五条「貴女が殺せと言うなら神だって殺しますよ」3

1:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/14(火) 02:16:09.83 ID:BW1OVkWM0

稲光が四つ。
真っ白な光が走る。
それは自分にはちゃんと見えている。

しかし、視認したときにはもう遅い。
不可避の電撃が自分の全身に食らいついてくる。
焼けつく肉と骨が悲鳴を上げ、筋肉が電気刺激を受け意思とは関係なく痙攣する。
永遠の様に続く激痛とともに目の前が真っ白になる。

五条「があああああああああ!!!」

でたらめに破壊される内臓。
ぶくぶくと沸騰する血液。

何も聞こえない。
鼓膜すらも焼け付いたか。

そして再び心臓は鼓動を止める。


ルイズ「ゴジョー!!!」



最後に響いたのはやはり、主人の叫び声だった……



3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 02:18:48.87 ID:nPmtuLEv0

スレが落ちてる間に何があった



4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 02:20:09.85 ID:x7Q7We+90

いきなりごじょーさん直撃しててわろた



5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 02:20:15.04 ID:N/qnmqg10

おいおい急にわからなくなったぞ



6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 02:22:19.28 ID:0HYa/Ts1O

どうしてこうなった



7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 02:22:20.66 ID:4NAxcnsd0

!?



8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 02:23:10.16 ID:HfiGZthf0

ちょwwwwwwwwwwww
ええええええええええええええええええええええええええ



10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 02:30:03.93 ID:BW1OVkWM0

ワルド「……ふ。フフフ!! ハッハッハッハ!!!」

ワルド「死んだ!! ルイズ!! お前の使い魔は死んだぞ!! ハッハッハッハ!!」

ワルド「これで再び僕のものだ!! 虚無も!! ウェールズの命も!! そして世界もだ!!」


高笑いを続けるワルドの後ろから、音もなく近づく。



五条「そっちは……!」

五条「分身ですよ……!」


ワルド「……!?」

咄嗟に振り向いたワルドの顔面に、自分の蹴りが入る。
首の骨をへし折られ、力なく倒れるワルド。
しかしそれは偏在だったようで、煙のようにふっと消え去る。

ワルド「な!!!?」

それとほぼ同時、背後にいるもう一人の自分がボールをゴムの様に歪ませ、蹴り込む。


五条「『分身ペンギン……!』」



12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 02:43:45.92 ID:BW1OVkWM0

教会の床を削りとりながら、推進力を得たボールは目標に向かって只管突き進む。
飛び散る床板。
吹き飛ぶ椅子。

ペンギンたちは我先にと、爆発を心待ちにし、ワルドの肋骨を破壊する。

五条「爆ぜろ……!」

ワルド「うごぁぁぁ!!?」

爆発を全身に受け、壁に叩きつけられるワルド。
だらしなく舌を口から出し、そのまま煙になり消え去る。
はずれ、か。

五条「クックックッ…アーッハッハッハッハ!! どうにも……この手の物の当たりを引くのは苦手でしてね……!」

五条「また偏在を引き当ててしまいましたか……!」

ワルド「き、さま……!」

五条「しかし残るはあと二匹……!」

五条「確率は二分の一ですねぇ……!」


ワルドは自分から恐れるように、身を離す。
恐怖が心を支配していくのが手に取るように分かる。
それを見て快感を覚える自分は……
戻っているんだろう、力で相手をねじ伏せていたあの頃に。



13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 02:54:06.89 ID:BW1OVkWM0

五条「ああ、しかし一匹は腕が無くなってしまっている……!」

五条「これではどっちが本体か分かってしまいますね……!」

一歩ずつ追い詰める様に二人の自分がワルドに近づく。
ゆっくりと、逃さぬように。

五条「これでわかりましたか……?」

五条「どちらが『狩る側』で……!」

五条「どちらが『狩られる側』か……!?」


一匹のワルドが壁際からスペルを唱え始める。
悪あがき……もうワルドに逃げ場なんてどこにもない。


ワルド「エア・スピアー!!」

空気の槍が自分に向かって飛んでくる。
それを陽炎のように躱す。

五条「遅い、遅い……! 集中が足りないですよ……!」



18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 03:12:00.79 ID:BW1OVkWM0

ワルド「く、来るな!! エア・ハンマー!!」

今度は空気の槌。
無音で振りかざされるそれを、空気の刃でかき消す。
なんてことはない。
ただ左足を上に振り回しただけだ。
しかし今の自分ならば、それすらも武器になる。

ワルド「そ……そんな……! あり得ない……スクウェアクラスのこの僕が……!」

五条「スクウェア……? クックックッ…アーッハッハッハッハ!! そんなものハルケギニアで定められた基準……!」

五条「アウトサイダーであるこのオレが、そんなものさしで図れると思っていたのですか……!?」

再び、あの仮面を付ける。
感情を悟られないように、冷徹になるがための笑顔。


ウェールズ「あ、悪魔のような強さだ……!」


先程まで静観していた皇太子が思わず口にする言葉。

悪魔。
その通りだ。
自分はワルドを地獄の釜から逃げ出さないように……二度と出てくる事の出来ない深淵へ叩き落す役。
そのためならば悪魔にだってなろう。



19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 03:30:15.73 ID:BW1OVkWM0

ワルド「き、き、消えろ!! エア・ストーム!!」

ルイズ「……!」


最後の悪あがきか。
決闘で使われた、無差別に周りを巻き込み吹き飛ばす風のトライアングルスペル。
それも、もうただのそよ風同然。
集中力を失った片腕の偏在が使う魔法など、この足を振るうまでもない。

こちらに向かってくる竜巻を前に大きく息を吸い込む。

五条「……へぇあっっっっっ!!!」

気合と共に吐き出された声で、魔法をかき消す。
再び教会内は静けさと緊張が張り詰める。


ワルド「……あ、あぁ……!?」

五条「無駄ですよ……!? 偏在ももういらないでしょう……?」

もう一人の自分がワルドの前に立つ。
左足を後ろに振りあげて……

ワルド「や、やめ……!」

ガクンともゴキンともつかぬ、生々しい骨の折れる音が響く。



21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 03:43:54.30 ID:BW1OVkWM0

誰も声を上げない。
魔法が解かれ、元の風に戻る偏在を見て悲鳴すらも飲み込んだのだろう。
そんな沈黙を打ち破る、自分のスパイクの金属音。
分身を解除し、一つに戻る身体。

五条「ワルド……慈悲深いオレはオマエに二つ……! 選択肢をあげましょう……!」

ワルド「……!」

ゴクリと唾を飲み込むワルド。

五条「黙って杖を捨てて投降するか……」

足元のボールを前に転がす。




五条「此処で死ぬか、だ……!」



22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 04:02:02.92 ID:BW1OVkWM0

ワルド「ふ、ふふ……ゴジョー、貴様の勝ちだ。それは甘んじて認めよう……!」

乾いた笑い声を出し、服についた埃を払う。
何か、思案している顔だ。

五条「……」

へたりこんでいたワルドはゆらりと立ち上がり、こちらを見据える。
しかし杖を離さず、敵意を向け続けるその目には自分が映りこんでいる。

ワルド「だがその選択肢は……僕には選べないな……」

五条「……では、答えは一つですね……!」

左足でボールの感触を確かめる。
明確な殺意をもってワルドの息の根を止めるために。


ワルド「ああ……! こうすることが僕の答えだ!」

ボールを蹴りだそうとしたとき、ワルドは姿を消した。

真横にいたウェールズの背に回りこみ、懐からナイフを取り出して首もとに当てる。
右手は杖を構え、ルイズに差し向けている。



24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 04:15:44.89 ID:BW1OVkWM0

ウェールズ「き、貴様……!」

拘束され身動きの取れない皇太子。

ワルド「動くな!」

ルイズ「やめなさい!! そんな事をしても貴方の負けは決まっているのよ!!」

ルイズがワルドに向かって叫ぶ。

ワルド「おっとルイズ……! お前もだ、既にスペルは唱え終えた! それにお前の魔法では皇太子も巻き込まれるぞ!?」

ルイズ「くっ……」

杖を下ろすルイズ。
皇太子を刺される訳にはいかない、そう考えてだろう。



五条「……一番愚かな選択肢を選ぶ……いつにおいても痴れ者はそうだ……」

ワルド「なんとでも言うがいい……だが僕がレコン・キスタである限りは、目的を果たさず死ぬわけにはいかない!」

五条「たとい……ウェールズ皇太子を殺し、ヴァリエールさんをその杖から放たれる魔法で殺したとしても、お前の死は確定的ですよ……?」

親指で首を切っ裂く仕草を見せ、ワルドに警告する。

五条「それでも、構わないと……?」



25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 04:31:53.23 ID:BW1OVkWM0

ワルド「ああ……僕が此処に来た目的は三つあった……!」

五条「……」

ワルド「一つは王党派を指揮する実質的権限を持つウェールズの暗殺」

ワルド「二つはアンリエッタから送られた手紙を奪い、トリステインとゲルマニアの同盟を破棄させること」

ワルド「三つは……そこにいるルイズの虚無の力を我が物にすることだ……!」


憔悴し、掠れた声でワルドはそう告げる。
三つの目的……
そのためにワルドは策を練り、一度は自分からルイズを引き離す事に成功した。
自分がここにいなければ間違いなく目的は全て遂行されていただろう。

ワルド「ゴジョー……! フーケの言うとおりだったよ……!」

五条「……」

ワルド「貴様さえ……貴様さえいなければ、何も問題は無くこの旅は終わっていたはずだった!!」

五条「クックックッ……! つくづく犯罪者から嫌われてますねぇ……! オレは……!」

ワルド「しかし、僕はフーケとは違う……! 殺されようとも、このウェールズの生命だけは貰っていく!!」


ワルドの左手にあるナイフがウェールズの首に僅かに刺さり、真っ赤な血が流れ落ちる。



27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 04:44:00.88 ID:BW1OVkWM0

五条「最後通告です……ワルド……!」

ワルド「……!」


目をギロリと開き、自分に視線で警戒するワルド。
必死でナイフから離れようとするウェールズ。
隙を伺い、ワルドに魔法を放とうとするルイズ。

自分を中心として三人が空気を微動させた。
それは肌を伝わり、眼鏡を鼻先へと落とす。

ため息を一つつき眼鏡を持ち上げ、ワルドに宣告する。








五条「『やめておけ』」



30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 05:05:39.09 ID:BW1OVkWM0

ワルド「……その通告は聞けない……! なぜならば僕はもう心に決意しているのだから!!」

ワルドの杖先に感じる魔力。

ワルド「死ねぇぇ! ウェールズ、ルイズ! エア・カッター!!」

収束していく空気は、ルイズの胸を貫くために刃と化す。
ナイフはウェールズの頸動脈を引き裂こうとし、皮膚の中に差し込まれつつある。

もう後には引けない。
ここで止めなければ、二人は死ぬ。


ルイズ「ウェールズさまっっっ!!!」

間延びして聞こえるルイズの声。
時間の感覚が徐々に遅くなっていく。
脳内が高速にクロックアップしているのではない。

自らの能力で時間軸に直接干渉することで、とどまる筈のない時間の川がその流れをせき止める。

空間はコマ送り再生から停止に変わり、音もまたその動きを止める。




五条「『ヘブンズ・タイム……!』」



31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 05:20:03.43 ID:BW1OVkWM0

五条「時間よ、狂え……! 純粋に……!」

教会内は薄暗くなり、発動成功を自分に教えてくれる。

空気の刃はルイズの顔前で止まり、それ以上動こうとしない。
ウェールズの鮮血は空中で浮いたまま、落下『できない』。

数歩歩み寄り、ナイフをワルドの手から外し、皇太子を安全な場所に移動させる。
次にルイズを助けるため振り向いた。

今、この空間で自由に動けるのは自分だけ。
それが能力の制約、そのはずだった。


ルイズ「ゴジョー……?」

暗い教会内で聞こえるはずのない声が自分の鼓膜を叩く。
なぜ……?


五条「……馬鹿な……!?」



33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 05:40:05.87 ID:BW1OVkWM0

動けるはずのない世界を動く主人の姿。
エア・カッターの横を通りぬけ、自分の元に来るルイズ。
今までこの能力で自分以外の『何か』が動くことなどなかった。

音も物体も皆等しく、せき止められた時間には逆らうことが出来ない。
神であろうと、今この瞬間のみは自分を観察することは出来ない。
それがこの『ヘブンズ・タイム』の能力だった。


ルイズ「これは……どういう事……? なんで、全部止まっているの?」

訳がわからず、子どものように質問を投げかけてくるルイズ。

五条「ク……クックックッ……! まさか、使い魔のルーンは……異界の能力にすら干渉してくる……!?」


普段はガンダールヴの能力発動中も点滅を繰り返すルーンが、輝きをやめようとしない。
痛いほど輝きを増すばかりの刻まれた紋章を見て、そう確信する。
神の盾は神を守るだけでなく、止まった世界を共に動くことも許したというのか……?

何たる誤算。



34:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/14(火) 05:53:36.69 ID:BW1OVkWM0

すんません、そろそろ脳味噌が悲鳴を上げ始めました
頭を冷やすためにも一旦睡眠が欲しいです

相変わらずのクソ切りの悪いところでのストップですが、どうか許してください

昨日のブレーキがなんだったのかと思うほど、話の動かし方が分かってきたので未完にはならないはずです


我儘承知で保守をお願いできませんでしょうか……?


明日は……少々私情が立て込んでいるので長くは投下出来ないと思いますが
なんとか2時ごろには投下出来るように最大限の努力を致します


重ね重ね、読んで頂いてる皆様ありがとうございます!!



36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 06:02:27.38 ID:yXZTQIQiO

>>34
乙、そして休め…純粋に。



85:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/15(水) 02:34:19.53 ID:B0lsZUFo0

ルイズ「これがゴジョーの本当の能力なの……? 」


音のない教会でルイズの高い声は停止すること無く、発動者である自分に届く。
それこそが彼女と自分との見えぬ繋がりの証明。
引き付けあう磁石のように、自分たちを離さない。


五条「能力……確かにそうですが、少し語弊がある……! 正しく言えば脳の力……! 『脳力』の解放……!」

人差し指でカツカツとこめかみを叩く。

ルイズ「脳力? 頭の中の力ってこと……?」

五条「そうです……ヴァリエールさん、走馬灯というのをご存知で……?」

ルイズ「死ぬ直前に自分の人生を振り返るってやつ?」

五条「ええ、だが走馬灯は別に人生を振り返り後悔するためにするのではないんです……!」

剥がれた床板がスパイクに当たる。



87:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/15(水) 02:42:28.80 ID:B0lsZUFo0

五条「人間の脳は……優秀なものでしてね。それまで生きてきた経験の中から、目の前に迫る『死』を避けようと、取捨選択しているわけですよ。普段では考えられないスピードで、助かろうと足掻くんです……!」

ルイズ「……」

五条「しかし、突然引き上げられた脳の思考速度に身体は……当然ついて来ない。まあ稀に、そのスピードについて来られる人もいます。そのおかげで生き残った人間は、それを火事場の馬鹿力と言いますが……!」

ルイズ「相変わらず回りくどい説明ね……」


しかめっ面をして自分を睨む。
唇を合わせたときの純情さは、爆発によってどこかへ遠くへ飛んでしまったようである。


五条「クックックッ……! 時間はもう少しだけあります……止まった時の中で時間があると言うのもおかしいですが……!」

ルイズ「いいから教えて!」



89:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/15(水) 03:00:18.86 ID:B0lsZUFo0

五条「……つまり故意に走馬灯現象を状況を引き出し、その脳のスピードに身体もついてこられるようにしたのが……『シグマ・ゾーン』」

ルイズ「それがあんたの『脳力』であり『能力』である、ってこと……?」

五条「グフフ……しかしこの能力は自分の秘技の内、表の技です。これを動とするなら今発動中の能力は静……!」


そう、シグマ・ゾーンはヒトの技。
侵してはならない神の領域には到達していない。
その証拠に、脳の高速回転を多用すればすぐにシナプスは焼けつき、筋繊維は千切れてしまう。
地球にいたときに比べ、ルーンで強化された身体にはそれ程負担はかからないとは言え、常に発動し続ければ生命に関わる。

シグマ・ゾーンを使っている内はまだ自分は人間でいられる。



しかしヘブンズ・タイムは違う。



90:ごめんなさい、誤字りました:2010/12/15(水) 03:02:13.13 ID:B0lsZUFo0

五条「……つまり故意に走馬灯現象を引き出し、その脳のスピードに身体もついてこられるようにしたのが……『シグマ・ゾーン』」

ルイズ「それがあんたの『脳力』であり『能力』である、ってこと……?」

五条「グフフ……しかしこの能力は自分の秘技の内、表の技です。これを動とするなら今発動中の能力は静……!」


そう、シグマ・ゾーンはヒトの技。
侵してはならない神の領域には到達していない。
その証拠に、脳の高速回転を多用すればすぐにシナプスは焼けつき、筋繊維は千切れてしまう。
地球にいたときに比べ、ルーンで強化された身体にはそれ程負担はかからないとは言え、常に発動し続ければ生命に関わる。

シグマ・ゾーンを使っている内はまだ自分は人間でいられる。



しかしヘブンズ・タイムは違う。



93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 03:32:16.90 ID:B0lsZUFo0

五条「ヘブンズ・タイムはオレにとっても禁忌……封印した技でした……」

ルイズ「……どうして? この能力があれば今までの戦いだって簡単に勝てたでしょ……?」

ふと、目線を握りしめた拳に向ける。


五条「オレはまだ……人で在りたかった……!」


この技は帝国で敵を蹴散らしていた時ですら……一度しか使ったことはない。

音のない時間の止まった世界で一人、相手を葬り去ることの恐怖。
人として踏み入れてはならない世界で、神の手からも離れる能力。

届くはずのない時間軸に触れることが出来たとき、自分の背中には十字架が背負わされた。
心をもった生き物には耐えられないこの空間は、自分には重すぎる。
周りは皆、自分を感情のない機械のようだと言うがそんなものまやかしにしか過ぎない。
僅かばかりでも心に憐憫をもっていれば、この空間は獰猛な生き物に変わり精神を蝕んでいくことを知った。
だからこそ封印したのだ。
人であるために。



……心を捨てぬ限りは、ヘブンズ・タイムは使えない。



96:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 03:58:18.64 ID:B0lsZUFo0

五条「人を人で無くしてしまう技なんです……! これは……!」

ルイズ「え……?」

五条「だからこそ……神は人に時間を操ることをさせなかったんでしょう……!!」

ルイズ「ゴジョー……!?」

五条「食べてはいけない禁断の林檎……!! それがこのヘブンズ・タイム……!!!」

ドクンと心臓が高鳴る。
痛い。これまで受けてきたどんな肉体への痛みよりも鋭く、心を切り裂く。
ゆっくりと消えていく感情。



五条「誰にも見せたくなかった……!!!! ルイズさん……一番貴女に見せたくなかった……!!!!!」



震えが止まらない。
此処から先は自分でもどうなってしまうか分からないのだ。
前回発動の時は能力解除が早かったから……自分に戻れた。
こうなる事を覚悟して使ったはずだったが、最も近いところで変わっていく姿を見られることは誤算……!



五条「神がいるとしたならば……! オレは……オマエを呪う……!!」



98:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 04:23:47.52 ID:B0lsZUFo0

五条「一人で『終わらす』と、決意したはずだ……! なのに何故こんな仕打ちをする……!!?」

ルイズ「ゴジョー……!? どうしたの……?」

五条「……ルイズさん……! 離れてください……! もう……時間がない……!」


全身から止めどないほどの力が沸き上がってくる。
しかしそれと同じくして心臓は温度を奪われ、凍りついていく。

ルイズ「ゴジョー! だめ!! そんなのだめ!! アンタが人じゃなくなるなんて……そんなの嫌よ!!」

自分の異変に気づいた主人が腕に縋りつく。
しかし変化していく身体の氷のような冷たさに、思わず手を引く。

ルイズ「冷たい……!?」

五条「もう後戻りは出来ないんですよ……!」


暗がりは徐々に光を取り戻していく。
せき止められた時間の川は再び、一方向へと流れだそうとする。
空中の鮮血は、停止からコマ送りに移りゆき地面へと近づく。

ヘブンズ・タイムから時間が解き放たれつつあるのを、残り少ない意識で感じる。



100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 04:39:13.26 ID:B0lsZUFo0

五条「過ぎたる力は……身をも滅ぼす、か……! 痛みを伴うことでしか……人は理解出来ない」

空間にヒビが入る。

ルイズ「いやっ!! やめてゴジョー!!」

五条「……」

人の暖かさを失った右手でルイズを押す。
ほんの少しの力で押したはずが、彼女は地面を擦り壁際まで飛ばされる。
力が制御出来ない……

ルイズ「きゃ……!」


剥がれ落ちていく暗闇。
消えていたはずの音が動き出す。
ワルドの叫び声が教会内を跳ね返り、全体に響かせる。



五条「ルイズさん……! オレから『最後』のお願いがあります……!」



103:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 05:11:44.05 ID:B0lsZUFo0

ルイズ「最後……!? いやっ、そんなの聞きたくない!!」

五条「自分勝手な使い魔からの最後の頼みです……」

ルイズ「聞きたくない! 聞きたくない! そんなの絶対にいやよ!!」


駄々っ子の様に頭を振り、拒絶し続ける主人を見るのはつらい。
だが、ほんの僅かな心に彼女を焼きつける。
本当は笑顔の彼女がよかった、と柄にもないことを思う。


五条「なんとか、能力が終わるまで……心を持ててよかった……!」


引きつる顔面を何とか笑顔に変える。


五条「今からオレは……ただの機械になってしまうでしょう……目標を殺すためだけのキリング・マシーンに……!」


時間内にワルドを殺さなかったのには、理由がある。
発動と同時に心を貪り尽くす闇が、アイツには止まった世界で死ぬことも生ぬるいと耳元で囁いたからだ。
命令を拒否する権限は自分にはなかった。
最優先事項。
『殺せ』と。
理性とは別の部分が肯定するのを止められない。



105:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 05:28:59.04 ID:B0lsZUFo0

ルイズ「ダメっ!! 命令よ!! そんなのやめて!!」

五条「ヒヒ……出来れば従いたかった……その命令には……!」

ルイズ「ゴジョー!! 心を強く持って! 負けちゃダメ!!」

五条「……」

ルイズ「アンタは私を守ってくれるんでしょ!? 頼っていいんでしょ!!? 約束したはずよっ!!」

ルイズ「私が望むなら……! 神だって殺すって言ったじゃない……!」


ルイズの姿がぼやけていく。
消えてしまう……


ルイズ「支えてくれるって……言ったじゃない……」



106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 05:43:26.47 ID:B0lsZUFo0

「……グラモンさん、ツェルプストーさん、タバサさんともっと話したかった」


「……もっと魔法学院の皆さんと過ごしたかった」


「……サッカーをもっとたくさんの人に知って欲しかった」


「……貴女の笑う顔をもっと見たかった」


「……貴女の嬉しそうな顔をもっと見たかった」


「……貴女の楽しそうな顔をもっと見たかった」


「……貴女の成長する姿をずっと見守りたかった」


「……貴女を傷つける者から護り抜きたかった」




「貴女の傍に」

「ずっと一緒に……! いたかった……!」



111:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 06:04:12.88 ID:B0lsZUFo0

「いかないで……そんなの許さないわ……ゴジョー、お願い……」


言わなくても彼女には伝わってしまっていた。
この数瞬後、自分は遠くに居なくなってしまうことが。
左足のルーンが段々と薄れていく。


オレとルイズの最初の繋がりが、光を失っていく。


「目を瞑っていてください……それだけが、唯一の願いです」

「ゴジョー、嘘よ……こんなの嘘……!」


視界がモノクロに変わった。
それが二人だけの世界に、終わりを告げる合図だった。
ガンダールヴのルーンは役目を果たしたかのように、最後に流れ星のような煌きを見せ、左足から消えた。



「さようなら……『ルイズ』」




止まっていた時は、再び動き出した。



115:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/15(水) 06:35:47.96 ID:B0lsZUFo0

今日はここまでです。なんかホントにあんまり投下出来ませんでした

実を言うと、ここで「たったひとつの冴えたやりかた」編は終わらすつもりでした、つい十秒前まで

……が、余りにもそれはツマランと思ったので、もう少しだけ本編は続けようと考え直した次第であります



相変わらずの適当っぷりですが、どうかお許し頂きたいです


明日も投下します、それでこの編は終わりだと思います。
多分……きっと、なにかとんでも無い展開が思いつかない限りは……

そこで一区切りになるだろうと思っていただいて構わないです


皆さんの保守のお陰でなんとか自分は続きを書くことが出来ています
本当にありがとうございます!

また、読んで頂いてる皆様も本当にありがとうございます!



148:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/16(木) 02:43:42.72 ID:xpgx4RXl0

ワルド「ーーーーー!! ……はっ?」


ワルドが左手を上から下へ振り下ろす。
しかしそこにはウェールズどころか持っていたはずのナイフすらない。
同時に破壊音。
誰もいない椅子を空気の刃が椅子を木っ端微塵に壊す。

ワルド(な……んだ……? どういう……事だ……?)


状況を理解できないワルドは呆然と立ち尽くす。


五条「ワルド……オレは忠告したはずだ……」


ワルド(何故……ウェールズがいない!? エア・カッターはどうして外れた……!?)


五条「やめておけ……と」



149:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/16(木) 02:57:19.01 ID:xpgx4RXl0

歩くたび存在していた空間が揺らめき、なんとかその形を整えようとする。


ワルド(それに……こいつは誰だ……!? ゴジョー? 違う、姿形はそのままだが……)


五条「こうなったからには……楽に死ねると思うな……」


白黒の世界はよく見える。
カラーだったときの数千倍は鮮明に、相手の挙動が手に取るように分かる。
これが感情をなくした世界。

ワルド(この……禍々しい「圧」……! 対峙するものを……皆葬り去るような……殺意……!)


ようやく今目の前に立っているのがどんなものか分かり始めたらしい。
恐怖に震える唇で、魔法を詠唱しだす。



五条「生まれてきたことを後悔させてやる……! 純粋に……!」



150:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/16(木) 03:12:55.01 ID:xpgx4RXl0

ワルド(死ぬ……殺らなければ……殺られる……!)


がくがくと照準の定まらぬ杖を自分の胸に向ける。
怯えてはいるが、まだ戦意を喪失してはいない。
そうだ……そのために、オマエを生かしておいた。

死ぬことの恐ろしさを叩き込んでからじゃないと、殺さない。


五条「やってみろ……ライトニング・クラウドだ……!」

ワルド「……な」

五条「もう他の魔法は効かないことが分かっただろう……! オマエに残された魔法はそれしかない」

ワルド(コイツ……正気か? いや、だが……今この目の前の『モノ』に当たるのか……? 効くのか……?)


眼球を忙しなく動かす。
ワルドの動揺は、もう深い部分まで浸透している。



五条「撃たないのならそれはそれでいい……!」


『硬く』握り締められた拳を差し出す。



151:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/16(木) 03:28:02.14 ID:xpgx4RXl0

五条「先にこの拳が顔面に当たるだけだ……」

ワルド(遊んでいる……!? いや、測っているのか……僕の実力を……)


ワルドの十八番、高速詠唱が始まり、瞬時に魔力が杖に集まっていく。
二歩引いたその背中にステンドグラスの光が当たっているはずだ。
もう自分には分からないが……


五条「そうだ……それならオレを……殺すまではいかぬとも、傷ぐらいはつけられるかもしれない……!」

ワルド「なめるなよ……! この電撃は貴様の心臓くらい……」

五条「止められる……か? だったら撃ってみろ……!」


杖先からほとばしる小さな稲妻。
詠唱完了の合図だろう。
腹の奥からワルドの咆哮が飛び出す。




ワルド「ライトニング・クラウドっっっ!!!」



154:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/16(木) 03:53:16.25 ID:xpgx4RXl0

自分の心臓を止めた閃光がみたび、眼前へ迫り来る。
一度はラ・ロシェールでの決闘で背中に受け、再起不能にした。
二度はこの教会で四人のワルドが放ち、分身の身体を粉々にした。

不可避と思えるこの稲妻も、今の自分ならば簡単に避けることはできる。

しかし敢えてしない。

ワルドのプライドも生きてきた経験も既成概念も全て破壊するために。
この魔法を受ける。


五条「……」


稲妻は前に出された拳を伝い、心臓までノータイムで到達する。
バチバチとはじける音を出しながら「生命」を奪おうと全身に駆け巡る。


しかしこの冷たい心臓はワルドの魔法では鼓動を止めない。
静かに波を繰り返し、凍った血液を躯に送り続ける。

スパイクから床へ流れだした電撃は埃と木屑を巻き上げる。

そして小さな光を出したと思うと、緩やかにエネルギーの放出を終える。



五条「終わりだ……ワルド。この教会がオマエの人生の終着点だ……!」



156:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/16(木) 04:09:20.63 ID:xpgx4RXl0

ワルド「あ……あぁ……ああ……! なんで……」

尻餅をつき、後方へ後ずさりするワルド。

それを大股で近づき、左手で襟首ごと持ち上げる。


五条「逃げ場なんてどこにもない……!」


首を必死に振り、逃れようとする姿には何の感慨も湧かない。
ただ機械的に行うだけだ。

ワルド「い……いやだ……! 死にたくない……! 死にたくない!!」

五条「死にたくない……? クックックッ…アーッハッハッハッハ!!」

ワルド「助けてくれ……! ゴジョー!」

五条「……オマエはレコン・キスタだろう……? 死んでも……敵と刺し違えてみせろ……!」

ワルド「ひっ……!」


空中にワルドを放り投げる。
三メイルほどの高さから重力に従い落ちていく敵。
連続写真の様に残像が、網膜へ残る。



157:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/16(木) 04:28:21.71 ID:xpgx4RXl0

その身体へ即座に距離をつめ、左手を前に出す。
虚空で膨れ上がる右肩の僧帽筋。それに伴い、大きくなる右腕。
振りかぶられた右拳が端正な男の顔へめり込んでいく。

ワルド「ごはっっ!!!」


砕ける頬骨。
折れる前歯。
飛び散る血。

慣性に逆らわずワルドは教会の壁に叩きつけられる。
硬いはずの壁に蜘蛛の巣のようなヒビが入り、ズルリと床に落下するワルド。

衝撃によって内臓が破壊されたのか口から大量に吐血する。

ワルド「お”あ”あ”ぁぁ……」

ヒュルヒュルと消えそうな呼吸を続け、生にしがみつく。
既に杖を握る力などない。




五条「まだ死ぬなよ……? これぐらいでは、まだオマエには足りなすぎる……!」



160:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/16(木) 04:44:15.98 ID:xpgx4RXl0

ワルドに近づいていくスパイクの音。
なんのことはないその音すら奴には死へのプレリュードに聞こえるはずだ。

ワルド「くる……な……」

五条「……」

何も言わず、ワルドを壁に標本の如く磔にする。

ワルド「あ、あひゃまる……から……」

五条「謝る……?」

ワルド「ぼく…が……まひがっていた……! ひゃから……ゆるひ……」


右膝をワルドの胸に押し付ける。
簡単にへし折れるワルドの肋骨。


ワルド「があ”あ”ぁぁぁっっっっ!!」

五条「そんな命乞いが通じると思っているのか……?」

吐き出される血が床に滴り落ちる。

ワルド「も”う……や”べで……ぐれ”……!」



162:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/16(木) 04:58:28.28 ID:xpgx4RXl0

五条「言ったはずだ……ワルド……楽に死ねると思うなと……!」

ワルド「あ”ぁぁ……もうひやだ……! ころひてくれ……! い”だい”……からだがぁ……」


倍に膨れ上がった顔面から涙を流し、口から涎を垂らす男。
ふいに聞こえる水音に下を向くと、ワルドは失禁していた。


五条「……」

右腕を可動範囲とは逆に曲げる。
いとも容易にそれは自分の力に従う。

ワルド「ぎゃあ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁぁ!!」


虫の息だと思っていたワルドの喉から断末魔の叫びが上がる。


五条「何故こうなったかわかるか……?」

ワルド「……ころ”ぜ……!」

五条「ああ……当てたら……殺してやろう……!」


冷たい微笑みでワルドに答えてやる。



164:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/16(木) 05:19:51.57 ID:xpgx4RXl0

五条「ただし……一回外す毎にオレの拳がオマエを断罪する……!」

ワルド「ひょ……ひょんな……」

五条「これはゲームなんかじゃない……! オマエに罪を刻みこむ裁判だ……!」


青ざめていくワルドの顔。
しかし答えなければもっと陰惨な拷問が続くことを本能的に理解したんだろう。

首は縦にしか振れなかった。


五条「答えろ……!」

恐る恐る、口を開く。

ワルド「ぼ、ぼくが……ひきょうな……ことをひたから……?」

五条「違う……!」

拳が腹を抉る。
それを右に左に回転させ、内臓を痛めつける。

ワルド「お”お”お”ぇぇぇ!」



飛び散るワルドの血と吐瀉物。



167:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/16(木) 05:35:34.73 ID:xpgx4RXl0

五条「解答権は……あと二回だ……!」

ワルド「も”う”……や”めひぇぐれぇっ!」

五条「ならば、全身の骨を一本ずつ折っていくだけだ……!」

ワルド「ルイズぅぅぅ! たひゅけでぐでぇぇ!!」


婚約者だった人の名前を叫び、助けを乞う。
必死に前に出すその左手の中指を曲げる。


ワルド「あ”……! があ”あ”あ”っ!」

五条「余計なことを喋るな……!」

ワルド「わ”、わかった……! こたひぇるから! 骨を折らないで……!」

震えることさえしなくなったワルドの首からを依然左手を離さず、回答を促す。

五条「言え……!」

ワルド「と、トリステインの国家転覆を……くわだてひゃから……?」


また、間違えた。
この男は何故今自分にこんな事をされているかすら分からないのか?
ここまで自分にさせた理由が見えていないのか?



169:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/16(木) 05:54:45.59 ID:xpgx4RXl0

五条「外れ……だ!」

殴られた左頬と反対。
右頬に向けて拳を振りかぶり、硬いそれを放つ。
ゴキンと砕ける音が響くがワルドは何も言わない。

あまりの痛みに失神したワルドは泡を口から出す。
その姿は醜く、直視に値するものではない。
しかし苦痛から逃れることなど、自分が許すわけがない。
意識が無くては意味が無いのだ。この男に与える罰は。


五条「偏在のように消えることは出来ない……オマエの罪は……!」


『右足』でワルドの足を踏みつけ、グリグリと捻る。
甲の骨は割れ、皮膚から突き出るとともに靴から赤い血が流れ出る。

五条「起きろ……!」

ワルド「……あ”! あぎゃあああああああ!!」

五条「さあ……ラストチャンスだ……!」

ワルド「じぬ”ぅ! いだい”っ! わ”がらない”です! ゴジョー様! どうかお許ひを!!」


左腕を顔の前に持ってくると、ワルドは懇願する。
断罪者に許しを乞う。



171:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/16(木) 06:09:56.27 ID:xpgx4RXl0

五条「駄目だ……!」

冷たく一刀両断する。
そんなもので許される事ならば、最初からしていない。
四面楚歌。
この裁判から抜け出す術はない。
ただ一つの方法を除いて。

五条「オマエが答えない限り、この裁判は永遠に終わらない」

ワルド「な”ん”へっ! ぼう”じゅう”ぶん”ひたみはあひまひた!」


喋るごとに口から血を撒き散らす。
破壊された顎で話す言葉は、介するのに少し時間がかかる。


五条「……オマエが満足しても、オレはまだ納得していない……!」

ワルド「……あ”あ”……!」


終わらない悪夢に壊されていくワルドの心。
それは髪の毛に如実に現れていた。
艶やかだった灰色の髪は真っ白に変わり、少しづつ抜け落ちていく。



172:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/16(木) 06:27:06.32 ID:xpgx4RXl0

五条「よく考えて……答えろ……?」

ワルド「あ”がが……」

五条「これで判決は下される……」

ワルド「ひゅー……ひゅー……!」

五条「言ってみろ、何故オマエはこうなった……!?」


痙攣し始めるワルドの身体。
激痛による死は近い。
だが、終わるまでは死なせない。


ワルド「わ……わだくひが……あ”なだざばの……しゅじんを……うばお”うとじたがらでず……」

聞き取れぬほど小さな声で、そう言うワルド。
瞼は閉じられ意識は薄弱してきている。

五条「……おしかったが……外れ……!」

ビクンと跳ねる血塗れの身体。
死への恐怖と死ねることの幸福。
それが混濁しながら頭の中を支配していることだろう。


五条「裁判は終わりだ……!」



173:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/16(木) 06:48:21.58 ID:xpgx4RXl0

ワルド「じゃ……じゃあたひゅけて……!」

瞼が上がり、その目で自分の顔を見つめる。
ほんの僅かな生への希望が窺える。
煉獄の終了を告げる声がさぞ、心地良く聞こえたからか。

しかしそんな甘い話があるわけがない。
首を左右に振り、否定する。

五条「判決は……『死刑』だ……!」

ワルド「え……?」

五条「冥府への手向けとして……教えてやろう……!」

ワルド「なんへ……! や……やめへ……!」

五条「オマエがこうなっているのは……! 他でもない……!」


躯から黒い力が噴出し、最後の一撃へ備える。
心に決めておいた『左足を使わない』こと。
それが……勝手なルイズへの誓約。
ルーンがあったこの足を、汚い血で汚したくはなかった




五条「無垢な我が主人の心を弄んだだけでなく……私欲のために利用し、心に傷を負わせたことだ……!!」



174:さーせん、ミスりました:2010/12/16(木) 06:49:46.14 ID:xpgx4RXl0

ワルド「じゃ……じゃあたひゅけて……!」

瞼が上がり、その目で自分の顔を見つめる。
ほんの僅かな生への希望が窺える。
煉獄の終了を告げる声がさぞ、心地良く聞こえたからか。

しかしそんな甘い話があるわけがない。
首を左右に振り、否定する。

五条「判決は……『死刑』だ……!」

ワルド「え……?」

五条「冥府への手向けとして……教えてやろう……!」

ワルド「なんへ……! や……やめへ……!」

五条「オマエがこうなっているのは……! 他でもない……!」


躯から黒い力が噴出し、最後の一撃へ備える。
心に決めておいた『左足を使わない』こと。
それが……勝手なルイズへの誓約。
ルーンがあったこの足を、汚い血で汚したくはなかった




五条「無垢な我が主人の心を弄んだだけでなく……私欲のために利用し、心に傷を負わせたからだ……!!」



175:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/16(木) 07:06:17.94 ID:xpgx4RXl0

ワルド「ひ……あ……!」

五条「後は地獄で償え……!」

ワルド「ひょんな”……!」

五条「クックックッ! 心配するな……オマエはオレの様に抜け出せない、無間地獄に落としてやる……!」


右掌を開き、爪を立てる。
狙うのは心臓。
確実にワルドの生命を刈るためには、そこが一番だ。


ワルド「ひや”だ! や”べでぐへ! ほんひょうはまだ……いきたひんだ!」

涙をボロボロと零し、泣き喚くワルド。

五条「オマエがもし……人質を取らなかったら……こんな計画を企てなかったら……レコン・キスタなんかに入らなければ……」

ワルド「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!」

五条「死ななかったかもしれないな……! だが、そんな事は今となっては風の前の塵と同じ……」





五条「『死ね』」



178:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/16(木) 07:34:01.59 ID:xpgx4RXl0

皮膚を貫き、肋骨の間の肉を裂くと、生暖かい血液が手にべっとりとつく。
その奥に一定の間隔で動く心臓を見つける。
難解に絡みついた血液を送る管を力任せに千切り、引き抜く。

本来見えるはずのないピンク色をした筋肉の塊。
ドクン、ドクン、ドクンと三度動いた後、心臓は停止した。


磔にしていた左手を放すとワルドだったものは力なく壁に崩れ落ちていった。
真っ赤に染まった右手から液体がぽつぽつと落ちた。

この手では二度とルイズを抱くことは出来ない。
二度と汚れた自分を見せることは出来ない。
サッカーをすることも出来ない。
外にいる三人を助けに行くことも、今の自分には許されない。

だから最後だったんだ。



「さようなら」

もう一度、そう呟くとオレは教会の屋根に跳び上がり、誰もいない森の奥深くへと姿消した。

別れの言葉は誰に言ったのか分からない。
主人だった人に言ったのかも知れないし、寂しそうに転がるサッカーボールに言ったのかもしれない。

教会から聞こえた誰かの声が響いて、森の中へ飲み込まれていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



182:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/16(木) 08:37:35.52 ID:xpgx4RXl0

チラ裏な話その1


歯切れ悪くだらだらと2スレに渡り書いてきましたが「たったひとつの冴えたやりかた」編、これで終幕といたします。

ここまでまあアホなミスやら遅い投下やら誤字脱字誤用、数えきれないほどあったと思います。
それを温かく見逃していただき感謝で一杯です。

最初にスレを立てたときはここまで長くなると思いませんでした。
ちょっとした出来心で五条△したいなーと書き始めた稚作でした。

ですが、皆さんの沢山のレスでここまで物語は膨らますことができ、とりあえずの区切りまで到達することが出来たことが堪らなく嬉しいです。


構想、というのもおこがましいほど適当すぎる大筋は、ここまでです。
本当はもっと原作寄りなお話にするつもりはずが大暴れする五条さんを止めることが俺には出来ませんでした。

そしてこんな終わり方にしたのも、もう少しだけ書きたいと思ったからです。
ここからどんな物語にしていくかちょっと分かりません。
こんな終わり方にした以上、五条さんがでてくるのは結構後になるんじゃないかな、と考えています。

しかし逆に言えば、それは五条さんスレとしてどうなんだろうなとも思います。
あくまでも五条さんが物語の主人公で、五条さんが喋るからこそのクロスオーバーです。
五条さん復活までゼロ魔キャラが中心の五条さんスレ……ありですかね?



もしよければ、というか、それでも書いてよいと言っていただけるならば暫し時間を貰えませんでしょうか?



187:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/16(木) 09:22:23.81 ID:xpgx4RXl0

チラ裏な話その2

レスありがとうございます!
スレ立て日時ですが12/30にvipにスレ立ていたします。
もうこれはタダの俺の我儘です、批判も当然かと思います。
おせーよカス、vipはもう止めろボケなどと思う方もいらっしゃるでしょう。
ごめんなさい……謝ることしかできません。
なんとか少しでも面白い話を書き、それで贖罪とさせてはくれませんでしょうか?

タイトルは五条「~」です。カギ括弧内は未定ですがとりあえずこれで見つけては頂けるかと
かなり期間が空いてしまうのには
①師走ということもあり私情をさっさと片付け、書きために集中したい
②1スレで尚且つ1~2日以内に完結まで持っていくためにはかなりの量の書きためが必要で遅筆の自分では時間がどうしてもかかってしまう
③正直なところ、睡眠不足で頭を一度リセットしたい

と言った訳があるのです。最後は全く馬鹿な理由でしょうが……

今回のように自転車操業で回していけば、恐らく明日書くことも可能でしょう
ですが結局少しの書き溜め→リアルタイム投下→少しの書き溜め……の繰り返しになることが目に見えています
そうなれば前スレのように微妙なところで終わってしまい、>>1のように突然五条さんが稲妻を食らう所からはじまるというギャグになってしまうでしょう

一番怖いのは期間が空き、皆さんの記憶から消え去ってしまうことです。
しかしそれでも話だけは必ず完結させます。これだけは絶対に約束いたします。
それがせめてものvipにスレ立てした責任だと思っています。


ひとまず、ここまでスレ保守していただいた皆様、こんな遅い投下のスレを潰さないでくださった皆様、そして読んでくださった皆様本当にありがとうございました。
何か抜けていることがございましたらレスください
なければこのままこのスレは落としてください
以上、長文大変失礼いたしました!



190:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/16(木) 10:02:43.05 ID:H+5e2N56O

>>187
乙なんだぜ

待ってるぜよ!
大晦日前の楽しみが増えた



191:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/16(木) 10:59:00.33 ID:bC0ZkBbPO

>>187

待ってるよ



192:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/16(木) 12:13:48.63 ID:HECV0wioO

>>187
すげー面白かったよ
続編、毎日五条さんに投票しながら楽しみに待ってる

おつおつ



193:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/16(木) 12:37:10.01 ID:GmK25Wmd0

>>187
話だけでなくあなたの誠実な態度にも感動した
お疲れ様
ゆっくり休んでくだされ



194:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/16(木) 13:23:55.51 ID:5ixy9z7aO

>>187
年末に楽しませてくれるとはありがたい
ゆっくり休んでくれ!



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         コメント一覧 (2)

          • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2010年12月19日 14:35
          • 年末は五条さんと一緒!
          • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2010年12月22日 17:27
          • なんでこのスレ主は意地でもVIPでやりたがるんだろう。閲覧人数がほしいからか?

            このクオリティの高さなら製作のほうでやっても大人気だろうに。

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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