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キョン「似合ってるぞ」1

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1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 23:49:15.19 ID:J9JdF3dv0
『プロローグ』


 校内が受験ムードに包まれた高校三年生の冬、
俺と言えばあいつらの協力助力のおかげで早々と推薦による大学進学の権利を獲得し、
惰性にまみれた日々を謳歌していた。はずだったのだが、
やれやれ我らが団長様はこんな時期でもその活動を自重するつもりはないらしい。

「SOS団に休止の二文字はないのよ!」

 と、いう鶴の一声により、通常勉強に活用されるはずの冬休みは
鶴屋家その他で行われたイベントでその全てを埋められたのである。
 まぁ俺は別に構わなかったのだが、国立進学を目指す古泉は少し辛そうだったな。
もっともハルヒも少しは成長したのか、
あるいは同様の境遇にある自分のためか、
不思議探索と称した図書館における勉強会も何度か行われたことを付け加えておく。
 長門? あいつなら毎日不思議探索があっても東大に受かるだろうよ。

キョン「似合ってるぞ」1
キョン「似合ってるぞ」2


長すぎるとのことで分けました。ご迷惑をおかけしました・・・・・・。
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 23:51:35.39 ID:J9JdF3dv0
 さてそんな冬休みが明けたが、我々三年生はいわゆる自由登校期間に入っている。
もはや受験する必要がない俺は、ハルヒに呼び出されでもしない限り自宅にいてもいいのだが、
悲しいかな人間の習性というものが毎朝俺を学校に導くのである。
 つまり、2月も10日余りを過ぎた現在、俺は無駄に学校に来て部室で暇を持て余しているということだ。

「長い前フリでしたね」

 問題を解き終えたらしい古泉が相変わらずの微笑を浮かべて言った。
 うるさいな、お前は勉強していればいいんだよ。

「キリもいいので休憩しよう思いまして」
「そうかい。それでどうなんだよ、勉強状況の方は。受かりそうなのか?」
「えぇ、おかげさまで。最近は閉鎖空間に駆り出されることもほぼありませんから」

 と、言うかここ一年こいつからは閉鎖空間の話題を聞いた試しがない。
最後に聞いたのは佐々木一派とのイザコザの時だったかな。
これについては忘れられそうもない。いや、忘れるわけにはいかないんだ。


3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 23:54:34.68 ID:J9JdF3dv0
 ちなみに今日ハルヒは滑り止めの私立を受けに行っているため、
ここには俺、長門、そして古泉の三人しかおらず、実に久しぶりの暇なのだった。
言うまでもないが、ハルヒが受けている滑り止めは
俺が進学する大学より2ランクほど上位の大学である。
 神様ってやつはつくづく不公平で不平等だよ、まったく。

「あなただって、一般受験を狙えばもっと上位校に行けたでしょうに」
「それは買い被りってやつさ。俺は俺が凡人であるということをよく認識しているつもりだ」

 ハルヒの力が働かない限りまず無理なことであり、
またハルヒがそんなことを望むはずがない。それはお前だってわかっているだろう。
 そう言うと古泉はやれやれといわんばかりに肩をすくめた。
 お前のその仕草もそろそろ飽きてきたところだよ。


4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 23:58:01.57 ID:J9JdF3dv0
「良いではないですか。変化が無いということは安定しているということです。
 あなたが最も望んでいることだと思っていましたが」
「何の話をしているんだ、何の。それに安定を望んでいるのはお前ら機関だって一緒だろう」
「えぇ、ですから現在の我々は、すこぶる良好な状態にあるということです。しかし――」

 そこで古泉は言葉を切った。続きはどうした、気になるじゃないか。

「涼宮さんの心情は、それほど穏やかではないだろうと思われます。
 もちろんそれは、我々を取り巻く受験のプレッシャー以外で、という意味でね」

 それは何だ――と野暮なことはもう言わない。俺だって少しは成長したのさ。
だいたいこう毎年何かしらの事件があれば、いくら俺といえど忘れたりはしない。
三度目の正直というやつだ。
 そう、本日は2月13日である。この時期、世の男児は例外なくどこか落ち着きがないものであって、
あるいは女性たちは甘く淡い想いを物理的に届けるために画策しているのかもしれない。
 まだるっこしいな。
 つまりこういうことだ。


5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 00:00:37.39 ID:NdQDgSSO0
「2月14日は、バレンタインデー」

 ここまで一度も口を開かなかった長門がここぞとばかりに俺の台詞をもって行きやがった。
 聞いていたのか。

「そう」
「そうか」

 ここで長門が再び視線をハードカバーに戻す前に、古泉が問い掛ける。

「今年も何か計画ないし企画しているのでしょうか。
 僕たちとしましても、やはり気になるところなのですが」

 確かにな。残念ながら期待せずにはいられない。こればっかりは重労働をさせられても文句は言わないさ。
それから、金策的な面でも事前情報がほしい。
 しかし長門は少し思案した後、こう言った。

「秘密」
「……おやおや」

 楽しそうだな、お前ら。


6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 00:03:36.33 ID:NdQDgSSO0
「ただ、ひとつだけ。今のところ涼宮ハルヒから何か言われているわけではない」
「つまり、お前個人としては何か考えているわけだな」
「……秘密」

 長門はしまったといった表情を貼り付け悔しそうにしていて、
古泉はそれを見て慈しむような微笑を浮かべている。こいつらも随分表情豊かになったもんだよ。
 ――あぁ平和だ。本当にそう思った。
 いや、思っていたんだ。世界は平和で、このまま何事もなく卒業までの日々は流れていく、と。

 季節は冬、ある晴れた日のこと。どうやら俺は、少しばかり平和ボケしていたみたいだ。


8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 00:06:10.84 ID:NdQDgSSO0
 夕方に差し掛かろうという頃、バタバタという足音が聞こえたかと思うと、
ドアが壊れるんじゃないかという勢いで開かれた。
 もはや何も言うつもりはない。

「たっだいまみんなー!」
「おや、お早いお帰りで。いかがでしたか、試験の方は」
「楽勝よ楽勝! だいたいあたしが本命に落ちるはずないんだから、
 滑り止めなんて受ける必要なかったのよ。有希、お茶もらえる?」

 言うが早いか、いつの間にか長門は立ち上がり急須でお茶を注いでいた。
ついでに言えば、パイプ椅子に置かれている本もいつの間にか物理の教科書になっている。
こいつもハルヒの前では受験生らしくしているようだ。

「どうぞ」
「ありがと!」



10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 00:10:15.67 ID:NdQDgSSO0
 どう見ても熱々のはずのお茶を相変わらず一気で飲み干し、
機材周りがさらに豊かになった団長席に座る。
 この光景も見慣れたものだな。
いつ朝比奈さんから習ったのか、あるいは独学なのか知らないが、
長門の淹れるお茶は朝比奈さんが淹れてくれていたそれとほぼ同じ味をしていた。
 ちなみに、彼女は卒業と同時に未来に帰るだろうと思っていたのだが、
今でもこの時間軸に留まっていて、時々部室に顔を見せにやって来る。

「私の役目はまだ終わっていませんから」
 というのは去年卒業式の時に朝比奈さんが言っていた台詞だ。
よく考えれば当たり前のことなのだが、この時ばかりは俺も声を上げて喜んでしまったよ。
ある程度覚悟していたとはいえ、マイエンジェルがいなくなるのはやはり寂しいと思っていたからな。


11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 00:13:45.94 ID:NdQDgSSO0
 話を戻そう。
 団長席のハルヒは、去年コンピ部から譲り受けた(強奪じゃないぞ。もらってきたのは長門だしな)旧型のプリンターで何かを印刷している。
だいたいこういう時は俺たち、いや主に俺そして朝比奈さんが多大なる損害を被ることになるのだが、
今回はそういうわけではないらしい。
印刷された紙は一枚だけで、しかも俺たちに見せるでもなく鞄にしまいこんでしまった。
 何だそれは。

「あんたにはっ……そのうちわかるわよ」

 ハルヒは複雑そうな表情で後ろを向いてしまった。釈然としないが、ハルヒを理解しようと努めるのは
まったく無駄な作業であるとこの3年間でよくわかっているし、このまま捨て置くことにしておこう。
 前を見るとニヤニヤしながら古泉がこっちを見ていた。何だよ、気持ち悪い。

「心外ですね。まぁ、あなたが気に病むことではないと思いますよ。それよりどうです、一局」

 どういう意味かは知らんが、お前勉強しなくていいのかよ。休憩にしては少し長いんじゃないか。

「正直申しますと、もうあまりやることが無いんですよ。いえ、正確に言えば出来ない、と言ったほうがいいでしょうか。
 僕だって緊張で気が高ぶってしまうこともある、そういうことですよ」

 そんなもんかね。まぁハルヒでさえ昨日はいつも以上に落ち着きがなかったしな。
 それじゃあ久しぶりに相手してやるよ。悪いがお前がどんな状況にあろうと手加減する気はないぞ。

「これは手厳しい。しかし今日は負けませんよ。そろそろ勝ち星を拾わないと、僕の借金が返済しきれない額になりそうですからね」



12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 00:16:23.27 ID:NdQDgSSO0
 古泉の借金が一高校生には返済しきれない額に到達したのを見計らってか否か、
パタンという音が団活の終了を告げた。
もうそんな時間かと思い時計を見ると、なんと7時じゃないか。何故教員たちは見回りに来なかったのだろうか。

「じゃ、今日は解散!」
「それでは、また明日」
「また」

 二人はさっさと帰っていった。去り際、古泉がチラリとこっちを見ていた気がするが何だろうね。
 ……俺も帰るか。そう思い上着に手をかけた瞬間である。

「キョン」
「何だ」

 ハルヒが窓を見つめたまま俺を引き止めた。その表情はわからないが、声が少しハルヒらしくない。
なんというか、この言葉で「声」を形容するには適当ではない気もするが、「神妙な面持ち」といった感じだ。
 不信に思い窓ガラスを鏡代わりに使ってみたが、反射するそれはハルヒの表情を映してはくれなかった。

「おい、どうしたんだよ」


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 00:19:38.02 ID:NdQDgSSO0
 しかしハルヒは振り向かない。外では風が金切り声を上げている。
 数秒後、意を決したかのように――実際どうだったかは知らん――ハルヒがこっちを向いた。
喉下を変な音が通り抜ける。お前……何だよその顔は。
 いつものように俺の言葉を無視して、ハルヒは鞄から封筒を取り出した。
 何だこれは。

「日付が変わったら開けなさい」
「いや、だから」
「じゃあ帰るわよ」

 やはり無視される俺の言葉を少しは労わってくれないか。これでも一年前までは結構色々苦労してたんだぜ。
もちろんあの三人には遠く及ばない程度だがな。
 結局、帰宅途中ハルヒが口を開くことは一度もなかった。

 だが微妙な雰囲気の中、俺といえば一年生の頃を思い出していたのさ。
 そう、朝倉探索の帰り道も、ハルヒはこんな顔をしてたっけ。
 あの時の問いに、今なら答えられるかもしれない、そう思っていた。


15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 00:24:18.76 ID:NdQDgSSO0
>>13
ごめんギコナビだからわかんない

「キョンくんおかえりー、遅かったね」
「はいはい、ただいま。お前もそろそろ兄に抱きつくのをやめたらどうだ」

 ついでにその呼び名もどうにかしてくれたら嬉しい。

「なんでー?」
「とにかく、部屋に行くから離れなさい」

 この不毛なやり取りも何度繰り返しただろうか。とうとう岡部まで俺をキョンと呼び出したのは
三年生に進級してすぐのことである。もはや皮肉も出て気やしない。いや……恨むぞ、妹よ。
 夕食を終えて風呂に入っていると、妹が今度は俺宛の電話を持ってやってきた。
ありがたいんだがノックくらいしなさい、それからもう少し恥じらいをだな。

「キョンくんお父さんみたーい」

 随分と傷つくことを平然と言い捨てて妹は去っていった。俺のガラスのハートが砕け散ったらどうしてくれる、
もう俺を癒してくれていた朝比奈さんにはあまり会えないんだぞ。別に長門のお茶に不満があるわけじゃないが。
 と、電話だ電話。

「もしもし」

 しかしその返答はくつくつという笑い声だった。


17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 00:27:17.86 ID:NdQDgSSO0
「佐々木か」
「よくわかったね。妹さん共々元気そうで何よりだよ」
「あぁ、お前も元気そうで何よりだ。……久しぶりだな」
「うん、何せ明日で一年だからね。本当に久しぶりさ」

 そうだな、明日がバレンタインデーなんだからちょうど1年ぶりということになる。
思えば早い1年だったな、あまり事件らしい事件もなかったし。

「事件か……」
「……いや、すまん」
「気にすることはない。それにしてもキョン、君はこの1年で少しは成長したみたいだね。
 女性に対する気遣いというものがわかってきたようだ。もっとも、
 それをもっと自然にかつ不用意な発言をする前に自重できるようにならなければいけないがね」

 わかってるって、俺だって精進しているつもりだよ。

「しかし、どうやら若干失敗してしまったようだ」
「何をだ?」
「何でもないさ」

 そうかい。それより、こんな話をするために電話してきたわけではないだろう。


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 00:30:56.54 ID:NdQDgSSO0
>>16
ゴメンね、お母さん期待に応えられなくてゴメンね

「ふむ。実は要件はついでで君と他愛もない話がしたかっただけなんだが、致し方ない。
 では言おうか。明日の朝、配達業者が怠慢しなければという条件付きだが、君宛にある宅配便が届くだろう。
 その中身が何か、ということについて、日付からしてある程度予測できるだろうが、期待してくれて構わない」

 それだけだよ、という佐々木の言葉を残して電話は途切れた。
どうでもいいがこの電話が切れた後のツーツーという音はやけに寂しさを駆り立てると思うんだがどうだろう。
おかげで風呂にいるというのに名撫し難い切なさが心中を渦巻いている。

 もちろんこの不愉快な音のせいだけじゃないがな。
 1年前、か。


19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 00:33:30.04 ID:NdQDgSSO0
 風呂から上がった俺を待ち受けていたのはまたしても電話だった。
しかも出来れば出たくない相手からの、である。
なぁ古泉よ、俺は深夜手前の男からの電話で喜ぶ趣味はないぞ。

「あなたの皮肉も慣れたものですよ。僕としましても、僕からの電話にあなたが
 嬉々としてもらっては反応に困るのですがね。まぁそれはともかくとして、ひとつお聞きしたい事が」

 もったいぶらずにさっさと言え。

「それでは単刀直入に申し上げます。ぶしつけな質問になりますが、『あの後』、
 涼宮さんと何かあったのですか?」

 『あの後』、つまり古泉と長門が帰った後の部室で、だろうな。
 まぁあったともなかったとも言い難い。

「どういうことでしょうか」
「封筒を渡された。まだ内容は見てないがな。団長様の命令で、あと10分程しないと開けちゃならんそうだ」

 それを聞いた古泉はしばらく押し黙ったままでいた。
どうした、まさか閉鎖空間が発生したとかいうんじゃないだろうな。
俺はともかくとして、この時期の古泉にそれは酷ってもんだぜ、ハルヒよ。


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 00:37:01.08 ID:NdQDgSSO0
「いえ、まだそういうわけではありません」
「まだってことは、発生の兆しはあるってことだな」
「えぇ。ですが正直なところ、これは想定の範囲内の事ですからそれほど驚いていませんし、
 機関としても対策は完璧ですから、僕が呼び出されることもないでしょう。ご心配ありがとうございます」

 それはまぁいい。だが、それならお前は今何を考えていたんだ。
そしてなぜこれが想定の範囲内なんだ。
一昨年のハルヒは確かにメランコリックだったが、別に閉鎖空間を発生させたわけじゃなかったし、
去年の事を言えばハルヒのせいじゃない。

「それこそやぶさかってものですよ。ただ言わせて頂ければ、
 あなたは高校卒業間際になっても女性の気持ちというものがわかっていないようですね」

 随分な言い草だな、おい。さっき佐々木から全く逆のことを言われたばかりなんだが。

「佐々木さんから電話があったんですか?」
「あぁ。もっとも、これもお前の台詞を引用させてもらえば、想定の範囲内ってやつだがな」
「と、言うと」
「それに答えることは出来ん。秘密だ、秘密」
「なるほど、それもそうですね。これまたぶしつけな質問でした」


22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 00:40:44.07 ID:NdQDgSSO0
 それもいいとして、話が脱線しすぎだろう。お前は黙りながら何を考えていたんだ?
閉鎖空間でなくとも、おそらくハルヒの事だろうが。

「その通りです。今回の件に関して、涼宮さんの意図が図りきれない、といったところでしょうか。
 どうやら僕の推測していたものとは異なるようですので。そう、ズバリ言いますと封筒の内容です」
「そういうことか。そうだな、正直俺もまったくわからん」

 もっとも、ハルヒの思考などこの3年間で一度も理解できなかったがな。
 ……と、もう0時を回ったようだ。開封しようと思うが、お前も知りたいか?

「好奇心を否定することはできませんが、これはあなたと涼宮さんの問題と言うべきでしょう。
 僕が関わるべきではありませんね。万が一僕が必要な案件であれば、いつでもご連絡下さい」


23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 00:45:07.56 ID:NdQDgSSO0
 それを最後に、古泉との電話は切れた。人のことは言えないが、あいつも実にまわりくどい。
知りたいなら知りたいと素直に言えば、別段隠すべきことでもなかろうに。
バレンタイン前夜という事を鑑るに、おそらく似たような内容が明日あたり古泉に伝えられるだろうからな。
どうせまた肉体労働さ。

 しかしその内容は、そんな安易な俺の見解を粉微塵に砕いてくれた。
 一昨年は穴掘り、去年は校内宝探し。
 肉体的な仕事が二年続いたところで、今年は四六時中頭を悩ませるような謎々でも吹っかけてくるかと思っていたのだが、
まぁ間違ってはいないか。俺の頭を悩ませる内容には相違ない。

 ただ、それは今となれば内心微笑ましいものだったとさえ思える前例を見事に裏切り、
決して肯定的な意味ではなく俺の頭をパンクさせるものだった。


『SOS団 団員その一 キョン

 本日2月14日づけであなたを我がSOS団より除名します。

 SOS団 終身名誉団長 涼宮ハルヒ』




24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 00:49:03.20 ID:NdQDgSSO0
『第一章』


 深夜中当人含む4人に電話をかけ続けた結果、俺には朝を待ち学校に行くという選択肢しか残されていないことがよくわかった。
なぜなら、俺からの発信には四人が四人とも着信不能の音声で応えたからである。
ハルヒはともかくとして、その直前まで話していた古泉とも繋がらないなんていうのは異常事態としか思えん。

 それゆえ、今日も俺はこの地獄坂をせっせと登っているのである。

 徹夜明けの身体には堪えるが、頭はすっきりと冴えていた。SOS団への想いが睡眠欲を上回ったといわざるを得ない。
俺があの環境をどれだけ大切に思っているかなんて、もう今更確認する必要もないことだった。
例の消失事件、昨年初夏の事件、そして去年のバレンタインデーが、それを嫌というほど教えてくれたんだからな。

「よう、キョン。何だその顔は、まるで一晩中悩み事のせいで眠れませんでしたって言いたげなツラだぞ」

 谷口か。俺の症状をピンポイントで言い当ててくるのは成長したと言ってやってもいいが、
生憎とお前に構っている時間は微塵もない。


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 00:53:43.48 ID:NdQDgSSO0
 バンッ、という音と共に開かれたのは元文芸部室の扉である。古泉は俺とハルヒの問題だと言っていたが、
一晩考えても解決策、いやその意図さえ理解できなかった凡人である俺は、
結局誰かに頼るしかないのさ。そしてこんな時真っ先に頼るべきは一人しかいない。
 心苦しいし悔しいがな。

「長門!」

 俺の存在に気付いた瞬間、長門はサッと何かを隠したように思えた。
 何だそれは?

「何でもない。それよりあなたは、どうして」
「そうだった。これを見てくれ、長門」

 俺は鞄から例の封筒を取り出し長門に手渡した。なぁ長門、これがどういうことかわかるか。

「涼宮ハルヒからあなたへの退団命令」
「そういうことじゃない」

 はっきり言って俺には除名される理由が一欠片も思いつかん。
確かに事ある毎にあいつに対して小言を述べていたが、今更それがこう帰結するとはとても思えん。

「私には涼宮ハルヒの思考をトレースすることはできない」
「つまり?」
「わからない」



27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 00:56:23.74 ID:NdQDgSSO0
 ……そうか、そうだよな。いやすまん、そんな申し訳なさそうな顔する必要ないぞ。
だいたいハルヒを理解しようなんてのは初めから不可能なんだ。それが出来たら毎度毎度苦労することはなかっただろう。

「ただ、」

 長門が何かを言いかけたところで、再びドアが開かれた。
 何だお前か。朝っぱらからどうした。

「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ。本日はいつにも増してお早い登校で。どうかされましたか?」
「あぁ、実はな……」



「なるほど、そういうことでしたか。しかし……」
「お前にもわからんか」
「えぇ、申し訳ございません。もっとも、涼宮さんが本気でこんな事をされるとは思えませんから、
 何らかの意図が含まれていると考えるのが相当かと思います」


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 01:00:41.71 ID:NdQDgSSO0
 何の超自然的能力を持たない一般人だ、卒業前に本当にクビにしてしまえと考えたのかも知れんぞ。

「それはありえませんね」

 断言してくれるじゃないか。なぜだ?

「そうですね……あなたがここにいるのは偶然だとか、涼宮さんの気紛れだとか、そういうことではないからです。
 あなたもまた、彼女に選ばれたからここにいるんですよ」
「どういうことだ?」
「2年前、あなたは朝比奈さんと共に過去の涼宮さんに会いに行きましたよね。
 そして彼女にこう言った。『ジョン・スミス』と。ジョン・スミスの挙動に興味を示した当時の彼女は、
 北高の制服とその偽名を頼りに探し続けましたが、とうとう見つからず探索を諦めた。
 しかし彼女の想いが完全に失われたわけではなかったということは、例年の七夕の様子から明らかです」

 わかっているさ、毎年バレないかヒヤヒヤしてたぜ。まぁ暗闇で顔は見えてなかったし、
入学してからのハルヒはSOS団に忙しくてそれどころじゃなかったんだろうけどな。

「そうですね、かつての涼宮さんを知っている身としては、現在その精神状態がいかに安定しているか
 本当によくわかりますよ。さて話を続けます。燻っていた想いは、高校入学直前まで、
 そして今も残されていると考えます。ズバリその想いとは」


31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 01:04:09.42 ID:NdQDgSSO0
 ピンと前髪を指先で弾くお馴染みの仕草で一呼吸置いてから、古泉は続けた。

「『ジョン・スミス』に逢いたい。そして実のところその願いは果たされているのです。
 無論、涼宮さんの意識上で実現しているわけではありませんがね」
「つまり、お前はハルヒがジョン・スミスに会いたいと願っていたから俺が北高に入学し、
 SOS団に巻き込まれたと言いたいのか」

 それは俺も考えたことがあるし、卵が先か鶏が先かという問題は残されているが、
一番辻褄の合う推理だと思っている。
 しかしそれじゃ俺の問いに対する模範解答とは言えないな。
確かに最初ハルヒが俺を引っ張り込んだ説明はそれでつくかもしれんが、
これだけの期間俺がSOS団に残された理由の説明にはならん。
 所詮俺は一般人に過ぎないということを、ハルヒはよくわかっているはずだ。

「いいえ、違いますよ。涼宮さんにとって、あなたは一般人としてのあなたですが、
 深層心理においてはジョン・スミスでもある。つまり我々と同様、超自然的な属性を持つ存在なのです。
 一般的・普遍的な高校生は過去に飛んだり、異次元空間に侵入したりしませんしね」


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 01:07:28.89 ID:NdQDgSSO0
 ……まぁ、間違っていると切り捨てることも出来ないな。
お前はその理論に従って、俺がクビにはならないと断言できるんだな。

「そういうことです。もっともそれだけではありませんが」
「言ってみろ」
「それは、あなただってわかっているのでは?」

 さて、何の事かわからんな。
 ――あぁ、そういえば忘れてた。実は昨夜この封筒を開けてからずっと
お前らに電話を掛け続けていたんだが、着信はなかったんだろうな、多分。

「えぇ、ありませんでしたよ。しかし……なるほど」

 そう言った古泉は何やら長門に目配せし、珍しい事に長門もそれに応えるように頷いた。
最近ではその上下運動が1cmを越すようになってきたおかげで、俺以外の人達にも認識出来るレベルだ。
 で、何かわかったのか?

「たいした事ではありません。相変わらず涼宮さんの意図するところはわかりかねます。
 ただ、その封筒を開いて以来外部との連絡手段が途絶えたということは、涼宮さんは今回の件について、
 あなた一人の力で解決してほしいと望んでいるのでしょう。誰にも頼ることなく、あなた一人で、ね」


33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 01:11:37.01 ID:NdQDgSSO0
 そういうことなら納得もいくってもんだ。しかしハルヒは重大なことを忘れているな。
俺はあいつや古泉、長門ほど頭が切れるわけではなく、分析力に欠けるということだ。

「そうではありません。涼宮さんはあなたの能力ぐらいわかっていますよ。
 それでも今回のような事態が生じたということは、これはあなた一人で解決できる問い掛けだということ、
 そして、どうしてもあなた一人の力で解決してほしい、ということでしょうね。それに――」

 何だ。

「今この瞬間、僕と長門さんに会えているということ。恐らくこれはあなたという人間を見越した上でのヒントなのでしょう。
 多分、これ一回切りの、ね」
「……わかった、わかったよ。いや本当は初めからわかっていたんだ、そんな事は。
 わざわざあいつがこんなやり方で俺を指定してきた、その時点でな」

 そうだ、これはハルヒが無意識に行ったことじゃない。昨日の部室、いやそれ以前からあいつがずっと考えて、
考えてやったこと、言うなればハルヒ自身の意思により設定された問題だ。
だからこれは、必ず俺が解けるようになっているはずなんだ。
 腐っても三年。涼宮ハルヒってのがどういう奴かくらい、わかっているつもりだからな。


34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 01:16:03.92 ID:NdQDgSSO0
「おっしゃる通りですね。僕たちが一緒に過ごしてきた時間は、
 決して短いものでも薄いものでもありませんでした。
 そして願わくば、これからもそんな時間が続いてほしいと僕は思っています。あなたはどうでしょう?」

 愚問だな。そうでなけりゃ毎日足しげく部室に来たりしないぜ。

「その答えを信じていました。それでは、本件については全てあなたにお任せします。
 また明日を共有できることを期待していますよ」

 仕方ないな。行ってくるから、お前は勉強していていいぞ。
 ここで、部室から出ようとする俺の袖に若干の付加がかかった。

「どうした、長門」
「私も」

 ん?

「私も、期待している」

 ――あぁ、任せておけ。


35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 01:20:31.92 ID:NdQDgSSO0
 大見得切った以上解決せねばならんが、正直まったくわからん。

 何度も言うように俺はあくまで平々凡々な一般人であり、それ以上でも以下でもない。
現実を超越した事件に携わってこられたのは俺の力じゃないしな。
 だが、逆に言えばハルヒが自分の意思で行ってきたことに対しては、
一定の解決策を提示することが出来ていたように思える。というか、
俺以外に誰もあいつの暴挙を止める奴がいなかったせいで、その辺りのスキルはかなり鍛えられているはずだ。

 ちなみに、ハルヒが現在北高にいないという確認はとってある。
いるわけないと思ったが、灯台下暗しという言葉もあるし、一応な。それに去年の例もある。

「仕方ないな。おいハルヒよ、俺が出来る事は
 人間の限界というものに収まる範囲内の事までなんだからな」

 誰に言うわけでもなく呟く。


36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 01:26:51.60 ID:NdQDgSSO0
 そう、人類は壁にぶち当たった時、いつも特定の方法をとり、
そこから新たな発想を生み出すことによって解決してきた。
すなわち過去に似たような事例がなかったか振り返り、その原因や反省点、現状との相違点を分析し、
導き出される方策を用いて解決してきたのである。

 だから俺も先人たちに習い、過去の類似例を振り返ってみようと思う。

 まずは二年前、一年生の時だな。あの時は大変だった。朝比奈さんが二人いて、
しかもより未来から来た方の朝比奈さん(みちる)が誘拐され、あろうことかそれが
俺を除くSOS団員の敵対組織による犯行だったと言う次第だ。
おかげでバレンタインなんてものは頭の片隅にも残っていなかったが、むしろそれが功を奏し、
サプライズ的な演出になっていたな。

 続いて去年、二年生の時。これを数行で語り尽くす事は失礼な気がする。だからもう少し具体的に反芻してみようと思う。
それに俺のモノローグにも、そろそろ飽きてきた頃だろう?

 そう、あれはこんな感じだったんだ――。


37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 01:32:35.85 ID:NdQDgSSO0
『第二章』


「はい注目!」

 部室に入ってくるや否や、ハルヒが大々的に叫んだ。
こんな狭い部室でそんな大声を出す必要はまったくないのだが、言って聞く奴ではないし、
言っただけ小言を零されるのでまさに百害あって一利なしである。
 だから俺は、ただそれに応えてやればいいのさ。

「何だ」
「これ、読みなさい!」

 そう言ってハルヒは俺と古泉に一枚のA4用紙を配った。
朝比奈さんと長門には配らないのか?

「読めばわかるから、早く読みなさいよ!」

 わかったからそう大声を出すな。


38 :人いなすぎワロタ:2010/01/23(土) 01:37:57.60 ID:NdQDgSSO0
『先日私たち三人は、北高のどこかに6つの宝物が隠されているという情報を入手しました。
 本日はバレンタインデーということですから、本来は女性が積極的に行動すべき日なのでしょう。

 しかし、我々SOS団は恒久的に存続し、この世の不思議を発見・発表することを目標とした存在であって、
 そのような常識に捕われるようであってはなりません。

 そこであなた達二人に私たちから命令します。この隠された宝物を見つけ出し、
 午後6時までにSOS団室まで持ってきなさい。遅刻は罰金よ!

 SOS団団長 涼宮ハルヒ
 団員その二 長門有希
 団員その三 朝比奈みくる』

 ……そういえばバレンタインだったな。確かに朝も昼も谷口が騒いでいた気がするが、まったく聞いてなかったぜ。
登校したら靴箱にチョコと手紙が、なんていう夢のような展開も勿論なかったしな。

「なるほど、つまり僕と彼で、ここ北高に隠されている"らしい"宝物を見つけ出し、
 午後6時までに皆さんに提示すればよろしいのですね」


40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 01:42:40.55 ID:NdQDgSSO0
 つまりも何もそのまんまじゃねぇか。
 おいハルヒ、方法はどんなでもいいのか?

「手段は問わないわ! この時刻までにここに持ってくること、条件はそれだけよ!」
「ちなみにヒントか何かはございますか?」
「私たちが入手した情報は、『北高に宝物がある』ということだけ。ヒントなんてあると思う?」
「確かにその通りですね、これは失礼しました」

 おいおい。この広い校舎内をノーヒント、しかも二時間足らずで探し出せっていうのか。
 流石のトレジャーハンターも泣いて慈悲を請うぜ。

「そうねぇ、あくまであたしの推理によると……『隠された』ってことは誰かが隠したってことなんだから、
 その張本人の癖や性格を考えてみるといいかもしれないわね」


41 :佐々木か…:2010/01/23(土) 01:46:20.67 ID:NdQDgSSO0
 と、いうわけで締め出されたわけだが、どうしたもんかね。

「先程のヒントを考慮する必要はあると思いますが、あの三人の事ですから、
 一筋縄では行かないでしょう。特に涼宮さんと長門さんが隠した宝物には苦労することが考えられます」
「俺も同意見だな。じゃあここは、いっちょ一番やりやすそうな朝比奈さんから攻めるとするか」

 しかしこれが失敗だった。ヒントを頼りに三年生の教室、花壇、果ては書道部の部室なんて場所まで探したが、
まったく見つかる気配がない。今日に限っていえば、
全校生徒に迷惑をかけているのはハルヒではなく俺と古泉である。
 残り40分となったところで、嫌な汗が背中をつたう。とっくに全身汗だくだから関係ないといえばないがな。
しかし本当に間に合うか怪しくなってきたぞ、これ。一番やりやすいなんて言ってごめんなさい、朝比奈さん。

「おやおや、キョンくんと古泉くんじゃないか! どうしたんだい二人とも、
 そんな汗ダラッダラに流して。走り込みでもやってたのかい?」

 背後からかけられたこの天真爛漫な声を間違うわけがない。
 振り返るとやはり、長い髪をはためかせたその人がいた。

「鶴屋さん、どうもお久しぶりです。補習帰りですか?」


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 01:49:35.04 ID:NdQDgSSO0
「そうさっ。いやー、なかなか受験生って身分は大変さね!
 毎日過去問や参考書と睨めっこで、お姉さん頭が破裂しちゃいそうだよ!」

 見れば確かに若干のやつれが見受けられる。あの鶴屋さんを悩ますほど、
受験ってのは大変なんだろうか。嗚呼、ハルヒじゃないがずっと高校生をやっていたいよ。

「あなたが受験される大学の話を聞き及んでいますよ。さすが、と感嘆せざるを得ません」
「そんなことないさっ。それよりそれより、君たちもなかなかに苦労してるようだね。どうしたんだい?」
「実はハルヒのやつが……」

 俺は一通りの経緯を掻い摘んで説明した。

「ふむふむ。さすがハルにゃん、面白いこと思いつくねー!
私も受験がなければもっと協力したところなんだけど、悪いね!」

 その協力がどっちに対してなのかによって、俺の意見も左右されますよ。
正直鶴屋さんがハルヒ側についたら見つけられる気がしないぜ。
下手すると探索範囲が校内から市内まで拡張されそうだ。


43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 01:54:23.18 ID:NdQDgSSO0
 ――あれ、何だろうこの違和感は。

「ま、全部終わったらまたみんなで花見でもするにょろよ!」

 そう言い残して、鶴屋さんは帰ろうとする。
いや待て。帰らせちゃダメだ。そうだ思い出せ、今の会話を、ハルヒの言葉を。

「待って下さい!」

 俺の声に振り返った鶴屋さんはにやりと笑っていた。やっぱりな。

「どうなさったのですか?」
「わかったのさ、朝比奈さんの宝物がどこに隠されているのか」

 一歩ずつ鶴屋さんとの距離をつめる俺を、古泉は額の汗を拭きながら見つめていた。

「鶴屋さん、あなたが朝比奈さんから預かったものを出して頂けますか」

 俺がそう言うと、鶴屋さんは鞄から小さな箱を二つ取り出した。
 そして向日葵みたいな笑顔で、

「だいせいかーい! さすがキョンくん、よく私が持ってるってわかったね!」
「僕も聞かせて頂きたいですよ。なぜわかったのですか?」


44 :ねみぃ:2010/01/23(土) 01:59:20.95 ID:NdQDgSSO0
 鶴屋さんはさっきこう言っただろう。「受験がなければ"もっと"協力できた」ってな。
つまり少なからず関わってるってことだ。あとは朝比奈さんの性格だよ。
あの人の場合、校内のどこかに隠すと無くなるんじゃないかって不安に思いそうだからな。

「まったくその通りだよ! 実は一昨日みくると話してる時、何か悩んでそうだから相談にのってあげたのさっ。
 そしたらハルにゃんからこれを隠せって言われたけど、
 他の人に見つからなくって無くなったりしない場所が思いつかない、って塞ぎ込んでてね」
「なるほど、それで鶴屋さんの方から預かると申し出たということですね。
 これは御見それしました、僕はまったく気付きませんでしたよ」
「この辺がキョンくんの凄いところだね。ハルにゃんが選んだだけあるにょろよ」

 凄くなんてありませんよ。気付けたのも偶然ですし、
鶴屋さんだってヒントのつもりで述べた発言でしょうからね。

「おや、バレてたのかい! これはお姉さんもまだまだ精進しなきゃならないねっ」

 あっはっは、と一頻り豪快に笑ったところで、今度こそ鶴屋さんは帰っていった。
 残りふたつ。あと30分、か。ギリギリってところだな。


45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 02:03:32.46 ID:NdQDgSSO0
「まぁここだよな」
「そうですね、正直ここになければ完全にお手上げです」

 はっきり言おう。校内で長門に関係ありそうな場所といえば、元文芸部室、
コンピ研部室、そしてここ図書室くらいしか思いつかん。かれこれ三年弱の付き合いになるってのに、なんてこったい。

「しかし、ここから先も困難な事にはかわらん。学校の一区域に過ぎないとは言え、
 一冊一冊を調べている時間なんぞない。何かアテはあるか?」
「アテはありませんが、走っている間にひとつ思い付きました。少々お待ちして頂いてよろしいですか?」

 俺の返事を待たずに古泉は図書委員のもとに向かい、一言二言会話を交わしたあと何かを受け取って戻ってきた。
 それは何だ?

「長門さんの図書カードですよ、最新のね」
「あいつならもうとっくに図書室の本をすべて読破しているだろう」
「えぇ、もちろん。しかしだからこそ意味があるのですよ」

 古泉が掲げたそれは、予想通りボロボロだった。最新といっても恐らく一年以上前のものだろう。
ふと思ったことがあるが、あいつは俺が『あの時』部室で本を読んで待っていてくれと言ったからその通りにしたのか、
それとも溢れる知的好奇心が長門を本へと向かわせたのか、どっちなんだろうな。

なんて自惚れか。単純に後者だろう。あいつにだって興味を持つものがあるなんてことはとっくにわかってることだし。

46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 02:08:07.63 ID:NdQDgSSO0
「感傷に浸っているところ申し訳ありませんが、裏面を見て頂けますか」

 モノローグを読むんじゃない。で、裏面だと?

「……なるほどな」

 そこには、2月11日付けの貸出印が押されていた。三日前。そしてそれ以前となると、
上述の通り一年生の時のものが並んでいる。つまり、その時までに長門はすべての本を読破しているにもかかわらず、
つい最近になって突然既読の本を借りにきていたということだ。
 そしてその本は、2年前、初めて長門に呼び出された時、あいつが俺に貸した本である。
 未だ部室にもあった気がするので、おそらく同じ本が図書館にもあったということだろう。

「この本はすでに返却されているそうです。向かいましょう、どうぞこちらへ」

 なぜ古泉がこの本の在り処を知っているのか多少疑問に思ったが、この際どうだっていい。
連れられて辿り着いた場所には確かにそれがあったんだからな。しかしそこにあったのは本だけで、
箱あるいはそれに類似する何かは存在していなかった。もっともこの程度は予測の範疇である。
 長門の出した問題がこんな簡単に解決するはずがない。

そこで本を手に取り開いてみると、やはりあの時と同様栞が挟まっていた。

「しかし内容は異なるようだな、まったくわからん。ハルヒが書いた宇宙文字に似ているような気はするが。
 お前は読めるか?」
「さすがに地球に存在しない言語を読むことは出来ませんよ。ですが、そうですね……長門さんなら、きっと」




47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 02:11:51.63 ID:NdQDgSSO0
 古泉は思案顔を見せたあと、栞に向かって小さく呟いた。

「『同調』」

 その瞬間、俺たちの手の平にそれぞれ小さな箱が出現した。朝比奈さんのと同様のものである。
 意外とあっさりだったな、なぜわかった?

「こういうことです」

 一本指をピンと立てながら、若干楽しげに古泉は解説を始めた。長くなりそうだ。

「長門さんは、僕たちとはベースが根本的に違います。僕たちはどんなに非現実的な属性を持っていようと、
 あくまで人間ですからね。一方の長門さんは情報統合思念体という有機的媒体を持たない存在から作られたインターフェイスです。
 涼宮さんを監視するという目的からすると、それ自体に何の問題もなかった。
 しかし、SOS団での活動を通じて、長門さん自身の中で矛盾が生まれます」

 それはなんだ。

「『なぜ自分は人間ではないのか』。長門さんは自身が一端末にすぎないと言うことに疑問を抱くことはないでしょう。
 ですが、僕たちと共に過ごすうちに、自分が我々人類のいうところの『感情』を理解できないことに憤りを感じた。
 人間になりたいわけではない。でも、僕たちと共有する時間を、僕たちと同じ感覚で生きていきたい。
 最近の長門さんを見ていると、なんだかそんな気がしたんです」


48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 02:15:13.64 ID:NdQDgSSO0
 俺たちと同じ感覚、ね。それで『同調』ってわけか。だが長門はまだまだわかってないな。
そんな風に考えるって事自体、どんどんあいつなりの『感情』が生まれてきているってことなんだよ。

「その通り。『感情』を持たない存在は悩んだりしませんからね。
 あるいは彼の朝倉涼子も、
 人間の中で暮らすうちに変わっていっていたのかもしれません。
 彼女が長門さんに覚えたものは嫉妬でしたから」

 そうだな。あいつにも同情の余地はあったのかもしれん。復活してほしいとは露ほどにも思わんが。
 と、あと10分か。何とか間に合いそうだな。

「ですが急ぎましょう、時間的余裕があるわけでもありません。
 涼宮さんに関しては、先刻から目星がついています」
「奇遇だな、俺もだ。もう走り回るのはこれで簡便してほしいが、急ごう」




 時刻は5時54分。ギリギリだったが間に合ったようだな。
 俺は呼吸を整えて、眼前の扉をノックした。

「入りなさい」

49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 02:19:16.75 ID:NdQDgSSO0
 部室に入ると、ハルヒ、朝比奈さん、そして長門の視線が一点に集められた。
そんなに見なくたって、ちゃんとお望みのものは持ってきたよ。ほら。
 俺たちは集めた4つの箱を机の上に並べた。

「何よこれ、足りないじゃない。命令違反は死刑よ、死刑!」
「最後の一組は、お前が持っているんだろ?」

 そう、思えばハルヒがこういった類のものを手放すはずがないのである。
何でもかんでも自分の手元になければ暴れだすやつだからな。もっとも、
たまたま朝比奈さんの宝物が似たような方法で隠されていたからわかったものの、
それがなかったとしたら一生思い付かなかった自信がある。
 ウッ、という表情を飲み込んで、ハルヒは渋々とポケットから2つの箱を取り出した。

「……正解よ。あーあ、キョンなんかにバレるなんて屈辱だわ。せっかくいっぱい罰ゲーム考えてたのに」

 恐ろしいことを真顔で言うんじゃない。まぁ朝比奈さんのおかげだよ。

「ふぇ? どういうことですか?」
「朝比奈さんの宝物は、鶴屋さんが持ってましたよね。
 それで人が持っているって可能性に気付いて、あとはハルヒの性格です」


51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 02:22:06.85 ID:NdQDgSSO0
「なるほどー。あ、お茶です。二人ともお疲れ様」
「ありがとうございます」

 嗚呼、肉体労働のあとのお茶は本当に美味い。二度とやりたくないがな。
見ろ、古泉ですら脱力した表情でお茶を味わっている。
ここのところ閉鎖空間も無くて身体が鈍ってやがったな。

「ちょっとみくるちゃん! ネタが被っちゃダメじゃない!」
「そそそそんなこと言われても~」

 こっちが和んでるというのに何をしてるんだ。それからハルヒ、
お前は見つけてほしかったのかほしくなかったのか、どっちなんだよ。

「……ふん! いいから開けなさいよ、それ」


52 :ありがとう、ありがとう:2010/01/23(土) 02:25:21.05 ID:NdQDgSSO0
 心なしか色々な方向から視線を感じる。長門、本を読むのはやめたのか?
朝比奈さん、コンロのお茶が沸騰していますよ。
なぁハルヒ、こんな時くらい仏頂面をやめたらどうだ。
 それから古泉、何でお前まで見ているんだよ。開けるべき人間は俺だけじゃないぞ。

「おっと、そうでしたね。では開けましょうか」

 箱の中には、それぞれから俺、そして古泉宛のメッセージが残されていた。
何だか照れ臭いのでここでは割愛させてもらうが、
昨年と比較すると段違いに親しみの深いメッセージの数々だったとだけ言っておこう。

 俺たちが三人に俺たちなりの礼を告げている間も、ハルヒは終始こちらを向こうとはしなかった。

 だからこそだ、俺は不覚にもこんな感情に陥ってしまったのさ。

 ホワイトデーにはハルヒの望む物を買ってやってもいいかな、なんて。


54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 02:29:30.91 ID:NdQDgSSO0
 四季折々とはいうが、今年もどうやらホワイト・バレンタインになることはなかった。
神様もこういう時くらい気を利かせてくれたって構わないだろうに。
って、この世界で神様は俺の前方を行くこいつなんだがな。

 午後6時30分頃、我らSOS団はいつものように集団下校に入っていた。
ハルヒと朝比奈さんを先頭に、長門、そして俺と古泉が最後尾を進む。
 いつもの風景だ。

 しかしそのいつもの風景が続いたのも校門までだった。なぜなら校門を背もたれにした形で、
俺たち(特に俺)のよく知る人物が待ち構えていたからである。

「やぁキョン。久しいね、大晦日を君たちとご一緒させてもらって以来だ。元気にしていたかい?」

 ご存知、佐々木である。初夏の事件以降、
SOS団と佐々木一派は共に行動を取ることが何度かあった。ハルヒが佐々木を気に入ったせいなのだが、
俺を含む三人以外の異能力組が若干気まずそうにしていたのは言うまでもない。

55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 02:33:14.48 ID:NdQDgSSO0
「まぁな。お前はどうしたんだ、わざわざこんなところで」
「言うまでもないだろう、君を待っていたのさ。ねぇ涼宮さん、
 ちょっとキョンを借りていっていいかな?
 ただ、今日は返せないだろうけど」

 俺はお前の所有物でなければハルヒの所有物でもないのだが、
言ったところで意味を成さないのは前述の通りである。
 しかも佐々木の言葉には、拒否を許さない空気が纏わり付いていた。

「わざわざハルヒの了承を得なくても、お前が言うなら俺はついていってやるよ」
「ありがたいね。でもこれは、涼宮さんの了承を得るべき行動なのさ」

 意味がわからん。

 数秒後、ハルヒはまるで青汁を一気飲みした後のような顔で了承を返した。
またしても俺に対して周囲の視線が集中していたが、これまた意味がわからんな。
 まぁ集団下校を離脱しなきゃならんのは若干申し訳なく思わなくもないが、
それはハルヒの命令ってわけでもないだろう?


67 :感謝感激雨霰:2010/01/23(土) 11:25:38.17 ID:NdQDgSSO0
 佐々木に連れられて辿り着いた場所は、数年前まで毎日通っていた校舎だった。
 なんだか懐かしいな。妹はもう帰宅したのだろうか。

「もう19時を随分と過ぎている。君の妹さんが何らかの部活に精を出しているのかどうかは知らないが、
 冬ということを考慮すると既に帰っているだろうね」
「まぁそうだろうな。ところで佐々木、散々はぐらかしてくれたが、
 そろそろ俺をここに連れてきた理由を説明してくれないか」
「そう急かさないでくれたまえ」

 佐々木は一歩、また一歩と足を進める。おそらく生徒は誰もいないであろう校舎内。
感慨を覚えないでもないが、やけに小さくなったような気がするのは俺が成長したということなんだろうな。
 無言のまま俺たちが向かっていたのは、かつて俺たちが使っていた教室だった。
 知らない誰かが俺の机を使っているというのは変な気分だ。

「不法侵入だぞ、佐々木」
「では君は共犯ということだね、キョン。それに安心したまえ。
 卒業生ということなら多少の説教で勘弁してもらえるさ」

 佐々木はかつて自分の席であったその場所に腰掛けて、独特の微笑を見せた。
制服姿のお前がそこでそうしていると、まるで時間が巻き戻ったみたいだよ。

68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 11:29:36.13 ID:NdQDgSSO0
「そう、君にそう思ってもらいたいがために僕は君をここに連れてきたんだ」
「どういうことだ?」
「君は時間が平等に流れていると思うかい」

 佐々木は俺の言葉を無視して問いかけてきた。
 ふむ。そうだな、そう思う。この世で唯一絶対的に平等なのは、時の流れる速度じゃないのか?

「なるほど、確かにそうだろう。しかし僕はそう思わない。少なくとも主観的な意味ではね。
 例えば、君にとって授業というものは退屈で仕方ないものであるから、そろそろ終了だろうと思ったのに
 まだ数分しか経過していないなんて経験は数え切れないほどあったものと思われる」

 監視してきたかのように的確に当ててくれるじゃないか。

「一方で、SOS団を通じた活動は、君にとって1時間が1分程度に思えるほど
 充実した時間だったに違いない。たとえ肉体的・精神的疲労を伴う事柄ばかりだとしてもね」
「……」
「総合して考えてみると、君のこの2年間は実に有意義なものだったのではないかな」

 ……あぁ、否定はしないさ。俺は昔から、宇宙的、未来的、あるいは超能力的な事件が
この世に存在してほしいと考えていたんだからな。
まさにそのままを経験してきたんだ、つまらなかったはずがない。


70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 11:34:04.16 ID:NdQDgSSO0
「そう。この数ヶ月、何度か君らと共に過ごしてみてそれがよくわかったんだ。
 そして同時に、何故僕が日常的にその場にいないのかと悔しかったよ」
「これからもお前らが巻き込まれるであろうイベントは盛り沢山なんだ、すぐに取り返せるさ」

 だからそんな寂しそうな顔をするなよ。何なら俺を呼び出してくれてもいい。
俺に出来る限りの事という制約はあるが、お前の頼みなら聞かない理由はない。

「感謝する。でも、そういうことじゃないんだよ、キョン」

 黒曜石のような瞳が黒板を見つめている。昔から思考が読めない奴だったが、
今はこれまで以上に何を考えているのかわからないな。
 そして、溢すように佐々木が口を開く。
 それは俺に対してではなく、自分自身に語り聞かせているように思えた。

「僕が感じた寂寥感は、君たちが過ごす『青春』という日々に覚えているものだと思っていた。
 毎日進学校へ通い、勉強のための勉強を繰り返す僕は、果たして生きているといえるのだろうか。
 そんな疑念が浮かんでは消え、また浮かんでは消える。
 君たちに出会うまで、僕はずっとそう考えていたんだ。君たちと共有した日々は、
 そんな僕の想いを少しずつ溶かしてくれた」


72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 11:39:47.51 ID:NdQDgSSO0
「だが、それでも何かが足りない。足りないものなんて何もないはずなのに、
 こういった感情を覚えることは理解し難かった。
 しかし自身で創り上げた迷路の中で、僕はようやく答えを見つけることが出来たんだよ、キョン。
 それはかつて精神病と断言し、存在すら否定したはずの懐かしい感情だ」

 佐々木はゆっくりと立ち上がり、俺を真っ直ぐに見つめた。
 さすがの俺だって、この先に紡がれるであろう言葉が何かはわかる。

 だけどそれは、この時、俺が聞くべき言葉だったのかはわからなかった。

「あなたが好きよ、キョン。私はSOS団との日々に充実を得ていたわけじゃない。
 キョン、"あなたと"過ごす日々に安心や満足感、幸福を感じていた。どんなに取り繕っても、
 どんなに特別視されても、私は唯の高校生だから。
 卒業してからずっと寂しかった。足りなかったのは、あなただった」


73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 11:45:14.70 ID:NdQDgSSO0
 度肝を抜かれるとはこの事である。佐々木の一世一代の告白に、
俺は唯々唖然とするしかなかった。おそらく、佐々木が俺に対して
女口調で語りかけたのはこれが初めてだったんだからな。
 反応することが出来ない俺の様子を見て、佐々木はいつものようにくつくつと笑った。

「……期待通りの反応で満足したよ。しかし、これが等身大の僕であって、
 すべてに偽りはない。僕のすべてを君に伝えた。だから、これを受け取ってほしいと思っている」

 ポケットから取り出されたのは丁寧に包装された四角い物体であって、
それが何であって受け取ることが何を意味するのか、などと問い質す気もおきない。
 ……思えば佐々木とも長い付き合いだ。何せ中学3年生の頃からだからな、
1年ほど音沙汰のない期間があったとはいえ、SOS団よりも長いといえば長い。
そんな佐々木は、いつか俺を親友といってくれた佐々木は、では俺にとってどんな存在なのか。
 拙いトートロジーで誤魔化すつもりはない。そうすることは失礼と考えるべきだろう。
 そう、俺にとって佐々木とは。


74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 11:56:02.44 ID:NdQDgSSO0
「すまない……俺はお前の気持ちには応えられない。何故ならお前は、
 俺にとって誰よりも尊敬すべき人物であり、
 それよりも何よりも、俺はお前を親友だと思っているからだ」

 だから、それを受け取ることはできない。
 ――俺の言葉を聞いた佐々木は、それでも目を離すことはなかった。
むしろ俺が気圧されそうだ。
静寂が広がる。暗い校舎内、布の摩擦音すらしない。まるでこの世界に俺と佐々木だけが取り残されたようで、
こんな時だっていうのに俺はかつてハルヒと閉じ込められたあの閉鎖空間を思い出していたんだ。
 ふいに佐々木の視線が俺から外れる。

「そうだね……僕たちは親友だ。僕がそう言ったんだ。悩ませてしまってすまない、
 そんな顔をさせたかったわけじゃないんだ」

 その瞬間、佐々木はこれまで一度も見せたこともない柔らかな笑みを魅せた。
 それはまるで銀面の世界に一時の温もりを与えるかのようで、

 ……眩暈がした。

「ふむ。君はその決断を後悔するだろう。何せ、僕の手作りチョコなんて金輪際食べる機会がないだろうからね」


75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 12:02:07.56 ID:NdQDgSSO0
 あぁ、確かにそれは食ってみたいな。年末に作ってくれたお前の手料理は、
ハルヒに負けず劣らず美味かったよ。

「褒め言葉として受け取らせてもらおう。しかし、やはり君は……」

 だが佐々木は二の句を告ぐことはなく、左右に小さく首を振ることで台詞を終わらせた。

「何だ?」
「たいしたことじゃないさ。気にしてないでもらえると嬉しい。
 さて、用も終わったので僕は先にお暇させてもらうよ。」

 ふと教室の時計を見ると、午後8時半手前だった。もうこんな時間か。

「付き合わせてしまってすまなかったね。しかし、出来ればもう少しこの場に留まって欲しい。
 そうだな、僕が校門を出たであろうというタイミングまで、ここを動かないでくれないか」

 さっきも言っただろう。お前の頼みなら俺に従わない理由はないのさ。

「……ありがとう。では、またいずれ会おう。次はSOS団と僕らで、という名目でね」

 そう言い残して、佐々木は教室から去っていく。その瞳が再び俺を捕らえることは最後までなかった。
 ――そして15分後、慣れ親しんだ中学校をあとにした直後のこと。
 見計らったかのように珍しい番号から電話が掛かってくる。

 それは、閉鎖空間の発生を告げる一報であった。


76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 12:09:35.27 ID:NdQDgSSO0
『第三章』


 だいたいこんな感じだったな。すべてを語ったわけじゃないが、ここから先は
思い出すたびに胸が痛むので勘弁してくれ。それに、大切にしておきたい事でもあるんだ。
 話は戻って、俺は現在鶴屋山の例の場所にいる。俺と古泉で散々掘り起こした場所であり、
また後日オーパーツが発見された場所でもある。先例に従ってやってきたのだが、
予想通りというかなんというか、やはりハルヒの姿は見当たらなかった。

「どこにいるんだよ、ハルヒ」

 学校、自宅、駅前、喫茶店とあらゆる場所を捜し歩いたが、ハルヒどころかその気配すら見つけられない。
ノーヒントじゃ一流のトレジャーハンターも逃げ出すと言ったはずだろう。何処で何してやがる。

「腹減ったなぁ……」

 現在時刻、午後6時半手前。もう日も沈んだというのに、
思えば朝飯を食って以来何も口にしていない。空腹を感じるのも当然である。
水分だけは適時摂取していたが。
 そこで鞄を漁ると、見慣れない物体が姿を現した。
 それは朝方ポストに入れられていた、佐々木からのバレンタインプレゼントだ。


77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 12:14:05.77 ID:NdQDgSSO0
 開くなら今この時を除いて他にない。俺は躊躇なくその封を解いた。
 ご多分に漏れず、中身はシンプルなチョコレートである。
 そして、箱の裏面にはメッセージカードが附せられていた。

『君の幸せを願っている』

 ……ありがとな佐々木、去年は食えなかった手作りチョコ、美味いぞ。
 おかげですっかり空腹が満たされたのを感じた頃、
箱の底にもう一節メッセージが書かれていたのを発見した。

『PS.
君はもう少し女性に気配りが出来るようになるといい。
そうだな、例えば女性という生物は、
君が考えるよりも思い出を大切にするものだ』


78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 12:19:14.73 ID:NdQDgSSO0
 おいおい、昨日言っていた事と話が違うじゃないか。
 ――思い出ねぇ。しかしこれ以上回るところはないんじゃないか?
SOS団の活動範囲は大凡歩き尽くしたし、夏の孤島や雪山なんてさすがに一日じゃ巡れないぜ。
いくらハルヒだってそこまでを俺に求めているわけじゃないだろう。

「お手上げなのか……」

 その時、沈む夕日に照らされた鶴屋山に不似合いな携帯の音色が鳴り響いた。
 我が麗しのエンジェル、朝比奈さんからの着信である。

「もしもし」
「キョンくん、お久しぶりですぅ。あのあの、部室に誰もいないんですけど、
 もしかして今日は集まってないんですかぁ?」

 朝は古泉と長門がいたはずなんだが、もう帰ってしまったのかな。

「ふえぇぇぇ、どうしよう……キョンくんは今どこにいるの?」


80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 12:27:12.46 ID:NdQDgSSO0
「実は……」

 俺は簡潔に概要を説明した。
 しかし、何故か朝比奈さんは楽しそうである。

「うふ、涼宮さんも、いよいよですね」

 何がいよいよなのだろうか。むしろまたかと言わざるを得ないほど身体は疲弊しているのですが。

「SOS団のバレンタインデーは、男の子が苦労する日なんですよ?」

 全くもって仰せの通りである。
ただし普段から俺も古泉も大いに苦労しているということを忘却してはならない。
特に古泉だ、つい先日まで氷河期の恐竜のような顔をしていたからな。

「キョンくん」

 なんでしょう。

「これから私は独り言を言います」

 ……ふむ。

「私ね、涼宮さんに部室に連れられて行った日のことを今でも覚えてる。
 キョンくんに私が未来人だってことを言った、あの日のことも。だってそれが、
 私にとってSOS団始まりの日だったから」


82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 12:35:36.23 ID:NdQDgSSO0
 懐かしき誘拐事件。そして初の不思議探索。並木道。

「女の子はね、男の子が思っているよりずっと、思い出を大切にするの。
 忘れないでね、涼宮さんと、キョンくんの思い出を」

 はて。数分前、これと同じような忠告を頂いた気がする。

「私の独り言はこれでおしまい。涼宮さんに怒られたらどうしよう。……それじゃ、またね。
 みんなに会えなかったのは残念だけど、チョコは冷蔵庫に入れておくから、食べてね」

 その言葉の後には、あの侘しさすら感じる機械音が木霊するだけであった。
 佐々木も朝比奈さんも同じことを言うとはね。

 俺のこの18年間を鑑るに、直感的に物事の核心を貫くことに関しては圧倒的に女性の方が
優れているという結論に達している。ハルヒしかり、鶴屋さんしかりな。と、いうことは、だ。
 今回の二人の台詞も、きっと的を射るようなものであるに相違ない。

「思い出ねぇ……」

 俺とハルヒが出会った日のことなら覚えている。あの強烈なインパクトを忘れようがないし、
誰も知らないはずだし言いたくないことだが、カレンダーに印までつけているんだからな。だがそれは入学初日、
教室での事であって、そこにハルヒがいないなんてのは確認済みである。


84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 12:39:34.18 ID:NdQDgSSO0
 俺が思考の迷宮から脱出できなくなりそうだったその時、
雷が落ちたかのような衝撃、
あるいは女性的第6感が俺の全身を駆け巡った。

「――そうか」

 俺は一瞬の後に立ち上がり、木の枝で制服が擦り切れるのも構わず野に下り始めた。
完全に記憶の彼方だった。なぜ忘れていたのか、思いつかなかったのかもわからない。
ハルヒの神的能力が働いていたんじゃないかと勘繰りたくなるくらいだ。

 俺とハルヒが初めて出会ったのは教室で間違いない。もしもそれ以前に出会っていたなら、
あの人間台風を忘れるはずがないもない。

だがそれが正答であるのは、俺の認識、時間軸の上で、の話だ。


85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 12:42:35.80 ID:NdQDgSSO0
 古泉曰く、ハルヒにとっての俺は、一般人であると同時に
ジョン・スミスとして捉える存在でもあるとのことだ。何度も言うように、
一般人としての俺がハルヒと初対面を迎えたのは約三年前、北高入学日でのことである。

 しかし、ジョン・スミスは違う。ハルヒが初めてジョン・スミスに会ったのはあの七夕の日、
入学よりずっと以前のことだ。俺が俺であるのかジョン・スミスであるのかなんて知ったこっちゃないし
今は無関係である。少なくとも、この件に関して前者が不正解であるということは既に公表された後だしな。

「待ってろよ、ハルヒ」

 だから、俺は行かなければならない。

 ハルヒが初めて俺――ジョン・スミスを認識した場所。
 東中の、グラウンドにな。


87 :>>86本当は気付いてると思うの:2010/01/23(土) 12:46:28.58 ID:NdQDgSSO0
「来たわね」

 俺がここを訪れるのは約2年半ぶりである。正確な時の流れから換算すると、
プラス3年といったところだがな。こいつや谷口の出身校である東中、
あの時と同じ模様が描かれたグラウンド、その中心に涼宮ハルヒは立っていた。
 腕を組んで仁王立ち、まさに威風堂々って感じか。

「遅いわよ。あたしが風邪なんか引いたら死刑だからね、死刑」

 それは俺の台詞だろう。もはや完全に陽は沈んでしまっている上、
走り回ったおかげで全身汗だく。
冬の夜にこれは少々厳しいものがあるぜ。

「それでも来たってだけであんたとしては勲章ものね。よくわかったじゃない」
「まぁな」

 もっとも、一人ではとても無理だっただろうが。
 俺は呼吸を落ち着かせながらハルヒに近づいた。そんな俺を見ても、ハルヒは微動だにしない。

「早速だが聞かせてもらおうか。この手紙はどういうことだ」
「どうもこうもないわよ。あんたはクビ。本日付けでSOS団から退いてもらうわ」
「そういう意味じゃない」


88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 12:49:09.04 ID:NdQDgSSO0
 俺が聞きたいのは、こんな内容の手紙を俺によこした理由だ。換言すれば俺をクビにする理由である。
お前だって、わざわざここで待っていたってことは、説明する気があるってことだろう?

「……そうね」

 暗闇のせいで、そう小さく呟いたハルヒの表情はわからなかった。

「キョン。あたしね、昔ここで、同じような状況で、ある人に会ったのよ」

 寒気がした。それは吹き荒ぶ冷風のせいではない。

「そいつは北高の制服を着ながら、まるで普段から宇宙人や未来人、
 そして超能力者に会っているかのような口ぶりだったわ。異世界人とはまだ面識がなかったみたいだけど」

 事実その通りなんだから仕方ないな。

「それで?」
「それで、もちろんあたしはそいつを捜したわ。だけど見つからなかった。一日中北高を張っても見つからなかった。
 本当の名前さえ知らなかったし、暗くて顔もよく見えなかったから、仕方ないといえば仕方ないんだけどね」

存外変な奴だな。

「そうね、あたしもそう思うわ」
「だから今日、わざわざ同様のシチュエーションを作り出したのか? そいつに会うために」
「違うわ」


90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 13:07:19.86 ID:NdQDgSSO0
 ハルヒが2、3歩俺の方にやってきた。この距離なら少しだけ表情が伺える。
あの100万ワットの笑顔はないが、昨日みたいな深刻な雰囲気でもなさそうだ。
 少し緊張が緩まる。

「清算するためよ」
「どういうことだ?」

 ハルヒは心底めんどくさそうに話を続ける。

「あたしはね、キョン。今までも、そしてこれからも不思議を探し続けるわ。絶対に諦めたくない。
 でも、このつまんない世界が嫌いじゃない。ううん、少なくともこの3年間、あたしは全然つまんなくなかったわ。
 むしろ楽しかった。SOS団のみんなで活動するのが、本当に楽しかった」

 ……そうだな。きっとお前もそう感じていると思っていた。事実、
もうずっと古泉から閉鎖空間の発生を知らされてはいないからな。
小言は相変わらずぶつけられるが。

「あんたのおかげよ、キョン」

 ハルヒは顔を伏せながらそう言った。珍しい事もあるもんだ。


92 :猿解除される時間がわからん:2010/01/23(土) 13:12:38.43 ID:NdQDgSSO0
 だがな、俺は何もしてやいないさ。SOS団を結成したのはお前だし、
獅子奮迅の活躍をしていたのは長門や古泉だし、癒しと潤いを与えてくれたのは朝比奈さんだ。
俺がした事といえば、せいぜいお前が迷惑をかけた相手に謝って回ったり、
お前が無茶しないよう説教したり、その程度だよ。

「そうね。でもね、あんたがいちいち文句を言いながらもついてきてくれるから、
 あたしは無茶出来たのよ。そもそもあんたがいなくちゃ、
 自分でこの世界を何とかしてやろうなんて思わなかったかもしれないわ」

 ……今日はやけに殊勝じゃないか。どうしたっていうんだ。

「うるさいわね、話の腰を折るんじゃないわよ。
 団長が素直に雑用なんかに感謝の意を述べているんだから、あんたも素直に聞きなさい」
「わかったよ。で、結局お前は何が言いたいんだ」
「だから、つまりあたしが言いたいのは……」

 顔を逸らしたまま、ハルヒはさらに歩を進めた。もはや俺の手の届く位置にいる。お前、こんなに小さかったっけか。
 と、ここでハルヒはようやく俺を見た。
 そして次にこいつが口を開いた瞬間、俺はおよそ一年ぶりに機能停止に陥ったのである。




93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 13:19:22.54 ID:NdQDgSSO0
「あたしはあんたが好きなのよ、キョン」

 全世界が停止した。
 罰の悪そうな顔をしながら、ハルヒはさらに話を続ける。

「ホントはとっくに認めてた。だけど受験の事とか、SOS団の事とかを考えると、
 あんたに伝えるわけにはいかないと思ってた。ただ卒業なのよね、もう。
 こんな気持ちを抱えたまま本受験も卒業も出来ない。
 かといって団長自らがSOS団の風紀を乱すわけにもいかない。だからあんたをクビにすることにしたのよ。
 そうすればあんたはSOS団とは関係なくなって、障害は無くなる。これが手紙の理由よ!」

 最後の方は完全に奇声と化していたが、なるほど、ようやくわかったよ。

「……悪かったな、ずっと気付かなくて」
「ホントにね! もう、何であたしがこんな事言わなきゃならないのよ!
 いいからあんたは黙ってこれを受け取りなさい!」

 そう言うと、ハルヒはポケットから簡素な小包を取り出した。
言うまでもなく、その中身はチョコレートのはずである。

「……今年は義理じゃないわ」

 消え入りそうな声で呟いた。


※続きます


キョン「似合ってるぞ」2


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