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少女「それは儚く消える雪のように」 2【後編】

関連記事:少女「それは儚く消える雪のように」 2【前編】
493:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/11(水) 18:17:54.05 ID:MxHNRHcq0

こんばんは。

それでは、第六話をはじめさせていただきます。

お楽しみいただけますと幸いです。



494:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/11(水) 18:20:02.53 ID:MxHNRHcq0

6.天に空にあの場所に

雪のように、灰が舞っていた。

空から幾万もの粒子が舞い落ちてくる。

もう動かない亡骸を抱いて、俺はその灰の中、
ただ呆然と空を見上げた。

帰る場所なんて、どこにもない。

戻る場所なんて、もうどこにもない。

ここから基地に帰還できるかどうかも分からない。

俺は、軽く自嘲気味に笑って、
ボロボロの体で彼女にそっと呟いた。

「帰ろう……」



495:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/11(水) 18:20:48.75 ID:MxHNRHcq0

動かない彼女。

鼓動を止めた彼女に、俺は静かに言った。

「帰ったら……みんながいるんだ。みんな、
帰りを待っててくれるんだ。
だから……一緒に帰ろう。家に」

「…………」

「目を開けろ……一緒に帰るんだろう? 
一緒に帰れるんじゃ、なかったのか?」

その問いに答える声はなかった。

いくら待っても、帰ってくるのは
漠然とした沈黙だけだった。



496:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/11(水) 18:21:24.07 ID:MxHNRHcq0

この子が、何であろうと構わない。

たとえそれが、存在することが許されないもので
あったとしても、俺はそんなことを問題にはしない。

これからも、きっと気にはしないだろう。

それを、ただ伝えてやりたかっただけなのに。

もう、彼女は動かない。

亡骸をそっと地面に置いたところで、
体中の力が抜けた。

泥水の中にうつぶせに倒れこむ。

もう、体を動かすことが出来なかった。

……ごめんな。

お前達を、十分に愛してやることができなくて、
ごめんな。



497:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/11(水) 18:21:54.57 ID:MxHNRHcq0

ただ、守りたかっただけなんだ。

ただ、お前達と一緒に暮らしたかっただけなんだ。

でも、それは。

何よりも難しいことで。

何よりもつらいことだったんだよ。

襲ってくるのは自責の念。

狂気の感情。

そこに飛び込むことも出来た。

出来たが、それは適わないことだった。

俺はここで死ぬ。

何もかもが終わったここで、
俺はもう役目を終えるんだ。



498:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/11(水) 18:22:35.07 ID:MxHNRHcq0

だからもう、苦しい思いはしなくていいんだよ。

もうお前達のように、
つらい思いをする子はいないんだ。

だから帰ろうよ。

一緒に、戻ろう。

……手を握られた気がした。

無理矢理に顔を上げたその先に、
みんなが笑っているのが見えた。

俺は彼女達に手を引かれ――。



499:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/11(水) 18:23:16.76 ID:MxHNRHcq0



車椅子に乗せられた絆が、
渚に押してもらいながら病室に入る。

ベッドの上には、光沢がかった白銀の
髪の毛をした女の子が座っていた。

長い髪の毛は綺麗に三つ編みにされている。

視力が悪いのか、眼鏡をかけていた。

「型番、T325だ。現存しているバーリェの
どれをも凌ぐ、『ハイ・バーリェ』の
中の最終形態といえる」

表情を変えない絆に、
先に部屋に入っていた駈が
椅子から立ち上がって口を開く。

絆は駈を一瞥してから、
丸い目でこちらを見ている少女に対して声をかけた。



500:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/11(水) 18:23:59.51 ID:MxHNRHcq0

「言葉は分かるか? 
ここはどこだか、理解できているか?」

「勿論です、絆特務官様。私はT325番です。
以前の記憶は、S678番より継承しております。
姉が大変お世話になりました」

深々と頭を下げた彼女に、戸惑ったように絆は返した。

「記憶の継承に成功したのか……? 
じゃあ、圭のことを知ってるのか?」

「はい。私は前個体の全ての能力を引き継いでおります。
それはすなわち、
記憶の共有も成されているということであり、
私は、それらの算出したマイナス要素を全て克服しております。
必ずやあなた様のご満足いただける活躍をすることを、
お約束いたします」

眼鏡の位置を小さな手で直した彼女に、
絆は小さく笑いかけて、そして言った。



501:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/11(水) 18:24:32.50 ID:MxHNRHcq0

「圭は、何も間違ったことはしていない。
お前も自然体でいい……これからお前のことを、
『純(じゅん)』と呼ぼう。問題はないな?」

「それがご命令ならば、そういたしましょう。
私はあなた様のご命令に従い、
全ての要素をクリアできます。
通常のバーリェ、約二千体分の戦力とお考えくださいませ」

「…………」

また頭を下げた純から視線を離し、
絆は機械のような彼女の調子に呆気にとられている渚を見た。

「この子のロールアウト時の資料をくれ」

「…………」

「どうした? 資料をくれ」

「は……はい!」



502:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/11(水) 18:25:12.35 ID:MxHNRHcq0

繰り返した絆に、ハッとして渚は
懐に挟んでいた資料を渡した。

それに目を通している彼を見て、駈が口を開く。

「大恒王の凍結を解除する手続きをとっている。
エフェッサーは全面的に世界連盟と争う意向だ。
全く……こうしている間にも、どこが新世界連合の
攻撃にさらされるか分からないというのに
……悠長なものだよ」

「…………」

「君達には、本日づけでフォロントンに
移動してもらうことになる。
自然の壁の内部に突入して、
新世界連合の拠点を叩く作戦に参加して欲しい」

弾かれたように顔を上げ、渚が引きつった声を発した。

「そんな……大恒王を使えないのに、
どうやって戦えって言うんですか!」



503:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/11(水) 18:26:05.73 ID:MxHNRHcq0

「七○一型AAD、つまり陽月王と
同じタイプには凍結はかかっていない。
全ての武装を積み込み、フルチューニングした
君達専用の機体をロールアウトした。
大恒王からしてみればスペックは落ちるが、
通常戦闘を行うのには差し支えない性能の筈だ」

「……殲滅(ジェノサイド)システムとは何だ?」

そこで絆が押し殺した声を発した。

黙り込んだ駈を見上げて、絆は低い声で続けた。

「おそらくS678は……圭は、
過剰な人格調整をうけたがために、
戦闘システムを有する人格とそれ以外の人格とで
精神分裂を起こしていた。
バーリェの精神エネルギーは『心』の力だ。
だから、片方の人格のエネルギー指数がゼロになっても、
大恒王は再起動したんだ
……戦闘システムを有している人格が発現させた、
『殲滅(ジェノサイド)システム』の詳細を教えろ。
今度の機体にも、それが積んであるのか?」



504:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/11(水) 18:26:43.34 ID:MxHNRHcq0

「…………」

「答えろ」

鉄のような声を発した絆に、
駈は肩をすくめて返した。

「……頭が良すぎるというのも考えものだな。
君は兵士には向いていない」

「茶化すな。真面目な話をしている」

「私は大真面目だよ。いつでも、
君を茶化したことはない」

紙コップを手に取り、
傍らのウォーターサーバーから水を汲んで
口に運び、駈は息をついた。

「……殲滅(ジェノサイド)システムは、
全ての機体に搭載されているものだ。
単に、それを起動できるバーリェが
今迄いなかっただけの話だよ」



505:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/11(水) 18:27:20.74 ID:MxHNRHcq0

「どういうことだ?」

「元々AADは、『多数』の死星獣を
駆逐するために開発された代物だ
……私の口からはそれ以上のことは言えない」

「『多数』……?」

大規模戦闘を想定して作られていたとでも
言いたいのだろうか。

話を打ち切ろうとした駈に、
しかし絆は強い口調で続けた。

「仕様書には一切そんなことは書いていなかった。
それに、マイクロホワイトホール粒子って何なんだ。
どうしてバーリェが、死星獣と同じ力を持つことが出来る。
知っているのなら、全てを話してもらうぞ!」

「…………」

駈は紙コップをクシャリと潰すと、
無言でダストシュートに投げ入れた。



506:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/11(水) 18:27:54.61 ID:MxHNRHcq0

そして息をついてから絆を見る。

「一度にそんなに多量に質問をされても
答えられんな。整理して話すことはできないのか?」

「人をおちょくるのも大概にしろよ……!」

「……一つ重要なことを教えよう。とは言っても、
誓って言うが私達も『それ以上』は知らない。
全ては元老院が情報を握っている」

「…………」

「バーリェと死星獣は、元々は一つのものだ。
同じ『物質』から作り出された、人造生命体だよ」

「何だって……?」

絆は、その言葉の意味をすぐには
推し量ることが出来ずに、思わず掠れた声を返した。



507:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/11(水) 18:28:30.84 ID:MxHNRHcq0

「死星獣が、『人造』の生命体だって……?」

「私も詳しいことは知らん。
ただ言えることは、あれは新世界連合が
『ロストテクノロジー』と呼ぶ、
二百年以上前に存在していた技術を応用して
創り出された生命体だということだ。
だから、同種のバーリェで
エネルギーを相殺することが出来る」

「誰が創り出してるって言うんだ、
あんな害しか及ぼさない異形を!」

怒鳴った絆に、駈はサングラスの奥の瞳を
淡々と光らせながら、静かに返した。



508:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/11(水) 18:29:02.92 ID:MxHNRHcq0

「……分からん。『誰か』であることは確かだが、
それが分かっていれば苦労はしない。
しかし、我々はこれだけは確信を持って考えている」

「…………」

「新世界連合は、死星獣を創り出す技術を持っている。
何らかの装置か機構を入手したと考えて
妥当ではないかと思うのだ。
もしそうだとしたら、
断じてその存在を許すわけにはいかない。
破壊しなければならない」



514:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/12(木) 18:21:40.89 ID:Y7PtevAY0

「……絃が裏切ることを知ってたな。
お前達は、それを知りたくて
彼を泳がせようとして失敗した。違うか?」

問いかけられて、駈は一拍押し黙った後口を開いた。

「その通りだ。我々の捜査は失敗した。
絃元執行官のことを泳がせ、
今では新世界連合と名乗っている
組織の実情を掴むつもりだった」

「どうして逃げられた? 
それくらいなら答えられるだろう」

「…………」

駈は息をついてサングラスの位置を直し、言った。

「生体エネルギー感知機器に頼りすぎていた
……『天使一号』のせいだ。
あれはあらゆる電磁波を吸収してしまう」



515:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/12(木) 18:22:16.11 ID:Y7PtevAY0

「は……?」

「絃執行官はそれをエフェッサーの本部から盗み出した」

「天使一号……?」

聞いたことのない単語に、絆は目を見開いて駈を見た。

「何だそれは……?」

「我々もそれが『何』なのかは分からない。
分からないが、その物質はバーリェと
死星獣の組成体の元となる物質だ。
我々はそれを『天使』と呼んでいた」

「何なのか分からないものを使って、
ここまでのことをしてきたのか……!」

「ああ。だが、そのおかげで君達は死なずに
済んでいる。結果が全てだ。
学校でそう習わなかったかね?」



516:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/12(木) 18:22:51.23 ID:Y7PtevAY0

「だからって、許されることと
許されないことというのがあるだろう」

押し殺した声でそう言い、
絆は横目で純を見て言葉を止めた。

「……またの機会に、詳しい話を
聞かせてもらう。あんたも、
フォロントンに来るんだろうな?」

「無論だ。私が前線の指揮を執る」

駈はそう言って暗く笑った。

「十分な設備は用意しよう。
出撃まで十二分に体を休ませたまえ。
問答は、生きて帰ってこれたら続けよう」

「…………」

絆は吐き捨てるように呟いた。

「ああ、そうだな」



517:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/12(木) 18:23:28.44 ID:Y7PtevAY0



「……そうでしたか。それでは、特務官様は
お姉様達に、圭お姉様がお亡くなりになったと
いうことをお伝えになっていないのですね」

「ああ」

絆は頷いて、駈が出て行った病室の中、
純を真正面から見た。

「酷なことをしたとは思っている。
しかし、真実を伝えるだけの言葉が、
俺にはどうしても思いつかないんだ」

「…………」

首を傾げて純は不思議そうに言った。

「どうしてですか? 隠さずに仰れば良いのでは?」

「…………」



518:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/12(木) 18:24:01.67 ID:Y7PtevAY0

「圭お姉様は、無駄死にではございません。
私という成功作を作り出す礎(いしずえ)となれたのです。
名誉の死だと、私は思います。
隠すのは、圭お姉様に対する冒涜のような気もします」

絆はそれを聞いて押し黙った。

純の言うとおりだった。

予想以上に素直で頭がいい個体のようだ。

見透かされたかのような言葉に、
一瞬返す単語が思いつかなかったのだった。

「純ちゃん、絆特務官はいろいろと
お考えなのよ……察してあげて」

渚にそう言われ、しかし純は
納得がいかないという風に続けた。



519:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/12(木) 18:24:40.13 ID:Y7PtevAY0

「それとこれとは無関係だと思います。
私は事実を客観的に述べているに過ぎません。
特務官様は、私達を一体何だとお考えなのでしょうか?」

責めるような純の口調に、絆は顔を上げて彼女の目を見た。

「何だって……お前たちをか?」

「はい。お答えください」

「…………」

一拍押し黙って、絆は言った。

「俺達と何ら変わらない『生き物』だと思うよ」

「それが大きな間違いです」

純は即座に絆の言葉を否定した。

これほど真っ直ぐにバーリェに反抗されたのは
初めてのことだったので、絆は思わず口をつぐんだ。



520:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/12(木) 18:25:26.80 ID:Y7PtevAY0

「私達は、人間ではありません。
人間になろうとしても、人間にはなれません。
特務官様がいくら頑張っても、私達は私達以上の
ものになることはできないのです。
あなたが仰っていることは、
私達にとってとても酷なことです」

「…………」

「圭お姉様が浮かばれません。
どうか、私のことは『バーリェ』としてお扱いください。
生体弾丸として、単なるシステムの一部として
お扱いくださいまし。
それが、今迄に亡くなった全ての
バーリェ達への供養となります」

衝撃を受けていた、という表現が一番正しいかもしれない。

純が言っていることは、分かっていた。

全て知っていて、その上での発言だ。



521:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/12(木) 18:26:24.58 ID:Y7PtevAY0

だから今更それを繰り返されたところで、
何を感じるでもなかった。

しかし絆は、「誰かに怒られる」という経験を、
産まれてこの方、殆どしたことがなかった。

考えてみれば、小さい頃から優秀であろうとしていた
自分は、親にも、教師にも褒められはしたが
怒られたことはなかった。

純が絆に向けていたのは、
純然たる憤まん、怒りだった。

叩けば死にそうな外見をしているのに、
その怒りは絆の心を強く抉った。

――バーリェはバーリェであり、人間ではない。

分かっていたことだ。

そんなのは言われなくても分かっていて。

トレーナーを始めた頃から、自覚していることだ。



522:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/12(木) 18:26:59.00 ID:Y7PtevAY0

しかしそれを改めてはっきりと、
他ならぬバーリェの口から言われると、
また違う威圧感があった。

「…………お前は、死にたいのか?」

そう問いかけると、純は何の迷いもなく頷いた。

「はい。私は、それこそがバーリェの本質だと考えます」

絆は息をついて純から視線を外し、窓の外を見た。

桜の花も、そろそろ終わる時期だ。

……そういえば、バーリェ達の墓は、
なくなってしまったな。

どこかに別の墓を作ってやらなきゃな、
と頭の片隅で何となく思う。

「そう考えているうちは、お前は性能以上
力を出すことは出来ないよ」



523:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/12(木) 18:27:41.35 ID:Y7PtevAY0

しかし、だいぶ考えた末に絆が出した言葉は、
純の言葉を否定するものだった。

純は眉をひそめて絆を見た。

「どうしてですか?
私は、通常のバーリェ二千体分の……」

「バーリェの生体エネルギーは、心の力だ。
心っていうのは、理論では測れないものなんだ。
お前がいくら頭が良くても、
何もかもが計算どおりにいくっていうわけじゃない。
その考えは、改めた方がいいな」

絆はそう言って、純に向かって軽く微笑んだ。

「まぁ、おいおい話していこう。
お前の姉さん達を紹介する。ついてこい」



524:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/12(木) 18:28:18.91 ID:Y7PtevAY0

純はまだしばらく、釈然としなさそうに
俯いていたが、やがて小さく頷くと立ち上がった。

圭のように四肢のどこかが
欠損しているというわけではない。

仕様書を読む限りでは、眠らない不具合も
継承しているようだが、
まさにパーフェクトなバーリェであると言えた。

言えたが、絆は同時に純を見て、
猛烈な不安を感じてもいた。

圭の時には感じなかった不安だ。

この子の存在は、確実に「あってはならない」ものだ。

人間が到達していい水準を遥かに超えている。

それが果たして、自分達にプラスになるのか、
マイナスになるのか分からなかったのだった。



525:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/12(木) 19:05:23.38 ID:Y7PtevAY0



大型の輸送機に乗り、フォロントンまで
移動することになった絆達は、
その日の夕方に、既に出発を終えていた。

輸送機とは言っても、バーリェの管理専門の航空機だ。

彼女達の精神を安定状態に保つための、
最適な工夫がなされている。

いわゆる軍の殺伐とした空気ではなく、
高級ホテルのような空間が広がっている輸送機だった。

流石に割り当てられた部屋はラボに
比べれば手狭だったものの、
特に不満という不満は見当たらなかった。

絆はソファーに腰を落ち着かせ、
自分の腕に刺さっている点滴の台を引き寄せた。



526:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/12(木) 19:06:12.03 ID:Y7PtevAY0

高速で移動しているが、
内部にはたいしたGはかかっていない。

昨今の技術の進歩には舌を巻かされる。

雪と霧は、難しい顔をしてチェスの
駒の前で考え込んでいた。

その前で、純が猛烈な勢いで、
数式が羅列されている本を読みながら、
ビショップの駒を手に取った。

「チェックメイトです。二十五勝目をいただきました」

コトリと盤に駒が置かれる。

霧が浮かせていた腰をその場にへたれこませた。

雪が感心したように言う。

「凄いね……霧ちゃんには、
私もあんまり勝ったことがないのに……」



527:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/12(木) 19:06:50.66 ID:Y7PtevAY0

「どうして勝てないんですか……
私が、私がチェスで負けるなんて……」

プルプルと震えながら、霧は絆の方を見た。

「何が起こってるんですか、マスター!」

「まぁ……落ち着けよ。別のゲームもあるだろう」

絆がそう言うと、霧はムキになっているのか、
純に向かって口を開いた。

「もう一回やりましょう。
私が先行をさせていただきます」

「かしこまりました」

パチン、と本を閉じて純が駒を
物凄い勢いで初期配置に戻し始める。

その様子を見て、渚が小さな声で絆に言った。



528:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/12(木) 19:07:27.83 ID:Y7PtevAY0

「機械みたい……」

「…………」

「あの子、生き物というよりは
コンピュータに近いような……」

手を挙げて渚の言葉を制止する。

そして絆は、渚に囁くように言った。

「俺はどんな子にも平等に接する。それが方針だ」

「……すみません。口が過ぎました」

俯いて、渚が掠れた声を発する。

彼女も、絆も、体は全くもって本調子ではなかった。

特に絆は酷い。

右腕が複雑骨折して多数の金具が体の中に
入っているのに加え、左足の各部が折れてしまっている。



529:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/12(木) 19:08:02.78 ID:Y7PtevAY0

左手の指も、いくつか折れ曲がってしまっていた。

息を吸うたびに折れたアバラが痛む。

動かない箇所だけ見れば、圭の状態に近かった。

渚も同様に怪我をしている。

驚異的なのは、主がそんな状態だというのに、
全く外傷が見られない雪と霧だった。

バーリェの本能的な回避行動とでもいうのだろうか、
彼女達には傷一つない。

特に格闘技を習っているわけでもないのに、
圭の無茶な操縦にも適応していた。

またチェスの駒を動かし始めた霧を見て息をつく。

少しハラハラしたが、純は、
二人に圭が死んだことは言わなかった。

ポーカーフェイスというのだろうか、
穏やかな表情を張り付かせて、
本を読んでいる傍らで霧をあしらっている。



534:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/13(金) 18:16:23.14 ID:72uX6PGo0

既に霧は、カードゲームでも手痛い負けを喫している。

純は、全く手を緩めるつもりはないらしく、
容赦なく短時間かつ効率的に
霧の全ての手を叩き潰していた。

穏やかな顔をしているが、
やっていることはえげつない部類に属する。

霧がムキになるのも、分かる気がする。

絆はまたチェスを始めようとした
彼女達に向けて口を開いた。

「食事にしよう。一旦やめるんだ」

「マスター……でも……」

不満そうに霧が言う。

「フォロントンにつくまでに後三日はかかるんだ。
そんなに急ぐことはないだろう。
ゆっくりとやればいい」



535:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/13(金) 18:16:58.80 ID:72uX6PGo0

そう言いながら、絆は傍らの渚に
アイコンタクトを送った。

渚は頷くと、冷蔵庫に入っていたピザを取り出した。

それを小分けにして、レンジの中に入れる。

「ピザじゃないですか! 出前ですか?」

間の抜けた声を出して、霧がチェスから
目を離してこちらに近づいてきた。

純がそれを見て息をつき、本にまた視線を落とす。

「コーラもあるぞ。急いで用意させた」

絆がそう言うと、雪が顔を上げて嬉しそうに言った。

「ありがとう。こんな時なのに、絆は優しいね」

「…………」



536:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/13(金) 18:17:47.95 ID:72uX6PGo0

その笑顔に何か押し殺されたようなものを
感じ、絆は口をつぐんだ。

「コーラ? 異常な高カロリーを持つ、
コカ成分を含んだ炭酸飲料ですか」

パチンと本を閉じて、純が顔を上げる。

「興味があります。試飲させていただきたいです」

「いいぞ。ほら、飲んでみるといい」

絆はそう言って、動かない手で無理矢理に
コーラの栓を開け、コップに注いだ。

それを純に差し出すと、彼女はしげしげと
コップの中を見つめた。

「何ですか、これは炭酸の入った
コーヒーのようなものですか?」



537:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/13(金) 18:18:24.92 ID:72uX6PGo0

「いや、甘いジュースだ。
知識では知っているようだが、
実際口にしてみないと分からんと思うぞ」

「美味しいよ」

絆からコップを受け取り、
口につけながら雪が言う。

純はそれを見て、意を決したように
コーラを口に入れた。

途端、心底驚いたように慌てて口を離す。

「い……痛い……! 何ですか、
これは。飲料ですか?」

「ああ。その刺激を楽しむ飲み物だ」

「やっぱり……いいです」

しゅんとして純がコップを返してくる。



538:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/13(金) 18:18:59.28 ID:72uX6PGo0

それを受け取り、絆は口に運びながら彼女に言った。

「圭にもコーラは飲ませたが、
その記憶は継承されてないのか? 
あいつは美味しそうに飲んでたが」

「記憶はありますが……実体験をすることは
初めてでございますので。
ご存知のことかと思いますが、
私達は性質や性能に個人差がございます。
その影響で、私には合わないのかもしれません」

「そうか……」

呟いて、絆は黒い水面を見つめた。

圭も、最初はコーラの刺激に驚いていた。

雪もだ。

彼女だって最初の頃は、
むしろ嫌がっていたように思える。



539:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/13(金) 18:19:33.24 ID:72uX6PGo0

小さい頃からコーラが好きなのは、絆の方だった。

親に買い与えたもらった唯一の記憶だ。

だからこそ、なのかもしれない。

最初は中々馴染めなかった雪が、
進んでコーラを飲むようになったのは、
絆に気に入られようとしたが
ためだったのかもしれない。

それが高じて、ジャンキーのようになって
しまったのだが、それもまた良い、と絆は思っていた。

霧は、純と同じようにどうにも苦手なようだった。

というより霧は、甘いもの全般が苦手だ。

同じバーリェでも、趣味嗜好は大幅に異なる。

温かいピザをそれぞれの皿に並べた渚に、
雪がハバネロのソースをかけるようにお願いしている。



540:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/13(金) 18:20:09.01 ID:72uX6PGo0

それを見て、純が「じゃあ私も」と
乗っかろうとしたので、慌てて絆はそれを止めた。

「止めろ。ロールアウトしたばかりで
ハバネロなんて食べたら、
舌の機能が一生使えなくなるぞ」

「……それは困りますね。
どの程度私が生きていられるのかは分かりませんが、
味覚が遮断されるのは日常生活に影響が出ます」

残念そうに純が言う。

霧と雪がそれを聞いて、
怪訝そうに絆の方に顔を向けた。

妙な空気になった食事の場を、
無理矢理に収めようと絆は手を叩いて

「いただきます」

と言った。



541:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/13(金) 18:20:41.05 ID:72uX6PGo0

圭の記憶をちゃんと継承しているようで、
純も雪、霧と全く同じタイミングでそれに続く。

ハバネロなんて、普通のバーリェが
口にしたら味覚が壊されるだけではない、
身体にも多大なる影響が出る。

刺激物は出来るだけ避けたほうがいいのだが、
絆は雪に限ってはそれを特別扱いしていた。

何故か雪は、そういう刺激物に対して
かなり強い体を持っているのだ。

医師達も首を捻っていた要素だ、

ハバネロをたらふくかけてもらい、
美味しそうにピザを頬張っている雪を見て、
絆は苦笑した。

あれだけの量は、いくら自分でも厳しいものがある。



542:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/13(金) 18:21:15.66 ID:72uX6PGo0

霧はもとより刺激物に弱いので、
ハバネロ系統はにおいだけで駄目だった。

だから心なしか雪から少し離れている気がする。

チビチビとピザをかじっている純に、絆は口を開いた。

「どうだ? ゆっくりとでいい。少しずつ食べるんだ」

「塩分および脂質が過剰に使われていますね。
健康管理においては、あまり好ましくない料理です」

淡々と純が言う。

絆は呆れたように彼女に言った。

「まぁ……確かにそうだが。
それが好きな人も世の中にはいるんだよ」

「非効率的です。ですが、料理を残すということは
マナーに反します。
きちんと最後までいただきたいと思います」



543:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/13(金) 18:21:57.89 ID:72uX6PGo0

怒っているのか怒っていないのか
判然としない口調で呟くように言うと、
純はピザを食べる作業に戻った。

軽く肩をすくめて渚と顔を見合わせる。

そこで、霧が水を口にしてから純に言った。

「純ちゃんは、
圭ちゃんの記憶を持っているんですよね?」

「はい。ある程度の記憶は継承しております」

「どのあたりまで知ってるんですか? 
圭ちゃんは、別の地区に行っちゃったんですよね。
私、ちゃんとお別れを言えなかったことが、
とても心残りで……」

絆が一瞬食事の手を止める。

純は、しかし霧の方を見て
何でもないことのように言った。



544:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/13(金) 18:22:32.39 ID:72uX6PGo0

「戦闘後までの記憶は全て継承しております。
ご安心ください。圭お姉様は、お姉様達にとても
感謝をしておりました。
気にすることはないと、私は思います」

絆は、思わず息を吐いて背もたれに体を沈み込ませた。

おそらく霧は、純粋に絆が言ったことを信じている。

雪は違うのだろうが、彼女に限ってはそうだ。

霧が質問をしたのは、単純に疑問に思ったから、
それだけなのだろう。

純はそれを知っていて何食わぬ顔でさらりと嘘をついた。

バーリェは普通、隠し事が出来ないように
人格を調整されている。

しかし純に限ってはそれが適用されていないらしい。

――嘘をつくことが出来て、
怒ることも出来るバーリェか……。



545:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/13(金) 18:23:04.99 ID:72uX6PGo0

それが人間同士の関係として、
本来は当たり前のことなのだろうが、
目の前で見ると少し異様だ。

霧はピザを食べながら、嬉しそうに何度も頷いた。

「そうですか! それは良かったです。
私、凄く安心しました!」

「霧、口の中にものを入れながら喋るな。行儀が悪いぞ」

注意すると、霧は慌ててピザを飲み込んで、水を飲んだ。

雪が手探りでハバネロソースを手に取り、
ビシャビシャとピザにかける。

彼女から距離をとって、霧は絆に言った。

「ごめんなさい。気をつけます。
それよりマスター、圭ちゃんには今度、
いつ会えるんですか?」



546:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/13(金) 18:23:31.95 ID:72uX6PGo0

純粋な彼女の瞳を受けて、
絆を初めとした純以外の全員が硬直した。

雪までもが動きを止めた。

……やはりこの子は知っている。

圭が死んだことを。

雪の様子を見て確信し、
絆は慎重に言葉を選んで口を開いた。

「……多分、戦争が終わったら会えるよ。頑張ろう」

「はい! 楽しみにしてます!」

頷いて霧が笑う。

それにぎこちない笑みを返して、
絆はピザを口に運んだ。

釈然としない顔で彼を見ていた純は、
一つため息をついて、また食事という作業に戻った。



554:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/16(月) 19:30:47.33 ID://P1Hl+o0

雪と霧が眠りにつき、絆は頭を抑えて息をついた。

渚にも早めに休んでもらっている。

純は、相変わらずペラペラと数式が
羅列された本を読んでいた。

「少し休め。横になるだけでいい」

絆がそう言うと、純は本を閉じて彼の方を見た。

「いえ……私は特段疲れを感じないように
作られておりますので。
そのような弊害を極力取り除かれています。
ご心配には及びません」

「……そうか」

「私は大丈夫です。お休みになってくださいまし」

そう言って純は絆から視線を離し、また本を開いた。



555:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/16(月) 19:31:33.31 ID://P1Hl+o0

確かに、純は普通のバーリェよりも
格段に強く体がつくられている。

組成的には命に近い。

だからといって眠らないのは相当な負担のはずなのだが、
絆はあえてそこは追求しなかった。

何かあれば、本人から言ってくるだろう。

そう思ったのだ。

しかし、だからと言ってバーリェを
置いて一人だけ寝るのははばかられた。

不安が残る。

少なくとも渚が起きてくるまでは待っていようと、
絆はソファーに体を沈み込ませた。

そこで、不意に部屋の中にチャイムが鳴った。



556:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/16(月) 19:32:18.50 ID://P1Hl+o0

立ち上がろうとして失敗した絆を見て、
純が代わりに立ち上がり、インターホンに近づく。

「はい、こちら273号室です」

彼女がそう言うと、通信の向こう側から、
どこか引きつった声が聞こえてきた。

『……絆特務官はいらっしゃるかしら? 椿です』

「はぁ、いらっしゃいますが」

純はそう言って首を傾げた。

「現在時刻は二十三時三十五分を回っております。
深夜帯でのご訪問は、原則としてお受けできないことに
なっております。
失礼ですが、私がご用件をお伝えいたします」

『バーリェが……! 私に意見するっていうの?』

押し殺した声を返され、しかし表情を変えずに
純は淡々とそれに返した。



557:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/16(月) 19:32:55.51 ID://P1Hl+o0

「それとこれとは別問題だと、私は思います。
私は客観的事実を述べているに過ぎず、
非難を受けるいわれはございません。
拘束規定事項第二十三条四項に……」

「やめろ純……すまなかったな、入ってくれ」

慌てて絆は立ち上がり、松葉杖に寄りかかるようにして
体を引きずり操作パネルに近づき、
ドアのロックを解除した。

「特務官様……対応時間外です」

怪訝そうに問いかけてきた純に

「いいんだ」

と一言だけ返し、壁によりかかる。

扉が開き、どこか憤っているような
顔をしている椿が部屋の中に入ってきた。



558:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/16(月) 19:33:30.31 ID://P1Hl+o0

彼女は横目で、また椅子に座り込んで
本を読み始めた純を睨むと、絆に言った。

「夜分遅く失礼しますわ。
少し、お話したいことがありますの」

「大丈夫だ。さっきはあの子が先走った。
ロールアウト直後だから、
世情にはまだ疎い。察してやってくれ」

そう言って、絆は体を引きずりながら
ソファーに腰を下ろした。

「こんな状態だから、セルフで勘弁してくれ。
冷蔵庫に冷えたコーヒーが入ってる」

「いただきますわ」

頷いて、椿は冷蔵庫から二つコーヒーの缶を
取り出すと、一つを開けて絆に差し出した。

それを受け取り、絆は前のソファーに
腰を下ろした椿を見た。



559:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/16(月) 19:34:08.26 ID://P1Hl+o0

「その様子だと、
一斉攻撃から生還したみたいだな。
良かった。安心したよ」

「……別に心配をされるいわれはありませんわ。
私達は戦闘に負けたし、逃げたのですもの。
最後まで戦っていたのは、あなた達だけでしたから」

吐き捨てるようにそう言って、
椿はコーヒーを喉に流し込んだ。

「バーリェは授与されていないのか?」

「私のラボのスタッフは一人じゃないですから。
任せてきたわ」

そう答えて、椿は舐め回すように、
じろじろと純のことを見た。

当の純は全く気にしていないのか、
挑発的に無視して本を読んでいる。



560:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/16(月) 19:35:01.86 ID://P1Hl+o0

椿は、純が自分のことを一瞥もしないことに
多少苛ついたのか、荒く息を吐いて、
テーブルにコーヒーの缶を置いた。

「で……何の用だ? 
こんな時間に訪ねてくるなんて、
あまり常識があるとは言えないな。
だが……」

絆もコーヒーを口に流し込み、静かに言った。

「俺のバーリェの暴走で、おそらく君のバーリェを
巻き込んでしまった事実には、
深く遺憾の意を表させてもらう。申し訳なかった」

頭を下げられ、意外だったのか椿は目を
白黒とさせて、慌てて手を振った。

「そんなこと……もう過ぎたことですわ」

「『そんなこと』じゃないだろう。
少なくとも、そうは思えなかったから
君は俺と張り合おうとした。違うか?」



561:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/16(月) 19:35:40.57 ID://P1Hl+o0

「…………」

黙り込んだ椿に、絆は続けた。

「バーリェの力については、
俺自身もまだ良く分かっていないところがある。
エフェッサーの本部でさえもそうだ。
分からないまま、俺達はこの子達を使ってる。
危険だと知りながら。罪なことにな」

「……ええ。そうですわね……」

呟いて、椿は絆の顔を見た。

「……でも結局、私は何も出来なかった。
あなた達に頼るしかなくて、
ただ逃げ惑うしかなくて、
こんなの凄く……情けない。
正直悔しくて仕方がありません」

「…………」



562:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/16(月) 19:36:23.59 ID://P1Hl+o0

「絆特務官。あなたは今、幸せですか?」

唐突にそう問いかけられ、絆は一瞬言葉に詰まった。

彼女の問いの意味を推し量ることが出来なかったのだ。

絆は少し考えてから、言葉を選らんでそれに答えた。

「……分からない。そんなこと、
意識したこともなかったからな」

「私、今こうして生きていられて、
まだ生きていられて幸せだって、最近よく思うのです。
死にかけたからかもしれませんね……
だからこそ、これからフォロントンに一斉攻撃をかける
戦いに向かっていて、怖くてしょうがない……」

「…………」

「現場に直接行かない私達でもそうなのです。
現場に行っているあなたはどうなのかと思って、
それを知りたくて……気付いたらここに来ていました」



563:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/16(月) 19:37:01.46 ID://P1Hl+o0

絆は、コーヒーの缶をテーブルに置いて息をついた。

そして口を開く。

「怖いよ。いつでも怖い。
怖くない時なんてないだろうよ」

純が本を読む手を止めた。

椿は体を乗り出して、意気込むように言った。

「なのにどうして、いつも戦うことができるのですか? 
何があなたを、そこまで支えているのですか?」

「考えたことがないからな……」

困ったように呟いて、絆はそれに返した。

「敢えて言うとすれば……怖いから戦えているんだ。
戦わなければもっと怖い。
だから、俺は戦うことで
自我を保っていられるのかもしれない」



564:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/16(月) 19:37:47.18 ID://P1Hl+o0

「…………」

黙り込んだ椿に、絆は静かに続けた。

「死ぬのが怖くない人なんていないよ。
誰だって、バーリェだってそれは怖い。
押し殺して、隠そうとしているだけで、
誰だって心のどこかでは恐れおののいてる。
それは何もおかしいことじゃない」

手を止めたままの純を横目で見てから、更に続ける。

「そうだな……考えてみれば、
俺を支えているのは恐怖なのかもしれないな。
逆に言えば、恐怖がなければ、
俺は今ここにいなかったかもしれない」

「怖いから戦う……」

繰り返して、椿は自嘲気味に笑ってみせた。

「随分と卑屈な考え方ですわね」



565:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/16(月) 19:38:22.09 ID://P1Hl+o0

「そうかな。元来俺は卑屈な方なんだ」

軽く笑って、絆は冷蔵庫を指でさした。

「あまりで悪いが、ピザがある。
温めて食べていくといい」

「折角だけど……ご遠慮しますわ。
少しで戻ると言っていますの。
時間もあまりありませんし……」

椿はそう言って、声を低くして絆に囁いた。

「……先日、私のバーリェが
気になることを言っていました」

「……気になること?」

「AAD七百番台には、バーリェの
上位互換体以外を乗せてはいけないと」

弾かれたように顔を上げる。



566:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/16(月) 19:39:07.38 ID://P1Hl+o0

霧が、いつか言いかけていた言葉そのままだった。

あの時彼女は、睡眠薬による眠気に
負けて眠ってしまったが、確かにそう言った。

顔色が変わった絆に、椿は声を低くしたまま続けた。

「……その様子だと、やはり気付いているようですね。
どこまでご存知ですか?」

「……悪いが……君が知っているであろう以上のことは、
俺にも分からない。
ただ、AADに詰まれているシステムは危険だ。
あれにはリミッターが存在しない」

「リミッターが……ない?」

愕然と呟いた椿に、頷いて絆は言った。

「現に俺は、その影響でバーリェを亡くしている。
君こそ……君のバーリェは一体何て言っていたんだ?」



567:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/16(月) 19:39:43.62 ID://P1Hl+o0

「……『私以外を乗せれば、死にます』と
はっきり言われましたわ」

――おそらく、霧のように自己顕示欲が
強いバーリェなのだろう。

自分こそが一番優秀だと信じて疑わない
個体に当たったと見える。

戸惑った風の椿に、軽く笑いかけてから絆は言った。

「まぁ……バーリェによっても個人差はある。
そう主張したいのなら、させておけばいい。
いずれ自分の言っている意味が、分かる時が来る」

「…………」

「何もかも全部気負う必要はない。
俺だって、他のトレーナーだっているんだ。
何かあったら相談に来てくれ」

「……ありがとうございます」



568:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/16(月) 19:40:19.13 ID://P1Hl+o0

表情を落としたまま、椿はそう言って席を立った。

「そろそろ戻りませんと。お時間をとらせてしまい、
申し訳ありませんでした」

「いいんだ、気にしないでくれ」

そう言って、絆は一言付け加えた。

「……バーリェを大事にするんだ。
使い捨ての消耗品だろうと、この子達には心がある。
今はおぼろげでいい。理解してくれ」

「正直……まだよく分かりません」

椿は俯いてそう言った。

「ですが、何となく……
『理解してみよう』という気になりました」

軽く微笑んで、椿はドアの開閉ボタンを押した。

「では」



569:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/16(月) 19:40:55.94 ID://P1Hl+o0

彼女の姿が通路の向こう側に消える。

……まだトレーナーになりたての頃の、
自分にそっくりだ。

絆はそう思って苦笑した。

あの時は、よくこうやって絃と話し合ったものだ。

そこで絆は、呆れたようにこちらを
見ている純と視線を合わせた。

「どうした?」

純は聞こえよがしにため息をついてみせると、
本に視線を戻した。

「……いえ。特務官様は、私のお話を
一切お聞きになっていなかったのだなと思いまして」

「聞いてたさ。俺は、今の俺が思う正直な
気持ちを言ったに過ぎない」



570:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/16(月) 19:47:52.46 ID://P1Hl+o0

「私達は死ぬことに恐怖を感じません。
原則として、そういった風に調整されています」

「そんなことはない。雪だって、霧だって、
今は死にたくないと思ってる筈だ」

「それはお姉様達が、不完全なバーリェだからです」

断言されて、絆は口をつぐんだ。

「あなたは、圭お姉様に『生きろ』と
命令をされましたね? 
その結果、彼女がどうなったかご存知でしょうか」

淡々と、抑揚なく純は続けた。

「圭お姉様は、自分の体が解剖されて開かれていく
様を見せられながら、その極限の状態の中、
脳が開かれる寸前まで意識を保っておりました。
発狂してもおかしくない状況で、
それでも尚彼女は生きようといたしました。
他ならぬ、あなたの。何とはなしに発したであろう
一言のために。その苦痛は、計り知れません」



571:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/16(月) 19:48:36.62 ID://P1Hl+o0

「…………」

「それでも尚、あなたは私にも『生きろ』と
ご命令をされますか?」

絆はだいぶ長いこと考え込んでいた。

しかし、彼は深く息を吐いてから、静かに言った。

「ああ。お前にも命令しよう。
最後の最後まで、『死ぬな』……何が何でも生き続けろ。
それが、お前に対する俺の、最初で最後の命令だ。
圭の時から、俺の考えは一切変わっていない」

「どうして……!」

純は本を閉じて立ち上がった。

そして肩を怒らせながら絆を睨みつける。

「どうしてそこまで頑ななのですか! 
あなたの考えは、その方針は、
私達バーリェを不幸にします。
あなたはそれを自覚すべきです!」



572:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/16(月) 19:49:20.05 ID://P1Hl+o0

「自覚してるさ。その上で、
俺はお前に命令しているんだ」

「その命令は拒否いたします。
あなたに、私たちを理解することはできません!」

ヒステリーを起こしたように純が大声を上げる。

「頑ななのはお前の方だろう。
冷静になったらどうだ。
お前、勝手に自分を一番上のランクだと思っていないか?」

「……それは……」

静かに返した絆に、図星だったのか
純が歯噛みして口ごもる。

「俺はどのバーリェでも均等に扱う。
お前でも、雪でも、霧でも、その他の子でも同様だ。
そこにはランクなんてないし、
性能の差なんて問題じゃない。
生命の重さは、全員一緒だ」



573:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/16(月) 19:50:03.17 ID://P1Hl+o0

絆がそう言った時だった。

不意に、飛空艇内にけたたましい音の
サイレンが鳴り響いた。

飛び起きたのか、慌てて
隣の部屋のドアを開けて渚が走ってきた。

「何ですか! 警報ですか?」

混乱しているのか、
渚が慌てふためいて声を張り上げる。

絆は片手でそれを制止してから呟いた。

「敵か……?」

「この警報は、敵襲に間違いないですね。
接近を察知されましたか」

淡々とそう言って、純は絆を見た。

「雪お姉様と、霧お姉様は薬で動けません。
私が、迎撃に出ます。
特務官様は、この中にいてくださいませ」



574:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/16(月) 19:50:46.61 ID://P1Hl+o0

「駄目だ」

しかしそれを打ち消して、
絆は傍らの渚に掴まりながら立ちあがった。

「俺達も一緒に行く。お前だけじゃ不安だ」

純が歯を噛んで口を開きかけたところで、
部屋の扉が開いた。

上層部の認証キーがないと、
外部からトレーナーの部屋を開くことは出来ない。

息を切らした駈が、部屋に駆け込んできた。

「絆特務官、出撃だ! 
多数の死星獣に艦が取り囲まれている。
七百番台の機体を使いたまえ!」

「……了解した」

頷いて、絆は車椅子に座り込んだ。

「行くぞ、純。準備をしろ」

抑揚を抑えて、彼はそう言った。



579:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/18(水) 19:18:17.41 ID:P18S44Kp0

夜中の艦内に警報が鳴り響いた。

雪と霧が万が一起きてくると面倒なので、
担当の女性職員を呼んで彼女達を任せておく。

そして絆は、職員達に支えられながら
何とかコクピットに乗り込んだ。

純が接続されると、すぐに機体の
電源がつき通信が入った。

モニターに駈の顔が表示される。

「全テノ設定ヲパーンクテンション。
システム、殲滅(ジェノサイド)モードヲ起動シマス」

AIの声を聞きながら、絆は駈に言った。

「この機体は飛ぶことはできるのか?」

『可能だ。大恒王とほぼ同じフライトシステムを
組み込んである。そのバーリェの性能なら、
最初からフルスロットルでの行動が可能だ』



580:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/18(水) 19:18:59.81 ID:P18S44Kp0

「了解。純、行けるな?」

「勿論です」

頷いて純が操縦桿を握る。

「ハイコアの接続を確立。全武装ノロックヲ解除。
視界確保、レディ。エネルギーラインヲシルバーデ確立。
AAD七一八型、起動シマス」

鈍重な陽月王にそっくりな機体――
スペック2とも言えるそれは、
格納庫内でゆっくりと立ち上がった。

『絆特務官。お供します』

そこで椿の顔が表示された。

フライトシステムを組み込んだ七百番台の
AADは一機だけではない。

合計で五機スタンバイしていた。



581:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/18(水) 19:19:34.62 ID:P18S44Kp0

椿の脇に座っている二人のバーリェを見て、
絆は口を開いた。

「君のところはデュアルコアか
……君も、乗っているんだな」

『はい。私は今合計で四体のバーリェを
管理しています。二十四時間対応できますわ。
それに……乗らなきゃ分からないことって、
きっとあると思うのです』

「頼もしい。俺の背後を頼む」

『了解しました』

頷いて椿も操縦桿を握る。

絆も、腕を無理やり伸ばして操縦桿を握った。

隣の席で渚が口を開く。

「陽月王、スペック2リフトオフします」



582:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/18(水) 19:20:31.89 ID:P18S44Kp0

脚部のキャタピラが回転し始める。

そしてスペック2は、そのまま開いている
ハッチから空中に踊り出た。

機械人形の背部に、同じくらいの大きさの
ブースターと飛翼が装着されている。

それに点火し、スペック2は軽々と宙に浮いた。

「マイクロホワイトホール粒子ノ
生成ヲ開始シマス。
武装、ロータイプ『簡易メルレダンデ』ノ
スタンバイヲ開始シマス」

メルレダンデ……圭が使用した、
広範囲極破壊兵器の一つだ。

「出力が大恒王の十分の一で安定しました。
可動域クリア。
駆動限界まで、あと一時間四十七分です」

渚が口を開く。



583:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/18(水) 19:21:15.93 ID:P18S44Kp0

心なしか彼女の息が荒い。

まだ怪我が完全に治っていないのだ。

絆も同様だった。

腕と足が痛み、思わず息をついた絆に、
純は一瞥もせずに口を開いた。

「特務官様……やはり休んでいてください。
私一人で十分です」

「悠長に話している暇はない。来るぞ!」

艦が、いつの間にか数十体の死星獣に囲まれていた。

金色のそれが、真っ赤に発熱をはじめる。

あの水蒸気爆発兵器で襲われたら、
艦はひとたまりもない。

スペック2の肩部装甲と脚部装甲が開き、
中の四角形のキューブ体が高速回転をはじめる。



584:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/18(水) 19:21:55.62 ID:P18S44Kp0

大恒王に比べれば、本当に微弱な
威力のエネルギー兵器だ。

しかし贅沢は言っていられない。

今はこの機体で戦うしかないのだ。

他の機体も、簡易メルレダンデを
展開しようとしていた。

それより一拍早く、純が動いた。

「簡易メルレダンデノセットアップを持続中。
シィンケルハンドブレードヲ展開シマス」

AIがナビを言い終わる前に、何の予備動作もなく
彼女は肩部ブレードを抜き放つと、
それに銀色のエネルギーをまとわりつかせながら、
一気にブースターを最大点火で踏み込んだ。

凄まじいGが絆と渚を襲う。



585:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/18(水) 19:22:28.58 ID:P18S44Kp0

思わず体を丸めて硬直した渚を抱きかかえた絆の目に、
スペック2がブレードで
近くの死星獣を一刀両断にするのが見えた。

人間でさえも知覚が難しい速度だった。

「次」

純は機械のように呟くと、態勢を崩した
死星獣達の群れに機体を突っ込ませた。

流星のように異様な軌道で移動したスペック2は、
そのまま数体の死星獣を切り飛ばし、爆発させた。

「遅い……敵も味方も……!」

吐き捨てて純は、機体を空中にホバリングさせながら、
キューブ体を群れが一番密集している場所に向けた。

「……消えなさい」

「チャージ完了。簡易メルレダンデ、発射シマス」



586:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/18(水) 19:23:12.44 ID:P18S44Kp0

AIの声と共に、真っ白い光が
正面に向けて発射された。

リング状の衝撃波が周囲に広がる。

それは死星獣達を数十体も巻き込むと、
一気に収縮して、そしてぐんにゃりと歪み掻き消えた。

遅れて、やっと味方のAADが動き出す。

小規模なメルレダンデを放ち始めた味方を見て、
純は舌打ちをした。

「後手に回りすぎです。これじゃ艦に損害が出る……!」

「味方の戦力を信用しろ! 
お前はお前の動きで目の前の敵を叩け!」

凄まじい速度で機体が空中を移動している中、
絆は声を張り上げた。

全く気になっていないのか、
純は鼻を鳴らして操縦桿を握りこんだ。



587:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/18(水) 19:23:47.85 ID:P18S44Kp0

「戦力? 私以外の何が役に立つっていうのですか」

「お前……!」

絆は押し殺した声を発して、
無理矢理に手を伸ばして操縦桿を握った。

「何をしているのですか! 
特務官様はシートに掴まっていてください!」

「思い上がっているお前に、
操縦を任せることはできない。
こちらにメインシステムを切り替えるんだ!」

「は……はい!」

渚が頷いて、操縦権を絆に譲る操作をする。

純は

「どうして!」

と怒鳴って、慌てて操縦桿を何度も引っ張った。



588:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/18(水) 19:24:24.24 ID:P18S44Kp0

スペック2が空中で静止し、
もう片方のブレードを肩から抜き放つ。

二刀を構えて、絆の操縦で機械人形は宙を飛んだ。

「く……っ……」

腕の痛みに顔をしかめながら、
絆が近くの死星獣のことを切り飛ばす。

確かに純はハイスペックなバーリェだ。

しかし決定的な何かが欠けている。

まるで、霧がロールアウトされた直後のように。

彼女のように全てを見下しているわけではないが、
達観しすぎている。

連携も何もあったものではない。

『絆特務官、ご無事ですか!』



589:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/18(水) 19:24:57.46 ID:P18S44Kp0

そこで椿の声が聞こえ、
彼女の機体がスペック2の後ろについた。

背中合わせにホバリングしつつ、
絆は脂汗を額に浮かべながら言った。

「体調に異常を感じたら、
こちらに任せて即帰還するんだ。
墜落する事が一番怖い」

『了解です。特務官こそ、大丈夫ですか? 
顔色が真っ青です』

「問題ない。これくらい……!」

「残存死星獣、三十体を切りました! 
水蒸気爆発が来ます!」

残った死星獣達が、腕を伸ばして輪のようにし、
AAD達と飛空艇を取り囲んだ。

その体が真っ赤に発熱し始める。



590:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/18(水) 19:25:28.50 ID:P18S44Kp0

「性懲りもなく……!」

絆は怒鳴って、操縦桿を握りこんだ。

「私にやらせてください! 
どうしてあなたが操縦しなければいけないのですか、
非効率的です!」

純が悲鳴のような声を上げる。

絆は、しかし彼女を無視して渚に向かって声を貼り上げた。

「エンクトラルライフルを使う! スタンバイ!」

「はい!」

機体の後部から幾段かに分かれた砲口がせり出す。

それを前方に向け、
絆は空中でホバリングしながら狙いを定めた。

「エンクトラルライフル、フルチャージ。撃テマス」



591:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/18(水) 19:26:05.02 ID:P18S44Kp0

AIの声が聞こえる。

「特務官様! 早く私に迎撃させてください! 
私の方が……私の方が、上手くこの機体を使えます!」

純が悲痛な声を上げる。

しかし絆は

「うるさい!」

と押し殺した声でそれを一喝すると、
照準を更に調節した。

「お前一人で戦っている気になるな! 
沢山の人が戦ってる。
沢山の人がこれに関わってる! 
俺も、渚さんも、みんなここにいるんだ。
勘違いも甚だしい、
何が『効率』だ! 寝言は寝て言え!」



592:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/18(水) 19:26:37.03 ID:P18S44Kp0

「このままでは艦が沈みます! 
私達も、この機体では耐えられません! 
迎撃させてください!」

食い下がる純を無視し、
絆は死星獣の一体に照準を定めた。

そしてその体が真っ赤に発熱しきる瞬間。

引き金を引いた。

エネルギーのライフル弾が、
正確に死星獣の一体の胸部を
貫通して向こう側に抜ける。

コアまでをも貫通した正確な一撃だった。

抜けられた死星獣は、一瞬動きを止めると、
次の瞬間、凄まじい勢いで膨張した。

三倍ほどの大きさに風船のように膨れ上がり、炸裂する。



593:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/18(水) 19:27:36.10 ID:P18S44Kp0

「連鎖爆発が起こります、衝撃に備えてください!」

飛空艇と味方に向かって渚が大声を上げる。

途端、誘爆というのだろうか。

次々と連鎖するかのように、
発熱しきって熱を放出しようとしていた
死星獣が爆発を始めた。

周囲がグラグラと揺れ、
真っ黒なブラックホール粒子が吹き荒れる。

飛空艇を守るように五機のAADが浮かび、
何とかそれを防ぐ。

数秒後、パラパラと死星獣だったものが
空中に飛び散った。

「そんな……一発で……?」

呆然と純が呟く。



594:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/18(水) 19:28:14.57 ID:P18S44Kp0

「熱膨張を起こしていたと思われる死星獣が、
全て連鎖爆発を起こしました! 
周囲にこれ以上の死星獣の反応は確認できません! 
迎撃に成功しました!」

渚が上ずった声を上げる。

『……手柄だな、絆特務官……
どうして奴らが熱波を発する寸前にコアを撃ちぬくと、
その熱に引火して爆発すると気づいた?』

駈に通信で問いかけられ、絆はくぐもった声を返した。

「勘だ……ただの……」

そこまで言った時だった。

絆の喉に、不意に血なまぐさい感触がせり上がってきた。

猛烈な吐き気に耐え切れず、
絆は手で口を抑えて激しく咳き込んだ。



595:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/18(水) 19:28:44.47 ID:P18S44Kp0

「絆特務官!」

渚が慌てて操縦を純に切り替え、
絆を抱きかかえる。

『特務官、どうされたのですか!』

椿の声が聞こえる。

絆は何度か咳き込むと、
胸の痛みの後に手の平に真っ赤に
血が付着しているのを見て、青くなった。

「何だ……これ……」

「……絆特務官が吐血しました! 
至急保護を願います!」

渚が声を張り上げる。

「特務官様……?」



596:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/18(水) 19:29:18.01 ID:P18S44Kp0

呆然として純が呟くように言った。

「ど……どうされたのですか? 
私が、無理な操縦をしたからですか……?」

それに答えようとして、凄まじい胸の激痛に、
絆は体を丸めてまた血を吐いた。

渚が彼のシートベルトを外し、
ベルトの部分の胸部、腹部がへこんでいるのを見る。

肋骨が折れて、肺か胃に突き刺さっている可能性が高い。

「安心してください、私は救護士の資格も持っています。
血を、飲み込まないで無理せず吐いてください。
呼吸器を装着します!」

渚が声を押し殺して、コクピット内に装着されていた
簡易AEDセットを手に取る。

絆は胸を抑え、急激に落ちていく意識の中、
何とかそれを保とうとして失敗し。

一つ呻いて、暗い意識の底に落ち込んでいった。



603:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/19(木) 18:59:51.65 ID:Xk7rhViu0



「特務官様……特務官様?」

呼びかけられ、絆は目を開いた。

腕も、足も動く。

包帯もギプスもはめられていない体だった。

自分のその様子に少しの間呆然とした後、
絆はゆっくりと顔を上げた。

波が打ち寄せる、どこまでも広がる海岸だった。

白い砂浜に、照りつける太陽が逆に不自然だ。

海の色は、透き通るほど透明だった。

車椅子をきしませて、絆のことを見下ろした
少女が、静かにまた問いかけた。



604:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/19(木) 19:00:32.17 ID:Xk7rhViu0

「起きていらっしゃいますか? 
……お久しぶりです」

「け……圭?」

思わず呟いて、絆は慌てて立ち上がった。

圭は、一つ頷いて車椅子を絆の方に向けた。

白いワンピースを着ている。

彼女は絆にどこか寂しい顔で軽く微笑みかけてから、
視線を伏せた。

「ごめんなさい……特務官様のご命令を
守ることができませんでした……」

「圭……なのか?」

「はい。あなたが圭と呼んで下さった個体です」

「お前は、死んだんじゃなかったのか……?」



605:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/19(木) 19:01:42.43 ID:Xk7rhViu0

ポツリとそう呟くと、圭は小さく
それを笑ってから答えた。

「はい。私の体は既に死んでいます。
私という『個人』は、もうこの世に存在しません」

「ちょっと待ってくれ……ここは、どこだ?」

絆は慌てて周りを見回した。

途端、空間がぐんにゃりと形を変え、
絆達を囲むように、直径二十メートルほどの
白い正方形になった。

海も、空も、全てが塗料で白い壁に
塗装されているかのような様相を呈している。

「ごめんなさい……私、本当は海を
見たことがありませんので。想像なのです」

「圭……? 俺も……死んだのか?」



606:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/19(木) 19:02:16.26 ID:Xk7rhViu0

状況がさっぱり分からず、情けない声を発する。

圭はまたクスリと笑うと、
絆に向かって口を開いた。

「いいえ。ここは『バーリェ』の中です」

「バーリェの中……?」

いつか見た夢の、愛と命が遊んでいた光景が蘇る。

その夢と、今の状況が酷似していた。

「どういう意味だ? バーリェの中って
……お前の心の中なのか?」

「いいえ。特務官様はひとつ、
大きな思い違いをしています」

圭が静かに言う。

「思い違い……?」



607:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/19(木) 19:02:55.89 ID:Xk7rhViu0

「はい。あなたは、私達のことを人間と
同じ生き物だと思っているようですね」

彼女は目を伏せて続けた。

「私達は、概念からして人間とは異なる生き物です。
互いが繋がり合っている生命体とでも言えば
いいでしょうか。
死んでも、その繋がりは途絶えることがありません」

「……意味が分からない。もっと、
分かるように説明してくれ」

「私達は、死んでも元の一つの生命体に戻るだけです。
人間とは、その部分が大きく異なります。
『バーリェ』とは、一つの大きな『意思』であり
一個の生命体です。
あなたが接していた『圭』という人格は、
その一端末に過ぎません」

圭の姿がノイズがかって歪んだ。



608:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/19(木) 19:03:36.28 ID:Xk7rhViu0

そしてテレビの砂画面のようになり、
今度は優の姿が現れる。

優は両手を絆に向かって振って、
嬉しそうに笑った。

「絆、久しぶり。元気にしてた?」

「優……?」

「私達って、死んだら一つになるんだ。
だからバーリェは、各端末が死んでも、
元のデータが残ってる限り複製が可能なの」

優の姿がノイズがかり、今度は文の姿が投影された。

『ご迷惑をお掛けしました。絆さん』

手話を送られ、絆は目を見開いた。

「文も……お前達、まだ生きてたのか!」



609:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/19(木) 19:04:21.54 ID:Xk7rhViu0

『状況が理解できないのは分かります。
ですが、今回は「バーリェ」があなたの「意思」に
コンタクトをとることを決定しました。
私達は、その端末情報から複製された
データの一つに過ぎません』

また文の姿が掻き消え、元の圭の姿に戻った。

圭は砂浜に車椅子をゆっくりと進め始めた。

正方形だった空間が歪んで、
またどこまでも広がる砂浜を形作る。

慌ててそれを追った絆が脇に並んだのを見て、
圭は口を開いた。

「驚きましたか? 他にも、『バーリェ』は、
あなたの望む端末情報を提供することができます」

「つまり……バーリェの核のようなものがあって、
お前達はその核から複製された
データに過ぎないと言いたいのか?」



610:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/19(木) 19:05:09.68 ID:Xk7rhViu0

「そうです」

「死んだら、その情報が核に統合されて
また一つに戻る。
だから、意識生命体として
存在することができると……?」

「……あなたが瀕死の状態になった時、
バーリェの統合体は、意思にアクセスしやすくなります。
人間の意識も、簡単に言ってしまえば
データの集合体です。
あなたの意識をハックして、その中に潜り込んでいます」

ゆっくりと進みながら、圭は前を向いた。

「俺が、今瀕死の状態……?」

「はい。右肺に大きく穴が開いてしまっています。
このままでは、遅からず
あなたは死んでしまうことと思われます」

「…………」



611:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/19(木) 19:05:42.45 ID:Xk7rhViu0

「私達バーリェは、あなたという一個人に
対して特別な興味を抱いています。
少々お時間をとらせていただき、
一つ質問をしてもよろしいでしょうか?」

圭はそう言って、絆に向かって続けた。

「……あなたは、私の端末の一つ、
この子に対して『生きろ』とご命令をされましたね?」

「この子って……お前のことか?」

「端的に言ってしまえばそうなります」

「……ああ。俺は確かにそう言った」

「どうしてそんなことを言ったのですか?」

「…………」

黙り込んだ絆の脇で車椅子を止め、
圭は彼の顔を見上げた。



612:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/19(木) 19:06:16.87 ID:Xk7rhViu0

「不思議な事に、この子……『圭』は、
それに対して満足しているようなのです。
その理由が、しかし圭自身にもよく分からないようです」

「俺は……」

絆は息を吸って、そして困ったように笑った。

「俺は、ただ単にお前達に生きていて欲しかっただけだよ。
守ってやりたかっただけだ。
それ以上の意味も、それ以下の意味もない」

「その理由をお聞きしたいのです」

圭の左目だけの丸い瞳に見つめられ、
絆はそれを見下ろして言った。

「お前達が意識生命体だったとしても。
俺は、お前達を、俺達と何ら変わらない生き物だと思うから。
だからさ」

「…………」



613:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/19(木) 19:06:56.04 ID:Xk7rhViu0

「誰だって死にたくないだろう。
俺だってそうだ。
生きたいと願うのが当たり前だ。
だから俺は、お前達を守ると決めたんだ」

「だから生きろと命令したのですか?」

「そうだ。それが当たり前のことだと思うから、
俺はお前達に命令した。何か……おかしかったかな」

「いいえ……おかしいとは思いません。
思いませんが……
あなたは随分他の『人間』とは違うのですね」

「最初からこうだったわけじゃない。
お前達を何人も犠牲にして、そして得た結論だ。
お前達がいなければ、
俺はここまで変わることはできなかった」

絆はそう言って息をついた。

そして圭の頭に手をポン、と置く。



614:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/19(木) 19:07:32.90 ID:Xk7rhViu0

「理解しようとはしなくていい。
別に理解しなくても、俺はお前達を否定したり、
利用したりはしない。
だから……な? 一緒に、生きていこうよ」

「…………」

「死ぬのが当たり前だなんて、悲しいことを考えるな。
俺達はみんな生きている。
生きるために生きてるんだ。
だから、難しいことは何もない」

「…………」

「そう、俺は思うよ」

圭は俯いて、だいぶ長いこと沈黙していた。

そして顔を上げる。

一瞬絆はドキッとして息を詰めた。

瞬きをする間に、
車椅子には白と赤の軍服を着た桜が座っていた。



615:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/19(木) 19:08:10.80 ID:Xk7rhViu0

「桜……」

「絆様、お元気でしたか?」

ニッコリと微笑んで、桜は頭を深く下げた。

「この節は大変なご迷惑をお掛けしました。
非常に心苦しく思っております」

「何を言ってる……? 
俺は……お前を、殺したんだぞ?」

かすれた声でそう言った絆に笑いかけ、桜は続けた。

「私達は死んでも意識が消えません。
データとして残ります。
ですから、何も気負うことはありません」

「それでも……気負うよ」

寂しそうに呟いた絆の手を握り、
桜は車椅子から立ち上がった。



616:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/19(木) 19:08:48.26 ID:Xk7rhViu0

そして絆の手を引きながら歩き出す。

「……絃様は、世界の持つ歪みに気づいてしまわれました。
元老院の隠している大きな事実を、知ってしまったのです」

振り返らずに、淡々と桜が話しだす。

「そしてその歪みを修正するためには、
あなたの存在が邪魔なのです。
絃様の本当の狙いは、バーリェの存在を肯定して、
その意義を証明してしまっている
『あなた』を消すことです」

「何だって……?」

思わず問い返した絆に、桜は頷いて振り返り、言った。

「バーリェは、人間の生きているこの世の中に
存在してはならないロストテクノロジーの一つです。
元老院は、それを起動させてしまいました。
そして、それと同時に死星獣も起動され、
世の中に解き放たれることになりました」



617:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/19(木) 19:09:31.11 ID:Xk7rhViu0

「え……?」

呆然として絆は立ち止まり、桜を見下ろした。

「バーリェを作るシステムが起動したから、
死星獣を作るシステムも起動したって……? 
そういうことか?」

「はい。そして元老院は、そのシステムを止める方法を
知りません。それ故、システムは暴走を続け、
今ではバーリェでも死星獣でもない個体を作り上げる程に
膨れ上がってしまいました。
バーリェを根絶やしにしない限り、
副作用として死星獣は現れ続けます」

断言した桜の言葉の重みを推し量ることができずに、
絆はしばらくの間沈黙していた。

やがて息をついて首を振る。

「……そのシステムはどこにある?」

「この世にはもう存在しません」



618:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/19(木) 19:10:15.27 ID:Xk7rhViu0

「存在しないシステムから、
君達は生み出されてるっていうのか?」

「この世には存在しませんが、
相違的な多元次元境界には存在しています。
ですから……」

「待ってくれ。君の言っている意味が分からない」

「私達は、多元次元境界から来た生命体です。
端的に言ってしまえは、
平行世界の地球上に存在していたシステムです」

「平行世界……?」

意味が分からず、呆然と呟いた絆に桜は続けた。

「……やはりこの話をするのは、
時期尚早だったのかもしれません。
理解をしろということが無理なのは分かっています。
でも、心の片隅には留めておいてください」



619:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/19(木) 19:10:54.12 ID:Xk7rhViu0

「じゃあ……死星獣を根絶やしにすることは
出来ないっていうのか?」

桜は一瞬とても寂しそうな顔をした。

しかしすぐに、どこか壊れたような
笑顔を貼り付けて絆を見た。

「私達をこの世界に具現化させていてる
端末が存在しています。
それを破壊すれば、私達もろとも、
一時的ですが死星獣の発生を止めることは出来ます」

「その端末は?」

絆はそれを問いかけてふと思い出した。

駈が、絃が「天使一号」を盗み出したと言っていたことを。

彼の考えを読んだのか、桜は頷いて言った。

「天使が、私達を具現化させている要素の一つです。
天使一号は、その中の細分端末です」



620:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/19(木) 19:11:24.89 ID:Xk7rhViu0

「元となる天使が存在しているのか……!」

「はい。元老院が持っています。
絃様は、その破壊を大義名分に、
元老院を見つけようとしています」

――私達でさえも存在を知らない組織に……。

駈の言葉が頭の中を回る。

死星獣の攻撃により、今や全世界の六割は壊滅状態だ。

それでも、元老院がやられたという噂は聞かない。

はっきりと新世界連合が敵だ、と明言していてもだ。

存在しない。

「ない」組織。

絆は頭を抱えてよろめいた。

「元老院は……もしかして……」



621:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/19(木) 19:12:04.67 ID:Xk7rhViu0

「おそらくあなたが今想像した通りです」

桜は頷いて、淡々と言った。

「元老院という人間達は、多分存在していません。
私達と同じような、統合的データ生命体だと思われます」

「俺達は……データ生命体の
指示を受けて今まで動いていたっていうのか!」

「そうなります」

桜は寂しげに笑って付け加えた。

「それが何なのかまでは、私も分かりませんが」

「……どうしてそんな話を俺にする?」

問いかけた絆に、桜は頷いてから言った。

「あなたが、とても『人間らしくなかった』からです。
どちらかと言うと、私達の世界の人間に似ていた。
だから興味が湧いたのです。
人は、あなたのような人間のことを
『変種』というのでしょうね」



622:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/19(木) 19:12:39.79 ID:Xk7rhViu0

桜はそう言って、腕時計に視線を落とした。

「……もうじきあなたの意識が覚醒します。
ハックが解けます」

「待て! まだ聞きたいことは沢山ある!」

「残念ながらタイムアウトです。
私達は、これからあなたの体の治癒力を高めるため、
あなたの体組織に対してハックを行います。
それ故通信は途絶されます。ご了承ください」

桜の姿が、ザザッ、と音を立てて歪む。

「待てよ! 桜、みんな!」

慌てて桜の肩を掴もうと手を伸ばした絆の体が、
彼女の体をすり抜けた。



623:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/19(木) 19:13:11.57 ID:Xk7rhViu0

呆然とした絆の方を向いて、桜はそっと微笑んだ。

「また会いましょう。あなたが、
まだ無事でいられたら。
そして、私達が、まだこの次元に存在していることが
許されれば。また」

ズキッ、と絆の胸が痛んだ。

呻いてしゃがみこんだ絆の前で、
桜はぼんやりと歪み、そして掻き消えた。

「待て……よ……」

胸を抑えて手を伸ばす。

しかし絆は、体から急速に力が抜けていくのを感じ。

抗いがたい倦怠感に、ゆっくりと目を閉じた。



632:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/21(土) 21:36:45.51 ID:+IntTbT/0

絆はゆっくりと目を開いた。

飛空艇が飛行する低音が響いている。

自分を囲むように、コクリコクリと
首を揺らしている渚の姿がまず目に入った。

ソファーには、互いに寄りかかるようにして
雪と霧が眠っている。

パラ……と本をめくる音が止まり、
絆が眠っているベッドの隣の椅子に、
腰を下ろしていた純がこちらを向いて口を開いた。

「おはようございます……という表現は
おかしいかもしれませんね。
現在は、夜半の二十時を回っております」

「ここは……」

「フォロントンに向かう途中の飛空艇の中です。
あなたは、戦闘後二十二時間三十分程昏睡状態でした。
まだ体に麻酔が残っていると思います。
動かないほうがいいです」



633:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/21(土) 21:37:30.17 ID:+IntTbT/0

確かに、言われた通りに体に感覚がない。

鼻には奥まで長いチューブのようなものが
取り付けられている。

呼吸器だ。

慌てて胸を見ると、包帯が幾重にも巻かれていた。

「手術(オペ)をしたそうです。
驚異的な生命力だと皆様が仰っていました。
私は、もう目を覚まさないものと思いました」

淡々とそう言って、純は立ち上がって近づくと、
ナースコールのボタンを押した。

そして絆の額に自分の手を当てる。

「熱は……まだありますね。
抗生物質の投与を大量に行ったようですが、
その副作用だと思われます」

「お前……」



634:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/21(土) 21:38:38.38 ID:+IntTbT/0

くぐもった声でそう言って、絆は続けた。

「ずっと、俺の隣にいたのか……」

「はい。私は眠りませんから。
待機をしておりました」

また椅子に座り、純は眠っている渚を
起こさないように配慮したのか、声を低くして言った。

「特務官様にお聞きしたいことがございまして
……よろしいでしょうか?」

「……何だ?」

「…………」

「どうした?」

「いえ……どうしてあの戦闘で、
あそこまでの戦果を上げることができたのですか? 
私は、艦が落ちる確率が高いと踏んでおりました」



635:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/21(土) 21:39:19.10 ID:+IntTbT/0

「…………」

絆は小さく咳をしてから、雪と霧を見た。

「バーリェは……俺達人間は、
一人じゃ生きていけないんだよ……」

かすれた声で、絆は続けた。

「……俺は、お前達の性能を信じてる。
だから、最後まで構えることが出来た。
お前には、まだよく分からないかもしれないが……」

「…………」

「計算で何もかもが成り立ってるんなら、
こんな状況は発生してない。
こんな世の中にはなっていない。
計算で成り立たないから……だから歪みが出てくるんだ。
俺はそれをよく知ってる……
だから、結果的にお前達を信じて『勝つ』ことが出来た」



636:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/21(土) 21:39:57.29 ID:+IntTbT/0

「信じて……いたのですか?」

「信じなければ、同乗したりはしない……」

絆がまた咳をしたところで、部屋の扉が開いて、
バタバタと看護師たちが入ってきた。

慌てて渚が飛び起きて、
絆に覆いかぶさるようにして顔を覗き込む。

「絆特務官! 目が覚めたのですか!」

「……ああ。問題ない。
麻酔のおかげで痛みも感じないな……」

軽く笑った絆を、看護師たちが機械的に処置し始める。

そこでブーツのかかとを鳴らしながら、
駈が女性職員達を伴って部屋に入ってきた。

「君の目が覚めたと聞いて、
急いでこちらに伺った。大丈夫か?」



637:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/21(土) 21:40:37.53 ID:+IntTbT/0

意外にも駈に心配され、絆は苦笑してそれに答えた。

「……あんたに心配されるとはな。
もうじきこの飛空艇も乱気流に突入するらしい」

「それだけの口がきければ問題はない」

駈はそう言って壁に寄りかかると、
看護師の一人が差し出した
カルテを受け取って目を通した。

「……君のオペは私が行った。
意外に思うかもしれないが、私は医師の免許も持っていてね。
施術は完璧に終わったつもりだったのだが、
君の体力が保つかどうかは一種の賭けだった」

「そうだったのか……感謝する」

軽く頭を下げた絆は、鼻に刺さっているチューブを
手にとって引き抜こうとし、
慌てて看護師達にそれを止められた。



638:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/21(土) 21:41:16.69 ID:+IntTbT/0

「フォロントンに着くまでは絶対安静だ。
一応作戦内容を持ってきたが……読み上げるか?」

駈が手に持っていた資料をヒラヒラと振る。

そこで純が椅子から立ち上がって、
駈から絆を守るように間に立った。

「……恐れながら、本部局長様にご意見がございます」

「何だ?」

怪訝そうに言った駈に、純は淡々と続けた。

「今後一切の戦闘には、私が単独で出撃します。
特務官様を止めていただきたく、ご意見陳情いたします」

「純、お前……」

言いよどんで口をつぐむ。

この子は、決して自己顕示のために言っているわけではない。

それを直感で感じたのだった。



639:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/21(土) 21:42:07.02 ID:+IntTbT/0

黙り込んだ絆を横目で見て、
駈は手元の資料に視線を落とした。

「彼が乗るかどうかを決めるのは私ではない。
彼自身の裁量に任せるようにと、元老院も言っている」

――元老院。

存在しない組織。

そして、存在しない、データ生命体の老人達。

夢の中で桜達が言っていたことを思い出す。

絆はまた少し押し黙った後、静かに口を開いた。

「フォロントンの一斉攻撃には参加する。
この子と、S678番(霧のこと)を使うつもりだ」

「特務官様!」

純が珍しく声を張り上げた。



640:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/21(土) 21:42:46.36 ID:+IntTbT/0

彼女は絆に向き直ると、明らかに怒った表情で続けた。

「あなたは今動ける状態ではありません。
端的に言いましょう。
私の性能をフルに発揮するためには、
あなたの同乗は邪魔でしかありません。
操作妨害をされたいのですか?」

「そのつもりはないし、足手まといになるつもりもない」

「じゃあ何故!」

悲鳴のような声を上げた純の剣幕に、
周囲の看護師達が動きを止める。

「安心しろよ。お前一人を死なせるつもりはないから……」

絆はそう言って、軽く笑ってみせた。

純はそこで、自分の手を彼が見ていることに気がついた。

握りしめた両拳は、わずかに震えていた。



641:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/21(土) 21:43:30.67 ID:+IntTbT/0

それは怒りから来たものだったのか、
それとも恐怖から来たものだったのか、
それは純には分からないことだった。

慌てて手を背後に隠し、純は食い下がるように続けた。

「私は死ぬつもりはありません」

「いや、お前は死ぬつもりだ。
そしてその事実を、心のどこかで恐怖もしている。
いくら死を覚悟していると口で言ったって、
お前は死んだことがないんだ。怖いに決まってる」

「それは単なる憶測です」

「憶測じゃない。何故なら、俺も怖いからだ。
怖い者同士、気持ちはよく分かる」

「……怖いなら同乗する必要は
どこにもないのではないでしょうか?」

絆は息をついて、腕組みをしてこちらを見た駈を一瞥した。



642:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/21(土) 21:45:09.72 ID:+IntTbT/0

そして純に向き直って言う。

「……やっぱり死ぬつもりだったな。
おおかた、バーリェのエネルギー融合炉でも
限界突破させて、新世界連合の拠点で
自爆をするつもりだったんだろう」

図星だったのか、純はそこで初めて口をつぐんだ。

そして何かを言おうとして失敗し、言葉を飲み込む。

「そんなことはさせない。
お前には俺のキーワードがあまり効果がないようだから、
意地でも同乗させてもらう」

「どうして……そこまでするのですか? 
こんな私のために……」

口ごもった純の言葉にかぶせるように、
絆は静かに言った。



643:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/21(土) 21:45:48.56 ID:+IntTbT/0

「自分を卑下するのは、圭の影響か? 
似てるな……俺はあの子にも言った。
『生きろ』って。それを守ってもらう。
一度した約束は絶対だ」

「…………」

「もうくだらない理由で、
お前達が死ぬのを見たくないんだよ……」

黙り込んだ純に渚が近づいて、
その肩にブランケットをかける。

「少し休んでこい。俺は、本部局長と
話すことがある。渚さんも、休んでくれ」

「分かりました」

渚が頷いて純を促す。

純が俯いたまま本を手にとって立ち上がった。

奥の寝室に彼女達が入っていったのを見て、
絆は息をついた。



644:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/21(土) 21:46:35.84 ID:+IntTbT/0

純は、顔には出ていないが相当疲れている。

それを肌で感じたのだった。

それはそうだ。

普通のバーリェなら死んでいてもおかしくない
レベルのエネルギーを搾り取られた直後だ。

疲れていない方がおかしい。

「君も大変だな」

駈がそう言って冷蔵庫まで歩いていって
コーヒー缶を取り出した。

そしてプルタブを開けて中身を口に流しこむ。

「……艦に損害は?」

問いかけると、駈は缶をテーブルに置いて、
椅子に腰を下ろした。



645:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/21(土) 21:47:08.68 ID:+IntTbT/0

「十五パーセントと言ったところか。
ブラックホール粒子により外部装甲がだいぶやられた。
もう一度襲撃されたら危ないな」

「敵はこっちの情報を察知してるのか?」

「その可能性が高い。バーリェの生体エネルギーを
感知しているのかどうかは分からんが。
いずれにせよ、ピンポイントで多数の死星獣に
襲われたことは確かだ。君が、本部で交戦した、
AAD型死星獣は見当たらなかったがな」

「…………」

「あれには、絃元執行官が乗っているのか?」



646:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/21(土) 21:47:47.89 ID:+IntTbT/0

問いかけられ、絆は弾かれたように顔を上げた。

「…………」

沈黙を返した絆に、彼は息をついて言った。

「君はどこかそれを確信していた。
だから全世界に対しての衛生ハックで
連絡をつけようとした。違うか?」

「……その通りだ。俺は、あれに乗っているのが
彼だと確信した。
何故かと言われると……ただの直感だが」



655:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 21:42:26.75 ID:2BLGZ8KQ0

「直感……? そんな不確定な第六感に、
私達は救われたというのか?」

「そうなるな……」

呟くように言って、絆は鼻のチューブを指でさした。

「これは抜いてはいけないのか? 
喋りづらくて叶わない」

「抜けないと思うがな。
無理にやろうとすれば呼吸困難になる可能性が高い」

「…………」

ため息をついて、絆はベッドに横になったまま、
眠っている雪と霧を見た。

彼の視線を追うようにして駈が口を開く。

「……ここで寝かせていていいのか?」



656:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 21:43:16.51 ID:2BLGZ8KQ0

「構わないだろう……渚さんのことだ、
薬はちゃんと飲ませてくれたと思うからな」

「信用しているようだな。あのクランべを」

淡々とそう言われ、
絆は少しムッとしてそれに言い返した。

「悪いか?」

「……君はやはり異様だよ。
同じ人間なのかと疑問さえも抱く」

それには答えず、駈はそう言ってサングラスを外し、
目頭を手で抑えた。

「おそらく、そのクランベにさえも異質に
映っているだろうな、君の姿は」

「何を言いたい……?」



657:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 21:44:08.16 ID:2BLGZ8KQ0

「いや……単に元老院や医師団が研究するべきなのは、
このバーリェ達ではなく、本当は『君』で
あるべきなのではないかと、ふと思ってね」

平坦な声でそう返され、
絆は思わずゾッとして口をつぐんだ。

研究対象?

この男には、自分はそう映っているのか。

一瞬それに対して声を返せなくなったのだ。

「俺なんかを研究してどうする? 何も得るものはないぞ」

「医師団はそう考えないだろうな。
君の思考パターン、考え方、全てを吸収して、
今後生まれてくる子供のDNAに
活かそうとするかもしれない。
何せ、どんなバーリェでも即座に
使いこなすプロフェッショナルだ。
君の精子はさぞや高く売れることだろう」



658:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 21:45:04.31 ID:2BLGZ8KQ0

「そういう考え方は好きじゃない。
喧嘩を売っているのなら、出ていってくれ」

「気に触ったのならば謝ろう。他意はない」

そこで一旦言葉を切り、
駈はコーヒーの残りを口に流し込んだ。

「単刀直入に聞こう。戦闘は可能なのか?」

問いかけられ、絆は一瞬押し黙った。

そして自分の体を見回す。

各部に点滴や器具が装着された体。

ギプスで覆われた手と足。

日常生活さえも満足に行えない自分が、
果たして戦場に出ていって役に立つことができるのか。

それは、正直疑問だった。



659:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 21:45:55.77 ID:2BLGZ8KQ0

駈はコーヒーの缶を手にとって軽く振りながら、
絆のことを見ずに続けた。

「……私は不可能だと思うがね。
君は死んでもおかしくない程の怪我をした。
生き死にの境目にいたとも言える。
生命力の図太さは認めるが、君の体は既に限界だ。
それは、医師として私が保障しよう。
自信を持って言える」

「…………」

「しかし、君の存在が、ただ座っているだけでも
バーリェ達の精神波の安定に繋がることは、
状況証拠で既に実証されている。
戦力は多いに越したことはない。
強大な戦力であればあるほどだ。
君は、バーリェ達と共に戦う気があるのか?」

「…………」

絆は数秒間押し黙った後、口を開いた。

「……勿論だ。俺は、次の戦闘にも出撃をする」



660:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 21:46:41.77 ID:2BLGZ8KQ0

「そうか」

駈は頷いて立ち上がった。

「君の意思がある以上、私達が止めることは出来ない。
ただ、これだけは警告しておく。
次に無茶な操縦をしたら、君は確実に死ぬ。
その覚悟があるのなら、私は特に構わない」

「言われるまでもない……!」

歯を噛んだ絆を一瞥して、
駈はポケットから小型のプロジェクターを取り出した。

そのボタンを押して、壁に映像を投影する。

そこには、高さ二十メートル程の壁に
覆われた自然の森が映し出されていた。

「現在艦が向かっている、フォロントンの様子だ。
既に現地の軍やエフェッサーが数個大隊突入しているが、
いずれも帰還報告はない」



661:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 21:47:33.85 ID:2BLGZ8KQ0

「全滅したのか……?」

「おそらく」

頷いて、駈はプロジェクターのボタンを操作した。

映像が切り替わり、間近で映しだされた
自然の壁の画像が投影される。

「自然の壁の周辺は、特殊な磁場が発生しているために、
全ての通信機器は使えなくなる。
それは事前に説明した通りだ」

「待てよ……ということは、
バーリェの乗っているAADの遠隔操縦は……? 
他のトレーナーはどうするつもりなんだ?」

絆は、そこでハッと気がついて問いかけた。

椿と自分以外のトレーナーは、
AADを遠隔操縦で操っている筈だ。



662:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 21:48:27.04 ID:2BLGZ8KQ0

それに、本部……つまりここからの通信も
途絶されるとなると、AADを操ることは出来ない。

駈は頷いて続けた。

「君と、椿執行官以外のバーリェは、
君達の指示で動くことになる。
この艦は自然の壁の外側で待機。
君達は上空から侵入することになる」

「バーリェに任せるっていうのか……! 
軍や他のエフェッサーはそうしたんだな? 
だから一機も帰還できていないんだ……!」

この期に及んで、人間達は自分の命を優先する。

思わず声を荒げた絆は、息が詰まり力なく咳をした。

「何かおかしいかね?」

駈にそう聞かれ、絆は息を吐いてから続けた。

「あんた達には一生分からないことだよ」



663:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 21:49:06.01 ID:2BLGZ8KQ0

「……それで、今回の突入作戦だが、
君にはもう一度大恒王に乗って欲しい」

駈に押し殺した声でそう言われ、
絆は目を見開いて彼を見た。

「大恒王を……持ってきたのか?」

「システムの中核さえあれば
いくらでも複製が可能だ。
この艦の中で修復を続けていた。
先程ロールアウトが完了した」

「凍結されているんじゃないのか? 
……国際条例に違反しろって言いたいのか?」

「そうだ」

駈は暗い笑みを発して、絆を見た。

「君には国賊になってもらいたい」



664:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 21:50:07.03 ID:2BLGZ8KQ0

言葉を失った絆に、駈は付け加えた。

「無論タダでとは言わない。大恒王はあくまで君が、
個人的意思で運用したものと
主張してくれればいいだけだ。
君の命は保障しよう。その代わり……」

「俺の脳の研究をさせろと言いたいのか……!」

「そうだ」

頷いて、駈はポケットに手を突っ込んで
壁に寄りかかった。

「私達にとっても、君にとっても悪い話ではない。
生存確率は、大恒王の方が圧倒的に高い。
『死ぬのが怖い』のなら、乗るべきだと私は思うが」

――卑劣だ。

いけしゃあしゃあとした顔で、よくやる。



665:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 21:50:38.93 ID:2BLGZ8KQ0

絆は心の中で、駈に唾を吐きかけたい
衝動を無理やり抑え込んだ。

やはりこの男は、危険だ。

夢の中でバーリェ達と会話した内容を、
この男に漏らす訳にはいかない。

絆はだいぶ長い間考え込んでいた。

しばらくして彼は息をつくと、駈に答えた。

「……分かった。大恒王に乗ろう」

「君ならそう言ってくれると思っていたよ」

駈は端的にそう言って、壁から離れて
ゆっくりと出口に向かって歩き出した。



666:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 21:51:32.66 ID:2BLGZ8KQ0

女性職員と看護師達が彼に続く。

数人の看護師に目配せをして残るように
指示すると、彼は部屋のボタンを
押してから言った。

「……フォロントンにはあと十五時間あまりで
到着する。それまでの間だが、ゆっくり休むといい」

――休めるわけがないだろう。

部屋を出ていった駈に対して、心の中で吐き捨てる。

絆は、睡眠薬を自分に投与してくれるように
看護師に頼み、目を閉じた。



667:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 21:52:22.21 ID:2BLGZ8KQ0



フォロントンに着いたのは、
しかしそれから二十時間以上も
経ってからのことだった。

艦が受けた損害で、思うように
スピードが上がらなかったのだ。

絆は職員達の手で、機械的に大恒王の
コクピットに詰め込まれながら息を吐いた。

体の各部への局部麻酔が効いているため、
感覚もないが痛みはない。

しかし……両腕を看護師に、
包帯で操縦桿にぐるぐる巻きにされている絆を、
雪と霧が心配そうな目で見ていた。

「絆……来ない方がいいよ……」

雪が、絆の様子を霧から聞いて口を開く。



668:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 21:53:09.84 ID:2BLGZ8KQ0

霧も頷いてそれに続いた。

「マスター、艦の中でお休みになって
いてください。私達が戦ってきます」

「俺の心配をする前に、集中しろ。
大恒王は起動に時間が掛かるんだ」

絆はかすれた声でそう言った。

純がため息をついて操縦桿を握る。

「全テノ設定ヲパーンクテンション。
システム、起動シマス。
大恒王ノ全システム起動マデ、後十七分デス」

サポートAIの声が聞こえる。

十七分。

驚異的なスピードだ。

やはり純の性能は凄まじい。



669:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 21:53:50.20 ID:2BLGZ8KQ0

諦めたように息をつき、
純は操縦桿を握りしめながら言った。

「特務官様はあまり動かないでください。
傷が開きます。お姉様達、速やかに
敵拠点を殲滅し、艦に帰還しましょう」

「純ちゃん……」

雪が、しかし戸惑ったように続けた。

「絆は戦える状態じゃないんでしょう? 
一緒に行くなんて、無茶だよ」

「無茶かどうかは俺が決める。
お前達は何も心配することはない」

絆がそう言うと、モニター下側に
各トレーナー達の顔と駈の顔、
そして椿の顔が映しだされた。

『絆特務官……出撃されるのですか?』



670:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 21:54:26.21 ID:2BLGZ8KQ0

椿が素っ頓狂な声を上げる。

『それに……八百番台の機体……? 
それは凍結されている筈じゃ……』

他のトレーナー達も怪訝そうな顔をしている。

絆は頷いて、そして言った。

「俺の独断で動かす。全員死んだら、
それこそ笑いものだ。この機体の力が必要だ」

『作戦概要をもう一度説明する』

絆の言葉を引き継いだ形で、駈が口を開いた。



671:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 21:55:14.15 ID:2BLGZ8KQ0

『この艦を基地拠点とし、
自然の壁内部の新世界連合拠点を叩く。
こちら側の戦力は、大恒王一機に、
七百番台のAAD四機。
戦闘機型トップファイブAAD十二機だ。
これらを最後の作戦とし、
オペレーションフォロントンと呼ぶことにする。
尚、自然の壁の内部ではバーリェ諸君は、
絆特務官と椿執行官の指示で動くこととする。
内部では外側からの通信が使えない。
忘れないようにしてほしい』

「…………」

『活動開始マデ、後十二分デス』

AIの声が響く。

『君達は、ここから自然の壁内部の中央部、
五十二キロ地点まで移動。
その際に出現した敵勢力は、全て排除するように。
そして、敵拠点を目視したら、この兵器を使用しろ』



672:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 21:55:58.49 ID:2BLGZ8KQ0

駈が壁にプロジェクターで映像を投影する。

そこには、ミサイル弾のようなものが映っていた。

それが何なのかを知っている絆達は、
沈黙して彼を睨みつけた。

『この合成ガスは、炸裂した地点から
半径五キロ以内の、全ての動植物の活動を
停止させる。いわゆる有毒ガスだ。
すべての機体に、一発ずつこの特殊弾が搭載されている』

『やはりこれは……非人道的すぎるのでは……』

椿がそう漏らすと、
駈は手元の資料に視線を落として答えた。

『何を言う。先に手を出してきたのは新世界連合だ。
彼らを駆逐しなければ戦いは終わらない』

遠まわしに、特攻しろと言っているのに近い。

現場に出向く椿が青くなったのも分からなくはない。



673:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 21:56:49.09 ID:2BLGZ8KQ0

コクピット内は密閉状態のためガスには強いが、
それでも、毒ガスがばらまかれることになるのだ。

いわば、戦略兵器を抱えて突き進めと
言われていることに近い。

『活動開始マデ、後十分デス』

AIの声と共に、絆は言った。

「どの道、戦いは終わらせなきゃいけないんだ
……使える戦力はありったけ使う。
俺達は戦いに行くんだ。遊びに行くわけじゃない」

『…………』

椿が下を向いて黙りこむ。



674:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 21:57:18.62 ID:2BLGZ8KQ0

駈は資料をめくって続けた。

『作戦所要時間は、四十分とする。
各AADには補助システムを組み込んである。
ガス散布後、離脱する程度の
エネルギーは既に注入してある。安心したまえ』

駈は資料を閉じて、そして言った。

『敵陣をかいくぐり、本拠地にガスを
叩きこむだけだ。成功を祈っている』



675:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 21:58:09.36 ID:2BLGZ8KQ0



十分があっという間に経ち、
大恒王は脚部キャタピラを回転させながら、
着陸している艦の外に出た。

『エネルギーラインノ確率ヲ確認。
ハイコアノ接続ヲ感知。
システム、殲滅(ジェノサイド)モードヲ起動シマス』

「大恒王、テイクオフします!」

渚の声と共に大恒王が背部ブースターを
点火して、凄まじい勢いで空中に浮かび上がった。

他のAADも飛び上がりはじめる。

大恒王の背後に、ぴったりと椿のAADがついた。

『後ろは任せてください!』

椿の声が聞こえ、絆は軽く笑ってそれに返した。



676:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 21:58:55.81 ID:2BLGZ8KQ0

「了解した。全機、危ないと思ったら
こちらに任せてすぐに帰還しろ。これは『命令』だ」

絆は他のバーリェ達に向かってそう言った。

目の前に、壁の内側にどこまでも
広がる緑色の空間が映る。

「綺麗……」

霧がそう呟いた。

「活動臨界マデ、後四十五分デス」

AIの声が、活動臨界時間を告げる。

四十五分、通常運用すれば作戦時間内に
戻ってこれる時間だ。

しかし。

果たして、それだけの時間で、
絃と決着をつけることができるのか。



677:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 22:00:36.94 ID:2BLGZ8KQ0

考えてもそれは分からないことだった。

「全機大恒王に続け! 作戦を開始する!」

考慮している時間はない。

絆がそう言うと、純が

「了解しました。衝撃に備えてください」

と言って、アクセルを踏み込むように操縦桿を握った

大恒王が、比較的ソフトな動きで少しずつ
ブースターを加速させる。

Gに耐えながら、渚が引きつった声を発した。

「目標地点まで十二分で到着いたします
……待ってください、重力子指数急激に増大、
死星獣の反応です!」

「迎撃します!」



678:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 22:01:21.90 ID:2BLGZ8KQ0

純がそう叫ぶように言って、
大恒王の肩部ブレードを抜き放つ。

『「ハイ・シィンケルハンドブレード」ヲ展開。
続ケテ「スティグマスフィール」ドヲ
全方位ニ展開イタシマス』

大恒王が灰色に光り、
エネルギーのフィールドを周囲に展開する。

「認識させない!」

純がそう怒鳴ると、彼女は高速で操縦桿を動かした。

空中から現れた数十体の死星獣の一角を、
流星のように飛んだ大恒王が駆け抜ける。

遅れて背後でブラックホール粒子を炸裂させて
死星獣達が大爆発を起こした。

「凄まじい転移量です! 感知限界を超えました! 
五百……六百……嘘……!」



679:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 22:02:09.57 ID:2BLGZ8KQ0

言葉を失った渚に続き、
絆もモニターを見て息を呑んだ。

まるでハチの大群のように、金色の、羽が
生えた死星獣が数百も群れになって
空中を浮遊していたのだった。

それらは両手を広げると、
ひとつの大きな板のようになってこちらに向き直った。

それらの体が真っ赤に発熱する。

「大丈夫です、うろたえないでください!」

純がそう言って、突っ込んでいる大恒王の動きを
止めないまま、機械兵器の背部ブースターから
巨大な砲身をせり上がらせた。

「スティグマスフィールドを射出します! ナビを!」

純の声にハッとして、絆はモニターを
睨みつけてくぐもった声を発した。



680:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 22:02:56.58 ID:2BLGZ8KQ0

「水蒸気爆発が来る……今だ!」

今までとは比較にならない規模の球形の爆発が、
周囲に広がった。

「全開に展開します!」

『了解。スティグマスフィールド、
生成臨界点ヲ突破。
スティグマスキャノン、発射シマス』

砲身が灰色に輝き、直径百メートルを
超える巨大な光の柱が吹き出した。

それに押される形で後退した大恒王の中で、
絆は向かってきた熱波を、
エネルギーが掻き消して突き抜けたのを見た。

天に向かって飛んだ光の柱は、
軽い音を立ててゆっくりと掻き消えた。

次いで、光が通過した場所の死星獣が、
一気に膨張して炸裂した。



681:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 22:03:41.31 ID:2BLGZ8KQ0

それは次々と連鎖爆発を引き起こすと、
たちまちのうちに数百の死星獣を爆裂させた。

「押し通ります! 各機、私達に続いてください!」

純が怒鳴って操縦桿を握りこむ。

「雪お姉様は管制を、霧お姉様は砲座攻撃と
エネルギー循環経路の制御をお願いします! 
私はこのまま突き抜けます!」

そう叫んで、純はブレードを構えながら、
大恒王を猛スピードで、
残った死星獣の群れに突入させた。

まるで洞窟で、コウモリの群れに飛び込んだかのように、
死星獣達が大恒王に取り付こうとわらわらと寄ってくる。

手近な数体を切り飛ばした純の動きに合わせるように、
霧が上ずった声を発した。

「全方位射撃砲、ブルフェンを使用します! 
エネルギーラインを三十五パーセントで固定、
スタンバイ!」



682:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 22:04:20.52 ID:2BLGZ8KQ0

『了解。「ブルフェン」ヲチャージシマス。
二十秒間オ待チ下サイ』

AIの声が苛立ちを募らせる。

ブレードを振り回しながら、
針の穴を通すような正確さで、
大恒王が死星獣の合間を縫って飛ぶ。

椿のAADがやっとついてきていた。

他のAADは、追いついてきていなかった。

慌てて絆が声を張り上げる。

「純、後ろを気にしろ! 
仲間の戦力を無駄にするな!」

「まずは周辺の敵を一掃します!」

『チャージ完了。撃テマス』



683:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 22:05:04.89 ID:2BLGZ8KQ0

端的なAIの声と共に、霧が叫ぶ。

「衝撃に備えてください、発射します!」

大恒王の肩部と脚部の装甲が開き、
中の四つのキューブ体が高速回転する。

一拍後、大恒王は背後についていた椿の
AADと背中を合わせるように空中にホバリングし、
周囲にリング状の衝撃波を放った。

それがゆっくりと広がっていき、
群がっていた死星獣達を飲み込む。

次の瞬間、ぐんにゃりと空間が歪んで、
死星獣達が掻き消えた。

『エネルギーライン八十九パーセントに低下。
ブルーデ安定シマス』

一瞬純が苦しそうな表情をする。



684:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 22:05:50.74 ID:2BLGZ8KQ0

しかし彼女は、背後に他のAAD達が
ついてきているのを確認すると、また声を張り上げた。

「攻撃して! 六百番台、
ケルミカルミサイルを使いなさい!」

――ケルミカルミサイル。

今回、各機体に積まれている有毒ガスを
詰め込まれたミサイルだ。

絆が待て、と言う前に、背後から近づいてきていた
戦闘機型AADが、一斉に毒ガスミサイルを発射した。

純の言葉を、絆の命令だと誤認したのだ。

ミサイルはそれぞれ放物線を描いて打ち上げられると、
手近な死星獣に向かって突進を始めた。

純がそこで、大恒王のブースターを全開に吹かした。

「ごめんなさい! 耐えてください!」

凄まじいGが絆達を襲う。



685:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 22:06:32.21 ID:2BLGZ8KQ0

歯を食いしばった絆の目に、
流星のような軌道で移動した大恒王が、
ブレードで十二発の毒ガスミサイルを
次々に斬り飛ばすのが見えた。

遅れて大恒王の背後でミサイルが大爆発を起こし、
周囲に真っ白い粉のような毒ガスを散布する。

周囲を囲むように、毒ガスはヒラヒラと舞い降ちた。

それに当たった死星獣が、奇妙な動きをした。

ビクンッ、と痙攣したように動くと、
それらは空中で体を震わせ、頭をかきむしった。

次いで死星獣達の頭部が膨れ上がり、
膨張して爆発する。

胸からはキューブ体、核が浮かび上がったが、
白い毒ガスに当たると塵になって消え始めた。

これは……毒ガス、ではない。



686:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 22:07:13.20 ID:2BLGZ8KQ0

「ホワイトホール粒子……
ブラックホール粒子の反物質か!」

絆は操縦桿を握りながら押し殺した声を発した。

ブラックホールと対極の位置にあるもの。

それがおそらく、ホワイトホール粒子。

それはブラックホール粒子を相殺して
打ち消すだけではなく、死星獣の動きを止め、
干渉することができるらしい。

白いホワイトホール粒子に当たった森が、
綺麗に消滅していく。

まるで破壊の雪のような光景が広がっていた。

「ミサイルを発射した機体は後退しろ! 
邪魔になる!」

絆が怒鳴る。



687:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 22:07:56.77 ID:2BLGZ8KQ0

純は、白い狂気の雪が荒れ狂う中、
大恒王を更に前に突き進ませた。

「純、止まれ!」

Gに耐えながら絆が声を張り上げる。

しかし純はそれを無視し、
更に機体を別の死星獣の群れに突っ込ませた。

「霧お姉様!」

「ブルフェンの二撃目を発射します!」

頷いて霧が操縦桿を握りこむ。

大恒王は、片手で椿の機体を掴んで引き寄せると、
射角を調整してもう一度ブルフェンを放った。

前方の死星獣が綺麗に消える。



688:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 22:08:45.27 ID:2BLGZ8KQ0

遅れて他の三機のAADが
追いついたのを見て、純は

「全機攻撃スタンバ……」

と言いかけて、こみ上げてきた嘔吐感に負け、
口の中に沸き上がってきた血を吐き出した。

「純!」

絆が叫ぶ。

無理な、急激なエネルギー搾取による副作用だ。

純は、しかし口元を手で拭って、ニィと笑ってみせた。

「的が多いと楽です! 
だって、撃てば当たるんですもの!」

「死ぬぞ! 霧、純を止めろ!」

しかし霧は、首を振って慌てて操縦桿を握りこんだ。



689:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 22:09:27.84 ID:2BLGZ8KQ0

「スティグマスシールドヲ展開シマス」

霧の操縦で大恒王が左腕を振り上げる。

その腕に、半球状の巨大なエネルギー膜が浮かび上がった。

そこに、突然空中に出現した機体が振り下ろした
長大なブレードが打ちあたって受け止められ、
凄まじい勢いで火花を上げた。

――戦劫王だった。

六枚の翼を生やして完全に回復した、
そのAAD型死星獣が、弾かれたブレードを振り上げて、
二度、三度と視認もできない速度で振り下ろす。

純と霧の操縦で、ブレードとエネルギーシールドで
何度もそれを受け止めながら、大恒王は背後に飛んだ。

ブレードを空振りした戦劫王が、
そのまま空中をくるりと回り、掻き消える。

「重力子指数増大、背後です!」



690:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 22:10:15.22 ID:2BLGZ8KQ0

渚が上ずった声で叫ぶ。

背後から出現した戦劫王は、
大恒王のブースターに向かって
ブレードを振り下ろした。

そこで、間に椿の機体が割って入った。

「椿さん!」

絆が慌てて怒鳴る。

椿の機体は、しかし返事をする間もなく
肩口から袈裟斬りに両断されると、
空中を錐揉みに回転しながら落下し始めた。

その瞬間、大恒王を突き飛ばして
ブレードを避けさせる。

やがて煙を上げた椿の機体が森に落下し、
遅れて爆炎を上げた。



691:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 22:11:06.03 ID:2BLGZ8KQ0

モニターに、彼女の機体がロストしたことを
表す文字が表示される。

「そ、そんな……」

硬直した絆の前で息も継げずに、
戦劫王の高速の斬撃を、霧と純が
受け止めながら後退していた。

「七百番台、前に出なさい! 進んで!」

祈るように純が叫ぶ。

そこで戦劫王の姿が掻き消え、
前に出ようとしていたAADの一機の前に
出現し、肉薄した。

戦劫王の腹部が蠢いて開き、
中の真っ黒な空間が姿を現す。

一瞬後、先程大恒王が発射したスティグマスキャノンに
似た黒い光が、数百メートルもの直径に
ふくれあがってそこから射出された。



692:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 22:11:52.44 ID:2BLGZ8KQ0

越えて行こうとしていた三機のAADが
一瞬で巻き込まれ、
ひしゃげて段々と小さな塊に圧縮されていく。

そして、しまいにはビー玉のような粒に
なって消滅してしまった。

爆発も何も起こらなかった。

一瞬で味方が全てやられてしまったのを見て、
絆はたまらず操縦桿を握りこんだ。

そして訳の分からない声を上げながら、
全ての砲座のロックを解除し、
機械を制御して戦劫王に照準をロックオンさせる。

「ベルクトラルパルスレーザー、
フルバースト。射出シマス」

AIの声と共に体中の砲座から灰色の
レーザー光が発射され、それらは空中で
歪んで乱反射し向きを変えると、
戦劫王に全方位から襲いかかった。



693:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 22:13:24.09 ID:2BLGZ8KQ0

純がまた嘔吐感に負けて血を吐く。

今度は、霧も激しく咳き込んで同様に吐血した。

「霧ちゃん! 純ちゃん!」

泣きそうな声で雪が絶叫する。

操縦桿から手を離して、
霧がボタボタと血液を吐き散らす。

「エネルギーライン、六十七パーセントニ低下。
グリーンデ安定サセマス」

AIの淡々とした声が五月蝿い。

戦劫王は、前方向から乱反射しながら
襲い掛かるレーザー光に抵抗することも出来ずに、
全て被弾して、次いで大爆発を上げた。

「直撃を確認! 
で、ですがまだ重力子指数が下がりません!」

渚が悲鳴のような声を上げる。



694:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 22:14:04.16 ID:2BLGZ8KQ0

もくもくと立ち昇る煙が段々と晴れ、
そこには羽で胴体を守るようにして
浮遊している戦劫王の姿があった。

羽はボロボロになっていて、崩れて消えていく。

次いで戦劫王の頭に亀裂が入り、
まるで虫の脱皮のように、中からずるりと、
腕と足が妙に長い人型の物体が姿を表した。

まるでナナフシのような姿だった。

周囲を飛んでいた死星獣達が次々と脱皮した
戦劫王に吸い込まれるように近づいていき、
その体に溶け込んで融合し始める。

それに伴って、戦劫王が徐々に膨れ上がり始めた。

数秒後、唖然としている絆達の目の前で、
五百メートルを超える体長の、
腕と足が妙に長い金色の巨人が、
四つん這いの姿勢で森に立つ。



695:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 22:14:47.19 ID:2BLGZ8KQ0

「何……だ、あれ……」

呆然と呟いた絆の耳に、
我に返った渚の声が飛び込んできた。

「あ……ありえない程の重力子指数です! 
この空間の圧縮が起こります!」

戦劫王を中心とした空間が、
半径十数キロ程ぐんにゃりと歪んだ。

「スティグマスフィールドヲフル展開シマス。
全テノ機能ニ障害ガ発生シマシタ。
動作三十二パーセント低下。
ブースター出力五十六パーセント低下。
エネルギーライン、四十パーセントヲ割リマシタ。
レッドラインニ突入シマス」

AIの淡々とした声。

大恒王全体がビシビシと音を立てて歪み始めた。



696:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 22:16:11.31 ID:2BLGZ8KQ0

空間それ自体が、
まるで渦巻きのようにねじれてきている。

今まで足元にあった森が、頭上に見える。

「絃……!」

絆は押し殺した声で言うと、声を張り上げた。

「終わらせるぞ! 
メルレダンデを使う。フルチャージ!」

『了解。広範囲極破壊兵器、
メルデダンデヲ使用シマス。
最終認証ヲオ願イシマス』

「やれ!」

『最終認証ト判断シマス。
チャージマデ、残リ三十秒デス』

霧が、口元を手で抑える。



697:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 22:17:13.69 ID:2BLGZ8KQ0

次から次へと血が流れ落ちて、
彼女の病院服を真っ赤に濡らす。

純が頭を抑えて崩れ落ちた。

次いで、雪の鼻から血が流れ出す。

「みんな!」

渚が悲鳴を上げる。

絆は操縦桿を強く握り、
目の前の異形の化け物を、
穴が開かんばかりに睨みつけた。

お前らが。

お前らがいるから。

だから、俺は。

『チャージ完了。撃テマス』



698:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 22:17:49.58 ID:2BLGZ8KQ0

「全砲門を開放! 撃てええ!」

操縦桿を捻りこむ。

次の瞬間、大恒王を中心とした空間が、
今度は逆方向に歪んだ。

そして空間が元に戻り、火花をちらし始めた。

コクピットの中は、血まみれだった。

三人とも鼻や口からものすごい勢いで
血液を垂れ流している。

しかしそこで、雪が操縦桿を握って大声を上げた。

それは、彼女が見せたことがない激情の姿であり。

声にならない叫びだった。

空間が大恒王の力により歪み、
戦劫王を巻き込んでぐんにゃりと曲がる。



699:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 22:18:25.44 ID:2BLGZ8KQ0

次いで、真っ白い光が大恒王の前に
吸い込まれて、消えた。

周囲の森が全て吸い込まれ、
綺麗なすり鉢型の砂漠になって散る。

戦劫王は吸い込まれはしなかった。

しかし、一秒経ち。

二秒経ち。

数瞬遅れて、巨大な異形は火柱を吹き上げた。

『エネルギーノラインガ、
二接続切断サレマシタ。補助システムヲ起動シマス』

純と霧がひときわ強く血を吐いて、ぐったりと脱力した。



700:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/24(火) 22:19:07.82 ID:2BLGZ8KQ0

雪が口や鼻から血を流しながら、
必死に操縦桿を握る。

一拍遅れ、戦劫王を中心に、
凄まじい勢いで天に向かって
火柱が膨れ上がり、飛んだ。

それは数十秒も立ち上り続けると、
やがて唐突に消えた。

ズゥゥン……と重低音を立てて、
前兆五百メートルはある化物が
横薙ぎに砂の中に倒れこむ。

そこで雪が激しく咳をして、操縦桿から手を離した。

大恒王が彼女の制御を離れて、
ブースターの点火を止めて落下し始める。

絆は慌てて操縦桿をひねりこみ、設定を変え。

補助ブースターを起動させながら、
鈍重な機体を真下に不時着させた。



705:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/25(水) 17:49:04.18 ID:JyuEt+7B0

凄まじい衝撃が大恒王を襲う。

絆はコクピットの中で激しく揺さぶられながら、
力なく崩れ落ちたバーリェ三人のことを見て、
慌てて手を伸ばそうとし。

そこで大恒王が前方に倒れこみ、
シートに体が叩きつけられた。

意識が飛ぶ。

麻酔が切れたのか、体を鋭い激痛が襲っていた。

絆はカハッ、と血の混じった唾を吐き出し、
必死に操縦桿を握った。

ポツリ、ポツリと雨が降ってきた。

それは次第に強さを増し、そして数秒後、
雷を伴った豪雨になった。

「エネルギーノラインガ全テ切断サレマシタ。
大恒王ハ、全システムを停止イタシマス」



706:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/25(水) 17:49:52.60 ID:JyuEt+7B0

AIの声とともに、大恒王のコクピット内が
補助電源の赤いランプに切り替わる。

雨は数分で、あたりを泥沼のように
変えてから止まった。

絆はそこで、軍服を着た人間が一人……二人……
いや、数十人も、銃を手にこちらに
向かって歩いてくるのを見た。

少し離れた場所の地面に、小型の飛空艇が停まっている。

絆は壁にかかっていたハンドガンを手に取ると、
動かない手で何とかコッキングし、周りを見回した。

渚も、三人のバーリェも、意識がないようだ。

銃を口にくわえて、這うようにしてまず純に近づく。

脈はある。

霧も、まだ息があった。



707:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/25(水) 17:50:34.81 ID:JyuEt+7B0

しかし雪の脈がなかった。

絆は慌てて彼女の体からチューブを引き抜くと、
小型のAEDを取り出して、雪の体にセットした。

そして電源を入れ、数秒置いて心臓に
電気ショックを与える。

それを何度か繰り返したところで、
雪が激しく咳をして血を吐き出した。

「良かった……雪……!」

AED機をむしりとり、雪を抱きしめる。

雪はしばらくぼんやりと宙を見ていたが、
やがてかすれた、消え入るような声で呟いた。

「絆…………私、生きてる……?」

「ここに隠れてろ。俺が合図したら、
緊急の脱出ボタンを押せ。分かったな?」



708:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/25(水) 17:51:08.92 ID:JyuEt+7B0

「絆は…………私、一緒に…………」

「俺は、今から新世界連合に対して囮になる。
お前達だけでも逃げるんだ。命令だ」

「絆……!」

動こうとしたが、すぐには心停止していた体は
言うことを聞かなかったらしく、
もがいた雪をシートに押さえつける。

そして絆は、体を引きずりながら
無理矢理に立ち上がり、
ハッチを開くボタンを押した。



709:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/25(水) 17:51:55.53 ID:JyuEt+7B0



「それ以上近づいたら、引き金を引く! 
分かるか? ガスミサイルの信管だ!」

大声を張り上げた絆の目に、近づいてきていた
新世界連合の人間達が動きを止めるのが見えた。

絆は真っ直ぐ立ち、大恒王のミサイルポッドの
ハッチを開いて、中のミサイルを露出させていた。

そのひとつ、紫色のラインが引かれた
ミサイルにハンドガンを向けている。

「警告はこれで最後にする! 
お前達が妙な真似をした瞬間に、
こちらは自爆する! 絃を出せ!」

特に策があるわけでもなかった。

それに、この距離ではたとえ自爆したと
言っても逃げられる可能性が高い。



710:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/25(水) 17:52:31.21 ID:JyuEt+7B0

圧倒的にこちらが不利だ。

しかし行動を起こさなければ、
大恒王が包囲されて
なぶり殺しになる可能性が高い。

それならば。

雪達だけでも、逃がしてやりたい。

そう思ったのだった。

言うことを聞くかどうかは不安だったが、
新世界連合の人間達は絆に向けて銃を構えながら、
何かを話し合った後一歩、二歩と後ろに下がった。

そして、絆と同様、体の各部に器具とギプス、
包帯などを装着した絃が、
足を引きずりながら前に進み出た。

桜にそっくりなバーリェ二人が、
彼のことを支えている。



711:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/25(水) 17:53:01.74 ID:JyuEt+7B0

絃はハンドガンをコッキングすると、
絆の声がきちんと聞こえる位置まで進んだ。

「止まれ! 妙な行動を起こしたら撃つ!」

絃は足を止め、クックと喉を鳴らした。

そしてさぞかし面白そうに、
目を見開いて大声で笑い始める。

「何がおかしい!」

激昂した絆に、絃は笑い声を止めて、
ヒュー、ヒューと息を吐きながら言った。

「いや……何。撃てんよ。こんな状況でも
虚勢を張るか。成る程、お前らしいと思ってな」

「…………」

「全隊、前に出ろ!」



712:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/25(水) 17:53:51.66 ID:JyuEt+7B0

絃が指示をした通りに、
新世界連合の人間達が銃を構えて数歩前に出る。

「近づくな!」

怒鳴った絆に、絃は面白そうに笑って
みせてから続けた。

「まだ逃げてないだろう。
お前の大事なバーリェ達が逃げてない。
だから、自爆をするのにはまだ早いんだよ」

黙り込んだ絆に、畳み掛けるように絃は言った。

「お前の負けだ、絆。おとなしく投降し、
バーリェとそのブラックボックス兵器を
こちらに引き渡せ。
そうすれば悪いようにはしない……
いや、絆。むしろ……俺に協力してくれ。
二人でこの世界を変えていかないか?」

絃は銃を降ろし、ミサイルに銃口を
突きつけたまま静止している絆に向かって言った。



713:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/25(水) 17:54:46.09 ID:JyuEt+7B0

「この星は病んでいる。
お前なら、もう知っている筈だ。
元老院はネットワーク上に存在する、
形がないただのデータ生命体に過ぎないって事実を。
俺達は単なるプログラムに命を管理されて、
作られた世界の中で生きてきたんだよ。
その元老院が命令して作り上げたのが、
エフェッサーだ。
だから、俺達は元老院を『殺す』ことは出来ない。
ネットワークのどこに奴らがいるのかも
分からないからな」

「…………」

「だが、間接的に世界を変えることは出来る。
歪んだ世界の中にいる、
歪んでしまった人間達を消去すれば、
元老院に管理されていない、
新しい世界を作り出すことが出来る! 
そのために俺は、バーリェを、死星獣を、
何もかもをも利用した。
そして俺達は、もうじき全ての計画を
実行に移せる段階まで来ている!」



714:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/25(水) 17:55:27.58 ID:JyuEt+7B0

絃は大声を上げてニィ、と笑った。

その顔は奇妙な程、絆がかつて知っていた
彼とは違った粘土細工のようなものであり。

感情を感じさせないものだった。

「だから俺達は……」

「…………変わったな」

絆は銃をミサイルにつきつけたまま、静かに言った。

絃が言葉を飲み込んで、息をつく。

「何がだ?」

「俺も、あんたも変わっちまったよ。
絃、愛してたんだろ? 桜のこと……」

その名前を聞いた絃は、
鼻でそれを笑い両手を広げて声を張り上げた。



715:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/25(水) 17:56:08.53 ID:JyuEt+7B0

「愛していた? 俺がバーリェを? 
こいつら、ただの人形を……
俺達に害を成す元凶のこいつらを! 
俺が、愛していたと言うのか!」

「ああそうだ。お前は桜を愛していた。
だから、だからこそ、この世界が許せなかった。
桜を自爆に追い込まざるを得なかったこの世界を、
そしてその原因を作った元老院を、
お前はどうしても許すことが出来なかった。
だからじゃないのか? 
だから……お前、そんな悲しいこと、
笑いながら言えるようになったんじゃないのか?」

「俺達は……この星のことを想って行動している! 
そんな小さな話で動いているんじゃない!」

「小さくない!」

絆は負けじと大声を張り上げた。



716:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/25(水) 17:56:43.35 ID:JyuEt+7B0

「愛することは小さくない! 
その他の何よりも強い、何よりも大事なことなんだ! 
お前にはそれが分かっている筈だ、
理解できている筈だ! 
お前みたいな人間を、ここまで変えちまう程、
愛は深くて恐ろしいものだったんだよ! 
変わっちまったよ、俺も、お前も!」

「黙れ……!」

絃は銃を振り上げて絆に向けた。

「俺がそんな個人的感情で動いていたと
思われることは心外だ! 訂正を願おう!」

「黙るのはお前だ! 天使の端末を出せ! 
死にたくなければ言うとおりにしろ!」

ミサイルの信管に銃をえぐりこむように突きつける。

絃は歯噛みして、銃を構えながら数歩後ろに下がった。



717:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/25(水) 17:57:27.66 ID:JyuEt+7B0

「何故それを知っている……?」

「……桜に聞いたよ。あいつ、
お前の行動を凄く気に病んでた。
でもまだ、確かにお前のことを
大事に思ってた、愛してた!」

「この期に及んで戯言を抜かすか!」

「撃つぞ! 天使の端末を出せ!」

繰り返した絆と絃が睨み合う。

いつの間にか、新世界連合の人間達は
大恒王を囲むように移動していた。

絃は軽く引きつった笑みを発して、そして続けた。

「お前は撃てない。お前には無理だ」

「いいや撃てる! 
俺は、引き金を引くことに何らためらいはない!」



718:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/25(水) 17:58:00.83 ID:JyuEt+7B0

絆はそうはっきりと言って、
絃に向けて銃を振り上げ、引き金を引いた。

彼の頬をかすめて銃弾が通り抜ける。

「……絆ぁ!」

一拍遅れて激昂した絃が、
構えていた銃の引き金を引いた。

パンッ、と軽い音がして絆の脇腹に弾が着弾する。

もんどり打って地面に倒れ、
絆は内蔵をぐちゃぐちゃにかき回される痛みに悶絶し、
込み上がってきた血の塊を口から吐いた。

「……最後の警告をするのはこちら側だ。
言うことを聞け。そうすれば悪いようにはしない」

絃はそう言って、ポケットから金色に輝く
正方形のキューブ体を取り出した。



719:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/25(水) 17:58:34.42 ID:JyuEt+7B0

十センチ四方程のそれは、
光を反射して眩くきらめいていた。

――天使一号。

死星獣を、バーリェを具現化させている
端末のうちの一つ。

「いいだろこれ……これがあると、
思うだけで死星獣を作り出すことが出来るんだ」

絃はそう言って、目を閉じて何事かを念じ始めた。

彼の背後の空間が揺らめき、
金色の死星獣が何匹も姿を現す。

「嘘、だろ……」



720:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/25(水) 17:59:02.17 ID:JyuEt+7B0

まだ出すことが出来るのか。

その事実に愕然とした絆に、
絃はキューブ体を弄びながら続けた。

「お前達には、最初から勝ち目はなかったんだよ。
どんなに死星獣を倒しても、
こちら側に天使一号がある限り、
無尽蔵に兵力の補充が可能だ。
そんなエネルギー切れを頻繁に起こす
不安定な兵器一機では、
どうあがいたって俺達には勝てないんだよ」



731:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:33:55.76 ID:pjq4rUFZ0

絆は何とか立ち上がろうとして失敗し、
またもんどり打って地面に転がった。

泥水まみれになりながら、
彼は大恒王の脚部にしがみついて、
ずるずると体を引きずりながら上体を起こした。

そしてミサイルに銃をえぐり込んで叫ぶ。

「近づくな! 本当に撃つぞ!」

「射撃は待て。あいつは生け捕りにしたい」

絃が鉄のような声で言って、周囲を制止する。

そして彼は銃を構えながら、
絆に向けて近づいてきた。

「撃ちたいなら撃てよ絆……どうした? 
俺には引き金が引けるのに、
ミサイルに対しては引き金が引けないのか!」



732:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:35:47.20 ID:pjq4rUFZ0

じりじりと距離を詰めてくる絃を睨みながら、
絆は指先に力を込めようとして、
しかし体の感覚が完全に麻痺している
事実に気がついた。

腹を撃たれたのが最後だったらしい。

――死。

俺は死ぬのか。

このまま、こんなところで。

動悸を無理矢理に抑え、荒く息をつく。

そして彼は、コクピットに向けて怒鳴った。

「今だ雪! 逃げろ!」

「何……?」

一瞬絃が緊張する。



733:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:36:19.74 ID:pjq4rUFZ0

しかし、数秒間置いても何も起こらなかった。

「どうした、雪! 早く逃げろ!」

「……雪ちゃんは覚醒してるのか……
成る程、流石天使に一番近いバーリェだ。
まがいものとは格が違うな」

絃の表情が変わった。

彼は周囲に指示をすると、
絆に銃を向けながら一気に距離を詰めてきた。

「雪!」

必死に叫ぶ。

まさか、まだ体が動かないとでも言うのか。

こんなところで……。

こんなところで、自分も、雪達も、
みんな殺されてしまうのか。



734:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:36:50.71 ID:pjq4rUFZ0

死んで、しまうのか。

しかし、絆の予想はまた圧倒的に
裏切られてしまった。

ドシャ、と音がして、コクピットから
何か小さなものが落ちてきた。

それは地面を指で掻いて立ち上がると、
訳の分からない声を上げて、
絆の頭に銃を突きつけていた絃にぶつかった。

「雪……!」

それは雪だった。

見えない目をいっぱいに見開き、
彼女は地面にどうと倒れた絃に覆いかぶさるように、
その場に転がった。

「待て、撃つな!」

絃が怒鳴った瞬間だった。



735:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:37:32.70 ID:pjq4rUFZ0

彼の近くにいた新世界連合の一人が、
小銃の引き金を引いた。

連続した射撃音が響き渡り、
雪の小さな体が跳ねた。

そして彼女は、殴りつけられたかのように
その場で膝を折り、
力なく絆の方に倒れこんできた。

「…………」

唖然として、声が出ないまま雪を抱きとめる。

「お……おい……」

ゴボッ、と明らかに危ない量の血を吐いた雪を、
絆は慌てて揺さぶった。

「雪! おい雪! 何やってんだ、
何やってんだお前!」



736:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:38:12.44 ID:pjq4rUFZ0

「絆……」

雪は微笑んで、そしてかすれた声で続けた。

「……私、ちゃんと絆を助けられた……?」

「ま、待ってろ、
今血を止めてやる……血を……」

震える手で、ぐちゃぐちゃになった
雪の胸を押さえる。

「止まらねえ! ……止まらねえよ!」

後から後から血が流れだしていた。

「おい! 何見てる! 何見てんだ! 
助けてくれ! 俺のバーリェが
……雪が! 雪が死んじまう!」

新世界連合の人間達に、気づけば絆は哀願していた。

「誰か……誰か! 雪が! ……雪が!」



737:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:38:42.35 ID:pjq4rUFZ0

金属音がした。

周囲の新世界連合の人間達が、
無言で銃をコッキングして絆に向けていた。

「……大丈夫だよ……私は……大丈夫だから……」

雪は手をふらふらとさせて絆の頬につけ、
咳をしてから、それを前方に向けた。

「……ジャンクション」

雪がそう言った途端だった。

彼女の体が、もやのように淡い白色に光り始めた。

それにともなってブゥン、と音がして
大恒王の電源が入り、鈍重な機械兵器は、
雪がしているように手を持ち上げた。

「第一ロックを解除。第二ロックを解除。
遠隔操縦プログラム起動。
全てのシステムをニュートラルヘ……」



738:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:39:13.89 ID:pjq4rUFZ0

雪は呟くようにそう言うと、
段々と体温がなくなっていく
体を無理矢理に動かした。

新世界連合の人間達が、
一斉に銃の引き金を引いた。

瞬間、大恒王が立ち上がり
両手を広げて雪と絆を包み込んだ。

銃撃から自分達を守った
大恒王の肩と足の装甲が開き、
中のキューブ体が高速回転を始める。

「何をする気だ……? 
雪……お前、何してる……?」

呆然と呟いた絆に笑いかけて、雪は言った。

「……お別れだね」

「え……」



739:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:39:55.22 ID:pjq4rUFZ0

「今迄、一緒にいられて嬉しかった
……私は、あなたに会えて……
本当に良かった。
あなたに好きになってもらえて、
本当に良かった……」

「何言ってんだ……お別れ……? 
お別れって……どういう意味だ……?」

「ここで終わりにしよう? 
何もかも全て……終わりにしよう? 
もう充分頑張ったよ。
絆は偉いね……
みんなも、きっとあなたを褒めてくれる。
だから悲しくないよ……
つらくないよ。泣くことは……ないんだよ」

大粒の涙を流している絆の頬からそれを拭い、
雪は顔を上げた。



740:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:40:30.94 ID:pjq4rUFZ0

「絆あああ!」

手近な死星獣が戦劫王の姿に変化し、
乗り込んだ絃と二体のバーリェが、操縦桿を握る。

絃が怒鳴り、戦劫王の中で天使一号をかざした。

「お前は……やはり殺しておかなければならなかった! 
俺達の理想郷に、お前の存在は不要だ! 
俺とお前はもう分かり合うことはない!」

戦劫王の目の前に、金色の球体が浮かび上がる。

「全てを一旦ここでリセットする! 
我々が消えても、新世界はやがて訪れる。
お前達の力では何も変わらない、変えられない!」

「……変えてみせる……!」

雪がそう言って、か細い声を張り上げた。



741:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:41:09.37 ID:pjq4rUFZ0

「私達は変えてみせる、変わってみせる! 
だからあなたの言う新世界も、
理想郷も、私達には必要ない! 
私達は、ただ生きていたかっただけなのに! 
ただ好きな人と一緒に、生きていたかっただけなのに!」

絃が動きを止めた。

一瞬後、彼は激昂して操縦桿を握りこんだ。

「やかましいいい! 小娘がああああ!」

しかし、膨張している金色の球体を抱えたまま、
戦劫王はその場に停止した。

「何だ! 何故動かない!」

絃がガチャガチャと操縦桿を動かす。

しかし戦劫王は空中に浮遊したまま、
ピクリとも動かなかった。



742:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:41:46.34 ID:pjq4rUFZ0

二体のバーリェが、操縦桿を握りこんで
歯を強く噛んでいる。

その後ろ姿を見て、絃はハッとして、
小さく呟いた。

「……桜……?」

「どれだけバーリェを犠牲にしようと! 
どれだけ人間を殺そうと! 
新世界なんて訪れない……
そんなものはどこにもない! 
死んでしまった人はもう生き返らないし、
世界はそれでも回っていくんだから!」

雪が悲痛とも言える声で叫ぶ。

戦劫王の金色の球体が徐々に膨張していく。

大恒王を囲んでいた新世界連合の人間達が、
歪み始めたその空間に吸い込まれ始めた。

絶叫しながら消えていく人影を見ながら、
雪は絆に支えられながら声を張り上げた。



743:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:42:15.91 ID:pjq4rUFZ0

「天使一号と共に消えなさい!」

「ブルフェンヲ使用シマス」

AIの声が大恒王の中から響く。

接続もされていないのに。

雪は、大恒王を動かして立ち上がらせた。

そして両手を戦劫王に向ける。

大恒王も広げた両手を戦劫王に向けた。

悲鳴のような声を上げ、雪は膨張し続ける
金色の球体向けて、
真っ白なホワイトホールを放った。

周囲にリング状の衝撃波が広がり、
戦劫王を絃ごと巻き込んで、それは消えた。

一瞬後、戦劫王の姿がぐんにゃりと歪んだ。



744:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:42:51.06 ID:pjq4rUFZ0

異形のAADはしばらく歪む空間に
抵抗していたが、
やがて渦に巻き込まれて小さく
圧縮され潰れ始めた。

絆の目に、コクピット内で絃が、
諦めたように操縦桿から手を離すのが見えた。

一瞬後、絃ごと戦劫王が
ビー玉程の大きさに圧縮され、そして消える。

光が収まった。

パラパラと白い灰が降ってきていた。

まるで「雪」のように。

バーリェの少女は、絆の体にぐったりと
寄りかかると、手を伸ばして彼に触れた。

「ああ……」

小さな声で雪は呟いた。

「みんながいる……」



745:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:43:22.56 ID:pjq4rUFZ0

そして彼女は、ぐったりと脱力した。

絆は、だいぶ長い間雪を抱いていた。

灰が体に降り積もっても、尚雪を抱いていた。

空から幾万もの粒子が舞い落ちてくる。

もう動かない亡骸を抱いて、絆はその灰の中、
ただ呆然と空を見上げた。

帰る場所なんて、どこにもない。

戻る場所なんて、もうどこにもない。

ここから基地に帰還できるかどうかも分からない。

軽く自嘲気味に笑って、
ボロボロの体で彼女にそっと呟く。

「帰ろう……」

動かない彼女。

鼓動を止めた彼女に、絆は静かに言った。



746:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:43:58.67 ID:pjq4rUFZ0

「帰ったら……みんながいるんだ。
みんな、帰りを待っててくれるんだ。
だから……一緒に帰ろう。家に」

「…………」

「目を開けろ……一緒に帰るんだろう? 
一緒に帰れるんじゃ、なかったのか?」

その問いに答える声はなかった。

いくら待っても、帰ってくるのは
漠然とした沈黙だけだった。

この子が、何であろうと構わない。

たとえそれが、存在することが
許されないものであったとしても、
俺はそんなことを問題にはしない。

これからも、きっと気にはしないだろう。

それを、ただ伝えてやりたかっただけなのに。

もう、彼女は動かない。



747:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:44:37.20 ID:pjq4rUFZ0

亡骸をそっと地面に置いたところで、
体中の力が抜けた。

泥水の中にうつぶせに倒れこむ。

もう、体を動かすことが出来なかった。

……ごめんな。

お前達を、十分に愛してやることが
できなくて、ごめんな。

ただ、守りたかっただけなんだ。

ただ、お前達と一緒に暮らしたかっただけなんだ。

でも、それは。

何よりも難しいことで。

何よりもつらいことだったんだよ。

襲ってくるのは自責の念。

狂気の感情。



748:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:45:06.10 ID:pjq4rUFZ0

そこに飛び込むことも出来た。

出来たが、それは適わないことだった。

俺はここで死ぬ。

何もかもが終わったここで、
俺はもう役目を終えるんだ。

だからもう、苦しい思いはしなくていいんだよ。

もうお前達のように、
つらい思いをする子はいないんだ。

だから帰ろうよ。

一緒に、戻ろう。

……手を握られた気がした。

無理矢理に顔を上げたその先に、
みんなが笑っているのが見えた。

絆は、彼女達に手を引かれ――。



749:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:45:45.40 ID:pjq4rUFZ0



「絆特務官様、どうかされましたか?」

問いかけられ、絆は顔を上げた。

コクピットの中、彼は小さく笑って、
こちらを見ていた純に返した。

「いや……何でもない」

「まだ体調が万全ではないのでは? 
お休みになっていた方がいいですよ」

「そうです、マスター……
フォロントンから六ヶ月経ったといえ、
重症だったのです。
まだ戦闘は早いと思います」

純の隣に座っていた霧もこちらを見て口を開く。



750:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:46:15.82 ID:pjq4rUFZ0

絆は、しかしギプスがとれた腕で
頭を掻いて肩をすくめてみせた。

そして操縦桿を握って言う。

「テイクオフだ。集中しろ」

「はい……」

「了解しました!」

純と霧が返事をする。

背後の席で、渚が小さな声で言った。

「……本当に良いのですか? 
もう一度この機体に、
あなたが乗りたいと言ったと聞いたときは、
嘘かと思いました」

絆は黙って大恒王の操縦桿を握りこんだ。



751:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:46:47.71 ID:pjq4rUFZ0

フォロントンでの戦いから、
すでに半年が経過していた。

体の怪我は殆どが完治していた。

まだ若干指先に障害が残るものの、
今の医療技術には舌を巻かされるばかりだ。

――死星獣は、いなくならなかった。

フォロントンの拠点を撃滅したといえ、
新世界連合の残党も、
いなくなったわけではなかった。

世界中に散らばり、
今度はスラムの人間と結託して戦争を起こしている。

死星獣も変わらず出現はしていたが、
絃が天使一号を使ってやったような
極端な出現は、もうなかった。



752:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:47:23.37 ID:pjq4rUFZ0

空を飛ぶ大恒王が、雲を抜けて青空の真下に出る。

『絆特務官、お体の調子はどうですか?』

通信が入り、椿の顔が映し出された。

「ああ、問題はない。また一緒に戦えて嬉しいよ」

絆の声を聞いて、椿が安心したように息をつく。

フォロントンで絆を救ったのは、椿だった。

撃墜された瞬間に脱出ポッドを起動させて
外に出ていたのだ。

度重なる大恒王の攻撃は、
生き残ったバーリェ達のエネルギーで
耐えていたらしい。

倒れた絆達を見つけて、基地まで運んだ命の恩人だ。

『今回も勝ちますよ! 私達が揃えば負けはありません!』

大恒王の脇に、同型機の椿が乗っている
機体が浮かび上がる。



753:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:47:54.39 ID:pjq4rUFZ0

「ああ……そうだな」

小さく呟く。

一連の大恒王の戦果により、
元老院はその凍結を無理矢理に解いてしまった。

絆は脳検査などをされたものの、
勲章を授与されて不問の扱いだった。

「……ハッチを開けてくれ」

そう言った絆に、怪訝そうに渚が口を開いた。

「え……?」

「外の空気を吸いたいんだ」

「分かりました」

純がそう言い、高度を下げて、
空気を抜いてから大恒王のハッチを少し開く。

絆はそこで、服に取り付けられていた数々の
勲章を全てむしりとり、空中に投げ捨てた。



754:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:48:29.23 ID:pjq4rUFZ0

「あ……な、何をなさるんですか!」

慌てて立ち上がろうとした渚に、
絆はハッチをボタンで閉めてから言った。

「こんなものあっても、みんな帰ってこないからな」

「…………」

黙り込んだ渚に、
絆は軽く笑いかけてから操縦桿を握った。

生き残ってしまった。

また、死なずに俺は生き残ってしまった。

そしてきっと、これからもずっと。

生き残っていってしまうのだろう。



755:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:48:56.34 ID:pjq4rUFZ0

ならば。

ならば俺は。

戦ってやるさ。

死星獣と、新世界連合と、
そして、この世界を牛耳っている元老院と。

バーリェが俺達の害になるのなら、
一緒に生きて、いつか害にならない日まで暮らそう。

これからもずっと。

俺は、この子達と生きていこう。

そして、いつかきっと。

あの場所に行くんだ。

みんなが待っている、あの場所に。



756:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:49:27.42 ID:pjq4rUFZ0

「さぁ……戦闘だ!」

短く言って、操縦桿を握りこむ。

高速で動き出した大恒王の中、
絆は軽く目をつむった。

手を差し出したみんなの顔が、
そこにあった気がした。

「重力子指数増大、死星獣、来ます!」

渚の声がする。

絆は息を吸い、目を見開いて――。



757:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:50:02.37 ID:pjq4rUFZ0

少女「それは儚く消える雪のように」 結



758:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:52:17.59 ID:pjq4rUFZ0

お疲れ様でした。

今まで頂いた数々のご支援、心から感謝いたします。

そして沢山のご感想をくださったみなさんにも、
重ねて心から感謝の言葉を述べさせてください。

本当にありがとうございました。

これだけ長い期間書き続けることが出来ましたのも、
ひとえに皆様のおかげです。



761:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY:2012/04/27(金) 18:57:42.15 ID:pjq4rUFZ0

それでは、失礼させて頂きます。

全ての皆様の健康と、健やかな毎日を願いまして。

ありがとうございました!!



762:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2012/04/27(金) 19:13:46.36 ID:G+gU3MJco

おつつつつつ!



772:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋):2012/04/28(土) 15:04:10.71 ID:NdanK43co

本当に乙でした



776:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/04/30(月) 15:22:59.59 ID:Bcc5Tk090

乙ですっ!



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         コメント一覧 (11)

          • 1. あ
          • 2012年05月11日 22:45
          • 感動した
          • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月11日 23:23
          • 来ると思ってたら来たか

            *1 お前はどうしたんだよ一体
          • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月12日 02:13
          • すっげぇ涙でてきた

            少し不謹慎だが

            この世界に産まれてきてよかったとおもってる
          • 4. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月12日 04:00
          • 気持ち悪っ
          • 5. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月12日 07:56
          • 映像化しないかな…
          • 6. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月12日 13:24
          • 自分で映像化しろ
          • 7. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月12日 14:24
          • 雪タソ……

            いろいろと謎を残して終わらせてきたな
            世界観がSFのそれっぽさがあっていいね
          • 8. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月12日 17:12
          • アイガアイヲー
            オモスギルッテリカイヲコバミ
          • 9. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月12日 17:28
          • ニクシミニー
            カワッテユクマエニー
          • 10. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月12日 21:05
          • 5 いやはや、とにかく長いけど面白かった!
            おつおつ

          • 11. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年02月27日 23:34
          • 5 すげぇとしか

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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