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魔王「どうか、***」

おつかい ◆5G.VrtfN/g 2010/01/05(火) 23:14:12 ID:SADUfMuw

僭越ながら、再び場所をお借りします!

このSSは、魔王「今日も平和だ飯がうまい」及び、魔王の娘「今日も平和でご飯がおいしい」の過去編となっています。
前作二つを読まずとも楽しめる。または、読めば細かい点が繋がり、楽しめるようなものを目指すつもりです。
考えながら書くため今回もゆっくり目の進行となりますが、またのんびりお付き合い下さると嬉しいです。



以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/05(火) 23:15:34 ID:SADUfMuw

魔王城─

魔王「話はそれで終わりか?」
息子「……」
魔王「私に意見するつもりならば、もう少し出来た物を持って来るがいい」
息子「……そう、ですか。休むおつもりは、ないと」
魔王「くどい。今進撃を止めて、利になる点は一つもない」
息子「分かりました……失礼します」
魔王「ああ」


息子「はあ……」
息子(父上は相変わらず、か)
息子(このようなことを続けていて、何になると言うのだろうか)
息子(悪戯に人間共の領土を侵略し、無益な戦いを引き起こす)
息子(人間がいくら減ろうと私は構わない。だが、それが魔物となれば話は違う)
息子(最早魔物の誰一人として、戦いを望んではいない。皆、疲れ果ててしまったと言うのに……)



以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/05(火) 23:16:43 ID:SADUfMuw

息子(城の魔物が皆、晴れぬ顔ばかりとなったのは、いつからだろう)
息子(戦いに赴く度、顔ぶれが減り……またどこからか連れて来られる。その繰り返しだ)
息子(人間は弱い。だが団結し、技術を磨き……侮れない敵だと言うのに、父上は理解しようとしない)
息子(いや……魔物にすら、興味がないのであろうな)
息子(全て生き物は、父上のために生きて死ぬ……父上の、逸遊のために)
息子(それが不自然だと思うのは、私だけなのだろうか)


息子「私は……」
息子「私はただ、平和な日々が欲しいだけだ」
息子「緩やかに変化するだけの、静かな日々が……」
息子「同士が倒れる戦いを活劇として眺めて、何が楽しいのだか……」
息子「はあ……私には分からぬ」
息子「……こうしてぼやくだけでは、意味が無い、か」



以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/05(火) 23:18:07 ID:SADUfMuw

とある世界の昔の話。
それほど遠くない未来に魔王となる彼には、昔から秘めた願いが二つありました。
一つは、同士である魔物達が安穏であること。
一つは、何にも囚われず平和に暮らすこと。
そして……ある時を境に、もう一つの願いを抱えるようになります。



とある町─

「はあ……」
「この山を越えねえと、次の町には行けないとか……聞いてねえよ」
「やったら強い魔物が住み着いてるってのもな……」
「あーもう!誰か強い奴いねえかなー!タダで一緒に行ってくれねえかなー!」



以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/05(火) 23:19:47 ID:SADUfMuw

彼はその願いを誰に語ることもなく、ずっと胸に留め続けました。
叶うかどうかも分からない、彼に出来ることなど何もない、儚い願いでした。
それでも彼は願い続けました。報われないと知りながら、彼は今もなお願い続けています。

これは彼の願いの始まりの、誰も知らない区切りの話の、その全て。



【魔王「どうか、***」】



以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/05(火) 23:21:20 ID:SADUfMuw

とある町─

息子「はあ……」
息子(やはり息抜きは人間の町に限るな)
息子(魔物がいると気を遣わせてしまうし、人の姿に化ければ問題は無い)
息子(適当に城から離れた町を選んだが、正解だったな。まだ活気のある方だ)
息子(酷い場所だと、酒場すら無いからな……)


息子(全く……何をするにもやりにくい)
息子(腹を割って話せる者も、共に酒を飲み交わす相手もいない)
息子(孤独……と言うより、暇で仕方がない、と言うか……)
息子「はあ……それもこれも父上が……む?」



以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/05(火) 23:23:15 ID:SADUfMuw

剣士「だーかーらー!謝ってんだろさっきから!!」
ならず者1「それが謝る態度かって言ってるんだ」
ならず者2「誠意がねえよなあ、誠意が」
剣士「はっ、金ならねえぞ!やる気か?!こう見えても剣には自信あるんだ!!」
ならず者「『剣の腕』、だあ?」
ならず者2「…………っぷ」
ならず者3「あはははっはっはは!寝言は寝て言えってんだ!!」
剣士「く、く、くそ!笑うなてめえら!ぶっ殺してやる!!」


息子「騒がしいと思えば……単なる揉め事か」
息子(しかし威勢のいい奴だな。数人の男に囲まれてなお、啖呵を切れるか)
息子(本当に自信があるのか、単なる馬鹿か)
息子「……」
息子「よし」



11 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/07(木) 02:24:08 ID:WEEgEmr6

剣士「見てろ!せーぜー吠え面かきやが……あ?」
ならず者1「何だお前?」
息子「まあ、単なる助太刀といった者だ」
ならず者2「助太刀だあ?」
剣士「なっ?!馬鹿ヤロウ!丸腰で何言ってんだ!関係ない奴は下がってろ!!」
息子「ふむ」
パチン


息子「これで良いか?」
剣士「ま……魔法かよ」
息子(よし、死んではいないようだ。後が面倒だからな。さて)
剣士「……お、おいあんた」
息子「おいお前、時間は」
剣士「話がある!」
息子「……む」



12 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/07(木) 02:25:36 ID:WEEgEmr6

酒場─

息子「お前から誘った割に、奢りではないのか」
剣士「うるせー。本当にすっからかんなんだよ」
息子「ところで、先程の悶着は何が原因だ?まあ……粗方想像はつくがな」
剣士「そうそう。最初はそんな感じ。ああもう面倒だったー」
息子「向こうもまさか、あのような喧嘩の売買に発展するとは思っていなかったろうに」
剣士「うるせえ」


剣士「まあとりあえず。あんたが出て来なくたって一人で片付けられたけど、一応礼は言うぜ。ありがとよ」
息子「うむ。ではその礼のついでだ。奢らせろ」
剣士「何で?!」
息子「隣で貧乏臭く飲む奴がいては、安酒が一層まずくなる」
剣士「おま……声抑えろ。店員睨んでるぞ」



13 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/07(木) 02:26:52 ID:WEEgEmr6

剣士「それじゃあまあ遠慮なく……食い物も頼んでいい?」
息子「好きにしろ」
剣士「やった!久々に腹いっぱい食えるぞー!」
息子「……」


息子(うむ)
息子(これで酒の相手はひとまず確保、と)
息子(しかし騒がしい奴だな……変わっている、と言うか)
息子(本当にこんな奴が強いのか?)
息子(……ますますそうは見えんな。どう見ても普通の)



14 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/07(木) 02:29:46 ID:WEEgEmr6

剣士「おいこら、人のことじろじろ見てんじゃねえよ」
息子「ああ、すまん。剣が使える、というのは本当か?」
剣士「おう。こう見えても、この身一つ剣一つで旅をしてるんだ」
息子「ほう。どこに行くつもりだ?」
剣士「ん、ああ。別にこれと言って目的地ってのは無いんだ」
息子「ほう……?」


剣士「それで、あんたに話ってのはだな……あ、これウマい」
息子「私はあまり腹が減っていないから、全て食っても構わんぞ」
剣士「!!」
息子「勿論支払いは私だ」
剣士「ちょっとそこのおねーちゃん!これもう一皿追加!」
息子「……恥ずかしい奴め」



15 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/07(木) 02:32:07 ID:WEEgEmr6

息子「もう少し落ち着きを持ってはどうだ」
剣士「さっきから一々うるせえな。初対面だぞ」
息子「その台詞、そっくりそのまま返してやる。それで、話とは?」
剣士「その前にあんた、一人?」
息子「でなくば、お前なんぞ構うわけがなかろう」
剣士「引っかかる言い方だけど……良しとするか」


剣士「あんたに頼みがある!一緒に旅をしてくれないか?!」
息子「……は?」
剣士「見たところ、あんたこの町の人間じゃないだろ?旅人なんだろ?」
息子「まあ……そのようなもの、だが」
剣士「旅の魔法使いと、旅の剣士!ちょうどおあつらえ向きのパーティーじゃないか!」
息子「待て待て、初対面だぞ」
剣士「こういうのは直感が大事なんだよ!あんたとなら上手くやっていけそうだし!」
息子「本当に、待ってくれ」



16 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/07(木) 02:33:27 ID:WEEgEmr6

剣士「何だよ。あんたは山を越える気が無いのか?」
息子「山?」
剣士「ああ。あの山を越えないと、次の町には行けないんだが……やったら強い魔物がいるって話でさ」
息子「ほう……」
剣士「一人で行くのはちょっと心許ないし。どこかに強くて羽振りのいい旅人はいないかなーって探しててさ!そこにあんたが現れたってわけよ!」
息子「お前、同行者と言うよりも、単にカモを探していただけだろう」
剣士「細かいことは気にすんなよ!そんなんじゃ女にモテねえぞ!!」
息子「お前にだけは言われたくない」


剣士「な!これで決まりだよな?!」
息子「私が肯定すること前提の台詞を吐くな」
剣士「何でだよ。旅は道連れって言うだろ?」
息子「相手を選ぶ権利もある」
剣士「……あんた、いつまでこの町にいるつもりだ?」
息子「何だいきなり」
剣士「付きまとって、誠心誠意説得するつもりだから」
息子「……説得の前に、まずは会話をしろ。会話を」



17 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/07(木) 02:34:49 ID:WEEgEmr6

息子(しかし人間と旅をする、か)
息子(中々良い気分転換、もとい暇潰しになりそうだな)
息子(……まあ、この件は保留にして)
息子(このような僻地に『強い魔物』、か……どのような奴だろう)


剣士「よし、じゃあ早速飲み食いしたら行くか!」
息子「……少し聞き流していただけで、話が見えなくなっているのだが」
剣士「ああ?同じ宿に部屋取るってことで納得しただろうが」
息子「知らん知らん」
剣士「上の空での相槌でも撤回は無理だかんな!よーっし頑張るぞー!」
息子「…………」

息子(声を掛けたのは、間違いだったかもしれん……)



19 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/18(月) 01:38:46 ID:1QiMOOcY

数時間後─

息子「おい……起きろ」
剣士「……ぐう」
息子「ああくそ。幸せそうな顔して酔い潰れおって。憎たらしい。いっそ燃やすか」
剣士「むにゃ、まだ、くえる……ぐう」
息子「食わんでいい。いいから起きろ」
剣士「……ぐう」
息子「ちっ……」


息子(捨て置いてもいいのだが……)
息子(あれだけ騒いで飲み食いしていたんだ。周囲の目があるな)
息子(もうしばらく気晴らしに居るつもりではあるし……見咎められるのは避けなくば)
息子(……仕方ない。言っていた宿に叩きこむか)
息子「はあ……」



20 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/18(月) 01:39:33 ID:1QiMOOcY

息子「……」
息子「……成り行きで」
息子「成り行きで、部屋を取ってしまった……」
息子「しかも、あれの隣……」
息子「人間め……おかしな気を使いおって……仲間ではない、と言うに」


息子「……はあ」
息子「仕方ない、か」
息子「まあいい。どうせ数日帰らぬつもりだったのだ」
息子「それより折角だ。会ってみるか」
息子「その、『強い魔物』とやらに」



21 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/18(月) 01:40:22 ID:1QiMOOcY

山─

息子「暗くなってしまったな」
息子「別段困ることはないが……」
息子「その魔物とやらは何処にいるのだろうか」
息子「気配がどうも掴み辛いな」
息子「ふむ。私に気取られぬ程の力の持ち主か……幾分かは骨がありそうだ」
息子「……しかし、どうすれば会えるのだか」


息子「おーい」
息子「魔物やーい」
息子「出て来てくれないかー」
息子「……おーい」
息子「……」
息子「段々虚しくなってきた」



22 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/18(月) 01:41:25 ID:1QiMOOcY

息子「はあ……」
息子「私は何をやっているのだろう」
息子「ふと我に返ると……何なのだろうな、これは」
息子「このような些細な自由ですら、そのうち叶わなくなるのだろうか」
息子「私は……何をすべきなのだろう」
息子「願うだけでは駄目だ。だが……私に何が出来ると言うのだ」


息子「はあ……」
息子「……そろそろ夜中か」
息子「仕方ない。今夜は諦めて」

ザッ──

息子「おお」
魔物「……」
息子「何だ、そちらから出向いてくれるとは感謝す」
魔物「……!」
息子「おっと」



23 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/18(月) 01:42:18 ID:1QiMOOcY

息子「待て待て。ああ、この姿では分からぬか。ほら、術を解いたぞ」
魔物「……お前も、魔物か」
息子「ああ」
魔物「ちっ……何の用だ。また、魔王様からの命令か?」
息子「『また』?」
魔物「ああ?惚けるんじゃねえよ」


魔物「この前の戦いでちょっと意見を言っただけで、俺をこんなつまんねー場所に閉じ込めやがったのは魔王様だろうが」
息子「お前……父上に刃向かったと言うのか」
魔物「はあ?!父上?!魔王様がか?!」
息子「ああ」
魔物「気楽なバカ息子がいるとは聞いていたが……本当か?」
息子「好き好んで魔王の血筋を騙る馬鹿はいないだろう」
魔物「そりゃまー……確かにな」



27 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/29(金) 01:29:03 ID:kXqA5NGc

魔物「で……その、魔王様のご子息様とやらが、俺に何の用だ」
息子(ふむ……そう言えば用と言う用はないな)
魔物「俺だって仕事があるんだ。暇じゃねえんだよ」
息子「こんな僻地で、どのような任務に?」
魔物「そんな御大層なもんじゃあねえよ」


魔物「ただ単に、人間の行き来を邪魔しろってだけだ」
息子「ほう」
魔物「物資や人間の流通を妨げ、奴らの弱体化を図るだの何だの。そんなくっだらねー仕事だよ」
息子「大層なものではないか」
魔物「場所を見て物言いやがれカス。こんな田舎の流通妨げて何になるんだってんだ」
息子「……随分とやさぐれているようだな」
魔物「ったりめーだろうが」



28 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/29(金) 01:30:04 ID:kXqA5NGc

魔物「自分で言うのもなんだが、俺は腕に自信がある方でな。昔は先陣切って人間どもを狩ったもんだ」
息子「そうだろうな」
魔物「だがもう、何もかも飽きた。戦うことも、従うことも、だ」
息子「ほう……」
魔物「ご子息様は良いだろうよ。城でぬくぬくと引き籠ってりゃ仕舞だかんな。所詮俺ら下っ端は総じて、魔王様の玩具以下だ」
息子「否定はせん」
魔物「けっ」


魔物「で……本当に何の用だ。ご子息様直々とは、穏やかじゃねえにも程が……」
息子「何。単に、話でもしようかと」
魔物「…………はあ?」
息子「息抜きにこの辺りまで出たのだが、強い魔物がいると聞いてな。どんな奴だろうと思って来てみただけだ」
魔物「……っとーに呑気な奴だな」
息子「でなくば、このような地位など甘受出来んわ」



29 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/29(金) 01:31:29 ID:kXqA5NGc

魔物「ちっ……俺は話すことなんかねえよ。とっとと帰れ」
息子「そう言うな。こちらとて、黙って引き下がれぬ理由があるのだ」
魔物「ああ……?何だ、言ってみろ」
息子「今、途轍もなく暇なのだ」
魔物「ぶん殴るぞてめえ」


息子「それと、お前のような私に物怖じせず話す魔物は久々でな。珍しい」
魔物「へいへい。そうかよ」
息子「仮にも魔王の血筋だぞ。そのような口を利けば、処断される可能性もあるだろうに」
魔物「そん時はそん時だ。もうどうでもいい」
息子「そうか。余計に気に入ったぞ」
魔物「畜生。変なのに懐かれた」



30 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/29(金) 01:32:44 ID:kXqA5NGc

息子「そうだな。お前自身の話や、外の世界の話を聞いてみたい。私は城に籠りっきりだから情報に疎くてな」
魔物「だから帰れって言ってんだろ」
息子「良いではないか。同じ魔物、それも男同士だ。腹を割って話そうではないか」
魔物「喧しいわ。何が魔物同士だ。さっきから言おうと思っていたがな、お前妙に人間臭いんだよ」
息子「む、分かるのか。面白い奴がいてな、さっきまで飲み交わしていた」
魔物「……暇に任せて何やってんだてめえは」


息子「ただの暇潰しに、構ってやっただけのこと。勘違いするな」
魔物「ああうん、もうどうでもいいわ。好きにしやがれ」
息子「何だその目は」
魔物「ご子息様は気楽でいいなーって僻みの目だよ」
息子「なるほど。分かりやすい」



31 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/29(金) 01:36:25 ID:kXqA5NGc

魔物「お前がいつか俺らの頭になるのかと思うと……頭痛がするわ」
息子「いつか、な。まあ、その時は和やかに認めてくれ」
魔物「……お前はどうなんだ?今の、この状況をどう思っている?」
息子「……随分と直球だな」
魔物「認めるかどうかはその返答と、今後の身の振り方次第だな」


息子「好ましくはない。それだけだ。今後はどうすべきか、まだ分からん」
魔物「……そうかよ」
息子「しかし、今の私に何かを変えさせようとしても無駄だぞ。出来ることなど、たかが知れている」
魔物「んなこと末端の俺が知るかよ。せいぜいこの行き辛い世を変えてくれや。未来の頭よ」
息子「ふむ……」



32 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/29(金) 01:37:29 ID:kXqA5NGc

魔物「お望み通り話をしたぞ。俺だって少しは眠りてえんだ。帰れ」
息子「分かった。では、また来よう」
魔物「来るなら来るで、手土産の一つでも持って来るんだな」
息子「心得たよ」
魔物「けっ」


息子「ふむ……」
息子(現状を『変える』、か)
息子(今まで父上という原因を変えようとしていたが……問題そのものに着手するのも、ありかもしれんな)
息子(ならば私に出来ることは……出来ることは……)
息子(……何が、あるのだろうな)



33 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/29(金) 01:44:14 ID:kXqA5NGc

朝─

息子「……朝か」
息子「結局ろくな案も出ず……」
息子「……はあ」
息子「ひと眠りして……もう一度魔物の所に行くか」
息子「他の意見を取り入れるのも、良いだろ」


ドンドンドンバタン!


剣士「爽やかな朝だな!おはよう!」
息子「…………おい、こら」
剣士「いやー、宿の人に聞いたぞ!酔い潰れたところを運んでくれたんだってな!礼を言うよ!」
息子「黙れ。勝手に入って来るな。私はこれから眠る。出て行け」
剣士「やっぱり仲間っていいよな!」
息子「聞け」



34 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/29(金) 01:51:44 ID:kXqA5NGc

剣士「何だよ、昨日以上にテンション低いなあ。二日酔いか?」
息子「そんなところだ。理解が出来たら速やかに去れ。それと、仲間になった覚えはない」
剣士「ちぇっ。じゃあ昼過ぎにまた来るわ。仲間の件、考えといてくれよな!」
息子「知るか。とっとと消えろ」
剣士「口先だけの快い返答すら華麗に拒絶かよ。まあいいや、お大事になー」


バタン


息子「……はあ」
息子「思わぬ面倒を拾ってしまった気がするぞ」
息子「全く。人間の仲間になど、何を馬鹿げた……」
息子「…………」
息子「……ふむ」
息子「案外、使えるか?」



37 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/31(日) 23:41:07 ID:wjn6iCkA

昼─

バタン!

剣士「よう!飯でも食いに行かねえか!」
息子「……ノックぐらい、しろ」
剣士「固い事言うんじゃねえよ。全くの他人じゃああるまいし」
息子「他人だろう?」
剣士「わー、素の顔だー」
息子「まあいい。そろそろ腹が減ってきた所だ。付き合ってやろう」
剣士「そう来なくっちゃな!」


食堂─

息子「では、これと、これと……これを頼む。お前はどうするんだ」
剣士「水とパンだけでいいかなー」
息子「……今注文した品を、それぞれ二つずつ頼む」
剣士「え、ちょっと待て。そんなの払える余裕なんか」
息子「奢ってやるから大人しく食え」
剣士「マジ?!」



38 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/31(日) 23:41:24 ID:wjn6iCkA

剣士「いやーなんか悪いねえ」
息子「お前、少しは外聞を考えてみろ。外聞を」
剣士「そんなもの気にしてちゃスカウトなんざ出来ないんだぜ!」
息子「ほう。ならば運ばれてくる料理、全て私が平らげてやっても良いのだぞ?」
剣士「すいません。マジ腹減ってます。外聞超重要」
息子「いいだろう」


剣士「でもあれだな。あんた予想以上に羽振りいいよなあ」
息子「予想?」
剣士「着てるもんで結構持ってるだろうなーって思ってたから」
息子「まあ、不自由せん程度には身銭を持っている」
剣士「やっぱりね。つまり決まりだ」
息子「何がだ」



39 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/31(日) 23:43:01 ID:wjn6iCkA

剣士「そんな大金持って旅するなんて危険だろ?ボディーガードがてらに仲間なんてどうよ!」
息子「胸を張られてもな」
剣士「維持費は一日三食と寝床、そして適度な間食と小遣いだ!」
息子「明らかに投資と収益が釣り合わんだろう」
剣士「やだなー、あんたどんな計算してんだよ」
息子「こちらの台詞だ」


息子「第一、そのような大それた売り込みは、力ある者にのみ許されるものだ」
剣士「だから言ってるだろ強いって!昨日のあれはタイミングが」
息子「ぱっとお前を見ただけで、容易く信じられなくなる話だな」
剣士「そりゃ、今まで強そうに見られたことなんてねえけどよ」
息子「ほらな」
剣士「くっ……馬鹿にしやがって!表に出ろ!今すぐ実力を見せ」
息子「料理が来たぞ」
剣士「ありがたく頂きます!!」



40 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/31(日) 23:46:58 ID:wjn6iCkA

剣士「ふー……食った食った」
息子「満足して頂けたようで何よりだ」
剣士「仏頂面で言うんじゃねえよ」
息子「そうさせているのはお前だろう」
剣士「酷い言い草だなあ……。まあいいや、御馳走さま」
息子「ああ」


息子「ところで、お前が強いという証明だが、そうするつもりだ?」
剣士「んー、じゃあ腹も膨れたところだし、手合わせ願うわ」
息子「構わんが。昨日の魔法を見て、よく私に挑む気になるな」
剣士「そりゃまあ、強いですし?」
息子「面白い冗談だな。さすが腕の立つ剣士様は、一味違うことを仰られる」
剣士「うわあ腹立つ」



41 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/31(日) 23:51:42 ID:wjn6iCkA

空き地─

剣士「この辺でいいだろ。丁度あんたも剣を持ってるようだし、いざ尋常に勝負!」
息子「ああ、せいぜい手加減してやろう」
剣士「本気で!全力で!やり合うんだよバカ!!」
息子「駄々をこねるな。お前は子供か」
剣士「うるせえ!余裕かましてられんのも今のうちだ!いくぜ!!」


キン!

息子「ほう……中々の早さと、重さだな」
剣士「あんたも今の一撃を受け止めるたあ、やるじゃないか」
息子「当然だ」
剣士「やっぱり強い者同士手を組むべきだと」

ガギィンッ!!

息子「その口が、いつまで持つかな?」
剣士「言うね言うね!よっしゃ!あんた負けたら仲間になれよ!!」
息子「はっ、ほざけ」



42 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/01/31(日) 23:55:39 ID:wjn6iCkA

剣士「……」
息子「……」
剣士「……どう、する?」
息子「そうだな……一時休戦といくか」
剣士「さんせーい……」


剣士「はあ……あんた強いな。こんなに長く戦って勝てないなんて初めてだ」
息子「そう言うお前こそ……何だあの動きは。人間離れしているぞ」
剣士「はっはっは。それについて来れるあんたも大概だろうよ」
息子「私は……いや、何でもない」
剣士「?」



43 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/02/01(月) 00:04:15 ID:Kn5w4RnQ

息子(何なのだ、こいつは)
息子(手加減したとは言え……魔物である私とほぼ互角だと?)
息子(このような奴が我が軍とぶつかれば……被害は甚大だ)
息子(目を離さないようにしなければ)
息子(…………)


剣士「なーなー腹減らね?」
息子「……お前、先程までの緊張感はどこに行った」
剣士「メリハリって重要じゃね?」
息子「まあいい……何か食いに行くか」
剣士「ご馳走になります!!」
息子「……まあ、いい」



46 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/02/03(水) 01:50:51 ID:569/Lsbs

食堂─

剣士「いっただきまーす!!」
息子「……ああ」
剣士「あれ、あんたは食わないのか?残しちゃ勿体無いぞ」
息子「狙うな。食欲は失せるが、食わねばやってられん」
剣士「ちぇー。あ、追加もありだよな」
息子「勝手にしろ」
剣士「よっしゃあ!!」


息子「……お前、それほどまでに路銀に困っているのか?」
剣士「んー、まあな」
息子「お前ほどの実力があれば、金などいくらでも稼げると思うのだが」
剣士「こんなご時世だからか?」
息子「ああ。腕の立つ者を欲するのは、どの国でも同じだろう?」
剣士「そうだなあ」



47 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/02/03(水) 01:51:06 ID:569/Lsbs

剣士「どっかの国に仕えるとか、そういうの嫌いなんだよなー。たまに用心棒やったりして、小銭稼いでるけどさ」
息子「ならばとっとと働き口を探せ」
剣士「でも宵越しの金は持たない主義だからさー。すぐ無くなっいっってえ!何すんだ!」
息子「拳はお気に召さなんだか。ならば鞘が良いか?柄が良いか?」
剣士「暴力反対!」
息子「お前が言うな」


剣士「っつーわけで、今後ともよろしく!」
息子「またその話か。勝負に勝ったら、という約束だったろう」
剣士「剣を交える。友情芽生える。仲間成立。そして今は三段階目に入ったとこだ!」
息子「二段階目でその理論は破綻しているぞ」
剣士「えー……。で、でも何か生まれただろ?」
息子「腹が減っただけだ」
剣士「何でこいつこんなノリが悪いんだ……」



48 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/02/03(水) 01:51:26 ID:569/Lsbs

息子「それよりお前、少し黙れ」
剣士「ん、なんで?」
息子「周りの目が、非常に鬱陶しい」
剣士「いいじゃねえか別に。楽しく食べて飲んで騒ごうぜ!」
息子「楽しいのはお前だけだろう」
剣士「あっはっは、何言ってんだ。全く楽しきゃねえなら、とっととあんた逃げてるはずだろ」
息子「……はあ」


息子「おい」
剣士「ぐー」
息子「ああ……結局また、このパターンか……」
剣士「ぐごごごご」
息子「いびきまで。こいつはもう、本当に」



49 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/02/03(水) 01:51:38 ID:569/Lsbs

宿─

息子「とりあえず部屋に放り込んだが……ああくそ」
息子「確実にあれだ、周囲に仲間だのなんだのと認識され始めているな」
息子「あれが悪目立ちするのが悪い」
息子「私は空気と同化して余暇を楽しみたいと言うのに……」
息子「やはり声を掛けたのは失敗だったか……」


息子「しかし……そうだな、『利用』はありかもしれんな」
息子「あいつを……あの人間を使えば」
息子「どう転ぶかは分からんが、試してみる価値はある」
息子「はあ……」
息子「……一度、帰るか」



51 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/02/06(土) 01:52:35 ID:dx6IXAeo

魔王城─

魔王「ほう」
息子「……如何、でしょうか」
魔王「ふ」
息子「……?」
魔王「くっ……く……くくく!!」


魔王「お前にしては愉快な企みを思いつくではないか!」
息子「は、はあ……」
魔王「良かろう。お前に全て任せる」
息子「!」
魔王「好きにしろ。そしてせいぜい、私を楽しませるがいい」
息子「は……はい」



52 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/02/06(土) 01:52:49 ID:dx6IXAeo

息子「そして、あの、山の魔物の件ですが」
魔王「全てお前に任せると言ったはずだが」
息子「は。感謝します」
魔王「あれ一匹、どうなろうと構わんからな。お前の好きに使うがいい」
息子「……では、失礼します」


息子「……はあ」
息子「まさか、これだけの説明で許しが出るとはな」
息子「……他の娯楽を見出せぬまま、惰性に地獄を続けていたのか」
息子「せいぜい、か」
息子「ええ。せいぜい、舞台を整えさせて頂きますよ」



53 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/02/06(土) 01:53:06 ID:dx6IXAeo

朝─

息子「ふう」
息子「一瞬で行き来出来るのは助かるな」
息子「……時間を巻き戻せればもっと助かるのだが」
息子「まあいい。昼まで寝」

バンッ

剣士「おは」

ガッキィツッン

息子「去れ悪魔」
剣士「何で朝から立ち回りせにゃならん」



54 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/02/06(土) 01:53:20 ID:dx6IXAeo

息子「私はこれから寝る。さっさと出て行け」
剣士「何だよあんた。さっき来たらいなかったから、てっきり今日はちゃんと朝起きたのかと」
息子「いい加減ノックという知性あるスキルを覚えろ。この原始生命体が」
剣士「いいじゃねーかよ、部屋に見られて困るもんでも……あるのか?!」
息子「何も出て来んわ。目を輝かせるな」
剣士「ちっ……何かヤバいのが出てきたらそれをネタに脅迫も視野にいやいや冗談ですよ。怖い顔すんなって」
息子「……次はないぞ、覚えておけ」


息子「それと、私を脅迫しようとしても無駄だ」
剣士「まあ、あんた何に対しても動じなさそうだしなあ」
息子「お前の旅に、付き合ってやろう」
剣士「てことは金か女か? 用意するのがこれまためんど…………え?」
息子「期限は特になし。飽きるまで同行してやる。だから脅迫などは、最早無意味だ」
剣士「え?」
息子「分かったのであれば、今は出ていけ。昼にまた話し合おう」
剣士「え、ちょ、まっ」

バタン

剣士「………えええ?」



55 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/02/06(土) 02:08:06 ID:dx6IXAeo

昼─

息子「よう」
剣士「……」
息子「浮かない顔でだんまりか。仲間の目覚めに対し、何か言うことは無いのか」
剣士「……いきなりどんな心境の変化だよ。怪しいな。あんた本物かあ?」
息子「何。これ以上付きまとわれるくらいなら、いっそ飼い慣らそうと思ったまでだ」
剣士「お、おおー……?」
息子「その上いざとなれば、高値で売り飛ばせるだろうしな」
剣士「ああ安心した。この口の悪さは本物だ」


剣士「ってことで!改めてよろしくな!」
息子「ああ。よろしく」
剣士「よしよし!リーダーをちゃんと敬うんだぞ!」
息子「……?」
剣士「おうおう、素で理解不能って顔してんじゃねえよ兄ちゃん」



56 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/02/06(土) 02:13:09 ID:dx6IXAeo

剣士「リーダー挙手!はい!はい!」
息子「二人しかいないパーティーで、リーダーも何もないと思うのだが」
剣士「あったっていいじゃねえか。よろしく下っ端!」
息子「今ここでお前の首を刎ね、リーダーの座を奪ってやってもよいのだぞ」
剣士「よ、よろしく相棒!」
息子「よろしく」


剣士「じゃあ昼も済ませたところで、早速山越え行ってみようぜ!」
息子「今日か?」
剣士「早い方がいいだろー」
息子「いや、食糧や装備などを買い足さねば危険だ」
剣士「だってそんな金」
息子「ほれ」
剣士「ちーっす!」
息子「現金な」



57 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/02/06(土) 02:20:35 ID:dx6IXAeo

剣士「うわー。ほんっと札束の匂いは心が安らぐな!」
息子「頬擦りするな気色悪い。何を買うかはお前に任せる。夜までに粗方用意しておけよ」
剣士「あれ、どっかに行くのか?」
息子「暮れには戻る。では、頼んだぞ」
剣士「お……おーう?」


山─

息子「よう」
魔物「土産」
息子「ほれ。城からくすねて来た」
魔物「酒か。いいねえ、偉いさんは毎日こんなもんが飲めてよ」
息子「このような物、毎日開けていては飽きがくる。お前もそのうち分かるだろうよ」
魔物「あ?」



65 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/02/26(金) 00:56:03 ID:sL5SBUgY

魔物「で、昨日の今日で何の用だ」
息子「お前の異動が決まった」
魔物「けっ……まぁた妙なとこに飛ばされるんじゃねえだろうな」
息子「いや、異例の昇格だぞ」
魔物「胡散臭え。で、どこに行けばいいんだ」
息子「城だ」
魔物「はあ?!」


魔物「し、城ってまさか……」
息子「父上の住まう、魔王城だ」
魔物「嫌だね!魔王様直属なんざ、どんな無茶を要求されるか」
息子「いやいや、父上付きではないぞ。お前は今日から私の側近に」
魔物「もっと嫌に決まってんだろ道楽馬鹿息子!!」



66 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/02/26(金) 00:56:16 ID:sL5SBUgY

息子「しかしここに父上の書状が」
魔物「『全て我が息子に任せる』……」
息子「つまり、私の言葉は魔王の言葉だ。異論は認めぬからな」
魔物「マジかよ……こんな紙切れ一つで俺の余生は……」
息子「まあ、楽をさせてやるから、喜んでついて来るがいい」
魔物「その『楽』ってのはどっちの意味だ……?」


息子「ただ、城に向かうその前に……お前にはやってもらわねばならない、重要な仕事が一つある」
魔物「な、何だよ改まって」
息子「明日の朝から昼にかけて、人間がここにやって来る」
魔物「おお、そいつを殺せばいいんだな?いつものことじゃねえか」
息子「逆だ」
魔物「ああ?」
息子「その人間と戦い、負けてもらいたい」
魔物「はああ?!」



67 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/02/26(金) 00:56:32 ID:sL5SBUgY

魔物「ちょっと待て!どういうことだそれは?!」
息子「いや、何も殺されろと言っているのではない。適度に負け、逃げてくれればいい」
魔物「理由の説明になってねえよ!ってか、人間に負けるなんざフリでも嫌だね!!!」
息子「お前もこの地は飽きたのだろう。負けてくれれば、この地での任は晴れて免除となるぞ」
魔物「それでも次の勤務先がお前のとこじゃなあ……」
息子「頼む」
魔物「……」

息子「お前にしか頼めないことなんだ」
魔物「……お前が頭を下げるなんてねえ。目的は何だ?」
息子「強いて言えば……『平和』のため、だな」
魔物「へっ……魔王陛下のご子息ともあろう方が、妙な言葉を吐きやがる」
息子「どうだ、引き受けてくれるか」
魔物「へいへい、わーったよ。何か面白そうだし、付き合ってやるよ」
息子「感謝する」
魔物「やめろ、気色悪い」



68 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/02/26(金) 01:00:06 ID:sL5SBUgY

魔物「で、その人間ってのはどんな奴なんだよ。誰彼かまわず負けろってんじゃねえんだろ?」
息子「私が側にいるだろうから、標的は一目で分かるはずだ」
魔物「まさか、昨日からお前に付いてる臭いの……?」
息子「ああ。しばらくそいつと旅をすることとなった」
魔物「えーっと……殴っていいか?」
息子「後日説明してやるから、拳を収めろ。これから明日の打ち合わせをするぞ」
魔物「釈然としねえが……了解」


息子「では、そろそろ戻る。明日は頼んだぞ」
魔物「へいへい。せいぜい無様に負けてやりますよ」
息子「なるべく怪我の無いようにな」
魔物「わざと負けるとはいえ、俺が人間に後れを取るとでも?」
息子「……まあ、明日になれば分かるだろう。では、また」
魔物「ああ。またな」



80 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/05(月) 23:47:48 ID:mghGCbCo

宿─

コンコン
息子「……入るぞ」
剣士「よーっすお帰り!」
息子「ほう」
剣士「ほらほら、中々のもんだろ!万全だろ?この上更に、馬も二頭手に入ったんだぜ!」
息子「この小さな町で、よくぞこれほど物資を集められたものだな」
剣士「はっはっは!もっと褒め称え……なくてもいいっす」
息子「そうだな。殺意に敏感でなくば、この先生き残れんぞ」


息子「さて、釣りは返せよ」
剣士「え?」
息子「あれ全て使い切ったわけではないだろう?返せ」
剣士「いいじゃねえかよー……仲間なんだし」
息子「ああ仲間だ。だからこそ、金銭面はきちんと線引きしておかねばな」
剣士「く……金持ちのくせにセコイじゃねえか!」
息子「せこいと言うよりも、お前に無駄金を持たせていると、何かしら不安だからな」



81 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/05(月) 23:48:01 ID:mghGCbCo

剣士「ちっ……ほらよ、返してやるわ!」
息子「何故そのような上から目線で…………何?」
剣士「な、何だよ」
息子「お前……この金はどうした」
剣士「どうしたって、お前に貰った残りだけど?あ、別に金額誤魔化してるなんてこたあ」
息子「逆だ。その……多すぎないか?」


息子「これだけの物資を揃えたのなら、もっと残金は少ないはずだが」
剣士「あ? ああ、そうだろうなあ」
息子「そうか、お前強盗」
剣士「するか!普通にオマケしてもらえただけだ!!」
息子「……オマケで、市価の三分の一以下になるものか?」
剣士「え、買い物って普通こんなもんじゃねえの?たまにタダになったりとか」
息子「恐らく、稀だろう」
剣士「へー。やっぱこりゃ人望のなせる技ってやつだな!」
息子「…………ああ、そうだな」



82 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/05(月) 23:48:15 ID:mghGCbCo

息子「何というか……やはりお前は」
剣士「んあ?」
息子「……いや、何でもない」
剣士「なんだよ変な奴だなー」
息子「お前にだけは決して言われたくない言葉だな」
剣士「やだなあ、お前あれか?今流行ってるらしいツンデレか?」
息子「デレて欲しくば態度を改めろ」


息子「では……明日も遅い。私は部屋に戻ろう」
剣士「そーだな。じゃ」
息子「何だ、その手は。また金か」
剣士「ばっか握手に決まってんだろ!改めてよろしくってな!」
息子「……いいだろう」
剣士「よろしくな!相棒!」
息子「ああ、よろしく。えー……相棒?」
剣士「うはは!ぜってえデレさせてみせる!!」



84 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/07(水) 00:49:18 ID:1HSWyo5.

朝―

バタンッ

剣士「おはよう!!」
息子「…………おはよう」
剣士「うはは!ようやく諦めたか!」
息子「……ああ」
剣士「やっぱあれだよな!仲間なんだしノックなんてまどろっこしい真似いらね
えよな!!」
息子「単に留意するという真似が出来ないだけでは」


剣士「まあいいじゃねえか。とっとと朝飯済ましてここを出ようぜ!」
息子「分かった分かった……」
剣士「そんで、宿の支払いも任せたぜ!」
息子「ほう」
剣士「おーう待て待て刃物持ち出したって、何も生み出さねえんだぞ!知ってるか?!」



85 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/07(水) 00:49:31 ID:1HSWyo5.

息子「お前、本物の一文無しだったのか」
剣士「やだな、このご時世金がなきゃ生きていけるわけねえじゃん」
息子「では自分で払え」
剣士「ガキの小遣い程度の有り金で、十日分の宿代なんざ払えるわけねえじゃん!」
息子「ほう」
剣士「……うう……お願いしますよ頭ぁ……」
息子「案外、プライドを売るのは早かったな」


剣士「なんとか働き口を見つけようと思ったんだけどよ……やっぱどーも不景気でさあ……」
息子「喧しいわ社会不適合者」
剣士「くそっ!それもこれも魔王のせいだ!魔王が暴れるから金がないんだ!!」
息子「当たらずとも遠からずだろうが、お前にもかなりの非があると思うぞ」
剣士「うるせえ!全部魔王が悪いんだ!ぜってーぶっ倒してやる!!」
息子「…………そうかそうか」



86 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/07(水) 00:49:43 ID:1HSWyo5.

息子「では、ここは私が持ってやる」
剣士「ちーっす!」
息子「その代わり、いつか恩を返せよ」
剣士「ありゃ、金じゃねえの?」
息子「お前に金の返済を求めるより、体で払わせた方が遥かに建設的だ」
剣士「えー……お前、その発言はさすがに引」
息子「斬り捨てて埋めてやろうか貴様」
剣士「えー……それもどうかと思うぞ」


剣士「まあまあ、わーったよ。いつか倍にして返してやるよ!」
息子「ふっ……返事だけはいいな」
剣士「何をー!そんな生意気言ってると、今日はお前に出番なんざやんねーからな!後でそのことねちねち弄ってやるからな!」
息子「ほどほどに、期待しておこう」
剣士「せいぜい刮目してろよ根暗!」
息子「黙れ躁病」



88 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/10(土) 02:34:28 ID:P5f0xDcU

山─

剣士「うう……何で馬がいるのに徒歩なんだよー……」
息子「魔物が急に襲って来てみろ。折角買った馬が無駄になるかもしれん上、動きが制限されて、危険だろう」
剣士「いやだー……山登りはもういやだー……」
息子「愚痴をこぼすな」
剣士「くっそー……魔物も魔王もぜってーぶっ倒してやる」
息子「大事も小事も、同レベルで愚痴るのだなお前は」


剣士「だってそーだろー。ここいらが不便なのも、いや……世の中がどんよりしちまってるのも全部魔王のせいだ」
息子「まあ、そうだな」
剣士「だから倒す!」
息子「……まさかと思うが、今朝言っていた『魔王を倒す』というのは」
剣士「あ?」
息子「本気、なのか?」
剣士「あったりめーじゃん」



89 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/10(土) 02:34:42 ID:P5f0xDcU

剣士「魔王を倒して世の中を平和にする!それが旅の大きな目的!」
息子「ほう……何とまあ、御大層な」
剣士「今はまだ名前を売るためと、腕を磨くためにぶらぶらしてるだけだけどな!」
息子「……」
剣士「何だよ悪いか」
息子「いや、悪くはない」


息子(無名の、そこそこに力ある人間)
息子(本物かは判別し難いが、野心もあるようだ)
息子(これはますます……適任か)
息子(…………ああ。こいつ以外には、あり得ない)



90 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/10(土) 02:58:26 ID:P5f0xDcU

剣士「しっかしあれだな、一向に魔物ってのも出て来ねえし。簡単に山越えしちまえそうじゃねえか」
息子「む」
剣士「うはは。何だか拍子抜けだな」
息子「油断するなよ。相手は魔物だ」
剣士「心配しなさんなって、こー見えて修羅場はいくつもくぐ」


ザシュ!!!


魔物「ぐおっ?!」
息子「な……!」
剣士「……」
魔物「な、くっ!!」
剣士「お、何かと思えば……ようやっと出やがったのか」



91 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/10(土) 02:59:15 ID:P5f0xDcU

魔物「く、くそ!」
剣士「まーまーそう慌てなさんな。まだチャンスはあるかも知れないし?」
魔物「人間風情がコケにしやがって!!」
剣士「その人間風情に先手取られちゃってるのはどこのどいつだろうな?!」
魔物「お、おおう?!!」


息子(魔物は完璧に気配を立ち、近付いて来ていた)
息子(だがこいつは魔物の気配を察し、先制した)
息子(魔物に手を抜くよう命じているからとはいえ、今は明らかに押している)
息子(剣を交えたあの時は、まさかこれほどまでとは思わなかったが……)
息子(いや、まさかこいつ……)
息子(私を相手に、『手を抜いていた』……?!)



94 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/11(日) 00:58:44 ID:g1/Hw0bA

魔物「死ね!」
剣士「おっと」
魔物「ええいクソちょこまかと!!」
剣士「うはははは!強い魔物がいるってのは単なる噂だったのかね!」
魔物「黙れ!!もう関係ねえ!ぶっ殺してやる!!」
剣士「無理だね!」


ドスッッ!!


魔物「う……が?!」
剣士「な?」
魔物「ぐっ……な、なんだ、てめえは?!本当に人間か?!」
剣士「悪かったな人間で」
魔物「は、話がちが」
剣士「はあ? 何を」

ゴゥッ!!

剣士「?!」



95 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/11(日) 00:59:02 ID:g1/Hw0bA

剣士「な、何をしやがる!」
息子「すまん。助太刀しようと思ったが、手元が狂った」
剣士「あーあー……逃げられちまったじゃねえか」
息子「何。あれだけ追い詰めたんだ。しばらく出てくることはないだろう」
剣士「そうは言ってもお前なあ……」
息子「邪魔をした詫びに、しばらくは食事も宿も私が面倒を見よう」
剣士「全く仕方がねえな!特別に許してやるぜ!!」


息子(あいつは……無事に逃げたようだな)
息子(城に向かうように言ってあるし、問題は無かろう)
息子(とりあえず、今夜は一度城に帰るか)


息子「さて、馬を拾って行くぞ」
剣士「おう!とっとと次の街に着いて、飯にしようぜ!」
息子「分かった分かった」
剣士「早く来いよ!置いてくぞ!!」
息子「……はあ」



96 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/11(日) 01:16:13 ID:g1/Hw0bA

街─

剣士「ふーい!着いたぞ!」
息子「見れば分かる」
剣士「何だよノリが悪いなあ。これから祝杯を上げるってのに」
息子「気付いているのか?お前は私と知り合ってから、ほぼ毎夜酒浸りだということに」
剣士「うはは、固い事言うなよこのこのー」
息子「殺すぞ」


??「あ、あの……」


剣士「ん?」
息子「む」



99 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/11(日) 23:57:22 ID:g1/Hw0bA

街娘「貴方達、もしかしてあの山を越えて……?」
剣士「ああ、そうだけど?」
街娘「や、やっぱり!皆!この人たち、山を越えて来たんですって!!」


「ま、マジかよ……」
「あの魔物を倒したってのか?!」
「でも、片方は強そうにゃ見えねえな」
「いやいや、案外……」


剣士「お、お……?」
息子「何故私を盾にする」
剣士「いや、だってなんかこー……」
息子「ふむ」



100 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/11(日) 23:57:35 ID:g1/Hw0bA

息子「確かに、私達は山の魔物を退けて、ここに来た」
街娘「す、すごい!お強いんですね!」
息子「いや、強いのは……ほれ」
剣士「へ」
息子「こいつだ」
街娘「?!」


ザワザワ…

息子「こいつ一人が、魔物と渡り合った。私はほとんど何もしていない」
街娘「え……えええ?!」
息子「なあ。その通りだろう?」
剣士「い、いやまあ、そうだけど……」
街娘「今まで何人で挑んでも決して敵わなかったあの魔物に、本当にたった一人で……?!」
剣士「お……おう」
街娘「ま、まさか……そんな……」



101 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/12(月) 00:25:56 ID:zsRW2NqE

息子「まあ、そういうことだ。ところで、私達は宿を探しているのだが」
街娘「あ、あ。それでしたら、あっちの通りに宿がいくつか」
息子「そうか、礼を言う。行くぞ」
剣士「お、おう」
街娘「あ……」


息子「どうした。いつもの勢いはどこにいった」
剣士「いや……だって見ただろお前。あの胡散臭そうな目」
息子「まあ、信じられなくても仕方は無いだろう。随分手こずっていた魔物を、お前たった一人で倒したというのだから」
剣士「だからお前を矢面に出そうと思ったのに……」
息子「名前を売りたいのだろう。協力してやったまでだ」
剣士「くっそ……そう言ってお前、楽しんでるだけだろ絶対」
息子「くっくっく……不満があるなら酒で忘れろ」



102 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/12(月) 00:26:36 ID:zsRW2NqE

夜─

剣士「ひゃああっはあああ呑め呑め呑め呑め!!!」
息子「……」
剣士「おおいお前酒が進んでねえぞお?!呑み潰れろや陰険野郎やああああああい!!!」
息子「お、い……」
剣士「ふひゃひゃはははははあああ!剣は勿論のこと酒だって強いぜ強いぜ負けねえっっぜえええええ!食いものジャンジャン持って来させろ!!!」


ヒソヒソ…


息子(何処に行っても視線が突き刺さるな……)
息子(まあ、これでこいつの名と顔はある程度広まるだろう)
息子(名うての剣士としてか、不審者としてかは知らんがな……)
息子(私はそのオマケで十分だ)



103 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/12(月) 00:39:03 ID:zsRW2NqE

息子「おい。その辺で切り上げて、宿に戻るぞ」
剣士「はあ?!てめえの思い通りになんざ動かねえかんな!!」
息子「うるさいぞ酔っ払い。駄々をこねるな」
剣士「はっ!!お前どうせあれだろ、宿に戻ると見せかけて、昼間会った子とか引っかけに行くんだろ?!」
息子「何を言っているんだお前は」


剣士「お前一人楽しもうったってそうはいかねえぞ!!」
息子「心配するな。女遊びをする気分ではない」
剣士「……お前、やっぱりその気が」
息子「可能な限りゆっくりと消し炭にしてやろうか貴様」
剣士「冗談だよ……頼むから、そのたまにやる本気の目はやめてくれ。怖いんだよマジで……」



105 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/13(火) 00:18:25 ID:KA4srdSA

剣士「でもお前なら女に困んねえだろうなあ。ある程度見栄え良いし」
息子「いきなり当然のことを言われても、対処に困るのだが」
剣士「おおうちょっとこの面倒臭さに慣れてきたぞ。で、どうなんだよ」
息子「まあ、そんな所だ。困ったことはない」
剣士「言うねえ」
息子「……血族というだけで、言いよる輩はいくらでもいるからな」
剣士「何か言ったか?」
息子「いいや」


息子「そう言うお前は、どうなんだ?」
剣士「え?」
息子「そういう方面にはとんと縁がなさそうだな、と思ってな」
剣士「う、うるせえな。浮いた話の一つや二つ」
息子「あるのか?」
剣士「呑め!いいから呑め!!!」
息子「ふっ……そうか、新品か」
剣士「その、憐れみの目もやめろおおおおお!!!!」



106 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/13(火) 00:32:26 ID:KA4srdSA

剣士「……ぐう」
息子「そして結局このパターンか」
剣士「う……うう……新品で、何が……わるい」
息子「まあ、それが良いと言う者も中にはいるようだぞ。私にはよく分からんがな」
剣士「あうう…………ぐう」
息子「さてと……戻るか」


宿─

息子「ふう……」
息子「隣の部屋にぶち込んだから、朝まで顔を見ずに済むな」
息子「しかしあれと共に旅をするとなると、本当に面倒ばかりだな……白い目も含め」
息子「別の部屋を取って良かった。金は余分にかかるが、安息は大事だ……全く」
息子「……はあ」
息子「とりあえず、さっさと行って帰って来るか」



107 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/15(木) 00:49:08 ID:ygk3EhWQ

城─

息子「よう」
魔物「よーう」
息子「いつ着いた」
魔物「夕方くらいだな」
息子「それは何より。見たところ息災のようだしな」
魔物「おう。部屋もこの通り、いいのを貰ったわ」
息子「私が頼んでおいたからな」
魔物「所で、だ」

バシィッ!!

息子「何をする」
魔物「うるせえ!抵抗するな!殴らせろ!!」
息子「全く……お前が負けたのは、お前の責任だろうに私に当たるとは」
魔物「決着はついてねえだろうが!!何だあの人間は?!」
息子「拾った」
魔物「どこの戦場行ったって転がってねえよ!あんな化け物!」



108 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/15(木) 00:50:30 ID:ygk3EhWQ

息子「いやいや、何の変哲もない小さな街で知り合ってな」
魔物「いるわけねえだろ、んなとこに……この俺が防戦一方だったんだぞ。敵う魔物なんざ、数えるほどしか……」
息子「ふむ。まあ、あの強さは少々桁違いではあるがな」
魔物「……何でそんなに楽しそうなんだよ」
息子「気のせいだろう」


魔物「あーもう、あの人間のことは一先ず忘れてやる」
息子「演技のはずが本物の敗北になったため、忘れたくなるのも無理は」
魔物「黙れ。とりあえず、俺に芝居させようとした理由は何だったのかを教えやがれ」
息子「ああ。勿論その話をしに戻って来た」
魔物「この期に及んで暇潰しとか言いやがったら……」
息子「安心しろ。れっきとした崇高な目的のためだ」
魔物「胡散臭え」



109 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/15(木) 00:58:47 ID:ygk3EhWQ

魔物「まあいいや……一応言ってみろ」
息子「『平和』のためだ」
魔物「はあ?」
息子「戦争や紛争の無い、穏やかな世の中だ」
魔物「……お前は何を言ってやがるんだ」


魔物「俺があの人間に負けて、どこがどう転んだら戦いが無くなるんだよ」
息子「あの人間を、救世主とやらに仕立て上げる」
魔物「はあ?!」
息子「民衆に希望を持たせるに値する、所謂魔王を倒す『勇者』に仕立て上げるのだ」
魔物「ちょ、ちょっと待て!魔王様を倒すだ?!」



110 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/15(木) 01:07:22 ID:ygk3EhWQ

魔物「お前!そんなことが魔王様の耳に入ったら息子のお前だって……!!」
息子「父上には既に了承を頂いていることだが?」
魔物「…………は?」
息子「敵となるべく者を導くことに、父上は賛成して下さった」
魔物「これ……『下剋上』、ってやつじゃねえの?」
息子「そのような疲れることを、誰がするものか」


息子「何も本当に父上を倒させるわけではない」
魔物「じゃあ、一体何が目的なんだよ」
息子「十分に人心が集まった勇者を、父上が容赦なく、呆気なく倒せばどうなるだろうな」
魔物「……ああ」
息子「期待が高いほど、踏み躙られた時の落胆は激しいものとなる」
魔物「なるほどな。これも魔王様のゲームの一つか」
息子「人間での新しい遊び方を模索していたからな。中々良く食いついて下さったよ」



111 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/16(金) 21:27:13 ID:2GamGb5c

魔物「ってことはあれか……お前はあの人間が有名になるように仕向けて」
息子「機を見て始末する」
魔物「エグイねえ」
息子「そう褒めるな」
魔物「しっかし今日見た感じ何か親しげだったから、あの人間に情でも移ったのかと思っていたが」
息子「妙な事を言うな。あるわけがないだろう」
魔物「ま、いいけどよ」


魔物「でも、それで何で平和になるんだ?」
息子「あの人間に勇者になってもらうためには、私達魔物は侵略の手を休めねばならんだろう」
魔物「あー……ね。そりゃ俺達は楽になるが、そんなもん時間稼ぎにすぎねえだろ?」
息子「出来るだけ引き延ばす。その内に、もっといい方法が浮かぶだろうよ」
魔物「適当だねえ後継者」
息子「こんな面倒事、適当に当たるくらいがちょうどいいだろう」
魔物「そうかもしんねーけどよ」



112 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/16(金) 21:27:33 ID:2GamGb5c

魔物「でもまあ、これで俺も暇になるし文句はねえな」
息子「何を言っているんだお前は」
魔物「ああ?」
息子「お前には私の使い走りという、重要な任があるだろう」
魔物「うわああ面倒くせえ」
息子「僻地の山奥で腐っているよりも、余程建設的な仕事を与えてやる」
魔物「へいへい……もうこうなったら諦めて、最後まで付き合ってやるわ」
息子「助かる」


魔物「しっかしあの人間だ」
息子「何か?」
魔物「『何か?』じゃねえよ。色んな意味で、よく捕まえたわほんと」
息子「希望の象徴としては中々の人選だろう?」
魔物「全くだ。せいぜい上手く手綱は掴んでいろよ」
息子「…………勿論だ」
魔物「おおう。やっぱ若干持て余してんだな」



113 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/16(金) 21:30:13 ID:2GamGb5c

息子「あれは人目を引き過ぎる……」
魔物「目立った方が有名になるんじゃねえの」
息子「それはそうだが、限度があるだろう」
魔物「分かんねえような、分かるような」
息子「しかしまあ、珍獣を飼育しているようで楽しくもある」
魔物「それが本音か?!」


息子「出来れば従順になるよう、飼い慣らしたいと思っている。骨が折れそうで楽しみだ」
魔物「……」
息子「何だ」
魔物「いや……ま、好きにしろよ。俺はいつか再戦の機会をもらいたいねえ。とだけ」
息子「考えておこう」



117 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/19(月) 23:56:27 ID:cPtu8LyU

朝─

息子「……」
息子「……はあ」
息子「久々に夜に寝て、朝に起きたな」
息子「あいつが来るのが面倒で仕方ない……」
息子「……おや」
息子「あいつはまだ起きていないのか?」


コンコン

息子「おい」
息子「私だが」

コンコン

息子「おーい」
息子「……」
息子「……あー」
息子「失礼、するぞ」



118 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/19(月) 23:56:46 ID:cPtu8LyU

息子「……」
剣士「ぐう……」
息子「……」
剣士「ぐー」
息子「ふう……」


ゴンッ

剣士「いっだああ?!」
息子「おはよう相棒」
剣士「て、てめえか!何をしやが痛い!髪の毛引っ張んな!!」
息子「あまりに遅いから、今日は私が起こしに来てやった。感謝しろ」
剣士「して欲しけりゃ今すぐその手をいやいや嘘ですごめんなさい?!」



119 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/04/20(火) 00:00:07 ID:x9bHeI.Y

息子「珍しいな。お前、朝に強いはずではなかったのか?」
剣士「あー……昨日ちーっとばかし呑み過ぎたからかね……内も外も頭痛いわ……」
息子「好奇の視線に晒されたからといって、程度を弁えぬ自棄酒に走るような打たれ弱さではな」
剣士「な、何か問題でもあるのかよ……」
息子「大いにある。詳しくは言わんがな」
剣士「お前ほんっと、よく分かんねえよなあ。ま、面白いからいいけど」


剣士「ふああ……じゃ、そんなわけだしもうひと眠りするわ」
息子「いつまでこの街に留まるつもりだ?」
剣士「いたくなくなるまで。お休みー」
息子「……全く」
剣士「ぐがあ」



125 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/18(火) 00:15:48 ID:0VKhxDpc

息子「ふむ、起こすのも面倒だな」
息子「昨夜企みを明かし、さあ暗躍を始めるぞと意気込んだ矢先に……いきなり暇になってしまったな」
息子「仕方がない。外に出てみるか」
息子「何か使えそうな話でも転がっていないものかな」


数時間後

息子「はあ……」
息子(それほど都合よく話が進むわけはないな)
息子(劇的な出会いやら突発的な事件など)
息子(このように普遍に満ちた場所ではなあ)
息子(いっそ戦場にでも殴り込んでみるか)
息子(このご時世、人間同士の争い毎も大小様々転がっている物ではあるし、利用せぬことは)



126 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/18(火) 00:16:03 ID:0VKhxDpc

街娘「あの……」
息子「はあ……」
街娘「あ、あの!」
息子「む」
街娘「昨日の方……ですよね?」
息子「…………私、か?」


街娘「あ、私昨日あなた方が街にいらした時に、少しだけお話させて頂いた……」
息子「……ああ」
街娘「覚えてらっしゃいますか?」
息子「あ、ああ。一応、な」
息子(人間の顔など、よほど特徴的でもなければ、記憶に残らぬわ……)



127 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/18(火) 00:16:16 ID:0VKhxDpc

街娘「お連れの方は?」
息子「今日は別行動だ」
街娘「そ、そうでしたか……残念です」
息子「あれに何か用でも?」
街娘「いえ、出来ればお茶でも飲みながら旅のお話を聞かせて頂けたら、と」
息子「……」


息子「あれに」
街娘「はい?」
息子「あれに、気でもあるのか?」
街娘「は…………はい?!」



128 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/18(火) 00:18:45 ID:0VKhxDpc

街娘「ち、違いますよ! 私はただ純粋にお友達になれたらと思って!!」
息子「私では駄目なのか?」
街娘「え!? ……えーっと」
息子「いい。冗談だ。分かった」
街娘「すみません……私、怖い人は苦手なんです……」
息子「まあ、いいのだがな」


息子「ああ、ついでだ。少々聞きたいことがある」
街娘「な、何でしょうか?」
息子「この街の付近には、手ごわい魔物などは住んでいないのか?」
街娘「そうですね……あなた方が越えていらした、山の魔物くらいでしょうか?」
息子「ここ最近、何か大きな揉め事などは?」
街娘「うーん……知りません」
息子「……近辺で、戦争は」
街娘「近頃は平和なものですね」



129 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/18(火) 21:08:16 ID:0VKhxDpc

息子「……そう、か」
街娘「どうしてそんなに残念そうなんですか」
息子「いや……連れが血気盛んでな。何か首を突っ込める揉め事は無いかと探しているのだ」
街娘「あ、あの方が……ですか?」


街娘「全然そんな風には見えませんでしたけど」
息子「昨日は大人しくしていたからな」
街娘「は、はあ」
息子「実力と名が伴っていないことに、やや焦りを感じているようだ。この辺りで一つ名を売ることが出来ないかと、二人して模索している所でな」
街娘「うーん……やっぱり特に思い当たることはありませんね」
息子「……そうか」



130 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/18(火) 21:08:31 ID:0VKhxDpc

街娘「あ。でも、ここから北西に行くと城下町がありますよ」
息子「……ほう」
街娘「この国の中心地なんです。お城を中心に街全体を大きな城塞が囲っていて、魔物にも他国にも脅かされないくらいに堅固だとか」
息子「そうか。そこならば、何かあるやもしれんな」


息子「では、明日そこに向けて発つとするか」
街娘「え!? そ、そんなにあっさり決めていいんですか!? お連れさんに相談したりとか」
息子「あれに相談など無意味だ。第一私には、ぐずぐず時間を潰している暇は無い」
街娘「え、え?」
息子「いや、こちらの話だ」



131 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/18(火) 21:08:46 ID:0VKhxDpc

街娘「で、でも凄いですね、本当」
息子「何が、だろうか?」
街娘「お連れさんですよ」
息子「……ああ」
街娘「本当に、あの魔物を倒しちゃったんですよね」
息子「ああ。本当だ。せいぜい、広めてくれよ」
街娘「? もうすでに街中に広まっちゃってますよ?」
息子「は?」


息子「昨日の夕方で、今朝にかけて、か?」
街娘「当たり前じゃないですか。魔物も逃げちゃったみたいだし、これで遠回りすることなしに、隣の町まで行けるんです。ビッグニュースですよ!」
息子「そうかそうか」
街娘「その上、お二人は目立ちますしね。昨夜は酒場で大盛り上がりだったとかも伝わってきていますよ」
息子「……そうか」
街娘「い、一気にテンションが下がりましたけど、どうかしましたか?」



132 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/18(火) 21:09:02 ID:0VKhxDpc

息子「もう一つ、聞いてもいいだろうか?」
街娘「は、はい?」
息子「あいつは客観的に見て……本当に目立つ、のだな」
街娘「そ、そりゃあもう。昨日少しお会いしただけですけど、遠くからでも私見分けられる自信がありますよ」
息子「……そういう意味では、決して目立って欲しくないのだが」
街娘「何か仰いましたか?」
息子「いや、何でもない」


街娘「私の周りでも、話題の中心ですよ!」
息子「はあ……それは光栄だな」
街娘「ええ。皆お連れさんの趣味は何だろうとか、お連れさんを食事に誘うにはどうしたらいいかとか、お連れさんはとってもステキな」
息子「少し急用を思い出したため、これで失礼する」
街娘「え?」



133 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/20(木) 20:35:03 ID:EYrKrQ5Y

宿ー

剣士「ふあーああ……よくねたー」
剣士「さてとー、今何時だろ」
剣士「うーん……腹の具合からいって、昼過ぎくらいかな?」
剣士「つっても財布がいねえと飯も食えねえ」
剣士「あーあー……ヒモって素敵な職業だけど、ちょっと勝手が悪いのが玉にキズー」


息子「ほう」
剣士「あ」



134 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/20(木) 20:35:17 ID:EYrKrQ5Y

息子「何か言うことは」
剣士「……ごめんなさい」
息子「うむ、良いだろう。私は心が広いからな。許してやる」
剣士「そりゃお前……あんだけ起きぬけの人の頭バシバシ殴りゃ憂さ晴らしも」
息子「何か他に言い残すことは」
剣士「ありませんからとっとと昼食にして頂けますと助かります」


息子「というわけで、明日の朝ここを起とうと思う」
剣士「急だねえ」
息子「異論でも?」
剣士「いや、特にねえけど。何でまたそんなところに?」
息子「物見遊山といったところだ」
剣士「まあ、そういうのもありかねえ。飯が食えるんなら、どこだって行くよ」



135 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/20(木) 20:35:31 ID:EYrKrQ5Y

息子「お前は」
剣士「ん?」
息子「何故、旅をしているんだ」
剣士「何となくに決まってんだろ。こんな当てのない旅」
息子「では、故郷はどの辺りだ?」
剣士「言ってもわかんねーと思うけど」


剣士「こっからずーっと遠くの遠くさ。海越え山越えそのまた彼方。そんなど田舎」
息子「帰る気はさらさらないと見えるな」
剣士「まあな。それを言うなら、お前だって」
息子「私が、何だというのだ」
剣士「お前あれだろ、どっかのボンボンで、跡継ぎの役目を放って流れてきたってタマだろ」
息子「……」
剣士「あらやだ図星!?」



136 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/20(木) 20:35:47 ID:EYrKrQ5Y

息子「貴様……」
剣士「うはは、まーいいんじゃねえの。社会勉強ってことで。若い内は迷えばいいんだよ」
息子「ふん」
剣士「でもま、決めなくちゃいけない時期ってのは刻一刻と近づきますぜ、旦那」
息子「こうして、お前に餌付けしている内にもな」
剣士「善行を積むってのも、立派な勉強だと思うぜ?」
息子「それは確実に、私には不必要なものだ」


息子「ところで、だ」
剣士「何だ?」
息子「お前、くれぐれも私の目が届かない場所には行かないようにしろ」
剣士「へ?」
息子「町に、お前の噂が広まってしまっているようなのだ」
剣士「早いなおい!?」



137 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/20(木) 20:36:04 ID:EYrKrQ5Y

剣士「えー、マジ……?」
息子「ああ」
剣士「くっそー……どうせあれだろ、証拠がないから信じらんねーとか、そんなんだろ。ほんとに強いんだってのに畜生め……」
息子「あ、ああ。まあそのような所だな」


息子「一応、魔物が去ったことは確認されているらしいが」
剣士「こっちの手柄って分かってもらえねえと意味ねえじゃん。あーあ、嘘つき呼ばわりはもうなれたけどよー、やっぱこうさー」
息子「やはりそうか」
剣士「ああ?」
息子「お前が無名の理由だ」



138 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/20(木) 20:36:20 ID:EYrKrQ5Y

息子「確かに、お前は腕っ節を示さぬ限り、単なる卓絶した不審者にしか見えぬものな」
剣士「ぶん殴りたいけど我慢してやる」
息子「しかし、これまでに用心棒などの仕事を幾度かしていたと聞くが。その辺りの評判はどうなのだ?」
剣士「いやー。大概最後は雇い主とか同僚と喧嘩別れすっからよ、『これこれこういう奴は絶対に雇うな』って噂だけが流れるオチで」
息子「貴様……本物の社会不適合者ではないか。それとも燃えるゴミの方だろうか?」
剣士「飯食わせて貰ってる手前言うのも何だが、お前もぜってーその口だろ」


息子「まあいい。田舎から出てきたのだし、礼儀作法を弁えぬ猿であるのも致しかたない」
剣士「うめー、このハム超うめー」
息子「都会に行けば力を見せる場面などいくらでもあるだろうし、この街なんぞより、噂の広まる範囲は広い。せいぜい私が目を光らせておく故、大人しく有名になるがいい」
剣士「ああ? 何でだよ」
息子「何、単なる暇潰しだ」



139 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/20(木) 20:36:49 ID:EYrKrQ5Y

息子「それに、お前という野生動物を恭順になるよう飼育するというのも、中々良い社会勉強に…………貴様」
剣士「おおっとー丁度いいとこにあったグラス一杯の水を思わず掴んでお前の頭に被せてしまった冷たいいいい!?」
息子「以下略、だ」
剣士「てめえ……」
息子「ほう、やるか。いいだろう……掛かって来い!」


剣士「……お前が悪いんだぞ」
息子「ふん。先に仕掛けたのはお前だ」
剣士「あーあ、飯も結構残ってたってのに勿体ない」
息子「しかしあの程度で客を追い出すとは、何と忍耐の足りぬ店主だろうか」
剣士「なあ。こんなの日常茶飯事だもんな」
息子「全くだ。多少壁や椅子、机に傷が付き焦げたところで、営業に支障はないだおろうに」
剣士「違いねえ違いねえ」



140 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/20(木) 20:37:02 ID:EYrKrQ5Y

剣士「っつーわけで、食い直しに行こうぜ!とりあえず店も多そうだしあっちの通りに行ってみ」
息子「待て」
剣士「何だよ、手を離せ」
息子「その、反対の方に行こう」
剣士「反対って、来た道だろ? 特にうまそうな店は無かったじゃねえか」
息子「いいから。早く歩け」
剣士「いだだ! んな強く引っ張るな!」


街娘「あ、やっぱり!」
剣士「あれ?」
息子「……ちっ」
街娘「今日は、剣士さん。私昨日の」
剣士「ああ。覚えてるよ、昨日話しかけてくれたお姉ちゃんだよな?」
街娘「わあ! 覚えてて下さったんですね!」



141 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/20(木) 20:37:16 ID:EYrKrQ5Y

街娘「今朝お連れさんにお会いしたんです。剣士さんにもお会いできて、とっても嬉しいです!」
剣士「……お前、朝から何ナンパなんかしてんだよ」
息子「彼女から先に声を掛けてきたのだが」
剣士「うっそだー、誰が好き好んでお前みたいな胡散臭い悪人面に朝っぱらから声を掛けるんだよ」
息子「そうなると、二三日前のお前は余程の物好きということになるな」
剣士「あ」
街娘「ち、違いますよ!ナンパじゃありません!」


街娘「この街のこととか、剣士さんのことについてお話して頂いたんです」
剣士「え……あ、ああ……ごめんな、強そうに見えなくて……」
街娘「わ、わわ、落ち込まないで下さい! きっと大丈夫ですから!」
息子「慰めはしても、否定はしないんだな」
街娘「……嘘はつけませんし」
剣士「うう……何でこんなに報われねえんだろ」



142 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/20(木) 20:37:29 ID:EYrKrQ5Y

息子「日頃の行いだろう」
剣士「うるせえ斬るぞ」
息子「その前に剣ごと燃やしてくれるわ」
街娘「喧嘩はいけませんよ! さっきもそれで追い出されちゃったんですよね!?」
息子「む?」


息子「何故、知っているのだ? その場にいたのか?」
街娘「いえ、ここに来る途中すれ違う人皆が噂してましたから」
息子「他に娯楽はないのかこの街は……そういえば先程から、妙に視線を感じるが」
剣士「そうか?」



143 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/20(木) 20:37:44 ID:EYrKrQ5Y

剣士「こんなもんじゃねえの? 通りすがりにガン見されたりとか普通じゃん」
息子「お前はもう、何も喋るな」
剣士「えー」
街娘「お二人とも仲がよろしいんですねえ」
息子「やめてくれ」
剣士「おーおー分かる!? 見ての通りの仲良ぐむむむー!?」
息子「喋るな、と言っただろう」
街娘「あ……あははは……」


街娘「ところで、お二人はこれからご予定はありませんか?」
息子「む、いや、特には……」
剣士「これから二軒目の昼飯どーすっかって喋ってたとこだしな」
街娘「でしたらその……ご一緒してもいいですか?」
剣士「え、何で?」
息子「……」



144 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/20(木) 20:37:57 ID:EYrKrQ5Y

街娘「わ、私だけじゃないんですけど、何人かのお友達が剣士さんたちとお話がしたいって」
剣士「別に面白い話なんか出来ないぜ?」
街娘「面白い面白くないじゃなくて……皆、剣士さんとお話したいって」
息子(遂に私が除外された……)


剣士「んー。構わねえけど?」
街娘「ほんとですか!?でしたらちょっとお友達を呼んできますので、少し待って」
息子「すまんが、これから旅の打ち合わせをするのだ」
街娘「え」
剣士「へ? んな話は別に夜でも」
息子「そういう理由で、失礼する」
剣士「ちょっと待て! だから引っ張るなって!!」



145 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/20(木) 20:38:14 ID:EYrKrQ5Y

息子「はあ……」
剣士「何だよお前、変な奴だなー」
息子「黙れ元凶。貴様、あれが何か分かって物を言っているのか?」
剣士「飯を一緒に食うのが、そんなにおかしいことなのか?」
息子「この場で塵に出来たらどれほど楽か」


息子「聞くが貴様。異性に茶だの飯だのを誘われた記憶は」
剣士「結構奢ってもらえるもんだよなー」
息子「よし、もう一度言ってみろ」
剣士「いやだってそんな凄まれたって。金無いからって断っても、出すって言われちゃ甘えるしかねえだろ」
息子「……貴様は、どうして、こう……」



146 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/20(木) 20:50:25 ID:EYrKrQ5Y

剣士「いやー、こんな世の中でも親切な人ってのは多いもんだね」
息子「貴様は今間違いなく、私含めた世の中の男全てを敵に回した」
剣士「何でだよ。奢られるのがそんなにマズいことなのか?」
息子「大いにマズい。いいか、よく聞け。今後、私以外の者から飯などを施されるなよ。風評に関わる」
剣士「? まあ、三食保証してくれるんならな!」
息子「分かった。分かったから黙れこのヒモが」
剣士「ひでえ言い草だなあ」


剣士「でも、さっきの子結構可愛かったのに、本当に断っちまって良かったのか?」
息子「は……あ?」
剣士「いやー、やっぱモテる男は違うね! 女の誘いなんて軽くいなせるんだから!」
息子「……」
剣士「あれ、何でエグイ顔してるんだ? 何かあったのか?」
息子「…………二軒目を探すぞ」
剣士「お、おう?」



149 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/25(火) 19:35:21 ID:UE6Zwekk

剣士「ふーい! ごっそーさん!」
息子「……ああ」
剣士「どうしたんだよお前暗い顔してよー。あんまり食ってなかったみたいだし、具合でも悪いのか?」
息子「貴様は……あの好奇より数段上の視線を、よく気にせずいれたな」
剣士「ん? そりゃまー、余所者なんだし珍しいだろうよ」
息子「……はあ」


息子「これはもう、明日朝一で街を出た方がいいだろうな」
剣士「えー、だってお前は知らねえだろうけど、その都って結構遠いんだぜ? ゆっくり出たって変わんねえよ」
息子「中途半端な田舎だから、逆に目立つのだ。早く出るぞ」
剣士「ちぇー……ゆっくり寝たかったのになあ」
息子「喧しい」
剣士「何だよお前、さっきからイライラ苛々と」



150 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/25(火) 19:35:53 ID:UE6Zwekk

剣士「ははあん……さてはお前」
息子「何、だ」
剣士「分かった! 許してやろう! だから行って来いよ!」
息子「何処に行けと」
剣士「え、だから女引っかけに」
息子「何故そこに繋がる……!?」


剣士「ははは、お前あれだろ、性欲持て余しちゃってるけど、見栄があるから発散できなくてイライラしてるんだろー」
息子「断じて違うと言っておく」
剣士「ええー? 気を利かせたつもりだったのに」
息子「余計なお世話だ。第一、溜まっていればお前なんぞに許可を得ずとも」
剣士「確かに自家発電は自由だけどな!」
息子「身ぐるみ剥いで売り飛ばすぞヒモニート」



151 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/25(火) 19:36:26 ID:UE6Zwekk

息子「はあ……しかし、確かに少し疲れたな。宿に戻るか……」
剣士「あ、じゃあ同じく戻って昼寝でもすっかなー」
息子「まだ寝るのか」
剣士「おう! 寝る子は育つんだぜ!!」
息子「……まあ、別行動されるよりマシか」



数時間後・宿─

息子「はあ」
息子「よく、寝たが……酷い夢を見た、気がする」
息子「それもこれもあいつが底抜けの馬鹿だから……」
息子「……そろそろ夕餉の時刻か」
息子「仕方がない。あれを起こして、街に出るか」



152 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/25(火) 19:38:07 ID:UE6Zwekk

コンコン

息子「おい」

トントン

息子「おい」

ドンドンドンドンドンドン!

息子「…………」
息子「だから、嫌なんだ……」


息子「おい……入る……ぞ?」

ギィ

息子「…………?」
息子「いない?」
息子「一体何処に……」
息子「お、書き置きか?」


『早く目が覚めたんで、ちょっくら外をブラブラして来るぜ!』


息子「……」



156 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/30(日) 21:57:10 ID:9/h10oLI

酒場─

剣士「で、魔物が怯んだその隙に……この剣でずばっと!」
街娘「凄いんですねえ」
娘2「ほんと!」
男1「ああ……」
男2「すげえ、な……」
剣士「うはは!そんなの当然のことだって!」


剣士「いやー、でも悪いな。ほんとにいいのかな、奢って貰っちゃって?」
街娘「構いませんよ。支払いはこの二人が、私達の分まで全額持ってくれることになっていますし!」
剣士「あ? 罰ゲームか何か?」
男1「そ、それはその」
男2「何と言うか……」
娘2「そんなことより、もっとお話聞かせて下さい! 料理もじゃんじゃん頼みましょう!」
剣士「え、いいの?」
男二人「……はい」



157 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/30(日) 21:57:25 ID:9/h10oLI

剣士「じゃあその鶏肉の串焼きセットもう一つとー」
息子「お前、酒が切れているようだが」
剣士「おお!じゃあこの店で一番度数が高い酒を一杯。お前は?」
息子「私も同じものを」
剣士「あはは!お前もやっぱりいけるクチだ…………あ」
息子「ははは」


息子「貴様、昼寝する直前に私が言っていた言葉をもう忘れたのか」
剣士「――――!」
息子「犬ですらもう少し従順だ。貴様は何だ、鳥か? それとも魚か? どうした、何類に属するのか、答えてみろ」
剣士「――――っっっ!?」
街娘「や、やめて下さい!剣士さんが凄い顔色してます! 死んじゃいます!」
息子「こいつに酸素など、贅沢だ」
街娘「わけが分かりません! 首を放してあげて下さい!!」
息子「ちっ」



158 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/05/30(日) 21:57:38 ID:9/h10oLI

剣士「げほげほげっほ」
息子「どうだ反省したか。魚類ヒモニート」
剣士「て、てめえええ……」
息子「ほうほう反抗的な目つきとは。もう少し躾が必要と見える」
剣士「いきなり何しやがる!? 見ろてめえ! 皆ドン引きしてんじゃねえか!」
息子「誓いを可及的速やかに反故にしたお前が悪い」
剣士「えー……いいじゃねえかよー」
街娘「す、すみませんお連れさん!」


街娘「私が無理やり誘ったんです! 剣士さんは悪くありません!」
剣士「お……お姉ちゃん」
街娘「私が剣士さんとお話ししたくて……他の皆もそうです。勝手にお借りしてしまい、すみませんですいた!」
息子「…………」
息子(男二人、女二人か……分かりやすい)
街娘「あ、あの……」
息子「分かった」
街娘「え」
息子「私も参加しよう。そして、支払いは全て私が持つ」
街娘「……へ?」



163 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/06/04(金) 23:35:44 ID:FOmAYKew

剣士「っでさー! こいつすっげー羽振りいい癖にケチで性格悪いんだぜ!」
息子「喧しい」
街娘「あはは。でも、本当にありがとうございます。いいんですか?」
息子「構わん。こいつが迷惑を掛けた、詫びだ」
剣士「何もしてねえよまだ!!」


剣士「しっかしあの兄ちゃん二人、なんかテンション低く帰っちまったけど。良かったのかね? 折角タダ飯食えるってのに」
街娘「あ……あー……すみませんでした」
息子「謝る必要はない。構わん」
剣士「えっ? 何どういうこと?」
息子「お前は何も発言しなくて済むよう、そこの肉でも食らっていろ」
剣士「言われなくても!」



164 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/06/04(金) 23:35:56 ID:FOmAYKew

娘2「でも……」
息子「む」
娘2「お連れさんもいい人そうですよねえ」
息子「……それは、ないとだけ」
剣士「ほんとほんと!ねーよってお前勝手に人の酒飲むんじゃねえよ!!」
息子「お前は本当に、喧しい」


街娘「怖い人だと思ってましたけど、確かにいい人ですよね。流石は剣士さんのお仲間!」
息子「やめてくれ。特に後半」
剣士「良かったな! 一緒にいると人間としてのレベルが割り増しに見えて!」
息子「下等生物が人語を嗜むな。酒でも飲んでろ」
剣士「んぐううううう!?」
娘2「うあわわわ! 流石にそれはちょっと人としてどうかと思いますよ!!」



165 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/06/04(金) 23:36:11 ID:FOmAYKew

街娘「では、ご馳走様でした!」
娘2「本当にいいんですか……?」
息子「構わん。むしろ……これであいつの痴態を忘れてくれると、感謝する」
街娘「痴態って……」
娘2「まあ、今は確かに……」
剣士「うははー。酒持ってこおーい……ぐがー」


街娘「でも、こちらこそ本当にすみませんでした……」
娘2「話を聞いてまさかとは思っていたんですけど……本当に」
息子「いや。私の方こそ、『こいつに餌を与えるな』と札を持たせることを失念していた」
街娘「え、そうじゃなくて」
娘2「剣士さんって」
剣士「さけー!!」
息子「……くたばれ」
剣士「ぎゃん」



166 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/06/04(金) 23:36:24 ID:FOmAYKew

息子「では、私達はこれで失礼する」
街娘「あ、あのー。剣士さん、伸びちゃってますけど、いいんですか?」
息子「いつもこうだ。構わん」
娘2「……いいんでしょうか?」
息子「死ぬことは無いだろうから、心配はいらん。では」
街娘「あ、本当に、ありがとうございました!」
娘2「ご、ごめんなさいでした!」
息子「……ああ?」


息子「はあ」
息子「回収も、フォローもしたが」
息子「どうも腑に落ちんな、あの反応」
息子「まあ、こいつに較べれば些細な問題か」
息子「全く手のかかる馬鹿者だ……腹は立つが、退屈せぬ」
剣士「ぐがー」



176 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/06(金) 01:05:11 ID:Ee1SoRQY

次の日・早朝─

コンコン

息子「おい」

ドンドン

息子「おい……起きろ」

ドンドンドガッ!!

息子「起きろ!社会不適合者!呑んだくれ!ヒモ!単細胞!ゴミ!」

バン!

剣士「う……うるせえええ……」
息子「うむ、お早う」
剣士「あれだけ騒いでおきながら真顔で挨拶とかお前……」



177 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/06(金) 01:05:28 ID:Ee1SoRQY

剣士「ってかもう勝手に入ってくりゃいいのに。他の客に迷惑だろ……何だその目は」
息子「お前が他人への気配りを見せるとは……」
剣士「人のこと何だと思ってんだお前。だから、仲間なんだしノックとかまどろっこしいこと辞めろってーの」
息子「生憎だが、私はお前と違って育ちが良いのでな。染み付いた習慣というものは、易々と手放せぬものだ」
剣士「あーもう朝から腹立つ財布だ……ぐぐぐぎぎぎぎ」
息子「このまま今一度眠ってみるか。永遠に」


剣士「げほげほ……お前、首絞めるにしてもちょっとは手加減しろよな……気軽にギリギリ締めあげやがって……」
息子「したとも。でなければ、こうしてお前の首が繋がっている訳が無かろう」
剣士「耳を塞ぎたくなる、恥ずかしい台詞だな。まーでもお前にも仲間を思いやる優しさが」
息子「お前の首なんぞインテリアにもならぬし、手土産にくれてやって喜ぶ者がぱっと思い浮かばんのでな」
剣士「安心しろ。そんな奴は絶対にいねえ。そうに違いない」



178 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/06(金) 01:25:23 ID:Ee1SoRQY

剣士「はー……もう出発かあ?早朝って言ってたけど、もうちょっと待ってくれよー」
息子「ならん。とっとと着替えて用意を済ませて来い。もし半時間も私を待たせれば、お前を宿代の代わりに置いていくぞ」
剣士「ちくしょー……分かった分かった。お前はもう用意出来てんの?」
息子「当たり前だろう」
剣士「じゃあ手伝って」
息子「ははは」
剣士「ははは……やりますやります一人でやります」
息子「二度寝するなよ。速やかに首を刎ねてやるからな」
剣士「へいへーい」


剣士「世話になったよ!ありがとなー!」
息子「こちらには?」
剣士「マジありがとなー流石は金持ちボンボン様の財力だぜー」
息子「まあ良い。常に感謝と尊敬を忘れるな」
剣士「お前、絶対友達いねえだろ」
息子「何だ、己に言っているのか寂しい奴」



179 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/06(金) 01:51:18 ID:Ee1SoRQY

息子「さてと、馬も回収した。とりあえずは街の出口に」
剣士「あ」
息子「何だ。寄り道は認め……」
街娘「……ど、どうも」
剣士「やっほーお姉ちゃんおはよ!朝早いんだねえ」
街娘「あ……おはようございます!」


息子「何の用だ」
街娘「あ、あの……早朝に発たれると仰っていらしたので……お見送りにと」
剣士「マジかよ!いやー嬉しいねえ。こんなべっぴんさんに!」
街娘「え……っと……はい、ありがとうございます」
息子「まあ、私からも礼を言う」
街娘「は、はい。昨日はありがとうございました。あと、本当にすみませんでした……」
息子「? 何かは知らんが気にするな」



180 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/06(金) 01:57:43 ID:Ee1SoRQY

息子「では……この道で良いのだろうか」
街娘「はい。ここを真っ直ぐです。馬の足でも丸一日くらいは掛るはずですけど……」
息子「何、その程度ならば軽いものだ。野宿も覚悟している」
街娘「剣士さんも……ですか?」
息子「あれは野生の生き物だ。野宿で堪えるような繊細さを持ち合わせているはずがないだろう」
街娘「は、はは……と、ところで一つ」
息子「む?」


剣士「えーっと……地図見る限りじゃ山越えはしなくて済むのか? 街道沿いにずーっと行くのね」
剣士「うーん……こっちの地域はほとんど行ったこと無いからなあ。栄えた街だってことは話に聞いてるけど」
剣士「ま、頼りにしてるぜ馬! ……名前とか付けた方がいいのかな」
剣士「……っつーか、相棒は何やってんのかね。あの姉ちゃんと話し込んで」
剣士「良い雰囲気だったし、なんかこーしんみりする展開でも迎えてんのかね。にしてはあいつ、すっげー渋い顔だけど」
剣士「あ、話終わったみたいだな、馬」



181 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/06(金) 02:10:50 ID:Ee1SoRQY

街娘「お、お待たせしました剣士さん」
息子「……行くぞ」
剣士「お、おう。何だよお前。すっげー疲労困憊って感じだけど」
息子「何でも無い。あるわけがないだろう」
剣士「変な奴。おいおいお姉ちゃん、何かあったのか?」
街娘「あ、あの……」
息子「何でも無い。あるとすればそうだな……竜が出るそうだ」
剣士「は?」


息子「地図だとこの辺りか……?」
街娘「は、はい。そうみたいです」
剣士「え?だって昨日お姉ちゃんが言ったんだろ?安全だって」
街娘「私もそう思っていたんですけど……最近になって被害が出始めているそうです。……お二人と別れてから、ちょっと気になって色んな人に聞いて回ったんです」
剣士「おお……夜も遅かったのに、わざわざ悪いねえ」
街娘「い、いえ!元はと言えば私がよく調べもせずにお話したせいですから……」
剣士「いやいや、それでもありがとうな。……で、どうするよ相棒」
息子「決まっているだろう。気にすることは無い」
剣士「だよなー」



182 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/06(金) 02:20:16 ID:Ee1SoRQY

剣士「っつわけで、見送りありがとう。そろそろ行くわ!」
街娘「だ、大丈夫ですか?他にも遠回りになりますけど、道は」
息子「こいつはあの魔物を倒した猛者だぞ。竜の一匹や二匹、問題ではない」
剣士「そーいうこと。ま、上手く退治出来たら被害も減るし。期待しといてくれよな」
街娘「……止めても無駄みたいですね」
剣士「ああ、何たって頭の悪い二人旅だから」
息子「私を数に入れるでないわ馬鹿代表が」
街娘「ふふ……分かりました」


街娘「それでは……お気を付けて!」
剣士「色々ありがとうな!また会おうぜ!」
街娘「はい! お連れさん!」
息子「何だ」
街娘「頑張って下さいね!」
息子「…………はあ」
剣士「?」



183 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/06(金) 02:21:28 ID:Ee1SoRQY

剣士「おいおい、何だったんだよ今の応援」
息子「知るか」
剣士「変な奴だなー。いや、変じゃないとお前じゃないか」
息子「そうか良かったな。それより急ぐぞ。今日一日で出来るだけ距離を稼ぎたい」
剣士「え、ちょ、待てよ!馬の扱いまだ慣れてねえんだって!置いてくな畜生!」


息子(……)
息子(おかしな人間だったな……何だあの質問に加えて最後の言葉は)
息子(面倒な……こいつを相手にしているよりも面倒な……)
息子(……まあ、一先ずこの問題は忘れることにして)
息子(竜……か。あの辺りには、一体どのような種族が棲んでいるのやら)
息子(まあ、何であれ構わん。先日と同じように、芝居を打ってもらえばいいだけだ)
息子(こいつの名声のため。丁度いい『障害』ではないか)



187 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/13(金) 01:14:16 ID:9kF4v8G.

息子「……」
剣士「……なーなー」
息子「……何だ」
剣士「沈黙が気まずいからそろそろ飯にしたいんだけど」
息子「まだ日もそれほど高くない。我慢しろ」
剣士「断固として拒否する!朝早かったら腹が減るのも早いのは道理だろ!」
息子「お前は育ち盛りの子供か」
剣士「若いんだから仕方ねえだろ。年寄にゃ無縁な悩みっだたああああ!?」
息子「ちっ……慣れぬ馬上でよくかわしたものだな」
剣士「あっぶねえなテメエ!殺す気か!!」
息子「当然だ!」
剣士「えっ……ああうん、そうか」


息子「若さに溢れる私を捕まえて、何が年寄りだ何が」
剣士「でも、そんだけキレるってことは自覚あるんじゃねーの。年寄り臭いって」
息子「どこがだ」
剣士「いや、なんか全体的に覇気が無いじゃんお前」
息子「喧しいぞ躁病」
剣士「まーまーそんな暗い顔すんなよ、その内良い事あるさ!第一お前さっき美人といい感じだったじゃねーか!よっ果報者!」
息子「……」
剣士「あれ?何か違ったか?」



188 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/13(金) 01:14:29 ID:9kF4v8G.

剣士「お前あの姉ちゃんと何喋ってたんだよー、相棒を除け者にしてくれちゃってまあ」
息子「何を勘違いしているかは知らんが、彼女が気にしていたのは……そうだな、お前のことだな」
剣士「え?どういうこと?」
息子「お前が一人物かどうかを気にしていた。ということだ」
剣士「え!?」


剣士「えっ、ちょ、マジかよ畜生……何て勿体無い事を……」
息子「とはいえお前に気があるという訳でもなさそうだったがな」
剣士「じゃあ何なんだよ、ぬか喜びさせんじゃねーよ……何ならお前が誰か紹介しろよ畜生!」
息子「誰でも良いのかお前は。あまりに浮いた話に縁が無さ過ぎて、来るもの拒まずとはなあ」
剣士「そりゃもう愛をくれるならもう誰でもいいかな!」
息子「虚しい奴め」
剣士「若いから仕方ないんだ!」
息子「良かったな、他に誰もいなくて」



189 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/13(金) 01:14:42 ID:9kF4v8G.

息子「はあ……お前の相手をしていると疲れる。少し休むか」
剣士「やったね飯だー!」
息子「分かった。分かったから騒ぐな。はあ……」
剣士(……やっぱりジジイじゃねえか)
息子「だが、貴様の飯は無しだ」
剣士「何で分かるんだよ!」
息子「悟られたくなければ、その無残な面をどうにかするがいい」


剣士「あー、青空の下で食う飯は格別だなー」
息子「そうだな」
剣士「そっけないなー。何だよお前、自然を愛する心が無いのか」
息子「野宿になるやもしれんと言うのに、呑気に自然など愛でていられるものか」
剣士「う……まあ確かにそうだけどよー……ご馳走さま」
息子「……どこに行く」
剣士「さっきデカイ湖があっただろー?水浴びでもして来ようかと思って」
息子「……本当に野生に帰る気かお前は」



190 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/13(金) 01:14:54 ID:9kF4v8G.

剣士「折角なんだしいいじゃねえか。あ、お前も一緒にどう?」
息子「……はっ」
剣士「うわあ心底ウゼえって顔が心底傷付くわあ……いいぜ!お前がそのつもりなら!一人ですっきりさっぱりして来てやるもんな!」
息子「勝手にしろ。ただ、くれぐれも遅くなるな。今度こそ捨て置くぞ」
剣士「へいへーい。行ってきやーす」


息子「はあ……全く緊張感の無い奴め」
息子「殺す気が失せる、という程でもないが」
息子「どうも調子が狂う。面倒な……はあ……」
息子「おい」
息子「……どうした。そこにいるんだろう。私に気付かれぬとでも思ったか」
息子「出て来ないのか……?ならばこちらから」

ガサガサッ

息子「……む」
息子「うむ……」
息子「竜か……」



191 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/13(金) 01:25:20 ID:9kF4v8G.

息子「これはまあ……何と言うか、予想外と言うか……」
息子「お前が人間共を襲っていたのか?」
息子「いやしかしそれにしても……」
剣士「何やってんだお前」
息子「!?」


息子「何故戻って来た!?」
剣士「いやー、体拭くものとか忘れてさあ。ってかお前さ」
息子「な、何だ」
剣士「何か後ろにあるのか? 必死に隠してるみたいだけど、顔に出てるからな」
息子「何もいるわけがな……ってこら貴様!やめろ!」
剣士「う……」
息子「だからやめ」
剣士「何こいつううう!!」
息子「くっ」



192 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/13(金) 01:48:56 ID:9kF4v8G.

剣士「うっわーすっげ!竜なんて初めて見た!」
息子「こらやめろ!怯えているだろう!放せ!」
剣士「えー……いいじゃんちょっとくらい……。ってかあくまでそっちの心配なんだな。相棒じゃなくて」
息子「お前とその竜、どちらが守るべき存在だ?」
剣士「まーうん、否定は出来ねえわ。いでで、必死に人の腕噛んじゃって!でも許す!何故ならちびっこトカゲが可愛いから!」
息子「お、おい……流石にその辺でやめておけ。そろそろ止血すべきだ……」
剣士「うはは!堅い事言うなよ!」
息子「いいから早くそいつを放して腕を出せ……」


剣士「しっかしお前、こんな可愛いのどうしたんだよ」
息子「急に飛び出して来ただけだ」
剣士「こいつが人を襲ってるって竜かねえ?」
息子「無理があるだろう。噂の竜は、恐らくこいつの仲間だろう」
剣士「ってことは……こいつ、はぐれちまったのかな?」
息子「そのようだな」



194 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/08/15(日) 18:47:58 ID:VJSbsHEo

あんたのSS好きだ
支援



195 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/16(月) 00:31:07 ID:Fy.iWn8Q

>>194
ありがとう!


息子(さて……どうしたものか)
息子(こいつに隠れ、夜の間に竜と話を付けておきたかったのだが)
息子(先に出会うとは……しかも話も出来ぬような子供に)
息子(まあ、予期せぬ戦いは避けられたようで何よりだが……)
息子(子供とは言え魔物に対し、こうまで無防備なのは実力への過信か単なる馬鹿か。確かに頭は悪いが)
息子(とりあえず、何か理由をつけてこいつを引き離すか。子供の情操教育には、確実に悪いだろうし)


剣士「よーし。んじゃまあ行くか!」
息子「ほう、もう発つのか?丁度良かった。私もそれを提案しようとして」
剣士「いや、こいつの仲間探してやるかなーと思って」
息子「……は?」
剣士「迷子を放っておけるかよ!なっ!一緒に探してやろうぜ!」
息子「……これは、魔物だぞ?単なる野生動物とは、一線を」
剣士「細かい事はこの際いいじゃねえか。どうせ暇なんだし」
息子「お、お前は……いや……」



196 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/16(月) 00:31:22 ID:Fy.iWn8Q

息子「……一体何を考えている。お前は先日魔物と殺し合いをしたばかりだろう。だと言うのに、魔物に手を貸すような真似など、やめておけ」
剣士「えー?あんなのただの弱い物イジメじゃん。気にしない気にしない」
息子「……人に、害を及ぼす魔物だぞ?」
剣士「おーっと、それ言われると困るんだけどな。この前の山の魔物と違って、今回は襲ってるのがこいつの仲間って決まったわけじゃないしな」


息子「怖気づいたのか貴様。あの魔物を弱者呼ばわりするお前にとって、竜を倒すことなど簡単なものだろう。疑わしきはとっとと潰せ」
剣士「いやまあそれが一番安全だろうけど……こんなちび殺すのも、ちびの仲間殺すのも目覚めが悪いじゃん?」
息子「……情など捨てろ。お前がここで竜を倒せば、数多くの人間が命を落とさずに済むかもしれんのだぞ」
剣士「いやまあそうだよ。そうだけどさ。話合ってどっか人里離れた所に行ってもらうとかあるだろ?」
息子「あるわけがないだろう」
剣士「や、やってみなけりゃ分からねえって」



197 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/16(月) 00:31:37 ID:Fy.iWn8Q

剣士「何か急に機嫌悪くなったなあ。どうしたんだお前」
息子「同行者が予想以上の馬鹿で言葉も無い」
剣士「お前喋ってるじゃーん」
息子「黙れ」
剣士「ま、お前が嫌だって言うなら一人で探して来るよ。竜に襲われたって穏便に逃げ延びる自信はあるしな」
息子「…………だろうな」
剣士「そういうことだから!今更止めたって無駄だぜ!」
息子「だろうな」
剣士「では早速こいつを連れてちょっくらうろうろ山狩り」
息子「待て待て早まるな野良剣士」


剣士「何だよ陰険若年寄り!」
息子「よし、後で殴る。一所に置いておかねば、そいつの仲間が困るだろう」
剣士「あ、そっか……じゃあどうしよ」
息子「……ここに置いて行け。お前は山を駆け回り竜を探し、囮となってここまで連れてくればいいだろう」
剣士「なるほど!お前たまにはいいこと言うな!……ってか了承したってこと?」
息子「まあ、放置するよりはマシかと思ってな」
剣士「流石は相棒!んじゃまあこいつよろしく!苛めるんじゃねえぞ!」
息子「少なくとも、お前よりは扱いを心得て……もう消えたか。何だあの生き物は」



202 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/24(火) 00:49:40 ID:KV/PnPEk

息子「しかし『囮』には何の異論もなしか……人が良い馬鹿も大概にしろと……」
息子「……ああ、分かっている。分かっているから、服を引っ張るな」
息子「人の言葉はまだ操れぬようだが……私はお前の言葉くらい分かっている」
息子「私が誰だか分かるか?うむ、『仲間』ではあるのだが……」
息子「…………ああ」


息子「あの人間か……変わり種だろう」
息子「悪意は無いんだ。許してやってくれないか。その方が面倒が無い」
息子「……は?」
息子「断じて、無い。何を言い出すかと思えば……下らん事を……」
息子「まあいい……仲間の所に連れて行ってやる。話もしたいのでな」



203 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/24(火) 00:49:56 ID:KV/PnPEk

息子「……この辺りか?そうか」
息子「何だ、少し遠出しただけだったのか。私達が騒ぐまでも無かったということだな」
息子「……いや、私達ではなく、『あの馬鹿』が……だな」
息子「分かった分かった。この洞窟だな。入ろうか」
息子「あれに気取られる前に、用件を済まさねばならぬことだし……」


洞窟─

竜「……何者だ」
息子「ほう。隻眼とは、中々迫力のある竜だな」
竜「!?」
息子「ああ、お前は分かるのか。私が何者か」
竜「何故……お世継ぎ殿がこのような場所に……」
息子「いや何、たまたま通りかかっただけだ。そう畏まらずとも良い」
竜「……どうか」
息子「む?」



204 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/24(火) 00:50:09 ID:KV/PnPEk

竜「どうか……子供の命だけは……お願いします」
息子「……何を勘違いしているか、容易に理解できて嫌になるな」
竜「魔王様が何をお考えかは存じ上げておりませんが、どうか……どうか」
息子「安心しろ。単にそこで出会い、連れて来てやっただけのことだ。ほら、行け。ちび」
竜「…………ああ」


息子「私は父上からの命令も受けてはおらぬし、お前達に危害を加えるつもりもない」
竜「で、では本当に何も……」
息子「当然だ。第一、同胞を虐げて何が楽しいか」
竜「……お父上は、異なるようですが」
息子「あの方と私は違う。考えてもみろ、あのような方がもう一人いて、世界がこうして続いているはずもなかろう」
竜「……確かに、そうですね」
息子「だろう?」



205 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/24(火) 00:50:33 ID:KV/PnPEk

息子「それより、この辺りで人間が竜に襲われているという話を聞いたのだが。お前たちか?」
竜「この辺りには、私達の他に竜など暮らしておりませぬ」
息子「そうだろうな。気配が無い」
竜「それが、何か?」
息子「今、少し面倒な計画を練っていてな。少々協力してもらいたいことがある」
竜「私などでよろしければ、何なりと」
息子「ふむ」


息子「実はな、私は身分を偽り、とある人間と旅をしている」
竜「物好きなことで……」
息子「言うな。そして率直に言う。これから私が連れてくる人間と戦い、負けてもらいたい」
竜「……何、と?」
息子「いや、奇異に聞こえるかも知れぬが、これには理由が」
竜「お世継ぎ殿」



206 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/24(火) 00:50:47 ID:KV/PnPEk

息子「……何だ」
竜「私のこの目は、人間の手によって潰されました」
息子「……」
竜「竜の子は、人の世で何らかの価値があるとか。そのためこの子を狙う人間が、ごく稀に現れますので」
息子「ふむ……そうして戦った結果がその目、というわけか」
竜「まあ、愚かな人間共は残らず私の腹の中に収まりましたが」
息子「だろうな」


息子「お前ほどの竜に敵う人間など、ごく少数だろうよ」
竜「僭越ながら……そのような人間など、あり得ないと思いますが」
息子「まあ……そうだな。そのはずだ」
竜「そのため、お世継ぎ殿。私は人間共を憎んでおります」
息子「だから、私には協力できない……嘘でも負ける気は無いと?」
竜「私は子供のため、どのような理由があろうと強剛な母でおらねばなりませぬので」
息子「……そうか。分かった。先程の話は忘れてくれ」
竜「感謝します」



207 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/24(火) 00:51:03 ID:KV/PnPEk

息子「しかしお前、私によくそのような口が利けるものだな。何の間違いだか、あの方の子だぞ、私は」
竜「貴方は魔王様ではありませんし、実権を握ってはおりません。遠慮はそれほどいらないかと」
息子「親しみが持てるという意味で取っておく」
竜「それにお世継ぎ殿は私の子を保護し、わざわざここまでお連れ下さるような、お優しい方でございますし」
息子「いや……保護はしたが……仲間を探そうと提案したのは」


剣士「うっわー!」
息子「なっ…………!?」
竜「……」



208 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/24(火) 00:51:19 ID:KV/PnPEk

剣士「すっげー竜だ!初めて見たぜすっげー!でっけー!かっけー!」
息子「お、おい貴様!」
剣士「あ、何だよお前ああ言ってたくせに、先に仲間を見つけてやるなんて!やっぱりツンデレだな!」
息子「……いいから、黙れ」


息子(手短に言う!こいつには私の正体を明かさぬように……!)
竜(お世継ぎ殿がそう仰るのであれば、従いましょう。しかし)
息子(何だ)
竜(この人間が、早く私の目の前から消えなければ……食わぬ保障はありませぬ)
息子(くっ……血気盛んであるのは魔物として正しい姿だが……面倒な!!)



209 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/24(火) 00:51:37 ID:KV/PnPEk

剣士「おお!良かったなーちび!もう迷子になるんじゃねーぞ!」
息子「おい、用は済んだんだ。竜を刺激しないように早くここを……だから不用意に近付くな!」
剣士「そんでもって、そこのでかいの!これだけ言いに来た!」
竜「……」
剣士「子供から目を離すんじゃねえぞ!悪い人間だっているんだから、きちんと見とけよ!分かったな!」
竜「……」
息子「だから……クソ……」


剣士「あ、でも人間の言葉分かんねえのかな?どうしよ」
竜「……そこな人間よ」
剣士「へ?」
竜「では、貴様は『悪い人間』ではないと、言いたげだな」
剣士「喋れるのか!便利だな!」
息子「……それで済ませるな。会話を続ける努力をしろ。もしくは逃げろ」
剣士「何で?別に恐くねーし」



210 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/24(火) 00:52:19 ID:KV/PnPEk

剣士「あと、何かあっても負ける気しねえしな」
竜「ほう……?」
息子「こっ……この馬鹿者!刺激するなと!」
剣士「大体お前が無事ってことは、さっきから平和に喋ってたんだろ?仲良くなってるってんなら早く言えよなー」
息子「…………」
剣士「え、何でそんな項垂れてんだ。大丈夫かお前」


竜「くっくっく……威勢の良い人間よ。人に、善悪など無いだろう。総じて等しく我ら魔物の餌でしかない」
剣士「まあ、大概はそうなんだろうけど。ん、っつーことは人を襲ってるってのは」
竜「我のことだろうな」
剣士「ふーん」
息子(マズイ……どのタイミングでどう連れ出すか、だな……)



211 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/24(火) 01:08:44 ID:KV/PnPEk

息子(最悪こいつを殴り倒して……)
竜「何か言いたい事があるようだな。貴様ら人間とて、害なす敵を排除しようとするだろう? 我がやっているのは、それと同じことだ」
剣士「あ? んなこたどーだっていいんだよ」
竜「ほう」
剣士「どーせあれだろ、そのチビ狙って人間が来るってんだろ?」
竜「……貴様もその類か」
剣士「ちっげーよ。高く売れるってのは聞いたことがあったからな」


剣士「住処がバレて人間が来るってのに、なんでここを動かねえんだ? とっとと逃げた方が楽じゃねえの?」
竜「何故、我が人間などを恐れる必要がある」
剣士「ふうん」
竜「何より、我が子に無様な姿を見せられるものか。我は子のため、背を向けるわけにはいかぬのだ」



213 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/24(火) 01:27:47 ID:KV/PnPEk

息子「おい、そろそろ行」
剣士「やっぱり分かんねえなあ」
息子「聞けと言うに!」
竜「……何がだ、人間」
剣士「守るもんがあるなら、何をどうやってもそれを守れよ。手段なんか選んでねえでさ」


竜「……守るとも。この我が」
剣士「ははは、あんな眼と鼻の先でも目が行き届いてないってのに。さっきもしチビが出くわしたのが、お前の言うところの餌になるような人間だったとしたらどうしたってんだよ」
竜「どこにいようと匂いで辿れる。必ず取り返してみせるさ」
剣士「もしその人間が、大勢仲間率いていたらどうする?でっけー国の王族かなんかの手に渡っちまえば、余計に面倒な事になるぜ」
竜「それでも……」
剣士「あと、竜ってのは長寿の妙薬になるとか何とかってのも聞くし。無事に取り戻せる保障なんて」



214 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/24(火) 01:36:29 ID:KV/PnPEk

剣士「う……ぉっと。あっぶねーな。話し合いの最中に、いきなり何すんだ……」
竜「……」
息子「くっ……だから挑発するなと!馬鹿者が!!」
剣士「えー……まあ、大丈夫大丈夫。見ての通り、ちっと腕をかすっただけだから」
息子「竜の爪が掠ったんだぞ! 先程の子供とは違」
剣士「舐めてりゃ治るだろ……これくらい」
息子「そんなわけがあるか!!」
剣士「あーうん、止血は頼むわー」


竜「貴様……剣は抜かぬのか」
剣士「ま、ちょっと言い過ぎたみたいだし。お相子じゃね?」
竜「私は、貴様を殺す気だった」
剣士「うはは、残念でしたー……って、なんかふらふらすんな……そんな血は流してないはずなんだけどなあ」
竜「……私の爪は、毒を持っている」
剣士「おお、なるほ……ど」
息子「き、貴様ら何を気楽に言葉を交わしておるか……!!」



215 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/24(火) 01:48:17 ID:KV/PnPEk

剣士「あー、もう駄目……ちょっと寝るわ。治療は任せた」
息子「だから貴様は嫌なんだ……!」
剣士「まーま……せいぜい背負って逃げてくれや。お前なら出来るって。んで、そこのでかいの……これだけ言っとく」
竜「……何だ」
剣士「体面とか、下らねえもんとは言わねえよ? 生きてく上で、失くしちゃなんねえもんだとは思うよ? でもよ、優先順位ってものがあるだろうよ」
竜「……」


剣士「人間なんて、集まると疲れる生き物敵に回すな。お互い面倒なことにならないためにも、せいぜいそっちは勝手に、どっか静かな所で楽に楽しく生きてくれ。それがちびのためだと思うのよ」
竜「……勝手な話だな。それを我が聞き入れるとでも、思っているのか?」
剣士「あ、やっぱり? だよねー……あはは、まあいいか。もー無理、おやすみ相棒……」
息子「お、おい!」



216 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/24(火) 01:59:33 ID:KV/PnPEk

息子「気を失ったか……何がしたいんだ、こいつは。本当に」
竜「どうなさる、おつもりで」
息子「仕方ないだろう。治療してやる。まだ生きていてもらわねばならないからな」
竜「……申し訳御座いません」
息子「お前が悪い訳ではない。こいつが好き勝手に、ぺらぺら喋るから悪い。全ての原因はこいつだ」
竜「くく……」


竜「おかしな人間ですね」
息子「頭がな」
竜「……貴方様はその人間を、最後にはどうなさるおつもりですか」
息子「いつか、機を見て、死んでもらう」
竜「……」
息子「何だ、その目は」
竜「いえ……お世継ぎ殿はその……何でもありませぬ」
息子「変な奴だな。まあいい。では失礼する」
竜「はい。またいらして下さいませ」
息子「ああ。また、いつかな」



217 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/24(火) 02:06:34 ID:KV/PnPEk

息子「さてと……馬を置いた場所まで戻らねば」
息子(毒はあいつに取り除いてもらったが……)
息子(怪我自体はな……どうしようもない)
息子(人間を治す魔法など、学んでおるわけがないだろうが)
息子(それを当てにし、気軽に倒れたのだろうか。無茶をせぬよう、言って聞かせておくべきだな……ただ)
息子「こいつを背負い慣れてしまったことが……虚しい」


夜中─

剣士「ん……あー、おはよー」
息子「……気がついたか」
剣士「おーう……っていてて、何だよ、起きたら魔法でぱーっと治ってるもんだと思ってたのに……」
息子「やはり私の魔法を当てにしていたか。言っておくが、私は回復魔法の類は全く使えぬからな」
剣士「うっわマジかよ使えねえ……んでもちゃんと助けて逃げてくれたんだな、褒め……いっでー!」
息子「上から物を言える立場か貴様は」
剣士「弱った怪我人を虐げるなんて……やっぱりお前ろくでもねえ」
息子「それだけ口が回れば大丈夫だな」



218 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/24(火) 21:15:29 ID:KV/PnPEk

息子「一月もあれば治るはずだ。その……痕は残るだろうがな」
剣士「それならまあいいや。利き腕じゃなかっただけマシかな」
息子「……もっと賢く生きれば負わずに済んだ怪我だろうに」
剣士「いやだってさ、ああいうの見るとお節介妬きたくなるんだよねー」
息子「いやお前……相手は選べ」
剣士「ですよねー」


剣士「あ、あいつ何か言ってた?どっかに移るとか」
息子「何も」
剣士「そっかー。なら仕方ないかな」
息子「どうするつもりだ」
剣士「ん?放っておくに決まってんじゃねえか」
息子「……」



220 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/24(火) 21:29:00 ID:KV/PnPEk

息子「ならば……今後も被害者が増え続けるぞ」
剣士「まあ、食われんのはあいつらに危害加えようなんてこと考える馬鹿だけだろうし。自業自得さ」
息子「同胞だぞ、いいのか」
剣士「まあ目覚めはちっとばかし悪いかもしんねーけど、好きにすりゃいいだろうよ」
息子「分からんな」


息子「貴様は一体何がしたいんだ。最早何もかもが分からぬわ」
剣士「んー、そうだなあ……お前、家族っている?」
息子「…………一応な」
剣士「そっか。そりゃ良かったよ」
息子「……貴様はどうなんだ」
剣士「勿論いねーよ。何年か前に皆死んじまった」
息子「……戦争か?」
剣士「そうそう」
息子「難儀な話だな」
剣士「そうなんだよ。難儀な話だ。ってか故郷じゃこの剣の腕前は有名でさあ。あの頃は引っ張りだこで、あちこち駆り出されたもんよ」



221 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/24(火) 21:29:58 ID:KV/PnPEk

剣士「そりゃもう何百何千っていう敵を斬ったよ?そうすりゃいつか故郷が平和になる。皆幸せに生きていける。そう信じてたのにさ、結局頑張り虚しく国はボロ敗けで、帰ってみりゃ家どころか町すらねえって、ありゃどういうことだよ」
息子「私に聞くな」
剣士「あはは、そうだよな。聞いた話じゃ、国王が白旗を挙げるちっとばかり前に攻められて皆殺しにされたんだって。その後ご丁寧にも火をつけられて、家族の遺体も見つからなかった。全くタイミングがわりぃったらありゃしねえ」
息子「……よく、平然と喋っていられるな」
剣士「辛いよ?でももうどうしようもねえことだ」


剣士「親父もお袋も、まだちっせー妹も死んじまった。形見なんか、もう何も残っちゃいねえ」
息子「……」
剣士「しかも戦況芳しくない中でも尚、大活躍を続ける英雄様の故郷だからって狙われたんだとよ。つまり原因はこの」
息子「やめておけ。今更だ」
剣士「……そうだな」



222 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/24(火) 21:45:51 ID:KV/PnPEk

剣士「家族も故郷も無くなって、挙句戦犯だか何だかって処刑されかけてよ。命からがら逃げ出して来たって寸法さ」
息子「だから……国に仕えることを嫌っていたのか」
剣士「当然。もうああいうのだけはマジ勘弁だわ。んでも身を立てる手段は剣しか知らねえもんだから、ちっとでも有名になれば楽になるんだろうけど、あんまり有名になり過ぎると何か面倒かもなーってぐだぐだ今に至るってわけ」
息子「……」
剣士「っつーわけで、ああいう危うい癖に幸せそうな家族とか見るとついつい踏み込んで余計なこと言いたくなっちまうんだよねえ。お前らその幸せ守るのは案外難しいもんなんだぞ!って」
息子「……本物の、馬鹿だな」
剣士「うはは、バカやってねえとこんなの生きてけねえよ」


剣士「で、お前のとこはどうなの。家族生きてんだろ?」
息子「父が……まあ、生きてはいるが」
剣士「あからさまに嫌な顔すんじゃねえよ。関係上手くいってねえの?」
息子「……それすら分からんな」
剣士「何それ」



223 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/24(火) 23:47:52 ID:KV/PnPEk

息子「父は……そうだな、とある大きな組織のトップで」
剣士「うわあなんかそれ怖い……」
息子「ああ、あまり詮索はするな。それで父はその……うん、言うなれば暴君といった感じで……下の者どころか、私も意見が出来ず、好き勝手になさっているのだ……」
剣士「嫌味なしでお前がそんなきっつい顔するとか、よっぽどの父ちゃんなんだな……。つまりは、お前はそれが嫌でこんなとこまで逃げて来たと」
息子「逃げて来たわけではない。実益を兼ねた暇潰しだ」
剣士「ま、そういうことにしておいてやるよ」


息子「何にしろ、その内私がその後を継がねばらなぬ。あの方が徹底的に荒らし尽くした後にその座に放り込まれると思えば、気も滅入るわ」
剣士「家族がいるのは羨ましいっちゃ羨ましいが、なんとも面倒だねえ」
息子「全くだ。私はただ穏やかに何もせず、毎日ただひたすらに過ごせていればそれだけで満足だというのに」
剣士「おおう駄目人間がいる。知ってたけど。ま、ゆっくり今の猶予を楽しめよ」
息子「言われずとも。だがな……腐るのはもう飽きた。後で楽が出来るよう、今出来る事を、やっていこうと思っている」
剣士「ん、お前何かでっけーことでもやんの?」
息子「いや……気にするな。今は言えぬ」
剣士「そっかそっか。じゃあ何とは聞かねえが、頑張れよ。応援するぜ」
息子「…………ああ」



224 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/25(水) 00:18:38 ID:vBa2K29k

剣士「あーあー、喋ったら疲れた。もうちょっと寝るわ」
息子「そうだな。私もそろそろ寝る」
剣士「おう。お休み相棒。明日も面倒掛けるが、よろしくなー」
息子「度が過ぎれば、絶対に捨て置くからな……お休み」


息子(…………)
息子(…………いや)
息子(ありえない。あるわけが、無い)
息子(こいつを操り、魔物の世を平和に導く)
息子(それだけを……考えよう)



228 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/27(金) 23:59:18 ID:ApN5wYrc

朝―

剣士「ふぁー……寝起きで馬に乗るってのはやっぱキツイなあ……」
息子「……怪我を負いながらの野宿だったというのに、随分安らかに眠っていたな」
剣士「慣れてるから!」
息子「……そうか」
剣士「うはは、何だよお前は朝から残念な面だなあ!」
息子「お前は朝から癪に障る面だな」


息子「まあいい……早く行くぞ」
剣士「へーい。今日も元気出して程良く生きようぜ」
息子「深刻な身の上を踏まえた上で、か?」
剣士「おっと生きる気力が萎えるとかは禁句だぜ。生きてりゃ良い事あるもんだ」
息子「良い事……か。本当に手に入るのか、そのような不確かなものは」



229 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/27(金) 23:59:55 ID:ApN5wYrc

剣士「そうだなあ。例えば、金持ちボンボンの腰巾着兼ヒモになれたりとか」
息子「まあ、私も最近ストレスの捌け口を見つけたわけだが……」
剣士「ふはは甘いな!お前が発散する以上のストレスを与えてやるまでよ!」
息子「有り余るその気力を、お前はもっと他のことに使えば良いものを」
剣士「えー、真面目に力割り振って生きるのって面倒じゃん」
息子「それは言えているがな」


剣士「ま、生きてりゃ良い事はなくても、楽しい事くらいはあるもんだぜ」
息子「そういうものか」
剣士「おうよ。何たって今の旅、すっげー楽しいだろ?」
息子「このような野宿が楽しい……のか? まあお前のような野生の生き物はかえって落ち着くのやも知れぬが」
剣士「ちっげーよ。気の合う誰かと一緒にうろうろぐだぐだするってのは、良いもんだってことだ」



230 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/28(土) 00:00:57 ID:aBTs7RyU

剣士「最初はカモにしか思ってなかったけど、今じゃ結構お前のこと気に入ってるんだぜー。せいぜい光栄に思えよな!」
息子「悪いが私にそのような趣味はない」
剣士「こっちだって願い下げだボケ」
息子「ふむ……こういうことが、『気が合う』というものなのだろうか」
剣士「多分そうなんじゃねー」


息子「まあ私にこうまで遠慮なく口を利く者は少ないため、珍妙であるとは思っているが」
剣士「お前の家かなり複雑そうだもんなあ。うんうん、孤独な人生を送っていたお前にもようやく唯一無二の相棒が」
息子「つい先日、お前とは全く別口で、罵り合える友人らしきものが出来たのだが」
剣士「ずるい!!」
息子「何がだ」



231 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/28(土) 00:01:29 ID:aBTs7RyU

剣士「よーし分かった。お前そいつ紹介しろ。んでもって三人揃ってバカやろうぜ、そしたら平和だ!さあさあ!」
息子「そいつはかなりの遠方に住んでいるため、生憎それは叶わんな」
剣士「くっ……あーあ……友達欲しいなあ」
息子「……切実だな」


剣士「だってよー故郷は昨日言った通りだし、こっちに来てから仲良くなれた奴ってあんまりいないしさあ」
息子「ずっと一人旅を続けていたのか?」
剣士「いんにゃ、たまに同行者はいたんだけど」
息子「長続きしなかったと」
剣士「そうなんだよなあ。一緒にいると何かと気を使われるし、身の上話すると引かれるしで……難しいもんだよ本当」
息子「お前に気を使う必要性が、私には全く分からぬのだが」
剣士「あーやっぱお前楽でいいわ本当」



232 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/28(土) 00:01:43 ID:aBTs7RyU

剣士「まあ今後ともよろしくな、相棒!」
息子「分かった分かった……お」
剣士「お、おー。あそこだな? 目的地って。でっけー城だなあ」
息子「そのようだな。目で確認できる位置まで、ようやく辿り着いたか」
剣士「昼には着くかな? ふー、一日ぶりにまともな飯が食えるなー。名物何だろ、お前知ってる?」
息子「その辺の草でも食っていろ」
剣士「相棒は今日も辛辣に元気だ……」


昼前─

剣士「着いたー!」
息子「喧しい。そのようなこと、見れば分かるだろう」
剣士「けっ! お前は旅の情緒ってものを理解する心を持つべきようだな!」
息子「逃亡中の罪人が、そのようなものを持っていても構わぬのか?」
剣士「罪人じゃないですー英雄が裏返って世紀の人斬りになっただけですー」
息子「罪人以上ではないか……む」
剣士「何だ、どうした」



233 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/28(土) 00:02:51 ID:aBTs7RyU

息子「あそこだ。ほら、あそこ」
剣士「……単に見張りの衛兵がいるだけだろ? 何か問題でもあるのか?」
息子「お前は問題無いのか」
剣士「え? あ、ああ。手配はされてるらしいよ? んでも手配書が似てないみたいでさ、全然気付かれないの」
息子「ほう」


息子「一度見てみたいものだな。その手配書とやら」
剣士「まあ遠くの国が何年か前に出した手配書だし、こっちにゃそんな広まってねえだろうなあ」
息子「お前は持っていないのか?記念に」
剣士「何の記念だ何の。持ってねえよ」
息子「そうか。残念だな」
剣士「ま、そういうことだから。堂々と入ろうぜ、堂々とな」
息子「強調するな。余計不審者に見えるぞ」
剣士「余計ってお前本当のことを無遠慮に……まあいい行くぞ!」



234 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/28(土) 00:20:58 ID:aBTs7RyU

剣士「っでさー、昼飯の話なんだけど」
息子「適当に目に着いた所でいいだろう」
剣士「えー! ちょっと評判の店を調査してからでも遅くはねえだろ!?」
息子「長期滞在になるんだ。その間にゆっくり探せばいいだろう」
剣士「そっかー……そうだよなあ」
息子「納得したか」
剣士「どうせ何もかもお前の金なんだしな!!」
息子「…………」


剣士「そうと決まったら早速飯! 早く行こうぜー!」
息子「……もう少し声を落とせ。目立っている」
剣士「なぁに気にすんなって。どうせ」
衛兵「そこの旅人二人、止まれ」
剣士「…………リーダー何か呼ばれてますよ」
息子「都合のよい時ばかり盾にするでないわ」



235 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/28(土) 01:29:30 ID:aBTs7RyU

息子「まあいい。お前を表に立たせたところで、話がややこしくなるだけだな」
剣士「よろしくー……」
息子「せいぜい大人しくしていろ……何か用だろうか」
衛兵「剣を所持しているようだが、心得のある者達だろうか?」
息子「いや、私は魔法の方を得意としていて」
衛兵「では後ろの…………貴方は」
剣士「あ、ははは……シロートでーす。護身用でーす」
衛兵「でしょうね」
息子「……」


衛兵「では、ここに名前を」
剣士「へ……?!」
息子「む……」
衛兵「武器を持った旅人はチェックすることになっている。当面の宿泊先も、決定次第知らせてもらいたい」
息子「分かった……これで、二人分だ。宿は今夜決める」
衛兵「……確かに。では、くれぐれもお気を付けて」
息子「ああ」
剣士「……どーもー」



236 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/28(土) 01:29:51 ID:aBTs7RyU

剣士「いやー……ありがとな、咄嗟に偽名書いてくれて」
息子「私も面倒事は御免だからな。用心するに越したことはない」
剣士「そうだよなあ。よし、こうなったらちょっとは大人しめに観光してのんびしと」
息子「いや待て。何しにここに来た」
剣士「え、暇だから?」
息子「違う。お前の名を売りに来たのだろうが」
剣士「えー……お前あの話聞いてもまだ言うか」


剣士「ん? でも待て、ここではさっきの紙に書いた名前で通せるんだよな」
息子「そういうことだ。元の名はとりあえず、しばらく忘れておけ」
剣士「おー、なるほど偽名ねえ。そうすりゃある程度は心おきなく仕事できるかもなあ。金が入るね」
息子「……金が無いと嘆いておきながら、なぜこの手を思い付かなかったのだ」
剣士「いやだって。あの名前親がくれた形見みたいなもんだから」
息子「……」



237 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/28(土) 01:39:33 ID:aBTs7RyU

剣士「まー、たまにはいいかな。折角だし、お前の付けた名前を使ってやるよ」
息子「まあ、せいぜい元の名前と混同しないことだな」
剣士「おーう。さてと話もまとまったことだし、飯にすっか」
息子「ふん……『餌を食わせて下さい』、だろう」
剣士「お願いしますご主人様! 哀れな愛玩動物にどうか餌を御与えくだ」
息子「やめろ! 騒ぐな! 大声を出すな! 下手に注目を集めるな!!」
剣士「お前……」


料理屋─

剣士「で……手近な所に入ったはいいが」
息子「……外れだな」
剣士「くっ……やっぱりこう大きな街だと綿密な調査が必須だったんだ……!」
息子「何故そうも情熱を燃やす……まあ、こういう店が続くと、心が荒む予感はするが」
剣士「なーなー。今夜の飯は旨い所探そうぜー」
息子「……では、その調査はお前に任せる」
剣士「へ?」



238 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/28(土) 01:42:34 ID:aBTs7RyU

剣士「お前は?」
息子「私は少々別の調べ物だ。宿に荷物を置いたら、すぐに出ていく」
剣士「えー、何何。手伝ってやろうか?」
息子「お前について来られると、永遠に片付かなさそうなので、遠慮しておく」
剣士「おおう真顔とは。じゃあこの前みたく、また別行動ってわけだ」
息子「そういうことになるな」


息子「そして……小金を渡しておく。くれぐれも、知らない人間の誘いには乗るなよ」
剣士「お前は親か。へいへい。わーってますよ」
息子「それと、まだ目立つなよ。大人しく観光でもしていろ」
剣士「へーい……おお、これだけありゃ結構な店が冷やかせる」
息子「まあ、せいぜい店の選別に役立て。ヒモニート」
剣士「了解!」
息子「最早呼称に疑問は無しか」



240 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/29(日) 01:53:49 ID:cNQBgmQc

宿─

息子「よし……馬も預けて荷も下ろした。しばらくはここに滞在しよう」
剣士「はーい異論はないけど質問ー」
息子「何だ」
剣士「別に同じ部屋でも気にしないんだぜ?」
息子「私が気にする。お前と同室なんぞ、気の休まる時が無いだろうが」
剣士「お前って案外変なとこ頑なだよなー」


息子「ちっ……では、行ってくる」
剣士「へいへーい。夕飯までには帰って来るんだぞー」
息子「お前は私の親か。くれぐれも大人しくしていろよ」
剣士「親か! 気を付けてなー!」
息子「余計なお世話だ」



241 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/29(日) 01:54:25 ID:cNQBgmQc

剣士「へっへっへー……」
剣士「何かいい感じじゃね? 今までの中で一番って言うかさ」
剣士「うんうん。あいつも自分のこと喋ってくれたし……悪くないねえ、こういうの」
剣士「よーし!」
剣士「あいつに美味いもん食わしてやるため、ちょっくら徘徊頑張るか!」


一時間後─

剣士「…………嘘だろおい」
剣士「腹を空かせたガキはいいとしよう。お使いの最中に財布を落としたどっかのメイドもいいとしよう。あの爺ちゃんもいいし、それを言うならさっきのおっちゃんだって」
剣士「でも……何だって困ってる奴らに遭遇しまくるんだよ……」
剣士「くっそー……軍資金は残り僅かだ……評判聞いて回るだけならタダだが、実際舌で確かめるのが一番だし……」
剣士「うー……今から日雇いの仕事探すのは面倒だし」
剣士「…………おお?」



242 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/29(日) 01:54:45 ID:cNQBgmQc

剣士「なんかすっげー人だかりだな」
剣士「ああ? 闘技場ねえ……こりゃ賭博の匂いがプンプンするな」
剣士「…………仕方ねえ。いっちょ勝負に出るか」
剣士「べっ、別に人の金でやるギャンブルって心がときめくよねって訳じゃないんだからねっ!」
剣士「……ツッコミいねえとやりづれえ」


剣士「おー、近くで見るとやっぱでっけーな」
剣士「こりゃ絶対賭け事関連だね。でなきゃこうまでデカく出来るかよ」
剣士「さーてと、どこで券買えるのかなー」
剣士「……ってかどこから入るんだろ」



243 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/29(日) 01:55:00 ID:cNQBgmQc

剣士「えーっとえーっとうーん……あ、すんませーん」
?「は…………はい?」
剣士「ちょっといいっすか?」
?「……何、でしょうか」
剣士「博打ってどこで受け付けてます?」
?「……は?」


?「博打?」
剣士「いやー、こんだけ広いんだしやってるんでしょ?」
?「……ここは、博打場などではありません」
剣士「へ?」
?「己の腕を試すためにと戦士や魔法使いが集う、れっきとした闘技場です」
剣士「……マジです?」
?「はい。賭け事の類は一切禁止されております」



244 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/29(日) 01:55:12 ID:cNQBgmQc

?「国が経営しておりましてね。兵のスカウトなどに役立てておりますよ」
剣士「はー……なるほどね。ありがと。しかし残念だなあ……一発勝負に、と思ったのに」
?「……それほど金子に困っていらっしゃるのですか?」
剣士「いや、ちょっと一時的にね。あ、因みにもう一つ聞きたいんだけど」
?「はい」
剣士「この闘技場って飛び入り自由?」
?「は、はい? 一応、どなたでも参加できますが……」


剣士「じゃあさ……これは結構重要な質問なんだけど……勝ち上がったら賞金出る?」
?「ランダムに十人勝ちぬきで……この程度の額が」
剣士「参加料は!?」
?「これ程」
剣士「っっしゃあ払える! ギリギリ払えるぞー!!」



245 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/29(日) 02:03:44 ID:cNQBgmQc

?「あはは……お連れの方でも参加させるおつもりで?」
剣士「いや、連れは今いないんだ。自分でばーっと出てぱーっと勝ってこようかと」
?「はあ貴方が……貴方が!?」
剣士「あはは。言いたいことは分かるけど、これでも剣は心得てるんでね」
?「いやしかし」
剣士「あ、申し込みはあっちかな? ありがとなー親切な兄ちゃん!」
?「…………」


?「まさか……な」



249 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/29(日) 23:58:29 ID:cNQBgmQc

魔王城―

息子「おい、入るぞ」
魔物「ぶっ!?」
息子「何だ、思った以上に暇そうだな。良いご身分だ」
魔物「お前にだけは言われたくはねえぞ! あとノックくらいしろってんだこのボケが!」
息子「ああ……忘れていた……忘れさせられたと言うか」
魔物「ごちゃごちゃ分からんことを……」


息子「第一突然の訪問くらいで、別に困ることもないだろうに」
魔物「女連れ込んでよろしくやってる時にすっげー困る」
息子「ますます良いご身分で」
魔物「お前もそんなもんなんだろうが。城出て好き勝手。大義名分翳しつつ女なんて食い放題なんだろ畜生」
息子「言い掛かりにも程がある」
魔物「けっ、本当かねえ……」



250 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/29(日) 23:59:20 ID:cNQBgmQc

魔物「でもまあ、そろそろ帰って来るんじゃないかと思ってたよ」
息子「?」
魔物「用件はあれだろ?竜共だろ?」
息子「は?」
魔物「ああ? しらばっくれるんじゃねえ。お前に住処を世話するって言われたってのが昨日来たんだ」
息子「……」


魔物「ったく……こちとら城に来たばかりだってのに、お前絡みの案件だからって厄介事を押し付けられて……」
息子「で、どうしたんだ?」
魔物「静かな所が良いって言うから、今調査中。本決まりまでは城に住んでもらってる。会っていくか?」
息子「……いや、構わん。是非とも良くしてやってくれ」
魔物「わーってるよ。仲間だしな」



251 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/29(日) 23:59:34 ID:cNQBgmQc

魔物「で、そっちはどうなんだよ」
息子「特に進展はないが……少し頼みがあって来た」
魔物「面倒なことじゃなけりゃ、何でもいいぜ」
息子「それは何でも、とは言わぬのでは……まあいい。私と同行している、あの人間がいるだろう」
魔物「ああ? あいつか……それがどうかしたのか?」
息子「何、簡単な話だ。経歴を少し調べてもらいたい」
魔物「あーくそ面倒くせえ!」


息子「いや何、粗方は本人の口から聞いたのだが。裏が取りたくてな」
魔物「はー……お気に入りだねえ。ま、加担するって約束したし、やってやるよ」
息子「礼を言う」
魔物「じゃ、あいつの名前は?」
息子「名は×××、出身国は◆◆◆。容姿はあの通り。お尋ね物らしいので、その手配書でもあれば見てみたいな」
魔物「……あれで極悪人かよ、見かけによらねえもんだな」



252 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/30(月) 00:17:55 ID:AX4/ZIzM

魔物「で、用はそれだけか。もう戻るのか?」
息子「いや……もうしばらく休んでいく」
魔物「何が“休む”だよ。万年休暇の癖しやがって」
息子「分からんのか……あれと一緒にいると、こう、気の休まる暇が無い」
魔物「被害者面出来る身分かてめぇ」
息子「こう言っては何だが、被害者だ。色んな意味で」
魔物「……ま、いいけどよ」


魔物「あの実力持ちだぜ? 何か目を離した隙に、面倒なことになるんじゃねえの」
息子「平気だろう。小金を持たせて、大人しくするように言ってある」
魔物「はー……あれが従順になるタマかねえ」
息子「……一度戦ったのみのお前に、あれの何が分かると言うのだ」
魔物「分かるさ。分かるとも」
息子「……まあいい。日が沈む頃までは、いる」
魔物「勝手にすればー? お前の城だし」
息子「まだ、私の物ではないよ」



253 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/30(月) 00:35:29 ID:AX4/ZIzM

闘技場─

「おいおい……何だよありゃ」
「もうこれで五人目だぞ……化物か?」
「……何て名前だっけ?」
「ああ……確か」


男「くっ……そ!」
剣士「あーダメ駄目全くもってダメすぎるね!!」
男「ぐぁ!?」
剣士「太刀筋も足裁きも身体の捻りもまるでなってない! 動きを読むまでもなく避けれるね!」
男「な、な」
剣士「んだよもー……十人相手にすんのは結構時間ヤバ目かな?とか思っちゃってたけど、こんなの続くんなら余裕じゃーん」
男「な、何なんだよお前は!?
剣士「ああ?」



254 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/30(月) 01:33:00 ID:AX4/ZIzM

男「お前みたいなヤツ、聞いた試しがねえぞ!?」
剣士「そりゃまー、無名ですし?」
男「この俺が……戦場で千もの人間を斬った俺がこんな奴にコケにされるなど……!」
剣士「うっわ何か恥ずかしい事言いだしたよー……引くわあ」
男「何だと!?」


剣士「人を斬るなんてなあ、それこそ刃物さえありゃその辺のガキにだって出来る事なんだよ」
剣士「なぁのーに。んなこと自慢気に言われてもへー暇なんだなとしかこちとら言いようがねえっての」
剣士「人斬りの数なんか数えちゃいねえ。負けた勝負の数だけは覚えちゃいるがな」
剣士「うははははー……何でかって?」
剣士「そっちの方がえらく数も少なくて……覚えておきやすいものでねえ!」



255 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/30(月) 01:33:19 ID:AX4/ZIzM

宿─

息子「さてと……」
息子「丁度夕餉時だな」
息子「私の調べ物は適当に誤魔化すとして」
息子「まあ、あいつのことだ。下らない喧嘩の一つや二つ巻き込まれていることだろうが」
息子「その程度ならば妥協出来ないこともない」


宿主「おっと、あんたは確か……」
息子「む?」
宿主「あんた、あの人のお連れさんだったよな? あの金髪の」
息子「あ……ああ。それが、どうかしただろうか?」
宿主「いやいや。世の中凄い人がいたもんだなあって」
息子「は?」
宿主「そんな謙遜すんなって。ま、上手くやるんだな!」
息子「は……はは、は?」



256 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/30(月) 01:34:05 ID:AX4/ZIzM

宿・息子の部屋─

息子「おい……」
剣士「……よーっす」
息子「何故お前が、こちらの部屋にいる」
剣士「えっと……話は長くなんだけどさー……とりあえず、それ」
息子「……何だこの札束は、ああ? 何だ貴様は本格的にお尋ね者になり下がりたいということか?」
剣士「あははお前そうやって凄むとチンピラみたいだぞ。落ち付け。な。剣も収めよう。平和にいこうぜ平和に」


剣士「えーっと実はな。この街にゃでっけー闘技場があってだな」
息子「博打か?」
剣士「いや、十人勝ちぬいたら賞金が出るんだって言われて」
息子「…………参加、したな?」
剣士「ああ!」
息子「勝ちおったな……?」
剣士「あったりめえだろ! あんな弱いヤツら十人まとめてかかって来たって余裕でって冗談じゃないけど冗談です」
息子「貴様は私をお尋ね者にでもしたいのか? 殺し等の罪で」
剣士「……勘弁でーっす」



257 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/30(月) 01:43:26 ID:AX4/ZIzM

息子「……大人しくしていろと言ったはずだろう?」
剣士「いやだってさー……こう、血が滾って?」
息子「まあいい……その程度であれば、別に構うまい。十人勝ちぬく奴など、それほど珍しくも」
剣士「ぎくっ」
息子「よしお前、洗いざらい全て吐いてもらおうか」


剣士「いや十人抜きよりな……なんか色々教えてくれた親切な兄ちゃんがさ」
息子「ああ」
剣士「十人勝ち抜いた後に来てさ……人気の無い場所で一勝負頼む、って」
息子「それがどうしたんだ」
剣士「で、結構強かったけど……勝っちゃったんだよ……」
息子「お前に敵う奴など、やはりそうはいないと証明されたではないか。良かったな」
剣士「それがさ……そいつ……この国の将軍なんだって」
息子「…………はあ?」



258 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/30(月) 01:44:06 ID:AX4/ZIzM

息子「お前は……バカか?」
剣士「勝ってから名乗られて慌てて逃げたんだよぉぉおおおおお! やだもう見ろよこの運の悪さ!!」
息子「泣くな気色悪い……ああ全く頭痛が酷い……」
剣士「くっそ人事だと思いやがって……! やっべーだろどう考えてもこの状況は!!」
息子「どうせ出回っているのは似ていない手配書なのだろう。本名がバレる可能性は皆無だ」
剣士「……そうだけど」


息子「第一、強いといってもお前はどこの者とも知れぬ馬の骨だ。そのようなものを一国の重鎮が深追いする訳が無いだろう」
剣士「その重鎮を倒しちまったんだぜ? あっちにも面子ってもんが」
息子「その勝負の行方を知っているのは誰だ?」
剣士「あ…………そういや他に誰もいねえわ」
息子「どうせお前も偽名を使ったんだろう? 辿り着けるわけがない」
剣士「あ」



259 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/30(月) 01:54:12 ID:AX4/ZIzM

剣士「……偽名、使った」
息子「だろう」
剣士「お前の……考えたやつ」
息子「……」
剣士「だって咄嗟に思い付かなかったんだよ!!」
息子「はあ……まあ、まだ宿の場所を知らせてはおらぬし」
剣士「それなら闘技場に出る前に、ついでに知らせて来た」
息子「ははは」
剣士「うはは」


息子「お尋ね者としても不適合者か貴様は!? それでは身元が割れたも同然だろう!?」
剣士「痛い痛い殴るな! 第一、それはそっちの方が健全なんじゃあ……」
息子「待てよ、そういえばこの宿主が貴様のことを喋っていたな……」
剣士「あ、何か将軍倒したってまでは広まってないみたいだけど、バカ強い剣士がいるってのは噂が徐々に」
息子「またこのパターンか……っ!!」
剣士「いやー、なんかお前と旅するようになってややこしい事が多く起こってる気がするねー」
息子「貴様が元凶だろう貴様が!!」



262 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/30(月) 23:12:11 ID:AX4/ZIzM

剣士「まあ……朝一で宿を変われば……いやでも『ここにいる』ってことはもうバレてんだし……うぐぐー……」
息子「仕方ない……明日その将軍に会いに行くぞ」
剣士「ちょ!?あれだけ怒ってて何でそんな結論になるんだよ!」
息子「いいか、お前は特に問題を起こしていない。まだな」
剣士「起こす予定もねえよ!」
息子「ならば堂々としていろ。下手に逃げれば疑われる」
剣士「一回もう逃げちゃったんだけど……」
息子「急なことで混乱していたとでも言っておけ」
剣士「く、苦しいなあ。まあ……了解」


息子「しかしこれで、この国の中心と少しでも繋がりが出来たということか……?お前の悪運には、ほとほと頭が下がるな」
剣士「え、ほんと?いやあ照れるなあ」
息子「……では、飯でも食いに行くか」
剣士「待ってました! ……でも外出て大丈夫かなあ?」
息子「何度も言うが、犯罪者ではないのだ。ビクビクする必要はない」
剣士「そ、そうだよな」



263 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/30(月) 23:12:25 ID:AX4/ZIzM

別の料理屋─

剣士「どーよ」
息子「……悪くはないな」
剣士「良かった良かった。まあ店を自分で探しにくくなっちまったから、宿のおっちゃんに聞いた店なんだけどさ」
息子「別に構わんだろう」
剣士「良かねえよ。自分で見つけて相棒に食わすから意味があるんだろー?」
息子「さあ……よくは分からんが」
剣士「ちっ。まあいいや! とりあえず支払いなら気にせずドンドン食え! な!」
息子「小金を手にして気が大きくなりおって……まあいい」


剣士「でもさー」
息子「何だ」
剣士「明らかにこっち見てる客多いよなー」
息子「店員もな」
剣士「おっかしいなあ……目立たないように、賞金抱えて一目散に宿へ戻ったってのに」
息子「それは確実に目立っただろうな」
剣士「そうかあ?」



264 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/30(月) 23:44:03 ID:AX4/ZIzM

剣士「ってかお前飯食ったら何か落ち着いてきたな。腹減って怒りっぽくなってたのか? ダメだぞー、ちゃんと食わねえと。ほらほら食え食えー」
息子「やめろ……単に、お前がこういう人間である以上、私が平静でいなければと思っただけだ」
剣士「ふーん。あ、これウマいぞ。どんどん食え」
息子「勝手に皿に盛るな。お前は親か。まあ……食うが」
剣士「うはは! まあ相棒を頼りにしてるからこちとら勝手に突っ走れるんだぜ!」
息子「ははは」
剣士「痛い痛い! フォークは武器じゃありません!!」


剣士「ふー……でもお前何だかんだで結構食ったじゃねえか」
息子「お前には負けるがな。何故そこまで食うんだお前は」
剣士「軽い運動したら腹減るじゃん」
息子「十人抜きが軽い運動か……まあいい。とっとと払って帰るぞ」
剣士「これからが本番だろ!? まだ飲み足んねえよ!!」
息子「明日、酒臭いままで、国の要人に面会を求める気か?」
剣士「……会いに行って、会えるかどうかも分からんのに」
息子「それはそうだが、備えるに越したことはない。我慢しろ」
剣士「く……そぅ」
息子「息絶えるな面倒臭い」



265 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/31(火) 00:23:54 ID:hqr.zid6

剣士「仕方ねえ……んじゃまあ全部で幾らかな……っと」
息子「待て」
剣士「ん? 何だよ」
息子「ここも私が払う」
剣士「え? いいっていいって。たまには払わせろって」
息子「だからお前に払わせると、こう……いいから奢らせろ」
剣士「うーん、わーったよ。じゃ、御馳走さま」
息子「ああ」


剣士「じゃあ宿代だけでも払うわ」
息子「いや。それも私が払う」
剣士「お前……そんなに財布になるのが快感だったなんて」
息子「違う。その金で、もう少しマシな恰好をしろと言っている」
剣士「えー?」



266 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/31(火) 00:36:31 ID:hqr.zid6

剣士「何か問題あるか?」
息子「大ありだ。前から言おうと思っていたがな、旅人と言うより、落ち延びた何かにしか見えん。みすぼらしいにも程がある」
剣士「だって金が無いんだもんよ。服とか買ってる余裕なんか」
息子「だから、その金を使えと言っている。衣食住のうち二つは保障してやるがな、残る一つくらいは何とかしろ」
剣士「うーん……この金でねえ」
息子「そうだ。その金で」
剣士「こんだけあれば、もうちょい丈夫な剣が買えるな!」
息子「今から見繕いに行くぞ!」


息子「まあ、こんなものでいいだろう」
剣士「…………服って、高いんだな」
息子「公の場に出ても困らない程度の装いといえば、これで最小限だ」
剣士「くっ……こんな面倒なことにならなきゃ、布切れなんかに金なんか出さねえってのに……!」
息子「面倒の原因は、その金だと思うのだがな。第一、少しは身なりに気を使え」
剣士「小奇麗にしたって腹が膨れるもんか!」
息子「小奇麗でなければ、飯にありつけぬ場合というものは、世の中には多々あってな」



269 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/31(火) 23:01:21 ID:hqr.zid6

宿―

息子「……」
剣士「っでさー、六人目に出てきたのが、これがまたグラマーな姉ちゃんでさあ」
息子「……ああ」
剣士「うわあ……って見てたら針だの鎌だの何だの飛んでくるんだもんよー、あれにはちぃっとばかし参ったわ」
息子「お前は……中年か」
剣士「やっだなあ見ての通りまだまだ若いんだぞ! いいなーって憧れ抱いたっていいだろ!」
息子「お前には決して手に入らん物だと思うぞ」
剣士「分からねえだろそんなことは! 万が一があんだろ万が一が!」


剣士「でもまあ余裕で避けて余裕の勝利でしたとさー」
息子「手加減はしたのか」
剣士「女でも容赦しねえ主義なんでね。手加減すると、変に恨み買いそうだから。んでも下手な傷は付けなかったからな! 褒めろ!」
息子「お前はそういう奴だろうと思ったわ……ところで」
剣士「何?」



270 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/31(火) 23:01:34 ID:hqr.zid6

息子「いい加減、部屋に戻ったらどうだ?」
剣士「……まだいいだろ」
息子「そろそろ夜も遅い。寝かせろ。出ていけ」
剣士「うあああああ! 頼むから! 頼むから今夜はこっちに置いてくれよぉぉおおおお!」
息子「喧しい! 夜中だぞ今は!」
剣士「お前も人のこと言えた義理か!」


剣士「ま、万が一寝込みを襲われたら困るだろうが!」
息子「野宿ですら安眠しておった貴様が何を言うか」
剣士「そうだけどよー……何か具体的にお縄の危機をうっすら感じちまうと寝付きが悪そうでさあ」
息子「規律の取れた兵卒共が何人お前の寝込みを襲ったところで、掠り傷を幾つか与える程度が関の山だろうよ」
剣士「つべこべ言うな! 決めたからな! 今夜はここで寝るぞ!」



271 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/31(火) 23:01:47 ID:hqr.zid6

息子「……寝台はやらんぞ」
剣士「え?ここの床広いじゃん」
息子「ちっ……早く死なぬものかな……この社会不適合者は……」
剣士「どうしようエライ言われようだ」
息子「はあ……」


息子「分かった。部屋を取り替えよう。それで文句は無いだろう?」
剣士「へ?」
息子「宿主はお互いにどちらの部屋を使うか言ってあるだろう。賊だか軍だかがやって来た所で、部屋を替えておけば先に訪れるのは隣の、お前が眠るはずであった部屋だ」
剣士「そ、そりゃそうかもしんねーけど……その場合お前が危なくね?」
息子「来る可能性は非常に低い。来たところで、私がそのような者達に後れを取るはずがないだろう」
剣士「そういえばお前も結構強いんだよな……あんまり闘わねえから忘れてたわ」
息子「お前が無闇に剣を抜くから、私の出る幕が無いのだろうが」



272 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/31(火) 23:06:46 ID:hqr.zid6

息子「そういう訳だ。私は向こうで寝るぞ」
剣士「お、おう。ありがとな!」
息子「……早く休め」
剣士「分かったよ。お休み!」
息子「……」

パタン

剣士「いやあ……よく分かんねえ奴だよなあ」
剣士「まあいっか。ややこしいことになって怒るかと思ったけど、案外普通だったし」
剣士「しっかしあいつ……見ず知らずの人間を有名にしてやるとか何を考えてるのかねえ……どうやら本気みたいだし」
剣士「今が楽しいから別に良いんだがな……興味本意でも、何か企みがあってもどうでもいい」
剣士「こんな命でもよ……お前が使いたいんなら、好きに使えばいいよ」
剣士「そうすりゃ少しはいい人生」



273 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/31(火) 23:06:58 ID:hqr.zid6

バァアアアアンッ!!

息子「きっ、貴様ぁぁぁぁああああああっ!!」
剣士「うわあ!?」
息子「何だあの部屋は!?」
剣士「へ……部屋ぁ?」


剣士「何かあったっけか?」
息子「何だあの散らかり様は! 食い物や着替えやら何やらあちこちに……!」
剣士「おいおいそれだけかよ。お前どうせ寝るだけなんだし、んなもん横に避けといてくれりゃ」
息子「今すぐに片付けて来い!」
剣士「……へーい」



274 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/31(火) 23:07:13 ID:hqr.zid6

剣士「おーい! 片したぞ!」
息子「どれ……まあ、いいだろう」
剣士「しっかしお前変なところで潔癖症だな」
息子「あの状態で寝ろと言う、お前の方がどうかしているだろう……では、今度こそ寝る」
剣士「はいはいお休みー」
息子「……ああ」


剣士「うーん」
剣士「気にするような奴だったとは」
剣士「……」
剣士「うはは……変なのー」



275 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/31(火) 23:07:25 ID:hqr.zid6

次の日一

息子「……うむ」
息子「久しぶりによく寝た気がするな」
息子「しかし未だ飛び込んで来ないところを見ると、あいつはまだ寝ているのか?」
息子「あれだけごねておいて……」
息子「はあ……面倒だが起こしに行かねば。全く……」

ガチャ

息子「む」
宿主「お、っと……すまんすまん!」
息子「……何か用だろうか?」
宿主「あ、あれ、剣士さんは」
息子「隣だ。部屋を交換した」
宿主「なんだ……」
息子「……」



276 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/31(火) 23:07:58 ID:hqr.zid6

宿主「しかし、部屋に何か不都合でもあったかい?」
息子「いや、特に。それより」
宿主「ああそうそう。急ぎみたいだし、この際あんたでも構わないかな。ちょっと降りてきてくれ」
息子「……?」


息子「……何用だ」
衛兵「今日は。剣士様のお連れの方ですね?」
息子「そちらの言う“剣士”とやらが、私の連れであるかどうか」
衛兵「昨日、闘技場でご活躍なされた剣士様ですが」
息子「ああ……それならうちのバカに間違いはないだろう」



277 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/31(火) 23:12:27 ID:hqr.zid6

衛兵「お達しが出ております。城にご同行願えますか?」
息子「生憎だが、そちらの目当ての“剣士”は未だ眠りの中でな」
衛兵「……そろそろ昼になる頃合いですが?」
息子「そういう生き物だ」
衛兵「は、はあ……随分イメージと違う方なんですね。将軍の仰っていた話ではもっと」
息子「やめてくれ……」
衛兵「はい?」
息子「あれの良い評判は何故か腹が立つので、極力聞き流すことにしている」
衛兵「はあ……」


衛兵「では、剣士様の支度が整い次第」
息子「待ってくれ。用件は何だ? あれが何か無礼な事を、将軍殿にしたとか、そのようなことか?」
衛兵「私は単に剣士様と話がしたいとしか承ってはおりませんので……」
息子「その将軍殿がか?」
衛兵「いえ、我が国の姫様が」
息子「…………はあ?」



278 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/31(火) 23:29:21 ID:hqr.zid6

宿・剣士の部屋─

息子「おい、もう起きているのか?」

ドンドン

息子「おーい……」

ドン…

息子「ちっ……もういい入るぞ」


息子「おいこら起きんかニート!!」
剣士「……おお、おっはよー」
息子「もう昼だ! 早く顔を洗って着替えんか!」
剣士「えーっと……何で朝からそんな慌ててんの?」
息子「昼だと言うに……!」



279 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/08/31(火) 23:49:35 ID:hqr.zid6

剣士「ああ、だから腹が減ってるのか……んじゃまあ何か食いに」
息子「その前に着替え……まず顔を洗って来んか馬鹿者が!!」
剣士「うぉう!? 朝っぱらから鋭い蹴りとは、流石の最強剣士様も避けるのが結構難しかったぞ!」
息子「ごちゃごちゃ言っておる暇があればとっとと用意をしろ!!」
剣士「本当何なんだよー……」
息子「お前に召喚命令が出たらしい」
剣士「はい?」


息子「しかもその将軍殿ではなく、一国の姫君からな」
剣士「何だ……まだ夢かいだだだだだだ……」
息子「残念ながら夢ではない」
剣士「意味が分かんねえよ!」
息子「安心しろ。私もだ」



280 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/01(水) 00:10:25 ID:KBNcsH7w

息子「どうやら、その将軍から話がいったようなのだが」
剣士「にしても昨日の今日だぜ? なんか陰謀めいたものを感じね?」
息子「何、役職の与えられていない王族など、得てして暇なものだ。大方お前の話を聞き、暇潰しにでもと呼び出したのだろうよ」
剣士「何か発言が具体的だけど、流してやんよ。んでもなあ……」
息子「良かったな、昨日の買い物が無駄にならずに済んで」
剣士「あー……気が重い」


剣士「ってか指名手配の件バレてねえよな……それだけが怖い」
息子「バレておったのら、姫の呼び出しと言うのは嘘で、のこのこ出向いた所を……という流れだろうな」
剣士「うわあ、ありそう」
息子「ならばどうする。逃げるか?」
剣士「いんや」



281 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/01(水) 00:22:11 ID:KBNcsH7w

剣士「行くさ。罠だったら罠だった時のことだ!」
息子「ほう」
剣士「大立ち回り演じるのも悪くはねえし、それはそれで名前が上がるだろ?」
息子「いや……悪名を轟かせるのはどうかと思うが」
剣士「じゃあその辺お前が上手く立ち回って調整してくれや。肉体労働と頭脳労働。きっちり分けようぜ」
息子「……どうした、やけにやる気だな」
剣士「うはは。なんか色々、ぱーっといってみたくなってな」
息子「そう、か……」


剣士「んじゃまあ行きますかー相棒」
息子「分かった分かった」
剣士「とりあえず朝飯ってか昼飯は」
息子「我慢しろ。私は下に待たせている衛兵に、道筋などを聞いてくる」
剣士「ちっくしょー!!」



282 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/01(水) 23:45:14 ID:rLR2TfhY

城―

息子「ふむ……」
剣士「おい……これはマズイだろ」
息子「そう、だな」
剣士「あんまりさあ……こういうとこ来たためしがねえから、確証はねえんだけど」
息子「言ってみろ」
剣士「ここってさ……すっげー偉いさんに謁見するような広間だよな」
息子「ご丁寧に人払いまでした上にな」


剣士「……気配もしねえから、何か隠れてることは無さそうだしな」
息子「油断させておいて……というのは常套手段ではあるが」
剣士「油断なんか出来るわけがねえだろ。こんなイイ待遇受けといて」
息子「城内の人間とすれ違う度、会釈されておったしな」
剣士「うおお分からん」



283 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/01(水) 23:47:36 ID:rLR2TfhY

息子「これはひょっとするとあれかも知れんな」
剣士「どれだよ」
息子「お前を特別に雇い入れたいとか、そのような僥倖かもな」
剣士「んなバカな。どこの馬の骨かも分からねーような奴って、昨日お前が言ってたじゃねえか」
息子「お偉い方の考えることなど、やはり分からんものだ。ただ会って話がしたいという建前が、真実かも知れぬし」


剣士「ううむ……とりあえずお縄の心配は無いかなあ?」
息子「ふっ……さあな。あちらの思惑がはっきりするまで、せいぜい怯えて静かにしていろ」
剣士「くっ……人事だと思いやがって! お前だって何だ、逃亡幇助とかになるんじゃねえの!?」
息子「ほう、難しい言葉を知っているな。しかし私は捕まるような愚行を犯さぬわ。お前を囮に、早々逃げるかな」
剣士「外道!」
息子「短い付き合いだった……せめてまあ、安らかに眠れ」
剣士「殺すな諦めんな助けろよ相棒だろ!」



284 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/02(木) 00:21:14 ID:cKObi3.Q

将軍「あの……」
剣士「うわあ!?……ってあんたは」
息子「む?」
将軍「お連れの方は初めてお会いしますね」
息子「ああ……噂の将軍殿か」
将軍「はい。昨日そちらの剣士殿に負けた者です」
剣士「あ……あはは」


剣士「き、昨日はどうもすみませんでした……えっと、ちょっと、驚いて……?」
将軍「いえお構いなく! こちらこそ……申し訳ありませんでした!」
剣士「え、え?」
将軍「昨日貴方が戦う様を見て、つい立場も忘れて挑んでしまい……ご迷惑をおかけしました」
剣士「いやいやいや! 何で頭下げるんすかやめて下さい!!」
息子「……」



286 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/02(木) 01:08:49 ID:cKObi3.Q

息子「で……要件というのは」
将軍「…………いえ、その……」
剣士「あれ、何? 何でそんなこっち申し訳なさそうに見るんすか」
息子「こいつが何か?」
将軍「……姫様から、直接お伺い下さい」
剣士「?」
将軍「姫様……どうぞ」


姫「……」
将軍「姫様、こちらが剣士様。そしてその、お連れの方です」
姫「ふふ……初めまして」
剣士「は、初めまして……?」
息子「うむ……」



288 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/02(木) 01:35:10 ID:cKObi3.Q

剣士(おいおい……)
息子(何だ小声で)
剣士(すっげえ美人さんだなあ。流石はお姫様ってやつか……)
息子(……はあ?)
剣士(えっ、何か今変な事言ったか?)
息子(いや……お前は、そういう奴だ)
剣士(意味が分からん……)


姫「突然お呼びしてしまい、申し訳ございません。私、貴方とお話がしたくて」
剣士「え、えーっと……そりゃまさかそっちの将軍さんを負かしちまったから、とか?」
姫「それも一つの理由です。お強いのですよね、剣士様」
剣士「あはは……ありがとうございます。ま、まあ人並みよりちょっと上くらいには」
姫「ふふ……そうですわよね。当然そうなりますわよね」



289 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/02(木) 02:12:57 ID:cKObi3.Q

姫「では、こちら。貴方様……ですね?」
剣士「な!?」
息子「……!」
姫「ふふ。良かった。図星ですか」
将軍「……」


剣士「……何で、それを」
将軍「恥ずかしながら……貴方の事を少々調べさせて頂きまして」
姫「でも、辿り着けたのは本当に偶然だったとか。このような手配書、よく残っていたものですよ」
将軍「……ええ。本当に」
剣士「ぐ……」
息子「すまぬが」



290 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/02(木) 02:21:19 ID:cKObi3.Q

息子「一体、何が目的だろうか?」
姫「あら」
息子「こいつの身元が完全に割れたのであれば、とっとと捕縛すればいいだけのこと」
剣士「おいこらてめえ……」
息子「まあ尤も、この馬鹿は大人しく捕まるような人間ではないぞ」
姫「ええ。そうでしょうね」


姫「我が国で一二を争うそこの将軍が負けてしまったのですもの。どう取り押さえてよいものか、皆目見当が付きませんわ」
息子「そうだろうよ。ならば第一、ここで何故王族の出る必要がある。追い詰められれば、流石のこいつとて手荒な真似も辞さんぞ」
将軍「なっ」
姫「あら、それは大丈夫ですわ。私は偽物。影武者ですから」
息子「嘘だな」
姫「ええ。嘘ですわ。ふふ……」



291 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/02(木) 02:22:04 ID:cKObi3.Q

剣士「何か当事者蚊帳の外なんだけど……」
息子「情けない顔をするな。向こうには何か要求があるんだろう」
姫「ええ。要求と言いますか、取引ですわね」
剣士「取引ぃ……?」
姫「剣士様。どうかこの城にいらして下さい」
剣士「へ?」


剣士「あ、あはは……もう、来てますよ?」
姫「ふふ……この国に『仕えて』下さいと仰ったのですよ」
息子「断れば?」
姫「そうですわねえ。貴方様の消息を、国にお伝えするとか」
剣士「…………はは、面倒くせえ」



294 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/02(木) 21:12:22 ID:cKObi3.Q

姫「勿論、お話を呑んでくださるのでしたら、このことは私と将軍の胸に仕舞っておきます。如何でしょう?」
剣士「……戦争の片棒を担ぐのは、もうまっぴらだ」
姫「ご安心を。今のところ、その予定はございませんわ」
剣士「どうだか。じゃあ何をさせようってんだよ」
姫「貴方のそのお力を生かせる場所は、何も戦場に限ったことではないでしょう」


姫「兵の指南に当たって頂くとか……ああ、私の護衛なんかも頼めそうですわね」
息子「取って付けたような職務だな」
姫「あら、当然ですわ。剣士様のようなお方がいるだけで、兵達の士は格段に変わることでしょう?」
息子「……だろうな」
剣士「ちっ……」



295 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/02(木) 21:12:59 ID:cKObi3.Q

姫「さあ、どうなさいますか。剣士様」
剣士「どうするよ相棒」
息子「従うも一騒動起こすも、お前の好きにするがいい」
剣士「……はいよ」
将軍「……」


将軍「申し訳ありませんが……姫様に刃を向けると仰るのであれば……」
剣士「やめとけやめとけ。昨日と違って、今日は一対二だぜ。言っておくがうちの相棒もそこそこやるんだからな」
姫「まあ」
将軍「まさか……貴方も追われる身ですか?」
息子「これと一緒にしてくれるな。ただの真っ当な一般人だ」
剣士「どうだかー」
息子「喧しい」



296 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/02(木) 21:13:10 ID:cKObi3.Q

姫「では、剣士様とご一緒に貴方もいらして下さいますわね」
息子「さあな。こいつの返事次第だ」
姫「剣士様……どうかご決断下さい」
剣士「何でそんな下手から脅迫出来んのかが分からねえ……」


将軍「剣士殿。どうか私からも」
剣士「ええー……普通に頭下げられても困りますよ、この場合も」
将軍「私は……貴方と戦いたくはありません。出来ることなら、その……共に我が国を守っていきたいと……」
剣士「いやほんと、そんなこと言われても」
息子「……」



297 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/02(木) 21:13:27 ID:cKObi3.Q

姫「ふふ……ではこうしましょう。返事は明日までお待ちします」
剣士「はあ」
息子「良かったな」
剣士「いいのかねえ」
将軍「……よろしく、お願いします」
剣士「だからそれこっちが悪者みたいだからやめてくれって!!」


姫「では宿まで兵をお付けしますわね」
剣士「ん?道案内とかなら平気だから」
姫「お荷物をまとめて、城まで戻って来て下さいね」
剣士「……え?」
姫「今宵は城でお過ごし下さいませ」
剣士「……」
姫「逃げられては、私少し困ってしまいますから……ふふ」
将軍「その……すみません。本当に」



300 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/03(金) 21:57:35 ID:GPipKrUg

夜─

剣士「はー……飯はまあ豪華だったし……うまかったなあ」
息子「……ああ」
剣士「でも何か食った気がしねえんだよな……やっぱりあれかな、気持ちの問題かな」
息子「……そう、だな」
剣士「あーあー勿体ねえことをした……ってお前ずっとテンション低いよなあ。どうした」
息子「何故……」
剣士「ああ?」


息子「何故……お前と同室なんだ……っ!!」
剣士「はあ? 姫さん言ってたじゃねえか。急なことで、使える部屋が空いてなかったって」
息子「そんなわけがあるか! これ程広大な城だぞ!?」
剣士「言われても知るかよ。まあまあ、折角なんだし仲良くやろうじゃないか……てもう寝るのか? 待てよ」
息子「離せ! 床にでも入らねばやっていれるか!!」
剣士「そんなにイヤかおい。傷付くなあ」



301 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/03(金) 21:57:50 ID:GPipKrUg

剣士「まあまあ待て待て。積もる話もあるだろうよ。今後のこととか」
息子「……それはお前に任せると、何度も」
剣士「言われてもなあ。選択肢なんてあってないようなもんじゃね? 無理に蹴っても利益なんてねえし」
息子「まあな。しかし考え方を変えてみろ」
剣士「どんな風に?」
息子「今名乗っている方の名前を売り出す好機だと」
剣士「うーん」


剣士「程ほどに、食っていくのに困らないくらいが目標なんだけどなあ……話が大きくなったよなあ……」
息子「お前、魔王を倒すのが目的だの、大きなことを言っていただろう」
剣士「あれはその……なんつーかなあ」
息子「お前ならば、案外いけると思うのだがな」
剣士「まぁたお前は適当なことを言う」



303 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/03(金) 23:24:14 ID:GPipKrUg

剣士「そりゃまあ魔王なんざいない、平和な世の中でのんびり生きたいよ? 魔王なんざ倒したとあっちゃ、掛けられた手配書が無かったことになるかもしんねえし」
息子「まあ、世界を救えば、当然な」
剣士「剣の腕には自信がある。大概負ける気はしねえな」
息子「ならば話は早いだろう」
剣士「そうかなあ」


息子「この国に居つき、大きな功績を立てる。お前であれば、そのようなこと造作もないはずだ」
剣士「何その無茶振り」
息子「その上で魔王を倒すと名乗りを上げる。小国とはいえ、サポートが得られるのは大きいぞ」
剣士「いやでも強いつってもさー、それで世界をどうこう出来るかって聞かれれば無理だと答えるぜ?」
息子「……ふむ」



304 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/03(金) 23:47:33 ID:GPipKrUg

息子「お前は何の根拠も無く、強さに胡坐を掻いて猛進する奴だと思っていたが」
剣士「んな生き方命がいくつあっても足りねえよ。見極めが肝心だわ」
息子「そのようなものかな」
剣士「魔王に辿り着くにはえらい数の魔物を蹴散らさなきゃなんねえ。その上今まで出会った魔物共には余裕で勝てたが、それ以上の規格外が出てこないとも限らない。数で圧倒されちゃ、それこそ話にもなんねーよ」
息子「まあ……その通りだが」
剣士「大体だな、国一つ救えない奴が、世界なんか救えるわけがねえだろう」
息子「……」


息子「ならば、あの大口は何だったんだ」
剣士「んー? まあ、生きてく目標かなあ」
息子「まさか、お前がそのような殊勝なことを言うとはな」
剣士「お前の目には一体どんな人間に映ってるのか気になって仕方がねえ」
息子「社会不適合者だな」
剣士「否定はしねー」



305 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/04(土) 00:07:23 ID:FVYL69mM

剣士「何しろ国追われてますし? 不適合ってか、すっぱりいらない人間ってーか」
息子「どうした。今日はやけに愚痴っぽいな」
剣士「そりゃまあ今まで一人で生きてきたからな。今は吐く相手がいるからさ」
息子「面倒な。いつもの大口を叩くお前はどうした」
剣士「大口叩いて……でっかい目標でも掲げてねえとさ、生きてくのって疲れるんだぜ」
息子「……」


息子「私も……」
剣士「あ?」
息子「私も協力してやると言えば?」
剣士「……」
息子「お前の剣に、お前の盾になってやる。そう言えばどうする? 魔王を討つ気になるか?」
剣士「お前は何だ。魔王に恨みでもあるのか」
息子「そのようなものだ」
剣士「ふうん」



306 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/04(土) 00:07:58 ID:FVYL69mM

息子「で、どうする」
剣士「……お前は何で、そこまでしようと思えるんだよ」
息子「何故だと思う」
剣士「さあな。その答えも含め、今はまだ何も分かんねえや」
息子「ならばいつかお前が、答えに辿り着く時を願っている」
剣士「はあ。そうっすかー」


剣士「まあとりあえず今日のまとめはさあ」
息子「何だ」
剣士「……女って、怖いよなあ」
息子「全くだ……!」
剣士「えっ?」



307 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/04(土) 01:08:57 ID:FVYL69mM

次の日─

姫「では、お返事をお聞かせ願いますか?」
剣士「へいへい。もちろん、そちらの言う通りにしますよ」
姫「ありがとうございます。ところで、お連れ様も同じご意見ですの?」
剣士「そういうことで。ああ、その相棒から伝言があるんだけど」
姫「何でしょうか?」
剣士「部屋を別にしてくれだってさー」
姫「まあ」


姫「分かりました。そのように手配致しましょう」
剣士「悪いね。なんか案外小さいところがあってさあ」
姫「いえいえ……ふふ。では将軍にも伝えておかなくては」
剣士「ああ、あの人は今頃仕事か。大変だねえ」
姫「きっと剣士様が首を縦に振って下さったこと、とても喜ぶと思いますわよ」
剣士「はあ。そんなもんかねえ。随分気にかけてくれてたみたいだけど」
姫「良い知らせが二つもあるんですもの。喜ぶに決まっていますわ」
剣士「二つ?」



308 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/04(土) 01:14:52 ID:FVYL69mM

姫「そういえば、そのお連れの方はどちらに?」
剣士「さっき出かけるって出ていったよ。荷物は置いてあるから、逃げたわけではねえぜ」
姫「あら、どちらに?」
剣士「さあ?」
姫「ふふ……随分あっさりしたお付き合いですのね」


剣士「まあ、つい最近知り合ったばかりで、素性も詳しくは知らねえしなあ」
姫「昨日は共に雇い入れると申し上げましたが……信用に、足る人物なのでしょうか?」
剣士「多分ね。あんな仏頂面で嫌味な奴だが、いい奴だよ」
姫「剣士様がそう仰るのでしたら……分かりましたわ」
剣士「おう。ありがと」
姫「……いえ」



309 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/04(土) 01:31:36 ID:FVYL69mM

剣士「ところでさー……もう一つ頼みがあるんだけど」
姫「何なりと」
剣士「あの手配書……処分して貰えないかなあ?」
姫「ふふ……」
剣士「ああうん。無理ですよねー。言ってみただけだよ」
姫「申し訳ありません」
剣士「思ってもいないことをー」


姫「でも、昨日は聞きそびれてしまいましたが、本当の所はどう思っていらっしゃるのですか?」
剣士「何が?」
姫「お国での、貴方様のご評判」
剣士「あー……仕方ないんじゃね?」
姫「……戦争の間は英雄と崇められ、敗戦後は人斬りの鬼と罵られ、国を追われたことが仕方ないこと?」
剣士「ああ」



310 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/04(土) 01:36:47 ID:FVYL69mM

剣士「一人に責任を被せりゃ、かなり気が楽になっただったろうよ。当然の流れさ。悲しいとは思うが、恨んではいない」
姫「……お優しいのですね」
剣士「ま、人斬りってのは本当のことだしな」
姫「それは戦争だったから仕方なく」
剣士「ダメだぜー」
姫「え」
剣士「国の偉いさんがそんなこと言っちゃダメだ。思っていても言うな」
姫「……はい」


姫「で、では……明日から色々とお仕事を頼むと思います」
剣士「言える立場じゃねえのは重々承知だが、お手柔らかに頼むぜ」
姫「勿論ですわ。生活面は完全に城で保障しますし、お給金も弾みます」
剣士「おお、良待遇。ま、そう思って今日の所は昼寝でも」
姫「いえ……少し、私にお付き合い下さりますか?」
剣士「へ?」
姫「私……剣士様のことを……もっと知りたくなりましたの」
剣士「……はい?」



313 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/04(土) 01:45:20 ID:FVYL69mM

魔王城─

息子「という顛末で、その城に、あいつ共々仕える事になった」
魔物「意味が分からん」
息子「だろうな」
魔物「ま、上手くやればいいんじゃねえの? 計画の前提が整いかけてるってことだろ。有名にするって前提が」
息子「……ああ」


魔物「そうなると、あの人間の経歴について裏付けを取った俺の苦労は、完全に無意味だったと」
息子「たまにはあることだろうよ。許せ」
魔物「へいへい。暇つぶしにはなったしな。しかし良く出来た手配書だねえ」
息子「……何だ、お前も入手していたのか」
魔物「おう。しかしあれだな。これは酷い」
息子「ああ」
魔物「これじゃあ『本人そのまま』だ。捕まるどころか、信じる人間なんてまずいないだろうよ」
息子「……全くだ」



314 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/04(土) 01:49:54 ID:FVYL69mM

息子「余程あの将軍とやら、こいつの素性が気になったのであろうよ」
魔物「総当たりで調べたんだろうなあ。でなきゃ、こんな眉唾手配書なんかに辿り着くわきゃねえぞ」
息子「……何故、楽しそうにしている」
魔物「お前に降りかかるであろう、大した面倒事を予感してな」
息子「お前もまたよく分からぬことを言うな……」


息子「では、この辺りで帰るとする」
魔物「魔王様には会っていかねえのか?」
息子「冗談が上手くなったな」
魔物「あはは。お前も大概あの方嫌っていやがるよなあ」
息子「……」



315 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/04(土) 01:54:16 ID:FVYL69mM

魔物「しかし、ご機嫌を窺っておくのも重要だと俺は思うぜ?」
息子「何かあったのか?」
魔物「いんや。お前が進言したあの日から、えらく大人しいものさ」
息子「ならば」
魔物「だからこそ、だろうよ。思い通りに動きたいのなら、首尾よくいってますってのを報告して来た方が絶対にいい」
息子「……お前の方から、頼む」
魔物「嫌に決まってるだろ」
息子「ちっ……仕えぬ手足だ」


息子「分かった分かった。軽く話をしてくる」
魔物「俺は一緒には行ってやんねーからなー」
息子「最早期待もしておらぬわ。ではな」
魔物「おう。頑張って死んでこい」
息子「人事だと思いおって……」



317 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/05(日) 00:13:00 ID:GSXGDbzQ

魔王の間─

息子「……父上」
魔王「ほう」
息子「御無沙汰しておりました」
魔王「全くだ。して、どうだ」
息子「と……仰りますと」
魔王「お前の言っていた、余興に決まっておろう」
息子「はあ……」


息子「順調……かと思われます」
魔王「そうかそうか」
息子「随分と、上機嫌でございますね」
魔王「当然だ。何しろ近頃、血を見ていない」
息子「……」



318 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/05(日) 00:20:56 ID:GSXGDbzQ

息子「父上にも、そのようなお心が」
魔王「単に飽きたのだ」
息子「……」
魔王「悲鳴も慣れれば静寂と変わらず、血飛沫もただ不快な泥水と変わらぬわ。たまには良いな。休息というものも」
息子「……さようでございますか」
魔王「しばらくはまだ待ってやる。せいぜい派手に暗躍しておけ」
息子「はい」


魔王「しかし肝に銘じておけよ」
息子「はい?」
魔王「私は……戦争それ自体に倦んでいるわけではないのだからな」
息子「……は」
魔王「愉快で仕方がないぞ、戦争は。私の声一つで、どこもかしこも地獄を見る」
息子「そのようで……」
魔王「お前は興味が薄いようだがな。何度物見に呼んでも、出て来た試しがないとは」
息子「生憎ですが……」
魔王「別に構わぬ」



319 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/05(日) 00:29:36 ID:GSXGDbzQ

魔王「その内、お前にも分かるはずだ」
息子「……」
魔王「何しろ私の血を引いている」
息子「……父上」
魔王「お前も所詮、血に塗れている方が似合っているのだと、気付く日が」
息子「この辺りで……失礼します」
魔王「……ああ」
息子「それでは」


魔王「……別に構わぬよ」
魔王「お前が何を厭い、何を好んだ所で、私は構わない」
魔王「ただ肝に銘じておけ」
魔王「どの道、私もお前も……」
魔王「……さて」
魔王「後、如何程休んでやるものだろうかな」
魔王「くっく……」



320 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/05(日) 00:38:37 ID:GSXGDbzQ

城─

息子「はあ……」
息子「だから嫌なんだ。だから」
息子「嫌っているとか、そういう話ではない」
息子「面倒なんだ……あのお方は」
息子「あいつを相手にしていた方が、桁違いに好ましい疲れ方だ……」
息子「……部屋にはおらぬようだが……どこに行ったんだ、全く……」


息子「お」
将軍「……貴方は」
息子「将軍殿か。すまぬが聞きたいことがある」
将軍「何でしょうか」
息子「私の連れを知らないだろうか。先程から探しているのだが」
将軍「剣士様でしたら……姫様の部屋かと思われますが」
息子「何?」



322 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/05(日) 00:51:10 ID:GSXGDbzQ

息子「そちらの姫君は何を考えているんだ……仮にもあいつはお尋ね者だろう」
将軍「姫様は剣士殿を気に入ったようですね」
息子「ますます分からんな。あのような粗暴な者を?」
将軍「はあ……その、失礼ですが貴方は」
息子「何だろうか」
将軍「剣士殿に……随分と辛辣ですね」
息子「そのようなつもりはないのだが」


息子「あれは甘やかすと付け上がる」
将軍「やはり……いえ、何でもありません」
息子「渋い顔で、何だと言うのだ……。まあいい。教えてくれて感謝する。では」
将軍「ああ、少しお待ちください」
息子「……今度は何だ」



323 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/05(日) 01:01:28 ID:GSXGDbzQ

将軍「剣士殿と決断して下さったようで、ありがとうございました」
息子「私は何もしていない。全てあれの好きにさせただけだ」
将軍「はあ……しかし、そうだとしても」
息子「何だ」
将軍「私は貴方に感謝します」
息子「……ほう」


将軍「それだけです。では、失礼します」
息子「……ああ。一つ言っておくが」
将軍「何でしょうか」
息子「勝手にしろ」
将軍「ええ。勝手に、感謝しておきますよ。それでは」
息子「……ちっ」



324 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/05(日) 01:15:25 ID:GSXGDbzQ

おっと将軍の呼び方が剣士様とか剣士殿とかまちまちですね。剣士殿で統一します。


姫の部屋─

姫「お口に合いますか、剣士様」
剣士「ああ。うめー菓子だなあ」
姫「たくさんありますから、いくら召し上がって下さっても構いませんわよ」
剣士「んじゃまあ遠慮なくー」
姫「ふふ……」


姫「そうですわ剣士様」
剣士「んあ?」
姫「折角ですし、剣士様のお召物もご用意いたしましょう」
剣士「えー、昨日これ買ったばっかなんだけど」
姫「それはそれですわ。私、剣士様に似合うものを選んで差し上げたいのです」
剣士「いやでもそこまでしてもらうのはちょっと」
姫「だって剣士様、もう少し身嗜みに気を付ければきっと」



325 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/05(日) 01:19:51 ID:GSXGDbzQ

コンコン

姫「あら」
息子「失礼する……」
剣士「おー、お帰りー。早かったなあ」
息子「…………何をしているんだ、貴様は」
姫「仲良くお茶をしておりましたの」
息子「ほう……」
剣士「えっ。何で睨まれてんの」


姫「ふふ……無断でお借りして、申し訳ございませんわね」
息子「構わん。構わんが」
剣士「え、何。何だよお前」
息子「少々話があるため、返してもらう」
姫「どうぞ」
剣士「ちょ、待て待てまだ食い足りてねえのに!!」
姫「またお越しくださいね。剣士様」
息子「……」



327 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/05(日) 01:47:38 ID:GSXGDbzQ

剣士「ちょ、何なんだよーいきなり。折角楽しくやってたってのに」
息子「いいご身分だなお前は」
剣士「えー……そんなバカな。ただちょっと姫さんと二人っきりで話がしたいとか言われて、部屋に連れ込まれてただけで」
息子「ははは」
剣士「ますますバカな」


息子「昼間っから女と乳繰り合っているような奴は、憎まれた所で仕方がないだろう」
剣士「ちっ!? お前何言ってんの!? マジでもう何言ってんの!?」
息子「喧しいわ。で、どうなんだ。結局どのような雑務をやらされることになったんだ」
剣士「え……えーっと、明日言うってさ。面倒なのはやめてくれとは言っておいたけど」
息子「まあ、それほどの仕事は回しては来ないだろうよ。まだな」
剣士「ちょ、やめろよなーそういう不安煽るような言い方ー」



328 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/05(日) 01:55:10 ID:GSXGDbzQ

剣士「と、とりあえず早い夕飯でも食いに行こうぜ」
息子「ここで食うのか?」
剣士「いんや。街に出て」
息子「そう言うと思った」
剣士「だってこんな堅苦しい所じゃ味なんて分かんねーもん」
息子「貧乏人の舌は合わぬだろうな」
剣士「お前も昨日の飯、えらい面で食ってたくせに……」


息子「そういえば、先程将軍殿に会ったぞ」
剣士「へー。なんか言ってた?」
息子「……感謝された」
剣士「ああ? お前あの人に何かしたの?」
息子「していない……と思われたのであろうな」
剣士「意味分からん」
息子「分からんで良い」



331 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/05(日) 20:50:00 ID:GSXGDbzQ

街─

剣士「さーてとお前は何食いたい?」
息子「酒」
剣士「……何か嫌なことでもあったのか、お前」
息子「ただ飲みたい気分なだけだ」
剣士「まあそんな時もあるかなあ。よし! んじゃまあ今日はお前に付き合ってやるよ!」
息子「言ったな」
剣士「え」


酒場─

息子「……この瓶を、後三本頼む」
剣士「おいおい、そりゃ飲みすぎだって」
息子「私が払うんだ。気にするな」
剣士「いや、そういうことじゃなくって……お前が荒れるなんて、珍しい事もあるんだなあ」
息子「ふん……」



332 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/05(日) 20:52:23 ID:GSXGDbzQ

息子「そもそもの原因は全て貴様だろう」
剣士「言いがかり臭いけど、一応は聞いておくか。何でだよ」
息子「私はな、面倒な事は全て嫌いなんだ」
剣士「はあ」
息子「だからお前のことも嫌いだ」
剣士「えー」


剣士「何があったか知らねえけど、相棒に酷い言い草だねえ」
息子「喧しいわ社会不適合者」
剣士「ははは。お前も大概不適合で面倒な奴だと思うけど」
息子「私はいいんだ。私は」
剣士「そうっすか」



333 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/05(日) 21:05:57 ID:GSXGDbzQ

剣士「んでもお前の心の広い相棒様は、結構お前のこと好きみたいよ?」
息子「そういう趣味は無い」
剣士「このバッサリ感も最早心地いいわ。好きよー相棒」
息子「そういう相手なら、他を当たれ」
剣士「もういいっつーの。ああほら、酒が来たぞ……って」
息子「はーあ……」
剣士「一瓶一気とかバカ………いっでぇ……」
息子「バカと言う方がバカだろう」
剣士「さ、酒瓶で人を殴る方がよっぽどのバカだ!!」


息子「まあまあ、あれだ」
剣士「何だよ!?」
息子「私の相棒は酒瓶程度ものともしない猛者だと、信じているが故の行動だ」
剣士「そういう信頼はいらねえ! ドブに捨てろ! 見ろ瘤になっちまっただろうが!!」
息子「やめろ。鬱陶しい頭を近付けるな」
剣士「ぐぐぐ」



334 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/05(日) 21:15:28 ID:GSXGDbzQ

剣士「まあ、言われてみれば髪もそろそろ鬱陶しくなってきたかなー」
息子「……切るのか?」
剣士「んー、どうしよ。お前はどう思う? やっぱ切った方が良い?」
息子「切らぬ方が良いだろう」
剣士「何という面倒な奴」


剣士「お前さっき鬱陶しいって言っただろ!?」
息子「言いはしたが、今の方が遠目から目立っていい」
剣士「見つけやすいから?」
息子「それ以外に何がある」
剣士「はあ……もうやだ面倒臭い。でもまあわーったよ。しばらく切らねえ」
息子「出来ればそうしておけ」



336 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/05(日) 22:03:03 ID:GSXGDbzQ

剣士「何はともあれ、これからまさかの城勤めが始まるぜ」
息子「まさかの、な」
剣士「はっはっはー。お前せいぜい先輩に従うんだぞ!」
息子「は?」
剣士「目の前の! このつっええ剣士様は元城勤めだぜ!」
息子「ああ……なるほど」


息子「故郷ではやはりあれか、要職にでも就いていたのか」
剣士「おうよ。あれよあれよという間に出世街道驀進だったぜ」
息子「お頼もしい事で」
剣士「その分僻みやっかみ諸々えげつなかったけどな」
息子「想像に難くないな」



337 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/05(日) 22:58:19 ID:GSXGDbzQ

息子「そして、それを物ともしないお前の姿もな」
剣士「だっろー? 政略結婚とか色々話もあったけど全部蹴ってやったわ!」
息子「後悔しているだろう」
剣士「……ちょっとだけ」
息子「うむ。とりあえずまあ……飲め」
剣士「おう……」


剣士「まあ何にせよ、先輩のお言葉には従えよ」
息子「分かった分かった。では先輩殿。何か言うことは」
剣士「そうだなあ。お前の実力だったら、さくっと武功上げてさくっと昇進って感じだろう」
息子「その通りだろうな。で?」
剣士「だから、あんま目立つのはやめとけ」
息子「……言うと思ったわ」
剣士「だっろー?」



338 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/05(日) 23:15:29 ID:GSXGDbzQ

剣士「そういうわけで! まあ適当に目立たず行こうぜ!」
息子「与えられる仕事次第だがな」
剣士「それでも! 極力!」
息子「……まあいいだろう」
剣士「そうそう。その調子で従順に」
息子「お前が果たしてどの程度、大人しくしていられるものか、見ものだな」
剣士「ぐっ……」


剣士「お前はそう言うけどなー、一回失敗してるんだからいくらなんでも学んで」
息子「手を抜くなどといった高度な芸当が、お前に出来るとは思えんがな」
剣士「うはは、何だよそれくらい余裕で…………」
息子「どうした」
剣士「わざと負けるなんてやったことねえや、そういえば」
息子「ほらな」
剣士「み、見てろ! ぜってーに上手くやってやるんだからな! 不可能は無い!」
息子「まあ、期待して見ておくか。側でほくそ笑みながら」
剣士「てめぇ……」



340 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/06(月) 21:40:42 ID:wXZLfH7E

次の日─

姫「おはようございます。剣士様。お連れ様」
息子「ああ」
剣士「……おはよー」
姫「ふふ……嫌ですわね、あからさまにそのような顔をなさらずとも」
剣士「いやまあ……はあ」
息子「ま、頑張れ」


姫「では……本日よりお仕事をお任せするわけですけれども」
剣士「城の巡視? それとも街の詰め所で待機? そんなところだよな」
姫「いえ、もっと簡単な事です」
剣士「おお! 話が分かって助かるよ!」
息子「私は何をすればいい?」
姫「剣士様の……そうですね、付き人でもお願いしましょうか」
息子「メインはこいつか。楽が出来ていいな」
姫「気に入って頂けたようで良かったですわ」
剣士「あれ何か不穏な空気?」



341 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/06(月) 21:41:18 ID:wXZLfH7E

将軍「……ごほん」
将軍「皆の者。静粛に」
将軍「本日の鍛錬は私が見る事になっていたが……」
将軍「急遽予定が変わり……この方に依頼することになった」
剣士「…………」

ザワザワ…

「……おいおい、どういうことだ?」
「将軍様も姫様も何を考えてらっしゃるのやら……」
「ってか、マジで俺達『あれ』に稽古つけられるのか?」
「何かの冗談だろ」



342 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/06(月) 21:42:07 ID:wXZLfH7E

将軍「静粛に!」
将軍「本日は、姫様も鍛錬の様子をご覧になるため、わざわざいらして下さっている」
将軍「平時と異なるからといって、怠ることの無いように」
将軍「以上だ!」
将軍「……では、剣士殿」
剣士「いやいやいや、ちょっとたんま」


剣士「どういうこと」
将軍「はあ……姫様から窺っていらっしゃると思いますが」
剣士「聞いたよ。んでも分かんねえもんは分かんねえよ」
将軍「単に、この場にいる城の兵士達に剣のご教授をと」
剣士「冗談じゃねえ!!」



343 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/06(月) 21:42:30 ID:wXZLfH7E

息子「……何を考えているのやら」
姫「ふふ……良い機会ですもの」
息子「あれの実力を示すことが?」
姫「我が国は将軍並の使い手を他に有しておりませんの。お披露目は早い方が良いかと」
息子「新しい玩具は、自慢したくなるものなあ」
姫「まあ……そのような事、思っておりませんわよ。失礼しちゃいますわ」
息子「そうかそうか」


姫「で、お連れ様から見てどう思われますの?」
息子「……どう、とは?」
姫「剣士様の腕前ですわ。私も初めてお目にするのですけど」
息子「そうだな……ざっと見たところで、今いるのは百人程か」
姫「城にいる兵の一部ですけれども。それが何か?」
息子「あれくらいならば、一瞬で片が付く」
姫「…………まあ」



344 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/06(月) 21:42:47 ID:wXZLfH7E

姫「でも、当のご本人様が乗り気ではありませんことよ?」
息子「それはまあ……そうだろうな」
姫「いけませんわ。ここでもし手を抜かれては兵達に示しが」
息子「その心配は無いだろう。ほれ」
姫「え?」


剣士「今弱そうって言った奴出て来い! まとめて出て来い! 束で来い!!」
将軍「ちょ、ちょっと剣士殿」
剣士「修練用の木刀だからって人が殺せねえ訳じゃねえんだぞ!? それをたーっぷり教え込んでやるわ!!」
将軍「お待ちください剣士殿! 本日は剣の心得を説いて頂く程度で」
剣士「出て来ねえようだったらこっちから行くぜ!! はーい実践演習開始ぃぃいい!!」
将軍「剣士殿!?」



345 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/06(月) 21:43:01 ID:wXZLfH7E

姫「……」
息子「あれはな、驚くほどに気が短いんだ」
姫「こほん。ま、まあ良かった……ですわ」
息子「全く……人には目立つなと言っておいて。面倒な奴だ」
姫「そう仰るわりに、随分と楽しそうですわね」
息子「そう見えるか」


姫「そういえば、剣士様からお伺いしましたけれども」
息子「何をだろう」
姫「貴方は、剣士様の名を広めたいようですわね」
息子「ああ。それがどうした」
姫「どのような目的がおありですの?」
息子「単なる暇潰しだ」



347 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/06(月) 21:58:33 ID:wXZLfH7E

息子「暇潰しに、厄介な動物の飼育をしている。それだけだ」
姫「……剣士様は、渡しませんわよ」
息子「いるわけがないだろう。ただ、あいつは私が使わせてもらう」
姫「全くもう。剣士様、貴方のようなお方の、どこが気に入ったのかしら」
息子「さあな。本人に聞いてくれ」
姫「そうしますわ。私、剣士様ともっともっと、仲を深めたいと思っておりますし」
息子「打算か、掛け値の無い本心か」
姫「どちらだと思います?」
息子「どちらだろうと、私には関係の無い話だ」
姫「あら、つれないお方」


姫「剣士様ついでに、貴方とも仲良くして差し上げてもよろしいですわよ」
息子「女ならば間に合っている」
姫「まあ……どのような意味でしょうか」
息子「どう取ってもらっても構わん」
姫「面白い方ですわねえ。流石は剣士様のお連れ様」
息子「そういう分類はやめてくれ」



348 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/06(月) 23:02:10 ID:wXZLfH7E

剣士「ぜぇはぁ……さあて次はどいつが相手になるんだ……って」
将軍「……剣士様」
剣士「あれ。何で残った奴ら皆遠巻きに見てんだ。あれ?」
将軍「この人数を一太刀の下に斬り捨てれば……そりゃあ」
剣士「うはは。大丈夫大丈夫。これ木刀だし。峰打ちだし。これくらいの芸当普通だろ?」
将軍「この短時間で……これだけの人数を……というのはその……少し」
剣士「え?」


姫「順調ですわねえ」
息子「順調に、引かれているな」
姫「あら、畏怖と崇敬は同義になり得るのですわよ」
息子「どうだろうな。対象があれだぞ」
姫「貴方は剣士様を買い被っていたり、低く見たり。忙しい方ですわねえ」
息子「状況に応じてな」
姫「卑怯なお方」



349 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/06(月) 23:22:20 ID:wXZLfH7E

剣士「え、えっと……ただいまー」
息子「ああ」
剣士「何だよお前、ずっと見てたんだろ。労いの言葉は無しか」
息子「労いが必要な程の労働だったか?」
剣士「いんや」
息子「だろうよ」
将軍「……」


姫「ご苦労様でした、剣士様。ありがとうございます」
剣士「え、ああ……でも、こんなんで良かったのか?」
姫「ええ。十分すぎる程ですわ」
剣士「良かったー。ヘマやっちまったかと思ったぜ」
姫「そんなことはありませんわ。ねえ、将軍」
将軍「え……はあ、まあ……」



350 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/06(月) 23:41:12 ID:wXZLfH7E

将軍「予定よりも……随分と早く切り上げざるを得ませんでしたが……」
剣士「おっとやっぱりヤバかった……?」
将軍「いえ。ありがとうございました」
剣士「え? 何で頭下げるんすか?」
将軍「貴方の戦う姿を……もう一度この目で拝みたいと思っておりましたので」
剣士「おお! リベンジならいつでも受けるぜ!」
将軍「…………はい」
剣士「あれ?」


剣士「今度は何かまずいこと言ったかな? どう思うお前」
息子「さあな。では、本日の業務はこれで終了だろうか?」
姫「うーん……そうですわねえ。一応は」
息子「では、少し付き合え」
剣士「何に?」
息子「いいから」
剣士「ちょ、引っ張るなって。じゃあまた会いましょー姫さん、将軍さん」
姫「はい。また」
将軍「あ……」



352 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/06(月) 23:51:15 ID:wXZLfH7E

剣士「で、何なのよお前ー」
息子「だから付き合えと」
剣士「何にだよ」
息子「鍛錬だ」
剣士「は?」
息子「はっ、腹が立つなその呆けた面。思わず殴りたくなる」
剣士「言いつつ小突くな! 人のことをなんだと思ってやがるんだ!」


剣士「鍛錬って……お前は特に仕事与えられてねえじゃん。暇してればいいのに」
息子「まあ、私の分までお前が蟻のように働き死ねばいいとは思うのだが」
剣士「てめぇ……」
息子「体が鈍るといかんのでな。たまには相手をさせようかと」
剣士「他の奴に頼めよ。ここにはいっぱいいるだろ」
息子「有象無象に、私の相手が務まるわけがなかろう」
剣士「へいへい、そうっすか」



353 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/07(火) 00:17:05 ID:3M494c26

剣士「ま、実を言うと願ったり叶ったりだったりするんだわ。これが」
息子「ほう……?」
剣士「魔法と剣の両方が十分に使える奴って、お前以外にあんまり出会ったことねえんだよね」
息子「まあ、そうだろうな」
剣士「それなのにお前と手合わせしたのは一回きり。いつかちゃんと手合わせして……」
息子「決着を付けてしまいたかった、と」
剣士「ご明察!」


剣士「さすがは相棒だな!」
息子「ほざけ。だがいい機会だ。軽い運動ついでに、どちらが上かはっきりさせようではないか」
剣士「決まったらどうする?」
息子「そうだな……負けた方は勝った方の命令に、何でも一つ従う、と」
剣士「いいねいいねえ! ありきたりだが大歓迎だぜ!! んじゃあまあ行くぜ相棒とっとと死ね!!」
息子「望むところだ」



356 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/07(火) 01:22:28 ID:3M494c26

将軍「はあ……」
将軍「剣士殿はどうして……ああなのだろうか……」
将軍「姫様は面白がっていらっしゃるようだが……」
将軍「一体どうすれば……はあ……」
将軍「……うん? 何か向こうが騒がしいな……」


兵1「おいおい……何だよこいつらの動き……本当に人間かあ……?」
兵2「片方はあれだろ、さっき何十人かを一度にノシたっていう」
兵1「噂の剣士様だろ……それは分かるんだがもう一方も」
兵2「……それと同レベルとはどういうことだろうな」
将軍「……何だ、これは」
兵1「しょ、将軍様!?」



357 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/07(火) 01:22:52 ID:3M494c26

将軍「何の騒ぎだ……まあ、見れば分かるのだがな」
兵2「ええ……どういうことなんですか。こんな奴……方々が急に現れるなんて」
将軍「姫様が直々に見出し、雇い入れた方々だ。無礼の無いようにな」
兵1「はっ!」
兵2「しかし……姫様……一体どこで見つけたんでしょうか」
将軍「そ、その辺りは機密事項だ。だが、実力も人柄も申し分ないと、私が保障しよう」
兵1・2「……」
将軍「何だその目は……」


剣士「死ね! 死ね! とっとと死ね!!」
息子「これ、くらいの、攻撃で、死ねるわけが……ないだろう!!」
剣士「うっせーバーカ! 息上がってんじゃねえのか年寄り! とっとと這い蹲って土でも舐めてろ!! ぐりぐりと頭を誠心誠意踏んでやるから!!」
息子「貴様こそ×××で、×××! どうせ、××××××なんだろうが!!」
剣士「くっ、くたばりやがれクズ野郎!!!!!」



358 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/07(火) 01:23:10 ID:3M494c26

兵1「人柄……申し分無いですかね?」
兵2「実力はまあ、見れば分かりますけれど」
将軍「剣士殿……」
兵1「あ、二人とも少しずつ動きが鈍くなってきましたね」
兵2「そりゃ陽が高い内からやってるんだ。そろそろ体力切れねえと、本物の化物だ」
将軍「……と、とりあえずお前たちは持ち場に戻れ。他の者達も同じだ!」


剣士「ぐ……ぐ……う」
息子「……ちっ……また、引き分けか」
剣士「ってか……勝負付くのかなあこれ」
息子「何とも言えんな」
剣士「……まあいいや、さっきの約束、しばらく継続ってことで」
息子「……そうするか」



359 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/07(火) 01:23:48 ID:3M494c26

将軍「何をしていらっしゃるのですか……」
剣士「あ、どうも将軍さん」
息子「見れば分かるだろう。単なる軽い運動だ」
将軍「……あの死闘が、ですか」
剣士「こいつがどうしてもって言うからさあ。良ければ将軍さんとも手合わせするよ?」
将軍「え」
剣士「リベンジしたいんだろ? いつでも受けて立つぜ!」
将軍「あ……ありがとうございます」
息子「……」


息子「……再びこいつに負けたとあれば、貴殿の面子が立たぬのでは?」
剣士「ちょ!?」
将軍「まあその通りですね。剣士殿に私が負けたと知っているのは、今はまだ姫様と貴方がたのみですし」
息子「今度こそ、城の中で負けてしまえば……知らぬ者はいなくなろうよ」
将軍「そうならないように剣士殿の戦うお姿を拝見し、こちらも負けじと鍛錬を積みますよ」
息子「……ふん」



360 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/07(火) 01:24:57 ID:3M494c26

剣士「何でお前喧嘩腰なの。何かあったのか?」
将軍「いえ。お気になさらず。ところで剣士殿、これから何かご予定でも?」
剣士「ああ? 姫さんが呼んでるとか?」
将軍「い、いえ! そういうわけでは無いのですが……お時間はありますかと」
剣士「ああ、無理。ごめん。こいつと飯に行く時間だから」
将軍「……そうですか」


剣士「急ぎの用事とかなら、ちょっとくらいなら時間は取れるぜ? なあ相棒」
息子「…………」
剣士「何で睨むんだよ」
将軍「いえ。また次の機会で構いません。それほど重要なものでも……ありませんし」
剣士「そう? んじゃまあ、またなー」
息子「失礼する」
将軍「……」



361 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/07(火) 01:25:12 ID:3M494c26

剣士「うはー……でもやっぱり……腹減ったー……」
息子「右に同じ」
剣士「今日は何食いに行こうか」
息子「酒」
剣士「いいけど、何でお前目据わってんの」


将軍「…………」
将軍「色々な意味で……精進あるのみか」
将軍「……どうやら先は長いようだが」
将軍「はあ……」



366 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/07(火) 22:39:07 ID:5fuv2eZ6

夜─

剣士「ふー。とりあえず今日のところはお疲れさん」
息子「ああ……」
剣士「つってもお前は特に何もやってないんだけどな! さあ敬え! 労働者に感謝を示せ!」
息子「分かったから……とっとと自分の部屋に帰れ」
剣士「いいじゃねえか、まだ夜も浅いんだ」


剣士「第一、広くて豪華な部屋に一人って落ち着かなくね?」
息子「貧乏人が」
剣士「ちっげーよ。もし襲われたらどう立ち回り演じるかって脳内シミュレーションを延々とだな」
息子「病人か。頭の」
剣士「つまりまあしばらくこっちで暇を潰す!」
息子「人の話を聞け」



367 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/07(火) 22:39:37 ID:5fuv2eZ6

剣士「だってまだ飲み足りねえだろ。何のために酒買い込んできたんだよ」
息子「お前が物欲しそうな目をして商店の前を動かなかったからだ。そのような安酒、私はいらん。全てくれてやるから出ていけ」
剣士「金を出したのも、大半抱えて運んで来たのも例のごとくお前だろー。お前が飲まなくてどうすんだ」
息子「だからお前に持たせると外聞が……はあ」
剣士「変な奴ー」


剣士「まあまあ一本いっちまえ。こういうのは値段より度数と量だろ」
息子「頭の悪い酒の嗜み方だな」
剣士「お前昨日の飲みっぷりはかなりのものだったぞ」
息子「……まあ、少しくらいなら」
剣士「よく言った! ほらほら好きなの選べ」
息子「グラスは」
剣士「んなまどろっこしい物いるかよ」
息子「……はあ」



368 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/07(火) 22:39:53 ID:5fuv2eZ6

剣士「んじゃまあ二次会に乾杯ー」
息子「乾杯」
剣士「おっと案外素直じゃねえか」
息子「たまには、な」
剣士「よしよし、その調子で従順にデレろよ。扱いやすいから」
息子「やめろ触るな気色悪い。貴様をまともに相手にするのが疲れてきただけだ」
剣士「遠ざかった……だと?」


剣士「いいもんねー、お前より先に姫さんとか将軍さんとの仲を縮めてやる」
息子「……縮めて嬉しいのか、お前」
剣士「い、いやまあ姫さんはちょっと怖いし、将軍さんは何かよく分かんねえし」
息子「そうか……分からんか」
剣士「あんな人負かしちまった手前、どんな顔して接していいのかなあ」
息子「それでいいだろうよ」



369 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/07(火) 22:40:10 ID:5fuv2eZ6

剣士「でもあの姫さん、結構すげーみたいだな」
息子「何がだ」
剣士「先代の国王……親父さんが何年か前に早死にしちまったんだってよ。それからずっとあの若さで国を治めているらしい」
息子「……」
剣士「耳が痛い?」
息子「売り飛ばすぞ」
剣士「ぎゃー」


剣士「いやでも体張って頑張ってて偉いよなあ」
息子「王族の何が偉いものか。世襲に甘え、政策のほとんどは下任せ。自分は安全な場所から高みの見物で……敬われるだけの器量の有無も関係なく、取り替えがいくらでも利く地位の何が偉いか……」
剣士「へいへい。お前も大変ね」
息子「……何がだ」
剣士「別にー」



370 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/07(火) 22:40:29 ID:5fuv2eZ6

息子「そう言うお前も……腕、見せてみろ」
剣士「ああ?この前の怪我ならもう大分塞がってきたぜ。ほれ」
息子「それでも痕は残るだろう。お前の方がよっぽど体を張っている」
剣士「そうかなあ」
息子「負わずに済んだ怪我とはいえな」
剣士「うはは!そりゃそうだ!」


剣士「んでも傷痕なんか特に珍しいもんじゃねえって。ほれ」
息子「!?」
剣士「自分じゃ見えないけど、背中にデカイ刀傷があるし」
息子「……」
剣士「あ、前も見るか? 腹に浅い刺し傷で右胸の辺りに」
息子「やめろ」



371 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/07(火) 22:40:44 ID:5fuv2eZ6

剣士「あ、お前グロいの無理?」
息子「そういうことにしておけ……早く服を着ろ」
剣士「へいへーい」
息子「……何故、そのような傷を負った」
剣士「そりゃまあ、最初から強かったわけじゃねえしな」


剣士「色々運が良くて生き延びて、気付いたらこんな風に生きてるってわけよ」
息子「難儀なことだな」
剣士「全くだ!」
息子「……そう言う割には、随分と嬉しそうだが」
剣士「ある程度現状に満足していますし?」
息子「ほう」



372 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/07(火) 23:27:41 ID:5fuv2eZ6

剣士「もうねー、死なない程度に生きればいいかなーっと」
息子「志が低すぎるぞ貴様」
剣士「いやだって。これはこれで良待遇かもしれんと思ってしまえば」
息子「まあ、一見するとな」
剣士「適当に言われたことやってりゃ、寝床は確保されてるし、お前とぐだぐだできるし」
息子「……言うことなしだと?」
剣士「おう」


剣士「まあ今後何命令されるか分かったもんじゃねえけどなー」
息子「……分かっているではないか」
剣士「最悪逃げるさ。お前もついてくるよな?」
息子「私だけ残っても仕方がないだろう」
剣士「だよなー相棒。一蓮托生だぜー」
息子「何故お前なんぞを捕まえてしまったのか……」



375 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/07(火) 23:44:03 ID:5fuv2eZ6

剣士「でも一応漠然とした人生設計ってか、夢みたいなもんはあるんだぜ?」
息子「一発鉱山でも当てるといった?」
剣士「何で博打なんだよ。そうじゃなくて、もっとこー……笑うなよ?」
息子「保障は出来ぬ上、その前振りだと九割方失笑物だろうな」
剣士「ああうん。お前はそういう奴だよ!」
息子「いいから言え。どうせ酒が回っているんだ。羞恥も何もないだろう」
剣士「ちっ……何でこんなの捕まえちまったんだろう……」


剣士「いやまあ漠然とね、曖昧な感じに」
息子「何だ」
剣士「家族が出来たらいいなあ……って」
息子「……はあ」
剣士「やめろ! 真顔はやめろ! かえって傷付くわ!!」



376 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/08(水) 00:26:01 ID:Fbu6ld22

剣士「あれだよ、温かい家庭ってやつに憧れてるんだよ」
息子「それにはまず……相手が必要でだな……」
剣士「うっせーバーカ! 優しく諭すな!! いいじゃねえか別に!」
息子「まあ、思考は自由だと思うのだが……お前が……ねえ」
剣士「こう見えて子供は好きなんだぞ!」
息子「いや、伴侶が」
剣士「うるっっせえええええ!!」


剣士「何だお前! 言いたいことがあるなら言え!」
息子「お前のような自由人に、苦楽を共にしてくれる伴侶が見つかるとは思えぬ」
剣士「はっきり言うな!!」
息子「注文の多い奴め……大体、私とこうしてぐだぐだやっているようでは、とんと出会いがないだろうに」
剣士「ぐっ……遂に憐れみの視線まで使いやがって……!」



377 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/08(水) 00:44:27 ID:Fbu6ld22

剣士「そんなこと言うならお前! 誰か紹介しろよ!」
息子「……はあ?」
剣士「面倒臭そうに! 睨むな!!」
息子「生憎だが、貴様に知人を紹介するほど、私は人の心を棄ててはいないのでな」
剣士「血も涙もねえくせに!!」
息子「お前限定でな」
剣士「ぐぐぐ」


剣士「そう言うお前はどうなんだよ! 婚約者とかいたりするのか?」
息子「いや。特に決まった相手はいないが」
剣士「ほら見ろ同類」
息子「遊ぶ女に不自由した試しは無いな」
剣士「死に耐えろ宿敵!!」
息子「おっと。酒瓶を投げつけるとは、原始的な攻撃だな」



378 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/08(水) 00:50:49 ID:Fbu6ld22

剣士「けっ! てめぇは出来るだけ無惨に死ね!!」
息子「生憎だがその予定は無いな」
剣士「うっせーバカ!! もう寝る!!」
息子「勝手にしろ」
剣士「くたばれ!!」
息子「無理だな」

バタン!

息子「…………」
息子「……はあ」


剣士「…………」
剣士「……はーあ」



息子「あいつ、死なぬものかな」
剣士「あいつ、死なねえかなあ」



384 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/08(水) 23:16:24 ID:Fbu6ld22

次の日―

剣士「はーい、んじゃまあ今日はこんなもんで終わっとこうか」

「あ、ありがとうございました!」
「お疲れ様でした!」
「また明日からもよろしくお願いします!!」

剣士「へ……あ、ああうん……うん?」


息子「お疲れ」
剣士「何か昨日の今日で舎弟が増えた気分」
息子「良かったな」
剣士「ええー……何か怖いわ。昨日あんだけ引いた目をしてたのに」
息子「それはお前が……いや、いい」
剣士「何だよ言い切れよ」
息子「癪だ。絶対に言うものか」
剣士「意味分からん」



385 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/08(水) 23:16:46 ID:Fbu6ld22

息子「しかしお前、まともに剣を教えることも出来たのだな」
剣士「そりゃまあね。昨日のはあれよ、物のはずみで」
息子「もう少し後先考えて生きろ」
剣士「無理な話だ。しかしねーどうしよっかなあ」
息子「?」
剣士「個人的に一対一での鍛錬を何人かから頼まれてんだよ」
息子「……ほう」


剣士「だるいから、出来るだけやりたくないんだけどねえ」
息子「そうだな」
剣士「お前どう思う?やっぱり立場もあるしやっとくべき?」
息子「……やめておけ。一度引き受けると、恐らくきりがない」
剣士「ですよねー」



386 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/08(水) 23:17:01 ID:Fbu6ld22

剣士「おっと将軍さんだ」
息子「……」
剣士「どうもー」
将軍「お疲れ様です剣士様」
剣士「いやいや。これくらい軽いものっすよ」
将軍「ははは、そうですか」


剣士「あ、一応将軍さんにも言っとくけどさあ」
将軍「何でしょうか」
剣士「ちょっと一部の兵からさ、一対一の鍛錬申し込まれたりしてるんすよ」
将軍「……は、あ」
剣士「でもこちらとしたら出来たらやりたくないんすけど……どうっすかねえ」
将軍「構いませんよ。お受けせずとも」



387 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/08(水) 23:17:29 ID:Fbu6ld22

将軍「むしろそのようなことに、お手を煩わせるわけには参りませんから」
剣士「え、そう? ありがとな!」
将軍「い、いえ……! 私の方からも皆に剣士殿を困らせることのないように、きつく言い聞かせておきますので……!」
剣士「いや……そんな畏まらんでもいいのに」
息子「はあ……」


剣士「そんじゃまあ、昼飯に行ってくるから」
将軍「……城で召し上がっては如何ですか?」
剣士「いやあ、いいものって食い慣れてねえもんでさ。なあ相棒」
息子「貴様と一緒にするな」
剣士「いで!?」
将軍「な」



388 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/08(水) 23:17:51 ID:Fbu6ld22

将軍「ちょ……貴方は何を」
息子「躾だ躾」
剣士「てめぇ……気軽に人の頭殴るんじゃねえよ!」
息子「気にするな。行くぞ」
剣士「あ、待てっての勝手すぎんだろ! じゃあ将軍さん! またな!」
将軍「はあ」


街―

剣士「しかしお前、将軍さんのこと嫌いだよなあ」
息子「悪いか」
剣士「いんや。でも何でだろうなあとは思う」
息子「ああいう輩は問答無用で敵だ……む」
剣士「うん、お前も生きにくい生き方してるんだなあ……って、こらこらお前」
息子「ちっ……何だ」
剣士「人と喋ってる時に女に色目使ってんじゃねえよ」



389 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/08(水) 23:18:13 ID:Fbu6ld22

剣士「お前、今すれ違った姉ちゃんみたいなのが好みなの?」
息子「そういう訳ではない」
剣士「じゃあ何なんだよ。羞恥心なんて今更だろー」
息子「……服」
剣士「服ぅ?んな珍しいカッコしてたっけ」
息子「何、知っている女に似合いそうだなと思っただけだ」
剣士「へ、へえ?」


剣士「お前もそんな殊勝な人並みの思考をするんだねえ」
息子「喧しいわ。早く食う場所を決めるぞ」
剣士「へいへい。で、それってどんな女?」
息子「死ね」
剣士「うぉぉ……今までにない殺気……何だよ今の地雷か!?」
息子「ふん」



390 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/09(木) 00:57:03 ID:gc69clR6

剣士「おお、ここの飯は当たりだな。代わりに覚えとけお前」
息子「また誰かに聞いた店か?」
剣士「おう。上手い飯食えるとこ教えてくれって、兵士の皆に聞いたんだ。色々穴場とか教えてくれて助かったぜ」
息子「……そうか」
剣士「何だよお前興味なさそうな顔してー」
息子「どう興味を沸かせと」


剣士「そいつらに飯食いに誘われたりもしたけど、連れがいるからって全部断ったんだぜ。感謝しろよ」
息子「ああ、まあ確かに。その心掛けは偉いと思うぞ」
剣士「えっ。お前が褒めるなんて気持ちわる」
息子「お前は目を離すとろくなことにはならぬものな。飼い主に従順なのは、良い事だ」
剣士「机の下で陰湿に足を踏んでくる飼い主なんて嫌だわ」



391 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/09(木) 01:18:51 ID:gc69clR6

剣士「まあお前となら気使わなくていいもんなー」
息子「多少は気を使え。私の支払いだぞ」
剣士「つってもこの前の闘技場の賞金とか城からの給料で、金なら着実に貯まってきてるんだぞ。ここの支払い持つくらいなら余裕で」
息子「嫌だ」
剣士「何が」
息子「お前に養われるくらいなら、舌を噛んで死ぬ」
剣士「一体何がお前をそこまで追い詰めるんだ!?」


剣士「じゃあ、半永久的にお前のヒモをすることになるんだけど」
息子「縁の続く限りな」
剣士「お前あれだよなー」
息子「何だ」
剣士「バカだよな……」
息子「お前もな」



392 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/09/09(木) 02:04:54 ID:gc69clR6

剣士「っしゃあ飯食ったー!」
息子「見れば分かる」
剣士「んじゃとりあえず城に戻りますかー。昼から仕事無いようなら、昼寝でもするかね」
息子「もう少し有意義に時間を使え」
剣士「うはは! そんな心掛け出来てたら、お前なんかに貴重な時間を割くわけねえだろ!」
息子「ははは……」
剣士「痛い痛いすねを狙うのはやめろ! すねは!!」


息子「まあいい。とっとと行くぞ」
剣士「へーい。因みに、お前は昼からどうするつもりなの?」
息子「読書をするか、剣でも振るう」
剣士「お前もあんまり変わんねえじゃねえか!!」
息子「自己鍛錬という崇高な物だ。お前と一緒にするな」
剣士「時間持て余してるって感じがぷんぷんするけどなあ……」



393 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/09(木) 02:14:59 ID:gc69clR6

城─

剣士「あ、将軍さん」
将軍「お帰りなさいませ、剣士殿。おや、あのお連れ殿は」
剣士「あいつなら部屋。とりあえずは本でも読むんだってさー」
将軍「そうですか」
剣士「おっといい笑顔だー」
将軍「何か?」
剣士「いえいえ」


剣士「で、何か仕事ありますかね? 無いなら無いで昼寝でもするんだけど」
将軍「うーん……特にはありませんね。残念ながら……」
剣士「あ、本当? じゃあ遠慮なく」
将軍「私はありませんが……一応姫様にも伺いに参りましょうか」
剣士「え」
将軍「剣士殿を雇ってらっしゃるのは姫様ですからね」
剣士「……へーい」



395 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/09(木) 23:07:43 ID:gc2Oyjx6

姫の部屋─

姫「お仕事……ですか?」
剣士「何も無い? 何も無いよな!?」
姫「無い、と言えばどうなさいますの?」
剣士「んー、昼寝かあいつの部屋行ってぐだぐだするかな?」
将軍「その他に何も予定が無いのでしたら……」
剣士「え?」
姫「分かりましたわ。お仕事は特に、私の方からもありません」
剣士「マジすか。じゃあこれで」
姫「その代わり……」
剣士「え」


姫「どうぞ剣士様」
剣士「あ、こりゃどうも……はあ」
姫「如何でしょう?」
剣士「いやまあ。うまいですけど」
姫「良かったですわ」
剣士「うーん」



396 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/09(木) 23:12:36 ID:gc2Oyjx6

剣士「何で姫さんの部屋で茶を飲むことに?」
姫「あら、私も公務が一息ついたところで」
剣士「暇潰しに、と」
姫「構いませんでしょう? 剣士様もお暇なんですし」
剣士「まあ、美味い菓子が食えるのはありがたいけどね」
姫「どうぞ遠慮なく召し上がって下さいね」
剣士「言われなくても!」


姫「ところで剣士様。城中、剣士様の噂でもちきりのようですわよ」
剣士「そりゃそうでしょうよ。一国の主がどこの骨とも分かんねーようなゴロツキを雇い入れちゃったんだから」
姫「いえ、剣士様のその強さと、人柄に惹かれる者が多いようで」
剣士「ドン“引かれる”?」
姫「“引きつけられる”ですわ」



397 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/09(木) 23:48:41 ID:gc2Oyjx6

剣士「うはは、面白い冗談っすね。相棒が聞いたら鼻で笑うなあ……」
姫「私が聞いたのはメイド達の話ですが……皆剣士様を気にかけておりましたわよ? いい意味で」
剣士「何なの、それどういう感じに。詳しく」
姫「気さくな方だとか、重い荷を代わりに持って頂いたとか。大体そんな良い印象を皆持っているようですわねえ」
剣士「えええ……日も浅いんだし、普通良く分かんねえもんだろうに。他には何かあった?」
姫「まあ、後は…………」


息子の部屋─

息子「はあ……」
息子「ふむ。人間の書物も、中々の暇潰しにはなるのだな」
息子「しかし読み終わってしまえば……暇だ」
息子「仕方ない。あいつで暇を潰すか」
息子「言葉の通りであれば今頃寝ているだろうし……さてと何で殴り起こしてやろうか」



399 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/09(木) 23:58:59 ID:gc2Oyjx6

コンコン

息子「おい」

コンコン

息子「私だ。入ってもいいか?」

コンコン

息子「寝ているのか?」
息子「よし……なら良いな。良いよな。入るぞ……む?」


息子「何だ、この手紙の束は……」
息子「扉の下に、山と……気付かず踏むところだった」
息子「借金の督促状か何かだろうか。ふむ一つ」
息子「…………」
息子「…………」
息子「よし。殺そう」



401 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/10(金) 00:07:11 ID:mQA8hHcA

姫の部屋─

剣士「えー、そりゃねえよ」
姫「まあ。御謙遜を」
剣士「だって今までそんな浮いた話、全然縁が無かったんだもんよー」
姫「それはきっと、剣士様が気付いていなかっただけのことですわ」
剣士「そんなもんかねえ」
姫「そのようなものです。だから剣士様、どうか」


ドンドンガチャッ

息子「失礼する」
剣士「お、またこのパターンでっっぎゃああああ!?」
息子「死ね」
姫「あらまあ」
剣士「な、な、な!? 何でいきなり斬りかかってきやがるんだ!?」



402 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/10(金) 00:18:55 ID:mQA8hHcA

息子「お前が恵まれるなど、どう考えたところで決して許されないことだ」
剣士「いつどうやって恵まれた!? あ! 午後のひと時を美人と一緒できるっつーこれか!?」
姫「まあ……剣士様ったらお上手なんですから」
剣士「えー、マジだって。姫さんレベルの美人って今まで見たことねえもん」
姫「ふふ……そう仰られると、途端に嘘っぽくなりますわよ」
剣士「おっとー、女性の口説き方はまだまだってことかあ」
息子「よし分かった死ね」
剣士「だから! さっきからお前は何なんだ!?」


剣士「いきなり出て来て何キレてやがるんだ! 何かやったか!?」
息子「これを見ろ。全てお前宛だ」
剣士「ああ? 手紙ぃ?」
姫「あら、まあ」
剣士「何々……うへあ」
息子「分かったか。つまり死ね」
剣士「事情は把握したが理由が分からん!」



404 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/10(金) 00:32:05 ID:mQA8hHcA

剣士「こ、こ、こ……恋文貰ったからって相棒のお前に何かデメリットでもあるのか!?」
息子「ある」
剣士「どういう」
息子「だから……お前に幸せなど……ただ単に腹立たしい! 精神的に害がある!!」
剣士「とんだ我が儘だった!! ってちょ、返せ!」
息子「ふん。このようなもの……!」
剣士「あー!?」
姫「あら」


姫「魔法を使うとのことでしたねえ。そういえば」
息子「まあな。これくらい朝飯前だ」
剣士「は、は、灰ぃぃいいいいいい!?」
息子「紙は燃やせば灰になるだろう。何を驚いているんだお前は」
剣士「お前の奇行にキレてんだよボケが!!」



405 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/10(金) 00:38:15 ID:mQA8hHcA

剣士「折角! 春が来るかもしれなかったのに! なんてことしてくれたんだお前は!!」
息子「待て待て。それはお前の勘違いだ」
剣士「何がだ! 一応申し開きを聞いてやろうか!」
息子「お前のような社会不適合者に……異性とまともな付き合いが出来るわけがないだろう」
剣士「優しく諭してんじゃねえよ性格破綻根暗!! ぶっ殺す!!」
姫「まあまあ剣士様」


姫「お連れ様も決して悪意があってのことではないでしょうし」
剣士「あんた今何を見てたんだ!?」
姫「一部始終をこの目でしかと……ふふ」
剣士「やだもうこの人……適当なことばっかり言うんだから……」
姫「でも、先程のお話、信じて頂けましたでしょう? 城で剣士様は評判だって」
剣士「い……いやまあ……そうかも知れねえけど」
息子「ほう……?」



406 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/10(金) 00:45:34 ID:mQA8hHcA

息子「貴様、私を差し置き幸福を手に入れようと言うのか……? これはもうますます生かしてはおけんな」
剣士「殺気立つな! キモいわ!!」
姫「仲がよろしいのですわねえ」
剣士「勘弁してくれ!!」
姫「ふふ」


姫「でも……案外、剣士様の春はもっと身近な所に転がっているかもしれませんわよ」
剣士「へ? それどういう意味?」
姫「い、嫌ですわね……そのようなことを、乙女の口から直接言わせる気ですの……?」
剣士「はい? 何であんた照れて」
息子「行くぞ!!」
剣士「え、ちょ、お前どこに!?」
姫「はい。御機嫌ようー」


姫「……本当に……まどろっこしい方ですわねえ」



407 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/10(金) 01:00:21 ID:mQA8hHcA

数日後─

剣士「ふーい。今日の鍛錬終了ー」
息子「馬鹿の一つ覚えのように、同じ鍛錬だけを兵にさせているな」
剣士「こういうのは基礎が大事なんだよ。いざって時があれば」
息子「お前が出る、と」
剣士「そーそー。あと将軍さんも、お前もいるしね。大概のことには対処できるわ」
息子「ま、そういうことにしておくか」


剣士「さーて、今日の飯はどこで食おうかね」
息子「勧められたものの、まだ回っていない飯屋はないのか?」
剣士「ありすぎて困ってんだよ。お前何か食いたいものある?」
息子「酒」
剣士「昼間っから! うはは! たまにはいいかもねえ!」



408 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/10(金) 01:00:34 ID:mQA8hHcA

剣士「しっかしこの生活にも慣れて来たなあ」
息子「全くな」
剣士「相変わらず、仕事っつったら兵の鍛錬とたまーの見回りと姫さんの相手とか」
息子「……平和なものだな」
剣士「お前は相変わらず将軍さんと仲悪いし」
息子「当たり前だろう」
剣士「え、そんな溝深いの? 何があったんだほんと」


剣士「まあいっか。いい暮らしさせてもらってるよ本当」
息子「気楽でいいしな。ここに来たのは、正解だったかもしれんな」
剣士「正解だろー。平和な暮らしに美味い飯、そんでもって気の合う相棒」
息子「……はあ」
剣士「うわあい安定の気の無い返事!」



409 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/10(金) 01:03:19 ID:mQA8hHcA

剣士「でもなあ……お前の事は相棒とか、いっそもう親友だと思ってんだよね」
息子「……そうか。良かったな」
剣士「お前はどう? この頼りがいのある相棒様の事は」
息子「飼育対象」
剣士「うはは! ぶっころー!!」


息子(しかしまあ……確かに良い暮らしかもしれんな。何に気兼ねすること無く続く怠惰な、変化に乏しい日々)
息子(『友』、か……)
息子(それはそれで、良いものかも知れぬな……)
息子(大本を忘れてしまえば、だが)
息子(……結論を出すにはまだ早い)
息子(時間はまだ、たっぷりあるんだ……きっと)



410 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/10(金) 01:08:33 ID:mQA8hHcA

魔王城─

魔王「機は、熟さぬか」
魔王「ふむ」
魔王「そろそろ頃合いかも知れぬ……と」
魔王「分かるか? 一つはそのような理由だ」
魔王「そうか……ふ……はは」
魔王「では……よろしく、死んでくれ」



418 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/10(金) 23:44:58 ID:mQA8hHcA

さらに数日後─

息子「おい」
剣士「お、丁度良かった。これから朝の鍛錬だけどお前も」
息子「私はパスだ」
剣士「え? 何で?」
息子「用事がある」
剣士「ええー……?」


剣士「お前が外に用事? また調べものとかか?」
息子「いや、人に会いに行く」
剣士「まさか……女じゃねえだろうな!?」
息子「そうだと言ったら?」
剣士「紹介しろ!」
息子「するわけがないだろう」



419 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/10(金) 23:49:50 ID:mQA8hHcA

息子「それと悪いが男だ。紹介もできん」
剣士「へー、お前にも他に人付き合いの当てがあったとはねえ」
息子「ははは。貴様には言われたくない言葉だな」
剣士「我ながらそりゃ全くだと思うわ。遠くに行くのか? いつぞや言ってた友人?」
息子「ああ。今日は戻らぬかもしれぬ」
剣士「わーったよ。まあお前は仕事って特にねえだろうし。こっちから将軍さんとかに言っておいてやるよ」
息子「では、頼んだ」


剣士「その代わりと言っちゃなんだが……」
息子「む?」
剣士「土産期待してるぜ!」
息子「分かった」
剣士「何、だと……!?」



420 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/11(土) 00:00:03 ID:3I2Rr41w

息子「なに、お前には過ぎた用途の無い崇高な物を敢えて渡し、うろたえるお前を見てみたいだけだ」
剣士「何その手間暇財力掛った嫌がらせ」
息子「ふはは。期待していろ。惨めなお前の姿が目に浮かぶようだ」
剣士「お……おう……期待しておいてやるわ」
息子「では何だその目は」
剣士「いや……可哀想だなあって思って……」


剣士「んじゃまあ行ってらっしゃーい」
息子「ああ。せいぜい大人しくしていろよ」
剣士「わーってるって。どうせやることなんか何もねえだろうし」
息子「まあな。では、行ってくる」
剣士「へいへい。気ぃ付けろよー」



421 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/11(土) 00:31:39 ID:3I2Rr41w

魔王城─

息子「よう」
魔物「……よう」
息子「すまんな。しばらく四六時中あれに拘束されていて、外に出るタイミングを図っていた」
魔物「そうかよ。相変わらず良いご身分だねえ」
息子「お前も似たようなものだろう。相変わらず暇そうにしておって」
魔物「……けっ」


息子「しかし、今日はどうしたんだ?」
魔物「ああ?」
息子「城が静かだ。いつもなら、もっと魔物を見かけるはずだろう」
魔物「そりゃあね……今日は必要最低限以外は、皆出払ってるからさ」
息子「……何かあったのか?」
魔物「いんや。何も起こっちゃいねえさ」



422 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/11(土) 00:40:18 ID:3I2Rr41w

魔物「まだ何も無い。平和なものだよ」
息子「何だ。今日はお前、やけに勢いがないな」
魔物「そりゃあね。こんな日に気力が出るほど、俺は馬鹿でも薄情でもないんだ」
息子「一体何が……」
魔物「戦争さ」
息子「……はあ?」


息子「何を言っているんだ。誰が、誰と戦争をすると」
魔物「魔王様が、人間全体を相手取ってさ」
息子「……どういうことだ」
魔物「知らねえよ。俺はお前のお付きだってことで、この案には深く噛ませてもらえなかった。ありがたい話さ」
息子「い、一体何が……」



423 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/11(土) 00:55:13 ID:3I2Rr41w

魔物「そろそろ昼だな」
息子「あ、ああ」
魔物「じゃあもう始まってるはずだ」
息子「……戦争が、か?」
魔物「戦争ってか一方的な蹂躙だって話だなあ。適当な所に攻め入って、とりあえず殺しまくるの」
息子「……」


魔物「で、頃合い見て戻って来るんだとよ。魔王様御自身も、わざわざどこぞに出るって話だ」
息子「……止めることは」
魔物「無理だな」
息子「そうか……まあ、近々こうなるだろうとは、ある程度予想していたのだがな……」
魔物「へえ」
息子「……ちょっと待て」



424 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/11(土) 01:03:38 ID:3I2Rr41w

息子「お前……どこを攻めるなどと、具体的な場所は聞いていないのか?」
魔物「ああ?」
息子「あいつが……私とあの人間が滞在している街は」
魔物「そりゃもう、お前。そこが一番のポイントなんだぜ?」
息子「どういう意味だ」


魔物「お前の計画? あれを主軸に戦争起こすって話さ」
息子「……」
魔物「お前はあの人間を救世主か何かに仕立て上げたいんだろ? それなら、直接的な危機って演出があれば完璧だろ」
息子「父上が……そう仰ったのか」
魔物「いんや。俺の勘。でもそんなところだと思うぜ?」
息子「そう……だな」



426 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/11(土) 01:26:28 ID:3I2Rr41w

息子「と、言うことは……あの街には何の被害も無いのだな?」
魔物「ああ? お前何聞いてたんだ」
息子「あいつを祭り上げるんだろう? ならば、万が一その戦争に巻き込まれてあいつが死ねば……全て泡と消えてしまう」
魔物「そうだなあ。全くその通りだわ」
息子「ならばあの街を襲ってはならんだろうが」
魔物「んなわけねえじゃん」


魔物「他が壊滅的な被害を受けている中で、あの人間がいる街だけ割かし無事……ってことになったらどうなるよ?」
息子「……そうだな」
魔物「な? これで分かったろ。今頃お前の人間、奮闘してるんじゃねえのかな」
息子「ならば、これで戻ろう。あいつなら大概の魔物であれば斬り棄ててしまえるからな。私は魔物のフォローに」
魔物「そのつもりなら……やめとけ」
息子「む?」



427 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/11(土) 01:39:12 ID:3I2Rr41w

城─

剣士「ああん……? 慌てて駆けつけて来てみりゃ……何だこりゃ」
竜「……」
剣士「てめぇは……あの時の竜じゃねえか」
竜「……」
剣士「何でこんな所に。あのチビはどうした」
竜「……」
剣士「だんまりか……まあいいさ。相手になってやる。なんなきゃいけねえようだしな」


将軍「け、剣士殿……!」
剣士「ここは任せてくれ。あんたはそこに転がってる奴らを助けてやってくれ。まだ息がある奴もいるはずだ」
将軍「しかし! お一人では危険です!」
剣士「平気平気。多分な」
将軍「剣士殿!!」



428 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/11(土) 01:46:32 ID:3I2Rr41w

剣士「なるべく斬りたくはねえけども……仕方ないのかもな」
竜「……」
剣士「因みにお前が怖気づいて逃げられたって仕方がねえ。こちとら羽なんて持っていないんでね」
竜「……」
剣士「おおっと何だよ本気か? よく分かんねえけど面倒だな……ったく。こんな時に限ってあいつは留守とかねえ」
竜「……」
剣士「まあいい……とりあえずは全力で……いかせてもらう!!」


息子「どういうことだ」
魔物「この前言ったろ? お前を頼って竜の親子が城に来たって」
息子「ああ」
魔物「その親竜、よりにもよってあの人間と会ってるんだってな」
息子「それがどうした。お前だってあいつと一戦やりあっただろう」
魔物「俺はお前のお付き。だが、あの竜は何でもない。ただの一魔物に過ぎない」
息子「……まさか」



429 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/11(土) 01:57:58 ID:3I2Rr41w

剣士(ああ? 何だこいつ……)
剣士(攻撃は派手だけど読みやすいパターンばっかだし)
剣士(いまいち殺気ってもんが伝わって来ねえし)
剣士(本当に殺る気あんのか? 顔を知ってるからって、手加減してくれてるわきゃねえし……でも)
剣士(長く続くと……流石に体力が持たねえかもしんねえな)
剣士(早く……早く逃げちまってくれよ……子供はどうした子供はよ!)
剣士(くそっ……やっぱり斬りたく)


剣士「な!?」


ザンッ──……



430 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/11(土) 02:05:18 ID:3I2Rr41w

息子「まさか……わざと」
魔物「そう。わざと殺されて来いって、命令が出てるんだぜ」
息子「そんな馬鹿な! あいつには子供が」
魔物「ああ、あのちっちゃいの。魔王様が質にって取ってんだよ」
息子「……」
魔物「『子供の命が惜しくば死ね』。全く、お前の親父は無茶振りが得意だねえ」
息子「貴様……!!」


息子「貴様はそれでいいのか! それが真実なのであれば、あの竜はお前の代わりに死ぬも同然ではないか!!」
魔物「いいわけねえだろ。俺が代わってやりたいのは山々だったよ」
息子「ならば何故そのように鷹揚に構えていられるんだ!!」
魔物「仕方ない事だろ」
息子「な」



431 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/11(土) 02:14:47 ID:3I2Rr41w

魔物「俺が魔王様に盾突いたところで、何の解決にもならない。それどころか無駄死にだ」
息子「……誰も、反対はしなかったのか」
魔物「出来るわけがないだろう。俺ら魔物の主は魔王様だ。それは絶対に揺るがない」
息子「……」
魔物「お前が思っている以上にな、この病は根強いんだぜ?」


魔物「それでもお前がどうにかするって言うんなら、何だって俺は協力するよ。どうせもう使い切った命だ」
息子「……私に、どうしろと言うのだ」
魔物「さあね。だが一つだけ言えるさ」
息子「……何だ」
魔物「お前がしなきゃなんねえことを見つけるんだな。次の魔王様」
息子「……」



432 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/11(土) 02:23:37 ID:3I2Rr41w

剣士「何なんだよ……」
剣士「何だったんだよ……」
将軍「剣士殿……」
剣士「畜生。畜生。胸糞悪い……畜生!」
将軍「剣士殿!」
剣士「え、あ……将軍さん」


将軍「お怪我はありませんでしたか」
剣士「あ……ああ。それよりどうだった……?」
将軍「何名かはどうにか持ちこたえましたが……十余名の兵士が犠牲となりました」
剣士「そう……か。ありがとう……」
将軍「剣士殿、どちらに」
剣士「わりぃ。本当なら後片付けとかしなきゃなんねえんだろうけど……ちょっと休ませてもらうわ」
将軍「は……はい。お気になさらず」



433 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/11(土) 02:28:05 ID:3I2Rr41w

将軍「その……剣士殿」
剣士「ん?」
将軍「あそこまで……竜を仕留めてしまわれるほどに、強かったのですね」
剣士「……そういうことに、しといてくれや」
将軍「ありがとうございました。剣士殿……」
剣士「……じゃあな」


剣士「……クソ」
剣士「クソが!! 何だってぇんだよ!!」
剣士「あいつが自分から殺されるためだけに突っ込んできやがったこと……他の奴はまるで分かっちゃいねえ!」
剣士「クソ…………気色悪い……何なんだこの感じ……」
剣士「何でだよ……何で今……お前がいねえんだよ」
剣士「…………勘違いだとか何だとか言って……馬鹿にしてくれよ……」
剣士「クソ!!」



434 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/11(土) 02:31:46 ID:3I2Rr41w

夜─

魔王「ほう」
息子「……」
魔王「丁度良い時期に戻ってきていたのだな」
息子「……ご苦労様、でした」
魔王「あの魔物から聞いたのか? ああ。別に苦労などしてはおらぬ」


魔王「私は単に顔を見せただけだな。直接的な破壊は、他の物にやらせた」
息子「珍しい事もあったものですね」
魔王「ふはは……何しろ、私が直々に手を下すべき人間は他におるようだしな」
息子「……」
魔王「ふ……何か言いたいことでもあるようだな」



435 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/11(土) 02:45:13 ID:3I2Rr41w

魔王「お前が何を厭うているかくらい、私には分かるぞ」
息子「……」
魔王「お前は魔物達の死が耐えられない。そうだろう?」
息子「……恐れ多くも……その通りで御座います」
魔王「そして、私にはそれが分からぬ」


魔王「魔物など……手下の命など。その辺りに数多く転がっておるではないか」
息子「だからと言って! 無益に散って良い命など」
魔王「益? 奴らが益を産むとでも?」
息子「……」
魔王「お前は何かを取り違えている。しかも根本的に」



436 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/11(土) 02:46:10 ID:3I2Rr41w

魔王「いいか、私の子よ。この世はな、私だけで出来ているのだ」
息子「己……だけ」
魔王「そうとも。己だけ。私だけだ。それ以外など、到底意味など持ち得ぬのだ」
息子「……」
魔王「そしてそこに意味や理由、益を与えるのは私だ。それがこの世の真理。そうだろう?」


魔王「奴らは何も生まない。与えない。詰まる所。私がそれらを見出してやらないのであれば、命も無と同じ」
息子「あの竜は……どうだと言うのですか」
魔王「あいつはよくやってくれた。まあ、お前の計画に良き華を添えることになっただろう?」
息子「……あれの子供はどこです」
魔王「地下だったか。武器庫であったか。さあな、どこに仕舞ったか。気になるようであれば勝手に探せ。もう用は無い」
息子「……」



437 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/11(土) 02:50:20 ID:3I2Rr41w

魔王「話はそれだけか」
息子「最後に一つ……」
魔王「何だ」
息子「私も、貴方にとっては無であるのですか」
魔王「さあな。お前はその例外になるのか、はたまた通例通りで終わってしまうのか」
息子「……失礼します」
魔王「ああ。待て」


魔王「お前の言っていた人間」
息子「は」
魔王「それを愉快に殺す舞台を、私の満足が行くように整えたのであれば……しばらくは、全てお前の好きにしてやろう」
息子「…………」
魔王「動くなと言うのであれば私は動かぬ。どうだ? こう言えば、お前は一層魔物のためとやらで、動く気になるのではないか?」
息子「失礼します……!」



438 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/11(土) 02:55:11 ID:3I2Rr41w

魔王城・どこか─

息子「良かった……」
息子「お前は……どうにか生きていたんだな」
息子「何も食べていないのか。待っていろ。何か持ってきてやる」
息子「お前の親は……ああ……そうか」
息子「分かっているんだな……ああ。そうだ……」


息子「……」
息子「……すまない」
息子「すまない……」
息子「すまない……すまん!」
息子「私が……私が引き合せてしまったばかりに……」
息子「安心しろ……お前は絶対に、私が守る……」



439 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/11(土) 03:02:49 ID:3I2Rr41w

息子(私は……私はどうするべきなんだ……)
息子(もう嫌だ。このような世界、もう嫌だ)
息子(ならばどうする)
息子(何をすればいい。何が出来る。何を……)
息子(分からない)
息子(分かるはずが…………ない)


息子(あいつを殺せば……どうにかなるのか)
息子(あいつは勝手な奴で……酷く癖が強くて……)
息子(その癖腹立たしくも私を……私の事を……友……などと!!)


剣士『でもなあ……お前の事は相棒とか、いっそもう親友だと思ってんだよね』
息子『……そうか。良かったな』
剣士『お前はどう? この頼りがいのある相棒様の事は』
息子『飼育対象』
剣士『うはは! ぶっころー!!』



440 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/11(土) 03:03:12 ID:3I2Rr41w

息子(私は……私は…………!)
息子「あいつのことを……」
息子「友、などと…………思った試しは、一度も無い」
息子「ああ……そうだ」
息子「思えるはずが……なかったんだ」


息子「……やろう」
息子「私の守るべき物……私が捨てるべき物……」
息子「整理はついた」
息子「覚悟もできた」
息子「終わらせる」
息子「……私の手で、全て終わらせる」
息子「悪く思うなよ……これも全て……」
息子「私に流れる、“血”が悪い」
息子「く……くく……」



443 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 00:42:53 ID:v0/.T4zk

剣士「……」
剣士「……ん」
剣士「んだよ……もう朝か……朝ぁ!?」
剣士「おいおい……どんだけ寝てたってーんだ……」
剣士「うおお……腹も減った……動けねえ」
剣士「……動きたくねえ」


剣士「あいつはまだ帰ってねえのかね……」
剣士「……ああもう畜生」
剣士「早く帰って来いよーんでもってどうにかしてくれよー」
剣士「ぐだぐだ考えるのはお前の役割だろうが……」
剣士「はーあ……」



444 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 00:43:37 ID:v0/.T4zk

コンコン

剣士「んあ……? どうぞー」
将軍「失礼します……剣士殿、まだお休みでしたか」
剣士「すまんね。ちっと疲れちまってさ」
将軍「いえ……あのような大仕事の後ですから……」
剣士「はあ……。そうだ、何か用かな? 仕事?」
将軍「……後ほど姫様の部屋までいらして頂けますか」
剣士「あ、ああ。いいけど」


剣士「後片付けとかの仕事はないのか?」
将軍「いえ、粗方片付けてしまいましたので」
剣士「早いなあ。たった一日でか」
将軍「城の者総出で当たっております。壊れた建物の修繕などは、まだですが」
剣士「それで十分だろうよ。さてと……そろそろ生きてみるかねえ」
将軍「は」
剣士「いやまあ独り言。あー、悪いけど姫さんに一っ風呂浴びて何か食ってから行くって言っといてくれ」
将軍「はい……」



445 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 00:49:31 ID:v0/.T4zk

剣士「ところでうちの相棒。まだ帰ってねえの?」
将軍「……見てはおりませんね」
剣士「うはは……将軍さんは本当、あいつのこと嫌いだねえ」
将軍「好き嫌いと言うよりも……いえ、なんでもありません」
剣士「んん? なんかよく分かんねえ濁し方だな」


将軍「……剣士殿にとって、あの方は何なのですか?」
剣士「相棒さ。んでもって大親友」
将軍「お気に障るかもしれませんが……あの方が、剣士殿に相応しい人物であるとは私には到底思えません」
剣士「そりゃ買い被りさ。第一こんなお尋ね者に相応しい奴なんて、いちゃなんねえだろ」



446 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 00:53:13 ID:v0/.T4zk

剣士「んじゃまあ何か食ってくるわ……姫さんによろしくな」
将軍「分かりました……」
剣士「それと相棒見かけたら教えてくれ」
将軍「……はい」
剣士「うはは。悪いね。じゃあ、そういうことで」
将軍「……は」


将軍「はあ……」
将軍「あの方は……」
将軍「……」
将軍「……職務に励むか」



447 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 01:00:00 ID:v0/.T4zk

姫の部屋─

姫「どうぞ」
剣士「どうも」
姫「剣士様。この度は我が城を危機から救って頂き……本当に、感謝いたします」
剣士「いやいや、当然のことをしたまで……って言えたら一番良かったんだがなあ」
姫「……何か?」
剣士「単なる独り言さ」


剣士「で、話ってのはそれだけかい?」
姫「……いえ」
剣士「どうぞどうぞ。城の復旧作業だったり、怪我人のためによく効く薬取って来いだったり。何でもどうぞ」
姫「……何でも」
剣士「ああ。ここまで関わっちまったんだ。大概の仕事なら引き受けるぜ。そういう契約なんだしな」
姫「…………」



448 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 01:33:25 ID:v0/.T4zk

姫「今回襲われたのは……この城だけではなかったようです」
剣士「そりゃまた……」
姫「あちこちの街や城、砦が襲われ、破壊され……多くの人が、亡くなりました」
剣士「酷いねえ……しかし、何でまた」
姫「魔王です」
剣士「お……おう」


剣士「魔王……ねえ」
姫「各地を魔物に襲わせた魔王は、あらゆる国に……人間に対して声明を出しました」
剣士「……何て」
姫「『死がお気に召さないのであれば、せいぜい無駄に足掻くがいい』と」
剣士「うわあ……悪趣味な話だねえ」
姫「……」



449 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 01:34:07 ID:v0/.T4zk

姫「魔物達は立ち向かった者達を、大きく圧倒したと聞きます。それでも……少しの時間暴れるだけでピタリと侵攻をやめ、消えていったと」
剣士「はあ……そりゃまた」
姫「こんなの……! ただ獣が餌を踏み躙って……遊んでいるだけじゃないの!」
剣士「よくあることだろう」
姫「何ですって!?」


剣士「人間だってやるだろ、そんなこと。特別なもんじゃねえよ」
姫「これが!? こんな地獄が!? 貴方はどれだけの人が死んで、どれだけの人が苦しめられ、怯えているのか……知らないからそんなことを」
剣士「要するに、だ。落ち着けって言ってんだよ」
姫「……失礼しました」



452 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 01:41:46 ID:v0/.T4zk

剣士「構いやしないさ。あんたのことだから、他の奴にはそんなとこ見せてねえとは思うしな」
姫「……剣士様になら、良いと?」
剣士「この国の人間じゃねえもの。いくらでも聞くし何でも言ってやるよ?」
姫「全くもう……貴方には敵わないわね。色々と」
剣士「うはは、戦場以外でそんなこと言われんのは中々ねえや」


姫「でも剣士様……私は貴方を、この国の人間として迎え入れたいと思う」
剣士「そりゃ……今までとどう違うんだい?」
姫「正式に。この国の、城の主戦力としての地位を与えましょう」
剣士「……雇われ指南役が大きな進化だねえ」
姫「仕方ないのです……将軍を手放すのは……惜しいから」
剣士「え?」



453 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 01:51:37 ID:v0/.T4zk

剣士「なんかすっげー不穏なこと言わなかった? 今」
姫「隣国から書簡が届きました」
剣士「あ、ああ」
姫「出来る限り多くの国で同盟を組み……戦力を出し合い、魔王を討伐しようと」
剣士「……つまり」
姫「我が国からは、貴方を出します」
剣士「やっぱりねえ」


姫「何でもやってくれるのでしょう? どうせ貴方には」
剣士「……故郷も何も無いだろう、ってか?」
姫「そうよ」
剣士「はー……こりゃまた……思い出すなあ。因果かねえ」
姫「……」



454 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 01:54:18 ID:v0/.T4zk

剣士「あれだよ、昔戦って負けた国。そこのお偉いさんにも同じような事言われたんだわ」
姫「へえ」
剣士「だからこっちの国に来いってさ。命が惜しいんならもう一回鬼になれってさ」
姫「それで貴方は逃げ出した」
剣士「ああそうさ。もう真っ平御免だったんだ。戦争なんてな」
姫「でも! 今は違うわ!!」


姫「貴方の力はもうあらゆる国に知れ渡っている! 竜をたった一人で殺めた英雄だって!!」
剣士「人斬りの次は、魔物斬りの英雄か……」
姫「貴方がいたから城の被害は最小限で済んだのよ! だから! きっと貴方なら」
剣士「魔王を倒せるって?」
姫「そうじゃないといけないのよ!!」



457 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 02:24:37 ID:v0/.T4zk

姫「貴方は鬼でも英雄でもない……勇者であるべき人なのよ!!」
剣士「あんたはあれだ、お伽噺の読み過ぎだよ。剣の腕だけで世界なんてでっけー物が救えるもんか」
姫「じゃあ! じゃあどうすれば救えると言うの!? 私達はどうすればいいのよ!!」
剣士「さあね。単なる鬼には、分かるはずもねえ」
姫「くっ……守るべきものの無い貴方には分からないかもしれない……!」
剣士「……」


姫「でも私は……! 国を守らなければならないのよ!! そのためならなんだってするわ! 貴方にしてもらう!!」
剣士「……」
姫「貴方なら! 貴方の強さならきっと出来るわ! 国一つ救えなかったからといって人の存亡に比べればそんな小事」
剣士「やめてくれ!!」
姫「……ごめんなさい。言い過ぎたわ」
剣士「おっと悪い……悪いな。こっちも怒鳴っちまったから、お相子だわ」



458 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 02:25:00 ID:v0/.T4zk

剣士「しかし守りたいものか……そうだよな、そういう戦いもあるんだよな。忘れてたよ」
姫「え」
剣士「昔は国とか家族とか、そんなもん守るために戦ってたのになあ。すっかり忘れてたわ。うはは……うん、そうだよなあ」
姫「……どうかしたの?」
剣士「思い出したんだよ。守る戦いってのは、中々いいもんだってな」
姫「え?」


剣士「だからやるよ。やってやる。あんたの思うようにこの命、使ってくれればいい」
姫「!?」
剣士「死ぬ気で……いんや。死んでもあんたの言う、勇者になってやるさ。出来る限りだがな」
姫「……どうして、急に」
剣士「こんな人殺しでもさ、守りたいものは……一応あるんだ」
姫「そう……」



459 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 02:26:51 ID:v0/.T4zk

姫「剣士様」
剣士「ああ?」
姫「ありがとう」
剣士「そりゃ気が早いってもんだ」
姫「ふふ……貴方ってやっぱり、おかしな人」
剣士「うはは、それはよく言われる」


剣士「ふう……」
剣士「いや、待て待て」
剣士「何で安請け合いしちゃったんだろ……どう考えたって“詰み”だろ」
剣士「あーあー……馬鹿もここまで来るとほんと、我ながら……ねえ」
剣士「ま、仕方ないか。なるようになんだろ」


息子「何の話だ?」
剣士「!?」



461 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 02:28:24 ID:v0/.T4zk

息子「よう」
剣士「……」
息子「何だその顔は。まるで死者にでも会ったかのような不景気な面をしおって」
剣士「……お帰り」
息子「ああ。今戻った。大変だったそうだな」
剣士「今も大変なんだよ」
息子「ほう」


剣士「何かさー、成り行きで魔王退治にマジで行くことになっちまったんだわ」
息子「……はあ?」
剣士「いや! なんかこう、売り言葉に買い言葉ってやつでさ」
息子「意味が分からん」
剣士「元を断つって安易な考えに、下は振りまわされるわけですよ」
息子「なるほどな」
剣士「え、マジか。これで納得すんのかお前」



462 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 02:29:22 ID:v0/.T4zk

息子「で、どうするのだ。逃げるのか?」
剣士「いんや。仕方ねえし、付き合ってやろうかと思ってな」
息子「ほう」
剣士「というわけだから、お前は逃げていいぜ?」
息子「……どういうわけだ」
剣士「なんでこれには納得しないんだ」


剣士「依頼が来たのも、了承したのも、覚悟したのもお前じゃねえだろ?」
息子「まあな」
剣士「姫さんはお前を説得してくれって頼んできたけどさ。お前にゃそんな義理もねえしな」
息子「当然だな。私はお前のオマケでここにいるだけだ」
剣士「だからさ、お前は無理に付き合うこたねえだろ」
息子「まあ、それもそうだろうな」



463 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 02:32:39 ID:v0/.T4zk

剣士「っつーわけで逃げ……何で殴った今」
息子「お前がまた、意味の分からんことを言うからだ」
剣士「だったら口でどうこうしろや! 何が意味分かんねえか言え!!」
息子「何故私が逃げる必要がある」
剣士「はあ?」


剣士「お前聞いてなかったのかよ。魔王を相手に戦争しに行くんだぜ? どう考えたって参加したくはねえだろうが」
息子「以前言っただろう。私はどこまでも、お前に協力してやると。お前の剣に、盾になってやるのだと」
剣士「……死ぬかも知れねえんだぞ」
息子「何。どうせ、ただでさえ使い道の限られた命だ。どう使おうと私の勝手だ」
剣士「うはは……とんだ馬鹿野郎がいたもんだよ」
息子「貴様にだけは言われたくないな」



464 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 02:38:55 ID:v0/.T4zk

剣士「んじゃまあ……いっちょ頑張りますか。相棒」
息子「ああ」
剣士「そういえばお前、何か忘れてるもんあるだろ」
息子「は?」
剣士「土産だ土産! 期待してろって言ってただろ!!」
息子「ああ。忘れた」
剣士「マジかよ!!」


剣士「てめぇあっさりと片付けやがって……」
息子「まあ待て。何故剣を抜く必要が。また今度何か与えてやろう」
剣士「今度こそマジだろうな」
息子「ああ。全て落ち着いた、その後にな」
剣士「うはは! そりゃまたやる気が湧くお言葉だね! んじゃまあ更に期待してんぜ!」
息子「ふん。勝手にしていろ」



465 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 02:59:20 ID:v0/.T4zk

十数日後─

剣士「っつーわけだって」
息子「……ほう」
剣士「どう思う?」
息子「勿論……馬鹿にされているとしか」
剣士「ですよねー」


息子「なるほどな。同盟は建前の部分も多いと言うことか」
剣士「そりゃまあ……今回のことで、どこの国の民も皆不安だろうしな」
息子「だからといって、竜一匹仕留めた程度のお前が、どうして抜擢されるのやら」
剣士「どこもかしこもここよりかなりの被害受けてんだ。無傷に等しいこの国が、とりあえずはまず頑張れって話なんだろ」
息子「見事なまでに貧乏くじを引かされたな」
剣士「全くだわ」



466 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 02:59:55 ID:v0/.T4zk

剣士「でもさあ……あのチビどうなったんだろ」
息子「……お前の斬った竜の、子供か」
剣士「そう言われると罪悪感あるんだけど……事実だけど」
息子「棲んでいた洞窟はもぬけの殻だという話だったな」
剣士「ああ。チビだけでも……生きててくれるといいなあ」
息子「偽善だな」
剣士「無いよりマシだ」


息子「しかしその竜……わざとお前に殺されに来た、だったか?」
剣士「そうなんだよー。どういうことなんだろうね。本当あからさまだったよ」
息子「……他の奴にはこの話、したのか?」
剣士「するわけねえじゃん。こんな話信じてもらえるかよ」
息子「私は信じると、一言も言っていないのだが」
剣士「お前はいいの。単なる吐き出し先だから」
息子「はっ、そうか」



467 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 03:19:47 ID:v0/.T4zk

息子「まあ、気にするだけ無駄だろう。その竜は死んだ。確かめる術は無い」
剣士「そうなんだよなあ。ちっとばかし残念」
息子「お前はもっと、気に掛けるべき事があるだろうに」
剣士「これからの無茶振りへの備え方?」
息子「心の準備とも言うな」
剣士「うはは……全くだ」


剣士「んでも中々出来る事じゃないと思うのよ」
息子「する機会がないだけでは」
剣士「いいじゃねえか。いっちょまあ観光するくらいの気分でさ、魔王城の監視ってありがたい任務に就こうぜ相棒」
息子「気楽な旅だな。暇潰しに書物でも持っていくか」
剣士「じゃあ酒買い込んで……ってのも捨てがたくね?」
息子「……良いかもしれん」
剣士「だろー?」



470 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 22:19:02 ID:v0/.T4zk

コンコン

剣士「へーい」
将軍「失礼し……ます」
息子「……」
剣士「うはは。何か用っすか?」
将軍「お二人を、姫様がお呼びです」
剣士「へーい」


剣士「死地へ飛ばされる日程が決まったとか?」
将軍「……そのようです」
剣士「うはー楽しみ。なあ相棒」
息子「全くだ」
将軍「……」



471 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 22:19:32 ID:v0/.T4zk

将軍「しかし……剣士殿に任されるのは、後任が決まるまでの数日間……その後は城に戻って頂き、連合軍の中心として」
剣士「わーってるって。ま、ちょっとの間観光気分で行ってきますよ」
息子「案外早々と現地にて、魔物に悔い殺されたりしてな」
剣士「お前なあ……せめて真顔はやめろや」
将軍「……貴方は、どうして……」


将軍「私は……剣士殿のお連れ様だからといって、貴方を認めているわけではない」
息子「そうだろな。構いはしないが」
将軍「そのようなことで、剣士殿の右腕などという大役が、務まるものか」
息子「何を勘違いしているかは知らぬが、こいつが私の手下をしているんだ。全て貴殿に口出しされる筋合いはない」
剣士「待て待て。よくわかんねー喧嘩はよそでやってくれ」



472 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 22:19:50 ID:v0/.T4zk

剣士「ほんと、この間からあからさまに仲悪いよなー二人とも」
将軍「男には……譲れない物があるのですよ」
剣士「そんなもんなのかねー。分かんねえや」
息子「お前は分からずとも構わぬだろう」
剣士「まあ、そうかもしんねえわなあ。お前も何、譲れない何かがあるの?」
息子「さあな」


将軍「……姫様が、お呼びです」
剣士「あ、そうだったな。んじゃまあ行きますか」
息子「ああ。せいぜい、気楽にいこう」
剣士「わーってるって」
将軍「……」



473 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 22:20:07 ID:v0/.T4zk

姫の部屋

姫「剣士様……と、お連れ様」
剣士「よう」
息子「なんだ、その顔は」
姫「私、てっきり貴方は知らん顔して逃げてしまうものだとばかり思っていましたから……」
息子「こうして顔を付き合わせているのが不思議だと?」
姫「ええ」


姫「案外……熱い方だったのですねえ」
息子「さあな。で、話というのは何だ」
姫「……貴方達に、魔王城の監視をしばらくの間命じます」
剣士「はいはい。そりゃ分かって」
姫「明日から」
剣士「そりゃまた急だな!」
息子「ほう」



474 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 22:22:15 ID:v0/.T4zk

息子「他国から急かされでもしたか?」
姫「そりゃもう、随分と。書状も使者も多く送られていますのよ?」
剣士「へー、そりゃまた。どこもかしこも大変だねえ」
姫「それに我が国の民も、剣士様には期待を寄せているようですし」
剣士「おお……なんつーかむず痒いな」
姫「まあ、ポーズというやつですわ。それほど気負わずにいて下さいまし」


姫「でも……剣士様が竜を討ったのと同様、魔王をこのまま討ち滅ぼしてくれるのだと。そうした期待の声が大きいようですけど」
剣士「話がいきなり大きくなってんだけど……」
姫「あら、私は何もしていませんわよ。勝手に流れ、広まった噂のようなものですわね」
剣士「迷惑なー」
息子「……良かったではないか」
剣士「何がだそこで笑い転げているバカ野郎め」



475 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 22:22:37 ID:v0/.T4zk

息子「それだけ貴様には期待がかかっているということだ。人民を落胆させぬためにも、しばらくはそれらしく、気張って生きろ」
剣士「えー……そりゃまた複雑な。具体的にはどうしろってんだ」
息子「少なくとも、そのような粗野な口はどうにかせねばなるまいて」
剣士「無理。だったらお前が代わりに喋れ」
姫「それは良い考えかもしれませんわねえ」


姫「お連れ様には、剣士様のイメージアップでもお任せしようかしら」
息子「また、難儀な仕事を押しつけられるとはな」
剣士「ってか何だよ! これじゃあダメだってのか!!」
息子「お前のどこに誉められる要素があるというのだ」
姫「悪くはないとは思いますけれども……剣士様の場合、喋らない方がもっと良いですわねえ」
剣士「くそ! こいつらやっぱり性格わりぃ……!!」



476 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 22:22:58 ID:v0/.T4zk

剣士「まあ……とりあえず用意するわ。行くぜ相棒」
息子「ああ」
姫「でしたら、剣士様は少し残っていただけますか?」
剣士「お?」
姫「少しお話がありますから」
息子「……では、私は先に行く」
剣士「お、おう。分かった」


剣士「話って?」
姫「貴方にお礼と……ごめんなさいが言いたくて」
剣士「もういいさ。利害はお互い一致しただろ?」
姫「……私は国を守りたくて、貴方は」
剣士「今を守りたい。そのために、お互い利用し合うって話だ」
姫「それでも……ありがとう」
剣士「こちらこそ、だ」



477 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 22:23:21 ID:v0/.T4zk

姫「いつ終わるかも分からない、辛い戦争になると思うけど……貴方達の戻る場所は、残しておくからね」
剣士「よろしく頼むよ。それまで将軍さんと、この国を守っておいてくれよ」
姫「ええ。頑張るわ。貴方も頑張るんですもの。負けていられない」
剣士「うはは、その意気だよ」
姫「ふふ……」


姫「私ね、貴方のこと結構好きよ。貴方は?」
剣士「多分同じ気持ちだと思うよ」
姫「良かった。ずっと、同じでいましょうね」
剣士「ああ。ずっと同じ。約束するよ」
姫「ちゃあんと戻ってくるのよ。死んだら許さないんだから。いいわね?」
剣士「うわあキツいなあ。こりゃますます死ねないね」
姫「……あはは」
剣士「はは」



478 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 22:28:51 ID:v0/.T4zk

姫「ねえ、終わったら何か欲しいものはあるの? 私にできる限りで用意させてもらうわよ」
剣士「んー、そうだねえ。家族かな」
姫「あら、お相手はどこのどちら様かしら?」
剣士「分かってる癖にー。言わせんなよ恥ずかしい」
姫「ええ、そうでしょうともね」


姫「でも、口説き落とすのは難しいと思うわよ? それでも?」
剣士「なぁに、時間をかけてゆっくり落とすさ。どうすりゃいいか、今はまだ模索中だしな」
姫「貴方って随分と情熱的な方だったのね。意外だわ」
剣士「うはは。たまにはいいだろ、こういうのも」
姫「そうね。でもこれだけは言えるわ」
剣士「ん?」



479 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 22:34:23 ID:v0/.T4zk

姫「貴方に愛されるその人は……世界一の幸せものだと思うわ」
剣士「……そう言って貰えて嬉しいよ」
姫「家族を作りたいって言うのなら、私は協力を惜しまないわよ」
剣士「ありがとう。じゃあ、行ってくるよ」
姫「気をつけて……生きてね」
剣士「……分かってるって」


部屋の外

息子「……」
息子「はぁ……」
息子「……悪いな」
息子「お前のその願い……叶えてやれそうにもない」
息子「悪く思うなよ」



482 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 23:25:10 ID:v0/.T4zk

将軍「……」
息子「む」
将軍「どうも」
息子「……ああ」


将軍「剣士殿は」
息子「中だ。姫君と話をしている」
将軍「そうですか。では……後ほどにしましょうか」
息子「あれに何か用だろうか」
将軍「ええ。ですが貴方には関係の無いことです」
息子「果たしてそうかな?」
将軍「……」



483 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/12(日) 23:52:20 ID:v0/.T4zk

息子「まあ、どうでもいい。勝手にあれを捕まえてくれ」
将軍「そうさせてもらますよ」
息子「では、失礼する。私は発つ準備をしなければならぬのでな」
将軍「ご苦労様です。ですが」
息子「何だ」
将軍「私のこの立場と、姫様の命が無ければ……私が貴方の代わりに付いたというのに」
息子「はっ」


息子「貴殿が何を思い、何を願っているのかは知らぬ」
将軍「……」
息子「だがな、あれは私が好きにする。そういう約束なんだ」
将軍「どうして……剣士殿は貴方などを」
息子「さあな。後で本人にでも聞けばいい」
将軍「……失礼する」
息子「ああ」



485 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/13(月) 00:18:17 ID:sA5BprYI

息子の部屋─

剣士「ちーっす」
息子「ノックくらいしろ」
剣士「いいじゃねえか別に。用意どうよ」
息子「見ての通り、今整理している。そう言うお前はどうなんだ」
剣士「だって持ち物なんか元々そんな持ってねえし」
息子「それもそうだな」


剣士「あ、さっき将軍さんと会ってさ」
息子「……何を話した」
剣士「いや? 頑張って下さいとか、そんな当たり障りの無い話を」
息子「ほう」
剣士「しっかしあの人、お前のことほんと嫌ってるんだなあ」
息子「む」
剣士「いやー、お前の代わりに付いていきたいって言われたんだわ」
息子「……」



486 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/13(月) 00:27:16 ID:sA5BprYI

息子「で、お前はそれに対してどう答えたんだ」
剣士「いや、『相棒は中々ああ見えてやる奴ですよ』って」
息子「……そうか」
剣士「あの人は真面目だねえ。こういう危機にゃいてもたってもいれないって感じったなあ」
息子「そうかそうか。それは良かった」
剣士「……何でお前が上機嫌になるんだ?」


息子「何、お前は使いやすいなと思っただけだ」
剣士「どういう意味だ」
息子「知らずとも良い。それよりその辺りの物には触れるなよ。お前が触ると散らかるばかりだろうからな」
剣士「言われなくても荷作りの手伝いなんてしねーよ。単に暇だから邪魔しに来ただけだ」
息子「いいから消えろ」



487 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/13(月) 00:39:19 ID:sA5BprYI

剣士「あ、そういえば酒とか、姫さんに色々リクエストして来たからな」
息子「助かるが……渋い顔はしなかったのか?」
剣士「いんや。むしろ食い物とかも大量に持たせてくれるってさ」
息子「素晴らしい待遇だな」
剣士「行かされる先を考えなきゃな!」
息子「全くだ」


剣士「まあでも案外過ごしやすい、良い環境かもしんねえし」
息子「それは……保障出来ぬとだけ言っておくか」
剣士「え、何。お前魔王城付近行ったことあんの? 秘境ってか魔境だぞ、あの辺り」
息子「あ、ああいや……書で読んだことがあってな」
剣士「なぁんだ」
息子「……」



488 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/13(月) 00:52:13 ID:sA5BprYI

剣士「で、兵士は十人くらい付けてくれるって」
息子「何よりだ。まあ、いわゆる有象無象といった所であろうがな」
剣士「そう言ってやるなよー。野営は大勢でした方が楽しいだろ」
息子「何の要因だと思っているのだお前は」
剣士「炊事洗濯その他!」
息子「……」


剣士「まあ何だか色々ありそうだが、よろしくな! 相棒!」
息子「ああ……よろしくな。相棒」
剣士「ところで何だそのでっけー箱。そんなの前置いて」
息子「この場で斬り捨てられたくなければ、見なかったことにするんだな……」
剣士「相棒って言った矢先にこれだもんな……」



489 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/13(月) 01:04:27 ID:sA5BprYI

次の日─

剣士「うわあ」
息子「ふむ」
姫「どうでしょうか」
剣士「いや、うーん」
姫「兵はこの通り、将軍直々に選出いたしました。そして物資はこれほどで」
剣士「う、うん」
姫「あら、これでは足りませんか?」
剣士「い、いや全然! むしろ言いたいのはだな! えっと!」


息子「これはまた盛大な、見送りだな」
剣士「そうそれ! それだ!」
姫「国を上げてお見送りして当然でしょう? 城の者には全員集まってもらいました」
剣士「……城下町の方からすっげー歓声が聞こえるんだけど」
姫「この街の領土を出るまで、お見送りの列が続くとお思い下さいね」
剣士「マジかよ……」
姫「ええ。マジです」



490 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/13(月) 01:14:49 ID:sA5BprYI

剣士「あーうん……有難いけど、かったるいなあ」
息子「おお花火」
姫「キレイですわねー」
剣士「聞いちゃいねえ」
将軍「……申し訳ありません剣士殿」
剣士「へ」


将軍「貴方はこのようなことを好まないだろうと、姫様に進言したのですが……」
姫「あら、剣士様は私の勇者様ですのよ。こうした待遇は当然でしょう」
剣士「本人が嫌がっても?」
姫「勿論!」
剣士「まったくもーお前は本当に……いやもういいや。ありがとよ」
姫「ふふ……いえいえ」



491 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/13(月) 01:20:44 ID:sA5BprYI

剣士「んじゃまあ……行ってくるわ」
姫「無理をしないで、ちゃんと帰って来るのよ。貴方にはまだ大任が残されているんだから」
剣士「わーってるって」
将軍「どうか、お気を付けて……」
剣士「そんな今生の別れみたいに。一応数日様子見に行くってだけなんだから、んな顔しないでくれよ」
将軍「……はい」


姫「お連れ様」
息子「何だ」
姫「どうか……剣士様をよろしくお願いしますね」
息子「……ああ」
将軍「……」
剣士「よっしゃ行くぞー!」
息子「行くか」



492 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/13(月) 01:27:51 ID:sA5BprYI

将軍「姫様……」
姫「なぁに?」
将軍「これで、良かったのでしょうか」
姫「……良いのよ。彼らがちゃんと戻ってくれば、良かったことになるのよ」
将軍「……はい」


姫「さてと、仕事は山積みよ。会議とか物資、人員の調達とか、色々とね」
将軍「忙しくなりますね」
姫「彼らも頑張るのですもの。残った私達は、その倍以上奮闘しなきゃ釣り合わない」
将軍「……ご無事の帰還を祈りましょう」
姫「ええ、誰も欠ける事の無いように……。ところで将軍」
将軍「はい、何でしょうか?」
姫「どうやら残念に終わったみたいね」
将軍「……何故知っておられるのですか」
姫「ふふ。秘密よ!」



493 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/13(月) 01:49:42 ID:sA5BprYI

数日後─

剣士「ふぁあ。よーっす、おはよ」
兵「け、剣士様! お早うございます!!」
剣士「ご苦労さん。見張り代わるよ」
兵「は!? い、いえ! 交代の時間にはまだなっておりませんので」
剣士「いいっていいって、遠慮すんなよ。休んで来い」
兵「よ、よろしいのですか?」
剣士「おう。ここの責任者が良いって言ってんだ。行きな」
兵「ありがとうございます! では、失礼します!!」
剣士「はいよー。ゆっくりな」


剣士「ふう……」
剣士「どうもこの、上司面ってのには一向に慣れねえもんだなあ」
剣士「昔と状況が変わらねえってのが余計にね」
剣士「はーあ……疲れるような、そうでもないような」
剣士「あれだね、昔とちーっとばかし状況が違うからかな」
剣士「うんうん。良い事かも知れないねえ」



494 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/13(月) 01:59:56 ID:sA5BprYI

息子「何をぶつくさ言っている……」
剣士「よーっす相棒」
息子「お前はこんな場所でも、相変わらずのようだな」
剣士「そりゃまあ、こんな所だからこそ気楽にいかねえとな」
息子「ほら。酒でも飲もう」
剣士「何だ、珍しく気が利くじゃねえか」


剣士「しっかし、すげーねえ」
息子「城か」
剣士「ああ。こんだけ離れてるのに、すっげー嫌な感じがびんびん伝わって来るというか、辛気臭ぇというか」
息子「それはそうだろう。魔王や、その手下の魔物が大勢棲んでいるんだぞ」
剣士「住んでる奴の顔が見てみたいね!」
息子「……悪かったな」
剣士「あ? 何か言ったか?」
息子「何も」



495 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/13(月) 02:32:38 ID:sA5BprYI

剣士「はー、温まるねえ」
息子「年寄り臭いな」
剣士「てめぇにゃ言われたくねえよ。しかし、案外平和なもんだね」
息子「まあな」
剣士「もっとこー、毎日魔物がやって来て斬っても斬ってもキリがない感じを想像してたんだけどさ」
息子「ここに来てもう三日。一度もそんな試しは無いな」


剣士「うーん、気付かれてないとか?」
息子「さあな。無視されているだけかも知れぬぞ」
剣士「そっちの方が都合はいいだろー。無駄な争いはなるべく避けなくっちゃな」
息子「ふむ。案外お前も慎重な時があるのだな」
剣士「じゃないと生き残れませんぜー、こんな所じゃ」
息子「まあ、そうかも知れぬが」



496 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/13(月) 02:32:55 ID:sA5BprYI

剣士「それにさー……この前のあれでさ、あんまり魔物とかも斬りたくないのよね、出来る限り」
息子「……随分とふぬけたことを言うな」
剣士「まあ、自分でも仰る通りだと思いますが。出来るだけ血を流さないで……って段階なんて、元々無いってのも分かってるし」
息子「その通りだ。人の世の被害を聞いただろう。最早血は流れてしまった」
剣士「それでもさ……何かこんなの嫌じゃん」
息子「先程から発言が曖昧すぎるぞ、お前」


息子「好き好んで殺し合いなどに興じる者は、どんな生き物であれきっと少数派だ」
剣士「だったら何なんだよこの状況は」
息子「その少数派のせいか……もしくは生きるため、信念だな」
剣士「はあ。そういうもん……だよなあ」
息子「珍しく納得するとは」
剣士「いやまあ、信念とまではいかないけどさ、一応そんな感じの理由でここにいるわけですし」
息子「……うむ」



504 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/13(月) 22:54:24 ID:sA5BprYI

息子「一応聞いておくか。お前の信念とは?」
剣士「んー? まだ言わねえ」
息子「『まだ』とは随分とおかしなことを言うな。この段階で言えぬような信念とは一体何なのだ」
剣士「だから言わねえって。全部終わったら教えてやるよ」
息子「勿体ぶるような物なのか……?」
剣士「いいじゃねえか。今は一人で楽しんでる段階なの」
息子「はあ」


剣士「まずこういうのはな、言わぬが花なんだ。寡黙に全てを終わらせて、後でぱーっと発散させる。どうだ楽しそうだろ?」
息子「熱でもあるのか」
剣士「ねぇよ!」
息子「ふむ……真面目なだけのお前は何と言うか……」
剣士「うはは、カッコいい?」
息子「気色悪いので、早急に死んでもらいたいな」
剣士「もうやだこいつ」



505 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/13(月) 22:54:39 ID:sA5BprYI

剣士「そう言うお前は何でここにいるんだよ」
息子「お前に付き合うと決めたからだ」
剣士「だから、そりゃどうしてだ」
息子「以前言ったな。お前自信で考えろと」
剣士「う……確かにお前言ったけどさあ」
息子「答えはどうだ、見つかったか?」
剣士「……」


剣士「こ、これも終わってからでいいや」
息子「面倒な奴め」
剣士「お前にだけは絶対に言われたくねえわ」
息子「ひょっとするとお互い様か」
剣士「うはは、かも知れねえわなあ」



506 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/13(月) 23:00:51 ID:sA5BprYI

剣士「でもさ、お前とは妙にウマが合って……結構楽しかったぜ」
息子「やめろ」
剣士「え」
息子「その口ぶりでは、まるで死ぬみたいではないか。やめておけ」
剣士「え、あ……ああ。じゃあ……すっげー楽しいよ」
息子「そうか」
剣士「お前は……って、これは別にいいか。分かるし!」
息子「ふん。言っておけ」


剣士「まあ、後ちょっとで戻るもんなあ。まだまだ始まったばかりなんだし、気を引き締めていかねえと」
息子「……そうだな」
剣士「帰ったらどこでまず飯食うか、今のうちに決めとこうぜ」
息子「無意味だと思うぞ」
剣士「何でだよ」
息子「あれだけの歓送を受けた後に帰還して、落ち着いて街で飯が食えると思うか?」
剣士「ぐっ……!」



507 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/13(月) 23:01:06 ID:sA5BprYI

剣士「い、いやでも……変装すりゃ何とか!」
息子「そこまで手間を掛けて飯が食いたいか」
剣士「ちぇー……まあいいや。お前とこうして酒が飲めりゃ妥協点だわ」
息子「……飲め」
剣士「お、ありがとう」
息子「……」


息子「では……少し辺りの様子を見てくる」
剣士「あれ、まだそんな時間じゃねえだろ。もっと飲もうぜ」
息子「いや、早い方が良い」
剣士「そうかあ?まあ何もないと思うし、ぱっと見てぱっと帰って来いよな」
息子「……行くからな」
剣士「あ?行ってらっしゃーい」



508 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/13(月) 23:01:55 ID:sA5BprYI

息子「……」
息子「……」
息子「……」
息子「……すまない」


魔王城―

魔物「よう。お帰り」
息子「帰ってはいたのだがな」
魔物「目と鼻の先にな。言われた通り、城はもぬけの殻にしてあるぜ」
息子「あれに関する人民の期待を、過剰に煽ってくれもしたな。感謝する」
魔物「いやー時勢がこれだし案外簡単なもんだったぜ? そんなに苦労はしちゃいねえよ」
息子「しかし魔物達にはすまない事をした」
魔物「なぁに、皆魔王様の側から離れられて、ちょっとは気持ちが晴れるだろうよ」
息子「皆父上を何だと思っているのやら」
魔王「『魔王様』だろ」
息子「確かに」



509 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/13(月) 23:02:12 ID:sA5BprYI

息子「つまり、この城にいるのは」
魔物「魔王様と俺とお前だけ。竜の子供は気の良い奴が一緒に連れてってくれたみたいだから心配すんな」
息子「そうか……」
魔物「なあ……一応確認しとくんだが」
息子「何だ」
魔物「本当にやるのか?」
息子「ああ」


魔物「あっちにゃバレてねえだろうな?」
息子「勿論だとも。何も案ずることはない」
魔物「いざって時に躊躇は?」
息子「せぬ。もう決めたことだ」
魔物「じゃあ最後。お前は本当に、それでいいのか?」
息子「……ああ」



510 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/13(月) 23:06:07 ID:sA5BprYI

息子「決めたんだ。こうするのが、一番良い……」
魔物「分かった」
息子「だからお前は……どうした、急に跪いて」
魔物「私は貴方に、一生の忠誠を誓います」
息子「……」
魔物「この命ある限り、貴方の世に尽力します」
息子「……すまない」
魔物「えらい片棒を担ぐんだ。もうお前と生きるも死ぬも一緒だわ」
息子「ああ……」


息子「それでは……手筈通りに頼む」
魔物「分かった分かった」
息子「手荒な真似はするなよ」
魔物「了解……と言いたいとこだが、あれが素直に従うタマかなあ」
息子「私はそうだと信じている」
魔物「じゃあ俺もそうするわ」



511 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/13(月) 23:06:37 ID:sA5BprYI

息子「よろしく頼む」
魔物「頼まれた」
息子「……巻き込まれてくれて、礼を言う」
魔物「巻き込んでくれてありがとよ」
息子「行って……くれ」
魔物「おう」


剣士「ったく……あのバカ」
剣士「遅すぎんだろ、どこまで見回ってんだマジで」
剣士「こりゃどっかで足でも挫いて動けなくなってやがるとかか……?あいつ治癒系の魔法は使えないって言ってたし」
剣士「世話の焼ける奴だよほんと」
剣士「兵達だって心配してんだ。早く連れて帰らねえと……飯にありつけねえ」
剣士「……」



512 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/13(月) 23:10:51 ID:sA5BprYI

剣士「おーい! どこだ!? どこにいる!?」
剣士「下らねえかくれんぼなんてやめろ! 早く出て来いよ!」
剣士「聞こえたら返事しろってんだ! バカ野郎!!」
剣士「おいおいこりゃ……まさか」
剣士「いやいや! あいつに限ってそんなこたねえよ! ありえねえ!」
剣士「……ったく……冗談キツいぜ」


剣士「なあ、そこのお前もそうは思わん?」
魔物「……何だ、やっぱりバレてたか。相変わらず野生だねえ」
剣士「へ? 『相変わらず』?」
魔物「……は?」
剣士「もしかして……」



513 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/13(月) 23:11:35 ID:sA5BprYI

剣士「前に会ったことある?」
魔物「そこからかよ!」
剣士「いや待て思い出すから。えーっとえーっと……ありゃ?」
魔物「心当たりすらねえのかよ!?」
剣士「い、いや……その、ヒント!」
魔物「まどろっこしいわ! この前山でお前に負けて逃げた魔物だよ!!」
剣士「……ああ! そういやそんなこともあった! 気がするぞ!」
魔物「実感が薄いようだなあ……! 本当は全然覚えてねえだろてめえ!」


剣士「いや……戦ったのはうっすら覚えちゃいるんだけど……顔とか覚えられるほど長くやり合ってないし」
魔物「ぐっ……人間風情が虚仮にしやがって……!」
剣士「その台詞はますます雑魚っぽいぞ。でもまあ悪いことしたなあ。ごめん」
魔物「頭を下げるんじゃねえよ! ぐああ腹立つこいつぶっ殺してぇ……!!」
剣士「やるってんなら相手になってやりたいけど……生憎ちょっと野暮用が」
魔物「あの、渋い顔した男のことか?」
剣士「……」



515 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/13(月) 23:40:55 ID:sA5BprYI

剣士「あいつを……どうしやがった」
魔物「ここは俺達の土地だぜ。勝手に入って来た人間なんざ」
剣士「殺したのか!?」
魔物「いんや。捕まえた。一応生きてるさ」
剣士「……どこにいる」
魔物「城で丁重におもてなし中」
剣士「ちっ……あのバカ」


魔物「つーわけだ。ご同行願いましょうか。剣士様?」
剣士「あれか、仲間の命が惜しければ一人で来いってやつだな」
魔物「そういうこと。理解が早くて助かるわ」
剣士「ここでお前をたたっ斬ったら、どうなる?」
魔物「連れとは二度と会えなくなるんじゃね?」
剣士「ああ、うん。分かりやすいわあ」



516 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/13(月) 23:59:18 ID:sA5BprYI

剣士「はいはい、分かりましたよ。行きゃいいんだろ行きゃ」
魔物「へえ。あんた血の気が多い割に案外素直なんだなあ。ひと暴れされるかもと思っていたんだが」
剣士「ここで暴れたって意味ねえだろうが。ほれ、早く案内してくれや」
魔物「おう。城までのんびり散歩と行こうじゃねえか」
剣士「わあいワクワクするー」


剣士「なあなあ」
魔物「……散歩たぁ言ったが、何でてめえはこの状況でそんな軽く話しかけて来れるんだ?」
剣士「いや、大して意味はねえよ。お前の名前を聞いておこうと思ってさ」
魔物「はあ?」
剣士「だって次会った時忘れてたら可哀想だからな!」
魔物「安心しろ! 二度とてめえとは会わねえ!! 会いたくねえ!!」



517 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 00:28:18 ID:Jvz0OgN2

剣士「じゃあ次会った時に教えてくれるか?」
魔物「話を聞けよ!!」
剣士「決定ー。んじゃまあよろしくな! えーっと、なんかとりあえず弱い魔物!」
魔物「ぐぁああああ……落ち付け俺!!」
剣士「あれ、どうした。大丈夫か?」
魔物「余計なお世話だ! ってかお前……本当に、次があるなんて思っていやがるのか?」
剣士「ああ。勿論だ」


剣士「だってまだ死ねねえもの。とっととあいつ回収して、さっさとおさらばするさ」
魔物「大した……自信だな。だが城には魔王様だっているんだぜ? 逃げられるわけがねえだろ」
剣士「うはは。最悪相棒だけでも逃がすさ」
魔物「で、てめえ自身死ぬ気か? どうしてそこまで出来る?」
剣士「さあねえ。何ででしょう」
魔物「ちっ……面倒な奴」
剣士「うはは。相棒にも言われるぜ」
魔物「……」



518 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 00:44:16 ID:Jvz0OgN2

魔物「なんつーか……ちょっと分かる気がするわあ」
剣士「ああ? 何がだよ」
魔物「こっちの話だ。それより着いたぞ」
剣士「いやまあ見りゃわかるけど。何、正門から入っていいの?」
魔物「ああ。んで、真っ直ぐ行って、階段昇ってずっと奥の部屋だ」
剣士「んな適当な」
魔物「俺の役目はここで終わりなんでね。さっさと行けよ」
剣士「わーったよ。案内ありがとなー。じゃあなー」
魔物「……はあ?」


魔物「やーっぱ変な奴だったなあ……」
魔物「いやまあ……だからこそ、この計画なんだろうが。納得は出来た」
魔物「でも……こんな展開じゃあ、あいつが報われなさすぎんだろ」
魔物「仕方ないってのは分かるけどよ」
魔物「さあて……俺はお呼びがあるまで、ぼんやり休憩してますか」



520 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 00:58:13 ID:Jvz0OgN2

魔王城─

剣士「うっへー……辛気臭ぇ……カビ臭ぇ……薄暗い……」
剣士「何でこんなとこ住んでられるのかねえ。魔物ってのは。健康に悪いだろうが」
剣士「いや……でもコウモリとか虫とかはこんな環境好きだよな? なるほど。ああいう生態か。納得」
剣士「……ってか全っ然、何の気配もしねえのな……今は何も住んでねえのか?」
剣士「ああうん……魔王がいるのね……そりゃさすがにシャレになんねえわ」


剣士「全く。いきなり大本命とは運がないねえ」
剣士「いやでもこっから手に汗握る逃亡劇があって、後々の意趣返しに伏線を……だよな」
剣士「うん……死ねるかよ」
剣士「まだ……まだ死ねるか。死ぬわけにゃいかねえんだ。死なせるもんか。絶対に」
剣士「あいつがいなきゃ……意味ねえんだよ」
剣士「さてと……ここかね? 絶対罠だけど……行くしかねえもんなあ……」



522 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 01:22:37 ID:Jvz0OgN2

ギィッ……

剣士「…………!?」
剣士「大丈夫か! お前!!」
剣士「き、傷はねえようだが……おいこら目を覚ませって!!」
剣士「おいってば! 相棒!!」
剣士「頼む……頼むから……目を……!!」


息子「……む」
剣士「あ、あ」
息子「何だ……騒がしい」
剣士「よ……良かったあああ……し、死んじまったかと、思って……」
息子「……」



523 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 01:30:29 ID:Jvz0OgN2

剣士「そ、それより早くここを逃げねえと」
息子「逃げる?」
剣士「魔王城の中なんだよ! 魔王が出てくる前に逃げねえとマズイだろうが!!」
息子「……そうだ、な」
剣士「立てるか? 肩貸してやるから早く」
息子「だが、な」
剣士「え」

ドスッ…!

剣士「が……ぇ?」
息子「お前を返す訳には、いかないんだ」
剣士「げほっが……は……てめ、な、なにを……!?」
息子「剣を捨てろ」
剣士「な、な」
息子「聞こえなかったのか。捨てろ」
剣士「……どういうことだ」
息子「先程は素手ではあったが……腹や首に、刃物はくらいたくないだろう?」



524 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 01:43:18 ID:Jvz0OgN2

剣士「……これでいいのか?」
息子「ああ」
剣士「洗脳……ってわけでもなさそうだが……どういうことだ?」
息子「私はな、魔物だ」
剣士「は……はは……キツイ冗談だことで」
息子「冗談だと思うか? 剣を突き付けられているこの状況を前にしてもなお、そう思えるのか?」
剣士「……」


剣士「……嘘だったのか?」
息子「……」
剣士「何もかも全部……一緒に旅をしたり、飯食ったり、バカやったりしたのも全部……嘘だったのか?」
息子「……」
剣士「どうなんだよ……」
息子「……ああ。そうだ」
剣士「…………そうか」



525 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 01:43:52 ID:Jvz0OgN2

剣士「なら……いいよ」
息子「……」
剣士「殺してくれも、いいよ」
息子「……」
剣士「お前になら……殺されたって構わない」
息子「……やめろ」
剣士「うん。そうだよな……こんな鬼が……幸せなんて求めちゃいけないなんてこと、分かってたんだよ?」


剣士「でもさ……欲しくなったんだ……その結果がこれなら……諦めがつく」
息子「……やめろ」
剣士「でもさ、これだけ言っておきたいんだ」
息子「やめろ……!」
剣士「本当はさ……ずっと……!?」



526 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 01:53:18 ID:Jvz0OgN2

魔王「何だ、それが言っていた人間か?」
息子「……はい」
魔王「ふむ……成る程。面白そうな人間だな。気に入ったわ」
息子「……はい」
剣士「てめぇは……」
魔王「魔王と呼ばれる者だ。お見知り置きを? 英雄殿」
剣士「……ちっ」


魔王「しかし、お前も中々の者を見出したものだな」
息子「……ありがとう、ございます」
魔王「ふむ、腐っても私の血筋と言うわけか」
息子「……」
剣士「……おいおい、まさかお前」
息子「私は……この方の直系。後の世に、魔王となるべき者だ」
剣士「うはは……こりゃまたえらい展開で」



527 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 02:00:55 ID:Jvz0OgN2

魔王「して、英雄殿。残念ながら貴様を殺すのは、愚息ではない」
剣士「……あんた直々に……ってか。どうしてまた」
息子「……」
剣士「単に一国の戦争を担っただけの雑魚を……何でわざわざ殺す必要がある」
魔王「お前はな、私の暇を潰すために、人の希望が潰えるために……英雄に仕立て上げられたのだよ」
剣士「…………理解した」


剣士「何だよお前……そういうことかよ」
息子「……」
剣士「まあいいんだ。どんな形であれ、お前の事が分かって嬉しいよ」
息子「……」
剣士「ありがとう」
息子「……」
剣士「楽しかった。幸せだったよ。本当に、ありがとう」
息子「……お前」



528 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 02:21:08 ID:Jvz0OgN2

魔王「遺言はそれだけか? 奇特な人間だな」
剣士「はっ……こちとら短い人生だったんだ。そうそう大層な遺言なんて残せるかよ」
魔王「そうかそうか。難儀な事よ。しかし、だ」
剣士「ぐ……は、離せ……!」
魔王「貴様はまだ殺さぬ。まだ」


魔王「これから……そうだな、でかい国の一つ二つ相手取って、戦争でもしてみよう」
剣士「な」
魔王「そこで、貴様を嬲りものにする。どうだろう? 人間共の絶望が目に見えるようだ。愉快愉快」
剣士「……悪趣味だねえ」
息子「……」
魔王「ああ、安心しろ。遊べるよう、利き腕は残してやる。最期までな」



529 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 02:25:01 ID:Jvz0OgN2

剣士「あんたは……どうしてそういうことをする」
魔王「何がだ?」
剣士「こんな死に損ない殺した所で、何がある」
魔王「何も無いだろうな」
剣士「じゃあ……どうして」
魔王「理由など無い」


魔王「私は魔王で、全てを蹂躙するためにここに在る」
剣士「どういう……」
魔王「ただそれだけだ。私は私のために用意された者たちを戯れに動かし、潰し、そうして日々を過ごす。そうした責務と自由が、私にはある」
剣士「この世界は……てめえの好きにばっかなるような、世界じゃねえぞ。絶対にな」
魔王「なるとも。今までも、これからも、永久にな!」
息子「……」



530 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 02:32:52 ID:Jvz0OgN2

魔王「ふむ……しかし、だ」
剣士「ひ」
魔王「よくよく見れば貴様……別の事にも楽しめそうだな」
剣士「な、な……はな……ぐ……」
魔王「ふはは……案ずるな殺しはしない。ただ、楽しんでやるだけだ」
息子「!?」


剣士「ぐ……は、離せ……が……ぐ、ぅ……ぁ」
魔王「ふむ。首を絞められ、尚ももがくか。ますます気に入った」
息子「父上……」
魔王「お前が寄越した暇潰しは、中々重宝しそうだ! 褒めて遣わす!」
息子「父上」
魔王「お前も好きに使うが良い。この人間は真に、良き」
息子「それ以上……」



531 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 02:34:21 ID:Jvz0OgN2

ドスッ…

息子「それ以上、そいつに触れることは許さぬ……」
魔王「な……!?」
剣士「……え?」
魔王「貴様……! 何を……!!」

ザンッ!!

息子「もう、頃合いです。私は貴方を、これ以上生かしておく我慢がならない」

息子「貴方はもう舞台に上がる必要は無い。早々にご退場下さい」

息子「何故? 理由はいくらでも。ただ、強いて今挙げるとすれば……」






息子「貴様はこいつに……私の女に手を出した!!」



532 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 02:40:42 ID:Jvz0OgN2

ドサッ…………


息子「はあ……」
剣士「え……え……?」
息子「……平気か」
剣士「え……あ!?」


剣士「な、何なんだよ!!」
息子「何とは……見ればわかるだろう。父上を……魔王は私が殺した」
剣士「……!」
息子「この人は長らく前線に出ていなかった。鈍ったこの方なら、私でも隙を付けば楽に殺せるだろうと踏んでのことだったが……恐ろしいほどに上手くいったな」
剣士「ち、ちが」
息子「ああ。流石に魔王とはいえ、こうして首を刎ねられれば蘇りもしまい。安心し」
剣士「違う!!」
息子「……」



533 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 02:45:09 ID:Jvz0OgN2

剣士「どうして……何なんだよ今のは!」
息子「……何故、と?」
剣士「今のは明らかに! 助ける気でこいつを刺しただろ!? どうしてだ!!」
息子「……はあ」
剣士「お前は魔物だろう!? 人間を助ける理由なんてどこにも……!!」


息子「貴様の耳は……本当に使い物にならないようだな」
剣士「な、何が」
息子「聞いていなかったのか。私の女だと」
剣士「……え?」
息子「はあ……もういい。仕方ない。言ってやる。よく聞け馬鹿者」



534 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 02:45:32 ID:Jvz0OgN2

息子「惚れた女の命を救って、何が悪い」
剣士「…………はい?」
息子「『はい?』ではないわこの鈍感ヒモ女。身ぐるみ剥いで売り飛ばし、高値で買い戻して愛してやろうか」
剣士「……ええ?」


剣士「ちょっと待て」
息子「何だ」
剣士「惚れたって……誰に」
息子「お前以外にいるわけがないだろう」
剣士「……私?」
息子「ああ。いい加減認めろ」
剣士「う……ええええええ?」



535 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 02:53:40 ID:Jvz0OgN2

一応、この展開はスレを立てた時点で決まっていました。騙し通せるかどうか不安でしたが…どうでしょうか?騙せていましたか?ww
因みに、『剣士の具体的な一人称を最後まで出さない』『誤解させつつもヒントを出す』等などやってみました。意味の無い会話にも、何かしら意味を持たせるのが目標だったりと色々…。
それでは半年続けさせて頂きましたこの話も、残り後少しとなりました。どうか最後までお付き合いください。



537 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 03:07:24 ID:h8fcQWfU

うえぇぇぇぇっぇえっぇえぇぇx????!!!!!
騙された!
主に騙されたぁ!!!!!
ちょっともっかい最初っから読んでくる!



538 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/09/14(火) 08:10:05 ID:45/wkpMY

やっぱり女だったか
言うのは無粋だと思ったから言わなかったけど姿と強さにギャップがあったり将軍の様子から気付いてたかなぁ



545 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 20:31:38 ID:KBhym/Ao

息子「全く……何が親友だ何が。あの一言がどれだけ私の繊細な心を傷つけたか、貴様には想像出来んだろう」
剣士「いやだって分かるかよ……お前趣味じゃないとか散々言って、私のこと殴りまくってたくせに……」
息子「手加減はしていただろうが。大体、ツンデレがどうのと言っていただろう、お前」
剣士「デレてくれよ分かりやすいレベルで」
息子「デレたとも。この通り、愛するお前のために、実の親すら手に掛けるほどにはな」
剣士「……」
息子「ああ、気に病む必要はない。お前がいなくとも、どの道こうするつもりだった。ただ、より一層劇的になっただけだ」


剣士「だ、大体何が『私の物だ』、だ……私は別に、お前のものになった覚えなんて」
息子「最初声を掛けた時からそのつもりでいたのだが」
剣士「……」
息子「後腐れの無い女遊びには丁度いいかと」
剣士「やっぱり最低だなてめえ!!」



546 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 20:32:06 ID:KBhym/Ao

息子「だが……結局ずるずると、そのような機会は終ついぞなかったな」
剣士「やべえ……こいつとんだむっつりだ……」
息子「つまり、それだけ焦らされて、いつの間にか本気で惚れ込んでいたという訳だ。分かるか」
剣士「知らん知らん。マジで知らん……」
息子「だろうな。知らなくて良かったんだ。きっと」


息子「最初はお前を殺す計画だったんだ。色々と予定は狂ったがな」
剣士「色々……で済む話なのかねえ……まあいいけど」
息子「だが、これで魔王は私だ。私が治める、魔物の世が始まる」
剣士「……どうするつもりなんだ」
息子「どうもしない。ややこしい人間とも関わることなく、平穏に生きていく。そう、魔物を生かしていくつもりだ」
剣士「うはは……お前らしいねえ」
息子「うむ。そうだろう」



547 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 20:50:32 ID:KBhym/Ao

息子「それよりも……その腕、見せてみろ」
剣士「え……ああ、さっき暴れた時切れたのかね? 気付かなかったわ」
息子「戻って手当を受けてくれ。悪いな。人間を治す魔法など、覚えてはおらぬから」
剣士「覚えてくれてりゃ楽だったのによ……」
息子「仕方ないだろう」


息子「覚えたら……お前から離れられなくなると思ってな」
剣士「……え」
息子「ん?」
剣士「嫌だ! 嫌だからな! お前と一緒じゃなきゃ、絶対に嫌だからな!」
息子「それは……無理な相談だな」



548 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 20:50:49 ID:KBhym/Ao

息子「お前は人間で……私は魔物だ」
剣士「そんなこと、私は気にしな」
息子「気持ちの問題ではない。その事実がある限り、お前とは共に生きられない。それにお前には、帰る場所もがあちらにあるだろう」
剣士「で、でも……」
息子「……分かってくれ」
剣士「う……わ!?」
息子「私も、出来ればお前と共に生きていたい」
剣士「……あの」


剣士「苦しいし……ちょっと痛いんですけど……」
息子「空気を読めクズ。そう言うお前は汗臭いぞ」
剣士「てめぇ…………」
息子「だが……ずっと、こうしたかった……」
剣士「……うん」



549 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 20:51:16 ID:KBhym/Ao

息子「そうだ。いつぞやの約束を、覚えているか?」
剣士「え……?」
息子「『勝負に負けた奴は、勝った方の命令を何でも一つ聞く』」
剣士「し、したけど、それが何か」
息子「先程は騙し討ちとはいえ、私が勝った」
剣士「……」


息子「だから、一つだけ命令させろ」
剣士「何だよ……いきなり改まって」
息子「たった一つだけだ。お前のような単細胞に、難しい注文はしようとは一片たりとも思わない」
剣士「てめえ……」
息子「本当は、もっと色気のあることに使いたかったのだが……」
剣士「死ね」
息子「うむ。その減らず口が叩けるようであれば、まあ安心だな。一度しか言わぬから、よく聞けよ?」



550 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 21:02:07 ID:KBhym/Ao

息子「お前はここを出て、人の世で好きに生きろ」
息子「剣を捨てろとは言わない。だが、なるべく戦いとは無縁に生きてくれ」
息子「どこかに落ち着き、適当な伴侶でも見つけて、お前によく似た子でも産め」
息子「私の事など忘れて……人並みの人生を送り……そして死ね」


剣士「一つじゃ、ねえのかよ……」
息子「全て合わせて一つだ。分かったら粛々とこのように生き」
剣士「嫌だね!」
息子「……全く」
剣士「お前がどう言おうと絶対に嫌だ! だって……だって私はお前のこと」
息子「やめろ」



551 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 21:20:00 ID:KBhym/Ao

息子「お前がどう思っていようと……私がどう思っていようと……もう関係は無い」
剣士「……」
息子「私はお前に二度と会わない。会うつもりもない」
剣士「い、いやだ!」
息子「お前は先代魔王を討った人間だ。私が、現魔王がおいそれと許してはならぬ存在だろう」
剣士「え」


息子「父上の首をやる。持って行け」
剣士「ちょ……んなもん近付けんなっての」
息子「別にお前ならば慣れているだろう。このくらいのもの」
剣士「お前ムードとか色んなものをだな……いいのかよ」
息子「ああ。持ち帰り、人の世に示せ。平和が来たとな」
剣士「……違うよ」



552 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 21:30:50 ID:KBhym/Ao

剣士「お前がいなきゃ……私の世界は……全然平和なんかじゃない……」
息子「……」
剣士「ほんとに! どうしてもダメなの!? 一緒に生きちゃ……一緒にいちゃいけないの……!?」
息子「……お前はあちらに。私はこちらに居場所がある」
剣士「あっちなんかいらない! 私が欲しいのはお前だけなんだ!」
息子「ありがとう……」


息子「その言葉だけで……私は満足だ」
剣士「お前がそうでも私は……!」
息子「先程私が言った言葉、忘れるなよ」
剣士「ちょ、ちょっと、何を」
息子「私はここで死んだことにしておけ。お前の記憶を消してやれなくてすまんな。それだけは絶対に嫌なんだ」
剣士「だから! 嫌だって人の話を」
息子「元気でな。そして……そして、どうか」



息子「どうか、幸せに……」
剣士「!?」



557 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/09/14(火) 22:25:48 ID:KBhym/Ao

兵1「剣士様ー! どこにいらっしゃいますかー!?」
兵2「もう日が暮れるぞ……補佐殿も見つからないままだし……」
兵1「ど、どうする? あの方々の手に負えないようなことが起こっているとしたら俺達に出来ることなんて……」
兵2「そうだとしても! お助けするしかないだろ!?」
兵1「とは言ってもこれだけ探して姿が見えないとなると…………!?」
兵2「け、剣士さ……!?」


剣士「……これ」
兵1「な、な……何ですかこの……魔物の首は」
兵2「剣士様が……倒されたのですか?」
剣士「……嫌かもしんねえけど……とりあえずこれ、持って行ってくれ」
兵1「は、はあ」
剣士「魔王」
兵2「は」
剣士「それ……魔王」
兵1・兵2「!?」



558 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 22:32:15 ID:KBhym/Ao

息子「……」
魔物「よーう。終わったか」
息子「……ああ」
魔物「ご苦労さま。ま、後の事は全部俺がやってやるよ」
息子「……」
魔物「魔物達に先代様が人間に討たれたこと。それに伴う代替わりがあること。全部伝えておく」
息子「それと」
魔物「討った人間を追うなだろ? 分かってるさ」
息子「……頼む」


魔物「まあ、何かと理由付けて言っておくさ。背いた者には……ってこともね」
息子「……」
魔物「お前はゆっくり休め」
息子「ああ……すまん、な」
魔物「気にすんなって。それより」
息子「何だ」
魔物「中々いい女なんじゃねえの? 人間はよくわかんねーけどな」
息子「……当然だ」



559 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 22:51:47 ID:KBhym/Ao

数ヵ月後─

「よーっす」
「うはは……どうよ。この墓」
「魔王と相討ちになった……英雄の墓にしちゃ、随分とちっせーもんだろ」
「だって大々的に作られちまうと、私が会いに来れないしさ」
「この場所は私と、他に数人しかしらないんだ」
「お前はここに眠っていないし……今頃まだぴんぴんしてるんだろうけどね」


「そういえばさ。何だよこりゃ」
「お前の部屋漁ったら、『持って行け』ってだけメモ書きして。言ってた土産のつもりか? お前にしちゃ気が利くじゃねえか」
「どうよ、似合う? お前がこれ、どんな顔して選んで買ったのかと思うと胸が熱くなるねー」
「ありがと」
「こんな服着たことあんまないし、ちょっと恥ずかしいけど……大事にするね」



560 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 22:58:54 ID:KBhym/Ao

「あ、そうそう。さっきも言ったけどさ、英雄はお前に譲るよ」
「教えてもらった名前が本当のものかは分かんないけど。お前の名前はずっと、人の世に残るよ」
「魔王にとっちゃ迷惑な話かもしれない。でもさ、じゃないと私は嫌なんだ」
「だって……私の大切な人、皆に知っていてもらいたいからね」
「ねえ……」


「私、もうちょっとだけ旅をしてみる」
「それから何にもすることがなくなったり、旅に飽きたらさ」
「この国に戻って来る」
「戻ってきて、って姫さんとか将軍さんに言われてさ」
「いい友達を持ったもんだよ。本当。お前のおかげだね。ありがとう」



561 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 23:04:51 ID:KBhym/Ao

「全部なくしちゃったけど……もう、何も持てないと思っていたけど……」
「私には居場所がある」
「だから……こっちで生きてみるよ」
「お前の命令は全部が全部守れるかは、ちょっと自信ないけど……」
「でも精一杯生きてみせる」
「幸せに……なってみせるよ」


「でもさ、ちょっと思うのよ」
「お前は二度と会わないとか言ってたけどさ」
「もし……もしだよ……」
「私が全部また失くして……帰る所も、居場所も、誰もいなくなったらさ……」
「そっちに行ってもいいかな?」
「迎え入れてくれるかな?」
「……家族になって……くれるかな?」



562 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 23:07:16 ID:KBhym/Ao

「それじゃあまたな。そろそろ行くわ」

「また会いに来るからさ。よろしくな」

「……」

「愛していた……いや」

「愛してるよ。ずっと……ずっとな」



564 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 23:09:52 ID:KBhym/Ao

将軍「見送りはしないのですか?」
姫「昨日したわ。次に会うのは、帰って来るときだって約束したもの」
将軍「……」
姫「貴方は行かないの? 今ならチャンスなんじゃないの?」
将軍「もう……諦めましたよ」
姫「そう……」


将軍「ところでこの手配書……如何致しましょう。この国に、何か書状をお出しになると言うのでしたら」
姫「放っておいて構わないでしょ」
将軍「そうですね」
姫「こんな手配書、誰が信じるものですか」
将軍「本当に……ご本人そのままですよ」
姫「こんなに綺麗な女性が人斬りの鬼だなんて、冗談にしか聞こえませんよ」



565 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 23:22:46 ID:KBhym/Ao

彼女と別れてからその後。彼は努めた。魔物の世を平和に導くために。
人との不必要な争いを避けるため、魔物を全て自身の手で管理した。
戦いに倦んでいなかった一部の魔物達を、残らず説き伏せ力を示し従えた。
全ての魔物のために、彼は魔王を務めた。


そして気付けば、一人の人間が天寿を全うするには、十分すぎるほどの時間が経っていた。


彼女の消息など、少し調べればすぐに分かったことだろう。
だが、彼は決してそれをしようとはしなかった。
彼女のことを忘れてしまったかのように、変わりのない日々を送り続けた。
彼女への思いを棄ててしまったかのように、生き続けた。
彼が魔王になった以前と以降。彼の内には何の変化も見られない。そう思われた。



566 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 23:23:36 ID:KBhym/Ao

しかし実際はまるで違っていた。
彼は願うことを始めていた。それ以降ずっと続けていた。
彼女がずっと穏やかで安らいだ、幸せな人生を送ることを。そのような人生を全うしたことを、願い続けることだけを選んだ。
自身の命が終わるその時まで、彼女への思いを抱いているのだと決めた。
最早終わってしまったであろう願いだと言うのに、彼はそうして生きてきた。
幸せだった。


満たされていた。
彼は幸せだった。
彼女の幸せを思い生きるだけで、彼は幸せに生きることが出来た。
これ以上に望む物は、彼にとってありえなかった。
彼の人生はずっとずっと永久に変わることなく、こうした幸福を抱えて生きていくのだと。そんな予感を抱いていた。



568 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 23:31:11 ID:KBhym/Ao

「ふ…………ぁあ」

「…………ゆめ?」

「へんな……ゆめ」

「だったきがする……」

「どんなゆめだったんだろ」

「うーん……わかんないなあ」

「でも……なんだか、たのしいみたいな」

「かなしいみたいな……そんなゆめ」

「おきてるより…………ゆめのほうが……いいな」

「…………」



569 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 23:31:27 ID:KBhym/Ao

彼女の魂が何の間違いで、何もかもを失くして、あらゆる幸福から遠ざけられて。
再び自身と出会うことがあったのならば。
出会い、惹かれ合い、万一共に生きることが叶ったならば。
自身の手で、守ってやろうと。
今度こそ、謀ることなく幸せにしてやるのだと。


そんな儚い願いを抱いてもいいのではないかと、彼は思い始めていた。
ただ、思うだけであった。



570 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 23:38:05 ID:KBhym/Ao

側近「さーてと。そろそろ魔王らしい仕事でもやってみようか」
魔王「……はあ?」
側近「若い世代が何か不満持ってるらしいんだよねー。『今の魔王様は人間すら潰す気の無い腑抜けだ』って」
魔王「実際潰す気など毛頭無いのだが」
側近「知ってるっつーの。お前が気乗りするはずねえよなあ」
魔王「……」


側近「んでも何かこう、魔王っぽいことをやって下さいよ魔王様。あんたはそれが仕事なんですから」
魔王「聞こえぬ聞こえぬ」
側近「呑気に飯なんか食ってないでさ。大体最近落ち着いたからって仕事サボってばっかだろ。働かねえで食う飯はそんなうまいか?」
魔王「はあ……今日も平和だな。飯がうまい」
側近「なあお前。下剋上って知ってるか?」



571 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 23:39:01 ID:KBhym/Ao

これは魔王を討った勇猛なる戦士の物語でも、世界を脅かす魔王の物語でもありえない。

ただ彼と彼女が出会い惹かれ合い、そして叶うことのなかった恋の物語。

たったそれだけの、どこかに続く昔語り。


【魔王「どうか、幸せに」・終】



572 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 23:42:41 ID:3jw/mq5g

お疲れ様!!
今回も楽しませていただきました!
魔王の幸せっぷりにテラ嫉妬

これがあー繋がるのとか主マジ天才



573 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/14(火) 23:43:52 ID:KBhym/Ao

支援等お言葉を下さった方々、騙されて下さった方々、気付いても言わずに見守って下った方々。
長らくお付き合い下さり、皆さん本当にありがとうございました!
サイトで地道に色々書いていますが、また外で何か書く機会がありましたら、その時はまたよろしくお願いします!



574 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/09/14(火) 23:51:13 ID:aiat8PO.

おつかれさん



575 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/09/14(火) 23:59:13 ID:mTaO3Lbk

とうとう終わってしまったwww長かった分なんだか物悲しいwww

しかし本当に面白かった
おつかいさん乙!



578 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/09/15(水) 00:12:12 ID:G.UpKzGw

GJ!面白かった!



579 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/15(水) 00:29:30 ID:6SN/RErA

お疲れ様です!!すごく楽しませていただきました!!



580 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/15(水) 05:22:16 ID:xK29s6P6

乙でした!騙されました。切なかった…



581 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/15(水) 23:28:54 ID:pGRH9XsY

面白かった。乙です。



586 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします[sage] 2010/09/16(木) 21:25:20 ID:n7ok8EhQ

呼ばれた気がして再浮上。皆さんありがとうございます!

そうですねー。娘の話を書いてる途中で思い付いた話ですね。
竜も二本目で出たのと同一人物?です。分かって下さり感謝!
あとは人間の回復は出来ない云々も一本目に繋がります。等など。
一本目二本目に繋がり、かつ単体で読める物…を目指したつもりですが…やはりまだまだ精進せねば\(^o^)/

因みにゲスな下ネタ大好きなので、その辺はお気になさらずに。
とりあえず576の下腹部は紅葉おろしにでもさせて頂きますね^^



588 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/09/21(火) 23:20:08 ID:FJiiuVyM

遅れましたが乙です。
大変面白く読まして貰いました



589 以下、SS宝庫にかわりましてエレ速がお送りします 2010/09/22(水) 00:46:55 ID:MCQBdv2w

面白かったよ.
乙です.




◆Special Thanks
おつかいさん&ヒマッピーさん




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        コメント一覧

          • 1. 名無し
          • 2011年11月07日 22:52
          • キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!
          • 2. 名無し
          • 2011年11月07日 22:52
          • キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!
          • 3. 名無し
          • 2011年11月07日 23:28
          • 長すぎワロタw
            さて、読むか
          • 4. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2011年11月08日 00:18
          • どれもこれも似たような展開
          • 5. ななし
          • 2011年11月08日 00:22
          • これが一番好きだ
          • 6. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2011年11月08日 03:29
          • 5 DQ1・2・3 みたいだ。
          • 7. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2011年11月08日 05:48
          • あいかわらずつまらん
          • 8. あ
          • 2011年11月08日 05:58
          • めちゃくちゃ良かった!
          • 9. あ
          • 2011年11月08日 05:58
          • めちゃくちゃ良かった!
          • 10. -
          • 2011年11月08日 08:29
          • 地の文なしのSSだからできるこったな
            しかも女って明かしてからは口調も崩壊してるし
            しかし三作で順当に文量が増えてるのが実に初心者らしい
          • 11. 名無し
          • 2011年11月08日 10:48
          • 長ぇ!そしておもろかった!!
          • 12. す
          • 2011年11月08日 14:10
          • 読み終わった~

            スゲー面白かった!

            本か漫画出ないかな…
          • 13. 名無し
          • 2011年11月08日 15:21
          • やっと読み終わった
            素晴らしかった
          • 14. ななし
          • 2011年11月08日 15:50
          • この人のシリーズは素晴らしい
          • 15. 作者乙
          • 2011年11月08日 17:40
          • 5 ※10
            結局全部読んでるじゃねーかw
          • 16. 名無し
          • 2011年11月08日 18:29
          • 5 泣いた
            久々にいいssを読んだ
          • 17. 名無し
          • 2011年11月08日 18:39
          • 将軍ホモかと思った
          • 18. あ
          • 2011年11月08日 19:22
          • 576でなにがあったのか
          • 19. 名無し
          • 2011年11月08日 19:47
          • 5 剣士と息子があのまま幸せに暮らすイフ√希望
            魔王と娘の関係も良いけどね
          • 20. ぴーぽこー
          • 2011年11月08日 20:03
          • 5 (つд`)ハラショー!!長いけどスラスラ読めた!
          • 21. 英語
          • 2011年11月08日 20:27
          • 2 いい話とはおもうが、この話だと平和平和みたいなふうに終わったのに前作だと娘と一緒に人間滅ぼすとか統合性とれとらん。
            あと結局最初の話で殺した王様との関係性も見えないし、まぁやっぱ素人の作品なんだよなと思った。
          • 22. 名無し
          • 2011年11月08日 20:34
          • ずっと剣士の事を側近だったと思ってたわ・・・
            まあともあれ生まれ変わりが偽姫って事でいいのかな?
          • 23. 名無し
          • 2011年11月08日 20:35
          • ずっと剣士の事を側近だったと思ってたわ・・・
            まあともあれ生まれ変わりが偽姫って事でいいのかな?
          • 24. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2011年11月08日 23:40
          • 剣士「女って怖いよなぁ」に吹いたw
            ところで剣士が女ってはっきりするのって
            >将軍「男には……譲れない物があるのですよ」
            >剣士「そんなもんなのかねー。分かんねえや」
            ここかな?
            ※10
            とんだツンデレがいたもんだ
          • 25. 名無し
          • 2011年11月09日 00:04
          • 読むのに2日くらいかかったww
            でも※10の通り女って明かしてからキャラぶれてないか?

            ともあれ乙!!
          • 26. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2011年11月09日 02:01
          • まあ確かに長かったなw でも飽きずにずっと読めました! 乙乙
          • 27. 名無し
          • 2011年11月09日 06:19
          • 男同士にしては随分台詞が野暮ったいというか、ワンピースあたりにでも心酔してる痛い子が書いたのかと思っていたが、そういうことだったのね。まぁ納得。

            SSらしいトリックでよく工夫されてたとは思うが、なんというかいまいちキャラに惹き付けられんな。のっぺらぼうとでも言えばいいのか。

            というか、確かに騙されたんだが、意識上での性別が変わったせいで、今までの共感やら想像が崩されて最終的に何を書こうとしてたのか受け取れなかった。

            このトリックを披露するために書いたなら大成功だが、二人の恋物語を書こうとしたなら、本末転倒だったな。
          • 28. あ
          • 2011年11月11日 01:49
          • こういう手法は英語とかでやればもっと違和感なくなるな
            性別はすぐバレるかも知れんが
          • 29. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2011年11月11日 21:51
          • 部屋辺りからおかしいと思い出して傷痕の話の件で確信した
            割と解りやすかったな
          • 30. か
          • 2011年11月13日 13:29
          • 良かったっす! 村女の事とかあったから完全に男だと思ってた
            久々に言い読み物に会えました感謝!
          • 31. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2011年11月16日 23:30
          • これは変に偽姫云々の説明はいれなかった方がよかった気がする
            単純に魔王の過去話としてくれたほうがしっくりきたかな

            出来は連作3つの中でこれが一番良いと思う
          • 32. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年01月11日 23:20
          • 生まれ変わりは偽姫より側近のほうが合うと思うなー
          • 33. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月11日 01:47
          • 読み終わ……った…。めっちゃ長かった。
            そして素晴らしかった。
          • 34. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月23日 06:26
          • 5 3部作一気に読んだ。

            ダメだ、涙がとまらねぇ。

            分かった、俺も旅人になる。

            将軍が、薔薇じゃなく健全な助平だと理解した時の感動ったら…もう…

            素晴らしいよ、真剣に。

            ありがとう!ありがとう!
          • 35. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年03月24日 14:18
          • 5 パねぇ
          • 36. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月06日 02:15
          • 村娘の反応の時点でへんだったから分かったけど、若干引っ張りすぎて恋愛分が足りんのう・・・。
            いつかいつかと思ってたんだが。
          • 37. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年05月22日 06:16
          • 新品で「あれ?」とは思ったがやはり
          • 38. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年11月15日 21:42
          • 5 一瞬息子がホモに見えた俺は死ぬべき
          • 39. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年11月22日 21:53
          • 面白かったけど途中でトリックに気づいたら
            後半は女だと匂わせる伏線をはることに力を入れすぎてスピードダウンしたというか、内容が薄くなったという印象

            ただの恋愛ものとして見たりトリックに気づかなかったら感動してたと思う
          • 40. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年01月07日 01:36
          • 5 最後泣きそうになったお・・・。
            せづねぇ・・・。
          • 41. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年01月08日 21:38
          • うん釣られた。
            nl。ただし将軍はガチh…ムチ。と思ってた。
            自分がNもGもBも読むから剣士と息子にフラグが見えるだけと言い聞かせてたよ。
          • 42. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年01月09日 01:41
          • 叙述トリックは一作目が秀逸だった分…
            悲恋物としてもいまいちかなと思いきや
            ラストの贈り物の流れでうるっときたよ
          • 43. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年02月05日 23:35
          • 騙されたwwww
            将軍が執拗に関わったのも息子がそれを良く思わなかったのも髪がどうのこうの言ってたのも理解したwwww
            姫が自分のことを言ってたのじゃなく息子のことを言ってたと言うことも理解したwwww
            …悲しいな
          • 44. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年06月26日 11:28
          • くそっww騙されたwwww
            将軍やら諸々の事で「?」って思った分、村娘とか姫とかメイドの話で引き戻されたんだよなぁ
          • 45. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年10月14日 03:47
          • 5 途中から、何か違和感を感じたけど、女だったんか~。いい話だった!!

            >>※21
            人間と共存出来るのが理想だけど、魔王と娘からすれば、それは無理だろうし(娘が人間に捨てられて絶望してる)、魔族側から見れば、人間滅ぼして魔物の世界にするのが、娘達が望む穏やかな日常=平和な訳だからブレてはいないと思うよ。人間視点で見ると穏やかじゃないけどね
          • 46. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年03月16日 17:12
          • 騙されたwwww
            将軍が女かと思ったわw
            そら美人のくたびれた格好をした女剣士が騒いでいたら目立つわwww
          • 47. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年08月07日 21:20
          • キャラがブレたってか、愛するものの前では荒々しいアマゾネスも女々しくなる、ということだと無理やり解釈する
          • 48. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年12月29日 20:19
          • 5 マジ良作神作感動作!
            これの小説版もあるから読んでみ!更新停滞中だけども(・・;)
          • 49. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年05月29日 21:09
          • これで結局2になると思うと悲しいな…。
            娘が超強かったのは、剣士の生まれ変わりである事に関係してるのかな。

            あと、上級者で玄人たる※10様や※21様の作品をちょっと見てみたい。
          • 50. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年07月11日 03:30
          • 昔のSS掘り起こして読んでたらいいシリーズを発見
            息子レベルのツンデレな※が散見されて微笑ましい
          • 51. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2016年03月18日 13:09
          • 5 戦士ってか勇者だな
          • 52. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2016年06月12日 23:37
          • 5 娘だけを愛するってのは、剣士と似てたからかね?最後に魂云々あったしそういうこと?それならまぁ、愛した人と同じ人が酷い目にあってたら、娘以外は助ける気ないのも分からんでもない。
            実際、魔物の益がどうのこうの言ってるけど、人に関してはそこまで言ってないし。

            なんにせよ、二人が結ばれてほしかったなって思うな。前作品でぼっちだから、そこと合わせちゃったのだろうけど。
            …もう別作品としたの方がよくない?
          • 53. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2016年12月04日 23:07
          • とても良かったがだからこそ前作で娘が覇道に至ってしまったのが悲しいな
            この父ならもう少し娘も共存を模索できるような人物に育てられなかったのだろうか
          • 54. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年02月11日 03:08
          • \(^o^)/

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