唯紬「秋、夏、春、そして冬」
・
ムギちゃんは意地悪だ。
最初彼女に会った時、私はおっとりポワポワした人だなって思った。
だけど彼女はとても意地悪な人で、そんな彼女に私は怒りを感じてる。
私を怒らせるの彼女だけ
みんな私の事をのんびりしたいつもニコニコしている子だって思っていて、
私も自分の事を少なからずそう思ってるし、そんな自分が嫌いじゃなかったりする。
だから怒りたくなんてないのだけど、
今――いや、最近の私は今までのを取り返すようにイライラしたりムカムカしちゃっている。
両親も、妹の憂も、親友の和ちゃんも、軽音部の他のみんなも、今まで会ったどんな人達も私を怒らせたりしなかったのに……
彼女だけが私にこんな気持ちを抱かせるんだ。
だけど私は怒り慣れてないからいつもこの感情に自分が振り回されてしまって、だから2人っきりで彼女と帰える道すがら、
私は些細な抵抗として絶対自分から話しかけないと決めていた。
そんな私の心を読んでるのか、彼女も自分から言葉を発しない
それがお前のためでもある
だってムギちゃんから話しかけてくれないと無視できないじゃん
これは仕返しなんだから……ムギちゃんがいけないんだから……
けどやっぱり彼女は自分から話してはくれなくて、ずっと無言のままサヨナラしなきゃいけない道まで来てしまった。
ムギちゃんがバイバイって言ったら無視してやる。絶対無視してやる。
そうしたらムギちゃんは私に嫌われたかもって、私と同じ気持ちになるんだ。
私はそんな子供っぽいバカな事を考えていた
―――別れ道がやってきた。
ほらバイバイって言って
私は下を見ながら彼女に心の中で語りかける。
だけど彼女は私の期待には答えず、私の方を見ないまま、私に声をかけないまま、さっさと駅の方に曲がって行ってしまった。
違う……こんなはずじゃない。
ムギちゃんがバイバイって言って、私が無視して、ムギちゃんが心配して、私が怒ってるんだよってムギちゃんに言って、
ムギちゃんが謝ったら仲直りにほっぺにチュウしてあげるのに
彼女の背中はもう見えない
支援
私の頭はパンクする。
自分の事は棚に上げ、無視をするムギちゃんにイライラして、けど嫌われたんじゃないかって不安になって、
不安にさせるムギちゃんにムカムカして、けどやっぱりまた怖くなって・・・
こうなってしまったら、もう私にできるのは涙を流すことくらいしかない。
私は自分の帰り道を歩きながら子供のように泣いた。
そういえば最近、怒ることも増えたけど泣くことも増えた。
何でこんなに弱くなっちゃったんだろ、
これもやっぱりムギちゃんがいけないんだ、今だって彼女が私を泣かしてる。
ムギちゃんが……ムギちゃんが……
けど本当は私にも分かってるんだ、自分がバカだから泣いてるんだって。
今回も私が悪い。だってそれは本当に、他人にはどうでもいいような事だから
今度こそ完璧に見捨てられた。
きっと明日から話してくれないし、私を見てもくれない……
嫌われた、ムギちゃんに……
唯「嫌だ……嫌だよ……」
彼女に――ムギちゃんにだけは嫌われたくない……
声の主は少し先にある電信柱に背中をあずけて立っている
唯「な、なんで……」
紬「ふふっ驚いた?」
彼女はイタズラに笑う。そんな笑顔も様になっていて、私は少し見とれてしまった。
紬「唯ちゃん泣いてたの?」
唯「な、泣いてないよ!!!」
ゴシゴシと目元をこすり、涙でぐちゃぐちゃの顔で答える
紬「ふふっそんな事言って、目が真っ赤よ」
またあの笑い方…全て分かったように笑うんだから悔しい
唯「こ、これはちょっと目にゴミが入っただけだから!!それより何でここにいるの!?
ムギちゃんさっきあっちの道に帰って行ったでしょ」
紬「先回りしたのよ、唯ちゃんが泣きそうな顔でこっちを見てたみたいだから」
紬「分かったわ、じゃあそういう事にしておきましょ」
彼女はまるで母親が子供をあやすよう私にそう言った。
いつもそうだ……一時涙で鎮火していた私の中のイライラがまた再燃する
唯「もういい!私帰る」
紬「そう」
唯「本当に帰るよ!!」
紬「ええ」
唯「バイバイ」
紬「さようなら」
全部ニコニコしながら答える彼女は、間違いなく私をバカにしてるんだ。
私が本当は帰らないって、ムギちゃんごめんねって言って泣きつくを待ってるんだ……
私はそんなにバカじゃない
私がどう思ってるかなんて、本当はわかってないくせに。
ワザと音を立てて歩き始める。この怒りが彼女に伝わるように
そうしてもまだ彼女はいつもの笑顔でこちらを見ていた。
彼女の前を通った瞬間、いつもの彼女の匂いがする。それは本当に甘くて、私の大好きなお菓子より甘くてずっとずっと大好きな匂い。
紬「唯ちゃんは何に怒ってるの?」
決意とは裏腹に私の体はピタッと止まってしまった。それはほとんど無意識下で、
紬「ちゃんと話してくれなきゃ分からないわ」
私は何も答えない。
紬「今日のお菓子が口にあわなかったの?」
私は首を横に振る
紬「じゃあ私が切り分けたお菓子がみんなのより小さかったとか?」
また首を横に振る
紬「それじゃあ紅茶が…」
検討違いな事ばかり言うムギちゃんに、我慢は限界に達した
唯「違うもん!!それにさっきから何でお菓子ばっかりなの!?」
紬「ふふっ、ごめんなさい」
やっぱりムギちゃんは私をバカにしてる。私はムギちゃんを睨みつけるけど、それは彼女にいささかも効果はなかった
唯「…………ッtた」
紬「うん?」
唯「嬉しいって言った……」
紬「誰が?」
唯「ムギちゃん」
紬「………やっぱり何のことか分からないわ」
唯「ムギちゃん嬉しいって言った!!!」
私はムギちゃんではなく地面を見て怒鳴った、怒鳴ってはいてもしょせんそんなのは虚勢で、
ムギちゃんの顔を見てそんな事は言えないから。
紬「嬉しい……ああ、もしかしてりっちゃんに?」
唯「……」
紬「正解?」
唯「……」
正解なのに私は頭を縦には振れない
だってそれはただの部活中の何気ない会話で、私だけが本気で怒ってるのはバカみたいな話だから
――
律「いや~やっぱりムギのいれてくれた紅茶は美味いな」
放課後。私達は練習をする前に、相変わらずのティータイムをしていて、
その時紅茶を飲んだりっちゃんがムギちゃんを誉めたてくれた。
私はそれが自分の事のように嬉しくなり、ニヤついた顔を隠すために紅茶のカップを口元に持っていく。
紬「そう言ってもらえると嬉しいわ」
律「これを飲むために学校に来ているようなものだよ」
澪「おいそれはどうなんだ」
梓「もう練習しましょうよ……」
唯「あずにゃんもお菓子食べなよ~美味しいよ」
紬「はい梓ちゃん、紅茶もどうぞ」
梓「………コク……美味しい」
ムギちゃんとの連携により、あずにゃんも不満そうにしながらフォークがよくすすんでいく
律「梓もすっかりムギの紅茶とお菓子に蹂躙されたな」
梓「うぅ……そんな事ないです」
律「しっかし本当に美味しかったよ、よしムギはもう私の嫁にこい」
私は少し動きが止まっちゃったと思う。けど特別大きいリアクションはとらないよう努めた、
こんな事くらいで取り乱したりはしない。だってただの友達同士の冗談だもん。
だけどムギちゃんが言った言葉のせいで、私の中でこれが冗談じゃなくなってしまう。
紬「あら?嬉しいわりっちゃん、ありがとう」
彼女はりっちゃんの方を向いて微笑みながらそう答えたんだ
嬉しい……嬉しいの?
私は動きだけでなく、心までどんどんしおれて停止してしまいそうになっていく
その後澪ちゃんがバカな事言ってないでさっさと練習するぞって言って、あずにゃんも同意したのをぼんやりした頭で聞いていた。
それから練習が始まっても、私は結局集中できないでミスを連発することになってしまったのだった
――――――――
――
紬「あんな事で嫉妬してるの?」
あんな事!?嫉妬!?
私の気持ちも知らないくせに……
私は文句を言ってやろうと地面に向けていた視線をムギちゃんに向ける
いつの間に近づいたのだろうか?
彼女の柔らかい笑顔が私の息が届く位置まで移動してる。
途端に私の顔は真っ赤になり、それを隠すためにまた地面に視線をおとした。
紬「唯ちゃん可愛いわね」
唯「っ……」
そんな台詞で声がでなくなるほど照れてしまう。
だけどこれは違うんだ、この可愛いは私が子供っぽい事で嫉妬してるから言ってるだけで、またまたバカにされてるんだ。
唯「嫉妬なんかしてないもん」
紬「本当?」
唯「してない!!」
本当はしていた、そりゃもうどっぷりと
だってムギちゃんは私が目の前にいるのにあんな事言ったんだから。
否定しなくてもいいけど、嬉しい何て言わないでよ。
唯「りっちゃんと付き合えばいいじゃん」
できるだけ素っ気なく言う、ちゃんと私が怒ってるって伝えたくて
紬「何で?」
支援
それは両方私にないもので、今私が心から欲しいもの
紬「確かにりっちゃんカッコいいわよね、部長で頼りがいもあるし」
自分で言った言葉と彼女が言った言葉。何でこんなに重さが違うのだろう
その言葉は私のぐちゃぐちゃの心を崩壊させるには十分だった
唯「じゃあ……さっさとりっちゃんのとこ行きなよ……」
紬「ふふっ、行かないわよ」
唯「行っちゃえ」
紬「行かない」
唯「い、っちゃえ……」
紬「唯ちゃんのそばにいるわよ」
唯「い……いっ……いっちゃ…」
泣いてる私を柔らかいものが包み込む
ああもう我慢できないや……
何であんな事言うの?本当にりっちゃんが好きなの?何で無視したの?
私の事……まだ好きでいてくれるの?
彼女はそのひとつひとつに丁寧に答えてくれ、その答えはあんなにざわついて、歪だった心を、
まるで魔法でも使ったかのように一瞬のうちに静めてくれた。
――――――――
――
紬「落ち着いた?」
私は返事のかわりにポッケからだしたティッシュで鼻をかむ
紬「はい、ハンカチ」
彼女から差し出されたハンカチを無言でもらって目元を拭う。
彼女のハンカチからはやっぱり彼女の匂いがして、さっきまで抱き締められていた事を思い出し、恥ずかしさと嬉しさが湧き出す
紬「良かったわ泣き止んで」
唯「……子供みたいに言わないで」
紬「じゃあ子供みたいな事しないでね」
彼女と一緒にいると主導権が上手くとれない
いや、唯が子どもなだけか
だからこういう事は私の方から言わなくちゃいけない、なるだけ素っ気なく何でもないように。
紬「そうね、じゃあそろそろ帰るわね」
彼女も素っ気なく何でもないように言って立ち上がる
やっぱり私は主導権をとれない
彼女の前では何でいつもみたいに素直で、バカ正直な私になれないんだろう。
本当に伝えたいのはこんな事じゃないのに……
再び後ろ姿を私に見せて歩いていく彼女を見つめながらそう思う。
だけど……
私は外していたギー太とバックを持ってムギちゃんを追いかける
私の足音に気づいたのか、彼女は歩みを止め振り返ってくれた。
私はスピードを緩め、彼女のちょっと後ろで立ち止まる
不思議そうな顔で私を見つめてくる彼女
そんな何気ない顔だけでやっぱり私の気持ちはまたざわざわと揺れてしまう
本当に私はどうしようもないらしい。
唯「……憂に買い物頼まれたからついでに駅まで送ってく」
頬に赤みが差したのは私の勘違いじゃないと嬉しい
ムギちゃんが歩き始め、その半歩後ろを私が歩く。
彼女の前ではごめんなさいですら素直に言えない私は、その半歩にさっきの謝罪の意味を込めているんだけど
彼女は気づいてくれてるだろうか?
チラッと彼女が私を見た
そうして私の手を自分の暖かい手で包みこんでニッコリと笑う
その笑みが雄弁に語っているんだ。
全部分かってるって、
やっぱり唯ちゃんは私がいないとダメねって、
そんなところも大好きよって。
やっぱりムギちゃんだけが私をイライラさせる、本当にどうしようもないくらい。
だから少しでも反抗したくて、
私は彼女の手を痛いくらい強く握り締めてやった。
・
ペンを走らせていると、窓から風が入ってきて風鈴が音を鳴らした。
不思議なもので、これを聞くだけで少し気温が下がった気がする。
チラリと顔を上げると、夏休みの課題と格闘してる彼女の顔が目に入る
どうやら勝負は分が悪いみたいで、眉間に皺を寄せ課題と睨めっこしていた。
私に聞けばいいのに……
こういう関係になる前の彼女なら、すぐにわかんないと投げ出して答えを聞いてきただろうけど、
今ではそんな事はしない。
それは彼女なりのプライドなのかもしれないと思うことにしている。
唯「何?」
紬「えっ?」
唯「何でさっきからこっち見てるの?」
どうやら自分でも気づかないうちにジッと見つめてしまっていたようだ。
唯ちゃんはちょっと不満そうな顔で私を見つめ返してる。
こんな気だるそうな顔をみんなの前でする事はない
彼女はいつも元気で明るく素直で、ちょっと天然のはいったポワポワした女の子。
それが他の子達の彼女に対する印象で、私も出会った当初はそう思っていた。
自分だけに見せてくれる彼女の顔が見たくて、いつもちょっと意地悪をしてしまう。
紬「ごめんなさい、つい唯ちゃんが可愛くって」
彼女は驚いた顔をして、すぐに下を向き課題に取りかかる
唯「ふ~ん」
唯ちゃんは気づいてるのかしら?
自分の耳が今真っ赤になってることに。梓ちゃんとか澪ちゃんには自分から可愛いと言うくせに、
自分が言われるとこんなになっちゃうんだから
私はそれがおかしくてクスクス笑ってしまった。
唯「何笑ってるの?」
今度は課題から目を離さずに言う彼女の声は、さっきより怒ったように聞こえる。
自分の知らぬところで笑われて気分を害したようだ
紬「何でもないわよ」
唯「……早く課題やっちゃいなよ」
さっきから課題と睨めっこしてばかりで動いてない。
それは問題が難しいせいなのか、さっきの私の言葉が気になってなのか……
できれば後者であってほしいと思う。
紬「ねえ唯ちゃん」
唯「何?」
紬「キスしない?」
空気が固まるってこのことかしら?
聞こえていた風鈴の音や蝉の声も止んだような気がする
唯「……今課題してるからしない」
またまた怒ったみたいに彼女はボソッと言う
紬「そう……残念」
私は下を向いて課題の続きに取りかかる。
本当に残念……
この言葉に偽りはない、彼女のあんな可愛いところを見て我慢できるほど私は彼女の前で冷静になれない
けどすぐに諦めたのには違う理由がある。
私が下を見ながらでも分かるほど、彼女は落ち着きがなくなり、私の事をチラチラ見てくる。
私が怒ったと思っている?
それともいつもみたいに私が強引に来ないから寂しい?
嗜虐心がくすぐられる
何で彼女はこんなにも可愛いんだろう?
私は昔から心に鎧を着ることに慣れていた。それは私が私である前に寿吹家の長女であった為だろう。
本当は普通の子供みたいに泥だらけになって遊んでみたり、両親にもたくさんワガママを言ってみたかったけど
琴吹家に恥じない娘になりなさいと幼少のころから言われ育てられていた私は、親の前ですら鎧を着ることでそれを我慢していた。
けど、それをしょうがないものとして受け止めていた私でも、結局は家とは関係ない自分だけのものが欲しくなり、
高校では部活をやろうと思っていて、やればこの生活が――何より自分自身を変えられるんじゃないかと思っていた。
そして入部した軽音部で出会った1人の女の子。
彼女は、私がいつも着けていた、誰しもが着けているはずの鎧を一切身に着ていなかった。
それは私にはあまりにも眩しすぎて、
この状態に慣れてしまっている自分にはとうてい真似できない事だった。
それが最初彼女に惹かれた理由のひとつかもしれない。
そんな彼女が、今では私だけの為に必死に着慣れない鎧をつけているんだから不思議に思う
けど鎧を着けてもやっぱり彼女は彼女だった。
そんな可愛らしい鎧じゃ全然意味ないのに・・・
だからついつい虐めてその中の彼女の素顔を探す
だっていくら可愛い鎧でも、ない方が彼女はもっと可愛いから。
彼女そう言って二人分のコップを持ち、立ち上がって部屋を出て行ってしまった。
一瞬見えたその横顔はいじけたような顔をしていて、私は少しいじめすぎたかもしれないと反省する。
ペンを置き、あたりを見渡す
私だけしかいない部屋、私のものじゃない部屋。
ここで彼女は私の事を思って、喜んだり、悩んだり、怒ったりしているのだろうか?
私は立ち上がり彼女のベッドに近づき枕をそっと触る
―――これがいつも彼女の頭を包んでるもの
嫌な痛みがはしる
少し嫉妬してしまった。枕に嫉妬するなんて自分で思う以上に独占欲が強いらしい
憂ちゃんは外に出てるみたいだから、今この家には彼女と私だけ……
意識すればするほど私には抗えない気持ちが蠢く。
扉の開く音がしたので振り向くと、お盆に麦茶のつがれたコップを持ち、
立ち上がってる私に少し驚いた顔で、こっちを見ている彼女の顔がのぞく。
唯「何してるの?」
何してるのだろ?自分でもよくわからない……
ただ自分が何をしたいのかだけははっきり分かっていた
紬「唯ちゃん」
窓を閉め、カーテンまで引き、彼女に近づいてお盆を奪い取りそのまま机に置く。
そしていつもより激しく彼女の唇の奪った。
唯「ん……」
すぐに舌を入れようとする私を、唯ちゃんの歯が侵入を防ぐように閉じられている。
私の思い通りになるのが不満らしい
そのまま彼女を抱きしめる
抵抗しても無駄、あなたの弱いとこは全て知ってるんだから。
私は腰を少しきつめに抱いて指で背中を一撫でする
唯「ふあ……ん……んッ」
声をあげた瞬間、私の舌は彼女の口内まで届く、そして彼女の口の中を丁寧にゆっくり舐め回した
唯「ん……んぁ……ん」
それが楽しくて、嬉しくて、私はこの時間が大好き。
抱きしめてる腕には唯ちゃんの震えが伝わってくる
薄目で伺うと、ギュッと目をつむり、必死に何かに耐えている彼女の顔がうつる
我慢なんかしないで、大声だして乱れちゃえばいいのに……
けど我慢している唯ちゃんをいじめるのはちょっと楽しいと思う私は、変態なのかもしれない。
唯「う、ん……は……ん……はあはあ」
一度口を離す、彼女の目はトロンととけて呼吸も荒い。
紬「ふふっエッチな顔」
唯「…はぁはぁ…し、知らない」
唯ちゃんの闘争本能はまだ死んでないようだ。今日はなかなか手強い。
私はグランドをベッドに移すために彼女を少しおすと、バランスを崩した彼女はそのまま自分のベッドにダイブした。
唯「うわ!!…ムギちゃん危ないよ!」
紬「唯ちゃん本当に可愛いわ」
私も唯ちゃんに覆い被さるように彼女の上にいく
唯「……ムギちゃんのエッチ」
唯「……悪くないもん」
顔を背け、子供っぽくいじける彼女
紬「じゃあ唯ちゃんはしたくない?」
唯「………」
無言を貫く彼女の真っ赤な耳をあまく噛む
唯「ふぁ」
甘くてちょっと柑橘系の香りが、私を誘われるように首筋から発せられていた。
匂いのするほうに自然と唇が動く
唯「いや……ん」
私は舌でピチャピチャした水音をワザとだし、唯ちゃんの香りをすくい取るように舐める。
唯「んぁ…あぁ…」
この声も、この匂いも私だけのもの
私は唇を押し当て強く吸う
唯「ふぁああ」
彼女は体をくねらせ、魚のようにビクビクと跳ねた
口を離すと、彼女の首には赤く印が押されていた
唯「ん……もう…夏だから首隠せないじゃん」
紬「隠さなくてもいいじゃない」
赤くなったところを指でいじると、唯ちゃんはくすぐったそうに、体を曲げて逃げようとする
そんな様子が可愛いらしいから止められない
唯「やぁ……ムギちゃんくすぐったい!怒るよ」
紬「あらまだ怒ってなかったの?私といるとずっと怒ってるじゃない」
私の反撃にビックリしてまたまたそっぽを向く
唯「……怒ってないもん」
分かっている、自分で気持ちをコントロールできないのよね?
鎧を着てるのも、私からの攻撃を防ぐ為より、自分をおさえつけるために必要なのよね?
鎧じゃなくて、正確には拘束具なのだ。
だって私もそうだから……
あなたのせいで、あなたが好きすぎて、頭がおかしくなってしまうから
唯「あっ……」
油断してたのか今までで一番大きな声がでた
唯「む、ムギちゃ……んっ」
抗議しようとする口も、自分の口でおさえつけ、彼女の柔らかい胸を優しく撫でる
唯「ふぁ……んん…」
少しずつ抵抗していた力も抜けて大人しくなり、彼女の舌も積極的に私を求め始める。
ここまで頑張っていた鎧もそろそろ限界のようだ
紬「ん……はぁ唯ちゃん服脱がせるわね」
唯「あっ……はぁ…はぁ」
するすると彼女の着ていたTシャツやブラジャーを脱がす
何度見ても飽きない彼女の体は、相変わらずほのかな肉付きで可愛らしい体だった。
紬「ちょっと胸大きくなった?」
唯「分かんない」
紬「揉めば大きくなるそうよ」
紬「私が触ってるからかしら?」
唯「……ムギちゃんってやっぱり変態だよ、ッんんぁ」
彼女が言うように私は変態なんだろう、我慢できずに彼女のフカフカした胸に自分の口を押し付け、
そのまま舌でもう固くなっていた彼女の胸の先端部分を転がした
唯「ん……くっ……んん」
視線を上げると、彼女は手で口をおさえ必死に声がでないようにしていたので、私は一度口を離し、
両手で彼女の手を押さえてから続ける。だって彼女の声が聞こえないのは寂しいから
唯「いや……んあ…、こ、えが……ひやあ」
先ほどより強く彼女の胸を苛める。
それは父や母が教えてくれた優雅さや気品とはかけ離れた行為で、まるで犬のように彼女の胸を音をたてて舐めまわす。
唯「む、むぎ、んあちゃん……や……だ、めえ……」
彼女の泣きそうな声が耳をさし、それが少しだけ心地いい。
だって彼女の鎧はもうすぐ全部剥がれ落ちそうだから
私は責め立てていた口を少し離すと、同時に彼女の緊張が少しとれたようだったので、
また口を戻し強めに先端に噛みついてやった
ビクビク跳ねる彼女の体。すぐ油断するんだから……
荒い呼吸をしながら惚けた顔が可愛らしくこちらを見ている、口からはだらしなくよだれが垂れていた。
唾液が口の周りについた私の顔よりはマシだろうけど
紬「可愛い声たくさんでてたわね」
唯「ん……やめてって、言った、のに」
紬「本当に止めて欲しかったの?」
唯「…意地悪」
意地悪か……けどあなたが私だけに怒りをぶつけるように、私もあなただけに意地悪をするのよ。
額を汗が伝う。
部屋を閉め切ったせいで、夏の熱気が今更ながらおそってきた。
どうせなら唯ちゃんが持ってきた麦茶を飲んでからすれば良かったかもしれない
唯「…ムギちゃんも脱いでよ」
紬「いいの?課題できなくなるわよ」
唯「……自分で始めたくせに。そのままじゃ暑いでしょ?さっさと脱いじゃいなよ」
そう言いつつも私の後ろに回り、ワンピースのボタンに手をかける。
さっきも私が暑そうにしていたのに気づいたから、服を脱げと言ったのだろう。
そういう優しいところは、付き合う前も後も関係なく、彼女の愛すべきところだと思う
けどこの体勢では彼女の顔が見れないのが残念。こういう時の彼女は恥ずかしさ一杯のせいで、
眉間に皺を寄せてる顔をしているだろうから
唯「終わった」
振り向くと予想通りの可愛い顔がそこにはある。
紬「ありがとう」
そのまま肩から外し、するすると脱ぎ終えると、すぐ自分の胸に視線を感じた。
紬「な~に?」
唯「えっ……な、何でも…ない」
紬「大丈夫、唯ちゃんもすぐ大きくなるわよ」
驚き顔の彼女がこちらを見ている
唯「……ムギちゃんってさ、私の心読めるの?」
紬「ふふっ、ええ、そうよ。今は……私に抱きしめられながら、好きって言ってもらって、そのままキスしたいって思ってるわね」
唯「っ!!ムギちゃんのお馬鹿」
けどそれでも私は分かってしまう、だってそれは私があなたにやりたい事なんだから
私はそのまま唯ちゃんを優しく抱きしめると、怒っていた彼女も抵抗なく私に身をゆだねてくれた。
服と一緒にお互いの鎧も全部脱げたのかもしれない。
紬「唯ちゃん、好きよ」
抱いてる力を緩めて彼女と向かい合う。
可愛いクリクリとした目が私を見ていてそれをずっと見ていたかったけど、
すぐにそれは視界から消えてしまい、私達は今日初めて快楽とは遠いただのキスをした。
だけどやっぱりそれも最初だけで、すぐにお互いの弱点を探すようなキスに変わる
唯「んぁ……ん」
紬「はぁ、はぁ……ん」
唯ちゃんの手が私のブラジャーを外し、胸へと伸びてきている。
それと一緒に唇を離して、私の首にもっていき強く吸った
紬「んん…」
唯「プチュ……さっきの仕返し、これでムギちゃんも恥ずかしいでしょ」
私はむしろ嬉しいからこれは仕返しにはなってないわよと心の中だけで思う。
唯ちゃんはそのまま舌を使って、鎖骨の部分をペロペロ舐め始めた
唯ちゃんが鎖骨を噛む
これは彼女の癖で、私の中で固く噛みやすい部分はここだけだから、好きなんだと言っていた。
紬「ゆ、唯ちゃん……いた……い」
唯「チュ……ンプ……カプ」
紬「ん……はぁはぁ」
またまた先ほどの仕返しなのか、私の抗議を全然聞いてくれない唯ちゃんは、
いつもより強く噛みついたり、優しく舐めたりを繰り返す。
紬「はあ…ん」
もし彼女が本気で顎に力をくわえたら鎖骨くらい折れるかもしれない。
そんな彼女に支配されてる状況にドキドキしてしまう私は、やっぱりちょっと変なのかも。
そうなったら彼女はどうするんだろ……
ビックリして泣いてしまう?
それとも、意外に冷静な対処をとるのか?
どちらにしてもその代償として、こっからの行為が中断になるのは寂しい
彼女は鎖骨を舐めることに飽きたのか、そのまま口を私の胸にもっていく。
唯「はぁ……ハムッ」
紬「ん…あぁ……」
彼女は赤ちゃんみたいに私の胸を吸い始める。
それが本当に可愛らしくて、少しだけ気持ちよさを打ち消すほどだった。
紬「ん…はぁ……そんなに吸っても母乳はでないわよ」
減らず口をたたき、彼女の頭に手をおいて撫でてあげる
紬「私、唯ちゃんみたいな赤ちゃんなら欲しいかも。ママって言ってみて?」
彼女が目線を上にあげ、真っ赤な顔で睨んでくる
紬「んっ!」
先端にするどい刺激がはしった、どうやら怒った彼女が噛んだみたい。
冗談なのに……本当にこの子は私に子供扱いされるのを嫌う
他の子にされるのはいい癖に……困った恋人なんだから。
そして彼女は赤ちゃんのそれではなく、恋人にする愛撫のように吸うだけじゃなく、
時には甘く噛んで刺激してきた。
紬「ひッ………んあ……はぁ、」
だんだん気持ちよさに勝てなくなって、冷静な思考を失っていく。
彼女の空いた手がまたどんどん下に降りてきて、そのままパンツの中まで入ってきた
三枚目の悪役みたいにニヤっと笑うけど、幼顔の彼女では全然さまになってない。
本当にこの子は……何でいちいちこんなに可愛いの
紬「ええ……悪くはないわよ」
だから私は偉そうに、上から目線で彼女に言ってしまう。だってそうしたら唯ちゃんはあの顔をしてくれるから
唯「むっ!……ムギちゃん変態のくせに」
奪うようにパンツを脱がされ、彼女はこちらに見えるよう指を二本たてる
紬「唯ちゃん、いきなりは……」
私の言葉を無視して、そのまま入れようとする、
紬「あぐ……んあ」
体が異物を拒否するように彼女の指を外に追い出そうとするが、彼女は押し広げるようにそれを入り口で動かす
紬「ああんん……唯ちゃん……ゆっくり…い」
唯「やだ」
そういうと今後は強引にねじ込むように指を入れようとする。本当あなたも…私もあまのじゃくなのよね。
紬「あッ……あッああん……」
肉を押しのけてズンズンと指が進んでいく。恥じらいもなしに私は声をあげてしまった
紬「ふぁ……そ、うね……んん」
上手く言葉が話せない
唯「ムギちゃんそんなに締め付けたら指痛いよ」
紬「はぁ……はあ……」
先ほどまでは彼女の指を追い出そうとしていたのに、今のそれは自分でも分かるほど、
彼女の指を逃がさないよう強く締め付けている
唯「えへへ……ムギちゃんやらしい顔」
勝ち誇った顔で私を見る彼女は、子供みたいな笑顔をしている。
私は急に恥ずかしくなり、キスをせがむように彼女に近づく
紬「ひやあぁぁや」
彼女はワザとキスをさせないよう、入れている指を動かしてきた。
唯「もう静かにしなよ、まだ昼間なんだよ」
私が彼女の弱いところを知っているように、彼女もまた私の弱いところを知っているんのだ
そのままネチっこく中で二本の指を動かす
紬「はぁ……んぁ……ひゃ」
そう言ってまたスピードを早めながら、私の口にキスをする。
キスした唯ちゃんの口から私に飲ませるよう唾液が送られ、それを私はなんの抵抗もせず素直に飲んでいく
唯「ぷはっ……えへへムギちゃん私の唾液飲んじゃってるよ。美味しい?」
紬「ふぁ……あッ……あッんん」
普段より饒舌な彼女の言葉に、私は声にならないので首を縦に二度振る
唯「そうだよね。………だってムギちゃんは私が大好きだもんね」
普段なら絶対しないような質問が彼女の口からでる。付き合う前の彼女が戻ってきたみたい
紬「はぁ……ひゃ」
本当は首を横に降って困らせたかったけど、きっと怒って私をこの部屋から追い出すから、
ここは自分の気持ちに素直にしたがった。
私の返事に満足したのか、自分で言ったくせに頬を赤く染めた彼女が私に顔を近づける。
唯「……いっちゃっていいよ」
彼女がつぶやいた声が私に染みていき、自然と喘いでる声までもが大きくなった
もう限界だった、目の前がチカチカして、それがどんどん広がっていく。
紬「はぁ………あぁ……ゆ、い……」
彼女が見透かすように、指を中で激しく動かした。
紬「んぁああああ」
はしたない声と共に私は痙攣しながら腰をあげる。
多分ベッドを盛大に汚してしまったかもしれない……それでもこの快楽にあらがえるわけがなかった。
紬「はあ…………はあ……」
唯「うわ……凄い……右手ビチョビチョ」
感嘆の声をあげ、彼女はそのまま指を抜こうと動かす
紬「ゆ、いちゃん……まっ、て……ぃああぁあ」
ブシュという水音と共にまた自分から何かでたのが分かった。
気持ち良くて体の震えが止まらなくなっている
唯「ご、ごめん」
紬「はぁ……はぁ…ゆ、くっり……ゆっ……くり抜い…て」
唯「うん」
敏感になった中を、ゆっくりと戻っていく唯ちゃんの指が抜ける瞬間、最後にまた少しいってしまう
紬「はぁ……んぁ……」
頭が痺れて、ボーっとする。こんなに気持ちよくなるなんて……
彼女はどこかで特訓でもしてるんじゃないかと不安になる。
当の本人は抜いた手を少し不思議そうに眺めて、カーテンの隙間から入ってくる光にかざし始めた。
紬「はぁ……、ゆいちゃん!はず、かしいから……止めて」
唯「えっ?だって何かキレ……」
その後は言葉を濁し、彼女は私の横に寝転びながら甘えるように私の腕に絡まる
唯「ムギちゃん気持ちよかった?」
紬「はん・・・・・・・んん…」
少しずつ意識がはっきりして、すればするほど先ほどの痴態とアソコのしびれも思い出された。
唯「ねえ気持ちよかったでしょ?」
紬「はぁはぁ……そういうのは聞かないのがマナーなんじゃないかしら?」
唯「そんなマナー知らないもん」
唯「……」
彼女は無言のまま絡めていた手を外し、私に背中をむける。
ごめんなさい……だって本当に気持ちよくて何か悔しかったから
体を起こすと少し重く、節々が痛い。
首だけうごかすと、テーブルの上には先ほど唯ちゃんが持ってきた麦茶が、私みたいに汗をかいて置かれてる。
氷はさっきに比べてだいぶ小さくなっていた。
私は手だけを動かしコップを持ち、麦茶を口に含む。そのまま唯ちゃんの肩を掴みムリヤリこちらを向かせた。
驚き、顔をそらそうとする赤い目の彼女に口づけをして、中にある麦茶をそのまま流し込むと、
先ほどとは逆に彼女の喉がコクコクと鳴るのが分かった
唯「……はぁ」
彼女の口から吐息が漏れる
紬「美味しい?」
私は笑顔で彼女に聞いてみた
唯「……怒ってるんだからね」
紬「ごめんなさい」
唯「何であんな事言うの?」
だから私は正直に伝える
紬「恥ずかしかくて、ついね」
唯「……二度と言わないで」
紬「ごめんね」
唯「もういいよ……許したから」
小生意気にそう言う彼女の顔は、ぶっきらぼうな口調とは違い嬉しそうに見えた
紬「じゃあお詫びの印しに……」
私はまたテーブルの方に体をのばしコップに手をかける、
私の体が邪魔をして唯ちゃんには何をしてるのか見えていない。
そのまま直接手でコップから無造作に氷を2つ取り出した。
握った氷の冷たさが火照っていた体に広がっていく。
「お嬢様」と言う斎藤の窘める声が頭の中だけで聞こえてきて、一瞬動きが止まってしまう。
コップに手を入れたくらいでこんな事を思うなんてと苦笑してしまった。
今更斎藤に注意されても、これまでもっと怒られそうな事を彼女としてきたじゃないか
振り返ると唯ちゃんがまだ赤い目で睨んでいたので、私は氷を持ったまま彼女の胸の先端を触る
彼女の可愛らしい声が大きく響く
唯「な、何いまの?」
そのちょっと怯えた顔を私はいつまでも見ていたかった
紬「目をつむって唯ちゃん」
唯「えっ!?イヤだよ…」
紬「つむりなさい」
自然に出た冷めたい声の私に従って、彼女はオズオズと目を閉じる。
それを確認してから持ってきた氷を唯ちゃんの首に押し当てた
唯「ひゃっ!!つ、冷たい」
紬「目をあけちゃダメって言ってるでしょ」
反射で目を開けた彼女をたしなめると、不満そうにまた目を閉じる
……そうそれでいい
紬「汗たくさんかいて熱いでしょ?すぐに冷ましてあげるから」
私は目を閉じた唯ちゃんにかかってる薄い布団を剥ぎ取り、
そこで恥ずかしそうに丸くなってる彼女の体を見る。
目を閉じていても見られてると分かっているのか、頬や耳は真っ赤になっていた。
私は答えない……
唯「・・・・・・ねぇムギちゃんってば」
目を開ければすぐ目の前にいる私を、不安になって求める彼女の声がたまらなく愛らしい
唯「ムギちゃん、声聞かせて……」
危うく声をだしそうになるほど、彼女の声は私にすがりつくよう甘えて聞こえる
唯「……ムギちゃん…いるんでしょ?」
手が私を求めるよう伸ばされると、先にこちらの限界がきてしまった。
私は氷を強く握っていた方の手で彼女の顔を包み込む。
唯「んぁあ!!」
唯ちゃんから喜びの声が上がり、私はその手をゆっくりと首まで下す。
冷たくなった手が彼女のぬくもりをいつも以上に感じさせてくれた。
唯「はあ……あッ」
氷の冷たさが気持ちいいのかそれとも感じているのか、彼女からたびたび声が漏れる。
けどそっちにばかり集中しちゃダメよ。
私は余った手を彼女の大事な部分にのばす、もちろんその手にも氷が握られていた。
彼女の体がビクッと跳ねる。
当たり前か……敏感のところに布ごしとはいえ氷をおしつけられたのだから
唯「ん、いやあ……」
紬「大丈夫だから」
声と共に彼女のパンツに手をかける
唯「うぅ……」
目を今まで以上にギュッと瞑り彼女はわずかに腰を上げてくれた。
その時彼女の体が震えているのが感じられる
紬「震えてる……寒いの?」
唯「……違う、怖いの」
紬「ふふっ、私がいるのに?」
唯「ムギちゃんが怖いの」
紬「あら、そうなの?」
こんなにあなたの事が好きなのに心外・・・
そんな事を言うなら私がどんなに好きかなのかわかってもらうしかない。
手の氷が私の体温でかなり小さくなっていたので、また私は行儀悪く新しい氷を取り出す。
紬「変な事?さっきからしてるじゃない」
唯「違う!!……痛い事とか」
紬「大丈夫、私は唯ちゃんに喜んでもらえることしかしないわよ」
唯「……嘘つき」
嘘つきか……確かに否定はできないけど、今からすることはきっと喜んでくれる。
私は手に持った氷を口の中に入れて、彼女の大事な部分に近づく
むせかえるような暑さの中でそこからはまた独特な匂いを放っていた。
夏という事もあり、匂いはいつもよりキツく私の鼻腔をくすぐる
おしっこがでるところなのに唯ちゃんのというだけで不思議とイヤではなかった、いやむしろ望んで嗅いでいたい。
そのまま太ももに冷えた唇を押し当てた。
唯「んぁ」
まだ彼女の足にかなり力が入っている。
まずはそれをとらないと……
私は太ももから下におりて彼女の足の至る所にキスをする
唯「ひゃ……ん、あッ……」
すでに腰が抜けてそうな彼女の両足を持って強引に開いてみた、抵抗はさほどない。
唯「ぃ、や……」
軽音部にいるときの彼女からは考えられない弱い声がまた私を刺激する。
すでにそこからはトロトロと溢れる蜜が彼女を汚して、触って欲しそうにヒクヒク動いていた。
私は秘部を触らないよう、周りだけを指を使って優しく撫でてあげる
唯「あぁ…あッ」
また弱々しい声がした。
そのまま自分の顔を近づけ口に入れた氷によってキンキンに冷やされた舌で、
私は彼女の大事なところを一舐めしてみる
唯「ふぁあああ」
彼女の声が響き、腰が跳ね上がるのを上から押さえつけそのまま舌だけを使い全体を舐めまわす
唯「いやあ……んん……はぁ」
トロトロと奥から溢れでてくるのを舐めとってから、まだ口に残っていた小さな氷の粒を舌で彼女の中に押し込んだ
唯「ひゃう……や、つめたんんい……や」
赤ちゃんみたいに叫ぶ彼女を無視して、私はそのまま舌をどんどん奥まで進める。
柔らかい肉で締まっている彼女の中を通るたびに舌がピリピリと刺激され、私はそれを求める舌の動きを速めた
唯「やあぁぁ!!」
彼女の発した声は喘ぎ声というより絶叫に変わっていて、それが私にはもう一度して欲しいと哀願してるように聞こえてきた。
唯「はぁ……んあッ……ああ、それ、んああ、ダ、メ」
彼女の手がもぞもぞ私に向かってのびてきたので、自分の手を重ねるといつもより強く握り返してきた。
唯ちゃんの匂いが私からどんどん正常な思考を奪い取り、私はただ彼女に快楽を与える機械のように
何も考えず無心で舌を動かす事にした
唯「ふぁあ……あぅ……ひゃぁああ」
声が一段と大きく鳴り始める。
もういくら舌を動かしても氷の冷たい感触は見つからない。
そこは唯ちゃんの中で一番熱をもった場所なのだから溶けてしまったんだろう
多分私もこの氷と一緒なのだ
彼女に触れるたび、どんどん溶かされてしまっている
唯「はぁ・・・つ……む、ぎ……」
普段呼ばれ慣れてない名前と一緒に彼女の手に力が入り、握った手が痛む。
そんなに握らなくても私はアナタのそばをけして離れないのに……だから安心してその快楽に身を捧げてほしい。
声と共に片手の私では押さえるのが難しいほどに、唯ちゃんの体がビクビクと動いた。
私は入っていた舌を抜きいったん顔を離し、彼女の顔が見れる位置まで体を起こす。
唯「はぁ……はぁ……」
だらしなく空いた口から吐息がもれ、目は律儀にも閉じられたままだった。
ほんのり赤く汗で潤っている彼女の体は、普段のそれとは違い全体から甘い蜜がでているようで私の心をかき乱す
ごめんね唯ちゃん…私止められない……
私はその体勢のまま指を彼女の秘部へと持っていった。
唯「んぁぁあ…い、や……もう、いっ」
ごめんなさい、まだアナタのイった顔を見てないから……
アナタの壊れていくところを見ないと、私の欲求はもうおさまりがつかないの
唯「ムギちゃんぁ……や……め、んぁああ」
体がすぐビクビクと動く、またイってしまったのだろう
けど私は止めるどこか、手を動かして新たな刺激を与える
唯「や……もう……いぎだぐ、ふぁああ」
もう彼女は目を閉じず私を見ていた。
すがりつくように涙まで流し感じている彼女の目が、また私の嗜虐心をくすぐる。
もっとおかしくしたい、この子が私なしでは生きられないよう、私と同じようにしてしまいたい。
指の動きを一度止める
紬「唯ちゃん私の事好き?」
唯「はあ……んぁ……あッ」
動かしていないのに唯ちゃんの体はビクビク動き、口からは喘いだ声しかでてこなかった。
紬「答えて、お願い」
ジッと見つめる私とぼんやりと見つめる彼女、もう体は私のせいでヘトヘトなんだろ。
それでも彼女は声にならずとも必死に口だけを動かし答えてくれた
紬「……私もよ、唯ちゃん…大好き」
だからもう一度グチャグチャの顔を見せてね……たくさんあなたの声を聞かせて
私はまた指を動かし始めた。
―――――――
―――
夕方になり暑さが少し落ち着いたけど、私達はまだベッドの上にいる。さっきと違うのは彼女が怒って私に背を向けてることくらい
そしてしばらくして私の膝の上で目覚めた彼女は、しばらくボーっとした目で私を見つめていたけど、
今までの行為を思い出したのか、急に顔を赤らめて私を睨み背中をむけてしまった。
事後の彼女はさっきまで晒していた素顔を恥じるようにいつもよりしっかりした鎧をつける。
だからいつも終わった後は少し冷たい、今回は私の責任が大きいけど
紬「ねぇ唯ちゃん?」
私が声をかけても何も答えない。
彼女を後ろから抱きしめてみる。
素肌が心地良くって、あれだけしたくせに簡単にスイッチが入ってしまいそうだった。
紬「寝てるの?」
唯「……寝てる!!」
紬「可愛い寝言ね」
返事をしてくれる事に安堵する
唯「死んじゃうかと思った……」
紬「……良かった」
唯「どういう意味」
目は赤く鋭く睨みつけてくるけど、
私には裸の彼女が鎧の中から私を窺ってるように見えてそれすら可愛らしかった。
紬「唯ちゃんが死んじゃうくらい気持ちよかったのと、唯ちゃんが死ななくて」
唯「……」
ぶつけていた視線を逸らし、またまたそっぽを向いてしまった
紬「そろそろ憂ちゃん帰ってくるんじゃない?」
唯「……うん」
紬「じゃあ服着ましょうか、唯ちゃんはシャワーあびてきたら?」
唯「………ムギちゃんは?」
紬「私は大丈夫だから」
本当は汗でベタつく肌を今すぐ洗いたかったけど、もし憂ちゃんに見つかったらただでさえ私達の関係を怪しんでる彼女にとって、
私がお風呂に入っいるというのは疑いを確信に変える行動だろう
いずれ話さなきゃいけないだろうけど、なし崩しに話す展開はできるだけ避けたかった。
唯「分かった、ちょっと待ってて」
1人残された私を途端に寒気がおそってきた。
汗のせいもあるけれど事後の後こうして1人にされると、とても不安になってしまうのは何故だろう?
さっきまで繋がっていた心と体がどこかにいってしまうからなのか。
行為の最中、私は嫌がる彼女に何度も自分の欲をぶつけた。
それは今回だけじゃなく今までもそうで、以前もそれで後悔したのだ。それにこうした行為も私から始める事が多い
やっぱり私は身勝手な女なのかしら
こんな女に愛されてしまった彼女が人事のように可哀想になる。
そのうち本当に愛想を尽かされてしまうかもしれない……
少し暗い気持ちに陥った私をドアの開いた音が正気に戻す。
シャワーを浴びて戻ってくるにはちょっと早すぎると思うと、彼女はお湯を張ったタライを持って立っていた
唯「どっか痛いの?」
紬「何で?」
唯「痛そうな顔してた」
紬「……それは何?」
私は彼女の質問には答えず先にすすめる
唯「お湯。体拭こうと思って」
唯「いい」
そういってテーブルに置いて、入れていたタオルを絞り私に渡す
紬「ありがとう」
ありがたく受け取り体を拭く。ほのかに温かいタオルが、汗のベタ付きとともに
疲れやさっきの暗い気持ちも取っていくようだった。
横では彼女も私に背を向けて体を拭いている
紬「今日はごめんなさい」
唯「…どうしたの急に?」
紬「本当に唯ちゃんが嫌ならもうやらないわ」
本当は唯ちゃんとしない自信なんてない。だって本当に彼女が大好きだから……
けど身勝手に抱いているという意識もあり彼女を苦しめるのも嫌だった。
だから彼女が望むなら二度としないと決意を固めていた
唯「……ズルいなムギちゃんって」
布の感触が背中にあたる
唯「ズルいよ」
彼女が柔らかく私の頭にキスをしてくれた
紬「そうね……ごめんなさい」
唯「いいよ、ムギちゃんだもん」
ムギちゃんだもんか……
私は一番汚れているであろう顔にタオルを持ってくる。
顔を拭くフリをして涙が浮かんだ目尻をぬぐう私は、彼女の言うとおりズルい人間なのかもしれない。
・
私の知っている人の中で一番可愛いのはあずにゃんだと思う。
澪ちゃんも可愛いけど、一番綺麗って言った方がいいかな。
一番話が合うのはりっちゃん
りっちゃんとならずっとバカな話しをしてられる
一番安心できるのは和ちゃん
心の故郷って言ったら分かりやすい
一番甘えられるのは憂
妹だけど自然に甘えられる
……彼女はこのどのランクも一番じゃない
時々何で彼女と付き合ってるのか分からなくなる。
だって一緒にいても話はりっちゃんほど合わないし、緊張するし、
スキンシップなんて恥ずかしくて絶対できない。
彼女と一緒にいるときは全然いつもの私らしくないのだ。
けど…それでも一番に考えてしまうのが彼女の事で、こうやって別な人といても
ふとした瞬間に彼女の事ばかり考えてしまう。
「物思いにふけるなんて唯らしくないわね」
声の主は私が一番安心できて信頼している子。
和「ごめんなさい。これで機嫌を治してもらえるかしら?」
お盆の上にはケーキと紅茶がのっている
唯「よし、治りました~」
和「相変わらず調子いいんだから」
和ちゃんはニコッと笑い、私の分をわけてくれた。
―――――――
――
和「そういえばこうして唯と2人っきりになるのって久しぶりね」
唯「そうだね、私和ちゃんのお部屋に来たの2ヶ月振りだよ~」
中学の頃は頻繁に遊びに来ていたこの部屋はその頃から変わらず、部屋の主と同じに私をあたたかく迎えてくれる
和「まあ私も唯も生徒会や部活忙しいもの、特に唯の方はね」
含みのある笑い方をする和ちゃんを見て、私はケーキを喉に詰まらせた
唯「ゴホゴホ…もう和ちゃん!!」
和「いいじゃない、本当の事なんだし」
だが?
和「それで、ムギとは順調なの?」
和ちゃんには私とムギちゃんの事を話していた。
付き合う前、私がこの感情を恋と理解する前から苦しんでる私に気がついて助けてくれたのが和ちゃんだった。
和ちゃんには……と言うように、それ以外の人――軽音部のみんなや憂にもまだ話していない
唯「う~ん多分」
私はケーキを食べながら答える
和「歯切れ悪いわね」
唯「だって経験したことないからこれが順調なのかわからないんだもん」
和「それもそうね……ケンカとかするの?」
唯「……しょっちゅうする」
和「それは意外ね……
唯もムギもぽわぽわしてるイメージあるから、そういうのとは無縁だと思ってたわ」
やっぱり意外だよね……
実際誰よりも自分が一番意外に思ってる。
私が昔イメージしていた誰かと付き合うっていうのは、毎日笑顔で楽くて、
全てがバラ色に見えるんだろうな、なんて思っていた。
特に彼女と喧嘩してる時がそうだ。
だったら喧嘩なんてしなければいいと思うのだけど、
子供のように何で分かってくれないの?と、不満に思いいじけたのも一度や二度ではない。
だからこそ軽音部のみんなには言えなかった。
今言ってしまったら、私はきっと彼女との問題を軽音部の問題にしてしまうから。
みんなに甘えて協力をあおぎ、解決しようとするかもしれない……
そうして部内を巻き込んでしまって、みんなにも迷惑をかけてる。
もしかしたら軽音部のみんなは優しいからそれでもいいと言ってくれるかもしれないけど、
私にとってはそれだけは絶対にしてはいけないことだった。
だからもう少し気持ちのコントロールができるまではみんなに黙っていようと思っている。
話せるのは当分先な気がするけど……
和「けど澪がね、最近唯は真面目になったって言ってたけど私もそう思うわ、
遅刻ほとんどしてないでしょ?」
唯「まあ……」
和「部活も頑張ってるって聞くし、赤点はとらなくなったし、彼女と付き合って全部がいい方にむいてるじゃない?
やっぱり大事な人ができると変わるものなのね」
確かに和ちゃんの言ってることは当たっている。憂に言われなくても起きるようになったし、
ギターも誉められることが多くなった。勉強も……まあ努力はしている。
うん
彼女と付き合えた――気持ちが向かい合った時、本当に嬉しいと思えたし、それは人生最良の日と言っても良かった。
けど次に私を襲った気持ちは恐怖だった。
せっかく手に入れたものがなくなってしまう恐怖。
一度味わったものが失われるのは、一度も味あわないより辛い事だと思う、だってそれは麻薬のようにすでに私を虜にしてしまっているから。
だから私は何とか失わないよう努力する事にした。
だって彼女は頭もよくて作曲までしていて、火の打ち所がなかったから
彼女の隣を歩ける人になろうと、彼女が一緒にいて恥ずかしくない人になろうと勉強や部活をがんばった。
けど彼女の前に立つとどうしようもなく緊張して、
普段ならなんてことないお喋りやスキンシップですら、まともにとれなかったりする。
本当に私らしくない。
いつも思う。彼女はこんな私と一緒にいたくて付き合ってるわけではないんじゃないかって
だってそれは彼女が付き合う前に見ていた平沢唯とは真逆の女の子だから
和「どうしたの?」
私は和ちゃんを無視して考え事を耽ってしまっていたみたい
唯「ううん、何でもない」
唯「ありがとう和ちゃん……ねえ、私の良いとこってどこかな?」
和「唯の?う~ん……笑顔とかかしら?あとはそののんびりした雰囲気とか」
唯「……そっか」
だとしたら、やっぱりムギちゃんにとって私は全く魅力のない女の子になっちゃうな
和「はぁ~これはあくまで私の考える唯の良いとこなんだからそんなにへこんだ顔しないでよ。
そんなもの相手の受け取り方で変わるものよ」
あからさまにへこんだ私に、和ちゃんが優しく声をかけてくれる。けど受け取り方って……
唯「どういう事?」
和「例えば私が思う唯の良いところを悪く言えば、いつもヘラヘラしてとろいって事でしょ」
唯「ひ、ひどいよ~」
和「だから悪く言えばよ。優しいっていうのも優柔不断や自主性がないとか、真面目っていうのも面白味がないとも言えるわよね」
唯「う~ん、そんなもんかな?」
和「まあ言い過ぎな部分はあるけどね。
だけどムギには私とは違った唯の良いところが見えていているのかもしれないんだし、少なくてもムギはあなたが好きだから付き合ってるんでしょ?そこには自信持ちなさい」
唯「うん……」
――――――
――
家が近いという油断からすっかり帰るのが遅くなり、憂からの心配の電話でやっと私は和ちゃんの家を後にした。
やはり和ちゃんの隣は時間を忘れるほど居心地がいい
外は時期的にはまだ春だけど、夜風に少しだけ夏の匂いが混じってる気がする。
私の良いところか……
和ちゃんに言われたことを考える。
直接ムギちゃんに聞くのが一番早いけど、普通の状態で面と向かって自分の良いところなんて聞けるわけないよね
最近、澪ちゃんが恥ずかしがったりする気持ちが良くわかる、
次りっちゃんやさわちゃん先生が澪ちゃんをいじめていたら助けてあげよう
そんな事を考えてるとまた携帯がなった。
憂の心配症にも困ったものだと思って携帯を開くと、そこにはドキッとする名前が書かれていた
あっ私今ニヤついてる…
何だかんだ言っておいて、結局彼女からの連絡が嬉しいのだ、
この名前が表示されるだけで携帯の価値があがった気がする。
唯「もしもし」
一瞬の間ですら焦れったい、早く彼女の声が聞きたかった
紬「紬です」
唯「うん」
もう少し普通に愛想良く話したいけど、先ほどから心臓が痛いほどドキドキしてるから今回も無理そう
後ろから車の光が近づいて来たので、道路の真ん中で突っ立ってた私は端へと避け、家の塀に体をあずけた。
紬「もしかしてまだ外?」
唯「うん。和ちゃんと遊んでて、その帰り道」
紬「和さんと……」
変な間が空く、もしかして勘違いさせてしまった?
唯「違うよ、和ちゃんとはそんなんじゃないからね」
とたんに携帯からクスッと笑い声が聞こえる。
またやられた……こうやって彼女は時々小さい意地悪をしかけてくる
唯「用あるんじゃないの?」
ムっとして、ちょっとキツい言い方になってしまう
紬「なかったら連絡しちゃいけない?」
唯「……別にそうじゃないけど」
紬「良かった」
口調から彼女の笑った顔を想像できて私は簡単に照れてしまう、本当にらしくない
唯「じゃあちょっと待ってて、お家に帰ってご飯食べたら私から連絡するから」
紬「ありがとう、けどその前にひとつ聞いておきたい事があって」
唯「何?」
紬「来週の土曜日なんだけど予定ある?」
唯「予定?部活あるんじゃない?」
紬「うん、多分夕方までわ。それ以降なんだけど……」
遊ぶ予定だろうか?だったらわざわざ電話してくるなんて珍しい。
だって今日みたいにどうしても外せない用事以外の日は、一緒にいるのは当たり前になってるし、私に関してはどうしても外せない用事なんてほとんどなかったから
なんでも家でパーティーがおこなわれてるらしい
唯「多分暇だと思うよ」
紬「じゃあ一緒に来て欲しいところがあるんだけど……」
ムギちゃんの話し方が、いつもより歯切れの悪いものになっている気がする。
嫌な予感が湧いてきたので、携帯を強く握り締めた
唯「どこ?」
紬「……私のお家なの」
とりあえず携帯は落とさずにすんだ
――――――
――
この駅で降りるのは初めての事だった。
同じ車両から降りた人達は迷わず進んで行ったので、降り口がわからなかった私はその後ろにくっついて歩く事にする。
途中大きな鏡がおいてあり、自分の姿が写し出される。もっとかっちりした服を着てくれば良かったと後悔したけど、
私が持っている服でそれに唯一該当するのって制服なんだよね……
これでも恥ずかしくならないように、家にある服を総動員して選んだものではあった。
それはお母さんの服や憂の服も例外ではなく、まさに総動員で。
服を選んでる時の憂の顔を思い出す。
彼女は貸すことには抵抗なかったみたいだけど、最後まで何か聞きたそうな顔をしていた。
それも当たり前か……
誰かの家にお泊まりに行くからって、あんなに次から次へと洋服を着て感想を求められたら困惑するよね。
結局上着は一番のお気に入りの物を着て、憂には靴とスカートを、お母さんには黙ってだけどネックレスを借りた。
家ではなかなかさまになってると思えていた服も、こうやって見ると少し子供っぽ過ぎたかと心配になる。
けど今更家に帰るわけにもいかない
私は腹をくくり、諦めにも似た心境で彼女との待ち合わせ場所に歩みを早めた。
――――――
――
待ち合わせ場所に指定していた駅の入り口には帰宅を急ぐ人でごった返していたけど、彼女はまだ着ていないようだった。
とりあえず遅刻はしなくてすんだ
それでも体は少し強ばっていて、自分でも緊張しているのがよくわかる
いつも以上に服を気をつけてたのもその為なんだろう。
友達の時も、付き合ってからも、彼女のお家に行ったことはなかった。
彼女がどんな部屋で過ごしてるのか興味はあったけど、漠然と彼女はそれを望んでないんじゃないかと思っていた。
それは彼女のお家が普通とはちょっと違うからなのか、
私達の関係が普通とはちょっと違うからなのか。
どんな理由でも結局のところ断られるのが怖かった私は、彼女が誘ってくるまで待とうと思っていて、
だから今回の突然の誘いに対しても真意が分からず、ただ行くことを了承しただけだった。
「唯ちゃん」
横から声をかけられ顔を向けると、先ほど部活で会った時とは違い、私服に包まれた彼女が立っていた。
紬「ごめんね、待たせてしまって」
最後に別れてから2時間もたってないのに、何でこんなに嬉しくてたまらないんだろう。
今すぐにでも抱きつきたい気持ちをグッと我慢する
唯「待ってないよ、今来たとこだから」
紬「なら良かった。あら?そのスカート初めて見るわね」
気づいてくれた事が嬉しくて、顔がしまりのないものに変わるを必死に抑える
唯「憂に借りた」
こんなセリフで私の顔は簡単に熱くなる。それを誤魔化す為、小さく息を吐きながら自分とは関係ない話題を探すことにした
唯「人けっこういるんだね」
紬「ええ、ここは住宅街だからこの時間は家に帰る人が多いのよ」
唯「ムギちゃんの家は遠いの?」
紬「少しね。普段はバスを利用してるんだけど、今日は車で来てるから」
唯「え!?」
自然と声のボリュームが二段階ほど上がってしまった
紬「どうしたの?」
唯「え……ううん何でもない」
紬「そう、じゃあここにいても何だし行きましょうか」
そういうと彼女は私を先導するように歩き始める。
ここまで車で来たって事はムギちゃん以外の誰かが運転してきたって事で、それはもしかしたらムギちゃんのお家の人で……
紬「大丈夫?怖い顔してるわよ」
唯「うん……だ、大丈夫」
覚悟はしていた事だけど緊張する、だって相手は彼女の家族なんだから……
紬「あそこの車よ」
そこには黒くて長いピカピカした高級そうな車と、その横にスーツを着た年配の男性がこちらを見て姿勢良く立っていた。
ゴクリと生唾を飲み込む
唯「あ、あれがムギちゃんのお父さん?」
紬「違うわよ、あれは執事の斎藤」
執事……お父さんじゃないのか……
少し緊張がとかれる。
………執事?
唯「ムギちゃんのお家って執事いるの!?」
紬「ええ、ほら車に乗りましょ」
ムギちゃんが男性に目をやると、何も言わずに車の扉が開けられた。
執事なんてものがこの世に存在していることに驚き、
その執事に命令してるのが自分と同い年のましてや恋人なのに尚驚きながら、男性に頭を下げて車の中に足を踏み入れる。
車が静かに発進して、車なのにムギちゃんと向かい合いながら座っていても私はただただ圧倒されてばかりいた。
別荘があったり、余らせるほどお菓子があったりと、ムギちゃんのお家がお金持ちなのは知っていたけど、それは私の想像を越えていたようだ。
唯「え?」
紬「来てくれて嬉しかった」
唯「え……あ…うん、いいよ」
何となくムギちゃんもいつもと違うように見える
車中の会話はいつも以上に続かないまま、目的地である彼女の家に到着早々と到着した。
彼女の家を見ても先ほどより驚かずにすんだ。ただでさえムギちゃんが隣にいるのにこれ以上心臓に負担をかけたくない。
ただ驚かずにすんだのは、私が彼女の家を西洋のお城くらいはあるかもと覚悟していて、
実際は私の家の5倍くらいだけだったという話で大きいのに変わりはしなかった。
小さい頃なら巨人が出入りしてるんだと夢見できるほどの玄関をくぐると、メイド服を着ている女性が2人立っている。
「お帰りなさいませ、紬お嬢様」
まるで定規で計ったよう正確に、同じ角度でお辞儀をする女性が一瞬ロボットかなにかなのではと疑ってしまう
彼女の家なら本当にありえそうで怖い
紬「ただいま、お母様は帰ってきてる?」
「いえ、先ほど予定より少し遅くなると連絡がありました」
紬「そう、……お父様はいつも通りね?」
メイドさんと話してる彼女は軽音部にいる時とも、私といる時とも違って少し冷たく感じた。
紬「唯ちゃんお腹減ってない?」
唯「うん、大丈夫…」
本当は少し減ってるけど、この場でそれを言うのは自分だけが子供みたいで恥ずかしく言いだせないよ
紬「なら先に私の部屋に行きましょうか」
唯「あっ……うん」
靴を脱ごうとして彼女に止められる。どうやら脱がなくていいらしい
雨の日とか大丈夫なのかと心配になったけど、少なくてもどこもかしこもピカピカだった。
階段を二回上り、初対面のメイドさんと執事さんに一回ずつすれ違ってからやっと彼女の部屋にたどり着いた。
紬「どうぞ、つまらない部屋だけど」
大きい扉が開けられる。
中はとても広く、高級そうなベットやソファが置かれていて雑誌に載っていそうな部屋だったけど
カーテンの色とかソファーの色とかが、彼女の趣味とは少し違う気がした。
しかし扉を開けた瞬間、部屋の中からフワリと彼女の匂いがして、やっぱり彼女の部屋なんだと当たり前の事を考えていた。
ありきたりなセリフしかでてこない自分のボキャブラリーの無さが悲しくなる
紬「物がないだけよ。そっちのソファーに座ってて、すぐにお茶がくると思うから」
唯「うん」
ソファーはテーブルを挟んで二人掛けと三人掛けのものが対面に置かれていて、
私は促され三人掛けに彼女は二人掛けに座ると、すぐにまた初対面のメイドさんがいい匂いの紅茶を運んできてくれた。
しかしメイドさんはいったい何人いるんだろう?
紅茶を一口飲むとやっと落ち着いた気がする。まるでいつもの部活のように
紬「どう美味しい?」
唯「うん……」
紬「あら?口にあわなかった?」
唯「いやそうじゃないよ、美味しいんだけど……」
―――思い出してしまっただけ
紬「何?」
唯「普段飲んでる方が私は好きかな……って……」
いつもなら少し意地悪な切り返しをしてくるであろう彼女が、何も言わずに自分の持っている紅茶に視線をおとしていたので、
私は何かまずい事を言ってしまったのかと不安になる。
ありきたりなお世辞にとられて、嫌なやつだと思われただろうか……
私は緊張の為また一口紅茶を飲んだけど、
やっぱり彼女の淹れてくれた方が美味しいと思っただけで、喉の渇きはそれほど癒えなかった。
紬「唯ちゃん」
唯「な、何?」
紬「そっちに行ってもいい?」
唯「……いいけど」
彼女が隣に腰をおろすと体と心がまたざわざわして、それを隠すために私も座り直す
紬「唯ちゃん……」
言葉と共に彼女の左手が私の膝に降りる。
タイツ越しに伝わるいつもより冷たい彼女の手にビクっとなってしまった。
いや、ただ私の体温が上がってるからそう感じただけかもしれないけど……
何だかマズい気がする
紬「誰も来ないわよ」
彼女の体重が私にかかり、ワザとなのかどうなのか彼女の胸の膨らみが私の肘にあたっている。
私はそれだけで、全身を堅くしながら下を向き身動きがとれなくなってしまった。
紬「ねえ唯ちゃん…」
さらに肘に柔らかい感触がかかる
唯「ん?」
先ほどみたいに言葉はだせず、口を閉じて反応する。
開けてしまったらはしたない声をだしてしまいそうだったから…
髪に何かサワサワと当たったかと思ったら、耳のすぐそばから彼女の声がした
紬「先週和さんとどんなお話ししたの?」
それは耳というより脳に直接話しかけられてるみたいで、私はもう何も考えられなくなる。
彼女が怒ってるのか?
何でこのタイミングで和ちゃんの話をするのか?
疑問に思う事はあったけど、全部忘れて彼女の魔法のような言葉にただただ答えるしかなかった。
唯「が、学校の事とか……部活の事とか……」
唯「少しだけ……」
紬「どんな事を話したの?」
膝に置かれていた手が円を描くように動かされる。
唯「ふぁ……」
紬「気持ちいいの唯ちゃん?」
膝から太ももに手があがり、それだけで体が震える
唯「ん……」
紬「可愛い……それで和さんと私について何を話したの?」
唯「和ちゃん……和ちゃんは……ムギちゃんと付き合えて……良かったねっ…て」
紬「そう……」
彼女の手が太ももからまた少し上にあがる。せっかく憂から借りてきたスカートはだらしなくはだけていた。
紬「唯ちゃんは和ちゃんが好き?」
また突飛な質問がとぶけど先ほどと同じように私は答えるしかない
唯「好き、だよ」
唯「んぁ…」
紬「私より?」
唯「…く…比べられないよ」
本心だった。和ちゃんへの好きとムギちゃんへの好きは全く別物だったから
紬「比べられないのね……」
また手が上へとあがり、もうそれはタイツ越しとはいえ私の大事な部分まで到達している。
私は何とか抵抗しようと閉じている足の力を強めた
紬「和さんはこんな気持ちいい事してくれないわよね?……それともした事ある?」
指先がわずかに大事な部分に触れる
唯「あンッ…あるわけないじゃん!!」
出来る限り声をだし否定した
紬「ふふっ、そう、良かった。」
そう言って彼女の吐息が耳に近づき、甘く噛まれる
唯「いや…」
スカートの中に入ってる手を柔らかに動かし指先でつついてくる。
唯「いや…ムギちゃん……したく、ない」
これからムギちゃんの家族と会うかもしれない、もしかしたら大事な話をしなきゃいけないかもしれないのに
唯「…ダ…ダメだってば」
しかし彼女の手が撫でるように動くと私の意志は簡単に崩れてしまい、体と心がバラバラにされてしまったようにこのまま流されてしまう。
―――けどそうはならなかった
彼女の次の言葉が私を現実へと引き戻す
紬「ほら、邪魔な服は脱いじゃいましょ…」
火照っていた体温が一気に下がる
違う……
だって彼女は知ってるから、私がどんな気持ちでこの服を着ているのか。
彼女との初デートの前日。
どんな服を着ていけばいいか分からなくて、和ちゃんと一緒に買いに行った。
普段はあんまり行かないようなちょっと高めのお店に行って、見つけたこの上着。
和ちゃんも店員さんも似合うって言ってくれたけど、ムギちゃんに言われるまでずっと自信がなかった。
だからデートの日一番最初に聞いたんだ、この服変じゃない?って。
もしかして今日の為に買ってくれたの?って。
私は恥ずかしがって声をうわずらせながら、そんなわけないじゃんって嘘をついたんだ。
けどやっぱり彼女にはバレてて
そう、ごめんなさい。ありがとう。とっても素敵よって言ってくれた。
その日から大事な日には絶対これを着ていくようにしている。
だから違う……
彼女はこんな時でも絶対この服を邪魔だなんて言わない。
魔法がとかれた私は彼女の手をはねのけて、ソファーの端へと逃げる。
紬「唯ちゃん?」
彼女からあまり聞かない不安な声がする。
心が苦しい……こんな声を彼女にださせてしまったことが。だけど私はどうしても許せない、だってこの服は特別だから。
紬「ど、どうしたの……唯ちゃん?」
私は彼女を強く見据えると、先ほどとは立場が変わったのか彼女は弱々しい顔を見せてきた
紬「いい子だからこっちに来て」
紬「何で?気持ちよくなかった?なら私もっと頑張るから…」
やっぱりおかしい……彼女は私が何に怒ってるのか分からない人じゃない、一体どうしてしまったんだろう?
紬「唯ちゃん…わ、私…唯ちゃんに……」
彼女の手が伸びて私の髪に触れようとする。怖かった、彼女が私の知らない人みたいで
唯「いや、触らないで」
自分でも怖いほど低い声がでて、彼女の手が空中で止まり力なく落ちていく。
同じソファーの隣同士に座っているのに、今私達の間には絶対的な距離ができてしまった気がした。
そう思った矢先、重たい空気を割るように扉を叩く音がする
「お嬢様」
低い男性の声が聞こえたけど、呼ばれた彼女は動こうとせず、ただ私にすがるような視線が送くるばかりだった。
私は彼女の寂しげな視線に耐えきれなくなり視線を外す
そしてもう一度ノックの音がするとやっと彼女は反応し、フラフラと立ち上がると扉に近づていった。
紬「何」
ゾッとするほど冷たい声がムギちゃんの口からでる。
「奥様ですが、急な仕事が入ったため明日の朝にならないとお戻りになれないそうです。」
紬「…分かりました」
「あと夕食なのですが…」
紬「斎藤、それはこちらから連絡しますからとりあえず準備はしといて下さい。もうないなら下がっていいわよ」
斎藤「はい、かしこまりました」
矢継ぎ早な会話が終わったのが分かり
私は急いでスカートを整えて、その上にある手をぎゅっと握りしめ彼女の言葉を耐えるように待った。
紬「唯ちゃん」
先ほどのドア越しの会話の時とはまったく違った、頼りなさげな声がする。
目線を合わせると彼女の顔はただでさえ白い肌が一段と蒼白くなり、目元に涙すら浮かんでいた。
そうさせたのは私か…
紬「さっきはごめんなさい」
唯「あっ……ううん、私も言い過ぎた」
お互い謝っても気まずい雰囲気は消えることはなかった。
だって彼女はなぜ先ほどのような真似をしたのかまでを話してはくれなかったから
紬「そろそろ時間も遅くなったし、夕食にしない?」
紬「なら食堂に行きましょ、きっと唯ちゃんも気に入ると思うわ」
唯「うん、ありがとう」
会話が止まる。
やっぱりこのまま何てダメだ
唯「ムギちゃん…何かあったの?」
彼女が答えやすいようできるだけ優しい声で聞いてみる。だけど彼女の顔の陰りが消えはしなかった。
紬「……何もないわよ。それじゃあ行きましょう」
無理に微笑みながらそう言って歩き始めるムギちゃんを問い詰めたいけど、、
彼女の後ろ姿は私の質問を完全に拒否していた。
食堂に行くと次々と美味しそうな料理が並びはじめ、それを大きいテーブルで二人っきりで食べる。
広々とした食堂内には皿やファークが奏でる無機質な音ばかりがなっていて、こんなに美味しそうな料理も大して味がわからなかった。
ムギちゃんどうしたの?何かあったの?
何度も聞こうと喉まででているこの言葉が口から出ることはない、たった一度の拒否で恐怖心が私の口を塞いでいて、
もしあの時ムギちゃんを受け入れていたらと後悔ばかりが頭をあげる
あれからほとんど会話もないまま、ただただ気まずい時間を過していた時
彼女が思い出したようにポツリと言う
時間は23時
普段なら間違いなく寝てはいない時間だけど私もどうしていいか分からず、小さい声で同意してしまった。
ただもしかしたらベッドでなら話しができるかもと小さい希望は持っていた。
ソファーから立ち上がりベッドに向かう彼女の後ろをついて行くと、側まできた彼女が振り向き私を見る。
紬「唯ちゃんはここで寝て。私はソファーで寝るから」
唯「え?」
紬「別々に寝ましょう……」
唯「…何で?」
空気がさらに重くなる。
彼女は何も答えてくれないけど、もうムギちゃんの拒否を恐れている場合ではないことは私にも分かった
唯「一緒に寝ようよ」
こんな事言うのは初めてかもしれない、それだけ私達にとって自然な事だったから。
紬「ごめんなさい」
そういうと彼女はひとつ枕を持ってソファーに向かう
唯「何で?」
唯「……何で一緒に寝ちゃダメなの?」
聞き分けのない子供みたいに同じ問いを繰り返す
この場の空気と不安な気持ちに私は押しつぶされそうだった。
唯「ねえ、少しだけでもいいk……」
紬「ごめんなさい」
私の哀願するような声がまた彼女の声に阻まれる
紬「今の私少しおかしいの。そんな状態で唯ちゃんの隣に寝たら……
あなたをめちゃめちゃにして、傷つけてしまうから。ごめんなさい」
彼女はそう言うと扉の近くまで行き、部屋の電気を消した。
一気に広がる暗闇に一瞬で彼女を見失う
それは視覚的にも、そして心情的にも。
心が折れそうだった。何でこんなになっても私は何もしないでこうやって立ってるだけなんだろう
ムギちゃんが何かに苦しんでるのは分かってるくせに、それを知ってしまうのが怖い。
助けてあげられなかったら彼女に失望されるかもしれない・・・
眼先で拒否されているのに私はそんな事ばかり考えていた。
布の擦れる音が聞こえて、また静かになる
紬「お休みなさい」
彼女の言葉が永遠の別れに聞こえた
私は誰かに助けを求めたくなる。軽音部のみんなや和ちゃん、憂に私はどうすればいいのか聞きたかった。
けどそんなことしても無駄なんだ。
誰かに聞いて答えがででも結局やるのは私だから、私が何かしないと変わらないんだ。
これは二人の間の問題で、ムギちゃんが苦しんで解決できないなら私がやるしかない。
ムギちゃんならどうするか……
きっと私がそうなっても私の本心を見抜いてくれて、良い方へ導いてくれる。
けど私はムギちゃんではないし、彼女にはなれない。
だったら私ならどうする……
唯「いいよ……」
暗闇の中、私の言葉が彼女に届く
唯「ムギちゃんがしたいようにしていいよ」
私は服を脱ぐ
さっき私は彼女を一度拒んだ。
あまつさえ触らないでとまで言ったのだ、彼女がおかしいと気づいていながら。
それが――私の犯した間違いなんだと思う。
私にはムギちゃんみたいに本心を見抜くことができない、だったらその歪な気持ちのまま受け止めるしかなかったんだ。
受け止めた後にその中から探すしかない、彼女の本当に望んでいることを
着ていたものを全て脱いで一歩一歩彼女に近づく、覚悟を決めても情けない事に足は震えていた。
暗闇の中でも近づけば彼女が上半身を起こしてるのがわかったので、そのまま柔らかく抱き締める。
紬「ゆ、唯ちゃん!!…えっ……ふ、服は!?」
触って初めて気づいたのか、ムギちゃんの声がたじろいでいた
紬「……ゆ、唯ちゃん!?」
唯「いいよ」
もう一度伝えよう、ムギちゃんに私の気持ちを
唯「めちゃくちゃにしていいよ。」
唯「痛いことでも我慢する、もしかしたら泣いちゃうかもしれないけど大丈夫だから。
ムギちゃんがしたいこと全部受け入れる」
紬「……」
唯「私バカだから、ムギちゃんが悩んでたり苦しんでたりしても、解決させてあげられない。
頼り無くてごめん……
解決はできないけどそれを分けて欲しい。
ムギちゃんの傷とか悲しみとか私にも分けて、私も一緒に悩んだり苦しんだりするから。
ムギちゃんとならどんなに辛くても、きっと大丈夫。
だから……だからね……
一緒にいて……あなたの隣にいさせてください。お願い…大好きなの…ムギちゃんの事…」
多分最後の方は言葉になっていなかったと思う。声をだしたくても涙と嗚咽が邪魔をしていたから
だけど少しは私の気持ちが彼女に届いたのか、彼女はキツく強く抱きしめてくれていた。
―――――
――
紬「先週の父の誕生パーティーの日、偶然話を聞いたの」
相変わらずの闇の中、ベッドで彼女に身を寄せている私が落ち着いたのを見ると彼女は語り始めた。
私にとっては同世代の話し合い手もいないから毎年あまり面白いものでもないのよ。
けど今年は若い男性が何人か話しかけてきてくれてね」
私は彼女のパジャマの袖をすがるように握る。さっきあんな大見得きっておいてもう不安になってしまった
紬「ん?……ふふっ大丈夫。当たり障りない会話よ、学校の事とか部活の事とか聞かれたわ
まあそうやって時間を過ごして、そのまま無事にパーティーは終わったのだけど、
部屋に戻った時にそういえば父にプレゼントを渡してないことに今更気づいたの。
やっぱりこういうのは当日中に渡したくて書斎に届けに行ったら、部屋には斎藤と父がいて話をしていたわ。
その時斎藤が聞いていたの、
パーティーの時、お嬢様に男性が何人か話しかけてたみたいですがって。
私はなぜそれを父に聞くんだろうって思って、部屋には入らず父の返事を待った。
そしたら父が言ったの……あいつらは会社の後継者候補だって」
それがどういう意味か私にもわかった。
袖を握る力を強める、彼女がどこにもいかないように。そんな私の手を彼女も上から包むように握ってくれた
紬「父は軽い気持ちだったみたい。
別に今すぐ結婚とかではないし、本人達の意志は尊重するって言ってたわ。
ただ一度会わせたかったみたいで、彼らに少し娘と話してみないかって言ったようなの」
つまりムギちゃんのお父さんは彼らのうち誰かとムギちゃんが結婚して、会社を継いでくれる事を望んでるんだろう
彼女の体に手を回す。少しでも彼女が安心できるように
紬「もっと普通の家に生まれたいって思った時もあったけど、私は父も母もこの家も大好き。 だから…」
唯「分かるよムギちゃん」
ムギちゃんに悲しい言葉を言わせたくなくて、我慢できなくなり声をかける。
彼女と付き合ってるのは誰かを喜ばしたいからじゃない
ただ私が彼女を好きで、彼女も好きって言ってくれたから。
けどもし私達が付き合っているせいで誰かが悲しむのもイヤだった、特に私達にとって大事な人が悲しむのは……
紬「そうよね……唯ちゃんも一緒だもんね」
悲しく微笑む彼女の顔が見える。
そして私は今日一番聞きたかった質問をした
唯「……何で私をお家に招待してくれたの?」
彼女はゆっくりと目を閉じる。まるで何かを覚悟したように・・・
紬「父の話を聞いて、唯ちゃんに私の住んでる家の事とか家族の事を知ってもらうには来てもらうのが一番だと思ったから。
・・・きっとこれから先、私達の間にずっと付きまとう問題だし」
私が男の子だったら違っていたんだろうか?
でも結局のところ私が男の子でも、桜ヶ丘には入れてずムギちゃんとも出会えなかったから、私達は最初からこうなる運命だったんだろう
紬「本当はもうひとつあったんだけど……」
唯「何?」
紬「まあそれは後でね」
何だろ?
紬「それでさっそく唯ちゃんに電話したんだけど、唯ちゃんは和さんと……」
また含みのある言い方をする彼女
唯「だ、だから私和ちゃんとは!!」
紬「ふふっごめんなさい、ちゃんと分かってるから……今はだけど」
今は?
紬「けどね、その時は違ったの……
もし唯ちゃんの相手が和さんだったら、そっちの方が唯ちゃんにとっては幸せなんじゃないかって考えてしまった」
唯「えっ?」
紬「だって和さんとは幼なじみで家族ぐるみで付き合ってる訳だし、少なくてもそういう問題はでなかったんじゃないかって……」
彼女を抱く力を強める
紬「そうね、バカだった……けどその時心がぐらついていたから、普段なら一蹴できるような考えにずっと捕らわれていた」
ムギちゃんを不安にしたのは私なんだ。
私がまだまだ頼りないから、彼女が少し揺れただけで私達の関係自体もすぐにおかしくなってしまう
紬「実はね、今日母にだけは唯ちゃんを紹介したかったの」
体がビクッと揺れる、これがさっき言っていたもうひとつなんだろう
唯「それは……どういう意味で?」
紬「大切な人って意味で」
暗闇の中でも分かってしまうくらい、自分の顔が赤くなってる気がする
紬「母はどちらかと言えばそういうのに寛容だと思うから……
結局帰って来なかったのだけど、だから私今日はずっと緊張しててあんまり和さんの事は考えていなかったの。
だけど……唯ちゃんが普段飲んでる紅茶の方が美味しいって言ってくれた時、すっと緊張が取れた。
こんなに可愛くていい子なんだからきっと大丈夫だって、母も許してくれるって」
私はムギちゃんの胸に顔を埋める。
そうしていないと嬉しくて泣いちゃいそうだったから
……これで和さんに近づけるって」
近づける……私は埋めていた顔をあげる。
ムギちゃんは目を開けボーっと上を見ているばかりだった。
紬「おかしいわよね……近づくなんて。
唯ちゃんと付き合ってるのは私なのに……
だけど多分ずっと考えていたんだと思う。だって和さんは昔から唯ちゃんの事を知っていて、私なんかより唯ちゃんの事をわかってる人で……
だからずっと彼女になりたかった。
だって唯ちゃんの事で知らない事があるのが怖かったから
自意識過剰かもしれないけど、和さんだけが私にとっては唯ちゃんを奪う可能性のある人だった。
他の人になら絶対負けない。
けどもし彼女に……私の方が唯を幸せにできるって言われたら私勝てないから。
だから母に紹介する前にはっきりさせようと思ってあんな事したんだと思う。
ごめんなさい、私はずっと和さんに対してかなり失礼に思っていたの、唯ちゃんの親友なのに」
きっと今まで彼女は悩んでも全部自分一人で解決してきたんだろう、それはとても強いことだけど、とても寂しい。
私は今まで何回もムギちゃんの前で和ちゃんの話をした。
私達にとっては唯一付き合ってる事を知っている人だったし、私にとっては昔からの親友だったから。
それが彼女をずっと苦しめていたんだ。なのにそんな時でも彼女は笑っていた
だから今は私が……
唯「……今度三人で遊ぼっか?」
脈略のない私の言葉にムギちゃんは当惑の顔を浮かべる
紬「三人……和さんとって事?」
抱きついてた体を離し彼女を上から見る。うっすら悲しみを浮かべている彼女の顔はやっぱりきれいだった
唯「うん。私、和ちゃんの事は親友だと思ってる。
今までいろいろ助けてもらって、こうやってムギちゃんと付き合えてるのも和ちゃんのおかげだから。
和ちゃんとは和ちゃんとのたくさんの思い出があって、やっぱりそれはこれからも大切にしていきたい。」
紬「うん……」
唯「けど……私はそれもムギちゃんに知ってもらいたいの」
紬「……思い出を?」
唯「うん。私が今まで生きてきた17年分全部。もちろん和ちゃんとの思い出も。
私もムギちゃんの全部を知りたい。どんな子供だったのかとか、小学校仲良かった子の話とか
だってそれのおかげで今の……私の大好きなムギちゃんがいるから」
もしかしたらそう答えるのが正解なのかもしれないけど、きっと彼女がそういう事を望んでるわけじゃないと思ったし、
私は強欲だから恋人、親友、仲間、家族、どれかひとつなんて決められない。
唯「欲張りでごめん……」
けど信じてほしい、その中でこれから先も一番はずっとあなただから。
私は言葉にはださず、そう思う。
きっと言葉にしたら嘘臭く聞こえちゃうから……だから変わりに思いが伝わるよう彼女にキスをした。
紬「……じゃあもし私が和さんと、唯ちゃん以上に仲良くなっても嫉妬しないでいてくれる?」
唇が離れて、一番にそう言う彼女の顔はいつものように悪戯っぽい笑顔だった。
私はその場面を想像してみて、彼女のわき腹を結構本気でつねる
紬「もう、言ってること違うじゃない」
私達の間に柔らかい空気が流れ、ケンカでできた距離も今はもう完全になくなっていた。
唯「……教えてよ、ムギちゃんの事全部。」
知りたい、こんなに素敵な人ができるまでを。
紬「……名前は琴吹紬」
唯「知ってる」
唯「席は私の斜め前」
彼女と同じクラスになってどれほど嬉しかったか、けど今でも授業はなかなか集中できない
紬「軽音部でキーボードをしてます」
唯「けっこう上手いよね」
演奏中は優しい音がいつも後ろから聴こえてくる
紬「実は桜ヶ丘高校にくる予定ではなかったの」
唯「本当!?」
紬「はい、実は……」
それから彼女といろいろな事を話した。
まだまだ彼女について知らないことばかりだった事がちょっと悲しくて、けど彼女の新たな一面を知ったことが何倍も嬉しくて、
私の話を聞いた彼女もきっと同じ気持ちだったと思う。
そうして幸せな時間を過ごす内に、私達はいつの間にか眠りについていた。
――
「………ン………ええ………だ…ぶ………」
遠くから彼女の声がする
せっかく昨日近づいたのに、また離れてるのが寂しくて手を動かして彼女を探すけど見つからない。
声は聞こえるのに
呼べば気づいてくれるかな?
目を開けると普段とは違う真っ白な枕が目に入る。
そっか……ムギちゃんのお家に来てたのか。
夢から覚めても、寝る時は隣にいてくれた彼女の姿がない。
昨日の今日で不安になった私が体を起こそうとすると、ドアの閉まる音が聞こえてきた。
紬「あら?起こしちゃった」
柔さかな笑顔を向け、窓から差し込む光にうつされる彼女は本当にキレイで、私はまだ夢の中にいるのかと疑ってしまう
彼女はそのまま私の横に滑り込むように入ってきたので、私は我慢できなくて彼女の体にキツく抱きついてしまった。
紬「朝から甘えん坊ね」
そんな事言いつつ抱きしめ返してくれる彼女からはとても甘い匂いがして、私は鼻を押し当て思いっきり吸い込んだ
彼女の手が頭に置かれる。
本当に幸せだと思ったけど、私は彼女の前ではひねくれ者になってしまうのはやっぱり変わらないよう
唯「……うるしゃい」
紬「ふふっ唯ちゃん可愛い」
唯「……可愛くないし、うるさい」
そう言ってそのまま甘えるように足を絡ませる
紬「ふふっ、そういえば唯ちゃん昨日の約束覚えてる?」
和ちゃんと三人で遊ぶ事だろうか?
そう考えてると彼女の口が私の耳に近づいてくる
紬「……めちゃくちゃにしていいんでしょ」
体がビクッと震えた
唯「あ、あれは……」
紬「痛いこともしていいんでしょ?」
確かに言ってしまった……
痛いことって私は何をされてしまうんだろうと考えてえ、体が震える。
けど……少しだけ期待している私は本当にどうしようもない人間らしい
触れ合ってるせいか、言葉だけで朝から私はすっかりその気になってしまった。
こんなにも欲求に忠実なのは彼女と付き合ったせいなのか、もともと私が最初からそうなのか分からなくなる
そんなことばかり考えてると、彼女の震えが伝わりしだいに笑い声が聞こえてきた。
ああ、またやられたんだと遅ればせながら気づいたので、絡みついた足を締める
紬「ごめんなさい、けど唯ちゃんも悪いのよ。
あの時私が言ったのは別にそういう行為でって訳じゃなくて、
ヒドいことを言ったりしてあなたを傷つけてしまうかもしれないから言ったのに、あれじゃあまるで私が変態みたいじゃない」
唯「……変態じゃん」
紬「そんな事ないわよ?」
唯「自覚持ちなよ」
キョトンとしている彼女に、ため息混じりで答えてやった
紬「変態だったら……本当にめちゃくちゃにしてもいいわよね?」
彼女の手がゆっくりとお尻をなでる
唯「……ふぁ」
紬「唯ちゃん、大好き」
紬「そういえばね……」
唯「ん?」
紬「母がお家に帰ってきてるのよ」
一瞬にして動きを止まる
紬「さっきドアのところで話したら、唯ちゃんと一緒に朝食食べたいって」
ああ……今日も大変な1日になるだろうなって思った。
だけどきっとどうにかなる。
だって私の隣には、意地悪で可愛い……大好きな強い味方がいてくれるから。
・
私と仕事どっちが大事なの?
そんな陳腐なドラマのセリフが思い出される。
虫の知らせではないけど、今日は何となく朝からついていなかった。
電車を一本乗り遅れるとか、教科書を間違って持ってくるとか、唯ちゃんが梓ちゃんにいつもより6秒も長く抱きつくとか。
最後以外はさほど支障はきたさなかったけど、まさか家に帰ってきてまでこんな事になるとは思わなかった。
紬「………はい、……いえ、そういう理由ならしかたないですよ……はい……では折り返しまたご連絡いたします、はいお疲れ様です」
携帯をきると共にため息がもれる。
私は投げるように携帯を置いて、座っていたソファーに倒れ込みクッションに顔をつけた。
本当はさっさと連絡しなければいけないんだけど、心の準備くらいさせてほしい
きっと怒るだろうな……
また深いため息がでる。
私は彼女にバイトを始めたいと相談した時の事を思い出す
あれは確か土曜日の夜、彼女のベッドに寝ている時だった……
――――――
――
唯「バイト?」
時刻は深夜3時。横に寝ている裸の彼女にあらかじめ用意していた質問を思い切ってぶつけてみた。
紬「ダメかな?」
私は甘えるようにもたれかかる。
汗をかいたせいなのか、彼女の素肌が少し冷たくなっていたので温めるようとそのまま自分の肌を押し付けた。
唯「……私が決める事じゃないでしょ」
私の体を受け止めやすいように、下になっている彼女も少し動く。
紬「そうだけど、唯ちゃんと会える時間減っちゃうから」
私が相談した意図を理解したように、眠たそうだった彼女の目に少し動揺がはしるのが見える。
彼女は私の体を押してのけ自分の体をおこし、ベッドの端にある上着を着る。
どうやら真剣に話を聞いてくれるらしい
唯「何でバイトしたいの?」
当然の質問をぶつけられる
紬「社会勉強かな。自分の成長にも繋がるし、いろいろ学べることも多いと思うから。」
唯「……何もこの時期にしなくてもいいんじゃない?」
紬「来年は三年生になって受験もあるし、やるとしたらこの時期しかないのよ