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ほむら「…まるで犬のようね」

2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/28(日) 08:53:51.05 ID:VokUT5SI0




「---ごめんなさい」





お母さん、ぼくが生まれてごめんなさい


3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/28(日) 08:54:41.47 ID:VokUT5SI0

「…ぅん?誰?」

 誰かの囁くような声で、暁美ほむらは目を覚ました。
 そして体を起こそうとした時、隣に鹿目まどかが寝ていることに気がついた。
 しかも、がっちりと抱きつかれており、まったく動けそうにない。

「………え?な、何故まどかが私のベットに?!」

 落ち着け、落ち着くのよ、と自分に言い聞かせ、高鳴る鼓動を抑えようと努める。
 そしてある程度落ち着きを取り戻したほむらは、自分の置かれている状況の把握を始めた。

 ソウルジェムは?---ある。ここは?---私の病室。今日は?---ループの初日。ここまでは間違いない。
 じゃあ、どうしてまどかがここに?この時点では、私とまどかの面識はまだ無いはず。

 …駄目だ。まったく分からない。
 そもそもループ開始直後に何か起こったことなど、今まで一度も無い。

 考えても仕方ない。今はこの寝顔を存分に堪能しようと、まどかの顔を覗き込む。
 まるで、ひどく後悔しているような、苦しそうな表情だった。
 しばらく眺めていると、まどかはベットの振動で目を覚ましたようで、薄く目を開けた。
 その目は、まるで泣き腫らしたように赤い。
 戸惑うほむらを余所に、まどかはゴシゴシと目を擦り、再びほむらと目が合うとこう言った。

「…えっと、あなた、誰?」



4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/28(日) 08:55:40.76 ID:VokUT5SI0

 ほむらは突然のことで驚きはしたが、初めに比べ、だんだんと落ち着きを取り戻していた。
 まどかとはこの時間軸では初対面のはずなので、それ相応の対応をとることにする。

「いや、それはこっちの台詞よ。ここは私の病室。貴女こそ、誰?どうしてここに?」

「え?あれ?!わたし、何でここで寝て---」

 アタフタとするまどかを見てほむらは、やはり面識は無いのだなと確信した。

「落ち着きなさい。まずは深呼吸。はい、吸って……吐いて……」

 ほむらの言葉に従い、まどかは深呼吸を繰り返す。

「落ち着いた?で、そろそろ放してくれるとありがたいのだけれど…」

「え?……あ!ご、ごめんなさい!!」

 まどかは、自分がほむらに抱きついたままだということに気がつき、謝罪の言葉と共に離れる。
 ほむらの視界はぼやけている。離れたまどかを見ようとすると、自然と目が細められる。

 そういえばまだ視力の回復を行っていなかった。
 まどかの目の前で魔法を見せるわけにはいかない。
 とりあえずはメガネを掛けるしかないようだ。



5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/28(日) 08:56:37.43 ID:VokUT5SI0

 ほむらはベットの傍らにおいてあるメガネを掛ける。
 視界がクリアになると、不安げにほむらを見つけるまどかが見えた。

「どういう経緯でここに?説明して頂戴」

「えっと、わたし、診察が終わった後、病院内をフラフラ散歩してて。
 表の表札を見て、気がついたらこの病室に入ってたの。その後の記憶は、その、覚えてなくって…
 ……ごめんなさい、訳分かんないよね。
 実はわたしも、どうして自分がこんな事したのか、訳分かんなくって…」

「…そう」

 まどかの説明では詳しいことは分からなかった。まどか自身にも覚えが無いとは。
 これは、まさか『魔女の口付け』か?いや、そんな形跡はみられない。
 そもそも何を目的に、魔女がそんな呪いをかけるというのか。

 ---そうか。
 ほむらはひとつの結論を導き出した。
 これは『魔女の口付け』なんかじゃない。
 
 この時間軸のまどかは、電波なサイコさんキャラなんだ!!



6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/28(日) 08:57:32.94 ID:VokUT5SI0

 そうと分かれば話は早い。類は友を呼ぶってね。
 私も電波さんになれば、まどかとすぐに仲良くなれるわ!

「貴女、名前は?」

「え!あ、か、鹿目、まどか…です…」

「ねえまどか。貴女は前世って信じる?」

「……えっ?」

「私ね、何だか貴女とは初対面ってカンジがしないの。それは貴女も感じているんじゃないかしら」

「え、えっと、言われてみれば、た、確かに、そう…かも……」

「ふふっ、やっぱりね。今日のこの出会いは、決して偶然なんかじゃないわ。
 私たちは、ホロスコープの導きによって再会した、前世からの仲なのよ!」

「ホロ…なに?……前世…の仲……?」

「そうよ。私たちは前世では恋人同士だったの。
 ああ!やっと会えたわ愛しい人よ!さあ、再会の口付けを……」

 ほむらはまどかの両肩を掴んで抱き寄せると、そっと顔を近づけていく。
 まどかは固く目を閉じ、全身を緊張させた。



7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/28(日) 08:58:44.52 ID:VokUT5SI0

 ほむらとまどかの唇があと数センチという距離まで迫った時だった。

「お~~~い。まどかぁ~、どこぉ~?診察終わったんなら帰ろ~よ~。
 おぉ?!この部屋からまどかの声が聞こえてきたぞ。ちょいと失礼しま~す」

 美樹さやかがドアを開け、部屋の中を覗き込んできた。
 そしてその視線の先には、ほむらとまどか。
 さやかから見てこの二人の様子は、まどかが襲われているようにしか見えなかった。

「う、うおぉぉ!!まどかに何してんだぁぁ!!」

 瞬時にさやかは駆け出し、そのままほむらへ飛び蹴りを喰らわせた。
 ほむらは「きゃっ!!」と悲鳴を上げて倒れた。

「さ、さやかちゃん!」

「まどか大丈夫?!さ、早く逃げるよ!」

 さやかはまどかの手を掴み、引っ張る。

「さやかちゃん待って!違うの!あ、違くはないけど、とにかく違うの!!」

「ちょっとまどか!意味分かんないって!早く早く!!」

「いいからちょっと落ち着いて!大丈夫、大丈夫だから!」

「早く早く!早く!!早く!!!」

「ぅんもう!!さやかちゃん、まて!おすわり!」

「私は犬か!!」



8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/28(日) 08:59:58.61 ID:VokUT5SI0

 そうさやかは叫んだが、事実まどかの言葉でさやかは足を止めた。
 まどかとさやかはほむらに歩み寄り、

「だ、大丈夫ですか!」

「あ~、その、なんだ、ごめん。怪我ない?」

と声を掛ける。
 ほむらは倒れたまま、胸に手を当てていた。

「うっ、し、心臓が…」

「しっかりして!さやかちゃん、ナースコール!」

「そ、その必要はないわ…。まどかがキスしてくれれば…」

 ほむらはまどかに手を伸ばし、再びキスを迫る。
 さやかは手ごろなスリッパを見つけると、それを手に取り、

「いい加減に、しろ!」

と叫びながらほむらの頭を引っぱたいた。

 病室に、スパーンと小気味良い音が響いた。



9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/28(日) 09:01:04.43 ID:VokUT5SI0

*


「ごめんなさい。冗談が過ぎてしまったようね」

 ベットに腰掛け、まずはほむらが謝罪した。

「いいよいいよ。私も思いっきり引っ叩いちゃったし、お互い様ということで。
 …それでさ、まどか。そろそろ紹介なんかしてくれてもいいんじゃない?」

「……へ?」

 さやかの言葉に、まどかは首を傾げる。

「いや、この子、アンタの友達かなんかでしょ?私、まだ名前も分からないんだけど…」

 言いながらさやかはほむらの方を見る。ほむらはニコッと微笑み返す。

「ううん、違うよ。わたしも今日始めて会ったの」

「はああ?!まどかも初対面?!おかしいでしょ?!
 アンタ、名前も知らないヤツの病室になんでいたのさ!」

「てへ♪わたしもよく分かんない」

 さやかは深いため息をついた。



10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/28(日) 09:02:14.79 ID:VokUT5SI0

「てっきりまどかの友達だと思ってたよ。…じゃあ、長居しても悪いし、そろそろお暇しようよ」

 さやかはそう言って椅子から立ち上がった。そしてほむらに視線を戻す。

「アンタも見ず知らずの私たちにつき合わせちゃって、悪かったね」

「…ほむらよ」

「えっ?」

「私の名前は暁美ほむら。
 私、ずっと入院してて友達いなかったから、久しぶりに同年代の子と話ができて楽しかったわ。
 また、話し相手になってくれるかしら?」

 さやかが一瞬返事に詰まると、さやかが口を開く前にまどかが前に出て答えていた。

「うん。わたし、鹿目まどか。まどかって呼んでね。
 って、さっきもわたしの名前、言ったてたよね。えへへ、よろしく!
 で、こっちが……」

「美樹さやか。さやかで良いよ」

「ほむらちゃん、また来るからね。今度はもっとゆっくりお話しようよ。
 じゃあね~バイバイ~」

 まどかとさやかは笑顔で手を振りながら、病室を後にした。


 しばらく時間が経過した後、ほむらは気が抜けたようにため息をついた。
 ループ開始直後からの急展開に、若干疲れを感じていた。
 しかし悪い気はしなかった。うれしい誤算といったところか。
 この時点でまどか達と面識を持てたのは大きい。
 信頼も得やすいし、学校が始まっても自然と近寄れ、キュゥべえからの勧誘を妨害しやすくなる。



11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/28(日) 09:03:03.96 ID:VokUT5SI0

「この時間軸も幸先いいわね。うまくやれればもしかしたら---
 いや、油断は禁物ね。
 ちょっとうまく行ってるからって胡坐かいてると、前の二の舞になりかねないわ。
 気を引き締めていきましょう」

 ほむらは一人呟くと、メガネを外し、三つ編みを解いた。
 その時、ほむらの視界に、床に落ちた処方箋と薬の入った袋が写った。
 初めは自分用のものが落ちてしまったのかと思ったが、袋の中身は見覚えのない薬であった。

「これは私のものではないわね。そうすると、さやかかまどかの?
 ……そういえば、まどかはこの病院で診察を受けていたと言っていたわね。
 ということは、まどかのものね。
 …どこか悪いのかしら?」

 ほむらは目で処方箋の薬の名前を追った。そこに書かれていたものの一つに---

「……リスペリドン?」

---強力な鎮静作用をもつ薬があった。

 リスペリドンは精神全体の高ぶりを抑える作用がある。
 統合失調症に、躁病、自閉症において投与されている。
 他にも強い不安感や緊張感、睡眠障害、強迫性障害、引きこもりなど
 様々な精神症状に対して処方される薬である。

 まどかの不可解な行動。
 鎮静作用をもつ薬。
 これらが何を意味しているのか、ほむらにはさっぱり分からなかった。

「一体、この時間軸では何が起こっているの?
 はっ!!まさか、この時間軸のまどかは---」

 この時ほむらに、一つの天啓が降りてきた。

「---ヤンデレなのね!!
 私はいつでもウェルカムよ!まどかぁぁ!!」

 しかしそれは、まったくの的外れであった。



12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/28(日) 09:04:37.78 ID:VokUT5SI0

*


 現ループのまどかの行動を説明するには、順序としてまずは前ループでの出来事から知る必要がある。
 よって物語の時間は、ほむら主観時間における約一ヶ月前、つまり前ループに遡る。


 この時間軸のほむらはいつもと変わらない入院生活、転校初日を過ごし、
 何とかまどか達のグループと仲良くなることに成功していた。
 (初日のまどかへの警告のせいで、ちょっと電波入った奴だとは思われてはいるが)
 キュゥべえからのまどかに対する勧誘も何故か行われておらず、
 魔女や魔法少女の事柄を一切知らないままであった。

 そして転校してから最初の土曜日。
 この日、まどか、さやか、ほむらの三人はショッピングモールに来ていた。
 洋服やアクセサリーの店を見て回り、次の目的地にとまどかが指差したのは、本屋だった。

「ちょっとあそこの本屋に寄ってもいい?」

「私は構わないわ」

「いいよ。ちょうど雑誌の発売日だったし。まどかは何買うの?」

「特に決まってないけど、何か可愛いのがないかなって」

「本で可愛いのってアンタ…」



13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/28(日) 09:05:26.67 ID:VokUT5SI0

 三人は雑誌、コミック、小説のコーナーを見て回り、次に絵本のコーナーが目に入った。

「そうだ。たっくんに何か絵本を買ってこうかな」

「お~。やっぱ私の嫁は偉いねぇ~。家族におみやげとは」

「えへへ。あ!これなんかいいかも!」

 まどかが手にした絵本は、シンデレラであった。
 表紙にはデフォルメされた可愛いキャラクターが載せられていた。

「まあ、定番っちゃ定番だよね。
 でもまどか。それ、アンタんちに無いの?
 表紙だけで選んでも内容一緒じゃあ意味ないよ?」

「ん~、確か無かったはずだよ」

「まあ、それならいいんだけどさ。
 ちっちゃい子に読み聞かすにはちょうどいい内容だもんね。
 よーし、それ買ったら次はCDを見に行こうよ!」



14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/28(日) 09:06:25.57 ID:VokUT5SI0

 会計を済ませ、本屋を出てCD屋へ行く途中。

 たい焼きを二つ抱え、走る幼子とすれ違う。
 まどかが危なっかしいなと思っていると、案の定幼子は通行人に衝突し、転んでしまった。

「あうっ!ご、ごめんなさい。…あれ?たい焼きが…」

 どうやら転んだ拍子にたい焼きを手放してしまったらしい。
 キョロキョロと探していると、少し離れたところに落ちているのを見つけた。
 幼子が手を伸ばそうとした矢先、グシャッ、と通行人に踏み潰されてしまった。
 通行人は気にも留めず、スタスタと歩き去っていった。

「ううっ、たい焼きが……キョーコに怒られる…ぐすっ…ひっく…」

 泣き出してしまった幼子に見かねたまどかは、やさしく声を掛ける。

「大丈夫?ケガは無い?たい焼き、ダメになっちゃったね。
 近くにお父さんかお母さんがいるのかな?
 泣かないで。ちゃんとあやまったら、きっと許してくれるよ」



15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/28(日) 09:07:53.66 ID:VokUT5SI0

「ひっく…お父さんも、…ぐすっ…お母さんも、い…ぐすっ…いない…
 これは…キョーコと……キョーコに怒られる…」

「キョーコ?あなたのお姉ちゃんかな?」

 これだけ泣いているのだからきっと怖いお姉ちゃんなのだろう、とまどかは思った。

「よし!わたしが買ってあげるよ!だから元気だして!ほら!」

「ふぇ?ほんとに?」

「うん、本当に。ほら行こう」

 そう言うとまどかはたい焼き屋まで行き、たい焼きを二つ買って幼子に渡した。

「はい!もう慌てて走ったり、よそ見しちゃダメだよ」

「うん!ありがとうおねえちゃん!わたし、千歳ゆま!」

「ゆまちゃんっていうの?わたしは鹿目まどか」

「まどかおねえちゃん、本当にありがとう!バイバイ!」

 幼子は大きく手を振り、駆けていった。まどかはそれを心配そうに見送った。



16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/28(日) 09:08:44.80 ID:VokUT5SI0

「ああ、また走っちゃって。大丈夫かなぁ。
 …って、二人ともなんでこっち見て笑ってるの?」

「優しいのね、まどか。見ず知らずの子供に買ってあげるなんて」

「そうそう。まどかったら迷わず助けに行くんだもん。ちょっと感心しちゃった。
 普通は可哀想だと思っても、なかなかできないもんだよ。すごいよまどか」

「そ、そう、かな?」

「そうよまどか。貴女のその優しさは誇っていいものよ」

「えへへ、なんか照れちゃうな~」

 三人は談笑しながらCDショップへと向かう。
 その途中、ほむらは先ほどの幼子のことを考えていた。
 ほむらには、あの幼子には見覚えがあった。
 いくつ前の時間軸かは忘れたが、学校が襲撃されたことがある時間軸だったはず。
 そうだ、間違いない。あの時、佐倉杏子と一緒にいた小さい魔法少女だ。
 ということは、近くに佐倉杏子もいるのだろうか。
 これを機に接触できれば-----

「………」

 ほむらが思考に耽っている背後で、一人の少女が物陰から姿を現した。
 その少女はケータイを取り出すと、ボタンを操作し、誰かへと電話を掛ける。
 数回の呼び出し音の後、相手が出た。

「…織莉子?……ああ、見つけたよ。間違いない。鹿目まどかだ」



26:1:2011/09/03(土) 16:05:30.86 ID:GwxAzmJI0

*


 ほむらがCDを眺めていると、魔女の気配に気がついた。

 突然の事にほむらは驚き、同時に疑問を感じた。
 今までの時間軸において、この時間この場所で魔女が現れたことは、一度もない。
 少なくともほむらには覚えが無い。

 辺りの人に気づかれないよう、こそっりソウルジェムを取り出し、魔翌力を辿ろうとする。
 ---近い。
 ソウルジェムの反応は、すぐ傍にグリーフシードがあることを告げている。
 この反応であれば、可視範囲内にあってもおかしくない距離だ。

 辺りを見渡す。
 まどかは変わらずヘッドフォンを耳に当てている。視聴しているのだろう。
 さやかはホクホク顔で会計を済ませている。どうやら収穫があったようだ。
 店内をくまなく見渡す。どこにもグリーフシードは見当たらない。



27:1:2011/09/03(土) 16:07:19.58 ID:GwxAzmJI0

 ---どこだ。早く見つけて始末しなければ。でないと、被害が出る恐れがある。
 焦る気持ちを抑えながら、もう一度店舗を見渡す。
 その時、店舗入り口にひとりの少女が立っていることに気がついた。
 その少女もほむらに気がついたらしく、目が合うと、ニタァ、と歪んだ笑顔を返してきた。

 あいつも見た覚えがある。そうだ、学校で襲撃してきた奴らだ。確か呉キリカだったか。
 何故ここに?何をする気?
 いや、目的は決まっている。まどかの殺害だ。もう織莉子に嗅ぎ付けられたか。
 手に何か持っている。グリーフシードか!間違いない。魔女の気配の正体はあれだ!

 キリカは孵化寸前のグリーフシードを掲げると、魔翌力を注ぎ込み始めた。

 まさか、ここで孵化させる気か!

「待ちなさ---」




28:1:2011/09/03(土) 16:08:42.25 ID:GwxAzmJI0

 ほむらは叫んだが、途中でやめた。もう手遅れだった。
 すぐ目の前にあったCDの置かれた棚、レジのあったカウンター、
 店内に流れていた音楽、それらが一瞬にして姿を消す。
 そして店内の明るかった色彩が、グロテスクな色彩に一変する。

 魔女の結界だ。

「うわ!!何だこれ…」
「あれ?ここ、どこ、だ?」
「うわーーん!おかーーさーん!」

 他にもいろんな戸惑いの声があがる。子供の泣き声も聞こえてきた。
 当然だろう。魔女の存在を知らなければ何が起こっているのか、検討すらつくはずが無い。

 気がつけば、周りにはネコのヌイグルミに似た何かがうろついていた。魔女の使い魔だ。
 その使い魔は子供にゆっくりと近づいていく。
 ほむらがそれに気がついた時には、ヌイグルミの縫い目が割れて現れた巨大な口が、
 子供の腕から肩までを食いちぎっていた。

 グチャ。ゴキッ。グジュ。



29:1:2011/09/03(土) 16:09:45.48 ID:GwxAzmJI0

「きゃああああぁぁ!!!」
「うあぁ!!くるなぁ!!」
「た、助け---ぎゃああ!!」

 子供が食い千切られるのを皮切りに、あちこちから悲鳴があがった。
 
「くっ!!」

 ほむらは素早く変身を済ますと、盾の裏に右手を伸ばし、中から拳銃を取り出した。
 続けて時間を停止させ、使い魔に向けて発砲する。
 弾は使い魔の数センチ手前で、ピタッ、と止まった。
 人を襲っている使い魔を優先に、次々と標準をあわせ、引き金を引く。

 爆薬を使えればいいのだが、それでは無事な人まで巻き込んでしまう。
 ちまちまと狙い撃つしかない。

 弾が無くなると、またもや盾の裏に右手を伸ばし、新しい弾倉を取り出す。
 そして弾の無くなった弾倉を捨て、新しい弾倉を装填する。



30:1:2011/09/03(土) 16:11:03.29 ID:GwxAzmJI0

 ここで時間停止の効果が切れた。
 時間が動き出すと同時に、弾を撃ち込んでいた使い魔が爆ぜる。
 残った使い魔は気にしてないのか気づいていないのか、変わらず人を襲おうとする。
 そんな使い魔に落ち着いて銃を向け、撃つ。撃つ。撃つ。

「…片付いたかしら」

 ほむらは辺りを見渡す。
 動くものは一つもない。
 そう思った時、視界の端に動く二つの影を捉えた。
 
「ほむらちゃん!!大丈夫?!ケガしてない?!」

「ほむら!一体何なのさ、さっきの…それに、その格好---」

 どうやらまどかとさやかも結界に囚われてしまったらしい。
 使い魔に魔女に呉キリカ。もう、どう考えても、魔法少女のことを隠し通せるとは思えなかった。



31:1:2011/09/03(土) 16:12:23.98 ID:GwxAzmJI0

「落ち着いて。事情は後で必ず話すわ。ここは危険なの。
 とりあえずここから脱出しましょう。二人とも、決して私の傍から離れないで。さあ行きましょう」

「待って!」

 脱出口を探すため歩き出そうとするほむらの腕を、まどかが掴んだ。

「待ってよほむらちゃん!他の人も連れて行かないと!
 ここにいたら、さっきの化け物に襲われちゃうよ!!」

 まどかが指し示す方には、突然の惨劇に戸惑い混乱し、途方にくれる人々がいた。
 半数以上は生き残っている。被害は軽微で済んだ。

 どうするか。このままぞろぞろと歩いてたら格好の的だ。さすがにこの人数を守りきれる自信はない。
 かといって放っておくわけにもいかない。まどかがそれを望んでいる以上、それは成されなければならない。

「………」

「…ほむらちゃん?」

「おい、ほむらってば!」

 ---仕方が無い。魔翌力を消費するが、やるしかない。



32:1:2011/09/03(土) 16:13:22.41 ID:GwxAzmJI0

 ほむらは生存者達に向き直る。

「…皆さん。一度ここに集まってもらえますか」

 ほむらの呼びかけに、生存者は戸惑いながらも従う。
 生存者にしてみれば、目の前の年端もいかない少女に従うのは癪な感じがしたが、
 一体何が起こっているか分からない以上、従うしかなかった。
 生存者とまどか達が集まったところで、ほむらはその周囲に結界を張った。

「これは結界です。この中にいればさっきの化け物は近寄れません。
 しばらくここで待っていてください」

「ここで待てって、どういうことだよほむら!私たちを追いてっちゃうのか?!」

 さやかが叫ぶ。
 ほむらは直接答えず、全員に説明を続ける。

「皆さん全員を連れて歩くのは不可能です。
 よって、脱出するのではなく、この空間を元に戻す方法を取ります。
 時間は掛かると思いますが、くれぐれも焦れて結界の外に出ないよう、お願いします」



33:1:2011/09/03(土) 16:14:49.13 ID:GwxAzmJI0

 言い終わると同時にほむらは踵を返し歩き出す。
 だがその歩みはすぐに止まった。
 そして疑問に思う生存者の目の前でスッ、と姿が消えた。
 次の瞬間、それまでほむらがいた空間に、巨大で歪なネコの頭部のようなものが激突していた。
 おそらく魔女の一部だろう。

「あっれ~?どこいっちゃったのかな?」

 魔女の残骸の上に黒い服の魔法少女が、キリカが着地する。
 残骸を投げつけ、避けたところを切り刻むつもりだったようだ。

 キリカは周囲を見渡し、ほむらの姿を探す。
 
「どこにも居ないや。もうどっか逃げちゃったかな?足の速いことで」

 キリカは残骸から降りると、生存者達へと歩を進める。

「ま、いいけどね。えっと、あれだ。些細なことだ。
 標的はすぐ目の前。まったくもって楽な仕事だよ。
 『私が着くまで待て』って、織莉子は何を心配してたんだか。
 今織莉子が進めてる計画って要は標的をヤツから隠し、その間に殺すためのものだろう?
 今ここで殺しちゃえば目標達成任務完了!ってね!」



34:1:2011/09/03(土) 16:16:16.04 ID:GwxAzmJI0

 キリカはまどかの正面で足を止めた。ただならない空気に、誰も口を開かない。
 そんな中、まどかがおずおずと質問する。

「…えっと、あなたは?」

 キリカは答えず、手に爪を出現させる。

「じゃあね、ばいばい」

 そして右腕を振りかぶり、まどか目掛けて振り下ろす。
 まどかは短く悲鳴をあげ、頭を抱えてしゃがみこむ。
 辺りに血しぶきが飛んだ。
 地面が赤く染まる。




35:1:2011/09/03(土) 16:17:30.96 ID:GwxAzmJI0

「………え?」

 しかしキリカの爪はまどかにも結界にも届いていなかった。
 キリカは自分の右腕を見る。肘から先が無くなっていた。
 それを認識して数瞬後、遅れて痛みが襲った。

「ッッうぅ!!」
 
 キリカは右腕をおさえてうずくまる。

 ジャコンッ!

 いつの間にかキリカから少し離れた右横に、ポンプアクション式の散弾銃を持ったほむらが立っていた。
 ほむらはスライドを前後させて装弾すると、銃口をキリカに向ける。

「くそっ!消えたり現れたり、一体どんな魔法だ!」

「まったく、躾がなってないわね。美国織莉子は何をしているのかしら」

「ッ!!織莉子を知っているのか?!」

「ええ、知ってるわ。貴女達の持つ魔法がどんなものなのかもね」



36:1:2011/09/03(土) 16:18:47.54 ID:GwxAzmJI0

 ほむらはまどかの顔をちらっと見る。不安。心配。そんな表情をしている。

 ここで呉キリカを殺しておかないと後々面倒なことになる。
 だが、まどかの目の前で人を殺すわけにもいかない。
 まどかはきっと、自分を殺そうとした相手だろうと、助けてあげてと言うに違いない。
 助けてあげようじゃないか。命だけは。

 キリカに視線を戻す。
 
「貴女に勝ち目なんて無い。見逃してあげるからさっさと消えなさい。
 ほら、ハウスよ。織莉子の犬」

 キリカが驚いた表情を浮かべたかと思うとすぐ歪んだ笑顔に変わり、

「いやだね」

と言いながらゆらりと立ち上がる。



37:1:2011/09/03(土) 16:20:07.98 ID:GwxAzmJI0

「キミは織莉子の存在を知っている。
 つまりそれは織莉子に危害が及ぶ可能性があるということ。
 そんなの、許せるわけないじゃないか!」

 キリカは右腕をおさえるのをやめ、再び爪を出現させる。右腕から血がどくどくと溢れ出る。

「だいたい、どうして退く必要がある?私はまだ生きている。
 この命ある限り、私は私に対する全ての要求を完全に拒否する!」

 そして言い終わらないうちにほむらへと突撃する。
 ほむらが引き金を引く。銃口から散弾が円錐状に飛び散る。
 キリカは地を蹴りほむらの背後へ跳ぶ。そのままがら空きの背中へ爪を振った。
 カチッという音を立て、ほむらの盾が起動する。ほむらを除く全てのものの時間が止まった。

「…やっぱり速いわね」

 後ろを振り向く。爪は、十数センチのところまで迫っていた。
 キリカから距離を取り、銃を構える。そして時間停止を解除した。



38:1:2011/09/03(土) 16:21:11.04 ID:GwxAzmJI0

「!!また消え---」

 ドガッ!!

 着地した瞬間を狙い、ほむらはキリカの左足を撃った。 
 散弾が命中し、小さな穴を無数に開ける。キリカはうつ伏せに倒れた。
 
「ぐッッ!!」

「……終わりよ。もう帰りなさい」

「言っただろう。全ての要求を拒否する、と。
 まだ終わらない!諦めるという選択肢は私には無い!」

 きりが無い。このままでは四肢全てを潰しても意味がなさそうだ。
 ほむらがどうするべきか思案していると、

「よく言ったわキリカ」

背後から声と魔法弾が降りかかった。背中と右腕に喰らってしまう。



39:1:2011/09/03(土) 16:22:29.75 ID:GwxAzmJI0

 ほむらは舌打ちする。自分が時間をかけ過ぎてしまったことに気づいたのだ。
 奴だ。奴が来た。忌々しい、アイツが!
 苦虫を噛み潰したような表情で背後に立つ声の主を、美国織莉子を見る。

「たとえどれ程道が昏くとも、諦めなければ光は見えるもの。
 どうしても見えなければ陽を照らす。そうやって人は進んでいくのよ。
 キリカ、私の道を照らしなさい。---」

 織莉子は虫を見るような目でまどかを睨む。

「---鹿目まどかを殺して世界を救うために」

「わかったよ織莉子。それがキミの望みなら」

「ッ!!させない!!」

 ほむらは織莉子に向けて撃った。
 織莉子は小さく、ふっ、と笑い、あらかじめ撃たれることが分かっていたかのような反応で避ける。
 そして自身の周囲に魔法弾を展開させ、撃つ。ほむらへではなく、---

「…え?」

---まどかに向けて。



40:1:2011/09/03(土) 16:24:18.66 ID:GwxAzmJI0

「まどかぁぁ!!!」

 ほむらは盾を起動させて時間を停止する。まどかに駆け寄って気がつく。
 まどかの背後には一般人。とても全員を逃がすことはできない。
 ほむらは拳を強く握り締め、覚悟を決める。
 可能な限り強固な防御結界を張り、ほむら自身はまどかを抱きかかえ、来る衝撃に備える。

 時間が動き出す。
 結界に阻まれ織莉子の攻撃威力は低下した。
 しかしそれでも、ほむらの全身数箇所にハンマーで叩かれたような衝撃が加わった。

「っああ!!」

 状況が一変してしまった。

 辺り一面にキリカの速度低下が効き、且つ予知能力を持つ織莉子に、ほむらの攻撃は当たりづらい。
 そして織莉子はほむらを無視してまどかを殺しにくるだろう。
 こいつらにとって大事なことはまどかを殺すことであり、他の生死はどうでもいいのだ。



41:1:2011/09/03(土) 16:25:41.41 ID:GwxAzmJI0

「ほ、ほむらちゃん!」

 腕の中のまどかが心配そうな声をあげる。
 これはもうダメだ。とても他人を守りながら戦える状況じゃない。
 まどかだけでも逃がさなくては!

「ッ!!まどか!つかまってて!逃げ---」

「逃がさないよ!」

 立ち上がろうと力をこめた左足に、激痛が走る。
 ヨロヨロとしているが、いつの間にかキリカが立ち上がっていた。爪でほむらの足を裂いたのだ。
 ほむらは自分の足を見る。
 傷は骨までは達していないようだ。しかし筋をやられた。すぐには動けそうに無い。

「さやか!まどかを連れて逃げて!!」

 ほむらは叫んだ。だが反応がない。



42:1:2011/09/03(土) 16:26:43.62 ID:GwxAzmJI0

「こいつらは私が抑えるから逃げるのよ!!早く早く!!」

「………」

 先ほどより大きな声で叫ぶ。またしても反応がない。
 はっ、として振り返る。
 さやかはほむらを見ていない。青ざめた顔で一点を見つめている。
 ---織莉子だ。あいつの目を見ている。織莉子に威圧され、目を逸らすことができないのだ。
 さやかだけではない。周りの誰も動けない。全員理解しているのだ。逃げたら殺される、と。

 万事休すか。もう手段は無いのか。また時間を遡らねばならないのか。
 いや、まだだ。考えるのをやめてはいけない。諦めてはいけない。
 まだまどかが生きている。それだけで、私は頑張れる。




43:1:2011/09/03(土) 16:27:54.28 ID:GwxAzmJI0

「よし、今度こそばいば---」
「!!キリカ!下がっ---」

 時間を停止させる。織莉子に気づかれたようだが、かまわない。
 盾の裏から手榴弾を取りだし、ピンを抜く。
 レバーを放し、カウントする。
 爆発する寸前でキリカへと放る。手から離れた手榴弾の時間が止まった。
 盾を構え、結界を張り、時間停止を解除する。

 解除した次の瞬間、手榴弾が爆発を起こした。
 
「---い、ッ!!おおっと!危ない危ない」
「---て!…ふう、キリカ大丈夫?」

 キリカは織莉子の声に反応していたようで、魔法と無事な方の足をうまくつかい、
 ほむらから距離を取り、かすり傷程度しか受けていなかった。
 だが、確実に距離ができた。これで次の手を考える時間を稼げるだろう。
 首の皮は、まだつながっている。



44:1:2011/09/03(土) 16:29:09.51 ID:GwxAzmJI0

「…織莉子、結界が崩れ始めた」

 キリカがそう織莉子に告げた。
 結界の至る所にひびが走り出した。もうこの魔女の結界も限界だろう。
 時間が無い。結界が崩れて通常の空間に戻れば、さらに一般人の犠牲が出る可能性がある。
 その前に織莉子を倒さねば。

「キリカ。動ける?」

「ああ。速くはないが、動くことはできるよ」

「そう。貴女はあの子を抑えてて。その間に私が鹿目まどかを殺すわ。…できる?」

「もちろんだ。子供扱いしないでほしいな」

 織莉子とキリカは会話を隠そうともしない。それでもやれるという絶対の自信があるのだ。
 キリカがほむらとの距離を詰めていく。その斜め後ろを織莉子が行く。



45:1:2011/09/03(土) 16:31:09.67 ID:GwxAzmJI0

 まずい。非常にまずい。この状況を脱する考えは未だ浮かばない。

 急にキリカが加速し、ほむらの右から回り込んできた。織莉子は逆に左へと回る。
 キリカの爪がほむらに襲い掛かる。
 爪をほむらは盾で受ける。同時に盾の裏から拳銃を取り出す。だが、---

「遅い!!」

「うッ!」

---手を下から蹴られ、銃を弾かれた。
 蹴られた指先の痛みを感じたのは一瞬だけだった。
 気がついた時には、キリカの爪がほむらの二の腕に食い込み、切り飛ばされていた。

「あぐぅ!!」

「これで私の右腕の仇はとった、ぞ!」

 顎を蹴られた。
 仰け反り、上下が反転する視界には、織莉子がまどかに魔法弾を撃つ瞬間が写った。

 ああ、この時間軸もダメだったか。またやり直さなくては。
 それにしても、まどかにとても怖い思いをさせてしまった。私が弱いばっかりに。
 ごめんなさい、まどか。
 ほむらはゆっくりと瞼を閉じた。



46:1:2011/09/03(土) 16:32:07.28 ID:GwxAzmJI0

 ガキィィィン!

 ほむらの耳に聞こえてきたのは人体への着弾の音にしてはおかしい、高い金属音であった。
 ほむらはゆっくりと瞼を開いた。

 織莉子が怪訝な表情をしている。
 まどかが恐怖と驚愕の混ざった表情をしている。
 そして二人の間には、鎖のついた槍が突き刺さっていた。

「でりゃあぁぁ!!」

「?!!」

 突然、上空から小さい魔法少女が現れ、鈍器のようなものをキリカへ叩き付ける。
 キリカはとっさに爪で受け、払う。その小さい魔法少女は、少し離れたところに何事もなく着地した。
 
 キリキリキリと音を立てて鎖が巻き取られ、槍の先端が持ち主のもとへと戻る。
 その持ち主、赤い魔法少女、佐倉杏子がまどかに向かって話す。

「おいアンタ!ゆまが世話んなったってな!
 どういう経緯かは分からねぇが、命狙われてるってぇのは分かった!
 たい焼きの礼だ!助けてやるぜ!」





57:1:2011/09/10(土) 16:57:35.49 ID:QHjvi9XB0

*


 織莉子がふっ、と吹きだした。そして杏子と対峙する。
 杏子は槍を右手右肩に担ぎ、右足に体重を乗せ、左足は地面につま先だけ触れている状態にしている。

「たい焼き?それが貴女が私と敵対する理由ですか?ずいぶんと安いのですね」

「はっ!十分だろうが。少なくともテメエの命よりは高いぜ。この大量虐殺テロリストヤロウが」

 杏子の言葉に、織莉子は眉をひそめる。
 杏子は左手で少し大げさな動きで織莉子を指差す。

「おいテメエ、まさか自覚が無いとか言わねえだろうな。あんだけ無意味に一般人を殺しといてよぉ」

 杏子は織莉子に気づかれないよう、ジリジリと左足を前に出す。

「大儀達成の為の、必要な犠牲です。無意味ではありませんよ」

「なぁに言ってんだか。そんじゃあ、どんな意味があったのか教えてもらおうじゃねぇか」

 杏子の左足が一足分前へ出た。そこで止まらず、尚もジリジリと進める。



58:1:2011/09/10(土) 16:58:23.64 ID:QHjvi9XB0

「…そいつは、鹿目まどかは、近い将来世界を破滅させるのです。
 今のうちに消さないと、大変なことになります」

「はぁ?バカかテメエは。あんなフツーの奴が、どうやって世界滅ぼすってんだよ」

 織莉子は一瞬ほむらを見た。

「……今の貴女には、何を言っても理解できないでしょうね」

「はあ?!バカにしてんのか!」

 杏子の左足が二足分前へ出た。いつの間にか左足はつま先立ちではなく、べた足になっていた。
 
「あの子に教えてもらいなさい。
 今は何も答えてくれないでしょうけど、いずれ時がくれば全て話してくれるわ」

 織莉子はほむらを指差した。杏子は目を向けず、視線を織莉子から逸らさない。
 視線を向けずともほむらを指していることは分かっていた。

「へいへい、ご忠告どうもありがと、ね!!」



59:1:2011/09/10(土) 16:59:36.57 ID:QHjvi9XB0

 杏子は一瞬にして左足に体重移動、右足で地を蹴る。
 さらに腰の回転の勢いを加えて、槍を横薙ぎに振った。
 普通なら届かない間合いだが、槍は節ごとに鎖で繋がれた状態で分離し、間合いを伸ばす。
 結果、一瞬にして槍の矛先が織莉子に迫る。

 これで相手が普通の魔法少女であったなら、完全に出遅れ、杏子の不意打ちの餌食であったであろう。
 だが織莉子は予知能力を持つ。
 当然のようにひらりと跳んで避けた。
 そこへ、

「おらぁ!!」

 と叫びながら杏子は間合いを詰め、いつの間にか収縮して棒状に戻っていた槍の柄を打ち込むも、
 それも読まれており、両手で杏子の手元を押さえられた。

「ぐっ!」

 杏子の腹部に激痛が走る。織莉子に膝を入れられた。今、二人はほぼ密着状態だ。



60:1:2011/09/10(土) 17:00:33.46 ID:QHjvi9XB0

「っのヤロォ!」

 杏子は顔面めがけ、柄を打ち込むも、それも避けられた。再び距離が開く。

「…ちっ、やるな。
 ゆま!こっちは時間が掛かりそうだ!そっちはキッチリ抑えとけよ!」

「うん!わかった!!」

 杏子の呼びかけに、ゆまはギュッっと鈍器(ハンマー?)の柄を握りなおす。
 キリカは多量の出血の影響か、足元がフラフラし、自分から仕掛ける様子を見せない。

 ほむらはゆっくりとだが、立ち上がった。動ける程度には回復したらしい。
 左手を下に振った。するとゴトッゴトッと音を立てて銃器や爆弾が散乱した。
 まどかの足元にも手製爆弾や弾薬などが転がっていく。
 ほむらはその中から拳銃を手に取る。口でスライドを銜え、いっぱいに引いて、口から離す。
 スライドが戻り、弾丸が装填された。そして銃口を織莉子へと向ける。



61:1:2011/09/10(土) 17:01:31.36 ID:QHjvi9XB0

「きょ………赤い人、まどかを助けてくれてありがとう。私も加勢するわ」

「……おう。足ひっぱんなよ」

「………」

 織莉子は黙ったまま、それらを見た。
 動かず、じっと何かを考えている。どうやら何か疑問に思うことがあるようだ。

「!!!」

 不意に織莉子の表情が引きつった。そして杏子を睨む。

「なるほど。ずいぶんと派手な登場をした割に、やけに間怠いと思ってたら……
 そういうことですか」

「あん?何がだ?」

「とぼけるつもりですか。まあいいでしょう」

 織莉子はキリカに向き直る。

「キリカ。今日はもう退きましょう」



62:1:2011/09/10(土) 17:02:13.62 ID:QHjvi9XB0

「へっ?織莉子、私なら大丈夫だ!片腕だけでも、こんなちっこいのにやられはしないよ!」

 キリカはゆまを睨む。ゆまも負けじと睨み返す。

「そうじゃないわ。もうすぐ新手が来る。流石に四人は相手にできないわ」

「でもアイツは私たちの身元を---」

「今ここで私たちが倒れるわけにはいかないの。
 生きてさえいれば、救世を成し遂げる機会はまだあるわ」

「…分かったよ織莉子」

 キリカは残念そうに織莉子のそばまで下がる。

「今日はこれでお暇します。それではごきげんよう。いずれまた会いましょう」

「逃がすか!!」

 杏子は織莉子に向けて槍を投げた。
 織莉子は魔法弾をばら撒く。土煙が上がり、姿が見えなくなる。
 煙が晴れるとそこに織莉子とキリカの姿はなかった。



63:1:2011/09/10(土) 17:03:10.50 ID:QHjvi9XB0

「ちっ」

 杏子は苛立ちを隠すように、菓子箱からスティック菓子を一本取り出し、口にくわえる。

「……ゆま。そいつのケガ、治してやんな」

「うん」

 ゆまはほむらの右腕を拾うと、その腕をほむらの切断面にくっつけた。

「…え?」

 くっつけて僅か数瞬。ほむらの腕は完全に接着していた。
 ほむらは指先が動くことに驚愕する。

「こんな短時間で骨や筋肉、神経まで繋がってる?!」

「わたしの魔法は、治癒魔法っていうの」

「これほどまでに治療に特化した魔法……貴女、契約で誰かの治癒を願ったわね」

「うん。キョーコのケガを治してって」

「おい!余計なことは言うな」

 杏子がゆまに制止をかけた。



64:1:2011/09/10(土) 17:03:56.66 ID:QHjvi9XB0

「あら、いいじゃない。他人の為に一つしかない願い事を使う。
 とっても素晴らしい事だと思うわ」

 突然の新しい訪問者に、全員が振り返る。
 そこには黄色を基調とした外見の、マスケット銃をもった少女がいた。
 そしてその足元には白い猫のような生物。

「マミ、アンタ遅すぎだ。もう魔女も『敵』もいないぜ。
 せっかく時間を稼いでやったってのによ」

「あらそう。ごめんなさいね。別の場所でグリーフシードを見つけて、そっちを処理してたの」

 マミと呼ばれた少女、巴マミはまどかとさやかに歩み寄る。

「キュゥべえ。彼女達が新しい魔法少女候補の子なの?」

「そうさ。特にこっちの子はもの凄い素質を持っているようだ。
 鹿目まどか。ボクと契約し---」

 白い猫のような生物、キュゥべえが話を始めようとしたのを、ほむらが割って入った。 

「悪いけど話は後にしてくれるかしら。ここはまずいわ。場所を変えましょ。
 …話があるなら、そっちでしてちょうだい」

「それもそうね。キュゥべえ。その話は後にして、とりあえず移動しましょう」



65:1:2011/09/10(土) 17:04:33.59 ID:QHjvi9XB0

 ほむらはまどかとさやかに手を差し伸べる。

「さっ、二人とも。ここから出ましょう。立てる?」

「あ、あの、ほ、ほむらちゃん、その、ええっと」
「……え…っと、ほむら、…わ、わたし…」

「聞きたいことがあるのは分かるわ。後でちゃんと説明するから。
 ここに居ると面倒なことになるの。まずは安全な場所まで移動するのが先よ」

 そう言って二人の手を掴み、立たせる。

「………」

 ゆまは落ちていたキリカの右腕を見ていた。

「よし!ゆま移動だ。ぼっとすんな。置いてくぞ」

「あっ!待ってよキョーコ!」
 
 ゆまは一度振り返り、やがて杏子の後へと走っていった。
 結界にヒビが走る。やがてパリンとガラスが割れるように空間が割れ、通常の世界に戻った。
 結界のあった場所に居たのは巻き込まれた一般人のみで、
 ほむらや杏子といった面々の姿はどこにもなかった。



66:1:2011/09/10(土) 17:05:36.93 ID:QHjvi9XB0

*


「魔法少女ぉ??」

 高速道路上の陸橋の上へと場所を移し、各自の自己紹介を終え、
 説明を受けたまどかとさやかの第一声がそれだった。
 ちなみに説明はマミが行った。
 魔女のこと。それを退治する魔法少女のこと。ソウルジェムのこと。
 そして、願いを一つ叶えてくれること。
 一通り聞き終えたさやかが疑問を口にする。

「じゃあ、さっき私たちを襲ったのが魔女ってやつなの?
 なんか正直な話、見た目でアンタ達魔法少女とまるで区別がつかないんだけど」

 マミがほむらと杏子を見る。ほむらが答える。

「違うわ。あれも魔法少女よ。いい?
 最初に現れたのが魔女の『使い魔』。
 次に出てきた黒い魔法少女が持ってきたのが『魔女』。死体だったけどね。
 で、まどかを殺そうとしたあの二人、そして私達が『魔法少女』」



67:1:2011/09/10(土) 17:06:18.56 ID:QHjvi9XB0

「いや、おかしくない?
 さっきの説明だと、魔法少女は魔女から人を守る存在だって」

「そうそう。私もそれが気になってんだ。
 何で魔法少女でもないのにこいつらが狙われるのかがね」

「……それは私にも分からない。
 でも、どんな理由だろうと私はまどかを絶対守るわ」

 杏子は深いため息を一つついた後、まどかとさやかへ視線を移す。
 まどかは俯いて口を閉ざしたままであった。

「…おい、大丈夫か?さっきから黙り込んじゃってるけどよ。
 ほれ、食うかい?気が滅入ってるときはな、甘いもん食うのが一番なんだよ」

「あ、うん。大丈夫。ありがとう」

 まどかは菓子を受け取ると、ポリポリと食べ始めた。
 食べ終わると顔を上げ、キュゥべえに質問する。



68:1:2011/09/10(土) 17:07:10.85 ID:QHjvi9XB0

「ねえ、わたしが凄い素質を持ってるって話、ホント?」

「ああ、凄いなんて言葉じゃ到底足りないね。
 キミなら史上最強の魔法少女になれるだろう」

「ならわたし、魔法少女になる!」

 そう言った瞬間、ほむらが目を大きく見開く。まどかの肩を強く掴み、自分の方を向けさせる。

「何を言っているの貴女は!死ぬ寸前だったのよ!
 こんな血生臭い世界に入り込んではダメ!」

「そ、それ言ったらほむらちゃんだって魔法少女じゃん!」

「わ、私は---」

 ほむらの脳裏に、自分が契約した日のことがフラッシュバックした。

 崩壊した街。
 戦死した巴マミ。
 ワルプルギスの夜。
 魔法少女姿の、笑顔のまどか。
 そして、事切れてもう動かない、まどかの遺体。

 震える腕を、拳を強く力を込めることで抑える。



69:1:2011/09/10(土) 17:08:02.46 ID:QHjvi9XB0

「---私には、他に選択肢が無かったの。
 でも、貴女は違う。そもそも貴女には魔法少女になる理由がない。
 無駄に命を捨てるようなマネは、私が許さない」

「でも!」

「でもじゃねぇよ」

 杏子が口を挟む。

「こんなもんはな、それ以外の方法が無い奴が仕方なくやるもんなんだ。
 ガキの遊びじゃねーんだよ。
 それとも何か?何でも願いを叶えてくれるってゆう奇跡に目が眩んでんのか?」

「そんなんじゃないよ!わたしはただ---」

「理由ならあるじゃないか」

 キュゥべえがまどかの肩に乗り、語りだす。

「話を聞いた限りでは、まどかの命を狙っているのは魔法少女なのだろう?
 だったらその対抗手段としてまどかも魔法少女になるべきだ。
 魔法少女になったまどかなら、どんな敵だろうと撃退できるよ」



70:1:2011/09/10(土) 17:08:53.74 ID:QHjvi9XB0

「その必要は無いわ。私がまどかの傍に居ればいい。
 私がまどかを絶対に守ってみせる。まどかが戦う必要なんてない」

 ほむらはキュゥべえの首根っこを掴むと、ポイッとマミの方へと放った。
 キュゥべえはマミの胸にポスッと収まる。

「私も、今すぐの鹿目さんの契約には反対よ。これは彼女の人生を大きく左右する選択。
 鹿目さん。一時の感情で決断してはダメよ。絶対後で後悔するから。
 ゆっくりじっくり考えて決断して。
 その結果魔法少女になりたいと思ったのなら、その時なればいいのよ」

「それじゃ遅いとボクは思うんだけどなぁ」

「大丈夫よ。私も鹿目さんたちを守るわ。佐倉さんたちもそうでしょ?」

「ゆまもやるよ!」

「…あー、まあ、暇なときにな」



71:1:2011/09/10(土) 17:09:50.00 ID:QHjvi9XB0

 杏子は頬を掻きながら言った。続けてさやかへと話しかける。

「まっ、そういうわけだからアンタも契約しようなんて考えるなよ」

「私はならないよ。叶えたい願いも無いし、一生魔女を狩り続ける生活なんてゴメンだしね」

「ホントか?なんか、『あの二人は私が倒す!』みたいなこと言い出すんじゃないかって思ってたんだけどよ」

 さやかは言われて織莉子とキリカを思い出した。そして二人と対峙する自分を想像する。

 織莉子の虫を見るような瞳。
 息も出来ないほどのプレッシャー。
 慈悲に溢れている様で冷徹極まりない言葉。
 
 さやかは急速に青ざめた。そして、---

「う…、お゛えぇぇぇ!」

 ---胃の内容物を戻してしまった。



72:1:2011/09/10(土) 17:10:33.37 ID:QHjvi9XB0

「おいどうした!大丈夫か!」

 杏子がさやかの背中をさする。さやかは涙目になりながら口に残った吐瀉物を吐き出している。

「これは過度のストレスによるものだね」

 淡々とした言葉をキュゥべえは続ける。

「おそらくはあの二人の魔法少女に対して、そうとうなトラウマを植えつけられたのだろう」

「……美樹さんは、契約はやめた方がいいわね。
 一度刻み付けられた恐怖心は簡単には拭えない。
 そんな、戻すほどのものならなおさらね。
 無理して戦うことはないわ」

「げほっ、ご、ごめんなさい…」

「気にすんなよ。つーかさ、それが普通の反応だよ。
 いきなりあんな目に合わされれば誰だってそうなる。
 さやか。アンタは何も悪くない」



73:1:2011/09/10(土) 17:11:18.80 ID:QHjvi9XB0

 杏子はさやかに水の入ったペットボトルを差し出す。
 さやかは礼を言ってからそれを受け取り、口をゆすいだ。

「さて、お前らさぁ、守るったって実際どうする気なんだ?
 昼間の学校はお前ら二人がついてるからいいとして、家とかさ」

「夜は交代で鹿目さんの家の周囲を見張るしかなさそうね。
 ローテーションでやりましょう。手が空いてる人は、街で魔女狩りね」

「おっ!私がこの地域で狩ってもいいのか?」

「ええ、ローテーションに加わってくれればね。
 暁美さんもそれでいいわよね?」

「……ええ、問題ないわ」

 比較的魔女が多く出現する見滝原で堂々と狩りができる。
 これが杏子にとっての報酬となったようだ。
 やる気の出た杏子は、ニヤッと笑いながらまどかへと振り向く。



74:1:2011/09/10(土) 17:12:26.01 ID:QHjvi9XB0

「へへっ!そういう事なら話は別だ。
 アンタのことはキッチリ守ってやるよ!大船に乗ったつもりでいな!」

「う、うん……」

 まどかの気の無い返事に、マミがはっとした。

「そういえば鹿目さんの同意を得て無かったわね。
 ゴメンなさいね、話を勝手に進めちゃって」

「あ!い、いえ、いいんです。ちょっと考え事してて…」

「契約のこと?そんなに結論を急がなくてもいいのよ」

「でも…」

 まどかとマミのやり取りを、一歩引いたところでほむらが心配そうに聞いていた。
 そのほむらに、杏子が話しかける。

「どうした?黙り込んじゃってさ」

「…いえ、何でもないわ」

「嘘つけこのヤロウ。あっちがすげー心配だ、って顔してるぜ。
 なあ、ウジウジしてねぇで言いたいことがあるならハッキリ言いな。
 アンタが何を考えてんのか分からねぇが、どんな思いだろうと伝えなきゃ意味がないぜ」



75:1:2011/09/10(土) 17:13:02.06 ID:QHjvi9XB0

「………」

「どうせ何か変なこと言って、相手に嫌われたらどうしようとか考えてんだろ。
 びびってんじゃねぇよ。もし嫌われたとしたら、そりゃあ最初から嫌われてたのさ。
 はっきりしていいじゃねえか。どっち転んだって、今よりは清々するはずだぜ。
 思ってること、考えてること、全部吐き出しちまえよ」

 杏子の言葉に、ほむらは雷に撃たれたような感覚に襲われた。

 そうだ。杏子の言うとおりだ。
 しかも私の場合、今言わなければ取り返しのつかない事態になることだってありえる。
 今すぐまどかに言わなくては。私の気持ちを、全部!!

「…まどか」

 まどかはほむらの呼びかけで振り返る。

「お願い、私と約束して頂戴。『絶対に契約しない』って」



76:1:2011/09/10(土) 17:13:41.29 ID:QHjvi9XB0

「…なんで、ほむらちゃんは私が魔法少女になることに反対なの?」
 
「……さっきも言ったけど、契約したら血生臭い世界が待ってるからよ。
 テレビで見る魔法少女の世界とは違うの。
 魔女との戦いは終わりがなく、しかも常に命がけ。
 一瞬のミスがそのまま死に繋がる世界なの。
 加えてあの二人のように、他の魔法少女に対して攻撃を仕掛けてくることもある。
 殺し合いに発展することだって珍しくないわ。
 心優しいまどかには相手を殺すなんてそんなこと出来ないでしょうし、私は絶対させたくない!」

 ほむらは一度呼吸する。そして続きを話す。

「いつ死んだっておかしくない。明日どころか一秒後に生きているかすら分からない。
 そんな世界に貴女を巻き込みたくないの」

「…ほむらちゃんは、それでいいの?
 わたしなんかの為にケガしたり、し、死んじゃうかもしれないんだよ?!」



77:1:2011/09/10(土) 17:14:42.97 ID:QHjvi9XB0

「まどか。『わたしなんか』なんて言わないで。自分の価値を低いものだと決め付けないで」

「でも…」

「それに、私は死なないわ。約束する。
 契約しないってまどかが約束してくれたら、貴女を絶対悲しませるようなことは絶対しない!」

 ほむらはまどかの手を握る。

「お願いだから契約しないで。貴女を、私に守らせて!」

 握った手にぎゅっと力がこめられる。

「ほむらちゃん……わたし」

 まどかはほむらのそれに答えようとした時だった。



78:1:2011/09/10(土) 17:15:27.70 ID:QHjvi9XB0

「その代わりに、私をまどかの好きにしていいから!!」

 ほむらのこの発言に、全員が首を傾げた。

「学校に行くときにカバン持ちをさせてもいい。
 授業やテストで分からないところはテレパシーで教えてもいい。
 購買にパンを買いに行かせてもいい」

 ほむらのこの発言に、全員が頭上に疑問符を浮かべた。

「お金がないなら融資してもいい。
 気に入らない奴がいたら消させてもいい。
 ストレスが溜まったのならサンドバックにしてもいい」

 ほむらのこの発言に、全員が沈黙した。

「夜でも寂しければ呼び出してもいい。
 そのまま抱き枕にしてもいい!
 バター犬でもペッティングでもセックスの相手でも!!
 何でも命令していいから!!!」

 ほむらのこの発言に、全員がほむらから一歩離れた。

「うわぁ…」

 一人、さやかがそう呟いた。



88:1:2011/09/18(日) 08:39:33.98 ID:UN7svkXM0

*


 結局、しばらく沈黙が続いた後、マミが一番に口を開いた。

「ねえ。親睦を深める為にも、明日皆で遊びにいかない?」

 どうやらマミは、先ほどのほむらの言葉を聞かなかったことにしたようだ。
 提案に全員が賛同し、今日の護衛はほむらが担当と決まり、解散となった。

 そして翌日。

「ごめーん!待った~?」

「遅いよさやかちゃん」

「二十分遅刻よ」

「こりゃあ何かおごってもらわねぇとな」

「ゆま、クレープがいい!」

「ゆまちゃん、私の家に来ればケーキがあるわよ。今度遊びに来ない?」



89:1:2011/09/18(日) 08:40:21.61 ID:UN7svkXM0

 駅前に六人が集まった。
 年長者らしくマミが音頭をとる。

「それじゃあ行きましょう」

「どこに行きましょうか」

「映画なんてどう?話題作がまだやってるはずよ」

「いいですね~。私、見たいのがあったんですよ~。凄く楽しみです」

「いいんじゃねえか、それで。映画なんて何年ぶりだろうな~」

「ゆま、映画館初めて~」

 行き先が決まり、わいわいきゃっきゃうふふと映画館へと足を運ぶ。
 だが一行は、たどり着いた映画館の放映予定を見て、愕然とした。

「…放映は午後から……だと…?」

 現在の時刻は、午前の少し早い時間であった。



90:1:2011/09/18(日) 08:40:55.72 ID:UN7svkXM0

 まどかが皆に意見を求める。

「どうしましょう…三時間以上空きができちゃいましたね」

 全員がう~んと唸りながら考える。
 マミが案を思いついたらしく、手をポンッと叩いた。

「そうだ!。それまでカラオケなんてどう?
 もともとは映画の後にしようかと思ってたんだけど、
 順番が逆になっただけで問題ないわよね?」

「……私、最近の曲なんて分からないわよ?」

「いいじゃんいいじゃん歌えれば何だって。
 私なんか最近どころか、昔のだって知らねえぜ」

 渋い表情のほむらの肩に、杏子が肘を乗せる。

「そうだよ。流行の歌じゃなくても、ヘタクソでもいいんだよ。
 こーゆーのはさ、皆でワイワイやるから楽しいんじゃん!
 ほらほら、レッツゴー!」

 そう言ってさやかは先頭を歩き出した。



91:1:2011/09/18(日) 08:41:27.34 ID:UN7svkXM0

*


 受付を済まし部屋へ入ると、まずさやかがリモコンを握った。

「へっへ~。一番手はこのさやかちゃんが頂いちゃいますよ~」

 もう歌う曲を決めているようで、すぐさま番号を打ち込み、転送、そしてマイクを握る。
 全員が席に着くころには曲が流れ始め---

「…あれ?」

 ---なかった。さやかは再度番号を打ち込み、転送する。
 しかし、本体側がそれを受け付けている様子は無かった。

「おっかしーなー。故障かな?」

 本体に直接番号を打ち込むも、反応が無い。

「う~ん。完全に故障ね。店員さんに言って、部屋を変えてもらいましょう」

 マミが立ち上がり、カウンターへ話をつけに向かう。



92:1:2011/09/18(日) 08:42:01.91 ID:UN7svkXM0

 数分後。
 新しい部屋へと案内された全員が驚いた。

「何この部屋?!パーティー会場?!!」

 さやかがそう叫んだ。
 無理もない。この部屋は優に二十人は入れるであろう広さがあったのだ。
 おまけにパーティー用の設備もあり、豪華このうえなかった。

「この部屋しか空きが無かったらしいのよ。
 料金は普通の部屋と同額でいい、って言っていたわ」

「へぇ~。なんか得した気分だな」

 杏子はそう言いながら飲食物のメニュー表を手に取った。
 ゆまも横から覗き込む。



93:1:2011/09/18(日) 08:42:35.11 ID:UN7svkXM0

「って、おい!!いきなり食いもんって!アンタ歌わないつもりか?!」

 すかさずさやかの突っ込みが入った。
 杏子はチッチッチッと舌を鳴らす。

「分かってないな。腹が減っては、って言うだろ?」

「この後、昼飯も控えてんだけど」

「もちろんそれも食べるさ」

「アンタ、どんだけ食うんだ…」

「まあまあ、こっちは気にせずどんどん歌ってくれ。
 食い終わったらアタシも入れるからさ」

「さいですか……」



94:1:2011/09/18(日) 08:43:48.52 ID:UN7svkXM0

 さやかは気を取り直し、ピッ、ピッ、とリモコンを操作して曲を入れる。
 場を盛り上げる為だろか、やがて流れ出したのはテンポが速めの曲だった。

『限界を超えた~、ゼロのさーきでー、踊り続けるのーさー』

 それをノリノリでさやかは歌う。
 曲が終わると、拍手が起こった。

「なかなかやるわね、さやか」

「わー、さやかちゃん上手~」

「上手いわね、美樹さん」

「うん。美味いよ、さやか」

「さやか、これ美味ーい!」

 杏子とゆまは、運ばれてきた料理をひたすら口に運んでいた。

『うおぉぉい!!そこの二人!!ウマイの意味がちっがぁぁぁう!!』キィィイイン!



95:1:2011/09/18(日) 08:44:22.54 ID:UN7svkXM0

*


 マミの番が回ってきた。

『このおーぞらにー、翼をひろーげー、飛んでーゆきたーいーよー』

「おー、マミも美味いなー」モグモグ

『…私は突っ込まないわよ?』

「いや、でも上手ですよマミさん!」

「う~。上手い人の後って歌いずらいよぉ~」

「大丈夫よまどか。貴女なら上手く歌えるわ」



96:1:2011/09/18(日) 08:44:56.11 ID:UN7svkXM0

* 


 まどかの番が回ってきた。

『今、はーしーるんだ、土砂降りのーなーかをー』

 まどかが歌っている最中だった。

「そういえばここ、パーティー用の設備があるんだっけ。
 よーし、このプロデューサーさやかがかっこいい演出をしちゃいますからね~」

 さやかは設備用のリモコンを見つけると、デタラメにボタンを押し出した。
 ボタンを押すたびに照明が点滅し、角度を変え、効果音が鳴り響く。

「うーん、何か面白いのは無いのかな?」

 そう言いながらさらにボタンを押す。すると、まどかの周りにスモークが炊かれ始めた。



97:1:2011/09/18(日) 08:45:46.74 ID:UN7svkXM0

『わっ!わっ!か、火事?!!』

「まどか落ち着いて。ただのスモークよ」

 多量のスモークはまどかの全身を包み込む。その時だった。

「ん?なんだあれ」

 まどかの頭上に、光る何かが浮いていた。

「あれは、光輪?」

 それは、輪状の蛍光灯の光がスモークに映し出された、光の輪だった。
 照明の効果もあり、今のまどかの姿はまるで---

「---まるで天使のようよ、鹿目さん」

「おー、いいねえまどか。なんか神々しいよ」

「当然よ、まどかですもの。さあ皆のもの、天使の歌声に耳を傾けなさい」

『ちょっ!は、はずかしいよ~』



98:1:2011/09/18(日) 08:46:51.91 ID:UN7svkXM0

*


 ほむらの番が回ってきた。
 ほむらは音が流れる前にマイクを握り、こう言った。

『今も昔もこれからも、ずっと愛しています』

 この発言に、さやかは飲んでいたお茶を吹き、マミは目を丸くし、
 杏子とゆまは手から食べ物を落とした。

「ほむらの発作だ!!」

 杏子がそう叫んだ。
 ゆまが身を盾にするように、まどかの前に立つ。
 マミがソウルジェムから拘束用リボンを取り出す。
 さやかが手にスリッパを装備する。

『…ただの台詞じゃない…』

 ほむらの呟きを聞き、全員が画面を確認する。確かにそういう台詞が出ていた。
 さやかがぷっ!と吹き出した。

「あっはははは!!
 ごめんごめん!だってさぁ、昨日のことを考えたら、ねぇ?」

 部屋が笑いに包まれた。



99:1:2011/09/18(日) 08:48:07.83 ID:UN7svkXM0

*


 杏子の番が回ってきた。

『上手いこと橋をわたれどもー、行く先の似た様な途をー』

「おー、何だよ歌えるじゃん。新しいの」

『お?これ、十年位前のやつだぜ?』

「え?そうなの?」

「…確かリメイクされたんじゃなかったかしら?」

「というか。そんな前の曲、どうやって知ったのよ…」
 
『……ほむらー、ちっちぇえこと気にしてっと、大きくならないぞー』

「誰の胸が大きくならないですって?」

『誰も胸なんて言ってねえよ』

「あっはははは!!」

「さやかちゃん、笑いすぎだよぉ~。
 ほむらちゃんも落ち込まないで。大丈夫だよ。まだ大きくなる望みはあるよ!」



100:1:2011/09/18(日) 08:48:53.10 ID:UN7svkXM0

*


 ゆまの番が回ってきた。

『しっあわっせは~、あーるいてこーないー、だーから歩いてゆくんだね~』

 ほむらはへぇと声を漏らす。

「カラオケではあまり歌われない曲だと思ったけど、
 こうして聞いてみると結構いいわね」

「そうだね。みんな知ってるからノリやすいしね~」

『休まないであーるーけーー、それ!』

『「「「「「ワン!ツー!! ワン!ツー!!』」」」」」



101:1:2011/09/18(日) 08:49:36.48 ID:UN7svkXM0

*


 カラオケが終わると、ファーストフードの店に入った。
 会計を済ましてテーブルに着くと、さやかが時計をちらっと見た。

「映画の上映開始って、あとどれくらいですかねぇ~?」

「心配しなくても大丈夫よ。まだ時間はあ…る………えぇ?!」

 時計に目を落としたマミは、素っ頓狂な声をあげた。

「大変!あと、十分ちょっとしかないわ!」

「ぶえぇ!!マジですかマミさん!!
 ッ!もったいないけど、しょうがない!これは捨てるしか---」

 さやかが立ち上がり、トレーの上に乗せられたハンバーガーやポテトを捨てようとする。
 その時だった。



102:1:2011/09/18(日) 08:50:35.04 ID:UN7svkXM0

「おい、何やってんだ。喰いもんを粗末にするんじゃねえ」

 杏子がさやかの手を掴んだ。

「だって急がないと間に合わないじゃん!」

「だってもでももない。喰い終わらずに捨てるのは私が許ねえ!殺すぞ!!」

「なっ、なんだとぉ!!」

 さやかが杏子に掴みかかろうとする。
 そこへ、

「やめて!!」

 と叫びながらまどかが割って入った。両手で二人を押し離す。

「せっかくのお互いを知る為の親睦会なのに、何でいきなりいがみ合うの?!
 二人とも落ち着いて!まずはちゃんと話をしようよ!」

「はぁ?!まどか何言ってんのさ!アイツが先にケンカふっかけてきたんじゃん!!」

「ふざけんな!そりゃあアンタが食いもんを捨てようとしたからだろう!!」



103:1:2011/09/18(日) 08:51:08.59 ID:UN7svkXM0

 まどかの制止を振り切り、二人は互いに詰め寄ろうとする。
 さやかが拳を振り上げる。杏子も拳を振り上げる。

「このぉ!!」

「テメェ!!」

 もうダメだ。そう悟ったまどかはヒッ、と短く悲鳴を上げて瞼を強く閉じた。

 しかし拳が相手に届くことはなかった。

「さやか!やめなさい!」

「佐倉さん、ちょっと落ち着きましょう?」

 さやかをほむらが、杏子をマミが、後ろから両腕を押さえていたのだ。

「は、離せ!ほむら邪魔すんな!!」

「マミ!止めんな!こいつに一発入れねぇと私の気がすまねえ!!」



104:1:2011/09/18(日) 08:51:40.27 ID:UN7svkXM0

 しかしそれでも尚、さやかと杏子は暴れ、相手に殴りかかろうとするのをやめない。

「やめてよぉ!!!」

 まどかが、普段からは考えられない声量で叫んだ。

「なんでこんなことでケンカになっちゃうの?!!
 こんなの絶対おかしいよ!!!」

「…ふんっ!!」

「…ちっ!!」

 まどかの必死な姿に興が削がれたのか、ようやく二人は暴れるのをやめた。
 ほむらとマミは二人を席に着かせる。

「…少しは落ち着いたかしら?」

「………」

「………」



105:1:2011/09/18(日) 08:52:13.83 ID:UN7svkXM0

 さやかも杏子も、一向に口を開こうとしない。
 マミは咳払いを一つつくと、二人に向かって話し出した。

「まず、ケンカの原因は美樹さんが昼食を捨てようとしたから、でいいわね?佐倉さん」

「…ああ。こいつが食いもんを粗末にするから止めたんだ」

「しょうがないじゃん!時間がないんだから!」

「そんなん、理由になってねえっつってんだろうが!」

「やめなさい!!
 ……美樹さんは映画に間に合わせようとしたのよね?」

「そうです。それなのにこいつが!」

「なにぃ?!」

「もうっ!ちょっとは大人しくできないの?」



106:1:2011/09/18(日) 08:52:49.99 ID:UN7svkXM0

 マミは深いため息をついた。
 気を取り直し、さやかと向かい合う。

「……まず美樹さん。今日のメインである、映画に間に合うように、という気持ちは分かるわ。
 でもね、だからといって捨てるのはやり過ぎだと思うの。
 映画なら一本遅れてもまだ観れるわ。そこまで慌てる必要は無いのよ」

「…うっ…」

「ははっ!そーらみろ!」

 次にマミは杏子と向かい合う。

「次に佐倉さん。貴女の食べ物を大切に、という気持ちも分かるわ。
 でもね、もう少し言い方というものがあると思うの。
 どんな正論も、言葉使い一つで、ただの暴言に変わるのよ」

「…あいよ…」

「…ぷっ」

 さやかが吹いた。杏子は、むっとした顔でさやかを睨む。
 マミが手をパンッパンッと叩く。



107:1:2011/09/18(日) 08:53:22.97 ID:UN7svkXM0

「はい。それじゃあお互いの考えが分かったところで、仲直りの握手をしましょ?」

 さやかと杏子はしばらく相手の目を見た。
 そしてどちらともなく、スッと左手を差し出す。

 ギヂッ!!

 互いの手を握った途端、周りに骨や肉が軋む音が微かに響いた。
 その音の発生源であると思われる二人は、互いに笑顔を浮かべる。

「あー、何というか悪かったね。緊張しててさ。ちょっとテンパっちゃった」

「いーよいーよ。私の方こそ言い過ぎだった。スマン」

 二人とも、他は普段のまま、左手だけが異様に緊張していた。
 いや、よく見るとこめかみに血管が浮き出し始めている。



108:1:2011/09/18(日) 08:53:55.00 ID:UN7svkXM0

「お詫びといっては何だけど、今度ご飯奢るよ」

「いーのかい?私もゆまも結構食うぜ?」

 二人の左の前腕がパンプアップしだした。
 微かに歯軋りまで聞こえ出す。

「ダイ、じょーぶ。食べ、放題、の店、知ってる、か、ら!!」

「そう、デス、か。そんじゃ、まあ、お言葉、に、甘えようか、な!!」

 言葉が途切れ途切れになってきた。
 さすがにもう平穏を演じきれなくなってきたようだ。 

「……もう。勝手にしなさい…」



109:1:2011/09/18(日) 08:54:41.93 ID:UN7svkXM0

 マミは呆れたようにため息をついた。そして呟く。

「さて、また時間が空いちゃったわね」

 それを聞いたまどかが、案を思いつく。

「それならここでお喋りしてましょうよ。
 変にどこか行くと、また逃しちゃいそうですし…
 ほむらちゃんもそれでいい?」

「お喋りは構わないのだけれど、場所は移動しましょ」

「どうして?ここじゃ嫌なの?」

「ええ、周りのお客さんや店員の目が、ちょっと、ね」

 そう言ってほむらは周りを見渡す。つられてまどかとマミも見渡す。



110:1:2011/09/18(日) 08:55:27.17 ID:UN7svkXM0

 ジロリッ  ギョロッ  

「ひぃ!」

「あ、はは、そりゃあ、あれだけ大声で叫べば、こうなるよね。
 …あれ?そういえば、ゆまちゃんは?」

 席にゆまが居ないことに、まどかはようやく気がついた。

「ほら、あっちよ」

 ほむらはレジのあるカウンターを指差す。そこには---

「ごめんなさい!ごめんなさい!うるさくして、ホントにごめんなさい!」

 ---目に涙を浮かべながら、ひたすら店員や他の客に謝り続ける、ゆまの姿があった。
 謝られた客と店員は、ばつが悪い思いで、必死にゆまをなだめていた。

 --キミは何も悪くないんだよ。
 --だから頭を上げてちょうだい。
 --悪いのは、あのお姉さん達なのだから。



111:1:2011/09/18(日) 08:56:02.15 ID:UN7svkXM0

 ゆまは恐る恐る頭を上げる。

「ゆるして、もらえますか?」

 --ああ、もちろんさ。
 --僕達はお嬢さんを許します。
 --そもそも私たちは、貴女に何も怒ってないのよ。
 --だから、君は何も気に病むことはないんだ。

 客の一人が、ゆまの頭を優しく撫でる。

「…えへへ」

 ゆまの表情が笑顔に変わる。
 それを見た客と店員も、つられて笑顔に変わる。
 そして、客と店員は一斉にほむら達に振り返った。
 その表情には、「こんな幼い子に謝らせるなんて!!」という非難が込められていた。



112:1:2011/09/18(日) 08:56:56.60 ID:UN7svkXM0

「ひぃぃ!!」

「あわわわわ。で、出ましょうマミさん!」

 慌てた様子でまどかとマミは立ち上がった。

「ほら、さやか。杏子。置いてくわよ」

 ほむらが二人を促す。未だに二人は互いの手を握り潰し合っていた。
 一同は外に出ると、映画の時間までゆっくり出来る場所を探して歩き出した。

「んもう!ほむらちゃん、気づいてたんなら教えてくれてもいいじゃない」

「ふふっ。ごめんなさいね、まどか。とても言い出せる空気じゃなかったんですもの」

「こんな時だけ空気読むの?!読めるんだったら昨日も読んでよ!」

「ううっ、まどかが怖いわ。しくしく、しくしく」



113:1:2011/09/18(日) 08:57:57.89 ID:UN7svkXM0

「そんなワザとらしい泣き真似なんてしてもダメだよ!」

「泣き真似といえば、ゆまちゃん上手だったわね」

「ちょっとほむらちゃん、急に話を逸らさないで。
 それに泣き真似って、それは酷いよ!」

 ゆまは笑顔で答える。

「えへへ。だって、たくさん練習したからね~」

「えぇぇ!!あれ、泣き真似だったの?!」

「んとね、ゆまが泣いて謝ると、みぃーんな許してくれるんだよ!
 だからね、何かあったときは泣いた振りしてごめんなさいって言えって、キョーコが」

 ゆまはニカッとした、いい笑顔で語った。

 まどかは思った。ああ、あのお客達と店員に伝えてやりたい。
 みんな、ゆまちゃんに騙されてる、と。



122:1:2011/10/01(土) 20:33:44.10 ID:gq77mqsR0

*


 映画を見終え、映画館から出る頃には暗くなり始めていた。

「いや~、映画面白かったね~。
 正直、テレビのCM見たときはビミョーかなって思ってたんだよね~
 もうさ、あんこが可愛くって可愛くて」

 そう語るさやかの手には、パンフレットがあった。どうやらこの映画を気に入ったらしい。
 杏子は黙ったまま、ポップコーンを口に運ぶ。

「ふふっ。どうやらこの映画で正解だったみたいね。
 この映画を見ると、あんこちゃんの事しか考えられなくなるって評判でね。
 ずっと気になってたのよ」

 マミは興奮冷めやらぬ表情を浮かべている。
 対照的に杏子は若干下向き加減だった。

「確かにあんこちゃん可愛かったですもんね~。これじゃあ仕方ないですよ。
 わたし猫派だけど、あんこちゃん飼いたいな~て思っちゃいましたもん」

 まどかもこの映画を気に入ったらしく、手にパンフレットを持っていた。
 杏子のポップコーンが空になる。



123:1:2011/10/01(土) 20:34:14.74 ID:gq77mqsR0

「そう。まどかは犬を飼いたいのね。まどかさえよければ都合するわよ?」

 ほむらは後ろからそっとまどかの肩に手を載せると、徐々に胸の方へと手を伸ばしていく。
 しかしその手は、まどかの「めっ!」という言葉と共に叩かれ、払われてしまう。
 杏子はポップコーンの容器をひっくり返し、底に残ったかすを口にする。

「ほむらが言うと、卑猥な意味にしか聞こえないよ」

 さやかの言葉に、杏子を除く全員が笑った。

「……なあ」

 これまで沈黙していた杏子が、突如口を開いた。
 全員杏子へと振り返る。

「あんこあんこ、って連呼すんの、やめない?」

 さやかが首を傾げる。

「え?どうしてさ。あんこちゃん可愛いじゃん。ね~」

「そうだよキョーコ。あんこは可愛いんだよ」

「あれ?佐倉さん、もしかして苦手だった?」

「いや、そんなんじゃないんだがな……」

「こんなに可愛いのに、変なの」

 さやかはそう言うと、パンフレットを開く。



124:1:2011/10/01(土) 20:34:47.47 ID:gq77mqsR0

『ドック ~あんこの庭~』

 -- あらすじ --

 ある日、教会に一匹の生まれたての子犬が迷い込んでくる。

 その教会の娘、モモは、子犬に『あんこ』と名前をつけて、とても可愛がった。

 しかし、信者数低迷の為か、教会を畳むこととなる。

 引越し先の家は、動物を飼うことを禁止されている為、あんこを里親に出すことになった。

 それから数日後、里親の下からあんこは脱走する。

 行き先はもちろん、幼年期を過ごした、思い出の教会。だが、そこには誰も居なかった。

 それでもあんこは待ち続けた。いつの日か、モモとその家族が帰ってくると信じて。

 はたして、あんこは家族と再会できるのだろうか…。



125:1:2011/10/01(土) 20:35:32.99 ID:gq77mqsR0

「いや、何と言うか、あんこって言葉を聞くと、私が呼ばれてるような気がしてな…」

「…えっと?」

 まどかが首を傾げる。

「まどか。杏子という字を訓読みにしてみなさい」

「…どういう字を書くの?」

「果物のあんずを漢字にするの」

 ほむらは宙に指で字を描く。

「あ、わかったよ!確かにあんことも読めるんだね!」

 まどかは感心したように言った。
 杏子は黙ったまま何かを考えている。

 まどかの発言内容に、さやかが食いついた。

「ほっほ~う。あんずにあんこか~。いろんな読み方があるんだねぇ~。
 よし!今日からアンタのことをあんずちゃん、いや、あんこちゃんと呼ぶことにしよう!」



126:1:2011/10/01(土) 20:36:23.12 ID:gq77mqsR0

「はぁ?!なぁにいってやがんだ!うっぜぇ!」

「んもう、照れちゃってるよ。うひひひひ。あんこちゃん、かっわいぃ~~」

 さやかは後ろから杏子に抱きつくと、---

「なっ!!や、やめろ!!離れろよ!!」

「よいではないか、よいではないか」

 ---そのまま杏子の背におぶさった。
 その様子を見ていたまどか達は、自然と笑顔になる。

「一時はどうなるかと思ったけど、何だか大丈夫そうね」

「そうですね。今ではあんなにじゃれ合ってますもんね」

「キョーコとさやか、仲良しになった!」

「きっとあの二人は、根本的なところが同じの、似たもの同士なのでしょうね」
 
 話に花を咲かせ、帰路も和気藹々としながら歩く。
 だが楽しい時間にも終わりが訪れる。



127:1:2011/10/01(土) 20:37:13.20 ID:gq77mqsR0

「そんじゃ、私こっちだから。バイバイ~」

「ゆま、狩りの時間だ。行くぞ」

「うん。みんな、またね~」

「今日は楽しかったわ。今度は私の家でお茶会しましょうね。
 確か、今日は私が見回る日ね。一度家に帰って身支度したらそっちに向かうから」

 さやか、杏子、ゆま、マミと別れ、まどかとほむらの二人きりになった。
 足は自然とまどかの家へと向かう。

「ほむらちゃんの家はこっちでいいの?」

「ええ。それにマミが来るまで誰かが一緒にいないと危険ですものね」

「…そうだったね。すっかり忘れちゃってたよ。私が狙われてるって。
 なんだか嘘みたい。あれはただの夢だったんじゃないかって思えちゃうの」

「そうだったら良かったのだけれど、残念なことに、これは紛れもない現実よ。
 でも心配いらないわ。絶対に守ってみせるから」



128:1:2011/10/01(土) 20:38:24.55 ID:gq77mqsR0

「どうしてほむらちゃんは、わたしにそこまでしてくれるの?
 わたし達、まだ出会って一週間くらいだよね。
 お互いのこと、まだよく知らないのに…」

「…出会ってからの時間なんて関係ないわ。
 貴女だって、当時は通りすがりの子供だったゆまを助けたじゃない。
 それに、お互いのことをよく知らないというのなら、今から沢山知ればいいのよ」

「そう、だよね…。うん。そうだよ。
 じゃあさ、マミさん来るまで、ほむらちゃんのこと沢山教えてよ!」

「ええ、いいわよ。まどかは私の何が知りたい?」

「うーん、そうだねぇ~。まず、趣味とか、休日は何して過ごしてるとか、
 髪のトリートメントは何使ってるとか、……あ!どこの病院に入院してたかとか。
 どの棟のどんな部屋とか、どんな入院生活だったかとか。えっと、えっと、あとは-----」

「ちょ、ちょっと待ってちょうだい。そんなに沢山、一遍に聞かれても答え切れないわ」



129:1:2011/10/01(土) 20:40:00.48 ID:gq77mqsR0

「あ!ご、ごめんね。
 えへへ。何だか聞きたいことがありすぎちゃって」

「もう。まどかは意外とあわてんぼさんね。
 えっと、まずは趣味かしら。趣味はね-----」

 ほむらはまどかの質問に一つ一つ、丁寧に答えていく。

「-----っと、こんなものかしらね。今度は私が聞く番かしら」

「うん。何でも聞いてよ」

「そうねぇ……」

 聞いた直後、まどかははっとした。
 もしかしたら、ほむらがまたセクハラまがいの言葉を口にするのではないのかと思ったのだ。

「普段、音楽とかはどんなのを聞くの?」

「え?あ、えっとね、ジャンルとかは別に拘ってなくって、
 店で視聴して気に入ったやつとか、たまに演歌とか…」

 一瞬身構えたまどかは、肩透かしをくらった。
 その後の質問も、まどかの予想に反して、存外にまともな質問だった。
 そうこうしているうちに、まどかの家が見えてきた。

「もうすぐわたしの家に着いちゃうね」

「そう。それじゃあこれが最後の質問ね」

 この時にはもう、まどかの警戒はすっかり解けていた。



130:1:2011/10/01(土) 20:41:08.16 ID:gq77mqsR0

「まどかの今日のパンツ、何色かしら」

「リボンついた無地の白だよ、って、ほむらちゃん何聞いてるの?!」

「うふふ。そう、白なのね。可愛いわまどか」

 不意の質問に、まどかは赤面してしまった。
 恥ずかしさを誤魔化すためか、ほむらをポカポカと叩く。

「んもう!ほむらちゃんのバカ!バカ!バカ!!」

「ふふ、うふふふふ」

「ほーむーらーちゃん?!」

「ふふ、あはは、あははははは」

「…ほむらちゃん?」

「ふふ、ごめんなさい。こんなに楽しいのは本当に久しぶりなの。
 ずっと闘って、戦って、今思うとすごく殺伐とした毎日を過ごしてたわ。
 そんな日々を忘れるくらい、今日は夢のような一日だったわ」

「…今日だけじゃないよ。これからもずっとずううっっと、続いていくんだよ」

「…そうよね」



131:1:2011/10/01(土) 20:42:07.18 ID:gq77mqsR0

 ほむらはそう呟くと、足を止めた。まどかはそれに気づき、足を止め、振り返る。

「ねぇまどか。貴女、今幸せ?」

「え?うん。幸せだよ」

「家族や友人は大切?」

「うん。大切だよ」

「そう。ずっとこの幸せな日々を過ごしたいと思うのなら、大切な人達と一緒に居たいなら、
 絶対に魔法少女になっちゃダメよ。そんなものにならなくても、貴女は素晴しい人間なのだから」

「…前にもそれ、わたしに聞いたよね」

「あら?そうだったかしら」

「うん。ほむらちゃんの転校初日に。
 そんなに念を押すほどわたしって信用ないのかな?」

 まどかは少し悲しそうな表情を浮かべる。
 ほむらは慌てて、アタフタしながら弁解する。

「そ、そんなことないわ!私は貴女を信用してる!
 さっきのはちょっと、言ったってことをド忘れした私のミスというか-----」



132:1:2011/10/01(土) 20:43:19.57 ID:gq77mqsR0

 その様子を見たまどかは、

「えへへ。冗談だよ冗談。さっきの仕返しだよ~だ」

 と笑いながら言うと、走り出した。

「あ!…もう、まどかったら!待ちなさい!」

 ほむらもその後を追い、走り出す。


 もともと家の近くまで来ていたので、すぐにたどり着いた。
 まどかとほむらはそこで足を止める。

「まだマミさんは来ていないみたいね」

「そのようね。でも、すぐに来ると思う。
 今のうちに紅茶でも淹れて、差し入れしてあげたらどうかしら。
 きっと喜ぶと思うわ」

「そうだね。そうするよ。ほむらちゃんは?」

「私はマミが来るまでここに居て、引き継いで帰るわ」

「そっか。もう遅い時間だもんね。
 じゃあね、バイバイ」



133:1:2011/10/01(土) 20:44:22.07 ID:gq77mqsR0

 まどかは家の玄関へと向かう。
 その背後にほむらは声を掛ける。

「まどか」

 その声に、まどかは振り返る。
 ほむらは若干下を向いていた。

「さっきも言ったけど、私は貴女を信用しているわ。
 だから、---」

 ほむらが顔を上げ、まどかと目を合わせる。

「---だから、私の忠告もきちんと聞いてくれていると信じてる。
 じゃあね。また明日、学校で会いましょ」

「うん。また明日、学校でね」

 まどかは玄関のドアを開け、家に入っていった。

 紅茶を淹れ、自室へ持っていく最中、まどかはある事に気づき、あっ!と声をあげた。

「ほむらちゃん、家の中で待っててもらえばよかった。
 昨日のアレも返すの忘れちゃってたし。…まだ居るかな?」

 自室に入るとカーテンを開け、外に居るはずのほむらの姿を探す。
 だが、もう帰ってしまったらしく、どこにもほむらの姿は無かった。



134:1:2011/10/01(土) 20:45:46.85 ID:gq77mqsR0

*


「やあこんばんわ。鹿目まどか」

 夕食後、まどかがタツヤに絵本を読み聞かせ終わり、
 タツヤが眠りについたタイミングを見計らって、キュゥべえがやってきた。

「あ、キュゥべえ。こんばんわー。どうしたの急に。
 マミさんと一緒じゃなくていいの?」

 まどかは向かっていた机から、ベットの上に座ったキュゥべえに向き直る。
 机の上には、昨日購入したシンデレラの絵本があった。それを早速タツヤに読み聞かせたらしい。

「ああ大丈夫だよ。むしろボクがこっちに居たほうがキミは安全さ。
 外をマミが警戒し、内にいるボクは近づく魔力を探ることができる。
 二重に敵を感知をする形になるね。
 これを抜けるのは、魔法少女といえど不可能に限りなく近いだろう。
 だから安心していいよ」



135:1:2011/10/01(土) 20:46:43.23 ID:gq77mqsR0

「そ、そうなんだ」

「それに、いざという時はボクと契約して魔法少女になってくれればいい。
 魔法少女になったまどかなら、どんな敵が攻めてこようと返り討ちさ」

「う、うん…」

 まどかは肩を窄め、下を向く。

「怖いのかい?」

「え?えっと、違うの。別にキュゥべえとマミさんが頼りないって訳じゃなくて…その…」

「契約するかを迷っているんだね?」

「…うん。わたしって運動も勉強も出来ないし、自慢できる才能とかもなくって。
 誰かの役に立ちたいって、いつも思うんだけど、何も出来ない自分が嫌だったの。
 でも、キュゥべえに魔法少女としての才能があるって言われたとき、
 わたしにも誰かの役に立てることがあるのかな、って思えたの」

「それだったら話は早い。さあまどか、願いを決めるんだ。
 魔法少女になったキミならどんな魔女にも負けることはないだろう。
 この街に蔓延る災厄を、キミが払い除けるんだ。
 間違いなくキミはこの街の、陰の英雄になれるだろう」



136:1:2011/10/01(土) 20:47:51.48 ID:gq77mqsR0

 まどかは顔を上げ、キュゥべえの目を見て話しだす。

「でも、でもね。わたし、ほむらちゃんと約束したの。絶対に契約しないって。
 そしたら、ほむらちゃんは死なないし、ずっと一緒に居てくれるって約束してくれたの」

「なるほど。キミは暁美ほむらの言葉をそう解釈したんだね」

「…?キュゥべえ?」

 キュゥべえは机の上に移動する。そして机の上の絵本に気がついた。

「これは、シンデレラだね」

「うん。キュゥべえも知ってるの?」

「もちろんさ。いい話だよね」

 キュゥべえがまどかに振り返る。
 一人と一匹の距離は先ほどより近く、そして目線の高さは同じになった。

「まどか。キミは昨日、二人の魔法少女に襲われたんだよね?
 その時、キミはどう思ったんだい?」

「…え、ど、どうって聞かれても……」



137:1:2011/10/01(土) 20:48:40.82 ID:gq77mqsR0

「これはボクの予想だけど、不安や恐怖の他に、理不尽や不条理を感じたんじゃないかな。
 そして使い魔に殺される人達や、まどかの為に身を挺した暁美ほむら、
 彼らを見ながら、自分の力の無さに歯がゆい思いを感じはしなかったかい?」

「……した、かも…」

「普通の人間のままでは、魔女や魔法少女に対抗することなんて出来やしないからね」

「………」

「ねえまどか。キミは暁美ほむらのことが大切かい?」

「…うん。大切な、わたしの友達だよ」

「キミは、本当にこのままでいいと思っているのかい?」

「…どういうこと?」

「さしずめ、僕はシンデレラに魔法をかける魔法使いといったところかな」

 まどかは首を傾げた。
 キュゥべえは構わず話を続ける。



138:1:2011/10/01(土) 20:49:35.99 ID:gq77mqsR0

「鹿目まどか。キミは魔法少女の戦場という名の『舞踏会』に出てみたいと思わないかい?
 そしてその容姿と佇まいで、暁美ほむらという『王子様』に認められたいとは思わないのかい?
 もしキミが望むのであれば、ボクは最高の『ドレスと馬車』を用意することが出来るよ。
 ただし、この魔法を掛けるには、まどかの同意がなければダメなんだ。
 嫌がるシンデレラに、魔法使いは無理やり魔法を掛けることはできない」

「ほむらちゃんに、認められる?」

 キュゥべえの口が僅かにつり上がる。

「そう。正直言って、暁美ほむらの魔法少女としての能力はとても低い。
 このままでは敵の魔法少女はおろか、魔女にさえやられかねないね」

「そんなことないよ!ほむらちゃんは絶対に負けたりしない!」

「その暁美ほむら自身が言っていたじゃないか。
 魔女との戦いは常に命がけ、いつ死んでもおかしくない、と」

「…ぅ!」



139:1:2011/10/01(土) 20:50:22.29 ID:gq77mqsR0

「キミは確か、敵の魔法少女に襲われたとき、暁美ほむらに助けられたらしいじゃないか。
 その恩に報いたくはないかい?」

「……でも、ほむらちゃんはわたしが魔法少女にならなくていいように、って頑張ってくれてるのに…」

「だが、暁美ほむらが死んだらそれまでだ」

 キュゥべえのその言葉に、まどかは息を呑んだ。

「どんな約束にせよ、それは相手が例え死んだとしても守らなきゃいけないものなのかい?」

「………」

「謝罪や罪滅ぼしは、生きてさえいれば、後でも出来る。
 だけど、死んだら終わりさ。死者にはどんな言葉だって届きはしない」

 まどかは机をドンッと叩く。

「ほむらちゃんは死なないって言ってるでしょ?!
 わたしは信じてるもん!!」

 キュゥべえはやれやれといったカンジに尻尾を振る。



140:1:2011/10/01(土) 20:51:20.19 ID:gq77mqsR0

「まどか聞いてくれ。まだ続きがあるんだ。
 これはマミですら知らないことなんだけど、数日後、この街に強大な力を持った魔女がやってくる。
 ボクらの間ではこの魔女のことをワルプルギスの夜と呼んでいる」

「…ワルプルギスの、夜?」

「そう。このワルプルギスの夜を放っておいたら、この街には甚大な被害が出るだろうね」

「…ほむらちゃん達じゃ、勝てないって言うの?」

「まあ、四人揃えば勝算はあるだろう。
 でも、それはあくまで可能性の話だ。負けたってなんらおかしくはない。
 そこでまどか、キミの出番だ。キミが加わり五人になれば、勝率はグンッと上がるだろう。
 いや、キミの素質を考えれば、あっさり倒すことだって出来るかもしれない」



141:1:2011/10/01(土) 20:52:30.32 ID:gq77mqsR0

「………」

「…今すぐとは言わない。よく考えておいてくれ。キミにとって、何が一番大事なのかを」

 キュゥべえは窓の縁に上る。カーテンに隠れ、キュゥべえの姿は黒いシルエットになる。

「まどか。君は『舞踏会』にいる誰よりも綺麗で可憐、優雅になれる素質を持っている。
 その姿に、誰もが君へと振り返るだろう。---そう。『王子様』までもが、ね。
 ワルプルギスの夜という『舞踏会の開催日』は着々と迫っている。
 決心がついたら呼んでね。キミが望めばボクはいつでも駆けつけるよ」

 そういい残すと、まるでそこに窓が無いかのように飛び去った。

 残されたまどかは、下を向いて黙ったままだった。



146:1:2011/10/08(土) 23:31:41.84 ID:Ytwh+CC40

*


 それから数日が経過した。
 懸念された織莉子による襲撃も無く、何事もない平和な日々のようであった。

 まどか護衛のローテーションは、今のところ問題なく動いている。
 それどころか各々に自由な時間が出来るので、フリーの日は思うが侭に行動していた。

 マミは新作のケーキを買ってきてはお茶会を開き、
 杏子とゆまは風見野でも張り切って魔女を狩り、
 ほむらはまどかへのセクハラに余念がない。

 そんなある日、ほむらは放課後全員に収集をかけた。
 場所はほむらの住むアパートだ。
 殺風景な部屋の中央に鎮座するちゃぶ台を取り囲むように
 マミ、杏子、ゆま、まどか、そしてほむらが座る。
 さやかは幼馴染の見舞いがあるらしく、欠席した。
 全員にお茶と菓子が行き渡ったところで話を切り出す。

「数日後、この街にワルプルギスの夜が来るわ。
 マミ、杏子、ゆま。力を貸してほしい」



147:1:2011/10/08(土) 23:33:35.46 ID:Ytwh+CC40

 開口一番、ほむらはそう告げ、頭を下げた。
 ゆまは首を傾げる。おそらくワルプルギスの夜を知らないのだろう。
 まどかはビクッ、と体を震わせる。
 マミと杏子はその言葉の意味を理解したらしく、表情が引き締まる。
 マミが疑問を口にする。

「それは、本当なの?そうだとしたら、何故貴女がそれを知っているの?」

「……ごめんなさい。今、それを言うわけにはいかないの。
 でも信じてほしい。この魔女は私一人ではどうにもならない。みんなの協力が必要なの」

「事情は話さず、協力だけしてくれって?そりゃあ、虫がよすぎやしねえか?」

「…終わったら必ず話すわ。約束する」

 マミは口に手を当て、何かを考えている。

「だいたいよぉ、それ手伝ったとしてさ、私に何か見返りあんの?
 ワルプルギスの夜といえば、超弩級の魔女って噂じゃん。
 そんな危ない橋渡らせるってのに、何の見返りも無いんじゃなぁ…」



148:1:2011/10/08(土) 23:35:21.53 ID:Ytwh+CC40

「手伝うメリットは無くとも、放置するデメリットはあるわ。
 放っておけば、この街は間違いなく崩壊する。犠牲者も沢山出るでしょうね」

「はっ!ぶっちゃけた話、どんだけ犠牲者が出ようが、そんなの私には関係ないね」

「ダメよ佐倉さん、そんな考え方は。
 魔女の魔の手から人々を守る。それが本来の魔法少女のあるべき姿なのよ」

 マミの言葉に、杏子は一瞬戸惑った表情になった。だが次の瞬間にはその表情は消えていた。
 杏子は少し声のトーンを落として話す。

「そう思ってんなら、マミはそうしたらいい。
 私は、私のやり方を曲げるつもりは無い」

「…あいかわらずね」

「…マミもだろ」

 マミと杏子はしばらくお互いにらみ合う。そして二人同時に目線を逸らす。
 不意に杏子が立ち上がった。

「とにかく、事情は話さない、見返りも無いってんじゃあ、私はこの話には乗れないね。
 私は帰らせてもらう」



149:1:2011/10/08(土) 23:37:06.51 ID:Ytwh+CC40

 背を向けて部屋を出ようとする杏子に、ほむらは問いかける。

「待って杏子。貴女は何が欲しいの?一体どんな見返りがあれば貴女は手伝ってくれるのかしら?
 グリーフシードならいくつか持っている。協力してくれるなら、それを全部譲ったっていいわ」

 杏子は足を止め、振り返る。

「グリーフシードはいらない。ただ私は、お前が知ってる事が聞きたい。全部話せ」

 その言葉に、ほむらは戸惑う。

「さっきも言ったけど、それなら後で必ず---」

「いいや、私は今聞きたいんだ。それができねえってんなら、私は降りるだけだ」

「…そう。残念だけど、仕方ないわ」

「……ふん。ゆま、帰るぞ」

 再び踵を返して歩を進めようとする杏子を、まどかが呼び止める。
 
「待ってよ杏子ちゃん。杏子ちゃんは街の人を見捨てちゃうの?
 ただ、みんなで協力して魔女を倒す。それじゃあダメなの?」

 まどかはほむらに向き直る。

「ほむらちゃんも隠し事なんてしないでさ、話して欲しいなって」



150:1:2011/10/08(土) 23:39:02.12 ID:Ytwh+CC40

 杏子は黙ったまま口を閉ざす。
 ほむらはまどかに聞いて頂戴と言う。

「こればっかりは、まどかの頼みといえど聞けないわ。
 これを話すと、知られたくない秘密のことや、
 私の持つ魔法の性質とその弱点まで曝け出すことにつながるの。
 私にとってそれは、致命的な事なのよ」

 まどかの表情が曇る。

「それって、マミさんや杏子ちゃんを信頼していないってこと?」

「それは違うわ。たとえ信頼している仲間であっても、
 話せることと話せないことがあるってだけよ」

「でも、それを話せば杏子ちゃんは協力してくれるんだよ?」

「………」

 ほむらの表情が若干引きつった。指先が忙しなく動いている。

「…ほむらちゃん?」

「………少し、考える時間を頂戴。
 ワルプルギスの夜を倒すには杏子の協力が必要。それは分かってるの。でも…」



151:1:2011/10/08(土) 23:40:36.34 ID:Ytwh+CC40

 ほむらは俯き、口を閉ざしてしまった。代わるように杏子が話し出す。

「話はついたみてえだな。ほむら、私は、お前が話してくれるのを楽しみに待つことにするよ」

 まどかは杏子に向き直り、語りかける。

「…杏子ちゃんはさ、何でそんなにほむらちゃんの事情が知りたいの?」

「あー、話の内容は気にはなるが、そこが重要って訳じゃあないんだ。
 なんつーかさ、事情を話してくれる、ってことが大事なのさ。正直、内容は二の次だ。
 話してさえくれれば、それがどんなにブッ飛んだ内容だろうが、私は構わない。
 ましてや笑い飛ばしたり、バカにしたりなんか、絶対にしない。ちゃんと最後まで聞くさ」

「…魔女を退治した後じゃダメなの?」

「ワルプルギスの夜に関する情報を、倒した後に知ったってしょうがねえじゃん。
 たとえそれが、戦うときに何の役にも立たないものであってもな」

 まどかはそれ以上聞けなかった。杏子の意思は固いと判断したのだ。
 まどかはマミに向き直る。

「マミさんは、ほむらちゃんの力になってくれますよね?」

「さっきも言ったけど、魔法少女は魔女を倒すのが使命よ。見返りなんていらない。
 この街に危害が及ぶのであればなおさらよ」



152:1:2011/10/08(土) 23:42:04.84 ID:Ytwh+CC40

 その言葉に、まどかの表情が一瞬緩む。

「でも、連携して戦うのは難しいでしょうね。やるとしたら、個々でやるしかないわね」

「そ、そんな…」

 まどかの表情がまた曇った。

「仕方ないわよ。やっぱり、何かを隠している相手に背を向けるのは、ちょっと怖いわ。
 何もないって分かっていても、ね…」

 マミはほむらをちらっと見る。ほむらは俯いたままだった。

「どうやら、後はほむら待ちってところだな。ま、決心がついたならまた声掛けてくれよ。
 茶ぁ、ごちそうさん。おいゆま、いつまで飲んでんだ。行くぞ。
 今日の魔女狩りルートは、病院からだったな」

「あ!待ってよキョーコ」

 杏子とゆまが部屋を出た。
 それに続くようにマミも立ち上がる。

「私もいくわ。それじゃあね」

 バタンッと扉の閉められる音が部屋に響く。
 部屋にはほむらとまどかが残された。
 まどかが何かを言おうとした瞬間、ほむらが立ち上がった。

「あ…」

「家まで送るわ。行きましょ」



153:1:2011/10/08(土) 23:43:09.12 ID:Ytwh+CC40

*


 まどかの家へ向かう道の途中、しばらく続いた沈黙を破ったのはほむらだった。

「まどか、ありがとう。まどかは私のフォローをしてくれたのよね?それなのに、私のせいで……。
 折角まどかがくれたチャンスを生かせなくて、本当にごめんなさい」

「ふぇ?あ、ああ!いいよいいよ、気にしないでほむらちゃん。
 結局、私じゃあ、何も変えられなかったわけだし。
 …その、ちょっと聞きたいんだけど、ワルプルギスの夜ってどんな魔女なの?」

「強大な力を持った大型の魔女よ。自分の結界に篭らず、現実の世界で暴れまわるの。
 一般の人間からはその姿は見えず、大きな災害という形でしか認識できないわ」

「災害?もしかして、本当に街全体が危ないの?」

「ええ。でも大丈夫。私たちが必ず倒すから。犠牲者なんて絶対出させないわ。
 だから心配は要らない。まどかは安心して避難してちょうだい」

「…避難……」

「ああ、ワルプルギスの夜が近づいてくると、おそらく街全体に避難勧告がでるはずよ。
 …危ないから、見に行こうなんて考えちゃダメよ 」

「そんなことしないよ。ほむらちゃん達が遊びでやってるわけじゃない、ってちゃんと分かってるから」

「…そう。それならいいの」



154:1:2011/10/08(土) 23:45:09.02 ID:Ytwh+CC40

 再び二人は沈黙する。すたすたと足音だけが響き渡る。
 まどかは何かを決心したように口を開く。
 
「ねぇ、ほむらちゃん。わたし---」

「あー!!!まどかにほむらーー!!おーーい!!」

 だが、まどかの声は前方から来たさやかの大声にかき消され、途中からほむらには聞き取れなかった。

「こんなとこでどうしたのさ?今日、ほむらん家で集まりがあったんじゃなかったっけ?」

「ああ、それはもう終わったのよ」

「えっ、そうなの?せっかくこのさやかちゃんが駆けつけたってのに~~!」

 さやかはわざとらしく悔しそうな身振りをする。その手にはCDの入った袋が握られていた。
 まどかがそれに気がつき、指摘する。



155:1:2011/10/08(土) 23:46:08.34 ID:Ytwh+CC40

「ああこれ?それがさ~、せっかく見舞いに行ってやったってのにさ、都合悪いんだって~」

「じゃあ上条君には会えなかったんだ」

「そ~なのよ。だから急いでこっち来たらもう終わってるって…。ホント今日は空振りばっか……」

「あはは。ついてないねぇ、さやかちゃん。
 心配しなくても今日の集まりの内容はちゃんと教えてあげるよ」

「くぅ~、やっぱまどかは優しいねぇ~。流石は私の嫁だ!」

 そう言うと、さやかはまどかに抱きついた。

「わっ!もう、さやかちゃんったら」

 まどかはさやかの頭を優しく撫でる。

 ほむらはその様子を微笑ましく、同時に羨ましそうな目で見ていた。



156:1:2011/10/08(土) 23:48:05.75 ID:Ytwh+CC40

*


 ほむらがワルプルギスの夜のことを話した翌日のことだった。

「ねえ。さやかはさぁ、僕をいじめているのかい?」

「…え?」

 幼馴染である上条恭介の見舞いに来ていたさやかは、彼からの突然の質問に驚いた。
 いや、驚いたというより、意味が分からないといった考えの方が強かった。
 そしてさやかは疑問に思う。いじめている?なんの冗談だろう、と。

「なんで今でもまだ音楽なんて聴かせるんだ?嫌がらせのつもりなのか?」

「なんでって…。だってそれは、恭介が音楽好きだから---」

 それを聞いた恭介は激昂し、

「もう聴きたくないんだよ!!自分で弾けない曲なんて!!」

 と叫ぶと、ケガをしている左手で、CDをケースごと叩き割った。
 手から血がポタポタと垂れる。
 しかし、それを痛がっている様子がまったく無い。
 まるで、痛覚や触覚といった感覚が完全に麻痺しているかのように。



157:1:2011/10/08(土) 23:49:58.45 ID:Ytwh+CC40

「…!!や、やめて!!!きっと治るから!!諦めなければきっと---」

「諦めろって言われたのさ。今の医学ではどうしようもない。
 この腕はもう、動かないんだ。奇跡か魔法でもない限り……」

 奇跡か、魔法。
 さやかの脳裏に浮かんだのは、何でも願いが叶う、キュゥべえとの契約のことだった。

「…あ………」

 さやかは顔面蒼白で、プルプルと手を震わせる。声がうまく出せないようだ。


 ---あるよ。奇跡も魔法も、あるんだよ。

 そうさやかは言いかけた。だが、それを口にはしなかった。いや、出来なかった。
 口にしよう、声を出そう、伝えようとするたびに、代わりに胃から吐瀉物が込みあがってくる。
 無理にでもその言葉を発したら、同時に口から撒き散らしてしまいそうだった。

 原因は分かっていた。先日の織莉子襲撃の件だ。未だに思い出すと気持ち悪くなる。
 さやかは頭を振った。そして自分を叱咤する。
 何をしている!早く恭介に言うんだ!治る!その腕は、治るんだよ!!



158:1:2011/10/08(土) 23:51:29.09 ID:Ytwh+CC40

「……ゴメン。恭介の気持ちも考えずに……。私、ちょっと無神経だった…」

 さやかの気持ちとは裏腹に、声に出たのは謝罪の言葉だった。
 それを聞いた恭介は、はっ、とする。

「いや、僕の方こそごめん。さやかは厚意でしてくれていたのに…。
 …すまないが、一人にしてくれないか。頭を冷やしたいんだ。
 それと、今度からは音楽に関係しているものを持ってくるのはやめてくれると嬉しい、かな…」

「…うん、わかった。また来るね。バイバイ」

 さやかは静かに病室のドアを閉めた。

 病室を出ると、その足で屋上へ向かう。
 屋上は心地よい風が吹いていた。
 さやかはフェンスに寄りかかり、遠くの景色を眺める。
 頭に浮かんでくるのは先ほどのやり取り。
 なぜ、たった一言が言えなかったのだろう。
 …そんなこと、考えるまでも無いじゃないか。



159:1:2011/10/08(土) 23:53:41.75 ID:Ytwh+CC40

 怖いんだ。どうしようもなく。
 恭介の腕を治すことと、魔法少女になって戦うことを天秤にかけても釣り合わないくらいに。
 そして口に出してしまったら、もう行くしかないことが分かってしまったのだ。

 恐怖と暴力と理不尽が渦巻く、魔法少女の戦場へ---

 さやかは込み上げてくる吐き気を懸命に堪える。

「…ッああ!!」

 ガンッ!ガンッ!!ガンッ!!!

 気がつけば、さやかは何度もフェンスに拳を叩きつけていた。

「…ううっ……なんで…私は………ぐすっ……」

 しばらく叩き続けると、やがて嗚咽とともに、ズルズルと膝から崩れ落ちた。

「………」

 その様子を、離れた位置からキュゥべえが見つめていた。
 しばらく眺めていたキュゥべえは、ため息を一つつくと、踵を返し、去っていった。



164:1:2011/10/16(日) 11:36:01.19 ID:NT8qNy6V0

*


 学校からの帰り道、まどかはゆまと一緒に歩いていた。

 さやかは幼馴染の見舞いに行き、マミは街へ魔女狩りに、杏子はゲーセンで時間を潰し、
 ほむらは教室の掃除当番なので別行動だった。
 その結果、まどかの傍にはゆま一人が残ったのだった。
 ゆまとは学校の門の前で合流した。
 どうやらそのまま自宅周囲の警備にあたるつもりのようだ。

「キョーコ、遅いね~。今日はまどかおねえちゃんを守る日なのに」

「そうだね。もしかしたらゲームに夢中になっちゃってるのかもね」

「む~。そんなのダメだよ。ゲームよりこっちが大事なのに…
 よし、キョーコを探しに行こう!」

「そうだね。一緒にゲームやりに行こっか」

「違うもん。ゲームやりに行くんじゃなくて、キョーコを叱るんだもん」

「ふふふ。そうだよね。ガツンと叱ってあげなきゃね」

 まどかとゆまは進路をゲームセンターへと変え、歩き出した。



165:1:2011/10/16(日) 11:37:59.74 ID:NT8qNy6V0

 数十分後。

「…いないね」

「…うん。キョーコ、どこ行っちゃったのかな?」

 もしかしたら杏子はもう、まどかの家へと向かっていて、すれ違いになってしまったのではないか。
 そう思った二人は、急ぎまどか宅へと向かう。
 時間が遅い為か、道に人通りが無かった。
 それを疑問に思った直後だった。
 横手の狭い路地に、フラフラとした足取りで歩く、一人の少女がいた。
 その少女はまどかと同じ学校の制服を着ており、ウェーブの掛かった髪を風に靡かせていた。

「あれ?仁美ちゃん?今日のお稽古事はどうし---」

「…!!まって!!」

 まどかがその少女の名を呼ぶのと、ゆまが制止をかけるのは同時だった。



166:1:2011/10/16(日) 11:39:29.15 ID:NT8qNy6V0

「---あら、鹿目さん。ごきげんよう」

 まどかへと振り返った仁美の目からは、生気がごっそり抜け落ちていた。

 ---普通じゃない!一体何が?!

 まどかは仁美の首に、何かの刻印のようなものを見つける。

「あれは、『魔女の口付け』だよ。
 魔女が人から生気を奪ったり、自殺や事故に見せかけて殺したりするときに使うんだ」

「え?!じ、じゃあ、この近くに魔女が---」

「うん。はやく倒さないと、この人が危ないよ!」

「あらあら。何をお話しているのですか?
 わたくし、そろそろ行かなくてはなりませんの」

「行くって、どこに行こうとしてたの?」

「それは、ここよりもずっと良い場所ですのよ。
 そうですわ。鹿目さん達も是非ご一緒に」



167:1:2011/10/16(日) 11:41:40.30 ID:NT8qNy6V0

 気がつけば、まどかとゆまは、数人の男女に囲まれていた。
 そしてその全員に『魔女の口付け』があった。
 仁美の誘いを断れば、何をされるか分かったものではない。
 だが、悪い事ばかりではない。着いていけば魔女のもとにたどり着けるかも知れない。
 ここは着いて行くのが得策か。

「あ!そうだ。ほむらちゃんやマミさんに連絡を---」

 まどかはケータイを取り出し、ほむらへと電話を掛けようとする。
 だが、

「そいつはちょっと遠慮してもらおうか!」

 電話が相手を呼び出すその前に、人垣の中から飛び出す黒い影があった。
 その誰かは、まどかへと駆け寄りながら左手に爪を出現させ、下から払うように振る。



168:1:2011/10/16(日) 11:43:38.54 ID:NT8qNy6V0

「でやぁ!!」

 咄嗟にゆまは変身し、まどかの前に割り込み、ハンマーで爪を受ける。
 ガキィィィン!!と甲高い音が辺りに響いた。
 衝撃で、まどかの持っていたケータイが、地面を転がっていった。
 襲撃者はゆまと競り合いになるも、ゆまに押され、力勝負は分が悪いと思ったのか、後ろに飛び退いた。

「やあ、ちっこいの。この前の続きをしようじゃないか!」

 襲撃者はそう言った。
 まどかはこの襲撃者に見覚えがあった。
 黒を基調とした魔法少女の衣装。
 右目の眼帯。
 腕が無く、バタついている右袖。
 そして、鋭利な左手の爪。
 名前は確か、呉キリカ、だったはず。



169:1:2011/10/16(日) 11:44:59.50 ID:NT8qNy6V0

 そこまで思い出して、まどかは血の気が引いた。

 まずい!この状況は非常にまずい!!
 この人達は確か二人組みで、もう一人がどこかに居るはず!
 ほむらちゃんはこの二人を相手にした時、完全に押されていた。
 それが今はゆまちゃん一人。
 このままじゃ、あの時のほむらちゃんみたく、ゆまちゃんが---

「は、早くほむらちゃん達を呼ばないと!!」

 キリカとゆまが戦闘を始めた。
 戦っている音が響く中、まどかは必死に落としたケータイを探す。
 だが、一向に見つからない。どこにも無い。
 そんなはずは無い。そんな遠くに転がっていったはずはないのに!

「鹿目さん。これをお探しですか」

 その声に、地面に向けていた視線を上げると、仁美がまどかのケータイを持っていた。

「仁美ちゃん!見つけてくれたの?!ありがとう!
 ちょっと急いで電話したくって---」



170:1:2011/10/16(日) 11:46:21.74 ID:NT8qNy6V0

 まどかは仁美に手を差し出すが、仁美がケータイを返す様子はない。
 それどころか、ケータイを操作し、電源を切った。

「…仁美、ちゃん?」

「ふふふ、鹿目さん。これから行く世界には、もうこんなものは不要ですのよ」

 そう言うと仁美はケータイを自分のポケットにしまいこんだ。

「…!!仁美ちゃん!返して!!」

「ダメですわ。そもそもこんな無粋なもの、必要ありませんもの。
 さあ、時間がもったいないですわ。行きましょう」

 仁美は踵を返して歩き出した。その後を、同じく操られている人達が付いていく。
 まどかはゆまへと振り返る。

「まどかおねえちゃん!こっちは大丈夫だから!!さっきの人達を助けてあげて!!」

「はっ!!余裕だねぇ!その余裕が何時まで持つか、見ものだね!!」



171:1:2011/10/16(日) 11:47:50.66 ID:NT8qNy6V0

 ゆまとキリカは喋りながら、互いに目線を外さない。
 まどかの目には、二人の実力は互角に映った。
 いきなりピンチになるようなことは無いはずだ。

 それに---
 いつまで経っても来ないことを心配して、杏子が来るかもしれない。
 街を巡回中のマミが通りかかるかもしれない。
 異常を察したほむらが駆けつけるかもしれない。

 むしろ心配しなければならないのは、仁美の方ではないか?
 このままでは確実に、魔女に殺されてしまう。

 ---行くしか、なさそうだ。それも一人で、だ。

 まどかはギュッと拳を握り締め、学校のカバンを肩に掛けると、仁美達の後を追って行った。



172:1:2011/10/16(日) 11:48:54.79 ID:NT8qNy6V0

*


 キリカとゆまが動いたのは、同時だった。

「はあぁぁ!!」

「でりゃあ!!」

 キリカは右足で踏み込むと同時に、左手の爪を振りかぶり、右下へと切りつける。
 ゆまは左足で踏み込むと同時に、右脇に構えていたハンマーを左上へと振り上げた。

 キイィィン!

 爪とハンマーがぶつかり、どちらも相手に触れることなく、横へ流れる。
 キリカは勢いに乗ったまま、左足でステップを踏み、右の後ろ回し蹴りを放つ。
 ゆまはその時すでにジャンプしていて、キリカの蹴り足を踏みつけ、
 さらに高度を上げ、キリカの頭上の高さまで跳んだ。

「えぇい!!」

 そして振りかぶっていたハンマーを、キリカの頭上へ、力の限り振り下ろす。
 完璧なタイミング。ハンマーがキリカの脳天に直撃し、頭を粉砕する---はずだった。



173:1:2011/10/16(日) 11:49:56.63 ID:NT8qNy6V0

「ちぃ!」

 キリカの速度低下魔法が発動した。キリカを除く、全てのものの動きが遅くなる。
 キリカの出していた右足は、そのまま前へ出る踏み込みとなり、着地と同時に左膝を跳ね上げる。

「うっ!!」

 ゆまは腹に喰らってしまい、体がくの字に曲がる。

「もういっちょ!」

 キリカは左足が地に着くと同時に、右の蹴りを放とうとする。
 だがすぐに止めた。すぐさま左手で頭部をガードする。

 ブオッ!

   ドガッッ!!

 風を切る音と、まるでトラックが人を撥ねたかのような音が響き渡る。
 ゆまのハンマーが、キリカのガードした左腕の上から叩きつけられていた。

「くっ!」

 キリカは片足が浮いており、踏ん張ることができず、吹っ飛ばされた。
 ゆまは右手で、ハンマーの柄を短く握って振っていた。
 その動きは、腹部のダメージなど無いかのようだった。
 だが、小手先だけで当てただけの攻撃では致命傷にはならなかったようで、
 キリカはすぐさま体制を立て直した。



174:1:2011/10/16(日) 11:50:41.63 ID:NT8qNy6V0

 完璧に膝が入ったはずなのに---
 キリカは、ゆまがダメージを受けていないことに、内心驚いていた。
 あれだけキレイに入ったのだ。内臓がつぶれてもおかしくない。
 実際には、喰らった直後に治癒魔法を掛けただけなのだが、
 そのことを知らないキリカには、ゆまがひどく頑丈に思えた。

 絶対当たると思ったのに---
 ゆまは、完璧なタイミングで放った打ち下ろしをかわされたのが、信じられなかった。
 相手を遅くする魔法---思っていた以上にやっかいだ。
 ゆまの主観では、キリカが瞬間的に急加速したように感じた。

 ゆまはチラッと、横目でまどかの安否を確認する。
 なにやら揉めているようだ。
 どうやら先ほどの『魔女の口付け』を受けていた人は、まどかの友達らしい。

 その友達は、周囲の人達を引き連れて、どこかへと歩き出した。
 まどかが、ゆまに視線を向けた。
 その意味を、ゆまは瞬時に理解した。



175:1:2011/10/16(日) 11:51:44.83 ID:NT8qNy6V0

「まどかおねえちゃん!こっちは大丈夫だから!!さっきの人達を助けてあげて!!」

「はっ!!余裕だねぇ!その余裕が何時まで持つか、見ものだね!!」

 ゆまはキリカから視線を外さず、まどかに言った。
 キリカは、速い。少しでも隙を見せれば、たちどころにまどかは殺されてしまうだろう。
 少なくとも、まどかの姿が見えなくなるまでは、まどかとキリカの直線上にいて、
 妨害しなければならない。
 ゆまはハンマーを両手で持ち、体の前に構える。

 キリカは体勢を直そうと、右足を僅かに右にずらし、足の間隔が肩幅ほどにする。
 それを見たゆまは、左に半歩分、移動する。

「-----」

 一瞬、何かを考えた様子のキリカは、左にスッと一歩移動する。
 ゆまもそれに対応し、右へ一歩移動する。
 キリカは、右にスッと一歩移動する。
 ゆまも、左へ一歩移動する。
 キリカは、右にスッと一歩移動する。
 ゆまも、左へ一歩移動する。
 やはりキリカはまどかを狙っているのか、まどかとの直線上からゆまを外そうとする。



176:1:2011/10/16(日) 11:53:09.67 ID:NT8qNy6V0

「………」

 キリカは黙ったまま、再度、右へ一歩踏み出そうと足を浮かせ、
 ---そのまま前へ踏み込んだ。

「ぇッ!!」

 ゆまには、突然キリカが、眼前にワープしたように感じられた。
 キリカは横から払うように爪を振る。
 完全に反応が遅れたゆまは、慌てて柄で爪を防ごうとする。

「遅い遅いぃ!!」

 だが、間に合わなかった。

「いっッ!!」

 ゆまの両腕に裂傷ができ、右手の指が千切れかける。
 ハンマーを握っていることができず、落としてしまった。
 キリカはさらに左で踏み込み、裏拳をゆまの側頭部に打ち込む。
 続けて、よろめくゆまの後頭部を掴み、下に押し込み、顔面へと左膝を跳ね上げる。
 グシャッ、という音をたてて、ゆまの鼻骨が折れた。
 鼻から血がボタボタと垂れる。



177:1:2011/10/16(日) 11:53:46.98 ID:NT8qNy6V0

「まだまだぁぁぁ!!」

 キリカが止まらない。膝を何発も、何発も、何発も、ゆまの顔面に打ち込んだ。
 
 グシャッ。グシャッ。グシャッ。
 ゆまの顔面が痣だらけになっていく。
 ゆまが呻き声を上げた。

 グシャッ。グシャッ。グシャッ。
 ゆまの顔面の至る所が切れ、血が流れ出る。
 ゆまの呻き声が小さくなった。

 グシャッ。グシャッ。グシャッ。
 ゆまの瞼が腫れあがる。
 ゆまの呻き声が聞こえなくなった。

 グシャッ。グシャッ。グシャッ。
 ゆまの顔面が蹴られるたびに、前歯が減ってゆく。
 ゆまは完全に沈黙した。 

 グシャッ。グシャッ。グシャッ。
 ゆまの顔面が蹴られるたびに、その体がビクッ、ビクッ、と痙攣する。

 グシャッ。グシャッ。グシャッ。グシャッ。グシャッ。グシャッ。
 グシャッ。グシャッ。グシャッ。グシャッ。グシャッ。グシャッ。
 グシャッ。グシャッ。グシャッ。グシャッ。グシャッ。グシャッ。
 ゆまの顔面が蹴られるたびに、周りに、湿気を帯びた肉を打つ音だけが響く。



178:1:2011/10/16(日) 11:54:34.84 ID:NT8qNy6V0

「…ふう、こんなもんかな」

 ようやくキリカは蹴るのをやめた。
 ゆまはぐったりとし、ピクリとも動かない。
 キリカが放り投げると、そのまま転がり、うつ伏せの状態になった。

「思ったより時間掛かっちゃったな。
 まあ、急ぐアレでもないけど。…でも、まあ、そろそろ行ってみるかな」

 キリカはゆまに背を向け、歩き出す。

「…ん?」

 二、三十メートル歩いたところで、背後から足音が聞こえた。
 その音は、全力で走っているような間隔で、キリカの耳に届いた。
 ---通行人か?こんな場所に?何故走ってる?
 そう思ったキリカは後ろを振り返る。



179:1:2011/10/16(日) 11:55:40.13 ID:NT8qNy6V0

 そこには、

「だぁ゛あ゛あ゛!!!」

 血だらけになりながらも、駆け寄るゆまの姿があった。
 その異様な姿に、キリカは一瞬反応が遅れた。
 さらにキリカは右回りに振り向いた為、腹部が完全にがら空きだった。
 キリカがそのことに気づいたときには、ゆまはすでにハンマーを大きく振りかぶり、
 野球のフルスイングのように振っていた。
 ハンマーはキリカの右脇腹を捉える。
 インパクトの瞬間、ミリミリッ、とも、ミシミシッ、ともつかない音を、キリカは自分の体内から聞いた。

「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛!!!」

 そのままゆまは、ハンマーを振り抜く。
 キリカは吹き飛ばされ、路地の壁に激突した。
 壁に小さなクレーターができる。
 ゆまは手の甲で鼻を拭う。
 多量に流れ出ていた血が、完全に止まっていた。

 ゆまは、地面に倒れたキリカを見下ろしながら言う。

「まどかおねえちゃんの所には、絶対に行かせないよ!!」



180:1:2011/10/16(日) 11:56:19.68 ID:NT8qNy6V0

*


 まどかは仁美達の後に続き、廃工場へと入っていった。
 全員が入り終わると、ガラガラと音をたててシャッターが降りる。

「あッ!!」

 まどかが叫ぶ間に、シャッターは閉じられ、工場内は密室となった。
 まどかは工場内を見渡す。
 工場内は物が少なく、ガランとしていた。
 ふと、数人が動き出した。それぞれの手にはバケツや、種類の違う洗剤や入浴剤が数本、握られている。
 バケツが床に置かれ、洗剤が注ぎ込まれる。そのラベルには、『塩素系』と記載されていた。
 さらにOL風の人が、入浴剤の蓋を開ける。こちらのラベルには、『硫黄系』と記載されたいた。
 まどかはそれらを見て、母親から言われたことを思い出す。



181:1:2011/10/16(日) 11:57:21.04 ID:NT8qNy6V0

『いいかまどか。こういう塩素系の漂白剤はな、
 他の洗剤と混ぜると、とんでもなくヤバイことになる。
 あたしら全員、猛毒のガスであの世行きだ。絶対に間違えるなよ』

 まどかは、今、目の前で、『とんでもなくヤバイこと』が行われようとしていることに気がついた。

「駄目!混ぜちゃ駄目ッ!!みんな死んじゃう!!」

 まどかが駆け寄り、入浴剤投入を阻止しようとする。だが、

「邪魔してはいけません!」

 それを、仁美が妨害する。

「あれは神聖な儀式ですのよ。私達はこれから素晴しい世界へ旅に出ますの。
 それがどんなに素敵なことか、あなたにもすぐに解りますわ」

 仁美の言葉に、周りから歓声と拍手が起こる。

 ---全員、正気じゃない!!



182:1:2011/10/16(日) 11:59:29.11 ID:NT8qNy6V0

「はなして!!」

 まどかは仁美の手を振り解くと、洗剤の入ったバケツを掴み、放り投げた。
 バケツは窓ガラスを割り、外へと消えていった。

「これで大丈夫---」

 まどかが振り返ると、そこにはまどかを鋭く睨みつける目、目、目。

「---じゃない!!」

 不穏な空気を感じたまどかが逃げ出すのと同時に、仁美達が追ってきた。
 まどかは適当なドアを開け、フロアを出る。
 しかしドアの先は、外ではなく室内。
 外に出なくちゃ---
 そう思いながら、次のドアを開ける。
 また室内。
 もたもたしていられない。こうしている間にも、後ろから迫っているんだ!
 その時、まどかの目に、カギの付いたドアが映った。
 ここを通ってカギを閉めれば、追っ手からの時間を稼げるはず。
 まどかは駆け寄り、部屋へ入る。



183:1:2011/10/16(日) 12:00:27.65 ID:NT8qNy6V0

「…え…?」

 そこで始めて気がついた。
 その部屋は、倉庫だった。窓も、出口も、隠れる場所も、無い。
 これでは逃げ場が無い。袋小路だ。
 まどかはもう一つ気がついた。
 部屋の奥に、誰かが居る。

 箱の上に座る、一人の少女。
 少女は手の平の上でグリーフシードを転がし、弄んでいた。
 少女が、まどかに気づく。
 ゆったりとした動作で立ち上がり、まどかを見る。
 まどかにはその少女に見覚えがあった。

 全身を包む、白い衣装。
 まるで害虫を見るような、鋭く、冷たい瞳。
 何かに怒っているかのような、表情。
 呼吸を忘れるほどの、威圧感。

「ごきげんよう。鹿目まどか」

 その少女は、美国織莉子だった。



184:1:2011/10/16(日) 12:02:19.86 ID:NT8qNy6V0

*


 もう、どのくらい戦っているのだろうか。
 分からない。
 いつの間にか、時間のカンカクがなくなっている。

 もう、どれだけの傷を受けたのだろうか。
 解らない。
 からだのいたるところが、アザと切り傷でいっぱいだ。

 もう、まどかおねえちゃんは、友達を助けられたのだろうか。
 判らない。
 もしかしたら、魔女のもとについてしまったかもしれない。

 だとしたら、キケンだ。早く助けに行かなくちゃ。
 でも、それには、この黒いのをやっつけなくちゃダメだ。
 でも、-----

 ゆまは後ろに下がる。
 キリカの爪が、鼻先を掠っていった。 

 -----後だ。考えるのは後にしよう。そもそも考えているヨユウなんてない。
 今は、ただ、目の前の、こいつを!ぶっとばす!!



185:1:2011/10/16(日) 12:03:09.34 ID:NT8qNy6V0

 ゆまは、キリカ目掛けて全力で前へ踏み出し、跳ぶ。
 そのまま空中でハンマーを真上に振りかぶると、キリカ目掛けて振り下ろした。

「だりゃぁ!!」

 キリカは右へ跳び、避ける。
 ハンマーが地面に叩きつけられ、凄まじい衝撃音と共に、新しいクレーターができる。
 現在戦っている路地は、ゆまによって、クレーターだらけになっていた。

「…ちっ!!」

 キリカは舌打ちをする。
 キリカの体にも数箇所、打撲痕があった。
 その中でも一際ダメージが大きそうなのが、右脇腹だ。
 距離が出来るたび、キリカは右脇腹を押さえていた。
 その表情には、苦痛が見え隠れしている。
 ゆまのハンマーがもろに入った箇所だ。
 おそらく肋骨が折れていることだろう。



186:1:2011/10/16(日) 12:04:16.02 ID:NT8qNy6V0

 一方のゆまは、四肢の切断や臓器の破裂等の、
 戦闘に支障が出る怪我だけは、瞬時に治していた。
 他の怪我---顔や体に受けた打撲や裂傷は、放置している。
 全ての怪我を、治しはしなかった。
 いや、治さないのではない。治せないのだ。
 理由は明確だ。
 ソウルジェムである。
 ゆまのソウルジェムは、輝きが失われ、濁りが限界に達しようとしていた。

 ムダ使いはできない。ケガを治すのは、後まわしでいい。
 このようにゆまは判断した。

 それに、もうすぐだろう。
 もうすぐだ。
 もうすぐ、ここに---



187:1:2011/10/16(日) 12:05:02.15 ID:NT8qNy6V0

「おいおい、私のツレに、なぁ~にしてくれでんだ、テメェ」

 ゆまでもキリカのものでもない声が、キリカの背後から聞こえてくる。
 

 ---ほら、来た。

 ゆまは、声の主に、杏子に笑顔を向ける。
 対照的に、キリカは苦々しい表情になる。

「へへっ!こっちはキッチリ抑えといたよ!」

「ああ!よくやった、ゆま。後は私達に任しとけ!」

 突如、銃声が響いた。
 音速を超えた鉛の塊が、キリカの膝を貫く。

「あっ!」

 キリカはバランスを崩し、片膝をつく。
 そしてゆまの後方から、煙をあげるマスケット銃を持ったマミと、ほむらが姿を現す。



188:1:2011/10/16(日) 12:05:41.96 ID:NT8qNy6V0

「こんな小さな子に手をあげるなんて、許せないわね」

「呉キリカ。貴女はもうおしまいよ。観念しなさい」

 杏子、マミ、ほむらはキリカへと歩み寄り、取り囲む。
 キリカは顔を下に向けている。
 よく見ると、微かに体が震えているのがわかる。
 マミはキリカのもう片方の膝を撃ち抜く。
 両膝を打ち抜かれたキリカは、短い悲鳴と共に横に倒れ、そのままうつ伏せに転がる。

 ほむらは怪訝な顔をしながら、キョロキョロと辺りを見渡す。



189:1:2011/10/16(日) 12:06:33.16 ID:NT8qNy6V0

「……あれ?…まどかは、どこ…?」

 ほむらの言葉に、ゆまの表情が引き攣る。
 対照的に、キリカは口端が吊り上る。
 キリカは、ガバッ、と顔を上げ、杏子、マミ、ほむらを見る。
 三人の姿を確認すると、キリカはうつ伏せのまま、

「ふっ、くっくくく…
 あっははははははははは!!」

 大声で笑いだした。
 左腕しかまともな四肢がなく、もう戦闘不能に陥っているのにも関わらず、
 勝ち誇った表情で、キリカは笑い続ける。

「織莉子、作戦は、---」

 キリカは、顔に手を当てながら言う。

「---作戦は、大成功だぁ!!!
 私達の勝ちだ!!
 あっははは!!
 あっはははははははは!!
 あっははははははははははははは!!!」



194:1:2011/10/23(日) 12:03:05.42 ID:P8hJTuya0

*


 まどかは、生まれて初めて、自分の『死』を意識した。
 いや、以前にもあったのかもしれないが、それらの比ではなかった。
 まどかはこの時初めて、蛇に睨まれる蛙の気持ちが理解できた。
 何かしら行動しなければ死ぬ。
 それが分かっているのに、足が、体が、脳が、竦んで動かない。

「覚悟は-----」

 不意に織莉子の声が耳に入ってきた。

「-----できてますか?」

 その背筋の凍る声に、まどかは全身を振るわせる。

「せめてもの慈悲です。私の手で、苦しまないよう、終わらせてあげましょう」



195:1:2011/10/23(日) 12:04:19.55 ID:P8hJTuya0

 織莉子がまどかに歩み寄る。
 それを見たまどかは、先ほどまで固まっていた体が一転して、弾かれたように素早く動き出す。
 まどかは、肩に掛けっ放しだったカバンから、円柱状の何かを取り出す。
 織莉子の足が止まる。まどかが持つ物が何か、瞬時に理解したのだ。

「こ、来ないで!!」

 まどかの声は、若干震えていた。

「爆発させちゃうよ!!」

 まどかは円柱状のもの-----ほむらの手製爆弾を、目の前に掲げる。
 この爆弾は、初めて魔法少女のことを知ったあの日、足元に転がってきたのを拾ったものだった。
 まどかはほむらに返そうと思っていたのだが、なかなか言い出せなかったり、忘れてしまっていたりしていたのだ。

「……それが?」

 織莉子は一歩、まどかとの距離を詰めだす。

「これ以上近づいたら、わたしと、い、一緒に、ドカンッ!、だよ!!」

「……それが?」

 織莉子はまた一歩、まどかとの距離を詰めだす。

「わ、わたしは本気だよ、脅しじゃないんだから!!」

「……だから、それがどうしました?」

 織莉子は怯まず、距離を詰めていく。



196:1:2011/10/23(日) 12:05:21.51 ID:P8hJTuya0

「遠慮などせず、起爆させればいいではありませんか。私は構いません。
 私にとって重要なことは、貴女の死による救世であって、私の生死は問題ではないのです。
 自ら幕を引きたいのであれば、どうぞ。
 私としても、それは望ましいことです」

 織莉子は、表情を一切変えずに言った。本気でそう思っているのだろう。

「な、なんでわたしが死ぬことが、世の中を救うことになるの?!」

 まどかは叫んだ。

「そんなの、絶対おかしいよ!! わたしが何をしたっていうの!!」

 織莉子の足が、止まった。

「……あの子からは、何も聞いていないのですか?」

「あ、あの子?誰のこと?!」

「暁美、ほむらですよ。その様子では、何も教えてもらっていないようですね」

 まどかは何も答えようが無かった。織莉子が何について言っているのか、分からなかった。

「いいでしょう。何も知らずに死ぬのは、誰でも嫌ですものね。教えて差し上げましょう」

 織莉子の言葉を、まどかは待った。
 何故自分が狙われるのか、その答えが、やっと分かるのだ。
 それが分かれば、話し合いで解決できるかもしれない。

「貴女は、自分が何かしたか、と尋ねましたね。結論から言うと、まだ何もしていません」

 まどかは怪訝そうな表情になる。
 まだ、とは何だろう。

「これからなのです。これからそう遠くない将来、貴女は-----」



197:1:2011/10/23(日) 12:06:44.64 ID:P8hJTuya0

 織莉子の話の途中、ドアが勢いよく蹴り開けられた。
 ドアの向こうには暴徒と化した人達-----ではなく、バケツを両手で持った、さやかが居た。

「このォ!!」

 さやかは織莉子にバケツを投げつける。
 織莉子は、特に慌てる様子も無く、右手で払い除ける。
 だが、バケツには液体が入っていた。織莉子の右腕を中心にして、体に液体が付着する。

「まどか大丈夫?!」

 さやかはまどかの姿を確認すると、すぐさまその手を掴む。

「早く早くッ、逃げるよ!!」

 さやかは、まどかの手を引くのと同時に、蓋の開いた容器を織莉子へと放った。
 容器は中身を撒き散らしながら、放物線を描いて宙を飛ぶ。
 織莉子はバケツの時と同様に、容器を払い除ける。
 まどかとさやかは部屋を出て、ドアを閉める。
 その時だった。

「うっ、ごほっ、がはっ!」

 突如発生した強烈な腐卵臭を嗅いだとたん、織莉子は気管と肺に痛みを感じだした。
 そして、段々と息苦しくなってくる。
 織莉子は意識的に深呼吸するが、十分な酸素を取り込むことが出来ない。



198:1:2011/10/23(日) 12:07:59.22 ID:P8hJTuya0

 織莉子は、さやかが投げつけたバケツと容器によって発生した、猛毒である硫化水素ガスを吸い込んでしまったのだ。

 織莉子のソウルジェムが光を放つ。

「……ごほっ……ごほっ………はぁぁぁ、すぅぅぅ……はぁ……ふぅ……」

 数秒後、織莉子の呼吸が正常に戻る。
 魔法で呼吸中枢を修復したのだ。
 織莉子は目を閉じ、息をゆっくり大きく吸い、そしてゆっくり大きく吐く。
 すぅ、と目が開かれる。
 その瞳は、刃のように鋭く、見たものを凍りつかせるような、冷たい目だった。



199:1:2011/10/23(日) 12:09:17.72 ID:P8hJTuya0

*


 さやかはまどかの手を引きながら、工場内を走っていた。

「さやかちゃん、どうしてここが?! それに、仁美ちゃん達は?!」

「仁美達は、何か、全員寝てた!」

 さやかは後半の質問だけ答える。

「そこにあったバケツとかを持っていったんだけど、やっぱりアレ、危ないモンだったんだね!」

「えっ、ひ、仁美ちゃん達大丈夫なの?!!」

「ダイジョーブでしょ!! 私がピンピンしてるんだから、危ないガスとかは出てないはず!!」

「じゃあ何で-----」

「あーーもう、そんなのあとあと!!」

 さやかは大声を出し、まどかの問いを強引に終わらす。

「今はここから出て、ほむら達と連絡つけないと!!」

 目の前に迫るドアを、さやかは走った勢いそのままに蹴破る。
 そしてドアの向こうに見えたのは、緑色に光る、非常口の表示。

「やった、出口-----」



200:1:2011/10/23(日) 12:10:27.96 ID:P8hJTuya0





 コッ、  コッ、  コッ、  コッ、  コッ、 







201:1:2011/10/23(日) 12:12:14.84 ID:P8hJTuya0

 それは、とてもゆったりとした動作だった。
 どう見ても、急いでいるようには思えない、優雅な歩行。

 確かに置き去りにしたはずだった。
 うまく撒けるような経路を通ったはずだった。
 全力で走ったのだから、歩きで追いつかれる訳などないはずだった。

 追いつかれる道理など、どこにもないはずだった。
 にもかかわらず、それは今、二人の目の前に現れた。
 まどかとさやかの向かう先-----EXIT表示の下にあるドアの前へと美国織莉子は歩き、そして立ちふさがる。

「どこに、行こうというのです?」

 まどかとさやかは驚き、足を滑らしながら止まる。

「貴女の行くべきところは、そちらではありません」

 まどかとさやかは倒れそうになりながらも反転し、来た道を引き返そうとする。

「貴女が真に行くべきところ。そこは、-----」

 まどかとさやかは、織莉子に背を向けて走り出す。
 織莉子は、自身の周囲に水晶玉を展開させると、

「-----地獄です」

 二人目掛けて、撃ち放った。



202:1:2011/10/23(日) 12:13:56.36 ID:P8hJTuya0

*


 -----まるで、スローモーション映像みたい

 ふと、まどかの脳裏にそんな感想が過ぎった。
 まどかの周囲から音が消え、目に映る景色は色が褪せていく。
 それとは対照的に、瞳孔が開き、あらゆるものの細部を視認できることに気がついた。

 さきほどの毒物の影響であろう、織莉子の右腕の傷。
 服の皺。表情。目。そして、迫り来る、たくさんの水晶玉。
 水晶玉は高速で回転、迫ってきているにも関わらず、細かい装飾までもが見て取れる。

 -----あれ?だいぶ近づいてきた?
 -----あれに当たったら痛そう

 まどかは、どこか他人事のように、水晶玉を眺めていた。
 
 -----あっ
 -----だめだ、避けられないや
 -----もうすぐ当たっちゃうね、これ
 -----ああ、もうすぐ終わるんだ

 -----わたしの、人生

 -----みんな、ごめんなさい
 -----ほむらちゃん、ごめんなさい
 -----わたしの為に色々してくれたのに
 -----本当に、ご

         メキョ
            ブチュ
                 
                  
                    
                ボトッ……
                      
                      
                      



203:1:2011/10/23(日) 12:16:16.63 ID:P8hJTuya0

*


 ほむらはキリカに向かって歩きながら、拳銃を取り出す。
 そして、キリカを見下ろす位置から、銃口を未だ高笑いを続けるキリカの頭に向けて二回、キリカのソウルジェムに向けて一回、引き金を引いた。
 
 パンッ、パンッ、パンッ、と乾いた音が響き渡る。

 反響音が消えると、辺りに静寂が戻った。

「まどかは、どこ?」

 ほむらは、ゆまに尋ねる。
 ゆまは自身の肩を抱き、震えていた。

「ねえ、まどかはどこ? 一緒にいたんでしょ?」

 ほむらは再度、ゆまに尋ねる。
 ゆまは、ほむらの問いかけに気がついていないのか、何も喋らなかった。



204:1:2011/10/23(日) 12:17:11.03 ID:P8hJTuya0

「ねえ、-----」

 ほむらは、ゆまの肩に手を置く。そして、

「-----まどかはどこって聞いてるの!! 答えなさい、千歳ゆまぁぁ!!」

 その小さな体を、激しく揺さぶりだした。
 すかさずマミと杏子が止めに入る。

「ちょっ、ほむら、落ち着けって!!」

「やめなさい暁美さん、手を離しなさい!」

 ほむらの手は、マミと杏子によってゆまから剥がされ、腕を押さえられる。

「離しなさい!!」

 ほむらは叫び、二人の手を振り解こうとする。

「まどかが、まどかが危ないの!!」

 ほむらは尚も振り解きに掛かる。
 それを、マミと杏子は強引に押さえつける。

「…………どか…ねえ…ゃんは、……」

 ゆまは、呟くような小さい声で言った。
 三人がゆまに注目する。



205:1:2011/10/23(日) 12:18:22.46 ID:P8hJTuya0

「…じょのく…づけを受……友達を助…に………」

 そこまで聞いたほむらは、今までの時間軸でこの時期にあった出来事を、必死に思い出そうとする。

 確かこの時期は、お菓子の魔女や箱の魔女が出現する時期ではなかったか?
 いつかの時間軸では、お菓子の魔女によってマミが殺され、そしてマミと入れ替わるようにさやかが契約し、箱の魔女を倒した。

 今回の時間軸では、魔女狩りはローテーション制。
 そして昨日、杏子とゆまがお菓子の魔女を倒したはずだ。
 と、なれば。
 やはり、箱の魔女だ。

 『魔女の口付け』を受けた友達とは、志筑仁美のことだろう。
 もしこれがさやかのことなら、ゆまはさやかと名指しで答える。
 そして、それ以外の人物且つ友達という表現で、まどかが助けに行くであろう人物は、ほむらには一人も思い浮かばなかった。



206:1:2011/10/23(日) 12:19:53.84 ID:P8hJTuya0

 そして、この時期の志筑仁美は、硫化水素ガスによる集団自殺を行う。
 これまでの時間軸で、頻度の高かった場所は-----

「-----廃工場だ!!」

 ほむらはそう叫ぶと、マミと杏子の手を振り解き、時間を停止させる。

「おい、待てって!!」

 時間が停止する寸前、ほむらの肩を杏子が再び掴む。
 ほむらの盾から砂時計が出現、起動し、時を止める。

「なっ、なんだこれ?!」

「杏子?!」

 ほむらは、時が止まった世界に、杏子を連れて来てしまった。
 ほむらは思わず舌打ちする。

「へぇ、なるほどね。これがお前の魔法か」

「……そうよ。……仕方ないわね。こうなったら貴女も一緒に来てもらうわよ」



207:1:2011/10/23(日) 12:21:47.21 ID:P8hJTuya0

 ほむらは杏子の左手を掴み、引っ張る。

「お、おい、どこに行く気だ!」

「向こうにある廃工場よ。おそらくあの辺りのどこかに、まどかは居るはず!!」

「それならマミとゆまも連れてけば-----」

「……ああもう!」

 ほむらはマミの手を掴む。
 マミの時間も動き出す。

「-----はっ、これは?!」

「杏子!」

 ほむらは、急かすように、早口で言う。

「ゆまは走れそうに無いわ。連れて行くのであれば抱えてて頂戴!」

「ああ」

 杏子は、空いている右腕で、ゆまを脇に抱える。
 ゆまの時間も動き出す。

「行くわよ、走って!!」

「え、ちょっと、何これ、暁美さん説明-----」

「そんなのは後にして頂戴!」

 ほむらは、マミの問いに声を被せる。

「時間が惜しいわ。まだ何か言うのなら置いてくわよ!!」

 ほむらは右手を杏子と、左手をマミと繋いだまま、廃工場へ向けて全力で走り出した。



208:1:2011/10/23(日) 12:22:53.60 ID:P8hJTuya0

*


「ッ!!」

 織莉子の表情が、歪んだ。
 その行動を予期できなかったらしい。
 織莉子の放った水晶玉は、まどか-----を突き飛ばしたさやかに命中し、体の至る所を抉っていった。
 
「……え?」

 まどかは何が起こったか理解できなかった。
 気がつけば自分は床にうつ伏せで倒れいた。
 そして、背中の上に覆いかぶさっている腕が、さやかのものだと気がつくのに、数秒かかった。

「さ、さやか、ちゃん……?」

「………………げほっ……」

 さやかは呼びかけに応えず、まどかの顔の横に、ドロォ、とした血を吐き出した。
 まどかは、顔から血の気が引くのと同時に、

「いやぁぁぁ!!」

 悲鳴をあげた。

「さやかちゃん、しっかりして!!!」

「……ま……、わ……はいい……、にげ…」

 まどかは急いでさやかの肩の下から手を回すと、さやかを抱えて起き上がり、必死に逃げだす。
 そうはさせまいと、織莉子は再び水晶玉を展開させる。



209:1:2011/10/23(日) 12:24:28.11 ID:P8hJTuya0

 その時、

「おらぁぁ!!」

 突如、外と面している壁が、斜めに大きく裂けた。杏子が槍で進路上の壁を切り開いたのだ。
 壁が裂けた次の瞬間には、裂け目からマスケット銃の銃身が覗き、織莉子へ向けて火を噴く。
 
「なっ?!!」

 織莉子は回避は間に合わないと判断し、展開させていた水晶玉でガードする。
 織莉子の注意が、壁の裂け目に向く。
 その直後。

「えっ?!!」

 織莉子の背後に、ほむらが立っていた。
 織莉子がその気配に気づいた時には既に、ほむらはその無防備な背に向けて、拳銃の引き金を引いていた。
 弾丸は織莉子の皮膚を抉り、筋組織を突き抜け、肺に、心臓に、穴を開ける。



210:1:2011/10/23(日) 12:26:06.45 ID:P8hJTuya0

「……がはっ!」

 織莉子が血を吐いた。
 足から力が抜け、膝が崩れる。

「……ま……だ……」

 それでも織莉子の目はまどかを追い、震える手で水晶玉を撃とうとする。
 だが、その前にほむらによって後ろ襟を掴まれ、壁へと投げつけられる。
 ドガンッ!と音をたてて背中から激突する。

「………ぁぁぁああ!!!」

 織莉子は叫びながら、壁に寄りかかりつつも、尚も立とうとする。
 ほむらは弾を撃ちつくした拳銃を捨て、盾の裏から新しい拳銃を取り出し、安全装置を解除すると、躊躇うことなく引き金を引いた。
 次々と弾丸が発射され、織莉子の体を穿っていく。
 織莉子の動きが完全に止まったところで、ほむらは織莉子のソウルジェムへ狙いを定め、引き金を引いた。
 銃口から弾丸が爆音と共に螺旋状に回転しながら飛び出す。
 そして、的確に織莉子のソウルジェムへと着弾した。



211:1:2011/10/23(日) 12:28:03.42 ID:P8hJTuya0

*


 薄れゆく意識の中、織莉子は思った。
 悔しいなぁ、と。

 結局、私は何も成せなかった。

 もうちょっとだった。
 あと一歩だった。
 手を伸ばせば届きそうなところまできていた。
 それなのに。
 それなのに、間に合わなかった。掴めなかった。届かなかった。

 彼女らが現れたということは、あの子も-----キリカもやられてしまったのだろう。
 私は、あの子を犠牲にしたにもかかわらず、救世を成すことができなかった。
 あの子に会ったら謝らなくては。でも、許してもらえるかしら?



212:1:2011/10/23(日) 12:29:43.00 ID:P8hJTuya0

 そうだ、あの子に紅茶を淹れてあげよう。あの子は甘いのが好きだった。
 砂糖とジャムを入れた、シロップみたいにとびっきり甘いのが。
 それと、スコーンも焼いておこうかしら。蜂蜜やジャムも沢山用意しないと。
 それで許してくれるかは分からないけど、精一杯伝えよう。

 キリカ-----
 貴女が居なければ、私はここまで来れなかったでしょう。
 貴女が居なければ、私はとっくに壊れてしまっていたでしょう。
 貴女が居なければ、私は世界を救おうなんて思わなかったでしょう。

 ありがとう。私の傍に居てくれて。
 ごめんなさい。こんな不甲斐ない私で。

 ちょっとだけ待ってて頂戴。今、私もそっちにい-----



213:1:2011/10/23(日) 12:34:20.98 ID:P8hJTuya0

*


 パリンッ、と音をたてて、織莉子のソウルジェムが、砕け散った。



217:1:2011/10/30(日) 11:59:24.98 ID:vrMS+f+W0

 ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ

 ピピピッ、

    ぱしっ、

「……う……ん…」

 目覚まし時計のベルで目を覚ましたまどかは、目を擦りながら、のそのそと布団から出る。
 一階に降りてリビングに入る。

「おはよう、まどか。ごはん出来てるよ」

「……ん」

 台所から、タオルで手を拭きながら、エプロン姿の父親が出てきた。
 ちょうど洗い物が終わったところのようだ。

「あ、そうだ。パパ、今日のお弁当は多めに入れて」

「いいけど、急にどうしたんだい?」

「えっと、今日は体育があるから、お腹すくだろうな~と思って」

「わかったよ。じゃあ弁当箱も大きいのにしようか。おかずも少し多めに入れておくよ」

「うん。ありがと」

 まどかは席に着くと、テーブルの上の朝食を眺めた。
 テーブルの上には、トースト、ベーコンエッグ、サラダ、暖かいミルクココアが、ずらりと並んでいた。

「いただきます」

 いつもと同じメニュー。何ら変わりはないはずなのに、いつもより美味しく感じた。
 生きて食べるご飯は、とても美味しい。
 まどかは、全て平らげた。

「ごちそうさまでした」

 そして、使用した食器を重ねると、流しに置きにいく。



218:1:2011/10/30(日) 12:00:56.71 ID:vrMS+f+W0

『-----死亡が確認されたのは、呉キリカさん、美国織莉子さん、の二名。
 いずれも死因は銃器によるものと断定して-----』

 不意に、テレビのニュースから、あの二人の名前が聞こえてきた。
 魔女の結界内ではなく、現実の空間で死んだため、死体が残り、発見されてしまったのだ。

 呉キリカと美国織莉子は、死んだ。
 ほむらが、まどかを守るために、二人を殺したのだ。

 いいや、違う。
 まどかは思った。
 違うよ。それは違う。
 そうじゃない。そうじゃなくて、わたしが、ほむらちゃんに『殺させた』んだ。
 自分の手を汚すことなく、友達にその役目を押し付けたんだ。
 わたしが、生きる為に。その為だけに、あの二人を殺させたのだ。

 まどかは、あの二人に殺されかけはしたものの、不思議と恨みも憎さも、安堵感も、湧いてはこなかった。
 それどころか、悲しい気持ちを覚えている。

 その度に、まどかは考える。
 何故、わたしは生きているのだろう。
 あの二人を犠牲にしてまで生きる価値が、わたしにあるのだろうか。
 そういえば織莉子は以前、わたしが世界を滅ぼすと言っていた。
 そして、わたしが何かしたかという問いには、まだ何もしていないと答えた。
 結局、理由を聞きそびれてしまった。
 わたしが一体何をどうすれば世界が滅ぶのだろうか。
 どんな方法にせよ、わたしにできるのであれば、それは誰でも出来るのではないだろうか。



219:1:2011/10/30(日) 12:02:34.95 ID:vrMS+f+W0

 歯を磨き、髪を整え、服を着替え、靴を履いて家を出る。
 いつもの待ち合わせ場所には、さやかが一人で待っていた。

「まどか~、おっはよ~」

「おはよ~、さやかちゃん。……体、大丈夫?」

「うん。も~全然なんとも無い! いや~、魔法って凄いねぇ~」

 さやかは能天気そうに笑いながら言った。

 さやかは、一命を取り留めた。ゆまの治癒魔法が間に合ったのだ。
 普通なら医者も匙を投げる重傷を、ゆまは見事に治してくれた。
 その際ゆまは、自分自身も怪我しているにもかかわらず、一心不乱にさやかの治療にあたった。
 その様子は、鬼気迫るものがあった。
 そしてゆまは、治療を終え、まどかの姿を見るや、頭を下げて泣きながら謝った。
 内容は、まどかから離れたことだった。
 まどかには、ゆまが謝る理由が分からなかった。
 一体、それの何が悪いのだろうか。それどころか、よくやってくれたじゃないか。
 ゆまのおかげで仁美達を救いに行けたし、さやかも助かったじゃないか。
 その旨を伝えると、ゆまはまどかに抱きつき、わんわんと泣き出した。
 魔法少女であっても、強い力を持っていても、やはり年端もいかない幼子なのだ。



220:1:2011/10/30(日) 12:03:42.39 ID:vrMS+f+W0

「それじゃ、行こっか」

「うん」

 まどかとさやかは、学校へと歩き出す。
 いつもなら仁美も一緒に登校するのだが、この日は居なかった。
 仁美は今日、学校には来られないだろう。

 何故なら、今頃、仁美は警察から事情聴取を受けているはずだからだ。

 無理もない。
 仁美達が気絶していた建屋から、死体が出たのだ。
 おまけに集団自殺を行おうとした痕跡まである。
 事件に関与していると思われても仕方ないことだ。

 やはり、現場から仁美だけでも連れ出すべきだった。
 まどかは、そう思った。

 まどかがそのことに気がついたのは、就寝直前であった。
 上着を羽織り、急ぎ廃工場に向かうも、そこはすでに警察によって封鎖された後であった。

 実際には、それどころではなかった。その事を考える余裕など、微塵も無かったのだ。 
 しかし、例えそうであっても、何故そうしなかったのか、何故その考えが浮かばなかったのかと、自責の念ばかり浮かんでくる。

 自分のことばかり考えているからだ。-----そんな言葉ばかり、脳裏に浮かんでくる。
 
 こんなんじゃ駄目だ。変わらなくちゃ駄目だ。今日からわたしは変わるんだ。昨日までとは違う、私に。



221:1:2011/10/30(日) 12:04:40.51 ID:vrMS+f+W0

*


 ほむらが教室に入ると、すでにまどかは席についていた。

「ほむらちゃん、おっはよ~」

「おはよう、まどか」

 ほむらが席に座ると、まどかが話しかけてきた。

「ねえ、ほむらちゃん。今日は天気もいいし、お昼は屋上に行こうよ」

 ほむらは首を傾げる。
 そんなこと、今言わなくても、お昼休みになってからでいいのでは?
 でも、まあ、答えは決まっている。

「ええ、いいわよ」

「ホント?! えへへ、お昼が楽しみだね~」

 まどかは喜びの声をあげた。
 その様子に、ほむらは少し違和感を感じた。

 -----そうだ、まどかの反応が少し大げさではないか?
 もしかしたら、お昼の屋上で何かサプライズでもあるのだろうか。
 もしそうなら、私は何も気づいていないふりをしなくちゃ。
 一体何を用意しているのだろうか。
 なんだか、私も楽しみになってきた。

「ふふっ、そうね。楽しみね」

 ほむらは笑顔を向けた。

 やがて一時間目が終わり、休み時間になると、

「ほむらちゃん!」

 まどかが話しかけてきた。

「あら、まどか。何をそんなに慌てているの?」

「えへ。早くほむらちゃんといっぱいお喋りしたくってさ。休み時間は短いからね~」

 まどかは輝くような笑顔で言った。
 自然とほむらも笑顔になる。

「-----でね、この前スーパーの帰りに-----」



222:1:2011/10/30(日) 12:05:25.50 ID:vrMS+f+W0

 二時間目が終わり、休み時間になると、

「ほ~むらちゃん!」

 ポンッと、まどかがほむらの肩を叩いた。
 そしてそのまま肩揉みを始める。

「ま、まどか?」

「いいからいいから。今まで頑張ってくれたお礼だよ」

「……今まで? 何か、もう終わった、みたいな言い回しね」

「え~? もう大丈夫じゃないの?
 ほら、今朝のニュースでも流れてたし」

「……まだ、まどかを狙ってる輩がいるかも知れないわ」

「それは考えすぎじゃないかな? って、話が逸れちゃってるよ」

 まどかは一つ咳払いをした。 

「とにかく、すぐには返しきれないと思うけど、少しずつ返せたらな~って」

「そんな、別にいいのに……。私は-----いえ、私達は、恩を売りたくて貴女を守ってたわけじゃないのよ」

「いいからいいから。ほら、ほむらちゃんの肩、すごい凝ってるよ。たまには力を抜いて休まないと」

「ん……そうよね。じゃあお願いしようかしら」

「任せてよ!」

 まどかの手に力がこめられ、肩を揉みほぐしていった。



223:1:2011/10/30(日) 12:06:28.10 ID:vrMS+f+W0

 三時間目が終わり、休み時間になると、

「ほむらちゃ~ん!」

 席を立つほむらの後を、まどかがついてきた。

「ほむらちゃん、どこに行くの?」

「ええ、ちょっと…………に」

「え? なに?」

「だから、お花を摘みに……」

「え? お花? どこの花壇のお花を摘む気なの?
 駄目だよ、育ててるのを摘んじゃ-----」

「だから! 私はトイレに行きたいの!」

 ほむらに、クラスの視線が一斉に集まる。

「ッ!!」

「あ! 待ってよほむらちゃん!」

 ほむらは恥ずかしさのあまり顔を赤くし、逃げるように駆けていった。
 授業開始のチャイムが鳴るまで、ほむらは戻ってこなかった。



224:1:2011/10/30(日) 12:07:39.12 ID:vrMS+f+W0

 そして昼休みになった。
 屋上にてまどかとほむらはベンチに並んで座り、膝の上に弁当を広げる。

「あれ? さやかは?」

「さやかちゃんなら、マミさんに用事があるって言ってたよ。だから今日は、お昼は一緒できないんだって」

「そう。なら、私達だけでいただきましょ」

 そう言ってほむらは、コンビニの袋からサンドイッチを取り出す。
 まどかは弁当の蓋を開ける。
 その弁当は、いつも使用しているものより大きく、そしていつもより多く入っていた。

「あら? まどか、今日はいつものお弁当箱ではないのね」

「うん。昨日洗うのを忘れちゃっててね。
 おまけに時間も無かったから、パパが、しょうがないからこっちのお弁当箱を使いなさい、って」

「そうなの。でも、貴女には少し、その、量が多くないかしら」

「う~ん、そうだね、ちょっと、全部は食べきれないかな。
 ……そうだ! ほむらちゃん、ちょっと食べてくれない?」



225:1:2011/10/30(日) 12:08:10.55 ID:vrMS+f+W0

「え? 私がもらってもいいの?」

「うん! やっぱりわたし一人じゃ、この量は食べきれないと思うし」

「分かったわ。まどかさえよければ、ちょっと頂こうかしら」

「遠慮なく食べていいよ! あっ、この唐揚げがおいしいんだよ!」

 まどかは箸で唐揚げを掴むと、

「はい、あ~~ん!」

 と言った。
 ほむらはまたしても恥ずかしさで赤くなる。

「ちょっ、待ってちょうだい。自分で食べれるわ」

「でも、ほむらちゃん、箸ないじゃん」

 ほむらは言われて気づいた。今日買ったのはサンドイッチ。当然箸は付けてもらっていない。

「て、手で掴めるわ」

「それじゃあ手が油まみれになっちゃうよ。ほら口を開けて。あ~~ん」

「あ、あ~~ん」



226:1:2011/10/30(日) 12:09:21.63 ID:vrMS+f+W0

 まどかは笑顔を浮かべ、ほむらの口に唐揚げを優しく運ぶ。
 ほむらはそれを噛み締めた。

「ん! 凄く美味しいわ!」

「よかったー。今度はこっちの卵焼きね。はい、あ~~ん」

「……あ~~ん」

「どう?」

「うぅん! こっちも美味しいわ!」

「でしょ? パパの卵焼きは絶品だよね~」

「ええ! お義父さまにとても美味しかったと伝えてちょうだい」

「よーし、次は-----」

 まどかは、ほむらに食べさせるおかずを選ぶ。まだ自分が食べるつもりはないようだ。
 数回食べさせてもらったところで、ほむらが手で制止を掛けた。

「まどか、ちょっと待ってちょうだい」

「どうしたの?」



227:1:2011/10/30(日) 12:10:53.98 ID:vrMS+f+W0

「さっきから私ばかり食べているわ。このままだと、まどかの食べる分が無くなってしまうわよ」

「え? ……ん~、まだちょっと多い気がするけどな~」

「それに、貰ってばかりで、なんだか悪いわ」

 そう言うとほむらは、まどかに自分のサンドイッチを差し出す。

「コンビニで買ったもので申し訳ないけど、一つどうかしら」

 まどかはサンドイッチに手を伸ばそうとするも、

「ありがと、ほむらちゃん。でも、これはほむらちゃんが食べて」

 ゆっくりと手を引いた。

「いいの?」

「うん。気持ちだけ貰っとくよ。
 それに、ほむらちゃん、買ってきたのってサンドイッチだけでしょ?
 わたしが貰っちゃったら、ほむらちゃんの分が無くなっちゃうよ」

「そう? 私も結構な量を、まどかから頂いているのだけど」

「大丈夫だよ。わたしのお弁当、まだこんなに入ってるし。
 それよりほむらちゃんだよ。サンドイッチだけじゃ栄養が偏っちゃうよ。
 はい、じゃあ、次はこのポテトね。あ~~ん」

 ほむらは何か違和感を覚えたが、まどかの笑顔と美味しそうな料理の誘惑には勝てず、流されるまま、まどかの好意に甘えることにした。



228:1:2011/10/30(日) 12:12:01.98 ID:vrMS+f+W0

 結局、食べ終わってみれば、まどかの弁当のほぼ半分を、ほむらが食べた。
 その上、自分の買ったサンドイッチも平らげたので、少しお腹がきつくなった。

「も、もう食べられないわ……」

「えへへ、ほむらちゃん、沢山食べたもんね。……少し、横になる? お腹、楽になるかもよ」

「そうね。じゃあ-----」

 まどかの膝枕で寝たいわ、とほむらが言おうとした時、

「ほむらちゃん、膝貸してあげる!」

 まどかは笑顔で、自らの足に誘導する。
 ほむらの視線は、まどかのスカートから伸びる生足に釘付けになった。

 -----これは夢か幻か。
 ほむらは自分の頬を抓ってみた。
 痛い。
 夢じゃない。
 紛れも無い現実だ。



229:1:2011/10/30(日) 12:13:02.07 ID:vrMS+f+W0

 これは、褒美だ。
 もし神様がいるとしたら、いつも頑張る私にくれたご褒美だ。
 遠慮は逆に失礼になるだろう。
 ならば頂こうじゃないか。
 思う存分、まどかの太ももを堪能するのだ。

「じゃあ失礼して-----」

 ほむらは、まどかの太ももに、そっと、頭を乗せた。

「-----」

 頭の中が真っ白になる。
 今の気持ちを、言葉にできない。
 まどかと出会えて、本当によかった。
 得も言われぬ感動が、そこにはあった。

 そうか。そうだったのだ。
 今日感じたまどかの違和感は、ちょっとした不自然さが目についてしまっただけなのだ。
 まどかの不自然な行動は、全てこの瞬間の為に行ったものなのだろう。
 はじめからこれが-----私を膝枕することが目的だったのだ。



230:1:2011/10/30(日) 12:13:34.84 ID:vrMS+f+W0

 嬉しい。
 とても嬉しい。
 かつて無いほど、まどかが甘えさせてくれる。
 幸せは、ここにあったのだ。
 そう、まどかの膝の上に。

 ふと、ほむらはこの時間軸での出来事を振り返る。

 この時間軸は、まどかもさやかも契約していない。
 杏子、ゆま、マミとも協力体制にある。
 まどかを狙う織莉子とキリカは排除できた。
 一人、志筑仁美が被害を被っているが、その事以外はおおむね順調といるだろう。
 後は、杏子とゆまとマミと私でワルプルギスの夜を倒すだけだ。

 あとちょっとだ。あと一歩。あと少しで掴むことが出来る。
 まどかとの約束を守り通した、希望の夜明けを。
 数多の時間を遡行してまで行った、今までの努力は無駄ではなかったのだ。
 そう思うと、ほむらの目から涙が溢れる。



231:1:2011/10/30(日) 12:14:33.39 ID:vrMS+f+W0

「……ほむらちゃん? 目、どうしたの?」

「な、なんでもないわ。ちょっとお腹いっぱいで眠くなっちゃったの。そうしたらあくびが……」

「そうなの? まだ時間あるし、しばらく寝てても大丈夫だよ。わたしが起こしてあげるから」

「ありがとう、まどか。お言葉に甘えて、少し寝させてもらうわ」

 そう言うと、ほむらは目をつぶった。
 眠くなったと言ったのは嘘だが、目を閉じると不思議と睡魔に襲われた。
 そして、そのまま眠りに落ちる。

 寝息を立てるほむらの頭を、まどかは優しく微笑みながら撫でる。

  タッ、タッ、タッ、タッ、タッ

 微かに足音が聞こえてきた。
 ほむらが眠りにつくのを見計らったように、誰かが屋上へ上がってきた。
 
「おっす、まどか」

「こんにちは、鹿目さん」

 まどかは声の方を向く。

「……さやかちゃん。マミさん」

 名を呼ばれた二人は、真剣な表情でまどかに歩み寄ってきた。



232:1:2011/10/30(日) 12:16:07.17 ID:vrMS+f+W0

*


 ほむらは夢を見ていた。
 まるで童話の世界に迷い込んだかのような内容の夢でだった。
 その夢の中では、何故かほむらは城の王子様で、ガラスの靴の持ち主を探し回っていた。
 家々を訪ね回るが、靴に合う者は現れない。
 疲れたほむらは、これで最後にしようと考えながら、とある家の戸を開ける。
 すると、そこにはまどかがいた。
 灰を被ったみすぼらしい姿ではあったが、そんなことはどうでもよかった。
 どんな姿であろうと、まどかであることに変わりはない。
 ほむらは何故か確信していた。まどかこそが、この靴の持ち主だと。

 -----ああ、まどか。このガラスの靴を履いてみてくれないかしら。

 ほむらはまどかにせがむ。だが、

 -----ごめんなさい。私、舞踏会へ行くためのドレスを選んでいるの。

 と、取り合ってくれなかった。
 まどかはガラスの靴を、-----いや、ほむらを見てくれていなかった。
 可愛いドレスを次々と、これでもない、あれでもない、と言いながら体に合わせ、ドレスを選んでいた。
 いくらほむらが語りかけても、まどかは手を止めることはなかった
 ほむらが諦めて帰った後も、ずっとドレスを選んでいた。



233:1:2011/10/30(日) 12:16:52.32 ID:vrMS+f+W0

*


「……らちゃん、起きて。ほむらちゃん」

 ほむらは、まどかに揺さぶられて目を覚ました。

「ん……あれ……? まど、か……」

 夢、か。
 変な夢を見たものだ。

「ほむらちゃん。そろそろ起きないと、お昼休み終わっちゃうよ」

 予鈴が屋上に鳴り響く。
 そこでようやく、ほむらは自分がまだ学校にいて、まどかの膝の上でぐっすり眠っていたことを思い出した。
 ほむらは跳ね起きる。
 屋上には、まどかとほむらの二人しかいなかった。

「ごめんなさい、すっかり眠ってしまったわね」

「ほむらちゃん、ぐっすりだったね。やっぱり疲れが溜まってたんだよ」

「そうだったみたいね」

「えへへ、私、少しは役に立てたのかな?」

「ええ。おかげで体も頭もスッキリよ。ありがとう、まどか」



234:1:2011/10/30(日) 12:17:31.23 ID:vrMS+f+W0

 まどかが立ち上がる。

「そろそろ行こっか。早くしないと先生が来ちゃうよ」

「ええそうね。急ぎましょ」

 まどかとほむらは校舎の中へ入っていく。
 廊下の途中、

「あ、ほむらちゃん。今日の放課後、時間ある?見せたいものがあるんだ」

 前を歩いていたまどかはほむらに振り返り、そう言った。

「ええ、大丈夫だけど……見せたいものって?」

「それはその時までナイショだよ!」

 ほむらは考える。
 まどかは一体何を見せてくれるのだろうか。
 -----もしかしたら、見せたいものがあるというのは、ただの口実なのではないか。
 ひょっとして、どこかに連れて行く気ではないだろうか。
 例えば、-----そう、まどかの家に連れ込まれて、今日誰もいないんだ、なんて言いながら突如服を脱ぎ出したりしないだろうか。

 見てもらいたいものは、わたしだよ。何も着飾ってない姿を、ほむらちゃんだけに見てもらいたいんだ、なんて。
 もしそうなったなら、取るべき行動は一つしかないだろう。
 ……とりあえず、ゴムは使用した方がいいのだろうか?
 途中、どこか薬局もしくはコンビニによって、買うべきだろうか。

「てへへ、きっとほむらちゃん、驚くよ~」 

「そう。何を見せてくれるのか、楽しみにしているわ」



235:1:2011/10/30(日) 12:19:09.43 ID:vrMS+f+W0

 その日の授業が終わり、放課後になった。

「ほむらちゃ~~ん! 早く行こうよ!」

「ええ、今行くわ」

 まどかはとても高揚しており、落ち着きが無い。
 まるで、新しい玩具を買ってもらった子供のようだ。
 普段のまどかからは想像しにくい姿である。
 それほどまでに、まどかは用意した何かを、ほむらに見てもらいたいのだろう。

 校門を出たところで、まどかが何かに気づき、あ!、と声をあげて足を止めた。

「どうしよう……場所を考えてなかった……」

「場所?まどかの家が駄目なら、私のアパートでもいいわよ」

 ほむらの言葉に、まどかは首を傾げる。

「えっと……できれば広くて、人目につかないところがいいな」

 ほむらは驚愕した。
 まさか、野外プレイ?!
 まどかったら、外でするのが好きなのね!
 私としては、初めてはロマンチックな雰囲気の場所がよかったのだけれど……。
 でも、まどかとなら外ででも……。



236:1:2011/10/30(日) 12:20:05.57 ID:vrMS+f+W0

「それなら、あっちの公園とかどうかしら。茂みがけっこう深いから、奥に入ってしまえば誰からも見られる心配は無いわ」

「茂み? うーん……。私としては、辺りに何も無い、開けた所がいいな」

 辺りに何も無い所?! ……そうよね。さすがまどか。
 野外プレイは開放感が醍醐味ですものね。こそこそ隠れてだなんて、意味が無い。
 見られても構わない、むしろ見せ付けるぐらいでなければならない。
 くっ! 自分の臆病さが嫌になるわ。まどかを見習って、もっといろいろとオープンにならなければ!

「そうねぇ……。学校の屋上はどうかしら。この時間なら誰もいないと思うわ」

「うーん、屋上かぁ……。確かにそこなら広いね。じゃあ一旦校舎の中に戻ろっか」

「ええ」

 ほむらとまどかは踵を返し、校舎へと戻り、屋上へとあがる。
 屋上へたどり着いた二人は、まず辺りを見渡した。
 やはりというべきか、屋上には二人の他に誰もいなかった。

「大丈夫そうだね。ここにしようかな」

 まどかはそう言いながら二歩、三歩と進むと、ほむらに振り返った。
 まどかは夕陽を背に、言った。

「でね、見てもらいたいものっていうのは、私のことなんだ」

 -----来たぁぁ!!!
 ほむらは心の中でそう叫んだ。
 テンションが一気に跳ね上がる。
 顔に出てしまいそうなのを、辛うじて抑え、表面上は冷静を装っていた。
 まどかにカッコ悪い姿を見せたくない、余裕を見せなければ。
 
「そう。それで、私はまどかのどこを見たらいいのかしら?」

 ほむらは、内心ソワソワしっぱなしであった。
 脱がせた方がいいのか、脱いだほうがいいのか、それとも-----

「あのね、ほむらちゃん。私、-----」

 ほむらは思考を中断し、まどかの言葉に耳を傾ける。



237:1:2011/10/30(日) 12:21:06.34 ID:vrMS+f+W0





「-----キュゥべえと契約して、魔法少女になったんだ」







238:1:2011/10/30(日) 12:21:35.61 ID:vrMS+f+W0

「…………え?」

 数秒ほど、ほむらは、まどかの言葉を理解するのが遅れた。
 全身から汗が吹き出る。
 まどかは何と言ったのだろう。魔法少女になったと言ったのか?
 そんな馬鹿な!!
 私と約束したじゃないか、絶対に契約しないって-----

 あっ! そうか、これはドッキリなんだ!
 そうか、そうか。ビックリした。とてもビックリした。すごくビックリした。
 今まで生きてきた中で、これほどまでに心臓が爆発しそうなくらい鼓動したことは、おそらくない。

 -----まどかが私のリアクションを待っている。何か言わなくては。

「ま、ま、まどかったら、契約しただなんて、じ、冗談が、きつ過ぎるわ、わよ……。
 ……はは……あはは……ははは」

 ほむらの口からは、乾いた笑い声しか出なかった。



239:1:2011/10/30(日) 12:22:25.13 ID:vrMS+f+W0

 まどかは、そんなほむらの様子に気づくことなく、明るく楽しそうに喋る。

「ううん、冗談なんかじゃないよ。ほら、これが私のソウルジェム。
 あっ! これを見せたいもの、ってことにすればよかったね。てへへ」

「よ、よくできた、ニセモノ……でしょ? そうだと言って、まどか」

「む~、ほむらちゃん、意外と疑い深いね。これは、れっきとしたホンモノだよ。いっくよ~」

 まどかはその場でクルリと回る。
 一回転し終えると、まどかの装いが変わっていた。

「どう? 変じゃない?」

 手には弓。
 ピンクを基調としたドレス。
 胸元にはソウルジェム。
 ほむらの記憶にある、これまでの時間軸のまどかの魔法少女服と、寸毫の違いも見られない。
 本物だ。あれは間違いなく、本物のソウルジェムだ。
 それはつまり、まどかは、本当に契約してしまったということ。



240:1:2011/10/30(日) 12:23:50.03 ID:vrMS+f+W0

 不意に、ほむらの脳裏に、この時間軸での出来事がフラッシュバックされる。

 魔女の結界を使った、呉キリカと美国織莉子の襲撃のこと。
 杏子とゆまが助けに来てくれたこと。
 まどかに契約しないよう、約束したこと。
 カラオケや映画の楽しかった夢のような時間のこと。
 みんなにワルプルギスの夜討伐のお願いをしたこと。
 再びまどかが襲われ、ゆまが全身怪我だらけになりながらも戦ったこと。
 絶対絶命だったまどかをさやかが命がけで救ったこと。
 呉キリカと美国織莉子をこの手で屠ったこと。

 ほむらは、これら全てが、水泡と帰したことを悟った。

 両手で包むように、自分の頭を抱える。

「……ぅううううう」

「……ほむらちゃん……?」

 まどかは、ようやくほむらの異変に気がついた。
 ほむらはまどかの呼びかけに応えない。
 ほむらは耐え切れない様子であり、頭を抱えた手へ更に力がこめられていた。
 血が出るのも構わず爪を立て、髪が乱れるほど横に振り、口からは-----

「ああぁあああぁあああぁぁあぁぁああ!!」

 -----絶叫が吐き出された。



251:1:2011/11/13(日) 09:43:39.86 ID:H8PIVQQB0

*


 約二時間前の昼休みの屋上にて-----

「おっす、まどか」

「こんにちは、鹿目さん」

 まどかとほむらの元に、さやかとマミが姿を現した。 
 さやかとマミはまどかに歩み寄る。
 そして、まどかの膝の上で寝ているほむらに気がつく。

「あら? 暁美さん、寝てるの?」

「うん。お腹いっぱいになって眠くなっちゃったんだって」

「へぇ、なんともぐっすり眠っちゃってますな。
 これなら、ちょっとやそっとじゃ目は覚めないね」

 さやかはほむらの頬を突っつく。
 ほむらは僅かに身をよじる。起きる様子は無い。

「……起きないね」

「きっと、まどかの膝が気持ちいいんだね」

「これなら、今でも大丈夫かな?」

「今がチャンスではあるわよね。
 計画よりだいぶ早いけど、まあ、いいんじゃないかしら」

 マミが校舎への出入り口の方を向く。

「キュゥべえ、出てきて頂戴」

「呼んだかい、マミ」

 キュゥべえの名を呼ぶと、校舎への出入り口の陰から、すぐさま姿を現した。



252:1:2011/11/13(日) 09:44:40.38 ID:H8PIVQQB0

 まどかの表情が何かを決心した、真剣なものへと変わる。

「キュゥべえ。わたし、決めたよ。貴方と契約して、魔法少女になる」

 キュゥべえの尻尾が大きく振られる。

「まどか、よく決心してくれたね。さあ、キミは-----」

「ちょっと待って」

 キュゥべえの話に、さやかが割り込んだ。
 さやかに注目が集まる。

「今更なんだけど、ちょっと延期しない?」

 延期とはもちろん、まどかの契約のことだろう。
 マミはさやかに、どうして、と尋ねる。

「いや、さ。何か、このままだとほむらが可哀想だな、って思ったんだ。
 せっかく色々忠告やら護衛やらやってくれたのに、肝心な時に除け者にしてるみたいでさ」

「……やっぱ、そう思われちゃうかな?」

「少なくとも、私がほむらの立場なら絶対怒るね。
 一発引っ叩いて、ボロクソに文句言って、しばらく口きかないな」



253:1:2011/11/13(日) 09:45:29.62 ID:H8PIVQQB0

「でも、それを見越しての、この計画でしょ?
 まず暁美さんの機嫌を取って、それから契約の話を切り出す、っていう」

「そうでしたね。ほむらってまどかに甘そうだし、機嫌しだいでは笑って許しそうだよね、って話でしたよね」

「そうよ。本来なら引き続き暁美さんに上機嫌になってもらう為に、放課後鹿目さんと一緒に喫茶店に行ったり、ゲームセンターへ行ったり、夕食も食べてもらう予定だったわ。
 でも、やっぱり、機嫌が良かったとしても、多少なりともは怒るでしょうね。
 だけど、その度合いは確実に違うはずよ。何もしないよりはいいわ。
 ……どうしたの、美樹さん。貴女もこの計画にノリノリだったじゃない」

「いやあ、いざ目の前となると、これで本当にいいのかな、って思っちゃったんです。
 軽く考えすぎてないか、何かを見落としてるんじゃないか、とか」

「考えすぎじゃない? -----というか、私達が議論しても仕方ないわよ。
 これは、鹿目さん自身が決めたことなんだから」

 そう。この計画は、まどかがさやかとマミに頼んで考えられたものであった。
 まどかは当初杏子とゆまにも連絡しようと考えていたが、二人はケータイを持たないため、連絡することが出来なかった。
 仕方なく二人を除いたまどか、さやか、マミが話し合い、この計画-----計画と呼べるほどのものでもないが-----を思いついたのだ。



254:1:2011/11/13(日) 09:46:29.02 ID:H8PIVQQB0

「でもやっぱり、これは何だか卑怯な気がしますよ。
 せめて、ほむらに説明してからの方がいいんじゃないですかね?」

「ん……そう言われればそうかもね」

 マミの回答に、さやかの表情が緩む。

「ですよね!」

「だからその分、お詫びも豪華にしましょうか。ケーキもホール単位で食べさせてあげましょうよ。
 あっ! その時はまた、鹿目さんが食べさせてあげるといいかもしれないわね。
 暁美さん、その瞬間には絶対笑顔になってると思うわ」

 どうやら、マミに中止するという考えはないようだ。
 さやかはまどかに向き直る。

「……まどかはさ、本当にこれでいいの?」

 -----ほむらの意思を無視して。
 さやかは、言葉の端にそう含ませたつもりだった。

「うん。だってほむらちゃんが知ったら、絶対邪魔するでしょ?
 もしかしたら、キュゥべえを撃ったりとか、あるかもしれないね。
 寝てる今がチャンスだね!」

 だが、まどかは違う意味で捉えたようだ。



255:1:2011/11/13(日) 09:47:17.64 ID:H8PIVQQB0

「……邪魔するって、そりゃあそうでしょうよ」

 さやかは思う。
 ほむらがキュゥべえを撃つ、か。確かにいざとなったら、そういう強硬手段をとりそうだ。
 だが、それは-----

「-----それは、まどかのことを思っての行動じゃん」

 ほむらが知ったら邪魔をする。
 さやかには、当たり前の事のように思えた。

 ほむらの取る行動は全て、まどかを契約させないようにという思想が透けて見えている。
 というか、その事に関しては、隠そうとしていない。
 明言すらしている。
 そんなほむらの気持ちを解っていながら、何故まどかは契約するのだろう?



256:1:2011/11/13(日) 09:48:00.83 ID:H8PIVQQB0

「そういや、何で急に契約する気になったのさ」

 疑問に思ったときには既に、口から言葉が出ていた。

「急じゃないよ。前々から考えてたんだけど、なかなか言い出せなくって……」

 さやかはこれまでのまどかの行動を思い返す。
 確かに以前、まどかが何かを言いかけた時が数回あった。
 その際にはほむらも傍に居たから、きっと相談、もしくは意見を聞きたかったのかもしれない。
 -----ただの決意表明だったのかもしれないが。
 いずれにしても、もう遅い。

 キュゥべえがまどかの正面に立つ。

「さあ言ってごらん、鹿目まどか。
 血塗られた戦いの運命を受け入れる代価として、キミは何を望む?」

 まどかは一度大きく深呼吸する。そしてキュゥべえに向かって言った。

「わたしは-----」



257:1:2011/11/13(日) 09:49:10.65 ID:H8PIVQQB0

*


「ああぁあああぁあああぁぁあぁぁああ!!」

 ほむらの叫び声が屋上に響き渡る。
 その様子を前に、まどかは、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。
 何と声をかけていいのか、まるで分からない。
 この時のまどかには、ほむらが何故慟哭しているのか、理解できていなかったのだ。

「……ほむ、ら、ちゃん……?」

 まどかは無意識に、ほむらの名を小さく呟く。
 すると、ほむらにはそれが聞こえたようで、叫び声が止み、涙と鼻水でグシャグシャになった顔をまどかの方へと上げた。
 そしてまどかへと早足で歩み寄ると、ガシッ、と両肩を掴んだ。肩に、少し爪が食い込む。

「い、痛っ!」

 まどかが小さく悲鳴をあげるも、ほむらは掴む力を緩めない。

「ねえ、どうして?」

 ほむらはまどかの肩を揺さぶる。爪がさらに食い込んだ。

「どうして契約したのよ!! 絶対に契約しないって、私と約束したじゃない!!」

「い、痛いよ、ほむらちゃん……」



258:1:2011/11/13(日) 09:50:07.17 ID:H8PIVQQB0

 まどかの顔が苦痛で歪む。

「ねえ何で?! 何でなの?!! 私のことがそんなに嫌いなの?!! ねえ、黙ってないで答えてよ!!」

 ほむらの揺さぶりが一層激しくなる。
 まどかは思わず、

「放して!!!」

 ほむらを突き飛ばした。
 ほむらは短い悲鳴と共に倒れ、そのままうずくまる。

「はぁ、はぁ、痛い……」

 肩から痛みが引かない。まどかは自分の肩を見る。
 ほむらの爪が食い込んでいる状態で押しのけた為、引っかき傷になってしまったようだ。袖で隠れて見えないが、少し血が滲んでいる。

 ほむらは身体を起こし、ペタンと座り込む。頭が垂れ、長い髪が顔を隠し、表情が見えない。
 そして、おもむろにソウルジェムを取り出すと、前に置いた。
 そのソウルジェムをよく見ると、黒い穢れが湧き出るように蓄積し、見る見るうちに光が失われてゆくのが分かる。
 あと十数秒ほどで、完全に濁りきるだろう。
 まどかは、ほむらの行為の意図が分からず、戸惑った。

「…………して」

「……え?」



259:1:2011/11/13(日) 09:51:05.99 ID:H8PIVQQB0

「お願い……まどかの手で、私のソウルジェムを壊して……私、もう、耐えられないよぅ……」

 ほむらは涙声でそう言った。
 まどかは、どうしたらいいのか分からず、動けなかった。

「うああぁぁぁぁ……」

 まどかは動かないと判断したほむらは、涙を流しながら変身し、震える手で拳銃を取り出す。
 そして銃口を自分のソウルジェムに向けた。腕が震え、狙いが定まらない。
 ほむらが銃を取り出したことに驚き、まどかは叫ぶ。

「ほむらちゃん! やめて!!」

「ぁあぁあああ!!」

 ほむらは、拳銃の引き金を引いた。
 パンッ、と乾いた音が響く。

「ひっ!!」

 まどかは反射的に目をつぶってしまった。
 恐る恐る、ゆっくりと目を開ける。



260:1:2011/11/13(日) 09:52:04.17 ID:H8PIVQQB0

「暁美さん!! 貴女、一体何をしているの!!」

 ほむらは、突如現れたマミによって、リボンで拘束されていた。
 特に腕が重点的にリボンで巻かれており、銃は地面へ向けられていた。

「は、放して……放してよぉ!」

 ほむらは拘束されているにも拘らず、腕力で無理やり銃口を上げる。そこへ、

「こんのぉぉ!!」

 さやかも突如現れ、全力で駆け寄ってくると、そのままほむらのソウルジェムをサッカーボールの如く蹴り飛ばした。
 ほむらのソウルジェムは屋上の柵を超え、校庭へと落ちていく。身体との距離が百メートルを超えた。
 同時にほむらの首筋に、マミによってマスケットの銃床が打ち込まれていた。

「あっ……」

 ほむらは意識を失い、全身から力が抜けた。腕がストンと落ち、手から銃が落ちる。

「大丈夫?! 怪我は無い?!」

 さやかはまどかに駆け寄り、そう聞いた。



261:1:2011/11/13(日) 09:53:11.48 ID:H8PIVQQB0

「……うん……」

 まどかは小さく答えた。

 まどかは思った。
 何で、こんなことになってしまったのだろうか、と。
 こんなはずでは無かったのに。
 もちろん、呆れられるかもしれない、怒られるかもしれないとは思ってはいた。
 だが、最終的には笑って許してくれると思っていた。いや、思い込んでいた。

 そんな保障も確約もないのに、勝手に、ほむらはまどかのすることを何でも許してしまうだろうと思い込んでいた。
 ちょっと考えれば、そんなことはありえないと分かるはずなのに。

 軽率だった。
 計画が、完全に裏目に出た。
 ほむらの機嫌を上げておけば、契約のことを話してもそれほど怒らないだろうと考えていた。
 だが実際には、ほむらにとって最大振り幅の、極端から極端へ、天国から地獄へ、希望を見せてから絶望を叩きつける形になってしまっていた。
 マミの言ったとおり、確かに怒りの度合いは違った。
 ただし、最悪の方向で、だ。



262:1:2011/11/13(日) 09:54:03.90 ID:H8PIVQQB0

「……ほむらをこのまま此処で寝かせておくのはマズくないですか?」

「そうねぇ……。とりあえず、暁美さんのアパートまで運んで、中で寝かせましょ。
 美樹さんはさっき蹴っ飛ばしたソウルジェムを取ってきてもらえるかしら。
 私達は先に向かっているわ。悪いけど、よろしくね」

「了解です。ああもう、思いっきり蹴るんじゃなかった……」

 さやかの提案を受け、マミがほむらの身体を背負う。
 さやかは踵を返し、校庭へと向かって走っていった。
 まどかとマミも、ほむらのアパートへと歩き出す。

「あ、あの……」

 まどかがおずおずと口を開く。

「どうして、マミさんとさやかちゃんが此処に……?」

 ほむらだけでなく、まどかにとっても、マミとさやかの登場は唐突で予想外であった。
 当初の計画ではまどかと二人きりにする予定であった。
 マミはまず、ばつが悪そうな表情で、ごめんなさいねと謝った。

「それはね、やっぱり心配になっちゃって。
 こっそり後をつけていたのよ。
 それが、こんなことになるなんて……」

 結果的には、マミとさやかのおかげで、錯乱するほむらを止めることが出来た。
 その為か、まどかは二人を非難することはなかった。



263:1:2011/11/13(日) 09:55:04.40 ID:H8PIVQQB0

「ごめんなさい。正直、楽観視しすぎていたわ。
 まさか暁美さんがここまで取り乱すとは思わなくって……」

「いえ、マミさんは悪くないですよ。
 悪いのは、ほむらちゃんに何も言わずに契約した、私なんですから」

「でも、貴女の願いは-----」

「それでも、やっぱり一言でもいいから言うべきだったんです。
 私って、本当にバカ……。何でこんなことも分からなかったんだろ……」

「……もう過ぎてしまったことよ。あまり自分を追い詰めないで。これからどうするかを考えましょ。
 私も一緒に考えるわ。片棒を担いだ責任もあるし、ね」

「…………はい。お願い、します」

 まどかとマミは、ほむらのアパートへと着いた。
 カギをほむらのポケットから取り出し、開ける。



264:1:2011/11/13(日) 09:56:04.24 ID:H8PIVQQB0

「相変わらず、殺風景な部屋ね」

 部屋の家具といえるものは、中央に鎮座するちゃぶ台のみだった。
 布団はすぐに見つかった。部屋の隅に畳まれてあった。
 まどかとマミは布団を広げ、そっと、ほむらをその上に寝かす。
 ここまで、ほむらは身動ぎひとつしなかった。

 まどかとマミは、死んでいるように眠るほむらに、不安を感じ出した。

「……ほむらちゃん、大丈夫、ですよね?」

「ええ、そこまで強打したつもりはないのだけれど……。
 それにしても、目が覚める気配が全然無いわね」

 二人はほむらをじっと見る。
 胸がまったく上下していない。
 二人はほむらへ耳を澄ませる。
 呻き声や寝言はおろか、呼吸音すら聞こえない。

 まさか、死んでる?

 二人は同時にそう思った。



265:1:2011/11/13(日) 09:57:05.66 ID:H8PIVQQB0

「ちょっと失礼……」

 マミはほむらの脈を測ろうと、手首に手を伸ばす。
 その時、

「遅くなりましたーー!!」

 さやかがドアを勢いよく開けて入ってきた。
 バタンッ!、と少し近所迷惑な騒音に、二人は思わずドアの方へ振り返った。

「いやぁ~、広い校庭に落ちていったから、探すのに苦労しましたよ~。
 まあ、やったのは私なんですけどね。 ははっ」

 そう言いながら、ヅカヅカとさやかは部屋に上がり、ほむらの傍らまで来ると、その手にソウルジェムを握らせる。
 次の瞬間、

「ッあ!! がはっ! げほっ!」

「おわあ!!」

 ほむらが跳ね起き、それに驚いたさやかが尻餅をついた。

「きゅ、急に起きないでよ! ビックリしたなぁ、もう……」



266:1:2011/11/13(日) 09:58:04.25 ID:H8PIVQQB0

 さやかの非難の言葉も意に介さず、ほむらはまどかの姿を見るや、まどかの肩をつかむ。

「ま、ま、まどか、そ、その、け、け、け、けい、けいや、-----」

「うん。したよ。
 ごめんね、ほむらちゃんに何の相談もなくて……」

「…………そう……。夢、じゃなかったのね……」

 試しにほむらは自分の頬を抓ってみた。
 痛い。
 夢じゃない。
 紛れも無い現実だ。

 ほむらは思った。
 これは、罰だ。
 もし神様がいるとしたら、目的を達成していないのにもかかわらずに油断した、私に与えた罰だ。
 畜生! 私は、何て無様なんだ。
 これは完全な、私の不注意だ。
 こんな様では、今まで出会った、さまざまな時間軸のまどかに申し訳が立たないではないか。



267:1:2011/11/13(日) 09:59:08.86 ID:H8PIVQQB0

 ほむらは三人に頭を下げた。

「ごめんなさい。突然のことで、ちょっと取り乱してしまったわ。
 ……少し、私に時間を頂戴。気持ちを整理したいの……」

 三人はそれぞれ顔を見合わせ、行きましょう、と目配した。
 部屋を出る間際、マミがほむらに言った。

「私達の軽率な考えで、貴女の気持ちを踏みにじってしまったわね。
 本当に、ごめんなさい。
 でも、これだけは信じて。
 鹿目さんは、貴女のことを嫌っているわけでも、嫌がらせしたかったわけでも、軽い気持ちで契約したわけでもない、って事を-----」

「ええ、分かってるわ」

「……それじゃあ、また明日」

 ゆっくり、静かに玄関のドアが閉められた。
 部屋に一人きりになったほむらは、深いため息をつきながら、ちゃぶ台の前に座った。
 ちゃぶ台に肘をつき、両手で頭を抱える。
 はああぁぁぁ、と深いため息が、また出た。



268:1:2011/11/13(日) 10:00:03.49 ID:H8PIVQQB0

 ほむらは考える。

 どうする?
 もうこの時間軸は諦めて、次に備えたほうがいいのでは?
 だけど、こんな好条件の時間軸、そうそうないだろう。破棄するには時期尚早か?
 だけど、いくら好条件でも、肝心のまどかとの約束が守れていない。それでは意味がない。
 だけど、まどかが幸せならそれでいい。このままでも良いのでは?
 だけど、それは今だけだ。やがては理想と現実のギャップに絶望し、魔女になる。人に迷惑をかけること、それはまどかの望むところではないはず。
 だけど、それを私がフォローして魔女化を防いでいけば-----
 だけど、-----
 だけど、-----

 どれだけ考えても、思考がループする。
 気がつけば、いつの間にか夜が開け、朝日が昇っていた。

 結局、いくら考えても、結論は出なかった。



287:1:2011/11/20(日) 10:42:02.60 ID:uM86iaGn0

*


 ほむらが教室に入ると、すでにまどかは席についていた。

「ほむらちゃん、おっはよ~」

「おはよう、まどか」

 ほむらがカバンを自分の席に置く。その直後、まどかが話しかけてきた。

「ねえ、ほむらちゃん。今日も天気いいし、お昼は屋上に行こうよ」

「……ごめんなさい。
 今日はお弁当も何も持ってきてないの。
 購買で買わなきゃいけないし、時間掛かると思うから、先に食べてて頂戴」

「えっ?……そう、なの……うん、分かった。また今度、一緒に食べよ?」

「ええ、明日は必ずお弁当を用意するわ」

 離れたところから二人の会話を聞いていたさやかは、驚いた。
 ほむらがまどかの誘いを断るとは。
 もしや、これは天変地異の前触れ?!
 明日は地震か台風か大洪水か!!



288:1:2011/11/20(日) 10:43:08.68 ID:uM86iaGn0

 一時間目が終わり、休み時間になると、

「ほむらちゃん!」

 ほむらへまどかが話しかけてきた。

「次は移動教室だよ、一緒に行こうよ」

「ええ……」

 まどかは、ほむらの身の入っていない返事に、大丈夫?と返した。

「もし調子悪いんだったら、保健室に-----」

「いえ、大丈夫よ。心配いらないわ」

 ほむらは口ではそう言ったが、その動きは明らかに体調が悪そうだった。

「……ならいいんだけど……」

 だがまどかは、それについての追求を避けた。

「…………」

 その様子を、さやかは黙って見ていた。



289:1:2011/11/20(日) 10:44:04.70 ID:uM86iaGn0

 二時間目が終わり、休み時間になると、

「ほ~むらちゃん!」

 ポンッと、まどかがほむらの肩を叩いた。
 そしてそのまま肩揉みを始める。

「何か今日は元気ないね。今日も私が肩を揉んであげるよ!」

 そう言うと、まどかの手に力がこめられ、肩を揉みほぐしだした。
 だが、その手をほむらは優しく掴む。

「気持ちはありがたいのだけれど、遠慮しておくわ。
 その、実は、少し寝不足なだけなの。
 だから、この休み時間は少し寝かせてもらえると助かるわ」

「……うん」

 ほむらは机で腕を枕に臥しだした。

「…………」

 その様子を、さやかは怪訝そうな表情で見ていた。



290:1:2011/11/20(日) 10:45:02.98 ID:uM86iaGn0

 三時間目が終わり、休み時間になると、

「ほむらちゃ~ん!」

 席を立つほむらの後を、まどかがついてきた。

「ほむらちゃん、どこに行くの?」

「ええ、ちょっと保健室に」

「あ! それなら私が一緒に-----」

「いえ、一人で大丈夫よ。保健室の場所は分かっているわ。
 それに、ちょっと薬を貰うだけの、大したことのない用事ですもの」

「…………」

「じゃあ行ってくるわね」

 そう言い残して、ほむらは教室を出た。
 授業開始のチャイムが鳴るまで、ほむらは戻ってこなかった。



291:1:2011/11/20(日) 10:46:09.13 ID:uM86iaGn0

 そして昼休みになった。
 屋上にてまどか、さやか、マミが集まって話し合う。
 内容はほむらについてだ。

「何だか、ほむらちゃんに避けられているような気がする」

 まどかはそう話を切り出した。

「あー、それは私も思った。昨日とは反応が真逆だもんね」

「……やっぱり、昨日のこと、かな?」

 さやかとマミの箸が、止まった。

「……きっと、そうなのでしょうね。
 昨日の取り乱し様からして、鹿目さんに対する入れ込みようは相当なもののようだし。
 今までの苦労が水の泡になった、と考えていても不思議じゃないわ」

「確かに。まどかの契約には断固反対!ってカンジでしたね」



292:1:2011/11/20(日) 10:47:04.00 ID:uM86iaGn0

 マミとさやかの発言に、まどかは項垂れる。

「ああ、まどかが悪いって言ってるんじゃなくって、ほむらはさ、なんていうか-----過保護なんだよね」

「確かに。友達を危険に晒したくない、というのは分かるけど、ちょっとやりすぎ感があるわね。
 普通なら、『契約したら危険よ、それでもいいの?』って聞いて終わりじゃない?
 だって、魔法少女の危険性を十分に説明して、それでもなお魔法少女になりたいと思ったのなら、それを他人が止めるのは筋違いよね。
 それが、『絶対に契約しないと約束して』ですもの。
 鹿目さんが大切なのは分かるけど、人生を大きく変える大切な選択を、他人が勝手に決めてはいけないわ」

 マミはまどかの目を見て言う。

「鹿目さんはもっと堂々としてていいと思うわ。自分の選択に自信を持ちなさい。
 後悔なんて以ての外。
 それこそ暁美さんの努力が無駄になってしまうわ」

 マミの言葉に、まどかは、はっ、とする。

「そう、ですよね……。
 そう。そうだ。私は自分の意思で、この道を行くって決めたんだった。
 例えどんな危険が待っていても、私は突き進みます!」



293:1:2011/11/20(日) 10:48:02.65 ID:uM86iaGn0

「危険、かぁ」

 さやかは箸を止めて考えだす。そして浮かんだ疑問を、マミに尋ねる。

「そういえば、ほむらはたしか、契約したら血生臭い世界が待っている、まどかに人殺しをさせたくない、って言ってましたよね?
 その辺、実際はどうなんですか?
 やっぱりマミさんも、その……襲ってきた魔法少女を……」

 さやかは聞きにくそうに言った。歯切れは悪かったが、マミは、さやかが何を聞きたいのか、理解できていた。

「確かに暁美さんの言ったとおり、魔法少女の仕事は危険がいっぱいだし、他の魔法少女の攻撃を受けることもあるわ。
 でも、魔女は気を引き締めて掛かれば勝てない相手ではないし、他の魔法少女との戦いは-----そもそも、二人が想像してるほど、頻繁には起こらないわ」

「でも、あのキリカだかオリコだかいう奴にいきなり襲われましたけど?」

「あれらは、私に言わせれば、イレギュラーな出来事よ。
 ほとんどの魔法少女は余計な衝突と魔力の消費を避けるため、自分の縄張りを出ることは無いわ」

「そうなんですか?」

「ええ。だって、割に合わないもの。
 他の魔法少女を倒して無闇に縄張りを広げても、今度は自分が狙われるだけよ。
 魔女を狩るチャンスも増えるけど、それ以上に縄張りを狙われる危険性が跳ね上がる。
 そんなことになったら、やらないといけない事柄が一気に増えて、すぐ力尽きちゃうわ。リスクが高すぎるわよ。
 ハイリスク、ローリターンじゃあ、やる意味は無いって皆思ってるはずよ」



294:1:2011/11/20(日) 10:49:04.86 ID:uM86iaGn0

「……じゃあ、基本的には魔女をうまく倒すことだけ考えればいい、ってことですよね?」

「まったく考えなくていいわけではないけれど、基本的にはそうね。……急にどうしたの?」

「いやあ、まどかがうまく魔女を倒せるようになれば、ほむらも安心するんじゃないかな、って思ったんです」

「私が魔女を倒せたら、ほむらちゃんが安心する?」

「そう! こう、カッコ良く、魔女をズバババーンと倒せば、ほむらもまどかのことを一人前と認めるんじゃないかな」

「ほむらちゃんに、認められる?」

 まどかは自分が魔女を倒す姿を想像する。
 そしてほむらに「凄いわまどか!」と褒められる場面を思い描く。
 僅かにだが、まどかの表情が緩んだ。
 マミはしばらく思案した後、

「……いいかも知れないわね」

 と言った。

「放課後、暁美さんを誘って、一緒にパトロールに行きましょう。
 きっと、鹿目さんが怪我しないか、うまくやっていけるのか、すごく心配しているのよ。
 鹿目さんの勇姿を見せて、安心させてあげましょ?」

「……はい!!」

 まどかに、笑顔が戻った。



295:1:2011/11/20(日) 10:50:09.85 ID:uM86iaGn0

*


「……魔女狩り訓練ツアー?」

 放課後、校門前でマミに捉まったほむらは、突然の提案に素っ頓狂な声をあげた。

「そうよ。ほら、鹿目さんが契約して魔法少女になったじゃない?」

 ほむらはあからさまに顔を顰める。
 マミはそれを気にする様子無く、話を続ける。

「まだ魔法の使い方とか、魔女の倒し方とか、よく分からないと思うのよ。
 だから-----」

「私達が一緒に行って、手取り足取り教えてあげよう、ってわけ?」

「そうよ」

「悪いけど、私は-----」

 そんなもの、行かないわ。
 そう言いかけて、少し思案した後、言葉を飲み込んだ。



296:1:2011/11/20(日) 10:51:11.82 ID:uM86iaGn0

「いえ、やはり私も参加するわ」

 その言葉に、マミは若干驚いたような表情になった。

「……なによ、私が断ると思ってたの?」

「正直に言うと、そう思ってたわ」

「なら、なんで誘うのよ……」

「あら、意外に呑み込みが悪いのね。
 ここは、『たとえ断っても、強引に連れて行く手段が用意されているのでは?』と推理する場面でしょ?」

 そう言うと、マミはほむらの後ろを指差す。
 ほむらが振り向くとそこには、荒縄を持つさやかと、一回結んで瘤をつくったスカーフを持つまどかがいた。

「ちゃんと貴女の嗜好に合わせたかったのだけれど、さすがにボールギャグは用意できなかったわ」

「貴女は、私を一体何だと思っているのよ……」

 ほむらは、とても深いため息をついた。



297:1:2011/11/20(日) 10:52:06.22 ID:uM86iaGn0

*


 人気の無い細い路地裏を、マミ、まどか、さやか、ほむらが歩いていた。
 先頭を歩くまどかの手には、ソウルジェムが乗せられている。

 数分前のこと。
 街中で魔女を捜し歩いていると、微かにソウルジェムが反応した。
 その反応に従い、魔女の魔力を辿ってみれば、いつの間にか路地へと入り込んでいた。
 順調に辿れているのだろう。歩くほどに反応が強くなっていく。
 そのたびに、まどかの緊張が高まっていく。

「鹿目さん、もっと肩の力を抜いて。
 そんなガチガチじゃあ、うまく体が動かないわよ」

「は、はい!」

 そう返事をしたまどかの目の前には、結界があった。
 魔女のものか、使い魔のものか-----

「結界が不安定ね。おそらくこれは使い魔のものでしょう」

「まあ、初心者のまどかには、ちょうどいい練習相手なんじゃない?」

「そうだね。いきなり魔女相手は、ちょっと怖いし……」

「…………」



298:1:2011/11/20(日) 10:53:11.04 ID:uM86iaGn0

 ほむらは、じっとまどかを見つめ、観察していた。
 ほむらは時間を巻き戻してやり直すかどうか、まだ明確な答えが出せずにいた。
 この茶番狂言のようなツアーに参加したのも、その答えを出す為の参考になれば、と考えてのことだった。

 まず知りたいのは、まどかの契約の内容だ。
 何を望み、何を願い、何を叶えたか。
 これが分かれば、恒久的に魔女化を防げるかもしれない。

 次に、この契約が衝動的なものなのか、長い思案の末にたどり着いた答えなのかだ。
 深く考えずに一時の感情に流された、もしくはキュゥべえに騙された結果なのか。
 はたまた、熟考の末、終わりのない戦いの日々と引き換えにしてもいいと思える、何かを欲したのか。
 前者は論外だ。
 後者なら、まだ希望はある。その何かを糧に、この先やっていける可能性はある。



299:1:2011/11/20(日) 10:54:11.01 ID:uM86iaGn0

「……ほむら、どうかした?」

 不意に、さやかの声で現実に引き戻された。

「な、何でもないわ。少し考え事をしていたの」

「……ふーん」

 さやかは、ほむらの回答に、一応の納得を見せる。

「あ! ほら、使い魔よ!」

 マミが突然声をあげて上方を指差す。
 その方向には、まるで子供の落書きのような姿の使い魔がいた。
 辺りに他の使い魔の姿は見えない。
 一匹だけだった。

「よーし!」

 まどかは変身すると、弓を構え、弦を引き、狙いを定め、撃ち放った。



300:1:2011/11/20(日) 10:55:08.09 ID:uM86iaGn0

 放たれた矢は、精確に使い魔を射抜き、その背後の壁を抜け、空に漂う雲に大穴を開け、遥か彼方へと消えていった。
 ふっ、と結界が消滅する。

「やったあ! 一撃で倒せた!」

「おおっ! やるじゃんまどか!」

「凄いわ、鹿目さん!初めてとは思えないわ!」

「てへへ!」

 さやかとマミは、まどかを褒める。
 まどかは嬉しそうだ。
 まどかはちらっ、とほむらの様子を見る。
 それに気づいたほむらは、笑顔を形作る。

「ええ、凄いわまどか。
 まどかの力なら、どんな魔女だろうと退治出来るでしょうね」

「ありがとう、ほむらちゃん!
 これなら-----私の力なら、どんな敵が襲い掛かってきても大丈夫だよね!」



301:1:2011/11/20(日) 10:56:05.21 ID:uM86iaGn0

 ほむらの目が細められ、笑みが深くなった。

「そうね。まどかの力なら、倒せない魔女も魔法少女もいないでしょうね。
 ……もう、私が傍に居てまどかを守る必要は無くなってしまったようね」

 マミはそれを、ほむらにまどかを認めさせることができたと受け取り、笑みがこぼれた。
 さやかも表情こそ笑っているものの、

「……ん~……」

 ほむらの様子を見て、何かを考えている。
 どうやら、ほむらの現在の心境を察したようだ。

「それじゃあ次に行きましょうか」

「はい!」

 マミが歩き出し、まどかがそれに続く。
 ほむらが動き出すと、さやかはその背後を追った。



302:1:2011/11/20(日) 10:57:02.68 ID:uM86iaGn0

*

 その後もしばらく探し回るも、ソウルジェムに反応は無く、結局その日は解散となった。
 マミと別れ、さやかを見送ると、ほむらとまどかの二人きりになる。

「嬉しそうね」

 ほむらはそう言った。
 使い魔を倒して現在までの間、まどかは終始にこやかな笑顔を絶やさなかった。

「てへへ! やっぱ、顔に出ちゃってる?」

「ええ。もう、嬉しいという感情が溢れ出るかのようよ」

 まどかは照れつつも、笑顔は絶えない。

「ねぇ、まどか-----」

 ほむらは尋ねる。
 これだけは、どうしても聞いておきたい。
 自然と表情が真剣なものに変わる。

「-----契約の時、何て願ったの?」

「そ、それは…………」

 まどかは下を向き、言いよどんだ。



303:1:2011/11/20(日) 10:58:07.22 ID:uM86iaGn0

「ごめん……。ちょっと、これは言えないや……。
 その、あんまり人に言えるほど立派な願い事じゃなくってさ……」

「……でも、マミは、軽い気持ちで契約したわけじゃない、と言っていたわ。
 何か、どうしても叶えたいことがあった訳ではなかったの?」

 まどかの視線が泳ぐ。
 ほむらと目を合わせようとしない。
 何かを隠しているのか。それとも、ほむらに怒られると思っているのか。

「…………私はただ、魔法少女になりたかったの。
 なって、この街の皆のために戦いたかった。この街の皆のことを守りたかった。
 魔女や悪い魔法少女によって、理不尽に、不条理に、虫みたいに、人が殺されることが嫌だったの。
 私の力があれば、阻止できる。守ることができる。絶対に悲劇を起こさせない。
 それが、私の願い。
 ただ、それだけなの。だから、その……契約時の願いは……」



304:1:2011/11/20(日) 10:59:06.10 ID:uM86iaGn0

 言いづらそうにするまどかを見かねて、ほむらが口を挟む。

「つまり、願いごとを叶えてもらう為に魔法少女になった、のではなく、魔法少女になる為に願い事を叶えたのね」

「……うん」

「そう、わかったわ」

 ほむらはそれ以上追求しなかった。
 ここまで聞いた限り、まともな願いごとはしていないだろうと思ったのだ。
 下手すると、「ケーキ二日分ちょーだい!」などと願った可能性すらある。
 
 ほむらは交差点で足を止めた。
 帰宅するには、まどかとはここから別方向になる。
 ほむらが止まったのを見て、まどかも足を止める。

「まどか。最後にもう一つだけ聞かせてちょうだい」

「うん、何かな?」

 ほむらはさっきまでの真剣な表情を崩し、柔らかな笑顔をまどかに向けて尋ねる。

「貴女、今、幸せ?」



305:1:2011/11/20(日) 11:00:06.00 ID:uM86iaGn0

「うん!」

 まどかは即答した。本当にそう思っているのだろう。表情も若干緩んでいる。

「だって、私のする事が街の平和に繋がるんだよ。
 こんな私だって人の役に立つことができるんだ、って思ったら、何だか凄く嬉しくなってきちゃった。
 今までの、何も出来なかった自分が嘘みたい」

 一瞬、ほむらは少し寂しそうな表情になった。
 だがそれはすぐに消え、まどかに気づかれることはなかった。

「そう、まどかは幸せなのね。それならよかった」

 -----幸せ、か。
 それが聞ければもう十分だ。
 やり直すかどうか、私の意志は決まった。
 あとは、ワルプルギスの夜の対処だけ。
 それが終われば、私の役目も終わりだ。

「じゃあ私、こっちだから。また明日」

 そう言うと、ほむらはまどかに背を向けて歩き出す。

「あっ! ほむらちゃん、ちょっと待って!」

「何かしら?」



306:1:2011/11/20(日) 11:01:10.97 ID:uM86iaGn0

「あのさ、もう一度皆で集まろうよ。
 ほら、そろそろワルプルギスの夜の対策について話し合わないと。
 私も入れて魔法少女は五人になるから、これならワルプルギスの夜がどんなに強くても絶対に勝てるよ!!」

「……ええ、そうね。
 全員に声をかけて、もう一度集まりましょうか。
 頼りにしてるわよ、まどか」

「てへへ! 任せてよ!」

 まどかは手を振り、ほむらを見送る。

「じゃあね~! バイバ~イ!」

 ほむらの姿が見えなくなると、まどかは辺りを見渡す。
 誰も居ないことを確認すると、その場で変身した。
 魔法の練習の為、跳んで帰ろうと思いたったのだ。
 まどかは足に魔力と力を込めて走り出し、大きく跳んだ。

 まどかは、まるで羽が生えたかのような軽やかさで跳んでいった。



307:1:2011/11/20(日) 11:02:03.86 ID:uM86iaGn0

*

 翌日の学校にて、

「ほむら。次の休み時間ちょっと話があるんだけど、いい?」

「……? ええ、いいわよ」

 ほむらはさやかに呼び出され、一緒に校舎裏へ向かった。
 道中、さやかは真剣な表情であった。どうやら真面目な話らしい。

「悪いね、こんなところに呼び出しちゃって。
 流石に教室では聞けないことでさ」

「構わないわ」

 ほむらはそう言った。
 教室では聞けないこと。
 おそらく、魔法少女に関する事柄だろう。

「それで、用件は?」

「……あのさ、まどかの事なんだけど」

「まどかの?」



308:1:2011/11/20(日) 11:03:05.38 ID:uM86iaGn0

「そう。ほら、まどかが契約して魔法少女になったじゃない?」

 ほむらはあからさまに顔を顰める。
 さやかはそれを指摘する。

「ほら、その顔だよ。その、いかにも不愉快極まりない、って言いたげな顔。
 それを見るたび思うんだけどさ、アンタ、まどかが約束破ったのがそんなに許せないの?」

 ほむらは答えない。
 さやかはそれを肯定と取った。

「いや、そりゃあ私だって約束破るのはどうかとは思うよ。
 でもさ、結果だけ見れば、ほむらがご執心のワルプルギスの夜に対する、大幅な戦力増強だよ?
 その魔女はメチャクチャ強いんでしょ?
 だったら、この際手段は選ばず、目標を達成することだけを考えようよ。
 もし、まどかが契約しないでほむら達が魔女に負けちゃったら、何の意味も無いでしょ?
 ……なっちゃったもんは、もうしょうがないって」

 ほむらは何も答えない。

「まどかはさ、街の平和を守ることが『良い事』で、何もせず見てることが『悪い事』だ、と考えてるんだと私は思うんだ。
 だから-----」



309:1:2011/11/20(日) 11:04:05.75 ID:uM86iaGn0

「だから、まどかを許してやってくれってこと?」

 ほむらが口を開いた。
 ようやく会話になりそうで、さやかは少しほっとする。

「さやか、貴女はいくつか勘違いしている。
 まず、許すも何も、私はまどかのことを怒ってなどいないわ」

「でもアンタは、まどかのしたことは『悪い事』だと思ってるんでしょ?」

「ええそうよ。当然でしょ。
 私にとって約束とは、命を賭してでも絶対に守らなければいけないものなの。それを反故にされたのよ。
 でも、それ以上に許せないのは、私自身に対してよ。
 私がもっとしっかりしていれば、まどかが契約する理由はなかった。
 契約してしまったということは、結局、私はまどかの信頼を得るに至らなかったわけだもの」

「ちょっ、そんなこと-----」

「そして貴女はさっき『良い事』、『悪い事』と言ったけど、正直に言ってしまえば、そんなことはどうでもいいの」

「どうでもいいって……」

「ん、ちょっと言葉が足りなかったわね。
 それを議論しても、答えは出ないという意味よ。
 何が良い事で、何が悪い事か。
 そんなものは結局、当人の感性の問題なの。
 例えば私の、命を懸けてでも約束を守る、という考えは貴女には理解しがたいでしょう?」

「…………」

「まどかは、私との約束を破ってでも街を守ること、これを『良い事』と判断し、そして私は『悪い事』と判断した。
 それだけのことよ。
 さやか、貴女はどっち?」

「…………」

 ほむらの問いに、さやかは答えられなかった。



322:1:2011/11/27(日) 10:42:59.42 ID:RaOEvMPQ0

*

 ワルプルギスの夜襲来当日。

『----突発的異常気象に伴う避難指示が発令されました。
 付近にお住まいの皆様は、速やかに指定の避難所への移動をお願いします。
 こちらは----』

 避難が完了し、人一人居ない街を、まどかは走る。
 まだ昼前だというのに、辺りは日没後のごとく暗かった。
 ふと、空を見上げる。
 分厚く黒い雷雲が、切れ目無く流れていく。
 不意に突風が吹いた。
 髪がなびき、木々が大きく揺れ、窓ガラスがミシミシと音を立てる。

 今はまだそれほどではないが、時が経てば、被害級の強風、落雷、豪雨、そして竜巻が発生し、街に甚大な被害が出るだろう。

 それが一般的な認識であった。
 実際には、結界を持たない大型魔女が大暴れするのだが、魔女を認識できない人々の目には、災害としてしか写らないのだ。
 予報では、もう間もなくこの街はスーパーセルの降水域に突入する。
 そこに居る筈だ。
 超弩級の大型魔女、ワルプルギスの夜が。



323:1:2011/11/27(日) 10:43:48.16 ID:RaOEvMPQ0

「遅くなりました!」

 そう言いながらまどかは、ほむらのアパートのドアを開けた。

「来たわね。では始めましょうか」

 ほむらはそう言った。
 部屋には、ほむら、マミ、杏子、ゆまの四人がちゃぶ台を囲っていた。
 ちゃぶ台の上には見滝原の地図があり、ワルプルギスの夜の出現予想範囲と予想経路が書き込まれている。
 これから最後の打ち合わせを始めるようだ。
 まどかがちゃぶ台の前に座ったのを確認すると、ほむらは身を乗り出し、地図を指差しながら説明を始める。

「予想されるワルプルギスの夜の出現箇所はこの範囲。
 この範囲のどこに出現してもいいように、私、マミ、杏子、ゆまはそれぞれこの地点で待機する」

 ほむらはそう言いながら、円で示された出現予想範囲内にある四点を指し示す。

「まどかはここで待機。連絡を待ってちょうだい」

 ほむらは四点から少し離れた、矢印で示された予想経路の先にある一点を指し示す。
 まどかはうなずいた。

「各自、自分の近くにワルプルギスの夜が出現したら、すぐにテレパシーで連絡して。
 その後は注意を引きつけて、できるだけ足止めをして、皆の到着を待っててちょうだい。
 まどかは、出現場所が確定次第、予想経路の先に回りこんでから向かって。
 まどかが最終防衛ラインよ。万が一抜かれたら、街や人への被害が大きくなるわ。
 必ず進路の前に回り込んでから向かうこと。いいわね?
 何か質問は?」



324:1:2011/11/27(日) 10:44:59.74 ID:RaOEvMPQ0

 杏子が手をあげる。

「何でまどかが最終ラインなんだ?
 てゆーかさ、フツーに出現予想範囲を五等分すればいいんじゃねえの?」

「それだと、出現箇所によってはまどかが間に合わない可能性があるからよ」

「……なんつーか、『まどかじゃないと勝てない』みたいな言い方だな」

「そうじゃないわ。
 まどかの攻撃が一番ダメージを与えられるの。
 それを踏まえたうえで、効率良く、且つ被害を最小限に抑えるための作戦よ」

「……まどかの攻撃が一番ダメージを与えられる?
 その言い方はまるで、----」

 杏子は鋭い目をほむらに向ける。

「----その様子を何度か見てきたみたいな言い方だな」



325:1:2011/11/27(日) 10:45:52.45 ID:RaOEvMPQ0

 ほむらは一瞬だけ驚愕の表情になった。

「ええ、一度だけど、見てきたわよ。この前まどかが使い魔を倒したときの、凄まじい一撃を」

「……そうかい」

 杏子は残念そうな表情で、ため息まじりにそう言った。
 そして、急に静まり返った。
 もう質問は無いようだ。

「それじゃあ行きましょうか。
 相手は想像を遥かに超えた化け物よ。決して無理はしないように」

 そう言いながら、ほむらは立ち上がる。
 まどか、マミ、ゆまもそれに続く。

「…………」

 少し遅れて杏子も立ち上がった。



326:1:2011/11/27(日) 10:46:56.35 ID:RaOEvMPQ0

*


 結果だけ見れば、ワルプルギスの夜はあっけなく消滅した。

 出発から十数分後。
 ワルプルギスの夜はほむらの近くに出現し、ほむらはすぐさま応戦した。
 軽機関銃。
 手製爆弾。
 対物ライフル。
 手榴弾。
 重機関銃。
 持てる全ての武器を使った。
 しかし、どれだけ撃ち込んでもダメージを受けている様子が見られない。
 それどころか、盾の砂時計の砂が落ちきって時間停止が使えなくなり、ワルプルギスの夜の反撃を受け、重体に陥ってしまった。
 ほむらを援護すべく急ぎ駆けつけたマミ、杏子、ゆまが到着するのと同時に、

「-----ほむらちゃん!!」

 一番遠くに配置されたはずのまどかの声が響き渡った。



327:1:2011/11/27(日) 10:47:59.01 ID:RaOEvMPQ0

 ビルの屋上に立ったまどかは、ワルプルギスの夜を正面に見据えると、弓を構え、弦を限界まで引き、ありったけの魔力を込めて撃ち放つ。
 矢はワルプルギスの夜の中心に命中し、大穴を開ける。そして、その穴から外側に向かって徐々に崩壊していき、やがて完全に消滅した。
 ワルプルギスの夜の崩壊を見届けたまどかは、急ぎほむらのもとへと駆る。

「ほむらちゃん! 私、やったよ!!」

 到着するころには、ゆまによるほむらの治療は終わっていた。
 ほむらはまどかに微笑みかけ、

「流石ね、まどか」

 と、然もまどかならば倒すのは当然であるかのように言った。

 街への被害といえるものは、ほむらが使用した武器の余波とワルプルギスの夜の数度の攻撃が主であった。
 建物が数棟だけ、人的被害はゼロと、それほど大きな被害も無く、ワルプルギスの夜は終わりを迎えた。
 避難指示も早々に解除され、夕方には既に街には日常が戻っていた。



328:1:2011/11/27(日) 10:48:59.33 ID:RaOEvMPQ0

*


 ワルプルギスの夜を撃破した、その日の夜のこと。

 まどかは風呂から上がり部屋へ戻ると、ベットへ飛び込んだ。

「うへへっ! てぃひひ!」

 まどかはとても上機嫌だった。
 ほむらを脅かしていたワルプルギスの夜をこの手で倒したのだという事実に酔いしれていた。

 もう何も心配することはない。
 何にも怯えることはない。
 何も危険なものはない。
 明日からずっと、笑い合える日々が続いていくだろう。
 守れた。私は守ることができたんだ!
 そうだ。明日はほむらちゃんと一緒に街を巡回しよう。
 途中、一緒にお茶を飲んだり、クレープを食べたり、どこか店を回ったりしながら。
 きっと、楽しいに違いない。
 まどかは嬉しくなって、また笑い声を上げた。

 そんな時だった。



329:1:2011/11/27(日) 10:50:05.40 ID:RaOEvMPQ0

『まどか。まだ起きてるかしら?』

 突如、ほむらからテレパシーが届いた。
 まどかはガバッ、と身を起こす。

『……! ほむらちゃん?! 今どこにいるの?』

『まどかの家の外よ』

 まどかは急いで窓のカーテンを開ける。
 すると、外に立つほむらが見えた。
 上着を羽織り、まどかは外に出る。

「ほむらちゃん、こんな時間にどうしたの?」

「夜遅くにごめんなさい。
 本当は誰にも会わないつもりだったのだけど、やっぱり、まどかにだけは一言言った方がいいと思って……その……」



330:1:2011/11/27(日) 10:50:51.03 ID:RaOEvMPQ0

 ほむらは塞ぎ込み気味だった顔を上げ、一度大きく深呼吸する。
 それが終わる頃には表情は凛々しいものに変わっていた。
 そして、決意を込めた目をまどかに向ける。

「まどか、お別れを言いに来たわ」

「……え?」

 一瞬、まどかの頭の中が真っ白になる。
 お別れ? お別れって、何?

「それってどういうこと?
 ほむらちゃん、どこかに行っちゃうの? ----まさか、転校?!」

「いえ、転校ではないわ。
 事情があって、この街を離れることになったの」

「……その事情って何? 私にも何か手伝える?」

 ほむらは首を横に振る。

「約束があるの」

「約束?」

「そう。友達と交わした、絶対に果たしたい、大切な約束。
 だから私、そろそろ行くわね。
 最後にまどかの顔が見れて良かったわ。
 ……それじゃあ、さよなら」



331:1:2011/11/27(日) 10:51:52.16 ID:RaOEvMPQ0

 ほむらは踵を返し、立ち去ろうとする。
 数瞬遅れてまどかが追いかけ、そして叫ぶ。

「待ってよほむらちゃん!!
 いつ帰ってくるの?! また会えるんだよね?!!」

 ほむらはピタッ、と足を止め、まどかに振り返る。

「……ええ。きっと、また会えるわ。
 だから、それまでこの街の平和を守るって約束してくれるかしら?」

「……うん。絶対、守る。今度こそ絶対守るよ!
 この街の平和も、ほむらちゃんとの約束も、絶対守ってみせる!」

 まどかの力強い言葉に、ほむらは満足そうに微笑んだ。
 そして不意にまどかの肩を掴むと、そっと頬に口付けをした。
 突然の事に、まどかは驚く。

「……ふぇ?」

「ふふっ。驚いた顔のまどかも可愛いわ」

「んもうっ! ほむらちゃんのばか! スケベ! 変態!」

「あら、それは褒め言葉よ。まどかに言われる場合に限りね」

「えぇ~?!」

「……私は貴女のことが好きだったわ。
 こんな私の友達になってくれて、どうもありがとう。」

「……私もほむらちゃんのこと、好きだよ。
 ずっと、ずぅ~~っと、何時まで経っても友達だって思ってるからね」

「私もよ。----じゃあね、まどか。また会うその日まで。お元気で」

「ほむらちゃんも元気でね。----早く帰ってきてね」

 ほむらは、まどかに一度笑みを見せると、背を向けて去っていく。
 まどかは、見えなくなるまで、その背中をずっと見つめていた。



332:1:2011/11/27(日) 10:52:57.80 ID:RaOEvMPQ0

*

「……さて、と」

 ほむらは誰も居ない公園につくと、魔法少女へと変身する。
 そして、盾に手を掛け、回----

「よう、ほむら。こんな時間に何やってんだ?」

 ----しそこねた。
 声の方を横目で見ると、杏子がスナック菓子を片手に歩み寄ってきているのが分かった。
 ほむらは背を向けたまま聞く。

「貴女こそ、こんなところで何してるのよ。
 ……ゆまは一緒じゃないの?」

「ああ、あいつはもう寝てるよ。時間が時間だしな。
 私はちょっと寝付けなくてね。お散歩の最中って訳だ」

 そう言いながら杏子はポリポリと菓子を口に運ぶ。

「……寝る前にそんなに食べると、太るわよ」

「大丈夫だって。その分動いてるし。
 ----って、話をすりかえるなよ! 何をしてるか聞いてるのはこっちだっての。
 まずはこっち向け!」



333:1:2011/11/27(日) 10:53:51.72 ID:RaOEvMPQ0

 杏子はほむらの肩を掴み、強引に正面を向けさせる。
 ほむらの顔を見た杏子は眉をしかめた。

「……おい。目ぇ赤いぞ? 大丈夫か?」

 ほむらの目は、泣き腫らしたように赤かった。
 ほむらは普段と変わらない口調で答える。

「ええ、問題ないわ」

「嘘つけ、このやろう。これが問題ないように見える奴は目が腐ってるぜ。
 ……何があったんだ? 全部話しな」

 だが、ほむらの演技は直ぐに看破されてしまった。
 ほむらは目を擦りながら少し考える。



334:1:2011/11/27(日) 10:54:55.71 ID:RaOEvMPQ0

「……そうね。貴女にはいろいろと世話になったことだし。
 それに、終わったら全部話すって約束してたわよね。
 いいわ。私が知ってること、全部話してあげる」

 この返答は予想外だったようで、杏子は少し驚いた。

「ただ、他の皆には内緒よ?」

「ああ。分かった」

 ほむらはベンチを見つけると、そこに座る。
 それを見た杏子は、どうやら長い話になりそうだ、と思いながら隣に座った。
 でもまあ、やっと話してくれる気になったんだから、ちゃんと最後まで聞こうじゃないか、とも思った。

「それじゃあ、何から話そうかしら。
 ……そうねぇ、じゃあ、ソウルジェムの秘密から----」



335:1:2011/11/27(日) 10:55:50.25 ID:RaOEvMPQ0

 十数分後。

「----以上よ。これが私の知る全て」

「…………」

 ほむらの説明が終わっても、杏子はしばらく動けなかった。

 ソウルジェムが本体?
 この体はただの外部装置?
 魔女が魔法少女の成れの果て?
 そんな……そんな馬鹿な!!

「……杏子? 大丈夫?」

「ん、ああ……。成る程ね。こりゃあ、お前が頑なに話そうとしない訳だ。
 こんな話、誰にも話せないし、話しても信じてくれないわな。
 未来から来たって言っても、証拠も何も無いから、証明できないもんな」

「貴女は、私の今の話を信じてくれるの?」



336:1:2011/11/27(日) 10:57:10.78 ID:RaOEvMPQ0

「言ったろ? 真意に話してさえくれれば、どんなぶっ飛んだ内容だろうがちゃんと聞くって。
 私は信じるよ。今のお前の話に、嘘は一切感じなかった。
 それに、お前の行動に関しても辻褄も合うしな」

 ほむらは首を傾げる。

「……私の?」

「ああ」

 杏子はポケットからチョコスティック菓子の箱を取り出すと、封を開け、ポリポリと食べながら話す。

「いろいろとボロを出してたぜ。
 初対面なのにいきなり私の名前を言おうとしたり、教えてないのに私の名前の字を知ってたり、な。
 細かいところを上げればまだあるが、特に気になったのがこの二つだ。
 予め私の事を知ってるのに、何故かそれを隠そうとする。
 こりゃあ何かある、って思ったんだよ」

「そうだったの……。それで私からいろいろと聞き出そうとしてたのね。
 私の部屋に集まってワルプルギスの夜の説明したとき、グリーフシードはいらないから全部話せ、なんて言い出すから驚いたわ」

「まあ、結局聞けたのは最後の最後だけどな。
 ……そうか。私らは何度も会ったことがあるんだな。そりゃあ色々知ってる筈だぜ」



337:1:2011/11/27(日) 10:58:03.63 ID:RaOEvMPQ0

 杏子の言葉に、ほむらは俯く。

「……ごめんなさい」

「お前が頭下げる必要はねぇよ。
 なんだかんだ言っても、こうして話してくれたじゃないか。
 むしろ、謝んなきゃならないのはこっちの方だ。
 悪かったな、根掘り葉掘り聞いちまってよ」

「それこそ謝る必要は無いわ。隠し事ばかりだったのは事実ですもの」

「ははっ! ほむら、私が思うに、お前はもうちょっとオープンでもいいと思うんだ。----ただし、変態行動以外は、だけどな」

「そうね。『次』は少し自粛することにするわ」

 その言葉を聞いた杏子の表情から笑みが消え、真剣なものへと変わる。

「……やっぱり、時間を巻き戻すのか?」

「ええ。だって、まどかと約束したんだもの。絶対に助けてみせる、って」

「この時間軸に残って、まどかを支えてやる、ってのはダメなのか?」

「……その必要は無いわ。
 この時間軸のまどかはちゃんと目的を持って契約したみたいだし。
 それに----」



338:1:2011/11/27(日) 10:59:01.47 ID:RaOEvMPQ0

 ほむらは優しく微笑む。

「----まどかはとても幸せそうだったわ。
 誰かのために戦えること、それが本当にうれしいのでしょうね。
 もう私がいなくても大丈夫。
 既に魔法少女として一人前になったのよ。
 私が庇護する必要は、もう無いわ。
 そういう意味では、もしかしたらこれまでの繰り返しの中で、一番安心して時間を巻き戻せるんじゃないかしら。
 ……でも、----」

 表情は笑顔のまま、目から涙が零れる。

「----できれば魔法少女になんかならず人間のままで、幸せを掴んで欲しかった……
 こんなものにならなくても、まどかは優しくて素晴しい人間だったのに……。
 ……次よ。『次』こそは、まどかとの約束を果たしてみせる。
 契約なんて絶対にさせないわ!」

「……そうかい。止めるだけ無駄みてえだな。
 『次』こそは約束果たせるといいな。
 過去の私に会ったらよろしく」

「ええ」

 ほむらは袖で涙を拭い、そしてベンチから立ち上がった。

「じゃあね杏子。一ヶ月前にまた会いましょ」

「おう。じゃあな」

 ほむらが歩き出すと、杏子も立ち上がって別方向へと歩き出す。
 ふと、数歩歩いたところで杏子の足が止まる。

「おっ! そうだ! おいほむら! 腹が減っては、って言うだろ?
 つっても今の手持ち、菓子しかねぇんだけどな。
 これでもよけりゃあ----」

 杏子は菓子箱を手に振り返る。

「----食うかい?」

 だが、そこにほむらの姿は無かった。



355:1:2011/12/11(日) 10:57:33.83 ID:e+HHFXwS0

*

 暁美ほむらが失踪して約三ヶ月が経過した。

 季節は夏真っ盛り。
 日が落ちて大分経つにも関わらず、気温はなかなか下がらない。
 そんな熱帯夜の街中を、まどかとマミの二人は彷徨っていた。
 目的は、魔女狩りの為の巡回だ。
 だが、いくら歩き回っても、魔女はおろか、使い魔の反応すらない。
 マミは額の汗を拭きながら、ふぅ、とため息をついた。

「ん~、どうやら今日も魔女はいないみたいね」

「そうみたいですね。
 何だか、ワルプルギスの夜を倒してから、段々と魔女と遭遇する頻度が減っていってるような気がしません?」

「言われてみれば、たしかにそうね。でも、----」

 マミはまどかに微笑みを向ける。

「----それはとても歓迎すべきことだわ。
 魔女が減っているということは、それだけ被害者は減っているということなのだから」



356:1:2011/12/11(日) 10:58:36.50 ID:e+HHFXwS0

 まどかは一瞬遅れてから、マミに笑みを返す。

「そ、そうですよね。街が平和なのが一番ですよね」

「そのとおりよ」

 マミは、まどかの笑顔が無理して作っているものに思えた。

「鹿目さんは、出番が無くて物足りないのかしら?」

「え?! ……あ、いや、そ、そんなことは無いですよ!」

「駄目よ、手段と目的を履き違えては。
 魔法少女は人々を守るために戦うのであって、戦う為に人々を守るわけではないのよ」

「……分かってます。魔法は魔女を倒す手段であり、それを使うのが目的ではない、ですよね?」

「そうよ。魔法は便利だし、悪用しようと思えば大抵のことは出来る。
 でも、そんな使い方をしていたら、すぐに魔力が尽きてしまうわ。
 そして魔法を使いたいが為に、魔女を----グリーフシードを求めるようになる。
 手段を行使するのが目的となり、本来の目的が手段へと変わってしまう典型的な例ね。
 ……私達も常に注意しないと。
 これは、決して他人事じゃないわよ」

「……はい」

 まどかは真剣な表情で答えた。



357:1:2011/12/11(日) 10:59:36.09 ID:e+HHFXwS0

 それを見たマミは、まどかに再度笑みを向ける。

「そんなに硬くならなくてもいいわよ。ただ、最後の確認をしたかっただけだから」

「最後……ですか?」

「そう、最後。
 ここ最近、ずっと考えてたんだけど----私、引退しようかと思うの」

「え?! マミさん、魔法少女を辞めちゃうんですか?!」

「ええ。鹿目さんも立派になったし、魔女も減少している。
 加えて私ももう三年の夏だし、ね。そろそろ受験の準備をしなくちゃ」

「じゃあマミさん、ソウルジェムは----」

「おそらく、もう浄化することは無いでしょうね。
 このまま濁りきれば魔法が使えなくなる。
 そしたら、変身も出来なくなって、完全に魔法少女としての能力を失うのでしょう。
 こうして一緒に巡回するのも、今日で最後かもね」

 まどかは、しゅん、と項垂れる。

「大丈夫よ。魔法が使えなくなったって、私は私。ずっと鹿目さんの味方よ。
 今までどおり、遊びにでも相談にでも、いつ来てもらっても構わないわ」

「マミさん……」

「もう、そんな心配そうな顔しないの。
 貴女はもう一人前の魔法少女なのよ。もっと自覚と自信を持ちなさい」

「……はい!!」

 まどかは凛々しい表情で答えた。



358:1:2011/12/11(日) 11:00:33.65 ID:e+HHFXwS0

*


「……ただいま」

 マミが自宅の玄関を開けると、

「やあマミ、お帰り」

 リビングからキュゥべえが出迎えた。マミは嬉しそうに表情を緩ませる。

「あら、キュゥべえ。今日も一日中家に居たのね」

 マミは靴を脱ぎ、手を洗うと、冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出す。

「そうだよ。ここが一番居心地が良いからね。
 もしかして、迷惑だったかい?」

 マミは首を横に振る。

「ううん、そんなことは無いわ。やっぱり、一人は寂しいもの。会いに来てくれて嬉しいわ。
 ----でも、何だか以前より頻度が増しているような気がするの。
 以前の貴方は毎日のように、新しい魔法少女と契約しに行くとか、契約したばかりの子の様子を見に行くとか、サラリーマンの鑑みたいだったじゃない?
 それが最近、私の家に入り浸りになってる気がするのよ。
 仕事の方は大丈夫なの?」



359:1:2011/12/11(日) 11:01:38.25 ID:e+HHFXwS0

「ふむ。言われてみれば確かにボクはマミの家に居ることが増えたね。
 だけど、心配は要らないよ。
 さっきマミは、ボクのことをサラリーマンみたいだと言ったね。
 それに例えるなら、今は休暇中なのさ」

「休暇?」

 マミはガラスのコップを一つ用意し、麦茶を注ぐ。

「そうさ。仕事のノルマをクリアできそうな目処が立ったから、ちょっと休んでいるんだ。
 今までずっと働きっぱなしだったからね。
 キミのおかげさ、マミ」

「私の? ……何かした覚えは無いわよ」

「マミは、マミの信念の赴くままに行動した。
 それが回りまわってボクの仕事の後押しをしてくれたのさ」

「そうなの……。よくは分からないけど----」

 マミはコップをもう一つ用意し、それにも麦茶を注ぐ。
 そして、

「----キュゥべえ、お疲れ様」

 コップを一つキュゥべえの前に置くと、それに自分のコップを軽く当てる。
 チンッ、と小気味良い音が響いた。



360:1:2011/12/11(日) 11:02:36.76 ID:e+HHFXwS0

*


「え? まどか、行かないの?」

 夏休みも半ばを過ぎた頃、海に行こうとまどかに誘いの電話したさやかは、意外な回答に思わず聞き返した。
 ベットに寝そべっていた体を起こし、縁に腰掛ける。

『うん……。ごめんね、せっかく誘ってくれたのに……』

「いや、それはいいんだけど。
 ----もしかして都合悪い日だった? それともどこか具合が悪い?」

『ううん……。その、ほら、私が遊びに行ってる間に魔女が出ないとも限らないし……』

「泊りじゃなくて日帰りだよ? 一日ぐらい大丈夫だって!」

『でも、ほむらちゃんとの約束があるから……』

「ああ、街の平和を守るってやつ?
 別にほむらはさ、休日返上で警備にあたれ、って言ったわけじゃないんでしょ?
 遊びに行くくらいダーイジョーブだって!」

『…………』



361:1:2011/12/11(日) 11:03:42.53 ID:e+HHFXwS0

 まどかからの返答が無い。
 さやかには、悩み顔のまどかが容易に想像できた。

『ごめん。やっぱり行けないや』

「そっか……。まあ、無理にとは言わないけどさ。
 ……約束に拘るのもいいけど、偶には息抜きしないと辛くなっちゃうよ?」

『うん、分かってる。大丈夫だよ』

「ならいいんだけどさ。----じゃあ、また今度ね」

『うん、じゃあね』

 電話を切ると、さやかはまたベットの上に転がった。

「う~~ん、まどかは来れないのか。
 どうしようかな……。
 マミさん----はダメか。たしか、夏期講習がどうたら言ってたっけな。
 杏子達はケータイが無いから連絡付かないし----いや、どうせゲーセンに居るだろうから、探してみますか!」

 さやかはガバッ、と体を起こし、身支度を整えると、街のゲームセンター巡りへと出かけた。



362:1:2011/12/11(日) 11:04:39.92 ID:e+HHFXwS0

*


「うぅぅ……。海、行きたかったなぁ……」

 電話を切ると、まどかはそう呟いた。
 ふと、まどかは自室の椅子から立ち上がり、シャツを脱いで、姿見の前に立つ。
 露になった両肩に四本ずつ、傷痕があった。
 それは、ほむらがまどかに残していった爪痕だった。

「う~ん……。これ、未だに消えないんだよね。
 水着になったらこれ、思いっきり見えちゃうし。
 やっぱ目立っちゃうよね……」

 そっと爪痕に指を這わせ、そして撫でる。
 しばらくそうしていると、まどかは何かに気づき、はっ、と口から声が漏れる。

「もしかしたらほむらちゃんが私に遊んでる暇は無いのよ、って言ってるのかもしれない!
 よーし! 頑張らなくちゃ! 今すぐ行こう!」

 まどかはシャツを着なおすと、街へ、魔女の探索へと出かけた。



363:1:2011/12/11(日) 11:05:42.08 ID:e+HHFXwS0

 まどかが街を一人で歩いていると、さまざまな人達とすれ違った。
 プールで遊んだ帰りであろう親子。
 山へキャンプに行った体験を語り合っている青年グループ。
 海で日焼けしたらしい若い男女のカップル。
 他にも夏を満喫している人達が多々目に付いた。

「…………」

 まどかはすれ違うたびにじっと見つめていた。
 皆、とても楽しそうに笑いあい、幸せそうだった。
 まどかはそれらの光景を見て、羨ましいと感じていた。
 そして同時に、何故自分は夏休みなのに何もしていないのだろう、と疑問に思った。
 ソウルジェムが僅かに濁る。

「……っ!」

 私ったら、何を考えてるの? 街の人々が笑って暮らせるよう願って、今の私になったんだよ。
 そうだよ。これはいいことなんだよ。これからも皆が笑っていられるよう頑張らなくちゃ!

 まどかは頭を振り、頬を叩いて気合を入れなおす。
 そして自販機を見つけると、すぐさまジュースを買い、一気に飲み干す。

「ふぅ……。……よし!」

 一息ついたとばかりに深く息を吐くと、碌な休憩も無いまま、再び魔女探索へと歩き出す。



364:1:2011/12/11(日) 11:06:43.34 ID:e+HHFXwS0

 それから数時間が経過した。
 夜になり、辺りが暗くなっても探索を続けた。
 にもかかわらず、魔女はおろか使い魔すら発見できなかった。
 公園に入ったまどかは、ベンチを見つけ、腰掛ける。
 見上げると、まだ青い銀杏の木があった。

「はぁ……。疲れたなぁ……」

 ここ数日、まどかは、ただ歩き回ることしか出来ていなかった。
 急に、自分のしていることが無意味なことに思えてきた。

 私は、このままでいいのかなぁ?
 もっと、家族とどこかに遊びに行ったり、友達と山や海に行ったり、素敵な誰かと恋愛したりするべきなんじゃないかな?
 何故私は一日中、ただ歩き回っているの?
 歩き回って、何かを得られたの?
 何も、無い。あるのは疲労感だけ。
 あれ? 私、何の為に魔女を探してるんだっけ?

 ----約束。
 そうだ。私はほむらちゃんと約束したんだ。
 理由なんて他に要らない。
 それだけで十分。
 今日はもう帰ろう。
 きっと疲れてるんだよ。
 だから変な考えが浮かぶんだ。

 まどかは帰宅しようと立ち上がる。
 ふと、もう一度空を見上げる。
 木の隙間から、星が一つだけ見えた。



365:1:2011/12/11(日) 11:07:40.54 ID:e+HHFXwS0

*


 次の日もまどかは探索を行った。
 成果はゼロだった。


*


 それから数日が経ち、夏休みが終わった。
 使い魔を一匹発見。これを難なく倒した。


*


 さらに数日が経った。
 成果はゼロだった。


*


 さらに数日が経った。
 成果はゼロだった。
 公園のベンチに座って考え事をする時間が増えた。
 銀杏の木を見上げる。
 葉はまだ青かった。


*


 さらに数日が経った。
 魔女を一体倒した。
 時間が深夜にもなると、気温は一気に冷え込んだ。
 まだまだ続くと思っていた夏が、終わりを告げようとしていた。


*


 さらに数日が経った。
 成果はゼロだった。



366:1:2011/12/11(日) 11:08:39.27 ID:e+HHFXwS0

*


 さらに数日が経った。
 まどかがマミの家に遊びに行くと、疲れた顔のマミが出迎えた。
 どうやら勉強疲れのようだ。
 話を聞くと、このままだと目標としている高校に上がることは難しい、と先生に言われたらしい。
 それはそうだろう。
 毎日の巡回のせいで碌に勉強も出来ず、部活動にも参加していないのだ。
 魔法少女の活動で、学校の成績が上がる要素なんて一つも無い。
 内申書は当てに出来ない。
 完全に、自前の学力のみで勝負するしかない。
 マミはまどかに、

「大した持て成しも出来ないで、ごめんなさい」

 と謝った。
 帰り際、まどかは、しばらくマミの家に遊びに行くのは止した方がいいな、と思った。


*


 さらに数日が経った。
 成果はゼロだった。


*


 さらに数日が経った。
 成果はゼロだった。


*


 さらに数日が経った。
 成果はゼロだった。
 公園のベンチに腰掛け、銀杏の木を見上げる。

 黄葉が、始まっていた。



367:1:2011/12/11(日) 11:09:39.52 ID:e+HHFXwS0

*


「なんてゆーかさ、今のまどかを見てると、忠犬ハチ公が思い浮かぶんだよなぁ~」

 バイキング方式の焼肉店で、杏子は向かいの席に座るさやかにそう言った。
 網の上で美味しそうな音と匂いをさせる肉をひっくり返しながら、さやかは、はぁ?と返す。
 両面がほどよく焼けたそのひっくり返した肉を、ゆまは箸で掴んでタレで食べる。

「ハチ公? ああ、あの飼い主の帰りをずっと待ってるってやつ?」

「そうそう、それ。
 まどかは今、ほむらとの約束を守って、ひたすら魔女狩りしてるだろ?
 なんかさ、留守を言いつけられた犬みたいに見えてさ」

 さやかは首と箸を横に振る。
 
「いやいやいや、そりゃあないでしょ。
 だってそれだと、ほむらはもう帰ってこないってことじゃん」

 一瞬、杏子の箸が止まる。

「あ、ああ……。
 まあ、それは置いといて、だ。
 とにかくあたしは、約束にガッチガチに縛られて、他の事を考えられないまどかを何とかした方がいいんじゃねえかな、って思ったってことを言いたかったんだよ」



368:1:2011/12/11(日) 11:10:35.12 ID:e+HHFXwS0

「あー……。それはまた難しそうだねぇ。
 ほら、まどかは一回ほむらのとの約束破ってるじゃん。
 負い目も感じてるだろうし、きっと、今度こそは絶対約束を守るぞ! なんて思ってるだろうなぁ。
 ----もう、あんなほむらは見たくないだろうし……」

「あんな、って、どんなだ?」

「もう、すっごい取り乱しちゃってさ。
 まどかに、何で契約したの、って叫びながら肩を揺さぶったり、
 まどかの目の前に自分のソウルジェムを置いて壊してくれって言ったり、銃を取り出して撃とうとしたり----」

 杏子は眉を顰める。箸が完全に止まった。

 「----そん時のほむらの様子を見ちゃったら、ほむらがいかに約束ってものを大切にしてるか、痛いほどに分かっちゃったからねぇ。
 まあ、何でソウルジェムを壊そうとしたかは、あたしには未だによく分かんないんだけどね。
 アンタは何でか分かる?」

 杏子にはその理由が分かった。
 だが、ほむらは自殺しようとしていたなどと言えるわけも無く、

「……いや、あたしにも分かんないな」

 と答えた。
 さやかはしばらく杏子の目を見つめた後、

「そっか……」

 とだけ返した。



369:1:2011/12/11(日) 11:11:38.15 ID:e+HHFXwS0

 さやかは気を取り直して食べようと、網の上の肉に箸をのばす。

「それにしてもさ、さやかはよく覚えてたな。飯奢ってくれるって約束。
 あたしはてっきり、もう忘れてると思ってたよ」

 杏子の言葉にさやかは箸を止め、踏ん反り返る。
 代わりにゆまの箸がのびて肉を掴み、塩をかけて食べる。

「ふふん、このさやかちゃんの記憶力を見くびってもらっちゃあ困るよ」

「へぇ」

「まあ実際にはゆまちゃんに、ご飯食べに行こうよ! って言われて思い出したんだけどね」

「ぷっ! なんだよ、そりゃ」

 さやかは大皿から肉をトングで掴み、網に乗せていく。
 肉が煙と焼ける音を出しながら焼けていく。

「そういうことって、ときどきない?
 それまでは忘れてたんだけど、何かのきっかけで思い出すっていうの」

「ん~、どうだろうなぁ……
 そもそも自分が今、何かを忘れてるかどうかなんて分からないからなぁ。
 でも、偶に、こう、頭ん中がもやもやっとした、見たことあるんだけど、それが何か思い出せないってのはあるな」



370:1:2011/12/11(日) 11:13:33.14 ID:e+HHFXwS0

 さやかは網の上の肉をひっくり返す。

「そういうの、何て言うんだっけ? 既視感(デジャヴ)?」

「そんな名前だったっけか。
 さやかはないか? デジャヴ」

 さやかは考えながら網の上に視線を向ける。
 ちょうど食べごろだった肉は、ゆまによってさらわれ、レモンをかけて食べられていた。

「ん……あたしはないなぁ。----杏子はあるの?」

 杏子は咀嚼しながら少し考える。

「あったよ」

「……ん? 過去形?」

「あたしらが出会って間もない頃かな。
 あれ、こいつの顔どこかで見たことあるな、でも名前とかまったく知らないし、っていうのが何度かあってさ。
 ワルプルギスの夜以降はそういうのはまったく無くなったんだけど----」

 杏子は心の中で、そうか、と呟いた。
 さやかに話しながら、その既視感の正体がほむらの時間遡行にあるのでは、という考えに至ったのだ。
 それならば何となく説明が付きそうだ。
 ただ、具体的にどういう理屈なのかは分からないが。



371:1:2011/12/11(日) 11:14:33.33 ID:e+HHFXwS0

「また話は変わるけど、マミは元気か? しばらく姿を見てないんだけど」

「ああ、マミさん? マミさんはね、魔法少女を引退したんだってさ」

「はあぁ?! 引退ぃぃ?!!」

 杏子は思わず大声を出し、立ち上がってしまった。
 周囲の目が杏子に集まる。
 杏子は、すいませんと謝りながら静かに座り、小声でさやかと話す。

「何だよ引退って。そんな話、聞いたことねぇぞ」

「あたしに言われても困るよ。マミさんがそう言ってたんだもん。
 受験で忙しいし、まどかも居るから、私は魔法少女を引退するわって」

「じゃあマミのソウルジェムは?! あいつ、ちゃんと浄化してんのか?!」

 杏子の慌てぶりに疑問を持ちつつも、さやかは答える。

「さあ? たぶん、もう放置してるんじゃないかな?
 ----杏子、何をそんなに慌ててるのさ」



372:1:2011/12/11(日) 11:15:40.33 ID:e+HHFXwS0

 杏子は舌打ちする。

「マミは今家か?!」

「そうだと思うけど----後で電話してみる?」

「いいや! 今すぐ頼む!」

「……分かったわよ、もう」

 いろいろ聞きたいことはあったが、杏子の気迫に圧され、素直にケータイを取り出してマミに電話を掛ける。
 数回の呼び出し音の後、マミに繋がる。

「あ、マミさん? 忙しいところすいません。今、家に居ます?
 ……そうですか。いや、実はですね、何か杏子が急にマミさんと連絡を取りたいって言い出して----」

「貸せ!!」

 杏子はさやかからケータイを奪い取る。

「おいマミ! お前、ちゃんと魔女を狩ってソウルジェムを浄化してるんだろうな!」

『何よ急に……。そんなことしてる暇があったら勉強よ、勉強。私の将来が掛かっているのよ』

「勉強だぁ?! そんなことしてる暇があったら魔女の一体でも狩って、ソウルジェムを浄化しろ!! テメエの将来が掛かってんだぞ! 
 いいか! 絶対にソウルジェムを濁らせるな! 今すぐ状態をチェックしろ!!」



373:1:2011/12/11(日) 11:16:45.26 ID:e+HHFXwS0

『そんなこと言われたって、私、もう手持ちのグリーフシードは一個も無いわよ?
 別に魔法が使えなくなったからって死ぬわけじゃ無いんだからいいじゃない。
 ----悪いけど、時間が惜しいわ。もう切るわよ』

「あ! おい待て!!」

 そう叫ぶも、ツー、ツー、と電話が切れた音だけが返ってきた。
 杏子の表情が引き攣る。

「あんのバカが!!」

 そして杏子は急に立ち上がった。

「おい、いつまで食ってんだ! 急いでマミん家に行くぞ!!」

「えぇ? ちょっと待ってよ。あたし、ほとんどお肉食べてな----」

「いいから行くぞ! 急げ!」

 杏子のただ事ではなさそうな雰囲気に、渋々といった感じでさやかも立ち上がる。

「ったく。着いたらちゃんと説明しなさいよね」

「……悪りいな、後で必ず詫びを入れるよ」



374:1:2011/12/11(日) 11:17:36.76 ID:e+HHFXwS0

*


 マミのマンションに着くや否や、杏子は呼び鈴も押さずに、

「マミ! どこだ!」

 と叫びながら玄関を乱暴に開けた。
 そして返事を待たずに靴を脱ぎ捨て、まずはリビングへと向かう。さやかとゆまも後に続く。
 リビングには、渋い顔をしたマミが居た。
 テーブルの前に座ったまま、顔だけを杏子に向ける。

「……ちょっと佐倉さん。貴女に常識というものは無いの?」

「常識ぃ? それならこの前、野良犬が喰ってんのを見たぜ。
 それよりもマミ、ソウルジェム見せろ」

 マミは怪訝そうな表情を見せる。

「さっきの電話でもソウルジェムについて言ってたわよね。一体どうしたのよ」

「グリーフシード一個やるから、まずは浄化しろ。話はそれからだ」

 杏子はポケットからグリーフシードを一個取り出すと、マミに手渡す。
 マミは渡されたグリーフシードと杏子の顔を、数度交互に見た。
 怪訝そうな表情が、さらに深まった。



375:1:2011/12/11(日) 11:18:40.23 ID:e+HHFXwS0

「貴女、本当に一体どうしちゃったの? 何か変なものでも食べた?」

「うっせーな。いいから早くしろよ」

「…………」

 マミはソウルジェムを取り出す。その輝きは失われ、濁り切る寸前であった。
 グリーフシードに穢れを移し終えると、マミは綺麗になったソウルジェムを杏子に見せる。

「ほら、これでいいのでしょう?」

「ああ。これからもちゃんと定期的に穢れを取っておけよ。絶対に濁らせるな。
 あたしの用はそれだけだ。邪魔したな」

「ちょっと待ちなさい」

 マミは、踵を返そうとする杏子の肩を掴んだ。

「一方的に捲し立てておいて、説明も無しに帰る気?」

 肩を掴む力は強く、話すまで絶対に放さないという意思を感じさせた。

「…………」



376:1:2011/12/11(日) 11:19:35.68 ID:e+HHFXwS0

 杏子は、マミに話すべきか隠し通すべきか、迷っていた。

 ほむらにはナイショにしろと言われている。
 アイツの体験談を聞く限りでは、この話は隠し通すべきだ。
 だが、このまま何も知らせなければ、マミは真剣にソウルジェムの浄化には取り組まないだろうな。
 サボりがちになり、そのままソウルジェムは濁りきり、マミは魔女になっちまう。
 それだけは何としても避けなきゃならねぇ。
 見知ったヤツだったものを狩るなんて、したくない。
 だからといって、安易に全部話してもいいのか?
 悲観して、ソウルジェムが濁るのが早くなるだけじゃないのか?
 いや、それよりも錯乱されるほうが厄介だ。
 撃たれるなんてまっぴらゴメンだ。



377:1:2011/12/11(日) 11:20:33.88 ID:e+HHFXwS0

 でも、ほむらの時と今では状況が違う。
 ほむらの話を聞く限りでは、当時は仲間内の関係がギクシャクしていて、酷い緊張状態にあったんだろう。
 そこに魔女化の話が真実だと分かって、緊張の糸がプッツンしちまったんだ。
 けれど、今は違う。
 多少の混乱はあるだろうけど、きっと真実を受け入れられるんじゃないか?
 今のあたしみたいに。
 ----そうだ。あたしだって大丈夫だったんだから、マミだってきっと大丈夫だ。
 マミはそんなヤワじゃない。
 キチンと話せば分かってくれるさ。
 魔女さえ狩っていれば、この先生きていくうえで何の問題も無いってことを----

 ほむら、悪りぃな。
 杏子はそう心の中で呟くと、マミに向き直った。



378:1:2011/12/11(日) 11:21:43.96 ID:e+HHFXwS0

*


 夜の街を、まどかは一人歩いていた。
 しばらく歩き回ったまどかは休憩しようと思い、公園のベンチに腰掛けた。
 ふぅ、とため息が漏れる。吐く息は白かった。

「今日も魔女や使い魔は居なかった。街は平和だね。
 もしかしたら、魔女はもう全部倒しちゃってて、どこにも居ないんじゃないかな?
 もしそうなら、私が巡回する意味ってあるのかな?
 ……ほむらちゃんはいつ帰ってくるんだろ。今日? 明日? それとも----」

 空を見上げる。
 雲の隙間から、星が一つ見えた。

 まどかは自分の頬を撫でて、ほむらのキスの感触を思い出しながら、こう思った。
 この夜空の下のどこかにほむらちゃんが居て、同じ星を見上げているのかな。
 ほむらちゃんに会いたいな。今、どこで何をしてるんだろう、と。



402:1:2012/01/04(水) 13:23:57.83 ID:SjtKh4Fw0

*


 さらに数日が経った。
 まどかがいつものように巡回していると、

「あれ? マミ、さん?」

 人気の少ない路地裏で、マミの後姿を発見した。
 マミはまどかに気づくと、

「……!! か、鹿目さん! こんなところで会うなんて、き、奇遇ね!」

 一瞬戸惑いながらも、振り返りながら、しかめ面から一転して笑顔を形作る。そして、

「最近調子はどうかしら?! あれからどれくらい魔女を倒したの?!
 たくさんグリーフシードをストックできてるかしら?!」

 少し慌てて喋りだした。
 そんなマミの様子に、まどかは首を傾げる。

「え、っと……。魔女と使い魔を一体ずつです。
 最初の頃と比べると、めっきり魔女は出なくなりました。
 今、この街は平和そのものですよ」



403:1:2012/01/04(水) 13:24:58.66 ID:SjtKh4Fw0

「そ、そのようね! 最近は原因不明の失踪や自殺なんて話は聞かないものね!
 それにしても魔女を一体だけ?! じゃあ手持ちのグリーフシードは?!」

「えっと、その時の魔女が落とした一個だけです。
 ----ソウルジェムって、何も魔法を使ってなくても、少しずつ濁っていくんですね。
 しばらく浄化してなかったら、けっこう穢れが溜まっててビックリしましたよ。
 でもグリーフシードが手に入らないから、なかなか浄化できないんですよね」

 そう言いながらまどかはソウルジェムを取り出す。
 まどかのソウルジェムの穢れは、半分以上溜まっていた。
 それを見たマミは目を見張った。

「だ、ダメよ!! 穢れを溜めたままにしては!!」

「え……?」

 マミは思わず声を張ってしまった。
 まどかは少し驚く。

「あ……、ごめんなさい。
 でも、その、いつ魔女を発見できるとも限らないわ。
 常に万全にしていないと危険よ」



404:1:2012/01/04(水) 13:25:58.09 ID:SjtKh4Fw0

「分かりました。これからは常に浄化しておくようにします」

 マミは少し安堵したように表情を緩め、ため息をついた。だが、

「そういえば、マミさんはどうしてここに?
 受験勉強の方は大丈夫なんですか?」

 受験という言葉を聞いた途端に、その表情が固まる。
 それを見たまどかは、聞いてはいけないことを聞いてしまったかな、と思った。

「……え、ええ、大丈夫よ。模試でもそれなりの結果が出たわ。
 目処もついたし、久しぶりに巡回しようと思って歩いてたのよ。
 私のことを心配してくれてありがとう。
 私は大丈夫だから、鹿目さんはもっと自分のことを考えなさい。
 それから、何か悩みごとがあったら、いつでも私に相談してちょうだい。
 私はいつでも鹿目さんの力になるわ」

 そう言いながらマミはニコッっと笑顔を向ける。
 よかった。やっぱりいつものマミさんだ。
 まどかは安堵する。
 同時に、まどかの中に、話がしたいという欲求が沸き起こる。
 マミさんなら、今の私の悩みを解決してくれるに違いない。

「あの、マミさん。その……」

「何かしら?」

「相談、したいことが……」

「……立ち話もなんだから、お茶でも飲みながら話しましょ?
 近くに美味しい紅茶を淹れてくれる店があるの」



405:1:2012/01/04(水) 13:26:57.86 ID:SjtKh4Fw0

*

 喫茶店に入り、まどかとマミは向かい合って座った。
 ティーセットを注文し、紅茶とケーキが運ばれてきた後、

「私のしたことって、正しかったのでしょうか?」

 まどかは若干俯きながら、話を切り出した。
 マミは少し思案した後に尋ねる。

「……それは、魔法少女の契約のこと?」

「そうです」

「…………」

 まどかからは見えないテーブルの下で、マミは自分の手を爪が食い込むほど強く握り締めた。
 だが、表情からは微塵もそのような様子を窺わせることはなかった。
 マミの変化に気づかないまま、まどかは語りだす。

「あの時は正しいって思ってて……。
 これで守ることが出来るんだって……。
 間違ってるかもなんて微塵も思って無くって……。
 でも今は----何が正しいのか、何が正しかったのか、分からなくなっちゃったんです。
 ほむらちゃんが言ってたことが----なんで契約しないでって言ってくれてたか、少しだけ----ほんの少しだけど、分かった気がするんです」



406:1:2012/01/04(水) 13:27:59.04 ID:SjtKh4Fw0

 マミはカップを手に取り、紅茶を一口啜り、静かに戻す。

「何があったの?」

「…………」

「私は、あの時の貴女の願いに嘘は無いと思っているわ。
 でも、今の貴女はそれに疑問を持っている。
 そうよね?」

「…………はい」

「それが言いづらいことなら無理にとは言わないけど、もしよければ話してもらえないかしら?
 私にできることなら、何でも力になるわよ」

 まどかは俯いたまま思案しているようだ。
 しばらくすると、ゆっくりと顔をあげ、マミと目を合わせる。
 その表情はひどく陰鬱そうだった。

「先ほども言いましたけど、あれから今日までの間に私のした事って、魔女と使い魔を一体ずつ倒しただけなんです。
 本当に、それだけなんです。他には何も出来てなくて……。
 これなら私がやらなくても、マミさんや杏子ちゃん、ゆまちゃんなら簡単に----それこそ片手間に退治しちゃえるんじゃないかって……
 守りたくて契約したのに、私、全然守れてないんじゃないかって……」

「…………」

「それと、これは私の勝手な想像なんですけど……私が契約しなかったら、ほむらちゃんはずっとこの街に居てくれてたんじゃないかなって思うんです。
 私が……約束を守っていれさえいれば……」

「…………」



407:1:2012/01/04(水) 13:28:56.54 ID:SjtKh4Fw0

「それと、実は、その、他の街の……だと思うんですが……魔法少女に襲われまして……」

「……他の街の魔法少女に? 大丈夫? 怪我しなかった?」

「はい、大丈夫です。何とか追い返しました。
 でも、驚きましたよ。背後からいきなりだったもので……」

「貴女が無事でよかったわ。
 でも、貴女の願いは、悪い魔法少女からも守る、じゃなかったかしら?
 これはまだ想定の範囲内のはずよ。
 ----まだ、何かあるのね?」

「……私が反撃したときに、その魔法少女が、死にたくないって呟いていたのが聞こえたんです。
 そしたら何だか、私のしてることって、ただの暴力なんじゃないかって思えてきちゃって……
 私、こんなことをするために魔法少女になったんじゃないのに……」

「それは違うわ。
 だって、貴女は襲われたのでしょう? 殺されそうになったのでしょう?
 暴力を振るったのは向こうの方。
 鹿目さんは自分の身を守るために仕方なく戦っただけ。
 これは正当防衛よ。
 最悪、こちらの反撃が相手に当たってそれで死んだとしても、貴女は何も悪くないわ」



408:1:2012/01/04(水) 13:29:59.76 ID:SjtKh4Fw0

 マミのはっきりとした、冷酷とも取れる言葉に、まどかは少したじろぐ。

「それにしても、背後からいきなり、ねぇ……
 その襲ってきた魔法少女の、何か----顔や特徴は覚えてる?」

「……すいません。はっきりとは覚えてないです。
 ただ、見たことのない人だったので、多分、他の街の魔法少女なんじゃないかな、と思います」

「他の街の、か……」

 マミは一旦ケーキへと視線を落とし、それを一切れ口に運び、紅茶を啜った。
 そしてカップを置くと、こう言った。

「もしまた襲ってきたら、その魔法少女を返り討ちにして、その子の持ってるグリーフシードを頂いちゃいましょう」

「…………え?」

 まどかは自分の耳を疑った。
 今、マミさんは何て言ったの?
 グリーフシードを頂く?
 それはつまり、相手の持ってるグリーフシードを奪うの?
 いやいやまさか!
 マミさんはそんなこと言わない!
 何かの間違い----そうだ、私の聞き間違い、勘違いだ。
 きっと私は、マミさんの言いたかったこととは違う意味で聞いてしまったに違いない。
 ちゃんと確認しなくちゃ----



409:1:2012/01/04(水) 13:30:56.32 ID:SjtKh4Fw0

「え、えっと……マミさん?
 その、私の聞き間違いでしょうけど、今、相手のグリーフシードを頂くって言いました?」

「……? ええ、言ったわよ」

 まどかの表情が曇る。
 一体どうして? 何を思ってマミさんはそんなことを……。
 まどかのそれを見て察したマミは、慌てて、そうじゃないわ、と言った。

「私はグリーフシードを取り上げてしまえば大人しくなるだろうと思ってそう言ったの。決して私利私欲の為に奪うわけではないわ」

「そ、そうですよね!
 すいませんでした。私ったら、早とちりしちゃって……」

 まどかも慌ててマミに頭を下げる。
 その時、

「いーや、それは全然早とちりじゃねぇよ。それであってる」

 マミの背後から杏子の声が聞こえてきた。
 マミは後ろを振り向く。
 杏子は歩み寄って、そのままマミの隣の席に座る。



410:1:2012/01/04(水) 13:32:00.10 ID:SjtKh4Fw0

 杏子の言葉に、まどかは少し眉を顰めていた。

「杏子ちゃん……? 早とちりじゃないって、どういうこと?」

「どうもこうも、そのままの意味さ。
 その襲ってきた奴を見つけたら、グリーフシードをブン捕っちまえって言ったんだ。
 もちろん全部だ。一個も残さずな」

「だ、ダメだよ! そんなの、強盗と一緒だよ!」
 
「さっきマミと、グリーフシードを取り上げるって話してたろ?」

「違うよ! グリーフシードを取り上げて、魔法を悪用できないように、って意味だよ!」

「そりゃあ、言ってることが違うだけで、やることは一緒だよ。
 ソイツが魔法を使えないようにするには、全部取り上げなくちゃいけないわけだからな」

「魔法が使えなくなったら、その子が魔法少女を続けられなくなっちゃうよ!」

「いいんだよ、それで。続けられなくさせちまえ」

「そしたらその子の縄張りの魔女が野放しになっちゃう!」

「あたしらが代わりにソイツの縄張りで狩ればいい」

 そこまで聞いて、まどかは思った。
 それはもしかして----

「----その子の縄張りを、奪うの?」



411:1:2012/01/04(水) 13:32:58.59 ID:SjtKh4Fw0

「そういうことになるな」

「ダメだよ! そんなの、絶対にダメ!!
 魔法少女は、魔女や使い魔から街の人達を守るために居るんだよ?!
 そんなことしたら----悪い魔法少女と何も変わらないよ!!」

 まどかはマミへと振り向く。

「そうですよねマミさん!」

 マミさんなら同意してくれるはず----そう思ってまどかはマミに振ったのだが、

「…………」

「……マミ、さん?」

 返ってきたのは沈黙だった。
 マミは目を伏せ、歯を食い縛り、それでも笑顔を形作ろうと頬を吊り上げる。
 それが不自然な笑顔として、マミの表情に表れた。



412:1:2012/01/04(水) 13:33:57.33 ID:SjtKh4Fw0

「さ、佐倉さん……? 貴女の言い分は分かるわ……。
 でも、もっとこう、言い方ってものがあるでしょう?」

 マミの声は、搾り出すかのようだった。
 対照的に杏子は、業を煮やしたのか、声を荒げる。

「何言ってんだ。言い方もクソもねぇよ。
 結局はそいつを潰して縄張りを頂いちまうことに変わりはねぇだろうが。
 言ってることが違ったって、やってることは一緒なんだよ。
 今更キレイごとぬかすな!
 もう、そんなこと気にしてる場合じゃねぇんだって!!」

 杏子の言葉は、まどかには余裕が無いように思えた。

「……なにがあったの?」

 まどかの声が、低く、重く、発せられた。
 マミと杏子の口論が止まる。
 今度はまどかが尋ねる番であった。



413:1:2012/01/04(水) 13:35:01.34 ID:SjtKh4Fw0

「マミさんも杏子ちゃんも、なんか、いつもと違うよ。
 一体どうしちゃったの?
 どうしてそんなこと言うの?」

 マミと杏子は、口を閉ざしたまま、答えない。

「私、こんなの嫌だよ。
 いつものマミさんと杏子ちゃんに戻ってよ!」

 そう言いながら、まどかはマミと杏子の目を真っ直ぐ見つめる。
 マミは----耐えかねたのか、視線を逸らす。
 杏子は----まどかの目を見つめ返し、正面から向き合う。

「じゃあ、本題に入ろうか」

「……本題?」

「ああ。そもそもあたしはアンタに話があって、ここへ来たんだ」

「私に?」

「そう。アンタにも知っておいてほしいことがあってな」

 マミは、はっ、っとして杏子に詰め寄る。

「佐倉さん! それは----」

「うっせぇな。さっきも言ったろ?
 もう、そんなこと気にしてる場合じゃねぇんだって。
 早く何か手を打たないと、取り返しがつかなくなる」

 マミのこの反応から、マミはもう知っていて、尚且つ重大な話であることが、まどかにも想像できた。
 まどかは少し身構える。
 杏子はまどかに向き直り、口を開いた。



414:1:2012/01/04(水) 13:35:58.25 ID:SjtKh4Fw0

*


「こんなの、絶対おかしいよ!!」

 杏子からソウルジェムについての説明、そして魔女が極端に減少しているという話を聞き終わると、まどかは立ち上がり、そう叫んだ。
 周囲の客から非難の目が向けられるも、気にする様子は無い。
 いや、気にしている余裕など無かった。
 まどかの目は見開かれ、固く握られた拳は小刻みに震えている。

「でも、これは本当のことだ」

「何か証拠でもあるの?!」

「証拠って呼べるほどのモンは無いね。
 あたし自身も、実際に見たわけじゃないしな」

「じゃあ----」

「でもな、これはアイツから----ほむらから聞いた話だ」

「……ほむらちゃんから……?」

「そうだ」



415:1:2012/01/04(水) 13:36:57.58 ID:SjtKh4Fw0

 ほむらの名が出た途端、まどかの脳裏に、ほむらと共に過ごした一ヶ月間が浮かび上がってきた。

 転校初日の、意味の分からなかった忠告。
 魔法少女、そして魔女のこと。
 織莉子による襲撃。
 契約時の、ほむらの慟哭。

 それらの記憶と、今聞いたばかりのソウルジェムの秘密----魂はこの宝石に入れられてしまったということと、濁りきったら魔女になってしまうこと----が重なった。
 そしてまどかは理解した。
 契約したことを告げた、あの時のほむらの言葉の意味が。


『お願い……まどかの手で、私のソウルジェムを壊して……』


 ほむらは、自分の命を絶とうとしていたのだ。
 しかも、私が原因で、だ。
 最後の望みとして私の手で死ぬことを選び、私はそれを拒否したためそれすら叶わず、失意の中で自決しようとしたのだ。



416:1:2012/01/04(水) 13:37:57.84 ID:SjtKh4Fw0

「……はぁ……はぁ…はぁ、はぁ、はぁはっはっはっはっはっ!!」

「鹿目さん……?」

「おい、どうした?」

 突然、まどかの呼吸が荒くなってきた。
 両手で顔を覆う。
 体がふらつき、倒れるように席に座る。
 だが一向に呼吸の苦しさは解消されない。

 まどかは、過呼吸状態に陥っていた。

 二人とも、どう対処していいか分からず、ただ見ていることしか出来なかった。

「……大丈夫、なの?」

「救急車、呼ぶか?」

「……はぁ……はぁ……う、ううん。だ、大丈夫----何でも、ない、です」

 しばらくして呼吸が落ち着き始めると、まどかはまたしても立ち上がった。
 そしてテーブルの上にお金を置くと、

「すいません……。今日はこれで失礼します……」

 と言い残してまどかは店を出て行った。

「----はっ! ちょ、ちょっと待って!」

 軽い放心状態だったマミが我に返ると、座ったままの杏子を置いて、まどかの後を追った。
 だが、店を出て辺りを見渡しても、まどかの姿を見つけることは出来なかった。
 マミは無意識に親指の爪を噛んでいた。



417:1:2012/01/04(水) 13:39:00.82 ID:SjtKh4Fw0

 杏子は追いかけなかった。
 例え追いついても何て声を掛ければいいか、分からなかったからだ。
 それよりも目の前の問題をどうにかしなければと、まどかに説明している間も、ずっと思案していた。

 甘かった----
 マミから、最近キュゥべえは契約を取りに行っていないことと、魔女が減っているという話を聞いた杏子はそう思った。
 魔女を狩ってさえいれば、何も問題は無いと思っていた。
 だが、肝心の魔女が、どこにもいない。
 使い魔さえいない。
 魔女になりそうな、新規の魔法少女もいない。
 どうすればいい?
 どうすればこの状況を打開できる?

 この数日間、必死になって考えたが、答えは出ない。
 時間は待ってくれない。そうこうしている間にも、ソウルジェムは濁っていくのだ。
 仕方なく、杏子はこの問題を保留することにした。
 もちろん、解決策を考えることを完全にやめたわけではない。
 だがこのままでは考えているだけで終わってしまう。
 まずは今を凌がなくてはならない。
 明日、生きる為に。



418:1:2012/01/04(水) 13:41:00.60 ID:SjtKh4Fw0

*


 数日前のこと。

 これは全て、悪い夢なのではないか----
 マミは、杏子からソウルジェムの真実を告げられたとき、こう思った。
 私達がいずれ魔女となり、人々を襲う?
 この街の人々の安全を守ってきた私が、この街の人々を脅かす存在になる?
 そんな馬鹿な?!!
 じゃあ、鹿目さんの契約を手助けした私は----魔女を増やすことに手を貸してしまったというのか?!
 ----そうか。そうだったんだ。今、はっきりと分かった。
 暁美さんはこれを知っていたからこそ、鹿目さんが魔法少女になることに反対していたんだ。

 私が暁美さんの意図に気づいていれば----
 私が美樹さんの意見を聞いていれば----
 私が鹿目さんの契約を止めていれば----
 私が----
 私は----鹿目さんに、人を『殺させる』ようなことは無かったんだ。

 私は、魔女になる前に、責任を取る為に、死ぬべきなのだろうか……



419:1:2012/01/04(水) 13:41:57.15 ID:SjtKh4Fw0

 ----いいや、絶対にダメだ!

 鹿目さんを魔女になんかにさせない!
 私も魔女になんかならない!
 死んでる場合じゃない!!

 これは、私の責任だ。
 鹿目さんを魔法少女にしてしまった、私の責任だ。
 私が絶対に何とかしなければならない。
 彼女を絶対に魔女にしてはならない。
 そう、どんな手段を用いてもだ。
 例え、この手を血で汚すことになったとしてもだ。

 まずやることは、魔女狩りの縄張りの拡大だ。
 今のままでは、グリーフシードが絶対的に足りない。
 リスクはあるだろうが、他の街の縄張りを奪い、魔女を一体でも多く狩らなくてはならない。



420:1:2012/01/04(水) 13:43:00.23 ID:SjtKh4Fw0

 だが、そうなってくると、もう勉強している時間なんて無い。
 今のままでは、入試を通らない可能性が高い。
 ----こうなったら仕方が無い。
 試験中に魔法を使うしかないだろう。
 魔法を使えばカンニングでも何でも思いのままだろう。
 それで何としても合格するのだ。

 ----奪う。
 ----カンニング。
 再度マミの脳裏にその単語が浮かび上がった。
 そして目が見開かれ、ギリリッと歯軋りが鳴り、胃が締め付けられるような感覚に襲われた。

 正義の魔法少女だった私が、魔法を、不正に使うのか……。
 でも、これは自業自得というものだ。絶対に----

 ----それを行わなければならない。
 ----責任は取らなければならない。
 ----償いはしなければならない。

 たとえ犬畜生に成り下がったとしても、やり遂げなければならない。
 いや、やり遂げるんだ! 絶対にッ!!



421:1:2012/01/04(水) 13:43:58.98 ID:SjtKh4Fw0

*


 喫茶店を飛び出したまどかは、あても無く街を走っていた。

 今、分かった。
 やっと、分かった。
 今更、分かった。
 何故ほむらちゃんが忠告してくれていたのか、今になってようやく分かってきた。
 私を、魔法少女のシステムという、負の----暴力の連鎖に巻き込まないように。
 魔女を殺した私が、魔女になって殺されないように。
 私なんかを守るために、そんなことのために、命を賭けてくれていたんだ----
 いや、それだけじゃないかも知れない。
 まだ何か理由があるかも知れない。
 でも----それを確かめるには、ほむらちゃんから直接聞くしかない。
 ほむらちゃんに会いたい。
 会って、話がしたい。
 それで----ん? あ、あれ?----

 まどかは急に走るのをやめた。
 呼吸は荒く、心臓もバクバクと脈打っている。
 だが、その鼓動は走っていたときよりも早く、そして、ぶわっ、と全身の毛穴という毛穴から汗が出てきた。
 この時のまどかは、一つ重大な過ちを犯していることに気がついた。



422:1:2012/01/04(水) 13:44:56.84 ID:SjtKh4Fw0

 ----そういえば、私、ほむらちゃんに約束破ったこと、謝ってないや……。


「……ぜぇ……ぜぇ…はぁ、はぁ、はぁはっはっはっはっ!」

 まどかはまたしても息苦しさを覚え、足元がふらつきだす。
 とにかく一旦どこかで休もうと思い、路地裏に入る。
 そして人気のない場所まで何とか歩くと、壁にもたれかかった。
 だが、一向に息苦しさは解消されない。
 それどころか、頭がボーっとしてきて、さらに目眩が起こりだした。
 まどかは体を支えていることすら困難になり、無意識に口を手で押さえ、その場に座り込む。
 そこに、

「えいやッッ!」

 まどか目掛けてポリバケツが二個、蹴り飛ばされてきた。
 まどかはそれに気がつかず、一個がそのまま激突した。バランスを崩し、地に倒れる。
 衝突の衝撃で、ポリバケツの中身が散乱した。
 もう一個のポリバケツは空だったらしく、明後日の方向へと飛んでいくと、カランと軽い音を立てて転がっていった。



423:1:2012/01/04(水) 13:45:57.98 ID:SjtKh4Fw0

「……あれぇ?」

 一人の少女が、頬を掻きながら姿を現した。
 その少女は、黒くて鍔の広い帽子を被り、黒いマントを棚引かせ、杖を持っていた。どう見ても魔法少女だ。
 この程度は軽く避けるだろうと思っていたポリバケツを蹴り飛ばしてきたこの魔法少女は、予想外の展開に、二の足を踏んだ。
 もしかしたら人違いなんじゃないか。そう考え始めた時だった。

「…………」

 まどかがゆら~っと立ち上がった。そして今しがた不意打ちを仕掛けてきた魔法少女を見る。
 見覚えは無い。
 やはりこの少女も、他の街の魔法少女なのだろうと判断した。
 だが、この間の魔法少女ではない。この街に複数の魔法少女が侵入しているのだろうか。

 まどかは魔法少女に変身する。
 それを見た黒マントの魔法少女は、人違いではなかったことを確信し、臨戦態勢を取る。
 まどかが尋ねる。

「……なんで、こんなこと、するの……?」

「えへっ。そんなの決まってるじゃん」



424:1:2012/01/04(水) 13:47:02.30 ID:SjtKh4Fw0

 魔法少女は杖の先端をまどかに向ける。

「あんたをブッ殺して、この街をわたしのモンにするためさ!
 最近、グリーフシードが手に入りにくくなっちゃったからねぇ!
 こうなったら、縄張り広げるしかないじゃん?!
 わたしはこのまま引退なんかする気はないよ!
 もっともっと魔法を使っていたい! まだまだ欲しい物がある! 全然遊び足りない!」

「……魔法を、そんな事に使ってるの?」

「そんな事って……人聞きが悪いなぁ~。
 わたしは自分の為に使ってるだけさ。そしてこれからもね。
 魔法ってさ、便利だよね~。
 かわいいヌイグルミも、おいしいお菓子も、たくさんのお金も、その気になれば学校の成績でさえ手に入る!
 こんな便利な力、失くすわけにはいかないね!
 あんたに恨みは無いけど、死んでもらうよ!!」

 魔法少女はそう叫ぶと、まどかに襲い掛かるべく、駆けだす。
 まどかは足元に転がっていたポリバケツを起こすと、歩みだす。



425:1:2012/01/04(水) 13:48:18.02 ID:SjtKh4Fw0

 そして、まどかは転がったままのポリバケツの蓋を手に取って閉めると、中身の詰まったポリバケツ二個を所定の位置へと片付ける。
 その間、ブツブツと呟いていた。

「ほむらちゃん、ほむらちゃん、ほむらちゃん----
 どこ? 今、どこに居るの?
 謝らなきゃ----私、ほむらちゃんに謝らなきゃ----」

 薄暗い路地裏に、ポツポツと雨が降りだした。雨粒がまどかの顔を叩く。
 だが、まどかは気にも留めず、当ても無くふらふらと歩き出した。



473:1:2012/01/29(日) 11:53:22.37 ID:6kqct4zw0

*


 まどかは夢を見ていた。
 それは、まるで童話の世界に迷い込んだかのような内容の夢でだった。
 その夢の中では、何故かまどかは屋敷の末子で、灰を被り、使用人のごとく働いていた----のではなく、姿見の前で舞踏会へ着ていく為のドレスを選んでいた。
 やがてドレスが決まると、身支度を整え、カボチャの馬車に乗って舞踏会へ行く。
 そして、その容姿と装飾品と華麗な踊りにより、周りの注目を一身に集めた。
 だが、肝心の王子様が----ほむらが、まどかを見ていなかった。
 まどかはほむらに向かって言う。

 ----どう? 私、変われたかな? 灰を被ってた頃とは違ってキレイ?

 すると、ほむらはまどかを一瞥し、

 ----ええ、そうね。キレイだわ。

 とだけ言うと踵を返して歩き出した。
 まどかは、ほむらの予想外の反応に驚き、慌てて追いかける。

 ----私を見てよ。こんなに立派で華麗でキレイになったんだよ。

 まどかはそうせがんだ。
 ほむらは、いつの間にか手に持っていたガラスの靴を見せながら言う。

 ----ごめんなさいね。私はそろそろ、もう一度このガラスの靴の持ち主を探しに行かなくちゃならないの。

 ほむらは笑顔をまどかに向ける。そして、

 ----舞踏会はまだまだ続くから楽しんでいってね。

 と言い残し、会場を後にした。
 まどかは音楽が垂れ流されている誰一人居ない会場に、一人だけぽつんと取り残された。
 だが諦めきれず、悪足掻きと分かっていてもなお、大声で叫ぶ。



474:1:2012/01/29(日) 11:54:10.42 ID:6kqct4zw0

*


「待ってよほむらちゃん!!」

 まどかが目を開けると、そこには見慣れた自室の天井が映る。部屋は暗かった。

「……はぁ……夢、か……」

 頭だけ横に動かして目覚まし時計を見る。
 時計の針は時刻が深夜であることを示していた。
 布団を被りなおして寝ようとするも、目が完全に覚めてしまっていて、眠れそうになかった。

「…………水……」

 先ほどの夢のせいだろうか----
 喉の渇きを感じたまどかは、布団から出て、台所へと向かう。
 一階に降り、リビングへと入ると、

「どうしたまどか。何か怖い夢でも見たのか?」

 そこには母親である鹿目詢子が、遅めの夕食を取っていた。
 テーブルの上には、唐揚げや卵焼き等の、酒のツマミになりそうな料理とジョッキ一杯のトマトジュースがあった。
 酒はもう飲み終わったのだろうか----ビールの空き缶とトマトジュースのパックが端に除けられていた。



475:1:2012/01/29(日) 11:55:12.72 ID:6kqct4zw0

「……うん、そんなとこ」

 まどかは返事をしつつコップを手に取り、それに水を注ぐと、一気に飲み干す。
 そしてそのまま自室に戻ろうとするまどかに、

「ちょいと待ちな」

 詢子が背後から声を掛ける。
 まどかはその声に、足を止める。

「ここんところずっと帰りが遅いらしいが、どこで何やってるんだ?
 今日なんか、この雨の中ずぶ濡れで帰って来たらしいじゃねえか」

「…………」

「まあ、門限がどうとか言うつもりはないけどよ。
 最近この街も物騒になってきたからな。
 遅くなるなら家に連絡くらい入れろ」

「うん……。心配かけさせちゃってごめんなさい……」

「…………」

 まどかのその言葉に、詢子は飲みかけていたジョッキを止め、ゆっくりテーブルに戻す。

「なあまどか。何に悩んでんだ?」



476:1:2012/01/29(日) 11:56:11.75 ID:6kqct4zw0

「……え?」

 まどかは驚き、思わず振り返った。
 今の会話の流れで、悩んでいることを悟られるような言動があっただろうか?

「もう中二にもなったんだ。悩みの一つや二つあるだろうし、それを恥ずかしくて話せないってのも分かる。
 でもな、これでもあたしはテメェの親なんだ。
 いつでもいい。遠慮なく頼ってくれ。もうどうしようもない、って事になる前にな」

「……うん。分かったよママ」

 そうは言ったものの、魔法少女のことを相談するわけにはいかない。
 まず信じないだろうし、仮に信じたとしても----いや、きっと信じてくれるんじゃないかな。
 普通の人なら、何を馬鹿なこと言ってんだい、と言うだろうけど、ママなら笑い飛ばしたりはしないだろう。
 だが、何から話せばいいのか、何を話せばいいのか----
 ----そうだ。魔法少女のことを直接じゃなくて----

「……ママ。一つだけ、聞いてもいいかな?」

「おう。何だ」

「あのね、もしも----もしもだよ?
 もしも、他人を殺すか陥れるかしないと自分が死んじゃう、それも時間が経ったらまた他人を殺さないと死んじゃうって状況になったら、ママならどうする?」



477:1:2012/01/29(日) 11:57:20.91 ID:6kqct4zw0

「……ん~。そりゃあ、自分が助かるように行動するだろうな」

「じゃあさ。その他人がどんどん減っていったら?」

 詢子は、ふっ、と小さく吹く。

「何だか、無人島で極限状態のサバイバルやってるみたいな話だな。
 他人を攻撃する理由は食料の奪い合いかい?」

「……そうだね。そんなカンジ」

「それなら話は違ってくるな。
 まずは生存者集めて、話し合って脱出を計る。
 それが無理なら、協力し合って食料を増やす----野菜を育てたり漁をする。
 とにかく、奪い合いなんてやってる場合じゃないってのをまず認識して----他のヤツにも認識してもらわないとダメだな。
 そんなことやってたら、すぐに食料を食い尽くしちまって、あっという間に全滅だってな」

 全滅。その言葉を聴いたまどかの脳裏に、地に伏す魔法少女達の姿が想像された。
 首を引き裂かれたマミ。
 剣で滅多刺しにされた杏子。
 手足がおかしな方向に曲がっているゆま。
 そして、何者かに長い黒髪をつかまれ、瞳には何も写してなく、口から血が垂れている、首から下がなくなった----



478:1:2012/01/29(日) 11:58:16.18 ID:6kqct4zw0

 まどかは小さく頭を振り、嫌な想像を頭から追い出す。

「それじゃあ、もしその無人島が断崖絶壁の岩の上みたいなところだったら?」

 詢子は首を傾げる。

「なんだい? やたらと食い下がるじゃないか」

 まどかは、はっ、と我に返る。
 軽く、それとなく聞くつもりが、かなり深く話してしまった気がする。

「まっ、もしそんな状況になったら、流石にどうしようもないな。なら----」

「……なら?」

 詢子の話は続いている。
 何か解決策があるのだろうか。この絶望的な状況をひっくり返す策が----
 まどかはゴクリと唾を飲み、次の言葉を待つ。
 そして詢子の答えは、



479:1:2012/01/29(日) 11:59:12.43 ID:6kqct4zw0

「そういう状況にならないようにするかな。
 そんな、足を踏み入れたら詰みが確定している無人島には絶対に近づかない。
 なったらアウトなんだから、ならないよう注意して予防するしかないだろうな」

 まどかの期待するようなものではなかった。
 今、まどかが置かれている状況は、詢子の言う『足を踏み入れたら詰みが確定している無人島』へ既に足を踏み入れてしまっている状態なのだ。
 知りたいのは、そこでの対処方法であり、予防方法ではない。

「じゃあ、もしそういう状況になっちゃったら?」

 詢子は一瞬だけ、目を見開いて唇の片端を引き攣らせた。そして手に持ったままのジョッキを半分まで呷る。
 まどかはしつこく聞きすぎて不審がられてしまったかと思い、質問を撤回しようと口を開く。
 だがそれより先に詢子がまどかの目を見て話し出す。

「そうなっちまったら----いや、そうなっても、考えることはやめないだろうな。そんで、自分を見失わないようにする。
 例えくたばるのが確定してても、その時その瞬間までは自分でいられるように。
 錯乱して暴れたり自殺なんてのは絶対ダメだ。
 最後の時までするべきことをして、そして足掻いて足掻いて足掻き続けるんだ」



480:1:2012/01/29(日) 12:00:15.58 ID:6kqct4zw0

 言い終わると詢子はまどかに笑みを向ける。

「あたしの考えとしてはこんなところかな。
 まあ、まどかの期待してた答えじゃなかったかもしれないけど----」

「ううん、そんなことないよ。
 ありがとう、ママ。こんな訳分かんない質問に答えてくれて」

 まどかはおやすみなさいと言いながらリビングを後にしようとする。

「寝れそうかい?
 もうパッチリ目が覚めちまってるんじゃないか?」

 言われてみれば、確かに、このまま布団に入っても寝付けなさそうだった。
 詢子はトマトジュースが半分残っているジョッキを持ち、

「こいつを一口だけ飲んでみな。少しは寝付きがよくなんだろ」

 まどかの傍まで来て、ジョッキを渡す。
 まどかは疑問に思いながらも一口飲む。

「それじゃ、おやすみなさい」

 そして二階へ上がり、フラフラとした足取りで自室へ入ると、ベットの上へと倒れた。
 朝になり、目覚ましが鳴るまで、気を失ったように眠っていた。
 確かに寝付きは良くなった。
 朝、疑問に思い聞いてみると、あのジョッキの中身は唯のトマトジュースではなく、ビールとのカクテルだったらしい。
 子供に酒を飲ませるなんて! と、朝から詢子はまどかの父親である知久にこってり絞られたのであった。



481:1:2012/01/29(日) 12:01:16.84 ID:6kqct4zw0

*


 その日の夕方。
 まどかは街を巡回しながら考え事をしていた。
 
『----最後の時までするべきことをして----』

 詢子の言葉が、頭から離れない。
 思い起こされるたびに、自分のするべきこととは何かを考える。
 真っ先に浮かんだのは、魔女や使い魔を狩ること。
 これは間違いないはず。
 何故なら、このために魔法少女になったのだから。
 だがそう考えるたびに違和感が込みあがってくる。
 もしかしたら違うんじゃないか。もっと別の答えがあるんじゃないか。
 そう考え、また思考するのだが、結局同じ結論に行き着く。
 そうして延々と同じことを考える、思考のループに嵌っていた。

 ----そうだ!

 この時まどかに、思考のループを脱しそうな天啓が降りてきた。



482:1:2012/01/29(日) 12:02:17.37 ID:6kqct4zw0

 ----私ったら、いつの間にか死ぬことを前提で考えてたよ!!
 ダメだよそんな後ろ向きじゃ! ママも言ってたじゃん! 最後まで足掻くんだ!!

 そう自分に言い聞かせるように繰り返し思考する。
 だが、まだ違和感は消えない。
 これじゃない。まだ何か違う気がする。
 これは違うんだ----でも無視もできない。というか、目の前に広がる最大の問題だ。

 そう、無人島の例え話でいうところの、食料問題だ。
 食料の栽培。
 それは現実に置き換えると、グリーフシードの----いや、魔女の栽培にあたる。
 使い魔に人々を差し出し、喰わせ、魔女になったら刈る。それしかない。

 そこまで考えた時点で、まどかはこれ以上矛盾から目を背けることに、限界を感じた。

 魔女を倒す私が、魔女を増やす?
 街の人達を守るために、街の人達を犠牲にする?
 こんなの、本末転倒じゃん!!
 でも----それ以外に生き延びる術が、ない。
 まどかは唇を噛む。



483:1:2012/01/29(日) 12:03:17.62 ID:6kqct4zw0

 ああ、こんな時、ほむらちゃんが居てくれたなら----きっと、髪をかき上げながら「こんなの簡単よ」って言って、あっさりと解決してくれただろうな。
 例えそうでなくても、一緒に居てくれるだけで、心強かっただろうな。

「ほむらちゃん……どこに居るの……?」

 一旦足を止め、空を見上げながら、そう小さく呟く。

 まどかはかつて、担任の教師にほむらの行方を尋ねたことがあった。
 だが、返ってきたのは未だ行方不明ということだけだった。
 警察にも失踪届け出がされ、捜索が行われているにもかかわらず、小さな手がかりすら見つけられずにいるらしい。
 最近の見滝原では同年代の少女が行方不明になったり、死体で発見されたりといった事件が続いている為、ほむらも何かしらの事件に巻き込まれたのでは----というのが一般的な認識であった。

 ほむらちゃんを探しに行きたい。でも、どこを探したらいいのか----



484:1:2012/01/29(日) 12:04:27.06 ID:6kqct4zw0

「……ん? あ、あれ? これって……」

 まどかは、自身のソウルジェムが何かに反応していることに気づき、また足を止めた。
 物思いに耽っていたせいか、それとも随分と間が開いてしまって勘が鈍っているのか----まどかは、ソウルジェムが魔女か使い魔の魔力を感知しているのだという考えへ至るのに、数秒かかった。

 久しぶり。本当に久しぶりだ。不謹慎だが、心が躍る。
 しばらく感じてなかった、『誰かの役に立てる』という感覚。
 これだけしか取り柄の無い私が、唯一、誰かの為にできること。

 ----さあ、魔女狩りの時間だ。

「……あっちだね」

 行こう。
 すぐ行こう。
 今すぐ行こう。
 きっと、放置すれば魔女はどんどん増えて、グリーフシードをいっぱい落として、私はもう少しだけ生きることができるだろう。
 でも----やっぱり、私に他人を犠牲にしてまで生きる価値は無い。
 魔女や使い魔を倒すことは、そんな私に与えられた、唯一の役割なんだ。
 私に出来ることは、これしかないんだから。
 だから、やるんだ。
 どんな結果になろうと、最後まで。



485:1:2012/01/29(日) 12:05:18.73 ID:6kqct4zw0

*

 ソウルジェムの反応に従って歩いていくと、ショッピングモール内部の工事現場にたどり着いた。
 人気は無く、ところどころ鉄骨がむき出しになっている。
 そして目の前には、

「魔女の結界……あった……」

 使い魔のものとは違い、安定した結界があった。
 まどかは魔法少女に変身すると、手馴れた様子で結界に亀裂を入れ、中へと足を踏み入れる。

 結界内部は、厳つい医療器具と甘い匂いのお菓子が混在する、奇妙な空間だった。
 病院を思わせる通路には七色の錠剤と飴の雨が降り、巨大なホールケーキには赤い注射器と苺が刺さり、壁や何かの医療機器には白い包帯と生クリームがべっとりと垂れていた。
 そして、

「……いっぱい、いるね……」

 忙しそうに菓子を運ぶ、大量の使い魔たち。
 まどかが一歩前に出る。すると足の裏に何か、ぶにゅ、としたものを踏んづけた感触が伝わってきた。
 足元を見ると薬品のチューブがあり、踏んだはずみで中身が飛び出ていた。
 中身は緑色で、メロンソーダの匂いを発していた。



486:1:2012/01/29(日) 12:06:11.77 ID:6kqct4zw0

「……!!」

 その匂いをまどかが認識したのと同時に、使い魔たちが一斉にまどかへ振り返る。
 おそらく、使い魔たちも匂いに反応したのだ。
 まどかは左手に弓を、右手の指の間に三本の矢を、それぞれ持った。
 そして弓を構え、一本目の矢を弦に掛けて引き、狙いを定める。
 使い魔たちが集団で固まって襲い掛かってきた。

「えいっ!」

 まどかは冷静に、撃ち放つ。
 放たれた矢は分裂し、集団の前衛を撃ち抜く。
 撃ち漏れた二匹が跳びかかって来た。

「やっ!」

 まどかは慌てることなく、一匹目を左横蹴りで、二匹目を右後ろ回し蹴りで撃退する。
 背後から使い魔たちの別集団が、正面から一瞬遅れて第二陣が、突進してくる。
 まどかは蹴りの勢いそのままに、右足を軸にして深く腰を落としながら反転し、同時に二本目の矢を引き、照準と使い魔の集団が交わった瞬間に撃ち放つ。
 矢は分裂し、背後からの集団を全て撃ち抜いた。
 正面からの集団が、まどかの背後に跳びかかって来るのと同時に、

「とうっ!」

 まどかは前へ宙返りする。
 そして宙で三本目の矢を引くと、使い魔たちへと撃ち放つ。
 上下反転した視界には、矢が全て命中する様子が映った。



487:1:2012/01/29(日) 12:07:15.92 ID:6kqct4zw0

 キレイに着地を決めると、辺りを見渡す。
 もうこの近辺には使い魔はいないようだ。

「……ふぅ……」

 まどかは思わずため息をついた。
 体は魔女が減少する以前のように動くことができた。
 だが、当時のような、先ほどまで期待していた爽快感は、得ることができなかった。
 得たのは何ともいえない疲労感だけ。
 何だか胸の奥がモヤモヤする。
 以前の私ならこう思った----楽しい。私、今、生きてる。生きてるんだ、と。
 でも今は----何だかつまらない。見てほしい人に見てもらえていないのに、たった一人で浮かれて踊ってるのには、もう飽きた。

 さっさと終わらそう。
 私は早く、ほむらちゃんを探す術を考えなくちゃならないんだから。
 余計なことで悩んでる暇なんてないんだから。

 そう自分に言い聞かせることで気持ちを切り替え、結界の奥へと進んでいく。



488:1:2012/01/29(日) 12:08:12.91 ID:6kqct4zw0

 最深部と思われる場所は、広場のように開けていた。
 ケーキや菓子類の形をした、まどかの背よりも高い、巨大なオブジェが所狭しと転がっている。
 そして広場の中央には足の長いテーブルとイスがあり、テーブルの上に小さなヌイグルミがあった。
 しばらく見つめていると、そのヌイグルミの口がモグモグと動いていることに気がついた。

「もしかして、あれが魔女?」

 魔女はまどかのことを気にすることなく、テーブルから飛び降りると、近くのケーキや菓子を手に取り、黙々と口に運ぶ。
 見た目だけならとても弱そうだ。
 だが、それだけで判断してはダメだ。
 一瞬の油断が命取りだ。
 強弱関係なく、どんな魔女が相手でも、そこは変わらない。

 まどかは魔女との距離を保ったまま、弓を構え、狙いを定め、矢を放った。
 矢は真っ直ぐ魔女へと飛んでいき、何の抵抗もなく終わる----はずだった。

 突如、パァン、という銃声が聞こえたかと思うと、まどかの矢が軌道を変え、魔女の横を過ぎ、その背後の巨大ケーキを粉砕した。



489:1:2012/01/29(日) 12:09:13.53 ID:6kqct4zw0

「……え?……」

 まどかは矢が『外された』ことに驚いた。
 そんなはずは無い。だって、さっきの銃声----いや、マスケット銃の発砲音は----

「鹿目さん……。止めてちょうだい……」

 まどかは発砲音の方へゆっくりと振り返る。
 そこには銃口から煙を上げるマスケット銃を持った、マミがいた。マミは今しがた撃った銃を捨て、新しい銃を手に取る。

 マミさんが、そんな----何で?! 何で魔女を庇うの?!!

「マミさん! 何でですか! 何で----」

「この魔女はね、私達が生きる為の、最後の希望なの」

 ……生きる為の? まさか----

「----まさかマミさん、わざと魔女を孵化させたんじゃ……」

 マミは笑顔を向ける。ただし、今にも泣き出しそうな笑顔だった。

「ええ、そうよ。
 最初は縄張りを広げようと思ってたのだけれど、それだとやっぱり効率が良くないのよね。
 どうしたらいいか考えてたら、ふと以前佐倉さんから貰ったグリーフシードが目に入ったの。
 その時にね、思い出したの。
 グリーフシードに限界を超えて穢れを吸い取らせたら、魔女になることを。
 孵化には成功したから、後はここの使い魔が成長して、魔女になるのを待つだけ。
 ……安心してちょうだい。魔女に、なったら、ちゃんと鹿目さんにも、か、狩らせてあげるから……」

 マミの目尻に涙が溜まっていた。
 本心から魔女を増やすことを良しと思っているわけではないことを、まどかは理解した。



490:1:2012/01/29(日) 12:10:17.50 ID:6kqct4zw0

「マミさん……もう止めてください……。
 本当はこんな方法、納得いってないんですよね? 今のマミさん、とても辛そうです」

「…………」

「もっと別の方法を考えましょうよ!
 さやかちゃんや杏子ちゃん、ゆまちゃんたちも呼んで、皆で考えれば何かいい案が浮かぶかもしれないじゃないですか!
 こんなの、マミさんらしくないですよ!」

「……ダメなのよ……」

「え……?」

「何度も考えて、何度も話し合って、考えて、考えて、考えて出た答えがこれなの。
 他に選択肢は無いの……」

「そんな……」

「私は、死にたくない。助かりたい。生きたい! それが私の最初の願い。
 その為なら、どんな手段だって使うわ!」



491:1:2012/01/29(日) 12:11:30.94 ID:6kqct4zw0

 マミはマスケット銃の銃口をまどかへ向ける。
 まどかは、

「…………マミ、さん……」

 少し俯き、悲しそうな表情を浮かべる。
 そして、マミに背を向け、魔女の方へと歩みだす。

「……!! か、鹿目さん?! 一体何のつもり?!」

「あの魔女を、倒します」

「だ、ダメよ! 私の話を聞いてなかったの?!
 あの子の使い魔がグリーフシードを孕むまで待って!!」

「でも、それまでに一体何人の犠牲者がでるんですか?
 そんなの、私は見過ごせません」

 まどかは歩みを止めない。
 マミの、銃を持つ手が震える。
 引き金に指が掛かった。その指先も震え、トリガーがチキ、チキ、と音を鳴らす。

「私達魔法少女は、グリーフシードが無いと生きられないのよ?!
 し、仕方ないじゃない!!」

「私達魔法少女は、魔女の手から人々を守るのが使命。
 ……これは、マミさんが教えてくれたことです」

 まどかは弓を構え、ヨタヨタと菓子を食べ歩いている魔女に狙いを定める。

「……やめて!!」

  マスケット銃の引き金が引かれ、撃鉄が作動し、銃口から弾丸が飛び出した。



492:1:2012/01/29(日) 12:12:15.37 ID:6kqct4zw0

 マミの放った弾丸は、まどかの髪の毛先を掠め、そのまま壁へ着弾した。

「鹿目さん、お願いだからやめて……私、まだ死にたくないの……」

 マミは哀願するかのように言った。

「……マミさん----」

 まどかは、

「----ごめんなさい」

 と呟くと、矢を撃ち放った。
 矢は魔女を貫き、消滅させる。
 魔女の結界が崩壊し、空間が元の工事現場へと戻る。

「ひ、い、いやああぁぁぁ!!!」

 マミの叫び声が響き渡る。
 顔を両手で覆うも、指の間から涙があふれ出す。そして膝から崩れ落ちた。
 まどかはそんなマミの元に歩み寄ると、そっと傍にグリーフシードを置く。

「……マミさん。これ、使ってください。私が持ってる、最後の一個です。
 これでまだ時間は稼げるはずです。
 諦めないでください。最後まで一緒に足掻きましょうよ……。
 まだ生きてるのに諦めちゃうなんて、こ、こんなの----私の憧れていたマミさんじゃないです!」

 まどかは涙声でそう叫ぶと、逃げるようにその場を後にした。



493:1:2012/01/29(日) 12:13:15.82 ID:6kqct4zw0

*


「はぁ、はぁ、はぁ……ここは……」

 まどかはここを目的地に走ったというわけではないが、疲れを覚えて走るのを止めると、いつの間にかいつもの公園にいることに気がついた。
 そしてすっかり指定席になったベンチに腰掛ける。
 銀杏の黄葉した落ち葉が風にあおられて舞う。

「ここに居たのか」

「……杏子ちゃん……」

 宙を乱舞する葉の向こうから、杏子がやってきた。
 杏子は、隣りいいか? と聞くと、返事を待たずにまどかの隣りに腰掛ける。

 しばらく沈黙が続き、耐え切れなくなったまどかが口を開こうとしたその時、

「マミが魔女を増やそうとしたのを、邪魔したんだってな」

 まるで世間話でもするかのような口調で、杏子が言った。
 まどかは、なぜそれを杏子が知っているのか疑問に思ったが、疑問に対する問いかけよりも先に、思ったことが口に出た。

「……間違ったことをしたとは思ってないよ。
 私は魔法少女なんだから、魔女を倒して、街の平和を守らなきゃ」

「それ、ホントに、本心から言ってるのか?」

「……えっ?」

 杏子からの思わぬ言葉に、まどかは驚いた。



494:1:2012/01/29(日) 12:14:14.24 ID:6kqct4zw0

「確かさ、ほむらと約束したんだったよな? だからやってんだよな」

「…………」

「でもな、もうその必要は----」

「そうだよ」

 まどかははっきりと答えた。

「ほむらちゃんと約束したの。
 ほむらちゃんが帰ってくるまで、この街を守るって。
 私は、今度こそ、絶対にほむらちゃんとの約束を守り通すよ。
 たとえ、それで私が死ぬことになっても!」

 まどかの真っ直ぐな言葉に、杏子はバツが悪そうに返す。

「あ~~、違う違う。そうじゃない。あたしの言いたいことはそういうことじゃないんだ。
 もうその約束を守る必要は無いってことが言いたかったんだ」

 まどかは怪訝そうな表情を浮かべる。
 約束を守る必要が無い? 一体どういうことだろう?

「何故かっつーとな----アイツは、ほむらは、もうこの地球上にはいないんだ」



495:1:2012/01/29(日) 12:15:14.77 ID:6kqct4zw0

 一瞬、まどかの頭の中が真っ白になる。
 まさか、ほむらちゃんが----そんな----

「……嘘、だよね……」

「あ~、言っとくが、別に死んだとかってわけじゃないからな。だけど----」

 その言葉にまどかは、少しだけの安心と、

「----この地上のどこにも居ないことは確かだ」

 大きな疑問を感じた。

「えっと----どういうこと、かな?」

 杏子は少し思案した後、すっと立ち上がり、少し歩いてから振り返る。

「ワルプルギスの夜を倒した、あの日の夜。
 ほむらは、ここで居なくなったんだ」

「ここで?」

「そうさ。あの日、アンタの座ってるそのベンチで、あたしはほむらから全てを聞いたんだ」

 まどかはベンチへと視線を落とす。
 ここにほむらちゃんが----

「ソウルジェムのこと。魔女のこと。ほむらの契約時の願いのことと時間を操る魔法のこと。
 それと、アンタとの約束のこととかもな」

「私との約束って、街の平和を守る----」

「いや、それじゃねえ。
 もっと前。もっともっと前。
 アイツが時間を巻き戻す魔法で何度も何度も繰り返してきた別の時間軸で、アンタはほむらと約束してるらしいんだ。
 アンタはほむらに『キュゥべえに騙される前の私を助けて』って言って、ほむらはアンタに『必ず助ける』って具合にな。
 そんで、アイツはその約束を守るため、時間を巻き戻し、別の時間軸へと行っちまった」

「…………」



496:1:2012/01/29(日) 12:16:16.63 ID:6kqct4zw0

「ちょいと話が逸れちまったが----そんな訳で、もういいんだ。
 もう、ほむらが帰ってくることはないんだ。
 もう、そんな辛い思いしてまで、アンタが約束にこだわる必要は無くなったんだ。
 だから----」

 それまで下を向いていたまどかが、顔を上げる。
 その表情を見た杏子は、言葉を失った。

 感情のまったく読み取れない、無表情と表現するのが適切な表情なのだが、ただ一点、目だけが限界まで見開かれていた。
 その瞳は瞳孔が大きく開かれており、目があった杏子は、その瞳に吸い込まれそうな感覚と酷い悪寒に襲われた。

 ヤバイ! 離れろ!!
 杏子の本能がそう告げる。

 杏子は後ろへ飛び退く。
 まどかは体を揺らすように立ち上がった。
 そして、



497:1:2012/01/29(日) 12:17:16.04 ID:6kqct4zw0

「……ん?」 

 杏子に背を向けて、ゆらゆらと歩き出した。

「お、おい……どこ行くんだ?」

 杏子の呼びかけに、まどかは半身で振り返り、横目遣いで杏子を見る。

「どこって……ほむらちゃんを探しに行くんだよ」

「……はぁ?! アンタ、ちゃんとあたしの話聞いてたのか?! ほむらは----」

「ほむらちゃんはいるよ」

「いるって、どこにだよ!
 どこ探したって見つかりっこねえ!
 アイツは隠れてるわけじゃねえんだぞ!」

「そうだよ。ほむらちゃんは隠れてるだけなんだよ。
 以前キュゥべえが言ってたんだ。
 ほむらちゃんは魔法少女としてあまり能力が高くないって」

 まどかは再び杏子に背を向けて歩き出す。

「ほむらちゃん、大丈夫だよ。
 私が傍に居るから。ずっと居るから。絶対に守るから。
 怖いものなんて、もう何もないんだから。
 だから、もう隠れてる必要なんてないんだよ。
 お願いだから出てきてよ。
 私の傍に居てよ。笑顔を見せてよ。
 お願いだよ……ほむらちゃん……」

 杏子は、またしてもまどかに掛ける言葉を見つけられず、立ち尽くすしかなかった。



498:1:2012/01/29(日) 12:18:19.18 ID:6kqct4zw0

*


 例えるなら、微かな明かりすらない暗い道を一人で歩くようなものだ。

 まどかにとってほむらとの約束は、真っ暗な道に一つだけ見えていた、指針とも言うべき星だった。
 その星が見えていたから、どんなに暗くても歩いてこれた。
 ところが、今まで見えていたものが、見えなくなってしまった。
 もうまどかには、何を目指して歩けばいいのか、分からなくなっていた。

『----もう、ほむらが帰ってくることはないんだ----』

 この言葉を、まどかは信じない。信じようとしない。
 信じてしまったら、本当に二度と会えないような気がするから。

 見えない星を探しながら、星のあった方角へとひたすら進むしかない。
 自分が真っ直ぐ歩けているか分からない。
 もしかしたら同じところをグルグル回っているだけかもしれない。
 でも、立ち止まらない。歩みを止めない。
 何故なら、まどかはまだ希望を信じていたから。
 立ち止まると、ほむらが帰ってこないという絶望に呑みこまれてしまう気がしたから。

 そうはならないよう、まどかはあてもなく歩き続ける。



499:1:2012/01/29(日) 12:19:14.24 ID:6kqct4zw0

「私ね、いっつも思ってたんだ、変わりたいって。
 いつでも明るくって、誰にでも優しくって、どんな困難にも動じない----そんな風になれたらなぁって」

 まどかは隣りを歩く人に話しかけるかのように呟く。

「今のままじゃダメだっていうのは分かってたんだけどね、どうやったら変われるのか分からなかったの。
 こんなこと、誰にも相談できないしね。ずっと一人で考えてたんだ」

 まどかの声は少しだけ高揚していた。

「そんなときに、ほむらちゃんが転校してきてすぐに私にこう言ったんだよね。
 『変わろうと思ってはダメよ』ってさ。
 私は変わりたいのに、変わってはダメって言われて、正直ショックだったんだからね」

 まどかは、むぅ~、と頬を膨らませる。

「でもね、あの日----ほむらちゃんが私を庇って助けてくれたあの日、ほむらちゃんが私のことを本当に大切に思ってくれてるんだって分かったの。
 それでね、もしかしたらほむらちゃんが言ってたことも、私のことを思って言ってくれてたんじゃないか、って思えてきて。
 ひょっとして、私は変わらなくても----今のままでもいいんじゃないかな、とも思ったんだ」

 まどかは両手の指を絡ませ、モジモジする。



500:1:2012/01/29(日) 12:20:12.57 ID:6kqct4zw0

「でもやっぱり、今のままの私はどうしようもなく卑怯で、弱くて、情けなくて、何にも出来なくって……。
 このままじゃ胸を張ってほむらちゃんと対等な友達だよ、なんてとても言えないなって……」

 まどかは若干うな垂れる。

「それにね、あの織莉子って人が死んだってテレビで流れたとき、私、自分のことばかり考えてたの」
 『何でわたしは生きているの?』
 『あの二人を殺してまで、わたしに生きる価値があるの?』
 『わたしが世界を滅ぼすって言ってたけど、それはどうやって?』
 わたし、ワタシ、私。
 人が死んでるのに、自分のことしか頭になかったの。
 やっぱり、このままで良いはずがない。
 そう思ったら、居ても立ってもいられなかったの」

 まどかは横に振り向きながら言う。

「ねえほむらちゃん。私の話、ちゃんと聞いてる?」



501:1:2012/01/29(日) 12:21:11.80 ID:6kqct4zw0

「ええ、ちゃんと聞いているわよ。それからどうなったの?」

「それでね、始めはとにかく、何か他人のことになることをしようと思ったの。
 私に出来ることで、他人のことになることって何だろうって考えてたら----いつの間にかほむらちゃんのためになることを考えてることに気がついたの」

 まどかは正面に向き直る。

「じゃあほむらちゃんのためになることって何かな? って考えてるときにね、ワルプルギスの夜のことを思い出したの。
 ワルプルギスの夜の話をしているときのほむらちゃんって、すごく怯えた表情をしてたからさ、もし私がこの魔女を退治したらとっても喜んでくれるんじゃないかなって」

 まどかは深くうな垂れる。

「そう考えだしたらもう他の事は考えられなくなっちゃってたの……。
 頭からほむらちゃんの忠告がぬけちゃって----ううん、憶えてはいたんだけど、後で謝ったら許してくれるかなって」

「そう。契約したのは、私を守るためだったのね」

「うん……。
 私は守りたかったの----街の人達を、友達を、ほむらちゃんを。
 私はなりたかったの----ほむらちゃんに守ってもらう”わたし”じゃなく、ほむらちゃんを守れる”私”に。

『”わたし”は、変わりたい!
 胸を張って、ほむらちゃんの隣りに立てる”私”になりたい!
 ほむらちゃんが望む”私”に変わりたい!
 ほむらちゃんに認められる”私”になりたい!!』

 これが、キュゥべえに願った、”わたし”の最初の願い」

 まどかは一旦沈黙する。
 そして、

「ねえほむらちゃん……。
 私、ちゃんと変われたのかな……それとも、変わっちゃったのかな……?」

 まどかはそう呟きながら、再び横へと振り向く。



502:1:2012/01/29(日) 12:22:14.51 ID:6kqct4zw0

 まどかの視線の先には、誰もいなかった。

「ほむらちゃん、どこに行っちゃったの……?
 ねえ、どこ?
 私が守ってみせるから。絶対に守るから。危険な目になんか絶対にあわせないから。
 だから、もう隠れる必要なんてないんだよ。
 大丈夫。今度こそ約束、絶対に守るよ。
 どこに居るの? 姿を見せてよ。私の名前を呼んでよ。
 もしかして、私が約束破った事、怒ってるの? それで隠れちゃったの?

 ……ほむらちゃん、本当にごめんなさい。

 私が悪かったから。いくらでも謝るから。だから---
 だから、お願いだから、帰ってきてよ。顔を見せてよ。約束破った私のこと、叱ってよ。
 もう謝ることもできないなんて、そんなの嫌だよ……あんまりだよ……。
 あああ、会いたい。会いたいよぉ。ほむらちゃん。ほむらちゃん。ほむらちゃん。

 ……ほむらちゃん、どこ?」

 まどかの歩みが、止まった。


*


 見晴らしの良い高所工事用クレーンの先端にいるキュゥべえが呟く。

「おめでとうまどか。今、キミはなれたよ。
 この街を----いいや、この宇宙を救った英雄に」



503:1:2012/01/29(日) 12:23:17.36 ID:6kqct4zw0

*


 見滝原だけでなく近隣の街にいる魔法少女とその素質をもつ全員が、一斉に空を見上げた。
 そこには、雲を突き抜けるほど巨大で、遠くにいても気がつくほど強大な魔力を持った、夕陽の逆光で黒いシルエットに見える魔女が、突如出現していた。

「な、なに……あれ……」

 さやかは自室の窓から乗り出し、魔女を見上げながらケータイを掛ける。

『只今電波の届かない所にいるか----』
 
 何度もまどかのケータイに掛けるが、一向に繋がらない。
 こんな肝心な時に、一体どこへ行ったのよ……。

 埒があかない。
 そう思ったさやかはまどかの家へと向かうべく、家を飛び出した。
 走りながら再びまどかのケータイに掛ける。
 聞こえてくるのは機械的なアナウンスのみだった。

「……ああもう!!」

 短く悪態をつくと、さやかはケータイを握り締めて走ることに集中する。
 まどかの家までもう少しというところで、さやかはこちらに背を向けて魔女を見上げている杏子を見つけた。



504:1:2012/01/29(日) 12:24:12.62 ID:6kqct4zw0

「杏子!」

 杏子はさやかに振り返る。

「ねえ杏子、あれって魔女、だよね?
 また誰か、魔法少女が魔女になっちゃったの?
 つーかさ何かでかくない? あんなん倒せるわけ?」

「…………だ……」

「え?」

 さやかは聞き返す。
 いつもハキハキ喋る杏子が小声なんて珍しい。それだけあの魔女が----

「あの魔女は、まどかだ」

 ----ヤバ…イ…………えっ?

「……え? う、うそ……でしょ……ねぇ、杏子……?」

「…………」

 杏子はさやかから目を逸らす。
 それを見たさやかの表情から血の気が引いていく。

「……っ……」

 しばらく思案していた杏子は拳を握り締め、さやかに向き直ってこう言った。

「おいさやか、まどかを助けにいくぞ」



505:1:2012/01/29(日) 12:25:19.68 ID:6kqct4zw0

「……助けられる方法があるの?」

「分かんねぇよ」

 杏子の言葉に、さやかは肩を落とす。

「でもな----このまま指をくわえて見てるってのも、性に合わねぇんだ。
 まだ助けられないって決まったわけじゃない。
 あたしはまだ諦めない。どんなことでもいい。思いついたこと、全部試すぞ!
 まずは呼びかけだ! 長年親友やってるアンタが呼びかければ何か反応があるかもしれない!」

 さやかの表情に活力が戻る。

「……うん! 行こう!
 まどかの目を覚まさせてやる!!」



506:1:2012/01/29(日) 12:26:11.39 ID:6kqct4zw0

*


 マミは、まどかの置いていったグリーフシードを、じっと見つめていた。
 脳裏に過ぎるのは、まどかの言い残していった、あの言葉。

『----まだ生きてるのに諦めちゃうなんて----』

 私は、諦めてしまっていたのだろうか。
 諦めたくないから、魔女を繁殖させようとしたのではなかったのか。
 もしかして、私のアイディアは間違っていたのか----
 分からない。もう、何も分からない。

 窓の外を見る。そこには、巨大な魔女の姿があった。
 鹿目さんが魔女になってしまった。
 私の責任だ。
 私なんかのためにグリーフシードを置いていったから、ソウルジェムを浄化できず、魔女になってしまったのだ。

 マミは自分のソウルジェムを見る。
 穢れが溜まり、限界に達しようとしていた。
 このまま放っておけば、数時間と持たずにグリーフシードへと変化し、私も魔女に生まれ変わるのだろう。
 そうなるくらいならいっそ……

 マミはソウルジェムを床に置き、マスケット銃を向けた。



507:1:2012/01/29(日) 12:27:19.64 ID:6kqct4zw0

「ダメだよ、マミおねえちゃん」

 だが、マミが引き金を引くより先に、マミのソウルジェムはゆまによって拾われていた。

「か、返して!」

「だって、今返したら壊すんでしょ?」

「そうよ! 魔女になるくらいなら、いっそ死んだほうがマシよ!!」

 マミの答えに、ゆまは悲しそうな表情をした。

「ゆまはね、ママに虐められてたときいつも考えてたよ----死んじゃったほうがいいって。
 でも魔女に襲われて死んじゃうってとき、ゆまは必死に生きようとしたんだ」

「いつか----いいえ、もうすぐ私達はその魔女になるのよ?!」

「でも、それは今じゃないよ。
 魔法少女じゃなくったって、人はみんないつ死ぬかなんて分からないよ。
 マミおねえちゃんは、本当に今死ぬの?
 せっかく今生きてるのに、諦めちゃうの?」

 ゆまの言葉に、マミはショックを受けた。思わず笑ってしまうほどに。

 鹿目さんといい、ゆまちゃんといい、私は年下に説教されてばっかりだ。
 可愛い後輩にこれ以上情けない姿を見せるわけにはいかない。
 諦める? 何を馬鹿な。私は、まだ生きている!
 生きている限り、私は正しいことをやり遂げるんだ。
 何故なら、私は正義の魔法少女なのだから!

 マミが顔を上げる。その表情は、光が戻ったように明るかった。
 ゆまはその表情を見てマミが立ち直ったのを確信すると、マミのソウルジェムを返す。

「行こう! もうキョーコ達はまどかおねえちゃんを助けに行ってるよ!」

「ええ!」

 マミはまどかから貰ったグリーフシードを拾い、ソウルジェムを浄化すると、ゆまの後を追って走り出した。



508:1:2012/01/29(日) 12:28:20.46 ID:6kqct4zw0

*


 魔女となったまどかは、あてもなく歩き出した。

 都市を。
 町を。
 村を。
 森を。
 湖を。
 平地を。
 山を。
 海を。
 砂漠を。
 荒野を。
 廃墟を。

 地球上のあらゆる場所を、ただひたすらに歩いて回った。
 もうこの世界のどこにも存在しないほむらを捜すために。
 自身の結界内に、片っ端から動植物を取り込み、地球上から全ての生物が居なくなった後も、捜して、捜して、捜し続けた。

 魔女は時折、低く大きな呻き声を上げた。
 その姿はまるで、大事なものを失くしてしまい泣き叫びながら捜す子供のようであり、大切な家族と離ればなれになり遠吠えを繰り返す子犬のようでもあった。



509:1:2012/01/29(日) 12:29:18.63 ID:6kqct4zw0

*


 もう、どれだけ歩いたのだろう。

 暗くて何も見えない道を、未だまどかは歩き続けていた。
 時間の感覚は既に無く、体の感覚も無い。
 今どこを歩いているのか、場所も分からず、方向も分からない。
 自分の意識があるのかすら分からない。
 それでもまどかはほむらに会いたい一心で進み続ける。

 ふと、暗い闇に間を置いて数回、一瞬だけ光が差した。
 朦朧とした意識の中、時折閃光のように見える風景で、まどかは自分が見滝原に戻ってきていることに気がついた。
 自分の家。
 学校。
 教室。
 保健室。
 先生。
 さやか。
 仁美。
 クラスメイト。
 公園。
 そして、病院。
 その病院を見たまどかは、はっ、とした。

 この病院は確か、ほむらちゃんが入院していた病院だ。
 そうだ、間違いない。以前ほむらちゃんに聞いた病院と同じ名称だ。

 病室だ。ほむらちゃんの病室があるはず。探すんだ。

 ふらふらと病院内を歩き、以前教えてもらったほむらの病室の前へと向かう。
 病室の前にたどり着き、表札を見ると、そこには『暁美ほむら』とあった。
 間違いない。ここは、ほむらちゃんの病室だ。

 まどかは恐る恐る病室のドアを開ける。
 部屋の中のベットには、ほむらが眠っていた。

 見つけた。
 やっと見つけた。
 ようやく見つけられた。

 まどかは居ても立っても居られなくなり、もう二度と失くさないように、ほむらにしっかりと抱きついた。
 ほむらの温もりがまどかに伝わってくると、うれしくなって、目から涙がこぼれた。
 そして、一言----どうしてもほむらに言いたかった一言を口にする。



510:1:2012/01/29(日) 12:30:29.96 ID:6kqct4zw0





「ほむらちゃん。約束破って、ごめんなさい」







531:1:2012/03/04(日) 15:36:09.44 ID:7s5pwasZ0

*

 ほむらが時間を巻き戻してから二日が経った。
 ほむらの病室にて、ほむら、まどか、さやかの三人が談笑中、

「ほむらってさぁ、映画とかよく見る?」

 ふと、さやかがそう聞いてきた。
 その質問にほむらは、ん~~、と唸りながら数秒考えた後、

「いえ、あまり見ないわね」

 と答えた。

「ん、そっかぁ……」

 さやかは、ガクッ、と肩を落とす。
 それを見たほむらは首を傾げる。

「随分と唐突ね。何か気になる映画でもあるの?」

「いや、気になるっていうか----いつだったか、見たはずなんだけど内容をほとんど覚えがないってヤツがあって。
 しかも記憶にある内容が断片的でさ。
 それを思い出せないのが気持ち悪いから、もう一度見直そうと思ったんだよ。
 でもさ、肝心のタイトルが分かんなくって、探しようがないんだよねぇ。
 たぶん、ここ最近のだと思うんだけど……」

「ちなみにそれ、どんな内容の映画なの?」

「……ん、っとね……ちょっとうろ覚えなんだけど……」

 さやかは目を瞑ってこめかみに指を押し付けながら唸る。



532:1:2012/03/04(日) 15:37:12.67 ID:7s5pwasZ0

「そう、たしかねぇ……犬のことを題材にした映画で……冒頭に『天使の歌声』ってカンジの回想があって……」

 ほむらは眉を顰める。

「……天使の……歌声……?」

「そうそう、何かやたら神々しいカンジの。何か知らない?」

「…………」

 ほむらには一つ、心当たりがあった。
 それは、前の時間軸でまどか、さやか、マミ、杏子、ゆまの六人で行った、カラオケと映画のことだった。
 映画を見る前にカラオケに行き、そこでまどかが歌った。
 その姿は神々しく、まるで天使のようだった。
 おそらくさやかはこの時のことを言っているのではないか?

 だけど、これはあくまで前の時間軸での出来事だ。
 さやかが----いや、ほむら以外の誰一人として覚えているはずがない。
 だけど、微かにではあるが、覚えているとしか考えられないことをさやかは口にした。
 ----これは後で探る必要がありそうだ。ほむらはそう思った。



533:1:2012/03/04(日) 15:38:11.64 ID:7s5pwasZ0

「残念だけど、心当たりは無いわね。
 そもそも私は長い間入院してるから、あまりそういうのに詳しくないのよ」

「そういやそうだったね」

「じゃあさ----」

 まどかが口を開く。
 その途端に、ほむらの視線がまどかに向けられた。
 まどかは病室を訪れた時から既に若干疲れたような顔をしていた。
 発言も少なく----もしかして疲労困憊なのに無理して来てくれているのでは----と、ほむらは心配になっていた。
 だが、そんなことはなかったようで、ほむらは安堵する。

「----退院したら、一緒に映画を観に行こうよ。
 今、わたしも協力しててさ、いろいろ映画の情報を集めたり、観に行ったりしてるんだ。
 それでね、やっぱ二人よりも三人で観に行ったほうがとっても楽しそうだなって」

 まどかの提案に、一瞬、ほむらは返事をすることを戸惑った。
 仮にさやかが前の時間軸の記憶を継いでいるとしたら、その記憶にある映画は偶然が重なってできた、絶対に見つからないものだ。
 何とか、遠まわしに『そんな映画は実在しない』と悟らせられないだろうか。
 ----だけど、まどかからの頼みだ。
 断るわけにはいかない。無碍にはできない。
 それに、またまどか達と映画を観に行くのは楽しみでもある。

「私でよければ一緒に行かせてもらうわ」

「本当?!」

「ええ。約束するわ」

「……あっ……!!」

 ほむらの口から約束という言葉が出た瞬間、さやかの表情が曇った。



534:1:2012/03/04(日) 15:39:16.06 ID:7s5pwasZ0

「や……やく、そく……」

「……まどか?」

 先ほどまで笑顔だったまどかの表情は苦渋に歪み、胸に手をあて、

「……はぁ、はぁ、はあ、はあ、はっ、はっ! はっ!」

 息苦しそうに激しく呼吸を繰り返しだした。

「まどか?! どうしたの?!」

 ほむらは、その明らかに異常な様子を見せるまどかの両肩を抱き、落ち着かせようとする。

「ごめん! ちょっとどいて!」

 そこへ、さやかが紙袋のようなものを広げて、ほむらの前に割り込んできた。
 事情も分からず、対処法も思いつかないほむらは、素直に一歩下がる。
 さやかは紙袋を、まどかの鼻と口を覆うようにあてがった。
 まどかは、紙袋の中に息を吐き、紙袋の中の空気を吸う。

「まどか、落ち着いて。
 ゆっくり、ゆっくりと深呼吸して。
 ----そうそう。大丈夫だからね。誰もまどかを責めたりしてないからね」

 その状態での呼吸を繰り返す。
 すると、まどかの呼吸が徐々に落ち着き始めた。



535:1:2012/03/04(日) 15:40:21.64 ID:7s5pwasZ0

「ふぅ……はぁ……ふぅ……」

 さやかが紙袋を除ける頃には、まどかは落ち着き、ぐったりした様子で椅子にもたれかかった。そしてポケットから薬を取り出して飲む。
 そのあまりの困憊ぶりに、ほむらの提案でしばらくベットに寝かせることとなった。
 まどかは横になると強烈な眠気に襲われ、そのまま瞼を閉じ、眠りについた。

「……どういうことなのか、説明してもらってもいいかしら」

 ほむらは、まどかにそっとタオルケットを掛けながら、さやかに尋ねた。
 さやかの口は重かった。

「ん~~。なんというか……。
 まどかはさ、『約束』って言葉に敏感なんだよね。
 自分が約束を守れないんじゃないかっていつも心配してるってゆーか……」

「……約束を守れなかったことがあったの?」

「よくは知らないんだけど----何か、凄い罪悪感があるっていうの?
 誰かと交わした約束を破っちゃったんだかなんだかで、それで相手を物凄く怒らせちゃったことがあったらしいんだ。
 あたしが思うに、まどかはそれ以来『約束』に対して酷く怯えてるんじゃないかな」

 約束。まどかの異変の原因は、その約束なのか。
 一体どのような約束なのか、相手は誰なのか、ほむらは気になりだした。

「で、その相手というのは?」

「それがさ、分かんないだってさ」

 さやかの言葉に、ほむらは怪訝そうに眉を顰めた。

「……分からない?」

「そうなの。どこでいつ誰とどんなことを約束したのかを忘れちゃってるみたいでさ。
 それがまたまどかの罪悪感に拍車をかけてて……」



536:1:2012/03/04(日) 15:41:14.30 ID:7s5pwasZ0

「相手が誰か、そしてその内容も覚えてないのに、どうして相手が怒ってるって分かるの?」

「さあ……あたしもまどかから聞いただけだからねぇ。
 でも、嘘を言っているようにも見えないし----まどかの話がホントかどうかはともかく、昔、何かあったのは確かだと思うよ」

「昔? 貴女達が出会ったときから、まどかは、その……こんな感じだったの?」

 ほむらは横目で、横になっているまどかをチラッと見た。
 さやかはそれを見て、ほむらの質問の意味を瞬時に理解した。

「うん。----と言ってもさ、分かったのは流石に会ってすぐって訳じゃなかったけどね。
 何時だったか、あたしと次の日遊びに行くって約束をしてさ。
 当日はあたし、珍しくちょっと早めに集合場所に着いたんだよ。
 そしたら、まどかが既に居てね、でも何か違和感あるなぁと思ってよく見たらさ----前日と同じ格好だったんだよ」

「……それってもしかして……」

「そう。約束して別れた後、そのままの足で集合場所まで行って、一晩中そこで待ってたんだ。
 なんでも、『集合時間に遅れないように』だってさ。
 そん時かな。まどかが約束に対してもの凄く拘ってるって気づいたのは」



537:1:2012/03/04(日) 15:42:12.28 ID:7s5pwasZ0

 さやかは、あたしなんか集合時間に間に合ったことなんてほとんどないのにな~、と話を締めた。
 ほむらは何も言えなかった。
 さやかが語った以上の事態の重さを----時間遡行しているからこそ分かる、現在のまどかの異常な状態を、ほむらは感じとったのだ。

「……今更なんだけど、こんなに話してもらってよかったのかしら?」

「ん? ……あ~。そういやそうだね。
 まどかのプライバシーに係わるし、普通は出会って間もない相手には話さないモンだよね。
 でもさ、なんてゆーか、アンタなら大丈夫かなって思っちゃってたんだ。
 話してもきっと、まどかのことを嫌ったり、変な目で見たりしないだろうって。
 実際、アンタはまどかの心配はしてくれてるし、それでいて変な偏見を持ったりはしてないみたいだしね」

 さやかは何でもないことのように言った。
 その話しぶりはまるで親友に対するもののようであり、とても出会って三日しか経っていない間柄とは思えないほどであった。
 ほむらがさやかから聞いた話を頭の中で整理していると、一つの疑問が浮かんできた。

「それにしてもさやか、貴女、随分と詳しいのね。
 さっきのまどかへの対応も手馴れた様子だったし」

 ほむらの質問に、さやかは腰に手を当てて胸を張って答えた。

「まあね。こんなふうに発作が起こることがたまーにあるからね。
 最初はどうしたらいいか分かんなかったけど、暫くまどかと居るうちに覚えちゃったんだよ」



538:1:2012/03/04(日) 15:43:10.34 ID:7s5pwasZ0

「それは、凄いわね……」

 ほむらは素直に感心した。

「ふふん。もっと褒めてくれていいんだよ」

「ねえさやか。私にも教えてくれるかしら?」

「ん? いいけど、急にどしたのさ?」

「やっぱりまどかの友達として、何も出来ないのは嫌なのよ。
 貴女もそうだったんでしょ?
 だからこそ、対処法も調べがついていて、出来るだけまどかの近くに居るようにしているのではないかしら?」

 さやかは少し驚いた表情を浮かべる。

「貴女達と初めて会った時、少し疑問に思っていたのよ。
 診察を受けていたまどかはともかく、健康な貴女まで病院にいることに」

「あれ? 付き添いだって言わなかったっけ?」

「私は聞いた覚え無いし----仮にそうだとしても、普通はまどかの御両親が付き添うものではないかしら?
 にも係わらず、付き添いには貴女が来た。
 それはつまり、それだけ貴女はまどかの御両親に信用されているということね」

「まあ----そういうことになるのかな?」

「正直、貴女が羨ましいわ……」

「……はぁ?」

 さやかは首を傾げる。
 ほむらはそれを気にすることなく、目を見開いてこう言った。



539:1:2012/03/04(日) 15:44:10.38 ID:7s5pwasZ0

「私もまどかの御両親に『娘をよろしく頼む』って言われたいわ!」

「…………」

 さやかは開いた口が塞がらなかった。
 そんなさやかの心情など露知らず、ほむらはさやかを指差しながら再度口を開く。

「美樹さやか。貴女にまどかは渡さない。まどかは私の嫁になるのよ!」

 さやかの眉間に皺が寄った。
 ほむらが何を言っているのか、理解出来なかった----いや、したくなかったのだ。

 さやかは考えた。
 あれ? 私達は今の今まで真面目な話をしていたんじゃなかったっけ?
 なのに、突然、何?
 まどかは私の嫁宣言?
 コイツはあれか、もしかしなくとも空気が読めないのか?
 ----仕方ない。ここはこのさやかちゃんがほむらに合わせるか。
 それと後で空気の読み方を教えてやるとするか。

「ふっふっふっ。なーにを言ってるんだか。
 もうあたしとまどかは親公認の仲なんだからね。
 まどかはあたしの嫁になるのだーー!」

 そう言いながら、さやかは大げさな身振りで、まどかの方へ振り返った。



540:1:2012/03/04(日) 15:45:10.81 ID:7s5pwasZ0

 その視線の先、ベットへさやかとほむらの視線が注がれるのと同時に、まどかが、すぅ、と上半身を起こした。

「あら、まどか。もう大丈夫なの? 無理せず、まだ横になってたほうが----」

 ほむらはそう声を掛ける。だが、まどかは

「……うん。もう大丈夫、だよ……」

 とだけ言うと、ベットから降り、部屋のドアへフラフラと歩き出した。

「まどか? どこへ行くの?」

 ほむらが再度呼びかけるも、まどかは一度若干苦そうな笑顔を向けると、

「ちょっと、ね。
 心配掛けちゃって本当にごめんなさい。
 今度お詫びに何か奢らせてもらうね。
 今日はちょっとこの後用事があって帰らなきゃならないんだ。
 また明日来るからね。
 バイバイ」

 慌てた様子で一気に喋りたてると、ドアを開け、出て行った。

「まどかったら、あんなに慌てて……一体どうしたのかしら?」

「そっか。もう、そんな時間か……」

 さやかは壁に掛けてある時計を見ながらそう言った。

「……? 何か知ってるの? 何か習い事の時間なのかしら?」

 ほむらの記憶が正しければ、まどかは習い事の類はやっていなかったはずだが。

「いや、そーいうんじゃないの。『散歩』だよ。大体この時間になると、まどかは街中を歩き回るんだ」

「決まった時間に散歩? 随分と健康的なのね。私も一緒に歩こうかしら」



541:1:2012/03/04(日) 15:46:12.23 ID:7s5pwasZ0

 ほむらの言葉に、さやかは首を振った。

「いやあ、やめといた方がいいよ。
 まどかの『散歩』はけっこうな距離を歩くからねぇ」

「けっこう、ってどのくらい?」

「ん~、街を一周ぐらいかな」

「……え?」

 思わず聞き返したほむらに、さやかは又しても何でもないことのように言った。
 それほどまでにこの異常事態が日常化している証拠だろう。

「街を一周って……。
 それはけっこうどころじゃない距離でしょ?! 一体何キロあるのよ?!」

「うん。だからやめといた方がいいよって言ったのさ。
 距離もそうだけど、歩く早さもそうとうなもんでさ。
 ほむらの病み上がりな足じゃ絶対無理----っていうか、あたしでさえまどかに付いていけないからねぇ」

 付いていったことがあるのだろう。さやかはその時のことを思い出し、遠い目をしていた。
 この様子を見たほむらは、さやかの話に嘘や誇張の類が一切無いことを感じ取った。



542:1:2012/03/04(日) 15:47:10.66 ID:7s5pwasZ0

「……何がまどかをそうさせているのかしら」

「さあねぇ……まどかに直接聞いてみても、『健康のため』とか『単なる趣味』とかって答えしか返ってこないんだよ」

「聞けば一応答えが返ってくるのね」

「うん。でもさ、なーんか引っかかるんだよ。
 嘘ついて誤魔化してるってカンジがするような、違うような……」

「ちなみに貴女は何故だと思う?」

「うーん……」

 さやかは腕を組んで、しばらく考えてから口を開いた。

「きっと、理由は無いんじゃないかな。
 まどかも何で自分がこんな事やってるんだか、分かってないんだよ。
 もしくは、ジンクスや縁起担ぎみたいなもので、きっと特に深い意味はないんじゃないかな。
 だから理由を聞いても、まどかはそれっぽい理由を答えるしかなかったんだと思う」

 さやかの言葉に、ほむらは得心がいった。
 なるほど、聞いてみればたしかにそういう考えもありだろう。やはり、さやかは鋭い感性を持っている。

 しばらく雑談を続けた後、さやかは幼馴染の見舞いがあると言って帰っていった。
 その帰り際に、

「まさか、病院をハシゴすることになるとは思わなかったよ」

 と呟いた。
 ほむらは思わず笑ってしまった。



543:1:2012/03/04(日) 15:48:09.96 ID:7s5pwasZ0

*


 翌日。
 ほむらの病室を訪れたまどかは、やはり昨日と同じく若干疲れたような様子であった。
 昨日のさやかの話を信じるなら、まどかは街を一周歩き通したのだから仕方ないのだろう。

 入院患者に昼食を知らせるアナウンスが流れ、まどかとさやかもほむらと一緒に食べようと考え、さやかは昼食を買いに一旦部屋を出た。
 二人きりになったほむらとまどかは、ベットに並んで腰掛ける。

「まどか? 何だか疲れてそうだけど、大丈夫?
 無理してまで会いに来てくれなくてもいいのよ」

「……え? だ、大丈夫だよ! わたしってそんなに疲れてるように見える?」

「正直に言ってしまえば、とても疲れてそうに見えるわ」

「そ、そっか……。
 でもね、無理はしてないから大丈夫だよ。
 ごめんね、心配かけちゃって……」

 まどかは俯き、申し訳なさそうにそう言った。
 これは早急に何とかした方がいいのではないだろうか。
 これ以上辛そうなまどかを見ているのは忍びない。
 ほむらは意を決してまどかに尋ねる。



544:1:2012/03/04(日) 15:49:13.48 ID:7s5pwasZ0

「……ねえまどか。何故そんなに辛い思いをしてまで歩き回るの?」

 まどかは顔を上げ、大きく見開かれた目をほむらに向けた。
 秘密にしていたのに何故それを知っているのかとまどかが問うより先に、ほむらが口を開く。

「貴女の様子を見れば、『健康のため』や『単なる趣味』でしているわけではないことは分かるわ。
 それでもなお、貴女が歩き続ける理由って、なに?」

「……それは……その……」

「別に私は、それが悪いことだとか、おかしいとか、そういうことを言っているわけではないの。
 ただ、本当に理由が無いのなら、そこまで辛い思いをしてまでやらないと思うの。
 どんなに些細なことでもいい。話してくれないかしら。
 決して笑い飛ばしたり、バカにしたりなんかしないわ。
 私は、貴女の力になりたいの」

 ほむらは真剣な表情でまどかにそう言った。
 それを聞いたまどかは、迷った。

 言っても、絶対に変なヤツだと思われるに違いない。まどかはこれまでそのように考えていた。
 だが、ほむらなら----何故かほむらだけは、どんなにブッ飛んだ内容だろうが、仮に嘘を並べようが、ちゃんと聞いてくれる気がした。

「……本当に、笑ったり、バカにしたり、しない?」

「ええ、もちろんよ」

 まどかは再度ほむらの目を見る。
 その目は、さっき言った言葉に嘘は一切ないわ、と語っているように見えた。
 まどかは恐る恐る口を開く。



545:1:2012/03/04(日) 15:50:09.36 ID:7s5pwasZ0

「あのね、夢の話、なんだけどね。
 その夢の中でわたし、友達との約束、破っちゃったの。
 その友達は、約束を守る為に、必死になってがんばってくれてたのに……。
 それでその友達は、さよなら、って言って、怒ってどこかに行っちゃうの。
 わたし、後になってから自分のした事に気がついて……友達に謝んなきゃ、って思って。
 でも、いくら探しても、どこを探しても、どれだけ探しても、どこにも居ないの。
 それでもわたし、とにかく謝んなきゃ、謝んなきゃって……もうそれしか考えられなくなっちゃってて……。
 何十年も、何百年も、何千年も、ずっと、ずっと、ずぅーーーーーっと、探し回るの」

「…………」

 まどかの話は、自身の見た夢の内容から始まった。
 ここからどのようにして、歩き回る理由に繋がるのだろうか?
 それにこの夢の内容、もしかすると----

「それでね、その夢を見た後から、かな?
 その夢の中に出てきた友達に謝りたいって気持ちになっちゃって……」

「……その夢に出てきた友達に、現実では何か謝らなくてはならないことをしてしまったのかしら?」



546:1:2012/03/04(日) 15:51:12.48 ID:7s5pwasZ0

 まどかは首を横に振る。

「ん~ん。その子とは、夢の中で会っただけなの」

「…………え?」

「実際には会ったこともないし、見たこともない。
 でも、その子のことが頭から離れないの。
 今までその子のことを忘れてて、夢がきっかけで思い出したカンジ……かな?」

「…………」

「それと一緒にね、わたし、とにかく歩かなきゃって気持ちになっちゃって……。
 歩いてないと、押しつぶされそうなくらい、とても不安な気持ちになるの。
 本当にね、自分でも理由とかは分からないの。
 でも、その子のことを考えると、居ても経ってもいられなくなって……。
 たぶん、だけどね----きっとわたしはその子と一緒に歩きたかったんだと思うの」

「…………」

 まどかは目尻に涙を溜め、項垂れながら言う。

「……ごめんね、こんな夢の話で……。
 訳分かんないよね。
 気持ち悪いよね。
 わたしと一緒に居るの、嫌だよね。
 でも、それでも----わたしの気持ちを全部言わなくちゃダメだって声が、わたしの中から聴こえた気がして……」



547:1:2012/03/04(日) 15:52:10.36 ID:7s5pwasZ0

 今にも泣き出しそうなまどかを、ほむらは優しく抱きしめる。
 まどかは突然の抱擁に驚いた。

「……ふぇ?」

「まどか、本当にごめんなさい。とても辛いことを話させてしまったわね。
 大丈夫よ。私は絶対に貴女を嫌ったりしないわ」

「……ほむらちゃんは、わたしの話、信じてくれるの?」

「ええ、当たり前よ。だって----」

 ほむらは体を離し、笑顔を浮かべ、まどかと視線を合わせる。

「----私達は、前世では恋人どうしだったんですもの」

 まどかは一瞬目を丸くした。
 そして、すぐに笑顔になる。

「ほむらちゃんったら、またそんなこと言って……。
 そういうこと言ってると、せっかくの美人さんが台無しになっちゃうよ?」

「ふふっ。私の容姿なんて、まどかの愛らしさに比べれば大したことないわ。
 それに、私はまどかさえ傍に居てくれれば、それでいいの」
 
「うんもう、ほむらちゃんったら……」

「あら、私は本気よ?
 なんなら----今すぐ証明して見せるわ」

 そう言うとほむらはまどかの肩を抱き、目を閉じて、そっと顔を近づけていく。



548:1:2012/03/04(日) 15:53:10.01 ID:7s5pwasZ0

 二人の唇があと数センチのところまで近づいた時だった。

「お待たせ~。このさやかちゃんが売店の弁当争奪戦を勝ち抜いて今帰って、来た、ぞ……」

 さやかから見て二人の様子は、またしてもほむらによって、まどかが襲われているように見えた。

「こんのぉぉ!! まどかに変なことするんじゃなぁぁぁい!!」

 ほむらはさやかの大声に反応し、ドアの方へと振り返った。
 すると、ほむらの視線の先には、今まさに弁当を振り上げて投げつけようとしているさやかがいた。
 弁当の中身はミートスパゲッティだった。
 衣類に付着すれば、シミになるのは絶対に避けられない。

「ちょっ!! ま、待ちなさいさやか!! 流石にそれは洒落にならないわ!!」

「いいや待たないね!! 喰ら----って、うぉ!」

 ほむらは慌てて立ち上がり、さやかに駆け寄ると、振り上げられた腕を掴む。
 半分冗談のつもりだったさやかは、ほむらの突進に驚き、バランスを崩す。

 さやかの手から弁当が零れ落ちる。
 三人同時に「あっ!」と叫ぶ。

 スパゲッティの蓋が開く。
 三人の口が開きっぱなしになる。

 スパゲッティが容器から離れ、宙を舞う。
 三人の視線が徐々に下へと向けられる。

 べちゃっ、と音を立てて、床に落ちた。
 三人は床に落ちたそれを、しばらく呆然と見つめていた。



549:1:2012/03/04(日) 15:54:15.22 ID:7s5pwasZ0

*

「まったく、食べ物で遊ぶからこうなるのよ」

 ほむらはそう呟きながら、さやかと共に床をモップで拭く。
 まどかは代わりの弁当とジュースを買いに行った。

「えっ? なに? これ、あたしだけの責任なの?
 その前に、まどかに変なことしようとしてたのはアンタじゃん」

 ほむらはため息をついた。

「さやか。貴女はもう少し空気を読みなさい。
 あそこは気を利かせて、そっと立ち去る場面でしょ?」

 ほむらの言葉にさやかは、うぬぬ、と唸った。
 何、この状況。
 何故あたしの方が空気を読めないヤツみたいな扱いをされているんだ?!
 おかしい! こんなの絶対おかしいよ!
 ----いや待て、落ち着くんだ。
 そうとも。真に空気を読めているのはこのさやかちゃんなんだから、ここで怒るのは良くない。
 ここで怒鳴ろうものなら、あたしの貫禄がなくなってしまうではないか!
 ここは一つ、あたしが大人になるんだ。



550:1:2012/03/04(日) 15:55:11.51 ID:7s5pwasZ0

「……それでぇ?
 空気を読めるほむらさんは、まどかに一体何をしようとしていたのかなぁ?
 ほぉら、お姉さんに経緯を頭から話してごらん?」

 さやかの怒りを抑えた、大人になりきれていない作った口調に、ほむらは鼻で笑ってから言う。

「私は、貴女でさえ知りえないまどかの秘密を、直接本人から聞いていたのよ」

「ほうほうほう、まどかの秘密とな」

「ええ。まどかが何故『散歩』をするのか、その理由が分かったわ」

「そっかー。理由が分かったの----って、ええええええ?!!!」

 驚きのあまり、さやかは怒りも忘れて叫んだ。

「何で?! どうやって?! 一体まどかに何をしたのさ?!」

「ふっ。秘密よ」

 そう言いながらほむらは髪をかき上げる。
 その仕草に、さやかは再び腹を立てた。
 さやかはほむらの肩を強く掴むと、

「いいじゃんかよぉー!! 意地悪しないでさぁー!! おーしーえーてーよー!!!」

 その細い体を激しく揺さぶりだした。
 ほむらは揺さぶられるまま、激しく首を振られる。

「ち、ちょっと、や、やめ、やめて、話す、話すから……うっ……」

 あまりの気持ち悪さにほむらが口に手を当てたところで、ようやくさやかは手を離した。
 ようやく開放されたほむらは、一度深呼吸し、ベットに腰掛けると、手短に説明を始めた。
 さやかは椅子に座り、ほむらの話に耳を傾けた。



551:1:2012/03/04(日) 15:56:10.25 ID:7s5pwasZ0

「ふうん……夢、ねぇ……。
 こりゃあ、確かに他人には言えないよねぇ」

 普通にこんな話されたら笑っちゃってたかもね、とさやかが言う。
 もし笑ったら一生恨まれるでしょうね、とほむらが返す。

「なんでほむらには話してくれたんだろ? あたしにはそんな話、してくれなかったのになぁ……」

 さやかは難しい顔で腕を組み、呟くようにそう言った。

「でも、実際に何の脈絡も無く、『夢を見ました。だから街を歩き回ります』なんて言われたら、『何この人、頭おかしいんじゃない?』と思うでしょうし、言ってる本人も『頭おかしい人だと思われるよね』と考えるでしょう。
 その点私はまどかと出会ってすぐ、電波な女を演じていたから。
 ああ、こんな電波入ったヤツになら、なに話しても大丈夫だな----と、まどかは考えたんだと思うわ」

「……もしかして、それ、分かっててやったの?」

 さやかは驚愕の表情で聞いた。
 ほむらは一瞬考えた後、ふっ、と笑いながら髪をかき上げてからこう言った。

「いいえ。さっぱり分かってなかったわ」

「なーんだ。やっぱ、ただの偶然かぁ」

「それも違うわ。やはり私とまどかは、運命の赤い糸で結ばれていたのよ!」



552:1:2012/03/04(日) 15:57:09.75 ID:7s5pwasZ0

「も、もう……。ほむらちゃんってば……。
 からかわないでよ……」

 そう言いながらまどかが、弁当と三人分のリンゴジュースを手に、モジモジとしながら部屋に戻ってきた。
 そのまどかの様子にさやかは、あれ? 満更でもないのかな? と思った。

「およ? もしかしてまどか、本気でほむらのこと----」

「ふぇ?! ち、違うよ~! も、もう……さやかちゃんったら、なに言っているの!」

 まどかのこの発言に、ほむらは思わず背筋を伸ばしてまどかの言葉に耳を傾る。
 まどかはベットの脇のサイドテーブルに買ってきた弁当とジュースを置くと、ほむらの隣りに座った。

「いやいや。なんというか、まどかはほむらに恋しちゃったのかなぁと思って」

「違うってば~」

 まどかのこの発言に、ほむらは小さくため息をついて肩を落とした。

「でも----気にはなってる、かな?」

 まどかのこの発言に、ほむらは再び背筋を伸ばした。
 まどかが微笑みながらほむらの頭を撫でる。
 ほむらは表情を緩ませ、鼻息を荒くした。
 さやかは、ほむらのことを極力見ないようにしながら、まどかに尋ねる。

「へぇ。そりゃまた何で?」

「……んとね、夢の中で会ったことがあるような……」



553:1:2012/03/04(日) 15:58:12.16 ID:7s5pwasZ0

「……何となく思ったのだけど、もしかしてさっき話してくれたあの子のこと? 私に似ているとかかしら?」

 さやかはまどかの言葉を、笑い飛ばしたりはしなかった。
 まどかから直接聞いてはいないが、ほむらのこの反応から、まどかの『散歩』の原因となった夢のことを言っていると察したのだ。

「……うん。見た目も、喋り方も、声のカンジも、全部。
 まるで、夢の中から出てきたみたいにそっくりだよ」

「…………」

 ほむらは考える。
 まどかの夢に出てきた子と私がそっくりだと言ったけど、やはりというべきか、ただそっくりなのではなく、私本人なのではないか?
 まどかが夢だと思っていることは、実は前の時間軸での記憶じゃないだろうか。
 そう考えると辻褄が合う気がする。
 やはり、さやかの言っていた映画の記憶は、前の時間軸のものだったのだ。
 正直なところ、どのような理由、どのような理屈なのかはさっぱり分からない。
 でも、実際に目の前のまどかとさやかは、確かに前の時間軸の記憶を持っている。
 それだけは確かのようだ。
 ならば----



554:1:2012/03/04(日) 15:59:15.68 ID:7s5pwasZ0

「そんなにそっくりなの? じゃあ----」

 ほむらはまどかに微笑みを向ける。

「----私で、その子に謝る練習をしてみたら?」

「練習?」

 まどかは首を傾げる。
 ほむらは説明を始める。

「そうよ。夢の中のその子は、まどかが忘れているだけで現実にいるかもしれない。
 例えそうでなくても、姿が似ている私に言うことで、少しはまどかの気が楽になるかもしれないわ」

 さやかは、ほほぅ、と呟く。

「なるほどねぇ。
 確かにほむらの言ったとおり、話せば楽になるってことはあると思うよ」

「そ、そうかな……」

 ほむらは、不安そうなまどかを優しく諭す。

「大丈夫よまどか。これはあくまで練習。
 ここには私達しかいないのだから、失敗したって笑う人はいないわ。
 だから、そんなに不安がらなくてもいいのよ」

 さやかもほむらに続く。

「そもそも、謝るのに失敗なんて無いと思うけどねぇ。
 どんな言葉にしても、どんな行動にしても、思いが相手に伝わればいいんだからさ」



555:1:2012/03/04(日) 16:00:09.54 ID:7s5pwasZ0

 ほむらとさやかの説得に、まどかは頷いた。

「……うん。じゃあ、ちょっとだけやってみようかな……」

 ほむらとまどかは立ち上がり、互いに向かい合う。
 まどかは何か言わなくちゃ、何か言わなくちゃ! と思い、考える。だが、何も浮かんではこなかった。
 でも、口は何かを言おうとして、モゴモゴと動く。何も思いつかないまどかは、口の動くままに任せることにした。

「……ほむらちゃん、えっと----」

 まとかは俯き、上目遣いになる。そして、

「----や、やく、約束、わたし、ほむらちゃんとの約束守れなくって、その----ごめんなさい……」

 と言いながら深々と頭を下げた。
 ちゃんと言葉に出来ていた。

「ええ、まどか。私は----」

 後はほむらが適当に返事をして、練習はあっという間に終わり----のはずだった。

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」

「……まどか?」

 だが、ほむらの言葉が届いていないのか、まどかは謝罪の言葉を繰り返し発していた。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」

「ちょっ、まどか?! どうしたのさ?!」

 さやかもこの異様な事態に身を乗り出した。

「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!
 ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!
 ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!
 ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!
 ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!
 ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」



556:1:2012/03/04(日) 16:01:10.33 ID:7s5pwasZ0

 気がつけば、まどかは涙を流していた。
 それはもはや演技や練習といったものを飛び越えた、本心からの謝罪の言葉であった。

 とにかくやめさせなければ! ほむらとさやかは同時にそう思った。だがどうすればいいのか----

 さやかは戸惑い、一瞬前に出るのが遅れた。
 ほむらは迷うより先に一歩踏み出し、そして----

「まどか----もういいの。もう謝らなくていいのよ」

 ----正面からまどかを抱きしめた。
 それでも謝り続けるまどかに、ほむらは優しく話しかける。

「まどかは何も悪くないわ。
 だから、もう自分を責めるのは止めてちょうだい」

 ほむらの言葉に、まどかはようやく謝るのを止める。そして、恐る恐る顔を上げる。
 目が合うと、ほむらは再び優しく微笑みかけ、まどかの頭を撫でる。

「ねぇ、まどか。
 毎日毎日、こんなクタクタになるまで歩き続けて……。
 今まで、とても大変だったでしょう。
 今まで、とても疲れたでしょう。
 今まで、とても辛かったでしょう。
 もう十分よ。貴女は、もう十分に罪を償ったわ。
 例え『夢の中のあの子』が許さなくても、例えカミサマが許さなくても----私が、貴女を許すわ」



557:1:2012/03/04(日) 16:02:09.86 ID:7s5pwasZ0

 まどかは、体の奥底から瞳へと、何かが汲みあがってくるのを感じた。
 頬を何かがつたう。
 手で拭ってみると、それは涙だった。
 まどかの瞳から、大粒の涙が零れ出ていたのだ。

 まどかの意思とは関係なく、まどかの体は動いていた。
 気がつけば、まどかの方からほむらを抱きしめていた。

「ああぁああ!!! うああぁぁああ!!! あああぁぁああぁぁあぁぁあ!!!」

 同時に、まどかは泣いていた。
 人目を憚ることなく泣いていた。
 訳も分からず泣いていた。
 ただ、自分の中から、うれしいでもなく、悲しいでもなく、果てしなく重い何かから開放されたような、何ともいえない感情が次から次へと湧いてくる。
 そして涙が、感情が、今まで溜まりに溜まっていたものが、堰を切ったかのように溢れ出していた。
 まどかは泣き続けた。
 今まで抱えていた不安や焦燥感が、涙と一緒に流れ出るのを感じていた。

 なぜかまどかの脳裏には、自分の中に居る内なるもう一人の自分が、満足そうな表情で消えていくイメージが浮かんでいた。



558:1:2012/03/04(日) 16:03:09.37 ID:7s5pwasZ0

*

 それから数分が経過した。
 まどかの泣き声が止んだのを見計らい、ほむらが口を開く。

「……どう? 落ち着いたかしら?」

 そう尋ねてくるほむらに、まどかは抱きしめる腕の力を緩めながら、

「うん……。ごめんね、心配かけちゃって……もう、大丈夫、だから……」

 呟くような声で答える。
 まどかは、声や表情とは裏腹に、とてもすっきりとした気分であった。

 ほむらとまどかの体が少し離れる。
 まどかの顔を覗き込むと、鼻水と涙で汚れ、目が真っ赤に腫れ上がっていた。
 それを見たほむらが辺りをキョロキョロと見渡しだした。
 さやかはほむらが何をしようとしているのかを察し、近くに積んであったタオルを手に取り、そしてほむらに渡す。

「ほら」

「あら、ありがとう」

 ほむらはさやかからタオルを受け取ると、

「まどか。ちょっとだけ目を瞑っててちょうだい」

 優しくまどかの顔を拭いた。

「ん……ふぁ……」

「あ、ごめんなさい……痛かったかしら?」

「そ、そんなことないよ!」

 まどかの表情は、顔を拭かれるのが恥ずかしかったのか、赤みがかっていた。
 さやかがそれを指摘すると、まどかの顔の赤みが増した。
 ほむらはわけが分からず、首を傾げた。



559:1:2012/03/04(日) 16:04:11.55 ID:7s5pwasZ0

 さやかが思い出したように言う。

「そういえばまどか、今日はいいの?」

「……へ? 何が?」

 まどかは、何のことか分からず、さやかに聞き返す。

「いや、いつもだったら『散歩』してる時間じゃん。
 もうとっくに過ぎてるよ。
 あんなに毎日やってたのに、今日はいいのかなって思ってさ」

 まどかは壁に掛けてある時計を見る。
 確かに『散歩』の時間を大分過ぎていた。
 だが、いつもは感じる『歩かなきゃ』という不安感を、今日は感じない。
 それどころか、ここを離れたくないという気持ちでいっぱいだった。

「……んっと……何だか今日はそんな気分じゃないなって。
 それよりもここでお喋りしてるほうが楽しいし、大切なことのような気がするの」

「あら、そうなの?
 せっかく外に出る許可を取ったのに」

「外? ほむらちゃん、外に出ても大丈夫なの?」

「ええ、病院の庭限定なのだけど。
 でも、公園みたいになってて広くて開放感があって、気持ちいいらしいわ」

「わぁ! いいなぁ!
 ねぇ、明日は外でお喋りしようよ!」

「ええ! まどかさえよければ、公園だろうと学校の屋上だろうと、地の果てまでだろうとついていくわ!」

 ほむらの興奮した姿を見たさやかが呟く。

「……なんかほむらってさ、ホントにどこまでもまどかについていきそうだよね」

「ふっ。愚問ね。ついていくに決まってるじゃない」

 ほむらは即答した。
 さやかはため息交じりに言う。



560:1:2012/03/04(日) 16:05:10.33 ID:7s5pwasZ0

「……ほむらってさ、なんてゆうか----犬みたいだよね。それも、よく飼いならされたヤツ。
 飼い主のまどかにどこまでも尻尾振りながらついていって。
 そんで撫でられれば喜んで。
 きっとこの調子なら、外敵が来れば吠え立てるんだろうし----」

 ここまで言ってさやかは、ほむらのとても驚いた表情に気がついた。

「----ああっ! 誤解しないで!
 別に貶してる訳じゃないんだって!
 なんか子犬みたいで可愛いなって思ったんだよ!
 それだけなんだってば!」

 自身の発言でほむらが傷ついたと思ったさやかは、慌てて弁解をする。
 ほむらは、別に貶してるなんて思ってないわ、と返した。
 事実、ほむらはそう思っていない。別の理由がある。

 ほむらが驚いた表情を浮かべたのは、犬みたいと言われて、妙に納得している自分自身に対してであった。

 さやかの言ったとおり、まどかに尻尾振りながらついていくだろうし、撫でられれば嬉しいし、外敵----特にキュゥべえが現れようものなら速やかに排除するだろう。



561:1:2012/03/04(日) 16:06:10.23 ID:7s5pwasZ0

 ほむらは思う。

 犬みたい、か。
 確かに、今までの自分の行動を振り返ってみると傍から見たら……まるで犬のようね……。
 でも----
 それでも----
 そうだとしても----
 ----まどかは絶対に守る。守ってみせる。
 犬畜生だろうが何だろうが構わない。
 それでまどかを守れるのなら、喜んでなってやろうじゃないか。
 犬は犬でも、まどかを守る番犬になってやる!

「……ほむらちゃん?」

「!! な、なにかしら?」

 まどかの呼びかけで、ほむらは自分の世界から帰って来た。
 まどかは不安そうな表情でほむらを見つめていた。
 ほむらがさやかに対して怒っている、と思っているのかもしれない。



562:1:2012/03/04(日) 16:07:11.72 ID:7s5pwasZ0

「ほむらちゃん、ちょっとそこに座って?」

 まどかはベットを指差す。

「え? ええ。----これでいいかしら?」

 ほむらは、言われたとおりベットに腰掛ける。
 まどかはほむらの後ろ側に回ると、膝でベットの上に立ち、ほむらの肩を揉みだした。

「まどか?」

「ほら、リラックス、リラックス。
 そんなに肩に力入れてると、凝っちゃうよ?」

「……私、そんなに緊張しているように見えたのかしら?」

「うん、もの凄く」

 即答で言い切られてしまった。
 それほどまでに分かりやすく、私は表に出してしまったのだろうか。
 まどかは続けて話す。

「何かこう、重大な決心をしたカンジに見えたよ。何を考えてたの?」

「……犬になる決心をしていたのよ」

「……犬?」

 脈絡無く出てきた言葉に、まどかは首を傾げる。

「そうよ。貴女を守る為なら、私は犬にだってなってみせるわ」

「……わたしを、守る……?
 えっと、よくは分からないけど、ほむらちゃんは犬になるの?
 じゃあね、とりあえず----」

 まどかはほむらの肩を揉む手を離し、手のひらを向ける。
 ほむらは振り返り、その手のひらを不思議そうに見る。
 まどかは笑顔をほむらに向けた。



563:1:2012/03/04(日) 16:08:14.08 ID:7s5pwasZ0

「----ほむらちゃん、お手!」

 ほむらは差し出されたまどかの手のひらの上に軽く握った拳を乗せて、

「わん!」

 と言った。
 ほむらの行動には、迷いが一切無かった。

「うわぁ……」

 一人、さやかがそう呟いた。

 その後も繰り広げられるさまざまな芸に、さやかはその場に居づらくなった。
 そっと音を立てないよう、静かに部屋を後にする。
 ドアを閉める時だった。

「きゃっ! くすぐったいよ! あっ! そんなとこ舐めちゃダメ! ダメだってば! コラ! メッ!」

「わん! わん! わん!」

 なにやら不穏な会話を聞いたような気がした。
 さやかは、

「……あたしは何も聞いてない。何も聞いてないぞ。
 聞いてないったら聞いてないんだからね……」

 自分に言い聞かせるように呟きながら、ドアを閉めた。



564:1:2012/03/04(日) 16:09:13.03 ID:7s5pwasZ0

*


 翌日。

 病院の庭の木の下に、まどかとほむらが並んで座っていた。
 天気は見事に晴れ渡っていた。

「ん~~。気持ちいいね~」

「ええ、本当にね」

「さやかちゃん、遅いね」

「きっと、もうすぐ来るわよ」

「ふぁぁ……何だか暖かくって、横になったら眠っちゃいそうだよ」

「実は私もよ。
 ----ねぇまどか。さやかが来るまでにどちらが起きていられるか、勝負してみない?」

「いいよ。えへへ、負けないよ~」

「じゃあ同時に横になるわよ。
 ----いい? せ~~のっ!」

 ほむらの合図で、二人は仰向けになった。

 木の隙間から見える青空は、とても綺麗であった。
 風が優しく頬を撫で、鳥の囀りが聞こえ、葉っぱの隙間から差す太陽の光が二人を照らす。
 
 このままではすぐに眠ってしまうと思ったほむらは、今後のことを考えることにした。

 巴マミのこと。
 佐倉杏子のこと。
 千歳ゆまのこと。
 呉キリカのこと。
 美国織莉子のこと。
 キュゥべえのこと。
 魔法少女の契約のこと。
 ソウルジェムの秘密のこと。
 魔女の正体のこと。
 ワルプルギスの夜のこと。

 パッと思いつくものだけでも、これだけの考えなければならない事柄がある。
 そしてこれらを全てを、一ヶ月以内に解決しなければならない。
 これまでの時間軸では、立ちはだかる壁の高さに、時間を巻き戻すたびに気が遠くなる思いであった。
 だが、今回は違った。
 この時間軸は、いつもと違う。
 どんなに高い壁も、飛び越えられる。
 この辛く長い繰り返しの日々は今回で終わる----そんな予感がした。
 明確な根拠があるわけではない。
 不確定なものも多い。
 越えるべき壁は相変わらずとても高い。

 だが、不思議と不安には感じなかった。



565:1:2012/03/04(日) 16:10:12.31 ID:7s5pwasZ0

*


 ほむらとまどかは夢を見ていた。
 それは、まるで童話の世界に迷い込んだかのような内容の夢であった。

 まどかは舞踏会からの帰り道を、トボトボと歩いていた。
 十二時が過ぎ、魔法が解けたまどかの姿は、灰を被ったみすぼらしい姿に戻っていた。
 ようやく家に辿り着くと、膝を抱えて塞ぎこんだ。

 何がいけなかったのだろうか。
 どこが悪かったのだろうか。
 ”私”の容姿と佇まいは完璧だったはずなのに。

 まどかは考えた。
 ただひたすらに考えた。
 今更何をしても遅いと分かっていても、考えた。
 そして、ようやく気がついた。
 最初から----魔法を掛けて貰う以前から、ほむらは自分を見ていてくれていたということに。

 まどかは後悔した。
 懺悔した。
 絶対に謝罪をしようと心に決めた。
 だが、どうしたら伝えられるかが分からなかった。



566:1:2012/03/04(日) 16:11:17.86 ID:7s5pwasZ0

 涙が出てきた。
 罪を償うことすら許されないのかと絶望した。
 気がつけば泣いていた。
 声をあげて泣いていた。
 涙が枯れ果てて、喉が潰れるほどに泣いていた。

 果てしない時間が過ぎた。
 未だ泣き続けるまどかの家の戸が叩く者がいた。
 ほむらだった。
 ほむらはまどかを抱きしめた。
 涙を拭った。
 そして、いつの間にか手に持っていたガラスの靴を差し出しながら、こう言った。

 ----ああ、まどか。このガラスの靴を履いてみてくれないかしら。

 ほむらはまどかにせがんだ。すると、

 ----うん。”わたし”でよければ喜んで。

 まどかはそれに応え、ガラスの靴を受け取り、そして履いた。
 靴はまどかの足にピッタリだった。

 ----ようやく見つけたわ、まどか。

 ----えへへ。今までごめんね、ほむらちゃん。

 二人は抱き合った。
 いつまでも、いつまでも、抱き合っていた。



567:1:2012/03/04(日) 16:12:12.82 ID:7s5pwasZ0

*


「いやぁ、完全に寝坊だわー。もう二人とも外に居るのかな?」

 遅れてきたさやかが、ほむらとまどかの姿を見つけ、駆け寄ってきた。

「あっ! いたいた! お~~い! お待たせ----」

 二人は、さやかが近づいても動く気配を見せなかった。

「----って、あれぇ、二人とも寝ちゃってる?
 まったく、二人並んで気持ちよさそうに昼寝なんて、羨ましいねぇ。
 おっ! そ~~だ! へへっ!」

 さやかは何かを思いついたようで、木の枝を拾うと、笑顔で地面に落書きを始めた。

「出来たぁ! さあて、二人とも、起きたらどんな風に反応してくれるのかな~」

 さやかはケータイを取り出すと、写真を一枚撮った。
 向かい合って幸せそうに眠るほむらとまどかの背後には、大きな翼が描かれていた。



568:1:2012/03/04(日) 16:14:14.63 ID:7s5pwasZ0

 これにて投下終了となります。

 今までこのSSを読んで、支えてくださった皆様、本当にありがとうございました。

 ではまた、どこかのSSスレッドで。



569:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/04(日) 16:18:53.56 ID:ZDRxQdiDO

乙!!面白かった…



571:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/04(日) 16:27:29.81 ID:C/iOdd8IO

ふむ、いいなぁこれ……>>1乙!!



574:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2012/03/04(日) 16:34:41.03 ID:pugS5PHv0

乙乙
この心が安らぐような終わり方。とても良いです。
楽しませてもらったよ。ありがとう。



575:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2012/03/04(日) 16:34:48.89 ID:Uw6DEIZNo

お疲れ様でした。



594:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県):2012/03/06(火) 22:30:52.40 ID:VtuKQGQN0

乙でした。
面白かった!



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         コメント一覧 (162)

          • 63. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月28日 02:42
          • 5 素晴らしかった
            長いとは思ったけど損したとは思わなかった。

            まだまだ自分が未熟だと思った。

            ちゃちなコメントですまん

            作者良い作品をありがとう!
          • 64. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月28日 03:50
          • 5 GJ
            読めない奴は惰弱だな
            絵本の世界に帰って、どうぞ
            マミがいいとこ無くて安心した
          • 65. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月28日 04:24
          • 長かったがとてもよかった。
          • 66. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月28日 05:02
          • ほむほむが変態だったけどマトモに良かったよ、
            本編がそもそもパラレルを許容する性質だからこういう構造のしっかりしたやつは面白い。
            魔女になった後どうなるのかって展開は見ないし、
            本編だとまどかがただ力尽きて魔女化するだけだから、絶望の質を描いてくれたのも良かった。
          • 67. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月28日 05:21
          • これ完結してたのか。ここで読めて良かった。
          • 68. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月28日 07:37
          • 面白かった!
            キャラみんな見せ場があって良かった。
            そしてこれは良いさやかちゃん。
          • 69. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月28日 11:54
          • これはいいね、前半はともかく後半は感動すら覚えたよ
            いや、その後半の為の前半か。ともかく素晴らしかったよ。
          • 70. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月28日 15:47
          • すごく面白かったけど中盤の織莉子勢はいらなかったんじゃないか?
          • 71. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月28日 16:01
          • 序盤でオチ当てた外野が一番凄い
            まぁタイトルで概ね見当つきそうだけど
            でも予想は氏ね
          • 72. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月28日 20:59
          • 読み終わったことを後悔
          • 73. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月29日 00:44
          • 単なる変態SSものかと思ったら。
            相当に完成度の高い正統派本編SSだった。
          • 74. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月29日 03:17
          • 5 読めてよかった。本当に心からそう思えるSSでした。お疲れさまです。
          • 75. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月29日 04:03
          • 完成度高杉
            かなり時間かかったけど何か…こう…充実感(?がある
            これこそ劇場版で観てみたい
          • 76. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月29日 20:56
          • 5 愛、ですね!!
          • 77. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月29日 22:28
          • 5 こういうのもっと増えるといいな
          • 78. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月29日 23:36
          • 長いけど面白かった。

            ただ今更な上にどうしようもないことなのは分かってるんだけど、やっぱり「く○に」が気になるな…。
          • 79. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月30日 00:03
          • 5 ヤバい
            なんでこんな引き込まれたんだ俺
            なんか・・・こう・・・言葉に出来ない!!
            ただ、面白かった!!
            ☆五つ?そんなんじゃ足りない!!これは☆10個つけるべき良作だわ
            長きに渡って乙だ
          • 80. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月30日 01:10
          • 出番が廃工場だけの仁美ちゃんマジ不憫(´・ω・`)

            >>1、管理人乙!!
            ありがとう!
          • 81. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月30日 02:31
          • 5 いつの間にかこんな時間…

            こんな長いの読んだのいつぶりだったか


            ここ最近でも、首位クラスの出来ではって思ったな
            書き手・管理人共に乙!
          • 82. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月30日 03:34
          • 俺は一年このスレを待っていたのかもしれない。最初は皆揃うって違和感がwwとか思って、中盤にはずっと見たかった展開になり、終盤にはうるっときた。

            日本語力が足りなくて何書いてるかわけわからないけどこれだけは言わせてくれ。
            ありがとう。
          • 83. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月30日 08:21
          • 長かった・・・ひたすら長かった…正直まともにラノベ1冊分読んだくらいの
            感覚は悠にあった…しかし本当に読んでよかったと思える自分がいる。

            キャラもSS特有のほむらガチレズ、さやかちゃんマジ天使的なアレンジはあったけど、
            全体的にはアニメ、漫画版キャラともに本当によくキャラを掴めていることもあり、
            おかげで、まるで公式小説を読んでいるかのような、ある種の説得力があったし、
            そして展開にも癒しや緊張感や悲壮感やリアリティーが十分以上にあり、
            序盤の戸惑いから緊迫のバトルへ、そして日常を経ての絶体絶命、それを乗り越え
            ついに幸せが訪れるかと思わせて置いてのまさかの絶望、そして・・・という
            見事な緩急のついたストーリーの配分も、読むものをより深く物語へ引き込み、
            気が付けば必死になって最後まで読んでいるという素晴らしい内容だった、
            この作者さんには素直にありがとうと言いたい気持ちでいっぱいだわ。
          • 84. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月30日 10:04
          • うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
          • 85. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月30日 16:31
          • 頭のいい人が書いたんだろうなあって話だわ
            ほむらがループしてんだからまあそう言うことだよなってわかってんのにぐいぐい読まされた
          • 86. 以下、VIPにかわりましてZEROMAXがお送りします
          • 2012年03月31日 01:42
          • 5 キャラクター達の心境がよく伝わってくるし、場面場面の臨場感が浮き彫りにされてて読んでて感動しました。是非とも自分の作品を書いて欲しいと僕は思います。ラノベになったら絶対買いますww
          • 87. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月31日 19:53
          • 5 オレ、初めてSS読んで泣いたわ……
          • 88. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年04月01日 00:47
          • 俺はこのくらい長い方が好きだけどね
            ちょっと過激・・・というか過剰な戦闘描写が多い気がする
            好みの問題だけど
          • 89. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年04月01日 01:27
          • これは新しい
            新しい切り口だし、すげぇ面白いわ
          • 90. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年04月01日 21:03
          • SS楽しく読ませて頂きました!失敗した時間軸を題材にするのは好きな方なので見入ってしまいました。ちなみに、まどかの契約理由をほむらが知ったら、ほむらはその時間軸で生きていく事を選ぶのかな~なんて事考えました。
            長文すみません。
          • 91. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年04月01日 22:49
          • 1 なげぇ……
          • 92. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年04月02日 02:15
          • これ、ほむらがその世界のその後を知ったらどうなるんだろうな・・・
            やっぱりほむは時間遡行する前にまどかのソウルジェムは壊すべきだったんだな
            ほむが去った後が悲惨すぎる・・・
          • 93. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年04月03日 02:51
          • とりあえず見なけりゃいいだけの話なのに見てその後ギャーギャー喚く奴はどうでもいいとして



            長いとか言う奴は2日とか3日に分けて読むか1回本屋でラノベ1冊ぐらい買ってそれを読んでからこういうのを読んだ方がいい。長さはラノベ1冊ぐらいなんだから。




            寝る前にこういうSSを見れてよかったと思っている。
          • 94. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年04月03日 14:36
          • 5 満足!良いssでした、ラストに感動したよ
          • 95. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年04月03日 20:29
          • 2 全部読んだ
            時間無駄にした……クソ
          • 96. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年04月05日 01:36
          • 5 歴代最高(自分調べ)
          • 97. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年04月05日 17:15
          • 普通※が90越えたら荒れてる事が多いけど此のSSは違うんだな
            とても素晴らしSS有難うございました
          • 98. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年04月06日 03:08
          • 新しい解釈で楽しめました。
          • 99. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年04月08日 23:17
          • 5 泣いた…
          • 103. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年04月09日 17:55
          • 5 1000ゲット
          • 104. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年04月13日 00:05
          • これはまた綺麗な虚淵
            凄まじかttいや、素晴らしかった

            最初はほむらが変態なのが気になったが、序盤杏子に正直になれって言われたからだった訳で

            絶望ってものをよく理解して書かれていて本当に良かった。やっぱりこうでなくちゃね、いや全く

            あと仁美ちゃんは確かに出番少なかったけど携帯奪うという大役果たしたよ!

            数ヶ月に渡ってよく書き上げてくだすった。お疲れ様、ありがとう

            まあつまり何を言いたいかっていうと

            ポリバケツになった少女ェ
          • 105. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年04月23日 12:37
          • 後半からスクロールバーが気にならなくなるくらい引き込まれた
            伏線の回収にも納得できた

            なにより大作を手掛けてくれてありがとう

          • 106. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年04月24日 12:31
          • 5 素晴らしいに尽きる
          • 107. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月04日 04:11
          • 1 ナレーション大杉
            読んでて萎える
          • 108. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月09日 04:55
          • 寝る前に読んだせいで気付いたら朝になってたorz
          • 109. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年06月13日 17:43
          • 5 今更ながら読んだけど後半とか描写とかいろいろと惹きこまれた
            二日かかったけど面白かったぜ
          • 110. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年06月28日 15:01
          • こいつはすげぇ超大作
            プロットもしっかりしてるし伏線も上手くはってあるしストーリーも緩急あってすげぇ面白い
            スレタイ詐欺みたいなタイトルも含めて完成度高いわ
            途中まで鬱になりそうだったけど読み終わった後のこの爽快感もいいな
          • 111. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年07月01日 00:51
          • 超良作
          • 112. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年07月02日 00:41
          • 泣いた。


            映画はもうこれで良いよ
          • 113. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年07月02日 00:46
          • 最後の魔女まどかの謝罪の意志が、冒頭に繋がるわけか。まどかの時空を超えた想いが切な過ぎる
          • 114. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年07月13日 19:16
          • これは…凄まじいの一言。

            本編切っての強メンタルであるまどかを絶望させてゆく展開の綿密で丁寧な描写といい、一世一代の苦難を乗り越え健気に前を向いたマミさんを歯牙にもかけず進行する世界の破滅っぷりといい、読んでて心が揺さぶられた
            (そして現在の時間軸に戻った時にはもう…)

            こんな大作を読ませてくれた作者には最大限の乙を送りたい。本当にありがとう。

            そして願わくばこの時間軸の二人が幸せになりますように……
          • 115. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年07月20日 03:04
          • 映 画 化 決 定

            泣いたわ……
            まさにこれこそ傑作
          • 116. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年07月20日 03:26
          • 5

            感動した。純粋に感動した。


            正直言って、これを長いから読めないっていう人は読書不足にもほどがあると思う。

            煽りとか抜きで真剣に。
          • 117. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年07月21日 06:20
          • 今回で読むの3回目だけどやっぱりおもしれーわ
          • 118. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年08月01日 11:51
          • 4 序盤は文章が合わなくて退屈だったけど、まどか契約辺りからは面白かったな。
            シリアスなのにほむらのキャラが壊れてて気になる。
            平行世界説は嫌だからほむらは自害とかの方が良かった
          • 119. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年10月20日 03:17
          • 5 この時間軸のまどかはある意味前の時間軸の願いが叶ってる姿なのか
          • 120. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年10月23日 18:09
          • 5 おつ。
            ただそれだけ。
            こんだけ長いの思い付いたな、と私は思うなぁ。

            妄想力が高いからほむらちゃんが狂ったのも想像出来るし、マミさんがシャルロッテた……ん?を守ってるのもよくわかる。

            なんか、最後のは映画版のオープニングみたいな感じで心が軽くなった。


            女の子(キュゥべえ魔女含む)以外出てなくね?……客は知らないけど
          • 121. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年10月28日 18:51
          • 皆さんも好きですね~
            まあ私はウメスが描いた魔法少女が動き回るってだけでも興味がありましたけど…
            まさかここまでのコンテンツになるとは。
            来年公開ならあっという間なのでほむほむしながら待ってます。
            SS面白かったですよ~
            長文失礼。
          • 122. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年11月11日 12:31
          • 4 なげえよ、でもとてもおもしろかった。

            タイトルがあれなのがマイナス1点、このタイトルからこの内容は想像できん。
          • 123. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年11月21日 00:36
          • 5 小説っぽいSSだな
            面白かった
          • 124. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年12月16日 12:43
          • 毎回思うんだがまどかの役立たずコンプレックスってなんでこんなに重度なんだろうか。

            役に立てる、もしくは誰にも負けない、誰にも出来ない特技があるなんて人の方が稀なのにさ
          • 125. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年01月07日 01:31
          • 読み終わるのに2日かかった(´・ω・`)
          • 126. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年02月20日 18:04
          • 米115
            超絶亀だけど、平行世界であってるよ
            別の時間軸では上条はギターやってるし
            同じ時間軸を何回もやり直してる訳ではない
          • 127. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年04月20日 15:34
          • これは良いものだ
            目頭が熱くなったよ
          • 128. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年05月08日 23:03
          • 5 何気にカラオケの歌詞が伏線になってるんだな

            書き溜め無しでこの出来かよ!凄すぎワロタ
          • 129. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年06月28日 17:14
          • 5 評価
          • 130. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年08月01日 02:56
          • ふと思ったんだけど自分に自信が無いから魔法少女になって街を守るって言うのはある種の甘えとも言えるよね 自分に自信が持てるようになるために出来ることは沢山あるし魔法少女になることで失う事が沢山あるのも分かってる その上で即物的な自信を得るために契約をするって言うのはほむほむ好きとしては許せないなぁ 勿論まどかの優しさは尊重すべきものだとは理解してるんだけど
          • 131. バーバリー ロンドン
          • 2013年09月30日 22:57
          • 友人がテスコのキャッシュディスペンサーでお金を下ろしてる間に、私は「バーバリーどこ だったかな~?」とちょっとキョロキョロ バーバリー ロンドン http://www.losarrudos.com/バーバリーコート.html
          • 132. バーバリー コート アウトレット
          • 2013年10月02日 16:20
          • 南極点に到達したノルウェーの探検家ロアール・アムンセンと、同じく南極点を目指し遭難したイギリスの悲劇の探検家ロバート・ス バーバリー コート アウトレット http://www.losarrudos.com/バーバリーコート.html
          • 133. バーバリー マフラー アウトレット
          • 2013年10月07日 17:42
          • バーバリー マフラーに関する商品をまとめた一覧です(1ページ目)。バーバリー マフラー の商品を探すなら通販サイト【パーク/PARK】。 気になる商品をクリックすると商品詳細 がご確認いただけます。 バーバリー マフラー アウトレット http://www.econag2006.com/バーバリーアウトレット.html
          • 134. モンブラン 万年筆
          • 2013年10月10日 23:33
          • そして、万全のアフターサービス、も魅力のひとつです。 モンブラン 万年筆 http://zixunbox.com/montblanc.html
          • 135. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年11月13日 22:23
          • なんかもうすげェわ
            凄すぎるわこれ
            こんな面白い大作が眠っていたとは
            時間も忘れて読みふけってしまった
          • 136. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年11月20日 08:02
          • 5 すごいな、これ本当に小説を読んだ感覚だよ
            ワルプルギス戦の結末は描かれていないが、きっとハッピーエンドだったんだろうと信じられる
          • 137. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年11月20日 12:00
          • 叛逆の物語を観た後だからこそ面白い。


            そんな作品でした。
            惜しみない乙。
          • 138. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年11月21日 18:58
          • 5 長いSSだけど最後まで引き込まれて読めた。
            終着点がワルプル後じゃないのもよかった。
            まどかが救われて安心した。面白かったです。
          • 139. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年11月29日 22:46
          • ちょっとした約束破りが原因で後々に殺伐とした物語になっていって最終的に世界全体に影響が出てしまうのは劇場版仮面ライダー龍騎っぽいね
            劇場版龍騎はほとんど救いの無い結末だったけど、こっちはまだ救われた感があるね
            しかしほむらが変態化したのはまどかの願いの影響もあると解釈して良いのかな?
          • 140. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年12月20日 21:08
          • naverで紹介されて読みました
            すごく面白かったです
            特にまどかが壊れて行く描写がたまりません
          • 141. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月21日 00:35
          • 5 コメント41、黙ってろ、な?
            使い方がどうとか本筋と関係ない

            あと星1とかの奴のコメントがクソ

            本文はな、本当にいいものだったね
            ギャグもあったけど
            ただ杏子が「話してくれることを期待してる」と言った割にはワルプル戦協力してくれたのかな?とかさやか契約してたかちょっと忘れちゃったり(まあ自分のせいだが)ポリバケツの魔法少女?は瞬殺だったのか
            キングクリムゾンされててわかりづらかったのだが、それをマイナスとしても100点満点中100以上の点をあげたいかなっておもう
          • 142. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月21日 00:38
          • 救いがあったのかな?とは思うが・・・他作品の用語を借りるとしたらリーディングシュタイナー的な感じだったのだろうか
            それかクリームヒルトも探し回った結果アルまどみたいにすべての時間軸から「この」ほむらを探して謝ろうとしたのか・・・ループものらしい不思議な感覚ですね
          • 143. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年01月21日 00:45
          • すげぇ、二年近く前のコメントにレスつける馬鹿がいるよ…
          • 144. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年02月10日 01:04
          • 5 本当に素晴らしい。
            気づいたら3時間程経ってたけど飽きなかった。
          • 145. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年02月15日 12:31
          • 魔欲力てなんやねんアホ
          • 146. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年02月16日 00:57
          • タイトルからは想像できない大作だった、素晴らしい。
          • 147. iphone5 ` ǥ
          • 2014年03月05日 22:19
          • _ˡФӤŮӤϡۤȤӹκäʡϡuƷǥȤδ󤭤˥뤳ȤǤޤ 饹ȡŮӤϤˤϤˡʤèǤʤԥ󥯤äɫ؏Ն}ߤuƤޤ 赤ʽ񡢤ʤؔʥץvץߥ󥰤ҊĤǤ礦gǤʤĤΥ`ˤϡһĤˤϺρ֢ΤʤMߺϤ碌ˤĤʤ뤳Ȥ_JƤޤ ߤЯԒؚ̤ˮEarthץ饹Τ֤ǂĤӰ푤ܤ䤹 ޤĤΕrg϶यΥӥ󥰡??rСС⥿դʥե륿Τ˥ե륿Ǥ롣
            iphone5 ` ǥ http://www.10mila.se/images/iphone5s.html
          • 148. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年03月12日 17:49
          • クリームヒルトが世界を超えたのは、まどかの願いが「ほむらの傍に居たい」だったからかな。
            元々ほむらからの因子が絡んでて紐付けられてたわけだし、付いて行けたのは不思議なことじゃないんだろうな。
          • 149. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年03月17日 05:54
          • 5 長すぎ
            お陰さまで気づいたら朝
            あくびで涙が出てきたじゃないか
          • 150. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年03月22日 22:31
          • 名作でした
          • 151. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年03月27日 06:35
          • SS速報ではメール欄にsagaと付けないと魔力→魔翌力になる。
            ただそれだけ。
            それにしても何ヶ月ぶりかに読み返したけど面白いね!
            こういったシリアスで長編ものドンドン増えないものか……
          • 152. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年04月04日 16:32
          • 5 長かったけど凄く面白かった。

            コメで長いって言って低評価してる人は全部読んで言ってるとは思えないんだよなぁ。
          • 153. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年05月07日 17:31
          • 5 まどマギSS史上最高の名作!!
          • 154. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年06月21日 01:10
          • 全部読んだけどまあまあおもしろかった 設定とかよく練られてたし
            でもそんなに手放しで賞賛するレベルではない
          • 155. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年07月04日 10:36
          • まどかSSで最もよく出来た作品の一つだよな
            単に面白いだけじゃなくて伏線の張り方とか絶望していく過程とか描写が丁寧で、納得の完成度
            1年ぶりくらいに読んだけど、久しぶりに読むと結構忘れてるのと、前は気づかなかったさり気ない伏線にニヤリとできるな
          • 156. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年09月10日 21:47
          • 視点ブレブレの悲惨な地の文で冷めたけど、コメ欄見たら評価良いな
            やっぱり文章は目をつむって最後まで見てみるか
          • 157. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年11月19日 03:52
          • 5 泣けたよ…
            あとさやかちゃんGJ!
          • 158. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年03月05日 21:39
          • 素晴らしいまどほむだった
            まどマギの黄金比率は一割のほんわかと九割の絶望だと思うの
          • 159. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月13日 07:08
          • ところどころにある変態ほむの間の悪さが気になった
            シリアスしてるところでそれは無いってのが多かった
            それを除けばかなりの良作だと思う
          • 160. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年08月23日 05:47
          • 3 なんかもう小説だねこれは
            なんかいも読み返したくなる。
            素晴らしいかった作者乙・管理人乙であった。こういうのをまた読みたい。
          • 161. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2016年01月20日 22:39
          • 5 すごい作品だなぁ...
            台詞だけでもそのキャラの心情が痛いほどに伝わってくる...
            絶望も希望も心にダイレクトに刺さってくる。
            >>1の表現力にはもう拍手喝采を送らざるを得ない。これが本編でもいいよ...
          • 162. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2016年03月01日 09:06
          • ひさしぶりに読み返したが、いつまでも色褪せない作品だと思った。
            後半の、残された魔法少女組の絶望感やまどかの後悔には、引き込まれるものがあったね
          • 163. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2016年09月28日 01:31
          • 5 これ何年かにいっぺん読み返したくなるんだよなー
            長いけど好きなSS
          • 164. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年02月09日 05:32
          • 5 読み返したくなるよなー。よかった
          • 165. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年10月28日 01:07
          • 5 また読み直しちゃったわ
            結構な鬱展開あって解決エンドでもないのに妙にすっきりした読後感
            ※39の言ってる事をほむら自身も予感してて、この時間軸ならきっと上手くいくという手応えを読者にも感じさせるラストだからかな

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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