キョン「また、会おう」
まぁな、こんな日に遅刻なんざ出来やしないさ。
「くっくっくっ、こんな日か・・・。しかし、中学時代の君には
考えられない事だよ」
ふっ、佐々木よ・・・。俺も4月からは大学生だ。そういつまでも
妹のボディープレスで目覚めるようなマネはしないさ。
それに、この3年間で学んだ事には待ち合わせに遅れないことも
入ってるんだぜ。
「それも涼宮さんのおかげかな・・・」
そう言った佐々木の口からは白い息が漏れていた。
まぁ、確かにハルヒには・・・
「おっと、キョン。それまでだ仮にもレディーと2人きりの時に
他の女の子の話をするんなんて感心しないな」
おいおい、お前から振ってきた話だろうが。
「しかし、まぁ・・・こうして君に早く会えたのも彼女のおかげかな」
くっ・・
そう言うなり佐々木は俺の自転車の後ろに乗った。
3年ぶりか・・・。
「こうして君の後ろに乗るのも中学以来だね・・・」
そうだな、それより佐々木。そのでかい鞄をよこせ。
前のカゴに入れてやる。
俺は佐々木から鞄を預かるとペダルを思いっきりこいだ。
2人分の重みのせいか軋みやがる。
「キョン。それは僕が重たいとでも言いたいのかな?
場合によっては・・・」
待て待て、誤解をするな佐々木。
この自転車は中2の終わりに買ったものだ、これだけ年月が経てば
そりゃあボロくなってきても不思議じゃないさ。
「ふむ、そういうものかな・・・」
そういうもんさ・・・
途中に長い坂があるがそこは佐々木に降りてもらってのぼるか、
男の意地で佐々木を乗せたままのぼるか悩んでいた時だった。
それまで楽しそうになぜ雪が降るのかについて語っていた佐々木が
話題を変えてきた。
「キョンは高校生活は楽しかったかい?」
ああ、楽しかった。楽しかったさ。
いろいろな事があったが楽しかった。
体験したのだろうね」
ああ・・・だがな、佐々木。その中にお前も入っているんだ。
駅前の駐輪所でお前と再会して、お前も俺も
とんでもない事に巻き込まれたりもしたが楽しかったぜ。
お前はどうなんだ?
「そうだね、一年生は楽しかったとは言いがたいけど二年生からは
はっきりと言えるよ楽しかったって。いきなり神様扱いを受けて驚いて
いた時期もあったけど君が支えてくるれたおかげでいい思い出さ」
そう言ってもらえると俺も助かるぜ。
だがな、昨日お前から電話があったときは驚いたぜ。
佐々木がこの町を離れるなんて・・・。
「僕が通う大学はね、ちょっと遠いんだ。だからさ・・・」
ああ、それは昨日電話で何度も聞いた。しかし見送りが俺なんかでよかったのか?
こんなことならバイクか車の免許でも取っておくべきだった。
自転車なんてダサいぞ。
とってこの自転車は君との繋がりみたいなものだからね」
それは俺にとってもそうだ。あの中3の一年間をほぼ毎日お前を乗せたんだ
この車輪にはたくさんの唄がつまってるはずさ。
「くっくっくっ、あいかわらず君は面白いことを言うね」
そう言って佐々木は俺に寄りかかってきた。
おい、転んでも知らないぞ・・・まぁ、この佐々木の温もりが心地良いからいいのだが。
こりゃキツそうだ・・・。だけどな、俺はお前を降ろしたりしたくないぜ。
しっかりつかまっとけよ佐々木。
前言撤回・・・きつすぎるぞこの坂道は・・・。
「あと少しだキョン、あと少しでのぼり終わるよ」
そうは楽しそうに言ってもな佐々木もう足が・・・
だがこうも静か過ぎると世界中に2人だけみたいだな。
「・・・・」
ちょっと恥ずかしいことを言ったな俺は・・。照れ隠しもこめてさらに強くペダルを踏む。
くっ、やっとのぼり終わったか。疲れた。
ん?どうした佐々木?
俺は首をあげた・・・。うん、まぁ・・・疲れも一気に吹っ飛んだ。
こんな綺麗な朝焼けを見ればそりゃ吹っ飛ぶか。
「くっくっくっ」
後ろから佐々木特有の笑い声が聞こえる。
何がおかしいのか振り返って聞きたかったが俺には出来なかった。
だってそうだろう?泣き顔なんて見せれないからな・・・。
「じゃあキョンはここで待っていてくれ切符を買ってくる」
佐々木はさっき俺から受け取った大きな鞄を重そうに揺らしながら券売機に向かって
いく。
置いてけばいいのにな。
さっき聞いたのだが一昨日買ったものらしい、そりゃ大事にしたくなるよな。
「ほらキョンの分だ。おっとお金はいらないよ・・一番安い切符だからね」
渡されたのは入場券だった。
それを大事にポケットにしまい、佐々木の持っていた切符に書いてある駅の名を見ると
一番高い切符だった。
その場所がどんなところなのか俺はよく知らない。
だが佐々木がその町に行くことは確かだった。
だがそう上手くはいかなかった。
佐々木の大きな鞄が改札に引っかかったからだ。
わかってるよ佐々木・・・そんなふうに俺を見るな。俺は黙って頷いて外してやった。
ほらよ・・・。
「ありがとうキョン」
しばらくホームの椅子に座って電車を待っていたが黙っていたらすぐにその時は
来てしまった。
佐々木はこれから何万歩より距離のある最初の一歩を踏み出し振り返った。
佐々木は電車に乗り俺を真っ直ぐ見る。
もうそろそろ、ドアが閉まる。何か言わなきゃと思ったが言葉は出てこなかった。
「約束だよキョン、いつの日かまた会おう」
佐々木がそう言った瞬間ドアが閉まった。俺は手を小さく振ることしか出来なかった。
電車がゆっくりと動きだす。佐々木と俺の距離がまた開いていく。
これでいいのか?
不思議なことに俺の体は動きだしていた。
そりゃそうだ。ドアが閉まるとき佐々木のあんな顔を見てしまったんだ。
今気づいたが一人の時でも車輪は悲鳴をあげていた。俺が気づかなかっただけなんだ。
佐々木、佐々木、佐々木!
電車に並ぶと精一杯叫んだ
「約束だ!いつか絶対!また会おう!」
でもそんなの関係ねえだろ?俺は佐々木に見えるように今度は大きく手を振った。
その時、気のせいかもしれないが佐々木がこっちを見て泣いてる姿が見えた。
坂を下り終わると俺と電車の距離はゆっくりと離れていった。
残された俺に出来ることは
「世界中に一人だけみたいだな」と呟くことしか出来なかった。
自転車の後ろをみると、もちろん誰もいなかったがそこには微かな温もりを感じた。
いや気のせいか・・・。
そして気づくともう辺りは明るくて賑わっていた。
家に帰ってもう一回寝るかと思いっきりペダルを漕ぐと1人分の車輪の音がした。
無事に大学を卒業した俺は大企業とまではいわないがそこそこの会社に就職した。
そして今日は俺が社会人になってからの初めてのSOS団の集まりだ。
ハルヒや古泉、長門そして朝比奈さんと久しぶりに会う。
自転車を桜の花がいい感じに咲いてる町を走らせる。
約束の時間は9時だが俺は8時に家を出た。
今は給料を貰っていて罰金くらいなんとも無いがなんか嫌だしな。
駅の駐輪場にだいぶ古くなった自転車にとめた時
「やぁ、キョン久しぶりだね」と懐かしい声が聞こえた。
SOS団の集まりが終わったその帰り道に4年ぶりに俺の親友が後ろに座り
錆び付いた車輪が2人分の唄を唄ったのは言うまでも無いな。
おわり