キョン「似合ってるぞ」2

※キョン「似合ってるぞ」1 の続きです。


キョン「似合ってるぞ」1
キョン「似合ってるぞ」2

94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 13:24:49.66 ID:NdQDgSSO0
 やれやれ。こんなストレートに当たってこられちゃ、指物俺も真剣にならなくちゃならんだろうが。

「なぁハルヒ――」

 礼を言うべきは俺の方なんだ。お前がSOS団を結成し、俺を引っ張り込んでくれたおかげで、
この3年間少なくとも退屈を感じる事など皆無だった。それにお前は、
知らず知らずのうちに俺の幼き夢を叶えてくれていたんだよ。サンタクロースを諦めきれない、
本当に子供じみた夢を、な。

 そんな俺の夢が定期的に実現されていた高校生活、本当に信じ難い多くの事件があったが、
俺は古泉みたいに世界を守るなんて仰々しい動機で動く事はできなかった。俺はただ、
俺の大切なものを守りたかったにすぎない。そして誠心誠意、
まぁ時には世界崩壊の危機を招いたこともあったらしいが、俺なりに俺として俺らしく対応できていたはずだ。

 そう、これまでもこれからも、俺は俺の守りたいものを、俺なりの手段で守っていきたいんだ。
 だからな、ハルヒ。

「俺は、お前の気持ちに応える事は出来ない」

 冷たい風が一層強くなる。止まっていた時間が再始動を始めたようだ。



95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 13:30:23.59 ID:NdQDgSSO0
「……なんでよ」
「どうしてもだ」

 俺はハルヒの目を見ることが出来なかった。

「すまない」
「謝罪なんかいらないわよ。……わかった。でもどちらにせよ、
 あんたはSOS団をクビよ。決定は覆らないわ」

 抑揚のないトーンでハルヒは言葉を紡いでいく。

「いい加減寒いし、用も済んだし、あたしはもう帰るわね。
 あんたも風邪引かないようにさっさと帰りなさい」

 ハルヒはサッと踵を返し、足早に東中を後にした。どうでもいいが、
このままほったらかしにしていたらまたミステリーサークル出現なんて見出しの新聞が発行されちまうぞ。

 しかし俺は、この宇宙文字を消し去る事も、ハルヒの後を追うことも出来なかった。
なんともなしにデジャヴを感じたからだ。いやそれ以上に、感情の動きひとつ表に出さないその背中に、
何と声をかけていいか、かけるべきなのかわからなかったんだ。


96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 13:34:43.20 ID:NdQDgSSO0
すいません、出かけなければならないのでまた夜に
これで第三章まで終わりました

>落ちてたらもう一回立てなさいよ
>次はちゃんと書き溜めてさ。

まったくその通りで返す言葉もない
夜に落ちてたらまた立てて続きから書きます


114 :保守に感涙を堪えきれない:2010/01/23(土) 20:19:13.35 ID:NdQDgSSO0
『第四章』


 東中を出た俺はどうしても帰宅する気になれなかったが、どうやらその必要はなかった。
なぜなら、確かに俺の背後には中学校がそびえている筈だったのだが、ふと気付いた時歩いていたのは
北高の中庭だったからだ。眼前には、いつかハルヒが寝そべっていた木が聳え立っていた。

 ――灰色の空。閉鎖空間か。
 すまんな、古泉。

「謝られる必要はありませんが、これは少しばかり想定外ですね」

 振り向くと奴がいた。今日は赤玉ではなく制服に身を包んだ実体である。
 早い到着だな。

「今回は侵入したわけではありませんよ。記憶の限りでは、
 僕は機関の一室で受験勉強をしていたはずですから。いつの間に閉鎖空間にいたのかもわかりません」
「どういうことだ」
「つまり、今回の招待客はあなただけではないということですよ」

 その時、気配などまったくなかったのだが、俺の右袖が引っ張られたのを感じた。
 長門、お前もいたのか。


115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 20:24:18.70 ID:NdQDgSSO0
「そう」
「この様子では朝比奈さんも何処かにいらっしゃるでしょうね」
「そうだな。長門、朝比奈さんの居場所はわかるか?」
「不明。この空間内では情報統合思念体とのアクセスが拒絶されているため、
 現在私が行使できる能力は私というインターフェイスが有する限度にすぎない」

 なるほどな。じゃあ、まずは朝比奈さんを探すか。
 やれやれ、今日は人を探して歩いてばっかりだよ。




 ひとつ聞いていいか、古泉。

「なんでしょう」
「この閉鎖空間は、世界崩壊を導くような規模の閉鎖空間なんだろうか」
「閉鎖空間自体がそもそもそのような性質を有するものなのですが、
 そうですね。これはかつてあなたと涼宮さんが閉じ込められたような、
 世界滅亡の序章を告げるようなものではありません。」



116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 20:29:24.86 ID:NdQDgSSO0
 なら、それ程危機感を覚えることもないのか。

「それがそうもいかないようです。この閉鎖空間は通常のそれと異なり、僕たち超能力者でも侵入できません。
 その点で言えば『あの時』と同様ですが、何よりも気になるのは、
 この閉鎖空間は拡大する気配もなく、また神人が出現する気配もないということです」
「そうなのか?」

 しかし俺の問いに答えたのは長門だった。

「そう。ここは外界から次元的に隔離された空間。そもそもここは、古泉一樹らが閉鎖空間と呼ぶものではない。
 言うなれば、涼宮ハルヒの創生した第二世界と呼ぶのが相応しい」
「どうやらそのようです。先刻から試していたのですが、ここでは僕の力も使えません。
 神人を倒す必要がないからかと思っていましたが、長門さんがおっしゃる通りのようですね。
 ここは閉鎖空間ではない。僕も唯の人にすぎません」

 ……そうか。

 しばらく歩くと、ようやく見慣れた舎が姿を現した。何の評決を取ることもなく向かっていたのは、
やはり元文芸部室である。習性が完全に犬猫と同じであるがもはや何も言わなくていいだろう。
 風の音ひとつ聞こえない。真冬だというのに寒さも感じなかった。


117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 20:35:21.76 ID:NdQDgSSO0
 扉の前に着いた時、古泉がいつものニヤケスマイルを携えて言った。

「僕もひとつお聞きしてよろしいですか」

 何だ。

「涼宮さんの告白を断った理由です」

 なぜ知っている、などとは言わなかった。

「……それは、答えないといけないのか?」
「いえ、あくまでプライベートですから。これは僕個人からの質問です」

 その時、ガチャリ、と珍しく良心的な方法で扉が開かれる。
開けたのは俺たちのお目当ての人物だった。

「キョンくん! 長門さん、古泉くんも!」
「こんばんは、朝比奈さん。お久しぶりですね、お元気そうで何よりです」
「えぇ、本当に。……涼宮さんは?」

 朝比奈さんの問いに、古泉は小さく頭を振った。
もしかしたらここで朝比奈さんと一緒にいるかと思ったが、希望的観測に過ぎなかったようだ。

 長門は何事もないかのように向かって左奥のパイプ椅子に座り、俺と古泉が対面で座る。
するともはや機械的に朝比奈さんがお茶を淹れだした。いつもの光景である。


120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 20:40:17.59 ID:NdQDgSSO0
 しかし、この光景をいつも通りと言えるのは今この時まで、だ。仮にこの第二世界から抜け出し、
日常を取り戻せたとしても、今後俺がSOS団の雑用としてこの部屋に来ることは永劫ありえない。
 何せ団長様の決定だからな。

「……僕は、あなたと涼宮さんが付き合えばいいと思っていました。機関としても、副団長としても、です」

 どうやらまだ会話を続ける気らしい。

「そんな事言われてもなぁ」
「私もです。そもそもキョンくんは鈍すぎます。涼宮さんはずっと、
 ずぅっと前からアプローチしてたのに、全然気付かないんだもの」
「鈍いかどうかはわかりませんが、ハルヒは昔、恋愛は精神病の一種だって言っていましたよ」
「人類は日々進歩、成長する存在。涼宮ハルヒがそのように考えていたのは今は昔のこと」

 朝比奈さんに長門まで加わってきた。
 まるで尋問だな。

「仲の良い学生同士がよくやることですよ。高校生活最後、青春の1ページ。いいじゃないですか」

 お前のその胡散臭い微笑は高校生らしさに欠けるがな。何処の政治家だよ。



121 :ここからの展開はまさに超展開:2010/01/23(土) 20:45:22.54 ID:NdQDgSSO0
「こんな話してる場合じゃないだろう、古泉。ハルヒを見つけてさっさと現実に帰ろうぜ」
「そのためにこの会話が必要なんですよ。この第二世界発生は、
 あなたが涼宮さんの告白を断ったことに起因しているのは間違いありませんから」
「そうは言ってもな、俺はハルヒと付き合うことは出来ない。ならば原因を解明しても結果は同じじゃないのか?」
「事態の解明にはまず根本から洗い直すという選択がベターでしょう。そうしたからこそ、
 あなたも今日、涼宮さんのいる東中学校に辿り着けたのではないでしょうか」

 ええい、ああ言えばこう言う奴め。だいたい俺が古泉に口で敵うはずがなかったか。そもそも団内で俺が口で勝てる相手などいないのだがな。
 観念しろということか。

「……念のため先に言っておくぞ。これからする話は、俺がこれだけはお前たちに言いたくなかったことだ。
 隠す理由があるんだ。それでも聞くというんだな?」
「そうですね。そうしなければ、僕たちは一生ここに幽閉されたままでしょうから」

 長門も、朝比奈さんも。いいんですね。

「うん、教えて欲しいな。キョンくんは涼宮さんが好きなんだと思っていたもの」
「……」

 長門は無言でコクリと頷いた。心なしか、普段の3割増の反応に思える。
 わかった、わかったよ。


123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 20:51:10.87 ID:NdQDgSSO0
「――なぁ古泉。お前、そもそも何故俺がハルヒをフッた事を知っているんだ?
 俺はあの後すぐこの空間に閉じ込められたのであり、その間お前に連絡をした覚えはない」
「そのご質問にどのような意味があるのかはわかりかねますが、今日という日付、
 あの手紙、そして第二世界の発生から容易に推測できることですよ」
「なるほどな。では、何故俺がSOS団思い出の地を巡り、最終的に東中に辿り着いたことを知っている。
 与えられたヒントだけでは推測できないし知り得ないことだよな」

 古泉は多少思案した後、困り顔で俺の問いに答えた。

「以前も何度かお話していると思いますが、涼宮さんには機関の監視がついています。
 鍵であるあなたにも。そして、僕には機関からの定時連絡がありますから」
「対策は万全、ってのはそういうことか。じゃあ長門……は聞くまでもないな、
 情報統合思念体が知り得ないはずがない。朝比奈さんも古泉と同じですか?」

 2人ともゆっくりと頷いた。
 俺は気付かれないように小さくため息をつく。ここからだ。俺は絶対にこの話はしたくなかった。
と同時に、いつかこんな時が来るとわかっていたのかもしれない。熱い湯もいつかは冷めてしまうのだから。



124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 20:56:31.88 ID:NdQDgSSO0
「長門、朝比奈さん、古泉。3人とも、俺が本当にハルヒの気持ちに気付いていなかったと思っているのか?
 この3年間で、一度たりとも考えなかったと思うのか?」
「え? え、えぇ?」

 朝比奈さんの可愛らしい声が聞こえたが、古泉は途端に真顔を貼り付けた。

「……続きを」
「気付いていたさ。そもそも白雪姫よろしく、あの時のアレで気付かないはずがどうかしていると思わないか。
 俺だって一介の高校生、もしかしたら、と思ったりもする。
 そして一度そういった視点であいつを見てしまえば、すぐにわかることだったよ」
「では!」

 ダンッ、と古泉が机を叩いた。

「失礼。……ですが、それならばあなたは、気付いていながらもわざとこれまでのような態度を取っていたと?
 意識的に涼宮さんを傷つけていたと言うのですか?」

 そんな怖い顔するなよ、似合わんぞ。
 朝比奈さんなんか今にも泣き出しそうな表情だ。

「茶化さないで下さい」
「……お前の言うとおりだ」


125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 21:02:30.14 ID:NdQDgSSO0
 今度はパチンッ、という音が部室内を通り抜けた。朝比奈さんが俺を引っ叩いた音である。

「ひどい……ひどいよ、キョンくん」

 顔をあげると、朝比奈さんは涙を流して座り込み、長門は無言の圧力を伴って俺を見つめていた。

「何故そんな事をしたのか、その理由を私は知りたい」

 なんというプレッシャーだろうか。刑事尋問ってのはこんな感じなんだろうな、きっと。
俺みたいな一般人にはとても耐えられそうにない。まだハルヒに詰め寄られる方がマシだ。

「――古泉、もしお前が俺の立場にいたとして、ハルヒと付き合えるのか」
「どういうことですか」

 もはや古泉の言葉には柔らかさの欠片もない。
 俺も後には引けなかった。

「宇宙的、未来的、そして超能力的集団から四六時中監視を受け、プライバシーなどまるで存在せず、
 さらには腫れ物のように周囲から扱われる。あいつが願望実現能力を手にしてしまったのは
 あいつのせいでないにもかかわらずだ。凡そ人間扱いされていない」

 お前はそんな人間と恋愛関係に至ることが出来るというのか。


127 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 21:09:01.57 ID:NdQDgSSO0
 俺のこの台詞を皮切りに、部室内には一気に緊張感が張り詰める。

「そんな……そんな理由で、あなたは」
「そんな理由だと? いじめっ子の理論だな。いじめられる立場ってものを
 考慮したことなど全くないからこそ出てくる台詞だ」
「しかし……」
「それだけじゃないぞ。あいつが監視されるということは、すなわち周囲の人間も監視されるということだ。
 俺がいい例だろう。部室や教室にも監視カメラと盗聴器が仕掛けられているな。それから、
 監視させるにしたってもっとやり方ってものがあるだろう。特に最近は毎日異なる時刻、
 タイミングで登校するにも関わらず、同じ奴の姿を見掛けるってのはいかがなもんだろうか」

 風が出てきたようだ。窓ガラスが震えている。その向こうで木々も揺れていた。
 古泉は何も言えずにいる。残りの2人もだ。しかしもはや俺は止められない。
 ふと、古泉が搾り出すような声で呟いた。

「涼宮さんの気持ちを……考えたことがあるのですか」
「お前がそれを口にするのか!」

 怒声を上げたのは俺である。

「ハルヒの気持ちだと! だったら、この事実をハルヒが知ったらどう思うだろうな!
 世界改変で済めば御の字だろうよ!」

129 :>>126ここからが長くてサーセン:2010/01/23(土) 21:15:30.55 ID:NdQDgSSO0
「それでも! 世界の崩壊を未然に防ぐためには仕方ないことです。あr」
「ある程度の犠牲は、か。当事者なのに犠牲者ってのもない。機関はあいつを神様と崇めることで、
 自分たちの行為を正当化してきたに過ぎない。差し詰め神に仕える従者ってところか? もはや宗教団体だな」

 だがな、あいつはまだ高校生なんだ。唯の女の子なんだよ。
機関がしている事は、そこらのストーカーがするそれと何が違うっていうんだ。

「……しかし、そこまで冷静かつ現実的な判断が出来るのであれば、本件におけるあなたの決断には首を傾げる他ありません。
 下手を打てば閉鎖空間の発生、世界崩壊の危機を招く、などということは予測できたのではないですか?」

 話を逸らしてきたか。だが、それも無意味だよ。

「断らなければ、監視の目は俺どころか俺の友人、家族、家族の友人、そしてまたその家族と加速度的に増えていくだろうな。
 もはや何処にいても、誰といても気が気じゃない。俺はいいさ、監視の事実をとっくに知っているんだからな。
 だが、世界と第三者の人権を天秤に掛けろというのか?
 ここで安易に肯定したら、あまり好意的でない未来人組織と同じところまで堕ちるぜ、機関も」

 ヒッと朝比奈さんが息を呑む音が聞こえたが、俺は無視することにした。
 ドス黒い感情が胸いっぱいに広がる。
 古泉も、もう止められないようだった。

「 "機関"として答えるならば、それでも肯定せざるを得ませんね。それにやはりあなたは涼宮さんの気持ちを
 考えてなどいないようだ。知らなければ傷つくことなどないのですよ。現にこれまでもそうだったでしょう」


130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 21:21:04.94 ID:NdQDgSSO0
 古泉。一般的に恋人ってのは何をするか知っているか?

「どういう意味でしょうか」

 恋人となれば、最終的に性的行為に及ぶのがむしろ当然だ。そしてその行為も機関、
未来人組織、果ては情報統合思念体まで突き抜けになるんだろうな。俺にはそれが耐えられない。
ハルヒの知られたくない部分、見られたくない部分。大切にしておきたい部分。
それがあいつの知らないところで、周囲の誰もが了知している。とても耐えられん。

「だから俺は、いつか全てをハルヒに話してしまうだろうよ。その時あいつはこう思うんだ。
 "裏切られた"、"仲間だと思っていたのに"ってな」

 俺が正しいとは思っていない。だが。

「俺たちの利害は絶対に一致しないんだよ、古泉」

 こうするしかなかったんだ。

「……あなたは、」

 しかし古泉の囁きは窓ガラスの割れる音に掻き消された。
いや、割れるなんて生易しいじゃない、砕ける、あるいは破裂するという表現の方がしっくりくるな。
 全員の視線がその方向へ集中する。

「まさか、神人か?」

131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 21:27:45.57 ID:NdQDgSSO0
「それはありえない。ここは閉鎖空間とは根本的に性質を異にする。
 仮称神人が発生することもなければ、拡大し世界を覆い尽くしてしまうこともない」

 殆ど黙ったままだった長門がその出現を即座に否定した。とは言え、
このまま部室に留まるのは危なすぎるな。
どんな空間なのかが把握しきれない以上、何が起こっても不思議じゃない。
まして家主はあのハルヒだ。予測どころか予想も出来ん。

 ヒートアップしていた頭が一気にスッキリしてくる。
 やはりああいう話は好きになれんな。

「行こう。さぁ朝比奈さん、立って下さい」

 朝比奈さんは若干戸惑ったが、結局は俺の伸ばした手を取り立ち上がった。
 兎にも角にも、逃げなければな。


133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 21:33:26.60 ID:NdQDgSSO0
 次々と悲鳴をあげる校舎の窓やら何やらを背にしながら、俺たちは只管に走り続けた。
何処へ行けばいいのかはわからん。しかしここは危険すぎる。
先頭を行く俺の少し後ろを古泉が併走する。振り向くと、朝比奈さんの手を長門がしっかり握っていた。
 が、旧校舎を抜け渡り廊下に差し掛かった頃、その長門が突然立ち止まった気配がした。

「どうした」

 肩で息をしながら長門に問いかける。

「第二世界から仮称閉鎖空間への移行を確認。それに伴い、情報統合思念体との接続が復帰」
「……そのようですね。来ます」

 傍らで古泉がそう呟いた直後、青白い発光が俺たちを照らした。
 神の人、神人。
 出やがったか。

「行ってください。僕はあれを対処しなければなりません」
「しかし……」

 その時、またも長門が俺の袖に付加をかけた。

「何者かのこの空間への侵入を確認。人数は1名、しかしパーソナルネームを確認できず。
 何処からか妨害されている」


135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 21:39:18.15 ID:NdQDgSSO0
 何だと? 誰だそいつらは、閉鎖空間に侵入できる人物なんて限られていると思うが。
 しかも、長門の目から逃れて。

「機関の人間かもしれませんね。……あなたにお願いがあります」
「何だ」
「涼宮さんを見つけて下さい。僕は行けません。この空間は通常の閉鎖空間と異なり、拡大するわけではなく縮小しています。
 アレを放置しておくと、おそらく僕らはこの空間から締め出されてしまうのでしょう」
「なら、問題ないんじゃないか? 別に世界を崩壊させるものでもないんだろう?」

 古泉は息を整えながら、小さく頭を振ってみせた。

「縮小していく世界で、最後に残るのは何か。それは、その世界の家主です」
「……じゃあ、まさか涼宮さん……」
「えぇ、聞こえていたのでしょうね。自分が作った団の団員が、よくわからないけれども自分の話題で口論している。
 彼女は聡明な方ですし、責任感も強い。世界ではなく、自らを現実から消滅させることにしたのだと思います」

 あの台風一過は、普段は全部俺たちに丸投げするくせ、肝心なところは全部自分で背負い込もうとしやがる。
 だからバカなんだ。
 だが、俺はもっと大バカ野郎だ。

「ですから、あなたにもう一度お願いします。いえ、これはSOS団副団長としての命令です」
「……言ってみろ」



136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 21:44:21.20 ID:NdQDgSSO0
 赤い発光体を身を纏いながら、古泉はゆっくりと浮上していく。会話をしているうちに
神人の数はどんどん増えていたようだ。灰色の世界に明るさを与えるそれらは、
さながら闇夜にぽっかりと浮かぶ満月のようだった。

「自己嫌悪の迷宮に囚われたお姫様を探してきて下さい。……あなたの意図はわかっているつもりです。
 あなたは一度として僕ら個人を指して責め苦を発さなかった。つまりそういうことなのでしょう?
 ならば、最後まで責任を取るべきです。僕は僕の使命を果たします。SOS団副団長としての使命を」

 なんだ、やっぱりバレていたのか。まぁ古泉や長門を相手にするなんて土台無理な話だったか。
あぁ、朝比奈さんも最近鋭いから無理だな。つまりこの団に、俺が勝てる相手は誰一人いないって事だ。
 だが、それで構わない。

「よし、その命令了承した。行こう、長門、朝比奈さん」
「私は行くことは出来ない。朝比奈みくるもここに残るべき」

 これから文字通り一致団結して、という時に出鼻を挫かれた。
 何故だ。

「私はここで古泉一樹のサポートに専念する。この数を一人で相手するのは非常に危険。
 この個体がアレに直接ダメージを与えることは出来ないけれども、サポートならば出来るはず。
 私も私に出来ることをする。それに――」

 それに?


139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 21:49:29.39 ID:NdQDgSSO0
「バレンタインは、まだ終わっていない」

 あぁ……そうだった。今日はバレンタインで、ここでの時間が進行しているのか止まっているのか知らんが、
いずれにせよバレンタインという今日に、ハルヒを見つけなければならないのは俺の役目だ。
わざわざ団長直々の手紙を頂いたくらいだからな。

「よし、わかった。俺が行く。朝比奈さんもここに残って、二人のサポートをお願いします」
「あ……わかりました。精一杯頑張ります!」

 その言葉を皮切りに、古泉は神人の方へ飛んでいった。
実はな古泉、俺、そうやって巨人との闘いに赴くの、密かに憧れてたんだぜ。
だってまるで特撮のヒーローみたいじゃないか。
しかも今は、たった一人で、たった一人の女の子を守るために闘いに行くんだ。
誰も否定できない、お前はまさにヒーローだよ。

 だから、死ぬんじゃねぇぞ、古泉。


142 :ここまで古泉が主役でした:2010/01/23(土) 21:56:18.28 ID:NdQDgSSO0
 俺は走った。唯、走った。ハルヒを探して。
 部室棟にいないのはわかっていた。さっきまで俺たちがそこにいたんだからな。

 だから俺は、アテもなく走り続けた。いや、実を言うとアテはある。
少なくとも、ハルヒは校舎の何処かにいることは間違いなかった。なんのことはない。
この校舎は、"俺"とハルヒが初めて出会った場所だからだ。

 "今"、ハルヒが求めているのはジョン・スミスじゃない。俺だ。

「うおっ!?」

 突然俺は何かに衝突した。しかし眼前には何もない。廊下が広がっているだけである。
 つまり、これはあれだ。以前ハルヒと二人で行った閉鎖空間にもあった、見えない壁というやつだ。
改めて触れてみると、そこには確かに弾力ある何かがあった。

「この先じゃないのか……?」

 俺が現在向かっていたのは屋上である。残念ながら教室にハルヒの姿は見当たらなかった。
そんな気はしていた。ならばもう俺が行くべきは屋上しかない。あそこなら全てが見渡せる。
光り輝き暴れまわる神人も、その周囲を旋回している古泉も、情報操作を駆使し古泉を守っているであろう長門も、
もしかしたら何か未来的兵器を用いているかもしれない朝比奈さんも。

 だが、ハルヒは俺がこの先に進むことを許さなかった。
 場所が違うのか、それとも拒絶されているのだろうか。


143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 22:02:02.44 ID:NdQDgSSO0
「いや、この先であっていると思うよ。この障壁は涼宮さんの最後の砦なんだろう。
 今、彼女は迷っている。僕にはその気持ちがよくわかるよ。……仕方ない、僕が壊そう」

 不意に背後からかけられた声と、伸ばされた手。その手が見えない壁に翳されたかと思うと、
パリンというガラスが割れるような音が鳴り響いた。
 伸ばされた手の正体が誰かなんて、振り向くまでもなく声でわかる。

「佐々木! 何でここに」
「まるで僕がここにいちゃいけないような物言いだが、まぁいいだろう。次元の歪みを感じたからね、
 橘さんに頼んで僕の閉鎖空間と接続したんだ。したがって、ここは涼宮さんの空間でもあり、僕の空間でもある。
 もっとも、僕のは器に残された水滴程度の力しか持たないが」

 器に残された水滴。
 それはつまり、初夏の事件で一度佐々木へと移行したハルヒの力の名残、ということなんだろう。

「さて、久しぶりの親友との再会だ、充分に楽しみたいところだが、どうやら無駄話に興じている暇は無さそうだ。
 王子様は、幽閉されたお姫様を救いに行かなければならないようだからね。
 ――昨年の約束を今果たそう、キョン」

 あぁ、行こう。


147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 22:07:46.53 ID:NdQDgSSO0
 舞台は移って上階。なおも俺は走り続けた。佐々木と一緒に、ハルヒを探して。
 すると目の前を何かが通り過ぎた気がして、思わず足を止める。

「ハルヒか!?」
「いや、違うよキョン。あれは……そう、まさに名残というやつだ」

 その影もまた屋上へと向かっていた。後を追う。
 佐々木とこの高校を駆け抜けるなんて初めてのはずなのに、何故だか懐かしい感じがした。

「名残?」
「そうだよ。言っただろう、ここは僕の空間でもある、とね」

 どういうことだ、と、俺が問い質す前にその正体がわかった。

『待て佐々木!』
『嫌! 来ないで!』

 あれは、俺だ。そして佐々木である。
一年前の、佐々木の閉鎖空間で起こった出来事。逃げる佐々木を追いかける俺。
悲しい、でも大切な、そして俺の一連の行動に関するきっかけとなった事件である。

『どうして逃げるんだ!』
『逃げるだって? 逃げているのは君じゃないか!』

 そう、逃げていたのは俺だった。昔からずっとそうで、高校生になってからもそれは変わらなかった。
記憶の限りで、俺は正面きって何かと対峙したことが一度もない。
本心を隠して。弱い部分を隠して。のらりくらいとかわしていたにすぎない。



148 :>>144 俺も大学の試験がある:2010/01/23(土) 22:13:28.50 ID:NdQDgSSO0
「胸が痛いな」
「それは僕の台詞だろう、まったく。冷静さを欠いた自分自身を見るなんて羞恥以外の何ものでもない」

 苦笑を携えて佐々木(現)が言う。

「コレ、お前の能力で消せないのか? ここはお前の空間でもあるんだろう」
「不可能だね。実を言うと、僕は涼宮さんの閉鎖空間に僕の空間を上書きするつもりだったんだ。
 だがそれは失敗した。水滴程度の力では、強引に介入して接続することが限度らしい。
 よって、僕の思い出であるアレに対しても消滅申請はできない」

 そうか……。
 ん? だが待てよ、さっきお前は見えない壁を消してたじゃないか。

「それとこれとは話が違うんだよ、キョン。さっきの障壁は、涼宮さんの心の壁だったんだ。
 しかも迷いながら創った壁だ。拒絶と期待の両者で成り立っていたアレは、脆く、
 それでいて他者の介入を受け入れやすいものだった」

 ……うむ、よくわからんな。とにかくあの影を消すのとはわけが違うということらしい。
 しかし、なんでこいつはこんなに走っているのに息ひとつ上がっていないんだろうね。
 俺はもうヘトヘトだ。

「そりゃあ、今日はSOS団の男性が苦労する日だからね」
 何故知っている。
「答える必要はないな。ほら、もうすぐだよ」



149 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 22:18:52.28 ID:NdQDgSSO0
 ようやっと屋上へと直結している階段が見えてきた。
割れるガラスや軋む床をかわしながら走っていたせいで、やけに時間がかかってしまった。
思うに、高校なんてものをここまで広大にする必要はないだろう。
おかげで教室移動の時はいつも時間ギリギリである。
 あの二人の影は、まだ俺たちの眼前で口論していた。

『いい加減認めたらどうなんだ。君の気持ちも、彼女の気持ちも。
 君は理屈をこねくり回して逃げているにすぎない。
 あの時、あの初夏の事件で、君は僕ではなく彼女を選んだ。限りなく低い可能性に賭けた。
 ならば、いい加減男らしくしたらどうなんだい?』

 俺がこれに応えるのはもう5分ほど後のことである。
 しかし、それを聞く前にどうやら目的地へと辿り着きそうだ。よかったのか、どうなのか。

「くつくつ」
「笑うなよ」
「いや、すまない。しかし君が素直になったことは、親友としては喜ばしいことに違いない。
 たとえ当の本人を破滅に導くかもしれない手段だったとしてもね。なかなか君も悪どい」

 言うな。と、言うかお前もこの案に賛成してきただろう。


150 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 22:23:39.44 ID:NdQDgSSO0
「……やれやれ。やはり君は、女心というものがわかっていないようだ」
「わかっているとかわかっていないとか、どっちなんだ」
「どちらでもあり、どちらでもないのさ」

 そう言うと佐々木(現)は歩を止めた。
気付けば屋上への扉の目の前にいて、あの二人の影もいつの間にか姿を消している。
 おい、どうした。行かないのか?

「僕はここまでだよ。言っただろう、お姫様を助けに行くのは王子様だ。
 それに、親友はその親友に対して発破をかけるのが役目だからね。僕の役目は終わった」
「……」
「行きたまえ。彼女が待っている。僕はこのまま帰るよ。……失望させないでくれ」

 佐々木――。
 わかった。ありがとう佐々木。

「行ってくる」

 眠り姫を、叩き起こしにな。


152 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 22:28:14.92 ID:NdQDgSSO0
 屋上の扉を開くと、まさにその人、涼宮ハルヒがそこにはいた。
 だが、それは俺のよく知るハルヒであって、ハルヒではなかった。

「そんなところで何してるんだよ、ハルヒ」

 扉から見て左隅、ハルヒは体育座りをしながら顔を隠し蹲っていた。これは誰だろう。
少なくとも、SOS団団長として日々俺を悩ませ続けているハルヒではないし、
ましてや神に準ずる存在として、非日常的事象の只中にいるハルヒでもない。

 俺にはこれが、傷つき塞ぎ込んだ唯の女子高生にしか見えなかった。

「……」

 俺はハルヒの横に腰を下ろした。何を言おうとうんともすんとも応えやしない。
ハルヒを説得するのは俺の唯一の得意分野でありお手の物なんだが、一介の女子高生を説得するのは
今回が初めてであり未知の領域だ。断言しよう。まだ超常現象を相手にしている方がやり易い。

「今日はお前を探して走り回ってばっかりだよ。見ろ、この汗。
 団長なら団員を労わってくれてもいいんじゃないか?」
「……あたしの……」

 一人問答すること3分ほど、ようやくハルヒが口を開いた。
 か細くて聞き取ることも困難である。

「どうした?」
「あたしには、願いを叶える力があるのね。そして、
 みんなはあたしのその力を求めて集まって、言い争いになった。
 そうなのね」



153 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 22:34:18.03 ID:NdQDgSSO0
 天才は1を聞いて10を知るというが、まさにこいつはその典型である。
俺たちが願望実現能力について明確に言及したのは一度きりだったはずで、しかもその内容について
細かく言った覚えはない。それでもこいつは、俺たちの会話から全てを読み取った。

「そうだな、お前には願いを叶える力がある。古泉や長門、朝比奈さんは、
 お前が超能力者や宇宙人、未来人に会いたいと願ったから集められた。
 この空間も、お前が創ったんだ」

 いったいどうしたらこのお姫様を立ち直らせることが出来るのか、皆目検討もつかない。
一説によると、自己嫌悪に陥った相手を安易に否定することはよろしくないらしいので、
それに従うことにしておいた。

「そう。……あたしは、どうしてキョンがあたしの告白を拒否したのか知りたかった。
 ただ単純に嫌いとか好きじゃないって言ってくれたら、それでもよかったのに。あんたは何も言わなかった」

 第二世界はそのために存在していたのか。だから俺たちの会話がハルヒに筒抜けだったんだな。

「でも、知らなきゃよかった。こんな能力、いらない……あたしなんて、いなければよかったのに。
 そうすれば、みんなが口論になることもなかったのに」

 それはそうなのかもしれない。発足当初のSOS団はあらゆる超自然的存在が衝突し合って、
そんな中で妥協し合って、ギリギリのバランスを保ちつつ、まさに一触即発だったに違いない。
 だが。

「そうは言ってもだな、お前の能力がなければあの3人が集まることは無かった。そうすると、
 SOS団はお前と俺の二人だけだったのかもしれないぞ。
 お前はSOS団が楽しかったと言っていたじゃないか。それも否定するのか?」


157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 22:39:42.07 ID:NdQDgSSO0
 俺の言葉に、ハルヒは大きく頭を振った。しかし未だ顔を上げない。
 なんだか今日は、あまりハルヒの顔を見ていないような気がする。

「そんなことない。あたしは楽しかった。でも、みんなはそうじゃなかったのかもしれない。
 こんな能力のために、仕方なく楽しいフリをしていたのかもしれない」

 これについても俺は否定できない。俺だって、世界を守るためだとかいって
嫌々付き合っていた頃もあったからな。組織とかいう存在に縛られていた他の3人の苦労は計り知れない。
 しかしそれも、あくまで発足当初の話だ。

「そういう時期もあったのかもしれない。だが少なくとも、今はそんなことないぞ。
 俺が説明するより見た方が早い。ほら、顔を上げろ」

 俺たちの眼前では、グラウンドを破壊し続ける神人の群れと、その周囲を攻撃を避けつつ旋回し、
隙を見てカウンターを狙う赤玉との攻防が繰り広げられていた。

「まさにスペクタクルだな。下手なB級映画より面白いぞ、何せ全部実写だ」
「……あれ、古泉くん?」

 俺が指差す方向を見つめるハルヒの目は、赤く充血していた。
 ここでどれだけの涙を流していたのだろう。

「あぁ、あの趣味悪い赤い玉が古泉だ。多分下のほうに長門と朝比奈さんもいるぞ」

158 :俺は佐々木が好きなんだ:2010/01/23(土) 22:44:24.45 ID:NdQDgSSO0
 俺はハルヒの手を引いて立ち上がり、屋上からグラウンドを見下ろした。
 神人の攻撃があたらない位置取りで、長門と朝比奈さんが何やら会話をしている。
 佐々木は、もう帰ったのだろうか。

「どうやら長門はバリアーらしきものを張っているらしいな。ほら、あの発光体、
 あれは神人って言うんだが、神人の攻撃が古泉に届く前にブロックされているだろう。
 どんな原理か知らんが、あんなことが出来るのは長門しかいない」

 むしろ原理なんて存在しないのかもしれないが。
 朝比奈さんは何をしているのかと思えば、その長門が朝比奈さんに対して手を伸ばした。
朝比奈さんは一瞬戸惑った後、その手を掴んだ。

 震えている。
 朝比奈さんではなく、長門が、だ。

「有希……」

 ハルヒもそれに気付いたらしい。

「あの神人をほったらかしにしとくと、この空間は収束して消えてしまうらしい。お前もろとな」
「……」
「だから古泉は、アレを倒すことにしたんだ。お前を守るために。SOS団を、守るために」
「……でも」
「長門は率先してあそこに残った。古泉を守るために。朝比奈さんも残った。長門を守るために」

 もう何も考えられん。言葉が溢れてくるだけだ。


160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 22:50:15.54 ID:NdQDgSSO0
「古泉は俺に言った。お前を連れて来いと。これは副団長命令だと」

 それでも、

「それでもお前は、あいつらが今も、嫌々SOS団に付き合っていると思うのか?」
「……思わないわよ。あたしはバカじゃないわ」

 神人が一体崩れ落ちるように消滅した。しかし、倒す速度と生まれる速度に差がありすぎる。
 このままじゃジリ貧だ。いずれ古泉の消耗が限界に達し、この世界は収束してしまう。
 ハルヒも古泉もいない。そんな世界、俺はいらん。

 俺は意を決してハルヒに向き直り、言った。

「帰ろう、ハルヒ。SOS団は未来永劫永久不滅なんだろ。
 その団長様がこんな状態じゃ、おちおち昼寝も出来ないぜ」
「……だったら答えなさいよ」
「何をだ」
「答えなさいよ!」


161 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 23:00:10.55 ID:NdQDgSSO0
 あぁ、なんだそれか。そんな事、お前はわかってるんじゃないのか――とは言えない。
 多分、直接聞きたいのが女心ってやつなんだろう。

「それは、あっちで言ってやるよ」

 繰り広げられる俺の逃げ口上とハルヒの有無を言わさぬ視線とが数秒間戦いあった結果、
どうやら俺が勝利したらしい。諦めたが納得できないハルヒの仏頂面が、
アヒル口でそっぽを向く独特の仏頂面が、なんだか嬉しくて泣きそうになった。

「わかったわよ。あんたの意図に従うなんて癪だけど、考えようによってはあたしは
 あんたの願いを叶える神様なんだから、崇められてると思えば悪くないわね」

 まさにその通りお前は神様なんだがな、現状では。

「いいわ。あんたの願い、叶えてあげる。
 その代わり、あっちでは覚悟しときなさいよね!」





162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 23:07:31.21 ID:NdQDgSSO0
『最終章』


 俺は不意に無重力下に置かれ、反転し、左半身を嫌というほどの衝撃が襲って、
あぁ何だか懐かしいデジャヴだなぁ、このモノローグは前にも言ったことがあるなぁと思いつつ上体を起こして目を開くと、
視界に飛び込んできたのはやはり見慣れた天井だった。
 そこは部屋。俺の部屋。しかし前回と違うのは、着ているのは制服だという点、
まだ日付変更まで余裕があるという点、そして予想していた通りに携帯が鳴り響いたという点だ。

「もしもし」
「どうも、無事帰還したようですね」

 左半身を貫くこの痛みを無視するのであれば、無事と言えるだろうよ。

「急な話ですが部室に来て頂けますか? もう皆さんお揃いです。積もる話もあります」
「わざわざ言わなくても、既に準備を始めている。まぁ待っていてくれ」

 俺は電話を切りながら玄関の扉を開き、なぜか戻ってきていた自転車に跨って家を後にした。
どうでもいいが、何で俺を電話で呼び出すのは大概古泉なんだろうか。
たまには朝比奈さんの甘い声で呼び出されたいぜ。


164 :五分だと猿くらうのか:2010/01/23(土) 23:14:39.37 ID:NdQDgSSO0
 卒業前に止め具を直さなきゃならん部室のドアを開けると、宣告通り全員が揃っていた。
 ハルヒも含む、全員がである。
 ただし、そこに佐々木の姿は無かった。

「遅い! 罰金!」
「無茶言うな、これでも史上最速で到着したんだぞ。
 だいたい何で俺だけ家に帰したんだ、直接部室に帰還させればよかっただろうに」
「おや、あなたは今日がどのような日であるかをもうお忘れで?」

 それとこれとは別問題な気がするし、それを言うと古泉も該当するような気がするが、まぁいい。
 それで、どうなったんだ。

「結論から言います。涼宮さんの願望実現能力は消滅しました。それに伴い、
 現在機関も解体の方向で話が進んでいます。もう少し言いますと、
 上層部の方々が関連する全ての記憶を失っているので、もはや組織として成り立たなくなっています」

 なるほど、頭を潰せばなんとやら、ってやつか。考えたな。

「元々非友好関係にある政界や経済界のお偉方が集っていたものですからね、
 共通の利益を忘却してしまった以上、手を組むどころか一触即発状態ですよ」

 日本社会に悪影響を及ぼさないよう切に願う。

「情報統合思念体は今なお存在している。涼宮ハルヒが願望実現能力を失った今、
 この星を監察する意味はなくなったかに思えるが、主流派はそう考えていない。
 それは人類と共存することにより変化した我々端末の情報を解析すれば、容易に想像できること。
 進化の可能性は未だ失われていない」


166 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 23:22:06.57 ID:NdQDgSSO0
 よくわからんが、長門、お前はこれまで通り宇宙人と考えて構わないのか?

「その認識は正しくも間違ってもいない。私が端末であるということに変わりはないが、
 思念体とは別個独立した自由意志を有しているから」

 そうか。
 なら、俺が認識していたままの長門なんだな。

「……多分、そう」
「未来も変わりなく存在しています。いえ、時空ごと切り取られない限り、
 未来が消失するということ事態ありえないんだけど……。ただ、私に強制帰還命令は下っていません。
 多分、変数の固定化には、絶対的に涼宮さんの能力が必要だったわけではないから」

 そういえば、かつてハカセ君を助けた時や亀の事件はハルヒと無関係だったような気がする。
いやまぁ、ひき逃げ未遂犯が橘たちだった事を考慮すると、厳密には関連していたと言えるのか……?
 どうもこの辺りはよくわからん。こういった考察は長門や古泉に任せて、
俺は朝比奈さんがまだ留まっているということ、
朝比奈さんの故郷が無くなったわけじゃないということを素直に喜んでおこう。

「それは、未来において、朝比奈みくるがこの時間軸にこれからも存在していたということが
 確認されているためと推測される」
「というと?」
「現時点から換算すると、朝比奈みくるがより未来の時間軸から訪れているということは事実。しかし、
 その時間軸から歴史を遡ると、我々SOS団に朝比奈みくるが所属していたということもまた事実だから。
 もっとも、それがいつまで続くのかは依然として不明」


168 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 23:31:13.65 ID:NdQDgSSO0
 うむ、わからん。
 まぁそれは追々古泉辺りに解説されるだろうから今は置いておこう。おい、
そんなソワソワしたって俺はまだ聞く気がないぞ。正直とっくに脳みそが臨界点を超えているんだ。
 古泉が残念そうに頭を垂れたところで、団長席で黙ったままふんぞり返っていたハルヒが口を開いた。

「こうやって聞くと、みんな随分面白そうな事してたのねー。なんか変だな、と思ったこともあったけど、
 まさか本当に宇宙人、未来人、そして超能力者がいるなんて考えもしなかったわ」

 いつだったか、俺は喫茶店でお前にすべてバラしているんだがな。

「そんなのあんたの妄言だと思うに決まってるじゃない」

 そうかい。
 ふと、これまでそれぞれがそれぞれの状況を捲くし立てていたにもかかわらず、部室に突然の静寂が訪れた。
そして何故か視線が俺に集中している。あれか?
この団は話題がなくなると俺を見るように訓練でもされているのか?
そんなに期待されても、俺はそれに応えられるようなユーモアのセンスを持っているわけではないし、
説明しなきゃならんような近況の変化も生じていないぞ。

「何だよ」
「ねぇキョン。みんなの話を聞いて、ちょっと気になってたんだけど……」

 ハルヒが団長席から身を乗り出して俺に話しかけた。珍しいことに語尾を濁しつつだ。

172 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 23:41:28.18 ID:NdQDgSSO0
「言ってみろ。もうお前に隠すことなんかないから、何でも答えられると思うぞ」

 ただし、俺の尊厳に関わること以外という条件付きだ。

「みくるちゃんは未来人だった。つまり時間移動が出来るのよね。そしてもちろん、
 未来だけじゃなく過去にも行ける。あんたはそれをずっと前から知っていた。そうよね?」
「その通りだ」
「じゃあ……七夕の時のあいつは、やっぱり……」

 あー、そういうことか。これ、もう言っていいよな?
 そんな気持ちを込めて周囲を見渡すと、三者三様の反応で肯定してくれた。

「『世界を大いに盛り上げるための、ジョン・スミスをよろしく!』。
 ちなみにあの時背負っていた突発性なんちゃら病の姉というのは、もちろんこの朝比奈さんだ」

 俺の言葉を聞いたハルヒは、嬉しいんだか悔しいんだか気恥ずかしいんだか、
様々な感情が入り混じったよくわからない表情を貼り付けつつ、最終的に溜息をついてこう言った。

「はぁ……確かに似てるなぁ、と思う事もあったけど。
 まさか散々探し回った相手があんただったなんてね。屈辱だわ」

 随分な言われようである。

「でもそうだとすると納得も出来るわ。だってそうじゃなきゃ、
 このあたしがあんたみたいな平凡の悟りを開いたバカを相手にするはずないもの」

 お前は俺をバカにしないで喋ることは出来ないのか?


174 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 23:48:37.39 ID:NdQDgSSO0
「痴話喧嘩は後でやって頂くとして、あなたの懸案事項についても述べておきます。
 機関は解体されますので、当然ながら涼宮さんやあなたへの監視は一切無くなります」

 聞き捨てならない言葉が文頭にあったような気がするが、まぁいい。

「私たちも、時空の歪みでなくなった涼宮さんに監視を配置することはありません。
 それについて先程命令が下ったことを確認しています」
「情報統合思念体主流派は、進化の可能性をより広義に捉えることに成功した。これ以降、
 監察対象は人類すべてに及ぶ。ただしそれは、人類にとって目視できない彼方からの目ではなく、
 我々各端末が有するインターフェイスとしての目で行われることになる」

 つまり?

「私が、あなた達を見守っていく」

 長門にしてはわかりやすい説明である。
 しかし、そうか……よかった。
 すると古泉は立ち上がり、ハルヒに向かって神妙な面持ちで話しかけた。

「涼宮さん、本当に申し訳ありませんでした。機関を代表して謝罪させて頂きます」
「私も……すいませんでした」
「……」

 3人がハルヒに向かって頭を下げている。何ともシュールな光景に見えるが、
そうだよな、俺よりも当事者であるハルヒに謝るべきだ。

「いいわよ別に、みんながやりたくてやったことじゃないってわかってるから。だから、顔を上げて?」


177 :微笑は凄かった 何あの複線回収:2010/01/23(土) 23:55:23.25 ID:NdQDgSSO0
 ハルヒの言葉を受けて、3人は再び元の位置に着席した。
朝比奈さん、どうか泣かないで下さい。
古泉、魂が口から飛び出しそうになってるから早くしまえ。
長門……お前も緊張していたんだな。お得意の無表情が今にも崩れそうだぞ。
 ところで俺が言うことじゃないし、話を蒸し返したいわけじゃないが、あっさりすぎやしないか。

「団長たるもの、団員の過ちを許すのも懐の広さってものだわ。
 それとも、あんたはこれ以上この揉め事を続けたいとでも言うの?」
「それは勘弁願いたい」
「じゃあいいじゃない、何も問題ないわ」

 そうなんだが、俺が決死の覚悟で発した内情だったと言うのに、
ハルヒが絡むとこんなにも早く解決するのか、と思ってな。

「器の差ってやつよ、あんたも見習いなさい。もっとも、
 あんた程度がそう簡単にあたしの真似事が出来るはずないけど。
 ――それに、本はと言えばあたしが原因なんだし」
「だからそれは違うと、」
「いいのよ。SOS団は連帯責任。誰かが悪いことした時はみんなで被る。
 もちろん、良いことした時もみんなで喜ぶのよ!」

 それなら不思議探索における俺の遅刻(厳密には遅れていない)についても、連帯責任で
罰金免除にしてもらえると助かるんだが、ハルヒは"不思議"という言葉が聞こえた辺りで思考を停止させたらしく、
今後も俺の財布が日常的にすっからかんであり続ける事は変わりないようである。


178 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 00:02:48.59 ID:lc2Y0bKG0
 しかし俺は、まったく不本意ながら、ハルヒの器の大きさに感動してしまっていた。
SOS団はどいつもこいつも責任感が強すぎるきらいがあるから、もしハルヒのこの台詞がなかったとしたら、
最悪の場合いつか誰かが自殺でも起こしかねない。
しかもそれはSOS団への想いが強ければ強いほど高度の蓋然性を有する。

 結局、ハルヒがいてこそのSOS団であり、ハルヒがいなければSOS団は成り立たない。
そんな事はとっくにわかっていたが、今改めてそれを実感した次第である。




「あ、忘れてました!」

 朝比奈さんは突然そう声を上げると、パタパタと冷蔵庫に向かっていき(可愛い)何かを取り出した。

「直接渡せてよかったです。キョンくん、古泉くん、どうぞ」

 何を隠そう、それはバレンタインチョコである。目まぐるしく展開する話題にすっかり忘れかけていたが、
そもそも始まりはここだった。それならば終着点もここであるべきだ。


181 :だが俺は団結の方が好き:2010/01/24(日) 00:11:44.77 ID:lc2Y0bKG0
「ありがとうございます。毎年の事ながら、
 これを受け取る瞬間に勝る緊張と喜びはありませんね」

 古泉がまた歯の浮くような台詞をサラッと言いやがったせいで、
今年も俺は礼を言うタイミングを逃した。少しは自重しやがれ。

「どうぞ」
「うぉ! ……長門、隣に来るときは一声かけてくれないか」

 いったい何時の間に移動したというのか、まったく気配などなかった。心臓に悪いぜ。

「さぷらいず」

 その単語はこういう時に使うべきものではありませんっ。だが、ありがとな。
 ところで古泉には渡さないのか? もう何も持っていないようだが。

「僕なら今朝、既に頂きましたよ。あなたが部室を去った直後です」

 何?

「もしかして、長門さん?」

 何故か朝比奈さんは顔を耳まで真っ赤にしながらソワソワしている。
そしてハルヒは古泉よろしくのニヤニヤ顔をし、長門はその古泉を見つめていた。
おい、ちょっと待て。どういうことだ古泉、場合によっちゃお前を体育館裏に呼び出さなきゃならん。


186 :古泉氏ね:2010/01/24(日) 00:18:34.33 ID:lc2Y0bKG0
「どうもこうもそういうことですが、僕は閉鎖空間や機関で鍛えられていますからね。
 そう簡単に負けませんよ?」
「俺だって団活でお前と同等程度の肉体労働はしているんだ、ナメてもらっちゃ困るな」
「バカな事言ってるんじゃないの、団内の喧嘩は禁止!
 やりたかったらあたしの目の届かないところでやりなさい。
 それにしてもキョン、あんた全然気付いてなかったのね」

 そういうお前はもしかして気付いていたのか。

「今日渡したことは知らなかったけど、普段の二人の様子を見てればバカでもわかるわよ」

 ……おかしいな、俺は鈍い奴を演じていただけのつもりだったんだが。
仮面を被りすぎてペルソナになったか? いやいやそんなはずはない、
実際気付かなかったのはこいつらの件だけだったし。

「それは、あなたの瞳には特定の人物しか映っていなかったからですよ」
「……」

 どういうわけか適切な反論が思いつかず、俺は黙秘権を行使することにした。


191 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 00:25:16.32 ID:lc2Y0bKG0
 しかし沈黙に陥ったのは俺だけではなかったようである。
 おいハルヒ、何か言え。

「さて、これ以上夫婦漫才に付き合う気はありませんので、僕は早々に立ち去らせて頂きます」
「私も」
「あ、私も帰りますね。今日は鶴屋さんのお家にも寄ることになっていたんでした。
 色々ありましたけど、みんなに会えてよかったです。涼宮さん、キョンくん、またね」

 バタン、という木の衝突音が一瞬部室を支配した後、俺とハルヒだけが取り残された室内には静寂が訪れた。
 しかも全然居心地が良くない。

 あぁ、気まずい。

「……あたしたちも帰りましょ」
「そうだな……」

 気まずいのはこの空間のせいではないのだから、帰宅を選んだところで
状況は何も好転しないのだが、またしてもそれ以外に適切な文章が思い浮かばなかった俺は、
素直にハルヒに従うことにした。
 あぁ、気まずい。

194 :古泉の人気に嫉妬:2010/01/24(日) 00:33:01.20 ID:lc2Y0bKG0
 季節は冬、2月14日、時刻は午後10時半を過ぎたところ。
地獄坂を下り終え互いの家への分岐路を通り過ぎた俺とハルヒは、この糞寒い中何故か未だ一緒にいた。
ちなみにその間の会話は一応あったのだが、内容を思い出そうとしても何も生産的な話をしていないので
思い出す意味がない。そもそも会話が成立していたのかどうかも怪しい。
 そして現在、とうとうその非生産的なやり取りも底を尽きた。

「……ハルヒ、何か言えよ。黙っているお前は気味が悪いぞ」
「あんたこそ何か言いなさいよ。……あ! そういえば、」

 せっかく何らかの話題が展開しそうだったのだが、当のハルヒがそこで会話を区切ってしまったので
未遂に終わった。何だよ、中途半端はお前の嫌うところじゃないのか。

「……夢の話よ」
「夢だと? それは何の、」

 だが俺はそこで気付いてしまった。そして同時に激しく後悔した。
何故ハルヒに無理に聞き出そうとしてしまったのかを。

「夢じゃなかった、のね……」
「……あぁ、夢じゃない。あれはお前が創った閉鎖空間内での話であって、
 異次元ながらも現実であることに違いはない」

 言ってる俺も顔から火が出そうである。
 従って俺は強引に話題を変えることにした。


195 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 00:40:36.81 ID:lc2Y0bKG0
「ところで、俺の除名の件は撤回してくれないのか」
「そうねぇ……簡単に撤回しちゃうと団長の威厳に関わるんだけど、
 そうすると有希と古泉くんも除名しなきゃならなくなるわ。団内恋愛は禁止だし」

 そんな事をしたらSOS団は名簿上お前と朝比奈さんの2人だけになっちまうな。
もはや団活どころの騒ぎじゃない。というか、元々あそこは文芸部室であって、文芸部部長は下級生がいないおかげで
未だ長門であるのだから、真の占有者を排除して活動を続けるなんてことはさすがに黙認されないだろう。

「そうなのよ。だから……」

 不意にハルヒは足を止め、コートのポケットから何かを取り出しこう言った。

「これ、受け取りなさい。そうしたら除名はなかったことにしてあげるわ」

 小さな掌に乗せられていたのは、数時間前に見たものと同様のものである。
ハルヒの顔は暗闇でもわかるくらい真っ赤で、きっと俺も同じ顔をしているに違いないと思った。
もはや取り繕う気もしない。

「答えなさいよ」

 ハルヒが求めているのは、第二世界で濁した最後のアレに間違いない。これを受け取ってしまうとすなわち
そういう事になってしまうからいちいち言わせる必要もないように思えるが、
女性というものを理屈で理解しようというのは愚の骨頂であり、いやそもそも人間が理屈だけで測れるかといったら
そんな事はありえない。それは誰より俺がよく知っている。

197 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 00:47:57.61 ID:lc2Y0bKG0
 さて、ではどうしたものか。俺にとってのハルヒ、なんてものは3年前にもつい数時間前にも
熟考したものであるから今更構わないだろう。だが問題がある。いや、問題が無くなってしまった事が問題なのだ。
 そう、模範解答などとっくに出ていたのである。しかし俺はそれを現実というもので覆い隠し、
深く狭く暗い地下牢へと隔離した。ところが、現実という敵は『感情』という理想を身に纏い、
塩を送るが如く地下牢の鍵を開けてしまった。
 よって、現在俺と模範解答を遮断する壁は一切無くなっているのである。
 だから、俺は模範解答へと手を差し伸べてやることにした。

「なぁハルヒ」
「なによ」

ついでに、佐々木と朝比奈さん曰く女性は思い出を大事にするらしいので、

「俺、実はポニーテール萌えなんだ」
「……知ってるわよ」

 それも考慮してやることにした。

「もう一度、お前のポニーテールが見たいんだが」
「……バカじゃないの」

 俺は掌に乗ったチョコレートを受け取ると同時に、ハルヒを抱き寄せ強引に唇を重ねた。
こういう時は目を閉じるのが作法なので俺はそれに則った。ゆえに、ハルヒがどんな顔をしているのかは知らない。
しかし、ハルヒもきっと目を閉じてくれているような、そんな気がしていた。
ふと、背中にハルヒの手が回されるのを感じたので、俺もハルヒの後頭部に回っている手に力を込める。
 しばらく離したくないね。


199 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 00:54:26.97 ID:lc2Y0bKG0
 とは言え、その間僅か数秒足らず。唇を離した俺たちは即座に顔を逸らし、
またも場に気まずい静寂が流れる。だが何故だろう、悪い気はしない。

「これで俺の除名は取り消しか?」
「……そうね。仕方ないから許してあげるわ。でも一度は除名された身なんだから、
 しっかり弁えなさい。あんたはまた雑用からよ!」

 以前と何ら変化ないじゃねぇか。

「ごちゃごちゃ言わない! さ、帰るわよ。いい加減親も心配するし」

 歩いてきた道を振り返り逆走するというのは何とも滑稽であり、羞恥に耐え難いのだが、
たった今道のド真ん中でやっていた事からすると羞恥と呼ぶのもアホらしいので、
開き直った俺たちは堂々と分岐路まで戻ることにした。

「おっ」
「……雪ね。あーぁ、もっと寒くなりそう。このままじゃ凍えちゃうわ」

 ようやくやってきたホワイト・バレンタイン。神様が創生権を取り戻した記念に、
気を利かせてくれたのだろうか。
 雪の帰路をさっきと同じように二人並んで歩く。ただ、ひとつだけ違うことがあった。
それは俺も、ハルヒも、身体の一部分に何とも幸福な温もりを感じているということだ。
 俺のコートのポケットで繋がれた、その手に、な。


201 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 01:01:51.93 ID:lc2Y0bKG0
『エピローグ』


 その後の話を少しだけしよう。




 翌日の事である。
 冬空の下待つこと10分少々、お目当ての人物が俺の前に現れた。

「やぁ、キョン。君が遅刻しないなんて珍しいじゃないか」
「……そもそも普段から遅刻などしていない。だが、どいつもこいつも来るのが早すぎるおかげで、
 ハルヒという法律の下に罰金という制裁を食らっているだけだ」

 ちなみに、現時刻は俺が伝えた集合時間の5分前である。

「くつくつ、そうだったね。さて、この寒風を浴びながら語るのもある種の風情があるのかもしれないが、
 僕としては御免被りたい。何処か入ろうじゃないか」
「まったく同意見だ。早く行こう」


202 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 01:08:35.45 ID:lc2Y0bKG0
 頼んでいたコーヒーを飲んで、一息つく。昨日とは違った雰囲気の服を着ている佐々木は、
改めて見ると、なんかこう他人に優越感を覚えるような、そんな感じだ。

「いきなり浮気とは感心しないね。しかも相手が僕とは。これを涼宮さんに言ったら、
 果たして君はどうなることやら。願望実現能力の有無など、この点において無関係だ」
「待て、早まるな」
「ふむ。ならば、ここを奢るということで涼宮さんには黙っておいてあげよう」

 何だそんな事か。それなら一向に構わん、もともとそのつもりだったしな。
 お前には感謝してもし尽くせん。

「それこそ、"そんな事"なんだけどね。僕は僕のやりたいようにやっただけだよ」

 それでもな。今回の件は、お前に発破をかけられなければまず起こせなかったし、
お前の協力がなければ成功し得なかった。一歩間違えたら何もかも失ってたんだし。

「まさしく。そんな作戦を実行に移した君には感嘆すると同時に呆れるしかない。
 まさか本当にやるなんて、ね」
「素直になれと言ったのはお前だろう」
「……やれやれ」

 俺の常套句を奪った佐々木は、苦笑しながら手元のコーヒーを口に含んだ。
 俺もそれに倣う。


204 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 01:15:04.72 ID:lc2Y0bKG0
「美味いな」
「あぁ、美味しいよ。コーヒーというものはとても身体にいいとは思えない。
 しかし、何故か飲みたくなってしまう。
 特に冬に飲むコーヒーは格別だ。身も心も温め、癒してくれる」

 そうだな。

「ところで、僕に何か話があったんじゃないのか? 一通りの顛末については電話で聞いているからね、
 わざわざ呼び出したということは、直接伝えたい事があるということだろう」

 その通りなんだが、まぁ、なんだ。
 これはお前に言っていいことなのかよくわからないし、かといって、言わないのも道義に反する気がして
板ばさみだったんだ。何より俺はもう少し素直になった方がいいらしいし、胸に溜め込んでおくのは夢見が悪い。
 だから。

「ありがとう、佐々木」

 俺は精一杯の感謝を込めて、結局最も簡潔で単純な言葉を発した。
 こいつにならこれでも伝わってくれるだろうと信じて。

「……ふむ」


205 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 01:22:46.33 ID:lc2Y0bKG0
 佐々木はカップから手を離し、腕を組んで何やら考え込んでいる。
 沈黙が流れたが、俺が口を開くべきじゃないんだろうな、きっと。

「君は涼宮さんを選んだ」

 窓の向こうを、大型のトラックが通過する。
 今日も雪が降り出しそうな天気だ。

「悲しくないと言えば嘘になるのかもしれないが、もう清算した話だ。
 涼宮さんの願望実現能力が失われると同時に、僕からは水滴どころか器すら失われた。
 だからどんな小さな願いでも願うだけで叶えることは出来ないし、そのつもりもない。
 よって、今君と相対している僕は、君の親友としてこの場にいる」

 もう一度、佐々木はカップに手を伸ばし、その中身を一気に飲み干した。

「でも、今この瞬間だけは、それを忘れて聞いて欲しい」

 その時佐々木が魅せた微笑は、"あの時"にも勝る、この冬空に陽の光を与えるような微笑で。
 これから先の未来を約束する、そんな優しさに溢れていた。

「あなたの幸せを、願っているよ」

208 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 01:29:32.75 ID:lc2Y0bKG0
 また別の日のことである。

「じゃ、また昼になったら集合ね。ちょっとキョン! マジ、デートじゃないんだからね!」
「男性二人に対して女性一人じゃダブルデートにもなるまい」

 本日は三月に入って初の不思議探索である。長門と朝比奈さん要するSOS団自体既に
不思議そのものなのであって、それをハルヒも知っているのであるからもはや探索する意味もないように思われるが、
結局ハルヒは不思議探索と称してみんなで遊びたいだけという事もわかっているので、
今更無用なツッコミはしない事にした。
 さて、午前の部は俺、古泉、朝比奈さん組と、ハルヒ、長門組に分かれることと相成った。
あの二人がどんな会話を繰り広げるのか気になるところだが、まぁ、それは無粋というものだろう。

「どうしましょうかね。何かご提案はございますか?」

特にないな。朝比奈さんはどうです?

「そうですねー。……今日は、のんびりしたいかな」
「では、僕の行きつけのスイーツカフェで雑談するというのはどうでしょう」

 古泉が単身そんな店に通いつめている妄想が展開しそうだったが、よく考えると考えるまでもないことだった。
 "僕の"、ねぇ。

210 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 01:35:08.69 ID:lc2Y0bKG0
「その辺りの詮索はご容赦して頂きたいところです」
「まぁいいさ。朝比奈さんに異論がなければ、俺はそれでいい」
「私も是非行ってみたいです」

 よし、行こう。色んな意味で興味深いしな。




 そんなこんなで、今は皆がそれぞれの注文したケーキを食べ終え、
満腹感と満足感で穏やかな空気が流れているところである。
ちなみに俺が注文したガトーショコラは絶妙な甘さ加減で美味かったといわざるを得ない。
古泉はこういう事に関してはつくづくマメというか、なんというか。
機関が解体されたにも関わらず様々な情報を持ってきてはハルヒを喜ばせ、俺に溜息を付かせている。
 ちなみにのちなみにで、この喫茶店、平日には何とケーキ食べ放題もやっているそうで、
こいつらが常連となっている理由がわかった気がした。

「しかしお前も長門も、受験を直前に控えているくせにこんな店の常連になっていていいのか」
「勉強をする上で糖分の摂取は重要ですし、むしろここで勉強をしているので、何も問題はないかと」

 まぁこいつらが落ちるとも思えないし、大丈夫と言っているなら大丈夫なんだろう。


211 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 01:42:07.17 ID:lc2Y0bKG0
 そういえば、ひとつ気になっていたことがある。

「機関が解体された今、お前の身元やら何やらはどうなっているんだ?」
「その機関を通じて親しくなった大物の方々にお世話になっていますよ。ですのでご心配は無用です。
 ただ、高校を卒業したら実家に帰るつもりですがね。その方が大学へのアクセスがいいので」
「……そうか」

 この三年間で初めて古泉の口から実家という言葉を聞いた気がするが、
今は深く問い質すのはやめておこうと思う。そのうちこいつから詳細を言ってくるだろうしな。

「キョンくんは、大学生になったら一人暮らしするんですかぁ?」
「いえ、俺も何とか実家から通えそうですから、このまま後4年は世話になるつもりです」

 うちには仕送りをする金もないしな。バイトでもして少しでも親に金を返すか。

「それでしたら、とても待遇の良い仕事をご紹介できますが」
「あー……考えておく」
「えぇ、是非」

 古泉は見る者全てを篭絡しそうな笑顔で頷き、手元のコーヒーを飲み干した。
 心なしか、バレンタイン以来こいつの裏表がはっきりしてきた気がする。確かに必要以上に隠すべき事など
もはや何もありはしないはずなのだが、長門の影響だったらいいな、と俺はそう思っていた。
長門に裏表は存在しないからな。よく言えば素直、悪く言えば……なんだ?


212 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 01:48:52.47 ID:lc2Y0bKG0
「僕もひとつ気になっていたことがあるのですが」

 何だよ、改まって。

「聞かせて頂きたい。一連の展開に関して、いったいいつ頃から考えていたのですか?」

 古泉は少しだけ声に真剣味を含めながら、そう訊ねてきた。
 ふと横を見ると、朝比奈さんの大きな瞳も俺を見つめている。可愛い。

「……さぁ、どうだったかな」

 ――そう、全ての始まりは一年前、佐々木の閉鎖空間からだった。
あいつにボロクソに言われようやく俺の気持ち、あるいはハルヒの気持ちってやつを認めた俺だったが、
同時に直面しなければならん問題があった。それは所謂現実というやつで、
試行錯誤の末、ようやっと何もかも解決したという次第である。
 ただ、それでもやはり聞かねばならんことがあった。

「なぁ古泉、朝比奈さん。この件に関して、俺は誰かの思惑など一切無視して事を進めてきた。
 そして結果はこの通りだ。俺にとって都合の良い作品であって、
 自己中心的なシナリオから導き出された答えなんだが、お前らはこれでよかったのか?」

 もっとも、もはやどうしようもないんだが。

「私たちの組織内部では何も混乱が起きている様子はありませんし、対応も迅速でしたから、
 きっとこれも規定事項だったんだと思います。だから気にしないで、キョンくん」

213 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 01:55:10.97 ID:lc2Y0bKG0
「こちらはカオス状態ですが、まぁ、良いのではないでしょうか。
 森さんや新川さんなど一部とはまだ親交もありますし、何よりもう僕は自由です。
 閉鎖空間を対処するため真夜中に起こされることもない。
 機関という柵から、あなた達と対立することもない。それに――約束でしたから」

 約束。一度だけ、機関を裏切り、SOS団につくという約束。
 こいつ、まだ覚えていたのか。

「むしろ、涼宮さんを中心とした不思議世界が以降は構成されないという点で、
 あなたこそ心残りがあるのではありませんか?」

 そうだなぁ。それも若干の気がかりではあったんだが、まぁいいさ。

「そう」

 おわ、長門! ハルヒも!
 何でここにいやがる。

「失礼ね、有希がお勧めのケーキバイキングを紹介してくれるっていうから来てみたのよ。
 でもそこにあんた達もいたってことは、ねぇ古泉くん?」

 苦笑を携えた古泉は、ハルヒにネクタイを引っ張られてケーキが並ぶショーケースのスペースへと拉致されてしまった。
 合掌。

214 :情報統合思念体を一発変換したい:2010/01/24(日) 02:02:26.44 ID:lc2Y0bKG0
「あなたが取った行動は、我々としてはむしろ賞賛すべきこと。私という媒体を通して、
 情報統合思念体は自律進化の可能性へとさらに近づいた。
 あるいは未知だったことが既知となったことは、もはやひとつの進化を遂げたと言っていいのかもしれない。
 いずれにせよ、それはあなたが今回のような行動を取らなければありえなかったこと。感謝している。
 それに、」

 何だ?

「私も、あなたに会えた事で大切なものを見つけられた。
 ……ありがとう。あなたがいてくれてよかった」

 普段あまり喋らないやつが不意にこういうことを言うと、その、なんだ。照れるんだよ。
だから俺は長門のその言葉に対して、ただ頷くことしか出来なかった。しかし長門には伝わったと思う。
それにしても、古泉とハルヒが聞いてなくてよかったぜ。あやうくアンティークな雰囲気漂う喫茶店が一気に戦場と化すところだ。

 ふと窓の向こうを見ると、深々と雪が降り積もり始めていた。ショーケースの前ではハルヒが古泉に尋問をしていて、
目の前には長門と朝比奈さんが座っている。平和だ。これこそが俺の待ち望んだ平和であり、
もはやハルヒは願望実現能力を失ってしまったけれども、元神様ということで聞き入れてはもらえないだろうか。

 願うことなら、この平和が末永く続きますように、と。

216 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 02:09:42.21 ID:lc2Y0bKG0
 再び例の喫茶店に戻った時、古泉と朝比奈さんは集合時間直前に用事があるとか言い帰ってしまったので、
辿り着いた俺の組は俺一人きりだった。しかもどういうわけか長門も集合時間直前に用事で帰宅してしまったので、
結局午後の部は俺とハルヒ二人っきりで開催されることになった。

 さらにどういうわけか、トイレから戻ってきたハルヒの髪型が集合時とは明らかに異なっていたという次第だ。
こうやって見ると、若干髪が伸びたことがよくわかるなぁ。前々年度比1.5倍だ。

「みんな用事なんてねぇ……まぁ有希と古泉くんは受験だし、
 みくるちゃんは大学生だし、忙しいだろうから仕方ないわよねぇ」

 内心ぜんっぜんそう思っていない口ぶりである上、受験生という点を言えばこいつも同様であって、
俺としては今すぐこいつを追い返し机に向かわせるというのが道義的に正しい行為であることは間違いない。

「それで、どうするのよ」

 と、言うと。

「この後よ、この後。あんたとあたしだけなんだからくじ引きするまでもなく自動的に組決定だわ。
 分かれて行動するのもバカらしいしね」

 確かにそうだな。
 ……現時刻、午後0時10分。適切な時間とは言えないが、冬には冬にしかない生物もいるし、
悪くはないかな。もっとも、この団長様が賛同してくれるなら、の話ではあるが。

「水族館にでも行かないか」
「……公私混同するなって言ったでしょ」




217 :>>215 もうgoogleは何がしたいやら:2010/01/24(日) 02:16:12.11 ID:lc2Y0bKG0
 その公はもう帰ってしまったんだがな。

「水族館に不思議がないと言い切れるのか?
 お前は知っているはずだ。不思議はありえないと思う場所に存在するってことをな」

 例えば、自分が治める集団的組織の内部とか。
 あとはそうだな、自分自身実は不思議そのものだったなんてことも。

「もう、わかった! わかったわよ。じゃあ水族館に行きましょ。
 あんたが言ったんだから、料金はあんたが払いなさいよね」

 お安い御用さ。

「じゃ、さっさと行くわよ。あんまり時間もないんだから」

 そう言うと、ハルヒはまた例の如く伝票を俺の手に押し付け、颯爽と喫茶店を出て行こうとした。

「なぁハルヒ」
「何よ」

219 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 02:21:45.98 ID:lc2Y0bKG0
 しかし、ハルヒはいつかのようにそっぽを向いたままである。
眉根をよせるしかめっ面は俺に言い包められたせいか、それとも女性なりの何かなのかは解らない。
だが、ポジティヴシンキングがこの世を上手く渡るコツだとこの3年間で学ばせてもらった俺は、
ハルヒのそれを後者と捉えることにしておいた。

 だから俺は、その横顔にこれまたいつかのように言うことにした。
これは現在の俺としては大変羞恥を覚えるものであり、言ってしまった後に人生を
やり直したいと悶絶することは誰でも予想できるものであるが、
言わなかった場合にも古泉ばかりか長門、
朝比奈さん含むSOS団総出でバッシングを食らうことは確定的なので、
周囲の目というものはこの際一切無視して伝えてやろうと思う。

「ハルヒ」
「だから、何よ」

 せっかくこいつが約束を守ってくれたんだしな。


220 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 02:26:40.82 ID:lc2Y0bKG0












「似合ってるぞ」
「……当たり前じゃない!」











fin


222 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 02:28:09.81 ID:JlNXPwWpO


仕方ないから佐々木は俺が幸せにするよ

223 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 02:28:39.15 ID:Io7+nVLJ0
終わったか・・・
最後がちょっとだらだら続いた感じがしたがよかったよ

>>1乙

224 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 02:29:07.51 ID:wn0+ZyCN0
>>1乙
とてもおもしろかったです
それだけに長門×古泉は少し残念

227 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 02:32:16.13 ID:lc2Y0bKG0
終わった……正直ここまで時間かかるなんて思いもしなかった
ちなみにこれが初SSでした

保守や支援、面白いと言ってくれる言葉は
書き手にとって本当に嬉しいものなんだとわかりました
矛盾点や間違ってる点は指摘してくれるとありがたいです
あとはダメ出しとか

古泉長門に関しては賛否両論、というか否が圧倒的多数でしたね
最初はこうする予定は全くなかったんですが
展開してるうちに勝手にこうなった。反省も後悔もしてない
みくるが空気になってしまったことは反省してる

というか、俺は普段佐々木は俺の嫁とか言ってる人間でして、
これも佐々木とキョンの甘々なSSの予定だったんだけどね
どうしてこうなった


230 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 02:34:48.63 ID:H1XBJEMG0
>>227
今度から書き溜めしてくれ
レス間隔が長いと読む側も疲れてグダグダになる
でも初SSでこのレベルは驚いた


232 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 02:39:47.19 ID:lc2Y0bKG0
>>218,224
やっぱり最後はダラダラしてしまったよなぁ
もうちょっとコンパクトに纏める技術が欲しい

>>多数
古泉カワイソス

>>230
実は最初から全部書き終えてて、
加筆修正しながらレスしてたんだ
レスが遅かったのは猿よけのつもりだったんだが、
もうちょっと早くてもよかったのかね


よし、寝よう
重ねてレスに感謝します
深夜まで付き合って頂いてありがとうございました


242 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 04:26:46.57 ID:LdvQv+Us0
今来て酔っ払いながら見たけど今まで見たSSの中じゃ一番よかったよ
またいつか書いてくれよ

243 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 05:46:36.17 ID:aQh1fe0dO
良かった
朝比奈さんは俺の嫁

244 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 06:41:34.20 ID:S6NRAIxh0
イヤッフウウ!
>>1乙

245 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 08:24:10.25 ID:IKdVDPlt0

古長はフラグ無しでいきなりくっついたから「えっ?」ってなったな

246 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 08:41:43.27 ID:2pcmCZAv0
乙レスを見てから読み始めたけど、ここまで古長が不評なことにびっくりした
好きなんだけどなぁ

247 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 08:44:56.00 ID:d5eVV//d0
GJ
読んでるうちに引き込まれた


250 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 10:39:16.44 ID:GPYdp0F20
長門ー古泉
ハルヒーキョン

佐々木ー俺

ふむ ベストカップルじゃないか
>>1乙でした

251 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 10:58:53.64 ID:lc2Y0bKG0
まだ残ってる…だと?

古泉長門については、

> 俺の存在に気付いた瞬間、長門はサッと何かを隠したように思えた。
> 何だそれは?
>「何でもない。それよりあなたは、どうして」

とか

過去編で長門のチョコを古泉がすぐに見つけた点

とか

> 震えている。
> 朝比奈さんではなく、長門が、だ。

とかで、一応複線貼ってるつもりでした
もうちょっと露骨にやるべきだったか

あとキョンがハルヒをフッた理由は、
セクロスもそうですが
根本的に願望実現能力を消してハルヒを監視から解放するため、
閉鎖空間を創ってもらうという自作自演のつもりでした

伝えるのは難しいな
会話文だけでSS書ける人って天才だと思う

252 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 11:50:57.00 ID:NotBiGkXO
おもしろかった
一気に読んでしまったぜ…

長古はそれがフラグだったのか~
純愛すぎてなんかニヤついてしまったwww


254 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 12:59:52.48 ID:EETyScvO0
初ssでこれはすごいと思うぞ俺は

233 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/24(日) 02:40:02.45 ID:wn0+ZyCN0
なぜなら長門は俺の嫁


キョン「似合ってるぞ」1
キョン「似合ってるぞ」2

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         コメント一覧 (9)

          • 1. 名無し
          • 2010年07月29日 13:31
          • 長いよ、分けて
          • 2. あ
          • 2010年07月29日 19:38
          • ※1
            ずいぶん偉そうだなクズ。お客様気分か?
          • 3. 名無しさん
          • 2010年07月29日 20:00
          • ※2
            どんだけイラついてんだよ
            落ち着け
          • 4. 1
          • 2010年07月30日 00:22
          • 何かキレてるみたいだけどゴメンね

            一纏まりの記事にも意味があるということですが、ここは管理人さんのブログなので、思うようにやって下さい。

            とにかく、ありがとうございます
          • 5. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2010年07月31日 08:19
          • 初なのか、すげーなオイー。
          • 6.  
          • 2010年10月17日 20:11
          • 5  
          • 7. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2012年04月28日 23:01
          • いいssに出会えた。
            ありがとう。
          • 8. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2013年08月15日 23:51
          • 最後のレスできっちりまとまったな
          • 9. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年02月09日 13:39
          • 長古は好きだが確かにいきなりくっついたように感じてたから、補足レスがあって良かった
            さりげなくフラグはちゃんと入れてたんだな

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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