五条「貴女が殺せと言うなら神だって殺しますよ」2

1:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/06(月) 02:03:27.93 ID:RYGlJ25v0

走ることと生きることは少し似ている。

自分の両足は目的を定めなければ何処までもこの野道を走り続けるだろうし、
生きることもまた、この続く道の果てまで止まること無く走ることだろう。

言うなれば、生きることとは目的を見つけることだ。
自分はそれをもう見つけている。二つも。

一つは、ボールを蹴ること。
五角形の白と黒が描かれた、この球をゴールに向かって突き刺す。
迫ってくる敵からボールを奪い去る。
そして、見ている者を歓喜の渦に飲み込むこと。

そのためには、こちらの世界にももっと『サッカー』を広めなくてはならない。
まだその目的は……学院内でしか達成出来ていない。
学院の外からでも見える広場では多くの生徒達が、作らせたボールを転がしている。
しかしまだ、トリステインに住む者の多くはサッカーの存在すら知らないだろう。

いずれはトリステインの国技、ハルケギニアの最もメジャーなスポーツにしてみせる。



3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:09:06.75 ID:RYGlJ25v0

もう一つ……自分が此処に呼び出された理由。
小さくて、か弱い主人を守りぬくこと。
いずれ大きく成長するだろう彼女の成長を一番傍で見届けること。
自分を必要としなくなる時まで……だが。

別れはいつかは必ず訪れる。
だれにでも平等に、確実に。

それは死ぬことだったり、二度と会えない世界に行くことかもしれない。

だが、その日のために後悔のないようにするべきだ。
いつだって自分はそうしているつもりだ。


ギーシュ「ご…ゴジョー……さ……ん…! ヒィ、ヒィ……待ってくれ……!」

バタバタと音を立てながら、五十メートル程後ろでギーシュが悲鳴をあげている。
考え事に夢中になって忘れていたが、今日のランニングはこの金髪の色男。ギーシュ・ド・グラモンも一緒に来ると言っていたのだ。

五条「……ヒヒヒ! これは失礼……置いてきてしまったようですね……!」

引き返すと、ギーシュは地面に座り込んで情けなくヒィヒィと大きな呼吸を繰り返していた。



4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:09:39.12 ID:HSC4OL7kO

待ってたよ!



5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:10:56.09 ID:p2CUcXiAO

日曜明けに投下とはなんてやつだ



6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:12:30.27 ID:9inMIzuj0

>>1乙
楽しみすぎて待ちくたびれたぞww



8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:15:49.16 ID:RYGlJ25v0

ギーシュ「た……確かに……君のランニングに無理言って……! ついてきたのは僕だが……ハァはあ……こんなにハードだとは思わなかったよ!」

五条「クックック……! 何を言っているんです……グラモンさん! まだ走り始めたばかりじゃないですか……!?」

ギーシュ「な!? ゴジョーさん! 君は正気かい……? もう、ハア……二キロ以上走っているじゃないか!」

降参した、とでも言うように地面に寝転がる。

五条「どうぞ……!」

腰に付けておいた水を手渡すと一気に飲み干すギーシュ。
走り始める前の自信満々の笑みは何処へやら、ゲッソリとした表情で疲弊している。

ギーシュ「んぐんぐ……フゥー! それにしても、君は普段どんなトレーニングをしているんだい?」

五条「いえ……そんなに大層なものではないですよ……クックックッ! こちらに来てからはランニングが基本です……!」



14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:38:04.54 ID:j/hY8MxgP

まさかこんな時間に来るとは

>>8
ギーシュがキロだと



10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:22:13.61 ID:RYGlJ25v0

ギーシュ「やれやれ……そのランニングがドリブルしながらでも、僕の全力と変わらないんじゃ、僕は恥ずかしくてね……」

五条「メイジの方は……魔法で大抵のことは出来ますからねぇ」

ギーシュ「そのツケが祟ったということさ。君に敵うと思っちゃいなかったが、これほどまでに体力差があるとはね」

自嘲ぎみに頭をポリポリと掻く。

五条「グフフ……とはいいますがグラモンさん。魔法とは精神力。心を鍛えようと思うのならばまずは体から……! そういうものですよ……!」

ギーシュ「フフ、そう言ってもらえるとありがたいよ……とは言え、これ以上僕は走れそうにないし、
君の迷惑になるのもナンだ。僕のことはいいからランニングを続けてくれたまえ……!」



額の汗も爽やかに髪を掻き上げる。
走れない……? ならば自分にとってはもっと良いトレーニングになる。



12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:31:04.36 ID:RYGlJ25v0

五条「クックック…アーハッハッハッハ!!」

ギーシュ「な、なんだい突然?」

五条「ヒヒヒっ…乗ってください……!」

ギーシュに向かって背を向け、自分の背中を指さす。

ギーシュ「ゴジョーさん……! ありがとう……君の優しさはトリステインを駆け抜けるよ。だがいいんだ、歩いてなら僕も学院まで帰れる。それにおんぶなんてぶざm」



五条「……クックックッ、『違います』よ……! 『純粋』に……!」



眼鏡の奥の瞳がキラリと輝く。



ギーシュ「ち、ち、ちがうとは……?」

自分の醸しだす不気味な雰囲気にだらだら冷や汗をかき始める。

五条「なに……簡単なことです……! 残り二十八リーグ……! まだ残っているんでねぇ……!?」

ギーシュ「なななななにを……!?」



13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:36:19.80 ID:RYGlJ25v0

五条「グラモンさんには……! ヒヒヒ…! オレのウェイトとしてもう少し付き合って貰いますよ……!」

両腕を無理やりつかみ、背負い込む。
喋る『ウェイト』を。

ギーシュ「や、やめるんだ! ゴジョーさん! 僕がどうなっても知らないぞ!!?」

背中の上で暴れ回るギーシュ。
しかしガッチリと両の腕に固定された、貧弱なギーシュにはもう逃げ場はない。

五条「クックックッ……! 心配はない……すぐに終わります……!」

ギーシュ「いやだ! いやだ! まだ死にたくない!!」

五条「ヒヒヒ……! では……!」

ロケットのような勢いで地面を蹴り出す。
背負い込んだウェイトは上下運動によりガクンガクンと揺れ動く。






ギーシュ「ぎゃあああああああああああああああ!!」



15:>>14ぎゃああああああ!ごめんなさい、リーグです!:2010/12/06(月) 02:42:16.09 ID:RYGlJ25v0

数十分後きっかり三十リーグ走った後、学院に着いたのはいい汗をかいたユニフォーム姿の男とその背に乗る、真っ白に燃え尽きた一人の貴族の姿だった。



シエスタ「お疲れ様です、ゴジョーさん! タオルをどうぞ!」


甲斐甲斐しくタオルを片手に寄ってきたのは学院のメイド、シエスタ。


五条「ありがとうございます……! シエスタさん……!」

シエスタ「今朝はギーシュ様も一緒だと思ったら……やっぱりこうなりましたか」

呆れた顔でツンツンとギーシュを突付く。

五条「少々……やりすぎましたかねぇ……!?」

シエスタ「大丈夫です、あとで誰かに頼んで部屋に戻しておいてもらいますから」

五条「どうも……!」


こんなに周りに気がつくメイドもそうそういないだろう。



16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:48:35.83 ID:RYGlJ25v0

シエスタ「あ、それとミスタ・コルベールがゴジョーさんのことをお呼びでしたよ? なんだか、すごく喜んでいたみたいですけど……世紀の大発明だーって」

五条「ジャン先生が……? クックックッ、オレに用事とは……!」

心当たりはある。
オスマン伝いに自分が異世界の住人だと聞いたコルベールは、以前自分を研究室に呼び様々な質問を投げかけたのだ。

地球とは? 科学とは?
その中でも最も興味を湧かせたのは車だったようで、「近いうちに必ず『クルマ』を作ってみせるぞ!」と鼻息を荒くしていたのだった。


ということは……?



シエスタ「じゃあ私は厨房で食事を作って待ってますね!」

五条「ヒヒヒ……! いつもありがとうございます……!」

シエスタ「いえ。では失礼します」

にこりと一輪の花のような可愛らしい笑みを浮かべ、シエスタは去っていく。
いつも目をきりきりと釣り上げる自分の主人とは違う生き物のようだ。
そんな我が主人も本当はつよがりで、可愛げのあるものだが。



23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:59:11.71 ID:RYGlJ25v0

タオルを首に掛けたまま、離れにあるコルベールの研究室に向かう。

ちなみにルイズはもう起きている。
ハルケギニア来てからひと月は経ち、彼女も学習したようで朝方自分がベッドから起き始めると、
すぐ隣からモゾモゾと顔を出し不機嫌そうな顔で「おはよう……」とあいさつを交わすまでになったのだ。
これが如何に凄いことか誰にも分からないであろうが……それは主人の名誉のためにも、ふたりの秘密にしておこう。



研究室の前で二、三度扉をノックすると勝手にドアが開く。
恐らくコルベールの魔法だ。

中に入るとすぐに目に入るのが……おどろおどろしいもの、蛇の乾燥したモノからぐつぐつと煮えわたる壺、
しまいには人体を模した精緻な人形まで置いてある。
そして鼻につく臭い。犬ほどまでとは言わないが鼻のきく自分にとっては中々強烈な刺激臭を放つ部屋である。
科学に携わる以上、仕様のないことなのだろうが……


奥の部屋の扉を開けると、ようやくコルベールのテカテカ・ツヤツヤとした頭部が姿を現す。



26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 03:08:16.86 ID:RYGlJ25v0

ゴジョー「……ジャン先生……?」


デスクでなにやら薬剤を調合していたコルベールが椅子をくるりと回転させてこちらを向く。


コルベール「おぉぉ! ゴジョー君! よく来てくれた、まあまあ狭いところだが座ってくれたまえ! あ、お茶でもだそうか?」

乱雑な部屋をガサガサと大雑把に片付けるコルベール。
研究者というのは皆こんな感じなのだろうか。


五条「ヒヒヒヒ……お構い無く……!」

コルベール「いやーしかしこの前聞いた様々な、知的探究心を刺激する様々な話! 私は大変に感銘を受けてね。特に君の話す『クルマ』の話には全く童心にかえったようだったよ!」


声をはずませるコルベールはまさに好奇心の塊で、本当に子どものようにしゃべっている。


五条「グフフ……アレぐらいならば……今度またお話ししましょうか……!?」

コルベール「なんと、本当かい? ぜひお願いするよ! それで聞いてくれよゴジョー君、僕はとうとう歴史に名を残す発明をしたかもしれない!」

五条「ほう……それはどんな……!?」

コルベール「これだよこれ!」



28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 03:16:44.62 ID:RYGlJ25v0

コルベールが取り出したのは、大きめのミニカー。

ミニカーとは言ってもボディはなく箱が取り付けられ、タイヤもゴムではなく金属製のまだまだ不完全なものだ。
馬車といったほうが近いだろう。
しかし後輪近くにはパイプオルガンのような筒が幾つも取り付けられていて、科学と魔法、どちらのものに近いと言われれば、それは確実に科学文明に近いものだった。

よくよく手にとって見てみると、形は金属が剥き出しで御世辞にも綺麗とは言えないが、中の作りは意外にも丁寧で、覗くと動力部のような……そう元の世界で言うエンジンのようなものが見える。


五条「これは……車ですね……!」

コルベール「おお! 流石ゴジョー君、分かってくれるか! これはクルマなんだよ! しかしね、授業でこの発明を見せても生徒は誰も驚いてはくれないんだ……!」

眼鏡を外し、目頭を押さえる。
コルベールには悪いが生徒の反応は至極当然。

魔法がないからこそ地球は科学文明が発達した。
逆説的に言えば魔法があるからこそハルケギニアは科学があまり発展しなかったのだろう。



29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 03:25:58.96 ID:RYGlJ25v0

五条「ジャン先生……! この車……動きますか……!?」

コルベール「もちろんだよ、ゴジョー君。君の言うクルマを聞いて僕はある言い伝えを思い出した……それがこのクルマの動力になっている」

五条「言い伝え……?」

コルベール「ああ……その昔二匹の竜が空に現れ、凄まじいスピードで飛び回った後、静かに降り立ったという伝説があってね。ピンときたんだ」

五条「その竜が……オレの世界の物であると……?」

コルベール「う、む。ガンダールヴである君に見てもらうまで確証は得られないが……恐らくそうではないかと思う」

五条「空飛ぶ竜……!」

思い当たることは一つ。
飛行機……?



30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 03:36:46.02 ID:RYGlJ25v0

コルベール「そう、僕は思った。君が言っていた『ヒコウキ』じゃないかとね。調べてみたら、タルブの村という小さな村に祀られているらしくてね」

五条「ほう……! だからここ数日いなかったんですね……!?」

コルベール「話が早くて助かるよ。タルブの村に祀られていたのは竜、というには大きすぎるし形が違いすぎるシロモノだった。既に固定化の魔法がかけられていたが……見た目からもゴジョー君、君の世界の物であることは確かだった」

五条「……」

コルベール「村人からは『竜の羽衣』と呼ばれていたが……どうやら燃料がないらしくて動かすことは出来なくてね」

五条「燃料不足……致命的ですね……!」

コルベール「だが、抜け道はあった。村長の了承を取って動力部をいじってみたらね、少しだが燃料が採取できて。それを持ち帰って、色々錬成してみると……近いものが出来た」

五条「ジャン先生、それは凄いことですよ……! 純粋に……!」


魔法があるとはいえ、ハルケギニアでガソリンを生み出したのだ。
これには驚嘆せずにはいられない。



32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 04:00:28.64 ID:RYGlJ25v0

コルベール「いやいや、まだ研究途中で『ヒコウキ』や『クルマ』のような爆発的なエネルギーは生み出せないが……」

中の鞴が動き出し、コルベールが杖を振るうと発火、中のクランクが回転し『クルマ』は前に進み……箱から紙のヘビが顔を出した。

コルベール「今の私ではこれが精一杯。だが……ゴジョー君の話と『竜の羽衣』のエンジン部を参考にしてここまで出来た! これは人類の大きな一歩だと思わんかね!?」


コルベールの熱の入りように思わず拍手する。


五条「クックックッ……! オレも……そう思います……!」

コルベール「そうだろう! ああ、ありがとうゴジョー君。君だけが僕の研究を理解してくれる……!」

五条「オレはサッカープレイヤーですので……あまり詳しいことはわかりませんが……協力できることがあれば何なりと……!」

コルベール「ありがとう! ありがとう! いつかは魔法と科学が両立出来るような世界を……皆が同じように便利に暮らせる世界を僕は目指して研究し続けるよ!」


自分の手をしっかりと握るコルベール。

科学と魔法の両立……
それは素晴らしいことだと思う。
成し遂げられたとき、きっと多くの平民は泣いて喜ぶだろう。

しかし魔法の使えるメイジがどう思うかは……想像に難くない。
利権が絡みあう時、人はいくらだって冷酷になれるのだ。

科学のもたらす多くの未来と、一抹の不安を抱えたまま研究室を出た。



33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 04:14:49.98 ID:RYGlJ25v0

夜がふけ始め、森の梟が静かに泣き出した頃。


ルイズ「ふぁあーああ……ゴジョー、アンタまだ起きてるの?」

ルイズが寝間着のまま、目を擦る。
自分が向かう机の上は十数冊の書物が埋め尽くしている。

五条「ヒヒヒ……ご心配なく! もう少し調べ物が終われば……床につきますよ……!」

ルイズ「べ、別に心配なんかしてないわよ!? ただ……最近一緒にベッドに入ってくれないなー……なんて」

五条「……?」

ルイズ「なんでもないわよバカ……それにしたってココ一週間くらいずっと夜は机に向かってるけど、何調べてるの?」

五条「いえ……大した物では」

ルイズ「あ、そう。じゃあもう私、寝るわよ?」


これはまだ言う必要のないことだ。
それに調べていることは一つではない……



34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 04:28:25.67 ID:RYGlJ25v0

ふいに、コンコンとノックの音がする。

ルイズ「誰かしら? こんな時間に来るなんて……」

ベッドから起き上がり、ドアの方に向かうルイズ。

五条「……ヴァリエールさん、下がってください……!」

ルイズ「え?」

右手でルイズを後ろに制する。
当の本人は状況が掴めないまま、寝ぼけた顔でドアを見つめている。


五条「……もう時間は夜中近い……尚且つ訪問してくるということは、何かしら理由があるということです……クックック!」

ルイズ「キュルケかしら? それともモンモランシー?」

五条「かもしれません……しかし……ご友人ならば親しい仲でも明日にするでしょうし……ヒヒヒ、ツェルプストーさんならドアを一々ノックしたりはしません……!」

ルイズ「そ、それもそうね……」

五条「ただならぬ理由を持った者が……ドアの向こうにいるということです……! その証拠に……そこにいる者は気軽な気持ちで訪れた雰囲気ではないですよ……!」

ルイズ「賊……! まさか……フーケ!?」



35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 04:44:31.76 ID:RYGlJ25v0

五条「かもしれません……まあ奴もこんな正攻法でオレを狙うとも思えませんがね……グフフ!」

ルイズ「じゃあ誰が!?」

五条「クックック! 何、ただのイタズラかもしれません……!? ですが、時間も時間です。オレが……出ましょう!」

扉の内と外。
両側に冷たい空気が張り詰めていくのを感じる。

コンコン。
と再び短いノック。

五条「……はい……!」

ルイズに目配せをするとすぐ杖を構える。

ゆっくりと引かれるドア。
入ってきたのは……フードを被った小柄な人影。

すかさず影の右手を引っ張り出し、床に転がし関節を極める。
どうやら杖は持っていない、攻撃は出来ないはずだ。

「きゃあ!」

聞こえてきた声はキュルケでもフーケでもない。



36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 05:01:13.84 ID:RYGlJ25v0

頭のフードをめくると……


ルイズ「姫様!?」

床に伏せるその人はトリステインが王女、アンリエッタ・ド・トリステインだった。
あまりに突然の出来事に、困惑で表情を強ばらせている。

アンリエッタ「……お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ。出来れば、こちらの使い魔さんに放して欲しいのだけれど……?」

ルイズ「あああ、申し訳ございません! ご、ご無礼を!! ゴジョー! 今すぐ放しなさい!」


言われたとおりに拘束を解くと、立ち上がり身なりを整える王女。


アンリエッタ「ごめんなさい、こんな夜更けに」

ルイズ「と、とんでもございません! ゴジョー、アンタも謝りなさい!」

五条「……ヒヒヒ……失礼を……申し訳ありません……!」

アンリエッタ「いえ、いいのよ。こんな時間に訪問して、フードも被っていれば賊だと思うのも仕方のないことだわ」



37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 05:22:24.14 ID:RYGlJ25v0

ルイズ「いえ……この件に関しては使い魔の主人である私がいかなる罰も……!」

さっとアンリエッタの足元に跪くルイズ。

アンリエッタ「あらいやだわ! 久しぶりに直接会ったというのにそんな他人行儀では! 私達はお友達でしょう!?」

ルイズ「勿体無きお言葉……」

アンリエッタ「そちらの……ゴジョーさんといったかしら? 品評会の事は今も鮮明に覚えていますわ! 私、感動してしまってあの日一日幸せな気持ちで一杯だったわ!」

嬉しそうに話す姿は王女ではなく、普通の一人の少女と寸分違わなかった。

五条「グフフ……!」

ルイズ「グフフじゃないわよバカ! ちゃんと返事しなさい!」

アンリエッタ「いいの、いいのよ。ルイズ・フランソワーズ……」

ルイズ「いけませんわ姫殿下! このような下賎な場所に一人で来られては……!」

アンリエッタ「そんな事言わないで……ルイズ。私は……貴女と一緒に過ごした幼少の頃、あの時が一番楽しかったわ。今では周りに本音を言えるような人は誰もいないもの」



38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 05:42:06.23 ID:RYGlJ25v0

アンリエッタ「そしてルイズ……貴女とも近いうちに会えなくなってしまうわ……」

ルイズ「姫様? なにかあったのですか?」

アンリエッタ「こんな時間に来るのにも理由があるのです……早急にどうしても貴方達二人に頼みたいことがあって」

アンリエッタはそう言うと顔を伏せ、ベッドの端に腰掛けた。

ルイズ「姫様! 何なりとお申し付けください! このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、姫殿下の為ならば命を投げうつことも厭いません」

アンリエッタ「ありがとう……ルイズ。私……結婚することになったのですわ、ゲルマニアに」

ルイズ「ゲルマニアに!? あのような成金の国にどうして姫様が!」

アンリエッタ「国同士の繋がりを強くするためには仕方のないことなの……ましてやトリステインは小国。ゲルマニアとも強く結びついていかなければ」

ルイズ「ですが……!」

アンリエッタ「私の身を案じてくれるのですね。ありがとう」

そう話すアンリエッタの表情は暗い。
望む結婚でないことは一目瞭然だ。



40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 06:02:23.72 ID:RYGlJ25v0

アンリエッタ「でも、よいのです。私はトリステインの王女、例えこんな方法だとしても国民を守れるのならばそれは本望です」

ルイズ「姫様……!」

アンリエッタ「しかし……その前にひとつだけやらなければならぬことがあるのです」



アンリエッタはあまり気が進まないようだった。
何かしら危険が伴う事になるのは間違いない。


アンリエッタ「今から話す事を、誰にも話してはなりません……ゴジョーさん。貴方も一緒に聞いてください」



41:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/06(月) 06:16:17.59 ID:RYGlJ25v0

毎度の事ですが誤字脱字誤用(ry

一旦ココで睡眠取らせてください

スレたて二日以内と言ったはずが少々私情がたてこみまして遅れてしまったことを深くお詫びいたします

待っていてくださった方もいて、書き手冥利につきるというものです!!

とはいえ今日の投下分は中々バトルまでもっていけず、冗長な感じがしてまだまだ実力不足を感じました……


なんとか早いこと五条さんの圧倒的な知力、能力、実力を発揮できるとこまで進めたいと思いますので、どうかお待ちください


明日も0時~2時の間に投下し始めたいと思います

重ね重ね、読んでくださっている皆様本当にありがとうございます!!!



67:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 01:57:04.22 ID:79te8pzt0

アンリエッタが話した内容を要約すれば……


地上3000メイルの高さに位置する浮遊大陸に位置する、始祖ブリミルの子供の1人が興した国、アルビオン王国。
その王家が反乱軍『レコン・キスタ』によって崩壊の縁に立たされているというのだ。
王党派がレコン・キスタに敗れるのはもう時間の問題で、なにかとんでもないイレギュラーが起きて状況をひっくり返さない限り、王室の人々の首が掲げられるのは『絶対』だ。


そうなれば小国トリステインにレコン・キスタが押し寄せてくることは火を見るより明らか……軍事力に乏しいトリステインがゲルマニアと手を組むことは賢明な判断だろう。


ルイズ「そんな……反乱軍が現れたのは知っていたけど。信じられませんわ……!」


続く言葉を失い、唇を噛み締めるルイズ。
それに対し、アンリエッタは冷静に返す。



68:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 02:07:45.32 ID:79te8pzt0

アンリエッタ「ルイズ・フランソワーズ。これはもう……どうしようも無い事実なのです。だからこそ私はゲルマニアに嫁ぐことを決めました」


決意を含んだ瞳でこちらを見つめる姿は先程の少女ではない。
一国の王女としての矜持を自分とルイズに示そうとする、気高きものだった。


五条「……」

アンリエッタ「そして、レコン・キスタは婚約破談のため材料を探しているのです……それがあれば彼らはトリステインも手中に収められますからね」

ルイズ「まさか……!」

アンリエッタ「そう、アルビオンには私がウェールズ皇太子にしたためた一通のお手紙があるのです。
詳しく言うことは出来ませんが……それが反乱軍に見つかればゲルマニアとの同盟は瓦礫の山となってしまうことでしょう」



70:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 02:23:24.28 ID:79te8pzt0

たった一通の手紙が国の命運を左右する。
まるで盤上のゲームさながらだが……そういう物だろう。
国とは言え所詮は人間が集まって出来たものだ。これまでだって人間は様々な愚かしい理由で争いを続けてきたのだから。

今回の依頼はシンプルで……分かりやすくていい。
シンプルということは余計なことを考えずに済むということだ。


五条「クックックッ、なるほど……! つまりはオレとヴァリエールさんに……その手紙を返して貰いに行って欲しいと……!?」

アンリエッタ「はい……ですがアルビオンは今非常に不安定。レコン・キスタにトリステインの使いだと嗅ぎつけられれば、ただでは済まないでしょう。本来ならば私が直接行くべきなのですが……」

五条「グフフ……姫殿下が直接赴いてはすぐに分かってしまうでしょう……?」

アンリエッタ「そう、私には……ルイズ、ゴジョーさん。貴方達しか頼める人がいないの。でも逆に言えば……二人をそんな危険なところに向かわせようとする自分が憎くてしょうがないの」



71:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 02:31:03.09 ID:79te8pzt0

アンリエッタはベッドの上で、その手に爪が食い込むほど拳を握り締めていた。

その両手こそが、今回の依頼について王女がどれだけ苦渋の決断だったかを示している。



アンリエッタ「だからルイズ。貴女には今回のこの頼みを断る事ができるわ……」


王女の言葉で、一瞬だけ部屋に静寂が訪れる。
それをすぐに打ち破ったのは我が主人の凛とした声だった。


ルイズ「姫様。その命、謹んでお受けさせていただきます」



判然としたルイズの返答に、ポツリと一粒の涙を零すアンリエッタ。



72:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 02:32:37.93 ID:79te8pzt0

アンリエッタ「ごめんなさい……いえ、ありがとうルイズ」

ルイズ「姫様がどれだけ心をお痛めして今回のことを決断なさったか……お察しします。だからこそ、私は断ることなど出来ません」

アンリエッタ「ええ……!」

ルイズ「こんな事を今言うのは少し憚られますが……姫様が絶対の信頼を私に持ってくださっていると分かって、身に余る思いです!」

アンリエッタ「ウフフ。いつの間にか、ルイズ。貴女はこんなにも逞しくなっていたのね。……いえ、それもそうね。ゴジョーさんのような使い魔を呼び出すんだもの」


ルイズは恥ずかしそうに頭をかいた。



73:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 02:53:46.12 ID:79te8pzt0

翌日の朝。

まだ辺りに朝靄がかかり、学院も眠っている頃。

門の前には馬が……三頭。
ドラゴンが一匹。

ルイズ「……なんでアンタたちがここにいるのよ!!」

キュルケ「ふぁあーああ……なによ、別にいいじゃない」

眠そうな顔でキュルケが返す。

五条「クックックッ……! 知っていた、ということですか……?」

ギーシュ「フフフ。実は昨日、僕とタバサはキュルケの部屋で遊んでいてね。悪いとは思ったんだが……少し立ち聞きさせてもらったよ」

タバサ「うかつ」

ルイズ「アンタたちねぇ……! これは密命なのよ! バレたらただじゃ済まないわ!」

キュルケ「どうせアンタだけじゃ半人前でしょ? 細かいこと言わずに黙っておきなさいな」

ルイズ「ツェルプストー! 今すぐ部屋に戻らないと……!」


ルイズはキュルケに向かって杖を向ける。



75:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 03:04:28.40 ID:79te8pzt0

キュルケ「なによ? あたしと勝負するっての?」

キュルケもそれに合わせて腰から杖を取り出す。

ギーシュ「こ、こらこら。君たち、これから戦場に赴くって言うのに仲間割れしてどうするんだい?」


ルイズ「コイツとは別に仲間じゃないわよ!!」

キュルケ「ふん、それには同意しとくわ」


お互いに杖を差し向け、ピリピリとしたムードが漂う。
しかしタバサはわれ関せず、いつものことだとシルフィードの上で本を読んでいる。

毎度の事ながら困ったものだ。

ギーシュ「ゴジョーさん、なんとか言ってくれよ」

五条「ヒヒヒ……おふたりとも、その辺で……!」

ルイズ「うるさいわね! アンタは黙ってなさい! 今日という今日は、コイツに引導を渡してやるわ!」

キュルケ「あらどうやって? お得意の失敗魔法かしら?」


キュルケの挑発に乗り、スペルを唱え出すルイズ。



76:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 03:14:09.88 ID:79te8pzt0

ルイズ「ファイアーボール!」

ボンとキュルケの足元の土が弾ける。
案の定、呆れ顔でため息をついたキュルケは小さく杖を振る。

キュルケ「全く。ファイアーボールってのは……こうやって撃つの、よっ!」


杖の先から出た火の玉は目の前のルイズ目がけて飛んでいく。
その火力はちょっとした火傷じゃすまない大きさだ。

察するところ……どうせ自分があさっての方向に蹴り飛ばすと思っているのだろう。
ルイズを驚かせるには十分だからだ。

彼女の思惑通り、一歩踏み込み火の玉を蹴り飛ばそうとしたとき。

雲の上から一陣の突風が吹きすさぶ。
風はファイアーボールをかき消し、二人の間を通り抜けていくと、そのままそよ風に戻っていった。


キュルケ「タバサ!?」

とっさに振り向くキュルケ。
しかし、タバサは依然本を持ったままで杖を構えていない。

タバサ「私じゃない……」

視線の先は……上。



77:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 03:28:58.70 ID:79te8pzt0

ワルド「レディがそんな風に魔法を使ってはいけないよ……?」

五条「……!」

ルイズ「あ、アナタは!」

鳥……にしては大きすぎる。
大きな鉤爪をもった生き物に乗り、空から舞い降りてくる男。

ギーシュ「何者だ!?」


ワルド「おやおや、護衛するのは二人だと聞いたんだがね……私の名はジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。グリフォン隊隊長にして今回アンリエッタ王女から護衛の任務を受けて此処に来たんだが……?」


ワルド、と名乗った男が背から降りてくる。
帽子に髭、長身痩躯な姿と小奇麗な衣服から位の高い貴族だということが解る。



ギーシュ「ぐぐ、ぐり!」

五条「グリフォン隊……?」

ギーシュ「グリフォン隊と言えば超エリート集団! しかも選ばれたものしか入れないそのグリフォン隊の隊長!?」



79:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 03:41:08.15 ID:79te8pzt0

ワルド「ああルイズ……ルイズルイズルイズ……!! 君に逢いたくて僕はこの任務を引き受けたんだ……!」

傍にいる自分たちは目に入らぬかのようにまっすぐにルイズの元へ向かうワルド。
そのまま主人の小さな体を抱き抱える。
所謂お姫様抱っこ、だ。


ルイズ「ちょ、ちょっと……ワルド様!? こんなところで……!」

ワルド「ハハハ、君は相変わらず軽いな! まるで綿毛を抱いているようだよ」

ルイズ「やや、やめてください!」

ワルド「何、いいじゃないか。久しぶりに『許嫁』会えたんだ、このぐらいは許されるさ!」


ワルドは楽しそうに、ルイズは困惑した表情で抱き抱えられている。
そんな二人の関係に訝しげな視線を突き刺すキュルケ。

キュルケ「ちょっとゴジョー……? アレ、どゆこと? なんであんないい男がルイズを?」

五条「クックックッ……! さあ……? 先ほど言ったとおり、許嫁……らしいですが」

貴族文化がある時代だ。
許嫁が当たり前のように行われていても何らおかしくはない。



81:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 03:55:29.56 ID:79te8pzt0

キュルケ「まぁ……ヴァリエールの家柄はそこそこいいから許嫁がいても不思議じゃないけど」

五条「グフフ、オレも初耳ですがね……!」

ギーシュ「いやしかし……いささか年が離れすぎちゃいないかい?」

確かにギーシュの指摘通りルイズとワルドは一回り以上離れているように見える。
じゃれ合う二人は年の離れた兄妹、下手すれば親子にも見えなくはない。

タバサ「ろりこん」

タバサは本から目を離さずそう言ってのける。


ワルド「っと、すまない。久しぶりの再会に有頂天になりすぎていたようだ」

ルイズをそっと下ろし、こちらに向き直るワルド。

ワルド「ルイズ、そこにいるのは君の友人だろう? 使い魔は……そこの青いドラゴンかい?」

シルフィードを指差すワルド。



82:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 04:08:46.90 ID:79te8pzt0

ルイズ「い、いえ、そのドラゴンは違います……」

ワルド「ふむ……ではこのジャイアントモールかい?」

スンスンとルイズの指に嵌められた指輪の匂いを嗅ぐギーシュのヴェルダンデ。
その指輪は昨日、アンリエッタ王女から譲り受けた『水のルビー』
せめてこれだけでも、と渡されたが旅の路銀に困れば売り払っても構わないという。

ルイズ「きゃあ! あああっち行きなさい!」

ギーシュ「あああ! 僕のヴェルダンデ!」

ワルド「それも違うか……じゃあどれが君の使い魔なんだい? 君とその使い魔の活躍、僕の耳にも入っているよ。何でも盗賊フーケを捕まえたらしいじゃないか!?」


嬉々として話すワルドに対して、居心地悪そうにゆっくりとこちらを指さす主人。


ルイズ「あの……彼が私の使い魔です。眼鏡を掛けた」

ワルド「え? 何を言っているんだ小さいルイズ……! そこにいるのは、平民の掃除夫だろう?」

五条「ヒヒヒ……!」


掃除夫、ときたか。
相手は貴族とは言え中々酷い言われようだ。



84:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 04:27:01.22 ID:79te8pzt0

ルイズ「いえ……彼が私のサモン・サーヴァントで呼び出した、その、サッカープレイヤーのゴジョー・マサルです」


ワルドは目を見開いてこちらを見る。
まるで水族館のイルカになった気分だ。


ワルド「いや、え? じゃあ彼がフーケを二度も退けた、伝説のガ……!?」

五条「クックックッ…アーハッハッハッハ!!! どうも……! ご紹介にあずかりました……五条勝です……!」

ワルド「あ、ああ。ワルド公爵です……よろしく。こっちが僕のグリフォンだ」

今度は狐につままれたような顔をしてグリフォンに乗り込むワルド。


ワルド「まあ……少し予定と違うがいいだろう。さあ諸君、ひとまずは港町ラ・ロシェール向かおう!」

皆一斉に馬、ドラゴンに乗り出す。
すると自分の前にいたルイズがワルドに手を引かれグリフォンに乗せられる。

ワルド「ルイズ、その馬は気性が荒い。僕のグリフォンで行こう……」

ルイズ「で、でも……ゴジョーが……」

こちらを振り向き複雑な横顔を見せる。

五条「ヒヒヒ……構いませんよ……!」



86:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/07(火) 04:41:15.21 ID:79te8pzt0

ワルド「ほら使い魔くんも構わないそうじゃないか。さあ、僕のルイズ……また昔話に花をさかせようじゃないか」

ルイズ「え、ええ……」

ルイズは悲しげに顔を伏せ、二人を乗せたグリフォンは先頭を歩き出す。

初めて見たかもしれない。
主人のあんな色んな感情が混ざり合って、でも、少しガッカリしたような顔は。

一つため息をつき、空を見上げる。
キュルケとタバサを乗せたシルフィードがのんびりと飛んでいる。


ギーシュ「ゴジョーさん、いいのかい?」

五条「クックックッ……! なにがですか……?」

ギーシュ「君がため息を付く姿なんて、めったに見られないよ」

五条「グラモンさん……オレはあくまでも使い魔です……! 主人のプライベートにまで……あれこれ言う権利はありません……!」

ギーシュ「……一応国務なんだがね」


ギーシュは大きく息を吐き出した。


まだ、次の街までは遠い。



87:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 04:55:53.30 ID:79te8pzt0

毎度の事ながら誤字脱字(ry

明日が早いので一旦ココで寝させてください
投下量も少ないし、話全然進んでませんが……申し訳ありません


その分と言ってはなんですがいつもと違い、次の投下は今日の夕方19~20時くらいから始めます
二日間の遅れを取り戻すため、ガッチリ書いていきたいと思います。

実を言うと、五条さん休みが取れたので……www

どうかお付き合い頂けたら幸いです


重ね重ね、読んでくださってありがとうございます!!



108:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 19:59:49.83 ID:79te8pzt0

数時間ほど歩き、山道を下ったところでようやく拓けたところに抜けると、眼下には真っ赤な夕焼け空と巨大な岩を切り崩したような町が広がっている。
紅く染まるその美しさは一枚の絵画になってもおかしくないほどだ。

ラ・ロシェールは渓谷にある港町。だが周りに海などはない。

ここからだと米粒ほどの大きさにしか見えないが、町を取り囲む岩山の頂上には数多の船舶が往来しているのが確認できた。

五条「ヒヒヒ……空飛ぶ船、ですか……!」

キュルケ「あら、ゴジョーの世界じゃフネは空を飛ばないのかしら?」

低空飛行をするシルフィードの上からキュルケが話しかけてくる。

五条「ええ……! 船は海を渡るものですからねえ!」

キュルケ「ハルケギニアにも水の上を泳ぐ船はあるわ。でもこっちの、風石を使ったフネは石の魔力が続く限り空を飛び続けられるの」


フライやレビテーションがあるとは言え、長距離飛行が出来ないのが不便だと思っていたが……ここで謎が解けた。
こちらでは『フネ』が空を飛ぶ。
飛行機のような道具が生まれないわけだ。



109:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 20:05:12.31 ID:79te8pzt0

キュルケ「それによーく見てごらんなさい。ほら、普通の船と違って翼があるでしょう? あれとマストを上手く調整しながらアルビオンに向かうのよ」


キュルケの指差す先のフネの側部には、言うとおり羽がついている。
しかし、なんとも取ってつけたような感じは否めなく、まだ改良の余地は残されているようだった。


ギーシュ「なんだ、妙に詳しいじゃないか? 君はそんなにフネに興味があったのかね?」

キュルケ「え!? あ、ああ、最近仲の良い知り合いが言っていたのよ! なんかハルケギニアに技術革新を起こしたいらしくてね」

突然慌てだすキュルケ。
既存のフネを変えたがる人間なんて自分は一人しか知らない。

ギーシュ「ふーむ。なんだかキュルケにしてはおかしな話だが……」


ギーシュは怪訝そうな面構えでまじまじとキュルケを見つめるが、当の本人は空に向かって吹けもしない口笛を鳴らしている。



111:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 20:13:35.39 ID:79te8pzt0

ワルド「もうラ・ロシェールは目と鼻の先だ。すまないが、僕とルイズは先に行って乗船許可を取ってくるよ。」

キュルケ「え? すぐにアルビオンに行かなくてもよいのですか?」

ワルド「レディ、急ぎすぎては事を仕損じるというものだよ。今日一日はずっと山道を歩き続けて
少々疲れただろう? ほら、小さなルイズもこんなに浮かない顔をしている」


ワルドの言うとおりこの長い山道を歩いていた間、ずっとルイズは俯き加減だった。
時折、こちらの方を伺うように振り向いてはきたが……


キュルケ「は、はあ……」

ワルド「乗船許可には少しばかり時間がかかる。それに明日はスヴェルの月夜だ」

ギーシュ「あ、なるほど」


スヴェルの月夜……以前本で読んだことがある。
ハルケギニアでは双月が二つに重なる夜をそう呼ぶのだ。
そして、丁度その夜には地球の満潮のように最もアルビオンがラ・ロシェールに近づくという。



112:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 20:20:22.98 ID:79te8pzt0

ワルド「今夜はゆっくり体を休めて明日の夜に向かうとしよう。もう宿は取ってある、『女神の杵』という貴族専用の宿だ。ワルドと言えばすぐに入れてくれるだろうから、君たちは直接そちらに行きたまえ」

五条「……」

ルイズ「ゴジョー……!」

ワルド「では、今夜の夕食の席で! グリフォン!」

ルイズ「待って……ワルド様!」


手綱を握るワルドの腕を止めようとするルイズ。


ワルド「ん? なんだいルイズ?」

ルイズ「いえ……その……私は」


求めるようにこちらを視線を自分に送り続けてくる。



113:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 20:30:02.07 ID:79te8pzt0

ワルド「ああ、使い魔くんがいなくて心配かい」

ルイズ「ち、違うの……! そんなわけじゃ……」

ワルド「心配はいらない。僕は『閃光のワルド』。スクウェアクラスの僕にかかれば、例えどんな賊が襲いかかって来ようとも君を守ってみせるよ」

五条「……ヴァリエールさん」

ワルド「どうだいゴジョーくん。僕の実力に不満がお持ちかい? フーケを倒した君だ、実力がわからないわけでもあるまい」

五条「……」


ワルド「なんなら『決闘』でもしてどちらがルイズにふさわしいか決めようか。フフフ、僕は彼のように簡単に負けたりはしない……!」

ギーシュを指し、そう言い切るワルド。
その台詞は『絶対』の自信、負けるわけがないという余裕すら感じさせる。

一方ひと月経っても言われ続けるギーシュはハハハ……ともう諦観の姿勢を見せている。



115:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 20:38:05.67 ID:79te8pzt0

使い魔とはなんなのだろう?
ふと、そんな疑問が頭をよぎる。

主人に付き添い、従い、守る者。自分はこちらに召喚されてからずっとそう考えていた。
だが自分以上にふさわしい主人を守るものが現れたら……?

でしゃばるべきではない……はずだ。
きっと本当はルイズもそう望んでいる。
自分のような何処から来たかも分からぬ異邦人よりも、地位も名誉も実力も兼ね備えたワルドのほうがふさわしい。

そう思う。

ワルド「……異論はないようだね。じゃあ行こうかルイズ」

ルイズ「はい……」


グリフォンはその体の持つ大きな羽を広げ茜空に舞い上がると、あっという間に二人を連れ渓谷の間に消えていった。

消えそうなルイズの表情だけを自分の中に残して。



116:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 20:51:13.99 ID:79te8pzt0

キュルケ「なーにが小さいルイズーよ! 最初はちょっといい男かと思ったらただのロリコン子爵じゃない!」

ギーシュ「ま、まあまあ! しかし……確かに、僕らの身を案じてというより許嫁の身を案じてって感じだったね」

キュルケ「一見紳士風に見せかけてるけど結局自分のしたいようにしているだけじゃない。これならゴジョーの方が万倍紳士的で優しいわよ!」

プンスカと怒るキュルケに後ろでタバサがこっちをじっと見つめている。
その灰がかったエメラルドは自分を憂慮しているようだ。


五条「ヒヒ、タバサさん……? いかがしました……?」

タバサ「彼女が心配?」

中々どうして……自分と近いものをこの小柄なメイジには感じていたがいつの間にやらそんなところまで見ぬかれているとは。
元の世界にいたとき。
帝国中学のチームメイトですら自分の『感情』を見たものはいない。
意識せずともいつの間にかそうなっていたし、誰も自分の素顔を見ようとは思わなかった。

他人との距離は感じていたし、周りもそう思っていただろう。
だが極端な程塗り固められた笑顔のお陰でコミュニケーションに困ったことはない。
そうすることで周囲は余計な詮索をしてこないし、サッカーにも集中できる。

正しいことと思って続けてきた自分の奇妙な笑顔。
間違っていることと思って隠し続けてきた、歪な素顔。

それをこうも簡単に言い当てられるとは、少しばかり恥ずかしく感じる。



117:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 20:56:28.00 ID:79te8pzt0

やはり……召喚された直後に比べて、表情を隠すのが下手になったのかもしれない。

だがそれを稚拙だとは思わなかった。逆に嬉しさも感じる。
なぜなら、それは我が主人が判然と自分の中に刻み込まれていると言えるからだ。



彼女はいつだって顔に出して、全力でぶつかってくる。
嬉しいとき。
悲しいとき。
恥ずかしいとき。
怒ったとき。

そしてさっきのように不安なときも。

もう少し……自分も感情を出すべきかもしれない。




五条「そう、かもしれませんね……」





その言葉を聞いたタバサは僅かだが……
ほんの僅かだが微笑んだように見えた。



120:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 21:02:51.13 ID:79te8pzt0

タバサ「……後ろに乗って。追いかけるから」

キュルケ「きゃ! ちょっと何よタバサ!」

フワリとキュルケを馬に乗せると自分をシルフィードに乗せ換える。

五条「ありがとうございます……!」

タバサ「貴方はもっと自分の感情を出してもいいはず。そう思っただけ」

自分とは違う種類だが鉄面皮を貼りつけた彼女にこう言われるとは……
しかし、自分の胸は感謝で一杯だ。
二、三言で通じ合う仲間が安心感をくれたのだから。


ギーシュ「ちょ、ちょっとゴジョーさん!? タバサ!? 何処に行くつもりだい?」


高くシルフィードが弧を描くと青髪の小さな魔法使いはこう言った。



タバサ「……悪い魔法使いに奪われた姫を取り返しに行く。コレ、物語の基本」



121:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 21:06:47.08 ID:79te8pzt0

ギーシュ「悪い魔法使い、って……! ゴジョーさん、君まで!」

五条「グフフ……グラモンさん、すみませんが一足先にラ・ロシェールで待っています……!」

ドラゴンは目の前の岩の町に向かって、急降下する。


キュルケ「あたしたちだけ置いてけぼりにするつもりー!!?」

ギーシュ「そりゃあんまりだー!!」


山の中腹、遥か後方で残された二人の声が反響していた。



122:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 21:13:19.40 ID:79te8pzt0

桟橋のすぐ近く、一際大きな建物を見つけるとシルフィードは薄暗くなり始めた空を旋回する。


タバサ「あそこで乗船許可を貰うはず……」

町の端にある、この建物の周りはあまり明かりがなく、空からの人探しには不向きな場所だと言える。

タバサ「直接建物の中を探す?」

五条「クックックッ……オレもそう思いましたが……!!」


シルフィードから地面までの直線距離は大凡20~30メイルはあるだろう。普通の肉眼ではとてもじゃないがこの暗さの中、大勢の人を見分けることはできない。

しかし、自分の『よく見える目』は既に二人を捉えている。





五条「『見つけた』……!!」



123:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 21:21:08.42 ID:79te8pzt0

丁度二人は乗船許可の申請をしてきたのだろう。
寄り添うように建物から出てくる。
自分の指先にいるワルドとルイズを見つけるとタバサはシルフィードに囁く。


タバサ「階段前に下りて……!」

きゅいきゅい、とドラゴンらしくない鳴き声を上げ青竜は高度を下げ始める。

長い階段の一番下、そこに立つ自分の姿を見て階段を降りてきたワルドは驚いた顔で歩みを止める。その後ろにいるルイズの顔は暗がりで伺うことが出来ない。

五条「どうも……! グリフォン隊の隊長さん……!」

ワルド「……ついさっきの僕の言葉は聞こえなかったようだね。君たちは宿で待っていろ、と言ったはずだが」


それは山中で言ったような労りの色は含まれていない。
明らかな敵意。
自分たちを邪魔をするならば傷めつける、という刺々しい意思を向けてくる。



125:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 21:34:36.86 ID:79te8pzt0

五条「クックックッ……まだ宿に行くには……早いでしょう?」

ワルド「どういうつもりだ? 僕は今からルイズと大事な話があるんだ、用事なら後にしてくれ」

五条「ヒヒヒ、大事なお話ねぇ……! お伺いしても……よろしいでしょうか?」

ワルドはイラついている。
その証拠に端正な顔立ちは苦虫を噛み潰したような不快感をあらわにしている。

ワルド「……言わなければそこからどく気もないんだろう。いいだろう、話してあげよう! 僕とルイズはこの旅が終わる頃には結婚する! この後僕らは一緒の部屋でそのことについて語らおうとしていたのだよ」


ルイズ「な!? そ、そんな事聞いておりませんわ!」

思いもよらぬワルドの台詞にルイズも声を荒げる。

五条「……それは、ヴァリエールさんも了承の上で?」

ワルド「了承……? 使い魔くん、君は自分だけがルイズのことを分かっているつもりなのかね」

五条「……」

ワルド「ルイズ、いきなりですまなかった。今言った僕の言葉は嘘偽りのない真実の言葉だ」

ルイズ「あああ、あまりにも突拍子もなさすぎますわ……!」



126:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 21:44:47.30 ID:79te8pzt0

ワルド「だがルイズ……君は僕からのプロポーズ、断るのかい?」

ルイズ「それは……」


言葉尻を濁すルイズ。
見たところ、ワルドはルイズが幼い頃から知っているようだ。
彼女自身もワルドを兄のように慕っていたのだろう。
それを無下に断ることは……性格上考えられない。

ワルド「そうだろう? 僕とルイズは、ルイズがまだこんなに小さな頃から結婚を約束されているのだよ。
悪いが君のようなぽっと出が、僕らの間に入り込む隙間はない」


去れ、と言っている。
直接は言わないがそう匂わせている。


五条「クックックッ……アーハッハッハッハ!!」



129:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 22:02:06.15 ID:79te8pzt0

ワルド「なんのつもりだね?」

五条「いえ、ね……相手の逃げ道を塞いで、自分の望むような答えを言わせるのがお上手……だと思いましてね、ヒヒ」

ワルド「なんだと……!?」




五条「……人はそれを『脅し』といいますよ!」




腰のレイピアに手を添えるワルド。


ワルド「……全く、ルイズの使い魔というから少しは物分りが良いかと思ったら。買いかぶりすぎていたようだ」


ヒュンヒュンと空を切り裂きながら、鉄拵えの杖を自分の首もとに添える。


ルイズ「やめてっ!! ワルド様もゴジョーも!」

ワルド「ゴジョー、二度は言わない。宿に戻るんだ……ミス・タバサ、君からも言ってやるんだ。シュヴァリエの君ならば魔法衛士隊の実力はよく知っているだろう?」


ワルドは視線をタバサに向ける。



130:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 22:16:34.89 ID:79te8pzt0

タバサ「私は……彼の意思に任せる」

青色の髪をなびかせ、そう言い切る。

ルイズ「タバサ!!」

ワルド「やれやれ……やれやれだ……! 僕がこう言っても聞いてくれないのか……」

嘆息を吐き出し、虚空を見つめる。


ワルド「いいだろう『決闘』だ! そこまで言うのなら、このスクウェアの風の力で君をねじ伏せる! どちらがルイズにふさわしいか君の肉体にも精神にも刻みこんでやる!」


かぶっていた帽子を投げ捨て、こちらに向き直るワルド。


五条「クックック……オレは最初からその言葉を待っていたんですよ……!!」

ルイズ「だめ!! こんなこと馬鹿らしいわ!! 命令よゴジョー! 決闘を受けることは許さないわ!」

とうとう飛び出し自分を制止しようとするルイズ。
その手をそっと握る。



132:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 22:27:44.40 ID:79te8pzt0

五条「すみません……ヴァリエールさん……! あとで幾らでも罰は受けます……!」

ルイズ「ダメよ!! 相手はギーシュとはメイジのランクも体術も魔法も比べものにならないわ!! ケガじゃ済まない!! それにこんな事しに来たわけじゃないでしょ!!」

五条「だが……これはオレ自身が望んだ戦い……! 切望した戦い……!」

ルイズ「だめ! やめて……本当に……! こんなこと……」


主人は必死に自分の腕にすがりついてくる。
抱きしめてやりたい……だが今はそれはできない。





五条「逃げられないんですよ……! 『漢の戦い』からは……!」






ルイズ「ばか……」


力なく、手を放しルイズはその場にしゃがみこんだ。



133:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/07(火) 22:29:30.53 ID:FVRdZwbiP

五条はんかっけええええええええ



134:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/07(火) 22:36:00.24 ID:U/K6rO5FP

五条さんかっこよすぎて死ねる



136:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/07(火) 22:37:33.89 ID:PwGitXEQ0

顔にちんこがついててもこんなにかっこいいんだな…



137:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/07(火) 22:43:53.97 ID:JjbiuV/u0

>>136
お前ちょっと表出ろ



139:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/07(火) 22:45:06.95 ID:PZaORmZaO

>>136
屋上



140:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 22:45:11.42 ID:79te8pzt0

ワルド「フ、威勢だけはいいようだが……君は僕が唯のメイジだと思っていないか?」

五条「ヒヒヒ……! オレにとっては、相手がメイジであろうが平民であろうが関係ありません……!」


ワルド「僕は伊達や酔狂でグリフォン隊隊長を名乗っているわけではない……! 高度な魔法を操り敵を圧倒するのはもちろん、類まれな体術を持っていなければその名は名乗れない」


再びレイピアを目にも留まらぬ疾さで抜くワルド。


ワルド「君は少しばかり調子に乗りすぎた……! それはこの僕に喧嘩を売ったということだ!」


渓谷に冷たい風が吹き込む。



142:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 22:54:53.23 ID:79te8pzt0

五条「オマエは……オレを怖がっている……! それ故に自らの力を誇示する!」




ワルド「なに……!?」

五条「それもそうでしょう……今まで魔法衛士隊の自分に喧嘩を売ってきたものはいない……! 周りの人たちは皆、敬意と畏怖でオマエを見るから……!」

ワルド「……ぐ」

五条「だから人生で初めて、正面から勝負を仕掛けてきたオレにビビって……! 強さを見せつけようとする……!」


次第にワルドの顔が紅潮していく。
怒りで拳はギリギリと握られている。


ワルド「貴様ぁぁ! 貴族である僕を愚弄するかっ!?」







五条「そんな薄っぺらいプライド……! オレが『蹴り壊して』やりますよ……! 『純粋』に……!」



146:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 23:19:55.54 ID:79te8pzt0

決闘の場所に選ばれたのはとある店と店の間、路地の奥だった。
少し手狭ではあるがラ・ロシェールらしく周りは岩で囲まれており、ちょっとやそっとでは崩れたりしないだろう。

二人の決闘の請負人としてタバサがつく。
最低限のルールとしてお互いがお互いを『殺さない』ためだ。
しかし骨を折ろうが肉が千切れようが相手が降参、もしくは意識を失わない限りこの戦いを止めることは出来ない。


ワルド「ゴジョー……! 僕は仕事柄、学院の噂も耳に入る。君がその奇妙な球を使って、メイジを倒したことも知っている」

五条「ヒヒヒ……それが?」


命を持った生き物のように自分の周りを動きまわるボール。


ワルド「そして伝説のガンダールヴ、ということもな」

五条「……!」

ワルド「だがしかし、それだけで僕に勝てると思ったら大間違いだ! こちらには風の加護が常に付いている!」

五条「クックックッ……御託は結構……! さっさと始めましょう」


ワルド「減らず口が……!」



148:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 23:35:26.16 ID:79te8pzt0

ワルド「デル・イル・ソル・ラ・ウィンデ……! エア・ハンマー!」

唱えた瞬間、既に魔法の槌は限りなく自分に迫り来る。
と同時に体を沈め眼下に杖を構えるワルド。
閃光という二つ名は確かに伊達じゃない。
このスピードはギーシュとは次元が違う。


五条(同時攻撃……! ただ逃げるだけならどちらかは避けれない……が)

バックステップでエア・ハンマーを避ける、
そのステップを利用して足元のボールをワルドに向かって蹴りつける。

ワルド「ちぃ!」

思わずレイピアでボールを弾く。
後方に飛びながらではレイピアを手から零すほどの威力はない。


ワルド「フ……初見でこれをかわすとはな」

五条「どうしました……? この程度ですか、グリフォン隊とやらは……!」

ワルド「……エア・スピアー」



149:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 23:49:46.86 ID:79te8pzt0

圧縮された空気の槍。
疾い、が見えぬほどではない。
ワルドは……既に次の呪文を唱えている。
ならばこちらから懐に入り、詠唱中の隙を狙って杖ごとはじき飛ばすまで。

五条「へぇあ!」

ワルド「くっ!」

鍔迫り合う左足とレイピア。
ギリギリと音をたてながらぶつかり合うそれはお互いの体術が互角なことを表している。

ワルド「ぐ、ぐ……エア・スピアーを躱して尚、懐に入ってくるとは……!」

五条「『閃光』……! どうやら偽りは無いようで……!」


「「はあっ!!」」


同時に相手の武器を弾き、後退する。
傍らには……ボール。どうやらこちらも素手で勝てる相手ではなさそうだ。

五条「『分身ペンギン……!』」


蹴りつけたボールに何処かから小さなペンギンが現れる。



153:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/08(水) 00:08:18.21 ID:qxm+LxkQ0

ガンダールヴの力を帯びたボールは、品評会の時のとは違い攻撃力を持ってワルドに迫る。
そして近づくごとに大きくなる三匹のペンギン。

烈風を纏い、ターゲットの胸元へ螺旋を描く。
そのスピードは既にギーシュ戦など、とうに越している。

しかし……

ワルド「疾いが……直線的だ!」

とっさに身を伏せ、ボールをかわす。


五条「舞え……! ペンギン……!」

ワルドの真上で風を巻き上げながら三方向に散るペンギン。
各々が明後日の方向に飛んでいく。

ワルド「完全にコントロール不足だな! そして勝った! エア・ニー……!?」

ワルドが杖を構えた瞬間、真後ろで衝撃音が鳴る。
気づいたときにはもう遅い。
目標を外したかに見えたペンギンは狭いここの壁を利用して跳ね返ってくる。

ワルド「跳弾かっ!?」

ガードの構えを取るが、既にペンギンは弾けるのを待ちわびている。

五条「爆ぜろ……! ペンギン……!」



157:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/08(水) 00:24:00.51 ID:qxm+LxkQ0

ワルド「ぐぅぅぅぅ!!」

ルイズ「ワルド様!」

爆発音と共にワルドを壁際まで吹き飛ばす。
小奇麗な衣服は爆発によってところどころ千切れ、今この男を魔法衛士隊隊長と言って誰が信じるだろう。
両腕に直撃したペンギンは、ワルドに杖を持ち上げる力すら持たせない。

思わず駆け寄ろうとするルイズをタバサが杖で留める。

ルイズ「どいて! もう怪我しているじゃない! 終りよ!」

タバサ「だめ……まだ意識を失ってもいないし降参もしていない」

ルイズ「関係ないわ! そもそもこんな事に意味なんて無いの!!」


ワルド「そうだ……! まだ勝負は終っていない……!」


こちらを睨みつけ、戦う意志を見せるワルド。

五条「杖を奪わねば降参にはならないと……」

ワルド「……当然だ! さあ、来い……ゴジョー……!」


上がらぬはずの腕を気力だけで持ち上げるワルド。
満身創痍の体からは、さっきより強い殺気が立ち上る。



160:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/08(水) 00:46:49.13 ID:qxm+LxkQ0

五条「クックックッ……いいでしょう……! ならば全力で杖を奪うだけですよ……!」

ワルド「……エア・ストーム!!」


ほぼ、瞬く間に高速詠唱を終えたワルドはこの狭い決闘場に巨大な竜巻を生み出す。
瓦礫、看板、岩……辺り構わず巻き込みながら向かってくるそれは不可避。
そしてこの威力は、今にも倒れそうなワルドに未だ魔力が残っているということを示している。

ルイズ「きゃあああ!!」

タバサ「下がって! トライアングル・スペル……! これっ……以上、近づけば……私たちも吹きとばされる……!!」

髪を大きく乱しながら、必死でルイズが飛ばされないように押さえる


ワルド「吹き飛べゴジョーっ!!」

五条「くっぐぅうう……!」


避けようがないのなら堪えるまで。
これに耐え切れば、確実にワルドは呪文詠唱後の一瞬の隙が生まれる。
そこを逃さず、杖を奪い取る。

吹き飛ばされれば、空中で狙い撃ち。エア・ニードルで自分は串刺しになる。
もし詠唱がなかったとしても、空中に巻き上げられて落下すれば骨だけではすまない。
ここが……この戦いの正念場。



162:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/08(水) 01:05:23.75 ID:qxm+LxkQ0

ルイズ「逃げ……なさい!! ゴジョー!!」

逃げる場所など、ない。
だからこそワルドは今ここでエア・ストームを放った。
壁際に逃げたところで簡単に虚空に舞い上げられる、そう計算してのことだろう。

ならば、真正面から受けきるのがダメージを減らせる唯一の得策。

腰を落とし、重心を低くしてスパイクを土にめり込ませる。
腕ごと持っていかれないように顔面の前でクロスさせる。
吸い込まれようとはためくウェア。髪の毛を乱す旋風。


ワルド「消し飛べええええええええ!!!」



ワルドの声と同時にエア・ストームは体を飲み込んだ……



164:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/08(水) 01:28:23.64 ID:qxm+LxkQ0

魔力を失った竜巻は次第に勢いを失い、空に収束していく。
ほんの数秒で周りにあった店の資材は残らず岩山の彼方に飛ばされていた。
岩壁は竜巻の形に削り取られ、綺麗な層を見せている。

決闘場は何も無い更地に変わっていた。


唯一、自分が立っていることを除いては。


ワルド「な……なぜ……!? なぜそこに貴様は立っている……!?」

幽霊でも見たかのようにこちらを指さすワルド。
ウェアはボロボロ、躯も傷だらけ。無茶をしすぎたか……


五条「クックックッ……アーハッハッハッハ!!」

ルイズ「ゴジョー!!」

静かにタバサが呟く。

タバサ「彼の勝ち」





五条「『シグマゾーン……!』」



167:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/08(水) 02:07:32.45 ID:qxm+LxkQ0

呆然とするワルドに刹那の時間で距離を詰め、右手からレイピアを奪い去る。
その勢いのまま壁前まで滑りこみ振り返るとあっさりとワルドは腰から崩れ落ち、倒れこんだ。
これでもうワルドは魔法を唱えることはおろか、レイピアで戦うことも出来ない。

ルイズ「……!」

タバサ「杖を奪われたため、あなたの完全勝利」

五条「クックックッ……! 二勝目、ですかね……!」

さすがに応えた。
とてもじゃないがもう一度今の魔法を食らったら、空の彼方で星になっているだろう。

ルイズ「ああ、あんた! ワルド様はスクウェアクラスなのに……しかもトライアングルスペルを生身で耐え切る人間見たことないわよ……!?」

ルイズは驚きと困惑、そして僅かだけ嬉しそうな顔をして自分に寄り添う。

五条「竜巻は……フットボールフロンティアではわりとメジャーな技ですからね……! ヒヒヒ」

ルイズ「サッカープレイヤーってどんな体してんのよ!! あ……! そういえばアンタまた命令に背いたわね!!」

五条「グフフ……まあそれはまた後で……! 今は隊長さんに治療を……!」

ルイズ「あ!! ワルド様!!」

自分に言われ、大慌てでワルドのもとに向かう主人。
今日はずっと浮かない顔をしていたが……なんとなくいつもの調子を取り戻したようだ。
自分の我儘でこんな事になったのだがある意味では、ルイズが元に戻ったのが一番良かった事なのかもしれない。



168:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/08(水) 02:26:38.77 ID:qxm+LxkQ0

タバサ「お見事。悪い魔法使いは退治されて、姫は取り戻されたみたい」

そう言ってタバサは手を差し出す。

五条「ヒヒ……それはそれは……!」


パンと小気味いい音を鳴らしながらその手を叩き、二人一緒に眼鏡をクイと持ち上げる。


タバサ「正面から戦えば……私も貴方には到底勝てない。能力に底が見えない……」

五条「グフフフフ……そう単純なものではありません……! タバサさんのような挑発の効かないタイプは一番対峙したくありませんからねぇ……!」


そうアルカイックスマイルを浮かべながら、タバサの手を掴んで立ち上がったとき。






「……ライトニング・クラウド」


真後ろから衝撃。

背中に激痛が走ると共にゆっくりと倒れていく自分の体。
隣にいるタバサの顔が徐々に驚愕に変わり、目を見開いていくのがコマ送りで脳に流れこむ。



172:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/08(水) 02:46:09.35 ID:qxm+LxkQ0

五条(杖は……オレが……右手に持っている……ワルドでは……ない……)


床に音もなく叩きつけられる、言う事の聞かない体。
揺さぶられる肩。きっとタバサだろう、らしくない慌てようだ。

目は靄がかって良く見えない。
誰かが大声で叫んでいる『音』が耳を素通りしていく。
すごく遠くに悲鳴も聞こえるが……もうよくわからない。

段々と薄くなっていく意識。
冷たい死が自分に迫り寄っているのを感じる。
想像していたよりもずっと呆気のないものなのか……


不思議と体は痛くはない。
でも心は……まだ『生きたい』と呻いている。

……心臓は数回鼓動したあとに止まった。







「ゴジョー……!? 嘘……! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!」



175:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/08(水) 03:21:11.83 ID:qxm+LxkQ0

静かに鼓動を止めた五条の心臓。

慟哭するその主人、ルイズ。

取り乱すシュヴァリエ、タバサ。

果たして五条を撃ちぬいたのは誰なのか。

このままアルビオンまで旅を続けることは出来るのか。



次回「たったひとつの冴えたやりかた」



176:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/08(水) 03:22:39.61 ID:qxm+LxkQ0

毎度の事ながら誤字(ry


時間がかかりましたがここで今日の投下分は終了です

ここからどう動かすか……いやはや困りました
漠然と考えてはいるんですが難しいですね


次回投下は木曜夜だと思います。
なんとか水曜に来たいのですが……多分厳しいかと
保守してくれている方を思うと身につまされる気持ちでいっぱいです

重ね重ね、読んで下さってありがとうございます!



184:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/08(水) 05:07:42.91 ID:9nBLA+DBO

>>176
勿体付けやがって
楽しみに一日一条してるぞ



191:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/08(水) 10:02:13.95 ID:HLij8soMO

>>184
一日五条しなはれ



180:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/08(水) 03:42:11.81 ID:MFCBvfUt0

乙、待ってるぜ



242:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 00:00:56.88 ID:jdQcW+Q20

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


暗い、暗い。何処までも続く暗黒。
足は鉛のように重く、進むことを拒絶するが歩みを止めようとしない。
一歩、また一歩と、何処かからの強い力で自分は機械的に前に進み続ける。

前? ここに前などあるのか? 前後左右の指標すら感じ取れないのに?
闇以外に音も視界もないここに何処か終着点などあるのか?

ここは何処だ? 今はいつだ? 


オレは……誰だ?


何も無い空間があの世、という奴なのだろうか。
積み上げてきたアイデンティティすらも、この延々と続く闇に蝕まれていく。


死。
誰にでも訪れる、自分でも唯一『絶対』抗うことの出来ない事実。
これが永遠に続くのだ……

ふいに身震いをする。
寒い。

死んでいる以上、温度など感じ無いはずが心は恐怖に凍りついたようだ。



244:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 00:07:58.35 ID:jdQcW+Q20

死ぬのは怖くないつもりだった。
ルイズに召喚されるまで、後悔など感じたことはない。
いつだって自らのベストを尽くしてきたし、自分の選んだ選択肢が正解に変わるように努力してきた。

それが自信と実力を生み出している。


しかし守るものが現れて……途端に自分は人生に幾つも取りこぼしをしてきたように思える。
守るものがいるから自分は弱くなったんだろうか? 後悔を感じるようになってしまったんだろうか?

それなら……



245:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 00:13:39.20 ID:jdQcW+Q20

そう思った瞬間、突如太陽の光が暗闇に差し込む。
照らし出される階段と扉。
歓声と熱気がその先から溢れ出してくる。

漠然と、この先が到着点だと気づく。

一段づつ階段を登った先には……


耳をつんざく大きな応援。プレイヤーを奮起させようと誰もが声を枯らせている。
まだ若い青い芝と、それを取り囲む数えきれぬほどの観客。
ドームの天井の遥か上にある太陽は雲の間から顔を覗かせ、水に濡れた芝をプリズムさせている。

紛れもなくここは、フットボールフロンティアの決勝会場だった。







五条「戻って……きた……?」



247:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 00:21:25.09 ID:jdQcW+Q20

暗闇から出てきた自分にはいささか眩しすぎる太陽に驚き、手をかざす。
振り向くといつの間にか暗闇は消え去っており、帝国側の控え室があるだけだ。


そして自分が立っているのは帝国のベンチサイド。

チームメイトたちは各々ウォーミングアップをし始めており、今日の試合には絶対に負けられないと闘志を燃やしている。
ついひと月前と寸分違わない光景だ。


五条「……」

佐久間「五条、何をしている? いつもなら一番にアップし始めているのに今日はやけにぼんやりしているじゃないか」

右目に眼帯と淡水色の髪、佐久間次郎が肩を撫でる。




馬鹿な。
本当に戻ってきたというのか?



249:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 00:28:21.96 ID:jdQcW+Q20

ハルケギニアは?
トリステインは?
魔法は?
貴族? 平民?

使い魔?

主人?


ルイズ? 


全て……一瞬の白昼夢?




五条「ひ……ヒヒヒ……!? 馬鹿馬鹿しい…!」

佐久間「どうした?」

自分の支離滅裂な言葉に当惑の表情をあらわにする。



五条「クックックッ……アーハッハッハッハ!! まさか……全て夢だったとは……! これはこれは……」



251:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 00:36:01.84 ID:jdQcW+Q20

佐久間「夢? 何の話だ?」

訝しげに顎を押さえる佐久間。
そうか……今までのはみな胡蝶の夢。

自分の死という結末をもって終劇を告げたということか。

ハルケギニアなどない。
夢だ。

魔法など無い
夢だ。

仲間などいない。
夢だ。

主人など……
ルイズなんていない。


小さなか弱い自分の守るべきもの、一番大事なものも……夢だったのだ。

喪失感と絶望感が心を渦巻いて大海原となり、現実感と感情を奪い去っていく。



253:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 00:42:47.67 ID:jdQcW+Q20

五条「……佐久間さん。試合まで後何分ですか?」

佐久間「うん? ああ、あと三十分ぐらいだろう」

五条「……少し、走ってきます」

佐久間「ああ行って来い。時間も余り無いしな」

五条「失礼します」



一歩芝の上を踏みしめ、佐久間に背を向ける。
もはや頭の中に何か考える余裕はない。
ならば、走ることで空っぽにしよう。
身体を試合に向けて奮い立たせる為にも。





佐久間「……だが五条。今日の試合にお前の出番はない」



257:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 00:49:46.25 ID:jdQcW+Q20

後ろから聞こえてきた声に、自分の耳を疑う。
……出番がない?
訳がわからぬまま振り向く。


五条「なぜです……?」

一呼吸置き、佐久間は指差す。

佐久間「だって、お前……心臓が止まっているじゃないか……?」

五条「!?」


胸を押さえるその先に、血液を送り続ける鼓動はない。

ただ冷たい感触だけが手にじっとりと残る。


意識が……揺らぐ。
めまいがする。
呼吸が出来ない。



258:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 00:58:52.94 ID:jdQcW+Q20

五条「ぐ……!」

佐久間「それに……怪我もしているじゃないか? 背中、酷い火傷だ」

言われた途端に背中が切り裂かれたように痛む。
だめだ、立っていられない。

芝の上に転がり込む。
意識を保っていられるのは背中の激痛のおかげだ。

佐久間「お前はまだ……こっちに帰ってきてはいけないだろ……? 五条」

五条「さく……ま……さん……?」

佐久間「……」


顔をグニャリと歪め、捻れた空間に飲み込まれる佐久間。
徐々に消えていくスタジアム。
もう観客の声など聞こえない。

誰もいない。自分すらもいない。



再び暗闇の中に吸い込まれていく身体。



259:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 01:04:32.48 ID:jdQcW+Q20

五条(何が現実だ……? 今、オレは生きている……? 死んでいる……?)


深淵へとゆっくりと落ちる。
どこまでもどこまでも……
再び感覚を失う四肢。

分からない。
助けてくれ……!
誰か……!





「ゴジョー! こっちに来なさい!! そっちに行っちゃダメ!!」



260:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 01:10:41.27 ID:jdQcW+Q20

真っ暗な海に沈んでいく身体。
それを止める……心地良い、聞き慣れた声。

遠くに手が見える。

「この手に掴まって!! 泳ぐのよ!! 戻ってこれなくなるわ!」


粘着性をもった暗い海の中を華奢な手目がけて必死で藻掻く。
誰かは分からない。
でもこの手に届けばここから出られる。
そんな確信があった。



「もう少しよ! 頑張って! まだ……あと少し……!」


声が幾度も自分を元気付ける。
そのたびに、自分の中の絶望が薄らいでいく。



261:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 01:19:26.30 ID:jdQcW+Q20

あと……数センチ。
力などとうに無くなっている。
でもここで届かなければ……

指先に触れる。
握り返してくる指。
この手を放せばもう二度と帰って来れない。

しかし、意思とは反して緩んでいく握力。


「離しちゃだめ!!」


まだ死にたくない。


「オレは……! まだ存在していたい……!」



強く、手をつかむ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



263:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 01:25:36.87 ID:jdQcW+Q20

五条「……へぇあ!? ぐっ……!? っ痛……」

ベッドから飛び起きると、そこは大会会場でも暗闇の中でもない。
視点の定まらぬボンヤリとした目を擦ると整頓された高級そうな家具が並ぶ見知らぬ一室だった。

先ほど走った激痛。よく自分の身体を見てみるといつものウェアではなく貴族の寝間着に着せ替えられており、その下にはミイラ男よろしく、大量の包帯が巻かれている。
特に首から背中にかけてはまだ火傷のような鋭い痛みが、身体を動かすたびに走る。

枕元には自分の眼鏡と以前ルイズが持ってきたものと同じ、水の秘薬が置かれている。




さっきのは全部夢だった?
だがあまりにリアリティがありすぎて、瞬きした次の時にはまた闇に舞い戻りそうだ。


思わず古典的な方法を使う。

痛い。



264:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 01:32:02.85 ID:jdQcW+Q20

眼鏡をかけ、足元を見ると椅子に腰かけたギーシュが、居眠り学生のように首をカクカク前後に揺らしている。

起こすのもどうかと思ったが……現状がわからない以上判断しかねる事態だった。


五条「……グラモンさん。グラモンさん……起きてください……!」

ギーシュ「zzz……」


起きそうにない。


五条「グラモンさん……狂いますか……!?」


効果はてきめん。椅子から跳び上がり、狼狽する色男。


ギーシュ「ひぃ!? な、な、なんだ!? ってゴジョーさん……? ゴジョーさん! 気がついたんだね!」


自分を見て吃驚すると共に、嬉しそうに両手を握り喜び出す。



267:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 01:39:03.54 ID:jdQcW+Q20

ギーシュ「あぁ、本当に良かったよ! もう僕は君が目を覚まさないかと……」

五条「クックックッ、ついさっきまで三途の川を巡って来ましたからねぇ……! 今も何故生きているか……正直なところ地獄の閻魔がオレの事を嫌っていたとしか……ヒヒ!」

そう、薄れゆく意識の中で確かに自分の心臓は一度動く事を止めた。
背中から受けた強烈な電気ショックの様な衝撃。
不意を喰らった事も含めてあのまま死んでもおかしくなかった……

あの夢のなか、闇に落ちていたら死んでいたということだろう。

それをギリギリで留めてくれた我が主人。
礼を言わねばなるまい。


ギーシュ「とにかくすぐに皆を呼んでくる! ……君に話さなくちゃならない事も幾つかあるし」


そう言うと、ギーシュは部屋を飛び出していった。



274:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 02:15:03.71 ID:jdQcW+Q20

話さなくちゃならない事?
それよりもこちらは聞きたいことで一杯だ。

何故自分は生きている?

誰が自分を狙った?

まさかフーケが脱獄して?

違う、奴にこんな高度な魔法は使えない。それに一撃で再起不能にする攻撃力。あのとき聞こえた声。

『ライトニング・クラウド』

土系統の魔法ではないはず。




疑問符が頭を尽きない。



275:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 02:23:42.37 ID:jdQcW+Q20

階段を上ってくる数人の足音が聞こえたと思ったら、部屋の戸がヤクザの出入りの様に激しく開く。
飛び込んでくる赤、青、金の影。
それらを認識する間もなく、自分の頭は柔らかい感触に包まれる。


キュルケ「ああ! ゴジョー! 意識を取り戻したのね……良かった……本当に良かった! 死んでしまったかと……」

きつい抱擁と頭上に滴り落ちてくる、涙の感触に胸が少し痛くなる。
随分と皆に心配をかけたようだ。

ゴジョー「ヒヒヒ……ツェルプストーさん……! 苦しいですよ……!」

ぐりぐりと胸を押し付けるキュルケに辟易する……どうにもおかしい。
こんな状況になって我が主人が黙っているとは丸くなったものだ。

いつもならば、いの一番に杖を振り回すはずが部屋にその姿はない。

五条「……ヴァリエールさんは?」

自分の一言に口を噤む一同。



キュルケ「そ、そのことなんだけど……」



276:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 02:31:38.52 ID:jdQcW+Q20

目を伏せ、言いづらそうに椅子に腰を下ろすキュルケ。
ここにはいない、ということか。


五条「何か……あったんですね? オレが眠っている間に……!」

タバサ「私から説明する」


キュルケの後ろからタバサが現れ、一歩前に足を歩ませる。


五条「タバサさん……」

タバサ「あの決闘の直後……貴方は背後から魔法攻撃を受けた。それは覚えている?」

五条「えぇ……! そしてオレは……死んだはず」

タバサ「そう。確かに心臓は止まっていた」

キュルケ「ゴジョー、タバサが貴方に蘇生術を施したの」


タバサはシュヴァリエ。なんらかの緊急蘇生術を持っていても不思議ではない。



278:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 02:43:19.07 ID:jdQcW+Q20

五条「……」

タバサ「不幸中の幸い、内臓までは致命的な損傷はしていなかった。電撃による衝撃で一時的に心臓が止まっていただけ。それでも直ぐにもう一度心臓を動かさなければ危険な状態だった……」

やはり一度は死んだ、と言うわけか。
異世界に召喚された上、今際の際をみるとは自分の人生も波乱万丈過ぎる。

タバサ「敵を視認する前に、貴方の心臓に圧縮した空気でショックを繰り返した。しかし、それも向こうには計算づくだった……」

五条「計算づく……?」



持っていた杖を置き、タバサは自分の目を見つめる。





タバサ「私がそれを行っている間に……襲撃者は彼女を攫っていった」



279:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 02:55:02.61 ID:jdQcW+Q20

五条「ヴァリエールさんが……攫われた……!?」



電撃が再び、今度は心につき走る。
馬鹿な……ルイズを攫うメリットのある人間がどこにいる?
レコン・キスタ?

いや、そんなはずはない。
あのときはまだラ・ロシェールについてすぐだ。追手が出るには早すぎる。
まだ誰も自分たちがアルビオンから『手紙』を持ち帰ろうと知らないのだ。
前もってこの任務を知る『内通者』がいないかぎり。

それ以外には考えられない。


余りにもタイミングが良すぎるだろう。
ワルドと自分が戦うことまで計算していたとでも言うのだろうか?



280:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 03:01:04.95 ID:jdQcW+Q20

言葉に詰まり、思考を巡らせる自分を横目にキュルケが話しだす。


キュルケ「もう一生分驚いたわ。あたしとギーシュがようやく宿について、休もうかと思ったら瀕死のあんたを背負ったタバサが入ってくるんだもの……『すぐに回復の秘薬を持ってきて』って」

ギーシュ「秘薬を使って、医者に見せたが目を覚ますかどうかは五分五分だと言われてね。気が気じゃなかったよ、君がこのまま眠り続けたらと思うとね」


ギーシュは枕元の秘薬を手に取り、チャプチャプと瓶の中身を揺らして見せる。


五条「ありがとうございます……皆さん……! 大変御迷惑をおかけ致しました……!」

ベッドに座ったままだが、頭を下げる。
しかし、三人は怒るでもなく、安心した様に微笑みで返す。


タバサ「構わない」

キュルケ「大丈夫よ、この借りはルイズに返してもらうわ。それに今まであたしたちもゴジョーに頼りっぱなしだったしね」

ギーシュ「ま、とにかくゴジョーさん。君がこんなに早く意識を取り戻して良かったよ」



281:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 03:10:07.99 ID:jdQcW+Q20

こんなに早く?

ゴジョー「グラモンさん……! オレはどの位寝ていました!?」

ギーシュ「え? そうだな……丸一日って所じゃないか? 今夜が丁度スヴェルの月夜だし」


ギーシュがカーテンを開けると、空には紅と蒼の月が重なりあっていた。
こんなところで呑気にしている暇はない。
ルイズを追わなければ。

毛布を払い、立ち上がろうとするが足に力が入らず、前のめりになったところをギーシュに助けられる。


五条「ぐ……!」

ギーシュ「無茶だよゴジョーさん! 君は今日一日ずっと死にかけていたんだぞ? ベッドから起き上がれただけでも奇跡的だ」

五条「ヒ…ヒヒ……! ですが、ここにいるぐらいなら襲撃者の情報でも集めますよ……!」

痛みに堪えることで滴り落ちてくる汗を拭い、なんとか両の足で立ってみせる。



283:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 03:23:58.75 ID:jdQcW+Q20

タバサ「火傷の傷はまだ癒えていない」

五条「ですが……」

キュルケ「ルイズの事だけど、情報収集はもう済んだわ。ゴジョーが寝ている間にタバサの目撃した形姿を元に乗船者を洗ってみたの」

ギーシュ「ゴジョーさん……ここに子爵がいないことに気づかないかい?」

言われてみれば……
ルイズが攫われたことで頭に血が上っていた。

タバサ「貴方を蘇生した後、街中を探したけれどどこにもいなかった。路地に置かれていたはずの杖と共にこの町から姿を眩ませた」

キュルケ「きな臭いわよね。でも、タバサが見たって言う襲撃者……仮面をつけた奴とルイズらしき人影は昨日の最終便でアルビオンに向かったらしいわ」



284:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 03:40:29.46 ID:jdQcW+Q20

五条「では……奴が『内通者』……! 襲撃者とワルドはレコン・キスタの手先であると……」

キュルケ「の、可能性は高いわね。でもそれなら手紙を奪えばいいだけじゃない? あんたもルイズの傍にいないわけだし、タバサもそう。簡単に奪えるはずよ」


キュルケの言うとおりだ。手紙を持ってウェールズのところに向かえばそれだけで任務は完了する。
その手紙が明るみに出、縁談がご破算になれば、トリステインとゲルマニアの同盟も解消。
恐るること無くトリステインに攻め込むことができる。

レコン・キスタであるなら尚の事ルイズを攫う理由はわからない。


ギーシュ「そこだけが分からないところなんだよ。ルイズを従わせても戦力にはならないだろう?」

キュルケ「ゼロのルイズだものね……あらかた、ゴジョーに結婚を邪魔をされないためにってとこじゃないかしら」

五条「……」

キュルケ「黙ってても、結婚なんて時間の問題だったのに事急ぎ過ぎたわね、ロリコン子爵! ……ゴジョー? どうしたの?」





五条「ゼロ……のルイズ……!」

点と線が繋がった。



286:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 03:54:36.42 ID:jdQcW+Q20

ギーシュ「ゴジョーさん?」

五条「グラモンさん……今から乗船許可を取って今夜の最終便に間に合いますか……!?」

キュルケ「ちょっと、何言ってるの? もう明日の朝一の便は取ってあるのよ? それにその体じゃルイズを助けに行くどころかこの部屋から出るのも無理でしょ」


肩を抱えられながらベッドに押し戻される。


キュルケ「とりあえず、まず自分の体のことを考えなさい! あんたもルイズも自分のことになると、どうでも良くなるんだから。変なところばっかり似るんじゃないわよ」

ギーシュ「ゴジョーさん、僕らにルイズのことは任せて今は休むんだ。僕だけじゃ頼りないかもしれないが……キュルケとタバサもいる。ルイズも手紙も必ず取り戻してみせるよ」

タバサもコクリと頷く。




五条「皆さん……レコン・キスタの本当の目的は手紙じゃありません」



287:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 04:09:31.69 ID:jdQcW+Q20

キュルケ「え……? 何を言ってるの?」

みな一様に疑問を顔に浮かべ、次の句を待つ。


五条「手紙も、必要には必要でしょうが……それよりもヴァリエールさんの『虚無』の力を手に入れる事のほうが重要だと考えている」


ギーシュ「きょむ?」

キュルケ「ルイズがぁ?」


ギーシュとキュルケは顔を見合わせた後、腹を抱えて笑い出す。
まるで自分が一発ギャグを言ったようなリアクションだ。


キュルケ「あっはっっはっは! あのルイズが伝説の虚無ですって!?」

ギーシュ「くく! ご、ゴジョーさん、そりゃあんまりなジョークだよ!!」

五条「クックックッ……! まあ、にわかには信じられないでしょう……!」



こうなるとは思っていたが、どこまで信じて貰えるか。
ため息を吐き出し眉間に指を押さえる。



289:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 04:27:03.34 ID:jdQcW+Q20

タバサ「説明して」

二人とは違い、タバサだけが真剣に自分の話を聞こうとしている。

五条「ええ……今言ったこと、ヴァリエールさんが『虚無である』ということは、こちらに来て最初の授業のときから思っていました」

キュルケ「……ゴジョー、本気で言っているの?」

五条「グフフ、ツェルプストーさん……! オレはいつだって本気ですよ……!」

キュルケ「……とりあえず続けて」


本気であることを感じ取ったのか、キュルケもギーシュも半信半疑ながらも耳を傾き始める。

五条「ヴァリエールさんが魔法を失敗すると爆発するのは皆ご存知だと思いますが……」

キュルケ「だからゼロのルイズなんでしょ?」

さも当然のように言い放つキュルケに牽制するように眼鏡を持ち上げる。

五条「クックックッ……ゼロのルイズ。言い得て妙とはこのことでしょう……! まさにヴァリエールさんはゼロなんですよ、ヒヒ」




タバサ「ゼロ=虚無……?」

わずかに、耳に入るか入らないか程度の声でタバサが呟く。



291:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 04:43:16.15 ID:jdQcW+Q20

五条「その通り……! ヴァリエールさんは虚無の使い手であるんです……!」

そう断言する自分に、ギーシュが異を唱える。

ギーシュ「ちょ、ちょっとそれは安易すぎるんじゃないかな? あまりにも確証がなさすぎるし、ルイズが魔法を使えないのは事実だろう?」

五条「ええ……グラモンさんの言うことももっとも。ですが……今まで皆さん魔法を失敗したことはございますか……?」

キュルケ「そ、そりゃあるわよ。昔はよく、詠唱と魔力を込めるのが同時に出来なくて怒られたものよ。誰でも経験する道だわ」

ギーシュも首を縦に振り、同意する。

五条「その時……詠唱された魔法はどうなりました?」

キュルケ「え……どうなるもこうなるも、ただ何も起きないだけよ? 『正しい魔力の量』と『正しいスペル』で魔法は発動する、そのどちらかが成り立たなければ不発するわ」

タバサがブルッと震える。
気づいたようだ。

口元が少し緩む。


五条「ヒヒヒヒヒ……!」

キュルケ「なに? どういうこと?」

五条「お気づきになりませんか……? ヒッヒッヒ!」



292:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 04:52:27.48 ID:jdQcW+Q20

五条「ヴァリエールさんは非常に勤勉な方だ……彼女は自分の実力の数段上のトライアングルスペルすら諳んじることが出来る」

キュルケ「それは知ってるけど……」

五条「しかし、その彼女が初歩中の初歩であるコモン・マジックすら爆発させてしまう……スペルは間違っていないのにですよ?」

ギーシュ「……!」

五条「なぜでしょう……?」

キュルケに試すように微笑む。

キュルケ「だから……それは魔力が篭ってないから……! 『篭ってない?』」


五条「グフフ……! そうです、そもそも魔力がないならば爆発なんておきやしないんですよ……! むしろ逆……!」





五条「ヴァリエールさんの持つ莫大な虚無の魔力に耐え切れず……魔法の方が『狂ってる』んですよ……『純粋』に……!」



294:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 05:17:47.24 ID:jdQcW+Q20

ギーシュ「馬鹿な……本当にルイズが……伝説の……」

述べられた事実に言葉を失うギーシュ。
閉口し、頭をポリポリとかくキュルケ。
依然、表情の変わらないタバサ。

三者三様の受け止め方だ。


キュルケ「でも……そうならどうしてルイズは虚無の魔法を使えないの?」

ギーシュ「あ、ああ、僕もそれは思った。彼女が伝説の虚無であるならば、何らかの片鱗を見せる可能性も考えられるだろう?」

五条「スペルがないんです……! メイジは皆、既に編み出された魔法を唱えていますが……虚無は失われしもの。唱えるべきスペルすら分からないんですよ……!」

だからルイズはコモン・マジックも使えない。
魔法を成功させたことがないから、注ぐ魔力の分量すら分からないのだ。


キュルケ「じゃあ、何のためにレコン・キスタはルイズを?」

五条「既にアルビオンは手中に収めたも同然……トリステインに攻め込むのも時間の問題。そうなれば残された大国はガリア、ゲルマニア、ロマリア……牽制するには持ってこいの逸材ですよ……虚無は!」

ギーシュ「そ、そんな……じゃあ近いうちに世界は……!」

五条「レコン・キスタのものになるかもしれません……このタイミングでヴァリエールさんを攫うということは何か、スペルに関しての情報を得ている可能性もあります……!」



295:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 05:32:22.96 ID:jdQcW+Q20

五条「……以上でひとまず説明は終りにしましょう……! おわかりいただけたと思います……恐らくワルドはレコン・キスタ。そして今、ワルドはヴァリエールさんと結婚することで虚無の力を手に入れようとしている」

言葉少なに、俯く三人。
唐突すぎる事実を飲み込めず、どうしたらよいかわからない。
そんな顔色だ。


キュルケ「展開が急すぎて、困っちゃうけど……そうみたいね」

ギーシュ「どうすればいいんだ……!」

タバサ「……」





五条「クックックッ……! 取られたものは取り返す……フーケの時から変わりませんよ……!」



296:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 05:50:00.00 ID:jdQcW+Q20

再び両足で仁王立ちする。

キュルケ「ゴジョー! そんな身体じゃワルドと対峙することなんか出来ないわ! やっぱり一度トリステインに戻って応援を頼みましょう!」

ギーシュ「ああ、もう僕らの手に負える問題じゃない! 僕らじゃどうにもならない!」


部屋から出ようとする自分を必死で制止しようとする二人。
しかし、誰にも止めることなど出来ない。

なぜならば……


五条「いい忘れていましたが……ヴァリエールさんが虚無たる所以がもう一つあります……!」

キュルケ「え……?」



五条「オレは……『ガンダールヴ』、虚無の盾となり身をもって守るための存在……!」

ギーシュ「ゴジョーさん……」

五条「例え世界中を敵に回そうとも……オレだけは彼女を守らなくちゃならないんですよ……!!」

キュルケ「それでも……ゴジョー! あなたが死んだら意味ないわ! 言ったでしょ? 死にに行くような真似はするなって! 自分で約束をルイズとの約束を破る気!?」


袖を決して放そうとしないキュルケ。



298:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 06:08:43.99 ID:jdQcW+Q20

その震える手をそっと上から包み込む。
自分の死を恐れるキュルケを安心させるように。
怖がらなくてもいいように、優しく。

五条「キュルケさん……オレは別に死にに行こうだなんて……全く思っていません……」

キュルケ「……」

五条「大事な人を取り返しに行くんです……! お願いします……!」

しかしそれでも口を閉ざし、頑なに自分を歩まそうとはさせない。
その姿を見てギーシュもまた、自分の手を握る。

ギーシュ「そうだとしても……ゴジョーさん。僕は君を行かせることはできない」

五条「……」

ギーシュ「今の君が行っても、ルイズを危険な目に合わせるだけ……! それならば、応援と共に戦力を整えてから助けに行くべきだ」

五条「……グラモンさん」


扉の前に立ちふさがり、杖を構える。
自分を殺すためではなく、自分を生かすためにその杖を向ける。




ギーシュ「それでも行くというならば僕を……倒してから行け……!」



300:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 06:20:06.32 ID:jdQcW+Q20

いつかのように、その杖先は振れてはいない。
断固たる意思で自分を止めようとするギーシュを倒すことは、難しい。
その姿をみて、心の奥底から嬉しさが湧き出るのを感じる。


五条「呼んでいるんですよ……」


内面を吐露するかのように呟く。


五条「オレの主人が、呼んでいるんです……!」


ゆっくりと杖先を掴む。






五条「その声を無視して……誰かに自分の主人を任せるような使い魔なら! それは五条勝ではない!!」



303:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 06:34:51.02 ID:jdQcW+Q20

静寂が部屋の色を塗り替えていく。
自分とギーシュ。
お互いに、絶対に譲れない気持ちで向かい合う。

数瞬後にはぶつかり合うと思われたその時。


両手で自分たちの腕を下ろし、間を保つ小さな魔法使い。



タバサ「行かせてあげて……?」

ギーシュに向かって懇願するタバサ。

ギーシュ「しかし……!」

タバサ「彼が弱っているなら、私たちで守ってあげればいい」

キュルケ「……タバサ」

タバサ「こうなっては私たち全員を気絶させて、這ってでもアルビオンまで行くつもり……違う?」

小首を傾げて自分に尋ねる。


五条「ええ……そうです」



305:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 06:54:18.92 ID:jdQcW+Q20

タバサ「だったら……全員で彼をサポートしてあげればいい。そのために、私たちはここまでついてきたはず」

タバサの一言にわずかに首をうなづかせる二人。

ギーシュ「僕とゴジョーさんが戦っても結局は僕が負ける……それは分かってた。そうでもしなければゴジョーさんは止まらないと思った」

五条「……グラモンさん」

ギーシュ「だがそれで二人とも傷付くくらいなら……ゴジョーさんの盾となって傷つく事を選ぶ!」

自分の手を堅く握りしめるギーシュ。

キュルケ「ホントバカ……でも誰より強くて、誰よりも仲間思いで、主人思いで……誰よりも熱い誇りを持ってるのが、あたしの大好きなゴジョーなのよね」

諦めたように自分を背から抱きしめるキュルケ。

キュルケ「一番無茶するあんたを、あたしたちがフォローしないで誰がするのよ。死なせなんてしないんだから」

五条「ツェルプストーさん……」

キュルケ「さくっとルイズなんか取り返して、トリステインに帰りましょう」



306:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 07:05:25.51 ID:jdQcW+Q20

タバサ「全会一致。みんな貴方の味方」

どう? というかの如く掌をこちらにみせるタバサ。
その顔は何処か誇らしげだ。

五条「タバサさん……」

タバサ「添え木が一本では足りないなら、たくさん添えればいい。仲間とはそういうもののはず、違う?」

五条「……ありがとうございます……! みなさん……!」

三人に向かって深々とお辞儀をする。

ギーシュ「フフ、君にそんなに礼を言われると照れるな」

キュルケ「ほらギーシュ! あんたはさっさと最終便の乗船許可取ってきなさい!」

ギーシュ「なんで僕が!?」

キュルケ「いいから! 間に合わなくなるわよ!」


キュルケに尻を叩かれ飛び出していくギーシュ。



308:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 07:11:47.23 ID:jdQcW+Q20

キュルケ「あたしとタバサは新しい秘薬買ってくるわ。とびっきり効くやつをね」

五条「なにからなにまで……申し訳有りません……!」

キュルケ「フーケの時の報奨金がたんまり入ってるから気にしなくていいわ。ゴジョーだけタキシードだったしね」

クスリと笑い、自分をベッドに寝かせるキュルケ。

キュルケ「帰ってくるまで、しっかり寝ておきなさいよ!」

タバサ「行ってくる」


そう言い出て行く二人。



309:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 07:23:57.47 ID:jdQcW+Q20

なんとか……今日中にフネに乗れそうだ。ギーシュが間に合えばだが。
明日の朝までにはアルビオンに着くだろう。
今はまだ眠っておきたい。

向こうに着けば、レコン・キスタの容赦ない攻撃が襲いかかってくる。


怪我をした自分では耐え切れないかもしれない。
そんな不安がよぎる。昔ならばこんな風に思うことは無かった。
守られる暖かさを知ってしまった。


でもそれ以上に守ってくれる人がいる安心感がこんなにも暖かいとは。
その暖かさが、一人だった時より自分を強くさせるような気がする。


この脚を失おうとも、必ずルイズをこの手に取り戻す。
トリステインを戦火に陥れたりはさせない。






雲の上のアルビオンまではまだ遠い……



311:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 07:29:28.82 ID:jdQcW+Q20

毎度の事ながら誤(ry


げ、限界だ……
投下七時間はさすがに疲れたー

眠くて頭が回りません
寝かせてください


次回は土曜の午前2じからです
多分そんなに長い量は投下出来ないと思います、すみません

保守してくださっているかた、ありがとうございます!!
また読んでくださっている皆様も本当にありがとうございます!!



312:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 07:30:30.82 ID:moWx8MAR0

やっぱり乙だった




313:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 07:33:18.15 ID:Kpc/f/0UO

お疲れさん
今回も非常に面白かった
攫われた後を追う展開は新鮮で楽しみだ



315:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 09:20:47.80 ID:qRYKDoD7O

乙乙
楽しませてもらったわ



342:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/11(土) 01:50:08.31 ID:bCM4uk+60

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

私が次に意識を取り戻したとき、そこはラ・ロシェールの宿屋のベッドの上ではなく、見たこともない硬いベッドの上だった。

天井の板の目が自分を見つめている。
酷く頭が痛い。等間隔で鈍痛が頭の中を通りぬけ、思わず顔をしかめる。


ベッドの傍の窓を覗くと、そこは高い高い雲の上……恐らくフネの中だろう。
轟轟と風を切る音を出しながらフネは雲の上を泳ぎ、目的地に向かって突き進む。


何故私はここに……? 


そう考えながら、ベッドから立ち上がったとき、はっと記憶を取り戻す。

ルイズ「ゴジョーは……!?」



343:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 01:59:04.36 ID:bCM4uk+60

思い出した。
ワルドとゴジョーが決闘をして、ゴジョーが何とか勝って……そして、背中から魔法攻撃を受けた。
徐々に床に沈んでいく使い魔の姿が私の脳にフラッシュバックされる。


ルイズ(誰があんな事を!? ワルド様じゃないわ……杖がなかったもの。いえ、それよりゴジョーは無事なの?)


幾つもの疑問が重なりあい、私を混乱させる。

それを一つずつ整理していく過程で、もう一つ重要な事実に気がつく。

ルイズ(ゴジョーが倒れてすぐに、駆け寄ろうとしたはず……でもあの時上から黒い影が現れて……)

パズルのピースが埋まるかのように、あの瞬間の出来事が積み上げられていく。
あの瞬間、口に布のようなものを被せてきた『ヤツ』は私を抱えて闇の中に消えていった……抵抗しようとしたけど、段々意識が朦朧としてきて。





ルイズ「攫われた……?」



344:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 02:08:04.32 ID:bCM4uk+60

曲げようのない厳然たる事実を目の前に、頭を抱え、不安に陥る。
しかし私が不安なことは自分が攫われたことではない。



なによりも……襲撃を受けた自分の使い魔の命。


いくら人間離れした体力、知力を持っていたとしても不意打ちを背中から受けてただで済むわけがない。
突然光りだした稲妻が虚空から現れてゴジョーを……思い出したくもない光景が何度も頭の中で繰り返される。

そして連れ去られる直前に見たタバサの表情。
必死に心臓にショックを与える姿から、焦りがこちらにも伝わってきた。
襲撃者を確認する余裕もなく蘇生を繰り返していたということは……




流れこんでくる最悪のイメージを、頭を振って掻き消す。



346:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 02:17:31.88 ID:bCM4uk+60

思い出せば出すほど、冷静になればなるほど、自分の不甲斐なさを実感する。


私は何をしているんだ?
いつだって守られてばっかりで、死にそうなゴジョーを見て泣きわめいてだけ。
本来自分がやるべきことはタバサが全てやってくれた。

挙句、攫われるという醜態。
愚劣の極みだ。


ルイズ「本気で今すぐ、飛び降りてやろうかしら……」


そんな自暴自棄な考えを言葉にしてみる。
意外とその方が皆に迷惑がかからずに済むかもしれない。
この高度から落ちれば、レビテーションもフライも使えない自分が死ぬには十分すぎる距離だ。
このまま賊にどこかに売られるくらいなら死んだ方がましだ。



347:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 02:23:27.25 ID:bCM4uk+60

腰元の杖を取り出し、窓に向ける。
魔法で強化されたとは言え、至近距離で爆発を受ければ割れるだろう。

適当に練金のスペルを唱えようとしたとき。
心の奥のほうで聞き慣れた声が話しかけてくる。





『生きてください……! たとい、それが自らの名誉を傷つけ泥を被るはめになったとしても……! 死ぬのは……最後でいい』






詠唱が途中で止まる。

杖を毛布の上に置き、両手でおもいっきり顔を叩く。
ばちん、という音と同時に強烈な痛みが走り、頭を空っぽにする。



348:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 02:32:02.11 ID:bCM4uk+60

ルイズ(私いま、生きている中で一番馬鹿な事を考えていたわ……)


攫われたことはもうどうしようもない。
既に起こってしまったことは変えられないのだ。
自ら死を選ぶなんて馬鹿な事をするぐらいなら、今自分のできることをしなくちゃならない。

これもゴジョーが言っていたこと。

アイツはいつだって……私を支えてくれてる。
それを全部なかったコトにして、自分だけ無責任に死のうだなんて都合が良すぎる。
死ぬにはまだ、何も成していない。
姫様からの約束も五条との約束も反故にするところだった。


こうなったら一人でも襲撃者を倒して、ウェールズ皇太子に会いに行く。
例え、どんな苦痛を伴おうともそれだけは果たしてみせる。


本当を言うとラ・ロシェールに戻ってゴジョーに会いに行きたい。
無事なのか、傷は大丈夫なのか、知りたくてたまらない。
でも、アイツはそんな事望んでいないはず。
心配をされるぐらいなら、自分から私のそばに来る男だ。



349:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 02:38:51.31 ID:bCM4uk+60

それに私は信じているのだ。
ゴジョーは生きていると。
そう思うとさっきまでのネガティブな感情がバカバカしくなる。

私はゼロのルイズ。
魔法を成功させる事はできないが、任務を成功させることは出来る。

今こそ私一人で、誰の力も借りずに戦うべき時なのだ。


ルイズ「よし! ひとまず、私を攫ったヤツをボコッボコにしてやる!」



いつの間にか、頭痛は収まっていた。
結局は気持ちの問題なのだ。
やろうと言う気持ちがなければこの任務はもともと成功しようがない。



350:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 02:47:06.11 ID:bCM4uk+60

意気揚々と部屋の外に出ようとドアに手を掛けたとき、扉の向こう側からノックの音が飛び込んだ。

ルイズ「……マジ?」

つい今しがた立てた決意はどこへやら、私は忍足でドアから離れ、震える右手を無理やり左手で抑えつけながら扉に杖を差向ける。

余りにも急すぎる。
こちらから戦いに向かうのと、敵から来られる違い。

恐怖が心の勇気を奪い去っていく。



今まで敵と立ち向かった時はいつだって誰かが側にいた。

ゴジョー。
キュルケ。
タバサ。
ギーシュ。


誰かがいたから強がることが出来たし、自分自身を鼓舞して無茶も出来た。
でも私の側には誰もいない。それが何よりも怖いことに気づく。



351:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 02:53:25.69 ID:bCM4uk+60

逃げ出そうとする杖を握る右手を、左手の爪で傷めつけ、留まらせる。
どんどん早くなる心臓。

緩やかに開かれるドア。





ワルド「……ルイズ!? 起きたのか!」

そこにいたのは、自分の婚約者。
状況が掴めない。
私は賊に連れ去られたんじゃないの?
それにワルド様もまだラ・ロシェールにいるはずじゃ……?

そんな私の疑問をよそに、ワルド様は軽々と私の身体を抱きかかえる。



352:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 03:01:25.37 ID:bCM4uk+60

ルイズ「ちょ、ちょっとワルド様!? どうしてここにいるのですか!? 私、攫われたんじゃ……!」


間近にある端正な顔が、コクリと肯定の意を告げる。


ワルド「ああ。君はゴジョーを襲撃した賊に攫われたんだ」

ルイズ「やっぱり……ワルド様は何故ここに? もしかして皆も!?」


私の嬉々とした声に彼は首を横に振る。


ワルド「いや、ここには僕しかいない」

ルイズ「え?」

ワルド「君の使い魔が後ろから攻撃された後、ミス・タバサが蘇生を行っていたことは知っているかい?」

ルイズ「ええ、でもその後すぐに賊に眠らされて……」



353:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 03:07:49.69 ID:bCM4uk+60

ワルド「僕はそのあとすぐに後を追った。どうやらヤツは君を人質に、ヴァリエール家から金を奪おうとしていたらしくてね」

ルイズ「どこにいるんです!? その賊は!」

ワルド「心配ない、僕がもう捕まえたさ。今頃は牢屋の中だろう」


優しく微笑む婚約者の顔に少しだけ安心する。


ルイズ「よかった……あ、ゴジョーは!? 無事なんですか!?」

ワルド「……眠る君を抱えたまま宿に戻ったが、彼の容態は芳しくないみたいでね。命に別状はないが、旅を続けるのは無理だった」

ルイズ「ゴジョーが……そんな」


肩を落とす私をきつく抱きしめ、頭を撫でるワルド様。


ワルド「君の友人たちは、ゴジョーの看病に付きっきりでね。だから、アンリエッタ様から命を受けた君とその護衛の僕だけが予定を変更して、昨日ラ・ロシェールを出たんだ」



355:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 03:23:07.20 ID:bCM4uk+60

ルイズ「だから皆はいないんですか……」

ワルド「心配はいらない……僕が君を守ってみせる」

ルイズ「でも……ゴジョーが」


呟くように漏れる、使い魔の名。


ワルド「君の中で彼はとても大きな存在のようだね……? 確かに彼は強い。君が好きになってもおかしくない強さを持っている」


問いただすふうでもなく、穏やかに尋ねてくる。


ルイズ「そ、そんなこと……! 別に、使い魔に対してそんな気持ちをもっているつもりは……」

思わず窓の方に目を背ける。
雲の上の朝日が船内を光で満たそうとし始める。

ワルド「いいんだ。だがルイズ、彼は君に召喚されて間もないんじゃないか?」

ルイズ「……ええ」



357:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 03:38:00.42 ID:bCM4uk+60

思い返せば、ゴジョーを召喚してからまだ一ヶ月も経っていないのだ。
感覚からすればもうずっと一緒にいる気持ちでいたが、実際にはそれしか経っていない。
そう思うと、私とゴジョーの絆が僅かばかり揺らぐ。


ワルド「彼も相当無理をしてきたんじゃないだろうか? いきなり召喚され、幾つもの戦いをくぐり抜けてきた。その実力は確かなものだろう」

ルイズ「……」

ワルド「しかし聞いたところによると、彼はまだ十四らしいじゃないか? 君よりも年下。僕からすれば、弟よりも子どもに近い」


大人びすぎているゴジョーの側にいたせいで、彼に無理をさせていた?
言われてみればそう言われても仕方がない。
結局いつも自分はゴジョー頼み。
その年より大きく見える両肩に寄りかかってばかりで……
自分が寄りかかってもらえたことなど一度もない。

年上らしいことをした事など一度もなかった。

ルイズ「そう……です」

ワルド「彼の年齢を鑑みれば、そろそろ限界が来てもおかしくない。恐らく彼は君の言う事を殆ど従順にこなしてきたんじゃないかい?」



359:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 03:53:48.48 ID:bCM4uk+60

そうだ。
ゴジョーはいつだって私の言う事を素直に聞いてきた。
時々無茶を言ったり命令を聞かないこともあったけど、それも結局は私のためだったり、誰かのためになることだった。

ワルド「君のことを責めているわけじゃないんだよ、ルイズ。ただ、彼の負担を僕に分けることできっと彼のためになると思うんだ」

そう言って、ソファーに私を下ろししゃがみ込むワルド様。
大きな手で包まれる安心感は、ゴジョーの側にいるときとはちょっと違うものに感じる。

ルイズ「いえ……でもワルド様に負担をかけるのは」

ワルド「そんな事を言わないでくれ。僕は君のためならどんなことも迷惑だなんて思わない」

ルイズ「ですが……」

ワルド「僕は小さな頃から君を思ってきた。誰よりも君を知っているし、誰よりも君を大切に思っている」

ルイズ「ワルド様……」

ワルド「ラ・ロシェールのときはつい君のことが関係していて、カッとなってしまったが……ゴジョー、君の使い魔も僕が守ってやりたいと思っている」

ルイズ「……」

ワルド「僕と君が結婚すれば、彼ももう少し歳相応に自由になれるだろうし。そのためなら僕は何だってしよう」


真剣にこちらを見つめる瞳に、心動かされる。
私は……ゴジョーのことが好きになっているかもしれない。
でもそうすることでもっと大きな負担が彼にかかってしまう。



360:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 04:08:21.38 ID:bCM4uk+60

自分が召喚したとは言え、ゴジョーにも元いた世界がある。
そこに帰ることはできないし、主人から様々な要求はされる。
それを彼は自分の前で嫌な顔一つしないで従順に従う。
十四歳という年齢を考えれば……不満が頂点に達して私の側からいついなくなってもおかしくない。

それだけは……絶対にイヤ!

それにワルド様も小さな頃から憧れてきた存在。
彼は私のことをいつも優しく包んでくれる。

ルイズ(その彼からの求婚を……私は断ることができるの?)

頭の中は使い魔と婚約者の顔がぐるぐると巡り続ける。
上手く……考えられない。


ワルド「ゴジョーくんのためでもある……彼の負担を僕らが結婚することで減らしてあげよう……?」

目の前の顔が少し淀み始める……


ルイズ「ごじょ~の……ためぇ……?」

ワルド「ああ、そうだ。ルイズ……」

婚約者の温かい手が私を撫ぜる。

ルイズ「わるどさま~……?」



361:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 04:21:39.41 ID:bCM4uk+60

ワルド「結婚しよう、ルイズ」

結婚すれば……ゴジョーの負担が減る。
負担が減れば……ゴジョーは私の側からいなくならない。

ルイズ「は……い……けっこん~……します」

意識が、上手く保てない。
でも……これで皆幸せになるはず。

ワルド「式はウェールズ皇太子に便宜を図ってもらおう。今日、彼に会ったら頼んでおくよ」

ルイズ「うん……?」

もう彼の声は頭に入ってこない。
声が……耳には入っているのに……



ワルド「くく……いいんだルイズ。君は何も考えなくていい……! 黙って僕に従い、その『虚無』の力を我がレコン・キスタに提供すれば」

ルイズ「……?」

ワルド「もう聞こえていない、か。ちょっとしたマジックアイテムがここまで効果を発揮するとはな……!」

ルイズ「ん~? なぁ~に……?」


ワルド「なんでもないさ。もう少し、アルビオンまでは時間がある。それまで休むんだよ?」



362:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/11(土) 04:35:23.98 ID:bCM4uk+60

毎度の事ながら(ry

ゴメンなさい、短い上話進まないんですが今日はここまでです。
五条さんが出てこなくて盛り上がりに欠けたことをお詫びいたします。

次の投下分では当然五条さんでます
あと、ギーシュもイケメン補正かかる予定です

今日の遅れを取り戻すためにも明日はガッツリいきます

保守、毎日ありがとうございます!


読んでくれる人がいる限り、構想がある部分までは書き切るのでもうしばしお付き合いください



371:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 10:29:03.27 ID:5GmwOL96O

>>362
五条△



363:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 04:37:01.69 ID:vzKv4/QMP

乙!そしておやすみ



397:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 02:14:37.21 ID:7xre2i6w0

森の奥深く、誰も訪れそうにない寂れた教会の前に私とワルド様は立っている。
アルビオンの桟橋から飛び続け、仕事終えたグリフォンは大きな欠伸を一つして、伏せの体勢をする。

姫様に教えられたウェールズ皇太子の隠れ家。
此処で王党派がレコン・キスタへの反撃の機会を伺っているはずだ。

しかし王族がいるにしては教会の周りに護衛はなし、それどころか人っ子ひとり、誰かがそこに潜んでいるような気配すらも感じられない。

無防備すぎる……
本当にこの教会にウェールズ皇太子様はおられるのだろうか?


ワルド「君の言う通りならウェールズ皇太子はここにいるはずだが……」

ルイズ「はい。ここに王党派に潜んでいる……と教えられました」

ワルド「ふむ、しかしこのような森奥深くに本当にいるとは思えないな」



399:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 02:24:30.84 ID:7xre2i6w0

彼の言葉に、少し不安になる。

ワルド「いやルイズやアンリエッタ様を疑っているんじゃない」

それをすかさずフォローし、頭を撫ぜる。

ルイズ「はい」

ワルド「ただ、いささか人気がなさすぎると思ってね……まあそうでもなければレコン・キスタの連中に見つかってしまう、という考えからの選択だろう」


右手で帽子のつばを弄り、辺りを見渡すワルド様。

王都、ニューカッスル城からも大きく外れたこの森。
彼が怪訝に思うのも無理はない。


ルイズ「とにかく入ってみましょう。それで分かるはずです」

先導するように、教会の入り口へと足を進める。

ワルド「……」



400:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 02:33:14.40 ID:7xre2i6w0

私の身長の三倍はありそうな、軋む巨大な扉を押し開け、中を覗き見る。
意外にも内観は綺麗に整頓されていて、作りがしっかりしていることに驚かされる。


天井からはステンドグラスが太陽を浴び、色とりどりの光を並ぶ長椅子に照らしている。


ワルド「誰もいないな……」

ルイズ「そんな! 確かに姫様はここだと!」

ワルド「他に、この辺りに教会は無いはずだ。しかし、アンリエッタ様が密命を下して君に嘘を教えることも考えられない」

ルイズ「……そうです。姫様が私に嘘をつくはずないんです」

しかしここにはウェールズ皇太子はおろか教会の神父もいない。
その静けさが私をどんどん心細くさせる。



401:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 02:45:30.81 ID:7xre2i6w0

ワルド「もしかしたら、定期的に場所を変えているのかもしれない。もう少しこの辺を探してみよう」

ルイズ「はい……」


そう言って入り口に振り返ったとき、物々しい雰囲気が私たち二人を包む。
どこから現れたのか、鎧兜を身につけた兵士たちが十数人、私たちを取り囲んだ。
その態度からするに私たちを歓迎しているようではない。


兵士「貴様達、ここがアルビオンの管轄下だと知っているのか?」

中の一人、リーダー格の兵士が隣のワルド様に剣を向ける。
それと共に徐々に距離を詰めてくる兵士たち。

だがワルド様は腰のレイピアを抜くこと無く、兵士に話しかけた。

ワルド「知っているさ。彼女はトリステインの大使、僕はその護衛だ」



402:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 02:56:58.38 ID:7xre2i6w0

兵士「トリステイン……? 馬鹿な事を言うな。あの国から、今アルビオンに大使が送られてくるわけがない」

緊張を緩めず、警戒を続ける兵士たち。

ルイズ「私達はアンリエッタ女王陛下から直属の命を受け、ここがウェールズ皇太子の居場所だと聞いてやってきたのよ! 貴方達に用はないわ!」

兵士「アンリエッタから!?」

突然驚きの声をあげ、剣を下げる兵士。

ルイズ「そうよ! 姫様から、ウェールズ様に返していただきたい物があるの! 皇太子様はどこ!?」

リーダー格の男の肩に掴みかかる。
その拍子に天井の光が指輪に反射して、輝きを放つ。

兵士「その指輪は……!」

ルイズ「え?」


後ろの部下たちに警戒をとく様に合図し、私の右手を握る。



403:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 03:08:28.07 ID:7xre2i6w0

兵士「大変失礼した。君たちは確かにアンリエッタから送られた大使のようだね」

先ほどとは打って変わって、温和な声色に変わる兵士。
どういう事?

私の疑問が抜けないまま、目の前の男は兜を床に置く。
と同時に彼の周りの兵士たちは一様に跪く。

顔を見せたのは、金髪の美青年。
右手に輝くのは私の付けている指輪と形のよく似たものだった。




ウェールズ「僕がそのウェールズ・テューダーだ。トリステインからの大使よ、非礼を詫びよう」

恭しく頭を下げるその姿は王族の気品に満ちている。
その様子からも彼がウェールズ皇太子であることは間違いないと一目で分かった。



405:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 03:29:05.51 ID:7xre2i6w0

ルイズ「貴方様があのプリンス・オブ・ウェールズ……あ、あ……私とんでも無い無礼を」

ウェールズ「フフ、大丈夫さ。君の名前は?」

ルイズ「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです」

ウェールズ「君があのルイズかい? アンリエッタから君の話をよく聞いたものだよ。そちらは?」

隣のワルド様に向き直る皇太子。

ワルド「ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドです。お初にお目にかかります」

ウェールズ皇太子の足元に跪く。
それに合わせて慌てて、私もしゃがみこもうとするが、それを皇太子はそっと止める。



ウェールズ「そんなに畏まった礼儀はいらないよ」

ルイズ「いえ……」

私の両手を握り、物柔らかな声で話しかける。



ウェールズ「遠路はるばるよくここまで来られた。立ち話も何だ、食事はまだだろう? 詳しい話はその後に聞くことにするよ」



406:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 03:48:54.68 ID:7xre2i6w0

雲の間に隠れがちな夕日が紅く、私を照らした。
食事を終えた私はウェールズ皇太子の部屋に向かっている。
今から渡すことになるであろう密書をみてウェールズ様はどう思うのだろう?
姫様が私に手紙を預けたときの表情……酷く悲しげだった。
お二人のことを考えると、やっとここまで来たのに歩む足は錘でも付けたかのようにずっしりと感じる。


……それだけじゃない。

食事の席でワルド様とウェールズ様が何か話していた。
あれはきっと、結婚の媒酌を頼んでいたはずだ。
フネの中ではよく分からないまま、結婚を受けてしまったけど……本当は悩んでいる。
ワルド様が嫌いなわけじゃない。むしろ好意を抱いているのは確かだと思う。
自分を包みこんでくれる包容力もある。不満など何処にもないはずだ。

でも……思い浮かぶのは眼鏡を掛け、いつものように変な笑いを浮かべる自分の使い魔の顔ばかり。
強くて、優しくて、自分のことを一番に考えてくれて。

私のことを守ってくれると言った使い魔。



気がつくともう、ウェールズ様の部屋の前に到着していた。
思うように上がらない手を無理やり持ち上げ、二三度ノックする。




ウェールズ「どうぞ」



411:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 04:04:09.37 ID:7xre2i6w0

ルイズ「失礼いたします」

静かにドアを開け、部屋の中に入る。

ウェールズ「待っていたよ、ルイズ。まあ座ってくれ」

椅子を引き、私を促すウェールズ様。
目下の私にもこんな風に気を使ってくださる方だもの。
姫様が……お慕いするのも、自然なことだ。

浮かない顔をしているだろう私を見て、皇太子は話し始める。


ウェールズ「昔からの言い伝えで、こんな話がある」

ウェールズ「トリステインには水の精霊がいて、アルビオンには風の精霊がいる」

ルイズ「精霊……ですか?」

そういえば、前に授業で誰かが言っていた気がする。
モンモランシーだっただろうか。
私は水の精霊と仲良しだと威張っていた。


ウェールズ「ああ、昔むかしの大昔。ハルケギニアは全ての大陸が地繋がりだったんだ。」



412:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 04:16:55.97 ID:7xre2i6w0

ルイズ「それは……初めて聞きますわ」

ウェールズ「フフ、僕も子供の頃に父に聞いた話だからね。どこまで史実に基づいているかはわからない」

コップの水に口をつけ、喉を潤すウェールズ様。

ウェールズ「ガリアには土の精霊、ロマリアには炎の精霊がいるそうだ」

ルイズ「そうなんですか?」

ウェールズ「ああ、しかも四つの精霊は大層仲良しだったと言われている、まだ始祖ブリミルが生誕されるよりも昔の話だ」

黙って頷く。

ウェールズ「その中でも、水の精霊と風の精霊はお互いを好き合っていたそうでね。他の二人も、それを祝福していたそうだよ」


まるでウェールズ様とアンリエッタ様のようだと思う。


ウェールズ「しかし、ある日二人を引き裂く出来事が起きた。ハルケギニアが大きく形を変え、アルビオンは高く空に連れ去られてしまった」



413:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 04:29:20.58 ID:7xre2i6w0

ルイズ「そんな……」

ウェールズ「風と水はとても悲しんだ。それをみた炎と土は、二人にある相談をする」

皇太子が私の右手を取る。

ウェールズ「双月が重なる日、空に虹をかけよう。そうすれば、お互いがお互いを想い続けているという事がわかるだろう? と」

そして自分の右手を近づける。

ウェールズ「二人はそれに賛成してね。それからだ、トリステインとアルビオンに大きな虹が架かるようになったのは」

ルイズ「素敵……」

ウェールズ「見てごらん、ルイズ。君の水のルビーと私の風のルビーの間に虹が架かっているだろう?」




ウェールズ様の指と私の指の間、ルビーが互いに輝きを放ち、綺麗な虹を作っていた。



414:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 04:43:26.80 ID:7xre2i6w0

ウェールズ「きっと君は……私とアンリエッタの仲を憂いてくれていたのだろう?」

ルイズ「……はい」


夕日の紅と虹色が美しく重なりあい、私の不安を取り除いていく。


ウェールズ「心配はいらない。私と彼女もまた、精霊たちのように虹を見ることで互いを思うことができる。湖の前でそう約束したんだ」

ルイズ「……」

ウェールズ「見せてくれ、ルイズ。何か君はアンリエッタから渡されているんだろう?」

ルイズ「はい、お手紙を」

ウェールズ「手紙か……それを見れば僕はもう少し、戦うことが出来る」


ウェールズ様は決意していた。
例えこの戦に負けようが、自分の誇りをかけて最後まで戦い抜くことを。
その瞳を見て、私は背く事ができなかった。


ルイズ「はい……」

密書を取り出し、彼の手に渡す。

ウェールズ「ありがとう、ルイズ……!」



415:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 05:02:22.63 ID:7xre2i6w0

手紙を読み終えた、ウェールズ様は机の引き出しから手紙を取り出し、私に手渡した。

ウェールズ「……これを」

私の手の仲に手紙は、随分時間が経過しているようで黄色く変色していた。
いつ姫様がお書きになられたかはわからないが……
それを今でも大事にお持ちになられているということは、お二人にとってはかけがえの無いものなのだろう。

ルイズ「皇太子様……姫様は……亡命をお薦めになられたのでは!?」

静かに首を振る。

ウェールズ「そんなことはないさ。それに大使の君はその内容に関与することは許されていない、違うかい?」

ルイズ「ですが……」

ウェールズ「そうだったとしても……私はこの国の王子である以上、皆を見捨てて自分だけ逃亡することなど出来ない」


またゴジョーの言葉が甦る。
誇りのために死にに行くな。
生きろ。

ルイズ「私の……とても大事な人が言っていました。誇りのために死にに行こうだなんて思うな、泥を被っても生き続けろ、と」



417:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 05:18:31.51 ID:7xre2i6w0

ウェールズ「ああ、私もその生き方には賛同する。私一人ならばそうしたかもしれない」

ルイズ「では……! トリステインに亡命して……」


再び首を横に振るウェールズ様。


ウェールズ「だが、私は王子という立場に生れ出た以上は、国民に恥をかかせることは絶対に出来ないんだ。それが……死に赴くようなことでも」

ルイズ「死んでは……死んでは意味がありません!」

ウェールズ「我が国民をレコン・キスタの手で蹂躙されるぐらいならば、死のうとも……一人でも多くのレコン・キスタの首を獲ってみせる」

ルイズ「……ですが! 皇太子様! アンリエッタ様はどうなるのですか!? 姫殿下は……貴方様の帰りを待ち続けています!」



涙が頬から伝っているのにようやく気づく。



418:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 05:36:20.00 ID:7xre2i6w0

ウェールズ「ルイズ、人には死んでも譲れないものがあるんだ。このことを……君の大事な人の言葉と一緒に覚えておいてくれ」

ルイズ「……そんな」

ウェールズ「アンには『君の幸せを誰よりも願っている』と伝えてくれ。彼女の幸せこそが、僕の幸せなのだから」

ルイズ「皇太子様……私の口からは……!」

ウェールズ「フフ、出来れば私の口から言いたかったが……それも叶うまい」


沈みゆく太陽が部屋を暗闇に誘う。

どうして、人は離れ離れになってしまうんだろう?
神は慈悲を与えてくれない。

グリフォンに乗って空を見下ろしたとき、城下町はもう本来の姿をなくしていた。
この目で、王党派が追い詰められているのを見てしまった。
街中にレコン・キスタの旗が立てられているのを見てしまった。
奇跡が起こらない限り、アルビオンはレコン・キスタに占領される。

私が奇跡を起こせるだなんて思わない。
でも、出来ることはあるはずだ。



419:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 05:50:09.97 ID:7xre2i6w0

ルイズ「皇太子様! 私も……私も戦います!」

強い意思をもってウェールズ様に伝える。
せめて、わずかでも力になれるならと思って。
しかしそれにも目の前の王子は小さく首を振る。

暗くなった部屋に明かりを灯しながら。

ウェールズ「それは、絶対に出来ない。君をこの戦争に巻き込むことはアルビオン王子として許さない」

ルイズ「私も戦えます! 兵士の様に強くはありませんが、それでも力になりたいのです!」

ウェールズ「ありがとう、その気持だけで私は強くなれるよ」

儚げに微笑む皇太子の顔を私は直視できなかった。

ウェールズ「だが君がもし戦争に巻き込まれたと聞いたらアンリエッタはどう思う?」

ルイズ「……」

ウェールズ「君は全力をして、トリステインまで安全に送り届けることを誓おう……それに」


一呼吸、間をおいてウェールズ様は言う。


ウェールズ「明日、結婚式が控えているだろう? そんな君を戦わすなど出来ない」



421:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 06:03:29.95 ID:7xre2i6w0

ルイズ「そ、それは……確かに私はワルド様と結婚の約束をしましたが、アルビオンがこんな時に結婚など!」

ウェールズ「それは違うよ。こんな時だからこそ、祝い事が必要なんだ」

椅子から立ち上がり、窓の外を見上げる皇太子様。

ウェールズ「君たちの結婚を聞いて、兵士たちは皆自分のことのように喜んでいる。暗い話題ばかりだったからね。戦わずとも結婚式だけで、僕らには十分な力になってくれるよ」


結婚することで誰かの力になれる。
それはきっといいことだ。
傷ついた兵士たちの心を少しでも紛らわすことが出来るなら、何だってしてやりたい。


……でも、本当にそれが正しい結婚なんだろうか?
こんな迷ったままの私が、結婚をしていいんだろうか?


ルイズ「ゴジョー……」



422:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 06:18:07.31 ID:7xre2i6w0

ウェールズ「ミスタ・ワルドに聞いた時は驚いたが……君たちは許嫁なんだろう?」

ルイズ「はい……」

ウェールズ「ならば何も躊躇うことはあるまい。他に誰か想い人がいるのかい?」

ルイズ「いえ、そんなことは!」


嘘だ。
召喚されてからいつだって私の真ん中にいるのは『アイツ』。
好きって気持ちだけで考えたら、この結婚なんて絶対にしない。

でも、もう私だけの結婚じゃない。
家同士のため。
アルビオンの皆を元気づけるため。

そして、ゴジョーの負担を減らすため。

そんな風に自分を無理やり納得させる。


ウェールズ「フフ、では決まりだね。明日の正午、結婚式を行う。そんなに盛大に飾り付けることは出来ないが……精一杯君たちを祝おう!」

ルイズ「はい、ありがとうございます……」

ウェールズ「では、もう部屋に戻って準備し始めるといい」



424:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 06:30:59.26 ID:7xre2i6w0

ルイズ「失礼いたしました……」


廊下に出て、自分の部屋に戻るとベッドに転がり込み、大きなため息をつく。


なんだか酷く疲れた。
それはウェールズ様とお話ししたせいではないと思う。

色んなことが色んな風に絡みあって、グシャグシャな糸みたいになってる。
もう自分では解けなくなっている。
そしてそれを必死で頭の中で解き明かそうとしているせいだ。

いつから私はこんなに他人任せにしてしまうようになったんだろう。

分かってる。
ゴジョーが来てから。

アイツが私のために何でもしてくれているから、私もどんどん甘えてしまう。

これじゃ、駄目だ。




空にある、薄らぼんやりとした雲の割れ目から一つに重なった月が現れた。

なんだかゴジョーの顔みたいで、少し泣けた。



427:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 07:00:18.15 ID:7xre2i6w0

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

キュルケ「ちょっとここ……ホントにアルビオン?」

フネから降りてすぐにキュルケがそんな言葉を零す。
桟橋から見下ろす風景は、まるで荒廃したゴーストタウン。
行き来する人も疎らだ。

至る所にレコン・キスタの旗が立てられており、既に王家が権力を発揮していないのは一目瞭然。
そんな惨状をみてギーシュが頭を抱える。

ギーシュ「ああ、だから僕はこんなところにヴェルダンデを連れて来たくはなかったんだ!」


足元で鼻をひくつかせるモグラ、もといジャイアント・モールのヴェルダンデは主人の思いを知ってか知らずか。

キュルケ「何言ってんのよ、勝手についてきたのはそいつでしょ? それにちゃんと働かなかったらフレイムに丸焼きにしてもらうんだからね」

ギーシュ「ななな、なんてこと言うんだ! 冗談でもそんな恐ろしいことを言う、君が恐ろしい!」

キュルケ「冗談じゃないわよ。はぁ……どう思うゴジョー?」

呆れたように自分に話を振るキュルケ。


五条「ヒヒ……どうもこうも……ヴァリエールさんの居場所を見つけるためにはヴェルダンデさんが……唯一の頼りですからねぇ」



429:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 07:15:30.44 ID:7xre2i6w0

宿屋での一致団結の後、フネの乗船許可にギリギリ間に合ったギーシュが連れてきたのは自分の使い魔だった。

手がかりがない以上、レコン・キスタに直接出くわすリスクを犯してでも、ルイズの居場所を突き止めなければならなかった。
しかしそれには余りに時間がかかりすぎる。
ルイズと一緒にいるであろう、仮面の男とワルド。
奴らがウェールズ皇太子の元に辿り着けば、暗殺するのは目に見えている。
さらに言えば、ルイズを手中に収めるのもほぼ同時だろう。

そんな中、白羽の矢を立てられたのがギーシュのヴェルダンデ。
何の気なしに言った「僕のヴェルダンデは一度かいだ匂いは忘れない」の一言で閃いた。


キュルケ「しっかし……ホントに大丈夫なんでしょうね?」

ギーシュ「フフン、任せてくれたまえ。僕のヴェルダンデは必ずやルイズの行き先を見つけるだろう」

タバサ「私は空から探してみる」


マイペースなタバサはシルフィードの背に乗り、辺りを見回り始める。


ギーシュ「さあヴェルダンデ! 君の能力で、ルイズの居場所を突き止めるんだっ!!」

芝居がかった動きで使い魔に命令するギーシュ。
しかし、ヴェルダンデは依然その辺の木や草の匂いを嗅ぐだけだ。



430:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 07:28:18.71 ID:7xre2i6w0

キュルケ「……そいえばゴジョー、あんた背中の傷は? 少しは良くなった?」

完全にギーシュを無視するように、話しかけてくる。

五条「クックックッ……! お二人がくれた、秘薬のおかげか……傷はもう塞がりましたよ……!」

キュルケ「え!? ちょ、背中みせてごらんなさい!」

自分のウェアを捲るキュルケ。

五条「グフフ……どうでしょう?」

キュルケ「本当に塞がってる……まだ傷跡はでっかく残ってるけど、昨日みたいな爛れたところは無くなってるわ」

五条「それはよかった……!」

キュルケ「よかったって、普通あの傷二日やそこらで治るもんじゃないわよ!? どうなってんのアンタの身体!」


思い返せば、元の世界にいた頃……
まだ小学生の頃だ。
試合途中に相手の強烈なシュートを肋骨に直接食らい、そのまま負傷退場。
あのときも病院で見てもらったが、次の日には骨がくっつきかけていたなんてことがあった。

サッカープレイヤーたる者、回復力は並以上であって然るべきだろう。
それに今回は秘薬を使ってもらったのだ。
火傷くらい治ってもおかしくない。



431:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 07:40:39.09 ID:7xre2i6w0

五条「ヒヒヒ……! オレはサッカープレイヤーですからねぇ……!」

キュルケ「理由になってないわよ……」

もう諦めたように眉間を押さえ、苦笑いするキュルケ。
その後ろではまだギーシュがヴェルダンデに命令している。

ギーシュ「どうしたんだヴェルダンデ! いつものように指輪の匂いを元に探すんだ!」

しかしいくら命令しようとも使い魔はフンスフンスと息を荒くするばかりで、どこにも進もうとしない。

キュルケ「ちょっとぉ? あれっだけ自信満々に言っていたからわざわざ連れてきたってのに、なかなか見つからないようですねぇ?」

ギーシュ「そ、そんなわけはないんだ! 僕が前にモンモランシーから貰った指輪をなくしたときも、僕のヴェルダンデは見つけてきてくれたんだから!」



五条「ヒヒヒ……グラモンさん……!」

ギーシュ「ゴジョーさんまで! そんな、僕を信じてくれないのかい!?」

五条「違いますよ……グフフ……! 少し思ったことがありましてね……!」

ギーシュ「え?」


その言葉を聞き、ヴェルダンデに振る杖を止めるギーシュ。



432:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 07:50:11.47 ID:7xre2i6w0

五条「なに……単純なことですよ……!」

ギーシュ「教えてくれゴジョーさん!」

必死に自分に懇願するギーシュ。
本当にヴェルダンデが丸焼きにされそうで、気が気じゃないんだろう。


五条「『飛んで』いったんじゃないでしょうか……!? 『純粋』に……!」


ギーシュ「……え」

キュルケ「あ、そりゃそうか。ロリコン子爵、グリフォンに乗ってたわね」

五条「見たところ……グラモンさんの使い魔は……土の上にある匂いを嗅ぎ分けて目標を探しているんじゃないでしょうか……?」

ギーシュ「あ、ああ。その通りだよ」

五条「それではいくら探しても見つかりませんよ……クックックッ! それに向こうとしても、さっさと目的を果たしたいはず……ノロノロと徒歩で行くとは……思えませんねぇ」

ギーシュ「じゃあ……ヴェルダンデは」


絶望した顔で膝を地面につかせる。


キュルケ「無駄足もいいとこね。ダメダメだわ」



433:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 08:02:57.68 ID:7xre2i6w0

ギーシュ「そんな……じゃあ僕のヴェルダンデは何のために……!」

キュルケ「はぁ……そんなとこだろうと思ったわ。これじゃやっぱり手がかりナシじゃないの」

タバサ「ふりだし」

シルフィードから降りてきたタバサが残念そうに呟く。



五条「ヒヒ…! ところがそうでもない……!」

キュルケ「……どういうこと? なにかもう見つけたの!?」

ギーシュ「いくらゴジョーさんとはいえ、ノーヒントでルイズの居場所を見つけるのは……」


五条「いえ……どうやらヒントをくれたのは……ヴァリエールさんとコレのようですよ……!」


三人に向けて左足のソックスを下げるみせる。
そこにはぼんやりと光をみせるガンダールヴのルーン。




五条「ルーンを通して……見せてくれたんですよ……! 自分の居場所を……!」



434:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 08:10:13.14 ID:7xre2i6w0

すいません、眠気が限界を迎えました……

これ以上はとんでも無いことを書きそうなので一旦寝ます


でもこれはあくまでも休憩です

いくらか書きためて、今日の20~22時の間に戻って来ます

我儘で心苦しいのですが、保守して頂けたらありがたいです

読んでくださっている方、本当にごめんなさい!



435:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 08:13:01.61 ID:4RtC7MVp0

ちゃんと完結してくれよ



436:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 09:17:34.12 ID:I4xJWeLoO

とりあえず乙、純粋に



455:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 21:49:19.29 ID:7xre2i6w0

キュルケ「ルーンが……光ってる」

ギーシュ「今までルイズが側にいる時以外はルーンは光らなかったはずじゃ!」

五条「ええ……! 主人が近くにいなければルーンは発動しないはず……!」

タバサ「見えたの?」

タバサが自分のルーンを触りながら、尋ねる。


五条「一瞬ですが、見えました……! 彼女のいる場所が……!」

キュルケ「どこなの! どこにルイズはいるの!?」

五条「森の教会……ヴァリエールさんはウェディングドレスを着ていた……!」



ウェディングドレス……
もう婚礼の儀は始まろうとしている。
鏡に映った主人の顔は、祝い事の前とは思えぬほど暗く沈んでいた。
その姿が幾度も頭の中に繰り返される。



457:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 21:56:33.20 ID:7xre2i6w0

ギーシュ「なんだって? じゃあもうワルドとの結婚が……!」

五条「時間は……余り残されていないかもしれません」

キュルケ「でも森の教会って……それだけじゃまだルイズの居場所は!」


声を大きくし、自分の肩を揺さぶるキュルケ。


五条「ヒヒヒ……! ……しかしこのオレの『よく見える目』は主人の行方を逃しはしない……!」


シルフィードの頭を撫で、心の中で頼む。
もう少しだけ、自分の力になってくれと。


五条「この桟橋から南東に四十リーグ……城下町からも外れたところに大きな森が見えるんです」

拓けた見晴らしの良い、この桟橋から遠くに指を向ける。
肉眼ではとても捉えることは出来ないが、自分の『スーパースキャン』ならば大体の距離も分かる。



459:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 22:05:10.72 ID:7xre2i6w0

五条「その方向に……ヴァリエールさんを『感じ』ます」


タバサがそちらを向き、しばし考える。


タバサ「シルフィードの全速力のスピードで……おおよそ二十分」

キュルケ「呑気してる場合じゃないわ! 乗るわよ、二人とも!」

ギーシュ「ちょ、ちょっと待ってくれ! 僕のヴェルダンデはどうなるんだ! こんなところに置いて行く気かい!?」


ヴェルダンデに寄り添い、必死でキュルケを引き止めるギーシュ。


キュルケ「そんな事言ってる場合じゃないでしょ! ルイズが結婚しちゃったら虚無の力はレコン・キスタのものになるのよ!」

ギーシュの頬を両手でつねる。
口元が歪み、上手く喋れない。


ギーシュ「ひょ、ひょれわひょうらが……」



460:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 22:14:14.97 ID:7xre2i6w0

キュルケ「それにルイズのことだから、自分一人で国務もこなそうとするわ……」

声色を少し落とし、ギーシュの顔から手を放す。

ギーシュ「じゃあそこにウェールズ皇太子もいるってことかい!?」

五条「グフフ……恐らく……! ワルドと襲撃者はヴァリエールさんを泳がせて、皇太子の居場所を引き出す気だったんでしょう……! 
ヴァリエールさんは虚無の力を持つだけでなく、皇太子の居場所をも知っている……!」

ギーシュ「そんな……!」

五条「向こうからすれば……! これほど好都合な存在はいないでしょう……!」

こめかみに手を当て、顔を伏せるギーシュ。



腹の中が煮えたぎるのを感じる。
主人の思いを踏みにじり、それだけでなく私欲のために利用しようとする、そのやり方に。



461:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 22:20:46.73 ID:7xre2i6w0

タバサ「私たちから離すことで、戦力を削ぐだけでなく虚無と仇の命を奪いに行く気」

五条「クックックッ……! そのとおりです……!」

タバサ「時間がない、皆乗って」

主人が乗ったことを確認するとキューイと鳴き声をあげ、翼を広げるシルフィード。

キュルケ「分かったわタバサ! ほら、ギーシュ! ゴチャゴチャ言ってる時間はないのよ!」

首根っこを引っ張り、無理やりギーシュをシルフィードの背中に乗せるキュルケ。
ヴェルダンデは寂しそうに土の中に顔を隠す。


五条「……」

二歩近づき、ヴェルダンデの鼻に手を当てる。

五条「ヴェルダンデさん……! ここから先、森についたときあなたの力が必要です……手伝っていただけますか……?」



その声が届いたかどうかは分からない。
しかし嬉しそうに自分に擦り寄って来る様子は、快諾とみて間違いないだろう。



462:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 22:28:39.17 ID:7xre2i6w0

ギーシュ「ご、ゴジョーさん!?」

キュルケ「ちょっと! ゴジョーそいつ乗せる気!?」

五条「クックックッ……! わけは後で話します……! ひとまず、ヴェルダンデさんも連れて行ってあげてください……!」

タバサ「わかった」



シルフィードは自分が背に飛び乗ると、高く舞い上がりヴェルダンデを前足に掴む。
目下三十メイルにある高台の船乗り場が一気に小さく見える。

そしてシルフィードは主人の差した方向へ、凄まじいほどのスピードで突き進む。
それを目の端で捉えながらも、遙か下に見える荒廃した街並みが過ぎ去っていくのを早送りで見ている。

話に聞くのと実際に見るのとでは、重みが違った。
船着場の周りだけではなく、もっとも王家が力を発揮するはずの城下町もこの有様。
レコン・キスタがトリステインに攻めて来るのは時間の問題ではない。
もうこの荒れたアルビオンを征服されれば、すぐにでも反逆者たちは武器を伴って大勢来る。

それは変えられない事実となっているのだ。



464:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 22:34:51.16 ID:7xre2i6w0

キュルケ「ちょ、ちょっとタバサっ! 速すぎるわよ!」

タバサ「大丈夫。まだギリギリ誰も落ちないスピード」

キュルケ「ギリギリって……! 風が強すぎて息が上手くできないわよ!」


この雲をも切り裂いていくスピードの中でタバサは涼しい顔でしゃべっている。
しかし、キュルケとギーシュは息も絶え絶え、しがみつくので精一杯のようだ。
タバサはふう、と息を吐き小さな声でスペルを唱える。


タバサ「エア・シールド」

空気の膜が自分たちを包みこむ。
途端にシルフィードの背の上は風が止み、力尽きたように二人は倒れこむ。

ギーシュ「ふう……死ぬとこだった」

キュルケ「スピード出しすぎ! ていうか五条はなんで大丈夫……聞くまでもないわね」

五条「クックックッ……!」



465:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 22:42:19.33 ID:7xre2i6w0

落ち着いたところで、横のギーシュが尋ねる。


ギーシュ「ゴジョーさん……どうしてヴェルダンデを連れてきてくれたんだい……?」

キュルケ「そ、そうよ。ただでさえ四人乗ってシルフィードのスピードが落ちるのにヴェルダンデまで乗っけたらもっと遅くなるわよ!」

五条「ヒヒヒ……! ちゃんと理由があります……!」

ギーシュ「理由?」


オウム返しで自分を見るギーシュ。


五条「あの大きな森……空からでは探せない。森の入口からはヴァリエールさん達も徒歩で行ったことでしょう……!」

キュルケ「じゃあそこからヴェルダンデに匂いを追尾してもらって!」

五条「ええ……! 闇雲に探すよりは、その方が早いと思いましてね……!」



466:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 22:50:22.05 ID:7xre2i6w0

ギーシュ「さすがゴジョーさん……! ああ、僕のヴェルダンデに活躍の場を!」


ギーシュは目を潤ませ、喜ぶ。


五条「ヒヒヒ、頼みましたよ……! グラモンさん……!」

キュルケ「ホントに大丈夫かしら……?」

ギーシュ「任せてくれたまえ! 匂いがあるところからならば、必ずや探し出してみせる!」



やれやれとこちらを一瞥するキュルケ。

下を見るともう栄えていたであろう城下町は通り過ぎ、焼き払われた小さな家屋が並ぶのみだ。
まだしばし時間はかかる……
祈るような気持ちで、主人の顔を思い浮かべる。







五条(ヴァリエールさん……どうか……ご無事で……!)

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467:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 22:59:59.56 ID:7xre2i6w0

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教会の鐘が鳴る。
式が始まってしまった。

私の後ろには十数人のアルビオンの兵士たちが、真剣なまなざしを向けている。
でもその顔は私に会った敵意は感じられなく、本当に幸せを願うような表情だ。

目の前にいるウェールズ様。
彼もまた、静かに微笑みを浮かべ私たち二人の幸せを願っている。
まるで自分の結婚式を執り行っているかのようで、私は胸が苦しくなる。



昨日一日、ずっと考え続けた。
本当にこれでいいのか。
自分の気持ちはこれを望んでいるのだろうか、と。

でも……どうしてもこの結婚式をやめて欲しいとは言えなかった。

断った時点でワルド様とはもう以前のように、話せなくなる。
兵士たちも落胆するだろうし、ウェールズ様もお心落とししてしまうだろう。

そんな事は、私には出来なかった。



469:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 23:06:48.59 ID:7xre2i6w0

ルイズ(ゴジョー……)

私は自分の使い魔に頼りすぎている。
年下の使い魔に。


これからはこの人と一緒に生きて行くんだろうか?
顔を上げ、隣のワルド様を見上げる。

意思の強そうな目。
端正な顔立ち。
大きな肩。

ふ、と自分の使い魔の顔が重なる。
目を擦るとそこには当然ゴジョーはいない。

ワルド「どうしたんだい……?」

ルイズ「いえ……」

ウェールズ「では始めてもよろしいかな?」

その言葉に、僅かに首を縦に振る。



472:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 23:14:15.78 ID:7xre2i6w0

ウェールズ「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド」

ワルド「はい」

ウェールズ「汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして妻にすることを誓いますか」

ワルド「誓います」

ニッコリと笑うウェールズ様。

ウェールズ「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」

ルイズ「は……い」

ウェールズ「汝はこの者を敬い、愛し、そして夫とすることを誓いますか」


夫。
これからはワルド様と一生生きていくの?
それでいいの?

自問自答がグルグルと駆け巡り頭が真っ白になる。

声が出ない。
息が上手くできない。
足に力が入らない。



473:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 23:21:26.04 ID:7xre2i6w0

ルイズ(助けて……ゴジョー!!)

ウェールズ「新婦?」

ワルド「申し訳ございません。彼女は少々緊張しているようで……」

ウェールズ「フフ、さもあろう」


そっと、私の耳元で囁くワルド様。

ワルド「ゴジョーくんのためだよ……」

ルイズ「ゴジョーの……ため……」

眼鏡を掛けた、笑顔が脳裏に焼きつく。

ウェールズ「今一度問おう。汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして夫とすることを誓いますか」

ルイズ「ち……ちかい……」

ワルド「ルイズ……」

これを言えば……
もう、ゴジョーに辛い思いはさせない……
これが……皆の幸せになるはず……

「誓い……ま……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



475:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 23:23:21.05 ID:7xre2i6w0

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ギーシュ「こ……ここが……その教会……?」


生い茂る森の奥深く、ヴェルダンデの先導のもと、走り続けてようやく発見した教会。
その頂上の鐘が辺りに鳴り響いている。


キュルケ「ちょっと! もう式が始まってるんじゃないの!?」


慌てたように自分の腕を掴み、扉の前まで連れてくるキュルケ。
きつく閉められたドアは何人たりとも進ませようとはしない。


ギーシュ「くそ! 開かないぞ!」

キュルケ「どいて、あたしのファイアー・ボールでこじ開けるわ!」

ギーシュ「そんな無茶な!」

火のスペルを唱え出すキュルケ。
魔力が杖に集中していく。

キュルケ「……ファイアー・ボール!」


杖の先から放たれた火球は酸素を燃焼させながら激突するが、あざ笑うかのように扉はそれを弾く。



476:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 23:24:37.16 ID:42WpYHof0

酸素を燃焼させてワロタwww



477:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 23:25:33.07 ID:jfngwe+2P

魔法だとそうなんだよ



478:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 23:26:43.72 ID:MR+cUGLL0

酸素が燃焼すると静電気で大惨事になるかもな



479:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 23:28:43.65 ID:7xre2i6w0

やだ恥ずかしい

学が無いのがばれるじゃないのよ

もうなんかとりあえず燃えてるイメージでお願いします



480:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 23:29:24.71 ID:Tehqw06n0

酸素と酸素が化合してオゾンになるんだよ!



481:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 23:32:15.80 ID:97LLAIMU0

いいじゃねぇかヤジ入れるな



484:ごめんなさい、恥ずかしいから訂正させて///:2010/12/12(日) 23:33:26.94 ID:7xre2i6w0

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ギーシュ「こ……ここが……その教会……?」

生い茂る森の奥深く、走り続けてようやく発見した教会。
その頂上の鐘が辺りに鳴り響いている。

キュルケ「ちょっと! もう式が始まってるんじゃないの!?」

慌てたように自分の腕を掴み、扉の前まで連れてくるキュルケ。
きつく閉められたドアは何人たりとも進ませようとはしない。

ギーシュ「くそ! 開かないぞ!」

キュルケ「どいて、あたしのファイアー・ボールでこじ開けるわ!」

ギーシュ「そんな無茶な!」

火のスペルを唱え出すキュルケ。
魔力が杖に集中していく。

キュルケ「……ファイアー・ボール!」

杖の先から放たれた火球は燃え盛りながら激突するが、あざ笑うかのように扉はそれを弾く。



485:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 23:36:23.36 ID:7xre2i6w0

キュルケ「なんで……!」

タバサ「どいて……私の魔法でこじ開ける」


タバサがエア・ニードルを唱えようとしたその時。


「無駄さ! テメェら程度の魔法じゃその扉は開かねぇぜ!」


艶やかな緑の髪。
銀縁の眼鏡。
そしてかつて見た、ゴーレムの肩に乗る姿。
後ろから現れたのは、牢の中にいるはずの盗賊だった。


五条「土くれの……フーケ……!」

フーケ「よう、ゴジョー……! また会ったな」

キュルケ「なんであんたが此処に!」

フーケ「なんでぇ? そんなもん決まってるじゃねえかよ……! 脱獄したんだよ!」

五条「クックックッ! それでわざわざここまでですか! 楽じゃないですねぇ……盗賊も」



487:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 23:45:55.15 ID:7xre2i6w0

不敵な笑みを浮かべ、こちらに杖を向けるフーケ。

フーケ「別にあたしだってアルビオンくんだりまで来る気はなかったがねぇ。あたしを脱獄させた雇い主がついて来いって言うもんだからね」

五条「……」

フーケ「それにあたしは言ったんだ。あんたのライトニング・クラウドをまともに受けて、ここまで来るわけ無いだろって」

ギーシュ「お前じゃないのか! ゴジョーさんを撃ったのは!」

フーケ「おや色男、テメェもいたのかい。つくづく仲良しだねえ……!」


小馬鹿にする様にギーシュを笑うフーケ。


ギーシュ「質問に答えろ!」

憤慨し、手を振るうギーシュ。

フーケ「敵に聞くテメェも馬鹿だが、その馬鹿さ加減に免じて教えてやるよ。ありゃあたしには使えない魔法さ」

五条(やはり……!)

フーケ「だがまあ……ちゃあんと生きていてくれたんだ……!」


ゴーレムの腕を高く振り上げる盗賊。



490:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 23:59:36.90 ID:7xre2i6w0

フーケ「美味しいところは頂いていくぜ!!」

他のものには目もくれず、自分めがけて殴りつけるゴーレム。

ズウンと地鳴りのような衝撃が閑静な森の中に響き渡る。


ギーシュ「ゴジョーさん!」

叫ぶギーシュ。

フーケ「あっけねえな! 病み上がりのテメェにゃ重すぎる攻撃だったかぁ!? ヒャッハッッハッハ!!」


癇に障る笑い声をあげるフーケ。
教会の階段にめり込む左足。
手応えを覚えた感触に勝利を確信しているようだ。

キュルケ「ゴジョー!」

ゆっくりとあげられるゴーレムの堅い腕。

フーケ「ハッハッッハッハ……!?」



急に止む笑い声。
フーケの目の前にいるのは……



491:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 00:09:31.53 ID:gbEecaUc0

五条「クックックッ……! 学習しないヤツですね……!」

右足を天に向かって振り上げている自分の姿。
確かに効いたが……自分を屠るほどではない。


五条「言いませんでしたか……? オマエではオレを倒すことなど出来ない……!」



フーケ「ゴジョーォォォ!! テメェは……!」

今度は大きな右足で踏みつけようとするゴーレム。
それをワンステップで回避しようとしたとき、身体が浮く感触。
少し離れたところからタバサが自分をレビテーションで呼び寄せる。

タバサ「ヤツにかまっている時間はないはず」

五条「ええ……しかし、フーケを倒さなければ中には……!」

タバサ「乗って」

有無を言わさず、自分をシルフィードの上に乗せるタバサ。



フーケ「逃さねぇよ! クソッタレが!!」



493:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 00:20:23.85 ID:gbEecaUc0

青竜を掴みかかろうと、掌を広げ伸ばしてくるゴーレム。
それを間一髪回避し、虚空に駆け上がるシルフィード。

フーケ「ちぃ! 逃げやがって!」

教会の屋根、十数メートル上に停止する。
ゴーレムの攻撃はここには届かない。


五条「タバサさん……! 下ろしてください……!」

タバサ「だめ」

五条「何故……! グラモンさんとツェルプストーさんでは……あのゴーレムには……!」

地上ではフーケが杖を構え、二人に向けて詠唱を開始している。


フーケ「いいぜ! ゴジョー、テメェが逃げるんならあたしはこの二人を殺らせてもらう!」

五条「!」

フーケ「アース・ハンド!」


地面から触手のような土の手が現れ、キュルケとギーシュの足元を固定する。


フーケ「これで逃げられねぇよ!」



494:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 00:32:09.80 ID:gbEecaUc0

五条「タバサさん……!」

タバサ「大丈夫」

タバサの言葉とは裏腹に、ゴーレムの豪腕が二人に迫る。
しかも、あえて一撃では潰れないような遅さで。
恐らく傷ついていく仲間の姿を見せ、自分をおびき寄せようとするつもりだ。

フーケ「そぉぉぉら!!」



キュルケ「舐められたものね……! ウル・カーノ!」

ギーシュ「ワルキューレっ!」

杖先からでた炎が触手を焼ききり、同時にギーシュのワルキューレが、その槍で土の手を切り裂く。

二人は同じように、ゴーレムの拳を避けてみせた。
フーケは苦虫を噛み潰した顔で睨みつける。


フーケ「……!」



ギーシュ「ゴジョーさん! 君にはコイツと戦うよりも先にやらねばならないことがあるはずだ!」



496:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 00:42:30.26 ID:gbEecaUc0

五条「グラモンさん……」

ギーシュは上を向き、自分に言い切る。


ギーシュ「僕らを信じろ! コイツは僕らが足止めしてみせる!」

五条「……」

ギーシュ「君しか……! 君しかルイズを助け出せる男はいない!」

タバサは自分の肩をつかみ、飛び降りようとするのを制止する。


ギーシュ「行くんだ『ゴジョー』! ゼロの使い魔よ!」


シルフィードは、再び翼を羽ばたかせる。

仲間を信じれていなかったのは自分のほうだ。
彼らはいつだって……オレのことを信じていた。
その気持ちを無下にはできない。

五条「タバサさん……!」

タバサ「彼らはこのために貴方の側にいる。信じてあげて」



498:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 00:53:28.91 ID:gbEecaUc0

フーケ「行かせるかよぉっ! ブレッド!」

フーケが杖から土礫を生み出し、砲弾へと硬化し空へ放つ。
しかしそれは横から飛んできた炎に阻止される。

キュルケのファイアー・ボールだ。


キュルケ「カッコつけすぎ……! あんた一人じゃ足止めも出来ないでしょ」

キュルケは杖を右に左に振りながらそう言う。

ギーシュ「ハハハ……手厳しいな」


フーケ「餓鬼共が……!」

ゴーレムを震わせて、地面を殴りつけるフーケ。


キュルケ「行きなさいゴジョー! そしてさっさとバカルイズを助けて戻ってきなさい!」


大きく頷く。
彼らなら、きっと。
土くれ相手でも簡単にやられたりしない。



499:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 01:04:06.58 ID:gbEecaUc0

五条「タバサさん……教会の真上に飛んでください……!」

タバサ「どうするつもり?」

五条「屋根を破壊して、直接中に乗り込みます……! タバサさんはすぐに二人の元へ……!」

タバサ「貴方一人では心配……まだ怪我も」

静かに自分の手を握る青い魔法使い。
シルフィードは黙って教会の屋根の上で停止する。


五条「クックックッ……! オレを『信じなさい』……! 『純粋』に!」

判然と言い放ち、ボールを自分の傍らへと寄せる。

タバサ「……」

なにも言わぬ瞳。
その優しさを胸に、空へと飛び降りる。




五条「オレは……『ガンダールヴ』……! 盾は主人を残し死んだりはしない……!」


少し、タバサが微笑んだような気がした。



500:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 01:18:08.24 ID:gbEecaUc0

ハルケギニアの重力に引かれ、身体はどんどん屋根に落ちていく。
いくら脚力に自信があるとは言え、落下スピードを乗せても教会の屋根の破壊は難しい。
だからこそ、このボールを共に連れてきた。


自由落下し続けるボールに照準を合わせる。
このボレーだけは……外せない。

狙い澄まし、輝き出す左足を後ろに振り上げる。
躍動する筋肉の音が体の内側から聞こえてくる。
ルーンの力によって強化された左足がボールを正確に捉える。

五条「弾けろ……!」

光り輝く光線と螺旋状に回転しながら屋根へ切迫するボール。

天井の屋根を物ともせず、柱を破壊しながら教会に大穴を開ける。

中から聞こえてくるどよめき。



そして見える……
ウェディングドレスを身に纏った、我が主人の姿。



501:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 01:30:31.12 ID:gbEecaUc0

轟音を立てて教会内部の床へと着地する。
中にいる……恐らくアルビオンの兵士たちも状況が分からず、動きを止める。
振り向いているルイズも、同じだ。


五条「クックック…アーハッハッハッハ!! これはこれは、大変良いところに出くわしたようですね……!」

ウェールズ「……何をしている! そいつを捕らえろ!」

慌てて自分の周りを取り囲む、アルビオンの衛士達。
しかし一様に一定の距離を保ち近づこうとはしない。
見えているのかもしれない……怒りに赤く染まる自分のオーラが。

ルイズ「ま、待ってください! 彼は私の使い魔です!」

ウェールズ「なんだって?」

ルイズ「その……ラ・ロシェールで怪我をして……ここに来るはずがないんですが。どういう事ゴジョー!?」

自分を指差すルイズ。

ゴジョー「ヒヒヒ……まあ積もる話もありますが……! ヴァリエールさん、その隣りにいるレコン・キスタの手先から離れてください……!」

ルイズ「え……!? レコン・キスタ!?」

彼女の向いた先にはワルドしかいない。


五条「クックックッ……一杯食わされましたよ……隊長さん……!」



503:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 01:41:36.64 ID:gbEecaUc0

ワルド「……なんの事だね? 使い魔くん。それに余りにも無礼すぎないか、今は婚礼の儀の最中だぞ」

ルイズを自分のもとへと抱き寄せるワルド。

ルイズ「え……?」

未だ状況が掴めず自分とワルドの顔を交互に見る主人。

五条「……そのオマエの薄汚い手をヴァリエールさんから離せと言っているんですよ……! ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド……!」

ワルド「おやおや……自分の主人が結婚するからと言ってそんなに怒ることかい? 普通は祝福の言葉が先だろう」

五条「ええ……オマエがレコン・キスタでなく、皇太子の命を狙っていなければそうしたかもしれませんねぇ……!」

ウェールズ「レコン・キスタ!? どういう事だミスタ・ワルド!」

にわかに騒ぎ出すウェールズ。
ワルドはその声を聞き、やれやれと頭をふる。




ワルド「ここまでか……全く君はどうしてこうも、僕の計画の邪魔をする? ゴジョー・マサル」



506:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 01:52:19.93 ID:gbEecaUc0

五条「やっと、正体を現しましたか……!」

ワルド「ラ・ロシェールでの対決……あの時、君を葬ったつもりだったんだがね」

右手に持っていた帽子を深くかぶり、目元を隠した。
左手はゆっくりと腰のレイピアへと添える。

ルイズ「ワルド様……!?」

五条「クックックッ……! 思惑通り死にかけましたよ……! だが……地獄の釜は少しオレには温すぎましてね……!」


ワルドは髭に手を当て、話し始める。

ワルド「僕は君をルイズから引き離すために、幾つか手を打った。一つは決闘場での不意打ち」

ルイズ「……? え……?」

五条「どういう理屈か分かりませんが、アレはやはりオマエの仕業でしたか」

ワルド「もうひとつは……君が死んだとは思ったが念には念を、グリフォンで足跡を隠した」

五条「……」

ワルド「そして僕が一番疑問なのは……何故外にいるフーケを躱してここまでこれたのか、ということだよ」



508:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 02:07:40.86 ID:gbEecaUc0

五条「クックックッ……! 何故?」

ワルド「ああ、君がいなければ滞りなく、この間抜けなルイズは僕の物になり虚無の力を手に入れ」

ワルドは後ろの皇太子を指差す。

ワルド「崩壊寸前な、アルビオンの王子を簡単に殺せたというのに……!」

ニヤリと笑い、レイピアをウェールズに向ける。


ウェールズ「貴様やはりレコン・キスタ! 衛士、この者を殺せ!」

ワルド「ウィンド・ブレイク……!」

飛びかかったはずの兵士達は皆ワルドの魔法で壁に叩きつけられる。


ワルド「まちたまえ、まだ僕と彼の話は続いているだろう?」

ウェールズ「ぬけぬけとっ!」

杖を構え呪文を詠唱し始めるウェールズ。



五条「皇太子さん……そいつはオレの『獲物』です……!」



509:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 02:16:52.11 ID:gbEecaUc0

ウェールズ「な、何を言っているんだ!」

五条「それに……レコン・キスタの目的は皇太子、その命なんですよ……! ひとまず離れてください」

ウェールズ「しかし!」

五条「下がれ……!」

ウェールズ「……」


何も言わず、ワルドから距離を置くウェールズ。
そうだ、それでいい……


ワルド「フフ、相手は皇太子だぞ? 不敬罪で殺されてもおかしくない」


自分の中の二つのリミッターの内一つが外れる。
これまでは対峙した誰に対しても『殺意』を抱いたことは無かった。
戒めとしてずっと守ってきた……そのお陰で、自分はまだサッカープレイヤーでいられていた。

その枷が、今音を立てて壊れる。



五条「構いませんよ……!」



514:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 02:46:33.75 ID:gbEecaUc0

ルイズ「ご……じょー……?」

五条「『シグマゾーン』」

一瞬の世界。
それがこの瞬間だけは、無限に感じられる。
時間が止まっているわけじゃない。
脳内領域を『狂わせて』、無理やり身体を動かしている。
一秒よりももっともっと短いその世界に適応させるように。
光速に追いつけるように……

『止まっている』ワルドの腕からルイズを引き離し、抱き抱える。

ワルド「……!」

五条「返してもらいましたよ……オレの主人は……!」

ルイズ「え、あ、ゴジョー!」


距離を置き、抱きついてくるルイズをウェールズの傍にそっと下ろす。



ワルド(この僕が……視認できないだと……!? 今は決闘の時のように偏在は使っていない……!)



515:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 02:57:03.98 ID:gbEecaUc0

ワルドは戦慄している。
閃光と呼ばれる自分よりも段違いのスピードで動きを終える姿を見て。
しかしすぐに戦意を取り戻し、杖を構える。


ワルド「ゴジョー。君を殺すのは惜しい……」

五条「クックックッ……! 何のつもりです……?」

ワルド「僕は思い違いをしていた……本当に恐ろしいのは虚無の力を持つルイズなんかじゃない」

ルイズ「虚無……?」

ワルド「ああ、ルイズ。君はまだ目覚めてはいないが、この世界を支配できる力を持っている。伝説の虚無の力を」

ルイズ「私が虚無!? そんなわけ……」

ワルド「いや、これは疑いようのない事実だ。しかもそれだけじゃない」

五条「……」




ワルド「そこにいる君の使い魔は、ガンダールヴ……だが虚無以上の力を持っている。恐ろしい話だよ」



517:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 03:04:45.35 ID:gbEecaUc0

ワルド「どうだ? 僕と手を組んで世界を手に入れないか? そうすれば、いままでの様に煩わしい生活からは抜けられるぞ、ゴジョー」

自分を見据え、腰に手を当てるワルド。

五条「クックックッ……!」

ワルド「そうだ……! 笑いが止まらないだろう? 世界を自由に操れるんだ、こんなに楽しいことはない」

五条「……」

ワルド「僕の知力と君の能力が合わされば、それは簡単に叶う……」


こちらに近づき、手を差し伸べる。


ワルド「この手を取れば、契約は成立だ……! さあ、ゴジョー。どちらが正解か分かるだろう?」



519:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 03:14:38.80 ID:gbEecaUc0

五条「ヒヒヒ……!」

ゆっくりとその手に自分の手を近づけ……

ワルド「そうだ、それが正解だ」

ルイズ「ゴジョー……!? そんな……」


弾き返す。


五条「クックックッ…アーッハッハッハッハ!!」

ワルド「それが……答えか……!」

五条「オマエのような人間が世界を支配する……!? ジョークも程々にしておきなさい……!」

ワルド「貴様……」


睨みつけ喉元にレイピアを近づけるワルド。
その先を掴み力任せに捩じ曲げる。

ワルド「な!」


五条「ワルド……! オマエには今から……死ぬほど自分の身の程を教えてやりますよ……! 『狂いたく』なるほど『純粋に』……!」



520:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 03:27:39.44 ID:gbEecaUc0

一歩引き、自分との距離をとるワルド。

ワルド「残念だ……! しかし、我が手中に入らぬものならばこの手で引導を渡してやろう」

五条「……できるものなら」

ワルド「フン、ゴジョー。貴様、先日の決闘が僕の全力だと思っていないか」

五条「だとしたら……どうします?」

ワルド「残されているのは……死、だけだということだよ……!」

呪文の詠唱を始めるワルド。

ワルド「ユビキタス・デル・ウィンデ……」

刹那、ワルドの影がブレたと思ったとき。
少しずつ別れていく影。
徐々に形を整え、それはワルドの姿形と同じになっていく。


五条「これが……襲撃者の種明かし……ですか……」

四人になったワルドが同じ先の曲がった杖を自分に向ける。



521:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 03:41:39.30 ID:gbEecaUc0

ワルド「その通り」

ワルド「君を撃ったのはこの僕さ!」

ワルド「個にして全」

ワルド「全員が意思を持ち貴様を殺す!」


一人ずつ言葉を区切り、話すワルド達。


ルイズ「ゴジョー……私……」

傍らにいるルイズが話しかける。

五条「ヴァリエールさん……命令してください」

ルイズ「私に……そんな資格ないわ」

ルイズは目を見ない。



ルイズ「いつもアンタに頼ってばかりで……結局今も助けてもらった。助けてもらわなければ……知らずにレコン・キスタに協力していたかもしれない」

ルイズ「主人失格ね……私」



529:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 06:08:47.46 ID:gbEecaUc0

すみません、一旦考えを煮詰めてみます

今日中に必ず来るので、どうかお待ち頂けたら幸いです


落ちたときは、そのとき考えます……
ぶつぶつ途切れがちな投下で本当にすみませんでした!



530:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/13(月) 06:19:20.23 ID:6Xo6UX2RO

そういう意志を持って書く奴は嫌いじゃないわ!



531:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/13(月) 07:15:14.68 ID:AXh0Ul/nO

頑張ってちょーよ



554:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 22:56:45.61 ID:gbEecaUc0

大変お待たせいたしました
今帰ってきました

投下し始めたいのですが、このスレの寿命ももう残り少ないです

落ちるまではここで書き続けます。しかし今後、どうするかは皆さんの意見で決めたいと思います



1構わんからvipで書け。もっかいスレたてろ

2いいかげんにしろ。vipはもうダメだ、製作かパー速行けカス

3もう書かなくていいよ。飽きたわ>>1消えろ


個人的には……1がいいんですが、読んでくださっている方の意見が一番大事だと思います

多数決で決めますので、レスくれたら嬉しいです



555:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/13(月) 22:57:12.86 ID:UeHdx0i7P

1



556:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/13(月) 22:57:27.06 ID:i4AtGvCL0

1



557:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/13(月) 22:58:14.92 ID:kF2FXyvH0





558:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/13(月) 22:58:39.45 ID:YgALcmP20

1



559:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/13(月) 22:59:38.94 ID:znpSL44p0





560:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/13(月) 23:00:08.50 ID:I1pP3IZeP

1



562:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/13(月) 23:03:10.82 ID:DouZOm1HO





573:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 23:28:23.26 ID:gbEecaUc0

レス、本当にありがとうございます!
このまま書き続けていいものかな、と悩んでいましたが吹っ切れました


とりあえず、投下中にこのスレが落ちたらすぐに立て直します

タイトルは多分変わらないと思います


それと毎回遅い投下でやきもきさせてごめんなさい
一応書きためはしながら毎日望むんですが、書く時間的に分量が少なくなってしまい途中で書きながら投下になってしまうんです。

週刊誌の漫画家さんの気持ちがほんのちょびっとだけ分かりました



まあそんな言い訳はどうでもいいので、投下します



574:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 23:36:45.80 ID:gbEecaUc0

ルイズ「ドジでのろまな能なしよ……きっと虚無だって言うのも何かの間違い。だって私にそんな力……どこにもないもの……!」

俯いたままのルイズが、右手を取る。

ルイズ「ゴジョーだって……私みたいなやつに召喚されなければ、怪我だってしなかったし……ひっぐ…死にそうになんてならなかったのに……うう”……」

五条「……」

ルイズの涙が一粒、自分の手に落ちる。
体温で温かいはずのその水滴は、酷く冷たく感じた。


ルイズ「あんたも……使い魔じゃなければ……私なんて助ける理由もないわよね……」

ルイズ「ゴメンね……ひっく……ゴジョー……? 召喚してしまって……」



575:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/13(月) 23:46:44.95 ID:gbEecaUc0

自分を責め続ける主人に何と声をかけたらいいんだろう。

そんなことないです?
自分の力を知らないだけです?
貴女がオレの主人だからです?

違う、そんな事じゃない……!

結局のところ、自分が勝手に彼女の為と思ってやってきたことが、彼女には重い鎖になっていた。
ルイズは聡明な人だ。いつまでも頼っちゃいけないと思ったんだろう。


だからこそ、この結婚式に望んだんじゃないのか?
少しでも使い魔の負担を減らそうと思ったんじゃないのか?

だったら尚の事……主人にオレがどう考えているか伝える必要がある。
彼女を縛る鎖を、オレの言葉で取り払ってやらなくてはならない。



577:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/13(月) 23:56:07.03 ID:gbEecaUc0

拳を優しく……コツンとルイズの頭に当てる。
これは自分からのちょっとした罰。

五条「ルイズさん……! 貴女は馬鹿です……!」

ルイズ「……うん」

五条「オレが『使い魔』だから……貴女を助けたと思っているんですか……?」


ルイズ「え……?」


ルイズの頬に手を当て、涙の跡を拭う。

五条「最初は……そうだったかもしれない……! ハルケギニアで暮らしていくため、そして使命感がオレを突き動かしていた」



579:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:02:28.53 ID:BW1OVkWM0

目を少し腫らせたルイズは何を思う?
不安かもしれない。

そんなものはオレが取り去ってやる、純粋に。

五条「でも……今は違う……!」

ルイズの肩に両手を乗せ、しっかりと向き合う。

五条「オレは……オレの意思で、貴女を助けに来た……!」

ルイズ「ゴジョー……」

五条「使い魔かどうかなんて関係ないんです……! 貴族であることや虚無であることもどうだっていい……!」




五条「五条勝は、一人の男としてルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールを助けるためにここにきた……!」


震えるルイズを見つめる。

そして、そっと唇を合わせた。



580:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:03:55.09 ID:eiXnEZcaP

えんだあああああああああああああああああああああああ



581:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:04:05.22 ID:EY/cosPu0

いやあああああああああああああああああ



583:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:06:56.83 ID:kUIKKMdRO

ぅあああぉああああああああぁあああああああぁあああぁ



585:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:13:00.91 ID:715AQFvDO

禁書の方でえんだああああああああああできなかった分えんだあああああああああああああああ



586:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:14:20.36 ID:AoBhv+QgO

いやあああああああああ



588:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:15:19.18 ID:HZDyzyIQ0

えんだあああああああああああああああああ!!!!



589:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:17:31.46 ID:BW1OVkWM0

数瞬のキスの後、ワルドに向き直る。

五条「……ヴァリエールさん、頼っていいんです。オレは貴女を支えるためにハルケギニアに召喚された……!」

ルイズ「……ゴジョー」

五条「負担だなんて、一度も思ったことはありません……これが、オレの生きる道なのですから」

ルイズ「……頼って、いいの……?」

囁くようなルイズの声に、小さく頷く。

五条「頼っていいんです。全部、オレに預けてください……!」

ルイズ「でも……」


五条「貴女が望むなら空だって飛んでみせます」

五条「貴女が欲しがるなら何だってとってきます」


ずっとこれまで共に過ごしてきたボールを床に置く。



五条「貴女が殺せと言うなら神だって殺しますよ」



590:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:18:42.30 ID:pQj3U9Hz0

ぬおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああ



591:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:22:29.43 ID:GmmP1lTQ0

タイトルキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!



593:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:27:33.27 ID:BW1OVkWM0

五条「貴女の声が、オレを……! 強くする……!」

左足のルーンが目映い光を放つ。
昂ぶる感情がそれをさらに増幅させていく。


ルイズ「……」

五条「だから……命令してください……! 貴女の気持ちを踏みにじり……トリステインを脅かそうとする目の前の外道を……!」



五条「倒せと!!」



595:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:43:06.57 ID:BW1OVkWM0

後ろのルイズが立ち上がるのを背に感じる。

すると靴を鳴らし、自分の横に並びワルドに杖を向ける。
その顔にはさっきまでの泣きっ面はない。


ルイズ「ゴジョー……私には、力なんてないわ」

五条「ヴァリエールさん……」

ルイズ「でも、一緒に戦うことは出来るはず!」


ピンク色の主人は、判然と言い放つ。




ルイズ「ゴジョー! ワルドを倒すわよ!!」


この旅は、彼女を少しだけ大きく成長させたようだ。

五条「クックックッ! 了解しました……!」



599:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:56:35.78 ID:BW1OVkWM0

ワルド「ハッハッハッハ! 死ぬ前の、お祈りはそれでいいのかい?」

一人のワルドが笑い声をあげる。

ワルド「その一つしか無い身体でルイズを護りながら、どこまで僕と戦えるのか見物だよ!」

ワルド「どうせお前たちを殺さなければ、僕の目的は果たせない!」

ワルド「せいぜい楽しませてくれよ……!?」


教会の天井から、雲に隠れていた昼下がりの太陽が顔を出す。
と、同時に三人のワルドがこちらに突っ込んでくる。
疾い。
ラ・ロシェールでの決闘以上のスピード。
さらに偏在も本体と変わらない実体を持っている。
うかうかしていたら……やられる。


ゴジョー「……ヴァリエールさん、オレの後ろに!」

向かってくる一人目をボールで迎撃。
輝きを増すルーンは、左足の筋肉を活性化させる。
蹴りつけられたボールは赤い光線をまとい、ワルドの右腕を抉り取る。


ワルド「があっ!?」

椅子に転がり込む一人目。



600:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 01:10:23.37 ID:BW1OVkWM0

ワルド「しかし、まだ二人いる!」

五条「見えてるんですよっ……!!」

直後に軸足を回転させ、キラースライドを腹部に放つ。
磨き抜かれたスパイクが偏在を五度蹴り抜く。

ワルド「ぐ……!」

手応えはある。
だが、もう一人が即座に自分の顔面へ折れ曲がったレイピアを振りかざす。
間に合わない。

回避、不可。
ならば右腕を捨てるのみ。
すぐさま右手を差し出し、頭部へのダメージを防ぐ判断を選ぶ。

ワルド「しねええええ!!」

眼前に切迫する杖を防ごうとしたとき。

ルイズ「練金!!」

突如、真後ろから放たれた爆発が三人目のワルドを襲う。
その威力はフーケと戦ったときよりも大きく、ワルドを二歩後退させる。


ワルド「なんだと……!」



601:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 01:22:40.39 ID:BW1OVkWM0

ルイズ「私だって、戦えるのよ!」

五条「ヒヒヒ……! 息ぴったりですね……!」


ルイズの手を取り、立ち上がる。
はあはあと肩で息をしながら、頑なに杖を握り続けるルイズは頼もしく思える。
だが敵は依然四体。
このままだとジリ貧になるのは目に見えている。

ワルド「やるじゃないか……! 君もあの時が全力じゃなかったと?」

距離を置く一番奥にいるワルド。
恐らく『本体』が人事のように尋ねる。

五条「クックックッ……! あのときはあれで精一杯……! ですが、オレはまだ自分の限界を決めつけてはいない……!」

ワルド「ハッハッハ。まだ、なにか見せてくれるのかい……?」


五条「偏在……! その力、オマエだけだと思ってやしませんか……?」

ワルド「何?」

五条「その程度の能力……! サッカープレイヤーであるオレにとっては、初歩中の初歩……!」


戦き、本体を中心に集まるワルド達。



604:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 01:44:28.74 ID:BW1OVkWM0

ワルド「ま、さか……貴様も……!?」

意識を解放しろ。
自分は此処に存在していて、そしてまた存在していない。

本来ならこの『分身フェイント』、ただ残像で相手を惑わすだけの技だ。
しかし自分は中学に入るまえに、この技の可能性に気がついた。

空間と時間。
一瞬前に立っていた自分と一瞬後に立っている自分。
この時間差(タイムロス)をどこまでも無くしていけば、どうなるのだろう。
横に立っているのは自分。
しかし厳密に言えば時間を切り刻んでいった、限りなくゼロに近いロスで横に立っている自分。

存在していると思い込むことで、個は全に変わり始める。


ルイズ「ゴジョーが……三人……?」

五条「本来なら……ルールで規制されていましてねぇ……!」

五条「あまり多用は出来ないんですが……!」

五条「仕方ないでしょう……!」


先ほどのワルドのように言葉を区切り、ワルドに宣言する。

五条「「「オマエに手加減は……してやりませんよ……!!」」」



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         コメント一覧 (2)

          • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2010年12月19日 16:42
          • 胸熱
          • 2. ななし
          • 2011年01月02日 15:22
          • 五条さんが男前すぎてどきがむねむねする

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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