アシタカ「サン、結婚してくれ!」

1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:37:04.91 ID:yG3NhZCo0

シシ神が森からいなくなってから、タタラ場は森を切らなくなった。
極力森を傷付けず、無用な争いを生まぬように。
アシタカとサンは森の、大きな杉の木の下でよく会うようになっていた。
だが、サンはいまだに人間が好きになれていなかった。
それでも、「アシタカが好き」という気持ちが山犬の娘の心中にはまだあった。



2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:38:02.32 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「会える時間が少なくなってしまってすまない。
     とにかく、タタラのみんなと新しい集落を作るのは大変な作業なんだ。」

サン「ふん、あの、自分勝手に木を切るやつらと?」

アシタカ「それはサン、前にも話しただろう。
     もうタタラ場はタタラ場ではない。
     非の打ち所なくとまではいくまいが、森を傷つけない暮らしに頼ることにしたんだ。」

サン「それでも、やはり少しは木を切るのだろう?」

アシタカ「…..サン。生きていく上では最小限は仕方がない。人間ももとは自然が生んだものだ。
     だが、わたしたちは以前と違い、農耕や森を燃やさない製鉄業で暮らしていくんだ。
     エボシもそう心を決めた。」



3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:38:41.66 ID:yG3NhZCo0

サン「でも..」

アシタカ「この話はもうよそう、サン。」

サン「それじゃあ、今日は森に泊まっていくといい。
   そうだ!きょうは、西の草原で星をみよう、アシタカ!」

アシタカ「….すまない。タタラ場は人手を必要としている。
     今日も皆の好意で、無理を押し、ここに来させてもらった。
     すぐにでも戻らなくては。」



4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:39:12.63 ID:yG3NhZCo0

サン「………。わかった、アシタカ。また来るんだぞ。絶対にだ。」

アシタカ「ああ、必ず来る。 行こう、ヤックル。」

サンはだんだんと木々の間に小さく消えていくヤックルに乗ったアシタカ
の後ろ姿をみた。
無性にこころが、ぽかんとして空しかった。



7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:40:24.94 ID:yG3NhZCo0

山犬1「なんだ、寂しいのか、サン?」

サン「…なっ!」

山犬2「むかしからは想像がつかんな。人間の小僧がおまえの横にいるなど。」

サン「アシタカは特別だ….。でもあいつも人間だとしても。」



9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:41:02.32 ID:yG3NhZCo0

翌朝も、以前がタタラ場があった集落では、着々と新しい集落の再建が進められていた。

おトキ「アシタカさまがいれば、ほんとに百人力だよ!
    ほんとはあんたは働かなくてもいいくらいなのに。」 

甲六「ほんとですよ、旦那!
   旦那のおかげで必ずでっけえ牛耕もできるようになりますぜ、エヘヘ。
きっと今にすばらしい村ができやすよ!」

おトキ「その牛を捕まえて育てなきゃいけないのはどこのどいつだい、このぐず!」



10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:41:21.73 ID:yG3NhZCo0

甲六「….ぐっ!いてえよお、おトキ」

アシタカ「その通りだな。」

おトキ&甲六「え?」

アシタカ「きっといい村になる、それももうすぐ。ああ、なるとも!わたしはそう信じる。」



11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:42:07.70 ID:88VY8QBqO

この長さだと完結するのはアシタカ・・・



45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:02:55.26 ID:iynioiDqO

>>11
そこに気付くとは……



13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:42:54.91 ID:yG3NhZCo0

その夜。
仮設の集会小屋でアシタカは、男衆たちと賑やかな食後のひとときをすごしていた。
そのとき、エボシに呼ばれた。なんでも話があるそうだ。

エボシ「疲れているだろうに、呼び出してすまないなアシタカ。」

アシタカ「構わない、みんなもよく働いてくれている。
     この調子ならあと数週間で、ほぼ集落が完成するだろう。」

エボシ「そうか。…..それで、今宵呼んだのは、そなたを信頼しての事だ。
    深刻な話になるが、包み隠さず話そう。」



14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:44:19.06 ID:yG3NhZCo0

ゴンザ「そうだぞ!このエボシさまはわしの次にうぬを信頼しているのだからな…..このわしの次に!ガッハッハッハ」

アシタカ「侍…だな?」

エボシ「名答だ、アシタカ。まあなに、わかりきっていたことだ。
    
アシタカ「やはりか。」


エボシ「タタラを踏んで生きる事と決別すれば、当然集落の規模も富も減る。
    言ってみれば、今まで我々がこの地で顔を利かせられたのもタタラのおかげだ。」

ゴンザ「そうだぞ、小僧。そして、このゴンザがエボシさまをお守りしていたのだ!…このわしがな!ガッハッハッハ」   



15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:45:21.67 ID:yG3NhZCo0

エボシ「この地域には、重要な資源が多くある。
    宝の宝庫を前にしながら、地方の大名どもは、強力な力を持つわれわれがいるために簡単にはこの地に手を出せずにいた。」

アシタカ「その力が衰えたとなれば…….属地を増やしたい大名たちにとって、これほど朗報はない….ということか。」

エボシ「人の心というものはなかなか変えられぬものさ。
    同じ人間でも争いと憎しみの連鎖からは抜けられん。
    神殺しのような壮大な思惑がなくともな。
    そう思えば、わたしは腕一本で心を変えられた。安いものだな。」

そう言うとエボシは笑い出した。
しかし、アシタカにはエボシの言葉に痛い程、共感していた。



17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:45:48.90 ID:yG3NhZCo0

それからも新しい集落の再建は着々と進んだ。
もう完成はそう遠くないということが目に見えて分かるようになった。
アシタカは時間の見つかる限り、サンに会いにいっていた。
時間は少なかったものの、ふたりは森の中で共に過ごすことで、お互いの
こころをさらに深く結びつけていった。


アシタカ「サン、そろそろ帰らなくては。明日も早い。」

サン「む……いや….あ、そうだ!今日はどこか体調が悪いんだ。
   だれか看病してくれる者がいなくては危ないかもしれない。」

アシタカ「なんだって!?」



19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:47:00.73 ID:yG3NhZCo0

サン「そういえば、う、なんだか体がだるいな…。」


アシタカ「無理をするな、サン!そうか、それなら帰るのはやめよう。サン、安静にしていろ、わたしが今晩は世話をする。」

サン「本当か!」

山犬1「….おまえ、いままで一度も体調をくずしたことなんてないだろう、サン。」

サン「こら、しっ!」



21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:47:33.47 ID:yG3NhZCo0

その夜、ふたりは長い間語り合った。

サン「アシタカはこの地に来る前はどこにいて、何をしていたんだ?」

アシタカ「この地よりはるか東のはてだ。それもずっと遠く。
     住んでいた村で、若い男子はわたしただひとりだった。」

サン「すると、村の長になるはずだったのか?…..」



23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:49:07.60 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「そうさ。」

サン「村を残して..きたのか?」

アシタカ「さだめには逆らえぬ。タタリ神に襲われ、すべて断ち切らねばならなくなった。」
     
サン「….そうか。アシタカがいなくなれば、子孫は残らない。」

アシタカ「そういうことになる….。許嫁……….許嫁もいたのだ。」



24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:50:00.35 ID:yG3NhZCo0

サン「いいなずけ….?」

アシタカ「妻になる約束をかわした者のことだ。まことの心を持ったいい娘だった。
     
サン「そうなのか.....。

アシタカ「憎しみや死を恐れず、乗り越える心をもっていた。
     夫になる約束は果たせなかったが。」

サン「…….。人間は妻になるものと約束をするのか?」



26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:50:36.76 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「そうか、サンは知らなくて当然だな。
     人は、愛すると決めたものへの約束は絶対に果たすものなのだ。」

サン「約束か………..。」



27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:51:08.62 ID:yG3NhZCo0

充実した時間を過ごせていたのかもしれない。

しかし、こころの距離が縮まれば縮まるほど、お互いの持つ考えのずれが
はっきりと目に見えるようになっていった。

山犬として育てられた少女と、人間として生まれ彼女の心を開かせた少年。
境遇のちがいを乗り越えて心を通わせたふたり。

しかし、通わせれば通わせるほど、この境遇のちがいによって、考えの違いを生み出してしまう。



28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:51:46.45 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「この問題を解決しなければいけない、いずれは。それも近いうちに。」


タタラ場に戻って、アシタカは満天の星空を仰ぎながら、夜の集落でひとり呟いた。
少し離れた場所からは、みんなの賑やかな喧騒が聞こえてくる。

おトキ「あんた、みんなのとこから離れてひとりでなに呟いてるの?」



30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:52:43.17 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「?…..ああ、おトキさんか。
     変な話なんだが、その.....簡単だが難しい話を考えていた。」

おトキ「アシタカさまがひとりで考えることといったら、あの娘のことだね。」

アシタカ「ははは、さすが女性の長だ。あなたの前には隠しようがないな。」

おトキ「人間の考える事なんて、そうだれも変わりゃしないさ。
    たぶんむこうも同じ事を考えてるよ。」



32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:53:11.57 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「そんなものなのだろうか………」

おトキ「アシタカさまはどうしたいんだい?」

アシタカ「わたしはサンと共に生きようと約束した。
     今すぐにとは言わないまでも…彼女が少しずつ人間を許す事が出来たら。そして人間にもどれたら。」

おトキ「………。」



33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:55:04.20 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「以前はサンがいいと思うなら、彼女が人間を許せなくともいいと思った。」

おトキ「......。」

アシタカ「たしかに、森で暮らすとも構わない。
     しかし、彼女は山犬の娘だが、もとは人間として生まれた。
     人間を許し、人間を憎しむ心をなくす事が幸せじゃないのだろうか。」

おトキ「……。いつの時代も人はだれかを憎まなきゃ生きていけないものね。」



34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:56:30.07 ID:yG3NhZCo0

おトキ「でも、それを無くそうと努力する事はできるわよ。
    あたしらもそうだったじゃないか。」

アシタカ「そうだな...。」

おトキ「そうさ!それで....あんたはどうしたいんだい?」

アシタカ「彼女と共に暮らしたい。願わくば夫と妻として。」



35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:57:49.65 ID:yG3NhZCo0

おトキ「ひゃあ、大胆ね!」


アシタカ「人間への憎しみがなくなり、人間として生きる事の喜びを知ってほしい。それがサンを救うということ。………
     いや、わたしの自分勝手な考えかもしれないな。」

おトキ「そんなことないよ。そりゃ、今のあの娘にとっての幸せは森で山犬として生きていくことだけかもしれない。
    人間を憎んだまま。もちろんアシタカさまをのぞいて。」



36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:58:29.50 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「………….。」

おトキ「でも、憎しみをもったまま生きるのは真の幸せとはいえないよ!
    憎しみは人にみえない痣をつくるんだから。
    そうして、その痣はまた疼きはじめるよ。」

アシタカ「痣…そうか……確かにそのとおりだ。」

エボシ「あの娘とともに暮らし、彼女の憎しみを取り去る…….
それはアシタカ、おまえにしかできないことやもしれぬ。いや、おまえだけだろう。」

アシタカ「!?」



38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:59:06.20 ID:yG3NhZCo0

おトキ「エボシさま!聞いてらしたんですか!」

エボシ「トキに用があってね。
    甲六がわたしの舎屋のちかくで寝ているから、宿舎に運んでやっておくれ。
    風邪をひいてしまわないようにね。働きすぎて疲れてしまったらしい。」

おトキ「ああ、ああ、あのぐず!ほんと申し訳ありません、バカ亭主で!
    恥ずかしいったらありゃしない。」

エボシ「あっはっはっは。気にせずともよい。
    みんな本当によくはたらいてくれて感謝しているよ。」



39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 20:59:36.86 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「エボシ…..。わたしは行っていいのだろうか。」

エボシ「あの娘をほんとうの幸せを教えられるのはアシタカ、おまえだけだ。」

アシタカ「…..すまぬ。ありがとう、エボシ。そなたには感謝している。」

エボシ「感謝はあとでいい。それに、お互いさまさ。さあ、行っておいで。」



40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:00:11.62 ID:yG3NhZCo0

アシタカはいつもどおり、杉の木の下でサンと会った。

アシタカ「大事な話だ。聞いてくれ、サン」

サン「ん、なんだ、アシタカ?」

ふたりで食事をとっていたときアシタカが切り出した。



41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:01:11.44 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「いつかわたしはそなたに、共に生きようと言った。」

サン「どうしたんだ、かしこまって。」

アシタカ「わたしはタタラ場で、サンは森でともに生きると。
     だからわたしはこうして毎日会いにきている。」

サン「でも、ほんのちょっとしか会えないじゃないか。」



42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:01:35.07 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「それは私たちが生きていくと決めた場所、境遇が違うからだ。
     そしてそれが変わらない限り、この先もずっとわたしたちはあまり会えないだろう。」

サン「………….。」

アシタカ「サン、ほんとうはわたしはそなたのそばで生き、一緒に暮らしたい。」

サン「わたしも….わたしだって同じだ!」



44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:02:21.09 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「そしてサン、そなたは人間なのだ。」

サン「……..!!違う!人間じゃない!人間は大嫌いだ!」

アシタカ「嫌だろうが人間なのだ。人間として生まれた運命には逆らえない。 
     サン、そなたには人間として生きる幸せがあるはずなのだ。」

サン「違う!人間どもは大嫌いだ!人間などこの世から消え去ってくれれば
   それがわたしの幸せだ!山犬としてのわたしの。」



46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:03:00.34 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「人間であっても山犬であっても、本当の幸せとは
     憎しみに支配されずに生きていく事なのだ。
     憎しみを糧にして生き続ることは、タタリ神になるのと寸分違わない。」

サン「そんなの嘘だ!」



48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:04:17.40 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「ゆっくりでいい。わたしも憎しみを取り去る助けになる。
     サンに幸せになって欲しいから、こう言うのだ!」

サン「……..。」

アシタカ「サン、結婚してくれ!」

サン「....!」



51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:05:14.35 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「結婚してくれ!わたしの妻になってくれ!
     人間への憎しみが消えたとき、ともに暮らせる日がくるはずだ!」

サン「アシタカ………!そんな」

アシタカ「お互い人間として共に生きよう。」

サン「何を言う!」



52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:05:54.88 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「サン....」

サン「きらい……..嫌いだ。アシタカだけは好きだったのに!
   アシタカもふつうの人間と同じだ!シシ神を殺し、森を奪った奴らと!」

アシタカ「サン……わかってくれ!」

サン「わかるもんか!もういい!どこへでも行け!
   人間もアシタカも大嫌いだ!」



53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:06:20.41 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「サン…………。」

サン「二度とその顔を見せるな!」



54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:06:58.87 ID:yG3NhZCo0

思えば、無理を言い過ぎたのかもしれない。

山犬として育った少女に、自分は人間だと認めさせるのは無理強いかもしれない。
だがサンのためを思っての事だった。

憎しみの感情を捨てなければ、また新たな醜い争いを生むだろう。

たとえその争いに、シシ神やもののけたちが関与していなくとも。



55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:07:45.46 ID:yG3NhZCo0

朝日が昇り始めたタタラ場につき、ヤックルを小屋にいれていたとき、


カシラ「旦那あ!アシタカの旦那あ!」

男衆の頭に呼ばれた。

カシラ「エボシさまがお呼びですぜ、なんでも急ぎの用だとか!」

アシタカはいやな予感がした。

アシタカ「すぐ行く。」



56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:08:22.98 ID:yG3NhZCo0

エボシの宿舎に行くと、彼女はゴンザと深刻な顔でなにか話している途中だった。

エボシ「….アシタカか。娘の一件についても知りたいところだが、そんな場合ではなくてね。
    察しているだろうが、侍どもがじき、ここをせめて来る。」 

アシタカ「……..やはり戦うのか?」



58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:09:06.20 ID:yG3NhZCo0

エボシ「わたしだってもう戦いは見たくない。だが、しかたあるまい。
    黙って従うような者達はここにはいない。
    従ったとしても、奴隷の用にひどい扱いを受けるだけだとわかっているからだろう。」

ゴンザ「このゴンザも何があろうとも、エボシさまをお守りする!」



59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:09:41.28 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「互いに分かり合う道はないのか。」

エボシ「残念だが、そんなやさしい連中じゃない。
    この地を支配していたわたしたちへの恨みもあるのだろう。」

アシタカ「いつ来るのだ。」

エボシ「詳しくはわからぬが、うかうかしてはいられないだろう。
    すぐにでもわずかに残った石火矢と、兵を準備しなくては。」



60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:10:12.59 ID:yG3NhZCo0

ゴンザ「やつら、森を進路の邪魔になる森は焼き払い、この場を丸裸にするつ
    もりらしいのだ。」

アシタカ「…!森だと!?」


エボシ「そうか….あの娘だな……。アシタカ、彼女は力を貸してくれそうか?」



61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:11:26.78 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「わからない…..。だが、行かなければどちらにせよ危険だ。」

エボシ「アシタカ。...すぐにでも戻ってきてくれ!」

アシタカ「わかった、タタラ場とみんなは頼んだぞ。」



62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:11:59.88 ID:yG3NhZCo0

アシタカはサンとのいつもの杉の場所へとヤックルを走らせた。

今までにない早さで。

もしかしたら、すでに侍たちは森側から陣を進めているかもしれない。

それどころか、もう森を焼いているかもしれない。  

アシタカはきっと口を結び、さらに走るヤックルをせき立てた。



63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:13:34.62 ID:yG3NhZCo0

すこしして拓けた道にでたときだった。

侍1「貴様何やつだ!」

侍2「貴様、タタラ場の者だな!密偵に違いない!」

侍3「止まらぬか!」



64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:14:56.62 ID:yG3NhZCo0

黒い鎧兜に身を包んだ侍三人が道をふさいで、遠くから叫んだ。

すでに侍の第一波が森側からまわり込んできていたのだ。
ここで、小競り合いをするわけにはいかない。

時間がない。
アシタカは速度を上げてヤックルを走らせた。

侍1「とまれえええ!」



66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:15:28.90 ID:yG3NhZCo0

侍のひとりが矢を射ってきた。顔面に向ってきたそれをアシタカはすんでのところでかわす。

アシタカ「押し通る!!道を開けろ!!」

道を塞ぐ侍たちが間近に迫った。
いたしかたあるまい。アシタカはすばやく弓矢を取り出し、矢をつがえた。



67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:16:33.85 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「其処退け!」

そう言って射ったアシタカの矢は、侍たちのうちのひとりの足に突き刺さった。

侍「ぐわあああああ!!」

アシタカ「急所は外した!許せ、地侍!」

侍がたおれ、わずかに開けた道を疾風のごとくヤックルとすり抜けた。



68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:16:56.40 ID:yG3NhZCo0

侍2「待たんか!」

侍3「どうせ追いつけん、大丈夫か。」

侍1「..ぐ、いてえ!畜生、あいつやりよる。」



69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:17:36.08 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「サン、どこだ!」

いつもの杉に着いたアシタカは、ヤックルから飛び降り、叫んだ。

アシタカ「この匂い…..なんということだ、もう森を焼いているのか?」

サン「アシタカ…….!ここで何をしている!」

アシタカ「!…..サン!無事か!」



70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:18:02.78 ID:yG3NhZCo0

サン「無事もなにもあるものか!やつら森の入り口を焼き始めた!
   わたしたちの森を!なにが起きている、アシタカ!」

アシタカ「…….また争いが起きたのだ。」

サン「なんだって!もうシシ神はいない!争っても意味がない!」

アシタカ「シシ神の首が目的ではない。単なる争いなのだ。単なる私利私欲が
     促したものだ。」



71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:18:35.34 ID:yG3NhZCo0

サン「….そんな!また人間は争いを繰り返すのか!?なんのために!」

アシタカ「サン…すまぬ。われわれ人間はまたしても勝手な理由で森を巻き込
     もうとしている。」

サン「シシ神がいても、いなくても醜い争いは起こるのか!
   人間はまた、また森を汚すのか!」



72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:19:06.77 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「….サン。その通りだ。シシ神が絡んでいなくとも人間は愚かな争い
をやめない。
     だがサン。わたしは彼らを止める。なんとしても。また力を貸してくれ!!頼む!」

サン「いやだ!貸すもんか!何度繰り返せばわかるんだ!
   人間どもの醜い争いに森はいつも巻き込まれる!人間なんてだい嫌いだ!!アシタカも大嫌いだ!!」

アシタカ「……..サン」



73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:19:32.71 ID:yG3NhZCo0

サン「どこへでも行け!森に姿を見せるな!」

アシタカ「サン……わかった。だが……必ず、必ず事を収める。それも彼らが
     今後二度と醜い争いを繰り返さぬようにして。
     事が収まったら、もう一度会おう、この木の下で。そしてもう一度
     伝えたいことを伝える。…..必ず。」


サン「知らぬ!二度と姿を見せるなと言っているだろう!お前もほかの人間と同じだ!」



74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:19:58.19 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「...........また来る。必ず。」



アシタカは、怒り憤り、自分を拒絶しようとするサンに笑顔でこう言うと、ヤックルにまたがった。

次の瞬間には、ヤックルにまたがった少年の後ろ姿は、遠くの木々の間に消えていた。サンは山犬たちと、それを眺めていた。



75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:20:28.05 ID:yG3NhZCo0

山犬1「いいのか、サン。もう会えないぞ。死んでしまうかもしれないぞ。」

サン「いい。あいつも人間だ。人間を一度でも好きになったのが間違いだった。」

山犬2「俺とて人間は好きになれん。今でも嫌いだ。だが、良い人間もいるというのは知ってるがな。」



77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:22:33.39 ID:yG3NhZCo0

サン「おまえまで何を言うんだ!」

山犬1「おれも嫌いだ。だが、激しい憎しみを持つのはタタリ神となんら変わり
    なくなる。あいつひとりくらい憎むのをやめたらどうだ。」

サン「………..。」



79:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:23:11.51 ID:yG3NhZCo0

一方アシタカは遠くで煙の上がる森の中をひたすらにヤックルを急がせた。

彼の顔には迷いも畏れもみじんもなかった。

今度こそ、人間を憎しみの連鎖から切り離すのだ。

そして、必ずサンのもとへ戻ってくる。

深い決意が東から来た少年の顔には刻まれていた。



80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:23:39.76 ID:yG3NhZCo0

森が開け、工事中のタタラ場が見えてきた。

………..大変だ。

すでに敵の大陣営が目前に迫っていた。

タタラ場の軍勢はて薄い装備で遠くから応戦していた。

手薄い盾からは、いまでは貴重になった石火矢部隊が侍の侵攻を牽制していた。

敵の進軍は止まっているものの、じきに両勢は衝突するだろう。



81:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:24:22.74 ID:yG3NhZCo0

アシタカは大きく迂回し、集落の裏側にまわり込んだ。


貧弱な応急手当程度の石垣のまわりの門番が彼に気づいた。

門番「アシタカさま!」

アシタカ「大丈夫か!」

門番「今のところはなんとか!それよりすぐに中へ!」

アシタカ「ああ!」



82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:25:47.43 ID:yG3NhZCo0

おトキ「あっ、アシタカさま!お帰りなさい!無事だったんだね。
    森の一部もやつらの手が伸びてるって聞いたんだけど!」

アシタカ「ああ、彼らは森の端を燃やしはじめた。侍の手はここのまわり全体に及んでいる。
     それより、大丈夫か?」



83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:26:08.42 ID:yG3NhZCo0

おトキ「見ての通りピンピンさ、はははは。」

アシタカ「よかった。みんなは?」

おトキ「あたいら女勢はここで飯と、武器の補給を任された。
    最悪ここで篭城になるかもしれないね。」



84:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:26:30.46 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「じき戦いは終わる。必ず終わらせる。以前のような犠牲は出したくない。エボシとゴンザはどこか?」

おトキ「向こうで指揮してるよ。」

アシタカ「そうか、ありがとう。」

おトキ「アシタカさま.....必ず止めておくれよ!」

アシタカ「.....ああ、もちろんだ。」



85:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:28:50.10 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「エボシ!」

エボシ「アシタカか!......あの娘はどうだった?」

アシタカ「追い返された....。」

エボシ「そうか、......無理もあるまい。それより、やつらはもうここへ押し
    入る準備を固めている。衝突は時間の問題だ。」

アシタカ「わたしが止める。」

エボシ「なに?」



86:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:29:30.74 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「わたしが前線で止める。」

エボシ「何を言っている!そんなこと.......」

アシタカ「できる。そなたにもわかるはずだ、エボシ。
     これ以上犠牲をださずとも、分かり合える道はある。
     そなたにもわかるはずだ。」

エボシ「...........ふふ。そうか。思えばおまえの曇りなき眼とやらに、わたしも変えさせられた。
    あの娘もな。」



87:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:30:04.18 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「サンも変わった。今再び人間を憎んではいるが、いずれはそれも変えられる。」

エボシ「アシタカ............頼んだぞ。」

アシタカ「ああ。  ゴンザ、エボシを頼んだ。」

ゴンザ「当ったり前じゃ!安心せい。このゴンザは昔からエボシさまをお守りしてきた。そう、あれは十年あまり前、そりゃ大きな獅子がこ....」

アシタカ「行くぞ、ヤックル。」



88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:30:44.03 ID:yG3NhZCo0

アシタカはタタラ場の軍勢の中を前へ前へと進んだ。
と、そこで装備を纏った、甲六と頭たちに呼び止められた。

甲六「旦那あ!」

アシタカ「甲六たち!」

甲六「ご無事でしたか!侍ども、俺らが手薄と分かった途端せめて来やがって。
   許せませんぜ。」



91:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:31:36.83 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「..........なんとか止める道はないか?」

甲六「攻めてくる以上、迎え討たなくちゃ。やつらも侍。
   ここまで来て、止めてくれる様な連中じゃないでしょうよ。」

カシラ「分かり合える相手じゃねえです、旦那。やつらは自分のことしか考えとらん。迎え討つより他はねえ。」

アシタカ「争ってしまえば、どちらも変わらぬ。とにかく止めなくては。」



93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:32:18.78 ID:yG3NhZCo0

カシラ「でも、どうするんで?」

アシタカ「敵の目前に行き、話す。もはやそれより他はない。」

甲六「いけねえ!それじゃ死ににいくようなもんだ!」

アシタカ「わたしは大丈夫だ。これ以上醜い争いで憎しみを生んではならぬ.....行くぞ、ヤックル。」



94:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:32:54.03 ID:yG3NhZCo0

頭「行ってしまわれた.........。」

甲六「旦那を信じるしかねえ。......俺だって前みたいになるのはまっぴらだ。」



95:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:33:21.08 ID:yG3NhZCo0

そのときだった。

「敵が動き出したぞぉぉぉーーー!!」

最前の兵が叫び、鉄が打ち出された。
進軍の合図だ。とうとうふたつの軍勢が衝突してしまう。



96:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:33:51.38 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「しまった!急がなくては!」

迫り来るお互いの陣に向って、ふたつの軍勢が広い草原を走り出した。

まるでふたつの壁がぶつかりあうかのように見える。

ヤックルに乗ったアシタカは、走るタタラ場の軍勢のあいだを縫って先頭へと走り抜けた。



97:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:35:41.24 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「双方、止まれええええええ!!」

だが、ぶつかりあい、もみくちゃに乱戦を繰り広げる双方の戦士は耳を傾けない。



98:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:36:30.26 ID:yG3NhZCo0

「くたばれ!」

「覚悟!」

「畜生、この野郎!」

そんな罵倒の声と、叫び声、刃のぶつかる音が、そこら中から聞こえる。

アシタカ「双方とも、止めぬか!!これ以上醜い争いはやめろ!!
     争って何になるというのだ!!」



99:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:36:48.22 ID:yG3NhZCo0

侍「そこの者、覚悟ぉぉぉ!!」

アシタカ「!?」

敵味方が入り交じる前線で叫ぶアシタカの背後から侍が槍を振り下ろそうとした。



102:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:38:45.40 ID:yG3NhZCo0

タタラ兵「くたばれえええ!!」

侍「ぐわああああぁぁ!」


槍がアシタカに届く直前に、味方の兵士が侍を突き刺した。

倒れて動かなくなった侍に執拗に槍を突き刺し続ける。



103:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:39:28.76 ID:yG3NhZCo0

もはや、穏やかな人間の顔ではなかった。

気づけば、そんな光景は周りのいたるところで起きていた。
皆、憎しみに支配され本来の自分を見失っている。


アシタカ「止めろ!!いますぐに!!」


アシタカは突進してきた侍の槍を、自分の刀で受けながらみんなに叫んだ。

その瞬間、アシタカの肩に矢が刺さった。



105:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:46:30.84 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「ぐあっ!!」

アシタカ「くっ........みんな聞け!!これ以上憎しみに身を委ねるな!
     分かり合う事はできる!」

侍の刃を受け止めるアシタカに、さらに他の侍が刀を振り上げた。
鞘をすばやく振り上げ、それも受けとめる。



106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:47:09.20 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「みんな聞くんだ!
     なぜシシ神がいなくとも、人間は争いをやめようとしないものか!
     ..ぐあっ!!」

両手の塞がるアシタカの脇腹に槍が突き刺さった。

矢が刺さった肩からは、血が滴り落ち、脇腹の血と混ざって地面に血だまりを生む。



110:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:51:34.60 ID:yG3NhZCo0

さらに四方から、彼に矢や槍が飛んでくる。

そのうちいくつもが彼の体に新たな傷と生んだ。

それでも、アシタカは叫ぶのをやめない。

アシタカ「.....まだ引き返せる!人間は互いに譲り合い生きることができるのだ!!」



111:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:52:06.66 ID:yG3NhZCo0

満身創痍ながら恐ろしいほどの剣幕で叫ぶアシタカに次第に、まわりの兵士が注目し始めた。

アシタカ「だれの心にも憎しみという名のタタリ神は巣食っている!
     それに身を委ねれば、痣となり新たな憎しみを生むのだ!!」

その気迫に押され周りの兵士は敵味方ともども、じょじょに戦闘を止め、耳を傾ける。



113:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:52:34.50 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「....争いを断ち切ることはできる!
     ...憎しみを捨てることはできる!みんな今すぐ戦いを止めろ!」

すでにぼろぼろになったアシタカの足下には大きな血だまりができていた。
瀕死の重傷を負っているにも関わらず、力強く立ちつくしている。



114:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:54:59.37 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「....だれかを憎んで争うよりも、自分の身の内の憎しみと争い、勝つのだ!!......くっ....」

アシタカ「....皆、共に生きよう!共に生きる事は...必ずできるっ!」



115:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 21:55:17.87 ID:yG3NhZCo0

そのとき、山犬に乗ったサンが森の出口の丘に到着した。
タタラ場と、合戦場になっている全景は凄まじいものだった。

山犬1「こいつはひどい....。あの小僧はどっかで死んじまったかもな。」

サン「そんなわけない!」

山犬2「!!おい、あれはあの小僧じゃないか!?」

サン「........アシタカ!!」



120:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:00:52.30 ID:yG3NhZCo0

戦場の最前線で、両軍勢を押さえつけ、必死に止めているアシタカがいた。

彼をとりまくように、両軍の兵士達が戦闘を止め、彼を見つめている。

それが、中心から順にまわりで争う兵士達に伝染しているようだった。

次から次に、戦闘をやめアシタカを見つめる。



122:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:01:11.40 ID:yG3NhZCo0

山犬1「様子がおかしいぞ。なぜ戦が止まった?」

山犬2「なにがおきているんだろうな。」

サン「すぐに行かなきゃ!!はやく!」

サンは山犬を急がせた。



123:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:01:31.55 ID:yG3NhZCo0

アシタカ「皆、共に生きよう!共に生きる事はかならずできる!」

合戦場の兵士達の注目は、全身傷だらけでこう叫ぶ少年に集まっていた。
彼と刀を迫り合っていた兵士、槍をついた兵士たちが武器を捨て始めた。

両手をぶつかり合う両軍を仲裁するように、のばしきったままのアシタカ。

サン「アシタカっ!!」

山犬に乗ったサンが駆けつけた。



125:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:06:12.77 ID:yG3NhZCo0

サン「アシタカ!!ひどい怪我だ!すぐに手当てしないと!」

アシタカ「もう遅い、サン。わたしは手傷を負い過ぎたようだ。」

サン「そんなこというな!すぐに助けるから!嫌いなんて言って悪かったから!」

アシタカ「争いは止んだ。もう終わったはずだ。言ったとおりだ。
     人間は憎しみの連鎖を断ち切る事が出来たんだ、サン」



130:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:11:22.77 ID:yG3NhZCo0

サン「ああ、見たよ、アシタカ!もうしゃべるな、大丈夫だから!」

サンは目に涙を浮かべながらアシタカを介抱しようとした。

アシタカ「わたしを許してくれ....サン。人間を許してくれ。」



131:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:14:10.32 ID:yG3NhZCo0

サン「わたしのほうこそ許してくれ!いつかアシタカにひどいことを言ったことを。
   わたしもアシタカが好きだ!そうだ!わたしはアシタカのいいなずけだ!
   一緒に暮らそう!」

アシタカ「そう..だな..。...新しくなったタタラ場で..いつか..共に。」

サン「アシタカ!?アシタカ、しっかりしろ!」



132:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:14:37.42 ID:yG3NhZCo0

アシタカは死んだ。

地に立ち尽くしたまま。

東から来た少年は、はるか西の地で、多くの人の憎しみを取り除き息を引き取った。

この姿に心を打たれた、両軍の兵士は次々に武器を捨てはじめた。

この少年の死を惜しんで泣き崩れる者も多かった。


戦闘が終わった。



133:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:14:54.38 ID:yG3NhZCo0

サンはアシタカを抱きしめたまま、泣きじゃくった。

山犬1「サンが泣くとは.....。それも人間の死で。」



135:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:15:17.68 ID:yG3NhZCo0

森にはもうシシ神はいない。

いくらじぶんの生に、迷いがない人間だろうと生き返ることはもう、できない。

自分の生と死を見つめるために、東から来たアシタカは、多くの人間を変えた。それだけでなくひとりの少女に、憎しみのない人間の心を教えた。



136:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:15:49.30 ID:yG3NhZCo0

人間は、人間のみの力で憎しみの連鎖から脱することができる。
それが証明された。

シシ神とは命そのもの。生と死どちらももっているから。

「命」とは憎しみの支配を取り去ることのできた、まことの心なのだ。

そして、この「命」を与える為にアシタカは東から来たのもしれない。



138:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:19:55.39 ID:yG3NhZCo0

-------------------------------
-------------------------
-------------------
------------

月日が流れた。

あの、森の杉の根元には、アシタカを讃える石碑がふたつ作られていた。

ひとつは、タタラ場のひとびとから、そしてもうひとつはかつてこの地を攻めた侍たちからのもの。

木々の間から、日の光が差し込んで、その石碑たちを明るく照らしていた。



139:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:20:19.76 ID:yG3NhZCo0

その碑の前に、タタラ場製の着物を纏った少女が現れた。
少女は花を手向け、手を合わせた。

エボシ「そうか今日はあいつの命日...」

少女「!?見ていたのか!」

エボシ「見ているのも何も、おまえは毎日のようにここに来るらしいじゃないか。」

少女「...そうだ、もちろん。」



141:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:21:20.01 ID:yG3NhZCo0

エボシ「もうこの地の侍も攻めて来る事はないなだろう。ただシシ神はもういない。」

少女「ああ...。」

エボシ「わたしが憎くないのか?人間も。」

少女「ほんの少しあるのかもしれない。」

エボシ「それはそうだろう。」



142:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:22:05.09 ID:yG3NhZCo0

少女「だが...わたしも人間だ。アシタカも。みんな。人間と山犬も変わらない。同じ命を持っている。」

少女「人間は人間だけの力で憎しみを無くせると教えてくれた。アシタカがそれを証明したんだ。」

エボシ「....ああ、そうとも....愚かなわたしにも教えてくれた。」

少女「わたしが憎くないのか」



144:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:23:12.01 ID:yG3NhZCo0

エボシ「...憎しみなどくだらん、そうアシタカが教えてくれたさ。さてわたしは行くとしよう。」

立ち去ろうとするエボシをサンが呼び止めた。

少女「.....なあ、これからも...わたしはタタラ場で....生きていいのか?」

エボシ「少なくとも....」

エボシは後ろ姿を見せたまま言う。



146:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:23:35.79 ID:yG3NhZCo0

エボシ「少なくとも、わたしはおまえの味方だ。いや、わたしだけのはずがない。...アシタカを慕うすべてのものはな。」

サン「.....そうか、ふふ。」


エボシ「ひさしぶりにふたりで話したらどうだ。それじゃあわたしは行くとする。」



149:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:24:06.32 ID:yG3NhZCo0

そう言うと、エボシは馬に乗り遠くに消えていった。

姿が見えなくなり、碑に目を向け直す。

なんだかアシタカとふたりでいるような気がして、緊張した。

だが、同時に今までにない安心感も感じた。

「アシタカ」

少女は優しい顔で、杉の根元の碑に語りかけた。



151:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:28:49.24 ID:56Axwh7qO

「これからも.......」

少女は人間らしい生き生きとした笑顔でこう言った。




「これからも共に生きられるよ、アシタカ。」






~おわり~



152:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:30:17.23 ID:56Axwh7qO

最後の最後で規制されたorz
携帯からです


支援ありがとうございました!



153:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:30:42.46 ID:TgmM83EIP

魅入ってしまった、乙!



156:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:31:38.80 ID:IH2pizxG0

こういう終わり方か





158:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:31:54.10 ID:AjyxtfiS0


いい出来じゃないか



160:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:32:19.86 ID:6ZlciY6V0





164:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:34:10.44 ID:56Axwh7qO

ラストシーンの大まかな流れはレオンて映画のオマージュですw


もののけのサントラを聞きながら読むとまた雰囲気が伝わっていいかなあと思います。


とにかく支援ありがとうございました!



171: 忍法帖【Lv=8,xxxP】 :2011/04/04(月) 22:41:38.35 ID:+zRxCDrG0

良かったよ!!!



175:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/04(月) 22:47:20.26 ID:hZNXF07s0





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         コメント一覧 (22)

          • 1. 名無し
          • 2011年04月06日 14:30
          • いい話だった
            面白かったよ
          • 2.  
          • 2011年04月06日 14:38
          • なんかキャラの印象が違う
            別のキャラみたい
          • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2011年04月06日 14:57
          • 微妙
            とくに台詞回し
          • 4. 774
          • 2011年04月06日 15:42
          • 中学生が書いたのか?
            と思うような文章だな、なんか表現とかが・・・
          • 5. 名無しさん
          • 2011年04月06日 15:56
          • もうちょっと内容を…
          • 6. ななし
          • 2011年04月06日 16:00
          • おもしろいからまとめるSS
            珍しいからまとめるSS

            これは後者かな残念だけど
          • 7. 梦
          • 2011年04月06日 16:47
          • えぼしさんマジえぼし
          • 8. サク
          • 2011年04月06日 22:01
          • 良かったよ。
          • 9. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2011年04月06日 22:31
          • もののけがまた見たくなるSS
          • 10.
          • 2011年04月07日 00:16
          • 結構好きだな
          • 11. 名無し
          • 2011年04月07日 00:27
          • アシタカ死なすとかジブリの暴騰だな…内容は悪くなかったがラストが決定的に嫌だ。最悪
          • 12. 名無し
          • 2011年04月07日 00:33
          • 何様だよこいつ

            てか最後にもののけ姫じゃなくレオンでフイタ
          • 13. 名無し
          • 2011年04月07日 00:40
          • そういやレオン見たいなあ
          • 14.
          • 2011年04月07日 01:01
          • 殺し合いで食ってる侍が敵のお説教聞いて素直に戦いをやめるとか笑
          • 15. な
          • 2011年04月07日 01:38
          • 初めのうちは、物語続くならこういう展開もありだなって想像膨らませながら楽しく読んでたけど

            アシタカが止めに行く辺りから駆け足過ぎだし、無理矢理感が否めない
          • 16. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2011年04月07日 01:52
          • もう少し肩の力抜いて読めよ

            よかった
          • 17. !
          • 2011年04月07日 07:19
          • ハッピーエンド厨の俺にとってこのSSはアウト
          • 18. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2011年04月07日 15:59
          • ※17
            レオンもこのSSもハッピーエンドだろうが!
          • 19. 名無し
          • 2011年04月08日 00:57
          • 少なくともVIPでやる内容ではねえなwwww
          • 20. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2011年04月08日 11:44
          • アシタカ「サン、結婚してくれ!」
            ジコボウ「サン、結婚してくれ!」
            エボシ「アシタカ、結婚してくれ!」
            ゴンザ「アシタカ、結婚してくれ!」

            こんなんかと思ってたがなw

            >なかなか
          • 21. 名無し
          • 2011年05月17日 23:16
          • レオンのラストこんなんだったか?
            名前忘れたけどヒロインの女の子がレオンが遺してくれたお金を仲介人のおっさんに掠め取られて校庭みたいなとこで一人佇んでるようなやるせないラストだった気がするんだが
          • 22. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2011年05月21日 01:50
          • これはつまらん。期待はずれ

            ご都合主義はいかんぜよ

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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