見守ることすらでき無さそうだ。


雑兵を片づける事は、町へ向かう兵力の減少に繋がるので決して無駄にはならないが、それでもハープさんの戦闘を直接応援できないのは歯痒い。


と思っていたが、そう勝ち前提の甘い考えでもいられないようだ。




ロッコイ「…ホォオオォオ」

シドノフ「コォオォオオ…」


遠方、樹の狭間から二体の魔族が姿を見せる。凶兆として馴染み深い、厄介な二体だ。

攻めと守りのツーセットはハナビを用いても厄介な相手だが、もはや片づけられないというほどではない。


問題は数だ。



焔「あー…遺書の事考えちまうなぁ」


斜面の下、木々の隙間から続々と白い肌が見えてくる。

…わかりやすい多勢と無勢。絶体絶命。決死隊として、覚悟を決める時がきたようだ。


焔「…それでも、なんでだろな」


槍を前に向ける。


焔「不思議と死んでやる気には、なれないんだよな」



26 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/26(月) 21:36:31.87 ID:YIW/vNML0

斜面から跳躍すれば、着地し得る地面は身体が竦むほどに離れていた。

呆けるようにこちらを見上げる魔族の隻眼を睨み、心を奮わせなくてはならない。


俺は鍛冶屋ではない、戦士だ。



焔「っ」



幅広の槍の刃と共に着地する。

俺の着地点は柔い地面。槍の刃は敵の頭上から地面へ振り落とされた。


名刀の一閃であれば鮮やかな切り口と共に、春の蕾のような鮮やかな切り口を開花させるところだろう。

だが俺の槍の一刀両断はそう厳かではない。


――バァン!


鳳仙花のように炸裂する。


焔「かかって来やがれぇえ!」


文字通りの血煙りこそ開戦の合図だ。

全ての砲撃の腕がこちらへ向く。盾が所定の位置へ付き、砲撃の脇に構えられる。

こちらへ突撃してくる魔族の群れ達。


焔(やばい、調子に乗ってはみたが、このままじゃ普通に瞬殺される)


俺自身、ここまで奮起しておいて、敵の中央に潜りこんでから尻ごみするとは思わなかった。

しかし敵のど真ん中で暴れるだけでは確実に無駄死にが待っている。


焔「うおおお!」


――ドゴォン!



敵に飛びかかる勢いそのままに、俺は木々を後ろ盾にしながら山を駆け下りていった。

背中に伝わる爆風が恐ろしい。



28 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/27(火) 23:12:08.91 ID:oNDpeP/e0
このまま駆け下り続けて逃げれば、俺の命は助かるかもしれない。

だが山を下りれば、そこは町のすぐそばだ。たしか太陽橋付近は要塞化も徹底されてはいなかったはずである。

守りが薄い箇所に大量の魔族共を引き連れていくわけにはいかない。

ここまで執拗な集中攻撃だ。俺を狙うように指示されているであろう魔族に違いない。ともすれば、万一俺が殺された場合、魔族の次の行動は…。



――ドゴォン!


焔「おわっ!待て待て、くぅっ!」



…想像に難くない。


焔「まさか武器を打つだけで、とんでもない責任を背負うことになるとはな…」


丁度、長物を振り回せるくらいには余裕のある場所へと躍り出た。


踵を返して脚を地に固める。

頭上で槍を半回転。そして背へ。

構えを取っている間にも敵の進軍は耳へ響いてくるが、むしろ予定通りでありがたい。

欲を言えばちょっとだけ呼吸に休憩を挟ませて欲しかった。


焔(槍を取り扱うスペースがあるということは、遠くからも狙うことが可能であることを示している)

焔(だが振り回せるのは俺の周囲だけでいい…ここは丁度、密と疎の境界だ)

焔(遠くの敵は木々が邪魔になり、近くの敵には手を出しやすい)



目の前の茂りの中で一総の枝が揺れた。


焔「槍のリーチが猛威を振るう場所ってことだ!」

ヤハエ「!」



29 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/27(火) 23:15:03.30 ID:oNDpeP/e0

現れる者の種別を確認する前に凪がれた槍が、魔族の頭部を掠める。傷口は深さにして3センチ。だが。


――ボンッ!


ハナビの火力を相手にするには致命的すぎる深さの傷であったらしい。半分以上焼け焦げた頭部が力なく地面に落ちる。


焔「…このまま行列相手に試し切りしてやってもいいが、」


振り抜いた勢いを殺さず、槍の頭を下げて地面を削る。

火薬の塊を鑢に擦りつけたような荒々しい火花を散らす。


焔「数打ち相手に食わせる暇はねえんだわ!」


タイエン「ボォオオォッ…!」

ロッコイ「ホォオォオ!」


後続の歩兵共が目の前に現れる頃には槍の長針は一周し、


焔「燃えろぉおおおッ!」


巨大な熱を先端に灯した槍は、文字通りの火球を敵へと放った。

まるで、槍の先から巨大な炎の魔術が飛び出したような光景だった。


火炎の龍が木々を抜け、何メートルも後ろの大木の幹にぶち当たって消滅する。


焔「…!…っへ、すっげえな…」


火龍が通った後には黒焦げになった何かが残っているだけである。



シドノフ「―――コォオオ」

焔「へっ…」


それでもまだ、敵は現れる。



33 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/28(水) 21:09:51.95 ID:Os6LjDzT0
俺が考えるに、青い炎はやつらのエネルギーの一種だ。

炎のように見えるが、性質は全く別物。働きは魔力そのものに近いだろう。

身に纏っている間はその者を強化し、防御力や身体能力を増強させる。

そこは剣を持った種族、災厄のタイエンの急激な動きの活発化から見ても明らかだろう。


シドノフの砲撃は青い炎のエネルギーを射出して着弾、爆発させる。タイエンの身体能力補助とはまた別タイプの使い方をしている。



もしもあの青い炎が単なる魔族用のエネルギーで、“炎に弱い”という惨劇軍の性質が魔族本体の特質であるならば。

俺の槍で炎を生みだそうが、砲撃自体は防げないということになる。


惨劇軍の青い炎を含めて“炎に弱い”のだとすれば…この上なくやりやすくなる。炎の壁でもなんでも生み出して、砲撃を槍で防御できるからだ。というよりは、槍振り回しているだけでなんとかなることになる。



焔「だがきっとそうはいかないんだろうな」

シドノフ「コォオオォオオオッ!」



惨劇の魔族が咆哮をあげる。

きっと“その程度の炎で俺の砲撃を止められるか”とでも叫んでいるのだろう。その通りだ。


だが俺の赤い焔だって、お前に当てれば一撃必殺だ。立場は同じであることを忘れないでほしい。



敵影が見つかるまでと愚かにも前進したシドノフを攻撃圏内で補足する。

相手は一歩出遅れ、こちらの槍は既に動いた。



焔「はあッ!」



37 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/30(金) 15:49:18.18 ID:GxY09CDy0


槍が敵の腕に食い込む。手ごたえと呼べるほどの手ごたえはない。槍の持った熱は、それほど魔族の肉体を凌駕しているのだ。


焔「っし…!」

シドノフ「!」


打ちたての熱のそれに近い赤熱がシドノフの腕を吹き飛ばした。まずは火砲を一門破壊。


タイエン「コォオオオォ!」


一撃しか与えていないというのに、シドノフの後ろからは早くも応援がやってきているようだ。

声からしてタイエン。一撃にかける瞬発力と威力は、砲撃を放つシドノフ以上に厄介な側面がある。

タイエンの加速からの一太刀を浴びれば即死。受けることはできず、避けるにも前もって相手の変化を察知する必要があるだろう。


焔(シドノフとその後ろのタイエン、さすがに同時に取ることはできないが、どちらかはやれる!)


シドノフの腕の無い側へ回り込み素早くタイエンを一突き。

もしくは、そのままシドノフのもう一つの腕を取るか。

一か八かでシドノフを袈裟斬りにでもしてみるか、頭を刎ねてみるか…。


焔(迷ってる暇はない!)


槍を素早く取り回して地をしっかり踏み込む。

目の前のシドノフから倒す。砲撃を残されると厄介だ。


焔「は!」

シドノフ「コォッ…!?」


斬った腕側に一歩だけ踏み込んで、頭を突く

炎のガードによって多少硬い手ごたえはあったが、刃は見事に敵を貫いた。



39 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/30(金) 16:05:46.88 ID:GxY09CDy0


焔「!」


生命力を失ったシドノフから炎が消え、単なる白色の肉塊となって崩れ落ちる。

槍は突いた時の手ごたえとは打って変わって滑らかに抜き取ることができた。



タイエン「コッ……コォオッ…ボォォオオオォォッ!」


ゆらりと斃れるシドノフの背面に佇む、青い炎の大剣士。鎧の無い剥き出しの腕から炎が噴き出し、辺りに蒸気が立ち込める。


巨体の敵を倒した慢心は抱いてなかったはずだが、それでも俺の動きは一瞬だけ遅れた。

敵は炎で強化された。剣を掲げている。

畜生め、俺の判断は間違っていた。先にタイエンを潰しておくべきだったんだ。



タイエン「ボォオオォオオッッ!」



大人の胴3つほどならば容易に断ち切れそうな大剣の切っ先は正面へ向けられ、蒼炎の爆発力を糧に、巨大な砲弾として突進してくる。


貫通力だけならばきっとシドノフの砲撃すら上回るだろう。

それだけの些細なことを考えてしまったためであろうか、それともそもそも最初から俺に避けることはできなかったためなのか。


焔(マズ……)


咄嗟に利き足で跳んでみたはいいものの。



――ブシッ



焔「っづぁっ」



大剣の良く切れる刃が、逃げ遅れた俺の右腕を掠めていった。

噴き出す血煙。高速で過ぎ去り、後方の木へと突き刺さるタイエン。目の前から更にやってくる惨劇軍。


焔「…!」


骨とまではいかないが、二の腕の良いところまで斬られたらしい。

興奮で痛みはそれほどでもないことに驚くが、状況判断能力すら興奮に麻痺させては命取りだろう。


焔「くっ」


左手で槍を握る。

分が悪いが、まだ戦える。タイエンには気を付けよう。

その前に、前後にいる魔族、どちらかを先に潰しておかなくては。



40 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/30(金) 16:27:31.82 ID:GxY09CDy0
右腕から手首へと血が滴る。


焔(優先的に倒すべき魔族は…)


先程俺の腕をやってくれたタイエンが後方に。剣が勢いよく大木へ突き刺さってくれたため、もうしばらくは動けないはず。


ヤハエ「ォオオォオオン…」

シドノフ「コォオオ…」

焔「ち、またお前かよ……ついてないな」


前方の茂みからは新たにシドノフとヤハエが一体ずつ。

俺を狙いにきた魔族は一体全体、何匹ほどいるんだろうか?

そろそろシドノフあたりは品切れとなってもらいたい。誰かにこの愚痴を聞いてもらいたい。



焔(失血…はしばらく考えている余裕もなさそうだ、先にこいつらを片づける!)


後ろでキコリごっこに勤しんでいるタイエンは隙だらけでいかにも突きやすそうではあるが、目の前にいる新品の二体相手に背を向ける危険を考えれば、タイエンに構っている余裕はない。

たとえ槍の一振りで片付く相手だとしても、その一振りが今は苦しい。左腕だけで行える槍術など高が知れている。



焔「ぁあああっ!」


左手で柄を強く握りこむ。片腕ではまともな突きはできない。

空を覆い隠す木々の枝葉を間引くように槍を振り降ろし、ハナビに熱を与える。


枝を斬っただけで煌々とした炎を取り戻したハナビが、山の暗がりで存在感を放つ。

辺りは戦闘によって生まれた小さな小火が照明となり、夜とは思えないほど明るい。



ヤハエ「ルォッ…ルゥォォオオオ!」

焔「おおおお!」


鎧に包まれた脚による移動は素早く、ヤハエの隻眼が見る間に大きくなる。

奴の腕は伸びるため、ただの歩兵だと思っては大けがをする。ハープさんの言葉だ。


確かにただの槍や剣では脅威となるだろう。

しかし俺の槍がそれに当てはまるかは、また別の話。



焔「お前には驚くほどの速さも、遠距離からの攻撃手段もない!」

ヤハエ「!」


接近と共に腕を伸ばす。それは丁度、槍と同じほどの長さ。


焔「伸ばした腕さえ焼けば終わりなら、お前ほど弱い惨劇軍もいない!」


火炎の槍を振る。ヤハエの細い腕が焦げ、塵となる。



41 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/30(金) 16:53:26.99 ID:GxY09CDy0
焔「はあっ、はぁ…!」


振られた槍の炎の余波でヤハエの頭部も焦げ付いてしまい、戦闘不能となったらしい。

幸運にも一振りで片づけることができたのは、俺がヒバシ石をより多く練り込んだからに違いない。自分の武器だけ特別扱いしててよかった。



焔「はっ…は…」


次はシドノフをやる。だがあいつの動きは緩慢だ。砲撃で狙いを定めてからでも、この地形だ、物影に隠れることはできる。


焔「くぅ…やりやがって、あのタイエンめ」


右腕の傷があまりに深い。止血だけでもしなければ、このまま数体の魔族を倒すだけで失血死に陥る危険は十分にあった。


焔「…逃げ…よう!」

シドノフ「! コォオオォオ…!」


敵前逃亡。先入観でこの言葉を“格好悪い”ものだと思っていたが、ひどい間違いだ。

逃げて何が悪いというのだ。死んで格好いいから何だというのだ。


散り際の華やかさよりも、後々を考える命が最優先。

俺はシドノフの呆気に取られたようにも見える視線から逃れるように、斜面に沿って走った。



焔「…はあ…はあっ……」



左手で槍を持ち、右腕を抑える。

足元は斜面かつ山道。挫けそうになるが、力なく斜面を転がり倒れるにはまだ早いだろう。意識はある。


……だが、少し身体は寒い。

ハナビの熱で温まれるかと思いきや、身体の内から冷える感覚だ。失血の影響だろうか。



焔「早く…止血しないと…」


しばらく走った後、大きな幹の陰に回りこんで、腰を落とした。


焔「……はっ…はっ…」



――ドゴォン

――ゴォン



息を落ちつけ、耳を澄ませば、遠くから戦いの音が聞こえてくる。

砲撃の音と、錐砲の音だ。町は今どうなっているんだろう。

カギルさんやハヤテは無事だろうか?ナガトは無茶をしてなければいいのだが。


ハープさんは……ダマを倒せただろうか。



焔(ああ……腕が痛いな…)



43 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/30(金) 18:27:57.69 ID:GxY09CDy0
痛みが引かない。

出血は抑えているが、不十分だろう。

まともな止血をしなくては解決に至らないだろう。

そもそも止血をしても、右腕はもう槍を振るえるかどうか…。



焔「……いや、抑えるだけならいける」


左手には力が入る。

右腕はガイドとして扱うならばまだまだ動くだろう。


焔「へばってる暇はない、俺は戦士だぞ、戦わないでどーするんだ」


左手で右腰に備わった小さいポーチをまさぐる。

急ぐ手つきは火薬のチップをぼろぼろと取りこぼしながらも、筒状に丸められた包帯を掴み取った。マモリさんがくれた包帯だ。


ガーゼやら何やら必要なのだろうが、今は止血だけでいい。

俺の身体を動かす血の廻りさえ保てていればいいのだ。


包帯の端を噛む。


焔「ふァぐ…」ガジ


ロールを解すように、右腕の患部へ、服の上からそのまま巻きつける。

どれくらいのきつさにすれば良いのかはわからなかったので、とりあえずきつめにしておいた。

出血されても困るからな。



焔「んぐ」ギュ



そして適当な所で結ぶ。素人丸出しで、マモリさんが見たら冷やかに笑いそうな仕上がりだが、なんとかなった。



焔「…」ジャキ


手持ちの小さなナイフで余った包帯を切る。

残った包帯は何に使えるかわからないが、とりあえずはポーチの中に乱暴に突っ込んでおく。

また怪我をしたら、役に立つこともあるかもしれない。



焔「…よし、動こう」


決死隊としての使命を全うしなければならない。

俺は再び槍を握りしめ、大木の陰から飛び出した。



44 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/30(金) 18:38:08.16 ID:GxY09CDy0
タイエン「――ボォオオォオオオッ」

焔「――え?」


木の影から出た時、振り向けばそこには、大剣を掲げる魔族の姿があった。

あまりにも近い。剣を振りおろせば頭蓋を砕き斬るに違いない距離だ。


物影に隠れていたはずなのに。物音も最大限消したはずだ。

何故こうも早く、俺を見つけることができたんだ。



焔(あ――)


自分の左手が持つ槍に目が行く。

まだ仄かにオレンジの灯りを宿すそれは、暗闇の中を歩くには丁度いい提灯であり、街灯でもあった。


ついさっき受けたタイエンの一撃による恐怖が甦る。

だが恐怖は竦みではなく、素早い反応として現れた。


焔「ッわぁあ!?」

タイエン「ボォオオ!!」


咄嗟のフットワーク、大きな横への跳躍。


――ドガッ


バッタかカエルかのような不格好な跳びはねだったが、至近距離の大剣をかわす事ができた。命からがらだ。



焔「あ…!うお……!」


だが安堵する暇もなく次なる恐怖が来る。

回避が余りに咄嗟すぎて、回りを見ていられなかったのだ。


俺の身体は斜面の下側へ跳んだ。当然、坂を飛び降りる形となる。それも横向き。そこに着地を阻害する太い枝やこの葉の邪魔が入り、


――ドスンッ


焔「あだだだ…!」



俺の身体は山の斜面に打ちつけられ、無様に下へと転がっていった。



45 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/30(金) 19:05:48.09 ID:GxY09CDy0
焔「いででで…!」


急斜面でなかったことには感謝せざるをえない。

自身の斜面に対する体勢さえ冷静に把握できれば、脚をうまく使って転落を防止することは余裕だった。


斜面に生えた木の幹で踏みとどまり、素早く起き上る。

全身土まみれでぐしゃぐしゃだ。頭まで土を被ってやがるし、口にもちょっと入った。



焔「ペッ…びっくりしたぜ今のは…!」

タイエン「ボォオオオオッ!」


唾を吐き捨てて槍を構える。

いい加減、血みどろなアクロバティックバトルにも慣れてきた頃だ。


今から突然の土砂崩れがやってきてもそれなりの対処ができる自信はある。



焔「いい加減…お前も退場してくれ!」


逆持ち。刃を振り子のように地へと叩きつける。

――ジャリッ


土を斬る槍先。実際には斬れていなくとも、硬い刃は柔な地面を軽々と通り、


焔「は!」

タイエン「ボッ…」


一掻きで高熱を得て、タイエンを大剣ごと斬り裂いた。

巻き上がる炎に包まれたこの魔族は再起不能とみて間違いないだろう。


焔「ふう、なんとかタイエンも…って、うわちちち」


敵の死体を観察する間に、炎の余波が身体へ降りかかってきた。


焔「…っちちち…」


腕を少々火傷した。小さな火傷には慣れっこだが、気の抜けない武器だ。気をつけよう。



47 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/30(金) 20:01:36.77 ID:GxY09CDy0
焔「……」


そろりそろりと、来た道を戻る。

槍は素振りし、十分に刃を冷ました。発熱による光は見られない。


焔(…さっき見かけたシドノフは逃がしちゃだめだ、といっても俺を狙って逃げるつもりなんかないんだろうけど…)



シドノフを相手取って戦うのであれば、姿を隠しながら近づく戦法もアリだろう。

こちらは炎を隠し、相手の青い炎を目印に近づく。


当然青い炎は周囲を照らしているだろうし、至近距離まで近づくことは叶わないだろう。

それでも無防備な相手へ灼熱の槍をかます距離には、気配を悟られずに接近できるはずだ。


焔(さて、シドノフはどこにいるのか…)


肝心のシドノフの姿は確認できない。

一緒に行動していたヤハエは俺が倒したし、タイエンと一緒に来ているのかと思ったんだが…。


ともかく気は抜けない。気配を探りつつ進んでいこう。

あれだけの巨体ならば枝に引っかかって物音もするはずだ。主に耳に集中して、歩く。



48 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/30(金) 20:19:05.13 ID:GxY09CDy0
焔(…)


暗い。どこにも灯りが無い。

辛うじての月明かりが道を照らすが、まさに辛うじて。自分の足がうっすら見える程度だ。それでも俺は感謝したい。

物に躓かずに歩けるのは幸いだ。



焔(……だが…)


前を見渡せど、シドノフの姿は見えない。

それどころか音さえしない。聞こえるのは町側からの戦闘音のみ。

奴が歩けば派手な音がするだろうに、反対方向へでも歩いていったのだろうか。

町を守るにあたって重要になってくるのがシドノフの数なので、奴の行方は憂慮される問題だ。



焔(俺の役目はここでの戦い、ここでどれだけ惨劇軍の戦力を削れるかが勝利への鍵となる)

焔(ハープさんと別れた今、俺がやるべきことは戦い続けることだ)

焔(より多くの敵を倒して、町へ向かう惨劇軍を減らさなきゃいけないってのに…)


焔(…シドノフは見逃せない!あいつが一体でも増えるだけで、町の防衛には大きな支障になる…!)



槍を掴む手に力が入る。

そして、



――バチッ


焔(あ――)


上から伸びる細い蔓に、刃先が引っかかった。

辺りへ小さく飛散する火花。一瞬だけ明るくなった周囲。


焔(やばいやばい、今のみたいなちょっとしたミスでも命取りに…)



――コォオオォオオ



どこからか聞こえ始めた唸り声。



49 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/30(金) 22:18:44.01 ID:VJzKHJhAO
焔(感付かれた…!)


聞きなれたシドノフの唸りが聞こえた。

偶然などではない。俺が僅かに出した火花を察知して、唸ったのだ。


シドノフが俺に気付いた。


焔(どこから!?奴は一体どこにいる!?)


どっと汗が吹き出る。体が硬直して身動きが取れない。

首だけで暗い周りを窺うが、青い炎は確認できない。



焔(奴は俺を狙っているのか!?俺からは見えない所から…!?)


一か八か、もう物音さえ気にせずに、背後へ振り向く。

それでも敵はいない。

心臓と呼吸だけが早まってゆく。



──コォオォオオオッ!


威嚇でもするような荒い唸り。



焔(ヤバい……!)


砲撃だ。


「伏せろッ!」



50 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/30(金) 22:24:14.55 ID:6o2lvhGto
ここでタイトル再び……!



53 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/30(金) 23:34:29.31 ID:GxY09CDy0
―――ゴォン!



仰向けになった顔に木の破片が降りかかる。思わず目を瞑る。


後頭部がじんわりと痛い。

背中も、痛い。背骨が地面の根に強く打ちつけられたようだ。


……あと、腹も痛い。

というよりもむしろ重い。


仰向けになった身体の上に、何かが覆いかぶさって…。



ハープ「はぁ、はぁ……」

焔「……」


空に浮かぶ月の横に、少女の顔がこちらを見下ろしていた。

上気した表情から滴り落ちる汗が俺の頬に落ちて、そのまま唇へ伝う。しょっぱい。



焔「は、ハープさん…?なのか?」

ハープ「はぁっ…私は…私だ、見間違えるな」

焔「何故ここに…俺を助けに?…危難のダマは…」


ハープさんの吐息が顔にかかる。

こちらからの息もハープさんにかかってしまうのではないかと思い、俺は呼吸を止めてしまった。


ハープ「……無理だよ」

焔「…?」

ハープ「こんなの、ゲームじゃないんだよ…」

焔「ハープさん…?」


ハープさんは泣いていた。

涙の粒が顔にかかる。



55 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/30(金) 23:48:40.62 ID:GxY09CDy0

ハープ「……」ギュ

焔「……」


子供らしく、俺の服を掴んで、顔を胸にうずめてきた。

小さな頭。本当に子供の頭だった。


しばらくの間は小さく啜り泣くような声を漏らしたままだったが、彼女はすぐに顔をあげた。

そこにはもう、相応の子供らしさは見られない。


ハープ「……ダマとはぐれた、また探す」


震えの無い冷淡な口調。


焔「そ、そうですか」

ハープ「今撃ってきたシドノフは斜面のかなり下にいる…一旦降りてから、お前を待ち伏せていたのだろう」

焔「そうか、下…ノーマークだった」


斜面の下は町側。

町へ向かう魔族は俺には目もくれないと思っていたが、まさかそれでもこちらを狙ってくるとは。



ハープ「奴を片づけたらダマを探す、次こそ…息の根を止める」

焔「…わかった、俺にも手伝えることはある?」

ハープ「ある、もちろんある…捨て石でも捨て駒でもない」

焔「決死隊…」

ハープ「ふん、名前なんて変えてやる」グッ

焔「うぐ」


俺の胸倉を掴み、そのまま立ちあがった。万力のような力だ。


ハープ「下にいるぞ、砲撃に注意しろ」

焔「…ああ!」



山の下を見る。

そこに小さくゆらめく蒼い光が見えた。



56 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/30(金) 23:59:54.58 ID:GxY09CDy0

焔「あれ、ハープさん、メイスは?」

ハープ「壊された、…お前、その右腕は」

焔「あ…タイエンに」

ハープ「タイエンに…!?」

焔「大丈夫、掠っただけだから」

ハープ「…そんな結び方ではダメだ、後で治療する…奴を倒すぞ」

焔「そりゃそうだけど…どうやって倒すべきか…」

ハープ「ふん…その槍はなんのためにあるんだ」

焔「いや、シドノフとの距離がここまで開いてると、さすがに槍でもどう近づいたものかって…」

ハープ「ルーキーめ、それを貸せ」ガシ

焔「あ、ちょっと扱い気をつけて…」


強引に引っ張られ、ハナビを奪われてしまった。

まじまじと柄や槍先を見つめて、“ほう”とか感嘆の声をあげている。



ハープ「…錆じゃない、なるほどな」

焔「ハープさんが魔術を使えれば楽なんだけど、メイスが無いんじゃな…」

ハープ「無くても使えるさ」

焔「え?そうなn」

ハープ「そもそも唱える必要がないが、なッ」ヒュッ


一瞬目を離していた隙に、既にハープさんは槍を大振りから放っていた。


綺麗なやり投げのフォームだった。



――ド ボンッ



遠くで鳴る、破裂音。


焔「……」

ハープ「ふむ、良い槍だ」


俺の頭の中で長期戦のシュミレートが組まれていたシドノフは、いとも簡単に、呆気ない方法で斃された。



58 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/31(土) 01:03:21.26 ID:P4WiL9510

白いパインコーンの巨体から槍を引き抜く。

肉といった感触はあまりなく、樹木に突き刺さった斧を抜く要領で取ることができた。


槍は赤い光を放っている。



ハープ「…食土か?」

焔「! 見ただけでわかりますか、さすが…」

ハープ「どれほどの食土を混ぜれば、これほど魔石の性質と融合できるというのだ…」

焔「ヒバシ石も見破るか、すごい…けど、ヒバシに混ぜたのは食土だけなんです」

ハープ「…!」

焔「じいちゃんが残してくれたものだったんだけど、全部使っちゃって」



けどじいちゃんもこの選択、間違ってはいないと頷いてくれるだろう。

…そう信じたい。



ハープ「…腕の手当をする、しゃがめ」

焔「あ、うん」


何か言いたそうなハープさんだったが、治療しながらということなのだろう。


俺は包帯でぐるぐるに固定した右腕を差し出すように、地面に胡坐をかいた。

その横にハープさんが屈み、険しい顔で包帯を解き始める。


ハープ「…私は、思いつきの程度で炎と熱のアイデアを考えろと言ったのだがな」

焔「ははは…」

ハープ「お前らバンホーの住人は、私の出す難題に本気で立ち向かおうとする…中には大きく改善された案まで出るほどにな」

焔「…職人の町、だからなぁ…俺も含めて」

ハープ「張り切り過ぎだ…この槍、ゆくゆくは宝物庫に納められても仕方ないぞ…」

焔「へっへ…」



突き詰める。より良い方法を考える。

俺の好きな町の、人々の、一番好きな所なのだ。



59 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/31(土) 01:12:28.09 ID:P4WiL9510

ハープ「こういう特異なものがあるなら、まず私に言ってからにしろっ」

ブチ

焔「あでっ」


髪の毛を数本引きちぎられた。地味に痛い。


ハープ「患部の止血は不十分だ、もう少し激しく動いていれば瞬く間に包帯は緩み、出血していただろう」

焔「ま、マジか…」

ハープ「職人ならこういう分野にも勤勉さを発揮してほしいものだ…」

焔「すんませ…」

ハープ「…“Chrasscatedcleyduwhelle”」


――ヒュッ


引きちぎられた俺の3本の髪の毛が、針のように真っ直ぐ伸びる。


ハープ「縫合する、痛みはさほど無いとは思うが、我慢しておけ」


そして髪の毛の針の先端は鉤状に曲がった。以前も見た、糸やひも状のものを操る術だ。


ちくり、と肌を刺す感触が伝わった。片手で患部を圧迫されつつ、もう片方の手では俺の髪の毛が操られ、傷口をちくちくと刺激していく。


ハープ「動くな…」

焔「……」


傷口に当たる自分の髪の毛は不思議と痛くはなく、こそばゆくあった。



66 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2011/12/31(土) 15:37:32.32 ID:P4WiL9510

ハープ「……適当にではあるが、縫合はした」

焔「ありがとう」


腕を撫でてみる。

自分の髪の毛で傷口を塞がれるなんて、という抵抗もあったが、仕上がりは文句なしだ。

細かな隙間を作らない徹底した縫合は、激しい動きでは決して千切れることはないだろう。



焔「ダマを探そう」

ハープ「ああ、といっても、奴の方が私を探しているのだろうが…」

焔「?」

ハープ「…今の私にはメイスがない、奴はそのチャンスを逃しはしないだろう」

焔「魔術が使えない…?」

ハープ「そういうわけではない、魔術師に杖は絶対に必要なわけではないからな」


ハープ「だが魔石の無い杖を用いずに魔術を発動させる場合、より集中する必要があることは確かだ」

焔「魔術を使うのが難しくなるわけか」

ハープ「そうだ」



67 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2011/12/31(土) 15:46:50.54 ID:P4WiL9510

ハープさんが俺の肩を手すり代わりにして立ちあがり、斜面の上を見た。

暗いが低い山の頂上は見えない。だが登ればすぐに越えることのできる山だ。


ハープ「奴はこの周辺の魔族に“お前を狙え”と命令を出した…ホムラ、今お前が死ねば、それを知った魔族達は町へと向かってゆくだろう」

焔「やっぱり狙われてるか…死ねないな」

ハープ「死んでも良いんだ、お前が死んだと惨劇軍側に知られなければな」

焔「! そっか、なるほど」

ハープ「だから…もしもお前が死んでしまった時は」

焔「もしもの事があれば、俺の死体はコイツで焼き払ってくれ」

ハープ「…良いんだな?」

焔「なに、死んだら変わらないさ」


ハープ「…わかった、いいだろう」ザッ


一歩、斜面へ踏み出す。


ハープ「ついてこい、雑兵を蹴散らしながらダマを探すぞ」

焔「…ああ!」


俺は槍を片手に、再び歩き始めた。

ダマを殺せば惨劇軍の兵たちの動きは単調になり、対処しやすくなる。

俺らバンホーの勝利の時だ。



68 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2011/12/31(土) 16:00:38.19 ID:P4WiL9510
巨大蝙蝠が木々を縫って飛ぶ。

逃げられた“惨劇狩り”を探しだし、倒さなければならない。

奴を野放しにしておくことはできない。メイスという“魔術”を失った今こそ、惨劇軍最大のチャンスなのだ。


ダマ(体勢を立て直すつもりで俺を一時退却させた、それは読めていた…だがまさか、奴が姿を消すほど退くとは…)


腹に与えられた傷は魔力によって治癒しかけている。

しかしナガトのジャベリンによって与えられた腕の傷は、まだまだ塞がりそうもない。

治癒能力の高い上位種であっても、ここまでの大けがは治りが遅いのだ。



ダマ(…惨劇狩りがあの武器を持っていたらと思うと、今でも背筋が凍る…)

ダマ(俺の身体で最も頑丈な羽衣さえ、あの武器にかかれば容易に断ち切ってしまう…そうなれば詰みだ)


額に埋め込まれた第三の眼を撫でる。


ダマ(…羽衣を封じられた俺に接近戦の道は無い、いざとなれば、魔術のみで対抗する!)



――ドォオオン!


ダマ(! ヒャハッ、来たな!)



砲撃の音が山に響いた。

だがそれは何かに直撃した際の破壊音を含んでおらず、砲撃が空中で弾けた音であった。



69 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2011/12/31(土) 16:11:06.89 ID:P4WiL9510
ヤハエ「……!」ザザッ


敵は機敏な動きで、野をかけてゆく。


ハープ「…奴め、どんな命令を受けて逃げるなど…」


敵に負けず劣らず、ハープさんも素早い身のこなしで劣悪な道を駆ける。

俺はその後ろを必死でついていく。


焔「お、おいハープさん!なんであいつ、俺らから逃げてるんだっ!?」



俺とハープさんの二人は、暗い山道の中で黄色い眼を光らせるヤハエと出会った。

単独行動だったので倒すのも楽だろうと考えていた。

ところが奴は“逃げる”という、今までにない行動をもってして俺らを驚かせたのだ。



焔(くそっ…なんてすばしっこい魔族なんだ…!俺じゃあ追いつける気がしない!ハヤテなら楽だったんだろうが…!)



槍を投げたり、ハープさんの魔術を使えば、前方で逃げるヤハエを仕留めるのは容易い。

だが相手はあくまでヤハエ、シドノフやロッコイであれば話も違っていたが、この程度の雑魚を相手に貴重な労力を割くことはできない。


俺達は誘われていることを承知の上で、逃げるヤハエを追いかけていた。



70 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2011/12/31(土) 16:22:23.80 ID:P4WiL9510
ハープ「! ホムラ、槍を貸せ!」

焔「えっ!?」


全力疾走の中の命令に戸惑う。

槍を握る左手も、絶賛振り子運動中なのだ。


ハープ「前にシドノフ!ヤハエは連絡係か!」

焔「なんだってっ…!」



次第に見えてくる、遠い前方の青い光。

ヤハエが逃げていった先にはシドノフが待っていたのだ。予想通り、俺達は誘いこまれていたらしい。


焔「ハープさん、ハナビだ!受け取って!」ヒュ


槍を弱めに投げる。


ハープ「…なるほどな!知力ゼロの下位種をよくここまで使いこなすものだ…!」パシッ


一人感心しながら槍を受け取った。

走りつつも見ずにキャッチするとは、今さら驚くことでもないにせよ、さすがだ。


そうしている間にも青い光との距離は縮まってゆく。

近づきすぎれば障害物も減り、砲撃の範囲内に入ってしまう。


焔「そろそろシドノフとかち合うが…!」

ハープ「…大丈夫、そのまま仕留める」

焔「そのままって…!」


「――コォオォオオオッ…!」


焔「…大丈夫なのかっ…!」


敵の唸りは、既に砲撃の準備が整った事を知らしめていた。



71 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2011/12/31(土) 16:34:37.85 ID:P4WiL9510
ハープ「っ」


低く跳躍、槍を肩の上に構える。


つま先を擦らせながら茂みを越えると、そこに砲撃の準備を終えたシドノフの姿が見えた。


シドノフ「――」


青い炎が収束する片腕を“天に”掲げ、小さな目はこちらを見ている。


ハープ「撃てよ、私も望むところだ」

シドノフ「コォオオオッ!」



空気が膨張し、辺りに小さな衝撃波が生まれる。

木の葉を揺らし無防備な鼓膜を叩く。砲撃は、空高く発射されたのだ。



ハープ「ご苦労、割に合う交渉だよ」ドシュッ

シドノフ「ゴボッ―――」


投じられた槍は無防備なシドノフの腹を突き破り、内部で小さな爆発を起こした。


ハープ「来るなら来い、ダマ」

ヤハエ「……!」


飛び出した勢いのまま、ヤハエの目の前に飛びこみ、右手を突き出す。



ハープ「決着をつけよう」


――ドス


ヤハエ「ォオオッ…!」



強化したされた手刀は魔族の頭部を貫いた。



73 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2011/12/31(土) 18:04:45.00 ID:P4WiL9510
――バサッバサッ


羽音が近づいてくる。

鳥の羽音とはまた違った、団扇に近い音だ。


夕時に空を飛ぶ蝙蝠の羽音を大きくしたような――。




ダマ「キキキキ…見つけたぞ、惨劇狩り」


焔「……!」

ハープ(やはり信号代わり……貴重なシドノフをよく使う)



巨大な蝙蝠が土に降り立った。

体躯は人型。頭部は蝙蝠。

両腕からは布が伸び、背後で繋がっている。


焔(危難のダマ…!)



この人生、少なかれどいくらかの魔族を見てきた俺だったが、このようなタイプのものは初めてだ。

奴の喋る言語は理解できなかったが、身振りを交えて話す立ち振る舞いは、人間そのもの。


ダマ「邪魔な奴も一匹、ついでに来てくれたか…」

焔「!」


奴がこちらを見ながら何かを喋った。

何言ってんのかわからん。


ダマ「キキキ!共闘すれば有利だとでも思ったか?手間が省けるだけなんだなァ!それが!」


奴が何を言っているのかはさっぱり理解できない。

それでも、笑っているということだけは。それも大爆笑しているということだけは解った。



74 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2011/12/31(土) 19:40:52.51 ID:P4WiL9510
ハープ「……」ザッ


身の丈より長いハナビを傍らに持ち、ハープさんは俺の前に立った。


ハープ「手間が省ける?違うな、この武器が私の手に渡った時点で、既に合流の目的は果たされている」

ダマ「…!ほう」

焔「!?」


ハープさんが危難のダマと同じ、謎の言語を用いて喋った。

何かまた小難しい事を言っているのかと思いきや、一片も聞きとれないとは俺も驚いた。



ハープ「メイスなど無くても私には術を扱えるが……この武器さえ手中に入れば、貴様を殺すことは更に容易くなる」ヒュッ


見た事もない槍の構え。だが扱いなれている動きだった。


ダマ「無くても殺せるが、あった方が楽、と?キキキ…」


蝙蝠の顔に皺が増える。


ハープ「“ホムラ、肉体強化をしながら走って逃げろ、槍は返す”」

焔「!」


いつもの言語で小さく囁かれる。

理解と同時に俺の身体は動き出した。



80 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 13:15:59.50 ID:2TYF2iv90
第三の眼に封じられた陣が、橙の輝を放つ。


ダマ「“ジック・ジャガンボルッカ”」

ハープ「“キュア・ラヒル・ケージ”」



輝く眼から押し寄せてくる爆風が、視界に移る景色を飲みこんでゆく。

燃やさず焦げ付かせる熱波は更なる熱い風を生み、前へ前へと傾れ込む。


ハープ(さすがだ)


だが熱波は巨大な氷の壁によって阻まれた。

土から霜柱のように伸びる氷塊はかつての南極の如き荘厳さで佇み、爆風を阻む。


氷が解ける。熱が冷める。



ダマ「…チッ、惜しみなく使ったこの大きな術……槍か。魔金部分を杖として扱ったな」


爆風は氷の壁を貫くに至らず、いくらかの厚みを保って残っていた。


ハープ(やはり先端部は杖として使えるが…)


透ける壁の向こう側で、ハープは右手を見る。

指がわずかに火傷していた。


ハープ(…杖としては、不向きか)



82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/06(金) 20:30:31.69 ID:1G513Azn0

ハープ(火力は認める…雑魚を相手取る場面ではそのまま使っても良いが、やはり上位種ともなれば、魔術無しで立ち向かうのは無謀だな)


槍。使用経験はあるが、熟練とまではいかない武器。

魔術を併用できるからと魔槍を携帯していた時期もあったが、取り回しの遅さは魔術の発動速度に大きく影響するため、すぐにやめた。


結局のところ、ハープは持ち運びに便利なショートメイスに落ちついたのである。


ハープ(…効率が良いかわりに、槍の悪い所を足したような武器だな、)


槍先に近い柄を右手で握り、親指を金属部に当てる。

柄の全てが活きないため、杖術を扱うことはできない。邪魔な木の棒、ということになる。

魔術を使用する際、金属部に指を付けていなければ杖の用を足せず、その上強く擦れば火傷するおまけ付き。


――ダッ



ダマ「!」


ハープは森へ逃げかえった。

走り去っていったホムラと同じ、背中を見せる堂々とした退避。

薄い氷を隔てた向こうで、ハープは砂漠色の布を翻しながら景色に消えてゆく。

当然、ダマが見逃すはずもない。



ダマ「どうしたァ!このオレを殺すんだろうがァッ!?」



敵は頭が良い事はわかっている。

再び距離を取り、不意打ちを狙うつもりでいるのだろう。逃げたのではない。


このまま姿を眩ませてはならない。常に自分の監視下に置かなくては強大な危機となるだろう。


ダマは翼を広げ、絶妙な距離を取りながらハープの姿を追った。

地上からの攻撃を警戒し、低空飛行である。



84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/10(火) 19:36:12.81 ID:f/xOWgfD0
ハープ「“Chrasscatedcleyduwhelle”」


フードからほつれた糸に魔力を込め、駆けながら紡ぐ詠唱。

ダマの視力がどれほどであろうとも、巧みに森を走る最中の少女が握った細い一本の糸の存在に気付く事は無いだろう。それが如何様な形に変わっていこうとも。



ハープ「“ZicSeewonnCheittDareLester”」


右手の槍を左手へ持ち替える。

素早い動作だが、ダマの目にはしっかりと映っていた。


ダマ(さあ、何をするつもりだ!?)


手の内を曝け出してくれるのであればありがたいことだ。

高熱の槍を持つ相手へどう先手を打つか悩んでいたところ。向こうから攻め気で来るのであれば対策は立てられる。つけいる隙も生まれるだろう。



ハープ「“Chrasscatedcleyduwhelle”…」ザザッ


左手の槍を肩に構え、ダマへと振りかえる。彼女が走りの勢いを殺しきるまでに、ブーツを地を2メートルは擦った。



ダマ(くるか!)



槍の先はダマへ向いている。

たかが投擲された槍であっても、ハナビの鋭さと性質であれば、十分ダマに致命傷を負わす事が可能だ。

当然、ダマは翼を大きく広げて飛行を中止する。


あの槍を処理できるならば、いかなる手段をもってしてでも惜しくは無い。


ダマ(一撃でいい、来やがれ!)


いかに頑丈であろうとも、物は物だ。破壊する手段はある。

相手がどのような攻め方をするかはわからないが、後々のために厄介な槍はここで消し去りたい。


ダマの狙いは、ハナビの破壊。



87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/10(火) 20:12:58.73 ID:f/xOWgfD0
羽衣を翼に、後方へ、上へ。惨劇狩りとの距離を取る。

相手は術を唱えた。以前も唱えた、エニグマのかかった術だ。“カスケードホイール”と聞こえた術である。


詳細は不明だが、ゴーレムに対して使ったそれはレールのいらない暴走特急魔族“トロッコ”を呼びだす直前に唱えていたものだ。

ダマは“カスケードホイール”を召喚術を使用するための前座の術であると予測する。


強大な魔族を強制召喚するには大きな魔力が必要であるし、魔法陣やイメージも複雑であるし、式を組み上げるには時間がかかる。

その時間や魔力を削減させる術が“カスケードホイール”である。そう予測した。



ダマ(何が召喚されようとも、いつでも退避できる位置を取る)


槍をこちらに投げ、追撃として巨大な術を放つに違いない。

敵はこちらが槍を回避するのを見越した場所に大技を使ってくる。


投じられる槍の警戒はしていなかった。たとえ相手が身体を強化して全力投擲してこようとも、打ち砕く対象なのだ。

壊す対象が自ら向かってこようと関係はない。



ダマ(意識を集中させるべき対象は槍よりも、次に来る魔術の回避だ)


杖無しで放つ大技。

あるとすれば、そこに魔力を全て注いでくるに違いない。


仮に大技でなかったとしても、槍さえ消せれば状況は一気にこちらの有利になる。

槍すら放たずフェイントであるとするならば、それでもいい。

惨劇軍の手下がいるエリアまで追い詰めれば、あとは手駒を用いて隙を作りだすまで。時間の問題となる。



ハープ「はぁぁあッ!」ビュッ


槍はダマへ向け、勢いよく投じられた。



88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/10(火) 20:48:16.06 ID:f/xOWgfD0
槍は投げられた。興の殺がれる小細工などは無し。

目の冴えるような勢いでこちらにまっすぐ飛んでくる槍だった。



ダマ(―――キキキィッ!)


宙を走る槍の向こう側では、少女がこちらに右手を翳そうとしていた。

予想通りの展開だ。思惑の範疇内で事が進んでいる。



ダマ「“ジック・ミョウガンヴァジャラダ”」



額の大きな第三の眼に怪しく輝く魔法陣が現れる。

魔族王がもつ眼術の秘技。

派手さはないし有効射程も極々短いが、一直線に放たれる黒いレーザーのような妖光は、照らした対象を木っ端微塵に炸裂させる。

それが人であれ、鉄の壁であれ、強固な魔金によって打たれた刃物であっても同じ事。この世のことごとくを破壊することができる術だ。


術がハープに届くことはないだろうが、こちらに向かってくる槍を寸前で照らすことは可能だ。

次に追撃にくる魔術の退避は十分可能。翼は自由に動かせる。

横に回避しながら槍を照らすことも、むしろこちらから飛び来る槍を照らし、すぐ飛び去ってしまうこともできる。




ダマ(我が主の秘術!これを外すことなどあり得ない!)



ハープ「―――“ジック・センリガンゲンダ”」



ダマ(―――あ?)



89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/10(火) 21:10:58.85 ID:f/xOWgfD0

術が来る。

エニグマがかかっていないために、詠唱は容易に聞きとれた。

だが“ジック”しかも“センリガン”。このふたつが示すこと、その術の持ち主を、自分は生まれながらの知識として持っている。


ダマ(雑念だ!振り払え!)


槍が迫っているし術もやってくる。こちらの術は既に展開された。槍を妖光に照らせば、ひとまずの目的は達成される。

相手の術の回避はそれからでも構わないのだ。

今は敵の詠唱に惑わされるべき時ではない。



ダマ「まずは槍を消……!」


反応の遅れが焦りを生む。

こちらへ飛来する槍が、眼術の射程圏内に入ろうとしたその時だった。



――ブンッ



ダマ(は?)



全体で直線を描いていた槍が突如として軌道を変える。

重心の在処が変わっただとか、風に煽られただとか、そのような生易しい変化ではない。



ダマ(ふざけるな)



動きとしてはトンボ。イルカ。イワシの群れ。ハナビは、それらに近い見事なUターンをしてみせたのだ。

少なくとも慣性に縛られるべきただの物質に成せる動きではない。槍はツバメのように翻り、あらぬ方向へと飛んでゆく。



ダマ(おい)



額の眼から黒い光の筋が放たれる。

射程はほんの数メートル。だがその範囲内に、槍は捉えられるべきものだった。


彼にとっての全て、魔族の王キキの秘術によって粉砕されるべきものだったのだ。




ダマ「ふざけるなァアアァアア!!!」



退避の役目を担っていたはずの翼を感情の爆発により屈服させる。

眼術の発動時間はそう長くはない。すぐに当てなければ、術の効力が消えてしまう。


槍に追いつかなくては!



下方から迫りくる攻撃は視界に入っていなかった。



90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/10(火) 21:37:25.79 ID:f/xOWgfD0


“ジック・センリガンゲンダ”。

基点から糸状のエネルギーを放射する。


直線的な攻撃だが射程が広く、貫通力は高い。

物質を撃ち出す他の術よりも風を切る音は目立たない。


興奮状態で感覚が鈍っている相手ではまず聞きとれないだろうし、視界に入っていなければ察知できない術だ。




ダマ「くぁ…」



冷静さを取り戻した頃には、既に左肩から先が消え去っていた。

額の魔法陣は輝きを失い、妖光は静まる。


ハナビは黒い稲妻によって破壊されることなく、悠々と森の奥へと飛び去ってしまった。



ダマ「グァアアァァッ…」



消えた左腕。羽衣はもはやただの薄皮へと成り下がり、力強く風を切っていた翼の面影は微塵もない。

惨劇軍の司令塔はただ力なく、痛みに悶えながら山中に落下してゆく。




ハープ「…ふう」

『――減点だな――』

ハープ「………つい」



落下し草が揺れる音を確認すると、少女はそこに向かって静かに歩みはじめた。

右手に張り付いた魔法陣は形を崩し、元の柔らかな糸の姿へと戻って土に落ちた。



91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/10(火) 21:49:06.48 ID:f/xOWgfD0
背の低いシダの葉を踏みつける。

変な色の血がこびりついていた。

血痕は獣道へと続き、奥からは小さくかさかさと葉が揺れる音が聞こえる。



ハープ「翼を失った蝙蝠の末路だな」

『―獲物を追っているというのに我を忘れるとはな―』

ハープ「まだまだ回りくどいな、もっとわかりやすくしないと」

『―…ふむ―』



血の道しるべを追う。

王城で飼いならされた毛並みの良い猫ですら追跡できる、わかりやすい痕跡だ。

どの感覚器官をもってしても、容易に獲物のもとへと近づけるだろう。




ダマ「ハァ…ハァ…」

ハープ「さて…次の手は?」



蔓を退かした先に、壁面に向かって胡坐をかく隻腕の魔族がいた。

息は荒く、右手は左肩があった箇所を押さえているが、出血は止まらない。どくどくと、速い鼓動を目に教えてくれる。



92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/10(火) 22:03:15.65 ID:f/xOWgfD0
胡坐の背を向けるダマと、背後で自然体のまま佇む少女。

しばらくの間はダマの荒い息だけが目立っていたが、彼は口を開いた。



ダマ「……まず…見事だ、死ぬ前により、言いたい事から言わせてもらおう…」

ハープ「投了か」

ダマ「……何者だお前は…ただの人間ではないな…」

ハープ「もちろん」

ダマ「……グゥッ…ハァッ、く…」



血が噴き出す。

食いしばる歯の一本がパキ、と音を立てて転がった。



ダマ「…記憶にあるぞ……主と同じ魔族王…仇敵、傀儡の王……」

ハープ「……」



静かに目を閉じる。

長いまつ毛が美しい凛々しい少女の表情だ。


しかし瞼を開けば、眼に異様な紋様を浮かべた少女“だった”姿の異質な生き物がそこには居た。



ハープ『仇敵とは心外だな化け猫の王の欠片よ。

    貴様らの“恨み”と“暴力”だけの支配は“統治”とは言わぬ。

    千年万年と時を跨ぐ我らは、そのような脆弱な基盤の上に世界を据えるべきではないのだ。』


ダマ「…グゥッ…主を…否定するか!裏切り者め…!人間なんぞに手を貸すとはッ…!」


ハープ『勘違いするな欠片、いいや“破片”よ。

    我はもとより化け猫と手を組んでなどいない。

    最初から、相容れぬ存在同士であったのだ。

    “知略”と、“暴力”ではな。』



93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/10(火) 22:14:28.91 ID:f/xOWgfD0
ダマ「…ク…ククク」

ハープ『?』


ダマ「…魂ある他者を寄り代とした魔族の王は、その寄り代と無限の命を分かち合い、有限の存在となる」

ハープ『……』

ダマ「限られた時の中、頭だけの貴様に何ができる!人間と我ら惨劇軍との戦いの行方を変えるか!?」

ハープ「変える」

ダマ「上位種はオレだけではない、主はこれからも上位種を生みだし続ける!」

ハープ「潰す」

ダマ「…仮に人間が勝ったとして、統治すると?ククク…魔族の長が、人間を…?キキキキ…」

ハープ「全てを手中に収めてみせる」

ダマ「……」

ハープ「人間も魔族も、全てを平穏の中でおさめ続けてみせる」

ダマ「……キ、キキキキッ」



ダマ「…キキキ……そうか、そうか…世界を掴むか…」

ハープ「ああ」

ダマ「…人間と魔族が…気持ちの悪い展望だが……」

ハープ「……」

ダマ「…ああ、オレが魂をもって…生まれ変われるなら…その景色……」



ダマ「……」

ハープ「……」



魔族は背を丸め、静かに頭を垂れた。



109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/11(水) 20:12:10.65 ID:gd0DyfSD0
生ぬるい風が吹いた。

魔族と少女、二人の間を心地よい風が抜けていく。

それはまるで、静かに天へと召されてゆく魂のような、わずかに暖かい風だった。



――ああ

――オレが魂を持って生まれ変われたとしても



ダマ「ッハ」



胡坐を解く。瞬時の動作。

己の体液から魔力に至るまでの全力を右腕に注ぎ、背後の人間に向けて、振り下ろす。


本来両腕と繋がっていなければ変形できない羽衣に、右腕だけで無理やり力を込め、硬く鋭い一撃として振り下ろしたのだ。



先端から激しく血を噴出させる羽衣が静寂を騙し、勢いよく大地に突き刺さる。


血が飛び散る。



ダマ「……そんなおぞましい世界など、生まれ変われたとしても、見たくもない」

ハープ「……」



正真正銘、全力を注いだ最後の一撃は、涼しい顔でかわされていた。

地に埋まる刃の隣で、ハープはダマを静かに見守っている。



ダマ「……」


今度こそ、彼は息絶えた。

人間で言えば、折れた腕で殴りかかるような凄まじい一撃を最後に、彼は絶命したのだ。



ハープ「私の敵は、そうでなくてはね」


祈りも拝みもせず、ハープはその場を後にした。



110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/11(水) 22:36:20.63 ID:gd0DyfSD0

「はあ、はあっ…ああ、やべえ」


上がる息。

慣れない山道での全力疾走。

障害物を避け、攻撃を避け、なおかつ止まらない。



「やべえ…っはぁ…」



難しい走りだったが、彼は走破した。

最後まで駆け抜けたのだ。



疾「…最ッ高に気持ち良かった…!」


戦闘用のズボンは股に近い所まで切りつめられ、白い脚には土の汚れが目立つ。

子供が夕刻まで山で転げて遊んだ帰りのような、汚い脚だ。

走る毎に跳ね返る泥やら砂やらを浴び続け、ここまで汚れたのである。



疾「あー…なかなか、…いねえなあ、敵…」


足取りは既に重く、半ば引きずるような危なっかしい動きではあるが、エンジンはかかっている。

踏み込めば彼はまだ全速力を振り絞ることができるだろう。

彼の肉体は悲鳴をあげてはいるが、彼の心は、まだまだ走りを望んでいるのだ。


走り、刀を乱雑に振るう。

不格好であれ、それこそが彼が誇れると思える姿であり、いつからか望み続けていた、男としての姿だったからだ。



疾「へへっ…俺って、かっけー男になれてんのかなぁ」



鼻をこする。

もうすぐ鐘がなるだろう。



111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/11(水) 22:52:46.24 ID:gd0DyfSD0

日ごろのもどかしさが発散されていた。

裁定者ではなく、行使者として動ける清々しさ。


余計な事を考えなくて良い。

自分の事を自分で考え行動する。独立した戦士としての自分。


多くを成すことができた自分が唯一叶えることのできなかった、武芸者としての功。

雄姿に夢を見て、しかし型だけを修練し続けた幼い日々。


まるで今までの全ての鬱憤が晴れ渡っていくよう。


双剣を振るうたびに昂る、もうひとつの心。

冷静な自分も、武に身をゆだねる自分も、どちらも自分だ。


己の新たな可能性が、この歳にして垣間見えた。

素晴らしい。



限「らぁああぁぁッ!」

タイエン「…!」



敵へ突き刺す炎の剣。町を守る者の鉄槌そのもの。



限「…よし次ッ!」



戦人の血が燃えたぎる。


無駄な言葉はいらない。

鐘が鳴るか、己が死ぬその時まで、自らが裁きの人として戦い続けよう。終わるその時までは、つかの間でも良い。戦士として戦おう。


過酷な長い戦いの渦中にあっても、カギルはわずかに微笑んでいた。



112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/11(水) 23:11:52.07 ID:gd0DyfSD0

焔(砲撃の音が、砲弾の音が聞こえる)

焔(俺の鼓動の音も、風を切るやかましい音も聞こえる)

焔(さっきから俺を追いかけてくるタイエンの重厚な唸り声も、その後ろに続くロッコイ達の足音も、よく聞こえる)


焔(すぐ横を見れば、戦火の明るさがわずかに見える)

焔(真上には月明かり、わずかな雲)

焔(ハナビがないから、足下はほとんど何も見えない…走っていても、目の前にあるのが細い枝くらいじゃあ、ぶつかるまでわからない)

焔(生傷擦り傷を作り続けながら、後ろで追いかけてくる魔族達から逃げるだけ…それが今の俺だ)


焔(奴らには、俺を殺せとの命令が下っているらしい…俺が死ぬまで奴らの追手は増え続けるだろう)

焔(銃も尽き、槍の無い俺に今できることは、逃げること)


焔(ただひたすらに逃げて、逃げて…肺が破けそうになっても、みじめでも…いっそ諦め、ここから転げ落ちて死にたくなっても…)

焔(それでも俺は、信じるよ)



――カッ


焔(!! …俺の腕が光って…いや、これは)


焔(…右腕の傷を塞ぐ、ハープさんの縫合…)

焔(その刺繍が、まるで魔法陣のように緻密な模様に作りあげられていて…それが、輝きを放っている)




タイエン「!」

ロッコイ「!」



焔「!」



113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/11(水) 23:25:39.49 ID:gd0DyfSD0
俺を追い続けていた魔族達の動きが一斉に鈍くなった。

まるで、はっと何かを思い出したように、その場で立ちすくんでいる。

辺りを見回し、現状の把握に努めているように見える。



焔「……命令が、消えた?」



その異変を見た俺の足も自然に止まっていた。

山道の奥で追跡をやめた魔族の群れを遠巻きに眺め、息切れを整える。


酸素が頭に登ってゆき、状況を整理していくにつれ、俺の表情は緩んでいく。



焔「……ハープさんが、ダマを倒したんだ」



熱い吐息が暗闇を白く濁らせると、呆けていた魔族達がこちらの存在を思い出したらしい。

それぞれの隻眼をこっちに向けて、これまた特色ある唸り声を上げ、再びの戦闘態勢を取っている。


状況は何一つ変わっていないように見えるだろう。

こちらは素手、相手は多勢。確かにピンチだ。状況はかなり悪い。


それでも信じられるのだ。俺の命運は、まだここで尽きてはいないと。



――ヒュンッ



木々の梢を見上げれば、空から飛来する細長い影が目に映った。


胴部分に僅かな光を灯す、謎の飛行物体。

狩りを行う風鳥のような速さでこちらに真っ直ぐ向かってくるそれを、ぶつかる寸前で迷いなく掴み取る。



――パシッ



焔「…さあ、この戦、勝つぞ」

タイエン「ボォオオォオオッ…!」



空からやってきて手元へと収まった火炎の槍、ハナビ。

その柄には、小さな魔法陣が妖しく輝いていた。



117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/12(木) 20:06:39.12 ID:vbhPB7K90


白い息が朝日に溶けて見え辛い。

縮こまる山の寒さから抜け出し、浅い枯れ峡谷へ。


初日のレンガ防壁は半分砕けつつも面影を残しており、傍らでは黒い爪の魔族が斃れている。


ハープ「……」


歩いてけば、凹凸の激しい地面に足を取られそうになる。

何か大きなもので抉られたような跡を残す穴は、町側から放たれた錐砲の弾によるものだ。


頭が砕け散ったシドノフの死体が随所にみられることからも、錐砲の存在は役立ったのだろう。

砲手が無能でなくて助かったというべきか。


ハープ「……」


歩く。今度の穴は、周囲に放射状の抉れ傷の残るものだ。

まるで月の表面のようなこの穴は、魔族側、惨劇軍のシドノフが残したものに間違いない。



惨劇軍が司令塔を失ってから、状況は一変した。

ロッコイは自慢の盾を己の自衛にのみ使い、他の兵を守ろうとはしなくなったし、ヤハエやタイエンも無暗に突っ込んでくるだけの無能に成り下がった。


シドノフも似たようなものだが、そのままでも十分砲撃が強力な魔族だ。

こいつだけは最後まで、町の民兵を手こずらせたに違いない。



ハープ「……」

民兵「……」


町側の者の死体もある。

当然だが、無傷での勝利はなかった。


彼の死因は大方、決着がついたと前へ飛び出していったは良いものの、生き残っていた魔族にやられた…という所だろう。

引きずった血痕が長く続いている。死ぬ間際は相当無念であったに違いない。



ハープ「……」スッ


手を合わせる。

全ての遺体にそうするつもりはなかったが、なんとなく彼には手を合わせた。



ハープ「……」


細い白煙がいくつも登る町を目指して、まだもう少し歩く。



118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/12(木) 20:17:24.53 ID:vbhPB7K90

前衛の基地付近の地面には。銃が転がっている。

荒れた様子はあまり見られない。敵はここまでやってこなかったのだろう。それでも砲撃の跡は見られるが、微々たる損傷という所だ。


乱雑に落ちている銃は、弾切れや火薬切れを起こしたものなのだろう。

ブルメラが腹に突き刺さり死んでいる魔族もいくつか見かけた。

弾切れを起こし、なおかつ接近を余儀なくなれた民兵は、腰に備わった得物で対抗せざるを得なかったのだろう。



ハープ「……」


だが、民兵と惨劇軍を隔てるちょっとした突貫工事の掘には、多くの魔族の死体があった。

突っ込み、そのまま落ちていった者の死体だ。掘の壁をよじ登ろうともがく魔族にとどめを刺すのは、さぞ楽な事だったろう。


中には焼死体もいる。あらかじめ油が流されていたのだろうか。

しかしまぁ、素人だというのになかなか凝った事をする。

この町はもう既に、立派な要塞なのだろう。


再び希少種がやってくることもあるまい。

希少種の居ない惨劇軍も脅威ではあるが、この町ならばこれからずっと、それらの襲撃から耐え続け、返り討ちにしてしまえるに違いない。


それによる文明の進歩を危惧するばかりだ。



ハープ「……」



物見台が見えてきた。上で誰かが私に気付き、勢いよく手を振った。

私は小さく手を上げて答えた。誤射されては困る。


物見台の一部は砲撃によって損傷していたが、超遠距離からの砲撃ではさすがにダメージも軽微だったか。

倒壊したものは、見渡す限りでは一つもないようだ。

土台がしっかり補強されていたことも、この結果を生んだひとつの要員なのかもしれない。



もうすぐで町だ。

まだもうちょっと歩く。



119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/12(木) 20:50:08.78 ID:vbhPB7K90
白いテントが多く立ち並んでいる。

まだ中に人はいるだろう。裏方仕事はこれからも大変だ。


「…!あ、そ、その」

ハープ「ん」



まだ早い朝だというのに、薄着で忙しなく働く女性が話しかけてきた。



「…ご無事で、何よりです……ありがとうございます」

ハープ「……ふん」

「あ…」



礼を受け取るつもりはないので、そのまま歩く。

戦いは終わったようなものだが、町へ行かなくてはならない。まだいくつかやることがあるのだ。



「あのっ…本当に、ありがとうございましたっ…!」



後ろが煩いうるさい。

これから、こういうものをなんとかしなくてはならないのだ。


全く頭が痛い。




『――自ら望んだ事だろう――』

ハープ(そうだよ、これからが大変なんだ)



121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/13(金) 23:31:38.54 ID:1cpckl/C0
焔「……ん」


目を開けると、白い布天井が見えた。

眠い。身体がだるい。


俺は長い夢でも見ていたのだろうか。

自分で打った槍を持ち、ハープさんや町の仲間たちと共に駆け、暴れ回り、戦い続ける。

…鍛冶として生きてきた自分とは思えないような事を、昨日は夜通し続けていたものだ。


もしも昨日の全てが夢なのだとしたら。

鐘が響いたのも、ハープさんに召集されたのも、死にかけたのも。全てが昨日、ここで寝ている間に見た長い長い、夢なのだとしたら。

もしそうだとしたら、身が震えるくらい恐ろしい。



焔「っつ」ズキ



夢かどうかを確かめようと身体に力を入れると共に、まず右腕が激しく痛みを訴えた。

包帯の巻かれた腕。つい歯を食いしばりたくなる痛みが、寝起きの頭を最悪に覚醒させる。



122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/13(金) 23:47:49.59 ID:1cpckl/C0
傍らの机に置かれていたコップに手を伸ばす。

中はぬるい茶で満たされており、口をつけた形跡はない。

誰かが俺のために淹れたのだろうか。ぬるくてもありがたい、とにかく今は口が渇いて仕方なかった。



焔「んぐ、んぐっ…」ゴク


一気に飲み干す。

戦闘中はずっと走り回るばかりで、水分補給を断っていたため、お茶の一杯でも身にしみるような美味さだった。

同時に生きていることのありがたみも感じられる。



焔「……っぷー」グイ


口の周りについた茶葉のカスを拭う。少々汚い飲み方をしてしまった。

まぁいいや、俺は生きている。


焔「生きてる…」



町がある。俺が生きている。

そして誰かが注いでくれた茶が、ここにある。



焔「…勝ったんだ、俺ら」


バンホーが魔族の猛攻を耐えたのだ。

つい数日前まで絶望に打ちひしがれていたこの町が、息を吹き返した。


焔「……やった」ポロ


不意に双眸から涙が零れてきた。理由はわからない。

今までの恐怖か、重圧か。勝利の感動か。

とにかく全ての感情が溢れ出し、俺はひらすら、涙を流し続けていた。



焔「やったよ…やった…」


啜り泣く。止まらなかった。

言葉にはできない。とにかく止まらなかったのだ。



126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/14(土) 16:50:59.38 ID:Jonhm7Tr0
ひとしきり泣いた後、我に返ってテントの中を見回す。

ベッドはいくつかあるようだが、誰も寝ている気配は無い。


出口を塞ぐ布の隙間から陽が漏れ、テント内に舞い上がる埃を照らしていた。



焔「……状況を聞いておかないと」


そう思い立った時、布の扉が捲られた。


護「あ…」

焔「あ、マモリさん」


盆に湯飲みを乗せたマモリさんが現れた。


護「ホムラさん、まだ動いちゃ駄目だって言ったでしょ、傷口は深いんだから」

焔「す、すいません」


半分起き上ろうとしていた所を強引に止められる。

確かに身体中が筋肉痛だったり、傷口が痒いような痛いようなで、散々なコンディションではある。


護「外に出なくても、何か教えてほしい事があれば私が代わりに伝えるから、ね?」

焔「ありがとうございます」

護「ほら、お茶を飲んで…お腹も空いてるでしょ?そうだ、ちょっとしたの貰ってくるから、待ってて」

焔「は、はい」


マモリさんはすぐにテントを飛び出していった。



129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/15(日) 00:01:33.46 ID:wuT1BYt30
焔(…マモリさんの様子だと、町は大丈夫そうだな…)


はて、俺は昨日の夜中、一体何をしていたのだっけか。

指示されるがままに逃げて、空から飛んできた槍をキャッチして、そこからはもう一心不乱に戦って…。


戦略的に動かなくなってから、惨劇軍は全く手ごたえ無しで、終始ずっとこちらのペースだった事を覚えている。

槍を払えば近づく奴は当たってくれるし、攻略法を知っているシドノフも簡単に始末できた。

そうして戦っていくうちに感覚がマヒしてきて、ただひたすら、気分が高揚して…。


気が付けば町が見えたので、そして…。




護「物見台の下で、槍を握ったまま倒れてたのよ?運ぶの大変だったんだから」

焔「!」


記憶を掘り下げている最中の俺の真横に湯飲みが置かれた音で、マモリさんが戻っていたことに気付いた。


護「といっても、ホムラさんじゃなくて槍の方が運ぶのは大変だったかも」

焔「え」

護「何なのよあれ…ハヤテ君も同じようなの持ってたけど、ちょっと振ってみたら2、3人がちょっとした火傷を負って私の所に来たんだからね、もう」

焔「あー…皆には言ってなかったからなぁ、面目ない」

護「…うふふ」

焔「?」

護「でも、ホムラさんが無事で良かった…」

焔「あはは、いやぁ」

護「…ほんとに、良かったのよ」

焔「……えっ」


マモリさんが俺の目をじっと、逸らさずにじっと見ている。

続きの言葉も発することなく、ただただ俺の目を見ている。


焔「………あー、それでカギルさんとか俺以外の人ってどうしたのかな?」

護「! あ、そうね、まだ言ってなかったわね」



130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/15(日) 00:14:57.95 ID:wuT1BYt30
護「まず最初に見つかったのがホムラさん、みんな“帰ってきたー!”って大騒ぎだったの」

焔「そうなんすか」

護「そーなんすかじゃないの、ホムラさんその時起きてたわよ」

焔「へ?」

護「へ?じゃないの、しっかり“俺はやったぞおおおお”って雄々しく叫びながらみんなを滾らせてたわよ」

焔「覚えてないんだけど」

護「…お酒も飲んでないはずなのによくもまぁ」

焔「ごめんなさい」


護「…で、まぁホムラさん、そのままぐーすか寝ちゃったんだけど」


護「次に来たのがハヤテさん」

焔「! 無事だったのか、ハヤテ」

護「無事も何もピンピンしてたわよ?」

焔「意外だ…」

護「いつの間にか町のほうに入ってて、忙しいツガエさんに横から“なんか他にやることねーかなぁ?”なんて笑顔で言ってたみたいで」

焔「なんだそりゃ」

護「ふふふっ、ツガエさんたら“きゃあっ”って思わず声あげちゃったみたいでねえ」

焔「ははは」

護「でね、とにかく無事で何より、ってことで、休んでもらったの、町はなんとかなってたからね」

焔「町が無事か…良かった良かった」



136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/15(日) 15:24:33.87 ID:wuT1BYt30
ハヤテが無事との報告を聞いて、俺は内心からほっとしていた。

一見若くておちゃらけた性格をしてはいるが、奴も妻子持ちの立派な男だ。

あいつが死んだとなれば、残された家族はもう、それは悲しむに違いない。普段から聞いていた家族への溺愛ぶりから見ても、それは容易に想像できる事だ。



護「次に戻ってきたのはカギルさんね、明け方に近い頃だったかしら」

焔「おお」

護「町まで歩いて戻ってきたらしくて、その間も惨劇軍は居たらしいんだけど…凄かったんだって」

焔「凄かった?」

護「悠々と町へ歩きながら、近づいてくる魔族は二つの剣でバシバシ返り討ち!」

焔「うおお」

護「見てた人は少なかったけど、普段の彼からは想像もできないほど荒ぶっていたんだって!」

焔「やっぱりかぁ…」


カギルさんの演武だけは見させてもらっていたが、直に魔族と戦った所はしっかりとは見ていない。

是非一度、機会があれば見てみたいもんだが…。


護「町へついてからは普段通りの冷静沈着なカギルさんで、ツガエさんに報告をしてちょっと報告の整理をしたらすぐに寝ちゃったわね」

焔「ほ…ふむ」

護「ツガエさんは涙ながらに喜んでて、もうっ、その姿みて私キュンって、キュンッッって!」

焔「あーはいはい、そうですか、はい」


マモリさんは相変わらずだ。



137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/15(日) 15:41:45.63 ID:wuT1BYt30
焔「そうか、明け方かぁ…カギルさんはそんなになるまで戦ってたのか…」

護「…で、ナガトさん」

焔「おお、やっぱりナガトは最後まで頑張ってたか」

護「……うん」


マモリさんの表情が暗い。


焔「ナガトは戻ってないんですか?」

護「…戻ってきたといえば戻ってきたんだけど…」

焔「重傷を負ったとか?あいつ、今やばいんですか」


無茶をする奴だったが、まさかまたボロボロになるまで戦っていたとは。

つい熱くなって、深追いでもしてしまったのだろうか。



護「…丁度カギルさんが戻ってきた明け方あたりに、森の方へ捜索隊を出したの…戻ってこないのは、あとはナガトさんとハープちゃんだけだったから」

焔「……」

護「それで…ついさっき、ちょうど、ホムラさんが起きる前くらいに…捜索隊の人、戻って来てね」

焔「…!」


護「……もう、息はなかったわ」



138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/15(日) 16:00:08.39 ID:wuT1BYt30

――――――――――


長「…」


松に背を預ける。

若い松。背は低い。

細いせいで、なかなか安定しない。


長「……ふう」


やっと、脱力状態でもしっかり背を支えてくれる位置を探しだせた。

これで楽になる。



長「…さて、次に来るのが何であれ…受けて立つ…いつでも来い…」


両手にホムラが作ってくれたジャベリンを握って入るが、力は入らない。

投げる事はおろか、振るうこともできないだろう。


敵の大剣にバッサリ斬られた鎖骨部分からおびただしい量の血が流れたため、トビヒの熱を使って強引に止血した。

左腕も相手の砲撃の煽りを食らい、鋭い岩石で大きな傷口を作ってしまったが、それも火で止血した。


戦い、傷付き、身体を焦がし、流れ出る血を止めて、また戦う。


決死隊の中でも、倒した敵の数は間違いなく俺が一番だろう。

何百と…本当に何百と討ち倒した。

ここまで倒して、果たしてジャベリンはもつのか…そう悩んだ瞬間もあったが、なんてことはない、先にダメになったのは俺自身の方だった。



長「……はー…」


崖上から松を背に見る、朝の海。水面がわずかに煌めき、眩しい。


海の向こうで、先に逝った俺の仲間が待っているとは思わない。

あっちから泳いでくるのは、魔族だけだからだ。


それでも俺は、この海岸で待つ。死期を町で過ごそうなどとは思わない。

俺の仲間だって、町では死ねなかったのだ。ならば俺も一緒に、町ではない戦場で死んでやる。

この屍がどうなろうが構いやしない。


きっと同じ場所へいけるはずだ。

せめて俺だけでも向こうへいってやって、勝利の報告でもしてやろう。


最期まで戦い続けた俺だけができる、勇敢な仲間への報いなのだ。



長「………」


目を閉じる。ありがとう、みんな。

――――――――――――――――



140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/15(日) 16:11:34.47 ID:wuT1BYt30

痛む腕を抑えながら、安置所へとたどり着く。

マモリさんも俺を止めようとはしなかった。



疾「……」


顔まで毛布をかけられた遺体の並ぶ場所にはちらほらと人がいた。

その中に、ハヤテの姿もあった。


なるほど、話の通りピンピンしてやがる。



疾「あ……ホムラ…」

焔「おう」


お互い無事でなによりだ。それは、後で言おう。


疾「…こいつがナガトだよ」

焔「ああ」


ハヤテはいつになく神妙な顔で、遺体のひとつの布をめくった。

俺は片足を軽く引きずりながら、そいつのもとまで急いで近づく。




長「……」

焔「………ナガト」


穏やかな表情。

いつも眉間にシワを寄せた難しい顔をしてる奴だった。こんな顔を見るのは、初めてかもしれない。


疾「……ナガト、使命感っつーの…なんていうかさ、背負いすぎなんだよ」

焔「……」

疾「死ぬような奴じゃないだろ、こいつ……無茶しすぎだっての、馬鹿野郎」


ハヤテが涙を零している。静かに垂れるような涙だ。


疾「せっかく一度は助けてやったんだからさぁ…もっと生きりゃいいじゃんかよ…」

焔「……」


ナガトがどういう思いで死んだのかはわからない。

死ぬ気で最期まで戦い続けたのか、不意に敵の攻撃を受け、死んでしまったのか。


前者であってほしい。

こいつが望んで最期まで戦って、身体を雑巾のようにこきつかってまで戦い抜けたのであれば、俺は何も言わない。


でも、切ないな。



141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/15(日) 16:19:16.60 ID:wuT1BYt30


疾「…グスッ…」

焔「情けない面すんなよ」

疾「うるへぇ…」ゴシゴシ


とりあえず、カギルさんの無事をこの目で見たい。

俺の半分ひきずる足は本部へと向いていた。ハヤテはぐずぐずと泣きながらも俺についてきている。



「おっしゃ、じゃあウチ秘蔵の芋をだな…」

「待ってよー!ねえおにいー!」

「はははは!」



行き交う人々の表情は明るい。

戦中はあまり見られなかった子供達の姿も、よく見られる。


これからも魔族の進攻はちょくちょくとあるだろうが、もう危難のダマはいない。

町の防衛能力が最高まで高まっている今、一番の危機を乗り越えたバンホーに敵はないだろう。


バンホーは生き残ったのだ。

世界を襲う、魔族の軍勢から。


平和な職人たちの日々が、再び戻って来る



焔「……」


それでも、平和はバンホーだけに過ぎない。

他の町や村では、未だに魔族の進攻が進んでいるだろう。


…中には陥落した所もあるだろう。


そう思うと、本当の意味で全てが笑顔になれる日は、まだまだ遠いのかもしれない。



142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/15(日) 16:34:17.51 ID:wuT1BYt30

焔「失礼しまーす」


外からでもわかる賑わいに、誰かしらが居ることは察知できた。


「お待ちしていました、どうぞ」


つい頬の緩む声が聞こえた。入り口を開き、中へと歩み入る。



限「おはようございます」

番「ご無事でなによりです、ホムラさん…ハヤテさん」

鐸「…おう、おかえり」

衛生兵「どうもお疲れ様です」

疾「…うっす」


中には各部署の長が座っていて、茶を飲んでいる最中だったらしい。

書類を見ていたり、町の地図の上にそろばんの玉を置いていたり。まだまだここの会議は終わらないようだ。


焔「カギルさんこそご無事で…」

限「ええ…ナガトさんのお話は」

焔「…聞きました、ついさっき、顔を見たところです」

限「……」

番「……」

鐸「……」



皆の表情は重い。



限「今回の死者は9名で彼はその一人です」

焔「9……」

限「我々は次に来るべき戦に備えてこの値を0にする努力をしなくてはなりません」

焔「…そうですね」


戦いは勝利に終わった。

だが、戦いが無かったことにはならないのだ。



145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/17(火) 23:33:56.00 ID:rxS5R48d0


限「まあ、喉が渇いたことでしょう、お茶でも」

番「出涸らしですが、どうぞ」

鐸「うむ」


小さな茶碗が配膳される。

湯気昇る、暖かそうな茶だ。


…茶。常日頃、何気なく飲んでいるものだが、身体に染みるように美味い。

落ちつける環境だけで、こんなにも違うとは。



限「…バンホーは、まさに形振りを構わない改造によって生まれ変わった末、要塞と化し、生存の道を握りしめました」

限「数多くの犠牲を払い、資金も資材も投げ打ち、それでも我々は生き延びたのです」


限「…辛くも勝利したこの結果、ですが私は、ある一人の傭兵の存在なくしては、この町を守り切れなかった、そう思います」


誰も渋い顔などするはずもなかった。

結果が出たのだ。今さら何に不満を持とうというのか。



146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/18(水) 23:45:28.22 ID:RdItwC9D0

鐸「ハープちゃんなぁ…あんな背丈で、よく回る頭だ…傭兵とはそんなもんなのだろうか」

衛生兵「だとしたら残酷な世の中になったもんですね、子供ですらあのようになってしまわざるを得ないなんて」

疾「大人がしゃんとしてねえからいけねえんだ、子供を戦場に駆り出すなんて馬鹿けてる」

鐸「全くだな」


ハープさんが子供というのがいまいちピンと来なくなってしまったのか、皆の話に違和感を感じ続ける俺なのだった。

そういえばハープさんは子供だったな。


…でも歳ははぐらかされている。

結局彼女は何歳なのか……。



焔「ハープさんにお礼をしたいなぁ」

番「そうですね、傭兵さんへではなく、ハープさん個人へ何かお返しができたら嬉しいのですが」

焔「受け取らなそうだ」

番「あはは、確かに…」


鐸「しかし、今でこそ町は死者の弔いでいっぱいいっぱいだが、勝利を祝す時は近々やってくるぞ」

焔「あー、バンホーならやりそうだ」

番「ハープさんやカギルさんをはじめとした決死隊として勇敢にたたかった皆さんを支持する声は、町のあちこちから届いているんですよ」

焔「え」

鐸「くっくっく、ヒーローってこと」

疾「ヒーロー!いいなそれ!」

衛生兵「そういった盛り上がる場には、是非ハープさんにも居ていただきたいものなのですが」

焔「うーん……ハープさん今どこにいるんだろう」



148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/20(金) 00:25:57.81 ID:wCN8HivQ0


町の代表格であるカギルさんとツガエさんが歓迎しているのだ。

なんとかして感謝の気持ちを伝えるため、ハープさんを探す事になった。


もちろん大々的に探すわけではなく、俺やハヤテが顔見せとして町を回りつつ、聞きこむというものだ。



「おお、ホムラだホムラ!おーい!」

「よっ!紅家の英雄!」


いつものように町中を歩いているというのに、俺の周りだけがいやに賑やかだ。

民家の窓から顔を覗かせる見知らぬ子供たちも、俺を馴れ馴れしく呼んでいる。


有名人になったものだ。


焔「戦中も世界が変わったように感じたけど、終わったら終わったで変わるもんだなぁ…」

疾「深い傷の治り跡は目立つってことだな」



150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/20(金) 22:55:13.55 ID:wCN8HivQ0
見慣れた屋根の上の風車が、湿った風を受けてからからと回る。

賑わう町の通りを掻き分け進み、煉瓦の工場へ。



煉瓦工「おう、ホムラさん!」

焔「やあどうも、ヒバシ石の件は本当に助かりました」

煉瓦工「なあに気にすることでもない!むしろ、バンホーの役に立ててこっちが感無量さ!」


大量のヒバシ石を譲ってくれたおやっさん。彼がいなければ、彼が大量のヒバシ石を買いこんでいなければ。

こうして俺が人目につき、活躍する事もなかっただろう。



焔「ハープさん、ここに来ませんでしたかね」

煉瓦工「ちっちゃい子?見ないねえ…」

焔「そうですか…」

煉瓦工「イコイさんがそのハープって子の話ししててね、随分気に入ってたみたいだけど…イコイさんの宿屋はどうかね」

焔「あ、そっか…じゃあそっち見てみます、どうも」

煉瓦工「おうおう、またいつでも来ておくれよ!またいつか、かまど作るからな!」

焔「ははは…」



かまど、かぁ。



151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/23(月) 23:36:41.27 ID:xeejg8vC0
憩「おや」

焔「ども」


戸を開いた瞬間に顔に襲いかかってきた紫煙には驚いた。

部屋の中が煙で白っぽくなっている。


焔「げほっ…イコイさん、苦情来ないんすかこれ」

憩「なあに、泊まってた連中は今頃家族と乳繰り合ってるさ…終戦だからね」


終始ずっと宿屋を続けるなんて、肝が据わっていなければできないことだ。

イコイさんのサバサバした性格は、戦時中も変わらなかった気がする。


憩「で、何?暇だから風呂でも暖めてくれるって?」フゥー

焔「ごほごほっ…いやそうじゃないです、人を探してるんです…」

憩「ひとぉ」

焔「ハープさん、あの栗色の髪の子供です」

憩「あ~~~~、それより聞いたよ、あの子すごいんだって?そういうのは最初に言ってよ」

焔「はぁ、すいません」

憩「誠意がないねえ」

焔「ごめんなさい」

憩「…悪いけど、その子は見てないね…荷物も、前に出ていったきりまとめちゃったみたいだし」

焔「あれから寄ってないんですか?」

憩「うん、残念でした」スパー


焔(うーむ、ハープさんどこへ行ったんだ…あと思いつく場所なんてなぁ…)



153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/24(火) 20:53:08.31 ID:KxIf5Nrd0

限「……」

ハープ「……」


向かい合って座す。

ここは物品室。あまり人の立ち入らない場所だ。

所狭しと置かれたバンホーの際具や農具、用途のわからないもの達の上に適当に腰掛け、二人はしばらく無言のままだった。



限「私と話がしたいというのはいいのですが、何故このような場所を選んだのですか」

ハープ「大っぴらにする話でもないのでね」

番「…私も居ていいのでしょうか…お邪魔でしたら」

ハープ「ツガエにも居てもらいたい」

番「はあ…」


薄暗い倉庫の中、小さな窓から差す光が、顔面の半分だけをくっきりと浮かび上がらせる。


限「さて、用件は」

ハープ「わからなくてもいい」

限「?」

ハープ「私のお願いを聞いてほしい」


きょとん。カギルもツガエもそんな顔をした。


番「お願いですか?命令とかではなく?」

ハープ「私は人に命令できる立場の人間じゃないよ」

限「そんなことはありません」

ハープ「そうでなきゃ困るんだ、私はただの人間で、この町とは一切関係ない」

限「話が読めません」

ハープ「わからなくてもいいんだ」


ハープ「私を、傭兵である私を…この町に来なかったことにしてほしい」



154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/24(火) 21:18:40.88 ID:KxIf5Nrd0

番「……えっ」

限「理解しかねますね」

ハープ「わからなくてもいいから、お願いしたい」

番「あのっ、どういうことですか」

限「私もお聞きしたい、つまりハープさんの活躍を隠匿するということですか」

ハープ「“私は活躍などしていなかった”し、“私はこの町に来ていなかった”」

限(……)

番「何故…バンホーはハープさんの活躍を知っていますよ、私たちの町を救ってくださった、それこそ救世主のような」

ハープ「救ったのはあくまでカギルとツガエ、二人の直接の采配があったからこそ…それで通るだろう」

番「…そんなはずありません、私が出した指示は、カギルさんとハープさん二人からのものです」

限「そして私だけで成し得た事ではない」

ハープ「わからないか、事実を歪曲してほしいってことだよ」

番「だから何故です!?」

限「ツガエさん」

番「っ…す、すみません…」

限「……」

ハープ「……」

限「…ハープさん」

ハープ「なんだ?」


――お前が私にやったことと同じだろう?センジュよ…駒は動かすものだ

――ふん……まったく…魔族王がお前だけなら楽だったのに


限「…センジュとは」

ハープ「…」

番「?」

限「一体、何ですか?」



155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/24(火) 21:37:57.42 ID:KxIf5Nrd0
番(…え?センジュって?何のこと…?)


限「…盗み聞きをするつもりはありませんでしたが、耳に入ってきたので」

ハープ「どこでかは知らないが、聞かれていたか」

限「……誓って深入りはしません」

ハープ「それがいい」


――魔族王…


限「ですが…聞き逃せない単語を聞き取った事もまた事実なのです」

番(! カギルさんが冷や汗をかいてる…)

限「センジュとは…」

ハープ「…」

限「…あなたは一体…」

ハープ「お願い、聞き入れてくれないか」

限「……」

ハープ「…どの道、私はこの町で行われる祭や…以降の事には一切関わらない」

番「は、ハープさんっ」


ハープ「……ごめんね」

番「…え?」

ハープ「さようなら」


キィィ・・・バタン



162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/25(水) 19:07:25.82 ID:7+Qo9lnz0

成長し過ぎた雲の欠片が、久しぶりに落ちてきた。

粒はひとつ、またひとつと土を叩き、確認のために空を見上げる頃にはその勢いを増していた。


堰を切られたかのように落下する清水が顔にかかる。眼球にかかった水分は視覚を錯乱させるため、顔を拭い、フードを被る。


ハープ「……」


そうだ。昨日、ダマの攻撃によってフードが切れていた。

わずかな切れこみではあるが、確率の網を潜り抜けた粒がいくつも顔にかかる。


土が乾燥していたので、しばらくは恵みの雨となるだろう。

急ごしらえの塹壕はいくつか崩れるかもしれないが、彼らならばまた作り直すに違いない。職人の底力を私は見たのだ。



汚れの跳ねる地面を緩慢な速度で歩く。この街道をゆけば隣町に出るだろう。

町へ着いたら掲示板に張られた新聞を読み、安物のメイスを値切り、そこから馬車を手配して次の町へ行く。

その前に傭兵の登録がしっかり抹消されているかを確認しなくてはならない。あれだけ揉めたのだから問題はないだろうが、気を許すことはできない。


ハープ「…良い町だったな」

『ああ』


私の中のもうひとつの存在が相槌を打つ。彼との意見は出来る限りすれ違っていてほしいが、今回ばかりは同意であるとして構わない。

赤褐色の町バンホー。

かつて、朱金の製造のために奴隷に近い労働者達を詰め込んだ、人間の負を知る町。



ハープ「……」



雨を受けた風車が、水車のように水を湛えて回り、飽きたように逆回転し、だが滑らかに動き続け、止まることはない。

匠の技によって作られたこの風車は、まだまだあの屋根の上で回り続けるのだろう。


ハープ「…さて、次へ行こう」

『急ぐのだ、人の子よ』


情が移りきる前に、私は町を出た。



165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/25(水) 19:17:28.62 ID:7+Qo9lnz0
―――――――――――――――――


危難のダマを殺した。

しかし魔族の侵攻が終わるわけではない。

バンホーにはまだ惨劇軍が押し寄せるだろうし、そのたびに防衛を迫られるだろう。


当然、バンホーだけに限らず、世界の各地で戦いは続いている。

黒幕が諦めるまではまだまだ、人間は戦わなくてはならない。


人間同士の争いであれば仲裁も楽だったものを、考えなしの馬鹿を退けるのは手間だ。

馬鹿は、過ちを相当に痛い目を見なければ気付かないのだろうか。


…まあいい。

私も修練を積まなくてはならない時期だ。

まだ使っていない武器もあるし、唱えていない術もある。

希少種を逃がさず圧倒できるまでにならなくては、来るべき日を迎えることはできないだろう。


魔族側が戦うのであれば私はいつまででも戦い続けてみせよう。

長い時間のほんの練習期間だ。もうしばらく付き合ってやる。


キキよ、私とお前、先に詰むのはどちらかな。




――――――――――――――――



166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/25(水) 19:28:13.93 ID:7+Qo9lnz0

時は流れる。

――――――――――――――

私が歩いている間に、どこかで誰かが転び。

―――――――――

どこかでは誰かが立ち上がっている。

―――――

それでも私は時の流れを歩いている。

――



ハープ「……」


町のはずれも、随分と内側になったものだ。


その一角で、家の屋根に立つ風車を見上げる。

また、羽が違う色に変わっている。取りかえられたのだ。


朱金の混ぜられた煉瓦の壁も、鮮やかな赤が竹燈に照らされ、素朴な金属の光沢を見せる。

この家は、壁も変えたのだろう。


当然の事だ。私も、何着もケープを替えた。メイスも数えきれないほど折ったし、失ったし、中には熔けたものもある。

時間が経てば景色は変わる。

かつての面影が残っているだけで、喜ばしいものだとしておこう。


灰色のフードを深く被り、町を歩く。

知らない顔。知ってるかもしれない顔。

彼は、すれ違う者の何人かを覚えていたが、私はさっぱりだった。




最期にここへ来たのは、ツガエの墓に花束を手向けた時だ。

その前はカギルの墓。

その前には、以外にも早く死んだ、ハヤテの墓。


…だが、今日は墓参りではない。

だから、私は花を持たずに、見知ったような、知らないような街を歩いている。



167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/25(水) 19:43:38.55 ID:7+Qo9lnz0

この町は私を知らない。

私の事を忘れてしまったのだ。

いや、私が忘れさせたのだ。


カギルとツガエは、最期まで私のお願いを守ってくれた。

可能な限り公な文献には私の痕跡を残さず、辺に持ちあげもすることはなかった。


結局のところ、町に担がれ大きくなった存在が、紅(くれない)。飛(とび)。捺(なつ)。この三つの家だ。

それぞれの家は戦いにひと段落をつけたあの時から、更に活躍し続けた。


カギルはツガエと籍を入れ、以前よりも遥かに町から慕われる存在となり。

ハヤテは足の速さだけではなく、人柄でも人々の上に立ち、後のバンホーに残る多くの建築事業に関わることとなる。


そして、ホムラは戦い続けた。

私は知らなかったが、ホムラは戦いの後に街を離れ、傭兵紛いの真似をして、惨劇軍と戦い続けていたらしい。


背に絢の大輪の描かれたローブを翻し、燃える槍を担ぎ、隣町へ。その隣へ。そのまた隣へ。


彼は何かに駆られたように、何年も十何年も、ひたすら魔族と戦い続けたそうだ。



ホムラが町へ戻って来る頃には、彼の後ろには多くの“従者”とも呼ぶべき、ホムラを慕う者達が列を作っていたらしい。


彼は性分である鍛冶を捨ててまで、魔族との戦いを続けていたのだ。




ホムラは三人の中でも一際大きな存在として注目された。

これからも、この三つの家が、その存在が縮こまることはないだろう。


三つの家…御三家が脚光を浴び、その神話の発端からは、更に私の存在は消え失せてゆく。

それで良い。そうでなくては困る。



168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/25(水) 19:50:13.62 ID:7+Qo9lnz0

かつては平凡な民家だったそこには、大きな屋敷があった。

以前見た時よりも大きくなっている気がする。もしかしたら、ここは増改築をされるのかもしれない。

いつかは掘りでも作るのだろうか。



ハープ「……さて」



肉体を強化する。

中の警備も、相応に厳しくなっているのだろうか。


ハープ「っ」


跳ぶ。

敷地の空域に入った。庭の二か所に人影を確認。

松を蹴り、音もなく草かげに潜み隠れる。



ハープ(やれやれ)


塀を一足で越える賊の侵入までは想定していなかったか。

とは言ったものだが、警備が二人もいるとは驚きだ。

私の知らない所で、紅はどんどん大きくなってゆく。



169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/25(水) 19:58:28.52 ID:7+Qo9lnz0
庭を一瞬で抜ける。

廊下の真上へ跳び、梁を掴んで移動する。



ハープ「……」

「…はぁ、旦那さま、今日も食べてくださらない…」



侍女らしき人間が、こちらに気付かず廊下を歩いていった。

その手には、真新しく残る料理が見えた。どうやら、一口も付けずに残されたようだ。


ハープ(侍女が来た方向は……こっちか)


バンホーも豊かになったものだ。

まあ、魔族の進撃を止めることができると噂が立てば、発展することは目に見えていたのだが。

それにしても、ホムラが築きあげた数々の神話は、私の予想外だ。


ハープ(……ホムラ)


忍び、屋敷の暗闇を駆ける。



172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/25(水) 20:23:53.33 ID:7+Qo9lnz0


自分の体の事は自分が一番良く分かっている。

もはや薬膳などでは、どうこうなる身体ではないのだ。


でも俺は現状を悲観してはいない。

当然だ。天寿を全うするのだから。恵まれ過ぎているのだ。


無理やり、不自然な食で延命する必要などはない。

俺もそろそろ、そんな時が来た。それだけだ。


…まぁ、マモリはあと二、三十年くらいは長生きするんじゃないかな。

本人の前で言ったら怒るだろうけど。



「……はあ…」


しわがれたため息を零す。

一日中寝続けているだけの身だというのに、疲れというものはやってくる。

書でも記す握力が残っていればこの二年、どれだけ充実していたことだろうか。


まあ、それも含めて天寿か…。

良い事も悪い事もある…。



「……もう寝よう…」

「――睡眠時間は長いほど良いが、事の寸前まで寝られても困るだろ」

「……え」


まどろみに閉じかけた目が、驚愕をもって、反射のように開かれる。


「…今の声…」


聞き覚えがあるどころではない。

何度だって夢の中で聞いた声だ。


俺もそろそろ、本当に終わりの時が来ているのか。



ハープ「…なあ、生きている間にしか話せないことなんて、いくらでもあるだろ」

「……ああ」



動かない俺の首を気遣うように覗きこんだ、整った顔。

待ちわびた、俺の大先輩の顔だった。



173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/25(水) 20:37:14.67 ID:7+Qo9lnz0
焔「……ハープ…さん」

ハープ「……」


俺の身体はもう、ほとんど動かない。

筆記具を持てないほどに握力は落ち、足腰は立たず、寝返りすらもまともにできない。

俺は、爆炎の勇者だとかいわれたかのホムラはもう、時々寝小便をする、死にかけの老人だ。



焔「ハープ…さん…」

ハープ「……」


彼女はとまどったような、思い詰めたような表情でこちらを見下ろしている。

俺のシミと皺だらけの腕は、おそるおそると彼女の顔へ近づき、そっと頬を撫でた。


ハリのある、子供のままの、綺麗な頬だった。



ハープ「……覚えていてくれてるんだな」

焔「…もちろん」


切なげな表情。久々に見る彼女の、初めて見る表情。


ハープ「私はお前たちとは違う…いつまでも……いつまでたっても、このまま…」

焔「……」

ハープ「受け入れたはずなのに…こうして皆の成長する姿を見て…心の中で、張り裂けそうになる自分が…いる」

焔「……ハープさん…」

ハープ「なんだ…」

焔「…ちょっとだけ……背、伸びたな…」

ハープ「…っ…!」


彼女が大粒の涙を零した。


焔「バンホーの戦が終わった後…ハープさんが消えて…カギルさんは俺に…何故か口封じして…なるほど…ああ、こういうことか…」

ハープ「ホムラ…ごめん…ごめんな…私…」

焔「でも俺な…ずっと探してたよ…もしかしたら、傭兵やってりゃ…ハープさんに会えるのかなって…バンホーみたいに、どこかの町を魔族達から守っていれば…会えるのかなって…」

ハープ「……」

焔「…諦めた頃には英雄扱いされててさ…びっくりしたよ…」

ハープ「ホムラ…」


焔「マモリと結婚して…子供もできて…家はどんどん…ごほっ…でかくなって」

焔「ああ…まだまだ話したいことが沢山あるのにな…ごほっ…」


焔「…ああ、ハープさん…良かったあ……戦ってきた俺、もういま、ここで報われたよ…」

ハープ「……」

焔「なんかもう……それだけで良くなってきた…」



174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/25(水) 20:46:05.69 ID:7+Qo9lnz0
焔「……ああ…ハープさん…」

ハープ「……なに?」

焔「ローブ……あるんだぜ…」

ハープ「…聞いたよ…石像、立派なもんだな」

焔「へへ…あんな凛々しくない…ごほっ…」

ハープ「ははは…」

焔「ああ…」

ハープ「……」

焔「……」


ハープ「ホムラ……」

焔「…すぅ…すぅ…」

ハープ「……」



私は涙を拭い、部屋を後にした。

障子を静かに開けると、黄色い月がぼんやりと庭を照らしている。



『良いのか』

ハープ(寝てるだろ、良いんだよ)

『危篤を聞きつけ、この日のために馬車をいくつも乗り継いだではないか』

ハープ(もう良いんだ…あいつの顔を見てみろ)



焔「すぅ…すぅ…」


ハープ「…安らかに眠ってる…あの顔が見れただけで、私は十分だ」

『長旅になる、もう会えるかは…』

ハープ「だから、良いの」


ハープ「…私を覚えていくれている人がいる、それだけで…私はどこまでも歩いて行けるからね」



175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/25(水) 20:50:00.62 ID:7+Qo9lnz0
道のりはまだまだ長い。

残された時間を見れば、足跡などすぐ真後ろにある。

だが歩け、人の子よ。

息継ぎの苦しみも、喜びも知ったお前には、この先すら歩き続けることができるのだ。

我はどこまでも導こう。共に歩いてゆこう。

理想の世界を目指し、どこまでも。




おわり



178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) 2012/01/25(水) 21:05:21.70 ID:72rWqrpHo
お疲れ様でした。
最後で時間が飛んだのが、いい結末と読後感を残してくれました。
切ないけど、ああ、ハッピーエンドだったな……と。



179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/25(水) 21:18:21.67 ID:mtx4JcBKo
乙!

数ヶ月間かなり楽しませてもらった。ありがとう!



181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/25(水) 23:00:36.69 ID:7+Qo9lnz0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


学者「バンホー御三家が確立するきっかけとなった“惨劇の戦い”、この功労者は紛れもなく先代のホムラ!異論はあるまい!」

女「ええ」

紅髪「……」

学者「他に捺家のカギル、飛家のハヤテ!そして御三家ではないが、杉家のナガト!彼らの活躍も大いにあった!」

女「そうね」


学者「そしてこの戦いにおいて、町長の娘でありながら弓術、法術など様々な分野に長けたツガエ!彼女の存在も当然、欠かせない!」ドンッ

女「異議あり」

学者「何故だっ!言ってみろ!」ダンダンッ

紅髪「あの、熱心であることを疎ましく思っているわけではないのですが…」

学者「おっと失礼」


女「…私からも確認作業を」

学者「ふん、言ってみたまえ」

女「バンホーの外れには記念碑および石像がある」

学者「ああ、惨劇の戦いのすぐ後に作られたものだ」

女「正確にはその20年後ね…すぐに、というには」

学者「ええい、早く先を話せ!まどろっこしい!」



182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/25(水) 23:08:34.87 ID:7+Qo9lnz0

女「存在する石像は、全部で5体よ」

学者「ああ」


女「御三家のホムラ、カギル、ハヤテ…」


女「そして、ナガトとツガエ」

学者「ツガエはカギルの妻であり、兵法に明るい優秀な女性だ」

女「仮説のひとつね」

学者「なに?お前はあの低質な俗説を推すつもりか?」


紅髪「……俗説って?」

学者「ゴホンッ…紅家とは直接は関係ありませんが、ツガエ…後の捺番に関するエピソードは、いくつかあるのですよ」

紅髪「どこかで聞いたかもしれないわね」

学者「武勇伝のようなものです、あなたが小耳に挟んでいても不思議ではない」


学者「ツガエは弓術の達人であり、戦時中やそれ以前から、町の皆に弓を教えていたと聞きます」

紅髪「らしいわね」

学者「それでいて町長の家系の人間…様々な英才教育を施された、当時にはよくある富裕層の女性ですよ…まあ、バンホーが栄えてからは町の管理体制も変わりましたがね、彼女が最後の天才、ということでしょう」



183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/25(水) 23:21:11.62 ID:7+Qo9lnz0

学者「彼女は魔族軍の襲来を知ると、カギルや町の人々と共に力を合わせました」

学者「当時は特に職人の多い町でした…戦時中はバンホー以外では、生兵法で決起し挑み、倒れる町が多かった」


学者「しかしバンホーは違った…ツガエは、当時の都会や隣国などでしか存在しなかった要塞、兵器の運用を、咄嗟の実践の中でやってみせたのです」

紅髪「それは…すごいわね」

学者「トレバなども上手く使い、傭兵達の助力などは一切借りずに独力で敵を倒した、多くの文献にはそう記されています」

紅髪「同じ女として憧れるわね?」

女「……」

学者「ふふ…そして、ついた愛称が“ハープ”です、ハープ・トウゲ」

紅髪「弓だから?」

学者「それはもう、…いくつかの文献にも多少の誇張はあると思いますが、バリスタの設置やトレバの設定、弓の扱い…これらからついたものだと思われます」

紅髪「ふーん…」

学者「トウゲ、というのは…当時のツガエ、という名前を捩ったものでしょう…バンホーの人々が彼女を讃える時は、だいたいこの愛称で呼ぶ」


女「ハープ=トウゲという別人が居た、というのが私の説」

紅髪「!」

学者「あるわけがないね!バンホーにはそのような本名の人間はいなかった!調べても、全く出てきやしない」


学者「傭兵も一度か二度、増援としてバンホーに来たらしいが」

女「彼らは撤退した?」

学者「そうだ、紅髪さんが用意した資料にも、やってきた傭兵達への文句らしきものがしたためられている」



184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/25(水) 23:26:45.92 ID:7+Qo9lnz0


紅髪「……」

女「……」

学者「……」


紅髪「うーん…やっぱり、一致する点は多い…同一人物なんじゃないかしら…?」

学者「我々の間では定説です」

女「不自然な点が多すぎる」

学者「ふん、ならばこのハープという別人がいたとして、これはどこからきた?傭兵でも町の人間でもない、これは誰だ?」

女「…」

学者「そういうことです」

紅髪「…うん、興味深い話が聞けたわ、ありがとうございます」

学者「こちらこそ」

女「……」

紅髪「でも私は、女さんの説も一理あると思うわ」

学者「なっ」

紅髪「やっぱり、一人の名家生まれの女性がそんな軍人顔負けな人生を送ってきたなんてね…当時の世相を考えても、信じたくはないもの」

学者「……」

紅髪「ツガエさん一人でも無茶な功績だとは思うけど、でももう一人別人が居たとしても、それもやっぱり無茶な話よね」



185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/25(水) 23:31:34.01 ID:7+Qo9lnz0
紅髪「でも具体的な証拠がない以上は、一致する点も多いし…同一人物と見るしかないわ」

学者「ありがとうございます」

女「……」

紅髪「今日は遠いところからお越し頂いて、本当にありがとうございます」

学者「いえいえ、貴重な資料を拝見させていただきました、ありがとうございます」

女「…じゃあ、私は帰る…また何かあれば、連絡を」

紅髪「あ、はい」


ガチャッ バタンッ



学者「……ふん、無愛想な女です」

紅髪「クールビューティっていうやつですよ、ミステリアスで、知的で、女さんのようなタイプは素敵だと思うわ、私にはないものがあるからかしら」

学者「底が深いように見えるだけです!奴は何もわかっちゃいない!」

紅髪「ちょ、ちょっと」

学者「…ふう、失礼します、歴史問題でお困りでしたら、またいつか」

紅髪「…はい」


バタン


紅髪「…人選で組み合わせをミスするとは…うーん、事前に二人の仲を調べておくべきだったか…」



186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/25(水) 23:35:04.63 ID:7+Qo9lnz0

ザッザッザッ・・・


女(ハープ…ツガエ…同一人物だとは思えない)

女(あの時代は、同時期に同じような、謎の名前を持った英雄が多く存在している…)

女(今でこそ、あたかも誇張された英雄史のように語られてはいるけれど…)


女(…私の考え過ぎなのかもしれない)

女(こればかりは、やはり突拍子もないのだろうか)

女(しかし、ツガエ…ハープ……うーん…)



ザッザッザッ・・・


仮面「……」

女(……うーん)


ザッザッザッ・・・



女(…難しいな、もっと資料があればいいのだけど…)



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/25(水) 23:35:46.16 ID:7+Qo9lnz0
今度こそ本当におわり



196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/26(木) 08:52:48.22 ID:rTw856AGo
おつ、次があるならそれも読みたい
長かったなおつ



202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/01/26(木) 20:47:05.73 ID:I7hCWPqDO
うん、感動した。
お疲れ様でした。



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        コメント一覧

          • 1. 以下、VIPにかわりましてマジキチがお送りします
          • 2012年05月24日 09:05
          • いちげと
          • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月24日 09:19
          • 懐かしいな。まとめGJ
          • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月24日 09:23
          • ちなみにこれは、Dr.ホームズと同じ作者
          • 4. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月25日 01:08
          • 米3
            マジかよ
            それなら是非とも読んでみようか
          • 5. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月25日 02:47
          • 4時間かかった、後悔はしていない
            たいそう乙であった
          • 6. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月25日 18:16
          • 5 いい読後感が残る作品!
            キャラクターがみんな魅力的で、印象深かった。
          • 7. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月25日 23:50
          • 素晴らしかった。
            乙乙
          • 8. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月26日 08:28
          • 二日かかった…

            最後、ホムラの一言で目頭が熱くなった(/ _ ; )
          • 9. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月26日 16:35
          • 5 本当に素晴らしかった。
          • 10. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月26日 21:01
          • 5 素晴らしい
            もうこれでゲームor映画化したらいいんじゃないかな
          • 11. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月27日 12:55
          • 5 面白かった!
            乙です!
          • 12. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月27日 12:55
          • 5 面白かった!
            乙です!
          • 13. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月28日 00:21
          • ちゃんと世界観が出来てるのが良いね
            なんかロードス島戦記(の魔大陸編)を思い出す
          • 14. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月29日 08:42
          • キャラが魅力的でちょっと長いけどサクサク読める
            久々に楽しめた
          • 15. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月29日 19:03
          • 5 最高だった!
          • 16. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月29日 21:10
          • めちゃくちゃ面白かった!
          • 17. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月31日 15:58
          • 5 さすがはジェミニの人
            安定の高クオリティ
          • 18. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年11月01日 06:45
          • 良作
          • 19. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年02月17日 20:07
          • アニメ化してほしいぜまおゆうみたいに
          • 20. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年02月16日 01:37
          • 隠れた名作だわ
          • 21. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年07月02日 15:21
          • 力作だな
            拘りが過ぎて途中ちょっと冗長に感じたが全体的にはとても良かった
            Dやヴェドゴニアみたいなラスト好き
          • 22. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年11月30日 10:28
          • 5 主人公以外の脇役が映える小説は名作。これ豆知識な。

            因みにこの小説は間違い無く名作の類。紙媒体で出たら絶対買うね。
          • 23. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年01月23日 00:52
          • これ打ち砕くロッカの人じゃないか!

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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