妹「くちゃくちゃくちゃ」兄「……」

1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 01:46:39.47 ID:3IKVA/OvO

妹「くちゃくちゃ」

兄「……」

妹「今日午後から雨降るんだって
  早めに帰ったほうがいいんじゃないの?」クチャクチャ

兄「ん……そうだな。濡れるのイヤだし早めに帰るわ。
  夜の病院ってこわいしな」

妹「うん、早く帰って」



4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 01:48:47.13 ID:Bc65S/6L0

オナニーしてんの?



5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 01:50:55.73 ID:XKxJxBQY0

超絶美少女であってもくちゃらーは許されない



6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 01:51:55.62 ID:3IKVA/OvO

兄「また明日、大学の帰りにこっち寄るわ」

妹「くちゃくちゃ……うん、わかったから早く帰ってよ」クチャクチャ

兄「……その、さ」

妹「……なに?」クチャクチャ

兄「いや、なんにも。ただ飯食うときはきちんと口を閉じて食べろよ?
  お前、よく舌噛むしさ」

妹「はいはい」クチャクチャ

兄「じゃあまた明日、な」

妹「はいはい、おやすみー」



9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 01:54:03.68 ID:aaxK98upO

死んだ妹思い出した

結局ほとんど病院から出られなかったな……



11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 01:56:45.03 ID:3IKVA/OvO

……
…………
………………

母「アンタもたまには早く帰ってきたら?
  毎回、面会時間ギリギリまで病院にいられるとむかいにいくのも億劫だからさ。
  まあ、それはいいけど……妹の様子はどう?」

兄「ん……いつもどおりだよ。
  特に変わった様子もなんにもない。薬もきちんと飲んでるみたいだし」

母「……そう」



14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 02:01:19.01 ID:3IKVA/OvO

母「はあ……いつになったら妹はもとに戻るのかなあ」

兄「知らねえよ。それに、まだ三ヶ月もたってないしな。
  気長に待つしかないよ」

母「わかってる。んなことはわかってるの。
  たださ、いいかげんにあの子の顔が見たいから……」

兄「いずれはもとに戻って母さんにも顔見せるだろ……たぶん」

母「たぶんって……まあ、たしかに今の様子だとわたしとは会ってくれないよね……」

兄「……会いに行く?」

母「こわいから遠慮するわ」



18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 02:04:42.48 ID:3IKVA/OvO

……
…………
………………


母「それじゃ、わたしは先に寝るから。
  ご飯はテーブルに用意してあるから。
  足りなかったら冷凍ものでもチーンしてちょうだい」

兄「ありがと」

母「べつに。ピカタとかの手抜きもんしか作ってないからいいよ」

兄「……母さん」

母「なによ?」



19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 02:09:42.89 ID:3IKVA/OvO

兄「冗談抜きで妹に会わない?
  最近はアイツも落ち着いてきたし、もしかしたら……」

母「……考えておくわ。
  いや、そりゃわたしも妹には会いたいよ?
  でもわたしの顔見たらあの子の症状がまた悪化するかもしれないからさ……」

兄「……そっか」

母「まあ、あな子の病が完治したらまた会うよ」

兄「……」

母「おやすみ。明日は朝、早いんでしょ?
  アンタも早く寝なよ」

兄「うん……おやすみ」

母「おやすみー」



25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 02:15:48.00 ID:3IKVA/OvO

妹『いやあ、兄ちゃんは最高にダメ人間だな』

兄『うるせー』

妹『将来社会に出たらどうすんだよ、勉強もしないでそんなおバカ高校入っちゃってさ』

母『オマケにもと女子高で地元でも評判最悪だしね』

兄『いいんだっつーの。人間の価値は学校じゃないだろ?』

妹『まあそうかもね。
  でもそんな学校じゃあ、まともな大学も入れないし、将来マジでどうすんの?』

兄『お前みたいな頭いいやつと違って将来のことなんざ考えてない』

妹『胸張って言うことじゃないわ』



26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 02:20:02.73 ID:3IKVA/OvO

母『兄には期待してないから、妹はがんばってね』

妹『当たり前だって。
  兄ちゃんの代わりにわたしがいい高校入って、いい大学出て、立派な社会人になって家を支えてあげるよ』

兄『じゃあ俺はニートになるわ』

母『働かないやつは家から出てけ』

兄『いいじゃねえかよ。将来的には妹が稼いでくれるってんだから』

妹『少しはがんばれよ』

兄『はあ……どうせおバカな高校なんだからがんばったところで知れてるよ』



27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 02:25:20.51 ID:3IKVA/OvO

母『それはそうと、妹は高校受験はいつだっけ?』

妹『来週。まあ、余裕で合格するからまかせておいてよ』

母『頼もしいねえ。どっかの誰かも見習ってほしいわ』

兄『ごっつぁんです。さて、寝ようっと』

妹『寝る前に勉強は?』

兄『睡眠学習だから大丈夫だよ』

妹『ばーか』


………………
…………
……

兄「ん……」



29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 02:29:53.03 ID:3IKVA/OvO

俺「夢、か……」

俺「…………」

俺「学校へ行こう」

………………
…………
……

友「なに、お前? 昼休みで帰るの?」

兄「おう」

友「お前、最近昼に帰ってばっかで午後の講義あんまり受けてねーじゃん」

兄「俺みたいな馬鹿にはこの大学の講義はつらすぎるんだよ」



31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 02:34:23.84 ID:3IKVA/OvO

友「ああ、お前は推薦でここに入ったんだもんな」

兄「まともに勉強したことないわりに、いい大学入っちゃったから苦労してんだよ」

友「出席しないと余計についていけなくなるぞ」

兄「明日から本気出すわ」

友「もう留年しちまえ」

兄「うるせー……っと、こんな時間じゃん。
  先に帰るわ。じゃあな」

友「バイビー。明日もきちんと来いよ」



32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 02:38:43.36 ID:3IKVA/OvO

………
…………
………………

兄「どうもこんにちわ、看護師さん」

看護師「こんにちは。今日も妹さんの様子見にきたの?」

兄「まあ、そんなところですわ。
  妹は……どうですか?」

妹「今日は特には……」

兄「そうですか。ありがとうございます」



45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 08:44:55.58 ID:3IKVA/OvO

看護師「たぶん、妹さんは寝てると思うよ。
    寝てたらあまり起こさないほうがいいと思う」

兄「わかりました。ありがとうございます」

看護師「いえいえ」

……
…………
………………

兄「妹ー、マイシスター遊びに来たぞー」

妹「……」スースー

兄「……って、寝てるか」



46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 08:51:16.19 ID:3IKVA/OvO

兄「……もうちょっと後に来たほうがよかったかな……」

妹「……」スースー

兄「今日は少し早めに来たのに……」

妹「……」スースー

兄「ちょっと前だったらお前が昼間に寝てるなんてありえなかったよな……」

妹「……」スー

兄「俺が休日の昼間とかから寝てると、お前、よく俺を叱ったよな。
  勉強しろだの、バイトしろだの。お前は俺の母親かっつーの」

妹「…………」



47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 09:04:34.72 ID:3IKVA/OvO

兄「他にもお前が中学生の頃、俺が勉強しなかったらわけのわからん教材を買ってきたりな」

妹「…………」

兄「なんていうか、今でも信じられないんだよ。お前が……」

妹「……その話まだ続くの?」

兄「!? 起きてたのか……」

妹「さっきまで寝てたけど兄ちゃんの声がでけーから目が覚めちゃったんだよ」



48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 09:12:44.49 ID:3IKVA/OvO

兄「ああ、その…………ごめん」

妹「めずらしいね」

兄「なにが?」

妹「わたしに謝るなんて。いつもテキトーにはぐらかすじゃん」

兄「まあ、たまにぐらいは潔く謝るのもいいかな、と思って」

妹「ふうん……」

兄「…………」

妹「…………」

兄「…………」

妹「ねえ」

兄「なんだよ?」

妹「わたし、死んだほうがいいかな?」



49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 09:20:19.47 ID:3IKVA/OvO

兄「……」

妹「やっぱり、今のわたしってかなり迷惑な存在でしょ?」

兄「……そんなことは、ない」

妹「……なんで?」

兄「……?」

妹「じゃあなんで昔の話ばかりするの? ねえ?」

兄「それは……たまには昔を振り返るのもいいかな……と思ったんだよ」

妹「ウソ。どうせ、今のわたしなんか死ねばいいと思ってるんでしょ?

  鬱病のわたしなんか……!」

兄「…………」



50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 09:30:50.16 ID:3IKVA/OvO

妹「ぶっちゃけ、前から兄ちゃんはわたしのことウザいって思ってたんでしょ?」

兄「……ごめん」

妹「意味わかんないし、なんで謝んだよ。
  そんなにわたしとしゃべるのが面倒かよ……」

兄「ちがう、そういうわけじゃ……」

妹「うるさいなあ。どうせ、わたしなんてさっさと死ぬべきなんだよ。
  百人が百人みんなそう言う。そう言うに決まってる」

兄「……」

妹「はぁ……なんでわたし生きてんだろ。病院に入院なんかしちゃってさ
  やっぱり死んだほうがいいよね……」



51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 09:35:39.54 ID:3IKVA/OvO

妹「……」クチャクチャ

兄「……」

妹「……」クチャクチャ

兄「……」

妹「……」クチャクチャ

兄「……」

妹「病院のご飯まずい」クチャクチャ

兄「そう、だな」



52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 09:44:54.88 ID:3IKVA/OvO

妹「……」ブツブツ

兄「……?
  なんか言ったか?」

妹「ニートとか死ねばいいって思ってたし口にも出してたけど、だったら今のわたしもニートみたいなもんだから……」ブツブツ

兄(またブツブツ言い出したか。
  鬱病になってからたまに、突然ブツブツ言い出すんだよな……)

妹「死ななきゃダメ……でもどうやったら死ねるんだろ……首吊り……」ブツブツ

兄「おい、妹」

妹「……」ブツブツ

兄「……くそっ」


看護師「お昼ご飯、回収に来ました」



56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 09:57:46.43 ID:3IKVA/OvO

看護師「もう食べない、妹ちゃん?」

妹「……」コクリ

看護師「はい、じゃあ持ってきますね」

兄「あ、あの看護師さん」

看護師「ん、どうしたの?」

兄「あー、その、ちょっと話したいことというかなんていうか、とにかくちょっといいですかね?」

看護師「少しなら時間あるからオッケーだよ」



57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 10:03:01.27 ID:3IKVA/OvO

……
…………
………………

看護師「それで話ってなにかな?」

兄「ぶっちゃけた話、あとどれくらいたてば妹の病気はなくなるんですかね?」

看護師「早ければ半年もいらないし、長ければもっと時間かかるかなあ。
    それこそ一年とかね」

兄「そんなに……」



59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 10:13:48.11 ID:3IKVA/OvO

看護師「まあ鬱病もなにがきっかけで治るかとかは完璧にはわからないしね」

兄「こころの病だからですか?」

看護師「まあ、そんなところ。
    ていうか、わたしってばあんまり頭よくないからわからないの、難しいことはさ」

兄「それなのに看護師になれたんですか?」

看護師「めずらしいことでもないって。こんな奴でも看護師になれるんだ、みたいな人間なんてたくさんいるよ?」

兄「へえ……」

看護師「まあ、こんなわたしにでもできるアドバイスもあるけどね」

兄「なんですか?」



61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 10:18:06.30 ID:3IKVA/OvO

看護師「とにかく普通に接してあげること」

兄「普通?」

看護師「だから普段と同じように接してあげるの。病人として扱われることは鬱病患者には辛いからね」

兄「……そうですか」

看護師「あと、もうひとつ」

兄「まだあるんですか?」

看護師「うん。昔の話は極力出さないようにすること」

兄「…………そうですか」



62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 10:34:36.29 ID:3IKVA/OvO

看護師「妹さん、早く治るといいね。お金も月十万はくだらないでしょ?」

兄「まあ」

看護師「ホントに君の両親も大変だろうね。鬱病には保険も半分も効かないしね」

兄「……なんか看護師さんって絶対鬱病にならなさそうですね」

看護師「看護師なんて基本的にみんな図太いよ。
    わたしなんて有休を患者が一番来る月曜に当てたりするから、影でボロクソに言われてるよ」

兄「は、はあ……」

看護師「ほかにもわたしの先輩なんか、この前患者を叱り倒して泣かせてたしね」

兄「看護師さんってこわいんですね」

看護師「まあね」



63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 10:47:01.99 ID:3IKVA/OvO

看護師「んじゃ、そろそろわたし戻るわ」

兄「わざわざ話を聞いてくれて……その、ありがとうございます」

看護師「いいよいいよ、、わたし人一倍仕事しないし」

兄「……はあ」

看護師「あ、そうそう。よかったら妹ちゃんに運動するのすすめといて。
    朝の準備体操とか、散歩とかさ。運動したほうが少しは病気にいいからさ」

兄「あ、はい」

看護師「それじゃあね」



66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 11:01:00.99 ID:3IKVA/OvO

……
…………
………………


兄「おーい、戻ったぞ」

妹「……」ゴクリ

看護師「はい、じゃあお昼の分は全部飲みましたね」

兄(べつの看護師さんだ……薬飲んでるのか)



67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 11:06:00.77 ID:3IKVA/OvO

看護師「じゃあ失礼します。また夜にうかがいますね」

妹「……ん」

兄「……」ペコリ

看護師「こんにちは」ペコリ

兄「こんちわ」

……
…………
…………………



69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 11:11:21.59 ID:3IKVA/OvO

兄「薬ってうまいの?」

妹「知らない」

兄「ふうん。あのさ」

妹「なに?」

兄「たまには俺と一緒に運動しない?
  運動するとイヤなこと忘れられるし、いい汗もかけるし一石二鳥だぞ
  それにお前、運動好きだろ?」

妹「めんどくさいからいいわ」

兄「……」



70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 11:16:39.92 ID:3IKVA/OvO

妹『たまには兄ちゃん運動したら?』

兄『イヤだ。めんどくさい』

妹『兄ちゃんって家にいるときってたいてい、ネットしてるかゲームしてるか、ゴロゴロしかしてねえじゃん』

兄『俺は学校では生徒会長として働きまくってるから、家でくらいゆっくりしたいの』

妹『いつか豚になるよ?』

兄『もう半分なりかけてる。ほら、腹見てみろよ』

妹『うわ、ぷよぷよだ』



72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 11:31:59.49 ID:3IKVA/OvO

兄『とにかく俺は休日、家にいるときは寝るの』

妹『勉強は?』

兄『勉強なんてテスト前に適度にやっときゃいいんだよ』

妹『志が低いなあ』

兄『お前みたいに頭のいい学校ってわけでもないし、学年でも時々トップ30に入ったりするわけじゃないからいいの』

妹『運動ぐらいしなよ』

兄『お前みたいにマラソン大会でトップテンに入ったりしないからいいわ』

妹『このダメ人間』

兄『なんとでも言え』


………………
…………
……



73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 11:37:38.04 ID:3IKVA/OvO

兄「そんじゃ俺、帰るわ」

妹「早く帰れ」

兄「明日もまた来るわ」

妹「ん、わかった」



87:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 18:31:30.81 ID:3IKVA/OvO

……
…………
………………


俺『ああ死にたい……』

妹『そう簡単に死にたいとか言わない。お母さんに失礼だよ。
  ていうか、なにかあったの?』

俺『いや、実は俺が高校の生徒会長になったんだよ』

妹『冗談でしょ?』

俺『マジだって。
  ほら、表彰状と会長バッジ』

妹『……うわ、マジだ。どうやって会長なんかになったの?
  ていうか、生徒会なんかに立候補してたなんて言ってなかったじゃん』

兄『まあな。なんかテキトーに一発芸したら当選しちゃったんだよ』

妹『……あっそ』



88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 18:35:18.33 ID:3IKVA/OvO

兄『ああ、マジどうしよ……俺、会長なんて無理だよ』

妹『そもそもなんで会長なんかに立候補したの?』

兄『クラスの奴らと昼休みに麻雀してたんだけどそれで負けてさ。
  賭けしてたんだけど金払えなかったら、会長に立候補する代わりに賭け金チャラにしてもらったんだわ』

妹『学校で麻雀って……』

兄『ああ、死にたい……』

妹『でもまあ、よかったじゃん』

兄『なにがだよ。なにもいいことねえよ』



89:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 18:53:59.94 ID:3IKVA/OvO

妹『だって、生徒会とかに入っておくと大学の推薦とかに有利でしょ?』

兄『……俺の成績じゃあ知れてるよ』

妹『応援してるからがんばりなよ』

兄『お前こそ、俺の代わりにいい大学入れよ』

妹『言われなくても入るって』



90:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 19:07:56.47 ID:3IKVA/OvO

………………
…………
……

母「起きなくていいの?」

兄「……今何時?」

母「9時過ぎてる」

兄「ていうか、なんで俺の部屋にいんの?」

母「べつに。ただ、アンタの卒業文集読みたかっただけ」

兄「あっそ。
  ……つうか今日学校あるわけねえじゃん。今日、日曜日だぞ」

母「そうだっけ。まあいいや」



91:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 19:11:17.77 ID:3IKVA/OvO

母「今日も妹のとこ行くの?」

兄「うん、暇だしな」

母「アンタ、友達いないの?」

兄「いるけどあんまり仲良くないから休日までは会わない」

母「なんじゃそりゃ」

兄「……」

母「なに、わたしの顔そんなにジッと見て……金ならあげないよ」

兄「いらねえよ。そうじゃなくてさ。たまには一緒に病院行かない?
  妹に会いに行かね?」

母「……」



92:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 19:18:02.44 ID:3IKVA/OvO

兄「だってもう二ヶ月……いや、三ヶ月近く会ってないじゃん」

母「そりゃあわたしもあの子には会いたいよ。
  でもあの子はわたしと会いたがらないでしょ」

兄「会わなきゃわかんないじゃん」

母「そんなのわかるよ。また前みたいにわたしの顔見たら泣き喚くに決まってるよ」

兄「……」

母「なにを間違ったのかなあ……」

兄「俺のせいなのかな……」

母「……まあ、とりあえずわたしは病院には行かない。
  ひとりで行ってきな」

兄「……わかった」



93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 19:22:49.08 ID:3IKVA/OvO

……
…………
………………


兄「おーい、妹ー」

兄「……あれ? アイツいないじゃん」

兄「…………」

兄「おかしいな。アイツ、病室から出るなんてまずないのに」

兄「便所か?」

兄「まあ、ちょっと待つか……」



95:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 19:26:25.08 ID:3IKVA/OvO

兄「……遅い」

兄「もう15分は経過したよな……」

兄「腹でも壊したか?」

兄「…………」

兄「まさか……いや、まさかな……」

兄「電話してみるか……」

プルルル

兄「!?」ビクッ



96:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 19:31:57.70 ID:3IKVA/OvO

兄「アイツ、ケータイ部屋に置いてきぼりかよ」

兄「ちょっと待て」

兄「アイツ、真面目にどこ行っちまったんだよ……」

兄「……ど、どうすりゃ……」

兄「とりあえずナースコールを……」

兄「すみません、305号室のものですが……はい、兄です」

兄「妹はどこにいるか知りませんか?」

兄「……はい」

兄「……え?」



98:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 19:53:34.20 ID:3IKVA/OvO

……
…………
………………


看護師「お、お兄ちゃん来たよ。妹ちゃん」

妹「あ……兄ちゃん」

兄「……」

妹「兄ちゃん、どうしたの? 顔色悪いよ?」

兄「うるせーよ。心配かけさせやがって。外散歩するならメールのひとつやふたつ送れよ
  めちゃくちゃ心配したぞ」

妹「……ごめん」

兄「……あ、いや、まあべつにいいんだ。無事だったんだし」

妹「……うん」

兄(いかん……勢いにまかせて怒鳴ってしまった……)



99:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 20:01:27.81 ID:3IKVA/OvO

看護師「お兄ちゃんも来たしそろそろ妹ちゃんも部屋に戻ろっか?」

妹「……はい」

看護師「あ、兄くんはあとからわたしのとこに来て。いつものロビーんとこでいいからさ」

兄「はあ……なんか用でもあるんすか?」

看護師「ちょっとね」



100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 20:09:58.34 ID:3IKVA/OvO

……
…………
………………


兄「それでこんなとこに呼び出してなんですか?
  ていうか、僕も聞きたいことがあるんですよね」

看護師「先に話聞いてあげる。なに? 聞きたいことって」

兄「看護師さんってうちの妹の担当じゃないですよね? 
  それなになんで妹を散歩に連れ出してたんですか?」

看護師「そんなことか……」

兄「すみません。昨日あなたから聞いた話を思い出したらちょっと不安になったんで……」

看護師「ははは、まあわたしは確かにいいかげんな女だからね。その気持ちはわかるよ」

兄「……」

看護師「たまたまだよ。べつにキミの妹ちゃんを気にかけてたとかそういうのじゃないの。
    ちょっと野暮用があって妹ちゃんの部屋通りかかったから様子見たら、散歩に連れてけって言うから」

兄「それで連れてったんですね」

看護師「うん」



102:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 20:21:37.06 ID:3IKVA/OvO

看護師「少し心配なこともあったしね」

兄「心配なこと?」

看護師「これだよ」

兄「この袋はなんすか?」

看護師「ビタミン剤だね。一日一粒のやつ」

兄「はあ……べつに健康のためのものだからよくないですか?
  ていうか、すごいさりげないですけど、これって妹から盗んだんですよね?」

看護師「当たり前でしょ。もし、その袋の中身を全部飲んだらどうなると思ってんの?」

兄「あ……」

看護師「キミの妹ちゃんはわりと高い頻度で死にたがってるみたいだからね。
    そういう薬はもたさないほうがいいよ」

兄「……はい」



103:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 20:31:44.33 ID:3IKVA/OvO

看護師「そのさ、ひとつ聞きたいことがあるんだけどいい?」

兄「あの、その前にひとつこっちからもいいですか?」

看護師「なによ?」

兄「看護師さんってヒマなんですか?」

看護師「ヒマなわけないじゃない。今だって仕事頼まれてんだよ」

兄「なのにぼくとしゃべってていいんすか?」

看護師「いいんだよ。基本的にこの病院はヒマだし、それに今の頼まれごとは友達からのでね
    MEがどっか行っちゃったらしいんだよ。それを探してくれって……」

兄「えむいー?」

看護師「メディカルエンジニアの略。まあ、そんなことはどうでもいいわ」



104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 20:40:29.28 ID:3IKVA/OvO

看護師「質問する前にひとつ」

兄「なんですか?」

看護師「イヤだったら答えなくていい。でも、怒らないでね」

兄「はあ……そんなぼくが怒るような質問なんですか?」

看護師「もしかしたら、ね」

兄「いいですよ。どうぞどうぞ、怒らないから質問してください」

看護師「なんか投げやりだね」

兄「最近、妹の相手してたら疲れてしまって。
  それにぼくってあんまり友達いないわりに人と話すの嫌いじゃないんで」

看護師「ふうん。じゃあ遠慮なく質問するね。

    なんで妹ちゃんが鬱病になったか原因わかる?」



105:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 20:47:38.17 ID:3IKVA/OvO

兄「…………」

看護師「……なんかごめん。やっぱり聞かないほうがよかった?」

兄「……というか、普通こういう質問をしますかね?」

看護師「まずしないね。普通の神経してたらね。ただ、わたしってばめちゃくちゃ図太いからさ」

兄「そういう問題じゃないと思います」

看護師「そうかもね……で、真面目な話わかるの? わからないの?」

兄「……なんとなく」

看護師「なんとなく?」

兄「心当たりは……あります」

看護師「わたしに話してみる?」

兄「…………」



106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 20:54:09.03 ID:3IKVA/OvO

兄「話してもいいですよ、べつに。大した話でもないし……でも、時間いいんですか?」

看護師「べつの部所の手伝いができるくらいヒマだから大丈夫」

兄「……給料泥棒」

看護師「あ?」

兄「なんにもです」

看護師「そんで、早く話してよ。あんまり立ち話してると同僚の視線がイタいからさ」

兄「……」



107:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 20:58:29.99 ID:3IKVA/OvO

兄「なんか身内自慢みたいになってイヤなんですけど、ぼくの妹、すごく優等生なんですよ」

看護師「へえ、確かに優等生っぽいかも」

兄「逆にこれは自虐になるんですけど、ぼくは全然勉強もできないし、部活もやらないグータラ野郎で」

看護師「うん、見た目からして覇気とかオーラとかがないよね」

兄「…………まあ、とにかく兄であるぼくがこんなんだから両親とか親戚も妹ばかり褒めたりするんですよね」

看護師「はは、わたしも一個上の兄が優秀だからキミの気持ちはよくわかるよ」

兄「うれしくないです」



108:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 21:06:10.37 ID:3IKVA/OvO

兄「妹はぼくとは対照的で、両親や親戚の期待にきっちり応えるタイプでして。
  実際、いい高校に通ってるし部活とかでも表彰されたりもしてたんです」

看護師「へえ」

兄「ただ、あるときからちょっとずつ妹は変わってたんですよ
  
  悪い方向に」

看護師「なんで?」

兄「その、ぼく高校二年の頃生徒会長やってたんですよ」

看護師「へえ、似合ってないね。
    あ、間違えた。すごいね」

兄「…………まあ、自覚はあります。先生や友達にもわりとボロクソに言われましたから」

看護師「ふうん、面白いね。で?」

兄「ただ、ぼく、勉強はできなかったんですけど人一倍運がよかったんすよ」



116:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 21:50:39.83 ID:3IKVA/OvO

看護師「百万円でも拾った?」

兄「百万円はむしろ捨てました。
  生徒会やったおかげでかなりいい大学に入れたんですよ」

看護師「はあ。生徒会やってるといい大学に入れるの?」

兄「と言うよりは、本来なら受けることができなかった大学に推薦で受験できるようになったんです」

看護師「で、受けたついでに大学も合格しちゃったみたいな?」

兄「はい、そんなところです。私立なんですけどね」

看護師「どこの大学なの?」

兄「――です」

看護師「めっちゃ頭いいところじゃん。馬鹿高校に通ってたわたしでも知ってるよ。
    実はめちゃくちゃ頭いいんでしょ? 謙遜してるだくで」

兄「いや、真面目に自虐とかじゃなくてぼく、アホですから。
  ぼくがそこに受かったって言ったらみんな卒倒しそうなぐらい驚いてましたよ」



117:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 21:56:35.50 ID:3IKVA/OvO

兄「とにかく運がよすぎたんですよ。ぼくの担任は受験に詳しい人だったし。
  ぼくが受けた学部はたまたま今年は数が少なかったし」

看護師「ふうん。高校は?」

兄「――ですけど……」

看護師「……わたしが通ってた高校じゃん。ていうか、あそこは女子校のはずなんだけど」

兄「七、八年前から女子校じゃなくなったんですよ。
  それに最近じゃあ少しはレベルも上がったし」

看護師「あのおバカ宗教学校がねえ……で、その兄くんがいい大学受かったのと妹ちゃんの鬱病は関係あんの?」

兄「……ぼくが受かった大学、アイツが入りたがってた大学なんですよ」



118:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 22:01:44.11 ID:3IKVA/OvO

ぼくが受けた学部はたまたま今年は数が少なかったし
↑今年じゃなくてその年だった



120:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 22:04:53.19 ID:3IKVA/OvO

看護師「キミの妹って何歳だっけ?」

兄「18です。ぼくとはふたつ違います」

看護師「妹ちゃんは本当なら今年から大学生だったんだね」

兄「ええ。だけどアイツは……」

看護師「大学落ちちゃったんだ」

兄「……はい。がんばりすぎて体調くずしちゃったんですよ」

看護師「いかにも真面目な女の子だね、妹ちゃんは」



121:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 22:13:09.72 ID:3IKVA/OvO

看護師「それで鬱病に?」

兄「それだけが原因じゃないと思います。
  女のくせに妹は愚痴ったりするタイプじゃなくて溜め込むタイプだったし」

看護師「女のくせにって言い方は感心しないなあ」

兄「……ごめんなさい」

看護師「ほかには?」

兄「イロイロあると思います。うちの両親十年以上も前に離婚してて。
  結局、ぼくらは母親に引き取られたんですけど、父親のくれる金だけでは足りなかったし」

看護師「なんか聞けば聞くほど重くなるね、話が。まあいいや、続けて」

兄「それで昔はけっこう辛い生活で、妹はなにかある度に将来はいい仕事について金持ちになるって言ってて……」

看護師「……」



122:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 22:21:54.95 ID:3IKVA/OvO

兄「まあ六年前に母が再婚してからは生活もラクになったんですけどね。
  でも妹はそれで自分の目標とか信念を無くすような怠け者じゃなくて」

看護師「キミは……って聞くまでもないか」

兄「ぼくのことなんかはどうでもいいんですよ」

看護師「はいはい、それでそれで?」

兄「……ぼくも詳しくは知らないけど妹はホテルのコンサルティング? とやらの仕事を将来はしたいと言ってて……」

看護師「へえ、わたしも詳しくは知らないけどプランナーみたいなもんでしょ?」

兄「だからぼくは知りませんって。
  アイツ一時期は留学とかもしてたんでそれも関係してるんだと思うんですけど……」

看護師「なんか聞けば聞くほど妹ちゃんはすごいね」

兄「……自慢の妹ですよ」



123:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 22:27:22.15 ID:3IKVA/OvO

看護師「ようするに原因はイロイロとあるわけね」

兄「きっとね。ぼくがうっかり間違ってイイ大学に入ったせいで、妹に対する周囲の期待とかもより大きくなってたし。
  妹は今まで、きちんと周囲の期待に応えてきたら余計にプレッシャーを感じたんだと思います」

看護師「……妹ちゃんの周りの環境と妹ちゃん自身の相性が悪かったのかもね」

兄「どういう意味ですか?」

看護師「んー、そうだな。たとえばさ、キミはここの病院のことどう思う?」

兄「……立派な病院だと思いますけど」

看護師「そだね。少なくとも外装とか内装とかはちょっとしたホテルみたいだよね」



124:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 22:31:51.92 ID:3IKVA/OvO

兄「なにが言いたいんですか?」

看護師「まあまあ最後まで人の話は聞きなよ。それじゃあ質問その2。
    この病院に患者はいっぱいいると思う?」

兄「……あんまりいないと思います」

看護師「そう。実際ここに来る患者の数なんて大したことないんだよ。
    やたらめったら広いわりに患者は全然いないんだよ。なんでだと思う?」

兄「……さあ?」

看護師「答えはいい医者がこの市民病院にはいないからなんだよ」

兄「いい医者がいない?」

看護師「うん、全然いないよ」



125:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 22:42:53.90 ID:3IKVA/OvO

看護師「それに毎年この病院のせいで市は30億ぐらいの借金を背負うらしいしね。
    外装や内装ばかりで中身が全然しっかりしてないのにね」

兄「はあ……」

看護師「借金ばかりだから医者や看護師に対する待遇も並のところより悪いし。
    患者もあんまりいないから仕事が少ない。それどころか本来の仕事すらできない人もいるし」

兄「……」

看護師「MEって、さっきも話したでしょ。アイツら本当は機械弄りが仕事なんだけど。
    大してそんな機械は使わないし、たいてい業者側がほとんどやっちゃうから仕事がないの」

兄「じゃあその、えむいーとやらはなにやるんですか?」

看護師「中材で雑用。しかも安月給でね。
    おかげでうちのMEはやる気ゼロで、毎日一回はどっかにサボりにいくんだ。
    そんでわたしがソイツらを探しに行くわけだ」



126:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 22:47:23.45 ID:3IKVA/OvO

看護師「最初に来たころはアイツら、めちゃくちゃ目ぇ輝かせてたのに、今じゃただの雑用だよ。
    せっかく専門学校に通ったのに結局最後は雑用なんだから馬鹿なことこの上ないわ」

兄「…………」

看護師「まあ、わたしも最近まで中材にいたけど金が安いから、異動したの」

兄「そうなんですか……」

看護師「そのMEも自分たちが働く環境をもっときちんと知ってりゃ、こんなことにはならなかったのに」

兄「そう、ですね……」

看護師「キミも働くときは周囲の環境を知っておいたほうがいいよ」



127:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/08(火) 22:53:00.47 ID:3IKVA/OvO

看護師「……っと、関係ない話してごめんね。そろそろわたし行くわ」

兄「はあ……がんばってください」

看護師「キミもさ」

兄「はい?」

看護師「あまり思い詰めないほうがいいよ。
    鬱病患者さんの側にいると側にいるその人までおかしくなることがあるから」

兄「……気をつけます」

看護師「んじゃ、また今度お話する機会があったらしようね。バイバイ」

兄「さよなら」



132:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 00:23:15.12 ID:O7PtOOyZO

兄『……』クチャクチャ

妹『……』モグモグ

兄『……この肉じゃがうめーな』クチャクチャ

妹『ねえ、兄ちゃん』

兄『なんだよ? 肉じゃがの肉はやらねえぞ』

妹『そうじゃなくて……クチャクチャうるさいって』

兄『クチャクチャ?』

妹『うん』



133:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 00:27:48.39 ID:O7PtOOyZO

妹『食べてるときに口をきちんと閉じて噛まないからそんなクチャクチャ言うんだよ』

兄『……』モグモグ

妹『……』

兄『あ、本当だ。口を閉じたらクチャクチャ言わないな』

妹『でしょ?』

兄『でも、こんなの誰も気にしないだろ?』

妹『はあ~……』

兄『……なんだよ、その深いため息は?』

妹『兄ちゃんって彼女いたことないでしょ?』

兄『それがどした?』



134:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 00:31:20.60 ID:O7PtOOyZO

妹『女の子と遊んだことあるなら食べ姿とか普通気にするもん』

兄『そうなの?』

妹『そうなの。だいたい前から思っててあえて言わなかったけど、兄ちゃんは食べ姿が汚すぎるよ』

兄『う、うるせー。そこまで食べ姿なんて女の子は気にしないって』

妹『気にするよ! 少なくともわたしは兄ちゃんの食べてる姿を見てると気分悪くなるもん』

兄『……そこまで?』

妹『うん』



137:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 00:33:46.69 ID:O7PtOOyZO

妹『とにかくものを食べるときはもうちょっとキレイに食べてね』

兄『へいへい』

妹『返事は?』

兄『はい』


………………
…………
……


妹「……」クチャクチャ

兄「……モグモグ」

妹「……」クチャクチャ

兄「なあ、妹?」

妹「……なに?」



138:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 00:39:12.47 ID:O7PtOOyZO

兄「その……」

兄(こんなこと注意するべきじゃない……けど……)

妹「なに? 言いたいことがあるならはっきり言ってよ」

兄「ご飯」

妹「……ご飯?」

兄「ご飯食べるときは口をきちんと食べたほうがいいぞ。音もクチャクチャ鳴らないし」

妹「……」



139:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 00:45:18.86 ID:O7PtOOyZO

妹「……っ」ドン

兄「い、妹……?」

妹「もうご飯なんていらない」

兄「……食べないのか?」

妹「いい。いらない。捨てて」

兄「……」



140:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 00:50:18.11 ID:O7PtOOyZO

兄「……ごめん」

妹「…………」

兄「病院の飯ってまずいよな? なにか買ってきてや……」

妹「いらないって言ってるでしょ」

兄「そ、そうか。
  それじゃあちょっと散歩でも行くか?」

妹「めんどくさい」

兄「……」



161:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 10:41:13.25 ID:O7PtOOyZO

妹「もう寝るから」

兄「でもまだ全然食べてないだろ……看護師さんに叱られるぞ?」

妹「じゃあ代わりに食べてよ」

兄「そういう問題じゃないだろ」

妹「そうだね」

兄「……今日はもう帰るわ」

妹「…………」



162:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 10:47:01.67 ID:O7PtOOyZO

………………
…………
……

妹『兄ちゃん、食べ物の好き嫌いよくないよ。
  それに残したらお母さんに怒られるよ?』

兄『じゃあお前が代わりに食ってよ』

妹『そういう問題じゃないでしょ。なにより食べ物に失礼だよ』

兄『……』

妹『いいから食べなよ。兄ちゃん背も低いし体重も少ないんだし』

兄『うるせー』


………………
…………
……



163:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 10:53:32.77 ID:O7PtOOyZO

兄「ただいま」

母「あれ、今日はえらい中途半端な時間に帰ってきたね。
  ていうか、むかえの電話くれた?」

兄「ううん、歩いて帰ってきたよ」

母「歩いてって……かなりかかったでしょ?」

兄「2時間ぐらいだよ」

母「アホ。そんな2時間も散歩するならバイトのひとつやふたつしてほしいね」

兄「ごめん」

母「明日は?」

兄「……は?」

母「明日は病院行くの?」

兄「……いや、行かない」



164:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 11:04:00.48 ID:O7PtOOyZO

母「ここ最近、かなり足しげく通ってたのに……明日はなにか用事でもあるの?」

兄「べつに……ただ、たまにはアイツもひとりになりたいんじゃないかなって思ってさ」

母「そう。まあ、いいんじゃない」

兄「……なあ、母さん」

母「なに?」

兄「俺が大学受かったとき、母さんはうれしかった?」

母「今さら聞くことでもないでしょ。お父さんと一緒にはしゃいでたじゃない。
  合格祝いにGショックの腕時計をアンタに買ってあげたし」

兄「そうだったね」

母「それがどうかしたの?」

兄「いや……」



165:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 11:07:04.48 ID:O7PtOOyZO

兄「べつに、ただ聞きたかっただけなんだ」

母「なんか変なの」

兄「変?」

母「普段、アンタからわたしに質問なんて必要最低限のことしかしないから。少しだけ新鮮」

兄「……もうひとつ質問」

母「まだあるの?」

兄「うん」

母「なに?」

兄「妹が大学落ちたってわかったとき……悲しかった?」



166:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 11:14:49.81 ID:O7PtOOyZO

母「……」

兄「母さん?」

母「今から話すことは妹には言わないでほしいの」

兄「……」

母「正直に言うとね。
  あの子が大学落ちたってわかったとき悲しくなんてなかったの。
  どっちかって言うとかわいそうだなって思った」

兄「かわいそう?」



167:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 11:16:42.77 ID:O7PtOOyZO

母「」



168:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 11:23:16.31 ID:O7PtOOyZO

母「だってあの子はずっと努力してきたんだよ。
  こういう言い方はよくないけど、数ヶ月だけ努力して大学受かったアンタと違ってあの子はずっとがんばってきたんだから」

兄「そうだな。俺がアイツの立場だったやる気なんて完璧になくしちまうわ。
  それでも最初は浪人するって言ってがんばろうとしてた。アイツはすげーわ」

母「ホントにね。神様はなんであんなにがんばってた妹を見捨てたのかな……」

兄「……」

母「……っと、べつにアンタが悪いわけじゃないから、そこは勘違いしないでよ」

兄「わかってるよ」



170:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 11:30:44.28 ID:O7PtOOyZO

母「まだご飯にはしばらくかかるから、その間勉強でもしたら?」

兄「そうだな。たまにはしようかな……」

母「あのさ」

兄「……なに?」

母「なんか疲れてるように見えたから言っておくけど、アンタまで無茶して、その……」

兄「……わかってるって。ていうか、大丈夫だよ。俺みたいないいかげんなグータラ男はさ」

母「そっ。ならいいけど」



171:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 11:36:17.40 ID:O7PtOOyZO

……
…………
………………

友「あれれ? 今日はきちんと昼からの講義も出てるじゃん」

兄「まあね。……ていうかそこまで昼からの講義サボってないからな」

友「でもトータルだったサボタージュの回数はお前のが上だろ」

兄「それがどうした」

友「それよりお前、就活とかいいの? 周りはけっこうドタバタしてるぞ」

兄「……」

友「おいおい、そんなテンション下げんなって。アゲてこうぜ、オレのテンションまで下がるっつーの」

兄「そうなんだよな。やることは山のようにあるんだよな……」

友「なに今さら言っちゃってんの?」



172:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 11:48:58.62 ID:O7PtOOyZO

友「お前、ホントにそんなチョーシで大丈夫なの?」

兄「あーヤバい。就きたい職業とかねえし。お前だってべつにないだろ?」

友「はあ? バカにしてもらっちゃあ困るわ」

兄「あんの?」

友「なりたい職業みたいなもんはねえな。やりたくない仕事ならけっこう浮かぶけど」

兄(そういやアイツも夢についてイロイロ語ってたな……)


………………
…………
……



173:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 11:57:26.73 ID:O7PtOOyZO

兄『パソコンでなにしてんの? つーかネットやりたいから早く終わって』

妹『ちょっと待って』

兄『なにしてんだ……って、日本のことなんて調べてどうすんだよ? 宿題?』

妹『日本のことについて勉強してんの』

兄『日本のことについて勉強? 貝合わせとか?』

妹『なんで平安時代の神経衰弱なんか調べるんだよ……。
  わたしさ、将来はホテルのコンサルタントやりたいんだ』

兄『なにそれ?』



174:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 12:03:02.44 ID:O7PtOOyZO

妹『簡単に言うとホテルのプランナーかな。しかも外国人向けのね』

兄『それが日本のこと調べんのと関係あんの?』

妹『外人さんに日本のこと聞かれたときとかきっちり答えれるようにしたいし。
  その地域の特色を知っておくことは大事なことなの』

兄『よくわかんねーけどすげーな、お前』

妹『まあね。兄ちゃんは夢とかないの?』

兄『ないな。全然ない。ニートになれるなら是非なりたいわ』

妹『ニートになるなら家から出てってね』

兄『お前が養ってくれなきゃニートできねえよ』

妹『実の妹に依存するとか終わってるね』



175:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 12:07:47.18 ID:O7PtOOyZO

兄『まあ俺の分までがんばれってくれ。心の片隅で応援してるから』

妹『兄ちゃんは人のことより自分のことでしょ』

兄『吹き抜けの2階建ての一軒家が欲しい』

妹『いい仕事につかなきゃ無理だね』

兄『じゃああきらめるわ』

妹『情けないなあ。そんなんじゃあ大学も受からないよ』

兄『べつに、地元のおバカ大学行くからいいよ』

妹『はあ……ダメだこりゃ』


………………
…………
……



176:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 12:19:32.82 ID:O7PtOOyZO

兄「家に帰ったはいいが。
  ヒマ人だなあ、俺って。親父は深夜にしか帰ってこねえし、母親はどっか行っちまったし」

兄「2ちゃんでも久々にするか……vipに『妹が鬱病になったwwwww』とか建てたら伸びるだろうな……」

兄「……」

兄「ばーか。して、それでどうなるんだよ……」

兄「ていうか俺、ひとり言多いよな。友達があまりいないからかも……」

兄「はあ……ちょっと、病院のぞいてみるか……」



178:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 12:35:00.63 ID:O7PtOOyZO

……
…………
………………

看護師「おっ、また兄くんは来たの? お勤めご苦労様」

兄「どうも……ちょうど夜ご飯終了の時間ですか?」

看護師「うん。ちなみにキミの妹ちゃんなんだけど……」

兄「妹がどうかしましたか?」

看護師「あの子、昨日の夜からご飯にまるで手をつけてないんだよ」

兄「……!」

看護師「なに、なんか心当たりでもあるの?」

兄「べつに……」



179:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 12:43:16.01 ID:O7PtOOyZO

看護師「確かに鬱病になると食欲がなくなったりすることこもあるし、珍しくはないんだ。
    逆に暴飲暴食しだす患者もいるし」

兄「……」

看護師「自分が勤めてるとこの悪口なんてあんまり言いたくないけど、うちの病院はいいかげん極まりないから。
    気をつけたほうがいいよ。
    半年前にも手首の骨折った患者の対応が悪くて、手首が半分しか動かなくなった人もいるし」

兄「それ裁判ざたなんじゃ……」

看護師「まあね。でも結局なんにもならなかったんだよ。患者も訴えたりしなかったし」

兄「……」

看護師「とにかく妹さんのことは極力気にかけたほうがいいよ」

兄「わかりました」

看護師「ああ、あとそれと……」

兄「?」

看護師「さっきキミの妹の病室を誰かが訪ねてたよ」



193:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 19:20:32.42 ID:O7PtOOyZO

兄「誰か? 誰ですか?」

看護師「いや、わたしも妹ちゃんのいる305号室の場所を聞かれただけだから知らないよ。
    女の人だったよ。わたしよりは年上だったな」

兄「……」

看護師「まあ行ってみたら?」

兄「そうします」


………………
…………
……



196:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 19:27:21.05 ID:O7PtOOyZO

兄『母さん、妹。吉報があんだけど聞いてくれない?』

母『なに? 百万円でも拾ったの?』

兄『いや、ちげえから。ある意味それよりすげえことが起きたんだよ』

妹『百万円拾うよりすごいことなんてあるの?』

兄『それがあるんだって。

  なんと、大学受かっちゃいました!』

母『ま、マジで?』

妹『ウソでしょ?』

兄『ウソじゃない。これを見てみろ』

母『……………。
  ほ、ホントに合格してる』

妹『に、兄ちゃんがわたしの目標にしてる大学に合格した……』



197:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 19:33:20.09 ID:O7PtOOyZO

母『超バカのアンタがこんな有名私立大学に合格するなんて……!』

兄『ちょっと信じられないよなあ?』

妹『ちょっとじゃないよ。めちゃくちゃ信じらんないよ』

母『……』カチカチ

妹『なにしてるの、お母さん?』

母『お父さんに兄が受かったってメールしてんの。
  メール見て仕事中に卒倒したりしてね』

兄『うはははは、明日学校の奴らにも自慢してやらなきゃな』

母『今日はちょっとご飯、がんばって作っちゃおうかな』

妹『…………』



198:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 19:36:23.83 ID:O7PtOOyZO

妹『わたしも兄ちゃんに負けないようにがんばらなきゃな……』ボソッ

兄『どした? 今日は俺の大学合格記念日だぜ?』

妹『え……?』

兄『え、じゃねえよ。お前も俺をもっと敬え、讃えろ、褒めちぎれ』

妹『……調子に乗りすぎだよ。まあ、今日ぐらいはいいけどね。
  大学合格おめでとう、兄ちゃん』

兄『ありがとぅーすー!』


………………
…………
……



199:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 19:40:54.31 ID:O7PtOOyZO

兄『妹が大学に落ちた……?』

母『うん……まさか落ちるなんて思ってなかったからわたしもビックリしちゃって……』

兄『アイツ、本番体調くずしてたけど。
  ……落ちたのか』

母『今は部屋にいる。
  あのさ』

兄『ん? なに?』

母『あの子、相当ショック受けてるみたいだから、部屋から出てきたら……励ましてあげて』

兄『……わかったよ』


妹『誰がショック受けてるって?』

兄『うわ!? いつのまにいたんだよ?』



200:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 19:45:56.11 ID:O7PtOOyZO

妹『大げさだなあ。前期は落ちちゃったけど、まだ後期だってあるんだよ? 
  そこで受かるから安心してよ』

兄『……それもそうだな。お前なら余裕で受かるだろ』

母『まあ、どっかの誰かと違っていつも努力してたからね。
  妹なら、やればできるよ』

兄『うるせーぞ』

妹『まかせなさいって。それに……』

兄『ん?』

妹『……後期が落ちたとしても浪人すれば……』

兄『え?』

妹『なんにもだよ。
  ……っと、こんなとこで兄ちゃんとしゃべってないで勉強しなきゃね』

兄『おう。せいぜいがんばれよ』


………………
…………
……



202:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 19:50:38.86 ID:O7PtOOyZO

妹『ごめん、お母さん。大学落ちちゃった……』

母『……』

妹『……ごめんなさい』

母『謝ることじゃないって。アンタはきちんと努力してきたし、その努力はちゃんと実ってきた。
  ただ今回は運が悪かったんだよ。結果にはならなかっただけ』

妹『……』

母『それで……浪人するの?』

妹『……』コクリ

母『だったら、きちんとがんばりなよ。お母さんも応援するから』



204:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 19:55:53.72 ID:O7PtOOyZO

妹『ありがと……』

母『まあ、アンタが勉強がんばってる間はコイツががんばるから……』

兄『……なんで俺なんだよ?』

母『アンタはちゃっかり妹の志望大学に受かったんだから。
  先輩として妹の分までがんばりなさいよ』

兄『全然理由になってねえぞ』

妹『……本当にごめんなさい』

兄『そこまで謝ることじゃないよ』

母『そうそう。兄は長男としてもっとがんばらなきゃなんないだから。
  今よりバイトして妹を支えてあげなさいよ』

兄『へいへい』

妹『…………』


……
…………
………………



205:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 20:05:12.95 ID:O7PtOOyZO

兄(結局妹は一ヶ月も経つ前におかしくなった。
  大学に落ちたからアイツはおかしくなった……。
  いや、やっぱりそれだけじゃないんだろうな……)

兄「……305号室はここだったな。
  いもーとー、入るぞー」

兄(あれ? ……誰かいる?
  そういえば看護師さんが言ってたな。誰かが妹のお見舞いに来てるって)

兄「……え?」


母「……」

妹「……」

兄「母さん……?」



206:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 20:15:31.01 ID:O7PtOOyZO

母「……今日は来ないんじゃなかったの?」

兄「……いや、その、ヒマでヒマで……来ちゃった」

母「そう。じゃあアンタが来たんならわたしは帰るよ」

兄「今、来たばかりじゃないの?」

母「いいんだよ。わたし、明日は仕事だし今日は早めにご飯作ってさっさと寝るよ」

兄「……そうか」

母「じゃあね。アンタもあんまり帰り時間が遅くならないように」

兄「はいよ」


……
…………
………………



207:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 20:25:38.28 ID:O7PtOOyZO

兄「……」

妹「……」

兄「……」モジモジ

妹「……」

兄「……昨日は…………ごめん……」

妹「……」

兄「昨日のことはお前がわざわざ気にすることじゃないから。忘れて、な?」

妹「ねえ」

兄「なんだ?」



208:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 20:30:09.02 ID:O7PtOOyZO

妹「……お母さん呼んだの、兄ちゃん?」

兄「いや、呼んでねえよ。母さんが勝手に来ただけだろ」

妹「……ふうん」

兄「母さんとなにか話したか?」

妹「…………」

兄「しゃべってないのか?」

妹「……」コクリ



210:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 20:51:01.17 ID:O7PtOOyZO

兄「そういや、お前ご飯食べてないんだって?」

妹「……」

兄「べつに怒ってるわけじゃないんだ。ただ、お前のことが心配で……」

妹「……ごめんなさい」

兄「謝んなくていいよ。だからご飯だけはしっかり食べてくれ。
  ご飯食べないと元気になれないぞ。な?」

妹「……」



211:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 20:55:37.15 ID:O7PtOOyZO

兄「なんなら今からお前の好物でも買ってきてやろうか?
  なんだっけ、あの……」

妹「……食べたくない」

兄「……どうしてだよ?」

妹「だって……クチャクチャ言って兄ちゃんを……不快にさせるから……」

兄「……昨日はちょっと気分が悪かったんだよ。それでつい、お前を注意しただけなんだ。
  普段の俺は気にしないよ」

妹「気分が悪かったのはなんで?」

兄「べ、べつに理由なんかはない」

妹「わたしのせいでしょ? わたしが兄ちゃんの気分を悪くさせるんでしょ? そうなんでしょ?」

兄「ちがう。そんなことはない」

妹「ウソだ……!」



212:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 21:16:27.43 ID:O7PtOOyZO

妹「ホントはわたしのお見舞いだってイヤでイヤで仕方ないんでしょ? めんどくさいんでしょ?」

兄「……俺はめんどくさかったらお見舞いなんざしねえよ!」

妹「……!」ビクッ

兄「あ……ご、ごめん。  ちがうんだ。怒鳴るつもりなんてなかったんだ」

妹「……うぅ……っ……」

兄「…………」



217:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 21:58:19.69 ID:O7PtOOyZO

妹「わかんないよ……わたし…………わたし、どうしたらいいの…………」

兄「……」

妹「やっぱりわたしなんて……わたしなんていないほうがいいんだ…………」

兄「そんなこと、ないだろ。
  今日だって母さんはお前のこと心配して見舞いに来たんだぞ」

妹「…………」

兄「お前に早く元気になってほしいって、ずっとそう思ってんだよ」

妹「……」

兄「俺もお前に早く元気になってほしい」

妹「…………」



219:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 22:07:17.16 ID:O7PtOOyZO

妹「……じゃあどうして?」

兄「?」

妹「……どうして……お母さんは…………」

兄「……」

妹「……どうして、お母さんはわたしを叱らなかったの……?」

兄「……?」

妹「わたし、お母さんの期待を裏切っちゃったんだよ……?
  なのに……なんでわたしを怒らなかったの?」



220:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 22:15:00.82 ID:O7PtOOyZO

妹「わたし、受験落ちちゃったのに……お母さんたちの期待を裏切ったのに……。
  普通なら怒るでしょ?」

兄「……! それは……」

妹「意味わかんないよ……わかんないんだよ……」

兄「……母さんや父さんは、お前が努力してたのを知ってたんだよ。
  母さんだって言ってたろ。お前は人一倍がんばってたって」

妹「……ちがうよ。どうせそんな理由なんかじゃない……」

兄「ほかにどんな理由があるんだよ」

妹「……兄ちゃんがわたしの志望大学に受かったから……」

兄「……」

妹「……だから、わたしのことなんてどうでもよくなったんだよ……」



221:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 22:26:35.85 ID:O7PtOOyZO

兄「そんなわけないって。そんなことでお前のことを……」

妹「……だから、じゃあ、なんで、わたしを……わたしを叱らなかったの!?
  失望したんでしょ!? 
  まともに自分の目標も達成できない娘なんかどうでもよくなったんでしょ!?」

兄「…………」

妹「……イヤだよ……もうわけわかんないよ……ツライんだよぉ…………」

兄「……」

妹「起きてると……生きてると……生きるのが……ツライんだよ…………」

兄「……」


……
…………
………………



222:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 22:31:24.02 ID:O7PtOOyZO

医者「……これでしばらくは大丈夫だと思います」

兄「……ありがとうございます」

医者「薬の効果で妹さんは眠ってますが、意識を取り戻したら万が一のこともあります。
   一応看護師に見させておきます。ですから今日は帰ってもらいますか?」

兄「……はい。ホントにすみませんでした」

兄(結局、あのあと自暴自棄になって暴れだした妹をおさめることが俺にはできなかった。
  ナースコールを押して……なんとか妹を落ち着けることができた)



224:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 22:39:41.70 ID:O7PtOOyZO

……
…………
………………


兄「ただいま」

母「おかえり」

兄「俺、今日飯はいいわ。風呂入ってさっさと寝たい」

母「……そっ。
  さっき、病院から連絡があったよ。しばらく妹には会えないって」

兄「……ごめん」

母「アンタまで謝んないでよ」

兄「……」

母「あのさ、アンタには話さなかったことなんだけどね。
  あの子が初めて大学受験に落ちたときの夜のことなんだけど」

兄「……」



226:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 22:48:42.37 ID:O7PtOOyZO

母「あの子、わたしの部屋まで来て、急に泣き出して。
  『受験に受からなくてごめんなさい』って泣きながらずっとわたしに謝ってきたの」

兄「……母さんはどうしたの?」

母「情けないことになにもできなかった。
  あの子の頭を撫でてありきたりな台詞を並べることしかできなかった」

兄「それは……仕方ないだろ。ほかになにができたんだよ。
  受験に受からなかったからって叱るのかよ……」

母「わからない。
  でももしかしたら、あの子は下手な慰めの言葉なんかよりそっちのほうを望んでいたのかもね」

兄「……」

母「もちろん、受験に受からなかったからって叱るのは間違いだと思う。
  でも慰める以外にももっとなにかできたんじゃないかって……最近になって思うんだ」

兄「…………」

母「それに……」

兄「?」



228:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 22:55:36.69 ID:O7PtOOyZO

母「わたし、アンタが志望校に受かった時点で大学受験のことなんてどうでもよくなってたのかも……」

兄「……それはどういう……」

母「ごめん。これ以上は言いたくない。自分でも最低だと思うから」

兄「……そうか」

母「ただ、賢いあの子はわたしがなにを思っていたのかわかっていたのかもね」

兄「……」

母「わたしもご飯食べたら早く寝る。今日はなんにもしてないのに疲れちゃった……」

兄「……」



230:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 23:02:26.93 ID:O7PtOOyZO

………………
…………
……


妹『へへ、兄ちゃんこれ見て!』

兄『……なにその賞状? 皆勤賞かなんか?』

妹『残念ながら今年はインフルエンザにかかったから皆勤賞はとれてないんだなあ』

兄『じゃあなんだよ、その賞状?』

妹『英検二級合格の賞状だよ。たしか兄ちゃんもこの前、受けてたよねー?』

兄『俺は一次試験すら受かってないけど……あれ?
  お前って今何年生だっけ?』

妹『妹の学年ぐらい知っておいてよ。
  ピチピチの高校一年生だよ』

兄『……高3の俺が取れなかった英検を……』

妹『ちなみに一発合格です!』



231:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 23:08:17.43 ID:O7PtOOyZO

兄『それくらいで自慢するな。
  世の中には八歳という若さで英検二級に合格する子供だっているんだぞ』

妹『そんなすごい人と比べられても……。
  ていうか、兄ちゃんが威張ることじゃないでしょ?』

兄『……なんかお前ってさ』

妹『うん』

兄『挫折とか知らなさそうだよなあ』

妹『んー、確かにあんまり諦めたり挫折したことはないかも』

兄『おかしいなあ。俺はささいなことでもしょっちゅう失敗したりするのに……。
  いいところは全部お前に持ってかれたか?』

妹『あははは』


……
…………
…………………



233:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 23:17:19.29 ID:O7PtOOyZO

看護師「……そんで、なんでキミはまた病院に来ようとしてるのかな?」

兄「さあ……?」

看護師「妹ちゃんが大事なのはわかるけど、しばらくあの子は誰とも会いたくないって言ってるし。
  あの子の担当のノグチ先生もなるべく人との関わりを減らしたほうがいいと申されたよ」

兄「看護師さん、妙にうちの妹関連の情報に詳しいですね」

看護師「昨日の事件はわたしらの部署じゃあかなり有名だからね」

兄「……さいですか」

看護師「とにかく、キミは妹ちゃんとは会えないから帰ったら?」

兄「……看護師さんってヒマそうですね」

看護師「あのね……もう定時なの。おわかり?
    まあわたしは残業とかそんなにしないタイプの人間だから、人より多少ヒマかもね」



235:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 23:25:21.11 ID:O7PtOOyZO

兄「なんか看護師さんって図太いですよね……」

看護師「ああ、わたしなんかは影でよくそう言われてるよ。
    ま、実際自分でもそう思うよ」

兄「看護師さんは一生鬱病とかきならなさそうですね」

看護師「どうだか。わたしもあるとき急に鬱病になってるかもよ?」

兄「……想像したくないですね」

看護師「わたしも、鬱病になった自分なんて見たくないよ」

兄「……」

看護師「まあわたしから言わせてもらうなら、キミこそ鬱病とかにならなさそうだけどね」

兄「……そうですか?」



236:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 23:28:45.81 ID:O7PtOOyZO

看護師「うん。なんていうか、最初からイロイロと諦めてる、みたいな?
    なんつうか、ギラギラしたものを感じないんだよね」

兄「なるほど。たしかにね。
  ぼく、自分で言うのもなんですけど、あんまりがっついたりはしないですね」

看護師「キミ、彼女いないでしょ?」

兄「……い、いますよ」

看護師「いないね。いたらわたしの今月の給料の四分の一あげるわ」

兄「…………いません」

看護師「やっぱり。がっついたりしないね」

兄「……そうみたいですね」



237:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/09(水) 23:41:28.71 ID:O7PtOOyZO

看護師「やっぱりさ、目標があったり意思の強い人のほうが鬱病患者さんには多いわけ」

兄「……なるほど」

看護師「キミの妹さんもイロイロ目的や目標のあるタイプの人間だったみたいだねえ」

兄「ええ。アイツはいつでも目標に向かってがんばってましたよ」

看護師「だからどっかで派手に転んでそのまま病気になったわけだ」

兄「……」

看護師「目標や夢がないキミやわたしみたいな人間は、本当の意味での挫折がほとんどないからね」

兄「そうですね。
  ぼくは仕事場でけちょんけちょんにされて鬱病になっても、夢に挫折して鬱病になったりはしないでしょうね」



245:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 00:32:55.91 ID:P3icjaNVO

看護師「まあ……わたしも昔はすごい漠然としてたけど、夢あったんだよ」

兄「なんですか?」

看護師「ナイチンゲールみたいな看護師になりたかったんだよ」

兄「……漠然というか、テキトーですね」

看護師「なんていうか、わたしの性格をそのまま現したかのような夢だよね」

兄「でも、ナイチンゲールの部分を除けば、夢叶ってるじゃないですか」

看護師「看護師になるなんて車の免許とるのと大差ないよ」

兄「そうなんですか?」

看護師「バカ看護師、略して『バカンゴシって言われてるわたしでさえ受かるんだから、間違いない」



246:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 00:40:01.42 ID:P3icjaNVO

兄「でも、それでも職にきちんと就いてるだけでもすごいっすよ。
  ぼくなんて就活すらまともにしてないし」

看護師「それってヤバくない?」

兄「ヤバいです。このままだとニートかフリーターかの二択です」

看護師「今の学生さんは大変だねえ。なんなら今から専門行って看護師目指したら?
    看護師は需要あっていいよ。
     あ、ただし勤務先だけはめちゃくちゃ吟味したほうがいいよ」

兄「看護師か……そういや妹が5歳ぐらいの頃は『看護婦さんになる』とか言ってたな……」

看護師「看護婦とか懐かしい響きだね」

兄「ぼくは看護婦って響きのが好きですけどね」



248:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 00:44:35.29 ID:P3icjaNVO

兄「そうですね。ぼく、看護師になってこれから妹のことずっと見守りましょうかね?」

看護師「はい?」

兄「……すみません。今の冗談はかなり不謹慎でした」

看護師「わたしには意味がわからなかったから、謝られてもねえ」

兄「……妹に聞かれなくてよかったです」

看護師「ふうん。そういえば前から気になってたんだけど、聞いていい?」

兄「なにをですか?」

看護師「キミってシスコンなの?」



250:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 00:51:41.08 ID:P3icjaNVO

兄「……なんでぼくがシスコンなんすか?」

看護師「だって……ねえ?」

兄「心外ですよ。ぼくはただ……」

看護師「ただ?」

兄「……すみません。なにかそれっぽいこと硫黄と思いましたけど言葉が浮かばないんでやめます」

看護師「やっぱりシスコンなんじゃん」

兄「……」

看護師「だって昼からもわりと来てるし……それとも大学の授業って昼からはないとか?」

兄「そういう場合もありますけど……」

看護師「基本的にはサボってるわけね」



251:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 00:57:10.50 ID:P3icjaNVO

兄「どう言えばいいんだろ……。ぼくにとってアイツっていうのは……」

看護師「恋愛対象?」

兄「それじゃあ近親相姦じゃないですか。
  ていうか、人が真剣に話そうとしてるんだから茶々を入れないでください」

看護師「ごめんごめん。続けて」

兄「……だから、アイツはぼくにとって……光みたいなもの……なのかな?」

看護師「光?」

兄「ぼくが見てきたアイツは、なんていうか……実の妹ながら生き様がカッコイイっていうか……」

看護師「……」



253:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 01:03:26.65 ID:P3icjaNVO

兄「そう、ずっと見守っていきたい……そんなヤツなんですよ」

看護師「でもキミの妹さんは……」

兄「はい。今のアイツは以前の面影しかありません。
  だから…………」

看護師「なんでそこで間を置くんだよ」

兄「あ、いや、ちょっと言うのが恥ずかしくなってしまいまして」

看護師「言って。先が気になって気分が悪い」

兄「……だから…………アイツの笑顔を……取り戻したい……みたいな……?」

看護師「ふーん……なるほど」



254:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 01:10:34.75 ID:P3icjaNVO

兄「自分勝手な考えだとは思います。
  結果的にアイツを苦しめることになったし」

看護師「いいんじゃない? いや、キミの行いじたいは褒められるもんじゃないけど。
    キミの妹ちゃんに対する思いは素晴らしいと思うんだ」

兄「ありがとうございます」

看護師「でも、あの妹ちゃんにはイロイロつらかったんだろうね。
    キミの思いが重かったんだろうね」

兄「どういうことですか?」

看護師「……わたしさ、高校の頃、好きな男子がいたの」

兄「はあ……」

看護師「だけどその人は超イケメンだったから、わたしは近づけなかったの。
    そしたら友達がわたしのために、なんかやらかしちゃってくれてさ」



256:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 01:15:51.97 ID:P3icjaNVO

兄「友達になにされたんです?」

看護師「わたしの寝てるときの写真をそのイケメンボーイに送りつけやがったの」

兄「あらら」

看護師「そりゃ、もうわたしは暴れたね。
    送った写真は一番ブサイクな寝顔だったし。
    友達は絶対にいい、とか言い出したけどありえないってね」

兄「……」

看護師「たぶんキミが見舞いに来てなにかを言う度に、妹ちゃんはすごいストレスを感じてんじゃない?」

兄「なんで?」

看護師「一番見られたくないところを見せなきゃならないのは、誰だってつらいだろ?」

兄「……」



258:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 01:47:42.96 ID:d3KXwhj80

これは勉強になる



281:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 12:22:25.68 ID:P3icjaNVO

看護師「まあ、もっとうちの医者がしっかりしてりゃあまた、ちがったかもね」

兄「……」

看護師「まあ、しばらくは妹ちゃんをひとりにしてあげたほうがいい」

兄「ぼくにできることはなにかないんでしょうか……」

看護師「……見守ることじゃないの?」

兄「それしかできないんですかね?」

看護師「できないんじゃない?」



282:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 12:37:02.20 ID:P3icjaNVO

兄「なんか……歯痒いですね」

看護師「仕方ないよ。結局、こういう病気は自分とのたたかいだからね」

兄「……」

看護師「それに下手に励ましたり慰めたりするのもよくないしね」

兄「そういやドラマとかでも見たことありますけど。
  励まされたりするとその反動でかえって病気が悪化したりするらしいですね」

看護師「不思議なことにね。
    病気の最中はポジティブなものが突然ネガティブなものに変わっちゃうらしいね」

兄「ぼくは……なにもしちゃいけないんでしょうか……」

看護師「わたしはオススメしないね」



283:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 13:01:23.90 ID:P3icjaNVO

看護師「まあ、今日はとにかく帰ったら? やれることなんてないし」

兄「……ですよね」

看護師「まあ、あとは考えることだね」

兄「なにをですか?」

看護師「自分になにができるか、よ」

兄「なにができるんですか、ぼくに……」

看護師「それは自分で考えなよ。わたしが考えることじゃないし」

兄「……」


………………
…………
……



287:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 13:31:05.67 ID:P3icjaNVO

兄「……ただいま」

母「どこ行ってたの?」

兄「どこでもいいだろ」

母「まさか、また病院に行ったとかじゃないでしょうね?」

兄「…………」

母「はあ……アンタ、しばらくは妹には会えないって言われたでしょ?」

兄「会えなかったよ」



288:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 13:50:42.89 ID:P3icjaNVO

母「……アンタ、あの子のことも大事だけど自分のことはいいの?」

兄「あ? どういう意味だよ?」

母「アンタの同級生の子……名前忘れたけど……もう就活してるらしいじゃない。
  わたしは大学行ってないから詳しいことは知らないけど、アンタも就活しないとまずいんじゃないの?」

兄「……そうだね」

母「そうだね、じゃないでしょ。アンタはいつも行動が遅いんだから……」

兄「行動が遅い、か……」

………………
…………
……



289:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 14:03:21.28 ID:P3icjaNVO

妹『兄ちゃん、今度旅行に行くんだってね』

兄『明日からな』

妹『明日!? まだなんにも準備してないじゃん!』

兄『明日から旅行なんだから明日、用意すりゃいいだろ?』

妹『ダメだよ。旅行の準備とかは早めにしとかないと!』

兄『なんでだよ?』

妹『もし足りないものとかあったら直前じゃ、買ったりすることもできないでしょ』

兄『ふーん』

妹『兄ちゃんは行動がとにかく遅すぎるんだよ。
  友達とかにもどんくさいとか言われてたんじゃない?』

兄『よくわかってるな』

妹『兄ちゃんのことならなんでもわかるよ』



290:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 14:18:20.77 ID:P3icjaNVO

兄『キモいこと言うな』

妹『なに、もしかしててれてんの?』

兄『うるせー。妹相手にてれるとかないわ』

妹『はいはい。さっさと旅行の準備しなよ』

兄『ていうか、お前は俺のことわかるかもしれないこど俺はお前のことなんて全然わかんねーからな』

妹『兄ちゃんはニブいもんね』

兄『なんとでも言え』


………………
…………
……



291:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 14:33:37.93 ID:P3icjaNVO

兄(そうだ。俺は結局アイツのことなんてなにひとつわかってなかったんだ。
  だからアイツは一生挫折なんてしないと思ってたし、そうだと思ってなんにも考えなかった)

母「アンタも自分のことをがんばりなさい。
  あの子のことはわたしたちがなんとかするから……」

兄「…………」

母「…………」

兄「……母さん。俺からひとつ提案があるんだ。
  というか、お願いなんだけど……」

母「……なに?」


……
…………
………………



292:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 14:45:59.17 ID:P3icjaNVO

看護師「おやおや~、これは久しぶりじゃない?」

兄「久しぶりって言っても一週間ぐらいですけどね」

看護師「ほとんど毎日来てた人の顔を一週間も見なかったら、久しぶりっていうふうにも感じるよ」

兄「そんなもんですかね」

看護師「そんなもんだよ」

兄「それで……アイツは?」

看護師「正直……あんまり変化はないね。しいていうなら相変わらずものを食べないってところ?」

兄「…………」



294:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 14:55:07.55 ID:P3icjaNVO

看護師「でさ、マジでまた妹と会うの?」

兄「……」

看護師「鬱病はなにかがきっかけで急によくなったりすることなんてまずないよ。
    時間をじっくりかけてゆっくりと治していくしかない」

兄「わかってる……つもりです」

看護師「まあ今さらわたしから言われることじゃないよね」

兄「……」

看護師「まあ今日は比較的マシだし、あの子もアンタと会ってもいいって言ってくれたら面会はオッケー。
    でも、言動にはマジで気をつけたほうがいいからね」

兄「はい……」



295:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 15:02:20.88 ID:P3icjaNVO

看護師「まあ、どちらにしようこれでキミとはもう合わなくなるだろうね」

兄「……少し寂しいっすね」

看護師「またまた冗談を」

兄「ぼく、友達少ないんですよ」

看護師「わたしもキミにお友達としてカウントされてるの?」

兄「してないですよ。ただ、看護師さんみたいに優しい人が友達だったらぼく、母親に自慢しますよ」

看護師「ふうん、わたしって優しいんだ?」

兄「なんだかんだ看護師さんのおかげで、今回の決断にも踏み切ることができましたから」

看護師「……そ。まあ、後悔しないようにがんばんなよ」

兄「……はい!」



296:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 15:08:57.74 ID:P3icjaNVO

……
…………
………………


兄「よっ」

妹「……久しぶり、兄ちゃん」

兄「お医者さんから、話は聞いてるよな?」

妹「……うん」

兄「来週から病院を移る。なあに、お前はなんにも心配しなくていいよ」

妹「……兄ちゃん」

兄「……んー?」

妹「なんで、兄ちゃんはこんなにわたしのためにがんばってくれてるの?」



298:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 15:18:10.23 ID:P3icjaNVO

兄「……ぶっちゃけわからん」

妹「…………」

兄「それにひとつ言うなら、俺はお前のお見舞いに来てるだけだぜ。
  顔見てしゃべって帰るだけだ。病院の費用は母さんと親父が出してるし」

妹「……うん」

兄「ああ、そうそう。これ、パッセルのプリン。
  お前、好きだろ? よかったら食べてくれ」

妹「…………」



299:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 15:25:48.48 ID:P3icjaNVO

兄「……あのさ……正直なところ、俺とお前って特別仲いい兄妹ってわけじゃなかったよな」

妹「うん……ケンカとかはあまりしなかったけどね」

兄「ケンカしても、いつもお前が一方的に怒ってるだけだしな」

妹「そうだったけ……?」

兄「そうだよ」

妹「そっか……」

兄「……俺さ。たぶん、お前に憧れてたんだよ」

妹「……」



300:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 15:30:23.63 ID:P3icjaNVO

兄「もちろん、そんなハッキリとは意識してなかったけどな。
  でも、なんかお前見てるとよくわかんないけど、すげーなっていつも思ってたんだ」

妹「……そうかもね。兄ちゃんはあんまりできることなかったけど。
  わたしって基本、なんでもできたしね……」

兄「悔しいな。俺のが兄ちゃんなのに」

妹「でも……大学は兄ちゃんが受かった」

兄「……」

妹「わたしは……落ちちゃったし……」

兄「そうだな。それが俺の唯一自慢できることだよ」

妹「……ダサいね」

兄「まあな」



302:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 15:36:31.99 ID:P3icjaNVO

兄「俺さ、前からお前に頼みたいことがあったんだ」

妹「……わたしにできることなんて……なにも、ないよ……」

兄「今から頼むことはお前にしかできないことだよ」

妹「……」

兄「もっとさ、お前の思ってることを話してよ。
  お前って肝心なことを話さないで、どうでもいいことばかり話すんだからさ」

妹「……ごめん」

兄「謝るなっつーの」

妹「……」

兄「これ、いつも俺が思ってることだけど。
  案外、人が人に求めてるもんなんてそう多くないと思うんだ」

妹「……どういうこと?」



304:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 15:42:03.64 ID:P3icjaNVO

兄「だからさ、お前、前に言ってたじゃん。
  母さんや親父の期待を裏切っちゃったって。でも実際はそんなことねえと思うんだ」

妹「……もとから期待してなかったってこと?」

兄「ちげーよ。じゃあ聞くけど、お前、俺になんか期待したことなんてあるか?」

妹「……あんまり」

兄「だろ? 親父や母さんが本当にお前に望んでんのはたぶん、ひとつだけだと思うんだ」

妹「……なに?」

兄「元気で毎日すごしてくれること……だと思う」

妹「……わたし、それすらできてないよ……」

兄「今はな。でも、お前が受験に落ちたとき、母さんはお前を攻めなかった。
  お前は、母さんがお前に失望したからだと言ってたけど、お前のことが母さんは心配だったんだよ」

妹「…………」



306:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 15:47:31.19 ID:P3icjaNVO

兄「受験の前に無理して風邪ひいたろ。
  あんとき、母さんずっとお前の体調のこと心配してたんだぜ。
  俺が試験の心配しろよって言ったら、キレたんだぞ」

妹「……お母さん……」

兄「だからさ……っ……」

妹「兄ちゃん……?」

兄「俺……その……っ、うぅ……」

妹「……兄ちゃん……なんで泣いてるの……?」

兄「……わかんねえよ。ただ、俺、お前とまた一緒に飯が食べたいんだよ……」

妹「兄ちゃん……」


……
…………
………………



307:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 15:55:25.90 ID:P3icjaNVO

看護師「食事の回収に来ました……ん?」

妹「……」クチャクチャ

看護師「……」

妹「あ……すみません……。
  片付けてください。もういいです……」

看護師「はい、わかりました……。
    薬は……もう飲んだみたいだね」

妹「……はい」

看護師(…………)


……
…………
………………



308:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 16:01:21.40 ID:P3icjaNVO

妹『ゲホッゲホッ……』

母『ホントに大丈夫? あんまり体調が悪いようなら……』

妹『大丈夫だよ。ちょっと熱があるくらいだから』

兄『ちょっとって……38度も熱あったんだろ?』

妹『試験が終わったらきちんと安静にするから……』

母『……無理はしないでね。もしなにかあったら電話して』

妹『お母さん、仕事は?』

母『アンタのことが心配で手につかないだろうから、今日は休んだの』

妹『心配性だなあ……ゲホッゲホッ……』



309:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 16:04:33.24 ID:P3icjaNVO

母『これぐらいが普通なの』

妹『大丈夫だよ、お母さん。わたし、本番に強いからさ』

母『そういう問題じゃないんだけど……』

兄『てか、けっこういい時間なんじゃないの?
  早く家を出なくていいのか?』

妹『……っと、本当だ。じゃあ行ってきます』

母『試験がんばってね。
  
  でも無理はしないでよ!』

妹『はい! 行ってきます!』


……
…………
………………



310:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 16:11:41.77 ID:P3icjaNVO

妹「……」

妹「……兄ちゃん……お母さん……お父さん…………」

妹「わたし……どうしたらいいか……わからないよ……」

妹「苦しいよ……意味わかんないよ……」

妹「こんな気持ちやだよ……生きてるとずっと……ずっとこんな気持ちのままなの……?」

妹「うぅぅ……っ…………しにたい……」

妹「死んだほうか……マシ…………」



312:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 16:18:25.62 ID:P3icjaNVO

妹「ごめん……兄ちゃん……もうイヤなんだよ…………」

妹「ごめんなさい……ごめんなさい……」

妹「迷惑かけてごめんなさい……」

妹「心配かけてごめんなさい……」

妹「お金かけさせてごめんなさい……」

妹「死ぬから……死ぬから許して……」

妹「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」



313:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 16:21:28.99 ID:P3icjaNVO

妹(どこか……どこからか……飛び降りれは……どこかで……)

妹「……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」ヨロ……

妹「死ぬから許してください…………」

妹「…………」

妹「兄ちゃん……」



314:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 16:27:10.55 ID:P3icjaNVO

母『試験がんばってね――でも無理はしないでよ!』


妹「お母さん……」


兄『ただ、俺、お前とまた一緒に飯が食べたいんだよ……』


妹「……兄ちゃん……」


妹「わたし……まだ……生きてたいよ……」



315:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 16:29:41.98 ID:P3icjaNVO

看護師「……!
    どうしたんですか、大丈夫ですか!?」

妹「…………」

看護師「しっかりしてください!」

妹「……です」

看護師「……?」

妹「大丈夫です」


妹「わたしは……まだがんばります」


……
…………
………………



317:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 16:37:49.23 ID:P3icjaNVO

――二年後


看護師「あれ? なんか顔つき変わった?」

兄「いや、まずぼくの顔の前に久しぶりとか挨拶が先でしょ?」

看護師「ははは、それもそうだね。久しぶりだね」

兄「お久しぶりです。今日は、わざわざありがとうございます」

看護師「ホントにせっかくの休日なのにねえ……。
    でもまあ、そろそろ会いたいと思ってたしべつに構わないよ」

兄「どうも」

看護師「それでぶっちゃけさ。

    妹ちゃんはどうなったの?」

兄「…………」



320:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 16:45:07.65 ID:P3icjaNVO

看護師「……」

兄「そのなんですか……」

看護師「早く言えっつーの」

兄「すみません」

看護師「こんなことをもったいぶってどうするんだよ」

兄「まあ結論から言うなら……。
  無事に鬱病は治りましたよ」

看護師「……ほっ」



323:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 16:53:39.78 ID:P3icjaNVO

兄「看護師さんが紹介してくれた病院で一年間すごして、アイツは無事退院しました」

看護師「安心したよ。正直に言うと少し、不安だったんだ」

兄「不安だったんですか?」

看護師「わたしがすすめた病院でキミの妹ちゃんに万が一のことがあったら……って考えたらさ」

兄「まあ、イロイロあっちの病院に行ってからもありましたけどね」

看護師「そりゃあそうだろうね。病院変えただけで病が治るなら誰も苦労しないよ」

兄「そうですね」



324:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 17:00:21.89 ID:P3icjaNVO

看護師「そんで、妹ちゃんが治ったのはいいけどキミはどうなのかな?」

兄「そんなにニヤニヤしながら聞かないでくださいよ」

看護師「悪いね。で?
    キミの人生はうまく言ってんの? たしか二年前の時点では就活すらしてなかったよね?」

兄「……」

看護師「あらら……もしかして今はフリーターとかニートとかやっちゃってたりする?」

兄「……おかげさまで無事に就職できましたよ」

看護師「へえ……がんばったじゃん」

兄「今回もイロイロとついてたんですよ」

看護師「ふうん」

兄「ああ、そういえば看護師さんも転勤したそうですね?」

看護師「あれれ? なんで知ってんの?」



325:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 17:06:27.52 ID:P3icjaNVO

兄「直接病院に行ったら看護師さんがいなかったから、ほかの方に聞いたんです。
  それで看護師さんが転勤したことを知りました」

看護師「ああ……そういうことね」

兄「転勤してたんなら教えてくれてもよかったじゃないですか?」

看護師「お互い様でしょ。
    キミだって妹ちゃんが治ったこと今日になってようやく教えてくれたじゃない」

兄「それは……イロイロ忙しかったし、あと、直接会って言いたかったり……」

看護師「へえ……」

兄「あとそういえば、ぼくが看護師さんにお礼を言いたいって言ったら、ほかの看護師さん驚いてました」

看護師「だろうね。言ってなかった? わたしってば基本的にはサボり魔だから。
    患者の受けもあんまりよくないしね」

兄「意外ですね」



327:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 17:12:46.30 ID:P3icjaNVO

看護師「そう? むしろわたしからしたらキミの評価のほうが意外だよ」

兄「だって、ぼくにアドバイスしてくれたり、助けになってくれたじゃないですか」

看護師「まあ、それはたぶん……」

兄「?」

看護師「似たような境遇のヤツを見てちょっぴりほうっておけなかったんじゃない?」

兄「え?」

看護師「……とか言っちゃったりして。ウソだよ。
    キミはただたんに運がよかったんだよ」

兄「そうなんですかね……」

看護師「そうなんだよ、きっと。
    それより、今日はけっこうオシャレな店に来てるけど奢ってくれたりする?」

兄「まだ社会人になって間もないぼくに奢らせるんですか?」

看護師「冗談だよ。妹ちゃんの快気祝いにわたしがキミに奢ってあげる」



329:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 17:17:49.56 ID:P3icjaNVO

兄「ありがとうございます。
  ていうか、ぼくの話もいいですけど看護師さんはどんな調子なんですか?」

看護師「今働いてるとこは忙しいところだよ。狭いわりに患者がいっぱい来るんだよ」

兄「大変ですね」

看護師「大変だよ。でもなかなか悪くないよ。働いているような、そんな気分になる。
     キミはどうなの?」

兄「慣れないことだらけど毎日辟易としてますけど、まあ、悪くないです」

看護師「悪くない……って、可愛いげのない言い方だね。
     ……妹ちゃんは今はなにしてるね?」

兄「妹は……

  ゆっくりと毎日をすごしていますよ」


……
…………
………………



332:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 17:22:56.77 ID:P3icjaNVO

看護師「今度会うことがあったら奢ってね」

兄「……財布と相談してオッケーだったら奢ります」

看護師「まあしばらくはお互い忙しいだろうから会えないだろうけどね」

兄「あ、そうだ。看護師さんってぶっちゃけ今何歳なんですか?」

看護師「……キミの高校にある十年前の卒アル見てみれば?」

兄「やっぱり見た目どおりまだ若いんですね」

看護師「当たり前だろ……って言っても三十路の足音は確実に近づいてるけどね」

兄「……ええと、それじゃあまた」

看護師「会いましょう」


……
…………
………………



334:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 17:30:36.01 ID:P3icjaNVO

兄「ただいまー」

妹「あ、おかえりー」

兄「出迎えサンキュー……ん? なんかいいにおいするな」

妹「わたしがご飯、作ったんだ。
  簡単なやつだけどね」

兄「そうか。ソイツは楽しみだな」

妹「ある程度は期待していいよ」

兄「親父と母さんは?」

妹「久々にデートだって。深夜には帰ってくるってさ」

兄「ラブラブだなあ」

妹「ラブラブだよね」

兄「今日はなにしてんだ?」

妹「映画見て昼寝してただけ。いつもどおりだよ」

兄「そっか……」



337:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 17:43:02.96 ID:P3icjaNVO

……
…………
………………

妹「どう? わたしが作ったご飯はおいしい?」

兄「うん、予想外においしいな」


兄(鬱病が治ってから一年が経過して、妹は以前とは別人のように変わった。
  目標を立てて、目標をがむしゃらに追っていたあの頃の妹は今はもういない。
  俺にいちいち注意したり叱ったりする妹も)


妹「ぼうっとしちゃって、どうかした? あ、もしかして足りなかったらおかわりあるよ?」

兄「うん? ああ、じゃあ、おかわりしようかな?」


兄(でも、その分俺ががんばろうと思う。過去にがんばってきた妹の分まで――そして今の妹の分まで)


妹「ぼうっとしちゃって、どうかした? あ、もしかして足りなかったらおかわりあるよ?」

兄「そうだな。じゃあ、おかわり」

妹「はあい」


     お わ り



339:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 17:45:17.86 ID:P3icjaNVO

これから大学に入るのが憂鬱で思いついたただのお話

まあツッコミどころ満載のSSだが見てくれた人、支援してくれた人、保守してくれた人ありがと



340:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 17:46:46.89 ID:STeFRep/0

>>339
大学進学前=18…だと?



342:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 17:48:07.62 ID:z15pN+Jm0

将来有望だぬ




345:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 17:53:34.30 ID:Gz58b+TV0

最後、妹は認知症?



356:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 19:13:04.31 ID:BjyG5e2XO

>>345
知っててそうしたのか知らないけど
実際繰り返す症状はあるよ
認知症じゃなく



348:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 17:57:16.98 ID:EBbPX1Cj0

なんとも言えない気持ちになった
お疲れ様です



353:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 18:35:49.02 ID:40mqiipeO

最後妹同じセリフ…。乙。深かった



367:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 22:00:28.29 ID:sS+I6WKYO

ちょっと楽になれた
>>1ありがとう!乙



368:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 22:52:49.63 ID:hGQguHeX0

良い話のような悲しい話のような微妙な終り方だが乙
続編があるなら保守する



369:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/10(木) 22:58:32.84 ID:P3icjaNVO

続編はないから落としちゃって

乙レスありがとう



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         コメント一覧 (12)

          • 1. 名無し
          • 2011年05月26日 18:03
          • <<<<4
            クソワロタWWWW
          • 2. ああああ
          • 2011年05月26日 18:12
          • 長いから最後まで読んでないけど、メンヘラは早々に見限るべき。それが家族であってもだ。
          • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2011年05月26日 18:14
          • ※1※2
            いいから読み進めろ!そんなこと言ってられんぞ
          • 4. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2011年05月26日 18:51
          • あぁ…
            重いわぁ…
            まぁ、おれも鬱になる寸前だったんだなぁって思ったわ
          • 5. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2011年05月26日 19:15
          • 懐かしいな
          • 6. 名無し
          • 2011年05月26日 19:58
          • 三月のSSでも懐かしいといわれるのか
          • 7. じん
          • 2011年05月26日 21:47
          • 作者若くてうらやましいわぁ
            十代に戻りたいわぁ
          • 8. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2011年05月26日 23:50
          • 5 今年受験の俺も落ちたらこんな感じになりそうで今から怖い
          • 9.  
          • 2011年05月27日 01:26
          • あな子…
          • 10. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2011年05月27日 13:28
          • 乙、心に残る話だった
          • 11. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2011年05月27日 14:58
          • これが高校生の書いた話とか思えん
            それぐらいクオリティ高いと思います
          • 12. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年08月15日 17:06
          • 現在同じ高校3年として考えさせられるわ。

            鬱って訳じゃないけど、死にたくなることは多々あるから。作者は有能で間違いないな!

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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