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梓「ジョニーが凱旋するとき」【前篇】

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レッドツェッペリン『Led Zeppelin III』より
1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 10:35:15.67 ID:W/Ns2wUZ0
“ΝНΚアーカイブス 戦争特集アニメ「幻の放課後」

 この番組は、軍歌"Johnny Comes Marching Home"及び
 その原曲である民謡"Johnny I Hardly Knew Ye"を題材として、

 桜ヶ丘女子高等学校の少女たちが
 戦時下において過ごした青春の日常を、
 同校の軽音部を中心に描いたアニメです。

 制作は、平成四十五年、京都放送局。
 戦勝十五周年記念スぺシャルとして制作されました。

 今回は、第1話「出征!」をお送りします”
                        (冒頭ナレーション音声:山根トモヨ



3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 10:37:26.25 ID:W/Ns2wUZ0







U.S. Military Academy Band(上記楽曲資料数種を適宜挿入。以後同様)
────────────────────────────────

 排他的経済水域における権益争いに端を発した武力衝突は、
 瞬く間に拡大し、激化の一途をたどった。

 そして、平成二十某年、春。

 戦局の悪化にともない、
 遂に高校三年生の徴兵猶予は解除される。

 それは女子とて例外はなく、先輩方も徴兵となり、
 楽器を武器に持ち替えることとなったのだ。

 この日は、ついに出征の壮行会。
 武運長久の横断幕が張られ、壇上から驕敵撃滅の喝が飛ぶ。



4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 10:38:15.92 ID:W/Ns2wUZ0
「萬歳! 萬歳!」

 私たち下級生は、虚勢を張るように歓呼の声を送る。

 細波の如くしきりに打ち振るう小旗もどこか力無く、
 勇壮なはずの鼓笛の音色もうら寂しく哀切を帯びる。

 戦闘服の三年生約二百名は校庭に整然と隊伍を組み行進する。
 全員が戦闘帽を目深に被って誰が誰とも見分けがたく、
 表情さえもうかがい知れなかったが、
 みな例外なく、五月晴れの日差しの下、帽子のつばが作る濃い影の下で、
 口を真一文字に結んでいたのが私の目に焼き付いた。


 壮行会後、あちこちに千切れ飛んだ紙の小旗を拾い集める。
 校庭の片隅に小旗を集めて燃やしていると、
 祭りの後の侘びしさともあいまって、まるで荼毘に付しているようだ。

 私は不吉な雑念を払うようにかぶりを振るが、
 暗澹たる気分は拭いがたく、煙で目が燻されたふりをして涙ぐむ。

 …ふと、出征前の最後のティータイムが思い出される。



5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 10:39:54.65 ID:W/Ns2wUZ0
────アッサムティーに落雁。

奇妙な取り合わせだが、物資供給が逼迫した時節柄、
輸入品と甘いものが口にできるだけでも、とてもありがたいことだ。

「ドラムは軍楽隊への誘いとかなかったんですか?」

「バカ言え。吹奏楽部の連中でさえ根こそぎ歩兵科なんだからな。
 お国にはきっとそんな余裕ないんだ。でなきゃ私らが軍隊に行く理由がない」

私が話を振ると、律先輩がズズ、と紅茶をがぶ飲みしながら言う。
そこに唯先輩が落雁の欠片を机にポロポロこぼしながら割り込む。

「ムギちゃんなら兵科選びどころか徴兵逃れもできそうだよね!」


「おい唯。何気なくすごい失礼なこと言ってるぞ…」

「ウフフ。私、みんなと共に死線を乗り越えるのが夢だったの~」

澪先輩が唯先輩をたしなめるが、ムギ先輩は笑って受け流す。



6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 10:42:36.36 ID:W/Ns2wUZ0
すかさず律先輩が話題を拾って澪先輩をからかう。

「ムギは気楽だなぁ。ま、無事に乗り越えられりゃいいんだけどさ」

「律ぅ!怖い話するなよ…」

「下手すると指がスパーっと切れて血がドバーっとどころじゃ…」

と、律先輩が言いかけたところで、珍しく唯先輩が気色ばんで制止する。

「りっちゃん!縁起でもないこと言わないでよ!」

「…ゴメン、ふざけすぎた」

本人たちも意図していなかったのだろう、思わず大きな声を出した唯先輩、
失言した律先輩ともに、若干きまりの悪そうな顔をしている。

場の空気を酌んだ私は話題を別の方向に向けると、ムギ先輩が嘆息しながら言う。

「しかしなんで女子高生まで徴兵されなきゃいけないんでしょうか」

「相変わらず米軍が地上兵力を出し渋ってるんですって」



7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 10:43:23.88 ID:W/Ns2wUZ0
途端に、唯先輩と律先輩が茶化すが、澪先輩が失笑しながら突っこむ。

「ひどいよね!自分の国は自分で護れったってこんなか弱いレディを!」

「全くだ。こんな花も恥じらう乙女をだな…」

「お前ら“レディ”とか“花も恥じらう”ってガラじゃないだろ」

その突っ込みを聞いた唯先輩と律先輩が、軍事教練の訓辞を揶揄する。

「ホントに“一人十殺”とか無理だよね~。せいぜい半分だよ」

「半分でも無理だろ!サラッと言うな!」

私には、無理をして明るく振る舞う先輩方の姿が痛ましかった。



8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 10:44:26.70 ID:W/Ns2wUZ0
紅茶の残り香がかすかに漂う部室。すでに陽はだいぶ傾いている。
爆風対策で十文字にテープを貼られた窓ガラスから、不格好な日差しが影を落とす。
ムギ先輩がティーポットの蓋を閉める音がカラリと部室に響く。

「…紅茶もこれで最後ね。輸入品は私もさすがになかなか手に入らないから」

「これでティータイムも当分お預けですね」

「フフ、梓ちゃんも改めてティータイムの素晴らしさを確認できたわね」

「そういうわけじゃないですけど…」

戦地に赴く先輩方の身の安全と、取り残される我が身の寂しさを案じて、
思わず声のトーンが下がる。



9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 10:45:53.40 ID:W/Ns2wUZ0
それを察して、というわけではなさそうだけれど、唯先輩が私に微笑みかける。
他の先輩方もそれに続いて声を上げる。

「戦争終わったらまた会えるよあずにゃん!」

「そうね。またみんなでお茶して、そして楽器を弾きましょう!」

「無事に帰れば何の問題もないぜ!」

「ちゃんと卒業証書もらわないと大学受けられないからな!」

すると、律先輩が意地悪な笑みを浮かべて唯先輩をからかう。

「ま、唯は帰還しても普通に留年して卒業できなさそうだけどな~」

「そりゃヒドいよりっちゃん!」

「あはは…あ、はは…」

きっと戦地に赴く先輩たちのほうがずっと不安なはずなのに、
私には先輩方に励ましの言葉を掛ける余裕はなかった。

銃後を託される側として、先輩方が後顧の憂いを持たぬよう、
泣くのを堪えるのが精一杯だった。



10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 10:48:06.25 ID:W/Ns2wUZ0
──しばし日が経った後。

『国防軍関東被服廠桜ヶ丘支廠』

学校の門扉には新たに掲げられた看板。
瀟洒な造りの校舎にも迷彩塗装が施され、見る影もない。

一応、高校の名も残ってはいるが、
これが現在の私たちの所属組織の正式な呼称である。


「作業中止!飯上げーッ!」

正午のサイレンとともに、監督官の号令が飛ぶ。
生徒、いや職員たちは点呼を終えると、三々五々、綿埃の舞う作業棟から退出してゆく。



11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 10:50:13.60 ID:W/Ns2wUZ0
憂、純と三人で廊下を歩いていると、かすかな醤油の臭いが鼻についた。
私はマスクを取って作業服のポケットに押し込みながらため息混じりに呟く。

「はぁ、今日もお昼はすいとんかな…。さすがにお腹すくよ」

「糧秣廠ならいろいろ食料のおこぼれがあったんだろーなぁ」

「純ちゃん、そんなこと言ってると警務隊に睨まれるよ…」

「牛肉のカンヅメとか欲しい~」

憂の心配をよそに、そう言って、純がお腹をグゥと鳴らす。



12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 10:51:22.19 ID:W/Ns2wUZ0
牛肉、という単語を聞いて私も空腹感が増し、自らに言い聞かせるように純をなだめた。

「兵器廠はもっと作業がキツいって噂だし我慢しようよ」

「梓…、トンちゃんってさ、おいしいの?」

「純が言うと冗談に聞こえない」

「じゃあ甘いモノ食べたーい!生垣のツツジの蜜も吸い尽くしちゃったしな~」

「あれ犯人純ちゃんだったの?蜜吸っちゃダメって告知が出てたよ…」

「夏はサルビアの蜜を吸おうかな~。秋はムカゴ取って、冬は自然薯掘って」

「たくましすぎるよ純は…」

そう言って私は苦笑した。

今にして思えば、ひもじくとも、まだ銃後は牧歌的な季節だった。



13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 10:54:04.31 ID:W/Ns2wUZ0
一年生と二年生が午前午後の2交代で作業に入る。
午後は物理と体育の授業があった。
最近は授業と言っても、簡易兵器の製造法教示やら軍事教練やらばかりである。


わずかばかりの休み時間に、憂が一葉の葉書を瞬きもせず眺めているのに気付く。

「それ、唯先輩からの手紙?」

「うん…梓ちゃんも読む?」

肌身離さず持っているという葉書を読ませてもらう。
すでに消印は1ヶ月近く前になっている。
その後新たな音信はないことが容易に伺えた。

ただでさえ紙質の悪い軍事郵便葉書は、幾度も憂が読み返したのであろう、
手垢がついて赤茶け、角は欠けて文字はかすれはじめていた。



14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 10:57:13.75 ID:W/Ns2wUZ0
『憂へ 

  元気にしてますか。私はいちおう元気です。
  ■■■での最終編成を終えた私たちは、ついに■■■■に行くことになりました。

  ちょっとさびしいけど、けいおん部のみんな、クラスのみんながいるので大丈夫です。
  あずにゃんにもよろしく。仲良くすごしてください。あとじゅんちゃんも。

  どうかういもげんきにしててください。もうしょーとーみたいなのでこのへんで』


消灯前に急いで書いたのか、後半はひらがなの走り書きになっていた。

唯先輩の書く相変わらずどこか呑気な文面と、
おそらく地名だったのか、検閲で黒々と塗りつぶされた暗闇のギャップが、
戦地の緊張感を否応なしに引き立てる。

窓から西の空を眺める。

(先輩方は、無事なのだろうか…)

心配しても仕方ないことだけれど、否応なしに心はざわついた。

                               [第1話 終]



15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:01:07.24 ID:W/Ns2wUZ0
“ΝНΚアーカイブス 戦争特集アニメ「幻の放課後」

 (中略)

 今回は、前回に引き続き、第2話「戦闘!」をお送りします”


─────────────────────







Ultima Thule



16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:04:35.96 ID:W/Ns2wUZ0
──宮崎県延岡市南西部

まだ初夏とはいえ、じっとしていても汗ばむ。
野戦であれば尚更のことだ。
曇天に遮られ、直射日光が当たらないのが唯一の救いである。

エリは、行軍中に前方から近付くヘリの機影を発見する。
各自取り急ぎ身を隠す。
そして、小隊長であるさわ子、否、山中軍曹から見立てを求められる。

「敵のWZ-9です!こちらには気付いてなさそうです」

「単機とはナメてるな。迷い込んだか?…おい琴吹、やれ。初陣だぞ!」

「…はい、どんとこいです!」

紬は、本物の武者震いを体験する。この一弾が命運を決するのだ。
地対空誘導弾を構える。
米軍旧式装備の払い下げとはいえ、失敗の言い訳にはならない。

回転翼の羽音が徐々に近付いてくるが、
次の瞬間にも、ヘリのミニガンが火を噴くのではないか、
そう思うとそれ以上に自らの呼吸音と心音が尋常でなく大きく聞こえた。



17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:07:36.06 ID:W/Ns2wUZ0
さわ子がタイミングを計る。

「まだだ…よく引きつけて、てっ!」

発射。

誘導弾は吸い込まれるようにして敵機に命中する。
回転翼が四散し、機体がバランスを失い、地表に落ちていく。

級友、いや、隊員たちの歓声が上がる。
紬は思わずガッツポーズを取った。が、

「センセ、捕虜は?」

「…“先生”はやめなさいと言ったはず」

というやりとりを耳にして、

(ああ、私は人を殺めてしまったのだな)

と実感し、前方の残骸から立ち上る煙をしばし眺めていた。



18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:11:00.40 ID:W/Ns2wUZ0
──私は不思議と、怖くも悲しくもなかった。

「じゃあ、第3班と第4班、…あと、琴吹はここに残れ」

しかし、そう言われて、私は第3班、第4班と共に残された。
おそらく、はたから見れば茫然自失の体だったのだろう。

山中軍曹らは残骸を調査しに行った。
あの高さから墜落しては生存者は居ないとは思う。


が、数分後、数発の銃声と手榴弾の炸裂音がして、辺りは騒然とした。
程なく、山中軍曹から「心配ない、すぐ戻る」と無線が入り、全員が無事帰った。

残骸を調べに行った人たちは、一様に暗い表情をしていた。
どんな状況であったかは、ある程度想像はつくけれど、所詮は想像でしかない。



19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:13:25.34 ID:W/Ns2wUZ0
残骸調べに行ったりっちゃんが私に近づいてきた。
簡体字で何やら書かれた銀紙製の包みを差し出しながら、

「ムギ、お手柄だったな。チョコレートがあったから食え!」

と言って、労をねぎらってくれた。
りっちゃんはぎこちなく笑っていたけれども、
その手は一見して分かるほどに震えていた。
何を見たのか。何をしたのか。私が言えた義理ではないのだけれど。

少し離れたところで、澪ちゃんが、唯ちゃんに背中をさすられて吐瀉していたが、

「しゃれこうべ…しゃれこうべ…」

吐きながら時折、うわごとのように繰り返していた。

その近くで、立花さんが段差に腰掛けて、片膝を右腕で抱えながら、
人差し指を曲げたり伸ばしたりしていた。

(彼女も撃ったのかしらね…。私みたいに)

溶けかかったチョコレートを一口頬張ると、確かに甘く感じた。



20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:17:06.71 ID:W/Ns2wUZ0
さらに時間は経過する。

───桜ヶ丘支廠会議室

「…では、教育振興局以外からは特段異論も無いので、
 これを基本方針とし、必要に応じ微調整して進めよう。
 これにて定例廠議は終了する。解散!」

支廠長の宣言とともに、会議の出席者たちは談笑しながら出口に流れていく。

(談笑の端々からマイセンやセッターといった単語が聞こえてくるけど、
 このご時世、いったいどこで煙草など手に入れてきているのかしら…)


と、桜が丘支廠教育振興局学事課長は、徒労感で全身の筋肉が弛緩するのを覚え、
椅子の座面と背もたれに尻と背中が張り付いたかのような感覚に襲われる。

三年生でただ一人、徴兵されながらも才を買われて後方勤務に慰留され、
桜ヶ丘支廠の一課長となった、真鍋和その人である。



21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:19:00.90 ID:W/Ns2wUZ0
───数十分前。

三年生出征後の軍需生産と兵役戦備の資源分配について折衝が行われていた。

「では金曜日についても生産動員に充当するということで」

「いや、後備役の練度に不安もありますし、その点ご配慮を」

「ちょ、ちょっと待ってください!教育局の頭越しに決められても困ります!」

居並ぶ支廠幹部連が「またか」といった表情で、学事課長、つまり私に向き直る。
めいめい、額に、眉間に、鼻に、口角に、皺を寄せている。

私は一瞬怯んだが、臆せず努めて冷静に主張する。

「もう週2日ずつ、つまり週4日、動員と訓練に割り当てられてます。
 すでに高等学校教育課程の実施は極めて困難な時間しか残されていません。
 これ以上の授業時間削減は、到底容認しかねます!」

「そう仰るが、では生産計画が達成不可能な場合はどうなります?
 軍需局でなく教育局で責任が取れるのですか?」

先程まで兵務課長と鞘当てを演じていた生産課長が、
後退しかかった七三分けを撫で付けながら嫌みたらしく反論する。



22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:20:14.87 ID:W/Ns2wUZ0
さらに、腕組みをした角刈りの兵務課長が一瞥もくれずに言い捨てる。

「然り、戦備計画も同様です。そちらで責任を持つのなら話は別ですが」

「そ、それはそうですが!では逆に教育課程が実施不可能な場合、
 他局他課で責任を取って頂けるのですかっ?」

私が声をうわずらせまいとしながら反駁すると、
短髪の胡麻塩頭の兵務戦備局長が事も無げに言う。

「…それはそもそも、支廠として関知することじゃあるまいよ。
 それは桜ヶ丘高校の中で処理すべき問題。
 高校側で、別途、課外授業等の策を講ずるべきものだ」

(週末さえ動員のある日も多いのに、課外授業の時間などあるものですか!)

そんな思いを飲み込んで耐えていると、
さらに、下ぶくれの軍需生産局長の猫なで声がする。

「まあ、教育局さんは既得権を害されると、そのォ、
 多少、思うところがあるのはお察ししますがネェ…
 私らも職責を全うせねばならんのですよ。その点、ご配意頂きたいですナ」

「…しかし!」



23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:21:33.77 ID:W/Ns2wUZ0
なおも必死に食い下がろうとする私に対して、
副支廠長が右手でオールバックを掻き上げながら、
左の掌をこちらに押しやる仕草をする。


「まぁまぁまぁ、学事課長の仰ることもわからんではない。
 本件についての詳細は別途協議して微調整ということでいかがかな?」


“詳細は微調整”ということは、大筋の方針はこれで決まりということだ。
あとは条件闘争が関の山。予算、人員、権限の削減・縮小は免れない。

校長と副校長──教育振興局長と教務課長は、貝のように押し黙ったままだ。

校長の白髪交じりの口髭が、鼻息でかすかに揺れている。



24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:23:19.91 ID:W/Ns2wUZ0
────────

解散後の会議室には、教育振興局の局長と教務課長と学事課長、

──つまり、桜ヶ丘高校の校長と副校長と生徒会長の私だけが残っている。

「すまんね…。君にはいつもつらい思いをさせる。
 だが私が正面から反論すれば彼らは本気で潰しに掛かってくるだろう…」

「予算などの削減幅はなんとか最小限に抑えるよう努力するが…」

「いえ、いいんです。いつもお気遣いありがとうございます。
 もう、慣れましたから……」


校長らも退室して人気の絶えた会議室の末席で、
私は、どこにでもありそうな白と青の湯飲みを鷲掴みにすると、
冷め切った出がらしの番茶を一気に飲み干した。

深く息をつくと、壁に貼り付けてある支廠の組織図が目に入る。



25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:25:05.96 ID:W/Ns2wUZ0
国防軍関東被服廠桜が丘支廠組織図及び事務分掌(平成二十某年○月一日付)

支廠長
┣総務会計局 … 支廠における総務会計事務《局長:副支廠長兼務》
┃  ┣総務課 … 総務、秘書、儀典等
┃  ┣人事課 … 任免、考課、懲戒等
┃  ┣経理課 … 会計、予算、経理等
┃  ┗管財課 … 施設、消費財、光熱水道管理等
┣軍需生産局 … 支廠における軍需生産事務
┃  ┣調達課 … 設備、原材料、労働力の調達、動員等
┃  ┣管理課 … 設備、原材料、製品の管理等
┃  ┣生産課 … 被服その他の生産等
┃  ┃  ┗各作業室等
┃  ┗検査課 … 被服その他の検品等
┃      ┗各検品室等
┣兵務戦備局 … 支廠における兵務戦備事務
┃  ┣兵務課 … 兵制、軍籍管理、警務等
┃  ┣軍務課 … 訓練、教練等
┃  ┣戦備課 … 兵器、車両、軍用品等調達・管理等
┃  ┗医事課 … 医務、薬務、衛生、防疫等
┗教育振興局 … 高等学校相当教育課程《局長:桜が丘女子高校校長兼務》
    ┣教務課 … 学校教育、教務活動等《課長:同校副校長兼務》
    ┗学事課 … 学校事務、庶務等《課長:同校生徒会長兼務》



26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:26:52.33 ID:W/Ns2wUZ0
“徴兵逃れ”と誹られ“生徒会長の職権濫用”と陰口を叩かれながら、
支廠の一課長として孤軍奮闘しているのも、高校のためを思えばこそだ。

しかし、そんな美辞麗句も職責を全うしてこそ説得力を持つ。
努力するのは当然のことで、成果も出ないままに教育体制はじわじわと蹂躙される。

むしろ、自分が意見を言えば「一応意見は承った」とガス抜きのダシにされて、
奸智と狡猾さに長けた狸親父どもの手のひらで踊らされるだけではないか。

これでは文字通り徴兵逃れの方便と邪推されても反論できない。

「生徒会で多少慣れたつもりでいたけれど、所詮は児戯だったわ。
 官僚機構ってこういうものなのね…」

私は、そう呟くと、空いた湯飲みを茶托が割れんばかりに叩き置き、
そして机に伏して、自らの力不足を呪った。



27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:30:04.05 ID:W/Ns2wUZ0
──宮崎県日向市西郊

本日は晴天なり。じりじりと照りつける太陽が憎い。
すでに桜ヶ丘中隊は最前線での戦闘にも巻き込まれ、疲労の色が濃い。

練度、武装共に非力極まる中隊には負担が重すぎるが、
2組、いや第2小隊には戦死者も負傷者もいないのが唯一の幸いである。

お陰でみんな、良くも悪くも、戦闘には馴れてきてしまっている。
……約一名を除いて。



海岸沿いに比べて守りが手薄なのを衝かれた。
敵陣の方向から信号弾が打ち上げられ、
太鼓や銅鑼の音とともに敵兵が雲霞の如く攻め寄せる。



28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:32:10.89 ID:W/Ns2wUZ0
律は焦っていた。

やばい。マジでやばい。これが本物の人海戦術ってやつか。
横山光輝のマンガじゃあるまいし、今どきこんなムチャな攻め方なんて。
敵の火力も弱いのだけが救いだがこりゃまずいぞ。

一人十殺、もしかしたらやれるんじゃないか?別にやりたくはないけど。
でも、マジでやらなきゃこっちが死ぬ!

そう思った刹那、鼻先にあった土くれに弾丸が当たって砂埃と化し、
跳弾が頬をかすめる。

「あっ…ぶねえなオイ!殺す気か!」

思わずそう叫んだ瞬間気付いた。
そうだ。相手は私たちを殺す気なのだ。その逆も、また然り。


「ぎゅいーん!ばぁん!ばぁん!」

唯は照準器に全く目を合わせていないにも拘わらず、
それなりの精度で寄せ来る敵兵に弾丸を命中させている。

「よしきた!」

紬が遠投した手榴弾が土手の向こうに投げ込まれると、
一拍措いて、爆発と共に大小様々な人体の肉片、血塊が弾け飛ぶ。



29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:34:34.70 ID:W/Ns2wUZ0
「見えない聞こえない見えない聞こえない…」

そして、澪はただ震えていた。

戦うことは無論、このおぞましい光景を正視どころか覗き見ることもできず、
その両まぶたはしわが寄るくらいに固くつぶられている。

その両手は、耳に入る音を遮断すべく耳介が潰れるほど押さえつけるが、
それも無駄な抵抗だった。
視覚と聴覚を、なしうる限りに閉ざしても、外界の状況が手に取るようにわかる。

内耳に直接響くような発砲。銃砲弾が笛の鳴るように空を切る。
腹腔まで揺さぶるほどの着弾。砲弾片が梢をなぎ払う。
巻き上げられた土砂が降ってくる。鉄鉢にぱらぱらと当たる。
敵の太鼓と銅鑼。吶喊。叫び声。悲鳴。
怒声。舌打ち。誰かが投げた手榴弾が爆ぜる。
弾倉を交換する。射撃。そして、射撃。
銃弾が地面を、そして人体をうがつ。岩石に当たって鋭く跳ねる。
薬きょうが砂れきの上を滑って転がり、小石に当たる。
軍靴が草木を踏みしめ、枯れ枝が折れる。
空になった水筒を誰かが蹴飛ばす。
わずかに残った水が水筒の口からこぼれる。



30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:36:17.77 ID:W/Ns2wUZ0
そして、鼻からも臭いがなだれ込む。

陣地の人いきれ。汗。血。消毒薬。包帯の脂。
缶詰に残った腐りかけの食料のかす。
硝煙。鉄。熱を持った銃身。
焼けた薬きょうが地表の枯れ草を焼く。
湿った土と乾いた砂。

とっさに片手を耳から放して鼻をつまもうとすると、息ができず口が開く。
湿った生ぬるく埃っぽい空気が肺腑を汚す。
口から鼻にも空気が逆流し再び嗅覚を犯す。そして嘔吐する。
今日、もう何度目だろう。すでに胃液もほとんど出ない。

恐怖による冷や汗と炎天による脂汗で、戦闘服はべったりと皮膚に張り付く。
被った鉄鉢の中は、火鉢のように熱い。軍靴の中も、脂でぬかるみのようだ。

澪は、これでも気を失わない自分を恨めしく思った。
いっそ、気が触れでもした方がどれほど楽なことか。



31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:38:34.34 ID:W/Ns2wUZ0
「迫撃砲は何してる!まともな火砲あれしかねぇんだぞ!中隊本部に無線を!」

「無線通じません!迫撃砲が沈黙しているのと関係が…」

さわ子が苛立ちを隠せず怒声を上げると、風子が埃まみれの眼鏡を直して答える。


「そんなこと考えるな!今は撃って撃って撃ちまくれ!」

さわ子は一喝するが、数歩離れた機銃座から、姫子の声が上がる。

「残弾、残りわずか!」

「第3小隊がすぐ隣にいるはずだ!何とか分けてもらってこい!」

さわ子の命令が聞こえた律は、後方に視線を向け、
岩陰で頭を抱えている澪に呼び掛ける。

「澪!澪!弾!弾持ってこい!澪ーッ!お前しか手ぇ空いてねえんだよ!」

「怖いよ…」

「ふざけんな馬鹿ッ!ぶん殴られたいのか!」

「嫌だ!嫌だ!」



32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:44:21.66 ID:W/Ns2wUZ0
「…もういい、さわちゃん!私行きます!」

さわ子が“さわちゃん言うな!”と叫んだのが聞こえたのかどうか。

律がそう言い残して、ガクガクとただ震えるばかりの澪を無視し、
弾雨の中を走り出したのと同じ瞬間、
あかねは、双眼鏡の中ににわかに信じがたい光景を見る。

(ロケット砲!?こんな混戦状態のところに打ち込むつもり!?)

しかし、双眼鏡の向こう側からは次々とロケット弾が弾き出される。
あかねは生まれてこのかた最大の声を振り絞って叫ぶ。

「みんな伏せて!カチューシャ!!」



33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:45:22.25 ID:W/Ns2wUZ0
「りっちゃんカチューシャ!」

「…は?」

 律は、あかねと唯の叫びの意図を図りかねて、振り向きざまに、
 被った鉄鉢の下にある自分のカチューシャに手を伸ばそうとした。

「違うのよッ!伏せて!」

「お前ら飛び出すな!頭下げろ!」

「危ない!」

 唯と紬が律に飛びかかろうと、そして、
 それを止めようとしたさわ子を姫子が抱きすくめようとした、その瞬間──

                               [第2話 終]



36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 12:32:34.03 ID:W/Ns2wUZ0
“ΝНΚアーカイブス 戦争特集アニメ「幻の放課後」

 (中略)

 今回は、前回に引き続き、第3話「後送!」をお送りします”



──────────────────────







Karan Casey





38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 12:37:13.58 ID:W/Ns2wUZ0
青い空。白い雲。いい天気だ。

戦争中でなけりゃもっといいんだけど。
去年の夏は、ムギの別荘で合宿してたはずなんだけどなあ…

 「センセ!そのケガ!?」

埃くさいし。汗くさいし。鉄くさいし。風呂入りてー。

 「かすり傷だよこんなの!畜生!落ち着け!被害は!?」

うるせーよさわちゃんいい年して。余計行き遅れるぞ。

 「ぅぐ……ぅう……」

なんか不思議な気分だなあ。

 「痛いよ…」

ムチャクチャ熱いけど、ムチャクチャ寒いぞ。

 「うわぁぁぁぁあああああ!」



39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 12:38:23.91 ID:W/Ns2wUZ0
あー、なんか気持ちよくなってきた。

 「衛生兵!衛生兵!止血!止血を!」

あれ、瀧さんかい?サイドテールほつれてまっせ。

 「まだ息があります!」

つーか空が見えないんですけど。どいて。せっかくいい天気なのに。

 「田井中さん!田井中さん!ねえ!田井中さんしっかり!」

一回呼べばわかるって。一応部長だし、私以上のしっかりものはいないぞ。

 「えぐ…ひっく……うう……」

ったくビービー騒ぐなよお前ら。落ち着け。私みたいに。

 「くそったれぇぇ!お前ら死んだらブッ殺すぞぉぉっっ!」

あーダルい…眠い…



40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 12:40:27.17 ID:W/Ns2wUZ0
さらに後日。

───桜ヶ丘支廠正面玄関昇降口

もはやここは工廠なので、夏休みはない。

私たち生徒が登校、いや、職員が出勤すると、
昇降口正面にある掲示板をチェックすることになっているけど、
真面目に読んでいる人が何人いるのだろう。

重要な告知からどうでもいい連絡まで一緒くたに貼られているから始末が悪い。
いかにもお役所仕事だなあ、と思い愚痴をつぶやく。

 「もう少しなんとかならないのかな、こういうの」

まあ、今や私もお役所である工廠で働いているわけだけど。

『被服原材料の調達に関する公告 ○年○月×日 調達課』

『払い下げ物品の競売に関する公告 ○年◇月×日 戦備課』

『学事消耗品の節約に関する通達 ○年◆月◎日 学事課』

『生産目標の完遂に向けて ○年▲月◇日 生産課』

『傷病兵の受け入れ態勢の整備 ○年▽月×日 医事課』

『花壇の植生保護について ○年▽月×日 管財課』 等々…



41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 12:42:46.22 ID:W/Ns2wUZ0
掲示板に目を沿わせていると、憂、純も出勤してくる。

 「花壇の植生保護……純ちゃん、やっぱりサルビアの蜜吸ってたの?」

 「まあね。もう旬は終わったしノープロブレム。次はムカゴの季節!」

いつもなら呆れてしまう景色だが、私は重要な公告を見つけてしまった。

 「あ」

初めて見る文書のタイトルだ。息を飲んで本文に読み進む。



『戦死者並びに戦傷者及び戦病者等の公告 ○年▽月×日 兵務課』



42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 12:44:43.74 ID:W/Ns2wUZ0
 “標記の件について、下記のとおり公告する。
                           ○年▽月×日
                           服桜支兵兵第68号
                           兵務戦備局兵務課長 印

      氏  名      所  属    摘  要

    五十嵐甲子    第5小隊    戦傷
    香川  乙女    第4小隊    戦病
    酒田  丙美    第5小隊    戦死
    佐藤    丁    第3小隊    戦傷
    下山  戊子    第1小隊    戦死
    須賀川己子    第3小隊    戦病
    田井中  律    第2小隊    戦傷
    長野    庚    第1小隊    戦死
    西    辛奈    第5小隊    戦傷
    野沢  壬理    第4小隊    戦傷
   菱田  癸子    第1小隊    戦傷
                         (五十音順)以上11名”




43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 12:45:59.09 ID:W/Ns2wUZ0
一瞬、文字の為す意味が分からず最後まで読み進めたあと、
再び読み直して、私の思考は停止した。

 「…これ…って…?」

私のただならぬ様子を見た憂と純が、心配そうに覗き込む。

 「どうしたの梓?」

 「律先輩の名前が…戦傷って…」

 「え…律先輩!?お姉ちゃんは!?」

 「分からない…でも戦死者も出てるし、激しい戦闘に巻き込まれて…」

 「マジで!?うわ、ホントだ!ありえないよこんなの!」


他のクラスの生徒も多く“出勤”してきて、掲示板の周りは人垣ができる。
掲示板の前は、朝の出勤ラッシュと相まって、一時騒然となった。
巡回中の教員が、教室に入るように促す。



44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 12:47:52.34 ID:W/Ns2wUZ0


作業前の朝のホームルーム。戦死者に1分間の黙祷。

その後、先生から指示があった。
それによれば、本日は生産作業ではなく、医事課の指示で、
元々3年生の教室だった空き教室の一部に病床を設置する作業になるという。

(掲示板にあった医事課の文書って、どこかの兵隊さんが来るんじゃなくて、
 出征した先輩方を負傷兵として受け入れるためのものだったんだ…)

今更ながら、私たちは戦場の後背地、まさに銃後にいるということを、
心から痛感させられ、奥歯がカタカタと鳴った。


空き教室に机を集めていくつか島を作り、その上に、
柔道場からはがしてきた畳とありあわせの布団や寝具を置く。

“今後の需要増加”に合わせて、不足分は戸板などで補う。
1教室につき10台前後の寝台がしつらえられた。

戦場から送り返されるくらいだから、戦線復帰が無理なくらいに、
律先輩は大きなケガを負っているのだろう。
それに、他の先輩方はどうなっているのか。心配は嫌が上にも募る。

(…律先輩が帰還したら、お見舞いしよう。そして、聞くしかない)

私は内心密かに決意した。




45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 12:50:59.26 ID:W/Ns2wUZ0
数日後、校庭に見慣れぬ軍用トラックが止まっているのが目に付いた。

思わず縫製作業の手を止めて視線を向ける。周りのみんなもそうだ。
監督官が注意して作業を再開させる。
士気の低下を恐れてか掲示板には何の告知もなかったが、きっとあれだ。

しかし、名誉の負傷の帰還兵が、隠れるようにして帰ってくるなんて、
本当にむごい仕打ちだなぁ…。


その翌日の昼休み、急いで昼食の芋粥をお腹にかき込むと、
私は意を決して3年2組の教室を目指す。

3年生の教室階は、消毒薬と洗い晒しの病衣や敷布の臭い、
そして傷病兵、つまり3年生の人いきれと咳や呻き声が充満している。
2組に近づくと、甲高く規則正しい打撃音と、抑揚のない歌声が聞こえてくる。

──… …ぅ~ごりらちんぱんじ~さる~ごりらちんぱんじ~…」

3年2組の教室の前。意を決してノックすると、私は返事も待たず扉を開けた。

 「…失礼します!」



46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 12:52:35.84 ID:W/Ns2wUZ0
 「まんなかとおるはちゅーおーせーん…………ぁ」

そこに、律先輩は居た。替え歌と打撃音が止まる。
まだ2組は1人しか後送されていないため、一人きりだ。

教室の後方、ちょうど唯先輩の席があったあたりだろうか、簡易寝台の上で、
白茶けた病衣に、猫背で胡座を組み、右手に箸を持っていた。
その右手の前に、縁が欠けた茶碗があった。叩いているうちに欠けたのだろう。

カチューシャがなく長い前髪が垂れ下がっているため、表情は伺えない。
その醸し出す雰囲気は、さながら幽鬼のようだった。

 「どうも、お久しぶりです…律先輩」

 「ぉぉ…」

律先輩の声には全く生気がない。
私は次の言葉を何と言うべきか迷いつつ近づいた。



47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 12:55:14.08 ID:W/Ns2wUZ0
律先輩の前髪の隙間から覗く鈍く暗い眼差しが、私を突き刺す。

“死んだ魚のような目”なんて、青春ドラマの中だけの表現だと思ってたけど、
いま対峙している律先輩の目は、まさにそれだった。
結局、私は掛けるべき言葉が分からず、思ったことをそのまま口にする。

 「あの…正直言って何から話せばいいのか…」

 「…ロケット砲って、一般にカチューシャっつーもんなの?」

 「い、いえ、厳密には全然違いますが、俗にそう言うことも」

 「ホントそーいうことは先に言ってほしーね。知らない私が悪いのか」

 「まあ、あくまで俗な言い方ですし…」

 「私のカチューシャはカチューシャに吹っ飛ばされてどっか行っちゃったー、と。
  あー、体張ったギャグなのにあんま面白くないね。ははははは」

 「は…はは…」

律先輩の乾いた笑いに合わせて、
私も笑っていいものかと迷いながら愛想笑いをしたが、
律先輩の異変に気付き嫌な予感がした。

てっきり、病衣の中で首から三角巾でも下げているか、
あるいは、懐手でもしているかと思ったが、どうも様子が違う。

 「ついでに腕もどっか行っちゃったよ」



48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 12:58:16.10 ID:W/Ns2wUZ0
私の予感は的中した。
ショックで膝が折れそうになるのを必死に堪える。

病衣の袖のたるみ具合から推察するに、律先輩の左腕は、
二の腕の半ばあたりから欠けている。

浅い溜め息をついて、律先輩は窓の外を見遣る。

 「私も元気なだけが取り柄だったのになあ」

原材料の繊維や樹脂を納品する業者のトラックが、
校庭に轍を作りながらしきりに入れ替わり立ち替わりしている。

 「これからどうしようか。弟には迷惑かけたくないし。
  道ばたで茶碗出してお恵みをーってやるしかねーのか」

そう言って、箸で欠け茶碗を叩く。チンチンと気の抜けた音がする。

 「働くのはもちろん、もうドラムもできないし。こりゃ終わったわ。
  壮行会でちょい鼓笛隊の手伝いしたのが最後のドラムになるなんてなあ…」



49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 12:59:55.14 ID:W/Ns2wUZ0
 「か、片腕ならなんとかなりますよ!そんな弱気な律先輩見たくないです!
  茶碗叩いてるくらいならまたドラムやりましょうよ!
  頑張りましょう!他の先輩方もきっと帰ってきます!」

私は自分でも無責任極まりないことを言っているのは認識していた。
それでも、とにかく律先輩を元気づけたかったのだ。

しかし、私はこの発言を深く後悔することになる。

 「…これ見てもまだそんなこと言えるか?」

胡座をかいた膝の上の掛け布団を、律先輩が右手で剥ぎ取る。

 (…ぁ……)

私はよろよろとにじり下がり、後ろにあった寝台にぶつかって、
ようやく自らの体重を支える。

律先輩の左の大腿部には幾重かの包帯が巻かれ、
膝上数センチのところで、唐突に消え失せている。

 「いい加減なことぬかすな!これでどうしろってんだよっ!」

 「…ごめ…ん…なさ…」

 「なんで謝るんだよ!梓は悪くないだろ!よけい惨めになるじゃんか!」



50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 13:02:11.58 ID:W/Ns2wUZ0
律先輩は、欠け茶碗を力任せに投げつけた。
茶碗は右のツインテールをかすめると、床に落ちて割れ砕ける。

 「私が、無事に、帰って…、来れな、かったのが、悪い、のに…ッ」

そう言って、律先輩はさめざめと涕泣する。

騒ぎを聞きつけた看護師2名が、ノックもせず、一言も発さずに部屋に入ってくる。

その一人がつかつかと歩み寄ってその右腕を掴んだかと思うと、
もう一人が間髪入れず首筋に注射を打つ。

 「ぁ」

鎮静剤か何かであろう。律先輩はたちまち寝台に崩れ落ちた。


 「2年か。持ち場に戻りなさい」

看護師の一人が、私に言い捨てて教室から出て行く。

私はしばし呆然としていたが、
すでに昏倒している律先輩に対して一礼すると教室を後にした。



51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 13:04:20.57 ID:W/Ns2wUZ0
2年の教室に戻ると、憂と純が私と目を合わせるが、
私の表情が相当沈鬱なものだったのだろう、
二人とも戸惑いの表情を浮かべたまま一言も発しない。

その表情を察して、私は二人にようやく話し掛ける。

 「…ごめん、憂。律先輩から何も聞き出せなかった」

 「ううん、気にしないで。やっぱりケガはひどかったの?」

 「ケガというより、片腕と、片脚が…」


私にはそれ以上何も言えなかった。
憂も純もまた、何も言わなかった。

                           [第3話 終]



52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 13:09:43.48 ID:W/Ns2wUZ0
“ΝНΚアーカイブス 戦争特集アニメ「幻の放課後」

 (中略)

 今回は、前回に引き続き、第4話「傷病兵!」をお送りします”



53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 13:12:01.48 ID:W/Ns2wUZ0
数日後、私は憂を連れて再び3年2組の教室を訪れる。
無着色エボナイトの真っ黒なカチューシャを持って。

 「梓、何しに来たんだよ、それに憂ちゃんまで。笑いに来たのか」

 「いえ、律先輩にこれを持ってきました」

 「…へえ、被服廠って、こんな小物も作ってたのか」

カチューシャを思いのほか感心して眺めている律先輩の問いに、
憂が若干の戸惑いを浮かべつつも微笑んで応じる。

 「梓ちゃんが検品でハネられた中から拝借してきてくれたんですよ」

 「被服廠の数少ない役得なんですから、受け取ってください。
  カチューシャは、律先輩のトレードマークですからね」

私が律先輩の前髪をかき上げて額にカチューシャをあてがうと、
やっと、律先輩ははにかみを浮かべた。

 「ありがと。…この前は、すまなかったな」



54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 13:13:26.99 ID:W/Ns2wUZ0
他の先輩方の消息をようやく訊くことができた。
しかし、詳しくは知らないという。

律先輩が負傷した戦闘では、他にも多数の死傷者が出たようだが、
後送順序や負傷の治療状況が違うので、今回の後送者で終わりではないようだ。

 「あの告知は私も最近知ったけど、私がケガする前の死傷者も混ざってたし」

 「そんな…、じゃあお姉ちゃんも無事とは限らないんですか!?」

 「悪いが、きっと私だけじゃないぞ。…梓、憂ちゃん、覚悟はしとけ」


さらに数日後、律先輩の憂慮は現実のものとなる。



55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 13:15:00.42 ID:W/Ns2wUZ0
『戦死者並びに戦傷者及び戦病者等の公告 ○年▽月●日 兵務課』

 “標記の件について、下記のとおり公告する。
                           ○年▽月●日
                           服桜支兵兵第75号
                           兵務戦備局兵務課長 印

      氏  名      所  属    摘  要

    愛川  甲美    第4小隊    戦傷
    秋山    澪    第2小隊    戦傷
    衛藤  乙子    第3小隊    戦傷
    加賀屋丙理    第3小隊    戦死
    琴吹    紬    第2小隊    戦傷
    嶋野  丁子    第1小隊    戦死
    瀬戸口  戊    第4小隊    戦傷
    手島  己奈    第5小隊    戦傷
    野田    恵    第1小隊    戦病
                         (五十音順)以上9名”



56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 13:17:30.41 ID:W/Ns2wUZ0
少し早めに出勤したはずなのに、掲示板の前で長い時間固まっていたのだろう、
憂と純に背後から声を掛けられた。

 「おはよう、梓ちゃん」

 「どうしたの梓?」

返事のできない私の目線を、二人が追う。その先にはこの文書。
憂は言葉に詰まり、純までもがその文書の内容を直視できずにいる。

 「……澪先輩や紬先輩まで…。お姉ちゃんはどうなったの…っ」

 「はは…ウソ、ウソでしょ?ねえ梓?」

ホームルーム開始のチャイムが鳴り、心配した担任に呼び寄せられて、
ようやく私たちは教室に入る。憂はそのまま医務室に連れていかれた。

私も作業が手に付かず、樹脂を金型から打ち出すとき、指を挟みそうになった。
純は、成型器に指先を挟んで爪を割ってしまった。



57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 13:21:41.99 ID:W/Ns2wUZ0
その後、ようやく落ち着きを取り戻した私は、律先輩のときのように、
数日間、軍用トラックの到着を注意深く観察していたが、その気配はない。

昼休み、もさもさした豆ご飯を頬張りながら三人で小声で話す。


「そういえば、純も憂も最近軍用トラックとか見てないよね?」

「確かに、最初の後送のときみたいに来てないね」

「私もお姉ちゃんの消息が気になるから、一応気にしてたけど見てないよ…」

─────────────────────







De Dannan & Mary Black



58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 13:23:01.34 ID:W/Ns2wUZ0
その翌々日の朝、私は、一本の真新しい車両の轍が、
原料製品搬入口とは異なる方向に伸びているのに気付いた。

(前回の後送の騒ぎを再発させないように、始業前に運んだ…?)

そう思った私は、昼休みに、3年2組の教室に赴く。

3年生の教室階に足を踏み入れると、例の臭いが充満している。
そぼ降る霧雨が、その臭い、そして病室の陰鬱さを引き立てる。

そして、明らかに、各教室から漏れ聞こえるざわめきが増している。
間違いない。すでに、新たな後送者は来ている。

2組の前まで来ると、中からぼそぼそと低い話し声が聞こえる。
律先輩独りだけなら話をするはずもない。
やはり澪先輩とムギ先輩も帰ってきてるんだ。

再会の喜び1割、不安9割といった心境のまま、思い切ってノックし教室に入る。

「…失礼します、こんにちは」



59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 13:25:14.90 ID:W/Ns2wUZ0
 「その声は梓か?」

 「あっ、梓ちゃん」

 「おす、梓」

寝台の上にあぐらをかいている律先輩が右手を軽く挙げる。
その寝台の周りにいる、紬先輩と澪先輩がこちらを振り向く。
三人とも同じ病衣を着ている。

紬先輩だけ椅子に掛けている。顔を一見してもだいぶ痩せたように見える。
つややかだったはずの金髪も、その輝きの衰えは隠しきれない。

窓枠に軽くもたれている澪先輩も、負傷の治療などで支障があったのか、
長く豊かだった黒髪は、律先輩の髪と同じくらい、ばっさりと短く切られている。
代わりに、その黒髪とお揃いのような黒いサングラスを掛けている。

 「澪先輩、ムギ先輩、お久しぶりです。帰ってたんですね。掲示板に告知が…」

律先輩が言う。

 「二人とも、今朝帰ってきたばっかだよ」



60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 13:26:35.51 ID:W/Ns2wUZ0
私は、教室の敷居をまたいで、さらに三人に近付いて気付く。

紬先輩が腰を掛けているのはただの椅子ではない。車いすだ。
膝掛けのブランケットの裾の下には、本来は見えるであろう足が見えない。
正確には、もはや存在しないのだと思う。

 「あっ、ご、ごめんね梓ちゃん、びっくりするわよね」

 「いえ、その…すみません、正直、驚きました」

 「見て分かると思うけど、…なくなっちゃったの」

律先輩のときと違って極力自然体になるよう心の準備はしていたはずだが、
私の顔にはしっかり戸惑いの色が出てしまっていたのだろう、
紬先輩が私に謝る。謝る理由はないのに。



次いで、私は澪先輩に視線を移す。

(髪の毛を切らなきゃいけないようなケガを負ったのかな…
 でも目立った外傷はなさそうだし…)

そんなことを考えながらしげしげと澪先輩を見つめるが、気付く気配がない。



61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 13:28:22.64 ID:W/Ns2wUZ0
見かねた律先輩が助け船を出す。

 「おい澪。梓が何か聞きたそうだぞ」

 「ああ、ごめん。気付かなくってさ。何だ?」

 「あの、澪先輩は…」

私が言葉を慎重に選んでいると、律先輩が口を挟む。

 「気付かないじゃなくて、見えない、だろ」

 「律、先に言うなよ」

 「それって…」

私が質問するより早く、澪先輩はサングラスを外し、まぶたを開ける。
雨天の屋内でサングラスをしている時点で気付くべきだった。

薄明かりの中、両目の眼窩の暗闇に吸い込まれそうになる。
私は思わず息を飲む。

 「ごめんな。驚かせたか?見てのとおりだよ。ロケット弾の破片で。
  今度、義眼を作ることになってるんだ」

 「…そうですか」

我ながら気の利かない受け答えだと思ったが、
この状況で気の利いた受け答えができる人間がどれだけいるだろうか。



62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 13:31:08.05 ID:W/Ns2wUZ0
私は気を取り直して、話を進める。

 「あの、唯先輩の消息はご存じないですか?
  憂もすごく心配して取り乱してるので、手がかりだけでも…」

 「申し訳ないんだけど、私たちも知らないの…」

 「私とムギも、病院は別で、トラックに詰め込まれて初めて再会したくらいだし」

 「でもすでに学年の約1割が戦死傷だからなぁ。唯も無事かどうか…」

やはり、唯先輩の安否の手がかりはない。
軍事情報がダダ漏れになるはずもないから、当然といえば当然か。

しばらく話していると、澪先輩から、誰にともなく頼みが出る。

「ごめん、ちょっとトイレ行きたいんだけど、誰か付き添ってくれるかな。
 白杖だけじゃどうにもならないよ。まだ慣れてないし」

「んじゃ久々にツレションしますか!代わりに澪の肩貸してくれ。
 こういうときでもないと部屋の外に出ないしな」

答えた律先輩は寝台から右足を下ろす。
寝台の脇には義手や義足が置いてあるが、付ける様子はない。
私はそれらに目を向けながら質問する。

「あの、こういうの付けなくて大丈夫なんですか?」

「レディーメイドの補装具って重いし暑いし、付けたり外したり面倒だしさ」



63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 13:33:20.74 ID:W/Ns2wUZ0
「そのうちちゃんとオーダーメイドで作りたいわね」

「…そんな金どこから出るんだよ」

ムギ先輩の何気ない一言に、自嘲気味に答えた律先輩は、
他の寝台や澪先輩の肩につかまって片足跳びしながら、教室のドアに向かっていった。

「ドアの取っ手、10センチくらい左」

「ん、このへんか?」

「あーもう行き過ぎ行き過ぎ」

二人羽織のようなやりとりを数回繰り広げて、二人は出て行った。
私とムギ先輩だけが残される。

「…梓ちゃん、本当に、ごめんなさい、本当に。こんなことになっちゃって」

「…いえ」


(なんで謝るんですか!先輩方は悪くないのに!)

本当は、この前、私自身が律先輩から言われたような言葉を返したかったが、
かつての鷹揚でおっとりした雰囲気は消え失せ、卑屈な苦笑を浮かべながら、
上目遣いに話しかけてくるムギ先輩の姿を見ていると、
そんな気力さえも萎えてしまった。



64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 13:35:12.45 ID:W/Ns2wUZ0
すると、廊下から大きな物音が響く。

気になって教室のドアから様子を見ると、
少し先で律先輩と澪先輩が折り重なって倒れている。

「だ、大丈夫ですか!?」

「…いたたた。盛大に転んだなぁ」

「痛っ…梓か?そのへんに白杖ないか?」

「二人とも無理しないでください。立てますか?」

私は、右肩に澪先輩の左手をかけ、左肩を律先輩に貸して、
廊下をゆっくりと歩いた。

私は二人のやりとりを黙って聞いていた。

「あはは、義足なしじゃ一人でトイレも行けないからって、横着するもんじゃねーな!
 義手はともかく義足くらいつけてくりゃよかった、ははは」

「ふう、一人どころか二人でもトイレにさえ行けないじゃないか。情けない」



65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 13:36:47.25 ID:W/Ns2wUZ0
徐々に、二人の声が震えてくる。

「ホントになぁ。後輩に文字通りおんぶにだっこ状態だよ。情けないよなぁ」

「私は情けないし、腹立たしいし、申し訳ないし、悔しいぞ」

「…澪、お前、怒るかもしれないけど、ちょっとだけ、うらやましいよ。
 もう、悔し涙も、出ないんだろ。その目。はは、ははは」

「律ぅ、ふざけたこと、言わないでくれよ。一応、涙腺は、生きてるんだぞ…」


実際、長い時間がかかったのだけれども、
トイレまでの十数メートルが、恐ろしく、いや、悲しくなるほど長く感じられた。

私は、澪先輩のサングラスの陰から、一筋の体液が流れるのを見た。

二人がトイレに入っている間、私はそのむせぶ声を聞きながら待っていた。



66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 14:03:44.53 ID:W/Ns2wUZ0
「…梓、3年2組行ったんでしょ?どうだった?」

昼休みの終わり間際、教室に戻ると、純が私に問う。
憂と純には、3年2組の教室に行くことは伝えていなかったが、
私の顔色からあっさりとバレてしまったようだ。

「澪先輩も、ムギ先輩もいたけど…。目とか、足とか…」

「そっか、そうだよね。後送されるくらいだもん、ね」

純が、日頃の明るさとは打って変わって気詰まりな声を出すと、
憂が、あきらめ混じりに、私に問いかける。

「やっぱり、お姉ちゃんのことはわからないよね?」

「うん…、ごめんね。憂」

「仕方ないよ。誰のせいでもないもの…」

そう。誰のせいでもないのだ。

なのに、なぜこんなことになったのか。そう嘆かずにはいられない。
この日の天候以上に、私たちの心は暗く塞いだ。

                            [第4話 終]



67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 14:06:31.09 ID:W/Ns2wUZ0
“ΝНΚアーカイブス 戦争特集アニメ「幻の放課後」

 (中略)

 今回は、前回に引き続き、第5話「外泊許可!」をお送りします”



─────────────────────







Johnny Horton



68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 14:09:24.26 ID:W/Ns2wUZ0
ある週末。

容態の安定した傷病兵に外泊許可が下りた。
────────────

琴吹紬の場合。

 「…お久しゅうございます、お嬢様」

そう言って深々と礼をする斎藤の頭髪には、
わずかな月日の合間に、目立って白いものが増えた。

幼い頃から陰に日に付き従ってきたこの老執事は、
今の私の姿を見て、どのような心境なのだろうか。

 「…斎藤も、お疲れさま」

 「さ、あちらに車を回しておりますので」


斎藤に車いすを押され、私は車寄せへと向かう。



69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 14:10:49.84 ID:W/Ns2wUZ0
車道は閑散としており、車は滑るように走っていく。
時折、トラックや軍用車の車列とすれ違う。

(“ガソリンの一滴は、血の一滴”…か)

ガソリンが配給制となってから、自家用車の姿はめっきり減った。

 「お父様とお母様は?」

 「旦那様は、軍当局との緊急の折衝で盛岡の砲兵工廠に行かれました。
  奥様は夕食までにはお戻りになる予定です」

 「そう…」



70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 14:12:55.09 ID:W/Ns2wUZ0
夕食。

お母様が、再会の喜びを表し、労をねぎらう。
動揺の色を少しでも悟られまいと気を遣っているのがわかる。

 「紬、おかえりなさい。大変だったでしょう?」

 「ええ…」

気乗りのしないまま、ひと口、ふた口、
私の帰宅のために、シェフが腕によりをかけて作ったであろう、
豪勢な夕食をついばむように口に運ぶ。


丁寧に裏ごしされたヴィシソワーズ。
新鮮な生野菜と白身魚のマリネ。
ハーブの利いた肉汁の溢れる若鶏のコンフィ。
なめらかでとろけるように甘いブラマンジェ。
もちろん食後には紅茶も砂糖もあるはずだ。

 「あの人も楽しみにしていたのだけれど盛岡に…」

私はお母様の言葉を聞いて、ナイフとフォークを止める。

 「本当かしら。娘に合わせる顔がないのではなくて?
  聞いたわ。砲兵工廠に行かれたそうね。
  先週は、福島の航空工廠に。その前は舞鶴の造船廠。
  …お父様は、やはり生粋の“死の商人”ね!」



71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 14:13:56.17 ID:W/Ns2wUZ0
私は、車いすを超信地旋回のように鋭く翻して、食卓を後にする。

 「紬っ!」

母の叱責を背中に聞きながら、私は大食堂の外に車いすを駆り立てる。



籠の鳥のごとく無批判に両親の庇護を受けてきた私も、
高校生になってからは、人並みに葛藤を感じるようになっていた。

両親との関係を決定的に変える契機になったのは、
琴吹家の事業が軍需産業への傾斜を強めて巨利を得る一方、
両親が私を徴兵免除させるべく政官界に手を回していることを知ったことだ。

人の親の情けの常とはいえ、私には決して許し得ないことだった。
私は激怒し、両親を激しく非難したが、
生まれて初めて、お父様に頬を張られ、お母様に親不孝者と罵られた。



72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 14:15:10.20 ID:W/Ns2wUZ0
結局、私は、自らの意志で軽音部の仲間と同じく徴兵に応じた。

徴兵が決まってから、軽音部の仲間に悟られぬよう、
放課後のお茶とお菓子を徐々に減らしていった。

本当は、お茶もお菓子も手に入れようと思えば、いくらでもできた。
でも、私はそれらを敢えて手に入れなかった。

それが私の意志であり、義務でもあった。


両親と同じような人生は歩みたくない。
その思いは、戦地に赴いてから、一層強くなった。

傷つき倒れていく兵士たち、学友たち。

一口でいい、水が飲みたい、甘いものが欲しい。
いまわの際、うわごとのように呟きながらその声が途絶えていく。

そんな光景を目にしながら、どうして私一人が、
安寧をむさぼることができようか。

今こうして生きているだけでも居たたまれないほどなのに。



73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 14:16:36.81 ID:W/Ns2wUZ0
そして私もまた、負傷し、後送された。

これが“一般庶民”であれば、名誉の負傷と言われる義理もあるだろうが、
しかし、琴吹の人間である私にとっては当然の報い。自己満足でしかない。

こんなことなら、世間から後ろ指を指されても、親にすがって、
軽音部の仲間たちも含めて、徴兵逃れさせればよかったのではないか。
私一人の意地のため、かけがえのない友を犠牲にしたのではないか。
そんな疑念さえ、じわりと心底から染み出てくる。

そう感じると、軽音部の仲間に対してすら卑屈になってしまう。
そんな自分の卑屈さを悟られまいとすると、余計仲間に対して壁を感じる。

結局、親への身命を賭した反抗すら、
どんなに反抗しても琴吹の血との縁は切れない、という
予定調和の秩序への依存があるからこそだ。

傲岸不遜なる内弁慶の外地蔵。


今この瞬間も、琴吹のカネの源泉は、軍に納めた兵器類。
級友たちを危険にさらし、その生き血をすするも同然の所業だ。
ゆえに、この身の血肉は、そのまま、他の誰かの血肉でできている。

そう考えると、急激に猛烈な嘔吐感がこみ上げる。



74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 14:18:54.90 ID:W/Ns2wUZ0
洗面所で、先刻申し訳程度に口にした晩餐を跡形もなく嘔吐すると、
自然と、私はあの部屋に向かった。
少しでも、この罪悪感を紛らわせたかった。

窓から差し込む月光の薄明かりの中で、
以前と変わらず、グランドピアノと、そしてキーボードがたたずんでいる。

(ペダルも踏めなければピアノはままならないけれど、キーボードなら…)

そう思ったが、それ以上に、今や所詮こんなことは金持ちの道楽に過ぎない。
そんな思いが募り、車いすを進めるのを止めた。


薄暗い室内にたたずんでいると、背後に人の気配を感じた。

 「やはり、ここでしたか」

 「…斎藤、私が決めたことは、誤っていたのかしら」

 「………それもまた、お嬢様が決めることでございましょう」

 「そう、ね。こんなことを訊くこと自体、甘えでしかないわよね」

青白い月の光が冷たく差し込む部屋の中で、
車いすの上、掛けるべき膝を失った膝掛けに、涕泗がにじんだ。



75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 14:21:33.32 ID:W/Ns2wUZ0
秋山澪の場合。


貴重なガソリンを使って、ママが自動車で迎えに来てくれるみたいだ。
確かに、かつて通学路であったとはいえ、白杖だけで家路につく自信はない。

昇降口で待つ。
なるべくみすぼらしくならないよう、前髪や服の裾を整えるが、
いかんせんどうなっているのか確かめる手立てがない。

義眼を入れているので、見た目で極端に驚くことはないと思うけど…
緊張に満ちた漆黒の視界の中で、神経を研ぎ澄ませる。

足音が近付き、目の前で止まった。そして、懐かしいママの声。

 「お帰りなさい。澪。髪、切ったのね」

 「迎えに来てくれてありがとう、ママ」

 「…私はこっちよ」

 「ごめん。……見えなくて」


微妙にズレた角度に挨拶をしていたらしく、ママにたしなめられる。
目のことはあらかじめ伝えていたことだったから、
隠すつもりもなかったが、やはりショックだ。



78:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 15:18:30.43 ID:W/Ns2wUZ0
さるさんだった
ブラックラグーンのEDで久々に聞いてふと考えた
両曲について下記にて詳述されているのでお好みでご一読
http://pointex.biz/initial/archives/2009/12/240844395011
http://d.hatena.ne.jp/muffdiving/20090617/1245170333



79:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 15:19:50.70 ID:W/Ns2wUZ0
白杖で地面を叩きつつ、ママに手を添えられて歩く。
自動車に乗り込むとき、車体に側頭部をぶつけてしまった。

皮肉なものだ。戦場ではあれほど疎ましかった視覚がないと、
一人ではどこにも行けない。当然といえば当然のことだけど…

 「今日は、ブリ大根にするからね。白いご飯もあるから」

 「へえ、魚があるんだ。楽しみだな。工廠では雑穀が多くて」

お互いに平静を装っているが、久々の再会も相まって、
不安のさぐり合いをしているかのようだ。


久しぶりに家に着く。とはいえ、家の姿を確かめることはできない。
しかし、独特の香りが、自宅に到着したことを実感させてくれた。

 「大丈夫なの?」

 「大丈夫だよ。この家でずっと過ごしてたんだから。ご飯ができたら呼んで」

夕食まで時間があるので、ママの心配をよそに自室を目指す。
玄関から、記憶の中のだいたいの距離感を頼りに、おずおずと歩く。
階段の段数など意外と覚えていないものだ。



80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 15:22:49.97 ID:W/Ns2wUZ0
自室と思われる部屋に着く。部屋の家具の配置からすると間違いないだろう。

 「机がこのへんでその上にパソコンが…」

手でまさぐりながら確認する。PCの電源ボタンを探して押す。
起動音がして、ハードディスクの回転音がする。

 「ちゃんとしたドキュメントリーダとか買わないとな…」

もちろんこのままの状態では、PCを満足に扱うことなどできないだろう。
それでも、勘を試してみたかった。

 「ふふ、文字通りブラインドタッチだな、これは。
  あ、今はそう言わないんだっけ」

そんなふうに苦笑して、キーボードに手を載せる。
ハードディスクの回転音と振動が収まるのを待つ。

ひとまず軽音部の練習を録音したファイルでも再生してみようと、
初期のカーソル位置から推測して、慎重にキーを押すが、すぐに行き詰まる。
不愉快なエラー音がして、完全に見当が付かなくなる。

 「…パパが帰ってきたら、手伝ってもらおう」

実際には全部やってもらうことになるだろうと思うと、やるせなくなる。
電源ボタンを押して強制終了したPCからの音が消える。



81:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 15:24:09.21 ID:W/Ns2wUZ0
手持ちぶさたでベッドに横になる。

階下からはほのかに、ブリの生臭さ、醤油、みりん、砂糖などの香りが漂ってくる。
貴重な魚と調味料を、私のために用立ててくれたのだろう。

外からは、鳥の鳴き声、虫の声がする。
時折、自転車のベルの音や、郵便受けがカタと鳴る音が近付き、また遠ざかる。

 「夕刊を配る音か。郵便配達はもっと早い時刻のはずだし」

時間を知る術さえも、聞こえる音と、自分の腹時計くらいしかない。
もっとも、最近は常に空腹気味なので、腹時計はあてにならないが。


 「…ベース、あるのかな」

私はふと、そんな思いを抱く。

記憶を頼りに、いつもベースを置いていた場所をまさぐるが、
探し当てることができない。

私は、やや大きな声で階下で夕食の準備をしているはずのママに問いかけた。

 「ママー、ベース知らない?」

 「部屋にあるわよー」

そう。この漆黒に閉ざされた部屋のどこかにあるはずなのだ。
私には、わずか十数平米の自室が、茫漠たる異境の荒野のように感じられた。



82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 15:25:28.95 ID:W/Ns2wUZ0
せいぜい5分くらいか。いや、数十分か。それもよく分からない。
私は汗だくになって、悔し紛れに部屋中をさまよい歩き、はいずり回る。

 「どこだよ…どこにあるんだよ…っ」

机やベッドの角に頭をぶつける。
壁や家具にぶつけた指の爪が割れる。
本棚やサイドボードから小物が倒れて落ちる。

再び頭をぶつけた衝撃で、ずれた義眼の位置を直していると、
階下から、ママの声がした。

 「あ、そうそう、あなたが帰ってくるから、
  少し部屋を掃除してクロゼットの奥に…
  ! ……ご、ごめんなさい!!澪!澪っ!」

鷹揚な呼び掛け、次いで、叫ぶような謝罪の声、
そして階段を駆け上がる足音が聞こえてくる。

(なんだ。ここには初めからなかったのか。気付かないなんてバカだな)

そう思った瞬間、本来の機能を失ったその両目に残された唯一の機能が起動する。
偽りの眼球を嵌め込まれた眼窩から、私は涙腺すら枯れるほどに滂沱した。



83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 15:27:31.90 ID:W/Ns2wUZ0
田井中律の場合。


おっしゃ!

後送後初めての外泊許可。病衣を脱ぐのも久々だ。
聡が迎えに来てくれる予定。……もちろん不安はある。

 「おう聡!元気してたか~?」

病室で待ちきれず昇降口で待ちかまえていた私の目に、聡の姿が映る。
私はわざと左腕の義手を大きく振って聡を迎える。

一応、事前に伝えてはいたものの、
至近距離でいきなり義手義足を見せられてはショックを受けるだろう。
多少はそれを和らげられるといいのだが。

 「…姉ちゃん、お帰り!荷物持つよ」

 「ありがと。持つべきものは良き弟だねぇ~」

できた弟だよ。ホントに。



86:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 15:36:08.84 ID:W/Ns2wUZ0
>>84 了解。助言深謝。
------------

家への道すがら、いろいろ話す。
せっかく週末に帰宅だというのに、両親とも仕事でいないらしい。

 「姉ちゃんが帰ってくるから、今日は俺が晩飯作るよ!」

 「お前そんなに料理できた?何作るんだよ」

 「なんと玉子丼!」

 「うっそ!マジで!?鶏卵?エッグ?貴重品じゃんか!」

 「ご飯もたっぷりあるよ」

 「雑穀や麦飯じゃないよな!銀シャリ?白米?ホワイトライス!?」

 「もちろん!卵余ってるから、目玉焼きにでもする?」

 「んじゃあ、私が茶碗蒸し作ってやるよ。今日は卵パーティーだ!」


ったく、知らない間にまた少し大きくなっちゃって。
それでもゆっくり歩いてるつもりだろうけど、
この足でお前と歩調合わせるの結構きついんだよ。




87:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 15:38:28.79 ID:W/Ns2wUZ0
久しぶりに自宅の敷居をまたぐ。
リビングのソファに腰を下ろすと左腕の義手を外し、
荷物を持ってウロウロしている聡の後頭部にお見舞いする。

 「ロケットパァーンチ!」

 「痛って!マジでシャレにならないから!」

 「はっはっは!私はサイボーグとして生まれ変わったのだよ!」

聡もこの様子なら大丈夫だろう。
茶碗蒸しの出し汁の準備に取りかかる。片手で何とかなるだろ。
しかしいつの間に玉子丼の作り方なんか覚えてくれたのか。嬉しいねえ。



88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 15:39:51.08 ID:W/Ns2wUZ0
 「あ、レンゲ取って。じゃあいただきまーす!」

 「いただきまーす!」

感傷は抜きにして、久々の親子丼はマジ旨い。白米との相性も抜群。
茶碗蒸しもブランクがあったわりには上出来だ。

テレビが自由に見られるのも自宅ならではだ。
本当は御上のお達しで電力節約のため1日2時間しか見ちゃいけないらしい。

“おいらはドラマ~、やくざなドラマ~…”

CMを見ていたら、思わず箸で丼のふちを叩いていた。

 「姉ちゃん、行儀悪いぞ」

 「お、すまんすまん」

……やっぱり未練があるのかね。



89:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 15:42:43.99 ID:W/Ns2wUZ0
風呂を沸かしてもらったので、入ることにした。
ずっとシャワーばかりだったから、湯船に入るのは楽しみだ。
さて、左の義足も外したまではいいが、どうやって入ったものか…

片足跳びで湯船の縁に腰掛けて、慎重に、右足を湯船に入れて、
と思っていたら、派手に踏み外した。

 「ぶふぉっ!…げほ!」

せっかく九死に一生を得たのに、風呂で溺死とか、間抜け過ぎる。
赤髭フリードリヒ1世じゃねーんだぞ。お、私インテリ。

何とか体勢を立て直すが、風呂の派手な波音を聞いて、聡がドアを開ける。

 「おい!姉ちゃん大丈夫か!?」

 「バッカヤロ!覗くな!」

聡に洗面器を投げつけて追い払った後、しばらく湯船でくつろぐ。

(はー極楽極楽、って、極楽にはまだ早いな)

水面下に視線を移すと、自分自身の欠けた裸体がゆらいでいる。

(これから、私の人生どうなる…ってか、どうすんだよ?どうできる?)



91:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 16:16:37.26 ID:W/Ns2wUZ0
>>90 すまん。言われたそばからさるだった。
--------------------

鼻まで湯に浸かってブクブクしていると、また聡の声が聞こえる。

 「姉ちゃん、背中流そうか?」

 「エロガキ。自分でやるよ」

 「無理だろそれ。あと右手で右手とか絶対洗えないし」

 「……じゃあいいよ。ただし見るなよ、絶対見るなよ!」

聡に背中を流してもらう。
一緒に風呂に入るのは小学校のとき以来だろうかなあ。
右腕も洗ってもらう。まんざらでもないがやはり恥ずかしい。

聡がおもむろに口を開く。

 「姉ちゃん、これからは何かあったら俺に言ってくれよ」

 「心配すんな。身の回りのことは一通りできるから」

 「でも本当に必要なときは遠慮すんなよ」

 「…ありがと。気持ちだけもらっとくわ」




92:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 16:22:36.88 ID:W/Ns2wUZ0
風呂をあがった後、私は自室に入った。
出征前と変わらぬ室内は、きれいに掃除が行き届いている。

 (確かこのへんに…)

私はドラムスティックを手に取った。もちろん、一本だけだが。
積んである雑誌の束を一度だけ叩く。利き腕が吹っ飛ばなくて良かったと思う。

しかし、残されたもう一本のスティックを眺めれば、それだけで胸が疼く。
出征前に自宅に引き上げたドラムセットも、
どこかにしまってあるはずだが、今の私には直視する勇気はない。

 (どうか、もう一度…)

自宅に帰る道すがら密かに抱いていた、砂糖のように甘く湿った感傷は、
瞬く間に塩に変わって潮解し、その露が両眼から溢れる。

 「…やっぱ、無理だ、な」

私はそのままベッドに片足跳びで飛び込み、そして、枕を濡らした。

                                 [第5話 終]



93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 16:32:34.56 ID:W/Ns2wUZ0
“ΝНΚアーカイブス 戦争特集アニメ「幻の放課後」

 (中略)

 今回は、前回に引き続き、第6話「組織編成!」をお送りします”



94:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 16:36:01.72 ID:W/Ns2wUZ0
残暑も和らぎ秋の気配も漂い始めた頃、支廠の組織変更があった。

生産能力逼迫の折、労働力を少しでも多く確保するため、
後送された傷病兵──つまり先輩方──も再び動員体制に組み込まれる。

“軍需生産局検査課第32検品室”

これが、旧3年2組所属の傷病兵の動員先として新たに設けられた。
とはいえ、3年2組の傷病兵は、まだ軽音部員の3人しかいない。

そして、第32検品室にあてがわれたのは、あの部屋だった。
私と、検品員である先輩方は、検品室へと入る。

 「…こんな形で部室に戻ってくるとはねぇ」

律先輩が感慨深げにつぶやくと、澪先輩とムギ先輩も言葉を漏らす。

 「よろしく頼むぞ、律。いや、田井中室長殿!」

 「でも、この部屋に来るの大変なのよね。階段が、ちょっと…」

 「先輩方、私、何でも手伝いますから。この検品室の専属連絡員になったので」

どうやら、生徒会長が学事課長として裏で少し手を回してくれたらしい。
最近、正直言って良い噂は聞かないけれど。
中には“自分一人が助かるために、同級生二百人の命を売った”って噂まで…



95:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 16:42:39.24 ID:W/Ns2wUZ0
以来私は、午前の作業時間を、作業室と検品室を往復して過ごすことになる。

作業開始後、病室に先輩方を迎えに行き、検品室である部室まで連れて行く。
特にムギ先輩と車いすを上り下りさせるのが一苦労なのだが、
ムギ先輩を背負うと痩せた上に両足の分の体重が減っているのよくわかった。

そして作業室で作られた製品を検品室に持って行く。
衣類や皮革製品の針の残留検査や、縫い目やボタンの点検、
樹脂や金属小物のバリ取り確認などをしてもらう。



 「これ、昨日生産された分です。納期は今日中でお願いしますね」

活動の内容は全く変わってしまったけれど、この部屋で、軽音部員だった面々が、
再び顔を合わせることができるだけでも、私はささやかな喜びを感じていた。

でも、“便りのないのは良い便り”とはいうものの、
唯先輩は、いまだに帰ってこない。



96:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 16:46:54.30 ID:W/Ns2wUZ0
──桜ヶ丘支廠会議室

 「…兵務戦備局からの報告事項は以上であります」

 「ずいぶん多いなぁ」

 「連隊全体では全滅ないしは壊滅状態と聞き及んどります。
  再編成も時間の問題でしょう」

兵務戦備局長の報告に、支廠長が渋い顔をする。

そこに軍務課長が口を挟むと、当て擦られた調達課長がわざとらしい咳払いをする。

 「まあ低い練度と貧弱な装備を考えれば頑張ったほうでしょう。
  もう少し教練に時間が取れれば違ったかも分かりませんが…」

 「…ゴホン」


副支廠長がオールバックをなで上げながら発言する。

 「こりゃ予定を繰り上げないといかんなあ。
  でも、まだ上から正式な通達は来とらんのだろ、兵務課長?」

 「は。しかし、内々には、近々年齢引き下げを決定する予定と言われてまして…」

 「では即座に対応できるよう、予備検査を実施しておこう」



98:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 16:52:03.79 ID:W/Ns2wUZ0
生徒会長、いや、学事課長である私は、手元の会議資料を見る。
この数字と文字の羅列の裏で、どれほど多くの学友が傷つき失われたのか。
内心穏やかではないのだが、今は感情よりも思考を優先させねばならない。

軍需生産局から、徴兵への対応について難色を示す意見が出る。

 「しかし、軍需生産の主力である二年生が抜けると、生産計画の下方修正は必至ですゾ」

 「調達課としても、傷病兵の労働力化に時間がかかりますので、
  三年生の中隊全体が後送されてから、引継ぎなどを行う猶予を頂きたいところです」


私はタイミングを捉えて意見を述べる。

 「…軍需局のご意見はごもっともと思います。
  兵務局のお立場としても、徴兵に迅速に対応すべきというのは理解しますが、
  ある程度、訓練と戦備を充実する時間を設け損耗を抑えることも必要では?」

 「ふむ、学事課長の意見ももっともだ。徴兵の予備検査は早急に行うとして、
  生産計画にも配慮し時間的な余裕を持って進めよう。
  では定例廠議は終了する。解散!」



99:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 16:53:48.40 ID:W/Ns2wUZ0
支廠長が宣言をして、会議は解散となる。
解散後、軍需生産局長が軽く会釈して小声で話しかけてくる。

 「先ほどは援護射撃をどーも。堅物の学事課長が珍しいですナ!」

 「…どういたしまして」

生産計画の未達成など、私にはどうでもよいことだった。
それは、軍需生産局が責任を取ることなのだから。

私は、ただ、引き裂かれた先輩と後輩同士が、
いま一度顔を合わせる時間を作ってやりたかった。それだけだった。

(今生の別れになるか否かも分からないのに、
 すれ違いで帰還と出征なんて、寂しすぎるじゃない。

 まあ、そんなセンチメンタルな意図、悟られないほうが好都合だわ。
 恐らく、そんな意図は誰も察してはくれないでしょうけど…)

そう思いながら、私は誰にも悟られぬよう、小さく苦笑しながら嘆息した。

                             [第6話 終]



100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 16:56:58.40 ID:W/Ns2wUZ0
“ΝНΚアーカイブス 戦争特集アニメ「幻の放課後」

 (中略)

 今回は、前回に引き続き、第7話「公告!」をお送りします”



101:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 16:58:18.40 ID:W/Ns2wUZ0
最近は、気候が少し過ごしやすくなり、つい、朝も寝坊をしたくなる。

けれど、去年の今ごろは文化祭に向けて練習などしていたということが、
私にはまるではるか昔のことのように思われてしまう。

そして、いつものように登校、いや、出勤して掲示板を眺める。



『徴兵検査予備調査の実施 ○年◇月◆日 兵務課・生産課・学事課』

『戦死者並びに戦傷者及び戦病者等の公告(1) ○年◇月◆日 兵務課』

『戦死者並びに戦傷者及び戦病者等の公告(2) ○年◇月◆日 兵務課』

『戦死者並びに戦傷者及び戦病者等の公告(3) ○年◇月◆日 兵務課』

『戦死者並びに戦傷者及び戦病者等の公告(4) ○年◇月◆日 兵務課』

『戦死者並びに戦傷者及び戦病者等の公告(5) ○年◇月◆日 兵務課』



102:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 17:02:07.61 ID:W/Ns2wUZ0
そして、久しぶりに再びあの忌まわしい公告を発見してしまう。

(何でこんなに!?)

混乱する頭脳を必死に抑えながら読み下す。
(1)の文書には、3年1組の生徒の名前だけが5人ほど載っていた。
どうやら、人数が多いので出身のクラスごとに文書を分けたらしい。

(ということは、(2)は……)

唾を飲み込むと、喉元を締め上げられるような息苦しさを覚える。



『戦死者並びに戦傷者及び戦病者等の公告(2) ○年◇月◆日 兵務課』

 “標記の件について、下記のとおり公告する。
                           ○年◇月◆日
                           服桜支兵兵第142号
                           兵務戦備局兵務課長 印

      氏  名      所  属    摘  要

    平沢    唯    第2小隊    戦傷
                         (五十音順)以上1名”



103:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 17:06:28.82 ID:W/Ns2wUZ0
私は、卒倒しかけて仰向けに倒れそうになるが、幸か不幸か、
後ろの下駄箱に後頭部を強打し、痛みで意識を取り戻す。

「つぅっ…」

下駄箱に背中を預けて後頭部をさすっていると、
少し遅れて出勤してきた純が顔を覗き込んでくる。

「おはよ梓。何してんの?」

「あ…おはよう」

純に目を合わせようとすると、途中、掲示板の前の人影が目に付いた。

憂だ。

「憂っ!見ちゃダメ!」

何がダメなのだろう。私は訳もわからず反射的に叫んでいた。



104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 17:10:31.18 ID:W/Ns2wUZ0
あっけに取られている純を押しのけて、憂に近付くが、遅かった。
わなわなと震えていた憂が、腹の底から絞り出すような叫びを上げる。


 「…ぉ、おね、おねえちゃぁああん!うわぁぁぁ゛あ゛あ゛!!!」


そのまま、憂はその公告をむしり取って紙吹雪のように粉々に破り散らす。

 「ヤバいよ!人来ちゃうよ!」

 「落ち着いて憂、ダメだって!」

 「嘘!こんなの嘘だよ!嫌ぁぁぁおねえちゃんがぁぁぁ!!!」

純と二人がかりで憂を押さえつけるが収まらず、たちまち周囲は人だかりとなる。



106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 17:16:17.64 ID:W/Ns2wUZ0
同時刻、学事課執務室。

早めに出勤して、私は学事課長席で書類を整理していた。
すると昇降口のほうから、建物全体が振動するような咆哮が聞こえた。

異変を感じて駆けつけると、憂が、掲示板の前で同級生二人に押さえつけられながら、
なおも、それを振り払うように猛っている。

私は、正気を失った憂を静めようと駆け寄り、呼び掛ける。

 「ちょっと憂!何してるの!」


憤激し頭に血が上った憂は、完全に我を忘れていた。

 「…の、和ちゃん!これ和ちゃんの仕業でしょ!私信じないからっ!!」

私のことを視認するやいなや、同級生二人を振りほどき、羅刹のごとき形相でにじり寄る。
野次馬の人垣は、その並ならぬ憤怒の相に恐れをなし、
旧約聖書の出エジプト記の海水のごとく左右に分かれて憂から退く。

憂は、私の制服の襟をちぎれんばかりに掴んで激しく揺さぶる。
そして、思いがけない言葉を私に叩き付ける。

 「…和ちゃんが、売ったんでしょ!お姉ちゃんを!先輩たちを!三年生二百人を!
  次は私たちを売るつもりなんだ!徴兵の予備調査って何なの!?」



107:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 17:23:33.87 ID:W/Ns2wUZ0
正直言って、憂から、このようなことを言われるとは思わなかった。

冷静さを失っているとはいえ、旧知の親友の妹から面と向かって罵詈雑言を浴びせられ、
みぞおちから背中まで錐で刺し貫かれたような感覚に襲われる。

野次馬の下級生たちも、多かれ少なかれ、私をそのように思っているのだろう。
私は身じろぎもせず、一言も発さず、ただ憂の目を見据えていた。

 「嘘なんでしょ!?お姉ちゃんは無事だって言ってよ!!」

 「…憂、残念だけど嘘じゃないわ。先日の会議で…ッ」

とっさに、振り抜かれる手の力に負けないよう、右足に力を込める。
乾いた甲高い音がして、眼鏡が吹っ飛び、廊下の焦茶色の床を滑っていく。

騒然としていた人だかりが、水を打ったように静まる。

憂は私の頬を引っぱたいたあと、獲物を目の前にした肉食獣のように、
しばし肩で深く息をしていたが、そのまま膝から床に崩れ落ちた。

 「うそ…うそ…、うう、う゛え゛えぇぇ…」



108:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 17:33:21.27 ID:W/Ns2wUZ0
憂は、遅れてきた警務隊に両肩を押さえられて鎮静剤を打たれ、
引きずられるようにして医務室に連れて行かれた。



 「…みんな、何してるの?もうホームルームでしょ?早く教室に入って」

私は襟元を直すと、鼻血が滴るのも意に介さず、野次馬を冷然と誘導する。

すると、野次馬の下級生の一人から、
レンズが傷つき、蝶つがいがあらぬ方向に曲がった眼鏡を差し出された。

 「どうぞ、…学事課長」

私が無言のまま目礼すると、私の眼差しと、その冷ややかな眼差しとが交差する。
眼鏡を受け取り、学事課執務室への帰路につく。

鉄錆の味がする口内を舌でなぞると、ゆるんだ犬歯が歯茎から離れた。



109:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 17:43:19.66 ID:W/Ns2wUZ0
朝、純ともども憂に振り飛ばされたので、全身がきしむ。
午前の作業開始後、私は第32検品室にいる先輩方に製品を持って行く。

 「これが昨日の分です。だいぶ多いのでよろしくお願いします」

 「確かに最近多いわね。梓ちゃん、いつもごめんなさい」

 「中四国から関東と東北に生産をシフトしてるみたいですよ」


私が軽く息を吸って、

 「…あと、唯先輩が帰ってきます」

と、例の公告の話を切り出すと、澪先輩が反応する。

 「そうか。今朝、すごい叫び声が聞こえたけど、あれ、憂ちゃんか」

 「はい」

 「まさか…、“無言の凱旋”ってわけでは、ないよな?」

澪先輩が婉曲な表現を選びながら聞いてくる。



110:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 17:45:45.45 ID:W/Ns2wUZ0
律先輩もムギ先輩も神妙な面持ちである。無理もない。
後送されるということは、例外なく戦死か戦傷病なのだから。


 「戦傷だそうです。詳しくはわかりませんけど」

 「ふうん、それは、…」

“良かった”と、恐らく澪先輩は続けたかったのだろう。
しかし、どこが“良い”のか。

帰還すること自体はもちろん嬉しい。
が、自分たちと同じような状態になっているに違いない。
そう思って、言葉を飲み込んだのだ。

 「いつも通り納期は今日中にお願いします。終わったら無線で呼んでください」

先輩方の心境を察していたたまれなくなった私は、
事務的に連絡を切り上げると、第32検品室を後にした。



111:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 17:52:13.37 ID:W/Ns2wUZ0
──ある朝の病室、旧3年2組。

さすがに、教室の広さの部屋に3人しか入院していないのは、少し寂しい。
とはいえ、新たな同室者はなるべく増えて欲しくないが。
負傷した唯はいつになったら帰ってくるのだろう。
これが、現在の入院者である3人の心境であった。


 「はい、朝刊。隣の病室からもらってきたわ」

紬が、膝掛けの上に載せてきた朝刊を差し出すと、律が右手で受け取る。

 「ありがと。ありゃー、曰経もとうとうタブロイド版になっちゃったか。
  物資不足も相当深刻になってきたな」

 「最近は大きさや紙質どころか記事の質もタブロイドだからちょうどいいだろ」

澪がそう言って短くなった髪をかき上げつつ冷笑する。

 「みおしゃん手厳しいですな~。まあ、小さい方が持ちやすいから助かるけど」

そう言って、律は澪に新聞を読み上げ始める。紬もまた、耳を傾けている。

 「えーと、“米第7艦隊、台湾近海で敵艦隊を猛襲”だとさ」

 「どこまで本当なのかな」

 「全く同感ね…」



112:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 17:56:56.14 ID:W/Ns2wUZ0
しばらく読み進めていた律の声が一瞬止まる。

 「…。“高校二年生の徴兵猶予解除。順次実施へ”」

 「そうか…。この前予備調査したばかりなのにな」

 「梓ちゃんや憂ちゃんも、ついに前線行きね。
  唯ちゃんとすれ違いにならなければいいけれど…」

澪と紬も、朝から喜ばしくないニュースを聞いて、浮かない声を上げる。

廊下から、朝食の飯上げを知らせる声がする。

いつもなら、不味くて量も少ないなりに、数少ない楽しみなのだが、
今朝は誰も、献立を気にする者はいなかった。

                               [第7話 終]






梓「ジョニーが凱旋するとき」【後篇】に続きます。
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         コメント一覧 (5)

          • 1. ヒャッハハー
          • 2010年08月17日 15:25
          • レイプシーンマダー
          • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2010年08月18日 00:13
          • おれ、こういう系統のSS好きだわー

            でも、唯が"ジョニーは戦場に行った"の主人公みたいになりそうだ…
          • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2010年08月18日 12:36
          • よくみたら話が前後してる?
            書き込みの番号36→44→38ってなってるけど…
          • 4. あ
          • 2010年09月18日 17:45
          • 久々に読みたくなって来てみたらレス順直ってるね
            管理人さん乙です
          • 5. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年08月27日 18:07
          • ほんとこのゴミ妹イライラする
            姉思いじゃなくて自己中シスコンヒステリー女じゃん
            けいおん部じゃなくてこいつが戦死すればよかったのに
            胸糞悪い

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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