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キョン「長門有希を、俺は知っている」2

※キョン「長門有希を、俺は知っている」1の続きです。


キョン「長門有希を、俺は知っている」1
キョン「長門有希を、俺は知っている」2

59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 02:48:28.82 ID:NtlgGgbZ0
「……すまん、朝倉。朝比奈さんも、すいません」
「いえ、私こそよ。ちょっとイライラしてて……ゴメンね」

 何があったのか知らんが、俺に出来ることなら手を貸すぞ。
まぁ、お前に出来ず俺に出来ることなんてあるとは思えないが。

「……キョンくん。あんまりそういう事、簡単に言わない方がいいわよ?」
「何故だ? 昔のことは昔のことで、今は同じ団員なんだから、助け合うのはむしろ当たり前だろう」
「ホントに、変わらないままなのね」

 朝倉は出来ないけれど可愛くて仕方がない下級生を相手にするかのように言った。
おいおい、またそこに戻るのかよ。それに俺としては多少なりとも変化しているつもりなんだが。
主に世界に対する心構え的な意味で。

「ねぇ、キョンくん」

 ふと、朝比奈さんが呟いた。

「何でしょう」
「キョンくんは、この三年間、楽しかった?」

 随分とデジャブを感じる発言である。

「……えぇ、楽しかったですよ。俺はこんな非日常が飛び交う世界を、心の何処かで待っていたんです。
 だから、ハルヒに振り回されたり走り回されたりしたけれど、俺は楽しかったと胸を張って言えます」


60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 02:50:52.47 ID:NtlgGgbZ0
「うん、キョンくんならきっとそう言ってくれると思ってました。
 私も……何も出来なくて辛いこともあったけど、みんなと一緒にいれて楽しかった」

 きっと朝比奈さんは、朝比奈さん(大)の存在にも気付いていたんだろうな。

「だからね、キョンくん」
「はい」
「みんなでしてきたこと、楽しかったことも辛かったことも、忘れないでね。
 大切に思ってるのはキョンくんだけじゃないよ。みんな一緒だから」
「……はい」

 朝比奈さんが何を言いたいのか、俺にはよくわからなかった。でも朝比奈さんはとても真剣で、
何かを伝えたいけれど伝えることは許されていないもどかしさがひしひしと伝わってきて、それは、
俺がかつて覚えた朝比奈さん(大)の存在を教えたいけれど教えられなかったあの感情と酷く似ていた。

 そう、俺は知っている。これは相手を心から思いやる気持ちで。
 だから、今の朝比奈さんの言葉も、絶対に忘れないと誓った。


61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 02:53:12.27 ID:NtlgGgbZ0
 そして来る卒業式当日。今日も妹のドロップキックより先どころか両親より先に起床した俺といえば、
まだ6時台にもかかわらず地獄坂を登っていた。しかもベースを担いで。
どうでもいいがギターと比べてベースは重過ぎる、肩が砕けそうだ。弦も高いし。
 俺たちの卒業を祝うかの如く今日は晴天で、しかも例年に比べて3度も暖かいらしい。
確かにPコートでは暑いくらいだからな。まぁこんな日に雨が降った時には卒業の感動も4割減になること間違いなく、
冬があまり好きではない俺としても神様の気紛れに感謝の意を告げたい。

 結局三年間通ってもこの坂は慣れなかったなぁと思いつつ、俺はその三年間を思い返していた。
昨日の朝比奈さんの発言が耳に残っていたのもある。
 入学早々ハルヒのトンデモ自己紹介に度肝を抜かれた。と思えば、それに呼応するように朝倉や朝比奈さん、
古泉から超自然的能力の存在を聞かされ、あぁ頭おかしい奴らと知り合いになっちまったなぁと思っていたら
それはすべて真実のものだったという、夢があるけど認めたくないような現実を受け入れざるを得ない状況に陥る。

 そしてハルヒを中心に繰り広げられる非日常的な世界。自動ホームラン製造機と化したバットを用いての野球大会、
孤島に行けばそこはクローズド・サークルとなるし、夏休みは万単位でループする上、
朝倉なんかそのストレスで世界を改変しちゃうなんてこともあった。改めて思い返してみると、
ただの人間に過ぎない俺がよくぞついてこれたと思う。

 そんな生活も、危うく互解してしまいそうにもなった。佐々木たちとのイザコザである。あの時といえば世界改変や
崩壊の危機どころの騒ぎではなく、本当に神々の暇つぶしかのように世界が二分割された上、
ハルヒの願望実現能力が奪われそうになるなんていうまさにSOS団絶体絶命の危機であった。

 それもこれも、すべてハルヒのせいであり。
 俺が高校生活を存分に満喫できたのも、すべてハルヒのおかげであった。


63 :モノローグメインにすると長いな:2010/02/13(土) 03:00:08.08 ID:NtlgGgbZ0
 汗だくになりながら部室に着くと、俺以外の4人はみんな揃っていた。

「キョン、ちゃんと学校側と話は固まってるんでしょうね?」
「あぁもちろんだ」

 わざわざこんな早朝からやってきたのは、最終確認の会議があるためである。
普通のライブと違って来賓の方々や卒業生の親御さんもいるからな、失敗は許されん。
事前に不安要素はすべて消化しておかないと。

「よろしい。ドラムやアンプはどうやって隠すの? まさか壇上に出しっぱなしってわけにもいかないし」
「それについては、壇上背後の壁2メートルほど前に薄いカーテンをかけ、
 それと壁の間に置いておくということで話が纏まっています。つまり、今日の壇上は
 常よりその分だけ狭くなるということです。それと、各々の楽器は生徒会に預かってもらって、
 我々がステージに上がる前に裏で受け取るという手筈になっています」

 古泉が完璧な説明をしてくれたおかげで、俺が話すべきことはもう何も無くなった。

「あの……もう卒業しちゃった私が出て本当にいいんでしょうか」
「今更ねぇ、みくるちゃん。心配しなくても、みくるちゃんほど可愛い子が
 ステージに上がることに反対する人なんていないわよっ!」


64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 03:02:17.08 ID:NtlgGgbZ0
 可愛さとそれは別問題だと普段ならツッコむところなんだが、残念ながら
朝比奈さん親衛隊は卒業して一年経った今もなお学校に存在しており、
しかも現生徒会役員の半数がそれに所属しているというどうしようもなさで、
可愛さを根拠とするこの全く説得力のない発言もあながち間違ってはいないという次第である。

「涼子は……うん、聞かなくても問題ないわね」
「もちろん。完璧な仕事を約束するわ」

 一昨日行ったリハでは、情報操作を駆使しつつもそれがあたかも
技術の産物であるかの如く魅せてくれる朝倉の演出がハルヒの琴線に触れたらしく、
ここ二日間ハルヒが朝倉に注文をつける姿は一切見なかった。

「よしっ、みんな大丈夫ね。……じゃあみんな、今日で高校生活最後。
 悔いを残さないように、そして我らSOS団の素晴らしさを世に知らしめるために、
 気合入れていくわよ!」


65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 03:04:29.21 ID:NtlgGgbZ0
「……ねぇキョン」

 朝倉はやることがあると言って何処かへ行ってしまったので、ハルヒと二人で教室へ向かっていたところである。

「なんだ」
「上手く出来るかな」

 なんとも珍しいことにハルヒが弱音を吐いている。
 どうしたっていうんだ。

「茶化さないでよ! わかんないんだけど、何だか胸がザワザワするのよ。
 何か忘れてるような。あたしともあろうものが卒業を目前にして緊張してるのかしら……」

 ふむ。

「こういう舞台を前にすると、誰だってそうなるだろ」

 旅行の当日に何度も財布や携帯を持ったかチェックするようなもんだ。
忘れ物があるような気がして不安になるんだよな。結局忘れ物なんてないんだが。

「そうなんだけど……あーっ! なんかムシャクシャするわ。
 別に喉の調子が悪いわけでもギターソロが出来ないわけでもないのに。何なのかしらね」

 素人目からしてもお前の歌は文句なく上手いし、ギターソロだってとても高校生の女の子がやるような技術とは、

「――ギターソロ?」
「え?」
「お前、ギターソロ弾いてたっけ?」


66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 03:06:43.71 ID:NtlgGgbZ0
「何言ってるのよ、ギター弾くのはあたしだけじゃない」

 いや、それはそうなんだが……。
なんだろう。お前がギターソロを弾いていた記憶が酷く曖昧だ。
"弾いていた"という記憶はあるのに、それを絵として思い出すことが出来ん。

「あんたがバカなのは知ってたけど、とうとう本格的に頭おかしくなったの?
 やめてよね、文化祭以来ずっとあたしが弾いてたじゃない」
「お前こそ何言っているんだ。文化祭の時は長門が、」

 長門? 誰だそれは――いや、待て。俺はその言葉を聞いたことがある。
俺はそいつを知っている。
 いつも、いつも俺たちを助けてくれた。無口なくせに負けず嫌いで、責任感が強くて、
何でも一人で抱えようとするタイプで。気付いたらわかりにくい冗談を言うようになってて。
ハルヒ以上に無尽蔵の胃袋を持つ。小動物みたいな、
朝倉の同属、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイス。

「長門っ!」

 長門有希を、俺は知っている。


67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 03:09:31.20 ID:NtlgGgbZ0
「きゃっ……ビックリした。ちょっとキョン、急に大声出さないでよね!
 何言ってるのかわかんないけど、立ち止まってないで早く行かないと、遅れるわよ」

 悪いがハルヒ、教室に行っている場合じゃないみたいだ。
 そしてお前もだ。

「はぁ? 何言ってんのよ、卒業したくないの? まぁあんたはもう一年残って、
 勉学に勤しんだ方がいいかもしれないわね」
「お前も、長門有希を知ってるはずだ」

 そうだ、知らないはずがない。

「誰よそれ」
「思い出せ。部室の窓際でいつも本を読んでいた奴を覚えていないか?
 博識で、よくわからない手段を用いてルソーを救った女の子を覚えていないか?
 文芸部室を乗っ取る時、最初に誰に話しかけたか。覚えているはずだ」

 長門がした記憶の凍結は完璧じゃない。なぜなら、あいつは自分のことを
忘れてほしいなんて思っていないからだ。あいつは基本的に寂しがり屋なんだよ。
さもなければ、あの元コンピ研部長を救うとき、わざわざ俺たちを巻き込んだりしなかったはずだ。


68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 03:11:55.49 ID:NtlgGgbZ0
「いつも窓際にいたのは、朝倉じゃ……あれ? ううん、ちょっと待って。何かしら、この違和感……」
「……雪山で。体調を崩して倒れた奴がいただろ。それは誰だった?」

 お前はあの時俺と約束したはずだ。長門に何かあった時は、全力で助けに行くと。
たとえ夢ということになっていたとしてもそれは現実にあったことだ。
俺たちだって、あんな説明でお前を納得させることが出来たとは思っていない。
 本当は、覚えているに違いない。記憶の片隅で引っかかっていたに違いない。

「雪山ってスキー合宿のこと? あの時は変なことあったわよね。集団催眠だったけ?」
「その夢の中で、倒れた奴がいなかったか」
「何であんたがあたしの夢の内容なんて気にするのよ」

 いいから、言ってみろ。

「……吹雪いてたわ。あたしたちは遭難してた。そんな中、不自然に聳え立つ館で休むことが出来たわ。
 誰もいなかったから浴場を借りたり、キッチンを借りて食事を作った。
 寝る時の部屋もそれぞれ近いところにしようって話になって、それで、」

 次の瞬間、気付いたら俺は壁に打ちつけられたと思いきやハルヒにネクタイを締め上げられていた。
なんだか三年前を思い出すな。SOS団発足の時も、こうやってハルヒに脅されたっけ。
 人の記憶は時の流れと共に風化していくけれど、決して忘れてしまったわけじゃない。
きっかけがあれば思い出せる。ましてやそれが、強引に上書きされてしまったものだったとしたら尚更だ。


69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 03:14:38.68 ID:NtlgGgbZ0
「ねぇどういうこと? あれは夢じゃなかったの? 違う、そんな事どうでもいい。
 有希は!? どうしてあたしたち、当たり前みたいに有希を忘れてるのよ!」

 それに、ハルヒが長門を本気で忘れてしまうはずなんてない。
 こいつは誰よりも団員を大切に想っているんだからな。

「俺だって何でこうなったのか、その理由は知らん。
 だが、忘却した原因なら解明できるぞ」
「どうやってよ」

「本人に聞けばいい。行くぞハルヒ、今こそ雪山での約束を果たしてもらう」

87 :残ってるとは…:2010/02/13(土) 11:47:57.80 ID:NtlgGgbZ0
『最終章』



 ついさっき登ってきたはずの坂を今度は下っているというのは
何とも虚しさを覚えるものである上、
すれ違う生徒たちがみんな訝しげにこっちを見ていたような気がするが、
俺もハルヒもそんな事を気にしている余裕はまったくなかった。
途中でクラスメートに声をかけられた気もするが、それらもすべて無視した。

 俺たちの記憶の改竄が長門によるものであるのは間違いない。にもかかわらず、
それがこんなに簡単に解けた理由はおそらくふたつ。
ひとつはさっきも言ったように、そもそもあいつ自身がそれを望んでいなかったこと。
理性と感情がぶつかり合う矛盾なんて、人間にはよくあることだ。
もうひとつは、単純に長門の情報操作能力のレベルが落ちているということ。
 それは逆に、長門自身が望んで制限を課したものである。

「あのバカが……っ」

 何があったのか知らんが、何故こんなことをしたんだ。
せめてその前に俺たちに相談してくれたっていいだろう。
確かに目の回る忙しさだったけれど、長門たっての願いなら聞き入れない理由は全くないんだ。

 どうしていつも、一人で抱え込もうとする。

「……キョン、携帯鳴ってるわよ」

 息を切らしつつ、ハルヒが言う。どうやらマナーモードにするのを忘れていたらしく、
あのまま式に出ていたら盛大にやらかしていたところだ。

89 :コテはつけたことないよ:2010/02/13(土) 11:50:54.76 ID:NtlgGgbZ0
「学校からだ」

 発信者を確認した俺は、直ちにそれをもう一度ポケットに閉まった。
岡部には申し訳ないが、それどころじゃない。
 しかしその後、音が止まる→着信のループが五回ほど続いたところで、とうとうハルヒが痺れを切らした。

「いい加減出なさいよ。体調が良くないとか適当なこと言っておけばいいじゃない」
「……仕方ないな」

 全力疾走しながら胸ポケットをまさぐって電話に出るというのは至難の技であるのだが、
今ハルヒの機嫌を損ねるのは好ましくない。ただでさえ混乱して落ち着かないだろうからな。
 ところが、その着信の主は学校ではなかった。

「よう」
『どうも。いきなりですが時間が切迫しているので簡潔に。現在涼宮さんとご一緒ですか?』

 あぁ、いるぞ。

『ではこの会話が聞こえないように配慮お願いします。久しぶりに閉鎖空間が発生しました。
 何かご存知でしょうか』
「……すまん。原因はわかるんだが、不可抗力だ」


90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 11:53:25.05 ID:NtlgGgbZ0
 ハルヒの記憶を取り戻さず一人で行くことも出来たのかもしれないが、狼狽していた俺に
それを期待するのは酷ってものだったし、あの場で勝手にいなくなることをハルヒが許したとはとても思えん。
いや、そんな事より何よりも、あの時ハルヒも一緒に連れて行かなきゃいけない、そんな気がしたんだ。

『何かあったのですね』

 こいつはまだ長門の事を思い出してはいないらしい。

「あぁ」

 どうする、古泉にも伝えるか。しかし電話越しで記憶を掘り起こすことが出来るかは自信がないし、
こいつには閉鎖空間に行かなきゃならんっていう義務がある。無駄に焦らせるべきではないだろうか。

『わかりました、行ってください。こちらの事はこちらで何とかします。
 あなたと涼宮さんは、一刻も早くその問題を解決して卒業式に戻ってきて下さい』
「いいのか?」
『……涼宮さんに関する事と、それからもうひとつ、あなたに一任した覚えがあります。
 それが何だったのかは残念ながら覚えていないのですが、おそらくとても重要な何かだったのでしょう』

 本当に中途半端な改竄だ。こんなんじゃ思い出せって言ってるようなもんだぜ、長門。

「すまん、恩に着る」
「その必要はありませんよ。それでは、卒業式でお会いできること期待しております」

 何もわかっていないはずなのに、何もかもわかっているかのような態度で古泉は電話を切った。
またあいつに迷惑かけちまったな。飯を奢らなきゃならん相手がどんどん増えていく。
全部終わったらバイトでもするか。


91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 11:56:03.60 ID:NtlgGgbZ0
 息を切らせてマンションの前に辿り着いた俺たちを迎えたのは、
予想通りというか、告白を控えた女の子のように俯く朝倉だった。

「……やっぱり、来ちゃったのね。涼宮さんも」
「涼子? どうしてここにいるのよ。あたしたちより先についてるはずないわっ。
 ううん、それ以前に、あんたカナダに行ってたはずじゃなかったの?」

 ハルヒの叫びには、悲壮感すら滲んでいた。当然だ。こいつはまだ
何が起こっているのか全くわかっていない。俺ですら狼狽しているんだ。
何一つ事情を知らんこいつが冷静でいられるわけがない。

「朝倉。お前がここにいるってことは、長門もいるんだな」

 あの閑散とした部屋に、一人で。

「ねぇ、二人とも」

 朝倉は俺の言葉もハルヒの言葉も無視して呟く。

「このまま、引き返してもらえないかな?」

 顔を上げたその表情に、俺は息を呑んだ。
 辛くて仕方ない。こんな事したくない。お願い、帰って。そんな朝倉の声がひしひしと伝わってきて。
 俺まで泣きそうになった。

「……ダメよ。何が起こってるのかさっぱりわかんないけど、有希はあたしの団員なの!
 一緒に卒業するって決めたのよ! それを勝手に引きこもるなんて許さないわ!」

92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 11:58:11.93 ID:NtlgGgbZ0
 喉からは掠れ声しか漏れてくれない俺と違って、ハルヒの言葉には覚悟と
意地が込められていた。本当に情けない。長門が困っている時は助けると決めたのに、
金縛りにでもあったかのように身体が動かない。

「そう、だよね。うん。そうじゃないとここまで来ないよね」

 朝倉がまるで独り言のように囁く。
 あぁ、そうか。俺だけだ。この場で覚悟が出来ていなかったのは俺だけなんだ。
朝倉はきっと初めから知っていた。いや、そのために再構成された。
今この場にいるのも、復活したあの日からの予定調和なんだ。

「楽しかったわ。どうして長門さんがあんなに変わったのかよくわかった。
 有機生命体として過ごしたこの僅か二週間程度でも、情報の海を漂っていた幾千もの年月より、
 ずっと多くのものを得た気がする。捉え方によれば、これが自律進化の可能性なのかもしれない」
「何を……言ってるの?」

「安心してね、キョンくん。前みたいに殺そうなんて思ってない。
 ――情報統合思念体にアクセス」

 その瞬間、いつかのように周囲の世界が幾何学的な模様へと変化した。

94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 12:19:23.01 ID:NtlgGgbZ0
 どうすれば、どうすればいい。朝倉は本気だ。本気で俺たちの記憶を、
今度こそ完璧に改竄しようとしている。長門みたいに未練たらたらなやり方じゃない。
識域下の認識すら書き換えるつもりだ。

「対象二名の情報凍結を申請する」

 ――くそっ。

「ハルヒっ!」

 俺には何の力もない。わかっている。
 情けないとか男らしくないなんて、そんなこともわかっている。

「いいかよく聞け。混乱しているのはわかってる。だが、もうお前しかいない。
長門に会いたいと、長門を忘れたくないと願え。お前の願いは真実になる。つまらない冗談でも
口から出任せの嘘でもない。俺は、俺は――いつかの七夕で出会った。ジョン・スミスだっ!」

 視点が定まらず狼狽するハルヒの肩をがっしりと掴みながら、
俺はとうとうジョーカーを解き放った。その瞳が驚きの色に染まる。

「なん、で……」
「事情は後で説明する。頼むハルヒ、俺を信じてくれ」

 俺にはもう切るべきカードがない。説得する時間もない。次々と、思い出したはずの記憶が
消えていくのを感じる。また忘れるのか。俺は、あいつを助けてやることは出来ないのか。

「無駄よ。……出来れば、あなた達が何も気付かないまま、これからも一緒にいたかったけど。
 こんな切羽詰った状況で、何も知らない涼宮さんが応じてくれるはずないわ」


95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 12:22:32.50 ID:NtlgGgbZ0
 震えた口調で朝倉が言う。

 そうだ、怖いのは俺だけじゃない。朝倉もなんだ。たった今こいつは言っていたじゃないか。
楽しかったって。思念体の一部として過ごした数え切れない時間よりも、
俺たちと過ごした僅かな日々の方が楽しかったって。

 だったら、もっと楽しめばいい。終わらせなければいい。思い出したら一緒にいれないなんて、
いったい誰が決めたんだ? 情報統合思念体か?
そんな見たこともなく本当に存在するのかも疑わしい奴らの決議なんて、
俺たちが受け入れる筋合いはないな。

 そう、俺たちが従うのはただ一人。

「いいや、そんな事はない。俺はハルヒを信じている。何故ならハルヒは、
 世の不思議を追及するSOS団創立者にして、その終身名誉団長だからだ!」

 不意に、ハルヒが俺の袖を引っ張ったような気がした。
 同時に視界が眩い光で包まれる。
 頭がボンヤリして、何も考えられない。何も見えない。何も聞こえない。

「――どうして」

 意識を取り戻した俺が目にしたのは、見慣れたマンションと、目の前で仁王立ちするハルヒと、
唖然としながら短く言葉を発した朝倉の姿だった。


96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 12:24:45.82 ID:NtlgGgbZ0
「長門さんの消去が最終決定したのは、あなた達がバンド練習を始めて数日後のことだったわ」

 オートロックのドアを開きながら、朝倉が概要を説明する。

「本当はもっと前から、その話は出てたの。長門さんは次々と能力を制限し出すし、
 独断専行も目立っていた。観測こそ最低限は続けていたけど、
 およそ思念体が求めるレベルからはかけ離れてて。
 そんな折、ついに報告が途絶えた日があった。私が再構成される二日前のことよ」

 俺はかつての長門みたいな絶対零度の瞳を携えたインターフェースが
宇宙空間に集合して会議を行っている図を脳内で展開しつつ、解説の理解に勤めた。

「思念体は直ちに長門さんの消去を決定したわ。
 当初の目的すら満足に果たせないインターフェースはいらないって。
 そこで、代替物として私が選ばれた。まぁ一応あなた達と面識はあるし、
 もう一度ゼロから作り直すより良いってことじゃないかしら」
「随分勝手なもんだな」
「まぁね。それで、元々は即日で入れ替える予定だったんだけど、長門さんがゴネてね。
 せめてもう少しだけ待ってくれって。これで最後だから、って」

 大量の長門相手に俺たちの長門が弁明する絵が頭に浮かぶ。何故か周囲の風景は裁判所だった。


97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 12:27:19.23 ID:NtlgGgbZ0
「一応ここ数年の長門さんの報告から得るものはあったし、ってことで、思念体は
 長門さんの要求を呑んだ。これでも寛容になったのよ。ただ、私と一時的に併行することを条件にした。
 そして、そのまま長門さんが消去された後もあたしはSOS団に残る予定だったの」

 エレベーターを降りたあたりで、ここまで黙っていたハルヒが静かに口を開いた。

「ねぇキョン。あんたって、ずっとこんな非常識な世界に生きてたわけ?」
「まぁ……そうだな。とは言え、俺は一般人に過ぎないから、
 こいつやお前みたいに特殊な事が出来るわけじゃない」

 出来たらもうちょっと自信を持てたと思うし、
 毎回誰かに頼らなくても何かしらの解決策を生み出せただろうに。

「ふーん……。まぁいいわ。でも、後でちゃんと説明してもらうから、覚悟しておきなさいよ」

 あぁ、自己犠牲の精神溢れる薄幸の美少女を連れ戻して、卒業ライブを成功させたらな。

「そういうこと。さ、行きましょ」

 眼前に聳え立つはドア。茨で隠されているわけでもガラスの靴を要するわけでもなく唯そこにあるだけなのだが、
ここまで辿り着くのに物凄く苦労したような気がする。なんだろうな、
ちょうどテスト当日の朝みたいな気分だ。別にそれまで何もしなくてもテスト自体は受けることが出来る。
しかし、苦労してからその席に座らないとロクな結果になりはしない。


98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 12:29:35.20 ID:NtlgGgbZ0
 だから、精神的・肉体的にも疲弊したこの状態なら、全てが上手くいく気がして。
 俺はノブに手をかけた。

「有希! いるんでしょ、出てきなさい!」

 しかし俺より先にハルヒがずかずかと部屋を進む。
他人の人生に土足で踏み込むを文字通り体言できるのはこいつくらいだろうよ。

「……今更だが、本当にいるんだろうか」

 何も考えず足と直感の導くままにここまで来たが、朝倉は長門の消去が
とっくの昔から検討されていたと言った。ならば、今日来なかったということがすなわち既に消去済み、
ということにならないだろうか。

「いるわよ。だって、思念体の処分が実行されるのは明日なんだから」

 俺の独り言に朝倉が答えた。

 どういうことだ?

「一緒に卒業を迎えちゃったら、その先をまた過ごしたくなるでしょう?
 終わらないことが、長門さんにとっての終わりだったの」

101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 12:31:56.25 ID:NtlgGgbZ0
 矛盾しすぎだ。
 しかし一方で、朝倉の言っていることに納得している俺もいた。
卒業後も規定事項として未来が続くことをわかっていて、
なのに自分は絶対にそこにいることが出来ない寂しさ。やりきれなさ。
それならいっそ、別れを告げないままいなくなってしまった方が幾分か楽なのかもしれない。

 他人の優しさに、自分の弱さが露呈してしまいそうになるから。
 それが当然のように、手を差し伸べてくれる人がいるから。

「……わかる気がするよ」

 その時、パンッという強烈な音が室内を駆け抜けた。俺と朝倉は何事かと顔を見合わせた後、
急いで居間へと走る。
 そこで俺の視界に入ってきたのは、泣きながら長門を締め上げるハルヒの姿だった。

「何してるんだ、ハルヒ!」

 俺はハルヒの腕を掴んで強引に長門から引き離した。
すると縋るようにしてハルヒが俺にしがみつく。なんだこれは。

「だって、有希が……」

 長門が?

「帰れって……」


102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 12:34:27.97 ID:NtlgGgbZ0
「……」

 落ち着け、ハルヒ。長門が心底そう思っているはずないだろう。
肩を濡らすハルヒを宥めようと俺はその身体を抱き寄せる。
普段は偉そうにしているけれど、こいつ、こんなに華奢だったんだな。

「長門」
「帰って。あなた達は卒業式に出るべき」

 あぁ、もちろんだ。俺だって高校くらい卒業したい。
 だがそれは、長門。お前も一緒にだ。

「その必要はない。私にとって有機生命体が感じるところの時間の概念は無関係。
 よって卒業という行事に感慨を覚えることはないし、それを経過する意味もない」

 取り付く島もない。

「そもそも、私の一連の行動を許可したのはあなた」
「何を、」

 不意に、近しい記憶がフラッシュバックする。

『思念体に、朝倉涼子の再構成を申請したい。許可を』

 もしかして、あれはそういう意味だったのか? 確かに朝倉の復活を許可することは
すなわち長門の消滅を容認することと同義だが、その背景に何があったか知らなかった俺が
すべてを汲んでそう言ったはずがないだろう。


103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 12:36:48.29 ID:NtlgGgbZ0
「無知は罪。自己の発言には責任を持つべき」

 何をわけのわからない理屈を。

「長門さん、落ち着いてよ」
「朝倉涼子。ここであなたに発言権はない。再構成された理由を忘れたとは言わせない」
「そんな……」

 俺は――俺はこんな長門を見たのは初めてかもしれない。冷静さを欠いて、非論理的で。
感情のままに言葉を紡ぐ長門がやけに必死に見えて、その瞬間、俺はこいつが心から愛おしく思えた。
それはちょうど妹に抱く感情と酷似している。

 こいつは、ともすれば折れてしまいそうな心を懸命に奮い立たせているだけだ。

「なぁ長門。そこまで頑なに拒絶するなら、どうして俺たちの記憶改竄をこんなに中途半端なものにしたんだ?
 制限を解除すれば、どうあがいても思い出せないほど、いや、
 そもそも最初から全てなかったことにするなんて、お前にしてみれば簡単だったんじゃないか」
「それは、」
「まだあるぞ。俺は覚えている。というか思い出した。鍋を食った帰り道、お前は確かこう言ったよな」

105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 12:39:39.15 ID:NtlgGgbZ0
 次から次へと記憶をいじられているおかげで、
超自然的能力とまったく関係ないアルコールによる記憶障害からも抜け出すことが出来たぜ。

『思念体から私の処分が下された。この個体はもうすぐ消滅する。
 でも、あなたに出会えてよかった。
 あなただけでなく、古泉一樹、朝比奈みくる、そして涼宮ハルヒにも。
 私は――消えたくない』

 俺に散々飲ませたのもわざとだったんだろう。
 まったく、実にこいつらしいよ。

「言ったはずだ。お前のパトロンがお前を処分しようなんて決めた時には、
 ハルヒをけしかけてでも助けてやる、ってな」

 もしかしたら。
朝倉復活を了承した時やけに寂しそうな顔をしたのも、いつにも増して3点リーダが多かったのも、
鍋の日以来古泉が覚えていた違和感も、長門なりの精一杯のSOSだったのかもしれない。

「遅くなってすまなかった」

107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 12:41:50.52 ID:NtlgGgbZ0
「……」
「有希」

 いつの間にかハルヒは泣き止んでいたらしく、俺の腕を離れ長門の前に立った。
 そして、母親みたいな仕草で、その小さな身体を包み込む。

「あんたはずっと前から見てて不安だったのよね。もっと思ってること喋って欲しかった。
 ただ、それはあたし達が聞き出さなかったことが悪かったのかもしれないし、
 有希にも色んな事情があったんだと思う。でも安心していいのよ」

 ハルヒの言葉に続いて、俺はその日何度目かわからない"初めて"を目の当たりにした。

「有希は、あたしが守るから。……さっきは叩いてゴメンね」

 雪原に隠された氷よりも透き通って輝く、長門の涙を。

110 :さるった:2010/02/13(土) 13:00:56.39 ID:NtlgGgbZ0
『エピローグ』



「そろそろよ、みんな準備はいい……って、そういえば有希のギター持ってきてないじゃない」

 あの後、朝倉の空間移動で何とか卒業証書授与に間に合った
俺たちは(もちろん岡部にはこっぴどく怒られた)、出番を控えてステージの裏手にいる。
ちなみに閉鎖空間はあれに呼応して消滅したらしく、古泉もほぼ同タイミングで帰還した。

「問題ない」

 長門が例の高速呪文を唱えると、無から有を生み出すが如く何もない空間からいつものギターが出現した。
 古泉と朝比奈さんの目が驚愕で見開く。

「有希……あんたってホントに何でも出来るのね! 凄いわっ!」

 得意げにVサインをする長門に若干声を落としつつも嬉々としたハルヒが抱きつく。
 くそ、羨ましいな。

「これはあなたの口癖を拝借するしかない心境ですねぇ」

 古泉が何もかも諦めたかのような口ぶりでそう言う。
 すまんな、お前もご苦労さんだよ。

「やれやれ」

111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 13:04:02.10 ID:NtlgGgbZ0
「まぁ、事情は終わってから説明する。今回はハルヒも交えてな。
 朝比奈さんも、それでいいですか?」
「は、はいっ」

 さて、答辞もそろそろ纏めに近づいてきた。俺たちも上って準備をしないとな。
 高校生としてライブをするのはこれが最後だ。

「それじゃみんな、行くわよっ」



「――ありがとうございました。それでは最後となります。生徒の皆様は起立して下さい」

 掲げられたプログラムでは代表の答辞が最後となっており、にもかかわらず
退場の合図が出されないことにより戸惑いとざわめきが巻き起こる。
 俺たちの目の前にある幕が上がり始めると同時に、古泉のフィルからスタートする。

「え?」
「何?」

 生徒や来賓席から声が上がるが、幕が半分くらい上がった辺りですべてを理解したらしく、
狼狽から期待、あるいは羨望らしき感情へとその表情はシフトしていく。

112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 13:07:40.06 ID:NtlgGgbZ0
「卒業生、そしてご両親の皆様、ご卒業おめでとうございます……なんて
 堅っ苦しい挨拶はいらないわ! みんな聞きなさい!
 SOS団によるスペシャルステージ、一生忘れられない日にしてあげるわ!」

 生徒席から歓声が上がる。どうやら俺の杞憂は本当に杞憂にすぎなかったようだ。
思い返してみれば三年生になってからのハルヒは下級生からの信望厚く、
かつての奇行が無くなってからはクラスどころか同学年の中心的存在として君臨していたような気がする。

「なんでだろう あなたを選んだ私です~♪」

 決して面と向かって言いたかないが、カリスマ、ってのはこういう奴のことを言うのかもしれない。

 いつの間にかノリノリの教師陣や来賓、ご両親の方々を見て、俺はそう思っていた。


113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 13:11:48.80 ID:NtlgGgbZ0
「みみみみなさん、お久しぶりです、朝比奈みくるです~」
「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」
「「「キャー! 朝比奈先輩かわいいいいいいいいい!!!!」」」

 SOS団にはもう一人カリスマがいるということを、俺たちは忘れてはいけない。
むしろこれはアイドルという部類に入るだろうか。朝比奈さんがマイクを持った瞬間、
津波か台風のような勢いで歓声が沸きあがった。
 もしも彼女がデビューなんてした日には、日本中巻き込んでの朝比奈旋風が吹き荒れるに違いない。

「ひょえええぇ。ありがとうございますぅ、一曲だけですけど聞いて下さぁい。3、2、1、はいっ♪」

 あぁ可愛いなぁ。ちくしょう、俺も一度くらいステージの下から客として朝比奈さんを眺めてみたいぜ。
長門か朝倉に頼んで俺のコピーを作ってもらおうか真剣に考え出すくらいだ。
 その朝倉だが、さっきの壇上裏手から情報操作を駆使して演出を行っていた。おかげで
ライトを操作する予定だった生徒会役員の出番がまったくない。何せ、
機械やそれっぽいものひとつ使わず雪を降らせるなんて非科学的な事を軽々とやってしまうんだからな。

 長門もそうだが、こいつらハルヒに全部バレたからってやりたい放題やっている気がする。
さっきの得意げだったあの表情といい、実は自慢したかったんじゃないか?
一般人にバレたらどうするつもりだ。後で記憶消せばいいや、なんて思ってないだろうな。
 古泉あたりが泣くぞ、おい。


114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 13:14:27.58 ID:NtlgGgbZ0
「――さて、これで本当に最後の曲よ」

 え? といった空気が生徒間どころか壇上にも流れる。なぜなら、最後の曲、
とハルヒが言ったのはこれで二度目だったからだ。
捌けようとしていた古泉と長門、そして朝比奈さんの視線が一斉にハルヒへと集中する。
一方の俺は、裏でスタンバイしていた生徒会役員からエレアコを受け取っていた。

「3人とも、自分の席に戻ってくれる?」

 ハルヒから俺へ移った3人の視線を受け流しつつ、俺はシールドをアンプに繋ぐ。
殆ど一夜漬けみたいなもんだから技術的な事についてはあんまり自信がないんだが、
気持ちだけは必要以上に込めるから許して欲しいところだ。

「3年前まで、あたしはこの世界が大嫌いだった。でも高校でSOS団を結成して、
 いつの間にかそんな気持ちは忘れてたわ。みんなと一緒にいるのが楽しくて仕方なかった。
 あたしの度が過ぎた行動にも、みんな着いてきてくれて。……本当に感謝してる。
 だからこの場を借りて、伝えさせて下さい」

 昼間は団として練習して、夜から深夜にかけての数時間をハルヒと練習した。
ベースとギターではあまりに勝手が違って、ハルヒの怒号を受けた回数なんて
数える作業の方がアホらしい。

116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 13:18:37.63 ID:NtlgGgbZ0
 だが、俺にだってたまには素直に言ってやりたいことがある。
ましてや今日は卒業式。普段言えないことだって、あんまり照れずに言えるもんだ。

「ありがとう。みんな大好きよ! これからも、よろしくね!」

 その言葉を合図に、俺は緩やかなアルペジオを奏で始める。今回唯一のバラード曲。
あんなに急な申し出だったというのに、ハルヒは一晩で書き上げてくれた。
こいつの溢れる才能とやると言ったら必ずやるその意思の強さには頭が上がらない。

 壇上から古泉、長門、朝比奈さんを探す。前者二人はすぐに見つかったが
朝比奈さんが見当たらない。当たり前だ、卒業生なんだからな。
何処にいるかと視線を動かすと、何故か生徒会役員の席に座っていた。
親衛隊が気を利かせてくれたようだな。

 ――俺はこいつらに、言葉で尽くしきれない程感謝している。平凡を極めつつある俺が
視覚的な理解すら追い付かない世界で何とかやってこれたのは、
こいつらが裏で獅子奮迅の活躍をしてくれていたおかげに相違ない。

 今回の件にしてもそうだ。朝比奈さんは朝倉から聞いて知っていたみたいだが、古泉なんて
閉鎖空間が発生した原因もすぐに消滅した理由もまだわかっていないはずだ。
にもかかわらず俺たちを送り出してくれた。

 そして、ハルヒ。そもそもこいつは、3人プラス1の具体的な属性を知らない。
世界を守るため、なんていう理由で当事者からずっと外されていたんだからな。
それでも今回、こいつがいなければ絶対に長門を連れ戻すことは出来なかった。


117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 13:22:16.02 ID:NtlgGgbZ0
 だから、それもそろそろ終わりにしていいだろう。

「――♪ ―――♪」

 全てを説明するその時、最初にハルヒに言う事はもう決めている。

 そう、まず――。
 宇宙人と未来人と超能力者について話してやろうと、俺は思っている。












涼宮ハルヒの旋律 
- the Melody of Haruhi Suzumiya -



118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 13:22:24.49 ID:OyB1rdPZ0
目が熱い

119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 13:25:39.39 ID:OlpEOxZx0



123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 13:29:03.51 ID:MmRN21r10
乙!こういうのいいなあ・・・
丁度いいタイミングで完結したわ、バンドの練習行ってくる

124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 13:30:18.16 ID:NtlgGgbZ0
終わったああああああああ
結局二日かけてしまうとか計画性なさ杉だろ俺

消失公開もあって朝倉を活躍させたかったんだが、
どういうわけか脇役に落ち着いてしまった
まぁ消失見れてないんだけどね…

次は古泉かみくるを主役にしたいな
古泉はともかく、みくるは何故か空気と化してしまうので…

何か質問があれば受け付けます


125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 13:32:53.00 ID:Mt/HAbqA0
眉毛ルートを希望する

126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 13:39:10.86 ID:OyB1rdPZ0
いや、文句を付けるとしたら、、、、、
>>94のハルヒの解釈が早すぎたようにも思える。
>>101-103の情景はもうちょっと説明というか盛り上がりがほしかった。

127 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 13:47:31.80 ID:NtlgGgbZ0
>>125
そっちかぁ
考えたけど、朝倉ルートは一番持っていくのが難しいのよね
ちょっと考えてみる

>>126
なるほど確かに…
言われて読み返すと駆け足過ぎたかも
盛り上がりどころを上手く盛り上げれるように頑張る

128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 13:53:01.13 ID:OyB1rdPZ0
すまなかった。
で、もうちょっと。。。
この設定は規定事項って設定なのかな?
これほどの自体に朝比奈さん(大)の介入とか無かったのだろうかとふと考えた。

けど大いに泣かされたので俺の中では本編的な位置づけになったよ。
ありがとう。

129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 14:00:21.05 ID:NtlgGgbZ0
正直に言おう
それについては思いつきもしなかった…

でもほら、みくるが事前に事情を知っていたにもかかわらず
何もしなかったんだから規定事項ってことで! うん!


さて質問もこのくらいかな
さっきも言ったように次はみくる主役のSSを書きたいんで
その時にまた

読んで頂いてありがとうございました


キョン「長門有希を、俺は知っている」1
キョン「長門有希を、俺は知っている」2


Figma 涼宮ハルヒの憂鬱 長門有希 悪い魔法使いVer.


涼宮ハルヒの憂鬱 超月刊長門 (NEWTYPE HARUHI COLLECTION)
長門有希ちゃんの消失 (1) (角川コミックス・エース 203-5)
公式ガイドブック 涼宮ハルヒの消失
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         コメント一覧 (5)

          • 1. 1ゲット
          • 2010年07月30日 00:11
          • これはいい最終回。
          • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2010年07月30日 09:52
          • うまい!!
            それしかいえない!!
          • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2010年07月31日 16:18
          • キョンの”ジョーカーを切る”タイミングとか、酔っ払っていた時の長門へのセリフとか、非常に素晴らしかった
          • 4. 眉毛ルート希望者
          • 2010年10月10日 18:53
          • 5 濡れた
          • 5. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2016年03月25日 09:05
          • 良い掘り出し物を見つけたわ
            もちょっと短いか、逆にガッツリ長くしてくれたら完璧に好みなんだけど…
            まあ、野暮は言うもんじゃないよね

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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