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槍使い「ヤバい…砲撃だ!伏せろ!」【後編】

関連記事:槍使い「ヤバい…砲撃だ!伏せろ!」【前編】





槍使い「ヤバい…砲撃だ!伏せろ!」【後編】




380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/26(土) 23:09:33.41 ID:+EwLNKhb0
「これで良いか!?荷車を出すぞ!」

「駄目だ足りない!あと10は積むぞ!」

「重すぎる!早くは運べない!」

「く…小分けにしてでも運べ!往復する!急げ!」

「わかった…!」

ガタガタッ ゴトンッ


――ドゴォン!


「……!早く車を出せ!そろそろ撒かないとマズい!」

「重々承知だってえの!」

ゴトン、ゴトトトン


ハープ「…慌ただしいな、楔土嚢を運び…そうか、油を撒き火あぶりにする算段か」

「! おい子供はここに…」

「まて、その人は確か…えーっと」

ハープ「カギル裁判長はどこだ?」

「今は時間が無いから案内はできん、あっちにいる」

ハープ「わかった。急げ、時間が無い」タッタッタッ・・・



「……あのガキが?話にだけは聞いていたが」

「いくぞ、あいつが言ってるように時間が無い」

「…おう!」



381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/27(日) 22:07:22.52 ID:18yBttZX0
――ドゴォン…


「俺らがすることは何だ?台車は出さんのか?」

「もう車は出れるだけ行って、人も乗せられるだけ乗せていっちまったよ」

「…じゃあ何すりゃいい、火を放つんだろ。まさか俺らの役割が着火だけってこたないだろうな」

「かもしれない」

「…もどかしすぎる」


限(…火線は全て繋がるように、途切れなく油を撒くように指示はした。火も各自が放てるようにしてあるが、さて)

限(全て上手くいったとしよう、油を十分に撒ききり、敵が町へ砲弾を放つ前に火の壁を作れたとしよう)

限(だが果たして、それだけで魔族達を撃退することができるのだろうか…ハープさんからは火に弱いとは聞いたが、不安だ)

限(もし十分に撒いた油の火力を以てしても対処できなかった場合…背水の陣とも言えないお粗末な防衛戦となるだろう、町の半壊以上を覚悟するべきだな)

限(…どうなんだ?楔土嚢に湛えた油は爆蕾から抽出した一際火力の高い油を混ぜた特製のものだが…)



タッタッタッタッ・・・


ハープ「カギル裁判長」

限「…おや、ハープさんご無事でしたか」

ハープ「ああ、まあ、他の奴はわからないが」


限「ハープさん、聞きたい事があります」

ハープ「あ、 ――あー、はい、何を“知りたい”んだ?」

限「ハープさんの提案により楔土嚢に油を湛えたのですが…」

ハープ「あれか。今展開している作戦だな?良い手際だ」

限「はい。大量にある油を撒き、それによる炎の壁で魔族を退けたいと考えているのですが…果たして可能なのでしょうか」

ハープ「できるかも解らずにやっているのか?」

限「…はい。…可能なのでしょうか」

ハープ「ふ、安心しろ、蝋燭の火じゃあないんだ。あれくらいならば十分に効くとも」

限「! …良かった!ありがとうございます!」ガシッ

ハープ「! ちょ、痛い、手が折れる」

限「、すみません」パッ


限「…感謝してもしきれないです、ありがとうございますハープさん、本当に」

ハープ「礼は要らないし、勝った気でいるのも早いだろう」


ハープ「敵の前線はかなり迫っているんだ。間に合うかどうかは怪しいラインの上で振れているぞ」

限「…それでも私は、町の人々をあらゆる意味で信じています」


限「彼らなら必ずやってくれる、と」



382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/28(月) 21:01:35.14 ID:xwKxr0a90
ハープ「ふふふ、そうだな、私も信じよう…希望は無くてはならないからね」

限「……」

ハープ「そうだ、私の方も用があって来たんだ」

限「? 何でしょうか」

ハープ「ん…現状、奇襲され町側が押されているのは私の責任でもある…後悔ではないが、それにより伝えておかなければならない用件が見つかった」

限「…すみません、仰っている意味がよくわからないのですが」

ハープ「私も順を追って解りやすく説明したいが、それだと説明に百数年はかかるだろうな…よしわかった、端折って伝えよう」

限「重要な案件ですか?お願いします」



ハープ(…町人にとっては知る由もなかった事とはいえ、夜襲を受けたのは“居ないだろう”と高をくくっていた私に責任がある、正直に言おう)



ハープ「まず、奴らの中に時折存在する“上位種”についてだな」

限「は、上位種?」

ハープ「戦闘能力が高く、知能もある…惨劇軍の司令塔として君臨する魔族の事だ」

限「…貴女から聞かされる敵性魔族の情報は全て目新しいものですが、それもまた新鮮な情報ですね…それはシドノフやロッコイなどを指す言葉ですか?」

ハープ「そのどちらでもない。上位種は更に強く、人間の様な個性を持っている…個別に名前もあるらしい」

限「…その上位種が、敵勢の中にいると…?」

ハープ「上位種が軍隊に混じっている事は稀なんだ、だから私もあえて皆に伝えはしなかったのだが…今夜の奇襲で上位種の姿を確認した」

限「良い話ではないという事ですか」

ハープ「かなり。司令塔が存在することによって、敵の攻め方は他とは比べようもなく一気に戦略的になるからな」

限「…このまさか夜襲もその、上位種とやらが噛んでいるのですか」

ハープ「間違いないだろう、普通なら夜襲にせよ正面から突撃してくるのが奴らだからな」

限「…」

ハープ「…すまない、私が慢心せず全て伝えていれば事前にあらゆる対策も講じる事ができたのだが」

限「いいえ、そんな……ハープさんがいなくてはこの町はそもそも、今こうして現存できていたかどうかわからないのです、お気になさることはありません」

ハープ「……」

限「しかし参りましたね。上位種、ですか…」

ハープ「その対策も全て、火攻めが成功したらの話ではあるがね」

限「……ええ、わかっています」


限(一難……去ってもいないのに、また一難来るとは…)



383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/01(火) 19:53:43.35 ID:Yz9u7l8/0


ゴトッ


疾「……くぁっ……腕…攣りそ…」

焔「無理すんな!ここの油を積んで最後なんだ!それ以上は支障が出るぞ!」

疾「問題ねっ…!」ゴトッ

長「…問題が無いならやらせてやる!だが運びに支障を出してくれるなよ!」

疾「へっ…何を馬鹿言ってやがる…」



ついに3つ目の土嚢のところまで来た。

あとは走り、途中から太陽橋まで油を垂れ流すだけだ。


慎重に油の川を描き、途切れなくかつ幅を広く持たせて撒く。

無駄に垂らしすぎないように慎重にやらなくてはならない。



疾「ラストスパートだぁッ!いくぜ!」

長「おおうよ!」


――ドゴォン!


長「……やばい、急げ!」

疾「言われ、なくても!」ダッ



焔(高速で走る台車から油を撒く……一定の量を途切れなく!ナガトと俺で互いになって線をつなぎ続ける…!難しいのはこっからだ!)

焔(臭いからしてこの油は合フゲン油か合麗油のどちらか…爆発力と火力はただのモノとは違うはずだが、だからといって範囲が範囲だ。量をケチるには不安もある…)


――ドゴォン!


焔「!」


――ドゴォン!





焔「……!くそ、ケチなんて考える暇はないってか…!?」



384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/03(木) 22:30:50.22 ID:2fDZJ5br0
かなりの速さで荷車は町の外れを沿うように走っていた。

町とは離れた整備の行き届いていない荒めの地面の上を、超重量の車輪が跡をつけるように踏みつぶしてゆく。



焔「1、2、3!」バシャッ

長「おう1、2、3!」バシャッ



一定間隔で途切れなく当分の油を撒くための掛け声だけが、けたたましく吠える車輪の声と共にある音だった。

鳴り響き近づいてくる爆音をかき消すために、声量は大きく。調子を狂わさぬようにタイミングも測り。



焔「1、2、3!」バシャッ

カランカランッ


尽きた土嚢の缶はその場で投げ捨てる。繰り返し使える物なんだろうが、わざわざ荷台に戻す暇などはなかった。

油を撒いたら即捨てる。そして急いで次の油を手に取り、油の線を絶やさぬよう備える。

それをひたすら交互に繰り返す。


油の線の間に多少の間隔くらいならば引火時の爆発力でなんとか燃え移ってくれるだろうが、あまりに大きな間を開けては燃え移らずに失敗となってしまう。となれば炎の壁に穴を作ってしまい、取り返しのつかない事態に発展してしまうしかない。

俺とナガトはただただ撒くことのみに集中していた。

揺れる荷台の上でバランスを崩さぬよう、しかし垂らす量に狂いは出さないように。



焔「よし、順調だ…!あともう少しで太陽橋だぞ…!」

疾「はっ…はっ…!おおう!軽くなったおかげで体力も回復してきたぜえ!」


…こいつはこいつで本当に底なしのスタミナを持っていやがる。

走っている間に休憩でもしてたみたいな口ぶりだ。



長「ともあれ、まだ前方には敵の姿は見えないんだな!?太陽橋も見えてきた。ならば火線は間に合ったということか…!」

焔「そう考えて良いだろうな!他の奴らのエリアがどうかは知らないが…太陽橋まで撒けばひとまず安心だろう!」

疾「ああ、そうだ……な………!?」


焔「――どうした」

長「――…」


ハヤテの語尾に緊張感が乗せられたのを、前方に背を向けていた俺とナガトも感じ取った。

以心伝心でもないし透視でもなんでもないが、確かに緊張感のようなものが脳に直接差し込まれたのだ。



シドノフ「――コォォ」

ロッコイ「――ホォォ」



俺らは知らずして、悪寒にて確信する。きっとハヤテは、この荷車の延長線上に何かを見たに違いないと。



385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/04(金) 19:43:03.77 ID:BdwK0tXE0


疾「敵だ!」


疾風が叫ぶが、なんとなく解っていた。本当になんとなくではあるが。これが慣れというものなんだろうか。


疾「降りて隠れろッ!」

焔「おうよ!お前もな!」


促される前に既に俺らは馬車から飛び降りていた。


長「ちっ、奴らめついに来たか!」

焔「間に合わなかったのか…!?」


走る荷台から飛び降りる行為は、敵という恐怖の塊ほどには至らなかったようで、俺らは躊躇なく素早い避難をすることができた。



…だがハヤテはそうもいかないだろう!


焔「…ハヤテ!?大丈夫か!」


着地の衝撃も構わず、台車の往く先に振り返る。



386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/07(月) 00:12:10.98 ID:N2UCpxmw0

疾(……死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ!)


シドノフ「コォオオ……!」


疾(荷車はなんとか退避させた…!だが俺自身が勢いを殺し忘れちまった…!)

疾(全速力の走りの勢いは簡単には止められねえ!このままじゃ前方の奴らに突っ込むなんて暴挙に…!)


シドノフ「コォオ……」スッ

ロッコイ「ホォオオ…」


疾(! おいマジかよ、腕までこっちに向けてやがる…それと盾持ちまで一緒ときた…)

疾(最強の盾と矛に疲労困憊の衛生兵が突っ込むってかあ!?冗談じゃねえぜまだ家にはキレーな嫁と娘が俺の帰りを…)


――とーさ!とーさ!

――あなた、気をつけていってらっしゃいね


疾(…おいやめろマジやめろ!今だけは顔とか言葉とか浮かんでくるか!このままじゃ俺が死ぬみてえじゃねえか!)

疾(馬鹿野郎まだ死ねねえよ!まだやってねえ事が沢山……!)



シドノフ「……!」ボォオッ…



389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/07(月) 23:19:59.90 ID:N2UCpxmw0


――随分速いし…この速度からの蹴りはかなり強力だろう


疾(!)

止めかけていた脚の勢いを殺さず、そのまま走り続ける。

酔狂な事だ。今にも前方の魔族はこちらに向けて砲撃を放とうとしているというのに。ハヤテはそのまま、高出力を火砲を構えた敵へと走っているのだ。


疾(俺だってホントならやりたくねえ)ダダダダ

疾(やりたくねーけどよぉおおー…男ならやるしかねえ時が一生にいっぺんでもあるとしたらよお!そいつぁ今しかねえだろうがよ!)ダンッ


ヒュ


シドノフ「!?」

疾「なんだなんだオイィ!全速力で近づいてみりゃなんだ!?ケッコー撃つの遅いじゃねえか!」


全力を振り絞った接近からの渾身の踏み込みは、ハヤテの脚がシドノフの頭部を狙える位置にまで到達するほどの跳躍となった。

火炎を腕に集めた巨人は、無防備な地肌を蹴りの前に晒している。



焔(ハヤテが跳んだ!)

長(速…!)




疾「こうなりゃヤケだぜ!そのマツボックリみてえな顔面、全力で蹴っ飛ばしてやる!」ブンッ

ロッコイ「ホォオオオッ!」ドガッ



目にも留まらぬ速さで繰り出された空中蹴りは、同じく高速で割り込んできた岩壁の様な盾によって防がれた。

しかし、間一髪で防ぐだけでハヤテの蹴りは終わらなかった。



――ドンッ!


ロッコイ「…ッ!?」ブワッ


盾を割り込ませた魔族が、小さくではあるが勢いを殺しきれずに吹き飛ばされたのである。



390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/08(火) 19:46:09.20 ID:+CEQtE7R0
疾(……え、これマジか)


空中で脚を振り切った体勢のハヤテは一人唖然としていた。

着地するまではこの状況が飲みこめなかった。



ロッコイ「ホ…ホォオ…!」

シドノフ「…!」



疾(二体とも地面に転がってる…俺の蹴りで?)

疾(嘘だろ、普段の蹴りだってここまで威力は…無い?いや、どうだろう、こんくらいの力はもしかしたらあったのかも……)


焔「ハヤテ!大丈夫か!」タタタッ

疾「え!?…ああ、ぼーっとしてた」

焔「注意しろよ俺じゃないんだから…あいつらまた起き上がってくるぞ」


タタタッ

チャキ

長「奴らは地面でおねんねしてやがる、今がチャンスだ、仕留めよう……感謝するぞハヤテ」

疾「ははは、どーってこと…」


シドノフ「コォオオォォオオッ!」



疾「うわ、起きるの早っ…」

焔「どうやら、生きてる喜びを分かち合う暇はくれないらしいな」

長「そんなものは後回しだ、俺ら三人が死んででもこいつらはここで殺す」

焔「縁起でもないな、勝つ気でいこうぜ」チャキッ

長「当たり前だ」ジャラッ


疾「……」

疾(俺の蹴りだけであんだけふっ飛ばせるなら……俺にだって)



392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/10(木) 20:36:11.94 ID:1Y3CwFtL0
ロッコイ「……!」ジタジタ



焔「! ナガト、こりゃ本当にチャンスだぞ。盾の野郎は腕の重みで起き上れないみたいだ」

長「ははっ、まるでカニだな」


シドノフ「ボォオオ…」メラッ


長「…二手に分かれて奴の注意を逸らす、敵が砲撃を撃ったらどちらか一方が頭を狙うぞ」タタッ

焔「おう、…一発外したらすまん」

長「狙いを澄ませばいける、撃つ直前でもいい、機会は二度は来ないと思え」

焔「厳しいな…けどまそういうもんだよな…了解」


シドノフ「コォオ……」

長「……」



シドノフから距離を置いて、回り込むようにしてにじり歩く。

ナガトはジャベリン片手に、俺は火薬銃片手に。

獲物を狙う狼のようにシドノフの周囲を囲んだ。



長「さあ……俺か、ホムラか…どっちを狙う…?狙うなら、殺されたくない武器を持ってる方を狙うんだな……」ザッザッ

シドノフ「……!」キョロキョロ

焔「いきなり現れた時は驚いたが、単体になっちまえば何も恐れる事はないな?砲撃してこようが、さすがにこの距離なら避けるのも反撃するのも容易い」ザッザッ

疾「…」ザッザッ

焔「……どさくさにまぎれてお前も囲んでるのな」

疾「二人で囲うよりも三人の方がいーだろ?」チャ

長(…? あれはブルメラか?)


焔「まあ良いけどな、お前が狙われても避けられそうだし」

疾「そうそう、もっと俺を頼れよ二人共よ」

長「十分すぎるほど頼ったさ、既に感謝してもしきれないくらいにな」

疾「……!」


疾(なんか、いいなこれ…戦場で頼りになる男…)



403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/15(金) 23:20:32.87 ID:PntU/CUY0

長「言っておくがなデカイの!俺のジャベリンは!てめえの硬い体をも貫く必殺の槍だ!」ヒュッ

焔「!」


ナガトが素早い動作でジャベリンを振り被ったと思えば、ジャベリンを構える片手には木製の引っかかりのついた棒が添えられていた。

手投げでもジャベリンを強く打ち出すための、専用の道具だ。


シドノフ「コォ……!」ユラ

焔「! 殴りかかってくるぞ!一旦回避だナガト!」

長「やられる前にやろうってか!だが頭をブチ抜けば問題ない!」


一昨日の戦とは違い、今のここは遮蔽物も命中を曖昧にする遠距離もない。何らかの攻撃を発すれば相手に当たる、先手必勝の決闘場だ。

シドノフは巨体のせいもあってか、確かに動きは鈍い。だがこの魔族の頭をジャベリンで貫通させるほどぶち破ったからといって、いざ殴り掛かろうと前方に勢いをつけたこいつが止まるかといえば、それはわからない。


焔(無茶だナガト!仮にその距離で奴を仕留めたとしても、シドノフの巨体に倒れ込まれれば…!)


シドノフ「コォオオオ!」

長「死n疾「死ねえええええええ!」


ビュン


風を強く切る音がその間合いを横切った。


シドノフ「ゴッ…!」


安定して回転する刀身は目にも止まらぬ早さで素直な軌道を描き、刃先の十センチほどを巨人の腹に埋め込んだ。


疾「いよっしゃ命中!隙ありだぜマツボックリ!」

長「でかした!トドメを刺す!」

焔(これは…ハヤテの投げたブルメラか!短剣の勢いで敵の身体が大きく後退してる!チャンスだ!)ドゥンッ


俺もここぞとばかりに銃を構えて、よろめいたシドノフの頭部をめがけ発砲する。


シドノフ「ッ…コッ…ォッ…!」


弾はこの距離で貫きはしなかったが、奴の鱗の様な表面には明らかなダメージを与えている。

近距離な分、威力も効いているようだ。



長「万事休すか!?追い打ちをかけるようですまんな!化け物!」

シドノフ「…コ」ドガンッ



刃物が刺さったとは思えない豪快な破壊音と共に、青い炎の巨体は荒れた地面に伏した。



405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/17(日) 01:58:15.96 ID:b7OiSLc70

長「一丁上がりだ!見たか!」

疾「ひゅー!」

焔「盛り上がってる場合じゃないぞ!“盾”がまだ残ってる!」

疾「はっ、忘れてたぜ」



ロッコイ「……!」ジタジタ


長「…こいつ自力で起き上れないんじゃないか?」

焔「だとしても放っておくわけにはいかないだろ、俺が銃でトドメを刺す」チャキッ

長「確実だ、頼む」

疾「敵が現れた時はどうなるかと思ったが、なんとかなったな……時間を取られちまった、早く油を撒かねえとまずいな」

焔「ああ、手っ取り早く終わらせよう」




ロッコイ「ホォ…!」ジタジタ

焔(まぁ、この距離から顔面に当たりゃさすがに死ぬだろ)チャキッ



ドゥンッ! ――ガィンッ




ロッコイ「…ホォオオ…!」

焔「……」

疾「この期に及んでまだガードするかこいつは」



408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/17(日) 20:28:05.83 ID:b7OiSLc70

焔「そおいっ!」バシャッ

ロッコイ「…ホ!?」

長「もう一杯ッ!」バシャァッ

ロッコイ「ホォッ!?」



疾「カニに油はかけ終わったかー!?」

焔「ああ、ばっちりだ!出して良いぞ」

疾「おっけー、さっさと太陽橋まで走るぜ!」ダンッ


ガラガラ・・・ガラララ・・・



焔「…しかし我ながら残忍な事しちまった…なっ!」バシャッ

長「奴らにはそれくらいの殺し方が似合いだ……油の線に火が灯された時、奴は大火に見舞われて死ぬ事になるだろう…なッ!」バシャッ

疾「話は良いが、油は撒いてるかー!?」

焔「大丈夫だ、抜かりはないー!」バシャッ



長(……もうすぐ太陽橋か。炎の壁の作戦が上手くいけば、夜襲はなんとか凌いだことになる)


焔(もしも、やすやすと炎の壁を突破されたら…)


疾(……)



ガラララララ・・・



409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/18(月) 00:09:19.33 ID:JJVXmXMD0

「カギルさーん!」タタタ・・・

限「準備の方は」

「3つ目までの地点までは完了の連絡が取れました!準備完了です!」

限「…よし、整ったか…これでいつでも火を放ち、進軍を止めることができる」

「しかしカギルさん、太陽橋の方は……」

限「問題ありません」

「? 何故ですか、連絡は取れてませんよ?それっぽい信号も、多分あがってないし…」

限「彼らなら大丈夫だと信じています」

「……んん、だが仮にまだ油を撒いている最中だとしたら油の線に引火して…最悪の場合荷車に火が移って、燃え上がってしまうんじゃ…」

限「……」

「…いや、わかりますよ?そんなことも言ってられない状況です」

限「私は彼らを見捨てたつもりはありませんよ」

「……」


限「確かに危険ですね、まだ油を撒いている最中だとすれば…着火された油の線は炎の壁を作りだし…それに巻き込まれる危険性がある」

「はい」

限「杞憂ですよ。彼らはそんな迂闊な死に方はしません」

「はあ……」



限(……あとは機を待つのみ…そう、油を撒いた位置…そこで私の思惑通りに奴らが立ち止れば)



410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/19(火) 00:01:23.41 ID:82A0/SOu0

シドノフ「コォオオ……」

ズシン、ズシン・・・


ロッコイ「ホォオ…」

ズシン、ズシン・・・




「…見えた、微かに青い炎だ」

「本当だ、あそこだろう?木陰の」

「そうあれ、……俺らから見えるってことはつまり、もう奴らにも俺らが見えていてもおかしくないってことだよな?」

「だろうな、しかし俺らは完璧に草影に隠れている…そう簡単に見つかるとは思わんよ」

「魔族の考えてる事ってなよく解らんからなぁ、人間と違って小さな人影でも見つけちまいそうな気がして心配でならねえよ」

「考え過ぎだぞ」

「へへ、そうか」



「…ま、俺らの姿を見つけられていようが見つけられていまいが、大して変わらんさ」

「くっくっく、まさしくな、魔族共も可哀そうに」

「奴らの砲撃を阻害する林道を抜ければ、そこは多少は景色の開けた空間…だがさすがに町は見えんがね」

「それでも奴らは景色の中に人間を探す…それは一瞬だが、確かに奴らは止まる」

「俺らが着火役の奴らに合図を送って、火が放たれるまでは…その間さえあれば十分ってことだ」

「……よし」



「………“壁際”着火!」



411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/19(火) 23:18:07.06 ID:H/UY3ZwAO
宵闇の中に一際青く輝く巨人は、ついに町の外周部まで踏み込んできた。



ロッコイ「ホォオォ……」


その背後には巨大な二枚の盾を備えた魔族が控えており、開けた場所とはいえど、その守りは堅い。

現にこの2体は、林道での民兵からの集中放火を受けても傷ひとつ負っていない。

生半可な遅い攻撃は全て、ロッコイの盾によって防がれるのだ。



――ピチャ


シドノフ「………?」


足下から水音が聞こえた。

なにやら細い水溜まりのようなものがあるらしく、シドノフの頭部は地続きの長い水溜まりの行方を追った。




シドノフ「……!!」


そして見る。

突風のように早く、竜のように地を削り駆け寄ってくる、炎の塊の姿を。



414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/21(木) 00:05:57.41 ID:p+gYPqYAO

シドノフ「コォ…!」


迫り来る業火の勢いは、シドノフの巨体に退避させる間も与えず目の前に迫った。


ロッコイ「ホォオォオオ!」


だがシドノフの代わりに動いたのは、巨大な盾を持つロッコイ。

機敏な脚はすぐさまシドノフを庇う位置へと立ち回り、岩壁のように重厚な盾を迫り来る炎へ向けて構える。


ロッコイ「………!?」


だが彼はすぐさま、自分が判断を誤った事に気付く。

炎へ盾を構える。それは良かった。

だが、それだけでは駄目だったのだ。



ロッコイ「ボッ…ォオォオオ!?」ゴオッ

シドノフ「ォオォオオオォ!?」ゴオッ


火炎の壁は地面を走り盾の真下をすり抜け、二体の魔族の全身を飲み込んだ。

爆発にも似た凄まじい火力が、ジリジリと二体を焦がす。


シドノフの青い炎は消え、身体を覆う鱗は一瞬で焼け尽くし、見る間に巨体を黒く縮めていく。

ロッコイは両の腕の盾を繋ぎ止める組織が焼き切れ、もはや何の目的を与えられた魔族かもわからない、丸腰で軟弱な姿へと成り下がっていた。



シドノフ「………」

ロッコイ「………」


火炎の壁が魔族を焼き殺すのには、数十秒もかからなかった。




418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/22(金) 06:04:56.92 ID:1FPOVs6AO

「よし、合図が来たぞ……せーのっ!」ブンッ

「おりゃあっ!」ブンッ


松明は、一瞬だけ佇んだ魔族らに向けて投げられた。


ロッコイ「ホォオォ!」


煌々と輝くオレンジの炎が円を描きながら飛んでくるが、ロッコイは慌てずに立ちはだかり、盾を構えた。


ロッコイ「……!」

「かかったな!」


だが所詮はそこまでだった。




松明は立ちはだかる盾の手前に地に落ち、火は地面共々魔族らを強く焼いた。



「いよっしゃあぁあああ!」

「よっし、次いこう次!ちょろいもんだ!」



419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/23(土) 02:24:59.52 ID:VgePkL3M0

ゴォオ・・・



限(……夜のバンホーの暗い空が、今日は赤を帯びている)

限(ハープさんがいなければ、仄かに染められたこの空の色が、自ら焚いた炎でなかったという事もあり得た)

限(今日の火は、町を焼く火ではない…魔族を、惨劇軍を焼く、我々正義の火)


ハープ「どれどれ…おお、随分と良い煙が上がっているじゃないか」

限「外からはバンホーが大火に包まれているように見えてしまうほどの煙でしょうね」

ハープ「そうだな、微かに明るくなるほどの炎だ」



タタタタタ・・・


「カギルさん、炎、効いています!」

限「! 本当ですか」

「はい!奴ら、そりゃもう紙屑みたいに燃えていくんですよ」

限「…良かった、本当に火が弱点だったのですね」

ハープ「壁を越えてきた敵はいるか?」

「は、はぁ…今のところはいないかと」

ハープ「間に合ったか、よし」

「あ、しかし太陽橋の方まではまだわかりません、そこと連絡を取るにはもう少し掛かりそうです…向かわせてはいるんですけど」


限(太陽橋……ホムラさんやハヤテさんが向かった場所か)

ハープ(やつらがヘマをして、一体でも魔族を取りこぼしていたり、はたまた突破されていたりすれば全ては水泡だが…ふ、大丈夫か)

限「……」

ハープ「さて、夜襲の結末はどのようにほつれていくかな」



420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/23(土) 20:12:19.76 ID:VgePkL3M0

ゴォオオ・・・


焔「えーっと、つまり爆蕾の赤い灰をベースにフゲンの胞子やマンドラの種を混ぜたものがフゲン油や合麗油の基本となってな」

疾「ほー…」

焔「魔獣の脂から抽出した液や鉱物油にそれらをちょっとだけ混ぜる、と」

疾「ふーん…」

焔「そうすると、火花が着火しただけで爆発を起こし、長時間よく燃え続けるような油になるわけだ」

疾「んな危なっかしいモンをよくここまで溜めこめたもんだ」

焔「この町でなら色々と使い道もあったんだろうな」

長「採石場での作業とかな」

疾「俺らからしてみりゃ良い迷惑だぜ、まったくよぉ……」



疾「魔族共をふっ飛ばしてくれたのはありがたいが、爆風で俺らまでふっ飛ばされちまうんだぜ?」

焔「しかも台車ごとな…林の茂みに叩きつけられてなけりゃ、一生残る擦り傷でもできていたところだよ」

長「積荷に油が残っていたらと想像すると恐ろしいもんだ…」

疾「…使い切ってなかったらどうなってたんだろうな」

焔「爆風で飛んできた火の粉が積荷の油に引火して、太陽橋が半壊してたな」

長「…」

疾「おいやめろ、足が震えて立てねえだろ」

焔「大丈夫、俺もしばらく鈍痛で立てないから」

長「俺もだ」



疾「……でさ、ホムラ、ナガト」

焔「ん」

長「なんだ」

疾「…これさ……戦いは終わったのかよ」

焔「…多分な」



421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/23(土) 21:31:29.11 ID:VgePkL3M0

長い夜の戦いは、茂みで寝そべっている間に終わった。

俺らの反撃の狼煙は濃紺の中にうっすら白く、高くまで登っていた。


満身創痍の全身打撲で動くのが億劫だった俺らは、駆けつけてくれた民兵の人力車によって本部へ帰還。

「よくやってくれました」と手厚く感謝するカギルさんの傍らを「おつかれ、寝ておけ」とだけ言って通り過ぎたハープさんの薄い笑みを窺うに、多分俺達は褒められたのだと思う。


結局炎の壁を越えてきた魔族は一匹もいなかったらしく、物見台の兵が言うには「敵のほとんどは炎の壁に向かって歩いて自滅していた」との事だ。

意表をついた夜襲をしてくる割に、随分と考えなしで情けない死に方をするもんだと聞かされて思ったが、魔族の考える事なんて人間の俺にはわからない。

カギルさんは何か大事なことでも伝えようと口を開きかけていたが、皆疲れているからということで明日の楽しみに取っておくことになった。


結局自分の寝床に着いたのは明け方も近い頃合いだった。



焔(……やばい、二秒で寝れる…)



今日この夜に死んでしまった民兵達の事を想いながら、勝利の白い幽霊のような狼煙を思い出して、俺は久々の深い眠りについた。

腕が痛みでさえ心地の良い夜だった。



422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/23(土) 23:50:11.19 ID:VgePkL3M0

『――危うくメイトをかけられる所だったな――』

ハープ「そこまで切迫はしていなかった」

『――お前とて、一人では広範囲に散った奴らを潰す事はできんだろう――』

ハープ「どんなに大きな掌であろうと、雨粒は指の隙間から取りこぼすものだ、絶対なんて無い」

『――ふん、まあ良い、どの道些細な事だ――』

ハープ「……」


『――奴は“危難のダマ”と名乗ったな――』

ハープ「…上位種」

『――腕に備えた羽衣を変形させていた……主な用途は攻防一体の近接武器と見た――』

ハープ「分割して飛ばせるかもしれないぞ」

『――遠距離も兼ねる可能性があると…化け猫め、面倒な駒を造ってくれたものだ――』

ハープ「なに、虱潰しさ…大元が頭を掻くなら、私はそのフケを払い、虱を捨てるだけ」

『――こうもテーブルゲームが長引くと、元凶の掻く頭を消してしまいたいところだがな――』

ハープ「……ふん、前にも言った、私は危険な事はしない」


ハープ「…地道にやっていく」



423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 17:18:46.48 ID:UXHuTe+80

『どうだホムラ、鉄の見分け方はわかってきたか』

『うん、数は多いけど結構わかってきたよ…これが青銅、赤銅…で、こっちは錫…鉛…』

『うむうむ』

『…あ、でもじいちゃん、棚にあったんだけどさ』

『ん?』

『こいつだけわかんなかったんだ、こいつ』ゴトッ

『…!』

『これなんていう――』

『ホムラ』

『?』

『仕舞え』

『え?これを?』

『ああ、んで、二度とそいつを出すんじゃねえぞ』

『なんでさ?』

『……いつか話す、今はそいつのこたぁ何も知らんでいい』

『? …うん、わかったよ』



424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 17:44:09.39 ID:UXHuTe+80

「ホムラさーん」

焔「むぅむぅ……」

「ホームラさーん」

焔「ぐかー…ぐかー…」

「……」


グッ


焔「いでででででっ!?」

護「おはようホムラさん、怪我の調子はどうですかー?」

焔「うぁああぁ…っつぁ…」

護「やっぱりまだ打った所は痛むみたいね」

焔「…マモリさんか、ていうか怪我は今まさにあなたが押し」

護「カギルさんがみんなを集めて、今から会議を開くんだって…昨日の事も含めて話があるみたい」

焔「……え?会議?今から?」

護「もう朝よ…あ、むしろ昼よりの朝?っていうべきかしら」

焔「…!」

ガバッ


焔「寝すぎた…!会議か、早く行かないと…!」

護「上着ていかずに?」

焔「…着替えてから」



426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 18:03:15.62 ID:UXHuTe+80

体をしっかりと休めるため、と言えば聞こえは良いが、町の現状を考えれば健康的にぐっすり休んでいるわけにもいかない。

そりゃあ昨日、あれだけの戦いが突然起ったのだ。明けの朝に何も無いはずがない。

そんなことも解らなかった俺は寝坊した頭を焦りで覚醒させて、素早く着替えて自分のテントから足早に出ていったのだった。


パサッ


焔「すいません、遅れました」

限「ホムラさん」

衛生兵「遅れました、か、まぁ確かに会議はもう始まってはいますが」

焔「あれ、会議?…といってもこの人数…?」

ハープ「各部門の長だけの少数の会議だから、お前はお呼びじゃないんだよ」

焔「…あ」


そうだった、忘れていた。

俺はただの一端の民兵だったんだ。


番「ま、まぁまぁ、ホムラさんはもうこの町の一般の民兵とは言い切れない存在ですし…」

「ワシらだって元々ただの町人、長の境い目など無いようなもんじゃ」

限「という事です、どうぞホムラさん、席にお掛け下さい」

焔「え、良いんですかカギルさん」

限「はい。…元々この空席はホムラさんのために用意していたので」

焔「ありがとうございます…ん」


差し出された木椅子には、鈍い刃物を打ちつけたような真新しい大きな傷跡が残っていた。

視界の端ではツガエさんが苦笑を浮かべている。

俺も苦笑いを浮かべてそこに腰かけた。



427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 18:21:33.82 ID:UXHuTe+80

限「…さて先程も話しました通り、…いやその前にホムラさんのために話しておかなければなりませんね」

衛生兵「死者7人、重傷11人」

焔「!」

衛生兵「昨日の夜襲での、バンホー側の被害です」

焔「……」


やはり死者が出ていた。怪我人も。

昨晩の戦いの最中に聞こえてきた木霊する悲鳴が未だ鮮明に思い出される。


限「採石場近くの物見台にいた自警の方を含めた数ですね」

番「…私の教え子でした」

鐸「あいつぁ、ワシの部下でもあった」

焔「……」

限「敵が採石場から迫ってきたことを知らせてくれたのは彼でした」

番「目の前に大勢の魔族がいたのに、彼はそれでも町へ信号の矢を放って…」

衛生兵「ツガエさん、落ちついて。……話を進めましょう」

限「はい」



428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 19:46:40.29 ID:UXHuTe+80

限「まず先程話していた案件ですね、昨晩の奇襲によりバンホーは人にも、物にも痛手を負いました」

焔「はい」

限「が、それ以上に民兵の方々への精神的な傷跡が心配です」

ハープ「突然の襲撃に委縮し戦意を喪失する者もいれば、夜に恐怖し眠れなくなる者も出てくるだろう」

限「また再び奇襲される事自体まずいのですが、夜寝ておくべき時に安心して眠れないというのは一番まずいですね、これは平時にも響く事です」

鐸「うむうむ」

限「ですので、これから我々は昨晩の方面からの再びの奇襲に耐え得る策を打っておかなければなりません」

番「はい」


ハープ「あともう一つ、それに付随する事だが…」

限「……」

ハープ「カギル裁判長から話してもらうか」

限「はい」

焔「?」


限「…実は昨晩の戦い、魔族の軍勢の奇襲によって思わぬ損害を被りました…敵ながら不謹慎ではありますが、非常に知的な攻めだったと言えるでしょう」

番「……」

限「敵の惨劇軍は開けた山間を通ることなく、わざわざほぼ直角まで反り立った岩壁を這うように迂回して採石場まで進入してきたわけですが」

焔(確かに無茶な進軍だが、こっちも手痛い目に遭った)


限「…ハープさんの話によりますと、その進軍を指揮した魔族が居るらしいのです」

焔「!?」

番「えっ!?」



430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 22:18:01.54 ID:UXHuTe+80
衛生兵「指揮って、つまりリーダーのようなものですよね、そういうの居なかったんですか?」

焔「指揮…いや、なんとなく思っていた事だが…あいつらって作戦の指示を出せるほど頭が良かったんですか」

限「頭の良い魔族と悪い魔族がいます」

番「…味方を守る能力がある、盾の…ロッコイという魔族ですか?」

限「いえ…私を含めてですが、皆さま方にはハープさんが描いてくださった4種類の魔族が知れていると思うのですが」

鐸「……」


限「そのうちのどれでもありません、新しい種類の魔族、だということです」

焔「新しい種類の……魔族」

ハープ「その名を“危難のダマ”という」

番「ダマ…」

ハープ「魔族の姿を確認したのは私だ。今現在町を攻めている惨劇軍の中に一体だけ、そいつが指揮を取っている」

限「ハープさんも昨晩の戦いの最中、林道に潜っていたらしく…そこで遭遇したと」

ハープ「ああ」


焔「頭の良い、魔族……」

鐸「そんな奴がいたとは迂闊だったなァ…てっきり真っ向から量で来る奴らだとばかり思っとったが」

ハープ「惨劇軍の大概はそんなものだよ、指揮を取れる魔族…奴らの“上位種”が混じっていることは稀なんだ」

限「昨日の奇襲もつまり、そういうことです」

ハープ「…上位種がいないものと情報を伝えていなかった私のせいだ、すまない」

番「…いえ、ハープさんは何も」

鐸「考えてみりゃ、わしらも敵のやって来る方向を限定しすぎていたのだろうな、わしらの過失でもある」

限「責の話は後にしましょう、会議の内容を戻します」



431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 22:36:10.30 ID:UXHuTe+80
限「我々は辛くも一旦は撃退に成功しました、しかし兵の方々は疲弊しきっています」

焔「ですね」

限「矛盾した話ではありますが、町の人々を休めながらも次なる魔族の侵攻に備えなければならないのです」

職人「……うーむ、備えるってな、一体どういった具合にですかね」

限「はい」


限「まず油が足りない」

焔「あ」

限「昨晩の侵攻を撃退できたのは、町の要所に配置した油によるものが大きいです」

ハープ「奴らは火や熱が最大の弱点だからな」

限「いつかまた再び必要になるかもしれません、…が、もうこの町に火力の強い油はありません」

職人「…ああ、俺の所からも集められてたな…フゲン油はそのために集めてたのか」

焔「あ、フゲン油の方だったか…合麗油かとも思ったんだけど」

職人「お?わかってるねぇアンタ、色も匂いが似てるからね」

焔「だよな、暗い所で見たんじゃ正直俺もどっちがどっちだか」

番「ごほんっ」

焔「!」

限「…油を再び精製するにはかなりの時間が入り用になりますので、代替物として他の燃料を探さなくてはなりません」

ハープ「火薬でもなんでも構わないのだが、とにかく火力があれば惨劇軍の処理は楽になる」

限「町の守りは土嚢や煉瓦ですが、攻めには銃…そして火、または熱が必要なのです」


限「…疲弊した民兵の方々には、しばらく休んでいただき…そういったもののアイデアを考え出していただきたいと思っています」



432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 22:55:30.87 ID:UXHuTe+80
職人「え、アイデア…って言われてもなぁ、パッと浮かぶもんでもないし」

鐸「それよか、休んでいる間なんてあるのかい、カギルさんや」

衛生兵「敵はまたいつやって来るかわからないのでしょう」

限「それについては問題ないそうです」

ハープ「心細いかもしれないが私が保証する」

番「い、いえ、そんなことは…」

焔「何故、奴らは攻めてこないと?」

ハープ「うむ」


ハープ「昨晩の惨劇軍は採石場から周り道をして、大挙してここへ押し寄せようと仕掛けてきた」

鐸「ふむ」

ハープ「魔族の考えていることが良く分からないとはいえ、奴らは昨晩の攻めに勢力を全て投入してきたものと私は思っている」

番「え?ていう事はもう惨劇軍は来ない…?」

ハープ「そういうわけじゃない、あいつらは今もなお海を渡り次々に海岸へと泳ぎ着いているからね」

番「そ、そうだったんだ…」


ハープ「しかし泳ぎ着いた先から単騎で攻めてくるわけじゃない……ある程度数が集まってから、隊となって攻めてくる」

焔「昨日の攻めによって、今はやつらの数が少なくなっているという事ですね」

ハープ「ああ。二、三日は数も集まらないだろうよ」

ハープ(…昨日の一撃で、司令塔の方も身体を休めなくてはならないだろうしな)

限「連日の攻撃で精神的に下降している民兵もいるでしょうし、当然肉体的にも休まなければならない方もいます」


限「いわば彼らから“火のアイデア”を募るというのは口実にすぎません…ただ、相手が炎に脆く、様々な方法で対処ができるという事を皆さんに知っていただき、同時に希望を失わないでいただきたいという事なのです」

番「…なるほど、しばらくの休養にもなりますからね」

限「はい」

焔「……火か…」

職人「火ねえ」

限「まあ案はあってもなくても構わないのです、無いに越したことはないというだけで…安心して休んでいただきたいというのが本音です」


限「その間に民兵以外の方々には、敵襲への備えをしていただくという訳ですね」



434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/25(月) 19:56:01.84 ID:Tsh6qcRI0

焔(さーて、どうしたんもんかな)


飛び入り参加の会議が終わり外に出てみると、眩しい日差しが俺を迎え入れてくれた。


焔「ん~~~っ」


少し遅い覚醒ということで伸びをしてみる。

深呼吸をしてみると、やや乾いた空気が肺を満たした。

そういえば最近は雨も降っていないな。


護「あらホムラさん、ごきげんよう」

焔「ああ、マモリさん、おはようございます」

護「うふふ、ホムラさんの方が年上なんだから敬語なんて使わなくてもいいのよ?」

焔「いやぁ、マモリさんはセンセイですから」

護「意味がわからないわよ、ふふふ」


口元を押さえて上品に笑う様は美人だが、この人は色々とわからない面が多い。


焔「マモリさんはどうしてここに?カギルさんに用ですか?あ、医療の部門長の方を待ってたり…」

護「どっちでもないわよー」

焔「じゃあ俺の回診とかですか」

護「ううん、ハープちゃん」

焔「え?ハープさんがなにか怪我でも?」

護「違うわよぉ、ちょっと抱きしめに来たの」

焔「……さいですか」

護「じゃあまたねホムラさん、夕方ごろにまた怪我の様子見ますからね、できるだけ肉体労働はせずに安静にしててくださいねー」

焔「あー、はい、わかりました」

護「うふふ、ハープちゃーん」パサッ


「うわ、出た」

「ハープちゃんいますかー?回診の時間ですよー」

「ちょっとマモリさん、回診は救急テントに戻ってからのが先ですよ」

「えー、少しだけお願いしますよー」

「当人の許可は取らないのか」



焔「……平和だ」


焔「…どうせ今日は暇だし…とりあえず町の様子を見て回るか」



435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/25(月) 20:18:17.98 ID:Tsh6qcRI0
ギュルルル・・

焔「……腹減ったな」


あてもなくテント群の間を歩いているが、昨日のように大鍋が良い匂いをくゆらせては居ないらしい。

誘われる香りが全く無いため、俺の足も行き場を失っていた。


焔「起きた時間が中途半端すぎたか…どこかに食いに出かけようかな…あ、というより今って呑気に店やってんのかな」


どこかまだ疲れた顔をしている民兵達の立ち話を華麗に避けつつ、とりあえずは外へ。

…そうだ、風呂も入りたいな。昨日の夜そのまま寝ちまったんだった。



「! おーい、そこの髭の人」

焔「え?」

「あ、一発で振り向いた」

「他にも髭いるだろうに、もっと呼び方あんだろ」



436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 19:35:29.97 ID:VaJA/AYA0
「呼び方って言ったってなぁ?間違えだったらどうすんよ」

「小心者め」

焔「…え?俺に何か用?」

「ああ、すまんね…あんたホムラだろ?クレナイの鍛冶屋の」

焔「おう、そのホムラだ」


一体この町に何人のホムラがいるのか疑問だ。

俺を呼びとめた4人組みの男達はどれも暇を持て余した、なおかつ怪我も病みも無さそうな涼しい顔をしている。

井戸端会議でもしていたのだろうか。


「いやー、名前からして炎に詳しそうなあんただ、ちょっとお知恵を拝借しようかと思ってさ」

焔「名前でって…まぁ専門だけども」

「よしきた」

「ほら俺の思った通り」

焔「俺に何を聞きたいんだ?」

「うむ。…さっき連絡の部門長のサナキさんからちらっと聞いた話なんだがな」

「なんでも俺らに“炎や熱を出すアイデア”を募っているらしいじゃねえのよ」

焔「ああ……」


本当にこういうウワサが広まるのは早い。もう既に民兵達はやる気満々のようだ。



437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 20:08:41.43 ID:VaJA/AYA0

焔「…うーむ、炎ねぇ…熱ねぇ…」

「鍛冶屋なんだろホムラ、何かそういうのに適したものとか無いのかよ」

焔「そりゃあ沢山あるとも」

「え!?」

焔「だけど昨晩みたいにこの町を覆ったりとか、長持ちするとか…まず絶対的にそんなに量が無いってのが一番のネックだよな」

「俺らと同じ袋小路じゃねーか」

焔「え、なんかすまん」

「そうなんだよなー…よく燃えるものはあっても、量がなー」

「薪だってそこまでねえし、石炭っぽいのとかはようわかんねーし」

「あ、石炭みたいな燃料はどうなんだい?ホムラ」

焔「イマイチだな、少なくとも今の町の状況に合うもんじゃあない」

「むーん」

「もう油は無いんだよな」

焔「昨日さんざん撒いちまったからな…かといって撒きすぎ、だとか言える状況でもなかったし」

「湯水のごとくだったよなー」

焔「量が豊富で火力があって長持ちするものがあれば良いんだけどな」


うーん。と唸る俺を含む男達。

結局というか当然というか、答えは出なかったが日なたで良い気分にはなれた。



438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 22:30:45.44 ID:VaJA/AYA0


焔「…奴らを倒せる炎…熱…」


虫のようにうるさく鳴く腹を抑えながら町を歩く。

離れた所に佇む物見台の真下は、土嚢とレンガでこれでもかというほど補強されていた。昨晩の教訓なのだろう。


焔「……あんなに補強しなけりゃ防げない、惨劇軍の火力…理不尽だ」


ついつい口に出てしまう不満。

俺自身も魔族達の砲撃を味わっているので、その威力はよくわかっている。最新兵器の銃はおろか、大砲ですら太刀打ちできるかわからない威力を秘めている。

敵はそれを続けざまに撃つのだから手に負えない。こちらにも同じような武器があればいいんだが。



鐸「なァにを迷ってる、青年」

焔「あ」


突っ立ったまま物見台を眺めている俺の後ろから、乾いた老人の声が聞こえた。


焔「サナキさん、どうも…青年って歳じゃないですよ」

鐸「わしから見たら青年、ふっふ」

焔「はは……サナキさんも忙しそうですね、連絡の部門長やってたり…今朝も早くから会議に出たり」

鐸「ん、普段から毎朝、町の鐘を撞いてる身だ、苦にはならんよ」

焔「あ、そっか」

鐸「…一等に堪えるのは、若いもんが先に逝く事さ」

焔「……」


サナキさんは遠い眼で、採石場の辺りを眺めていた。



439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 22:53:29.30 ID:VaJA/AYA0

鐸「悪いな、付き合わせて」モグモグ

焔「いえいえ、俺も腹減ってたとこで…」ガツガツ


俺はサナキさんに連れられて、今でもやっているという麦飯屋に連れられてきた。

戦時中だというのに店主が頑固らしく、なんでも“40年続けてきたここを1日も途絶えさせるか”と一層やる気になって平常運行を続けているのだとか。


焔「……(ゴクン」


さすが頑固一徹なじいさんの作る飯だ。その意志が篭っているのか、美味い。



鐸「カギルさんはよくやってくれるよ、ワシより若いってのに」

焔「モグ………そうですね、あの人は本当にすごい」ガツガツ

鐸「町長が逃げ出してすぐに、町のみんなが次の町長にってカギルさんを支持した」

焔「カギルさんも特に悩まず“町長という肩書きは正式に手続きを踏んでからですが、責任者ということならやりましょう”って二つ返事ですもんね」

鐸「あん人にはそれがここの最善だって、わかってんだろうな」

焔「でしょうね…すごい人ですよ」ガツガツ


カギルさんがいなけりゃとっくにこの町は荒野になっていただろうな。



440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 23:16:54.67 ID:VaJA/AYA0

鐸「しかし青年、知ってたか?カギルさんが町長になるのを快く思ってないやつも、町の中には少なからずいたのさ」

焔「え?そうだったんですか」


満場一致で決まったものだと今まで思ってた。


鐸「いるんだよ、年下のやつが偉そうにしてるのを良く思わない、まぁ情けねぇジジイがな」

焔「ああ……」

鐸「いつだっているもんさ、こんな状況でも足を引っ張りだす老いぼれがよ…老い先短いのはお前だけなんだから、邪魔すんなってのにな?はは」

焔「はは…」


といってもサナキさんも結構なお歳を召していらっしゃるからなんとも苦笑いしかできない。


鐸「…なあ、ホムラさんよ」

焔「?」

鐸「今朝のお嬢ちゃん…なんだっけな……ハープさんとかいったっけ」

焔「はい」

鐸「あの子なんて特にそうだ、あの子は優秀だよ……少なくともこの町の誰よりも、戦争について詳しい」

焔「…俺もそう思います」


どんな壮絶な人生を送っているのか知らないが、間違いないと俺は確信できる。


鐸「しかしあの歳だ、若い…若すぎる…快く思わない野郎は、もっと多いだろう」

焔「……」

鐸「だがそれに潰されちゃいけねえのさ、絶対によ…ここは職人の町だ、それは良い……だがやたらと変な意地とかプライドが多くて参っちまう」

焔(…確かに)

鐸「人の野太い声に負けて、誤った道に進ませないようによ…あの小さな策士さんを、どうかあんたが支えてやっていて欲しいんだ」

焔「…でも俺がそんなこと」

鐸「なに、今のホムラさん、あんたはこの町の救世主みたいなもんだ…発言力は結構あるぞ」

焔「そ、そうだったんですか」

鐸「ふっふ、そうさ……それに昔から言ったもんだよ、“栗色の髪の女は勝利を導く”ってな、縁起の良いこった」

焔「ああ……あれ?それって“黒髪の女は勝利を導く”じゃありませんか」

鐸「ん?黒髪?いやいや違ぇよ、そりゃ間違いだな、俺は祖父さんから“栗色の髪”って訊いたからな」

焔「……おお…そりゃあ本当にハープさんすごいな…」

鐸「んっふっふ、まあ、後は頼んだよ、青年」ガタッ


薄く笑うとサナキさんは席を立ち、俺の分の代金まで店主さんに渡して去っていった。

サナキさんは米粒一つ残さず完食していたので、俺もそれに倣って茶碗の掃除をし始めた。



442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/27(水) 21:21:31.32 ID:IoRItA4Z0

焔(……髪がガッサガサだな…)


腹も程よく膨れたところで、今度はひとっ風呂入りたくなってきた。

髪を指で梳いてみると、ググっと絡む。身体からは汗の匂いがする。これでは気持ち悪い。


こんな物騒で、人も死んでいる時勢とはいえ、風呂は風呂だ。俺だって一日に一度はちゃんと熱い湯を被りたいさ。

それに万が一、頭の痒さに気を取られている間に砲撃を浴びて殺されてしまう、なんてこともあるかもしれない。

いざという時にアクシデントを起こさないよう、出来る身支度は完璧にしておかなければならないのだ。と、言い聞かせておこう…。

俺みたいなボケーっとした奴が何言ってるんだか。



そういうことで、俺はフジの実の連なる暖簾を潜り、湿度の高い風呂屋へと踏み入った。


ジャラララ・・・

焔「今の時間、空いてます?」

番台「んー、まぁまぁさね」

焔「よしゃ、んじゃ入らせてもらいます」

番台「おう ……あ、ホムラさんっつったね」

焔「? ええまあハイ、鍛冶屋のホムラです」

番台「宿屋のイコイ姐さんから訊いたんだけど、あなた結構、お湯加減をいじるの得意なんだってね?」

焔「いやいや沸かしませんよ、俺客ですから」

番台「はっはっは、それもそうか、暇になったらぜひ一度頼むよ」

焔「いやー勘弁してください」


すっかり俺の名前も広まったもんだ。

これは良いのか悪いのか。有名ってのは悪い気はしないが、知らない人から名前を呼ばれるのはなんとも歯痒い…。



443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/27(水) 22:34:54.59 ID:IoRItA4Z0
長「お?」

焔「んお、ナガトか」

長「お前も風呂か」チャポ

焔「昨日戻ってからそのまま寝ちまったからな」ザパァー

長「俺もだ、朝起きてみれば匂いから不衛生で、かなわん」


露天風呂には湯気に隠れて何人かの先客がいた。

それぞれ腰を降ろしたり、岩に背を預けていたりと、思い思いにリラックスできているようだ。


焔「どれどれ……おお、こりゃいい」ザパァ

長「つかの間の休息だがな。一通り洗った後すぐに町の手伝いをしなくては…」

焔「民兵は休んでろってカギルさんが言ってたぜ」

長「少しでも余裕のある奴が手伝わないでどうする、俺はやるぞ」

焔「…まぁ、また調子悪くしないようにな、ハープさんにまた何か言われるぞ」

長「ふん、あんな奴に何を言われても…」ジャパッ


ナガトは両手で湯を掬い、顔を洗った。


長「…そうだホムラ、またジャベリンの切れ味を見てくれないか。どうも切れ味が落ちやすいんだが」

焔「あー、それは仕方ない、あの使い方だしな」

長「そうか…まあ、よろしく頼む。いや、できればいっその事、良いジャベリンでもあれば売ってもらいたい」

焔「おお、買ってくれるのか、まいどあり」

長「現物を見て決めるからな」



448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 19:56:43.13 ID:GHEcCv1Z0

長「…昨日見て気になっていたことがあるんだが」

焔「お?」

長「ハヤテにブルメラをやったの、お前だろ」

焔「あれ、わかった?」

長「ハヤテだけじゃない、今朝方町をうろついていたら、民兵の何人もが同じようなブルメラを腰に携えていたからな」

焔(もう非戦闘員への支給は終わったのか、早いなあ)

長「ブルメラなんて剣はそこらへんの並程度の職人に造れるもんじゃないからな」

焔「ははは、俺だけが造ったもんじゃないんだけどな…俺の父や祖父…先祖代々から蔵に溜めこんでた習作を、この機会に一気に出したわけ」

長「先祖まで遡るのか…」

焔「クレナイの家は代々、鍛冶一筋だからな」

長「…流石だ。一層お前の造ったジャベリンを使ってみたくなった」


焔「んー、ジャベリンは別に構わないが」チャポ

長「?」

焔「何故ナガトはそこまでジャベリンにこだわる?銃だってあるだろ?まぁジャベリンも肉体強化と物質への強化をしているんだろうけどさ」

長「それだ、ジャベリン強化と肉体の強化があれば、手投げだろうが銃とは遜色の無い戦果を発揮できる」

焔「ジャベリンが好きなんだな」

長「昔から使っていた武器でな……身体に染みついた武器、身体の一部と言っても良い…強化をすれば刃こぼれすることも無い、威力もある…何より弾切れを起こさない」

焔「うーん、だろうけど射程距離ってもんが…」

長「…それは言うな、鎖付きの宿命だ」

焔(ああ、だから敵陣に潜らなきゃいけないわけか、納得……)



焔「……ん?」

長「?」



449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 20:03:14.66 ID:GHEcCv1Z0
焔「……」

長「どうした、黙りこくって」

焔「……ちょっと出るわ」ザパァ

長「? 短い風呂だな」

焔「おう…」

長「…ジャベリンの件は頼んだぞ、金は払うから一等のものを用意してくれ」チャポ

焔「おう…」ペタペタ


長(…なんだあいつは、上の空で出ていって…大丈夫か?)


ユラァ・・・


長「……! げ!?湯の中に血が…!?」

長「ぐ、ぐおぉ……き、傷口が開いたか!くそ、忘れていた…!」



451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 20:48:01.07 ID:GHEcCv1Z0
焔(…弾切れを起こさない武器……そう、弾切れを起こさなければ油を撒くだとか、量のことは考えなくて良い)

焔(ナガトはジャベリンを繰り返し使う…そして、肉体強化と武器への物質強化によって、惨劇軍を貫くほどのポテンシャルを生みだしている…)

焔(結果として、繰り返し使える必殺の武器になっているわけだ)


風呂上がりの俺は髪も拭かずに町を徘徊していたが、思考を練る度に足は自然と昨晩の採石場への坂道へ向かって歩を進めていた。


焔(…そりゃあ民兵のみんながそんな武器を使えれば良いけど、それはナガトに肉体強化ができるからこそ可能になる技術だ)


肉体強化。

魔力による身体能力と防御能力の増幅。


焔(俺も肉体強化はできる…肉体強化をできる奴に持たせる武器、か…そうすればナガトのジャベリンのような…)


しかし肉体強化してジャベリンを思いっきり投げたところで、青い炎を纏ったシドノフを突き刺すことはできるだろうか?

おそらくそれは不可能だろう。

ナガトの場合は肉体の強化と同時に、武器のジャベリンの強化をしているからできるのであって。

肉体強化だけでなく物質を強固にする物質強化の技術も無くてはならないし、そっちの方は誰でもできるわけではないからだ。かくいう俺も、物質の強化はとても苦手だ。



焔(せめて肉体強化だよな…肉体強化した人が使ってギリギリ炎を纏ったシドノフを倒すことができる、繰り返し使える…)

焔(……)



俺の脚が止まった。



焔「………炎と……熱か」



452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:24:01.55 ID:GHEcCv1Z0

疾「はぁ……いやぁー、昨日は死ぬかと思ったが、こうして生きて帰ってこれてよぅ…」ゴトッ

工兵「へえ…」

疾「嫁と娘の顔を拝めるってのがやっぱ、人生最高の瞬間ってもんだよなぁ…娘の頭を撫でてやって、心配そうな顔をしてる嫁を優しく抱きしめてやったりさ…」

工兵「はー…」

疾「死ぬほど幸せってのはそういうのをいうんだろうな?きっと……死んでも良いって思えるっつーかさ…」ゴトン

工兵「ほー…」

疾「かといって死んだらあいつらを守ってやれないからさ、死ぬ気で頑張れるっての?「休んでろ」ってお達しがきても町のために働く意欲が泉の如く湧き出てくるってよう」

工兵「へえへえ……まあいいから、うん、こっちの仕事の手伝いはもういいぜ、うん」

疾「ん?もう良いのか?まだまだ働…」

工兵「いやホントもうこっち大丈夫だから、別のところ手伝ってくれよ、ここの仕事はレンガを積んで運ぶだけなもんだし」

疾「運ぶのは俺の十八番だぜ?」

工兵「人手が有り余ってるから大丈夫、大丈夫だから余所でその力を振るってくれ。ください、お願いしますハヤテさん」

疾「? そうか…わかった、まあお前もがんばれよ」

工兵「うん、こっちは大丈夫だから」



疾「……お役御免か…他の所を手伝えといっても、どこを手伝えばいいんだか……やっぱり連絡と救護か?向いてるわけじゃないんだけど仕方ないかねえ…」


ザッザッザ・・・


疾「……ん、あいつは…」

焔「…」

疾「おおー、ホムラじゃねえか、よっす」

焔「! ハヤテか」



453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:32:11.49 ID:GHEcCv1Z0

疾「採石場(こっち)側に何か用か?採石場の家屋施設は壊されていたが、石の方は無事らしいぜ」

焔「それも知りたかったけど、今はそれどころじゃないんだ」

疾「ん?」

焔「煉瓦工房…よし、やってるみたいだな…お前こそこっちに何の用だよ」

疾「用って、そりゃてめー手伝いに決まってるだろ、ホムラこそ手伝いでもする気か?」

焔「いいや…、……そうだハヤテ、暇か?」

疾「暇…だけど?」

焔「ちょっと俺を手伝ってくれないか」

疾「?」



俺のちっぽけな頭に湧き登ってきたアイディアの火。

駄目で元々、理論上は可能…まずは試してみる価値がある。



454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:49:57.66 ID:GHEcCv1Z0
煉瓦工「お?ホムラさんか、いらっしゃァい!」

焔「やあどーも、煉瓦の生産はどんな具合ですか?」

煉瓦工「昨日もゴタゴタはあったが問題はねえ、煉瓦壁も壊されなかったみたいだしな!生産続きで町中をレンガで囲えるくらいには出来上がってるぜ!」

焔「げ、すごいな…」

疾「今はもう焼きあがったレンガを運び出してる最中だ、土嚢と一緒で色々な場所に置かれて始めてる」

煉瓦工「…お?今日はちっこい嬢ちゃんはいないんだな」

焔「あーハープさんか、今日はいないですよ、どこに居るんだか…」

煉瓦工「じゃあ今日は何かを聞きに来たわけじゃないのかい?」

焔「…ええ、まあなんていうか、相談が…」

煉瓦工「相談?水臭いねえ、ホムラさんの悩みだったらなんでも聞くぜ?」

疾「俺だって聞くぜ!暇だしな!」

焔「……あー、やっぱり相談じゃなくて」



焔「商談に来ました、って言った方がいいか」

煉瓦工「!」

疾(! 焔の目が…なんか本気だ)


煉瓦工「商談…?つったってこの工場にあるのは土と煉瓦と…ってなもんだが…いや、何かを買ってくれるのは嬉しい事なんだけど、ホムラさんの欲しがるようなものは無いと思うぜ」

焔「どーーーーしても作りたい武器があるんですよ」

煉瓦工「…なおの事だ、すまないがこの工場に金属なんてものは無いよ、ホムラさん」

焔「金属でなくても、金属に熔かすことができるモノがここにはあるんですよ」

疾「?」

煉瓦工「!」

焔「多分ここにあるそいつは一種類だけ…それをありったけ、買いにきました」


煉瓦工「……金属に唯一熔かす事ができる非金属……“魔石”…ヒバシ石か」

焔「はい」



455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 22:02:35.26 ID:GHEcCv1Z0
疾「魔石?ヒバシ石…?…あー、なんかカチカチやって火をおこすアレ?」

煉瓦工「ああ、そのヒバシ石だ…この国ならどこの雑貨屋でも大体売ってる石だが、一応魔石の一種だ」

焔「摩擦によって火を起こし、熱を帯びる魔石…」

煉瓦工「なるほどなホムラさん……わかるぜ、あんたの考えてる事がよ、わかったよ…」

疾「…あ、もしかしてホムラお前」

煉瓦工「そのヒバシ石を使って、炎と熱を熾そうって魂胆だな?」

焔「そういうことです」

煉瓦工「…確かに魔石は金属に熔ける…ホムラさんよ、しかし魔石だってただの金属に熔けるわけじゃねえ…ヒバシ石は魔法金属にしか熔けねえシロモノだ、扱いは難しい」

焔「わかってます」

煉瓦工「それに前にもちょっとだけ言ったけど、あっちに積まれてる木箱…あれは全てヒバシ石だが、あいつらはほとんど純度の低い低級品ばかりだ、不純物は圧倒的に多い」

焔「そこはなんとかします」

煉瓦工「なんとかしますって……」

焔「……」


煉瓦工「……ホムラさんその目、やっぱり親父さんそっくりだなァ」

焔「え、そうですかね」

煉瓦工「…ハッハッハ!あいよ、わかった…俺には熔かすだとか熔かさないってのはよくわからん!ホムラさんの自由だ、任せるよ」

焔「じゃあヒバシ石…」

煉瓦工「どうせこっちも持て余していたブツだ、全部ホムラさんにプレゼントするよ!」

焔「! ありがとうございます!」

煉瓦工「いいってことよ、工場のスペースも広がるってもんだからな!」

疾「……? …まあ、よく分からないが良かったな、ホムラ」

焔「おう……あ、ヒバシ石運ぶの手伝ってくれ」

疾「え」

焔「手伝ってくれって言っただろ?」

疾「……おう」



457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/01(日) 06:09:26.91 ID:rY32lsGAO
番(カギルさんはお休みになってる…だから今は、私がこの町の指揮を執らなきゃいけない…)

番(今はまだ魔族が攻めてくることはないって言われてはいるけど……)

番「うう、カギルさん…やっぱり私には荷が重そうですよ…」

ガララ…ガラララ…


番「…?あら、向こうで走ってる荷車…木箱を沢山積んでるけど、なんだろう…あんなものの運搬って必要だったかしら…?」



「ひい、ひい…ホムラァ!なにどさくさに紛れて荷台に乗ってんだよ!」

「あ、バレたか」



番「………」クスッ

番「ま、いっかぁ……私もみんなと一緒に頑張らなきゃ…!」



458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/01(日) 22:06:05.62 ID:89hbJJDq0
ゴトン


疾「ふー、着いた着いた…あっちいなオイ…」

焔「悪いなハヤテ、一緒に木箱を運ぶのも手伝ってくれるか?」

疾「…こいつを全部か…あれだよな?昨日入ってった工場に運べや良いんだよな?」

焔「おう、全部な」

疾「乗りかかった船だぜ、任せろ!」ゴトッ


暖かい日差しの下、俺の家の前には大きな荷車が停まっていた。

石を詰め込んだ大きな木箱をいくつも重ねた、見てくれはまるで商人の馬車のような大荷物。

しかしこいつは全て、“武器”の原料だ。



疾「よいしょ、よいしょ…ここ勝手に開けて入ってもいいんだよなー?」

焔「おう……あ!やめろ!開けるな!」

疾「えー?」カラララ・・・ギギギ・・・

婆「ちぇいやぁああぁぁあああっ!」ビュッ

疾「のうぉわああああ!?」サッ


開かれた戸の奥からは、すかさず祖母がナギナタを突き出してきた。

鋭利な切っ先を咄嗟の判断でひらりと半身を翻して避けたハヤテの反射神経の良さには脱帽ものである。



焔「ばあちゃん!それは客にだけはやるなっていってるだろ!」

婆「おう?……なんじゃ、人間か、魔族かと思ったわい」

疾「う、うわあ…うわあ怖ぇえ…心臓止まるかと思った…あれ?今俺の止まってる…?」

焔「胸に手当てなくても動いてるから大丈夫だハヤテ、言うのが遅れてすまん」



459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/01(日) 22:18:13.90 ID:89hbJJDq0
婆「で、なんじゃいホムラ、戦は終わったのか?」

焔「終わってないよばあちゃん、まだまだかかりそうだ…」

婆「ふーむ」

焔「といっても、そう簡単に町の中に魔族が入って来るってことは無いと思うから、そんなに玄関前で待機してなくても…」

婆「ん…?んんん~…?」ズイッ

疾「え?な、なんですか、俺?」


婆「……ほう、嫁か!」

疾「えっ」

焔「ちげーよ」

婆「よくやったよホムラ!やっと見つかったのかい!」

焔「…悪いなハヤテ、ばあちゃんボケが酷くてな…」

疾「あ、ああ」

婆「うむうむ、祭りや戦!こういう時にこそ女ってのはものにするもんさ…わかってるじゃないかホムラ、あんたもついに…」

焔「…あー、これから工場で作業するから、危ないからあんまり立ち入らないようにしてくれよ」

疾(…変な家だ……)

焔「じゃ、運ぶぞ」

疾「…おう」



462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/05(木) 00:12:29.57 ID:Z68hftgJ0
ゴトッ


焔「……ふー、これで全部運べたな」

疾「あっつー…なんだよこの部屋…」

焔「作業場だからなー…換気は良いんだけど、それでもやっぱりって感じだよな…どれどれ」


ガパッ

焔「…よし、ちゃんと全部ヒバシ石だな」

疾「へぇー……なるほどねぇ、ヒバシ石か…」

焔「摩擦によって熱を放出する魔石だ、これで武器を作れば魔族達に対抗できるかもしれん」

疾「ん~…まぁなんとなくわかるけど…武器ってなんだよ、武器って」

焔「?」

疾「こいつは摩擦がなきゃ熱を出さないんだろ?こいつを武器にするっつってもなぁ…一体どんな武器になるってんだよ」

焔「さあ」

疾「さッ…さあって、おい」

焔「まぁ、色々と試してみてから考えるつもりだよ、量はあるからな」

疾「はー…運んだ労力を無駄にしないでくれよ、頼むから」

焔「まかせろ」



463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 23:00:07.05 ID:SUdjgNWQ0
【統括テント】


限「……」スゥスゥ

ハープ(…連日、ろくに休まず指揮を取っていたからな…無理もない)


ハープ(しかし、どうせ寝るのであればこのテントでなくとも良いだろうに、わざわざ中に布団を敷くほどか)

『――今は指揮権を他人に渡してはいるが、この場を離れる事までは性格が許さなかったのだろう――』

ハープ(“きっちり症”か、誰かと良く似ている)

『――ふん――』



パラッ


ハープ「…それよりも今は貴重な思考時間だ…敵が戦力を蓄える前に、迎撃策を考えておかなければ」

『――地図か――』

ハープ「昨晩の奇襲は見事だ。多少強引ではあるが不可能ではないルートで攻め込んできた…敵に知将が紛れていたと気付けていたとして、私が対策できていたかは疑問だ」

『――同じ過ちを繰り返してはならん、攻められうる場所を全て洗うのだ――』

ハープ「ああ、例えばここなんかは……」



限(…ん…むむ……ん…?ハープさんの声…?)


ハープ「……あらかじめ封じておく必要があるやもしれん」


限(?……誰と話している…?)



464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/07(土) 22:17:08.37 ID:wGEdDDwZ0
ハープ「沿岸部を守りきることができれば、惨劇軍の侵攻も止まるだろう…それまでは根気よくやっていくばかりだ」

『随分と気長な話だ…気長な寿命だが無駄が多い人生は考えものだぞ』

ハープ「時間があるからこそ根気よく手をかけるのさ」

『ふん、かえって逆効果だとも思うがな、イレギュラーなど自身の手で手早く摘む事が良い』

ハープ「お前が私にやったことと同じだろう?センジュよ…駒は動かすものだ」

『引かせるもの』

ハープ「“引かせる”か、ふ、そうだったな…でも同じ意味だろ?」

『…まあいい、だがここばかりに気を使いすぎるなよ、深く情をかけるな』

ハープ「さすがにもう情なんて働かないよ」

『どうかな、無いと思い込んでいるだけかもしれんぞ』

ハープ「“先輩のアドバイス”?」

『……』

ハープ「ふふっ、黙るなよ」

『…必ず惨劇軍を滅ぼすのだ…奴らは憎悪に囚われ、生命の槻から大きく脱している』

ハープ「くどいな、言われなくてもそうするさ」

『手早く、確実に行え』



ハープ「ふん……まったく…魔族王がお前だけなら楽だったのに」




限「……!」



466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/08(日) 23:05:20.77 ID:rQNIdIih0

焔「武器にするにはとにかく、まずはヒバシ石そのものの性能を高める必要がある」

疾「性能を高める?」

焔「ああ、このまま武器として何らかの加工をしたところで、せいぜい火花が散って熱い程度のモンにしかならないからな」

疾「なんだ、そういう武器になるのかと思ってたぜ」

焔「…まーそう思われても仕方ないか」


コロコロ・・・

焔「ヒバシ石は今でこそ火打石の強いもの、という認識しかされちゃあいない魔石だが…そいつの原因はヒバシ石の魔石としての成分が疎らで少ないことにある」

疾「?」

焔「いわば鉄にアカガネを9割9分くらい混ぜたような、ほとんどの成分が鉄ではない、というべきか」

疾「それもう鉄じゃないだろ」

焔「魔石は特殊だからな、どんなに少なく熔けていようとも、混ざっていればそいつは魔石」


ガサッ・・・ゴロゴロゴロ


焔「だがどうせ刀を打つのであれば、アカガネではなく鉄で打ちたい…そういうことでな、このほとんどが砂や礫で構成されているヒバシ石から、純粋なヒバシ石だけを取り除こうと思う」

疾「おお!そういうことか!」

焔「どんなものかは俺も知らないが、きっと純粋なヒバシ石ともなれば相当な火力を見せるはずだ…そいつをどう使うかは後にして、とにかくこいつらからヒバシを抽出する」

疾「……どうやってだ?」

焔「まぁ見てろ…というより、手伝え」

疾「げ、まだ手伝うのか」



467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 21:24:39.07 ID:ovSYmd5/0
ゴゴゴ・・・ゴゴゴゴ・・・


焔「どっ…こいせぇっ!」

ゴゴッ


焔「……ふー!足元が錆ついてやがる、動きが悪いな」

疾「これまた随分と大きな道具を持ってきたな……臼か?それ」

焔「お、良くわかったな…まぁそうだな、臼に近いか…だがここを開けると、随分違うのがわかるはずだ」ガパンッ


疾「…違うのはわかるが、なんだこりゃ」

焔「鑢窯(ヤスリガマ)っつー器具でな、ヒバシ石を使った火熾し機…とでも言おうか」

疾「あーあー、俺は職人じゃねえからわかんねえよ、ただの飛脚にセンモンヨーゴ言われても困るっつの」

焔「まだ専門の域にも入っちゃいないが…まぁつまりだな、このヒバシ石たちを」

コロンコロン・・・ゴロゴロゴロ・・・


焔「…鑢窯の空洞の中に入れる、で、上から更に専用の棒を差し込んで、と」スー・・・

ゴトン

焔「これで鑢窯にはヒバシ石がセットされ、金属の棒によって上から押し付けて固定されたことになる」

疾「ん、だなぁ」

焔「普通ならこのまま窯のここについてるハンドルを回せば、こっちの穴からヒバシ石の炎がちょろちょろと出る、ってわけ」

疾「へー…ちょろちょろ、ねぇ」

焔「特に燃料もいらず煙もあまり出ないから、昔の職人によっちゃ随分と重宝してた器具なんだぞ……今ではあんまり使ってないが」

疾「…ここのヤスリガマも埃まみれだな」

焔「……かくいう俺もあまり使ってない」

疾「……ひどく時代遅れな道具ってことはわかったぜ」



468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/10(火) 19:36:17.14 ID:osvpAyVq0
ゴリッ・・ゴリゴリゴリ・・・


焔「こうして、どんどん回していくわけだ」

疾「音だけ聞いてると臼だな」

焔「挽いてるのは石だけどなー」ゴリゴリ


疾「……ん?おいホムラ、それってヒバシ石を使って火を熾す道具なんだろ」

焔「ああ?そうだよ?」ゴリゴリ

疾「火がつくだけじゃないのか、それ」

焔「その通り」


ゴリゴリ・・・


焔「…だがこうして熱を加え続けていけば、次第にこの鑢窯自体が高温の坩堝に変わる」ボウッ

疾「お、火が出た」

焔「普通の窯であれば途中で耐えきれずに壊れちまうが、俺がもってるこの鑢窯は特製だ、ヒバシ石が熔けて抽出されるくらいまでは保ってくれるはず…!」ゴリゴリ

疾「おい、熱いぞ!熱風が…」

焔「肉体強化で我慢しろー!」ゴリゴリ

疾「疲れンだよあれ!」


ゴリゴリ・・・ゴリゴリゴリゴリ・・・



473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/12(木) 20:02:10.73 ID:XynIBKDv0
ゴォオオ・・・


疾「うっ…す、すげえ炎…本当にこいつ、熱に耐えきれるのかよ?」

焔「…四千度までなら大丈夫って、じいちゃんは言ってたが…!」ゴリゴリゴリ

疾「よんせ……」

ゴォオオオ!


疾「うふぉっ、ちょっと洒落にならねえ熱風だ……後ろから見てるだけでも身体を強化してなきゃ火傷しちまう…!」

焔「ついでに交代してくれるか!思ったよりも挽き続けるのは骨なんだが!」ゴリゴリ

疾「な、冗談言え、そこまでするかよ!昨日の“水撒き”で全身筋肉痛でズタボロだってのに…」

焔「頼むって、あとひと押しなんだから!」

疾「…く…」

焔「わかった、これ手伝ってくれたら完成した武器をひとつやるから!」

疾「! その言葉を待っていたぜ!」


ガシッ

焔「え?ちょ、おい、二人じゃさすがに回せない…」

疾「どけどけェ!この臼が熔けきるまで挽き続けてやんよォ!」

焔「うわ、なんか知らないけどすげーやる気になった」



ゴリゴリゴリゴリゴリゴリ・・・

ゴォオオ・・・


焔(…やっぱ、俺みたいな素人とは肉体強化の質が違う…全身を高熱から守れるほど強固に、しかもそいつを安定して持続し続ける……)

疾「うおおおおお!」ゴゴゴゴゴゴッ

焔(さすが、自称とはいえ火の国最速の飛脚だ)


ゴォオオオ・・・ドロッ


疾「!」

焔「お!」



474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/12(木) 20:21:13.32 ID:XynIBKDv0
疾「な、なんだこりゃ!何か出てきたぞホムラ!これがヒバシ石か!」ゴリゴリゴリ

焔「…いや!違う!これはヒバシよりも先に熔け出した不純物だ!」

疾「なんだよ期待させやがってちくしょー!」ゴリゴリゴリ

焔(やばい、不純物を除けないとヒバシまた混じってしまう…)ササッ


ゴォオオ・・・!


焔「…この音…炎…そろそろ熔け出しても良い温度になったはずなんだが」

疾「あ!また何か出てる…!」ゴリゴリゴリ

焔「何!?」


ドロォ・・・


疾「な、なんだこの液体!?」ゴリゴリ

焔「…!炎を出しながら熔け出る液体…間違いない、ヒバシだ!」

疾「もう休んで良い!?」ゴリゴリゴリ

焔「あと少しだけ!ヒバシ石が全部熔けるまで!」

疾「うぉおおぉおおお!さっさと熔けろぉおお!」ゴリゴリゴリ


ボゥッ・・ボォオッ・・・


焔(…液体になった高純度のヒバシ石…!こいつがあれば…!)



477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/12(木) 21:02:48.93 ID:XynIBKDv0

焔「えー、というわけではい、ここに100%とはいかないまでも、かなり高純度のヒバシ石があります」

疾「はぁっ…はっ…ぐッ…ぁっ…」

焔「さすがに型に入れる時間もそんな耐熱性の高い型自体も用意できなかったので、受け皿の形になってしまったのは少し残念なところではありますが…」

疾「…んはっ…はっ…」

焔「まぁでも、形が気に入らないならまた鑢窯に入れて熔かせばいいか?」

疾「ぅおいっ!人間の労働力をなんだと思ってやがる!」

焔「すまん」

疾「くそ…想像以上のしんどさだぜ…絶対に俺専用の武器を作ってもらうからな…」ブツブツ

焔「わかってるって…まあまあ、とにかく今はこっちだぜ」


カランッ


疾「……見た目は、ただの赤っぽい薄い石って感じだな」

焔「ああ…見た感じではな…」ガチッ


疾「…持っても大丈夫なのか?」

焔「んー?さすがに純度が高いっつってもハシで取ったくらいじゃ発熱もしないだろう」

疾「さっきまでそれがゴウゴウ燃えてたんだよな…魔石ってな不思議だ…」

焔「ちょっと床で擦ってみるか」

疾「お!やってみやってみ」

焔「うい」


カリカリカリ・・・

ボッ


焔「うお!?」

疾「わ、炎だ」


焔「……少し地面に擦ったくらいだってのに、小さいとはいえ炎が出るとは…」

疾「おお~…おいおいホムラ、お前もしかして、すげえもん発見しちまったんじゃねえのか?」

焔「…かもしれない」

疾「やべえよ、例えばこの石を地面にめいっぱい擦りつけた後によ、魔族共にそれを叩きつけてやれば…」

焔「…そうだな、直接的な武器として使うのが一番効率が良さそうだ」

カリカリ・・カリリリッ・・・ボボボ


パキッ


焔「あ」

疾「あ」


焔「…割れた」

疾「……むむむ、火は出るけど代わりに脆いってやつか…」

焔「火力にせよ脆さにせよ、扱いの難しい材料になりそうだな…」



479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/13(金) 22:15:13.21 ID:7Mqwvl4o0
焔「うーむ、何度か擦ってはみたが、やはり少しの衝撃で折れてしまうようだな」

疾「これだけじゃ使いものになんねえよ…粉末にして火薬にするか?」

焔「うーん、悪くは無いだろうけど…使い捨てにするほど豊富にある材料でもないしなぁ」


ジャリッ・・・ボウッ


焔「…細かい破片は掬い取ろうとしただけで火が点きやがるし」

疾「おっかねえ」

焔「なんとか細かくならないような状態を保たないと、武器としての運用は難しいだろうな…」

疾「固めて剣でも作ってみたらどうだ?」

焔「…剣」

疾「振っただけで折れるかもしれないけどな!はっはっは」

焔「そうだな、俺もせっかく鍛冶屋だ…刀剣を作ってみるか」

疾「…え?本当に作るのか?使いものにならないだろ?」

焔「なる、はず」


焔「…魔石が様々な物質に混ざる性質を利用して、ヒバシ石を金属に熔かしてみようと思う」

疾「なるほど!他の何か固いものと混ぜれば良いってことだな!」

焔「そういうことー」


ジャリッ、サラサラ・・・カランカラン


疾「…え?なんでその粉末をまた窯に…?」

焔「また熔かすからに決まってるだろ」

疾「…」



480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/14(土) 01:16:44.82 ID:OKkWkbK10
ガチャンッ


焔「…と、まぁ合成に使えそうな金属はこんなところだ」

疾「おお…色とりどりだ」

焔「鉄、銅、錫、朱金、……とにかく保管してあった塊を大体集めてきた」

疾「……え?」

焔「ん?」

疾「これって…」ゴトッ

焔「そいつは金だよ」

疾「ひい、恐ろしい!」コト

焔「金はそれしかないけどな」

疾「初めて延べ棒ってやつを見たぜ…すげえな、クレナイ家…」

焔「道具や材料は先代からの財産なのさ」


焔「……んー、まずは無難にズクにヒバシを熔かしてみようか」コトッ

疾「ズク…」

焔「まぁ鉄だよ、こいつで打てりゃ俺も慣れたもんで楽だしな」

疾「鉄か、オッケー任せとけ」

焔「鑢窯の熱と重さは辛いだろうが、頼んだぞー」



484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/14(土) 23:01:48.97 ID:OKkWkbK10
本部のテント外には暇を持て余した兵たちが数人で集まり、それら小さな会議の輪の姿は付近にいくつも見られた。彼らは油について熱く語っているようである。

というのも、朝カギルから発せられた「熱や炎を出すアイデア」を考えるようにという、一風変わってはいるが案を出してみるとこれまた面白い課題にみな没頭していたのであった。


昼食を終えた民兵達はわざわざカギルの指示を無視してまで単純な労働に精を出したくはないらしく、半数以上の兵は特に工兵のような作業はせずにこうして語り合っているのだ。



「濠を作ってはどうだろう、浅く水はけをできなくするように木板を底に仕込んで、有事は油を流して昨晩の様な火の壁を作りだす…」

「なるほど…濠に流し込むことにより油を最低限の量で、確実に町を覆うことができるというわけか」

「いや、どうなのだ?今お前は“木板”と言ったが、それでは板が燃えて、再びは使えないぞ?」

「む」

「それに、木だって水はけが良いわけじゃあないからな」

「では陶器などで…」

「そんな時間あるものか、逆に陶器を焼くためのその燃料がもったいない」

「…うーむ、難しいな」


衛生兵、工兵、一般兵、誰もが自由に案を出し合っていた。

職人の集まるバンホーでは各々の考え出す“熱と炎”のアイデアが多種多様で、そういった新鮮な専門外の刺激がまた話し合いに勢いを与えている。


そこに、一人の男が通りかかった。



鍛冶屋「……ん?」


薄汚れた服を纏った一般兵の装いをした男は、会議中の衛生兵の腰に見慣れぬものを見た。


鍛冶屋「おい、そこの衛生兵さんよ、ひとついいか」

「ん?なんだ、あんたも話しに加わるかい」

鍛冶屋「いいや遠慮しとく…その、腰に下げた剣は…」

「ああ、これ?新しく支給された携帯用の護身武器さ」

鍛冶屋「……なに」

「いや、前のナタは俺もしっくりこないと思っていたんだ…気持ちだけだが、こいつに変わってくれて少し安心してるよ」

鍛冶屋「…なるほどな」

「あんたも衛生兵?今ならツガエさんのところに行けばもらえるんじゃないか」

鍛冶屋「後で貰うとしよう、だが少しそいつを見せてくれないか」

「? …ああ、良いけど」スッ

鍛冶屋「すまんな」ジャキンッ

「自分で自分のもの取りに行けばいいのに」

鍛冶屋(銘は…銘はどこだ……)


鍛冶屋「!」


“紅”


鍛冶屋(…ンの野郎の息子か…クソが)



485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/14(土) 23:38:32.41 ID:OKkWkbK10
鍛冶屋「ふぅーむ?見たところこいつはククリ…いや?ブルメラか?ほほう…」

「試しにそれで薪割りしてみたんだが、いやあ良い切れ味でね」

鍛冶屋「…ほう」

「前にもらった茶けたナタとは全く別物だよ、はっは」

「ああ!あれな、俺も支給されたよ…あれは確かに、コンパクトなだけだな」

鍛冶屋(…なんだその態度は…俺は無料で何百も提供してやったんだぞ、貰えるだけありがたいと思え)

「ともあれ安心さ…何せ、あのホムラが打った剣なんだからな」

「知り合いじゃないが、その通りだな」

鍛冶屋(素人が…!くそっ)


鍛冶屋「ありがとう、悪いね…じゃあ俺は、行くべきところがあるから」

「そうか、じゃあな」

鍛冶屋「ああ」



鍛冶屋(…おもしろくもねえ、商売敵が死んだと思ったら、今度はその息子までもが俺の邪魔をするってのか?)

鍛冶屋(せっかく俺の名を町中に広めようと…まぁゴミみたいな売れ残りの品だが、ナタを提供してやったというのに)


鍛冶屋「…クレナイのひよっ子め…“バンホーの鍛冶”の看板は俺のものだ、好きにはさせん」



486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/16(月) 22:28:05.22 ID:VYtRz9Up0
疾「……ふーっ!あー疲れた!もうだめだ!休憩!」


ハヤテは赤く熱せられた金属の水たまりが冷えるのを待つ前に、固い床の上にごろりと倒れ込んだ。

やはり鑢窯を動かすのは相当な骨のようだ。


焔「お疲れ、悪いな任せちまって…どれどれ」


皿の上で冷えかかった塊を、念のためとハシでかき混ぜる。

灼色は段々と乱暴な光を失いはじめ、それはついにひとつの物体となって姿を現した。



焔「…やっぱりか」


皿の上で色を見せたのは、くすんだ灰色と褐色の汚いマーブル模様だった。

それぞれの石と金属が溶けあっていない。これでは駄目なのだ。

確かに鉄を纏うという意味では強度が上がったと言えるかもしれない。しかしヒバシ石と鉄が分離したこのままでは、少しの衝撃を与えただけで石は砕け、結局のところバラバラに分かれてしまうだろう。それではいけない。


疾「どーしたー…成功かー…」

焔「…駄目だ、やっぱり鉄には熔けないらしい」

疾「無駄足?」

焔「失敗が解ったってことだ、一歩近づいてはいるさ……」


とはいえ苦しい結果だった。

知識で知っていたとはいえ、これで本当にヒバシ石は普通の金属とは混じらないことが判明して、俺はややショックを受けている。


普通の金属に熔けないということは、魔法金属には熔けるということだ。

しかし魔法金属というものはモノによって価値がピンキリで、地面を蹴れば転がった小石にもあるようなアカガネもあれば、手に入れるために町が滅びかけると云われるコアまで、様々なものがある。


当然安いものは質が酷く、ヒバシ石を練り込めたとして活用できるかは非常に怪しいところだ。



焔(しかも必要な材料は、魔法金属の融点にも是非は関わってくる……せめて鉄くらいは保ってくれればいいんだが)


しかもヒバシ石の発熱に耐え得る金属でなくてはならない。かなり特殊な条件付きだ。


焔「うーむ」

疾「まだ休んでていいか」

焔「ああ…」


候補を選ぶだけでも時間がかかりそうである。



487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/16(月) 22:42:09.28 ID:VYtRz9Up0
焔(…まず摩擦だ、ヒバシ石を摩擦することができる形状でなくてはいけない)


ヒバシ石は摩擦によって火と熱を熾す。摩擦を繰り返す事で熱は飛躍的に上がっていくだろう。

それが純度の高いヒバシで、しかも魔法金属の伝導をもってすればあっという間に高温へと達するはずだ。


まず最初に思いつくのは、摩擦に最も適した形状。円形だ。いわばチャクラム。

だがそれはあまりにも特異な形であるし、取り回しも面倒だ。色々な武器をいじってきた俺にだってどう扱ったもんか、想像もできない。


焔(となるとやっぱり…ブルメラのような湾曲した形状か?)


昨晩、町へ献上したショートブルメラの姿が思い起こされる。あそこまで湾曲していると叩き斬る武器だ。それに摩擦が加わる部分が手元に近いというのはいけないだろう。熱によって手が焼けてしまう。

だとすれば一番効率の良い姿は…。


焔「…刀」


もう少し湾曲したタイプの刀剣も当然ある。しかしそれではどうしても刀身が細くなりがちで、熱が上手く発生するかわかったものではない。

一番のベストはおそらく刀だろう。


切っ先を地面に擦りつけながら走り、敵に近づけばあとはそれを振るうだけ。

上手くいけば、規格外の熱風と火炎が敵を襲うだろう。



焔(……やばい、見てみたいな)


完成した刀剣の姿をイメージした途端に、どっと製作意欲が湧いて来た。こうしてはいられない。


焔「よし!ハヤテ、ちょっと魔法金属をありったけ漁って来るからな、それをもってきたら再開だ!」

疾「うげ、まじか」



488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/17(火) 21:26:06.75 ID:HWT6F+er0
疾「……これまた、すげぇ量」

焔「内心無理だろうなと思う素材まで引っ張ってきた、実際使えるかもしれないのは半分以下ってとこだろうな」

疾「それでも“ゲーッ”だぜ」

焔「…大丈夫、先に有力候補から当たっていくつもりだからな」

疾「そうしてくれよ、わざわざ駄目だとわかっているモノを汗かいて熔かすのは、こっちも嫌になるからな」


パサッ


疾「……その本は?」

焔「んー、魔金について書かれた資料ってとこか…これは親父が島国で買ってきたもんだったっけな?」

疾「ひえー、ベンキョウってやつかぁ、嫌だねェそいつは…昔を思い出す」

焔「嫌いだったか?まぁ苦い顔することはないよ、前もって一つ一つの素材の性質を確認するだけさ」パラパラ

疾「ばーか、そういうことを含めて嫌いなんだよ」


パラパラ・・・


【朱金】(すきん)
またの名をアカガネ。
あらゆる金属と混合できる魔金の一種だが豊富かつ廉価。
純度の高いアカガネは赤い金色の輝きを放つが、非常に錆びやすいため短時間で鈍く赤黒くなり輝きが失われる。


疾「…朱金、アカガネ、かぁ」

焔「……俺らの町、バンホーを象徴する金属だ」

疾「錆びやすい、ねぇ…短時間で赤黒く、輝きが失われるんだとさ」

焔「縁起でもないよな」パラパラ

疾「町の金属とはいえ、ちょっと御免な素材だな、はっはっは」



489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/18(水) 22:01:14.64 ID:MML+x3Ix0
【八浜緑】(はまろく)
極々限定された地域の活断層に見られる希少な魔金。
鉄にのみ熔けるが、一部の魔石とも融和する。
熔けた物質によって表面に浮かぶ碧の紋様が多様に変化し、美しいものは高値で取引される。

【鎧奇稲】(よろいきしな)
またの名をダークスチール。
ごく一部の魔石や魔法金属以外とは混ざらず、白の熱と衝撃に対する耐性を飛躍的に上げる、稀有な魔金。
魔力によって形を変形させるため、魔力を含まないエネルギーでは破壊することは不可能。


疾「…これとか、ここにある?」

焔「ハマロクならあるぜ、クズみたいなもんだけど」

疾「いくらで売れるんだ」

焔「この前の傭兵を1人だけ、1日くらいなら雇えるくらいにはなるかな」

疾「駄目駄目、そんなんじゃ良い武器なんざ作れねーよ」

焔「値段かよ」

疾「希少価値ってのはスゲーってことだろ?」パラパラ・・・

焔「そりゃそうだが」


パラララ・・・


【食土】(はんど)

疾「…変な名前」


ごく一部の地域のごく一部の凶暴な魔獣の関節部から微量取ることができる、非常に珍しい鉱物。
粘り気が強く、ほぼあらゆる金属と魔石、魔金に熔ける。食土の粉をひとつまみ熔かした鋼で打った刀剣は最高級品とされる。
魔力を帯びた際に結合を強くしあらゆるものに強固となるため、鎧の素材などにも好まれる。


疾「おお!なんだかうってつけみてえなモンらしいぜ!」

焔「ああ……ハンドね」

疾「これがあればいけるんじゃないか!?」

焔「ひとつまみいくらするか知ってるか?」

疾「え?ひとつまみ…」

焔「そいつをとりあえずナマクラ鋼に熔かしてやれば、どんな刀剣でも貴族の財宝のひとつに仲間入りできるほどの材料だからな」

疾「…」



491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/19(木) 22:06:30.05 ID:bS81KYWM0
【物見台跡】


長(……また仲間が減った)


男が立つのは、昨晩の一撃にて崩れ去った物見台の傍ら。

木製のガレキの中から殉職者は引き上げられ、こびりついた黒い血以外にはもう、この場には何も残されてはいない。


しかしナガトはあえてこの場で、かの勇気ある者を弔っていた。


長(こいつが危険を知らせてくれていなければ、バンホーは滅んでいたかもしれない)

長(だがもしもその間にこいつがわが身を大事に思って逃げていれば…こいつは、助かっていたのかもしれない)


長(…何を今さら…あいつは死んだ、町のために闘って死んだ…町を見捨てて逃げる仮定など死者に無礼極まりないだろう、馬鹿か)


腰に携えた短いジャベリンを引き抜き、ガレキの山の前に突き立てて、固く手を結び、祈る。


長(お前の意志は無駄にはならない…お前が命を捨てたのだから、俺も惜しみなく命を捨てよう)

「骸の無い墓場に誰かと思えば、お前さんが来ておったか」

長「!」


ナガトが振り向けば、そこには一人の見慣れた老人が立っていた。

自警団の一員であり、鐘突き役として長年町を支え続けてきた、鐸(サナキ)である。


長「…サナキさん」

鐸「ここ最近は来る日も来る日も、町は祈ってばかり……のう、哀しいのう」

長「……」

鐸「戦での死は名誉の死、と云うが…こうして祈られる様を見ていると、ホマレではなくアワレなのかもしれんな」

長「…浮かばれない事を言わないでください」

鐸「ワシは人間の霊などは信じとりはせん、ワシの言葉はお前に向けておる」

長「…」

鐸「急ぐなよ、ナガト…友人の後を追うな」

長「…」

鐸「お前の人生はまだまだ長いだろう」

長「……無駄に、後を追いはしませんとも」

鐸「……ふむ」


ナガトの頑固な性格を知ってたサナキは、それ以上は何も言わなかった。

ただ両手を一度だけ合わせて、すぐにそこから離れていった。



492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/22(日) 00:29:44.76 ID:ns9CJaIi0
時間はあっという間に流れていった。

緊迫した時というものは無情なほど長く感じるが、地道に積み重ねている最中の時というのは、これもまた無情なほど早く過ぎ去ってしまう。


焔「……やっぱり、並大抵の魔金じゃあヒバシの熱に耐えられない」

疾「……ぁー」


ハヤテは上着をぐっしょりに濡らして床に倒れていた。流石に何時間も臼を挽いたのだ、堪えたのだろう。仰向けのまま、荒い息を静かにしている最中のようだ。


焔「…もう夕方か?くそ…」

額の汗を拭う。なんだかんだで、当然ではあるが俺も臼を挽いていた。腕は痛いし、腰も痛い。何より肉体強化による加護が弱まってきたためか、炎が熱く感じられてきた。それが一番キツい。


焔「…結局、様々な魔金にヒバシを混ぜてみたはいいものの…どれも駄目…」


床に乱雑に置かれた失敗作を見やる。

それはナガトがもっていたショートジャベリンのような中途半端な長さの、武器に見えなくもない形の金属片である。

俺の理想の武器は、摩擦されることによって炎と熱を生みだし、そのまま形を維持できるという物だ。

ヒバシを魔金に混ぜれば、ある程度の魔金ならばどれでも簡単に作れるのだろうと思っていた俺だったが、その余裕は間違だった。



摩擦されることによって熱を生みだすヒバシと魔金自体が想像を絶するほどの高熱を帯びるらしく、今までの金属は全て熔けてしまったのだ。


焔(……色を見る限りでは……今までの失敗作が出してきた熱は三千度を超える)


三千度の熱に耐え得るほどの魔金は、俺の工場の蔵にはなかった。


鍛冶屋だというのに。満足な材料も無い。


焔「……はっ」


失敗作続きの現状を眺めながら俺は悔しさに自嘲した。お笑いだ。

何が鍛冶だ。町の危機に何も力になれず、何が鍛冶だ。

やったことといえば、非戦闘員に先祖代々より備蓄されてきたショートブルメラの献上だけ。

俺個人が鍛冶としてやったことはなんだろう?何もあるまい。


焔(…モノが無ければ役立たず。それが鍛冶屋、か…)



493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/23(月) 19:35:55.99 ID:2mMIdS7K0
ガンガン


疾「ん?」

焔「…ばあちゃんか、入っていいよ」


ギィイ・・・

婆「おや、二人とも精が出るねェ……昼メシと冷たい水を持ってきたよ、休憩しな」

疾「おおお!ありがてえ!」

婆「ほれ、一気に飲んだら腹悪くするから、ゆっくり飲むんだよ」

疾「…」ゴッゴッゴッ

焔「全快じゃねーか」

婆「さあホムラ、あんたも食べな、力出ないよ」

焔「ああ、ありがとう」


モグモグ・・・


焔(……美味い、家の飯が久々に感じる…)

婆「で、いま何やってんだい、随分賑やかな音が鳴ってたけど」

焔「ん?ああ…ちょっと、刀作りをね」

婆「刀?初心に戻ったのか…でもまたどうして今さら刀を?」

焔「んー…」モグモグ


焔「…刀で、敵を倒せるかもしれない、から」


言って恥ずかしくなった。

文字通り、大砲相手に刃物で対抗するようなものだ。


婆「ほお!そうなのかい!いやぁそりゃすごい!楽しみだねえ!」

疾「……」

焔「…」


だけど婆ちゃんは優しく、心底嬉しそうに笑った。

くしゃくしゃな笑顔。久しく見ていない、祖母の笑顔だった。

初めて刀剣を打って、褒めてもらった時のことを思い出す。



494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/24(火) 20:52:10.12 ID:dhbpzU0l0
焔「……」


ばあちゃんの笑みを見て、何故か俺はじいちゃんの顔を思い出した。

よく俺に笑いかけてくれる優しいじいちゃんだった。

けれど、何度か真剣で、冷たい視線を俺に向けて、叱ったりもしたものだ。



――こいつは、食土(はんど)

――遠く田食土(でんはんど)で暮らす友人から貰った、我がクレナイの家宝だ

――決して熔かそうとも、削ろうとも思うな

――この鉄を使う時、それはお前がクレナイを守る時だ

――いいや、クレナイだけではない…バンホーだ、町を危機から守る時だ

――その時にこそ、この鉄を使え、ホムラ

――どのような使い方であっても、こいつはあらゆる惨劇からお前を救ってくれるはずだ





焔「…思い出した」

疾「?」

婆「?」


今では滅多に開かない、古い砥石の詰まった戸棚。

石でごった返す木箱の底の隅に…。


焔「……まさかな」



そんなことがあり得るのだろうか。

一度だけ見たそれは、明らかに…大人の掌の上にでさえ、大きく余るサイズだったのだが…。



497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/25(水) 21:15:01.79 ID:uD/C3odn0
焔「……」


ああ…。

絶句。まさにそれだ。めまいがする。

なんだってこの家にこんな…町で起っている惨状を一瞬でも忘れてしまいそうだ。


疾「お、また新しい金属か?今度はそいつを熔かすってか、へへ」


腹も膨れたからいくらでも動けるぜ、とハヤテは意気揚々と腕を見せた。しかし俺の腹の方はまだ決まっていない。

色々な意味で、この鉄塊は俺の手の上に余るのだ。


焔(…ヨモギの紋が刻まれている…町のシンボルだろうか)


とりあえずは鉄塊を持ちだして、書物の傍らに。

ページを乱暴にめくった先には、魔法金属・食土が記されていた。指はそこで止まる。


焔「……田食土(でんはんど)…ヨモギは町を治める領主の家紋か、なるほどな…」

婆「……ホムラ」

焔「ん」


顔を上げれば、珍しく神妙な面持ちの祖母が俺の目をまっすぐに見据えていた。


婆「そいつは、あたしの夫が取り扱いを深く禁じたもんなんだがねえ」

疾「?」

焔「…ああ、俺もいつだったか、じいちゃんに言われたよ」


その意味も今ならばわかる。

この鉄塊は巨万の富と言っても、全く過言ではない品だ。いいや、それ以上であるかもしれない。

今言いたい事ではないが、こいつを売り払えば都市部で戦っている傭兵達を寄せ集めて、一国並みの軍隊でさえも揃えることさえでき得るだろう。


使い方を誤ることのできない、大いなる金属。


婆「お前のじいちゃんが、隣国の親しき友から授かった家宝だ…」

焔「……」

婆「…なあに、使うなとは言わんさ…あんたはもう立派な大人で、鍛冶屋だよ…金に欲目が向く事がないのは私も知ってる」


婆「じいちゃんの代わりに私が許すよ…あんたの思うがまま、使いな」

焔「…!」



499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/26(木) 21:30:49.10 ID:gBpKxxFp0
パサッ

番「カギルさん、起きていますか?」


限「! ツガエさん、どうかしましたか」

番「はい、レンガ壁について新たな案が出されまして…あ、もしかして起こしてしまいましたか?」

限「先程目が覚めました、もう夕方ですから構いません…そして新たな案とは?」

番「えっと、煉瓦壁の正面に可能な限り土嚢を積んでみてはどうか、という意見なのですが…」

限「土嚢で防御力の補強ですか、なるほど…良いでしょう、煉瓦の破片が爆風で飛散するのも防げそうです」

番「採用しますか?」

限「大丈夫でしょう、他の場所でも応用できるのであれば使いたいくらいです」

番「わかりました!」

パサッ


限「…ツガエさんお待ちを!」

番「え?」


限「……」

番「えっと、何か…」

限「…いえ、やはりなんでもありません、どうぞお気になさらず」

番「…はい、では失礼します」

番(…カギルさんが、躊躇するなんて)

パサッ


限(…ハープさんの事を話して…どうするというのか、私自身の確証は無いのに)



500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/26(木) 21:43:59.61 ID:gBpKxxFp0
とぼとぼ

番(……はあ、カギルさん、私になんて声をかけてくれたんだろう、気になる…)

番(カギルさんが言葉に閊えるくらいの事…え、うそやだ、まさかそれって…馬鹿、そんなわけないじゃない…)


ガララララ・・・


番(…あ、前から荷車が…材木を運んでいるのかしら)

民兵(! …ち、胸糞悪い女に出会った)


番「こんにちは、お疲れ様で…」

民兵「身体を動かしているのは俺ら職人だ、軽々しく声をかけるな」

番「…え」

民兵「死ぬのは先兵、生き残るのはいつも椅子に腰掛ける役立たずだ、俺らとお前が同じだと思うなよ」

番「…承知しています、けれど命令系統は必ず必要なのです…」

民兵「口上だけで真実の傷を分かち合えるとでも?ふん…戦の前からそうだったな、町を支配し、絞るだけ絞り取って…」

番「!ち、父と私は関係ありません!」

「おい、足を止めるなよ、さっさと運びに行こう」

民兵「ああ、そうだな」


民兵「全く、無駄なおしゃべりで足を止めないでもらいたいな」ガラララ・・・


番(……くっ…)



501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/28(土) 21:42:35.24 ID:fKNyC1UE0
――カァン

一振りは町のために。

――カァン

一振りは先祖のために。

――カァン

一振りは死んでいった者達のために。

――カァン

一振りは今を共に闘う仲間のために。

――カァン

一振りは全ての希望のために。


憎き敵がそこに居らずとも、勝利へと肉薄する刃となれ。

たとえ身を守る鎧でないとしても、弱き民の心を護る刃となれ。


その一振りは勝利のために。


――カァン



502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/29(日) 22:17:23.84 ID:FZGPHNgl0
長(今を生きる仲間の命こそ最も尊い、それは俺もわかっている。だが無念にも惨劇に倒れていった仲間の意志は?守るだけが、彼らの意志なのか?死者は口を開かないからと、心の耳までも貸すのをやめて良いのだろうか?)


護(単なる町医者の娘だとしても、できることはある。肢を失い絶望する患者が大量に押し寄せてこようとも、轟音がすぐそばで轟こうとも、私だけは逃げてはいけない、逃げない)


限(誰を頼り、どう指示を下すか、私は考えなければならない。私しかいないのだとすれば、他ならぬ私自身が)


番(私の父は確かに町を裏切った、いいえ、町長としてもずっと、この町から技術者を逃さぬように上手く根回しを続け、寄生虫のように巣食ってきた。けれど私は違う、私の命に替えてでもそれを証明してみせたい)


疾(あと一人は子供がほしい)




この戦にかける思いは誰もが違うものをもっている。

戦の最中、戦の後、そのどちらでもない、別の思惑…様々な考えがあって、みんなが挑んでいる壁だ。


そのすべてを俺は掴むことはできないし、預かり知らぬ所にある考えは多くあるだろう。

だとしても俺は、あらゆる想いをこめてこの鎚を振るう。

一回一回に祈りを込めて鋼を伸ばす。

あらゆる祈りをまとめるようにして鋼を折る。

そうしてまた祈りを打ちつける。


俺が造りあげる祈りはバラバラなものではない。

全てが一体となり、全てが同じ目的を願うもの。刀。

希望。

勝利。



焔「…」カァンッ


静かな猛火が、暗い一室をゆらゆらと照らす。



ハープ(……)



その焔が希望を形作るように、俺は信じる。



504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/30(月) 19:23:00.86 ID:3gxnyBhw0
赤というよりは褐色に近いだろうか。

見た目の色はまさに、錆びかけのアカガネそのもの。

表面は鏡の如く滑らかであるにも関わらず、一条の光も返さない艶の無い刀身。

木のような温かみは無く、鉄のような冷たさも感じさせない、どこまでも平坦な質感。

一応はと波紋を付けようと泥を塗ったであろう刃にさえも、紋様どころか光すら浮かんでいない。

なだらかに反った形状はまさに刀で間違いない。

だが、家宝を何割かも含ませて仕上げた逸品の外見は、まさに見るも無残。

王家の財宝であると耳打ちされてこれを眺めようと思っても、あまりの無機質さ、それゆえのつまらなさに、十秒も目を向けていたくない。


たとえるなら、褐色をした刀、の形をした、竹光。

…赤い板きれ。剣の練習用の道具。展示された品であれば、そう指差されてもおかしくはないモノが、ここに出来上がった。



疾「なにこれ」

焔「……」


使った物が物なだけに、仕上がりをかつてない名刀と信じてやまなかった俺は、現実とのあまりの落差になんとなく打ちひしがれていた。

…いや、仕上がりはしたのだが。


ただ……むなしい…。


疾「え?戦場でこれ使うの?」ヒョイ


言いかえしたかったが、ハヤテが軽々と手に持ったそれは子供のチャンバラ用のおもちゃと同列の品と見なされてもおかしくない質素さであった。



505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/31(火) 19:38:04.44 ID:INKx+x+F0
焔「……さて、耐熱、耐衝撃の柄があってひとまずは良かった、というところか…」チャキ


手に握った赤い刀にはそれらしい重量感があったが、鋼のものよりかは格段に軽かった。

耐熱性のある柄と鍔は、私用で偶然持っていた作業用のものであったが幸いした。

色々と不格好ではあるが、これならば特に訓練していない者にでも振るえるかもしれない。まあ、ハヤテの身体能力の前には大剣ほどの重量でも問題ないだろうが。


疾「…握ってみると、やっぱ緊張すんな、武器って」

焔「まだそいつの丈夫さは解らない、武器になるかは試験してみてからだな」

疾「試験?」

焔「ちゃんと摩擦で炎が出るのか、とか…折れたりしないか、とか。当然切れ味も見ておく必要がある」

疾「試し切りってやつだな!?やらせてくれ!」

焔「だーめだ、ちゃんとした使い手がやらなきゃ意味ないの、試験は俺がやるから……」ゴソゴソ


焔「…はい、お前はしばらくこっちの普通の刀で練習でもしてろ」

疾「赤いのは俺のじゃねーのかよ」

焔「勢いよく燃えるかもしれない刀を素人にいきなり持たせられるかよ、いいからこっち」

疾「へいへい…」チャキ


焔「……さて、試験はとりあえず外でやるから、とりあえずは納刀して…」チャキッ・・・

シュボッ


焔「うわっっちいい!?鞘が燃えた!?」

疾「うわああ!水!誰か水ー!」



508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/01(水) 20:09:17.32 ID:IFtS/iVN0
焔「専用の鞘はいつか作るとして、とりあえずは実験開始だ」

疾「というかさっきのでもう成功してんじゃね」

焔「確かに納刀だけで鞘が全焼したりはしたが、まだまだわからないぞ…戦場では耐久性も重要視されるからな」

疾「それで竹で試し切りってことか」

焔「そういうこと」ザクッ


焔「…ここに刺した青竹くらいはさっと切れてもらわないと、切れ味としては合格点はやれないな」

疾「……え?刀って竹斬れるの?」

焔「斬れる斬れる、余裕だな…まあ、俺の鍛冶屋にある刀なら、だけど…他の刀は知らないね」

フンフンッ

チャキッ


焔「…よし、切ってみるか」

疾「すげえ、構え方がそれっぽい」

焔「ぽい、じゃなくてまさにそれだからな……うおりゃッ!」ヒュッ


ス・・・

焔(あれ?切っ先がするりと…)

シュボッ・・

焔(! しかも炎が…!)

ボオオォォオオッ!


疾「うお!?」

焔「うわあっちぃ!?」ボゥッ


カランカラン・・・


焔(…竹は真っ二つ…斬っただけで剣が炎を帯びて…)

疾「…炎が伸びた…炎が伸びたぞ…」ブツブツ

焔(竹の切り口が白くなってら…一瞬の斬りでまさか、こうも熱を帯びるとは…)


焔(…おいおい、なんだかまずそうなものができちゃったなぁ…)



512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/02(木) 21:43:13.04 ID:68ZlxD9I0
疾「……おりゃっ!」ブンッ

焔「そうそう、筋がブレないようにな」

疾「てい!とうっ!」フン、フンッ

焔「飲みこみが早いな?まーこんなところで大丈夫だろう」

疾「え!?もう終わり!?」

焔「んー、剣術の指南ができるほど俺も物納めちゃいないからな、それにそいつは使い方が全く異なってくるだろうし」

疾「お前以外に刀使える奴なんて知らねーぞ?俺より上手いんだから教えてくれたって良いじゃないかよ」

焔「そんな暇もねーの」

疾「ぐぬぬ」


焔「…まずそいつ…ヒバシ石を混ぜた食土の刀…名は“ヒバナとしようか”」

疾「ヒバナ?…なんかかっこ良いな!」

焔「そいつは植物だろうが地面の土だろうが、擦れたり斬ったりするだけで炎を出す危険物だ、その扱いに慣れなくちゃ駄目だな」

疾「わかってるって、肉体強化だろ?」

焔「んー、まあ魔力によって自分の身体の安定性を高める…そうすれば確かに熱や炎から身を守れるし、刀の振りもフットワークも切れるようにはなる」


焔「だがあまりにもそいつを熱しすぎると…おそらく、そいつは平気で1000度は超えるはずだ」

疾「せ…」

焔「ちょっとした小火くらいなら肉体強化でも“ぬるい”程度で涼しい顔もできるだろうが、お前でも1000度となると無理だろう?」

疾「わかんねー…多分駄目だろうな…」

焔「ヒバナ自体は耐熱性に優れているし、柄も熱を通さない造りだ…連続して斬るのは構わない、んだけど、使う本人が熱に耐えられないって事になってくる」

疾「呪いみたいだなそれ、魔剣かよ!」

焔「魔法金属で造られた刀だからな、そういっても過言じゃないはずだ…何にせよ扱いには気をつけろよ?」

疾「わーってるわーってる」

焔「うっかり手を滑らせて町の建物全焼、なんて笑いごとにもならないからな」

疾「…お、おう!わかってるって!」

焔「……心配だ…とにかく、変に扱わないようにな」



514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 19:26:33.65 ID:G2gQOCjc0
予想以上に取り扱いの難しい刀を注意と釘付きでハヤテに託すと、奴は果たして注意を聞いていたのか、るんるんといった上機嫌で刀を振り回しながら帰っていった。

実践で使えるレベルかどうかは正直わからない。

火力は当然あるにせよ、炎が暴発するリスクを考えるとどうしても尻込みしてしまう。誤れば戦の前に町が全焼する悲劇も…あり得なくはない。

何が起こるか予測不能の武器だが、油を用いた作戦には参加させるべきじゃあないだろう。


焔「…使えない武器よりはマシか」


と心配はしてみても、確かな手ごたえ。

刀剣で戦が変わる。リスクが高いのは承知だが、それでも鍛冶屋としての俺の心は期待に高鳴るばかりである。

炎を出す剣。実践でどうなるかなど、想像しても全くわからない。だからこそ臨んでみたくなる。



焔「……」


俺は工房に戻っていた。

蒸し暑い熱気とそこらに転がっている石の破片。


そして、まだ残りがある魔金、食土。



焔「……刀だけで満足できるかよ」


久々に己のうちに燃えてくるものが出来た気がする。



518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 20:47:05.83 ID:4R+VOSQZ0
武器を造る。

にしても、問題があった。


焔「リーチの短い武器だと火傷するな…」


ブルメラのような短剣に属するような武器を合金で造っても、燃え盛る刀身のすぐ近くで柄を握る手。ひとたび扱いを間違えれば、砲撃を食らう間もなく自滅できるだろう。

先程の刀…ヒバナのように、長い刀身の中辺りほどで対象を斬れば手への負担は軽く済む。必然的にリーチの長い武器が候補に残るというわけだ。

とはいっても、ヒバナだって万能ではない。

敵やら物やらを斬って熱を高め続けていれば、それが切っ先でのものであろうといずれは熱が刀身全てに伝わる。

耐熱の柄があるにせよ、手元の近くで超高熱が常在していては肉体強化込みでも手が耐えられない。


つまり、どういうものが最適かというと…。



焔「……槍だ」


長いリーチ。熱を伝えない棒状のものを用いれば、槍先の合金が文字通り思う存分に炎を吐ける。

どこまで相手を突き刺そうが、斬ろうが、叩こうが、熱せられた先端は身体からは遠い。

槍術としての動きは多少限定されるが、これ以上ない素晴らしくマッチした武器といえよう。

奇遇なことに俺は槍が好きだ。そうだ、槍を造ろう。


焔「槍だけじゃない、なんだって作れる…モーニングスター、ロングメイス…リーチが長ければ戦闘面でのデメリットもいくらかマシになるが、あえて小回りのきくショートソードで、剣の先端にのみ合金を使っても良い…」


想像が膨らむ。頭の中では幾つもの褐色をした武器の図案が浮かび、ぐるぐると回りながら最適な形を求めて変形し続ける。


焔「おお…!今何時だ!?今日寝れるか俺!?」


早速俺は貫徹を覚悟し、作業へと取りかかった。

夕方に近い時のことである。



521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 22:27:29.81 ID:suj6Xbx90

――崖の下


遥か南の死地より、魔族の王の一体、キキが己の身から生みだした惨劇軍。

破壊力の高い砲撃、堅牢の如き盾、強烈な毒爪、鉄さえ断ち得る大剣。

世界を憎悪の暴力で飲みこまんとするそれら惨劇の兵士達には、稀に一体の“指揮官”がつく。


ダマ「よし、大体揃ってきたか」バサッバサツ



羽衣の翼を大きくはためかせて月夜に浮かぶ姿はさながら悪魔のよう。派手ではないのに“毒”を連想させる赤に近い色合いの表皮は宵闇に目立つ。その色は他の野生生物に警鐘を鳴らしているのか。

――それとも、憎悪の色か。


ダマ「惨劇狩りが待ち構え…そして、一度ならず二度までも敗北を味わう事になるとは…我々の恥さらしも良い所だな」


翼の振幅が緩やかになると共に、赤い身体は崖下へとゆっくり降下を始めた。

下へ下へと降りてゆくと、そこには岩場――と見紛うであろう、ロッコイの盾による疑似海岸が形成されていた。

海を渡る惨劇軍の魔族は、一日で海岸を増やしてしまうほどの大群となってしまっていたのだ。

ダマは盾の地に腰を下ろし、羽衣を休めた。



ダマ「あと一日だ、明日も“待ち”…惨劇狩りを相手に急ぐなど、さすがのオレでも愚かだと理解できるからな、キキキ…」

高い蝙蝠の笑い声が小さく響く。


ダマ「…二日後が攻めの時…人間どもが賢い策を練ろうとも、…司令塔としては認めたくはないが?キキキッ…無情にも、数の暴力というものはあらゆる策を易々と破壊してしまうものだ…」

ダマ「かといって、増援を呼ばれるのも厄介だ…現存の敵に休まれても困る、ククク…ま、匙加減だな……」


岩の上で胡坐をかき、巨大な蝙蝠は瞑想に耽った。



524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 22:54:37.30 ID:suj6Xbx90

『人間同士であろうが、魔族とのものであろうが、戦はあらゆる技術を発達させる』

ハープ「……」

『確かに魔族側を倒そうとお前が力を振るうことで、奴らの敗北はより近き道となり…“脅威”への歩みはやや緩やかになるだろう』

ハープ「その通り」

『ところがそれは力を直接敵に振るった場合だ。間接的に人間へ助力し、討ち滅ぼす…上手くいけば速やかで悪くは無い、だが技術の発展は並行して進むことを忘れるな』

ハープ「わかっている、あくまで早めに決するつもりだ」

『そして何よりも最後は…わかるな?あまり目立ちすぎてはならん』

ハープ「…当然」

『よろしい…今がハープ…前はセン…さて次は…』

ハープ「その時になったら決めるさ、今はこれでいい」

『ふ、そうだな…替え時までにはまだ時間がある…またセンに戻すのも良いだろう』

ハープ「それじゃあバレる、せめてもう一つは欲しい所だろう?」

『うむ、もう一つはな…』

ハープ「……」




526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 20:11:17.55 ID:zUF+Y2Yr0
護「一応は大丈夫だけど、包帯は毎日替えるようにしてくださいね?じゃないと腕が腐り落ちちゃいますからね、ふふ」

「あ、ありがとうございます…先生」

護「お勤め頑張って下さいね、怪我をしたら私が治しますから」

「…はい、その時はまたよろしくお願いします」

護「ええ」

「では」


護(…ふう、今日一日で何人も復帰したなぁ…生命力があるのか、無理してるのか…)


きっと無理しているんだろうな、と思いつつ、マモリはテントから出た。

治療のために設けられた大きめのテントは中も清潔で治療も滞りなく不快感も無く続けられたが、同じ場所というのはそれだけで息苦しい。


布の扉を開けた向こうにはいつも通りの民家と、その屋根の上へ突き出すように伸びる錐砲の頂点が見えた。

町の中にも配備された投擲兵器と夜空の組み合わせは、直接目にして初めて不安を覚える物々しい光景である。


護「…また戦いは続くのね…また誰かが怪我をするのか…」


医者は治すのが仕事。とはいえ、町の者が傷付く姿など好んで見たくはない。かといって“町から逃げれば良いのに”とは口が裂けても言えない。

ただただ、最小限の犠牲で勝利を掴んでほしい。そう願うばかりだ。



――ゴォッ


護「…ん!?」


なんともなくに夜の藍色を眺めていたマモリの目に、小さなオレンジの閃光が映った。

視界の隅に一瞬だけ現れた光。昨日の事もあっていつも以上に張りつめた夜の雰囲気が、彼女に嫌な予感を示す。

“敵の攻撃?”

恐れる前にマモリは、オレンジの光が上がった所へと駆け向かっていた。

歩きにくい靴をカタカタと高く鳴らし、小さな橋を渡って民家の煉瓦の角をなぞるように曲がり、光の上がった地点を追いつめる。


そして次の路地を曲がろうとした時、光は再び現れた。


ゴォオオオッ!


護「きゃっ…!?」


今度は小さな光ではない。

大きなオレンジの光…――いや、炎が、マモリのすぐ目の前で尾を引いて空を泳いでいたのである。


護「……え?」


一瞬、絶対に魔族だと自身の直感を疑わなかったマモリであったが、炎の渦の中心に目を向けた時に疑念は晴れた。



疾「ふッ……!」ブンッ・・・カリリリリ

ゴォオオオオ!



そこでは一人の民兵が、ラクダ色の壁面を相手に火炎を帯びた刀剣を振り回してたのだ。



529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 22:13:52.93 ID:UNchHaNU0
護「…ちょっと?あなたハヤテさんよね」

疾「うおりゃ…って、ん?」ゴォオ・・・


ハヤテは早速慣れた取り回しで刀を頭上で振り回し、業火を宙に放ち消すとともに、やっとマモリの方へ目を向けた。


疾「おお、町医者だ、すげえだろ?これ」

護「“マモリさん”って呼んでよ。…なにそれ?魔族が襲来してきたのかと思ってびっくりしたわぁ」

疾「これか?へっへっへ、いいだろー」

護「良いとか悪いとかそういうんじゃなくて…どうしたの?それ、燃えてるの?」


屈託の無い笑顔で真っ赤な刀を見つめていたハヤテが、いかにも話したそうにこちらへ顔を向ける。


疾「おうとも!燃えてるんだ、そりゃもう鉄をも溶かしかねないくらいによ、そういう刀!」

護「え……」


まさか本当に燃えるのか。信じられないといった風に、刀へ疑いの目をやる。


――艶の無い赤い刀身…。


護「嘘おっしゃい」

疾「早ッ!?ちょっと見ただけで決めつけねえで欲しいな!」

護「表面に油か何かを塗ってるんでしょ?…もしくは、さっきまでカマドに入れていたとか…」

疾「そ、そこまで疑うか!?これはちゃんとホムラが俺のためにって作ってくれた大傑作なんだぞ!」

護「……え?ホムラさんが?」


先ほどとは一転して信じきった表情を見せたマモリには、ハヤテも思わずため息をついた。


疾(俺の言ってる事って大体信用されねえんだよな…)



533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 22:59:09.10 ID:lqXZg81w0
護「――へぇ…ヒバシ石を金属に熔かしてかぁ…」

疾「うっすい刀の割に頑丈だし、軽めだし…何より炎が出る!これがもうすげえのなんの」

護「…ふふ、そうね、本当にホムラさんはすごいなぁ」

疾「聞いてはいるだろ?魔族共の弱点は炎だってよ」

護「聞いてるわ、惨劇軍でしょ?町中その話で持ちきりなんだってね」

疾「おう、皆どうやって奴らを火だるまにしてやろうか頭をひねってる所だろうよ、まぁそれも無駄ってことだ」

チャキッ

ブンッ


疾「こいつさえありゃあ、火薬だの油だのが無くたって問題ねえ」

護「…そんなに上手くいくの?相手は腕から大砲を撃ったりしてくるんでしょ?」

疾「…だからこうやって刀の練習してるんだよ」ブンッ、ブンッ

護「あっはっは、変な振り!ハヤテさんて刀握った事ないでしょ」

疾「うるせー!だから練習してんの!火傷するからあっちいってろ!」ブンッブンッ

護「はいはい…小火だけは起こさないようにね、ただでさえみんなピリピリしてるんだから…」

疾「わーってるって!」ブンッ

護「…あ、そうだ…剣術ならカギルさんやナガトさんに教えてもらったら?カギルさんは忙しいかもしれないけど、ナガトさんなら暇だろうし、腕も確からしいわよ」

疾「ぁあ?ナガト?」ブンッ


疾「…ナガトか、教えてもらうかなぁ」

護「ま、魔族じゃなくて安心したわ…私帰るわね。じゃ、おやすみなさ~い」

疾「…おー」


疾(ナガト…まぁ駄目元で聞いてみるか?あいつどこにいるんだろ)



540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 19:59:46.77 ID:K369+fxg0
民兵「ふぅー…いやー、非番だってのに手伝い張り切りすぎたなぁ」

「ははは、そいんくらいでなきゃ男は上げらんねーよ」

民兵「おいおい厳しいな?男ってのは、はっは」

カラララ・・・


番台「いらっしゃい、民兵さんだね?無料だからゆっくりしてきな」

民兵「サンキュー、風呂は混んでるかい?」

番台「この時間だからねぇ…あ、でもさっきぞろぞろと集団で出ていったから、今は空いてるかもねぇ」

民兵「お?やった、じゃあ早速入らせてもら、へへ」

「ラッキーだったな、めいっぱい足広げようかね」

民兵「ああ、それに尽きる…そうだ!酒を一杯おくれよ!金は払うから!」

番台「酒?良いよ、徳利75YENだ」

民兵「高ッ!なんだそれ」

番台「ここは酒屋じゃねーってこと、湯の中で吐かれる悪夢を考えたら100でもいいところさ」

「ははは、違いないな」

民兵「ちぇっ…ま、いいか」ジャラジャラ

番台「まいど、ほどほどにね」

民兵「良く言うぜぇ」



541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 20:06:52.58 ID:K369+fxg0
かぽーん


民兵「うー、寒っ」ペタペタ

「さっさと湯船に浸かりたいねぇ」

民兵「早く酒を煽りたいぜぇー…うぶぶぶ」

「…おー、番台の言ってた通りだ、誰もいねぇじゃん」

民兵「どうしたどうした、さすがに人っ子一人いねえのは可笑しいだろ…誰かクソでも漏らしたか?」

「汚ねっ、酒不味くなんぞ」

民兵「いけるいける、言葉なんて酒の前じゃ全部軽いもん…」


チャプ


限「……」

長「……」



民兵(…うわっ、なにこの、無言の息苦しさ)

(なんだこれ、居辛すぎる)


かぽーん


限「……」

長「……」


民兵(…せめて…)

(風呂の両端で険しい顔するのはやめてくれ…)





民兵「……出るか」ザパッ

「…ああ、温まったからな」チャポッ



542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/12(日) 22:47:08.99 ID:8DaPm/0M0
チャプ・・・


限(…久々に肩まで浸かったな、癒される…疲れも緊迫感も一緒に流されてしまいそうだ)

長「…カギルさん」

限「ん…ああ、ナガトさん、どうもこんばんは」

長「どうも。…町の準備はうまく進んでいるようで」

限「そうですね、守りの方はですが…」

長「…カギルさん、せっかくの休みの時だというのにこんな話で申し訳ない…」

限「構いません、役目ですから」


長「…守りは完璧だと俺も思う、しかし守るだけではいつか食料も無くなり…この町は滅びる」

限「バンホーは農作に特化した町ではありませんからね、一応食料は傭兵の協会へ支援要請を出してあるのですが」

長「このご時世だ、メシを食うにも値が張る…いつまで続けていられるか…」

限「ここが陥落すれば次の標的は遠く隣町です、そこの援助も受けています」

長「……」

限「ただ根本的に問題がありまして」

長「?」

限「籠城のための物資はある、食料もある……ただ、人がいない」

長「…」

限「お金にある程度の余裕はありますが、傭兵を恒久的に雇うほどの資金はありませんし信用もありません」

長「…確かに、二度と奴らとつるむのは御免だ」

限「しかしこのままでは町の方々が戦によって命を落とし続ける…町を守るための人々がいなくなってしまうのです」


限「だから我々は考え模索しています、少ない人数でも魔族達を…惨劇軍を撃退するための方法を」

長「…」

限「そう、難しいのです、ナガトさん…あなたの言う通り、守るだけというわけにもいかない」


限「しかし、攻めの手段がどうにも……浮かばない、歯痒いです」



544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/13(月) 22:16:26.32 ID:rcMx1OsAO
「ふぃ~、疲れた~…風呂、風呂っとぉ…」ペタペタ


長「確かに錐砲の威力は高い、曲射もできるから敵の砲撃からは狙われまいでしょうが」

限「有能な砲手はいませんからね、それは仕方ないことです」

「? 誰か話してんな…まぁいいや、さっさと浸かろ」チャプ


長「素人に錐砲の扱いなど出来ることでは…」

限「だからこその向きと重さの固定なのです、これなら誰にでも扱えますよ」

長「…ピンポイントすぎる」

限「町からの火力支援はこれしかないのですよ」

長「むむ……」


「…ん?おお、その声はナガトとカギルさんじゃねえか」

長「?その声…」

限「ああ、ハヤテさんいらしてたので…」


疾「おっす」

長「おん!?」

限「!? !?」

疾「え?何?」



550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/14(火) 20:29:26.87 ID:6mXi+OSw0
長「ハヤテか」

限「ハヤテさんですか」

疾「どうみたら誰に見えるんだよ」

長(女だろ)

限(女性でしょう)


長「…ハヤテ、髪を結わいている紐を外せ、面倒だ」

疾「は?なんでだよ、毛先を湯船に沈めたくねーんだよ」

長「いいからさっさとほどけ」

疾「…ホムラといい、なんなんだ…」ブツブツ

シュルッ

長「それでいい」

限(なるほど、興味深い)


疾「で、さっきまで色々と口論してたみたいだけど、一体何を?つっても二人が話す共通の事といったら戦のことか」

長「当然だ、今この時他に何を話す必要がある」

疾「息抜きに他の事を話していてもバチは当たんねーだろ?」

限「惨劇軍を撃退するための攻め…つまるところ、こちらの主要な戦力について話していました」

疾「戦力…」

長「守るだけではすり減るばかりだ、こちらから効果的に敵を始末する方法を考えなくてはならない」

疾「……へっへへ」ニヤ

長「? 何がおかしい」

疾「いやいや、丁度いいぜナガト、丁度良いモンが手に入ったんだよ」



553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/16(木) 22:13:13.54 ID:8K8JjamC0
ブンブンッ

フンフンフンッ


チャキッ


疾「どう?」

長「木刀」

限「鮮やかな模造刀ですね」

疾「ちげーって!これ凄いんだって!」

長「話はそれだけか?ハヤテ」

疾「なにその可哀そうなものを見る目!上等だ!今から度肝抜いてやるから見ておけよ!腰抜かすなよ!」

長「腰も肝も何に驚けと…」カリカリカリッ


ボウッ!

限「!?」

長「うおっ!」

疾(自分の周りの足元の地面に円を描くようにして擦ってから…)カリリリッ

疾(一気に上へ突きあげるッ!)ボォオオッ


長「……炎が出た」

限「…空へ飛ばしたのですか?これはまさか魔道具…」

疾「へへ、魔道具ってのよくわかんねーけど、そんな難しいもんじゃないと思うぜ…これ、ホムラに作ってもらったんだ」

長「なに、ホムラにだと?」

限「…お待ちを、ハヤテさん、これはまず一体何なのですか?」

長「そ、そうだ、炎を出す魔剣だと?まるでおとぎ話のようだ」

疾「ふっふっふ、良いだろう聞かせてやろう」



554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/17(金) 20:30:51.63 ID:5lIUvnCM0
長「…ヒバシ石を精錬か…考えてもみなかったことだが、確かにあれならば可能か?」

限「ヒバシ石は魔石に分類されます、普通の火打石とは比べ物にならない火力を持っている事は知っていましたが…なるほど、まさかヒバシ石を原料とするとは、見過ごしていた」

疾「く、詳しいなカギルさん」

限「…ハヤテさん、その刀…」

疾「あ、これ“ヒバナ”っていうの」

限「……ヒバナを貸していただけますか」

疾「ほい、すぐに炎出るから気をつけて」


限「……ふむ、よくよく見てみると不思議な色合い…」

長「確かに、キメは細かいのに艶が全く無い」

限「…この色合いはともかくとして…?この質感…硬度といい、名刀だが…?材質は一体…?」

疾「あー材質ね、確か変な金属をヒバシ石と混ぜてたなぁ…それが何なのかは教えてくれなかったけど」

長「鍛冶屋の企業秘密ってやつか」

限(……まてよ、刀身に魔力を込めてみたらどうだ)スッ


限(鍔から先へ、左手で刀身を撫でるようにして…魔力で“強化”する…!)ツツツ・・・


限「…」

疾「どうだいカギルさん、なかなか良い刀だろ?へへ…あ、でもいくらカギルさんだからってあげないからな!」

長「馬鹿が」

限(…魔力がほぼ完ぺきに馴染んだ、間違いない、この材質のほとんどを占める金属は…魔法金属、しかも極々上等なものとみた)


限「ふむ、大事に扱うといいでしょう、お返しします」スッ

疾「おう、……でさ、カギルさん、お願いがあんだけど」

限「? 何か」

疾「…そのな、俺な…」



557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/19(日) 16:25:23.08 ID:hYYZKJRK0

―――――――――


限「……」

疾「……」

長「自分の言っている事の意味がわかっているんだろうな」

疾「わかってるさ」

長「お前には家族がいるんだったな?しかもまだ小さな子供まで」

疾「だからこそ戦いてぇんだよ!衛生兵や連絡係でもない、一般の兵として!」

限「ふむ、わかりました」

長「良いのか?カギルさん」

限「本人が自身の意志で仰っているんです、良しとし何ら問題はありません」

疾「ありがとうございます!」

限「しかし確認はしなくてはなりません、もしも貴方が死んだらどうするのですか?」

疾「死なないように頑張ります」

長「アホか」

限「人間は魔族の砲撃ひとつでも、剣の一振りでも、ひょっとすれば爪の一掻きでも死に至りますよ」

長「残された家族がどうなるか考えているのか?幼い子供を一人で養う女の気持を…」

疾「絶ッ対に!俺は死なない!」


長「……はー、馬鹿が…まぁいい、カギルさんが良っつってんなら俺は何も言わねえ」

疾「へへん」


限「……」



561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/20(月) 19:18:47.57 ID:9emIvRDy0
なんやかんやあって。


焔「寝ときゃよかったかも…」


さて晩飯だと工場から出てみたら、窓から明るい日差しが差し込んでいた。

コダマ鳥がケロケロと気持ちよさそうに鳴いてはいるが、今の俺は逆にそのまま布団に潜ってしまいたい気分である。


焔「ふぁぁぁあ…やべえさっきから欠伸がとまんねえ…」


日が明けたということは一日が経ったということだ。

戦時中に夜更かしとは肝の据わった男だと褒めてもらいに今日もまたテント群へと足を進めよう。

もしかしたらそこで朝食でも頂けるかもしれない。



俺は文字通りふらついた足取りで町をすりすりと歩き、前線に近いテント群の目の前までやってきた。


民兵「…?」

焔「あ」


今さらの後の祭りだが、作業着のまま来てしまった。

しかも鎚持って。


…今日はテントの様子をちらりと見たら早々に帰って寝てしまった方が良いのかもしれない。



562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/21(火) 19:38:58.95 ID:vD2BKw9F0
「職人仕事お疲れさまー」

焔「間違ってはないけどさ…」


通りすがりの知り合い全てが俺の姿を見て茶化してゆく。

いたたまれないのでさっさと確認だけとってもらって帰りたい。



番「あら?……あ、ホムラさんだった、おはようございます」

焔「お、いいところに…おはようございます、ツガエさん」


早く帰りたいと願った途端に彼女が現れた。幸先の良い朝だ。


番「鍛冶の作業をしていたしたんですか?…うわあ、煤だらけですね」

焔「いやー着替え忘れちゃって、すみません」

番「え?朝からお仕事ですか、大変ですね」

焔「いえ、夕方からです」

番「え?」


数秒置いてから、ツガエさんの目がより一層開かれた。


番「…一体何をしていたんですか…無茶して身体を壊してはいけませんよ?」

焔「まー、ちょっとした武器の鍛造をですね…ははは」

番「ホムラさんの作る剣はすごい切れ味だって早くも評判ですからねー…はい、とりあえず安否確認はおっけーっと…」

焔「どもども…じゃ、着替えてからまた戻って来て寝たいと思いますんで」

番「あ、はーい」


思いの外手続きがスムーズに終わった。着替えたらとりあえず夕時までは眠っておこう。



番「……あれ?ホムラさん、背中のそれ…」

焔「ん?背中?……あ」


しまった。馬鹿か。一緒に持ってきてしまっていたようだ。



565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/22(水) 21:08:55.00 ID:5/3t9fxv0
番「なんだかそれ…ハヤテさんが持っていたものと似てる気がします、色が」

焔「…あー、まぁハヤテにあげたのも俺ですからね」

番「やっぱり、でもどうしてそんな色をしてるんですか?思ったんですけど、模造刀ですよねぇ…?」

焔「模造刀っていうか…まあ見せた方が早いのかな」


背中から刀剣を降ろし、そっと丁重な手つきで地面に並べる。

別にこれらが壊れやすいというわけではないが、厳重に。ガラス細工を扱うようにゆっくりと。


番「…繊細なものなんですか?」

焔「むしろ逆ですね、岩壁に刃を叩きつけても刃こぼれするかどうか…」

番「ええ、それはさすがにオーバーな…」


実際にはオーバーでもなんでもなく、普通に刃こぼれしないだろう。

食土に関してそこまで知識を持っているわけがないが、このクラスの魔金が岩如き相手に欠けるはずも潰れるはずもない。


番「…えっと、…双剣、ジャベリン…あとこれは…槍の先ですか?」

焔「お、よくわかりますね」

番「やった、正解でした」

焔「双剣とジャベリンは完成したんですけど、槍だけはどうも柄が作れなくて参ってるんですよね…素材がなくて」

番「はあ…そうですか…でもどうして今このようなものを?どれも近距離のものばかりですよね」

焔「何か俺も力になれないかなと思いましてね」

番「?」

焔「…そうだ、ついでにこいつらを届けておくか…習作だけど」



567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/23(木) 19:35:06.59 ID:18s3ppxc0
焔「おー、居た居た…珍しいなナガト、テントにいるなんて」

長「ん?ホムラか…昨日の疲れを取っているところだ、戦は近いからな」

焔「うん、無茶して働くよりもそれが良い」

長「…そんなお前はすごい格好をしている訳だが…」

焔「ああ、貫徹で鍛造してたからな」

長(そっちの方が無茶してないか?)

焔「今日はちょっと渡したいものがあってな」ゴソゴソ


コトッ

長「ああ、ジャベリ……!」

焔「ご注文の品だぜ、ショートではないけど」

長「…ハヤテにも似たようなものを渡したな?」

焔「あれ?知ってたか…あいつさては、色々な奴に見せびらかしたな」

長「ハヤテがそうしているかは知らないが、俺カギルさんには見せたぞ」

焔「カギルさんにもかー…」


長「…触ってもいいか?」

焔「ああ、金は後払いでいい」


焔(かなり原価割れしないと多分誰も買えないだろうけど)



575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/25(土) 10:30:48.56 ID:F2cBujt+0
カチャッ

長(リーチの割には若干軽いか…)

焔「銘は“トビヒ”。ハヤテにやった“ヒバナ”と同じで、摩擦によって炎と熱を出すジャベリンだ」

長「おお、ここに鎖も取りつけられるんだな」

焔「一応付けられはするけどおススメはしないな」

長「?」

焔「ナガトはジャベリンを鎖で戻して繰り返し使うんだろ?」

長「そうだ、ほかにも鎖の利用方法はいくらでもあるが、主な目的はそうだな」

焔「そいつの場合は取りこぼしでうっかり刃に手を触れた…とか、鎖に刀身が触れすぎた…とか、そういうミスは許されない」

長「…なるほどな、高熱のジャベリン…相性は良くないか」

焔「せめてもの改善ということで主に刃先にだけヒバシ石を集中して練り込んであるから、一瞬で鉄の鎖を焼き切るほど刀身が発熱する事はないとは思うが、まぁ気をつけてくれ」

長「わかった」

焔「刃先に込めてあるから、一発目で樹に思いっきり突きたてれば幹の内部が焦げる…二度突きたてれば煙が出る、三度くらい差せばジャベリンも熱を持って、樹を燃やすくらいにはなると思う」

長「投げる方向にも注意しなくてはならないわけか」

焔「…正直それは失敗作だ、作ってから気付いた不都合があまりに多い…誤れば町を大火に包み込む恐れがある」

長「くく、あまり俺を舐めてもらっちゃこまるな、ホムラ」

焔「え?」

長「こいつは燃えようが欠けようがジャベリンだ…ジャベリンなら、俺は当然のように使いこなしてやる」

焔「…よし、信用するぞ」

長「ああ、感謝するぞホムラ」


長「…ああそうだホムラ、これはどうやって砥げば…」

焔「間違っても砥ぐなよ!?」

長「あ、ああ」



580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/26(日) 11:16:00.65 ID:4CJelAZa0
焔(ナガトには渡したし釘も刺しておいたおいたから…次はカギルさんだな)

焔(本部にいればいいんだけど、そう何日も連続で統括にいるだろうか…休みじゃなければいいんだが…)


焔「失礼します」

「どうぞ」

焔(お、居た)

パサッ


限「ホム……ラさんですね、おはようございます」

焔「おはようございます、連日ご苦労さまで」

限「先程まで鍛冶の方にいらしたのですか」

焔「ええまあ、着替え忘れてしまいまして」

限「寝ていませんね」

焔「へへ、わかりますか…」

限「くまが物凄い事になっていますからね」

焔「ほんとですか、後で見てみよう…ってそうじゃないか、今はこの用で来たんです」

限「何でしょうか」


コトッ コトッ


限「……これは、もしや」

焔「ハヤテから聞いたんでしたら多分知ってるかと思うんですけど」

限「…昨晩、ハヤテさんと偶然会いまして、この剣を直に見ることができましたが…なるほど、双剣もあるとは」

焔「工場で火急に作ったんですよ」

限「……しかしホムラさん、何故双剣なのですか」

焔「え?」

限「何故私が双剣を扱えることを?それとも、これはそういった意味で私に託したものではない…?」

焔「ああ…まぎれも無くカギルさんへの贈り物です、カギルさんは剣の達人だとか」

限「…私に剣をですか」

焔「ちょっと前に、テントの外で剣舞を舞っていたカギルさんの姿を見たので、…それを見てすぐに解りましたよ、カギルさんは達人だって」

限「……」

焔「俺も槍を扱えるんですけど、職業柄他の獲物の扱いも心得てるんで、いやぁ驚きました」



581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/26(日) 11:31:34.22 ID:4CJelAZa0
チャキッ・・・


限「……双剣の割には反りはなく、長く、しかし軽い」

焔「ハヤテの刀と同じで、刃先がちょっと掠るだけでも炎を出します…それを繰り返せば剣は高温になるので、肉体強化が必須になってきます」

限「斬ればきるほど炎を帯びる、と」

焔「ええ、肉体の強化の度合いによって取り回しの範囲も変わってきます」

限「…ハヤテさんのものよりもどうやら、見た目に重点を置いているようですね」

焔「あ、わかります?」

限「鍔の彫りが美しいです」

焔「良いものがあったんで、せっかくだからあしらっておいたんです…カギルさんはこの町の司令塔なんで、見た目にも拘っておかなきゃなーって思ったし」

限「…なるほど」


ブンッ、ブンッ


限(……手になじむ)

焔「銘は“ヒバシ”、ヒバシ石で作った剣の代表って意味でもありますけど、単純に“箸”みたいだからってのもあります」

限「……“火箸”、ですか…なるほど」

焔「こいつだけは剣と剣を擦り合わせることによっても熱を発せるのでわざわざ斬ってボルテージを上げる必要もないんで、魔族相手には結構有効なものだと思いますよ」

限「リーチ以外は、ですね」

焔「ははは…まあ炎でなんとかカバーしてください…」

限「……」


限「…素晴らしい贈り物です、ホムラさん…しかし私は司令塔、町の統括者です」

焔「はい」

限「剣を持って最前線で戦う事など、できることではないのです」

焔「……はい、わかってます」


焔「でもなんていうか、あの夜に見たカギルさんの舞いは、…うーん、なんて言えばいいのか…自分も戦場に出たがっているような、そんなものを感じたんです」

限「…」

焔「あ、すいません、過ぎた真似にもほどがありますね…でもまぁ、飾りってだけでも持っておいてください、見た目は良いんで」

限「はい、ありがたく」

焔「では俺はこれで…そろそろ眠いんで、着替えに帰ります…じゃあ失礼しました」


パサッ


限「……」



589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/27(月) 23:23:40.19 ID:qL+GRLTAO
AWOZ7Ijl



蔵を探している最中に古い図面を見つけた。

ホムラが描いたと思われる、最初の武器達のスケッチのようだ。

お父様が継承した原型はこれかしら。

ということは、私もいつかこれを…?

…嫌だ。お父様まで、私より先にいなくなってしまうなんて…。

この資料のことは忘れよう。




591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/28(火) 20:44:17.14 ID:IbvG4+gi0
職人「……で、ここなんですが…聞いてます?」

限「! はい、続けてください」

職人「こっちの錐砲はどうにも使い道はわからないんですけど、こっちです、こっちの弩砲であれば改良の余地があるんです」

限「はい」

職人「弓でも火矢ってあるじゃないですか、弩砲でもそれを使う訳です、弾の先に油を仕込むなりすればですね…」

限「なるほど、だとしたら弾の火力は最低限に留めて油を抑え気味にしたいところでしょうか」

職人「質の悪い火薬でしたら沢山あるんでそっちを使うのもありだと思うんですね、どうでしょ」

限「難しいかと思われます、弾に火薬を仕込むほどの複雑な機構を設けるのは容易ではないでしょうし、着弾して熱を与える能力に調整するのもまた至難でしょう」

職人「うーん、わかりました、油を使いましょう」

限「弩砲も錐砲も防衛のための最終兵器として運用する事になるでしょうから、主力はやはり銃器ですね…ギルドに速達で武器の要請を出しましたが、今の時世で貸してくれるかどうか…」

パサッ


石工「失礼します、カギルさん、内部に使うっていう日干し煉瓦の質についてなんですけど…」

職人「後にしてくれよ、今はこっちだ」

石工「へいへい」

限「すみませんね」

石工「いやいや!まったく!」

パサッ


職人「…多忙ですねぇ」

限「明日から敵の襲来があるかもしれませんからね、町の装備も大詰めです」

職人「本当に今日も来ないんで?他のみんなもそうだと思うんですけど、俺も内心じゃあ心配でなりませんよ」

限「…ハープさんからの情報です、信じましょう」

職人「そんなにあの子供が信頼できるんですか?俺はちょっと、って感じですけど」

限「……」


限(…彼女はただの子供ではない)

限(いや、ひょっとしたら彼女は、人間ですらないのかも…)



592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/29(水) 21:50:59.43 ID:fnrvvhSF0
パサッ


疾「こんちわっす」

職人「ハハハ、ほんと多忙だ」

疾「?」

限「こちらの話です、なんでしょうかハヤテさん」

疾「いやー、カギルさん今暇かなーって思って」

職人「ここの書類の山を見ての通り、大忙しだよ」

疾「ちぇっ、やっぱりか……カギルさんにでも剣を習おうかと思ったんだけどなぁ」

限「私に剣をですか」

職人「あーだめだめ、カギルさんは忙しいからな…あ、でも確かカギルさんって剣の扱い上手かったような…」


職人「お?そういやカギルさんの剣新しくなってますね」

疾「!」

限「これですか、これはホムラさんからいただいたもので…」

職人「へぇー、飾りも多くてカギルさんにゃぴったりだ、良いと思う」

限「どうも…まあ、私が剣を振るう事などありませんが」


限「そういうことです、ハヤテさん…すみません」

疾「ちぇー、まー仕方ないか、他をあたろうっと」パサッ



職人「…最近の若者はこれだから駄目ですなー」

限「あれくらいがいいものなのですよ」

職人「ぶは、御冗談を」

限「そういうものですよ、私はそういう生き方ができずに、少し後悔していますからね」



593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/30(木) 21:53:25.34 ID:4GR9yInv0
疾「あーあ、そろそろ魔族が来るかもしれねーってのに、良い剣もあるのによー…このままじゃ宝の持ち腐れだぜ…」


民兵「おー、ハヤテじゃんか」

疾「よう!そっちは順調か」

民兵「順調だけどこれでいいのかなーって焦りはあるわな」

疾「ああ、やっぱなー…指示された事をこなしちゃいるが、それだけでいいのか?ってのは思うわ確かに」

民兵「カギルさんからアイデア出すように言われてはいるけどな」

疾「…炎ね、炎…」ニヘラ

民兵「何その笑顔」

疾「い、いや?なんでも」ニヤニヤ


疾「というかそれ、なにしてんだよ…広場にかまどなんか作りやがって」

民兵「ああこれ?」ジュゥゥウウ・・・

疾「…それ、農業で使う鋤ってやつか」

民兵「スキ、そうそう」ジュゥゥウ

疾「なんで焼いてるんだよ、先真っ赤だぞ」

民兵「まぁまぁ、ここにほれ、さっき猟師さんにもらった生肉を乗っけてだな」ジュゥゥウ

疾「うおお!良い匂い!」

民兵「はっはっは!即席の鉄板焼きだ!一緒に食うか?」

疾「良いのか!?おっしゃ!喰うぞ!景気付けだ!がっつり頂く!」



597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/01(金) 20:26:15.18 ID:kX3XyVsQ0
疾「もむ…もぐもぐ…」

民兵「燃料は高けぇもんは使えないから薪で火を熾してみたんだが、肉を喰うにゃやっぱ薪が一番だな」

疾「ほむほむ…ん、そうだな!欲を言えば炭が良いけどな」

民兵「炭作る暇なんてねーんだよな…っておい、そこ上手い部分だけ喰ってんじゃねーよ!」

疾「うっせー早いもん勝ちだ」

民兵「あのな」


ザッザッ・・・


鍛冶屋「美味い匂いがすると思ったら、これか」

疾「ん?なんだおっさん、あんたも食いたいのか」モグモグ

民兵「…食いたいなら一切れくらい良いぞ」

鍛冶屋「ああ、お言葉に甘えていただこうか」ヒョイ

疾「お、手掴み熱くねーの?」

鍛冶屋「なに、仕事柄この程度…!」

疾「? 何見てんだよ」


鍛冶屋(…腰に下げているものは…刀か、支給されたものではないな…)

鍛冶屋「いや、さすが焼きたては美味いな」

民兵「だろ」

鍛冶屋「酒もあればこう、感無量死んでも食いなしってとこだがね」

民兵「ははは!用意すりゃ持ってこれるが、こんな時だ、呑みはいけねえ」

鍛冶屋「そうか、そうだな」


疾「もちっと塩気が欲しいな」モグモグ

民兵「まだ言うか」

鍛冶屋(…クレナイの息子が打った刀か?…くそ、面白くない)



600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/03(日) 21:41:42.11 ID:yrMKhIv80
疾(荷物の運搬でも手伝おうかなー…あ、でも連絡係から降りたから今は刀の扱いをちゃんとしないと…)


鍛冶屋「……」コソッ

鍛冶屋(呑気に歩いている…あいつは確か救護だったな?なのに帯刀とは…持ち場の変更があったということか)

鍛冶屋(聞くところによれば、誰かがカギルに非戦闘員の携帯武器を変えてくれと直々に頼んだとか…)


鍛冶屋(その直々の申し込み、確かこいつだったような…)



疾(また人気のない場所でヒバナの練習でもしてるかー)タッタッタ


鍛冶屋(! 動いた…さて、どこへ行く気やら)

鍛冶屋(携帯武器の件も含め、こいつには少し問い詰めておく必要があるな)


鍛冶屋(俺のナタはそりゃあ質は低かっただろうが…お前のような素人にとやかく言われるほどではないはずなんだ)



604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/04(月) 21:34:40.17 ID:nvjYPoOM0
疾「…はっ!」ジャキンッ

ッボォゥ


鍛冶屋(!?)


疾「よし…最初の抜刀から炎は纏えるみたいだな、これを上手く操って…」ブンブンッ、ボウッ

鍛冶屋(な、なんだ!?こんな人気のない所に来て刀の練習でもするのかと思っていたら…!?)

疾「はっ!ほっ!」シャッ

鍛冶屋(なんだあの刀は!?抜いた瞬間から炎…まさか魔道具!魔剣!?こんな町にそんな高価なものが…)

疾「とりゃあっ!…ってうわあち、あちち」ボウッ

鍛冶屋(まさかあれをクレナイの息子が…!ふざけるな、確かめてやる!)


タタタッ


鍛冶屋「おい、飛脚」

疾「っ!?あ、ああさっきのおっさんか…」

鍛冶屋「火柱が上がっているから何事かと来てみれば、なんだそれは」

疾「あ…あ~これ?これは~…刀だけど」

鍛冶屋「刀が火を吹くなら鍛冶屋も大助かりなんだがね」

疾「うっ…あんた鍛冶屋か…」

鍛冶屋「俺に見られたのが運のつきってやつだ、そいつの事を話してもらおう」



606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/05(火) 21:45:34.55 ID:Gxzu97zy0




鍛冶屋「―――これがそのヒバシ石を混ぜた刀、ってわけか…」チャキッ

疾「やらねーからな!売らないし」

鍛冶屋「心配しなくとも、こういうものは自分で作ってなんぼと思っているんでね」


鍛冶屋(艶が無いのはヒバシの影響か…?それともベースにした金属か…まさか俺の知らない金属というわけでもあるまい)


鍛冶屋「これは丈夫か?」

疾「んー、だと思うけど」

鍛冶屋「少し擦ってみるが、いいな?」

疾「えー…」

鍛冶屋「俺は専門家だぞ、悪いようにはしない」

疾「…まあ壊したり傷つけなきゃいいけどさ」

鍛冶屋「すまんな、興味が尽きないもんでね」ヒュッ


ガリリリッ! ボォオオッ


鍛冶屋(熱っ…!しかも、地面のタイルに全く負けなかっただと…!?)

疾「おいおい!?今の“少し”の振りか!?」

鍛冶屋「……ふん、少しさ、ここを見てみろ」ヒュッ


疾「……あれ、今のでも傷ついてねーのか」

鍛冶屋「刃で地面を斬ってみたが、抉れたのは焼きタイル…刃は欠けも潰れさえもしていない」

疾「おお~…」

鍛冶屋「うむ、荒っぽく使って悪かったな、満足したから返そう」スッ

疾「お、もういいのか」

鍛冶屋「ああ、どんなものだかわかればそれでいいのさ」

疾「?」

鍛冶屋「じゃ、練習頑張れよ」

疾「おお!そっちもな!」



鍛冶屋(……さて、火を熾す刀剣か…これを造れば、俺の地位も復活するだろうな…くくく)



611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/06(水) 20:18:12.87 ID:cV3/TAcD0
キィィィ・・・バタン


鍛冶屋「……さて、今日はまだ一般兵の自由行動ができる日だったな」

鍛冶屋「つまり、今日は自分の工房で好きに出来る……というわけだ」


鍛冶屋「くくく…まだまだ半人前なクレナイの息子よ、悪いがお前のアイデアを少し拝借させてもらう」

鍛冶屋「うちの蔵には常に量産体制を整えられるように様々な材料がたっぷり詰み込んである、もちろんヒバシ石だって例外じゃない…ま、こんな形で使うことになるとは思わなかったがね」


鍛冶屋(とくれば早速ヒバシ石を熔かして刀を作ってみるか…確かあれは鉄などの白には熔けない魔石の一種…つまり魔金に溶かさねばならない)

鍛冶屋(…いや、その前にヒバシの純度を上げる必要があるか…?少し骨が折れそうだな、まあいい)


鍛冶屋(蔵からありったけの魔金を取り出して、お前の刀を越える武器を作ってやる…名実ともに、ってやつだ)

鍛冶屋(時間はあるし材料もある…くくく、楽しくなってきた!)



616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/07(木) 20:10:22.49 ID:MFV9/laH0
焔「着替えてきた!」

「お、職人おわったか」

焔「ああ、職人はやめだ、こっちで働いてやるぞ」

「カギルさんからは炎なんちゃらって言われて休みを指示されるだけだがな」

焔「安心しろ、すぐに寝るからな、もう今すぐぶっ倒れそうだ」

「…おう、おやすみな」

焔「はっはっは、あー眠い眠い」トボトボ

(ハイになってんなー…)



パサッ

焔「あーやっと眠れる…石のベッドでも2秒で寝れる……」フラフラ

ボスッ


焔「あ~頑張りすぎた…いやどうなんだろ…役に立ってなきゃ頑張ってもな…」

焔(ナガトとカギルさんにあげて…ハヤテが上手く使ってくれりゃいいんだけどな…)

焔(ていうかいきなり実践投入する武器って…うーん…まぁ頑丈だし大丈夫だろ……)


焔「……ぐかー」



617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/08(金) 22:31:40.58 ID:T8z5JP+/0
~~~~~~~~~~~~~



疾「なぁホムラ、聞いてくれよ」

焔「ん?なんだよいきなり」

疾「いや、これだけはお前には言わなきゃいけねえのかなって」

焔「普段とは驚くくらい水臭いな、何があったんだ」

疾「…実は」

焔「おう」


疾「……俺、女なんだ!」バァーン

焔「ええー!?」

疾「今まで騙してて悪かったー!」

焔「お前男湯入ってただろー!?」

疾「ホムラと入りたかったからー!」バァーン

焔「ええー!?」

疾「ホムラ、好きだー!結婚してくれー!」

焔「ええー!?お前既婚者だろー!?」

疾「いまのとは別れるからー!」

焔「ええー!?」

疾「うおおおおお!ホムラァアァアア!」ガバッ

焔「うわぁあぁぁああ!」



~~~~~~~~~~~~~~



618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/08(金) 22:37:32.25 ID:T8z5JP+/0
むくり


焔「……」

民兵「おう、どうしたホムラ、すごいうなされてたぞ」

焔「…ああ…ちょっと……色々とあってな」

民兵「? 顔色悪いな、どこか調子悪いんならマモリさんのとこにいってこいよ、癒されるぞ」

焔「そうだな…ちょっとの頭の調子を診てもらうか…」フラフラ

民兵「なんだそりゃ」


パサッ



焔「…あれ?俺何の夢見てたんだっけ…なんか、ものすごい夢を見てたような気が…」

焔「んーまぁ、思い出せないなら大したもんじゃないか」


焔「……」

焔(そういえば槍の“ハナビ”はまだ完成してないんだったな…適した棒が見つからなかったんだっけな)

焔(金具の方はなんとかなりそうだが、棒なぁ…ジャベリンみたいにある程度短けりゃいいんだが、そうもいかないし…)


焔「…木材の工房に行って良いものを探してくるか。そのくらいの外出ならツガエさんに報告すれば許してくれるだろーな」



623 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/11(月) 21:26:42.93 ID:to0tyvRh0

相変わらず木くずの香ばしい臭いが立ち込める、木工の工場の前。

普段は割と清潔にされている工場だが、今日は大忙しのようだ。建物の前にも大量の太い丸太が並べられ、男達はそれらを運ぶなりして作業にあたっている。


焔「こんにちはー、ちょっといいですかね」

木工「はいはい……おお、ホムラさんじゃないか、どうもーお疲れ様で」

焔「いやーどうもどうも、お忙しいみたいですんません」

木工「なんでも錐砲っていう巨大な木の…カタパルトっていうのかな。そういうのを作っているらしくて、大忙しなわけですよ」

焔「錐砲?」

木工「詳しくは俺もわからないけど、重りを…えっと、落として…?まぁとにかく、重さとテコだかを利用した投擲機らしくて」

焔「…あー?ここに来るまでにもそれっぽいの見たかもしれない…」


そういえば木製の塔のようなものがいくつも立ち並んでいたが、あれがそうだろうか。

またカギルさんか、それともハープさんのどちらかが考えたんだろう。



木工「今日は錐砲のことで?じゃないか」

焔「あ、はい。私用といえば私用でなんですけど、親方さんいます?」

木工「親方…ああはいはい、ちょっと待ってて…」

焔「すいませんねわざわざ」

木工「なに、ホムラさんが来たとなれば親方は飛んでくるから、ははは」


木工「おやかたー、ホムラさんがお見えですよー」

焔「……」


タッタッタッタッタッ


親方「うおおお!ホムラ!よく来たな!さあさあ中に入れ!いや粉っぽいからな、裏が良いか!?さあ来てくれ、用件を聞こう!」グイグイ

焔「えーちょ、親方そんな急ぎじゃないっすよちょっと」ズルズル

木工「はっはっは」



624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/12(火) 21:18:48.50 ID:qJGvsRRR0
親方「……ん?木材を探してるって?」

焔「槍の柄に使うものなんですけど、良いのありますかね」



客間で小さなテーブルを挟んで、親方と商売談義。親方は大柄なので、真正面から見るととても威圧感がある。

まぁ、それも見た目だけで内は優しい良い人なんだけども。


親方「槍について詳しくはねえが、俺の知ってる限りで言や普通はゴシキだろうな、もしくはカッチュウ…」

焔「ゴシキ…カッチュウ…うーん、そういう軽い木じゃないと思うんだけどなぁ…あれは…」

親方「といってもホムラよー、槍材といやゴシキ!カッチュウ!こりゃ俺の世界でも常ってもんだぜ」


ゴシキ。薄い紅色の花を咲かせる木だ。軽く加工もしやすいので槍の材料としては好まれる。それはカッチュウも同じようなものだ。

しかし今回は、そういった普通な材料ではいけない気がする。


何せ燃える槍を作ろうというのだ。当然、普通の木ではいけない。



親方「……これはどうだ、高いもんだが出せないもんでもない」ゴトッ

焔「…これは…端由(ハユ)ですか」

親方「重いがその分だけ頑丈な材料だぞ、重いから槍向きじゃあないけどな」

焔「端由か…」


目の前に置かれた木片を触ってみる。

黒っぽい色合いの艶やかな表面は、確かに槍用とは違う雰囲気がある。家具などに使うべきものだろう。



親方「そいつが気に入ったならこっちのヤスラギ、エンボウなんかもおススメだ」ゴト、ゴトッ

焔「…うーん…」


重くて頑丈な木材達だが、耐火性の程は期待できなさそうだ。


焔「うーん………炎や熱に強い木材って…ないですよね」

親方「あるぜ」

焔「えっ」



627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/15(金) 22:26:58.78 ID:eEiY1ji/0
ガラン


親方「こいつだ、細いものしかないのは勘弁してくれよ」

焔「…」


まるで槍の柄のために作られたかのような、棒状の長い木材。

淡い褐色のそれはアカガネの原石たる路傍の赤石をイメージさせるが、きめ細かな縦の繊維模様が植物であると物語っている。



親方「この国の最も巨大な火山に生息する爆麗の魔獣の管だ」

焔「! マンダラの道管か!」


マンダラといえば、溶岩地帯に根を張る巨大な植物の魔族だ。

大きな大輪の花の中心から幹の管を通して溶岩の塊を勢いよく射出して身を守る、世界広し魔族多しといえどもなんとも珍奇な生態をもつ植物。


親方「溶岩の温度までならそいつはもつはずだぜ?ホムラさん」

焔「なんていうか、最高の品です、しかしこれ相当高価なものじゃないですか?」

親方「んー?仕入れも難しいからな?何よりここまで真っ直ぐなものとなれば値も張る」

焔「でしょうね、危険な魔族だと聞きます」

親方「といっても、そこまで需要もないんだな、こいつには。あるとしたら都市の施設か…まぁタダみたいなもんさ、これで良いなら使ってやってくれ」

焔「…ありがとうございます、多分俺が求めている中では最も相応しい材料です」


棒を手に取る。

中には細い空洞があったが気にならないほど丈夫そうで、軽くもちやすい。


親方「にしてもホムラさんよぉ、一体そんなもの、何に使うんでえ?」

焔「んー、良いものですかね」

親方「ほほぉ」



628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/15(金) 22:49:59.58 ID:eEiY1ji/0
確かに槍を作ると言っておきながら耐火性とは、よくわからない話だとは思う。

町の人々も、炎が出る槍なんてすぐに信じてくれるだろうか。そりゃまぁ目の前で見てくれれば信じるほかないものだけど、実戦に登用する前に民兵達に刀剣を見せるべきなのかもしれない。


なんて思いもしたけど、今は俺の槍、“ハナビ”を完成させることが急務だ。

細かい事は後で考えよう。一等の素材が手に入った今、もう何をする間も惜しい。今すぐ鉄を打ちたい。



焔「…はー」


粉っぽい匂いの工房を出て深呼吸する。青空。快晴だ。

いつもなら何も考えずに見上げていた綺麗な空なのに、全く環境の変化というのは恐ろしい。空がひどく呑気に見えて恨めしいもんだ。


焔(……バンバン砲撃してくるやつら相手に刀剣打ってる俺の方が呑気かもな、ははは)


さて、俺の呑気はどんなふうに転がってゆくのやら。

町の存亡をかけた戦いの場を試し切りの土壇場にしようとは、我ながら良い鍛冶屋魂をもっているぜ。



630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/16(土) 21:58:40.03 ID:pB7xeaje0
鍛冶屋「……なぜだ」


おびただしい量の汗が滝のように流れ落ちる。

老いてなお辛うじて使える肉体強化を全力をもって駆使してもなお感じる熱風にはまだ耐えられた。

火傷も辞さない石で道具を操った。


細かく丹念に砕きに砕いて選別した純粋なヒバシ石から、ヒバシであろうその発熱成分を取り出して、そこまでは良かった。


鍛冶屋「…くそっ!どうしても魔金が溶ける…!たった十数回の斬りでッ!」


煤で汚れた金属の机を強く叩く。

机上には多くの金属に関する資料が積まれており、そこからも彼の努力は見て取れた。

それでも届かない場所があった。


鍛冶屋「…蔵にある魔金はすべて使った…少量の魔石を混ぜて変質させもした…それでもくそっ…これでもまだ駄目だってのか!?」



ヒバシの塊を床に投げ捨てると、それは赤い火花を散らしながら砕けて散っていった。


鍛冶屋「一体…クレナイのガキはどうやって…何をつかってあそこまでの耐久性を出したというんだ…」



634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/19(火) 21:36:26.71 ID:2o0Egqtp0
魔法金属が詳しくまとめられている本を開いてみたが、そこには各々の魔金の“さわり”部分の知識しか記されておらず、耐熱という点を見るには少々不足したものだった。

結局、鍛冶屋の彼は数限りない量の本の山から、魔金それぞれの本を漁ることにした。


鍛冶屋(諦めてなるものか)


本の量は膨大とはいえ、見るべき個所は限られている。

注目すべきは魔石に溶けるものであることと、融点だ。それも物質と混ざった際の融点が記されているものが好ましい。

情報をピンポイントに絞って、本をまさぐってゆく。


鍛冶屋(ちがう…ちがう、こんな安物では無理だ…これも無理だ、不可能だ)


調べれば調べるほど、自らの目指しているものが実現に程遠いものであると実感させられる。

有名どころや普遍的な魔金のほとんどはヒバシと融和させるのもおこがましい融点であるし、逆に希少な魔金はいくらでも耐えられそうではあるが、それだけに値段が冗談にもなっていない。


頭打ち。だが同時に、彼の頭にはひとつの確信に近い疑念が生まれた。



鍛冶屋(……とんでもない魔金を使ってやがるな?あのガキめ)


目を通した書物のいくつかの魔金が有用であると判明した。

そのどれもこれもが、国宝、至宝として扱われておかしくない物質だ。それらをヒバシと混ぜたとしか考えられないのだ。


鍛冶屋(特殊な魔石を混ぜればある程度アレンジを加えることもできるだろうが、奴にそこまでの技術があるとは思えん…)

鍛冶屋(やつめ、何を使った!?)



635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/21(木) 19:43:26.89 ID:SvvG10VU0
焔(…ついにハナビも完成か)


植物の道管とは思えないほど強靭な木材だったがなんとか形も整え切り詰め、槍の柄にすることができた。

色は地味だが頑丈だししなやかさも併せ持っている、素晴らしい素材だと言える。


焔(でもこれって本当に燃えないんだろうな……)


親方は大丈夫だとはいってくれたが、さてどうなのだろうか。

魔族や魔獣の一部と言えど、時間が経てば特性が薄れる品というものだって存在する。保管していた期間が長ければこれだって使いものにならない可能性は高いだろう。


焔「…試しに動かしてみるか」


棒を握って構える。軽めだ。

食土が割と軽いってのもあるが、この柄も十分軽い。肉体強化がなくても存分に振り回せる重量だろう。



焔「せいっ」ブンッ


とりあえず振り回して折れるということはないみたいで良かった。


焔「はっ」シュッ


うーむ、突きも良い感じだ。幅の広い槍先に仕上げたのが不安だったが、バランス良く仕上げられてはいたようだ。

取扱いに不具合はない。


焔「…で、一番大切な火力は…っと」


火加減と棒の耐火性を見なければどうしようもない。この二つがクリアできなければ普通の槍になってしまう。

まぁこのまま普通の槍として使っても申し分ないシロモノではあると思うけど。

どうせなら熱くなってもらいたいところだ。



焔「…お…りゃぁッ!」ブンッ

カッ


かすめるようにして床を擦る。



640 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/22(金) 23:59:39.99 ID:GNL5z3Pk0
土砂崩れのように山の斜面を滑り降りる。

顔を掠め得る枝葉を全てメイスで叩き降り、勢いを殺さずに。

決して緩やかではない赤混じりの土の斜面を下り、標的を視界に射とめた。



ハープ「まぬけな偵察だ、“ステイボウ”」ヒュ

シドノフ「!」


滑り落ちる少女は、真横で過ぎ去ろうとしていた魔族の頭部めがけて術を放った。

流れる景色の中で敵を見つけ、メイスを正確に構え、狂いなく術を放つその精度たるや、熟練のものであると認めざるを得ない。


決して高等ではない鉄の術一発で、強力な魔族のうちの一体は断末魔をあげることなく土の上に倒れ、ごろごろと斜面を転げていった。



ハープ「目立つんだよ、白は」

『――砂色とどちらが目立つかな――』

ハープ「4,6分で私の方が優秀だね」



ここはバンホーから離れた、海岸に近い山中。

ふたつの山の合間に出来た谷の道よりも少し上に位置する道なき道。魔獣の通り道とも言うべき鬱蒼と木々が生い茂る場所だった。


昼の太陽は輝けど、高い木々の春の枝に阻まれて光は多くは届かない。

魔族の白い体は暗い森では目立っていたのだった。



『――まだ攻めに転じる気はなかっただろうが、斥候だろう。潰しておくに越したことはない――』

ハープ「それだけじゃない、さっきから強い魔力も感じている」

『――うむ、惨劇軍の駒如きに出せる魔力ではないな…近づいているがダマかもしれん、用心だ――』

ハープ「自分から直々に来てくれればありがた…、…!」


微かに頬に当たる風が魔力を運んできた。

魔力は風に流れる事はない。それでも少女は異変を感じ取った。



シュッ

ハープ「ッ!」


咄嗟に踏みこんだ右足を軸に、左足で土を蹴り、右へと飛んだ。

簡単な半身を移動させるだけの、重心移動にも近いフットワークだった。


ハープ(良い狙いだ)


それでも飛んできた鋭利な何かを回避するには十分な動きであった。

鋭利な何かは後方の木の幹の中心に深く突き刺さっている。それが何かなど目を向ける隙は見せられない。


敵がいるのだから。



643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/23(土) 21:51:28.74 ID:2Avo34/+0
『“ジック・マガンブリューメ”!』

ハープ(まずい!)


木々の合間から伸びてくる魔法陣の閃光を前に、メイスを構える。


ハープ「“スティヘイムの盾”!」


あまりに特徴的な詠唱の使用は避けたかったが緊急の事態である。止むを得なかった。

少女の前には高さゆうに3mはあろう鉄の盾が現れ、その後すぐに銅鑼のような衝撃音が響いた。


衝撃と同時に盾は微動だにしなかったが、全面鉄製の盾の中央は裏側まで真っ赤に熱せられている。熱線をもろに受けた跡である。人であれば大惨事になっていたに違いない。


ハープ「“アーキュ”」


敵の奇襲を防いでも油断はしない。第二波に備えるか、反撃に移らなくてはならない。

少女は再びメイスを、今度は自分を守る盾の裏面に構えて詠唱した。


――バシャッ


それは水を生みだす初等魔術。

杖の先からは一瞬にして多量の水が爆ぜるように湧き出て、それは熱せられた盾の裏面に当たると文字通り水蒸気となって爆ぜた。

水煙が少女を、そして盾を覆うようにして辺りに立ちこめる。




『…目くらましか、逃がさんぞ』

ハープ「逃げなどしないさ」

『!』


水の煙幕に気を取られていたその者は、横から突撃してくる少女への対応が遅れてしまった。

相手は逃げると思っていたから。



ハープ「“Chrasscatedcleyduwhelle”――」

攻めに転ずる余裕ができた。詠唱にノイズを混ぜて、露わになった敵に手を向ける。メイスは使わない。

相手は岩でできた簡素なゴーレムだった。

何者かが操っているのだろう、頭部には紋章のようなものが描かれていたが、それを読み解く暇はないし興味だってない。



ハープ「“DierailemmentToruck”!」




646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/24(日) 15:19:46.41 ID:KbGpqcDj0
掌の先に小さな魔法陣が浮かんだ。

魔法陣の光は輝きを増し、先程の熱線のような帯となって放射状に伸びる。


そして一瞬で収束した光の帯の中から、黒光りする無骨な金属の塊が現れ出でた。


『トロッコだと!?』


目の前に展開された魔法陣から飛び出した金属の正体は、その特徴的な頭部からすぐに明らかとなった。

硬質な金属を産出する鉱山内部にのみ生息する巨大な金属の龍。

山を掘り進み鉱物を食らう、悪名高き魔獣、通称トロッコ。


ハープ「一瞬だが十分だろう?」

『…!』


目にも止まらぬ早さで飛びかかる龍。

螺旋状に身体を捻りながら、岩石のゴーレムへと一直線に突進してくる。人ならば粉々、岩ならば粉々、鉄ならば粉々にできる程の破壊力を、この魔獣はもっている。


――ガッ


龍の巨大な口がゴーレムの腹部を捉えた。ゴーレムは咄嗟に身を捩ったが不十分である。


『なるほど、予想以上の使い手だな、惨劇狩りッ…!』


現れた龍はほんの数メートルだけ進んで消滅した。元いた場所へと送還されたのである。

召喚時間の短い強制召喚だが、それでもゴーレムの腹部の半分以上は無残に削れ、大きな丸い穴ができていた。

激しく動けば中心からぽっきりと折れてしまいそうな、もはやそこまでの胴しか残されてはいない。



647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/24(日) 15:22:01.08 ID:KbGpqcDj0
メイスを使うまでもなく、一度でも転ばせることができれば少女の勝ちは見えていた。

ゴーレムは地に膝と手をついている。敵にもそう戦う気力等は残っていない。



ハープ「昔に色々あってね、まぁトロッコはなかなか重宝しているのさ」


表情はらくだ色のフードで隠されていたが、笑っている。


ゴーレムを動かす者にとってはその笑みが不快だった。

一度ならず二度までも打ち負けたのだから。


ハープ「しかしまさか、上位種がゴーレムを操りしかもそれを意志で動かすほどの技術を持っていたとは、驚きだな」

『“ジック・マガンブリューメ”!』

ハープ「くどい!」


岩石の頭部の紋章の眼と思わしき部分が閃光を放つ前に、少女のメイスは風を切っていた。


――ゴ

鈍い音と共に、十分な強化のもと振るわれた鋼鉄のメイスはゴーレムの頭を粉砕した。


『――終わらんぞ、人間』ガララッ

ハープ「ふん」


後に残ったのはゴーレムの抜けがら。動かぬ岩石の塊だけ。

術者はもうここに宿ってはいない。


ハープ(もう既に敵は前線を探り始めている…町の防衛は間に合うだろうか)

『――気になるなら敵の前線を消してやってはどうだ?敵の大将でもよかろう――』

ハープ(…あくまで私も探るだけだ、それ以上のことはしたくない)

『――ふっ――』



649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/25(月) 19:42:34.49 ID:7WXuMn5q0
ハープ「しかし驚いたな、これはまさにゴーレムだ」カラン


岩石の破片の一部を拾い上げる。

表面に付着している石灰化したフジツボを見るに、海岸の適当な岩石を削って作られたゴーレムなのだろう。


先程熱線を放とうとした眼のような紋様が特徴的な破片だった。


『――ゴーレムを通じて借り物の術、“ジック・マガンブリューメ”を詠唱するとは、我としても予想外だ――』

ハープ「術を二重で中継して発動するとはな」


欠片を放り捨てると、無残にも粉々と散っていった。赤めの土の上で、白っぽい岩石はよく目立つ。



『――“クレイドル”は構わんが、“スティヘイムの盾”を見られた――』

ハープ「ますます、奴を生かしてはおけないな?」

『――瞬発的に発動できる防御術を敵に知られるのは不味い、一刻も早く消す必要があるだろう――』

ハープ「ああ……しかしまあ、それも町の民兵が攻める時に便乗してだがね」




653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/26(火) 20:40:42.41 ID:+ox+bIyS0
不安を誘う夕暮れ時。

数日は攻められないとの保証がついていたが、それもそろそろ切れる頃合いだ。

嘘のように平和だった平穏の数日が落陽と共に終わりを告げて、それ以上に嘘のような戦が始まろうとしている。


今日の夜か、それとも明日か。


限「今日だけは勘弁願いたいところですね」

熱い焙じ茶を一口。陽が暮れても忙しい彼は、地に触れそうな茜色の輝きを見守っていた。


珍しい事に彼は今テントにはおらず、外に出て休憩をとっている。用あるものは引っ切り無しに訪れるのでテントを留守にはできないが、その役目もツガエに預けてある。

本当ならもう一人は指揮する人物が欲しかったところだが、なかなか全般を万能に、しかも安心して任せられる者はいないのだった。



限(おっと…来たようだ)


しばらく茶を啜りながら空を眺めていると、約束の時間通りにそれはやってきた。

2頭の馬鳥を前に従えた簡素な荷馬車である。


荷馬車がカギルの近くで止まると、御者が降りて恭しく会釈をした。


御者「バンホーの代表、カギルさまで?」

限「協会の方ですか?」

御者「ええ、もちろんですとも…注文された銃の方をお持ちしました」

限「積荷の運搬はこちらで行いましょう…ああ、検品もこちらで」

御者「それがよろしいですな、最近の悪質なギルドは平気で数をちょろまかす」


男が辺りを忙しなく見回す。


限「町に戦の痕が見えませんか」

御者「! へえ、なんでも既に戦は始まっているのだとか」

限「ここは前線の反対側ですからね…といっても、町はまだ無傷です」

御者「おおー、そりゃあ良かった…うちのギルドも、前線の町には無償で傭兵を出してやれば良いのに、なんだかすまないね」

限「いえいえ」






661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/28(木) 22:32:04.79 ID:kjlTprHF0
御者「ふむ…はい、確かにバンホーの調印いただきました」

限「お疲れ様です、ありがとうございます……確かに千丁、いただきました」

御者「火薬と弾もあるけど気をつけておくんなせ、これ見る限りじゃあきっと、銃の数に見合った弾や火薬はねえですから」

限「お気遣いありがとうございます、それらはこちらで用意するので問題はありません」

御者「用意するって…銃は規格通りの弾でないと」

限「問題はないのです」


限「ここはバンホー、職人の町です。この程度のものであれば、我が町の職人は一日も足らずに作ってしまうことでしょう」

御者「ほおお……」

限「では、お疲れさまでした。引き続き救援物資の方をお願いします」

御者「! へ、へえ」


間の抜けた返事を残して、馬鳥に引かれる荷馬車は町から去っていった。

何もない街道沿いに、馬車は向こう側へと霞んで見えなくなった。



限「次は銃の配布、か」


戦いに向けてやるべきことは、やりきれぬほどに沢山ある。

急いで最善を尽くし続けなければ。



667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/29(金) 22:20:46.36 ID:oB1OP6nE0
各々が各々のするべき事をし終えた夕暮れ。

陽が沈み、向こう側からは藍色が近づいてくる。


赤い火は青い火に飲み込まれることなくこの地に安住できるのだろうか。

それとも青い火に呑まれ、成すすべなく死ぬか。


空を見上げた者たちの漠然とした不安はしとしとと募ってゆく。



「俺たちは町を守っても良い。だが家族だけでも、隣町に逃がしてやりてえよ」


テント内で「せめても」と働く妻の姿を見やる男は呟いた。


「町だって家族だろ?」


同じテントの中で働く女を眺める男が返した。


疾「あー、やっぱ駄目だな、長ズボンじゃ動きづらくて仕方ねーや、変えてもらお」


そんな二人の男らの後ろを横切るようにして、若者は歩いていった。

この町の雰囲気の中で気だるそうに長ズボンのポケットに手を突っ込み、ゆらゆらと揺れながら歩く様はどこか人の心を逆なでするものがあった。

しかし誰も彼に言葉などはかけない。

何せいつものことだったからだ。



疾「ん、そろそろカギルさんから具体的な配置の発表があるんだっけ…本部に戻ってようかな?」

鳶色の長いまつげに乗った小さな埃を払い、踵を90度捻って小走りで進む。

彼の小走りは、大人の全力疾走にも近いスピードがあった。


急いでる風に見える彼の走りを見た、彼と同じ理由で本部に行こうと歩を進めていた者たちは、「急がなくてはならないのか」と勘違いし始め、結局のところ大人数が走って本部へ向かっていったという。

ただし、常に先頭を走っていたハヤテに背後のちょっとした騒ぎは感知されなかった。



682 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/01(月) 21:20:31.83 ID:Ya97MfbN0
藍色が大半を占めた空の下、いつも以上に寒気のする風がテントの群れの中を通り抜けていった。

今夜は寒さ以上に身震いする者は少なくない。


集まるテントの中央で辺りをオレンジに染める大きな焚き火だけが、皆の心の安らぎでもあり、温かな場所でもあった。



限「ハープさんの話では、そろそろ敵が動き始めても可笑しくない頃合いです」


背中に赤い火の光を受けて、カギルは言った。広場に集まった民兵の誰もが、カギルの言葉を一言一句聞き逃がさまいと顔を向けている。

ある者は当人であるハープという名の少女を探すが、辺りには居ない。


限「惨劇軍はいずれも夜に攻めてきた…次もまた、と考えて損はないでしょう。そう、今夜にでもです」


わかりやすい緊張が走った。誰もが薄々と覚悟していた事を、カギルは容赦なく目の前に叩きつけてやったのだ。


限「恐ろしいですね、みなさん。私も恐ろしい」

番「……」

限「しかし皆さん、今ひとたび、町を見回してみてください、どうでしょうか、怖いでしょうか」



誰もが立ち上がって周囲を見た。

巨人のように立ちつくす錐砲。補強された町。

壁、土嚢、弩砲、火薬、銃。


あらゆる武器と弾薬、弓だってある。

ハープと名乗る謎の少女が提示した基本的な町の防衛策をもとに、町の職人らが考えたアイデアがあらゆる場所、あらゆる物に詰まっていた。



限「…私も頭に敵の姿を思い浮かべるのは、とても恐ろしい。しかし町を見渡せば不思議と、そんな恐れも消えてしまうように思えるのです」

疾「ああ!そうだぜ!白いノッペラボー如きに、俺らの町が壊されるもんかよ!」

長「その通りだ、奴らの手にかかって死ぬなど(他の奴は知らないが)、俺はあり得ない」

番「ふふ」



限「私たちは試行錯誤し技を鍛える職人」

限「敵はただ攻めるだけの動物、…みなさん」

限「…私達が負ける理由が、いったいどこにありましょうか」



683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/02(火) 20:31:45.05 ID:OsVHfFAw0


――ウォオオオオオオオ


焔「……おー、なんか盛りあがってるな」


蛍で仄かに照らされた道すがらで鬨は聞こえた。

ちょっと作業に没頭しすぎていたか。もう少し早めに向こうへ到着していればよかったなと、今さらながらに後悔した。



焔「つっても言うだけ遅いか…せめて小走りでも、早めに行こう」


今夜はまた再び、平常通りテントに民兵を集める予定だったのだ。

いつ来るかもわからない敵の来襲に備えるため、前線には常に人を配置される。

ここからは臨戦態勢なのだ。


焔(……いや、しかし敵の大将を討ちとれば話は早いか?)



ハープさんが言っていた希少種の話を思い出す。

知能が高く、人を欺くほどの戦術を展開できる策士。魔族に命令を出し、まとめあげる…。

本当にその希少種が命令を下しているのであれば、そいつを叩けば敵は愚かにも正面突撃しかできない軍勢へと成り下がるのだろうか。


一番最初に会敵し、夜が明け朝まで縺れ込んだ死闘の記憶が呼び覚まされる。

正面から突撃をしてくる惨劇軍達。

コツさえ知ってしまえばどうにでも対処できる相手だ。



焔「うーむ…」


司令塔がいるならば、そいつを叩く事ができれば。

それさえできれば。



「……おまえ…」

焔「ん?」


良い所まで及びついた思考の雲を、道の脇より現れた声がかき消した。



685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/03(水) 21:55:32.35 ID:dVWLGDmS0

鍛冶屋「…クレナイのガキ…」

焔「……」



こいつの顔をよく知っている。

町のためと一致団結する時であるとわかっていても、俺の顔はいらだちで引き攣った。


生きていれば俺の親父もこのくらいの歳だっただろう。

白髪の多い頭だけを見る限りではわからないが、奴の鍛冶への心は野心と金。金欲にまみれている。


俺の家系、紅の鍛冶屋とは何十年も、下手すれば百年以上前から商売で争っている“鎬”(シノギ)の家の鍛冶だ。

苗字は鎬ということは覚えてはいるが、名前は知らない。シノギ家の人。それだけで十分な認識の相手だと、昔から思っている。



焔「…あんただろ、町にナタを献上したのって」

鎬「……」

焔「どうなんだ、そうだろ?」

鎬「…おまえだろ」

焔「はあ?」


じいさんの表情は暗い。というよりも、何か心ここにあらずというような顔だ。

服は煤で汚れ、顔は脂汗で光っている。


鎬「…お前が作ったんだろ…一体どうやってだ」

焔「え?何を…」

鎬「お前は一体何を使ったんだッ…!?」


カラン、カラン


俺の目の前に乱雑に投げ捨てられたのは、一振りの剣。


焔「…!」


地面に捨てられたそれが地面にふれた瞬間、沢山の火花を散らした。

そして、折れた。



686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/04(木) 21:11:45.89 ID:lPrstTae0
茶けた色の剣である。

よく見ればそれは刃らしい刃はなく、剣の形を模しているだけの棒だった。


それが地面に放られた瞬間に折れ、鉄がレンガを擦るにはあまりに大げさなスパークを振りまいたのだ。

醜い刀剣の華美な散り際を見て、俺は瞬時にそいつの正体を悟った。



普段の事であれば俺は久々にというか初めてというか、そのくらいの怒りに身を任せて“猿真似もいい加減にしろよ!シノギ!”とでも叫んでいたかもしれない。


当然だ。こいつが今俺の足下に投げた剣は、つい最近俺が考案したばかりの火炎剣そのものなのだ。

どこで見聞きして知ったのかはわからない。大方、ナガトやハヤテが素振りしている姿でも見たのかもしれない。


こんな時勢だ、アイデアを流用するのは構わない。町のためなら良いだろうと俺は思う。

だが俺は知っている。民兵の非戦闘員に携帯用の短刀を渡したのがこのシノギ家のじいさんであることを。

あんな手抜きで、ゴミのような品をくれる程度であるのに胸を張って“献上した”とのたまうのは、シノギ家のこのじいさんしかいないのだから。


そんな奴が“町のために”と、善意で俺の考え出した剣を盗作するか。

否。こいつは間違いなく“この町で名を広めるために”その一点だけで、俺の考えた剣を盗作するのだ。

俺は怒りに身を任せたかった。



だが、できない。


地面に転がった、見るも無残な折れた棒剣。

俺はその剣を見ては“鍛冶屋の風上にもおけない奴だ”とは罵れなかった。

俺は知っているのだ。ヒバシを混ぜた金属を、ここまで剣に近い形に仕上げるのは難しい事を。

何よりもそれ以前に、この形にたどり着くまでに想像を絶する熱に耐えねばならないということを。



鎬「…うちにある何を使っても失敗だ、思わず昔を思い出したもんだがな」


それはこのじいさんの、額の汗と、腕に残るいくつもの小さな火傷痕達も物語っている。

本気で、この剣と…ヒバシ石と戦った痕なのだ。


鎬「それなりに値の張る魔金も使ってはみたがそれすら容易に熔かされたとも……三月分の売り上げはトんだかね」

焔「……」

鎬「俺は鍛冶だが商売人でもある…奇稲で櫛を作るのは損ってのは明白だと解るとも」


シノギのじいさんのただでさえ鋭い細目が、俺を強く睨む。

だがその目の震えは同時に、俺に対して恐怖を感じているような弱々しさも湛えていた。



鎬「一体何を使えば、あの剣のように仕上がるというんだ…!」


一人の鍛冶屋の顔が、かつて俺が何度も味わったであろう挫折の壁を前にして強張っている。

おそらく長らく味わっていなかったであろう苦悩、苦節。難題に屈し欠けている、そんな顔だった。


そこには普段のシノギのずる賢さなど微塵もない。



688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/05(金) 20:33:38.42 ID:7N/O1iIP0
焔「…」


俺は黙って足元の錆びれた剣を拾い上げた。

ヒバシの錬られた、おそらくアカガネと少量の与銀の混合であろう茶けた刀身。


耐久性はどうあれ扱いやすいアカガネと、魔金に強度と鈍い暗みを与える与銀との相性は良い。

しかしヒバシを混ぜるということが何よりのネックなのだ。常温の刀剣であればそれでも問題はなかったが、ヒバシだけは話が変わる。


内部からの急激な温度上昇と火炎。それだけでも十分な劣化をもたらすが、何より温度の高さだ。

魔金の融点を上回る高温が発生し得る。それがヒバシ合金の特製だ。


この強くもあるが厄介すぎる特性をいかにして打破するのか。

当然、魔金の合金を使って…そう技術面で工夫することで解決する方法も、おそらくあるだろう。

だがそんな解決策は俺には浮かばないし、数多ある種類の魔金の中からベストな組み合わせと比率をはじき出すなど、考える事も憚られる。



焔「…シノギのじいさん、俺の作った物を見たんだな?」

鎬「ああ、一体あれは何でできているんだ…?あの鈍すぎる光沢…いや、光沢が全く無いと言っても良い…あれは何だ…」

焔「…知りたいか」

鎬「教えてくれ、俺の知らない魔金なのか?配合なのか!?」

焔「……」


まず謝らせようかとも思ったが、必死に乞うてくる相手にそんなことを促す気にはなれなかった。

だから俺は背中に斜めに担いだ長槍を静かに引き抜き、それを無言で差し出す。

まっすぐに伸びた簡素な柄、分厚く幅の広い槍先。


光沢の無い槍を見てシノギのじいさんの眼の色は変わった。


鎬「これだっ!…そうか、槍まで作ったというのか…あの刀の一振りは偶然の産物ではない、つまりお前は工法を知っているということだな…!」

焔「工法、ね…そんな大したもんじゃない」

鎬「なに?では素材か?何と何をかけ合わせた?」

焔「いいや、魔金は単一…そいつとヒバシだけで打った」

鎬「なんと…!配合せずに作ったというのか!?これを…!」

焔「作りたいのか?あんたも」

鎬「……」


シノギの表情がこわばる。


鎬「…勝手に模造品を作ってすまないと思っている…工法を知っても製造はしない、それは誓う…だから頼む、教えてくれ」

焔「……」


真摯な態度だ。だがそれだけに、告げる俺の口は重い。

どう間違っても模倣し製造なんかはできない。絶対に越えられない壁の存在を彼に告げなければならないのだ。



689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) 2011/08/06(土) 00:41:16.58 ID:03aIctPJo
よし!今だ!そいつを持ち逃げすれば一生豊かに暮らせるぞ!



690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/06(土) 11:52:18.41 ID:IZmvWYHAO
焔「…これさえあれば…もっと良い町で…もっと良い工場でやり直せる…」

限「……!?」



691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/08(月) 00:54:11.77 ID:wkeKHg/y0
鎬「っ……ばかな」

焔「!」


苦しげな声と共にうずくまったものだから、発作か何かを引き起こしてしまったのかと思ってしまう。

片膝をつき、片手をつき、シノギのじいさんは文字通りに打ちひしがれてしまった。


鎬「ありえん、食土など…まさに伝説の鉱物だ」

焔「話すのなら歩いて話そう、町のみんなは既に集まっている」

鎬「……ああ」


ゆらゆらと起きあがり、既に先行く俺の後をつけて歩き始めた。

生臭い夕の空気だ。



鎬「…個人のものだ、なにも言わん」

焔「……」

鎬「使い方はお前が決めることだからな」



多くを語らないその言葉の真意を、俺はしっかりと解っているつもりだ。

俺のものの使い方は俺が決める。俺次第だ。


だがこれほどまでに巨大な、大いなる力のあるものを手にして、それすらも所有物であると言えるのか。そういうことだろう。


シノギのじいさんは、それでも俺のものだということで深くは言わなかったに違いない。

それに自身のやった事の手前、人を咎めることもできないだろう。それでも言葉は端に出た。



焔(……打った俺としては、間違っていなかったと信じたいんだけどな)



694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/08(月) 19:29:48.85 ID:wkeKHg/y0
焔(遅れたのは悪いと思ってるけど、こっそりとみんなの中に混じっちまおう)


姿勢低くしながら民兵の集まる輪の中へと入り込む。

熱気で沸いている皆の中に紛れるのはたやすいことだった。



限「おっと、ホムラさん、良い所に」

焔「! お、遅れてすいません!」


さすがカギルさんだ。隠れながら入って来た俺を見逃してくれない。


「なんだなんだ、遅刻かホムラー?」

「はっはっは!なんだ寝てたか!?だらしねえな!」

焔「すいませんした、いやほんとすいません」


年下も年上もいる男達へ頭を下げる。

どっちを向いても人なので色々な方向にお辞儀をする。男らを取り巻く女衆から見れば、随分と情けない男に映っているんだろうな。

情けないのはいつも通りの事実だから気にしないけどさ。



焔「カギルさん、それで良い所というのは?」

限「今から話しましょう、ハヤテさんやナガトさんにも話はしたので、あとはホムラさんだけですね」

焔「…?」

限「ではみなさん!これからの時間を受け持つ方々はそれぞれの配置へとついてください!」

番「打ち上げられる信号花火の色について覚えられないという方はこちらにメモの用意あります!何枚でもどうぞ、お受け取りください!」

「あいよー」

焔「わ、すげえ準備いい」


テントの内に来てみれば、そこはもう既に立派な前線基地だ。

戦への本格的な備えが始まったことを再確認できる、ピリピリとした緊張感で満ちている。



集合していた民兵達はそれぞれ持ち場へ向かうなりして、広場から姿を消してゆく。



疾「よー、ホムラ」

長「おう」


去りゆく群衆の中で、焚き火の光に顔を赤く照らされた二人が残った。

褐色のジャベリンに、褐色の刀。


限「ではこちらはこちらで話をしましょう」


そして褐色の剣。


焔(話か、なんだろな)


褐色の槍。



697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/09(火) 22:03:40.73 ID:DKXWer760
限「私たちの町はこのたびの補強を経て、ちょっとした要塞と化しました」

長「ああ、立派な要塞だ」

疾「すっげー変わり様だよなぁ、どこもかしこも物見台、いや、矢倉ってのか?」

焔「…でも、要塞じゃ敵を殲滅することはできない」

限「その通りです」


焚き火に向き合い、裾の長い裁判長の衣を俺らに向ける。

作りは質素ながら、質素白と赤の鮮やかな染色の衣。材質は極々上質で、丈夫だと繊維工房のおっちゃんから聞いたことがある。


限「…私たちバンホーの民の最大の目的は、町を守る事です」

長「ああ、その通り。誰一人として死んで構わない奴等居ないんだ」

疾「もちろんだとも、家族は絶対に守らなくちゃいけねえ」

焔「受け継いだ技術だってそうだ、バンホーには技と…長年培ってきた知識、それがあらゆる道具に込められている」

限「その意味ではバンホーを要塞として敵の砲撃や侵入から町を守るのは当然の事です、ハープさんもこれは必須だとおっしゃっていますし、誰もがこれを疑うはずもありません」


再び裾が翻り、威厳ある裁定者の能面が俺ら三人を見た。


限「しかし、ただ守るだけでは消耗の果てに消え去ることは明らかです」

焔(…!)


決意ある顔。裁判官が尤もで明瞭な刑を言い渡す時のそれとは違った、深すぎる葛藤を潜りぬけた時の人間の顔である。


限「民兵の中から少数の…有能な方々を選出し、敵勢力を束ねる司令塔、惨劇軍の知将であるという敵………危難のダマを討伐します」

疾「ダマってなんだっけ」



702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/10(水) 22:18:12.56 ID:cCAWSBzb0
限「……えー」

長「危難のダマ?すまないが俺も失念していたようだ、教えてくれないか」

焔「あ!カギルさんあれだ、朝の会議の時に出た事だから…」

限「! 失礼しました、みなさんには話し損ねていましたね」


俺の中では町のみんなが希少種のダマについて知っている認識だったが、そうだった、こいつの存在は伏せられていたんだった。


限「…民兵の方々には伏せていますが、危難のダマという種類の惨劇軍が一体、敵の軍勢にはいるらしいのです」

長「そいつが知将、と?」

焔「ああ、ハープさんが言ってたんだ」

疾「またハープさんハープさんか」

限「確かな情報に違いありません」

疾「か、カギルさんがそー言うなら」

焔(おお、カギルさんが断言した)


限「ホムラさんがくださったこの炎の武器達…もさることながら、私の眼にはみなさんがそれらを最もうまく扱える達人であると映っています」

長「…そういってもらるのは嬉しいんだがカギルさんよ?達人どころか素人と呼ぶにもおこがましい奴がいるとは思うんだが」

疾「なっ!?シロートはねえだろ?数時間は練習した!」

焔「数時間か……」

限「ハヤテさんは刀でしたね。実際に刀の取り回しが解らなくとも、あなたの身体能力はその穴を塞ぎ切るに値するものだと私は思っています」

疾「……」

限「炎が出る剣、それだけでもう普通の武器とは扱い方が異なるのです、変に癖が無い分、逆に向いているとも考えられます」

疾「…ホムラ!俺今褒められてる!?」

焔「…」


限「ナガトさんは言わずもがな、ホムラさんだって…その獲物、扱いは非常に上手いものであると私は確信していますよ」

焔「わかりますか」

限「私の舞いから技量をはかれる程です、疑いようもない域にはあるかと」

焔「ははは、参りました」



704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/12(金) 23:03:53.45 ID:i8WOuTB/0
長「しかしカギルさんよ、そういうことなら俺は大賛成だ。アグレッシブに敵へ攻め込むのは望むところだ。しかしカギルさん自身が行くのは危険だ」

限「そうですね」

長「俺ならまだいい、捨て石として扱われるのが本望だ…カギルさんはそうじゃないだろう」

焔「……」

疾「……」

長「お前らも何か言え、カギルさんはまずいだろう、他の奴らも黙っちゃいないぞ」


長「仮にカギルさんが征伐に出たきり死んでみろ、誰がこの町を束ねるというんだ、そこらの偉ぶった老人共には任せられないぞ」

限「ツガエさんがいます、もちろん彼女だけでは不足なので他に補佐する方が必要ですが」

長「あの人は!…だめだ、町の奴らが…」

限「何がですか」

長「……」

焔(ああ、ツガエさんか…)


長「…彼女が有能なのはある程度は解ってるつもりだ、適任ではあるだろうがそれでもあまりに役目が重い」


長「それに俺が言えたことではないが、あの人は若すぎる。人がついてこないだろう」

限「若いのはある程度は私も同じです…人がついてこない理由は他にあります」

長「それは」

限「町長の娘。…それだけの事だというのに、町の方々は彼女を責める」

長「……」

限「事実町長は一人逃げました、あまりに身勝手。彼が逃げたと発覚した時には、町は混乱に陥りました、酷いものです」


限「…しかしツガエさんは逃げなかった。一人残った。これから“町長の娘”と責められると知りながら…」

長「……」

限「健気。…そして、相応しくある」



705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/15(月) 00:01:19.77 ID:L95VGlCu0
焔「もしもの時はツガエさんに一任するってことですか」

限「もしもの時は、です」

長「…彼女がやってくれるんだな」

限「信じています」



長「……では後の事は心配無しとしておくとして?果たして俺らだけでその司令塔を潰す事ができるのか」

限「勝算がなくてはライブラリは引けません、しかし演習は必要です」

疾「エンシュウ?」

焔「演習って…」

限「まだ皆さん、ホムラさんから受け取った武器については扱い方もよく掴めてはいないでしょう、まだ慣れる必要がありますし、様々な場面を想定しておかなくては」

長「…ホムラの打った武器をえらく信用しているな。俺も多少振り回してみて脅威はわかったが、それほどまでにかい?」

限「可能性がある限りは、希望を持てると言えます」

焔「……」

限「というのも、私もこの双剣を扱ってみて得た自信からです。皆さんが演習にて実感していただけないのであれば、無理にとはいいません」


限「しかし我々はいつか攻めに転じる必要がある。篭り守るだけでは勝てないのは事実なのです…そこをご理解ください」



713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/16(火) 00:37:50.51 ID:NPC7ZIxt0

――これから行われる会議で代表者の方々に話は通しておきます

――先に外れの旧採石場で待っていてください



焔(旧採石場か…俺がガキの頃からあるよなぁここ…)


灯りも少ない荒れた岩場で、俺とハヤテとナガトは待機を命じられた。

カギルさんは調整があるので後から来るそうだ。俺らはちょっとした書類を書いただけだったのだが、あれで大丈夫なのだろうか。

面倒な仕事は全てカギルさんが肩代わりしているような気がする。



疾「…戦う役目が欲しいとは思ってたが…」

焔「ん?」

疾「まさかこんな大役で回って来るとはなぁ」


木の額当てを掻く。大役といえば俺だってそうだ。最初はただの民兵だったが、期待の上に期待が乗っかって、いつのまにかここにまで担がれた。


全ては。



焔「ハープさんだよなぁ」

疾「あん?」

焔「ハープさんが何者かって話。あの人に全て動かされて、ここまで上手くいってる…当然カギルさんやみんなの頑張りもある」

長「……」

焔「けど、あの人がいなかったら俺は初日で死んでたよ、間違いなく」

疾「おっと!その前に俺がいなくちゃあホムラは死んでたぜ?感謝するにはまず俺を通してからだ!」

焔「…あー」

長「経由する意味がわからん」


そういえば一度助けられてた。なんだかんだでハヤテは命の恩人だったな。



長「ふん、俺も奴…ハープがただの子供とは思わない。これまでの短い人生、奴がどれほど密度の濃い修羅場を潜りぬけてきたのか、想像もできん」

疾「とんでもねえ人生さ、ガキが戦なんざよ」

長「生まれて物ごころついた頃より傭兵や…血なまぐさい環境で育ったのだろうよ」

焔「…それは、子供が歩む人生じゃないな」

疾「そう、子供は遊んで、何も考えなくて良い!ただ遊べばいい、そういう生き物だぜ」

焔「ああ」


そう、子供は遊ぶもの。戦だ争いだ、考えなくて良い。好きな事をして、平和に暮らすべきだ。

…だがハープさんは子供なのだろうか。


薄暗い思考を巡らしているうちに、カギルさんはやってきた。法衣のままで。



716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/17(水) 22:34:08.11 ID:BE7fw1m10
森の闇から一人の生還者が姿を現した。

片手にショートメイスを握り、ラクダ色のケープに身を包んだ怪しい者。


拓けた山道は通らず、あえて人眼につかない獣道を通る。

灯りは一切付けず、木の影から木の影へと飛び移るような素早さで町へ戻ろうとしていた。


彼女なりの、他人へ気を遣わせない配慮である。


『――4体、まずまずな戦績だな――』

ハープ「…ふう…ゴーレムも数に入れろ、センジュ」

『では5体だ、褒めてやろう』

ハープ「そういう言い方、好きじゃないね」

『何が不満だというのだ、素直に受け取るがいい』



林の中を更に迂回、斜面に近い道を強引にゆく。

右へ回り込むと採石場にかち当り、警備の人目につくかもしれない。なので、彼女は左を選んだ。


それでも警備が全くいないわけではなく、増設された簡易な物見台は二、三ほど高くそびえ、そこから民兵がこちら側を窺っているのだ。

それらも全てかいくぐり、町へとたどり着かなくてはならない。見つかれば民兵は不審な影を敵だと認識し、すぐさま鐘を鳴らすだろう。

となると面倒なことになってしまう。町のためにも、それだけは避けなければならない。



『だから大手を振って正面から帰還しろと助言したのだ』

ハープ「うるさい」



彼女の面子のためにも、意地を通して踏破しなくてはならない道なのだった。



720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/18(木) 22:15:58.69 ID:AgMKGqDV0

番(カギルさん、私に指揮のほとんどを任せるって言っていたけれど…一体どうしたんだろ…)

番(みんなをまとめ上げるなんてそんなこと、私にできるのかな…でもカギルさんが私に頼むってことは、私を信頼して…)

番(わ、私カギルさんに認めてもらえたってことなのかな!?)


ガサガサッ


番「ひっ!?な、何!?茂み!?魔族!?」

「あー、なんでもない、私」


ガサッ・・・


ハープ「ふー、ただいま戻った」

番「…ハープさん、なんでそんな茂みから…?」

ハープ「ちょっと、山菜摘みにね」

番(変な子だ…)


ハープ「カギル裁判長は?というよりも、今の町の状況は?」

番「あ、はい、カギルさんは私に指揮を任せてどこかへ出かけてます…町は先程から警備の強化を再開しました」

ハープ「ふむ、そっか」

番(服に汚れが付いてる…洗ってあげたいなぁ…)

ハープ「ホムラやナガトの場所は知ってる?彼らの持ち場を知っておきたい、念のためにね」

番「…あ、二人とハヤテさんはなにやら、別の所に配属になったらしいです、さっきカギルさんが言ってました」

ハープ「別のところ?補給や連絡ではないでしょ」

番「斥候、だったかな…私もさきほど聞いたばかりなので詳しくはわからないです、ごめんなさい」

ハープ「…斥候ね、わかった、ありがとう」


顔を渋らせる。不完全な情報ほど持て余すものはない。

戦いを急いで火傷しなければ良いのだが。



721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/19(金) 22:09:59.02 ID:MCKeh+dO0
ハープ「とりあえず統括のテントに入らせてもらおう、いい?」

番「あ、どうぞどうぞ!お茶出しますよ」

ハープ「緑茶はちょっと」

番「ではスーチオンなどは?」

ハープ「砂糖は…」

番「もちろんありますよ!」

ハープ「ん、ありがとう、ツガエ」


背の高いツガエが先に歩き、客人のハープのために布を上げる。

少女は不遜にも頭を軽く傾げることもなくそのままテント内へ入ったが、ツガエはその姿をほほえましく見守っているので、特に摩擦は起こらない。

接点が少ないながらも、二人の相性は悪くないのだろう。



番「ささ、どうぞ座って下さい、まだまともにお礼もしてなかったですから」

ハープ「あー…服が汚れてる、これはさすがに」

番「ううん、構いませんよ、ここも一応戦場なんですからね」

ハープ「それなら」


木椅子を軋ませて腰を降ろす。



722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/22(月) 22:19:08.56 ID:14PoHhnA0
ハープ「ああ、やっぱり甘い紅茶が一番だ」


久しくしていなかった安らぎの吐息。一仕事終えた後の一服はやはり良い。

おばさんみたいだなーとか思いながらその仕草を見ていたツガエも、とりあえず急須に余った紅茶を自分の分の茶碗に注いで砂糖石をひとかけらだけ入れた。


匙で掻きまわす間に訊ねる。


番「山菜は取れましたか?籠はないみたいですけど…」


少女の姿を見ても籠や大きな入れ物は見えない。腰に付けた小さなポーチに入っているようにも思えない。


ハープ「…ちょっと早めの、ならず者な野草が茂っていたもんだから、詰み取っていたのさ」

番「…!」


ここでようやくツガエも、小さなこの傭兵の少女が山中で何をしていたのかを察知する。

服の汚れが心なしか生々しく見え、奥のテントの支柱に立てかけたメイスの汚れにも目が移る。


ハープ「カギルも斥候を出すと言っていたね?相手は既に、…といってもまだまだ自陣の少し先といったところだが、斥候を投入してきているみたい」

番「そ、そんな…それじゃあカギルさん達が危ないんじゃ」

ハープ「敵の斥候は私が摘んだから大丈夫。というか、カギルらもそう簡単には戦場へ踏み入らないと思うよ」

番「…私はどうすればいんでしょう、敵がもう動き出しているって、皆さんに伝えればいいのでしょうか…」

ハープ「だね、本格的に攻め入るまでにはもうちょっと掛かるとは思うけど、辺境の警備の担当には注意を喚起しておくべきかな」


番「…」

ハープ「カギルがいないと心配か?」

番「は、はい…だって、カギルさんが全て考えて、動いて…私はその補佐でしたから…やっぱり難しいです」

ハープ「あの男はすごいよね、迷いなく判断して皆に指示を出せる、軍属経験があるんじゃないかって程だよ」

番「ハープさんは軍に…?」

ハープ「……」

番「…ってあはは、そんなわけないですよね、私何訊いてるんだろ」



727 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/24(水) 00:14:00.09 ID:rrgaJHx80

ハープ「……んん、美味しい」

番「……」


静かに啜る音が話の間を埋めて、そんな間にも話題は切り換えられる。


ハープ「人を動かすのって難しいね」

番「…そうですね、最近はひしひしと感じます」


紅茶の底に視線が落ちる。


番「カギルさんはもう、才能としか言いようがないのかもしれません。でもホムラさんや、ハープさんは実力や功績でみんなをまとめたり…発言したりできる」

ハープ「……」

番「でも私には、才能も実力も、…功績も何もないから、あ、言い訳がましいですねこれは、ごめんなさい」

ハープ「……」

番「…カギルさんのために、もっと役に立ちたいのにな…」ズズ

ハープ「ツガエだって頑張っているさ、そう目立ちはしていないから町の者も気付きにくいだろうが…」

番「それに…」

ハープ「もともと何かしらの先入観もあるのやもしれん、それが何かまでは知らないけど」

番「……」


ハープ「大丈夫。奴隷じゃないんだ、人の役に立つことは認められる」

番「…そうでしょうか」

ハープ「ああ、いつか必ず報われるよ、後の歴史にだって大きく名を残すかもしれない」

番「だといいんですけど…あはは、でも名を残すなんて」

ハープ「ふふ」


二人ともまた紅茶を口にする。

それなりに香り高く、程良く温かい。口の中に入れたまま香りを楽しみ、しばらくリラックスできそうな飲み心地だ。




ハープ「カギルとは歳の差は二十か」

番「ぶッ…ちょ、ちょっとハープさん!そういうわけじゃっ」

ハープ「ふー、甘い」ズズズ



730 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/25(木) 20:12:17.23 ID:B20LlM2A0
惨劇軍の希少種、危難のダマは、無いはらわたが煮えくり返っていた。

斥候に出した自身のゴーレムが、またしてもどこからか現れた“惨劇狩り”によって破壊されたのだ。


主、魔族王から借りた邪眼の術“ジック・マガンブリューメ”をゴーレムの頭部に式として備えさせたにも関わらず、――それを二度も使用したのにも関わらず。

惨劇狩りと通称されるあの人間は、数十秒の間にゴーレムをいなしてしまったのである。


二度も負けるなどあってはならない。しかも、主の尊き術を使った上でともなれば、なおさら。



ダマ「次は殺す」


海岸の洞窟内。粗雑に削れ上がった空洞の壁面に向かい、静かに企てる。

狭き闇での思案は冴える。岩壁の模様が山地の地図にも見えてくるのだ。



ダマ「奴が唱えた術、まず属性の術だ、鉄と水は見た、そして文法が属性術とも似ていたが“スティヘイムノタテ”、あれは独自のものに違いない」


何よりあんな術は知らない。魔族王から受け継いだ一部の知識にも無い。何者が編み出したかは知らないが、独自のローカルなものであろう。


ダマ「詠唱にエニグマをかけていた…カスケードホイールとでも呼ぶか、あの術を起点に奴は鉱龍トロッコを召喚し、ゴーレムに致命傷を与えた」


対象の意志を無視して強制召喚したとはいえ、トロッコのような魔獣を召喚できるほどの精神力を内包しているのは脅威に他ならない。

凶暴極まりない魔獣と契約を交わせたものだと感心するが、脅威の大きさを前にして拍手などはできない。対処法を考えなくては。


トロッコを強制召喚し、それでも有り余る魔力。よほどの精神力ではない。消耗戦だけはしてはならないだろう。

魔術を特に用いない接近戦でも相手は強かった。肉体強化の性能にも目を見張るものがあるが、体捌き。熟練した戦人のような動き。狂戦士ぶりの思い切りの良さ。魔術戦以上に勝てる気がしない。



ダマ「諦めも折れもしねぇ、踏み込めても斥候しか潰せねえってんなら、いくらでも送り続けてやろうじゃねえか…斥候を」


勝利を急ぐことはない。着実に勝つ。小出しに派兵し続け、相手を消耗させるのだ。

まずはそこから始まる。本調子を奪うことから全てが動き始める。



731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/27(土) 01:01:10.18 ID:Wxocffhz0

ダマ「いくらでも潰しに来るがいい、惨劇狩り!だが所詮は単なるヒトの身だ!広大な山岳を止まらず全力で踏破はできねえだろ!?」


赤びた両腕を広げる。指と一体化した同色の鋭い爪にも血管が浮かび上がる。

血液らしきものの脈動は、血管らしきものを通じて身体中を駆け巡り体温を跳ね上げた。今のダマの肉体温度は、常人が触れれば火傷しかねないものだろう。


ある程度の熱に対する耐性。惨劇軍の希少種が他の魔族と一線を画すひとつの証であると言っても良い。


ダマ(奴が全力きってノンストップでダッシュしようが間にあわねえ、そんな広範囲に斥候を構えてやる)


腕と腕の繋ぐ薄い羽衣にも脈動は伝わる。長い布のような組織は脈動を受けて姿を変える。指で押さえているわけでもないのに折れ目が形成され、曲がり、合わさり、形成される。


背中当たりで合わさった羽衣は細長い蝙蝠の翼へと姿を変えていた。

はためく翼は薄さに見合わぬ強靭さで、空気の壁をなんともせず羽ばたきを繰り返し、しばらくしてダマの身体は浮かんだ。


ダマ「キーッキッキッキ!我慢比べといこうか人間!果たして多方向から襲ってくる我が兵を止められるかな!?」



空に浮くに最も最適な撓りでその場に滞空した後に、一気に羽ばたいて洞窟を抜けだす。

冷たい海風が全身を掠める。塩気のある空気はさほど好きではないが仕方ない。


人間の土地を陥落させるまでしばらくの我慢。


ダマは岩壁に沿って駆け昇り、崖の淵へと降り立った。




ダマ「………出撃、命令通りに動け、死んだら止まって良い」



高音の号令と共に、ついに敵軍は陣形の端を切り離した。



734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/29(月) 20:42:47.17 ID:6bhlrIvR0
民兵「なあ、カギルさんの腰にあった剣、見たか?」

「ああ見たよ、あの人が武器差してんの初めて見たよ」

民兵「様になってるよなぁ、双剣っていうのかなあれ」

「そういや、他にも変な剣持ってる奴は見かけたな」

民兵「ハヤテだろ?」

「そうそう、そいつだ。飛脚如きが何、刃物持って浮かれてるんだってな、ははは」

民兵「自慢して回ってたよアイツ、でもまあそれだけなら何でもないんだけど」

「ん?」

民兵「その刀、錆びてやんの」

「マジで?鞘に入ってたから気付かんかった」

民兵「こんな時期に誰が売りつけたものか知らないが、浮かれて買う方も買う方だよな」

「あっはっは、言えるな、でも強くは言ってやるなよ、本人は満足してるんだろ?」

民兵「まあな」

「所詮は飛脚だ、気にしなくてもいいさ」



744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/04(日) 22:10:59.12 ID:WK/wt5Tx0
「あれ?あの人影って…魔族じゃないよなぁ」


物見台の男は目を見張ったが、それが無害なものであるとはすぐに判断できた。

4人の人影。その中の一人は町の中でもただでさえ目立つ服だったからだ。



「あ、こっちに手を振ってる…カギルさん、あんなところで何をしてたんだ」


色々不可解なところもあったが、見張りの男はこちらへ向かう人影に手を挙げて応えた。






限「こちらに応答してくれました、これで弓や銃で誤射されることはないです」

疾「あー疲れた…さっさと戻って風呂だ、風呂!」

長「気を抜くな、もういつ戦いが始まっても…」

焔「まぁまぁ、俺らはとりあえず行動時間一緒なんだから、休む時は休んでおこうぜ、俺も疲れたしな」


カギルさんを先頭にして町へと戻る。

当然周り道などはせず、正面からの帰還だ。

テントに戻ったら仮眠でも休憩でもいい、とにかく運動で疲労した身体を休めておかなければならない。



焔(今夜のこれが役立てば…いや、役にたたないはずはない)

焔(そのためには万全なコンディションを常に維持しておかなきゃだめだな)




747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/05(月) 23:22:26.96 ID:kCvpyrPN0
昼の番担当と夜の番担当はだいたい割合でいえば六対四ほどで分けられている。

そりゃあ当然夜の方が危険は高いが、かといって半数以上にあまりに不規則な生活を強いることはできない。


昼に活動している方が町の手伝いもしやすいという事で、その折り合いをつけて六対四という割合になったわけだ。



焔「いてて、擦り傷に染みるな」


そういった分担のおかげで俺らは今こうして入浴できるというものなのだ。

夜の担当には本当に感謝だ。暗い中で精神を尖らせて監視するなんて真似、気の長くない俺にできることとは思えない。


長「お前、そんな顔してるが槍の技術は本物なんだな」

焔「そんな顔って、ハヤテじゃあるまいし」

本人に失礼だけど。

長「ハヤテもそうだけどお前もだ、使えるとは聞いていたがまさかあそこまでのものとはな」



752 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/06(火) 22:05:46.44 ID:5SWnLF7F0
焔「ナガトのジャベリンの正確さだって驚いたぞ、本当に性格無比なんだな」

長「鍛練は欠かしていないからな、俺ならばあれくらいは当然だ」

焔「謙虚なのかそれ」

長「ただの事実だ」

焔「どっちとも取れるあたりがオイシイな」

長「何が美味いというんだ」


湯で顔を濯ぐ。

そろそろ髭もうっとおしいくらいには伸びてきたが、どうしたものだろうか。

切るのは半端だし剃るのも面倒だなぁ。しかしさっきすれ違った婦人がたから“薄汚い”とか聞こえてきた気もする。

人に不快感を与えるものならすぐにでも剃るんだが…。


疾「はぁぁぁあ、いいねぇ、風呂」ジャポ

長(こいつ、また髪括ってやがる)

焔「ハヤテ、俺の髭についてどう思う?」

疾「は?いきなりなんだそれ」

焔「伸びてきたし」

疾「最初から伸びてただろ?どうもこうも思わないけど」

長「何故いきなりヒゲの話が始まる」

焔「いやー、この髭、汚らしく見えてないかなって」

長「そう思うなら剃ればいいだろう」

疾「…まーある意味男らしいし、そのままでも俺はいいとは思うけどな…」



753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/06(火) 23:18:07.48 ID:5SWnLF7F0
焔「ふーむ」


首元まで浸かり考えてみる。

そういえば見知りではない民兵の男達から“髭の人”って呼ばれてたっけ。

俺の印象って髭なんじゃなかろうか?だとしたら剃るのは不味いのだろうか。


でもそれってつまり不潔な顔した奴が俺、という認識が広まっているという…?


焔「うわぁ、なんかやだなぁ」

疾「?」


早々に顔のことについては考えることをやめた。

見た目なんて気にしたって仕方ない。町のことや戦のことを考えよう。


…カギルさんが招集した俺ら3人。

この3人ならばそれぞれの持ち味を活かした攻め方ができるはずだ。


カギルさんや俺の場合はともかく、ハヤテとナガトの二人は今日の調子を見るに実に心強い戦力となってくれるだろう。


シドノフの砲撃に気を付ければ、敵の軍勢を相手に立ちまわるのもそう難しくはない事なのかもしれない。



754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/07(水) 21:53:04.55 ID:3vLs++I70
焔「…」


テントの中で静かに天井を見上げる。

白い天井は考え事を描きだすのに最適で、それゆえになかなか寝付けなかった。


ここには欠伸をかく呑気な奴もいれば、俺のように無言で布の空を見上げている奴もいるだろう。

緊張する奴しない奴。普通に眠れない俺のような奴。


仕方ないとはいえ、ここからはもう戦うしかないのだ。

寝ても起きてもそこは戦場を忘れることのできない最前線。


タダ風呂やタダ飯があろうが日常ではない戦場。

いつ血なまぐさい戦いの場に駆りだされてもおかしくない。


家で平和な自分の時間を謳歌する事も、日中に家族と触れあうことも、あまり叶わない。


一時が普段と変わらぬ平穏であっても、今は一時の油断が町の死を招く非常事態なのだ。


このテントの下にいる民兵も、俺と同じような覚悟を抱いているんだろうか。


そんな難しいことを考えているうちに、まぶたがゆっくりと下がってきた。

眠い。


どうか目覚めが鐘の音でありませんように…。



「おい、ホムラ」

焔「んあ……」


鐘ではなかったが、目覚めはやってきた。





756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/08(木) 23:34:51.39 ID:Ca1my84n0
ハープ「睡眠時間は長いほど良いが、事の寸前まで寝られても困るだろう」

焔「…んぁああぁ…ハープさんか、なんか懐かしい…」

ハープ「寝ぼけてるな」

焔「いや、だってまぁ夜だし…」


少しの間だけ気を失っていたらしい。パッと頭が覚醒しない。

どれくらいの時間眠っていたんだろうか?意識としては一瞬のような気がする。


ハープ「カギルは不在だったがメモは渡しておいた…一応、お前にもこれは説明するべきかと思って立ち寄ったんだが」

焔「俺に?何を?」

ハープ「まぁ起きると良い、ここでは声も出せない」


寝ぼけた頭を起こして周囲を見やる。なるほど、民兵の仲間達はお眠りの最中のようだ。

起こしちゃあ悪いな。


そろりそろりと身体を起こし、ハープさんに連れられてテントの外へと出た。

空はまだまだ暗いし肌寒い。夜中の真ん中といったところだろう。

このまま何も起こらなければいいんだが。


焔「ハープさんは今までどこに?」

ハープ「斥候だよ、前へ前へと偵察に出ていた」

焔「なんだって!?そんな危ない事を」

ハープ「敵にも遭遇したがね、なに、返り討ちにしてやったさ」

焔「…相変わらず、なんて言うか…なぁ」

ハープ「ふ、独断の行動はご法度だが、お前もそのくらいに活躍できるようになればな?」

焔「俺だって最近は日夜、頑張ってたさ」

ハープ「ほう?どんなことを?」



焔「この町の人のためになる仕事さ」

ハープ「ほう…良い事だ、結果を期待してる」



760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/13(火) 20:08:34.20 ID:W9OYbMos0
焔「敵の斥候」

ハープ「そうだ、危難のダマが操作するゴーレムも確認した」

焔「ゴーレムだって?魔術師が作るあの?」

ハープ「人間だけじゃない、理論上は魔力持つものであれば何者にでも作れるさ、ゴーレムは」

焔「そうなのか…」

ハープ「喋り、術も扱う高度なゴーレムだった、油断はできない相手だぞ」


ハープ「…ま、ゴーレムはひとまず良い…かなり少数ではあるが偵察役の斥候を出していた」


ハープ「数が少ないのは目立たないようにするためだろう、広範囲に散らしていたようだがそれはアダだったがね」

焔「広範囲にって…じゃあ何体かはもうこっちに!?」

ハープ「それはない、全て始末したよ…駒を思いのままに動かす能力は便利だが、配置が等間隔なのはいただけないね、無駄に走り回る手間が省ける」

焔「すごいなぁ…相変わらず」

ハープ「なに、運も絡むさ、取りこぼしがないのは僥倖だ」


焔「…敵はもう動き出してるってことか」

ハープ「自身もゴーレムで乗り出す程だ、相当に頭に血が上っているだろうし、近々に攻めてきても可笑しくは無い」

焔「……来るのか、やっぱり」

ハープ「その時、私は町を守ってやれはしないぞ、あくまで敵の元締めを叩く」

焔(つまり危難のダマを直接倒すということか…)


焔(…俺と同じってことなのかな)

ハープ「どうした?」

焔「あ、いやなんでも」


焔(俺がそんなところに突っ込むなんて言ったら、ハープさん怒るだろうな…まだ言うのはやめとこう)



761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/14(水) 22:19:27.02 ID:mA+Gemau0
ハープ「…お、良い匂いがする」

焔「うん?あ、ほんとだ、鍋かな」

ハープ「夜番の兵たちへの食事のようだな、うむ…どれどれ、動きすぎて丁度腹が減った所だ、腹ごなしにでも行こうかな」

焔「あ」


背中を見せて向かおうとするハープさんの背は土で汚れていた。

暗がりではあまり目立たない汚れだが、月明かりに晒されるとよく映える。


焔「…あー俺も、ちょっと腹減ったな、寝る前に食うか」

ハープ「睡眠も重要だぞ」

焔「こんな美味そうな匂い嗅いだらなぁ?」

ハープ「ははは、それもそうだ」

焔「これ匂いからしてなんだろ、ぼたんじゃないな」

ハープ「蓋を開けてのお楽しみかな」

焔「爬虫類系は苦手だから勘弁したいところだけど」

ハープ「そんな顔してるもんな、ホムラ」

焔「む」



微かに灯る行灯と匂いを道しるべに歩く。



767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/16(金) 21:22:12.64 ID:Le44HvfV0
金属の椀に盛られた肉と濃い口のスープ。

夜の冷え込みで湯気がもうもうと立ちこめ、じんわりと脂汗をかいた顔を湿らせる。


さすがに夕時ほどの喧噪はないし、警戒状態で人もまばらだったが、広場には人が多かった。


ハープ「ごしき鍋だ、わからんもんだな」

焔「予想が全部外れるとはな、でも御馳走でよかった」

ハープ「ああ、いただこうか」


二人で啜り食う鍋は美味かった。

隣でちょこんと座り、膝に皿を乗せて食べるハープさんはまるで俺の娘かなにかのように見えてしまったりもした。

しかし見た目の年齢的にはそんなものだろう。


およそ二回りほど離れていて可笑しくは無いのだから。


焔「ハープさんの故郷って、やっぱりこっちの方なのか?」

ハープ「ん?なんだ、いきなり」

焔「いや、つい気になって…髪の色はそれっぽいし」

ハープ「流季だけどここじゃない、鉄の国のちんけな工業都市さ」

焔「へー…鉄の国にも流季の人っているんだな」

ハープ「色の割には血は遠いがね」

焔「俺らはその逆ってところか」

ハープ「そうなるだろうね、まぁでも、人種なんざ些細なものだよ」



770 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/19(月) 01:58:28.86 ID:dDSAacgk0
焔「些細かぁ……」


肌の色、髪の色、顔だち。人種による違いは大きくある。

この町バンホーも、髪に朱みのかかった者が流された事から始まった町であるといってもいいだろう。


それ故に、色合いの取れた町になったのだろうけど、そんな由来があって出来た町というのはやはりさみしいものがある。


焔「ホムラ=クレナイ…」


紅家。バンホーの始まりより、ずっと鉄を打ち続けてきた一族だ。

最初から仕事に誇りをもっていたということはないだろう。最初のうちは生きるために、町を存続させるために嫌々と熱い金属を打っていたに違いない。

いつからかその仕事に意義を見出して、俺まで続いたのだ。


俺の名に明るい由来は無い。


焔「ハープさんの家名は?」

ハープ「私の?聞いてどうするんだ」

焔「自分の名前について考えたら、気になって」

ハープ「…………トウゲ」


峠、だろうか。


ハープ「ハープ=トウゲ、だ」



771 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/21(水) 22:41:49.82 ID:he1mH1lh0
峠って、どんな意味があるのだろうか。

地主だったのか、それとも昔山を駆っていた一族だったのか…。


焔「確かに、聞いてもどうしようもないことだったな」

ハープ「ふ、なんだそれは」


汁をすする。旨味の沁みた味が喉を通る。

考えても無駄なことだ。名前の由来など考えてもどうしようもない。


今さら家名に負い目を感じてどうするんだか。

バンホーに自信を無くしてしまっては、これからそれを守れるはずもないというのに。


焔「ごめんな、ハープさんってあんまりこういうこと、聞かれたくないんだろうに」

ハープ「いいさ、傭兵は夜に集まれば家族と伴侶、そして故郷について語らいたくなるものだからな」

焔「ははは、そういうものか…傭兵かぁ、傭兵も楽しそうだな」

ハープ「鍛冶だろ?」

焔「片手間で傭兵ってのをやってみるのも悪くはなさそう…あ、これ町の人には絶対に言わないでくれよ、ほんとに」

ハープ「ははははっ」



773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/23(金) 15:53:11.80 ID:KGjiVThn0
ハープ「…そうだホムラ、そろそろお前もその格好では辛いのではないか?」

焔「ん?」


スープの最後の一口であたりでハープさんは訊ねてきた。


ハープ「作業着だろう?それでは戦場で動くには余りに固すぎる」

焔「……」


確かに。肘を曲げてみても、肩を回してみても、随分と固い。

作業着の中でも一番動きやすいものを選んだつもりだが、身体の大きな動きを許すではない。


ハープ「炎を扱うにせよ、とりあえずローブを着込むべきだろうと私は思うね」

焔「ローブ?逆に燃えちゃわないか、裾とか」

ハープ「そうだとも、火が移れば燃えるだろう…だが作業服であれ軍服であれ、燃え移れば火だるまには変わりないさ」


ハープ「お前は肉体強化ができるはずだろう、何を着込んでいようと服も一緒に強化されるんだ、火の粉が飛ぶ程度では燃えはしない」

焔「そういうもんか……うーん、ローブねえ」

ハープ「魔道士だけのものではないのさ、裾に気を付ければ動きやすいし、応用のきく防護もできる」

焔「考えてみるよ」

ハープ「是非ともな」


彼女が言うなら間違いなさそうだ。



774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/23(金) 16:43:57.93 ID:KGjiVThn0
焔「でも俺にローブって似合うのかな」

ハープ「ん?…どうだろう」

焔「だよな」

ハープ「髪と同じで暖色にすればいいかもしれん」

焔「そもそもガタイがローブに合うかどうか」

ハープ「そこまで言われると弱いが、なりふり構うのが戦ではない」


ハープ「…のだが、多少は気にするべくところもあるだろう…士気に及ぶ事もある」

焔「ほ…ふむふむ」


ハープ「…そうだな…改善すべきは…」

焔「……」


ハープ「ヒゲ」

焔「!?」

ハープ「顎と口ひげを剃れ、全部な。おそらくその髭はローブに似合わないだろう」

焔「全部か…」

ハープ「ああ、髭面の男にローブなどただの浮浪者だ」

焔「ひどい」

ハープ「誰の心の目にも明らかな姿だ、いや、見た目か。案外と大事なものだ、よく聞いてくれたぞホムラ、ただちに髭を剃れ」

焔「…まあ、近々剃っちまおうかなとは思ってたんだけどね…よし、こいつともお別れか…」

ハープ「一回りほど老けて見えるからな、早めに剃っておくと良い」

焔「ほ、本当にズバズバ言う…」



775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/23(金) 17:41:13.90 ID:EFy537xAO
Cu4UIx4g


急に描きたくなったので、フラグ立てまくりなハヤテのために



776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) 2011/09/23(金) 17:46:26.01 ID:s3G35vuso
え、え、ハヤテきゅんまじきゃわわ



779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/26(月) 23:50:20.84 ID:oymINoUp0
焔「……」


眠気を堪え、足を引きずってやってきたのが風呂場だ。

とりあえず浴場の礼儀という事で裸にはなりつつも、木桶の中には自前のカミソリなど。


そう、髭だ。髭を剃りに来たんだ。


焔「……ぬぬぬ」


カミソリを持つ手が震える。疎らに伸びた暖色の髭。

汚らしいと言ってしまえばそれまでだが、幾年もの時間を共に過ごしてきた髭だ。


辛い時も、哀しい時も。この髭は、俺の汗も涙も受け止め続けてきた。

刀の刃に泥に付け忘れて大変なことになった時も、間違えて可燃性の油に浸して芸術的な剣を作ってしまった時も、この髭はずっと一緒だった。



焔「今日でお別れ…か、お前とも」

「なぁ、あんた身体に湯もかけずにそこでずっと何してるんだい」

焔「待って、今考え中なんだ、もうちょっと考えさせてくれ」



780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/27(火) 00:25:33.60 ID:tEjSA7wX0
「ぁああ…!」

背筋が凍るとはまさにこのことだ。


彼は民兵。数時間だけ物見台の上に経ち、夜の番をする役目を担う男である。

敵を間近に見た事は無いが、遠目から窺う事は多々あった。いわゆる後方支援や、連絡系の役割を多く持っていた。

職人の多い朱金町での彼の仕事は、物資の管理。蔵の番だ。

バンホーにはいる原料や過去品、食料品の種類や重さを再調査し、記帳する仕事をしていた。

肉体労働とは言い難い職が、彼を戦場における後方支援に回させたのだろう。


それも彼が時々見張りに立つ矢倉は真正面ではなく、かなり南側に近い辺鄙な所だ。

ほぼ敵が来ることを想定していない位置の矢倉。民兵の彼もそう呑気に捉え、欠伸混じりに夜の漆黒をぼんやりと眺めていたのだが。



「ああ、なんてこった」



青い行灯が見えてしまった。

遥か遠方に見える青い灯りが、人魂のように妖しく揺れている。


一度は目を擦り、町の者が熾した火であろうと疑ってかかったものだ。

だが明らかすぎる青の発色が、彼に現実逃避を許さなかった。


「こ、こういう時は、ああっと、くそ」


脚が震える。

今すぐにでも逃げ出してやりたいが、きっと何もせずに逃げだせば、後々に重大な責任に押しつぶされることになるだろう。

家族の事もある。そこはなんとか堪えた。



番「調子はどうですか?」

「!」


恐慌状態に陥っていたその時、彼女はハシゴを登ってやってきた。



782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/27(火) 22:50:58.71 ID:tEjSA7wX0
番「すごい汗!顔色も悪いですよ、大丈夫ですか!?」


事情を知らないツガエは男の体調を案じたが、男は手で制した。

自分よりも町の方が大事であるし、相手が相手だからだ。


(町長の娘!冗談じゃない、こんな奴に)


緊急事態であると解っていても、反射的な嫌悪は表情に浮き出る。


番「…私では満足いかないかもしれませんが、それでも私の役目なんですよ」


その顔色を汲み取っても、それでもツガエは自分のすべきことを曲げたりはしないのだ。

不調を訴えるものがいれば介抱する。たとえ自分や自分の父を毛嫌いする者でも、決して区別はしないだろう。

彼女の公平と正義の限りに。


番「すごい冷や汗…大丈夫ですか?一度テントに戻られては…」

「…敵だ」

番「えっ!?」


ハンカチを持とうとしたツガエの手が止まる。


「向こうだ、かなり遠いがあそこ…見えるだろう…!?」

番「…あ…!」


民兵の体調不良どころでは済まされない事態に直面しつつあることにツガエも気付いた。



783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/27(火) 23:02:08.61 ID:tEjSA7wX0
番「あ、青い炎!」

「間違いない、惨劇軍共だ…!俺も先程気付いたばかりだが、いち早く知らせなければ…」

番「…すぐに矢を放ちましょう、花火付きの、えっと、色は…これです!」


矢倉の隅に立てかけられた矢を取り上げると、それを男に差し出した。

かなり緩い楕円を描く柄の矢だ。


「一大事だ…くそっ」


男は乱暴に矢を奪い取り、弓を構え弦を引き絞った。

すぐにでも矢を放ち、敵襲を知らせなくてはならない。文字通り、矢の如き早さで。


「…!」

番「!」


正確に放たなければ。そう集中し重圧を感じる度に、忌まわしい手の震えがヤジリの先を迷わせる。

誰にも見せたくない無様な弓の構えだった。



「くそ…震えるな、一発で良い!小さい的を、鹿を射るわけではないんだ…!」

番「…大丈夫」

「!」


ツガエの手が、男の矢を構える手の上に乗せられた。震えの無い温かな手だ。


番「心で狙った矢は当たります…焦っていても、その危機感をいちはやく届けたい、自分の心に素直に集中すればいいんです」

「……」

番「ほら、もう震えてない」

「…くっそ、口車の滑らかさは父親譲りだ」



矢は射られた。



784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/27(火) 23:17:38.46 ID:tEjSA7wX0
焔「……いや、まてよ」

焔「おっさんぽく見えるのはこの口周りだけってのはあるかもな」

焔「口ひげだけ剃って顎は残せば、それでも十分若く見えるはず…」

焔「いや、どの道俺は髭の人になるのか?それでも…」

焔「いやいやでも顎髭を残すことには大きな意義があるだろ…」

焔「なんたって何年も一緒の時間を共に歩んできた相棒だ…んな一瞬のジョリだけで消されちゃたまったもんじゃねえ」

焔「…でもハープさんは剃った方が良いと言ってたしなあ」

焔「うーん、一体どうすれば…」


――カァン、カァン

――カァン、カァン


焔「えっ」



787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/27(火) 23:42:09.72 ID:tEjSA7wX0
物騒な鐘の音を前にしてはヒゲなんかどうでも良い事この上ない存在だ。

むしろ何もせずに髭をさすりながら曇った鏡を眺め続けているだけの自分がとても罪深いものだと思えてくる。

何してるんだろう俺は。ちょっと緊張感が足りないのではないか。


敵が今まさに、ここへ攻め入ろうとしているのに!




「カギルさんはまだか」

「信号は青の花火だ、敵はまだ遠い…時間はある、矢倉からあと1回は報告を聞けるはずだぞ」

「そんなことよりどこから!?」

「聞いてねえんかアホウ、南じゃ」

「北からも信号がきたって言ってたぞ!?」

「なに!?囲まれてるのか!?」


歩く間にも交錯した情報が耳を掠める。

どれも立ち止まって問い詰めたいものが多いが、広場に集合してカギルさんから直接指示を仰ぐのが賢明だ。


俺は急ぎ足で向かった。

背に赤茶けた槍を預けながら。



788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/27(火) 23:59:56.60 ID:tEjSA7wX0
鐘の一発目で飛び起きた。

そりゃ当然だ。俺の妻と可愛い娘の居場所を脅かそうとしている奴らが近づく足音だ。

この俺、ハヤテが気付かねえはずもねえ。


疾「どけどけ、俺が一番乗りだ!ただの集合だろうが、もう戦は始まってるんだぜぇ!」


荷物と刀を抱えて、広場へ走る。

慌てふためく人と人の間を駆け抜けている間に、そいつらの背中でも平手打ちして気合いをいれてやろうかとも迷ったが、入れてやらないことにした。

檄は自分で飛ばすことだな!



「うおっ」

疾「おっとあぶね、悪いな!急ぎだからよ!」


ぶつかりそうになってもお構いなしだ。とにかく急ぐぜ。




「飛脚ごときが、刀持って何になるってんだ」

疾「!」


自分でも驚くくらいに、俺の耳は呟き声がした方向と距離を正確に察知し、顔もそちらへ向いた。

ぶつくさ文句しか言えねえ輩のふてぶてしい顔が視界に入る。性の悪い野郎だ。

睨みのついでに拳のひとつほども掲げそうになったが、それは何者かによって止められた。


長「油を売るな」

疾「…わり!ついカッとな」


俺の腕を掴んだのはナガトだった。仏頂面の生真面目そうな奴だが、嫌いじゃない。



長「そこまで急く必要もない、歩いて向かうぞ」

疾「あいあい、わかったわかった、一緒にいくかー」



俺は刀を、ナガトはジャベリンを片手に、広場へ向かった。



789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/28(水) 23:30:43.86 ID:FrzA+6Ps0

限「みなさん静粛に、敵の予想到達時刻までまだまだ余裕があります」

「んなこと言ったって…」

限「錐砲や弩砲を備えた今、我が町では叩くに適した距離というものがあります」

「そのために敵がこっちへ来るのを黙って見てるっていうのは、ちっと」

限「遠くの敵をわざわざ叩きに皆さんを出しても効率は悪いです、兵器の援護も受けられないでしょう」



番「あまり森の深い所へは錐砲も有効に働きませんからね…遅れてすみません」

限「どうもツガエさん、皆さんの人数確認をお願いします」

番「はい」


限「一定の人数が集まり次第、各々の持ち場の振り分けをします…矢の信号によれば敵は多方向から町へ接近しているようです」

長「多方向、多勢か?」

限「報告を聞く限りでは無茶なルートも構わずに通っているように見受けられます」

長「…ふむ」

限「それでも一定数はこちらへ到達していると見ていいでしょう」

疾「ひえー、じゃあ四面楚歌ってやつか?」

限「どうでしょうか、町の装備を一新したバンホーの力の見せ所です」

疾「んな余裕な…」

限「辛いかもしれませんが無理ではありません」


限「町を要塞化させた私と、ハープさんの理論が間違っていなければね」



793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/29(木) 23:35:42.80 ID:9DwPiycr0
前に緊急の召集があった時以上の人だかりが広場にあった。

だが混乱しているわけではなく、皆整然と中央に座り、小声で話している。


中央にはカギルさんの姿が認められ、矢継ぎにくる報告者たちに左耳を傾けながら、口は止まらず皆へ向けた言葉を紡いでいた。

器用な人だ。何かしながら、別の事も同じくらいにこなす。俺には到底そんな真似はできないだろうな。


限「おっとホムラさんお待ちしておりました、どうぞこちらへ」

焔「あ、ハイ」


報告人を通すために開けられた道を通り、カギルさんの近くに座った。

特別扱いされるのもそろそろ慣れてきた頃だ。



限「さて…とはいえ、是非とも要塞の運用をハープさんに聞きたいところですね、私一人では荷が重い」

番「ホムラさん、ハープさんを知りませんか?」

焔「いや保護者じゃないんでちょっとわかんな」ゴスッ


言い切る前に、何か硬いものが脳天にぶつかった。


ハープ「何故保護者という言葉を使うね、ホムラ」

焔「すんませんごめんなさい」


ハープさんのメイスだった。物凄く痛い。



797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/30(金) 22:31:11.57 ID:hJli1Wc80
限「お疲れ様です、ハープさん」

ハープ「なに、些細だ、で?私への用とは何かな」

限「貪欲な訊き方をしますがズバリ、敵は何を狙って攻めてきているのか」

ハープ「うむ」

限「そして、それに対する我々の最善の対処法を是非とも教えていただきたい」

焔(全部だ…まぁそりゃそうか)

ハープ「敵の狙いね…一口に言うには難しいな、私にも敵の攻め方が全て把握できているわけでもないし」


ハープ「だがここにいる全員のために言っておこう、しばらくは敵が大群で一か所を猛攻することはない」


その一言だけで群衆からは安堵の囁き声がこぼれた。


ハープ「安心していいのはそこだけだ、後は何が来るかもわからん」

焔「何がって…」

ハープ「次にどうとでも指せるからな」

限「隊列を束ねるも良し、回り込み薄い箇所を叩くも良し、と」

ハープ「ま、敵もまずは多勢を散りばめ、薄い箇所なりを探ってくるだろう」

疾「…それって時間の問題ってことなんじゃ?」

ハープ「時間の問題だよ、手を打たねばね」



801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/03(月) 22:45:39.43 ID:lty6xok50
ハープさんは地面に腰を降ろし、メイスを包む布をほどいた。

何か術でも使うつもりなのだろうか。

以前修理したものなので、フランジの調子はいいはずだ。


ハープ「さて、ここが現在地、テントの集合地帯とする」

焔(って、地面に絵を描くだけか)


ハープ「ここがタオリバシ、ニシタオリバシ、タイヨウバシ、第一矢倉、第二、第三…」


次々に書かれていく町のおおまかな地図。

おおまかだ。しかしそれでも、この町に住む何人の人間が、空でここまでのものを描けるだろう。

淡々と仕上がる町の全景には、未だハープさんを小馬鹿にする民兵の皆も息を呑むばかりだ。



ハープ「錐砲はこことここ、ほぼ町の外周部近くに集中して設置されている…ここにある錐砲はあらゆる箇所へのカバーも容易だ、遠方の相手も狙いやすい」

限「錐砲を主体として扱っていくわけですか」

ハープ「敵がやってくる方向が明確にわかれば、そこへ向けて集中的に放つのがいいだろう、接敵されてからでは遅い」


ハープ「中距離は弩砲を扱えるが、相手にも砲撃のシドノフや守りのロッコイがいることを考えると難しい…弩砲は最初から着火させて撃つのを忘れては駄目だ、せめて“盾”だけでも砕かねばならんからな」

長「…それでは民兵の大部分が余るだろう、どうするんだ」

ハープ「レンガ壁に隠れて中距離からの応戦だ、箇所に敵が集中してきた場合を想定して、一部の民兵はここに控えさせるのが良い…で?町の外周部も既に要塞のようになっているのだろう?」

限「濠から壁まで突貫ではありますが大体は」

ハープ「僥倖、ある程度敵が集中して攻撃してこようとも、堅い守りの前ではそう容易く陥落することなどあり得ない」

疾「なんでえ、結局守りの一手じゃねえか?それも時間の問題なんだろ」

ハープ「なに」


ハープ「…町の動きは防衛、だが一部は決死隊として、敵の頭を叩きにいく」

限「!」



803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/04(火) 22:58:19.87 ID:95Es8kd10
疾「お、て、てぇことはあれか!少数精鋭でいくと!」

ハープ「解りが良くて助かる、そう…一人につき銃を三挺は持って、私についてきてもらう」

限「銃」

ハープ「そう、銃」


手にしたメイスを掲げ、天を仰ぎ、


ハープ「“スティ・ボウ”」


詠唱した。ごくごく小さな閃光と共にメイスの先から何かが放たれ、それは鋭く風を切りながら空へと舞い上がった。



「魔術…」

「ああ、魔術だ…」

限「…」


やがて数秒の後に、今度は空から何かが降ってきた。

ものすごい速さで。ハープさんの頭上に。


焔「あぶなッ…」

ハープ「ふん」パシ


思わず手を伸べそうになったが、いらぬ心配だったようだ。

何事もなかったかのようにその手に収まった。


それは黒光りする、立派な鋼鉄の銛だった。



ハープ「敵の司令塔は飛行能力を持っている…ある程度の肉体強化もできるはずだ、それを貫くには銃では心許ないのでな」

限「討ち取るのはハープさん、ということですか」

ハープ「銃は“危難のダマ”の周囲を警護している奴らを蹴散らすために必要だ。私が集中して術を放つための時間もいる」

焔「あくまで援護なわけか」

ハープ「ナガトの持つジャベリンでも構わないのだがね、まぁ、雑魚を掃除するための要員だ、遠距離武器なら何でもいいのさ」

長「ふん」

焔(あいつらを雑魚扱いって…)


ハープ「…? ナガト、ジャベリンを変えたか?」

長「む」


ナガトの腰に括られた二本のジャベリンに気付いたようだ。

さすがハープさん、目の付けどころが良い。俺が打ったジャベリンに気付くとは。


ハープ「不格好なジャベリンだな、錆びてるぞ…悪い事は言わん、前のに変えておけ」

長「……」

焔「……」


それはもう、ゴミを見るような目つきだった。



805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) 2011/10/04(火) 23:59:35.57 ID:NOywPvHpo
涙目wwww



809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/05(水) 22:03:35.49 ID:cz1LLVqy0
ハープ「そういうわけで、私は敵の指揮官を潰しに行くぞ、ついてくる気のある者はいるか?」


メイスを掲げた彼女に続く者はなかなか現れなかった。

俺を含め、カギルさんやナガト、意気込んでいたハヤテも手をあげようかと決めかねているようだ。


心の準備ができていないというのもあるだろう。それ以上に、ハープさんがいう“遠距離武器ならなんでもいい”という要求に沿えない事が、全てを躊躇わせている。

皆、一応出撃準備は万全なのだが。


ハープ「気が進まない皆の胸を前押しすると、そうだな、敵の真っ只中に突っ込むから、全員無傷での帰還はできないだろう」


一層に場がざわめく。


ハープ「私が求めるのはおよそ4人だ、あまりに大勢でも目立つからな、うち3人以上は死ぬかもしれないし全員死ぬことも大いにある」

疾「“決死”ね」

ハープ「死ぬ覚悟がなければ困る」


誰もが何かを言いかえしてやりたい顔をしていた。それでも何も言えなかった。

ハープさんも同じ場所に行こうというのだ。

彼女と共に行くということは、彼女と同じくらいの覚悟で町を守ろうということ。

踏ん切りがつかない臆病者でも、彼女に「捨て駒なんて」とは言えないのだ。

駒の内には彼女もいるのだから。



ハープ「おいおい、時間がないぞ。誰も名乗り出ないのであれば私一人ででも行くが?ま、撃退はできても討伐までは難しいかもしれないがね」

焔「……」


挑発するような小生意気な黒い目に諦めの色が浮かぶ前に、俺は手を挙げた。



810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/06(木) 00:21:00.97 ID:gLJRvoDG0
ハープ「おっと、ようやく一人か」


その割には待っていました、といわんばかりに喜の色のある表情だったが、今はそんなこと言わない。


「ホムラ、本当にお前いくのかよ」

焔「大丈夫だって、俺には妻子もいないしよ」


加えて死ぬつもりも更々ないけど。


ハープ「調子に乗るなよホムラ、歴戦の勇者も戦場では一瞬で命を落とす」

焔「ああ、よく本でそういうの見る」

ハープ「出会った時のお前は注意散漫、隙だらけだったな?今まで生き残れた偶然は幸運と呼ぶほかあるまい、自覚はしているな?」

焔「戦の女神とやらに感謝しなくちゃな」

ハープ「…くく、面白い。時に蛮勇は、脚の竦む勇者より役に立つ。いいだろう、だが覚悟はしておけよ」

焔「わかってるよ」


焔「…ただ、銃は良いんだけど、もひとついいかな」

疾「…」

長「…」

限「…」

ハープ「?」

焔「…邪魔にはしないから、こいつを持っていきたいんだ」

ハープ「…」


やや幻滅したような眼だ。

それでも。それでもこいつを持っていきたいのだ。

不格好なこの槍を。



815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/06(木) 22:31:11.01 ID:gLJRvoDG0
疾「おいおい、ホムラが行くってんなら俺も行くぜ!」

長「俺もだ、ジャベリンも、銃も扱える、不足は無いだろう?」


二人も名乗りを上げた。

ハヤテを嘲笑する者もみんなの中にはいたが、ハープさん自身は笑おうとはしなかった。


ハープ「ハヤテ、お前は子持ちだったな」

疾「おうよ、この町で一等に可愛い妻子持ちの幸せモンだ」

ハープ「早くに親を亡くした子の気持ちがお前にわかるか?」

疾「へっへ、相手にビビってへっぴり腰で生き伸びた親を持つ気持ちもわからねーな?」

ハープ「私も咄嗟にお前を守れはしないぞ」

疾「ガキにお守される大人なんざ、俺の子供も見たかねーさ」ガシガシ

ハープ「おいやめろ、髪が抜けると何度言ったら…」


こんな時でもハヤテはハープさんを子供扱いする。なかなか、あやかりたいものだが見習おうにも図太すぎる精神力だ。


疾「ま、俺が今夜に死んだとしても…俺の娘は将来、そのことを誇りに思う時が来るだろうさ」

ハープ「後悔はいつだって先には立たないぞ」


軽い態度を咎めるように忠告するが、


疾「全力で走ってる時に振り向く余裕はねえよ」


ハヤテは至って真面目な顔で、そう応えた。

これにはハープさんも折れたのか、あるいは拒む気もなかったのか、小さく頷いてみせる。


ハープ「……いいだろう、馬鹿がもう二人追加だ、さあ、あと一人は?誰かいないか?」

長「俺も馬鹿か」



822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/12(水) 20:06:47.31 ID:mxANe81T0
「そんなこと言われてもなぁ、こう、荷が重いというか、あんまりにも…」

「…俺はそこまで銃の腕に自信はないし…」

ハープ「他に死にたい奴はいないようだな?予想を下回って残念だ」


挑発的な言葉の前に、誰も文句を挙げようとはしない。

声を荒げ抗議でもしてみれば、きっとこの不遜な少女は自分に対して、名指しで質問をしてくるに違いなかったからだ。

“お前はこの3人と同じ勇気を持っているか?”と。


彼は自らの立場上、そうして町の皆が消沈していく時を見計らっていたのかもしれない。


ハープ「時間が無いな、数は少ないが仕方な――」

限「そうです仕方ないですね、私が出ましょう」


抑揚のない百科辞典のような声と共に小さく手を挙げた男の姿に、誰もが一瞬言葉を失い、その後に驚嘆した。

町の代表。現在のバンホーの統括者。全てを取り仕切るべき人間。カギルさんが、町で最も危ない役職に就こうというのだから。



まあ、既に手を挙げた俺らからしてみれば、“なーにが仕方無いだよ”といった感じなのだが。



番「えっ…え!?カギルさん!?」

ハープ「――ふ、“クイーンを動かすのは嫌いじゃない”」

限「やっとのことで自陣から這い出し、二歩だけ前に進んだだけのことです」

ハープ「謙遜するな、まあいい、これで良い、駒の数は揃ったぞ、これでやっと始められるというものだ、よしよし」



825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/13(木) 20:15:34.22 ID:8G5scXmb0
「だが、カギル無しでは…そもそも町の統率を取れるのか、どうか…」

「今まで取り仕切っておきながら、今こんな時に役を変えるなど…」

限「ならば代わりに貴方にお願いしましょう」

「なっ…冗談はよしてくれ」

限「どちらでも構いません、町の総指揮でも、決死隊でも」

「…いいや、遠慮する」

「……」


ハープ「t限「ならばツガエさん、町の指揮の役目は貴女に託しましょう」

番「ええ!?わ、私ですか」

限「ツガエさんこそが最も相応しいと私は思っています」

番「…そんな…私は…私なんてそんな」

限「私が仮の代表となった時、私は真っ先に貴女の能力を見切り、見込みました」

番「カギルさん…」


いつも一緒に居るからまさかとは思っていたが、今この時のカギルさんとツガエさんの間に漂う空気。これはまさに、ちょっと甘ったるいものだった。

薄暗くて見えないが、頬をわずかに赤くしているであろうツガエさんの目はまさに、恋する女性の目といったところだ。


信頼し合う仮町長と仮副町長、良い雰囲気であったが、この場はすぐに騒がしくなった。


徐々に、沈黙を虫食うようにして広がる小声の輪が広場を包む。

陰気なことに、本人を目の前にして陰口を叩いているのだ。


「――町長の娘だからな」

「前々から目をつけていた――」

「町の財産――」


限「静粛に」


「見栄えだけは良い――」

「――やはり変人なんだろう」


ハープ「…」


青筋を浮かべたハープさんが薄く口を開ける瞬間を、俺は見た。

メイスを握った手には力がこめられており、その動きにも細心の注意を払っていた。


けどそんな動きは些細なものだった。



――バゴンッ!



限「静粛に」


砕け散った地面に片足を5cmほどもめり込ませたカギルさんが、いつも通りの表情で場を鎮めたのだ。



829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/14(金) 19:50:00.61 ID:Mamn9oFv0
ハープ「……」

「……」

「……」

疾(怖っ…)


誰もが口を閉ざした。刹那の間でも、魔族の存在すら忘れていたのかもしれない。



限「法廷ではありませんが是非とも、私語を慎んでいただければ」


片足から昇る土煙りを見ても、再び口を開こうとする愚か者はいないだろう。即実刑執行の軍法会議が始まっても不思議じゃなかった。


限「…火急の事態です、呑気に語る事などありませんが、ひとつだけ言わせていただきます」


歩を進め、歩いてゆく。紅と白の衣が夜風に翻る。


限「私はあなた方よりも、この町が好きでしょう」


その言葉の意味はよくわからなかった。

ただその一言で、この場にいる者たちの何かは変わった。



841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/18(火) 21:09:11.61 ID:xoMWzAKL0
ハープ(人より町が好きだと思っているのか、町の者よりも町を大事に思っているのか…)

『――どちらでも町を守る事には変わらぬことだ――』

ハープ(……カギルは、本気で人を嫌いにはならないとは思うが)

『――些細であるし杞憂でもある、振り払え――』

ハープ(すまない)



ハープ「…では決まりだ、町の采配はツガエに任せる」

番「…はい、私にお任せ下さい」

ハープ「私と4人は町を離れて遊撃だ、死体は持ちかえってやらんからな?」

長「望むところだ」

焔「死ぬつもりはないけどさ」

疾「へっへ、まあ俺も死なねえよ、なるべくはな」


「遊撃はわかった、けど錐砲や弩砲の範囲に潜りこむってことだろ?大丈夫なのか?」

焔「あ」

ハープ「構わん、どうせ当たらんさ…構わず撃てば良い」

焔「えっ」

「わかった、当たっても恨まないでくれよ」


ハープ「よし、他になければ配置へついてもらうぞ」

番「……」

ハープ「…できるね?」

番「は、はい!」



844 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/19(水) 23:03:41.20 ID:QU2dFbUz0
風車が回っている。風は海側から吹いているらしい。

それでも潮臭くはない。風は森で洗われているようだ。


5人の影は遠くの火で薄く延ばされ、人々の騒がしい声は微かにしか聞こえない。



疾「一人につき銃が4挺かぁ」

長「いざこうして頭数を並べてみると、心細いものだな」

限「銃だけではありませんよ、もっと心強いものはあります」

焔「心強いものかぁ…」



背中に槍。

腰に刀。

両脇に剣。

腿にジャベリン。


ハープ「……」


手にメイス。


焔「まあ、心強いよな」



846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/20(木) 20:36:05.37 ID:uE6+n1lC0
いざ行こうと足を踏み出した時、


「ほ、ホムラさん!ちょっと!」


慌てた声が俺を止めた。


護「はあ、はあ…あー間に合った、行く前で良かった…」

焔「マモリさん、どうしたんですか?そんな息乱して」

護「い、いやあほんとっ、命知らずの患者さんほど手にかかるものはないわっ…」


ずずい、と俺の眼前3cmに差し出される白い何か。近すぎて見えないので、一度手に取ってから確認する。


焔「包帯」

護「ふー……それは予備のね、危険だから」

焔「いやあ、わざわざすいません、ありがとうございます」

護「良いの良いの……あ、じゃあ3人にも、これ受け取って」

長「え?あ、ああ」

限「ありがたく、使わせていただきます」

疾「あざーっす」


マモリさんは木箱の中から次々に医療品を掻きだしては、それらを各々に突きつけていった。

ハヤテには何故か副木だけだった。


疾「ちょっとなんだこれ!これだけじゃただの木くずだろーが!」

護「みんな…頑張ってね、私は町の中で祈っているしかないんだけど…」

ハープ「それぞれがそれぞれのベストを尽くせばいい、気に病む事などないよ」

護「…うふふ、ハープちゃん…ありがとね」

焔(なるほど、本命の目的はこっちか)



849 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/24(月) 20:50:58.93 ID:O3kuOGN40
マモリさんとも別れを告げ、寂寥の道を歩む。

ハープさんを先頭に、カギルさん、ナガト、俺、ハヤテという並びだ。

彼女に先頭歩かせるのは絵面として気の引ける所はあったが、本質は皆解っていたので誰も言及していない。


ハープ「気を緩めるなよ。思わぬ時間を食ってしまったんだ、敵は近い」

疾「へ、へへ!何を!俺ぁいつでも臨戦態勢だぜ!」

ハープ「どうかな…」


風が吹いた。やはり海からの風だ。

ただの風のはずなのに、向いから吹く生ぬるい風は緊迫した空気を運んできた。


ハープ「…そろそろ林に潜ろう、“危難のダマ”を探す」

長「了解だ」


ついに俺ら決死隊は、深い緑の中へと紛れた。

ここからは、ヘタをすればもう人の整備した道を歩くことはできない。

死ぬ時が訪れたらそれは、獣道で息絶え、取り残される。そんな死にざまが待っているだろう。

決死隊は誰からも骨を拾ってもらえない。最後のチャンスだ。覚悟を決めなくては。



焔「…気を引き締めていこう、ちょっとでも油断禁物だ」

限「ええ」


下草を蹴りつつ、ひとまずは前へ前へ進む。

中央を進んだ先に、安易にキングが居座っている可能性を信じて。



853 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/25(火) 20:35:14.07 ID:FZLRgHRU0
悠然と歩き去った雄姿を見送りきる前に、声を出した。


番「…さあ!私達も負けてはいられませんよ!」


二度の大きな手拍子で、呆けた全員の目を覚まさせる。


番「ハープさん達の動きはあくまで遊撃、本格的に迎撃するのは我々の役目!他人事じゃないんですよ!」

鐸「その通り!町を守るのは、何よりもわしらだ!」


自分の言葉の勢いに乗ってくれた老人に多少驚いたが、ここで畳み込まなくてはならない。

皆を動かすのはもうカギルではない。自分なのだ。


カギルが認めてくれた自分がやらずして、どうするのだ。



番「敵が四方八方から攻めてこようとも、今のバンホーは中途半端な古城よりも堅牢です!」

「…カギルさん無しで本当に…」

番「カギルさんが居ないからって何ですか?実際にこの町を守りぬいて来たのは、決してカギルさん一人だけではないはずです」


番「バンホーを実際に守ってきたのは、いつだって他ならぬ私たちではないですか!」



「……元町長の娘、ツガエ…あんたは、逃げないだろうな」

番「絶対に逃げません」

「カギルのように、うまく指揮をとれるんだろうな」

番「絶対にうまくやれます」


自信を前面に押し出して、しかし真心のまま正直に答えた。

絶対に逃げない。絶対に守って見せる。品定めするような皆の目がこちらの様子を窺っている。

だから私は言ってやるのだ。



番「絶対に、バンホーを守り抜きます」



858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/26(水) 20:36:00.43 ID:Rr0TEEs50
鐸(カギルさん、それがあんたの真心なんだな)


華奢な声を張り上げて指示を回すツガエを遠目に、誰にも知られず頷く。

町長に対しては取り去れぬ遺恨を持っていたし、少し前まではツガエに対しても勝手な想像として、その面影を投影していた時もあった。

もちろん、ツガエには町長の面影など欠片もないことは、彼女に会ってすぐにわかったことだった。


彼女は嫌味も打算もない、素直で無垢な心を持っている。

下心の塊のような町長が彼女の爪の垢を舐めれば、拒絶反応でも起こしかねないほどに、あの親子は似ていない。

だが町の人間は、彼女の顔の目もとと鼻の形だけを見て、町長の醜悪の全てを見透かした気でいるのだ。

良い青年が、良い老人が、こぞって彼女を貶めようとする様のなんと惨いことだろう。



番「サナキさーん、連絡本部は町中央に移しますから、荷物を運ぶ準備してくださーい!」

鐸「んー?おお、まかせときい、若いもんの2倍は運んじゃる」


それでもカギルさんだけは彼女の本質を見つめ続け、正当な評価を与え続けてきた。

カギルさんがいなければ、彼女は一体どうなっていたのだろう。今こうして、溌剌とした顔で壁を乗り越えられていただろうか。


鐸(ふっふ、馬鹿なこと考えてる場合じゃないか)

鐸(皆がいて、そこがバンホーだ。必要のない釘なんて、ひとつもないに決まってる)



863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/30(日) 19:45:51.29 ID:4FLRIHT00
狭い間隔を保ち、5人組の決死隊は林をゆく。

道など無いので草木を掻き分けて進む。先頭のハープさんがメイスで枝を払ってくれるので、後続はわりと歩きやすい。


もう何分も急ぎで歩き、慎重に進んでいるが、敵と遭遇していないわけではない。



ハープ「…」スッ

カギル「!」


またハープさんが敵の姿を見つけたようだ。

沈黙する彼女がメイスで指し示す先には、ほんの小さく青い光が灯っているように見える。


長「…くそ、こちらに気付いていない敵を見つけても、先手を取れないとは…」

焔「仕方ないさ、雑兵相手に暴れて気付かれでもしたら、敵も逃げるだろ?」

限「その通り、我々の目標は“危難のダマ”のみですからね」

疾「ってもよぉ、本当にこの先にいるのかぁ?あのガキ、いない確率の方がわずかに高いーとか抜かしてたぞ」

ハープ「敵が近い、喋るな」

疾「…」


色々と不満や疑念もあるが、行動だけは俺らは素直なものだった。

今はハープさんの予想…と、勘を信じてみよう。



ハープ「…!そろそろ、まずいな…」


だがこの時既に、俺らの進行方向には、鶴翼にも似た炎の行灯が見えていたのだ。



864 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/31(月) 22:02:45.64 ID:PwtnUqR50
ハープ「…一旦止まれ、静かに前方を見ろ」

長「これは…不味い、事になっているな」


歩き通しの疲れも癒えない休憩が訪れた。

このまま歩き続ければ、広く展開した敵と嫌でも対峙してしまうだろう。


蒼炎を直接見ることができないが、この葉の隙間から洩れるわずかな灯りが、禍々しい存在を強調している。



焔「…迂回して避けてみますかね」

長「…相手が気付いていないとはいえ、この距離からでは難しいな…変に動けば気配を悟られる、得策とはいえんだろう」

限「目の前の敵に対して横の移動、嫌でも目立ちますからね」


ハープ「…攻めが堅いのか、守りが堅いのか」

疾「ん?」

ハープ「前衛を先捌又、後衛を横一文字に並べて進めるとは、なかなか見れない盤でね」

焔「?」

ハープ「とにかくはっきりしない並びなんだ、普通は先捌又でも後衛は蕪に構えて、いつでも左右に分けられるようにするものだ」

長「?」

ハープ「捌又に横一文字…遊撃を読み、指揮官の場所を悟らせないための“面”での後衛…?それとも気を取らせて時間稼ぎ…」

限「?」

ハープ「…6、秒…くれ」



868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/11/01(火) 22:34:28.73 ID:l5VD9u840

―――――――――――――――


『詰まっているようだな、人の子よ。我を頼るとは』

ハープ「…欲しいものは助言だけだ」

『それこそ我の力だろうに、まあその椅子に掛けるといい』

ハープ「……」

キシッ


『今は、テーブルに紅茶はいらないだろう?』

ハープ「…そのポットはココアだ」

『ほう、だが消させてもらおう…かわりに』シュンッ


『…チェス盤を』ゴトッ


ハープ「我々がこちら」カッ

『敵は此方に』カッ


ハープ「わかっているだけでは左右に敵が捌又を組み、前には一文字」カッ、カッ

『敵の“網”に囚われた形か、猟師を食らう魚としては好ましい形ではあるが、網の形はよろしくない』

ハープ「網の狭まる所を進んだ先に猟師の手はあるものだが、これではまるでわからんな」

『正面に座を構える可能性は残っているが、ここまで特殊な陣となれば早計は危険と見るべきか』

ハープ「危難だな」

『一部のみを切り取り考えるならば、我ならばこの陣を囮とする』

ハープ「遊撃を読み、なお逃げ道を封じたと」

『袋小路と気付く頃には退却せざるを得ない網、撒くならば複数だろう』

ハープ「我々は知略で既に敗北したと?」

『それはない、これはあくまでひとつの道筋のひとつに過ぎぬ、敵の目的が“網”のみとは限らぬ』

ハープ「で、あれば…?」

『……ふむ』


『…“戦車”』

ハープ「…!」



869 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/11/02(水) 22:55:39.25 ID:Sjfw4vyt0
『一個の存在であるならば、それにはもはや陣を組む必要など無く、配置などは微々たるものだ』

ハープ「この並びがひとつの完成であると」

『ひとつの戦車が単騎で進む時、そこには陣としての概念などは不要』


『発想せよ、そして発想を拘るな、発想し続け可能性を塗りつぶせ』

ハープ「…」

『角をつきつめることが全ての思考ではない、あらゆるピースを空白の海に投ずる事こそ』
ハープ「うるさい」

『……』

ハープ「……」



ハープ「…ひどい可能性を発想した」

『とは』

ハープ「……――――」

『正答である可能性は高い』

ハープ「当たっていたとしたら、私はちょっとまぬけだな」

『表での6秒だ、部屋から出て行くが良い』

ハープ「お邪魔したね、すまない…また近いうちに来ることもあるな」

『知を求める者を、我は拒まぬ、いつでも来ると良い』



874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/11/04(金) 19:45:01.46 ID:K+W3hwFB0
疾「ろー」

ハープ「待たせたな」

疾「」

限「相手の目論見について何かわかりましたか」

長「目の前に敵が迫ってる、それが先だ」

ハープ「落ちつけ…相手の進軍はさほど急ぎではない、説明する余裕はある」


ハープ「まず…我々決死隊は中央を選んで正解だったということか」

疾「おっ?マジか」

焔「敵の大将さんが居るんだな?」

ハープ「この暗さ、邪魔な枝葉…目を引く蒼い炎のおかげで視認はできないがね、間違いない」

限「…次に、今この状況をどう乗り切るか」

ハープ「……それについてだが」


長「…どうしようもない、か?」

疾「っ!」

ハープ「有り体にいえばそうだが、来た道を急ぎ足で…悟られないように退却するという手もある」

焔「難しくないっすか、それ」

ハープ「さあね?まあ、クリアしなければならない関門は多いとは思うがな」

ハープ「敵の懐でほぼ同じ歩幅で行軍し、」

ハープ「町に近い拓けた場所に出たら砲撃の嵐の中を背中を見せるように駆け抜け、」

ハープ「味方の錐砲の弾と、数多の銃弾を避けることができれば可能ではあるというだけのことだ」

疾「ははは、目の前の敵に突っ込んだ方がまだ希望はあんな」


疾「……あっ?」

ハープ「中央だけでなく、右でも左でも好きな方で構わないけれどね」

限「囮覚悟で来たのです、今さら躊躇うこともありません」

ハープ「…そう言ってくれると、打ち手としてはありがたいね」


ハープ「目指すは、できるだけ正面…可能な限り派手に蹴散らすといい」

焔「その隙にハープさんは敵の大将まで一直線…ってことだな?」

ハープ「……」

焔「?」



887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/11/07(月) 20:15:16.39 ID:cBWsOma+0
銃撃が始まった。

粋を揃えて一斉に放たれた弾丸は、前方で固まる標的へ襲いかかる。

突然の一斉射撃に、魔族の一群は成すすべなく斃れるだろう。


ダマ「! そこか」


前方に敵がいる。それは間違いない。

だが大将はいなかった。


それでも決死隊は、目の前の先に慌てふためく総大将がいることを願い、猛攻を続けるのだ。




ダマ「ィィィィィィィ――……」


人間の耳では聞き取れない高周波の号令が、木々の狭間を抜けて辺りの魔族に届く。

指示座標の標的から特定距離にいる全ての惨劇軍に通達。総員にて見晴らし良く殲滅せよ。人間の言語でいえばそういった内容だ。


ダマには敵の居場所がわかっていた。

銃声しか鳴らない森の中でも、的確に相手の位置を掴み取ることができていた。


それは翼ある者にしか許されない、俯瞰での戦況把握。

蒼い炎の灯りを囮とした、梢の真上すれすれの闇に溶け込む司令塔。


敵の動き少しでも感じ取れれば、いつでも指示を出せる絶好の位置。


危難のダマの居場所、それはハープ達の真上だった。



――ダンッ


ダマ「正面突破なんざ阿呆のするこった、キキキ…左右からの挟み打ちで死んでもらうぜ、マヌケめ」


――ダンッ



ハープ「マヌケっ面に言われたくはないね」

ダマ「あ?」



幹を2度だけ蹴り、枝葉を貫き、ダマの眼前にまで接近したのは、左拳を強く握りしめた少女の姿。



890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/11/08(火) 21:09:50.19 ID:0LiHWZT50
前方に特攻した決死隊は予定通りの囮。

騒ぎを立てて、少しでも注意を引きつけるための時間稼ぎ。

“嵌めてやった”と踏ん反りかえっている司令塔など、居場所さえわかれば、叩くのは容易だ。

だからハープはあえて初撃にメイスを使わず、左の拳を握った。

隙だらけの相手、防がれはしても、まず外すことはない。魔力で強化したメイスで一撃を与えるのもアリだが、一旦強化した杖で魔術を扱うには多少のロスが生まれる。


ハープ(ならばまず左手で殴り―――)ヒュ


重い拳がダマの顔面を捉えた。


ダマ「ぐッ!させるか!」


だが寸でのところでダマの腕に阻まれる。それでも充分に強化された拳の威力を殺すことはできず、


――ゴンッ!



鈍い音を立てて、ダマは緩やかに森へと突き落とされた。

ハープは殴った直後も、落下予想地点を見逃さない。


ハープ(煩い口を潰しておきたかったが…まあいい、すかさず魔術で追撃する)



決死隊の暴れる方向とは逆に落ちて行ったので、彼らが巻き込まれることはないだろう。

存分に強い、範囲の広い魔術を行使することができる。


まずは視界の悪い木々、これらをなんとかできる術でなくてはならない。風や水の術では生ぬるいだろう。

咄嗟に思い浮かんだのは火の術だが、その選択肢はすぐに取り払われた。



「“ジック・ジャガンボルッカ”ァァアァア!」


メイスを向けた先の風景が、文字通り歪んだためである。

局地的高熱によるかげろうが、森の一角を円形にゆがめている。あの熱が向かう先は?考えるまでもなく、術は編み上げられた。


ハープ「“スティヘイムの盾!”」


杖の先から魔力が展開され、瞬時に巨大な鋼鉄製カイトシールドが現れる。

盾は宙には浮かないが、留まっている間だけでも術者を守れればそれでいい。運が良ければ自由落下も微笑んでくれるだろう。


ハープ「っ!」


盾だけでなく、左手からも無詠唱にて術を展開する。

無詠唱による燃費の悪さと中級の術であることも相まって、舌打ちしたくなる程度の魔力が浪費されてしまったが悪態つく暇もない。

左手からは多量の水と冷気が放出され、盾の裏面を覆い尽くすように氷が張られた。



894 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/11/09(水) 20:21:30.34 ID:mTAmGnuo0
氷が盾を覆う直前に、膨張する熱波は幹の破片を吹きながら押し寄せてきた。


ハープ(熱線ではなく爆風か!)


銃声も掻き消える爆音が赤い風と共に疾走し、盾の元へと駆ける。

大きな盾は爆風を防ぎ、氷は強い加熱を抑えた。

それでも吹きつける熱い空気と森の破片は盾を押しやり、延長上のメイスを握る少女に衝撃を与えた。


ハープ( 、ぐ)


右手とメイスを強化。先端の盾だけが頼りだ。

盾を頼らず肉体強化により防ぐ手もあるが、辺りの熱量を量るに消費される魔力の量は盤をひっくり返しかねない。


ハープ(だが落下まで、相手に好き勝手させるわけにはいかない!)


イニシアチブを取られたままで戦えるはずがない。

後手に回り続ける奴はルーキーか、敗者だけだ。



ハープ「“ステルス・グースカル・カールグスタフ”!」


風の中・上級術。式を編み上げ、媒体の中央から強力な突風を発生させる。

反対方向にも風を巻き起こすために反動は無い。風の術の中では珍しい、術者に風の影響をほとんど及ぼさない術である。



メイスから放たれる風は螺旋を描き、カイトシールドの裏側を叩きつけられる。

裏面に残ったわずかな氷が弾け飛ばされ、熱風の余波に解かされ蒸発した。


ハープ「まずはこの蒸し暑い風をお返しする」


盾は追い風と共に、熱風吹きつける方向へとゆっくりと押し込まれる。




ダマ「…キキキキ…!来ると思っていたぞ惨劇狩りィィイ…!」


魔方陣を描く額の眼で弧を描き、魔族は笑った。

次第に、周囲の銃声も聞こえるようになってきた。



895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/11/09(水) 21:47:50.36 ID:mTAmGnuo0
――ダンッ


ハープ(盾はすんでのところで落下したか、どうせなら一発ぶつけてやりたかったが)


すっかり下草も掃われた大事に降り立ち、すぐ走りだす。

メイスに故障は無いし、魔力消費もまだ割にさえ届かない。余裕はある。


空へ向けて放たれた熱風により、森は抉られるように一角を焼け野原とした。

視界が開けたのは結果オーライにせよ、相手がこちらの奇襲を読んでいたかのような対応の早さには、まだ一枚上手を乗せられている嫌悪感が拭えない。


ハープ(掌の上で踊るのは私か、お前か)


相手は知将だ。その手は策を握っているはずだ。

それでもメイスは離さない。


敵の足下に飛びこむのもひとつの戦いなのだ。

飛び込み、手中の策を零させるのも、また戦いだ。

策士が策に溺れることもあるというのであれば、無心に敵を叩く強引さも、決して無力なはずがない。


全身に肉体強化を施し、誰よりも早く敵の元へ駆ける。

土煙りで見えないその場所に敵はいる。まずはそこを叩く。


ハープ「“スティ・アンク”!」


乱回転する鋼鉄のイカリが、煙の中へ投じられた。

イカリが敵を押しつぶす可能性など度外視。再びメイスを握りしめる。



897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/11/10(木) 20:58:22.47 ID:IAw5o+yC0
やかましい轟音。イカリが落下した音だろう。

音と同時に敵は既に煙を脱し、こちらへ走っていた。


姿勢は低く、腕を広げ、後方には羽衣が風を斬り蠢いている。羽衣が様々な形状に変化する事は、前々回の戦闘で発覚している。超硬度の刃に変形することも可能だと考えて損は無い。


ハープ(大振りの攻撃をまともに受けてくれるほど易しくはないか…なら)


俯き加減に顎を引き、上目遣いに。口元は砂漠色の布により隠された。


ハープ「―“――”―…!」

ダマ(くそ、聞こえねえな…だが構うか)



二人の距離が縮まる。互いに思惑がある。

ハープは仄かに輝くメイスを後方に構え、ダマは羽衣を揺らめかせている。

どちらが先に、どんなアクションを起こすか。

二人とも後手に回るつもりはなかったが、思慮深い相手を前にしては、出方を探るのも悪手ではないと考えていた。


ダマ「…キキキ」

ハープ「!」


だが一方は、待ちを許しはしなかった。




シドノフ「…コォオオォ」


視界の端に捉えた強く光る青の影が凶兆を告げている。

目の前には怨敵が迫るが、それより先に攻撃はやってくるだろう。



899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/11/14(月) 19:58:05.70 ID:9RvJavl+0
ハープは考えた。

目の前にダマ、横からは砲撃手が既にこちらへ狙いをつけている。


絶体絶命かといえば、実はそうでもなかった。

現状を回避する手段が残されていないということはなく、ただ“してやられた”一手であるという、それだけだ。挽回はいくらでもできる。



①術によって打ち出される鉄柱をシドノフに放ち、ダマの攻撃をメイスでいなす。

②術による鉄柱をダマの攻撃地点に落とし、シドノフの砲撃をその鉄柱によりなんとか防ぐ。

③術を解消し肉体強化へ切り替え、ダマを蹴り砲撃の射程から離脱する。

④術を解消し肉体強化へ切り替え、ダマを盾にするように砲撃から逃れる位置へ跳ぶ。


大まかに4パターンあるここから取捨選択し、アレンジを加えて行くのは容易い。

だが目の前のダマがどう反応するかによって決まる部分が多いので、相手にダメージを与えることはできないが②を選ぶことが最良のように思えた。



ハープ(決まり、予定通り“スティ・エンジュ”を…)


横目でシドノフを見やる。

最終確認として、砲撃の向きを復習しておきたかったのだ。



ダマ(!?)

ハープ(なに…?)


両者とも、決闘を左右するシドノフの姿を見て、一瞬のうちに思考が固まったようだ。

ハープには何が起きているのかわからなかったし、ダマにも何が起こっているのか、理解できなかった。



気付けば赤く燃える炎は、あちらこちらで眩く夜を照らしており、

ハープを狙っていたシドノフは、一際目立って赤く燃えていた。



908 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/11/16(水) 20:47:54.67 ID:YfoRniT90

ハープ(山火事だと…いや違う!良く見れば燃えているのは敵の雑魚だけ…!)



煌々と滾る炎が視界を広げる。

人には希望の、魔族側にとってみれば絶望の光景だ。



ダマ「くっ…!よくもッ!」ヒュ

ハープ「!」


振られた羽衣の刃をメイスで受け止める。

重い一撃だが、強化された鉄棒を断つほどの威力はなかった。


不意に先手を取られたハープは連続して放たれる羽衣の刃に暫し防戦するが、口では詠唱を開始する。

先に詠唱だけ済ませて、魔力による強化を解くと同時に一気に式を完成させて術を放つ。ある程度の技量が必要なテクニックだが、不可能はない。



ハープ「“イアス”!」


炎の初等術。ほぼ近距離でしか効果を成さず、火を発生させるだけの術だが、火力の程は術者で決まる。

メイスの先から噴き出る炎は、大きな鞭のように撓りながら目の前を飲みこんだ。


ハープ「!」


だが炎が掻き消えてもそこに消し炭はなく、敵は後方へと距離を取っていた。素早い判断だけでは説明できない、あらかじめこちらの動きを予測しての位置取りだ。



ダマ「そう易々と殺せるとは思わなかったが、残念だ!しかしてめぇを足止めする目的はほぼ達成された!」


羽衣は蝙蝠の翼へと形を変え、魔族は高笑いと共に空へ駆けあがってゆく。


このまま再び捜索するとなれば、かなり手間取るだろう。空を飛ぶ相手を再び見つけるのは至難の業だ。



ハープ「逃がすものか…!“スティ・”…」

「貴様が“危難のダマ”!友の敵だ!殺してやる!」



少女が術を放つより先に、火炎の弾丸が飛んでゆく。



912 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/11/16(水) 23:46:23.50 ID:YfoRniT90
赤い火の粉の軌跡を残し、炎に包まれた物体は真っ直ぐ空へ伸びてゆく。


ダマ(クソが!魔術を扱える奴が複数いたとは!)


空へ離脱しかけた彼も、接近する異変に気付いた。

赤く赤く燃える火の玉。まるで、シドノフの砲撃のような攻撃である。



意表を突かれた為に回避はできない。それでも防御はできる。


とはいえ、今羽衣は“翼”を成している。この場で翼を解けば、地上に落下してしまうだろう。

そうなれば敵の思う壺、再び“惨劇狩り”と戦うことは必至だ。それだけはなんとしても避けなければならなかった。


ダマ(多少のダメージは上等だ下等生物め!腕で止めてやる!)



惨劇軍の大半は熱、それも炎に弱い。

ダマのような希少種に関してはある程度例外ではあるが、それでも炎という高エネルギーをその身で受けて平気であるはずはない。


強化した左腕を延べ、高速で接近する炎の弾丸を受け止める。


――ドッ



ダマ「――はッ…ぁあああ!?」



炎の弾。炎の塊。爆炎を孕む砲弾。

彼がイメージするそれら全てを凌駕する激痛と損傷が、左手を襲った。


ダマ「ギャァアァアアァッ!?」



手の甲を貫き、深々と広げられた傷口。そこから伸びる、白熱の刃。


爆炎の塊などという生易しいものでは決してなかった。当たれば消えるような軟弱な魔術ではない、遥かに凶悪かつ、強烈な一撃だ。

ジャベリンの刃全てが白熱し、刀身は造られた肉体を、それも傷口の内部から焦げ付かせる

。もはやジャベリンは、肉体強化のみで防ぐことできるの熱を遥かに上回っていた。



ハープ(なんだ…今のは)



腕が焦げ尽きてしまう前に、ジャベリンは強引に引き抜かれた。

余裕なくジャベリンを放り捨て、ダマはわずかに炎をこぼし続ける左手を抑えながらも、不安定に飛び去っていった。


それは命からがらといった、無様な姿でもあった。



917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/11/17(木) 20:07:30.63 ID:TUbHrnLy0
「逃げられたか、追いかけるぞ」

ハープ「!」


自然と、空を舞う火花の軌跡を目で追っていた。

振り向けば、そこには炎を背にして立つナガトの姿があった。


長「魔術は便利だが、取り回しの良さはさほどでもないようだな」


紐のように細い鎖を強く手繰り、一息でジャベリンは右手に戻ってきた。茶褐色の刀身の先は熱で赤く光っている。

血を払うように刃を振ると、眩しい火の粉が土の上に落ちた。



ハープ「…その獲物は、術ではないと?」

長「“トビヒ”」

ハープ「なに?」

長「こいつの名だ、戦いが終わった後にゆっくり、ホムラ本人にでも聞くんだな」

ハープ「ホムラ…」


「いやぁー、こええこええ、走ってねーと自分で出した炎が追っかけてくるからよー」

「スピードに乗せる斬りの有効性は高いですが、ハヤテさんの動きにはまだまだ課題がありますね」


ハープ達のもとに、他の者も集まって来た。

3人とも服に煤がついてはいるが怪我はないらしい。どうやら、自ら生み出した炎による汚れのようだった。


ハープ「お前ら…」

疾「特攻って一度攻めたきり死ぬもんだと思ったけど、いやー全然だな?銃から刀に持ち替えてからは、死ぬ気というか、怪我する気すらしねえや」

限「もう少し緊張感も持つべきですね」

焔「山火事になってないよな…大丈夫だよな…?」


ハープ(あのわずかな間に、ここ一帯を包囲していた魔族全てを討伐したとでもいうのか)


それぞれが握る赤熱の刃を見て、ハープは驚きを隠そうともしなかった。

敵の逃げた先にすら、しばらく目もくれないほどに。



927 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/11/18(金) 20:20:54.48 ID:Us0FtVvD0
4人全員が怪我もしていないというのは、さすがの俺の予想外だった。

そもそも近接武器で奴ら相手に圧勝してしまったという事自体がおかしいのだが、実際にヒバシ石の武器を使ってみれば、そんなものは当然の結果だ、とも思えてしまうから仕方ない。


すぐに高熱を発生させるヒバシ。

そして熱に弱い惨劇軍。敵にとっては相性最悪な武器と言えるだろう。


なにせ熱く燃えた槍を横に凪いでやっただけで、ロッコイとやらの大きな岩のような盾を引き裂いてしまったのだから。



ハープ「……」

焔「あ」


ハープさんは複雑な表情で俺の事を見ていた。

一瞬だけ俺の手に握られた槍の見て、またすぐに俺の方を見る。

この武器について色々と突っ込みたいところがあるのだろう。



ハープ「ふん、使えるものなら使えるものと、早く言え」

焔「あー…まあ…うん」


前からハープさんは刀剣類に対して厳しい評価をしていたので、なんとなく言えなかったのだ。

言う機会もあまりなかった、というのもあるのだが。



ハープ「原理を詳しく訊く暇はないが、銃は必要なさそうだな?」

疾「おうよ、この刀、銃よかよっぽど効くぜ!」

長「むしろ銃で突撃した当初は押され気味だったくらいだな」

ハープ「…そうか」


首元のゆるい布を口へ引っ張り、表情を隠す。


ハープ「なに、使えるものはどんどん使っていこう…新たな課題が出来たからな、再び対策を立て直すぞ」


でも彼女はきっと微笑んでいるに違いない。



937 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/11/24(木) 20:15:31.46 ID:Q+n3qWdR0
ハープ「敵は太陽橋の方向へ飛んでいったな、私はそっちへ行くが…敵に逃げられた今、もはや全員で向かうメリットはない」

疾「なんでだよ、数で蹴散らしてやろうじゃんか」

ハープ「大勢で向かえば逃げられるだけだ、少数で奴に“勝てる”と思わせなければ」

焔「それって結構危険なんじゃ…」

ハープ「私以外は危険だな」

長「……」


限「つまり、ハープさんが相手に一騎打ちを仕掛けると?」

ハープ「空中の奴とまともに対抗できるのは私だけだからな、相手が乗るかは怪しい所ではあるが…」


ハープ「上位種といえども惨劇軍、所詮は“駒”だ」

ハープ「与えられた命令通り、奴は町を破壊する、諦めはしない」

ハープ(そして、私の抹殺も同等の優先度のはずだ)


長「分かれて行動する、と?」

疾「決死隊の役目終わり?」

ハープ「帰ってもいいぞ、今ならまだ辛うじて開戦前かもしれん」


――ドゴォォ……ン


焔「あ」

ハープ「…どこかで戦いが始まったようだ、もはや引き返せなくなってしまった」

限「我々はここで前線で戦う?」

ハープ「町へ攻め込む前に、叩けるだけ叩く」

焔「……」


どうやら、更なる戦いの渦中へと身を投じなければならないようだ。



938 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/11/25(金) 21:37:35.28 ID:dSZBdI1g0
ハープ「…お前らの手にしている不可思議な魔具についてとやかく言うつもりはないが――」

限「魔具ではないそうです」

ハープ「……ともかく、その得物に自信が持てるというのであれば、私からは何も言わん」

疾「シドノフだろうがロッコイだろうが、あんなトロい野郎共ならいくらだって倒せるぜ」

長「俺も、今のところ敵は無いな」

ハープ「…カギル、ホムラ」

限「可はあり不可は無しといったところですか」

焔「俺はまあ、この調子なら大丈夫なのかな…ふとした拍子に死んでるかもしれないけど」


気が付いたら背後から砲撃浴びて四散、ってのもあり得なくはない。

俺の不注意なら現実味はもっと強まるだろう。


疾「おいおい、縁起でもねーこと言うなよ…」

ハープ「縁起も兆もないさ、戦場で人が死ぬなど当たり前、日常だろう」


ハープ「全員戦意はあり、生き残る算段はあるということだな?ならば各々が分かれ、より広範囲で敵の足止めを行うこととする」

ハープ「私は太陽橋へ向かいダマを蹴散らすが、一人は一緒に来て陽動役を務めてもらう」

ハープ「陽動が雑魚を潰し、ダマを怒らせ――そうして痺れを切らしアクションを起こしたダマを、私が刈り取る」

ハープ「もちろん、陽動がなくとも私は見つけ次第戦いを挑むつもりだ」


限「陽動一人以外は散開…いいでしょう、裏方の役目を果たします」

長「俺が陽動に行きたいところだが…」

ハープ「ナガトは先程の一撃を警戒されているだろう、ダマが逃げるかもしれん」

長「適役ではないか…まあいい、一矢報いただけでも俺は最高に幸せだ…雑兵の相手を請け負おう」

疾「おっしゃ、じゃあ俺が…」

ハープ「足が早かったな、太陽橋とは反対側へ行ってもらおう」

疾「…っしゃあ」


焔「…となる、と」

ハープ「一緒に来い」

焔「わかった、俺が陽動になる…隙だらけならなおのこと、適役だろうしな」



940 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/11/26(土) 20:53:20.82 ID:iSfRHWmS0
別行動が始まる。

ここから先、ヘタを踏めば一瞬でお陀仏になるだろう。

爆死か圧死か斬死かも、選ぶことさえできないだろう。

油断が即、死へと繋がる。誰もサポートなどしてくれない孤独な戦いが始まるのだ。


そういえば初日にはナガトも一人でそんな戦いをしていたんだっけ。思い起こすほどにすごい人間だなと思う。まるで修羅だ。ジャベリンでよくそこまで戦えるもんだ。


ナガトが歩んだであろう修羅の道を踏襲するように、先にハープさんが。そのあとを俺が進む。

槍の先を前に向け、枝葉に掠らないよう細心の注意を払う。


俺とハープさんの二人は太陽橋を目指し、整備されていない林を駆けていた。



ハープ「急げよ、手負いのダマがまだここに残っているんだ、奴は今回の襲撃で町を落とすつもりに違いない」

焔「! 決戦っていうことか」

ハープ「また逃げられれば話は変わるだろうが、片腕をやられてもこの執着、自棄ともいえる…そう尻尾を向けることもあるまいな」

焔「…頼んだぜ、ハープさん」

ハープ「頼むのはこっちの方だ、お前がミスしないかどうかに全ての命運が――」

焔「いやいや」

ハープ「?」

焔「ハープさん、この町のためにありがとう…そして、これからも、頼む」

ハープ「……」

焔「ハープさんの一手に危難のダマを倒せるかどうかが、そして町を守れるかどうかが大きく関わっているんだ…だから、改めて」

ハープ「…律義だよ、お前は」


ハープ「……“危難のダマ”を討伐すれば勝利も同じだ、乗り切るぞ、この戦いを」

焔「ああ」


小さな背中が、亡き祖父のように頼もしい。

栗色の髪の女が勝利へと導いてくれる。言葉の由来は、そっちの方で、やっぱり正しいのかもしれない。



942 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/11/26(土) 23:37:17.72 ID:iSfRHWmS0
いつも以上に身体が軽い。

走り慣れていない最悪なコンディションの地面でも、脚が勝手に最善の場所を選び、踏みしめてゆく。


疾(ありがとよ、ホムラ)


普段は人を躓かせるだけの根っこも、今では都合の良い加速装置だ。

仕事時の倍の肉体強化を込めた脚だと砕けてしまいそうになるが、構いやしない。疾さこそが全てだ。


疾(お前がくれた刀のおかげで、俺はこの手で家族を守ってやれる)


行く手を遮る葉も、草も、全て無視。

薄い強化の膜が軽い鎧になり、全ての障害物を感触なく弾いてくれる。


疾(学はねえ、不器用で職人にもなれねえ、できるのは身体の強化だけ…だが今ここにもうひとつ!人に誇れるもんができたぜ!)


勢いよく土を蹴る。

身体は大きく浮き上がり、そのまま小さな崖を放り抜けた。


体が風を掻き分け先へと進む。今までにない、最高の気分。最高のスピードだ。

もう何も怖くない。



疾「―――」



高く浮き上がり、落下を待つだけの体。

おそらく着地地点であろうその先には、無骨な金属の大剣を握りしめた魔族共が6体、固まって歩いていた。


疾「こりゃあ随分、大所帯で…」

タイエン「……―――」



6つの青い目が、翼の折れた空中の鴨に目をくれる。

低く構えられた剣。落とした腰。そして、鎧のような体表の隙間からこぼれ始める、青い炎。



疾「俺の武勇伝にされてえってか!?」


上等だ。刀の煤にしてやるぜ。



946 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/11/27(日) 00:40:44.52 ID:cV8Ho0wp0
光を反射しない、素焼きのような刃が飛んでゆく。

枝分かれした狭間を通り、蜘蛛の巣を蹴散らし、真っ直ぐ、標的のもとへ。


この暗さでは、当たったかどうかを知るには近づかなくてはならないだろう。

しかしそれには及ばない。



「ホォオオオッ!?」


俺が闇に投じたジャベリンが、遠方の魔族に当たった。

命中した場所は盾のようだ。刃は深く突き刺さり、わずかに赤熱している。


赤い光が、着弾点の辺りを照らす。浮かび上がる取り巻きの魔族達の姿。



長(シドノフ、シドノフ、ヤハエそしてロッコイ…なるほどな、気付かれると厄介だ)


薄ら暗い敵影を瞬時に確認し、勢いよく鎖を引き抜く。

瞬間的に引き抜いた摩擦によって、ロッコイの盾は更に燃えた。

刺された箇所からは炎が立ち込める。敵の集団が慌てふためき始めると同時に、ジャベリンは俺の手元へと戻った。


長(敵に明りが灯った…場所を変えるか)


ジャベリンを振り、火の粉と共に熱を払う。

敵はまだこちらに気付いていない。



951 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/11/27(日) 21:37:07.80 ID:cV8Ho0wp0
突如として自慢の大盾が燃え、混乱するロッコイ。

危険な熱を纏う防御役を見て、対処に戸惑う取り巻き達。



長(怖いか、火が)


総大将に一矢報いた後でも、ナガトの復讐心が鎮火することはない。

位置を変え、直線上に敵を据える物陰でジャベリンを構える。


長(力に侵される恐怖を、お前らも感じ取れるのか)


刃の先端は未だに熱を帯び、赤く光っていた。

掠るだけでも洒落になれない火傷を負うだろう。刺さり、さらに刃が熱を得れば、傷口がどうなるか。見るに堪えない光景が広がることだろう。


長(ならば、お前らも恐怖しろ!)


柄頭に指の先を構え、掌で柄を包み込む。

力を込めるのは指。腕全体のバネ。捻られる腰。

そして、それら全てを最善のタイミングで解き放ち、芸術的なほど正確に長い直線を描きながら、ジャベリンは赤い尾を引き飛んでゆく。


――ドッ


赤い尾の終着点で、一際明るい火花が散った。


シドノフ「コォッ…!?」


より鮮明に照らされた場所には、腹部に深くジャベリンを刺し込まれた巨体が見えた。

身体に纏う青い炎は赤い炎に侵され、瞬く間に内側から焦がされてゆく。


ヤハエ「…!」


ここにきて魔族達は、遠方からの刺客の存在を悟ったが、全ては遅かった。

二投目のジャベリンが、もう一体のシドノフの頭を狙っていたから。



955 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/11/28(月) 20:15:14.00 ID:m1ADrVoD0
――ジャラ


細く、しかし強い鎖がわずかに垂れる。

伸びる二本の鎖の先には、炎に包まれた巨人が悶えていた。



シドノフ「コォオオッ…!」

赤い炎が全身に回り切り、異臭を放つ者。


ロッコイ「ホォッ…ホォオオオ!」

盾一面に炎が広がってしまい、それでもなんとかもみ消そうと暴れ回る者。


ヤハエ「…!」


唯一無傷で残されたのは、他の魔族の炎を消す術を持たない、今はただ鋭い爪を持つ“だけ”のヤハエ1体のみ。

2体のシドノフを突き刺す2本の鎖に挟まれるようにして、ただただ、ヤハエはうろたえるしかなかった。それでも。


ヤハエ「ッ…ルォォオオオオオッ!」


それでも、さすがに気付くのだ。

突然飛んできた鎖の先に潜む、刺客の存在に。怨敵、人間の存在に。

魔族の長、キキに仇をなす、人間の存在に。


ヤハエは同胞の“消滅”を決め込んで走り出した。

燃え上がるシドノフも、ロッコイも自分以上に有用な駒だ。しかしもはや使いものにはなるまい。そう判断したのだ。


彼の頭の中で一つの目的が決定された。

この伸びた鎖の先に存在する人間を殺すこと。まずはそれを遂行しなくてはならない。

シドノフを2体、ロッコイを1体片づける人間だ。優先度は高い。



長「……」


ヤハエの眼が人間の姿を認めた。手元には細い鎖が認められる。同時に、これが危険な人間であると断定した。

キチン質の鎧に包まれた両足で土を蹴り、素早く標的に接近する。

ヤハエの腕は伸びるため、人間が一般的に扱う近接武器では彼に先手を打つことは不可能だ。


ナガトとの距離が十分に縮まり、ヤハエは繰り出そうと身構える右腕に勝利を確信する。




長「“延”…!」

ヤハエ「!」


交差し、勢いよく引かれる、両端の鎖。

二本のロープの交点はナガトの目の前で火花を散らし、それはヤハエの突入を阻むかのように、凶暴な音を上げ続ける。


鎖の巻き取りは、恐ろしく早かった。ヤハエが全力で駆け、それでも間に合わない。


熱せられ、火の玉のような形相となったジャベリンはナガトのもとへと飛び――

その寸前で、ヤハエの両脇を削り取った。



957 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/11/29(火) 18:46:30.05 ID:6Gxo3NqT0


ヤハエ「……ル、ォオォン…」


――ジャラッ



鎖は戻り、2本の煌めくジャベリンは手元に収まった。

目の前に呆然と立つものは、もはや背骨らしき部分しか残っていない魔族。


灼けたジャベリンを勢いよく引き戻し、彼の腹部を大きく削いだのである。


わずかな焦げ香と炎を上げて、魔族の亡骸は土の上に倒れ伏した。

遠方で苦しみにもがいていた大型の盾や砲台も、静まり火花を吹いている。



長「…まだまだ、弔いは終わらせないぞ…!」

長「お前らの命、全てを貫くまでは!」


甦った怒りの衝動のままに、男は森の中へと突き進んでいった。



958 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/11/30(水) 20:54:09.86 ID:NaD3g9m10

地と垂直に構える二本の剣。

左右対称に、燭台のようにして静止されている。

中央で静かに口を噤む男の表情は穏やかで、正面よりやや下方に目線が突き抜けている。


彼の構えが剣技の構えであるとするならば、それはとても静かで、ある意味とても美しいものである。

動かず、揺るぎもしない左右対称の構え。脚すら広げず、踵同士を付けた、不動の体現ともいえる姿。


ヤハエ「……」

タイエン「……」


演武であれば美しい立ち姿だ。

演武であれば、舞いの間だけは強く映るであろう、凛々しい姿が見られたかもしれない。

しかし彼の周囲に立つ4体の歩兵は、適度な間合いを取り、それぞれの凶器を最善の位置に据え、隙を窺っていた。


彼らが一斉に飛びかかれば、いかに流麗な演武の最中であっても、狙われた者は殺されるに違いない。

数の暴力とは言ったもので、彼の闘い結末は、そういった味気ない当たり前によって、幕切れされるかと思われた。



960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/12/01(木) 20:58:18.40 ID:ojJFSZb00


魔族が咆哮を上げると同時に、双剣が揺れ動いた。

1時50分か10時10分かのどちらかを示すように交差する。


限「…」


無意味な動作だと嘲笑う黒い爪が、背後からカギルの首に迫った。

巨大な剣は、法衣ごと胴を叩き斬らんと、大振りに溜められた。


それら全ての攻撃は同時に行われたものだったが、金属の擦れ合う音が一際目立って長鳴りした時、それら暴力は届くことなく、無力化された。



強く弾いた双剣が、まずは手始めと炎の唸りをあげ。振り回され、他者の爪や剣を斬る度に、“火箸”はその火力を限りなく増してゆく。

回りながら振るわれ続けるヒバシは、剣の範囲よりも遥か外へ炎を吐き出し、踊り続けた。



限「……さて、次に」


演武が終わった後に残ったのは、焦げ、無数に切り刻まれた亡骸だけであった。



964 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/12/05(月) 23:02:55.39 ID:uMuIll+00



「錐砲、順調に稼働してるぜ!」

「威力は上々、シドノフの砲撃よりも射程は長い!爽快だぜ!」


巨大な組み木の塔から、てこの原理で岩石が放たれる。

戦闘によって崩れた煉瓦壁の破片を固めた、質量重視の砲丸。

油を染み込ませた布で包み、着火した後すぐに放たれる。


番「弩砲は!?」

「ああ、問題ない!上方に傾ければ随分と当たる!」


大きな反動を設置した地面へ逃がし、駆動する機械が巨大な矢を放つ。

要塞化されたバンホー。鳴り響く戦闘音はその夜、家でこもっていた子供たちの耳にも届いた。


番(現在確認されている敵の出現位置はここ、ここ…あとは…)


地図に赤丸を記し、弩砲と箇所および高さと見比べる。


番「…ここです!人員を増強して、連絡係も一人つけてください!西側の敵の横を叩けるかもしれません」

「あいあいさぁー!」


指示ひとつで、屈強な男達は急ぎ足で散ってゆく。

全能感は無い。


番(…失敗はできない!)



966 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/12/06(火) 20:48:42.74 ID:Aw7wgiFi0



鐸「大変だぞ、ツガエさん!」

老いも忘れて飛び入ってきた彼の手には、一枚の紙が握られている。

地図だ。ツガエはすぐに察した。


鐸「例の崖だ!あっちから、今度は多勢でやってきやがった!」

番「数は…!」

鐸「青行灯が十はある!ロッコイとかいう野郎も、多分同じくらいだ!幸いここはまだ遠くだが…!」

職人「あっちには錐砲も弩砲もあるが、位置が悪い…相手には高さがある」

番「…錐砲はまだしも、弩砲は届かない」

鐸「それに横ならともかくとして、錐砲だって高く調整し直すには時間が足りないらしい、どうすりゃいい!?」

番「…す、錐砲…高さ調節は難しいとなると…」

鐸「奴らに先手を打たれちまえば終わりだ、まして、錐砲を狙い撃ちにでもされたら…」



鎬「……弾だ、形を整えて、軽くしな」


番「! それだ、弾自体の重さを減らしましょう!あと形も…!それなら飛距離がある程度までは伸びるかも…」

鐸「おお!そりゃいい!」

番「あと一発は坂に放って、燃やしてみましょう!正面から来る相手を足止めできるかもしれません!」

鐸「わかった!それでいってみる!」


老人は再び地図を握り、駆けていった。


番「……あっ」


同時に、横からアドバイスをいれた老人も消えていた。



969 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/12/07(水) 23:12:12.43 ID:qm2I9wQA0

道中で運悪く対峙した惨劇軍は仕方がない。逃げようもないので、舌打ちするハープさんが魔術で片づける。

中距離から、魔族がこちらを見つけてくる場合もある。そういった時は無視を決め込むのだが、追いかけてくる奴もいる。しぶとい手合いは後方の俺が槍で一突きにする。


遠距離に見える青い炎は当然のように無視するのだが、そいつら全てが町へ向かうのだと思うと、気が気でない。

とはいえ俺には俺の役目がある。俺にしかできない事があるのだ。


ハープ「よそ見をするな」

焔「!」

ハープ「こちらの目的はダマ一体のみ、町の心配は二の次とする」

焔「わかってる、もう大丈夫」

ハープ「お前だって二の次だ、もう最初の時のように守る余裕はない」

焔「大丈夫だって、そんなヘマはこかないからな」

ハープ「死ぬなよ」

焔「自分の始末は自分でつけるって…あっ」


足を止める。

商売物だらけの凹凸の激しい道で、偶然にも斜めへずれた視界に入った異物。

暗くも色を残す世界に垣間見えた、闇に消えそうな赤。


焔「…ハープさん」

ハープ「!」


あっち。対象物を指で示す。

ハープさんは口角だけ吊りあげて、小さく頷いてくれた。



972 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ 2011/12/08(木) 19:07:27.58 ID:xNskpXwE0

周囲にシドノフの姿は見当たらないので、誘っているわけではなさそうだ。

となれば今のダマは無防備そのもの。傷を癒すために休んでいるとすれば、絶好のチャンスだ。


ハープ(近くの魔族と交戦しろ、長引かせてな…計画通り、私がそこを突く)


布で口を隠す。それきり、ハープさんは俺の反応を待たずに走り去っていった。

彼女はダマに現れる致命的な隙を突けるポイントへと向かったのだろう。


焔(…そして、俺は)


今までよりも急斜面。足を挫いて転倒すれば、頭を打ちながら落ちて行くに違いない。それほどの斜面だ。

不安定な足場だが、飛行できるダマにとっては急速にうってつけの場所かもしれない。

いざ俺が手下の魔族を相手に暴れようとも、空をテリトリーにできるダマには有利な地形。いざという時の逃げには、余裕もあるだろう。


――その慢心を、ハープさんが突くのだ。



焔(俺はダマの目の前で暴れて回る、馬鹿なエサだ…奴が直々に俺を殺しにくるかもしれない)

焔(…運悪く死んでも、構わない…それはつまり、ハープさんが確実にダマを殺すということだから)


斜面の上にへばりつくロッコイを見つけた。その向こうには、木の影に隠れるハープさんが。

遠くて表情は読めないが、きっといつも通りの無愛想に違いない。


焔(……)


彼女にはどういう意味であれ、いつでも微笑んでいてほしいなと思った。


焔(よし、やるか)



973 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ 2011/12/10(土) 00:25:21.97 ID:qk4exa3F0
広めの大きな槍。

銘は“ハナビ”。ヒバシ石と食土で打たれた、発火と発熱を性質とする槍。


余ったヒバシ石と食土をふんだんに使った、他の得物よりも遥かに火力の高い槍だ。

一突きすれば、モノによっては対象は内側から爆散し得る、危険極まりない兵器となってしまった。

この槍を扱う場合には、常に槍を自分の視界に収まる範囲に構えて御するか、槍を後ろに構えて炎に焼かれる前に走り続けるか、どちらかしかないだろう。



焔「おらぁああぁあぁああッ!」



斜面を横に駆ける。標的は前方、無防備なことに単体で歩いているロッコイだ。

幅のある槍先は後ろに、地面に擦るようにして垂らし、そのまま走る。

樹の根にひっかかる度、その火力を増す槍よりも早く走る。焔が俺を追いかけてくる。



爆炎を背に走り寄る俺は、奴の眼には鬼神の如き姿に映っているだろう。

ああとも、死を覚悟した戦士だ。狂戦士は当然、鬼神のようでなくちゃいけない。


今ならば、たとえシドノフが遠距離からこちらを狙っていようとも、躊躇なくそいつに突撃することができるだろう。

左右に踏みこみ、槍を軸に跳ね、砲撃を避けるのだ。

無謀にも巨体な魔族との距離を己から詰め、この刃を突き立ててやるだろう。



ロッコイ「ホォ…!」

焔「はァ!!」


背から取り回し、槍を前へ向ける。

吹きすさぶ炎。翻る熱風のマント。敵の盾を瞬時に焦がすこいつはおまけに過ぎない。


本命の槍は、音も立てず、いとも簡単にロッコイの胴体へと突き刺さる。いや、刺さった感覚は無い。

もはやロッコイは燃え尽き、槍は手ごたえもなく空を切った。



――ボン



爆風が槍の軌跡を追うようにして、辺りに渦巻く。


暖かすぎる夜の風が、俺の闘争心の火種を鼓舞し燃え上がらせるように、森へ拡散していった。



977 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ 2011/12/12(月) 19:21:25.57 ID:mY+adnYA0
一連の流れを見ていた。

激しい火傷に痛む腕を抑えながら、馬鹿な敵兵の戦いの様を見ていようと。


ダマは戦慄した。真新しい傷の残る腕が激しく疼いた。


敵は“惨劇狩り”一体だけでないことは、先程の不意打ちで解ったのだ。

炎の弾を打ち出す術。恐ろしく威力の高い魔術を操ることのできる使い手がいる。


ならばと。魔術士の傾向として強い“身体能力の低さ”を抑えるために、ダマは軟弱な人間の踏み入り難いであろう山の斜面へと逃げてきたのだ。



誤算であった。

敵の魔術師は“惨劇狩り”一人のみで、その他遊撃に加わった者たちは皆、一般的な人間だった。

彼らの扱う武器が、あまりにも常軌を逸していたのだ。



ダマ(あの武器は危険すぎる…!)


眼下で繰り広げられた、あまりにも一方的すぎる一対一。

摩擦により法外な熱を発する槍。先程自分を襲った刃もこの類に間違いないだろう。


上位種である自分が強化した腕で防ぎきれなかった武器だ。

いかに防御に優れた下位種であろうとも、あの一撃を防ぐなど不可能と断ずるにいささかの躊躇もいらなかった。


ダマ(雑魚共集まれ!消さなければならない標的が、ここにいる!)



高音による命令が森を伝う。全てを割くことはできないが、生半可な兵数で太刀打ちできる相手ではない。


ダマ(!!)


そこまで思考して気付く。

炎を操る奴がここにいるということ。それを警戒して、自分が命令を発信するというごく自然な流れ。その意味。



ダマは無意識に後ろへ向き返った。



980 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ 2011/12/13(火) 21:02:12.27 ID:APcnP6Z+0
羽衣を広げ、死角となるであろう左右を斬る。枝葉が散る。


ハープ「“stenj”」


網膜は想像通りの光景を焼き付けた。

こちらの反応が相手にとっては早いものだったのか、物理打撃に用いようとしたメイスを空で振るう。

己の頭上に現れる金属の柱。エニグマの詠唱であれ、視界外からの攻撃であれ、相手がやってきそうなことには大方の予想はつく。


ダマ「―――」


左右に振り抜いた羽衣の中央の“捩じれ”が“輪”となり、それは腕を鳥の翼の如き形に振るうことによって、ダマの頭上へと弾かれた。

勢いよく半回転した赤色の羽衣が頭上の鉄柱を切り裂き、形を損ねた魔術の結晶は消滅する。


垣間見えた少女の「ほう」とでも言うような見下す笑みをついでに斬り裂こうと、ダマの両腕はそのまま前方へと交差して突き出された。

捩じれた“輪”は元に戻り、U字の巨大なギロチンとなって、少女が存在していた空間を見事に裂く。ギロチンはその範囲に存在していた植物を切り抜いた。


身体を打ちつける風。無詠唱による初等術はダマを吹き飛ばすには至らなかったが、少女のか細い体を空中で後退させるには十分な風力だったらしい。


ハープ「“eigzmm”」

ダマ「―――」


空中からの追撃はなおも続く。杖の先からの雷光。威力よりも出の速さに賭けた初等術。

羽衣は振られた。ならば、ジックを詠唱する時間を与えない術を放てばよい。

少女は相手が身体強化をしようとも、防戦一方を余儀なくさせる連打によって勝負を転がす手を選択した。



真下に降りた、U字の羽衣。

その鋭利な先端が樹の幹の半分にまで食い込んだ時、


ハープ「!」


腕を真横へ広げたダマが急降下した。

雷撃が空を焼く。

下方から伸びる鋭利な“刃”が、ハープの腕へ伸びる。



981 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ 2011/12/13(火) 22:58:18.05 ID:APcnP6Z+0

――カラン



双方共に、樹上にて距離を置き、太い枝の上に着地する。


ハープ(形状変幻自在の羽衣…まさか樹木に突き刺し、ロープ代わりに扱い攻撃を回避するとは…思っていた以上に厄介だ)


右手に持ったメイスだったものを見やる。

鉄製だったはずのそれは、頭の棍が鮮やかな切り口にて消え去っていた。


ダマが繰り出した羽衣の斬りつけにより、メイスはあっさりと断たれてしまったのである。

ただの鉄棒。もはや、メイスとして扱うのは困難な形状だ。



――ドォン!


ハープ「!」


爆音が轟いた。

目を真下に向けると、斜面に煙が立ち上っていた。


ダマ「俺の兵が増援にきたようだな…キキキ、下で馬鹿みてえな陽動してた人間は、これでオシマイだ…キキキキ!」

ハープ「奴など知ったことか。それよりも、お前は自分の命の心配をするべきだな」

ダマ「強がるなよ、焦りが見えるぞ?キキキキキ…」

ハープ「……」


ダマ「知ってるぞ、惨劇狩り…魔道士は杖を失ってもなお、魔術を行使できる…だが、杖を用いずに術を行使する際、魔力の変換効率は著しく落ちる!」

ハープ「親元から聞いたか?勉強熱心な魔族だ」

ダマ「キキキ、魔族語を理解できる貴様が言えたことか…さあ、まだ決着はついてねえ!おしゃべりは終いにして、そろそろ続きといこうじゃないか!?」


両腕で繋がる一条の羽衣を再び翻す。

天女の如き舞い。環状にまわる鋭利な赤が、二人の間を瞬く間に切り裂いてゆく。

範囲の読めない羽衣から隠れることは決して叶わない。


ダマ「ハッハッハァー!」


踊る凶器が、障害物を排しながら接近する。



987 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ 2011/12/14(水) 19:33:00.75 ID:embNSFRZ0
シュッ!グサッ!


ダマ「ぎゃぁああああああああああ!」バタッ

焔「危なかったなハープさん!だがもう大丈夫だ!俺がトドメをさしたぞ!」

ハープ「ホムラ!ありがとう!」

長「おっしゃあああ!!雑魚敵は全て片づけたぜ!」

疾「死んだかなって思ったけどそんなことはなかったぜ!」

番「私、町長になります!」

限「結婚しよう!」

番「カギルさん!」

ハープ「これで町の平和は守られたんだな…良かった!本当によかった!」


おわり



989 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ 2011/12/14(水) 19:45:48.49 ID:embNSFRZ0
(*・∀・)読み方いちらん
焔 ホムラ
疾 ハヤテ
限 カギル
長 ナガト
番 ツガエ
護 マモリ
鐸 サナキ
鎬 シノギ
憩 イコイ


シドノフ(砲のやつ)
m1XpEVMm


ロッコイ(盾のやつ)
RfRWjDO0


タイエン(剣のやつ)
EIVdPdaR


ヤハエ(爪のやつ)
LfXMdtYt


ダマ(上位種のやつ)
QFfqVmjo




そろそろ次のスレにいってしまおうか?



995 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ 2011/12/15(木) 06:41:57.97 ID:VIWqtiaAO

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ガタガタッ ガタッ


男「げほっ、げほっ!…ひぃ~、なんて埃だ…」

女「ちゃんと探しなさい、時間が押してるのよ」

男「つってもよお嬢、長時間この姿勢だと腰が…」

女「あら、歳?なら新しい人材を見つけなきゃ駄目ね」

男「だぁもう探すって!わかりましたよハイ!」

女「それでこそね」


ガサガサ…


男「ん……お嬢、この帳面なんかはどうかね、目当てのもんかい?」

女「えーどれ? …!」

男「お、脈有り?」

女「ナイス!良くやったわ」



996 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ 2011/12/15(木) 12:08:22.22 ID:VIWqtiaAO
女「題を見る限り、大当たりみたいだけど…」

パラッ… ボロ


女「げ、朽ちかけてる」

男「そっと開けば」

女「無茶は駄目、素人が下手に扱うものではないわ」

男「じゃあどうすんだい?そいつ」

女「今度お会いする学者さんらに、一緒に見てもらうつもりよ」

男「だからって蔵の整理してまで…」

女「どうせなら一度に見てもらった方が良いでしょう?」

男「まーそうだが…しかしなにもお嬢自ら家の蔵を漁るこたないだろ、忙しいのによ」

女「ギルドにも家臣にも任せたくないの、一応私の蔵なんだから」

男「ふーん…キシシ、探せばお嬢縁の品とか出てくるのかね?」

ゴンッ

男「ったぁ!?」



997 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ 2011/12/15(木) 12:13:43.05 ID:D7RtW3I9P
なんじゃいコレは



998 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ 2011/12/15(木) 12:16:42.24 ID:XatRtu3Go
ギルドの話が出てて、お嬢様ってところから考えると……
いや分からんけど



999 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ 2011/12/15(木) 12:21:40.72 ID:VIWqtiaAO

女「……ふ~…なんとか関係ありそうな書物は全部出せたわね」

男「し…しんどっ…」

女「ちょっと、しっかりしなさいよ…これから馬車に積み込むんだから」

男「それこそ家臣を…」

女「家臣が忙しいからお庭番に任せてるんじゃない」

男「お庭番ってなによ……」

女「はいはい、さっさと働く」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



1000 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ 2011/12/15(木) 12:26:40.85 ID:VIWqtiaAO
(栓*・∀・)-з ムギュッ

槍使い「ヤバい…砲撃だ!伏せろ!」弐



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          • 1. あ
          • 2012年05月24日 11:42
          • 感動した
          • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月25日 04:42
          • なんか終わらせ方適当じゃないっすかね
            いや知らんけど
          • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年03月18日 21:54
          • 終わらせ方すげー適当だなw

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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