律「一番大切なもの」【前篇】

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1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:17:35.34 ID:3RdLHAD10
生温かい湿気が纏わりつき
気分も沈みがちなこの季節
私は間近に控えた中間テストに向けて幼馴染と図書館に来ていた

律「しかし、じめじめとした日が続きますなぁ」

澪「梅雨なんだから当たり前だろ?」

律「こうも湿気が多くては勉強する気力が・・・」

澪「何言ってるんだよ、一緒に勉強しようって言ってきたのはおまえだぞ?」

律は机に肘をつきながら窓に目を向け、
しとしとと降り続ける雨をつまらなそうに眺めていた
私はふと律の白紙のノートに目をやり、呆れかえった
参考書にはなんだかよくわからないライオンのような落書きがされている



3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:18:41.44 ID:3RdLHAD10
澪「まったく・・暇さえあれば落書きばっか・・昔から変わらないな」

律「ふふ・・この落書きがなんだか分かるかい、お嬢さん」

澪「・・さぁ」

律「これはね、はるか昔から田井中家に伝わる晴天の使いなのさ」

澪「へぇ、そうなんだ」

律「信じてないな?」

澪「信じてるよ」

律「嘘だ」

澪「ホントだよ」

律「・・・」

澪「・・・」カリカリ



5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:19:39.81 ID:3RdLHAD10
こうでもしないと律は自分から勉強しないからな
少し冷たい様だけど、これが律の為になるんだ
テストの結果が悪いと軽音部の部活動にも色々と支障をきたすだろ?
律がいない部活動なんて寂しいじゃないか

私が相手をしてくれないと悟ると律は渋々とペンを握った
少ししてようやく私に分からない問題を尋ねてくるようになった
一問一問律と一緒に問題を解いていった

律の勉強に対する集中が途切れる夕方まで
私達は共に時間を過ごした



6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:20:22.68 ID:3RdLHAD10
澪「田井中家に伝わる晴天の使いも大した事ないんだな」

律「くそ~どんだけ降るんだよ~・・」

澪「さぁ、帰るぞ・・あれ?」

律「どしたの?」

澪「傘・・ないし・・」

律「ん、ホントだ、私の傘ともう一つ・・」

澪「図書館を出る人が私達で最後だから・・」

律「誰かが間違えて澪の傘持って行っちゃったんだろうな」

澪「まいったな・・どうしよう・・」じっ

律「(なんで私を見る・・・)」



8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:21:07.74 ID:3RdLHAD10
律「べ、別にその傘使ってもいいんじゃない?交換て事で!」

澪「それはダメだ!・・人の物を勝手に使うのは良くないだろ!」

律「・・ま、まぁそうだよな・・」

律「・・・」

澪「・・・」

律「・・・」ばさっ

澪「・・・」

律「ほら、澪・・早く」

澪「・・あ、ありがと・・」///



9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:21:49.88 ID:3RdLHAD10
幼い頃から親友にずっと抱いている感情
それは友情なんかじゃなくて
もっと深い感情

私はね
律の事が好きなんだ

律「なんか澪と相合傘なんて久しぶりだな、小学生の頃以来か?」

澪「そ、そうだな・・あ、私が傘持つからいいよ」

律「いいって」

澪「いいから、私の方が背高いんだし・・」

律「ん、ありがと」

澪「・・・いいよ」



10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:22:47.98 ID:3RdLHAD10
あえて自分の感情を伝えようとは思わないよ
女性が女性を好きになるなんて、おかしいと思うのが普通だ
私だってそのくらいは心得てる
それ以上に素直に自分の感情を律に打ち明けるなんて事は
臆病者の私には到底不可能な事だった

それでも私は入学して1年以上経った高校生活に充実感を覚えていた
ただ、律と一緒にいられれば満足だった



11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:23:43.42 ID:3RdLHAD10
澪「もうすぐ律の家だな」

律「しっかし全然雨止まないなぁ」

澪「・・ありがとう律、ここからは走って帰るよ」

律「え、なんで?泊ってかないの?」

澪「えっ、そんなつもりはないけど・・」

律「濡れちゃうじゃん、今日はもう泊ってきなよ」

澪「・・え・・でも・・」



12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:25:23.84 ID:3RdLHAD10
律「いいじゃんいいじゃん、明日も学校休みなんだしぃ」ぐい

澪「あっ、おい律!」

律と今晩ずっと一緒にいられる
本当はすごく嬉しい事なのに、
私は素直に自分の感情を表す事ができないんだ
いつもそうなんだ
どこか強がってしまう
もっと素直になれたらいいのに

唯みたいにさ



13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:26:49.43 ID:3RdLHAD10
澪「晩御飯ごちそうさまでした」

律「ごちそうさま!」

聡「いただきました!」

律母「いいのよ、澪ちゃんウチに来た時は遠慮しないでね」

澪「はい、ありがとうございます」

律母「あ、そうそう・・律達は今日お風呂入る?」

律「って当たり前だろいっ!」ビシッ

律母「やっぱり?今日壊れちゃったみたいでお風呂使えないんだけど・・」

律「えぇ~そうなの・・」

澪「そうなんですか・・」



14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:27:38.05 ID:3RdLHAD10
律母「っていう訳だから今日は銭湯行ってきてね、ごめんね澪ちゃん」

澪「あ、いえいえ・・」

律母「はい、律」

律「?」

律母「お金」ぱさっ

律「お札ですか?!・・ってか多くない?・・いくら澪の前だからって・・」

律母「どうせ帰りにアイスとかジュースとかお菓子とか買ってくるんでしょ?」

律「あ、よくわかってらっしゃる・・」



15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:28:42.48 ID:3RdLHAD10
澪「あ、ありがとうございます」ぺこり

律母「あんまり無駄使いしないようにね、澪ちゃんよろしくね」

澪「はい、まかせて下さい」

律「・・じゃあ、早速行ってくるか!久々の銭湯!」

律母「ちょっと・・ちゃんと聡も連れてくのよ?」

律「わかってるって・・おーい!聡」

聡「なにー?」

律「今から銭湯行くから準備しろー!」

聡「えっ、今日銭湯なんだ!」



16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:29:37.07 ID:3RdLHAD10
律の家族は本当にみんな仲が良い
ここに来ると私もその一員になれた様な気がしてきて
本当に気持ちが良くなってくる
うまく言えないけど
私と律と律の家族はこんなに仲が良いんだよって
誰かは分からないんだけど、誰かに自慢したくなるんだ



17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:30:39.44 ID:3RdLHAD10
澪「雨止んでるな」

律「ほらほら~すごいだろ?落書きのおかげだよ」

澪「そうかもなっ」

聡「・・・」じっ

澪「・・・?」

聡「・・・///」プイッ

律「・・・」ちらっ

律「良かったなー聡、愛しの澪ちゃんと銭湯に行けるなんて」テクテク

聡「はっ!?へ・・へんな事言うなよな!」///

澪「・・・」くすっ



18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:31:33.96 ID:3RdLHAD10
澪「聡は今、中2だっけ?」

聡「はい・・」

澪「どう、学校は楽しい?」

聡「色々大変です・・部活とか・・勉強とか・・」

澪「そっか、勉強は律に教えてもらったらいいんじゃない?」

聡「ねえちゃんはダメです、教えるのてんで下手くそだから」

律「おいっ!」チョップ

聡「いって・・そうやってすぐ怒るのがいけないんだよっ!」

律「なにを~~~」ぐりぐり

聡「う~~離せっ!」



19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:33:31.16 ID:3RdLHAD10
澪「聡、今度私が勉強教えてあげるよ」

聡「」

律「おっ」

聡「ほ、ホントですか?!」///

律「良かったな~聡、こんな美人さんに家庭教師してもらえるなんてなかなか無いぞ?」

澪「ちょっと、律!」///

聡「・・・うへへ」



20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:35:31.66 ID:3RdLHAD10
私には兄弟がいない
だから律と聡の会話は私にしたらとても新鮮で
羨ましくもあった
だからこんなやりとりに憧れを持ってしまうのかもしれない
実際こんな弟や妹がいたら可愛いんだろうな
私はそんな事を考えながら歩みを進めていた

澪「ここの銭湯は久しぶりだな」

律「昔はよく来てたんだよなぁ」

澪「じゃあ聡、後でな」

聡「はい!」

律「覗くんじゃないぞ~?」

聡「覗くかっ!」

ガチャ パタン



21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:39:01.44 ID:3RdLHAD10
律「ここ昔から温泉使ってるんだよなぁ」

澪「知ってる、けっこう有名だよな」

律「肌もぴちぴちにしてくれるぞ?多分」するする・・

澪「・・・!」

律「ん、どしたの?」

澪「・・えっ?・・なんでもない・・」///ぷいっ

澪「そ、そうだよな!肌もぴちぴちだっ!」

律「どうしたんだよ澪、突然顔赤くしちゃって」



22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:40:27.06 ID:3RdLHAD10
律「のぼせるにはまだ早いぞ~?」ぬぎぬぎ・・

澪「う、うるさいなっ!」

律「で、なんで脱がないの?」

澪「い、いいからっ、先に入っててよ!」

律「相変わらず恥ずかしがり屋だな、澪は」

律「別に澪の着替えてるとこ見たりしないぞ?」

澪「・・・」

律「ま、いいや・・じゃ、先行ってるぞー?」がらがら・・

澪「・・・」

澪「・・・」ドキドキ・・



23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:41:36.62 ID:3RdLHAD10
なんでだろう?
この緊張は前にも経験した事があるな・・
あ、一年前の合宿の時だ
あの時もみんなでお風呂に入ったっけ
みんなの前で着替えるのは恥ずかしかったなぁ

別に女性同士なんだから気負う必要はどこにも無い筈なのに・・
私がこんなに緊張してしまうのは、私が臆病だからかな?

私は髪を繕い、ゆっくりと衣服を脱いでいった
こんなこと人前で堂々と行えるような事ではない
堂々と行える律の強心臓振りに感心しながらも
私は律の家から借りた大きめのバスタオルをはおり、浴場への扉を開けた



25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:43:14.26 ID:3RdLHAD10
澪「・・・」がらがら・・

律「みおー遅いぞ~?」

澪「ご、ごめん」

律「体流して澪も浸かりなよ、今日なんかしんないけど誰も人いないぞ!」ぽかぽか

澪「う、うん」ザザー

澪「・・・」

澪「・・・ちゃぽん」

澪「お客さん私達だけなのか?珍しいな・・」

律「まぁ、いいんじゃない?貸し切り貸し切り♪」



26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:44:41.79 ID:3RdLHAD10
澪「・・・」ドキドキ・・

律「・・・」

澪「・・・」ドッキンドッキン

律「・・・」

カポーン・・

なぜか気まずい
無駄に広く感じるこの浴場で、お互いの声がこれでもかと響き渡る
律と二人きりになれる事は普段ならむしろ嬉しい事の筈なのに・・
なぜなんだろう?

わかった
この状況が良くない
お互い裸で会話せざるを得ないこの状況が私に緊迫感を与えているんだ
第一私の胸のドキドキは脱衣室から高まるばかりじゃないか・・
律への目のやり場もなんか困るし・・
まともに顔を見て話せない

それでも何か会話をしないと・・



27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:46:21.67 ID:3RdLHAD10
澪「わ、私がこの前行った銭湯は人一杯いたんだけどな」

律「澪もけっこう銭湯行ったりするんだな」

澪「言う程行ってないけど・・たまにはね」

律「・・にしては慣れてない感じだぞ?」

澪「そ、そうかな?」



29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:47:55.99 ID:3RdLHAD10
そうじゃないか
私はやっと自分の矛盾点に気がついた
何度も銭湯を経験している筈なのに
なぜ今日に限ってこんなにも緊張しなくてはいけないのか?
いくら小心者の私でも今までは銭湯でこんなに緊張する事はなかった
こんなに私が心を惑わされているのは、さっきも言った通り1年前の合宿以来・・

共通点は・・

律「澪、お湯ほっぺにもかけとけっ」ぴちょ

澪「わっ!ちょっと律!」///

律「あははっ、澪のほっぺ柔らかいなぁ、もっとぴちぴちになるぞ?」

澪「わ、わかったから律!手離してくれっ」かぁ



30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:48:43.28 ID:3RdLHAD10
律がいる事だった
律が私の心を惑わしているんだ
考えてみれば簡単な事じゃないか
私は律に恋愛感情を抱いているんだ
自分が恋愛感情を抱いている人と二人きりで一緒にお風呂に入り、
冷静でいられる人間は果たしてどれだけいるんだろうか?
そう考えると例え女性同士であるとはいえ、
私の今の心情は極々自然の事であるような気がした

律「悪かったよ、みおー、そんな怒るなよっ」

澪「ま、まったく・・銭湯で騒いだら周りの人に迷惑だろ!」

律「周りの人いないけどな」

澪「いなくてもマナーはちゃんと守らないとダメだろっ!」

律「はいっ!すみませんでした!髪洗ってきますっ」ザァ

澪「(立ち上がると目のやり場に困るってば・・)」///



31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:50:29.68 ID:3RdLHAD10
律「澪も一緒に洗うかー?」スタスタ

澪「わ、私は後でいいや、もうちょっと浸かってる」

律「そっかぁ・・うわっと」はらり

澪「ドキン!」かぁぁ///

律「みおー、バスタオルはだけちゃった・・」

澪「い、い、いいから、は、早くまとえって!」///ぷいっ

律「あははっ、なーに赤くなってるんだよっ澪」

澪「う、うるさいっ!のぼせてるだけだっ!」///

心臓に悪い銭湯だった
本来ならば心落ち着く筈のバスタイムは
私にしてみたら終始緊張の連続だった
律との銭湯は今後控えよう

でもなんだかんだで楽しかったな



33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:52:30.09 ID:3RdLHAD10
がらがら・・

律「おー聡、待った?」

聡「遅いし!お金ねえちゃんが持ってるから飲み物も買えなかったんだぞ!」

澪「ごめんな聡、遅くなっちゃって・・」

聡「いえ、全然待ってませんから」キリッ

律「おかしなやつだな、ほらっ聡何飲みたい?」

聡「バナナミルクで」

律「はいよ、私達はこれなっ」

澪「あ、ありがとう」

律「あ、帰りにコンビニ寄っていきたい」

澪「あんまり無駄使いしたらダメだぞ」

律「わかってるって」



34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:53:11.12 ID:3RdLHAD10
聡「・・・」

律「ほら、聡帰るぞ」

澪「どうしたんだ聡?ぼーっとして・・」

聡「え?あ、うん」

律「どうせのぼせたんだろ」

聡「じー・・(ちょっと髪が濡れてる澪さん可愛すぎる・・良い匂いもするし)」

聡「(・・来て良かった・・)」ジーン




35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:54:17.65 ID:3RdLHAD10

――
―――

律の部屋

律「はい、澪のアイス」

澪「ありがと」

澪「なんか今日は蒸すな・・」ペロッ

律「雨は上がったんだけどなー、やっぱり梅雨は嫌いだ!」ペロペロ

澪「どうする?時間もあるしもうひと勉強・・」

律「えー・・今日はもうやめておこうぜ?」



36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:55:24.54 ID:3RdLHAD10
澪「そ、そうか・・じゃあ今日はもう寝とくか?」

律「えーまだこんな時間じゃん、寝るにはもったいないっす!」

澪「わがままなやつだな・・じゃあ何するんだ?」

律「そう言うと思ってぇ、これを用意しておきました!」ジャン

澪「・・う、こ、これは・・」

律「もの凄く怖いと評判のホラーDVD借りておきました!」キラーン

澪「わ、私はそんなもの見ないからなっ!」



37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:56:33.21 ID:3RdLHAD10
律「まぁ、そんな事言うなって、一緒に見ようよ」

澪「いやだっ」

律「さっき蒸すなぁって言ってたじゃん、多分涼しくなると思うけどなー」

澪「いやだっ!」

律「心霊映像ものなんだけど、こういうのって全部作り物らしいよ、だから・・」

澪「いやだっ!!」

律「・・・わかった見るのやめるよ」

澪「やだっ!」

律「じゃあセットするね」ニヤニヤ

澪「え?いや、違くてっ!ちょっと律!」



38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:57:47.57 ID:3RdLHAD10
律「大丈夫だよ澪、怖くなったら抱きついてきていいから♪」

澪「・・・えっ・・?」

律「・・・な?」

澪「・・・う、うん・・わかった・・」

律「よし、それじゃあ・・」パチッ

澪「え・・電気消すの?!」

律「こういうのは雰囲気作りが重要なんだぞ?」

澪「細かいやつ・・」



39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:58:52.84 ID:3RdLHAD10
私があんなに拒絶したのはね
別に勉強がしたかった訳でもなくて、寝たかった訳でもない
私は本当に怖いものが苦手なんだ

ふと思った事がある
律は・・私の気持ちに気づいているのかな?
だ、だって・・
「抱きついても良いよ」だなんて・・
普通はそういう関係を持ってる人同士じゃないと言えない事だよね?
ずっと思ってはいけない事だって自分自身決めつけていた
律にもひょっとして・・・
私が律に抱いているような感情があったりするのかな
そんな事が頭をかすめ、私の中で何かの勢いがついた
怖いものが苦手な癖にさ
これから起こるかもしれない何かを期待して私は律の提案に乗る事にしたんだ



42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:01:13.66 ID:3RdLHAD10
>>40 支援うれしい ありがとう


ああ・・私は何をやっているのか
この消極的な私が律の腕に抱きつくなんて積極的な事・・
思い出しただけでも恥ずかしくなる・・

別にこうなる事を最初から期待していた訳じゃない
あのDVDが本当に怖かったんだ
私が律の腕に抱きついた時
律に言われた抱きついても良いという言葉は私の頭にはなかった

DVDを見ている間、私は律の横に座って、怖くなりそうなシーンがくると
うつむいてみたり、TVを見つめる律の横顔をふと眺めてみたりしていた
律が前髪を下ろしているせいかな?
それとも私が苦手な怖いDVDを無理して見たせいかな?
なにか律の表情がいつもよりすごく頼れる存在に感じたんだ
そう感じた瞬間と、怖いシーンが流れたのはほとんど同時で
気がつくと私は律の腕に顔を埋め、少し涙を流してしまっていた
もう高校生にもなるのに・・
こんな姿、みんなには絶対に見られたくない




41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 00:59:35.03 ID:3RdLHAD10
DVD「おわかり頂けただろうか?」

律「うわー・・なんかいるし・・澪、見た?」

澪「・・・」ガクブル

律「ははっ・・澪にはやっぱりきつかったな・・」

澪「・・・だ、大丈夫・・だ!」

律「おいおい無理するなー、目つぶってろよ」

澪「た、大したことないじゃないか・・」

律「声震えてるし・・うわっ、またきたこれ」

DVD「おわかり頂けただろうか?」

律「澪、今のはヤバ・・」

澪「・・こわい・・グスッ」ぎゅ

律「・・・」///

澪「・・・ぎゅ」



43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:02:25.59 ID:3RdLHAD10
律「ご、ごめんなー澪、大丈夫か?」

澪「・・・大丈夫」グス

律「見るのやめる?」

澪「・・大丈夫だよ・・ほんと・・怖いけど見る」

律「無理してるだろ?」

澪「・・してないよ・・律が・・」

律「?」

澪「り、律が横にいてくれれば・・見れるから・・」///

律「な・・なーに言ってんだよ澪!ははっ」///



44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:03:35.60 ID:3RdLHAD10
律の前でこんなに素直になれたのは久しぶりだ
素直に思いを伝えられた自分が不思議に思えた
でも、本当の事だった
律の腕の中は本当に安心していられた
律の温もりや、律の香りが私の恐怖を確かに和らげてくれた
怖いものは苦手だよ?
だけどそれ以上に律ともう少しこうしていたかった
DVDを見続ける事でこの幸せな時間を少しでも長く続けたかった



45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:04:38.67 ID:3RdLHAD10
DVD「このビデオを視聴して良からぬ事が起こっても当方では一切責任を持ちません」

律「さ、最後に嫌な一文乗せるんだな・・後味悪・・」

澪「・・終わった?」

律「終わったな」

澪「・・そんなに怖くなかったな」

律「てゆーか見てないだろ、ほとんど」

澪「見てたぞ、指の間からちょこっと・・」

律「まぁ、澪にしてはがんばったよな・・」

澪「もう二度と見ないからな!」

律「へいへい」



46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:06:27.02 ID:3RdLHAD10
本当は見たいんだよ
律と一緒に本当はまた見たいんだ
私はなんでこんなに不器用なんだろう・・

また・・

誘ってくれるよね?律

律「じゃあ、そろそろ寝ますか」

澪「そうだな」

律「澪がベッド使いなよ、私は布団敷くから」

澪「いや、でもそれは悪いし・・」

律「いいから、いいから」

澪「あ、ありがとう」



47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:07:26.34 ID:3RdLHAD10

――

律「じゃ、電気消すぞー?」

澪「うん、おやすみ」

律「おやすみー」パチッ

澪「・・・」

律「・・・」

澪「・・・」

律「・・・」

律「澪・・今度さぁ、除湿機買うから買い物つきあってよ」

澪「この季節やっぱり必要だよな」

律「じめじめやだー・・」

澪「子供か・・」

律「・・・」

澪「・・・」



48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:08:23.91 ID:3RdLHAD10

――

律「・・・」すーすー

澪「・・・」

律「・・・」すーすー

澪「・・・」

澪「(・・・ね、寝れない・・)」

眠りにつけない理由は分かりきっていた
私はベッドの中でひたすら後悔していた
あのDVDを見てしまった事に・・・



49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:09:29.12 ID:3RdLHAD10
いい年しながら怖いものを見てしまったから眠れない
なんて情けないんだろう私は・・
まぶたを閉じてもあの時の強烈なあのシーンが目に焼き付いてしまっている
目を開けていても、それはそれで暗闇に覆われた律の部屋が怖く感じる
耳に入ってくる律の寝息だけが、私に唯一の安心感を与えていた

澪「(うう・・情けない・・)」

律「・・・」すーすー

お約束と言っていいんだろうか
こういう時に限って尿意が私に襲いかかってくる訳で・・
律にまた馬鹿にされるかもしれない
しかし、私に残されている選択肢は1つしかなかった



50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:10:45.31 ID:3RdLHAD10
澪「りつ・・」

律「すーすー」

澪「りつ・・おきて・・」ゆさゆさ

律「・・ん、むにゃ・・み・・お・・どうした?」

澪「・・・」

律「?」

澪「いっしょに・・」

律「・・・いっしょに?」

澪「・・と、トイレいこ・・」

律「」



51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:11:33.14 ID:3RdLHAD10

――

カチャ パタン

澪「ごめん律・・寝てるとこ起こしちゃって・・」

律「いや、別に良いんだけどさ・・」

律「・・・」

澪「・・・律?」

律「寝れないの?」

澪「えっ?あ、うん・・ひ、人のウチだとちょっと緊張するっていうか・・」

律「・・・」

澪「・・ははっ」



52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:12:11.45 ID:3RdLHAD10
律「DVD・・」

澪「ドキッ」

律「・・のせいでしょ?」

澪「・・・」

澪「・・・はい・・」

律「怖くて寝れないの?」

澪「・・・うん」

律「・・・そっか」

澪「・・・」

律「・・ごめんな澪」

澪「・・いいよ」

律「なぁ・・澪」

律「・・・私の横なら眠れそう?」

澪「・・・・え?」



53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:13:10.30 ID:3RdLHAD10
律「だって怖いんでしょ?」

澪「・・・うん」

律「・・・」

律「・・ほら、澪・・・おいでっ」

澪「・・・」

澪「ありがと・・律」

律「どういたしまして」

これまでの長い付き合いの中で
律と同じ布団で寝る事なんて過去にあっただろうか
あったとしても遠い昔の話になるだろう



54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:14:02.68 ID:3RdLHAD10

――

律「・・・」

澪「・・・」

律「・・・」

澪「・・・」

耳に入る律の呼吸
密着する事によって伝わる律の温もり
遠い昔経験した事のある懐かしい律の香り
そして私を気遣って、自身の布団へ招き入れてくれた律の優しさ
その全てが、先ほどまで恐怖が支配していた私の心を和ませてくれるものだった

でもね・・律



55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:14:41.07 ID:3RdLHAD10
澪「(・・もう寝たのかな・・)」ちら

律「・・・」すーすー

澪「・・・」

ごめんね律
せっかく律に優しくしてもらったんだけど・・
眠りにつけないのはやっぱり変わらないよ・・
当たり前だろ?

律・・
私は律の事が・・・

律「・・ん・・うぅん・・」

澪「(・・・!)」ドキドキ・・



56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:15:30.64 ID:3RdLHAD10
唐突に律が私の方へ顔を傾けた
律の吐息がよりいっそう近くで感じられる
ふわっと律が使っているシャンプーの匂いが漂った
律の小さな手が私の胸の辺りに置かれる

胸を締め付けられるような感覚が私を襲った
苦しいような、切ないような・・
まるでその感覚に導かれる様だった
気がつくと私も律の方へ、顔を傾けていた

律「・・・」すーすー

澪「(・・りつ・・)」



57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:16:13.80 ID:3RdLHAD10
いつも明るく活発で、いざという時にいつも頼れる・・
昔から誰にでも優しくて、困っている人を見るとほっとけないんだ
幼馴染をしている私から見て
律の良いところだけを上げればそんなところだ

私は月明かりに照らされた律の顔をじっと見つめた
しかしそこに私が昔から知っている律の姿はなかった

静かに寝息をたて、無垢な表情で私の肩に顔をうずめるこの姿は
華奢で可憐な少女を私に印象つけた
普段よりもずっと幼く、そしてか弱く感じさせた
当たり前の事だけど、
律も私達と変わらない普通の女の子なんだ
ひょっとしたら私や他の人達よりももっと・・・
律はそんな一面を持っているのかもしれない
律の寝顔を見つめる事で
律の意外な内面を垣間見た気がした



58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:16:46.06 ID:3RdLHAD10
律「・・ん・・んん・・」ぎゅ

澪「(・・・?)」ドキドキ・・

うなされている?
悪い夢でも見ているのか

律「ん・・ううん・・み・・お・・」

澪「(・・今、私の名前?起きている・・?)」

律「ん・・むにゃ・・」すーすー

澪「(・・・寝てる・・よな)」



59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:17:20.89 ID:3RdLHAD10
律「・・み・・お・・」

澪「?」

律「いく・・な」

澪「・・・」

澪「・・・」

律が私の衣服をきゅっとにぎる
私はそれに応えようととっさに律の赤く染まった頬を手で撫でる
無意識の行動だった
心臓の鼓動が自分でも聞き取れるくらいに激しくなる



60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:17:59.13 ID:3RdLHAD10
澪「(大丈夫だよ・・律・・ずっとそばにいるよ)」スス・・

律・・
律の事を思うとね・・?
胸が・・苦しくなるんだ
いつもきゅんと締め付けられる・・
息をするのも辛く感じる程に・・
今だってそうなんだ

律・・
律が今起きたらどうなってしまうんだろう?
自分の顔をこんなに律に近づけて・・
律の頬に手をあてて律の顔をじっと見つめて・・
律が今目を覚ましたら私はきっと嫌われてしまうんだろうな・・
こんな事して悪いと思ってるよ
でもね・・律



61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:18:35.18 ID:3RdLHAD10
律「・・う・・んん・・」すーすー

澪「・・・」ドキドキ・・

律の顔・・
かわいい顔・・
もっと近づいていいかな?
もっと近くで律を感じていたいよ
ごめんね律

澪「・・・」スス・・

律「・・・」すーすー・・



62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:19:10.89 ID:3RdLHAD10
律・・
こんなに近くまできちゃった・・
律の吐息が肌で感じられるよ
律の寝息、かわいいんだね
私達・・長い付き合いだけど、
こんな距離までお互い近づいた事って、今までにないよね
初めてのことだ

ねえ律

抱きしめても・・いいかな

澪「・・・」ぎゅ・・

律「・・ん・・」



63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:19:41.31 ID:3RdLHAD10
律の甘い匂い・・
柔らかな感触・・
自分の顔が紅潮しているのが自分自身で分かる
これまでに経験した事の無い律との距離感を感じる事で
私自身いままで必死に制御していた律への思いが
一気に溢れだした

律「・・・」

澪「・・・」スー・・



64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:20:32.07 ID:3RdLHAD10
律・・
起きちゃ・・ダメだよ?

律・・
ごめんね・・

私もう・・
自分の気持ち
抑えられないよ・・

律・・

澪「・・・ん・・」

律「・・・」

律と唇を重ねた
やってはいけないと自戒をこめていた事
私は今、それを破ってしまった

まっさきに感じたのは律への罪悪感だった
私は意識の無い律の無防備な唇を
一方的に奪ってしまったのだから



65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:21:10.71 ID:3RdLHAD10
私はそれ以上の事は望まなかった
短い口づけを済ませた後
直ぐに私は律との距離をはかり、
当初の天井を眺める体勢に戻った

澪「・・・」ドキドキ・・

律「・・むにゃ・・」


ごめんね
私、いつかきっと必ず
律に思いを伝えるから
ちゃんと律が起きている時に・・
きっと凄い勇気がいるんだろうけど・・
私頑張るから・・
だから、その時まで・・

待っててくれるかな?

律・・愛してるよ



69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:24:10.50 ID:3RdLHAD10
>>66 ありがとう 助かる


放課後のみんなでの下校時間
りっちゃんが最近元気ないのは確かなんだ
心配して聞いてみたのは良いんだけど
りっちゃんは頑ななに私達にそれを教える事を拒んだ
いったいどんな夢を見たんだろう・・?
テストで赤点とる夢かな?

唯「りっちゃんのけちんぼ」

澪「(も、もしかしてあの時の・・)」

律「まぁ、ご想像にお任せします・・ん?」

律「ムギー、どうしたんだー?」

梓「雑貨屋さんのウインドウ眺めてますね」

紬「あ、これこれ~」

唯「可愛い物でもあったの?むぎちゃん」タタッ

澪「ん?これは・・」




67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:22:15.51 ID:3RdLHAD10

――
―――

唯「りっちゃん」

律「ん~?」

唯「最近元気ないよ?なにかあったの?」

律「いやーそれがこの前なんか変な夢見ちゃって・・」

梓「へー、どんな夢だったんですか?」

律「・・・それは」

律「言えないっ!」

唯「えー、気になるよぉ」

律「絶対に言えない!」



70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:25:37.36 ID:3RdLHAD10
>>68 支援ありがとう

むぎちゃんが指をさした先には
全アルファベットが可愛く彩られている
小さなストラップが並べられていた

紬「これ、おもしろいわ~」キラキラ

唯「ホントだね~むぎちゃん、最近お店に入ったっぽいね~」キラキラ

梓「可愛いデザインですね」

律「閃いた!」

澪「?」

律「これ、みんなで買おうぜ、一人一文字ずつさっ」

律「みんなでKEIONの文字買って携帯につけようっ!」

澪「ちょうど5人だから良いかもなっ」

梓「良いですねっ、それ!」

唯「りっちゃん隊員さすがっ!」

紬「そうしましょう!」パァ




71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:26:33.24 ID:3RdLHAD10

――

店員「ありがとうございましたー」

律「みんなーつけたか?」

梓「はい」

唯「うんっ!」

澪「ああ」

紬「・・・じー・・」にこにこ

律「むぎー、嬉しそうだなっ」

紬「え?あ、こういうの、初めてだから・・」

澪「けっこう可愛いデザインだな」

唯「むぎちゃんが見つけてくれたおかげだねっ」

澪「そうだな、ありがとう!むぎ」

梓「ありがとうございます、むぎ先輩」

紬「どういたしまして~」にこにこ



72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:27:16.53 ID:3RdLHAD10
唯「あっ、りっちゃん」

律「どしたぁ?」

唯「今日・・駅前まで一緒に買い物行かない?」

律「あ、ごめん・・今日澪と一緒に除湿機買いに行く約束してるんだ」

唯「そ・・そうなんだ・・」

澪「唯も一緒に行くか?」

唯「えっ?あ、うん、私はいいよっ!憂が待ってるから」

唯「また明日ね~」たったった

律「・・・?」

澪「・・・?」



73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:27:57.16 ID:3RdLHAD10
憂「おかえり!お姉ちゃん」

唯「うーい、ただいま・・」

憂「お姉ちゃん・・?」

唯「?」

憂「元気ないよ?・・何かあったの?」

唯「え・・そんな事ないよ・・着替えてくるね?」トボトボ・・

憂「(どうしたのかな・・お姉ちゃん・・)」

カチャ・・パタン・・

唯「・・・」

唯「・・・はぁ・・」ボフッ



74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:28:47.76 ID:3RdLHAD10
ギー太をいつもの場所に置く
本当は着替えてからでないと憂に怒られるんだけど・・
私は力無くため息を発しながらうつ伏せに自分のベッドへ倒れこんだ

唯「・・・りっちゃんのばか・・」

私はベッドに向かってそう呟いた
りっちゃんが悪い訳じゃない
そんな事は分かってるんだけど・・・

楽しみにしていたんだ
この前おいしいアイス屋さんを見つけたんだ
今日りっちゃんと二人きりで行く予定だったのに・・
りっちゃんが好きそうなアイスまで調べてたんだよ?
アイスを一緒に食べて喜ぶりっちゃんの顔が見たかったのに・・

私は・・
私は・・りっちゃんの事が好きなんだ



75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:29:55.33 ID:3RdLHAD10
憂「(コンコン)」

唯「・・・」

憂「お姉ちゃんっ、ごはんだよ」カチャ

唯「・・・」すー

憂「おねえちゃんっ、制服のままで寝ちゃダメじゃん!」

唯「ん・・うい・・おはよう・・」ふわぁ

憂「もう・・皺になっちゃってるよ?後でアイロンするから出しておいてね?」

唯「ごめんね・・うい・・」

憂「(やっぱり元気ないなぁ・・)」

唯「・・・」

憂「今日のごはんはからあげだよっ、早く食べよう!」

唯「・・・うん、ありがとう・・すぐにいくね」

憂「・・・う、うん(お姉ちゃん・・どうしちゃったんだろう?)」うるっ



76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:30:40.47 ID:3RdLHAD10
憂「今日のからあげはどう?」

唯「うんっ、とってもおいしいっ」

憂「そ、そう・・良かった」

唯「ごちそうさま・・」

憂「えっ?!・・まだこんなに余ってるよ?」

唯「ご、ごめんね憂・・なんか食欲無くて・・」

憂「え、そうだったんだ?も、もしかしてどこか体調悪いの?」

唯「ううん、平気、今日はもうお風呂入って寝るね・・」

憂「う、うん!早く寝た方がいいよ」

唯「お風呂・・先に入っちゃうね?」

憂「うん、パジャマ用意しとくからっ」

唯「・・・ありがとう」スタスタ・・・

憂「(お姉ちゃん・・)」



77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:31:20.87 ID:3RdLHAD10
ブーブー・・

憂「あ、おねえちゃんっ、携帯鳴ってるよ!」

唯「えっ」タタッ

パチッ

Title 今日はごめんなー
From ☆りっちゃん☆

本文
澪の方が先に約束してたからさっ!
明日唯の買い物付き合うよ

私にあまりお金使わせるんじゃないぞ~~

除湿機買って部屋が快適になったぞ!
唯も今度ウチ来いよなっ

唯「・・・」



78:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:31:59.11 ID:3RdLHAD10
唯「あははっ」

憂「?」

憂「どうしたの?お姉ちゃん」

唯「ううんっ、何でもない!」

憂「そ、そう・・(お姉ちゃんが笑った)」

唯「う~い、私やっぱり食欲出てきたみたい!」

唯「おかわり欲しいなぁ~~♪」

憂「う、うん!一杯食べてね(お姉ちゃん・・良かった・・)」

唯「アイスも食べたい~」

憂「もう、お風呂から上がってからね?」



79:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:33:06.51 ID:3RdLHAD10
りっちゃんからのメールでこんなにも幸せになれる
明日一緒にお買いものに付き合ってくれるって
りっちゃんの部屋に今度行ってもいいって

りっちゃん
きっとその時りっちゃんの笑顔いっぱい見れるね
私は・・
私はそれだけで・・


唯「~♪」

お風呂から上がって
布団に横になりながら、りっちゃんとのメールを楽しんだ
返信メールが届くまでの時間がすごく長く感じる
もどかしいな
りっちゃんと話したい事いっぱいあるんだよ?
電話しちゃおっかなぁ?
そんな事を考えている私に、ひとつのメールが届いた



80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:33:56.06 ID:3RdLHAD10
Title さっきはごめん
From ☆澪ちゃん☆

本文
今日は買い物に付き合えなくてごめん
律から聞いたんだけど、明日放課後行くんだって?
律が私も一緒に行こうって・・

一緒に行ってもいいかな?

唯「・・・」

りっちゃん・・
なんで・・?

私が勝手に思ってるだけなんだよね・・
りっちゃんも、澪ちゃんも悪くないんだ
だけど・・
私はこの瞬間、りっちゃんに裏切られた気がした

私は・・私はりっちゃんと二人きりで・・

切なかった・・
涙が頬をつたう程に・・



81:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:34:49.92 ID:3RdLHAD10
Title もちろん!
To ☆澪ちゃん☆

澪ちゃんも一緒に行こうよ!
おいしいアイス屋さん見つけたんだ☆
みんなでいけばもっと楽しいよっ♪

パチッ

唯「・・・」

唯「・・・」ぼふっ

部屋の電気を消しまたベッドにうつ伏せになった
もう今日は寝てしまおう
寝て全部忘れてしまおう
嫌な事は、時間が経てば薄れていくから・・

でもりっちゃんへの気持ちは
りっちゃんと顔を合わせる度に強くなっていくんだ
不思議だね、りっちゃん

りっちゃん、おやすみ



82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:35:50.10 ID:3RdLHAD10

――


唯「・・ん・・うぅん・・」ぱちっ

不快な気分で目を覚ます
嫌な汗が私の体に纏わりついている
時間は午前2時を指していた

唯「・・ん・・」ぼー

もう一度寝ようと試みる
まぶたを閉じて朝日が昇るのを待とうとした
しかしまぶたを閉じるとそこには
私の安眠を妨げている光景が私の脳裏に写し出される
嫌な汗の原因もそれだ

唯「・・・」スクッ・・

もう一度眠れそうもない
仕方なく上体を起こし、
暑くなった私のおでこを自身の手で押さえたまま、
自身の布団を見つめる格好で俯く

唯「(・・嫌な光景・・・)」



83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:36:44.99 ID:3RdLHAD10
夢から覚めてもなお私の気分を沈めさせるその光景は
頭からいっこうに離れようとしない

その光景はね
りっちゃんが私の前に現れるんだけど・・
その横には必ず・・澪ちゃんがいるんだ
二人は笑みを浮かべて私の方を見てる
二人並んだその立ち姿は、きっと大半の人が魅了されちゃうと思う
二人とも美人さんで、かっこよくて・・
お似合い・・なんだ
ものすごく・・

その光景にはまだ続きがあって
りっちゃんを残して澪ちゃんが途中でいなくなっちゃうんだ
でね、今度は私がりっちゃんの横に並ぶんだけど・・
澪ちゃんに比べると
私はなんて不格好なんだろうって・・

私からみても、りっちゃんには澪ちゃんがお似合いだなって思って・・
でも・・
それを認めたくない気持ちは私にはあるんだ・・
りっちゃんの横にいて、ふさわしい人になれたらって・・



84:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:37:33.41 ID:3RdLHAD10
唯「いこう・・」スクッ

頭がぼーっとしてうまく働かない
どこに歩みを進めているのか・・
私はまだ・・そんな年じゃ・・
自分でも自分のとってる行動がよく分からない
でも・・私にはこれしか思いつかなかったんだ
今の気持ちを抑えられる方法はこれしか・・

カチャ・・パタン・・

唯「・・・」ストン

不在の両親の部屋に入り、
お母さんが使っている化粧台の前に立つ
化粧台の鏡が私の全身を映しだす
幼い顔・・もっと美人さんだったら・・
私はおそらくお母さん以外がかけた事がないであろう椅子に腰を落ち着かせた



85:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:38:26.35 ID:3RdLHAD10
唯「・・・」じー・・

化粧台の引き出しを開ける
口紅、ファンデーション、マスカラ、これは・・何に使うんだろう?
見なれない物も中には混じっている
私はその中から一つの化粧品を取り出し
鏡に顔を近づけた

唯「・・んっ」スー・・

唇に赤い紅を塗る
私の唇が赤く染まっていく
慣れない手つきで唇を塗り終えた
残念ながら暗闇のせいで自身の顔がどう変わったのかよく分からない
確認する為に私が部屋の照明を点けようと椅子を立った瞬間
誰かの手によって部屋の照明が点けられた



86:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:39:17.53 ID:3RdLHAD10
憂「お母さん?帰ってきてたの?」

唯「・・わわっ」びくっ

眠っていた所を無理して起きてきたんだろうな
憂が目を擦りながら部屋の照明を点けた

憂「お・・お姉ちゃん・・何やってるの?」

唯「・・うい・・・私きれいになりたい・・澪ちゃんみたいに・・」

憂「・・・澪さんみたいに?」

唯「・・・うん・・」

憂「・・・」

唯「・・・」

憂「お姉ちゃん・・口紅ずれてるよ」



87:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:40:00.57 ID:3RdLHAD10
唯「えっ・・あ、本当だ・・」

憂「拭いてあげるからこっち来て」

唯「・・うん、ありがと憂」

憂「・・・勝手にこんな事したらお母さんに叱られちゃうよ?」フキフキ

唯「ごめんね・・うい」

憂「それに・・お姉ちゃんは十分可愛いよ、お化粧なんてまだ早いよ」

唯「でもっ、きれいになりたくて・・」

憂「・・・(元気が無かったのってこういう事なのかな?)」

憂「はい、口紅落ちたよ」

唯「ありがと、憂」



91:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:42:27.98 ID:3RdLHAD10
>>88 ありがとう こんな時間に



――
―――

天気も良く晴れた日曜日の朝
今日は私が待ちに待っていた日だった
りっちゃんと遊園地に遊びに行く日
りっちゃんはみんなで行こうと行っていたんだけど
私がわがままを言って二人きりで行く事になった
前日の夜はあまり眠れなかったけど
勿論今日を最高の日にする為下準備は怠らなかった

唯「おはよう、うい」

憂「あ、お姉ちゃん!自分で起きれたん・・・だ・・」

唯「あれっ、どうしたの憂?」

憂「・・・」ぽー

唯「ういー??」




89:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:41:04.37 ID:3RdLHAD10
唯「うい・・私今よりきれいになりたいの・・お化粧の仕方分かる?」

憂「私も・・よくわからないからなぁ・・」

唯「・・・そうだよね」シュン・・

憂「・・・」

憂「やっぱりスタイリストさんにやってもらった方が良いんじゃないかな?」

唯「・・すたいりすと?」

憂「うん、ほら美容院とかでやってくれる人だよ」

唯「きれいにしてくれるのっ?」

憂「うん、多分・・」

唯「ありがとっ憂!」だきっ

憂「(お姉ちゃんも・・そういう年頃なんだ・・)」



92:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:44:27.21 ID:3RdLHAD10
>>90 ゴクリ・・


憂「え、いや、お姉ちゃん変わっちゃったから・・」

唯「も~憂、昨日も見たのに慣れないの?」

唯「どう憂?・・・おかしく・・ないかな?」

憂「うんっ!とってもきれいだよっ!」

唯「良かったぁ、朝ごはんもらうね?」

憂「うんっ食べよう」ドキドキ・・


憂「(なんかお姉ちゃんがお姉ちゃんらしくなっちゃったな・・)」

唯「・・おいしい~」モグモグ

憂「(あっ、でもやっぱり性格はお姉ちゃんのままだ)」じー

唯「憂・・?食べないの・・?」

憂「・・えっ、あ、うん、今から食べようと思ってたとこ」ドキドキ・・




93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:45:20.74 ID:3RdLHAD10
TV「今日の占いです、今日一番の運勢は射手座のアナタ☆」

唯「あ、憂!やった、今日一番の運勢だって!」

憂「ホントだ、良かったね、お姉ちゃん」

TV「特に恋愛運絶好調☆愛しのあの人に急接近かも??」

唯「やったぁ、きっと今日は最高の日になるよお!」

憂「えっ」

唯「・・え?」

憂「だって今日は律さんと遊園地だよね?・・・今なんて・・?」

唯「・・・」

憂「・・・」



94:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 01:46:21.93 ID:3RdLHAD10
唯「あー!もうこんな時間!早くしないとっっ、ごちそう様!」

憂「えっ、あ、・・お姉ちゃん?」

唯「行ってきま~す!おみやげ買ってくるからねっ!」

憂「ちょ、お姉ちゃん、待って・・」

バタンッ!

憂「・・・」

憂「・・・」

憂「・・・」

TV「今日一番悪い運勢は魚座のアナタ、身近な人に裏切られちゃうかも・・気をつけてね☆」

憂「えっ・・」

憂「お姉ちゃんに・・」

憂「・・彼氏・・?」うるっ



98:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 02:21:06.87 ID:3RdLHAD10
さるでした


ちなみに唯は「Listen!!」の時のイメージで書いてます


唯「りっちゃーん!」

律「えっ、あ、人違いです」

唯「ひどっ!・・私だよお」

律「・・・え、唯?・・なのか?」

唯「唯ですっ!」びしっ

律「うっそだろ?・・全然気付かなかった!」

唯「えへへ・・ちょっとおめかししてみました」

律「なんだよー、いいなー、髪の毛超サラサラじゃん!」

唯「変・・かな・・?」///

律「そんな事ないぞー、めっちゃ可愛いと思う!」

唯「ありがと、りっちゃん!」だきっ



99:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 02:22:28.35 ID:3RdLHAD10
りっちゃんに可愛いって言われた
努力が報われた気がしてとても嬉しかった
貴重なお小遣いを使って、すたいりんぐ?・・をしてもらった甲斐があった
少し私の願望に近づけた気がして良い気持ちになれた
そんなこんなで私達は時間通り遊園地行きのバスに乗り込んだ

律「しっかしホントにきれいになったなー・・」じー

唯「そ、そうかなぁー」テレッ

律「な、なんかさぁ・・これだけ綺麗になっちゃうと・・」

唯「?」

律「一緒にいる私が存在感無いっていうか・・」



100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/06(金) 02:23:52.72 ID:3RdLHAD10
唯「そ、そんな事ないよお!」

律「唯の横にいてしまって恐縮というか・・」

唯「!」

律「ま、そんな事思ってないけどなっ!」

唯「も~りっちゃん」

律「へへっ」

りっちゃん
それを思ってたのは私の方なんだよ?
私がずっと悩んでた事・・
私の方こそ・・横にいても良いのかな?

りっちゃん、今日はいっぱい楽しもうね




律「一番大切なもの」【後篇】

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